(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-10
(54)【発明の名称】MAPKおよび/またはPI3K経路の調節異常を伴うがんを有する患者に対する治療方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/519 20060101AFI20241003BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241003BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20241003BHJP
A61K 31/138 20060101ALI20241003BHJP
A61K 31/565 20060101ALI20241003BHJP
A61K 31/506 20060101ALI20241003BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
A61K31/519
A61P35/00
A61K45/00
A61K31/138
A61K31/565
A61K31/506
A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024546687
(86)(22)【出願日】2022-10-13
(85)【翻訳文提出日】2024-06-10
(86)【国際出願番号】 JP2022039011
(87)【国際公開番号】W WO2023063432
(87)【国際公開日】2023-04-20
(32)【優先日】2021-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】P 2021168315
(32)【優先日】2021-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(81)【指定国・地域】
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.公開の事実 (1)ウェブサイトの掲載日 令和2年(2020年)10月14日 (2)ウェブサイトのアドレス https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT04586270 (3)公開者 Taiho Oncology,Inc. (4)公開された発明の内容 A Study of TAS0612 in Participants With Advanced or Metastatic Solid Tumor Cancer ClinicalTrials.gov Identifier:NCT04586270
(71)【出願人】
【識別番号】000207827
【氏名又は名称】大鵬薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(72)【発明者】
【氏名】市川 幸司
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 公裕
(72)【発明者】
【氏名】ベンハジ カリム
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084MA02
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZB261
4C084ZB262
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4C086AA01
4C086AA02
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4C086CB05
4C086CB09
4C086DA09
4C086GA07
4C086GA08
4C086GA12
4C086MA04
4C086MA10
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZC75
4C206FA23
4C206MA04
4C206MA17
4C206NA05
4C206NA14
4C206ZB26
4C206ZC75
(57)【要約】
MAPKおよび/またはPI3K経路に調節異常のあるがんを有する患者を治療する方法であって、それにより、患者が有効量の4-(4-(3-((2-(tert-ブチルアミノ)エチル)アミノ)-6-(5-(トリフルオロメチル)-1,3,4-オキサジアゾール-2-イル)ピリジン-2-イル)ピペリジン-1-イル)-5,5-ジメチル-5H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-6(7H)-オンまたはその薬学的に許容される塩を投与される、方法。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
NF1における異常を有する固形腫瘍を有する患者を治療する方法であって、有効量の4-(4-(3-((2-(tert-ブチルアミノ)エチル)アミノ)-6-(5-(トリフルオロメチル)-1,3,4-オキサジアゾール-2-イル)ピリジン-2-イル)ピペリジン-1-イル)-5,5-ジメチル-5H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-6(7H)-オン(TAS0612)またはその薬学的に許容される塩を前記患者に投与するステップ
を含む、方法。
【請求項2】
前記固形腫瘍が、乳がん、肺がん、卵巣がん、皮膚がん、結腸がん、肝臓がん、および食道胃がんからなる群より選択される少なくとも1種類である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記固形腫瘍が乳がんである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記乳がんがヒト上皮成長因子受容体2陰性(HER2-)乳がんである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記患者が、TAS0612またはその薬学的に許容される塩を投与するステップに先立って、NF1における異常を有することが決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記固形腫瘍が、NF1ならびにKRAS、BRAF、PIK3CA、AKT1、およびPTENからなる群より選択される少なくとも1つにおける同時発生する異常を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記固形腫瘍が不活性化NF1遺伝子変異体を保有する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
TAS0612またはその薬学的に許容される塩が前記患者に経口投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
TAS0612またはその薬学的に許容される塩が、1日1回(QD)、前記患者に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
1日当たり約10~約960mgのTAS0612またはその薬学的に許容される塩が前記患者に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
TAS0612またはその薬学的に許容される塩が、少なくとも28日間にわたって前記患者に毎日投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
ホルモン受容体陽性かつヒト上皮成長因子受容体2陰性(HR+/HER2-)乳がんを有する患者を治療する方法であって、第2の乳がん療法と組み合わせて、有効量の4-(4-(3-((2-(tert-ブチルアミノ)エチル)アミノ)-6-(5-(トリフルオロメチル)-1,3,4-オキサジアゾール-2-イル)ピリジン-2-イル)ピペリジン-1-イル)-5,5-ジメチル-5H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-6(7H)-オン(TAS0612)またはその薬学的に許容される塩を前記患者に投与するステップ
を含む、方法。
【請求項13】
前記第2の乳がん療法が、内分泌療法、細胞周期阻害剤療法、および放射線療法からなる群より選択される少なくとも1種類である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記第2の乳がん療法が、タモキシフェンおよび/またはフルベストラントを用いる内分泌療法である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記第2の乳がん療法が、アベマシクリブ、パルボシクリブ、および/またはリボシクリブを用いる細胞周期阻害剤療法である、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記第2の乳がん療法が放射線療法である、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記HR+/HER2-乳がんが、再発または不応性HR+/HER2-乳がんである、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
前記再発または不応性HR+/HER2-乳がんを有する前記患者が、TAS0612またはその薬学的に許容される塩を投与するステップに先立って、内分泌療法ならびに/またはサイクリン依存性キナーゼ4および6(CDK4/6)阻害剤を用いる治療レジメンを既に受けたことがある、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記再発または不応性HR+/HER2-乳がんが、内分泌療法ならびに/またはサイクリン依存性キナーゼ4および6(CDK4/6)阻害剤を用いる治療レジメンに対する抵抗性または難治性を獲得した、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記再発または不応性HR+/HER2-乳がんが、内分泌療法抵抗性である、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記再発または不応性HR+/HER2-乳がんが、タモキシフェン抵抗性および/またはフルベストラント抵抗性である、請求項17に記載の方法。
【請求項22】
前記再発または不応性HR+/HER2-乳がんが、CDK4/6阻害剤抵抗性である、請求項17に記載の方法。
【請求項23】
前記HR+/HER2-乳がんが、NF1における異常を保有する、請求項12に記載の方法。
【請求項24】
TAS0612またはその薬学的に許容される塩が前記患者に経口投与される、請求項12に記載の方法。
【請求項25】
TAS0612またはその薬学的に許容される塩が、1日1回(QD)、前記患者に投与される、請求項12に記載の方法。
【請求項26】
1日当たり約10~約960mgのTAS0612またはその薬学的に許容される塩が前記患者に投与される、請求項12に記載の方法。
【請求項27】
TAS0612またはその薬学的に許容される塩が、少なくとも28日間にわたって前記患者に毎日投与される、請求項12に記載の方法。
【請求項28】
PTENにおける異常を伴うがんを有する患者を治療する方法であって、有効量の4-(4-(3-((2-(tert-ブチルアミノ)エチル)アミノ)-6-(5-(トリフルオロメチル)-1,3,4-オキサジアゾール-2-イル)ピリジン-2-イル)ピペリジン-1-イル)-5,5-ジメチル-5H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-6(7H)-オン(TAS0612)またはその薬学的に許容される塩を前記患者に投与するステップ
を含む、方法。
【請求項29】
前記がんが、乳がん、甲状腺がん、腎細胞がん、子宮内膜がん、大腸がん、黒色腫、膠芽腫、前立腺がん、卵巣がん、および肺がんからなる群より選択される少なくとも1種類である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記がんが子宮内膜がんである、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記患者が、TAS0612またはその薬学的に許容される塩を投与するステップに先立って、PTENにおける異常を有することが決定される、請求項28に記載の方法。
【請求項32】
前記がんが、PTENならびにKRAS、BRAF、PIK3CA、AKT1、EGFR、HER2、TP53、NF1、およびBRCAからなる群より選択される少なくとも1つにおける同時発生する異常を有する、請求項28に記載の方法。
【請求項33】
前記がんが、PTENおよびPIK3CAにおける同時発生する異常を有する、請求項28に記載の方法。
【請求項34】
PTENにおける異常が、PTEN遺伝子欠損または機能喪失をもたらす変異体である、請求項28に記載の方法。
【請求項35】
TAS0612またはその薬学的に許容される塩が前記患者に経口投与される、請求項28に記載の方法。
【請求項36】
TAS0612またはその薬学的に許容される塩が、1日1回(QD)、前記患者に投与される、請求項28に記載の方法。
【請求項37】
1日当たり約10~約960mgのTAS0612またはその薬学的に許容される塩が前記患者に投与される、請求項28に記載の方法。
【請求項38】
TAS0612またはその薬学的に許容される塩が、少なくとも28日間にわたって前記患者に毎日投与される、請求項28に記載の方法。
【請求項39】
KRASにおける異常を有するがんを伴う患者を治療する方法であって、有効量の4-(4-(3-((2-(tert-ブチルアミノ)エチル)アミノ)-6-(5-(トリフルオロメチル)-1,3,4-オキサジアゾール-2-イル)ピリジン-2-イル)ピペリジン-1-イル)-5,5-ジメチル-5H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-6(7H)-オン(TAS0612)またはその薬学的に許容される塩を前記患者に投与するステップ
を含む、方法。
【請求項40】
前記がんが、大腸がん、肺がん、膵臓がん、子宮内膜がん、皮膚がん、卵巣がん、胆管がん、および乳がんからなる群より選択される少なくとも1種類である、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記患者が、TAS0612またはその薬学的に許容される塩を投与するステップに先立って、KRASにおける異常を有することが決定される、請求項39に記載の方法。
【請求項42】
前記がんが、KRASならびにBRAF、PIK3CA、PTEN、EGFR、TP53、BRCA、APC、MTOR、およびSMAD4からなる群より選択される少なくとも1つにおける同時発生する異常を有する、請求項39に記載の方法。
【請求項43】
前記がんが、KRASならびにPIK3CAおよびPTENからなる群より選択される少なくとも1つにおける同時発生する異常を有する、請求項39に記載の方法。
【請求項44】
前記がんが、KRAS G12C突然変異またはKRAS G12D突然変異を保有する、請求項39に記載の方法。
【請求項45】
前記患者が、KRAS G12C特異的阻害剤またはKRAS G12D特異的阻害剤と組み合わせて、TAS0612またはその薬学的に許容される塩を投与される、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
TAS0612またはその薬学的に許容される塩が前記患者に経口投与される、請求項39に記載の方法。
【請求項47】
TAS0612またはその薬学的に許容される塩が、1日1回(QD)、前記患者に投与される、請求項39に記載の方法。
【請求項48】
1日当たり約10~約960mgのTAS0612またはその薬学的に許容される塩が前記患者に投与される、請求項39に記載の方法。
【請求項49】
TAS0612またはその薬学的に許容される塩が、少なくとも28日間にわたって前記患者に毎日投与される、請求項39に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MAPKおよび/またはPI3K経路の調節異常を伴うがんを治療する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ラット肉腫(RAS)タンパク質は、正常細胞およびがん細胞における細胞増殖および生存の中心的な調節因子である。RAS活性化は、エフェクター経路、最も注目すべきはマイトジェン活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)経路およびPI3キナーゼ(PI3K)経路を活性化する。Pratilas CA et al., Targeting the mitogen-activated protein kinase pathway: physiological feedback and drug response. Clin Cancer Res. 2010;16(13):3329-3334を参照されたい。MAPK経路のシグナル伝達カスケードはRas/Raf/MEK/ERK/RSKを含み、一方で、PI3K経路のシグナル伝達カスケードはRas/PI3K/PTEN/AKT/mTOR/S6Kを含む。Steelman LS et al., Roles of the Raf/MEK/ERK and PI3K/PTEN/Akt/mTOR pathways in controlling growth and sensitivity to therapy-implications for cancer and aging. Aging (Albany NY). 2011;3(3):192-222を参照されたい。これらの経路の活性はフィードバックループを通して調節され、非線形かつ高度に双方向性のシグナル伝達を実証している。McCubrey JA et al., Mutations and deregulation of Ras/Raf/MEK/ERK and PI3K/PTEN/Akt/mTOR cascades which alter therapy response. Oncotarget. 2012;3(9):954-987を参照されたい。
【0003】
治療的単剤経路阻害は、相互的経路に対するフィードバックループにより妨げられることがある。加えて、活性化/不活性化異常を通じたこれらのカスケードの構成因子の調節異常は、不十分な臨床応答をもたらす化学療法薬物抵抗性および他の経路阻害剤に対する抵抗性に関連付けられてきた。
【0004】
ニューロフィブロミン1(NF1)は、RAS経路の負の調節因子であるGTPアーゼ活性化タンパク質、ニューロフィブロミンをコードする遺伝子であり、異常な場合にはがんにおける顕著なドライバーとして働く可能性がある。NF1における突然変異および欠失は、散発性がんにおいて一般的であり、かつ増加したがんリスクおよび薬物抵抗性と関連する。加えて、NF1遺伝子生殖系列突然変異は、神経線維腫症1型を引き起こし、罹患した患者は、乳がんをはじめとする数種類の異なるタイプの成人がんに対しするリスクが増加する。NF1遺伝子変異体は、乳がんの2~4%で見られ、NF1のshallow deletionは散発性乳がんのうちの25%で観察されており、より高い腫瘍グレード、腫瘍サイズ、侵襲性の基底細胞様サブタイプ、および最初の10年間での不良転帰に相関した。Dischinger PS et al., NF1 deficiency correlates with estrogen receptor signaling and diminished survival in breast cancer. NPJ Br Cancer. 2018;4:29を参照されたい。NF1の欠損はRasエフェクター活性化を増大させ、増加した細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK)、v-aktマウス胸腺腫ウイルスがん遺伝子ホモログ(AKT)、およびリボソームタンパク質S6リン酸化をもたらす。Kaul A et al., Akt- or MEK-mediated mTOR inhibition suppresses Nf1 optic glioma growth. Neuro Oncol. 2015;17(6):843-853を参照されたい。
【0005】
さらに、ホスファターゼ・テンシンホモログ(PTEN)はPI3K経路の負の調節因子であり、PTEN遺伝子の突然変異または欠損は、がん、不良疾患転帰、および生殖系列コーデン症候群に寄与する。PTENの低発現またはホスファチジルイノシトール-4,5-ビスホスフェート3-キナーゼ、触媒サブユニットアルファ(PIK3CA)突然変異などの他のがんドライバー遺伝子突然変異を有する腫瘍は、AKTを活性化することが公知である。Xing et al., Phase II trial of AKT inhibitor MK-2206 in patients with advanced breast cancer who have tumors with PIK3CA or AKT mutations, and/or PTEN loss/PTEN mutation. Breast Cancer Res. 2019;21(1):78を参照されたい。PIK3CA突然変異、PTEN欠失(または突然変異)、またはAKT突然変異を有するがん患者が数種類のバイオマーカードリブンな研究に参加してきたが、これらの遺伝子突然変異と腫瘍応答との間での顕著な相関関係は確認されていない。Janku et al., Targeting the PI3K pathway in cancer: are we making headway? Nature Rev Clin Oncol. 2018;15:273-91, 2018;Rodon et al., Development of PI3K inhibitors: lessons learned from early clinical trials. Nat Rev Clin Oncol. 2013;10:143-53を参照されたい。
【0006】
またさらに、RASがん遺伝子ファミリーのメンバーとして、Kirstenラット肉腫ウイルス(KRAS)遺伝子は、最も高頻度に突然変異を起こすがん遺伝子である。KRAS突然変異は、がんの増殖に寄与するMAPKおよびPI3K経路の継続的な活性化を生じさせることができ、かつ予後不良および治療に対する抵抗性と関連している。Haigis KM. KRAS alleles: the devil is in the detail. Trends Cancer, 2017; 3(10):686-697;Zhuang R, et al., The prognostic value of KRAS mutation by cell-free DNA in cancer patients: A systematic review and meta-analysis. PLOS ONE. 2017;12(8):e0182562を参照されたい。加えて、MAPKおよびPI3K経路の両方における異常が、共存することが公知である。Jankuらによる患者腫瘍の研究において実証された通り、KRAS突然変異(38%)が突然変異体PIK3CAと共存することが見出された。Janku F, et al., PIK3CA mutations frequently coexist with RAS and BRAF mutations in patients with advanced cancers. PLoS ONE. 2011;6(7):e22769を参照されたい。したがって、腫瘍がPI3K経路阻害剤の有効性を予言し得るPIK3CA、PTEN、またはAKTの異常を保持する場合でさえ、PI3K経路を標的とする療法に対する応答は、KRAS突然変異を保有する腫瘍において限定的であるようである。
【0007】
なおまたさらに、転移性ホルモン受容体陽性(HR+)かつヒト上皮成長因子受容体2陰性(HER2-)乳がんは、内分泌療法(ET)を用いて治療される。不運なことに、ET抵抗性が多くの場合に生じ、このことは、抵抗性を元に戻すかまたは遅延させることができる治療に対する必要性が強調されている。Vernieri C et al., Everolimus versus alpelisib in advanced hormone receptor-positive HER2-negative breast cancer: targeting different nodes of the PI3K/AKT/mTORC1 pathway with different clinical implications. Breast Cancer Res. 2020;22(1):33を参照されたい。HR+/HER2-乳がんにおいて、強化された活性化へのPI3K経路の異常シグナル伝達は、MAPK経路およびエストロゲン受容体α(ERα)経路へとつながる活性化を助長する。具体的には、リボソームタンパク質S6キナーゼベータ-1(S6K1)およびp90リボソームS6キナーゼ(RSK)が、ERα転写を相乗的に調節する。RSKはプライマーとして機能し、S6K1はERαのSer167リン酸化を維持するように機能する。したがって、これらの経路の活性化は、ERαの活性化を誘導し、かつET抵抗性を誘導することができる。Yamnik RL et al., mTOR/S6K1 and MAPK/RSK signaling pathways coordinately regulate estrogen receptor α serine 167 phosphorylation. FEBS Letters. 2010;584(1):124-128を参照されたい。
【0008】
上記に鑑みて、MAPKおよび/またはPI3K経路の調節異常を伴う進行型/転移性がん、ならびに特に、NF1異常を保有するがん(例えば、乳がん)、PTEN遺伝子欠損または機能喪失をもたらす変異体を伴うがん、発がん性KRAS突然変異を伴うがん、および内分泌療法に際して進行したものをはじめとするHR+/HER2-乳がんを有する患者における新規治療方法に対する必要性が存在する。
【発明の概要】
【0009】
したがって、MAPKおよび/またはPI3K経路に調節異常のあるがんを有する患者を治療する方法を提供することが、本開示の目的である。
【0010】
NF1異常(例えば、NF1遺伝子変異体)を保有するがん、特に固形腫瘍を有する患者を治療する方法を提供することが、本開示の別の目的である。
【0011】
PTEN異常(例えば、遺伝子欠損または機能喪失をもたらす変異体)を保有するがんを治療する方法を提供することが、本開示の別の目的である。
【0012】
KRAS G12X突然変異などのKRAS突然変異を有するがんを治療する方法を提供することが、本開示の別の目的である。
【0013】
少なくとも1回の前治療(例えば、内分泌療法、細胞周期阻害剤療法等)に対して進行したものなどの、HR+/HER2-乳がんを治療する方法を提供することが、本開示の別の目的である。
【0014】
これらおよび以下の詳細な説明を通して明らかになるであろう他の目的は、上記で列挙されるものなどのがんにおいて活性であることが見出されており、かつそのようながんを治療するために用いることができる、異常MAPKおよびPI3K経路の二重阻害に対する潜在能力を有する、経口投与可能なRSK、AKT、およびS6Kの非常に強力な三重キナーゼ阻害剤である、4-(4-(3-((2-(tert-ブチルアミノ)エチル)アミノ)-6-(5-(トリフルオロメチル)-1,3,4-オキサジアゾール-2-イル)ピリジン-2-イル)ピペリジン-1-イル)-5,5-ジメチル-5H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-6(7H)-オン(「TAS0612」としても知られる)またはその薬学的に許容される塩の本発明者らによる発見により達成された。したがって、本開示は以下を提供する:
【0015】
(1)NF1における異常を有するがん、例えば、固形腫瘍を有する患者を治療する方法であって、有効量の4-(4-(3-((2-(tert-ブチルアミノ)エチル)アミノ)-6-(5-(トリフルオロメチル)-1,3,4-オキサジアゾール-2-イル)ピリジン-2-イル)ピペリジン-1-イル)-5,5-ジメチル-5H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-6(7H)-オン(TAS0612)またはその薬学的に許容される塩を患者に投与するステップを含む、方法。下記式を有するこの化合物は、化合物(1)と称される:
【0016】
【0017】
(2)固形腫瘍が、乳がん、肺がん、卵巣がん、皮膚がん、結腸がん、肝臓がん、および食道胃がんからなる群より選択される少なくとも1種類である、(1)の方法。
【0018】
(3)固形腫瘍が乳がんである、(1)または(2)の方法。
【0019】
(4)乳がんがヒト上皮成長因子受容体2陰性(HER2-)乳がんである、(3)の方法。
【0020】
(5)患者が、TAS0612またはその薬学的に許容される塩を投与するステップに先立って、NF1における異常を有することが決定される、(1)~(4)のいずれか1つの方法。
【0021】
(6)固形腫瘍が、NF1ならびにKRAS、BRAF、PIK3CA、AKT1、およびPTENからなる群より選択される少なくとも1つにおける同時発生する異常を有する、(1)~(5)のいずれか1つの方法。
【0022】
(7)固形腫瘍が不活性化NF1遺伝子変異体を保有する、(1)~(6)のいずれか1つの方法。
【0023】
(8)TAS0612またはその薬学的に許容される塩が患者に経口投与される、(1)~(7)のいずれか1つの方法。
【0024】
(9)TAS0612またはその薬学的に許容される塩が、1日1回(QD)、患者に投与される、(1)~(8)のいずれか1つの方法。
【0025】
(10)1日当たり約10~約960mgのTAS0612またはその薬学的に許容される塩が患者に投与される、(1)~(9)のいずれか1つの方法。
【0026】
(11)TAS0612またはその薬学的に許容される塩が少なくとも28日間にわたって患者に毎日投与される、(1)~(10)のいずれか1つの方法。
【0027】
(12)ホルモン受容体陽性かつヒト上皮成長因子受容体2陰性(HR+/HER2-)乳がんを有する患者を治療する方法であって、第2の乳がん療法と組み合わせて、有効量の4-(4-(3-((2-(tert-ブチルアミノ)エチル)アミノ)-6-(5-(トリフルオロメチル)-1,3,4-オキサジアゾール-2-イル)ピリジン-2-イル)ピペリジン-1-イル)-5,5-ジメチル-5H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-6(7H)-オン(TAS0612)またはその薬学的に許容される塩を患者に投与するステップを含む、方法。
【0028】
(13)第2の乳がん療法が、内分泌療法、細胞周期阻害剤療法、および放射線療法からなる群より選択される少なくとも1種である、(12)の方法。
【0029】
(14)第2の乳がん療法が、タモキシフェンおよび/またはフルベストラントを用いる内分泌療法である、(12)または(13)の方法。
【0030】
(15)第2の乳がん療法が、アベマシクリブ、パルボシクリブ、および/またはリボシクリブを用いる細胞周期阻害剤療法である、(12)または(13)の方法。
【0031】
(16)第2の乳がん療法が放射線療法である、(12)または(13)の方法。
【0032】
(17)HR+/HER2-乳がんが、再発または不応性HR+/HER2-乳がんである、(12)~(16)のいずれか1つの方法。
【0033】
(18)再発または不応性HR+/HER2-乳がんを有する患者が、TAS0612またはその薬学的に許容される塩を投与するステップに先立って、内分泌療法ならびに/またはサイクリン依存性キナーゼ4および6(CDK4/6)阻害剤を用いる治療レジメンを既に受けたことがある、(17)の方法。
【0034】
(19)再発または不応性HR+/HER2-乳がんが、内分泌療法ならびに/またはサイクリン依存性キナーゼ4および6(CDK4/6)阻害剤を用いる治療レジメンに対する抵抗性または難治性を獲得した、(18)の方法。
【0035】
(20)再発または不応性HR+/HER2-乳がんが、内分泌療法抵抗性である、(17)~(19)のいずれか1つの方法。
【0036】
(21)再発または不応性HR+/HER2-乳がんが、タモキシフェン抵抗性および/またはフルベストラント抵抗性である、(17)~(20)のいずれか1つの方法。
【0037】
(22)再発または不応性HR+/HER2-乳がんが、CDK4/6阻害剤抵抗性である、(17)~(21)のいずれか1つの方法。
【0038】
(23)HR+/HER2-乳がんが、NF1における異常を保有する、(12)~(22)のいずれか1つの方法。
【0039】
(24)TAS0612またはその薬学的に許容される塩が患者に経口投与される、(12)~(23)のいずれか1つの方法。
【0040】
(25)TAS0612またはその薬学的に許容される塩が、1日1回(QD)、患者に投与される、(12)~(24)のいずれか1つの方法。
【0041】
(26)1日当たり約10~約960mgのTAS0612またはその薬学的に許容される塩が患者に投与される、(12)~(25)のいずれか1つの方法。
【0042】
(27)TAS0612またはその薬学的に許容される塩が少なくとも28日間にわたって患者に毎日投与される、(12)~(26)のいずれか1つの方法。
【0043】
(28)PTENにおける異常を伴うがんを有する患者を治療する方法であって、有効量の4-(4-(3-((2-(tert-ブチルアミノ)エチル)アミノ)-6-(5-(トリフルオロメチル)-1,3,4-オキサジアゾール-2-イル)ピリジン-2-イル)ピペリジン-1-イル)-5,5-ジメチル-5H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-6(7H)-オン(TAS0612)またはその薬学的に許容される塩を患者に投与するステップを含む、方法。
【0044】
(29)がんが、乳がん、甲状腺がん、腎細胞がん、子宮内膜がん、大腸がん、黒色腫、膠芽腫、前立腺がん、卵巣がん、および肺がんからなる群より選択される少なくとも1種類である、(28)の方法。
【0045】
(30)がんが子宮内膜がんである、(28)または(29)の方法。
【0046】
(31)患者が、TAS0612またはその薬学的に許容される塩を投与するステップに先立って、PTENにおける異常を有することが決定される、(28)~(30)のいずれか1つの方法。
【0047】
(32)がんが、PTENならびにKRAS、BRAF、PIK3CA、AKT1、EGFR、HER2、TP53、NF1、およびBRCAからなる群より選択される少なくとも1つにおける同時発生する異常を有する、(28)~(31)のいずれか1つの方法。
【0048】
(33)がんが、PTENおよびPIK3CAにおける同時発生する異常を有する、(28)~(32)のいずれか1つの方法。
【0049】
(34)PTENにおける異常が、PTEN遺伝子欠損または機能喪失をもたらす変異体である、(28)~(33)のいずれか1つの方法。
【0050】
(35)TAS0612またはその薬学的に許容される塩が患者に経口投与される、(28)~(34)のいずれか1つの方法。
【0051】
(36)TAS0612またはその薬学的に許容される塩が、1日1回(QD)、患者に投与される、(28)~(35)のいずれか1つの方法。
【0052】
(37)1日当たり約10~約960mgのTAS0612またはその薬学的に許容される塩が患者に投与される、(28)~(36)のいずれか1つの方法。
【0053】
(38)TAS0612またはその薬学的に許容される塩が少なくとも28日間にわたって患者に毎日投与される、(28)~(37)のいずれか1つの方法。
【0054】
(39)KRASにおける異常を有するがんを伴う患者を治療する方法であって、有効量の4-(4-(3-((2-(tert-ブチルアミノ)エチル)アミノ)-6-(5-(トリフルオロメチル)-1,3,4-オキサジアゾール-2-イル)ピリジン-2-イル)ピペリジン-1-イル)-5,5-ジメチル-5H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-6(7H)-オン(TAS0612)またはその薬学的に許容される塩を患者に投与するステップを含む、方法。
【0055】
(40)がんが、大腸がん、肺がん、膵臓がん、子宮内膜がん、皮膚がん、卵巣がん、胆管がん、および乳がんからなる群より選択される少なくとも1種類である、(39)の方法。
【0056】
(41)患者が、TAS0612またはその薬学的に許容される塩を投与するステップに先立って、KRASにおける異常を有することが決定される、(39)または(40)の方法。
【0057】
(42)がんが、KRASならびにBRAF、PIK3CA、PTEN、EGFR、TP53、BRCA、APC、MTOR、およびSMAD4からなる群より選択される少なくとも1つにおける同時発生する異常を有する、(39)~(41)のいずれか1つの方法。
【0058】
(43)がんが、KRASならびにPIK3CAおよびPTENからなる群より選択される少なくとも1つにおける同時発生する異常を有する、(39)~(42)のいずれか1つの方法。
【0059】
(44)がんが、KRAS G12C突然変異またはKRAS G12D突然変異を保有する、(39)~(43)のいずれか1つの方法。
【0060】
(45)患者が、KRAS G12C特異的阻害剤またはKRAS G12D特異的阻害剤と組み合わせて、TAS0612またはその薬学的に許容される塩を投与される、(44)の方法。
【0061】
(46)TAS0612またはその薬学的に許容される塩が患者に経口投与される、(39)~(45)のいずれか1つの方法。
【0062】
(47)TAS0612またはその薬学的に許容される塩が、1日1回(QD)、患者に投与される、(39)~(46)のいずれか1つの方法。
【0063】
(48)1日当たり約10~約960mgのTAS0612またはその薬学的に許容される塩が患者に投与される、(39)~(47)のいずれか1つの方法。
【0064】
(49)TAS0612またはその薬学的に許容される塩が少なくとも28日間にわたって患者に毎日投与される、(39)~(48)のいずれか1つの方法。
【0065】
(50)4-(4-(3-((2-(tert-ブチルアミノ)エチル)アミノ)-6-(5-(トリフルオロメチル)-1,3,4-オキサジアゾール-2-イル)ピリジン-2-イル)ピペリジン-1-イル)-5,5-ジメチル-5H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-6(7H)-オン(TAS0612)またはその薬学的に許容される塩を含む、MAPKおよび/またはPI3K経路に調節異常のあるがんを有する患者を治療するための抗腫瘍剤。
【0066】
(51)MAPKおよび/またはPI3K経路に調節異常のあるがんを有する患者の治療における、4-(4-(3-((2-(tert-ブチルアミノ)エチル)アミノ)-6-(5-(トリフルオロメチル)-1,3,4-オキサジアゾール-2-イル)ピリジン-2-イル)ピペリジン-1-イル)-5,5-ジメチル-5H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-6(7H)-オン(TAS0612)またはその薬学的に許容される塩の使用。(52)MAPKおよび/またはPI3K経路に調節異常のあるがんを有する患者の治療における使用のための、4-(4-(3-((2-(tert-ブチルアミノ)エチル)アミノ)-6-(5-(トリフルオロメチル)-1,3,4-オキサジアゾール-2-イル)ピリジン-2-イル)ピペリジン-1-イル)-5,5-ジメチル-5H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-6(7H)-オン(TAS0612)またはその薬学的に許容される塩。
【0067】
前述の段落は、一般的な導入の目的で提供されており、下記の特許請求の範囲を限定することは意図されない。記載される実施形態は、さらなる利点と共に、添付の図面と併せて考慮される場合に、下記の詳細な説明を参照することにより最もよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【
図1】
図1Aは、MAPKおよびPI3Kシグナル伝達カスケードに対する遺伝子サイレンシングによるNF1枯渇の作用を示す図であり;エストロゲン受容体アルファ(ERα)陽性およびHER2陰性乳がん由来MCF7細胞におけるNF1枯渇は、ホルモン除去培養条件下でMAPKおよびPI3Kの両方のシグナル伝達の活性化を示し;データは、対照およびNF1 siRNAトランスフェクションMCF7細胞においてNF1、pAKT、pERK、pS6、およびERαタンパク質を検出する免疫ブロットとして示され、
図1Bは、NF1の枯渇下での細胞内シグナル伝達における変化を示す図解である。
【
図2】
図2A~2Bは、NF1枯渇MCF7細胞(
図2A)およびT47D細胞(
図2B)における、シグナル伝達およびアポトーシス誘導能に対する化合物(1)、MEK阻害剤トラメチニブ、PI3K阻害剤アルペリシブ、およびERα標的化分解剤フルベストラントの作用を示す図であり;データは、NF1、pPRAS40、pYB1、pS6、ERα、および切断型PARPを検出する免疫ブロットとして示される。
【
図3】化合物(1)がNF1またはエストロゲン状態にかかわらず、ER+/HER2-乳がん細胞株における標的阻害およびアポトーシスを誘導し、かつフルベストラントと組み合わせた場合に作用がさらに増強されることを示す図であり;データは、NF1、pPRAS40、pYB1、pS6、ERα、および切断型PARPを検出する免疫ブロットとして示される。
【
図4】
図4A~4Dは、PTEN欠損細胞増殖およびアポトーシス誘導に対する化合物(1)の作用を示す図であり;
図4Aは、IC50値がPTEN遺伝子変化と明らかに関連付けられる小規模がん細胞パネルにおいて、化合物(1)が強力な増殖阻害を示したことを示し;
図4Bは、確証的大規模細胞パネル解析の結果を示し;
図4Cは、化合物(1)が、用量依存的様式でPTEN突然変異型HEC-6がん細胞において著しいアポトーシスを誘導したことを示し;
図4Dは、化合物(1)が、用量依存的様式でPTEN突然変異型MFE-319がん細胞において著しいアポトーシスを誘導したことを示す。
【
図5】
図5A~5Bは、腫瘍体積(TV)(
図5A)および体重変化(BWC)(
図5B)の関数としての、KRAS_G12CおよびPIK3CA_K111E突然変異型SW1573_ヒト肺腫瘍異種移植片を保有するヌードマウスにおける化合物(1)またはソトラシブまたは化合物(1)とソトラシブとの組み合わせの抗腫瘍効果を示す図であり;結果は、TVおよびBWCの両方における平均±標準誤差として示される(n=5動物/群)。
【
図6】
図6A~6Bは、TV(
図6A)およびBWC(
図6B)の関数としての、KRAS_G12C突然変異型LU65_ヒト肺腫瘍異種移植片を保有するヌードマウスにおける化合物(1)またはソトラシブまたは化合物(1)とソトラシブとの組み合わせの抗腫瘍作用を示す図であり;結果は、TVおよびBWCのどちらも平均±標準誤差として示される(n=5動物/群)。
【
図7】
図7A~7Bは、TV(
図7A)およびBWC(
図7B)の関数としての、KRAS_G12D、PIK3CA_H1047R、およびPTEN_I67Kの突然変異を保持するLS180_ヒト結腸腫瘍異種移植片を保有するヌードマウスにおける化合物(1)またはトラメチニブの抗腫瘍作用を示す図であり;結果は、TVおよびBWCのどちらも平均±標準誤差として示される(n=5動物/群)。
【
図8】
図8A~8Bは、TV(
図8A)およびBWC(
図8B)の関数としての、KRAS_G12D突然変異型AsPC-1_ヒト膵臓腫瘍異種移植片を保有するヌードマウスにおける化合物(1)またはトラメチニブまたは化合物(1)とトラメチニブとの組み合わせの抗腫瘍作用を示す図であり;結果は、TVおよびBWCのどちらも平均±標準誤差として示される(n=5動物/群)。
【発明を実施するための形態】
【0069】
化合物(1)は、0.16~1.7nmol/Lの範囲のすべての標的キナーゼアイソフォーム(RSK1、RSK2、RSK3、RSK4、AKT1、AKT2、AKT3、S6K1、およびS6K2)に対するインビトロ平均最大半値阻害濃度(IC50)活性を有する、新規な選択的強力かつ経口投与可能なマルチキナーゼ阻害剤である。この理由のために、化合物(1)は、MAPKおよびPI3K経路の両方の二重阻害剤として機能し、MAPKおよび/またはPI3K経路に調節異常のあるがんに対する抗がん作用を提供し、かつ抗ホルモン剤および標的化療法剤(例えば、チロシンキナーゼ阻害剤)などの他の抗がん剤に対する抵抗性を克服/逆転させることができる。化合物(1)は、米国特許第10,538,528号明細書およびその対応する国際公開第2017/200087号パンフレット(実施例32を参照されたい)に記載され、その内容は参照により、その全体が本明細書中に組み入れられる。
【0070】
化合物(1)は、直接的に(遊離形態)または薬学的に許容される塩の形態で用いることができる。語句「薬学的に許容される」は、正当な医学的判断の範囲内で、合理的な利益/リスク比に見合った、過度の毒性、刺激、アレルギー応答、または他の問題もしくは合併症を伴わずに、ヒトの組織と接触させる使用に対して好適である、化合物、材料、組成物、および/または剤型を意味するために本明細書中で用いられる。化合物(1)の薬学的に許容される塩は、特に限定されない。そのような塩の例としては、塩基付加塩、および酸付加塩が挙げられる。その例としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸、スルファミン酸、リン酸、硝酸、過塩素酸等などの無機酸;酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、ステアリン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、パモ酸、マレイン酸、ヒドロキシマレイン酸、フェニル酢酸、グルタミン酸、安息香酸、サリチル酸、スルファニル酸、2-アセトキシ安息香酸、フマル酸、トルエンスルホン酸(トシル酸)、メタンスルホン酸(メシル酸)、エタンジスルホン酸(エシル酸)、シュウ酸、イセチオン酸、ギ酸等などの有機酸との付加塩;カリウム、ナトリウム等などのアルカリ金属との塩;カルシウム、マグネシウム等などのアルカリ土類金属との塩;ならびにアンモニウム塩、エチルアミン塩、アルギン酸塩、有機アミン塩、例えば、トリメチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、エタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、プロカイン塩、およびN,N’-ジベンジルエチレンジアミン塩等などの有機塩基との塩が挙げられる。薬学的に許容される塩は、慣用の化学的方法により、一般的には、水もしくは有機溶媒(例えば、エーテル、酢酸エチル、エタノール、イソプロパノール、またはアセトニトリル)、または2種類の混合物中で、化学量論量または化学量論量未満の量(例えば、0.5当量)の適切な塩基または酸と化合物(1)を反応させることにより、合成することができる。
【0071】
化合物(1)またはその薬学的に許容される塩は、「溶媒和物」の形態であり得、溶媒和物は、有機または無機にかかわらず、1つまたは複数の溶媒分子との参照される化合物の物理的会合体を意味する。この物理的会合体は、水素結合を含む。特定の例では、溶媒和物は、例えば、1つまたは複数の溶媒分子が結晶固体の結晶格子中に組み込まれる場合、単離が可能であろう。溶媒和物中の溶媒分子は、規則的配置および/または無秩序配置で存在し得る。溶媒和物は、化学量論量または非化学量論量のいずれかの溶媒分子を含むことができる。溶媒和物は、溶液相および分離可能な溶媒和物の両方を包含する。溶媒和物を形成し得る例示的な溶媒分子としては、限定するものではないが、水、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、tert-ブタノール、酢酸エチル、グリセリン、アセトン等が挙げられる。
【0072】
化合物(1)またはその薬学的に許容される塩は、非晶質形態または結晶形態で存在し得る。単結晶形態の、または多結晶形態の混合物の、または他の成分との共結晶形態での化合物が、本開示の範囲内に入る。結晶は、公知の結晶化技術の適用によって生成することができる。好ましい結晶形態は、良好な安定性、優れた経口吸収性、高い化学的純度を有するものであり、非吸湿性であり、かつ大量生産に対して好適である。
【0073】
化合物(1)を合成するために用いることができる例示的な方法は、米国特許第10,538,528号明細書およびその対応する国際公開第2017/200087号パンフレット(実施例32を参照されたい)に記載され、それらの文献の内容は、それらの全体で参照により本明細書中に組み入れられる。
【0074】
本開示におけるがんを「治療する」、「治療すること」、またはその「治療」との用語は、例えば、状態、疾患、障害等の改善をもたらす、それらを軽減、低減、改変、安定化、改善もしくは除去するか、またはその症状を改善する、いずれかの効果を含む。具体的には、これらの用語は、以下のことを意味している:(1)がん細胞の安定化、減少(例えば、投与前と比較した場合に、がん細胞の集団および/または腫瘍サイズの10%、20%、30%、40%、50%超まで、好ましくは60%以上まで)、またはがん細胞の除去、(2)がん性細胞分裂および/またはがん性細胞増殖を阻害すること、(3)制御されないかもしくは異常な細胞分裂に関連するかまたは部分的にそれにより引き起こされる病理に関連する1つまたは複数の症状をある程度まで軽減する(または好ましくは除去する)こと、(4)無病、無再発、無増悪、および/もしくは全生存期間、持続期間、または生存率の増加、(5)入院率の減少、(6)入院期間の減少、(7)原発性、局所性および/もしくは転移性がんの根絶、除去、または制御、(8)腫瘍もしくは新生物の増殖の安定化または減少(例えば、当初増殖速度と比較して、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、好ましくは少なくとも80%まで)、(9)腫瘍形成の障害、(10)死亡率の減少、(11)奏効率、奏効の持続性、または奏効もしくは寛解状態の患者数の増加、(12)腫瘍サイズが維持され、かつ増加しないかまたは10%未満の増大、好ましくは5%未満、好ましくは4%未満、好ましくは2%未満までの増加、(13)外科手術(例えば、結腸切除、乳腺切除)の必要性の減少、ならびに/あるいは(14)がん細胞の転移を防止または低減すること。
【0075】
本明細書中で治療することができるがんは、MAPKおよび/またはPI3K経路の阻害に対して感受性であるものである。特に、本明細書中で治療することができるがんは、Ras/Raf/MEK/ERK/RSKおよび/またはRas/PI3K/PTEN/AKT/mTOR/S6Kカスケードが異常に活性化されたがんである。
【0076】
本明細書中で治療することができるがんのタイプの例としては、限定するものではないが、腺管腫瘍、カルチノイド腫瘍、未分化がん、血管肉腫、腺がん、消化器がん(例えば、結腸がん、直腸がん、および盲腸がんをはじめとする大腸がん(「CRC」)、胆嚢がんおよび胆管がん(bile duct cancer(cholangiocarcinoma))をはじめとする胆管がん(biliary cancer)、肛門がん、食道がん、胃がん(gastric (stomach) cancer)、消化管カルチノイド腫瘍、消化管間質腫瘍(「GIST」)、肝臓がん、十二指腸がん、虫垂がん、および小腸がん)、肺がん(例えば、非小細胞肺がん(「NSCLC」)、扁平上皮細胞肺がん、大細胞肺がん、小細胞肺がん、浸潤性粘液性腺がん、中皮腫ならびに気管支腫瘍および胸膜肺芽腫などの他の肺がん)、泌尿器がん(例えば、腎臓がん(kidney (renal) cancer)、腎臓の移行上皮がん(「TCC」)、腎盂および尿管のTCC(「PDQ」)、膀胱がん、尿道がんおよび前立腺がん)、頭頸部がん(例えば、目のがん、網膜芽細胞腫、眼内黒色腫、下咽頭がん、咽頭がん、喉頭がん、喉頭乳頭腫、原発不明の転移性頸部扁平上皮がん、鼻副鼻腔扁平上皮がん(SNSCC)、口腔がん(oral (mouth) cancer)、口唇がん、咽喉がん、口腔咽頭がん、嗅神経芽細胞腫(esthesioneuroblastoma)、鼻腔・副鼻腔がん、上咽頭がん、および唾液腺がん)、内分泌がん(例えば、甲状腺がん、副甲状腺がん、多発性内分泌腫瘍症候群、胸腺腫および胸腺がん、膵管腺がん(「PDAC」)、膵神経内分泌腫瘍および膵島細胞腫瘍をはじめとする膵臓がん)、乳がん(非浸潤性乳管がん(「DCIS」)、非浸潤性小葉がん(「LCIS」)、トリプルネガティブ乳がん、および炎症性乳がん)、男性および女性生殖器がん(例えば、子宮頸がん、卵巣がん、子宮内膜がん、子宮肉腫、子宮がん、膣がん、外陰がん、妊娠性絨毛腫瘍(「GTD」)、性腺外胚細胞腫瘍、頭蓋外胚細胞腫瘍、胚細胞腫瘍、精巣がんおよび陰茎がん)、脳神経系がん(例えば、星細胞腫、脳幹グリオーマ、脳腫瘍、膠芽腫(GBM)、頭蓋咽頭腫、中枢神経系(「CNS」)がん、脊索腫、上衣腫、胎児性腫瘍、神経芽腫、傍神経節腫、非定型奇形腫瘍、乏突起細胞腫、乏突起星細胞腫、乏突起膠腫、未分化乏突起星細胞腫、神経節膠腫、中枢性神経細胞腫、髄芽腫、胚細胞腫、髄膜腫、神経鞘腫、GH分泌下垂体腺腫、PRL分泌下垂体腺腫、ACTH分泌下垂体腺腫、非機能性下垂体腺腫、血管芽腫、および類上皮腫)、皮膚がん(例えば、基底細胞がん(「BCC」)、扁平上皮皮膚がん(「SCC」)、メルケル細胞がんおよび黒色腫)、組織および骨がん(例えば、軟組織肉腫、横紋筋肉腫、骨の線維性組織球腫、ユーイング肉腫、骨の悪性線維性組織球腫(「MFH」)、骨肉腫および軟骨肉腫)、心臓血管がん(例えば、心臓がんおよび心臓腫瘍)、虫垂がん、小児青年がん(例えば、小児副腎皮質がん、正中線管がん(midline tract carcinoma)、肝細胞がん(「HCC」)、肝芽腫およびウィルムス腫瘍)ならびにウイルス誘導型がん(例えば、HHV-8関連がん(カポジ肉腫)およびHIV/AIDS関連がん)などの固形腫瘍が挙げられる。
【0077】
これもまた治療に適したがんとしては、限定するものではないが、多発性骨髄腫、白血病およびリンパ腫などの血液学的悪性腫瘍および形質細胞悪性腫瘍(例えば、血液、骨髄および/またはリンパ節を冒すがん)、骨髄異形成症候群および骨髄増殖性疾患が挙げられる。白血病としては、限定するものではないが、急性リンパ芽球性白血病(「ALL」)、急性骨髄性白血病(acute myelogenous (myeloid) leukemia)(「AML」)、慢性リンパ性白血病(「CLL」)、慢性骨髄性白血病(「CML」)、急性単球性白血病(「AMoL」)、有毛細胞白血病、および/または他の白血病が挙げられる。リンパ腫としては、限定するものではないが、ホジキンリンパ腫および非ホジキンリンパ腫(「NHL」)が挙げられる。一部の実施形態では、NHLは、B細胞リンパ腫および/またはT細胞リンパ腫である。一部の実施形態では、NHLとしては、限定するものではないが、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(「DLBCL」)、小リンパ球性リンパ腫(「SLL」)、慢性リンパ性白血病(「CLL」)、マントル細胞リンパ腫(「MCL」)、バーキットリンパ腫、菌状息肉腫およびセザリー症候群をはじめとする皮膚T細胞リンパ腫、AIDS関連リンパ腫、濾胞性リンパ腫、リンパ形質細胞性リンパ腫(ワルデンシュトレームマクログロブリン血症(「WM」))、原発性中枢神経系(CNS)リンパ腫、中枢神経系悪性リンパ腫、および/または他のリンパ腫が挙げられる。
【0078】
本開示の治療方法は、肺がん(例えば、非小細胞肺がん(「NSCLC」)、浸潤性粘液性腺がん等)、乳がん(例えば、非浸潤性乳管がん(「DCIS」)、非浸潤性小葉がん(「LCIS」)等)、男性および女性生殖器がん(例えば、子宮内膜/子宮がん、卵巣がん等)、泌尿器がん(例えば、前立腺がん等)、消化器がん(例えば、結腸/大腸がん、盲腸等)、内分泌がん(例えば、膵臓がん等)、および皮膚がん(例えば、黒色腫)などの固形腫瘍/がんの治療において特に有用である。
【0079】
本明細書中に開示される方法はまた、MAPKおよび/またはPI3K経路の阻害に対して感受性である悪性腫瘍に対する臓器横断的治療(tumor-agnostic treatment)としても用いることができる。
【0080】
様々なステージおよび切除可能性のがんが開示される治療に対して応答し得るが、本明細書中の方法は、進行型(ステージIII)および転移性(ステージIV)疾患、「再発」および「不応性」がん-これまで医学的治療に対して応答できなかったがんの治療において特に有用であり得る。「再発」がんは、通常はがんが検出できなかった期間後に、再発(復帰)したがんである。がんは、元の(原発)腫瘍と同じ場所または身体内の別の場所に復帰する可能性がある。「不応性」がんは、初めから、または以前の療法の経過中でのがん細胞による抵抗性/難治性の獲得から抵抗性/難治性として現れる場合があり、したがって、最初は治療に対して応答するが、多くの場合に、より侵襲性/抵抗性の形態で戻ってくる、再発がんを含むことができる。再発または不応性がんは、切除可能または切除不可能のいずれかであり得る。
【0081】
本開示中の治療に対して応答性のがんは、一部の場合には、がん形成および/または発達をもたらすかまたはそれに寄与するMAPKおよび/またはPI3K経路と関連付けられる1つまたは複数のがんドライバー遺伝子/成分(例えば、NF1、PTEN、PIK3CA、KRAS等)における異常を保有し得る。
【0082】
「がんドライバー遺伝子」は、それらが遺伝子変化している場合に、細胞に増殖の優位性を与え、腫瘍増殖を助ける遺伝子である。がんドライバー遺伝子は一般的に、2つのクラスに入る:腫瘍抑制因子遺伝子およびがん遺伝子。「腫瘍抑制因子遺伝子」、またはがん抑制遺伝子は、細胞増殖の負の制御を行う。遺伝子の欠失、突然変異、または不活性化を通した、これらの遺伝子によりコードされるタンパク質の機能喪失は、増殖制約から細胞を開放し、悪性形質転換に寄与する。「がん遺伝子」は、正常では細胞が増殖することを助け、遺伝子変化した場合には、アポトーシスに向かう細胞をむしろ生存および増殖させることができるタンパク質の活性化型または過剰発現レベルをもたらす。つまり、腫瘍抑制因子遺伝子の機能喪失と合わさったがん遺伝子の機能獲得は、腫瘍形成および増大を制御するプロセスを決定する。
【0083】
本開示において、遺伝子/タンパク質「異常」としては、タンパク質の過剰発現、遺伝子増幅(例えば、コピー数変化)、遺伝子/タンパク質突然変異(例えば、ナンセンス、ミスセンス、スプライシング、またはフレームシフト突然変異として分類されるものを含む挿入、置換、または欠失突然変異)、染色体転座/挿入/逆位、遺伝子再配列または遺伝子融合(遺伝子再配列のサブセット)、プロモーター過剰メチル化、翻訳後修飾等が含まれ、それらの組み合わせも含まれ、がん形成および/または発達に寄与する。
【0084】
本明細書中で治療されるがん、例えば、固形腫瘍は、NF1異常を保有することができる。NF1は、RAS-GTP活性化の抑制因子として機能するニューロフィブロミンタンパク質をコードする腫瘍抑制因子遺伝子であり、NF1の欠損は、RAS活性化および下流でのMAPK経路活性化をもたらす。NF1異常を保有する好ましいがんは、固形腫瘍である。
【0085】
NF1における異常は、限定するものではないが、ナンセンス、フレームシフト、ミスセンス、スプライシング、または欠失突然変異をはじめとする、1つまたは複数の不活性化突然変異の形態にあり得る。不活性化突然変異は、50歳未満の女性での乳がんのリスクを増加させることが知られており、がん関連死の増加をもたらす可能性のある生殖系列突然変異、または原発がんでは稀であるが、予後不良および再発リスクの増加に関連する体細胞突然変異であり得る。Madanikia SA, et al., Increased risk of breast cancer in women with NF1. Am J Med Genet A 2012;158A:3056-60;Uusitalo E, et al., Distinctive cancer associations in patients with neurofibromatosis type 1. J Clin Oncol 2016; 34:1978-86;Sharif S, et al., Women with neurofibromatosis 1 are at a moderately increased risk of developing breast cancer and should be considered for early screening. J Med Genet 2007; 44:481-4;およびGriffith OL, et al., The prognostic effects of somatic mutations in ER-positive breast cancer. Nat Commun 2018; 9:3476を参照されたい。
【0086】
本開示の好ましい実施形態は、1つまたは複数のNF1遺伝子変異体を保有する固形腫瘍、特に乳がん、例えば、進行型/転移性HER2-乳がんを有する患者を治療することを含む。「HER2-」とは、HER2発現レベルが、例えば、健康細胞と比較して、正常範囲内にあると考えられることを意味する。そのようなHER2-乳がんとしては、ER/PR(+)、HER2-乳がんおよびトリプルネガティブ乳がん(TNBC)が挙げられる。
【0087】
NF1突然変異とも言い換えることができるNF1遺伝子変異体としては、限定するものではないが、R1204W、X465_splice、S2751Rfs*27?、I679Dfs*21、T467Hfs*3、P678Rfs*10、P388T、Y628Tfs*3、V2205A、N2341Tfs*5、Q1336*、およびN184Wfs*17が挙げられる。NF1遺伝子変異体の他の例としては、限定するものではないが、Q83Ter、R192Ter、R304Ter、P504fs、G629R、T770fs、Q948Ter、c.3198-1G>C、S1078Ter、A1098fs、S1329Ter、K1429Ter、Q1515K、K1752N、c.5268+1G>T、S2435del、およびG2683Aが挙げられる。Pearson, A., et al., Inactivating NF1 Mutations Are Enriched in Advanced Breast Cancer and Contribute to Endocrine Therapy Resistance. Clin Cancer Res, 2020; (26)(3), 608-622を参照されたい。別途明記されない限り、NF1アミノ酸配列情報に対するいかなる参照も、米国国立生物工学情報センター(NCBI)タンパク質データベースから登録番号NP_001035957等としてアクセス可能なヒト野生型NF1アイソフォーム1に基づいている。NF1のアイソフォームもまた当業者により公知であり、本開示はまた、それらのアイソフォームも包含する。本明細書中で議論されるNF1における変化(例えば、突然変異)に関して、アイソフォームにおける変化は、アイソフォーム中のアミノ酸の欠失または挿入に起因してNF1に関して特定される位置とは異なる位置に存在する場合があるが、それにもかかわらず、アイソフォームにおける変化は、NF1上の特定される位置に対応する変化であることを理解しなくてはならない。
【0088】
乳がんに加えて、本明細書中で治療することができるNF1異常を有するがんタイプの他の具体例としては、限定するものではないが、肺がん(例えば、NSCLC)、卵巣がん、脳および神経系のがん、皮膚がん(例えば、黒色腫)、ならびに結腸がん、肝臓がん、および食道胃がんなどの消化器系がんが挙げられる。
【0089】
NF1異常を保有するがんはまた、いくつかの場合には、1つまたは複数の他のがんドライバー遺伝子、例えば、限定するものではないが、Ras(例えば、HRAS、KRAS、NRAS)、v-Rafマウス肉腫ウイルスがん遺伝子ホモログB(BRAF)(例えば、G464Vおよび/またはV600E等)、PIK3CA、AKT1(例えば、E17Kおよび/またはL52R等)、PTEN、エストロゲン受容体1(ESR1)、および腫瘍タンパク質p53遺伝子(TP53)を含む、MAPKおよび/またはPI3K経路に関連して同時発生する異常も有する場合がある。
【0090】
PIK3CA異常に関して、1つまたは複数のPIK3CA遺伝子変異体が特に言及され、これらはPIK3CA突然変異と相互に言い換えることができ、その例としては、限定するものではないが、K111E、E542K/A/G/Q/DをはじめとするE542X、E545K/A/G/Q/DをはじめとするE545X、L866F、K567R、およびH1047R/L/Y/QをはじめとするH1047Xが挙げられる。別途明記されない限り、PIK3CAアミノ酸配列情報に対するいかなる参照も、米国国立生物工学情報センター(NCBI)タンパク質データベースから登録番号NP_006209.2等としてアクセス可能なヒト野生型PIK3CAアイソフォームαに基づく。PIK3CAのアイソフォームもまた当業者により公知であり、本開示はまた、それらのアイソフォームも包含する。アイソフォームにおける変化は、アイソフォーム中のアミノ酸の欠失または挿入に起因してPIK3CAに関して特定される位置とは異なる位置に存在する場合があるが、それにもかかわらず、アイソフォームにおける変化は、PIK3CA上の特定される位置に対応する変化であることを理解しなくてはならない。
【0091】
本明細書中で治療されるがんは、PTEN異常を有するものが含まれる。PTENは、PI3K/AKT/mTORカスケードに対抗する遍在的に発現されるホスファターゼをコードする。PTEN機能喪失は、良性過剰増殖、悪性腫瘍、ならびに代謝障害および神経発達障害をはじめとする表現型のスペクトルを引き起こすことができる。生殖系列PTEN異常は、乳がん(85%の推定生涯リスク)、甲状腺がん(35%)、腎細胞がん(34%)、子宮内膜がん(28%)、大腸がん(9%)、および黒色腫(6%)の生涯リスクの上昇に関連する。Tan MH, et al., Lifetime cancer risks in individuals with germline PTEN mutations. Clin Cancer Res. 2012;18(2):400-407を参照されたい。さらに、生殖系列PTEN突然変異を有する個体は、米国内の一般的集団と比較して、第2の原発悪性新生物を発症するリスクが7倍に増加する。
【0092】
機能喪失/PTEN不全をもたらすPTENにおける異常は、限定するものではないが、ナンセンス、フレームシフト、ミスセンス、および欠失突然変異、染色体欠失、プロモーター過剰メチル化、ならびに翻訳後修飾を含む、1つまたは複数の不活性化突然変異の形態にあり得る。PTEN異常を伴うがんは、生殖系列突然変異または体細胞突然変異により引き起こされることができる、切断型タンパク質、全長タンパク質、または完全なタンパク質の欠損を発現することができる。
【0093】
これらは相互にPTEN突然変異と言い換えることもできる、PTEN遺伝子欠損または機能喪失をもたらす変異体の例としては、限定するものではないが、I67K、K267Rfs*9/*/fs*をはじめとするK267X、R234Afs*1、L247*、C71Y、L112P、C124S、R130Q/G/L/P/*/fs*をはじめとするR130X、C136Y、Y155C、Q214*、R233*、Q245*、E299*、T319*/fs*をはじめとするT319X、N323fs*およびR335*が挙げられる。Sun, Y., et al. PTENα functions as an immune suppressor and promotes immune resistance in PTEN-mutant cancer. Nat Commun 12, 5147 (2021)を参照されたい。別途明記されない限り、PTENアミノ酸配列情報に対するいかなる参照も、米国国立生物工学情報センター(NCBI)タンパク質データベースから登録番号NP_000305.3等としてアクセス可能なヒト野生型PTENアイソフォームに基づく。PTENのアイソフォームもまた当業者により公知であり、本開示はまた、それらのアイソフォームも包含する。アイソフォームにおける変化は、アイソフォーム中のアミノ酸の欠失または挿入によりPTEN上で特定される位置とは異なる位置に存在する場合があるが、それにもかかわらず、アイソフォームにおける変化は、PTEN上の特定される位置に対応する変化であることを理解しなくてはならない。
【0094】
本開示の好ましい実施形態は、PTEN遺伝子欠損または機能喪失をもたらす変異体などの1つまたは複数のPTEN異常を伴う進行性/転移性がん、特に固形腫瘍を有する患者を治療することを含む。そのようなタイプのがんの具体例としては、限定するものではないが、乳がん、甲状腺がん、腎細胞がん、子宮内膜がん、大腸/盲腸がん、黒色腫、膠芽腫(脳腫瘍)、前立腺がん、卵巣がん、および肺がんが挙げられる。
【0095】
PTEN異常に加えて、がんはまた、一部の場合には、1つまたは複数の他のがんドライバー遺伝子、例えば、限定するものではないが、Ras(例えば、HRAS、KRAS、NRAS)、(BRAF)(例えば、G464Vおよび/またはV600E等)、PIK3CA(例えば、既に記載された突然変異体)、AKT1(例えば、E17Kおよび/またはL52R等)、上皮成長因子受容体(EGFR)、HER2、TP53、NF1、および乳がん遺伝子(BRCA)をはじめとする、MAPKおよび/またはPI3K経路に関連して同時発生する異常も有する場合もある。特に、PTENおよびPIK3CAの両方における同時発生する異常を保有するがんは、化合物(1)に対して非常に感受性であることが特定されており、したがって、これらのがんは、本明細書中の治療に対する好ましい標的を代表する。
【0096】
本明細書中で治療されるがんは、KRAS異常、特に、KRAS突然変異を保有する場合がある。KRASは、突然変異した場合に、MAPKおよび/またはPI3Kシグナル伝達経路などの多数の下流のエフェクター経路を過剰活性化する、細胞外増殖受容体と増殖促進経路との間での重要なシグナル伝達連結部に位置するがん原遺伝子である。KRASは、がんにおいて最も頻繁に突然変異する遺伝子のうちの1つであり、大腸腺がん、肺腺がん、多発性骨髄腫、および膵臓腺がんにおいて最高頻度を有する。発がん性KRAS突然変異の遺伝的相互作用は、対立遺伝子および組織特異的であり、このことは、一貫しない治療応答および臨床転帰をもたらす。Cook, J.H. et al., The origins and genetic interactions of KRAS mutations are allele- and tissue-specific. Nat Commun 12, 1808 (2021)を参照されたい。機能獲得KRAS異常は、生殖系列突然変異または体細胞突然変異であり得る。
【0097】
KRAS異常は、例えば、コドン12、13、61、および146において起こる場合があり、コドン12における活性化突然変異(例えば、ミスセンス)が具体的に言及される。相互にKRAS突然変異と称されることができるKRAS遺伝子変異体としては、限定するものではないが、G12X(ここで、Xは例えば、A、C、D、R、SまたはVである)、G13X(ここで、Xは例えば、A、C、D、R、SまたはVである)、Q61X(ここで、Xは例えば、E、H、K、L、P、およびRである)、およびA146X(ここで、Xは例えば、E、G、P、S、T、およびVである)などの1つまたは複数の点突然変異が挙げられる。特に、本明細書中で治療されるがんは、KRAS G12X突然変異体がん、好ましくはKRAS G12C突然変異体がんまたはKRAS G12D突然変異体がんである。別途明記されない限り、KRASアミノ酸配列情報に対するいかなる参照も、米国国立生物工学情報センター(NCBI)タンパク質データベースから登録番号NP_001356715.1等としてアクセス可能である、ヒト野生型KRASアイソフォームaに基づく。KRASのアイソフォームもまた当業者により公知であり、本開示はまた、それらのアイソフォームも包含する。本明細書中で議論されるKRASにおける変化(例えば、突然変異)に関して、アイソフォームにおける変化は、アイソフォーム中のアミノ酸の欠失または挿入によりKRAS上で特定される位置とは異なる位置に存在する場合があるが、それにもかかわらず、アイソフォームにおける変化は、KRAS上の特定される位置に対応する変化であることを理解しなくてはならない。
【0098】
本開示の好ましい実施形態は、KRAS G12C突然変異を伴う進行性/転移性がん、特に固形腫瘍を有する患者を治療することを含む。本開示の別の好ましい実施形態は、KRAS G12D突然変異を伴う進行性/転移性がん、特に固形腫瘍を有する患者を治療することを含む。そのような突然変異特徴を有することが公知であり、かつ本明細書中の治療に対する候補であるがんタイプの具体例としては、限定するものではないが、大腸がん、肺がん(例えば、NSCLC)、膵臓がん、子宮内膜がん、皮膚がん、卵巣がん、胆管がん、および乳がんが挙げられる。
【0099】
KRAS異常に加えて、がんはまた、一部の場合には、1つまたは複数の他のがんドライバー遺伝子、例えば、限定するものではないが、BRAF(例えば、G464Vおよび/またはV600E)、PIK3CA(例えば、既に記載されたもの)、PTEN(例えば、既に記載されたもの)、AKT1(例えば、E17Kおよび/またはL52R等)、EGFR、TP53、BRCA、大腸腺腫性ポリポーシス(APC)、ラパマイシン標的タンパク質(MTOR)、およびmothers against decapentaplegicホモログ4(SMAD4)をはじめとする、MAPKおよび/またはPI3K経路に関連して同時発生する異常も有する場合がある。特に、PIK3CA、PTEN、またはPIK3CAおよびPTENの両方における同時発生する異常を有するKRAS突然変異体がん(例えば、G12CまたはG12D突然変異体)は、化合物(1)に対して著しく感受性であることが見出されており、したがって、これらのがんは、本明細書中の治療に対する好ましい標的を代表する。
【0100】
KRAS異常を保有するがんを有する患者は、単独療法として、化合物(1)またはその薬学的に許容される塩を用いて治療することができる。代替的に、KRAS異常を保有するがんを有する患者は、KRAS突然変異体特異的阻害剤と組み合わせた、化合物(1)またはその薬学的に許容される塩を用いて治療することができる。KRAS突然変異体特異的阻害剤としては、特異的KRAS突然変異体タンパク質を標的化しかつそれに結合する阻害剤、または特定の発がん性KRAS突然変異体がんに対して活性な他の下流経路阻害剤(すなわち、KRASタンパク質に特異的に結合することなく、特定のKRAS突然変異体タンパク質の作用を妨げるかまたは弱めるもの)が挙げられる。そのような併用療法は、同時に投与される併用療法および逐次的に(前治療または後治療として)投与される併用療法の両方を網羅することが意図される。
【0101】
例えば、KRAS G12C突然変異を保有するがんは、KRAS G12C特異的阻害剤と組み合わせた、化合物(1)またはその薬学的に許容される塩を用いて治療することができる。KRAS G12C特異的阻害剤の例としては、限定するものではないが、AMG510(ソトラシブ)、MRTX849(アダグラシブ)、ARS-1620、ARS-853、JNJ-74699157(ARS-3248)、LY3499446、GDC-6036、D-1553、JDQ433、JAB-21822、およびRM-007が挙げられる。
【0102】
別の例において、KRAS G12D突然変異を保有するがんは、KRAS G12D特異的阻害剤と組み合わせた、化合物(1)またはその薬学的に許容される塩を用いて治療することができる。KRAS G12D特異的阻害剤の例としては、限定するものではないが、MRTX1133およびKRpep-2dが挙げられる。
【0103】
本明細書中で治療されるがんは、ホルモン受容体陽性(HR+)乳がん、好ましくはHR+およびHER2-乳がんでありうる。「HR+」とは、エストロゲン受容体、最も注目すべきはERαが存在/検出可能であり、それにより、がんが増殖するためにエストロゲンを用いることを可能にする(ER+)がん、プロゲステロン受容体が存在/検出可能であり、それにより、がんが増殖するためにプロゲステロンを用いることを可能にする(PR+)がん、またはER+およびPR+の両方であるがんを意味する。
【0104】
HR+/HER2-乳がんを有する患者は、単独療法として、化合物(1)またはその薬学的に許容される塩を用いて治療することができる。
【0105】
代替的に、HR+/HER2-乳がんを有する患者は、第2の乳がん療法と組み合わせた、化合物(1)またはその薬学的に許容される塩を用いて治療することができる。ここで、化合物(1)またはその薬学的に許容される塩は「第1の乳がん療法」と考えることができ、一方で、化合物(1)の投与に基づかない乳がん療法は、「第2の乳がん療法」と称される。第2の乳がん療法は、1つもしくは複数の抗がん剤(その例は、本明細書中、以下に記載される)(化合物(1)またはその塩以外)の投与および/または放射線療法などの非薬物療法を含むことができる。そのような併用療法は、同時に投与される併用療法および逐次的に(前治療または後治療として)投与される併用療法の両方を網羅することが意図される。
【0106】
HR+/HER2-乳がんの治療のための第2の乳がん療法として投与される抗がん剤に関して、内分泌療法(ET)および/または細胞周期阻害剤療法が特に好ましい。
【0107】
内分泌療法としては、限定するものではないが、アロマターゼ阻害剤(例えば、アナストロゾール、レトロゾール、エキセメスタン、ボロゾール、ホルメスタン、ファドロゾール)、選択的エストロゲン受容体モジュレーター(例えば、タモキシフェン、4-ヒドロキシタモキシフェン、アコルビフェン、EM-800、トレミフェン、ドロロキシフェン、LY117018、ラロキシフェン、ナフォキシジン、およびトリオキシフェン)、および選択的エストロゲン受容体分解剤(例えば、フルベストラント、ブリラネストラント、エラセストラント)のうちの1つまたは複数を用いる治療が挙げられる。
【0108】
細胞周期阻害剤療法としては、限定するものではないが、アベマシクリブ、パルボシクリブ、およびリボシクリブなどの1つまたは複数のサイクリン依存性キナーゼ4および6(CDK4/6)阻害剤を用いる治療が挙げられる。
【0109】
放射線療法を施すための技術は当技術分野で公知であり、これらの技術は、本明細書中に記載される併用療法において用いることができる。この併用療法における化合物(1)の投与は、本明細書中に記載される通りに決定することができる。放射線療法(radiation therapy)は、数種類の方法のうちの1つ、または、限定するものではないが、外部照射療法、内部照射療法、埋め込み照射、定位放射線手術、全身性放射線療法、放射線療法(radiotherapy)および永続的または一時的組織内小線源療法をはじめとする方法の組み合わせを通して施すことができる。用語「小線源療法」とは、本明細書中で用いる場合、身体内または腫瘍もしくは他の増殖性組織疾患部位近傍に挿入された、空間的に制限された放射性物質により送達される放射線療法を意味する。この用語は、限定するものではないが、放射性同位体(例えば、At-211、I-131、I-125、Y-90、Re-186、Re-188、Sm-153、Bi-212、P-32、およびLuの放射性同位体)への曝露を含むことが意図される。本開示の細胞調節剤としての使用のための好適な放射線源としては、固体および液体の両方が挙げられる。非限定的な例として、放射線源は、固体線源としてのI-125、I-131、Yb-169、Ir-192、固体線源としてのI-125などの放射性核種、または光子、ベータ粒子、ガンマ線、もしくは他の治療用放射線を発する他の放射性核種であり得る。放射性物質はまた、放射性核種のいずれかの溶液、例えば、I-125もしくはI-131の溶液から作製される流体でもあり得るか、または放射性流体は、Au-198、Y-90などの固体放射性核種の小粒子を含有する好適な流体のスラリーを用いて作製することができる。さらに、放射性核種は、ゲルまたは放射性マイクロスフェア中に具現化することができる。
【0110】
HR+乳がんは、再発または不応性HR+乳がん、好ましくは、再発または不応性HR+/HER2-乳がんであり得る。
【0111】
1つまたは複数の抗がん剤を用いる少なくとも1回の治療レジメン、好ましくは少なくとも2種の異なる抗がん剤を用いる少なくとも2回の治療レジメンを以前に受けたことがある再発または不応性がん(例えば、乳がん)を有する患者を、化合物(1)またはその薬学的に許容される塩を用いて治療することができる。一部の場合において、再発または不応性がんは、以前の治療レジメンに対する抵抗性、またはそこからの難治性を獲得している場合がある。例えば、1つまたは複数の抗がん剤(例えば、内分泌療法および/または細胞周期阻害剤)を用いて以前に治療され、かつ抗がん剤を用いる以前の治療に際して進行したか、それに対して応答しなかったか、またはそこから再発したHR+がんを有する患者は、抗がん剤に対するがんの曝露の結果として抵抗性/難治性を発達させ得る。
【0112】
本開示の好ましい実施形態は、患者が、内分泌療法(ET)ならびにサイクリン依存性キナーゼ4および6(CDK4/6)阻害剤のうちの1つまたは複数を用いる少なくとも1回の治療を以前に受けており、かつ任意によりそれに対する抵抗性もしくはそこからの難治性を獲得している、再発または不応性HR+乳がん、好ましくはHR+/HER2-乳がんを有する患者に、単独で、または1つもしくは複数の第2の乳がん療法と組み合わせたかのいずれかで、化合物(1)またはその薬学的に許容される塩を投与することを含む。例えば、がんは、アロマターゼ阻害剤抵抗性がん、選択的エストロゲン受容体モジュレーター抵抗性がん、または選択的エストロゲン受容体分解剤抵抗性がんなどの内分泌療法抵抗性乳がんであり得、タモキシフェン抵抗性乳がん、フルベストラント抵抗性乳がん等が具体的に言及される。別の例において、がんは、アベマシクリブ抵抗性がん、パルボシクリブ抵抗性がん、リボシクリブ抵抗性がん等などのCDK4/6阻害剤抵抗性がんが含まれる。
【0113】
ETを用いる以前の治療からの抵抗性/難治性は、任意により、ERダウンレギュレーション;例えば、エストロゲン受容体突然変異(例えば、ESR1突然変異)を介したリガンド結合性非依存的ER活性化;NF1遺伝子変異体を介するなどのER共抑制因子のダウンレギュレーション;Ras経路を介した迂回シグナル伝達;例えば、RSK、AKT、および/もしくはS6Kのアップレギュレーションなどのこれらの経路の1つもしくは複数の成分における遺伝子異常からの、調節異常のあるMAPK経路および/またはPI3K経路シグナル伝達;または腫瘍抑制因子遺伝子/タンパク質の機能喪失もしくはがん遺伝子/がん遺伝子がコードするタンパク質における機能獲得変化を生じるいずれかの他のがんドライバー遺伝子の異常の形態でがんにおいて現れ得る。1つまたは複数のCDK4/6阻害剤を用いる以前の治療からの抵抗性/難治性は、任意により、網膜芽腫(RB)遺伝子/タンパク質欠損、腫瘍抑制因子およびCDK4/6阻害剤に対する抵抗性の公知の耐性因子;PTEN遺伝子欠損もしくは機能喪失をもたらす変異体;ESR1突然変異;NF1遺伝子変異体;調節異常のあるMAPKおよび/もしくはPI3K経路シグナル伝達経路;または腫瘍抑制因子遺伝子/タンパク質の機能喪失もしくはがん遺伝子/がん遺伝子がコードするタンパク質における機能獲得変化を生じるいずれかの他のがんドライバー遺伝子の異常の形態でがんにおいて現れ得る。特に、再発または不応性HR+乳がんは、NF1遺伝子変異体を保有することができる。併用療法を用いて再発または不応性HR+乳がんを治療する場合、化合物(1)は、同時投与される抗がん剤に対して抵抗性の回復/感受化のために投与することができる。
【0114】
化合物(1)またはその薬学的に許容される塩はまた、エストロゲン過敏性またはエストロゲン受容体のエストロゲン非依存性活性化を通して抵抗性を獲得したものなどの、エストロゲン無効乳がんを治療するために用いることもできる。
【0115】
治療を開始する前に、患者が、以前の療法から進行もしくは再発している(例えば、内分泌療法(ET)、CDK4/6阻害剤等を用いて以前に治療されたことがある再発または不応性がんを有する)か、かつ/または上記で特定される通り(例えば、NF1、PTEN、KRAS等)の1つもしくは複数の異常を有するか否かについて決定することができる。したがって、方法は、患者がこれらの基準のうちの少なくとも1つを満たし、かつ治療に対する良好な候補であるか否かを決定するための事前スクリーニングステップを含むことができる。そのような決定は、異常を含むがんの家族歴を解析することから、患者を遺伝子型決定するかまたは本明細書中に以下で記載されるものなどのアッセイを用いて患者から採取した血液もしくは腫瘍サンプルをはじめとする患者由来のいずれかの生物学的サンプルを分析することにより、または病歴記録もしくは患者に対して行われた以前の検査から、行うことができる。患者が、再発もしくは不応性HR+/HER2-乳がんなどの再発もしくは不応性がんを有すると決定され、かつ/または本開示において記載されるものなどの1つもしくは複数の遺伝子異常を保有する場合、化合物(1)またはその薬学的に許容される塩を用いる治療が適切である。
【0116】
本明細書中の治療に対して応答性である可能性が高い個体を特定するために用いることができる予測バイオマーカーとしては、限定するものではないが、NF1遺伝子変異体、PTEN欠損または機能喪失を引き起こす突然変異、およびKRAS突然変異(具体的にはKRAS G12X突然変異)が挙げられる。コンパニオン診断(CDx)検査を、生物学的サンプルを分析するために開発することができる。
【0117】
いずれかの遺伝子/タンパク質異常を保有するか否かをはじめとする、患者の受容体状態および遺伝子型は、例えば、患者の事前スクリーニング中に、新鮮生検を介して、患者に対して行われた以前の検査から決定することができるか、あるいは認可もしくは承認されたインビトロ診断(IVD)アッセイまたはこの目的のためのアッセイをはじめとする公知のアッセイに従って、それ以外の様式で決定することができる。その例としては、限定するものではないが、次世代シーケンシング(NGS)に基づく遺伝子パネル、全エキソームプロファイリング、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、蛍光インサイチューハイブリダイゼーション(FISH)をはじめとするインサイチューハイブリダイゼーション(ISH)、免疫組織化学(IHC)、フローサイトメトリー、または腫瘍組織もしくは循環腫瘍DNA(ctDNA)、RNA、タンパク質等に対して受容体状態もしくは異常を決定することができる他のアッセイによる検査が挙げられる。例えば、保存された腫瘍組織サンプルを有しない患者に生検を行うことができ、かつ新鮮腫瘍生検を、既存の異常の確認のために分析することができる。
【0118】
用語「投与する」、「投与すること」、「投与」等とは、生物学的作用が望まれる部位に対する有効成分の送達を可能にするために用いることができる方法を意味する。投与経路または様式は、本明細書中に示される通りである。これらの方法としては、限定するものではないが、経口経路、十二指腸内経路、非経口注入(静脈内、皮下、腹腔内、筋内、血管内、または輸液を含む)、局所/経皮、および直腸/経膣投与が挙げられる。当業者は、利用できる投与技術について精通している。経口投与が好ましい。
【0119】
本開示において、用語「投与スケジュール」は、薬物治療中の薬物のタイプ、量、期間、手順等が時系列で示される計画であり、各薬物の投与量、投与方法、投与順序、投与日等が示される。投与のために指定される日付は、薬物投与の開始前に決定される。投与は、「治療単位」として投与スケジュールのセットを含む経過を反復することにより、継続される。
【0120】
本開示の投与スケジュールに関して、「継続的」とは、治療経過中に中断を伴わない毎日の投与を意味する。投与スケジュールが「断続的」投与スケジュールに従う場合、投与日には、「休息日」または経過内に薬物を投与しない日が続く場合がある。
【0121】
「休薬日」は、予め決定された投与スケジュール中に薬物が投与されないことを示す。例えば、数回の治療過程を受けた後、患者には、例えば、積極的治療を再び再開する前に、投与スケジュールの一部分として定期的な休薬日が指定される場合がある。
【0122】
投与量および治療継続期間は、薬物のバイオアベイラビリティ、投与様式、薬物の毒性、性別、年齢、生活様式、体重、他の薬物および栄養補助食品の使用、疾患ステージ、投与される薬物に対する身体の忍容性および抵抗性等などの因子に依存し、それに従って決定および調整される。適切な投与量は、個体毎に異なり得る。いずれかの個体の場合で適切な投与量は、用量漸増などの技術を用いて決定することができる。
【0123】
患者は、例えば、約1mg/日から、約5mg/日から、約10mg/日から、約15mg/日から、約20mg/日から、約30mg/日から、約40mg/日から、約50mg/日から、約60mg/日から、約77mg/日から、約80mg/日から、約100mg/日から、約120mg/日から、約160mg/日から、最大約1,500mg/日まで、最大約1,200mg/日まで、最大約960mg/日まで、最大約800mg/日まで、最大約640mg/日まで、最大約500mg/日まで、最大約400mg/日まで、最大約320mg/日まで、最大約300mg/日まで、最大約280mg/日まで、最大約250mg/日まで、最大約240mg/日まで、最大約200mg/日まで、最大約180mg/日までの継続的(週7日間の投与)投薬のための用量レベルで、化合物(1)またはその薬学的に許容される塩を用いて治療することができる。投薬レベルは、約20mg/日~約960mg/日、約40mg/日~約640mg/日、および約80mg~約320mg/日などの範囲内で変わり得る。投与用量レベルは、投与スケジュール中に変更することができ、例えば、投与をしばらくの間は低用量を用いて開始し、続いて増加させることができるか、または投与をしばらくの間は高用量を用いて開始し、続いて減少させることができる。
【0124】
患者は、例えば、約20mg/日から、約40mg/日から、約60mg/日から、約80mg/日から、約100mg/日から、約200mg/日から、約300mg/日から、約400mg/日から、約500mg/日から、約600mg/日から、最大約3,000mg/日まで、最大約2,500mg/日まで、最大約2,000mg/日まで、最大約1,500mg/日まで、最大約1,000mg/日まで、最大約900mg/日まで、最大約800mg/日まで、最大約700mg/日までの断続的投薬のための用量レベル、または範囲内のいずれかの投薬レベルで、化合物(1)またはその薬学的に許容される塩を用いて治療することができる。
【0125】
投薬は、例えば、薬物の薬物動態および特定の患者のクリアランス/蓄積に応じて、継続的(週7日間の投与)または断続的であり得る。断続的である場合、スケジュールは、例えば、1週間の中で4日間の投与および3日間の休薬(休息日)または正当な医学的判断を用いて適切であると見なされるいずれかの他の断続的投薬スケジュールであり得る。継続的投与が好ましい。投薬は、1日1回(QD)または1日2回以上(b.i.d.、t.i.d.等)で行うことができ、約20~960mg/日QDの用量が好ましい。一日用量は、単回用量または複数の個別の分割用量として投与することができる。例えば、各錠剤が40mgの化合物(1)またはその薬学的に許容される塩を含有する2個の錠剤を、80mg/日の合計用量のために1日1回(QD)患者に投与することができる。別の例において、各錠剤が40mgの化合物(1)またはその薬学的に許容される塩を含有する2個の錠剤を、160mg/日の合計用量のために1日2回(b.i.d.)患者に投与することができる。
【0126】
継続的かまたは断続的かにかかわらず、投薬は、特定の治療サイクル、典型的には少なくとも28日間のサイクルにわたって継続され、このサイクルを、休薬日を伴うかまたは伴わずに反復することができる。14日間、18日間、21日間、24日間、35日間、42日間、48日間、またはそれらの間のいずれかの範囲などの、より長いかまたはより短いサイクルもまた用いることができる。サイクルを、患者に応じて、休薬日を伴わずにまたは休薬日を伴って反復することができる。有害事象の存在または非存在、治療に対するがんの応答、患者の便宜等に応じて、他のスケジュールが可能である。「有害事象」とは、薬物が投与された患者において発生するいずれかの望ましくないかもしくは意図されない病気またはその症状を意味する。薬物との因果関係があるか否かは問題ではない。断続的投薬に関して、投薬は、例えば、28日間サイクル中の1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、および27日目;1、4、8、11、15、19、23、および27日目;1、3、5、8、10、12、15、17、19、22、24、および26日目に行うことができる。
【0127】
そのような継続的または断続的投与はまた、化合物(1)またはその薬学的に許容される塩が、1つもしくは複数の他の抗がん剤または非薬物療法と組み合わせて投与される、併用療法に対しても適用可能である。
【0128】
化合物(1)は、それによって患者が一定期間(例えば、2週間)にわたって低用量から開始され、続いて用量が上昇される、漸増(up-titration)レジメンを用いて投与することができる。用量は、標的もしくは最大用量のいずれかに到達するか、または患者が有害事象を経験するまで漸増させることができ、有害事象の時点で上昇を停止させ、薬物投薬は有害事象が経験されなかったかまたは治療の停止に必要とされるのに十分に重篤でなかった以前の用量まで低減される。有害事象を経験する患者はまた、適切であると見なされる場合、投薬中断(例えば、休薬日)を用いて管理することもできる。継続的レジメンに関する典型的な投薬は上記で提供されるが、治療に対する患者の応答および有害事象の存在または非存在に応じて、より高いかまたはより低い用量を用いることができる。用量が十分に忍容される場合、用量を増加させることができる。投与は、1サイクル、例えば、28日間にわたって継続することができ、続いて、所望の場合、サイクルを反復することができる。
【0129】
上記の通り、化合物(1)またはその薬学的に許容される塩は、以下に適したものをはじめとする、固体または液体形態での投与のために特別に製剤化することができる:(1)経口投与、例えば、ドレンチ剤(水性もしくは非水性溶液剤または懸濁液剤)、錠剤またはカプセル剤、例えば、頬内、舌下、および全身性吸収を目的とするもの、ボーラス剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤、舌への適用のためのペースト剤;(2)例えば、無菌溶液剤もしくは懸濁液剤、または持続放出製剤としての、例えば、皮下、筋内、静脈内または硬膜外注入による非経口投与;(3)例えば、クリーム剤、軟膏剤、または制御放出パッチ剤もしくは皮膚に適用されるスプレー剤としての、局所塗布/経皮投与;(4)例えば、ペッサリー剤、クリーム剤またはフォーム剤としての、膣内または直腸内;あるいは(5)鼻内。化合物(1)またはその薬学的に許容される塩の場合において、経口製剤が好ましい。
【0130】
製剤は、公知の製剤化法を用いることにより、薬学的に許容される担体等を用いて調製することができる。薬学的に許容される担体は、ある臓器、または身体の一部分から、別の臓器、または身体の一部分への対象化合物の運搬または輸送に関与する、液体もしくは固体充填剤、希釈剤、賦形剤、製造助剤(例えば、滑沢剤、タルクマグネシウム、ステアリン酸カルシウムもしくはステアリン酸亜鉛、またはステアリン酸、または溶媒封入性材料などの材料、組成物、またはビヒクルである。各担体は、製剤の他の成分と適合性であり、かつ患者に対して有害でないという意味において、「許容可能」であるべきである。薬学的に許容される担体として機能し得る材料の一部の例としては、いくつかの例を挙げれば、(1)糖、例えば、ラクトース、グルコースおよびスクロース;(2)デンプン、例えば、トウモロコシデンプンおよびジャガイモデンプン;(3)セルロース、およびその誘導体、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロースおよび酢酸セルロース;(4)粉末化トラガカント;(5)モルト;(6)ゼラチン;(7)タルク;(8)賦形剤、例えば、カカオバターおよび坐剤ワックス;(9)油、例えば、ラッカセイ油、綿実油、ベニバナ油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油およびダイズ油;(10)グリコール、例えば、プロピレングリコール;(11)ポリオール、例えば、グリセリン、ソルビトール、マンニトールおよびポリエチレングリコール;(12)エステル、例えば、オレイン酸エチルおよびラウリン酸エチル;(13)寒天;(14)緩衝剤、例えば、水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウム;(15)アルギン酸;(16)パイロジェン不含水;(17)等張生理食塩液;(18)リンゲル液;(19)エチルアルコール;(20)pH緩衝溶液;(21)ポリエステル、ポリカーボネートおよび/またはポリ無水物;ならびに(22)薬学的製剤中で利用される他の無毒適合性物質、例えば、シクロデキストリン、リポソーム、およびミセル形成剤、例えば、胆汁酸が挙げられる。
【0131】
薬学的に許容される担体は、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、希釈剤、溶解助剤、懸濁化剤、膨潤剤、等張化剤、pH調整剤、緩衝剤、安定化剤、着色剤、香味料、矯味剤等などの様々な汎用の薬剤として分類することができる。
【0132】
賦形剤の例としては、限定するものではないが、ラクトース、スクロース、D-マンニトール、グルコース、デンプン(トウモロコシデンプン)、炭酸カルシウム、カオリン、微結晶性セルロース、フマル酸、および無水ケイ酸が挙げられる。
【0133】
結合剤の例としては、限定するものではないが、水、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、単シロップ、液体グルコース、液体aデンプン、液体ゼラチン、D-マンニトール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース(例えば、低粘度ヒドロキシプロピルセルロース)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒプロメロース)、ヒドロキシプロピルデンプン、メチルセルロース、エチルセルロース、シェラック、リン酸カルシウム、ポリビニルピロリドンが挙げられる。
【0134】
崩壊剤の例としては、限定するものではないが、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、乾燥デンプン、部分アルファ化デンプン、結晶セルロース、カルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、D-マンニトール、クロスポビドン、クロスカルメロースナトリウム、アルギン酸ナトリウム、寒天粉末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、およびラクトースが挙げられる。
【0135】
滑沢剤の例としては、限定するものではないが、硬化油、ショ糖脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸、精製タルク、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、ホウ砂、およびポリエチレングリコールが挙げられる。
【0136】
着色料の例としては、限定するものではないが、食用黄色5号色素、食用青色2号色素、食用レーキ色素、三二酸化鉄、黄色三二酸化物、および二酸化チタンが挙げられる。
【0137】
甘味料/香味料の例としては、限定するものではないが、アスパルテーム、サッカリン(サッカリンナトリウム、サッカリンカリウムまたはサッカリンカルシウムとして)、チクロ(ナトリウム塩、カリウム塩またはカルシウム塩として)、スクラロース、アセスルファムK、タウマチン、ネオヘスペリジン、ジヒドロカルコン、アンモニア化グリチルリチン、デキストロース、マルトデキストリン、フルクトース、レブロース、スクロース、グルコース、カラタチ果皮(wild orange peel)、クエン酸、酒石酸、冬緑油、ペパーミント油、スペアミント油、サッサフラス油、チョウジ油、シナモン、アネトール、メントール、チモール、オイゲノール、オイカリプトール、レモン、ライム、およびレモンライムが挙げられる。
【0138】
所望の場合、腸溶コーティングまたは作用の持続性を増加させるためのコーティングを、経口調製物に対して望ましい方法により提供することができる。そのようなコーティング剤の例としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリエチレングリコール、およびTween80(登録商標)が挙げられる。
【0139】
化合物(1)またはその薬学的に許容される塩は、好ましくは、カプセル剤、錠剤、丸剤、糖衣錠剤、散剤、顆粒剤、トローチ剤等の形態などの、経口投与用の固体剤型で製剤化され、フィルムコーティング錠剤が好ましい。化合物(1)またはその薬学的に許容される塩は、クエン酸ナトリウムもしくはリン酸二カルシウムなどの1つもしくは複数の薬学的に許容される担体、および/または以下のうちのいずれかと混合することができる:(1)充填剤または増量剤、例えば、デンプン、ラクトース(例えば、ラクトース一水和物)、スクロース、グルコース、マンニトール、および/またはケイ酸;(2)結合剤、例えば、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸塩、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、スクロースおよび/またはアラビアガムなど;(3)保湿剤、例えば、グリセロール;(4)崩壊剤、例えば、寒天、炭酸カルシウム、ジャガイモまたはタピオカデンプン、アルギン酸、一部のケイ酸塩、および炭酸ナトリウム;(5)溶解遅延剤、例えば、パラフィン;(6)吸収促進剤、例えば、第4級アンモニウム化合物および界面活性剤、例えば、ポロキサマーおよびラウリル硫酸ナトリウム;(7)湿潤化剤、例えば、セチルアルコール、モノステアリン酸グリセロール、および非イオン性界面活性剤(例えば、ソルビタンの脂肪酸エステルおよびソルビタンのポリアルコキシル化脂肪酸エステル、例えば、Tween80(登録商標))など;(8)吸収剤、例えば、カオリンおよびベントナイトクレイ;(9)滑沢剤、例えば、タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム(例えば、植物由来)、固体ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸、およびそれらの混合物;(10)着色剤;ならびに(11)制御放出剤、例えば、クロスポビドンまたはエチルセルロース。カプセル剤、錠剤および丸剤の場合、製剤はまた、pH調整剤または緩衝剤も含むことができる。類似のタイプの固体組成物はまた、ラクトースまたは乳糖などの賦形剤、ならびに高分子量ポリエチレングリコール等を用いる軟および硬シェルゼラチンカプセル剤中の充填剤としても利用することができる。
【0140】
錠剤は、任意により、1つまたは複数の副成分を伴って、圧縮または成型により製造することができる。圧縮錠剤は、結合剤(例えば、ゼラチンまたはヒドロキシプロピルメチルセルロース)、滑沢剤、不活性希釈剤、保存料、崩壊剤(例えば、デンプングリコール酸ナトリウムまたは架橋カルボキシルメチルセルロースナトリウム)、表面活性または分散化剤を用いて調製することができる。成型錠剤は、不活性液体希釈剤を用いて湿らせた粉末化化合物の混合物を、好適な機械において成型することにより、製造することができる。錠剤、および他の固体剤型は、任意により、腸溶コーティングおよび薬学的製剤化分野において周知の他のコーティングなどのコーティングおよびシェルを用いて、スコア付けまたは調製することができる。コーティング製剤の一例は、ヒプロメロース、ポリエチレングリコール、二酸化チタン、および任意により着色剤を含むことができる。それらはまた、例えば、所望の放出プロフィールを提供するための様々な割合でのヒドロキシプロピルメチルセルロース、他のポリマーマトリックス、リポソームおよび/またはマイクロスフェアを用いて、その中の有効成分の徐放または制御放出を提供するように製剤化することもできる。それらは、迅速放出のために製剤化することができ、例えば、凍結乾燥することができる。それらは、例えば、細菌保持フィルターを通したろ過により、または使用の直前に無菌水、もしくは一部の他の無菌注入可能媒体中に溶解することができる無菌固体組成物の形態中に滅菌剤を組み込むことにより、滅菌することができる。これらの製剤はまた、任意により乳白剤を含有することもでき、且つ任意により遅延形態で、消化管の特定の部分でのみ、または優先的に有効成分を放出する組成物のものであり得る。用いることができる埋め込み組成物の例としては、ポリマー性物質およびワックスが挙げられる。有効成分はまた、適切な場合に上記の賦形剤のうちの1つまたは複数を含む、マイクロカプセル封入形態でもあり得る。
【0141】
フマル酸、ラクトース一水和物、微結晶性セルロース、クロスカルメロースナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、ヒプロメロース、ポリエチレングリコール、および二酸化チタンを不活性成分として含有するものなどの、化合物(1)またはその薬学的に許容される塩のコーティング錠剤剤型が好ましい。
【0142】
化合物(1)またはその薬学的に許容される塩は、化合物(1)またはその薬学的に許容される塩を、糖、アルコール、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、製剤を意図されるレシピエントの血液と等張にする溶質、または懸濁化剤もしくは増粘剤を含有することができる、1つまたは複数の薬学的に許容される無菌等張水性もしくは非水性溶液、分散液、懸濁液もしくはエマルジョン、または使用直前に無菌注入可能溶液もしくは分散液中に再構成することができる無菌粉末と組み合わせることにより、非経口投与のために、静脈内、皮下、腹腔内、筋内、血管内、または輸液投与のために製剤化することができる。利用することができる好適な水性および非水性担体の例としては、水、エタノール、ポリオール(グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等など)、およびそれらの好適な混合物、オリーブ油などの植物油、ならびにオレイン酸エチルなどの注入可能な有機エステルが挙げられる。適正な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティング材料を用いることにより、分散液の場合には所望の粒径の維持により、および界面活性剤を用いることにより、維持することができる。これらの組成物はまた、保存料、湿潤化剤、乳化剤、分散化剤、pH調節剤、安定化剤、局所麻酔薬等などの補助剤も含有することができる。対象化合物に対する微生物の作用の防止は、様々な抗細菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノールソルビン酸等を含めることにより、確実にすることができる。組成物中へと糖、塩化ナトリウム等などの等張化剤を含めることもまた、望ましい場合がある。加えて、注入可能な医薬品形態の持続的吸収を、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンなどの吸収を遅延させる薬剤を含めることにより、引き起こすことができる。
【0143】
本開示の治療方法は、単独療法としての化合物(1)またはその薬学的に許容される塩の投与を含むことができる。治療はまた、腫瘍を外科的に除去した後に腫瘍の再発を防ぐために行われる術後補助化学療法、ならびに腫瘍を外科的に除去するための外科手術に先立つ術前補助化学療法として、投与を含む場合もある。乳がんを伴うなどの一部の場合において、外科手術は、腫瘤摘出、乳房切除、乳房再建等を含むことができる。肺がんを伴うなどの一部の場合において、外科手術は、肺全摘術、肺葉切除、楔状切除、管状切除術、胸腔鏡等を含むことができる。治療はまた、放射線療法中もしくは後に、または外科手術などの他の治療が患者を無がん状態にした患者における腫瘍の再発を防止するための補助療法として、化合物(1)またはその薬学的に許容される塩の投与を含むことができる。
【0144】
抗がん剤を用いる治療レジメンを以前に受けたことがない患者を本明細書中で治療することができ、すなわち、化合物(1)またはその薬学的に許容される塩が第一選択化学療法として投与される。代替的に、これまで記載された通り、1つまたは複数の抗がん剤(化合物(1)またはその塩形態以外)を用いる治療レジメンを以前に受けたことがある患者を治療することができ、治療レジメンの具体例としては、限定するものではないが、内分泌療法およびCDK4/6阻害剤が挙げられる。つまり、化合物(1)またはその薬学的に許容される塩は、第二、第三、第四選択療法等として投与することができる。
【0145】
抗がん剤の例としては、限定するものではないが、化学療法剤(例えば、細胞傷害剤)、免疫療法剤、ホルモン剤および抗ホルモン剤、標的化療法剤、および抗血管新生剤が挙げられる。多数の抗がん剤を、これらの群のうちの1つまたは複数内に分類することができる。一部の抗がん剤は本明細書中の具体的群または下位群内に分類されてきたが、これらの薬剤のうちの多数はまた、当技術分野で現在理解されるであろう通り、1つもしくは複数の他の群または下位群内に列挙することもできる。抗がん剤は特に限定されず、その例としては、限定するものではないが、化学療法剤、有糸分裂阻害剤、植物アルカロイド、アルキル化剤、代謝拮抗剤、白金類似体、酵素、トポイソメラーゼ阻害剤、レチノイド、アジリジン、抗生物質、ホルモン剤、抗ホルモン剤、抗エストロゲン、抗アンドロゲン、抗副腎、アンドロゲン、標的化療法剤、免疫療法剤、生物学的応答修飾剤、サイトカイン阻害剤、腫瘍ワクチン、モノクローナル抗体、免疫チェックポイント阻害剤、抗PD-1剤、抗PD-L1剤、抗TIGIT剤、コロニー刺激因子、免疫調節剤、免疫調節性イミド(IMiD)、抗CTLA4剤、抗LAGl剤、抗OX40剤、GITRアゴニスト、CAR-T細胞、BiTE、シグナル伝達阻害剤、増殖因子阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、EGFR阻害剤、HER2阻害剤、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤、プロテアソーム阻害剤、細胞周期阻害剤、抗血管新生剤、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)阻害剤、肝細胞増殖因子阻害剤、TOR阻害剤、KDR阻害剤、VEGF阻害剤、HIF-1α阻害剤、HIF-2α阻害剤、線維芽細胞増殖因子(FGF)阻害剤、RAF阻害剤、MEK阻害剤、ERK阻害剤、PI3K阻害剤、AKT阻害剤、MCL-1阻害剤、BCL-2阻害剤、SHP2阻害剤、BRAF阻害剤、RAS阻害剤、遺伝子発現調節剤、自食作用阻害剤、アポトーシス誘導剤、抗増殖剤、および解糖阻害剤が挙げられる。
【0146】
化学療法剤の非限定的な例としては、有糸分裂阻害剤および植物アルカロイド、アルキル化剤、代謝拮抗剤、白金類似体、酵素、トポイソメラーゼ阻害剤、レチノイド、アジリジン、および抗生物質が挙げられる。
【0147】
有糸分裂阻害剤および植物アルカロイドの非限定的な例としては、タキサン、例えば、カバジタキセル、ドセタキセル、ラロタキセル、オルタタキセル、パクリタキセル、およびテセタキセル;デメコルシン;エポチロン;エリブリン;エトポシド(VP-16);リン酸エトポシド;ナベルビン;ノスカピン;テニポシド;サリブラスチン;ビンブラスチン;ビンクリスチン;ビンデシン;ビンフルニン;およびビノレルビンが挙げられる。
【0148】
アルキル化剤の非限定的な例としては、ナイトロジェンマスタード、例えば、クロラムブシル、クロルナファジン、シクロホスファミド、シトホスファン、エストラムスチン、イホスファミド、マンノムスチン、メクロレタミン、塩酸メクロレタミンオキシド、メルファラン、ノベンビシン、フェネステリン、プレドニムスチン、トリス(2-クロロエチル)アミン、トロホスファミド、およびウラシルマスタード;スルホン酸アルキル、例えば、ブスルファン、インプロスルファン、およびピポスルファン;ニトロソ尿素、例えば、カルムスチン、クロロゾトシン、フォテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、ラニムスチン、ストレプトゾトシン、およびTA-07;エチレンイミンおよびメチルアメルアミン(methylamelamine)、例えば、アルトレタミン、チオテパ、トリエチレンメラミン、トリエチレンチオホスホルアミド、トリエチレンホスホルアミド、およびトリメチロロメラミン;アンバムスチン;ベンダムスチン;ダカルバジン;シクロホスファミド;エトグルシド;イロフルベン;マホスファミド;ミトブロニトール;ミトラクトール;ピポブロマン;プロカルバジン;テモゾロミド;トレオスルファン;およびトリアジクオンが挙げられる。
【0149】
代謝拮抗剤の非限定的な例としては、葉酸類似体、例えば、アミノプテリン、デノプテリン、エダトレキサート、メソトレキサート、プテロプテリン、ラルチトレキセド、およびトリメトレキサート;プリン類似体、例えば、6-メルカプロプリン、6-チオグアニン、フルダラビン、フォロデシン、チアミプリン、およびチオグアニン;ピリミジン類似体、例えば、5-フルオロウラシル(5-FU)、テガフール/ギメラシル/オテラシルカリウム、テガフール/ウラシル、トリフルリジン、トリフルリジン/チピラシル塩酸塩、6-アザウリジン、アンシタビン、アザシチジン、カペシタビン、カルモフール、シタラビン、デシタビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、フロクスウリジン、ガロシタビン、ゲムシタビン、およびサパシタビン;3-アミノピリジン-2-カルボキシアルデヒドチオセミカルバゾン;ブロクスウリジン;クラドリビン;シクロホスファミド;シタラビン;エミテフール;ヒドロキシ尿素;メルカプトプリン;ネララビン;ペメトレキセド;ペントスタチン;テガフール;およびトロキサシタビンが挙げられる。
【0150】
白金類似体の非限定的な例としては、カルボプラチン、シスプラチン、ジシクロプラチン、ヘプタプラチン、ロバプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチン、サトラプラチン、および四硝酸トリプラチンが挙げられる。
【0151】
酵素の非限定的な例としては、アスパラギナーゼおよびペグアスパルガーゼが挙げられる。
【0152】
トポイソメラーゼ阻害剤の非限定的な例としては、アクリジンカルボキサミド、アモナフィド、アムサクリン、ベロテカン、酢酸エリプチニウム、エキサテカン、インドロカルバゾール、イリノテカン、ルートテカン、ミトキサントロン、ラゾキサン、ルビテカン、SN-38、ソブゾキサン、およびトポテカンが挙げられる。
【0153】
レチノイドの非限定的な例としては、アリトレチノイン、ベキサロテン、フェンレチニド、イソトレチノイン、リアロゾール、RIIレチナミド、およびトレチノインが挙げられる。
【0154】
アジリジンの非限定的な例としては、ベンゾドパ、カルボコン、メツレドパ、およびウレドパが挙げられる。
【0155】
抗生物質の非限定的な例としては、インターカレート性抗生物質;アントラセンジオン;アントラサイクリン抗生物質、例えば、アクラルビシン、アムルビシン、ダウノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、メノガリル、ノガラマイシン、ピラルビシン、およびバルルビシン;6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン;アクラシノマイシン;アクチノマイシン;アウスラマイシン;アザセリン;ブレオマイシン;カクチノマイシン;カリケアミシン;カルビシン;カルミノマイシン;カルチノフィリン;クロモマイシン;ダクチノマイシン;デトルビシン;エソルビシン;エスペラミシン;ゲルダナマイシン;マルセロマイシン;マイトマイシン;マイトマイシンC;ミコフェノール酸;オリボマイシン;ノバントロン;ペプロマイシン;ポルフィロマイシン;ポルフィロマイシン;ピューロマイシン;クエラマイシン;レベッカマイシン;ロドルビシン;ストレプトニグリン;ストレプトゾトシン;タネスピマイシン;ツベルシジン;ウベニメクス;ジノスタチン;ジノスタチンスチマラマー;およびゾルビシンが挙げられる。
【0156】
ホルモン剤および抗ホルモン剤の非限定的な例としては、抗アンドロゲン、例えば、アビラテロン、アパルタミド、ビカルタミド、ダロルタミド、エンザルタミド、フルタミド、ゴセレリン、リュープロリド、およびニルタミド;抗エストロゲン、例えば、4-ヒドロキシタモキシフェン、アロマターゼ阻害性4(5)-イミダゾール、EM-800、ホスフェストロール、フルベストラント、ケオキシフェン、LY117018、オナプリストン、ラロキシフェン、タモキシフェン、トレミフェン、およびトリオキシフェン;抗副腎、例えば、アミノグルテチミド、デクスアミノグルテチミド、ミトタン、およびトリロスタン;アンドロゲン、例えば、カルステロン、プロピオン酸ドロスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、およびテストラクトン;アバレリックス;アナストロゾール;セトロレリクス;デスロレリン;エキセメスタン;ファドロゾール;フィナステリド;ホルメスタン;ヒストレリン(RL0903);ヒト絨毛性ゴナドトロピン;ランレオチド;LDI200(Milkhaus);レトロゾール;リュープロレリン;ミフェプリストン;ナファレリン;ナフォキシジン;オサテロン;プレドニゾン;チロトロピンアルファ;およびトリプトレリンが挙げられる。
【0157】
免疫療法剤(すなわち、免疫療法)の非限定的な例としては、生物学的応答修飾剤、サイトカイン阻害剤、腫瘍ワクチン、モノクローナル抗体、免疫チェックポイント阻害剤、コロニー刺激因子、および免疫調節剤が挙げられる。
【0158】
インターフェロンおよびインターロイキンなどのサイトカイン阻害剤(サイトカイン)をはじめとする生物学的応答修飾剤の非限定的な例としては、インターフェロンアルファ(alfa)/インターフェロンアルファ(alpha)、例えば、インターフェロンアルファ-2、インターフェロンアルファ-2a、インターフェロンアルファ-2b、インターフェロンアルファ-n1、インターフェロンアルファ-n3、インターフェロンアルファコン-1、ペグインターフェロンアルファ-2a、ペグインターフェロンアルファ-2b、および白血球アルファインターフェロン;インターフェロンベータ、例えば、インターフェロンベータ-1a、およびインターフェロンベータ-1b;インターフェロンガンマ、例えば、天然インターフェロンガンマ-1a、およびインターフェロンガンマ-1b;アルデスロイキン;インターロイキン-1ベータ;インターロイキン-2;オプレルベキン;ソネルミン;タソネルミン;およびビルリジンが挙げられる。
【0159】
腫瘍ワクチンの非限定的な例としては、APC8015、AVICINE、膀胱がんワクチン、がんワクチン(Biomira)、ガストリン17免疫原、丸山ワクチン、黒色腫溶解物ワクチン、黒色腫がん溶解物ワクチン(ニューヨーク医科大学)、黒色腫ワクチン(ニューヨーク大学)、黒色腫ワクチン(スローンケタリング研究所)、TICE(登録商標)BCG(カルメットゲラン桿菌)、およびウイルス黒色腫細胞溶解物ワクチン(ニューキャッスル王立病院(Royal Newcastle Hospital))が挙げられる。
【0160】
モノクローナル抗体の非限定的な例としては、アバゴボマブ、アデカツムマブ、アフリベルセプト、アレムツズマブ、ブリナツモマブ、ブレンツキシマブベドチン、CA125 MAb(Biomira)、がんMAb(日本製薬開発(Japan Pharmaceutical Development))、ダクリズマブ、ダラツムマブ、デノスマブ、エドレコロマブ、ゲムツズマブオゾガマイシン、HER-2およびFc MAb(Medarex)、イブリツモマブチウキセタン、イディオタイプ105AD7 MAb(CRC Technology)、イディオタイプCEA MAb(Trilex)、イピリムマブ、リンツズマブ、LYM-1-ヨウ素131MAb(Techni clone)、ミツモマブ、モキセツモマブ、オファツムマブ、多型上皮性ムチン-イットリウム90MAb(Antisoma)、ラニビズマブ、リツキシマブ、ベルツズマブ、およびトラスツズマブが挙げられる。
【0161】
免疫チェックポイント阻害剤の非限定的な例としては、抗PD-1剤または抗体、例えば、セミプリマブ、ジンベレリマブ、ニボルマブ、およびペムブロリズマブ;抗PD-L1剤または抗体、例えば、アテゾリズマブ、アベルマブ、およびデュルバルマブ;抗TIGIT剤または抗体、例えば、チラゴルマブおよびドムバナリマブ;抗CTLA-4剤または抗体、例えば、イピリムマブおよびトレメリムマブ;抗LAG1剤;ならびに抗OX40剤が挙げられる。
【0162】
コロニー刺激因子の非限定的な例としては、ダルベポエチンアルファ、エポエチンアルファ、エポエチンベータ、フィルグラスチム、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、レノグラスチム、レリジスチム、ミリモスチム、モルグラモスチム、ナルトグラスチム、ペグフィルグラスチム、およびサルグラモスチムが挙げられる。
【0163】
追加の免疫療法剤の非限定的な例としては、BiTE、CAR-T細胞、GITRアゴニスト、イミキモド、免疫調節性イミド(IMiD)、ミスマッチ二本鎖RNA(Ampligen)、レシキモド、SRL172、およびチマルファシンが挙げられる。
【0164】
標的化療法剤としては、例えば、モノクローナル抗体および小分子薬が挙げられる。標的化療法剤の非限定的な例としては、シグナル伝達阻害剤、増殖因子阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、EGFR阻害剤、HER2阻害剤、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤、プロテアソーム阻害剤、細胞周期阻害剤、血管新生阻害剤、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)阻害剤、肝細胞増殖因子阻害剤、TOR阻害剤、KDR阻害剤、VEGF阻害剤、線維芽細胞増殖因子(FGF)阻害剤、RAF阻害剤、MEK阻害剤、ERK阻害剤、PI3K阻害剤、AKT阻害剤、MCL-1阻害剤、BCL-2阻害剤、SHP2阻害剤、BRAF阻害剤、RAS阻害剤、熱ショックタンパク質(HSP)90阻害剤、遺伝子発現調節剤、自食作用阻害剤、アポトーシス誘導剤、抗増殖剤、および解糖阻害剤が挙げられる。
【0165】
シグナル伝達阻害剤の非限定的な例としては、チロシンキナーゼ阻害剤、多標的キナーゼ阻害剤(すなわち、化合物(1)またはその塩以外)、アンロチニブ、アバプリチニブ、アキシチニブ、ダサチニブ、ドビチニブ、イマチニブ、レンバチニブ、ロニダミン、ニロチニブ、ニンテダニブ、パゾパニブ、ペグビソマント、ポナチニブ、バンデタニブ、ならびにEGFRおよび/またはHER2阻害剤が挙げられる。
【0166】
EGFR阻害剤の非限定的な例としては、EGFRの小分子アンタゴニスト、例えば、アファチニブ、ブリグチニブ、エルロチニブ、ゲフィチニブ、ラパチニブ、ネラチニブ、ダコミチニブ、バンデタニブ、およびオシメルチニブ;ならびにその天然リガンドによるEGFR活性化を部分的または完全に遮断することができるいずれかの抗EGFR抗体または抗体断片をはじめとする抗体に基づくEGFR阻害剤が挙げられる。抗体に基づくEGFR阻害剤としては、例えば、Modjtahedi, H., et al., 1993, Br. J. Cancer 67:247-253;Teramoto, T., et al., 1996, Cancer 77:639-645;Goldstein et al, 1995, Clin. Cancer Res. 1 : 1311-1318;Huang, S. M., et al., 1999, Cancer Res. 15:59(8): 1935-40;およびYang, X., et al., 1999, Cancer Res. 59: 1236-1243に記載されるもの;モノクローナル抗体Mab E7.6.3(Yang, 1999上掲);Mab C225(ATCC登録番号HB-8508)、または抗体もしくはその結合特異性を有する抗体断片;特異的アンチセンスヌクレオチドまたはsiRNA;アファチニブ、セツキシマブ;マツズマブ;ネシツムマブ;ニモツズマブ;パニツムマブ;およびザルツムマブが挙げられる。
【0167】
HER2阻害剤の非限定的な例としては、HER2チロシンキナーゼ阻害剤、例えば、アファチニブ、ラパチニブ、ネラチニブ、およびツカチニブ;ならびに抗HER2抗体またはその薬物コンジュゲート、例えば、トラスツズマブ、トラスツズマブエムタンシン(T-DM1)、ペルツズマブ、マルゲツキシマブ、トラスツズマブデルクステカン(DS-8201a)、およびトラスツズマブデュオカルマジンが挙げられる。FGFR阻害剤(FGFR-TKI)の非限定的な例としては、アンロチニブ、ポナチニブ、ドビチニブ、ルシタニブ、レンバチニブ、ニンテダニブ、エルダフィチニブ(JNJ-42756493)、インフィグラチニブ(BGJ398)、ペミガチニブ(INCB054828)、ロガラチニブ(BAY1163877)、デラザンチニブ(ARQ087)、フチバチニブ(TAS-120)、LY2874455、AZD4547、Debio1347、およびフィソガチニブ(BLU-554)が挙げられる。
【0168】
ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤の非限定的な例としては、ベリノスタット、パノビノスタット、ロミデプシン、およびボリノスタットが挙げられる。
【0169】
プロテアソーム阻害剤の非限定的な例としては、ボルテゾミブ、カルフィルゾミブ、イキサゾミブ、マリゾミブ(サリノスポラミドa)、およびオプロゾミブが挙げられる。
【0170】
CDK阻害剤をはじめとする細胞周期阻害剤の非限定的な例としては、アベマシクリブ、アルボシジブ、パルボシクリブ、およびリボシクリブが挙げられる。
【0171】
抗血管新生剤(または血管新生阻害剤)の非限定的な例としては、限定するものではないが、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)阻害剤;VEGF阻害剤;EGFR阻害剤;TOR阻害剤、例えば、エベロリムスおよびテムシロリムス;PDGFRキナーゼ阻害剤、例えば、クレノラニブ;HIF-lα阻害剤、例えば、PX478;HIF-2α阻害剤、例えば、ベルズチファンおよび国際公開第2015/035223号パンフレットに記載されるHIF-2α阻害剤;線維芽細胞増殖因子(FGF)またはFGFR阻害剤、例えば、B-FGFおよびRG13577;肝細胞増殖因子阻害剤;KDR阻害剤;抗Ang1剤および抗Ang2剤;抗Tie2キナーゼ阻害剤;Tekアンタゴニスト(米国特許出願公開第2003/0162712号明細書;米国特許第6,413,932号明細書);抗TWEAK剤(米国特許第6,727,225号明細書);そのリガンドに対するインテグリンの結合性に拮抗するためのADAMディスインテグリンドメイン(米国特許出願公開第2002/0042368号明細書);抗eph受容体および/または抗エフリン抗体もしくは抗原結合性領域(米国特許第5,981,245号明細書;同第5,728,813号明細書;同第5,969,110号明細書;同第6,596,852号明細書;同第6,232,447号明細書;および同第6,057,124号明細書);および抗PDGF-BBアンタゴニストならびにPDGF-BBリガンドに特異的に結合する抗体または抗原結合性領域が挙げられる。
【0172】
マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)阻害剤の非限定的な例としては、MMP-2(マトリックスメタロプロテイナーゼ2)阻害剤、MMP-9(マトリックスメタロプロテイナーゼ9)阻害剤、プリノマスタット、RO32-3555、およびRS13-0830が挙げられる。有用なマトリックスメタロプロテイナーゼ阻害剤の例は、例えば、国際公開第96/33172号パンフレット、同第96/27583号パンフレット、欧州特許第1004578号明細書、国際公開第98/07697号パンフレット、同第98/03516号パンフレット、同第98/34918号パンフレット、同第98/34915号パンフレット、同第98/33768号パンフレット、同第98/30566号パンフレット、欧州特許第0606046号明細書、同第0931788号明細書、国際公開第90/05719号パンフレット、同第99/52910号パンフレット、同第99/52889号パンフレット、同第99/29667号パンフレット、同第1999/007675号パンフレット、欧州特許第1786785号明細書、同第1181017号明細書、米国特許出願公開第2009/0012085号明細書、米国特許第5,863,949号明細書、同第5,861,510号明細書、および欧州特許第0780386号明細書に記載されている。好ましいMMP-2およびMMP-9阻害剤は、MMP-1を阻害する活性をほとんど有しないかまたは有しないものである。他のマトリックスメタロプロテイナーゼ(すなわち、MAP-1、MMP-3、MMP-4、MMP-5、MMP-6、MMP-7、MMP-8、MMP-10、MMP-11、MMP-12、およびMMP-13)と比較して、MMP-2および/またはMMP-9を選択的に阻害するものが、より好ましい。
【0173】
VEGFおよびVEGFR阻害剤の非限定的な例としては、ベバシズマブ、セディラニブ、CEP7055、CP547632、KRN633、オランチニブ、パゾパニブ、ペガプタニブ、ペガプタニブ八ナトリウム、セマキサニブ、ソラフェニブ、スニチニブ、VEGFアンタゴニスト(Borean、Denmark)、およびVEGF-TRAP(商標)が挙げられる。
【0174】
他の抗血管新生剤としては、限定するものではないが、2-メトキシエストラジオール、AE941、アレムツズマブ、アルファ-D148Mab(Amgen、US)、アルファスタチン、酢酸アネコルタブ、アンギオシジン、血管新生阻害剤(SUGEN、US)、アンギオスタチン、抗Vn Mab(Crucell、Netherlands)、アチプリモド、アキシチニブ、AZD9935、BAY RES2690(Bayer、Germany)、BC1(ジェノバがん研究所、Italy)、ベロラニブ、ベネフィン(Lane Labs、US)、カボザンチニブ、CDP791(Celltech Group、UK)、コンドロイチナーゼAC、シレンギチド、コンブレスタチンA4プロドラッグ、CP564959(OSI、US)、CV247、CYC381(ハーバード大学、US)、E7820、EHT0101、エンドスタチン、エンザスタウリン塩酸塩、ER-68203-00(IVAX、US)、フィブリノゲンE断片、Flk-1(ImClone Systems、US)、FLT1の形態(VEGFR1)、FR-111142、GCS-100、GW2286(GlaxoSmithKline、UK)、IL-8、イロマスタット、IM-862、イルソグラジン、KM-2550(協和発酵、Japan)、レナリドミド、レンバチニブ、MAbアルファ5ベータ3インテグリン、第2世代(Applied Molecular Evolution、USAおよびMedlmmune、US)、MAb VEGF(Xenova、UK)、マリマスタット、マスピン(そーせい、Japan)、メタスタチン、モツポラミンC、M-PGA、オンブラブリン、OXI4503、PI88、血小板第4因子、PPI2458、ラムシルマブ、rBPI21およびBPI由来抗血管新生剤(XOMA、US)、レゴラフェニブ、SC-236、SD-7784(Pfizer、US)、SDX103(カリフォルニア大学サンディエゴ校、US)、SG292(Telios、US)、SU-0879(Pfizer、US)、TAN-1120、TBC-1635、テセバチニブ、テトラチオモリブデン酸塩、サリドマイド、トロンボスポンジン1阻害剤、Tie-2リガンド(Regeneron、US)、組織因子経路阻害剤(EntreMed、US)、腫瘍壊死因子アルファ阻害剤、ツムスタチン、TZ93、ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子阻害剤、バジメザン、バンデタニブ、バソスタチン、バタラニブ、VE-カドヘリン-2アンタゴニスト、キサントリゾール、XL784(Exelixis、US)、ジブ-アフリベルセプト、ならびにZD6126が挙げられる。
【0175】
化合物(1)と組み合わせることができる抗がん剤はまた、RAS-RAF-ERKもしくはPI3K-AKT-TORシグナル伝達経路を破壊もしくは阻害するか、またはPD-1および/もしくはPD-L1アンタゴニストである活性薬剤でもあり得る。その例としては、限定するものではないが、RAF阻害剤、EGFR阻害剤、MEK阻害剤、ERK阻害剤、PI3K阻害剤、AKT阻害剤、TOR阻害剤、MCL-1阻害剤、BCL-2阻害剤、SHP2阻害剤、プロテアソーム阻害剤、またはモノクローナル抗体、免疫調節性イミド(IMiDs)、抗PD-1、抗PDL-1、抗CTLA4、抗LAGl、および抗OX40剤、GITRアゴニスト、CAR-T細胞、およびBiTEをはじめとする免疫療法が挙げられる。
【0176】
RAF阻害剤の非限定的な例としては、ダブラフェニブ、エンコラフェニブ、レゴラフェニブ、ソラフェニブ、およびベムラフェニブが挙げられる。
【0177】
MEK阻害剤の非限定的な例としては、ビニメチニブ、CI-1040、コビメチニブ、PD318088、PD325901、PD334581、PD98059、レファメチニブ、セルメチニブ、およびトラメチニブが挙げられる。
【0178】
ERK阻害剤の非限定的な例としては、LY3214996、LTT462、MK-8353、SCH772984、ラボキセルチニブ、ウリキセルチニブ、およびASTX029が挙げられる。
【0179】
PI3K阻害剤の非限定的な例としては、17-ヒドロキシワートマニン類似体(例えば、国際公開第06/044453号パンフレット);AEZS-136;alpelisib;AS-252424;ブパルリシブ;CAL263;コパンリシブ;CUDC-907;ダクトリシブ(国際公開第06/122806号パンフレット);デメトキシビリジン;デュベリシブ;GNE-477;GSK1059615;IC87114;イデラリシブ;INK1117;LY294002;パロミド529;パキサリシブ;ペリフォシン;PI-103;PI-103塩酸塩;ピクチリシブ(例えば、国際公開第09/036,082号パンフレット;同第09/055,730号パンフレット);PIK90;PWT33597;SF1126;ソノリシブ;TGI00-115;TGX-221;XL147;XL-765;ワートマニン;タセリシブ(GDC-0032);およびZSTK474が挙げられる。
【0180】
AKT阻害剤の非限定的な例としては、Akt-1-1(Aktlを阻害する)(Barnett et al., (2005) Biochem. J., 385 (Pt. 2), 399-408);Akt-1-1,2(Barnett et al., (2005) Biochem. J. 385 (Pt. 2), 399-408);API-59CJ-Ome(例えば、Jin et al., (2004) Br. J. Cancer 91, 1808-12);l-H-イミダゾ[4,5-c]ピリジニル化合物(例えば、国際公開第05011700号パンフレット);インドール-3-カルボニルおよびその誘導体(例えば、米国特許第6,656,963号;Sarkar and Li (2004) J Nutr. 134(12 Suppl), 3493S-3498S);ペリフォシン(Dasmahapatra et al., (2004) Clin. Cancer Res. 10(15), 5242-52, 2004);ホスファチジルイノシトールエーテル脂質類似体(例えば、Gills and Dennis (2004) Expert. Opin. Investig. Drugs 13, 787-97);トリシリビン(Yang et al., (2004) Cancer Res. 64, 4394-9);トランス-3-アミノ-1-メチル-3-[4-(3-フェニル-5H-イミダゾ[1,2-c]ピリド[3,4-e][1,3]オキサジン-2-イル)フェニル]-シクロブタノール塩酸塩(国際公開第2012/137870号パンフレット)をはじめとするイミダゾオキサゾン化合物;アフレセルチブ;;カピバセルチブ;8-[4-(1-アミノシクロブチル)フェニル]-9-フェニル-1,2,4-トリアゾロ[3,4-f][1,6]ナフチリジン-3(2H)-オン(MK2206)およびその薬学的に許容される塩;AZD5363;トランス-3-アミノ-1-メチル-3-(4-(3-フェニル-5H-イミダゾ[1,2-c]ピリド[3,4-e][1,3]オキサジン-2-イル)フェニル)シクロブタノール(TAS-117)およびその薬学的に許容される塩;およびイパタセルチブが挙げられる。
【0181】
TOR阻害剤の非限定的な例としては、デフォロリムス;PI-103、PP242、PP30、およびトリン1をはじめとするATP競合性TORC1/TORC2阻害剤;テムシロリムス、エベロリムスをはじめとするFKBP12エンハンサー、ラパマイシンおよびその誘導体中のTOR阻害剤、国際公開第9409010号パンフレット;ラパログ、例えば、国際公開第98/02441号パンフレットおよび同第01/14387号パンフレットに開示される通り、例えば、AP23573、AP23464、またはAP23841;40-(2-ヒドロキシエチル)ラパマイシン、40-[3-ヒドロキシ(ヒドロキシメチル)メチルプロパノエート]-ラパマイシン;40-エピ-(テトラゾリル)-ラパマイシン(ABT578とも称される);AZD8055;32-デオキソラパマイシン;16-ペンチニルオキシ-32(S)-ジヒドロラパマイシン、および国際公開第05/005434号パンフレットに開示される他の誘導体;米国特許第5,258,389号明細書、国際公開第94/090101号パンフレット、同第92/05179号パンフレット、米国特許第5,118,677号明細書、同第5,118,678号明細書、同第5,100,883号明細書、同第5,151,413号明細書、同第5,120,842号明細書、国際公開第93/111130号パンフレット、同第94/02136号パンフレット、同第94/02485号パンフレット、同第95/14023号パンフレット、同第94/02136号パンフレット、同第95/16691号パンフレット、同第96/41807号パンフレット、同第96/41807号パンフレットおよび米国特許第5,256,790号明細書に開示される誘導体;ならびにリン含有ラパマイシン誘導体(例えば、国際公開第05/016252号パンフレット)が挙げられる。
【0182】
MCL-1阻害剤の非限定的な例としては、AMG-176、MIK665、およびS63845が挙げられる。
【0183】
SHP2阻害剤の非限定的な例としては、JAB-3068、RMC-4630、TNO155、SHP-099、RMC-4550、ならびに国際公開第2019/167000号パンフレット、同第2020/022323号パンフレットおよび同第2021/033153号パンフレットに記載されるSHP2阻害剤が挙げられる。
【0184】
RAS阻害剤の非限定的な例としては、AMG510(ソトラシブ)、MRTX849(アダグラシブ)、LY3499446、JNJ-74699157(ARS-3248)、ARS-1620、ARS-853、GDC-6036、D-1553、JDQ433、JAB-21822、RM-007、RM-008、MRTX1133、およびKRpep-2dが挙げられる。HSP90阻害剤の非限定的な例としては、ピミテスピブが挙げられる。
【0185】
使用に対して好適であり得る抗がん剤の追加の非限定的な例としては、限定するものではないが、2-エチルヒドラジド、2,2’,2”-トリクロロトリエチルアミン、ABVD、アセグラトン、アセマンナン、アルドホスファミドグリコシド、アルファラジン、アミホスチン、アミノレブリン酸、アナグレリド、ANCER、アンセスチム、抗CD22免疫毒素、抗腫瘍ハーブ、アパジクオン、アルグラビン、三酸化二ヒ素、アザチオプリン、BAM002(Novelos)、bcl-2(Genta)、ベストラブシル、ビリコダール、ビサントレン、ブロモクリプチン、ブロスタリシン、ブリオスタチン、ブチオニンスルホキシミン、カリクリン、細胞周期非特異的抗新生物剤、セルモロイキン、クロドロン酸塩、クロトリマゾール、シタラビンオクホスファート、DA3030(Dong-A)、デフォファミン、デニロイキンジフチトクス、デクスラゾキサン、ジアジクオン、ジクロロ酢酸、ジラゼプ、ジスコデルモリド、ドコサノール、ドキセルカルシフェロール、エデルフォシン、エフロルニチン、EL532(Elan)、エルフォミチン、エルサミトルシン、エニルラシル、エタニダゾール、エキシスリンド、フェルギノール、フォリン酸などの葉酸補充剤、ガシトシン、硝酸ガリウム、ギメラシル/オテラシル/テガフールの組み合わせ(S-1)、グリコピン、ヒスタミン二塩酸塩、HITジクロフェナク、HLA-B7遺伝子療法(Vical)、ヒト胎児性アルファフェトプロテイン、イバンドロン酸塩、イバンドロン酸、ICE化学療法レジメン、イメキソン、ヨーベングアン、IT-101(CRLX101)、ラニキダール、LC9018(ヤクルト)、レフルノミド、レンチナン、レバミゾール+フルオロウラシル、ロバスタチン、ルカントン、マソプロコール、メラルソプロール、メトクロプラミド、ミルテホシン、ミプロキシフェン、ミトグアゾン、ミトゾロミド、モピダモール、モテキサフィンガドリニウム、MX6(Galderma)、ナロキソン+ペンタゾシン、ニトラクリン、ノラトレキセド、NSC631570オクトレオチド(Ukrain)、オラパリブ、P-30タンパク質、PAC-1、パリフェルミン、パミドロン酸塩、パミドロン酸、ペントサン多硫酸ナトリウム、フェナメット、ピシバニール、ピキサントロン、白金、ポドフィリン酸、ポルフィマーナトリウム、PSK(多糖K)、ウサギ抗胸腺細胞ポリクローナル抗体、ラスブリエンボディメント(rasburiembodiment)、レチノイン酸、レニウムRe186エチドロン酸塩、ロムルチド、サマリウム(153Sm)レキシドロナム、シゾフィラン、フェニル酢酸ナトリウム、スパルフォシン酸、スピロゲルマニウム、ストロンチウム-89塩化物、スラミン、スワインソニン、タラポルフィン、タリキダール、タザロテン、テガフール-ウラシル、テモポルフィン、テヌアゾン酸、テトラクロロデカオキシド、トロンボポエチン、スズエチルエチオプルプリン、チラパザミン、TLC ELL-12、トシツモマブ-ヨウ素131、トリフルリジン・チピラシルの組み合わせ、トロポニンI(ハーバード大学、US)、ウレタン、バルスポダール、ベルテポルフィン、ゾレドロン酸、およびゾスキダルが挙げられる。
【0186】
本開示において用いる場合、用語「組み合わせ」、「組み合わせた」またはそれらの変形は、2種以上の化合物/薬物の組み合わせの使用を含む療法を規定することが意図される。この用語は、同じ全投与スケジュールの一部分として投与される化合物/薬物を意味することができる。2種以上の化合物/薬物の個別の投与量は、異なることができる。併用療法は、逐次的様式でのこれらの化合物/薬物の投与、すなわち、各化合物/薬物が異なる時点で投与される投与(例えば、第1の薬物が、組み合わせのうちの第2の薬物に関して治療前または治療後として投与される)、ならびに実質的に同時の様式でのこれらの化合物/薬物、または化合物/薬物のうちの少なくとも2種の投与を包含することが意図される。実質的に同時の投与は、例えば、固定比率の各化合物/薬物を有する単一剤型、または化合物/薬物の各々に対する複数の単一剤型を患者に投与することにより、遂行することができる。各化合物/薬物の逐次的または実質的に同時の投与は、限定するものではないが、経口経路、静脈内経路、筋内経路、および粘膜組織を介する直接吸収(例えば、頬内)をはじめとするいずれかの好適な経路により達成することができる。化合物/薬物は、同じ経路により、または異なる経路により、投与することができる。例えば、選択された組み合わせのうちの第1の化合物/薬物を静脈内注入により投与することができ、一方で、組み合わせのうちの他の化合物/薬物を経口投与することができる。代替的に、例えば、すべての化合物/薬物を経口投与することができるか、またはすべての化合物/薬物を静脈内注入により投与することができる。
【0187】
併用療法はまた、他の生物学的有効成分および非薬物療法(例えば、外科手術または放射線治療)とさらに組み合わせた、上記の通りの化合物/薬物の投与を包含することもできる。併用療法が非薬物治療をさらに含む場合、非薬物治療は、化合物/薬物と非薬物治療との組み合わせの共同作用からの有益な作用が達成される限り、いずれかの好適な時点で行うことができる。例えば、適切な場合、おそらく数日間または数週間でさえも、非薬物治療が化合物/薬物の投与から一時的に除かれる場合に、有益な作用が未だに達成される。
【実施例】
【0188】
[実施例1]
ER+/HER2-乳がん細胞におけるMAPKおよびPI3K経路に対するNF1枯渇の作用の評価
ER+/HER2-乳がん細胞における細胞増殖シグナルに対するNF1枯渇の作用を調べるために、NF1 siRNAをヒトER+/HER2-乳がん由来MCF7細胞にトランスフェクションし、MAPKおよびPI3Kシグナル伝達活性の代表的マーカーである分子のリン酸化状態の変化を、免疫ブロッティングにより確認した。
10%活性炭処理FBSを含有するフェノールレッド不含RPMI1640培地中で培養したMCF7細胞を、リポフェクタミンRNAiMAXを用いて10μmol/Lの最終濃度までNF1 siRNAを用いてトランスフェクションした。続いて、細胞を、37℃、5%CO
2で1日間インキュベートした。その後、E2(エストロゲン)を1nmol/L最終濃度で培地に添加し、細胞を3日間培養し、その後、細胞を回収し、細胞抽出物を調製した。
以下のタンパク質分子の発現を、免疫ブロッティングにより、NF1ノックダウン細胞と対照細胞との間で比較した。(1)NF1のノックダウンの確認のためのNF1、(2)MAPKおよびPI3Kシグナル伝達の活性の変化をモニタリングするためのpAKT Ser473、pERK Thr202/Tyr204、およびpS6RP Ser235/236、(3)エストロゲン刺激に対する細胞の応答性をモニタリングするためのERα。
図1Aに示される通り、対照MCF7細胞と比較して、pAKT、pERK、およびpS6のリン酸化レベルは、NF1ノックダウン細胞において増加した。これらの結果は、NF1遺伝子変化によるNF1ダウンレギュレーションまたは機能不全に起因するMAPKおよびPI3Kシグナル伝達の同時強化を示す。加えて、ERα発現もまた減少し、このことは、ER標的化薬物に対する感受性が低減されている可能性があることを示唆する。これらの知見は、ER標的化薬物がNF1欠損ER+/HER2-乳がん細胞においてより有効性が低いことならびにMAPKおよびPI3Kシグナル伝達経路の阻害はより有効性が高いことを示唆する。
【0189】
[実施例2]
NF1枯渇ER+/HER2-乳がん細胞における化合物(1)の増殖阻害作用の評価
NF1枯渇ER+/HER2-乳がん細胞MCF7およびT47Dに対する化合物(1)の増殖阻害作用を調べるために、連続希釈した化合物(1)を、以前の実験における通りに3日間にわたって細胞に曝露した。
MCF7およびT47D細胞における増殖阻害曲線を取得し、増殖阻害の最大半値阻害濃度(IC50)を、表1に示される通りに算出した。
【0190】
【表1】
結果として、化合物(1)は、NF1ノックダウンMCF7およびT47D細胞において、エストロゲンの存在下または非存在下でさえも、相対的に強力なIC50値を示した。これらの結果は、化合物(1)が、NF1異常を有する乳房腫瘍に対する顕著な増殖阻害作用を有し得ることを示唆する。
【0191】
[実施例3]
NF1突然変異体細胞株における化合物(1)の増殖阻害作用の評価
NF1遺伝子変化は、ER+/HER2-乳がんのみならず、HER2+およびトリプルネガティブ乳がんなどの他の乳がんサブタイプにおいても報告されてきた。大腸がん、黒色腫、および肺がんにおいても見出されており、NF1異常は、一部のがんにおける脱調節された増殖能の原因であり得る。
NF1突然変異体がん細胞株における化合物(1)の増殖阻害作用を調べるために、増殖阻害アッセイのIC50値を取得し、続いて、表2において比較した。
【0192】
【表2】
本実験において、化合物(1)の増殖阻害作用をMAPKおよびPI3Kシグナル伝達阻害剤のものと比較するために、トラメチニブ(MEK阻害剤として)、およびアルペリシブ(PI3K阻害剤として)のIC50値を取得および比較した。
数種類のNF1突然変異体細胞株が、MEKおよび/またはPI3K阻害剤に対して感受性でないことが見出され、IC50値は、トラメチニブに関して16~10,000nmol/L超の範囲であり、アルペリシブに関して179~10,000nmol/L超の範囲であった。一方、化合物(1)のIC50値は、MDA-MB-231細胞を除いて1μmol/L未満であり、このことは、化合物(1)が、いずれかのシグナル伝達経路を単独で阻害する薬物よりも、NF1突然変異体細胞増殖に対して強力であることを示した。
【0193】
[実施例4]
NF1枯渇ER+/HER2+乳がん細胞株における化合物(1)による標的阻害およびアポトーシス誘導の評価
NF1ノックダウン乳がん細胞の増殖の阻害における化合物(1)の作用機序を調べるために、化合物(1)、トラメチニブ、アルペリシブ、およびフルベストラントを、24時間にわたって示される最終濃度でNF1ノックダウンMCF7およびT47D細胞に曝露した。NF1、pPRAS40 Thr246、pYB1 Ser102、pS6RP Ser235/236、ERα、および切断型PARPを、免疫ブロッティングにより検出した。
PRAS40、YB1、およびS6RPは、それぞれ、AKT、p90RSK、およびp70S6Kキナーゼの特異的リン酸化基質であり、これらのリン酸化シグナルの低減は、化合物(1)による標的阻害が起こっていることを示す。
図2A~2Bに示される通り、化合物(1)は、両方の細胞において濃度依存的様式でpPRAS40、pYB1、およびpS6RPのシグナルを減少させた。これらの標的阻害はまた、NF1ノックダウン細胞においても観察され、このことは、化合物(1)が、
図1Aに記載される通り、NF1異常により活性化されたMAPKおよびPI3Kシグナル伝達を有する細胞においてさえも有効であることを示した。
切断型PARPシグナルは、アポトーシス誘導を検出するためのマーカーとして機能する。MCF7細胞において、アルペリシブは単剤としてさえも対照細胞(非標的化siRNA)でのアポトーシスを誘導したが、アポトーシスの誘導は、NF1ノックダウン細胞では弱まることが見出される。化合物(1)単剤処理もまた、MCF7の対照細胞(非標的化siRNA細胞)でのアポトーシスを誘導したが、アルペリシブとは対照的に、化合物(1)はNF1ノックダウン細胞でのアポトーシス誘導の減弱を示さなかった。さらに、T47D細胞においては、化合物(I)によるアポトーシスの誘導の作用は、対照細胞(非標的化siRNA細胞)よりもNF1ノックダウン細胞において著しくより高いレベルで観察された。対照細胞と比較してNF1ノックダウン細胞におけるそのような顕著により高いレベルのアポトーシス誘導作用は、アルペリシブ処理群では観察されなかった。これらの知見は、化合物(1)がNF1欠損乳がん細胞に対する抗腫瘍活性に対する有望な薬理学的作用を有することを示す。
【0194】
[実施例5]
エストロゲンおよびNF1の存在下および非存在下でのフルベストラントと組み合わせた化合物(1)の抗腫瘍作用の評価
ER+/HER2-乳がんに対する実際の標準治療は、タモキシフェン、レトロゾール、またはフルベストラントなどの補助療法を用いる。再発または不応性腫瘍を有する患者は、CDK4/6阻害剤またはPIK3CA突然変異型がんに関してアルペリシブの追加の使用によって治療される。
図3に示される通り、がん性増殖を促進する条件のうちの2つのタイプ:(1)エストロゲン処理の存在および非存在と、(2)野生型状態としてのNF1およびsiRNA標的化NF1ノックダウン状態との組み合わせにおいて、フルベストラントとの組み合わせにより、化合物(1)の抗腫瘍作用を強化することができるか否かを評価した。
化合物(1)によるアポトーシス誘導が、NF1野生型細胞およびNF1ノックダウン細胞の両方において、エストロゲン処理の存在下または非存在下で観察された。フルベストラント単独を用いる処理により、ER低減が明らかに観察されたが、すべてのフルベストラント処理群でアポトーシス誘導活性をほとんど有しなかった。
しかしながら、化合物(1)およびフルベストラントと組み合わせると、フルベストラント単剤処理細胞と比較して、NF1ノックダウン細胞におけるエストロゲン処理の存在下でアポトーシス誘導が著しく強化された。これらの結果から、化合物(1)は、ER+/HER2-乳がん細胞の増殖阻害に関して、フルベストラントと組み合わせて用いることができる可能性がある。
【0195】
[実施例6]
細胞パネルを用いる感受性と関連付けられる遺伝的因子の調査
細胞増殖阻害アッセイを、CellTiter Glo2.0アッセイによる72時間標準プロトコールに従って行った。
化合物(1)は、様々なヒトがん起源に由来するがん細胞株における強力な増殖阻害を示した(
図4A)。化合物(1)の低いIC50値は、発がん性遺伝子変化、例えば、ドライバー遺伝子突然変異(KRAS、EGFR、ERBB2、およびPIK3CA)および/または腫瘍抑制因子遺伝子の欠損(PTENおよびTP53)を保有する抵抗性細胞の増殖を阻害する著しい効力を示す。これらの遺伝子変化のうちで、PTEN遺伝子の遺伝子変異体を伴う細胞は、化合物(1)の強力なIC50値と相関するように見えた。化合物(1)のIC50とPTEN遺伝子変化との間の相関関係を確認するために、大規模細胞パネル解析を行った。
図4Bにおいて、化合物(1)に対する感受性とPTEN遺伝子変化との間の相関関係が明らかに観察された。化合物(1)に対するPTEN変化を有する細胞の感受性のさらなる確認のために、用量依存的アポトーシス誘導を、連続希釈した化合物(1)の添加後48時間にわたって処理されたPTEN突然変異型HEC-6細胞およびMFE-319細胞を用いて、切断型カスパーゼ-3および切断型PARPのレベルをモニタリングすることにより評価した(
図4C~4D)。化合物(1)による両方の細胞株の処理は、対照と比較して、濃度依存的様式で切断型カスパーゼ-3および切断型PARPを増加させた。これらの結果は、化合物(1)が標的キナーゼの阻害を通してPTEN突然変異型ヒトがん細胞でのアポトーシスを誘導することを示唆する。
【0196】
[実施例7]
KRAS_G12CおよびPIK3CA_K111E突然変異型SW1573_ヒト肺腫瘍異種移植片を保有するヌードマウスにおける化合物(1)またはソトラシブまたは化合物(1)およびソトラシブの組み合わせの抗腫瘍作用の評価
肺がん由来のSW1573細胞株はKRAS G12C突然変異を有するが、G12C阻害剤であるソトラシブ(AMG510とも称される)に対する低い感受性を有することが報告された(下記の実施例11も参照されたい)。
ヌードマウスに皮下移植されたSW1573腫瘍に対する化合物(1)の抗腫瘍作用を評価するために、AMG510単独との化合物(1)の有効性およびAMG510+化合物(1)の共同有効性の比較を行った。
0.1Nの最終濃度を達成するために塩酸を添加された0.5%w/vヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を用いて、化合物(1)を含有する投薬液を調製した。単剤治療のための30mg/kgおよび60mg/kg化合物(1)を調製し、14日間にわたってPO QD投与した。AMG510の抗腫瘍作用もまた、14日間にわたるPO QDにより、0.5%w/v HPMCを用いて30mg/kgで評価した。14日間にわたる毎日の強制経口投与による、60mg/kg化合物(1)および30mg/kg AMG510を用いる併用治療。
15日目での評価において、化合物(1)を用いて治療されたすべての群が、対照群と比較して有意な腫瘍増殖阻害を示した(30mg/kgに関してP<0.01、および60mg/kgに関してP<0.001、ダネット検定)。30mg/kg AMG510治療群もまた、30mg/kgの化合物(1)と略同じレベルで有意な腫瘍増殖阻害を示した。化合物(1)およびAMG510を用いる併用群は、有意な腫瘍増殖阻害を示した(P<0.001、ダネット検定)。
結果を
図5A~5Bおよび表3にまとめる。
【0197】
【表3】
30、60mg/kgの化合物(1)、30mg/kgのAMG510、および化合物(1)とAMG510との組み合わせのT/C比は、それぞれ、55%、38%、54%、および20%であった。併用治療群における投薬エラーに起因する偶発的死亡の症例を除いて、0日目から実験を通して20%超の体重減少を有したマウスはいなかった。これらの結果は、化合物(1)が、PIK3CA突然変異もまた保持するKRAS G12C突然変異体細胞においてAMG510のものと同じかまたはそれよりも優れたレベルとしての有効性を示したことを実証した。加えて、化合物(1)とAMG510との組み合わせもまた、許容可能な忍容性を伴って、各薬剤単独による抗腫瘍有効性の明らかな強化を実証した。
【0198】
[実施例8]
KRAS_G12C突然変異型LU65_ヒト肺腫瘍異種移植片を保有するヌードマウスにおける化合物(1)またはソトラシブまたは化合物(1)およびソトラシブの組み合わせの抗腫瘍作用の評価
KRAS G12C突然変異型LU65ヒト肺腫瘍に対する化合物(1)の抗腫瘍有効性を調べるために、80mg/kg/日の化合物(1)、30mg/kg/日のAMG510、およびそれらの組み合わせを、LU65腫瘍異種移植片を皮下移植された雄性BALB/cヌードマウスに投与した。化合物(1)およびAMG510単独の両方およびそれらの組み合わせを、強制経口投与により毎日投与した。腫瘍体積および動物の体重を記録した。
結果を、
図6A~6Bおよび表4にまとめる(13日目に評価した)。
【0199】
【表4】
G12C阻害剤AMG510は腫瘍増殖を有意に阻害したが(T/C:46%、p<0.001)、化合物(1)は、80mg/kgの用量でさえ、限定された抗腫瘍作用を示した(T/C:75%、p<0.01)。有意な共同作用(T/C:28%、AMG510単独に対してp<0.05、化合物(1)治療単独に対してp<0.001)が観察された。加えて、体重変化は研究期間全体を通して限定されており、このことは、化合物(1)が、単剤としてまたはAMG510と組み合わせて十分に忍容されたことを示した。
【0200】
[実施例9]
KRAS_G12D、PIK3CA_H1047R、およびPTEN_I67K突然変異型LS180ヒト大腸腫瘍異種移植片を保有するヌードマウスにおける化合物(1)の抗腫瘍作用の評価
発がん性KRAS突然変異は多様であり、G12Cのみならず、12位での突然変異ホットスポットグリシンにおけるG12XおよびG13Xも含む。MAPKおよびPI3Kシグナル伝達の下流を標的とする化合物(1)がG12D突然変異型がんに対して有効であるか否かを決定するために、化合物(1)の有効性実験を、KRAS G12DならびにPIK3CAおよびPTEN遺伝子変化を伴う大腸がん由来の皮下移植されたLS180腫瘍を用いて行った。
80mg/kg/日の化合物(1)の有効性を、参照群として用いた1mg/kg/日MEK阻害剤トラメチニブのものと比較することにより、評価を行った。
結果を、
図7A~7Bおよび表4に提示する(15日目で評価した)。
【0201】
【表5】
化合物(1)は、穏やかであるが有意な抗腫瘍有効性(T/C:59%、p<0.01)および忍容性を示したが、KRAS突然変異により活性化されるMAPKシグナル伝達を阻害するトラメチニブは、十分な有効性を示さなかった(T/C:76%、ダネット検定により有意でない)。
これらの結果は、MAPK阻害が、単独ではPIK3CAおよび/またはPTEN遺伝子変化を伴うKRAS G12D突然変異型がんにおいて限定された有効性を有し得ることを示唆する。一方で、化合物1は、MAPKシグナル阻害単独と比較して、優れた有効性および忍容性を示した。
【0202】
[実施例10]
KRAS G12D突然変異体AsPC-1ヒト膵臓腫瘍異種移植片を保有するヌードマウスにおける化合物(1)またはトラメチニブまたは化合物(1)およびトラメチニブの組み合わせの抗腫瘍作用の評価
KRAS G12D突然変異型AsPC-1ヒト膵臓腫瘍に対する化合物(1)の抗腫瘍有効性を調べるために、40および80mg/kg/日の化合物(1)、1mg/kg/日のトラメチニブ、ならびに80mg/kg/日の化合物(1)と1mg/kg/日のトラメチニブとの組み合わせを、3週間にわたって、AsPC-1腫瘍異種移植片を皮下移植された雄性BALB/cヌードマウスに投与した。すべての治療を、強制経口投与により毎日投与した。腫瘍体積および動物の体重を記録した。
結果を、
図8A~8Bおよび表6にまとめる(22日目に評価した)。
【0203】
【表6】
トラメチニブは腫瘍増殖の有意な阻害を示したが(T/C:51%、p<0.001)、化合物(1)は、40および80mg/kg/日の両方の群で限定された抗腫瘍作用を示した(それぞれ、T/C:91%、有意でない、T/C:69%、p<0.01)。注目すべきことに、有意な共同作用(T/C:26%、トラメチニブ単独に対してp<0.001、40mg/kg/日の化合物(1)群に対してp<0.01)が観察された。化合物(1)投与群に関して、投与エラーに起因して18日目に薬物関連でない死亡が観察されたが、体重低減または忍容性における顕著な変化は見られなかった。
【0204】
[実施例11]
動物実験において用いたKRAS突然変異体細胞株に対する化合物(1)、トラメチニブ、およびAMG510の増殖阻害活性の評価
KRAS突然変異体腫瘍異種移植片に対する化合物(1)の抗腫瘍作用を評価する一連の動物実験で用いた細胞株における各化合物に関するIC50値を、3日間増殖阻害アッセイにより決定した(表7)。
【0205】
【表7】
化合物(1)は、KRAS突然変異体がん細胞株に対して比較的安定な増殖阻害作用を示したが、トラメチニブおよびAMG510の増殖阻害作用は、PIK3CAおよびPTEN遺伝子中の突然変異を有する細胞(SW1573およびLS180)では顕著に減弱した。これらの知見は、有効性研究において観察された化合物(1)およびAMG510およびトラメチニブに対する相対的応答と合致する。
【0206】
明らかに、本発明の多数の改変および変化が、上記の教示に鑑みて可能である。したがって、添付の特許請求の範囲の範囲内で、本発明を、本明細書中で具体的に記載される通り以外に実施することができることが理解されるべきである。
【国際調査報告】