IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 庄国昇の特許一覧

特表2024-537553歯肉炎と歯肉退縮の治療及び口腔粘膜の修復におけるオリゴペプチドの用途
<>
  • 特表-歯肉炎と歯肉退縮の治療及び口腔粘膜の修復におけるオリゴペプチドの用途 図1
  • 特表-歯肉炎と歯肉退縮の治療及び口腔粘膜の修復におけるオリゴペプチドの用途 図2
  • 特表-歯肉炎と歯肉退縮の治療及び口腔粘膜の修復におけるオリゴペプチドの用途 図3
  • 特表-歯肉炎と歯肉退縮の治療及び口腔粘膜の修復におけるオリゴペプチドの用途 図4
  • 特表-歯肉炎と歯肉退縮の治療及び口腔粘膜の修復におけるオリゴペプチドの用途 図5
  • 特表-歯肉炎と歯肉退縮の治療及び口腔粘膜の修復におけるオリゴペプチドの用途 図6
  • 特表-歯肉炎と歯肉退縮の治療及び口腔粘膜の修復におけるオリゴペプチドの用途 図7
  • 特表-歯肉炎と歯肉退縮の治療及び口腔粘膜の修復におけるオリゴペプチドの用途 図8A
  • 特表-歯肉炎と歯肉退縮の治療及び口腔粘膜の修復におけるオリゴペプチドの用途 図8B
  • 特表-歯肉炎と歯肉退縮の治療及び口腔粘膜の修復におけるオリゴペプチドの用途 図9A
  • 特表-歯肉炎と歯肉退縮の治療及び口腔粘膜の修復におけるオリゴペプチドの用途 図9B
  • 特表-歯肉炎と歯肉退縮の治療及び口腔粘膜の修復におけるオリゴペプチドの用途 図10
  • 特表-歯肉炎と歯肉退縮の治療及び口腔粘膜の修復におけるオリゴペプチドの用途 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-10
(54)【発明の名称】歯肉炎と歯肉退縮の治療及び口腔粘膜の修復におけるオリゴペプチドの用途
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/08 20190101AFI20241003BHJP
   A61K 38/07 20060101ALI20241003BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20241003BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241003BHJP
   C07K 7/06 20060101ALI20241003BHJP
   C07K 5/103 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
A61K38/08
A61K38/07
A61P1/02
A61P43/00 121
C07K7/06 ZNA
C07K5/103
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024547811
(86)(22)【出願日】2022-10-17
(85)【翻訳文提出日】2024-05-28
(86)【国際出願番号】 CN2022125610
(87)【国際公開番号】W WO2023066184
(87)【国際公開日】2023-04-27
(31)【優先権主張番号】202111222709.2
(32)【優先日】2021-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524152104
【氏名又は名称】庄国昇
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】庄国昇
【テーマコード(参考)】
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084BA01
4C084BA07
4C084BA08
4C084BA16
4C084MA13
4C084MA16
4C084MA28
4C084MA43
4C084MA52
4C084NA12
4C084NA14
4C084ZA671
4C084ZC75
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA13
4H045BA14
4H045EA20
4H045FA20
(57)【要約】
本発明は、歯肉炎と歯肉退縮の治療及び口腔粘膜の修復におけるオリゴペプチドの用途を開示する。前記オリゴペプチドは、式(I)、即ち、X(I)で表される構造を有する。Xは、グリシン(Gly,G)又はリシン(Lys,K)である。Xは、グルタミン酸(Glu,E)又はトレオニン(Thr,T)である。Xは、K又はTである。Xは、G又はKである。Xは、セリン(Ser,S)、フェニルアラニン(Phe,F)であるか、存在しない。且つ、Xは、Fであるか、存在しない。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯肉炎と歯肉退縮の治療及び口腔粘膜の修復のための薬剤の調製における下記式(I)のオリゴペプチドの用途であって、
(I)
は、グリシン(Gly,G)又はリシン(Lys,K)であり、
は、グルタミン酸(Glu,E)又はトレオニン(Thr,T)であり、
は、K又はTであり、
は、G又はKであり、
は、セリン(Ser,S)、フェニルアラニン(Phe,F)であるか、存在せず、且つ、
は、Fであるか、存在しない用途。
【請求項2】
前記式(I)のオリゴペプチドはGEKGF及び/又はGEKGであることを特徴とする請求項1に記載の用途。
【請求項3】
前記式(I)のオリゴペプチドはGEKGであることを特徴とする請求項2に記載の用途。
【請求項4】
前記式(I)のオリゴペプチドはKTTKS及び/又はKTTKSFであることを特徴とする請求項1に記載の用途。
【請求項5】
前記式(I)のオリゴペプチドはKTTKSであることを特徴とする請求項4に記載の用途。
【請求項6】
前記式(I)のオリゴペプチドはGEKGとKTTKSの組み合わせであることを特徴とする請求項1に記載の用途。
【請求項7】
前記薬剤は、0.1~10重量%のGEKGと、0.1~10重量%のKTTKSと、1又は複数の薬学的に許容可能な担体を含むことを特徴とする請求項6に記載の用途。
【請求項8】
前記薬剤は、0.2~2重量%のGEKGと、0.2~2重量%のKTTKSと、1又は複数の薬学的に許容可能な担体を含むことを特徴とする請求項7に記載の用途。
【請求項9】
前記薬剤は、粉末、エアロゾル、軟膏、ゲル、ペースト又は溶液の形式をなすことを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載の用途。
【請求項10】
前記薬剤は経口投与されることを特徴とする請求項9に記載の用途。
【請求項11】
前記薬剤は徐放型であることを特徴とする請求項10に記載の用途。
【請求項12】
前記徐放型は、経粘膜吸収又は経口吸収の徐放型であることを特徴とする請求項11に記載の用途。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯肉炎と歯肉退縮の治療及び口腔粘膜の修復におけるオリゴペプチドの用途に関する。本発明は医薬の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、遊離型又は塩型の塩基性アミノ酸及びフッ化物イオン源を含む口腔ケア組成物を開示している。
【0003】
特許文献2は、ザクロ、ニクズク、ショウガ及びジジフスジョアゼイロのうちの少なくとも3つの抽出物から選択される混合物を含む口腔用組成物を開示している。
【0004】
特許文献3は、分離された非毛球真皮鞘(NDBS)を含む細胞を口腔内に投与する歯肉損傷の治療方法を開示している。
【0005】
特許文献4は、口腔粘膜の治療におけるN末端及びC末端が置換された6つのアミノ酸を含むオリゴペプチドの用途を開示している。
【0006】
特許文献5は、副腎皮質刺激ホルモン又は抗炎症化合物を含む口腔軟組織の抗炎症・鎮痛剤を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】台湾特許第I448306B号公報
【特許文献2】台湾特許第I432206B号公報
【特許文献3】台湾特許出願公開第201538729A号公報
【特許文献4】台湾特許第I631141B号公報
【特許文献5】台湾特許出願公開第201806602A号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来技術では、4つ、5つ又は6つのアミノ酸を含む非置換のオリゴペプチドを歯肉炎と歯肉退縮の治療及び口腔粘膜の修復に適用可能なことを教示も提案もしていない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、歯肉炎と歯肉退縮の治療及び口腔粘膜の修復のための薬剤の調製における下記式(I)のオリゴペプチド(又はペプチドと称する)の用途を開示する。
【0010】
(I)
【0011】
は、グリシン(Gly,G)又はリシン(Lys,K)である。
【0012】
は、グルタミン酸(Glu,E)又はトレオニン(Thr,T)である。
【0013】
は、K又はTである。
【0014】
は、G又はKである。
【0015】
は、セリン(Ser,S)、フェニルアラニン(Phe,F)であるか、存在しない。
【0016】
は、Fであるか、存在しない。
【0017】
好ましい実施例において、前記式(I)のオリゴペプチドはGEKGF(SEQ ID NO.2)及び/又はGEKG(SEQ ID NO.1)である。
【0018】
別の好ましい実施例において、前記式(I)のオリゴペプチドはGEKGである。
【0019】
好ましい実施例において、前記式(I)のオリゴペプチドはKTTKS(SEQ ID NO.3)及び/又はKTTKSF(SEQ ID NO.4)である。
【0020】
別の好ましい実施例において、前記式(I)のオリゴペプチドはKTTKSである。
【0021】
好ましい実施例において、前記式(I)のオリゴペプチドはGEKGとKTTKSの組み合わせである。
【0022】
好ましい実施例において、前記薬剤は、0.1~10重量%のGEKGと、0.1~10重量%のKTTKSと、1又は複数の薬学的に許容可能な担体を含む。当該薬剤は、好ましくは、0.2~2重量%のGEKG及び0.2~2重量%のKTTKSを含む。
【0023】
別の好ましい実施例において、前記1又は複数の薬学的に許容可能な担体は、固体担体、半固体担体及び液体担体を含み、これらの固体担体、半固体担体及び液体担体の種類及び使用量は本技術分野において周知である。
【0024】
好ましい実施例において、前記薬剤は、粉末、エアロゾル、軟膏、ゲル、ペースト又は溶液の形式をなす。前記溶液は水溶性緩衝液の形式をなしてもよい。前記水溶性緩衝液は、リン酸塩又はクエン酸塩の水溶液を含むが、これらに限らない。
【0025】
好ましい実施例において、前記薬剤は経口投与される。当該経口投与には、経粘膜吸収及び経口吸収が含まれるが、これらに限らない。
【0026】
好ましい実施例において、前記薬剤は徐放型であり、特に、経粘膜吸収及び経口吸収の徐放型である。
【0027】
好ましい実施例において、前記GEKG及びGEKGFと、KTTKS及びKTTKSFは、従来技術(例えば、台湾特許出願公開第201129368A1号公報及び台湾特許出願公開第201333045A1号公報)に記載される方法に基づき調製可能である。
【0028】
当業者が本発明の構成、特徴及びその他の目的を更に理解し得るよう、以下に、本発明のいくつかの好ましい実施例を挙げるとともに、図面を組み合わせて下記のように詳細に説明し、且つ、当業者が具体的に実施できるようにする。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、KTTKSの希釈倍数別のL929細胞について、腫瘍壊死因子-alpha(TNFα)の抑制率及び細胞毒性を分析したものを示す。
図2図2は、GEKGの希釈倍数別のL929細胞について、TNFαの抑制率及び細胞毒性を分析したものを示す。
図3図3は、KTTKSが、炎症反応誘導物質(LPS)により誘導されるマクロファージの一酸化窒素(NO)生成を抑制することを示している。
図4図4は、GEKGが、炎症反応誘導物質(LPS)により誘導されるマクロファージのNO生成を抑制することを示している。
図5図5は、GEKG及びKTTKSが、炎症反応誘導物質(LPS)により誘導されるマクロファージの過酸化水素(H)生成を抑制することを示している。
図6図6は、異なる濃度のGEKG及びKTTKSが口腔上皮初期細胞の増殖を促進することを示している。
図7図7は、異なる濃度のGEKG及びKTTKSが、生体外で、Hのフリーラジカルに起因する口腔上皮細胞死を低減させることを示している。
図8A図8Aは、異なる濃度のGEKG及びKTTKSが生体外のヒト歯肉線維芽細胞(HGF)の増殖に及ぼす影響を示している。
図8B図8Bは、異なる濃度のGEKG及びKTTKSが生体外のI型コラーゲンの生成に及ぼす影響を示している。
図9A図9Aは、RT-PCR産物であるTGF-β1及びGAPDHのゲル電気泳動図を示す。
図9B図9Bは、異なる濃度のGEKG及びKTTKSがTGF-β1の発現を促進し、且つ、用量依存性関係が存在することを示している。
図10図10は、TGF-β1とKTTKS又はGEKGが、ヒト歯肉線維芽細胞(HGF)における細胞外マトリックス(ECM)の合成を誘導することを示している。
図11図11は、KTTKS又はGEKGを含む歯肉修復液を使用したあとの歯肉成長の写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、歯肉炎と歯肉退縮の治療及び口腔粘膜の修復におけるオリゴペプチドの用途に関するものである。以下では、当業者が本明細書で開示する内容から本発明の利点及び効果を容易に理解できるよう、特定の具体的実施形態により本発明の技術内容について説明する。ただし、本発明はその他の異なる具体的実施形態によっても実施又は応用可能である。
【0031】
実施例1:生体外におけるL929細胞の増殖/細胞毒性分析によるGEKG及びKTTKSのTNFα抑制活性及び細胞毒性評価
【0032】
生体外におけるL929細胞の増殖/細胞毒性分析はマイクロタイタープレート上で実施した。10%ウシ血清、1%P/S及び1%非必須アミノ酸を含有するイーグル最小必須培地(EMEM)でL929細胞を培養した。次に、集合したL929細胞を2mlのPBS溶液で洗浄し、トリプシン処理したあとEMEMに再懸濁させた。続いて、200μlの細胞懸濁液を吸い取って細胞密度をカウントするとともに、残りの懸濁液を1500rpmで5分間遠心分離にかけた。これにより上清液を除去し、当該希釈細胞にEMEMを加えることで、終濃度1.5x10細胞/mlを形成した。そして、100μlの細胞懸濁液を96ウェル平底マイクロタイタープレートの各ウェルに加え、37℃且つ5%CO雰囲気で24時間(h)培養した。
【0033】
TNFα抑制活性
【0034】
まず、GEKG及びKTTKSをそれぞれ1×PBSで1mg GEKG/ml及び1mg KTTKS/mlに相当する濃度まで溶解させた。次に、1×PBS溶液でGEKG及びKTTKSを濃度500μg/ml、125μg/ml、31.25μg/ml及7.81μg/mlとなるまでそれぞれ希釈し、希釈した溶液を等体積のTNFα溶液と混合してから1hインキュベートした。続いて、この4種類の混合溶液を50μlずつ取り、上記のL929細胞を24時間培養した96ウェル平底マイクロタイタープレートに加えるとともに、培養液中のアクチノマイシンD(ActD)の終濃度を2μg/ml、TNFαの終濃度を0.1ng/mlに調整した。また、2μg/mlのActDのみを加えたテストウェルと、0.1ng/mlのTNFαのみを加えたテストウェルをそれぞれ陽性対照群及びブランク対照群とした。上記の96ウェル平底マイクロタイタープレートを37℃且つ5%CO雰囲気で24h培養し続けた。そして、酵素結合免疫測定装置を用い、O.D.490/630nmで数値を読み取って測定した。TNFα抑制作用の計算式は下記の通りであった。
【0035】
【数1】
【0036】
細胞毒性
【0037】
まず、GEKG及びKTTKSをそれぞれ1×PBSで1mg GEKG/ml及び1mg KTTKS/mlに相当する濃度まで溶解させた。次に、1×PBS溶液でGEKG及びKTTKSを濃度500μg/ml、125μg/ml、31.25μg/ml及7.81μg/mlとなるまでそれぞれ希釈した。続いて、この4種類の希釈溶液を50μlずつ取り、上記のL929細胞を24時間培養した96ウェル平底マイクロタイタープレートに加えるとともに、培養液中のActDの終濃度を2μg/mlに調整した。そして、上記の96ウェル平底マイクロタイタープレートを37℃且つ5%CO雰囲気で24h培養し続けた。その後、50μlの2,3-ビス(2-メトキシ-4-ニトロ-5-スルホフェニル)-5-[(フェニルアミノ)カルボニル]-2H-水酸化テトラゾリウム(XTT)を各ウェルに加えて4時間培養した。そして、酵素結合免疫測定装置を用い、O.D.490/630nmで数値を読み取って測定した。細胞毒性の計算式は下記の通りであった。
【0038】
【数2】
【0039】
結果
【0040】
表1は、KTTKSの希釈倍数別のL929細胞についての分析結果を示している。KTTKSのTNFα抑制率は179.4%であった。これより、図1のように、KTTKSは優れたTNFα抑制作用を発揮し、且つ細胞毒性を有さないことが示された。
【0041】
【表1】
【0042】
表2は、GEKGの希釈倍数別のL929細胞についての分析結果を示している。GEKGのTNFα抑制率は182.3%であった。これより、図2のように、GEKGは優れたTNFα抑制作用を発揮し、且つ細胞毒性を有さないことが示された。
【0043】
【表2】
【0044】
実施例2:炎症反応誘導物質(LPS)により誘導生成される一酸化窒素(NO)(マクロファージ実験モデル)を生体外で抑制することでGEKG及びKTTKSのNOフリーラジカル捕捉能力(抗炎症作用)を評価
【0045】
既知の炎症反応誘導物質(LPS)でマクロファージのNO生成を誘導する実験モデルにより、生体外でGEKG及びKTTKSの抗炎症能力を評価した。
【0046】
KTTKS及びGEKGの実験結果を図3及び図4にそれぞれ示す。これより、KTTKS及びGEKGについて、いずれもLPSに起因するNO生成を抑制可能であること(即ち、抗炎症作用)が実証されたほか、薬物用量依存性(dose-dependent)関係が存在することが示された。
【0047】
実施例3:生体外において炎症反応誘導物質(LPS)により誘導生成される過酸化水素(H)(マクロファージ実験モデル)からGEKG及びKTTKSのH捕捉能力(抗炎症型酸化ストレス作用)を評価
【0048】
既知の炎症反応誘導物質(LPS)でマクロファージのH生成を誘導する実験モデルにより、生体外でGEKG及びKTTKSの抗炎症型酸化ストレス能力を評価した。
【0049】
細胞膜透過性を有するジクロロフルオレセイン二酢酸(dichlorofluorescin diacetate,DCFH-DA)を被検サンプルに加えた。DCFH-DAは、細胞に進入すると、細胞内のHに対し分解及び水素化反応(cleaved and oxidized)を生じ、緑色蛍光を有するDCF産物を形成した。これにより、波長488~530nmにおいて、ペプチドGEKG及びKTTKSがLPSにより誘導生成されるフリーラジカルHを抑制可能なことが検出された。また、ペプチド濃度の上昇に伴って、細胞がLPSの刺激を受けて放出するフリーラジカル(H)の濃度を明らかに低下させることができた。KTTKS及びGEKGの実験結果を図5に示す。これより、KTTKS及びGEKGについて、いずれもLPSに起因するH生成を抑制可能であること(即ち、抗炎症型酸化ストレス作用)が実証されたほか、薬物用量依存性関係が存在することが示された。
【0050】
実施例4:口腔上皮初期細胞の増殖促進評価
【0051】
図6は、異なる濃度のGEKG及びKTTKSが、生体外における口腔上皮初期細胞の増殖を促進可能なことを示すとともに、薬物用量依存性関係が存在することを示している。これより、GEKG及びKTTKSを口腔粘膜の傷口の癒合に適用可能なことが実証された。
【0052】
実施例5:抗フリーラジカル/炎症反応により誘導される口腔上皮初期細胞死の評価
【0053】
図7は、異なる濃度のGEKG及びKTTKSが、生体外で、Hのフリーラジカルに起因する口腔上皮細胞死を低減させ得ることを示すとともに、薬物用量依存性関係が存在することを示している。これより、GEKG及びKTTKSを口腔上皮細胞死の予防に適用可能であり、更には、口腔上皮細胞の保護、粘膜病変の防止、口腔癌の予防及び口腔潰瘍の治療を可能にすることが実証された。
【0054】
実施例6:ヒト歯肉線維芽細胞(HGF)の増殖及びI型コラーゲンの生成の促進評価
【0055】
図8Aは、異なる濃度のGEKG及びKTTKSが生体外のHGFの増殖に顕著な影響を及ぼさないことを示している。
【0056】
図8Bにおいて、RT-PCR産物のゲル電気泳動図は、GAPDH及びI型コラーゲンのDNAバンドがそれぞれ467bp及び409bpの位置に現れたことを示している。これは、GEKG及びKTTKSが、転写時にI型コラーゲン遺伝子の発現を刺激したことを示している。且つ、ヒト歯肉線維芽細胞においてI型コラーゲンの形成が認められた。また、当該I型コラーゲンの発現量とGEKG及びKTTKSの濃度には、0~40μlのときに用量依存性関係が存在していた。
【0057】
以上より、GEKG及びKTTKSが歯肉のI型コラーゲンを増殖させる作用は、ヒト歯肉線維芽細胞の数の増殖によるものではなく、ヒト歯肉線維芽細胞に対する刺激又は活性化によりI型コラーゲンの増殖が達成されることが実証された。
【0058】
実施例7:ヒト歯肉線維芽細胞(HGF)におけるTGF-β1の遺伝子発現促進評価
【0059】
TGF-β1は、歯肉線維芽細胞及び骨芽細胞の増殖を調整可能であるとともに、細胞外マトリックス(ECM)と、I型及びIII型コラーゲンの合成を促進することが知られている。
【0060】
生体外でのヒトHGFにおけるTGF-β1の遺伝子発現促進
【0061】
図9Aにおいて、RT-PCR産物のゲル電気泳動図は、GAPDH及びTGF-β1のDNAバンドがそれぞれ467bp及び161bpの位置に現れたことを示している。これは、GEKG及びKTTKSが、転写時にTGF-β1遺伝子の発現を刺激したことを示している。
【0062】
図9Bは、TGF-β1の発現量とGEKG及びKTTKSの濃度に用量依存性関係が存在することを示している。
【0063】
以上より、GEKG及びKTTKSが、ヒトHGFを刺激することでTGF-β1の発現を促進可能なことが実証された。
【0064】
TGF-β1によるヒトHGFにおける細胞外マトリックスの合成促進
【0065】
TGF-β1(0.5ng/ml又は5ng/ml)を単独で使用するか、KTTKS又はGEKG(50μM)と合わせて使用し、ヒトHGFを処理することで、KTTKS及びGEKGと、既知の細胞外マトリックス合成刺激因子であるTGF-β1とが、細胞外マトリックスの合成において相乗作用を有するか否かを確認した。
【0066】
0.2%血清を含有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)でヒトHGFを24時間前培養した。そして、3種類のTGFβ1濃度(0ng/ml、0.5ng/ml及び5ng/ml)で24時間処理するとともに、KTTKS又はGEKGが存在しない場合(実線)、或いは、50μM存在する場合(点線)で引き続き24時間培養した。
【0067】
図10は、KTTKS又はGEKGが存在しない場合(実線)、或いは、50μM存在する場合(点線)に合成されたコラーゲン量及びフィブリン量をそれぞれ示している。
【0068】
これより、TGFβ1とKTTKS及びGEKGが独立したメカニズムでECMの生合成を向上させ、且つ、KTTKS及びGEKGがヒトHGFにおけるECM合成を誘導する能力はTGFβ1を上回ることが実証された。また、別の可能なメカニズムとして、TGFβ1とKTTKS又はGEKGは連携してECMの生合成を増大させた。
【0069】
実施例8:KTTKS又はGEKGを含む歯肉修復液の調製及び歯肉成長における効果
【0070】
下記表3に記載する成分及び割合で歯肉修復液を調製した。
【0071】
【表3】
【0072】
脱イオン水を計量して乳化釜に入れ、当該乳化釜の温度を20℃に維持しつつ、計量したEDTA.2Na、安息香酸ナトリウム及びクエン酸を順に投入した。次に、攪拌器を起動して均一に溶解させてから、グリセロール及びソルビトールを順に投入して引き続き均一に攪拌した。そして、ペパーミントオイル及びPEG-40水添ヒマシ油を混合したあと当該乳化釜に投入し、均一に攪拌してから、最後にKTTKS及びGEKGを投入して均一に攪拌した。
【0073】
当該歯肉修復液の使用方式としては、毎日2回投与した。また、1回あたり約5~6mlを投与し、約10~15分間口に含ませてから吐き出させた。
【0074】
図11に示すように、治療前の歯Aの歯肉は明らかに退縮していたが、当該歯肉修復液の使用から1か月後には、当該歯Aの歯肉はそれ以上退縮することなく成長していた。また、当該歯肉修復液の使用から6か月後には、当該歯Aの歯肉は明らかに成長し、歯の隙間が縮小していた。
【0075】
これより、当該歯肉修復液が、退縮した歯肉の成長を刺激する機能を有することが実証された。
【0076】
以上より、本発明は、従来技術に存在する課題を有効に解決可能なだけでなく、効果を大幅に促進することも可能である。且つ、同じ技術分野において、同一又は類似の製品の創造又は公開・使用及び効果の促進は見られない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9A
図9B
図10
図11
【配列表】
2024537553000001.xml
【国際調査報告】