(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-11
(54)【発明の名称】高比表面積タングステン金属粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 9/22 20060101AFI20241004BHJP
B22F 1/05 20220101ALI20241004BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20241004BHJP
【FI】
B22F9/22 H
B22F1/05
B22F1/00 Q
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024519700
(86)(22)【出願日】2022-10-13
(85)【翻訳文提出日】2024-04-04
(86)【国際出願番号】 EP2022078517
(87)【国際公開番号】W WO2023062130
(87)【国際公開日】2023-04-20
(32)【優先日】2021-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】318010867
【氏名又は名称】ハー.ツェー.スタルク タングステン ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【住所又は居所原語表記】Nymphenburger Strase 84, 80335 Munchen GERMANY
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】セウベルリッヒ,ティーノ
(72)【発明者】
【氏名】エクスナー,ユルゲン
(72)【発明者】
【氏名】ワルネッケ,ナット
(72)【発明者】
【氏名】オエルマン,ハラルド
(72)【発明者】
【氏名】メーゼ-マルクトシエフエル,ユリアネ
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
【Fターム(参考)】
4K017AA03
4K017BA04
4K017CA07
4K017EH18
4K017FB03
4K017FB06
4K018BA09
4K018BB04
(57)【要約】
本発明は、8m2/g超のBET比表面積を有するタングステン金属粉末の製造方法、およびこの方法により得られるタングステン金属粉末に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
DIN ISO 9277に準拠したBET法によって決定される8m
2/g超の比表面積有するタングステン金属粉末を製造するための方法であって、粉末状のタングステン源は、水素流中で、最初に第1の加熱速度HR
1で第1の温度T
1まで加熱され、続いて第2の加熱速度HR
2で第2の温度T
2まで加熱され、ここで、T
1<T
2かつHR
1>HR
2であり、プロセス排ガスの露点温度τが+10℃を超えないことを特徴とする、方法。
【請求項2】
T
1は400から500℃、好ましくは430~460℃であり、および/または加熱速度HR
1は<10K/分、好ましくは<5K/分であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
T
2は500~650℃、好ましくは550~590℃であり、および/または加熱速度HR
2は<2K/分、好ましくは1~1.7K/分、より好ましくは1.5K/分であることを特徴とする、前記請求項の少なくとも1項に記載の方法。
【請求項4】
前記プロセス排気ガスの露点温度τが、-40℃<τ<+10℃を満たすことを特徴とする、前記請求項の少なくとも1項に記載の方法。
【請求項5】
前記水素流が350℃~650℃の温度に予熱されることを特徴とする、前記請求項の少なくとも1項に記載の方法。
【請求項6】
使用される水素が、-20℃未満、好ましくは-40℃未満の露点温度τを有することを特徴とする、前記請求項の少なくとも1項に記載の方法。
【請求項7】
前記方法は、加熱された反応空間内で行われ、前記反応空間の温度は900℃以下、好ましくは550~700℃であることを特徴とする、前記請求項の少なくとも1項に記載の方法。
【請求項8】
前記水素流を不活性ガス流で一時的に置き換えることを特徴とする、前記請求項の少なくとも1項に記載の方法。
【請求項9】
前記水素流が60~600、好ましくは75~300のレイノルズ数Re(H
2)を有することを特徴とする、前記請求項の少なくとも1項に記載の方法。
【請求項10】
前記方法は、前記タングステン金属粉末を不動態化する別の工程を含むことを特徴とする、前記請求項の少なくとも1項に記載の方法。
【請求項11】
前記方法は、ガス透過性の底部を有する反応容器を用いて実施されることを特徴とする、前記請求項の少なくとも1項に記載の方法。
【請求項12】
レーザー回折法によって決定される10μm~1000μmの粒径、およびDIN ISO 9277に準拠したBET法によって決定される8m
2/g超の比表面積有するタングステン金属粉末であって、
前記タングステン金属粉末は、キャリアガス熱抽出によって決定される900~1500ppm/m
2/gの酸素含有量を有することを特徴とする、タングステン金属粉末。
【請求項13】
前記タングステン金属粉末は、請求項1乃至10の少なくとも1項に記載の方法によって得られるか、または調製されていることを特徴とする、請求項12に記載のタングステン金属粉末。
【請求項14】
前記タングステン金属粉末は、キャリアガス熱抽出によって決定される950~1050ppm/m
2/gの酸素含有量を有することを特徴とする、前記請求項の少なくとも1項に記載のタングステン金属粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、8m2/g超のBET比表面積を有するタングステン金属粉末の製造方法、およびそのような方法により得られるタングステン金属粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
金属タングステンは、主に超硬合金用のタングステンカーバイドの調製、または重金属用途の金属粉末として使用されてきた。この目的のためには、ゆるく凝集したタングステン金属粉末が好ましく、これは通常、0.01~6m2/gの範囲内の非常に低い比表面積~低い比表面積を有する。例えば、触媒反応における触媒担体として、或いはさらなる合成のための出発材料としてのタングステン金属粉末の新たな応用分野を開拓するには、従来の入手可能なものよりも大きな比表面積を有するタングステン金属粉末が必要とされている。
【0003】
上記の観点から、EP 2 933 040には、タングステン微粉末の調製方法が記載されており、この方法では、まず、粉末を比較的小さい平均粒径を有する画分と比較的粗い平均粒径を有する画分とに分級し、比較的粗い平均粒径を有する画分を、粒子表面に酸化皮膜を形成するための酸化処理に付し、その後、アルカリ水溶液を用いて、酸化処理で形成された酸化皮膜を除去し、微粉末に自然酸化皮膜を形成するためのアルカリ処理を行う。5~15m2/gのBET比表面積を持つタングステン金属粉末は、この方法で入手できると考えられる。この方法には、より入手しやすく安価な酸化タングステンではなく、金属タングステンを出発材料として用いるという欠点がある。
【0004】
RU 2 558 691は、タングステンのアルカリ塩が還元剤としてマグネシウムまたはカルシウムと共に0.95Tmelt≦T≦0.85Tboilの範囲内の温度Tに加熱される、金属タングステンの調製方法を開示しており、ここでTmeltとTboilは、それぞれ還元剤の融点と沸点を示す。冷却後、反応物は、酸性浸出と洗浄工程にかけられる。この方法によって、タングステン金属粉末の比表面積は最大21.1m2/gまで増加するとされている。しかしながら、この文献には、酸性浸出中に得られるタングステン金属粉末の酸化をどのように防止するかは明記されていない。
【0005】
DE 1 245 601は、周期律表第IIIb族、第IVa族、第Va族、第VIa族、第VIIa族、または第VIII族の金属の揮発性フッ化物から金属粉末を製造するプロセスに関し、このプロセスでは、一方ではフッ素、他方では化学量論的に過剰の水素の2つの別個のガス流が、ノズルとそれを同心円状に取り囲むリングノズルを通過して反応空間に導入され、ここで少なくとも一方のガス流が、選択された金属フッ化物のキャリアガスとして機能し、次いで水素とフッ素が点火されて水素-フッ素炎が形成され、さらに炎の中で形成された粉体が回収され、続いて残留ガスが反応ゾーンから排出される。こうして得られた粉末の比表面積は8~14m2/gと言われている。しかしながら、このプロセスでは、タングステン元素はガス状化合物として存在しなければならず、毒性が高いため取り扱いが難しい。
【0006】
US 2016/0322169には、0.5質量%のゲルマニウム、0.3質量%の酸素、300ppmの炭素、100ppmのリン、および350ppm以下のその他の汚染物質を含む、平均粒径180μm、比表面積8.8m2/gのタングステン金属顆粒が記載されている。
【0007】
Y. Wangらは、High Temperature Materials and Processes 2021; 40: 171-177に掲載された論文「水素を介した酸化タングステンから超微細タングステン粉末への還元プロセスの進化」の中で、WO2.9からWへの還元の分析について述べており、ここでは検討した条件下で9m2/gのBET比表面積を有するタングステン金属が得られた。
【0008】
CN 100357050は、H2の存在下でWO3を還元するための炉を開示しており、この炉でBET比表面積19~23m2/g、平均SAXS粒径30~35.5nmの金属タングステンを調製することができる。
【0009】
CN 109014231、US 2003/0121365、CN 106623960は、タングステン金属粉末を調製するための多段還元プロセスを記載している。
【0010】
実用的な研究によると、6m2/g超の高い比表面積を持つタングステン金属粉末は、ロータリーキルンやプッシュ炉のような、タングステン金属製造のための古典的な大規模工業生産炉で調製することは困難であるか、全くできないことが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】欧州特許出願公開第2933040号明細書
【特許文献2】ロシア国特許出願公開第2558691号明細書
【特許文献3】独国特許出願公開第1245601号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2016/0322169号明細書
【特許文献5】中国特許出願公開第100357050号明細書
【特許文献6】中国特許出願公開第109014231号明細書
【特許文献7】米国特許出願公開第2003/0121365号明細書
【特許文献8】中国特許出願公開第106623960号明細書
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Y. Wang et al.,High Temperature Materials and Processes 2021;40:171-177
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、本発明の目的は、工業的に大規模に実施可能な、大きな比表面積を有するタングステン金属粉末の製造プロセスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
驚くべきことに、この目的は、望ましくない副反応が抑制され、大きな比表面積を有するタングステン金属粉末が形成される特定の反応条件によって達成されることが見出された。さらに、生成された粒子は、採用された酸化物と同じ形態、特に形、サイズ、形状を有する。これにより、製造された金属粉末を後の用途に選択的に影響させることが可能になる。例えば、立方体、菱形、直方体、針状体、楕円体、球形などの異なる形状が可能である。また、粒径もさまざまで、粒度分布が狭いものから広いものまである。また、粒子の癖(habitus)や比表面積を個別に調整することも可能で、これにはさらなる利点がある。
【0015】
したがって、本発明は、まず、DIN ISO 9277に従ったBET法によって決定される8m2/g超の比表面積を有するタングステン金属粉末を製造するための方法に関し、この方法において、粉末状のタングステン源は、水素流中で、最初に第1の加熱速度HR1で第1の温度T1まで加熱され、続いて第2の加熱速度HR2で第2の温度T2まで加熱され、ここで、T1<T2およびHR1>HR2であり、プロセス排ガスの露点温度τは+10℃を超えない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】比表面積が20m
2/g以上の本発明によるタングステン金属粉末のFESEM顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明でいう「露点温度」とは、プロセス排ガスに含まれる水分が露、ミスト、または氷の結晶の形で析出するために、一定の圧力で実際の温度がそれ以下にならねばならない温度のことである。水分が多いほど露点温度は高くなる。したがって、露点温度は水蒸気分圧の尺度であり、冷却鏡露点湿度計で直接測定することも、他の湿度測定法で間接的に測定することもできる。露点温度を測定するための商業的な代替測定方法としては、例えば、露点計、静電容量式プローブ、またはレーザー測定装置を使用する方法がある。
【0018】
金属タングステンの工業生産は、通常、その酸化物を還元することによって達成される。還元中に進行する典型的な反応は、採用される炉の種類によって異なるが、一般的な形でまとめると以下のようになる:
(1)WO3→W24O68→W18O49→WO2→W
(2)WO3→W24O68→WO2→W,
ここで、還元条件によっては、W:Oのモル比が1:3未満であることを特徴とする異なる亜酸化物も形成され得る。
【0019】
本発明の範囲内において、驚くべきことに、大きな比表面積を有するタングステン金属粉末を形成するためには、中間相としてのWO2の形成を抑制することが有利であることが見出された。さらに、特にタングステンの高次酸化物の直接変換は、高い比表面積を有する所望の金属粉末をもたらすことが判明している。
【0020】
したがって、前記粉末状タングステン源が、パラタングステン酸アンモニウム、メタタングステン酸アンモニウム、タングステン酸、WO3、および2<x<3のWOxからなる群から選択される実施形態が好ましい。より好ましくは、前記粉末状タングステン源は、WO3、または2<x<3のWOxである。
【0021】
本発明の範囲内で、さらに驚くべきことに、特に還元反応における適切な温度制御によって、中間体としての望ましくないWO2の生成を抑制できることが見出された。異なる加熱速度でそれぞれの温度に到達させる2段階のプロセス制御が特に有利であることが証明されている。したがって、好ましい実施形態では、第1の温度は、T1が400~500℃、好ましくは430~460℃となるように選択される。好ましくは、この温度は、10K/分未満、好ましくは5K/分未満の加熱速度HR1によって到達される。
【0022】
さらに、還元反応生成物として発生する水蒸気を連続的に除去することが有利であることが証明されている。特に、プロセス排ガス中の特定の露点温度を超えず、特に第2温度に到達するために非常に低い加熱速度を使用した場合に、効果的な排出が達成された。したがって、第2の温度T2は、T2が500~650℃、好ましくは550~590℃となるように選択される実施形態が好ましい。好ましくは、この温度T2は、2K/分未満、好ましくは1~1.7K/分未満の加熱速度HR2によって到達される。
【0023】
本発明によるプロセスは、プロセス排ガスの露点温度τが+10℃を超えないように制御される。好ましい実施形態では、露点温度τは0℃未満、または0℃に等しい。さらに好ましい実施形態では、露点温度τは-5℃以下である。このような条件下では、特に微細な粉末が得られる。好ましくは、本発明によるプロセスは、プロセス排ガスの露点温度τが-40℃<τ<+10℃を満たすことを特徴とする。露点温度は、上記のように決定することができ、例えば、反応温度、水素流量、または、一般的な反応速度、水素流量中の不活性ガスの割合、或いはプロセス空間内の材料の量といった他のプロセスパラメーターによって制御することができる。
【0024】
特に均質な生成物を得るためには、水素流に使用する水素が、反応空間に導入される前にすでに低い露点温度を有していれば有利であることが証明されている。したがって、供給されたばかりの水素は、好ましくは露点温度τが0℃未満、より好ましくは-40℃未満である。さらに好ましいのは、前記水素流が350~600℃の温度に予熱される、本発明によるプロセスの実施形態である。
【0025】
好ましい実施形態において、本発明は、DIN ISO 9277に従ったBET法によって決定される8m2/g超の比表面積と、レーザー回折法によって決定される10~1000μmの粒径とを有するタングステン金属粉末を製造するための方法に関し、粉末状のタングステン源は、水素流中で、最初に第1の加熱速度HR1で第1の温度T1に加熱され、続いて第2の加熱速度HR2で第2の温度T2に加熱され、ここで、T1<T2およびHR1>HR2であり、T1が400~500℃の温度であり、T2が500~650℃の温度であり、HR1が10K/分であり、HR2>2K/分であり、プロセスガスの露点温度τが+10℃を超えない。
【0026】
高級酸化物への直接転換を促進するには、粉末状のタングステン源をプロセス空間に導入し、それと一緒に加熱すると有利であることが証明されている。したがって、粉末状のタングステン源をプロセス空間に導入し、そこで加熱する実施形態が好ましい。場合によっては、還元中に反応条件を変えて、生成物の均一性をさらに高めることが有利であることが証明されている。したがって、例えば、水素流を一時的に不活性ガス流、例えばアルゴン流や窒素流に置き換えることができる。このように、不活性ガス流を導入することによって反応が停止すると考えられる場合、生成物の微細度は驚くほど向上する。新鮮な乾燥水素を再び反応空間に導入すると、核生成シャワー(nucleation shower)が発生し、生成物の微細化が進むと考えられる。したがって、本発明によるプロセスの好ましい実施形態は、水素流が不活性ガス流によって一時的に置き換えられることを特徴とし、前記不活性ガスは、好ましくはアルゴンまたは窒素である。
【0027】
したがって、好ましい実施形態において、本発明によるプロセスは、以下の工程を含む:
a)粉末状のタングステン源を提供すること;
b)前記粉末状のタングステン源を、水素流中で第1の加熱速度HR1で第1の温度T1に加熱すること;
c)水素流中で加熱速度HR2で第2の温度T2まで加熱すること;
d)水素流を不活性ガス流、好ましくは窒素流に置き換えること;
e)不活性ガス流を水素流に置き換えること;
f)任意にステップd)およびe)を繰り返して、タングステン金属粉末を得ること;
g)前記タングステン金属粉末を不動態化すること、
ここで、T1<T2およびHR1>HR2であり、プロセス排ガスの露点温度τが+10℃を超えない。
【0028】
本発明によるプロセスは、好ましくは乾燥条件下、すなわち低(ガス)湿度下で実施される。還元剤として機能する水素流は、十分に高い流量を選択する限り、プロセス排ガス、特に水蒸気の排出をサポートできることも判明した。したがって、ガス流のレイノルズ数Reが60~600、好ましくは75~300である実施形態が好ましい。このようにして、粉状物質が反応容器から吹き出され、プロセス空間の外に運び出されることが防止される。
【0029】
管内の流れを無次元で表現するためのレイノルズ数Reは、体積流量を考慮して、以下の式に従って求めることができる。気体の材料特性は、温度20℃、絶対圧1013mbarを基準としている。
【数1】
ここで、
V=体積流量[m
3/s]
ρ=気体の密度[kg/m
3]
η=ガスの動的粘度[μPa*s]
d=反応空間の直径[m]
【0030】
本発明によるプロセスで製造されたタングステン金属粉末の比表面積が大きいため、生成物が反応空間を出た後に、粉末の表面上で酸素および水分の吸着が起こる。このプロセスは発熱するため、特に粉末の量が多い場合、自己発火につながる可能性がある。これを避けるには、還元処理の直後に、粉末を不動態化処理する必要がある。したがって、好ましい実施形態では、本発明によるプロセスは、タングステン金属粉末を不動態化する工程をさらに含む。より好ましくは、このような不動態化は段階的に行われ、前記タングステン金属粉末は、例えば、空気と不活性キャリアガス、好ましくは窒素との混合物で処理することができ、水蒸気の形態の水分が任意に混合物にさらに混入してもよい。このように生成されたガス混合物は、生成されたタングステン金属粉末が取り除かれる前に、室温でプロセス空間を通過することが好ましい。混合物中の大気中の酸素および/または水分の割合は、周囲空気の典型的な組成に一致するまでゆっくりと増加させることができる。この状態に達すると、タングステン金属粉末は不動態化され、プロセス空間から安全に取り除くことができる。
【0031】
本発明によるタングステン金属粉末の大きな比表面積は、特に、できるだけ乾燥した雰囲気で還元を行うことによって達成される。粉末状のタングステン源を受け入れるための特定の反応容器を用いて還元を行い、その容器を通してバルク粉末からのガス状反応生成物、現在の水蒸気の排出を改善することができる場合、比表面積をさらに増加させることができることが見出されている。したがって、本発明によるプロセスは、好ましくは、タングステン金属粉末の製造のために、粉末、特に粉末状のタングステン源を受け入れるための反応容器内で行われ、前記反応容器はガス透過性の底部を有する。好ましくは、反応容器の前記ガス透過性の底部は、メッシュ生地の形態であるか、または焼結多孔質材料などのような透過性プレートの形態であり、好ましくは25μm~5mmのメッシュサイズを有する。本発明によるプロセスがガス透過性の底部を有する反応容器内で行われる場合、ガス状の反応生成物が上方だけでなく下方にも逃げることができるため、反応物質内の拡散プロセスがより速く進行することができる。これにより、放電に利用できる交換表面積は2倍になる。好ましくは、これらのガス状成分は、水蒸気、CO2、アルゴン、ガス状炭化水素、CO、Cl、NOx、SO2からなる群から選択される。
【0032】
本発明はさらに、大きな比表面積を有するタングステン金属粉末に関する。したがって、本発明はさらに、DIN ISO 9277に準拠したBET法によって決定される8m2/g超の比表面積を有するタングステン金属粉末に関し、前記タングステン金属粉末は、レーザー回折によって決定される10μm~1000μmの粒径を有する。特に好ましい実施形態では、前記タングステン金属粉末は、DIN ISO 9277に準拠したBET法によって決定される15m2/g超、好ましくは20~40m2/gの比表面積を有する。さらに好ましいのは、本発明によるタングステン金属粉末が、レーザー回折法によって決定される30~300μmの粒径を有する実施形態である。
【0033】
好ましくは、本発明によるタングステン金属は、本発明によるプロセスによって得られるか、または調製されている。
【0034】
タングステン金属粉末は、その表面に自然に吸着された酸素の層を有する。吸着される酸素の量は、周囲条件に加えて、本質的に、大気と接触可能な粉末表面の割合に依存し、大気中で取り扱われる大きな比表面積を持つ粉末では、それに応じて残留酸素量が多くなる予想される。驚くべきことに、本発明による粉末は、比表面積が大きいにもかかわらず、酸素含有量が比較的低い。したがって、本発明によるタングステン金属粉末は、キャリアガス熱抽出法(LECO法)により決定される、900~1500ppm/m2/g、好ましくは950~1050ppm/m2/gの酸素含有量を特徴とする。
【0035】
特に、本発明によるタングステン金属粉末は、特に本発明によるプロセスの結果であるその構造によって特徴付けられる。本発明によるタングステン金属粉末は、結晶子からなる多孔質粒子の形態であることが好ましい。形成されたタングステン金属一次結晶の結晶子サイズは、X線回折法(シェラー法)により決定することができる。好ましくは、BET比表面積が大きくなるにつれて結晶子サイズが小さくなる。
【0036】
本発明は、以下の実施例によってさらに説明されるが、これらは決して本発明の思想を限定するものとして理解されるべきではない。
【実施例】
【0037】
実施例:
ガス透過性の底部を有する反応容器を用いて、本発明によるプロセスにより以下の粉末を調製した。
【0038】
1.実施例1
本発明による反応容器に、DIN ISO 9277に準拠したBET法で測定した比表面積が0.7m2/gのWO3を充填し、反応空間に配置した。反応温度は570℃に設定し、加熱速度は450℃までは10K/分、それ以降は1.5K/分に減速した。導入された水素流の体積流量は、周囲条件(絶対圧1013mbar、温度20℃)に基づいて、レイノルズ数Re(H2)が109となるようにフィードバック制御により制御され、水素の露点温度は-40℃未満であった。プロセス排ガスの露点温度は+5℃に調節された。40時間後、反応は停止され、プロセス排ガスの露点温度は-35℃に下がった。材料が反応空間から取り出される前に、不動態化のためにタングステン金属粉末は以下の混合ガスに混合された:
1.800L/hの窒素と200L/hの空気で30分間
2.600L/hの窒素と400L/hの空気で30分間
3.400L/hの窒素と600L/hの空気で30分間
4.200L/hの窒素と800L/hの空気で30分間
5.空気1000L/hで30分間
【0039】
反応終了後、反応容器内の各部位からサンプル(1a、1b、1c)を採取し、比表面積を測定した。DIN ISO 9277に準拠したBET法で測定されたタングステン金属粉末の比表面積を表1にまとめた。
【表1】
【0040】
表1からわかるように、本発明によるプロセスは、高い比表面積を有する粉末を確実に得る。
【0041】
2.実施例2
ガス透過性の底部を有する反応容器に、DIN ISO 9277に準拠したBET法で測定した比表面積が0.7m2/gのWO3を充填し、反応空間に配置した。反応温度は570℃とし、加熱速度は450℃までは10K/分、それ以降は1.5K/分に減速した。導入された水素流の体積流量は、レイノルズ数Re(H2)が109であり、水素の露点温度は-40℃未満であった。しばらくして、水素流はRe数313の窒素流に置き換えられた。Re数値の計算は、以下の値に基づいている:
窒素の場合
ρ(N2)=1.25kg/m3
η(N2)=16.6μPa・s
水素の場合
ρ(H2)=0.089kg/m3
η(H2)=8.4μPa・s
【0042】
30分後、Re(H2)数109で水素流を再開した。このプロセスを数回繰り返し、水素流を再開すると露点温度の急上昇が起こった。プロセス排ガスの露点温度は+5℃に調節された。40時間後、反応は停止され、プロセス排ガスの露点温度は-35℃に下がった。材料が反応空間から取り出される前に、不動態化のためにタングステン金属粉末は以下の混合ガスに混合された:
1.800L/hの窒素と200L/hの空気で30分間
2.600L/hの窒素と400L/hの空気で30分間
3.400L/hの窒素と600L/hの空気で30分間
4.200L/hの窒素と800L/hの空気で30分間
5.空気1000L/hで30分間
【0043】
反応終了後、反応容器内の各部位からサンプル(2a、2b、2c)を採取し、比表面積を測定した。DIN ISO 9277に準拠したBET法で測定されたタングステン金属粉末の比表面積を表2にまとめた。
【表2】
【0044】
表2からわかるように、ガス流量を変えることによって、製品の均質性をさらに高めることができる。
【0045】
すべてのサンプルの粒子径は本発明による範囲内であった。
【0046】
図1は、比表面積が20m
2/g以上の本発明によるタングステン金属粉末のFESEM顕微鏡写真である。観察できるのは、<100nmのオーダーの大きさの構造である。
【0047】
提供されたデータからわかるように、本発明によるプロセスにより、さらなる用途に使用することができる大きな比表面積を有するタングステン金属粉末を簡単かつ効率的に製造することができる。
【国際調査報告】