(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-11
(54)【発明の名称】既存の免疫を有する個人において細胞応答を生成するためのCOVID-19に対する組換えワクチン
(51)【国際特許分類】
A61K 39/215 20060101AFI20241004BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20241004BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20241004BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20241004BHJP
C12N 15/86 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
A61K39/215 ZNA
A61P37/04
A61P31/14
C12N7/01
C12N15/86 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024541289
(86)(22)【出願日】2022-09-20
(85)【翻訳文提出日】2024-04-15
(86)【国際出願番号】 IB2022058886
(87)【国際公開番号】W WO2023042181
(87)【国際公開日】2023-03-23
(31)【優先権主張番号】MX/A/2021/011439
(32)【優先日】2021-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】MX
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524106222
【氏名又は名称】ラボラトリオ アヴィ-メックス,エセ.ア.デ セ.ベ.
(71)【出願人】
【識別番号】524106233
【氏名又は名称】コンセホ ナショナル デ ウーマニダデス,シエンシアス イ テクノロヒアス
(71)【出願人】
【識別番号】509059941
【氏名又は名称】アイカーン・スクール・オブ・メディシン・アット・マウント・サイナイ
【氏名又は名称原語表記】ICAHN SCHOOL OF MEDICINE AT MOUNT SINAI
【住所又は居所原語表記】One Gustave L.Levy Place,New York,NY 10029 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】ロサノ デュベルナール、ベルナルド
(72)【発明者】
【氏名】ソト プリアンテ、エルネスト
(72)【発明者】
【氏名】サルファティ ミズラヒ、デビッド
(72)【発明者】
【氏名】チャゴヤ コルテス、エクトル エリアス
(72)【発明者】
【氏名】ロペス マシアス、コンスタンティーノ 3世 ロベルト
(72)【発明者】
【氏名】パレーゼ、ピーター
(72)【発明者】
【氏名】ガルシア サストレ、アドルフォ
(72)【発明者】
【氏名】クラマー、フロリアン
(72)【発明者】
【氏名】サン、ワイナ
(72)【発明者】
【氏名】トーレス ロハス、マーサ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C085
【Fターム(参考)】
4B065AA95X
4B065AA95Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065CA24
4B065CA45
4C085AA03
4C085BA59
4C085BA71
4C085CC08
4C085DD62
4C085EE01
4C085GG03
4C085GG10
(57)【要約】
以前の免疫を有する個人において、SARS-CoV-2ウイルスのSタンパク質又はそれから由来するタンパク質で刺激されたときに、T細胞(CD4+又はCD8+)において有意な細胞応答を生成する能力を有する、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の外因性ヌクレオチド配列を挿入した活性ニューカッスル病ウイルスベクター(NDV)を、アジュバントなしで含む、組換えワクチンが記載されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の抗原部位をコードする外因性ヌクレオチド配列を挿入した活性ニューカッスル病ウイルスと、薬学的に許容されるビヒクル及び/又は賦形剤と、をアジュバントなしで含み、SARS-CoV-2ウイルスに対する以前の免疫を有する個人において、インターフェロンγ産生T細胞の割合及び中和抗体力価を増加させるように適合された、COVID-19に対するワクチン。
【請求項2】
前記ワクチンが鼻腔内経路又は筋肉内経路による適用のために製剤化されていることをさらに特徴とする、請求項1に記載のCOVID-19に対するワクチン。
【請求項3】
前記ワクチンが前記鼻腔内経路による適用のために製剤化されていることをさらに特徴とする、請求項2に記載のCOVID-19に対するワクチン。
【請求項4】
前記ワクチンが前記筋肉内経路による適用のために製剤化されていることをさらに特徴とする、請求項3に記載のCOVID-19に対するワクチン。
【請求項5】
個人の前記免疫が、ワクチン接種、又は前記SARS-CoV-2ウイルスによって引き起こされるCOVID-19疾患によって取得されたことをさらに特徴とする、請求項1に記載のCOVID-19に対するワクチン。
【請求項6】
個人の前記免疫が、mRNA、ウイルスベクター又は不活化SARS-CoV-2ウイルスワクチンのワクチン接種によって取得されたことをさらに特徴とする、請求項5に記載のCOVID-19に対するワクチン。
【請求項7】
個人の前記免疫が、その重症度にかかわらず、前記SARS-CoV-2ウイルスによって引き起こされるCOVID-19疾患によって取得されたことをさらに特徴とする、請求項6に記載のCOVID-19に対するワクチン。
【請求項8】
CEID
50%によって測定された少なくとも1×10
8.0のウイルス粒子を含むことを特徴とする、請求項1に記載のCOVID-19に対するワクチン。
【請求項9】
S2サブユニットに少なくとも2つのプロリン置換を包含することによって、その融合前の形態で安定化されたSARS-CoV-2のスパイクS糖タンパク質の2つのサブユニットS1及びS2をコードする配列と少なくとも80%の同一性を有するSタンパク質の配列に、外因性遺伝子が対応することをさらに特徴とする、請求項1に記載のCOVID-19に対するワクチン。
【請求項10】
前記配列が、配列番号1のアミノ酸配列に翻訳される任意の配列と少なくとも80%の同一性を有することをさらに特徴とする、請求項9に記載のCOVID-19に対するワクチン。
【請求項11】
以前の免疫を有する個人において、インターフェロンγ産生T細胞の割合及び中和抗体力価を増加させるために使用される、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の抗原部位をコードする外因性ヌクレオチド配列を含む組換え活性ニューカッスル病ウイルス。
【請求項12】
S2サブユニットに少なくとも2つのプロリン置換を包含することによって、その融合前の形態で安定化されたSARS-CoV-2のスパイクS糖タンパク質の2つのサブユニットS1及びS2をコードする配列と少なくとも80%の同一性を有するSタンパク質の配列に、外因性遺伝子が対応することをさらに特徴とする、請求項11に記載の組換え活性ニューカッスル病ウイルス。
【請求項13】
前記配列が、配列番号1のアミノ酸配列に翻訳される任意の配列と少なくとも80%の同一性を有することをさらに特徴とする、請求項12に記載の活性組換えニューカッスル病ウイルス。
【請求項14】
以前の免疫を有する個人において、インターフェロンγ産生T細胞の割合及び中和抗体力価を増加させるワクチンの製造のための、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の抗原部位をコードする外因性ヌクレオチド配列を含む組換え活性ニューカッスル病ウイルスの使用。
【請求項15】
前記ワクチンを製造するために、CEID
50%によって測定された少なくとも1×10
8.0のウイルス粒子が使用される、請求項14に記載の組換え活性ウイルスの使用。
【請求項16】
S2サブユニットに少なくとも2つのプロリン置換を包含することによって、その融合前の形態で安定化されたSARS-CoV-2のスパイクS糖タンパク質の2つのサブユニットS1及びS2をコードする配列と少なくとも80%の同一性を有するSタンパク質の配列に、外因性遺伝子が対応する、請求項14に記載の組換え活性ウイルスの使用。
【請求項17】
前記配列が、配列番号1のアミノ酸配列に翻訳される任意の配列と少なくとも80%の同一性を有する、請求項16に記載の組換え活性ウイルスの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019、COVID-19)の予防及び制御に使用される技術に関し、より具体的には、既存の免疫を有する患者において増加した細胞応答を生成するのに有用な、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に対する抗原活性を有するタンパク質をコードする外因性ヌクレオチド配列を挿入した組換えウイルスベクターワクチンに関する。
【背景技術】
【0002】
コロナウイルス(CoV)は、感冒並びに、中東呼吸器症候群(MERS-CoV)及び重症急性呼吸器症候群(SARS-CoV)などの重篤な疾患を引き起こすウイルスファミリーである。重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)は、2019年12月に中国武漢で始まった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)大流行の病原体である。2020年3月11日、世界保健機関(WHO)はCOVID-19をパンデミックと宣言した。
【0003】
COVID-19に対するワクチン選択肢の前例のない開発により、すでに入手可能であり、世界中のいくつかの国で緊急承認されている異なった代替策がもたらされている。しかしながら、パンデミックの現在の状態を考慮すると、ワクチンを受けた人々において強固な細胞応答を生成する能力は未だ不明である。ウイルスに感染したが、疾患に対して無症状であった人、又はワクチン接種はしたが、十分な抗体を産生しなかったか、もしくは抗体を産生したが、経時的に減少した人が多数いる。
【0004】
例えば、世界中で最も広く研究され、使用されているワクチンは、SARS-CoV-2ウイルスのS(スパイク)タンパク質を使用するmRNA技術に基づくものである。Goldbergら(2021 - Waning immunity of the BNT162b2 vaccine: A nationwide study from Israel)によって報告された通り、実証されたSARS-CoV-2及び重度のCOVID-19感染の割合は、ワクチンの2回目の投与からの時間と共に統計的に有意な増加を示し、2か月前にワクチン接種した人と比較して、BNT162b2ワクチンの2回投与でワクチン接種した人では1.6~1.7倍のより大きな防御が見出された。
【0005】
上記は、中和抗体を生成する能力にかかわらず、液性応答が時間とともに低下したときでさえも、個人がウイルス感染に効率的に反応することを可能にする有意な細胞応答を生成することができる産物を有することの重要性について警告している。同じmRNA技術に関して、Sahinらによる、異なる用量でのBNT162b1ワクチンの液性応答及び細胞応答についての報告(Nature, 2020 - COVID-19 vaccine BNT162b1 elicits human antibody and TH1 T cell responses)は、ワクチンが認可された用量(30μg)において、インターフェロンγ産生CD8+細胞の割合は1%未満(平均0.22%)であり、安全性第I相試験に関して試験されなかった高用量(50μg)でさえも、平均1.44が得られたことを示す(Mulligan et. al. BNT162b1(Nature, 2020 - “Phase I/II study of COVID-19 RNA vaccine BNT162b1 in adults”)。細胞応答は、少なくとも14日前にCOVID-19を経験し、疾患の症状がもうなかったドナーの応答よりも有意に高く、これは、0.02%超の平均応答には達せず、同じタイプのインターフェロンγ産生CD8+細胞のいずれの場合においても0.1%に達しなかったことに留意されたい。
【0006】
アデノウイルスベースのワクチンの場合も同様である。Zhuら(The Lancet, 2020 - “Safety, tolerability, and immunogenicity of a recombinant adenovirus type-5 vectored COVID-19 vaccine: a dose-escalation, open-label, non-randomised, first-in-human trial”)によって報告された通り、ワクチン接種後28日目に、インターフェロンγ産生CD8+細胞の検出割合は1%に達せず(100)、これは細胞応答において有意であるがmRNAワクチンよりも低い性能を示す。
【0007】
加えて、SARS-CoV-2ウイルスの異なるバリアントの特定により、世界保健機関は、それらの一部を懸念されるバリアントとして特定し、それらはより大きな感染力、より重篤な疾患(例えば、より多くの入院又は死亡)、以前の感染の間に生成されたもしくはワクチン接種によって生成された抗体による中和の顕著な減少、治療もしくはワクチンの有効性の低下、又は検出もしくは診断の困難さのエビデンスがあるものとして理解された。これに関して、堅牢な細胞応答は、同じ変異を有さず、結果として感染の進行を防止するSARS-CoV-2 Sタンパク質の他のエピトープを識別する抗体の産生につながる応答を生じさせる可能性のおかげで、バリアントに対処し得ることが予想される。
【0008】
結果として、先行技術のワクチンが提示し得る短期的な液性応答にかかわらず、長期保護を促進する有意な細胞応答を提供することができ、加えて、その安全性が証明されている用量において、COVID-19に以前に罹患して、無症状であった、又は任意のmRNA、組換えベクターもしくは不活化SARS-CoV-2ウイルスワクチンのワクチン接種を受けた個人の細胞応答の増加を提供するために使用することができるワクチンを得ることは可能となっていない。
【発明の概要】
【0009】
先行技術の欠点を考慮すると、本発明の目的は、mRNA、組換えウイルスベクター技術、又は循環SARS-CoV-2ウイルスを用いた完全なワクチン接種スケジュールで得られた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する特異的細胞応答を増加させる能力を有する組換えウイルスベクターワクチンを提供することである。
【0010】
本発明の別の目的は、安全であることが証明されている用量で有意な細胞応答を促進する、COVID-19の制御のためのワクチンを提供することである。
【0011】
本発明の別の目的は、COVID-19に以前に罹患し、無症状であった、又はmRNA、組換えベクター、もしくは不活化SARS-CoV-2ウイルスワクチンをワクチン接種した個人に使用することができる、COVID-19の制御のためのワクチンを提供することである。
【0012】
これら及び他の目的は、本発明によるパラミクソウイルスウイルスベクターにおけるCOVID-19に対する組換えワクチンによって達成される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
本発明の特徴とみなされる新規の態様は、添付の特許請求の範囲に詳細とともに確立されることになる。しかしながら、一部の実施形態、特徴、並びに一部の目的及びそれらの利点は、添付図面に関連して読み取られるとき、詳細な説明においてより良く理解されるであろう。
【0014】
【
図1】
図1は、実施例2の実験で得られた、COVID-19を有する患者及びPfizer mRNAワクチンをワクチン接種した人々に存在する、ワクチン中に含有されるSARS-CoV-2 Sタンパク質に対するIgG型抗体力価(-log2×40)のグラフである。
【
図2】
図2は、実施例2の重症患者からのインターフェロンγ産生CD4+T細胞のグラフである。
【
図3】
図3は、実施例2の重症患者からのインターフェロンγ産生CD8+T細胞のグラフである。
【
図4】
図4A及び
図4Bはそれぞれ、実施例2の重症患者のCD4+細胞におけるT細胞の増殖の割合及びインターフェロンγの産生の割合を示す。
【
図5】
図5A及び
図5Bはそれぞれ、実施例2の重症患者のCD8+細胞におけるT細胞の増殖の割合及びインターフェロンγの産生の割合を示す。
【
図6】
図6A及び
図6Bはそれぞれ、実施例2のmRNAワクチンの2回の投与で免疫化された個人のCD4+細胞におけるT細胞増殖の割合及びインターフェロンγ産生の割合を示す。
【
図7】
図7A及び
図7Bはそれぞれ、実施例2のmRNAワクチンの2回の投与で免疫化された個人のCD8+細胞におけるT細胞増殖の割合及びインターフェロンγ産生の割合を示す。
【
図8】
図8A及び
図8Bはそれぞれ、実施例2のPfizer-BioNTech mRNAワクチンの2回の投与、及びAstraZeneca組換えワクチンの3回目のブースター投与で免疫化された個人のCD4+細胞におけるT細胞増殖の割合及びインターフェロンγ産生の割合を示す。
【
図9】
図9A及び
図9Bはそれぞれ、実施例2のPfizer-BioNTech mRNAワクチンの2回の投与、及びAstraZeneca組換えワクチンの3回目のブースター投与で免疫化された個人のCD8+細胞におけるT細胞増殖の割合及びインターフェロンγ産生の割合を示す。
【
図10】
図10A、
図10B、及び
図10Cは、最初のワクチン接種から21日目、28日目、及び42日目に、実施例3のSARS-CoV-2 S-糖タンパク質に対する抗体について陽性であった個人の割合を示す。
【
図11】
図11は、実施例3の実験からのインターフェロンγ産生T細胞の割合の増加を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以前の免疫を有する個人において、SARS-CoV-2ウイルスのSタンパク質又はそれから由来するタンパク質で刺激されたときに、T細胞(CD4+又はCD8+)において有意な細胞応答を生成する能力を有する、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の外因性ヌクレオチド配列を挿入したニューカッスル病の活性(生存)ウイルスベクターを、アジュバントなしで含む、組換えワクチンが発明されている。
【0016】
本発明の開発中、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の抗原部位をコードする外因性ヌクレオチド配列を挿入した活性パラミクソウイルスベクターと、薬学的に許容されるビヒクル及び/又は賦形剤と、をアジュバントなしで含む組換えワクチン(これは単回用量で使用することができる)が、mRNAワクチン、他の組換えウイルスベクターワクチン、又は不活化SARS-CoV-2ウイルスワクチンを接種したことによって、並びに同じウイルスの自然感染によって、SARS-CoV-2に対する以前の免疫を有する個人において、T細胞の割合(CD4+又はCD8+)の増加を促進する能力を有することが予想外に見出された。
【0017】
細胞応答の増加を達成するためには、使用されるウイルスベクターは、活性である(生存している)必要がある、すなわち、ウイルスベクターとして作用し、SARS-CoV-2の抗原部位をコードするヌクレオチド配列を含有する組換えウイルスは、複製する能力を有する。
【0018】
使用されるウイルスベクターは、SARS-CoV-2ウイルスのスパイクタンパク質(スパイク又はS)をコードする外因性ヌクレオチド配列を挿入した、ニューカッスル病ウイルスのLa Sota株であることが好ましい。
【0019】
好ましい実施形態では、Sタンパク質の配列は、S2サブユニットに少なくとも2つのプロリン置換を包含することによって、その融合前の形態で安定化されたSARS-CoV-2のスパイクS糖タンパク質の2つのサブユニットS1及びS2をコードする配列と少なくとも80%の同一性を有し、より好ましくは、配列は、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する。
【0020】
本発明のワクチンのSARS-CoV-2抗原部位をコードする外因性ヌクレオチド配列は、対象のヌクレオチド配列の化学合成によって調製することができ、その結果、後にそれをNDVウイルスベクターに挿入することができる。外因性ヌクレオチド配列の挿入は、分子生物学の標準的クローニング技術を使用して実施され、NDVゲノムの遺伝子間領域のいずれかに挿入され得る。それ故に、産生された感染性クローンは、組換えウイルス又は親ウイルスを生成するために細胞培養物の中にトランスフェクトされる。
【0021】
ウイルスは、抗原反応を達成するために必要なウイルスの濃度、好ましくは106.0~1010.0CIED50%(ニワトリ胚感染用量50%)/mLに達するまで、例えば、SPFニワトリ胚、又は市販細胞株又はウイルスの増殖のために特別に設計されたものなど、増殖に適した任意の系において連続継代を通して複製する。安定な産生が工業規模で達成されるように、ウイルスは、細胞培養から救出されたら、増殖に使用される系における少なくとも3回の連続継代後に安定していることが好ましい。ウイルス単離については、ウイルスは、増殖に適した系から取り出され、典型的には、濾過、限外濾過、勾配遠心分離、限外遠心分離、及びカラムクロマトグラフィーなどの周知の浄化手順によって、細胞又は他の成分から分離され、例えばプラークアッセイなどの周知の手順を使用して、所望通りにさらに精製することができる。
【0022】
本発明のワクチンのための薬学的に許容されるビヒクルは、好複製能力を有する活性ウイルスを維持する水溶液であることが好ましい。
【0023】
ワクチンの投与に関して、細胞応答の増加は、筋肉内経路及び/又は鼻腔内経路によって、ニワトリ胚感染用量50%(CEID50%)当たり測定される少なくとも1×108.0のウイルス力価で、少なくとも1回の用量を適用することにより達成されることが見出された。
【0024】
好ましい実施形態では、ワクチンは、筋肉内経路又は鼻腔内経路によって、その活性形態で少なくとも1回、特にその個人がCOVID-19に対する任意の他のワクチンで以前に免疫化されている場合、又は筋肉内経路を介して同疾患の以前の感染を患った場合は、鼻腔内経路が好ましい。
【0025】
本発明のワクチンは、その個人が最後の免疫付与を受けた日、又はCOVID-19疾患から回復した日から数えて少なくとも90日の期間の後に、鼻腔内経路又は筋肉内経路によって1回適用される。
【0026】
本発明のワクチンは、その活性型又は不活化型のいずれかで、その筋肉内適用に対応するウイルス濃度を含有する、用量当たり0.5mLの容積で製剤化されることが好ましい。投与経路が鼻腔内である実施形態では、用量当たりの好ましい容積は、0.2mLである。
【0027】
本発明の原理によるワクチンは、加えて、哺乳動物、特にヒトにおいて、少なくとも1×108.0CIED50%の抗原の高用量で、生命を脅かす有害事象を引き起こさず、ワクチンに起因する重度の有害事象も生じさせない。
【0028】
本発明のワクチンは、ニューカッスル病ウイルス(NDV)ベクター及びSタンパク質の挿入遺伝子の使用を通して、SARS-CoV-2ウイルスに対する以前の免疫を有する個人において、SARS-CoV-2ウイルスのSタンパク質又はそれに由来するペプチドで刺激されたとき、統計的に有意な、インターフェロンγ産生CD8+又はCD4+T細胞の増殖を促進する能力を有する。
【実施例】
【0029】
本発明は、以下の実施例からより良く理解されるであろうが、それらは本発明の好ましい実施形態を完全に理解することを可能にするために、例示目的のためのみに提示されており、上記の詳細な説明に基づいて実施され得る他の例示されていない実施形態がないことを示唆するものではない。
【0030】
実施例1
スパイクS1/S2タンパク質SARS-CoV-2/ヘキサプロを含む組換えNDV LaSotaウイルスの生成
Sunら(2020, Op. Cit.)によって記載された方法により、NDVによって発現されるスパイクタンパク質により大きな安定性を与えるために、その融合前の形態で安定化され、4つの追加のプロリンが合成遺伝子中に分布しているSARS-CoV-2のスパイクS糖タンパク質の細胞外ドメインの配列を有し、ヌクレオチド配列番号2の組換えニューカッスル病ウイルスに挿入された、rNDVLS/スパイクS1/S2 SARS-CoV-2/ヘキサプロと呼ばれる構築物が得られた。一般的な方法は、例えば、国際公開WO2010058236A1号にも以前に記載されている。先行技術に記載された通りにニワトリ胚で得られたウイルスを、これも先行技術に以前に記載された通りにFAAから精製した(SANTRY, Lisa A., et al. Production and purification of high-titer Newcastle disease virus for use in preclinical mouse models of cancer. Molecular Therapy-Methods & Clinical Development, 2018, vol. 9, p. 181-191.; 及びNESTOLA, Piergiuseppe, et al. Improved virus purification processes for vaccines and gene therapy. Biotechnology and bioengineering, 2015, vol. 112, no 5, p. 843-857.)。
【0031】
活性ワクチンは、医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理規則の基準に基づいて、水溶液で筋肉内及び鼻腔内投与するために調製した。このため、健常ボランティアにワクチンを適用し、用量当たり最低108.0CIED50%/mL(高)を提供するのに必要な量に従って、4つの異なる濃度で3つのワクチンが得られるような方法で、精製したFAAを安定化溶液(TPG)と混合した。
【0032】
実施例2
SARS-CoV-2及びmRNA技術ワクチンに感染した人からの細胞の応答
末梢血液試料を、COVID-19の急性期における重症(C19 G)及び重篤(C-19 C)の個人から、並びにSARS-CoV-2に対するRT-PCR検査が陽性で、以前にパンデミックの最初のピーク(2020年6月~12月)内にCOVID-19の重症疾患又は重篤疾患(それぞれ、Conv G及びConv C)を有した回復期段階にある個人から採取し、血清及び末梢血単核細胞(PBMC)及び血漿を取得した。同様に、Pfizer-BioNTech mRNAワクチンの2回の投与で免疫化された個人から、並びにPfizer-BioNTech mRNAワクチンの2回の投与及びAstraZeneca組換えワクチンの3回目のブースター投与で免疫化された個人から、末梢血試料を採取した。ELISAイムノアッセイによって、実施例1のワクチンに発現されたSARS-CoV-2のSタンパク質に対する特異的抗体の結合の決定を実施した。
【0033】
上述の個人のSARS-CoV-2に対する抗体が、実施例1のウイルスを認識するかどうかを決定するために、ELISAイムノアッセイで得られたIgG型抗体力価を、プレートにニューカッスル病ウイルスLa Sota株(NC-LS)を固定することにより、外因性遺伝子挿入なしのベクター化ニューカッスル病ウイルス(Vc-NC-LS)、実施例1のウイルス(NDV-S-ヘキサプロ)、及びS糖タンパク質(RBD)の受容体結合部位の陽性対照に対して、すべて200ng/100μLの最終濃度で測定した。次いで、試験した血清と、二次抗体として西洋ワサビペルオキシダーゼで標識されたヤギ抗ヒトIgG抗体との1:40希釈で開始して、連続希釈(1:2)を加えた。反応物を過酸化水素及びオルトフェニレンジアミンで明らかにした。力価は、3倍のバックグラウンド光学密度に達する希釈を表す。
【0034】
結果は
図1に示されており、実施例1のウイルスで得られた力価が、以前の免疫を有する対象のすべての群において、NC-LS及びVc-NC-LSに関して、クラスカル・ウォリス検定によって統計的有意性(*)、p>0.05を有したことが分かる。
【0035】
得られた結果は、以前に感染又は(mRNAワクチンで、又はmRNAワクチン及びAstraZeneca組換えワクチンのブースターで)免疫化された個人の抗体が、本発明のワクチンに使用されるウイルスベクターを認識する能力を有すること、したがって、前記ワクチンが、SARS-CoV-2ウイルスに対する以前の免疫を有する個人において免疫応答を生成する能力を有するであろうことを示す。
【0036】
さらに、同じ個人からのT細胞の増殖能力を決定するために、フィコール勾配及び遠心分離に続く、5%CO2での72時間インキュベーションを使用して、末梢血からのTリンパ球を刺激する技術を実施し、その後、抗体の測定に使用されたものと同じウイルス、及びSARS-CoV-2のSタンパク質のペプチド活性化剤(Peptivator)を用いた刺激、並びに陽性対照としてフィトヘマグルチニン(PHA)を用いた刺激を実行し、増殖染色を最終的に実行した。
【0037】
インターフェロンγ産生CD4+細胞及びCD8+細胞についての重症患者に対応する結果を
図2及び
図3にそれぞれ示すが、本発明のワクチンに使用されるウイルスベクターは、Tリンパ球を刺激して、統計的に有意な細胞応答を、CD4+細胞及びCD8+細胞の両方で引き起こす能力を有することが観察される。有意ではない結果はNSとして表される。
【0038】
加えて、本発明のワクチン(AVX/COVID-12)を用いて、及び陽性対照としてPeptivatorを用いて、ニューカッスル病ウイルスLa Sota株(Vc-NC-LS)の空のベクターで刺激されたT細胞におけるT細胞の増殖率及びインターフェロンγの産生率を測定した。非刺激T細胞(SE)で同じ測定を行った。
【0039】
図4A及び
図4B、並びに
図5A及び
図5Bは、インターフェロンγ産生CD4+及びCD8+細胞について、重症COVID-19患者に対応する結果を示す。
【0040】
同様に、インターフェロンγ産生CD4+細胞及びCD8+細胞について、2用量のmRNA Pfizer-BioNTechワクチンのみで免疫化された個人に対応する結果を、
図6A及び
図6B、並びに
図7A及び
図7Bにそれぞれ示す。
【0041】
これらの結果から、患者から得られたPBMCの場合、mRNAワクチンでワクチン接種した個人から得られたものよりも大きな増殖応答を観察することができるが、それは、病態の間、誘発される応答は一般的にエフェクターT細胞と関連しており、エフェクターT細胞は患者の回復後、不応期に入り、免疫記憶を誘発し、一方で、ワクチン接種の6か月後、血流中には、ワクチンエピトープによって誘発されたメモリー応答のみを見出すことになるからである。両方の場合において、エフェクターT細胞及びメモリーT細胞によって導かれる応答は、本発明のワクチン中に発現されたエピトープによるものであり、無感作Sタンパク質及びmRNAワクチンによって発現されるワクチン抗原で起こるであろうエフェクター活性を誘発する。
【0042】
最後に、
図8A及び
図8B、並びに
図9A及び
図9Bはそれぞれ、2用量のmRNA Pfizer-BioNTechワクチン及びAstraZeneca組換えワクチンでの第三のブースター用量を用いて免疫化された個人の、インターフェロンγ産生CD4+及びCD8+細胞についての結果を示す。これらの結果から、細胞応答は、既に分析された、感染による、又はmRNAワクチンでの免疫化によるものと類似していることが観察され得る。しかしながら、COVID-19患者で観察されたものと類似した増殖及びインターフェロンγ産生の一般的な傾向が観察され、CD8+T細胞における空のベクターと本発明のワクチンによる誘発との間に有意差が観察された(それぞれ、増殖についてはp=0.0005、p<0.0001、IFN-γについてはp=0.0081、p=0.0004)。
【0043】
結果として、本発明のワクチンの実施例1のウイルスベクターを使用することによって、SARS-CoV-2に対する以前の免疫を有する個人において、細胞応答をインビトロで刺激することが可能であることが示されている。
【0044】
実施例3
ヒトにおいて、COVID-19に対する活性ワクチンにより産生される安全性及び免疫原性のレベルを評価する試験
健常ボランティアにおける、本発明の原理によるワクチンの安全性及び免疫原性を評価する試験を、規制当局によって承認されたプロトコルに従って実施した。
【0045】
この試験では、10人の群に高用量で適用された実施例1のウイルスを以下のように使用した。
【表1】
表中、
IN=鼻腔内、0.2mL
IM=筋肉内、0.5mL
【0046】
2回目の用量は、1回目の用量後21日目に適用され、ベースライン日(0日目)、2回目のワクチン接種日(21日目)の2回目のワクチン接種前、2回目のワクチン接種の1週間後(28日目)、及び最後に2回目のワクチン接種の3週間後(42日目)に試料を参加者から採取した。それぞれの用量及び経路で免疫化された個人の血液試料に対して、代用ELISA GenScript(登録商標)試験を使用して、中和試験を実施し、並びに参加個人の末梢血試料からのフローサイトメトリーによって、インターフェロンγ産生T細胞のスパイクタンパク質に対する特異的応答試験を実施した。
【0047】
残念なことに、試験中、一部の参加者がSARS-CoV-2感染を起こしたため、免疫学的分析のために有用な試料の数は変動したが、それでも基本的な統計的結論を出すために十分な人数であった。上記にかかわらず、いずれの参加者も、自身の生命又は健康をリスクにさらす重篤な有害事象も、重度の強度の有害事象も起こすことはなく、軽度又は中等度のみであったため、分析された用量は安全であるとみなされる。
【0048】
図10A、
図10B及び
図10Cに見られるように、最初のワクチン接種後21日目では、抗体を示していた個人はほとんどいなかったが、2回目のワクチン接種後7日の28日目までに、IM/IM群の100%の個人が中和抗体陽性であり、42日目までにIN/IM群及びIM/IM群の100%の個人が陽性であり、IN/IN群でも60%の陽性が達成され、これはIN経路の、遅延をしたが同等に有効な効果を示唆する。
【0049】
これは、
図11の結果を分析した際にも確認されていて、低い基礎レベルの抗体を有する個人を分析する際に、試験した高用量で統計的に有意な細胞応答が得られたが、この細胞応答は、少し前の他のコロナウイルス又は無症状SARS-CoV-2による以前の感染のいずれかに起因して、インターフェロンγ産生T細胞の基礎レベルが上昇していた個人でも有意であったことにも留意されたい。
【0050】
実施例に基づいて、好ましくは筋肉内経路又は鼻腔内経路による、より好ましくは鼻腔内経路による高用量での、SARS-CoV-2ウイルスのSタンパク質を伴う活性ニューカッスル病ウイルスベクターの使用は、SARS-CoV-2ウイルスに対する以前の免疫を有する個人において、液性応答及び細胞応答の増加を生成するのに有用であることが明らかである。
【0051】
したがって、本発明の特定の実施形態が例示及び記載されているが、ウイルスベクターとして使用されるウイルス、及び使用される外因性ウイルス配列など、本発明に対する多数の変更が可能であることが強調されるべきである。したがって、本発明は、先行技術及び添付の特許請求の範囲によって必要とされる場合を除き、制限されるとみなされるべきではない。
【配列表】
【国際調査報告】