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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-16
(54)【発明の名称】誘導全能性幹細胞及びその調製方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/073 20100101AFI20241008BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20241008BHJP
   C12N 9/99 20060101ALI20241008BHJP
   C12N 5/0735 20100101ALI20241008BHJP
   C12N 5/078 20100101ALI20241008BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20241008BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20241008BHJP
   C12N 5/07 20100101ALI20241008BHJP
   A01K 67/0273 20240101ALI20241008BHJP
   C12N 15/877 20100101ALI20241008BHJP
【FI】
C12N5/073
C12N5/10
C12N9/99
C12N5/0735
C12N5/078
C12N5/0783
C12N5/071
C12N5/07
A01K67/0273
C12N15/877 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024513179
(86)(22)【出願日】2022-08-26
(85)【翻訳文提出日】2024-04-26
(86)【国際出願番号】 CN2022115235
(87)【国際公開番号】W WO2023025302
(87)【国際公開日】2023-03-02
(31)【優先権主張番号】202110989429.8
(32)【優先日】2021-08-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202210654031.3
(32)【優先日】2022-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】598098331
【氏名又は名称】ツィンファ ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100111501
【弁理士】
【氏名又は名称】滝澤 敏雄
(72)【発明者】
【氏名】ディン シェン
(72)【発明者】
【氏名】リウ カン
(72)【発明者】
【氏名】フ ヤンヤン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン ユアンユアン
(72)【発明者】
【氏名】タン ペンチェン
(72)【発明者】
【氏名】マ ティアンファ
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA91X
4B065AB01
4B065AC12
4B065AC20
4B065BA01
4B065CA46
(57)【要約】
本発明は、全能性幹細胞の生成を誘発するための小分子リプログラミング剤の組合せ、誘導全能性幹細胞を調製する方法、及びそれから生み出される誘導全能性幹細胞に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)RAシグナル伝達経路アクチベーターと、
(b)GSK-3阻害剤、IKKシグナル伝達経路阻害剤、HDAC阻害剤、ヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤、Srcキナーゼ阻害剤、cAMPアクチベーター、及び細胞代謝モジュレーターのうちの1つ又は複数と
を含む組成物。
【請求項2】
(a)RAシグナル伝達経路アクチベーターと、
(b)GSK-3阻害剤、IKKシグナル伝達経路阻害剤、HDAC阻害剤、ヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤、Srcキナーゼ阻害剤、cAMPアクチベーター、及び細胞代謝モジュレーターのうちの1つ又は複数と
を含むキット。
【請求項3】
誘導全能性幹細胞を製造する際の、(a)RAシグナル伝達経路アクチベーター、並びに(b)GSK-3阻害剤、IKKシグナル伝達経路阻害剤、HDAC阻害剤、ヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤、Srcキナーゼ阻害剤、cAMPアクチベーター、及び細胞代謝モジュレーターのうちの1つ又は複数の使用。
【請求項4】
前記RAシグナル伝達経路アクチベーターが、同一経路に関する小分子、例えばTTNPB、トレチオニン/RA/ATRA、AM580、Taza、9-シス-RA、アシトレチン、CD437、タミバロテン、タザロテン、レチノイン酸、イソトレチノイン、アシトレチンナトリウム、ch55、及びAC55649等から選択される、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物、キット、又は使用。
【請求項5】
前記GSK-3阻害剤が、同一経路に関する小分子、例えば1-アザケンパウロン、AZD2858、CHIR99021、AZD1080等から選択される、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物、キット、又は使用。
【請求項6】
前記IKKシグナル伝達経路阻害剤が、同一経路に関する小分子、例えばWS6、sc-514、PF184、及びIKK16等から選択される、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物、キット、又は使用。
【請求項7】
前記HDAC阻害剤が、同一経路に関する小分子、例えばトリコスタチンA(TSA)、バルプロ酸(VPA)、ボリノスタット(SAHA)、及びエンチノスタット(MS-275)等から選択される、請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物、キット、又は使用。
【請求項8】
前記ヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤が、同一経路に関する小分子、例えばBIX01294、3-デアザネプラノシンA(DZNeP)HCl、A-366、UNC0638、及びSGC0946等から選択される、請求項1~7のいずれか1項に記載の組成物、キット、又は使用。
【請求項9】
前記Srcキナーゼ阻害剤が、同一経路に関する小分子、例えばダサチニブ(BMS-354825)、WH-4-023、ポナチニブ(AP24534)、ボスチニブ(SKI-606)等から選択される、請求項1~8のいずれか1項に記載の組成物、キット、又は使用。
【請求項10】
前記cAMPアクチベーターが、同一経路に関する小分子、例えばコルホルシン(ホルスコリン、HL362)、及び8-Br-cAMP等から選択される、請求項1~9のいずれか1項に記載の組成物、キット、又は使用。
【請求項11】
前記細胞代謝モジュレーターが、細胞代謝モジュレーター、例えば2-デオキシ-D-グルコース(2-DG)、酢酸ナトリウム、L-乳酸ナトリウム、及びD-リボース等から選択される、請求項1~10のいずれか1項に記載の組成物、キット、又は使用。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の組成物を含む培養培地。
【請求項13】
基本培養培地を含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の培養培地。
【請求項14】
前記基本培養培地が、一般的な基本培養培地、例えばDMEM、ノックアウトDMEM、RPMI1640、及びDMEM/F12等から選択される、請求項1~13のいずれか1項に記載の培養培地。
【請求項15】
誘導全能性幹細胞を製造する方法であって、請求項1~14のいずれか1項に記載の培養培地内で多能性幹細胞を培養し、これにより誘導全能性幹細胞を製造するステップを含む方法。
【請求項16】
前記多能性幹細胞が胚性幹細胞又は誘導多能性幹細胞である、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
非多能性細胞を多能性幹細胞にリプログラミングするステップを含む、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記非多能性細胞が体細胞及び/又は成人幹細胞から選択される、請求項1~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
非多能性細胞を多能性幹細胞にリプログラミングする前記ステップが、前記非多能性細胞内で、Oct4、Sox2、Klf4、及びc-Mycからなる群から選択される1つ又は複数のリプログラミング因子を発現させることを含む、請求項1~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
多能性幹細胞を培養することが、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20日間実施される、請求項1~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
請求項1~20のいずれか1項に記載の培養培地及び多能性幹細胞を含む培養物。
【請求項22】
前記多能性幹細胞が胚性幹細胞又は誘導多能性幹細胞である、請求項1~21のいずれか1項に記載の培養物。
【請求項23】
請求項1~22のいずれか1項に記載の培養培地及び全能性幹細胞を含む培養物。
【請求項24】
前記全能性幹細胞が、好ましくは請求項1~23のいずれか1項に記載の方法により製造された誘導全能性幹細胞である、請求項1~23のいずれか1項に記載の培養物。
【請求項25】
下記事項:
(a)MERVL、Zscan4c、Zscan4d、Zscan4f、Zfp352、Tcstv1、Tcstv3、Teme92、Gm6763からなる群から選択される1つ又は複数の全能性転写マーカーの転写増加、
(b)POU5f1、ZFP42、NANOG、KLF4、ESRRBからなる群から選択される1つ又は複数の多能性転写マーカーの転写低下、及び
(c)胚体外細胞型(複数可)に分化する能力
のうちの1つ又は複数により特徴づけられる誘導全能性幹細胞であって、
好ましくは、請求項1~24のいずれか1項に記載の方法により製造可能である誘導全能性幹細胞。
【請求項26】
請求項1~25のいずれか1項に記載の方法により生成可能である誘導全能性幹細胞。
【請求項27】
請求項1~26のいずれか1項に記載の誘導全能性幹細胞に由来する生物であって、好ましくは齧歯類動物又は哺乳動物である生物。
【請求項28】
請求項1~27のいずれか1項に記載の誘導全能性幹細胞から生み出されるオルガノイド。
【請求項29】
請求項1~28のいずれか1項に記載の誘導全能性幹細胞から生み出される組織であって、好ましくは血液である組織。
【請求項30】
請求項1~29のいずれか1項に記載の誘導全能性幹細胞から分化した、分化後の細胞であって、好ましくは血液細胞又は免疫細胞、例えばT細胞又はNK細胞等である分化後の細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全能性幹細胞の生成を誘発するための小分子リプログラミング剤の組合せ、誘導全能性幹細胞(ciTotiSC)を生成するための方法、及び誘導により生み出される誘導全能性幹細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
哺乳動物の胚発生は、卵母細胞と精子との結合により形成された接合体から開始し、その後各細胞期、例えば2細胞期、4細胞期、8細胞期等に発達し、そして胚分割を経由して桑実胚に至る。
例えば、マウスでは、接合体及び2細胞期の卵割球のみが胚体内及び胚体外双方向性発達能力及び生物全体を形成する能力、すなわち全能性を有し、それらは全能性細胞と呼ばれる。
胚発生が進むにつれて、全能性細胞は、2つの細胞型:内部細胞塊(ICM)及び栄養芽細胞(TE)に分化する。この時期の胚は胚盤胞と呼ばれる。
【0003】
TEは、胚盤胞期において胚の外部に位置し、そして胚体外部分、例えば胎盤等に発達することができる。TEは、ICMの更なる分化において重要な役割を演ずる。ICMの細胞は、原始内胚葉(PE)及びエピブラスト(EPI)に更に分化する。そのなかでも、PEは、胚体外組織-内臓卵黄嚢に更に発達する一方、EPIは胎児の様々な組織及び臓器に更に発達し、そして最終的に完全な胎児に発達する。
EPIは、胚部分に発達することができるにすぎず、また胚体外部分に発達する能力を失うので、胚性/胚体外双方向性の発達という全能性ではなく多能性を保有するものであり、従って多能性細胞と呼ばれる。In vitro培養ICMに由来する胚性幹細胞(ESC)もやはり多能性であり、またすべての胚性組織に分化し、そしてin vitroで無限に増殖することができる。
【0004】
1981年において、University of CambridgeのMartin Evans及びMatthew Kaufmanは、マウス胚から多能性マウス胚性幹細胞(mESC)の最初の系統を単離することに初めて成功し、胚性幹細胞研究のブームに火をつけた。
2006年には、山中伸弥が、ウイルスベクターを用いて、4つの転写因子(Oct4、Sox2、Klf4、及びc-Myc)の組合せを体細胞中にトランスフェクトすることにより、これまでに、高度に分化した体細胞を多能性の誘導多能性幹細胞(iPSC)へとリプログラミングし、こうして2012年にノーベル賞を受賞した。
多能性mESCが確立されてからそれ以降の40年間において、すべての培養mESCは多能性の状態にあった。より高度に発達する能力を有する幹細胞をin vitroで取得する試みが常になされてきた。しかしながら、今日まで、分子レベル及び機能の両方において、in vivoで全能性胚細胞に類似する全能性幹細胞のin vitro誘発及び長期培養は大きな課題として存続する。
SHEN Huiら(Shen H, Yang M, Li S, et al. mouse totipotent stem cells captured and maintained through spliceosomal repression [J]. cells, 2021, 184(11): 2843-2859. e20)は、マウスESCにおいてスプライソソームを抑制すると、多能性から全能性への移行が促進されることを報告した。スプライシング阻害剤プラジエノライドBを使用することで、この試験は、トランスクリプトームレベルにおいて2及び4細胞卵割球に匹敵し、また全能卵割球様細胞(TBLC)と呼ばれる新規細胞型を実現している。RNAシークエンシング(RNA-seq)と組み合わせたマウスキメラアッセイは、TBLCが、複数の胚体内細胞系及び胚体外細胞系を生成する強靭な双方向性発達能力を有することを実証する。機械的には、スプライソソームの抑制は多能性遺伝子の広範囲に及ぶスプライシング阻害を引き起こす一方、全能性遺伝子(いくつかの短いイントロンを含有する)は効率的にスプライシングされ、また転写的に活性化される。しかしながら、この試験において、多能幹細胞を所与の全能性を有する幹細胞に変換するためのスプライシング阻害技術は複数の継代培養ステップを必要とし、またかなりの期間を要する。それに加えて、この試験で得られたTBLC及び通常のマウス胚のscRNA-seqデータを分析することにより、本発明者らは、TBLCは、全能性接合体及び2細胞期卵割球よりはむしろ、発達後期における移植後胚の細胞に近いことを見出した。従って、TBLCは全能性細胞とみなすことはできない。より重要なこととして、TBLCは、マウス胚に独立して発達し、従って生物全体を生成する能力を有することはまだ示されていない。TBLCは全能性細胞(生物全体に独立して発達し得る)の厳格な定義を満たさず、従って全能性幹細胞として定義され得ない。
【0005】
全能性を有する細胞は、下記事項:1)細胞は、転写レベルに関して、全能性胚細胞、すなわち接合体及び2細胞卵割球と類似していること;2)更に、細胞は、胚体内細胞型及び胚体外細胞型の両方に、双方向的に発達する能力を有すること;3)なおも更に、また最も厳密には、1つの細胞が完全な胚又は生体に発達することができること、のうちの1つ又は複数、好ましくは2つ、及びより好ましくは3つすべてを満たすべきであることが当技術分野において一般的に認識されている。
より望ましい全能性幹細胞を、特により迅速且つ効率的なやりかたで誘発する必要性が当技術分野においてなおも存在する。得られた誘導全能性幹細胞は全能性の上記定義を満たす。
【発明の概要】
【0006】
本発明者らは、特定の化合物の組合せを、多能性幹細胞の基本培地に対する添加剤として使用することにより、多能性幹細胞は全能性幹細胞(本明細書ではciTotiSC、すなわち「化学的誘導全能性幹細胞」、「化学的に誘導された全能性幹細胞」、又は単に「誘導全能性幹細胞」と呼ぶ)に誘導可能であること、及び誘導は非常に迅速且つ効果的であることを驚くべきことに見出した。
従って、1つの態様では、本発明は、
(a)RAシグナル伝達経路アクチベーターと、
(b)GSK-3阻害剤、IKKシグナル伝達経路阻害剤、HDAC阻害剤、ヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤、Srcキナーゼ阻害剤、cAMPアクチベーター、及び細胞代謝モジュレーターのうちの1つ又は複数と
を含む組成物を提供する。
【0007】
別の態様では、本発明は、
(a)RAシグナル伝達経路アクチベーターと、
(b)GSK-3阻害剤、IKKシグナル伝達経路阻害剤、HDAC阻害剤、ヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤、Srcキナーゼ阻害剤、cAMPアクチベーター、及び細胞代謝モジュレーターのうちの1つ又は複数と
を含むキットを提供する。
別の態様では、本発明は、誘導全能性幹細胞を製造する際の、(a)RAシグナル伝達経路アクチベーター、並びに(b)GSK-3阻害剤、IKKシグナル伝達経路阻害剤、HDAC阻害剤、ヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤、Srcキナーゼ阻害剤、cAMPアクチベーター、及び細胞代謝モジュレーターのうちの1つ又は複数の使用を提供する。
【0008】
上記態様のいくつかの実施形態のうちの1つ又は複数において、RAシグナル伝達経路アクチベーターは、同一経路に関する小分子、例えばTTNPB、トレチオニン/RA/ATRA、AM580、Taza、9-シス-RA、アシトレチン、CD437、タミバロテン、タザロテン、レチノイン酸、イソトレチノイン、アシトレチンナトリウム、ch55、及びAC55649等から選択される。
【0009】
上記態様のいくつかの実施形態のうちの1つ又は複数において、GSK-3阻害剤は、同一経路に関する小分子、例えば1-アザケンパウロン、AZD2858、CHIR99021、及びAZD1080等から選択される。
上記態様のいくつかの実施形態のうちの1つ又は複数において、IKKシグナル伝達経路阻害剤は、同一経路に関する小分子、例えばWS6、sc-514、PF184、及びIKK16等から選択される。
上記態様のいくつかの実施形態のうちの1つ又は複数において、HDAC阻害剤は、同一経路に関する小分子、例えばトリコスタチンA(TSA)、バルプロ酸(VPA)、ボリノスタット(SAHA)、及びエンチノスタット(MS-275)等から選択される。
上記態様のいくつかの実施形態のうちの1つ又は複数において、ヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤は、同一経路に関する小分子、例えばBIX01294、3-デアザネプラノシンA(DZNeP)HCl、A-366、UNC0638、SGC0946等から選択される。
上記態様のいくつかの実施形態のうちの1つ又は複数において、Srcキナーゼ阻害剤は、同一経路に関する小分子、例えばダサチニブ(BMS-354825)、WH-4-023、ポナチニブ(AP24534)、ボスチニブ(SKI-606)等から選択される。
上記態様のいくつかの実施形態のうちの1つ又は複数において、cAMPアクチベーターは、同一経路に関する小分子、例えばコルホルシン(ホルスコリン、HL362)及び8-Br-cAMP等から選択される。
上記態様のいくつかの実施形態のうちの1つ又は複数において、細胞代謝モジュレーターは、細胞代謝モジュレーター、例えば2-デオキシ-D-グルコース(2-DG)、酢酸ナトリウム、L-乳酸ナトリウム、及びD-リボース等から選択される。
【0010】
別の態様では、本発明は、本明細書に記載される組成物を含む培養培地を提供する。
上記態様のいくつかの実施形態のうちの1つ又は複数において、培養培地は基本培養培地を含む。
上記態様のいくつかの実施形態のうちの1つ又は複数において、基本培地は、一般的な基本培地、例えばDMEM、ノックアウトDMEM、RPMI1640、及びDMEM/F12等から選択される。
【0011】
別の態様では、本発明は、誘導全能性幹細胞を製造する方法であって、本明細書に記載される培養培地内で多能性幹細胞を培養し、これにより誘導全能性幹細胞を製造するステップを含む方法を提供する。
上記態様のいくつかの実施形態のうちの1つ又は複数において、多能性幹細胞は胚性幹細胞又は誘導多能性幹細胞である。
上記態様のいくつかの実施形態のうちの1つ又は複数において、方法は、非多能性細胞を多能性幹細胞にリプログラミングするステップを含む。
上記態様のいくつかの実施形態のうちの1つ又は複数において、非多能性細胞は体細胞及び/又は成人幹細胞から選択される。
上記態様のいくつかの実施形態のうちの1つ又は複数において、非多能性細胞を多能性幹細胞にリプログラミングするステップは、非多能性細胞内で、Oct4、Sox2、Klf4、及びc-Mycからなる群から選択される1つ又は複数のリプログラミング因子を発現させることを含む。
上記態様のいくつかの実施形態のうちの1つ又は複数において、多能性幹細胞を培養することは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20日間実施される。
【0012】
別の態様では、本発明は、本明細書に記載される培養培地及び多能性幹細胞を含む培養物を提供する。
上記態様のいくつかの実施形態のうちの1つ又は複数において、多能性幹細胞は胚性幹細胞又は誘導多能性幹細胞である。
別の態様では、本発明は、本明細書に記載される培養培地及び全能性幹細胞を含む培養物を提供する。
上記態様のいくつかの実施形態のうちの1つ又は複数において、全能性幹細胞は、好ましくは本明細書に記載される方法により製造された誘導全能性幹細胞である。
【0013】
別の態様では、本発明は、下記事項:
(a)MERVL、Zscan4c、Zscan4d、Zscan4f、Zfp352、Tcstv1、Tcstv3、Teme92、Gm6763からなる群から選択される1つ又は複数の全能性転写マーカーの転写増加、
(b)POU5f1、ZFP42、NANOG、KLF4、ESRRBからなる群から選択される1つ又は複数の多能性転写マーカーの転写低下、及び
(c)胚体外細胞型(複数可)に分化する能力
のうちの1つ又は複数により特徴づけられる誘導全能性幹細胞を提供する。
好ましくは、誘導全能性幹細胞は、本明細書に記載される方法により製造可能である。
【0014】
別の態様では、本発明は、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法により製造可能である誘導全能性幹細胞を提供する。
別の態様では、本発明は、本明細書に記載される誘導全能性幹細胞に由来する生物であって、好ましくは齧歯類動物又は哺乳動物である生物を提供する。
別の態様では、本発明は、本明細書に記載される誘導全能性幹細胞から生み出されるオルガノイドを提供する。
別の態様では、本発明は、本明細書に記載される誘導全能性幹細胞から生み出される組織であって、好ましくは血液である組織を提供する。
別の態様では、本発明は、本明細書に記載される誘導全能性幹細胞から分化した、分化後の細胞であって、好ましくは血液細胞又は免疫細胞、例えばT細胞又はNK細胞等である分化後の細胞を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1-1】本発明のマウス誘導全能性幹細胞(ciTotiSC)の継代培養を示す図である。
図1-2】本発明のマウス誘導全能性幹細胞(ciTotiSC)の高度に発現している全能性マーカー遺伝子を示す図である。
図2-1】本発明のマウス誘導全能性幹細胞(ciTotiSC)及びマウス多能性胚性幹細胞(mESC)における特異的遺伝子セット富化分析(GSEA)(上段パネル)を示す図である。本発明のマウス誘導全能性幹細胞(ciTotiSC)は、マウス多能性胚性幹細胞(mESC)、全能性卵割球様細胞(TBLC)、全能性様細胞(TLSC)、及び能力拡張型幹細胞(EPSC)と比較して、母性遺伝子、ZGA遺伝子、全能性遺伝子の発現量が高く、且つ多能性特異的遺伝子の発現量は低い(下段パネル)。
図2-2】本発明のマウス誘導全能性幹細胞(ciTotiSC)及びマウス多能性胚性幹細胞(mESC)の全トランスクリプトームレベルにおけるクラスタリング分析を示す図である。
図2-3】本発明のマウス誘導全能性幹細胞(ciTotiSC)及びマウス多能性胚性幹細胞(mESC)の全トランスクリプトームレベルにおける主成分分析(PCA)を示す図である。
図2-4】本発明のマウス誘導全能性幹細胞(ciTotiSC)、マウス多能性胚性幹細胞(mESC)、及び全能性卵割球様細胞(TBLC)、並びに通常のマウス胚における胚発生の異なる段階の遺伝子セット富化分析(GSEA)を示す図である。
図2-5】本発明のマウス誘導全能性幹細胞(ciTotiSC)、及びマウス多能性胚性幹細胞(ESC)、及び全能性卵割球様細胞(TBLC)、並びに様々な段階における通常のマウス胚について行った単一細胞RNAシークエンシング(scRNA-seq)UMAP分析を示す図である。
図2-6】本発明のマウス誘導全能性幹細胞(ciTotiSC)及びマウス多能性胚性幹細胞(mESC)のトランスポゼースアクセシブルクロマチンシークエンシング(ATAC-seq)分析を示す図である。
図2-7】本発明のマウス誘導全能性幹細胞(ciTotiSC)及びマウス多能性胚性幹細胞(mESC)の部位特異的トランスポゼースアクセシブルクロマチンシークエンシング(ATAC-seq)分析を示す図である。
図2-8】マウス誘導全能性幹細胞(ciTotiSC)及びマウス多能性胚性幹細胞(mESC)におけるゲノムメチル化レベルのRRBS分析を示す図である。
図2-9】RRBSデータに基づく、マウス誘導全能性幹細胞(ciTotiSCs)及びマウス多能性胚性幹細胞(mESC)に関する全体的メチル化の主成分分析を示す図である。
図2-10】マウス誘導全能性幹細胞(ciTotiSC)及びマウス多能性胚性幹細胞(mESC)について、そのゲノム内特定部位近傍におけるメチル化レベルの分析を示す図である。
図2-11】マウス誘導全能性幹細胞(ciTotiSC)に関するメタボローム分析を示す図である。
図3-1】栄養外胚葉幹細胞分化の実験プロセスに関する概略図を示す図である。
図3-2】RT-qPCRによる、マウス誘導全能性幹細胞(ciTotiSC)、マウス胚性幹細胞(mESC)、及びマウス能力拡張型多能性幹細胞(mEPSC)におけるマウス栄養外胚葉幹細胞特異的遺伝子の転写に関する検出を示す図である。
図3-3】蛍光免疫染色による、マウス誘導全能性幹細胞(ciTotiSC)、マウス胚性幹細胞(mESC)、及びマウス能力拡張型多能性幹細胞(mEPSC)における、マウス栄養外胚葉幹細胞特異的タンパク質の発現に関する検出を示す図である。
図3-4】mESC培地(2i/LIF)に変更した後の、異なる継代(P1~P8)のマウス誘導全能性幹細胞(ciTotiSC)における、全能性及び多能性遺伝子の発現に関する分析を示す図である。
図4-1】マウス誘導全能性幹細胞(ciTotiSC)及びマウス胚性幹細胞(mESC)に由来する胚様体(EB)の蛍光免疫染色分析を示す図である。
図4-2】胚様体内の検知されたすべてのCDX2陽性細胞の割合に関する統計学を示す図である。
図4-3】マウス誘導全能性幹細胞(ciTotiSC)及びマウス胚性幹細胞(mESC)に由来するテラトーマの3胚葉分化能に関する分析を示す図である。
図4-4】マウス誘導全能性幹細胞(ciTotiSC)のテラトーマ胚体外系統分化能に関する分析を示す図である。
図5-1】キメラアッセイプロセスの概略図を示す図である。
図5-2】E4.5におけるマウス全能性幹細胞(ciTotiSC)及びマウス胚性幹細胞(mESC)のキメラ能を示す図である。
図5-3】内部細胞塊(ICM)及び栄養外胚葉(TE)内のマウス誘導全能性幹細胞(ciTotiSC)及びマウス胚性幹細胞(mESC)におけるキメリズム比の統計学を示す図である。
図5-4】マウス誘導全能性幹細胞(ciTotiSC)及びマウス胚性幹細胞(mESC)におけるキメラ胚栄養外胚葉(TE)の古典的マーカー染色について、その確認を示す図である。
図6-1】E7.5まで発達したマウス誘導全能性幹細胞(ciTotiSC)及びマウス胚性幹細胞(mESC)からなるキメラ胚における蛍光免疫染色分析を示す図である。
図7-1】E12.5まで発達したマウス誘導全能性幹細胞(ciTotiSC)及びマウス胚性幹細胞(mESC)からなるキメラ胚におけるキメラ状態分析を示す図である。
図7-2】E12.5の各組織における、マウス誘導全能性幹細胞(ciTotiSC)及びマウス胚性幹細胞(mESC)に関するキメリズム比のフローサイトメトリー分析を示す図である。
図7-3】胎盤胚体外細胞系統マーカーCK8及びプロリフェリンを用いてキメラ細胞の同時局在を分析するために行った、マウス誘導全能性幹細胞(ciTotiSC)及びマウス胚性幹細胞(mESC)のE12.5キメラ胎盤凍結切片の蛍光免疫染色を示す図である。
図7-4】E12.5の3つの内皮性胚葉(中胚葉、内胚葉、外胚葉)における、マウス誘導全能性幹細胞(ciTotiSC)及びマウス胚性幹細胞(mESC)のキメラ能に関する分析を示す図である。
図8-1】単一のマウス誘導全能性幹細胞(ciTotiSC)の発達能力に関する検出を示す図である。
図8-2】マウス誘導全能性幹細胞(ciTotiSC)における、E12.5の胚体外及び胚体内キメリズムにより形成された細胞型に関する分析を示す図である。
図8-3】マウス誘導全能性幹細胞(ciTotiSC)は、生殖隆起体にキメラ化する能力を有し、及び健康なキメラ子孫を生み出すことを示す図である。
図8-4】マウス誘導全能性幹細胞(ciTotiSC)から取得された誘導胚盤胞を示す図である。
図8-5】マウス誘導全能性幹細胞(ciTotiSC)より誘導されたマウス胚盤胞は、通常の胚盤胞からなる3つの細胞系統をin vivoで有することを示す図である。
図8-6】マウス誘導全能性幹細胞(ciTotiSC)より誘導されたマウス胚盤胞は、in vitroでの移植後に発達し得ることを示す図である。
図8-7】マウス誘導全能性幹細胞(ciTotiSC)より誘導されたマウス胚盤胞はマウス子宮内に移植され、そしてin vivoで更に発達することを示す図である。
図9-1】全能性幹細胞(ciTotiSC)の誘導におけるDux及びp53の役割を示す図である。
図9-2】様々な小分子の組合せにより誘導されたマウス全能性幹細胞(ciTotiSC)の2C:tdTomato+細胞比を示す図である。
図9-3】マウス全能性幹細胞(ciTotiSC)を誘導及び生成するのに使用される、一般的に使用される様々な基本培地に関する2C:tdTomato+及びOCT4発現テストを示す図である。
図9-4】いくつかの小分子リプログラミング試薬の個々の置き換え、及びマウス全能性幹細胞(ciTotiSC)誘導におけるその性能に関するテストを示す図である。
図10】全能性細胞誘導において、様々な小分子が遺伝子発現に対して及ぼす効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
A.概要
全能性幹細胞の生成及び維持に関する既存の方法は、工業的又は臨床的アプリケーション用の全能性幹細胞はもちろんのこと、全能性の公認された定義のうちの1つ又は複数の基準を満たす全能性幹細胞をいまだ実現していない。本発明は、公認された定義のうちの1つ又は複数の基準を満たす全能性幹細胞を生成するための多能性幹細胞の誘導を実現する。
【0017】
本発明者らにより誘導及び培養された全能性幹細胞は、1)マウス胚接合体及び2細胞期の卵割球の特性と類似したトランスクリプトームの特徴を示し、クロマチンアクセシビリティー、DNAメチル化レベル、及び細胞代謝モードに関して、in vivoで類似したレベルの全能性細胞に転換し、2)In vitroでの単層細胞の直接分化、懸濁状態での胚様体分化、及びテラトーマ分化in vivoアッセイにより実証されるように、本発明者らにより誘導及び培養された全能性幹細胞は、多能性幹細胞は保有しない胚体外細胞に分化する能力を有する。また、in vivoでのキメリズム実験においても、本発明者らにより誘導及び培養された全能性幹細胞は、胚体内組織及び胚体外組織の両方に、高効率で双方向性に発達する能力を有することが明確に裏付けられる。3)より重要なこととして、誘導全能性幹細胞は、in vitroで独立して誘導可能及びマウス胚盤胞に発達可能、並びにマウス胚盤胞マーカー遺伝子を正しく発現可能である。誘導胚盤胞は、in vitroで連続的に培養するとき、胚移植後に一連の特徴を示し得るが、また誘導胚盤胞は、マウス中に移植された後に継続して発達させるために、子宮内に移植することも可能である。従って、誘導マウス全能性幹細胞は、従来式の精子-卵母細胞結合プロセスを経由することなく、本来の生体に独立して発達する能力を有する。
従って、本明細書において想定される組成物及び方法は、工業的及び臨床的アプリケーションに適する、適格性が確認された全能性幹細胞の生成を可能にする。
【0018】
別途規定されない限り、本発明の実施は、当技術分野における化学、生化学、有機化学、分子生物学、微生物学、組換えDNA技術、遺伝学、免疫学、細胞生物学、幹細胞プロトコール、細胞培養、及びトランスジェニック生物学からなる従来法を利用し、その多くが例証目的で以下に記載される。そのような技術は、文献において十分に説明されている。例えば、sambrook, et al, molecular clocking: a laboratory manual (3rd edition, 2001); Sambrook, et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual (2nd Edition, 1989); Maniatis et al, Molecular Cloning: A Laboratory Manual (1982); Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology (John Wiley and Sons, updated July 2008); Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience; Glover, DNA Cloning: A Practical Approach, vol. I & II (IRL Press, Oxford, 1985); Anand, Techniques for the Analysis of Complex Genomes, (Academic Press, New York, 1992); Guthrie and Fink, Guide to Yeast Genetics and Molecular Biology (Academic Press, New York, 1991); Oligonucleotide Synthesis (N. Gait, Ed., 1984); Nucleic Acid Hybridization (B. Hames & S. Higgins, Eds., 1985); Transcription and Translation (B. Hames & S. Higgins, Eds., 1984); Animal Cell Culture (R. Freshney, Ed., 1986); Perbal, A Practical Guide to Molecular Cloning (1984); Fire et al., RNA Interference Technology: From Basic Science to Drug Development (Cambridge University Press, Cambridge, 2005); Schepers, RNA Interference in Practice (Wiley-VCH, 2005; Engelke, RNA Interference (RNAi): The Nuts & Bolts of siRNA Technology (DNA Press, 2003); Gott, RNA Interference, Editing, and Modification: Methods and Protocols (Methods in Molecular Biology; Human Press, Totowa, NJ, 2004); Sohail, Gene Silencing by RNA Interference: Technology and Application (CRC, 2004); Clarke and Sanseau, microRNA: Biology, Function & Expression (Nuts & Bolts series; DNA Press, 2006); Immobilized Cells And Enzymes (IRL Press, 1986); the treatise, Methods In Enzymology (Academic Press, Inc., N.Y.); Gene Transfer Vectors For Mammalian Cells (J. H. Miller and M. P. Calos eds., 1987, Cold Spring Harbor Laboratory); Harlow and Lane, Antibodies, (Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1998); Immunochemical Methods In Cell And Molecular Biology (Mayer and Walker, eds., Academic Press, London, 1987); Handbook Of Experimental Immunology, Volumes I-IV (D. M. Weir and C. Blackwell, eds., 1986); Riott, Essential Immunology, 6th Edition, (Blackwell Scientific Publications, Oxford, 1988); Embryonic Stem Cells: Methods and Protocols (Methods in Molecular Biology) (Kurstad Turksen, Ed., 2002); Embryonic Stem Cell Protocols: Volume I: Isolation and Characterization (Methods in Molecular Biology) (Kurstad Turksen, Ed., 2006); Embryonic Stem Cell Protocols: Volume II: Differentiation Models (Methods in Molecular Biology (Kurstad Turksen, Ed., 2006); Human Embryonic Stem Cell Protocols (Methods in Molecular Biology) (Kursad Turksen Ed., 2006); Mesenchymal Stem Cells: Methods and Protocols (Methods in Molecular Biology) (Darwin J. Prockop, Donald G. Phinney, and Bruce A. Bunnell Eds., 2008); Hematopoietic Stem Cell Protocols (Methods in Molecular Medicine) (Christopher A. Klug, and Craig T. Jordan Eds., 2001); Hematopoietic Stem Cell Protocols (Methods in Molecular Biology) (Kevin D. Bunting Ed., 2008) Neural Stem Cells: Methods and Protocols (Methods in Molecular Biology) (Leslie P. Weiner Ed., 2008); Hogan et al, Methods of Manipulating the Mouse Embryo (2nd Edition, 1994); Nagy et al, Methods of Manipulating the Mouse Embryo (3rd Edition, 2002), And The Zebrafish book. A guide for the laboratory use of zebrafish (Danio rerio), 4th Ed., (Univ. of Oregon Press, Eugene, OR, 2000)を参照されたい。
本明細書で引用されたすべての公開資料、特許、及び出願は、本明細書において参照によりそのまま組み込まれる。
【0019】
B.定義
別途定義されなければ、本明細書で使用されるすべての技術的及び科学的用語は、本発明が属する当業者により一般的に理解される意味と同一の意味を有する。本発明の目的に照らして、下記の用語が以下に定義される。
【0020】
本明細書で使用される冠詞「a」、「an」、及び「the」は、該冠詞の1つ又は2つ以上(すなわち、少なくとも1つ)の、文法上の目的語を指す。例えば、「an element(あるエレメント)」とは、1つのエレメント又は2つ以上のエレメントを意味する。
【0021】
選択枝(例えば、「又は」)の使用は、いずれか、両方、又は任意のこれらの組合せを意味するものと理解すべきである。
用語「及び/又は」は、選択枝のいずれか又は両方を意味するものと理解すべきである。
本明細書で使用される場合、用語「約」又は「およそ」とは、参照する数、レベル、数値、量、頻度、パーセンテージ、スケール、サイズ、数量、重量、又は長さと比較して、最大15%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、又は1%変化した数、レベル、数値、量、頻度、パーセント、スケール、サイズ、数量、重量、又は長さを意味する。1つの実施形態では、用語「約」又は「およそ」とは、参照する数、レベル、数値、数量、頻度、パーセンテージ、スケール、サイズ、量、重量、又は長さの±15%、±10%、±9%、±8%、±7%、±6%、±5%、±4%、±3%、±2%、又は±1%以内の数、レベル、数値、数量、頻度、パーセント、スケール、サイズ、量、重量、又は長さの範囲を意味する。
【0022】
本明細書で使用される場合、用語「実質的に」又は「本質的に」とは、参照する数、レベル、数値、数量、頻度、パーセンテージ、スケール、サイズ、量、重量、又は長さと比較して、約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%、又はそれ超の数、レベル、数値、数量、頻度、パーセンテージ、スケール、サイズ、量、重量、又は長さを意味する。1つの実施形態では、用語「実質的に同一の」とは、参照する数、レベル、数値、数量、頻度、パーセンテージ、スケール、サイズ、量、重量、又は長さの範囲とほぼ同一である数、レベル、数値、数量、頻度、パーセンテージ、スケール、サイズ、量、重量、又は長さの範囲を意味する。
本明細書で使用される場合、用語「~を実質的に含まない」とは、組成物、例えば細胞集団又は培養培地等を記載するのに使用されるとき、指定された物質を含有しない、例えば指定された物質の95%、96%、97%、98%、99%等を含まない、又は従来手段により測定した場合に検出不能である組成物を意味する。類似した意味が、組成物の特定の物質又はコンポーネントが存在しないことを意味する用語「存在しない(absent)」に適用可能である。
【0023】
本明細書で使用される場合、用語「明白な」とは、1つ又は複数の標準法により容易に検出される得る数、レベル、数値、量、頻度、パーセンテージ、スケール、サイズ、数量、重量、又は長さの範囲を意味する。用語「受け入れ不能な」及び「非明白な」及び等価表現は、標準法により容易に検出され得ないか又は検出不能であり得る数、レベル、数値、量、頻度、パーセンテージ、スケール、サイズ、数量、重量、又は長さの範囲を意味する。1つの実施形態では、事象が、5%、4%、3%、2%、1%、0.1%、0.01%、0.001%、又はそれ未満より低い頻度で生ずる場合には、事象は明白ではない。
本明細書全体を通じて、文脈より別途必要とされなければ、用語「~を含むこと(comprising)」、「~を含むこと(including)」、「~を含有すること(containing)」、及び「~を有すること(having)」は、記載されたステップ若しくはエレメント、又はステップ若しくはエレメントの群の組み入れを意味するが、しかし任意のその他のステップ若しくはエレメント、又はステップ若しくはエレメントの群の除外を意味しないものと理解されなければならない。ある特定の実施形態では、用語「~を含むこと(comprising)」、「~を含むこと(including)」、「~を含有すること(containing)」は、同義的に使用される。
【0024】
慣用句「~から構成される(consisting of)」は、慣用句「~から構成される」に後続する任意のエレメントを含み、それらに限定されることを意味する。従って、慣用句「~から構成される」は、列挙されたエレメントが必要とされるか又は必須であり、且つその他の要素は存在し得ないことを示唆する。
慣用句「~から実質的に構成される(consisting essentially of)」とは、慣用句「~から実質的に構成される」に後続して列挙された任意のエレメントを含むことを意味し、そしてその他のエレメントは、列挙されたエレメントの本開示において特定された活性若しくは作用を妨害しないか又はそれに寄与しないものに限定される。従って、慣用句「~から実質的に構成される」は、列挙されたエレメントが必要とされるか又は必須であるが、しかしその他の要素は任意選択的ではなく、且つ列挙されたエレメントの活性又は作用に対するその影響の有無に応じて存在する場合もあれば、存在しない場合もあることを示唆する。
【0025】
本明細書全体を通じて、「1つの実施形態」、「一実施形態」、「特別な実施形態」、「関連する実施形態」、「ある特定の実施形態」、「追加の実施形態」、又は「更なる実施形態」、又はその組合せについて言及する場合、それは、実施形態と関連付けて記載されている特別な特質、構造、又は特徴が少なくとも1つの本発明の実施形態に含まれることを意味する。従って、明細書全体の様々な部分において上記慣用句が認められたとしても、それは必ずしも同一の実施形態を指すわけではない。更に、特定の特質、構造、又は特徴は、1つ又は複数の実施形態において任意の適する方式で組合せ可能である。
【0026】
用語「ex vivo」とは、生物の本体外部でなされる活動、例えば生物の本体外部の人工的環境内の生体組織内/上で、好ましくは自然条件に最低限度の変更を加えつつ実施される実験又は測定等を一般的に意味する。ある特定の実施形態では、「ex vivo」手順は、生物から取得され、通常無菌条件下、検査室の器具内で、一般的に数時間又は最長約24時間(但し環境に応じて、最長48又は72時間を含む)培養された生存細胞又は組織と関係する。いくつかの実施形態では、そのような組織又は細胞は、収集及び凍結され、そしてその後ex vivo処理するために解凍され得る。生存細胞又は組織を使用する、数日間を超える組織培養実験又は手順は、「in vitro」であると一般的にみなされるものの、ある特定の実施形態では、該用語は「ex vivo」と交換可能に使用され得る。
用語「in vivo」とは、生存生物内でなされる活動を一般的に意味する。
【0027】
本明細書で使用される場合、用語「リプログラミング」又は「脱分化」、又は「細胞能力を増加させること」、又は「発達能力を増加させること」とは、細胞能力を増加させるか、又は細胞を分化程度のより低い状態に脱分化させる方法又はプロセスを指す。例えば、細胞能力が増加した細胞は、非リプログラミング状態にある同一の細胞よりも高い発生的柔軟性を有する(すなわち、より多くの細胞型に分化することができる)。換言すれば、リプログラミングされた細胞は、非リプログラミング状態にある同一の細胞よりも低い分化状態にある細胞である。いくつかの実施形態では、リプログラミングは、多能性幹細胞を全能性幹細胞にリプログラミングすることを含む。いくつかの実施形態では、リプログラミングは、非多能性幹細胞を多能性幹細胞にリプログラミングすることを含む。いくつかの実施形態では、リプログラミングは、非多能性幹細胞を多能性幹細胞にリプログラミングすることを含む。
【0028】
本明細書で使用される場合、用語「能力」とは、細胞にとって利用可能なすべての発達オプションの合計(すなわち、発達能力)を意味する。当業者は、細胞能力は、柔軟性が最も高い細胞(すなわち、最も高い発達能力を有する全能性幹細胞)から柔軟性が最も低い細胞(すなわち、最も低い発達能力を有する最終分化細胞)の範囲に及ぶ連続したものであることを認識する。細胞能力の連続したものとして、全能性細胞、多能性(pluripotent)又は多能性(multipotent)細胞、少能性細胞、単能性細胞、及び最終分化細胞が挙げられるが、但しこれらに限定されない。
本明細書で使用される場合、用語「多能性」とは、生物又は本体(すなわち、胚様体)の全系統を生成する細胞の能力を意味する。例えば、胚性幹細胞は、3つの胚葉(外胚葉、中胚葉、及び内胚葉)のそれぞれから細胞を形成する能力を有する多能性幹細胞のクラスである。
【0029】
本明細書で使用される場合、用語「全能性」とは、下記事項:1)細胞は、転写レベルに関して、全能胚細胞、すなわち接合体及び2細胞卵割球と類似すること;2)更に、細胞は、胚体内細胞型及び胚体外細胞型の両方に双方向的に発達する能力を有すること;3)いっそう更に及び最も厳密的には、1つの細胞は、完全な胚又は生存個体に発達することができること、の1つ又は複数、好ましくは2つ、及びより好ましくは3つすべてに適合する細胞を意味する。例えば、本発明により証明されるように、本発明の誘導全能性幹細胞は、1)マウス胚接合体及び2細胞卵割球の特性と類似したトランスクリプトームの特徴を示し、並びにクロマチンアクセシビリティー、DNAメチル化レベル、及び細胞代謝モードに関して、in vivoで全能性細胞のレベルと類似したレベルに変換され;2)In vitroでの単層細胞の直接分化、懸濁状態での胚様体分化、及びテラトーマ分化in vivoアッセイにより実証されるように、本発明者らにより誘導及び培養された全能性幹細胞は、多能性幹細胞は保有しない胚体外細胞に分化する能力を有する。また、in vivoでのキメリズム実験においても、発明者により誘導及び培養された全能性幹細胞は、胚体内組織及び胚体外組織の両方に、高効率で双方向性に発達する能力を有することが明確に裏付けられる。3)より重要なこととして、誘導全能性幹細胞は、in vitroで独立に誘導可能、及びマウス胚盤胞に発達可能、並びにマウス胚盤胞マーカー遺伝子を正しく発現可能である。誘導胚盤胞は、in vitroで連続的に培養するとき、胚移植後に一連の特徴を示し得るが、また誘導胚盤胞は、マウス中に移植された後に継続して発達させるために、子宮内に移植することも可能である。従って、誘導マウス全能性幹細胞は、従来式の精子-卵母細胞結合プロセスを経由することなく、本来の生体に独立して発達する能力を有する。
【0030】
全能性は、細胞の全能性の特徴を評価することにより、一部決定可能である。全能性の特徴として、(1)全能性幹細胞の形態;(2)全能性転写マーカー、例えばMERVL、Zscan4c、Zscan4d、Zscan4f、Zfp352、Tcstv1、Tcstv3、Teme92、Gm6763等の転写増加;(3)多能性転写マーカー、例えばPOU5f1、ZFP42、NANOG、KLF4、ESRRB等の転写低下;(4)胚性細胞型に分化する能力;(5)胚体外細胞型に分化する能力;及び(6)独立した個体に発達する能力が挙げられるが、但しこれらに限定されない。本発明の誘導全能性幹細胞は、これらの特徴のうちの1つ又は複数により特徴づけられ得る。本発明の誘導全能性幹細胞のこのような全能性の特徴は、例えば接合体及び/若しくは2細胞卵割球の天然全能性幹細胞、並びに/又は胚性幹細胞若しくは誘導多能性幹細胞と比較して、或いは同一の培養条件を用いることなくコントロール全能性幹細胞及び/又は多能性幹細胞と比較して、天然若しくは人工全能性幹細胞、及び/又は天然若しくは人工多能性幹細胞と比較され得る。
【0031】
ある特定の実施形態では、所与の培養条件により引き起こされた転写マーカーにおける転写の増加又は減少は、適切なコントロールと比較して、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、150、200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、1000%、又はそれを上回る増加又は減少であり得る。
【0032】
本明細書で使用される場合、「遺伝子発現」又は「遺伝子転写」とは、生物学的サンプル、例えば全能性細胞又は全能性細胞を含む細胞集団等における遺伝子発現/転写の相対的レベル、及び/又は発現/転写パターンを意味する。ある特定の実施形態では、全能性細胞は誘導全能性幹細胞である。
【0033】
本開示は、本発明の細胞を特徴づける遺伝子の発現/転写を検出するための、当技術分野において利用可能な任意の方法を網羅する。本明細書で使用される場合、用語「発現/転写を検出すること」とは、遺伝子のRNA転写物又はその発現産物の量又は存在を決定することを意味する。遺伝子の発現/転写を検出する方法、すなわち遺伝子の発現/転写プロファイルアッセイ法として、ポリヌクレオチドに基づくハイブリダイゼーション分析、ポリヌクレオチドに基づくシークエンシング、免疫組織化学、及びプロテオミクスに基づく方法が挙げられる。これらの方法は、対象とする遺伝子の発現/転写産物(例えば、mRNA)を一般的に検出する。いくつかの実施形態では、PCRに基づく方法、例えば逆転写PCR(RT-PCR)法等(Weis et al., TIG8:263-64, 1992)及びアレイに基づく方法、例えばマイクロアレイ法等(Schena et al., Science 270:467-70, 1995)が使用される。
「付着」とは、適切な培養培地の存在下で細胞の容器に連結すること、例えば、滅菌性プラスチック(又はコーティングされたプラスチック)の細胞培養ディッシュ又はフラスコに対する細胞付着を指す。特定の種類の細胞は、細胞培養容器に付着しなければ、培養物内で維持又は増殖することができない。特定の種類の細胞(「非付着性細胞」)は、壁に付着しなくても培養物内で維持及び/又は増殖する。
【0034】
「培養」又は「細胞培養」とは、in vitro環境内での細胞の維持、増殖、及び/又は分化を指す。「細胞培養培地」、「培養培地(culture medium)」、「培養培地(culture media)」、「培地(medium)」、「サプリメント」、及び「培養培地サプリメント」とは、細胞培養物を培養するための栄養組成物を指す。
「培養物」又は「細胞培養物」とは、培養される物質、例えば細胞等、及び/又は培養される物質、例えば細胞等をその中に含む培養培地を指す。
「~を培養する」とは、例えば、滅菌性プラスチック(又はコーティングされたプラスチック)の細胞培養ディッシュ又はフラスコ内で、組織又は本体外部において細胞を維持、複製(増殖)し、及び/又は分化させることを指す。「培養」は、栄養分、ホルモン、並びに/或いは細胞の複製及び/又は維持を促進するその他の因子の供給源として培養培地を使用することができる。
【0035】
本明細書で使用される場合、「解離した」細胞とは、その他の細胞又は表面(例えば、培養プレートの表面)から実質的に分離又は精製された細胞を指す。例えば、細胞は、機械的又は酵素的方法により、動物又は組織から解離し得る。或いは、in vitroで凝集した細胞は、例えば、クラスター、単一細胞、又は単一細胞及びクラスターの混合物からなる懸濁物に解離させることにより、酵素的又は機械的に相互に解離し得る。別の代替的実施形態では、接着細胞は、培養プレート又はその他の表面から解離する。従って、解離は、細胞と細胞外マトリックス(ECM)及び基材(例えば、培養表面)との相互作用を破壊すること、又は細胞間のECMを破壊することと関係し得る。
【0036】
本明細書で使用される場合、用語「~を富化する」とは、組成物、例えば細胞組成物等内の所定のコンポーネントの量を増加させることを意味し、また組成物、例えば細胞集団等を記載するのに使用されるとき、「富化された」とは、所定のコンポーネントについて、富化前の細胞集団内のそのようなコンポーネントの割合と比較して、比例的に増加した量を有する細胞集団を意味する。例えば、組成物、例えば細胞集団等は、標的細胞型(すなわち、所定の特徴を有する細胞)について富化可能であり、従って富化前の細胞集団中に存在する標的細胞の割合と比較して、標的細胞型の割合又はパーセンテージが増加している。細胞集団は、当技術分野において公知の細胞選択及びソーティング法により、標的細胞型について富化可能である。いくつかの実施形態では、細胞集団は、ソーティング法又は選択法により富化される。特別な実施形態では、標的細胞集団について富化する方法は、標的細胞集団に関して細胞集団を少なくとも約20%富化し、富化された細胞集団は、細胞集団が富化される前の細胞集団よりも約20%多くの標的細胞型を比例的に含むことを意味する。1つの実施形態では、標的細胞集団について富化する方法は、標的細胞集団について、少なくとも約30+%、40+%、50+%、60+%、70+%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、又は99%、又は少なくとも約98%、或いは特別な実施形態では約99%比例的に富化された細胞集団をもたらす。
【0037】
ある特定の実施形態では、細胞集団は、全能性細胞、又は全能性の特徴を示す細胞の量に関して富化される。本発明の特別な実施形態では、リプログラミングを経た細胞集団は、全能性の特徴、例えばMERVL、Zscan4c、Zscan4d、Zscan4f、Zfp352、Tcstv1、Tcstv3、Teme92、Gm6763を含む、但しこれらに限定されない、全能性マーカーの発現等を有する標的細胞について富化される。
【0038】
ある特定の実施形態では、富化された細胞は、異なる遺伝子又はタンパク質の発現プロファイル、例えば1つ又は複数の全能性マーカー、例えばMERVL、Zscan4c、Zscan4d、Zscan4f、Zfp352、Tcstv1、Tcstv3、Teme92、Gm6763等の細胞表面発現等を含む。いくつかの実施形態では、1つの実施形態では、細胞集団は、少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%、70%、75%、80%、90%、95%、97%、98%、又は99%の富化された細胞、例えば全能性細胞等を含む。
従って、いくつかの実施形態では、細胞集団から全能性細胞を富化する方法は、全能性マーカー、例えばMERVL、Zscan4c、Zscan4d、Zscan4f、Zfp352、Tcstv1、Tcstv3、Teme92、Gm6763等の細胞表面発現に基づき細胞集団をソーティングするステップ、及びそのようなマーカーを発現する細胞分画を収集して、全能性細胞に富んだ細胞集団を取得するステップを含む。その他の実施形態では、細胞集団は、多能性細胞マーカー、例えばPOU5f1、ZFP42、NANOG、KLF4、ESRRB等の細胞表面発現に基づきソーティングされ、そしてそのような細胞の細胞集団を枯渇させることで、全能性細胞に富んだ細胞集団が得られ、従って細胞集団は全能性細胞について富化する。
【0039】
本明細書で使用される場合、「フィーダー細胞」又は「フィーダー」は、第2の種類の細胞と共に同時培養されるある種類の細胞であって、第2の種類の細胞が増殖可能な環境を提供する(フィーダー細胞は第2の種類の細胞を支援するための増殖因子及び栄養分を提供するため)細胞を記載するのに使用される。フィーダー細胞は、任意選択的にそれが支援する細胞とは異なる種に由来する。例えば、幹細胞を含むある特定の種類のヒト細胞は、マウス胚線維芽細胞及び不死化マウス胚線維芽細胞の一次培養により支援を受けることができる。その他の細胞と共に同時培養するとき、フィーダー細胞は、それが支援する細胞を上回りそれが増殖するのを阻止するために、照射、又は抗有糸分裂剤、例えばマイトマイシンC等を用いた処置により一般的に不活性化され得る。上記に限らず、特定のフィーダー細胞型は、ヒトフィーダー細胞、例えば、ヒト皮膚線維芽細胞等であり得る。別のフィーダー細胞型はマウス胚線維芽細胞(MEF)であり得る。
本明細書で使用される場合、「フィーダーフリー」(FF)環境とは、フィーダー細胞を実質的に含まず、及び/又はフィーダー細胞培養ステップ、例えば細胞培養物又は培養培地等により事前調整されない環境を指す。「事前調整された」培地とは、フィーダー細胞を、ある期間、例えば少なくとも1日、培地内で培養した後に、それを採取した培地を指す。事前調整された培地は、培地内で培養されたフィーダー細胞により分泌された増殖因子やサイトカインを含む、多くの培地物質を含む。
【0040】
ゲノム安定性とは、DNAを忠実に複製し、またDNA複製プロセスの完全性を維持する細胞の能力を指す。本明細書で使用される場合、用語「ゲノム安定細胞」及び「ゲノム安定性を有する細胞」とは、突然変異及び染色体異常(例えば、転位、染色体異数性、コピー数多型、及び重複)について、正常なヒト細胞と比較したとき、突然変異及び染色体異常の頻度と実質的に類似するある特定の頻度を示す細胞を指す。
【0041】
「コンポーネント」とは、その起源が化学的であるか又は生物学的であるかを問わず、細胞増殖及び/又は分化を維持及び/又は促進するために、細胞培養培地において使用可能である任意の化合物又はその他の物質を指す。用語「コンポーネント」、「栄養分」、及び「成分」は、交換可能に使用される。細胞培養培地用の従来コンポーネントとして、アミノ酸、塩、金属、糖、脂質、核酸、ホルモン、ビタミン、脂肪酸、タンパク質等を挙げることができるが、但しこれらに限定されない。Ex vivo又はin vitroで細胞培養を促進及び/又は維持するためのその他のコンポーネントは、所望の効果に関する要件に基づき当業者により選択可能である。
【0042】
「単離」とは、組成物又は物質をその天然の環境から分離及び収集すること、例えば組織又は生物から個々の細胞又は細胞培養物を分離すること等を指す。1つの態様では、細胞集団又は組成物は、それが自然界で関連する細胞及び物質を実質的に含まない。全細胞集団に含まれる標的細胞に関して、「単離された」又は「精製された」又は「実質的に純粋な」とは、細胞集団が、少なくとも約50%、少なくとも約75%、少なくとも約85%、少なくとも約90%純粋であり、またある特定の実施形態では、少なくとも約95%純粋であることを意味する。細胞集団又は組成物の純度は、当技術分野において周知の適する方法により評価可能である。例えば、実質的に純粋な全能性細胞集団とは、全細胞集団に含まれる全能性細胞に関して、細胞集団は、少なくとも約50%、少なくとも約75%、少なくとも約85%、少なくとも約90%純粋であり、またある特定の実施形態では、少なくとも約95%であり、またある特定の実施形態では、約98%純粋であることを意味する。
【0043】
「~を継代すること」とは、細胞が所望のレベルまで増殖したときに細胞を再分割し、そして複数の細胞培養表面又は容器中に拡散させる操作を指す。いくつかの実施形態では、「~を継代すること」とは、細胞を再分割、稀釈、及び播種することを指す。細胞が一次培養表面又は容器から後続する群の表面又は容器に対して継代されるとき、後続する培養物は、本明細書において「継代培養物」又は「第1継代」等と呼ぶ場合がある。再分割し及び新たな培養容器中に播種するそれぞれの操作は継代とみなされる。
「~を播種する」とは、細胞が細胞培養容器に付着し、及び細胞培養容器全体に拡散するように、1つ又は複数の細胞を培養容器内に配置することを意味する。
【0044】
「多能性因子」とは、単独又はその他の試薬との併用のいずれかにおいて、細胞が多能性の程度まで発達する能力を増加させることができる試薬を指す。多能性因子として、細胞が多能性の程度まで発達する能力を増加させることができるポリヌクレオチド、ポリペプチド、及び小分子が挙げられるが、但しこれらに限定されない。例示的多能性因子として、例えば転写因子及び小分子リプログラミング剤が挙げられる。
「全能性因子」とは、単独又はその他の試薬との併用のいずれかにおいて、細胞が全能性の程度まで発達する能力を増加させることができる試薬を指す。全能性因子として、細胞が全能性の程度まで発達する能力を増加させることができポリヌクレオチド、ポリペプチド、及び小分子が挙げられるが、但しこれらに限定されない。例示的全能性因子として、例えば、転写因子及び小分子リプログラミング剤が挙げられる。
【0045】
「増殖」とは、細胞が実質的に同等の2つの細胞に分割するか、又は細胞集団の数が増加する(例えば、複製の場合)特質を指す。
「繁殖(reproduction)」とは、組織又は本体外部、例えば、滅菌容器、例えばプラスチック(又はコーティングされたプラスチック)の細胞培養ディッシュ又はフラスコ等における細胞の増殖(growth)(例えば、細胞増殖(cell proliferation)を介する繁殖)を指す。
「一次培養物」とは、単離された細胞が培養培地を有する第1の培養容器内に配置された状態にある細胞、組織、及び/又は培養物を指す。しかしながら、細胞、組織、及び/又は培養物が第1の容器内に留まる限り、該細胞、組織、及び/又は培養物は、維持及び/又は増殖可能である。細胞、組織、及び/又は培養物は一次培養物と呼ばれる。
【0046】
用語「小分子リプログラミング剤」又は「小分子リプログラミング化合物」は、本明細書では交換可能に使用され、そして単独又はその他の因子との併用のいずれかにおいて、細胞の発達能力を増加させることができる小分子を指す。小分子として、核酸、ペプチド模倣物、ペプトイド、炭水化物、脂質、又はその他の有機若しくは無機分子が挙げられるが、但しこれらに限定されない。化学的及び/又は生物学的混合物のライブラリー、例えば真菌、細菌、又は藻類の抽出物等は、当技術分野において公知であり、またある特定の実施形態では、小分子供給源として使用可能である。
【0047】
C.細胞
特別な実施形態では、1つ又は複数の細胞は、本明細書で検討される組成物及び方法を使用して培養、解離、及び継代され得る。1つの実施形態では、単一細胞が、本明細書で検討される組成物及び方法を使用して培養、解離、及び継代される。別の実施形態では、細胞集団又は複数の細胞が、本明細書で検討される組成物及び方法を使用して培養、解離、及び継代される。
特別な実施形態で使用するのに適する開始細胞は、実質的に任意の適する起源に由来し得、また細胞型又は全能性状態に関して不均一であっても、又は均一であってもよい。そのような適する細胞として胎児細胞及び成人細胞が挙げられる。それに付加して、そのような適する細胞は、哺乳動物起源、例えば、齧歯類、ネコ、イヌ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、ウマ、ウシ、又は霊長類、例えば、ヒトに由来し得る。1つの実施形態では、細胞はヒト細胞である。
【0048】
細胞は、体細胞、非多能性、不完全又は部分的多能性の幹細胞、多能性細胞、少能性細胞、単能性細胞、最終分化細胞、又は上記の任意の組合せを含む細胞の混合種個体群であり得る。特別な実施形態で使用するのに適する多能性細胞として、天然に存在する幹細胞、胚性幹細胞、又はiPSCが挙げられるが、但しこれらに限定されない。細胞の「混合種」個体群は、異なる程度の発達能力を有する細胞の集団である。例えば、細胞の混合種個体群は、混合種個体群が、多能性細胞、部分的多能性細胞、及び非多能性細胞、例えば完全に分化した細胞、例えば体細胞等を含むように、リプログラミングを経た細胞を含み得る。いくつかの実施形態では、多能性幹細胞が、本明細書に記載される全能性幹細胞を誘導するのに使用される。いくつかの実施形態では、多能性幹細胞は、胚性幹細胞又は誘導多能性幹細胞である。いくつかの実施形態では、多能性幹細胞は、非多能性幹細胞からリプログラミングされる。いくつかの実施形態では、非多能性幹細胞は、体細胞及び/又は成人幹細胞からなる群より選択される。いくつかの実施形態では、非多能性細胞を多能性幹細胞にリプログラミングするステップは、非多能性細胞内で、Oct4、Sox2、Klf4、及びc-Mycからなる群から選択される1つ又は複数のリプログラミング因子を発現させることを含む。
【0049】
1つの実施形態では、開始細胞集団は、成人又は新生児期の幹/前駆細胞からなる群から選択される。特定の実施形態では、開始幹/前駆細胞集団は、中胚葉幹/前駆細胞、内胚葉幹/前駆細胞、及び外胚葉幹/前駆細胞からなる群から選択される。
中胚葉幹/前駆細胞の例証的事例として、中胚葉幹/前駆細胞、内皮幹/前駆細胞、骨髄幹/前駆細胞、臍帯幹/前駆細胞、脂肪組織由来の幹/前駆細胞、造血細胞幹/前駆細胞(HSC)、間葉幹/前駆細胞、筋幹/前駆細胞、腎臓幹/前駆細胞、骨芽細胞幹/前駆細胞、軟骨細胞幹/前駆細胞等が挙げられるが、但しこれらに限定されない。
外胚葉幹/前駆細胞の例証的事例として、神経幹/前駆細胞、レチナール幹/前駆細胞、皮膚幹/前駆細胞等が挙げられるが、但しこれらに限定されない。
内胚葉幹/前駆細胞の例証的事例として、肝臓幹/前駆細胞、膵臓幹/前駆細胞、上皮幹/前駆細胞等が挙げられるが、但しこれらに限定されない。
ある特定の実施形態では、開始細胞集団は、小島細胞、CNS細胞、PNS細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、平滑筋細胞、造血細胞、骨細胞、肝細胞、脂肪細胞、腎細胞、肺細胞、軟骨細胞、皮膚細胞、濾胞細胞、血管細胞、上皮細胞、免疫細胞、内皮細胞等からなる群から選択される不均一又は均一な細胞集団であり得る。
【0050】
D.全能性を誘発し、及び全能性幹細胞を誘導するのに使用可能である培養プラットフォーム
セルバンキング、疾患モデリング、及び細胞療法アプリケーションにおいて、高品質の全能性細胞の生成に対する要求が益々高まっている。本発明は、特定の小分子リプログラミング剤を使用しながら、全能性を誘発し、及び全能性幹細胞を誘導するのに使用可能である培養プラットフォームを提供する。
1つの態様では、本発明は、
(a)RAシグナル伝達経路アクチベーター、並びに
(b)GSK-3阻害剤、IKKシグナル伝達経路阻害剤、HDAC阻害剤、ヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤、Srcキナーゼ阻害剤、cAMPアクチベーター、及び細胞代謝モジュレーターのうちの1つ又は複数
を含む組成物を提供する。
【0051】
別の態様では、本発明は、
(a)RAシグナル伝達経路アクチベーター、並びに
(b)GSK-3阻害剤、IKKシグナル伝達経路阻害剤、HDAC阻害剤、ヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤、Srcキナーゼ阻害剤、cAMPアクチベーター、及び細胞代謝モジュレーターのうちの1つ又は複数
を含むキットを提供する。
なおも別の態様では、本発明は、誘導多能性幹細胞の生成で使用するための、(a)RAシグナル伝達経路アクチベーター、並びに(b)GSK-3阻害剤、IKKシグナル伝達経路阻害剤、HDAC阻害剤、ヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤、Srcキナーゼ阻害剤、cAMPアクチベーター、及び細胞代謝モジュレーターのうちの1つ又は複数を提供する。
【0052】
1.RAシグナル伝達経路アクチベーター
RA(レチノイン酸)シグナル伝達経路アクチベーターは、RA経路を活性化させる能力を有する様々な薬剤であり得る。例示的RAシグナル伝達経路アクチベーターとして、TTNPB、トレチオニン/RA/ATRA、AM580、Taza、9-シス-RA、アシトレチン、CD437、タミバロテン、タザロテン、レチノイン酸、イソトレチノイン、アシトレチンナトリウム、ch55、及びAC55649が挙げられるが、但しこれらに限定されない。いくつかの実施形態では、RAシグナル伝達経路アクチベーターは、TTNPB、トレチオニン/RA/ATRA、AM580、Taza、9-シス-RA、アシトレチン、CD437、タミバロテン、タザロテン、レチノイン酸、イソトレチノイン、アシトレチンナトリウム、ch55、及びAC55649からなる群から選択される。好ましくは、いくつかの実施形態では、RAシグナル伝達経路アクチベーターは、下記の式:
【0053】
【化1】
に示すようなTTNPBである。
2.GSK-3阻害剤
GSK-3(グリコーゲンシンターゼキナーゼ-3)阻害剤は、GSK-3を阻害する能力を有する様々な薬剤であり得る。GSK-3阻害剤として、1-アザケンパウロン、AZD2858、CHIR99021、及びAZD1080が挙げられるが、但しこれらに限定されない。いくつかの実施形態では、GSK-3阻害剤は、1-アザケンパウロン、AZD2858、CHIR99021、及びAZD1080からなる群から選択される。好ましくは、いくつかの実施形態では、GSK-3阻害剤は、下記の式:
【化2】
に示すような1-アザケンパウロンである。
【0054】
3.IKKシグナル伝達経路阻害剤
IKK(IκBキナーゼ/NF-κB、IKK/NF-κB)シグナル伝達経路阻害剤は、IKKシグナル伝達経路を阻害する能力を有する様々な薬剤であり得る。例示的IKKシグナル伝達経路阻害剤として、WS6、sc-514、PF184、及びIKK16が挙げられるが、但しこれらに限定されない。いくつかの実施形態では、IKKシグナル伝達経路阻害剤は、WS6、sc-514、PF184、及びIKK16からなる群から選択される。好ましくは、いくつかの実施形態では、IKKシグナル伝達経路阻害剤は、下記の式:
【化3】
に示すようなWS6である。
【0055】
4.HDAC阻害剤
HDAC(ヒストンデアセチラーゼ)阻害剤は、HDACを阻害する能力を有する様々な薬剤であり得る。例示的HDAC阻害剤として、トリコスタチンA(TSA)、バルプロ酸(VPA)、ボリノスタット(SAHA)、及びエンチノスタット(MS-275)が挙げられるが、但しこれらに限定されない。いくつかの実施形態では、HDAC阻害剤はトリコスタチンA(TSA)、バルプロ酸(VPA)、ボリノスタット(SAHA)、及びエンチノスタット(MS-275)からなる群から選択される。
【0056】
5.ヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤
ヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤は、ヒストンメチルトランスフェラーゼを阻害する能力を有する多種多様な薬剤であり得る。例示的ヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤として、BIX01294、3-デアザネプラノシンA(DZNeP)HCl、A-366、UNC0638、及びSGC0946が挙げられるが、但しこれらに限定されない。いくつかの実施形態では、ヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤は、BIX01294、3-デアザネプラノシンA(DZNeP)HCl、A-366、UNC0638、及びSGC0946からなる群から選択される。
【0057】
6.Srcキナーゼ阻害剤
Srcキナーゼ阻害剤はSrcを阻害する能力を有する様々な薬剤であり得る。例示的Srcキナーゼ阻害剤として、ダサチニブ(BMS-354825)、WH-4-023、ポナチニブ(AP24534)、ボスチニブ(SKI-606)が挙げられるが、但しこれらに限定されない。いくつかの実施形態では、Srcキナーゼ阻害剤は、ダサチニブ(BMS-354825)、WH-4-023、ポナチニブ(AP24534)、ボスチニブ(SKI-606)からなる群から選択される。
【0058】
7.cAMPアクチベーター
CAMPアクチベーターはcAMPを活性化させる能力を有する多種多様な薬剤であり得る。例示的cAMPアクチベーターとして、コルホルシン(olforsin)(ホルスコリン、HL362)及び8-Br-cAMPが挙げられるが、但しこれらに限定されない。いくつかの実施形態では、cAMPアクチベーターは、コルホルシン(ホルスコリン、HL362)及び8-Br-cAMPからなる群から選択される。
【0059】
8.細胞代謝モジュレーター
細胞代謝モジュレーターは細胞代謝を調節する能力を有する多種多様な薬剤であり得る。例示的細胞代謝モジュレーターとして、2-デオキシ-D-グルコース(2-DG)、酢酸ナトリウム、L-乳酸ナトリウム、及びD-リボースが挙げられるが、但しこれらに限定されない。いくつかの実施形態では、細胞代謝モジュレーターは、2-デオキシ-D-グルコース(2-DG)、酢酸ナトリウム、L-乳酸ナトリウム、及びD-リボースからなる群から選択される。
【0060】
9.コンポーネントの量
本発明の組成物、キット、培地、又は培養物内の小分子リプログラミング剤の量は変化し得、また特定の培養条件(使用される所定の分子及び組合せ、培地内で培養される細胞の種類、及び所定のアプリケーションを含む)に基づき最適化され得る。1つの実施形態では、小分子リプログラミング剤は、全能性を誘発し、リプログラミング効率を改善し、細胞の能力を増加させるか若しくは維持し、又は基本状態の全能性を誘発若しくは維持するのに十分な濃度で、本発明の組成物、キット、培養物内に存在する。
いくつかの実施形態では、RAシグナル伝達経路アクチベーターは、単独又はその他の小分子リプログラミング剤と組み合わせて、全能性を誘発するのに十分な量又は濃度で、本発明の組成物、キット、培地、又は培養物内に存在する。いくつかの実施形態では、RAシグナル伝達経路アクチベーターは、0.01、0.05、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.4、1.6、1.8、2.0、2.2、2.4、2.6、2.8、3.0、3.2、3.4、3.6、3.8、4.0、4.2、4.4、4.6、4.8、5.0、5.2、5.4、5.6、5.8、6.0、6.2、6.4、6.6、6.8、7.0、7.2、7.4、7.6、7.8、8.0、8.2、8.4、8.6、8.8、9.0、9.2、9.4、9.6、9.8、10.0μM、若しくはそれ超、又は上記数値の任意の2つから構成される範囲の濃度で、本発明の組成物、キット、培地、又は培養物内に存在する。好ましくは、RAシグナル伝達経路アクチベーターは、0.05~5μM、好ましくは0.1~1μM、より好ましくは0.2μMの濃度で、本発明の組成物、キット、培地、又は培養物内に存在する。最も好ましくは、1つの実施形態では、TTNPBが、0.2μMの濃度で、本発明の組成物、キット、培地、又は培養物内に存在する。
【0061】
いくつかの実施形態では、GSK-3阻害剤は、単独又はその他の小分子リプログラミング剤と組み合わせて、全能性を誘発するのに十分な量又は濃度で、本発明の組成物、キット、培地、又は培養物内に存在する。いくつかの実施形態では、GSK-3阻害剤は、0.01、0.05、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.4、1.6、1.8、2.0、2.2、2.4、2.6、2.8、3.0、3.2、3.4、3.6、3.8、4.0、4.2、4.4、4.6、4.8、5.0、5.2、5.4、5.6、5.8、6.0、6.2、6.4、6.6、6.8、7.0、7.2、7.4、7.6、7.8、8.0、8.2、8.4、8.6、8.8、9.0、9.2、9.4、9.6、9.8、10.0μM、若しくはそれ超、又は上記数値の任意の2つから構成される範囲の濃度で、本発明の組成物、キット、培地、又は培養物内に存在する。好ましくは、GSK-3阻害剤は、0.5~10.0μM、好ましくは2.0~3.0μM、より好ましくは2.5μMの濃度で、本発明の組成物、キット、培地、又は培養物内に存在する。最も好ましくは、1つの実施形態では、1-アザケンパウロンは、2.5μMの濃度で、本発明の組成物、キット、培地、又は培養物内に存在する。
【0062】
いくつかの実施形態では、IKKシグナル伝達経路阻害剤は、単独又はその他の小分子リプログラミング剤と組み合わせて、多能性を誘発するのに十分な量又は濃度で、本発明の組成物、キット、培地、又は培養物内に存在する。いくつかの実施形態では、IKKシグナル伝達経路阻害剤は、0.01、0.05、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.4、1.6、1.8、2.0、2.2、2.4、2.6、2.8、3.0、3.2、3.4、3.6、3.8、4.0、4.2、4.4、4.6、4.8、5.0、5.2、5.4、5.6、5.8、6.0、6.2、6.4、6.6、6.8、7.0、7.2、7.4、7.6、7.8、8.0、8.2、8.4、8.6、8.8、9.0、9.2、9.4、9.6、9.8、10.0μM、若しくはそれ超、又は上記数値の任意の2つから構成される範囲の濃度で、本発明の組成物、キット、培地、又は培養物内に存在する。好ましくは、IKKシグナル伝達経路阻害剤は、0.1~10.0μM、好ましくは0.3~1μM、より好ましくは0.5μMの濃度で、本発明の組成物、キット、培地、又は培養物内に存在する。最も好ましくは、1つの実施形態では、WS6は、0.5μMの濃度で、本発明の組成物、キット、培地、又は培養物内に存在する。
【0063】
いくつかの実施形態では、HDAC阻害剤は、単独又はその他の小分子リプログラミング剤と組み合わせて、全能性を誘導するのに十分な量又は濃度で、本発明の組成物、キット、培地、又は培養物内に存在する。いくつかの実施形態では、HDAC阻害剤は、0.01、0.05、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.4、1.6、1.8、2.0、2.2、2.4、2.6、2.8、3.0、3.2、3.4、3.6、3.8、4.0、4.2、4.4、4.6、4.8、5.0、5.2、5.4、5.6、5.8、6.0、6.2、6.4、6.6、6.8、7.0、7.2、7.4、7.6、7.8、8.0、8.2、8.4、8.6、8.8、9.0、9.2、9.4、9.6、9.8、10.0μM、若しくはそれ超、又は上記数値の任意の2つから構成される範囲の濃度で、本発明の組成物、キット、培地、又は培養物内に存在する。
【0064】
いくつかの実施形態では、ヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤は、単独又はその他の小分子リプログラミング剤と組み合わせて、全能性を誘発するのに十分な量又は濃度で、本発明の組成物、キット、培地、又は培養物内に存在する。いくつかの実施形態では、ヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤は、0.01、0.05、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.4、1.6、1.8、2.0、2.2、2.4、2.6、2.8、3.0、3.2、3.4、3.6、3.8、4.0、4.2、4.4、4.6、4.8、5.0、5.2、5.4、5.6、5.8、6.0、6.2、6.4、6.6、6.8、7.0、7.2、7.4、7.6、7.8、8.0、8.2、8.4、8.6、8.8、9.0、9.2、9.4、9.6、9.8、10.0μM、若しくはそれ超、又は上記数値の任意の2つから構成される範囲の濃度で、本発明の組成物、キット、培地、又は培養物内に存在する。
【0065】
いくつかの実施形態では、Srcキナーゼ阻害剤は、単独又はその他の小分子リプログラミング剤と組み合わせて、多能性を誘発するのに十分な量又は濃度で、本発明の組成物、キット、培地、又は培養物内に存在する。いくつかの実施形態では、Srcキナーゼ阻害剤は、0.01、0.05、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.4、1.6、1.8、2.0、2.2、2.4、2.6、2.8、3.0、3.2、3.4、3.6、3.8、4.0、4.2、4.4、4.6、4.8、5.0、5.2、5.4、5.6、5.8、6.0、6.2、6.4、6.6、6.8、7.0、7.2、7.4、7.6、7.8、8.0、8.2、8.4、8.6、8.8、9.0、9.2、9.4、9.6、9.8、10.0μM、若しくはそれ超、又は上記数値の任意の2つから構成される範囲の濃度で、本発明の組成物、キット、培地、又は培養物内に存在する。
【0066】
いくつかの実施形態では、cAMPアクチベーターは、単独又はその他の小分子リプログラミング剤と組み合わせて、全能性を誘発するのに十分な量又は濃度で、本発明の組成物、キット、培地、又は培養物内に存在する。いくつかの実施形態では、cAMPアクチベーターは、0.01、0.05、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.4、1.6、1.8、2.0、2.2、2.4、2.6、2.8、3.0、3.2、3.4、3.6、3.8、4.0、4.2、4.4、4.6、4.8、5.0、5.2、5.4、5.6、5.8、6.0、6.2、6.4、6.6、6.8、7.0、7.2、7.4、7.6、7.8、8.0、8.2、8.4、8.6、8.8、9.0、9.2、9.4、9.6、9.8、10.0μM、若しくはそれ超、又は上記数値の任意の2つから構成される範囲の濃度で、本発明の組成物、キット、培地、又は培養物内に存在する。
【0067】
いくつかの実施形態では、細胞代謝モジュレーターは、単独又はその他の小分子リプログラミング剤と組み合わせて、全能性を誘発するのに十分な量又は濃度で、本発明の組成物、キット、培地、又は培養物内に存在する。いくつかの実施形態では、細胞代謝モジュレーターは、0.01、0.05、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.4、1.6、1.8、2.0、2.2、2.4、2.6、2.8、3.0、3.2、3.4、3.6、3.8、4.0、4.2、4.4、4.6、4.8、5.0、5.2、5.4、5.6、5.8、6.0、6.2、6.4、6.6、6.8、7.0、7.2、7.4、7.6、7.8、8.0、8.2、8.4、8.6、8.8、9.0、9.2、9.4、9.6、9.8、10.0μM、若しくはそれ超、又は上記数値の任意の2つから構成される範囲の濃度で、本発明の組成物、キット、培地、又は培養物内に存在する。
特別な実施形態では、本発明の組成物、キット、培地、又は培養物における小分子リプログラミング試薬の好ましい組合せを表1に掲載する。
【0068】
【表1】
【0069】
好ましくは、1つの実施形態では、本発明に基づく組成物、キット、又は使用は、RAシグナル伝達経路アクチベーター、GSK-3阻害剤、及びIKKシグナル伝達経路阻害剤を含むか又は好ましくはそれらから構成される。
より好ましくは、1つの実施形態では、RAシグナル伝達経路アクチベーターはTTNPBであり、GSK-3阻害剤は1-アザケンパウロンであり、及びIKKシグナル伝達経路阻害剤はWS6である。
最も好ましくは、1つの実施形態では、RAシグナル伝達経路アクチベーターは、0.2μMのTTNPBであり、GSK-3阻害剤は、2.5μMの1-アザケンパウロンであり、及びIKKシグナル伝達経路阻害剤は0.5μMのWS6である。
E.培養培地
【0070】
1つの態様では、本発明は、本明細書に記載される組成物を含む培養培地を提供する。組成物は、(a)anRAシグナル伝達経路アクチベーター、並びに(b)GSK-3阻害剤、IKKシグナル伝達経路阻害剤、HDAC阻害剤、ヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤、Srcキナーゼ阻害剤、cAMPアクチベーター、及び細胞代謝モジュレーターのうちの1つ又は複数を含む。
いくつかの実施形態では、本発明の培地は基本培地を含む。例示的基本培地として、DMEM、ノックアウトDMEM、RPMI1640、及びDMEM/F12が挙げられるが、但しこれらに限定されない。いくつかの実施形態では、基本培地は、DMEM、ノックアウトDMEM、RPMI1640、及びDMEM/F12からなる群から選択される。
特別な実施形態では、本発明の培養培地はサイトカイン及び/又は増殖因子を含む。特別な実施形態では、本発明の培養培地はサイトカイン及び/又は増殖因子を実質的に含まないか又はまったく含まない。ある特定の実施形態では、培養培地は、血清、抽出物、増殖因子、ホルモン、サイトカイン等を含む、但しこれらに限定されない1つ又は複数のサプリメントを含む。
【0071】
例証的実施形態では、培養培地は、下記のサイトカイン又は増殖因子:上皮増殖因子(EGF)、酸性線維芽細胞増殖因子(aFGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、白血病抑制因子(LIF)、肝細胞増殖因子(HGF)、インスリン様増殖因子-1(IGF-1)、インスリン様増殖因子-2(IGF-2)、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、神経成長因子(NGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、形質転換増殖因子(iKTGF-β)、血管内皮増殖因子(VEGF)、トランスフェリン、様々なインターロイキン(例えば、IL-1からE-18等)、様々なコロニー刺激因子、例えば果粒球/マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)等、様々なインターフェロン、例えばIFN-γ等、及び幹細胞に対して効果を有するその他のサイトカイン、例えば幹細胞因子(SCF)やエリスロポエチン(Epo)等のうちの1つ又は複数を含む。これらのサイトカインは、例えばR&D Systems Minneapolis、Minnから市販されており、また天然型又は組換え体であり得る。ある特定の実施形態では、増殖因子及びサイトカインは、小分子リプログラミング剤について本明細書で検討される濃度において添加され得る。
【0072】
任意の適する容器、又は細胞培養容器が、基本培地及び/又は細胞培養サプリメント内で細胞培養するための支持体として使用され得る。支持体上のマトリックスコーティングは不要である。しかしながら、培養容器の表面を係留促進マトリックス(例えば、コラーゲン、フィブロネクチン、RGD含有ポリペプチド、ゼラチン等)でコーティングすれば、細胞の連結が促進され、また特別な実施形態では、本明細書で開示される培地及びサプリメントの効果を増強し得る。細胞を培養及び継代するための適するマトリックスは当技術分野において公知であり、ビトロネクチン、ゼラチン、ラミニン、フィブロネクチン、コラーゲン、エラスチン、オステオポンチン、天然に存在する細胞系により生成されるマトリックスの混合物、例えばマトリゲル(商標)等、及び合成又は人工的表面、例えばポリアミン単層及びカルボキシル末端化単層等が挙げられるが、但しこれらに限定されない。
【0073】
F.細胞生成方法
1つの態様では、本発明は、誘導全能性幹細胞を生成する方法であって、本明細書に記載されるような培地内で細胞を培養し、これにより誘導全能性幹細胞を生成するステップを含む方法を提供する。いくつかの実施形態では、培養培地は本明細書に記載される組成物を含む。いくつかの実施形態では、組成物は、(a)RAシグナル伝達経路アクチベーター、並びに(b)GSK-3阻害剤、IKKシグナル伝達経路阻害剤、HDAC阻害剤、ヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤、Srcキナーゼ阻害剤、cAMPアクチベーター、及び細胞代謝モジュレーターのうちの1つ又は複数を含む。
本発明の方法のための出発物質として使用される細胞は、本明細書に記載されるような多種多様な細胞であり得る。例えば、本発明の方法は、多能性細胞、例えば多能性幹細胞、例えば誘導全能性幹細胞等から開始する場合もあれば、また本発明の方法は、非多能性細胞、例えば非多能性幹細胞、例えば体細胞等から開始する場合もある。
【0074】
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、本明細書に記載されるような培地内で多能性幹細胞を培養し、これにより誘導全能性幹細胞を生成するステップを含む。
いくつかの実施形態では、多能性幹細胞は胚性幹細胞又は誘導多能性幹細胞である。
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、本明細書に記載されるような培地内で非多能性幹細胞を培養し、これにより誘導全能性幹細胞を生成するステップを含む。
いくつかの実施形態では、方法は、非多能性細胞を多能性幹細胞にリプログラミングするステップを含む。
いくつかの実施形態では、非多能性細胞は体細胞及び/又は成人幹細胞からなる群より選択される。
いくつかの実施形態では、非多能性細胞を多能性幹細胞にリプログラミングするステップは、非多能性細胞内で、Oct4、Sox2、Klf4、及びc-Mycからなる群から選択される1つ又は複数のリプログラミング因子を発現させることを含む。
いくつかの実施形態では、多能性幹細胞を培養することは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20日間継続する。
【0075】
G.培養物
1つの態様では、本発明は、本明細書に記載される培養培地及び多能性幹細胞を含む培養物を提供する。いくつかの実施形態では、培養培地は本明細書に記載される組成物を含む。いくつかの実施形態では、組成物は、(a)RAシグナル伝達経路のアクチベーター、並びに(b)GSK-3阻害剤、IKKシグナル伝達経路阻害剤、HDAC阻害剤、ヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤、Srcキナーゼ阻害剤、cAMPアクチベーター、及び細胞代謝モジュレーターのうちの1つ又は複数を含む。
【0076】
本明細書に記載される培養物に含まれる細胞は、本明細書に記載されるような様々な細胞であり得る。例えば、細胞は、本明細書に記載される培養又は誘導のための初期細胞、例えば多能性細胞、例えば多能性幹細胞、例えばiPSC等、又は非多能性細胞、例えば非多能性幹細胞、例えば体細胞等であり得る。或いは、細胞は、本明細書に記載されるように培養又は誘導された中間的又は最終的な細胞であり得る。中間的な細胞は、初期の細胞及び最終的な細胞とは異なる様々な発達能力を有する細胞であり得る。最終的な細胞は本明細書に記載されるような全能性幹細胞であり得る。
いくつかの実施形態では、本発明に基づく培養物は、本明細書に記載されるような培養培地及び多能性幹細胞を含む。
いくつかの実施形態では、多能性幹細胞は胚性幹細胞又は誘導多能性幹細胞である。
いくつかの実施形態では、本発明に基づく培養物は、本明細書に記載されるような培養培地及び全能性幹細胞を含む。
いくつかの実施形態では、全能性幹細胞は誘導全能性幹細胞である。
好ましくは、いくつかの実施形態では、全能性幹細胞は本明細書に記載される方法により生成可能である。
【0077】
H.全能性細胞及びその特徴づけ
近年、国際的ジャーナルのNature Cell Biology(Posfai,E.et al.Evaluating totipotency using criteria of increasing stringency.Nature Cell Biology 23,49-60,doi:10.1038/s41556-020-00609-2(2021))において公表された研究報告において、研究機関、例えばKarolinska Institutet(スウェーデン)等に所属の科学者は、多能性幹細胞と全能性幹細胞との間を区別するためのゴールデンスタンダードを定義した。
研究は、自然界では、哺乳動物全能性細胞は発生初期の胚内にのみ存在することを示唆する。これに対応して、マウスの場合、接合体及び2細胞期卵割球のみが全能性を有し、それは胚が発達するに従い徐々に失われる。全能性の最も厳格な定義は、細胞は、胚全体又は生物に発達することができることを意味する。全能性のより広い定義は、細胞は、胚体内細胞型及び胚体外細胞型の両方に向かう双方向的発達能力を有することを意味する。これまで、科学者は、多能性状態のマウス幹細胞系統を創出した。しかしながら、このような細胞は、胚コンポーネントの細胞にしか発達することがでず、胚体外細胞型に発達する能力を有さない。
【0078】
この試験では、研究者は、組合せ試験を通じて細胞が真に全能性であるかどうか評価するための基準を設定した。総じて、研究者は、全能性マウス幹細胞系統において4つの基準を特定した:1)このような細胞のトランスクリプトーム的特性又は遺伝子発現プロファイルは、より後期の胚よりも初期の全能性胚のそれに類似する必要がある;2)このような細胞は、胚体外細胞系統、ひいては胚体外細胞型にin vitroで分化することができる;3)このような細胞は、in vitroでの誘導発達を通じて芽球様細胞を形成することができ、またいくつかの初期胚発生事象をシミュレートすることができる;並びに4)このような細胞は、胚体内及び胚体外分化に関与し、そして初期マウス胚内に注入したとき、対応する遺伝マーカーを通常発現する細胞型に分化することができる(胚性-胚体外キメリズムとしても知られている)。研究者らは、次に潜在的全能性を保有するものとこれまでに報告された2つマウス幹細胞系統(多能性拡張型幹細胞:L-EPSC及びD-EPSC)についてテストし、そしてこのゴールデンスタンダードを使用して評価し、その系統のいずれも全能性幹細胞に関する基準に適合しないことを見出した。
【0079】
本発明者らにより誘導及び培養された全能性幹細胞は、1)マウス胚接合体及び2細胞卵割球の特性と類似したトランスクリプトームの特徴を示し、並びにクロマチンアクセシビリティー、DNAメチル化レベル、及び細胞代謝モードに関して、in vivoで全能性細胞のレベルと類似したレベルに変換され;2)in vitroでの単層細胞の直接分化、懸濁状態の胚様体分化及びテラトーマ分化in vivoアッセイにより実証されるように、本発明者らにより誘導及び培養された全能性幹細胞は、多能性幹細胞は保有しない胚体外細胞に分化する能力を有する。また、in vivoでのキメリズム実験においても、発明者により誘導及び培養された全能性幹細胞は、胚体内組織及び胚体外組織の両方に、高効率で双方向性に発達する能力を有することが明確に裏付けられる。3)より重要なこととして、誘導全能性幹細胞は、in vitroで独立に誘導可能、及びマウス胚盤胞に発達可能、並びにマウス胚盤胞マーカー遺伝子を正しく発現可能である。誘導胚盤胞は、in vitroで連続的に培養するとき、胚移植後に一連の特徴を示し得るが、また誘導胚盤胞は、マウス中に移植された後に継続して発達させるために、子宮内に移植することも可能である。従って、誘導マウス全能性幹細胞は、従来式の精子-卵母細胞結合プロセスを経由することなく、本来の生体に独立して発達する能力を有する。
【0080】
1つの態様では、本発明は、本明細書に記載される方法により生成可能である誘導全能性幹細胞を提供する。いくつかの実施形態では、方法は、本明細書に記載される培養培地内で細胞を培養し、これにより誘導全能性幹細胞を生成するステップを含む。いくつかの実施形態では、培養培地は本明細書に記載される組成物を含む。いくつかの実施形態では、組成物は、(a)RAシグナル伝達経路のアクチベーター、並びに(b)GSK-3阻害剤、IKKシグナル伝達経路阻害剤、HDAC阻害剤、ヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤、Srcキナーゼ阻害剤、cAMPアクチベーター、及び細胞代謝モジュレーターのうちの1つ又は複数を含む。
本明細書に記載される培養プラットフォームを使用して生成される誘導全能性幹細胞は、様々な方法で特徴づけられ得る。
【0081】
得られた誘導全能性幹細胞における全能性の古典的マーカー遺伝子及び反復(例えば、MERVL、Zscan4、ZFP352、Tcstv3、及びGm6763)の転写は、RT-qPCR反応により検出され得る。初期細胞、例えば胚性幹細胞(mESC)等と比較すると、本発明に基づく誘導全能性幹細胞は、全能性マーカー遺伝子及び反復(例えば、MuERVL、Zscan4、ZFP352、Tstv3、及びGm6763)について高い発現性を示すことができ、これは、多能性胚性幹細胞は全能性幹細胞への細胞運命の移行を経ることを意味する。いくつかの実施形態では、誘導全能性幹細胞における全能性マーカー遺伝子及び反復のうちの1つ又は複数の発現レベルは、初期細胞と比較して1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、150、200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、1000倍、若しくはそれ超、又は上記数値の任意の2つから構成される範囲内にある。
【0082】
誘導全能性幹細胞の分子生物学的特徴を更に探索するために、トランスクリプトームシークエンシング(RNA-seq)及び単一細胞RNAシークエンシング(scRNA-seq)も、全能性を取得した後に、初期細胞、例えば胚性幹細胞等において転写レベルの変化を分析するのにやはり使用可能である。これは、初期細胞、例えば胚性幹細胞等、及び誘導全能性幹細胞における全能性マーカー遺伝子及び多能性マーカー遺伝子の富化分析(GSEA分析)を含み得る。全能性マーカー遺伝子、例えば2細胞期胚におけるその特異的発現は、本発明に基づく誘導全能性幹細胞において有意に富化している一方、多能性マーカー遺伝子は、初期細胞、例えば胚性幹細胞等において有意に富化していることが見出され得る。
【0083】
クラスター分析が、初期細胞、例えば胚性幹細胞等内、及び本発明に基づく誘導全能性幹細胞内で、胚発生の様々な段階において、全トランスクリプトームレベルの類似性を分析するのに使用可能である。本発明に基づく誘導全能性幹細胞は、全トランスクリプトームレベルにおいて、全能性の1細胞期及び2細胞期胚に近く、従って転写レベルにおいて全能性状態にあることが見出され得る。
全トランスクリプトームの主成分分析(PCA)を通じて、本発明に基づく誘導全能性幹細胞は、発達段階に関して全能性の1細胞期胚と2細胞期胚との間にあり得る一方、初期細胞、例えば胚性幹細胞等は、より後期の発達段階における胚盤胞により近いことが確認され得る。
接合体、胚発生の2細胞期、4細胞期、8細胞期、及び16細胞期における特異的発現について、初期細胞、例えば胚性幹細胞等と比較しながら、本発明による誘導全能性幹細胞における遺伝子セットの富化を分析することにより、接合体及び2細胞期において特異的に発現している全能性マーカー遺伝子セットが、本発明に基づく誘導全能性幹細胞において有意に富化し得る。
【0084】
UMAP分析が、本発明に基づく誘導全能性幹細胞及びコントロール細胞の単一細胞RNAシークエンシング(scRNA-seq)結果において実施可能である。本発明に基づく誘導全能性幹細胞は、全能性を有する2細胞胚に酷似し、そして全能性マーカー遺伝子について高い発現、及び多能性マーカー遺伝子について低い発現を示し得、全能性トランスクリプトームシグネチャーを有する。
【0085】
本発明に基づく誘導全能性幹細胞のクロマチンアクセシビリティー特性を探索するために、本発明に基づく誘導全能性幹細胞が、シークエンシングを使用したトランスポゼースアクセシブルクロマチンのアッセイ(Transposase-Accessible Chromatin using sequencing:ATAC-seq)により分析可能である。クロマチンアクセシビリティーは遺伝子の活性化又は抑制を示唆する。本発明に基づく誘導全能性幹細胞は、転写開始部位(TSS)近傍に5kbの閉鎖ピーク及び開放ピーク(2細胞胚性(2C)期と類似した開放又は閉鎖状態)を示し得る。それに加えて、初期細胞、例えば胚性幹細胞等と比較して、本発明に基づく誘導全能性幹細胞は、いくつかの重要な全能性遺伝子及び逆転写エレメント、例えばZscan4c、Zscan4d、Zscan4f、ZFP352、MERVL等の近傍において、より高度の開放性を示し得る。一方、古典的多能性遺伝子、例えばPOU5f1、ZFP42、NANOG、KLF4、ESRRB等は、閉鎖した状態にあり得る。これは、本発明に基づく誘導全能性幹細胞は、全能性を有する2細胞期胚のクロマチンアクセシビリティーと類似したそれを有し得ることを意味する。
【0086】
本発明に基づく誘導全能性幹細胞のゲノムメチル化レベルを検出するために、縮約表現ビサルファイトシークエンシング法(reduced representation bisulfite sequencing:RRBS)が、本発明に基づく誘導全能性幹細胞のDNAメチロームを特徴づけるのに使用可能である。RRBSシークエンシング結果の全体的なメチル化主成分分析を通じて、本発明に基づく誘導全能性幹細胞は、発達段階に関して、初期細胞、例えば胚性幹細胞等よりも、全能性を有する1細胞期及び2細胞期胚に近い可能性があることが理解され得る。
多能性幹細胞は、胚体外細胞に分化する能力を有さない。本発明に基づく誘導全能性幹細胞が胚体外細胞型に分化する能力を検証するのに、蛍光免疫染色によって栄養外胚葉幹細胞(CDX2)の特異的タンパク質発現を検出するための陽性コントロールとして、市販の栄養芽細胞幹細胞(TSC)が使用可能である。CDX2は、マウス栄養外胚葉幹細胞の古典的特異的遺伝子である。多能性幹細胞マーカーOct4の変化と組み合わせて、そのタンパク質発現レベルを免疫蛍光検出することにより、栄養外胚葉幹細胞系統への分化が生じたかどうか判定可能である。本発明に基づく誘導全能性幹細胞は、CDX2を有意に発現するように有効に誘導され得る一方、Oct4の発現は下方制御され、従って胚体外部分、すなわち栄養外胚葉幹細胞に分化する能力を有する。
【0087】
本発明に基づく誘導全能性幹細胞を栄養外胚葉幹細胞に誘導する期間中に生ずる栄養外胚葉幹細胞特異的遺伝子の転写はRT-qPCRにより分析可能である。本発明に基づく誘導全能性幹細胞は、誘導プロセス期間中に、CDX2、Elf5、TFAP2C、及びEsx1を含む、但しこれらに限定されない栄養外胚葉幹細胞特異的マーカー遺伝子を徐々に増加させる可能性があるが、これは陽性コントロールとして用いた栄養芽細胞幹細胞(TSC)と類似する。
CDX2は、マウス栄養外胚葉幹細胞の古典的特異遺伝子である。本発明に基づく誘導全能性幹細胞が胚様体に分化する能力は、蛍光免疫染色を介して、CDX2陽性細胞(胚体外細胞を代表し、全能性幹細胞の胚体外細胞型への分化を示唆する)を検出し、これにより本発明に基づく誘導全能性幹細胞が胚様体に分化する能力を判定することにより決定可能である。胚様体分化実験により、本発明に基づく誘導全能性幹細胞は胚体外部分、すなわち栄養外胚葉幹細胞にin vitroで分化する能力(多能性幹細胞は保有しない)を有することが実証される。
【0088】
テラトーマアッセイは、3つの胚葉及び胚体外系統にランダムに分化する細胞の能力をテストするための古典的実験である。本発明に基づく誘導全能性幹細胞がテラトーマに分化する能力は、顕微鏡下で組織切片を観察し、3つの胚葉及び胚体外系統の特異的な組織構造を見出すことにより決定可能である。テラトーマ分化実験より、本発明に基づく誘導全能性幹細胞は、in vitroで胚体外部分に分化する能力(多能性幹細胞は保有しない)を有することが実証される。
【0089】
キメラ胚発生実験が、本発明に基づく誘導全能性幹細胞が胚体内細胞型及び胚体外細胞型の両方に分化する発達能力を有することを実証するのに使用可能である。8細胞期胚内に注入してtdTomato蛍光を安定的に発現する幹細胞を得るために、Rosa26-tdTomatoマウス由来の胚盤胞が、マウス誘導全能性幹細胞又はマウス胚性幹細胞(mESC)の蛍光細胞系を確立するのに使用可能である。胚内に注入した幹細胞が胚と共に発達し、そして胚体内部分及び胚体外部分に分化する場合、蛍光が対応する胚体内部分及び胚体外部分において観察可能である。誘導全能性幹細胞を用いたキメラ胚のin vivo発達実験において(例えば、E4.5に至る発達)、tdTomato陽性細胞のキメリズムにより決定されるように、本発明に基づく誘導全能性幹細胞は、胚内部の内部細胞塊(ICM)及び胚外部の栄養外胚葉(TE)の両方に埋め込まれ得る。胚体外細胞型への分化は、tdtomato蛍光及びCDX2蛍光の同時局在によっても更に確認され得る。本発明に基づく誘導全能性幹細胞のキメラ胚in vivo発現実験(例えば、E4.5、E7.5、及びE12.5に至る発達)において、tdtomato蛍光及びCDX2蛍光の同時局在が観察可能である。本発明に基づく誘導全能性幹細胞は栄養外胚葉(TE)の発現に関与することができ、そして胚体外部分に分化する能力を有することが確認された。
【0090】
キメラ胚の更なる発達について(例えば、E7.5)、本発明に基づく誘導全能性幹細胞が胚体外部分に分化する能力が、Oct4(胚性外胚葉(EPI)の古典的マーカー)、及びELF5(胎盤錐体(EPC)の古典的マーカー)、及び胚体外外胚葉(ExE)の蛍光免疫染色によってもやはり確認され得る。本発明に基づく誘導全能性幹細胞は、胚性エピブラスト(EPI)、胚体外胎盤錐体(EPC)、及び胚体外外胚葉(ExE)に埋め込まれ得る。本発明に基づく誘導全能性幹細胞は、胚移植後の胚について、その胚体外組織の発達に関与する能力をなおも有し得ることが実証された。
キメラ胚の更になる発達について(例えば、E12.5)、本発明に基づく誘導全能性幹細胞は、胚(Em)、胚体外組織胎盤(Pl)、及び卵黄嚢(Yo)に埋め込まれ得ることが、tdTomato陽性細胞のキメリズムを分析することによってやはり確認され得る。本発明に基づく誘導全能性幹細胞は、胚移植後の胚について、その胚体外組織の発達に関与する能力をなおも有し得ることが実証された。
【0091】
本発明に基づく誘導全能性幹細胞が胚盤胞に独立して発達する能力は、胚盤胞を誘導するのに使用される培養条件下で試験可能である。本発明に基づく誘導全能性幹細胞から誘導された胚盤胞は、通常の胚盤胞ときわめて類似した形態学的特徴を有し得る。本発明に基づく誘導全能性幹細胞から誘導された胚盤胞は、蛍光免疫染色により確認されるように、通常の胚盤胞の3つの細胞系統をin vivoで有する可能性があり、本発明に基づく誘導全能性幹細胞は、適正な構造及び適正な遺伝子発現を有する胚盤胞に有効に誘導可能であることが実証される。
本発明に基づく誘導全能性幹細胞から誘導される胚盤胞は、移植後の胚(例えば、E4.5~E5.5の段階)に類似し、2つの半球として、内胚葉(SOX17について陽性の染色)により取り囲まれた外胚葉(TFAP2Cについて陽性の染色)及びEPI(Oct4について陽性の染色)を含む三次元構造を生成するように、in vitroで更に培養され得る。
本発明に基づく誘導全能性幹細胞から誘導された胚盤胞は、in vivoで更に発達させるために子宮内に移植可能であり、また子宮内に移植した後に脱落膜化反応を惹起し、そして継続して増殖することができる。
上記議論の通り、本発明に基づく誘導全能性幹細胞は、上記特性のうちの1つ又は複数により特徴づけられ得る。そのような特徴づけは、本明細書に記載される方法、又は当業者にとって周知の方法を使用して実施可能である。
【0092】
I.アプリケーション
本発明に基づく誘導全能性幹細胞は、研究、工業界、及びクリニックにおける、広範囲にわたる所望のアプリケーションに対して使用可能である。例えば、様々な生成物が、本発明の誘導全能性幹細胞の分化を介して生成可能であり、例えば、モデルを構築し、標的について試験し、代用物を開発するために、及びその他の有望な治療又は診断的アプリケーションのために使用可能である。
本発明に基づく誘導全能性幹細胞は、生物の生成を誘導するのに使用可能である。生物は、有望な科学的、治療上、及び診断上のアプリケーション、例えば疾患モデルの構築等に使用可能である。1つの態様では、本発明は、本明細書に記載される誘導全能性幹細胞に由来する生物を提供する。生物は、当技術分野において公知の動物、植物、菌類、及びその他の真核生物を含む、但しこれらに限定されない真核生物であり得る。動物として、哺乳動物、例えば霊長類、例えばヒト等、ヒト以外の霊長類、非霊長類、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、イヌ、ウサギ類、齧歯類、例えばサル、ウシ、ヒツジ、ブタ、イヌ、ウサギ、ラット、又はマウス等を挙げることができるが、但しこれらに限定されない。好ましくは、いくつかの実施形態では、生物は齧歯類又は哺乳動物である。いくつかの実施形態では、哺乳動物はヒトではない。
【0093】
植物は、単子葉植物若しくは双子葉植物であり得るか、又は収穫物若しくは穀物植物、例えばキャッサバ、コーン、ソルガム、大豆、小麦、エンバク、又は米等であり得る。植物は、藻類、木、又はイールダープラント(yielder plant)、果実、又は野菜類(例えば、木、例えばカンキツ高木等、例えばオレンジ、グレープフルーツ、又はレモン高木;モモ又はネクタリン高木;リンゴ又は洋ナシ高木;ナッツ高木、例えばアーモンド、又はクルミ、又はピスタチオ高木等;ナス属(Solanum genus)の植物;アブラナ属(Brassica genus)の植物;アキノノゲシ属(Lactuca genus)の植物;ホウレンソウ属(Spinacia genus)の植物;カプシクム属(Capsicum genus)の植物;コットン、タバコ、アスパラガス、ニンジン、キャベツ、ブロッコリー、カリフラワー、トマト、ナス、コショウ、レタス、ホウレンソウ、イチゴ、ブルーベリー、ラズベリー、ブラックベリー、ブドウ、コーヒー、ココア等)である場合もある。
【0094】
本発明に基づく誘導全能性幹細胞は、オルガノイドの生成を誘発するのに使用され得る。オルガノイドは、疾患モデル、移植療法、又はその他の有望な科学的、治療上、及び診断上のアプリケーションを構築するのに使用可能である。1つの態様では、本発明は、本明細書に記載される誘導全能性幹細胞に由来するオルガノイドを提供する。オルガノイドは、下記の臓器:
ヒト骨格、例えば骨、手根骨、鎖骨、大腿骨、腓骨、上腕骨、顎、中手骨、中足骨、小骨、膝蓋骨、趾骨、橈骨、頭蓋骨、足根骨、脛骨、尺骨、肋骨、脊椎、骨盤、胸骨、軟骨等;関節、例えば線維性関節、軟骨性関節、及び滑膜関節等;筋肉系、例えば筋肉、腱、横隔膜等を含む筋骨格系;
心血管系、例えば末梢血液供給系(動脈、静脈、リンパ管)、心臓等;リンパ系、一次(骨髄、胸腺)、二次(脾臓、リンパ節)、グリンパ系を含む循環系;
脳、例えば後脳(延髄、脳橋、小脳)、中脳、前脳(間脳(網膜、視神経)、大脳、辺縁系)等、脊髄、神経、感覚系(耳、眼)を含む神経系;
皮膚、皮下組織、乳房(乳腺)を含む表皮系;
骨髄細胞、リンパ球を含む免疫系;
上気道(鼻、咽頭、喉頭)、下部気道(気管、気管支、肺)を含む呼吸器系;
口(唾液腺、舌)、上部消化管(中咽頭、咽頭喉頭部、食道、胃)、下部消化管(小腸、虫垂、大腸、直腸、肛門)、関係する消化腺(肝臓、胆管、膵臓)を含む消化器;
尿生殖器系、腎臓、尿管、膀胱、尿道を含む尿路系;
女性生殖器系(子宮、膣、外陰、卵巣、胎盤)、男性生殖器系(陰嚢、ペニス、前立腺、睾丸、精嚢)を含む生殖器系;
脳下垂体、松果体、甲状腺、副甲状腺、副腎、膵島を含む内分泌系
に由来するオルガノイドであり得るが、但しこれらに限定されない。
【0095】
本発明に基づく誘導全能性幹細胞は、組織の生成を誘発するのに使用可能である。組織は、疾患モデル、移植療法、又はその他の有望な科学的、治療上、及び診断上のアプリケーションを構築するのに使用可能である。1つの態様では、本発明は、本明細書に記載される誘導全能性幹細胞に由来する組織を提供する。組織として、動物組織及び植物組織が挙げられるが、但しこれらに限定されない。動物組織として、上皮組織、筋肉組織、神経組織、及び結合組織が挙げられるが、但しこれらに限定されない。結合組織として、疎性結合組織(疎性組織)、密性結合組織、脂肪組織、網様結合組織、弾性結合組織を含む固有結合組織;骨又は軟骨組織;血液;及びリンパ液が挙げられるが、但しこれらに限定されない。血液は心血管系内を循環する液体組織である。血液は血漿及び多様な血球から構成される。リンパ液はリンパ管内を流れる液状物であり、またリンパ液内への組織液の流動により形成される。リンパ液は静脈内に最終的に流入する。リンパ液は、リンパ球、及び異なる生理条件下で変化するリンパ液の組成物を含有する。好ましくは、いくつかの実施形態では、組織は血液である。
【0096】
本発明に基づく誘導全能性幹細胞は、分化した細胞の生成を誘発するのに使用可能である。分化した細胞は、疾患モデル、移植療法、又はその他の有望な科学的、治療上、及び診断上のアプリケーションを構築するのに使用可能である。1つの態様では、本発明は、本明細書に記載される誘導全能性幹細胞から分化する分化した細胞を提供する。分化した細胞は、これまでに記載された任意の臓器又は組織に由来する細胞であり得る。好ましくは、いくつかの実施形態では、細胞は免疫細胞、より好ましくはT細胞又はNK細胞である。好ましくは、いくつかの実施形態では、細胞は、神経細胞、より好ましくはニューロン又はグリア細胞である。好ましくは、いくつかの実施形態では、細胞は血球、より好ましくは赤血球又は白血球である。
【0097】
本明細書に記載されるすべての公開資料、特許出願、及び特許は、個々の公開資料、特許出願、又は特許のそれぞれが本明細書において参照により組み込まれるものと、特別且つ個別に示されたかのように、それと同じ程度まで、本明細書において参照によりそのまま組み込まれる。
本発明は、明確に理解されることを目的として、実施形態及び実施例の方式でかなり詳細に記載されているものの、本発明の教示に基づき、特許請求の範囲の精神又は範囲から逸脱せずに、それらに対してある特定の変更及び改変をなし得ることは当業者にとって明白である。下記の実施例は、制限ではなくデモンストレーションとして提示される。当業者は、重要でない様々なパラメーターは、実質的に類似した結果を実現するために変更又は改変され得ることを容易に認識する。
【実施例
【0098】
実施例1:マウス誘導全能性幹細胞の誘導及び予備的同定
本発明者らは、マウス多能性幹細胞は、小分子リプログラミング試薬を用いて処置を行った後に、マウス受精卵又は2細胞期胚性細胞と非常に類似した全能性細胞の特徴を有することを、驚くべきことに見出した。そのような幹細胞は、本発明者らによりマウス誘導全能性幹細胞と呼ばれる。
【0099】
1.1 マウス全能性幹細胞の誘導
マウス多能性胚性幹細胞又はマウス誘導多能性幹細胞(いずれも商業的に入手可能、又は標準化された実験により確立される)が標準培地内でほぼ70%のディッシュ密度まで増殖したとき、細胞を0.05%(v/v)トリプシンを用いて消化して、懸濁状態の単一細胞を取得し、それを約1:10の比で継代し(1世代で十分である)、そして全能性幹細胞培地内に播種した(市販のマウス多能性幹細胞基本培地には、小分子リプログラミング試薬を更に補充した)。
本明細書で使用される市販の多能性幹細胞基本培地は、ノックアウトDMEM基本培地、及び5%のKSR、1%のN2、0.2%の化学的に定義された脂質濃縮物(CDL)、1%のGlutaMAX(商標)(L-グルタミン代用品)、1%のデュアル抗生物質(ペニシリン/ストレプトマイシン)、1%の非必須アミノ酸、0.1mMのβ-メルカプトエタノール、50ng/mlのL-アスコルビル-2-リン酸ナトリウム、及び1000U/mLのマウス白血病抑制因子(mLIF)(Yang,Y. et al.Derivation of pluripotent stem cells with in vivo intra-embryonic and extra-embryonic potency.Cell 169,243-257.e225(2017))を含む。
【0100】
本発明者らは、小分子リプログラミング剤の様々な組合せをテストして、全能性幹細胞の誘導に対するそれらの効果を決定した。様々な小分子リプログラミング試薬は、本明細書の、発明を実施するための形態セクションに記載される通りである。テストした組合せの一部を表1に記載する。本発明者らは、図9.2に示すように、全能性幹細胞の誘導比、すなわち2C:tdTomato細胞比を含む、組合せの様々な態様の性能をテストした。図9.4に示すように、このような小分子リプログラミング試薬の一部を個別に置換し、その性能についてもテストした。全能性幹細胞の誘導比は、組合せの質を評価するための唯一の要因ではないことに留意されたい。様々な態様において性能を評価した後、本発明者らは、その他の実験で使用するために、最適な組合せ、すなわち3つの小分子化合物(TTNPB、1-アザケンパウロン、及びWS6)の組合せを選択した。2.5μMの1-アザケンパウロン、0.5μMのWS6、及び0.2μMのTTNPBを、上記した市販の多能性幹細胞基本培地に添加して、以下で使用される全能性幹細胞培地を得た。
本発明者らは、基本培地の種類が全能性幹細胞の誘導に対して影響を有するかどうか判定するために、様々な基本培地(DEME、ノックアウトDMEM、RPMI1640、及びDMEM/F12を含む)についてもテストした。図9.3に示すように、2C::td(2C:tdTomato)及びOCT4蛍光アッセイにおいて有意差は認められなかった。従って、基本培地の種類は、本明細書に記載されるような全能性幹細胞の誘導に対して実質的な影響を有さない。その他の実験では、ノックアウトDMEMを使用した。
【0101】
全能性幹細胞培地内に播種してから約2日後に、マウス多能性胚性幹細胞はマウス全能性幹細胞の特性(以下で特徴づけられる)を徐々に獲得した。マウス全能性幹細胞の増殖密度が70%に近付いたとき、それを0.05%のトリプシンを用いて消化し、そして1:3~1:5の比で継代培養した。得られたマウス全能性幹細胞における多能性遺伝子マーカーOct4の発現は下方制御され、またマウス全能性幹細胞は、良好なクローン形態を維持しつつその全能性を喪失することなく、継代培養において10世代を超えて維持することができた(図1.1)。
【0102】
全能性幹細胞(ciTotiSC)誘導にとってDux及びp53が必要とされるかどうか調査するために、本発明者らはmESC内のDux又はp53のいずれかをノックアウトした。期待通りに、Duxを欠損させることで、mESC内のMERVL+細胞の割合が有意に低下したが(図9.1a)、TAW誘導MERVL+細胞はほとんど増加しない(図9.1b)。Duxノックアウト細胞では、TAWは、全能性遺伝子、例えばDux、Zscan4、Zfp352、及びTcstv3等の誘導について一貫して不奏功であった(図9.1c)。これらの結果より、Duxは、MERVL+ciTotiSCの誘導にとって必須であることが実証される。程度はより低いものの、p53ノックアウトもまた、TAW処置mESC、又は非TAW処置mESCにおいてMERVL+細胞の割合(%)の低下を引き起こした(図9.1a及び図9.1b)。更なる分析より、p53ノックアウトは、TAW誘導WT細胞と比較して、全能性マーカー遺伝子MERVL、Dux、Zscan4、Zfp352、及びTcstv3の発現も低下させることが明らかとなった(図9.1d)。総じて、このようなエビデンスは、全能性幹細胞(ciTotiSC)の誘導は、p53に部分的に依存することを示唆する。
1.2 RT-PCRによるマウスciTotiSC内全能性マーカー遺伝子の転写分析
【0103】
1)得られたマウスciTotiSCの古典的全能性マーカー遺伝子及び反復配列(MERVL、Zscan4、ZFP352、Tcstv3、Gm6763)の転写を検出するために、iQTM SYBR Green Supermixを使用しながらRT-qPCR反応を実施した。RT-qPCR反応を、Bio-Rad CFX384リアルタイムPCRシステムにおいて実施した。データ結果を分析し、そしてPrism8ソフトウェア内でグラフ化した。
2)qPCR反応システム
コンポーネント 容積(μl)
iQTM SYBR(登録商標)Green supermix(2×) 5
フォワードプライマー(10pmol) 1
リバースプライマー(10pmol) 1
cDNAテンプレート 0.5
脱イオン水 2.5
総容積 10
3)qPCRプライマー配列:
【0104】
【表2】

4)qPCR反応プログラム
【0105】
【表3】

RT-qPCR分析により、開始細胞として用いたマウス多能性胚性幹細胞(mESC)と比較して、マウスciTotiSCは、全能性マーカー遺伝子及び反復配列(MuERVL、Zscan4、ZFP352、Tstv3、Gm6763)について有意により高い発現を示すこと(マウス多能性胚性幹細胞の細胞運命がマウス全能性幹細胞への移行を経たことを意味する)が明らかとなった(図1.2)。
実施例2:マウスciTotiSCの分子的特徴づけ:RNA-seq及びscRNA-seqによるマウスciTotiSCのトランスクリプトーム特徴づけ
マウス誘導多能性幹細胞の分子生物学的特徴を更に探索するために、本発明者らは、トランスクリプトームシークエンシング(RNA-seq)及び単一細胞RNAシークエンシング(scRNA-seq)を使用して、マウス多能性胚性幹細胞が全能性を取得した後の変化をトランスクリプトームレベルで分析した。
【0106】
マウス2細胞胚形成期において特異的に発現している266個の全能性マーカー遺伝子、及びマウス多能性胚性幹細胞(mESC)及びマウスciTotiSC内の47個のマウス多能性マーカー遺伝子(GSEA分析)の富化を分析することにより、本発明者らは、このような2細胞胚形成期特異的全能性マーカー遺伝子は、マウスciTotiSC内で有意に富化される(図2.1、上段左パネル)一方、マウス多能性マーカー遺伝子は、マウス多能性胚性幹細胞内で有意に富化される(図2.1、上段右パネル)ことを見出した。トランスクリプトームシークエンシング(RNA-seq)分析を使用することで、母性遺伝子、ZGA遺伝子、及び全能性遺伝子は、マウス全能性幹細胞内で高度に発現していることが判明し、細胞は全能性状態にあることが確認された(図2.1、下段パネル)。
【0107】
マウス多能性胚性幹細胞、マウスciTotiSC、及び様々な段階にあるマウス胚発生の全遺伝子トランスクリプトームレベルのクラスタリング分析を通じて、本発明者らは、マウス多能性胚性幹細胞は、全ゲノムトランスクリプトームのレベルにおいて、多能性マウスの3.5日(E3.5)胚性内部細胞塊(ICM)により近く、従って転写レベルにおいて全能性状態を示す一方、マウスciTotiSCはゲノム全域にわたるトランスクリプトームレベルにおいて全能性マウスの1及び2細胞期胚により近く、従って転写レベルにおいて全能性状態を示すことを見出した(図2.2)。
【0108】
全ゲノムトランスクリプトームの主成分分析(PCA)を通じて、本発明者らは、マウスciTotiSCは、全能性を有するマウス1細胞期胚と2細胞期胚の間にある一方、マウス多能性胚性幹細胞(mESC)及びマウス能力拡張型幹細胞(EPSC)は、発生の後期におけるマウス胚盤胞により近いことを更に確認した(図2.3)。
マウスにおいて、受精卵、初期胚発生の2細胞期、4細胞期、8細胞期、及び16細胞期において特異的に発現している遺伝子セット、並びにマウス多能性胚性幹細胞と比較しながらマウスciTotiSC内のこれらの遺伝子セットの富化をそれぞれ分析することにより、本発明者らは、受精卵及び2細胞期に特異的な全能性マーカー遺伝子セットの発現はマウスciTotiSCにおいて有意に富化されることを更に確認した(図2.4)。
【0109】
マウスciTotiSC、全能性卵割球様細胞(TBLC,Shen, H. et al. mice totipotent stem cells captured and maintained through spliceosomal repression. cell, doi:10.1016/j.cell.2021.04.020 (2021))、及び様々な段階にある通常のマウス胚に関する単一細胞RNAシークエンシング(scRNA-seq)結果(Deng, Q., Ramskold, D., Reinius, B. & Sandberg, R. Single-cell RNA-seq reveals dynamic, random monoallelic gene expression in mammalian cells. Science 343, 193-196 (2014))のUMAP分析を通じて、マウスciTotiSCは、マウスの全能性2細胞胚に非常に近く(図2.5に示すTPSC及び後期2C)、全能性マーカー遺伝子の発現は高いが多能性マーカー遺伝子発現は低く、且つ全能性トランスクリプトームの特徴を有する一方、全能性卵割球様細胞は(TBLC,Shen, H. et al. mice totipotent stem cells captured and maintained through spliceosomal repression. cell, doi:10.1016/j.cell.2021.04.020 (2021))、全能性マウス接合体及び2細胞胚に近似しないことが判明した。逆に、TBLCは、後期発達段階、すなわち移植後E4.5~E5.5日における胚により近かった(図2.5に示すTBLC、及びE4.5、E5.5)。それに加えて、全能性マーカー遺伝子は有意に活性化されず、また多能性マーカー遺伝子は効果的に抑制されず、従って全能性卵割球様細胞は全能性細胞とみなすことはできない(図2.5)。
【0110】
2.2 ATAC-seqによるマウスciTotiSC内クロマチンアクセシビリティーの分析
マウスciTotiSCにおけるクロマチンアクセシビリティーの特徴(クロマチンアクセシビリティーは遺伝子の活性化又は抑制を示唆する)を探索するために、本発明者らは、クロマチンアクセシビリティーシークエンシングATAC-seq(シークエンシングを使用したトランスポゼースアクセッシブルクロマチンのアッセイ)を使用して、マウスciTotiSC、マウス多能性胚性幹細胞、マウス2細胞期胚、及びマウス胚盤胞期内部細胞塊のクロマチンアクセシビリティーを分析した。
【0111】
分析の結果より、マウス多能性胚性幹細胞と比較して、マウスciTotiSCは、転写開始部位(TSS)近傍に5kbの閉鎖ピーク及び開放ピークを有し、開放又は閉鎖状態はマウス2細胞胚(2C)形成期と類似する一方、マウス多能性胚性幹細胞(mESC)はマウス胚盤胞内部細胞塊(ICM)により類似することが明らかとなった(図2.6)。それに加えて、マウス多能性胚性幹細胞と比較して、マウスciTotiSCは、いくつかの重要な多能性遺伝子及びレトロエレメント、例えばZscan4c、Zscan4d、Zscan4f、ZFP352、MERVL等の近傍においてより高レベルの開放性を示した一方、古典的多能性遺伝子、例えばPOU5f1、ZFP42、NANOG、KLF4、ESRRB等は閉鎖状態にあった(図2.7)。
これらの結果は、マウスのin vivo全能性2細胞胚形成期と類似したマウスciTotiSCは、クロマチンアクセシビリティーを有することを示唆する。
2.3 RRBSによるマウスciTotiSCのゲノムメチル化レベル分析。
マウスciTotiSCのゲノムメチル化レベルを検出するために、本発明者らは、RRBS(縮約表現ビサルファイトシークエンシング)を使用して、マウスciTotiSC及びマウス多能性胚性幹細胞のゲノムメチル化レベルを特徴づけた。
本発明者らは、マウス多能性胚性幹細胞の全体的なメチル化レベルは、マウス胚移植後のE6.5~E7.5期間(全体的なメチル化レベルは、それぞれ23.2%及び26.6%であった)に近い23.9%であった一方、マウスciTotiSCのメチル化レベルは、移植前の受精卵並びにマウス胚の2細胞及び4細胞期(全体的なメチル化レベルは、それぞれ15.4%、13.2%、及び14.8%であった)と類似して、12.1%まで有意に低下することを見出した(図2.8)。
【0112】
RRBSシークエンシング結果のゲノム全域にわたるメチル化主成分(PCA)分析により、本発明者らは、マウス多能性胚性幹細胞と比較して、マウスciTotiSCは、発生段階に関して、全能性を有するマウス1及び2細胞期胚に近いことを再確認した(図2.9)。
ゲノム内の特定部位近傍におけるメチル化レベルを更に分析することにより、マウスciTotiSC及びマウス全能性胚は、Zscan4遺伝子ファミリー近傍及びX染色体上のいくつかの全能性反復配列について低メチル化状態にあることが判明した。対照的に、マウス多能性胚性幹細胞及びマウス移植後E6.5~E7.5胚のいずれにおいも、メチル化の減少は見出されなかった(図2.10)。
【0113】
全能性状態にある細胞は固有の代謝的特徴を有するので、トランスクリプトーム及びエピゲノムの分析に付加して、本発明者らは次に全能性幹細胞(ciTotiSC)のメタボロームを決定した。本発明者らは、全能性幹細胞(ciTotiSC)とmESCとの間で最も高い相違性を有する代謝物は、全能性2C胚と胚盤胞との間の相違性と非常に類似することを見出した(図2.11、上段)。更に分析すると、全能性幹細胞(ciTotiSC)及び2C胚は、代謝のために1炭素代謝及び還元状態に関連する経路を利用している可能性がより高い一方、多能性mESC及び胚盤胞は、プリン代謝及びミトコンドリアトリカルボン酸(TCA)サイクル代謝物についてより高いレベルを有し、より高度の酸化状態を示すことが明らかとなった(図2.11、下段)。
【0114】
実施例3:マウスciTotiSCがin vitroで栄養芽細胞に分化する能力の分析
マウス多能性幹細胞は栄養芽細胞に分化する能力を有さない。図3.1は、栄養外胚葉幹細胞(TSC)培地内での、マウスciTotiSC、多能性胚性幹細胞(mESC、Ying, Q. L. et al. The ground state of embryonic stem cell self-renewal. Nature 453, 519-523, doi:10.1038/nature06968 (2008))、及び多能性能力拡張型幹細胞(mEPS、Yang, Y. et al. Derivation of pluripotent stem cells with in vivo intra-embryonic and extra-embryonic potency. Cell 169, 243-257. e225 (2017))の栄養芽細胞幹細胞への分化に関する実験の概略図を示す。
この実験より、本発明のマウスciTotiSCは胚体外部分、すなわち、栄養芽細胞幹細胞に分化する能力(多能性幹細胞は有さない)を有することが検証された。
【0115】
0.05%のトリプシンを、フィーダー細胞(幹細胞培養において幅広く使用されているマウス胚線維芽細胞)上で培養されたマウスciTotiSC、胚性幹細胞(mESC)、及び多能性能力拡張型幹細胞(mEPS)を消化するのに使用した。消化した細胞を0.3%ゼラチンがコーティングされた細胞培養プレート上に展開し、懸濁した細胞を30分後に収集し、そしてフィーダー細胞を細胞培養プレートに付着させてフィーダー細胞を除去した。
フィーダー枯渇細胞に由来するマウスciTotiSC、胚性幹細胞(mESC)、及び多能性能力拡張型幹細胞(mEPS)を、12ウェルプレートの1ウェル当たり細胞1×105個の密度でマウス栄養芽細胞幹細胞培地(下記詳細)内に播種した。培地を1日1回変更した。陽性コントロールとして市販の栄養芽細胞幹細胞(TSC)を用いながら、RT-qPCRを行ってマウス栄養芽細胞幹細胞特異的遺伝子(CDX2、Elf5、Tfap2c、Esx1;図3.2)の転写を検出するために、細胞を0、4、及び8日目に採取した。蛍光免疫染色を12日目に実施して、マウス栄養外胚葉細胞特異的タンパク質(CDX2)の発現を検出した(図3.3)。
【0116】
マウス栄養芽細胞幹細胞(TSC)培地(Posfai, E. et al. Evaluating totipotency using criteria of increasing stringency. Nature Cell Biology 23, 49-60, doi:10.1038/s41556-020-00609-2 (2021)):RPMI1640基本培地(Gibco社、C11875500BT)、20%のウシ胎仔血清、1×GlutaMAX(L-グルタミン代用品)、1%のデュアル抗生物質(ペニシリン/ストレプトマイシン)、1%の非必須アミノ酸、1×ピルビン酸ナトリウム(Gibco社、11360070)、1mMのβ-メルカプトエタノール、25ng/mlのFGF4(R&D systems社、235-F4)、及び1μg/mlのヘパリン(Sigma-Aldrich社、H3149)。
3.1 蛍光免疫染色によるマウス栄養芽細胞幹細胞特異的タンパク質CDX2発現の分析
CDX2は古典的マウス栄養芽細胞幹細胞特異的遺伝子である。マウス栄養芽細胞幹細胞系統の分化が生じたかどうか判定するために、そのタンパク質レベルの発現を、免疫蛍光法により、マウス多能性幹細胞のマーカー(Oct4)の変化を参照しながら検出した。
【0117】
この実験(図3.3)を通じて、本発明者らは、マウスciTotiSCは、CDX2について有意な発現、そして誘導分化後には、Oct4について下方制御された発現を有する可能性があり、従ってマウスciTotiSCは、胚体外栄養芽細胞幹細胞に分化する能力を有する一方、胚性幹細胞(mESC)及び能力拡張型多能性幹細胞(mEPS)も、誘導分化後に下方制御されたOct4遺伝子発現を有する可能性があるが、しかしそれらの細胞はCDX2の発現をほとんど有さず、従ってそれらは胚体外栄養芽細胞幹細胞に分化する能力を有さないことを見出した。
本発明者らは、継代の異なる(P1~P8)全能性幹細胞(ciTotiSC)は、mESC培地(2i/LIF)に変更した後に、多能性胚性幹細胞(rESCciTotiSC)に徐々に分化し得ること(全能性遺伝子の下方制御及び多能性遺伝子の上方制御に反映され、これにより通常の胚発生を模倣する)も見出した(図3.4)。
蛍光免疫染色ステップ:
固定:細胞培養プレート内のサンプルをリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)で洗浄した後、細胞を4%のパラホルムアルデヒド溶液を用いて固定し、4℃で30分間保持し、DPBSで4回洗浄した。
ブロックキング:ブロックキング溶液(DPBS内で稀釈した、10%のロバ血清+1%のBSA+0.3%のトリトン-X100)を添加し、室温で1時間ブロックし、DPBSで3回洗浄した。
【0118】
一次抗体のインキュベーション:一次抗体はマウス抗CDX2(1:150、BioGenex社、MU392A-UC)であった。必要とされる濃度に従い、1%のBSAを含有するDPBSを用いて抗体を稀釈し、室温で2時間、又は4℃、オーバーナイトでインキュベートし、DPBSで5分間、3回洗浄した。
二次抗体のインキュベーション:二次抗体はロバ抗マウス555であった(1:500、Life technology社、A-31570)。対応する蛍光標識二次抗体を1%のBSAを含有するDPBS内で1:1000に稀釈し、暗光、室温で1時間インキュベートした。
核染色:DAPI(核色素、4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドールジヒドロクロリド)をDPBS内で1μg/mlとし、室温で5分間インキュベートした。
画像化:DPBSで5分間×3回洗浄した後、観察及び写真撮影のためにOlympus倒立型蛍光顕微鏡IX83下に配置した。
【0119】
3.2 RT-qPCRによるマウス栄養芽細胞幹細胞特異的遺伝子発現の分析
RT-qPCRにより、マウス栄養芽細胞幹細胞への誘導期間中、0、4、及び8日目に、マウスciTotiSC、胚性幹細胞(mESC)、及び多能性能力拡張型幹細胞(mEPSC)のマウス栄養芽細胞幹細胞特異的遺伝子の転写に関する分析を行った。本発明者らは、マウスciTotiSCは、誘導分化のプロセス(陽性コントロールとして用いた栄養芽細胞幹細胞(TSC)のそれと類似した)期間中に、CDX2、Elf5、TFAP2C、及びEsx1を含む栄養芽細胞幹細胞特異的マーカー遺伝子を徐々に活性化したことを見出した。対照的に、胚性幹細胞(mESC)及び多能性能力拡張型幹細胞(mEPSC)では、有意な転写増加は、誘導期間中、栄養芽細胞幹細胞特異的マーカー遺伝子において検出されなかった(図3.2)。
【0120】
実施例4:マウスciTotiSC及びマウス胚性幹細胞(mESC)のin vitroでの胚様体分化能力及びin vivoでのテラトーマ分化能力の比較
4.1 マウスciTotiSC及びマウス胚性幹細胞(mESC)のin vitroでの胚様体分化能力の比較
0.05%のトリプシンを用いてマウスciTotiSC及びマウス胚性幹細胞(mESC)を消化した後に、それを0.3%のゼラチンをコーティングした細胞培養プレート上に播種した。30分後、懸濁細胞を収集し、そしてフィーダー細胞が細胞培養プレートに付着するに任せてフィーダー細胞を除去した。
フィーダー枯渇マウスciTotiSC又は胚性幹細胞(mESC)を、マウス胚様体形成培地(10%のウシ胎仔血清(FBS)、1%のGlutaMAX(商標)(L-グルタミン代用品)、1%のデュアル抗生物質(ペニシリン/ストレプトマイシン)、1%の非必須アミノ酸、0.1mMのβ-メルカプトエタノールが更に補充されたノックアウトDMEM基本培地)内、1ml当たり細胞1×105個の密度で再懸濁した。次に、胚様体形成実験をハンギングドロップ法により実施した:ハンギングドロップを10cm培養ディッシュのフタの上で実施したが、細胞混合物の各20μlがハンギングドロップであり、そしてそれを培養するために、5%のCO2、37℃のインキュベーター内に配置した。2日間後、ハンギングドロップ細胞を収集し、そして継続的に培養するために6ウェル低吸着培養プレート内に配置し、そして蛍光免疫染色を使用した同定用として、0、3、及び6日目に胚様体を採取した。
【0121】
蛍光免疫染色を通じて、本発明者らは、CDX2陽性細胞(胚体外栄養芽細胞を代表し、全能性幹細胞は胚体外細胞型に分化し得ることを示唆する)が、6日目に、マウスciTotiSCに由来する胚様体において検出され得るが、しかしCDX2陽性細胞はマウス胚性幹細胞(mESC)に由来する胚様体内で検出されない(多能性幹細胞は胚体外細胞型に分化しなかったことを示唆する)(図4.1)ことを見出した。蛍光免疫染色結果を計算することにより、本発明者らは、3及び6日目に、CDX2陽性細胞が、マウスciTotiSCに由来するすべての胚様体において検出された(3日目に6/6及び6日目に17/17)が、しかしCDX2陽性細胞は、マウス胚性幹細胞(mESC)に由来する胚様体において検出されない(3日目に0/7及び6日目に0/21)(図4.2)ことを見出した。
CDX2は古典的マウス栄養芽細胞幹細胞特異的遺伝子である。胚様体分化実験により、マウスciTotiSCはin vitroで胚体外栄養芽細胞幹細胞に分化する能力(多能性幹細胞は有さない)を有することが実証された。
【0122】
4.2 マウスciTotiSC及びマウス胚性幹細胞(mESC)のin vivoでのテラトーマ分化能力の比較
テラトーマアッセイ法は、3つの内皮性の胚葉及び胚体外系統にランダムに分化する細胞の能力をテストするための古典的アッセイ法である。
【0123】
テラトーマ分化実験手順:
フィーダー細胞培養条件下、0.05%のトリプシン-EDTAを用いてマウスciTotiSC又はマウス胚性幹細胞(mESC)を単一細胞に消化した後、マウスciTotiSC培地又はマウス胚性幹細胞(mESC)培地のそれぞれを用いて細胞を再懸濁し、0.3%のゼラチンコーティングされた細胞培養プレート上に播種し、37℃のインキュベーター内で30分間インキュベートしてフィーダー細胞を除去した。
マウスciTotiSC又はマウス胚性幹細胞(mESC)単一細胞を含有する上清を収集し、そして細胞をDPBS中に再懸濁した。
再懸濁した細胞を免疫不全SCIDマウスの後肢鼠径部中に皮下注射したが、マウス1匹に注射した細胞の数は約1.0×106個であった。
細胞を皮下注射した5週間後、マウスに頸椎脱臼による絶命処置を施し、そしてテラトーマを皮下組織から取り出し、4%のパラホルムアルデヒド溶液を用いて固定し、そしてパラフィン切片化及びHE染色を施した。
組織切片の結果を、胚体内3胚葉及び胚体外細胞系統に特異的な組織構造について顕微鏡下で観察した。
【0124】
本発明者らは、マウスciTotiSC又はマウス胚性幹細胞(mESC)を免疫不全SCIDマウス内に皮下注射したが、両細胞系はテラトーマを形成することが可能であった。このテラトーマをパラフィン切片化及びHE染色した後に、典型的な外胚葉(左カラム)、中胚葉(中央カラム)、及び内胚葉(右カラム)の組織学が顕微鏡下で観察可能である。これは、マウスciTotiSC及びマウス胚性幹細胞(mESC)は胚内で3つの胚葉に分化する能力を有することを示唆した(図4.3)。
次に、本発明者らは、マウスciTotiSC又はマウス胚性幹細胞(mESC)により形成されたテラトーマのHE染色された切片が古典的な胚体外系統組織構造を有するかどうか更に観察した。観察した際に、マウス内の誘導全能性幹細胞により形成されたテラトーマにおいて、古典的な胚体外系統-胎盤巨細胞が内出血に富んだ領域において観察され得ることが判明した。古典的な胚体外系統-胎盤巨細胞は、より大きな核及びより大きな細胞容積を有するといった典型的な形態学的特質を示し、そして胎盤巨細胞マーカー遺伝子PL-1を発現した(図4.4)。対照的に、マウス胚性幹細胞(mESC)から形成されたテラトーマ内には胚体外系統は認められなかった。
In vivo テラトーマ分化実験より、マウスciTotiSCは胚体外細胞に分化する能力を有する一方、多能性幹細胞はその能力を有さないことが証明された。
【0125】
実施例5:マウスciTotiSC(in vitro E4.5胚形成期)のin vivoキメラアッセイ
キメラアッセイプロセスの概略図(図5.1)
キメラのアッセイのステップ:
8細胞期胚注入用として、赤色蛍光で標識されたマウス誘導全能性幹細胞系統及びマウス多能性胚性幹細胞系統(mESC)を確立するのに、Rosa26-tdTomatoマウス胚盤胞を使用した。マウス8細胞胚内に注射した幹細胞が当該胚と共に発達し、そして胚体内又は胚体外部分に分化した場合には、赤色蛍光(tdTomato)が対応する胚体内又は胚体外部分において観察され得る。0.05%のトリプシン-EDTAを用いて2つの細胞系を単一細胞に消化し、対応する培地内に再懸濁し、0.3%のゼラチンがコーティングされた細胞培養プレート上に播種し、37℃のインキュベーター内で30分間インキュベートしてフィーダー細胞を除去した。細胞を収集し、そして対応する培地内で再懸濁した。
【0126】
過剰排卵後、購入した市販のICRメスマウスを市販のICRオスマウスと交配させた。1.5日後に、交配に成功したメスマウスの卵管から8細胞期胚を収集した。フィーダー細胞を枯渇させた後のマウスciTotiSC又はマウス胚性幹細胞(mESC)、5~10個を各8細胞期胚中に注入することにより、キメラ胚を取得した。
マウス誘導全能性幹細胞キメラ胚E4.5アッセイ(実施例5、図5.2、図5.3、及び図5.4)では、注入後の8細胞期胚をKSOM培地内に配置し、そして5%のCO2、37℃のインキュベーター内で48時間培養した後に、tdTomato陽性細胞を、内部細胞塊(ICM)及び栄養外胚葉(TE)におけるキメリズムについて分析した。
マウス誘導全能性幹細胞キメラ胚をE7.5及びE12.5までin vivoで発達させる実験では(実施例6~7、図6図7)、注入後の8細胞期胚をKSOM培地内に配置し、そして5%のCO2、37℃のインキュベーター内で1~2時間培養するために回収した。次に、更に発達させるために、結紮処置されたICRオスとの交配から0.5日後に、それを偽妊娠ICRメスの子宮内に移植した。
【0127】
5.1 初期胚発生期間中に、全能性を有する受精卵は、胚内部において内部細胞塊(ICM)、及び胚外部において栄養外胚葉(TE)に徐々に発達した。8細胞注入用のマウスciTotiSC及びマウス胚性幹細胞(mESC)は、赤色蛍光(tdTomato)の安定な発現を有した。tdTomato陽性細胞のキメリズムを分析することにより、本発明者らは、マウスciTotiSCは、胚内部において内部細胞塊(ICM)、及び胚外部において栄養外胚葉(TE)にキメラ化し得ることを観測した。しかしながら、マウス胚性幹細胞(mESC)は、胚の内部細胞塊(ICM)にのみキメラ化し得るが、胚外部の栄養外胚葉(TE)にはキメラ化しない(図5.2)。
【0128】
5.2 内部細胞塊(ICM)及び栄養外胚葉(TE)におけるマウスciTotiSC及びマウス胚性幹細胞(mESC)のキメリズム比を計算した(図5.3)。
マウスciTotiSC:
TE及びICMの両方にキメラ化した:18/21(85.7%);
TEにのみキメラ化した:2/21(9.5%);
ICMにのみキメラ化した:1/21(4.8%)。
すなわち、マウスciTotiSCは、胚体内(内部細胞塊)発達能力及び胚体外(栄養外胚葉)発達能力の両方を有した。
マウス胚性幹細胞(mESC):
TE及びICMの両方にキメラ化した:0/21(0%);
TEにのみキメラ化した:0/21(0%);
ICMにのみキメラ化した:21/21(100%)。
すなわち、マウス多能性幹細胞は胚内(内部細胞塊)で発達する能力のみを有した。
【0129】
5.3 CDX2は栄養外胚葉(TE)の古典的マーカーである。本発明者らは、栄養外胚葉(TE)にキメラ化したtdtomato蛍光標識マウスciTotiSCがCDX2(栄養外胚葉の重要なマーカー)を発現し得るかどうか、CDX2の蛍光免疫染色を用いて更に確認した。染色結果は、tdtomato蛍光標識細胞はCDX2を同時に発現し得ることを明らかにした(図5.4)。これより、マウスciTotiSCは、E4.5日キメラ胚内において、栄養外胚葉(TE)の発達に確かに関与していること、すなわち胚体外部分に分化する能力を有することが更に実証された。
【0130】
実施例6:マウス誘導全能性幹細胞キメラ胚のE7.5へのin vivo発達
上記マウスciTotiSC又はマウス胚性幹細胞(mESC)が注入された8細胞期胚に由来するキメラ胚を偽妊娠マウスに移植後7日経過して、移植後E7.5まで発達した胚を単離した。この段階(E7.5)の胚は、3つの部分:エピブラスト(EPI;胚移植後、EPIは3つの胚葉を含有する胚性組織を生成した)、胎盤錐体(EPC)、及び胚体外外胚葉(ExE)を含んだ。実験プロトコールを図5.1に示す。tdTomato陽性細胞のキメリズムを分析することにより、胚表皮(EPI)OCT4、胎盤錐体(EPC)の古典的マーカー、及び胚体外外胚葉(ExE)の古典的マーカーについて蛍光免疫染色を実施した(図6.1)。本発明者らは、マウスciTotiSCは、胚体内エピブラスト(EPI)、胚体外胎盤錐体(EPC)、及び胚体外外胚葉(ExE)を含む、E7.5胚全体にほぼキメラ化し得ることを見出した。それに加えて、マウスciTotiSCに由来するtdTomato陽性細胞は、胚性エピブラストマーカーOCT4及び胚体外(胚性錐体EPC及び胚体外外胚葉EXE)マーカーELF5を発現し得ることが、蛍光免疫染色により更に見出された。この実験より、マウスciTotiSCは、マウス胚移植からE7.5日後において胚体内及び胚体外組織の発達に関与する能力をなおも有することが実証された。
【0131】
実施例7:マウス誘導全能性幹細胞キメラ胚のE12.5へのin vivo発達
8細胞期胚内にマウスciTotiSC又はマウス胚性幹細胞(mESC)を注入することにより取得されたキメラ胚を偽妊娠マウス中に移植後13日経過して、移植物を単離した後に、キメラ胚は、E12.5~E13.5マウスの胚(Em)、胎盤(Pl)、及び卵黄嚢(Yo)に発達した。実験プロトコールを図5.1に示す。tdTomato陽性細胞のキメリズムを分析することにより、本発明者らは、マウスciTotiSはマウス胚(Em)及び胚体外組織胎盤(Pl)及び卵黄嚢(Yo)に、高い割合でキメラ化し得ることを見出した(図7.1)。この実験より、マウスciTotiSCは、マウス胚移植後のE12.5~13.5日において、胚及び胚体外組織(胎盤及び羊膜)の発達に関与する能力をなおも有することが実証された。
【0132】
胚性/胚体外組織の各部分のキメリズムに対するマウスciTotiSCに由来するtdTomato陽性細胞の割合を更に分析するために、本発明者らは、マウス胚(Em)、胚体外組織胎盤(Pl)、及び卵黄嚢(Yo)をそれぞれ消化し、そしてフローサイトメトリーにより、各組織内のマウスciTotiSC(tdTomato陽性細胞)のキメラ比を分析した。
【0133】
フローサイトメトリーのステップ:
マウス胚(Em)、胚体外組織胎盤(Pl)、及び卵黄嚢(Yo)のフローサイトメトリー分析の前に、それらを、DPBSを用いて2回洗浄し、そしてマイクロマニピュレーターばさみを用いて約1mmの小片に裁断した。マウス胚性(Em)細胞を、コラゲナーゼIV(1U/mlのDNaseを添加した)を用いて、37℃のインキュベーター内で30分間消化した後、TrypLEを用いて5分間消化した;胎盤(Pl)細胞を、アキュターゼを用いて、37℃のインキュベーター内で10分間消化した;卵黄嚢(Yo)細胞を、1U/mlのDNaseが補充されたコラゲナーゼIVを用いて、37℃のインキュベーター内で5分間消化した後、TrypLEを用いて3分間消化した。酵素容積の3倍量のDPBS+10%ウシ胎仔血清を用いて消化反応を停止した。800rpmで5分間遠心分離した後に、細胞ペレットをDPB内で再懸濁し、70μm細胞メッシュを通じて細胞を濾過し、そして単一細胞濾過物を収集した。実験の要求に従い、BD FACS Aria III上で分析又はソーティングするために、細胞濾過物をフローアッセイチューブに移した。
【0134】
データをFlowJo v10ソフトウェアを使用して分析した。分析より、非注入群では、tdTomato陽性細胞が、マウス胚(Em)、胚体外組織胎盤(Pl)、及び卵黄嚢(Yo)において検出不能であることが判明し、陰性コントロールとしての役目を果たした;マウス胚性幹細胞(mESC)注入群では、tdTomato陽性細胞はマウス胚(Em)においてのみ検出可能であった一方、胚体外組織胎盤(Pl)及び卵黄嚢(Yo)においては、tdTomato陽性細胞はほぼ検出不能であった;マウス誘導全能性幹細胞注入群の場合、高比率のtdTomato陽性細胞がマウス胚(Em)、胚体外組織胎盤(Pl)、及び卵黄嚢(Yo)において検出可能であった。これは、マウスciTotiSCは、マウス胚(Em)、胚体外組織胎盤(Pl)、及び卵黄嚢(Yo)に効率的にキメラ化し得ることも示唆した(図7.2)。
【0135】
キメラ胎盤の凍結切片の免疫組織化学分析より、非注入群の胎盤において、tdTomato陽性細胞の存在が検出不能であることが判明し、陰性コントロールとしての役目を果たした;マウス胚性幹細胞(mESC)注入群では、胎盤のLaby領域内(この領域は胚体外胎盤の部分であったが、少数の胚体内細胞が存在した)においてごくわずかなtdToamto陽性細胞しか認められず、またtdTomatoの蛍光シグナルは胎盤胚体外系統細胞マーカーCK8及びプロリフェリンの蛍光シグナルと同時局在化し得ることはなかった;マウス誘導全能性幹細胞注入群では、高比率のtdTomato陽性細胞が胎盤の胚体外部分(JZ及びLaby領域)に認められ、またtdTomato蛍光シグナルは、胎盤胚体外系統細胞マーカーCK8及びプロリフェリンの蛍光シグナルと明らかに同時局在し得た(図7.3)。
【0136】
凍結切断後のキメラマウス胚の免疫組織化学分析より、マウス誘導全能性幹細胞注入群及びマウス胚性幹細胞(mESC)注入群のいずれも、様々な胎児組織(脳、心臓、及び肝臓を含む)に高い割合でキメラ化し得るが、しかしマウス誘導全能性幹細胞注入群の方がより高いキメリズム効率を有することが判明した(図7.4)。
実施例8:マウスciTotiSCのマウス胚及び生体への独立した発達
8.1 単一のマウス誘導全能性幹細胞(ciTotiSC)は、胚体内細胞及び胚体外細胞に発達する双方向性キメラ能力を有する。
【0137】
全能性幹細胞(ciTotiSC)の発達能力をより厳密に調べるために、本発明者らは、単一のtdtomato標識されたmESC又はciTotiSCをマウス8細胞胚内に注入した。In vitro培養から48時間後に、キメラ胚は後期胚盤胞期(E4.5)まで発達した。期待通りに、mESCは、胚性ICMにのみキメラ化した。対照的に、全能性幹細胞(ciTotiSC)はICM及びTEの両方にキメラ化した。TE特異的マーカーCDX2を更に免疫染色することにより、本発明者らは、単一の全能性幹細胞(ciTotiSC)は確かに胚体外TE系統まで発達し得ること、及び系統マーカーCDX2を正しく発現することを確認した(図8.1、上段)。それに加えて、本発明者らは、単能性幹細胞(ciTotiSC)又はmESCを注入した8細胞胚を偽妊娠メスマウスの卵管に移植し、そしてE6.5~E7.5のキメラを更に観察した。本発明者らは、単一の全能性幹細胞(ciTotiSC)は胚体内系統(EPI)及び胚体外系統(ExE及びEPC)にキメラ化し得ることことを観測したが、これは、tdTomatoとOCT4又はELF5との同時発現により確認された。対照的に、mESCはOCT4+EPIにのみキメラ化した(図8.1、下段)。これらのデータより、単一の全能性幹細胞(ciTotiSC)は、胚体内及び胚体外系統の両方に対してキメラ能力を有し、厳格な全能性基準を満たすことが実証された。
【0138】
8.2 誘導全能性幹細胞(ciTotiSC)はE13.5胚の内部及び外部において様々な細胞型にキメラ化しながら発達し得る
E13.5前後の胚体外組織において、全能性幹細胞(ciTotiSC)から発達した細胞型を完全に特徴づけるために、本発明者らは、scRNA-seqを使用して、キメラの胎盤及び卵黄嚢内の全能性幹細胞(ciTotiSC)に由来するtdTomato+細胞を分析した。胚体外系統の特異的遺伝子とアライメントした後に、本発明者らは、全能性幹細胞(ciTotiSC)由来の細胞は、胚体外栄養芽細胞及び卵黄嚢細胞型、例えば内臓卵黄嚢細胞(Apoa4+Fxyd2+Entpd2+)、スポンジ栄養芽細胞(Tpbpa+Rhox9+)、及びシンシチオ栄養芽細胞(Itm2a+)等に発達し得ること、並びに胚起源の細胞は赤血球、マクロファージ、及び単球を含むことを確認した(図8.2)。
【0139】
8.3 マウスciTotiSCのジャームライントランスミッション能力に関する分析
全能性幹細胞(ciTotiSC)は、生殖隆起にキメラ化し、そして健康なキメラ子孫を生成する能力を有する(図8.3)。
8.4 マウスciTotiSCの誘導マウス胚盤胞へのin vitroでの独立した発達
【0140】
フィーダー細胞の条件下で培養されたマウスciTotiSCを、0.05%のトリプシン-EDTAを用いて単一の細胞に消化し、実施例1に記載されている全能性幹細胞培地内で再懸濁し、0.3%のゼラチンでコーティングされた6ウェルプレートに移し、そして37℃のインキュベーター内で30分間インキュベートしてフィーダー細胞を除去した。マウスciTotiSCを収集し、マウス胚盤胞を誘導するのに使用される培地内で再懸濁し、そして40μmフィルターを通じた濾過を行って、不純物及び未消化の細胞集塊を除去した。AggreWell400(STEMCELL Technologies社、34415)を指示書に従い事前処理した。マウスciTotiSC、約6,000個を、AggreWell400(1,200個のチャンバーを備える)の6ウェルプレートの1つのウェル内に播種し、そしてマウス胚盤胞を誘導するために培地内で培養した。誘導マウス胚盤胞は、AggreWell400培養プレートを100gで3分間遠心分離して細胞を沈降させ、次に培養プレートを37℃のインキュベーター内に4~5日間配置することにより取得され得る。本発明者らは、誘導胚盤胞は通常の胚盤胞の形態学的特徴ときわめて類似したそれを有することを観測した(図8.4)。統計学より、マウスciTotiSCからの誘導胚盤胞の誘導効率は約70%であることが明らかとなった(図8.4)。
【0141】
マウス胚盤胞を誘導するための培地(Li, R. et al. Generation of Blastocyst-like Structures from Mouse Embryonic and Adult Cell Cultures. cell 179, 687-702 e618, doi:10.1016/j.cell.2019.09.029 (2019)):25%の栄養外胚葉幹細胞基本培地(20%のウシ胎仔血清(FBS)、1×GlutaMAX(L-グルタミ代用品)、1×ピルビン酸ナトリウム(Gibco社、11360070)、及び0.1mMの2-メルカプトエタノールが補充されたRPMI1640基本培地)、25%のN2B27基本培地(基本培地としてDMEM/F-12とNeurobasal 1:1との1:1混合物、0.5×N2(17502-048)、0.5×B27(17504-044)、1×非必須アミノ酸を添加する)、1×GlutaMAX(L-グルタミン代用品)、0.1mMの2-メルカプトエタノール、0.1%のBSA、又は5%のKSR、及び50%のKSOM(NaCl(95mM)、KCl(2.5mM)、KH2PO4(0.35mM)、MgSO4(0.2mM)、NaHCO3(25mM)、CaCl2(1.71mM)、Na2-EDTA(0.01mM)、L-グルタミン(1.0mM)、乳酸ナトリウム(10mM)、ピルビン酸ナトリウム(0.2mM)、グルコース(5.56mM)、必須アミノ酸(EAA;10.0mL/l)、非必須アミノ酸(NEAA;5.0mL/l)、BSA(4g/l))。下記の品目:2mMのY-27632(1日目にのみ添加)、12.5ng/mLのrhFGF4(R&D社、235F4025)、0.5mg/mLのヘパリン(Sigma-Aldrich社、H3149)、3mMのGSK3阻害剤CHIR99021(Reagents Direct社、27-H76)、5ng/mLのBMP4(Proteintech社、HZ-1040)、及び0.5mMのA83-01を更に添加した。
【0142】
8.5 マウスciTotiSCにより誘導されたマウス胚盤胞は、通常のマウス胚盤胞の3つの細胞系統を保有する
通常のマウス後期胚盤胞(E4.5)は、3つの細胞系統:内部細胞塊(ICM、OCT4を特異発現する)、栄養外胚葉(TE、CDX2を特異発現する)、及び原始内胚葉(PrE、SOX17を特異発現する)を主に含有する。
マウスciTotiSCに由来する誘導胚盤胞が通常のマウス胚盤胞の3つの細胞系統を有するかどうか検出するために、本発明者らは、4日間誘導された胚盤胞上で蛍光免疫染色を実施した。染色により、誘導胚盤胞は、内部細胞塊マーカーOCT4、栄養外胚葉マーカーCDX2、及び原始内胚葉マーカーSOX17を発現し得ること、並びに発現パターンは通常のマウス胚盤胞のそれと整合することが判明した。統計学より、3つの細胞マーカーを正しく発現する誘導胚盤胞の割合は約82%であることが明らかとなった(図8.5)。
従って、これらの結果より、マウスciTotiSCは、正しい構造及び遺伝子発現パターンを有するマウス胚盤胞に有効に誘導され得ることが実証された。
【0143】
8.6 マウスciTotiSCに由来する誘導胚盤胞は、移植後in vitroで発達可能である
本発明者らは、in vitro胚培養システムを使用してマウスciTotiSCに由来する誘導胚盤胞を更に培養し、そして誘導胚盤胞をin vitroで培養して円筒構造を生成し得ることを見出した。2つの半球として形成された外胚葉(TFAP2Cについて陽性染色される)及びEPI(Oct4について陽性染色される)は内胚葉(SOX17について陽性染色される)により取り囲まれ、マウスE4.5~E5.5形成期における移植後胚と類似した(図8.6)。
【0144】
具体的培養方法は以下の通りであった:誘導胚盤胞を、マウスピペットを用いて取り出し、IVC-1培地(Cell Guidance Systems社、M11)内で2回洗浄し、次にIVC-1培地が補充されたu-Slide8ウェルプレート(ibidi社、80826)に移した。およそ20~30個の誘導胚盤胞を、u-Slide8ウェルプレートの1つのウェル内に配置した。胚盤胞の付着を誘導した後に、培地をIVC-2(Cell Guidance Systems社、M12)に変更した。約2~4日後に、移植後胚様構造が出現し、それを4%のPFAを用いて室温で15分間固定し、そして次ステップ(蛍光免疫染色による分析)を実施した。
【0145】
8.7 更なる発達のための、マウスciTotiSCに由来する誘導胚盤胞のマウス子宮内へのin vivo移植
現在のところ、胚盤胞が真に機能的であることを検証するための広く公認された標準法は、in vitroで得られた胚盤胞を偽妊娠マウスの子宮内に移し、胚盤胞が移植可能及び胎児に発達可能であるかどうか見きわめることである。この目的を達成するために、本発明者らは、誘導胚盤胞を2.5日齢の偽妊娠マウスの子宮内に移植した。7.5dpcにおいて、脱落膜移植部位が誘導胚盤胞の子宮内で形成可能であった。誘導胚盤胞により生成された脱落膜のサイズは異なったが、しかしそのほとんどは通常のマウス脱落膜と類似し、また一部はわずかに小さめであった。最初のマウスciTotiSCはtdTomato赤色蛍光マーカーを担持したが、脱落膜組織を更に裁断することにより、脱落膜内の胚構造がtdTomatoについて陽性であることが明らかとなったことから、構造は、マウスciTotiSCに由来する誘導胚盤胞の子宮内移植、及びそこでの更なる発達により形成されたことが実証された(図8.7)。これらの結果より、マウスciTotiSCに由来する誘導胚盤胞は、子宮内に移植することで脱落膜化の契機となり、そしてある特定の胚構造に更に発達し得ることが実証された。
【0146】
実施例9:遺伝子発現に対する様々な小分子試薬の効果
RNA-seqデータにより特定の遺伝子セットの発現を分析し、それによって、本発明者らが、TTNPB、1-AKP、WS6、及びmLIFのいずれも、全能性幹細胞の誘導(全能性遺伝子、母性遺伝子、及びZGA遺伝子の有意な上方制御に反映される)にとって重要であることを見出したことはきわめて明白である(図10a)。
【0147】
3つの化合物の中でも、RAアゴニストTTNPBは、RAR結合モチーフに富んだ全能性、母性、及びZGAの多数の遺伝子を直接活性化させ得る(図10d~g)。TTNPB又はTrans-RA(幅広く使用される別のRAアゴニスト)は全能性遺伝子に対して類似する誘導効果を示し、全能性細胞の誘導におけるRAシグナル伝達経路の特殊性が更に確認される一方、RAアンタゴニストAGN193109の存在下では、多能性遺伝子は誘導され得ない(図10e,f)。これらの結果より、細胞内で全能性を確立する際のレチノイン酸シグナル伝達経路の中心的役割が確認される。
【0148】
1-アザケンパウロン(1-AKP)は、GSK3β及びCDK1/サイクリンBの選択的デュアル阻害剤である。試験は、1-AKPで処置することで、特異的Wntシグナル伝達下流遺伝子発現及びG2/M期停止を同時に誘発することを明らかにした。GO分析によれば、1-AKPが全能性幹細胞(ciTotiSC)培養条件から取り除かれた後には、特異的Wntシグナル伝達標的遺伝子が上方制御されないことが一貫して明らかになった(図10h)。ところで、本発明者らは、全能性幹細胞(ciTotiSC)誘導後に細胞周期のG2期の延長(初期2C胚と胚盤胞との間の相違と整合した)も観測した(図10i)。全能性幹細胞(ciTotiSC)のG2期延長は、1-アザケンパウロンが全能性幹細胞(ciTotiSC)培養条件から取り除かれた後には低下したが、それは、1-アザケンパウロンは全能性幹細胞(ciTotiSC)における変動誘発性(poikilogenesis)-G2期の延長と関連する特質をある程度維持することを示唆する(図10i)。これらの結果は、1-アザケンパウロンが全能性の誘発を促進する機構は、特異的Wntシグナル伝達の活性化及び細胞周期G2期の延長を少なくとも一部経由することを示唆した。
【0149】
WS6は、有糸分裂後の細胞増殖を促進することがこれまでに明らかにされたIKK-NF-κB阻害剤である。差次的遺伝子のGO分析によれば、全能性幹細胞(ciTotiSC)培養条件においてWS6アブレーションを行った後に、複数の先天性免疫関連経路、特にNF-κBシグナル伝達が富化された(図10j)。興味深いことに、いくつかの過去の試験は、内在性レトロウイルス(ERV)の発現は、TLRを経由するNF-κBシグナル伝達、又はERV由来の細胞質二本鎖RNA(dsRNA)若しくは二本鎖DNA(dsDNA)のcGAS認識を引き起こす契機となり得ることを明らかにした(Chiappinelli et al. 2015; Lima-Junior et al. 2021; Mao et al. 2022)。それと整合して、WS6が取り除かれたとき、NF-κBシグナル伝達の下流に位置する遺伝子の発現も上方制御される(図10k)。更に、接合体発生期間中のNF-κBの下方制御はその全能性状態にとって重要であり、またNF-κBの活性化はZGA後の後続する発生を引き起こす契機となることが報告されている(Akihiko Nishikimi, 1999; Paciolla et al. 2011)。従って、WS6は、ERV活性化が契機となって引き起こされるNF-κB媒介式の免疫応答を一部阻害することにより、全能性幹細胞(ciTotiSC)の誘導を促進及び安定化する際に役割を演じている可能性がある(図10k,j)。
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【国際調査報告】