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特表2024-537671寿命を増加させたデュアル間接加熱カソードイオン源
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-16
(54)【発明の名称】寿命を増加させたデュアル間接加熱カソードイオン源
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/08 20060101AFI20241008BHJP
   H01J 27/08 20060101ALI20241008BHJP
   H01J 37/248 20060101ALI20241008BHJP
   H01J 37/317 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
H01J37/08
H01J27/08
H01J37/248 A
H01J37/317 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024516899
(86)(22)【出願日】2022-06-29
(85)【翻訳文提出日】2024-04-02
(86)【国際出願番号】 US2022035516
(87)【国際公開番号】W WO2023055451
(87)【国際公開日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】17/491,084
(32)【優先日】2021-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505413587
【氏名又は名称】アクセリス テクノロジーズ, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】プラトウ,ウィルヘルム
(72)【発明者】
【氏名】バッサム,ニール
(72)【発明者】
【氏名】デヴィッド,ジョナサン
【テーマコード(参考)】
5C101
【Fターム(参考)】
5C101AA25
5C101BB05
5C101DD03
5C101DD12
5C101DD22
5C101DD30
(57)【要約】
イオン源は、第1端部および第2端部を備えたアークチャンバを有する。アークチャンバの第1端部における第1カソードは、第1カソード本体と、当該第1カソード本体の内部に配置されている第1フィラメントとを有する。アークチャンバの第2端部における第2カソードは、第2カソード本体と、当該第2カソード本体の内部に配置されている第2フィラメントと、を有する。フィラメントスイッチは、当該フィラメントスイッチの状態に基づいて、フィラメント電源を第1フィラメントおよび第2フィラメントのそれぞれに選択的に電気的に接続する。コントローラは、所定基準に基づき、複数のスイッチングサイクルに亘り、第1フィラメントおよび第2フィラメントに対するフィラメント電源の電気的な接続を交互に切り替えるように、フィラメントスイッチの状態を制御する。所定基準は、第1フィラメントおよび第2フィラメントの動作の持続時間であってよい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン注入システムのためのイオン源であって、
第1端部および第2端部を有するアークチャンバと、
前記アークチャンバの第1端部に関連する第1カソードと、
前記アークチャンバの第2端部に関連する第2カソードと、
フィラメント電源と、
フィラメントスイッチと、
コントローラと、を備えており、
前記第1カソードは、第1カソード本体と、前記第1カソード本体の内部に配置されている第1フィラメントと、を備えており、
前記第2カソードは、第2カソード本体と、前記第2カソード本体の内部に配置されている第2フィラメントと、を備えており、
前記フィラメントスイッチは、前記フィラメントスイッチの状態に基づいて、前記フィラメント電源を前記第1フィラメントおよび前記第2フィラメントのそれぞれに選択的に電気的に接続し、
前記コントローラは、1つ以上の所定基準に基づいて、複数のスイッチングサイクルに亘り、前記第1フィラメントおよび前記第2フィラメントに対する前記フィラメント電源の選択的な電気的接続を交互に切り替えるように、前記フィラメントスイッチの状態を制御する、イオン源。
【請求項2】
1つ以上の前記所定基準は、それぞれのスイッチングサイクルに関連する第1所定持続時間および第2所定持続時間を含んでおり、
それぞれの前記スイッチングサイクルにおける前記第1所定持続時間に亘り、前記フィラメント電源が前記第1フィラメントに電気的に接続され、
それぞれの前記スイッチングサイクルにおける前記第2所定持続時間に亘り、前記フィラメント電源が前記第2フィラメントに電気的に接続される、請求項1に記載のイオン源。
【請求項3】
1つ以上の前記所定基準は、
前記フィラメント電源が前記第1フィラメントに電気的に接続される、複数の前記スイッチングサイクルに亘る第1総時間と、
前記フィラメント電源が前記第2フィラメントに電気的に接続される、複数の前記スイッチングサイクルに亘る第2総時間と、をさらに含んでいる、請求項2に記載のイオン源。
【請求項4】
前記第1総時間と前記第2総時間とがほぼ等しい、請求項3に記載のイオン源。
【請求項5】
前記第1所定持続時間と前記第2所定持続時間とは、複数の前記スイッチングサイクルのうちの少なくとも1つにおいて、互いに異なっている、請求項2に記載のイオン源。
【請求項6】
1つ以上の前記所定基準は、前記第1カソード本体および前記第2カソード本体のうちの1つ以上のそれぞれの壁の所定厚さを含んでいる、請求項1に記載のイオン源。
【請求項7】
前記第1カソード本体と前記第2カソード本体とが同等である、請求項1に記載のイオン源。
【請求項8】
前記第1カソード本体は、前記アークチャンバの前記第2端部に面する第1端壁を備えており、
前記第2カソード本体は、前記アークチャンバの前記第1端部に面する第2端壁を備えており、
前記第1端壁は、第1壁厚を有しており、
前記第2端壁は、第2壁厚を有しており、
前記第2壁厚は、前記第1壁厚よりも大きい、請求項1に記載のイオン源。
【請求項9】
前記フィラメントスイッチは、リレーを含んでおり、
前記コントローラは、前記リレーの制御を通じて、前記第1フィラメントおよび前記第2フィラメントに対する前記フィラメント電源の電気的な接続を交互に切り替える、請求項1に記載のイオン源。
【請求項10】
カソード電源とカソードスイッチとをさらに備えており、
前記カソードスイッチは、前記カソードスイッチの状態に基づいて、前記カソード電源を前記第1カソードおよび前記第2カソードのそれぞれに選択的に電気的に接続し、
前記コントローラは、前記フィラメントスイッチの状態に少なくとも部分的に基づいて、前記カソードスイッチの状態を制御する、請求項1に記載のイオン源。
【請求項11】
イオン注入システムのためのイオン源であって、
第1端部と、前記第1端部とは反対側に位置している第2端部と、を有するアークチャンバと、
前記アークチャンバの前記第1端部に近接して配置されている第1カソードと、
前記アークチャンバの前記第2端部に近接して配置されている第2カソードと、
フィラメント電源と、
フィラメントスイッチと、
コントローラと、を備えており、
前記第1カソードは、
前記アークチャンバの前記第2端部に面する第1端壁を有する第1カソード本体と、
前記第1カソード本体の内部に配置されている第1フィラメントと、を備えており、
前記第2カソードは、
前記アークチャンバの前記第1端部に面する第2端壁を有する第2カソード本体と、
前記第2カソード本体の内部に配置されている第2フィラメントと、を備えており、
前記フィラメントスイッチは、前記フィラメントスイッチの状態に基づいて、前記フィラメント電源を前記第1フィラメントおよび前記第2フィラメントのそれぞれに選択的に電気的に接続し、
前記コントローラは、1つ以上の所定基準に基づいて、複数のスイッチングサイクルに亘り、前記第1フィラメントおよび前記第2フィラメントに対する前記フィラメント電源の電気的な接続を交互に切り替えるように、前記フィラメントスイッチの状態を制御する、イオン源。
【請求項12】
1つ以上の前記所定基準は、
前記フィラメント電源が前記第1フィラメントに電気的に接続される、複数の前記スイッチングサイクルに亘る第1総時間と、
前記フィラメント電源が前記第2フィラメントに電気的に接続される、複数の前記スイッチングサイクルに亘る第2総時間と、を含んでおり、
前記第1総時間と前記第2総時間とがほぼ等しい、請求項11に記載のイオン源。
【請求項13】
1つ以上の前記所定基準は、
複数の前記スイッチングサイクルのうちの少なくとも1つに亘る前記第1フィラメントの動作の第1所定持続時間と、
複数の前記スイッチングサイクルのうちの当該少なくとも1つに亘る前記第2フィラメントの動作の第2所定持続時間と、をそれぞれ含んでおり、
前記第1フィラメントの動作の前記第1所定持続時間と前記第2フィラメントの動作の前記第2所定持続時間とは、互いに異なっている、請求項11に記載のイオン源。
【請求項14】
1つ以上の前記所定基準は、前記第1端壁および前記第2端壁のうちの1つ以上の所定厚さを含んでいる、請求項11に記載のイオン源。
【請求項15】
前記第1端壁は、第1壁厚を有しており、
前記第2端壁は、第2壁厚を有しており、
前記第2壁厚は、前記第1壁厚よりも大きい、請求項11に記載のイオン源。
【請求項16】
カソード電源と、
前記フィラメントスイッチの状態に少なくとも部分的に基づいて、前記カソード電源を前記第1カソードおよび前記第2カソードのそれぞれに選択的に電気的に接続するカソードスイッチと、をさらに含んでいる、請求項11に記載のイオン源。
【請求項17】
イオン源の寿命を増加させるための方法であって、
アークチャンバにソース材料を供給するアクト(a)と、
フィラメント電源を、前記アークチャンバの内部に配置されている第1間接加熱カソードの第1フィラメントに電気的に接続するアクト(b)と、
前記フィラメント電源によって前記第1フィラメントを通電することにより前記第1間接加熱カソードを加熱し、前記アークチャンバの内部において、前記ソース材料からプラズマを形成することを補助するアクト(c)と、
前記フィラメント電源を前記第1フィラメントから電気的に分断し、前記フィラメント電源を、前記アークチャンバの内部に配置されている第2間接加熱カソードの第2フィラメントに電気的に接続するアクト(d)と、
前記フィラメント電源によって前記第2フィラメントを通電することにより前記第2間接加熱カソードを加熱し、前記アークチャンバの内部においてプラズマを形成することを補助するアクト(e)と、
前記フィラメント電源を前記第2フィラメントから電気的に分断するアクト(f)と、
1つ以上の所定基準が満たされるまでアクト(b)~アクト(f)を繰り返すアクト(g)と、を含んでいる、方法。
【請求項18】
アクト(c)が第1所定持続時間に亘り実行され、
アクト(e)が第2所定持続時間に亘り実行され、
前記第1所定持続時間および前記第2所定持続時間は、アクト(g)において実行される繰り返しに基づいて選択的に可変である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
1つ以上の前記所定基準は、
前記フィラメント電源が前記第1フィラメントに電気的に接続される第1総時間と、
前記フィラメント電源が前記第2フィラメントに電気的に接続される第2総時間と、
のうちの1つ以上を含んでいる、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記第1総時間と前記第2総時間とがほぼ等しい、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[技術分野]
本発明は、一般的にはイオン注入システムに関する。より具体的には、本発明は、イオン源の寿命を増加させるために、フィラメント電源に選択的に電気的に接続される複数の間接加熱カソード(間接的に加熱されるカソード)を有しているイオン源に関する。
【0002】
[背景]
半導体デバイスの製造においては、不純物を半導体にドープするためにイオン注入が用いられる。多くの場合、イオン注入システムは、n型またはp型の材料ドーピングを生じさせるために、または集積回路の製造時にパッシベーション層を形成するために、半導体ウェハなどのワークピースをイオンビームに由来するイオンによってドープするために、利用される。多くの場合、集積回路の製造時に半導体材料を生成するために、所定のエネルギーレベルにおいて、かつ、制御された濃度において、特定のドーパント材料の不純物をウェハに選択的に注入するために、このようなビーム処理が利用される。イオン注入システムは、半導体ウェハをドーピングするために使用される場合、選択されたイオン種をワークピースに注入して、所望の外因性材料を生成する。例えば、アンチモン、ヒ素、またはリンなどのソース材料から生じたイオンを注入することにより、「n型」外因性材料ウェハが得られる。その一方、「p型」外因性材料ウェハは、多くの場合、ホウ素(ボロン)、ガリウム、またはインジウムなどのソース材料を用いて生じたイオンに由来して得られる。
【0003】
典型的なイオン注入装置(イオン注入器)は、イオン源と、イオン引出デバイスと、質量分析デバイスと、ビーム輸送デバイスと、ウェハ処理デバイスと、を備えている。イオン源は、所望の原子または分子ドーパント種のイオンを発生させる。これらのイオンは、典型的には電極のセットである引出システムによって当該源から引き出される。当該引出システムは、当該源からのイオンの流れにエネルギーを与えることにより、イオンビームを形成する。所望のイオンは、質量分析デバイス(典型的には、引き出されたイオンビームの質量分散または分離を実行する磁気双極子)においてイオンビームから分離させられる。ビーム輸送デバイス(典型的には、一連の集束デバイスを含む真空システム)は、イオンビームの所望の特性を維持または改善しつつ、当該イオンビームをウェハ処理デバイスへと輸送する。最終的に、半導体ウェハは、ウェハハンドリングシステムを用いて、ウェハ処理デバイスの内外へと輸送される。ウェハハンドリングシステムは、処理されるべきウェハをイオンビームの正面に配置し、かつ、処理された後のウェハをイオン注入装置から取り出すために、1つ以上のロボットアームを含みうる。
【0004】
イオン源(一般的には、アーク放電イオン源と称される)は、注入装置において使用されるイオンビームを発生させる。イオン源は、ウェハ処理に適したイオンビームへと成形されるイオンを発生させるために、加熱フィラメントカソードを含みうる。例えば、Sferlazzoらの米国特許5,497,006は、ベースによって支持されており、ガス封止チャンバに対して配置されており、かつ、当該ガス封止チャンバの内部に向けてイオン化電子を放出するカソードを有するイオン源を開示している。Sferlazzoらのカソードは、ガス封止チャンバ内に部分的に延在しているエンドキャップを有する管状導電体である。フィラメントは、管状本体の内部において支持されている。当該フィラメントは、電子衝撃を介してエンドキャップを加熱する電子を放出することによって、電離電子をガス封止チャンバ内に熱電子的に放出する。
【0005】
従来では、フィラメントは、チャンバの片側に配置されている。多くの一般的なイオン源では、間接加熱カソード(indirectly heated cathode,IHC)が採用されている。この場合、タングステンキャップは、フィラメントの上側に配置されている。フィラメントは、キャップを加熱する。その一方、キャップは、イオン源の寿命を増加させるためにフィラメントを保護する。しかしながら、キャップまたはカソードは、時間とともにスパッタリングされる。このため、キャップの厚さは大きく設定される。この場合、フィラメントは、十分な量の電子を放出するために高温に加熱される。したがって、この例におけるキャップは、電子を放出するためのフィラメントと同様に振る舞う。ただし、当該キャップの著しい厚さに起因して、より長い寿命が実現可能である。
【0006】
イオン源の寿命は、イオン注入装置にとって重大な懸念事項である。イオン源の故障は、計画における望ましくないメンテナンス(保守)およびダウンタイム(停止時間)を招きうる。例えば、典型的には、カソードの故障は、特に多電荷ヒ素イオンビームを形成する場合において、イオン源の寿命に対する主要な要素(factor)となる。
【0007】
[概要]
そこで、本開示は、イオン源の効率および寿命を増加させるための様々なシステムおよび方法を提供する。このため、以下では、本発明の一部の態様についての基本的な理解を提供するために、本開示の簡略化された概要を提示する。本概要は、本発明の広範な概観ではない。本概要は、本発明の重要な要素を識別することを意図したものではないし、本発明の範囲を定めることを意図したものでもない。本概要の目的は、後に記載する詳細な説明の序文として、本発明の一部のコンセプトを単純化した形によって示すことにある。
【0008】
本開示の一態様によれば、イオン注入システムのためのイオン源が提供されている。前記イオン源は、第1端部および第2端部を有するアークチャンバを備えている。前記アークチャンバの前記第1端部に関連する第1カソードは、例えば、第1カソード本体(第1カソードボディ)と、前記第1カソード本体の内部に配置されている第1フィラメントと、を備えている。前記第1カソードは、例えば、第1間接加熱カソードを画定する。前記アークチャンバの前記第2端部に関連する第2カソードは、例えば、第2カソード本体(第2カソードボディ)と、前記第2カソード本体の内部に配置されている第2フィラメントと、を備えている。前記第2カソードは、例えば、第2間接加熱カソードを画定する。
【0009】
一例によれば、フィラメント電源が提供されている。そして、フィラメントスイッチは、前記フィラメントスイッチの状態(position)に基づいて、前記フィラメント電源を前記第1フィラメントおよび前記第2フィラメントのそれぞれに選択的に電気的に接続するように構成されている。例えば、コントローラがさらに提供されている。前記コントローラは、1つ以上の所定基準に基づいて、複数のスイッチングサイクルに亘り、前記第1フィラメントおよび前記第2フィラメントに対する前記フィラメント電源の選択的な電気的接続を交互に切り替えるように、前記フィラメントスイッチの状態を制御するように構成されている。
【0010】
例えば、1つ以上の前記所定基準は、(i)前記第1フィラメントへの前記フィラメント電源の電気的接続についての第1所定持続時間(first predetermined duration)と、(ii)前記第2フィラメントへの前記フィラメント電源の電気的接続についての第2所定持続時間(second predetermined duration)と、をそれぞれ含みうる。例えば、1つ以上の前記所定基準は、(i)前記フィラメント電源が前記第1フィラメントに電気的に接続される、前記複数のスイッチングサイクルに亘る第1総時間(first total time)と、(ii)前記フィラメント電源が前記第2フィラメントに電気的に接続される、複数の前記スイッチングサイクルに亘る第2総時間(second total time)と、をさらに含みうる。一例では、前記第1フィラメントの電気的接続についての前記第1所定持続時間と、前記第2フィラメントの電気的接続についての前記第2所定持続時間とは、複数の前記スイッチングサイクルのうちの少なくとも1つにおいて、互いに異なりうる。別の例では、前記第1総時間と前記第2総時間とは、ほぼ等しい。さらに別の例では、1つ以上の前記所定基準は、前記第1カソード本体および前記第2カソード本体のうちの1つ以上のそれぞれの壁の所定厚さを含みうる。
【0011】
別の例示的な態様によれば、前記第1カソード本体と前記第2カソード本体とは、同等(identical)である。別の例示的な態様では、前記第1カソード本体は、前記アークチャンバの前記第2端部に面する第1端壁(first end wall)を備えている。前記第2カソード本体は、前記アークチャンバの前記第1端部に面する第2端壁(second end wall)を備える。前記第1端壁は第1壁厚を有しており、前記第2端壁は第2壁厚を有している。前記第2壁厚は、前記第1壁厚よりも大きい。
【0012】
別の例によれば、前記フィラメントスイッチは、リレーを含んでいる。前記コントローラは、前記リレーの制御を通じて(前記リレーを制御することによって)、前記第1フィラメントおよび前記第2フィラメントとの前記フィラメント電源との電気的な接続を交互に切り替えるように構成されている。
【0013】
さらに別の例では、前記イオン源は、カソード電源とカソードスイッチとをさらに備えている。前記カソードスイッチは、前記カソードスイッチの状態に少なくとも部分的に基づいて、前記カソード電源を前記第1カソードおよび前記第2カソードのそれぞれに選択的に電気的に接続するように構成されている。前記コントローラは、例えば、前記フィラメントスイッチの状態に少なくとも部分的に基づいて、前記カソードスイッチの状態を制御するように、さらに構成されていてよい。
【0014】
別の例示的な態様によれば、イオン注入システムのためのイオン源が提供されている。前記イオン源は、アークチャンバを備えている。前記アークチャンバは、第1端部と、前記第1端部とは反対側に位置している(対向する,oppose)第2端部と、を有している。例えば、第1カソードは、前記アークチャンバの前記第1端部に近接して配置されている。前記第1カソードは、(i)前記アークチャンバの前記第2端部に面する第1端壁を有する第1カソード本体と、(ii)前記第1カソード本体の内部に配置されている第1フィラメントと、を備えている。例えば、第2カソードは、前記アークチャンバの前記第2端部に近接して配置されている。前記第2カソードは、(i)前記アークチャンバの前記第1端部に面する第2端壁を有する第2カソード本体と、(ii)前記第2カソード本体の内部に配置されている第2フィラメントと、を備えている。
【0015】
本例では、フィラメント電源およびフィラメントスイッチが、さらに提供されている。前記フィラメントスイッチは、前記フィラメントスイッチの状態に基づいて、前記フィラメント電源を前記第1フィラメントおよび前記第2フィラメントのそれぞれに選択的に電気的に接続するように構成されている。コントローラは、1つ以上の所定基準に基づいて、複数のスイッチングサイクルに亘り、前記第1フィラメントおよび前記第2フィラメントに対する前記フィラメント電源の電気的な接続を交互に切り替えるように前記フィラメントスイッチの状態を制御するように、さらに構成されている。
【0016】
例えば、1つ以上の前記所定基準は、(i)前記フィラメント電源が前記第1フィラメントに電気的に接続される、複数の前記スイッチングサイクルに亘る第1総時間と、(ii)前記フィラメント電源が前記第2フィラメントに電気的に接続される、複数の前記スイッチングサイクルに亘る第2総時間と、を含みうる。前記第1総時間と前記第2総時間とは、ほぼ等しい。
【0017】
例えば、1つ以上の前記所定基準は、(i)複数の前記スイッチングサイクルのうちの少なくとも1つに亘る前記第1フィラメントの動作の第1所定持続時間と、(ii)複数の前記スイッチングサイクルのうちの当該少なくとも1つに亘る前記第2フィラメントの動作の第2所定持続時間と、をそれぞれ含みうる。前記第1フィラメントの動作の前記第1所定持続時間と、前記第2フィラメントの動作の前記第2所定持続時間とは、互いに異なっている。しかしながら、例えば、複数の前記スイッチングサイクルのそれぞれについて動作の前記第1持続可時間と前記第2所定持続時間とを制御することによって、複数の前記スイッチングサイクルに亘り、前記第1総時間と前記第2総時間とをほぼ等しくすることができる。
【0018】
別の例では、1つ以上の前記所定基準は、前記第1端壁および前記第2端壁のうちの1つ以上についての、前記第1総時間および前記第2総時間のうちの1つ以上に亘る、所定の薄化(thinning)を含みうる。さらに別の例では、前記第1端壁は、第1壁厚によってはじめに画定されうる。前記第2端壁は、前記第2壁厚によってはじめに画定されうる。前記第2壁厚は、前記第1壁厚よりも大きい。
【0019】
さらに別の例では、カソード電源がさらに提供されていてもよい。カソードスイッチは、前記フィラメントスイッチの状態に少なくとも部分的に基づいて、前記カソード電源を前記第1カソードおよび前記第2カソードのそれぞれに選択的に電気的に接続するように、さらに構成されている。
【0020】
本開示の別の例示的な態様によれば、イオン源の寿命を増加(延長)させるための方法が提供されている。例えば、前記方法は、(i)アークチャンバにソース材料を供給することと、(ii)フィラメント電源を、前記アークチャンバの内部に配置されている第1間接加熱カソードの第1フィラメントに電気的に接続することと、(iii)前記フィラメント電源によって前記第1フィラメントを通電することにより前記第1間接加熱カソードを加熱し、前記アークチャンバの内部において、前記ソース材料からプラズマを形成することを補助することと、を含んでいる。次いで、例えば、前記フィラメント電源は、前記第1フィラメントから電気的に分断(decoupled)されうる。そして、前記フィラメント電源は、前記アークチャンバの内部に配置されている第2間接加熱カソードの第2フィラメントに電気的に接続される。したがって、前記第2フィラメントは、前記フィラメント電源によって通電されうる。これにより、前記第2間接加熱カソードを加熱し、前記アークチャンバの内部においてプラズマを形成することを補助できる。次いで、前記フィラメント電源は、前記第2フィラメントから電気的に分断される。例えば、前記第1フィラメントおよび前記第2フィラメントのそれぞれに対する前記フィラメント電源の接続および分断、ならびに、前記第1フィラメントおよび前記第2フィラメントのそれぞれに対する通電は、1つ以上の所定基準が満たされるまで、任意の反復回数に亘り繰り返されてよい。
【0021】
例えば、1つ以上の前記所定基準は、(i)前記フィラメント電源が前記第1フィラメントに電気的に接続される第1総時間と、(ii)前記フィラメント電源が前記第2フィラメントに電気的に接続される第2総時間と、のうちの1つ以上を含みうる。例えば、前記第1総時間と前記第2総時間とは、ほぼ等しい。別の例では、第1所定持続時間に亘り、前記第1フィラメントが前記フィラメント電源によって通電される。そして、第2所定持続時間に亘り、前記第2フィラメントが前記フィラメント電源によって通電される。前記第1所定持続時間および前記第2所定持続時間は、繰り返しの反復に基づいて選択的に可変である。
【0022】
上述の各目的および関連する目的を達成するために、本開示は、以下において十分に説明されており、かつ、特許請求の範囲において具体的に挙示されている構成を含んでいる。以下の記載および添付の図面は、本発明の例示的な実施形態を詳細に示している。ただし、これらの実施形態は、本発明の原理を用いる種々の方法のうちの一部を示しているにすぎない。本発明の他の目的、利点、および新規な構成は、図面を参照することにより、本発明の詳細な記載から明らかになるであろう。
【0023】
[図面の簡単な説明]
図1は、本開示の様々な態様に係るイオン源を利用する例示的な真空システムのブロック図である。
【0024】
図2は、本開示の様々な態様に係る例示的なアークチャンバの側面図についてのブロック図である。
【0025】
図3は、本開示の様々な態様に係る例示的なイオン源の概略的なブロック図である。
【0026】
図4は、本開示の様々な態様に係る別の例示的なイオン源の概略的なブロック図である。
【0027】
図5は、本開示の様々な態様に係るイオン源の寿命を改善するための方法を示す。
【0028】
図6は、本開示の様々な態様に係る様々な厚さのカソードを使用することにより得られた様々なイオン源寿命を示すグラフである。
【0029】
[詳細な説明]
本開示は、イオン注入システムおよび当該システムに関連するイオン源を全般的に対象としている。より詳細には、本開示は、イオンビーム電流およびイオン源の寿命を増加させるためのシステムおよび装置を対象としている。そこで、以下では、図面を参照して本発明を説明する。全体を通して、同様の参照番号は、同様の要素を指すために使用されてよい。これらの態様の説明は単なる例示であり、限定的な意味として解釈されるべきではないことを理解されたい。以下の説明では、説明のために、本発明についての十分な理解を提供すべく、様々な特定の詳細部が記載されている。当業者であれば、これらの特定の詳細部がなくとも本発明が実現可能であることが明らかであろう。さらに、本発明の範囲については、添付の図面を参照して以下において説明される実施形態または例によって限定されることは意図されていない。本発明の範囲については、添付のクレーム(特許請求の範囲)およびその均等物によってのみ限定されることが意図されている。
【0030】
図面は、本開示の実施形態の複数の態様についての例示を与えるために提供されているので、概略的なものに過ぎないと見なされるべきであることにも留意されたい。特に、図面に示されている要素(部材)は、必ずしも互いに一定のスケールではない。そして、図面における様々な要素の配置は、それぞれの実施形態についての明確な理解を提供するために選択されている、したがって、当該配置は、本発明の実施形態に係る実装例における様々なコンポーネント(構成要素)の実際の相対位置の表現であると必ずしも解釈されるべきではない。さらに、本明細書に記載されている様々な実施形態および例における各構成は、別段の定めがない限り、互いに組み合わせられてよい。
【0031】
以下の説明において図面に示されている、または、本明細書において記載されている、機能ブロック、デバイス、コンポーネント、回路要素(回路素子)、または他の物理的なもしくは機能的なユニット間の任意の直接的な接続または結合は、間接的な接続または結合によって実現されてもよいことも理解されたい。さらに、図面に示されている複数の機能ブロックまたはユニットは、ある実施形態では個別の構成またはコンポーネントとして具現化されてもよい。代替的には、別の実施形態では、当該機能ブロックまたは当該ユニットは、共通の構成またはコンポーネントにおいて完全にまたは部分的に具現化されてもよいことを理解されたい。
【0032】
以下では、本開示の様々な態様についてのより良好な理解を得るために、各図面を参照する。図1は、本開示の様々な装置、システム、および方法を採用しうる例示的な真空システム100を示す。本例における真空システム100は、イオン注入システム101を含んでいる。ただし、プラズマ処理システムまたは他の半導体処理システムなどの様々な他のタイプの真空システムも考慮されている。一例として、イオン注入システム101は、ターミナル102と、ビームラインアセンブリ104と、エンドステーション106とを備えている。
【0033】
一般的には、ターミナル102内のイオン源108は、電源110に接続されている。この場合、当該イオン源に供給されるソースガス112(ドーパントガスとも称される)が複数のイオンへとイオン化されることにより、イオンビーム114が形成される。本例におけるイオンビーム114は、ビームステアリング装置116を通って、開口118を出て、エンドステーション106に向かうように導かれる。エンドステーション106において、イオンビーム114がワークピース120(例:シリコンウェハなどの半導体、ディスプレイパネル)に衝突する。ワークピース120は、チャック122(例:静電チャックまたはESC)に選択的にクランプされる、または取り付けられる。注入されたイオンは、ワークピース120の格子に埋め込まれると、ワークピースの物理的特性および/または化学的特性を変化させる。このため、半導体デバイスの製造および金属仕上げに加えて、材料科学研究における様々な用途において、イオン注入が利用されている。
【0034】
本開示のイオンビーム114は、ペンシルビームまたはスポットビーム、リボンビーム、走査ビーム(スキャンビーム)、またはイオンがエンドステーション106に向けて導かれる任意の他の形態など、任意の形態をとりうる。これらの全ての形態は、本開示の範囲に含まれるものとして考慮されている。
【0035】
例示的な一態様によれば、エンドステーション106は、プロセスチャンバ124(例:真空チャンバ126)を備えている。プロセス環境128は、当該プロセスチャンバに関連付けられている。例えば、プロセスチャンバ124内のプロセス環境128は、真空源130(例:真空ポンプ)によって生じた真空を含んでいる。真空源130は、プロセスチャンバに接続されており、かつ、当該プロセスチャンバを十分に(実質的に)排気するように構成されている。さらに、真空システム100の全体的な制御のために、コントローラ132が設けられている。
【0036】
本開示は、上述のイオン注入システム101におけるイオン源のダウンタイムを減少させつつ、イオン源108のビーム電流および利用性を増加させるように構成されている装置を提供する。本開示の装置は、CVD、PVD、MOCVD、エッチング装置、および様々な他の半導体処理装置などの様々な半導体処理装置において実装されてもよく、これらのすべての実装は本開示の範囲内に含まれるものとして考慮されていることを理解されたい。有益であることに、本開示の装置は、複数のメンテナンスサイクルの間におけるイオン源108の使用時間の長さを増加させる。したがって、当該装置は、システム真空100の全体的な生産性および寿命を増加させる。
【0037】
例えば、イオン源108は、イオン注入システム101において多大な役割を果たす。したがって、イオン源108の性能は、イオン注入システム101に関連するメトリクス(計量値)において多大な役割を果たしうる。当該メトリクスは、例えば、スループット、アップタイム(使用可能時間)、グリッチ率、および所望の注入パラメータ(例:所望のイオン種のエネルギー状態)などである。
【0038】
例えば、ワークピース120にヒ素(As)イオンを注入する場合には、多価のヒ素イオンがイオン源108から引き出され、イオンビーム114が形成される。しかしながら、典型的には、ヒ素は、自らの大きい原子質量に起因して、イオン源の内部において高いスパッタレート(スパッタ速度)を生じさせる。また、多電荷動作に起因して、高いアーク電圧およびアーク電流が、電源110によって供給される。このことは、イオン源108の内部に位置しているカソード(図1では不図示)などのコンポーネントにおいて観察されていたスパッタレートをさらに増加させる。従来のシステムでは、このようなスパッタリングがイオン源のカソードの寿命の減少を招く場合がある。カソードの厚さを増加させることにより、当該カソードの寿命をある程度までは増加させることができる。しかしながら、当該寿命を延長するためにカソードの厚さを増加させることができる程度は、肥厚された(thickened)当該カソードの加熱および動作についての制御に関連する困難性に起因して制限される。
【0039】
本開示は、イオン源に内部に複数のカソードを設けることによって、イオン源108の寿命を増加させるための新規なアプローチを提供している。この場合、複数のカソードに対して、電力が交互に選択的に供給される。図2では、第1の例として、イオン源チャンバ200が示されている。図2の例において、アークチャンバ202は、イオンを形成するための閉鎖領域(enclosed region)204を画定している。図1のイオンビーム114は、アークチャンバ内に画定されている引出開口206を通じて引き出される。例えば、図2のアークチャンバ202は、第1端部208および第2端部210を有している。第1カソード212は、当該アークチャンバの当該第1端部に近接して配置されている。例えば、第1カソード212は、第1カソード本体214を備えている。この場合、第1フィラメント216は、当該第1カソード本体の内部に配置される。本例では、第1カソード本体214は、概ね中空である。そして、第1カソード本体214は、第1本体壁220(例:アークチャンバ202の第2端部210に面している第1端壁221)を備えている。第1本体壁220は、第1本体壁厚222を有している。第1フィラメント216は、当該第1本体壁によって概ね包囲されている。このように、図2に示されている構成では、第1カソード212は、第1間接加熱カソード224を概ね画定する。
【0040】
さらに、例えば、第2カソード226は、アークチャンバ202の第2端部210に近接して配置されている。当該第2カソードは、第2カソード本体228を備える。第2カソード本体228は、当該第2カソード本体の内部に配置されている第2フィラメント230を有している。例えば、第2カソード本体228は、概ね中空である。そして、第2カソード本体228は、第2本体壁232(例:アークチャンバ202の第1端部208に面している第2端壁233)を備えている。第2本体壁232は、第2本体壁厚234を有している。第2フィラメント230は、当該第2本体壁によって概ね包囲されている。このように、図2に示されている構成では、第2カソード226は、第2間接加熱カソード236を概ね画定している。
【0041】
図2に示されている例では、第1カソード212および第2カソード226は、実質的に同等である(substantially identical)。このため、第1本体壁厚222は、第2本体壁厚234と実質的に等しい。しかしながら、第1カソード212の構成、サイズ、および形状は、第2カソード226の構成、サイズ、および形状とは相異していてもよいことに留意されたい。例えば、以下においてさらに説明する通り、(例えば、図3に示されている通り)第1本体壁厚222は、第2本体壁厚234よりも小さくともよい。あるいは、その逆であってもよい。
【0042】
図3には、例示的なイオン源250が示されている。図3に示す通り、本開示は、フィラメント電源252をさらに提供している。図3の例において、フィラメントスイッチ254は、当該フィラメントスイッチの状態に基づいて、当該フィラメント電源を第1フィラメント216および第2フィラメント230のそれぞれに選択的に電気的に接続するように構成されている。図3に示す通り、フィラメントスイッチ254は、フィラメント電源252から第2カソード226の第2フィラメント230へと電力を供給するように状態設定されている(positioned)。フィラメントスイッチ254は、手動で制御されてもよい。ただし、本開示は、フィラメントスイッチの状態を制御するように構成されたコントローラ256をさらに提供している。これにより、第1フィラメント216および第2フィラメント230に対するフィラメント電源252の選択的な電気的接続を交互に切り替えることができる。例えば、フィラメントスイッチ254は、リレー258を含んでいる。この場合、当該コントローラは、当該リレーの制御を通じて、第1フィラメント216および第2フィラメント230に対するフィラメント電源252の電気的な接続を交互に切り替えるように構成されている。
【0043】
例えば、コントローラ256は、イオン源250の局所的な制御のための独立型(スタンドアローン)のコントローラであってよい。コントローラ256は、真空システム100の様々な他のコンポーネントの全体的な制御を提供する、図1に示されているコントローラ132に組み込まれていてもよい。オペレータ(作業者)による手動制御のみならず、関連するソフトウェアおよびロジックを含む全ての上記コントローラは、本開示の範囲内に含まれると考慮されている。
【0044】
本例によれば、図3のコントローラ256は、複数回に亘って、フィラメント電源252を、第1フィラメント216および第2フィラメント230のそれぞれに交互に電気的に接続するように構成されている。これにより、複数のスイッチングサイクルが定められる。例えば、「スイッチングサイクル」は、フィラメント電源252の電気的接続を、第1フィラメント216から第2フィラメント230へと切り替え(スイッチングし)、その後、当該電気的接続を当該第1フィラメントへと戻すことを含んでいる。
【0045】
例えば、コントローラ256による、第1フィラメント216および第2フィラメント230に対するフィラメント電源252の電気的な接続の切り替えは、1つ以上の所定基準に基づいている。一例として、1つ以上の所定基準は、任意の所与のスイッチングサイクルにおける、(i)フィラメント電源252が第1フィラメント216に電気的に接続される第1所定持続時間と、(ii)フィラメント電源が第2フィラメント230に電気的に接続される第2所定持続時間と、のそれぞれを含んでいる。例えば、運転時には、第1所定持続時間において、第1フィラメント216は、第1カソード212を加熱することにより、(i)アークチャンバ202の閉鎖領域204の内部においてプラズマ(不図示)を形成すること、および、(ii)その後に引出開口206を通じてイオンを引き出すことを補助する。同様に、第2所定持続時間において、第2フィラメント230は、第2カソード226を加熱することにより、(i)アークチャンバ202の閉鎖領域204の内部においてプラズマを形成すること、および、(ii)その後に引出開口部206を通じてイオンを引き出すことを補助する。
【0046】
第1所定持続時間と第2所定持続時間とは、同等でありうる。あるいは、一例として、第1所定持続時間と第2所定持続時間とは、複数のスイッチングサイクルのうちの少なくとも1つにおいて異なりうる。ある非限定的な例では、第1スイッチングサイクルにおいて、(i)第1フィラメント216がフィラメント電源252に電気的に接続される第1所定持続時間は60分であり、(ii)第2フィラメント230が当該フィラメント電源に電気的に接続される第2所定持続時間は80分である。そして、第2スイッチングサイクルにおいて、(i)第1フィラメント216がフィラメント電源252に電気的に接続される第1所定持続時間は90分であり、(ii)第2フィラメント230が当該フィラメント電源に電気的に接続される第2所定持続時間は70分である。本明細書では、2つのスイッチングサイクルが例として提示されている。ただし、任意の数のスイッチングサイクルならびに第1持続時間および第2所定持続時間が、本開示の範囲内に含まれるものとして考慮されていることに留意されたい。
【0047】
上述の例では、フィラメント電源252が第1フィラメント216に電気的に接続される、2つのスイッチングサイクルに亘る第1総時間が、当該フィラメント電源が第2フィラメント230に電気的に接続される第2総時間(例:150分)に等しいことに留意されたい。本開示では、第1フィラメント216がフィラメント電源252に電気的に接続される第1総時間と、第2フィラメント230がフィラメント電源252に電気的に接続される第2総時間とを、ほぼ同等にすることにより、第1カソード212と第2カソード226との両方にほぼ均一な損耗(substantially even wear)を生じさせることができると考慮している。そこで、第1フィラメント216および第2フィラメント230に対するフィラメント電源252の電気的な接続の切り替えの基礎となる1つ以上の所定基準は、(i)当該フィラメント電源が当該第1フィラメントに電気的に接続される、複数のスイッチングサイクルに亘る第1総時間と、(ii)当該フィラメント電源が当該第2フィラメントに電気的に接続される、複数の当該スイッチングサイクルに亘る第2総時間と、を含みうる。一例として、第1フィラメント216と第2フィラメント230との切り替えに要する時間(例:ワークピースに対して注入が実行されない時間)が考慮されてもよい。当該時間は、一連のサイクルに亘り補償されてもよい。
【0048】
別の例示的な態様によれば、本開示では、1つ以上の所定基準は、第1カソード本体214の第1壁222および第2カソード本体228の第2壁234のうちの1つ以上の所定厚さをさらに含みうるとさらに考慮している。例えば、当該所定厚さは、プラズマの任意の形成の前の開始厚さ(beginning thickness)に関連付けられてもよい。あるいは、当該所定厚さは、プラズマ形成ならびに後続する第1壁222および第2壁234に対するスパッタリングおよびエロージョンの後における、当該第1壁および当該第2壁のそれぞれの減少後厚さ(decreased thickness)に関連付けられてもよい。例えば、第1カソード本体214の第1壁222および第2カソード本体228の第2壁234のうちの1つ以上の所与の初期厚さ(initial thickness)に応じて、第1フィラメント216および第2フィラメント230に対するフィラメント電源252の電気的接続の切り替えを、所定の数のスイッチサイクルに亘り制御するように、コントローラ256が構成されていてもよい。これにより、第1総時間と第2総時間とがほぼ同等となる。当該制御は、図1の真空システム100のプロセスパラメータ(例:図1の真空システム100に関連する所定のパラメータにて処理されるべきワークピース120の所与のバッチの時間の長さ)にさらに基づいていてもよい。
【0049】
図3の例では、カソード電源260は、第1カソード212と第2カソード226との両方に電気的に接続されている。この場合、当該カソード電源は、当該第1カソードおよび当該第2カソードを、アーク電源262に対してバイアスする。そして、アーク電源は、アークチャンバ202を大地(接地)に対してバイアスする。例えば、図3に示されているカソード電源260は、第1カソード212と第2カソード226との両方に電力を同時に供給する。この場合、当該第1カソードと当該第2カソードとの間において切り替えられる唯一の電力は、第1フィラメント216と第2フィラメント230との切り替えに由来する。したがって、第1カソード212の第1フィラメント216、および、第2カソード226の第2フィラメント230に対する、フィラメント電源252の切り替えによって、カソード/アンチカソード(リペラとも称される)の関係が概ね定められる。
【0050】
図4に示されている別の例示的なイオン源264では、カソードスイッチ266がさらに設けられている。カソードスイッチ266は、カソード電源260を第1カソード212および第2カソード226のそれぞれに選択的に電気的に接続するように構成されている。第1カソード212および第2カソード226のそれぞれに対するカソード電源260の選択的な電気的接続は、例えば、カソードスイッチ266の状態に基づいている。コントローラ256は、フィラメントスイッチ254の状態に少なくとも部分的に基づいて、カソードスイッチの状態を制御するようにさらに構成されている。本例では、カソードスイッチ266が、カソード電源260を第2カソード226に電気的に接続しつつ、第1カソード212をフロート(浮遊)させるものとして示されている。
【0051】
本開示は、例えば、従来のシステムと比較して、イオン源の寿命を4倍まで増加させることができる。現時点において、第1カソード212に関連する第1フィラメント216、および、第2カソード226に関連する第2フィラメント230への、フィラメント電源252からの電力のスイッチングは、それぞれの第1カソードおよび第2カソードをクリーニング(洗浄)するか、あるいはリフレッシュすることについて肯定的な効果を有すると考慮されている。発明者らは、(第2フィラメント230に電力を供給せずに)第1カソード212の第1フィラメント216に電力を供給する場合、第1カソードに由来するタングステンが第2カソード226に堆積されうることを実験的に示した。その逆に、発明者らは、(第1フィラメントに電力を供給せずに)第2カソードの第2フィラメントに電力を供給する場合、第2カソードに由来するタングステンが第1カソード上に堆積されうることも実験的に示した。したがって、第1フィラメント216および第2フィラメント230への電力をスイッチングすることによって、タングステンは、第1カソード212および第2カソード226に由来して反復的に成長させられるとともに、スパッタリングされる。これにより、従来のシステムに比べて長いイオン源の寿命を実現できる。上述のスイッチングサイクルを提供することにより、疑似的なクリーニングプロセス(quasi-cleaning process)が実現されると考慮されている。これにより、第1カソード212および第2カソード226における損耗は、従来のシステムに比べて均一に維持される。
【0052】
さらに別の例示的な態様によれば、図5において、イオン源の寿命を改善するための方法300が提示されている。例示的な方法は、本明細書では一連のアクト(行為)またはイベント(事象)として図示および説明されているが、本発明は当該アクトまたは当該イベントの図示されている順序によって限定されないと理解されるべきである。一部のステップは、本発明に従って本明細書において図示および説明されている順序とは別の異なる順序で生じうるし、および/または、本明細書において図示および説明されているステップとは別の他のステップと同時に生じうるからである。加えて、本発明に係る方法を実施するために、例示されている複数のステップの全てが必要とされない場合もある。さらに、当該方法は、本明細書において図示および説明されているシステムに関連して実施されてもよいし、例示されてしない他のシステムに関連して実施されてもよいことも理解されるであろう。
【0053】
図6に示す通り、方法は、アクト302から開始する。アクト302において、ソース材料(例:As、B、Pなど)がアークチャンバに供給される。アクト304において、フィラメント電源は、アークチャンバの内部に配置されている第1間接加熱カソードの第1フィラメントに電気的に接続される。アクト306において、第1フィラメントはフィラメント電源によって通電される。これにより、第1間接加熱カソードを加熱して、アークチャンバの内部においてソース材料からプラズマを形成することを補助できる。
【0054】
アクト308において、フィラメント電源は、第1フィラメントから電気的に分断される。そして、当該フィラメント電源は、アークチャンバの内部に配置されている第2間接加熱カソードの第2フィラメントに電気的に接続される。アクト310において、第2フィラメントは、フィラメント電源によって通電される。これにより、第2間接加熱カソードを加熱して、アークチャンバの内部においてプラズマを形成することを補助できる。アクト312において、フィラメント電源は、第2フィラメントから分断される。そして、アクト314において1つ以上の所定基準が満たされるまで、アクト304~アクト312が上述の通り繰り返される。
【0055】
本開示のさらに別の態様によれば、図6は、図2図4のいずれかにおける第1カソード212および第2カソード226の様々な構成に対応するグラフ400を示す。本開示では、例えば、カソードが(例:カソードと同電位に保持されるが、熱電子放出によって電子を放出するように加熱されない)リペラまたはアンチカソードとして使用される場合には、同じ部分がカソードとなるように加熱される場合に観察されるレートよりも約50%低いレートによってスパッタリングされると考慮している。
【0056】
しかしながら、本開示では、混合種を流す場合に、スパッタレートに基づいて、スイッチングサイクルおよびスイッチング時間をさらに変化させることができるとさらに考慮している。さらに、ボロン(ホウ素)を流す場合には、リペラ(例:不活性カソード)の厚さがさらに成長しうる。したがって、上述のスイッチング方式と併せて考慮すれば、本体壁の厚さバリエーションおよび種のバリエーションは、イオン源の寿命をさらに増加させうる。
【0057】
本開示のイオン源は、例えば、ボロン、リン、およびヒ素、ならびに他の種のイオンを発生させるように構成されていてよい。しかしながら、これらの特定の例示的な種の中でも、ヒ素は、最も重く、かつ、最も高いスパッタレート係数を有している。より高い電荷状態(例えば、As4+)では、高いアーク電圧も生じる。このことは、イオン源の寿命にさらに影響を及ぼしうる。例えば、BFを用いてホウ素イオンを注入する場合には、ハロゲンサイクルまたは他の作用が、フッ素(F)を、第1カソードのタングステン(W)と反応させうるであろう。その結果、より低温でありうるイオン源の内部において、様々な表面に対してタングステンが引き付けられる。この場合、タングステンが解離する。その後、当該表面上にタングステンが堆積する。または、当該表面上においてタングステンが「成長」する。本例では、第1カソードに電力を供給する場合に、タングステンは多孔質の態様で第2カソード上に堆積しうる。
【0058】
しかしながら、第1カソードから第2カソードへとアーク電力をスイッチングする場合、第2カソードの始動時に問題が生じることがある。この場合、多孔質タングステンの堆積に由来して第2カソードの表面特性が変化することにより、放出が減少することがある(例えば、タングステンは、リン、ボロン、またはヒ素などの別の元素とさらに混合されうる)。したがって、このようなタングステンの堆積をクリーニングまたはスパッタリング除去するためには、かなり長い時間を要する場合がある。
【0059】
有益であることに、本開示は、第1フィラメントおよび第2フィラメントに供給されるフィラメント電力を複数回に亘りスイッチングして、第1カソードおよび第2カソードへと供給される電力が複数回に亘り切り替わるようにすることにより、第2カソードをクリーニングまたはスパッタリングするための上述の長い時間を回避している。
【0060】
本開示は、マサチューセッツ州ベバリーのアクセリステクノロジー社の同時係属中の(co-pending)米国特許出願17/330,801に記載されている通り、段差付カソード(stepped cathode)を含みうることが理解されるであろう。当該出願の内容の全体は、参照により本明細書に組み込まれる。例えば、本開示における上述の第1カソードおよび第2カソードのうちの1つ以上は、当該段差付カソードを含みうる。
【0061】
特定の実施形態に関して本発明が図示および説明されてきたが、上述の実施形態は本発明の一部の実施形態の具現化のための例としての役割を果たしているにすぎず、本発明の適用はこれらの実施形態に限定されないことに留意されたい。特に、上述のコンポーネント(アセンブリ、デバイス、回路など)によって実行される様々な機能に関して、当該コンポーネントを説明するために使用されている用語(「手段」(means)への言及を含む)は、別段の定めがない限り、本明細書において示されている本発明の例示的な実施形態において当該機能を実行する開示されている構成と構造的に等価ではないが、説明されている当該コンポーネントの指定された機能を実行する任意のコンポーネント(すなわち、機能的に等価であるコンポーネント)に対応するものとして意図されている。さらに、本発明の特定の構成が複数の実施形態のうちの1つのみに対して開示されてきたが、当該構成は任意の所与の用途または特定の用途にとって望ましくかつ有利な他の実施形態における1つ以上の構成と組み合わせられてよい。したがって、本発明は、上述の実施形態に限定されるべきではない。本発明は、添付の特許請求の範囲およびその均等物によってのみ限定されるものとして意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0062】
図1】本開示の様々な態様に係るイオン源を利用する例示的な真空システムのブロック図である。
図2】本開示の様々な態様に係る例示的なアークチャンバの側面図についてのブロック図である。
図3】本開示の様々な態様に係る例示的なイオン源の概略的なブロック図である。
図4】本開示の様々な態様に係る別の例示的なイオン源の概略的なブロック図である。
図5】本開示の様々な態様に係るイオン源の寿命を改善するための方法を示す。
図6】本開示の様々な態様に係る様々な厚さのカソードを使用することにより得られた様々なイオン源寿命を示すグラフである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】