(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-16
(54)【発明の名称】エナメル超電導体
(51)【国際特許分類】
H10N 60/80 20230101AFI20241008BHJP
H01B 12/06 20060101ALI20241008BHJP
H01F 6/06 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
H10N60/80 B
H01B12/06 ZAA
H01F6/06 140
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024517147
(86)(22)【出願日】2022-09-17
(85)【翻訳文提出日】2024-04-22
(86)【国際出願番号】 US2022043908
(87)【国際公開番号】W WO2023044080
(87)【国際公開日】2023-03-23
(32)【優先日】2021-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523432771
【氏名又は名称】メトオックス インターナショナル,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】シャシダール,ナーガラージャ
(72)【発明者】
【氏名】イグナティエフ,アレックス
【テーマコード(参考)】
4M114
5G321
【Fターム(参考)】
4M114AA29
4M114BB10
4M114DB13
4M114DB47
4M114DB53
4M114DB69
5G321AA04
5G321BA03
5G321CA24
5G321CA27
5G321CA41
5G321CA48
5G321CA50
5G321CA99
5G321DB40
5G321DB41
(57)【要約】
低温で堆積された非晶質セラミック薄膜を含む絶縁超電導コーティングが提供される。絶縁層の破壊強度及び熱抵抗の性能は、非常に薄い厚さであっても有利であり、機械的強度特性は、開示されるプロセスから生じる圧縮応力プロファイルによって補助される。したがって、薄い絶縁層は、高電流密度の性能特性を維持しながら、独自の超電導体アーキテクチャを可能にする。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜複合超電導品であって、
金属基板と、
バッファ層と、
超電導層と、
25Cで10
-7m
2K/W未満の熱抵抗及び20Vを超える絶縁破壊電圧を含むセラミック絶縁層と
を備える、前記薄膜複合超電導品。
【請求項2】
前記セラミック絶縁層が非晶質セラミックから成る、請求項1に記載の超電導品。
【請求項3】
前記非晶質セラミックが窒化ホウ素である、請求項2に記載の超電導品。
【請求項4】
前記セラミック絶縁層が、実質的に200Cに等しい、またはそれより低い堆積温度で前記超電導層に塗布される、請求項1に記載の超電導品。
【請求項5】
前記セラミック絶縁層の厚さが、実質的に2μm以下である、請求項1に記載の超電導品。
【請求項6】
前記超電導層が高温超電導体である、請求項1に記載の超電導品。
【請求項7】
薄膜複合超電導品であって、
金属基板と、
バッファ層と、
超電導層と、
実質的に77K以下の温度に冷却されたときに、前記超電導層に対して圧縮不整合を有するセラミック絶縁層と
を備え、
前記不整合が、前記セラミック絶縁層の室温で測定された体積熱膨張率対前記超電導層の体積熱膨張率の比によって決定され、
前記体積熱膨張率の比が実質的に0.75以下である、
前記薄膜複合超電導品。
【請求項8】
前記セラミック絶縁層が非晶質セラミックから成る、請求項7に記載の超電導品。
【請求項9】
前記非晶質セラミックが窒化ホウ素である、請求項8に記載の超電導品。
【請求項10】
前記セラミック絶縁層が、実質的に200Cに等しい、またはそれより低い堆積温度で前記超電導層に塗布される、請求項7に記載の超電導品。
【請求項11】
前記セラミック絶縁層の厚さが、実質的に2μm以下である、請求項7に記載の超電導品。
【請求項12】
前記超電導層が高温超電導体である、請求項7に記載の超電導品。
【請求項13】
超電導品を形成する方法であって、
金属基板を提供することと、
前記基板上にバッファ層を堆積させることと、
第1の温度で前記バッファ層上に超電導層を堆積させることと、
前記超電導層に対する圧縮不整合が、実質的に77K以下の温度に冷却されたときに確立されるように、第2の温度で前記超電導層の上にセラミック絶縁層を堆積させることと
を含む、前記方法。
【請求項14】
前記セラミック絶縁層が非晶質セラミックから成る、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記非晶質セラミックが窒化ホウ素である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記セラミック絶縁層が、実質的に200Cに等しい、またはそれより低い堆積温度で堆積される、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記超電導層がMOCVDによって堆積され、前記セラミック絶縁層が、RFスパッタリング、マグネトロンスパッタリング、パルスレーザ堆積、原子層堆積、または電子ビーム蒸着のグループから選ばれる異なる技術によって堆積される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記セラミック絶縁層の厚さが、実質的に2μm以下である、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記超電導層が高温超電導体である、請求項13に記載の方法。
【請求項20】
セラミック絶縁層が、25Cで10
-7m
2K/W未満の熱抵抗及び20Vを超える絶縁破壊電圧を含む、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、内容全体が参照により本明細書に組み込まれる、2021年9月20日に出願され、「Enameled Superconductor」と題された米国仮特許出願第63/245,967号からの優先権及び利益を主張する。
【背景技術】
【0002】
本明細書に開示される主題の実施形態は、概して、絶縁された超電導体に関し、より具体的にはセラミック絶縁体、高温超電導体にセラミック絶縁体を適用する方法、ならびに特定のセラミック絶縁体を用いる超電導体の構造及びアーキテクチャに関する。
【0003】
背景の説明
電気絶縁には、被覆導体、特に高温超電導体を利用する電磁システムの設計及び応用において重要な役割がある。高温超電導体(HTS)は、液体ヘリウム温度(4.2K)で動作する従来の超電導体と比較して、より高い温度で動作する超電導コンポーネントの開発に可能性をもたらす。したがって、より高い温度で動作する超電導体により、より経済的に動作する超電導のコンポーネント及び製品を開発できるようになる。YBa2Cu3O7-x(YBCO)から成る薄膜HTS材料は、酸化物系の高温超電導体のグループの1つである。最初にYBCO超電導体が発見された後に、同様の化学組成をもつが、Yが他の希土類元素に置き換えられた他の超電導体が発見された。この系列の超電導体は、多くの場合REBCOと表記され、REは希土類を表し、Y、La、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、またはLuを含む場合がある。この材料は、HTSテープ及びワイヤを製造するためのよりコスト効率の高い材料を提供する第2世代または「2G」HTSワイヤ技術の基礎を形成した。
【0004】
そのようなHTS膜は、通常、原子配向金属基板上に1つ以上のバッファ層を含み得る配向REBCO薄膜として堆積される。有機金属化学気相堆積(MOCVD)の場合、有機配位子が、堆積反応のために基板に送達される気相前駆体を含み得る。化学蒸着(CVD)またはMOCVDによる高温超電導体の製造では、処理は真空条件下で行われ、それによってステンレス鋼またはハステロイ基板テープが、例えば800℃~900℃の高温に加熱されて、気相前駆体材料が基板テープ上に堆積し、HTS膜の成長が起こる。バッファ層及び超電導層の堆積に続いて、1つ以上の安定化層及び/または絶縁層が適用され得る。
【0005】
電磁システムに利用される様々なタイプの被覆導体は、絶縁のためにいくつかの有機材料を含んでいる。いくつかの超電導体では、導体及びポットコイルをエポキシで被覆するために、エポキシ(ガラス繊維補強物の有無に関わらず)が使用される。例えば、磁石に使用されるエナメル超電導体は、有機ポリイミド、またはポリエポキシド、もしくはエポキシ基を含むプレポリマーとポリマーから成るエポキシ樹脂で封入または被覆され、ディップコーティングまたはスプレーコーティングによって塗布される場合がある。これらのエナメルについて報告されている最低厚さは、約4ミクロン(um)である。したがって、0.8W/m-kの熱伝導率では、厚さ4umのエナメルは、5×10-6m2K/Wの室温熱抵抗を有するであろう。
【0006】
他の場合、真鍮テープのような金属は、被覆導体に積層され得る。真鍮は技術的には導体であるが、真鍮は、超電導体と比べて比較的に高い抵抗を有するため、絶縁体のように機能する。いくつかの超電導体用途では、高電流密度を達成するために、コイルは絶縁なしで巻かれる場合がある。この手法により、絶縁抵抗がないため、完全に絶縁されたコイルの時定数よりもはるかに高い時定数の非絶縁コイルがもたらされ、結果的に、非常にゆっくりとしたコイル充電-放電速度が生じる。
【0007】
絶縁体を適用すると、絶縁された超電導体アーキテクチャの設計が複雑になり、それにより導体-絶縁体システムによって占有される体積が増加するため、システム内の工学電流密度も減少する。例えば、典型的な被覆導体は厚さ100umである場合があるが、絶縁体は、容易に50umを追加し得るため、断面積を50%増加し、それによって工学電流密度を減少させる。
【0008】
多くの用途、特にHTSでは、電流の層間の移動を防ぐために、超電導体上に絶縁層が必要とされる。これらの理由により、新しい絶縁超電導体、アーキテクチャ、ならびにシステム及び材料方法論が必要とされる。絶縁層は、ロレンツ力に耐えるための十分な機械的特性、発生したあらゆる熱を放散するための高熱伝導率、低い熱抵抗を維持しながら層から層への電流の伝導を防ぐための高い絶縁破壊強度を有しながら、非常に薄い(例えば、約2um以下)必要がある。さらに、絶縁層は、ワイヤの超電導特性の劣化を回避するために低温で塗布されなければならない。
【発明の概要】
【0009】
一実施形態によれば、金属基板と、バッファ層と、超電導層と、25Cで10-7m2K/W未満の熱抵抗及び20Vを超える絶縁破壊電圧を有するセラミック絶縁層とを有する薄膜複合超電導品がある。
【0010】
別の実施形態によれば、金属基板と、バッファ層と、超電導層と、77K以下の温度に冷却されたときに超電導層に対する圧縮不整合を有するセラミック絶縁層とを有する薄膜複合超電導品がある。不整合は、セラミック絶縁層の室温で測定された体積熱膨張率対超電導層の体積熱膨張率の比によって決定され、実質的には0.75以下である。
【0011】
方法実施形態では、金属基板を提供することと、基板上にバッファ層を堆積させることと、第1の温度でバッファ層上に超電導層を堆積させることと、超電導層に対する圧縮不整合が、実質的に77K以下の温度に冷却されたときに確立されるように、第2の温度で超電導層の上にセラミック絶縁層を堆積させることとを含む、超電導品を形成する方法がある。
【0012】
添付の図面は、本明細書に組み込まれ、本明細書の一部を構成し、1つ以上の実施形態を示しており、この説明と併せて、これらの実施形態を説明する。特に断りのない限り、図面内の要素は縮尺どおりではない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1C】パンケーキコイルとしての例示的なマルチスタック超電導体アーキテクチャを示す。
【
図2】A及びBは、例示的なフィラメント状及び束状の絶縁超電導体を示す。
【
図4】A~Cは、絶縁された第一種及び第二種の高温超電導体(HTS)及び低温超電導体(LTS)を製造する例示的な方法を示す。
【
図5】絶縁超電導体を製造するための例示的なシステムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下の実施形態については、添付図面を参照して説明する。異なる図面における同じ参照番号は、同じまたは類似の要素を識別する。以下の詳細な説明は本発明を限定するものではない。代わりに、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって規定される。以下の実施形態は、特に絶縁された高温超電導体(HTS)に関して説明される場合があるが、開示される絶縁システム及び絶縁プロセスは、他の超電導体(例えば、低温超電導体(LTS))及び他の固体導体または被覆導体にも適用可能である。さらに、非晶質窒化ホウ素を用いる特定の実施形態は、好ましい実施形態として説明されるが、他の無機セラミックも絶縁された超電導体に適用可能であってよい。
【0015】
本明細書全体を通して、「一実施形態」または「実施形態」への言及は、実施形態に関連して記載される特定の特徴、構造、または特性が、開示される主題の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書全体を通して様々な箇所にある語句「一実施形態では」または「実施形態では」は、必ずしも同一の実施形態を指していない。さらに、記載された特徴、構造、または特性は、1つ以上の実施形態において任意の好適な方法で組み合わせ得る。
【0016】
本明細書に開示される実施形態は、超電導体製造プロセスの最終ステップとして塗布される無機絶縁体の薄いコーティングを有する超電導体を含む。好ましい実施形態では、絶縁体は、窒化ホウ素(BN)など非晶質セラミックの非常に薄いコーティング(例えば、約20nm)である。コーティングは、以下に説明される条件の独自の組み合わせにより、高温超電導体へのその適合性が可能になり、かつ高まるように特定の方法で塗布される。絶縁非晶質窒化ホウ素は、約20V以上の絶縁破壊電圧、25℃での測定時の約5×10-9m2K/W以下の熱抵抗を提供しながら、及び高い摩耗抵抗を含む高い機械的特性を維持しながら、約20nmの薄いコーティングとして堆積される。非晶質窒化ホウ素の塗布のプロセスは、以下に説明される堆積方法及び堆積条件であってよい。この厚さでの絶縁破壊電圧は約20Vである。塗布がより高い絶縁破壊電圧を必要とする場合、コーティングが、例えば厚さ160nmなどより厚くなると、絶縁破壊電圧は140Vに上昇し、熱抵抗は5×10-8m2K/Wに増加する。
【0017】
超電導テープ及びワイヤは、相応して被覆され、製品用途に形成され得る。例えば、1つ以上の超電導ワイヤまたはテープは、磁気共鳴映像法(MRI)及び核磁気共鳴(NMR)のデバイスとシステムにおける高強度磁石、またはモータと発電機などの回転機械用途、及び多くの他の用途などの電磁石及び電磁製品を作るためにコイルに巻き付けられ得る。さらに、マルチテープシステム及びマルチワイヤシステムはまた、同様に被覆され得るが、絶縁コーティングは、部分または面を選択するためだけに塗布される。例えば、以下により詳細に説明されるように、複数の導体が巻き付けられるとき、隣接する巻線と接触しない他の側面を被覆しないままにして、全体的な導体体積及び断面積を最小限に抑えながら、電流が設計された経路で移動することを確実にするために、隣接する巻線は互いに対して絶縁されなければならない。
【0018】
絶縁体が超電導体用途に好適であるために必要とされるいくつかの特性がある。まず、高い絶縁破壊強度及び高い電気抵抗により、絶縁体全体でのより高い電圧降下が許容されることが確実になる。高い熱伝導及びより小さい導体断面積などの超電導体用途の他のニーズを強化するために、好ましくは絶縁体の厚さが最小限に抑えられることを所与とすると、これは課題である。断面積がより小さいと、より高い工学電流密度が可能になり、これは次により高い磁場を可能にする。
【0019】
クエンチングを防ぐために発生した熱を迅速に放散する必要があることを所与とすると、特に超電導体にとって、絶縁体の熱抵抗が非常に低いことはまた、非常に重要である。クエンチングは、導体の局所的な熱の蓄積によって局所的な電気抵抗が高まり、次にカスケード式により多くの熱が発生する現象である。したがって、絶縁材料の熱抵抗は低く、絶縁材料が熱を急速に放散することを可能にしなければならない。
【0020】
機械的には、絶縁体の最小厚さに加えて、コーティングの隙間または過剰な厚さが存在する場合がある位置での短絡の可能性を回避するために、絶縁破壊強度のあらゆる局所的なばらつきが最小限に抑えられるように、導体の周りの各点で測定される絶縁体の厚さの均一性は重要である。薄層の利点は、層が、コイルが層間に大きい接触面積を有することを可能にする超電導体表面に基本的に適合することである。この接触面積によって、クエンチの場合に熱を急速に伝導して遠ざけることが可能になる。
【0021】
また、絶縁コーティングは、曲げ、伸長、及び摩擦を誘発する、導体の巻き付け中に生じる機械的応力に対して耐性を示さなければならない。絶縁コーティングが受ける全応力は、被覆導体のアーキテクチャ内の様々な層の熱膨張率(CTE)の不整合に起因する内部応力によって悪化するため、これは非常に重要な要件である。これらの力は、ワイヤが77K未満の超電導体の動作温度に冷却されたときに増幅する。通電時、高ロレンツ力が導体、特に超電導体内の応力プロファイルにさらに加えられる。したがって、そのような用途向けの絶縁体は、多くの場合、典型的な銅巻線の応力よりも大きい応力の大きさに耐性を示す必要がある。さらに、非常に低い温度での絶縁体の熱機械性能は、絶縁コーティングの機械強度が極低温(例えば、77K未満)で、及び複数の熱サイクルを通しても維持されるように、非常に重要である。
【0022】
超電導体の動作条件は、銅とは大きく異なる。オーム加熱により銅コイル内で発生する熱は200C以上の熱に達する場合があるが、超電導体は、-196Cより低い、及びさらに-268Cより低い温度でも動作する。そのような熱条件は、材料の選択に重大な影響を与える。低温では、大部分の材料は脆くなり、容易に壊れる。また、大部分のポリマーベースの絶縁体は、その高い熱膨張率のため、ガラス転移温度より低い温度では大幅に収縮し、収縮応力を緩和するために変形しない。ポリマーのガラス転移温度は、下回るとポリマーがガラス質になる温度、すなわち、剛性かつ非塑性になる温度である。重要なことに、特に、通常より低い初期(室温)熱伝導率を有するポリマーエナメルの場合、熱伝導率は、温度が下がるにつれ減少するため、ポリマーエナメルは超電導体用途により好適ではなくなる。他方、無機セラミックは、一般に、良好な電気抵抗及び熱特性を有する良好な絶縁体であるが、超電導体用の非常に薄いエナメルに好適である形で無機セラミックを製造することは課題である。
【0023】
絶縁された被覆超電導体テープ100の一例は、
図1Aに示される。超電導体は、第一種または第二種の高温超電導体(HTS)または低温超電導体(LTS)であってよく、単一のワイヤまたはテープまたは複数のフィラメントもしくはフィラメントの束、ワイヤ、もしくはテープから成るケーブルとして製作され得る。第二種超電導体は、通常数mm幅で、厚さ1mm未満の被覆導体であり、全体的な構造は矩形の断面となる。
図1Aの第二種HTSの例では、テープは、金属基板110と、バッファ層120と、超電導層130と、絶縁コーティング150が後に続くキャッピング層または安定化層140とを含む、基本アーキテクチャを有する薄膜複合構造を有する。この例では、説明を簡略するために、絶縁体150は、最上面のみを被覆するとして示されているが、好ましい実施形態では、絶縁体150は、構造全体(この例では110~150)を封入する場合がある。
【0024】
図1Aに示されるものの複数の堆積層または他の層は、本明細書に記載される基本的なアーキテクチャに追加の目的を与える場合がある。例えば、
図1Bは、超電導体層130が金属基板テープ110上に堆積される別の第二種HTSを示す。(超電導体は、最初に基板110上に堆積された1つ以上のバッファ層130上に堆積され得る。)その後、超電導体薄膜は、銅層145に包まれる場合がある金属銀140の層で覆われる場合がある。絶縁層150は、次に、被覆導体アーキテクチャ全体が絶縁材料に包み込まれるように堆積または塗布される。
【0025】
他の例では、絶縁層150は、磁石関連の用途用にコイルと密着して挟まれ、コイルに巻き付けられた複数のHTSテープ100のスタックから成る、
図1Cに示されるパンケーキコイル160など、超電導体の特定の側面または面に優先的に塗布され得る。この場合、テープ100は、一方の導体100の側面が隣接する導体100の他の側面に触れる、ロール状のテープのように周りに巻き付けられる。したがって、薄い絶縁層150は、高密度でコンパクトな上部構造を可能にし、この例では隣接する導体間の面にのみ塗布された絶縁コーティング150が全体的な導体体積をさらに最小限に抑える。
【0026】
図2Aは、超電導体130のフィラメントが、例えばそれぞれ銀140のマトリックスに埋め込まれた個々のハニカムユニットなど、束で配列され、絶縁層150が、それが、円形として示されているが、様々な形状の束の中の直線形状の要素をから成る場合もある、アーキテクチャ全体を封入するように塗布される、第一種超電導体を示す。
図2Bは、超電導体130のフィラメントが、銅145のマトリックスに埋め込まれ、絶縁層150がアーキテクチャを封入する例示的な低温超電導体(LTS)を示す。フィラメントの束はまた、様々な技術によってHTSワイヤで製作することが可能であり、次にフィラメントストランドが撚り合わされてHTS束線を形成する。
【0027】
特定の用途では、超電導体ワイヤまたはテープ100は、例示的な
図3に示されるように、基本的なアーキテクチャ(例えば、110~140)を鋼または真鍮などの金属テープ105で積層することによって、ロレンツ力または他の力により引き起こされる歪みを制限するために強化され得る。この例では、絶縁層150は、補強テープ105が(一例として)はんだ106で超電導アーキテクチャ110~140に貼り付けられた後に、補強テープ100の全体に塗布される。他の手法では、補強テープ105は、蝋付けまたは他のタイプの金属結合方法によって導体に接合され得る。
【0028】
いくつかの絶縁材料は、HfO、MgO、SrTiO3、及び窒化ホウ素(BN)を含んだ他を含むその薄膜形状で使用されており、窒化ホウ素(BN)は、高熱伝導率、熱衝撃に対する耐性、及び化学的不活性を含むその特性によりその立方(c-BN)及び六方(h-BN)相で幅広く使用されている。立方相の材料は、耐久性がある硬いコーティングを形成し、高温での化学抵抗を改善した。c-BNの形成中、透明で絶縁性があるため、電子機器で誘電体として使用できる非晶質窒化ホウ素(a-BN)である中間材料が形成される。
【0029】
図4A~
図4Cは、絶縁された第一種HTS400、及び第二種HTS420、及びLTS430の超電導体をそれぞれ製造する例示的な方法を示す。通常、3つの型の超電導体に共通の最終ステップは、絶縁層150を堆積させることを伴う。課題は、熱に非常に敏感である超電導体などの基板上に、より低温でa-BNを堆積及び成長させることである。従来、c-BNは、高温での格子酸素の損失により超電導体には不適切であろう約900Cの温度でプラズマ支援CVDを使用して、高温でボラジンポリマーから成長させられてきた。
【0030】
本明細書に開示される超電導体100は、マグネトロンスパッタリング、RFスパッタリング、パルスレーザ堆積(PLD)、原子層堆積(ALD)、プラズマスプレー、結合剤スプレー、及び電子ビーム蒸着を含むより熱集約的ではない処理を利用することにより、約200C以下の温度で超電導アーキテクチャに堆積または塗布されたa-BNの絶縁層150を含む。
【0031】
一例では、a-BN層は、
図5に示されるように、RFスパッタリングを利用して約22nmの厚さに堆積された。結果的に得られた絶縁層は、絶縁定数(DC)がy約6.5、及び絶縁破壊電圧(DBV)が約9.1MV/cmである、約3×10
12Ωcmの高い電気抵抗率(ER)を含む特性を生じさせた。これらのパラメータは、約22nmの厚さでは、a-BN層は、約20Vの絶縁破壊電圧を有することを意味する。ナノメートルで測定された薄さを有する膜の熱伝導率(TC)を測定または推定することは困難である。ただし、h-BNは、室温でのc軸で400W/mKほど高い、及び室温でa軸とb軸で約5W/mkの熱伝導率を有する。立方相BNは、ダイヤモンドと類似した構造を有し、>700W/mKの熱伝導率を有する。したがって、非晶質窒化ホウ素は、約3W/mKの熱伝導率を示す。
【0032】
熱抵抗率(TR)またはR値は、熱伝導率(TC)で除算した厚さとして定義される。22nmの膜の場合、絶縁破壊強度(DBS)は約20Vとなり、3W/mKの熱伝導率は、絶縁層を通る熱の流れに対してほとんど抵抗がないこと(高い熱伝導率)を示す5.3×10-9m2K/Wの熱抵抗を生じさせる。比較すると、絶縁層が1桁厚い、つまり約160nmの場合、絶縁破壊電圧は140Vまで上昇し、一方、熱抵抗(TR)は、5.3×10-8m2K/Wになる。したがって、必要とされる絶縁破壊電圧に応じて、層の厚さは、電圧を抑えながら、効果的な熱伝達を達成するために調整することができる。
【0033】
別の例では、68nmの非晶質アルミナ層が超電導体上に堆積される。熱伝導率が1.73W/m-K及び絶縁破壊強度が300V/μmであると、この膜は室温で20Vの絶縁破壊電圧、及び3.9×10-8m2K/Wの熱抵抗を付与するであろう。
【0034】
超電導体の動作温度は、高温超電導体の場合、通常、77K未満であり、低温超電導体の場合4.2K未満である。例えば、銅140、銀145、及びハステロイC276基板110など、例示的なHTS超電導体100の金属成分の場合、(室温の)熱膨張率(CTE)は、それぞれ16.7×10-6、19×10-6、及び11.3×10-6/℃である。温度が下がると、CTEも低下する。例えば、銅のCTEは、室温での16.7×10-6/℃から、100Kで10×10-6/℃に、40Kで2×10-6/℃に低下する。したがって、金属基板110の体積分率は超電導体薄膜130より著しく大きいため、超電導体130及び絶縁層150は、金属成分の相対的な膨張率の差により圧縮状態に保持される。絶縁材料が破壊するためには、最初に圧縮応力を克服し、次に引張応力を加える必要があるため、これは有利である。
【0035】
同様に、導体内の金属が大きく膨張すると、超電導体絶縁体の収縮が決まる。a-BNが(例えば、200Cで)塗布され、その後、動作温度に冷却されると、銅及びハステロイなどの熱膨張率がより高い成分はより多く収縮するので、この材料の約3×10-6/℃の低いCTEにより、膜に圧縮応力が誘発される。この圧縮応力は、超電導テープがコイルに巻き付けられるときに層の完全性を維持する上で特に役立つ。
【0036】
例えば、
図2Aに示される第一種超電導体では、バルク超電導体130はa-BN(約3×10
-6/℃)よりも高い約14×10
-6/℃のCTEを有するため、<77Kの動作温度に冷却されたときに、導体は、窒化ホウ素よりも多く収縮する傾向があり、したがって、絶縁体は圧縮状態となり、それによって外側コーティングを亀裂から保護する。同様に、
図2Bの構造などの構造で使用される複合材はまた、窒化ホウ素よりも高い膨張率を有するため、外面を圧縮状態にさせる。
【0037】
特に超電導体絶縁体の場合、セラミック層が圧縮状態で保持されるときにはるかに強力であることを認識すると、圧縮状態に保持されるa-BN膜により、これらの膜が、単に電気的及び熱的にではなく、機械的にも十分に機能することが確実になる。したがって、巻線を含む超電導体の厳しい取り扱い条件及び他の処理応力に耐えるためのストレス耐性は、最小の厚さであってもa-BN絶縁体によって可能になる。
【0038】
上述のように、より熱集約的ではない処理技術は、温度に敏感な超電導体を無事に被覆するために必要とされる。好ましい実施形態では、第二種HTSテープ100は、約900Cの温度での光支援有機金属化学気相堆積(PAMOCVD)を使用して製作され、続いて室温のまたは室温に近いRFスパッタリングによって堆積されるa-BN絶縁層で被覆される。
図5は、RFスパッタリングと組み合わされたPAMOCVDによって絶縁超電導体を製造するための例示的なシステム500を示す。この例では、主要なコンポーネントを示すために簡略されているが、MOCVD反応器510は、放射ランプ514を含む堆積システムコンポーネントと、典型的なステンレス鋼またはハステロイの平行移動基板テープ110を支持及び加熱するホットブロックタイプのサセプタ516とを囲む真空ハウジング512から成る。反応器510は、出口ポート518を介して真空に維持され、前駆体反応物(複数可)520は、シャワーヘッド522を介して導入される。MOCVDの場合、前駆体反応物510は、好ましくは、気相成分として送達される1つ以上の有機配位子から成るか、または他の実施形態では、シャワーヘッド522への注入前に先に蒸発する固相成分として生じる場合がある。基板テープ110は、サセプタ516を介して約800~900Cに加熱され、一方、放射ランプ514は、基板110上での1つ以上のバッファ120層及び超電導体層130の薄膜成長を光増強する。上述のように、例えば、安定化コーティング140(図示せず)など、1つ以上の追加の層(図示せず)はまた、超電導体薄膜130の後に堆積されてもよい。
【0039】
システム500の後続段階では、薄膜絶縁(例えば、a-BN)材料150を堆積させるために、無線周波数スパッタリング(RFS)チャンバ530が設けられる。RFスパッタリングは、簡略でコスト効率の高い装置、堆積厚さの高度な制御を維持しながらの高い成長速度、高い均一性を有する良好な密着性、及び低い動作温度による超電導体の良好な適合性など、多くの利点を有する。
【0040】
RFスパッタリングは、実質的に室温及び低圧で動作し、直流(DC)電力の代わりに交流(AC)電力に依存し、RF範囲(5~30MHz)の周波数で交流する。RFスパッタリングは、無線周波数放電プラズマから形成されるスパッタリングガス532からの陽イオン(例えば、Ar+)を利用して、スパッタリングターゲット534に衝撃を与え、その結果、標的原子536は外にスパッタリングされ、接地された基板の表面に堆積される。好ましい実施形態では、a-BNの絶縁層150を堆積させるために、スパッタリングターゲット534は、固体六方窒化ホウ素(h-BN)から成る場合がある。HTSケース内の接地された基板は、金属基板110、バッファ120、及び超電導薄膜130を含む、PAMOCVDプロセス510から提供される製品アーキテクチャである。
【0041】
明確にするために、
図5は、これらの2つのコーティング関連の動作(PAMOCVD及びRFS)の例を示しているが、例示的な
図4に概説され、超電導体の種類ごとに変化する他の製造ステップも必要であることに留意されたい。また、重要なことに、
図5は、別個の単位操作またはバッチモード製造を示すが、システム500全体は、連続モードまたは半連続モードで操作され得、それによって初期基板110は、次に後続の段階(例えば、540、530)の別のオープンリールシステムに移送され得るオープンリールシステムを介してPAMOCVDチャンバ510内に供給される。代わりに、単一のオープンリールシステムが、システム500のすべての段階に供給し得る。
【0042】
非常に薄い膜が比較的に厚い基板が塗布される状況(例えば、厚さ100umの超電導テープ上に50nmの膜、厚さ比率2000)では、膜内の応力は、以下によって与えられ、
【数1】
上式で、E
fは膜の弾性率(約100GPa)であり、v
fはポワソン比(0.23)であり、αは熱膨張率(導体及びコーティングの場合それぞれ、15×10
-6及び3×10
-6)であり、ΔTは、コーティング塗布時とコーティング使用時の温度差である。下付き文字c及びfは、導体及び膜を示す。この例では、コーティングが200Cで塗布され、-196C(77K)で使用されると、ΔT=396Cである。これらの値は、膜内の応力が約620MPaであることを示す。
【0043】
これらのような高応力は、通常、特に被覆導体が曲げられるか、コイルに形成されるときに、コーティングの層間剥離を生じさせる。しかしながら、αc及びαfは、それが動作温度(-196C以下)に冷却されると、減少し、温度に依存しなくなるため、応力は多くの場合推定よりも低い。あるいは、コーティングの形成中に、応力が膜内で誘発される場合があり、これにより、高応力に起因する損傷はさらに低減される。
【0044】
予想外のことには、a-BNを利用する好ましい実施形態では、極低温熱伝導率が室温においてよりも1桁(または、材料によっては2桁)高いことを所与とすると、HTS導体への非常に薄い絶縁コーティングは、低い熱抵抗を含む有利な性能特性を提供する。これにより、熱抵抗は、室温においてよりも1桁または2桁低くなる。
【0045】
このシステム及びプロセスを用いると、薄い(例えば、22nm)の無機セラミック絶縁層の、実質的に室温(25C)でのRFSによる塗布と組み合わされたMOCVDによって堆積されたバッファ層及び超電導層を有する金属基板から生じる薄膜複合超電導品は、実質的に77K以下の温度に冷却されたときに、超電導130層と絶縁150層との間の圧縮不整合が付与される、堅牢な超電導体アーキテクチャをもたらす。圧縮不整合は、セラミック絶縁150層と超電導130層の室温で測定された体積熱膨張率の比によって決定され、この例では、それぞれ3×10-6/℃及び14×10-6/℃であり、これにより、次に約0.21の体積熱膨張率(CTE)の比を生じさせる。コーティングの全応力は、固有応力(つまり、被覆プロセス中に付与される応力)と、熱膨張応力の合計である。固有応力は、被覆条件に応じて圧縮または引張になる可能性がある。コーティング内の全応力が負になるためには、導体対コーティングのCTE比は、コーティングが圧縮応力を受けることを確実にするために約0.75未満となることが好ましい。
【国際調査報告】