(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-16
(54)【発明の名称】ニコチンアミドリボシドトリオレエートクロリド、この化合物を含む組成物、並びにこの化合物の製造方法及び使用方法
(51)【国際特許分類】
A23L 33/10 20160101AFI20241008BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
A23L33/10
A23L2/00 F
A23L2/52
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024517435
(86)(22)【出願日】2022-09-30
(85)【翻訳文提出日】2024-03-19
(86)【国際出願番号】 EP2022077247
(87)【国際公開番号】W WO2023052573
(87)【国際公開日】2023-04-06
(32)【優先日】2021-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】590002013
【氏名又は名称】ソシエテ・デ・プロデュイ・ネスレ・エス・アー
(71)【出願人】
【識別番号】508065732
【氏名又は名称】コーネル ユニヴァーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140453
【氏名又は名称】戸津 洋介
(74)【代理人】
【識別番号】100200540
【氏名又は名称】安藤 祐子
(72)【発明者】
【氏名】ヤン, ビング
(72)【発明者】
【氏名】ウハイル, ゲルハルト
(72)【発明者】
【氏名】ウースター, ティモシー ジェイムズ
(72)【発明者】
【氏名】モコ, ソフィア
(72)【発明者】
【氏名】ザレイ, アミン
(72)【発明者】
【氏名】カズドゥーズ, レイラ
(72)【発明者】
【氏名】エナヤティヌーク, モジタバ
(72)【発明者】
【氏名】マダルシャヒアン, サラ
(72)【発明者】
【氏名】アッバスプーラド, アリレザ
【テーマコード(参考)】
4B018
4B117
【Fターム(参考)】
4B018LB08
4B018LE05
4B018MD15
4B018MD18
4B018ME01
4B018ME03
4B018ME10
4B018ME14
4B018MF02
4B117LC04
4B117LK06
4B117LK10
4B117LL06
(57)【要約】
ニコチンアミドリボシドトリオレエートクロリド(NRTOCl)は、ニコチンアミドリボシドクロリドの新規な疎水性誘導体である。経口投与用に処方された組成物、好ましくは、容器に密封されたレディ・トゥ・ドリンク(RTD)飲料などの飲料、又は希釈液で再構成して再構成飲料を形成するために処方された粉末において、使用することができる。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニコチンアミドリボシドトリオレエートクロリド(NRTOCl)。
【請求項2】
ニコチンアミドリボシドトリオレエートクロリド(NRTOCl)と、任意にタンパク質、脂質、炭水化物、ビタミン、又はミネラルのうちの少なくとも1つとを含む、組成物。
【請求項3】
前記組成物が、経口投与用に処方され、好ましくは、容器に密封されたレディ・トゥ・ドリンク(RTD)飲料などの飲料、又は希釈剤で再構成して再構成飲料を形成するために処方された粉末である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
ニコチンアミドリボシドトリオレエートクロリド(NRTOCl)を含む組成物の単位投与形態であって、前記単位投与形態が、該単位投与形態が投与される個体にとって治療有効量又は予防有効量のNRTOClを含む、単位投与形態。
【請求項5】
組成物の製造方法であって、前記方法が、ニコチンアミドリボシドトリオレエートクロリド(NRTOCl)を少なくとも1つの他の成分に添加することを含む、方法。
【請求項6】
前記組成物が経口投与用に処方され、前記少なくとも1つの他の成分が食用である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
細胞及び組織におけるニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)の細胞内レベルの増加を促進する方法であって、前記方法が、ニコチンアミドリボシドトリオレエートクロリド(NRTOCl)を、個体、好ましくは必要とする個体、より好ましくは中高年者又はヒト高齢者に投与することを含む、方法。
【請求項8】
DNA損傷もしくはミトコンドリア損傷のうちの少なくとも1つを減少させ、及び/又は(a)神経変性状態;(b)過体重又は肥満;(c)心臓疾患などの循環器疾患;(d)糖尿病、高インスリン血症、インスリン抵抗性障害、又はインスリン非感受性のうちの1つ以上;(d)筋肉変性;(e)加齢に関連する疾患又は障害;(f)HIV、B型肝炎、SARS-CoV-2又はCOVID-19などのウイルス感染;(g)ストレス;(h)血液凝固障害;(i)炎症;(j)がん;(k)眼障害;及び(l)潮紅からなる群から選択される少なくとも1つの状態を治療又は予防する方法であって、前記方法が、必要とする対象又はリスクがある対象に、ニコチンアミドリボシドトリオレエートクロリド(NRTOCl)を投与することを含む、方法。
【請求項9】
対象の体重を減少させる及び/又は対象における体重増加を予防する方法であって、前記方法が、必要とする対象又はリスクがある対象に、ニコチンアミドリボシドトリオレエートクロリド(NRTOCl)を投与することを含む、方法。
【請求項10】
薬物毒性及び/又は薬物有害反応を治療又は予防する方法であって、前記方法が、必要とする対象又はリスクがある対象に、ニコチンアミドリボシドトリオレエートクロリド(NRTOCl)を投与することを含む、方法。
【請求項11】
前記組成物が、エマルジョンであり、好ましくは、水中油型エマルジョンであって、NRTOClの少なくとも一部が分散され、且つ任意にカゼインナトリウム又はレシチンのうちの少なくとも1つなどの乳化剤が分散された油相を含む、水中油型エマルジョンである、請求項5~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記油相が、前記NRTOClの少なくとも一部が分散している、キャノーラ油、コーン油、又は中鎖トリグリセリド(MCT)油のうちの少なくとも1つを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記組成物が、前記個体に少なくとも1週間、毎日投与される、請求項5~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記個体が、ヒト乳児、ヒト小児、ヒト青年、ヒト成人、及びヒト高齢者、並びにコンパニオンアニマルなどの動物からなる群から選択される、請求項5~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記組成物が、経口投与される、好ましくは、飲料として、例えば、投与前に開封される容器に密封されたレディ・トゥ・ドリンク(RTD)飲料として、又は投与前に再構成飲料を形成するために希釈液で再構成するように処方された粉末として経口投与される、請求項5~13のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[背景技術]
[0001]本開示は、一般に、ニコチンアミドリボシドクロリドの新規の疎水性誘導体、即ち、ニコチンアミドリボシドトリオレエートクロリド(NRTOCl)に関する。本開示は更に、この化合物を製造及び使用する方法、並びにこの化合物を含む組成物、例えば飲料などの液体組成物にも関する。
【0002】
[0002]ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)は、酸化還元反応によるエネルギー代謝及びミトコンドリア機能における重要な補酵素である1,2。非酸化還元反応では、NAD+は、2つの必須タンパク質ファミリー、サーチュイン(SIRT)及びポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(PARP)の活性を調節するための重要な補因子である3~5。サーチュインは、核、ミトコンドリア、細胞質、又は代謝恒常性を維持するいくつかの重要な役割を有する。PARPの最も重要な役割は、DNAの修復、並びにクロマチンの構造及び機能の維持である3~5。
【0003】
[0003]NAD+レベルは老化の過程で減少し、この減少が核及びミトコンドリアの機能に欠陥をもたらし、多くの加齢関連症状をもたらす6~10。NAD+前駆体の補充は、NAD+レベルを回復させ、神経変性疾患及び循環器疾患並びに代謝障害を含む多くの加齢関連疾患を予防することができる11~17。最近の研究では、NAD+をブーストすることが、肝臓がん治療の予防及び治療に役立ち得ることが示されている18。
【0004】
[0004]ニコチンアミドリボシド(NR)は最も重要なNAD
+前駆体の1つであり、経口投与可能であり、哺乳動物細胞におけるNAD
+のレベルを2倍までブーストすることができる
17、19。NRはより少ない工程でNAD
+へと代謝されるので、ナイアシン及びニコチンアミドなどの他のNAD
+前駆体よりも効率がよい。(
図1)
19。
【0005】
[0005]複数の研究により、NRの補充が、多くの動物及びヒト、特に中年及び中高年者において多くの健康上の利益を示すことが確認されている。例えば、NRの補充は、DNA及びミトコンドリア損傷20、アルツハイマー病21、肥満22~24、糖尿病24、25、筋肉変性7、及び老化26を減少させることができる。NRの補充は、新しく母親になった人たち(new mothers)の乳汁の分泌及び授乳行動を向上させるだけでなく、母体から母乳への栄養素の移動を促して母乳の質も改善する13。研究はまた、NRがHIV及びB型肝炎に対して抗ウイルス効果を示すことを実証した26。
【0006】
[0006]病原体、特にSARS-CoV-2及びCOVID-19によって引き起こされる感染症は、NAD+レベルを劇的に低下させ、免疫反応の異常をもたらす26。NRの使用は、NAD+レベルを一定に保ち、COVID-19の感染に対する抵抗を助け、感染症と戦うべく自然免疫応答を活性化させる26、27。
【0007】
[発明の概要]
[0007]ニコチンアミドリボシドクロリド(NRCl)は、カプセル形態でNiagen(商標)として市販されているNRの塩化物塩である。NRClは、NAD
+レベルをブーストするために米国食品医薬品局(FDA)によって承認された安全な栄養補助剤として使用される
28。NRを使用及び保管する際の課題の1つには、加水分解に対する固有の不安定性がある。NRは、その構造から水溶液中で自然に開裂してニコチンアミド及びD-リボース分解生成物を生じることができる、反応性のN-グリコシド結合を含む第四級アンモニウム塩である。結果として、NRを含有するレディ・トゥ・ドリンク(RTD)飲料を開発することは困難である(
図2)。
【0008】
[0008]本明細書に記載される実験例は、NRClとオレオイルクロリドとの反応による、新規の疎水性NRCl誘導体としてのニコチンアミドリボシドトリオレエートクロリド(NRTOCl)の合成を報告する(
図3)。この新規化合物は、NRClとは対照的に水に可溶性ではないが、室温でキャノーラ油、コーン油、及び中鎖トリグリセリド(MCT)油に容易に溶解される。35℃でNRCl及びNRTOClの水中安定性を試験したところ、結果から、NRTOClがNRClよりも88倍安定であることが確認された。
【0009】
[0009]NRTOClはキャノーラ油に容易に溶解したことから、食用乳化剤としてカゼインナトリウムを存在させて、NRTOClをキャノーラ油に溶解させることによって水中油型エマルジョンを作製した。このエマルジョンにおいてNRTOClの安定性は非常に増加し、NRTOClは、35℃の温度では同じ条件下のNRClと比較してエマルジョン中で213倍安定であった。最後に、模擬腸相における消化性を試験することによってNRTOClの生物学的利用能を調査した。結果は、模擬腸相中、ブタのパンクレアチンの存在下で、NRTOClが消化可能であり(例えば、1~10%又は更には1~20%)、NRを遊離することを実証する。得られたこれらの結果は、NRTOClが、レディ・トゥ・ドリンク(RTD)飲料などの飲料にNRブースターとして使用するのに有望であり得ることを示す。
【0010】
[0010]更に、追加の実験例において示されるように、NRTOCl中の長鎖脂肪酸の特定用途は、良好な溶解性を示さなかったニコチンアミドリボシドトリブチラートクロリド(NRTBCl)中の短鎖脂肪酸よりも有利である。
【0011】
[0011]更なる特徴及び利点が本明細書において記述されており、以下の図面、及び発明を実施するための形態から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】哺乳動物細胞におけるNRのNAD
+への変換の概要を説明する概略図である。
【
図2】NRの加水分解の概要を説明する概略図である。
【
図3】本明細書に開示されるように、オレオイルクロリドを使用したNRTOClの合成の概要を説明する概略図である。
【
図4】本明細書に開示される実験例、特にNRTOClのFT-IRの結果を示すグラフである。
【
図5】本明細書に開示される実験例、特にCDCl
3中のNRTOClの
1H NMRの結果を示すグラフである。
【
図6】本明細書に開示される実験例、特にNRTOClの
1H NMR結果を拡大して示すグラフである。
【
図7】本明細書に開示される実験例、特にCDCl
3中のNRTOClの
13C NMR結果を示すグラフである。
【
図8】本明細書に開示される実験例、特にNRTOClの
13C NMR結果を拡大して示すグラフである。
【
図9A】本明細書に開示される実験例、特にNRTOClのSRM LC-MS結果を示すグラフである。
図9Aは、NRTOClのSRM LCであり、
図9Bは、NRTOClの質量スペクトルである。
【
図9B】本明細書に開示される実験例、特にNRTOClのSRM LC-MS結果を示すグラフである。
図9Aは、NRTOClのSRM LCであり、
図9Bは、NRTOClの質量スペクトルである。
【
図10A】本明細書に開示される実験例からの結果を示す写真である。
図10Aは、水中に分散されたNRTOClであり、
図10B及び
図10Cは、水中に分散されたNRTOClの透過型電子顕微鏡(TEM)画像である。
【
図10B】本明細書に開示される実験例からの結果を示す写真である。
図10Aは、水中に分散されたNRTOClであり、
図10B及び
図10Cは、水中に分散されたNRTOClの透過型電子顕微鏡(TEM)画像である。
【
図10C】本明細書に開示される実験例からの結果を示す写真である。
図10Aは、水中に分散されたNRTOClであり、
図10B及び
図10Cは、水中に分散されたNRTOClの透過型電子顕微鏡(TEM)画像である。
【
図11】本明細書に開示される実験例、特に、35℃のDI水中でのNRTOCl及びNRClの安定性についての結果を示すグラフである。
【
図12】N-グリコシド結合からのNRTO
+及びNR
+の加水分解の概要を説明する概略図である。
【
図13】NRTOClが水中に分散されたときの、水と接触している外層中のNRTOClナノ粒子の加水分解の概要を説明する概略図である。
【
図14】本明細書中に開示される第1の実験例、具体的には、35℃で、26日間の加水分解安定性を、NRTOClエマルジョンと、NRClエマルジョン又は水中NRClとで比較した結果を示すグラフである。
【
図15】本明細書中に開示される第1の実験例、具体的には、25℃で、42日間の加水分解安定性を、NRTOClエマルジョンと、水中NRClとで比較した結果を示すグラフである。
【
図16】模擬腸相におけるNRTO
+の消化の概要を説明する概略図である。
【
図17A】本明細書に開示される第1の実験例、具体的には遊離したNRClのSRM LC-MS結果を示すグラフである。
図17Aは、遊離したNRClのSRM LCであり、
図17Bは、遊離したNRClの質量スペクトルである。
【
図17B】本明細書に開示される第1の実験例、具体的には遊離したNRClのSRM LC-MS結果を示すグラフである。
図17Aは、遊離したNRClのSRM LCであり、
図17Bは、遊離したNRClの質量スペクトルである。
【
図18】本明細書に開示される第2の実験例からニコチンアミドリボシドトリブチラートクロリド(NRTBCl)のFT-IRを示す。
【
図19】本明細書に開示される第2の実験例からCDCl
3中のNRTBClの
1H NMRを示す。
【
図20】本明細書に開示される第2の実験例からCDCl
3中のNRTBClの
13C NMRを示す。
【
図21A】本明細書に開示される第2の実験例からNRTBClのSRM LC-MSを示す。
図21Aは、NRTBClのSRM LCを示し、
図21Bは、NRTBClの質量スペクトルを示す。
【
図21B】本明細書に開示される第2の実験例からNRTBClのSRM LC-MSを示す。
図21Aは、NRTBClのSRM LCを示し、
図21Bは、NRTBClの質量スペクトルを示す。
【
図22A】本明細書に開示される第2の実験例から水中のNRTBClのサイズ測定を示す。
【
図22B】本明細書に開示される第2の実験例から水中のNRTBClのサイズ測定を示す。
【
図22C】本明細書に開示される第2の実験例から水中のNRTBClのサイズ測定を示す。
【
図23】本明細書に開示される第2の実験例から、35℃で6日間のNRTBClのMilliQ(MQ)水中安定性を示す。
【0013】
[発明を実施するための形態]
[0035]定義
[0036]以下、いくつかの定義を示す。しかしながら定義が以下の「実施形態」の項にある場合もあり、上記の見出し「定義」は、「実施形態」の項におけるそのような開示が定義ではないことを意味するものではない。
【0014】
[0037]本明細書に記載する全ての百分率は、別途記載のない限り、組成物の総重量によるものである。本明細書で使用するとき、「約」、「およそ」、及び「実質的に」は、数値のある範囲内、例えば、参照数字の-10%から+10%の範囲内、好ましくは参照数字の-5%から+5%の範囲内、より好ましくは、参照数字の-1%から+1%の範囲内、最も好ましくは参照数字の-0.1%から+0.1%の範囲内の数を指すものと理解される。本明細書における全ての数値範囲は、その範囲内の全ての整数又は分数を含むと理解されるべきである。更に、これらの数値範囲は、この範囲内の任意の数又は数の部分集合を対象とする請求項をサポートすると解釈されたい。例えば、1~10という開示は、1~8、3~7、1~9、3.6~4.6、3.5~9.9などの範囲をサポートするものと解釈されたい。
【0015】
[0038]本開示及び添付の特許請求の範囲において使用されるとき、単数形「a」、「an」及び「the」には、文脈上別段の指示がない限り、複数の指示対象も含まれる。したがって、例えば、「ビタミン(a vitamin又はthe vitamin)」への言及は、単一のビタミンを有する実施形態と、2種以上のビタミンを有する実施形態との両方を包含する。
【0016】
[0039]用語「含む/備える(comprise)」、「含む/備える(comprises)」、及び「含んでいる/備えている(comprising)」は、排他的なものではなく、他を包含し得るものとして解釈されるべきである。同様にして、用語「含む(include)」、「含む(including)」及び「又は(or)」は全て、そのような解釈が文脈から明確に妨げられない限りは、他を包含し得るものであると解釈されるべきである。しかしながら、本明細書に開示されている組成物は、本明細書において具体的に開示されていない要素を含まない場合がある。したがって、「含む/備える(comprising)」という用語を用いた実施形態の開示は、特定されている構成要素「を本質的に含む/から本質的に構成される(consisting essentially of)」実施形態、及び特定されている構成要素「からなる(consisting of)」実施形態の開示を含む。
【0017】
[0040]「X又はYのうちの少なくとも1つ」及び「X及び/又はY」のそれぞれの文脈において使用される「のうちの少なくとも1つ」及び「及び/又は」という用語は、「X」若しくは「Y」又は「X及びY」として解釈されるべきである。例えば、「カゼインナトリウム又はレシチンのうちの少なくとも1つ」及び「カゼインナトリウム及び/又はレシチン」は、「レシチンを含まないカゼインナトリウム」若しくは「カゼインナトリウムを含まないレシチン」、又は「カゼインナトリウム及びレシチンの両方」として解釈されるべきである。
【0018】
[0041]本明細書において使用する場合、用語「例」及び「例えば~など(such as)」は、その後に用語の列挙が続くときは特に、単に例示的かつ説明的なものにすぎず、排他的又は包括的なものとみなされるべきではない。本明細書で使用される場合、別の状態「と関連付けられる」又は「とリンクされる」状態は、その状態が同時に生じることを意味する。
【0019】
[0042]「予防」は、状態又は障害のリスク、発生率及び/又は重症度の低減を含む。用語「処置/治療」及び「処置/治療する」には、対象とする病的状態又は障害の発症を遅らせる治療と、治癒的治療、治療的治療、又は疾患修飾的治療も含まれ、例えば、診断された病的状態又は障害の治癒、遅延、症状の軽減、及び/又は進行の停止のための治療的手段、並びに、疾患に罹患する危険性がある患者、又は疾患に罹患した疑いのある患者、及び体調不良の患者、又は疾患若しくは医学的状態に罹患していると診断された患者の治療が含まれる。用語「処置/治療」及び「処置/治療する」は、対象が全快するまで治療することを必ずしも意味するものではない。用語「処置/治療」及び「処置/治療する」はまた、1つ以上の主たる予防手段又は治療手段の相乗作用、又はそうでない場合強化を含むことも目的としている。非限定的な例として、処置/治療は、患者、介護者、医師、看護師、又は別の医療専門家によって行うことができる。
【0020】
[0043]本明細書で使用するとき、予防又は治療上の「有効量」は、個体において、欠乏を防ぐ量、疾患若しくは医学的状態を治療する量、又は、より全般的には、個体に対して、症状を低減する量、疾患の進行を管理する量、若しくは栄養学上の利益、生理学上の利益若しくは医療上の利益を提供する量である。相対的な用語「促進する」、「改善する」、「増加させる」、「増強する」などの用語は、NRTOClの代わりにニコチンアミドリボシドクロリドを用いること以外は同様に処方された組成物の特性及び効果と比較した、本明細書に開示される組成物(NRTOClを含む)並びにその特性及び効果の優位性を指す。
【0021】
[0044]本明細書で使用するとき、用語「食品」、「食品製品」、及び「食品組成物」とは、ヒト又は他の哺乳動物による経口摂取を意図し、かつヒト又は他の哺乳動物のための少なくとも1つの栄養素を含む、製品又は組成物を意味する。
【0022】
[0045]本明細書で使用するとき、「栄養組成物」及び「栄養製品」は、製品における機能上の必要性に基づき、かつ適用され得る全ての規制を完全に遵守して、任意の数の食品原材料及び場合により任意選択的な追加の原材料を含む。任意選択的な原材料は、例えば、1種類以上の酸味料、追加の増粘剤、pH調節用緩衝液若しくはpH調節剤、キレート剤、着色剤、乳化剤、賦形剤、香味料、ミネラル、浸透剤、製薬上許容可能な担体、防腐剤、安定剤、糖、甘味料、調質剤及び/又はビタミン類などの従来の食品添加物を含み得るが、これらに限定されない。任意選択の原材料は、任意の好適な量で添加することができる。
【0023】
[0046]本明細書で使用するとき、「単位剤形」という用語は、ヒト対象及び動物対象のための投与量単位として好適な、物理的に小分けされた単位を指し、各単位は、任意に、製薬上許容可能な希釈剤、担体、又はビヒクルとともに、所望の効果をもたらすのに十分な量の、予め定められた量の、本明細書に開示される組成物を含有する。単位剤形の仕様は、使用される具体的な化合物、達成しようとする効果、及び宿主体内の各化合物に関連する薬力学によって決まる。
【0024】
[0047]「対象」又は「個体」は、哺乳動物、好ましくはヒトである。用語「高齢」は、ヒトに関連して、少なくとも60歳、好ましくは63歳超、より好ましくは65歳超、最も好ましくは70歳超の年齢を意味する。ヒトの文脈での「中高年者(older adult)」という用語は、45歳以上、好ましくは50歳より上、より好ましくは55歳より上の出生後年齢を意味し、高齢者を含む。
【0025】
[0048]実施形態
[0049]本開示の態様は、ニコチンアミドリボシドトリオレエートクロリド(NRTOCl)、及びNRTOClを含む組成物、例えば、飲料などの液体組成物を含む。組成物は、経口投与のために処方された食品製品又は他の栄養組成物であり得る。組成物は、NRTOClが分散されているエマルジョンを含み得る。例えば、エマルジョンは、NRTOClの少なくとも一部が分散している油相を含み得る。いくつかの実施形態では、油は、キャノーラ油、コーン油、又はMCT油のうちの少なくとも1つを含む。いくつかの実施形態では、油相は、乳化剤、例えば、カゼインナトリウム又はレシチンのうちの少なくとも1つ(特に好ましい実施形態では、好ましくは両方)を更に含む。
【0026】
[0050]別の態様は、NRTOCl(例えば、その有効量)、又はNRTOCl(例えば、その有効量)を含む組成物を個体に投与することによって、例えば、細胞及び組織の生存を改善するために、細胞及び組織におけるニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)の細胞内レベルの増加を促進する方法である。個体は、中高年者又は高齢者であり得る。
【0027】
[0051]更に別の態様は、DNAの損傷もしくはミトコンドリアの損傷のうちの少なくとも1つを減少させる方法、及び/又は(a)神経変性状態;(b)過体重又は肥満;(c)心臓疾患などの循環器疾患;(d)糖尿病、高インスリン血症、インスリン抵抗性障害、又はインスリン非感受性のうちの1つ以上;(d)筋肉変性;(e)加齢に関連する疾患又は障害;(f)HIV、B型肝炎、SARS-CoV-2又はCOVID-19などのウイルス感染;(g)ストレス;(h)血液凝固障害;(i)炎症;(j)がん;(k)眼障害;及び(l)潮紅からなる群から選択される少なくとも1つの状態を治療又は予防する方法である。本方法は、NRTOCl(例えば、その有効量)、又はNRTOCl(例えば、その有効量)を含む組成物を、必要とする対象又はリスクがある対象に投与することを含む。
【0028】
[0052]「神経学的状態」という用語は、神経系の障害を指す。神経学的状態は、病気又は傷害によって脳、脊柱又は神経に損傷が生じた結果であり得る。神経学的状態の症状の非限定的な例としては、麻痺、筋力低下、協調運動不良、感覚喪失、てんかん/痙攣発作、混乱、疼痛及び意識レベルの変化が挙げられる。接触、圧力、振動、四肢の位置、熱さ、冷たさ、及び疼痛に対する反応の他、反射を評価することで、対象において神経系に障害が生じているかを判断することができる。
【0029】
[0053]いくつかの神経学的状態は生涯にわたるものであり、その発症はいかなる時点においても経験され得る。脳性麻痺などのその他の神経学的状態は、出生時から存在する。デュシェンヌ型筋ジストロフィーなどのいくつかの神経学的状態は、一般に幼児期に顕在化するが、アルツハイマー病及びパーキンソン病などの他の神経学的状態は、主に高齢者が罹患する。いくつかの神経学的状態は、頭部損傷若しくは脳卒中、又は脳及び脊椎のがんなどの損傷又は病気によって突然発症する。
【0030】
[0054]一実施形態において、神経学的状態は、脳の外傷性損傷の結果である。更に、又はあるいは、神経学的状態は、脳又は筋肉におけるエネルギー欠乏の結果である。
【0031】
[0055]神経学的状態の例としては、片頭痛、記憶障害、加齢による記憶障害、脳損傷、ニューロリハビリテーション、脳卒中及び脳卒中後、アミロイド側索硬化症、多発性硬化症、認知障害、軽度認知障害(MCI)、集中治療後認知障害、加齢による認知障害、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、先天性代謝異常症(グルコーストランスポーター1欠損症症候群及びピルビン酸脱水素酵素複合体欠損症など)、双極性障害、統合失調症並びに/又はてんかんが挙げられる。
【0032】
[0056]本発明の化合物、組成物、及び方法は、上記の神経学的状態の予防及び/又は治療に、特に脳又は神経系機能の維持又は改善に、有益であり得ることが理解され得る。
【0033】
[0057]「糖尿病」は、高血糖又はケトアシドーシス、並びに長期の高血糖状態又は耐糖能低下から生じる慢性の一般的な代謝異常を指す。「糖尿病」には、この疾患のI型及びII型(インスリン非依存型真性糖尿病又はNIDDM)の両方が包含される。糖尿病の危険因子としては、次の因子:ウエストが男性で40インチ超又は女性で35インチ超であること、血圧が130/85mmHg以上であること、トリグリセリドが150mg/dL超であること、空腹時血糖が100mg/dL超であること、又は高密度リポタンパク質が男性で40mg/dL未満若しくは女性で50mg/dL未満であること、を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0034】
[0058]「高インスリン血症」という用語は、個体における血中インスリンレベルが正常よりも高い状態を指す。
【0035】
[0059]「インスリン抵抗性」という用語は、正常なインスリン量では、インスリン抵抗性を有さない対象における生体反応と比較して正常に満たない生体反応を示す状態を指す。
【0036】
[0060]本明細書で記載される「インスリン抵抗性障害」は、インスリン抵抗性によって引き起こされるか、又はインスリン抵抗性が寄与する任意の疾患又は状態を指す。例としては、糖尿病、肥満、メタボリックシンドローム、インスリン抵抗性症候群、シンドロームX、インスリン抵抗性、血圧上昇、高血圧、高血中コレステロール、脂質異常症、高脂血症、脂質異常症、脳卒中を含むアテローム性動脈硬化症、冠動脈疾患又は心筋梗塞、高血糖、高インスリン血症及び/又は高プロインスリン血症、耐糖能障害、インスリン放出の遅延、糖尿病性合併症、例えば、冠動脈心疾患、狭心症、うっ血性心不全、脳卒中、認知症における認知機能、網膜症、末梢神経障害、腎症、糸球体腎炎、糸球体硬化症、ネフローゼ症候群、高血圧性腎硬化症、いくつかの種類のがん(例えば、子宮内膜がん、乳がん、前立腺がん、及び結腸がん)、妊娠の合併症、女性のリプロダクティブ・ヘルス不良(例えば、月経不順、不妊症、不規則な排卵、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS))、リポジストロフィー、コレステロールに関連する障害(例えば、胆石、胆嚢炎、及び胆石症)、痛風、閉塞性睡眠時無呼吸症及び呼吸障害、骨関節炎、及び骨量低下(骨粗鬆症)の予防及び処置が挙げられる。
【0037】
[0061]「過体重」の個体は、少なくとも25以上の体格指数(BMI)を有し、「肥満」の個体は、少なくとも30以上の体格指数(BMI)を有する。過体重及び肥満は、インスリン抵抗性と関連してもしなくてもよい。
【0038】
[0062]いくつかの実施形態では、がんを治療又は予防する方法は、NRTOCl(例えば、その有効量)、又はNRTOCl(例えば、その有効量)を含む組成物を、必要とする対象又はリスクがある対象に投与することを含み、例えば、イノシン5’一リン酸脱水素酵素を阻害すること、及び/又はがんを含む細胞中のNAD+の量を減少させることによるものである。
【0039】
[0063]「がん」は、未分化細胞の増殖を特徴とする悪性新生物を伴う様々な細胞性疾患のいずれかを意味する。罹患細胞が実際には周囲の組織に侵入し、新しい身体部位に転移するであろうことは意図されない。がんは、身体の任意の組織に関与し、各身体領域において多くの異なる形態を有し得る。殆どのがんは、原発する細胞又は臓器のタイプにちなんで命名される。
【0040】
[0064]がんは、膵臓がん;子宮内膜がん;肺の小細胞がん及び非小細胞がん(扁平上皮がん、腺がん、及び大細胞がんを含む);頭頸部の扁平上皮細胞がん;膀胱がん、卵巣がん、子宮頸がん、乳がん、腎臓がん、CNSがん、及び結腸がん;骨髄性白血病及びリンパ性白血病;リンパ腫;肝腫瘍;甲状腺髄様がん;多発性骨髄腫;黒色腫;網膜芽細胞腫;並びに軟組織及び骨の肉腫からなる群から選択することができる。任意で、NRTOClは、別の化学療法剤と組み合わせて、例えば同じ組成物で投与される。
【0041】
[0065]別の態様は、対象の体重を減少させる方法、又は対象における体重増加を予防する方法である。本方法は、NRTOCl(例えば、その有効量)又はNRTOCl(例えば、その有効量)を含む組成物を、必要とする対象又はリスクがある対象に投与することを含む。
【0042】
[0066]更に別の態様は、薬物毒性及び/又は薬物有害反応を治療又は予防する方法である。本方法は、NRTOCl(例えば、その有効量)又はNRTOCl(例えば、その有効量)を含む組成物を、必要とする対象又はリスクがある対象、例えば、スタチンなどの薬物を同時に投与された対象に投与することを含む。
【0043】
[0067]「薬物有害反応」は、有害であり、意図されず、予防、診断、又は治療のための用量で生じる、薬物に対する任意の反応を意味し、副作用、毒性、高感受性、薬物相互作用、合併症、又は他の特異性を含む。副作用は、多くの場合、薬物の血清中治療濃度による、意図しない臓器系に対する薬理学的効果によって生じる、有害な症状である(例えば、抗コリン作用を有する抗ヒスタミン剤によるかすみ目)。毒性副作用は、薬物への過剰な又は長期の化学的曝露によって生じる有害症状又は他の効果(例えば、ジギタリス毒性、肝臓毒性)である。高感受性は、免疫介在性の有害反応(例えば、アナフィラキシー、アレルギー)である。薬物相互作用は、他の薬物、食物、又は疾患状態(例えば、ワルファリン及びエリスロマイシン、シサプリド及びグレープフルーツ、ロペラミド及びクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)腸炎)との相互作用から生じる有害作用である。合併症は、薬物によって引き起こされる疾患(例えば、NSAIDに起因した胃潰瘍、エストロゲンに起因した血栓症)である。薬物有害反応は、既知又は未知の機序によって介される場合がある(例えば、クロラムフェニコール又はクロザピンに関連する無顆粒球症)。このような薬物有害反応は、当該技術分野で周知の対象の観察、アッセイ、又は動物モデルによって特定することができる。
【0044】
[0068]一実施形態では、NRTOClは、サーチュインタンパク質のレベル及び/又は活性を減少させるために使用され、次の化合物:ニコチンアミド(NAM)、スラニム(suranim);NF023(G-タンパク質アンタゴニスト);NF279(プリン受容体アンタゴニスト);トロロックス(6-ヒドロキシ-2,5,7,8,テトラメチルクロマン-2-カルボン酸);(-)-エピガロカテキン(ヒドロキシは3,5,7,3’,4’,5’位にある);(-)-エピガロカテキンガレート(ヒドロキシは5,7,3’,4’,5’位にあり、ガレートエステルは3位にある);シアニジンクロリド(3,5,7,3’,4’-ペンタヒドロキシフラビリウムクロリド);デルフィニジンクロリド(3,5,7,3’,4’,5’-ヘキサヒドロキシフラビリウムクロリド);ミリセチン(カンナビスセチン;3,5,7,3’,4’,5’-ヘキサヒドロキシフラボン);3,7,3’,4’,5’-ペンタヒドロキシフラボン;ゴッシペチン(3,5,7,8,3’,4’-ヘキサヒドロキシフラボン)、シルチノール;及びスプリトマイシンのうちの1つ以上とともに投与され得る。
【0045】
[0069]NRTOClは、ヒト又は動物、特にコンパニオンアニマル、ペット、又は家畜に投与され得る。この組成物はいずれの年齢層にも有益な効果を有する。好ましくは、組成物は、乳児、若年者、成人、又は高齢者に投与するために処方される。
【0046】
[0070]好ましくは、NRTOClは、飲料で個体に経口投与され、単位投与形態は予め決められた量の飲料(例えば、有効量のNRTOClを含む予め決められた量の飲料)である。
【0047】
[0071]いくつかの実施形態では、サプリメントは、容器内のレディ・トゥ・ドリンク(RTD)飲料であってもよく、単位投与形態は、経口投与のために開封される容器内に密封された予め決められた量のRTD飲料である。例えば、予め決められた量のRTD飲料は、有効量のNRTOClを含むことができる。RTD飲料は、任意の更なる原材料を追加せずとも経口摂取することができる液体である。
【0048】
[0072]他の実施形態では、本方法は、NRTOClを含む粉末の単位投与形態を、水又はミルクなどの希釈液で再構成して、その後個体に経口投与される(例えば、再構成後約10分以内、再構成後約5分以内、又は再構成後約1分以内)飲料を形成することを含む。粉末の単位投与形態は、再構成及びその後の経口投与のために開封することができる小袋又は他のパッケージ中に密封することができる。
【0049】
[0073]サプリメントの単位投与形態は、賦形剤、乳化剤、安定剤、及びそれらの混合物を含有し得る。
【0050】
[0074]NRTOClは、1週間に少なくとも1日、好ましくは1週間に少なくとも2日、より好ましくは1週間に少なくとも3日若しくは4日(例えば、1日おき)、最も好ましくは1週間に少なくとも5日、1週間に6日、又は1週間に7日、投与することができる。投与期間は、少なくとも1週間、好ましくは少なくとも1カ月間、より好ましくは少なくとも2カ月間、最も好ましくは少なくとも3カ月間、例えば、少なくとも4カ月間であり得る。
【0051】
[0075]一実施形態では、投与は少なくとも毎日であり、例えば、対象は1日に1回以上投与を受けてもよい。いくつかの実施形態では、投与は、個体の残りの寿命にわたって継続される。他の実施形態では、投与は、医学的状態について検出可能な症状がなくなるまで行われる。具体的な実施形態では、投与は、少なくとも1つの症状について検出可能な改善が生じるまで行われ、更なる場合においては、寛解を維持するために継続される。
【0052】
[0076]前述の開示を考慮して、本明細書で提供される実施形態はNRTOClである。別の実施形態は、NRTOClと、任意にタンパク質、脂質、炭水化物、ビタミン、又はミネラルのうちの少なくとも1つとを含む組成物である。いくつかの実施形態では、組成物は経口投与用に処方され、好ましくは、容器に密封されたレディ・トゥ・ドリンク(RTD)飲料などの飲料、又は希釈液で再構成して再構成飲料を形成するために処方された粉末である。
【0053】
[0077]別の実施形態は、NRTOClを含む組成物の単位投与形態であり、該単位投与形態は、単位投与形態が投与される個体にとって治療有効量又は予防有効量のNRTOClを含む。
【0054】
[0078]更に別の実施形態は、組成物を作製する方法であり、該方法は、NRTOClを少なくとも1つの他の成分に添加することを含む。いくつかの実施形態では、組成物は経口投与用に処方され、少なくとも1つの他の成分は食用である。
【0055】
[0079]これらの方法のいくつかの実施形態では、組成物は、エマルジョンであり、好ましくは、水中油型エマルジョンであって、NRTOClの少なくとも一部が分散され、且つ任意にカゼインナトリウム又はレシチンのうちの少なくとも1つなどの乳化剤が分散された油相を含む。油相は、NRTOClの少なくとも一部が分散している、キャノーラ油、コーン油、又は中鎖トリグリセリド(MCT)油のうちの少なくとも1つを含むことができる。
【0056】
[0080]これらの方法のいくつかの実施形態では、組成物は、少なくとも1週間にわたって個体に毎日投与される。これらの方法のいくつかの実施形態では、個体は、ヒト乳児、ヒト小児、ヒト青年、ヒト成人、及びヒト高齢者、並びにコンパニオンアニマルなどの動物からなる群から選択される。
【0057】
[0081]これらの方法のいくつかの実施形態では、組成物は、好ましくは飲料として、より好ましくは投与前に開封される容器に密封されたレディ・トゥ・ドリンク(RTD)飲料として、又は投与前に再構成飲料を形成するために希釈液で再構成するように処方された粉末として経口投与される。
【0058】
[0082][実施例]
[0083]以下の非限定的な実施例は、概して、本明細書に開示される実施形態の基礎となる概念を示す。
【0059】
[0084]実施例1
[0085]1.実験セクション
[0086]1.1.概要
[0087]材料:ニコチンアミドリボシドクロリド(ベータ型)は、ChromaDex Companyから寄贈された。純度89%のオレオイルクロリドは、Aldrichから購入し、シリカゲル(P60、40~63μm、60Å)は、SiliCycleから購入し、Silica Gel 60 F254 Coated Aluminum-Backed TLC Sheetsは、EMD Millipore(Billerica,MA,USA)から購入した。ウシ胆汁(B3883)及びブタ膵臓由来のパンクレアチン(P7545、8×USP)はAldrichから購入した。
【0060】
[0088]特性評価:500NMR(Bruker INOVA)分光計を使用し、1H-NMR及び13C-NMRのCDCl3中スペクトルを得た。フーリエ変換赤外スペクトル(FTIR)は、Shimadzu IRAffinity-1S分光光度計により、8cm-1の分解能で128スキャンを収集することによって記録した。紫外可視(UV-vis)分光測定をShimadzu UV-2600分光光度計で記録した。Binary SL Pump & Diode Array Detector及びShodex RI-501 Refractive Index Detector(単一チャネル)を備えたAgilent 1200 LC Systemを使用して、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)測定を行った。
【0061】
[0089]HPLCは紫外線検出器(HPLCUV)を備えていた。Luna 100Å(150mm×4.6mm)で逆相HPLCを行った。カラム温度は25℃に設定した。注入体積は10.0μLとし、酢酸アンモニウム(20mM)を移動相として使用し、流速は45分又は60分にわたって0.7mL/分とした。全ての試料は、測定前に、孔径0.22μmの13mmナイロンシリンジフィルターを使用して濾過した。
【0062】
[0090]LC-MS分析には、質量分析計と連結したLC(Agilent 1100シリーズ)を使用した。逆相クロマトグラフィーには、100×4.6mm、3μm、極性C18、細孔径100Åの仕様であるPhenomenex Luna Omega(Phenomenex)LCカラムを使用し、流速は0.3mL/分とした。LC溶離液は、MilliQ水(溶媒A)及びアセトニトリル(溶媒B)を含み、勾配溶出を使用する(溶液A:溶液Bの組成の経時変化:0分で95:5、3分で95:5、15分で85:15、17分で90:10、及び20分で95:5)。
【0063】
[0091]質量分析計(Finnigan LTQ質量分析計)は、NRTOCl、NRCl、及びニコチンアミドを分析するため、エレクトロスプレーイオン化をポジティブモードに設定したエレクトロスプレーインターフェース(ESI)を備えていた。最適化したパラメータは、20任意単位のシースガス流量、4.00kVに設定したスプレー電圧、350℃のキャピラリー温度、41.0Vのキャピラリー電圧、及び125.0Vに設定したチューブレンズであった。
【0064】
[0092]DI水中のNRTOClの粒度分布、平均粒径(ゼータ平均サイズ)、及びゼータ電位を、市販の動的光散乱装置(Nano-ZS,Malvern Instruments,Worcestershire,UK)を使用して測定した。調製されたNRTOClナノ粒子の構造及び形態は、Tecnai F20 TEM/STEM透過電子顕微鏡(200kV)を使用して評価した。
【0065】
[0093]1.2.NRTOClの合成のための一般的手順
[0094]氷浴中の丸底フラスコに、200mgのNRCl、0.55mLのピリジン、及び4.75mLのDMFを加えた。次に、2.0mLのオレオイルクロリドを滴下し、反応混合物を窒素ブランケット下で3時間撹拌した。反応の進行をTLCで追跡した。3時間後、反応混合物にメタノール5mLを加えて過剰量のオレオイルクロリドを中和し、その後ロータリーエバポレーターを用いて減圧下で溶媒を蒸発させた。粗生成物をヘキサン中に抽出し、最後にSiO2上でのカラムクロマトグラフィーを用いて精製した。溶離液は、CH3OH(12%)とEtOAc(88%)との混合物とした。精製したNRTOClを淡クリーム色の脂肪性生成物として64.3%(479.2mg)で得た(メタノール中でのλmaxは267nmであった)。
【0066】
[0095]1.3.水中油型エマルジョンを作製するためのストックとしてのキャノーラ油中15重量%NRTOClの調製
[0096]2154mgのキャノーラ油を、380mgのNRTOClを含有する15mLファルコンチューブに添加した。その後、チューブを水浴に入れ、NRTOClがキャノーラ油中に完全に溶解するまで約35℃で振盪した。NRTOClをキャノーラ油中に溶解させた後、試料を次の試験のために室温で保持した。室温で、キャノーラ油中でNRTOClを保管している間、溶液は安定で透明であり、沈降物はなかった。
【0067】
[0097]1.4.カゼインNa(2重量%)、KCl(0.3重量%)、NaCl(0.1重量%)、CaCl2(0.2重量%)、及びNaN3(0.01重量%)を使用してNRTOClを含む水中油型エマルジョンを作製するための水相の調製
[0098]70℃の100mLのDI水に2gのカゼインナトリウムを徐々に添加し、混合物を5分間撹拌した。次いで、温度を10分間75℃に上昇させた。溶液を50℃に冷却した後、0.3gのKCl、0.1gのNaCl、及び0.01gのNaN3を混合物に添加し、2分間撹拌した。続いて、0.2gのCaCl2をこの溶液に徐々に添加し、更に5分間撹拌した。温度を25℃に下げた後、DI水を添加して混合物を100mLに希釈し、10,000rpmで2分間ホモジナイズした。
【0068】
[0099]1.5.安定性試験のためのNRTOCl及びNRClの水中油型エマルジョンの調製
[0100]次のプロセスに従って、異なる3通りのNRTOCl水中油型エマルジョンを作製した。
【0069】
[0101]1.5.1.Casエマルジョン:
[0102]キャノーラ油中15重量%のNRTOClを含む480mgのオイルストックと、カゼインNa(2重量%)、KCl(0.3重量%)、NaCl(0.1重量%)、CaCl2(0.2重量%)、及びNaN3(0.01重量%)の水相(14.52g)とを使用してエマルジョンを調製した。油相を水相に添加し、室温で16,800rpmで150秒間ホモジナイズした。
【0070】
[0103]1.5.2.Cas-Lecエマルジョン:
[0104]キャノーラ油中15重量%のNRTOClを含有する480mgのオイルストックと、0.025gのレシチンとを使用してエマルジョンを調製した。水相(14.5g)は、カゼインNa(2重量%)、KCl(0.3重量%)、NaCl(0.1重量%)、CaCl2(0.2重量%)、及びNaN3(0.01重量%)を含有していた。油相を水相に添加し、室温で16,800rpmで150秒間均質化した。
【0071】
[0105]1.5.3.Tweenエマルジョン:
[0106]キャノーラ油中15重量%のNRTOClを含む480mgのオイルストックと、ポリソルベート80(Tween80)(2重量%)の水相(14.52g)とを使用してエマルジョンを作製した。油相を水相に添加し、室温で16,800rpmで150秒間均質化した。
【0072】
[0107]1.5.4.NRエマルジョン:
[0108]NRCl(19mg)、カゼインNa(2重量%)、KCl(0.3重量%)、NaCl(0.1重量%)、CaCl2(0.2重量%)、及びNaN3(0.01重量%)の水相(14.52g)中、約480mgのキャノーラ油を使用して、エマルジョンを調製した。油相を水相に添加し、室温で16,800rpmで150秒間ホモジナイズした。
【0073】
[0109]1.6.安定性試験中に放出されるニコチンアミドの測定のためのNRTOCl及びNRClの試料調製
[0110]NRTOClエマルジョン及びNRClエマルジョンについてそれぞれ特定の時間安定化させた後、1.5mLの各エマルジョンを室温で20分間遠心分離した(14,000rpm)。次いで水相を分離し、遊離したニコチンアミドをHPLC分析によって測定するために0.22μmのフィルターによって濾過した。
【0074】
[0111]1.7.インビトロ消化試験
[0112]純粋な形態のNRTOClと、MCT油に溶解させたNRTOClのインビトロ消化を次の手順で調査した。
【0075】
[0113]1.7.1.模擬腸相中に分散させた純粋なNRTOClのインビトロ消化試験
[0114]模擬腸相用の緩衝液は、次のプロトコルに従って調製した29。具体的には、60mgのNRTOClを0.3mLのエタノールに溶解させ、400mgのウシ胆汁を含む緩衝液10gに加えた。0.75mLのCaCl2溶液(0.3M)をこの混合物に添加し、HCl(1M)を使用して、pHを約7に調整した。次いで、400mgの新鮮なブタのパンクレアチンを4mLの緩衝溶液に分散させ、混合物に添加した。試料を37℃のインキュベーター(250rpm)に30分間入れた。その後、試料をインキュベーターから取り出してpHを約7に調整し、更に30分間インキュベーターに戻した。インキュベーション工程及びpH調整を、2時間が経過するまで30分毎に繰り返した。酵素を失活させるために試料を氷浴に入れた後、1.5mLの試料を14,000rpmで10分間遠心分離した。最後に、水相を分離し、0.22μmフィルターによって濾過し、遊離したNR及びニコチンアミドを測定した。
【0076】
[0115]1.7.2.模擬腸相におけるMCT油中のNRTOClのインビトロ消化試験
[0116]60mgのNRTOClを150mgのMCT油に溶解させて、MCT油中29%w/wのNRTOを調製した。水相は、400mgのウシ胆汁を含有する10gの緩衝溶液とした。油相を水相に添加し、室温で、15,000rpmで150秒間ホモジナイズした。0.75mLのCaCl2溶液(0.3M)をこの混合物に添加し、HCl(1M)を使用してpHを約7に調整した。次いで、400mgの新鮮なブタのパンクレアチンを5mLの緩衝溶液に分散させ、混合物に添加した。試料を37℃のインキュベーター(250rpm)に30分間入れた。その後、試料をインキュベーターから取り出して、(NaOH 1Mによって)pHを約7に調整し、更に30分間インキュベーターに戻した。インキュベーション工程及びpH調整工程を、2時間が経過するまで30分毎に繰り返した。酵素を失活させるために試料を氷浴に入れた後、1.5mLの試料を14,000rpmで10分間遠心分離した。最後に水相を分離し、0.22μmフィルターによって濾過し、遊離したNR及びニコチンアミドを測定した。
【0077】
[0117]2.結果及び考察
[0118]この試験では、脂肪エステル誘導体として化学修飾を行い、疎水性を増加させて、NRの加水分解安定性を増加させた。この目的のために、NRClとオレオイルクロリドとの間の反応によって、新しい化合物としてNRTOClを合成した。DMFを溶媒とし、ピリジンを塩基として使用して反応を行った場合に、最良の結果が得られた。SiO2上でのカラムクロマトグラフィーによるNRTOClの精製後、純粋な生成物をFTIR、1H NMR、13C NMR、及びLC-MSによって特性評価した。
【0078】
[0119]最初に、NRTOClの構造中の官能基を決定するために、この化合物のFTIRスペクトルを調べた(
図4)。3289cm
-1及び3123cm
-1の2つのピークは、アミド官能基におけるNH
2結合の非対称収縮と、対称伸縮を示す。アルケン及び芳香族のC-H結合の伸縮振動は、約3005cm
-1に現れる。2922cm
-1及び2853cm
-1に存在する2つのピークは、脂肪族C-Hの非対称振動及び対称伸縮振動に起因する。1744cm
-1の強いピークは、エステル基のカルボニルを示す。アミド官能基のカルボニルは1689cm
-1に現れる。C=C結合の存在は、1622cm
-1に存在するピークによって示される。1458cm
-1及び1379cm
-1の2つのピークは、それぞれメチレン基及びメチル基の変角振動を示す。1100~1250cm
-1間のブロードピークは、エステル基のC-O結合の伸縮に起因する。677cm
-1、721cm
-1、及び915cm
-1のバンドは、アルケン及び芳香族のC-H結合の変角振動を示す
30。
【0079】
[0120]更に、NRTOClの
1H NMRを室温でCDCl
3中で実施した。積分により、この化合物の構造に一致する111個の水素の存在が示された(
図5)。この化合物の拡大した
1H NMRは、10.34ppmの最も非遮蔽的なプロトン(H1)が、正の窒素とアミド基との間のピリジニウム環上に位置する水素に起因することを明確に示す(
図6)。アミド基の窒素の孤立電子対とカルボニルとの間に共役があることから
30、NRTOClにおいてNH
2プロトンの化学シフトは等価ではない。この化合物では、NH
2プロトンの1つが9.86ppmに現れ、別の1つが6.28ppmに現れる。9.44ppmの二重ピーク(J=10Hz)は、ピリジニウム環上に正の窒素のオルト位で位置するH5に起因する。正の窒素のパラ位におけるH3の化学シフトは、9.34ppmにダブレットピークとして現れる(J=10Hz)。ピリジニウム環上の最後の水素は、8.20ppmにトリプレットピーク(J=10Hz)として現れるH4である。NRTOの構造中には、リボース環上に4つの水素が存在する。アノマー水素(H1’)は、リボース環中の酸素原子とピリジニウム環の正の窒素とにより更に影響を受けるので、この水素は6.75ppmにダブレットピークとして現れる(J=5Hz)。H2’及びH3’は隣接基であり、それぞれ5.57ppm及び5.43ppmの化学シフトを有する2つのトリプレットピーク(J=5Hz)として現れる。H2’は、H3’よりもアノマー中心に近いので、その化学シフトはH3’のものよりも非遮蔽的である。積分値が6である5.35ppmの多重線ピークは、NRTOの構造中の3つのH-C=C-H基の存在を確定する。リボース環中のH4’と、エステル基の1つの酸素に結合したメチレン基の水素の1つ(H5’)とは互いに重なり合い、積分値が2である4.70ppmの多重線ピークとして現れる。このメチレン基の水素はジアステレオトピックであるので、このメチレン基の別の水素は、4.50ppmにダブレットピークの二重線として現れる(J
1=14Hz、J
2=4Hz)。NRTOの3つの脂肪酸エステル鎖において、エステルカルボニル基の近傍の3つのCH2基は、2.37~2.55ppmの間に多重線ピークとして現れる(
図6)。更に、H-C=C-H基の近傍の6つのメチレン基が、2.02ppmに多重線ピークとして現れる。カルボニル基に結合したCH
2基の近傍の他の3つのメチレン基は、1.63ppmに多重線ピークとして現れる。積分値が60である1.30ppmでのブロードピークは、30個のメチレン基の残部に起因する。最後に、積分値が9である0.89ppmのトリプレットピーク(J=7.0Hz)は、NRTOの構造中の3つのメチル基の存在を確定する。
【0080】
[0121]CDCl
3中のNRTOClの
13C NMRも室温で調査した(
図7)。この化合物の拡大した
13C NMRは、173.1ppm、172.9ppm、及び172.3ppmにNRTOの構造中のエステル官能基の3つの異なるカルボニルに起因する3つのピークを開示する(
図8)。
【0081】
[0122]162.5ppmのピークは、この化合物中のアミド基のカルボニルを確定する。146.7ppm、142.5ppm、141.8ppm、134.6ppm、及び127.9ppmには、ピリジニウム環中の炭素の存在を示す5つの明確なピークがある。3つの-C=C基の6個の炭素の化学シフトは非常に接近しており、130.07ppm、130.06ppm、130.04ppm、129.67ppm、及び129.62ppmに現れる。これらの炭素の化学シフトが近いことに起因して、2つの炭素が互いに重なり合い(より高い強度を有する129.62ppmであり得る)、その結果、これらのアルケン基の5つのピークが観察された。98.0ppm、82.9ppm、75.8ppm、及び69.1ppmにある4つのピークは、NRTOの構造中にリボース環が存在することを完全に示した。エステル基の単一酸素に結合したメチレンの化学シフトは、62.2ppmに現れる。NRTOの3つの脂肪エステル鎖における、33.9ppm、33.8ppm、及び33.7ppmの3つの明確なピークは、エステル基の近くのカルボニル中の3つのCH
2基に起因する(
図8)。これらの鎖中のメチレン基の残部は、22.7ppm~31.9ppmの間に現れ、これらの炭素の化学シフトが互いに近いことから、それらのほとんどは一緒に重なった。14.1ppmの強いピークは、3つのメチル基が重なっていることに起因する。
【0082】
[0123]更なる確証のために、この化合物のLC-MS測定を行って、その分子量を特定した(
図9A及び
図9B)。選択反応モニタリング(SRM)の結果は、NRTOの構造と正確に一致する単一ピークを1047.52m/z(M-Cl)に示す。925.70m/zのフラグメントは、NRTOからのニコチンアミド分子の脱離によって形成されたリボース-トリオレエートに起因する。全体の結果として、FTIR、
1H NMR、
13C NMR、及びLC-MSにより取得されたスペクトルデータは、本実施例の手順によって合成されたNRTOClの構造を完全に認める。
【0083】
[0124]NRTOClは四級アンモニウム塩であるが、構造中にオレイン酸脂肪酸エステル基が3つ存在するため、水に溶解しなかった。したがって、NRTOClの安定性試験のために、この化合物を、共溶媒として1%エタノールを使用してDI水中に分散させた。この目的のために、15mgのNRTOClを0.15mLのエタノール(1%)に溶解し、次いで14.85mLのDI水を混合物に添加し、穏やかに振盪した。この混合物中のNRTOCl濃度は1,000ppmであり、粒子径は192nmであり、ゼータ電位は+65mVであった。この試料中のNRTOClの平均サイズは192nmであったが、TEMの画像は、約50nmであり且つ楕円形及びアスペクト比が1に近い球形である、より小さい粒子を開示した(
図10A~
図10C)。ナノ粒子において、NRTOCl構造は層毎(layer-by-laye)に互いの上に積み重ねられる。NRTOの高い正電荷は、ナノ粒子を水相中で安定にする。
【0084】
[0125]DI水中にNRTOClを分散させた後、NRClをDI水中に溶解させ、これらの試料の安定性を35℃で28日間調べた(
図11)。各試料の濃度は1000ppmとした。
【0085】
[0126]NRTO及びNRの加水分解反応と同様に、これらの化合物はいずれもニコチンアミドを遊離した(
図12)。各試料中のニコチンアミドの遊離量をHPLCで測定することにより、各試料中のNRTO及びNRの残存量を算出した。この試験の間、NRTO試料からのNRの遊離は何ら検出されなかった。このことは、NRTO試料中の重いエステル基が安定性試験の期間中に加水分解されないことを意味する。この試験はDI水中で行い、条件は穏やかなものとしたので、NRTOはN-グリコシド結合から加水分解された。
【0086】
[0127]
図11に示されるように、結果は、35℃のDI水中ではNRTOはNRよりも安定であり、28日後にNRTOの残存量は53.3%である一方で、NRの残存量は0.6%であることを示す。NRが長鎖エステル基により三官能化されることで、このカチオンの疎水性が増大し、結果としてN-グリコシド結合への水の接触性が減少する。NRTOの約42%が加水分解した後、加水分解図の傾きは減少した。28日後のNRTOの残存量は53.3%である。
【0087】
[0128]
図12に示されるように、リボーストリオレエートは、加水分解されたNRTOと同程度に加水分解プロセス中に形成された。リボーストリオレエートは、構造的にはNRTOよりも疎水性である。分散させたNRTO粒子の加水分解プロセスは外層から生じるので、これらの層は徐々にリボーストリオレエートへと変換され、超疎水性シェルとして作用して、内層への水の浸透を最小限に抑える(
図13)。
【0088】
[0129]NRTOClは非常に疎水性の化合物であるので、油相中での安定性を評価するために、エマルジョン系を使用してNRTOClの安定性を時間の関数として調べた。この目的のために、キャノーラ油中のNRTOClの15%w/w溶液を使用して、カゼインNa、Tween 80、及びレシチンを乳化剤(2wt.%)として含む様々なエマルジョンを室温で作製した。
【0089】
[0130]カゼインNaを乳化剤として使用した場合、負電荷を有するカゼイン塩アニオンと、正電荷を有するNRTOとがDI水中で直ちに凝集するので、水相は、NaCl(0.1重量%)、CaCl2(0.2重量%)、及びKCl(0.3重量%)の溶液でなければならない。これらのエマルジョン中の総油相は3.2重量%であり、各エマルジョンの総体積(15mL)中のNRTOClの濃度は4.4mMであった。乳化剤としてカゼインNaを使用したエマルジョンでは、NaN3(0.01重量%)を添加して細菌の増殖を防止した。2重量%のカゼインNaでNRTOClエマルジョンを作製した場合、このエマルジョン(Casエマルジョン)中の平均サイズ及びゼータ電位は、それぞれ1020nm及び-14.4mVであった。これらの結果により、液滴表面のNRTOの正電荷が負の値になることから、油相中のNRTOの液滴はカゼイン塩アニオンによって完全に取り囲まれていることが確認された。
【0090】
[0131]2重量%のカゼインNa及び2重量%のレシチンを乳化剤として同時に使用したところ、このNRTOエマルジョン(Cas-Lacエマルジョン)の平均サイズ及びゼータ電位は1012nm及び-13.3mVであった。DI水中に乳化剤として2重量%のTween 80を使用して(Tweenエマルジョン)、キャノーラ油の水中油型エマルジョンでNRTOも調製した。このエマルジョンの対応する平均サイズ及びゼータ電位は、それぞれ531nm、+49.2mVであった。Tween 80を中性乳化剤として使用することから予想されるように、NRTO液滴の正電荷は、エマルジョン中でほとんど元の状態(intact)を保った。
【0091】
[0132]NRTOClエマルジョンを作製した後、対照実験として3.2%キャノーラ油を使用したキャノーラ油の水中油型エマルジョンでNRClを試行した。水相は、カゼインNa(2重量%)、NaCl(0.1重量%)、CaCl
2(0.2重量%)、KCl(0.3重量%)、及びNaN
3(0.01重量%)の溶液であった。このエマルジョンの総容量(15mL)中のNRClの濃度は4.4mMであった。更に、他の対照実験として、DI水中のNRClの溶液15mLを4.4mM濃度で調製した。3通りのNRTOClエマルジョン及び2通りの対照実験試料を調製した後、各試料の加水分解安定性を35℃で26日間試験した(
図14)。各試料から遊離したニコチンアミドを特定して分解速度を測定した。26日後、Casエマルジョン、Cas-Lecエマルジョン、及びTweenエマルジョン中のNRTOの残存量は、それぞれ93.7、90.3、及び80.0%であった。しかしながら、NRエマルジョンでは残存量は0.4%であり、DI水中のNRでは5.3%であった。
【0092】
[0133]結果は、全てのエマルジョンにおいて、NRTOの安定性は、エマルジョン及び水中におけるNRの安定性よりもはるかに良好であることを示した。エマルジョンにおけるNR安定性はDI水におけるNR安定性よりも低く、NRが油相中に溶解することができず、水相中にのみ存在することを示す。更に、エマルジョンの水相中にはいくつかのアニオン及び求核試薬が存在するので、NR加水分解の速度が増加する。Casエマルジョン及びCas-Lecエマルジョンは、Tweenエマルジョンと比較して安定性についてより良好な結果を示し、これらの試料では、90%を超えるNRTOが26日間にわたって元の状態(intact)を保った。この結果は、乳化剤としてのカゼインNaが、Tween 80と比較してより良好に水相中のNRTO液滴を安定化させるように作用し得ることを意味する。既に説明したように、カゼイン塩アニオンはNRTO液滴の表面を完全に取り囲み、液滴の外表面上のNRTOの正電荷を中和することができる。この効果により、水の孤立電子対間の傾向が生じ、相間におけるNRTOが減少し得る。これらのエマルジョンにおいてNRTOの安定性に影響し得る他の因子には液滴のサイズがある。Casエマルジョン及びCas-Lecエマルジョンでは、液滴の平均サイズはほぼ等しく、Tweenエマルジョン中の液滴の平均サイズの約2倍である。この結果は、Casエマルジョン及びCas-Lecエマルジョン中の液滴の表面積がTweenエマルジョン中の表面積よりも低かったことを意味する。したがって、Casエマルジョン及びCas-LecエマルジョンにおけるNRTO液滴への水の接触性は、Tweenエマルジョンの場合の接触性よりも低いので、これらのエマルジョン(emulations)におけるNRTO加水分解の速度は、Tweenエマルジョンよりも低い。
【0093】
[0134]Casエマルジョン及びCas-Lecエマルジョン中のNRTOは、35℃で安定性についてより良好な結果を示したので、これらのエマルジョンにおけるNRTOの室温安定性をより長期間にわたって試験した(
図15)。42日後、NRTOの残存量は、Casエマルジョンにおいて95.0%であり、Cas-Lecエマルジョンにおいて93.7%であった。しかしながら、安定性試験のこの期間中、52.0%のNRは室温の水中でそのままの状態(intact)を保った。この結果は、エマルジョン中のNRTOの加水分解速度が無視できることを意味する。この期間中、これらのエマルジョンは安定であり、目に見える相分離はなかった。これらのエマルジョンではNRTO液滴の平均サイズのわずかな増加が生じ、Casエマルジョンでは、平均サイズは1020nmから1281nmに増加し、Cas-Lecエマルジョンでは、このパラメータは1012nmから1106nmに増加した。全てのNRTO安定性条件の間、エステル官能基の加水分解を確認する、NRTOから遊離したNRは測定されなかった。安定性についての全体的な結果として、キャノーラ油の水中油型エマルジョン中のNRTOは、水中に分散させたNRTO及び水中に分散させたNRよりもはるかに安定である。
【0094】
[0135]異なる条件でNRTOClの安定性を試験した後、この化合物を、模擬腸液中でNRを生成する消化性について試験した。この酵素消化には、ブタのパンクレアチン、ウシ胆汁、及びpH7付近の緩衝溶液を使用した
29。ブタパンクレアチン中のリパーゼ酵素は、脂肪エステル基を加水分解して、消化の主生成物としてNR、NRDO(ニコチンアミドリボシドジオレエート)、NRMO(ニコチンアミドリボシドモノオレエート)、及びオレイン酸を生成することができる(
図16)。更に、ニコチンアミド(NAM)及びリボース-トリオレエート(RTO)は、NRTOの消化ではなく加水分解の生成物として形成され得る。この仮説を考慮して、模擬腸相においてNRTO消化を試験した。
【0095】
[0136]最初に、消化試験に続いて、純粋なNRTOCl(60mg)を0.3mLのエタノールに溶解し、次いでこの溶液を、400mgのウシ胆汁を含有する10mLの緩衝液に添加して、ウシ胆汁溶液中にNRTOを分散させた。その後、0.75mLのCaCl
2溶液(0.3M)をこの混合物に添加し、HCl(1M)を添加してpHを7.0に調整した。最後に、4mLの緩衝溶液に分散させた400mgのブタのパンクレアチンを混合物に添加し、この試料を37℃のインキュベーターに2時間入れた。400mgのウシ胆汁及び400mgのブタのパンクレアチンの使用が、NRTOの酵素消化の最適量であった。試料から遊離したNR及びニコチンアミドを、LC-MS及びHPLC分析によって測定した。SRM LC-MSの結果は、NRの構造と正確に一致する255.17m/z(M-Cl)に単一ピークを示す(
図17A及び
図17B)。質量スペクトルにおいて、123.04m/zを有するフラグメントは、NRからのリボース分子の脱離によって形成されたニコチンアミド分子に起因する。結果は、NRTO消化試験の2時間後に、27.5%のNRがこの試料から遊離したことを示した。この結果は、少なくとも27.5%のNRTOが反応条件下で完全に消化されることを意味する。
【0096】
[0137]この試料からは副反応として2.4%のニコチンアミドが測定され、NRTO消化プロセス中にN-グリコシド結合の加水分解が生じたことが実証されたが、この加水分解の量は低く、ほとんど無視できる。NRTO加水分解の他の生成物には、消化プロセス中に同量のニコチンアミド(2.4%)で形成されたリボーストリオレエートがあった。この副生成物は水相に溶解せず、直接測定した。NRMO及びNRDOは、NRTO消化の他の生成物であり得る。しかしながら、本発明者らは、NRMO及びNRDOのいずれの標準物質も有していなかったので、これらの化合物の遊離量を測定することができなかった。NRMOは、LC-MSでは519.35m/zで水相中に検出されたが、標準物質が利用できなかったために測定することができなかった。
【0097】
[0138]この試験は、模擬腸相においてNRを遊離するNRTOの消化性及び生物学的利用能を目的とした。27.5%のNRが遊離したという結果は、新しい価値のある化合物としてのNRTOClの消化性を示す。
【0098】
[0139]この試験の目的を展開するために、油相中のNRTOの消化を試験した。この目的のため、及びNRTOの溶解性を増加させるために、キャノーラ油の代わりにMCT油を使用した。最初に、60mgのNRTOClを150mgのMCT油に溶解して、MCT油中約29%(w/w)のNRTOClを調製した。次いで、油相を、400mgのウシ胆汁を含有する10mLの緩衝液に添加し、混合物を15,000rpmで150秒間、室温でホモジナイズした。次に、0.75mLのCaCl2溶液(0.3M)をこの混合物に添加し、HCl(1M)を添加してpHを7.0に調整した。その後、5mLの緩衝溶液に分散させた400mgのブタのパンクレアチンを混合物に添加し、試料を37℃のインキュベーターに2時間入れた。この試料から遊離したNR及びニコチンアミドを、LC-MS分析及びHPLC分析によって測定した。NRTOClの純粋な消化と比較して、この試料から遊離したNRはより低かった(11.3%)。この結果は、油相の大部分がMCT油であり、結果としてリパーゼ分子のNRTOへの接近性が低下するためと予想された。N-グリコシド結合加水分解の生成物として、MCT油中のNRTOの消化中に3.9%のニコチンアミドが検出された。このブタのパンクレアチンは、トリプシン、キモトリプシン、α-アミラーゼ、リパーゼ、及びコリパーゼを含む複数の酵素を含んでいた。したがって、ブタのパンクレアチンリパーゼは、高活性を有するほど純粋ではない。しかしながら、pH7.0でのブタのパンクレアチン及びウシ胆汁の使用は、腸相における脂質の消化をシミュレーションするための最良の方法の1つである29。全ての得られた結果は、シミュレーションされた腸相においてNRを生成するためのNRTOの消化性(純粋な形態及びMTC油中)を確定した。
【0099】
[0140]3.結論
[0141]新しい疎水性NRCl誘導体としてNRTOClを合成した。NRTOClの合成は、ピリジンの存在下でNRClとオレオイルクロリドとを反応させることによって行った。純粋な生成物が64.3%で得られ、1H NMR、13C NMR、FTIR、及びLC-MSの結果により、NRTOClの構造及びその純粋性も完全に確定された。NRTOClは、構造中に3つの脂肪酸エステルが存在するので非水溶性であった。しかしながら、共溶媒(1%)としてEtOHを使用すると、この分子は多層(layer-by-layer)構造を有するナノ粒子(平均192nm)として水中に分散された。35℃で28日間の水中でのNRCl及びNRTOClの安定性を試験したところ、結果は、NRTOがNRClよりも88倍以上安定であることを示した。NRTOClは、NRClとは対照的に、キャノーラ油、コーン油、及びMCT油に室温で容易に溶解した。NRTOClのこの特徴は、カゼインナトリウム、レシチン、及びTween 80を乳化剤として存在させてキャノーラ油の水中油型エマルジョンを作製して、油相中での安定性を評価するのに役立った。キャノーラ油の水中油型エマルジョンでは、NRTOの安定性は、食用乳化剤としてカゼインナトリウム(2重量%)を使用することにより非常に増加し、26日後及び35℃でのこの系では未変化のNRTO及びNRはそれぞれ93.7%及び0.4%であった。これらの知見は、このエマルジョン系においてNRTOがNRよりも約213倍安定であることを実証した。また、室温で42日間にわたり、キャノーラ油の水中油型エマルジョンにおけるNRTOの安定性を試験した。安定性についてのこれらの結果から、この期間中のNRTOの加水分解は無視でき(5%)、ほとんど変化しなかったが、NRは48%が加水分解されていたことが確認された。最後に、模擬腸相での消化性を試験して、化合物の生物学的利用能を調査した。結果により、NRTOClが消化可能であり、模擬腸相において、ブタのパンクレアチンの存在下で、NRを遊離することが実証された。安定性及び消化性について得られた結果により、NRTOClが、レディ・トゥ・ドリンク(RTD)飲料におけるNRブースターとしての使用に大いに有望であることを示す。
【0100】
[0142]実施例2
[0143]NR-トリブチラートクロリド(NRTBCl)の合成のための一般的手順
[0144]氷浴中の丸底フラスコに、300mgのNRCl、25mgの4-ジメチルアミノピリジン(DMAPY)、1.5mLの無水酪酸、及び9mLのCH3CNを加え、窒素雰囲気下で5時間撹拌した。反応の進行をTLCで追跡した。次に、溶媒を減圧下でロータリーエバポレーターによって蒸発させ、過剰量の無水酪酸をn-ヘキサンによって洗浄した。最後に、粗生成物をSiO2上でのカラムクロマトグラフィーにより精製した。溶離液は、CH3OH(35%)及びEtOAc(65%)の混合物であった。精製されたNR-トリブチラートクロリド(NRTBCl)を71%(367mg)で淡黄色の粘性液体として得た。
【0101】
[0145]
図18は、NR-トリブチラートクロリドのFT-IRを示す。
図19は、CDCl
3中のNRTBClの1H NMRを示す。
図20は、CDCl
3中のNRTBClの
13C NMRを示す。
【0102】
【0103】
[0147]NRTBClの長鎖トリグリセリド中溶解性試験
[0148]NRTBClの長鎖トリグリセリド中での溶解性を試験するために、本発明者らは、この化合物をオリーブ油及びコーン油に溶解させることを試みた。この目的のために、15mgのNRTBClを15mLのオリーブ油に添加し、室温で10分間、ボルテックスを用いて激しく振盪した。結果は、NRTBClがオリーブ油に溶解しなかったことを示した。この手順を、オリーブ油の代わりにコーン油を使用して繰り返した。得られた結果により、NRTBがコーン油に不溶であることが明らかとなった。
【0104】
[0149]NRTBClの中鎖トリグリセリド中溶解性試験
[0150]NRTBClの中鎖トリグリセリド中での溶解性を試験するために、本発明者らは、この化合物をココナッツ油に溶解させることを試みた。この目的のために、15mgのNRTBClを15mLのココナッツ油に添加し、室温で10分間、ボルテックスを用いて激しく振盪した。結果は、NRTBClがココナッツ油に溶解しなかったことを示した。
【0105】
[0151]異なるpHでのNRTBClの水中の溶解性試験
[0152]NRTBの水中での溶解性を試験するために、NRTBClの3通りの水溶液を、10000ppmの濃度でpH 5、pH 7、及びpH 9で調製した。ゼータサイザーにより得られた結果は、NR-トリブチラートが、溶液中で凝集を形成することなく、さまざまなpHで水に完全に溶解され得ることを実証した(
図22A、
図22B、
図22Cは、水中NR-トリブチラートクロリドのサイズ測定を示す)。
【0106】
[0153]35℃でのNRTBCl安定性測定の予備的結果
[0154]NRTBClの安定性試験は、NRTBをMQ水中に溶解させ、35℃で6日間維持することによって実施した。各試料の濃度は1000ppmとした。HPLCの結果は、副生成物であるニコチンアミドのピークとNRTBClのピークとが重なっていたことを示した。33分(流速:0.75mL/分)におけるピーク強度の増加は、分解の副生成物がニコチンアミド(NA)であり、ニコチンアミドは33分の保持時間(正確にはNRTBClとして)を有することを理由とする。
図23に示すように、6日後のピーク強度は、0時間後のピーク強度よりも明らかに高かった。これは、NRTBClが35℃で容易に加水分解され得ることを意味する。
【0107】
[0155]本明細書で述べる現在の好ましい実施形態に対する様々な変更及び修正が、当業者には明らかとなる点を理解されたい。そのような変更及び修正は、本主題の趣旨及び範囲から逸脱することなく、かつ意図される利点を損なわずに、なされ得る。したがって、このような変更及び修正は、添付の特許請求の範囲によって包含されることが意図されている。
【0108】
[0156]参照文献
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【国際調査報告】