(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-16
(54)【発明の名称】生体試料を表面上にマウントする方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/48 20060101AFI20241008BHJP
G01N 1/36 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
G01N33/48 P
G01N1/36
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024518669
(86)(22)【出願日】2022-08-04
(85)【翻訳文提出日】2024-04-12
(86)【国際出願番号】 EP2022071967
(87)【国際公開番号】W WO2023072448
(87)【国際公開日】2023-05-04
(32)【優先日】2021-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522476978
【氏名又は名称】リゾルブ バイオサイエンシズ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】コーフハージ,クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】フェイバー,シンシア
(72)【発明者】
【氏名】メイアー,アンドレアス
【テーマコード(参考)】
2G045
2G052
【Fターム(参考)】
2G045BB23
2G045CB01
2G052AA33
2G052EC03
2G052FA02
2G052FA08
(57)【要約】
本明細書で提供される技術は、表面上の生体試料を還元剤と接触させることによって、前記生体試料を前記表面上にマウントする/粘着させる方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面上に生体試料をマウントする方法であって、
i)生体試料を表面に適用すること
ii)前記表面上の前記生体試料と還元剤とを接触させること、任意にその後、
iii)前記表面上の前記生体試料を酸化剤と接触させること
を含む方法。
【請求項2】
前記表面が、ガラス、プラスチック、金属、又は石英を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記表面が、平坦又は丸みがある、滑らか又は粗い、親水性又は親油性である、請求項1~2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
前記表面が、さらなる官能性を含むように修飾又はコーティングされる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記表面が、顕微鏡スライド上にあるか、又は顕微鏡スライドである、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記生体試料が、生体分子、細胞、細胞培養物、組織切片、臓器、オルガノイド及び/又は有機培養物、又は生物全体を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記生体試料が、少なくともジスルフィド架橋、特に酸化チオール基を含有する生体分子を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記生体試料が、生体分子、原核生物細胞、古細菌細胞又は真核生物細胞のような細胞、組織試料、組織切片、臓器試料全体、生物全体、又は複数の生物の抽出物を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記生体試料が、生検試料のような血液、血清、体液又は組織を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記生体試料が、前記表面に適用される前に培地又は溶液中でインキュベートされる、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記生体試料が、前記表面に適用される前に、酵素的、化学的、又は物理的処理又はそれらの組み合わせによって処理される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記生体試料が組織試料であり、前記組織が、前記表面に適用される前に、ミクロトーム又はクライオトームによって組織切片に切断される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記生体試料が肺組織又は皮膚組織を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記生体試料がホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織を含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織が、前記表面に適用された後に、特に、1以上の酵素処理、1以上の化学的処理、1以上の物理的処理、又はそれらの混合によって脱パラフィン化される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記還元剤が、ベータ-メルカプトエタノール、ジチオスレイトール(DTT)、ジチオエリトリトール、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH
4)、水素化アルミニウムリチウム(LiAlH
4)、又はガルバニックシリーズ(galavanic series)の別の還元試薬からなる群から選択される、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記酸化剤が、過酸化水素(H
2O
2)、tert-ブチルヒドロペルオキシドのような有機過酸化物、過ホウ酸ナトリウム、過マンガン酸カリウム、次亜塩素酸塩、又はガルバニックシリーズの別の酸化試薬からなる群から選択される、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
スライド上に組織をマウントする方法及び顕微鏡検査であって、
-スライドの表面に組織を適用すること;
-前記スライド上の前記組織と還元剤の溶液とを接触させること;
-前記スライドを乾燥させて過剰の溶媒を除去すること;
-前記スライド上の前記組織と酸化剤の水溶液とを接触させること;
-前記スライド上の前記組織の顕微鏡検査
を含む方法及び顕微鏡検査。
【請求項19】
前記スライドが、ガラス、プラスチック、金属及び/又は石英の表面を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記表面が、平坦又は丸みがある、滑らか又は粗い、親水性又は親油性である、請求項18~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記表面が、さらなる官能性を含むように修飾又はコーティングされる、請求項18~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記組織が、前記表面に適用される前に、酵素的、化学的、又は物理的処理又はそれらの組み合わせによって処理される、請求項18~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記組織が、前記表面に適用される前に、ミクロトーム又はクライオトームによって組織切片に切断される、請求項18~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記組織が肺組織又は皮膚組織を含む、請求項18~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記組織が、少なくともジスルフィド架橋、特に酸化チオール基を含有する生体分子を含む、請求項18~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記組織が、前記表面に適用される前に培地又は溶液中でインキュベートされる、請求項18~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記組織がホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織である、請求項18~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織が、前記表面に適用された後に、特に、1以上の酵素処理、1以上の化学的処理、1以上の物理的処理、又はそれらの混合によって脱パラフィン化される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記還元剤が、ベータ-メルカプトエタノール、ジチオスレイトール(DTT)、ジチオエリトリトール、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH
4)、水素化アルミニウムリチウム(LiAlH
4)、又はガルバニックシリーズ(galavanic series)の別の還元試薬からなる群から選択される、請求項18~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記酸化剤が、過酸化水素(H
2O
2)、tert-ブチルヒドロペルオキシドのような有機過酸化物、過ホウ酸ナトリウム、過マンガン酸カリウム、次亜塩素酸塩、又はガルバニックシリーズの別の酸化試薬からなる群から選択される、請求項18~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
表面上に生体試料をマウントするためのキットであって、
a)還元剤、及び
b)酸化剤
を含むキット。
【請求項32】
前記還元剤が、ベータ-メルカプトエタノール、ジチオスレイトール(DTT)、ジチオエリトリトール、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH
4)、水素化アルミニウムリチウム(LiAlH
4)、又はガルバニックシリーズ(galavanic series)の別の還元試薬からなる群から選択される、請求項31に記載のキット。
【請求項33】
前記酸化剤が、過酸化水素(H
2O
2)、tert-ブチルヒドロペルオキシドのような有機過酸化物、過ホウ酸ナトリウム、過マンガン酸カリウム、次亜塩素酸塩、又はガルバニックシリーズの別の酸化試薬からなる群から選択される、請求項31~32のいずれか一項に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の分野
本明細書で提供される技術は、表面上の生体試料と還元剤とを接触させることによって、前記表面上に生体試料をマウントする/粘着させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
臨床検体又は動物実験から得られた組織切片、細胞組織又は他の体液又は生物材料は、しばしば、顕微鏡検査に適する形態でマウント、固定及び保存される。マウントは、検体を顕微鏡スライドに接着させ、物理的損傷から保護するプロセスである。一般に、顕微鏡では、調査対象の材料又は試料のスライドは、前記試料又は材料を(底部)スライド上に置き、次いで前記試料を(上部)カバーで覆うことによって調製される。一般に、光学顕微鏡又は同様の技術では、ガラス又は別の適切な透明材料のスライド及びカバーが使用される。
【0003】
しかし、一部の組織切片試料は、顕微鏡スライドに強く粘着し、いくつかのインキュベーション工程及び反応工程に耐える。他の試料(例えば、肺)は、染色方法の間に喪失する場合がある。
【0004】
典型的なマウントプロセスは、組織切片をマウントし、顕微鏡スライドへのそれらの粘着性を高めるためにコーティングされたスライド表面を使用する。上述のように、典型的な表面修飾は、ポリリシン、コラーゲン、ゼラチン、フィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン、PEG、及び組織切片の顕微鏡スライドの表面への粘着性を増強する材料に基づく。他の方法は、ガラスのプラズマ処理によるガラス表面の修飾、又はシラン若しくは二酸化チタンのような無機材料の堆積を主張する(国際公開第2017/158238 A1号)。コーティングの欠点は、しばしばほとんど数ヶ月というそれらの限定的な半減期である。
【0005】
したがって、一部の研究者は、ガラススライドへの組織切片の接着性を増加させるために、ホルムアルデヒドとのインキュベーションのような組織処理も使用する。採取されたパラフィン包埋組織塊からの組織切片が、表面への粘着性を変化させ得ることも周知である。安定化のためにパラフィン包埋組織試料にも使用されるホルムアルデヒドは、下流の分析に干渉し得る生体分子の非指向性架橋をもたらす。
【0006】
生体試料及び非生体試料中の少量の検体の下流の分析は、臨床環境及び分析環境において通常業務となっている。この目的のために多数の分析方法が確立されてきた。これらのうちのいくつかは、特異的な第2の検体に割り当てられたコードとは異なる特異的な第1の検体に特定の可読コードを割り当てるコーディング技術を使用する。
【0007】
この背景に対して、本開示の基礎となる主題は、従来技術の方法の欠点を低減又はさらには回避することができる手段によって、表面上に生体試料をマウントする方法を提供することである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本開示は、顕微鏡スライドのような表面上に生体試料をマウント(又は粘着/固定)するための新しい方法及び組成物に関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
例えば、顕微鏡法は、生物学及び病理において広く使用されている方法である。一部の組織切片試料は、顕微鏡スライドガラスに強く粘着し、いくつかのインキュベーション工程及び反応工程に耐える。他の試料(例えば、肺)は、染色法の間に喪失することがある。本開示の方法は、プロセス中にかなり頻繁に喪失するこれらの試料の分析の成功を高める。
【発明の効果】
【0010】
第1の態様では、本開示の実施形態は、表面上に生体試料をマウントする方法であって、
i)生体試料を表面に適用すること
ii)前記表面上の前記生体試料と還元剤とを接触させること、必要に応じてその後、
iii)前記表面上の前記生体試料を酸化剤と接触させること
を含む方法に関する。
【0011】
第2の態様では、本開示の実施形態は、スライド上に組織をマウント(又は粘着/固定)する方法及び顕微鏡検査であって、
i)スライドの表面に組織を適用する工程;
ii)前記スライド上の前記組織と還元剤の溶液とを接触させる工程;
iii)前記スライドを乾燥させて過剰の溶媒を除去する工程;
iv)前記スライド上の前記組織と酸化剤の水溶液とを接触させる工程
を含む方法及び前記スライド上の前記組織の顕微鏡検査に関する。
【0012】
第3の態様では、本開示の実施形態は、表面上に生体試料をマウントするためのキットであって、
a)還元剤、及び
b)酸化剤
を含むキットに関する。
【0013】
本開示を詳細に説明する前に、本開示は、説明される方法の工程の特定の構成要素部分に限定されないことを理解されたい。また、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態のみを説明することを目的としており、限定することを意図するものではないことも理解されたい。本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「1つ(a)」、「1つ(an)」及び「その」は、文脈が別段明確に指示しない限り、単数及び/又は複数の指示対象を含むことに留意されたい。さらに、数値によって区切られるパラメータ範囲が与えられる場合、範囲は、これらの制限値を含むと見なされることを理解されたい。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示の詳細な説明
本明細書において、顕微鏡スライドのような表面上に生体試料をマウントする(又は粘着させる)ための新しい方法及びキットを開示する。本開示は、特に、顕微鏡法のための染色プロセスのような分析プロセス中に非常に頻繁に喪失する生体試料のマウント、その後の分析の成功を高めるために、酸化剤と組み合わせた還元剤の使用について記載する。
【0015】
いくつかの実施形態において、本開示は、
1)生体試料を表面と接触させること
2)前記生体試料を少なくとも還元剤によってインキュベートすること
3)おそらく、その後、少なくとも酸化試薬により還元反応を停止すること
による生体分子含有試料の処理を記載する。
【0016】
工程1の前に、生体分子含有試料を、酵素的、化学的、若しくは物理的処理、又はそれらの組み合わせによってインキュベートし、試料の特徴を変化させてもよい。工程1の前に、組織試料を、ミクロトーム又はクライオトームによって切断してもよく、組織切片を、1のために使用してもよい。工程1の前に、細胞、オルガノイド、有機培養物、又は他の生物材料を培地又は溶液中でインキュベートすることができる。
【0017】
工程1の後に、脱パラフィン、1以上の酵素処理、1以上の化学的処理、1以上の物理的処理、又はそれらの混合のような処理を必要としてもよい。工程2及び3の処理は、生体試料の表面への接触を緩めるリスクを低減する。工程2のみを実行してもよい。還元反応は、生体分子含有試料中のジスルフィド架橋を低減することができる。還元反応を停止させる反応は、還元されたチオール基を酸化することができる。生体分子含有試料は、顕微鏡法、分光法又は他の分析などのさらなる分析のために、処理中に平坦な表面上に固定化される。
【0018】
驚くべきことに、本発明者らは、例えば、第1の工程でジスルフィド結合を低減し、第2の反応でチオール基を酸化する反応が、ガラス又はプラスチックのような表面上に生体分子含有材料をより良好な粘着性をもたらすことを見出した。
【0019】
上述のように、本開示の実施形態は、生体試料を表面上にマウントする方法であって、
i)生体試料を表面に適用すること、
ii)前記表面上の前記生体試料と還元剤とを接触させること、任意にその後、
iii)前記表面上の前記生体試料と酸化剤とを接触させること、任意にその後、
iv)前記表面上のマウントされた生体試料を染色/分析すること
を含む方法に関する。
【0020】
さらに、本開示の実施形態は、生体試料を表面上にマウントする方法であって、
i)生体試料を表面に適用すること、
ii)前記表面上の前記生体試料と還元剤とを接触させること、その後、
iii)前記表面上の前記生体試料と酸化剤とを接触させること、任意にその後、
iv)前記表面上のマウントされた生体試料を染色/分析すること
を含む方法に関する。
【0021】
「生体試料」とは、限定するものではないが、試験対象から収集される血液、血清、体液及び組織生検試料を含む任意の材料、及びそこから直接的又は間接的に誘導される任意の有形材料を意味する。「生体試料」又は「生物検体」は、本明細書では、例えば、組織切片又は細胞塗抹標本を指すために使用される。マウントする前に、生体試料/検体を、切片作製及び染色を含む一連の物理的及び化学的操作に供してもよい。そのような物理的及び化学的操作は、当業者に公知であり、そのため、それらを説明しないが、本明細書において以下にごく簡単に説明する。前述の物理的及び化学的操作を受けると、生体試料/検体は、「組織化学切片」又は「細胞化学塗抹標本」と呼ばれ得る。そのため、「組織化学切片」は、ワックス又はプラスチック中に包埋することによって凍結又は化学的に固定及び/又は硬化され、一般に数ミクロンの厚さの薄いシートにスライスされ、顕微鏡スライドのような表面上に接着している生体組織の固体試料を指す。さらに、「細胞化学的塗抹標本」は、顕微鏡スライドのような表面に固定及び接着させるべき血球などの細胞の浮遊液を指す。
【0022】
特に、生体試料は、少なくとも酸化されたジスルフィド架橋を担持する生体分子のその含有量によって説明され得る生体分子含有試料である。試料は、死んでいても生きていてもよい。試料中の全ての生体分子が酸化されたチオール基を含む必要はない。生体分子含有試料は、生体分子、細胞(細菌、古細菌、真核生物など)、組織試料、組織切片、臓器試料全体、生物全体、又は複数の生物の抽出物であり得る。試料はまた、生体分子を含まない他の材料を含んでもよい。試料は、生体分子の抽出物が添加された試料も含む。
【0023】
「生体分子」は、生物及び/又は細胞において見出され得る分子である。これはまた、任意の種類の生物学的、酵素的、化学的、又は物理的処理によって操作、消化、又は修飾された分子を含む。これはまた、生体試料のような試料に添加される抽出された生体分子を含む。
【0024】
したがって、いくつかの有利な実施形態において、生体試料は、生体分子、細胞、細胞培養物、組織切片、オルガノイド及び/又は有機培養物、臓器、又は生物全体を含む。特に、生体試料は、少なくともジスルフィド架橋、特に酸化されたチオール基を含有する生体分子を含む。
【0025】
いくつかの有利な実施形態において、生体試料は、生体分子、原核生物細胞、古細菌細胞又は真核生物細胞のような細胞、組織試料、組織切片、臓器試料全体、生物全体、又は複数の生物の抽出物を含む。特に、生体試料は、生検試料のような血液、血清、体液又は組織を含む。
【0026】
いくつかの実施形態において、生体試料は組織試料であり、組織は、表面に適用される前に、ミクロトーム又はクライオトームによって組織切片に切断される。特に、生体試料は、肺又は皮膚組織を含む。いくつかの実施形態において、生体試料は、表面に適用される前に培地又は溶液中でインキュベートされる。
【0027】
いくつかのさらに有利な実施形態において、生体試料は、表面に適用される前に、酵素的、化学的、又は物理的処理又はそれらの組み合わせによって処理される。本開示の実施形態において、生体試料は、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織を含む。特に、本開示による方法の実施形態において、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織は、特に、1以上の酵素処理、1以上の化学的処理、1以上の物理的処理、又はそれらの混合によって、表面に適用された後に脱パラフィン化される。
【0028】
いくつかの有利な実施形態において、生体試料/検体は、顕微鏡スライドの生体試料/検体上にカバーガラスをマウントする前に、本開示による方法で固定される。
【0029】
本明細書で使用される顕微鏡スライドのような表面に「生体試料/検体を固定する」、「生体試料/検体を粘着させる」又は「生体試料/検体をマウントする」ことは、溶媒変化、温度変化、機械的応力、及び乾燥による破壊に対して、タンパク質を安定化させ、細胞構造、特に膜を強化するために化学的に処理されている生体組織のような生物細胞の試料を指す。細胞は浮遊液中で固定されてよく、又は解剖、生検又は手術中に得られ得る組織の試料中に含有されてもよい。
【0030】
さらに、試験される細胞又は組織は、温かい流動パラフィンワックス中に包埋されてもよい。ワックスは、両方とも組織を取り囲み、それに浸透し、冷却時に硬化し、それによって組織を外部及び内部で支持する。次いで、得られた固体パラフィン塊を、切片にする前に適切な形状にトリミングする。極薄切片が必要とされる場合、エポキシプラスチックなどのより硬い包埋材料及び浸透材料の使用が必要とされ得る。このような材料は、最初は液体形態であり、固定された組織片を含有する小さな金型に注がれ、加熱すると、液体は重合して硬質プラスチックを形成する。
【0031】
包埋された試料を含むトリミングされた塊は、ミクロトームを使用して切片化される。この器具では、塊を一連の薄い切片に切断するナイフのブレード上を塊が順次移動する。次いで、そのような切片は、顕微鏡スライド上にマウントされ、すなわち堆積又は接着され、細胞の異なる分子成分に特異的に接着する様々な色の色素又は色原で染色される。この時点で、カバーガラスを、固定された組織又は細胞検体上に載せることができる。
【0032】
本明細書で使用される「カバーガラス」は、顕微鏡下で観察される顕微鏡スライド上の生物検体を覆うために使用されるガラス、プラスチック又は他の透明なポリマー材料の薄いスリップを指す。カバーガラスは、生体試料/検体全体を覆うのに十分な長さ及び幅でなければならない。本明細書で使用される場合、「カバーガラスを載せる」とは、その上に生体試料/検体を有する顕微鏡スライド上にカバーガラスを載せることを指す。
【0033】
生体試料をマウントする/固定する/粘着させる表面は、平坦又は丸みがある、滑らか又は粗い、親水性又は親油性であってもよい。さらに、表面は、様々な材料から作製されてもよく、表面が作製され得るガラス、プラスチック、金属、石英又は任意の他の種類の材料に基づいてもよい。有利な実施形態において、表面は、顕微鏡スライド上にあるか、又は顕微鏡スライドである。さらに、表面は、さらなる官能性を導入するように修飾又はコーティングされてもよい。
【0034】
「還元剤(reducing agent)」又は還元剤(reductant)は、電子を失い、化学反応で酸化される。還元剤は、典型的には、その低い可能な酸化状態の1つにあり、電子供与体として知られている。還元剤は、酸化還元反応において電子を失うことにより酸化される。還元剤の例としては、土類金属、ギ酸、及び亜硫酸化合物が挙げられる。本明細書で使用される場合、「還元剤」は、特にジスルフィド結合を還元することができる全ての薬剤及び条件を含む。還元試薬の還元能は、標準電極の電位と比較した電極電位として測定され得る。還元剤は、温度、pH、濃度、又は他のパラメータを変化させる特定の反応条件によってそれらの還元能力を変えることができる(Pettrucci,Ralph H.一般化学:原理と最新の応用(General Chemistry:Principles and Modern Applications)第9版 Upper Saddle River:Pearson Prentice Hall,2007;Oxtoby,David W.,H.P.Gillis,及びAlan Campion.現代化学の原理(Principles of Modern Chemistry)第6版 Belmont:Thomson Brooks/Cole,2008を参照されたい)。したがって、当業者は、薬剤及び反応パラメータを変化させて、生体分子内のジスルフィド結合を還元することができる。生化学反応に使用される一般的な還元剤は、ベータ-メルカプトエタノール、ジチオスレイトール(DTT)、又はジチオエリトリトール(Dithioerythrit)である。加えて、多くの金属ベースの化合物を、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)又は水素化アルミニウムリチウム(LiAlH4)などの還元試薬として使用することができる。本明細書に記載の目的のための還元剤を事前に認定するために、当業者は、ガルバニックシリーズ(galavanic series)から試薬を選択することができる。
【0035】
いくつかの有利な実施形態において、本開示による方法で使用される還元剤は、ベータ-メルカプトエタノール、ジチオスレイトール(DTT)、ジチオエリトリトール、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)、水素化アルミニウムリチウム(LiAlH4)、又はガルバニックシリーズの別の還元試薬からなる群から選択される。
【0036】
「酸化剤(oxidizing agent)」又は酸化剤(oxidant)は、電子を獲得し、化学反応において還元される。電子受容体としても知られているように、酸化剤は、通常、電子を獲得し、還元されるために、起こり得るより高い酸化状態の1つにある。本明細書で使用される場合、「酸化剤」は、特に、ハロゲン、硝酸カリウム、及び硝酸、特にチオール基を酸化することができる全ての薬剤及び条件を含む。例えば、酸化試薬の酸化能力を、標準電極の電位と比較した電極電位として測定することができる。酸化剤は、温度、pH、濃度、又は他のパラメータを変化させる特定の反応条件によってそれらの酸化能力を変化させることができる(Pettrucci,Ralph H.一般化学:原理と最新の応用(General Chemistry:Principles and Modern Applications)第9版 Upper Saddle River: Pearson Prentice Hall, 2007;Oxtoby,David W.,H.P.Gillis,及びAlan Campion.現代化学の原理(Principles of Modern Chemistry)第6版 Belmont:Thomson Brooks/Cole,2008を参照されたい)。この観点から、当業者は、薬剤及び反応パラメータを変化させて、生体分子内のチオール基を酸化することができる。特に、生体試料/検体、特に、生体分子含有試料は、試料が表面により堅固に粘着するように、還元試薬及び酸化試薬によって処理される。生化学反応に使用される一般的な酸化剤は、過酸化水素(H2O2)、有機過酸化物(例えば、tert-ブチルヒドロペルオキシド)、又は過ホウ酸ナトリウム、過マンガン酸カリウム、次亜塩素酸塩、及びガルバニックシリーズから研究者によって選択され得る他の酸化試薬などの過酸化物である。
【0037】
いくつかの有利な実施形態において、本開示による方法で使用される酸化剤は、過酸化水素(H2O2)、tert-ブチルヒドロペルオキシドのような有機過酸化物、過ホウ酸ナトリウム、過マンガン酸カリウム、次亜塩素酸塩、又はガルバニックシリーズの別の酸化試薬からなる群から選択される。
【0038】
上述のように、本開示は、スライド上に組織をマウントする/粘着させる/固定する方法及び顕微鏡検査であって、
-スライドの表面に組織を適用すること;
-前記スライド上の前記組織と還元剤の溶液とを接触させること;
-前記スライドを乾燥させて、過剰の溶媒を除去すること;
-前記スライド上の前記組織と酸化剤の水溶液とを接触させること;
-前記スライド上の前記組織の顕微鏡検査
を含む、方法及び顕微鏡検査にも関する。
【0039】
さらに、本開示はまた、上記の還元剤及び酸化剤を含む表面上に生体試料をマウントする/粘着させる/固定するためのキットにも関する。
【0040】
上述のように、前記表面上にマウントされた生体試料は、染色及び/又は分析され得る。染色は、組織のような生体試料の重要な特徴を強調するため、並びに例えば、組織のコントラストを高めるために使用される。ヘマトキシリンは、このプロセスで一般的に使用される塩基性色素であり、核を染色して、それに青みがかった色を与えるが、エオシン(組織学で使用される別の染色色素)は、細胞の核を染色して、それにピンク色がかった染色を与える。しかし、特定の細胞及び成分に使用される他のいくつかの染色技術が存在する(Black,2012)。染色は、腫瘍の医学診断において一般的に使用される医学的プロセスであり、罹患細胞又は腫瘍細胞又は他の病理学的細胞を位置づけるために、色素の色が試料組織の後方及び前方の境界に適用される(Musumeci,2014)。生物学的研究において、染色は、顕微鏡検査を補助するために、細胞を標識し、核酸、タンパク質に目印をつけるか、又はゲル電気泳動のために使用される(Jackson&Blythe,2013)。場合によって、分染、二重染色又は多重染色などの様々な複数の染色法が使用される(Iyiola&Avwioro,2011)。
【0041】
いくつかの有利な実施形態において、表面上のマウント/固定された生体試料は、空間トランスクリプトミクス(又は空間オミクス(Spatial *omics))によって分析され、これは試料からのデータが組織又は生物全体のインサイチュー試料から空間的に導出される任意の種類の分析を意味する。インサイチュー試料は、臓器又は生物の切片であってもよい。インサイチュー試料は、結果を改善するために必要とされる方法で前処理されていなくても又は前処理されていてもよい。空間オミクスは、組織又は細胞、タンパク質、DNA、及び/又はRNAの小分子化合物の検出を含んでもよい。より優先的には、空間オミクスは、タンパク質、DNA、及び/又はRNAに限定される。より優先的には、空間オミクスは、DNA及び/又はRNAに限定される。より優先的には、空間オミクスは、smFISH、インサイチュー配列決定法又は核酸捕捉法に限定される。さらにより優先的には、空間オミクスはsmFISHに限定される。さらにより優先的には、空間オミクスは、任意の種類の逐次的なsmFISHに限定される。
【0042】
特に、空間トランスクリプトミクス検出は、国際公開第2020/254519 A1号、PCT/欧州特許出願公開第2021/066620号又はPCT/欧州特許出願公開第2021/066668号に記載のように前記分析物の連続的なシグナルコーディングによって、病原体含有試料中の異なる分析物を検出するための多重化方法を含む。
【0043】
本開示による表面のマウントされた生体試料を分析/染色するためのさらなる方法は、臨床環境及び分析環境での通常業務になっている生体試料中の少量の分析物の分析及び検出であり得る。この目的のために、FISH、インサイチュー配列決定、生体分子の捕捉を含む方法又はスペクトル法(例えば、質量分析法)などの多数の分析方法が確立されている。これらのうちのいくつかは、特異的な第2の検体に割り当てられたコードとは異なる特異的な特定の可読コードを第1の検体に割り当てるコーディング技術を使用する。
【0044】
この分野における先行技術の1つは、本質的に試料中のmRNA分子を検出するために開発された、いわゆる「単分子蛍光インサイチューハイブリダイゼーション」(smFISH)である。Lubeckら(2014)、逐次ハイブリダイゼーションによる単一細胞インサイチューRNAプロファイリング(Single-cell in situ RNA profiling by sequential hybridization),Nat.Methods 11(4),p.360-361において、目的のmRNAは、特異的な直接標識プローブセットを介して検出される。1ラウンドのハイブリダイゼーション及び検出の後、mRNA特異的プローブのセットをmRNAから溶出させ、他の(又は同じ)蛍光標識を有する同じセットのプローブを次のラウンドのハイブリダイゼーション及びイメージングで使用し、いくつかのラウンドにわたって遺伝子特異的カラーコードスキームを生成する。本技術は、転写物ごとにいくつかの異なるタグ付けされたプローブセットを必要とし、毎回の検出ラウンド後にこれらのプローブセットを変性する必要がある。
【0045】
この技術のさらなる発展型は、直接標識されたプローブセットを使用しない。代わりに、プローブセットのオリゴヌクレオチドは、シグナルの増幅を可能にする技術であるハイブリダイゼーション連鎖反応(HCR)のためのイニシエーターとして機能する核酸配列を提供する。Shahら(2016)、単一細胞のインサイチュー転写プロファイリングはマウス海馬において細胞の空間構成を明らかにする(In situ transcription profiling of single cells reveals spatial organization of cells in the mouse hippocampus,Neuron 92(2),p.342-357を参照されたい。
【0046】
「多重化エラーロバスト蛍光インサイチューハイブリダイゼーション」(merFISH))と呼ばれる別の技術は、Chenら(2015)、RNAイメージング 単一細胞における空間的に分解され高度に多重化されたRNAプロファイリング(RNA imaging.Spatially resolved, highly multiplexed RNA profiling in single cells,Science 348(6233):aaa6090)に記載されている。そこでは、目的のmRNAが、蛍光標識オリゴヌクレオチドのその後の特異的ハイブリダイゼーションのための追加の配列エレメントを提供する特異的プローブセットを介して検出される。各プローブセットは、合計16個の配列エレメントから4つの異なる配列エレメントを提供する。特異的プローブセットを目的のmRNAにハイブリダイズした後、いわゆる読み出しハイブリダイゼーションが行われる。各読み出しハイブリダイゼーションでは、配列エレメントの1つと相補的な16個の蛍光標識オリゴヌクレオチドのうちの1つがハイブリダイズする。全ての読み出しオリゴヌクレオチドは、同じ蛍光色を使用する。イメージング後、蛍光シグナルは、照明により破壊され、次のラウンドの読み出しハイブリダイゼーションが変性工程なしで行われる。その結果、mRNA種ごとにバイナリコードが生成される。16ラウンド中の4つのシグナルの固有のシグナルシグネチャは、目的のmRNAへの特異的プローブセットの結合のための単一のハイブリダイゼーションラウンドのみを使用して作製され、その後、単一蛍光色で標識された読み出しオリゴヌクレオチドの16ラウンドのハイブリダイゼーションが続く。
【0047】
この技術のさらなる発展型は、2つの異なる蛍光色を使用し、読み出しオリゴヌクレオチドと蛍光標識との間のジスルフィド切断及び代替ハイブリダイゼーション緩衝液を介してシグナルを除去することによってスループットを改善する。Moffittら(2016)多重化エラーロバスト蛍光インサイチューハイブリダイゼーションによるハイスループット単一細胞遺伝子発現プロファイリング(High-throughput single-cell gene-expression profiling with multiplexed error-robust fluorescence in situ hybridization),Proc.Natl.Acad.Sci.U S A.113(39),p.11046-11051を参照されたい。
【0048】
「イントロンseqFISH」と呼ばれる技術は、Shahら(2018)、イントロンseqFISHによる初期のトランスクリプトームの動的及び空間ゲノミクス(Dynamics and spatial genomics of the nascent transcriptome by intron seqFISH),Cell 117(2),p.363-376に記載されている。そこでは、目的のmRNAは、蛍光標識オリゴヌクレオチドのその後の特異的ハイブリダイゼーションのための追加の配列エレメントを提供する特異的プローブセットを介して検出される。各プローブセットは、カラーコーディングラウンドごとに12個の可能な配列エレメント(使用される12の「疑似カラー」を表す)のうちの1つを提供する。各カラーコーディングラウンドは、4つの連続ハイブリダイゼーションからなる。これらの連続ハイブリダイゼーションの各々において、それぞれが異なるフルオロフォアで標識された3つの読み出しプローブが、mRNA特異的プローブセットの対応するエレメントにハイブリダイズする。イメージング後、読み出しプローブは55%ホルムアミド緩衝液によって取り除かれ、次のハイブリダイゼーションが続く。4回の連続ハイブリダイゼーションを用いた5回のカラーコーディングラウンド後、カラーコードが完成する。
【0049】
欧州特許第0 611 828号は、シグナル生成エレメントを、分析物に特異的に結合するプローブへと動員するために架橋エレメントの使用を開示している。より具体的なステートメントは、架橋核酸分子を動員する特異的プローブを介した核酸の検出を記載している。この架橋核酸は、最終的にシグナル生成核酸を動員する。この文献はまた、分枝DNAのようなシグナル増幅のためのシグナル生成エレメントのための2以上の結合部位を有する架橋エレメントの使用を記載している。
【0050】
Playerら(2001)、インサイチューハイブリダイゼーションにおける分岐DNA(bDNA)を用いたシングルコピー遺伝子検出(Single-copy gene detection using branched DNA (bDNA)in situ hybridization)、J.Histochem.Cytochem.49(5),p.603-611は、目的の核酸が、追加の配列エレメントを提供する特異的プローブセットを介して検出される方法を記載する。第2の工程では、事前増幅オリゴヌクレオチドをこの配列エレメントにハイブリダイズさせる。この事前増幅オリゴヌクレオチドは、後の工程でハイブリダイズされる増幅オリゴヌクレオチドのための複数の結合部位を含む。これらの増幅オリゴヌクレオチドは、標識されたオリゴヌクレオチドのための複数の配列エレメントを提供する。このようにして、シグナルの増幅をもたらす分枝オリゴヌクレオチドツリーが構築される。
【0051】
Wangら(2012)、RNAスコープ:ホルマリン固定パラフィン包埋組織のための新規インサイチューRNA分析プラットフォーム(RNAscope:a novel in situ RNA analysis platform for formalin-fixed, paraffin-embedded tissues)J.Mol.Diagn.14(1),p.22-29によって記載されると言及されるこの方法のさらなる発展型は、mRNA特異的プローブの別の設計を使用する。ここで、mRNA特異的オリゴヌクレオチドの2つは、事前増幅オリゴヌクレオチドを動員することができる配列を提供するためには、近接してハイブリダイズしなければならない。この方法は、偽陽性シグナルの数を低減させることによって、方法の特異性を高める。
【0052】
Choiら(2010),mRNA発現の多重化イメージングのためのプログラム可能なインサイチュー増幅(Programmable in situ amplification for multiplexed imaging of mRNA expression),Nat.Biotechnol.28(11),p.1208-1212は、「HCR-ハイブリダイゼーション連鎖反応」として知られる方法を開示している。目的のmRNAは、追加の配列エレメントを提供する特異的プローブセットを介して検出される。追加の配列エレメントは、ハイブリダイゼーション連鎖反応を開始するためのイニシエーター配列である。基本的に、ハイブリダイゼーション連鎖反応は、準安定なオリゴヌクレオチドヘアピンに基づき、これは第1のヘアピンがイニシエーター配列を介して開かれた後に、ポリマーへと自己組織化する。
【0053】
本開示によるさらなる分析方法は、多重化インサイチューRNA検出を用いる細胞型を特定するために、以前のscRNA-seq分類を活用する手法であるインサイチュー配列決定(pciSeq)による確率的細胞分類である(Qian,X.,Harris,K.D.,Hauling,T.ら 確率的細胞分類は、密接に関連する細胞型の詳細なマッピングをインサイチューで可能にする(Probabilistic cell typing enables fine mapping of closely related cell types in situ) Nat Methods 17,101-106(2020);Lee,J.,Daugharthy,E.,Scheiman,J.ら 無傷の細胞及び組織における遺伝子発現プロファイリングのためのRNAの蛍光インサイチュー配列決定(Fluorescent in situ sequencing(FISSEQ) of RNA for gene expression profiling in intact cells and tissues)Nat Protoc 10,442-458(2015))。
【0054】
本技術のさらなる発展型は、RNAスコープ技術と同様に、HCRのためのイニシエーター配列を形成するためには近接してハイブリダイズしなければならない、いわゆるスプリットイニシエータープローブを使用し、これは偽陽性シグナルの数を減少させる;Choiら(2018),第3世代インサイチューハイブリダイゼーション連鎖反応:多重化、定量的、高感度、汎用性、堅牢性(Third-generation in situ hybridization chain reaction:multiplexed,quantitative,sensitive,versatile,robust) Development 145(12)を参照されたい。
【0055】
Mateoら(2019)、単一細胞解像度での胚内のDNAフォールディング及びRNAの可視化(Visualizing DNA folding and RNA in embryos at single-cell resolution,Nature 568巻,p.49ff)は、クロマチン構造(ORCA)の光学的再構築と呼ばれる方法を開示している。この方法は、染色体のラインを目に見えるようにすることを意図している。
【0056】
欧州特許第2 992 115 B1号は、連続的な単分子ハイブリダイゼーションの方法について記載しており、連続的なバーコードを介して細胞、組織、臓器又は生物における核酸を検出及び/又は定量化するための技術を提供する。
【0057】
方法及び実施例
1)実験:組織固定の強度
PAXgene(QIAGEN)固定組織(マウスの皮膚、腸、肺、及び腎臓)の16個の切片を2つのガラススライド上に置いた。異なる反応条件で個別に対処できる16個のチャンバーが形成されるように粘着性スライド(ibidi)をスライドガラスに粘着させた。100%イソプロパノール、95%エタノール、70%エタノール、及び平衡緩衝液を使用して、全てのウェルを再水和プロセスによって処理した。10mM DTTの存在下又は非存在下で個々の溶液を個々のウェルに加え、一晩インキュベートした。詳細及び結果については、以下の表1を参照されたい。
【0058】
【0059】
表1に示されるように、DTTによる前処理を使用することによって、組織は、スライドガラスにはるかにより良好に固定化される。DTT前処理をしないと、8個の組織切片のうちの1個が完全に喪失し、8個のうちの3個が剥がれ、顕微鏡検査中にぐらつくことによって、特定領域の焦点が合わない。そのため、8個のうちの4個の試料は完全に固定されない。DTT前処理を行った場合は、8個の試料のいずれも喪失せず、試料のうちの1つのみがぐらつく。
【0060】
2)実験:肺試料のスライドガラスへの固定(CyFaV74)
8個の肺試料(PAX遺伝子固定;Qiagen)をスライドガラス上に固定化した。全ての試料を、再水和、ハイブリダイゼーション、着色及び洗浄工程に関して同じ方法で処理する。試料の一部を、様々な濃度のDTTを含む溶液で、37℃で30分間プレインキュベートする。DTTインキュベーション後、H2O2によって反応を停止させた。詳細及び結果については、以下の表2を参照されたい。
【0061】
【0062】
表2に示すように、DTTによる処理又はDTTとH2O2による組み合わせ処理を伴わない肺試料は喪失した。DTT又は組み合わせDTT/H2O2処理を受けた全ての他の試料を、分析することができた。H2O2による処理は、試料をスライドガラスに固定しなかった。
【0063】
3)実験:DTTの存在下/非存在下での肺試料の固定(CyFaV77)
8個の肺試料(PAX遺伝子固定;Qiagen)を、スクロース及び様々な濃度のDTTを含む溶液で処理した(下記表参照)。その後、試料を切断し、スライドガラス上に固定化した。全ての試料は、再水和、ハイブリダイゼーション、着色及び洗浄工程に関して同じ方法で処理する。試料の一部を、様々な濃度のDTTを含む溶液で、37℃で30分間インキュベートする。インキュベーション後、全ての試料を1%H2O2でインキュベートした。詳細及び結果については、以下の表3を参照されたい。
【0064】
【0065】
表3に示すように、DTT処理なしの肺試料は喪失した。DTT又は組み合わせDTT/H2O2処理を受けた他の試料は、より高い確率で分析することができた。
【0066】
4)実験:smFISH実験の感度はDTT及びH2O2による処理に影響を受けるか(AMV1435)
この実験では、肝臓試料を使用して、smFISH実験において、DTT及びH2O2による処理の有害な効果を試験した。腎臓及び脳試料は、DTT及びH2O2によるいかなる処理も伴わずに、表面に良好に粘着する。この試料を用いて、FISH実験におけるDTT/H2O2処理による有害な効果を調べた。全ての試料を、再水和、ハイブリダイゼーション、着色及び洗浄工程に関して同じ方法で処理する。いくつかのチャンバーで、組み合わせDTT/H2O2処理を行った。チャンバー1~4を対照とした。詳細及び結果については、以下の表4を参照されたい。
【0067】
【0068】
表4に示すように、スポットシグナルの数は、DTT及びH2O2による処理によって有意に影響を受けない。スポットシグナルのわずかな変動は、アッセイに使用される異なる切片及び領域内の生物学的変動に由来する。
【0069】
5)実験:smFISH実験の感度はDTT及びH2O2による処理に影響を受けるか(AMV1435)
この実験では、肝臓試料を使用して、smFISH実験において、DTT及びH2O2による処理の有害な効果を試験した。肝臓試料は、DTT及びH2O2によるいかなる処理も伴わずに、表面に良好に粘着する。この試料を用いて、FISH実験におけるDTT/H2O2処理による有害な効果を調べた。全ての試料を、再水和、ハイブリダイゼーション、着色及び洗浄工程に関して同じ方法で処理する。いくつかのチャンバーで、組み合わせDTT/H2O2処理を行った。チャンバー1~4を対照とした。詳細及び結果については、以下の表5を参照されたい。
【0070】
【0071】
表5に示すように、スポットシグナルの数は、DTT及びH2O2による処理によって有意に低減されない。
【国際調査報告】