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特表2024-537744注射剤の製造方法およびこの方法により得られうる注射剤
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  • 特表-注射剤の製造方法およびこの方法により得られうる注射剤 図1
  • 特表-注射剤の製造方法およびこの方法により得られうる注射剤 図2
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  • 特表-注射剤の製造方法およびこの方法により得られうる注射剤 図9
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-16
(54)【発明の名称】注射剤の製造方法およびこの方法により得られうる注射剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/10 20170101AFI20241008BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20241008BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20241008BHJP
   A61B 17/22 20060101ALN20241008BHJP
【FI】
A61K47/10
A61K9/08
A61K47/22
A61B17/22
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024518749
(86)(22)【出願日】2022-09-15
(85)【翻訳文提出日】2024-05-27
(86)【国際出願番号】 EP2022075705
(87)【国際公開番号】W WO2023046575
(87)【国際公開日】2023-03-30
(31)【優先権主張番号】21198525.4
(32)【優先日】2021-09-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510285610
【氏名又は名称】オヴェスコ エンドスコピー アーゲー
【住所又は居所原語表記】FRIEDRICH-MIESCHER-STRASSE 9, 72076 TUEBINGEN, GERMANY
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ガボール コンラート
(72)【発明者】
【氏名】チ-ンギア ホー
(72)【発明者】
【氏名】マルク オー.シュァー
【テーマコード(参考)】
4C076
4C160
【Fターム(参考)】
4C076AA11
4C076BB11
4C076DD60
4C076DD61
4C076FF53
4C076GG41
4C160EE21
(57)【要約】
【課題】本開示は、粘弾性液であり、第1および第2のポロキサマーと少なくとも1つの他の成分とを含む注射剤の製造方法に関する。
【解決手段】以下の工程が行われる。a)第1のポロキサマーの第1量と、第2のポロキサマーの第2量と、少なくとも1つの他の成分の第3量とを混合することにより、第1の注射剤を混合して、注射剤の所定量を得る。b)所定のせん断速度で、工程a)で得た注射剤の粘度を異なる温度で測定して、現在の温度対粘度曲線を得る。c)現在の温度対粘度曲線の最大粘度が、所定の特定温度範囲(T1-T2)で、所定のせん断速度に応じた所定の最大粘度範囲(V1-V2)にあるかどうか確認する。d)現在の温度対粘度曲線の最大粘度が、所定の特定温度範囲(T1-T2)にあり、所定の最大粘度範囲(V1-V2)にない場合、先に製造された注射剤に基づいて、少なくとも第1のポロキサマーの第1量および/または第2のポロキサマーの第2量が修正された、新しい注射剤を混合する。e)現在の温度対粘度曲線の最大粘度が、所定の特定温度範囲(T1-T2)で、所定の最大粘度範囲(V1-V2)にあると工程c)において判定されるまで、工程b)およびc)と、必要に応じて工程d)とを何度も繰り返す。さらに、本開示は、そのような方法により得られうる注射剤に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘弾性液であり、第1および第2のポロキサマーと少なくとも1つの他の成分とを含む注射剤の製造方法であって、
a)前記第1のポロキサマーの第1量と、前記第2のポロキサマーの第2量と、前記少なくとも1つの他の成分の第3量とを混合することにより、第1の注射剤を混合して、前記第1の注射剤の所定量を得る工程と、
b)所定のせん断速度で、工程a)で得た前記注射剤の粘度を異なる温度で測定して、現在の温度対粘度曲線を得る工程と、
c)前記現在の温度対粘度曲線の最大粘度が、所定の特定温度範囲(T1-T2)にあるかどうか、および前記所定のせん断速度に応じた所定の最大粘度範囲(V1-V2)にあるかどうか確認する工程と、
d)前記現在の温度対粘度曲線の前記最大粘度が、前記所定の特定温度範囲(T1-T2)および前記所定の最大粘度範囲(V1-V2)にない場合は、先に製造された前記注射剤に基づき、少なくとも前記第1のポロキサマーの前記第1量および/または前記第2のポロキサマーの前記第2量が修正された、新しい注射剤を混合する工程と、
e)前記現在の温度対粘度曲線の前記最大粘度が前記所定の特定温度範囲(T1-T2)および前記所定の最大粘度範囲(V1-V2)にあると工程c)において判定されるまで、工程b)およびc)と、必要に応じて工程d)とを何度も繰り返す工程と、
を特徴とする、方法。
【請求項2】
工程b)において、前記注射剤の前記粘度は、20℃~45℃の温度範囲の異なる温度で測定され、
前記所定のせん断速度は約95s-1である、
ことを特徴とする、請求項1に記載の注射剤の製造方法。
【請求項3】
工程d)において、
前記現在の温度対粘度曲線の前記最大粘度が前記所定の特定温度範囲(T1-T2)における前記所定の最大粘度範囲(V1-V2)より低い場合は、前記第1のポロキサマーの前記第1量を増加させるか、または、前記現在の温度対粘度曲線の前記最大粘度が前記所定の特定温度範囲(T1-T2)における前記所定の最大粘度範囲(V1-V2)より高い場合は、前記第1のポロキサマーの前記第1量を減少させ、かつ/または、
前記現在の温度対粘度曲線の前記最大粘度が測定された温度範囲が、前記所定の特定温度範囲(T1-T2)より低い温度にある場合は、前記第2のポロキサマーの前記第2量を増加させるか、または、前記現在の温度対粘度曲線の前記最大粘度が測定された前記温度範囲が、前記所定の特定温度範囲(T1-T2)より高い温度にある場合は、前記第2のポロキサマーの前記第2量を減少させる、
ことを特徴とする、請求項1または2に記載の注射剤の製造方法。
【請求項4】
前記所定の特定温度範囲は、下限温度(T1)36℃および上限温度(T2)38℃、特には37.0℃~37.5℃に画定され、前記所定の最大粘度範囲は、所定のせん断速度約95s-1、特には前記所定のせん断速度95.87s-1における、下限最大粘度(V1)1.8Pa sと上限最大粘度(V2)1.9Pa sとにより画定される、
ことを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の注射剤の製造方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つの他の成分は、特には前記注射剤中において81wt%~85wt%の濃度を有する、水、特には蒸留水であり、前記少なくとも1つの他の成分の量は工程d)に応じて調整される必要がある、
ことを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の注射剤の製造方法。
【請求項6】
工程a)において、前記少なくとも1つの成分に加えて、2つのさらなる成分が前記第1および第2のポロキサマーに混合され、
前記注射剤中の前記2つのさらなる成分のそれぞれの量は、工程d)とは関係なく、変化しないままである、
ことを特徴する、請求項1~5のいずれか一項に記載の注射剤の製造方法。
【請求項7】
前記2つのさらなる成分は、塩化ナトリウムと、特にはメチレンブルー、トルイジンブルー、またはインジゴカルミンである着色剤であり、
前記注射剤中の塩化ナトリウムの濃度は0.9wt%であり、前記注射剤中の前記着色剤の濃度は0.02wt%である、
ことを特徴とする、請求項6に記載の注射剤の製造方法。
【請求項8】
注射剤の混合は、
i)前記注射剤の所定量を決定する工程と、
ii)前記注射剤の前記所定量に基づいて、前記第1のポロキサマーの前記第1量を、前記注射剤中の前記第1のポロキサマーの濃度が14wt%~17wt%となるように、決定および測定する工程と、
iii)前記注射剤中の前記所定量に基づいて、前記第2のポロキサマーの前記第2量を、前記注射剤中の前記第2のポロキサマーの濃度が0.5wt%~1wt%となるように、決定および測定する工程と、
iv)前記注射剤の前記所定量に基づいて、塩化ナトリウムの量を、前記注射剤中の塩化ナトリウムの濃度が0.9wt%となるように、測定する工程と、
v)前記注射剤の前記所定量に基づいて、前記着色剤の量を、前記注射剤中の前記着色剤の濃度が0.02wt%となるように、測定する工程と、
vi)前記第1のポロキサマーの前記第1量と、前記第2のポロキサマーの前記第2量と、塩化ナトリウムの量と、前記着色剤の量との合計を、前記注射剤の前記所定量から減じることにより、水の量を決定および測定する工程と、
vii)工程ii)からvi)に記載された、すべての成分の測定された量を互いに混合する工程と、
と含むことを特徴とする、請求項5または7に記載の注射剤の製造方法。
【請求項9】
前記第1のポロキサマーはKolliphor P407であり、前記第2のポロキサマーはKolliphor P188である、
ことを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の注射剤の製造方法。
【請求項10】
工程c)において、前記現在の温度対粘度曲線が、特には前記所定の特定温度範囲(T1-T2)において、工程b)で用いられた前記所定のせん断速度でともに測定された温度対最小粘度曲線(V_min)と温度対最大粘度曲線(V_max)との間にあるかどうか確認され、
工程d)において、前記現在の温度対粘度曲線が、特には前記所定の特定温度範囲において、前記温度対最小粘度曲線(V_min)と前記温度対最大粘度曲線(V_max)との間にない場合、先に製造された前記注射剤に基づいて、少なくとも前記第1のポロキサマーの前記第1量および/または前記第2のポロキサマーの前記第2量が修正された、新しい注射剤が混合され、
工程e)において、前記現在の温度対粘度曲線の前記最大粘度が前記温度対最小粘度曲線(V_min)と前記温度対最大粘度曲線(V_max)との間にあると工程c)において判定されるまで、工程b)およびc)と、必要に応じて工程d)とが、何度も繰り返される、
ことを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の注射剤の製造方法。
【請求項11】
工程d)において、前記現在の温度対粘度曲線の前記最大粘度が前記温度対最小粘度曲線(V_min)の前記最大粘度を下回る場合は、前記第1のポロキサマーの前記第1量を増加させるか、または、前記現在の温度対粘度曲線の前記最大粘度が前記温度対最大粘度曲線(V_max)の前記最大粘度を上回る場合は、前記第1のポロキサマーの前記第1量を減少させ、かつ/または、
前記現在の温度対粘度曲線の前記最大粘度が測定された温度範囲が、前記温度対最小粘度曲線(V_min)の前記最大粘度が測定された前記温度範囲より低い温度にある場合は、前記第2のポロキサマーの前記第2量を増加させ、または、前記現在の温度対粘度曲線の前記最大粘度が測定された前記温度範囲が、前記温度対最小粘度曲線(V_min)の前記最大粘度が測定された前記温度範囲より高い温度にある場合は、前記第2のポロキサマーの前記第2量を減少させる、
ことを特徴とする、請求項10に記載の注射剤の製造方法。
【請求項12】
前記温度対最小粘度曲線(V_min)および前記温度対最大粘度曲線(V_max)は、以下の表から求められ、値は、せん断速度約95s-1、特にはせん断速度95.87s-1で測定されている、
ことを特徴とする、請求項10または11に記載の注射剤の製造方法。
【表1】
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の方法により得られうる注射剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、注射剤、特には、特許請求項1に記載の内視鏡的粘膜切除術(EMR)および/または内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)に使用可能なリフティング剤(lifting agent)の製造方法に関し、特許請求項12に記載のこの方法によって得られうる注射剤に関する。
【背景技術】
【0002】
消化管内の変形/病変は、胃内視鏡検査および大腸内視鏡検査(内視鏡検査)を経て、取り除くことができる。このようにして大抵の場合、完全侵襲手術は回避可能である。この内視鏡法は、食道、胃、小腸、および大腸の早期発見腫瘍に適用できる。
【0003】
変形/病変の外縁部は、その変形/病変の識別を高めるために凝固マーカーで印がつけられる。その後、通常は生理食塩水とアドレナリンからなる注射剤、特にはリフティング剤が、消化管の変形部位/病変に注入される。変形部位/病変をその下の組織(筋固有層)から適切にリフトオフさせることが、粘膜切除の成功と安全のために満たされる必要のある条件の1つである。
【0004】
[技術的現状]
特許文献1から、内視鏡的切除を行うための低侵襲装置では注射剤として食塩水を用いることが知られている。
【0005】
さらに、特許文献2から、第1の所定温度未満では液体状態にある注射剤が、第2の所定温度に達するとゲル化することが知られている。
【0006】
さらに、特許文献3から、内視鏡的粘膜切除術および/または内視鏡的粘膜下層剥離術に適用され、0.01Pa s~16,000,000Pa sの最大粘度を有する注射剤が知られている。
【0007】
しかし、これらの注射剤では満足のいく手術結果を保証することはできない。特にこれらの注射剤は、変形/病変の、その下の組織からのリフトオフにおいて、成功と安定を確実とすることはできない。
【0008】
このような背景に対し、非特許文献1において、熱可逆特性を備えたハイドロゲルである注射剤が開発されている。満足のいく内視鏡的切除/剥離のためには、注射剤は室温(約20℃)では液体であり、注射剤の粘度は温度が上昇すると高まり、温度がさらに上昇するとゲル化することが必要である。注射剤の最大限のゲル化、よって最大粘度には、体温(約37℃、特には35.7℃~37.7℃、さらに特には36℃~38℃)で到達となる。体温を上回った後、注射剤の粘度は再度低下しなくてはならない。これらの特性を備えた注射剤は、粘膜と筋固有層との間でゲルクッションを形成し、EMR/ESD治療を容易にする。したがってEMR/ESD治療を成功させるためには、注射剤は体温で最大粘度を有しなくてはならない。
【0009】
上記の特性を有する注射剤が、第1および第2のポロキサマーを含む。ポロキサマーは、ポリオキシプロピレン鎖およびポリオキシエチレン鎖を有する、特には、これらからなる合成ブロック共重合体である。ポロキサマーは、温度に依存する特有のゾル-ゲル転移を備えた熱可逆特性を有する。低温(室温付近(約20℃)以下)では、ポロキサマーの鎖が溶解するので、ポロキサマーは液体である。温度の上昇により鎖はミセルを形成するので、ポロキサマーの粘度は高まる。ミセルは、所定の臨界ミセル温度で相互結合し、この温度でポロキサマーがゲルとなるように格子を形成する。所定の臨界ミセル温度を超えると、格子は再びミセルに散逸する。
【0010】
したがって、注射剤中の第1および第2のポロキサマーの割合/濃度が、注射剤の粘度を決定する。注射剤中の第1および第2のポロキサマーのそれぞれが適切な割合/濃度である場合のみ、体温で最大粘度を有する注射剤がもたらされる。
【0011】
しかし、実際には、ある製造単位のポロキサマーの温度対粘度曲線は、別の製造単位の同じポロキサマーの温度対粘度曲線と異なると判明した。このことは、同量の第1および第2のポロキサマーを有する注射剤のサンプルを2つ用いるが、第1および/または第2のポロキサマーが異なる製造単位に由来する場合、一方のサンプルの温度対粘度曲線が、他方のサンプルのものと異なることを意味する。このため、異なる製造単位に由来する第1および第2のポロキサマーからなる複数の注射剤において、同じ濃度の第1および第2のポロキサマーが複数の注射剤すべてに対して用いられたとしても、複数の注射剤で最大粘度は異なる温度に存在し異なる値となる可能性がある。したがって注射剤の品質は一貫しておらず、第1および第2のポロキサマーの用いられた製造単位に依存する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】DE19827255(A1)
【特許文献2】US2006/0070631(A1)
【特許文献3】EP2142112(B1)
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Wedi et al., “Endoscopic submucosal dissection with a novel high viscosity injection solution (LiftUp) in an ex vivo model: a prospective randomized study”, Endosc. Int. Open 2019; 07(05): E641-E646, DOI: 10.1055/a-0874-1844
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
したがって、一貫した品質の注射剤の製造方法、特には、注射剤の製造に用いられる第1および第2のポロキサマーの製造単位に依存しない、体温で最大粘度を有する注射剤の製造方法を提供する必要がある。
【0015】
上記課題は、特許請求項1に記載の注射剤、特にはリフティング剤の製造方法と、請求項12に記載のこの方法によって得られうる注射剤とによって解決することができる。さらに、本開示の有利な実施形態が、従属する特許請求項に記載される。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本開示によると、粘弾性液体であり、第1および第2のポロキサマー(第1および第2のポロキサマーは互いに異なる)と、少なくとも1つの他の成分とを含む内視鏡的切除技術に好ましくは用いられる注射剤、特にはリフティング剤の製造方法は、以下の工程を含む。
a)第1のポロキサマーの第1量と、第2のポロキサマーの第2量と、少なくとも1つの他の成分の第3量とを混合することにより、第1の注射剤を混合して、第1の注射剤の所定量を得る。
b)所定のせん断速度、特には約95s-1(より正確には95.87s-1)で、工程a)で得た注射剤の粘度を、異なる(あらかじめ選択した)温度、特には20℃~45℃の温度範囲で測定して、現在の温度対粘度曲線を得る。
c)現在の温度対粘度曲線の最大粘度が、所定の特定温度範囲、特には36℃~38℃にあるかどうか、および所定のせん断速度に応じた所定の最大粘度範囲にあるかどうかを確認する。
d)現在の温度対粘度曲線の最大粘度が、所定の特定温度範囲および所定の最大粘度範囲にない場合は、先に製造された注射剤に基づき、少なくとも第1のポロキサマーの第1量および/または第2のポロキサマーの第2量が修正された、特には所定量の新しい注射剤を混合する。
e)現在の温度対粘度曲線の最大粘度が所定の特定温度範囲および所定の最大粘度範囲にあると工程c)において判定されるまで、工程b)およびc)と、必要に応じて工程d)とを何度も繰り返す。
【0017】
この方法により、注射剤中の第1および/または第2のポロキサマーの割合/濃度を、ターゲット指向の方法で容易に調整して、内視鏡的切除/剥離の成功に貢献する注射剤を得ることができる。この方法によって、このように製造された注射剤が常に工程c)の条件を満たすように、注射剤中の第1および第2のポロキサマーの濃度は、新しい製造単位ごとに調整される。したがって、工程c)において、現在の温度対粘度曲線の最大粘度が所定の特定温度範囲、特には36℃~38℃に存在し、所定の最大粘度範囲にあると確認できるまで、本開示による方法を実行すれば、EMRおよび/またはESD治療に使用可能な最終的な注射剤を受け取ることができる。
【0018】
一般に、注射剤の粘度は、第1のポロキサマーの第1量と第2のポロキサマーの第2量とに依存する。通常は、第1量と第2量とは異なる。第1量および第2量のそれぞれは、第3量とは異なる。注射剤中のポロキサマーのそれぞれの濃度が高いほど、温度の上昇とともにより多くのミセルが形成され、注射剤の粘度が高くなる。
【0019】
体温での注射剤の粘度は臨界値を下回ってはならないと判明した。臨界粘度値を下回ると、注射剤はゲル化できない。一方、注射剤の最大粘度は経時低下するが、少なくとも2年間は注射剤の機能は保証される必要がある。したがって、たとえ2年保管した後でも、注射剤の完全な機能を保証するために、体温(36℃~38℃)での注射剤の最大粘度は所定の下限最大粘度を下回ってはならない。
【0020】
さらに、注射剤のさらなる要件は、特には直径≧0.58mmの注射針を介して室温および体温で注射可能であることである。したがって、注射剤の最大粘度は所定の上限最大粘度を上回ってはならない。
【0021】
したがって、有利には、工程c)において、注射剤の粘度が所定の特定温度範囲でその最大値に達するかどうかだけでなく、注射剤の最大粘度が所定の特定温度(典型的には体温)で所定の最大粘度範囲にあるかどうかが確認される。
【0022】
工程d)では、有利にも、工程c)の確認の結果に基づいて、第1および/または第2のポロキサマーの量が確実に調整される。このようにして、工程c)で規定された所望の特性を備えた最終的な注射剤を迅速かつ容易に得ることができる。
【0023】
好ましくは、工程a)における注射剤の混合は、クリーンルームエリアで行われ、特にはクリーンベンチクラスAにおいて行われる。このようにして注射剤の汚染を防止することができる。
【0024】
有利な実施形態において、現在の温度対粘度曲線の最大粘度が所定の特定温度範囲における(存在すべき)所定の最大粘度範囲より低い場合は、第1のポロキサマーの第1量を増加させる。二者択一的に、現在の温度対粘度曲線の最大粘度が所定の特定温度範囲における(存在すべき)所定の最大粘度範囲より高い場合は、第1のポロキサマーの第1量を減少させる。最初の2つの選択肢に加えて、または二者択一的に、現在の温度対粘度曲線の最大粘度が測定された温度範囲が、所定の特定温度範囲より低い温度にある場合は、第2のポロキサマーの第2量を増加させる。二者択一的に、現在の温度対粘度曲線の最大粘度が測定された温度範囲が、所定の特定温度範囲より高い温度にある場合は、第2のポロキサマーの第2量を減少させる。
【0025】
要約すると、工程c)の結果に基づいて、第1のポロキサマーの第1量および/または第2のポロキサマーの第2量を調整することができる。したがって、工程c)の結果に基づいて、注射剤の組成物を容易に、工程c)で規定された所望の特性を備えた最終的な注射剤を迅速に得ることができるターゲット指向の方法で修正することができる。
【0026】
好ましい実施形態において、所定の特定温度範囲は、下限温度36℃および上限温度38℃(35.7℃~37.7℃)、特には37.0℃~37.5℃に画定され、所定の最大粘度範囲は、せん断速度約95s-1(より正確には95.87s-1)における、下限最大粘度1.8Pa sと上限最大粘度1.9Pa sとにより画定される。
【0027】
せん断速度95s-1(より正確には95.87s-1)が、直径0.7mmの注射針による注射剤の注入をシミュレートしている。2年間の保管後であっても注射剤がゲル化できるように、体温での下限最大粘度は1.8Pa sを下回ってはならないと判明した。さらには、体温での最大粘度が1.9Pa sを上回らない場合は、注射剤は、直径≧0.58mmの注射針で注射可能である。
【0028】
少なくとも1つの他の成分は、特には注射剤中において81wt%~85wt%の濃度を有する、水、特には蒸留水、より好ましくは再蒸留水であり、少なくとも1つの他の成分の量は工程d)に応じて調整される必要があると、さらに考えられる。
【0029】
したがって、第1および第2のポロキサマーの総量を、工程d)において特定量だけ増加させた場合、水は特定量だけ減少させる必要があり、その逆も同じである。
【0030】
他の実施形態において、工程a)において、少なくとも1つの成分に加えて、2つのさらなる成分が第1および第2のポロキサマーに混合され、注射剤中の当該2つのさらなる成分のそれぞれの量は、工程d)とは関係なく、変化しないままである。
【0031】
したがって、第1および第2のポロキサマーの総量が工程d)で修正されたにどうかには関係なく、2つのさらなる成分のそれぞれの量は、常に同じままである。
【0032】
好ましくは、2つのさらなる成分は、塩化ナトリウムと、特にはメチレンブルー、トルイジンブルー、またはインジゴカルミンである着色剤であり、注射剤中の塩化ナトリウムの濃度は0.9wt%であり、注射剤中の着色剤の濃度は0.02wt%である。
【0033】
したがって、本開示による方法により製造される注射剤は、第1のポロキサマーと、第2のポロキサマーと、水と、塩化ナトリウム(NaCl)と、着色剤との組成物である。
【0034】
本開示の好ましい実施形態において、注射剤の混合は以下の工程を含む。
i)注射剤の所定量を決定する。
ii)注射剤の所定量に基づいて、第1のポロキサマーの第1量を、注射剤中の当該第1のポロキサマーの濃度が14wt%~17wt%、特には14.9wt%~15.6wt%となるように、決定および測定する。
iii)注射剤の所定量に基づいて、第2のポロキサマーの第2量を、注射剤中の当該第2のポロキサマーの濃度が0.5wt%~1wt%、特には0.5wt%~0.6wt%となるように、決定および測定する。
iv)注射剤の所定量に基づいて、塩化ナトリウムの量を、注射剤中の当該塩化ナトリウムの濃度が0.9wt%となるように測定する。
v)注射剤の所定量に基づいて、着色剤の量を、注射剤中の当該着色剤の濃度が0.02wt%となるように、測定する。
vi)第1のポロキサマーの第1量と、第2のポロキサマーの第2量と、塩化ナトリウムの量と、着色剤の量との合計を、注射剤の所定量から減じることにより、水の(第3)量を決定および測定する。
vii)工程ii)からvi)に記載された、すべての成分の測定された量を互いに混合する。
【0035】
工程i)からvii)すべてを実行後、注射剤を得ることができる。この注射剤の混合方法は、容易かつ迅速に実行される。工程vi)は、水の量は、第1のポロキサマーの所定の第1量および第2のポロキサマーの所定の第2量に依存するということを強調している。
【0036】
第1のポロキサマーはKolliphor P407であり、第2のポロキサマーはKolliphor P188であることが好ましい。
【0037】
Kolliphor P407とKolliphor P188の両方は、ろう状の粘度を有する(白色の)粗粒粉末である。Kolliphor P407のpH値は6~9であり、Kolliphor P188のpH値は5~7.5である。両方のポロキサマーは水に溶けやすい。
【0038】
当該方法の有利な実施形態において、上記方法の工程c)において、現在の温度対粘度曲線が、特には所定の特定温度範囲において、工程b)で用いられた所定のせん断速度でともに測定された温度対最小粘度曲線と温度対最大粘度曲線との間にあるかどうか確認され、
工程d)において、現在の温度対粘度曲線が、特には所定の特定温度範囲において、温度対最小粘度曲線と温度対最大粘度曲線との間にない場合、先に製造された注射剤に基づいて、少なくとも第1のポロキサマーの第1量および/または第2のポロキサマーの第2量が修正された、新しい注射剤が混合され、
工程e)において、現在の温度対粘度曲線の最大粘度が温度対最小粘度曲線と温度対最大粘度曲線との間にあると工程c)において判定されるまで、工程b)およびc)と、必要に応じて工程d)とが、何度も繰り返される。
【0039】
したがって、有利な実施形態において、EMRおよび/またはESDに使用可能な最終的な注射剤を得るために、現在の温度対粘度曲線の最大粘度が、所定の最大粘度範囲および所定の特定温度範囲にあるだけでなく、現在の温度対粘度曲線全体が、温度対最小粘度曲線と温度対最大粘度曲線との間にある必要がある。したがって、注射剤の現在の温度対粘度曲線が、温度対最小粘度曲線と温度対最大粘度曲線との間にあるとき、注射剤は、直径≧0.58mmの注射針で、室温および体温で確実に注入可能である。さらに、この条件を満たす注射剤は扱いやすく、EMRおよび/またはESDで使用するのに必要な特性を有する。
【0040】
好ましくは、当該方法の有利な実施形態において、工程d)において、現在の温度対粘度曲線の最大粘度が温度対最小粘度曲線の最大粘度を下回る場合は、第1のポロキサマーの第1量を増加させる。二者択一的に、現在の温度対粘度曲線の最大粘度が温度対最大粘度曲線の最大粘度を上回る場合は、第1のポロキサマーの第1量を減少させる。最初の2つの選択肢に加え、または二者択一的に、現在の温度対粘度曲線の最大粘度が測定された温度範囲が、温度対最小粘度曲線の最大粘度が測定された温度範囲より低い温度にある場合は、第2のポロキサマーの第2量を増加させる。二者択一的に、現在の温度対粘度曲線の最大粘度が測定された温度範囲が、温度対最小粘度曲線の最大粘度が測定された温度範囲より高い温度にある場合は、第2のポロキサマーの第2量を減少させる。
【0041】
さらに好ましい実施形態によると、温度対最小粘度曲線および温度対最大粘度曲線は、以下の表1から求められ、値は、せん断速度95s-1(より正確には95.87s-1)で測定されている。
【0042】
【表1】
【0043】
さらに、上述した課題は、上記方法によって得られうる注射剤によって解決される。そのような注射剤は、EMRおよび/またはESDの成功を確実に支援することができる。
【0044】
本開示とその好ましい実施形態について、添付の図面を用いて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1図1は、本開示による方法を模式的に示すフロー図である。
図2図2は、現在の温度対粘度曲線の最大粘度が所定の最大粘度範囲を上回っている、温度対粘度の図表を示す。
図3図3は、現在の温度対粘度曲線の最大粘度が所定の最大粘度範囲を下回っている、温度対粘度の図表を示す。
図4図4は、現在の温度対粘度曲線の最大粘度が測定された温度範囲が、所定の特定温度範囲より高い温度にある、温度対粘度の図表を示す。
図5図5は、現在の温度対粘度曲線の最大粘度が測定された温度範囲が、所定の特定温度範囲より低い温度にある、温度対粘度の図表を示す。
図6図6は、現在の温度対粘度曲線が所定の最大粘度範囲および所定の特定温度範囲にある、温度対粘度の図表を示す。
図7図7は、温度対最大粘度曲線と温度対最小粘度曲線とが示された温度対粘度の図表を示す。
図8図8は、温度対最大粘度曲線と、現在の温度対粘度曲線と、温度対最小粘度曲線とが示された温度対粘度の図表を示す。
図9図9は、ポロキサマーのミセル構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
図1は、本開示による方法を模式的に示すフロー図である。注射剤を製造するために、まずは、本開示による方法の工程a)が実行される。したがって、まずは、第1の注射剤が混合される。それゆえに好ましくは、上述の工程i)からvii)が実行される。したがって、注射剤の所定量すなわち200gが工程i)に従い決定される。その後、工程ii)に従い第1のポロキサマーの第1量が決定され、注射剤中の当該第1のポロキサマーの濃度は14wt%から17wt%である。例えばここで、第1のポロキサマーの濃度15wt%を選択する場合は、第1のポロキサマーが30g(=0.15×200g)測定/秤量されることを意味する。その後、工程iii)に従い第2のポロキサマーの第2量が決定され、注射剤中の当該第2のポロキサマーの濃度は0.5wt%~1wt%である。例えばここで、第2のポロキサマーの濃度0.5wt%を選択する場合は、第2のポロキサマーが1g(=0.005×200g)測定/秤量されることを意味する。その後、工程iv)に従い注射剤中の濃度が0.9wt%となる塩化ナトリウムの量が測定/秤量され、これは1.8g(=0.009×200g)となる。その後、工程v)に従い注射剤中の濃度が0.02wt%となる着色剤、通常はメチレンブルー、の量が測定/秤量され、これは0.04g(=0.0002×200g)となる。最後に、工程vi)に従い、第1のポロキサマーの量、第2のポロキサマーの量、塩化ナトリウムの量、および着色剤の量のそれぞれの合計を注射剤の所定量から減じることによって、水の量が決定され、測定/秤量され、これは167.16g(=200g-(30g+1g+1.8g+0.04g)となる。その後、5つすべての成分(第1のポロキサマー、第2のポロキサマー、塩化ナトリウム、着色剤、水)の測定/秤量された量すべてが混合され、200gの第1の注射剤を得る。当然、工程ii)からv)は、任意の所望の順序で実行してもよい。
【0047】
次いで、第1の注射剤の粘度は、本開示による方法の工程b)に記載のように測定することができる。したがって、レオメータが使用可能である。レオメータにより、20℃~45℃のあらかじめ選択した温度で、ここではせん断速度95s-1(より正確には95.87s-1)で注射剤の粘度が測定され、これは、直径0.7mmの注射針を介した注射剤の注入をシミュレートしている。一般に、粘度測定は、任意のせん断速度で行うことができるものである。この場合、下限最大粘度および上限最大粘度の絶対値は、それぞれ1.8Pa sおよび1.9Pa sとは異なる。しかし、異なる温度対粘度曲線を互いに比較する場合は、同じせん断速度を用いる必要がある。測定温度ごとに、注射剤は、あらかじめ選択した時間単位、通常は5分間練られ、それにより、注射剤の全体積に亘って温度が均一になることが保証される。レオメータの測定結果から、現在の注射剤の温度対粘度曲線が得られる。異なる注射剤の現在の温度対粘度曲線の例が、図2から図6と、図8にある。
【0048】
次いで、工程c)において、注射剤の現在の温度対粘度曲線の最大粘度が、所定の特定温度範囲と所定の最大粘度範囲とによって画定されているターゲット領域にあるかどうかが確認される。現在の温度対粘度曲線の最大粘度が所定の特定温度範囲および所定の最大粘度範囲にある(肯定結果:YES)と確認できる場合は、図1のRYが適用され、最終的な注射剤FIAが得られ、方法は終了となる。工程c)において、現在の温度対粘度曲線の最大粘度が所定の特定温度範囲および所定の最大粘度範囲にない(否定結果:NO)と確認される場合は、図1のRNが適用され、方法は工程d)へと進む。工程d)において、好ましくは工程i)からvii)を実行することにより新しい注射剤が混合され、第1のポロキサマーの第1量および/または第2のポロキサマーの第2量が、第1の注射剤と比較して修正される。これは、第1の注射剤の最大粘度がターゲット領域からどのように逸脱しているかに依存する。注射剤の最大粘度がターゲット領域から逸脱している例を、後述する図2から図5に示す。
【0049】
次いで、工程e)に従い、現在の注射剤の最大粘度がターゲット領域にあると工程c)において判定されるまで、工程b)およびc)と、必要に応じて工程d)とを、再度何度も実行する必要がある。その後、RYが適用され、最終的な注射剤FIAが得られ、方法は終了となる。
【0050】
好ましくは、最終的な注射剤は一次包装に充填される。したがって、まずは、最終的な注射剤を担持するのに適したバイアルと、セプタムと、フリップオフキャップとからなる一次包装は、有効な蒸気減菌サイクルにより120℃の減菌温度で40分間減菌された後、20分間乾燥される。その後、注射剤が製造され、上記方法を利用した最終的な注射剤が完成する。その後、最終的な注射剤は、減菌された一次包装の減菌されたバイアルに充填される。最終的な注射剤を含むバイアルは閉じられた後、有効な蒸気減菌サイクルにより132℃の減菌温度で20分間減菌され、その後1分間乾燥される。
【0051】
ここで、図2から図5の例により、工程c)において結果RNを生じる場合について説明する。図2から図5に示すすべての曲線は、せん断速度95s-1(より正確には95.87s-1)で測定されている。本開示に示すすべての温度対粘度は、レオメータ(Viscotester iQ, ThermoFisher Scientific)を用いて測定されている。レオメータでのテストは、カップとシリンダーの組み合わせを用いて行われている。
【0052】
図2は、本開示による方法の工程b)で得られた注射剤Aの、例示的な現在の温度対粘度の曲線を含む温度対粘度の図表を示す。さらに、図2並びに図3から図6において、1.9Pa sとされた上限最大粘度V2と、1.8Pa sとされた下限最大粘度V1とが、本開示による方法の工程c)に記載された所定の最大粘度範囲を画定する。図2並びに図3から図6において、36℃である下限温度T1と、38℃である上限温度T2とが、本開示による方法の工程c)に記載された所定の特定温度範囲を画定し、これは体温範囲である。注射剤の最大粘度は、温度範囲T1~T2で検出されなくてはならない。これは、T1(36℃)~T2(38℃)の所定の特定温度範囲において注射剤の最大粘度は、下限最大粘度V1(1.8Pa s)を下回らず、上限最大粘度V2(1.9Pa s)を上回らないことを意味する。
【0053】
本開示による方法の工程c)に記載のように、図2に示す注射剤Aの現在の温度対粘度曲線の最大粘度が、温度範囲T1~T2および所定の最大粘度範囲V1~V2にあるかどうか確認する必要がある。
【0054】
実際、注射剤Aの最大粘度はT1~T2で測定されうる。しかし、温度範囲T1~T2では、注射剤Aの最大粘度は2.15Pa s~2.2Pa sである。したがって、注射剤Aの最大粘度は上限最大粘度V2を上回っている。
【0055】
このため、図2の場合、工程d)に従い、新しい注射剤を混合する必要がある。したがって、工程i)からvii)を再度実行する必要がある。注射剤Aの最大粘度が上限最大粘度V2を上回るので、注射剤Aと比較して、用いる第1のポロキサマーは少なくする必要がある。例えば、注射剤Aを混合するために30gの第1のポロキサマーを用いた場合、新しい注射剤に用いるべき第1のポロキサマーは25gのみである。この場合、注射剤Aと比較して、第2のポロキサマー、塩化ナトリウム、および着色剤の量は同じままであるが、新しい注射剤には5g多い水を用いる必要がある。その後、工程e)に従い、工程b)およびc)を実行する必要がある。工程c)において、新しい注射剤の最大粘度が温度範囲T1~T2にあり、下限最大粘度V1を下回らず上限最大粘度V2を上回らないと確認できる場合、最終的な注射剤を受け取り、方法を終了することができる。工程c)において、新しい注射剤の最大粘度が所定の特定温度範囲T1~T2にあるが、所定の最大粘度範囲V1~V2にないと判定された場合、別の新しく混合した注射剤の最大粘度が所定の特定温度範囲T1~T2および所定の最大粘度範囲V1~V2にあると工程c)において判定できるまで、工程d)および工程b)、c)と、必要に応じて工程d)とを何度も繰り返す必要がある。
【0056】
図3は、本開示による方法の工程b)で得られた注射剤Bの例示的な現在の温度対粘度の曲線を含む温度対粘度の図表を示す。注射剤Bの最大粘度は、所定の特定温度範囲T1~T2にあるが、下限最大粘度V1を下回っている。したがって、工程d)において、新しい注射剤を混合する場合、注射剤Bと比較して、第2のポロキサマー、塩化ナトリウム、および着色剤のそれぞれの量は同じままであるが、用いる第1のポロキサマーは多くする必要がある。新しい注射剤は、第1のポロキサマーの第1量を増加させた量だけ、水の量を減少させる必要がある。
【0057】
図4は、本開示による方法の工程b)で得られた注射剤Cの例示的な現在の温度対粘度の曲線を含む温度対粘度の図表を示す。注射剤Cの最大粘度は、上限最大粘度V2に等しいが、39℃、よって、所定の特定温度範囲T1~T2より高い(T2より高い)温度で測定される。このため、注射剤Cの最大粘度は、所定の特定温度範囲T1~T2より高い温度にあるが、所定の最大粘度範囲V1~V2にある。したがって、工程d)において、新しい注射剤を混合する場合、注射剤Cと比較して、第1のポロキサマー、塩化ナトリウム、および着色剤のそれぞれの量は同じままであるが、用いる第2のポロキサマーは少なくする必要がある。新しい注射剤は、第2のポロキサマーの第2量を減少させた量だけ、水の量を増加する必要がある。
【0058】
図5は、本開示による方法の工程b)で得られた注射剤Dの例示的な現在の温度対粘度の曲線を含む温度対粘度の図表を示す。注射剤Dの最大粘度は、上限最大粘度V2に等しいが、33℃、よって、所定の特定温度範囲T1~T2より低い(T1より低い)温度で測定される。このため、注射剤Dの最大粘度は、所定の特定温度範囲T1~T2より低い温度にあるが、所定の最大粘度範囲V1~V2にある。したがって、工程d)において、新しい注射剤を混合する場合、注射剤Dと比較して、第1のポロキサマー、塩化ナトリウム、および着色剤のそれぞれの量は同じままであるが、用いる第2のポロキサマーは多くする必要がある。新しい注射剤は、第2のポロキサマーの第2量を増加させた量だけ、水の量を減少させる必要がある。
【0059】
当然、図2または図3の場合と、図4または図5の場合とが混在することも可能であり得る。例えば、現在の注射剤の現在の温度対粘度曲線の最大粘度は、(図2にあるように)上限最大粘度より高く、(図4にあるように)上限温度より高い温度にある。この場合、第1のポロキサマーの第1量と第2のポロキサマーの第2量の両方を減少させる必要があるであろう。例えば、現在の注射剤の現在の温度対粘度曲線の最大粘度が(図2にあるように)上限最大粘度より高く、(図5にあるように)下限温度より低い温度にある場合、第2のポロキサマーの第2量を増加させる一方で、第1のポロキサマーの第1量は減少させる必要がある。
【0060】
図6は、本開示による方法の工程b)で得られた注射剤Eの例示的な現在の温度対粘度の曲線を含む温度対粘度の図表を示す。注射剤Eの現在の温度対粘度曲線は、せん断速度95s-1(より正確には95.87s-1)で得られた。注射剤Eの最大粘度は、36℃~38℃、よって、所定の特定温度範囲T1~T2にあり、下限最大粘度V1と上限最大粘度V2との間の値1.85Pa sである。このため、注射剤Eの最大粘度は、所定の特定温度範囲T1~T2にあり、所定の最大粘度範囲V1~V2にある。したがって、注射剤Eは、最終的な注射剤であり、EMRおよび/またはESD治療に使用可能である。
【0061】
図7は、表1に記載の温度対最大粘度曲線V_maxおよび温度対最小粘度曲線V_minをグラフで示した温度対粘度の図表を示す。これらの曲線においては、せん断速度95s-1(より正確には95.87s-1)が適用されている。現在の温度対粘度曲線(ここには図示なし)は、修正後の工程c)の条件を満たすよう、温度対最大粘度曲線V_maxと温度対最小粘度曲線V_minとの間になくてはならない。図7より、約37℃では、注射剤の粘度が1.8Pa sを下回ってはならず、1.9Pa sを上回ってはならないことが明確である。
【0062】
図8は、現在の温度対粘度の曲線Fが、温度対最大粘度曲線V_maxと温度対最小粘度曲線V_minとの間(または、温度対最大粘度曲線V_maxまたは温度対最小粘度曲線V_min)にある、温度対粘度の図表を示す。これらの曲線においては、せん断速度95s-1(より正確には95.87s-1)が適用されている。したがって、注射剤Fは、修正後の工程c)の条件を満たすので、EMRおよび/またはESD治療に使用可能な最終的な注射剤である。
【0063】
図9は、ポロキサマーのミセル構造を示す模式図である。状態Gにおいて、ポロキサマーは、ポリオキシプロピレン鎖1およびポリオキシエチレン鎖2を含む。状態Gにおいて、温度は約20℃またはそれ以下である。したがって、状態Gにおいて、ポロキサマーは液体状態である。状態Gから温度が上昇すると、鎖1,2はミセル3を形成し始める。これを状態Hに示す。状態Hにおいて、ミセル3の他に、少数の単鎖1,2がまだ存在している。したがって、状態Hにおいて、ポロキサマーの粘度は、状態Gと比較して高くなっている。状態Hから温度が上昇すると、ミセル3は格子4を形成する。これを状態Iに示す。状態Iにおいて、ポロキサマーはゲルの形状を有する。したがって、状態Iにおいて、ポロキサマーは最大粘度に達している。状態Iから温度がさらに上昇した場合(図示なし)、格子4は再びミセル3に崩壊する。したがって状態Iから温度が上昇すると、ポロキサマーの粘度は再度低下する。
【符号の説明】
【0064】
1 ポリオキシプロピレン鎖
2 ポリオキシエチレン鎖
3 ミセル
4 格子
A~F 異なる注射剤
G ポロキサマーの液体状態
H 状態Gと比較して高い粘度を有するポロキサマーの状態
I ポロキサマーのゲル状態
RN 工程c)において結果NO
RY 工程c)において結果YES
FIA 最終的な注射剤
T1 下限温度
T2 上限温度
V1 下限最大粘度
V2 上限最大粘度
V_min 温度対最小粘度曲線
V_max 温度対最大粘度曲線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2024-06-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、注射剤、特には、特許請求項1に記載の内視鏡的粘膜切除術(EMR)および/または内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)に使用可能なリフティング剤(lifting agent)の製造方法に関し、特許請求項1に記載のこの方法によって得られうる注射剤に関する。
【背景技術】
【0002】
消化管内の変形/病変は、胃内視鏡検査および大腸内視鏡検査(内視鏡検査)を経て、取り除くことができる。このようにして大抵の場合、完全侵襲手術は回避可能である。この内視鏡法は、食道、胃、小腸、および大腸の早期発見腫瘍に適用できる。
【0003】
変形/病変の外縁部は、その変形/病変の識別を高めるために凝固マーカーで印がつけられる。その後、通常は生理食塩水とアドレナリンからなる注射剤、特にはリフティング剤が、消化管の変形部位/病変に注入される。変形部位/病変をその下の組織(筋固有層)から適切にリフトオフさせることが、粘膜切除の成功と安全のために満たされる必要のある条件の1つである。
【0004】
[技術的現状]
特許文献1から、内視鏡的切除を行うための低侵襲装置では注射剤として食塩水を用いることが知られている。
【0005】
さらに、特許文献2から、第1の所定温度未満では液体状態にある注射剤が、第2の所定温度に達するとゲル化することが知られている。
【0006】
さらに、特許文献3から、内視鏡的粘膜切除術および/または内視鏡的粘膜下層剥離術に適用され、0.01Pa s~16,000,000Pa sの最大粘度を有する注射剤が知られている。
さらに、特許文献4は、少なくとも1つのポロキサマーと、水を含むさらなる成分とを含む医薬を開示している。この医薬組成物は、第1および第2のポロキサマーを含んでなることができる。異なる医薬組成物が記載されているが、各々は1つのポロキサマーのみからなる。この文脈において、医薬組成物を形成する個々の成分が互いに混合されることも記載されている。さらに、異なる医薬組成物の粘度が、異なる温度で互いに比較される。粘度対温度の曲線が得られる。
さらに、特許文献5は、精製された逆感熱性ポリマーを含む組成物を開示している。このポリマーはLeGoo Endo(商標)であり、ポロキサマー(P-237)を含む20~25%水溶液である。LeGoo Endoの粘度-温度挙動は、別のポロキサマー(P-407)を含む20%水溶液の粘度-温度挙動と比較される。
特許文献6は、第1のポロキサマー(P-407)、第2のポロキサマー(P-188)および水の混合物であることができるハイドロダイセクション材料を開示している。一般に、18~30センチストークスの動粘度がハイドロダイセクション材料について報告されており、これは0.018Pa・s~0.03Pa・sの動的粘度に相当する。
特許文献7には、ポロキサマー(P-407)または様々なポロキサマー(P-188を含む)を含む骨接着剤組成物が開示されている。
【0007】
しかし、上記のような注射剤では満足のいく手術結果を保証することはできない。特にこれらの注射剤は、変形/病変の、その下の組織からのリフトオフにおいて、成功と安定を確実とすることはできない。
【0008】
このような背景に対し、非特許文献1において、熱可逆特性を備えたハイドロゲルである注射剤が開発されている。満足のいく内視鏡的切除/剥離のためには、注射剤は室温(約20℃)では液体であり、注射剤の粘度は温度が上昇すると高まり、温度がさらに上昇するとゲル化することが必要である。注射剤の最大限のゲル化、よって最大粘度には、体温(約37℃、特には35.7℃~37.7℃、さらに特には36℃~38℃)で到達となる。体温を上回った後、注射剤の粘度は再度低下しなくてはならない。これらの特性を備えた注射剤は、粘膜と筋固有層との間でゲルクッションを形成し、EMR/ESD治療を容易にする。したがってEMR/ESD治療を成功させるためには、注射剤は体温で最大粘度を有しなくてはならない。
【0009】
上記の特性を有する注射剤が、第1および第2のポロキサマーを含む。ポロキサマーは、ポリオキシプロピレン鎖およびポリオキシエチレン鎖を有する、特には、これらからなる合成ブロック共重合体である。ポロキサマーは、温度に依存する特有のゾル-ゲル転移を備えた熱可逆特性を有する。低温(室温付近(約20℃)以下)では、ポロキサマーの鎖が溶解するので、ポロキサマーは液体である。温度の上昇により鎖はミセルを形成するので、ポロキサマーの粘度は高まる。ミセルは、所定の臨界ミセル温度で相互結合し、この温度でポロキサマーがゲルとなるように格子を形成する。所定の臨界ミセル温度を超えると、格子は再びミセルに散逸する。
【0010】
したがって、注射剤中の第1および第2のポロキサマーの割合/濃度が、注射剤の粘度を決定する。注射剤中の第1および第2のポロキサマーのそれぞれが適切な割合/濃度である場合のみ、体温で最大粘度を有する注射剤がもたらされる。
【0011】
しかし、実際には、ある製造単位のポロキサマーの温度対粘度曲線は、別の製造単位の同じポロキサマーの温度対粘度曲線と異なると判明した。このことは、同量の第1および第2のポロキサマーを有する注射剤のサンプルを2つ用いるが、第1および/または第2のポロキサマーが異なる製造単位に由来する場合、一方のサンプルの温度対粘度曲線が、他方のサンプルのものと異なることを意味する。このため、異なる製造単位に由来する第1および第2のポロキサマーからなる複数の注射剤において、同じ濃度の第1および第2のポロキサマーが複数の注射剤すべてに対して用いられたとしても、複数の注射剤で最大粘度は異なる温度に存在し異なる値となる可能性がある。したがって注射剤の品質は一貫しておらず、第1および第2のポロキサマーの用いられた製造単位に依存する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】DE19827255(A1)
【特許文献2】US2006/0070631(A1)
【特許文献3】EP2142112(B1)
【特許文献4】US 2015/141526( A1)
【特許文献5】WO 2009/070793(A1)
【特許文献6】US 2013/096552(A1)
【特許文献7】US 2006/110357(A1)
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Wedi et al., “Endoscopic submucosal dissection with a novel high viscosity injection solution (LiftUp) in an ex vivo model: a prospective randomized study”, Endosc. Int. Open 2019; 07(05): E641-E646, DOI: 10.1055/a-0874-1844
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
したがって、一貫した品質の注射剤の製造方法、特には、注射剤の製造に用いられる第1および第2のポロキサマーの製造単位に依存しない、体温で最大粘度を有する注射剤の製造方法を提供する必要がある。
【0015】
上記課題は、特許請求項1に記載の注射剤、特にはリフティング剤の製造方法と、請求項1に記載のこの方法によって得られうる注射剤とによって解決することができる。さらに、本開示の有利な実施形態が、従属する特許請求項に記載される。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本開示によると、粘弾性液体であり、第1および第2のポロキサマー(第1および第2のポロキサマーは互いに異なる)と、少なくとも1つの他の成分とを含む内視鏡的切除技術に好ましくは用いられる注射剤、特にはリフティング剤の製造方法は、以下の工程を含む。
a)第1のポロキサマーの第1量と、第2のポロキサマーの第2量と、少なくとも1つの他の成分の第3量とを混合することにより、第1の注射剤を混合して、第1の注射剤の所定量を得る。
b)所定のせん断速度95s-1(より正確には95.87s-1)で、工程a)で得た注射剤の粘度を、異なる(あらかじめ選択した)温度、0℃~45℃の温度範囲で測定して、現在の温度対粘度曲線を得る。
c)現在の温度対粘度曲線の最大粘度が、下限温度(T1)が36℃、上限温度(T2)が38℃の所定の特定温度範囲にあるかどうか、および所定のせん断速度に応じて、下限最大粘度(V1)が1.8Pa・s、上限最大粘度(V2)が1.9Pa・sの所定の最大粘度範囲にあるかどうかを確認する。
d)現在の温度対粘度曲線の最大粘度が、所定の特定温度範囲および所定の最大粘度範囲にない場合は、先に製造された注射剤に基づき、少なくとも第1のポロキサマーの第1量および/または第2のポロキサマーの第2量が修正された、特には所定量の新しい注射剤を混合する。ここで、現在の温度対粘度曲線の最大粘度が所定の特定温度範囲における所定の最大粘度範囲より低い場合は、第1のポロキサマーの第1量を増加させるか、または、現在の温度対粘度曲線の最大粘度が所定の特定温度範囲における所定の最大粘度範囲より高い場合は、第1のポロキサマーの第1量を減少させ、かつ/または、現在の温度対粘度曲線の最大粘度が測定された温度範囲が、所定の特定温度範囲より低い温度にある場合は、第2のポロキサマーの第2量を増加させるか、または、現在の温度対粘度曲線の最大粘度が測定された温度範囲が、所定の特定温度範囲より高い温度にある場合は、第2のポロキサマーの第2量を減少させる。
e)現在の温度対粘度曲線の最大粘度が所定の特定温度範囲および所定の最大粘度範囲にあると工程c)において判定されるまで、工程b)およびc)と、必要に応じて工程d)とを何度も繰り返す。
【0017】
この方法により、注射剤中の第1および/または第2のポロキサマーの割合/濃度を、ターゲット指向の方法で容易に調整して、内視鏡的切除/剥離の成功に貢献する注射剤を得ることができる。この方法によって、このように製造された注射剤が常に工程c)の条件を満たすように、注射剤中の第1および第2のポロキサマーの濃度は、新しい製造単位ごとに調整される。したがって、工程c)において、現在の温度対粘度曲線の最大粘度が所定の特定温度範囲、特には36℃~38℃に存在し、所定の最大粘度範囲にあると確認できるまで、本開示による方法を実行すれば、EMRおよび/またはESD治療に使用可能な最終的な注射剤を受け取ることができる。
【0018】
一般に、注射剤の粘度は、第1のポロキサマーの第1量と第2のポロキサマーの第2量とに依存する。通常は、第1量と第2量とは異なる。第1量および第2量のそれぞれは、第3量とは異なる。注射剤中のポロキサマーのそれぞれの濃度が高いほど、温度の上昇とともにより多くのミセルが形成され、注射剤の粘度が高くなる。
【0019】
体温での注射剤の粘度は臨界値を下回ってはならないと判明した。臨界粘度値を下回ると、注射剤はゲル化できない。一方、注射剤の最大粘度は経時低下するが、少なくとも2年間は注射剤の機能は保証される必要がある。したがって、たとえ2年保管した後でも、注射剤の完全な機能を保証するために、体温(36℃~38℃)での注射剤の最大粘度は所定の下限最大粘度を下回ってはならない。
【0020】
さらに、注射剤のさらなる要件は、特には直径≧0.58mmの注射針を介して室温および体温で注射可能であることである。したがって、注射剤の最大粘度は所定の上限最大粘度を上回ってはならない。
【0021】
したがって、有利には、工程c)において、注射剤の粘度が所定の特定温度範囲でその最大値に達するかどうかだけでなく、注射剤の最大粘度が所定の特定温度(典型的には体温)で所定の最大粘度範囲にあるかどうかが確認される。
【0022】
工程d)では、有利にも、工程c)の確認の結果に基づいて、第1および/または第2のポロキサマーの量が確実に調整される。このようにして、工程c)で規定された所望の特性を備えた最終的な注射剤を迅速かつ容易に得ることができる。
【0023】
好ましくは、工程a)における注射剤の混合は、クリーンルームエリアで行われ、特にはクリーンベンチクラスAにおいて行われる。このようにして注射剤の汚染を防止することができる。
【0024】
開示によれば、現在の温度対粘度曲線の最大粘度が所定の特定温度範囲における(存在すべき)所定の最大粘度範囲より低い場合は、第1のポロキサマーの第1量を増加させる。二者択一的に、現在の温度対粘度曲線の最大粘度が所定の特定温度範囲における(存在すべき)所定の最大粘度範囲より高い場合は、第1のポロキサマーの第1量を減少させる。最初の2つの選択肢に加えて、または二者択一的に、現在の温度対粘度曲線の最大粘度が測定された温度範囲が、所定の特定温度範囲より低い温度にある場合は、第2のポロキサマーの第2量を増加させる。二者択一的に、現在の温度対粘度曲線の最大粘度が測定された温度範囲が、所定の特定温度範囲より高い温度にある場合は、第2のポロキサマーの第2量を減少させる。
【0025】
要約すると、工程c)の結果に基づいて、第1のポロキサマーの第1量および/または第2のポロキサマーの第2量を調整することができる。したがって、工程c)の結果に基づいて、注射剤の組成物を容易に、工程c)で規定された所望の特性を備えた最終的な注射剤を迅速に得ることができるターゲット指向の方法で修正することができる。
【0026】
開示によれば、所定の特定温度範囲は、下限温度36℃および上限温度38℃(35.7℃~37.7℃)、特には37.0℃~37.5℃に画定され、所定の最大粘度範囲は、せん断速度約95s-1(より正確には95.87s-1)における、下限最大粘度1.8Pa sと上限最大粘度1.9Pa sとにより画定される。
【0027】
せん断速度95s-1(より正確には95.87s-1)が、直径0.7mmの注射針による注射剤の注入をシミュレートしている。2年間の保管後であっても注射剤がゲル化できるように、体温での下限最大粘度は1.8Pa sを下回ってはならないと判明した。さらには、体温での最大粘度が1.9Pa sを上回らない場合は、注射剤は、直径≧0.58mmの注射針で注射可能である。
【0028】
少なくとも1つの他の成分は、特には注射剤中において81wt%~85wt%の濃度を有する、水、特には蒸留水、より好ましくは再蒸留水であり、少なくとも1つの他の成分の量は工程d)に応じて調整される必要があると、さらに考えられる。
【0029】
したがって、第1および第2のポロキサマーの総量を、工程d)において特定量だけ増加させた場合、水は特定量だけ減少させる必要があり、その逆も同じである。
【0030】
他の実施形態において、工程a)において、少なくとも1つの成分に加えて、2つのさらなる成分が第1および第2のポロキサマーに混合され、注射剤中の当該2つのさらなる成分のそれぞれの量は、工程d)とは関係なく、変化しないままである。
【0031】
したがって、第1および第2のポロキサマーの総量が工程d)で修正されたにどうかには関係なく、2つのさらなる成分のそれぞれの量は、常に同じままである。
【0032】
好ましくは、2つのさらなる成分は、塩化ナトリウムと、特にはメチレンブルー、トルイジンブルー、またはインジゴカルミンである着色剤であり、注射剤中の塩化ナトリウムの濃度は0.9wt%であり、注射剤中の着色剤の濃度は0.02wt%である。
【0033】
したがって、本開示による方法により製造される注射剤は、第1のポロキサマーと、第2のポロキサマーと、水と、塩化ナトリウム(NaCl)と、着色剤との組成物である。
【0034】
本開示の好ましい実施形態において、注射剤の混合は以下の工程を含む。
i)注射剤の所定量を決定する。
ii)注射剤の所定量に基づいて、第1のポロキサマーの第1量を、注射剤中の当該第1のポロキサマーの濃度が14wt%~17wt%、特には14.9wt%~15.6wt%となるように、決定および測定する。
iii)注射剤の所定量に基づいて、第2のポロキサマーの第2量を、注射剤中の当該第2のポロキサマーの濃度が0.5wt%~1wt%、特には0.5wt%~0.6wt%となるように、決定および測定する。
iv)注射剤の所定量に基づいて、塩化ナトリウムの量を、注射剤中の当該塩化ナトリウムの濃度が0.9wt%となるように測定する。
v)注射剤の所定量に基づいて、着色剤の量を、注射剤中の当該着色剤の濃度が0.02wt%となるように、測定する。
vi)第1のポロキサマーの第1量と、第2のポロキサマーの第2量と、塩化ナトリウムの量と、着色剤の量との合計を、注射剤の所定量から減じることにより、水の(第3)量を決定および測定する。
vii)工程ii)からvi)に記載された、すべての成分の測定された量を互いに混合する。
【0035】
工程i)からvii)すべてを実行後、注射剤を得ることができる。この注射剤の混合方法は、容易かつ迅速に実行される。工程vi)は、水の量は、第1のポロキサマーの所定の第1量および第2のポロキサマーの所定の第2量に依存するということを強調している。
【0036】
第1のポロキサマーはKolliphor P407であり、第2のポロキサマーはKolliphor P188であることが好ましい。
【0037】
Kolliphor P407とKolliphor P188の両方は、ろう状の粘度を有する(白色の)粗粒粉末である。Kolliphor P407のpH値は6~9であり、Kolliphor P188のpH値は5~7.5である。両方のポロキサマーは水に溶けやすい。
【0038】
当該方法の有利な実施形態において、上記方法の工程c)において、現在の温度対粘度曲線が、特には所定の特定温度範囲において、工程b)で用いられた所定のせん断速度でともに測定された温度対最小粘度曲線と温度対最大粘度曲線との間にあるかどうか確認され、
工程d)において、現在の温度対粘度曲線が、特には所定の特定温度範囲において、温度対最小粘度曲線と温度対最大粘度曲線との間にない場合、先に製造された注射剤に基づいて、少なくとも第1のポロキサマーの第1量および/または第2のポロキサマーの第2量が修正された、新しい注射剤が混合され、
工程e)において、現在の温度対粘度曲線の最大粘度が温度対最小粘度曲線と温度対最大粘度曲線との間にあると工程c)において判定されるまで、工程b)およびc)と、必要に応じて工程d)とが、何度も繰り返される。
【0039】
したがって、有利な実施形態において、EMRおよび/またはESDに使用可能な最終的な注射剤を得るために、現在の温度対粘度曲線の最大粘度が、所定の最大粘度範囲および所定の特定温度範囲にあるだけでなく、現在の温度対粘度曲線全体が、温度対最小粘度曲線と温度対最大粘度曲線との間にある必要がある。したがって、注射剤の現在の温度対粘度曲線が、温度対最小粘度曲線と温度対最大粘度曲線との間にあるとき、注射剤は、直径≧0.58mmの注射針で、室温および体温で確実に注入可能である。さらに、この条件を満たす注射剤は扱いやすく、EMRおよび/またはESDで使用するのに必要な特性を有する。
【0040】
好ましくは、当該方法の有利な実施形態において、工程d)において、現在の温度対粘度曲線の最大粘度が温度対最小粘度曲線の最大粘度を下回る場合は、第1のポロキサマーの第1量を増加させる。二者択一的に、現在の温度対粘度曲線の最大粘度が温度対最大粘度曲線の最大粘度を上回る場合は、第1のポロキサマーの第1量を減少させる。最初の2つの選択肢に加え、または二者択一的に、現在の温度対粘度曲線の最大粘度が測定された温度範囲が、温度対最小粘度曲線の最大粘度が測定された温度範囲より低い温度にある場合は、第2のポロキサマーの第2量を増加させる。二者択一的に、現在の温度対粘度曲線の最大粘度が測定された温度範囲が、温度対最小粘度曲線の最大粘度が測定された温度範囲より高い温度にある場合は、第2のポロキサマーの第2量を減少させる。
【0041】
さらに好ましい実施形態によると、温度対最小粘度曲線および温度対最大粘度曲線は、以下の表1から求められ、値は、せん断速度95s-1(より正確には95.87s-1)で測定されている。
【0042】
【表1】
【0043】
さらに、上述した課題は、上記方法によって得られうる注射剤によって解決される。そのような注射剤は、EMRおよび/またはESDの成功を確実に支援することができる。
【0044】
本開示とその好ましい実施形態について、添付の図面を用いて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1図1は、本開示による方法を模式的に示すフロー図である。
図2図2は、現在の温度対粘度曲線の最大粘度が所定の最大粘度範囲を上回っている、温度対粘度の図表を示す。
図3図3は、現在の温度対粘度曲線の最大粘度が所定の最大粘度範囲を下回っている、温度対粘度の図表を示す。
図4図4は、現在の温度対粘度曲線の最大粘度が測定された温度範囲が、所定の特定温度範囲より高い温度にある、温度対粘度の図表を示す。
図5図5は、現在の温度対粘度曲線の最大粘度が測定された温度範囲が、所定の特定温度範囲より低い温度にある、温度対粘度の図表を示す。
図6図6は、現在の温度対粘度曲線が所定の最大粘度範囲および所定の特定温度範囲にある、温度対粘度の図表を示す。
図7図7は、温度対最大粘度曲線と温度対最小粘度曲線とが示された温度対粘度の図表を示す。
図8図8は、温度対最大粘度曲線と、現在の温度対粘度曲線と、温度対最小粘度曲線とが示された温度対粘度の図表を示す。
図9図9は、ポロキサマーのミセル構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
図1は、本開示による方法を模式的に示すフロー図である。注射剤を製造するために、まずは、本開示による方法の工程a)が実行される。したがって、まずは、第1の注射剤が混合される。それゆえに好ましくは、上述の工程i)からvii)が実行される。したがって、注射剤の所定量すなわち200gが工程i)に従い決定される。その後、工程ii)に従い第1のポロキサマーの第1量が決定され、注射剤中の当該第1のポロキサマーの濃度は14wt%から17wt%である。例えばここで、第1のポロキサマーの濃度15wt%を選択する場合は、第1のポロキサマーが30g(=0.15×200g)測定/秤量されることを意味する。その後、工程iii)に従い第2のポロキサマーの第2量が決定され、注射剤中の当該第2のポロキサマーの濃度は0.5wt%~1wt%である。例えばここで、第2のポロキサマーの濃度0.5wt%を選択する場合は、第2のポロキサマーが1g(=0.005×200g)測定/秤量されることを意味する。その後、工程iv)に従い注射剤中の濃度が0.9wt%となる塩化ナトリウムの量が測定/秤量され、これは1.8g(=0.009×200g)となる。その後、工程v)に従い注射剤中の濃度が0.02wt%となる着色剤、通常はメチレンブルー、の量が測定/秤量され、これは0.04g(=0.0002×200g)となる。最後に、工程vi)に従い、第1のポロキサマーの量、第2のポロキサマーの量、塩化ナトリウムの量、および着色剤の量のそれぞれの合計を注射剤の所定量から減じることによって、水の量が決定され、測定/秤量され、これは167.16g(=200g-(30g+1g+1.8g+0.04g)となる。その後、5つすべての成分(第1のポロキサマー、第2のポロキサマー、塩化ナトリウム、着色剤、水)の測定/秤量された量すべてが混合され、200gの第1の注射剤を得る。当然、工程ii)からv)は、任意の所望の順序で実行してもよい。
【0047】
次いで、第1の注射剤の粘度は、本開示による方法の工程b)に記載のように測定することができる。したがって、レオメータが使用可能である。レオメータにより、20℃~45℃のあらかじめ選択した温度で、ここではせん断速度95s-1(より正確には95.87s-1)で注射剤の粘度が測定され、これは、直径0.7mmの注射針を介した注射剤の注入をシミュレートしている。一般に、粘度測定は、任意のせん断速度で行うことができるものである。この場合、下限最大粘度および上限最大粘度の絶対値は、それぞれ1.8Pa sおよび1.9Pa sとは異なる。しかし、異なる温度対粘度曲線を互いに比較する場合は、同じせん断速度を用いる必要がある。測定温度ごとに、注射剤は、あらかじめ選択した時間単位、通常は5分間練られ、それにより、注射剤の全体積に亘って温度が均一になることが保証される。レオメータの測定結果から、現在の注射剤の温度対粘度曲線が得られる。異なる注射剤の現在の温度対粘度曲線の例が、図2から図6と、図8にある。
【0048】
次いで、工程c)において、注射剤の現在の温度対粘度曲線の最大粘度が、所定の特定温度範囲と所定の最大粘度範囲とによって画定されているターゲット領域にあるかどうかが確認される。現在の温度対粘度曲線の最大粘度が所定の特定温度範囲および所定の最大粘度範囲にある(肯定結果:YES)と確認できる場合は、図1のRYが適用され、最終的な注射剤FIAが得られ、方法は終了となる。工程c)において、現在の温度対粘度曲線の最大粘度が所定の特定温度範囲および所定の最大粘度範囲にない(否定結果:NO)と確認される場合は、図1のRNが適用され、方法は工程d)へと進む。工程d)において、好ましくは工程i)からvii)を実行することにより新しい注射剤が混合され、第1のポロキサマーの第1量および/または第2のポロキサマーの第2量が、第1の注射剤と比較して修正される。これは、第1の注射剤の最大粘度がターゲット領域からどのように逸脱しているかに依存する。注射剤の最大粘度がターゲット領域から逸脱している例を、後述する図2から図5に示す。
【0049】
次いで、工程e)に従い、現在の注射剤の最大粘度がターゲット領域にあると工程c)において判定されるまで、工程b)およびc)と、必要に応じて工程d)とを、再度何度も実行する必要がある。その後、RYが適用され、最終的な注射剤FIAが得られ、方法は終了となる。
【0050】
好ましくは、最終的な注射剤は一次包装に充填される。したがって、まずは、最終的な注射剤を担持するのに適したバイアルと、セプタムと、フリップオフキャップとからなる一次包装は、有効な蒸気減菌サイクルにより120℃の減菌温度で40分間減菌された後、20分間乾燥される。その後、注射剤が製造され、上記方法を利用した最終的な注射剤が完成する。その後、最終的な注射剤は、減菌された一次包装の減菌されたバイアルに充填される。最終的な注射剤を含むバイアルは閉じられた後、有効な蒸気減菌サイクルにより132℃の減菌温度で20分間減菌され、その後1分間乾燥される。
【0051】
ここで、図2から図5の例により、工程c)において結果RNを生じる場合について説明する。図2から図5に示すすべての曲線は、せん断速度95s-1(より正確には95.87s-1)で測定されている。本開示に示すすべての温度対粘度は、レオメータ(Viscotester iQ, ThermoFisher Scientific)を用いて測定されている。レオメータでのテストは、カップとシリンダーの組み合わせを用いて行われている。
【0052】
図2は、本開示による方法の工程b)で得られた注射剤Aの、例示的な現在の温度対粘度の曲線を含む温度対粘度の図表を示す。さらに、図2並びに図3から図6において、1.9Pa sとされた上限最大粘度V2と、1.8Pa sとされた下限最大粘度V1とが、本開示による方法の工程c)に記載された所定の最大粘度範囲を画定する。図2並びに図3から図6において、36℃である下限温度T1と、38℃である上限温度T2とが、本開示による方法の工程c)に記載された所定の特定温度範囲を画定し、これは体温範囲である。注射剤の最大粘度は、温度範囲T1~T2で検出されなくてはならない。これは、T1(36℃)~T2(38℃)の所定の特定温度範囲において注射剤の最大粘度は、下限最大粘度V1(1.8Pa s)を下回らず、上限最大粘度V2(1.9Pa s)を上回らないことを意味する。
【0053】
本開示による方法の工程c)に記載のように、図2に示す注射剤Aの現在の温度対粘度曲線の最大粘度が、温度範囲T1~T2および所定の最大粘度範囲V1~V2にあるかどうか確認する必要がある。
【0054】
実際、注射剤Aの最大粘度はT1~T2で測定されうる。しかし、温度範囲T1~T2では、注射剤Aの最大粘度は2.15Pa s~2.2Pa sである。したがって、注射剤Aの最大粘度は上限最大粘度V2を上回っている。
【0055】
このため、図2の場合、工程d)に従い、新しい注射剤を混合する必要がある。したがって、工程i)からvii)を再度実行する必要がある。注射剤Aの最大粘度が上限最大粘度V2を上回るので、注射剤Aと比較して、用いる第1のポロキサマーは少なくする必要がある。例えば、注射剤Aを混合するために30gの第1のポロキサマーを用いた場合、新しい注射剤に用いるべき第1のポロキサマーは25gのみである。この場合、注射剤Aと比較して、第2のポロキサマー、塩化ナトリウム、および着色剤の量は同じままであるが、新しい注射剤には5g多い水を用いる必要がある。その後、工程e)に従い、工程b)およびc)を実行する必要がある。工程c)において、新しい注射剤の最大粘度が温度範囲T1~T2にあり、下限最大粘度V1を下回らず上限最大粘度V2を上回らないと確認できる場合、最終的な注射剤を受け取り、方法を終了することができる。工程c)において、新しい注射剤の最大粘度が所定の特定温度範囲T1~T2にあるが、所定の最大粘度範囲V1~V2にないと判定された場合、別の新しく混合した注射剤の最大粘度が所定の特定温度範囲T1~T2および所定の最大粘度範囲V1~V2にあると工程c)において判定できるまで、工程d)および工程b)、c)と、必要に応じて工程d)とを何度も繰り返す必要がある。
【0056】
図3は、本開示による方法の工程b)で得られた注射剤Bの例示的な現在の温度対粘度の曲線を含む温度対粘度の図表を示す。注射剤Bの最大粘度は、所定の特定温度範囲T1~T2にあるが、下限最大粘度V1を下回っている。したがって、工程d)において、新しい注射剤を混合する場合、注射剤Bと比較して、第2のポロキサマー、塩化ナトリウム、および着色剤のそれぞれの量は同じままであるが、用いる第1のポロキサマーは多くする必要がある。新しい注射剤は、第1のポロキサマーの第1量を増加させた量だけ、水の量を減少させる必要がある。
【0057】
図4は、本開示による方法の工程b)で得られた注射剤Cの例示的な現在の温度対粘度の曲線を含む温度対粘度の図表を示す。注射剤Cの最大粘度は、上限最大粘度V2に等しいが、39℃、よって、所定の特定温度範囲T1~T2より高い(T2より高い)温度で測定される。このため、注射剤Cの最大粘度は、所定の特定温度範囲T1~T2より高い温度にあるが、所定の最大粘度範囲V1~V2にある。したがって、工程d)において、新しい注射剤を混合する場合、注射剤Cと比較して、第1のポロキサマー、塩化ナトリウム、および着色剤のそれぞれの量は同じままであるが、用いる第2のポロキサマーは少なくする必要がある。新しい注射剤は、第2のポロキサマーの第2量を減少させた量だけ、水の量を増加する必要がある。
【0058】
図5は、本開示による方法の工程b)で得られた注射剤Dの例示的な現在の温度対粘度の曲線を含む温度対粘度の図表を示す。注射剤Dの最大粘度は、上限最大粘度V2に等しいが、33℃、よって、所定の特定温度範囲T1~T2より低い(T1より低い)温度で測定される。このため、注射剤Dの最大粘度は、所定の特定温度範囲T1~T2より低い温度にあるが、所定の最大粘度範囲V1~V2にある。したがって、工程d)において、新しい注射剤を混合する場合、注射剤Dと比較して、第1のポロキサマー、塩化ナトリウム、および着色剤のそれぞれの量は同じままであるが、用いる第2のポロキサマーは多くする必要がある。新しい注射剤は、第2のポロキサマーの第2量を増加させた量だけ、水の量を減少させる必要がある。
【0059】
当然、図2または図3の場合と、図4または図5の場合とが混在することも可能であり得る。例えば、現在の注射剤の現在の温度対粘度曲線の最大粘度は、(図2にあるように)上限最大粘度より高く、(図4にあるように)上限温度より高い温度にある。この場合、第1のポロキサマーの第1量と第2のポロキサマーの第2量の両方を減少させる必要があるであろう。例えば、現在の注射剤の現在の温度対粘度曲線の最大粘度が(図2にあるように)上限最大粘度より高く、(図5にあるように)下限温度より低い温度にある場合、第2のポロキサマーの第2量を増加させる一方で、第1のポロキサマーの第1量は減少させる必要がある。
【0060】
図6は、本開示による方法の工程b)で得られた注射剤Eの例示的な現在の温度対粘度の曲線を含む温度対粘度の図表を示す。注射剤Eの現在の温度対粘度曲線は、せん断速度95s-1(より正確には95.87s-1)で得られた。注射剤Eの最大粘度は、36℃~38℃、よって、所定の特定温度範囲T1~T2にあり、下限最大粘度V1と上限最大粘度V2との間の値1.85Pa sである。このため、注射剤Eの最大粘度は、所定の特定温度範囲T1~T2にあり、所定の最大粘度範囲V1~V2にある。したがって、注射剤Eは、最終的な注射剤であり、EMRおよび/またはESD治療に使用可能である。
【0061】
図7は、表1に記載の温度対最大粘度曲線V_maxおよび温度対最小粘度曲線V_minをグラフで示した温度対粘度の図表を示す。これらの曲線においては、せん断速度95s-1(より正確には95.87s-1)が適用されている。現在の温度対粘度曲線(ここには図示なし)は、修正後の工程c)の条件を満たすよう、温度対最大粘度曲線V_maxと温度対最小粘度曲線V_minとの間になくてはならない。図7より、約37℃では、注射剤の粘度が1.8Pa sを下回ってはならず、1.9Pa sを上回ってはならないことが明確である。
【0062】
図8は、現在の温度対粘度の曲線Fが、温度対最大粘度曲線V_maxと温度対最小粘度曲線V_minとの間(または、温度対最大粘度曲線V_maxまたは温度対最小粘度曲線V_min)にある、温度対粘度の図表を示す。これらの曲線においては、せん断速度95s-1(より正確には95.87s-1)が適用されている。したがって、注射剤Fは、修正後の工程c)の条件を満たすので、EMRおよび/またはESD治療に使用可能な最終的な注射剤である。
【0063】
図9は、ポロキサマーのミセル構造を示す模式図である。状態Gにおいて、ポロキサマーは、ポリオキシプロピレン鎖1およびポリオキシエチレン鎖2を含む。状態Gにおいて、温度は約20℃またはそれ以下である。したがって、状態Gにおいて、ポロキサマーは液体状態である。状態Gから温度が上昇すると、鎖1,2はミセル3を形成し始める。これを状態Hに示す。状態Hにおいて、ミセル3の他に、少数の単鎖1,2がまだ存在している。したがって、状態Hにおいて、ポロキサマーの粘度は、状態Gと比較して高くなっている。状態Hから温度が上昇すると、ミセル3は格子4を形成する。これを状態Iに示す。状態Iにおいて、ポロキサマーはゲルの形状を有する。したがって、状態Iにおいて、ポロキサマーは最大粘度に達している。状態Iから温度がさらに上昇した場合(図示なし)、格子4は再びミセル3に崩壊する。したがって状態Iから温度が上昇すると、ポロキサマーの粘度は再度低下する。
【符号の説明】
【0064】
1 ポリオキシプロピレン鎖
2 ポリオキシエチレン鎖
3 ミセル
4 格子
A~F 異なる注射剤
G ポロキサマーの液体状態
H 状態Gと比較して高い粘度を有するポロキサマーの状態
I ポロキサマーのゲル状態
RN 工程c)において結果NO
RY 工程c)において結果YES
FIA 最終的な注射剤
T1 下限温度
T2 上限温度
V1 下限最大粘度
V2 上限最大粘度
V_min 温度対最小粘度曲線
V_max 温度対最大粘度曲線
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘弾性液であり、第1および第2のポロキサマーと少なくとも1つの他の成分とを含む注射剤の製造方法であって、
a)前記第1のポロキサマーの第1量と、前記第2のポロキサマーの第2量と、前記少なくとも1つの他の成分の第3量とを混合することにより、第1の注射剤を混合して、前記第1の注射剤の所定量を得る工程と、
b)95s -1 近傍の所定のせん断速度で、工程a)で得た前記注射剤の粘度を20℃から45℃の間の温度範囲における異なる温度で測定して、現在の温度対粘度曲線を得る工程と、
c)前記現在の温度対粘度曲線の最大粘度が、下限温度36℃と上限温度38℃で定義される所定の特定温度範囲にあるかどうか、および前記所定のせん断速度に応じた、下限最大粘度1.8Pa・sと上限最大粘度1.9Pa・sで定義される所定の最大粘度範囲にあるかどうか確認する工程と、
d)前記現在の温度対粘度曲線の前記最大粘度が、前記所定の特定温度範囲および前記所定の最大粘度範囲にない場合は、先に製造された前記注射剤に基づき、少なくとも前記第1のポロキサマーの前記第1量および/または前記第2のポロキサマーの前記第2量が修正された、新しい注射剤を混合する工程と(前記現在の温度対粘度曲線の前記最大粘度が前記所定の特定温度範囲における前記所定の最大粘度範囲より低い場合は、前記第1のポロキサマーの前記第1量を増加させるか、または、前記現在の温度対粘度曲線の前記最大粘度が前記所定の特定温度範囲における前記所定の最大粘度範囲より高い場合は、前記第1のポロキサマーの前記第1量を減少させ、かつ/または、前記現在の温度対粘度曲線の前記最大粘度が測定された温度範囲が、前記所定の特定温度範囲より低い温度にある場合は、前記第2のポロキサマーの前記第2量を増加させるか、または、前記現在の温度対粘度曲線の前記最大粘度が測定された前記温度範囲が、前記所定の特定温度範囲より高い温度にある場合は、前記第2のポロキサマーの前記第2量を減少させる。)
e)前記現在の温度対粘度曲線の前記最大粘度が前記所定の特定温度範囲および前記所定の最大粘度範囲にあると工程c)において判定されるまで、工程b)およびc)と、必要に応じて工程d)とを何度も繰り返す工程と、
を特徴とする、方法。
【請求項2】
前記所定の特定温度範囲は、下限温度37.0℃および上限温度37.5℃にて画定され、前記所定の最大粘度範囲は、記所定のせん断速度95.87s-1において画定される、
ことを特徴とする、請求項に記載の注射剤の製造方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つの他の成分の量は工程d)に応じて調整される必要がある、
ことを特徴とする、請求項1に記載の注射剤の製造方法。
【請求項4】
工程a)において、前記少なくとも1つの成分に加えて、2つのさらなる成分が前記第1および第2のポロキサマーに混合され、
前記注射剤中の前記2つのさらなる成分のそれぞれの量は、工程d)とは関係なく、変化しないままである、
ことを特徴する、請求項1に記載の注射剤の製造方法。
【請求項5】
前記2つのさらなる成分は、塩化ナトリウムと、着色剤であり、
前記注射剤中の塩化ナトリウムの濃度は0.9wt%であり、前記注射剤中の前記着色剤の濃度は0.02wt%である、
ことを特徴とする、請求項に記載の注射剤の製造方法。
【請求項6】
注射剤の混合は、
i)前記注射剤の所定量を決定する工程と、
ii)前記注射剤の前記所定量に基づいて、前記第1のポロキサマーの前記第1量を、前記注射剤中の前記第1のポロキサマーの濃度が14wt%~17wt%となるように、決定および測定する工程と、
iii)前記注射剤中の前記所定量に基づいて、前記第2のポロキサマーの前記第2量を、前記注射剤中の前記第2のポロキサマーの濃度が0.5wt%~1wt%となるように、決定および測定する工程と、
iv)前記注射剤の前記所定量に基づいて、塩化ナトリウムの量を、前記注射剤中の塩化ナトリウムの濃度が0.9wt%となるように、測定する工程と、
v)前記注射剤の前記所定量に基づいて、前記着色剤の量を、前記注射剤中の前記着色剤の濃度が0.02wt%となるように、測定する工程と、
vi)前記第1のポロキサマーの前記第1量と、前記第2のポロキサマーの前記第2量と、塩化ナトリウムの量と、前記着色剤の量との合計を、前記注射剤の前記所定量から減じることにより、水の量を決定および測定する工程と、
vii)工程ii)からvi)に記載された、すべての成分の測定された量を互いに混合する工程と、
と含むことを特徴とする、請求項またはに記載の注射剤の製造方法。
【請求項7】
前記第1のポロキサマーはKolliphor P407であり、前記第2のポロキサマーはKolliphor P188である、
ことを特徴とする、請求項に記載の注射剤の製造方法。
【請求項8】
工程c)において、前記現在の温度対粘度曲線が、工程b)で用いられた前記所定のせん断速度でともに測定された温度対最小粘度曲線と温度対最大粘度曲線との間にあるかどうか確認され、
工程d)において、前記現在の温度対粘度曲線が、前記温度対最小粘度曲線と前記温度対最大粘度曲線との間にない場合、先に製造された前記注射剤に基づいて、少なくとも前記第1のポロキサマーの前記第1量および/または前記第2のポロキサマーの前記第2量が修正された、新しい注射剤が混合され、
工程e)において、前記現在の温度対粘度曲線の前記最大粘度が前記温度対最小粘度曲線と前記温度対最大粘度曲線との間にあると工程c)において判定されるまで、工程b)およびc)と、必要に応じて工程d)とが、何度も繰り返される、
ことを特徴とする、請求項1に記載の注射剤の製造方法。
【請求項9】
工程d)において、前記現在の温度対粘度曲線の前記最大粘度が前記温度対最小粘度曲線の前記最大粘度を下回る場合は、前記第1のポロキサマーの前記第1量を増加させるか、または、前記現在の温度対粘度曲線の前記最大粘度が前記温度対最大粘度曲線の前記最大粘度を上回る場合は、前記第1のポロキサマーの前記第1量を減少させ、かつ/または、
前記現在の温度対粘度曲線の前記最大粘度が測定された温度範囲が、前記温度対最小粘度曲線の前記最大粘度が測定された前記温度範囲より低い温度にある場合は、前記第2のポロキサマーの前記第2量を増加させ、または、前記現在の温度対粘度曲線の前記最大粘度が測定された前記温度範囲が、前記温度対最小粘度曲線の前記最大粘度が測定された前記温度範囲より高い温度にある場合は、前記第2のポロキサマーの前記第2量を減少させる、
ことを特徴とする、請求項8に記載の注射剤の製造方法。
【請求項10】
前記温度対最小粘度曲線および前記温度対最大粘度曲線は、以下の表から求められ、値は、せん断速度約95s 測定されている、
ことを特徴とする、請求項に記載の注射剤の製造方法。
【表1】
【請求項11】
請求項10に記載の方法により得られうる注射剤。
【請求項12】
前記少なくとも1つの他の成分は、蒸留水である、
請求項1に記載の注射剤の製造方法。
【請求項13】
前記少なくとも1つの他の成分は、前記注射剤中において81wt%~85wt%の濃度を有する、
請求項1に記載の注射剤の製造方法。
【請求項14】
前記着色剤は、メチレンブルー、トルイジンブルー、またはインジゴカルミンである
請求項5に記載の注射剤の製造方法。
【請求項15】
工程c)において、現在の粘度対温度曲線が前記所定の特定温度範囲内にあり、かつ工程b)で使用された前記所定のせん断速度で決定された最小粘度対温度曲線と最大粘度対温度曲線との間にあるかどうかが検証される、
請求項8に記載の注射剤の製造方法。
【請求項16】
工程d)において、前記現在の温度対粘度曲線が、前記温度対最小粘度曲線と前記温度対最大粘度曲線との間にない場合、先に製造された前記注射剤に基づいて、少なくとも前記第1のポロキサマーの前記第1量および/または前記第2のポロキサマーの前記第2量が修正された、新しい注射剤が混合される、
請求項1に記載の注射剤の製造方法。
【請求項17】
前記所定のせん断速度が95.87s -1 において画定される、
請求項1に記載の注射剤の製造方法。
【国際調査報告】