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特表2024-537792抗原ワクチン接種のための非免疫原性RNAおよびPD-1軸結合アンタゴニストを含む処置
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  • 特表-抗原ワクチン接種のための非免疫原性RNAおよびPD-1軸結合アンタゴニストを含む処置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-16
(54)【発明の名称】抗原ワクチン接種のための非免疫原性RNAおよびPD-1軸結合アンタゴニストを含む処置
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/00 20060101AFI20241008BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20241008BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20241008BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20241008BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20241008BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241008BHJP
   A61K 31/7115 20060101ALI20241008BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20241008BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241008BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20241008BHJP
   C07K 16/28 20060101ALN20241008BHJP
   C07K 14/82 20060101ALN20241008BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20241008BHJP
【FI】
A61K39/00 H ZNA
A61K31/7105
A61K48/00
A61K45/00
A61P37/04
A61P35/00
A61K31/7115
A61K39/395 U
A61P43/00 121
C12N15/13
C07K16/28
C07K14/82
C12N15/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024519520
(86)(22)【出願日】2022-09-29
(85)【翻訳文提出日】2024-05-29
(86)【国際出願番号】 EP2022077163
(87)【国際公開番号】W WO2023052531
(87)【国際公開日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2021/077021
(32)【優先日】2021-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】509146023
【氏名又は名称】バイオエヌテック エスエー
【氏名又は名称原語表記】BIONTECH SE
【住所又は居所原語表記】An der Goldgrube 12 55131 Mainz Germany
(71)【出願人】
【識別番号】515123258
【氏名又は名称】トロン- トランスラショナル オンコロジー アン デア ウニヴェリジテーツメディツィン デア ヨハネス グーテンベルク-ウニヴェルシテート マインツ ゲマインニューツィゲ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】TRON- Translationale Onkologie an der Universitaetsmedizin der Johannes Gutenberg-Universitaet Mainz gemeinnuetzige GmbH
【住所又は居所原語表記】Freiligrathstr. 12 55131 Mainz Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】サヒン, ウグル
(72)【発明者】
【氏名】クランツ, レナ マレーン
(72)【発明者】
【氏名】ディケン, ムスタファ
(72)【発明者】
【氏名】ヒルシャー, リナ
(72)【発明者】
【氏名】クレイター, セバスチャン
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084MA02
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZB09
4C084ZB26
4C084ZC75
4C085AA14
4C085BB12
4C085BB31
4C085EE01
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZB09
4C086ZB26
4C086ZC75
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA54
4H045CA40
4H045DA76
4H045DA86
4H045EA20
4H045EA31
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、抗原ワクチン接種およびT細胞応答などの効果的な抗原特異的免疫エフェクタ細胞応答の誘導のための方法および薬剤に関する。これらの方法および薬剤は、特に、免疫エフェクタ細胞が向けられる抗原を発現する疾患細胞を特徴とする疾患の治療に有用である。いくつかの実施形態では、本開示は、(i)対象において抗原に対する免疫応答を誘導するためのエピトープを含むペプチドまたはポリペプチドをコードする非免疫原性RNA、すなわちワクチン抗原をコードする非免疫原性RNA、ならびに(ii)PD-1軸結合アンタゴニスト、例えば、抗PD-1抗体および/または抗PD-L1抗体を対象に投与することを含む方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象において免疫応答を誘導するための方法であって、
(i)前記対象に、抗原に対する免疫応答を前記対象において誘導するためのエピトープを含むペプチドまたはポリペプチドをコードする非免疫原性RNAを投与することと、
(ii)前記対象にPD-1軸結合アンタゴニストを提供することと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記対象が、抗原の発現または発現上昇に関連する疾患、障害または状態を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
抗原の発現または発現上昇に関連する疾患、障害または状態を有する対象を治療するための方法であって、
(i)前記対象に、前記抗原に対する免疫応答を前記対象において誘導するためのエピトープを含むペプチドまたはポリペプチドをコードする非免疫原性RNAを投与することと、
(ii)前記対象にPD-1軸結合アンタゴニストを提供することと、
を含む、方法。
【請求項4】
前記免疫応答がT細胞媒介性免疫応答である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記免疫応答が、抗原特異的T細胞の生成を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記抗原が腫瘍関連抗原である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記疾患、障害または状態が癌である、請求項2~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
(i)エピトープを含むペプチドまたはポリペプチドをコードする前記非免疫原性RNA、および
(ii)PD-1軸結合アンタゴニストまたはPD-1軸結合アンタゴニストをコードするRNA
を前記対象に投与することを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
(i)エピトープを含むペプチドまたはポリペプチドをコードする前記非免疫原性RNA、および
(ii)PD-1軸結合アンタゴニスト
を前記対象に投与することを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記非免疫原性RNAが、投与されたとき、標準RNAと比較して、樹状細胞の活性化、T細胞の活性化および/またはIFN-αの分泌の低下をもたらす、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記非免疫原性RNAが、修飾ヌクレオシドの組込みおよび/または二本鎖RNA(dsRNA)の除去によって非免疫原性にされる、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記修飾ヌクレオシドが、自然免疫受容体のRNA媒介性活性化を抑制する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記修飾ヌクレオシドが、修飾核酸塩基を含むヌクレオシドによる1つ以上のウリジンの置換を含む、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
前記修飾核酸塩基が修飾ウラシルである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
修飾核酸塩基を含む前記ヌクレオシドが、3-メチル-ウリジン(m3U)、5-メトキシ-ウリジン(mo5U)、5-アザ-ウリジン、6-アザ-ウリジン、2-チオ-5-アザ-ウリジン、2-チオ-ウリジン(s2U)、4-チオ-ウリジン(s4U)、4-チオ-プソイドウリジン、2-チオ-プソイドウリジン、5-ヒドロキシ-ウリジン(ho5U)、5-アミノアリル-ウリジン、5-ハロ-ウリジン(例えば5-ヨード-ウリジンまたは5-ブロモ-ウリジン)、ウリジン5-オキシ酢酸(cmo5U)、ウリジン5-オキシ酢酸メチルエステル(mcmo5U)、5-カルボキシメチル-ウリジン(cm5U)、1-カルボキシメチル-プソイドウリジン、5-カルボキシヒドロキシメチル-ウリジン(chm5U)、5-カルボキシヒドロキシメチル-ウリジンメチルエステル(mchm5U)、5-メトキシカルボニルメチル-ウリジン(mcm5U)、5-メトキシカルボニルメチル-2-チオ-ウリジン(mcm5s2U)、5-アミノメチル-2-チオ-ウリジン(nm5s2U)、5-メチルアミノメチル-ウリジン(mnm5U)、1-エチル-プソイドウリジン、5-メチルアミノメチル-2-チオ-ウリジン(mnm5s2U)、5-メチルアミノメチル-2-セレノ-ウリジン(mnm5se2U)、5-カルバモイルメチル-ウリジン(ncm5U)、5-カルボキシメチルアミノメチル-ウリジン(cmnm5U)、5-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオ-ウリジン(cmnm5s2U)、5-プロピニル-ウリジン、1-プロピニル-プソイドウリジン、5-タウリノメチル-ウリジン(τm5U)、1-タウリノメチル-プソイドウリジン、5-タウリノメチル-2-チオ-ウリジン(τm5s2U)、1-タウリノメチル-4-チオ-プソイドウリジン、5-メチル-2-チオ-ウリジン(m5s2U)、1-メチル-4-チオ-プソイドウリジン(m1s4Ψ)、4-チオ-1-メチル-プソイドウリジン、3-メチル-プソイドウリジン(m3Ψ)、2-チオ-1-メチル-プソイドウリジン、1-メチル-1-デアザ-プソイドウリジン、2-チオ-1-メチル-1-デアザ-プソイドウリジン、ジヒドロウリジン(D)、ジヒドロプソイドウリジン、5,6-ジヒドロウリジン、5-メチル-ジヒドロウリジン(m5D)、2-チオ-ジヒドロウリジン、2-チオ-ジヒドロプソイドウリジン、2-メトキシ-ウリジン、2-メトキシ-4-チオ-ウリジン、4-メトキシ-プソイドウリジン、4-メトキシ-2-チオ-プソイドウリジン、N1-メチル-プソイドウリジン、3-(3-アミノ-3-カルボキシプロピル)ウリジン(acp3U)、1-メチル-3-(3-アミノ-3-カルボキシプロピル)プソイドウリジン(acp3Ψ)、5-(イソペンテニルアミノメチル)ウリジン(inm5U)、5-(イソペンテニルアミノメチル)-2-チオ-ウリジン(inm5s2U)、α-チオ-ウリジン、2’-O-メチル-ウリジン(Um)、5,2’-O-ジメチル-ウリジン(m5Um)、2’-O-メチル-プソイドウリジン(Ψm)、2-チオ-2’-O-メチル-ウリジン(s2Um)、5-メトキシカルボニルメチル-2’-O-メチル-ウリジン(mcm5Um)、5-カルバモイルメチル-2’-O-メチル-ウリジン(ncm5Um)、5-カルボキシメチルアミノメチル-2’-O-メチル-ウリジン(cmnm5Um)、3,2’-O-ジメチル-ウリジン(m3Um)、5-(イソペンテニルアミノメチル)-2’-O-メチル-ウリジン(inm5Um)、1-チオ-ウリジン、デオキシチミジン、2’-F-アラ-ウリジン、2’-F-ウリジン、2’-OH-アラ-ウリジン、5-(2-カルボメトキシビニル)ウリジン、および5-[3-(1-E-プロペニルアミノ)ウリジンからなる群より選択される、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
修飾核酸塩基を含む前記ヌクレオシドが、プソイドウリジン(ψ)、N1-メチル-プソイドウリジン(mψ)または5-メチル-ウリジン(mU)である、請求項13~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
修飾核酸塩基を含む前記ヌクレオシドが1-メチル-プソイドウリジンである、請求項13~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
エピトープを含むペプチドまたはポリペプチドをコードする前記非免疫原性RNAがmRNAである、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
エピトープを含むペプチドまたはポリペプチドをコードする前記非免疫原性RNAがインビトロ転写RNAである、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
エピトープを含むペプチドまたはポリペプチドをコードする前記非免疫原性RNAが、リンパ系、例えば二次リンパ器官、特に脾臓を標的とするための製剤中で投与される、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
エピトープを含むペプチドまたはポリペプチドをコードする前記非免疫原性RNAが、樹状細胞を標的とするための製剤中で投与される、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記樹状細胞が未成熟樹状細胞である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
エピトープを含むペプチドまたはポリペプチドをコードする前記非免疫原性RNAが、リポプレックス(LPX)粒子を含む製剤中で投与される、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記PD-1軸結合アンタゴニストがPD-1結合アンタゴニストを含む、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記PD-1結合アンタゴニストが抗PD-1抗体を含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記抗PD-1抗体が、ニボルマブまたはペンブロリズマブを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記PD-1軸結合アンタゴニストがPD-L1結合アンタゴニストを含む、請求項1~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記PD-L1結合アンタゴニストが抗PD-L1抗体を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記抗PD-L1抗体が、アテゾリズマブ、アベルマブまたはデュルバルマブを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
免疫賦活剤、または免疫賦活剤をコードするRNAを投与することを含まない、請求項1~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記免疫賦活剤が、炎症促進性または抗炎症性免疫賦活剤である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記免疫賦活剤が、サイトカインまたはその変異体を含む、請求項30または31に記載の方法。
【請求項33】
前記サイトカインが、I型インターフェロンまたはその変異体を含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記I型インターフェロンが、インターフェロン-αまたはその変異体を含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記サイトカインが、インターロイキンまたはその変異体を含む、請求項32に記載の方法。
【請求項36】
前記サイトカインがT細胞プライミングを支援する、請求項32または35に記載の方法。
【請求項37】
前記サイトカインが、IL12、IL15またはそれらの変異体を含む、請求項32、35および36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記サイトカインが、T細胞の増殖および/または維持を支援する、請求項32または35に記載の方法。
【請求項39】
前記サイトカインが、IL2、IL7またはそれらの変異体を含む、請求項32、35および38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
エピトープを含むペプチドまたはポリペプチドをコードする前記非免疫原性RNA、および前記PD-1軸結合アンタゴニストまたはPD-1軸結合アンタゴニストをコードするRNAが、共通の製剤または別個の製剤中で投与される、請求項8~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
対象における癌を治療または予防するための方法である、請求項1~40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
エピトープを含むペプチドまたはポリペプチドをコードする前記非免疫原性RNAが、前記対象の細胞において一過性に発現される、請求項1~41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
前記対象がヒトである、請求項1~42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
(i)対象において抗原に対する免疫応答を誘導するためのエピトープを含むペプチドまたはポリペプチドをコードする非免疫原性RNA、および
(ii)PD-1軸結合アンタゴニストまたはPD-1軸結合アンタゴニストをコードするRNA
を含む、医薬製剤。
【請求項45】
抗原の発現または発現上昇に関連する疾患、障害または状態を治療するためのものである、請求項44に記載の医薬製剤。
【請求項46】
前記免疫応答がT細胞媒介性免疫応答である、請求項44または45に記載の医薬製剤。
【請求項47】
前記免疫応答が、抗原特異的T細胞の生成を含む、請求項44~46のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項48】
前記抗原が腫瘍関連抗原である、請求項44~47のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項49】
前記疾患、障害または状態が癌である、請求項45~48のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項50】
(i)エピトープを含むペプチドまたはポリペプチドをコードする前記非免疫原性RNA、および
(ii)PD-1軸結合アンタゴニスト
を含む、請求項44~49のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項51】
前記非免疫原性RNAが、投与されたとき、標準RNAと比較して、樹状細胞の活性化、T細胞の活性化および/またはIFN-αの分泌の低下をもたらす、請求項44~50のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項52】
前記非免疫原性RNAが、修飾ヌクレオシドの組込みおよび/またはdsRNAの除去によって非免疫原性にされる、請求項44~51のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項53】
前記修飾ヌクレオシドが、自然免疫受容体のRNA媒介性活性化を抑制する、請求項52に記載の医薬製剤。
【請求項54】
前記修飾ヌクレオシドが、修飾核酸塩基を含むヌクレオシドによる1つ以上のウリジンの置換を含む、請求項52または53に記載の医薬製剤。
【請求項55】
前記修飾核酸塩基が修飾ウラシルである、請求項54に記載の医薬製剤。
【請求項56】
修飾核酸塩基を含む前記ヌクレオシドが、3-メチル-ウリジン(m3U)、5-メトキシ-ウリジン(mo5U)、5-アザ-ウリジン、6-アザ-ウリジン、2-チオ-5-アザ-ウリジン、2-チオ-ウリジン(s2U)、4-チオ-ウリジン(s4U)、4-チオ-プソイドウリジン、2-チオ-プソイドウリジン、5-ヒドロキシ-ウリジン(ho5U)、5-アミノアリル-ウリジン、5-ハロ-ウリジン(例えば5-ヨード-ウリジンまたは5-ブロモ-ウリジン)、ウリジン5-オキシ酢酸(cmo5U)、ウリジン5-オキシ酢酸メチルエステル(mcmo5U)、5-カルボキシメチル-ウリジン(cm5U)、1-カルボキシメチル-プソイドウリジン、5-カルボキシヒドロキシメチル-ウリジン(chm5U)、5-カルボキシヒドロキシメチル-ウリジンメチルエステル(mchm5U)、5-メトキシカルボニルメチル-ウリジン(mcm5U)、5-メトキシカルボニルメチル-2-チオ-ウリジン(mcm5s2U)、5-アミノメチル-2-チオ-ウリジン(nm5s2U)、5-メチルアミノメチル-ウリジン(mnm5U)、1-エチル-プソイドウリジン、5-メチルアミノメチル-2-チオ-ウリジン(mnm5s2U)、5-メチルアミノメチル-2-セレノ-ウリジン(mnm5se2U)、5-カルバモイルメチル-ウリジン(ncm5U)、5-カルボキシメチルアミノメチル-ウリジン(cmnm5U)、5-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオ-ウリジン(cmnm5s2U)、5-プロピニル-ウリジン、1-プロピニル-プソイドウリジン、5-タウリノメチル-ウリジン(τm5U)、1-タウリノメチル-プソイドウリジン、5-タウリノメチル-2-チオ-ウリジン(τm5s2U)、1-タウリノメチル-4-チオ-プソイドウリジン、5-メチル-2-チオ-ウリジン(m5s2U)、1-メチル-4-チオ-プソイドウリジン(m1s4Ψ)、4-チオ-1-メチル-プソイドウリジン、3-メチル-プソイドウリジン(m3Ψ)、2-チオ-1-メチル-プソイドウリジン、1-メチル-1-デアザ-プソイドウリジン、2-チオ-1-メチル-1-デアザ-プソイドウリジン、ジヒドロウリジン(D)、ジヒドロプソイドウリジン、5,6-ジヒドロウリジン、5-メチル-ジヒドロウリジン(m5D)、2-チオ-ジヒドロウリジン、2-チオ-ジヒドロプソイドウリジン、2-メトキシ-ウリジン、2-メトキシ-4-チオ-ウリジン、4-メトキシ-プソイドウリジン、4-メトキシ-2-チオ-プソイドウリジン、N1-メチル-プソイドウリジン、3-(3-アミノ-3-カルボキシプロピル)ウリジン(acp3U)、1-メチル-3-(3-アミノ-3-カルボキシプロピル)プソイドウリジン(acp3Ψ)、5-(イソペンテニルアミノメチル)ウリジン(inm5U)、5-(イソペンテニルアミノメチル)-2-チオ-ウリジン(inm5s2U)、α-チオ-ウリジン、2’-O-メチル-ウリジン(Um)、5,2’-O-ジメチル-ウリジン(m5Um)、2’-O-メチル-プソイドウリジン(Ψm)、2-チオ-2’-O-メチル-ウリジン(s2Um)、5-メトキシカルボニルメチル-2’-O-メチル-ウリジン(mcm5Um)、5-カルバモイルメチル-2’-O-メチル-ウリジン(ncm5Um)、5-カルボキシメチルアミノメチル-2’-O-メチル-ウリジン(cmnm5Um)、3,2’-O-ジメチル-ウリジン(m3Um)、5-(イソペンテニルアミノメチル)-2’-O-メチル-ウリジン(inm5Um)、1-チオ-ウリジン、デオキシチミジン、2’-F-アラ-ウリジン、2’-F-ウリジン、2’-OH-アラ-ウリジン、5-(2-カルボメトキシビニル)ウリジン、および5-[3-(1-E-プロペニルアミノ)ウリジンからなる群より選択される、請求項54または55に記載の医薬製剤。
【請求項57】
修飾核酸塩基を含む前記ヌクレオシドが、プソイドウリジン(ψ)、N1-メチル-プソイドウリジン(mψ)または5-メチル-ウリジン(mU)である、請求項54~56のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項58】
修飾核酸塩基を含む前記ヌクレオシドが1-メチル-プソイドウリジンである、請求項54~57のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項59】
エピトープを含むペプチドまたはポリペプチドをコードする前記非免疫原性RNAがmRNAである、請求項44~58のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項60】
エピトープを含むペプチドまたはポリペプチドをコードする前記非免疫原性RNAがインビトロ転写RNAである、請求項44~59のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項61】
エピトープを含むペプチドまたはポリペプチドをコードする前記非免疫原性RNAが、リンパ系、例えば二次リンパ器官、特に脾臓を標的とするための製剤中に存在する、請求項44~60のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項62】
エピトープを含むペプチドまたはポリペプチドをコードする前記非免疫原性RNAが、樹状細胞を標的とするための製剤中に存在する、請求項44~61のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項63】
前記樹状細胞が未成熟樹状細胞である、請求項62に記載の医薬製剤。
【請求項64】
エピトープを含むペプチドまたはポリペプチドをコードする前記非免疫原性RNAが、リポプレックス(LPX)粒子を含む製剤中で投与される、請求項44~63のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項65】
前記PD-1軸結合アンタゴニストがPD-1結合アンタゴニストを含む、請求項44~64のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項66】
前記PD-1結合アンタゴニストが抗PD-1抗体を含む、請求項65に記載の医薬製剤。
【請求項67】
前記抗PD-1抗体が、ニボルマブまたはペンブロリズマブを含む、請求項66に記載の医薬製剤。
【請求項68】
前記PD-1軸結合アンタゴニストがPD-L1結合アンタゴニストを含む、請求項44~67のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項69】
前記PD-L1結合アンタゴニストが抗PD-L1抗体を含む、請求項68に記載の医薬製剤。
【請求項70】
前記抗PD-L1抗体が、アテゾリズマブ、アベルマブまたはデュルバルマブを含む、請求項69に記載の医薬製剤。
【請求項71】
免疫賦活剤、または免疫賦活剤をコードするRNAを含まない、請求項44~70のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項72】
前記免疫賦活剤が、炎症促進性または抗炎症性免疫賦活剤である、請求項71に記載の医薬製剤。
【請求項73】
前記免疫賦活剤が、サイトカインまたはその変異体を含む、請求項71または72に記載の医薬製剤。
【請求項74】
前記サイトカインが、I型インターフェロンまたはその変異体を含む、請求項73に記載の医薬製剤。
【請求項75】
前記I型インターフェロンが、インターフェロン-αまたはその変異体を含む、請求項74に記載の医薬製剤。
【請求項76】
前記サイトカインが、インターロイキンまたはその変異体を含む、請求項73に記載の医薬製剤。
【請求項77】
前記サイトカインがT細胞プライミングを支援する、請求項73または76に記載の医薬製剤。
【請求項78】
前記サイトカインが、IL12、IL15またはそれらの変異体を含む、請求項73、76および77のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項79】
前記サイトカインが、T細胞の増殖および/または維持を支援する、請求項73または76に記載の医薬製剤。
【請求項80】
前記サイトカインが、IL2、IL7またはそれらの変異体を含む、請求項73、76および79のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項81】
エピトープを含むペプチドまたはポリペプチドをコードする前記非免疫原性RNA、および前記PD-1軸結合アンタゴニストまたはPD-1軸結合アンタゴニストをコードするRNAが、共通の製剤または別個の製剤中に存在する、請求項44~80のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項82】
キットである、請求項44~81のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項83】
エピトープを含むペプチドまたはポリペプチドをコードする前記非免疫原性RNA、および前記PD-1軸結合アンタゴニストまたはPD-1軸結合アンタゴニストをコードするRNAを医薬組成物中に含む、請求項44~82のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項84】
エピトープを含むペプチドまたはポリペプチドをコードする前記非免疫原性RNA、および前記PD-1軸結合アンタゴニストまたはPD-1軸結合アンタゴニストをコードするRNAを別々の容器に含む、請求項44~83のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項85】
前記医薬製剤を使用するための説明書をさらに含む、請求項44~84のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項86】
医薬組成物である、請求項44~81のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項87】
医薬用途のための、請求項44~86のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項88】
前記医薬用途が、疾患または障害の治療的または予防的処置を含む、請求項87に記載の医薬製剤。
【請求項89】
前記疾患または障害が癌である、請求項88に記載の医薬製剤。
【請求項90】
請求項1~43のいずれか一項に記載の方法において使用するための、請求項44~89のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、抗原ワクチン接種およびT細胞応答などの効果的な抗原特異的免疫エフェクタ細胞応答の誘導のための方法および薬剤に関する。これらの方法および薬剤は、特に、免疫エフェクタ細胞が向けられる抗原を発現する疾患細胞を特徴とする疾患の治療に有用である。いくつかの実施形態では、本開示は、(i)対象において抗原に対する免疫応答を誘導するためのエピトープを含むペプチドまたはポリペプチドをコードする非免疫原性RNA、すなわちワクチン抗原をコードする非免疫原性RNA、ならびに(ii)PD-1軸結合アンタゴニスト、例えば、抗PD-1抗体および/または抗PD-L1抗体を対象に投与することを含む方法に関する。ワクチン抗原をコードする非免疫原性RNAを対象に投与することにより、(適切な標的細胞によるRNAの発現後に)免疫エフェクタ細胞の刺激、プライミングおよび/または拡大のためのワクチン抗原を提供することができ、したがって対象においてワクチン抗原(および疾患関連抗原)に対する免疫応答を誘導することができる。いくつかの実施形態では、免疫エフェクタ細胞は、抗原またはそのプロセシング産物に対する結合特異性を有するT細胞受容体(TCR)またはキメラ抗原受容体(CAR)などの抗原受容体を担持する。いくつかの実施形態では、免疫エフェクタ細胞は、抗原受容体を発現するように遺伝子改変される。そのような遺伝子改変は、エクスビボまたはインビトロで行われ、その後免疫エフェクタ細胞が治療を必要とする対象に投与され得、および/または治療を必要とする対象においてインビボで行われ得る。免疫エフェクタ細胞は、治療を必要とする対象由来であり得、治療を必要とする対象に内因性であり得る。免疫エフェクタ細胞の抗原受容体は、疾患に関連する抗原を標的とし得る。本明細書で実証されるように、非免疫原性RNAの投与によって誘導されたT細胞などの免疫エフェクタ細胞は、標準RNAによって誘導されたT細胞などの免疫エフェクタ細胞と比較して、より多量のPD-1を発現する。その結果、非免疫原性RNAの投与によって誘導されたT細胞などの免疫エフェクタ細胞は、PD-1/PD-L1遮断を受けやすく、免疫エフェクタ細胞の拡大および免疫応答の増強をもたらす。したがって、対象に抗PD-1抗体および/または抗PD-L1抗体などのPD-1軸結合アンタゴニストを投与すると、対象におけるワクチン抗原(および疾患関連抗原)に対する免疫応答が強く増強され得る。
【背景技術】
【0002】
免疫系は、病原体関連疾患だけでなく癌、自己免疫、アレルギーにおいても重要な役割を果たす。T細胞は抗腫瘍免疫応答の重要なメディエータである。CD4+T細胞は、樹状細胞(DC)を抗腫瘍CD8+T細胞応答のプライミングに使用し、IFNγを介したMHCの上方制御と増殖阻害によって腫瘍細胞に直接作用することができる。CD4+T細胞は、CD8+T細胞を含む様々な免疫サブセットの腫瘍への流入を媒介し、CD8+T細胞は腫瘍細胞を直接溶解することができる。
【0003】
T細胞応答は、病原体に対してだけでなく、腫瘍に対しても自然に誘導される。そのような腫瘍特異的T細胞応答は、T細胞のプライミングおよび増殖を可能にする環境においてDCが強力な抗原提示細胞に成熟するように抗原が送達されることを考えると、治療的抗癌ワクチン接種によって誘導またはさらに促進され得る。
【0004】
mRNAに基づくワクチンプラットフォームの文脈において、mRNAは、免疫刺激のためのさらなるアジュバントを必要とせずに、リポソーム製剤(RNA-リポプレックス、RNA-LPX)によって二次リンパ器官に位置する抗原提示細胞に送達され得る(Kreiter,S.et al.Nature 520,692-696(2015);Kranz,L.M.et al.Nature 534,396-401(2016))。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Kreiter,S.et al.Nature 520,692-696(2015)
【非特許文献2】Kranz,L.M.et al.Nature 534,396-401(2016)
【非特許文献3】Holtkamp,Silke et al.,2006,Blood 108(13):4009-17
【非特許文献4】Kuhn,AN et al.,2010,Gene Therapy 17(8):961-71
【非特許文献5】Orlandini von Niessen,Alexandra G.et al.,2019,Molecular Therapy 27(4):824-36
【非特許文献6】Kreiter,S.et al.,2008,The Journal of Immunology 180(1):309-18
【非特許文献7】Kranz,Lena Maseen et al.,2016,Nature 534(7607):396-401
【非特許文献8】Andries,Oliwia et al.,2015,Journal of Controlled Release:Official Journal of the Controlled Release Society 217:337-44
【非特許文献9】Baiersdorfer,Markus et al.,2019,Molecular Therapy-Nucleic Acids 15(April)
【非特許文献10】Pardi,Norbert et al.,2015,Journal of Controlled Release:Official Journal of the Controlled Release Society 217:345-51
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以前の研究では、細胞内安定性、翻訳効率(Holtkamp,Silke et al.,2006,Blood 108(13):4009-17;Kuhn,AN et al.,2010,Gene Therapy 17(8):961-71;Orlandini von Niessen,Alexandra G.et al.,2019,Molecular Therapy 27(4):824-36)ならびにMHCクラスIおよびII提示の増強(Kreiter,S.et al.,2008,The Journal of Immunology 180(1):309-18)のために抗原コードRNAを最適化した。腹腔内投与されリポソームに製剤化されたRNA(RNA-LPX)は、リンパ器官内の常在DCに特異的にコードされた抗原の翻訳およびMHC提示を標的とするように設計された(Kranz,Lena Mareen et al.,2016,Nature 534(7607):396-401)。DCによって内在化されたRNA-LPXは、感染性非自己を模倣し、天然のTLR7/8リガンドとして機能し、炎症促進性サイトカインを伴う強力なI型IFNが支配的な自然応答を引き起こす。
【0007】
本発明者らのRNA-LPXワクチンプラットフォームは、標的同一性、すなわち抗原、およびアジュバントを同時に提供する二本鎖RNA精製に供されない非ヌクレオシド修飾RNA(標準RNA、stdRNA)からなる。
【0008】
ワクチンRNAの免疫原性を低下させるために、ヌクレオシドを修飾し、残留二本鎖RNAを除去することができる。本発明者らは、N1-メチル-プソイドウリン修飾およびセルロース精製ワクチンRNA(修飾RNA、modRNA)を合成した(Andries,Oliwia et al.,2015,Journal of Controlled Release:Official Journal of the Controlled Release Society 217:337-44;Baiersdorfer,Markus et al.,2019,Molecular Therapy-Nucleic Acids 15(April);Pardi,Norbert et al.,2015,Journal of Controlled Release:Official Journal of the Controlled Release Society 217:345-51)。stdRNAと比較して、modRNAは免疫活性化および全身性IFNα放出を制限する。
【0009】
ここで、本発明者らは、modRNAによって誘導されたT細胞などの免疫エフェクタ細胞が、stdRNAによって誘導された細胞と比較してより高いレベルのPD-1を発現することを記載する。本発明者らは、modRNAワクチン接種とPD-1軸結合アンタゴニスト処置との組合せが、効率的な抗原特異的免疫応答および抗腫瘍活性などの効率的なワクチン接種をもたらすことを実証する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、一般に、(i)対象において抗原に対する免疫応答を誘導するためのエピトープを含むペプチドまたはポリペプチドをコードする非免疫原性RNA、すなわちワクチン抗原をコードする非免疫原性RNAを対象に投与すること、(ii)例えば、PD-1軸結合アンタゴニストまたはPD-1軸結合アンタゴニストをコードするRNAを投与することによって、抗PD-1抗体および/または抗PD-L1抗体などのPD-1軸結合アンタゴニストを対象に投与することを含む、対象の免疫療法的処置を包含する。本明細書に記載の免疫療法は、ワクチン療法を含み、細胞ベースの癌免疫療法、例えばTILまたはT細胞ベースの治療、例えば自己細胞を使用するTCRまたはCARトランスジェニックT細胞ベースの治療をさらに含み得る。一般に、本明細書に記載の治療を使用して刺激される免疫エフェクタ細胞は、疾患細胞などの抗原を発現する細胞、特に腫瘍抗原を発現する癌細胞を標的とし得る。標的細胞は、細胞表面に抗原を発現し得るか、または抗原のプロセシング産物を提示し得る。いくつかの実施形態では、抗原は腫瘍関連抗原であり、疾患は癌である。そのような治療は、抗原を発現する細胞の選択的根絶を提供し、それによって抗原を発現しない正常細胞に対する有害作用を最小限に抑える。免疫エフェクタ細胞(抗原受容体を発現するように遺伝子改変されていてもよい)は、抗原またはそのプロセシング産物、したがって抗原を発現する標的細胞集団または標的組織を標的とする。そのような免疫エフェクタ細胞は、治療を必要とする対象に投与され得るか、または治療を必要とする対象に内因性であり得る。いくつかの実施形態では、免疫エフェクタ細胞は、標的抗原またはそのプロセシング産物に対する結合特異性を有するT細胞受容体(TCR)またはキメラ抗原受容体(CAR)などの抗原受容体を担持する。いくつかの実施形態では、免疫エフェクタ細胞は、抗原受容体を発現するように遺伝子改変される。抗原受容体を発現するためのそのような遺伝子改変は、エクスビボまたはインビトロで行われ、その後免疫エフェクタ細胞が治療を必要とする対象に投与され得るか、または治療を必要とする対象においてインビボで行われ得るか、またはエクスビボもしくはインビトロとインビボ改変の組合せによって行われ得る。ワクチン抗原をコードする非免疫原性RNAは、(適切な標的細胞によるポリヌクレオチドの発現後に)標的抗原またはそのプロセシング産物を標的とする免疫エフェクタ細胞の刺激、プライミングおよび/または拡大のための抗原を提供するために投与される。いくつかの実施形態では、本開示に従って誘導される免疫応答は、免疫エフェクタ細胞が向けられる抗原を発現する標的細胞集団または標的組織に対する免疫応答である。いくつかの実施形態では、本開示に従って誘導される免疫応答は、T細胞媒介性免疫応答である。いくつかの実施形態では、免疫応答は抗腫瘍免疫応答であり、標的細胞集団または標的組織は腫瘍細胞または腫瘍組織である。
【0011】
抗PD-1抗体および/または抗PD-L1抗体などのPD-1軸結合アンタゴニストは、PD-1軸結合アンタゴニストを投与することによって提供され得る。あるいは、抗PD-1抗体および/または抗PD-L1抗体などのPD-1軸結合アンタゴニストは、PD-1軸結合アンタゴニストをコードするRNAの形態で投与され得る。いくつかの実施形態では、当該RNAは、全身での利用可能性のために肝臓を標的とする。肝細胞は効率的にトランスフェクトすることができ、大量のタンパク質を産生できる。
【0012】
本明細書中に記載される方法および薬剤はさらに、免疫賦活剤または免疫賦活剤をコードするRNAの投与または包含を提供し得る。いくつかの実施形態では、本明細書中に記載される方法および薬剤は、免疫賦活剤または免疫賦活剤をコードするRNAの投与または包含を提供しない。いくつかの実施形態では、本明細書中に記載される方法および薬剤は、免疫賦活剤または免疫賦活剤をコードするRNAの投与または包含を提供する。
【0013】
免疫賦活剤は、薬物動態修飾基(以下「延長薬物動態(PK)」免疫賦活剤と呼ばれる)に結合し得る。いくつかの実施形態では、免疫賦活剤をコードするRNAは、全身での利用可能性のために肝臓を標的とする。肝細胞は効率的にトランスフェクトすることができ、大量のタンパク質を産生できる。
【0014】
ワクチン抗原をコードするRNAは、好ましくは二次リンパ器官を標的とする。
【0015】
一態様では、対象において免疫応答を誘導するための方法であって、
(i)対象に、抗原に対する免疫応答を当該対象において誘導するためのエピトープを含むペプチドまたはポリペプチドをコードする非免疫原性RNAを投与することと、
(ii)対象にPD-1軸結合アンタゴニストを提供することと、を含む、方法が本明細書において提供される。
【0016】
いくつかの実施形態では、対象は、抗原の発現または発現上昇に関連する疾患、障害または状態を有する。
【0017】
一態様では、抗原の発現または発現上昇に関連する疾患、障害または状態を有する対象を治療するための方法であって、
(i)対象に、抗原に対する免疫応答を対象において誘導するためのエピトープを含むペプチドまたはポリペプチドをコードする非免疫原性RNAを投与することと、
(ii)対象にPD-1軸結合アンタゴニストを提供することと、を含む、方法が本明細書において提供される。
【0018】
いくつかの実施形態では、免疫応答はT細胞媒介性免疫応答である。
【0019】
いくつかの実施形態では、免疫応答は、抗原特異的T細胞の生成を含む。
【0020】
いくつかの実施形態では、抗原は腫瘍関連抗原である。
【0021】
いくつかの実施形態では、疾患、障害または状態は癌である。
【0022】
いくつかの実施形態では、本方法は、
(i)エピトープを含むペプチドまたはポリペプチドをコードする非免疫原性RNA、および
(ii)PD-1軸結合アンタゴニスト、またはPD-1軸結合アンタゴニストをコードするRNAを対象に投与することを含む。
【0023】
いくつかの実施形態では、本方法は、
(i)エピトープを含むペプチドまたはポリペプチドをコードする非免疫原性RNA、および
(ii)PD-1軸結合アンタゴニストを対象に投与することを含む。
【0024】
いくつかの実施形態では、非免疫原性RNAは、投与されたとき、標準RNAと比較して、樹状細胞の活性化、T細胞の活性化および/またはIFN-αの分泌の低下をもたらす。
【0025】
いくつかの実施形態では、非免疫原性RNAは、修飾ヌクレオシドの組込みおよび/または二本鎖RNA(dsRNA)の量の制限によって非免疫原性にされる。いくつかの実施形態では、非免疫原性RNAは、修飾ヌクレオシドの組込みおよび/またはdsRNAの除去によって非免疫原性にされる。
【0026】
いくつかの実施形態では、修飾ヌクレオシドは、自然免疫受容体のRNA媒介性活性化を抑制する。
【0027】
いくつかの実施形態では、修飾ヌクレオシドは、修飾核酸塩基を含むヌクレオシドによる1つ以上のウリジンの置換を含む。
【0028】
いくつかの実施形態では、修飾核酸塩基は修飾ウラシルである。
【0029】
いくつかの実施形態では、修飾核酸塩基を含むヌクレオシドは、3-メチル-ウリジン(m3U)、5-メトキシ-ウリジン(mo5U)、5-アザ-ウリジン、6-アザ-ウリジン、2-チオ-5-アザ-ウリジン、2-チオ-ウリジン(s2U)、4-チオ-ウリジン(s4U)、4-チオ-プソイドウリジン、2-チオ-プソイドウリジン、5-ヒドロキシ-ウリジン(ho5U)、5-アミノアリル-ウリジン、5-ハロ-ウリジン(例えば5-ヨード-ウリジンまたは5-ブロモ-ウリジン)、ウリジン5-オキシ酢酸(cmo5U)、ウリジン5-オキシ酢酸メチルエステル(mcmo5U)、5-カルボキシメチル-ウリジン(cm5U)、1-カルボキシメチル-プソイドウリジン、5-カルボキシヒドロキシメチル-ウリジン(chm5U)、5-カルボキシヒドロキシメチル-ウリジンメチルエステル(mchm5U)、5-メトキシカルボニルメチル-ウリジン(mcm5U)、5-メトキシカルボニルメチル-2-チオ-ウリジン(mcm5s2U)、5-アミノメチル-2-チオ-ウリジン(nm5s2U)、5-メチルアミノメチル-ウリジン(mnm5U)、1-エチル-プソイドウリジン、5-メチルアミノメチル-2-チオ-ウリジン(mnm5s2U)、5-メチルアミノメチル-2-セレノ-ウリジン(mnm5se2U)、5-カルバモイルメチル-ウリジン(ncm5U)、5-カルボキシメチルアミノメチル-ウリジン(cmnm5U)、5-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオ-ウリジン(cmnm5s2U)、5-プロピニル-ウリジン、1-プロピニル-プソイドウリジン、5-タウリノメチル-ウリジン(τm5U)、1-タウリノメチル-プソイドウリジン、5-タウリノメチル-2-チオ-ウリジン(τm5s2U)、1-タウリノメチル-4-チオ-プソイドウリジン、5-メチル-2-チオ-ウリジン(m5s2U)、1-メチル-4-チオ-プソイドウリジン(m1s4Ψ)、4-チオ-1-メチル-プソイドウリジン、3-メチル-プソイドウリジン(m3Ψ)、2-チオ-1-メチル-プソイドウリジン、1-メチル-1-デアザ-プソイドウリジン、2-チオ-1-メチル-1-デアザ-プソイドウリジン、ジヒドロウリジン(D)、ジヒドロプソイドウリジン、5,6-ジヒドロウリジン、5-メチル-ジヒドロウリジン(m5D)、2-チオ-ジヒドロウリジン、2-チオ-ジヒドロプソイドウリジン、2-メトキシ-ウリジン、2-メトキシ-4-チオ-ウリジン、4-メトキシ-プソイドウリジン、4-メトキシ-2-チオ-プソイドウリジン、N1-メチル-プソイドウリジン、3-(3-アミノ-3-カルボキシプロピル)ウリジン(acp3U)、1-メチル-3-(3-アミノ-3-カルボキシプロピル)プソイドウリジン(acp3Ψ)、5-(イソペンテニルアミノメチル)ウリジン(inm5U)、5-(イソペンテニルアミノメチル)-2-チオ-ウリジン(inm5s2U)、α-チオ-ウリジン、2’-O-メチル-ウリジン(Um)、5,2’-O-ジメチル-ウリジン(m5Um)、2’-O-メチル-プソイドウリジン(Ψm)、2-チオ-2’-O-メチル-ウリジン(s2Um)、5-メトキシカルボニルメチル-2’-O-メチル-ウリジン(mcm5Um)、5-カルバモイルメチル-2’-O-メチル-ウリジン(ncm5Um)、5-カルボキシメチルアミノメチル-2’-O-メチル-ウリジン(cmnm5Um)、3,2’-O-ジメチル-ウリジン(m3Um)、5-(イソペンテニルアミノメチル)-2’-O-メチル-ウリジン(inm5Um)、1-チオ-ウリジン、デオキシチミジン、2’-F-アラ-ウリジン、2’-F-ウリジン、2’-OH-アラ-ウリジン、5-(2-カルボメトキシビニル)ウリジン、および5-[3-(1-E-プロペニルアミノ)ウリジンからなる群より選択される。
【0030】
いくつかの実施形態では、修飾核酸塩基を含むヌクレオシドは、プソイドウリジン(ψ)、N1-メチル-プソイドウリジン(m1ψ)または5-メチル-ウリジン(m5U)である。
【0031】
いくつかの実施形態では、修飾核酸塩基を含むヌクレオシドは1-メチル-プソイドウリジンである。
【0032】
いくつかの実施形態では、エピトープを含むペプチドまたはポリペプチドをコードする非免疫原性RNAは、mRNAである。
【0033】
いくつかの実施形態では、エピトープを含むペプチドまたはポリペプチドをコードする非免疫原性RNAは、インビトロ転写RNAである。
【0034】
いくつかの実施形態では、エピトープを含むペプチドまたはポリペプチドをコードする非免疫原性RNAは、リンパ系を標的とするための製剤中で投与される。いくつかの実施形態では、リンパ系は二次リンパ器官、特に脾臓を含む。
【0035】
いくつかの実施形態では、エピトープを含むペプチドまたはポリペプチドをコードする非免疫原性RNAは、樹状細胞を標的とするための製剤中で投与される。
【0036】
いくつかの実施形態では、樹状細胞は未成熟樹状細胞である。
【0037】
いくつかの実施形態では、エピトープを含むペプチドまたはポリペプチドをコードする非免疫原性RNAは、リポプレックス(LPX)粒子を含む製剤中で投与される。
【0038】
いくつかの実施形態では、PD-1軸結合アンタゴニストは、PD-1結合アンタゴニストを含む。
【0039】
いくつかの実施形態では、PD-1結合アンタゴニストは、抗PD-1抗体を含む。
【0040】
いくつかの実施形態では、抗PD-1抗体は、ニボルマブまたはペンブロリズマブを含む。
【0041】
いくつかの実施形態では、PD-1軸結合アンタゴニストは、PD-L1結合アンタゴニストを含む。
【0042】
いくつかの実施形態では、PD-L1結合アンタゴニストは、抗PD-L1抗体を含む。
【0043】
いくつかの実施形態では、抗PD-L1抗体は、アテゾリズマブ、アベルマブまたはデュルバルマブを含む。
【0044】
いくつかの実施形態では、本方法は、免疫賦活剤または免疫賦活剤をコードするRNAを投与することを含む。
【0045】
いくつかの実施形態では、本方法は、免疫賦活剤または免疫賦活剤をコードするRNAを投与することを含まない。
【0046】
いくつかの実施形態では、免疫賦活剤は、炎症促進性または抗炎症性免疫賦活剤である。
【0047】
いくつかの実施形態では、免疫賦活剤は、サイトカインまたはその変異体を含む。
【0048】
いくつかの実施形態では、サイトカインは、I型インターフェロンまたはその変異体を含む。
【0049】
いくつかの実施形態では、I型インターフェロンは、インターフェロン-αまたはその変異体を含む。
【0050】
いくつかの実施形態では、サイトカインは、インターロイキンまたはその変異体を含む。
【0051】
いくつかの実施形態では、サイトカインは、T細胞プライミングを支援する。
【0052】
いくつかの実施形態では、サイトカインは、IL12、IL15またはそれらの変異体を含む。
【0053】
いくつかの実施形態では、サイトカインは、T細胞の増殖および/または維持を支援する。
【0054】
いくつかの実施形態では、サイトカインは、IL2、IL7またはそれらの変異体を含む。
【0055】
いくつかの実施形態では、免疫賦活剤は、延長薬物動態(PK)免疫賦活剤である。いくつかの実施形態では、延長PK免疫賦活剤は、融合タンパク質を含む。いくつかの実施形態では、融合タンパク質は、免疫賦活剤の部分と、血清アルブミン、免疫グロブリン断片、トランスフェリン、Fn3およびそれらの変異体からなる群から選択される部分とを含む。いくつかの実施形態では、血清アルブミンは、マウス血清アルブミンまたはヒト血清アルブミンを含む。いくつかの実施形態では、免疫グロブリン断片は、免疫グロブリンFcドメインを含む。
【0056】
いくつかの実施形態では、免疫賦活剤をコードするRNAは、リンパ系を標的とするための製剤中に存在する。
【0057】
いくつかの実施形態では、免疫賦活剤をコードするRNAは、肝臓を標的とするための製剤中に存在する。
【0058】
いくつかの実施形態では、リンパ系は二次リンパ器官、特に脾臓である。
【0059】
いくつかの実施形態では、免疫賦活剤をコードするRNAは、非免疫原性である。いくつかの実施形態では、免疫賦活剤をコードするRNAは、mRNAである。いくつかの実施形態では、免疫賦活剤をコードするRNAは、インビトロ転写RNAである。
【0060】
いくつかの実施形態では、エピトープを含むペプチドまたはポリペプチドをコードする非免疫原性RNA、およびPD-1軸結合アンタゴニストまたはPD-1軸結合アンタゴニストをコードするRNAは、共通の製剤または別個の製剤中で投与される。
【0061】
いくつかの実施形態では、本方法は、対象における癌を治療または予防するための方法である。
【0062】
いくつかの実施形態では、エピトープを含むペプチドまたはポリペプチドをコードする非免疫原性RNAは、対象の細胞において一過性に発現される。
【0063】
いくつかの実施形態では、対象はヒトである。
【0064】
一態様では、
(i)対象において抗原に対する免疫応答を誘導するためのエピトープを含むペプチドまたはポリペプチドをコードする非免疫原性RNA、および
(ii)PD-1軸結合アンタゴニストまたはPD-1軸結合アンタゴニストをコードするRNAを含む、医薬製剤が本明細書において提供される。
【0065】
いくつかの実施形態では、医薬製剤は、抗原の発現または発現上昇に関連する疾患、障害または状態を治療するためのものである。
【0066】
いくつかの実施形態では、免疫応答はT細胞媒介性免疫応答である。
【0067】
いくつかの実施形態では、免疫応答は、抗原特異的T細胞の生成を含む。
【0068】
いくつかの実施形態では、抗原は腫瘍関連抗原である。
【0069】
いくつかの実施形態では、疾患、障害または状態は癌である。
【0070】
いくつかの実施形態では、医薬製剤は、
(i)エピトープを含むペプチドまたはポリペプチドをコードする非免疫原性RNA、および
(ii)PD-1軸結合アンタゴニストを含む。
【0071】
いくつかの実施形態では、非免疫原性RNAは、投与されたとき、標準RNAと比較して、樹状細胞の活性化、T細胞の活性化および/またはIFN-αの分泌の低下をもたらす。
【0072】
いくつかの実施形態では、非免疫原性RNAは、修飾ヌクレオシドの組込みおよび/または二本鎖RNA(dsRNA)の量の制限によって非免疫原性にされる。いくつかの実施形態では、非免疫原性RNAは、修飾ヌクレオシドの組込みおよび/またはdsRNAの除去によって非免疫原性にされる。
【0073】
いくつかの実施形態では、修飾ヌクレオシドは、自然免疫受容体のRNA媒介性活性化を抑制する。
【0074】
いくつかの実施形態では、修飾ヌクレオシドは、修飾核酸塩基を含むヌクレオシドによる1つ以上のウリジンの置換を含む。
【0075】
いくつかの実施形態では、修飾核酸塩基は修飾ウラシルである。
【0076】
いくつかの実施形態では、修飾核酸塩基を含むヌクレオシドは、3-メチル-ウリジン(m3U)、5-メトキシ-ウリジン(mo5U)、5-アザ-ウリジン、6-アザ-ウリジン、2-チオ-5-アザ-ウリジン、2-チオ-ウリジン(s2U)、4-チオ-ウリジン(s4U)、4-チオ-プソイドウリジン、2-チオ-プソイドウリジン、5-ヒドロキシ-ウリジン(ho5U)、5-アミノアリル-ウリジン、5-ハロ-ウリジン(例えば5-ヨード-ウリジンまたは5-ブロモ-ウリジン)、ウリジン5-オキシ酢酸(cmo5U)、ウリジン5-オキシ酢酸メチルエステル(mcmo5U)、5-カルボキシメチル-ウリジン(cm5U)、1-カルボキシメチル-プソイドウリジン、5-カルボキシヒドロキシメチル-ウリジン(chm5U)、5-カルボキシヒドロキシメチル-ウリジンメチルエステル(mchm5U)、5-メトキシカルボニルメチル-ウリジン(mcm5U)、5-メトキシカルボニルメチル-2-チオ-ウリジン(mcm5s2U)、5-アミノメチル-2-チオ-ウリジン(nm5s2U)、5-メチルアミノメチル-ウリジン(mnm5U)、1-エチル-プソイドウリジン、5-メチルアミノメチル-2-チオ-ウリジン(mnm5s2U)、5-メチルアミノメチル-2-セレノ-ウリジン(mnm5se2U)、5-カルバモイルメチル-ウリジン(ncm5U)、5-カルボキシメチルアミノメチル-ウリジン(cmnm5U)、5-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオ-ウリジン(cmnm5s2U)、5-プロピニル-ウリジン、1-プロピニル-プソイドウリジン、5-タウリノメチル-ウリジン(τm5U)、1-タウリノメチル-プソイドウリジン、5-タウリノメチル-2-チオ-ウリジン(τm5s2U)、1-タウリノメチル-4-チオ-プソイドウリジン、5-メチル-2-チオ-ウリジン(m5s2U)、1-メチル-4-チオ-プソイドウリジン(m1s4Ψ)、4-チオ-1-メチル-プソイドウリジン、3-メチル-プソイドウリジン(m3Ψ)、2-チオ-1-メチル-プソイドウリジン、1-メチル-1-デアザ-プソイドウリジン、2-チオ-1-メチル-1-デアザ-プソイドウリジン、ジヒドロウリジン(D)、ジヒドロプソイドウリジン、5,6-ジヒドロウリジン、5-メチル-ジヒドロウリジン(m5D)、2-チオ-ジヒドロウリジン、2-チオ-ジヒドロプソイドウリジン、2-メトキシ-ウリジン、2-メトキシ-4-チオ-ウリジン、4-メトキシ-プソイドウリジン、4-メトキシ-2-チオ-プソイドウリジン、N1-メチル-プソイドウリジン、3-(3-アミノ-3-カルボキシプロピル)ウリジン(acp3U)、1-メチル-3-(3-アミノ-3-カルボキシプロピル)プソイドウリジン(acp3Ψ)、5-(イソペンテニルアミノメチル)ウリジン(inm5U)、5-(イソペンテニルアミノメチル)-2-チオ-ウリジン(inm5s2U)、α-チオ-ウリジン、2’-O-メチル-ウリジン(Um)、5,2’-O-ジメチル-ウリジン(m5Um)、2’-O-メチル-プソイドウリジン(Ψm)、2-チオ-2’-O-メチル-ウリジン(s2Um)、5-メトキシカルボニルメチル-2’-O-メチル-ウリジン(mcm5Um)、5-カルバモイルメチル-2’-O-メチル-ウリジン(ncm5Um)、5-カルボキシメチルアミノメチル-2’-O-メチル-ウリジン(cmnm5Um)、3,2’-O-ジメチル-ウリジン(m3Um)、5-(イソペンテニルアミノメチル)-2’-O-メチル-ウリジン(inm5Um)、1-チオ-ウリジン、デオキシチミジン、2’-F-アラ-ウリジン、2’-F-ウリジン、2’-OH-アラ-ウリジン、5-(2-カルボメトキシビニル)ウリジン、および5-[3-(1-E-プロペニルアミノ)ウリジンからなる群より選択される。
【0077】
いくつかの実施形態では、修飾核酸塩基を含むヌクレオシドは、プソイドウリジン(ψ)、N1-メチル-プソイドウリジン(m1ψ)または5-メチル-ウリジン(m5U)である。
【0078】
いくつかの実施形態では、修飾核酸塩基を含むヌクレオシドは1-メチル-プソイドウリジンである。
【0079】
いくつかの実施形態では、エピトープを含むペプチドまたはポリペプチドをコードする非免疫原性RNAは、mRNAである。
【0080】
いくつかの実施形態では、エピトープを含むペプチドまたはポリペプチドをコードする非免疫原性RNAは、インビトロ転写RNAである。
【0081】
いくつかの実施形態では、エピトープを含むペプチドまたはポリペプチドをコードする非免疫原性RNAは、リンパ系を標的とするための製剤中に存在する。いくつかの実施形態では、リンパ系は二次リンパ器官、特に脾臓を含む。
【0082】
いくつかの実施形態では、エピトープを含むペプチドまたはポリペプチドをコードする非免疫原性RNAは、樹状細胞を標的とするための製剤中に存在する。
【0083】
いくつかの実施形態では、樹状細胞は未成熟樹状細胞である。
【0084】
いくつかの実施形態では、エピトープを含むペプチドまたはポリペプチドをコードする非免疫原性RNAは、リポプレックス(LPX)粒子を含む製剤中に存在する。
【0085】
いくつかの実施形態では、PD-1軸結合アンタゴニストは、PD-1結合アンタゴニストを含む。
【0086】
いくつかの実施形態では、PD-1結合アンタゴニストは、抗PD-1抗体を含む。
【0087】
いくつかの実施形態では、抗PD-1抗体は、ニボルマブまたはペンブロリズマブを含む。
【0088】
いくつかの実施形態では、PD-1軸結合アンタゴニストは、PD-L1結合アンタゴニストを含む。
【0089】
いくつかの実施形態では、PD-L1結合アンタゴニストは、抗PD-L1抗体を含む。
【0090】
いくつかの実施形態では、抗PD-L1抗体は、アテゾリズマブ、アベルマブまたはデュルバルマブを含む。
【0091】
いくつかの実施形態では、医薬製剤は、免疫賦活剤または免疫賦活剤をコードするRNAを含む。
【0092】
いくつかの実施形態では、医薬製剤は、免疫賦活剤または免疫賦活剤をコードするRNAを含まない。
【0093】
いくつかの実施形態では、免疫賦活剤は、炎症促進性または抗炎症性免疫賦活剤である。
【0094】
いくつかの実施形態では、免疫賦活剤は、サイトカインまたはその変異体を含む。
【0095】
いくつかの実施形態では、サイトカインは、I型インターフェロンまたはその変異体を含む。
【0096】
いくつかの実施形態では、I型インターフェロンは、インターフェロン-αまたはその変異体を含む。
【0097】
いくつかの実施形態では、サイトカインは、インターロイキンまたはその変異体を含む。
【0098】
いくつかの実施形態では、サイトカインは、T細胞プライミングを支援する。
【0099】
いくつかの実施形態では、サイトカインは、IL12、IL15またはそれらの変異体を含む。
【0100】
いくつかの実施形態では、サイトカインは、T細胞の増殖および/または維持を支援する。
【0101】
いくつかの実施形態では、サイトカインは、IL2、IL7またはそれらの変異体を含む。
【0102】
いくつかの実施形態では、免疫賦活剤は、延長薬物動態(PK)免疫賦活剤である。いくつかの実施形態では、延長PK免疫賦活剤は、融合タンパク質を含む。いくつかの実施形態では、融合タンパク質は、免疫賦活剤の部分と、血清アルブミン、免疫グロブリン断片、トランスフェリン、Fn3およびそれらの変異体からなる群から選択される部分とを含む。いくつかの実施形態では、血清アルブミンは、マウス血清アルブミンまたはヒト血清アルブミンを含む。いくつかの実施形態では、免疫グロブリン断片は、免疫グロブリンFcドメインを含む。
【0103】
いくつかの実施形態では、免疫賦活剤をコードするRNAは、リンパ系を標的とするための製剤中に存在する。
【0104】
いくつかの実施形態では、免疫賦活剤をコードするRNAは、肝臓を標的とするための製剤中に存在する。
【0105】
いくつかの実施形態では、リンパ系は二次リンパ器官、特に脾臓である。
【0106】
いくつかの実施形態では、免疫賦活剤をコードするRNAは、非免疫原性である。いくつかの実施形態では、免疫賦活剤をコードするRNAは、mRNAである。いくつかの実施形態では、免疫賦活剤をコードするRNAは、インビトロ転写RNAである。
【0107】
いくつかの実施形態では、エピトープを含むペプチドまたはポリペプチドをコードする非免疫原性RNA、およびPD-1軸結合アンタゴニストまたはPD-1軸結合アンタゴニストをコードするRNAは、共通の製剤または別個の製剤中に存在する。
【0108】
いくつかの実施形態では、医薬製剤はキットである。
【0109】
いくつかの実施形態では、医薬製剤は、エピトープを含むペプチドまたはポリペプチドをコードする非免疫原性RNA、およびPD-1軸結合アンタゴニストまたはPD-1軸結合アンタゴニストをコードするRNAを、医薬組成物中に含む。
【0110】
いくつかの実施形態では、医薬製剤は、エピトープを含むペプチドまたはポリペプチドをコードする非免疫原性RNA、およびPD-1軸結合アンタゴニストまたはPD-1軸結合アンタゴニストをコードするRNAを、別々の容器に含む。
【0111】
いくつかの実施形態では、医薬製剤は、医薬製剤を使用するための説明書をさらに含む。
【0112】
いくつかの実施形態では、医薬製剤は医薬組成物である。
【0113】
一態様では、医薬用途のための本明細書に記載の医薬製剤が本明細書で提供される。
【0114】
いくつかの実施形態では、医薬用途は、疾患または障害の治療的または予防的処置を含む。
【0115】
いくつかの実施形態では、疾患または障害は癌である。
【0116】
一態様では、本明細書に記載の方法で使用するための本明細書に記載の医薬製剤が本明細書で提供される。
【0117】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のRNAは、細胞、例えばレシピエントの細胞に入るとそれぞれのタンパク質に翻訳され得る一本鎖RNAである。アミノ酸配列、例えば抗原配列などの薬学的に活性なペプチドまたはポリペプチド(エピトープを含むペプチドまたはポリペプチド)をコードする野生型またはコドン最適化配列に加えて、RNAは、安定性および翻訳効率に関してRNAの最大効果のために最適化された1つ以上の構造要素(5’キャップ、5’UTR、3’UTR、ポリ(A)尾部)を含み得る。いくつかの実施形態では、RNAはこれらの要素の全てを含む。いくつかの実施形態では、β-S-ARCA(D1)(m 7,2’-OGppSpG)またはm 7,3’-OGppp(m 2’-O)ApGを、RNA原薬の5’末端の特異的キャッピング構造として利用し得る。5’-UTR配列として、翻訳効率を高めるために最適化された「コザック配列」を有していてもよい、ヒトα-グロビンmRNAの5’-UTR配列を使用し得る。3’-UTR配列として、より高い最大タンパク質レベルおよびmRNAの長期持続性を確実にするために、コード配列とポリ(A)テールとの間に配置された「スプリットのアミノ末端エンハンサ」(AES)mRNA(Fと呼ばれる)およびミトコンドリアコード12SリボソームRNA(Iと呼ばれる)に由来する2つの配列要素(FI要素)の組合せを使用し得る。これらは、RNAの安定性を付与し、総タンパク質発現を増強する配列のエクスビボ選択プロセスによって同定された(参照により本明細書に組み込まれる、国際公開第2017/060314号を参照)。あるいは、3’-UTRは、ヒトβグロビンmRNAの2つの反復3’-UTRであり得る。さらに、30個のアデノシン残基のストレッチ、それに続く(ランダムヌクレオチドの)10個のヌクレオチドリンカー配列および別の70個のアデノシン残基からなる、110ヌクレオチド長と測定されるポリ(A)尾部を使用し得る。このポリ(A)テール配列は、RNA安定性および翻訳効率を高めるように設計された。
【0118】
エピトープを含むペプチドまたはポリペプチドは、エピトープまたは抗原のアミノ酸配列以外のアミノ酸配列を含み得る。いくつかの実施形態では、そのような他のアミノ酸配列は、抗原プロセシングおよび/または提示を増強するアミノ酸配列を含む。代替的にまたは追加的に、そのような他のアミノ酸配列は、免疫寛容を破壊するアミノ酸配列を含む。
【0119】
本明細書に記載のRNAなどの核酸をポリマー、タンパク質および/または脂質、好ましくは脂質と複合体化して、投与のための核酸粒子を生成し得る。異なる核酸の組合せが使用される場合、核酸は、一緒に複合体化され得るか、または別々に複合体化され得る。
【図面の簡単な説明】
【0120】
図1】uRNAによるワクチン接種と比較して、ワクチン誘導抗原特異的CD8+T細胞上のPD-1発現の増強をもたらすmodRNAによるワクチン接種を示す図である。 C57BL/6マウス(n=3/群および時点)に、H-2Kb拘束性エピトープOVA257-264(SIINFEKL)をコードするmodRNAまたはuRNAからなる20μgのRNA-LPXを0日目および7日目にIVで2回ワクチン接種した。対照マウスにNaClを投与した。(a)各ワクチン接種の3日後、5日後および7日後の脾臓における、PD-1を発現するOVA特異的CD8+T細胞の割合(平均±SEM)および(b)OVA特異的CD8+T細胞でのPD-1の発現(MFI値±SEMの平均)。(c)2回目のワクチン接種の5日後の血液におけるOVA特異的CD8+T細胞でのPD-1の発現(MFI値±SEMの平均)。OVA特異的CD8+T細胞の割合が1%未満であった場合、データをプロットしなかった(a、b)。垂直の点線は処置日を示す(a、b)。対応のないt検定(c)。**:P≦0.01。modRNAはヌクレオシド修飾RNA。uRNAはウリジン含有RNA。OVAはニワトリ卵白アルブミン。MFIは蛍光強度中央値。RNAはリボ核酸。PD-1はプログラム死受容体1。
図2】特に自己抗原に対してワクチン接種する場合、チェックポイント遮断との組合せによって増強されるmodRNAワクチン接種の効力を示す図である。 (a)C57BL/6マウス(n=5/群)に、H-2Kb拘束性エピトープOVA257-264(SIINFEKL)をコードするmodRNAからなる1または10μgのRNA-LPXを(0日目、7日目、14日目、21日目、28日目)にIVで5回ワクチン接種し、200μgの抗PD-L1抗体で同時にIP処置した。対照マウスにmodRNAおよびアイソタイプ、またはNaClを投与した。2回目のワクチン接種以降の各ワクチン接種の5日後の血液中の全CD8+T細胞のOVA特異的CD8+T細胞の割合(平均±SEM)。(b)C57BL/6マウス(n=5/群)に、ヒトTRP2のMHCクラスII提示エピトープであるTRP88-102(RKFFHRTCKCTGNFA)に融合したTRP2180-188(SVYDFFVWL)をコードするmodRNAからなる20μgのRNA-LPXを(0日目、7日目、14日目、21日目、28日目)にIVで5回ワクチン接種し、250μgの抗PD-1抗体で同時にIP処置した。対照マウスにmodRNAおよびアイソタイプ、またはNaClを投与した。各ワクチン接種の5日後の血液中の全CD8+T細胞のTRP2特異的CD8+T細胞の割合(平均±SEM)。垂直の点線は処置日を示す(a、b)。統計的有意性は、混合効果分析およびテューキーの多重比較検定(b)によって決定した。*:P≦0.05、**:P≦0.01。modRNAはヌクレオシド修飾RNA。RNAはリボ核酸。OVAはニワトリ卵白アルブミン。TRP2はチロシナーゼ関連タンパク質2。PD-1はプログラム死受容体1。PD-L1はプログラム死受容体リガンド1。
図3】modRNAワクチン接種とチェックポイント遮断との組合せによる、modRNAワクチン接種単独と比較した治療的抗腫瘍活性の増強を示す図である。 C57BL/6マウス(n=10/群)にB16-F10腫瘍細胞をSC接種し、腫瘍接種後9日目から65日目まで、ヒトTRP2のMHCクラスII提示エピトープであるTRP88-102(RKFFHRTCKCTGNFA)に融合したTRP2180-188(SVYDFFVWL)をコードするmodRNAからなる10μgのRNA-LPXをIVで毎週ワクチン接種した。マウスを抗PD-L1抗体またはアイソタイプ対照(初回処置:10mg/kg、連続処置:5mg/kg)で同時にIP処置した。対照マウスには、抗PD-L1抗体と共に対照RNAを投与した。(a)個々の腫瘍成長。(b)生存。modRNAはヌクレオシド修飾RNA。RNAはリボ核酸。TRP2はチロシナーゼ関連タンパク質2。PD-L1はプログラム死受容体リガンド1。
図4】modRNAワクチン接種とチェックポイント遮断との組合せへのIL-2の添加による、二重の組合せと比較した抗原特異的CD8+T細胞の誘導の増強を示す図である。 C57BL/6マウス(n=7/群)に、ヒトTRP2のMHCクラスII提示エピトープであるTRP88-102(RKFFHRTCKCTGNFA)に融合したTRP2180-188(SVYDFFVWL)をコードするmodRNAからなる20μgのRNA-LPXを(0日目、7日目、14日目)にIVで3回ワクチン接種し、2回目および3回目のワクチン接種と同時に、10mg/kgの抗PD-1抗体またはアイソタイプ対照をIPで、および3μgのIL-2またはアルブミン対照をIVで処置した。対照マウスにNaClを投与した。(a)3回目のワクチン接種の5日後の血液(左)および脾臓(右)中の全CD8+T細胞のTRP2特異的CD8+T細胞の割合。(b)3回目のワクチン接種の5日後の脾臓中のTRP2特異的CD8+T細胞対制御性T細胞比。(c)TRP2ペプチドまたはペプチドなしでのエクスビボ再刺激後の全CD8+T細胞のIFNγ分泌TRP2特異的CD8+T細胞の割合。TRP2特異的CD8+T細胞の割合が0.5%未満であった場合、データをプロットしなかった(c)。三重の組合せで処置した群では、1つの外れ値を除去した(脾臓;a、b)。各ドットは1匹のマウスを表す、水平線は平均である(a、b)。統計的有意性は、一元配置分散分析およびテューキーの多重比較検定(a、b)または混合効果分析およびテューキーの多重比較検定(c)によって決定した。ns:P>0.05、***:P≦0.001、****:P≦0.0001。modRNAはヌクレオシド修飾RNA。RNAはリボ核酸。TRP2はチロシナーゼ関連タンパク質2。Tregは制御性T細胞。PD-1はプログラム死受容体1。
図5】modRNAワクチン接種とチェックポイント遮断との組合せへのIL-2の添加による、二重の組合せと比較した治療的抗腫瘍活性の増強を示す図である。 C57BL/6マウス(n=10/群)にB16-F10腫瘍細胞をSC接種し、腫瘍接種後8日目から91日目まで、ヒトTRP2のMHCクラスII提示エピトープであるTRP88-102(RKFFHRTCKCTGNFA)に融合したTRP2180-188(SVYDFFVWL)をコードするmodRNAからなる10μgのRNA-LPXをIVで毎週ワクチン接種した。マウスを抗PD-L1抗体(初回処置:10mg/kg、連続処置:5mg/kg)で同時にIP処置し、各ワクチン接種/抗PD-L1処置の2日後に1μgのIL-2またはアルブミン対照でIV処置した。(a)個々の腫瘍成長。(b)生存率。(c)処置に応答して白斑を経験しているマウスの代表的な画像。modRNAはヌクレオシド修飾RNA。RNAはリボ核酸。TRP2はチロシナーゼ関連タンパク質2。IL-2はインターロイキン-2。PD-L1はプログラム死受容体リガンド1。
【0121】
配列の説明
以下の表は、本明細書で参照される特定の配列のリストを提供する。
【0122】
【表1】
【発明を実施するための形態】
【0123】
本開示を以下でより詳細にさらに説明するが、この開示は本明細書に記載される特定の方法、プロトコルおよび試薬に限定されず、これらは異なり得ることを理解されたい。また、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的とし、本開示の範囲を限定することを意図するものではなく、本開示の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されることも理解されたい。特に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0124】
以下において、本開示の要素をより詳細に説明する。これらの要素を具体的な実施形態と共に列挙するが、それらは、さらなる実施形態を創出するために任意の方法および任意の数で組み合わせ得ることを理解されたい。様々に説明される例および好ましい実施形態は、本開示を明示的に記載される実施形態のみに限定すると解釈されるべきではない。この説明は、明確に記述される実施形態を任意の数の開示される要素および/または好ましい要素と組み合わせた実施形態を支持し、包含すると理解されるべきである。さらに、本出願に記載されている全ての要素の任意の並び替えおよび組合せは、文脈上特に指示されない限り、本出願の説明によって開示されていると見なされるべきである。
【0125】
本開示の実施は、特に明記されない限り、当分野の文献で説明されている従来の化学、生化学、細胞生物学、免疫学、および組換えDNA技術を使用する。
【0126】
本明細書および以下の特許請求の範囲を通して、文脈上特に必要とされない限り、「含む」という語および「含むこと」などの変形は、記述される特徴、要素、メンバー、整数もしくは工程または特徴、要素、メンバー、整数もしくは工程の群の包含を意味するが、いかなる他の特徴、要素、メンバー、整数もしくは工程または特徴、要素、メンバー、整数もしくは工程の群の除外も意味しないと理解される。「から本質的になる」という用語は、特許請求の範囲または開示の範囲を、指定された特徴、要素、メンバー、整数または工程、ならびに特許請求の範囲または開示の基本的かつ新規な特徴に実質的に影響を及ぼさないものに限定する。「からなる」という用語は、特許請求の範囲または開示の範囲を、指定された特徴、要素、メンバー、整数または工程に限定する。「含む」という用語は、「から本質的になる」という用語を包含し、これは次に「からなる」という用語を包含する。したがって、本出願における各存在ごとに、「含む」という用語は、「から本質的になる」または「からなる」という用語で置き換えられてもよい。同様に、本出願における各存在ごとに、「から本質的になる」という用語は、「からなる」という用語で置き換えられてもよい。
【0127】
本開示を説明する文脈において(特に特許請求の範囲の文脈において)使用される「1つの」および「その」という用語および同様の言及は、本明細書で特に指示されない限り、または文脈と明らかに矛盾しない限り、単数および複数の両方を包含すると解釈されるべきである。
【0128】
本明細書に記載される全ての方法は、本明細書で特に指示されない限り、または文脈と明らかに矛盾しない限り、任意の適切な順序で実施することができる。
【0129】
本明細書で提供されるありとあらゆる例または例示的言語(例えば「など」)の使用は、単に本開示をよりよく説明することを意図しており、特許請求される本開示の範囲に限定を課すものではない。本明細書中のいかなる言語も、本開示の実施に不可欠な特許請求されていない要素を指示すると解釈されるべきではない。
【0130】
本明細書で使用される「任意の」または「任意に」という用語は、続いて記述される事象、状況または状態が発生してもよくまたは発生しなくてもよいこと、およびその記述が、当該事象、状況または状態が発生する場合と発生しない場合とを含むことを意味する。
【0131】
本明細書で使用される場合、「および/または」は、他のものを含むまたは含まない、2つの指定された特徴または構成要素のそれぞれの具体的な開示として解釈されるべきである。例えば、「Xおよび/またはY」は、(i)X、(ii)Y、ならびに(iii)XおよびYの各々の具体的な開示として、あたかも各々が本明細書に個別に記載されているかのごとくに解釈されるべきである。
【0132】
本開示の文脈において、「約」という用語は、当業者が問題の特徴の技術的効果を依然として保証すると理解する精度の区間を示す。この用語は、典型的には、示された数値からの±10%、±5%、±4%、±3%、±2%、±1%、±0.9%、±0.8%、±0.7%、±0.6%、±0.5%、±0.4%、±0.3%、±0.2%、±0.1%、±0.05%、例えば±0.01%の偏差を示す。いくつかの実施形態では、「約」は、示された数値から±10%の偏差を示す。いくつかの実施形態では、「約」は、示された数値から±5%の偏差を示す。いくつかの実施形態では、「約」は、示された数値から±4%の偏差を示す。いくつかの実施形態では、「約」は、示された数値から±3%の偏差を示す。いくつかの実施形態では、「約」は、示された数値から±2%の偏差を示す。いくつかの実施形態では、「約」は、示された数値から±1%の偏差を示す。いくつかの実施形態では、「約」は、示された数値から±0.9%の偏差を示す。いくつかの実施形態では、「約」は、示された数値から±0.8%の偏差を示す。いくつかの実施形態では、「約」は、示された数値から±0.7%の偏差を示す。いくつかの実施形態では、「約」は、示された数値から±0.6%の偏差を示す。いくつかの実施形態では、「約」は、示された数値から±0.5%の偏差を示す。いくつかの実施形態では、「約」は、示された数値から±0.4%の偏差を示す。いくつかの実施形態では、「約」は、示された数値から±0.3%の偏差を示す。いくつかの実施形態では、「約」は、示された数値から±0.2%の偏差を示す。いくつかの実施形態では、「約」は、示された数値から±0.1%の偏差を示す。いくつかの実施形態では、「約」は、示された数値から±0.05%の偏差を示す。いくつかの実施形態では、「約」は、示された数値から±0.01%の偏差を示す。当業者には理解されるように、所与の技術的効果の数値に対するそのような具体的な偏差は、技術的効果の性質に依存する。例えば、天然または生物学的な技術的効果は、一般に、人工的または工学的な技術的効果のものよりも大きいそのような偏差を有し得る。
【0133】
本明細書における値の範囲の列挙は、単に、その範囲内に入る各々別個の値を個別に言及することの簡略方法として機能することが意図されている。本明細書で特に指示されない限り、各個別の値は、本明細書で個別に列挙されているかのごとくに本明細書に組み込まれる。
【0134】
本明細書の本文全体を通していくつかの資料を引用する。本明細書で引用される資料(全ての特許、特許出願、科学出版物、製造業者の仕様書、説明書などを含む)の各々は、上記または下記のいずれでも、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。本明細書のいかなる内容も、本発明が先行発明によってそのような開示に先行する権利がないことの承認として解釈されるべきではない。
【0135】
定義
以下において、本開示の全ての態様に適用される定義を提供する。以下の用語は、特に指示されない限り、以下の意味を有する。定義されていない用語は、それらの技術分野で広く認められている意味を有する。
【0136】
本明細書で使用される「低減する」または「阻害する」などの用語は、例えば、約5%以上、約10%以上、約15%以上、約20%以上、約25%以上、約30%以上、約40%以上、約50%以上、または約75%以上のレベルの全体的な減少を生じさせる能力を意味する。「阻害する」という用語または同様の語句は、完全なまたは本質的に完全な阻害、すなわちゼロまたは本質的にゼロへの低減を含む。
【0137】
本明細書で使用される「増強」または「増強させる」などの用語は、例えば、少なくとも約5%以上、約10%以上、約15%以上、約20%以上、約25%以上、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約75%以上、または約100%以上のレベルの全体的な増加または増強を生じさせる能力を意味する。
【0138】
本明細書で使用される「生理学的pH」は、約7.4のpHを指す。いくつかの実施形態では、生理学的pHは、7.3~7.5である。いくつかの実施形態では、生理学的pHは、7.35~7.45である。いくつかの実施形態では、生理学的pHは、7.3、7.35、7.4、7.45または7.5である。
【0139】
本開示で使用される場合、「%w/v」は、ミリリットル(mL)単位での溶液の総体積のパーセントとして表されるグラム(g)単位での溶質の量を測定する濃度の単位である、重量体積パーセントを指す。
【0140】
本開示で使用される場合、「重量%」は、グラム(g)での全組成物の総重量のパーセントとして表されるグラム(g)での物質の量を測定する濃度の単位である、重量パーセントを指す。
【0141】
本開示で使用される場合、「モル%」は、全ての成分の総モル数に対する1つの成分のモル数の比率に100を乗じたものとして定義される。
【0142】
本開示で使用される場合、「モル%」は、全ての脂質の総モル数に対する1つの脂質成分のモル数の比率に100を乗じたものとして定義される。これに関連して、いくつかの実施形態では、「総脂質」という用語は、脂質および脂質様物質を含む。
【0143】
「イオン強度」という用語は、特定の溶液中の異なる種類のイオン種の数とそれらのそれぞれの電荷との間の数学的関係を指す。したがって、イオン強度Iは、式:
【0144】
【数1】
【0145】
によって数学的に表され、式中、cは特定のイオン種のモル濃度であり、zはその電荷の絶対値である。総和Σは、溶液中の全ての異なる種類のイオン(i)に適用される。
【0146】
本開示によれば、いくつかの実施形態における「イオン強度」という用語は、一価イオンの存在に関する。二価イオン、特に二価カチオンの存在に関して、キレート剤の存在により、それらの濃度または有効濃度(遊離イオンの存在)は、いくつかの実施形態では、核酸の分解を防止するのに十分に低い。いくつかの実施形態では、二価イオンの濃度または有効濃度は、RNAヌクレオチドなどのヌクレオチド間のホスホジエステル結合の加水分解のための触媒レベルよりも低い。いくつかの実施形態では、遊離二価イオンの濃度は20μM以下である。いくつかの実施形態では、遊離二価イオンは存在しないか、または本質的に存在しない。
【0147】
「重量オスモル濃度」は、溶媒1キログラム当たりの溶質のオスモル数として表される特定の溶質の濃度を指す。
【0148】
「凍結乾燥する」または「凍結乾燥」という用語は、物質を凍結し、次いで周囲の圧力を低下させて(例えば、15Pa未満、例えば10Pa未満、5Pa未満、または1Pa以下)、物質中の凍結媒体を固相から気相に直接昇華させることによる物質の凍結乾燥を指す。したがって、「凍結乾燥する」および「フリーズドライする」という用語は、本明細書では互換的に使用される。
【0149】
「噴霧乾燥」という用語は、容器(噴霧乾燥機)内で(加熱された)気体を霧化(噴霧)される流体と混合することによって物質を噴霧乾燥することを指し、形成された液滴からの溶媒が蒸発し、乾燥粉末をもたらす。
【0150】
「再構成する」という用語は、乾燥した生成物をその元の液体状態などの液体状態に戻すために、水などの溶媒を乾燥した生成物に添加することに関する。
【0151】
本開示の文脈における「組換え」という用語は、「遺伝子操作を介して作製された」ことを意味する。いくつかの実施形態では、本開示の文脈における「組換え物」は、天然には存在しない。
【0152】
本明細書で使用される「天然に存在する」という用語は、物体が自然界で見出され得るという事実を指す。例えば、生物(ウイルスを含む)中に存在し、自然界の供給源から単離することができ、実験室で人間によって意図的に改変されていないペプチドまたは核酸は、天然に存在する。「自然界で見出される」という用語は、「自然界に存在する」ことを意味し、公知の物体ならびに自然からまだ発見および/または単離されていないが、天然源から将来発見および/または単離される可能性がある物体を含む。
【0153】
本明細書で使用される場合、「室温」および「周囲温度」という用語は、本明細書では互換的に使用され、少なくとも約15℃、例えば約15℃~約35℃、約15℃~約30℃、約15℃~約25℃、または約17℃~約22℃の温度を指す。
【0154】
「EDTA」という用語は、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩を指す。全ての濃度はEDTA二ナトリウム塩に関して与えられる。
【0155】
「凍結保護剤」という用語は、凍結段階中に活性成分を保護するために製剤に添加される物質に関する。
【0156】
「凍結乾燥保護剤」という用語は、乾燥段階中に活性成分を保護するために製剤に添加される物質に関する。
【0157】
本開示によれば、「ペプチド」という用語は、ペプチド結合によって互いに連結された約2個以上、約3個以上、約4個以上、約6個以上、約8個以上、約10個以上、約13個以上、約16個以上、約20個以上、および最大約50個、約100個または約150個までの連続するアミノ酸を含む物質を指す。「ポリペプチド」という用語は、大きなペプチド、特に少なくとも約151個のアミノ酸を有するペプチドを指す。「ペプチド」および「ポリペプチド」は両方ともタンパク質分子であるが、「タンパク質」および「ポリペプチド」という用語は、本明細書では通常同義語として使用される。
【0158】
「部分」という用語は画分を指す。アミノ酸配列またはタンパク質などの特定の構造に関して、その「部分」という用語は、当該構造の連続または不連続な画分を指し得る。
【0159】
「部分」および「断片」という用語は、本明細書では互換的に使用され、連続する要素を指す。例えば、アミノ酸配列またはタンパク質などの構造の一部は、当該構造の連続する要素を指す。組成物に関連して使用される場合、「部分」という用語は、組成物の一部を意味する。例えば、組成物の一部は、当該組成物の0.1%~99.9%(例えば0.1%、0.5%、1%、5%、10%、50%、90%、または99%)の任意の部分であり得る。
【0160】
アミノ酸配列(ペプチドまたはポリペプチド)に関して、「断片」は、アミノ酸配列の一部、すなわちN末端および/またはC末端で短縮されたアミノ酸配列を表す配列に関する。C末端で短縮された断片(N末端断片)は、例えば、オープンリーディングフレームの3’末端を欠くトランケートされたオープンリーディングフレームの翻訳によって得ることができる。N末端で短縮された断片(C末端断片)は、例えば、トランケートされたオープンリーディングフレームが翻訳を開始するように働く開始コドンを含む限り、オープンリーディングフレームの5’末端を欠くトランケートされたオープンリーディングフレームの翻訳によって得ることができる。アミノ酸配列の断片は、例えば、アミノ酸配列からのアミノ酸残基の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%を含む。アミノ酸配列の断片は、例えば、アミノ酸配列からの少なくとも6個、特に少なくとも8個、少なくとも10個、少なくとも12個、少なくとも15個、少なくとも20個、少なくとも30個、少なくとも50個、または少なくとも100個の連続するアミノ酸を含む。アミノ酸配列の断片は、例えば、アミノ酸配列の最大8個、特に最大10個、最大12個、最大15個、最大20個、最大30個または最大55個の連続するアミノ酸の配列を含む。
【0161】
アミノ酸配列(ペプチドまたはポリペプチド)に関して本明細書で使用される「変異体」は、少なくとも1つのアミノ酸(例えば、異なるアミノ酸、または同じアミノ酸の改変)によって親アミノ酸配列とは異なるアミノ酸配列を意味する。親アミノ酸配列は、天然もしくは野生型(WT)アミノ酸配列であり得るか、または野生型アミノ酸配列の改変形態であり得る。いくつかの実施形態では、変異体アミノ酸配列は、親アミノ酸配列と比較して少なくとも1つのアミノ酸差異、例えば、親と比較して1~約20個のアミノ酸差異、例えば1~約10個または1~約5個のアミノ酸差異を有する。
【0162】
本明細書における「野生型」または「WT」または「天然」とは、対立遺伝子変異を含む、自然界で見出されるアミノ酸配列を意味する。野生型アミノ酸配列、ペプチドまたはポリペプチドは、意図的に改変されていないアミノ酸配列を有する。
【0163】
本開示の目的のために、アミノ酸配列(ペプチドまたはポリペプチド)の「変異体」は、アミノ酸挿入変異体、アミノ酸付加変異体、アミノ酸欠失変異体および/またはアミノ酸置換変異体を含む。「変異体」という用語は、全ての突然変異体、スプライス変異体、翻訳後修飾変異体、立体配座変異体、アイソフォーム変異体、対立遺伝子変異体、種変異体、および種ホモログ、特に天然に存在するものを含む。「変異体」という用語は、特にアミノ酸配列の断片を含む。
【0164】
アミノ酸挿入変異体は、特定のアミノ酸配列中に単一または2つ以上のアミノ酸の挿入を含む。挿入を有するアミノ酸配列変異体の場合、1個以上のアミノ酸残基がアミノ酸配列の特定の部位に挿入されるが、得られた産物の適切なスクリーニングを伴うランダムな挿入も可能である。アミノ酸付加変異体は、1個以上のアミノ酸、例えば1、2、3、5、10、20、30、50個、またはそれ以上のアミノ酸のアミノ末端および/またはカルボキシ末端融合物を含む。アミノ酸欠失変異体は、配列からの1個以上のアミノ酸の除去、例えば1、2、3、5、10、20、30、50個、またはそれ以上のアミノ酸の除去を特徴とする。欠失は、タンパク質の任意の位置にあってよい。タンパク質のN末端および/またはC末端に欠失を含むアミノ酸欠失変異体は、N末端および/またはC末端切断変異体とも呼ばれる。アミノ酸置換変異体は、配列内の少なくとも1個の残基が除去され、別の残基がその位置に挿入されていることを特徴とする。相同なペプチドもしくはペプチド間で保存されていないアミノ酸配列内の位置にある修飾、および/またはアミノ酸を類似の特性を有する他のアミノ酸で置換することが好ましい。いくつかの実施形態では、ペプチドおよびポリペプチド変異体におけるアミノ酸変化は、保存的アミノ酸変化、すなわち、同様に荷電したアミノ酸または非荷電アミノ酸の置換である。保存的アミノ酸変化は、それらの側鎖が関連するアミノ酸のファミリーのうちの1つの置換を含む。天然に存在するアミノ酸は、一般に4つのファミリー:酸性(アスパラギン酸、グルタミン酸)、塩基性(リジン、アルギニン、ヒスチジン)、非極性(アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、および非荷電極性(グリシン、アスパラギン、グルタミン、システイン、セリン、トレオニン、チロシン)アミノ酸に分けられる。フェニルアラニン、トリプトファン、およびチロシンは、時に芳香族アミノ酸として一緒に分類されることがある。いくつかの実施形態では、保存的アミノ酸置換は、以下の群内の置換を含む:
-グリシン、アラニン;
-バリン、イソロイシン、ロイシン;
-アスパラギン酸、グルタミン酸;
-アスパラギン、グルタミン;
-セリン、トレオニン;
-リジン、アルギニン;および
-フェニルアラニン、チロシン。
【0165】
いくつかの実施形態では、所与のアミノ酸配列と当該所与のアミノ酸配列の変異体であるアミノ酸配列との間の同一性などの類似性の程度は、少なくとも約60%、70%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%である。いくつかの実施形態では、類似性または同一性の程度は、参照アミノ酸配列の全長の少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、または約100%であるアミノ酸領域について与えられる。例えば、参照アミノ酸配列が200個のアミノ酸からなる場合、類似性または同一性の程度は、例えば、少なくとも約20個、少なくとも約40個、少なくとも約60個、少なくとも約80個、少なくとも約100個、少なくとも約120個、少なくとも約140個、少なくとも約160個、少なくとも約180個、または約200個のアミノ酸、いくつかの実施形態では連続するアミノ酸について与えられる。いくつかの実施形態では、類似性または同一性の程度は、参照アミノ酸配列の全長について与えられる。配列同一性などの配列類似性を決定するためのアラインメントは、当技術分野で公知のツールを用いて、例えば最良の配列アラインメントを使用して、例えばAlignを使用して、標準的な設定、好ましくはEMBOSS::ニードル、マトリックス:Blosum62、ギャップオープン10.0、ギャップ伸長0.5を使用して行うことができる。
【0166】
「配列類似性」は、同一であるか、または保存的アミノ酸置換を表すアミノ酸のパーセンテージを示す。2つのアミノ酸配列間の「配列同一性」は、配列間で同一であるアミノ酸のパーセンテージを示す。2つの核酸配列間の「配列同一性」は、配列間で同一であるヌクレオチドのパーセンテージを示す。
【0167】
「%同一」および「同一性%」という用語または同様の用語は、特に、比較される配列間の最適なアラインメントにおいて同一であるヌクレオチドまたはアミノ酸のパーセンテージを指すことが意図されている。当該パーセンテージは純粋に統計的であり、2つの配列間の差は、比較される配列の全長にわたってランダムに分布していてもよいが、必ずしもそうではない。2つの配列の比較は、通常、対応する配列の局所領域を同定するために、最適なアラインメント後に、セグメントまたは「比較ウィンドウ」に関して配列を比較することによって行われる。比較のための最適なアラインメントは、手動で、またはSmith and Waterman,1981,Ads App.Math.2,482による局所相同性アルゴリズムを用いて、Neddleman and Wunsch,1970,J.Mol.Biol.48,443による局所相同性アルゴリズムを用いて、Pearson and Lipman,1988,Proc.Natl Acad.Sci.USA 88,2444の類似性検索アルゴリズムを用いて、もしくは当該アルゴリズムを使用したコンピュータプログラム(Wisconsin Genetics Software Package,Genetics Computer Group,575 Science Drive,Madison,Wis.のGAP、BESTFIT、FASTA、BLAST P、BLAST NおよびTFASTA)を援用して実施し得る。いくつかの実施形態では、2つの配列の同一性パーセントは、米国国立バイオテクノロジー情報センター(United States National Center for Biotechnology Information)(NCBI)のウェブサイト(例えば、blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi?PAGE_TYPE=BlastSearch&BLAST_SPEC=blast2seq&LINK_LOC=align2seq)で入手可能なBLASTNまたはBLASTPアルゴリズムを使用して決定される。いくつかの実施形態では、NCBIウェブサイトのBLASTNアルゴリズムに使用されるアルゴリズムパラメータは、以下を含む:(i)10に設定された期待閾値;(ii)28に設定されたワードサイズ;(iii)0に設定されたクエリ範囲内の最大一致;(iv)1、-2に設定された一致/不一致スコア;(v)線形に設定されたギャップコスト;および(vi)使用されている低複雑度領域のフィルタ。いくつかの実施形態では、NCBIウェブサイトのBLASTPアルゴリズムに使用されるアルゴリズムパラメータは、以下を含む:(i)10に設定された期待閾値;(ii)3に設定されたワードサイズ;(iii)0に設定されたクエリ範囲内の最大一致;(iv)BLOSUM62に設定されたマトリックス;(v)存在:11、拡張:1に設定されたギャップコスト;および(vi)条件付き組成スコアマトリックス調整。
【0168】
同一性パーセントは、比較する配列が一致する同一の位置の数を決定し、この数を比較する位置の数(例えば、参照配列中の位置の数)で除して、この結果に100を乗じることによって得られる。
【0169】
いくつかの実施形態では、類似性または同一性の程度は、参照配列の全長の少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%または約100%である領域について与えられる。例えば、参照核酸配列が200個のヌクレオチドからなる場合、同一性の程度は、少なくとも約100個、少なくとも約120個、少なくとも約140個、少なくとも約160個、少なくとも約180個、または約200個のヌクレオチド、いくつかの実施形態では連続するヌクレオチドについて与えられる。いくつかの実施形態では、類似性または同一性の程度は、参照配列の全長について与えられる。
【0170】
相同なアミノ酸配列は、本開示によれば、アミノ酸残基の少なくとも40%、特に少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、例えば、少なくとも95%、少なくとも98または少なくとも99%の同一性を示す。
【0171】
本明細書に記載のアミノ酸配列変異体は、例えば組換えDNA操作により、当業者によって容易に調製され得る。置換、付加、挿入または欠失を有するペプチドまたはポリペプチドを調製するためのDNA配列の操作は、例えば、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,4th Edition,M.R.Green and J.Sambrook eds.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor 2012に詳細に記載されている。さらに、本明細書に記載のペプチド、ポリペプチドおよびアミノ酸変異体は、公知のペプチド合成技術を用いて、例えば固相合成および同様の方法によって容易に調製され得る。
【0172】
いくつかの実施形態では、アミノ酸配列(ペプチドまたはポリペプチド)の断片または変異体は、「機能的断片」または「機能的変異体」である。アミノ酸配列の「機能的断片」または「機能的変異体」という用語は、それが由来するアミノ酸配列のものと同一または類似の1つ以上の機能特性を示す、すなわち機能的に等価である任意の断片または変異体に関する。抗原または抗原配列に関して、1つの特定の機能は、断片または変異体が由来するアミノ酸配列によって示される1つ以上の免疫原性活性である。本明細書で使用される「機能的断片」または「機能的変異体」という用語は、特に、親分子または配列のアミノ酸配列と比較して1つ以上のアミノ酸によって変化しており、それでも親分子または配列の機能の1つ以上を果たす、例えば免疫応答を誘導することができるアミノ酸配列を含む変異体分子または配列を指す。いくつかの実施形態では、親分子または配列のアミノ酸配列の改変は、分子または配列の特徴に有意に影響を及ぼさないかまたは変化させない。異なる実施形態では、機能的断片または機能的変異体の機能は、低減され得るが、依然として有意に存在し得、例えば、機能的断片または機能的変異体の機能は、親分子または配列の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%であり得る。しかしながら、他の実施形態では、機能的断片または機能的変異体の機能は、親分子または配列と比較して増強され得る。
【0173】
指定されたアミノ酸配列(ペプチドまたはポリペプチド)に「由来する」アミノ酸配列(ペプチドまたはポリペプチド)は、最初のアミノ酸配列の起源を指す。いくつかの実施形態では、特定のアミノ酸配列に由来するアミノ酸配列は、その特定の配列またはその断片と同一、本質的に同一または相同であるアミノ酸配列を有する。特定のアミノ酸配列に由来するアミノ酸配列は、その特定の配列の変異体またはその断片であり得る。例えば、本明細書での使用に適した抗原は、天然配列の望ましい活性を保持しながら、それらが由来する天然に存在する配列または天然配列とは配列が異なるように改変され得ることが当業者に理解されるであろう。
【0174】
いくつかの実施形態では、「単離された」は、天然の状態から、または製造プロセスからの組成物などの人工組成物から取り出された(例えば精製された)ことを意味する。例えば、生きている動物に天然に存在する核酸、ペプチドまたはポリペプチドは「単離されて」いないが、その天然状態の共存物質から部分的または完全に分離された同じ核酸、ペプチドまたはポリペプチドは「単離されて」いる。単離された核酸、ペプチドまたはポリペプチドは、実質的に精製された形態で存在し得るか、または例えば宿主細胞などの非天然環境に存在し得る。
【0175】
「遺伝子改変」または単に「改変」という用語は、核酸による細胞のトランスフェクションを含む。
【0176】
「トランスフェクション」という用語は、細胞への核酸、特にRNAの導入に関する。本開示の目的のために、「トランスフェクション」という用語はまた、細胞への核酸の導入またはそのような細胞による核酸の取り込みを含み、細胞は、対象、例えば患者に存在し得るか、または細胞はインビトロ、例えば患者の外部に存在し得る。したがって、本開示によれば、本明細書に記載の核酸のトランスフェクションのための細胞は、インビトロまたはインビボで存在することができ、例えば、細胞は患者の器官、組織および/または身体の一部を形成することができる。本開示によれば、トランスフェクションは一過性または安定であり得る。トランスフェクションのいくつかの用途では、トランスフェクトされた遺伝物質が一過性にのみ発現されれば十分である。RNAを細胞にトランスフェクトして、そのコードされたタンパク質を一過性に発現させることができる。トランスフェクションプロセスで導入された核酸は、通常、核ゲノムに組み込まれないので、外来核酸は有糸分裂によって希釈されるかまたは分解される。核酸のエピソーム増幅を可能にする細胞は、希釈率を大幅に低下させる。トランスフェクトされた核酸が実際に細胞およびその娘細胞のゲノムに残ることが望ましい場合は、安定なトランスフェクションが起こらなければならない。そのような安定なトランスフェクションは、例えば、トランスフェクションのためにウイルスベースの系またはトランスポゾンベースの系を使用することによって達成することができる。一般に、抗原をコードする核酸は、細胞に一過性にトランスフェクトされる。一般に、抗原受容体を発現するように遺伝子改変される細胞は、受容体をコードする核酸で安定にトランスフェクトされる。RNAを細胞にトランスフェクトして、そのコードされたタンパク質を一過性に発現させることができる。
【0177】
本開示は、ペプチドまたはポリペプチドの類似体を含む。本開示によれば、ペプチドまたはポリペプチドの類似体は、それが由来する当該ペプチドまたはポリペプチドの修飾形態であり、当該ペプチドまたはポリペプチドの少なくとも1つの機能的特性を有する。例えば、ペプチドまたはポリペプチドの薬理学的に活性な類似体は、その類似体が由来するペプチドまたはポリペプチドの薬理学的活性の少なくとも1つを有する。そのような修飾には、任意の化学修飾が含まれ、炭水化物、脂質および/またはペプチドもしくはポリペプチドなどのペプチドまたはポリペプチドに関連する任意の分子の単一または複数の置換、欠失および/または付加が含まれる。いくつかの実施形態では、ペプチドまたはポリペプチドの「類似体」には、グリコシル化、アセチル化、リン酸化、アミド化、パルミトイル化、ミリストイル化、イソプレニル化、脂質化、アルキル化、誘導体化、保護基/ブロッキング基の導入、タンパク質分解切断、または抗体もしくは別の細胞リガンドへの結合から生じる修飾形態が含まれる。「類似体」という用語はまた、当該ペプチドおよびポリペプチドの全ての機能的な化学的等価物に及ぶ。
【0178】
本明細書で使用される場合、「連結された」、「融合された」、または「融合」という用語は、互換的に使用される。これらの用語は、2つ以上の要素または成分またはドメインの結合を指す。
【0179】
本明細書で使用される場合、「内因性」は、生物、細胞、組織または系からの、またはそれらの内部で産生される任意の物質を指す。
【0180】
本明細書で使用される場合、「外因性」という用語は、生物、細胞、組織または系から導入されるか、またはそれらの外部で産生される任意の物質を指す。
【0181】
本開示の様々な実施形態によれば、ペプチドまたはポリペプチドをコードするRNAなどの核酸は、インビトロでまたは対象において存在し得る細胞に取り込まれるか、または導入される、すなわちトランスフェクトまたは形質導入され、当該ペプチドまたはポリペプチドの発現をもたらす。細胞は、例えば、コードされたペプチドもしくはポリペプチドを細胞内で(例えば細胞質および/もしくは核内で)発現し得る、コードされたペプチドもしくはポリペプチドを分泌し得る、および/またはそれを表面上で発現し得る。
【0182】
本開示によれば、「発現する核酸」および「コードする核酸」などの用語または同様の用語は、本明細書では互換的に使用され、特定のペプチドまたはポリペプチドに関して、核酸が、適切な環境、例えば細胞内に存在する場合、発現されて当該ペプチドまたはポリペプチドを産生することができることを意味する。
【0183】
本明細書で使用される「発現」という用語は、特定のヌクレオチド配列の転写および/または翻訳を含む。
【0184】
本開示の文脈において、「転写」という用語は、DNA配列中の遺伝暗号がRNA(特にmRNA)に転写されるプロセスに関する。その後、RNAはペプチドまたはポリペプチドに翻訳され得る。
【0185】
RNAに関して、「発現」または「翻訳」という用語は、mRNAの鎖が、ペプチドまたはポリペプチドを作製するようにアミノ酸の配列のアセンブリを指示する、細胞のリボソームにおけるプロセスに関する。
【0186】
本明細書に記載される医薬製剤、特にキットは、説明資料または説明書を含み得る。本明細書で使用される場合、「説明資料」または「説明書」は、本発明の組成物および方法の有用性を伝えるために使用することができる刊行物、記録、図、または任意の他の表現媒体を含む。本発明のキットの説明資料は、例えば、本発明の組成物を含む容器に貼付されてもよく、または組成物を含む容器と共に出荷されてもよい。あるいは、説明資料と組成物が受領者によって協働して使用されることを意図して、説明資料は容器とは別に出荷されてもよい。
【0187】
本明細書に記載される特定の化合物のプロドラッグは、個体への投与時に生理学的条件下で化学変換を受けて特定の化合物を提供する化合物である。さらに、プロドラッグは、エクスビボ環境で化学的または生化学的方法によって特定の化合物に変換され得る。例えば、プロドラッグは、例えば、適切な酵素または化学試薬と共に経皮パッチリザーバに入れた場合、特定の化合物にゆっくり変換され得る。例示的なプロドラッグは、インビボで加水分解可能なエステル(特定の化合物に含まれるアルコールもしくはカルボキシ基を使用する)またはアミド(特定の化合物に含まれるアミノもしくはカルボキシ基を使用する)である。具体的には、特定の化合物に含まれ、少なくとも1つの水素原子を担持する任意のアミノ基をプロドラッグ形態に変換することができる。典型的なN-プロドラッグ形態には、カルバメート、マンニッヒ塩基、エナミン、およびエナミノンが含まれる。
【0188】
本明細書では、化合物の構造式は、当該化合物のある特定の異性体を表し得る。しかしながら、本発明は、構造的に生じる幾何異性体、不斉炭素に基づく光学異性体、立体異性体、互変異性体などの全ての異性体および異性体混合物を含み、式の記述に限定されないことを理解されたい。
【0189】
「異性体」は、同じ分子式を有するが、構造が異なる化合物(「構造異性体」)、または官能基および/もしくは原子の幾何学的(空間的)配置が異なる化合物(「立体異性体」)である。「鏡像異性体」は、重ね合わせることができない互いの鏡像である一対の立体異性体である。「ラセミ混合物」または「ラセミ化合物」は、一対の等量の鏡像異性体を含み、接頭辞(±)によって示される。「ジアステレオマ」は、重ね合わせることができず、互いの鏡像ではない立体異性体である。「互変異性体」は、純粋であっても、個々の原子または原子群の移動のために、自発的かつ可逆的に相互変換する同じ化学物質の構造異性体である;すなわち、互変異性体は互いに動的化学平衡状態にある。互変異性体の一例は、ケト-エノール互変異性の異性体である。「コンフォーマ」は、形式上単結合の周りの回転だけで相互変換することができる立体異性体であり、特に、シクロヘキサンのいす形、半いす形、舟形、およびねじれ舟形などの異なる三次元形態の(複素)環式環をもたらすものを含む。
【0190】
「平均直径」という用語は、いわゆるキュムラントアルゴリズムを使用したデータ分析を伴う動的光散乱(DLS)によって測定される粒子の平均流体力学的直径を指し、これは、結果として、長さの次元を有するいわゆるZ平均、および無次元である多分散指数(PDI)を提供する(Koppel,D.,J.Chem.Phys.57,1972,pp 4814-4820,ISO 13321)。ここで、粒子の「平均直径」、「直径」または「サイズ」は、このZ平均の値と同義で使用される。
【0191】
いくつかの実施形態では、「多分散指数」は、「平均直径」の定義で言及されているように、いわゆるキュムラント解析による動的光散乱測定に基づいて計算され得る。特定の前提条件下では、これは、ナノ粒子の集合体のサイズ分布の尺度と見なすことができる。
【0192】
回転軸を中心とした粒子の「回転半径」(本明細書ではRと略す)は、粒子の質量全体が集中していると仮定した場合に、所与の軸を中心としたその慣性モーメントがその実際の質量分布と同じになる点の回転軸からの半径方向距離である。数学的には、Rは、その質量中心または所与の軸のいずれかからの粒子の成分の二乗平均平方根距離である。例えば、質量中心から固定距離sに位置する質量m(i=1、2、3、...、n)のn個の質量要素から構成される高分子の場合、Rは全ての質量要素にわたるs の質量平均の平方根であり、以下のように計算することができる:
【0193】
【数2】
【0194】
回転半径は、例えば光散乱を使用することによって実験的に決定するまたは計算することができる。特に、小さな散乱ベクトル
【0195】
【数3】
【0196】
の場合、構造関数Sは以下のように定義され:
【0197】
【数4】
【0198】
式中、Nは成分の数である(ギニエの法則)。
【0199】
粒子の「流体力学的半径」(「ストークス半径」または「ストークス-アインシュタイン半径」と呼ばれることもある)は、当該粒子と同じ速度で拡散する仮想の剛体球の半径である。流体力学的半径は、サイズだけでなく溶媒効果も考慮して、粒子の移動度に関連する。例えば、水和がより強いより小さい荷電粒子は、水和がより弱いより大きい荷電粒子よりも大きい流体力学的半径を有し得る。これは、より小さい粒子が溶液を通って移動するにつれて、より多くの水分子を引きずるためである。溶媒中の粒子の実際の寸法は直接測定できないので、流体力学的半径はストークス-アインシュタイン方程式:
【0200】
【数5】
【0201】
によって定義され得、式中、kはボルツマン定数であり、Tは温度であり、ηは溶媒の粘度であり、Dは拡散係数である。拡散係数は、例えば、動的光散乱(DLS)を使用することによって実験的に決定することができる。したがって、粒子または粒子集団の流体力学的半径(例えば、本明細書に開示される試料もしくは対照組成物に含まれる粒子の流体力学的半径、またはそのような試料もしくは対照組成物をフィールドフローフラクショネーションに供することから得られる粒子ピークの流体力学的半径)を決定するための1つの手順は、当該粒子または粒子集団のDLSシグナル(例えば、本明細書に開示される試料もしくは対照組成物に含まれる粒子のDLSシグナル、またはそのような試料もしくは対照組成物をフィールドフローフラクショネーションに供することから得られる粒子ピークのDLSシグナル)を測定することである。
【0202】
本明細書で使用される「光散乱」という表現は、光が通過する媒体内の局所的な不均一性のために、光が1つ以上の経路だけ直線軌道から逸脱することを余儀なくされる物理的プロセスを指す。
【0203】
「UV」という用語は紫外線を意味し、10nm~400nmの波長、すなわち可視光の波長よりも短いがX線よりも長い波長を有する電磁スペクトルの帯域を示す。
【0204】
本明細書で使用される「多角度光散乱」または「MALS」という表現は、試料によって複数の角度に散乱された光を測定するための技術に関する。「多角度」とは、これに関して、散乱光が、例えば、選択された特定の角度を含む範囲にわたって移動する単一の検出器、または特定の角度位置に固定された検出器のアレイによって測定されるように、異なる離散角度で検出され得ることを意味する。特定の実施形態では、MALSで使用される光源は、レーザー源(MALLS:多角度レーザー光散乱)である。粒子を含む組成物のMALSシグナルに基づき、適切な形式(例えば、Zimmプロット、Berryプロット、またはDebyeプロット)を使用することによって、回転半径(R)、したがって当該粒子のサイズを決定することが可能である。好ましくは、Zimmプロットは、以下の式:
【0205】
【数6】
【0206】
を使用したグラフ表示であり、式中、cは溶媒中の粒子の質量濃度(g/mL)であり、Aは第2のビリアル係数(mol・mL/g)であり、P(θ)は散乱光強度の角度依存性に関するフォームファクタであり、Rθは過剰レイリー比(cm-1)であり、K*は4πη(dn/dc)λ -4 -1に等しい光学定数であり、ここで、ηは入射放射(真空)波長での溶媒の屈折率であり、λは入射放射(真空)波長(nm)であり、Nはアボガドロ数(mol-1)であり、dn/dcは示差屈折率増分値(mL/g)である(例えば、Buchholz et al.(Electrophoresis 22(2001),4118-4128);B.H.Zimm(J.Chem.Phys.13(1945),141;P.Debye(J.Appl.Phys.15(1944):338;およびW.Burchard(Anal.Chem.75(2003),4279-4291参照)。好ましくは、Berryプロットは、以下の項:
【0207】
【数7】
【0208】
で計算され、式中、c、RθおよびK*は上で定義した通りである。好ましくは、Debyeプロットは、以下の項:
【0209】
【数8】
【0210】
で計算され、式中、c、RθおよびK*は上で定義した通りである。
【0211】
本明細書で使用される「動的光散乱」または「DLS」という表現は、特に粒子の流体力学的半径に関して、粒子のサイズおよびサイズ分布プロファイルを決定する技術を指す。単色光源、通常はレーザーが、偏光子を通して試料に入射する。次いで、散乱光は第2の偏光子を通過し、そこで検出され、得られた画像がスクリーンに投影される。溶液中の粒子は光に当たり、光を全方向に回折させる。粒子からの回折光は、建設的に(明るい領域)または破壊的に(暗い領域)干渉することができる。このプロセスは短い時間間隔で繰り返され、得られたスペックルパターンのセットは、各スポットにおける光の強度を経時的に比較する自己相関器によって分析される。
【0212】
本明細書で使用される「静的光散乱」または「SLS」という表現は、特に粒子の回転半径、および/または粒子のモル質量に関して、粒子のサイズおよびサイズ分布プロファイルを決定する技術を指す。高強度単色光、通常はレーザーが、粒子を含有する溶液中で発射される。1つ以上の角度で散乱強度を測定するために、1つ以上の検出器が使用される。角度依存性は、半径の全ての高分子のモル質量とサイズの両方の正確な測定値を得るために必要である。したがって、多角度光散乱(MALS)または多角度レーザー光散乱(MALLS)として公知の、入射光の方向に対するいくつかの角度での同時測定は、一般に、静的光散乱の標準的な実施態様と見なされる。
【0213】
核酸
「核酸」という用語は、デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)、それらの組合せ、およびそれらの修飾形態を含む。この用語は、ゲノムDNA、cDNA、mRNA、組換え生産された分子、および化学的に合成された分子を含む。いくつかの実施形態では、核酸はDNAである。いくつかの実施形態では、核酸はRNAである。いくつかの実施形態では、核酸は、DNAとRNAとの混合物である。核酸は、一本鎖または二本鎖および直鎖状または共有結合閉環分子として存在し得る。核酸は単離することができる。「単離された核酸」という用語は、本開示によれば、核酸が、(i)例えばDNAについてはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって、もしくはRNAについてはインビトロ転写(例えばRNAポリメラーゼを使用して)によって、インビトロで増幅された、(ii)クローニングによって組換え生産された、(iii)例えば切断およびゲル電気泳動による分離によって精製された、または(iv)例えば化学合成によって合成されたことを意味する。
【0214】
「ヌクレオシド」(本明細書では「N」と略す)という用語は、リン酸基を有さないヌクレオチドと考えることができる化合物に関する。ヌクレオシドは糖(例えばリボースまたはデオキシリボース)に結合した核酸塩基であるが、ヌクレオチドはヌクレオシドと1つ以上のリン酸基から構成される。ヌクレオシドの例としては、シチジン、ウリジン、プソイドウリジン、アデノシン、およびグアノシンが挙げられる。
【0215】
通常天然に存在する核酸を構成する5つの標準的なヌクレオシドは、ウリジン、アデノシン、チミジン、シチジンおよびグアノシンである。5つのヌクレオシドは、一般に、それぞれその1文字コードU、A、T、CおよびGと略される。ただし、チミジンは、ウリジンに見出されるリボフラノース環ではなく2’-デオキシリボフラノース部分を含むので、より一般的には「dT」(「d」は「デオキシ」を表す)と表記される。これは、チミジンがリボ核酸(RNA)ではなくデオキシリボ核酸(DNA)に見出されるためである。逆に、ウリジンはDNAではなくRNAに見出される。残りの3つのヌクレオシドは、RNAとDNAの両方に見出され得る。RNAでは、それらはA、CおよびGとして表され、DNAでは、dA、dCおよびdGとして表される。
【0216】
修飾されたプリン(AもしくはG)またはピリミジン(C、T、もしくはU)塩基部分は、いくつかの実施形態では、1つ以上のアルキル基、例えば1つ以上のC1-4アルキル基、例えば1つ以上のメチル基によって修飾されている。修飾されたプリンまたはピリミジン塩基部分の特定の例としては、N-アルキル-グアニン、N-アルキル-アデニン、5-アルキル-シトシン、5-アルキル-ウラシル、およびN(1)-アルキル-ウラシル、例えばN-C1-4アルキル-グアニン、N-C1-4アルキル-アデニン、5-C1-4アルキル-シトシン、5-C1-4アルキル-ウラシル、およびN(1)-C1-4アルキル-ウラシル、好ましくはN-メチル-グアニン、N-メチル-アデニン、5-メチル-シトシン、5-メチル-ウラシル、およびN(1)-メチル-ウラシルが挙げられる。
【0217】
本明細書では、「DNA」という用語は、デオキシリボヌクレオチド残基を含む核酸分子に関する。好ましい実施形態では、DNAは、デオキシリボヌクレオチド残基の全部または大部分を含む。本明細書で使用される場合、「デオキシリボヌクレオチド」は、β-D-リボフラノシル基の2’位にヒドロキシル基を欠くヌクレオチドを指す。DNAは、限定されないが、二本鎖DNA、一本鎖DNA、部分的に精製されたDNAなどの単離されたDNA、本質的に純粋なDNA、合成DNA、組換え生産されたDNA、ならびに1つ以上のヌクレオチドの付加、欠失、置換および/または改変によって天然に存在するDNAとは異なる修飾DNAを包含する。そのような改変は、内部DNAヌクレオチドまたはDNAの末端(一方もしくは両方)への非ヌクレオチド物質の付加を指し得る。本明細書では、DNA中のヌクレオチドは、化学合成されたヌクレオチドまたはデオキシヌクレオチドなどの非標準ヌクレオチドであり得ることも企図される。本開示では、これらの改変されたDNAは、天然に存在するDNAの類似体と見なされる。分子中のデオキシリボヌクレオチド残基の含有量が、分子中のヌクレオチド残基の総数に基づいて50%(例えば、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%)を超える場合、分子は「デオキシリボヌクレオチド残基の大部分」を含む。分子中のヌクレオチド残基の総数は、全てのヌクレオチド残基(ヌクレオチド残基が標準的(すなわち天然に存在する)ヌクレオチド残基であるかその類似体であるかに関わらず)の合計である。
【0218】
DNAは組換えDNAであり得、核酸、特にcDNAのクローニングによって得られ得る。cDNAは、RNAの逆転写によって得られ得る。
【0219】
「RNA」という用語は、リボヌクレオチド残基を含む核酸分子に関する。好ましい実施形態では、RNAは、リボヌクレオチド残基の全部または大部分を含む。本明細書で使用される場合、「リボヌクレオチド」は、β-D-リボフラノシル基の2’位にヒドロキシル基を有するヌクレオチドを指す。RNAは、限定されないが、二本鎖RNA、一本鎖RNA、部分的に精製されたRNAなどの単離されたRNA、本質的に純粋なRNA、合成RNA、組換え生産されたRNA、ならびに1つ以上のヌクレオチドの付加、欠失、置換および/または改変によって天然に存在するRNAとは異なる修飾RNAを包含する。そのような改変は、内部RNAヌクレオチドへの、またはRNAの末端(一方もしくは両方)への非ヌクレオチド物質の付加を指し得る。本明細書では、RNA中のヌクレオチドが、化学合成されたヌクレオチドまたはデオキシヌクレオチドなどの非標準ヌクレオチドであり得ることも企図される。本開示では、これらの改変/修飾ヌクレオチドは、天然に存在するヌクレオチドの類似体と呼ぶことができ、そのような改変/修飾ヌクレオチドを含む対応するRNA(すなわち改変/修飾RNA)は、天然に存在するRNAの類似体と呼ぶことができる。分子中のリボヌクレオチド残基の含有量が、分子中のヌクレオチド残基の総数に基づいて50%(例えば、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%)を超える場合、分子は「リボヌクレオチド残基の大部分」を含む。分子中のヌクレオチド残基の総数は、全てのヌクレオチド残基(ヌクレオチド残基が標準的(すなわち天然に存在する)ヌクレオチド残基であるかその類似体であるかに関わらず)の合計である。
【0220】
「RNA」には、mRNA、tRNA、リボソームRNA(rRNA)、核内低分子RNA(snRNA)、自己増幅RNA(saRNA)、一本鎖RNA(ssRNA)、dsRNA、阻害性RNA(例えば、アンチセンスssRNA、低分子干渉RNA(siRNA)、またはマイクロRNA(miRNA)など)、活性化RNA(例えば低分子活性化RNA)および免疫刺激性RNA(isRNA)が含まれる。いくつかの実施形態では、「RNA」はmRNAを指す。
【0221】
本明細書で使用される「インビトロ転写」または「IVT」という用語は、転写(すなわちRNAの生成)が無細胞的に行われることを意味する。すなわち、IVTは、生存/培養細胞を使用するのではなく、細胞から抽出された転写機構(例えば、細胞溶解物またはRNAポリメラーゼ(好ましくはT7、T3もしくはSP6ポリメラーゼ)を含むその単離された成分)を使用する。
【0222】
mRNA
本開示によれば、「mRNA」という用語は「メッセンジャーRNA」を意味し、DNA鋳型を使用することによって生成され得る「転写物」を含む。一般に、mRNAはペプチドまたはポリペプチドをコードする。
【0223】
mRNAは一本鎖であるが、mRNAの一部が折りたたまれ、それ自体と対合して二重らせんを形成することを可能にする自己相補的配列を含み得る。
【0224】
本開示によれば、「dsRNA」は二本鎖RNAを意味し、2つの部分的または完全に相補的な鎖を有するRNAである。
【0225】
本開示の好ましい実施形態では、mRNAは、ペプチドまたはポリペプチドをコードするRNA転写物に関する。
【0226】
いくつかの実施形態では、好ましくはペプチドまたはポリペプチドをコードするmRNAは、少なくとも45ヌクレオチド(例えば、少なくとも60、少なくとも90、少なくとも100、少なくとも200、少なくとも300、少なくとも400、少なくとも500、少なくとも600、少なくとも700、少なくとも800、少なくとも900、少なくとも1,000、少なくとも1,500、少なくとも2,000、少なくとも2,500、少なくとも3,000、少なくとも3,500、少なくとも4,000、少なくとも4,500、少なくとも5,000、少なくとも6,000、少なくとも7,000、少なくとも8,000、少なくとも9,000ヌクレオチド)、好ましくは最大15,000、例えば最大14,000、最大13,000、最大12,000ヌクレオチド、最大11,000ヌクレオチドまたは最大10,000ヌクレオチドの長さを有する。
【0227】
当技術分野で確立されているように、mRNAは一般に、5’非翻訳領域(5’-UTR)、ペプチド/ポリペプチドコード領域および3’非翻訳領域(3’-UTR)を含む。いくつかの実施形態では、mRNAは、インビトロ転写または化学合成によって生成される。いくつかの実施形態では、mRNAは、DNA鋳型を使用したインビトロ転写によって生成される。インビトロ転写の方法は当業者に公知である;例えば、Molecular Cloning:4th Edition,M.R.Green and J.Sambrook eds.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor 2012参照。さらに、様々なインビトロ転写キットが、例えば、Thermo Fisher Scientific(TranscriptAid(商標)T7キット、MEGAscript(登録商標)T7キット、MAXIscript(登録商標)など)、New England BioLabs Inc.(HiScribe(商標)T7キット、HiScribe(商標)T7 ARCA mRNAキットなど)、Promega(RiboMAX(商標)、HeLaScribe(登録商標)、Riboprobe(登録商標)システムなど)、Jena Bioscience(SP6またはT7転写キットなど)、およびEpicentre(AmpliScribe(商標)など)から市販されている。修飾されたmRNAを提供するために、対応して修飾されたヌクレオチド、例えば修飾された天然に存在するヌクレオチド、非天然に存在するヌクレオチドおよび/または修飾された非天然に存在するヌクレオチドを合成(好ましくはインビトロ転写)中に組み込むことができ、または転写後にmRNA中で修飾を行うおよび/またはmRNAに修飾を付加することができる。
【0228】
いくつかの実施形態では、mRNAはインビトロ転写mRNA(IVT-RNA)であり、適切なDNA鋳型のインビトロ転写によって得られ得る。転写を制御するためのプロモータは、任意のRNAポリメラーゼのための任意のプロモータであり得る。RNAポリメラーゼの特定の例は、T7、T3、およびSP6 RNAポリメラーゼである。好ましくは、インビトロ転写は、T7またはSP6プロモータによって制御される。インビトロ転写のためのDNA鋳型は、核酸、特にcDNAをクローニングし、それをインビトロ転写のための適切なベクターに導入することによって得られ得る。cDNAは、RNAの逆転写によって得られ得る。
【0229】
本開示のいくつかの実施形態では、mRNAは、「レプリコンmRNA」または単に「レプリコン」、特に「自己複製mRNA」または「自己増幅mRNA」である。特定の実施形態では、レプリコンまたは自己複製mRNAは、ssRNAウイルス、特にアルファウイルスなどのプラス鎖ssRNAウイルスに由来するか、またはそれに由来する要素を含む。アルファウイルスは、プラス鎖RNAウイルスの典型的な代表例である。アルファウイルスは、感染細胞の細胞質で複製する(アルファウイルスの生活環の総説については、Jose et al.,Future Microbiol.,2009,vol.4,pp.837-856を参照)。多くのアルファウイルスの全ゲノム長は、典型的には11,000~12,000ヌクレオチドの範囲であり、ゲノムRNAは、典型的には5’キャップおよび3’ポリ(A)尾部を有する。アルファウイルスのゲノムは、非構造タンパク質(ウイルスRNAの転写、修飾および複製ならびにタンパク質修飾に関与する)および構造タンパク質(ウイルス粒子を形成する)をコードする。典型的には、ゲノム中に2つのオープンリーディングフレーム(ORF)が存在する。4つの非構造タンパク質(nsP1~nsP4)は、典型的には、ゲノムの5’末端付近から始まる第1のORFによって一緒にコードされ、一方アルファウイルスの構造タンパク質は、第1のORFの下流に見出され、ゲノムの3’末端付近に延びる第2のORFによって一緒にコードされる。典型的には、第1のORFは第2のORFよりも大きく、比率はおよそ2:1である。アルファウイルスに感染した細胞では、非構造タンパク質をコードする核酸配列のみがゲノムRNAから翻訳され、一方構造タンパク質をコードする遺伝情報は、真核生物のメッセンジャーRNA(mRNA;Gould et al.,2010,Antiviral Res.,vol.87,pp.111-124)に類似したRNA分子であるサブゲノム転写物から翻訳可能である。感染後、すなわちウイルス生活環の初期段階に、(+)鎖ゲノムRNAは、非構造ポリタンパク質(nsP1234)をコードするオープンリーディングフレームの翻訳のためにメッセンジャーRNAのように直接作用する。アルファウイルス由来のベクターは、外来遺伝情報を標的細胞または標的生物に送達するために提案されている。単純なアプローチでは、アルファウイルス構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームを、目的のタンパク質をコードするオープンリーディングフレームによって置き換える。アルファウイルスに基づくトランス複製系は、2つの別個の核酸分子上のアルファウイルスヌクレオチド配列要素に依存する:一方の核酸分子はウイルスレプリカーゼをコードし、他方の核酸分子はトランスで当該レプリカーゼによって複製されることができる(したがってトランス複製系という名称)。トランス複製は、所与の宿主細胞中にこれらの核酸分子の両方が存在することを必要とする。トランスでレプリカーゼによって複製され得る核酸分子は、アルファウイルスレプリカーゼによる認識およびRNA合成を可能にするために特定のアルファウイルス配列要素を含まなければならない。
【0230】
本開示のいくつかの実施形態では、mRNAは、例えば、その安定性を高め、および/または翻訳効率を高め、および/または免疫原性を低下させ、および/または細胞傷害性を低下させるために、1つ以上の修飾を含む。例えば、mRNAの発現を増加させるために、mRNAを、好ましくは発現されるペプチドまたはポリペプチドの配列を変化させることなく、コード領域、すなわち発現されるペプチドまたはポリペプチドをコードする配列内で修飾し得る。そのような修飾は、例えば、国際公開第2007/036366号およびPCT/EP2019/056502号に記載されており、以下を含む:5’キャップ構造;天然に存在するポリ(A)尾部の伸長もしくは切断;5’および/もしくは3’非翻訳領域(UTR)の改変、例えば当該RNAのコード領域に関連しないUTRの導入;1つ以上の天然に存在するヌクレオチドの合成ヌクレオチドによる置換;ならびにコドン最適化(例えば、RNAのGC含有量を変化させるため、好ましくは増加させるため)。
【0231】
いくつかの実施形態では、mRNAは、5’キャップ構造を含む。いくつかの実施形態では、mRNAは、キャップされていない5’-三リン酸を有さない。いくつかの実施形態では、mRNAは、従来の5’キャップおよび/または5’キャップ類似体を含み得る。「従来の5’キャップ」という用語は、mRNA分子の5’末端に見出されるキャップ構造を指し、一般に、その三リン酸部分を介してmRNAの次のヌクレオチドの5’末端に連結されているグアノシン5’-三リン酸(Gppp)からなる(すなわち、グアノシンは5’-5’三リン酸結合を介してmRNAの残りの部分に連結されている)。グアノシンは、N位でメチル化され得る(キャップ構造mGpppをもたらす)。「5’キャップ類似体」という用語は、従来の5’キャップに基づくが、5’キャップ類似体の逆向きの組込みを回避するためにmグアノシン構造の2’位または3’位のいずれかで修飾されている5’キャップを含む(そのような5’キャップ類似体はアンチリバースキャップ類似体(ARCA)とも呼ばれる)。特に好ましい5’キャップ類似体は、PCT/EP第2019/056502号に記載されているように、リン酸架橋中の架橋酸素および非架橋酸素に1つ以上の置換を有するもの、例えばβ-リン酸におけるホスホロチオエート修飾5’キャップ類似体(例えば、m 7,2’OG(5’)ppSp(5’)G(β-S-ARCAまたはβ-S-ARCAと呼ばれる))である。例えば、本明細書に記載の5’キャップ構造を有するmRNAを提供することは、対応する5’キャップ化合物の存在下でのDNA鋳型のインビトロ転写によって達成され得、当該5’キャップ構造は、生成されたmRNA鎖に共転写的に組み込まれるか、またはmRNAは、例えばインビトロ転写によって生成され得、5’キャップ構造は、キャッピング酵素、例えばワクシニアウイルスのキャッピング酵素を使用して転写後にmRNAに結合され得る。
【0232】
いくつかの実施形態では、mRNAは、m 7,2’OG(5’)ppSp(5’)G(特にそのD1ジアステレオマ)、m 7,3’OG(5’)ppp(5’)G、およびm 7,3’-OGppp(m 2’-O)ApGからなる群より選択される5’キャップ構造を含む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のエピトープを含むペプチドまたはポリペプチドをコードする非免疫原性RNAは、5’-キャップ構造としてm 7,2’OG(5’)ppSp(5’)G(特にそのD1ジアステレオマ)を含む。
【0233】
いくつかの実施形態では、mRNAは、キャップ0、キャップ1、またはキャップ2、好ましくはキャップ1またはキャップ2を含む。本開示によれば、「キャップ0」という用語は、構造「mGpppN」を意味し、Nは、2’位にOH部分を担持する任意のヌクレオシドである。本開示によれば、「キャップ1」という用語は、構造「mGpppNm」を意味し、Nmは、2’位にOCH部分を担持する任意のヌクレオシドである。本開示によれば、「キャップ2」という用語は、構造「mGpppNmNm」を意味し、各Nmは、独立して、2’位にOCH部分を担持する任意のヌクレオシドである。
【0234】
5’キャップ類似体ベータ-S-ARCA(β-S-ARCA)は、以下の構造:
【0235】
【化1】
【0236】
を有する。
【0237】
「ベータ-S-ARCAのD1ジアステレオマ」または「ベータ-S-ARCA(D1)」は、ベータ-S-ARCAのD2ジアステレオマ(ベータ-S-ARCA(D2))と比較して、HPLCカラムで最初に溶出し、したがってより短い保持時間を示すベータ-S-ARCAのジアステレオマである。HPLCは、好ましくは分析HPLCである。いくつかの実施形態では、好ましくは5μm、4.6×250mmの形式のSupelcosil LC-18-T RPカラムを分離に使用し、それにより1.3ml/分の流量を適用することができる。いくつかの実施形態では、酢酸アンモニウム中のメタノールの勾配、例えば15分以内で0.05M酢酸アンモニウム、pH=5.9中のメタノールの0~25%直線勾配を使用する。UV検出(VWD)は260nmで実施することができ、蛍光検出(FLD)は280nmでの励起および337nmでの検出で実施することができる。
【0238】
キャップ1のビルディングブロックである5’キャップ類似体m 7,3’-OGppp(m 2’-O)ApG(m 7,3’OG(5’)ppp(5’)m2’-OApGとも呼ばれる)は、以下の構造:
【0239】
【化2】
【0240】
を有する。
【0241】
β-S-ARCAおよびmRNAを含む例示的なキャップ0 mRNAは、以下の構造:
【0242】
【化3】
【0243】
を有する。
【0244】
7,3’OG(5’)ppp(5’)GおよびmRNAを含む例示的なキャップ0 mRNAは、以下の構造:
【0245】
【化4】
【0246】
を有する。
【0247】
7,3’-OGppp(m 2’-O)ApGおよびmRNAを含む例示的なキャップ1 mRNAは、以下の構造:
【0248】
【化5】
【0249】
を有する。
【0250】
本発明で使用される場合、「ポリA尾部」または「ポリA配列」という用語は、典型的にはmRNA分子の3’末端に位置するアデニル酸残基の連続的または断続的な配列を指す。ポリA尾部またはポリA配列は当業者に公知であり、本明細書に記載のmRNAの3’-UTRに後続し得る。連続的なポリA尾部は、連続するアデニル酸残基を特徴とする。自然界では、連続したポリA尾部が典型的である。本明細書に開示されるmRNAは、転写後に鋳型非依存性RNAポリメラーゼによってmRNAの遊離3’末端に結合したポリA尾部、またはDNAによってコードされ、鋳型依存性RNAポリメラーゼによって転写されたポリA尾部を有し得る。
【0251】
約120個のAヌクレオチドのポリA尾部は、トランスフェクトされた真核細胞中のmRNAのレベル、およびポリA尾部の上流(5’側)に存在するオープンリーディングフレームから翻訳されるタンパク質のレベルに有益な影響を及ぼすことが実証されている(Holtkamp et al.,2006,Blood,vol.108,pp.4009-4017)。
【0252】
ポリA尾部は任意の長さであり得る。いくつかの実施形態では、ポリA尾部は、少なくとも20個、少なくとも30個、少なくとも40個、少なくとも80個、または少なくとも100個、および最大500個、最大400個、最大300個、最大200個、または最大150個までのAヌクレオチド、特に約120個のAヌクレオチドを含むか、本質的にそれらからなるか、またはそれらからなる。この文脈において、「から本質的になる」は、ポリA尾部のほとんどのヌクレオチド、典型的にはポリA尾部のヌクレオチド数の少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%がAヌクレオチドであるが、残りのヌクレオチドがAヌクレオチド以外のヌクレオチド、例えばUヌクレオチド(ウリジル酸)、Gヌクレオチド(グアニル酸)、またはCヌクレオチド(シチジル酸)であることを許容することを意味する。この文脈において、「からなる」は、ポリA尾部の全てのヌクレオチド、すなわちポリA尾部のヌクレオチド数の100%がAヌクレオチドであることを意味する。「Aヌクレオチド」または「A」という用語は、アデニル酸を指す。
【0253】
いくつかの実施形態では、ポリA尾部は、コード鎖に相補的な鎖内に反復dTヌクレオチド(デオキシチミジル酸)を含むDNA鋳型に基づいて、RNA転写中、例えばインビトロ転写RNAの調製中に結合される。ポリA尾部をコードするDNA配列(コード鎖)は、ポリ(A)カセットと呼ばれる。
【0254】
いくつかの実施形態では、DNAのコード鎖に存在するポリ(A)カセットは、本質的にdAヌクレオチドからなるが、4つのヌクレオチド(dA、dC、dG、およびdT)のランダムな配列によって中断されている。そのようなランダムな配列は、5~50、10~30、または10~20ヌクレオチド長であり得る。そのようなカセットは、参照により本明細書に組み込まれる、国際公開第2016/005324 A1号に開示されている。国際公開第2016/005324 A1号に開示されている任意のポリ(A)カセットを本開示において使用し得る。本質的にdAヌクレオチドからなるが、4つのヌクレオチド(dA、dC、dG、dT)が均等に分布し、例えば5~50ヌクレオチドの長さを有するランダムな配列によって中断されているポリ(A)カセットは、DNAレベルでは、大腸菌(E.coli)におけるプラスミドDNAの持続的な増殖を示し、RNAレベルでは、RNAの安定性および翻訳効率を支持することに関して有益な特性と依然として関連している。結果として、いくつかの実施形態では、本明細書に記載のmRNA分子に含まれるポリA尾部は、本質的にAヌクレオチドからなるが、4つのヌクレオチド(A、C、G、U)のランダムな配列によって中断されている。そのようなランダムな配列は、5~50、10~30、または10~20ヌクレオチド長であり得る。
【0255】
いくつかの実施形態では、Aヌクレオチド以外のヌクレオチドは、その3’末端でポリA尾部に隣接しておらず、すなわち、ポリA尾部はその3’末端でA以外のヌクレオチドによってマスクされていないか、または後続されていない。
【0256】
いくつかの実施形態では、ポリA尾部は、少なくとも20個、少なくとも30個、少なくとも40個、少なくとも80個、または少なくとも100個、および最大500個、最大400個、最大300個、最大200個、または最大150個までのヌクレオチドを含み得る。いくつかの実施形態では、ポリA尾部は、本質的に、少なくとも20個、少なくとも30個、少なくとも40個、少なくとも80個、または少なくとも100個、および最大500個、最大400個、最大300個、最大200個、または最大150個までのヌクレオチドからなり得る。いくつかの実施形態では、ポリA尾部は、少なくとも20個、少なくとも30個、少なくとも40個、少なくとも80個、または少なくとも100個、および最大500個、最大400個、最大300個、最大200個、または最大150個までのヌクレオチドからなり得る。いくつかの実施形態では、ポリA尾部は、配列番号8に示されるポリA尾部を含む。いくつかの実施形態では、ポリA尾部は少なくとも100個のヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態では、ポリA尾部は約150個のヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態では、ポリA尾部は約120個のヌクレオチドを含む。
【0257】
いくつかの実施形態では、本開示において使用されるmRNAは、5’-UTRおよび/または3’-UTRを含む。「非翻訳領域」または「UTR」という用語は、転写されるがアミノ酸配列に翻訳されないDNA分子内の領域、またはmRNA分子などのRNA分子内の対応する領域に関する。非翻訳領域(UTR)は、オープンリーディングフレームの5’側(上流)(5’-UTR)および/またはオープンリーディングフレームの3’側(下流)(3’-UTR)に存在し得る。5’-UTRは、存在する場合、タンパク質コード領域の開始コドンの上流の5’末端に位置する。5’-UTRは5’キャップ(存在する場合)の下流にあり、例えば5’キャップに直接隣接している。3’-UTRは、存在する場合、タンパク質コード領域の終止コドンの下流の3’末端に位置するが、「3’-UTR」という用語は、一般にポリ(A)配列を含まない。したがって、3’-UTRはポリ(A)配列(存在する場合)の上流にあり、例えばポリ(A)配列に直接隣接している。RNA(好ましくはmRNA)分子の3’非翻訳領域への3’UTRの組込みは、翻訳効率の向上をもたらし得る。そのような3’UTRの2つ以上を組み込むことによって(好ましくは頭-尾の向きに配置される;例えば、Holtkamp et al.,Blood 108,4009-4017(2006)参照)、相乗作用が達成され得る。3’UTRは、それらが導入されるRNA(例えばmRNA)に対して自己または異種であり得る。特定の実施形態では、3’-UTRは、グロビン遺伝子またはmRNA、例えばα2-グロビン、α1-グロビン、またはβ-グロビン、例えばβ-グロビン、例えばヒトβ-グロビンの遺伝子またはmRNAに由来する。例えば、RNA(例えばmRNA)は、既存の3’-UTRを、グロビン遺伝子、例えばα2-グロビン、α1-グロビン、β-グロビン、例えばβ-グロビン、例えばヒトβ-グロビンに由来する1コピー以上、例えば2コピーの3’-UTRで置き換えるまたはそれを挿入することによって修飾され得る。
【0258】
特に好ましい5’-UTRは、配列番号6のヌクレオチド配列を含む。特に好ましい3’-UTRは、配列番号7のヌクレオチド配列を含む。
【0259】
いくつかの実施形態では、RNAは、配列番号6のヌクレオチド配列、または配列番号6のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、もしくは80%の同一性を有するヌクレオチド配列を含む5’-UTRを含む。
【0260】
いくつかの実施形態では、RNAは、配列番号7のヌクレオチド配列、または配列番号7のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、もしくは80%の同一性を有するヌクレオチド配列を含む3’-UTRを含む。
【0261】
mRNAは、その安定性を高め、および/または免疫原性を低下させ、および/または細胞傷害性を低下させるために、修飾リボヌクレオチドを有し得る。例えば、いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるmRNA中のウリジンは、修飾ヌクレオシドによって置き換えられる(部分的または完全に、好ましくは完全に)。いくつかの実施形態では、修飾ヌクレオシドは修飾ウリジンである。
【0262】
いくつかの実施形態では、ウリジンを置換する修飾ウリジンは、プソイドウリジン(ψ)、N1-メチル-プソイドウリジン(m1ψ)、5-メチル-ウリジン(m5U)、およびそれらの組合せからなる群より選択される。
【0263】
いくつかの実施形態では、mRNA中のウリジンを置換する(部分的または完全に、好ましくは完全に)修飾ヌクレオシドは、3-メチルウリジン(m3U)、5-メトキシウリジン(mo5U)、5-アザウリジン、6-アザウリジン、2-チオ-5-アザウリジン、2-チオウリジン(s2U)、4-チオウリジン(s4U)、4-チオプソイドウリジン、2-チオプソイドウリジン、5-ヒドロキシウリジン(ho5U)、5-アミノアリルウリジン、5-ハロウリジン(例えば5-ヨードウリジンもしくは5-ブロモウリジン)、ウリジン5-オキシ酢酸(cmo5U)、ウリジン5-オキシ酢酸メチルエステル(mcmo5U)、5-カルボキシメチルウリジン(cm5U)、1-カルボキシメチルプソイドウリジン、5-カルボキシヒドロキシメチル-ウリジン(chm5U)、5-カルボキシヒドロキシメチル-ウリジンメチルエステル(mchm5U)、5-メトキシカルボニルメチル-ウリジン(mcm5U)、5-メトキシカルボニルメチル-2-チオウリジン(mcm5s2U)、5-アミノメチル-2-チオウリジン(nm5s2U)、5-メチルアミノメチルウリジン(mnm5U)、1-エチルプソイドウリジン、5-メチルアミノメチル-2-チオウリジン(mnm5s2U)、5-メチルアミノメチル-2-セレノウリジン(mnm5se2U)、5-カルバモイルメチル-ウリジン(ncm5U)、5-カルボキシメチルアミノメチル-ウリジン(cmnm5U)、5-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオウリジン(cmnm5s2U)、5-プロピニルウリジン、1-プロピニルプソイドウリジン、5-タウリノメチルウリジン(τm5U)、1-タウリノメチルプソイドウリジン、5-タウリノメチル-2-チオウリジン(τm5s2U)、1-タウリノメチル-4-チオプソイドウリジン)、5-メチル-2-チオウリジン(m5s2U)、1-メチル-4-チオプソイドウリジン(m1s4Ψ)、4-チオ-1-メチルプソイドウリジン、3-メチルプソイドウリジン(m3Ψ)、2-チオ-1-メチルプソイドウリジン、1-メチル-1-デアザプソイドウリジン、2-チオ-1-メチル-1-デアザプソイドウリジン、ジヒドロウリジン(D)、ジヒドロプソイドウリジン、5,6-ジヒドロウリジン、5-メチルジヒドロウリジン(m5D)、2-チオジヒドロウリジン、2-チオジヒドロプソイドウリジン、2-メトキシウリジン、2-メトキシ-4-チオウリジン、4-メトキシプソイドウリジン、4-メトキシ-2-チオプソイドウリジン、N1-メチルプソイドウリジン、3-(3-アミノ-3-カルボキシプロピル)ウリジン(acp3U)、1-メチル-3-(3-アミノ-3-カルボキシプロピル)プソイドウリジン(acp3Ψ)、5-(イソペンテニルアミノメチル)ウリジン(inm5U)、5-(イソペンテニルアミノメチル)-2-チオウリジン(inm5s2U)、α-チオウリジン、2’-O-メチルウリジン(Um)、5,2’-O-ジメチルウリジン(m5Um)、2’-O-メチルプソイドウリジン(Ψm)、2-チオ-2’-O-メチルウリジン(s2Um)、5-メトキシカルボニルメチル-2’-O-メチルウリジン(mcm5Um)、5-カルバモイルメチル-2’-O-メチルウリジン(ncm5Um)、5-カルボキシメチルアミノメチル-2’-O-メチルウリジン(cmnm5Um)、3,2’-O-ジメチルウリジン(m3Um)、5-(イソペンテニルアミノメチル)-2’-O-メチルウリジン(inm5Um)、1-チオウリジン、デオキシチミジン、2’-F-アラウリジン、2’-F-ウリジン、2’-OH-アラウリジン、5-(2-カルボメトキシビニル)ウリジン、5-[3-(1-E-プロペニルアミノ)ウリジン、または当技術分野で公知の任意の他の修飾ウリジンのいずれか1つ以上であり得る。
【0264】
プソイドウリジン(ウリジンを部分的または完全に、好ましくは完全に置換する)によって修飾されたRNA(好ましくはmRNA)は、本明細書では「Ψ修飾された」と呼ばれ、「m1Ψ修飾された」という用語は、RNA(好ましくはmRNA)がN(1)-メチルプソイドウリジン(ウリジンを部分的または完全に、好ましくは完全に置換する)を含むことを意味する。さらに、「m5U修飾された」という用語は、RNA(好ましくはmRNA)が5-メチルウリジン(ウリジンを部分的または完全に、好ましくは完全に置換する)を含むことを意味する。そのようなΨ-またはm1Ψ-またはm5U修飾されたRNAは、通常、それらの非修飾形態と比較して低下した免疫原性を示し、したがって、免疫応答の誘導を回避または最小化すべき用途において好ましい。いくつかの実施形態では、RNA(好ましくはmRNA)は、ウリジンを完全に置換するN(1)-メチルプソイドウリジンを含有する。
【0265】
本開示で使用されるmRNAのコドンは、例えば、RNAのGC含有量を増加させるため、および/または目的のペプチドもしくはポリペプチドが発現されるべき細胞(もしくは対象)においてまれなコドンを、当該細胞(もしくは対象)において同義の頻度の高いコドンであるコドンによって置換するために、さらに最適化され得る。いくつかの実施形態では、本開示で使用されるmRNAによってコードされるアミノ酸配列は、コドン最適化されたコード配列および/またはそのG/C含有量が野生型コード配列と比較して増加しているコード配列によってコードされる。これはまた、コード配列の1つ以上の配列領域が、野生型コード配列の対応する配列領域と比較して、コドン最適化されているおよび/またはG/C含有量が増加している実施形態を含む。いくつかの実施形態では、コドン最適化および/またはG/C含有量の増加は、好ましくはコードされるアミノ酸配列の配列を変化させない。
【0266】
「コドン最適化された」という用語は、好ましくは核酸分子によってコードされるアミノ酸配列を改変することなく、宿主生物の典型的なコドン使用頻度を反映するための核酸分子のコード領域中のコドンの改変を指す。本開示の文脈内で、コード領域は、本明細書に記載のmRNAを使用して治療される対象における最適な発現のためにコドン最適化され得る。コドン最適化は、翻訳効率が、細胞におけるtRNAの出現の異なる頻度によっても決定されるという所見に基づく。したがって、mRNAの配列は、頻繁に生じるtRNAが利用可能であるコドンが「まれなコドン」の代わりに挿入されるように改変され得る。
【0267】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のmRNAのコード領域のグアノシン/シトシン(G/C)含有量は、野生型RNAの対応するコード配列のG/C含有量と比較して増加しており、mRNAによってコードされるアミノ酸配列は、好ましくは野生型RNAによってコードされるアミノ酸配列と比較して改変されていない。mRNA配列のこの改変は、翻訳される任意のRNA領域の配列がそのmRNAの効率的な翻訳のために重要であるという事実に基づく。G(グアノシン)/C(シトシン)含有量が増加した配列は、A(アデノシン)/U(ウラシル)含有量が増加した配列よりも安定である。いくつかのコドンが全く同じアミノ酸をコードする(いわゆる遺伝暗号の縮重)という事実に関して、安定性のために最も好ましいコドンを決定することができる(いわゆる代替的コドン使用頻度)。mRNAによってコードされるアミノ酸に依存して、その野生型配列と比較して、mRNA配列の改変には様々な可能性がある。特に、Aおよび/またはUヌクレオチドを含むコドンは、これらのコドンを、同じアミノ酸をコードするがAおよび/もしくはUを含まないかまたはより低い含有量のAおよび/もしくはUヌクレオチドを含む他のコドンで置換することによって改変することができる。
【0268】
様々な実施形態では、本明細書に記載のmRNAのコード領域のG/C含有量は、野生型RNAのコード領域のG/C含有量と比較して、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも55%、またはさらにそれ以上増加している。
【0269】
上述の修飾の組合せ、すなわち、5’キャップ構造の組込み、ポリA配列の組込み、ポリA配列のアンマスキング、5’-UTRおよび/または3’-UTRの改変(1つ以上の3’-UTRの組込みなど)、1つ以上の天然に存在するヌクレオチドを合成ヌクレオチド(例えば、シチジンの場合は5-メチルシチジン、および/またはウリジンの場合はプソイドウリジン(Ψ)もしくはN(1)-メチルプソイドウリジン(m1Ψ)もしくは5-メチルウリジン(m5U))で置き換えること、ならびにコドン最適化は、RNA(好ましくはmRNA)の安定性および翻訳効率の増加に相乗的な影響を及ぼす。したがって、いくつかの実施形態では、本開示において使用されるmRNAは、上述の修飾の少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つまたは5つ全ての組合せ、すなわち、(i)5’キャップ構造の組込み、(ii)ポリA配列の組込み、ポリA配列のアンマスキング、(iii)5’-UTRおよび/または3’-UTRの改変(1つ以上の3’-UTRの組込みなど)、(iv)1つ以上の天然に存在するヌクレオチドを合成ヌクレオチド(例えば、シチジンの場合は5-メチルシチジン、および/またはウリジンの場合はプソイドウリジン(Ψ)もしくはN(1)-メチルプソイドウリジン(m1Ψ)もしくは5-メチルウリジン(m5U))で置き換えること、ならびに(v)コドン最適化を含む。
【0270】
本開示のいくつかの態様は、特定の細胞または組織への本明細書に開示されるmRNAの標的化送達を含む。いくつかの実施形態では、本開示は、リンパ系、特に二次リンパ器官、より具体的には脾臓を標的とすることを含む。投与されるmRNAが、免疫応答を誘導するための抗原またはエピトープをコードするmRNAである場合、リンパ系、特に二次リンパ器官、より具体的には脾臓を標的とすることが特に好ましい。いくつかの実施形態では、標的細胞は脾臓細胞である。いくつかの実施形態では、標的細胞は、脾臓のプロフェッショナル抗原提示細胞などの抗原提示細胞である。いくつかの実施形態では、標的細胞は、脾臓における樹状細胞である。「リンパ系」は、循環系の一部であり、リンパを運ぶリンパ管のネットワークを含む免疫系の重要な部分である。リンパ系は、リンパ器官、リンパ管の伝導ネットワーク、および循環リンパからなる。一次または中枢リンパ器官は、未成熟な前駆細胞からリンパ球を生成する。胸腺および骨髄は一次リンパ器官を構成する。リンパ節および脾臓を含む二次または末梢リンパ器官は、成熟したナイーブリンパ球を維持し、適応免疫応答を開始する。
【0271】
脂質ベースのmRNA送達システムは、肝臓に対する固有の選択性を有する。肝臓蓄積は、肝血管系の不連続な性質または脂質代謝(リポソームおよび脂質もしくはコレステロール複合体)によって引き起こされる。いくつかの実施形態では、標的器官は肝臓であり、標的組織は肝臓組織である。そのような標的組織への送達は、特に、この器官または組織におけるmRNAまたはコードされたペプチドもしくはポリペプチドの存在が望ましい場合、および/またはコードされたペプチドもしくはポリペプチドを大量に発現することが望ましい場合、および/またはコードされたペプチドもしくはポリペプチドの全身的な存在、特に有意な量での存在が望ましいかもしくは必要とされる場合に好ましい。
【0272】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のmRNA粒子の投与後、mRNAの少なくとも一部が標的細胞または標的器官に送達される。いくつかの実施形態では、mRNAの少なくとも一部が標的細胞のサイトゾルに送達される。いくつかの実施形態では、mRNAは、ペプチドまたはポリペプチドをコードするmRNAであり、mRNAは、標的細胞によって翻訳されてペプチドまたはポリペプチドを生成する。いくつかの実施形態では、標的細胞は肝臓の細胞である。いくつかの実施形態では、標的細胞は筋細胞である。いくつかの実施形態では、標的細胞は内皮細胞である。いくつかの実施形態では、標的細胞は、腫瘍細胞または腫瘍微小環境の細胞である。いくつかの実施形態では、標的細胞は血球である。いくつかの実施形態では、標的細胞はリンパ節の細胞である。いくつかの実施形態では、標的細胞は肺の細胞である。いくつかの実施形態では、標的細胞は血球である。いくつかの実施形態では、標的細胞は皮膚の細胞である。いくつかの実施形態では、標的細胞は脾臓細胞である。いくつかの実施形態では、標的細胞は、脾臓のプロフェッショナル抗原提示細胞などの抗原提示細胞である。いくつかの実施形態では、標的細胞は、脾臓における樹状細胞である。いくつかの実施形態では、標的細胞はT細胞である。いくつかの実施形態では、標的細胞はB細胞である。いくつかの実施形態では、標的細胞はNK細胞である。いくつかの実施形態では、標的細胞は単球である。したがって、本明細書に記載のRNA粒子は、そのような標的細胞にmRNAを送達するために使用され得る。
【0273】
薬学的に活性なペプチドまたはポリペプチドをコードする核酸
「コードする」は、定義されたヌクレオチドの配列(すなわち、rRNA、tRNAおよびmRNA)または定義されたアミノ酸の配列のいずれかを有する、生物学的プロセスにおける他のポリマーおよび高分子の合成のための鋳型として働く、遺伝子、cDNA、またはmRNAなどのポリヌクレオチド中のヌクレオチドの特定の配列の固有の特性、およびそれから生じる生物学的特性を指す。したがって、ある遺伝子に対応するmRNAの転写および翻訳が細胞または他の生物系においてタンパク質を産生する場合、その遺伝子はタンパク質をコードする。ヌクレオチド配列がmRNA配列と同一であり、通常は配列表に提供されるコード鎖と、遺伝子またはcDNAの転写のための鋳型として使用される非コード鎖の両方が、その遺伝子またはcDNAのタンパク質または他の産物をコードすると呼ばれ得る。
【0274】
いくつかの実施形態では、本開示で使用されるmRNAなどの核酸は、ペプチドまたはポリペプチド、好ましくは薬学的に活性なペプチドまたはポリペプチドをコードする核酸配列を含む。いくつかの実施形態では、本開示で使用されるmRNAなどの核酸は、ペプチドまたはポリペプチド、好ましくは薬学的に活性なペプチドまたはポリペプチドをコードする核酸配列を含み、特に細胞または対象に移入された場合、当該ペプチドまたはポリペプチドを発現することができる。したがって、いくつかの実施形態では、本開示で使用される核酸は、ペプチドまたはポリペプチドをコードする、例えば薬学的に活性なペプチドまたはポリペプチドをコードするコード領域(オープンリーディングフレーム(ORF))を含む。これに関して、「オープンリーディングフレーム」または「ORF」は、開始コドンで始まり、終止コドンで終わるコドンの連続した一続きである。薬学的に活性なペプチドまたはポリペプチドをコードするそのような核酸は、本明細書では「薬学的に活性な核酸」とも呼ばれる。特に、薬学的に活性なペプチドまたはポリペプチドをコードするそのようなmRNAは、本明細書では「薬学的に活性なmRNA」とも呼ばれる。いくつかの実施形態では、本開示で使用されるmRNAなどの核酸は、2つ以上のペプチドまたはポリペプチド、例えば2つ、3つ、4つまたはそれ以上のペプチドまたはポリペプチドをコードする核酸配列を含む。
【0275】
本開示によれば、「薬学的に活性なペプチドまたはポリペプチド」という用語は、ペプチドまたはポリペプチドの発現が、例えば疾患の症状を改善するのに有益である個体の治療において使用することができるペプチドまたはポリペプチドを意味する。好ましくは、薬学的に活性なペプチドまたはポリペプチドは、治癒特性または緩和特性を有し、疾患の1つ以上の症状を改善する、緩和する、軽減する、逆転させる、発症を遅延させるまたは重症度を軽減するために投与され得る。いくつかの実施形態では、薬学的に活性なペプチドまたはポリペプチドは、治療有効量で個体に投与された場合、個体の状態または病態に対してプラスの効果または有利な効果を及ぼす。薬学的に活性なペプチドまたはポリペプチドは、予防的特性を有し得、疾患の発症を遅延させるため、またはそのような疾患の重症度を軽減するために使用され得る。「薬学的に活性なペプチドまたはポリペプチド」という用語は、ペプチドまたはポリペプチド全体を含み、その薬学的に活性な断片も指すことができる。この用語はまた、ペプチドまたはポリペプチドの薬学的に活性な変異体および/または類似体を含み得る。
【0276】
本開示によれば、「薬学的に活性なペプチドまたはポリペプチド」という用語は、ワクチン抗原、PD-1軸結合アンタゴニスト、免疫賦活剤、および抗原受容体を含む。
【0277】
いくつかの実施形態では、薬学的に活性なペプチドまたはポリペプチドをコードするRNAなどの核酸は、薬学的に活性なペプチドまたはポリペプチドを提供するように処理された対象の細胞で発現される。いくつかの実施形態では、核酸は対象の細胞において一過性に発現される。したがって、いくつかの実施形態では、核酸は細胞のゲノムに組み込まれない。いくつかの実施形態では、核酸はRNA、好ましくはインビトロ転写RNAである。
【0278】
いくつかの実施形態では、ワクチンの発現は細胞表面においてである。いくつかの実施形態では、ワクチン抗原はMHCに関連して発現および提示される。いくつかの実施形態では、ワクチン抗原をコードするRNAは、免疫エフェクタ細胞による結合のためのワクチン抗原を提供するように処理された対象の抗原提示細胞などの細胞で発現され、当該結合は、免疫エフェクタ細胞の刺激、プライミングおよび/または拡大をもたらす。
【0279】
いくつかの実施形態では、PD-1軸結合アンタゴニストの発現は細胞外空間にある、すなわち、PD-1軸結合アンタゴニストは分泌される。
【0280】
いくつかの実施形態では、免疫賦活剤の発現は細胞外空間にある、すなわち、免疫賦活剤は分泌される。
【0281】
いくつかの実施形態では、抗原受容体の発現は細胞表面においてである。
【0282】
ワクチン抗原をコードする非免疫原性RNA
本発明は、対象において抗原に対する免疫応答を誘導するためのエピトープを含むペプチドまたはポリペプチドをコードする非免疫原性RNAの使用を含む。「対象において抗原に対する免疫応答を誘導するためのエピトープを含むペプチドまたはポリペプチド」は、本明細書では「ワクチン抗原」、「ペプチド抗原およびタンパク質抗原」、または単に「抗原」とも呼ばれる。
【0283】
いくつかの実施形態では、ワクチン抗原をコードする非免疫原性RNAは、RNAが投与されている対象の細胞、例えば抗原提示細胞(APC)に入るとそれぞれのタンパク質に翻訳される一本鎖5’キャップmRNAである。好ましくは、RNAは、安定性および翻訳効率に関してRNAの最大有効性のために最適化された構造要素(5’キャップ、5’-UTR、3’-UTR、ポリ(A)配列)を含む。
【0284】
いくつかの実施形態では、β-S-ARCA(D1)をRNAの5’末端の特異的キャッピング構造として利用する。いくつかの実施形態では、5’-UTRは、配列番号6のヌクレオチド配列、または配列番号6のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、もしくは80%の同一性を有するヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態では、3’-UTRは、配列番号7のヌクレオチド配列、または配列番号7のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、もしくは80%の同一性を有するヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態では、ポリ(A)配列は110ヌクレオチド長であり、30個のアデノシン残基のストレッチと、それに続く10個のヌクレオチドリンカー配列および別の70個のアデノシン残基からなる。このポリ(A)配列は、樹状細胞におけるRNA安定性と翻訳効率を高めるように設計された。いくつかの実施形態では、このポリ(A)配列は、配列番号8のヌクレオチド配列、または配列番号8のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、もしくは80%の同一性を有するヌクレオチド配列を含む。
【0285】
いくつかの実施形態では、RNAは、本明細書にさらに記載されるように、好ましくはDOTMAおよびDOPEを含むリポプレックス粒子として投与される。いくつかの実施形態では、リポプレックス物品は、リンパ系、特に二次リンパ器官、具体的には脾臓、より具体的には脾臓中の樹状細胞を標的とする。いくつかの実施形態では、そのような粒子は、全身投与、特に静脈内投与によって投与される。
【0286】
いくつかの実施形態では、ワクチン抗原をコードするRNAは、対象の細胞で発現されてワクチン抗原を提供する。いくつかの実施形態では、抗原の発現は細胞表面においてである。いくつかの実施形態では、ワクチン抗原はMHCに関連して提示される。いくつかの実施形態では、ワクチン抗原をコードするRNAは、対象の細胞において一過性に発現される。いくつかの実施形態では、ワクチン抗原をコードするRNAは全身投与される。いくつかの実施形態では、ワクチン抗原をコードするRNAの全身投与後、脾臓においてワクチン抗原をコードするRNAの発現が起こる。いくつかの実施形態では、ワクチン抗原をコードするRNAの全身投与後、抗原提示細胞、好ましくはプロフェッショナル抗原提示細胞においてワクチン抗原をコードするRNAの発現が起こる。いくつかの実施形態では、抗原提示細胞は、樹状細胞、マクロファージおよびB細胞からなる群より選択される。いくつかの実施形態では、ワクチン抗原をコードするRNAの全身投与後、肺および/または肝臓においてワクチン抗原をコードするRNAの発現は起こらないか、または本質的に起こらない。いくつかの実施形態では、ワクチン抗原をコードするRNAの全身投与後、脾臓におけるワクチン抗原をコードするRNAの発現は、肺における発現量の少なくとも5倍である。
【0287】
ワクチン抗原は、対象において抗原に対する免疫応答を誘導するためのエピトープを含む。したがって、ワクチン抗原は、対象において抗原に対する免疫応答を誘導するための抗原配列を含む。そのような抗原配列は、標的抗原もしくは疾患関連抗原、例えば感染因子(例えば、ウイルス抗原または細菌抗原)のタンパク質もしくは腫瘍抗原に対応し得るか、またはその免疫原性変異体、または標的抗原もしくは疾患関連抗原の免疫原性断片もしくはその免疫原性変異体に対応し得る。したがって、抗原配列は、標的抗原もしくは疾患関連抗原またはその免疫原性変異体の少なくとも1つのエピトープを含み得る。
【0288】
本開示による使用に適した抗原配列、例えばエピトープは、典型的には、標的抗原、すなわち免疫応答が誘発される抗原に由来し得る。例えば、ワクチン抗原内に含まれる抗原配列は、標的抗原または標的抗原の断片もしくは変異体であり得る。
【0289】
抗原配列またはそのプロセシング産物、例えばその断片は、免疫エフェクタ細胞によって運ばれるTCRまたはCARなどの抗原受容体に結合し得る。いくつかの実施形態では、抗原配列は、免疫エフェクタ細胞が標的とする標的細胞によって発現される抗原もしくはその断片、または当該抗原配列もしくは断片の変異体からなる群より選択される。
【0290】
ワクチン抗原をコードするRNAを投与することによって本開示に従って対象に提供されるワクチン抗原は、好ましくは、ワクチン抗原が提供されている対象において、例えば免疫エフェクタ細胞の刺激、プライミングおよび/または拡大において免疫応答の誘導をもたらす。当該免疫応答、例えば刺激、プライミングおよび/または増殖された免疫エフェクタ細胞は、好ましくは標的抗原、特に疾患細胞、組織および/または器官によって発現される標的抗原、すなわち疾患関連抗原に対して向けられる。したがって、ワクチン抗原は、疾患関連抗原、またはその断片もしくは変異体を含み得る。いくつかの実施形態では、そのような断片または変異体は、疾患関連抗原と免疫学的に等価である。
【0291】
本開示の文脈において、「抗原の断片」または「抗原の変異体」という用語は、免疫応答の誘導、例えば免疫エフェクタ細胞の刺激、プライミングおよび/または拡大をもたらす作用物質を意味し、その免疫応答、例えば刺激された、プライミングされたおよび/または拡大された免疫エフェクタ細胞は、特に疾患細胞、組織および/または器官によって提示された場合、抗原、すなわち疾患関連抗原を標的とする。したがって、ワクチン抗原は、疾患関連抗原に対応し得るかもしくはそれを含み得るか、疾患関連抗原の断片に対応し得るかもしくはそれを含み得るか、または疾患関連抗原もしくはその断片に相同な抗原に対応し得るかもしくはそれを含み得る。ワクチン抗原が、疾患関連抗原の断片または疾患関連抗原の断片に相同なアミノ酸配列を含む場合、当該断片またはアミノ酸配列は、免疫エフェクタ細胞の抗原受容体が標的とする疾患関連抗原のエピトープまたは疾患関連抗原のエピトープに相同な配列を含み得る。したがって、本開示によれば、ワクチン抗原は、疾患関連抗原の免疫原性断片、または疾患関連抗原の免疫原性断片に相同なアミノ酸配列を含み得る。本開示による「抗原の免疫原性断片」は、好ましくは、抗原に結合する抗原受容体を担持する免疫エフェクタ細胞または抗原を発現する細胞に対する免疫応答を誘導する、例えば刺激、プライミングおよび/または拡大することができる抗原の断片に関する。ワクチン抗原(疾患関連抗原に類似)は、免疫エフェクタ細胞に存在する抗原受容体による結合のための関連エピトープを提供することが好ましい。いくつかの実施形態では、ワクチン抗原またはその断片(疾患関連抗原に類似)は、免疫エフェクタ細胞による結合のための関連エピトープを提供するために、(任意にMHCに関連して)抗原提示細胞などの細胞の表面に発現される。ワクチン抗原は組換え抗原であり得る。
【0292】
本発明の全ての態様のいくつかの実施形態では、ワクチン抗原をコードするRNAは、対象の細胞で発現されて、免疫エフェクタ細胞によって発現される抗原受容体による結合のための抗原またはそのプロセシング産物を提供し、当該結合は免疫エフェクタ細胞の刺激、プライミングおよび/または拡大をもたらす。
【0293】
本開示による「抗原」は、免疫応答を誘発する任意の物質ならびに/または免疫応答もしく細胞性応答および/もしくは体液性応答などの免疫機構が向けられる任意の物質を包含する。これはまた、抗原が抗原ペプチドにプロセシングされ、特にMHC分子に関連して提示される場合、免疫応答または免疫機構が1つ以上の抗原ペプチドに向けられる状況を含む。特に、「抗原」は、抗体またはTリンパ球(T細胞)と特異的に反応する、ペプチドまたはポリペプチドなどの任意の物質に関する。「抗原」という用語は、T細胞エピトープなどの少なくとも1つのエピトープを含む分子を含み得る。いくつかの実施形態では、抗原は、任意でプロセシング後に、抗原(抗原を発現する細胞を含む)に特異的であり得る免疫反応を誘導する分子である。いくつかの実施形態では、抗原は、腫瘍抗原、ウイルス抗原、もしくは細菌抗原などの疾患関連抗原、またはそのような抗原に由来するエピトープである。
【0294】
いくつかの実施形態では、抗原は、樹状細胞またはマクロファージのような抗原提示細胞などの免疫系の細胞の表面に提示されるかまたは存在する。T細胞エピトープなどの抗原またはそのプロセシング産物は、いくつかの実施形態では、抗原受容体によって結合される。したがって、抗原またはそのプロセシング産物は、Tリンパ球(T細胞)などの免疫エフェクタ細胞と特異的に反応し得る。
【0295】
「自己抗原(autoantigenまたはself-antigen)」という用語は、対象の体内に由来し(すなわち自己抗原は「自家抗原」とも呼ばれ得る)、身体のこの正常な部分に対する異常に激しい免疫応答を生じさせる抗原を指す。自己抗原に対するそのような激しい免疫反応は、「自己免疫疾患」の原因であり得る。
【0296】
本開示によれば、免疫応答の候補である任意の適切な抗原を使用することができ、免疫応答は体液性もしくは細胞性免疫応答、またはその両方を含み得る。本開示のいくつかの実施形態の文脈において、抗原は、MHC分子に関連して、抗原提示細胞などの細胞によって提示され、抗原に対する免疫応答をもたらす。抗原は、天然に存在する抗原に対応するまたは由来する生成物であり得る。そのような天然に存在する抗原は、アレルゲン、ウイルス、細菌、真菌、寄生虫ならびに他の感染因子および病原体を含んでもよく、もしくはそれらに由来してもよく、または抗原は腫瘍抗原であってもよい。本開示によれば、抗原は、天然に存在する生成物、例えばウイルスタンパク質、またはその一部に対応し得る。
【0297】
「疾患関連抗原」という用語は、疾患に関連する任意の抗原を指すためにその最も広い意味で使用される。疾患関連抗原は、宿主の免疫系を刺激して、疾患に対する細胞性抗原特異的免疫応答および/または体液性抗体応答を生じさせるエピトープを含む分子である。疾患関連抗原としては、病原体関連抗原、すなわち微生物による感染に関連する抗原、典型的には微生物抗原(細菌抗原もしくはウイルス抗原など)、または癌、典型的には腫瘍に関連する抗原、例えば腫瘍抗原が挙げられる。
【0298】
いくつかの実施形態では、抗原は、腫瘍抗原、すなわち腫瘍細胞の一部、特に主に細胞内にまたは腫瘍細胞の表面抗原として存在するものである。別の実施形態では、抗原は、病原体関連抗原、すなわち病原体に由来する抗原、例えばウイルス、細菌、単細胞生物、または寄生虫に由来する抗原、例えばウイルスリボ核タンパク質またはコートタンパク質などのウイルス抗原である。いくつかの実施形態では、抗原は、特にT細胞受容体の活性の調節を介して、調節、特にCD4+およびCD8+リンパ球などの免疫系の細胞の活性化をもたらすMHC分子によって提示されるべきである。
【0299】
「腫瘍抗原」または「腫瘍関連抗原」という用語は、細胞質、細胞表面または細胞核に由来し得る癌細胞の成分を指す。特に、この用語は、細胞内でまたは腫瘍細胞上の表面抗原として産生される抗原を指す。例えば、腫瘍抗原としては、癌胎児性抗原、α1-フェトプロテイン、イソフェリチン、および胎児性スルホグリコプロテイン、α2-H-フェロプロテインおよびγ-フェトプロテイン、ならびに様々なウイルス腫瘍抗原が挙げられる。本開示のいくつかの実施形態によれば、腫瘍抗原は、タイプおよび/または発現レベルに関して腫瘍または癌および腫瘍細胞または癌細胞に特徴的な任意の抗原を含む。
【0300】
「ウイルス抗原」という用語は、抗原特性を有する、すなわち個体において免疫応答を誘発することができる任意のウイルス成分を指す。ウイルス抗原は、ウイルスリボ核タンパク質またはエンベロープタンパク質であり得る。
【0301】
「細菌抗原」という用語は、抗原特性を有する、すなわち個体において免疫応答を誘発することができる任意の細菌成分を指す。細菌抗原は、細菌の細胞壁または細胞質膜に由来し得る。
【0302】
「エピトープ」という用語は、抗原などの分子中の抗原決定基、すなわち免疫系によって認識される、例えば、特にMHC分子に関連して提示された場合にT細胞によって認識される分子の一部または断片を指す。タンパク質のエピトープは、当該タンパク質の連続または不連続部分を含み得、例えば、約5~約100、約5~約50、約8~約30、または約10~約25アミノ酸長であり得、例えば、エピトープは、好ましくは9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、または25アミノ酸長であり得る。いくつかの実施形態では、本開示の文脈におけるエピトープはT細胞エピトープである。
【0303】
「エピトープ」、「抗原の断片」、「免疫原性ペプチド」および「抗原ペプチド」などの用語は、本明細書では互換的に使用され、例えば、抗原または抗原を発現するかもしくは含み、抗原を提示する細胞に対する免疫応答を誘発することができる、抗原の不完全な表示形態に関連し得る。いくつかの実施形態では、これらの用語は、抗原の免疫原性部分に関する。いくつかの実施形態では、これは、特にMHC分子に関連して提示された場合、T細胞受容体によって認識される(すなわち特異的に結合される)抗原の一部である。特定の好ましい免疫原性部分は、MHCクラスIまたはクラスII分子に結合する。「エピトープ」という用語は、免疫系によって認識される抗原などの分子の一部または断片を指す。例えば、エピトープは、T細胞、B細胞または抗体によって認識され得る。抗原のエピトープは、抗原の連続部分または不連続部分を含み得、約5~約100アミノ酸、例えば約5~約50、約8~約30、または約8~約25アミノ酸の長さであり得、例えば、エピトープは、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、または25アミノ酸の長さであり得る。いくつかの実施形態では、エピトープは、約10~約25アミノ酸の長さである。「エピトープ」という用語は、T細胞エピトープを含む。
【0304】
「T細胞エピトープ」という用語は、MHC分子に関連して提示された場合にT細胞によって認識されるタンパク質の一部または断片を指す。「主要組織適合遺伝子複合体」という用語および「MHC」という略語は、MHCクラスIおよびMHCクラスII分子を含み、全ての脊椎動物に存在する遺伝子の複合体に関する。MHCタンパク質または分子は、免疫反応におけるリンパ球と抗原提示細胞または疾患細胞との間のシグナル伝達に重要であり、MHCタンパク質または分子は、ペプチドエピトープに結合し、T細胞上のT細胞受容体による認識のためにそれらを提示する。MHCによってコードされるタンパク質は、細胞の表面に発現され、自己抗原(細胞自体からのペプチド断片)および非自己抗原(例えば、侵入微生物の断片)の両方をT細胞に表示する。クラスI MHC/ペプチド複合体の場合、結合ペプチドは、典型的には約8~約10アミノ酸長であるが、より長いまたはより短いペプチドが有効であり得る。クラスII MHC/ペプチド複合体の場合、結合ペプチドは、典型的には約10~約25アミノ酸長であり、特に約13~約18アミノ酸長であるが、より長いおよびより短いペプチドも有効であり得る。
【0305】
ペプチドおよびポリペプチド抗原は、例えば、5アミノ酸、10アミノ酸、15アミノ酸、20アミノ酸、25アミノ酸、30アミノ酸、35アミノ酸、40アミノ酸、45アミノ酸、または50アミノ酸を含む、2~100アミノ酸の長さであり得る。いくつかの実施形態では、ペプチドは、50個を超えるアミノ酸であり得る。いくつかの実施形態では、ペプチドは、100個を超えるアミノ酸であり得る。
【0306】
ペプチドまたはポリペプチド抗原は、ペプチドまたはポリペプチドに対する抗体およびT細胞応答を生じさせる免疫系の能力を誘導または増加させることができる任意のペプチドまたはポリペプチドであり得る。
【0307】
いくつかの実施形態では、ワクチン抗原、すなわち対象への接種が免疫応答を誘導する抗原は、免疫エフェクタ細胞によって認識される。いくつかの実施形態では、ワクチン抗原は、免疫エフェクタ細胞によって認識される場合、適切な共刺激シグナルの存在下で、ワクチン抗原を認識する抗原受容体を担持する免疫エフェクタ細胞の刺激、プライミングおよび/または拡大を誘導することができる。本開示の実施形態の文脈において、ワクチン抗原は、例えば、抗原提示細胞などの細胞の表面に提示され得るかまたは存在し得る。
【0308】
いくつかの実施形態では、抗原は、疾患細胞(腫瘍細胞または感染細胞など)で発現される。
【0309】
いくつかの実施形態では、抗原は、疾患細胞(腫瘍細胞または感染細胞など)によって提示される。いくつかの実施形態では、抗原受容体は、MHCに関連して提示される抗原のエピトープに結合するTCRである。いくつかの実施形態では、T細胞によって発現される場合および/またはT細胞上に存在する場合のTCRの、抗原提示細胞などの細胞によって提示される抗原への結合は、当該T細胞の刺激、プライミングおよび/または拡大をもたらす。いくつかの実施形態では、T細胞によって発現された場合および/またはT細胞上に存在する場合のTCRの、疾患細胞上に提示される抗原への結合は、疾患細胞の細胞溶解および/またはアポトーシスをもたらし、当該T細胞は、例えば細胞傷害性因子、例えばパーフォリンおよびグランザイムを放出する。
【0310】
いくつかの実施形態では、抗原は、疾患細胞(腫瘍細胞または感染細胞など)の表面に発現される。いくつかの実施形態では、抗原受容体は、抗原の細胞外ドメインまたは細胞外ドメインのエピトープに結合するCARである。いくつかの実施形態では、CARは、生細胞の表面に存在する抗原の天然エピトープに結合する。いくつかの実施形態では、T細胞によって発現された場合および/またはT細胞上に存在する場合のCARの、抗原提示細胞などの細胞上に存在する抗原への結合は、当該T細胞の刺激、プライミングおよび/または拡大をもたらす。いくつかの実施形態では、T細胞によって発現された場合および/またはT細胞上に存在する場合のCARの、疾患細胞上に存在する抗原への結合は、疾患細胞の細胞溶解および/またはアポトーシスをもたらし、当該T細胞は、好ましくは細胞傷害性因子、例えばパーフォリンおよびグランザイムを放出する。
【0311】
いくつかの実施形態によれば、抗原プロセシングおよび/または提示を増強するアミノ酸配列は、直接的に、またはリンカーを介して、抗原ペプチドまたはポリペプチド(抗原配列)に融合される。したがって、いくつかの実施形態では、本明細書に記載のRNAは、抗原ペプチドまたはポリペプチドならびに抗原プロセシングおよび/または提示を増強するアミノ酸配列をコードする少なくとも1つのコード領域を含む。
【0312】
いくつかの実施形態では、それをコードするRNAの形態で投与され得るワクチン接種のための抗原は、天然に存在する抗原またはそのエピトープなどの断片を含む。
【0313】
抗原プロセシングおよび/または提示を増強するそのようなアミノ酸配列は、限定されないが、好ましくは抗原ペプチドまたはポリペプチド質のC末端に(および任意で免疫寛容を破壊するアミノ酸配列のC末端に)位置する。本明細書で定義される抗原プロセシングおよび/または提示を増強するアミノ酸配列は、好ましくは抗原プロセシングおよび提示を改善する。いくつかの実施形態では、本明細書で定義される抗原プロセシングおよび/または提示を増強するアミノ酸配列は、ヒトMHCクラスI複合体(HLA-B51、ハプロタイプA2、B27/B51、Cw2/Cw3)に由来する配列、特に配列番号2のアミノ酸配列またはその機能的変異体を含む配列を含むが、これに限定されない。
【0314】
いくつかの実施形態では、抗原プロセシングおよび/または提示を増強するアミノ酸配列は、配列番号2のアミノ酸配列、配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、もしくは80%の同一性を有するアミノ酸配列、または配列番号2のアミノ酸配列もしくは配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、もしくは80%の同一性を有するアミノ酸配列の機能的断片を含む。いくつかの実施形態では、抗原プロセシングおよび/または提示を増強するアミノ酸配列は、配列番号2のアミノ酸配列を含む。
【0315】
したがって、いくつかの実施形態では、本明細書に記載のRNAは、抗原ペプチドまたはポリペプチドをコードする少なくとも1つのコード領域ならびに抗原プロセシングおよび/または提示を増強するアミノ酸配列を含み、抗原プロセシングおよび/または提示を増強する当該アミノ酸配列は、好ましくは抗原ペプチドまたはポリペプチド、より好ましくは本明細書に記載の抗原ペプチドまたはポリペプチドのC末端に融合されている。
【0316】
さらに、分泌配列、例えば配列番号1のアミノ酸配列を含む配列は、抗原ペプチドまたはポリペプチドのN末端に融合され得る。
【0317】
破傷風菌(Clostridium tetani)の破傷風トキソイドに由来するアミノ酸配列は、プライミング中にT細胞支援を提供することによって自己抗原に対する免疫応答を効率的に開始するために、自己寛容機構を克服するために使用され得る。
【0318】
破傷風トキソイド重鎖は、MHCクラスII対立遺伝子に無差別に結合し、破傷風ワクチン接種を受けたほぼ全ての個体においてCD4メモリT細胞を誘導することができるエピトープを含むことが公知である。さらに、破傷風トキソイド(TT)ヘルパーエピトープと腫瘍関連抗原との組合せは、プライミング中にCD4媒介T細胞支援を提供することによって、腫瘍関連抗原単独の適用と比較して免疫刺激を改善することが公知である。腫瘍抗原特異的T細胞応答の意図された誘導と競合し得る破傷風配列でCD8T細胞を刺激するリスクを低下させるために、破傷風トキソイドの断片C全体ではCD8T細胞エピトープを含有することが公知であるので、断片C全体は使用しない。可能な限り多くのMHCクラスII対立遺伝子への結合を確実にするために、無差別に結合するヘルパーエピトープを含有する2つのペプチド配列を代替的に選択した。エクスビボ試験のデータに基づいて、周知のエピトープp2(QYIKANSKFIGITEL;TT830-844)およびp16(MTNSVDDALINSTKIYSYFPSVISKVNQGAQG;TT578-609)を選択した。p2エピトープは、抗黒色腫活性を高めるために臨床試験におけるペプチドワクチン接種に既に使用されていた。
【0319】
非臨床データは、腫瘍抗原および無差別に結合する破傷風トキソイド配列の両方をコードするRNAワクチンが、腫瘍抗原に対するCD8T細胞応答の増強および寛容破壊の改善をもたらすことを示した。腫瘍抗原特異的配列とインフレームで融合した配列を含むワクチンを接種した患者からの免疫モニタリングデータは、選択された破傷風配列がほぼ全ての患者において破傷風特異的T細胞応答を誘導することができることを明らかにする。
【0320】
いくつかの実施形態によれば、免疫寛容を破壊するアミノ酸配列は、直接的に、またはリンカー、例えば配列番号4に従うアミノ酸配列を有するリンカーを介して、抗原ペプチドまたはポリペプチドに融合される。
【0321】
免疫寛容を破壊するそのようなアミノ酸配列は、限定されないが、好ましくは抗原ペプチドまたはポリペプチドのC末端に(ならびに任意で抗原プロセシングおよび/または提示を増強するアミノ酸配列のN末端に、ここで、免疫寛容を破壊するアミノ酸配列と抗原プロセシングおよび/または提示を増強するアミノ酸配列とは、直接的に、またはリンカー、例えば配列番号5に従うアミノ酸配列を有するリンカーを介して融合されていてもよい)位置する。本明細書で定義される免疫寛容を破壊するアミノ酸配列は、好ましくはT細胞応答を改善する。いくつかの実施形態では、本明細書で定義される免疫寛容を破壊するアミノ酸配列は、破傷風トキソイド由来のヘルパー配列p2およびp16に由来する配列(P2P16)、特に配列番号3のアミノ酸配列またはその機能的変異体を含む配列を含むが、これに限定されない。
【0322】
いくつかの実施形態では、免疫寛容を破壊するアミノ酸配列は、配列番号3のアミノ酸配列、配列番号3のアミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、もしくは80%の同一性を有するアミノ酸配列、または配列番号3のアミノ酸配列もしくは配列番号3のアミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、もしくは80%の同一性を有するアミノ酸配列の機能的断片を含む。いくつかの実施形態では、免疫寛容を破壊するアミノ酸配列は、配列番号3のアミノ酸配列を含む。
【0323】
以下において、ワクチンRNAの実施形態を説明し、その要素を説明するときに使用される特定の用語は以下の意味を有する:
hAg-コザック:翻訳効率を高めるための最適化された「コザック配列」を有するヒトα-グロビンmRNAの5’-UTR配列。
【0324】
sec/MITD:抗原プロセシングおよび提示を改善することが示されている、ヒトMHCクラスI複合体(HLA-B51、ハプロタイプA2、B27/B51、Cw2/Cw3)をコードする配列に由来する融合タンパク質タグ。secは、新生ポリペプチド鎖の小胞体への移行を誘導する、分泌シグナルペプチドをコードする78bp断片に対応する。MITDは、MHCクラスI輸送ドメインとも呼ばれる、MHCクラスI分子の膜貫通および細胞質ドメインに対応する。
【0325】
抗原:それぞれのワクチン抗原/エピトープをコードする配列。
【0326】
グリシン-セリンリンカー(GS):融合タンパク質に一般的に使用される、主にアミノ酸グリシン(G)およびセリン(S)からなる短いリンカーペプチドをコードする配列。
【0327】
P2P16:免疫寛容を破壊するための破傷風トキソイド由来ヘルパーエピトープをコードする配列。
【0328】
FI要素:3’-UTRは、「スプリットのアミノ末端エンハンサ」(AES)mRNA(Fと呼ばれる)およびミトコンドリアにコードされた12SリボソームRNA(Iと呼ばれる)に由来する2つの配列要素の組合せである。これらは、RNAの安定性を付与し、総タンパク質発現を増強する配列のエクスビボ選択プロセスによって同定された。
【0329】
A30L70:30個のアデノシン残基のストレッチ、それに続く10個のヌクレオチドのリンカー配列、および樹状細胞におけるRNAの安定性と翻訳効率を高めるように設計された別の70個のアデノシン残基からなる、110ヌクレオチド長と測定されるポリ(A)尾部。
【0330】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のワクチンRNAは、構造:
β-S-ARCA(D1)-hAg-コザック-sec-GS(1)-抗原-GS(2)-P2P16-GS(3)-MITD-FI-A30L70
を有する。
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のワクチン抗原は、構造:
sec-GS(1)-抗原-GS(2)-P2P16-GS(3)-MITD
を有する。
【0331】
いくつかの実施形態では、hAg-コザックは、配列番号6のヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態では、secは、配列番号1のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、P2P16は、配列番号3のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、MITDは、配列番号2のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、GS(1)は、配列番号4のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、GS(2)は、配列番号4のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、GS(3)は、配列番号5のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、FIは、配列番号7のヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態では、A30L70は、配列番号8のヌクレオチド配列を含む。
【0332】
「細胞表面に発現された」または「細胞表面と会合した」という用語は、抗原などの分子が細胞の原形質膜と会合して位置し、分子の少なくとも一部が当該細胞の細胞外空間に面しており、例えば細胞の外側に位置する抗体によって当該細胞の外側からアクセス可能であることを意味する。この文脈では、一部は、例えば少なくとも4、少なくとも8、少なくとも12、または少なくとも20アミノ酸であり得る。会合は、直接的であっても間接的であってもよい。例えば、会合は、1つ以上の膜貫通ドメイン、1つ以上の脂質アンカーによるものであってもよく、または他の任意のタンパク質、脂質、サッカリド、もしくは細胞の原形質膜の外葉に見出され得る他の構造との相互作用によるものであってもよい。例えば、細胞の表面と会合する分子は、細胞外部分を有する膜貫通タンパク質であってもよく、または膜貫通タンパク質である別のタンパク質と相互作用することによって細胞の表面と会合するタンパク質であってもよい。
【0333】
「細胞表面」または「細胞の表面」は、当技術分野におけるその通常の意味に従って使用され、したがって、タンパク質および他の分子による結合にアクセス可能な細胞の外側を含む。抗原は、細胞の表面に位置し、例えば細胞に添加された抗原特異的抗体による結合にアクセス可能である場合、当該細胞の表面に発現される。いくつかの実施形態では、細胞の表面に発現される抗原は、CARによって認識され得る細胞外部分を有する内在性膜タンパク質である。
【0334】
本開示の文脈における「細胞外部分」または「エキソドメイン」という用語は、細胞の細胞外空間に面しており、好ましくは、例えば細胞の外側に位置する抗体などの分子に結合することによって、当該細胞の外側からアクセス可能であるタンパク質などの分子の一部を指す。いくつかの実施形態では、この用語は、1つ以上の細胞外ループもしくはドメインまたはその断片を指す。
【0335】
「T細胞」および「Tリンパ球」という用語は、本明細書では互換的に使用され、Tヘルパー細胞(CD4+T細胞)および細胞溶解性T細胞を含む細胞傷害性T細胞(CTL、CD8+T細胞)を含む。「抗原特異的T細胞」という用語または同様の用語は、特にMHC分子に関連して抗原提示細胞または癌細胞などの疾患細胞の表面に提示された場合、T細胞が標的とする抗原を認識し、好ましくはT細胞のエフェクタ機能を発揮するT細胞に関する。T細胞が抗原を発現する標的細胞を死滅させる場合、T細胞は抗原に特異的であると見なされる。T細胞特異性は、例えば、クロム放出アッセイまたは増殖アッセイ内で、様々な標準的技術のいずれかを使用して評価され得る。あるいは、リンホカイン(インターフェロンγなど)の合成を測定することができる。
【0336】
「標的」という用語は、細胞性免疫応答などの免疫応答の標的である細胞または組織などの作用物質を意味する。標的には、抗原または抗原エピトープ、すなわち抗原に由来するペプチド断片を提示する細胞が含まれる。いくつかの実施形態では、標的細胞は、抗原を発現し、当該抗原をクラスI MHCと共に提示する細胞である。
【0337】
「抗原プロセシング」は、抗原の、当該抗原の断片であるプロセシング産物への分解(例えばポリペプチドのペプチドへの分解)、および抗原提示細胞などの細胞による特異的T細胞への提示のためのMHC分子とこれらの断片の1つ以上との会合(例えば結合による)を指す。抗原提示細胞は、プロフェッショナル抗原提示細胞と非プロフェッショナル抗原提示細胞とに区別することができる。
【0338】
「プロフェッショナル抗原提示細胞」という用語は、ナイーブT細胞との相互作用に必要な主要組織適合遺伝子複合体クラスII(MHCクラスII)分子を構成的に発現する抗原提示細胞に関する。T細胞が抗原提示細胞の膜上のMHCクラスII分子複合体と相互作用する場合、抗原提示細胞は、T細胞の活性化を誘導する共刺激分子を産生する。プロフェッショナル抗原提示細胞は、樹状細胞およびマクロファージを含む。
【0339】
「非プロフェッショナル抗原提示細胞」という用語は、MHCクラスII分子を構成的に発現しないが、インターフェロンガンマなどの特定のサイトカインによる刺激を受けると発現する抗原提示細胞に関する。例示的な非プロフェッショナル抗原提示細胞としては、線維芽細胞、胸腺上皮細胞、甲状腺上皮細胞、グリア細胞、膵臓ベータ細胞または血管内皮細胞が挙げられる。
【0340】
「樹状細胞」(DC)という用語は、抗原提示細胞のクラスに属する食細胞のサブタイプを指す。いくつかの実施形態では、樹状細胞は、造血骨髄前駆細胞に由来する。これらの前駆細胞は、最初に未成熟な樹状細胞に変わる。これらの未成熟細胞は、高い食作用活性と低いT細胞活性化能とを特徴とする。未成熟な樹状細胞は、ウイルスおよび細菌などの病原体について周囲環境を絶えずサンプリングする。それらは、提示可能な抗原と接触すると、活性化されて成熟樹状細胞となり、脾臓またはリンパ節に移動し始める。未成熟樹状細胞は病原体を貪食し、それらのタンパク質を小さな断片に分解し、成熟すると、MHC分子を使用してそれらの細胞表面にそれらの断片を提示する。同時に、それらは、CD80、CD86およびCD40などのT細胞活性化における共受容体として機能する細胞表面受容体を上方制御し、T細胞を活性化するそれらの能力を大幅に増強する。それらはまた、樹状細胞が血流を通って脾臓に、またはリンパ系を通ってリンパ節に移動するように誘導する走化性受容体であるCCR7を上方制御する。ここで、それらは抗原提示細胞として働き、非抗原特異的共刺激シグナルと共に抗原を提示することによってヘルパーT細胞およびキラーT細胞ならびにB細胞を活性化する。したがって、樹状細胞は、T細胞またはB細胞に関連する免疫応答を能動的に誘導することができる。いくつかの実施形態では、樹状細胞は脾臓樹状細胞である。
【0341】
「マクロファージ」という用語は、単球の分化によって産生される食細胞のサブグループを指す。炎症、免疫サイトカインまたは微生物産物によって活性化されるマクロファージは、マクロファージ内の外来病原体を、病原体の分解をもたらす加水分解および酸化攻撃によって非特異的に貪食し、死滅させる。分解されたタンパク質由来のペプチドは、マクロファージ細胞表面に提示され、そこでT細胞によって認識され得、B細胞表面の抗体と直接相互作用して、T細胞およびB細胞の活性化ならびに免疫応答のさらなる刺激をもたらすことができる。マクロファージは抗原提示細胞のクラスに属する。いくつかの実施形態では、マクロファージは脾臓マクロファージである。
【0342】
「抗原応答性CTL」とは、抗原提示細胞の表面にクラスI MHCと共に提示される、抗原または当該抗原に由来するペプチドに応答性であるCD8T細胞を意味する。
【0343】
本開示によれば、CTL応答性には、持続的なカルシウム流動、細胞分裂、IFN-γおよびTNF-αなどのサイトカインの産生、CD44およびCD69などの活性化マーカの上方制御、ならびに腫瘍抗原を発現する標的細胞の特異的細胞溶解性死滅が含まれ得る。CTL応答性はまた、CTL応答性を正確に示す人工レポータを使用して決定され得る。
【0344】
本明細書で使用される「活性化」または「刺激」は、検出可能な細胞増殖を誘導するのに十分に刺激されたT細胞などの免疫エフェクタ細胞の状態を指す。活性化はまた、シグナル伝達経路の開始、誘導されたサイトカイン産生、および検出可能なエフェクタ機能に関連し得る。「活性化免疫エフェクタ細胞」という用語は、とりわけ、細胞分裂を受けている免疫エフェクタ細胞を指す。
【0345】
「プライミング」という用語は、T細胞などの免疫エフェクタ細胞がその特異的抗原と最初に接触し、エフェクタT細胞などのエフェクタ細胞への分化を引き起こすプロセスを指す。
【0346】
「拡大」という用語は、特定の実体が増加する過程を指す。いくつかの実施形態では、この用語は、免疫エフェクタ細胞が抗原によって刺激され、増殖し、当該抗原を認識する特異的免疫エフェクタ細胞が増幅される免疫学的応答に関連して使用される。いくつかの実施形態では、拡大は免疫エフェクタ細胞の分化をもたらす。
【0347】
「免疫応答」および「免疫反応」という用語は、本明細書ではそれらの従来の意味で互換的に使用され、抗原に対する統合された身体応答を指し、細胞性免疫応答、体液性免疫応答、またはその両方を指し得る。本開示によれば、抗原、細胞または組織などの作用物質に関する「への免疫応答」または「に対する免疫応答」という用語は、作用物質に対する細胞応答などの免疫応答に関する。免疫応答は、1つ以上の抗原に対する抗体の発現、ならびにインビトロでの様々な増殖またはサイトカイン産生試験で検出され得るCD4およびCD8Tリンパ球、例えばCD8Tリンパ球などの抗原特異的Tリンパ球の拡大からなる群より選択される1つ以上の反応を含み得る。
【0348】
本開示の文脈における「免疫応答を誘導する」および「免疫応答を誘発する」という用語および同様の用語は、免疫応答の誘導、例えば細胞性免疫応答、体液性免疫応答、またはその両方の誘導を指す。免疫応答は、保護的/防止的/予防的および/または治療的であり得る。免疫応答は、任意の免疫原または抗原または抗原ペプチド、例えば腫瘍関連抗原または病原体関連抗原(例えば、ウイルス(インフルエンザウイルス(A型、B型、もしくはC型)、CMVまたはRSVなど)の抗原)に対するものであり得る。この文脈における「誘導する」は、誘導前に特定の抗原または病原体に対する免疫応答が存在しなかったことを意味し得るが、誘導前に特定の抗原または病原体に対するある程度の免疫応答が存在し、誘導後に当該免疫応答が増強されることも意味し得る。したがって、この文脈における「免疫応答を誘導する」には、「免疫応答を増強する」ことも含まれる。いくつかの実施形態では、個体において免疫応答を誘導した後、当該個体は、感染症または癌疾患などの疾患の発症から保護されるか、または免疫応答を誘導することによって疾患状態が改善される。
【0349】
「細胞性免疫応答」、「細胞応答」、「細胞媒介性免疫」または同様の用語は、抗原の発現および/またはクラスIもしくはクラスII MHCによる抗原の提示を特徴とする細胞に対する細胞応答を含むことを意味する。細胞応答は、「ヘルパー」または「キラー」のいずれかとして働くT細胞またはTリンパ球と呼ばれる細胞に関する。ヘルパーT細胞(CD4T細胞とも呼ばれる)は、免疫応答を調節することによって中心的な役割を果たし、キラー細胞(細胞傷害性T細胞、細胞溶解性T細胞、CD8T細胞またはCTLとも呼ばれる)は、疾患細胞などの細胞を死滅させる。
【0350】
「体液性免疫応答」という用語は、作用物質および生物に応答して抗体が産生され、最終的にそれらを中和および/または排除する、生きている生物におけるプロセスを指す。抗体応答の特異性は、単一特異性の抗原に結合する膜結合受容体を介してT細胞および/またはB細胞によって媒介される。適切な抗原の結合および様々な他の活性化シグナルの受け取り後、Bリンパ球が分裂し、メモリB細胞および抗体分泌形質細胞クローンを産生し、それぞれが、その抗原受容体によって認識された同一の抗原エピトープを認識する抗体を産生する。メモリBリンパ球は、その後それらの特異的抗原によって活性化されるまで休眠状態のままである。これらのリンパ球は、記憶の細胞基盤、および特異的抗原に再曝露されたときに生じる抗体応答の増大を提供する。
【0351】
本明細書で使用される「抗体」という用語は、抗原上のエピトープに特異的に結合することができる免疫グロブリン分子を指す。特に、「抗体」という用語は、ジスルフィド結合によって相互に連結された少なくとも2本の重(H)鎖および2本の軽(L)鎖を含む糖タンパク質を指す。「抗体」という用語は、モノクローナル抗体、組換え抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、および当該のいずれかの組合せを含む。各重鎖は、重鎖可変領域(VH)と重鎖定常領域(CH)とで構成される。各軽鎖は、軽鎖可変領域(VL)と軽鎖定常領域(CL)とで構成される。可変領域および定常領域は、本明細書ではそれぞれ可変ドメインおよび定常ドメインとも呼ばれる。VHおよびVL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存された領域が間に組み入れられた、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変領域にさらに細分することができる。各VHおよびVLは、以下の順序でアミノ末端からカルボキシ末端へと配置された3つのCDRと4つのFRで構成される:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。VHのCDRはHCDR1、HCDR2およびHCDR3と呼ばれ、VLのCDRはLCDR1、LCDR2およびLCDR3と呼ばれる。重鎖および軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含む。抗体の定常領域は重鎖定常領域(CH)および軽鎖定常領域(CL)を含み、CHは、定常ドメインCH1、ヒンジ領域、ならびに定常ドメインCH2およびCH3(以下の順序でアミノ末端からカルボキシ末端へと配置されている:CH1、CH2、CH3)にさらに細分することができる。抗体の定常領域は、免疫系の様々な細胞(例えばエフェクタ細胞)および古典的補体系の第1成分(C1q)を含む宿主組織または因子への免疫グロブリンの結合を媒介し得る。抗体は、天然源または組換え供給源に由来する無傷の免疫グロブリンであり得、無傷の免疫グロブリンの免疫活性部分であり得る。抗体は、典型的には免疫グロブリン分子の四量体である。抗体は、例えばポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、Fv、FabおよびF(ab)、ならびに一本鎖抗体およびヒト化抗体を含む様々な形態で存在し得る。
【0352】
「免疫グロブリン」という用語は、免疫グロブリンスーパーファミリーのタンパク質、例えば抗体またはB細胞受容体(BCR)などの抗原受容体に関する。免疫グロブリンは、特徴的な免疫グロブリン(Ig)フォールドを有する構造ドメイン、すなわち免疫グロブリンドメインを特徴とする。この用語は、膜結合免疫グロブリンおよび可溶性免疫グロブリンを包含する。膜結合免疫グロブリンは、一般にBCRの一部である、表面免疫グロブリンまたは膜免疫グロブリンとも呼ばれる。可溶性免疫グロブリンは、一般に抗体と呼ばれる。免疫グロブリンは一般に、いくつかの鎖、典型的にはジスルフィド結合を介して連結された2本の同一の重鎖および2本の同一の軽鎖を含む。これらの鎖は、主に、V(可変軽鎖)ドメイン、C(定常軽鎖)ドメイン、V(可変重鎖)ドメイン、ならびにC(定常重鎖)ドメインC1、C2、C3およびC4などの免疫グロブリンドメインで構成される。哺乳動物免疫グロブリン重鎖には5つの種類、すなわちα、δ、ε、γおよびμが存在し、これらは抗体の異なるクラス、すなわちIgA、IgD、IgE、IgGおよびIgMを構成する。可溶性免疫グロブリンの重鎖とは対照的に、膜または表面免疫グロブリンの重鎖は、そのカルボキシ末端に膜貫通ドメインおよび短い細胞質ドメインを含む。哺乳動物には、2種類の軽鎖、すなわちラムダおよびカッパが存在する。免疫グロブリン鎖は、可変領域および定常領域を含む。定常領域は、免疫グロブリンの異なるアイソタイプ内で本質的に保存されており、可変部分は高度に多様であり、抗原認識を構成する。
【0353】
「ワクチン接種」および「免疫化」という用語は、治療または予防上の理由で個体を治療するプロセスを表し、本明細書に記載されているように、1つ以上の免疫原または抗原またはその誘導体を、特にそれをコードするRNA(特にmRNA)の形態で個体に投与し、当該1つ以上の免疫原もしくは抗原または当該1つ以上の免疫原もしくは抗原の提示を特徴とする細胞に対する免疫応答を刺激する手順に関する。
【0354】
「抗原の提示を特徴とする細胞」または「抗原を提示する細胞」または「抗原提示細胞の表面に抗原を提示するMHC分子」または同様の表現は、MHCクラスIおよび/またはMHCクラスII分子などのMHC分子に関連して、直接またはプロセシング後のいずれかに、疾患細胞、特に腫瘍細胞もしくは感染細胞、または抗原もしくは抗原ペプチドを提示する抗原提示細胞などの細胞を意味する。いくつかの実施形態では、MHC分子はMHCクラスI分子である。
【0355】
いくつかの実施形態では、薬学的に活性なペプチドまたはポリペプチドは、1つ以上の抗原または1つ以上のエピトープを含む、すなわち、対象へのペプチドまたはポリペプチドの投与は、対象において、治療的または部分的もしくは完全に保護的であり得る、1つ以上の抗原または1つ以上のエピトープに対する免疫応答を誘発する。
【0356】
いくつかの実施形態では、RNAは、少なくとも1つのエピトープ、例えば少なくとも2つのエピトープ、少なくとも3つのエピトープ、少なくとも4つのエピトープ、少なくとも5つのエピトープ、少なくとも6つのエピトープ、少なくとも7つのエピトープ、少なくとも8つのエピトープ、少なくとも9つのエピトープ、または少なくとも10個のエピトープをコードする。
【0357】
いくつかの実施形態では、標的抗原は腫瘍抗原であり、抗原配列(例えば、エピトープ)は腫瘍抗原に由来する。腫瘍抗原は、様々な癌において発現されることが一般的に知られている「標準」抗原であり得る。腫瘍抗原はまた、個体の腫瘍に特異的であり、免疫系によって以前に認識されていない「ネオ抗原」であり得る。ネオ抗原またはネオエピトープは、アミノ酸変化をもたらす癌細胞のゲノムにおける1つ以上の癌特異的変異から生じ得る。腫瘍抗原がネオ抗原である場合、ワクチン抗原は、好ましくは、1つ以上のアミノ酸変化を含む当該ネオ抗原のエピトープまたは断片を含む。
【0358】
腫瘍抗原の例としては、限定されないが、p53、ART-4、BAGE、β-カテニン/m、Bcr-abL CAMEL、CAP-1、CASP-8、CDC27/m、CDK4/m、CEA、クローディン-6、クローディン-18.2およびクローディン-12などのクローディンファミリーの細胞表面タンパク質、c-MYC、CT、Cyp-B、DAM、ELF2M、ETV6-AML1、G250、GAGE、GnT-V、Gap 100、HAGE、HER-2/neu、HPV-E7、HPV-E6、HAST-2、hTERT(またはhTRT)、LAGE、LDLR/FUT、MAGE-A、好ましくはMAGE-A1、MAGE-A2、MAGE-A3、MAGE-A4、MAGE-A5、MAGE-A6、MAGE-A7、MAGE-A8、MAGE-A9、MAGE-A10、MAGE-A11、またはMAGE-A12、MAGE-B、MAGE-C、MART-1/メランA、MC1R、ミオシン/m、MUC1、MUM-1、MUM-2、MUM-3、NA88-A、NF1、NY-ESO-1、NY-BR-1、pl90マイナーBCR-abL、Pml/RARa、PRAME、プロテイナーゼ3、PSA、PSM、RAGE、RU1またはRU2、SAGE、SART-1またはSART-3、SCGB3A2、SCP1、SCP2、SCP3、SSX、サバイビン、TEL/AML1、TPI/m、TRP-1、TRP-2、TRP-2/INT2、TPTE、WT、およびWT-1が挙げられる。
【0359】
癌の変異は各個体によって異なる。したがって、新規エピトープ(ネオエピトープ)をコードする癌変異は、ワクチン組成物および免疫療法の開発における魅力的な標的である。腫瘍免疫療法の有効性は、宿主内で強力な免疫応答を誘導することができる癌特異的抗原およびエピトープの選択に依存する。RNAは、患者特異的腫瘍エピトープを患者に送達するために使用することができる。脾臓に存在する樹状細胞(DC)は、腫瘍エピトープなどの免疫原性エピトープまたは抗原のRNA発現のための特に興味深い抗原提示細胞である。複数のエピトープの使用は、腫瘍ワクチン組成物における治療効果を促進することが示されている。腫瘍ミュータノームの迅速な配列決定は、本明細書に記載のmRNAによってコードされ得る個別化ワクチンのための複数のエピトープを、例えば、エピトープが任意でリンカーによって分離されている単一のポリペプチドとして提供し得る。本開示のいくつかの実施形態では、mRNAは、少なくとも1つのエピトープ、少なくとも2つのエピトープ、少なくとも3つのエピトープ、少なくとも4つのエピトープ、少なくとも5つのエピトープ、少なくとも6つのエピトープ、少なくとも7つのエピトープ、少なくとも8つのエピトープ、少なくとも9つのエピトープ、または少なくとも10個のエピトープをコードする。例示的な実施形態は、少なくとも5つのエピトープ(「ペンタトープ」と呼ばれる)をコードするmRNAおよび少なくとも10個のエピトープ(「デカトープ」と呼ばれる)をコードするmRNAを含む。
【0360】
いくつかの実施形態では、抗原またはエピトープは、病原体関連抗原、特にウイルス抗原に由来する。いくつかの実施形態では、抗原またはエピトープは、SARS-CoV-2 Sタンパク質、その免疫原性変異体、またはSARS-CoV-2 Sタンパク質の免疫原性断片もしくはその免疫原性変異体に由来する。したがって、いくつかの実施形態では、本開示で使用されるmRNAは、SARS-CoV-2 Sタンパク質、その免疫原性変異体、またはSARS-CoV-2 Sタンパク質の免疫原性断片もしくはその免疫原性変異体を含むアミノ酸配列をコードする。
【0361】
「免疫学的に等価」という用語は、免疫学的に等価なアミノ酸配列などの免疫学的に等価な分子が、同じもしくは本質的に同じ免疫学的特性を示し、および/または、例えば免疫学的効果の種類に関して、同じもしくは本質的に同じ免疫学的効果を及ぼすことを意味する。本開示の文脈において、「免疫学的に等価」という用語は、好ましくは、免疫化に使用される抗原または抗原変異体の免疫学的効果または特性に関して使用される。例えば、アミノ酸配列が対象の免疫系に曝露されたときに、参照アミノ酸配列と反応する特異性を有する免疫反応を誘導する場合、当該アミノ酸配列は参照アミノ酸配列と免疫学的に等価である。したがって、いくつかの実施形態では、抗原と免疫学的に等価である分子は、T細胞の刺激、プライミングおよび/または拡大に関して、T細胞が標的とする抗原と同じもしくは本質的に同じ特性を示し、および/または同じもしくは本質的に同じ効果を及ぼす。
【0362】
本開示で使用されるワクチン抗原をコードするRNAは非免疫原性である。免疫賦活剤をコードするRNAを本開示に従って投与して、アジュバント効果を提供し得る。免疫賦活剤をコードするRNAは、標準RNAまたは非免疫原性RNAであり得る。
【0363】
本明細書で使用される「非免疫原性RNA」(「非免疫原性mRNA」など)という用語は、例えば哺乳動物に投与したとき免疫系による応答を誘導しないか、または非免疫原性RNAを非免疫原性にする修飾および処理に供されていないという点においてのみ異なる同じRNAによって誘導されるよりも弱い応答を誘導する、すなわち標準的なRNA(stdRNA)によって誘導されるよりも弱い応答を誘導するRNAを指す。特定の実施形態では、本明細書では修飾RNA(modRNA)とも呼ばれる非免疫原性RNAは、自然免疫受容体のRNA媒介性活性化を抑制する修飾ヌクレオシドをRNAに組み込むことによって、ならびに/または例えばインビトロ転写中に二本鎖RNA(dsRNA)の形成を制限することによって、および/または例えばインビトロ転写後に二本鎖RNA(dsRNA)を除去することによって、二本鎖RNA(dsRNA)の量を制限することによって非免疫原性にされる。特定の実施形態では、非免疫原性RNAは、自然免疫受容体のRNA媒介性活性化を抑制する修飾ヌクレオシドをRNAに組み込むことによって、および/または例えばインビトロ転写後に二本鎖RNA(dsRNA)を除去することによって非免疫原性にされる。
【0364】
修飾ヌクレオシドの組込みによって非免疫原性RNA(特にmRNA)を非免疫原性にするために、RNAの免疫原性を低下させるまたは抑制する限り、任意の修飾ヌクレオシドを使用し得る。自然免疫受容体のRNA媒介性活性化を抑制する修飾ヌクレオシドが特に好ましい。いくつかの実施形態では、修飾ヌクレオシドは、修飾核酸塩基を含むヌクレオシドによる1つ以上のウリジンの置換を含む。いくつかの実施形態では、修飾核酸塩基は修飾ウラシルである。いくつかの実施形態では、修飾核酸塩基を含むヌクレオシドは、3-メチル-ウリジン(mU)、5-メトキシ-ウリジン(moU)、5-アザ-ウリジン、6-アザ-ウリジン、2-チオ-5-アザ-ウリジン、2-チオ-ウリジン(sU)、4-チオ-ウリジン(sU)、4-チオ-プソイドウリジン、2-チオ-プソイドウリジン、5-ヒドロキシ-ウリジン(hoU)、5-アミノアリル-ウリジン、5-ハロ-ウリジン(例えば5-ヨード-ウリジンまたは5-ブロモ-ウリジン)、ウリジン5-オキシ酢酸(cmoU)、ウリジン5-オキシ酢酸メチルエステル(mcmoU)、5-カルボキシメチル-ウリジン(cmU)、1-カルボキシメチル-プソイドウリジン、5-カルボキシヒドロキシメチル-ウリジン(chmU)、5-カルボキシヒドロキシメチル-ウリジンメチルエステル(mchmU)、5-メトキシカルボニルメチル-ウリジン(mcmU)、5-メトキシカルボニルメチル-2-チオ-ウリジン(mcmU)、5-アミノメチル-2-チオ-ウリジン(nmU)、5-メチルアミノメチル-ウリジン(mnmU)、1-エチル-プソイドウリジン、5-メチルアミノメチル-2-チオ-ウリジン(mnmU)、5-メチルアミノメチル-2-セレノ-ウリジン(mnmseU)、5-カルバモイルメチル-ウリジン(ncmU)、5-カルボキシメチルアミノメチル-ウリジン(cmnmU)、5-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオ-ウリジン(cmnmU)、5-プロピニル-ウリジン、1-プロピニル-プソイドウリジン、5-タウリノメチル-ウリジン(τmU)、1-タウリノメチル-プソイドウリジン、5-タウリノメチル-2-チオ-ウリジン(τm5s2U)、1-タウリノメチル-4-チオ-プソイドウリジン、5-メチル-2-チオ-ウリジン(mU)、1-メチル-4-チオ-プソイドウリジン(mΨ)、4-チオ-1-メチル-プソイドウリジン、3-メチル-プソイドウリジン(mΨ)、2-チオ-1-メチル-プソイドウリジン、1-メチル-1-デアザ-プソイドウリジン、2-チオ-1-メチル-1-デアザ-プソイドウリジン、ジヒドロウリジン(D)、ジヒドロプソイドウリジン、5,6-ジヒドロウリジン、5-メチル-ジヒドロウリジン(mD)、2-チオ-ジヒドロウリジン、2-チオ-ジヒドロプソイドウリジン、2-メトキシ-ウリジン、2-メトキシ-4-チオ-ウリジン、4-メトキシ-プソイドウリジン、4-メトキシ-2-チオ-プソイドウリジン、N1-メチル-プソイドウリジン、3-(3-アミノ-3-カルボキシプロピル)ウリジン(acpU)、1-メチル-3-(3-アミノ-3-カルボキシプロピル)プソイドウリジン(acpΨ)、5-(イソペンテニルアミノメチル)ウリジン(inmU)、5-(イソペンテニルアミノメチル)-2-チオ-ウリジン(inmU)、α-チオ-ウリジン、2’-O-メチル-ウリジン(Um)、5,2’-O-ジメチル-ウリジン(mUm)、2’-O-メチル-プソイドウリジン(Ψm)、2-チオ-2’-O-メチル-ウリジン(sUm)、5-メトキシカルボニルメチル-2’-O-メチル-ウリジン(mcmUm)、5-カルバモイルメチル-2’-O-メチル-ウリジン(ncmUm)、5-カルボキシメチルアミノメチル-2’-O-メチル-ウリジン(cmnmUm)、3,2’-O-ジメチル-ウリジン(mUm)、5-(イソペンテニルアミノメチル)-2’-O-メチル-ウリジン(inmUm)、1-チオ-ウリジン、デオキシチミジン、2’-F-アラ-ウリジン、2’-F-ウリジン、2’-OH-アラ-ウリジン、5-(2-カルボメトキシビニル)ウリジン、および5-[3-(1-E-プロペニルアミノ)ウリジンからなる群より選択される。特定の実施形態では、修飾核酸塩基を含むヌクレオシドは、プソイドウリジン(ψ)、N1-メチル-プソイドウリジン(m1ψ)または5-メチル-ウリジン(m5U)、特にN1-メチル-プソイドウリジンである。
【0365】
いくつかの実施形態では、修飾核酸塩基を含むヌクレオシドによる1つ以上のウリジンの置換は、ウリジンの少なくとも1%、少なくとも2%、少なくとも3%、少なくとも4%、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも25%、少なくとも50%、少なくとも75%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%の置換を含む。
【0366】
T7 RNAポリメラーゼを使用したインビトロ転写(IVT)によるmRNAの合成中、酵素の通常とは異なる活性のために、二本鎖RNA(dsRNA)を含む有意な量の異常な産物が産生される。dsRNAは炎症性サイトカインを誘導し、エフェクタ酵素を活性化してタンパク質合成阻害をもたらす。dsRNAの形成は、インビトロ転写(IVT)によるmRNAの合成中に、例えば合成中のウリジン三リン酸(UTP)の量を制限することによって制限することができる。任意で、UTPは、mRNAの合成中に1回または数回添加され得る。また、dsRNAは、例えば、非多孔質または多孔質C-18ポリスチレン-ジビニルベンゼン(PS-DVB)マトリックスを使用するイオン対逆相HPLCによって、IVT RNAなどのRNAから除去することができる。あるいは、ssRNAではなくdsRNAを特異的に加水分解し、それによってIVT RNA調製物からdsRNA夾雑物を除去する大腸菌RNaseIIIを用いた酵素ベースの方法を使用することができる。さらに、セルロース材料を使用することによってdsRNAをssRNAから分離することができる。いくつかの実施形態では、RNA調製物をセルロース材料と接触させ、dsRNAのセルロース材料への結合を可能にし、ssRNAのセルロース材料への結合を許容しない条件下で、ssRNAをセルロース材料から分離する。ssRNAを提供するための適切な方法は、例えば国際公開第2017/182524号に開示されている。
【0367】
「除去する」または「除去」は、この用語が本明細書で使用される場合、dsRNAなどの第2の物質の集団の近傍から分離されている、非免疫原性RNAなどの第1の物質の集団の特徴を指し、ここで、第1の物質の集団は必ずしも第2の物質を欠くわけではなく、第2の物質の集団は必ずしも第1の物質を欠くわけではない。しかしながら、第2の物質の集団の除去を特徴とする第1の物質の集団は、第1の物質と第2の物質との分離されていない混合物と比較して、第2の物質の含有量が測定可能に低い。
【0368】
いくつかの実施形態では、二本鎖RNA(dsRNA)の量は制限され、例えば、非免疫原性RNA組成物中のRNAの10%未満、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、1%未満、0.5%未満、0.3%未満、0.1%未満、0.05%未満、0.03%未満、0.01%未満、0.005%未満、0.004%未満、0.003%未満、0.002%未満、0.001%未満、または0.0005%未満がdsRNAであるように、dsRNA(特にmRNA)が非免疫原性RNAから除去される。いくつかの実施形態では、非免疫原性RNA(特にmRNA)は、dsRNAを含まないか、または本質的に含まない。いくつかの実施形態では、非免疫原性RNA(特にmRNA)組成物は、一本鎖ヌクレオシド修飾RNAの精製された調製物を含む。いくつかの実施形態では、非免疫原性RNA(特にmRNA)組成物は、一本鎖ヌクレオシド修飾RNA(特にmRNA)を含み、二本鎖RNA(dsRNA)を実質的に含まない。いくつかの実施形態では、非免疫原性RNA(特にmRNA)組成物は、他の全ての核酸分子(DNA、dsRNAなど)と比較して、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.9%、少なくとも99.99%、少なくとも99.991%、少なくとも99.992%、少なくとも99.993%、少なくとも99.994%、少なくとも99.995%、少なくとも99.996%、少なくとも99.997%、または少なくとも99.998%の一本鎖ヌクレオシド修飾RNAを含む。
【0369】
様々な方法を使用してdsRNAの量を決定することができる。例えば、試料をdsRNA特異的抗体と接触させてもよく、RNAに結合する抗体の量を試料中のdsRNAの量の尺度と見なしてもよい。既知量のdsRNAを含有する試料を参照として使用してもよい。
【0370】
例えば、RNAを膜、例えば、ナイロンブロッティング膜にスポットすることができる。膜は、例えば、5%(w/v)スキムミルク粉末を含有するTBS-T緩衝液(20mM TRIS pH7.4、137mM NaCl、0.1%(v/v)TWEEN-20)中でブロッキングすることができる。dsRNAの検出のために、膜をdsRNA特異的抗体、例えばdsRNA特異的マウスmAb(English&Scientific Consulting、Szirak、ハンガリー)と共にインキュベートすることができる。例えばTBS-Tで洗浄した後、膜を二次抗体、例えばHRPコンジュゲートロバ抗マウスIgG(Jackson ImmunoResearch、カタログ番号715-035-150)とインキュベートして、二次抗体によって提供されるシグナルを検出することができる。
【0371】
いくつかの実施形態では、非免疫原性RNA(特にmRNA)は、同じ配列を有する標準RNAよりも効率的に細胞内で翻訳される。いくつかの実施形態では、翻訳は、その修飾されていない対応物と比較して2倍増強される。いくつかの実施形態では、翻訳は3倍増強される。いくつかの実施形態では、翻訳は4倍増強される。いくつかの実施形態では、翻訳は5倍増強される。いくつかの実施形態では、翻訳は6倍増強される。いくつかの実施形態では、翻訳は7倍増強される。いくつかの実施形態では、翻訳は8倍増強される。いくつかの実施形態では、翻訳は9倍増強される。いくつかの実施形態では、翻訳は10倍増強される。いくつかの実施形態では、翻訳は15倍増強される。いくつかの実施形態では、翻訳は20倍増強される。いくつかの実施形態では、翻訳は50倍増強される。いくつかの実施形態では、翻訳は100倍増強される。いくつかの実施形態では、翻訳は200倍増強される。いくつかの実施形態では、翻訳は500倍増強される。いくつかの実施形態では、翻訳は1000倍増強される。いくつかの実施形態では、翻訳は2000倍増強される。いくつかの実施形態では、倍数は10~1000倍である。いくつかの実施形態では、倍数は10~100倍である。いくつかの実施形態では、倍数は10~200倍である。いくつかの実施形態では、倍数は10~300倍である。いくつかの実施形態では、倍数は10~500倍である。いくつかの実施形態では、倍数は20~1000倍である。いくつかの実施形態では、倍数は30~1000倍である。いくつかの実施形態では、倍数は50~1000倍である。いくつかの実施形態では、倍数は100~1000倍である。いくつかの実施形態では、倍数は200~1000倍である。いくつかの実施形態では、翻訳は、任意の他の有意な量または量の範囲だけ増強される。
【0372】
いくつかの実施形態では、非免疫原性RNA(特にmRNA)は、同じ配列を有する標準RNAよりも有意に低い自然免疫原性を示す。いくつかの実施形態では、非免疫原性RNA(特にmRNA)は、その非修飾対応物よりも2倍低い自然免疫応答を示す。いくつかの実施形態では、自然免疫原性は3倍低下する。いくつかの実施形態では、自然免疫原性は4倍低下する。いくつかの実施形態では、自然免疫原性は5倍低下する。いくつかの実施形態では、自然免疫原性は6倍低下する。いくつかの実施形態では、自然免疫原性は7倍低下する。いくつかの実施形態では、自然免疫原性は8倍低下する。いくつかの実施形態では、自然免疫原性は9倍低下する。いくつかの実施形態では、自然免疫原性は10倍低下する。いくつかの実施形態では、自然免疫原性は15倍低下する。いくつかの実施形態では、自然免疫原性は20倍低下する。いくつかの実施形態では、自然免疫原性は50倍低下する。いくつかの実施形態では、自然免疫原性は100倍低下する。いくつかの実施形態では、自然免疫原性は200倍低下する。いくつかの実施形態では、自然免疫原性は500倍低下する。いくつかの実施形態では、自然免疫原性は1000倍低下する。いくつかの実施形態では、自然免疫原性は2000倍低下する。
【0373】
「有意に低い自然免疫原性を示す」という用語は、自然免疫原性の検出可能な低下を指す。いくつかの実施形態では、この用語は、検出可能な自然免疫応答を誘発することなく有効量の非免疫原性RNA(特にmRNA)を投与することができるような低下を指す。いくつかの実施形態では、この用語は、非免疫原性RNA(特にmRNA)を、非免疫原性RNAによってコードされるタンパク質の産生を検出可能に減少させるのに十分な自然免疫応答を誘発することなく繰り返し投与することができるような低下を指す。いくつかの実施形態では、低下は、非免疫原性RNA(特にmRNA)を、非免疫原性RNAによってコードされるタンパク質の検出可能な産生を排除するのに十分な自然免疫応答を誘発することなく繰り返し投与することができるようなものである。
【0374】
「免疫原性」は、RNAなどの異物がヒトまたは他の動物の体内で免疫応答を引き起こす能力である。自然免疫系は、比較的非特異的で即時的な免疫系の成分である。これは、適応免疫系と共に、脊椎動物免疫系の2つの主要成分のうちの1つである。
【0375】
PD-1軸結合アンタゴニスト
「免疫チェックポイント」は、免疫系の調節因子、特に、T細胞活性の大きさおよび質を調節する共刺激シグナルおよび阻害シグナルを指す。特定の実施形態では、免疫チェックポイントは阻害シグナルである。特定の実施形態では、阻害シグナルは、PD-1とPD-L1および/またはPD-L2との間の相互作用である。
【0376】
「プログラム死1(PD-1)」受容体は、CD28ファミリーに属する免疫抑制性受容体を指す。PD-1は、インビボで以前に活性化されたT細胞上に主に発現され、PD-L1とPD-L2の2つのリガンドに結合する。本明細書で使用される「PD-1」という用語は、ヒトPD-1(hPD-1)、hPD-1の変異体、アイソフォーム、および種ホモログ、ならびにhPD-1と少なくとも1つの共通エピトープを有する類似体を含む。「プログラム死リガンド1(PD-L1)」は、PD-1に結合するとT細胞の活性化およびサイトカイン分泌を下方制御する、PD-1の2つの細胞表面糖タンパク質リガンドの1つ(他はPD-L2)である。本明細書で使用される「PD-L1」という用語は、ヒトPD-L1(hPD-L1)、hPD-L1の変異体、アイソフォーム、および種ホモログ、ならびにhPD-L1と少なくとも1つの共通エピトープを有する類似体を含む。本明細書で使用される「PD-L2」という用語は、ヒトPD-L2(hPD-L2)、hPD-L2の変異体、アイソフォーム、および種ホモログ、ならびにhPD-L2と少なくとも1つの共通エピトープを有する類似体を含む。PD-1のリガンド(PD-L1およびPD-L2)は、樹状細胞またはマクロファージなどの抗原提示細胞、および他の免疫細胞の表面に発現される。PD-1のPD-L1またはPD-L2への結合は、T細胞活性化の下方制御をもたらす。PD-L1および/またはPD-L2を発現する癌細胞は、抗癌免疫応答の抑制をもたらすPD-1を発現するT細胞をスイッチオフにすることができる。PD-1とそのリガンドとの間の相互作用は、腫瘍浸潤リンパ球の減少、T細胞受容体媒介増殖の減少、および癌性細胞による免疫回避をもたらす。免疫抑制は、PD-1とPD-L1との局所的相互作用を阻害することによって逆転させることができ、PD-1とPD-L2との相互作用も同様に遮断される場合、その効果は相加的である。
【0377】
免疫チェックポイントの多くは、上記のような特異的受容体とリガンドの対の間の相互作用によって調節される。したがって、免疫チェックポイントタンパク質は免疫チェックポイントシグナル伝達を媒介する。例えば、チェックポイントタンパク質は、T細胞活性化、T細胞増殖および/またはT細胞機能を直接的または間接的に調節する。癌細胞は、免疫系による攻撃から自身を保護するために、しばしばこれらのチェックポイント経路を利用する。したがって、本開示に従って調節されるチェックポイントタンパク質の機能は、典型的には、T細胞活性化、T細胞増殖および/またはT細胞機能の調節である。したがって、免疫チェックポイントタンパク質は、自己寛容ならびに生理学的免疫応答の持続時間および大きさを調節し、維持する。
【0378】
本明細書で使用される場合、「免疫チェックポイント調節剤」または「チェックポイント調節剤」という用語は、1つ以上のチェックポイントタンパク質の機能を調節する分子または化合物を指す。免疫チェックポイント調節剤は、典型的には、自己寛容ならびに/または免疫応答の大きさおよび/もしくは持続時間を調節することができる。好ましくは、免疫チェックポイント調節剤は、1つ以上のヒトチェックポイントタンパク質の機能を調節し、したがって「ヒトチェックポイント調節剤」である。具体的には、ヒトチェックポイント調節剤は免疫チェックポイント阻害剤である。
【0379】
本明細書中で使用される場合、「免疫チェックポイント阻害剤」または「チェックポイント阻害剤」は、1つ以上のチェックポイントタンパク質を全体的もしくは部分的に低減する、阻害する、妨げるもしくは負に調節するか、または1つ以上のチェックポイントタンパク質の発現を全体的もしくは部分的に低減する、阻害する、妨げるもしくは負に調節する分子を指す。特定の実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、1つ以上のチェックポイントタンパク質に結合する。特定の実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、チェックポイントタンパク質を調節する1つ以上の分子に結合する。
【0380】
特定の実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、免疫チェックポイントに関連する阻害シグナルを防止する。特定の実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、免疫チェックポイントに関連する阻害シグナル伝達を妨害する抗体またはその断片である。特定の実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、阻害シグナル伝達を妨害する小分子である。特定の実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、阻害シグナル伝達を妨害するペプチドベースの阻害剤である。
【0381】
特定の実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、チェックポイント遮断薬タンパク質間の相互作用を防止する抗体、その断片、または抗体模倣物である。
【0382】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の阻害性免疫チェックポイントシグナル伝達の阻害または遮断は、免疫抑制およびT細胞免疫の確立または増強の防止または逆転をもたらす。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の免疫チェックポイントシグナル伝達の阻害は、免疫系の機能不全を低減または阻害する。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の免疫チェックポイントシグナル伝達の阻害は、機能不全の免疫細胞の機能不全の程度をより少なくする。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の免疫チェックポイントシグナル伝達の阻害は、機能不全のT細胞の機能不全の程度をより少なくする。
【0383】
特定の実施形態では、阻害性免疫調節因子(免疫チェックポイント遮断薬)は、PD-1/PD-L1またはPD-1/PD-L2シグナル伝達経路の成分である。
【0384】
特定の実施形態では、阻害性免疫調節因子(免疫チェックポイント遮断薬)はPD-1軸結合アンタゴニストである。
【0385】
「PD-1軸結合アンタゴニスト」という用語は、PD-1シグナル伝達軸上のシグナル伝達に起因するT細胞機能不全を除去するように、PD-1軸結合パートナーとその結合パートナーの1つ以上との相互作用を阻害する分子を指し、その結果、T細胞機能を回復または増強する(例えば、増殖、サイトカイン産生、標的細胞殺傷)。本明細書で使用される場合、PD-1軸結合アンタゴニストには、PD-1結合アンタゴニスト、PD-L1結合アンタゴニストおよびPD-L2結合アンタゴニストが含まれる。
【0386】
「PD-1結合アンタゴニスト」という用語は、PD-1とその結合パートナー、例えばPD-L1、PD-L2の1つ以上との相互作用から生じるシグナル伝達を減少、遮断、阻害、抑止または干渉する分子を指す。いくつかの実施形態では、PD-1結合アンタゴニストは、PD-1がその結合パートナーの1つ以上に結合するのを阻害する分子である。特定の態様では、PD-1結合アンタゴニストは、PD-1のPD-L1および/またはPD-L2への結合を阻害する。例えば、PD-1結合アンタゴニストには、抗PD-1抗体、その抗原結合断片、イムノアドヘシン、融合タンパク質、オリゴペプチド、ならびにPD-1とPD-L1および/またはPD-L2との相互作用に起因するシグナル伝達を減少、遮断、阻害、抑止または干渉する他の分子が含まれる。いくつかの実施形態では、PD-1結合アンタゴニストは、PD-1を介したシグナル伝達によって媒介されるTリンパ球上に発現される細胞表面タンパク質によって、またはそれを介して媒介される負の共刺激シグナルを減少させて、機能不全のT細胞の機能不全をより低減する(例えば、抗原認識に対するエフェクタ応答の増強)。いくつかの実施形態では、PD-1結合アンタゴニストは、抗PD-1抗体である。PD-1結合アンタゴニストの具体例を以下に提供する。
【0387】
「PD-L1結合アンタゴニスト」という用語は、PD-L1とその結合パートナー、例えばPD-1、B7-1のいずれか1つまたは複数との相互作用から生じるシグナル伝達を減少、遮断、阻害、抑止または干渉する分子を指す。いくつかの実施形態では、PD-L1結合アンタゴニストは、PD-L1がその結合パートナーに結合するのを阻害する分子である。特定の態様では、PD-L1結合アンタゴニストは、PD-L1のPD-1および/またはB7-1への結合を阻害する。いくつかの実施形態では、PD-L1結合アンタゴニストには、抗PD-L1抗体、その抗原結合断片、イムノアドヘシン、融合タンパク質、オリゴペプチド、ならびにPD-L1とその結合パートナー、例えばPD-1、B7-1の1つ以上との相互作用に起因するシグナル伝達を減少、遮断、阻害、抑止または干渉する他の分子が含まれる。いくつかの実施形態では、PD-L1結合アンタゴニストは、PD-L1を介したシグナル伝達によって媒介されるTリンパ球上に発現される細胞表面タンパク質によって、またはそれを介して媒介される負の共刺激シグナルを減少させて、機能不全のT細胞の機能不全をより低減する(例えば、抗原認識に対するエフェクタ応答の増強)。いくつかの実施形態では、PD-L1結合アンタゴニストは、抗PD-L1抗体である。PD-L1結合アンタゴニストの具体例を以下に提供する。
【0388】
「PD-L2結合アンタゴニスト」という用語は、PD-L2とその結合パートナー、例えばPD-1のいずれか1つまたは複数との相互作用から生じるシグナル伝達を減少、遮断、阻害、抑止または干渉する分子を指す。いくつかの実施形態では、PD-L2結合アンタゴニストは、PD-L2がその結合パートナーの1つ以上に結合するのを阻害する分子である。特定の態様では、PD-L2結合アンタゴニストは、PD-L2のPD-1への結合を阻害する。いくつかの実施形態では、PD-L2アンタゴニストには、抗PD-L2抗体、その抗原結合断片、イムノアドヘシン、融合タンパク質、オリゴペプチド、ならびにPD-L2とその結合パートナー、例えばPD-1のいずれか1つまたは複数との相互作用に起因するシグナル伝達を減少、遮断、阻害、抑止または干渉する他の分子が含まれる。いくつかの実施形態では、PD-L2結合アンタゴニストは、PD-L2を介したシグナル伝達によって媒介されるTリンパ球上に発現される細胞表面タンパク質によって、またはそれを介して媒介される負の共刺激シグナルを減少させて、機能不全のT細胞の機能不全をより低減する(例えば、抗原認識に対するエフェクタ応答の増強)。いくつかの実施形態では、PD-L2結合アンタゴニストは、イムノアドヘシンである。
【0389】
いくつかの実施形態では、PD-1軸結合アンタゴニストには、PD-1結合アンタゴニスト、PD-L1結合アンタゴニストおよびPD-L2結合アンタゴニストが含まれる。「PD-1」の別名には、CD279およびSLEB2が含まれる。「PD-L1」の別名には、B7-H1、B7-4、CD274およびB7-Hが含まれる。「PD-L2」の別名には、B7-DC、BtdcおよびCD273が含まれる。いくつかの実施形態では、PD-1、PD-L1およびPD-L2は、ヒトPD-1、PD-L1およびPD-L2である。
【0390】
いくつかの実施形態では、PD-1結合アンタゴニストは、PD-1がそのリガンド結合パートナーに結合するのを阻害する分子である。特定の態様では、PD-1リガンド結合パートナーは、PD-L1および/またはPD-L2である。
【0391】
いくつかの実施形態では、PD-L1結合アンタゴニストは、PD-L1がその結合パートナーに結合するのを阻害する分子である。特定の態様では、PD-L1結合パートナーは、PD-1および/またはB7-1である。
【0392】
いくつかの実施形態では、PD-L2結合アンタゴニストは、PD-L2がその結合パートナーに結合するのを阻害する分子である。特定の態様では、PD-L2結合パートナーはPD-1である。
【0393】
アンタゴニストは、抗体、その抗原結合断片、イムノアドヘシン、融合タンパク質またはオリゴペプチドであり得る。
【0394】
いくつかの実施形態では、PD-1結合アンタゴニストは、抗PD-1抗体(例えば、ヒト抗体、ヒト化抗体またはキメラ抗体)である。
【0395】
例示的なPD-1結合アンタゴニストとしては、限定されないが、抗PD-1抗体、例えばBGB-A317(BeiGene;米国特許第8,735,553号、国際公開第2015/35606号および米国特許出願公開第2015/0079109号参照)、セミプリマブ(Regeneron;国際公開第2015/112800号参照)およびラムブロリズマブ(例えば、国際公開第2008/156712号にhPD109Aならびにそのヒト化誘導体h409A1、h409A16およびh409A17として開示されている)、AB137132(Abcam)、EH12.2H7およびRMP1-14(#BE0146;Bioxcell Lifesciences Pvt.LTD.)、MIH4(Affymetrix eBioscience)、ニボルマブ(OPDIVO,BMS-936558;Bristol Myers Squibb;国際公開第2006/121168号参照)、ペムブロリズマブ(KEYTRUDA;MK-3475;Merck;国際公開第2008/156712号参照)、ピジリズマブ(CT-011;CureTech;Hardy et al.,1994,Cancer Res.,54(22):5793-6および国際公開第2009/101611号参照)、PDR001(Novartis;国際公開第2015/112900号参照)、MEDI0680(AMP-514;AstraZeneca;国際公開第2012/145493号参照)、TSR-042(国際公開第2014/179664号参照)、REGN-2810(H4H7798N;米国特許出願公開第2015/0203579号参照)、JS001(TAIZHOU JUNSHI PHARMA;Si-Yang Liu et al.,2007,J.Hematol.Oncol.70:136)、AMP-224(GSK-2661380;Li et al.,2016,Int J Mol Sci,17(7):1151および国際公開第2010/027827号および国際公開第2011/066342号参照)、PF-06801591(Pfizer)、BGB-A317(BeiGene;国際公開第2015/35606号および米国特許出願公開第2015/0079109号参照)、BI 754091、SHR-1210(国際公開第2015/085847号参照)、ならびに国際公開第2006/121168号に記載されている抗体17D8、2D3、4H1、4A11、7D3および5F4;INCSHR1210(Jiangsu Hengrui Medicine;SHR-1210としても公知;国際公開第2015/085847号参照),TSR-042(Tesaro Biopharmaceutical;ANB011としても公知;国際公開第2014/179664号参照),GLS-010(Wuxi/Harbin Gloria Pharmaceuticals;WBP3055としても公知;Si-Yang et al.,2017,J.Hematol.Oncol.70:136参照)、STI-1110(Sorrento Therapeutics;国際公開第2014/194302号参照)、AGEN2034(Agenus;国際公開第2017/040790号参照)、MGA012(Macrogenics;国際公開第2017/19846号参照)、IBI308(Innovent;国際公開第2017/024465号、国際公開第2017/025016号、国際公開第2017/132825号および国際公開第2017/133540号参照)、例えば米国特許第7,488,802号、米国特許第8,008,449号、米国特許第8,168,757号、国際公開第03/042402号、国際公開第2010/089411号(抗PD-L1抗体をさらに開示する)、国際公開第2010/036959号、国際公開第2011/159877号(TIM-3に対する抗体をさらに開示する)、国際公開第2011/082400号、国際公開第2011/161699号、国際公開第2009/014708号、国際公開第03/099196号、国際公開第2009/114335号、国際公開第2012/145493号(PD-L1に対する抗体をさらに開示する)、国際公開第2015/035606号、国際公開第2014/055648号(抗KIR抗体をさらに開示する)、米国特許出願公開第2018/0185482号(抗PD-L1抗体および抗TIGIT抗体をさらに開示する)、米国特許第8,008,449号、米国特許第8,779,105号、米国特許第6,808,710号、米国特許第8,168,757号、米国特許出願公開第2016/0272708号および米国特許第8,354,509号に記載されている抗PD-1抗体が挙げられる。
【0396】
特定の実施形態では、抗PD-1抗体は、ニボルマブ(OPDIVO;BMS-936558)、ペンブロリズマブ(KEYTRUDA;MK-3475)、セミプリマブ(LIBTAYO、REGN2810)、ピジリズマブ(CT-011)、スパルタリズマブ(PDR001)、MEDI0680(AMP-514)、ドスタルリマブ(TSR-042)、セトレリマブ(JNJ 63723283)、トリパリマブ(JS001)、AMP-224(GSK-2661380)、PF-06801591、チスレリズマブ(BGB-A317)、ABBV-181、BI 754091、またはSHR-1210を含む。
【0397】
いくつかの実施形態では、抗PD-1抗体はニボルマブ(CAS登録番号:946414-94-4)である。ニボルマブ(Bristol-Myers Squibb/Ono)は、MDX-1106-04、MDX-1106、ONO-4538、BMS-936558、およびOPDIVO(登録商標)としても公知であり、国際公開第2006/121168号に記載されている抗PD-1抗体である。いくつかの実施形態では、抗PD-1抗体は、重鎖および軽鎖配列を含み、
(a)重鎖は、アミノ酸配列:
QVQLVESGGG VVQPGRSLRL DCKASGITFS NSGMHWVRQA PGKGLEWVAV IWYDGSKRYY
ADSVKGRFTI SRDNSKNTLF LQMNSLRAED TAVYYCATND DYWGQGTLVT VSSASTKGPS
VFPLAPCSRS TSESTAALGC LVKDYFPEPV TVSWNSGALT SGVHTFPAVL QSSGLYSLSS
VVTVPSSSLG TKTYTCNVDH KPSNTKVDKR VESKYGPPCP PCPAPEFLGG PSVFLFPPKP
KDTLMISRTP EVTCVVVDVS QEDPEVQFNW YVDGVEVHNA KTKPREEQFN STYRVVSVLT
VLHQDWLNGK EYKCKVSNKG LPSSIEKTIS KAKGQPREPQ VYTLPPSQEE MTKNQVSLTC
LVKGFYPSDI AVEWESNGQP ENNYKTTPPV LDSDGSFFLY SRLTVDKSRW QEGNVFSCSV
MHEALHNHYT QKSLSLSLGK
(配列番号11)を含み、
(b)軽鎖は、アミノ酸配列:
EIVLTQSPAT LSLSPGERAT LSCRASQSVS SYLAWYQQKP GQAPRLLIYD ASNRATGIPA
RFSGSGSGTD FTLTISSLEP EDFAVYYCQQ SSNWPRTFGQ GTKVEIKRTV AAPSVFIFPP
SDEQLKSGTA SVVCLLNNFY PREAKVQWKV DNALQSGNSQ ESVTEQDSKD STYSLSSTLT
LSKADYEKHK VYACEVTHQG LSSPVTKSFN RGEC
(配列番号12)を含む。
【0398】
いくつかの実施形態では、抗PD-1抗体は、配列番号11および配列番号12(例えば、配列番号11に由来する3つの重鎖CDRおよび配列番号12に由来する3つの軽鎖CDR)に由来する6つのCDR配列を含む。いくつかの実施形態では、抗PD-1抗体は、配列番号11に由来する重鎖可変ドメインと、配列番号12に由来する軽鎖可変ドメインとを含む。いくつかの実施形態では、抗PD-1抗体は、配列番号13のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(VH)と、(b)配列番号14のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(VL)とを含む。
QVQLVESGGGVVQPGRSLRLDCKASGITFSNSGMHWVRQAPGKGLEWVAVIWYDGSKRYYADSVKGRFTISRDNSKNTLFLQMNSLRAEDTAVYYCATNDDYWGQGTLVTVSS(配列番号13)
EIVLTQSPATLSLSPGERATLSCRASQSVSSYLAWYQQKPGQAPRLLIYDASNRATGIPARFSGSGSGTDFTLTISSLEPEDFAVYYCQQSSNWPRTFGQGTKVEIK(配列番号14)
【0399】
いくつかの実施形態では、抗PD-1抗体は、(a)GITFSNSG(配列番号15)のアミノ酸配列を含むCDR-1、IWYDGSKR(配列番号16)のアミノ酸配列を含むCDR-2およびアミノ酸ATNDDY(配列番号17)を含むCDR-3を含む重鎖可変領域(VH)と、(b)QSVSSY(配列番号18)のアミノ酸配列を含むCDR-1、DAS(配列番号19)のアミノ酸配列を含むCDR-2およびQQSSNWPRT(配列番号20)のアミノ酸配列を含むCDR-3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含む。
【0400】
特定の実施形態では、抗PD-1抗体は、240mgの用量で静脈内投与され得るニボルマブである。ニボルマブは、施設のガイドライン、公開されたガイドラインおよびそれぞれの製品処方情報に従って静脈内投与され、このプロトコルに従って投与され得る。
【0401】
いくつかの実施形態では、抗PD-1抗体はペンブロリズマブ(CAS登録番号:1374853-91-4)である。ペンブロリズマブ(Merck)は、MK-3475、Merck3475、ラムブロリズマブ、KEYTRUDA(登録商標)、およびSCH-900475としても公知であり、国際公開第2009/114335号に記載されている抗PD-1抗体である。いくつかの実施形態では、抗PD-1抗体は、重鎖および軽鎖配列を含み、
(a)重鎖は、アミノ酸配列:
QVQLVQSGVE VKKPGASVKV SCKASGYTFT NYYMYWVRQA PGQGLEWMGG INPSNGGTNF
NEKFKNRVTL TTDSSTTTAY MELKSLQFDD TAVYYCARRD YRFDMGFDYW GQGTTVTVSS
ASTKGPSVFP LAPCSRSTSE STAALGCLVK DYFPEPVTVS WNSGALTSGV HTFPAVLQSS
GLYSLSSVVT VPSSSLGTKT YTCNVDHKPS NTKVDKRVES KYGPPCPPCP APEFLGGPSV
FLFPPKPKDT LMISRTPEVT CVVVDVSQED PEVQFNWYVD GVEVHNAKTK PREEQFNSTY
RVVSVLTVLH QDWLNGKEYK CKVSNKGLPS SIEKTISKAK GQPREPQVYT LPPSQEEMTK
NQVSLTCLVK GFYPSDIAVE WESNGQPENN YKTTPPVLDS DGSFFLYSRL TVDKSRWQEG
NVFSCSVMHE ALHNHYTQKS LSLSLGK
(配列番号21)を含み、
(b)軽鎖は、アミノ酸配列:
EIVLTQSPAT LSLSPGERAT LSCRASKGVS TSGYSYLHWY QQKPGQAPRL LIYLASYLES
GVPARFSGSG SGTDFTLTIS SLEPEDFAVY YCQHSRDLPL TFGGGTKVEI KRTVAAPSVF
IFPPSDEQLK SGTASVVCLL NNFYPREAKV QWKVDNALQS GNSQESVTEQ DSKDSTYSLS
STLTLSKADY EKHKVYACEV THQGLSSPVT KSFNRGEC
(配列番号22)を含む。
【0402】
いくつかの実施形態では、抗PD-1抗体は、配列番号21および配列番号22(例えば、配列番号21に由来する3つの重鎖CDRおよび配列番号22に由来する3つの軽鎖CDR)に由来する6つのCDR配列を含む。いくつかの実施形態では、抗PD-1抗体は、配列番号21に由来する重鎖可変ドメインと、配列番号22に由来する軽鎖可変ドメインとを含む。いくつかの実施形態では、抗PD-1抗体は、配列番号23のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(VH)と、(b)配列番号24のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(VL)とを含む。
QVQLVQSGVEVKKPGASVKVSCKASGYTFTNYYMYWVRQAPGQGLEWMGGINPSNGGTNFNEKFKNRVTLTTDSSTTTAYMELKSLQFDDTAVYYCARRDYRFDMGFDYWGQGTTVTVSS(配列番号23)
EIVLTQSPATLSLSPGERATLSCRASKGVSTSGYSYLHWYQQKPGQAPRLLIYLASYLESGVPARFSGSGSGTDFTLTISSLEPEDFAVYYCQHSRDLPLTFGGGTKVEIK(配列番号24)
【0403】
いくつかの実施形態では、抗PD-1抗体は、(a)GYTFTNYY(配列番号25)のアミノ酸配列を含むCDR-1、INPSNGGT(配列番号26)のアミノ酸配列を含むCDR-2およびアミノ酸ARRDYRFDMGFDY(配列番号27)を含むCDR-3を含む重鎖可変領域(VH)と、(b)KGVSTSGYSY(配列番号28)のアミノ酸配列を含むCDR-1、LAS(配列番号29)のアミノ酸配列を含むCDR-2およびQHSRDLPLT(配列番号30)のアミノ酸配列を含むCDR-3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含む。
【0404】
特定の実施形態では、抗PD-1抗体は、200mgの用量で静脈内投与され得るペンブロリズマブである。ペンブロリズマブは、施設のガイドライン、公開されたガイドラインおよびそれぞれの製品処方情報に従って静脈内投与され、このプロトコルに従って投与され得る。
【0405】
特定の実施形態では、抗PD-1抗体は、セミプリマブを含む。
【0406】
特定の実施形態では、抗PD-1抗体は、重鎖および軽鎖配列を含む抗体を含み、
(a)重鎖は、アミノ酸配列:
EVQLLESGGV LVQPGGSLRL SCAASGFTFS NFGMTWVRQA PGKGLEWVSG ISGGGRDTYF
ADSVKGRFTI SRDNSKNTLY LQMNSLKGED TAVYYCVKWG NIYFDYWGQG TLVTVSSAST
KGPSVFPLAP CSRSTSESTA ALGCLVKDYF PEPVTVSWNS GALTSGVHTF PAVLQSSGLY
SLSSVVTVPS SSLGTKTYTC NVDHKPSNTK VDKRVESKYG PPCPPCPAPE FLGGPSVFLF
PPKPKDTLMI SRTPEVTCVV VDVSQEDPEV QFNWYVDGVE VHNAKTKPRE EQFNSTYRVV
SVLTVLHQDW LNGKEYKCKV SNKGLPSSIE KTISKAKGQP REPQVYTLPP SQEEMTKNQV
SLTCLVKGFY PSDIAVEWES NGQPENNYKT TPPVLDSDGS FFLYSRLTVD KSRWQEGNVF
SCSVMHEALH NHYTQKSLSL SLGK(配列番号31)を含み、
(b)軽鎖は、アミノ酸配列:
DIQMTQSPSS LSASVGDSIT ITCRASLSIN TFLNWYQQKP GKAPNLLIYA ASSLHGGVPS
RFSGSGSGTD FTLTIRTLQP EDFATYYCQQ SSNTPFTFGP GTVVDFRRTV AAPSVFIFPP
SDEQLKSGTA SVVCLLNNFY PREAKVQWKV DNALQSGNSQ ESVTEQDSKD STYSLSSTLT
LSKADYEKHK VYACEVTHQG LSSPVTKSFN RGEC(配列番号32)を含む。
【0407】
特定の実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、配列番号31および配列番号32(例えば、配列番号31に由来する3つの重鎖CDRおよび配列番号32に由来する3つの軽鎖CDR)に由来する6つのCDR配列を含む。特定の実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、配列番号31に由来する重鎖可変ドメインと、配列番号32に由来する軽鎖可変ドメインとを含む抗体を含む。
【0408】
特定の実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、(a)アミノ酸配列FTFSNFG(配列番号33)を含むCDR-1、アミノ酸配列ISGGGRDT(配列番号34)を含むCDR-2、およびアミノ酸配列VKWGNIYFDY(配列番号35)を含むCDR-3を含む重鎖可変領域(VH)と、(b)アミノ酸配列LSINTF(配列番号36)を含むCDR-1、アミノ酸配列AAS(配列番号37)を含むCDR-2、およびアミノ酸配列QQSSNTPFT(配列番号38)を含むCDR-3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含む抗体を含む。
【0409】
いくつかの実施形態では、抗PD-1抗体は、MEDI-0680(AMP-514;AstraZeneca)である。MEDI-0680はヒト化IgG4抗PD-1抗体である。
【0410】
いくつかの実施形態では、抗PD-1抗体は、PDR001(CAS登録番号1859072-53-9;Novartis)である。PDR001は、PD-1へのPD-L1およびPD-L2の結合を遮断するヒト化IgG4抗PD1抗体である。
【0411】
いくつかの実施形態では、抗PD-1抗体は、REGN2810(Regeneron)である。REGN2810は、LIBTAYO(登録商標)およびcemiplimab-rwlcとしても公知であるヒト抗PD1抗体である。
【0412】
いくつかの実施形態では、抗PD-1抗体は、BGB-108(BeiGene)である。いくつかの実施形態では、抗PD-1抗体は、BGB-A317(BeiGene)である。
【0413】
いくつかの実施形態では、抗PD-1抗体は、JS-001(Shanghai Junshi)である。JS-001は、ヒト化抗PD1抗体である。
【0414】
いくつかの実施形態では、抗PD-1抗体は、STI-A1110(Sorrento)である。STI-A1110は、ヒト抗PD1抗体である。
【0415】
いくつかの実施形態では、抗PD-1抗体は、INCSHR-1210(Incyte)である。INCSHR-1210は、ヒトIgG4抗PD1抗体である。
【0416】
いくつかの実施形態では、抗PD-1抗体は、PF-06801591(Pfizer)である。
【0417】
いくつかの実施形態では、抗PD-1抗体は、TSR-042(ANB011としても公知である;Tesaro/AnaptysBio)である。
【0418】
いくつかの実施形態では、抗PD-1抗体は、AM0001(ARMO Biosciences)である。
【0419】
いくつかの実施形態では、抗PD-1抗体は、ENUM 244C8(Enumeral Biomedical Holdings)である。ENUM 244C8は、PD-1へのPD-L1の結合を遮断することなくPD-1機能を阻害する抗PD1抗体である。
【0420】
いくつかの実施形態では、抗PD-1抗体は、ENUM 388D4(Enumeral Biomedical Holdings)である。ENUM 388D4は、PD-1へのPD-L1の結合を競合的に阻害する抗PD1抗体である。
【0421】
いくつかの実施形態では、PD-1結合アンタゴニストは、イムノアドヘシン(例えば、定常領域(例えば、免疫グロブリン配列のFc領域)に融合したPD-L1またはPD-L2の細胞外部分またはPD-1結合部分を含むイムノアドヘシン)である。いくつかの実施形態では、PD-1結合アンタゴニストは、AMP-224である。B7-DCIgとしても公知のAMP-224(CAS登録番号1422184-00-6;GlaxoSmithKline/MedImmune)は、国際公開第2010/027827号および国際公開第2011/066342号に記載されているPD-L2-Fc融合可溶性受容体である。
【0422】
いくつかの実施形態では、PD-1結合アンタゴニストは、ペプチドまたは小分子化合物である。いくつかの実施形態では、PD-1結合アンタゴニストは、AUNP-12(PierreFabre/Aurigene)である。例えば、国際公開第2012/168944号、国際公開第2015/036927号、国際公開第2015/044900号、国際公開第2015/033303号、国際公開第2013/144704号、国際公開第2013/132317号および国際公開第2011/161699号を参照されたい。
【0423】
いくつかの実施形態では、PD-L1結合アンタゴニストは、抗PD-L1抗体である。様々な抗PD-L1抗体が本明細書において企図され、記載される。本明細書の実施形態のいずれかでは、単離された抗PD-L1抗体は、ヒトPD-L1、例えばUniProtKB/Swiss-Protアクセッション番号Q9NZQ7.1に示されるヒトPD-L1、またはその変異体に結合することができる。いくつかの実施形態では、抗PD-L1抗体は、PD-L1とPD-1との間および/またはPD-L1とB7-1との間の結合を阻害することができる。いくつかの実施形態では、抗PD-L1抗体はモノクローナル抗体である。いくつかの実施形態では、抗PD-L1抗体は、Fab、Fab’-SH、Fv、scFv、および(Fab’)断片からなる群より選択される抗体断片である。いくつかの実施形態では、抗PD-L1抗体はヒト化抗体である。いくつかの実施形態では、抗PD-L1抗体はヒト抗体である。本発明の方法に有用な抗PD-L1抗体の例およびその作製方法は、PCT特許出願WO2010/077634A1および米国特許第8,217,149号に記載されており、これらは参照により本明細書に組み込まれる。
【0424】
例示的なPD-L1結合アンタゴニストとしては、限定されないが、MEDI4736(デュルバルマブ;AstraZeneca;国際公開第2011/066389号参照)、MSB-0010718C(米国特許出願公開第2014/0341917号参照)、YW243.55.S70(国際公開第2010/077634号の配列番号20および米国特許第8,217,149号参照)、MIH1(Affymetrix eBioscience;欧州特許第3 230 319号参照)、MDX-1105(Roche/Genentech;国際公開第2013019906号および米国特許第8,217,149号参照)、STI-1014(Sorrento;国際公開第2013/181634号参照)、CK-301(チェックポイント治療薬)、KN035(3D Med/Alphamab;Zhang et al.,2017,Cell Discov.3:17004参照)、アテゾリズマブ(TECENTRIQ;RG7446;MPDL3280A;R05541267;米国特許第9,724,413号参照)、BMS-936559(Bristol Myers Squibb;米国特許第7,943,743号、国際公開第2013/173223号参照)、アベルマブ(バベンチオ;米国特許出願公開第2014/0341917号参照)、LY3300054(Eli Lilly Co.)、CX-072(Proclaim-CX-072;CytomXとも呼ばれる;国際公開第2016/149201号参照)、FAZ053、KN035(国際公開第2017020801号および国際公開第2017020802号参照)、MDX-1105(米国特許出願公開第2015/0320859号参照)などの抗PD-L1抗体、3G10、12A4(BMS-936559とも称される)、10A5、5F8、10H10、1B12、7H1、11E6、12B7および13G4を含む米国特許第7,943,743号に開示されている抗PD-L1抗体、国際公開第2010/077634号、米国特許第 8,217,149号、国際公開第2010/036959号、国際公開第2010/077634号、国際公開第2011/066342号、米国特許第8,217,149号、米国特許第7,943,743号、国際公開第2010/089411号、米国特許第7,635,757号、米国特許第 8,217,149号、米国特許第2009/0317368号、国際公開第2011/066389号、国際公開第2017/034916号、国際公開第2017/020291号、国際公開第2017/020858号、国際公開第2017/020801号、国際公開第2016/111645号、国際公開第2016/197367号、国際公開第2016/061142号、国際公開第2016/149201号、国際公開第2016/000619号、国際公開第2016/160792号、国際公開第2016/022630号、国際公開第2016/007235号、国際公開第2015/179654号、国際公開第2015/173267号、国際公開第2015/181342号、国際公開第2015/109124号、国際公開第2018/222711号、国際公開第2015/112805号、国際公開第2015/061668号、国際公開第2014/159562号、国際公開第2014/165082号、国際公開第2014/100079号に記載されている抗PD-L1抗体が含まれる。
【0425】
特定の実施形態では、抗PD-L1抗体は、アテゾリズマブ(TECENTRIQ;RG7446;MPDL3280A;R05541267)、デュルバルマブ(MEDI4736)、BMS-936559、アベルマブ(バベンチオ)、ロダポリマブ(LY3300054)、CX-072(Proclaim-CX-072)、FAZ053、KN035、またはMDX-1105を含む。
【0426】
抗PD-1抗体および抗PD-L1抗体などのPD-1軸結合アンタゴニストは、当技術分野で公知の任意の様式および任意の経路によって投与され得る。投与の方法および経路は、使用されるPD-1軸結合アンタゴニストの種類に依存する。
【0427】
PD-1軸結合アンタゴニストは、本明細書に記載の任意の適切な医薬組成物の形態で投与され得る。
【0428】
抗PD-1抗体および抗PD-L1抗体などのPD-1軸結合アンタゴニストは、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体などのPD-1軸結合アンタゴニストをコードする核酸、例えばDNAまたはRNAの形態で投与され得る。例えば、抗体は、本明細書に記載されるように、核酸を発現する際にコードされて送達され得る。核酸分子は、それ自体で、例えばプラスミドもしくはmRNA分子の形態で送達され得るか、または送達ビヒクル、例えばリポソーム、リポプレックスもしくは任意の他の核酸粒子、核酸脂質粒子と複合体化され得る。抗PD-1抗体および抗PD-L1抗体などのPD-1軸結合アンタゴニストはまた、PD-1軸結合アンタゴニストをコードする発現カセットを含む腫瘍溶解性ウイルスを介して投与され得る。
【0429】
免疫賦活剤
「免疫賦活剤」は、免疫系の成分のいずれか、特に免疫エフェクタ細胞の活性化を誘導するかまたは活性を増加させることによって免疫系を刺激する任意の物質である。免疫賦活剤は、炎症促進性(例えば、感染症または癌を治療する場合)または抗炎症性(例えば、自己免疫疾患を治療する場合)であり得る。
【0430】
一態様によれば、免疫賦活剤は、サイトカインまたはその変異体である。サイトカインの例としては、インターフェロン、例えばインターフェロン-α(IFN-α)またはインターフェロン-γ(IFN-γ)、インターロイキン、例えばIL2、IL7、IL12、IL15およびIL23、コロニー刺激因子、例えばM-CSFおよびGM-CSF、ならびに腫瘍壊死因子が挙げられる。別の態様によれば、免疫賦活剤は、アジュバント型免疫賦活剤、例えばAPC Toll様受容体アゴニストまたは共刺激/細胞接着膜タンパク質を含む。Toll様受容体アゴニストの例としては、共刺激/接着タンパク質、例えばCD80、CD86およびICAM-1が挙げられる。
【0431】
「サイトカイン」という用語は、約5~60kDaの分子量を有し、細胞シグナル伝達(例えばパラクリン、内分泌、および/または自己分泌シグナル伝達)に関与するタンパク質に関する。特に、サイトカインは、放出された場合、放出された場所周辺の細胞の挙動に影響を及ぼす。サイトカインの例としては、リンホカイン、インターロイキン、ケモカイン、インターフェロン、および腫瘍壊死因子(TNF)が挙げられる。本開示によれば、サイトカインはホルモンまたは成長因子を含まない。サイトカインは、(i)通常、ホルモンよりもはるかに可変的な濃度で作用し、および(ii)一般に広範囲の細胞によって作られる(ほぼ全ての有核細胞がサイトカインを産生できる)という点でホルモンとは異なる。インターフェロンは、通常、抗ウイルス活性、抗増殖活性、および免疫調節活性を特徴とする。インターフェロンは、調節される細胞の表面のインターフェロン受容体に結合することによって細胞内の遺伝子の転写を変化させ、調節するタンパク質であり、それにより細胞内のウイルス複製を防止する。サイトカインの特定の例としては、エリスロポエチン(EPO)、コロニー刺激因子(CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、腫瘍壊死因子(TNF)、骨形成タンパク質(BMP)、インターフェロンアルファ(IFNα)、インターフェロンベータ(IFNβ)、インターフェロンガンマ(INFγ)、インターロイキン2(IL-2)、インターロイキン4(IL-4)、インターロイキン10(IL-10)、インターロイキン11(IL-11)、インターロイキン12(IL-12)、インターロイキン15(IL-15)、およびインターロイキン21(IL-21)、ならびにそれらの変異体および誘導体が挙げられる。
【0432】
本開示によれば、サイトカインは、天然に存在するサイトカインまたはその機能的断片もしくは変異体であり得る。サイトカインはヒトサイトカインであり得、任意の脊椎動物、特に任意の哺乳動物に由来し得る。1つの特に好ましいサイトカインはインターフェロン-αである。
【0433】
免疫賦活剤は、肝臓または肝臓組織へのRNAの選択的送達のための製剤中の免疫賦活剤をコードするRNAを対象に投与する工程によって対象に提供され得る。そのような標的器官または組織へのRNAの送達は、特に、大量の免疫賦活剤を発現することが望ましい場合、および/または免疫賦活剤の全身的な存在、特に有意な量での存在が望ましいもしくは必要とされる場合に好ましい。
【0434】
RNA送達システムは、肝臓に対して固有の選択性を有する。これは、脂質ベースの粒子、カチオン性および中性ナノ粒子、特に脂質ナノ粒子に関連する。
【0435】
肝臓を標的とするための適切な免疫賦活剤の例は、T細胞の増殖および/または維持に関与するサイトカインである。適切なサイトカインの例としては、IL2またはIL7、その断片および変異体、ならびに延長PKサイトカインなどの、これらのサイトカイン、断片および変異体の融合タンパク質が挙げられる。
【0436】
別の実施形態では、免疫賦活剤をコードするRNAは、リンパ系、特に二次リンパ器官、より具体的には脾臓へのRNAの選択的送達のための製剤中で投与され得る。そのような標的組織への免疫賦活剤の送達は、特に、この器官または組織における免疫賦活剤の存在が望ましい(例えば免疫応答を誘導するために、特にT細胞プライミング中にまたは常在免疫細胞の活性化のためにサイトカインなどの免疫賦活剤が必要とされる場合)が、免疫賦活剤が全身的に、特に有意な量で存在することは望ましくない(例えば免疫賦活剤が全身毒性を有するため)場合に好ましい。
【0437】
適切な免疫賦活剤の例は、T細胞プライミングに関与するサイトカインである。適切なサイトカインの例には、IL12、IL15、IFN-α、またはIFN-β、その断片および変異体、ならびに延長PKサイトカインなどの、これらのサイトカイン、断片および変異体の融合タンパク質が含まれる。
【0438】
インターフェロン
インターフェロン(IFN)は、ウイルス、細菌、寄生虫などのいくつかの病原体、およびまた腫瘍細胞の存在に応答して、宿主細胞によって産生および放出されるシグナル伝達タンパク質の群である。典型的なシナリオでは、ウイルスに感染した細胞がインターフェロンを放出し、近くの細胞の抗ウイルス防御能を高める。
【0439】
インターフェロンがそれを介してシグナル伝達する受容体の種類に基づいて、インターフェロンは、典型的には3つのクラス:I型インターフェロン、II型インターフェロン、およびIII型インターフェロンに分けられる。
【0440】
全てのI型インターフェロンは、IFNAR1鎖およびIFNAR2鎖からなるIFN-α/β受容体(IFNAR)として公知の特定の細胞表面受容体複合体に結合する。
【0441】
ヒトに存在するI型インターフェロンは、IFNα、IFNβ、IFNε、IFNκおよびIFNωである。一般に、I型インターフェロンは、身体が、体内に侵入したウイルスを認識したときに産生される。それらは線維芽細胞および単球によって産生される。放出されると、I型インターフェロンは標的細胞上の特異的受容体に結合し、ウイルスがそのRNAおよびDNAを産生および複製するのを妨げるタンパク質の発現をもたらす。
【0442】
IFNαタンパク質は、主に形質細胞様樹状細胞(pDC)によって産生される。それらは主にウイルス感染に対する自然免疫に関与する。それらの合成に関与する遺伝子は、IFNA1、IFNA2、IFNA4、IFNA5、IFNA6、IFNA7、IFNA8、IFNA10、IFNA13、IFNA14、IFNA16、IFNA17、IFNA21と呼ばれる13のサブタイプに属する。これらの遺伝子は、9番染色体上のクラスタに一緒に見出される。
【0443】
IFNβタンパク質は、線維芽細胞によって大量に産生される。それらは、主に自然免疫応答に関与する抗ウイルス活性を有する。2種類のIFNβ、すなわちIFNβ1とIFNβ3が記述されている。IFNβ1の天然型および組換え型は、抗ウイルス、抗菌、および抗癌特性を有する。
【0444】
II型インターフェロン(ヒトにおけるIFNγ)は、免疫インターフェロンとしても公知であり、IL12によって活性化される。さらに、II型インターフェロンは、細胞傷害性T細胞およびTヘルパー細胞によって放出される。
【0445】
III型インターフェロンは、IL10R2(CRF2-4とも呼ばれる)およびIFNLR1(CRF2-12とも呼ばれる)からなる受容体複合体を介してシグナル伝達する。I型およびII型IFNよりも最近発見されたが、最近の情報は、いくつかの種類のウイルスまたは真菌感染におけるIII型IFNの重要性を実証している。
【0446】
一般に、I型およびII型インターフェロンは、免疫応答の調節および活性化を担う。
【0447】
本開示によれば、I型インターフェロンは、好ましくはIFNαまたはIFNβ、より好ましくはIFNαである。
【0448】
本開示によれば、インターフェロンは、天然に存在するインターフェロンまたはその機能的断片もしくは変異体であり得る。インターフェロンは、ヒトインターフェロンであり得、任意の脊椎動物、特に任意の哺乳動物に由来し得る。
【0449】
インターロイキン
インターロイキン(IL)は、顕著な構造特徴に基づいて4つの主要な群に分けることができるサイトカイン(分泌タンパク質およびシグナル分子)の群である。しかしながら、それらのアミノ酸配列類似性はかなり弱い(典型的には15~25%の同一性)。ヒトゲノムは、50を超えるインターロイキンおよび関連タンパク質をコードする。
【0450】
本開示によれば、インターロイキンは、天然に存在するインターロイキンまたはその機能的断片もしくは変異体であり得る。インターロイキンはヒトインターロイキンであり得、任意の脊椎動物、特に任意の哺乳動物に由来し得る。
【0451】
延長PK基
本明細書に記載される免疫賦活ポリペプチドは、免疫賦活部分および異種ポリペプチド(すなわち、免疫賦活剤ではないポリペプチド)を含む融合ポリペプチドまたはキメラポリペプチドとして調製され得る。免疫賦活剤は、循環半減期を増加させる延長PK基に融合され得る。延長PK基の非限定的な例を以下で説明する。サイトカインまたはその変異体などの免疫賦活剤の循環半減期を増加させる他のPK基もまた、本開示に適用可能であることが理解されるべきである。特定の実施形態では、延長PK基は、血清アルブミンドメイン(例えば、マウス血清アルブミン、ヒト血清アルブミン)である。
【0452】
本明細書で使用される場合、「PK」という用語は、「薬物動態」の頭字語であり、例として、対象による吸収、分布、代謝、および排泄を含む化合物の特性を包含する。本明細書で使用される場合、「延長PK基」は、生物学的に活性な分子に融合されるかまたは生物学的に活性な分子と一緒に投与された場合、生物学的に活性な分子の循環半減期を増加させるタンパク質、ペプチド、または部分を指す。延長PK基の例としては、血清アルブミン(例えばHSA)、免疫グロブリンFcまたはFc断片およびその変異体、トランスフェリンおよびその変異体、ならびにヒト血清アルブミン(HSA)結合剤(米国特許出願公開第2005/0287153号および同第2007/0003549号に開示されている)が挙げられる。他の例示的な延長PK基は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、Kontermann,Expert Opin Biol Ther,2016 Jul;16(7):903-15に開示されている。本明細書で使用される場合、「延長PK」免疫賦活剤は、延長PK基と組み合わせた免疫賦活部分を指す。いくつかの実施形態では、延長PK免疫賦活剤は、免疫賦活部分が延長PK基に連結または融合された融合タンパク質である。
【0453】
特定の実施形態では、延長PK免疫賦活剤の血清半減期は、免疫賦活剤単独(すなわち、延長PK基に融合されていない免疫賦活剤)と比較して増加している。特定の実施形態では、延長PK免疫賦活剤の血清半減期は、免疫賦活剤単独の血清半減期と比較して少なくとも20、40、60、80、100、120、150、180、200、400、600、800、または1000%長い。特定の実施形態では、延長PK免疫賦活剤の血清半減期は、免疫賦活剤単独の血清半減期の少なくとも1.5倍、2倍、2.5倍、3倍、3.5倍、4倍、4.5倍、5倍、6倍、7倍、8倍、10倍、12倍、13倍、15倍、17倍、20倍、22倍、25倍、27倍、30倍、35倍、40倍、または50倍である。特定の実施形態では、延長PK免疫賦活剤の血清半減期は、少なくとも10時間、15時間、20時間、25時間、30時間、35時間、40時間、50時間、60時間、70時間、80時間、90時間、100時間、110時間、120時間、130時間、135時間、140時間、150時間、160時間、または200時間である。
【0454】
本明細書で使用される場合、「半減期」は、ペプチドまたはポリペプチドなどの化合物の血清または血漿濃度が、例えば分解および/またはクリアランスもしくは天然の機構による隔離に起因して、インビボで50%減少するのに要する時間を指す。本明細書での使用に適した延長PK免疫賦活剤は、インビボで安定化されており、その半減期は、例えば、分解および/またはクリアランスもしくは隔離に抵抗する血清アルブミン(例えばHSAまたはMSA)への融合によって増加している。半減期は、薬物動態分析などによる、それ自体公知の任意の方法で決定することができる。適切な技術は当業者には明らかであり、例えば一般に、適切な用量のアミノ酸配列または化合物を対象に適切に投与する工程;当該対象から血液試料または他の試料を一定の間隔で収集する工程;当該血液試料中のアミノ酸配列または化合物のレベルまたは濃度を決定する工程;およびこのようにして得られたデータ(のプロット)から、アミノ酸配列または化合物のレベルまたは濃度が投与時の初期レベルと比較して50%低下するまでの時間を計算する工程を含み得る。さらなる詳細は、例えば、Kenneth,A.et al.,Chemical Stability of Pharmaceuticals:A Handbook for Pharmacistsなどの標準的なハンドブックおよびPeters et al.,Pharmacokinetic Analysis:A Practical Approach(1996)に提供されている。Gibaldi,M.et al.,Pharmacokinetics,2nd Rev.Edition,Marcel Dekker(1982)も参照されたい。
【0455】
特定の実施形態では、延長PK基は、血清アルブミンもしくはその断片、または血清アルブミンもしくはその断片の変異体(本開示の目的のために、それらの全てが「アルブミン」という用語に含まれる)を含む。本明細書に記載されるポリペプチドは、アルブミン(またはその断片もしくは変異体)に融合されてアルブミン融合タンパク質を形成し得る。そのようなアルブミン融合タンパク質は、米国特許出願公開第20070048282号に記載されている。
【0456】
本明細書で使用される場合、「アルブミン融合タンパク質」は、少なくとも1分子のアルブミン(またはその断片もしくは変異体)と、少なくとも1分子の治療用タンパク質などのタンパク質、特に免疫賦活剤との融合によって形成されるタンパク質を指す。アルブミン融合タンパク質は、治療用タンパク質をコードするポリヌクレオチドがアルブミンをコードするポリヌクレオチドとインフレームで連結されている核酸の翻訳によって生成され得る。治療用タンパク質およびアルブミンは、アルブミン融合タンパク質の一部になると、それぞれ、アルブミン融合タンパク質の「一部」、「領域」または「部分」(例えば「治療用タンパク質部分」または「アルブミンタンパク質部分」)と呼ばれ得る。非常に好ましい実施形態では、アルブミン融合タンパク質は、少なくとも1分子の治療用タンパク質(治療用タンパク質の成熟形態を含むがこれに限定されない)と、少なくとも1分子のアルブミン(アルブミンの成熟形態を含むがこれに限定されない)とを含む。いくつかの実施形態では、アルブミン融合タンパク質は、投与されたRNAの標的器官の細胞、例えば肝細胞などの宿主細胞によってプロセシングされ、循環中に分泌される。RNAの発現に使用される宿主細胞の分泌経路で起こる新生アルブミン融合タンパク質のプロセシングには、シグナルペプチド切断;ジスルフィド結合の形成;適切な折りたたみ;炭水化物の付加およびプロセシング(例えばN-結合型およびO-結合型グリコシル化など);特異的タンパク質分解切断;ならびに/または多量体タンパク質へのアセンブリが含まれ得るが、これらに限定されない。アルブミン融合タンパク質は、好ましくは、特にそのN末端にシグナルペプチドを有するプロセシングされていない形態でRNAによってコードされ、細胞による分泌後、好ましくは、特にシグナルペプチドが切断された、プロセシングされた形態で存在する。最も好ましい実施形態では、「アルブミン融合タンパク質のプロセシングされた形態」は、本明細書では「成熟アルブミン融合タンパク質」とも呼ばれる、N末端シグナルペプチド切断を受けたアルブミン融合タンパク質産物を指す。
【0457】
好ましい実施形態では、治療用タンパク質を含むアルブミン融合タンパク質は、アルブミンに融合されていない場合の同じ治療用タンパク質の血漿安定性と比較して、より高い血漿安定性を有する。血漿安定性は、典型的には、治療用タンパク質がインビボで投与され、血流に運ばれたときから、治療用タンパク質が分解され、血流から腎臓または肝臓などの器官へと除去され、最終的に治療用タンパク質が体内から除去されるときまでの期間を指す。血漿安定性は、血流中の治療用タンパク質の半減期に関して計算される。血流中の治療用タンパク質の半減期は、当技術分野で公知の一般的なアッセイによって容易に決定することができる。
【0458】
本明細書で使用される場合、「アルブミン」は、アルブミンの1つ以上の機能活性(例えば生物学的活性)を有する、アルブミンタンパク質もしくはアミノ酸配列、またはアルブミン断片もしくは変異体を集合的に指す。特に、「アルブミン」は、ヒトアルブミンまたはその断片もしくは変異体、特にヒトアルブミンの成熟形態、または他の脊椎動物由来のアルブミンもしくはその断片、またはこれらの分子の変異体を指す。アルブミンは、任意の脊椎動物、特に任意の哺乳動物、例えばヒト、ウシ、ヒツジ、またはブタに由来し得る。非哺乳動物アルブミンとしては、雌鶏およびサケが挙げられるが、これらに限定されない。アルブミン融合タンパク質のアルブミン部分は、治療用タンパク質部分とは異なる動物に由来し得る。
【0459】
特定の実施形態では、アルブミンは、ヒト血清アルブミン(HSA)、またはその断片もしくは変異体、例えば米国特許第5,876,969号、国際公開第2011/124718号、国際公開第2013/075066号、および国際公開第2011/0514789号に開示されているものである。
【0460】
ヒト血清アルブミン(HSA)およびヒトアルブミン(HA)という用語は、本明細書では互換的に使用される。「アルブミンおよび「血清アルブミン」という用語はより広範であり、ヒト血清アルブミン(ならびにその断片および変異体)ならびに他の種由来のアルブミン(ならびにその断片および変異体)を包含する。
【0461】
本明細書で使用される場合、治療用タンパク質の治療活性または血漿安定性を延長するのに十分なアルブミンの断片は、アルブミン融合タンパク質の治療用タンパク質部分の血漿安定性が非融合状態での血漿安定性と比較して延長または拡大されるように、タンパク質の治療活性または血漿安定性を安定化または延長するのに十分な長さまたは構造のアルブミン断片を指す。
【0462】
アルブミン融合タンパク質のアルブミン部分は、アルブミン配列の全長を含み得るか、または治療活性もしくは血漿安定性を安定化もしくは延長することができるその1つ以上の断片を含み得る。そのような断片は、10個以上のアミノ酸の長さであり得るか、またはアルブミン配列からの約15、20、25、30、50個、もしくはそれ以上の連続するアミノ酸を含み得るか、またはアルブミンの特定のドメインの一部もしくは全部を含み得る。例えば、最初の2つの免疫グロブリン様ドメインにまたがるHSAの1つ以上の断片を使用し得る。好ましい実施形態では、HSA断片はHSAの成熟形態である。
【0463】
一般的に言えば、アルブミン断片または変異体は、少なくとも100アミノ酸長、好ましくは少なくとも150アミノ酸長である。
【0464】
本開示によれば、アルブミンは、天然に存在するアルブミンまたはその断片もしくは変異体であり得る。アルブミンはヒトアルブミンであり得、任意の脊椎動物、特に任意の哺乳動物に由来し得る。
【0465】
好ましくは、アルブミン融合タンパク質は、N末端部分としてアルブミンを含み、C末端部分として治療用タンパク質を含む。あるいは、C末端部分としてアルブミンを含み、N末端部分として治療用タンパク質を含むアルブミン融合タンパク質も使用し得る。他の実施形態では、アルブミン融合タンパク質は、アルブミンのN末端とC末端の両方に融合した治療用タンパク質を有する。好ましい実施形態では、N末端およびC末端で融合した治療用タンパク質は、同じ治療用タンパク質である。別の好ましい実施形態では、N末端およびC末端で融合した治療用タンパク質は、異なる治療用タンパク質である。いくつかの実施形態では、異なる治療用タンパク質は両方ともサイトカインである。
【0466】
いくつかの実施形態では、1つ以上の治療用タンパク質は、1つ以上のペプチドリンカーを介してアルブミンに連結される。融合部分の間のリンカーペプチドは、部分間のより大きな物理的分離を提供し、したがって、例えばその同族受容体に結合するための治療用タンパク質部分のアクセス可能性を最大化し得る。リンカーペプチドは、それが柔軟であるかまたはより剛性であるようにアミノ酸で構成され得る。リンカー配列は、プロテアーゼによってまたは化学的に切断可能であり得る。
【0467】
本明細書で使用される場合、「Fc領域」という用語は、天然免疫グロブリンの2本の重鎖のそれぞれのFcドメイン(またはFc部分)によって形成される天然免疫グロブリンの部分を指す。本明細書で使用される場合、「Fcドメイン」という用語は、FcドメインがFvドメインを含まない単一の免疫グロブリン(Ig)重鎖の一部または断片を指す。特定の実施形態では、Fcドメインは、パパイン切断部位のすぐ上流のヒンジ領域で始まり、抗体のC末端で終わる。したがって、完全なFcドメインは、少なくともヒンジドメイン、CH2ドメイン、およびCH3ドメインを含む。特定の実施形態では、Fcドメインは、ヒンジ(例えば上部、中間および/もしくは下部ヒンジ領域)ドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメイン、CH4ドメイン、またはそれらの変異体、部分もしくは断片の少なくとも1つを含む。特定の実施形態では、Fcドメインは、完全なFcドメイン(すなわち、ヒンジドメイン、CH2ドメイン、およびCH3ドメイン)を含む。特定の実施形態では、Fcドメインは、CH3ドメイン(またはその一部)に融合したヒンジドメイン(またはその一部)を含む。特定の実施形態では、Fcドメインは、CH3ドメイン(またはその一部)に融合したCH2ドメイン(またはその一部)を含む。特定の実施形態では、Fcドメインは、CH3ドメインまたはその一部からなる。特定の実施形態では、Fcドメインは、ヒンジドメイン(またはその一部)およびCH3ドメイン(またはその一部)からなる。特定の実施形態では、Fcドメインは、CH2ドメイン(またはその一部)およびCH3ドメインからなる。特定の実施形態では、Fcドメインは、ヒンジドメイン(またはその一部)およびCH2ドメイン(またはその一部)からなる。特定の実施形態では、Fcドメインは、CH2ドメインの少なくとも一部(例えばCH2ドメインの全部または一部)を欠く。本明細書におけるFcドメインは、一般に、免疫グロブリン重鎖のFcドメインの全部または一部を含むポリペプチドを指す。これには、CH1、ヒンジ、CH2、および/またはCH3ドメイン全体を含むポリペプチド、ならびに、例えばヒンジ、CH2、およびCH3ドメインのみを含むそのようなペプチドの断片が含まれるが、これらに限定されない。Fcドメインは、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgD、IgA、IgE、またはIgM抗体を含むがこれらに限定されない、任意の種および/または任意のサブタイプの免疫グロブリンに由来し得る。Fcドメインは、天然のFcおよびFc変異体分子を包含する。本明細書に記載されるように、任意のFcドメインを、アミノ酸配列が天然に存在する免疫グロブリン分子の天然Fcドメインとは異なるように修飾し得ることは、当業者に理解されるであろう。特定の実施形態では、Fcドメインは、エフェクタ機能(例えばFcγR結合)が低下している。
【0468】
本明細書に記載されるポリペプチドのFcドメインは、異なる免疫グロブリン分子に由来し得る。例えば、ポリペプチドのFcドメインは、IgG1分子に由来するCH2および/またはCH3ドメイン、ならびにIgG3分子に由来するヒンジ領域を含み得る。別の例では、Fcドメインは、一部はIgG1分子に由来し、一部はIgG3分子に由来するキメラヒンジ領域を含むことができる。別の例では、Fcドメインは、一部はIgG1分子に由来し、一部はIgG4分子に由来するキメラヒンジを含むことができる。
【0469】
特定の実施形態では、延長PK基は、Fcドメインもしくはその断片、またはFcドメインもしくはその断片の変異体(本開示の目的のために、その全てが「Fcドメイン」という用語に含まれる)を含む。Fcドメインは、抗原に結合する可変領域を含まない。本開示での使用に適したFcドメインは、いくつかの異なる供給源から得られ得る。特定の実施形態では、Fcドメインはヒト免疫グロブリンに由来する。特定の実施形態では、FcドメインはヒトIgG1定常領域に由来する。しかしながら、Fcドメインは、例えばげっ歯動物(例えばマウス、ラット、ウサギ、モルモット)種または非ヒト霊長動物(例えばチンパンジー、マカク)種を含む別の哺乳動物種の免疫グロブリンに由来し得ることが理解される。
【0470】
さらに、Fcドメイン(またはその断片もしくは変異体)は、IgM、IgG、IgD、IgA、およびIgEを含む任意の免疫グロブリンクラス、ならびにIgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4を含む任意の免疫グロブリンアイソタイプに由来し得る。
【0471】
様々なFcドメイン遺伝子配列(例えばマウスおよびヒト定常領域遺伝子配列)が、公的にアクセス可能な寄託物の形態で入手可能である。特定のエフェクタ機能を欠く、および/または免疫原性を低下させる特定の修飾を有するFcドメイン配列を含む定常領域ドメインを選択することができる。抗体および抗体をコードする遺伝子の多くの配列が公開されており、適切なFcドメイン配列(例えばヒンジ、CH2、および/もしくはCH3配列、またはその断片もしくは変異体)は、当技術分野で広く認められている技術を使用してこれらの配列から導くことができる。
【0472】
特定の実施形態では、延長PK基は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許出願第2005/0287153号、米国特許出願第2007/0003549号、米国特許出願第2007/0178082号、米国特許出願第2007/0269422号、米国特許出願第2010/0113339号、国際公開第2009/083804号、および国際公開第2009/133208号に記載されているものなどの血清アルブミン結合タンパク質である。特定の実施形態では、延長PK基は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第7,176,278号および米国特許第8,158,579号に開示されているように、トランスフェリンである。特定の実施形態では、延長PK基は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許出願第2007/0178082号、米国特許出願第2014/0220017号、および米国特許出願第2017/0145062号に開示されているものなどの血清免疫グロブリン結合タンパク質である。特定の実施形態では、延長PK基は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許出願第2012/0094909号に開示されているものなどの、血清アルブミンに結合するフィブロネクチン(Fn)ベースの足場ドメインタンパク質である。フィブロネクチンベースの足場ドメインタンパク質を作製する方法もまた、米国特許出願第2012/0094909号に開示されている。Fn3ベースの延長PK基の非限定的な例は、Fn3(HSA)、すなわち、ヒト血清アルブミンに結合するFn3タンパク質である。
【0473】
特定の態様では、本開示による使用に適した延長PK免疫賦活剤は、1つ以上のペプチドリンカーを使用することができる。本明細書で使用される場合、「ペプチドリンカー」という用語は、ポリペプチド鎖の直鎖状アミノ酸配列中の2つ以上のドメイン(例えば、延長PK部分および免疫賦活部分)を接続するペプチドまたはポリペプチド配列を指す。例えば、ペプチドリンカーを使用して、免疫賦活部分をHSAドメインに接続し得る。
【0474】
例えば免疫賦活剤に延長PK基を融合するのに適したリンカーは、当技術分野で周知である。例示的なリンカーとしては、グリシン-セリンポリペプチドリンカー、グリシン-プロリンポリペプチドリンカー、およびプロリン-アラニンポリペプチドリンカーが挙げられる。特定の実施形態では、リンカーは、グリシン-セリンポリペプチドリンカー、すなわちグリシンおよびセリン残基からなるペプチドである。
【0475】
免疫エフェクタ細胞
本明細書で使用される免疫エフェクタ細胞は、治療を必要とする対象に投与され得るか、または治療を必要とする対象に内因的に存在し得る。ワクチン抗原をコードするRNAおよびPD-1軸結合アンタゴニストを対象に投与することにより、免疫エフェクタ細胞の刺激が可能になる。本明細書に記載される方法および薬剤は、特に、免疫エフェクタ細胞が向けられる抗原を発現する疾患細胞を特徴とする疾患の治療に有用である。いくつかの実施形態では、免疫エフェクタ細胞は、抗原またはそのプロセシング産物に対する結合特異性を有するT細胞受容体(TCR)またはキメラ抗原受容体(CAR)などの抗原受容体を担持する。いくつかの実施形態では、免疫エフェクタ細胞は、治療される対象に存在し、抗原受容体を発現する。いくつかの実施形態では、免疫エフェクタ細胞は、治療される対象に存在し、抗原受容体を発現するように対象においてインビボで遺伝子改変される。いくつかの実施形態では、治療される対象または異なる対象のいずれかからの免疫エフェクタ細胞が、治療される対象に投与される。投与される免疫エフェクタ細胞は、投与前にエクスビボで遺伝子改変され得るか、または投与後に抗原受容体を発現するように対象においてインビボで遺伝子改変され得る。いくつかの実施形態では、抗原受容体は免疫エフェクタ細胞に内因性である。
【0476】
いくつかの実施形態では、免疫エフェクタ細胞は、ワクチン抗原に応答性である任意の細胞を含む。そのような応答性には、活性化、分化、増殖、生存および/または1つ以上の免疫エフェクタ機能の表示が含まれる。細胞は、特に、溶解能を有する細胞、特にリンパ系細胞を含み、好ましくはT細胞、特に細胞傷害性リンパ球であり、好ましくは細胞傷害性T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞およびリンホカイン活性化キラー(LAK)細胞から選択される。活性化されると、これらの細胞傷害性リンパ球はそれぞれ標的細胞の破壊を引き起こす。例えば、細胞傷害性T細胞は、以下の手段のいずれかまたは両方によって標的細胞の破壊を引き起こす。まず、活性化すると、T細胞は、パーフォリン、グランザイム、およびグラニュライシンなどの細胞毒を放出する。パーフォリンおよびグラニュライシンは標的細胞に細孔を作り、グランザイムは細胞に進入し、細胞のアポトーシス(プログラム細胞死)を誘導する細胞質のカスパーゼカスケードを引き起こす。第2に、アポトーシスは、T細胞と標的細胞との間のFas-Fasリガンド相互作用を介して誘導され得る。本発明に関連して使用される細胞は、好ましくは自家細胞であるが、異種細胞または同種異系細胞を使用することができる。いくつかの実施形態では、免疫エフェクタ細胞は、治療される対象にとって内因性である。
【0477】
本発明の文脈における「エフェクタ機能」という用語は、例えば、腫瘍細胞などの疾患細胞の死滅、または腫瘍の播種および転移の阻害を含む腫瘍成長の阻害および/もしくは腫瘍発生の阻害をもたらす免疫系の成分によって媒介される任意の機能を含む。好ましくは、本発明の文脈におけるエフェクタ機能は、T細胞媒介エフェクタ機能である。そのような機能は、ヘルパーT細胞(CD4T細胞)の場合、サイトカインの放出ならびに/またはCD8リンパ球(CTL)および/もしくはB細胞の活性化を含み、CTLの場合、例えばアポトーシスまたはパーフォリン媒介細胞溶解を介した、細胞、すなわち抗原の発現を特徴とする細胞の排除、IFN-γおよびTNF-αなどのサイトカインの産生、ならびに抗原を発現する標的細胞の特異的細胞溶解性死滅を含む。
【0478】
本発明の文脈における「免疫エフェクタ細胞」または「免疫反応性細胞」という用語は、免疫反応中にエフェクタ機能を発揮する細胞に関する。「免疫エフェクタ細胞」は、いくつかの実施形態では、細胞上のMHCに関連して提示されるか、または細胞の表面上に発現される抗原などの抗原に結合し、免疫応答を媒介することができる。例えば、免疫エフェクタ細胞は、T細胞(細胞傷害性T細胞、ヘルパーT細胞、腫瘍浸潤T細胞)、B細胞、ナチュラルキラー細胞、好中球、マクロファージ、および樹状細胞を含む。好ましくは、本発明の文脈において、「免疫エフェクタ細胞」は、T細胞、好ましくはCD4および/またはCD8T細胞、最も好ましくはCD8T細胞である。本発明によれば、「免疫エフェクタ細胞」という用語はまた、適切な刺激で免疫細胞(T細胞、特にTヘルパー細胞、または細胞溶解性T細胞など)に成熟することができる細胞を含む。免疫エフェクタ細胞は、CD34造血幹細胞、未成熟および成熟T細胞ならびに未成熟および成熟B細胞を含む。T細胞前駆体の細胞溶解性T細胞への分化は、抗原に曝露された場合、免疫系のクローン選択に類似する。
【0479】
好ましくは、「免疫エフェクタ細胞」は、特にMHCに関連して提示されるか、または癌細胞などの疾患細胞の表面に存在する場合、ある程度の特異性で抗原を認識する。好ましくは、当該認識は、抗原を認識する細胞が応答性または反応性であることを可能にする。細胞がヘルパーT細胞(CD4T細胞)である場合、そのような応答性または反応性は、サイトカインの放出ならびに/またはCD8リンパ球(CTL)および/もしくはB細胞の活性化を含み得る。細胞がCTLである場合、そのような応答性または反応性は、例えばアポトーシスまたはパーフォリン媒介細胞溶解を介した、細胞、すなわち抗原の発現を特徴とする細胞の排除を含み得る。本開示によれば、CTL応答性には、持続的なカルシウム流動、細胞分裂、IFN-γおよびTNF-αなどのサイトカインの産生、CD44およびCD69などの活性化マーカの上方制御、ならびに抗原を発現する標的細胞の特異的細胞溶解性死滅が含まれ得る。CTL応答性はまた、CTL応答性を正確に示す人工レポータを使用して決定され得る。抗原を認識し、応答性または反応性であるそのようなCTLは、本明細書では「抗原応答性CTL」とも称される。
【0480】
いくつかの実施形態では、遺伝子改変された免疫エフェクタ細胞は、CARを発現する免疫エフェクタ細胞である。いくつかの実施形態では、遺伝子改変された免疫エフェクタ細胞は、TCRを発現する免疫エフェクタ細胞である。
【0481】
免疫エフェクタ細胞は、T細胞受容体もしくはB細胞受容体などの内因性抗原受容体を発現してもよく、または内因性抗原受容体の発現を欠いていてもよい。
【0482】
「リンパ系細胞」は、任意で適切な修飾後、例えばTCRまたはCARなどの抗原受容体の移入後に、細胞性免疫応答などの免疫応答を生成することができる細胞、またはそのような細胞の前駆細胞であり、リンパ球、好ましくはTリンパ球、リンパ芽球、および形質細胞を含む。リンパ系細胞は、本明細書に記載される免疫エフェクタ細胞であり得る。好ましいリンパ系細胞は、細胞表面に抗原受容体を発現するように改変することができるT細胞である。いくつかの実施形態ではリンパ系細胞は、T細胞受容体の内因性発現を欠く。
【0483】
抗原受容体
本明細書に記載の免疫エフェクタ細胞は、特に、標的細胞、例えば抗原提示細胞または疾患細胞上に存在するかまたはそれによって提示された場合、キメラ抗原受容体(CAR)もしくはT細胞受容体(TCR)結合抗原などの抗原受容体、またはそのプロセシング産物を発現する。細胞は、抗原受容体を天然に発現し得るか、または抗原受容体を発現するように改変され得る。いくつかの実施形態では、免疫エフェクタ細胞は、治療される対象において、エクスビボ/インビトロまたはインビボで抗原受容体を発現するように遺伝子改変される。いくつかの実施形態では、抗原受容体を発現するための改変は、エクスビボ/インビトロで行われる。その後、改変された細胞を患者に投与し得る。いくつかの実施形態では、抗原受容体を発現するための改変はインビボで行われる。細胞は、患者の内因性細胞であってもよく、または患者に投与されていてもよい。
【0484】
キメラ抗原受容体
キメラ抗原受容体を発現するCAR操作されたT細胞を用いた養子細胞移入療法は、CAR修飾T細胞が実質的に任意の腫瘍抗原を標的とするように操作され得るので、有望な抗癌治療法である。例えば、患者のT細胞を、患者の腫瘍細胞上の抗原に特異的に向けられるCARを発現するように遺伝子操作(遺伝子改変)し、その後患者に注入して戻し得る。
【0485】
本発明によれば、「CAR」(または「キメラ抗原受容体」)という用語は、「キメラT細胞受容体」および「人工T細胞受容体」という用語と同義であり、癌細胞などの標的細胞上の標的構造(例えば抗原)を認識し、すなわち結合し(例えば標的細胞の表面に発現された抗原への抗原結合ドメインの結合によって)、細胞表面に当該CARを発現するT細胞などの免疫エフェクタ細胞に特異性を付与し得る、単一の分子または分子の複合体を含む人工受容体に関する。そのような細胞は、標的細胞の認識のために抗原のプロセシングおよび提示を必ずしも必要とせず、むしろ、標的細胞上に存在する任意の抗原を、好ましくは特異的に認識し得る。好ましくは、CARによる標的構造の認識は、当該CARを発現する免疫エフェクタ細胞の活性化をもたらす。CARは、本明細書に記載の1つ以上のドメインを含む1つ以上のタンパク質ユニットを含み得る。「CAR」という用語は、T細胞受容体を含まない。
【0486】
CARは、一般にCARの細胞外ドメインの一部である抗原結合部分または抗原結合ドメインとも呼ばれる標的特異的結合要素を含む。抗原結合ドメインは、特定の疾患状態に関連する標的細胞上の細胞表面マーカとして働くリガンドを認識する。具体的には、本発明のCARは、腫瘍細胞などの疾患細胞上の腫瘍抗原などの抗原を標的とする。
【0487】
いくつかの実施形態では、CARの結合ドメインは、抗原に特異的に結合する。いくつかの実施形態では、CAR中の結合ドメインが結合する抗原は、癌細胞で発現される(腫瘍抗原)。いくつかの実施形態では、抗原は癌細胞の表面に発現される。いくつかの実施形態では、結合ドメインは、抗原の細胞外ドメインまたは細胞外ドメインのエピトープに結合する。いくつかの実施形態では、結合ドメインは、生細胞の表面に存在する抗原の天然のエピトープに結合する。
【0488】
本発明のいくつかの実施形態では、抗原結合ドメインは、抗原に対する特異性を有する免疫グロブリンの重鎖の可変領域(VH)および抗原に対する特異性を有する免疫グロブリンの軽鎖の可変領域(VL)を含む。いくつかの実施形態では、免疫グロブリンは抗体である。いくつかの実施形態では、当該重鎖可変領域(VH)および対応する軽鎖可変領域(VL)は、ペプチドリンカーを介して接続されている。好ましくは、CAR中の抗原結合部分の一部はscFvである。
【0489】
CARは、CARの細胞外ドメインに融合された膜貫通ドメインを含むように設計される。いくつかの実施形態では、膜貫通ドメインは、CAR中のドメインの1つと天然には会合していない。いくつかの実施形態では、膜貫通ドメインは、CAR中のドメインの1つと天然に会合している。いくつかの実施形態では、膜貫通ドメインは、同じまたは異なる表面膜タンパク質の膜貫通ドメインへのそのようなドメインの結合を回避して、受容体複合体の他のメンバーとの相互作用を最小限に抑えるために、アミノ酸置換によって改変される。膜貫通ドメインは、天然源または合成源のいずれかに由来し得る。供給源が天然である場合、ドメインは、任意の膜結合タンパク質または膜貫通タンパク質に由来し得る。本発明において特に使用される膜貫通領域は、T細胞受容体のアルファ鎖、ベータ鎖またはゼータ鎖、CD28、CD3イプシロン、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD154に由来し得る(すなわち、少なくともその膜貫通領域(1つ以上)を含む)。あるいは、膜貫通ドメインは合成であってもよく、その場合、ロイシンおよびバリンなどの疎水性残基を主に含む。好ましくは、フェニルアラニン、トリプトファンおよびバリンのトリプレットが合成膜貫通ドメインの各末端に見出される。
【0490】
場合によっては、CARは、膜貫通ドメインと細胞外ドメインとの間に連結を形成するヒンジドメインを含む。
【0491】
CARの細胞質ドメインまたはさもなければ細胞内シグナル伝達ドメインは、CARが配置されている免疫細胞の正常なエフェクタ機能の少なくとも1つの活性化を担う。「エフェクタ機能」という用語は、細胞の特殊な機能を指す。T細胞のエフェクタ機能は、例えば、細胞溶解活性またはサイトカインの分泌を含むヘルパー活性であり得る。したがって、「細胞内シグナル伝達ドメイン」という用語は、エフェクタ機能シグナルを伝達し、特殊な機能を果たすように細胞に指示するタンパク質の部分を指す。通常、細胞内シグナル伝達ドメイン全体を使用することができるが、多くの場合、鎖全体を使用する必要はない。細胞内シグナル伝達ドメインのトランケートされた部分が使用される限り、そのようなトランケートされた部分は、それがエフェクタ機能シグナルを伝達する限り、無傷の鎖の代わりに使用され得る。したがって、細胞内シグナル伝達ドメインという用語は、エフェクタ機能シグナルを伝達するのに十分な細胞内シグナル伝達ドメインの任意のトランケートされた部分を含むことを意味する。
【0492】
TCRのみを介して生成されるシグナルは、T細胞の完全な活性化には不十分であり、二次シグナルまたは共刺激シグナルも必要であることが公知である。したがって、T細胞の活性化は、2つの異なるクラスの細胞質シグナル伝達配列:TCRを介して抗原依存性の一次活性化を開始するもの(一次細胞質シグナル伝達配列)および抗原非依存的に作用して二次シグナルまたは共刺激シグナルを提供するもの(二次細胞質シグナル伝達配列)によって媒介されると言うことができる。
【0493】
いくつかの実施形態では、CARは、CD3ゼータに由来する一次細胞質シグナル伝達配列を含む。さらに、CARの細胞質ドメインは、共刺激シグナル伝達領域と組み合わされたCD3ゼータシグナル伝達ドメインを含み得る。
【0494】
共刺激ドメインの同一性は、CARによる標的部分の結合時に細胞増殖および生存を増強する能力を有するという点でのみに限定される。適切な共刺激ドメインには、CD28、腫瘍壊死因子受容体(TNFR)スーパーファミリーのメンバーであるCD137(4-1BB)、TNFRスーパーファミリーの受容体のメンバーであるCD134(OX40)、および活性化T細胞上に発現されるCD28スーパーファミリー共刺激分子であるCD278(ICOS)が含まれる。当業者は、これらの記載された共刺激ドメインの配列変異体が、それらがモデルとするドメインと同じまたは類似の活性を有する場合、本発明に悪影響を及ぼすことなく使用できることを理解する。そのような変異体は、それらが由来するドメインのアミノ酸配列と少なくとも約80%の配列同一性を有する。本発明のいくつかの実施形態では、CAR構築物は2つの共刺激ドメインを含む。特定の組合せには、4つの記載されたドメインの全ての可能な変形が含まれるが、具体的な例としてはCD28+CD137(4-1BB)およびCD28+CD134(OX40)が挙げられる。
【0495】
CARの細胞質シグナル伝達部分内の細胞質シグナル伝達配列は、ランダムな順序または指定された順序で互いに連結され得る。任意で、好ましくは2~10アミノ酸長の短いオリゴペプチドリンカーまたはポリペプチドリンカーが連結を形成し得る。グリシン-セリンダブレットは、特に適切なリンカーを提供する。
【0496】
いくつかの実施形態では、CARは、新生タンパク質を小胞体内に誘導するシグナルペプチドを含む。いくつかの実施形態では、シグナルペプチドは抗原結合ドメインに先行する。いくつかの実施形態では、シグナルペプチドは、IgGなどの免疫グロブリンに由来する。
【0497】
本開示によれば、CARは、T細胞上に存在する場合、上記のようにT細胞が刺激される、および/または拡大される、またはエフェクタ機能を発揮するように、抗原提示細胞または癌細胞などの疾患細胞の表面上などの抗原を認識する。
【0498】
免疫エフェクタ細胞の遺伝子改変
CD8T細胞などの免疫エフェクタ細胞の特異的標的化のために官能化された粒子は、抗原受容体をコードする核酸をT細胞などの免疫エフェクタ細胞に送達して、抗原受容体を発現するように遺伝子改変された細胞を産生するために、エクスビボ/インビトロまたはインビボで使用され得る。そのような遺伝子改変には、非ウイルスベースのDNAトランスフェクション、非ウイルスベースのRNAトランスフェクション、例えばmRNAトランスフェクション、トランスポゾンベースのシステム、およびウイルスベースのシステムが含まれる。非ウイルスベースのDNAトランスフェクションは、挿入突然変異誘発のリスクが低い。トランスポゾンベースのシステムは、組込み要素を含まないプラスミドよりも効率的に導入遺伝子を組み込むことができる。ウイルスベースのシステムには、γ-レトロウイルスおよびレンチウイルスベクターの使用が含まれる。γ-レトロウイルスは、T細胞を産生し、効率的かつ永続的に形質導入することが比較的容易であり、初代ヒトT細胞における組込みの観点から安全であることが予備的に証明されている。レンチウイルスベクターも、T細胞を効率的かつ永続的に形質導入するが、製造コストがより高い。それらはまた、潜在的にレトロウイルスベースのシステムよりも安全である。
【0499】
本発明の全ての態様のいくつかの実施形態では、T細胞またはT細胞前駆体を、抗原受容体をコードする核酸でエクスビボまたはインビボのいずれかでトランスフェクトする。いくつかの実施形態では、エクスビボトランスフェクションとインビボトランスフェクションの組合せを使用し得る。本発明の全ての態様のいくつかの実施形態では、T細胞またはT細胞前駆体は、治療される対象に由来する。本発明の全ての態様のいくつかの実施形態では、T細胞またはT細胞前駆体は、治療される対象とは異なる対象に由来する。
【0500】
本発明の一態様では、CAR T細胞は、T細胞を標的とするナノ粒子などの粒子を使用して、インビボで、したがってほぼ瞬時に産生し得る。例えば、脂質および/またはポリマーベースのナノ粒子を、T細胞上のCD8に結合するためにCD8特異的標的化部分にカップリングし得る。T細胞に結合すると、これらのナノ粒子はエンドサイトーシスされる。それらの内容物、例えば抗原受容体をコードする核酸、例えば抗腫瘍抗原CARをコードするプラスミドDNAは、例えば微小管関連配列(MTAS)および核局在化シグナル(NLS)を含有するペプチドを含むため、T細胞核に向けられ得る。抗原受容体をコードする核酸、例えばCAR遺伝子発現カセットに隣接するトランスポゾン、および高活性トランスポザーゼをコードする別個の核酸、例えばプラスミドを含めることにより、抗原受容体をコードする核酸、例えばCARベクターの染色体への効率的な組込みを可能にし得る。
【0501】
別の可能性は、CRISPR/Cas9法を使用して、CARコード配列などの抗原受容体コード配列を特定の遺伝子座に意図的に配置することである。例えば、CARをノックインし、それを、さもなければTCR発現を抑える内因性プロモータの動的調節制御下に置く一方で、既存のT細胞受容体(TCR)をノックアウトし得る。
【0502】
したがって、抗原受容体をコードする核酸に加えて、本明細書に記載の粒子はまた、CRISPR/Cas9のような(もしくは関連する)遺伝子編集ツール、またはスリーピングビューティもしくはピギーバッグのようなトランスポゾンシステムをカーゴとして送達し得る。ゲノム組込み/編集のためのそのようなツール(例えばトランスポザーゼ、CRISPR/Cas9のような遺伝子編集ツール)は、タンパク質またはコード核酸(DNAもしくはRNA)として送達され得る。それにもかかわらず、mRNAの送達もまた、CARまたはT細胞受容体(TCR)のような抗原受容体の一過性発現を誘導するための選択肢である。
【0503】
本発明の全ての態様のいくつかの実施形態では、抗原受容体を発現するように遺伝子改変された細胞は、抗原受容体をコードする核酸で安定にまたは一過性にトランスフェクトされる。したがって、抗原受容体をコードする核酸は、細胞のゲノムに組み込まれるか、または組み込まれない。
【0504】
本発明の全ての態様のいくつかの実施形態では、抗原受容体を発現するように遺伝子改変された細胞は、内因性T細胞受容体および/または内因性HLAの発現について不活性化されている。
【0505】
本発明の全ての態様のいくつかの実施形態では、本明細書に記載の細胞は、治療される対象に対して自家、同種異系または同系であり得る。いくつかの実施形態では、本開示は、患者からの細胞の取り出しおよびその後の患者への細胞の再送達を想定する。いくつかの実施形態では、本開示は、患者からの細胞の取り出しを想定しない。後者の場合、細胞の遺伝子改変の全ての工程はインビボで実施される。
【0506】
「自家」という用語は、同じ対象に由来するものを表すために使用される。例えば、「自家移植」は、同じ対象に由来する組織または器官の移植を指す。そのような手順は、さもなければ拒絶反応をもたらす免疫学的障壁を克服するので有利である。
【0507】
「同種異系」という用語は、同じ種の異なる個体に由来するものを表すために使用される。2つ以上の個体は、1つ以上の遺伝子座の遺伝子が同一でない場合、互いに同種異系であると言われる。
【0508】
「同系」という用語は、同一の遺伝子型を有する個体または組織、すなわち、一卵性双生児もしくは同じ近交系の動物、またはそれらの組織に由来するものを表すために使用される。
【0509】
「異種」という用語は、複数の異なる要素からなるものを表すために使用される。一例として、ある個体の骨髄を異なる個体に移入することは、異種移植を構成する。異種遺伝子は、対象以外の供給源に由来する遺伝子である。
【0510】
粒子
本明細書に記載のRNA、特にmRNAなどの核酸は、(i)核酸、および(ii)核酸を複合体化するポリマーまたは脂質などの少なくとも1つのカチオン性またはカチオン性のイオン化可能な化合物を含む粒子中に存在し得る。ポリマーおよび脂質などの正に帯電した分子と負に帯電した核酸との間の静電相互作用は、粒子形成に関与する。これは、核酸粒子の複合体化および自発的形成をもたらす。
【0511】
様々なタイプのRNA含有粒子が微粒子形態のRNAの送達に適することが以前に記述されている(例えば、Kaczmarek,J.C.et al.,2017,Genome Medicine 9,60参照)。非ウイルスRNA送達ビヒクルの場合、RNAのナノ粒子封入はRNAを分解から物理的に保護し、特定の化学的性質に応じて、細胞取り込みおよびエンドソーム脱出を支援することができる。
【0512】
本開示の文脈において、「粒子」という用語は、分子または分子複合体、特に粒子形成化合物によって形成された構造化実体に関する。いくつかの実施形態では、粒子は、1種類以上の両親媒性物質(例えば両親媒性脂質)から作製されたエンベロープ(例えば1つ以上の層またはラメラ)を含有する。これに関連して、「両親媒性物質」という表現は、物質が親水性および親油性の両方の特性を有することを意味する。エンベロープはまた、両親媒性である必要がないさらなる物質(例えばさらなる脂質)を含み得る。したがって、粒子は、1つ以上の層またはラメラを構成する物質が、任意で、両親媒性である必要がないさらなる物質(例えばさらなる脂質)と組み合わせて、1種類以上の両親媒性物質(特に、両親媒性脂質からなる群より選択される)を含む、モノラメラまたはマルチラメラ構造であり得る。いくつかの実施形態では、「粒子」という用語は、マイクロサイズまたはナノサイズの構造、例えばマイクロサイズまたはナノサイズのコンパクト構造に関する。本開示によれば、「粒子」という用語はナノ粒子を含む。
【0513】
「RNA粒子」を使用して、目的の標的部位(例えば細胞、組織、器官など)にRNAを送達することができる。RNA粒子は、少なくとも1つのカチオン性またはカチオン性イオン化可能脂質または脂質様物質を含む脂質から形成され得る。いかなる理論にも拘束されることを意図するものではないが、カチオン性またはカチオン性イオン化可能脂質または脂質様物質は、RNAと一緒に結合して凝集体を形成し、この凝集はコロイド的に安定な粒子をもたらすと考えられる。
【0514】
本明細書に記載のRNA粒子には、脂質ナノ粒子(LNP)ベースおよびリポプレックス(LPX)ベースの製剤が含まれる。
【0515】
一般に、リポプレックス(LPX)は、2つの水相、すなわちRNAを含む相と脂質の分散液を含む相とを混合することから得ることができる。いくつかの実施形態では、脂質相はリポソームを含む。
【0516】
いくつかの実施形態では、リポソームは自己閉鎖型単層または多層小胞粒子であり、ラメラは脂質二重層を含み、封入された内腔は水相を含む。ナノ粒子形成のためにリポソームを使用するための必要条件は、必要に応じて混合物中の脂質が適用された水性環境中でラメラ(二重層)相を形成することができることである。
【0517】
いくつかの実施形態では、リポソームは、水性コア(本明細書では水性内腔とも呼ばれる)を取り囲む単層または多層リン脂質二重層を含む。それらは、極性頭部(親水性)基および非極性尾部(疎水性)基を有する材料から調製され得る。いくつかの実施形態では、核酸の送達のために設計されたリポソームを製剤化するのに使用されるカチオン性脂質は、本質的に両親媒性であり、グリセロールを介して炭化水素鎖またはコレステロール誘導体に連結された正電荷(カチオン性)アミン頭部基からなる。
【0518】
いくつかの実施形態では、リポプレックスは、カチオン性リポソームとRNAとの静電相互作用の際に形成される多層リポソームベースの製剤である。いくつかの実施形態では、形成されたリポプレックスは、リポソーム構造からコンパクトなRNA-リポプレックスへの変換に起因して生じる分子の異なる内部配置を有する。いくつかの実施形態では、これらの製剤は、RNAの封入が不十分であり、RNAの捕捉が不完全であることを特徴とする。
【0519】
いくつかの実施形態では、LPX粒子は、両親媒性脂質、特にカチオン性またはカチオン性のイオン化可能な両親媒性脂質、および本明細書に記載のRNA(特にmRNA)を含む。いくつかの実施形態では、正に帯電したリポソーム(1つ以上の両親媒性脂質、特にカチオン性またはカチオン性のイオン化可能な両親媒性脂質から作製される)と負に帯電した核酸(特にmRNA)との間の静電相互作用は、核酸リポプレックス粒子の複合体化および自発的形成をもたらす。正に荷帯電したリポソームは、一般に、DOTMAおよび/またはDODMAなどのカチオン性またはカチオン性のイオン化可能な両親媒性脂質、ならびにDOPEなどのさらなる脂質を使用して合成され得る。いくつかの実施形態では、RNA(特にmRNA)リポプレックス粒子はナノ粒子である。
【0520】
一般に、脂質ナノ粒子(LNP)は、水相中のRNAと、エタノールなどの有機溶媒を含む相中の脂質との直接混合から得ることができる。その場合、水中でラメラ(二重層)相を形成しない脂質または脂質混合物を粒子形成に使用することができる。
【0521】
いくつかの実施形態では、LNPは、カチオン性/イオン化可能脂質ならびにヘルパー脂質、例えばリン脂質、コレステロールおよび/またはポリエチレングリコール(PEG)脂質を含むか、またはそれらからなる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のRNA LNPにおいて、mRNAは、LNPの中心コアを占めるイオン化可能な脂質によって結合される。いくつかの実施形態では、PEG脂質は、リン脂質と共にLNPの表面を形成する。いくつかの実施形態では、表面は二重層を含む。いくつかの実施形態では、荷電形態および非荷電形態のコレステロールおよびイオン化可能な脂質は、LNP全体に分布し得る。
【0522】
いくつかの実施形態では、RNA(例えば、mRNA)は、本明細書に記載の粒子と非共有結合的に会合し得る。実施形態では、RNA(特にmRNA)は、粒子の外面に付着していてもよく(表面RNA(特に表面mRNA))、および/または粒子に含まれていてもよい(封入されたRNA(特に封入されたmRNA))。
【0523】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の粒子(例えば、LNPおよびLPX)は、約10~約2000nmの範囲、例えば少なくとも約15nm(例えば、少なくとも約20nm、少なくとも約25nm、少なくとも約30nm、少なくとも約35nm、少なくとも約40nm、少なくとも約45nm、少なくとも約50nm、少なくとも約55nm、少なくとも約60nm、少なくとも約65nm、少なくとも約70nm、少なくとも約75nm、少なくとも約80nm、少なくとも約85nm、少なくとも約90nm、少なくとも約95nm、もしくは少なくとも約100nm)および/または最大でも1900nm(例えば、最大でも約1900nm、最大でも約1800nm、最大でも約1700nm、最大でも約1600nm、最大でも約1500nm、最大でも約1400nm、最大でも約1300nm、最大でも約1200nm、最大でも約1100nm、最大でも約1000nm、最大でも約950nm、最大でも約900nm、最大でも約850nm、最大でも約800nm、最大でも約750nm、最大でも約700nm、最大でも約650nm、最大でも約600nm、最大でも約550nm、もしくは最大でも約500nm)、例えば約20~約1500nm、例えば約30~約1200nm、約40~約1100nm、約50~約1000nm、約60~約900nm、約70~800nm、約80~700nm、約90~600nm、または約50~500nmまたは約100~500nmの範囲、例えば10~1000nm、15~500nm、20~450nm、25~400nm、30~350nm、40~300nm、50~250nm、60~200nm、または70~150nmの範囲のサイズ(直径など)を有する。
【0524】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の粒子(例えば、LNPおよびLPX)は、いくつかの実施形態では、約50nm~約1000nm、約50nm~約800nm、約50nm~約700nm、約50nm~約600nm、約50nm~約500nm、約50nm~約450nm、約50nm~約400nm、約50nm~約350nm、約50nm~約300nm、約50nm~約250nm、約50nm~約200nm、約100nm~約1000nm、約100nm~約800nm、約100nm~約700nm、約100nm~約600nm、約100nm~約500nm、約100nm~約450nm、約100nm~約400nm、約100nm~約350nm、約100nm~約300nm、約100nm~約250nm、約100nm~約200nm、約150nm~約1000nm、約150nm~約800nm、約150nm~約700nm、約150nm~約600nm、約150nm~約500nm、約150nm~約450nm、約150nm~約400nm、約150nm~約350nm、約150nm~約300nm、約150nm~約250nm、約150nm~約200nm、約200nm~約1000nm、約200nm~約800nm、約200nm~約700nm、約200nm~約600nm、約200nm~約500nm、約200nm~約450nm、約200nm~約400nm、約200nm~約350nm、約200nm~約300nm、または約200nm~約250nmの範囲の平均直径を有する。
【0525】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の粒子はナノ粒子である。「ナノ粒子」という用語は、本明細書に記載の核酸(特にmRNA)および少なくとも1つのカチオン性またはカチオン性イオン化可能脂質を含むナノサイズ粒子に関し、粒子の3つの外形寸法は全てナノスケール、すなわち少なくとも約1nmおよび約1000nm未満である。好ましくは、粒子のサイズはその直径である。
【0526】
本明細書に記載の核酸粒子(特にmRNA粒子)は、約0.5未満、約0.4未満、約0.3未満、約0.2未満、約0.1未満、または約0.05未満の多分散指数(PDI)を示し得る。例として、核酸粒子は、約0.01~約0.4または約0.1~約0.3の範囲の多分散指数を示し得る。
【0527】
N/P比は、脂質中の窒素基対核酸中のリン酸基の数の比率を与える。窒素原子(pHに依存する)は通常正に帯電し、リン酸基は負に帯電するので、これは電荷比と相関する。電荷平衡が存在する場合、N/P比はpHに依存する。正に帯電したナノ粒子はトランスフェクションに有利であると考えられているので、脂質製剤は、4より大きく12までのN/P比で形成されることが多い。その場合、RNAはナノ粒子に完全に結合していると見なされる。
【0528】
本明細書に記載の核酸粒子(特にmRNA粒子などのRNA粒子)は、少なくとも1つのカチオン性またはカチオン性イオン化可能脂質からコロイドを得る工程、およびコロイドを核酸と混合して核酸粒子を得る工程を含み得る広範囲の方法を使用して調製することができる。
【0529】
本明細書で使用される「コロイド」という用語は、分散した粒子が沈降しない均一な混合物の一種に関する。混合物中の不溶性粒子は微視的であり、粒径は1~1000ナノメートルである。混合物は、コロイドまたはコロイド懸濁液と呼ばれ得る。「コロイド」という用語は、混合物中の粒子のみを指し、懸濁液全体を指すのではない場合がある。
【0530】
少なくとも1つのカチオン性またはカチオン性イオン化可能脂質を含むコロイドの調製のために、リポソーム小胞を調製するために従来使用され、適切に適合された方法が本明細書で適用可能である。リポソーム小胞を調製するために最も一般的に使用される方法は、以下の基本的段階を共有する:(i)有機溶媒中での脂質溶解、(ii)得られた溶液の乾燥、および(iii)乾燥した脂質の水和(様々な水性媒体を使用して)。
【0531】
膜水和法では、脂質を最初に適切な有機溶媒に溶解し、乾燥させてフラスコの底部に薄膜を得る。得られた脂質膜を、適切な水性媒体を用いて水和して、リポソーム分散液を得る。さらに、さらなる小型化工程が含まれてもよい。
【0532】
逆相蒸発は、水相と脂質を含有する有機相との間の油中水型エマルジョンの形成を含む、リポソーム小胞を調製するための膜水和の代替方法である。この混合物の短時間の超音波処理は、系の均質化のために必要である。減圧下での有機相の除去により、その後リポソーム懸濁液に変わる乳白色のゲルが得られる。
【0533】
「エタノール注入技術」という用語は、脂質を含むエタノール溶液を、針を通して水溶液に迅速に注入するプロセスを指す。この作用は、溶液全体に脂質を分散させ、脂質構造形成、例えばリポソーム形成などの脂質小胞形成を促進する。一般に、本明細書に記載のRNA(特にmRNA)リポプレックス粒子は、コロイド状リポソーム分散液にRNA(特にmRNA)を加えることによって得ることができる。エタノール注入技術を使用して、そのようなコロイドリポソーム分散液は、いくつかの実施形態では、以下のように形成される:DOTMAおよび/またはDODMAのようなカチオン性またはカチオン性イオン化可能脂質などの脂質ならびにさらなる脂質を含むエタノール溶液を撹拌下で水溶液に注入する。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のRNA(特にmRNA)リポプレックス粒子は、押出工程なしで得ることができる。
【0534】
「押し出す」または「押出」という用語は、固定された断面プロファイルを有する粒子の作製を指す。特に、これは粒子の小型化を指し、それによって粒子は、規定された細孔を有するフィルタを通過させられる。
【0535】
有機溶媒を含まない特性を有する他の方法もまた、コロイドを調製するために本開示に従って使用され得る。
【0536】
いくつかの実施形態では、LNPは、4つの成分:イオン化可能なカチオン性脂質、リン脂質などの中性脂質、コレステロールなどのステロイド、およびポリマーコンジュゲート脂質を含む。いくつかの実施形態では、LNPは、エタノールに溶解した脂質を水性緩衝液中でRNAと迅速に混合することによって調製され得る。本明細書に記載のRNA粒子は、PEG脂質などのポリマーコンジュゲート脂質を含み得るが、本明細書では、PEG脂質などのポリマーコンジュゲート脂質を含まないRNA粒子も提供される。
【0537】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のRNAと少なくとも1つのカチオン性またはカチオン性イオン化可能脂質とを含むLNPは、(a)水および緩衝系を含有するRNA溶液を調製する工程;(b)カチオン性またはカチオン性イオン化可能脂質、および存在する場合は、1つ以上のさらなる脂質を含むエタノール溶液を調製する工程;ならびに(c)(a)で調製したRNA溶液を(b)で調製したエタノール溶液と混合し、それによってLNPを含む製剤を調製する工程によって調製される。工程(c)の後に、接線流濾過などの希釈および濾過から選択される1つ以上の工程を行うことができる。
【0538】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のRNAと少なくとも1つのカチオン性またはカチオン性イオン化可能脂質とを含むLNPは、(a’)カチオン性またはカチオン性イオン化可能脂質、および存在する場合は、水相中の1つ以上のさらなる脂質のリポソームまたはコロイド調製物を調製する工程;(b’)水および緩衝系を含有するRNA溶液を調製する工程;ならびに(c’)(a’)で調製したリポソームまたはコロイド調製物を(b’)で調製したRNA溶液と混合する工程によって調製される。工程(c’)の後に、接線流濾過などの希釈および濾過から選択される1つ以上の工程を行うことができる。
【0539】
本開示は、RNA(特にmRNA)と、RNAと会合してRNA粒子を形成する少なくとも1つのカチオン性またはカチオン性イオン化可能脂質とを含む粒子、ならびにそのような粒子を含む組成物を記載する。RNA粒子は、非共有結合相互作用によって様々な形態で粒子に複合体化されるRNAを含み得る。本明細書に記載の粒子は、ウイルス粒子、特に感染性ウイルス粒子ではない、すなわち、それらは細胞にウイルス感染することができない。
【0540】
適切なカチオン性またはカチオン性イオン化可能脂質は、核酸粒子を形成するものであり、「粒子形成成分」または「粒子形成剤」という用語に含まれる。「粒子形成成分」または「粒子形成剤」という用語は、核酸と会合して核酸粒子を形成する任意の成分に関する。そのような成分は、核酸粒子の一部であり得る任意の成分を含む。
【0541】
いくつかの実施形態では、RNA粒子(特にmRNA粒子)は複数の種類のRNA分子を含み、ここで、RNA分子の分子パラメータは、モル質量または分子構造、キャッピング、コード領域もしくは他の特徴などの基本的な構造要素に関するように、互いに類似し得るかまたは異なり得る。
粒子製剤では、各RNA種を個々の粒子製剤として別々に製剤化することが可能である。その場合、個々の粒子製剤はそれぞれ1つのRNA種を含む。個々の粒子製剤は、別個の実体として、例えば別個の容器中に存在し得る。そのような製剤は、粒子形成剤と一緒に各RNA種を別々に(典型的にはそれぞれRNA含有溶液の形態で)提供し、それにより粒子の形成を可能にすることによって得ることができる。それぞれの粒子は、粒子が形成されるときに提供される特定のRNA種のみを含む(個々の粒子製剤)。いくつかの実施形態では、医薬組成物などの組成物は、複数の個々の粒子製剤を含む。それぞれの医薬組成物は、混合粒子製剤と呼ばれる。本発明による混合粒子製剤は、個々の粒子製剤を別々に形成し、続いて個々の粒子製剤を混合する工程によって得ることができる。混合する工程により、RNA含有粒子の混合集団を含む製剤を得ることができる。個々の粒子集団は、個々の粒子製剤の混合集団を含む1つの容器に一緒に存在し得る。あるいは、医薬組成物の全てのRNA種を組み合わせた粒子製剤として一緒に製剤化することが可能である。そのような製剤は、粒子形成剤と共に全てのRNA種の組合せ製剤(典型的には組合せ溶液)を提供し、それにより粒子の形成を可能にすることによって得ることができる。混合粒子製剤とは対照的に、組合せ粒子製剤は、典型的には複数のRNA種を含む粒子を含む。組合せ粒子組成物では、異なるRNA種が、典型的には単一の粒子中に一緒に存在する。
【0542】
ポリマー
ポリマーは、それらの高度な化学的柔軟性を考慮して、ナノ粒子ベースの送達のために一般的に使用される材料である。典型的には、カチオン性ポリマーは、負に帯電した核酸をナノ粒子に静電的に凝縮するために使用される。これらの正に帯電した基は、多くの場合、5.5~7.5のpH範囲でプロトン化の状態を変化させるアミンからなり、エンドソーム破裂をもたらすイオンの不均衡につながると考えられる。ポリ-L-リジン、ポリアミドアミン、プロタミンおよびポリエチレンイミンなどのポリマー、ならびにキトサンなどの天然に存在するポリマーは全て核酸送達に適用されており、本明細書におけるカチオン性ポリマーとして適している。さらに、一部の研究者は、特に核酸送達のためのポリマーを合成した。ポリ(β-アミノエステル)は、特に、その合成の容易さと生分解性のために核酸送達において広く使用されている。そのような合成ポリマーは、本明細書におけるカチオン性ポリマーとしても適している。
【0543】
本明細書で使用される「ポリマー」は、その通常の意味、すなわち、共有結合によって連結された1つ以上の繰り返し単位(モノマー)を含む分子構造体という意味を与えられる。繰り返し単位は、全て同一であってもよく、または場合によっては、ポリマー内に2種類以上の繰り返し単位が存在してもよい。場合によっては、ポリマーは生物学的に誘導される、すなわち、タンパク質などのバイオポリマーである。場合によっては、さらなる部分、例えば標的化部分もポリマー中に存在し得る。
【0544】
2種類以上の繰り返し単位がポリマー内に存在する場合、そのポリマーは「コポリマー」であると言われる。本明細書で使用されるポリマーはコポリマーであり得ることが理解されるべきである。コポリマーを形成する繰り返し単位は、任意の方法で配置され得る。例えば、繰り返し単位は、ランダムな順序で、交互の順序で、または「ブロック」コポリマーとして、すなわちそれぞれが第1の繰り返し単位(例えば第1のブロック)を含む1つ以上の領域、およびそれぞれが第2の繰り返し単位(例えば第2のブロック)を含む1つ以上の領域、等を含むように配置され得る。ブロックコポリマーは、2つ(ジブロックコポリマー)、3つ(トリブロックコポリマー)、またはそれ以上の数の別個のブロックを有することができる。
【0545】
特定の実施形態では、ポリマーは生体適合性である。生体適合性ポリマーは、典型的には中程度の濃度で有意な細胞死をもたらさないポリマーである。特定の実施形態では、生体適合性ポリマーは生分解性であり、すなわち、ポリマーは、体内などの生理学的環境内で、化学的および/または生物学的に分解することができる。
【0546】
特定の実施形態では、ポリマーは、プロタミンまたはポリアルキレンイミンであり得る。
【0547】
「プロタミン」という用語は、アルギニンに富み、(魚のような)様々な動物の精子細胞中で体細胞ヒストンの代わりに特にDNAと会合して見出される、比較的低分子量の様々な強塩基性タンパク質のいずれかを指す。特に、「プロタミン」という用語は、強塩基性で、水に可溶性であり、熱によって凝固せず、加水分解時に主にアルギニンを生成する、魚の精子中に見出されるタンパク質を指す。精製形態では、それらは、インスリンの長時間作用型製剤において、ヘパリンの抗凝固作用を中和するために使用される。
【0548】
本開示によれば、本明細書で使用される「プロタミン」という用語は、天然源または生物源から得られるまたはそれに由来する任意のプロタミンアミノ酸配列およびその断片、および当該アミノ酸配列またはその断片の多量体形態、ならびに人工の、特定の目的のために特別に設計された、天然源または生物源から単離することができない(合成された)ポリペプチドを含むことが意図されている。
【0549】
いくつかの実施形態では、ポリアルキレンイミンは、ポリエチレンイミンおよび/またはポリプロピレンイミン、好ましくはポリエチレンイミンを含む。好ましいポリアルキレンイミンはポリエチレンイミン(PEI)である。PEIの平均分子量は、好ましくは0.75×10~10Da、好ましくは1000~10Da、より好ましくは10000~40000Da、より好ましくは15000~30000Da、さらにより好ましくは20000~25000Daである。
【0550】
本開示によれば、直鎖状ポリエチレンイミン(PEI)などの直鎖状ポリアルキレンイミンが好ましい。
【0551】
本明細書での使用が企図されるカチオン性ポリマー(ポリカチオン性ポリマーを含む)には、核酸に静電的に結合することができる任意のカチオン性ポリマーが含まれる。いくつかの実施形態では、本明細書での使用が企図されるカチオン性ポリマーは、例えば核酸と複合体を形成することによって、または核酸が封入もしくはカプセル化されている小胞を形成することによって、核酸が会合することができる任意のカチオン性ポリマーを含む。
【0552】
本明細書に記載の粒子はまた、カチオン性ポリマー以外のポリマー、すなわち非カチオン性ポリマーおよび/またはアニオン性ポリマーを含み得る。集合的に、アニオン性および中性ポリマーは、本明細書では非カチオン性ポリマーと呼ばれる。
【0553】
脂質
「脂質」および「脂質様物質」という用語は、本明細書では、1つ以上の疎水性部分または基、および任意で1つ以上の親水性部分または基も含む分子として広く定義される。疎水性部分および親水性部分を含む分子はまた、しばしば両親媒性物質として示される。脂質は、通常、水に不溶性または難溶性であるが、多くの有機溶媒に可溶性である。水性環境では、両親媒性の性質は、分子が組織化された構造体および様々な相に自己集合することを可能にする。それらの相の1つは、それらが水性環境で小胞、多層/単層リポソーム、または膜中に存在する場合、脂質二重層からなる。疎水性は、長鎖飽和および不飽和脂肪族炭化水素基、ならびに1つ以上の芳香族、脂環式、または複素環式基で置換されたそのような基を含むがこれらに限定されない無極性基を含むことによって付与され得る。親水性基は、極性基および/または荷電基を含み得、炭水化物、リン酸基、カルボン酸基、硫酸基、アミノ基、スルフヒドリル基、ニトロ基、ヒドロキシル基、および他の同様の基を含む。
【0554】
本明細書で使用される場合、「疎水性」という用語は、水溶液中で実質的に非混和性または不溶性である任意の分子、部分または基を指す。疎水性基という用語は、少なくとも6個の炭素原子を有する炭化水素を含む。疎水性基は、水溶液中で実質的に非混和性または不溶性であるという条件を満たす限り、官能基(例えば、エーテル、エステル、ハロゲン化物など)ならびに炭素および水素以外の原子を有することができる。
【0555】
「炭化水素」という用語は、本明細書で定義されるアルキル、アルケニル、またはアルキニルを含む。アルキル、アルケニルまたはアルキニル中の水素の1つ以上は、他の原子、例えばハロゲン、酸素または硫黄で置換されてもよいことを理解されたい。特に明記しない限り、炭化水素基はまた、炭化水素の全体的な極性が比較的無極性のままである限り、環状(アルキル、アルケニルもしくはアルキニル)基またはアリール基を含むことができる。
【0556】
「アルキル」という用語は、6~30個、典型的には6~20個、しばしば6~18個の炭素原子を有し得る飽和直鎖または分岐一価炭化水素部分を指す。例示的な非極性アルキル基としては、ヘキシル、デシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシルなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0557】
「アルケニル」という用語は、総炭素原子が6~30個、典型的には6~20個、しばしば6~18個であり得る、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を有する直鎖または分岐一価炭化水素部分を指す。
【0558】
「アルキニル」という用語は、総炭素原子が6~30個、典型的には6~20個、しばしば6~18個であり得る、少なくとも1つの炭素-炭素三重結合を有する直鎖または分岐一価炭化水素部分を指す。アルキニル基は、1つ以上の炭素-炭素二重結合を有していてもよい。
【0559】
本明細書で使用される場合、「両親媒性」という用語は、極性部分と非極性部分の両方を有する分子を指す。多くの場合、両親媒性化合物は、長い疎水性尾部に結合した極性頭部を有する。いくつかの実施形態では、極性部分は水に可溶性であるが、非極性部分は水に不溶性である。さらに、極性部分は、形式正電荷または形式負電荷のいずれを有していてもよい。あるいは、極性部分は、形式正電荷と形式負電荷の両方を有してもよく、双性イオンまたは内部塩であってもよい。本開示の目的のために、両親媒性化合物は、1つ以上の天然または非天然脂質および脂質様化合物であり得るが、これらに限定されない。
【0560】
「脂質様物質」、「脂質様化合物」または「脂質様分子」という用語は、構造的および/または機能的に脂質に関連するが、厳密な意味で脂質とは見なされ得ない物質、特に両親媒性物質に関する。例えば、この用語は、水性環境で小胞、多層/単層リポソーム、または膜中に存在する場合に両親媒性層を形成することができる化合物を含み、界面活性剤、または親水性部分と疎水性部分の両方を有する合成化合物を含む。一般的に言えば、この用語は、脂質の構造と類似していても類似していなくてもよい、異なる構造組織を有する親水性部分と疎水性部分とを含む分子を含む。細胞膜への自発的な組込みが可能な脂質様化合物の例としては、合成機能-スペーサ-脂質構築物(FSL)、合成機能-スペーサ-ステロール構築物(FSS)、および人工両親媒性分子などの機能性脂質構築物が挙げられる。脂質は一般に円筒形である。2つのアルキル鎖が占める面積は、極性頭部基が占める面積と同様である。脂質はモノマーとしての溶解度が低く、水不溶性の平面二重層に凝集する傾向がある。従来の界面活性剤モノマーは、一般に円錐形である。親水性頭部基は、直鎖アルキル鎖よりも多くの分子空間を占める傾向がある。いくつかの実施形態では、界面活性剤は、水溶性である球形または楕円形のミセルに凝集する傾向がある。脂質はまた、界面活性剤と同じ一般構造-極性親水性頭部基および非極性疎水性尾部-を有するが、脂質は、モノマーの形状、溶液中で形成される凝集体の種類、および凝集に必要な濃度範囲において界面活性剤とは異なる。本明細書で使用される場合、「脂質」という用語は、本明細書で特に指示されない限り、または文脈と明らかに矛盾しない限り、脂質および脂質様物質の両方を包含すると解釈されるべきである。
【0561】
一般に、脂質は、8つのカテゴリ:脂肪酸、グリセロ脂質、グリセロリン脂質、スフィンゴ脂質、糖脂質、ポリケチド(ケトアシルサブユニットの縮合に由来する)、ステロール脂質およびプレノール脂質(イソプレンサブユニットの縮合に由来する)に分けられ得る。「脂質」という用語は時に脂肪の同義語として使用されるが、脂肪はトリグリセリドと呼ばれる脂質のサブグループである。脂質はまた、脂肪酸およびその誘導体(トリグリセリド、ジグリセリド、モノグリセリド、およびリン脂質を含む)などの分子、ならびにステロイド、すなわち、コレステロールまたはその誘導体などのステロール含有代謝物を包含する。コレステロール誘導体の例としては、コレスタノール、コレスタノン、コレステノン、コプロスタノール、コレステリル-2’-ヒドロキシエチルエーテル、コレステリル-4’-ヒドロキシブチルエーテル、トコフェロールおよびそれらの誘導体、ならびにそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0562】
脂肪酸、または脂肪酸残基は、末端がカルボン酸基である炭化水素鎖からなる多様な分子の群である;この配置は、分子に、極性の親水性末端と水に不溶性の非極性の疎水性末端とを付与する。典型的には4~24炭素長である炭素鎖は、飽和であっても不飽和であってもよく、酸素、ハロゲン、窒素、および硫黄を含む官能基に結合していてもよい。脂肪酸が二重結合を含む場合、シスまたはトランス幾何異性のいずれかの可能性があり、これは分子の立体配置に有意に影響を及ぼす。シス二重結合は脂肪酸鎖を屈曲させ、これは、鎖中のより多くの二重結合と組み合わされる影響である。脂肪酸カテゴリにおける他の主要な脂質クラスは、脂肪酸エステルおよび脂肪酸アミドである。
【0563】
グリセロ脂質は、一置換、二置換、および三置換グリセロールから構成され、最もよく知られているのは、トリグリセリドと呼ばれるグリセロールの脂肪酸トリエステルである。「トリアシルグリセロール」という語は、「トリグリセリド」と同義に使用されることがある。これらの化合物では、グリセロールの3つのヒドロキシル基はそれぞれ、典型的には異なる脂肪酸によってエステル化されている。グリセロ脂質のさらなるサブクラスは、グリコシド結合を介してグリセロールに結合した1つ以上の糖残基の存在を特徴とするグリコシルグリセロールによって代表される。
【0564】
グリセロリン脂質は、エステル結合によって2つの脂肪酸由来の「尾部」に、およびリン酸エステル結合によって1つの「頭部」基に結合したグリセロールコアを含む両親媒性分子(疎水性領域と親水性領域の両方を含む)である。通常リン脂質と呼ばれる(スフィンゴミエリンもリン脂質として分類されるが)グリセロリン脂質の例は、ホスファチジルコリン(PC、GPChoまたはレシチンとしても公知)、ホスファチジルエタノールアミン(PEまたはGPEtn)およびホスファチジルセリン(PSまたはGPSer)である。
【0565】
スフィンゴ脂質は、スフィンゴイド塩基骨格という共通の構造的特徴を共有する化合物の複雑なファミリーである。哺乳動物における主要なスフィンゴイド塩基は、一般にスフィンゴシンと呼ばれる。セラミド(N-アシル-スフィンゴイド塩基)は、アミド結合脂肪酸を有するスフィンゴイド塩基誘導体の主要なサブクラスである。脂肪酸は、典型的には、16~26個の炭素原子の鎖長を有する飽和または一不飽和である。哺乳動物の主要なスフィンゴリン脂質はスフィンゴミエリン(セラミドホスホコリン)であるが、昆虫は主にセラミドホスホエタノールアミンを含有し、真菌はフィトセラミドホスホイノシトールおよびマンノース含有頭部基を有する。スフィンゴ糖脂質は、グリコシド結合を介してスフィンゴイド塩基に結合した1つ以上の糖残基から構成される分子の多様なファミリーである。これらの例は、セレブロシドおよびガングリオシドなどの単純なおよび複雑なスフィンゴ糖脂質である。
【0566】
コレステロールおよびその誘導体、またはトコフェロールおよびその誘導体などのステロール脂質は、グリセロリン脂質およびスフィンゴミエリンと共に膜脂質の重要な成分である。
【0567】
サッカロ脂質は、脂肪酸が糖骨格に直接連結され、膜二重層と適合性である構造を形成する化合物を表す。サッカロ脂質では、単糖が、グリセロ脂質およびグリセロリン脂質に存在するグリセロール骨格の代わりになる。最もよく知られているサッカロ脂質は、グラム陰性菌のリポ多糖のリピドA成分のアシル化グルコサミン前駆体である。典型的なリピドA分子は、7本もの脂肪アシル鎖で誘導体化されている、グルコサミンの二糖である。大腸菌での増殖に必要な最小限のリポ多糖は、2つの3-デオキシ-D-マンノ-オクツロソン酸(Kdo)残基でグリコシル化されたグルコサミンのヘキサアシル化二糖である、Kdo2-リピドAである。
【0568】
ポリケチドは、古典的な酵素、ならびに脂肪酸シンターゼと機構的特徴を共有する反復およびマルチモジュール酵素によるアセチルおよびプロピオニルサブユニットの重合によって合成される。それらは、動物、植物、細菌、真菌および海洋源からの多数の二次代謝物および天然産物を含み、大きな構造的多様性を有する。多くのポリケチドは、その骨格がグリコシル化、メチル化、ヒドロキシル化、酸化、または他のプロセスによってさらに修飾されることが多い環状分子である。
【0569】
本開示によれば、脂質および脂質様物質は、カチオン性、アニオン性または中性であり得る。中性脂質または脂質様物質は、選択されたpHで非荷電または中性の双性イオン形態で存在する。
【0570】
カチオン/カチオン性イオン化可能脂質
本明細書に記載のRNAなどの核酸粒子は、粒子形成剤として少なくとも1つのカチオン性またはカチオン性イオン化可能脂質を含む。本明細書での使用が企図されるカチオン性またはカチオン性イオン化可能脂質には、核酸に静電的に結合することができる任意のカチオン性またはカチオン性イオン化可能脂質(脂質様材料を含む)が含まれる。いくつかの実施形態では、本明細書での使用が企図されるカチオン性またはカチオン性イオン化可能脂質は、例えば核酸と複合体を形成することによって、または核酸が封入もしくはカプセル化された小胞を形成することによって、核酸と会合することができる。
【0571】
本明細書で使用される場合、「カチオン性脂質」は、正味の正電荷を有する脂質または脂質様物質を指す。カチオン性脂質は、静電相互作用によって負に帯電した核酸に結合する。一般に、カチオン性脂質は、ステロール、アシル鎖、ジアシルまたはそれ以上のアシル鎖などの親油性部分を有し、脂質の頭部基は、典型的には正電荷を担持する。
【0572】
いくつかの実施形態では、カチオン性脂質は、特定のpH、特に酸性pHでのみ正味の正電荷を有するが、好ましくは正味の正電荷を有さず、好ましくは電荷を有さず、すなわち、生理学的pHなどの異なる、好ましくはより高いpHでは中性である。このイオン化可能な挙動は、生理学的pHでカチオン性のままである粒子と比較して、エンドソーム脱出を助け、毒性を低減することによって有効性を高めると考えられる。
【0573】
本明細書で使用される場合、「カチオン性イオン化可能脂質」は、正味の正電荷を有するかまたは中性である、すなわち永久的にカチオン性ではない脂質または脂質様物質を指す。したがって、カチオン性イオン化可能脂質が溶解している組成物のpHに依存して、カチオン性イオン化性可能脂質は正に帯電しているかまたは中性のいずれかである。本開示の目的のために、カチオン性イオン化可能脂質は、状況によって矛盾しない限り、「カチオン性脂質」という用語に包含される。
【0574】
いくつかの実施形態では、カチオン性またはカチオン性イオン化可能脂質は、例えば生理学的条件下で、正に帯電しているかまたはプロトン化され得る少なくとも1つの窒素原子(N)を含む頭部基を含む。
【0575】
カチオン性またはカチオン性イオン化可能脂質の例としては、N,N-ジメチル-2,3-ジオレイルオキシプロピルアミン(DODMA)、1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)、1,2-ジ-O-オクタデセニル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTMA)、3-(N-(N’,N’-ジメチルアミノエタン)カルバモイル)コレステロール(DC-Chol)、ジメチルジオクタデシルアンモニウム(DDAB);1,2-ジオレオイル-3-ジメチルアンモニウムプロパン(DODAP);1,2-ジアシルオキシ-3-ジメチルアンモニウムプロパン;1,2-ジアルキルオキシ-3-ジメチルアンモニウムプロパン;ジオクタデシルジメチルアンモニウムクロリド(DODAC)、1,2-ジステアリルオキシ-N,N-ジメチル-3-アミノプロパン(DSDMA)、2,3-ジ(テトラデコキシ)プロピル-(2-ヒドロキシエチル)ジメチルアザニウム(DMRIE)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-エチルホスホコリン(DMEPC)、l,2-ジミリストイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DMTAP)、1,2-ジオレイルオキシプロピル-3-ジメチルヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(DORIE)、および2,3-ジオレオイルオキシ-N-[2(スペルミンカルボキサミド)エチル]-N,N-ジメチル-l-プロパナミウムトリフルオロアセテート(DOSPA)、1,2-ジリノレイルオキシ-N,N-ジメチルアミノプロパン(DLinDMA)、1,2-ジリノレニルオキシ-N,N-ジメチルアミノプロパン(DLenDMA)、ジオクタデシルアミドグリシルスペルミン(DOGS)、3-ジメチルアミノ-2-(コレスト-5-エン-3-ベータ-オキシブタン-4-オキシ)-1-(cis,cis-9,12-オクタデカジエンオキシ)プロパン(CLinDMA)、2-[5’-(コレスト-5-エン-3-ベータ-オキシ)-3’-オキサペントキシ)-3-ジメチル-1-(シス、シス-9’,12’-オクタデカジエンオキシ)プロパン(CpLinDMA)、N,N-ジメチル-3,4-ジオレイルオキシベンジルアミン(DMOBA)、1,2-N,N’-ジオレイルカルバミル-3-ジメチルアミノプロパン(DOcarbDAP)、2,3-ジリノレオイルオキシ-N,N-ジメチルプロピルアミン(DLinDAP)、1,2-N,N’-ジリノレイルカルバミル-3-ジメチルアミノプロパン(DLincarbDAP)、1,2-ジリノレオイルカルバミル-3-ジメチルアミノプロパン(DLinCDAP)、2,2-ジリノレイル-4-ジメチルアミノメチル-[1,3]-ジオキソラン(DLin-K-DMA)、2,2-ジリノレイル-4-ジメチルアミノエチル-[1,3]-ジオキソラン(DLin-K-XTC2-DMA)、2,2-ジリノレイル-4-(2-ジメチルアミノエチル)-[1,3]-ジオキソラン(DLin-KC2-DMA)、ヘプタトリアコンタ-6,9,28,31-テトラエン-19-イル-4-(ジメチルアミノ)ブタノエート(DLin-MC3-DMA)、N-(2-ヒドロキシエチル)-N,N-ジメチル-2,3-ビス(テトラデシルオキシ)-1-プロパナミニウムブロミド(DMRIE)、(±)-N-(3-アミノプロピル)-N,N-ジメチル-2,3-ビス(cis-9-テトラデセニルオキシ)-1-プロパナミニウムブロミド(GAP-DMORIE)、(±)-N-(3-アミノプロピル)-N,N-ジメチル-2,3-ビス(ドデシルオキシ)-1-プロパナミニウムブロミド(GAP-DLRIE)、(±)-N-(3-アミノプロピル)-N,N-ジメチル-2,3-ビス(テトラデシルオキシ)-1-プロパナミニウムブロミド(GAP-DMRIE)、N-(2-アミノエチル)-N,N-ジメチル-2,3-ビス(テトラデシルオキシ)-1-プロパナミニウムブロミド(βAE-DMRIE)、N-(4-カルボキシベンジル)-N,N-ジメチル-2,3-ビス(オレオイルオキシ)プロパン-1-アミニウム(DOBAQ)、2-({8-[(3β)-コレスト-5-エン-3-イルオキシ]オクチル}オキシ)-N,N-ジメチル-3-[(9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエン-1-イルオキシ]プロパン-1-アミン(オクチル-CLinDMA)、1,2-ジミリストイル-3-ジメチルアンモニウムプロパン(DMDAP)、1,2-ジパルミトイル-3-ジメチルアンモニウムプロパン(DPDAP)、N1-[2-((1S)-1-[(3-アミノプロピル)アミノ]-4-[ジ(3-アミノ-プロピル)アミノ]ブチルカルボキサミド)エチル]-3,4-ジ[オレイルオキシ]-ベンズアミド(MVL5)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-エチルホスホコリン(DOEPC)、2,3-ビス(ドデシルオキシ)-N-(2-ヒドロキシエチル)-N,N-ジメチルプロパン-1-アモニウムブロミド(DLRIE)、N-(2-アミノエチル)-N,N-ジメチル-2,3-ビス(テトラデシルオキシ)プロパン-1-アミニウムブロミド(DMORIE)、ジ((Z)-ノン-2-エン-1-イル)8,8’-((((2(ジメチルアミノ)エチル)チオ)カルボニル)アザンジイル)ジオクタノエート(ATX)、N,N-ジメチル-2,3-ビス(ドデシルオキシ)プロパン-1-アミン(DLDMA)、N,N-ジメチル-2,3-ビス(テトラデシルオキシ)プロパン-1-アミン(DMDMA)、ジ((Z)-ノン-2-エン-1-イル)-9-((4-(ジメチルアミノブタノイル)オキシ)ヘプタデカンジオエート(L319)、N-ドデシル-3-((2-ドデシルカルバモイル-エチル)-{2-[(2-ドデシルカルバモイル-エチル)-2-{(2-ドデシルカルバモイル-エチル)-[2-(2-ドデシルカルバモイル-エチルアミノ)エチル]-アミノ}-エチルアミノ)プロピオンアミド(リピドイド98N12-5)、1-[2-[ビス(2-ヒドロキシドデシル)アミノ]エチル-[2-[4-[2-[ビス(2ヒドロキシドデシル)アミノ]エチル]ピペラジン-1-イル]エチル]アミノ]ドデカン-2-オール(リピドイドC12-200)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0576】
いくつかの実施形態では、カチオン性またはカチオン性イオン化可能脂質はDOTMAである。いくつかの実施形態では、カチオン性またはカチオン性イオン化可能脂質はDODMAである。
【0577】
DOTMAは、第四級アミン頭部基を有するカチオン性脂質である。DOTMAの構造は、以下のように表され得る:
【0578】
【化6】
【0579】
DODMAは、第三級アミン頭部基を有するイオン化可能なカチオン性脂質である。DODMAの構造は、以下のように表され得る:
【0580】
【化7】
【0581】
いくつかの実施形態では、カチオン性またはカチオン性イオン化可能脂質は、粒子中に存在する総脂質の約10モル%~約95モル%、約20モル%~約95モル%、約20モル%~約90モル%、約30モル%~約90モル%、約40モル%~約90モル%、または約40モル%~約80モル%を構成し得る。
【0582】
さらなる脂質
本明細書に記載の粒子はまた、カチオン性またはカチオン性イオン化可能脂質(本明細書では集合的にカチオン性脂質とも呼ばれる)以外の脂質(脂質様物質を含む)、すなわち非カチオン性脂質(非カチオン性または非カチオン性イオン化可能脂質または脂質様物質を含む)を含み得る。集合的に、アニオン性および中性脂質または脂質様物質は、本明細書では非カチオン性脂質と呼ばれる。カチオン性またはカチオン性イオン化可能脂質に加えて、コレステロールおよび脂質などの他の疎水性部分を添加することによって核酸粒子の製剤を最適化することにより、粒子の安定性および核酸送達の有効性を高め得る。
【0583】
1つ以上のさらなる脂質は、核酸粒子の全体的な電荷に影響を及ぼしても及ぼさなくてもよい。いくつかの実施形態では、1つ以上のさらなる脂質は、非カチオン性脂質または脂質様物質である。非カチオン性脂質は、例えば、1つ以上のアニオン性脂質および/または中性脂質を含み得る。本明細書で使用される場合、「アニオン性脂質」は、選択されたpHで負に帯電している任意の脂質を指す。本明細書で使用される場合、「中性脂質」は、選択されたpHで非荷電または中性の双性イオン形態で存在するいくつかの脂質種のいずれかを指す。
【0584】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の核酸粒子(特にmRNAを含む粒子)は、カチオン性またはカチオン性イオン化可能脂質および1つ以上のさらなる脂質を含む。
【0585】
理論に拘束されることを望むものではないが、1つ以上のさらなる脂質の量と比較したカチオン性またはカチオン性イオン化可能脂質の量は、核酸の電荷、粒径、安定性、組織選択性、および生物活性などの重要な核酸粒子特性に影響を及ぼし得る。したがって、いくつかの実施形態では、カチオン性またはカチオン性イオン化可能脂質対1つ以上のさらなる脂質のモル比は、約10:0~約1:9、約4:1~約1:2、約4:1~約1:1、約3:1~約1:1、または約3:1~約2:1である。
【0586】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の核酸粒子(特にmRNAを含む粒子)に含まれる1つ以上のさらなる脂質は、中性脂質、ステロイド、およびそれらの組合せの1つ以上を含む。
【0587】
いくつかの実施形態では、1つ以上のさらなる脂質は、リン脂質である中性脂質を含む。いくつかの実施形態では、リン脂質は、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、ホスファチジルセリンおよびスフィンゴミエリンからなる群より選択される。使用することができる特定のリン脂質としては、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、ホスファチジルセリンまたはスフィンゴミエリンが挙げられるが、これらに限定されない。そのようなリン脂質としては、特に、ジアシルホスファチジルコリン、例えばジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、ジペンタデカノイルホスファチジルコリン、ジラウロイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジアラキドイルホスファチジルコリン(DAPC)、ジベヘノイルホスファチジルコリン(DBPC)、ジトリコサノイルホスファチジルコリン(DTPC)、ジリグノセロイルファチジルコリン(DLPC)、パルミトイルオレオイル-ホスファチジルコリン(POPC)、1,2-ジ-O-オクタデセニル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(18:0ジエーテルPC)、1-オレオイル-2-コレステリルヘミスクシノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(OChemsPC)、1-ヘキサデシル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(C16 Lyso PC)およびホスファチジルエタノールアミン、特にジアシルホスファチジルエタノールアミン、例えばジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、ジステアロイル-ホスファチジルエタノールアミン(DSPE)、ジパルミトイル-ホスファチジルエタノールアミン(DPPE)、ジミリストイル-ホスファチジルエタノールアミン(DMPE)、ジラウロイル-ホスファチジルエタノールアミン(DLPE)、ジフィタノイル-ホスファチジルエタノールアミン(DPyPE)、1,2-ジ-(9Z-オクタデセノイル)-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPG)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-(1’-rac-グリセロール)(DPPG)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(POPE)、N-パルミトイル-D-エリスロ-スフィンゴシルホスホリルコリン(SM)、および様々な疎水性鎖を有するさらなるホスファチジルエタノールアミン脂質が挙げられる。いくつかの実施形態では、中性脂質は、DSPC、DOPC、DMPC、DPPC、POPC、DOPE、DOPG、DPPG、POPE、DPPE、DMPE、DSPE、およびSMからなる群より選択される。いくつかの実施形態では、中性脂質は、DSPC、DPPC、DMPC、DOPC、POPC、DOPEおよびSMからなる群より選択される。いくつかの実施形態では、中性脂質はDOPEである。
【0588】
いくつかの実施形態では、さらなる脂質は、以下のうちの1つを含む:(1)リン脂質;(2)コレステロールもしくはその誘導体;または(3)リン脂質とコレステロールもしくはその誘導体との混合物。コレステロール誘導体の例としては、コレスタノール、コレスタノン、コレステノン、コプロスタノール、コレステリル-2’-ヒドロキシエチルエーテル、コレステリル-4’-ヒドロキシブチルエーテル、トコフェロールおよびそれらの誘導体、ならびにそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0589】
したがって、いくつかの実施形態では、本明細書に記載の核酸粒子(特にmRNAを含む粒子)は、(1)カチオン性もしくはカチオン性イオン化可能脂質およびDOPEなどのリン脂質、または(2)カチオン性もしくはカチオン性イオン化可能脂質およびDOPEなどのリン脂質およびコレステロールを含む。
【0590】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の核酸粒子(特にmRNAを含む粒子)は、(1)DOTMAおよびDOPE、(2)DOTMA、DOPEおよびコレステロール、(3)DODMAおよびDOPE、または(4)DODMA、DOPEおよびコレステロールを含む。
【0591】
DOPEは中性リン脂質である。DOPEの構造は、以下のように表され得る:
【0592】
【化8】
【0593】
コレステロールの構造は、以下のように表され得る:
【0594】
【化9】
【0595】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の粒子は、ペグ化脂質などのポリマーコンジュゲート脂質を含まない。「ペグ化脂質」という用語は、脂質部分とポリエチレングリコール部分の両方を含む分子を指す。ペグ化脂質は当技術分野で公知である。
【0596】
いくつかの実施形態では、さらなる脂質(例えば、1つ以上のリン脂質および/またはコレステロール)は、粒子中に存在する総脂質の約0モル%~約90モル%、約0モル%~約80モル%、約2モル%~約80モル%、約5モル%~約80モル%、約5モル%~約60モル%、約5モル%~約50モル%、約7.5モル%~約50モル%、または約10モル%~約40モル%を構成し得る。いくつかの実施形態では、さらなる脂質(例えば、1つ以上のリン脂質および/またはコレステロール)は、粒子中に存在する総脂質の約10モル%、約15モル%、または約20モル%を構成する。
【0597】
いくつかの実施形態では、さらなる脂質は、(i)DOPEなどのリン脂質と、(ii)コレステロールまたはその誘導体との混合物を含む。いくつかの実施形態では、DOPEなどのリン脂質対コレステロールまたはその誘導体のモル比は、約9:0~約1:10、約2:1~約1:4、約1:1~約1:4または約1:1~約1:3である。
【0598】
ポリマーコンジュゲート脂質
いくつかの実施形態では、粒子は、少なくとも1つのポリマーコンジュゲート脂質を含み得る。ポリマーコンジュゲート脂質は、典型的には、脂質部分と、それにコンジュゲートされたポリマー部分とを含む分子である。いくつかの実施形態では、ポリマーコンジュゲート脂質は、本明細書ではペグ化脂質またはPEG脂質とも呼ばれる、PEGコンジュゲート脂質である。
【0599】
いくつかの実施形態では、ポリマーコンジュゲート脂質は、疎水性脂質層を遮蔽する保護親水性層を形成することによって脂質粒子を立体的に安定化するように設計される。いくつかの実施形態では、ポリマーコンジュゲート脂質は、そのような脂質粒子がインビボで投与される場合、血清タンパク質とのその会合および/または結果として生じる細網内皮系による取り込みを減少させることができる。
【0600】
様々なPEGコンジュゲート脂質が当技術分野で公知であり、ペグ化ジアシルグリセロール(PEG-DAG)、例えば1-(モノメトキシ-ポリエチレングリコール)-2,3-ジミリストイルグリセロール(PEG-DMG)、ペグ化ホスファチジルエタノールアミン(PEG-PE)、PEGコハク酸ジアシルグリセロール(PEG-S-DAG)、例えば4-O-(2’,3’-ジ(テトラデカノイルオキシ)プロピル-1-O-(ω-メトキシ(ポリエトキシ)エチル)ブタンジオエート(PEG-S-DMG)、ペグ化セラミド(PEG-cer)、またはPEGジアルコキシプロピルカルバメート、例えばω-メトキシ(ポリエトキシ)エチル-N-(2,3-ジ(テトラデカノキシ)プロピル)カルバメートもしくは2,3-ジ(テトラデカノキシ)プロピル-N-(ωメトキシ(ポリエトキシ)エチル)カルバメートなどが含まれるが、これらに限定されない。
【0601】
いくつかの実施形態では、粒子は、その各々の内容全体が本明細書に記載の目的のために参照により本明細書に組み込まれる、国際公開第2017/075531号および国際公開第2018/081480号に記載されているような1つ以上のPEGコンジュゲート脂質またはペグ化脂質を含み得る。
【0602】
リポプレックス粒子
本開示のいくつかの実施形態では、本明細書に記載のRNAは、RNAリポプレックス粒子中に存在し得る。
【0603】
リポプレックス(LPX)は、一般に、予め形成されたカチオン性脂質リポソームをアニオン性RNAと混合することによって形成される静電複合体である。形成されたリポプレックスは、リポソーム構造からコンパクトなRNA-リポプレックスへの変換に起因して生じる分子の異なる内部配置を有する。これらの製剤は、一般に、核酸の封入が不十分であり、核酸の捕捉が不完全であることを特徴とする。
【0604】
特定の実施形態では、RNAリポプレックス粒子は、カチオン性脂質およびさらなる脂質の両方を含む。例示的な実施形態では、カチオン性脂質はDOTMAであり、さらなる脂質はDOPEである。
【0605】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つのカチオン性脂質対少なくとも1つのさらなる脂質のモル比は、約10:0~約1:9、約4:1~約1:2、または約3:1~約1:1である。特定の実施形態では、モル比は、約3:1、約2.75:1、約2.5:1、約2.25:1、約2:1、約1.75:1、約1.5:1、約1.25:1、または約1:1であり得る。例示的な実施形態では、少なくとも1つのカチオン性脂質対少なくとも1つのさらなる脂質のモル比は、約2:1である。
【0606】
本明細書に記載のRNAリポプレックス粒子は、いくつかの実施形態では、約200nm~約1000nm、約200nm~約800nm、約250nm~約700nm、約400nm~約600nm、約300nm~約500nm、または約350nm~約400nmの範囲の平均直径を有する。特定の実施形態では、RNAリポプレックス粒子は、約200nm、約225nm、約250nm、約275nm、約300nm、約325nm、約350nm、約375nm、約400nm、約425nm、約450nm、約475nm、約500nm、約525nm、約550nm、約575nm、約600nm、約625nm、約650nm、約700nm、約725nm、約750nm、約775nm、約800nm、約825nm、約850nm、約875nm、約900nm、約925nm、約950nm、約975nm、または約1000nmの平均直径を有する。一実施形態では、RNAリポプレックス粒子は、約250nm~約700nmの範囲の平均直径を有する。別の実施形態では、RNAリポプレックス粒子は、約300nm~約500nmの範囲の平均直径を有する。例示的な実施形態では、RNAリポプレックス粒子は、約400nmの平均直径を有する。
【0607】
本明細書に記載のRNAリポプレックス粒子およびRNAリポプレックス粒子を含む組成物は、非経口投与後、特に静脈内投与後の標的組織へのRNAの送達に有用である。
【0608】
脾臓を標的とするRNAリポプレックス粒子は、参照により本明細書に組み込まれる、国際公開第2013/143683号に記載されている。正味の負電荷を有するRNAリポプレックス粒子は、脾臓組織または脾臓細胞、例えば抗原提示細胞、特に樹状細胞を選択的に標的とするために使用し得ることが見出された。したがって、RNAリポプレックス粒子の投与後、脾臓におけるRNA蓄積および/またはRNA発現が起こる。したがって、本開示のRNAリポプレックス粒子は、脾臓においてRNAを発現させるために使用され得る。一実施形態では、RNAリポプレックス粒子の投与後、肺および/または肝臓におけるRNA蓄積および/またはRNA発現は、全く起こらないかまたは本質的に起こらない。いくつかの実施形態では、RNAリポプレックス粒子の投与後、脾臓ではプロフェッショナル抗原提示細胞などの抗原提示細胞におけるRNA蓄積および/またはRNA発現が起こる。したがって、本開示のRNAリポプレックス粒子は、RNA、例えば抗原または少なくとも1つのエピトープをコードするRNAをリンパ系、特に二次リンパ器官、より具体的には脾臓に標的化するために使用され得る。投与されるRNAがワクチン抗原をコードするRNAである場合、リンパ系、特に二次リンパ器官、より具体的には脾臓を標的とすることが特に好ましい。いくつかの実施形態では、標的細胞は脾臓細胞である。いくつかの実施形態では、標的細胞は、脾臓のプロフェッショナル抗原提示細胞などの抗原提示細胞である。いくつかの実施形態では、標的細胞は、脾臓における樹状細胞である。
【0609】
本開示のRNAリポプレックス粒子の電荷は、少なくとも1つのカチオン性脂質中に存在する電荷とRNA中に存在する電荷との合計である。電荷比は、少なくとも1つのカチオン性脂質中に存在する正電荷対RNA中に存在する負電荷の比である。少なくとも1つのカチオン性脂質に存在する正電荷とRNAに存在する負電荷との電荷比は、以下の式によって計算される:電荷比=[(カチオン性脂質濃度(mol))*(カチオン性脂質中の正電荷の総数)]/[(RNA濃度(mol))*(RNA中の負電荷の総数)]。RNAの濃度と少なくとも1つのカチオン性脂質量とは、当業者によって常用的な方法を使用して決定され得る。
【0610】
いくつかの実施形態では、生理学的pHで、RNAリポプレックス粒子における正電荷対負電荷の電荷比は、約1.6:2~約1:2、または約1.6:2~約1.1:2である。特定の実施形態では、生理学的pHでのRNAリポプレックス粒子における正電荷対負電荷の電荷比は、約1.6:2.0、約1.5:2.0、約1.4:2.0、約1.3:2.0、約1.2:2.0、約1.1:2.0、または約1:2.0である。
【0611】
脂質ナノ粒子(LNP)
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のRNAは、脂質ナノ粒子(LNP)の形態で存在する。LNPは、1つ以上の核酸分子が結合している、または1つ以上の核酸分子が封入されている粒子を形成することができる任意の脂質を含み得る。
【0612】
LNPは、典型的には、4つの成分:イオン化可能なカチオン性脂質、リン脂質などの中性脂質、コレステロールなどのステロイド、およびPEG脂質などのポリマーコンジュゲート脂質を含む。LNPは、エタノールに溶解した脂質を水性緩衝液中で核酸と混合することによって調製され得る。
【0613】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のRNA LNPにおいて、mRNAは、LNPの中心コアを占めるイオン化可能な脂質によって結合される。PEG脂質は、リン脂質と共にLNPの表面を形成する。いくつかの実施形態では、表面は二重層を含む。いくつかの実施形態では、荷電形態および非荷電形態のコレステロールおよびイオン化可能な脂質は、LNP全体に分布し得る。
【0614】
いくつかの実施形態では、LNPは、1つ以上のカチオン性脂質および1つ以上の安定化脂質を含む。安定化脂質は、中性脂質およびペグ化脂質を含む。
【0615】
いくつかの実施形態では、LNPは、カチオン性脂質、中性脂質、ステロイド、ポリマーコンジュゲート脂質、および脂質ナノ粒子内に封入された、または脂質ナノ粒子と会合したRNAを含む。
【0616】
いくつかの実施形態では、LNPは、40~55モル%、40~50モル%、41~50モル%、42~50モル%、43~50モル%、44~50モル%、45~50モル%、46~50モル%、または46~49モル%を含む。
【0617】
いくつかの実施形態では、中性脂質は、5~15モル%、7~13モル%、または9~11モル%の範囲の濃度で存在する。
【0618】
いくつかの実施形態では、ステロイドは、30~50モル%、35~45モル%または38~43モル%の範囲の濃度で存在する。
【0619】
いくつかの実施形態では、LNPは、1~10モル%、1~5モル%、または1~2.5モル%のポリマーコンジュゲート脂質を含む。
【0620】
いくつかの実施形態では、LNPは、45~50モル%のカチオン性脂質;5~15モル%の中性脂質;35~45モル%のステロイド;1~5モル%のポリマーコンジュゲート脂質;および脂質ナノ粒子内に封入された、または脂質ナノ粒子と会合したRNAを含む。
【0621】
いくつかの実施形態では、モルパーセントは、脂質ナノ粒子中に存在する脂質の総モルに基づいて決定される。いくつかの実施形態では、モルパーセントは、脂質ナノ粒子中に存在するカチオン性脂質、中性脂質、ステロイドおよびポリマーコンジュゲート脂質の総モルに基づいて決定される。
【0622】
いくつかの実施形態では、中性脂質は、DSPC、DPPC、DMPC、DOPC、POPC、DOPE、DOPG、DPPG、POPE、DPPE、DMPE、DSPE、およびSMからなる群より選択される。いくつかの実施形態では、中性脂質は、DSPC、DPPC、DMPC、DOPC、POPC、DOPEおよびSMからなる群より選択される。いくつかの実施形態では、中性脂質はDSPCである。
【0623】
いくつかの実施形態では、ステロイドはコレステロールである。
【0624】
いくつかの実施形態では、ポリマーコンジュゲート脂質はペグ化脂質である。いくつかの実施形態では、ペグ化脂質は、以下の構造:
【0625】
【化10】
【0626】
またはその薬学的に許容される塩、互変異性体もしくは立体異性体を有し、ここで、
12およびR13は、それぞれ独立して、10~30個の炭素原子を含む直鎖または分岐の飽和または不飽和アルキル鎖であり、アルキル鎖は、1つ以上のエステル結合によって中断されていてもよく、wは、30~60の範囲の平均値を有する。いくつかの実施形態では、R12およびR13は、それぞれ独立して、12~16個の炭素原子を含む直鎖の飽和アルキル鎖である。いくつかの実施形態では、wは、40~55の範囲の平均値を有する。いくつかの実施形態では、平均wは約45である。いくつかの実施形態では、R12およびR13は、それぞれ独立して、約14個の炭素原子を含む直鎖の飽和アルキル鎖であり、wは約45の平均値を有する。
【0627】
いくつかの実施形態では、ペグ化脂質は、2-[(ポリエチレングリコール)-2000]-N,N-ジテトラデシルアセトアミドであるか、またはそれを含む。
【0628】
いくつかの実施形態では、LNPのカチオン性脂質成分は、式(III)の構造:
【0629】
【化11】
【0630】
またはその薬学的に許容される塩、互変異性体、プロドラッグもしくは立体異性体を有し、ここで、
またはLの一方は、-O(C=O)-、-(C=O)O-、-C(=O)-、-O-、-S(O)-、-S-S-、-C(=O)S-、SC(=O)-、-NRC(=O)-、-C(=O)NR-、NRC(=O)NR-、-OC(=O)NR-または-NRC(=O)O-であり、LまたはLの他方は、-O(C=O)-、-(C=O)O-、-C(=O)O-、-S(O)-、-S-S-、-C(=O)S-、SC(=O)-、-NRC(=O)-、-C(=O)NR-、NRC(=O)NR-、-OC(=O)NR-または-NRC(=O)O-または直接結合であり;
およびGは、それぞれ独立して、置換されていないC-C12アルキレンまたはC-C12アルケニレンであり;
は、C-C24アルキレン、C-C24アルケニレン、C-Cシクロアルキレン、C-Cシクロアルケニレンであり;
は、HまたはC-C12アルキルであり;
およびRは、それぞれ独立して、C-C24アルキルまたはC-C24アルケニルであり;
は、H、OR、CN、-C(=O)OR、-OC(=O)Rまたは-NRC(=O)Rであり;
はC-C12アルキルであり;
は、HまたはC-Cアルキルであり、;および
xは、0、1または2である。
【0631】
式(III)の前述の実施形態のいくつかでは、脂質は、以下の構造(IIIA)または(IIIB):
【0632】
【化12】
【0633】
または
【0634】
【化13】
【0635】
の1つを有し、ここで、
Aは、3~8員のシクロアルキルまたはシクロアルキレン環であり;
は、各存在において、独立してH、OHまたはC-C24アルキルであり;
nは、1~15の範囲の整数である。
【0636】
式(III)の前述の実施形態のいくつかでは、脂質は構造(IIIA)を有し、他の実施形態では、脂質は構造(IIIB)を有する。
【0637】
式(III)の他の実施形態では、脂質は、以下の構造(IIIC)または(IIID):
【0638】
【化14】
【0639】
または
【0640】
【化15】
【0641】
の1つを有し、ここで、yおよびzは、それぞれ独立して、1~12の範囲の整数である。
【0642】
式(III)の前述の実施形態のいずれかでは、LまたはLの一方は-O(C=O)-である。例えば、いくつかの実施形態では、LおよびLの各々は-O(C=O)-である。前述のいずれかのいくつかの異なる実施形態では、LおよびLは、それぞれ独立して、-(C=O)O-または-O(C=O)-である。例えば、いくつかの実施形態では、LおよびLの各々は-(C=O)O-である。
【0643】
式(III)のいくつかの異なる実施形態では、脂質は、以下の構造(IIIE)または(IIIF):
【0644】
【化16】
【0645】
または
【0646】
【化17】
【0647】
の1つを有する。
【0648】
式(III)の前述の実施形態のいくつかでは、脂質は、以下の構造(IIIG)、(IIIH)、(IIII)または(IIIJ):
【0649】
【化18】
【0650】
【化19】
【0651】
【化20】
【0652】
または
【0653】
【化21】
【0654】
の1つを有する。
【0655】
式(III)の前述の実施形態のいくつかでは、nは、2~12、例えば2~8または2~4の範囲の整数である。例えば、いくつかの実施形態では、nは、3、4、5または6である。いくつかの実施形態では、nは3である。いくつかの実施形態では、nは4である。いくつかの実施形態では、nは5である。いくつかの実施形態では、nは6である。
【0656】
式(III)の前述の実施形態のいくつかの他の実施形態では、yおよびzは、それぞれ独立して、2~10の範囲の整数である。例えば、いくつかの実施形態では、yおよびzは、それぞれ独立して、4~9または4~6の範囲の整数である。
【0657】
式(III)の前述の実施形態のいくつかでは、RはHである。前述の実施形態の他の実施形態では、RはC-C24アルキルである。他の実施形態では、RはOHである。
【0658】
式(III)のいくつかの実施形態では、Gは非置換である。他の実施形態では、G3は置換されている。様々な異なる実施形態では、Gは、直鎖C-C24アルキレンまたは直鎖C-C24アルケニレンである。
【0659】
式(III)のいくつかの他の前述の実施形態では、RもしくはR、またはその両方がC-C24アルケニルである。例えば、いくつかの実施形態では、RおよびRは、それぞれ独立して、以下の構造:
【0660】
【化22】
【0661】
を有し、ここで、
7aおよびR7bは、各存在において、独立してHまたはC-C12アルキルであり;ならびに
aは2~12の整数であり、
ここで、R7a、R7bおよびaはそれぞれ、RおよびRがそれぞれ独立して6~20個の炭素原子を含むように選択される。例えば、いくつかの実施形態では、aは、5~9または8~12の範囲の整数である。
【0662】
式(III)の前述の実施形態のいくつかでは、R7aの少なくとも1つの存在はHである。例えば、いくつかの実施形態では、R7aは各存在においてHである。前述の実施形態の他の異なる実施形態では、R7bの少なくとも1つの存在はC-Cアルキルである。例えば、いくつかの実施形態では、C-Cアルキルは、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ヘキシルまたはn-オクチルである。
【0663】
式(III)の異なる実施形態では、RもしくはR、またはその両方が、以下の構造:
【0664】
【化23】
【0665】
の1つを有する。
【0666】
式(III)の前述の実施形態のいくつかでは、Rは、OH、CN、-C(=O)OR、-OC(=O)Rまたは-NHC(=O)Rである。いくつかの実施形態では、Rは、メチルまたはエチルである。
【0667】
様々な異なる実施形態では、式(III)のカチオン性脂質は、以下の表に示される構造の1つを有する。
【0668】
式(III)の代表的な化合物。
【0669】
【表2】
【0670】
様々な脂質(例えば、カチオン性脂質、中性脂質およびポリマーコンジュゲート脂質を含む)が当技術分野で公知であり、本明細書では、脂質ナノ粒子、例えば特定の細胞型(例えば肝細胞)を標的とする脂質ナノ粒子を形成するために使用することができる。いくつかの実施形態では、中性脂質は、リン脂質もしくはその誘導体(例えば、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPSC))および/またはコレステロールであり得るか、またはそれを含み得る。いくつかの実施形態では、ポリマーコンジュゲート脂質は、PEGコンジュゲート脂質(例えば、2-[(ポリエチレングリコール)-2000]-N,N-ジテトラデシルアセトアミドまたはその誘導体)であり得る。
【0671】
いくつかの実施形態では、LNPは、式(III)の脂質、RNA、中性脂質、ステロイドおよびペグ化脂質を含む。いくつかの実施形態では、中性脂質はDSPCである。いくつかの実施形態では、ステロイドはコレステロールである。いくつかの実施形態では、ペグ化脂質はALC-0159である。
ALC-0159:
【0672】
【化24】
【0673】
いくつかの実施形態では、カチオン性脂質は、LNP中に約45~約50モル%の量で存在する。いくつかの実施形態では、中性脂質は、LNP中に約5~約15モル%の量で存在する。いくつかの実施形態では、ステロイドは、LNP中に約35~約45モル%の量で存在する。いくつかの実施形態では、ペグ化脂質は、LNP中に約1~約5モル%の量で存在する。
【0674】
いくつかの実施形態では、LNPは、約45~約50モル%の量のカチオン性脂質、約5~約15モル%の量のDSPC、約35~約45モル%の量のコレステロール、および約1~約5モル%の量のALC-0159を含む。
【0675】
N/P値は、好ましくは少なくとも約4である。いくつかの実施形態では、N/P値は、4~20、4~12、4~10、4~8、または5~7の範囲である。いくつかの実施形態では、N/P値は約6である。
【0676】
化学療法
特定の実施形態では、本明細書に記載の治療と組み合わせてさらなる治療を患者に投与し得る。そのようなさらなる治療には、古典的な癌治療、例えば、放射線療法、手術、温熱療法および/または化学療法が含まれる。
【0677】
化学療法は、通常、標準化された化学療法レジメンの一部として、1つ以上の抗癌剤(化学療法剤)を使用する癌治療の一種である。化学療法という用語は、有糸分裂を阻害するための細胞内毒の非特異的使用を含意するようになった。この含意は、細胞外シグナル(シグナル伝達)を遮断する、より選択的な薬剤を除外する。古典的な内分泌ホルモン(主に、乳癌のためのエストロゲンおよび前立腺癌のためのアンドロゲン)からの成長促進シグナルを阻害する特定の分子または遺伝子標的を用いた治療法の開発は、現在ホルモン療法と呼ばれている。対照的に、受容体チロシンキナーゼに関連するもののような成長シグナルの他の阻害は、標的療法と称される。
【0678】
重要なことに、薬物の使用(化学療法、ホルモン療法または標的療法に関わらず)は、血流に導入され、したがって原則として体内の任意の解剖学的位置で癌に対処することができるという点で、癌の全身療法を構成する。全身療法は、放射線療法、手術または温熱療法などの癌の局所療法(すなわち、その有効性が適用される解剖学的領域に限定される治療)を構成する他のモダリティと組み合わせて使用されることが多い。
【0679】
伝統的な化学療法剤は、細胞分裂(有糸分裂)を妨げることによって細胞傷害性であるが、癌細胞はこれらの薬剤に対する感受性が大きく異なる。大部分において、化学療法は、細胞を損傷するまたは細胞にストレスを加える方法と考えることができ、アポトーシスが開始された場合、細胞死をもたらし得る。
【0680】
化学療法剤としては、アルキル化剤、代謝拮抗剤、抗微小管剤、トポイソメラーゼ阻害剤、および細胞傷害性抗生物質が挙げられる。
【0681】
アルキル化剤は、タンパク質、RNAおよびDNAを含む多くの分子をアルキル化する能力を有する。アルキル化剤のサブタイプは、ナイトロジェンマスタード、ニトロソ尿素、テトラジン、アジリジン、シスプラチンおよび誘導体、ならびに非古典的アルキル化剤である。ナイトロジェンマスタードには、メクロレタミン、シクロホスファミド、メルファラン、クロラムブシル、イホスファミドおよびブスルファンが含まれる。ニトロソ尿素としては、N-ニトロソ-N-メチル尿素(MNU)、カルムスチン(BCNU)、ロムスチン(CCNU)およびセムスチン(MeCCNU)、フォテムスチンおよびストレプトゾトシンが挙げられる。テトラジンとしては、ダカルバジン、ミトゾロミドおよびテモゾロミドが挙げられる。アジリジンとしては、チオテパ、マイトマイシンおよびジアジコン(AZQ)が挙げられる。シスプラチンおよび誘導体には、シスプラチン、カルボプラチンおよびオキサリプラチンが含まれる。これらは、生物学的に重要な分子中のアミノ基、カルボキシル基、スルフヒドリル基およびリン酸基と共有結合を形成することによって細胞機能を損なう。非古典的なアルキル化剤としては、プロカルバジンおよびヘキサメチルメラミンが挙げられる。特に好ましい一実施形態では、アルキル化剤はシクロホスファミドである。
【0682】
代謝拮抗剤は、DNAおよびRNAの合成を妨げる分子の群である。それらの多くは、DNAおよびRNAのビルディングブロックと類似の構造を有する。代謝拮抗剤は、核酸塩基またはヌクレオシドのいずれかに類似するが、変化した化学基を有する。これらの薬物は、DNA合成に必要な酵素を遮断するか、またはDNAもしくはRNAに組み込まれることによって効果を発揮する。代謝拮抗剤のサブタイプは、葉酸拮抗剤、フルオロピリミジン、デオキシヌクレオシド類似体およびチオプリンである。葉酸拮抗剤としては、メトトレキサートおよびペメトレキセドが挙げられる。フルオロピリミジンには、フルオロウラシルおよびカペシタビンが含まれる。デオキシヌクレオシド類似体としては、シタラビン、ゲムシタビン、デシタビン、アザシチジン、フルダラビン、ネララビン、クラドリビン、クロファラビン、およびペントスタチンが挙げられる。チオプリンとしては、チオグアニンおよびメルカプトプリンが挙げられる。
【0683】
抗微小管剤は、微小管機能を妨げることによって細胞分裂を阻止する。ビンカアルカロイドは微小管の形成を妨げ、一方タキサンは微小管の分解を妨げる。ビンカアルカロイドとしては、ビノレルビン、ビンデシン、およびビンフルニンが挙げられる。タキサンには、ドセタキセル(Taxotere)およびパクリタキセル(Taxol)が含まれる。
【0684】
トポイソメラーゼ阻害剤は、2つの酵素:トポイソメラーゼIおよびトポイソメラーゼIIの活性に影響を及ぼす薬物であり、イリノテカン、トポテカン、カンプトテシン、エトポシド、ドキソルビシン、ミトキサントロン、テニポシド、ノボビオシン、メルバロン、およびアクラルビシンが含まれる。
【0685】
細胞傷害性抗生物質は、様々な作用機序を有する薬物の多様な群である。それらが化学療法の指標において共有する共通の主題は、細胞分裂を中断することである。最も重要なサブグループは、アントラサイクリン(例えばドキソルビシン、ダウノルビシン、エピルビシン、イダルビシンピラルビシン、およびアクラルビシン)ならびにブレオマイシンである;他の顕著な例としては、マイトマイシンC、ミトキサントロン、およびアクチノマイシンが挙げられる。
【0686】
いくつかの実施形態では、免疫エフェクタ細胞の投与の前に、例えばシクロホスファミドおよびフルダラビンを投与することによって、リンパ球枯渇治療を適用し得る。そのような治療は、細胞の持続性ならびに臨床応答の発生率および持続時間を増加させ得る。
【0687】
核酸を含む組成物
本明細書に記載される1つ以上の核酸を、例えば核酸粒子の形態で含む組成物は、塩、緩衝液、または以下にさらに記載されるような他の成分を含み得る。
【0688】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の組成物に使用するための塩は、塩化ナトリウムを含む。理論に拘束されることを望むものではないが、塩化ナトリウムは、脂質と混合する前にRNAを前処理するためのイオン性浸透圧剤として機能する。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の組成物は、代替の有機塩または無機塩を含み得る。代替の塩としては、限定されないが、塩化カリウム、リン酸二カリウム、リン酸一カリウム、酢酸カリウム、重炭酸カリウム、硫酸カリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸一ナトリウム、酢酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化リチウム、塩化マグネシウム、リン酸マグネシウム、塩化カルシウム、およびエチレンジアミン四酢酸(EDTA)のナトリウム塩が挙げられる。
【0689】
一般に、RNA粒子を保存するための組成物、例えば、RNA粒子を凍結させるための組成物は、低い塩化ナトリウム濃度を含むか、低いイオン強度を含む。いくつかの実施形態では、塩化ナトリウムは、0mM~約50mM、0mM~約40mM、または約10mM~約50mMの濃度である。
【0690】
本開示によれば、本明細書に記載のRNA粒子組成物は、RNA粒子の安定性、特にRNAの安定性に適したpHを有する。理論に拘束されることを望むものではないが、緩衝系の使用は、組成物の製造、貯蔵および使用中に本明細書に記載の粒子組成物のpHを維持する。本開示のいくつかの実施形態では、緩衝系は、溶媒(特に水、例えば脱イオン水、特に注射用水)および緩衝物質を含み得る。緩衝物質は、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-1-イル]エタンスルホン酸(HEPES)、2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオール(トリス)、酢酸塩およびヒスチジンから選択され得る。好ましい緩衝物質はHEPESである。
【0691】
本明細書に記載の組成物はまた、例えば凝集、粒子崩壊、mRNA分解および/または他の種類の損傷を低減または防止するために、生成物の品質の実質的な損失、特に保存、凍結および/または凍結乾燥中のmRNA活性の実質的な損失を回避するための安定剤として凍結保護剤および/または界面活性剤を含み得る。
【0692】
一実施形態では、凍結保護剤は炭水化物である。本明細書で使用される「炭水化物」という用語は、単糖、二糖、三糖、オリゴ糖および多糖を指し、それらを包含する。
【0693】
一実施形態では、凍結保護剤は単糖である。本明細書で使用される「単糖」という用語は、より単純な炭水化物単位に加水分解することができない単一の炭水化物単位(例えば単純糖)を指す。例示的な単糖凍結保護剤としては、グルコース、フルクトース、ガラクトース、キシロース、リボースなどが挙げられる。
【0694】
一実施形態では、凍結保護剤は二糖である。本明細書で使用される「二糖」という用語は、グリコシド結合、例えば1~4個の結合または1~6個の結合を介して互いに結合している2つの単糖単位によって形成される化合物または化学部分を指す。二糖は、2つの単糖に加水分解され得る。例示的な二糖凍結保護剤としては、スクロース、トレハロース、ラクトース、マルトースなどが挙げられる。
【0695】
「三糖」という用語は、互いに結合して1つの分子を形成する3つの糖を意味する。三糖の例としては、ラフィノース、メレジトースが挙げられる。
【0696】
一実施形態では、凍結保護剤はオリゴ糖である。本明細書で使用される「オリゴ糖」という用語は、グリコシド結合、例えば1~4個の結合または1~6個の結合を介して互いに結合して直鎖、分岐または環状構造を形成する3~約15個、例えば3~約10個の単糖単位によって形成される化合物または化学部分を指す。例示的なオリゴ糖凍結保護剤としては、シクロデキストリン、ラフィノース、メレジトース、マルトトリオース、スタキオース、アカルボースなどが挙げられる。オリゴ糖は、酸化または還元され得る。
【0697】
一実施形態では、凍結保護剤は環状オリゴ糖である。本明細書で使用される「環状オリゴ糖」という用語は、グリコシド結合、例えば1~4個の結合または1~6個の結合を介して互いに結合して環状構造を形成する3~約15個、例えば6、7、8、9または10個の単糖単位によって形成される化合物または化学部分を指す。例示的な環状オリゴ糖凍結保護剤としては、αシクロデキストリン、βシクロデキストリン、またはγシクロデキストリンなどの別個の化合物である環状オリゴ糖が挙げられる。
【0698】
他の例示的な環状オリゴ糖凍結保護剤には、環状オリゴ糖部分を含有するポリマーなどの、より大きな分子構造中にシクロデキストリン部分を含む化合物が含まれる。環状オリゴ糖は、酸化または還元することができ、例えばジカルボニル形態に酸化することができる。本明細書で使用される「シクロデキストリン部分」という用語は、ポリマーなどのより大きな分子構造に組み込まれる、またはその一部であるシクロデキストリン(例えば、α、βまたはγシクロデキストリン)ラジカルを指す。シクロデキストリン部分は、1つ以上の他の部分に直接または任意のリンカーを介して結合することができる。シクロデキストリン部分は、酸化または還元することができ、例えばジカルボニル形態に酸化することができる。
【0699】
炭水化物凍結保護剤、例えば環状オリゴ糖凍結保護剤は、誘導体化された炭水化物であり得る。例えば、一実施形態では、凍結保護剤は、誘導体化環状オリゴ糖、例えば誘導体化シクロデキストリン、例えば2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、例えば部分エーテル化シクロデキストリン(例えば部分的にエーテル化されたβシクロデキストリン)である。
【0700】
例示的な凍結保護剤は多糖である。本明細書で使用される「多糖類」という用語は、グリコシド結合、例えば1~4個の結合または1~6個の結合を介して互いに結合して直鎖、分岐または環状構造を形成する少なくとも16個の単糖単位によって形成される化合物または化学部分を指し、多糖をその骨格構造の一部として含むポリマーを含む。骨格において、多糖は直鎖状または環状であり得る。例示的な多糖凍結保護剤としては、グリコーゲン、アミラーゼ、セルロース、デキストラン、マルトデキストリンなどが挙げられる。
【0701】
いくつかの実施形態では、RNA粒子組成物はスクロースを含み得る。理論に束縛されることを望むものではないが、スクロースは、組成物の凍結保護を促進し、それにより、RNA(特にmRNA)粒子の凝集を防止し、組成物の化学的および物理的安定性を維持するように機能する。いくつかの実施形態では、RNA粒子組成物は、スクロースに代わる代替凍結保護剤を含み得る。代替の安定剤としては、限定されないが、トレハロースおよびグルコースが挙げられる。特定の実施形態では、スクロースの代替安定剤は、トレハロースまたはスクロースとトレハロースとの混合物である。
【0702】
好ましい凍結保護剤は、スクロース、トレハロース、グルコース、およびそれらの組合せ、例えばスクロースとトレハロースの組合せからなる群より選択される。好ましい実施形態では、凍結保護剤はスクロースである。
【0703】
本開示のいくつかの実施形態は、本明細書に記載のRNA組成物におけるキレート剤の使用を企図する。キレート剤とは、金属イオンと少なくとも2つの配位共有結合を形成し、それによって安定な水溶性錯体を生成することができる化合物を指す。理論に束縛されることを望むものではないが、キレート剤は、本開示では、普通であれば加速されたRNA分解を誘発し得る遊離二価イオンの濃度を低下させる。適切なキレート剤の例としては、限定されないが、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、EDTAの塩、デスフェリオキサミンB、デフェロキサミン、ジチオカルブナトリウム、ペニシラミン、ペンテト酸カルシウム、ペンテト酸のナトリウム塩、スクシマー、トリエンチン、ニトリロ三酢酸、トランス-ジアミノシクロヘキサン四酢酸(DCTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、およびビス(アミノエチル)グリコールエーテル-N,N,N’,N’-四酢酸が挙げられる。いくつかの実施形態では、キレート剤は、EDTAまたはEDTAの塩である。例示的な実施形態では、キレート剤は、EDTA二ナトリウム二水和物である。いくつかの実施形態では、EDTAは、約0.05mM~約5mM、約0.1mM~約2.5mM、または約0.25mM~約1mMの濃度である。
【0704】
代替的な実施形態では、本明細書に記載のRNA粒子組成物は、キレート剤を含まない。
【0705】
医薬組成物
本明細書に記載の薬剤は、医薬組成物または医薬品で投与されてもよく、任意の適切な医薬組成物の形態で投与されてもよい。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、治療的または予防的処置、例えば、癌疾患または感染症などの抗原が関与する疾患の治療または予防に使用するためのものである。
【0706】
「医薬組成物」という用語は、治療上有効な薬剤を、好ましくは薬学的に許容される担体、希釈剤および/または賦形剤と共に含む組成物に関する。当該医薬組成物は、当該医薬組成物を対象に投与することによって疾患を治療する、予防する、または疾患の重症度を軽減するのに有用である。
【0707】
本開示の医薬組成物は、1つ以上のアジュバントを含んでいてもよく、または1つ以上のアジュバントと共に投与されてもよい。「アジュバント」という用語は、免疫応答を延長、増強または加速する化合物に関する。アジュバントは、油エマルジョン(例えばフロイントアジュバント)、無機化合物(ミョウバンなど)、細菌産物(百日咳菌(Bordetella pertussis)毒素など)、または免疫賦活複合体などの不均一な化合物の群を含む。アジュバントの例としては、限定されることなく、LPS、GP96、CpGオリゴデオキシヌクレオチド、成長因子、およびサイトカイン、例えばモノカイン、リンホカイン、インターロイキン、ケモカインが挙げられる。ケモカインは、IL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-12、INFa、INF-γ、GM-CSF、LT-aであり得る。さらなる公知のアジュバントは、水酸化アルミニウム、フロイントアジュバント、またはMontanide(登録商標)ISA51などの油である。本開示で使用するための他の適切なアジュバントとしては、Pam3Cysなどのリポペプチド、ならびにサポニン、トレハロース-6,6-ジベヘネート(TDB)、モノホスホリルリピドA(MPL)、モノミコロイルグリセロール(MMG)、またはグルコピラノシル脂質アジュバント(GLA)などの親油性成分が挙げられる。
【0708】
本開示の医薬組成物は、保存可能な形態(例えば、凍結もしくは凍結乾燥/フリーズドライ形態)または「すぐに使用できる形態」(すなわち、例えば希釈などのいかなる処理も行わずに、対象に直ちに投与することができる形態)であり得る。したがって、医薬組成物の保存可能な形態の投与前に、この保存可能な形態をすぐに使用できる形態または投与可能な形態に処理または移行しなければならない。例えば、適切な溶媒(例えば注射用水などの脱イオン水)または液体(例えば水溶液)を使用することによって、凍結医薬組成物を解凍しなければならないか、または凍結乾燥医薬組成物を再構成しなければならない。
【0709】
本開示による医薬組成物は、一般に、「薬学的有効量」および「薬学的に許容される調製物」で適用される。
【0710】
「薬学的に許容される」という用語は、医薬組成物の活性成分の作用と相互作用しない物質の非毒性を指す。
【0711】
「薬学的有効量」という用語は、単独でまたはさらなる用量と共に所望の反応または所望の効果を達成する量を指す。特定の疾患の治療に関するいくつかの実施形態では、所望の反応は、疾患の経過の阻害に関連し得る。これは、疾患の進行を遅らせること、およびいくつかの実施形態では、疾患の進行を中断するまたは逆転させることを含む。疾患の治療における所望の反応はまた、当該疾患または当該状態の発症の遅延または発症の予防であり得る。本明細書に記載の医薬組成物の有効量は、治療される状態、疾患の重症度、年齢、生理学的状態、サイズおよび体重を含む患者の個々のパラメータ、治療期間、付随する治療の種類(存在する場合)、特定の投与経路ならびに同様の因子に依存する。したがって、本明細書に記載の医薬組成物の投与される用量は、様々なそのようなパラメータに依存し得る。患者の反応が初期用量では不十分である場合、より高い用量(または異なる、より局所的な投与経路によって達成される効果的により高い用量)を使用し得る。
【0712】
本開示の医薬組成物は、緩衝剤、防腐剤、および任意で他の治療薬を含有し得る。いくつかの実施形態では、本開示の医薬組成物は、1つ以上の薬学的に許容される担体、希釈剤および/または賦形剤を含む。
【0713】
本開示の医薬組成物で使用するための適切な防腐剤には、限定されないが、塩化ベンザルコニウム、クロロブタノール、パラベンおよびチメロサールが含まれる。
【0714】
本明細書で使用される「賦形剤」という用語は、本開示の医薬組成物中に存在し得るが、活性成分ではない物質を指す。賦形剤の例としては、限定されないが、担体、結合剤、希釈剤、潤滑剤、増粘剤、界面活性剤、防腐剤、安定剤、乳化剤、緩衝剤、香味剤、または着色剤が挙げられる。
【0715】
「希釈剤」という用語は、希釈するおよび/または希薄にする薬剤に関する。さらに、「希釈剤」という用語は、流体、液体または固体の懸濁液および/または混合媒体のいずれか1つ以上を含む。適切な希釈剤の例としては、エタノール、グリセロールおよび水が挙げられる。
【0716】
「担体」という用語は、医薬組成物の投与を容易にする、増強するまたは可能にするために活性成分が組み合わされる、天然、合成、有機、無機であり得る成分を指す。本明細書で使用される担体は、対象への投与に適した1つ以上の適合性の固体もしくは液体充填剤、希釈剤または封入物質であり得る。適切な担体としては、限定されないが、滅菌水、リンゲル液、乳酸リンゲル液、滅菌塩化ナトリウム溶液、等張食塩水、ポリアルキレングリコール、水素化ナフタレンおよび、特に、生体適合性ラクチドポリマー、ラクチド/グリコリドコポリマーまたはポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレンコポリマーが挙げられる。いくつかの実施形態では、本開示の医薬組成物は等張食塩水を含む。
【0717】
治療的使用のための薬学的に許容される担体、賦形剤または希釈剤は、製薬分野で周知であり、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Co.(A.R Gennaro edit.1985)に記載されている。
【0718】
医薬担体、賦形剤または希釈剤は、意図される投与経路および標準的な製薬慣行に関して選択することができる。
【0719】
医薬組成物の投与経路
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の医薬組成物は、静脈内、動脈内、皮下、皮内、経皮、節内、筋肉内、腫瘍内、または腫瘍周囲に投与され得る。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、局所投与または全身投与用に製剤化される。全身投与には、消化管を介した吸収を含む経腸投与、または非経口投与が含まれ得る。本明細書で使用される場合、「非経口投与」は、静脈内注射などによる、消化管を介する以外の任意の方法での投与を指す。いくつかの実施形態では、医薬組成物は全身投与用に製剤化される。いくつかの実施形態では、全身投与は静脈内投与によるものである。
【0720】
本発明の全ての態様のいくつかの実施形態では、ワクチン抗原をコードするRNAおよびPD-1軸結合アンタゴニスト、任意で免疫賦活剤をコードするRNAを全身投与、例えば静脈内投与する。
【0721】
本明細書で使用される「同時投与」という用語は、異なる化合物または組成物(例えば、ワクチン抗原をコードするRNAおよびPD-1軸結合アンタゴニスト)を同じ患者に投与する方法を意味する。異なる化合物または組成物は、同時に、本質的に同時に、または連続的に投与され得る。
【0722】
組成物の使用
本明細書に記載の組成物は、様々な疾患、特に対象へのワクチン抗原の提供が治療効果または予防効果をもたらす疾患、例えば癌疾患または感染症などの、抗原を発現する疾患細胞の存在を特徴とする疾患の治療的または予防的処置に使用され得る。例えば、ウイルスに由来する抗原またはエピトープを提供することは、当該ウイルスによって引き起こされるウイルス性疾患の治療に有用であり得る。腫瘍抗原またはエピトープを提供することは、癌細胞が上記腫瘍抗原を発現する癌疾患の治療に有用であり得る。
【0723】
「疾患」(本明細書では「障害」とも呼ばれる)という用語は、個体の身体に影響を及ぼす異常な状態を指す。疾患はしばしば、特定の症状および徴候に関連する医学的状態として解釈される。疾患は、感染症などの外部源に由来する因子によって引き起こされ得るか、または自己免疫疾患などの内部機能不全によって引き起こされ得る。ヒトでは、「疾患」はしばしば、罹患した個体に疼痛、機能不全、窮迫、社会的問題、もしくは死亡を引き起こす、または個体と接触するものに対して同様の問題を引き起こす状態を指すためにより広く使用される。このより広い意味では、疾患は時に、損傷、身体障害、障害、症候群、感染、孤立した症状、逸脱した挙動、ならびに構造および機能の非定型の変化を含む場合があるが、他の状況および他の目的では、これらは区別可能なカテゴリと見なされ得る。多くの疾患を患い、それらと共に生活することは、人生観および人格を変える可能性があるため、疾患は通常、身体的だけでなく感情的にも個体に影響を及ぼす。
【0724】
「抗原が関与する疾患」という用語は、抗原に関係する任意の疾患、例えば抗原の存在を特徴とする疾患を指す。抗原が関与する疾患は、感染症、または癌疾患もしくは単に癌であり得る。抗原は、腫瘍関連抗原、ウイルス抗原、または細菌抗原などの疾患関連抗原であり得る。いくつかの実施形態では、抗原が関与する疾患は、抗原を発現し、好ましくは例えばMHCに関連して細胞表面に抗原を提示する細胞が関与する疾患である。
【0725】
「感染症」という用語は、個体から個体へ、または生物から生物へと伝播することができ、微生物因子によって引き起こされる任意の疾患(例えば普通の風邪)を指す。感染症は当技術分野で公知であり、例えば、それぞれウイルス、細菌、および寄生虫によって引き起こされる、ウイルス性疾患、細菌性疾患、または寄生虫性疾患が含まれる。これに関して、感染症は、例えば、肝炎、性感染症(例えばクラミジアまたは淋病)、結核、HIV/後天性免疫不全症候群(AIDS)、ジフテリア、B型肝炎、C型肝炎、コレラ、重症急性呼吸器症候群(SARS)、鳥インフルエンザ、およびインフルエンザであり得る。
【0726】
「癌疾患」または「癌」という用語は、典型的には無秩序な細胞増殖を特徴とする、個体における生理学的状態を指すかまたは表す。癌の例としては、癌腫、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫、および白血病が挙げられるが、これらに限定されない。さらに具体的には、そのような癌の例としては、骨癌、血液癌、肺癌、肝癌、膵癌、皮膚癌、頭頸部癌、皮膚黒色腫または眼内黒色腫、子宮癌、卵巣癌、直腸癌、肛門領域の癌、胃癌、結腸癌、乳癌、前立腺癌、子宮癌、性器および生殖器の癌、ホジキン病、食道癌、小腸癌、内分泌系の癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、副腎癌、軟部組織肉腫、膀胱癌、腎癌、腎細胞癌、腎盂癌、中枢神経系(CNS)の新生物、神経外胚葉癌、脊髄軸腫瘍、神経膠腫、髄膜腫、ならびに下垂体腺腫が挙げられる。本開示による「癌」という用語は、癌転移も含む。
【0727】
本文脈において、「治療」、「治療する」または「治療的介入」という用語は、疾患などの状態と闘うことを目的とした対象の管理およびケアに関する。この用語は、症状もしくは合併症を緩和するため、疾患、障害もしくは状態の進行を遅らせるため、症状および合併症を緩和もしくは軽減するため、ならびに/または疾患、障害もしくは状態を治癒もしくは排除するため、ならびに状態を予防するための治療上有効な化合物の投与などの、対象が罹患している所与の状態に対するあらゆる範囲の治療を含むことが意図されており、予防は、疾患、状態または障害と闘うことを目的とした個体の管理およびケアとして理解されるべきであり、症状または合併症の発症を防止するための活性化合物の投与を含む。
【0728】
「治療的処置」という用語は、個体の健康状態を改善する、および/または寿命を延長する(増加させる)任意の治療に関する。当該治療は、個体における疾患を排除し得る、個体における疾患の発症を停止もしくは遅延させ得る、個体における疾患の発症を阻害もしくは遅延させ得る、個体における症状の頻度もしくは重症度を低下させ得る、および/または現在疾患を有しているかもしくは以前に有していたことがある個体における再発を減少させ得る。
【0729】
「予防的処置」または「防止的処置」という用語は、個体において疾患が発生するのを防ぐことを意図した任意の治療に関する。「予防的処置」または「防止的処置」という用語は、本明細書では互換的に使用される。
【0730】
「個体」および「対象」という用語は、本明細書では互換的に使用される。これらの用語は、疾患(例えば癌、感染症)に罹患し得るかもしくは罹患しやすいが、疾患を有していても有していなくてもよい、またはワクチン接種などの予防的介入を必要としてもよく、またはタンパク質補充などによる介入の必要性を有していてもよい、ヒトもしくは別の哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマもしくは霊長動物)、または鳥(ニワトリ)、魚もしくは他の任意の動物種を含む他の任意の非哺乳動物を指す。多くの実施形態では、個体はヒトである。特に明記されない限り、「個体」および「対象」という用語は特定の年齢を示すものではなく、したがって成人、高齢者、小児、および新生児を包含する。本開示のいくつかの実施形態では、「個体」または「対象」は「患者」である。
【0731】
「患者」という用語は、治療のための個体または対象、特に疾患個体または対象を意味する。
【0732】
本開示のいくつかの実施形態では、目的は、ワクチンを提供することによって免疫応答を誘導することである。
【0733】
当業者は、免疫療法およびワクチン接種の原理の1つが、治療される疾患に関して免疫学的に関連する抗原またはエピトープで対象を免疫することによって疾患に対する免疫保護反応が生じるという事実に基づくことを理解するであろう。したがって、本明細書に記載の薬剤は、免疫応答を誘導または増強するために適用可能である。したがって、本明細書に記載の薬剤は、抗原またはエピトープが関与する疾患の予防的および/または治療的処置に有用である。
【0734】
本開示のいくつかの実施形態では、目的は、腫瘍抗原を発現する癌細胞などの抗原を発現する疾患細胞に対する免疫応答を提供し、腫瘍抗原などの抗原を発現する細胞が関与する癌疾患などの疾患を治療することである。
【0735】
本開示のいくつかの実施形態では、目的は、ワクチン接種によって癌を治療することである。
【0736】
本開示のいくつかの実施形態では、目的は、1つ以上の腫瘍抗原を発現する癌細胞に対する免疫応答を提供すること、および1つ以上の腫瘍抗原を発現する細胞が関与する癌疾患を治療することである。
【0737】
本開示のいくつかの実施形態では、目的は、ワクチン接種によって感染症に対する保護を提供することである。
【0738】
本明細書で参照される文書および試験の引用は、前述のいずれかが関連する先行技術であることの承認として意図されていない。これらの文書の内容に関する全ての記述は、出願人が入手可能な情報に基づいており、これらの文書の内容の正確さに関するいかなる承認も構成しない。
【0739】
説明(以下の実施例を含む)は、当業者が様々な実施形態を作成および使用することを可能にするために提示される。具体的な装置、技術、および用途の説明は、例としてのみ提供される。本明細書に記載される例に対する様々な変更は、当業者には容易に明らかであり、本明細書で定義される一般的な原理は、様々な実施形態の精神および範囲から逸脱することなく他の例および用途に適用され得る。したがって、様々な実施形態は、本明細書で説明され、示される例に限定されることを意図するものではなく、特許請求の範囲と一致する範囲を与えられるべきである。
【実施例
【0740】
実施例1:試験化合物
試験化合物は、静脈内投与され、RNAコード抗原をリンパ器官内の常在樹状細胞(DC)に特異的に標的化するように設計された、リポソームに製剤化されたRNA(RNA-リポプレックス[RNA-LPX])癌ワクチンである。これらのDCは、コードされた抗原を翻訳し、T細胞プライミングのためにMHC分子上に抗原由来エピトープを提示する。
【0741】
別の試験化合物は、半減期の延長およびバイオアベイラビリティのために血清アルブミンに融合したインターロイキン-2(IL-2)をコードするサイトカインmRNAである。
【0742】
本出願で使用されるRNA-LPXワクチンを表2に列挙する。簡潔には、それらは、(i)dsRNA精製に供されない、ヌクレオシド修飾されていないウリジン含有RNA(uRNA)、または(ii)m1ψ修飾された二本鎖RNA精製RNA(modRNA)のいずれかからなる。
【0743】
ワクチンRNA構築物のインビトロ転写は、以前に記載されたpCMV-Script-Vector(Stratagene)の誘導体に基づいた(Holtkamp,S.et al.(2006)Blood 108,4009-4017)。これらのプラスミドは、T7プロモータ、5’ヒトヘモグロビンサブユニットα1(hAg)-UTR、3’UTRおよびポリ(A)尾部をコードする。
【0744】
ワクチンRNA構築物は、ニワトリ卵白アルブミン(OVA)のH-2Kb拘束性免疫優性エピトープOVA257-264(SIINFEKL)、続いてヒトβ-グロビンの2つの連続配列の3’UTRと、120個のヌクレオチド、または70個のヌクレオチド後にリンカーを有する100個のヌクレオチドのいずれかのポリ(A)尾部をコードする。
【0745】
別のワクチンRNA構築物は、ヒトTRP2のMHCクラスII提示エピトープであるTRP288-102(RKFFHRTCKCTGNFA)に融合したマウスチロシナーゼ関連タンパク質2(TRP2)であるTRP2180-188(SVYDFFVWL)のH2-Kb拘束性エピトープ(Kianizad,K.et al.(2007)Cancer Res.67,6459-6467)、続いてFI要素(FはスプリットRNAのアミノ末端エンハンサの136ヌクレオチド長の3’-UTR断片であり、Iはミトコンドリアにコードされた12S RNAの142ヌクレオチド長の断片であり、両方ともホモサピエンスで同定される;国際公開第2017/060314号)と呼ばれる3’ UTR、続いて70個のヌクレオチド後にリンカーを有する100個のヌクレオチドのいずれかのポリ(A)尾部をコードする。
【0746】
非コードRNA(対照RNA)は、ヒトβグロビンの2つの連続した配列の3’UTRと、70個のヌクレオチド後にリンカーを有する100個のヌクレオチドのポリA尾部と、抗原配列の代わりにGSリンカー(GGSGGGGSGGGGSGGGGSGG)とを含む。
【0747】
ワクチンRNA構築物は、MHCクラスIおよびIIエピトープの提示を改善するために、小胞体へのルーティングのための分泌シグナルと、Kreiterらによって記載されたヒト配列に基づくマウスMHCクラスIに由来する小胞体および膜貫通ドメイン(MITD)を備えている(Kreiter,S.et al.(2008)J.Immunol.180,309-318)。ワクチンRNAを、記載されるようにインビトロ転写によって生成し(Kreiter,S.et al.(2007)Cancer Immunol.Immunother.56,1577-1587)、β-S-ARCAキャップ0でキャップした(Kuhn,A.et al.(2010)Gene Ther.17,961-971)。修飾RNA(modRNA)を合成するために、ヌクレオシドウリジンをm1ψで置換した(Pardi,N.et al.(2015)J.Control.Release 217,345-351)。精製するために、二本鎖RNAを枯渇させた(Baiersdorfer,M.et al.(2019)Mol.Ther.-Nucleic Acids 15)。RNAをHOで溶出し、さらに使用するまで-80℃で保存した。
【0748】
ワクチンRNAを、DOTMAおよびDOPEで構成されるリポソームと製剤化して、負の正味電荷を有するRNA-LPXを得た(Kranz,L.M.et al.(2016)Nature 534,396-401)。RNA-LPXは、滅菌およびRNaseフリー条件下でTRON gGmbHで調製し、すなわち、使用前に全ての機器をオートクレーブ処理し、全ての表面をRNaseZAP(登録商標)に浸した布で拭いた。RNAストック溶液のバイアルを解凍し、水、10mM HEPES/0.1mM EDTA、1.5M NaClおよびL2リポソームで連続的に希釈した。各添加の直後にバイアルをボルテックスし、全ての成分を添加した後、周囲温度で10分間インキュベートした。
【0749】
【表3】
【0750】
サイトカインをコードするRNAのインビトロ転写は、pST1-T7-AGA-dEarI-hAg-MCS-FI-A30LA70プラスミド骨格および誘導体DNA構築物に基づいた。これらのプラスミド構築物は、5’UTR(ヒト(homo sapiens)hAgの5’-UTRの誘導体)、3’FI要素、および70個のヌクレオチド後にリンカーを有する100個のヌクレオチドのポリA尾部を含む。サイトカインおよび血清アルブミンをコードする配列はハツカネズミ(mus musculus)に由来し、得られたアミノ酸配列に変化は導入されなかった。アルブミンを成熟IL2配列のN末端に導入した(IL-2のシグナルペプチドはコードされなかった)。終止コドンは、ほとんどのC末端部分についてのみ導入された。サイトカインおよびアルブミン融合構築物の異なるタンパク質部分は、グリシンおよびセリン残基をコードする30ヌクレオチド長のリンカー配列によって分離された。
【0751】
対照サイトカインRNAは血清アルブミンのみをコードした。
【0752】
サイトカインRNAを上記のようにインビトロ転写によって生成した。通常のヌクレオシドウリジンを1-メチル-プソイドウリジンで置換した。サイトカインRNAはキャップ1構造を備えており、上記のように二本鎖RNA分子を枯渇させた。精製したサイトカインmRNAをHOで溶出し、さらなる使用まで-80℃で保存した。
【0753】
サイトカインRNAは、滅菌およびRNaseフリー条件下で、TRON gGmbHにおいてTransIT(Mirrus)を用いて製剤化し、すなわち、使用前に全ての機器をオートクレーブ処理し、全ての表面をRNaseZAP(登録商標)に浸した布で拭いた。RNAストック溶液のバイアルを解凍し、IV注射の直前に製造業者の指示に従って連続的に製剤化した。
【0754】
記載されている全てのRNA構築物のインビトロ転写および製剤化は、BioNTech SEで実施された。
【0755】
実施例2:方法
血清アルブミンとIL-2との融合タンパク質をコードし、TransITを用いて製剤化されたRNA-LPXおよびサイトカインRNAを、29G針を備えた3/10ccインスリン注射器を使用してIV投与した。IV注射の前に、マウスを酸素中2.5%イソフルランの吸入によって麻酔した。抗PD-1(クローンRMP1-14、BioXCell)および抗PD-L1(クローンMPDL3280A[InvivoGen])抗体、ならびにそれらの対応するアイソタイプ対照(ラットIgG2a[クローン2A3、BioXCell]およびmIgG1[クローンMOPC-21、BioXCell])をIP投与した。
【0756】
B16-F10は、TRP2を発現するマウスメラノーマ細胞株であり、2010年に購入した(ATCCCRL-6475、ロット番号58078645)。マスターおよび作業細胞バンクを、受領直後に遺伝子導入し、そのうちの3回目および4回目の継代を腫瘍実験に使用した。細胞を3ヶ月ごとにマイコプラズマについて試験した。受領後、細胞の再確認は行わなかった。
【0757】
3×10個のB16-F10腫瘍細胞を右側腹部にSC接種した。腫瘍サイズを、式(a2×b)/2(a、幅;b、長さ)を使用して腫瘍体積を計算するために、3~4日ごとにノギスを用いて非盲検で測定した。健康障害の徴候を示した場合、または腫瘍の長さが15mmを超えた場合、動物を安楽死させた。
【0758】
採血は、顔面静脈を介して、または後眼窩神経叢から行った。簡単に記載すると、事前の麻酔なしに、顔面静脈を介して血液をサンプリングした。マウスをしっかりと保持し、ランセットを使用して、顔面静脈を正確かつ短い動きで穿刺した。後眼窩洞からの採血のために、Oとイソフルランの混合物(2.5%)を含む誘導チャンバ内でマウスを麻酔し、後眼窩神経叢にガラスマイクロヘマトクリットチューブを穿刺した。フローサイトメトリー用のヘパリンチューブに血液を採取した。続いて、拘束グリップを緩めた。
【0759】
脾臓採取のために、マウスを安楽死させ、70%エタノールで消毒し、腹部切開から始めて解剖を行った。脾臓を収集し、その後の単一細胞調製物のために氷上でPBS中に保存した。
【0760】
単一細胞懸濁液を標準的な手順に従って調製した。シリンジのプランジャを用いて70μmセルストレーナで脾臓をすり潰して、脾細胞をチューブ内に放出した。細胞を過剰量のPBSで洗浄し、続いて周囲温度で6分間、300×gで遠心分離し、上清を廃棄した。赤血球溶解緩衝液(154mM NHCl、10mM KHCO、0.1mM EDTA)を用いて、周囲温度で5分間、赤血球を溶解した。過剰量のPBSで反応を停止させた。さらなる洗浄工程の後、細胞をDC培地(RPMI培地1640(1×)+GlutaMAX-I(Life Technologies)、10%FBS、1%NEAA、1%ピルビン酸ナトリウム、0.5%ペニシリン/ストレプトマイシン、50μM 2-メルカプトエタノール)に再懸濁し、再び70μm細胞メッシュを通過させ、計数し、さらなる使用まで4℃で保存した。
【0761】
フローサイトメトリー分析のために、各マウスから採取した50μLの血液を96ウェルプレートに移し、滴定量の抗体で染色した。
【0762】
細胞外染色のために、以下の抗体を使用した:ラット抗マウスCD127(クローンA7R34、eBioscience)、ラット抗マウスCD25(クローンPC61、Biolegend)、ラット抗マウスCD4(クローンRM4-5、BD Bioscience)、ラット抗マウスCD8(クローン5H10、Invitrogen)、ハムスター抗マウスKLRG1(クローン2F1、eBioscience)およびハムスター抗マウスPD-1(クローンJ43、BD Bioscience)。抗原特異的CD8+T細胞の検出のために、OVA257-264(SIINFEKL)特異的CD8+T細胞を検出するためのH2-Kb拘束性MHCテトラマー(MBL Ltd.)およびTRP-2180-188(SVYDFFVWL)特異的CD8+T細胞を検出するためのH-2Kb拘束性MHCテトラマー(MBL Ltd.)を使用した。細胞外染色手順を2~8℃で30分間実施した。その後、BD溶解緩衝液を添加し、混合し、暗所にて周囲温度で6~8分間インキュベートした。遠心分離(5分間、460×g、周囲温度)後、細胞をPBS(5分間、460×g、周囲温度)で1回洗浄し、フロー緩衝液(5mM EDTAおよび5%FBSを補充したPBS)に再懸濁した。試料を測定まで2~8℃で保存した。
【0763】
核内染色のために、細胞を30分間固定し(Fix/Perm緩衝液、FoxP3/転写因子染色緩衝液セット(eBioscience))、2~8℃で30分間透過処理した(Perm緩衝液、FoxP3/転写因子染色緩衝液セット[eBioscience])。透過処理した細胞をFcブロックで細胞内処理し、Perm緩衝液中のラット抗マウスFoxP3(クローンFJK-16s、Invitrogen)で2~8℃で30分間染色した。細胞をPBS(5分間、460×g、4℃)で2回洗浄し、フロー緩衝液に再懸濁した。試料を測定まで2~8℃で保存した。
【0764】
T細胞の細胞内サイトカイン染色のために、4×10個の脾臓細胞を96ウェルプレートに蒔き、MHCテトラマーで染色して、TRP-2180-188(SVYDFFVWL)特異的CD8+T細胞を検出した。その後、細胞を、2μg/mLの最終濃度のTRP-2180-188(SVYDFFVWL)ペプチドまたは対照としての細胞培養培地(ペプチドなし)を用いてエクスビボで再刺激した。細胞を、10μg/mLの最終濃度のブレフェルジンA(Sigma-Aldrich)、GolgiStopおよびGolgiPlug(いずれもBD Bioscience)の存在下で5時間再刺激した。細胞をFixable Viability Dye(eBioscience)で染色し、フロー緩衝液(2%ウシ胎児血清[FCS]、2mM EDTA[いずれもSigma]および0.01%アジ化ナトリウム[Morphisto]を添加したダルベッコのリン酸緩衝生理食塩水[Gibco])中Fcブロックの存在下、2~8℃で30分間、上記の直接標識抗体で表面マーカに対して細胞外染色した。細胞をPBS(5分間、460×g、4℃)で1回洗浄し、30分間固定し(Fix/Perm緩衝液、FoxP3/転写因子染色緩衝液セット(eBioscience))、2~8℃で30分間透過処理した(Perm緩衝液、FoxP3/転写因子染色緩衝液セット[eBioscience])。透過処理した細胞をFcブロックで細胞内処理し、Perm緩衝液中のラット抗マウスINFγ(クローンXMG1.2、BD Bioscience)で2~8℃で30分間染色した。細胞をPBS(5分間、460×g、4℃)で2回洗浄し、フロー緩衝液に再懸濁した。試料を測定まで2~8℃で保存した。
【0765】
BD Canto IIまたはBD LSRFortessaフローサイトメータでデータを取得し、FlowJoソフトウェアバージョン10.3およびGraphPad Prism 9で分析した。
【0766】
実施例3:modRNAによるワクチン接種は、uRNAによるワクチン接種と比較して、ワクチン誘導抗原特異的CD8+T細胞上のPD-1発現の増強をもたらす
PD-1はT細胞上の阻害性表面受容体であり、活性化すると上方制御される。腫瘍における腫瘍特異的T細胞上のこの免疫チェックポイントの持続的発現は、これらのT細胞が腫瘍細胞上のそれらのリガンドPD-L1に結合するので、T細胞疲弊に関連することが示されている。抗PD-1または抗PD-L1抗体による免疫チェックポイント阻害(CPI)は、阻害性PD-1/PD-L1軸の確立を防ぎ、抗腫瘍免疫応答を再活性化または増強することができる。いくつかのPD-1/PD-L1特異的抗体が、メラノーマおよび他の固形腫瘍の処置のために承認されている。
【0767】
高いPD-1発現を有するT細胞は、高い抗原親和性を有すると考えられる。その結果、特にこれらのPD-1+T細胞は、PD-1/PD-L1軸の阻害から利益を得るはずである。
【0768】
本発明者らはまず、ワクチン誘導ワクチン抗原特異的CD8+T細胞におけるPD-1の発現レベルに対するヌクレオシド修飾およびdsRNA精製の影響を決定した。
【0769】
C57BL/6マウス(n=3/群および時点)に、H-2Kb拘束性エピトープOVA257-264(SIINFEKL)をコードするmodRNAまたはuRNAからなる20μgのRNA-LPXを0日目および7日目にIVで2回ワクチン接種した。対照マウスにNaClを投与した。ワクチン誘導OVA特異的CD8+T細胞上のPD-1の発現を、各ワクチン接種の3、5および7日後に脾臓で分析した。2回目のワクチン接種の5日後に、ワクチン誘導OVA特異的CD8+T細胞上のPD-1の発現を血液中で分析した。PD-1発現をフローサイトメトリーによって測定した(実施例2参照)。
【0770】
抗原特異的CD8+T細胞は脾臓で測定可能であり、全CD8+T細胞の割合はワクチン接種の5日後という早い段階で1%超であった(図1a)。uRNAによるワクチン接種後、対照マウスにおける全CD8+T細胞の約2%と比較して、抗原特異的CD8+T細胞の平均68%がPD-1を発現した。対照的に、modRNAによるワクチン接種によって誘導した場合、抗原特異的CD8+T細胞の平均80%がPD-1を発現した。uRNA誘導PD-1+画分とmodRNA誘導PD-1+画分との間の差は、7日目まで続いた。2回目のワクチン接種時に、PD-1+抗原特異的CD8+T細胞の画分は、uRNAに応答して低下し(平均40%;10日目)、一方、modRNAに応答してさらに増加した(平均88%;10日目)。おそらく、PD-1+抗原特異的CD8+T細胞がワクチン接種後3日目頃に脾臓を出て循環に入り始めるため、PD-1+細胞の画分はこの時点後に低下した。
【0771】
抗原特異的CD8+T細胞上のPD-1の発現レベルを分析すると、非常に類似した差が検出され(図1b)、uRNAによるワクチン接種は、対照マウスの全CD8+T細胞上のPD-1発現(平均MFI 125;3日目)と比較して、抗原特異的CD8+T細胞上のPD-1の発現増加をもたらした(平均MFI 1,256)。modRNAによるワクチン接種に応答して、抗原特異的CD8+T細胞上のPD-1発現は明らかに増強された(平均MFI 2,298)。7日目に、発現レベルの差は同様であった。2回目のワクチン接種時に、PD-1発現はuRNAに応答して減少したが(平均MFI 898;10日目)、modRNAに応答してさらにわずかに増加した(平均MFI 2,531;10日目)。
【0772】
これらの観察と一致して、2回目のワクチン接種の5日後に血液中で検出可能な抗原特異的T細胞は、uRNAと比較してmodRNAによるワクチン接種によって誘導された場合、より高いレベルのPD-1を発現した(平均MFI 1,198対448;図1c)。
【0773】
まとめると、modRNAによるワクチン接種は、ワクチン誘導抗原特異的CD8+T細胞の中のPD-1+細胞の割合を増加させるだけでなく、この集団におけるPD-1発現レベルを増強する。
【0774】
実施例4:modRNAワクチン接種の効力は、特に自己抗原に対してワクチン接種する場合、チェックポイント遮断との組合せによって増強される
腫瘍細胞に加えて、抗原提示細胞は、T細胞プライミング中にPD-L1を一時的に発現する。抗原特異的CD8+T細胞上のPD-1発現がプライミング中に実質的に上昇することを発見したので(実施例3参照)、本発明者らは、これらのT細胞が抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体による処理から利益を得るかどうかを調査しようと努めた。
【0775】
C57BL/6マウス(n=5/群)に、H-2Kb拘束性エピトープOVA257-264(SIINFEKL)をコードするmodRNAからなる1または10μgのRNA-LPXを(0日目、7日目、14日目、21日目、28日目)にIVで5回ワクチン接種し、200μgの抗PD-L1抗体で同時にIP処置した。対照マウスにmodRNAおよびアイソタイプ、またはNaClを投与した。2回目のワクチン接種以降、各ワクチン接種の5日後(12、19、26および33日目)、血液中の抗原特異的CD8+T細胞をフローサイトメトリーによって分析した(実施例2参照)。
【0776】
1μgのmodRNA単独によるワクチン接種は、抗原特異的CD8+T細胞を誘導し、その割合は、4回目のワクチン接種後に平均20%のプラトーに達するまでさらなるワクチン接種ごとに増加した(26日目;図2a、左)。対照的に、modRNAワクチン接種と付随する抗PD-L1抗体処置との組合せは、抗原特異的CD8+T細胞の誘導を増強し、modRNA単独と比較して各時点で抗原特異的CD8+T細胞の割合をおよそ2倍(約1.7~2.2倍)にした。
【0777】
10μgのmodRNA単独によるワクチン接種は、抗原特異的CD8+T細胞の誘導において1μgよりもはるかに強力であり、最初のプライミング期(2回のワクチン接種後、12日目)後の全CD8+T細胞の平均割合は、6%と比較して、18%であった(図2a、右)。抗原特異的CD8+T細胞は、3回目のワクチン接種で37%の平均割合までさらに増加した。より高い用量のmodRNAは、低用量単独よりもはるかに高い割合の抗原特異的CD8+T細胞を誘導することができたが、抗原特異的CD8+T細胞の割合は、modRNAと抗PD-L1抗体処理との組合せからさらに利益を得て、約1.5~2.3倍の割合増加をもたらした。
【0778】
自己抗原は、外来(病原体由来、変異)抗原とは対照的に、中枢性および末梢性寛容機構によって望ましくないT細胞攻撃から保護される。それらは腫瘍細胞によっても発現されるので、主にワクチン抗原として作用することができる。これらの耐性機構を克服し、腫瘍に対するそのような自己反応性T細胞を増殖させるために、強力な治療が必要である。
【0779】
本発明者らは、modRNAとCPIとの組合せが自己抗原に対するT細胞応答を増強することができるかどうかを決定することに着手した。
【0780】
C57BL/6マウス(n=5/群)に、ヒトTRP2のMHCクラスII提示エピトープであるTRP88-102(RKFFHRTCKCTGNFA)に融合したTRP2180-188(SVYDFFVWL)をコードするmodRNAからなる20μgのRNA-LPXを(0日目、7日目、14日目、21日目、28日目)にIVで5回ワクチン接種し、250μgの抗PD-1抗体で同時にIP処置した。対照マウスにmodRNAおよびアイソタイプ、またはNaClを投与した。3回目のワクチン接種後を除いて各ワクチン接種の5日後(5、12、26、および33日目)、血液中の抗原特異的CD8+T細胞をフローサイトメトリーによって分析した(実施例2参照)。
【0781】
抗PD-1抗体を伴うまたは伴わないmodRNAによるワクチン接種は、1回目のワクチン接種から対照レベルを超える自己抗原特異的CD8+T細胞の検出可能な割合を誘導し、これはさらなるワクチン接種ごとに増加した。注目すべきことに、modRNAワクチン接種と抗PD-1抗体処置との組合せは、外来抗原に対するワクチン接種で観察された所見を確認することができた(図2a参照)。抗PD-1抗体との組合せは、自己抗原特異的CD8+T細胞の割合をmodRNA単独によって誘導された割合を超えて増加させ、5回のワクチン接種後には、全CD8+T細胞中の自己抗原特異的CD8+T細胞の最大の平均割合16%に達した(33日目、図2b)。特に興味深いことに、自己抗原特異的CD8+T細胞の割合は、modRNA単独によって誘導される割合の4倍超であり、modRNAワクチン接種とCPIとの組合せが自己抗原に対する寛容を克服するのに特に適している可能性があることを示唆している。
【0782】
要約すると、腫瘍抗原特異的CD8+T細胞を誘導するmodRNAワクチン接種の効力は、CPIとの組合せから明らかに利益を得ており、2つの組合せは、自己抗原に対してワクチン接種する場合に特に興味深い可能性がある。
【0783】
実施例5:modRNAワクチン接種とチェックポイント遮断との組合せは、modRNAワクチン接種単独と比較して治療的抗腫瘍活性を増強する
本発明者らは、CPIによる処置が、modRNAワクチン接種によって誘導される抗原特異的CD8+T細胞免疫、特に自己抗原に対する抗原特異的CD8+T細胞免疫を増強することを見出した(実施例4参照)。この知見により、本発明者らは、治療的抗腫瘍活性に対するこの組合せの影響を調査することを試みた。
【0784】
C57BL/6マウス(n=10/群)にB16-F10腫瘍細胞をSC接種し、腫瘍接種後9日目から65日目まで、ヒトTRP2のMHCクラスII提示エピトープであるTRP88-102(RKFFHRTCKCTGNFA)に融合したTRP2180-188(SVYDFFVWL)をコードするmodRNAからなる10μgのRNA-LPXをIVで毎週ワクチン接種した。マウスを抗PD-L1抗体またはアイソタイプ対照(初回処置:10mg/kg、連続処置:5mg/kg)で同時にIP処置した。対照マウスには、抗PD-L1抗体と共に対照RNAを投与した。実施例2に記載するように腫瘍成長を監視した。
【0785】
modRNAのみをワクチン接種したマウスは、腫瘍成長を制御することができず(図3a)、生存期間の中央値は28日であった(図3b)。しかしながら、modRNAと抗PD-L1抗体との組合せは、腫瘍の成長を遅延させ、37日の生存期間中央値をもたらした。注目すべきことに、この組合せは、1匹のマウスにおいて長期生存をもたらし、このマウスは100日目まで継続した処置を受け、175日目まで生存した。抗PD-L1抗体単独では、modRNA単独と同様の腫瘍成長動態を示し、modRNA単独とmodRNAと抗PD-L1抗体との組合せとの間の生存期間中央値を示した(34日間)。
【0786】
結論として、modRNAワクチン接種とCPIとの組合せは、(自己)抗原特異的CD8+T細胞の誘導を増強し、これは治療的抗腫瘍活性の増強と相関する。
【0787】
実施例6:modRNAワクチン接種とチェックポイント遮断との組合せへのIL-2の添加は、二重の組合せと比較して、抗原特異的CD8+T細胞の誘導および治療的抗腫瘍活性を増強する
modRNAワクチン接種とCPIとの組合せがmodRNA単独と比較して改善された抗腫瘍活性を提供することができることを示したので(実施例5参照)、本発明者らは次に、重要なT細胞サイトカインIL-2の添加が抗原特異的CD8+T細胞免疫および治療的抗腫瘍活性をさらに促進し得るかどうかを調査した。
【0788】
C57BL/6マウス(n=7/群)に、ヒトTRP2のMHCクラスII提示エピトープであるTRP88-102(RKFFHRTCKCTGNFA)に融合したTRP2180-188(SVYDFFVWL)をコードするmodRNAからなる20μgのRNA-LPXを(0日目、7日目、14日目)にIVで3回ワクチン接種し、2回目および3回目のワクチン接種と同時に、10mg/kgの抗PD-1抗体またはアイソタイプ対照をIPで、および3μgのIL-2またはアルブミン対照をIVで処置した。対照マウスにNaClを投与した。3回目のワクチン接種の5日後(19日目)、血液中および脾臓中の抗原特異的CD8+T細胞をフローサイトメトリーによって分析した(実施例2参照)。
【0789】
modRNAと抗PD-1抗体との組合せによるワクチン接種は、3回のワクチン接種後の血液中の全CD8+T細胞の中の6%の抗原特異的CD8+T細胞の平均割合を誘導した(19日目;図4a、左)。この組合せへのIL-2の添加により、抗原特異的CD8+T細胞の割合が平均45%まで高まった。同様に、modRNAワクチン接種および抗PD-1抗体によって誘導された9%抗原特異的CD8+T細胞の平均割合は、脾臓で約5倍~41%増加した(図4a、右)。
【0790】
三重の組合せに応答した強力な拡大により、modRNAワクチン接種および抗PD-1と比較して、制御性T細胞対抗原特異的CD8+T細胞の比は1.6から6.4へと大幅に増加した(図4b)。
【0791】
興味深いことに、IL-2の添加により、modRNAワクチン接種と抗PD-1との二重の組合せと比較して、同族ペプチドでエクスビボ再刺激した場合、全CD8+T細胞のIFNγ分泌抗原特異的CD8+T細胞の割合が拡大した(図4c)。
【0792】
これらの知見は、三重の組合せが機能的(自己)抗原特異的CD8+T細胞の生成において優れていることを示している。
【0793】
次に、本発明者らは、これらの効果が治療的抗腫瘍活性の改善につながるかどうかを決定した。
【0794】
C57BL/6マウス(n=10/群)にB16-F10腫瘍細胞をSC接種し、腫瘍接種後8日目から91日目まで、ヒトTRP2のMHCクラスII提示エピトープであるTRP88-102(RKFFHRTCKCTGNFA)に融合したTRP2180-188(SVYDFFVWL)をコードするmodRNAからなる10μgのRNA-LPXをIVで毎週ワクチン接種した。マウスを抗PD-L1抗体(初回処置:10mg/kg、連続処置:5mg/kg)で同時にIP処置し、各ワクチン接種/抗PD-L1処置の2日後に1μgのIL-2またはアルブミン対照でIV処置した。実施例2に記載するように腫瘍成長を監視した。
【0795】
抗PD-L1抗体処置と組み合わせたmodRNAによるワクチン接種により、一部のマウスにおいて腫瘍成長が遅延し、1匹の完全奏効が認められた(図5a)。対照的に、二重の組合せへのIL-2の添加により、完全奏効数が3匹に増加し、全生存率が10から30%に増加した(図5b)。
【0796】
驚くべきことに、IL-2を含む三重の組合せは、治療によって誘導された自己反応性CD8+T細胞が、TRP2を発現する腫瘍細胞だけでなくTRP2を発現する健常メラノサイトも死滅させた結果として、進行性白斑をもたらした(図5c)。IL-2を含まないmodRNAワクチン接種と抗PD-L1療法との二重の組合せでは、白斑は観察されなかった。
【0797】
自己免疫の誘導は、三重の組合せが自己抗原に対するT細胞寛容を破壊することができることを印象的に示し、治療によって誘導された抗原特異的CD8+T細胞の強度および細胞傷害力を可視化する。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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【国際調査報告】