(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-16
(54)【発明の名称】ヒト化抗C5a抗体とその利用
(51)【国際特許分類】
C07K 16/18 20060101AFI20241008BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20241008BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20241008BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20241008BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20241008BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20241008BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20241008BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20241008BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20241008BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20241008BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241008BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20241008BHJP
A61P 13/00 20060101ALI20241008BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20241008BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20241008BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20241008BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20241008BHJP
A61P 19/00 20060101ALI20241008BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20241008BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20241008BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20241008BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20241008BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
C07K16/18 ZNA
C12N15/13
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
C12Q1/02
A61K39/395 N
A61K39/395 D
A61P43/00
A61P1/00
A61P13/00
A61P17/00
A61P11/00
A61P25/00
A61P31/00
A61P19/00
A61P21/00
A61P9/00
A61P7/00
A61P29/00
A61P27/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024519667
(86)(22)【出願日】2022-09-28
(85)【翻訳文提出日】2024-05-27
(86)【国際出願番号】 CN2022122283
(87)【国際公開番号】W WO2023051642
(87)【国際公開日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2021/121959
(32)【優先日】2021-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500429103
【氏名又は名称】ザ トラスティーズ オブ ザ ユニバーシティ オブ ペンシルバニア
(71)【出願人】
【識別番号】524119532
【氏名又は名称】キラ ファーマシューティカルズ(スーチョウ)リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100225598
【氏名又は名称】桐島 拓也
(72)【発明者】
【氏名】ピン ツイ
(72)【発明者】
【氏名】チャン チアンチュン
(72)【発明者】
【氏名】チュー シーホア
(72)【発明者】
【氏名】チー シーカン
(72)【発明者】
【氏名】ウェンチャオ ソン
(72)【発明者】
【氏名】三輪 隆史
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 さやか
(72)【発明者】
【氏名】ダモダラ ラオ グッリパッリ
【テーマコード(参考)】
4B063
4B064
4B065
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA19
4B063QQ08
4B063QR48
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4B065AA01X
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4C085AA14
4C085BB11
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA09
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
ヒト化抗C5a抗体を用いて補体シグナル伝達の阻害が提供される。個体における補体関連疾患または補体関連障害を、前記個体を前記ヒト化抗C5a抗体と接触させることによって治療する方法が提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトのC5aとC5に特異的に結合する単離されたヒト化抗体であって、変異I48M、D54E、およびN56Wを含む重鎖可変ドメイン(VH)と、変異D28EとD30Fを含む軽鎖可変ドメイン(VL)を含む(ただし前記VH変異はKabat番号付けシステムの下で配列番号1を参照し、前記VL変異はKabat番号付けシステムの下で配列番号2を参照する)とともに、
i)配列番号3のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1(「H-CDR1」)、または1、2、または3個のアミノ酸置換を含むそのバリアント;
ii)配列番号4のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2(「H-CDR2」)、または1、2、または3個のアミノ酸置換を含むそのバリアント;
iii)配列番号5のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3(「H-CDR3」)、または1、2、または3個のアミノ酸置換を含むそのバリアント;
iv)配列番号6のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1(「L-CDR1」)、または1、2、または3個のアミノ酸置換を含むそのバリアント;
v)配列番号7のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2(「L-CDR2」)、または1、2、または3個のアミノ酸置換を含むそのバリアント;および
vi)配列番号8のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3(「L-CDR3」)、または1、2、または3個のアミノ酸置換を含むそのバリアントを含む抗体。
【請求項2】
VH内の変異F29Hと前記VL内の変異Y96Hをさらに含む(ただし前記VH変異はKabat番号付けシステムの下で配列番号1を参照し、前記VL変異はKabat番号付けシステムの下で配列番号2を参照する)、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
前記VHまたはVLの中に置換をさらに含む、請求項2に記載の抗体。
【請求項4】
前記変異の選択が、VHのE54H、VHのN97H、VLのN92Hからなるグループからなされる(ただし前記VH変異はKabat番号付けシステムの下で配列番号1を参照し、前記VL変異はKabat番号付けシステムの下で配列番号2を参照する)、請求項3に記載の抗体。
【請求項5】
i)配列番号9のアミノ酸配列を含むVH、または配列番号9と少なくとも約85%一致するそのバリアントと;
ii)配列番号10のアミノ酸配列を含むVL、または配列番号10と少なくとも約85%一致するそのバリアントを含む、請求項1に記載の抗体。
【請求項6】
i)配列番号11のアミノ酸配列を含むH-CDR1;
ii)配列番号12のアミノ酸配列を含むH-CDR2;
iii)配列番号13のアミノ酸配列を含むH-CDR3;
iv)配列番号14のアミノ酸配列を含むL-CDR1;
v)配列番号15のアミノ酸配列を含むL-CDR2;および
vi)配列番号16のアミノ酸配列を含むL-CDR3を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項7】
i)アミノ酸配列配列番号17を含むVHと;
ii)配列番号18のアミノ酸配列を含むVLを含む、請求項6に記載の抗体。
【請求項8】
i)配列番号19のアミノ酸配列を含むH-CDR1;
ii)配列番号20のアミノ酸配列を含むH-CDR2;
iii)配列番号21のアミノ酸配列を含むH-CDR3;
iv)配列番号22のアミノ酸配列を含むL-CDR1;
v)配列番号23のアミノ酸配列を含むL-CDR2;および
vi)配列番号24のアミノ酸配列を含むL-CDR3を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項9】
i)アミノ酸配列配列番号25を含むVHと;
ii)配列番号26のアミノ酸配列を含むVLを含む、請求項8に記載の抗体。
【請求項10】
i)配列番号27のアミノ酸配列を含むH-CDR1;
ii)配列番号28のアミノ酸配列を含むH-CDR2;
iii)配列番号29のアミノ酸配列を含むH-CDR3;
iv)配列番号30のアミノ酸配列を含むL-CDR1;
v)配列番号31のアミノ酸配列を含むL-CDR2;および
vi)配列番号32のアミノ酸配列を含むL-CDR3を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項11】
i)アミノ酸配列配列番号33を含むVHと;
ii)配列番号34のアミノ酸配列を含むVLを含む、請求項10に記載の抗体。
【請求項12】
完全長抗体、Fab、Fab’、F(ab)2、F(ab’)2、およびscFvからなるグループから選択される、請求項1~11のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項13】
Fc領域をさらに含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項14】
前記Fc領域がIgG4配列を含む、請求項13に記載の抗体。
【請求項15】
前記Fc領域が配列番号43のアミノ酸配列またはそのバリアントを含む、請求項14に記載の抗体。
【請求項16】
前記Fc領域が、S228P、M428L、およびN434Aからなるグループから選択される1つ以上の変異を含む(ただし前記変異はEU番号付けシステムの下で配列番号43と比較する)、請求項15に記載の抗体。
【請求項17】
前記Fc領域が変異S228P、M428L、およびN434Aを含む、請求項16に記載の抗体。
【請求項18】
前記Fc領域が配列番号44のアミノ酸配列を含む、請求項17に記載の抗体。
【請求項19】
請求項1~18のいずれか1項に記載の抗体において、C5から解離する前記抗体の低pH解離因子が約40%~約70%である、抗体。
【請求項20】
請求項1~19のいずれか1項に記載の抗体において、C5から解離する前記抗体の中性pH解離因子が約0%~約10%である、抗体。
【請求項21】
中性pH解離に対する低pH解離の比が6以上である、請求項1~20のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項22】
ヒトのC5aとC5aRの間の結合を阻害する、請求項1~21のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項23】
ヒトにおいて少なくとも約25日間の血清半減期を持つ、請求項1~22のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項24】
CHO細胞の中で作製される、請求項1~23のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項25】
配列番号46~53のいずれか1つの配列を含む、請求項1~24のいずれか1項に記載の抗体をコードする核酸。
【請求項26】
請求項25に記載の核酸を含むベクター。
【請求項27】
請求項26に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項28】
請求項1~27のいずれか1項に記載の抗体を、細胞による前記抗体の発現を可能にするのに十分な条件下で生成させる方法。
【請求項29】
請求項1~24のいずれか1項に記載の抗体と、医薬として許容可能な基剤とを含む医薬組成物。
【請求項30】
補体関連の疾患または状態を持つ個体を治療する方法であって、請求項29に記載の医薬組成物を有効な量で前記個体に投与することを含む方法。
【請求項31】
前記疾患または障害の選択が、黄斑変性症(MD)、加齢性黄斑変性症(AMD)、虚血再灌流損傷、関節炎、関節リウマチ、ループス、潰瘍性大腸炎、脳卒中、術後の全身性炎症性症候群、喘息、アレルギー性喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)症候群、自己免疫性溶血性貧血(AIHA)、ゴーシェ病、重症筋無力症、視神経脊髄炎、(NMO)、多発性硬化症、移植後臓器機能障害、抗体関連型拒絶反応、非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、網膜中心静脈閉塞症(CRVO)、網膜中心動脈閉塞症(CRAO)、表皮水泡症、敗血症、敗血症性ショック、臓器移植、炎症(その非限定的な例に、心肺バイパス手術と腎臓透析に関連する炎症が含まれる)、C3腎症、膜性腎症、IgA腎症、糸球体腎炎(その非限定的な例に、抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連糸球体腎炎、ループス腎炎、およびこれらの組み合わせが含まれる)、ANCA関連血管炎、志賀毒素誘導性HUS、および抗リン脂質抗体誘導性妊娠喪失、移植片対宿主病(GVHD)、水泡性類天疱瘡、化膿性汗腺炎、疱疹状皮膚炎、スウィート症候群、壊疽性膿皮症、掌蹠膿胞症と膿胞性乾癬、リウマチ性好中球性皮膚症、角層下膿胞症、腸関連皮膚症-関節炎症候群、好中球性エクリン汗腺炎、線状IgA病、またはこれらの任意の組み合わせからなるグループから少なくともなされる、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
個体において補体系の活性を低下させる方法であって、請求項29に記載の医薬組成物を有効な量で前記個体に投与することを含む方法。
【請求項33】
カニクイザルのC5aまたはC5と交差反応する、請求項1~24のいずれか1項に記載の抗体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連する出願の相互参照
本出願は、2021年9月29日に出願された国際特許出願PCT/CN2021/121959の優先権と恩恵を主張するものであり、その開示はその全体が参照によって本明細書に組み込まれている。
【0002】
ASCIIテキストファイルでの配列リストの提出
ASCIIテキストファイルでの以下の提出物の内容はその全体が参照によって本明細書に組み込まれている:コンピュータ可読形態(CRF)の配列リスト(ファイル名:792252000941SEQLIST.TXT、記録日:2022年9月26日、サイズ:88,835バイト)。
【0003】
本発明はヒト化抗C5a抗体とその利用に関する。
【背景技術】
【0004】
補体系は宿主防御において重要な役割を果たす自然免疫の一部である。しかし活性化された補体は組織の顕著な損傷と破壊を引き起こす可能性も持っており、調節異常の補体活性は多くの稀な疾患とありふれた疾患(発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、非典型溶血性尿毒症症候群、関節リウマチ、加齢性黄斑変性症など)と関係していることが見いだされている。したがって抗補体療法は、ヒトのこれらの障害を治療する1つの有望なやり方である。
【0005】
補体C5は補体活性化の末端経路における極めて重要なタンパク質であるとともに、強力な炎症促進メディエータC5aのほか、細胞溶解性の膜侵襲複合体(MAC)であるC5b-9を生成させる前駆体タンパク質である。
【0006】
いくつかの補体関連疾患では、C5aとMACの両方を媒介とするプロセスが発症に寄与する可能性があるのに対し、他の疾患では、C5a関連の炎症またはMAC関連の細胞損傷だけが関与する可能性がある。補体メディエータは、C5aとMACを含め、病原体感染に対する宿主防御において重要な役割も果たしているため、治療薬の開発では、選択的である抗補体薬、すなわち組織損傷における補体の有害な効果だけを阻止しつつ、その正常な宿主防御機能を完全なまま残す薬を開発することが望ましい。
【0007】
溶血性疾患PNHはMACによって起こる。PNHを治療するための他の抗C5 mAbが存在している。しかしこれらの抗体はC5aの産生を不必要に阻止し、患者が感染するリスクを、MACだけを阻止する治療薬よりもより大きくする。同様に、C5a依存性炎症(例えば敗血症)によって主に媒介される可能性がある補体関連疾患が存在しており、そのような状態については、抗C5 mAb薬が有効であることが期待される一方で、副作用としてMACを不必要に阻止する可能性がある。
【0008】
そのため、C5aが媒介する活性を阻害できるがMAC活性は阻止しない抗ヒトC5a mAbが本分野で必要とされている。本発明は、これらの必要性と他の必要性に対処する。
【0009】
本明細書で引用されているあらゆる参考文献は、特許出願、特許出願公開、およびGenbankアクセッション番号を含め、個別の参考文献が、それぞれの個別の参考文献の全体が具体的かつ個別に参照によって組み込まれていることが示されているかのようにして、参照により組み込まれている。
【発明の概要】
【0010】
本出願により、ヒト化抗C5a抗体が、pHに依存してC5aとC5(C5aの前駆体であり、これには抗体も結合するが、抗体が機能を阻止することはない)に結合するヒト化抗C5a抗体を含め、提供される。
【0011】
いくつかの実施形態では、ヒトのC5aとC5に特異的に結合する単離されたヒト化抗体であって、変異I48M、D54E、およびN56Wを含む重鎖可変ドメイン(VH)と、変異D28EとD30Fを含む軽鎖可変ドメイン(VL)を含む抗体が提供される(ただし前記VH変異はKabat番号付けシステムの下で配列番号1を参照し、前記VL変異はKabat番号付けシステムの下で配列番号2を参照する)。いくつかの実施形態では、前記抗体は、i)配列番号3のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1(「H-CDR1」)、または1、2、または3個のアミノ酸置換を含むそのバリアント;ii)配列番号4のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2(「H-CDR2」)、または1、2、または3個のアミノ酸置換を含むそのバリアント;iii)配列番号5のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3(「H-CDR3」)、または1、2、または3個のアミノ酸置換を含むそのバリアント;iv)配列番号6のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1(「L-CDR1」)、または1、2、または3個のアミノ酸置換を含むそのバリアント;v)配列番号7のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2(「L-CDR2」)、または1、2、または3個のアミノ酸置換を含むそのバリアント;およびvi)配列番号8のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3(「L-CDR3」)、または1、2、または3個、またはアミノ酸置換を含むそのバリアントを含む。
【0012】
いくつかの実施形態では、前記抗体は、VH内の変異F29HとVL内の変異Y96Hをさらに含む(ただし前記VH変異はKabat番号付けシステムの下で配列番号1を参照し、前記VL変異はKabat番号付けシステムの下で配列番号2を参照する)。
【0013】
いくつかの実施形態では、前記抗体はVHまたはVLの中に追加の置換をさらに含む。いくつかの実施形態では、前記変異は、VHのE54H、VHのN97H、およびVLのN92Hからなるグループから選択される(ただし前記VH変異はKabat番号付けシステムの下で配列番号1を参照し、前記VL変異はKabat番号付けシステムの下で配列番号2を参照する)。
【0014】
いくつかの実施形態では、前記抗体は、i)アミノ酸配列配列番号9を含むVH、または配列番号9と少なくとも約85%(例えば少なくとも約90%、95%、96%、97%、98%、または99%のいずれか)一致するそのバリアント;およびii)配列番号10のアミノ酸配列を含むVL、配列番号10と少なくとも約85%(例えば少なくとも約90%、95%、96%、97%、98%、または99%のいずれか)一致するそのバリアントを含む。
【0015】
いくつかの実施形態では、前記抗体は、i)配列番号11のアミノ酸配列を含むH-CDR1;ii)配列番号12のアミノ酸配列を含むH-CDR2;iii)配列番号13のアミノ酸配列を含むH-CDR3;iv)配列番号14のアミノ酸配列を含むL-CDR1;v)配列番号15のアミノ酸配列を含むL-CDR2;およびvi)配列番号16のアミノ酸配列を含むL-CDR3を含む。
【0016】
いくつかの実施形態では、前記抗体は、i)アミノ酸配列配列番号17を含むVHと、ii)配列番号18のアミノ酸配列を含むVLを含む。
【0017】
いくつかの実施形態では、前記抗体は、i)配列番号19のアミノ酸配列を含むH-CDR1;ii)配列番号20のアミノ酸配列を含むH-CDR2;iii)配列番号21のアミノ酸配列を含むH-CDR3;iv)配列番号22のアミノ酸配列を含むL-CDR1;v)配列番号23のアミノ酸配列を含むL-CDR2;およびvi)配列番号24のアミノ酸配列を含むL-CDR3を含む。
【0018】
いくつかの実施形態では、前記抗体は、i)アミノ酸配列配列番号25を含むVHと、ii)配列番号26のアミノ酸配列を含むVLを含む。
【0019】
いくつかの実施形態では、前記抗体は、i)配列番号27のアミノ酸配列を含むH-CDR1;ii)配列番号28のアミノ酸配列を含むH-CDR2;iii)配列番号29のアミノ酸配列を含むH-CDR3;iv)配列番号30のアミノ酸配列を含むL-CDR1;v)配列番号31のアミノ酸配列を含むL-CDR2;およびvi)配列番号32のアミノ酸配列を含むL-CDR3を含む。
【0020】
いくつかの実施形態では、前記抗体は、i)アミノ酸配列配列番号33を含むVHと、ii)配列番号34のアミノ酸配列を含むVLを含む。
【0021】
本明細書に記載の抗体のいずれか1つに従ういくつかの実施形態では、前記抗体は、完全長抗体、Fab、Fab’、F(ab)2、F(ab’)2、およびscFvからなるグループから選択される。
【0022】
いくつかの実施形態では、前記抗体はFc領域をさらに含む。いくつかの実施形態では、Fc領域はIgG4配列を含む。いくつかの実施形態では、前記Fc領域は、配列番号43のアミノ酸配列またはそのバリアントを含む。いくつかの実施形態では、前記Fc領域は、S228P、M428L、およびN434Aからなるグループから選択される1つ以上の変異を含む(ただし変異はEU番号付けシステムの下で配列番号43と比較する)。いくつかの実施形態では、前記Fc領域は変異S228P、M428L、およびN434Aを含む。いくつかの実施形態では、前記Fc領域は配列番号44のアミノ酸配列を含む。
【0023】
本明細書に記載の抗体のいずれか1つに従ういくつかの実施形態では、C5から解離する抗体の中性pH解離因子は約40%~約70%である。いくつかの実施形態では、C5から解離する抗体の中性pH解離因子は約0%~約10%である。いくつかの実施形態では、中性pH解離に対する中性pH解離の比は6以上である。
【0024】
いくつかの実施形態では、前記抗体はヒトのC5aとC5aRの間の結合を阻害する。
【0025】
いくつかの実施形態では、前記抗体はヒトにおいて少なくとも約25日間の血清半減期を持つ。
【0026】
いくつかの実施形態では、前記抗体はCHO細胞の中で作製される。
【0027】
いくつかの実施形態では、配列番号46~53のいずれか1つの配列を含む、本明細書に記載の抗体のいずれか1つをコードする核酸が提供される。
【0028】
いくつかの実施形態では、配列番号46~53のいずれか1つの核酸を含むベクターが提供される。
【0029】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の抗体のいずれか1つを、細胞によるその抗体の発現を可能にするのに十分な条件下で生成させる方法が提供される。
【0030】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の抗体のいずれか1つと、医薬として許容可能な基剤とを含む医薬組成物が提供される。
【0031】
いくつかの実施形態では、補体関連の疾患または状態を持つ個体を治療する方法として、その個体に、本明細書に記載の医薬組成物を有効な量で投与することを含む方法が提供される。いくつかの実施形態では、前記の疾患または障害の選択は、黄斑変性症(MD)、加齢性黄斑変性症(AMD)、虚血再灌流損傷、関節炎、関節リウマチ、ループス、潰瘍性大腸炎、脳卒中、術後の全身性炎症性症候群、喘息、アレルギー性喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)症候群、自己免疫性溶血性貧血(AIHA)、ゴーシェ病、重症筋無力症、視神経脊髄炎、(NMO)、多発性硬化症、移植後臓器機能障害、抗体関連型拒絶反応、非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、網膜中心静脈閉塞症(CRVO)、網膜中心動脈閉塞症(CRAO)、表皮水泡症、敗血症、敗血症性ショック、臓器移植、炎症(その非限定的な例に、心肺バイパス手術と腎臓透析に関連する炎症が含まれる)、C3腎症、膜性腎症、IgA腎症、糸球体腎炎(その非限定的な例に、抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連糸球体腎炎、ループス腎炎、およびこれらの組み合わせが含まれる)、ANCA関連血管炎、志賀毒素誘導性HUS、および抗リン脂質抗体誘導性妊娠喪失、移植片対宿主病(GVHD)、水泡性類天疱瘡、化膿性汗腺炎、疱疹状皮膚炎、スウィート症候群、壊疽性膿皮症、掌蹠膿胞症と膿胞性乾癬、リウマチ性好中球性皮膚症、角層下膿胞症、腸関連皮膚症-関節炎症候群、好中球性エクリン汗腺炎、線状IgA病、またはこれらの任意の組み合わせからなるグループから少なくともなされる。
【0032】
いくつかの実施形態では、個体における補体系の活性を低下させる方法として、その個体に、本明細書に記載の医薬組成物を有効な量で投与することを含む方法が提供される。
【0033】
本明細書に記載の抗体のいずれか1つに従ういくつかの実施形態では、前記抗体はカニクイザルのC5aまたはC5と交差反応する。
【0034】
本発明のこれら側面および他の側面と利点は、以下の詳細な記述と添付の請求項から明らかになろう。本明細書に記載されているさまざまな実施形態の特性の1つ、いくつか、またはすべてを組み合わせて本発明の他の実施形態を形成できることを理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1A】
図1Aは、カニクイザル抗原を用いた抗C5aコンストラクトの組み合わせ変異体scFvでの親和性ランキングELISAの結果を示す。
【
図1B】
図1Bは、カニクイザル抗原を用いた抗C5aコンストラクトの組み合わせ変異体scFvでの親和性ランキングELISAの結果を示す。
【0036】
【
図2A】
図2Aは、ヒト抗原を用いた抗C5aコンストラクトの組み合わせ変異体scFvでの親和性ランキングELISAの結果を示す。
【
図2B】
図2Bは、ヒト抗原を用いた抗C5aコンストラクトの組み合わせ変異体scFvでの親和性ランキングELISAの結果を示す。
【0037】
【
図3】
図3は、C5aへの抗C5a抗体の結合の特徴づけの結果を示す。4つのヒト化抗C5aコンストラクト(16D10、E54、N92、およびN97)を段階希釈し、C5aであらかじめ被覆したプレートに添加し、OD450をマイクロプレートリーダーによって450nmで測定した。各データ点は2つの反復実験の平均である。
【0038】
【
図4】
図4は、ヒツジRBC溶解アッセイにおける抗C5a抗体のインビトロ活性の結果を示す。抗体で感作したヒツジRBCを異なる濃度の抗C5a抗体の存在下で5%の正常なヒト血清とともにインキュベートした。OD405をマイクロプレートリーダーによって405nmで測定した。
【0039】
【
図5】
図5は、リガンド阻止アッセイにおける抗C5a抗体のインビトロ活性を示す。高対照:抗C5a抗体なしでのビオチニル化C5aの結合の蛍光シグナル;低対照:ビオチニル化されたC5aなしでの細胞だけの蛍光シグナル。
【0040】
【
図6】
図6は、C5aRを発現しているU937細胞を用いたヒトC5aが誘導する移動アッセイにおける抗C5a抗体のインビトロ活性を示す。
【0041】
【
図7】
図7は、C5a依存性細胞内カルシウム動員アッセイにおける蛍光イメージングプレートリーダー(FLIPR)での抗C5a抗体のインビトロ活性を示す。
【0042】
【
図8】
図8は、ヒトC5への抗C5a抗体の結合の特徴づけを示す。
【0043】
【
図9】
図9は、pH5.8とpH7.4での組み換えE54、N97、N92、およびWT(16D10)に対するヒトC5の会合と解離のGatorトレーシングを示す。
【0044】
【
図10】
図10は、pH5.8とpH7.4で組み換えE54、N97、N92、およびWT(16D10)のピーク値から解離したC5の割合(%)を示す。
【0045】
【
図11】
図11は、C5/FcRn-ヒト化SCIDマウスにおける抗C5a抗体の薬物動態プロファイルを示す。
【0046】
【
図12】
図12は、抗C5a抗体を1回静脈内投与した後のさまざまな時点におけるC5/FcRn-ヒト化SCIDマウス血清中中のヒトC5タンパク質のウエスタンブロットを示す。
【0047】
【
図13】
図13は、抗C5a抗体を25mg/kgで1回静脈内注射した後のC5/FcRn-ヒト化SCIDマウス血清中のヒトC5タンパク質を検出するためのサンドイッチELISAの結果を示す。
【0048】
【
図14】
図14は、C5が欠損した正常なヒト血清を用いたヒツジRBC溶解アッセイにおけるC5滴定の結果を示す。
【0049】
【
図15】
図15は、C5が欠損した正常なヒト血清を用いたウサギRBC溶解アッセイにおけるC5滴定の結果を示す。
【0050】
【
図16】
図16は、カニクイザル(用量群ごとに1匹の雄と1匹の雌)に5、10、30mg/kgで静脈内投与した単回用量のN92Hを示す。濃度はELISA法を利用して求めた。
【0051】
【
図17】
図17は、カニクイザル(1匹の雄と1匹の雌)に5mg/kgで静脈内投与した単回用量のN92Hを示す。CD11bの発現は、10nMと30nMのC5aで全血サンプルを刺激することによって生体外で測定した。
【0052】
【
図18】
図18は、N92Hの輸液後6時間(hr)、2、7、および14日の時点にC5a(10μg/kg)を静脈内投与することを示す。血液サンプルをC5a注射の1分前と1分後に回収し、好中球をカウントした。
【0053】
【
図19】
図19は、C5aを注射してから1分後に回収した血液中の好中球の数の変化率を、C5aを注射する1分前に回収したサンプルと比較して示す。それぞれの棒は、2匹の個別のサルからの平均値±標準誤差を表わす。N92Hをあらかじめ投与されたカニクイザルはC5aが誘導する好中球減少症の完全な阻害を示し、この救済効果は少なくとも14日間持続することができる。
【発明を実施するための形態】
【0054】
本発明は、ヒト化抗C5a抗体を用いた補体シグナル伝達の阻害に関する。他の実施形態では、本発明は、C5aタンパク質の機能を特異的に阻害することによって補体シグナル伝達カスケードを阻害する一方で、C5-bを媒介とする補体経路の乱れを最少にすることに向けられている。一実施形態では、本発明は、望まない、制御されない、または過剰な補体活性化に関連する炎症と、自己免疫の疾患および障害の治療と予防の方法に向けられている。一実施形態では、本発明は、個体における補体関連疾患または補体関連障害を、前記個体をヒト化抗C5a抗体と接触させることによって治療することに向けられている。
【0055】
さまざまな実施形態では、本発明は、個体における補体関連疾患または補体関連障害を、前記個体を抗C5a抗体と接触させることによって治療するための組成物と方法に向けられている。本発明の組成物と方法で治療することのできる補体関連疾患と障害の非限定的な例に含まれるのは、黄斑変性症(MD)、加齢性黄斑変性症(AMD)、虚血再灌流損傷、関節炎、関節リウマチ、ループス、潰瘍性大腸炎、脳卒中、術後の全身性炎症性症候群、喘息、アレルギー性喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)症候群、自己免疫性溶血性貧血(AIHA)、ゴーシェ病、重症筋無力症、視神経脊髄炎、(NMO)、多発性硬化症、移植後臓器機能障害、抗体関連型拒絶反応、非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、網膜中心静脈閉塞症(CRVO)、網膜中心動脈閉塞症(CRAO)、表皮水泡症、敗血症、敗血症性ショック、臓器移植、炎症(その非限定的な例に、心肺バイパス手術と腎臓透析に関連する炎症が含まれる)、C3腎症、膜性腎症、IgA腎症、糸球体腎炎(その非限定的な例に、抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連糸球体腎炎、ループス腎炎、およびこれらの組み合わせが含まれる)、ANCA関連血管炎、志賀毒素誘導性HUS、および抗リン脂質抗体誘導性妊娠喪失、移植片対宿主病(GVHD)、またはこれらの任意の組みあわせである。
【0056】
本出願により、重鎖可変ドメイン(VH)と軽鎖可変ドメイン(VL)を含んでいて、ヒトC5aに特異的に結合してその機能を阻害する新規なヒト化抗ヒトC5a抗体が提供される。いくつかの側面では、抗C5a抗体は、そのVHドメインおよび/またはVLドメインの中に変異を含有する。1つの側面では、VHとVLの中の変異は、抗原への抗体の結合をpH感受性にする。
【0057】
別の1つの側面では、抗C5a抗体またはそのコンストラクトの任意の1つ以上を投与することによって補体活性化を阻害する方法、および/または疾患(補体関連疾患など)を治療する方法が提供される。
【0058】
別の1つの側面では、抗C5a抗体またはそのコンストラクトの任意の1つ以上をコードする代表的な核酸のほか、そのような核酸を含むベクターまたは宿主細胞が提供される。抗C5a抗体を作製する方法も記載されている。
【0059】
I.定義
特に断わらない限り、本明細書で使用される科学技術用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を持つ。本明細書に記載されているのと類似しているか同等なあらゆる方法と材料を用いて本発明を実行または試験することができるが、代表的な方法と材料が記載されている。
【0060】
本明細書では、「治療」または「治療している」は、臨床結果を含む有利な結果または望む結果を得るためのアプローチである。本出願の目的では、有利な、または望む臨床結果の非限定的な例に含まれるのは、疾患から生じる1つ多い症状の減少、疾患の程度の低下、疾患の安定化(例えば疾患の悪化の阻止または遅延)、疾患の広がりの阻止または遅延、疾患の発生または再発の阻止または遅延、疾患進行の遅延または鈍化、疾患状態の改善、疾患の(部分的または全面的な)寛解の提供、疾患の治療に必要な1つ以上の他の薬物の用量の減少、疾患進行の遅延、生活の質の向上、および/または生存の延長のうちの1つ以上である。「治療」にやはり包含されるのは、疾患の病理学的結果の減少である。本出願の方法は、治療のこれら側面の任意の1つ以上を考慮する。
【0061】
「有効な量」と「医薬として有効な量」という用語は、本明細書では、望む生物学的結果を提供するのに十分な量の薬剤を意味する。その結果は、疾患または障害の徴候、症状、または原因の低減および/または緩和、または生物系の他の望む変化のいずれかが可能である。
【0062】
本明細書では、「患者」、「対象」、「個体」などの用語は交換可能に使用され、補体系を持つ任意の動物を意味し、いくつかの実施形態では哺乳類を意味し、いくつかの実施形態ではヒトを意味し、その中には、ある状態またはその後遺症のために治療を必要とするヒト、またはある状態またはその後遺症に対して感受性のあるヒトが含まれる。個体に含めることができるのは、例えばイヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ラット、サル、マウス、およびヒトである。いくつかの実施形態では、個体はヒトである。
【0063】
「抗体」という用語は、本明細書では、最も広い意味で用いられてさまざまな抗体構造を包含し、その非限定的な例に含まれるのは、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、および望む抗原結合活性を示す抗体断片である。
【0064】
「抗体」は、抗原の特定のエピトープ(基本的な4鎖抗体ユニットを含む)に特異的に結合することのできる免疫グロブリン分子またはその断片を意味することができる。抗体として、天然の供給源、または組み換え供給源に由来するインタクトな免疫グロブリンと、インタクトな免疫グロブリンの免疫反応性部分が可能である。本発明の抗体は多彩な形態で存在することができ、形態に含まれるのは、例えばポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、細胞内抗体(「イントラボディ」)、抗原結合断片(Fv、Fab、Fab’、F(ab)2、およびF(ab’)2など)のほか、一本鎖抗体(scFv)、重鎖抗体(ラクダ抗体など)、およびヒト化抗体である(Harlow et al., 1999, Using Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, NY;Harlow et al., 1989, Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor, New York;Houston et al., 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5879-5883;Bird et al., 1988, Science 242:423-426)。
【0065】
「抗原結合断片」という用語は、本明細書では抗体断片を意味し、その中に含まれるのは、例えばディアボディ、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv断片、ジスルフィド安定化Fv断片(dsFv)、(dsFv)2、二重特異性dsFv(dsFv-dsFv’)、ジスルフィド安定化ディアボディ(dsディアボディ)、一本鎖Fv(scFv)、scFv二量体(2価ディアボディ)、1つ以上のCDRを含む抗体の一部から形成される多重特異性抗体、ラクダ化単一ドメイン抗体、ナノボディ、ドメイン抗体、2価ドメイン抗体、または抗原に結合するが完全な抗体構造は含まない他の任意の抗体断片である。抗原結合断片は、親抗体または親抗体断片(例えば親scFv)が結合するのと同じ抗原に結合することができる。いくつかの実施形態では、抗原結合断片は、1つ以上の異なるヒト抗体からのフレームワーク領域にグラフトされた特定のヒト抗体からの1つ以上のCDRを含むことができる。
【0066】
「Fv」は最小抗体断片であり、1つの完全な抗原認識・抗原結合部位を含有する。この断片は、1つの重鎖と1つの軽鎖の可変領域ドメインが緊密に非共有会合した二量体からなる。これら2つのドメインの折り畳みから、抗原に結合するためのアミノ酸残基に寄与して抗原結合特異性を抗体に与える6つの超可変ループ(重鎖と軽鎖からそれぞれ3つのループ)が生じる。しかし単一の可変ドメイン(または抗原に対して特異的な3つのCDRだけを含む、Fvの半分)でさえ、結合部位全体よりも小さい親和性だが、抗原を認識してその抗原に結合する能力を持つ。
【0067】
「一本鎖Fv」は、「sFv」または「scFv」とも略され、接続されて単一のポリペプチド鎖になったVHとVLの抗体ドメインを含む抗体断片である。いくつかの実施形態では、scFvポリペプチドはVHドメインとVLドメインの間にポリペプチドリンカーをさらに含み、このリンカーにより、scFvが、抗原への結合に望ましい構造を形成することを可能にする。scFvの概説については、The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, vol. 113, Rosenburg and Moore eds., Springer-Verlag, New York, pp. 269-315 (1994)の中のPluckthunを参照されたい。
【0068】
基本的な4鎖抗体ユニットは、2つの同じ軽(L)鎖と2つの同じ重(H)鎖から構成されるヘテロ四量体糖タンパク質である。IgM抗体は、5つのこの基本的なヘテロ四量体ユニットに加えてJ鎖と呼ばれる追加のポリペプチドからなり、10個の抗原結合部位を含有するのに対し、IgA抗体は2~5個の基本的な4鎖ユニットを含み、それらがJ鎖と組み合わさって重合して多価集合体を形成することができる。IgGの場合には、4鎖ユニットは一般に約150,000ダルトンである。各L鎖は1つの共有ジスルフィド結合によってH鎖に連結されているのに対し、2つのH鎖は、H鎖アイソタイプに応じて1つ以上のジスルフィド結合によって互いに連結されている。それぞれのH鎖とL鎖は規則的な間隔の鎖内ジスルフィド架橋も持つ。各H鎖は、N末端に可変ドメイン(VH)を持ち、その後に、α鎖とγ鎖のそれぞれのための3つの定常ドメイン(CH)と、アイソタイプμとεのための4つのCHドメインが続く。各L鎖はN末端に可変ドメイン(VL)を持ち、その後に、他端に位置する定常ドメインが続く。VLはVHと揃い、CLは重鎖の第1の定常ドメイン(CH1)と揃う。特定のアミノ酸残基が軽鎖と重鎖の可変ドメインの間のインターフェイスを形成すると考えられている。VHとVLを合わせてペアにすると単一の抗原結合部位が形成される。異なるクラスの抗体の構造と特性については、例えばBasic and Clinical Immunology, 8th Edition, Daniel P. Sties, Abba I. Terr and Tristram G. Parsolw (eds), Appleton & Lange, Norwalk, Conn., 1994、71ページと第6章を参照されたい。任意の脊椎動物種からのL鎖を、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づき、カッパとラムダと呼ばれる2つの明らかに異なるタイプの一方に割り当てることができる。免疫グロブリンは、その重鎖(CH)の定常ドメインのアミノ酸配列に応じて異なるクラスまたはアイソタイプに割り当てることができる。5つのクラスの免疫グロブリン、すなわちIgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMが存在しており、それぞれα、δ、ε、γ、およびμと名づけられた重鎖を持つ。クラスγとαは、CH配列と機能の比較的わずかな違いに基づいてさらにサブクラスへと分類され、例えばヒトは以下のサブクラス、すなわちIgG1、IgG2A、IgG2B、IgG3、IgG4、IgA1、およびIgA2を発現する。
【0069】
Fc断片は、ジスルフィドによって一体となって保持された両方のH鎖のカルボキシ末端部分を含む。抗体のエフェクタ機能はFc領域内の配列によって決まる。この領域は、あるタイプの細胞の表面に見られるFc受容体(FcR)によっても認識される。
【0070】
「単離された」抗体は、その生成環境(例えば天然または組み換え)の成分から同定され、分離され、および/または回収された抗体である。好ましくは、単離されたポリペプチドは、その生成環境からの他のあらゆる成分と無関係であることが好ましい。その生成環境の汚染成分(組み換えのトランスフェクトされた細胞から生じるものなど)は、典型的には研究、診断、または治療での抗体の利用を妨げると考えられる材料であり、酵素、ホルモン、および他のタンパク質性または非タンパク質性の溶質を含む可能性がある。好ましい実施形態では、ポリペプチドは精製され、(1)例えばローリー法によって求めたとき95重量%超の抗体に、そしていくつかの実施形態では99重量%超の抗体になる;(2)スピニングカップシークエネータの使用によってN末端または内部アミノ酸配列の少なくとも15残基を得るのに十分な程度になる、または(3)クマシーブルーまたは銀染色(後者が好ましい)を用いた非還元条件または還元条件でのSDS-PAGEによって均一になる。単離された抗体には、組み換え細胞そのものの中の抗体が含まれる。というのもその抗体の天然環境の少なくとも1つの成分は存在しないであろうからである。しかし通常は、単離されたポリペプチドまたは抗体は、少なくとも1つの精製工程によって調製される。
【0071】
抗体の「可変領域」または「可変ドメイン」は、抗体の重鎖または軽鎖のアミノ末端ドメインを意味する。重鎖と軽鎖の可変ドメインはそれぞれ「VH」と「VL」と呼ぶことができる。これらドメインは一般に(同じクラスの他の抗体と比べて)抗体の可変性最大部であり、抗原結合部位を含有する。ラクダ科の種からの重鎖だけの抗体は単一の重鎖可変領域を持ち、それを「VHH」と呼ぶ。したがってVHHは特別なタイプのVHである。
【0072】
「可変」という用語は、可変ドメイン内のある区画の配列が抗体間で大きく異なるという事実を意味する。Vドメインは抗原への結合を媒介し、特定の抗体の、対応する抗原に対する特異性を規定する。しかし可変性は可変ドメインの広がり全体に均一に分布してはいない。その代わりに、可変性は、軽鎖と重鎖両方の可変ドメインの中の超可変領域(HVR)と呼ばれる3つの区画に集中している。可変ドメインのより保存された部分はフレームワーク領域(FR)と呼ばれる。天然の重鎖と軽鎖の可変ドメインは、それぞれ、たいていベータ-シート構造を採用していて3つのHVRによって接続された4つのFR領域を含み、それらHVRは前記ベータ-シート構造を接続するループを形成し、いくつかのケースでは前記ベータ-シート構造の一部を形成する。それぞれの鎖の中のHVRはFR領域によって互いに近接して保持され、他方の鎖からのHVRと合わさって抗体の抗原結合部位の形成に寄与する(Kabat et al., Sequences of Immunological Interest, Fifth Edition, National Institute of Health, Bethesda, Md. (1991)参照)。定常ドメインは抗原への抗体の結合に直接関与はしないが、さまざまなエフェクタ機能(抗体依存性細胞傷害への抗体の関与など)を示す。
【0073】
「モノクローナル抗体」という用語は、本明細書では、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体を意味する。すなわちその集団を含む個別の抗体は、微量で存在する可能性がある可能な天然の変異および/または翻訳後修飾(例えば異性化、アミド化)を除いて同一である。モノクローナル抗体は高度に特異的であり、単一の抗原部位に向かう。典型的には異なる決定基(エピトープ)に向かう異なる抗体を含むポリクローナル抗体調製物とは異なり、各モノクローナル抗体は抗原上の単一の決定基に向かう。モノクローナル抗体は、その特異性に加え、他の免疫グロブリンによって汚染されていないハイブリドーマ培養物によって合成されるという点で有利である。「モノクローナル」という修飾語は、抗体の実質的に均一な集団から得られるという抗体の特徴を示しており、どれか特定の方法による抗体の生成を必要とすると解釈すべきではない。例えば本出願に従って利用されるモノクローナル抗体は多彩な技術によって作製され、技術に含まれるのは、例えばハイブリドーマ法(例えばKohler and Milstein., Nature, 256:495-97 (1975);Hongo et al., Hybridoma, 14 (3): 253-260 (1995)、Harlow et al., Antibodies: A Laboratory Manual, (Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2nd ed. 1988);Hammerling et al., in: Monoclonal Antibodies and T-Cell Hybridomas 563-681 (Elsevier, N.Y., 1981))、組み換えDNA法(例えばアメリカ合衆国特許第4,816,567号参照)、ファージ提示技術(例えばClackson et al., Nature, 352: 624-628 (1991);Marks et al., J. Mol. Biol. 222: 581-597 (1992);Sidhu et al., J. Mol. Biol. 338(2): 299-310 (2004);Lee et al., J. Mol. Biol. 340(5): 1073-1093 (2004);Fellouse, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101(34): 12467-12472 (2004);およびLee et al., J. Immunol. Methods 284(1-2): 119-132 (2004)参照、およびヒト免疫グロブリン遺伝子座、またはヒト免疫グロブリン配列をコードする遺伝子の一部または全部を持つ動物の中でヒト抗体またはヒト様抗体を生成させるための技術(例えばWO 1998/24893;WO 1996/34096;WO 1996/33735;WO 1991/10741;Jakobovits et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 2551 (1993);Jakobovits et al., Nature 362: 255-258 (1993);Bruggemann et al., Year in Immunol. 7:33 (1993);アメリカ合衆国特許第5,545,807号;第5,545,806号;第5,569,825号;第5,625,126号;第5,633,425号;および第5,661,016号;Marks et al., Bio/Technology 10: 779-783 (1992);Lonberg et al., Nature 368: 856-859 (1994);Morrison, Nature 368: 812-813 (1994);Fishwild et al., Nature Biotechnol. 14: 845-851 (1996);Neuberger, Nature Biotechnol. 14: 826 (1996);およびLonberg and Huszar, Intern. Rev. Immunol. 13: 65-93 (1995)を参照されたいである。
【0074】
「完全長抗体」、「インタクト抗体」、または「全抗体」という用語は交換可能に用いられ、抗体断片とは異なり実質的にインタクトな形態の抗体を意味する。具体的には、完全長4鎖抗体には、Fc領域を含む重鎖と軽鎖を持つ抗体が含まれる。定常ドメインとして、天然配列定常ドメイン(例えば天然ヒト配列定常ドメイン)またはそのアミノ酸配列バリアントが可能である。いくつかの場合には、インタクト抗体は1つ以上のエフェクタ機能を持つことができる。
【0075】
「ディアボディ」という用語は、VHドメインとVLドメインの間に短いリンカー(約5~10個の)残基)を持つsFv断片(前段落参照)を構成することによって調製される小さな抗体断片を意味し、Vドメインの鎖内ではなく鎖間のペアリングが実現されることによって2価断片(すなわち2つの抗原結合部位を持つ断片)が得られる。二重特異性ディアボディは、2つの「クロスオーバー」sFv断片のヘテロ二量体であり、その中の2つの抗体のVHドメインとVLドメインは異なるポリペプチド鎖上に存在する。ディアボディがより詳しく記載されているのは、例えばEP 404,097;WO 93/11161;Hollinger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 6444-6448 (1993)である。
【0076】
本明細書のモノクローナル抗体には特に、「キメラ抗体」(その中の重鎖および/または軽鎖の一部は、特定の種に由来するか特定の抗体クラスまたはサブクラスに属する抗体の中の対応する配列と同じであるか相同であるのに対し、鎖の残部は、別の種に由来するか別の抗体クラスまたはサブクラスに属する抗体の中の対応する配列と同一または相同である)のほか、そのような抗体の断片が含まれるが、それらが望む生物活性を示すことが条件である(アメリカ合衆国特許第4,816,567号;Morrison et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81:6851-6855 (1984))。本明細書の興味あるキメラ抗体には、抗原結合領域が、例えばマカクザルを興味ある抗原で免疫化することによって生成する抗体に由来するPRIMATTZFD(登録商標)抗体が含まれる。本明細書では、「ヒト化抗体」は「キメラ抗体」のサブセットとして使用される。
【0077】
非ヒト(例えばマウス)抗体の「ヒト化」形態は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列を含有するキメラ抗体である。いくつかの実施形態では、ヒト化抗体は、レシピエントのHVR(あとで定義する)からの残基が、望む特異性、親和性、および/または能力を持つ非ヒト種(ドナー抗体)(マウス、ラット、ウサギ、または非ヒト霊長類など)のHVRからの残基で置き換えられたヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。いくつかの場合には、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク(「FR」)残基が対応する非ヒト残基によって置換される。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体またはドナー抗体に見られない残基を含む可能性がある。これらの修飾は、抗体の性能(結合親和性など)をさらに洗練させるためになすことができる。一般にヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的にすべてを含み、可変ドメインの中では超可変ループのすべて、または実質的にすべてが非ヒト免疫グロブリン配列の超可変ループに対応し、FR領域のすべて、または実質的にすべてがヒト免疫グロブリン配列のFR領域であるが、FR領域は、抗体の性能(結合親和性、異性化、免疫原性など)を改善する1つ以上の個別のFR残基の置換を含んでいる可能性がある。FRの中のこれらアミノ酸置換の数は、典型的にはH鎖の中で6以下、L鎖の中で3以下である。ヒト化抗体は場合により免疫グロブリン定常領域(Fc)(典型的にはヒト免疫グロブリンの定常領域)の少なくとも一部も含むことになる。適切なヒトアクセプタ抗体として、従来のデータベース(例えばKABATデータベース、Los Alamosデータベース、AbM、およびSwiss Proteinデータベース)から、ドナー抗体のヌクレオチドとアミノ酸の配列との相同性によって選択されるものが可能である。ドナー抗体のフレームワーク領域との(アミノ酸に基づく)相同性によって特徴づけられるヒト抗体が、ドナーCDRを挿入するための重鎖定常領域および/または重鎖可変フレームワーク領域を提供するのに適している可能性がある。軽鎖定常または可変フレームワーク領域を供与できる適切なアクセプタ抗体を同様にして選択することができる。アクセプタ抗体の重鎖と軽鎖は同じアクセプタ抗体に由来する必要がないことに注意すべきである。先行技術は、そのようなヒト化抗体を生成させるいくつかのやり方を記述している(例えばEP-A-0239400とEP-A-054951参照)。さらなる詳細に関しては、例えばJones et al., Nature 321:522-525 (1986);Riechmann et al., Nature 332:323-329 (1988);およびPresta, Curr. Op. Struct. Biol. 2:593-596 (1992)を参照されたい。例えばVaswani and Hamilton, Ann. Allergy, Asthma & Immunol. 1:105-115 (1998);Harris, Biochem. Soc. Transactions 23:1035-1038 (1995);Hurle and Gross, Curr. Op. Biotech. 5:428-433 (1994);およびアメリカ合衆国特許第6,982,321号と第7,087,409号も参照されたい。
【0078】
「ヒト抗体」は、本明細書に開示されているように、ヒトによって生成された抗体のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を持つ抗体、および/またはヒト抗体を作製する技術のいずれかを利用して作製された抗体である。ヒト抗体のこの定義は特に、非ヒト抗原結合残基を含むヒト化抗体を除外する。ヒト抗体は、本分野で知られているさまざまな技術(ファージ提示ライブラリが含まれる)を利用して生成させることができる。Hoogenboom and Winter, J. Mol. Biol., 227:381 (1991);Marks et al., J. Mol. Biol., 222:581 (1991)。ヒトモノクローナル抗体の調製には、Cole et al., Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, p. 77 (1985);Boerner et al., J. Immunol., 147(1):86-95 (1991)に記載されている方法も利用できる。van Dijk and van de Winkel, Curr. Opin. Pharmacol., 5: 368-74 (2001) も参照されたい。ヒト抗体は、抗原チャレンジに応答してそのような抗体が生成するように改変されているが内在性遺伝子座は不能にされたトランスジェニック動物(例えば免疫化されたゼノマウス(例えばXENOMOUSE(商標)技術に関するアメリカ合衆国特許第6,075,181号と第6,150,584号を参照されたい)に抗原を投与することによって調製することができる。例えばヒトB細胞ハイブリドーマ技術によって生成するヒト抗体に関するLi et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 103:3557-3562 (2006)も参照されたい。
【0079】
「ドナー抗体」という用語は、その可変領域、CDR、またはそのそれ以外の機能性断片または類似体のアミノ酸配列が第1の免疫グロブリンパートナーに寄与する抗体(モノクローナルおよび/または組み換え)を意味し、変化した免疫グロブリンコード領域と、その結果として変化してドナー抗体に特徴的な抗原特異性と中和活性を持って発現する抗体が提供される。
【0080】
「アクセプタ抗体」という用語は、ドナー抗体にとって異種で、重鎖および/または軽鎖のフレームワーク領域、および/または重鎖および/または軽鎖の定常領域をコードするアミノ酸配列のすべて(または任意の部分、しかしいくつかの実施形態ではすべて)が第1の免疫グロブリンパートナーに寄与する抗体(モノクローナルおよび/または組み換え)を意味する。ある実施形態では、ヒト抗体はアクセプタ抗体である。
【0081】
「付着させる」または「付着した」という用語は、本明細書では、2つ以上の成分を合わせて保持するため結合、リンク、力、または紐帯によって接続する、または合体させることを意味し、その中には、直接的または間接的な付着のいずれか、例えば第1のポリペプチドが第2のポリペプチドまたは材料に直接結合する場合と、例えば1つ以上の中間体化合物(例えばアミノ酸、ペプチド、ポリペプチドなど)が第1のポリペプチドと第2のポリペプチドまたは材料の間に配置される場合が包含される。
【0082】
「CDR」は、免疫グロブリンの重鎖と軽鎖の超可変領域である抗体の相補性決定領域のアミノ酸配列と定義される。例えばKabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 4th Ed.、アメリカ合衆国保健福祉省、アメリカ国立衛生研究所(1987)を参照されたい。免疫グロブリンの可変部分には3つの重鎖CDR(またはCDR領域)と3つの軽鎖CDRが存在する。したがって「CDR」は、本明細書では、3つの重鎖CDRすべて、または3つの軽鎖CDRすべて(または適切な場合には、すべての重鎖CDRとすべての軽鎖CDRの両方)を意味する。抗体の構造とタンパク質折り畳みは、他の残基が抗原結合領域の一部と見なされ、当業者によってそのように理解されると考えられることを意味することができる。例えばChothia et al., (1989) Conformations of immunoglobulin hypervariable regions; Nature 342, p 877-883を参照されたい。
【0083】
本明細書では、「イムノアッセイ」は、標的分子を検出して定量するため標的分子に特異的に結合することのできる抗体を用いるあらゆる結合アッセイを意味する。
【0084】
「相補性決定領域」または「CDR」という用語は、Kabatシステムによって定義される超可変領域を指すのに使用される。Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. 公衆衛生局、アメリカ国立衛生研究所、ベセスダ、メリーランド州(1991)を参照されたい。
【0085】
本明細書では、「特異的に結合する」または「に対して特異的」であるという表現は、標的と抗体の間の結合などの測定可能かつ再現性のある相互作用を意味し、そのことが、分子(生物分子が含まれる)の不均一な集団の存在下での標的の存在を決定づける。例えば標的(エピトープが可能)に特異的に結合する抗体は、この標的に、他の標的に結合するよりも大きな親和性で、アビディティで、より容易に、および/または長期間にわたって結合する抗体である。ある実施形態では、標的に特異的に結合する抗体は、1μM以下、100nM以下、10nM以下、1nM以下、または0.1nM以下の解離定数(Kd)を持つ。ある実施形態では、抗体は、異なる種からのタンパク質の間で保存されているタンパク質上のエピトープに特異的に結合する。別の一実施形態では、特異的結合は排他的結合を含むことができるが、排他的結合を必要としない。
【0086】
「特異性」という用語は、抗原結合タンパク質または抗体が抗原の特定のエピトープを選択的に認識することを意味する。例えば天然の抗体は単一特異的である。「多重特異性」という用語は、本明細書では、抗原結合タンパク質または抗体が2つ以上の抗原結合部位を持ち、そのうちの少なくとも2つが異なる抗原、または同じ抗原の異なるエピトープに結合することを表わす。「二重特異性」は、本明細書では、抗原結合タンパク質または抗体が2つの異なる抗原結合特異性を持つことを表わす。「単一特異的」抗体という用語は、本明細書では、1つ以上の結合部位を持ち、そのそれぞれが同じ抗原の同じエピトープに結合する抗体を表わす。
【0087】
「エフェクタ細胞」は、1つ以上のFcRを発現してエフェクタ機能を実行する白血球である。1つの側面では、エフェクタ細胞は少なくともFcγRIIIを発現し、ADCCエフェクタ機能を実行する。ADCCを媒介するヒト白血球の例に含まれるのは、末梢血単核細胞(PBMC)、ナチュラルキラー(NK)細胞、単球、細胞傷害性T細胞、および好中球である。エフェクタ細胞は天然供給源(例えば血液)から単離することができる。エフェクタ細胞は一般にエフェクタ相に付随するリンパ球であり、サイトカインの産生(ヘルパーT細胞)、病原体に感染した細胞の殺傷(細胞傷害性T細胞)、または抗体の分泌(分化したB細胞)の機能がある。
【0088】
「補体依存性細胞傷害」または「CDC」は、補体の存在下における標的細胞の溶解を意味する。古典補体経路の活性化は、補体系(C1q)の第1の成分が、対応するコグネイト抗原に結合した(適切なサブクラスの)抗体に結合することによって始まる。補体活性化を評価するため、例えばGazzano-Santoro et al., J. Immunol. Methods 202: 163 (1996)に記載されているCDCアッセイを実施することができる。変化したFc領域アミノ酸配列と増加または低下したC1q結合能力を持つ抗体バリアントは、アメリカ合衆国特許第6,194,551B1号とWO 99/51642に記載されている。これら特許刊行物の内容は、参照によって本明細書に具体的に組み込まれている。Idusogie et al. J. Immunol. 164: 4178-4184 (2000)も参照されたい。
【0089】
「結合親和性」は一般に、ある分子(例えば抗体)の単一の結合部位とその結合パートナー(例えば抗原)の間の非共有相互作用の総和の強度を意味する。特に断わらない限り、本明細書では、「結合親和性」は、結合ペアのメンバー(例えば抗体と抗原)の間の1:1相互作用を反映した固有の結合親和性を意味する。分子Xの対応するパートナーYに対する親和性は一般に解離定数(Kd)によって表わすことができる。親和性は本分野で知られている一般的な方法によって測定することができ、方法には本明細書に記載の方法が含まれる。低親和性抗体は一般に抗原にゆっくりと結合して容易に解離する傾向があるのに対し、高親和性抗体は一般に抗原により速く結合し、より長く結合したままである傾向がある。結合親和性を測定する多彩な方法が本分野で知られており、そのうちの任意の方法を本出願の目的で利用することができる。結合親和性を測定するための例示的で代表的な具体的実施形態が以下に記載されている。
【0090】
「オン-レート」、「会合の速度」、「会合速度」、または「kon」は、本明細書では、上に記載したように、バイオレイヤー干渉や表面プラズモン共鳴などの方法を利用して求めることもできる。
【0091】
「低pH解離因子」は、本明細書では、pH5.8で抗原から25℃で解離する抗体の割合と定義される(ただし抗体はpH7.4であらかじめ抗原に結合している)。低pH解離因子は、抗体と抗原(例えばヒト化抗C5a抗体とヒトC5)をpH7.4で600秒間会合させた後、pH5.8のバッファの中で解離期間を600秒間にしてpH5.8で抗原から解離した抗体の割合を計算することによって測定できる。「中性pH解離因子」は、pH7.4で抗原から25℃で解離する抗体の割合と定義される(ただし抗体はpH7.4で抗原にあらかじめ結合している)。中性pH解離因子は、抗体と抗原(例えばヒト化抗C5a抗体とヒトC5)をpH7.4で600秒間会合させた後、pH7.4のバッファの中で解離期間を600秒間にしてpH7.4で抗原から解離した抗原の割合を計算することによって測定できる。抗体-抗原の会合と解離は、本分野の技術に含まれるさまざまなやり方(例えばバイオレイヤー干渉)で測定することができる。
【0092】
ペプチド、ポリペプチド、または抗体の配列に関する「パーセント(%)アミノ酸配列一致」と「相同性」は、配列をアラインメントさせ、最大パーセント配列一致を実現するため必要な場合にはギャップを導入した後、配列一致の一部としていかなる保存的置換も考慮しないとき、候補配列の中にあって特定のペプチドまたはポリペプチドの配列の中のアミノ酸残基と一致するアミノ酸残基の割合と定義される。パーセントアミノ酸配列一致を求めることを目的としたアラインメントは、本分野の技術の範囲内のさまざまなやり方で、公開されているコンピュータソフトウエア(BLAST、BLAST-2、ALIGN、またはMEGALIGN(商標)(DNASTAR)というソフトウエアなど)を利用して実現することができる。当業者は、アラインメントを測定するための適切なパラメータ(比較する配列の全長にわたって最大のアラインメントを実現するのに必要なあらゆるアルゴリズムが含まれる)を決定することができる。
【0093】
「単離された」は、天然状態から変化しているか取り出されたことを意味する。例えば生きている対象の通常の文脈で自然に存在する核酸またはペプチドは「単離された」ではないが、天然の文脈の共存する材料から一部または全体が分離された同じ核酸またはペプチドは「単離された」である。単離された核酸またはタンパク質は、実質的に精製された形態で存在すること、または非天然環境(例えば宿主細胞など)に存在することができる。
【0094】
「ハイブリドーマ」という用語は、本明細書では、Bリンパ球と融合パートナー(骨髄腫細胞など)の融合から得られる細胞を意味する。ハイブリドーマは細胞培養物にクローニングしてその中で無限に維持することが可能であり、モノクローナル抗体を生成させることができる。ハイブリドーマはハイブリッド細胞と見なすこともできる。
【0095】
「核酸分子」、「核酸」、および「ポリヌクレオチド」という用語は交換可能に使用でき、ヌクレオチドのポリマーを意味する。ヌクレオチドのこのようなポリマーは天然および/または非天然ヌクレオチドを含有することができ、その非限定的な例に含まれるのは、DNA、RNA、およびPNAである。「核酸配列」は、核酸分子またはポリヌクレオチドを含むヌクレオチドの直線状配列を意味する。「単離された核酸」は、天然状態で隣接している配列から分離された核酸の区画または断片、すなわちDNA断片であって、通常はその断片に隣接している配列(すなわちその断片が自然に生じるゲノム中のその断片に隣接する配列)から取り出されたものを意味する。この用語は、細胞内で自然に付随する核酸(すなわちRNAまたはDNA)またはタンパク質に自然に付随する他の成分から実質的に精製された核酸にも当てはまる。したがってこの用語には、例えばベクター、自律的に複製するプラスミドまたはウイルス、または原核生物または真核生物のゲノムDNAに組み込まれる組み換えDNA、または他の配列とは独立に別の分子として(すなわちPCRまたは制限酵素消化によって生成するcDNAまたはゲノム断片またはcDNA断片として)存在する組み換えDNAが含まれる。この用語には、ハイブリッド遺伝子をコードする追加ポリペプチド配列の一部である組み換えDNAも含まれる。
【0096】
核酸に言及するため本明細書で用いるときの「相補的な」は、2つの核酸鎖の領域の間、または同じ核酸鎖の2つの領域の間の配列相補性の広範な考え方を意味する。第1の核酸領域のアデニン残基が、第1の領域と反平行な第2の核酸領域の残基と特異的な水素結合を形成(「塩基対形成」)できるのは、この残基がチミンまたはウラシルである場合であることが知られている。同様に、第1の核酸鎖のシトシン残基が、第1の鎖と反平行な第2の核酸鎖の残基と塩基対を形成できるのは、この残基がグアニンである場合であることが知られている。核酸の第1の領域が、この核酸または異なる核酸の第2の領域と相補的であるのは、これら2つの領域が反平行に配置されるときに、第1の領域の少なくとも1つのヌクレオチド残基が第2の領域の残基と塩基対を形成できる場合である。いくつかの実施形態では、第1の領域は第1の部分を含み、第2の領域は第2の部分を含み、そのことにより、第1と第2の部分が反平行に配置されるとき、第1の部分のヌクレオチド残基の少なくとも約50%、または少なくとも約75%、または少なくとも約90%、または少なくとも約95%が、第2の部分の中のヌクレオチド残基と塩基対を形成することができる。いくつかの実施形態では、第1の部分の全ヌクレオチド残基が第2の部分のヌクレオチド残基と塩基対を形成することができる。
【0097】
「ベクター」は、本明細書では、複製起点を含有する核酸配列を意味することができる。ベクターとして、プラスミド、バクテリオファージ、細菌人工染色体、または酵母人工染色体が可能である。ベクターとして、DNAベクターまたはRNAベクターが可能である。ベクターはとして、自己複製染色体外ベクター、または宿主ゲノムに組み込まれるベクターのいずれかが可能である。
【0098】
「コードする」は、生物学的プロセスにおいて、規定された配列のヌクレオチド(すなわちrRNA、tRNA、およびmRNA)、または規定された配列のアミノ酸のいずれかを持つ他のポリマーと巨大分子を合成するための鋳型として機能する、ポリヌクレオチドの中のヌクレオチドの特定の配列(遺伝子、cDNA、またはmRNAなど)の固有の特性と、そこから生じる生物学的特性を意味する。したがって1つの遺伝子が1つのタンパク質をコードしているのは、その遺伝子に対応するmRNAの転写と翻訳により細胞または他の生物系の中でそのタンパク質が産生される場合である。コード鎖(そのヌクレオチド配列はmRNA配列と同一であり、通常は配列リストに与えられる)と非コード鎖(遺伝子またはcDNAを転写するための鋳型として使用される)の両方を、その遺伝子またはcDNAのタンパク質または他の産物をコードすると言うことができる。
【0099】
「ポリペプチド」と「ペプチド」という用語は交換可能に用いられ、アミノ酸残基のポリマーを意味し、最小長に限定されない。アミノ酸残基のこのようなポリマーは天然または非天然のアミノ酸残基を含有することができる。完全長タンパク質とその断片の両方が定義に包含される。上記の用語は、ポリペプチドの発現後修飾、例えばグリコシル化、シアリル化、アセチル化、リン酸化なども含む。さらに「ポリペプチド」には、そのポリペプチドが望む活性を維持する限り、天然配列に対する修飾(欠失、付加、および置換(一般に本来的に保存的である)など)が含まれる。これらの修飾は、人為的である(例えば部位特異的突然変異誘発を通じた修飾)か、偶発的である(例えばタンパク質を産生する宿主の変異、またはPCR増幅に起因するエラーを通じた修飾)可能がある。
【0100】
本明細書では、「複合体にされた」は、1つの分子が第2の分子に共有結合していることを意味する。
【0101】
「バリアント」という用語は、本明細書では、配列がそれぞれ参照核酸配列またはペプチド配列と異なるが、参照分子の重要な生物学的特性を保持している核酸配列またはペプチド配列である。核酸バリアントの配列中の変化により、参照核酸によってコードされるペプチドのアミノ酸配列が変化しない可能性、またはアミノ酸の置換、付加、欠失、および短縮が起こる可能性がある。ペプチドバリアントの配列中の変化は、典型的には限定的または保存的であるため、参照ペプチドとバリアントの配列は全体的によく似ており、多くの領域で一致する。バリアントと参照ペプチドは、任意に組み合わされた1つ以上の置換、付加、欠失の分だけアミノ酸配列が異なる可能性がある。核酸またはペプチドのバリアントとして、天然の(例えばアレル)バリアント、または自然に生じることが知られてはいないバリアントが可能である。核酸とペプチドの非天然バリアントは突然変異誘発技術または直接的合成によって作製することができる。さまざまな実施形態では、バリアントの配列は、参照配列と少なくとも99%、少なくとも98%、少なくとも97%、少なくとも96%、少なくとも95%、少なくとも94%、少なくとも93%、少なくとも92%、少なくとも91%、少なくとも90%、少なくとも89%、少なくとも88%、少なくとも87%、少なくとも86%、少なくとも85%一致する。
【0102】
「調節する」という用語は、本明細書では、基質のレベルまたは活性を変化させるあらゆる方法を意味することができる。タンパク質に関する調節の非限定的な例に含まれるのは、発現(転写および/または翻訳を含む)に影響を与えること、折り畳みに影響を与えること、分解またはタンパク質の代謝回転に影響を与えること、およびタンパク質の局在化に影響を与えることである。酵素に関する調節の非限定的な例にさらに含まれるのは、酵素活性に影響を与えることである。「調節物質(regulator)」は、分子であって、その活性に、基質のレベルまたは活性に影響を与えることが含まれるものを意味する。調節物質は直接的または間接的であることが可能である。調節物質は、対応する基質を活性化させる、阻害する、またはそれ以外の変化をさせるよう機能することができる。
【0103】
範囲:本開示を通じ、本発明のさまざまな側面は範囲形式で表わすことができる。範囲形式での記述は単に便宜上と簡潔さのためであり、本発明の範囲に対する融通性のない制限であると解釈されてはならないことを理解すべきである。したがって範囲の記述は、具体的に開示されているすべての可能な下位範囲のほか、その範囲内の個別の数値を持つと見なすべきである。例えば1~6などの範囲の記述は、具体的に開示されている下位範囲(1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6など)のほか、その範囲内の個別の数(例えば1、2、2.7、3、4、5、5.3、および6)を含むと見なすべきである。これは、範囲の幅に関係なく当てはまる。「約」のついた値またはパラメータへの言及は、本明細書では、その値またはパラメータ自体に対する変動を含む(そして記述する)。例えば「約X」に言及する記述に、「X」の記述が含まれる。本明細書では、ある値またはパラメータ「ではない」への言及は、一般に、ある値またはパラメータ「以外」を意味し、記述している。例えば方法がタイプXのがんの治療に使用されないは、その方法がX以外のタイプのがんの治療に用いられることを意味する。「約X~Y」という表現は、本明細書では、「約X~約Y」と同じ意味を持つ。
【0104】
「制御配列」という用語は、機能可能に連結されたコード配列を特定の宿主生物の中で発現させるのに必要なDNA配列を意味する。原核生物に適した制御配列に含まれるのは、例えばプロモータ、場合によりオペレータ配列、およびリボソーム結合部位である。真核細胞は、プロモータ、ポリアデニル化シグナル、およびエンハンサを利用することが知られている。
【0105】
「医薬として許容可能な基剤」は、対象に投与する「医薬組成物」を合わせて含む治療剤とともに使用するための本分野で一般的な非毒性の固体、半固体、または液体の充填剤、希釈剤、カプセル化材料、製剤助剤、または基剤を意味する。医薬として許容可能な基剤は、使用する用量と濃度でレシピエントにとって非毒性であり、製剤の他の成分との適合性がある。医薬として許容可能なその基剤が、使用する製剤にとって適切である。
【0106】
本明細書の興味ある「希釈剤」は、医薬として許容可能(ヒトに投与するのに安全かつ非毒性)であって液体製剤(例えば凍結乾燥後に再構成される製剤)の調製に有用な希釈剤である。代表的な希釈剤に含まれるのは、減菌水、注射のための静菌水(BWFI)、pH緩衝化溶液(例えばリン酸塩緩衝化生理食塩水)、減菌生理食塩水、リンガー溶液、またはデキストロース溶液である。代わりの一実施形態では、希釈剤は、塩の水溶液および/またはバッファを含むことができる。
【0107】
「保存剤」は、細菌活性を低下させるため本明細書の製剤に添加できる化合物である。保存剤を添加すると、例えば多数回使用(多数回用量)製剤の製造を容易にすることができる。潜在的な保存剤の例に含まれるのは、塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム、塩化ヘキサメトニウム、塩化ベンズアルコニウム(アルキル基が長鎖化合物である塩化アルキルベンジルジメチルアンモニウムの混合物)、および塩化ベンゼトニウムである。他のタイプの保存剤に含まれるのは、芳香族アルコール(フェノール、ブチルアルコール、ベンジルアルコールなど)、アルキルパラベン(メチルパラベンまたはプロピルパラベンなど)、カテコール、レゾルシノール、シクロヘキサノール、3-ペンタノール、およびm-クレゾールである。本明細書で最も好ましい保存剤はベンジルアルコールである。
【0108】
「医薬製剤」と「医薬組成物」という用語は、活性成分の生物活性が有効であることを可能にする形態になっていて、その製剤が投与されるはずの対象にとって許容できない毒性がある追加成分を含有しない調製物を意味する。このような製剤は減菌されている可能性がある。
【0109】
「減菌」製剤は無菌であるか、生きた微生物とその胞子が実質的に存在しない。
【0110】
「安定な」製剤は、保管したときその中のタンパク質が本質的にその物理的・化学的安定性と完全性を保持している製剤である。タンパク質の安定性を測定するためのさまざまな分析技術を本分野で利用することができ、それが概説されているのは、Peptide and Protein Drug Delivery, 247-301, Vincent Lee Ed., Marcel Dekker, Inc., New York, N.Y., Pubs. (1991)と、Jones, A. Adv. Drug Delivery Rev. 10: 29-90 (1993)である。安定性は、選択した温度で、選択した期間にわたって測定することができる。迅速なスクリーニングのためには製剤を40℃で2週間~1ヶ月間にわたって保管することができ、その時点で安定性が測定される。製剤を2~8℃で保管する場合には、一般にその製剤は、30℃または40℃で少なくとも1ヶ月間にわたって、および/または2~8℃で少なくとも2年間にわたって安定でなければならない。製剤を30℃で保管する場合には、一般にその製剤は、30℃で少なくとも2年間にわたって、および/または40℃で少なくとも6ヶ月間にわたって安定でなければならない。例えば保管中の凝集の程度をタンパク質の安定性の指標として利用できる。したがって「安定な」製剤として、タンパク質の約10%未満、好ましくは約5%未満が製剤中に凝集体として存在する製剤が可能である。他の実施形態では、製剤を保管している間の凝集体形成のあらゆる増加を明らかにすることができる。
【0111】
「再構成された」製剤は、凍結乾燥されたタンパク質製剤または抗体製剤を希釈剤に溶かしてタンパク質を全体に分散させることによって調製されたものである。再構成された製剤は、興味あるタンパク質で治療すべき患者に投与(例えば皮下投与)するのに適しており、ある実施形態では、非経口投与または静脈内投与に適したものが可能である。
【0112】
「等張」製剤は、ヒト血液と本質的に同じ浸透圧を持つ製剤である。等張製剤は一般に約250~350mOsmの浸透圧を持つであろう。「低張性」という用語は、ヒト血液よりも低い浸透圧を持つ製剤を記述する。それに対応して「高張性」という用語は、ヒト血液よりも高い浸透圧を持つ製剤を記述するのに使用される。等張性は、例えば蒸気圧または氷冷タイプの浸透圧計を用いて測定することができる。本出願の製剤は、塩および/またはバッファを添加する結果として高張性であること可能である。
【0113】
本明細書に記載されている実施形態には、実施形態「からなる」および/または実施形態「から実質的になる」が含まれることを理解すべきである。
【0114】
本明細書と添付の請求項では、単数形「1つの」、「または」、および「その」に複数形が含まれるが、文脈が明らかに異なることを述べている場合は別である。
【0115】
II.抗C5a抗体
本出願により、新規なヒト化抗ヒトC5a抗体とコンストラクトが提供される。いくつかの実施形態では、この抗体は、そのVHドメインおよび/またはVLドメインの中に変異を持つ。いくつかの実施形態では、変異は、抗原への結合において抗体をpH感受性にする。いくつかの実施形態では、抗C5a抗体は、中性pH(例えばpH約7.4;例えば血液で見られるpH)ではより酸性のpH(例えばpH約5.8;例えばエンドソームで見られるpH)よりもC5に抗体がより強く結合するようにすることでC5へのオフ-ターゲット結合を減らすある変異を有する。いくつかの実施形態では、変異はヒスチジン変異である(例えばVHドメイン内の変異F29Hと、VLドメイン内の変異Y96H)。
【0116】
本出願のヒト化C5a抗体は、重鎖可変ドメイン(VH)と軽鎖可変ドメイン(VL)を含む少なくとも1つの抗原結合部分を含む。本明細書で考慮する代表的な抗原結合断片の非限定的な例に含まれるのは、Fab、Fab’、F(ab’)2、およびFv断片;ディアボディ;直線状抗体;一本鎖抗体分子(scFvなど);および抗体断片から形成される多重特異性抗体である。このような抗原結合部分として、2つの重鎖と2つの軽鎖からなる従来の完全長抗体、またはそれに由来する抗原結合断片が可能である。
【0117】
いくつかの実施形態では、ヒト化C5a抗体はVHの中に変異I48M、D54E、およびN56Wを含む(ただし変異はKabat番号付けシステムの下で配列番号1を参照する)。いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体はVLの中に変異D28EとD30Fを含む(ただし変異はKabat番号付けシステムの下で配列番号2を参照する)。いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体は、Kabat番号付けシステムの下で配列番号1を参照すると変異I48M、D54E、およびN56Wを含むVHと、配列番号2を参照すると変異D28EとD30Fを含むVLを含む。いくつかの実施形態では、VHの中に変異I48M、D54E、およびN56Wを含むヒト化抗C5a抗体は、ヒトC5aに対し、配列番号1を含む抗C5a抗体よりも10倍超大きい改善された親和性を持つ。いくつかの実施形態では、VHの中に変異I48M、D54E、およびN56Wを含むヒト化抗C5a抗体は、カニクイザルC5aとの交差種活性を持つ。
【0118】
いくつかの実施形態では、ヒト化C5a抗体は軽鎖の可変ドメイン(VL)の中に1つ以上の追加変異(ヒスチジン変異など)をさらに含む。例えばいくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体は、VHの中の変異F29Hと、VLの中の変異Y96Hを含む。
【0119】
いくつかの実施形態では、ヒト化C5a抗体はVHの中に変異E54HまたはN97Hをさらに含む(ただしVH変異はKabat番号付けシステムの下で配列番号1を参照する:QVQLQQSDAELVKPGASVKISCKVSGYTFTDHIIHWMNQRPEQGLEWIGYIYPRDGNTNYNENFKGKATLTADKSSSTAYMQLNSLTSEDSAVYFCARERNLEYFDYWGQGTTLTVSS(配列番号1))。
【0120】
いくつかの実施形態では、ヒト化C5a抗体は、軽鎖の可変ドメイン(VL)の中に1つ以上の追加変異(ヒスチジン変異など)をさらに含む。例えばいくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体はVLの中に変異N92Hを含む(ただしVL変異はKabat番号付けシステムの下で配列番号2を参照する:DIVLTQSPASLAVSLGQRATISCKASQSVDYDGDNYMNWYQQKPGQPPKLLIYAASNLDSGIPARFSGSGSGTDFTLNIHPVEEEDAATYYCQQSNEDPYTFGGGTKLEIK(配列番号2))。
【0121】
いくつかの実施形態では、ヒト化C5a抗体は、VHのE54H、VHのN97H、およびVLのN92Hからなるグループから選択される変異を含む(ただし前記VH変異はKabat番号付けシステムの下で配列番号1を参照し、前記VL変異はKabat番号付けシステムの下で配列番号2を参照する)。
【0122】
したがっていくつかの実施形態では、ヒト化C5a抗体は、配列番号1を参照すると変異I48M、D54E、およびN56Wを含むVHと、配列番号2を参照すると変異D28EとD30Fを含むVLを含む。いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体は、配列番号1を参照するとVHの中の変異F29Hを、配列番号2を参照するとVLの中の変異Y96Hをさらに含む。いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体は、VHのE54H、VHのN97H、およびVLのN92Hからなるグループから選択される変異をさらに含む(ただし前記VH変異はKabat番号付けシステムの下で配列番号1を参照し、前記VL変異はKabat番号付けシステムの下で配列番号2を参照する)。
【0123】
いくつかの実施形態では、ヒト化C5a抗体はFc領域(ヒトFc領域など)を含む。いくつかの実施形態では、Fc領域はIgG分子(サブクラスIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4のいずれか1つなど)に由来する。いくつかの実施形態では、Fc領域は抗体エフェクタ機能(ADCC(抗体依存性細胞傷害)および/またはCDC(補体依存性細胞傷害)など)を媒介することができる。例えば野生型Fc配列を持つサブクラスIgG1、IgG2、およびIgG3の抗体は通常はCIqとC3への結合を含む補体活性化を示すのに対し、IgG4は補体系を活性化させず、CIqおよび/またはC3に結合しない。いくつかの実施形態では、Fc領域は、Fc受容体へのFc領域の結合親和性を低下させる修飾を含む。いくつかの実施形態では、Fc領域はIgG4 Fcである。いくつかの実施形態では、IgG4 Fc領域は配列番号43のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、IgG4 Fcは変異を含む。例えばArmour KL et al., Eur J. Immunol. 1999; 29: 2613と、Shields RL et al., J. Biol. Chem. 2001; 276: 6591を参照されたい。いくつかの実施形態では、Fc領域は、S228P、M428L、およびN434Aからなるグループから選択される1つ以上の変異を含む(ただし変異はEU番号付けシステムの下で配列番号43と比較する)。いくつかの実施形態では、Fc領域は変異S228P、M428L、およびN434Aを含む。いくつかの実施形態では、IgG4 Fc領域は配列番号44のアミノ酸配列を含む。
【0124】
いくつかの実施形態では、ヒト化C5a抗体(例えば配列番号1を参照すると変異I48M、D54E、およびN56Wを含むVHと、配列番号2を参照すると変異D28EとD30Fを含むVLを含む本明細書に記載のヒト化C5a抗体のいずれか1つ)は、配列番号3のアミノ酸配列、または1、2、または3個のアミノ酸置換を含むそのバリアントを含む重鎖CDR1(「H-CDR1」);配列番号4のアミノ酸配列、または1、2、または3個のアミノ酸置換を含むそのバリアントを含む重鎖CDR2(「H-CDR2」);配列番号5のアミノ酸配列、または1、2、または3個のアミノ酸置換を含むそのバリアントを含む重鎖CDR3(「H-CDR3」);配列番号6のアミノ酸配列、または1、2、または3個のアミノ酸置換を含むそのバリアントを含む軽鎖CDR1(「L-CDR1」);配列番号7のアミノ酸配列、または1、2、または3個のアミノ酸置換を含むそのバリアントを含む軽鎖CDR2(「L-CDR2」);および配列番号8のアミノ酸配列、または1、2、または3個のアミノ酸置換を含むそのバリアントを含む軽鎖CDR3(「L-CDR3」)を含む。いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体は、配列番号3のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1(「H-CDR1」);配列番号4のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2(「H-CDR2」);配列番号5のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3(「H-CDR3」);配列番号6のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1(「L-CDR1」);配列番号7のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2(「L-CDR2」);および配列番号8のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3(「L-CDR3」)を含む。
【0125】
(本明細書に記載のCDR配列とは独立な、またはそれに加えた)いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体は、アミノ酸配列配列番号9を含むVH、または配列番号9とのアミノ酸相同性が少なくとも約60%、70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または99%超のいずれか1つであるそのバリアントと;配列番号10のアミノ酸配列を含むVL、または配列番号10とのアミノ酸相同性が少なくとも約60%、70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または99%超のいずれか1つであるそのバリアントを含む。いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体は、アミノ酸配列配列番号9を含むVHと、配列番号10のアミノ酸配列を含むVLを含む。いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体はFc領域(IgG4のFc領域など)をさらに含む。
【0126】
いくつかの実施形態では、ヒト化C5a抗体(例えば配列番号1を参照すると変異I48M、D54E、およびN56Wを含むVHと、配列番号2を参照すると変異D28EとD30Fを含む本明細書に記載のヒト化C5a抗体のいずれか1つ)は、配列番号11のアミノ酸配列、または1、2、または3個のアミノ酸置換を含むそのバリアントを含む重鎖CDR1(「H-CDR1」);配列番号12のアミノ酸配列、または1、2、または3個のアミノ酸置換を含むそのバリアントを含む重鎖CDR2(「H-CDR2」);配列番号13のアミノ酸配列、または1、2、または3個のアミノ酸置換を含むそのバリアントを含む重鎖CDR3(「H-CDR3」);配列番号14のアミノ酸配列、または1、2、または3個のアミノ酸置換を含むそのバリアントを含む軽鎖CDR1(「L-CDR1」);配列番号15のアミノ酸配列、または1、2、または3個のアミノ酸置換を含むそのバリアントを含む軽鎖CDR2(「L-CDR2」);および配列番号16のアミノ酸配列、または1、2、または3個のアミノ酸置換を含むそのバリアントを含む軽鎖CDR3(「L-CDR3」)を含む。いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体は、配列番号11のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1(「H-CDR1」);配列番号12のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2(「H-CDR2」);配列番号13のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3(「H-CDR3」);配列番号14のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1(「L-CDR1」);配列番号15のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2(「L-CDR2」);および配列番号16のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3(「L-CDR3」)を含む。
【0127】
(本明細書に記載のCDR配列とは独立な、またはそれに加えた)いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体は、アミノ酸配列配列番号17を含むVH、または配列番号17とのアミノ酸相同性が少なくとも約60%、70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または99%超のいずれか1つであるそのバリアントと;配列番号18のアミノ酸配列を含むVL、または配列番号18とのアミノ酸相同性が少なくとも約60%、70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または99%超のいずれか1つであるそのバリアントを含む。いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体は、アミノ酸配列配列番号17を含むVHと、配列番号18のアミノ酸配列を含むVLを含む。いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体はFc領域(IgG4のFc領域など)をさらに含む。
【0128】
いくつかの実施形態では、ヒト化C5a抗体(例えば配列番号1を参照すると変異I48M、D54E、およびN56Wを含むVHと、配列番号2を参照すると変異D28EとD30Fを含むVLを含む本明細書に記載のヒト化抗C5a抗体のいずれか1つ)は、配列番号19のアミノ酸配列、または1、2、または3個のアミノ酸置換を含むそのバリアントを含む重鎖CDR1(「H-CDR1」);配列番号20のアミノ酸配列、または1、2、または3個のアミノ酸置換を含むそのバリアントを含む重鎖CDR2(「H-CDR2」);配列番号21のアミノ酸配列、または1、2、または3個のアミノ酸置換を含むそのバリアントを含む重鎖CDR3(「H-CDR3」);配列番号22のアミノ酸配列、または1、2、または3個のアミノ酸置換を含むそのバリアントを含む軽鎖CDR1(「L-CDR1」);配列番号23のアミノ酸配列、または1、2、または3個のアミノ酸置換を含むそのバリアントを含む軽鎖CDR2(「L-CDR2」);および配列番号24のアミノ酸配列、または1、2、または3個のアミノ酸置換を含むそのバリアントを含む軽鎖CDR3(「L-CDR3」)を含む。いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体は、配列番号19のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1(「H-CDR1」);配列番号20のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2(「H-CDR2」);配列番号21のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3(「H-CDR3」);配列番号22のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1(「L-CDR1」);配列番号23のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2(「L-CDR2」);および配列番号24のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3(「L-CDR3」)を含む。
【0129】
(本明細書に記載のCDR配列とは独立な、またはそれに加えた)いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体は、アミノ酸配列配列番号25を含むVH、または配列番号25とのアミノ酸相同性が少なくとも約60%、70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または99%超のいずれか1つであるそのバリアントと;配列番号26のアミノ酸配列を含むVL、または配列番号26とのアミノ酸相同性が少なくとも約60%、70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または99%超のいずれか1つであるそのバリアントを含む。いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体は、アミノ酸配列配列番号25を含むVHと、配列番号26のアミノ酸配列を含むVLを含む。いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体はFc領域(IgG4のFc領域など)をさらに含む。
【0130】
いくつかの実施形態では、ヒト化C5a抗体(例えば配列番号1を参照すると変異I48M、D54E、およびN56Wを含むVHと、配列番号2を参照すると変異D28EとD30Fを含むVLを含む本明細書に記載のヒト化C5a抗体のいずれか1つ)は、配列番号27のアミノ酸配列、または1、2、または3個のアミノ酸置換を含むそのバリアントを含む重鎖CDR1(「H-CDR1」);配列番号28のアミノ酸配列、または1、2、または3個のアミノ酸置換を含むそのバリアントを含む重鎖CDR2(「H-CDR2」);配列番号29のアミノ酸配列、または1、2、または3個のアミノ酸置換を含むそのバリアントを含む重鎖CDR3(「H-CDR3」);配列番号30のアミノ酸配列、または1、2、または3個のアミノ酸置換を含むそのバリアントを含む軽鎖CDR1(「L-CDR1」);配列番号31のアミノ酸配列、または1、2、または3個のアミノ酸置換を含むそのバリアントを含む軽鎖CDR2(「L-CDR2」);および配列番号32のアミノ酸配列、または1、2、または3個のアミノ酸置換を含むそのバリアントを含む軽鎖CDR3(「L-CDR3」)を含む。いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体は、配列番号27のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1(「H-CDR1」);配列番号28のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2(「H-CDR2」);配列番号29のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3(「H-CDR3」);配列番号30のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1(「L-CDR1」);配列番号31のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2(「L-CDR2」);および配列番号32のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3(「L-CDR3」)を含む。
【0131】
(本明細書に記載のCDR配列とは独立な、またはそれに加えた)いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体は、アミノ酸配列配列番号33を含むVH、または配列番号33とのアミノ酸相同性が少なくとも約60%、70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または99%超のいずれか1つであるそのバリアントと;配列番号34のアミノ酸配列を含むVL、または配列番号34とのアミノ酸相同性が少なくとも約60%、70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または99%超のいずれか1つであるそのバリアントを含む。いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体は、アミノ酸配列配列番号33を含むVHと、配列番号34のアミノ酸配列を含むVLを含む。いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体はFc領域(IgG4のFc領域など)をさらに含む。
【0132】
いくつかの実施形態では、ヒト化C5a抗体は、配列番号54のVHドメインを持つ抗体のH-CDR1、H-CDR2、およびH-CDR3の配列と、配列番号55のVLドメインを持つ抗体のL-CDR1、L-CDR2、およびL-CDR3の配列を含む。
【0133】
いくつかの実施形態では、ヒト化C5a抗体は、配列番号56のVHドメインを持つ抗体のH-CDR1、H-CDR2、およびH-CDR3の配列と、配列番号57のVLドメインを持つ抗体のL-CDR1、L-CDR2、およびL-CDR3の配列を含む。
【0134】
いくつかの実施形態では、ヒト化C5a抗体は、配列番号58のVHドメインを持つ抗体のH-CDR1、H-CDR2、およびH-CDR3の配列と、配列番号59のVLドメインを持つ抗体のL-CDR1、L-CDR2、およびL-CDR3の配列を含む。
【0135】
いくつかの実施形態では、ヒト化C5a抗体は、配列番号60のVHドメインを持つ抗体のH-CDR1、H-CDR2、およびH-CDR3の配列と、配列番号61のVLドメインを持つ抗体のL-CDR1、L-CDR2、およびL-CDR3の配列を含む。
【0136】
いくつかの実施形態では、ヒト化C5a抗体は、配列番号62のVHドメインを持つ抗体のH-CDR1、H-CDR2、およびH-CDR3の配列と、配列番号63のVLドメインを持つ抗体のL-CDR1、L-CDR2、およびL-CDR3の配列を含む。
【0137】
いくつかの実施形態では、ヒト化C5a抗体は、配列番号64のVHドメインを持つ抗体のH-CDR1、H-CDR2、およびH-CDR3の配列と、配列番号65のVLドメインを持つ抗体のL-CDR1、L-CDR2、およびL-CDR3の配列を含む。
【0138】
いくつかの実施形態では、ヒト化C5a抗体は、配列番号66のVHドメインを持つ抗体のH-CDR1、H-CDR2、およびH-CDR3の配列と、配列番号67のVLドメインを持つ抗体のL-CDR1、L-CDR2、およびL-CDR3の配列を含む。
【0139】
いくつかの実施形態では、ヒト化C5a抗体は、配列番号68のVHドメインを持つ抗体のH-CDR1、H-CDR2、およびH-CDR3の配列と、配列番号69のVLドメインを持つ抗体のL-CDR1、L-CDR2、およびL-CDR3の配列を含む。
【0140】
いくつかの実施形態では、ヒト化C5a抗体は、配列番号70のVHドメインを持つ抗体のH-CDR1、H-CDR2、およびH-CDR3の配列と、配列番号71のVLドメインを持つ抗体のL-CDR1、L-CDR2、およびL-CDR3の配列を含む。
【0141】
いくつかの実施形態では、ヒト化C5a抗体は、配列番号72のVHドメインを持つ抗体のH-CDR1、H-CDR2、およびH-CDR3の配列と、配列番号73のVLドメインを持つ抗体のL-CDR1、L-CDR2、およびL-CDR3の配列を含む。
【0142】
いくつかの実施形態では、ヒト化C5a抗体は、配列番号74のVHドメインを持つ抗体のH-CDR1、H-CDR2、およびH-CDR3の配列と、配列番号75のVLドメインを持つ抗体のL-CDR1、L-CDR2、およびL-CDR3の配列を含む。
【0143】
いくつかの実施形態では、ヒト化C5a抗体は、配列番号76のVHドメインを持つ抗体のH-CDR1、H-CDR2、およびH-CDR3の配列と、配列番号77のVLドメインを持つ抗体のL-CDR1、L-CDR2、およびL-CDR3の配列を含む。
【0144】
いくつかの実施形態では、ヒト化C5a抗体は、配列番号78のVHドメインを持つ抗体のH-CDR1、H-CDR2、およびH-CDR3の配列と、配列番号79のVLドメインを持つ抗体のL-CDR1、L-CDR2、およびL-CDR3の配列を含む。
【0145】
いくつかの実施形態では、ヒト化C5a抗体は、配列番号80のVHドメインを持つ抗体のH-CDR1、H-CDR2、およびH-CDR3の配列と、配列番号81のVLドメインを持つ抗体のL-CDR1、L-CDR2、およびL-CDR3の配列を含む。
【0146】
いくつかの実施形態では、ヒト化C5a抗体は、配列番号82のVHドメインを持つ抗体のH-CDR1、H-CDR2、およびH-CDR3の配列と、配列番号83のVLドメインを持つ抗体のL-CDR1、L-CDR2、およびL-CDR3の配列を含む。
【0147】
変異を参照するのにKabat番号付けシステムを利用するが、変異の位置は、下記の表1に代表的な配列を用いて示されているように、異なる番号付けシステムの下で表わせることを理解すべきである。
【表1】
【0148】
C5aタンパク質とC5a結合分析
補体系は、多くの自己免疫性、炎症性、および虚血性の疾患の病状において重要な役割を果たしている。補体の不適切な活性化と宿主細胞へのその堆積は、補体を媒介とした溶解、および/または細胞と標的組織の損傷のほか、炎症の強力なメディエータの生成に起因する組織破壊につながる可能性がある。補体系(補体カスケードとしても知られる)は免疫系の一部であり、抗体と貪食細胞が微生物と損傷した細胞を生物から排除する能力を増強(補足)し、炎症を促進し、病原体の細胞膜を攻撃する。補体系は自然免疫系の一部であって適応可能ではなく、個体の生涯を通じて変化しない。しかし補体系は適応免疫系によって生成した抗体によってリクルートされて作用することができる。
【0149】
どの理論または仮説にも囚われないと、既知の3つの補体経路、すなわち代替補体経路(AP)、古典経路(CP)、およびレクチン経路(LP)が存在する。一般に、CPは抗原-抗体複合体によって開始され、LPは、微生物表面の糖分子にレクチンが結合することによって活性化されるのに対し、APは低レベルで構成的に活性だが、調節タンパク質が欠落しているため、細菌、ウイルス、および寄生虫の細胞表面で迅速に増幅することができる。宿主細胞は、通常は調節タンパク質によってAP補体活性化から保護される。しかしいくつかの状況では、例えば調節タンパク質が欠損していたり失われていたりするときのようにAPが宿主細胞の表面で活性化されて制御不能になり、補体関連の疾患または障害に至る可能性もある。CPは成分C1、C2、C4からなり、C3活性化工程でAPに収束する。LPはマンノース結合レクチン(MBL)とMBL関連セリンプロテアーゼ(MASP)からなり、CPと成分C4およびC2を共有する。APは、成分C3といくつかの因子(因子B、因子D、プロペルジン、および流体相調節因子Hなど)からなる。補体活性化は3つの段階からなる。すなわち(a)認識、(b)酵素による活性化、および(c)膜攻撃から細胞死へである。CP補体活性化の第1段階はC1から始まる。C1は、3つの異なるタンパク質、すなわち認識サブユニット(C1q)と、セリンプロテアーゼ亜成分C1rおよびC1sからなる。C1rとC1sは互いに結合してカルシウム依存性四量体複合体C1r2 s2になる。C1の生理学的活性化が起こるにはインタクトなC1複合体が必要とされる。活性化が起こるのは、インタクトなC1複合体が、抗原との複合体になった免疫グロブリンに結合するときである。この結合によってC1sが活性化されるとC4タンパク質とC2タンパク質の両方が切断され、C4aとC4bのほかC2aとC2bが生成する。C4b断片とC2a断片は組み合わさってC3コンベルターゼ(C4b2a)を形成し、それが今度はC3を切断してC3aとC3bを形成する。LPの活性化は標的表面上のある糖にMBLが結合することによって開始され、そのことによってMBL関連セリンプロテアーゼ(MAPS)の活性化が始まり、MAPSがCPのC1sの活性と同様のやり方でC4とC2を切断することで、C3コンベルターゼであるC4b2aが生成する。したがってCPとLPは異なる機構によって活性化されるが、同じ成分C4とC2を共有しているため、両方の経路で同じC3コンベルターゼであるC4b2aが生成する。C3がC4b2aによって切断されてC3bとC3aになることは、2つの理由で補体経路の中心的なイベントである。この切断によってAP増幅ループが開始される。なぜなら表面に堆積したC3bはAP C3コンベルターゼC3bBbの中心的な中間体だからである。C3aとC3bの両方が生物学的に重要である。C3aは炎症促進性であり、C5aとともにアナフィラトキシンと呼ばれる。C3bとそのさらなる切断産物も好中球、好酸球、単球、およびマクロファージの表面に存在する補体受容体に結合することで、C3bオプソニン化粒子のファゴサイトーシスと排出を容易にする。最後に、C3bはC4b2aまたはC3bBbと会合してCPとLPのC5コンベルターゼ、およびAPのC5コンベルターゼをそれぞれ形成し、終末補体配列を活性化させることができるため、強力な炎症促進性メディエータであるC5aと、溶解性膜侵襲複合体(MAC)の集合体、C5-C9の産生に至る。
【0150】
欠陥のある補体作用は、いくつかのヒト糸球体疾患(非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、抗好中球細胞質抗体関連血管炎(ANCA)、C3糸球体症、IgA腎症、免疫複合体膜性増殖性糸球体腎炎、腎虚血再灌流損傷、ループス腎炎、膜性腎症、および慢性移植関連糸球体症が含まれる)の一因である。異常な補体成分活性化が、さまざまなタイプのがんとその臨床転帰におけるマーカーとして提案されてきた。肺がん患者は補体タンパク質と活性化断片の血漿レベルが対照ドナーよりも有意に高いことが示されており、上昇した補体レベルは肺腫瘍のサイズと相関している。補体関連タンパク質は他のタイプの腫瘍を持つ患者からの体液中でも上昇している。例えばPio et al. Semin Immunol. 2013 Feb; 25(1): 54-64を参照されたい。補体カスケードの阻害が、糸球体疾患とがんの治療のために提案されてきた。
【0151】
C5aは74個のアミノ酸のアナフィラトキシン(配列番号45)であり、補体成分C5の切断から生じる。成熟C5は補体経路が活性化されている間に切断されてC5a断片とC5b断片になる。C5aは、アルファ鎖の最初の74個のアミノ酸を含むアミノ末端断片としてのC5コンベルターゼによってC5のアルファ鎖から切断される。成熟C5の残部は断片C5bであり、ベータ鎖に結合したアルファ鎖ジスルフィドの残部を含有する。C5aの11kDaの塊のほぼ20%が炭化水素に帰される。C5aは高炎症性ペプチドとして作用し、アレルギー応答に関与する補体の活性化、MACの形成、自然免疫細胞の呼び寄せ、およびヒスタミンの放出を促進する。C5aはアナフィラトキシンであり、エンドセリン上の接着分子の発現増加、平滑筋の収縮、および血管透過性の増加を引き起こす。C5a des-Argははるかに弱いアナフィラトキシンである。C5aとC5a des-Argの両方がマスト細胞の脱顆粒を開始させ、炎症促進分子であるヒスタミンと TNF-αを放出させることができる。C5aは効果的な化学誘引物質でもあり、感染部位における補体と貪食細胞の蓄積、またはリンパ節への抗原提示細胞のリクルートを開始させる。C5aは、容器の壁面への好中球と単球の移動と接着を増加させる上で重要な役割を果たす。白血球細胞は、インテグリンのアビディティ、リポキシゲナーゼ経路、およびアラキドン酸代謝の上方調節によって活性化される。C5aは白血球上のIgG Fc受容体の活性化と阻害の間のバランスも変化させ、そのことによって自己免疫応答を増強する。例えばManthey HD, Woodruff TM, Taylor SM, Monk PN (November 2009). “Complement component 5a (C5a)”. The International Journal of Biochemistry & Cell Biology. 41 (11): 2114-7を参照されたい。
【0152】
C5aは標的細胞(マクロファージ、好中球、および内皮細胞など)の表面上のC5aR(CD88としても知られる)に結合してシグナル伝達を開始させ、炎症応答を促進する。C5a/C5aRシグナルはMDSCの増殖を促進するため、T細胞免疫を制限する。C5a/C5aR経路の阻害は炎症性疾患を改善するため免疫腫瘍学における潜在力があることが提案されている。
【0153】
本明細書に記載のヒト化抗C5a抗体の結合の親和性と特異性は、本分野で知られている方法によって実験的に明らかにすることができる。例えばタンパク質抗原への抗体の結合は多彩な技術を利用して検出および/または定量することができ、技術の非限定的な例に含まれるのは、ウエスタンブロット、ドットブロット、表面プラズモン共鳴(SPR)法(例えばBIAcoreシステム;Pharmacia Biosensor AB、ウプサラ、スウェーデン国とピスカタウェイ、ニュージャージー州)、バイオレイヤー干渉(BLI)(例えばOctet system、ForteBio)、RIA、ECL、IRMA、EIA、ペプチドスキャン、および酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)である。例えばBenny K. C. Lo (2004) “Antibody Engineering: Methods and Protocols.” Humana Press (ISBN:1588290921);Borrebaek (1992) “Antibody Engineering, A Practical Guide.” W.H. Freeman and Co., N.Y.;Borrebaek (1995) “Antibody Engineering.” 2nd Edition, Oxford University Press, N.Y., Oxford;Johne et al. (1993).J Immunol Meth 160:191-198;Jonssonetal. (1993) Ann Biol Clin 51:19-26;およびJonsson et al. (1991) Biotechniques 11:620-627を参照されたい。それに加え、親和性(例えばBLIにより解離定数と会合定数)を測定する方法は実例に示されている。
【0154】
本明細書に記載の特定の抗体がC5aを阻害するかどうかを判断する方法は本分野で知られている。Schraufstatter et al. J Immunol March 15, 2009, 182 (6) 3827-3836に示されているように、C5aを阻害すると細胞の走化性移動を減らすことができる。したがってC5aの機能は例えば細胞移動アッセイによって明らかにすることができる。例えばRousseau, Simon, et al. Cellular signalling 18.11 (2006): 1897-1905を参照されたい。C5aは細胞へのカルシウム流入を誘導することが示されている(Moller et al., J Neurosci. 1997 Jan 15; 17(2): 615-624)。カルシウム流入アッセイを利用したC5a活性の測定が、例えばFarkas et al., Neuroscience Volume 86, Issue 3, 1998, Pages 903-911に記載されているカルシウム染色法、または放射測定技術(Monk et al., Biochem J (1993) 295 (3): 679-684)を利用して可能になる。
【0155】
本明細書に記載のある特定の抗体がC5切断を阻害するかどうかを判断する方法は本分野で知られている。ヒト補体成分C5を阻害すると、対象の体液中の補体の細胞溶解能力を低下させることができる。体液中に存在する補体の細胞溶解能力のそのような低下は、本分野で周知の方法(例えば従来の溶血アッセイであるHillmen et al. (2004) N Engl. J Med 350(6):552に記載のニワトリ赤血球溶血法における溶血アッセイなど)によって測定することができる。ある候補化合物が、ヒトC5が切断されて形態C5aとC5bになるのを阻害するかどうかを判断する方法は本分野で知られており、例えばThomas et al. (1996) Mol Immunol 33(17-18): 1389-401とEvans et al. (1995) Mol Immunol 32(16): 1183-95に記載されている。例えば体液中のC5aとC5bの濃度および/または生理学的活性は本分野で周知の方法によって測定することができる。C5aの濃度または活性を測定する方法に含まれるのは、例えば走化性アッセイ、RIA、またはELISAである(例えばWurzner et al. (1991) Complement Inflamm 8:328-340参照)。C5bについては、本明細書で論じられている溶解アッセイ、または可溶性C5b-9のアッセイを利用できる。本分野で知られている他のアッセイも利用できる。これらのアッセイまたは他の適切なタイプのアッセイを利用して、ヒト補体成分C5を阻害することのできる候補薬剤をスクリーニングすることができる。
【0156】
溶血アッセイは、C5を媒介とする補体活性化に対する抗C5a抗体の抑制活性を判断するのに利用できるため、抗C5a抗体の潜在的なオフ-ターゲット結合を判断するのに有用である。インビトロで血清試験溶液において古典補体経路が媒介する溶血にヒト化抗C5a抗体が及ぼす効果を判断するため、例えば抗ニワトリ赤血球抗体で感作したヘモリシンまたはニワトリ赤血球で被覆したヒツジ赤血球を標的細胞として用いる。溶解の割合は、100%溶解が阻害剤の不在下で起こる溶解に等しいと見なすことによって規格化した。代替経路を媒介とする溶血に対するヒト化抗C5a抗体の効果を判断するため、感作されていないウサギまたはモルモットの赤血球を標的細胞として使用する。溶解の割合は、100%溶解が阻害剤の不在下で起こる溶解に等しいと見なすことによって規格化した。
【0157】
「TMDD」または「シンク効果」とpH依存性抗C5a抗体
治療用モノクローナル抗体の大半は、標的介在性薬物消失またはTMDDが理由で非線形な用量依存性クリアランスを示す(「シンク効果」とも呼ばれる)。
【0158】
例えば抗体を低用量または治療未満用量で投与したとき、主に標的に結合し、遊離した抗体は非常に少ない。用量が増加すると、遊離した抗体の割合は抗体/抗原結合複合体よりも増加する。用量が非常に高レベルまで増加すると、抗原は十分に飽和または結合し、全抗体の大半が結合していないか遊離している。遊離mAbは、貪食プロセスによって排除されるmAb:Ag結合複合体よりも(FcRn機構が理由で)長い半減期を持つ。したがって低用量では、(大半が結合状態である)全抗体の半減期はより短く、全抗体の半減期は用量が増加するにつれて長くなり、全抗体の多数を結合していないか遊離した抗体が占めるプラトーに達する。膜抗原に結合する抗体の排除は同じパラダイムに従う。低用量では排除はより迅速である。というのも結合していない標的は「吸い上げ」抗体になり、シンク(「抗原シンク」とも呼ばれる、Keizer et al., Clin Pharmacokinet. 2010 Aug; 49(8):493-507、Eser et al., Curr Opin Gastroenterol. 2013 Jul; 29(4):391-6)として機能するからである。
【0159】
C5aはC5の一部であるため、抗C5a抗体はC5によく結合することができる。抗C5a抗体によるC5への大きな結合能力と、血清C5濃度がC5aよりも大きく過剰であることがC5を抗C5a抗体への結合シンクにしており、生体内での迅速な排除、すなわち抗C5a抗体に対するC5「シンク効果」につながる。
【0160】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のヒト化抗C5a抗体はC5に結合するが、C5コンベルターゼによるC5の切断は阻害しない。いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体はC5に結合し、未知の作用機構を通じてC5のレベルを低下させる。いくつかの実施形態では、C5レベルの低下と同時にC5aレベルの低下、および/またはC5介在性薬物消失の感度低下が起こる。いくつかの実施形態では、C5aレベルの低下、および/またはC5介在性薬物消失の感度低下が、持続した薬効果につながる。
【0161】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のヒト化抗C5a抗体はC5からpHに依存して解離する。このようなpH依存性結合は、投与された抗体または抗体融合タンパク質分子のより大きな持続性を提供する。なぜなら細胞によって取り込まれた免疫複合体(すなわちC5に結合したヒト化抗C5a抗体)はエンドソームの酸性環境で解離し、遊離した抗体または抗体融合タンパク質が細胞から新生児Fc受容体(FcRn)を通じて出てリサイクルされることが可能になり、その受容体の位置で新たなC5a分子に結合するのに利用できるからである。
【0162】
いくつかの実施形態では、記載されているヒト化抗C5a抗体はC5にpHに依存して結合する。本明細書では、「pH依存性結合」という表現は、抗体が、酸性pH(例えば約pH5.8;エンドソームの中など)では中性pH(例えば約pH7.4;血液の中など)と比べてC5への減少した結合を示すことを意味する。
【0163】
本明細書に記載のヒト化抗C5a抗体のpH依存性は、本分野(アメリカ合衆国特許第9,079,949号とWO 2016/098356など)で知られている方法によって実験的に明らかにすることができる。pH依存性は、異なるpHレベルでの結合特性(結合親和性(例えば解離定数)、動態パラメータ(例えば会合速度と解離速度)、および解離率など)の差に反映される可能性がある。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のヒト化抗C5a抗体のpH依存性は解離率の比で表現することができる。いくつかの実施形態では、解離率は低pH解離因子と中性pH解離因子で表現することができる。
【0164】
ヒト化抗C5a抗体のpH依存性は、C5に結合した抗体の酸性pH(例えばpH5.8)または中性pH(例えばpH7.4)での解離に基づいて評価することができる。低pH解離因子、すなわち25℃にてpH5.8で抗原から解離した抗体の割合(ただし抗体はpH7.4で抗原にあらかじめ結合している)を利用し、酸性pHでのC5結合抗体の解離を明らかにすることができる。低pH解離因子は、抗体と抗原(例えばヒト化抗C5a抗体とヒトC5)をpH7.4で600秒間会合させた後、pH5.8のバッファの中で解離期間を600秒間にしてpH5.8で抗原から解離した抗体の割合を計算することによって測定できる。いくつかの実施形態では、本発明のヒト化抗C5a抗体の低pH解離因子は、約5%~約95%、約10%~約90%、約15%~約85%、約20%~約80%、約20%~約75%、約20%~約70%、約20%~約65%、約20%~約60%、約25%~約75%、約25%~約70%、約25%~約65%、約25%~約60%、約30%~約75%、約30%~約70%、約30%~約65%、約30%~約60%、約35%~約75%、約35%~約70%、約35%~約65%、約35%~約60%、約40%~約75%、約40%~約70%、約40%~約65%、約40%~約60%のいずれか1つの範囲内である。いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体の中性pH解離因子は、約95%、90%、85%、80%、75%、70%、65%、60%、55%、50%、45%、40%、35%、30%、25%、20%、15%、10%、または5%のいずれか以上である。
【0165】
中性pH解離因子、すなわち25℃にて抗原からpH7.4で解離する抗体の割合(ただし抗体はpH7.4で抗原にあらかじめ結合しており、中性pHでのC5結合抗体の解離を求めるのに使用できる)。中性pH解離因子は、抗体と抗原(例えばヒト化抗C5a抗体とヒトC5)をpH7.4で600秒間会合させた後、pH7.4のバッファの中で解離期間を600秒間にしてpH7.4で抗原から解離した抗体の割合を計算することによって測定できる。いくつかの実施形態では、本発明のヒト化抗C5a抗体の中性pH解離因子は、約20%、18%、16%、14%、12%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、または1%のいずれか以下である。
【0166】
いくつかの実施形態では、本発明のヒト化抗C5a抗体の中性pH解離因子に対する低pH解離因子の比は、1以上、1.5以上、2以上、2.5以上、3以上、3.5以上、4以上、4.5以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上のいずれか1つである。いくつかの実施形態では、pH7.4でのC5に関する抗体の解離率に対するpH5.8でのC5に関する抗体の解離率は、少なくとも4、少なくとも5、または少なくとも6である。
【0167】
いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体は中性pH(pH7.4など)において酸性pH(pH5.8など)よりも強く結合する。いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体の低pH解離因子は、約95%、90%、85%、80%、75%、70%、65%、60%、55%、50%、45%、40%、35%、30%、25%、20%、15%、10%、または5%のいずれか以上である。いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体の中性pH解離因子は、約20%、18%、16%、14%、12%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、または1%のいずれか以下である。いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体の中性pH解離因子に対する低pH解離因子の比は、約1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、または10のいずれかである。いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体の中性pH解離因子に対する低pH解離因子の比は、約1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、または10のいずれか以上である。いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体の中性pH解離因子に対する低pH解離因子の比は4以上である。いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体の中性pH解離因子に対する低pH解離因子の比は5以上である。いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体の中性pH解離因子に対する低pH解離因子の比は6以上である。
【0168】
pH依存性抗C5抗体の特性
本明細書に記載のpH依存性ヒト化抗C5a抗体は医薬組成物としての開発と利用に適する。
【0169】
本明細書に記載のpH依存性ヒト化抗C5a抗体は、いくつかの実施形態では延長された生体内血清半減期を示す。いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体は、マウス(トランスジェニックマウスが含まれる)において延長された血清半減期を示す。いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体は他の試験動物において延長された血清半減期を示す。代表的な試験動物の非限定的な例に含まれるのは、ラット、ニワトリ、ウサギ、ヒツジ、およびカニクイザルである。いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体はヒトにおいて延長された血清半減期を示す。いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体は、ヒトにおいて、少なくとも約2時間、約3日間、約5日間、約7日間、約9日間、約11日間、約13日間、約15日間、約17日間、約19日間、約21日間、約23日間、約25日間のいずれか1つの血清半減期を持つ。いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体は、ヒトにおいて、少なくとも約25日間の血清半減期を持つ。
【0170】
いくつかの実施形態では、pH依存性ヒト化抗C5a抗体は、ヒトC5への結合親和性がベンチマーク抗C5a抗体と同等である。
【0171】
III.医薬組成物
本出願によってさらに提供されるのは、ヒト化抗C5a抗体のいずれか1つと、医薬として許容可能な基剤とを含む医薬組成物である。医薬組成物は、望む精製度のヒト化抗C5a抗体を、医薬として許容可能なオプションの基剤、賦形剤、または安定剤(Remington’s Pharmaceutical Sciences 16th edition, Osol, A. Ed. (1980))と混合することにより、凍結乾燥された製剤または水溶液の形態で調製することができる。
【0172】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は追加成分をさらに含む。追加成分の非限定的な例に含まれるのは、賦形剤;表面活性剤;分散剤;不活性な希釈剤;造粒剤と崩壊剤;結合剤;潤滑剤;甘味剤;香味剤;着色剤;保存剤;生理学的に分解する組成物(ゼラチンなど);水性のビヒクルと溶媒;油性のビヒクルと溶媒;懸濁剤;分散剤または湿潤剤;乳化剤、粘滑剤;バッファ;塩;増粘剤;重点剤;乳化剤;抗酸化剤;抗生剤;抗真菌剤;安定剤;および医薬として許容可能なポリマー材料または疎水性材料の1つ以上である。本発明の医薬組成物に含めることのできる他の「追加成分」は本分野で知られており、それが記載されているのは例えばRemington’s Pharmaceutical Sciences(1985, Genaro, ed., Mack Publishing Co., Easton, PA)である(参照によって本明細書に組み込まれている)。
【0173】
追加賦形剤には、(1)増量剤、(2)溶解増強剤、(3)安定剤、および(4)変性または容器壁面への接着を阻止する薬剤の1つ以上として機能することのできる薬剤が含まれる。
【0174】
医薬組成物は、生体内投与に使用するため減菌されていなければならない。医薬組成物は無菌濾過膜を通過させる濾過によって減菌することができる。本明細書の医薬組成物は一般に、減菌アクセスポートを持つ容器(例えば静脈内溶液バッグ、または皮下注射針によって孔を開けることのできるストッパを持つバイアル)に入れられる。
【0175】
持続放出調製物を調製することができる。持続放出または埋め込みのための組成物は、医薬として許容可能なポリマー材料または疎水性材料(エマルション、イオン交換樹脂、難溶性ポリマー、または難溶性塩など)を含むことができる。持続放出調製物の適切な例に含まれるのは、アンタゴニストを含有する固体疎水性ポリマーの半透過性マトリックスであり、そのマトリックスは成形物品の形態(例えばフィルムまたはマイクロカプセル)である。
【0176】
本明細書の医薬組成物は、治療している特定の適応に必要なときには2つ以上の活性化合物、好ましくは互いに悪影響を与えない相補的な活性を持つ活性化合物を含有することもできる。その代わりに、またはそれに加えて、組成物は、細胞毒性剤、化学療法剤、サイトカイン、免疫抑制剤、または増殖阻害剤を含むことができる。このような分子は、想定する目的にとって有効な量で組み合わせて存在することが好適である。
【0177】
活性成分は、例えばコアセルベーション技術または界面重合によって調製されたマイクロカプセル(例えば、ヒドロキシメチルセルロースまたはゼラチン-マイクロカプセルとポリ-(メチルメタシレート)マイクロカプセル)のそれぞれ、コロイド薬送達系(例えばリポソーム、アルブミンマイクロスフェア、マイクロエマルション、ナノ粒子、およびナノカプセル)、またはマクロエマルションの中に封入することもできる。このような技術はRemington’s Pharmaceutical Sciences 18th editionに開示されている。
【0178】
医薬組成物の製剤は薬理学の分野で知られているか今後開発される任意の方法によって調製することができる。調製の非限定的な例に含まれるのは、活性成分を基剤または1つ以上の他の副成分と組み合わせた後、必要な場合または望ましい場合には生成物を成形または包装して望む単回投与単位または複数回投与単位にすることである。医薬組成物は、水性または油性の減菌注射懸濁液または溶液の形態で調製、包装、または販売することができる。この懸濁液または溶液は既知の技術に従って製剤にすることができ、活性成分に加え、追加成分(分散剤、湿潤剤、または懸濁剤など)を含むことができる。このような減菌注射製剤は、非毒性で非経口投与可能な希釈剤または溶媒(例えば水または1,3-ブタンジオールなど)を用いて調製することができる。他の許容可能な希釈剤と溶媒の非限定的な例に含まれるのは、リンガー溶液、等張塩化ナトリウム溶液、および不揮発性油(合成モノグリセリドまたはジグリセリドなど)である。
【0179】
本発明の医薬組成物は、口腔を通じて肺投与するのに適した製剤として調製、包装、または販売することができる。このような製剤は、活性成分を含んでいて約0.5~約7ナノメートル(いくつかの実施形態では約1~約6ナノメートル)の範囲の直径を持つ乾燥粒子を含むことができる。このような組成物は乾燥粉末の形態にすると便利である。それは、乾燥粉末リザーバを備える装置を用い、推進剤をこの装置に向けて流してその粉末を分散させるため、または自己推進溶媒/粉末供給容器(例えば密封容器の中の低沸点推進剤に溶解させるか懸濁させた活性成分を含む装置)を用いて投与するためである。
【0180】
肺送達のための製剤にされた本発明の医薬組成物は、活性成分を溶液または懸濁液の液滴の形態で提供することもできる。このような製剤は、場合により減菌されていて活性成分を含む水性または希アルコール性の溶液または懸濁液として調製、包装、または販売することができ、任意の噴霧装置または霧化装置を用いて簡便に投与することができる。このような製剤は1つ以上の追加成分をさらに含むことができ、その非限定的な例に含まれるのは、香味剤(サッカリンナトリウムなど)、揮発油、緩衝剤、表面活性剤、または保存剤(ヒドロキシ安息香酸メチルなど)である。
【0181】
本発明の医薬組成物は、口腔投与に適した製剤にして調製、包装、または販売することができる。このような製剤は従来法を利用して例えば錠剤またはロゼンジの形態にすることが可能であり、例えば0.1~20%(w/w)の活性成分を含むことができ、残りは、溶解または分解が可能な経口組成物と、場合により1つ以上の追加成分を含む。あるいは口腔投与に適した製剤は、活性成分を含有する粉末を含むこと、または活性成分を含有するエアロゾル化または噴霧化された溶液または懸濁液を含むことができる。いくつかの実施形態では、このように粉末化、エアロゾル化、またはエアロゾル化された製剤は、分散させたときに粒子または液滴の平均サイズが約0.1~約200ナノメートルの範囲であり、1つ以上の追加成分をさらに含むことができる。
【0182】
IV.利用の方法
個体において補体活性化を阻害して疾患(補体関連の疾患または障害など)を治療することを、有効な量のヒト化抗C5a抗体をその個体に投与することにより実現する方法も提供される。いくつかの実施形態では、個体はヒトである。
【0183】
ヒト化抗C5a抗体は、他の治療様式(例えば抗炎症療法など)と組み合わせて利用することができる。本発明の方法と組み合わせて利用できる抗炎症療法の例に含まれるのは、例えばステロイド薬を用いる療法のほか、非ステロイド薬を用いる療法である。
【0184】
いくつかの実施形態では、個体における補体活性化を阻害する方法として、(例えば皮下投与または静脈内投与による全身投与などで)個体に有効な量のヒト化抗C5a抗体を投与することを含む方法が提供される。いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体は、配列番号1を参照すると変異I48M、D54E、およびN56Wを含むVHと、配列番号2を参照すると変異D28EとD30Fを含むVLを含む。いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体は、配列番号1を参照するとVHの中の変異F29Hを、配列番号2を参照するとVLの中の変異Y96Hをさらに含む。いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体は、VHのE54H、VHのN97H、およびVLのN92Hからなるグループから選択される変異をさらに含む(ただし前記VH変異はKabat番号付けシステムの下で配列番号1を参照し、前記VL変異はKabat番号付けシステムの下で配列番号2を参照する)。いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体はIgG4 Fc領域をさらに含む(例えばIgG4 Fc領域は、PLA変異:S228P、M428L、およびN434Aを含む)。いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体は、中性pH(pH7.4など)では酸性pH(pH5.8など)よりも強く結合する。いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体の低pH解離因子は、約95%、90%、85%、80%、75%、70%、65%、60%、55%、50%、45%、40%、35%、30%、25%、20%、15%、10%、または5%のいずれか以上である。いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体の中性pH解離因子は、約20%、18%、16%、14%、12%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、または1%のいずれか以下である。いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体の中性pH解離因子に対する低pH解離因子の比は、約1以上、1.5以上、2以上、2.5以上、3以上、3.5以上、4以上、4.5以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上のいずれかである。いくつかの実施形態では、C5に関するpH7.4での抗体の解離の割合に対するC5に関するpH5.8での抗体の解離の割合は6以上である。いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体は皮下投与によって投与される。
【0185】
いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体は補体活性化を少なくとも約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、または90%超のいずれか阻害する。
【0186】
いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体はC5aRへのC5aの結合を阻害し、IC50値は、約0.01nM、約0.1nM、約0.5nM、約1nM、約2nM、約3nM、約4nM、約5nM、約6nM、約7nM、約8nM、約9nM、約10nM、約20nM、約50nM、約100nM、または100nM超である。いくつかの実施形態では、C5aRへのC5aの結合を阻害し、IC50値が約1nM~約10nMであるヒト化抗C5a抗体が提供される。
【0187】
いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体は、C5aが誘導する細胞へのカルシウム流入を阻害し、IC50値は、約0.001nM、約0.005nM、約0.01nM、約0.05nM、約0.1nM、約0.15nM、約0.2nM、約0.25nM、約0.3nM、約0.4nM、約0.5nM、約0.6nM、約0.7nM、約0.8nM、約0.9nM、約1nM、または1nM超である。いくつかの実施形態では、C5aが誘導する細胞へのカルシウム流入を阻害し、IC50値が約0.01nM~約0.3nMであるヒト化抗C5a抗体が提供される。
【0188】
いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体はヒトC5に結合し、親和性は約0.001nM、約0.005nM、約0.01nM、約0.05nM、約0.1nM、約0.15nM、約0.2nM、約0.25nM、約0.3nM、約0.4nM、約0.5nM、約0.6nM、約0.7nM、約0.8nM、約0.9nM、約1nMである。いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体はヒトC5に低ナノモル親和性で結合する。いくつかの実施形態では、ヒトC5に結合し、親和性が約0.01nM~約1nMであるヒト化抗C5a抗体が提供される。
【0189】
いくつかの実施形態では、C5が媒介する補体活性に影響を与えないヒト化抗C5抗体が提供される。
【0190】
いくつかの実施形態では、C5コンベルターゼが媒介する活性を阻害しないヒト化抗C5抗体が提供される。
【0191】
いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体は、対象において、投与してから1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20日後まで血清C5のレベルを低下させる。いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体は、対象において、投与してから15日後まで血清C5のレベルを少なくとも5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%低下させる。いくつかの実施形態では、対象において、投与してから15日後まで血清C5のレベルを少なくとも50%低下させるヒト化抗C5a抗体が提供される。
【0192】
いくつかの実施形態では、C5aが誘導する細胞移動を阻害するヒト化抗C5a抗体が提供される。いくつかの実施形態では、抗C5a抗体はC5が誘導する細胞移動を阻害し、低ナノモルIC50を持つ。いくつかの実施形態では、C5aが誘導する細胞移動の抗C5a抗体による阻害のIC50値は、約0.01nM、約0.05nM、0.1nM、0.5nM、1nM、5nM、10nM、または10nM超である。いくつかの実施形態では、C5aが誘導する細胞移動のIC50抗C5a抗体阻害は0.01nM~0.2nMである。
【0193】
いくつかの実施形態では、個体において補体活性化を阻害する方法として、有効な量のヒト化抗C5a抗体をその個体に(例えば皮下投与または静脈内投与による全身投与などで)投与することを含む方法が提供される。いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体は、配列番号1を参照すると変異I48M、D54E、およびN56Wを含むVHと、配列番号2を参照すると変異D28EとD30Fを含むVLを含む。いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体は、配列番号1を参照するとVHの中の変異F29Hを、配列番号2を参照するとVLの中の変異Y96Hをさらに含む。いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体は、VHのE54H、VHのN97H、およびVLのN92Hからなるグループから選択される変異をさらに含む(ただし前記VH変異はKabat番号付けシステムの下で配列番号1を参照し、前記VL変異はKabat番号付けシステムの下で配列番号2を参照する)。いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体はIgG4 Fc領域をさらに含む(例えばIgG4 Fc領域は、PLA変異:S228P、M428L、およびN434Aを含む)。いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体は、中性pH(pH7.4など)では酸性pH(pH5.8など)よりも強く結合する。いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体の低pH解離因子は、約95%、90%、85%、80%、75%、70%、65%、60%、55%、50%、45%、40%、35%、30%、25%、20%、15%、10%、または5%のいずれか以上である。いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体の中性pH解離因子は、約20%、18%、16%、14%、12%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、または1%のいずれか以下である。いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体の中性pH解離因子に対する低pH解離因子の比は、約1以上、1.5以上、2以上、2.5以上、3以上、3.5以上、4以上、4.5以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上のいずれかである。
【0194】
いくつかの実施形態では、補体関連の疾患または障害、特に好中球の活性化が病因の役割を果たす疾患の選択は、黄斑変性症(MD)、加齢性黄斑変性症(AMD)、虚血再灌流損傷、関節炎、関節リウマチ、喘息、アレルギー性喘息、ループス、潰瘍性大腸炎、脳卒中、術後の全身性炎症性症候群、喘息、アレルギー性喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)症候群、重症筋無力症、視神経脊髄炎、(NMO)、多発性硬化症、移植後臓器機能障害、抗体関連型拒絶反応、非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、網膜中心静脈閉塞症(CRVO)、網膜中心動脈閉塞症(CRAO)、表皮水泡症、敗血症、臓器移植、炎症(その非限定的な例に、心肺バイパス手術と腎臓透析に関連する炎症が含まれる)、C3腎症、膜性腎症、IgA腎症、糸球体腎炎(その非限定的な例に、抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連糸球体腎炎、ループス腎炎、およびこれらの組み合わせが含まれる)、ANCA関連血管炎、志賀毒素誘導性HUS、抗リン脂質抗体誘導性妊娠喪失、COVID-19、移植片対宿主病(GVHD)、水泡性類天疱瘡、化膿性汗腺炎、疱疹状皮膚炎、スウィート症候群、壊疽性膿皮症、掌蹠膿胞症と膿胞性乾癬、リウマチ性好中球性皮膚症、角層下膿胞症、腸関連皮膚症-関節炎症候群、好中球性エクリン汗腺炎、線状IgA病、またはこれらの任意の組みあわせからなるグループから少なくともなされる。
【0195】
投与の用量と経路
本出願の医薬組成物の用量と望む薬濃度は、想定する具体的な用途に応じて変化する可能性がある。適切な用量または投与経路の決定は十分に当業者の能力範囲である。動物実験により、ヒト治療のための有効な用量を決定するための信頼できるガイダンスが提供される。有効な用量の種間スケーリングは、Toxicokinetics and New Drug Development, Yacobi et al., Eds, Pergamon Press, New york 1989の中のMordenti, J. and Chappell, W.による“The Use of Interspecies Scaling in Toxicokinetics,” pp. 42-46に記載されている原理に従って実施することができる。
【0196】
典型的には、本発明の方法において対象(いくつかの実施形態ではヒト)に投与することのできる用量は、対象の体重1キログラムにつき0.5μg~約50mgの量の範囲である。投与される正確な用量は任意の数の因子(その非限定的な例に含まれるのは、対象のタイプと治療中の疾患状態のタイプ、対象の年齢、および投与の経路である)に依存して変化するであろうが。いくつかの実施形態では、化合物の用量は、対象の体重1キログラムにつき約1μg~約10mgで変化する。他の実施形態では、用量は、対象の体重1キログラムにつき約3μg~約1mgで変化する。
【0197】
いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体は1回だけ投与される。いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体は多数回(例えば2、3、4、5、6回、またはより多数回のいずれか)投与される。いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体は、1週間に1回、2週間に1回、3週間に1回、4週間に1回、1ヶ月に1回、2ヶ月に1回、3ヶ月に1回、4ヶ月に1回、5ヶ月に1回、6ヶ月に1回、7ヶ月に1回、8ヶ月に1回、9ヶ月に1回、または年に1回投与される。いくつかの実施形態では、投与の間隔は、ほぼ1週間~2週間、2週間~1ヶ月、2週間~2ヶ月、1ヶ月~2ヶ月、1ヶ月~3ヶ月、3ヶ月~6ヶ月、または6ヶ月~1年のいずれか1つである。特定の患者に関する最適な用量と治療計画は、医学の当業者が、患者で疾患の徴候をモニタし、治療をそれに応じて調節することによって容易に決定することができる。投与の頻度は当業者には明らかであろうし、任意の数の因子に依存するであろう。因子の非限定的な例に含まれるのは、治療する疾患のタイプと重症度、対象のタイプと年齢などである。
【0198】
本出願のヒト化抗C5a抗体(その非限定的な例に、再構成された製剤と液体製剤が含まれる)は、ヒト化抗C5a抗体を用いた治療を必要とする個体(好ましくはヒト)に、既知の方法に従って(例えばボーラスとしての静脈内投与、またはある期間にわたる連続的輸液によって、筋肉内、腹腔内、脳脊髄内、皮下、関節内、滑膜内、髄腔内、経口、局所、眼、直腸、膣、非経口、肺、口腔、眼内、または吸入の経路によって)投与される。考慮する他の製剤に含まれるのは、計画されたナノ粒子、リポソーム調製物、活性成分含有再閉鎖赤血球、および免疫学に基づく製剤である。ヒト化抗C5a抗体の非経口投与に含まれるのは、個体の組織の物理的裂け目を特徴とする任意の投与経路と、組織内の裂け目を通じた医薬組成物の投与である。非経口投与は、局所、領域、または全身が可能である。したがって非経口投与の非限定的な例に含まれるのは、例えば組成物の注射、外科的切開を通じた組成物の適用、組織に侵入する非外科的傷を通じたヒト化抗C5a抗体の適用などによるヒト化抗C5a抗体の投与である。特に非経口投与が考えられ、その非限定的な例に含まれるのは、静脈内、眼内、硝子体内、皮下、腹腔内、筋肉内、皮内、胸骨内の注射、および腫瘍内である。
【0199】
本発明のヒト化抗C5a抗体は、バルクで単一の単位用量または複数の単一単位用量として調製、包装、または販売することができる。単位用量は、あらかじめ決められた量の活性成分を含む離散量のヒト化抗C5a抗体である。活性成分の量は一般に、個体に投与することを考える活性成分の用量、またはそのような用量の簡単な分数(例えばそのような用量の1/2または1/3)と等しい。
【0200】
本発明の医薬組成物の中の活性成分、医薬として許容可能な基剤、および任意の追加成分の相対量は、治療する個体の属性、サイズ、および状態によって、さらには組成物を投与する経路によって異なるであろう。例えば組成物は0.1%と100%(w/w)の間の活性成分を含むことができる。さまざまな実施形態では、組成物は、少なくとも約1%、少なくとも約2%、少なくとも約3%、少なくとも約4%、少なくとも約5%、少なくとも約6%、少なくとも約7%、少なくとも約8%、少なくとも約9%、少なくとも約10%、少なくとも約11%、少なくとも約12%、少なくとも約13%、少なくとも約14%、少なくとも約15%、少なくとも約16%、少なくとも約17%、少なくとも約18%、少なくとも約19%、少なくとも約20%、少なくとも約21%、少なくとも約22%、少なくとも約23%、少なくとも約24%、少なくとも約25%、少なくとも約26%、少なくとも約27%、少なくとも約28%、少なくとも約29%、少なくとも約30%、少なくとも約31%、少なくとも約32%、少なくとも約33%、少なくとも約34%、少なくとも約35%、少なくとも約36%、少なくとも約37%、少なくとも約38%、少なくとも約39%、少なくとも約40%、少なくとも約41%、少なくとも約42%、少なくとも約43%、少なくとも約44%、少なくとも約45%、少なくとも約46%、少なくとも約47%、少なくとも約48%、少なくとも約49%、少なくとも約50%、少なくとも約51%、少なくとも約52%、少なくとも約53%、少なくとも約54%、少なくとも約55%、少なくとも約56%、少なくとも約57%、少なくとも約58%、少なくとも約59%、少なくとも約60%、少なくとも約61%、少なくとも約62%、少なくとも約63%、少なくとも約64%、少なくとも約65%、少なくとも約66%、少なくとも約67%、少なくとも約68%、少なくとも約69%、少なくとも約70%、少なくとも約71%、少なくとも約72%、少なくとも約73%、少なくとも約74%、少なくとも約75%、少なくとも約76%、少なくとも約77%、少なくとも約78%、少なくとも約79%、少なくとも約80%、少なくとも約81%、少なくとも約82%、少なくとも約83%、少なくとも約84%、少なくとも約85%、少なくとも約86%、少なくとも約87%、少なくとも約88%、少なくとも約89%、少なくとも約90%、少なくとも約91%、少なくとも約92%、少なくとも約93%、少なくとも約94%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、または少なくとも約100%(w/w)の活性成分を含む。
【0201】
V.調製の方法
本出願により、ヒト化抗C5a抗体をコードする単離された核酸、そのような単離された核酸を含むベクターと宿主細胞、ならびにヒト化抗C5a抗体を生成させるための組み換え法も提供される。
【0202】
発現ベクターと抗体を生成する細胞
いくつかの実施形態では、本発明は、本明細書に記載のヒト化抗C5a抗体の少なくとも1つを生成する細胞または細胞系(宿主細胞など)である。一実施形態では、細胞または細胞系は、本明細書に記載のヒト化抗C5a抗体の少なくとも1つを生成する遺伝子改変された細胞である。一実施形態では、細胞または細胞系はハイブリドーマであり、本明細書に記載されているそのヒト化抗C5a抗体の少なくとも1つを生成する。
【0203】
ハイブリッド細胞(ハイブリドーマ)は一般に、Bリンパ球が非常に豊富なマウス脾臓細胞と骨髄腫「融合パートナー細胞」の間の塊の融合から生成する(Alberts et al., Molecular Biology of the Cell (Garland Publishing, Inc. 1994);Harlow et al., Antibodies. A Laboratory Manual (Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, 1988)。この融合体の中の細胞はその後複数のプールに分配され、それらプールを望む特異性を持つ抗体の生成に関して分析することができる。陽性となるプールは、単一細胞クローンが望む特異性の抗体を生成することが特定されるまでさらに分割することができる。このようなクローンによって生成した抗体はモノクローナル抗体と呼ばれる。
【0204】
核酸であって、本明細書に開示されているそのヒト化抗C5a抗体のいずれかをコードするもののほか、その核酸を含むベクターも提供される。したがって本発明のヒト化抗C5a抗体は、細胞または細胞系(組み換えまたはヒト化免疫グロブリンの発現に典型的に使用される細胞系など)の中で核酸を発現させることによって生成させることができる。したがって本発明の抗体と断片は、核酸を1つ以上の発現ベクターにクローニングし、そのベクターで細胞系(組み換えに、またはヒト化免疫グロブリンの発現に典型的に使用される細胞系など)を形質転換することによって生成させることもできる。
【0205】
遺伝子であって、そのヒト化抗C5a抗体の重鎖と軽鎖をコードするものは、本分野で知られている方法(その非限定的な例に、完全長遺伝子化学合成、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)が含まれる)に従って操作することができる(例えばSambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd ed., Cold Spring Harbor, N.Y., 1989;Berger & Kimmel, Methods in Enzymology, Vol. 152: Guide to Molecular Cloning Techniques, Academic Press, Inc., San Diego, Calif., 1987;Co et al., 1992, J. Immunol. 148:1149を参照されたい)。例えば重鎖と軽鎖、またはその断片をコードする遺伝子は、抗体分泌細胞のゲノムDNAからクローニングすることができる。あるいはcDNAは、細胞のRNAの逆転写によって生成する。クローニングは、クローニングする遺伝子、または遺伝子の区画と隣接または重複する配列にハイブリダイズするPCRプライマーの使用を含む従来の技術によって実現される。
【0206】
本明細書に記載のヒト化抗C5a抗体、または重鎖または軽鎖、またはその断片をコードする核酸は、特定の免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖、またはその断片またはバリアントを多彩な宿主細胞またはインビトロ翻訳系の中で産生させるための組み換え核酸技術に従って取得して使用することができる。例えば抗体をコードする核酸、またはその断片は、適切な方法(例えば形質転換、トランスフェクション、電気穿孔、感染)によって適切な原核ベクターまたは真核ベクター(例えば発現ベクター)に入れて適切な宿主細胞の中に導入することができるため、その核酸は、例えばベクターの中の1つ以上の発現制御エレメントに機能可能に連結されるか、宿主細胞のゲノムに組み込まれる。
【0207】
いくつかの実施形態では、重鎖と軽鎖、またはその断片を2つの異なる発現ベクターの中で組み立て、それを用いてレシピエント細胞に同時にトランスフェクトすることができる。いくつかの実施形態では、各ベクターは2つ以上の選択遺伝子(1つは細菌系における選択のため、1つは真核細胞系における選択のため)を含有することができる。これらベクターにより、細菌系の中での遺伝子の生成および増幅と、その後の真核細胞への同時トランスフェクションと、同時トランスフェクトされた細胞の選択が可能になる。選択手続きを利用し、2つの異なるDNAベクターに載せて真核細胞に導入された抗体核酸の発現を選択することができる。
【0208】
あるいは重鎖と軽鎖、またはその断片をコードする核酸は、1つのベクターから発現させることができる。軽鎖と重鎖は別々の遺伝子によってコードされるが、組み換え法を利用してそれらを合体させることができる。例えばそれら2つのポリペプチドを合成リンカーによって接合することで、そのリンカーがそれら2つのポリペプチドを単一のタンパク質鎖にすることが可能になり、その鎖の中ではVL領域とVH領域がペアになって1価分子(一本鎖Fv(scFv)として知られる;例えばBird et al., 1988, Science 242: 423-426と、Huston et al., 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5879-5883を参照されたい)を形成する。
【0209】
本発明により、重鎖および/または軽鎖をコードする核酸配列を含む単離された核酸分子のほか、その断片が提供される。軽鎖と重鎖の両方をコードする配列を含む核酸分子、またはその断片を操作し、細胞の中で産生されるときに抗体または断片を分泌させるための合成シグナル配列を含むようにすることができる。さらに、核酸分子は、他の抗体配列の挿入を可能にするとともに抗体配列に通常見られるアミノ酸を変化させないよう翻訳リーディングフレームを維持する特殊なDNAリンクを含有することができる。代表的な核酸配列が配列番号33~62に示されている。
【0210】
本発明によれば、抗体をコードする核酸配列を適切な発現ベクターの中に挿入することができる。さまざまな実施形態では、発現ベクターは、抗体またはその断片を形成する抗体配列の発現を指示する組み換えDNA分子を生成させるため、抗体をコードする挿入された核酸の転写と翻訳に必要なエレメントを含んでいる。
【0211】
抗体をコードする核酸、またはその断片に対し、当業者に知られているさまざまな組み換え核酸技術(部位特異的突然変異誘発など)を適用することができる。
【0212】
多彩な方法を利用して核酸を細胞の中で発現させることができる。核酸は多くのタイプのベクターにクローニングすることができる。しかし本発明がどれか特定のベクターに限定されると解釈されてはならない。その代わりに本発明は、容易に入手できる多彩なベクター、および/または本分野で知られている多彩なベクターを包含すると解釈されるべきである。例えば本発明の核酸はベクター(その非限定的な例に含まれるのは、プラスミド、ファージミド、ファージ誘導体、動物ウイルス、およびコスミドである)にクローニングすることができる。特に興味あるベクターに含まれるのは、発現ベクター、複製ベクター、プローブ生成ベクター、およびシークエンシングベクターである。
【0213】
いくつかの実施形態では、発現ベクターは、ウイルスベクター、細菌ベクター、および哺乳類細胞ベクターからなるグループから選択される。上記の組成物の少なくとも一部または全部を含む多数の発現ベクター系が存在している。原核ベクターおよび/または真核ベクターに基づく系を本発明で利用し、ポリヌクレオチド、またはそのコグネイトポリペプチドを生成させることができる。多くのそのような系が市販されていて広く入手することができる。
【0214】
ウイルスベクター技術は本分野で周知であり、それが記載されているのは、例えばSambrook et al. (2012)とAusubel et al. (1999)、ならびにウイルス学と分子生物学の他の教科書である。ベクターとして有用なウイルスの非限定的な例に含まれるのは、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、およびレンチウイルスである。いくつかの実施形態では、マウス幹細胞ウイルス(MSCV)ベクターを用いて望む核酸を発現させる。MSCVベクターは細胞の中で望む核酸を効率的に発現させることが実証されている。しかし本発明がMSCVベクターの使用だけに限定されるはずはなく、むしろあらゆるレトロウイルス発現法が本発明に含まれる。ウイルスベクターの他の例は、モロニーマウス白血病ウイルス(MoMuLV)とHIVに基づくベクターである。いくつかの実施形態では、適切なベクターは、少なくとも1つの生物の中で機能する複製起点、プロモータ配列、便利な制限エンドヌクレアーゼ部位、および1つ以上の選択マーカーを含有する。(例えばWO 01/96584;WO 01/29058;およびアメリカ合衆国特許第6,326,193号を参照されたい)。
【0215】
追加の調節エレメント(例えばエンハンサ)を用いて転写開始の頻度を変えることができる。プロモータとして、遺伝子または核酸配列に天然状態で付随しているプロモータが可能であり、それは、コード区画および/またはエキソンの上流に位置する5’非コード配列を単離することによって得られる。このようなプロモータは「内在性」と呼ぶことができる。同様に、エンハンサとして、核酸配列に天然状態で付随していて、その配列の下流または上流のいずれかに位置するものが可能である。あるいはコードする核酸区画を組み換えまたは異種プロモータ(天然環境で核酸配列に通常は付随しないプロモータを意味する)の制御下に置くことによっていくつかの利点が得られよう。組み換えエンハンサまたは異種エンハンサは、天然環境では核酸配列に通常付随しないエンハンサも意味する。このようなプロモータまたはエンハンサに含めることができるのは、他の遺伝子のプロモータまたはエンハンサと、他の任意の原核細胞、ウイルス細胞、または真核細胞から単離されたプロモータまたはエンハンサと、「天然」ではなく例えば異なる転写調節領域の異なるエレメントおよび/または発現を変化させる変異を含有するプロモータまたはエンハンサである。プロモータとエンハンサの核酸配列を合成で生成させることに加え、本明細書に開示されている組成物と関係する配列を、組み換えクローニングおよび/または核酸増幅技術(PCRが含まれる)を利用して生成させることができる(アメリカ合衆国特許第4,683,202号、アメリカ合衆国特許第5,928,906号)。さらに、非核オルガネラ(ミトコンドリア、葉緑体など)の中の配列の転写および/または発現を指示する制御配列も使用できることを考慮する。
【0216】
発現のために選択した細胞のタイプ、オルガネラ、および生物の中でのDNA区画の発現を効果的に指示するプロモータおよび/またはエンハンサを使用することができる。分子生物学の分野の当業者は一般に、タンパク質を発現させるためにプロモータ、エンハンサ、および細胞のタイプの組み合わせをどのように用いるかを知っている(例えばSambrook et al. (2012)参照)。使用するプロモータは、構成的、組織特異的、誘導性であること、および/または導入されたDNA区画の高レベルの発現を適切な条件下で指示するのに有用であること(組み換えタンパク質とその断片の大規模な生成において有利であることなど)が可能である。
【0217】
プロモータの一例は、最初期サイトメガロウイルス(CMV)のプロモータ配列である。このプロモータ配列は、機能可能に連結された任意のポリヌクレオチド配列の高レベルの発現を駆動することのできる強力な構成的プロモータ配列である。しかし他の構成的プロモータ配列も使用でき、その非限定的な例に含まれるのは、シミアンウイルス40(SV40)初期プロモータ、マウス乳腺腫瘍ウイルス(MMTV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)長い末端反復(LTR)プロモータ、モロニーウイルスプロモータ、トリ白血病ウイルスプロモータ、エプスタイン-バールウイルス最初期プロモータ、ラウス肉腫ウイルスプロモータのほか、ヒト遺伝子プロモータ(その非限定的な例に含まれるのは、アクチンプロモータ、ミオシンプロモータ、ヘモグロビンプロモータ、および筋肉クレアチンプロモータである)である。さらに、本発明が構成的プロモータの使用に限定されるはずはない。誘導性プロモータも本発明の一部として考えられる。本発明で誘導性プロモータを用いると分子スイッチが提供され、この誘導性プロモータに機能可能に連結されたポリヌクレオチド配列の発現を望むときにはオンにし、発現を望まないときにはオフにすることが可能になる。誘導性プロモータの非限定的な例に含まれるのは、メタロチオニンプロモータ、グルココルチコイドプロモータ、プロゲステロンプロモータ、およびテトラサイクリンプロモータである。さらに、本発明には組織特異的プロモータまたは細胞タイプ特異的プロモータ(望む組織または細胞の中でだけ活性なプロモータ)の使用が含まれる。組織特異的プロモータは本分野で周知であり、その非限定的な例に含まれるのはHER-2プロモータとPSA関連プロモータ配列である。
【0218】
核酸の発現を評価するため、細胞に導入する発現ベクターに選択マーカー遺伝子とレポータ遺伝子の一方または両方も含めることで、ウイルスベクターを通じてトランスフェクトするか感染させようとする細胞の集団から、発現している細胞を容易に同定して選択することができる。他の実施形態では、選択マーカーを別の核酸に載せて同時トランスフェクション手続きで用いることができる。選択マーカーとレポータ遺伝子の両方を適切な調節配列に隣接させて宿主細胞の中での発現が可能になるようにすることができる。有用な選択マーカーは本分野で知られており、例えば抗生剤耐性遺伝子(neoなど)が含まれる。
【0219】
レポータ遺伝子は、トランスフェクトされた可能性のある細胞の同定と、調節配列の機能の評価に用いられる。容易に調べられるタンパク質をコードするレポータ遺伝子は本分野で周知である。一般にレポータ遺伝子は、発現がある程度容易に検出できる特性(例えば酵素活性)として現われるタンパク質をコードしていて、レシピエントの生物または組織に存在していない遺伝子、またはレシピエントの生物または組織で発現しない遺伝子である。レポート遺伝子の発現は、DNAがレシピエント細胞に導入されてから適切な時間が経過したときに調べる。
【0220】
適切なレポータ遺伝子に含めることができるのは、ルシフェラーゼ、ベータ-ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、分泌型アルカリホスファターゼ、または緑色蛍光タンパク質遺伝子をコードする遺伝子である(例えばUi-Tei et al., 2000 FEBS Lett. 479:79-82参照)。適切な発現系は周知であり、周知の技術を利用して調製すること、または市場で取得することができる。一般に、レポータ遺伝子の最高レベルの発現を示す最小5’隣接領域を持つコンストラクトがプロモータとして同定される。このようなプロモータ領域は、レポータ遺伝子に連結させて、薬剤を、プロモータが駆動する転写を変化させる能力について評価するのに使用できる。
【0221】
核酸を細胞に導入して発現させる方法は本分野で知られている。発現ベクターの文脈では、ベクターは本分野の任意の方法によって宿主細胞(例えば哺乳類、細菌、酵母、または昆虫の細胞)の中に容易に導入することができる。例えば発現ベクターは、物理的、化学的、または生物学的な手段によって宿主細胞の中に移すことができる。
【0222】
ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入するための物理的な方法に含まれるのは、リン酸カルシウム沈降、リポフェクション、パーティクルボンバードメント、微量注入、電気穿孔、レーザー穿孔などである。ベクターおよび/または外来核酸を含む細胞を生成させる方法は本分野で周知である。例えばSambrook et al. (2012)とAusubel et al. (1999)を参照されたい。
【0223】
興味ある核酸を宿主細胞に導入するための生物学的方法に含まれるのは、DNAベクターとRNAベクターの使用である。ウイルスベクター、特にレトロウイルスベクターは、遺伝子を哺乳類細胞(例えばヒト細胞)に挿入する最も広く利用されている方法になっている。他のウイルスベクターは、レンチウイルス、ポックスウイルス、単純ヘルペスウイルスI型、アデノウイルス、およびアデノ随伴ウイルスなどに由来することができる。例えばアメリカ合衆国特許第5,350,674号と第5,585,362号を参照されたい。
【0224】
核酸を宿主細胞に導入するための化学的手段に含まれるのは、コロイド分散系、例えば巨大分子複合体、ナノカプセル、マイクロスフェア、ビーズ、および脂質に基づく系(水中油型エマルション、ミセル、混合されたミセル、およびリポソームが含まれる)である。インビトロと生体内の送達用ビヒクルとして用いるのに好ましいコロイド系はリポソーム(例えば人工膜小胞)である。このような系の調製と利用は本分野で周知である。
【0225】
外来核酸を宿主細胞に導入するのに用いる方法や、細胞を本発明の核酸に曝露する方法とは関係なく、組み換えDNA配列が宿主細胞の中に存在することを確認するのに多彩なアッセイを実施することができる。このようなアッセイに含まれるのは、例えば当業者に周知の「分子生物学的」アッセイ(サザンブロッティング、ノーザンブロッティング、RT-PCR、PCR);「生化学的アッセイ」(特定のペプチドの存在または不在を例えば免疫学的手段(ELISAとウエスタンブロット)または本明細書に記載のアッセイによって検出し、本発明の範囲に入る薬剤を同定するアッセイなど)である。
【0226】
1.ベクターの構築
本出願のヒト化抗C5a抗体のポリペプチド成分をコードするポリヌクレオチド配列は標準的な組み換え技術を利用して得ることができる。望むポリヌクレオチド配列は抗体産生細胞(ハイブリドーマ細胞など)から単離してシークエンシングすることができる。あるいはポリヌクレオチドはヌクレオチド合成装置またはPCR技術を利用して合成することができる。ポリペプチドをコードする配列は、得られると、原核宿主の中で異種ポリヌクレオチドの複製と発現が可能な組み換えベクターに挿入される。本分野で利用可能な公知の多くのベクターを本出願の目的で用いることができる。適切なベクターの選択は、ベクターに挿入する核酸のサイズと、ベクターで形質転換する具体的な宿主細胞に主に依存することになろう。各ベクターは、その機能(異種ポリヌクレオチドの増幅と発現の一方または両方)と、それが導入される具体的な宿主との適合性に応じ、さまざまな成分を含有する。ベクター成分の非限定的な例に一般に含まれるのは、複製起点、選択マーカー遺伝子、プロモータ、リボソーム結合部位(RBS)、シグナル配列、異種核酸インサート、および転写終止配列である。
【0227】
一般に、宿主細胞に適合した種に由来するレプリコンと制御配列を含有するプラスミドベクターがこれら宿主で使用される。ベクターは、通常は、複製部位のほか、形質転換された細胞の中で表現型選択を提供することのできるマーキング配列を有する。例えば大腸菌は、典型的には、大腸菌種に由来するプラスミドであるpBR322を用いて形質転換される。pBR322はアンピシリン(Amp)耐性とテトラサイクリン(Tet)耐性をコードする遺伝子を含有するため、形質転換された細胞を同定する簡単な手段を提供する。pBR322、その誘導体、または他の微生物プラスミドまたはバクテリオファージは、内在性タンパク質を発現させるために微生物が使用することのできるプロモータを含有すること、または含有するように改変することもできる。特定の抗体の発現に使用されるpBR322誘導体の例は、Carterらのアメリカ合衆国特許第5,648,237号に詳細に記載されている。
【0228】
それに加え、宿主微生物に適合したレプリコンと制御配列を含有するファージベクターを、これら宿主に関する形質転換ベクターとして用いることができる。例えばバクテリオファージ(GEM(商標)-11など)を用い、感受性宿主細胞(大腸菌LE392など)の形質転換に使用できる組み換えベクターを作製することができる。
【0229】
本明細書に記載の発現ベクターは、ポリペプチド成分のそれぞれをコードする2つ以上のプロモータ-シストロン対を含むことができる。プロモータは翻訳されない調節配列であり、その発現を変化させるシストロンの上流(5′)に位置する。原核プロモータは、典型的には2つのクラス、すなわち誘導性と構成的に分類される。誘導性プロモータは、その制御下で培養条件の変化(例えば栄養素の存在または不在、または温度変化)に応答してシストロンの転写のレベル上昇を開始させるプロモータである。
【0230】
多彩な潜在的宿主細胞によって認識される多数のプロモータがよく知られている。選択されたプロモータは、供給元DNAから制限酵素消化によってそのプロモータを取り出し、その単離されたプロモータ配列をベクターの中に挿入することにより、軽鎖または重鎖をコードするシストロンDNAに機能可能に連結させることができる。天然プロモータ配列と多くの異種プロモータの両方を用いて標的遺伝子の増幅および/または発現を指示することができる。いくつかの実施形態では、異種プロモータが使用される。というのも異種プロモータは一般に、天然の標的ポリペプチドプロモータと比べたとき、発現した標的遺伝子のより多い転写とより多い収量を可能にするからである。
【0231】
原核宿主で用いるのに適したプロモータに含まれるのは、PhoAプロモータ、ガラクタマーゼプロモータ系とラクトースプロモータ系、トリプトファン(trp)プロモータ系、およびハイブリッドプロモータ(tacまたはtrcプロモータなど)である。しかし細菌の中で機能する他のプロモータ(知られている他の細菌プロモータまたはファージプロモータなど)も適している。これらのヌクレオチド配列は公開されているため、当業者はリンカーまたはアダプタを用いてそれらを標的軽鎖と標的重鎖をコードするシストロンに機能可能に連結させ(Siebenlist et al. (1980) Cell 20: 269)、あらゆる必要な制限部位を供給することができる。
【0232】
1つの側面では、組み換えベクター内の各シストロンは、発現したポリペプチドが膜を通って移行するのを指示する分泌シグナル配列成分を含む。一般にシグナル配列として、ベクターの1つの成分、またはベクターに挿入される標的ポリペプチドDNAの一部が可能である。本出願の目的で選択されるシグナル配列は、宿主細胞によって認識されて処理される(すなわちシグナルペプチダーゼによって切断される)ものでなければならない。異種ポリペプチドに固有のシグナル配列を認識して処理することのない原核宿主細胞では、シグナル配列は、例えばアルカリホスファターゼ、ペニシリナーゼ、Ipp、または熱安定性エンテロトキシンII(STII)リーダー、LamB、PhoE、PelB、OmpA、およびMBPからなるグループから選択される原核シグナル配列によって置換される。いくつかの実施形態では、発現系の両方のシストロンで用いられるシグナル配列は、STIIシグナル配列またはそのバリアントである。
【0233】
いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体の生成は宿主細胞の細胞質の中で起こることができるため、各シストロン内に分泌シグナル配列が存在する必要はない。いくつかの実施形態では、ポリペプチド成分(第2の抗原結合部分に場合により融合した第1の抗原結合部分のVHドメインをコードするポリペプチドと、第2の抗原結合部分に場合により融合した第1の抗原結合部分のVLドメインをコードするポリペプチドなど)が発現し、折り畳まれ、組み立てられて細胞質内に機能的ヒト化抗C5a抗体を形成する。ある宿主株(例えば大腸菌trxB-株)は、ジスルフィド結合の形成に有利な細胞質の条件を提供することにより、発現したタンパク質サブユニットの適切な折り畳みと組み立てを可能にする。Proba and Pluckthun Gene, 159:203 (1995)。
【0234】
2.原核宿主細胞におけるタンパク質産生
本出願のヒト化抗C5a抗体の発現に適した原核宿主細胞に含まれるのは、古細菌と真正細菌(グラム陰性またはグラム陽性の生物など)である。有用な細菌の例に含まれるのは、エスケリキア属(例えば大腸菌)、バシラス綱(例えば枯草菌)、腸内細菌、シュードモナス属の種(例えば緑膿菌)、ネズミチフス菌、セラチア・マルセッセンス、クレブシエラ属、プロテウス属、赤痢菌、根粒菌、ビトレオシラ属、またはパラコッカス属である。いくつかの実施形態では、グラム陰性細胞が用いられる。いくつかの実施形態では、大腸菌細胞が宿主として使用される。大腸菌株の例に含まれるのは、株W3110(Bachmann, Cellular and Molecular Biology, vol. 2 (Washington, D.C.: American Society for Microbiology, 1987), pp. 1190-1219;ATCC寄託番号27,325)とその誘導体であり、その中に含まれるのは、遺伝子型W3110 AfhuA(AtonA)ptr3 lac Iq lacL8 AompT A(nmpc-fepE) degP41 kanRを持つ株33D3(アメリカ合衆国特許第5,639,635号)である。他の株とその誘導体(大腸菌294(ATCC 31,446)、大腸菌B、大腸菌1776(ATCC 31,537)、および大腸菌RV308(ATCC 31,608)など)も適している。これらの例は、限定的というよりは例示的である。規定された遺伝子型を持つ上記の細菌のいずれかの誘導体を構成する方法は本分野で知られており、例えばBass et al., Proteins, 8:309-314 (1990)に記載されている。細菌の細胞におけるレプリコンの複製可能性を考慮して適切な細菌を選択することが一般に必要とされる。レプリコンを供給するのに周知のプラスミド(pBR322、pBR325、pACYC177、またはpKN410など)を使用するときには、例えば大腸菌、セラチア属、またはサルモネラ属の種を宿主として用いるのが好適である可能性がある。
【0235】
典型的には、宿主細胞は最少量のタンパク質溶解酵素を分泌すべきであり、追加のプロテアーゼ阻害剤を細胞培養物に組み込めることが望ましい。
【0236】
宿主細胞は、上記の発現ベクターで形質転換した後、プロモータを誘導するため、形質転換体を選択するため、または望む配列をコードする遺伝子を増幅するため、必要に応じて改変した従来の栄養培地の中で培養する。形質転換とは、DNAを原核宿主に導入し、染色体外要素として、または染色体組み込み体(integrant)によって、そのDNAが複製可能になることを意味する。使用する宿主細胞に応じ、形質転換はそのような細胞に適した標準的な技術を利用してなされる。塩化カルシウムを用いたカルシウム処理が、実質的な細胞壁障壁を含有する細菌細胞のために一般に利用され、形質転換のための別の方法は、ポリエチレングリコール/DMSOを用いる。利用されるさらに別の技術は電気穿孔である。
【0237】
本出願のヒト化抗C5a抗体の生成に用いる原核細胞は、本分野で知られていて選択された宿主細胞の培養に適した培地の中で増殖させる。適切な培地の例に、ルリア培地(LB)+必要な栄養サプリメントが含まれる。いくつかの実施形態では、培地は、発現ベクターを含有する原核細胞の増殖を選択的に可能にするため、発現ベクターの構成に基づいて選択された選択剤も含有する。例えばアンピシリンを、アンピシリン耐性遺伝子を発現している細胞を増殖させるための培地に添加する。
【0238】
炭素、窒素、および無機リン酸塩の供給源以外の必要なあらゆるサプリメントも、単独で、または別のサプリメントまたは培地(複合窒素源など)との混合物として導入されて、適切な濃度で含むことができる。場合により培地は、グルタチオン、システイン、シスタミン、チオグリコレート、ジチオエリトリトール、およびジチオトレイトールからなるグループから選択される1つ以上の還元剤を含有することができる。
【0239】
原核宿主細胞は適温で培養される。例えば大腸菌の増殖にとって、好ましい温度範囲は約20℃~約39℃、より好ましくは約25℃~約37℃、より一層好ましくは約30℃である。培地のpHは主に宿主生物によるが、約5~約9の範囲の任意のpHが可能である。大腸菌では、pHは好ましくは約6.8~約7.4であり、より好ましくは約7.0である。
【0240】
誘導性プロモータを発現ベクターで用いる場合には、タンパク質の発現はプロモータの活性化に適した条件下で誘導される。いくつかの実施形態では、PhoAプロモータを用いてペプチドの転写を制御する。したがって形質転換された宿主細胞は、誘導のためリン酸塩制限培地の中で培養される。リン酸塩制限培地はC.R.A.P培地であることが好ましい(例えばSimmons et al., J. Immunol. Methods (2002), 263:133-147参照)。本分野で知られているように、用いるベクターコンストラクトに応じて多彩な他の誘導物質を使用できる。
【0241】
本出願の発現したヒト化抗C5a抗体は宿主細胞のペリプラズムに分泌されてそこから回収される。タンパク質の回収は、典型的には、一般に浸透圧ショック、超音波処理、または溶解などの手段によって微生物を破壊することを含む。細胞が破壊されると、細胞残滓または全細胞を遠心分離または濾過によって除去することができる。タンパク質は例えばアフィニティ樹脂クロマトグラフィによってさらに精製することができる。あるいはタンパク質を培地の中に移し、その中で単離することができる。細胞を培養物から除去し、培養物上清を濾過し、濃縮して、生成したタンパク質をさらに精製することができる。発現したポリペプチドは、一般に知られている方法(ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)やウエスタンブロットアッセイなど)を利用してさらに単離して同定することができる。
【0242】
あるいはタンパク質産生は発酵プロセスによって大量になされる。さまざまな大規模流加発酵手続きを組み換えタンパク質の産生に利用することができる。大規模の発酵は少なくとも1000リットルの容量、好ましくは約1,000~100,000リットルの容量を持つ。これら発酵装置は撹拌羽根を利用して酸素と栄養素、特にグルコース(好ましい炭素/エネルギー源)を分配する。小規模の発酵は一般に、約100リットル以下の容積で約1リットル~約100リットルの範囲が可能な発酵装置の中での発酵を意味する。
【0243】
発酵プロセスの間、タンパク質発現の誘導は、典型的には細胞を適切な条件下で望む密度(例えばOD550が約180~220)まで増殖させた後に開始され、その段階で細胞は初期静止期にある。本分野で知られているように、そして上に記載したように、用いるベクターコンストラクトに応じて多彩な誘導物質を使用することができる。細胞は誘導の前により短期間増殖させることができる。細胞は通常は約12~50時間にわたって誘導されるが、より長いかより短い誘導時間を用いることができる。
【0244】
本出願のヒト化抗C5a抗体の生成収量と品質を改善するため、さまざまな発酵条件を改変することができる。例えば分泌されたポリペプチドの適切な組み立てと折り畳みを改善するため、Dsbタンパク質(DsbA、DsbB、DsbC、DsbD、およびまたはDsbG)またはFkpA(シャペロン活性を持つペプチジルプロリルシストランス-イソメラーゼ)などのシャペロンタンパク質を過剰発現している追加ベクターを用いて宿主原核細胞を同時に形質転換することができる。シャペロンタンパク質は、細菌宿主細胞の中で産生された異種タンパク質の適切な折り畳みと溶解を容易にすることが実証されている。Chen et al. (1999) J Bio Chem 274:19601-19605;Georgiou et al.、アメリカ合衆国特許第6,083,715号;Georgiou et al.、アメリカ合衆国特許第6,027,888号;Bothmann and Pluckthun (2000) J. Biol. Chem. 275: 17100-17105;Ramm and Pluckthun (2000) J. Biol. Chem. 275:17106-17113;Arie et al. (2001) Mol. Microbiol. 39:199-210。
【0245】
発現した異種タンパク質(特に、タンパク質溶解に感受性であるもの)のタンパク質溶解を最少にするため、タンパク質溶解酵素が欠損したある宿主株を本出願で使用することができる。例えば宿主細胞株を改変し、既知の細菌プロテアーゼ(プロテアーゼIII、OmpT、DegP、Tsp、プロテアーゼI、プロテアーゼMi、プロテアーゼV、プロテアーゼVI、およびこれらの組み合わせなど)をコードする遺伝子の中に遺伝子変異を起こさせることができる。いくつかの大腸菌プロテアーゼ欠損株が入手可能であり、例えばJoly et al. (1998)、上記文献;Georgiou et al.、アメリカ合衆国特許第5,264,365号;Georgiou et al.、アメリカ合衆国特許第5,508,192号;Hara et al., Microbial Drug Resistance, 2:63-72 (1996)に記載されている。
【0246】
タンパク質溶解酵素が欠損していて1つ以上のシャペロンタンパク質を過剰発現しているプラスミドで形質転換された大腸菌株を、本出願のヒト化抗C5a抗体をコードする発現系において宿主細胞として用いることができる。
【0247】
3.真核細胞におけるタンパク質産生
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のヒト化抗C5a抗体を真核細胞の中で発現させることができる。真核細胞で発現させるため、ベクター成分の非限定的な例に一般に含まれるのは、シグナル配列、複製起点、1つ以上のマーカー遺伝子とエンハンサエレメント、プロモータ、および転写終止配列のうちの1つ以上である。
【0248】
a)宿主細胞の選択と形質転換
本明細書のベクター内のDNAのクローニングまたは発現に適した宿主細胞には、本明細書に記載のより高等な真核細胞が含まれ、その中には脊椎動物宿主細胞が含まれる。培養物(組織培養物)の中での脊椎動物細胞の増殖は定型的手続きになっている。有用な哺乳類宿主細胞系の例は、SV40によって形質転換されたサル腎臓CV1系(COS-7、ATCC CRL 1651);ヒト胚性腎臓系(293細胞、または増殖させるため懸濁培養物にサブクローニングされた293細胞、Graham et al., J. Gen Virol. 36:59 (1977));ベビーハムスター腎細胞(BHK、ATCC CCL 10);チャイニーズハムスター卵巣細胞/-DHFR(CHO、Urlaub et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:4216 (1980));マウスセルトリ細胞(TM4、Mather, Biol. Reprod. 23:243-251 (1980));サル腎細胞(CV1 ATCC CCL 70);アフリカミドリザル腎細胞(VERO-76、ATCC CRL-1587);ヒト子宮頸癌細胞(HELA、ATCC CCL 2);イヌ腎細胞(MDCK、ATCC CCL 34);バッファローラット肝細胞(BRL 3A、ATCC CRL 1442);ヒト肺細胞(W138、ATCC CCL 75);ヒト肝細胞(Hep G2、HB 8065);マウス乳腺腫瘍(MMT 060562、ATCC CCL51);TR1細胞(Mather et al., Annals N.Y. Acad. Sci. 383:44-68 (1982));MRC 5細胞;FS4細胞;およびヒト肝癌系(Hep G2)である。
【0249】
宿主細胞は、ヒト化抗C5a抗体を生成させるための上記の発現ベクターまたはクローニングベクターで形質転換した後、プロモータを誘導するため、形質転換体を選択するため、または望む配列をコードする遺伝子を増幅するため、必要に応じて改変した従来の栄養培地の中で培養する。いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体はCHO細胞の中で発現する。いくつかの実施形態では、ヒト化抗C5a抗体はExpi-CHO細胞の中で発現する。
【0250】
b)宿主細胞の培養
本出願のヒト化抗C5a抗体を生成させるために用いる宿主細胞は多彩な培地の中で培養することができる。市販の培地(ハムのF10(Sigma)、最少必須培地(MEM)、(Sigma)RPMI-1640(Sigma)、およびダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、Sigma)など)が、宿主細胞の培養に適している。それに加え、Ham et al., Meth. Enz. 58:44 (1979)、Barnes et al., Anal. Biochem. 102:255 (1980)、アメリカ合衆国特許第4,767,704号;第4,657,866号;第4,927,762号;第4,560,655号;または第5,122,469号;WO 90/03430;WO 87/00195;またはアメリカ合衆国再発行特許第30,985号に記載されている培地のいずれかを宿主細胞のための培地として使用できる。これら培地のいずれかには、ホルモンおよび/または他の成長因子(インスリン、トランスフェリン、または上皮成長因子など)、塩(塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、およびリン酸塩など)、バッファ(HEPESなど)、ヌクレオチド(アデノシンやチミジンなど)、抗生剤(GENTAMYCIN(商標)薬など)、微量エレメント(マイクロモル範囲の最終濃度で通常存在する無機化合物と定義される)、およびグルコースまたは同等なエネルギー源を必要に応じて補足することができる。当業者に知られていると考えられる必要な他のあらゆるサプリメントも適切な濃度で含めることができる。培養条件(温度、pHなど)は発現のために選択した宿主細胞で以前に使用したものと同じであり、当業者には明らかであろう。
【0251】
c)タンパク質の精製
本明細書で生成したヒト化抗C5a抗体をさらに精製してさらなるアッセイと利用のための実質的に均一な調製物を得ることができる。本分野で知られている標準的なタンパク質精製法を利用することができる。
【0252】
4.抗体の生成と修飾
ヒト化抗C5a抗体の成分は、本分野で知られている任意の方法(下記の方法が含まれる)を利用して生成させることができる。
【0253】
a)モノクローナル抗体
モノクローナル抗体は、実質的に均一な抗体の集団から得られる。すなわちその集団を含む個別の抗体は、微量で存在する可能性がある可能な天然の変異および/または翻訳後修飾(例えば異性化、アミド化)を除いて同一である。したがって「モノクローナル」という修飾語は、別々の抗体の混合物ではないという抗体の特徴を示す。
【0254】
例えばモノクローナル抗体は、Kohler et al., Nature, 256:495 (1975)によって最初に記述されたハイブリドーマ法を利用して作製すること、または組み換えDNA(アメリカ合衆国特許第4,816,567号)によって作製することができる。
【0255】
ハイブリドーマ法では、マウスまたは他の適切な宿主動物(ハムスターなど)が上記のようにして免疫化されて、免疫化に用いるタンパク質に特異的に結合する抗体を生成させるか、生成させることのできるリンパ球を生じさせる。あるいはリンパ球はインビトロで免疫化することができる。その後、適切な融合剤(ポリエチレングリコールなど)を用いてリンパ球を骨髄腫細胞と融合させ、ハイブリドーマ細胞を形成する(Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, pp. 59-103 (Academic Press, 1986)。
【0256】
免疫化剤は、典型的には、抗原性タンパク質またはその融合体バリアントを含むことになる。一般に、ヒト起源の細胞が望まれる場合には末梢血リンパ球(「PBL」)が使用され、非ヒト哺乳類供給源が望まれる場合には脾臓細胞またはリンパ節細胞が使用される。その後、適切な融合剤(ポリエチレングリコールなど)を用いてリンパ球を不死化細胞系と融合させ、ハイブリドーマ細胞を形成する。Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, Academic Press (1986), pp. 59-103。
【0257】
不死化細胞系は、通常は、形質転換された哺乳類細胞(特に齧歯類、ウシ、およびヒト)が起源の骨髄腫細胞である。通常はラットまたはマウスの骨髄腫細胞系が使用される。このようにして調製されたハイブリドーマ細胞を、融合していない親骨髄腫細胞の成長または生存を阻害する1つ以上の物質を含有することが好ましい適切な培地に播種してその中で増殖させる。例えば親骨髄腫細胞が酵素ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRTまたはHPRT)を欠く場合には、ハイブリドーマのための培地は、典型的には、HGPRT欠損細胞の増殖を阻止する物質であるヒポキサンチン、アミノプテリン、およびチミジン(HAT培地)を含むことになる。
【0258】
好ましい不死化骨髄腫細胞は、効率的に融合し、選択された抗体産生細胞による抗体の安定な高レベルの生成をサポートし、培地(HAT培地など)に対して感受性のあるものである。これらのうちで好ましいのはマウス骨髄腫系である(Salk Institute Cell Distribution Center(サン・ディエゴ、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)から入手できるMOPC-21およびMPC-11マウス腫瘍と、American Type Culture Collection、マナサス、ヴァージニア州、アメリカ合衆国から入手できるSP-2細胞(とその誘導体、例えばX63-Ag8-653)に由来するものなど)。ヒト骨髄腫とマウス-ヒトヘテロ骨髄腫細胞系もヒトモノクローナル抗体の生成に関して記載されている(Kozbor, J. Immunol., 133:3001 (1984);Brodeur et al., Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, pp. 51-63 (Marcel Dekker, Inc., New York, 1987))。
【0259】
中でハイブリドーマ細胞が増殖している培地を調べ、抗原に向かうモノクローナル抗体の生成を探す。ハイブリドーマ細胞によって産生されるモノクローナル抗体の結合特異性は、免疫沈降によって、またはインビトロ結合アッセイ(ラジオイムノアッセイ(RIA)または酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)など)によって明らかにすることが好ましい。
【0260】
中でハイブリドーマ細胞が培養される培地を調べ、望む抗原に向かうモノクローナル抗体の存在を探すことができる。モノクローナル抗体の結合の親和性と特異性は、免疫沈降によって、またはインビトロ結合アッセイ(ラジオイムノアッセイ(RIA)または酵素結合アッセイ(ELISA)など)によって明らかにできることが好ましい。このような技術とアッセイは本分野で知られている。例えば結合親和性は、Munson et al., Anal. Biochem., 107:220 (1980)のスキャッチャード分析によって明らかにすることができる。
【0261】
望む特異性、親和性、および/または活性を持つ抗体を生成させるハイブリドーマ細胞を同定した後、クローンを限界希釈手続きによってサブクローニングし、標準的な方法によって増殖させることができる(Goding、上記文献)。この目的に適した培地に含まれるのは、例えばD-MEMまたはRPMI-1640培地である。それに加え、ハイブリドーマ細胞は、哺乳類の中で腫瘍として生体内増殖させることができる。
【0262】
サブクローンによって分泌されるモノクローナル抗体は、培地、腹水、または血清から従来の免疫グロブリン精製手続き(例えばプロテインA-Sepharose、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィ、ゲル電気泳動、透析、またはアフィニティクロマトグラフィなど)によってうまく分離される。
【0263】
モノクローナル抗体は組み換えDNA法(アメリカ合衆国特許第4,816,567号に記載されている方法や上記の方法など)によって作製することもできる。モノクローナル抗体をコードするDNAは、従来の手続きを利用して(例えばマウス抗体の重鎖と軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合できるオリゴヌクレオチドプローブを用いることにより)容易に単離されてシークエンシングされる。ハイブリドーマ細胞はそのようなDNAの好ましい供給源として機能する。DNAは単離されると発現ベクターの中に入れることができ、その発現ベクターが宿主細胞にトランスフェクトされて、そのような組み換え宿主細胞(他のやり方では免疫グロブリンタンパク質を産生しない大腸菌細胞、シミアンCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、または骨髄腫細胞など)の中でモノクローナル抗体が合成される。抗体をコードするDNAを細菌の中で組み換え発現させることに関する概説論文には、Skerra et al., Curr. Opinion in Immunol., 5:256-262 (1993)とPliickthun, Immunol. Revs. 130:151-188 (1992) が含まれる。
【0264】
さらなる一実施形態では、抗体は、McCafferty et al., Nature, 348:552-554 (1990)に記載されている技術を利用して生成させた抗体ファージライブラリから単離することができる。Clackson et al., Nature, 352:624-628 (1991)とMarks et al., J. Mol. Biol., 222:581-597 (1991)は、ファージライブラリを用いてマウスとヒトそれぞれの抗体を単離することを記載している。その後の刊行物は、鎖シャッフリング(Marks et al., Bio/Technology, 10:779-783 (1992))のほか、非常に大きいファージライブラリを構成するための戦略としての組み合わせ感染と生体内組み換え(Waterhouse et al., Nucl. Acids Res., 21:2265-2266 (1993))による高親和性(nMの範囲)のヒト抗体の生成を記載している。したがってこれらの技術は、モノクローナル抗体を単離するための伝統的なモノクローナル抗体ハイブリドーマ技術に対する実行可能な代替手段である。
【0265】
DNAも改変することができ、それは例えばヒト重鎖と軽鎖の定常ドメインのコード配列を相同なマウス配列で置換することによって(アメリカ合衆国特許第4,816,567号;Morrison, et al., Proc. Natl Acad. Sci. USA, 81:6851 (1984))、または非免疫グロブリンポリペプチドのコード配列の全部または一部を免疫グロブリンコード配列に共有結合させることによってである。典型的には、このような非免疫グロブリンポリペプチドは、抗体の定常ドメインで置換されるか、抗体の1つの抗原結合部位の可変ドメインで置換され、1つの抗原に対する特異性を持つ1つの抗原結合部位と、異なる抗原に対する特異性を持つ別の抗原結合部位を含む2価キメラ抗体を生み出す。
【0266】
本明細書に記載のモノクローナル抗体は1価によることが可能であり、その調製は本分野で周知である。例えば1つの方法は、免疫グロブリン軽鎖と修飾された重鎖の組み換え発現を含む。重鎖は一般にFc領域内の任意の地点で切断されて重鎖の架橋を阻止する。あるいは関連するシステイン残基を別のアミノ酸残基で置換するか除去して架橋を阻止することができる。インビトロ法は1価抗体の調製にも適している。抗体の消化によるその断片(特にFab断片)の生成は、本分野で知られている定型的な技術を利用して実現することができる。
【0267】
キメラ抗体またはハイブリッド抗体も、合成タンパク質化学で知られている方法(架橋剤が関与する方法が含まれる)を利用してインビトロで調製することができる。例えばイムノトキシンは、ジスルフィド-交換反応を利用して、またはチオエーテル結合を形成することによって構成することができる。この目的に適した試薬の例に含まれるのは、イミノチオレートとメチル-4-メルカプトブチルイミデートである。
【0268】
b)ヒト化抗体
非ヒト(例えばマウス)抗体のヒト化形態は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列を含有するキメラ免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖またはその断片(Fv、Fab、Fab′、F(ab′)2、または抗体の他の抗原結合配列など)である。ヒト化抗体には、レシピエントの相補性決定領域(CDR)からの残基が、望む特異性、親和性、および能力を持つ非ヒト種(ドナー抗体)(マウス、ラット、またはウサギなど)のCDRからの残基で置き換えられたヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)が含まれる。いくつかの場合には、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク残基が対応する非ヒト残基によって置き換えられる。ヒト化抗体は、レシピエント抗体にも、輸入されたCDRまたはフレームワークの配列にも見られない残基も含むことができる。一般に、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的にすべてを含むことになり、その可変ドメインではCDR領域のすべて、または実質的にすべてが非ヒト免疫グロブリンのCDR領域に対応し、FR領域のすべて、または実質的にすべてがヒト免疫グロブリンコンセンサス配列のFR領域である。ヒト化抗体は、最適には、免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部(典型的にはヒト免疫グロブリンの少なくとも一部)も含むことになる。Jones et al., Nature 321: 522-525 (1986);Riechmann et al., Nature 332: 323-329 (1988) 、およびPresta, Curr. Opin. Struct. Biol. 2: 593-596 (1992)。
【0269】
非ヒト抗体をヒト化する方法は本分野で周知である。一般に、ヒト化抗体は、非ヒトである供給源から導入された1つ以上のアミノ酸残基を持つ。これら非ヒトアミノ酸残基は「輸入」残基と呼ばれることがしばしばあり、典型的には「輸入」可変ドメインから取られる。ヒト化は、本質的に、Winterと共同研究者の方法、Jones et al., Nature 321:522-525 (1986);Riechmann et al., Nature 332:323-327 (1988);Verhoeyen et al., Science 239:1534-1536 (1988)に従って実施すること、または齧歯類のCDRまたはCDR配列をヒト抗体の対応する配列で置換することによって実施することができる。したがってそのような「ヒト化」抗体はキメラ抗体であり(アメリカ合衆国特許第4,816,567号)、その中では実質的にインタクト未満のヒト可変ドメインが非ヒト種からの対応する配列によって置換されている。実際には、ヒト化抗体は、典型的には、いくつかのCDR残基、おそらくはいくつかのFR残基が齧歯類抗体の中の類似した部位からの残基で置換されたヒト抗体である。
【0270】
ヒト化抗体の作製に用いるヒト可変ドメイン(軽鎖と重鎖の両方)の選択は抗原性を低下させる上で非常に重要である。いわゆる「ベスト-フィット」法に従い、齧歯類抗体の可変ドメインの配列を既知のヒト可変ドメイン配列のライブラリ全体に対してスクリーニングする。その後、齧歯類の配列に最も近いヒト配列をヒト化抗体のためのヒトフレームワーク(FR)として受け入れる。Sims et al., J. Immunol., 151:2296 (1993);Chothia et al., J. Mol. Biol., 196:901 (1987)。別の1つの方法は、軽鎖または重鎖の特別なサブグループの全ヒト抗体のコンセンサス配列に由来する特別なフレームワークを用いる。同じフレームワークをいくつかの異なるヒト化抗体のために使用することができる。Carter et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:4285 (1992);Presta et al., J. Immunol., 151:2623 (1993)。
【0271】
抗体は、抗原に対する高親和性と他の有利な生物学的特性を保持した状態でヒト化されることがさらに重要である。この目的を達成するため、1つの好ましい方法に従うと、親配列とヒト化配列の三次元モデルを用いて親配列とさまざまな概念的ヒト化産物を分析する方法によってヒト化抗体を調製する。三次元免疫グロブリンモデルが市販されており、当業者には馴染みがある。選択された候補免疫グロブリン配列の有力な三次元立体構造を図解して表示するコンピュータプログラムを利用できる。これらの表示を検討することで、候補免疫グロブリン配列の機能において残基がおそらく果たす役割の分析、すなわち候補免疫グロブリンが対応する抗原に結合する能力に影響を与える残基の分析が可能になる。このようにしてFR残基をレシピエント配列と輸入配列から選択して組み合わせ、抗体の望む特徴(標的抗原に対する増加した親和性など)を実現する。一般にCDR残基は、抗原への結合に影響を与えることに直接的かつ最も実質的に関与する。
【0272】
さまざまな形態のヒト化抗体が考えられる。例えばヒト化抗体として抗体断片(Fabなど)が可能であり、その抗体断片は場合により1つ以上の細胞毒性剤との複合体になって免疫複合体を生成させる。あるいはヒト化抗体としてインタクトな抗体(インタクトなIgG4抗体など)が可能である。
【0273】
c)ヒト抗体
ヒト化の代わりとしてヒト抗体を生成させることができる。例えば、免疫化されると内在性免疫グロブリンの産生なしでヒト抗体の完全なレパートリーを生成させることのできるトランスジェニック動物(例えばマウス)を生成させることが今や可能である。例えばキメラマウスと生殖細胞系変異マウスの中の抗体重鎖接合領域(JH)遺伝子のホモ接合性欠失により内在性抗体の産生が完全に阻害されることが記載されている。そのような生殖細胞系変異マウスにおいてヒト生殖細胞系免疫グロブリン遺伝子アレイが移動する結果として抗原チャレンジの際にヒト抗体が生成する。例えばJakobovits et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:2551 (1993);Jakobovits et al., Nature, 362:255-258 (1993);Bruggermann et al., Year in Immuno., 7:33 (1993);アメリカ合衆国特許第5,591,669号、およびWO 97/17852を参照されたい。完全ヒト抗体を生成させることのできるトランスジェニックマウスまたはラットが本分野で知られている。例えばアメリカ合衆国特許出願公開第20090307787A1号、アメリカ合衆国特許第8,754,287号、アメリカ合衆国特許第20150289489A1号、アメリカ合衆国特許第20100122358A1号、およびWO 2004049794を参照されたい。
【0274】
あるいはファージ提示技術を利用し、免疫化されていないドナーからの免疫グロブリン可変(V)ドメイン遺伝子レパートリーから、ヒトの抗体と抗体断片をインビトロで生成させることができる。McCafferty et al., Nature 348:552-553 (1990);Hoogenboom and Winter, J. Mol. Biol. 227: 381 (1991)。この技術に従い、抗体Vドメイン遺伝子をフィラメント状バクテリオファージ(M13またはfdなど)のメジャーコートタンパク質遺伝子またはマイナーコートタンパク質遺伝子いずれかのフレーム内にクローニングし、ファージ粒子の表面に機能的抗体断片を提示させる。フィラメント状粒子はファージゲノムの一本鎖DNAコピーを含有するため、抗体の機能特性に基づいて選択すると、これら特性を示す抗体をコードする遺伝子が選択される結果になる。したがってファージはB細胞の特性のいくつかを模倣する。ファージ提示は、例えばJohnson, Kevin S, and Chiswell, David J., Curr. Opin Struct. Biol. 3:564-571 (1993)に概説されている多彩な形式で実施することができる。V遺伝子区画のいくつかの供給源をファージ提示に利用することができる。Clackson et al., Nature 352:624-628 (1991)は、免疫化されたマウスの脾臓に由来するV遺伝子の小さいランダムな組み合わせライブラリから抗オキサゾロン抗体のさまざまなアレイを単離した。免疫化されていないヒトドナーからのV遺伝子のレパートリーを構成し、抗原(自己抗原を含む)の多彩なアレイに対する抗体を、本質的にMarks et al., J. Mol. Biol. 222:581-597 (1991)、またはGriffith et al., EMBO J. 12:725-734 (1993)によって記載されている技術にしたがって単離することができる。アメリカ合衆国特許第5,565,332号と第5,573,905号も参照されたい。
【0275】
ColeらとBoernerらの技術を利用してヒトモノクローナル抗体を調製することもできる(Cole et al., Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, p. 77 (1985)とBoerner et al., J. Immunol. 147(1): 86-95 (1991)。同様に、ヒト抗体は、ヒト免疫グロブリン遺伝子座を内在性免疫グロブリン遺伝子が部分的に、または完全に不活性化されたトランスジェニック動物(例えばマウス)に導入することによって作製することができる。チャレンジの際には、ヒト抗体の産生が観察される。それは、遺伝子再構成、組み立て、および抗体レパートリーを含め、あらゆる点でヒトに見られるのと非常によく似ている。このアプローチが記載されているのは、例えばアメリカ合衆国特許第5,545,807号;第5,545,806号、第5,569,825号、第5,625,126号、第5,633,425号、第5,661,016号と、以下の学術刊行物:Marks et al., Bio/Technology 10: 779-783 (1992);Lonberg et al., Nature 368: 856-859 (1994);Morrison, Nature 368: 812-13 (1994)、Fishwild et al., Nature Biotechnology 14: 845-51 (1996)、Neuberger, Nature Biotechnology 14: 826 (1996)、およびLonberg and Huszar, Intern. Rev. Immunol. 13: 65-93 (1995)である。
【0276】
最後に、ヒト抗体は、インビトロで活性化されたB細胞によって生成されてもよい(アメリカ合衆国特許第5,567,610号と第5,229,275号を参照されたい)。
【0277】
d)抗体断片
ある状況では、抗体全体よりも抗体断片(抗原結合断片など)を用いることが有利である。断片のサイズがより小さいと迅速な排除が可能になり、固形腫瘍へのアクセスが改善される可能性がある。
【0278】
さまざまな技術が抗体断片を生成させるために開発されてきた。伝統的には、これら断片はインタクトな抗体のタンパク質溶解消化に由来する(例えばMorimoto et al., J Biochem Biophys. Method. 24:107-117 (1992)とBrennan et al., Science 229:81 (1985)参照)。しかしこれら断片は、今や、組み換え宿主細胞によって直接生成させることができる。Fab、Fv、およびscFv抗体断片はすべて、大腸菌の中で発現させて大腸菌から分泌させることができるため、大量のこれら断片の容易な生成が可能になる。抗体断片は、上述のように抗体ファージライブラリから単離することができる。あるいはFab′-SH断片を大腸菌から直接回収し、化学的にカップルさせてF(ab′)2断片を形成することができる(Carter et al., Bio/Technology 10:163-167 (1992))。別のアプローチによれば、F(ab′)2断片を組み換え宿主細胞培養物から直接単離することができる。生体内半減期が延長したFabとF(ab′)2はアメリカ合衆国特許第5,869,046号に記載されている。他の実施形態では、抗体の選択は一本鎖Fv断片(scFv)である。WO 93/16185;アメリカ合衆国特許第5,571,894号、およびアメリカ合衆国特許第5,587,458号を参照されたい。例えばアメリカ合衆国特許第5,641,870号に記載されているように、抗体断片として「直線状抗体」も可能である。このような直線状抗体断片は、単一特異性または二重特異性であることが可能である。
【0279】
e)エフェクタ機能の操作
例えば抗体の抗原依存性細胞傷害(ADCC)および/または補体依存性細胞傷害(CDC)を変化させる(例えば増強する、または消失させる)ため、本出願のヒト化抗C5a抗体をFcエフェクタ機能に関して変化させることが望ましい可能性がある。好ましい一実施形態では、ヒト化抗C5a抗体のFcエフェクタ機能が低下または消失する。これは、1つ以上のアミノ酸置換を抗体のFc領域に導入することによって実現できる。その代わりに、またはそれに加えて、システイン残基をFc領域に導入することで、この領域に鎖間ジスルフィド結合を形成することが可能になる。このようにして生成したホモ二量体ヒト化抗C5a抗体は、改善された内部化能力、および/または増加した補体関連細胞殺傷と抗体依存性細胞傷害(ADCC)を持つ可能性がある。Caron et al., J. Exp Med. 176:1191-1195 (1992)とShopes, B. J. Immunol. 148:2918-2922 (1992)を参照されたい。増強された抗腫瘍活性を持つホモ二量体抗体は、Wolff et al., Cancer Research 53:2560-2565 (1993)に記載されているヘテロ二機能性架橋剤を用いて調製することもできる。あるいは二重Fc領域を持つ抗体を操作することにより、増強された補体溶解とADCCの能力を持つようにすることができる。Stevenson et al., Anti-Cancer Drug Design 3:219-230 (1989)を参照されたい。
【0280】
抗体の血清半減期を長くするため、例えばアメリカ合衆国特許第5,739,277号に記載されているようにしてサルベージ受容体結合エピトープをヒト化抗C5a抗体に組み込むことができる。本明細書では、「サルベージ受容体結合エピトープ」という用語は、IgG分子の生体内血清半減期の延長に責任があるIgG分子(例えばIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4)のFc領域のエピトープを意味する。
【0281】
f)他のアミノ酸配列修飾
抗体(一本鎖抗体、または本明細書に記載のヒト化抗C5a抗体の抗体成分など)のアミノ酸配列修飾を考慮する。例えばそれは、抗体の結合親和性および/または他の生物学的特性を改善する上で望ましい可能性がある。抗体のアミノ酸配列バリアントは、適切なヌクレオチド変化を抗体の核酸に導入することによって、またはペプチド合成によって調製することができる。このような修飾に含まれるのは、例えば抗体のアミノ酸配列内の残基からの欠失、および/またはそれら残基への挿入、および/またはそれら残基の置換である。欠失、挿入、および置換の任意の組み合わせがなされて最終コンストラクトに到達するが、その最終コンストラクトは望む特徴を持つ必要がある。アミノ酸の変化(グリコシル化部位の数または位置の変化など)も抗体の翻訳後プロセスを変化させる可能性がある。
【0282】
突然変異誘発にとって好ましい位置である抗体のある残基または領域を同定するための1つの有用な方法は、Cunningham and Wells in Science, 244:1081-1085 (1989)に記載されているように、「アラニンスキャニング突然変異誘発」と呼ばれる。ここでは、1つの残基または一群の標的残基が同定されて(例えば帯電した残基であるArg、Asp、His、Lys、およびGluなど)、中性または負に帯電したアミノ酸(アラニンまたはポリアラニンが最も好ましい)で置き換えられ、アミノ酸抗原の相互作用に影響を与える。機能が置換に対して感受性であることが実証されたこれらアミノ酸位置はその後、さらなるバリアントまたは他のバリアントを置換の部位に、または置換の部位に代えて導入することによってさらに洗練される。したがってアミノ酸配列の変化を導入するための部位はあらかじめ決まるが、変異そのものの性質はあらかじめ決まっている必要はない。例えば所与の部位に位置する変異の性能を分析するため、アラニンスキャニングまたはランダムな突然変異誘発を標的コドンまたは領域で実施し、発現した抗体バリアントをスクリーニングして望む活性を探す。
【0283】
アミノ酸配列挿入体には、長さが1個の残基から100個以上の残基を含有するポリペプチドまでのアミノ末端および/またはカルボキシ末端融合体のほか、1個または複数個のアミノ酸残基からなる配列内挿入体が含まれる。末端挿入体の例に、N末端メチオニル残基を持つ抗体、または細胞傷害性ポリペプチドに融合した抗体が含まれる。抗体分子の他の挿入バリアントに含まれるのは、抗体の血清半減期を延長する(例えばADEPTのための)酵素またはポリペプチドへのその抗体のN末端またはC末端の融合体である。
【0284】
別のタイプのバリアントはアミノ酸置換バリアントである。これらバリアントは抗体分子の中に、異なる残基で置き換えられた少なくとも1つのアミノ酸残基を持つ。置換突然変異誘発のための最も興味ある部位に超可変領域が含まれるが、FRの変化も考慮される。保存的置換が下記の表の中に「好ましい置換」の見出しで示されている。このような置換によって生物活性が変化する場合には、より実質的な変化(表2の中に「代表的な置換」として示すか、アミノ酸のクラスに関連して下にさらに説明されている)を導入して産物をスクリーニングすることができる。
【表2】
【0285】
抗体の生物学的特性の実質的な改変は、(a)置換の領域におけるポリペプチド骨格の構造(例えばシートまたは螺旋構造)の維持、または(b)標的部位における分子の電荷または疎水性の維持、または(c)側鎖の大きさの維持に対する効果が有意に異なる置換を選択することによって実現される。天然の残基は、共通する側鎖特性に基づいてグループに分けられる:
(1)疎水性:ノルロイシン、met、ala、val、leu、ile;
(2)中性親水性:cys、ser、thr;
(3)酸性:asp、glu;
(4)塩基性:asn、gln、his、lys、arg;
(5)鎖の向きに影響する残基:gly、pro;および
(6)芳香族:trp、tyr、phe。
【0286】
非保存的置換では、これらのクラスの1つのメンバーが別のクラスと交換されることになる。
【0287】
抗体の適切な構造の維持に関与しないあらゆるシステイン残基も一般にセリンで置換することができ、分子の酸化安定性が改善され、異常な架橋が阻止される。逆に、システイン結合を抗体に付加してその安定性を改善することができる(特に抗体がFv断片などの抗体断片である場合)。
【0288】
特に好ましいタイプの置換バリアントは、親抗体(例えばヒト化抗体またはヒト抗体)の1つ以上の超可変領域残基を置換することを含む。一般に、さらなる開発のために選択される得られたバリアントは、それらが生成する元になる親抗体と比べて改善された生物学的特性を持つことになろう。
【0289】
抗体の別のタイプのアミノ酸バリアントは抗体の原初のグリコシル化パターンを変化させる。変えるとは、抗体の中に見いだされる1つ以上の炭化水素部分を除去すること、および/または抗体の中に存在しない1つ以上のグリコシル化部位を付加することを意味する。
【0290】
抗体のグリコシル化は、典型的にはN結合型またはO結合型である。N結合型は、アスパラギン残基の側鎖への炭化水素部分の付着を意味する。トリペプチド配列であるアスパラギン-X-セリンとアスパラギン-X-トレオニン(ただしXはプロリン以外の任意のアミノ酸である)は、酵素によるアスパラギン側鎖への炭化水素部分の付着のための認識配列である。したがってポリペプチドの中にこれらトリペプチド配列のいずれかが存在すると、潜在的なグリコシル化部位が生じる。O結合型グリコシル化は、糖であるN-アセチルガラクトサミン、ガラクトース、またはキシロースの1つが、ヒドロキシアミノ酸(最も一般的にはセリンまたはトレオニンだが、5-ヒドロキシプロリンまたは5-ヒドロキシリシンも使用できる)に付着することを意味する。
【0291】
抗体へのグリコシル化部位の付加は、上記のトリペプチド配列の1つ以上を含有するようにアミノ酸配列を変化させることによって簡便に実現される(N結合型グリコシル化部位について)。変化は、原初の抗体の配列に対する1つ以上のセリンまたはトレオニン残基の付加、または1つ以上のセリンまたはトレオニン残基による置換によって実現することもできる(O結合型グリコシル化部位について)。
【0292】
本出願のヒト化抗C5a抗体に対するアミノ酸配列バリアントをコードする核酸分子は、本分野で知られている多彩な方法によって調製される。これらの方法の非限定的な例に含まれるのは、天然供給源からの単離(天然アミノ酸配列バリアントの場合)、またはオリゴヌクレオチドを媒介とする(または部位特異的な)突然変異誘発、PCR突然変異誘発、および以前に調製されたバリアントまたは非バリアントバージョンのカセット突然変異誘発による調製である。
【0293】
g)他の修飾
本出願のヒト化抗C5a抗体をさらに修飾し、本分野で知られていて容易に入手できる追加の非タンパク質性部分を含有するようにできる。好ましくは、抗体の誘導体化に適した部分は水溶性ポリマーである。水溶性ポリマーの非限定的な例に含まれるのは、ポリエチレングリコール(PEG)、エチレングリコール/プロピレングリコールのコポリマー、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ-1,3-ジオキソラン、ポリ-1,3,6-トリオキサン、エチレン/無水マレイン酸コポリマー、ポリアミノ酸(ホモポリマーまたはランダムコポリマーのいずれか)、およびデキストランまたはポリ(n-ビニルピロリドン)ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールホモポリマー、ポリプロピレンオキシド/エチレンオキシドコポリマー、ポリオキシエチル化ポリオール(例えばグリセロール)、ポリビニルアルコール、およびこれらの混合物である。ポリエチレングリコールプロピオンアルデヒドは、水中でのその安定性が理由で製造において有利である可能性がある。ポリマーは任意の分子量が可能であり、分岐していてもいなくてもよい。抗体に付着させるポリマーの数はさまざまである可能性があり、2つ以上のポリマーを付着させる場合には同じ分子または異なる分子が可能である。一般に、誘導体化に使用するポリマーの数および/またはタイプは、さまざまな考慮事項(その非限定的な例に、改善する抗体の具体的な特性または機能、抗体誘導体が規定された条件下で治療に使用されるかどうかなどが含まれる)に基づいて決定することができる。このような技術と他の適切な製剤は、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 20th Ed., Alfonso Gennaro, Ed., Philadelphia College of Pharmacy and Science (2000)に開示されている。
【0294】
キット
本発明には、本発明のヒト化抗C5a抗体と指示材料を含むキットも含まれ、指示材料は、本明細書の別の箇所に記載されているように、例えばヒト化抗C5a抗体を個体に治療的措置または非治療用として投与することを記述している。一実施形態では、このキットはさらに、本発明のヒト化抗C5a抗体またはその組み合わせを含む治療用組成物を、例えばその抗体を個体に投与する前に溶解または懸濁させるのに適した、医薬として許容可能な(場合により減菌された)基剤を含む。場合によりキットは、抗体を投与するための適用装置を含む。ヒト化抗C5a抗体を含む単位剤型も提供される。
【実施例】
【0295】
以下の実施例は本発明の純粋に例示であることを想定しているため、いかなるやり方でも本発明を制限すると見なされてはならない。以下の実施例と詳細な記述は説明のため提供されているのであり、限定するためではない。
【0296】
実施例1:抗C5a抗体の構築と選択
配列番号1のVHアミノ酸配列と配列番号2のVLアミノ酸配列を含むマウス抗C5a IgG4抗体/scFvを用いてヒト化抗C5a抗体とその変異体を生成させる。さらなる親和性最適化のため、CDRグラフト法を利用し、マウスscFvのCDRがそれぞれ配列番号9と10に従うVHフレームワークとVLフレームワークにグラフトされたヒト化抗C5aコンストラクトを生成させた。CDRグラフト抗C5aコンストラクトのVHとVLが配列番号84と85に示されている。
【0297】
1.親和性の最適化
部位特異的突然変異誘発法を利用し、配列番号84と85のVH配列とVL配列を含む抗C5a scFvクローンの6つの相補性決定領域(CDR)の各アミノ酸を個別に全20種類のアミノ酸に変異させた。20種類のアミノ酸をコードするNNSコドンを含有するDNAプライマーを用いて標的となる各CDR位置に変異を導入した。縮重プライマーを部位特異的突然変異誘発反応で使用した。簡単に述べると、それぞれの縮重プライマーをリン酸化した。PCR条件は、94℃で2分間、(94℃で30秒間、55℃で30秒間、72℃で5分間)を16サイクル、72℃で10分間である。コロニーの形成とscFv断片の生成のため、PCR産物を精製した後、BL21に電気穿孔した。scFv変異体ライブラリをスクリーニングするため、配列番号82と83のVHとVLを含むNM2と名づけたコンストラクトを選択した。
【0298】
2.一次scFv変異体ライブラリスクリーニング
単一点scFv捕獲ELISA(SPE)からなる一次スクリーニングを以下のように実施した:96ウエルのMaxisorp lmmunoplatesを、pH7.4の被覆バッファPBSの中の抗c-myc抗体(Bethyl-A190-204A)で4℃にて一晩かけて被覆した。翌日、プレートをpH7.4のPBSの中でカゼインを用いて25℃で1時間にわたってブロックした。PEを含有するScFvをその後プレートに添加し、25℃で1時間インキュベートした。洗浄後、ビオチニル化抗原をウエルに添加して25℃で1時間インキュベートした。その後、SA-セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)(lnvitrogenSNN1004)複合体とともに25℃で1時間インキュベートした。テトラ-メチルベンジジン(TMB)(KPL-5120-0047)基質を用いてHRP活性を検出し、2MのHClを用いて反応をクエンチした。プレートを450nMで読んだ。450nmで親クローンの2倍超の光学密度(OD)シグナルを示すクローンを取り出してシークエンシングした。
【0299】
配列が独自で結合が改善された7つの抗C5a scFvコンストラクトがSPRによって確認された。SPR結合のまとめが表3に示されている。
【表3】
【0300】
3.抗C5a scFvライブラリの組み合わせスクリーニング
抗原への結合に有利であると判断されたVHとVLの中の点変異をさらに組み合わせて追加の結合相乗性を得た。簡単に述べると、各縮重プライマーをリン酸化した後、ウリジニル化ssDNAと10:1の比で使用した。混合物を5分間かけて85℃まで加熱した後、1時間かけて55℃まで冷却した。その後、T4リガーゼとT4 DNAポリメラーゼを添加し、混合物を37℃で1.5時間インキュベートした。典型的には、コロニー形成とscFv断片生成のため200ngのコンビナトリアルライブラリDNAをBL21に電気穿孔した。
【0301】
組み合わせ変異体をscFvとして発現させ、捕獲ELISAを利用してスクリーニングした。450ナノメートルでの光学密度(OD)シグナルが親クローンの2倍超を示すクローンをシークエンシングし、捕獲ELISAとSPRによってさらに確認した。
【0302】
4.親和性ランキングELISA
親和性ランキングELISAを以下のように実施した:精製したscFvサンプルを基準として用い、PE中のscFv濃度を定量ELISAによって測定した。簡単に述べると、プレートを、pH7.4のコーティングバッファPBSの中の抗His抗体(Genscript-A00186)で4℃にて一晩かけて被覆した。翌日、プレートをpH7.4のPBSの中でカゼインを用いて25℃で1時間にわたってブロックした。PEを含有するScFvを希釈して3倍段階希釈液にした後、プレートに添加した。濃度が既知の精製したscFv基準サンプルを基準として使用した。25℃で1時間インキュベートし、PBS-Tで3回洗浄した後、抗c-myc-HRP(Bethyl-A190-104P)をウエルに添加して25℃で1時間インキュベートした。HRP活性をTMB基質で検出し、反応を2MのHClでクエンチした。プレートを450nMで読んだ。
【0303】
pH7.4のPBSの中の抗C5a cyno抗原とヒト抗原のそれぞれで4℃にて一晩かけてプレートを被覆した。翌日、PBSの中でカゼインを用いてプレートを25℃で1時間にわたってブロックした。PEを含有する規格化scFvを、l00nMから開始する3倍段階希釈液を用いて希釈し、プレートに添加し、25℃で1時間インキュベートした。洗浄後、抗c-myc-HRPをウエルに添加し、25℃で1時間インキュベートした。TMB基質を用いてHRP活性を検出し、2MのHClを用いて反応をクエンチした。プレートを450nMで読んだ。GraphPad Prism 5ソフトウエアを用いてデータを一部位結合式にフィットさせた。カニクイザル抗原に結合したヒットの結果が
図1A~1Bに示されている。ヒト抗原に結合したヒットの結果が
図2A~2Bに示されている。
【0304】
5.抗C5aヒットのSPR
固定化
注入する直前に400mMのEDC(1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド)と100mMのNHS(N-ヒドロキシスクシンイミド)(GE)を混合することによってアクチベータを調製した。この混合物を流速10μL/分で用いてCMSセンサーチップを600秒間にわたって活性化させた。次いで抗c-mycと抗his抗体の混合物を含む10mMのNaAc(pH4.5)をチャネル1~チャネル8のFclとFc2に600秒間にわたって流速10μL/分で注入した。1Mのエタノールアミン-HCl(GE)を流速10μL/分で420秒にわたって用いることによりチップを脱活性化した。
【0305】
リガンド捕獲とランニング分析物
抗C5a scFvを0.5μg/mlに希釈し、他のサンプルをランニングバッファ1×HBS-EP+(0.01MのHEPES、0.15MのNaCl、0.003MのEDTA、0.05%の界面活性剤P20)の中で2μg/mlに希釈した。TES(トリス-EDTA-スクロース)バッファを用いるNC(陰性対照)ではscFvsと同じ希釈方式を利用した。希釈したTESバッファを流速10μL/分で40秒間にわたってチャネルFc1に注入し、希釈したscFvを流速10μL/分で40秒間にわたってチャネルFc2に注入した。その後、60nMのカニクイザル抗原分析物または5nMのヒト抗原分析物とランニングバッファを流速100μL/分で会合相の60秒間にわたってFc1-Fc2に注入し、その後に1200秒間の解離が続く。再生バッファとしての10mMのグリシン(pH1.5)をすべての解離相の後に注入した。チップを10mMのグリシン(pH1.5)で再生させた。
【0306】
データ分析
参照チャネルFc1とバッファチャネルに関するセンソグラムを試験センソグラムから差し引いた。データを1:1動態結合モデルによってフィットさせた。分子量8.4kDaを用いてcyno抗原のモル濃度を計算した。分子量8.2kDaを用いてヒト抗原のモル濃度を計算した。cyno抗原への結合の結果が表4に示されている。cyno抗原への結合の結果が表5に示されている。
【表4】
【表5】
【0307】
pH依存性抗原結合特性をさらに最適化するため、配列番号9のVHアミノ酸配列と配列番号10のVLアミノ酸配列を含む16D10を選択した。Fcドメイン変異を16D10に導入した。設計した変異が標的とする位置は、QuikChange(登録商標)(Agilent)またはQ5(登録商標)部位特異的突然変異誘発(NEB)によって導入した。
【0308】
導入されたpH依存性結合に、ヒスチジンスキャニングとして知られる方法であるQuikChange(登録商標)突然変異誘発によってヒスチジン置換を16D10の6つのCDR領域内の位置のそれぞれに導入した。各バリアントについて、変異した16D10重鎖と野生型軽鎖を有する発現プラスミドをHEK293細胞に一過性にトランスフェクトし、震盪フラスコの中で無血清培地とともに5~7日間培養した。変異した軽鎖と野生型重鎖を同時にトランスフェクトすることにより、軽鎖バリアントが同様にして得られた。結合を特徴づけるため、発現上清を遠心分離によって回収した。Gator TM(Probe Life, Inc.)を使用し、発現上清からのIgGを用いてpH7.4とpH5.8それぞれのもとでのC5への結合を測定した。
【0309】
16D10と比べてpH7.4で同じ結合解離定数を維持したがpH5.8で結合解離定数が低下した変異抗体を選択した。結合を有利にする単一ヒスチジン変異を重鎖または軽鎖に同時にトランスフェクトすることにより、複数のヒスチジン変異を持つpH依存性結合バリアントを創出した。鎖の中に結合を有利にする複数のヒスチジン変異を持つバリアントを、QuikChange(登録商標)突然変異誘発によって同じ鎖にそれらの有利な変異を起こすことで創出した。pH依存性結合バリアントを発現上清からプロテイン-Aアフィニティクロマトグラフィによってさらに精製して親和性を明らかにした。精製したタンパク質を、150mMのNaClを用いて20mMのヒスチジンバッファに透析し、Nanodrop(Thermo Fisher Scientific, Inc.、アメリカ合衆国)によって定量した後、Gator(商標)(Probe Life, Inc.)を用いて親和性を測定した。
【0310】
さらなる特徴づけのため、ヒト化されていて結合親和性が成熟したpH依存性C5a結合コンストラクト変異体が3つ同定された。すなわちVH CDR1内の変異F29H、VH CDR2内の変異E54H、およびVL CDR3内の変異Y96Hを含むE54H(VH:配列番号17;VL:配列番号18);VH CDR1内の変異F29H、VH CDR3内の変異N97H、およびVL CDR3内の変異Y96Hを含むN97H(VH:配列番号25;VL:配列番号26);VH CDR1内の変異F29H、VL CDR2内のN92H変異、およびVL CDR3内のY96H変異を含むN92H(VH:配列番号33;VL:配列番号34)である。pHに依存したデータは実施例4に記載されている。
【0311】
ヒト化抗C5a抗体をヒトC5aへの親和性に関してELISAによって調べた。
図3は、すべてのヒト化抗C5aコンストラクト(16D10、E54H、N97H、およびN92H)がヒトC5aに同等な高親和性で結合したことを示す。抗体はC5により高親和性で結合した(
図8)。
【0312】
C5はC5aを標的とする薬に深いシンクを提供するため、抗C5aコンストラクトにとって、C5を媒介とする経路の破壊を最少にすることが望ましい。古典経路を媒介とするヒツジ赤血球細胞溶解アッセイを利用してすべての抗C5a抗体コンストラクトのC5阻害効果を評価した。
【0313】
抗体で感作したヒツジRBC(2×10
7個の細胞/アッセイ、Solarbio)をゼラチンベロナールバッファ(GVB2+、Complement Technology Inc;全アッセイ体積:50μl)の中で5%の正常なヒト血清(NHS、Quidelから)とともに37℃で30分間インキュベートした。抗C5aコンストラクトをNHSとともに4℃で1時間インキュベートした後、さまざまな濃度でヒツジRBCに添加した(
図4)。40mMのEDTAを含む氷冷PBSを添加することによって溶解反応を停止させた。インキュベーション混合物を1500rpmで5分間遠心分離した。各混合物からの上清を回収し、ODを405nmで測定した。EDTA、蒸留水(DWと表記)、および抗C5ベンチマーク抗体SolirisをRBC溶解のための陽性対照として使用した。5%血清を陰性対照として使用した。
【0314】
ヒツジRBC溶解アッセイの結果が
図4と表6に示されている。陽性対照(EDTA、水、およびSoliris)はヒツジRBCを溶解させた;SolirisはヒツジRBC溶解を効果的に阻止し、IC50は1.23μg/mlである。ヒト化抗C5aコンストラクトは溶解において阻害を示さなかった。これは、C5を媒介とした経路の破壊が最少であったことを示唆する。
【表6】
【0315】
実施例2:インビトロでの機能アッセイ
1.U937細胞におけるリガンド阻止アッセイ
U937/C5aR細胞をPBSによって2回洗浄し、アッセイバッファ(PBS+0.1%BSA)の中に3×106個の細胞/mlの密度で懸濁させた。100μlの細胞を96ウエルのマイクロプレートに添加し、アッセイバッファに希釈した50μlの化合物と、50μlのビオチニル化リガンドヒトC5a(最終濃度は20nM)を対応するウエルに順番に添加し、プレートを氷の上で120分間インキュベートした。4℃にて1000rpmで3~5分間にわたって遠心分離し、上清を除去し、細胞をあらかじめ冷やしたPBSによって2回洗浄した。100μlのFITC標識ストレプトアビジン(eBioscience)を細胞に添加し、氷の上でさらに30分間インキュベートする。4℃で遠心分離し、上清を除去し、細胞をあらかじめ冷やしたPBSによって2回洗浄した。150μlの0.5%PFAを添加して細胞を懸濁させ、シグナルをFACS(Beckman, Cytoflex)によって検出する。IC50値をGraphPad Prismソフトウエアによって計算した。高対照は、細胞をビオチニル化C5aとともに、抗C5aコンストラクトを添加することなくインキュベートしたことを意味する;低対照は、細胞をアッセイバッファとともに、抗C5aコンストラクトを添加することなくインキュベートしたことを意味する。
【0316】
4つの抗C5aコンストラクト(16D10、E54H、N97H、およびN92H)を、U937細胞におけるC5a受容体(C5aR)阻止能力について評価した。
【0317】
C5aRを発現しているU937細胞において抗C5aコンストラクトを
図5に示されている一連の濃度で滴定した。平均蛍光強度を各抗体濃度で測定した。抗体の添加なしのU937細胞を低対照として使用した。細胞をビオチニル化C5aとともに、抗C5aコンストラクトを添加することなくインキュベートし、高対照として使用した。
【0318】
実験を繰り返した。代表的な結果が
図5に示されており、表7にまとめられている。全4つの抗C5aコンストラクト(16D10、E54H、N97H、およびN92H)がナノモル濃度で強力なリガンド阻止を示した。
【表7】
【0319】
2.C5aRアンタゴニスト移動アッセイ
C5aRを阻止するとリンパ管細胞の走化性が阻害されることが示されている。C5a受容体を安定にトランスフェクトされたU937細胞(U937-C5aR細胞)を96ウエルのTranswellインサートの上方チャンバーで0.5%のBSAを含むRPMI培地の中にウエル1つ当たり3×105個の細胞で播種した。Transwellインサートは孔のサイズが3.0-μmのポリカーボネート製膜フィルタ(Corning)を持っていた。下方ボイデンチャンバーには、0.5%のBSAを含むRPMI培地の中の抗体であらかじめ処理した10nMの組み換えヒト補体C5aを収容した。37℃で3時間インキュベートした後、下方チャンバーに移動した細胞を、50μlのCellTiter-Glo(Promega)を添加することによって溶解させ、発光強度(LI)をマイクロプレートリーダー(BioTek)によって読んだ。阻害の割合は以下のようにして計算した:%阻害=[1-(LI-LI[低対照])/(LI[高対照]-LI[低対照])]×100。IC50値はGraphPad Prismソフトウエアによって計算した。高対照は、C5aを下方チャンバーにだけ添加している;低対照は、アッセイバッファを下方チャンバーにだけ添加している。
【0320】
表8と
図6は、2回の独立な実験で、4つの抗C5aコンストラクト(16D10、E54H、N97H、およびN92H)すべてが低ナノモル濃度でU937細胞の移動を効果的に阻害することを示す。
【表8】
【0321】
3.C5aRアンタゴニストFLIPRアッセイ
FLIPRアッセイを利用して、C5aが誘導するカルシウム流入に対するヒト化抗C5aコンストラクトの阻害活性を調べた。抗C5aコンストラクトをFLIPRアッセイキットの指示に従って調製したHEK293細胞の中で滴定した。簡単に述べると、細胞を増殖培地に1×10
6個の細胞/mlの密度で懸濁させた。20μlの細胞懸濁液を384ウエルのプレートに播種し、一晩培養した。Echoを用いて250nlの抗C5aコンストラクト溶液を細胞プレートに移し、60分間インキュベートする。細胞をFluo-4 Direct TM染料とともに添加し、37℃、5%CO2で50分間、そしてその後、室温で10分間インキュベートする。細胞プレートをFLIPRTETRA(Molecular Devices)の中に置く。10μlのアゴニストヒトC5aを細胞プレートに移す。蛍光を
図7に示されている各抗体濃度点で測定した。IC50はGraphPad Prismソフトウエアによって計算した。結果が
図7と表9に示されている。抗C5aコンストラクトの代わりに250nlのアッセイバッファを添加したサンプルを高対照として使用した。
【表9】
【0322】
4つのヒト化抗C5aコンストラクトすべてが低ナノモル濃度でHEK293細胞へのカルシウム流入を阻害した。
【0323】
実施例3:C5結合と「シンク効果」
ELISAを利用してヒトC5に対する抗C5aコンストラクトの親和性を調べた。オフ-ターゲットC5結合が抗C5a抗体の利用可能性を低下させる(C5を媒介とする「シンク効果」)。4つのヒト化抗C5aコンストラクト(16D10、E54、N92、およびN97)を段階希釈し、C5であらかじめ被覆したプレートに添加し、OD450をマイクロプレートリーダーによって450nmで測定した。各データ点は2つの反復実験の平均であった。結果が
図8と表10に示されている。
【0324】
すべての抗C5aコンストラクト(ベンチマークを含む)が、ヒツジRBC溶解に対して最少の影響(実施例1)を示したにもかかわらず、中性pHでヒトC5にも結合した。変異体E54H、N97H、およびN92Hは、16D10と比べ、C5aに対してC5に対するよりも選択的な結合を示した(16D10と比べてC5a/C5結合比が増加)。
【表10】
【0325】
実施例4:pH依存性C5結合と減少した「シンク効果」
ヒト化抗C5aコンストラクトのpH依存性をC5結合アッセイを利用して調べた。バイオレイヤー干渉装置Gator(商標)(Probe life Inc.、アメリカ合衆国)を用いてヒスチジン変異体とベンチマーク抗体のpH依存性解離を求めた。簡単に述べると、抗ヒトIgG Fc(FHC)プローブを、0.02%のウシ血清アルブミンと0.002%のTween(登録商標)20を含有するリン酸塩緩衝化生理食塩水(pH7.4)の動態(K)バッファの中で平衡させた。センサーを200μLのトランスフェクション上清の中にpH7.4で600秒間浸すことにより、抗体をそれらセンサーの表面に捕獲した。その後バイオセンサーをKバッファ(pH7.4)の中で調製したヒトC5(40nM)とともに600秒インキュベートした後、pH7.4またはpH5.8のKバッファの中で600秒間の解離期間を設けた。データはGator評価ソフトウエアによって処理して分析した。
【0326】
16D10、E54H、N97H、およびN92Hの結合曲線が
図9に示されている。600秒終了時の解離率の値が
図10に示されており、下記の表11にまとめられている。
【0327】
図9、
図10、および表11に示されているように、ヒスチジン変異コンストラクトE54H、N97H、およびN92HはヒトC5への有意なpH依存性結合を示し、pH5.8での解離値は49%~61%であった。E54H、N97H、およびN92Hについては、pH5.8とpH7.4での解離率の比は、それぞれ11.3、10.9、および6.54であった。16D10とベンチマークは、ヒトC5へのpH依存性結合を示さなかった。これらの結果は、ヒスチジン変異コンストラクトが「シンク効果」を潜在的に回避でき、より大きな生体内持続性を持つことを実証した。なぜなら細胞によって取り込まれた免疫複合体(すなわちヒト化抗C5a抗体はC5に結合し、そのことによって「シンク効果」を受ける)はエンドソームの酸性環境で解離し、遊離した抗体または抗体融合タンパク質が細胞から新生児Fc受容体(FcRn)を通じて出てリサイクルされることが可能になり、その受容体の位置で新たなC5a分子に結合するのに利用できるからである。
【表11】
【0328】
実施例5:抗C5aコンストラクトの生体内薬物動態評価
抗C5aコンストラクトの生体内薬物動態を、SCID/ヒトFcRnトランスジェニックを背景とするC5ヒト化マウス(HuC5/Scid/FcRn、ヒトFcRnトランスジェニック、およびマウスFcRnノックアウトと表記)で調べた。N97H、N92H、および16D10を調べた。
【0329】
抗C5a抗体で処理したマウス内のヒトIgG4を、サンドイッチELISAを利用して検出した。96ウエルのプレートを、2μg/mLの最終濃度の抗ヒトカッパ軽鎖抗体(抗体溶液、AS75-P)を含む炭酸水素塩バッファで37℃にて1時間にわたって被覆した。0.05%のTween(登録商標)-20を含有するPBSで3回洗浄した後、プレートをブロッキング溶液の中で希釈した血漿サンプルとともに室温で1時間インキュベートした。洗浄後、プレートを、抗ヒトIgG4 HRP(1:2000希釈、Invitrogen、A10654)を含むブロッキング溶液とともに室温で1時間インキュベートした。洗浄後、プレートをHRP基質で3分間発色させた。反応を2NのH
2SO
4で停止させ、マイクロプレートリーダーの中でプレートを450nmで読んだ。薬物動態プロファイルが
図11に示されている(25mg/kgの用量で1回静脈内注射した後の3つの抗C5aヒト化抗体N92、N97、および16D10の血漿濃度と時間プロファイルの関係。
【0330】
図11は、N97HとN92Hの両方とも、1回注射してから15日後までの延長された生体内持続性を持っていたことを示す。ヒトC5/SCID/ヒトFcRnマウスにおける16D10のレベルは、1回注射してから3日目までに低下した。
【0331】
実施例6:生体内でのC5レベルに対する抗C5a抗体の影響
ヒトC5を発現しているFcRn/SCIDマウスにおいて、ヒトC5 cDNAプラスミドの流体力学的注入の後、SDS-PAGEとサンドイッチELISAを利用してヒトC5を検出した。
【0332】
図12は、抗C5a抗体N97H、N92H、および16D10(
図12と13のそれぞれにおいてN97、N92、およびWTと表記)を注射した後のさまざまな時点における血清中のヒトC5タンパク質のレベルを示す。両方のヒスチジン変異コンストラクトがC5のレベルを低下させた。16D10は最初、注射してから1日目と3日目にC5のレベルを低下させたが、C5のレベルは5日目から回復した。
【0333】
サンドイッチELISAのため、96ウエルのプレートを、最終濃度が2μg/mLの抗ヒトC5抗体(Quidel、A217)を含む炭酸水素塩バッファで37℃にて1時間にわたって被覆した。0.05%のTween(登録商標)-20を含有するPBSでプレートを洗浄した後、希釈した血漿サンプルを含むブロッキング溶液とともに室温で1時間インキュベートした。次いでプレートを洗浄し、ビオチニル化抗ヒトC5 mAb 9G6を含むブロッキング溶液とともに室温で1時間にわたってインキュベートし、再び洗浄し、アビジンまたはストレプトアビジンで標識したセイヨウワサビペルオキシダーゼ(BD pharmigen)を含むブロッキング溶液とともに室温で1時間にわたってインキュベートした。最終洗浄の後、HRP基質を用いてプレートを3分間にわたって発色させた。2NのH
2SO
4を用いて反応を停止させ、プレートをマイクロプレートリーダーの中で450nmにて読んだ。結果が
図13に示されている。
【0334】
図13は、N97HとN92Hを投与した後のC5のレベルが前処理レベルのほぼ25%まで低下し、16D10を投与した後のC5のレベルが3日目以降に回復することを示しており、SDS-PAGEからの結果が確認される。
【0335】
実施例7:十分な補体活性に必要とされるC5のレベル
ヒツジRBC溶解を実施して古典経路の十分な活性に必要なC5のレベルを求めた。正常なヒト血清だけとともにインキュベートしたサンプルを十分な補体活性の陽性対照として使用した。NHSの添加なし、またはEDTAの添加ありのサンプルを陰性溶解対照として使用した。
図14に示されているように、古典経路を通じた十分な補体活性を誘導するのにC5のほぼ25%で十分であった。
【0336】
代替経路補体関連溶血に必要なC5のレベルを評価するため、ウサギ赤血球細胞溶解アッセイを実施した。ウサギRBC(Rockland Immunochemicals Incカタログ番号R403-0100)(PBSの中で調製したアッセイサンプル1つにつき1×10
7個の細胞、Complement Technology Inc.)を、25%の正常なヒト血清(NHS、Complement Technology Inc.から)を含むゼラチンベロナールバッファ(GVB2+EGTA、Sigma;全アッセイ体積:100μL)とともに37℃で30分間インキュベートした。NHSだけとともにインキュベートしたサンプルを十分な補体活性に関する陽性対照として使用した。NHSなしの、またはEDTAを添加したサンプルを陰性溶解対照として使用した。氷冷PBSに溶かした40mMのEDTAを添加することによって溶解反応を停止させた。インキュベーション混合物を1500rpmで5分間遠心分離した。上清を回収し、OD405nmを測定した。
図15は、代替経路を通じて十分な補体活性を誘導するのにC5のほぼ25%で十分であることを示す。これらの結果は、抗C5a抗体は血清中のC5レベルを低下させた(実施例7)が、十分な補体活性を誘導するのに残ったC5で十分であったことを示唆する。
【0337】
実施例8:カニクイザルにおけるN92H抗体の生体内薬物動態評価
カニクイザルにおいて、N92H抗体を5、30、および100mg/kgで1回静脈内投与することによってN92H抗体の生体内薬物動態評価を実施した。血液サンプルを以下の時点に回収した:投与前(投与を開始する最大で2日前)、EOI(輸液を終える0~2分前)、および1日目に輸液が終了(EOI)してから1、6、24、72、168、336、504、および672時間後の時点。それに加え、血液サンプルを1日目のEOIから1728(11週目)、2184(14週目)、および2688(17週目)時間後の時点に5mg/kgから回収した。
【0338】
定量の下限(LLOQ)が37.3ng/mLである確立されたELISA法を利用してN92H抗体の濃度を求めた。この定量的ELISAはサンドイッチ形式に基づいており、4℃を適用した被覆を除く全工程を室温で実施した。マイクロウエルプレートを、コーティングバッファの中で希釈した捕獲用マウス抗ヒトIgG定常重鎖2(CH2)抗体(Bio-Rad、MCA5748G)で被覆した。このアッセイでは、基準、品質対照、およびサンプルを希釈バッファの中で最少必要希釈(MRD)で希釈した、あらかじめ被覆したマイクロウエルに分配し、マイクロウエルをブロックした。インキュベーションの後、プレートを洗浄して結合しなかった材料を除去した後、ウエル阻止工程に移った。次いでサンプルをウエルに装填し、撹拌しながら室温でインキュベートした。インキュベーションの後、ウエルを洗浄してから検出用マウス抗ヒトIgG4断片結晶化可能領域(Fc)-セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)複合抗体(Southern Biotech, 9200-05)を添加した。プレートを洗浄し、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン基質溶液(TMB)を添加した。インキュベーションの後、硫酸停止溶液を添加することによって反応を停止させた。650nmの参照波長を用いて吸光度を450nmで読んだ。発色は、ウエルの中に存在するN92H抗体の量に比例する。
【0339】
図16は、N92H抗体を5、30、および100mg/kgで30分間にわたって1回静脈内輸液した後、5mg/kgでは、11、14、および17週目に回収したサンプルを含め、672時間のサンプリング期間中を通じて全治療群で血漿濃度が定量可能であったことを示す。N92H抗体が最大血漿濃度に達するまでの時間(tmax)を、5と30mg/kgではSOIから0.5時間(EOIの0~2分前)または1.5時間の時点で、100mg/kgではSOIから0.5時間の時点で観察した。サンプリングを延長すると、終末相が5mg/kgでよく特徴づけられ、雄と雌それぞれについて、終末半減期(T1/2)の推定値は576時間と595時間、クリアランス(Cl)は0.0922と0.109mL/hr/kg、分布容積(Vss)は80.9と80.0mL/kgであった。
【0340】
実施例9:カニクイザルにおけるN92H抗体の生体内薬力学評価
カニクイザルにおいて、N92H抗体を5、30、および100mg/kgで1回静脈内投与することによってN92H抗体の生体内薬力学評価を実施した。血液サンプルを以下の時点に回収した:投与前(投与を開始する最大で2日前)、EOI(輸液を終える0~2分前)、および1日目に輸液が終了(EOI)してから1、6、24、72、168、336、504、および672時間後の時点。それに加え、血液サンプルを1日目のEOIから1728(11週目)、2184(14週目)、および2688(17週目)時間後の時点に5mg/kgから回収した。
【0341】
CD11bの発現を準定量するための手続きを利用し、カニクイザル全血で生体外C5a刺激の後にフローサイトメトリーによってN92H抗体の薬力学を明らかにした。血液サンプルをK2-EDTA管の中に回収した後、中間プロセシングのため最初の回収時間の後1時間以内にFACS管に移した。その後、刺激のため組み換えcyno C5a(Sino Biological)をサンプルに添加し、CD11bまたはアイソタイプ対照抗体(BD Biosciences、557321と556650)とともにインキュベートした。赤血球細胞の上清を、溶解バッファ(BD Biosciences、555899)と混合することによって取得した。PFA(Alfa Aesar、J61899)/DPBS(Life Technologies、14190136)を用いて細胞を固定した後、サンプルに対してFACSを実施してCD11bシグナルを検出した。
【0342】
図17は、C5aタンパク質が投与前にCD11bの発現レベルを強く上昇させ、その効果が投与された動物における研究サンプルで研究期間を通じて阻害されたことを示す。低用量のN92H抗体(5mg/kg)を投与された動物では、C5aタンパク質を用いた刺激が、投与前に10と30nMの両方でCD11b発現の強い上昇を誘導した。C5aタンパク質の刺激は阻害され、17週まで維持された。CD11b発現の阻害はあらゆる機会を通じて比較的変動したが、20%未満に留まった。
【0343】
実施例10:カニクイザルにおける、C5aが誘導する好中球減少症のモデルでのN92H抗体の生体内薬力学評価
C5aは、接着分子の発現と好中球の走化性移動を誘導する最も強力な炎症促進メディエータの1つである。C5aが血流中で局所的に生成するとき、C5aRを担持する近傍の好中球が接着分子をただちに上方調節して血管の内面に接着する。C5aが静脈内注射によって全身に導入される場合には、好中球の接着が血管系全体でただちに起こり、その結果として、血流の中をまだ流れている好中球の数が一過性にかなりの量減少する。この現象は好中球減少症と名づけられている。われわれは好中球減少症モデルにおけるN92H抗体の生体内効果を評価した。
【0344】
図18は、サルにおける好中球減少症モデルを説明している。簡単に述べると、ヒトC5a(10μg/kg)をN92H抗体の投与後6時間の時点で投与し、その後は2日目、7日目、および14日目の時点で静脈内投与した。血液サンプルをそれぞれのC5a注射の1分(min)前と1分後にただちに回収し、好中球のカウントを自動化血液分析装置(Sysmex XT-2000iV)によって2時間以内に分析した。N92H抗体効果を計算し、各C5a注射の1分前と1分後の血液サンプル中の好中球のパーセント変化として表わした。C5aによって誘導される好中球の減少の平均は、C5a刺激のそれぞれで約90%である(データは示さない)。
図19の中のデータは、アイソタイプ対照抗体をあらかじめ投与されたサルは、C5aが誘導する好中球減少症に対する影響がないことを示す。逆に、5mg/kgのN92H抗体をあらかじめ投与されたサルは、C5が誘導する好中球減少症の90%超の救済を示した。救済効果は少なくとも14日間持続することができる。
【表12-1】
【表12-2】
【表12-3】
【表12-4】
【表12-5】
【表12-6】
【表12-7】
【表12-8】
【表12-9】
【配列表】
【国際調査報告】