(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-16
(54)【発明の名称】人工知能を用いて車両のブレーキシステムから発生するノイズを特定し特徴付ける方法
(51)【国際特許分類】
G01H 3/00 20060101AFI20241008BHJP
G01H 3/08 20060101ALI20241008BHJP
G01M 17/007 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
G01H3/00 A
G01H3/08
G01M17/007 E
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024519721
(86)(22)【出願日】2022-09-28
(85)【翻訳文提出日】2024-05-14
(86)【国際出願番号】 IB2022059229
(87)【国際公開番号】W WO2023053024
(87)【国際公開日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】102021000025013
(32)【優先日】2021-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521259127
【氏名又は名称】ブレンボ・ソチエタ・ペル・アツィオーニ
【氏名又は名称原語表記】BREMBO S.p.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【氏名又は名称】山田 卓二
(72)【発明者】
【氏名】ベネッティ,ダニーロ
(72)【発明者】
【氏名】マッツォレーニ,エレナ
(72)【発明者】
【氏名】レスカーティ,ミカエル
(72)【発明者】
【氏名】グリッリ,ピエトロ アンドレア
(72)【発明者】
【氏名】マルマッサーリ,クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】チェルッティ,アンドレア
【テーマコード(参考)】
2G064
【Fターム(参考)】
2G064AA14
2G064AB01
2G064AB15
2G064AB16
2G064AB22
2G064CC02
2G064CC42
2G064CC52
2G064CC62
(57)【要約】
車両のブレーキシステムから発生するノイズを特定し特徴付ける方法は、動的動作条件下で車両ブレーキシステムによって発生するノイズを検出するステップと、検出されたノイズを代表するデジタルオーディオデータを生成するステップとを備える。次に、方法は、ノイズアナライザによってデジタルオーディオデータを分析し、潜在的なスクウィールイベントおよびそれぞれの可能性の高いスクウィール周波数を特定するステップと、特定された潜在的なスクウィールイベントのスクウィール周波数を示すスクウィール周波数情報を生成するステップとを備える。本方法はまた、フィルタリング周波数より低い周波数のスペクトル成分を除去するために、ハイパスフィルタリングによってデジタルオーディオデータをフィルタリングし、フィルタリングされたデジタルオーディオデータを生成するステップと、フィルタリングされたデジタルオーディオデータに基づいて、音信号強度からなる、フィルタリングされたデジタルオーディオデータに存在する情報を、時間と周波数の関数としてグラフ形式で表す、それぞれのスペクトログラムを生成するステップとを含む。次に、本方法は、前記のスペクトログラムと前記のスクウィール周波数情報を訓練されるアルゴリズムに提供することを含み、アルゴリズムは、人工知能および/または機械学習技術を使用して訓練される。本方法はまた、訓練されるアルゴリズムによって、スペクトログラムおよびスクウィール周波数情報に基づいて、ノイズイベントを特定するステップと、特定されたノイズイベントを分類するステップと、最終的に、特定されたノイズイベントに関する情報(各々がそれぞれのカテゴリによって特徴付けられる)を提供するステップとを含む。分類ステップは、少なくとも、ブレーキシステムの特徴的な動的動作によって発生する検出すべきノイズからなる第1のカテゴリ、および、動作異常または試験異常によって発生する異常ノイズからなる第2のカテゴリを含む複数のカテゴリ従った分類を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両ブレーキシステムによって発生するノイズを特定し特徴付けるための方法であって、
動的動作条件下で前記車両ブレーキシステムによって発生するノイズを検出するステップと、
検出されたノイズを代表するデジタルオーディオデータを生成するステップと、
ノイズアナライザによって前記デジタルオーディオデータを分析し、潜在的なスクウィールイベントおよびそれぞれの可能性の高いスクウィール周波数を特定し、特定された前記潜在的なスクウィールイベントの前記スクウィール周波数を示すスクウィール周波数情報を生成するステップと、
ハイパスフィルタリングによって前記デジタルオーディオデータをフィルタリングして、フィルタリング周波数より低い周波数のスペクトル成分を除去し、フィルタリングされたデジタルオーディオデータを生成するステップと、
前記フィルタリングされたデジタルオーディオデータに基づいて、前記フィルタリングされたデジタルオーディオデータに存在する音信号強度の情報を、時間と周波数の関数としてグラフ形式で表す、それぞれのスペクトログラムを生成するステップと、
前記スペクトログラムおよび前記スクウィール周波数情報を、訓練されるアルゴリズムに提供するステップであって、前記訓練されるアルゴリズムは、人工知能および/または機械学習技術を使用して訓練されている、ステップと、
前記訓練されるアルゴリズムによって、前記スペクトログラムおよび前記スクウィール周波数情報に基づいてノイズイベントを特定し、特定された前記ノイズイベントを少なくとも、前記車両ブレーキシステムの特徴的な動的動作によって発生する検出すべきノイズからなる第1のカテゴリと、操作上の異常または試験上の異常によって発生する異常音からなる第2のカテゴリ、を含む複数のカテゴリに従って分類するステップと、
特定された前記ノイズイベントに関する情報を提供するステップ、を有する方法。
【請求項2】
ノイズが分類される前記複数のカテゴリが、物理的に発生したノイズに由来しない高次高調波を含む第3のカテゴリをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1のカテゴリのノイズが、周波数が広帯域で強度が高いノイズを含む、
スクウィールノイズ、および/または、
チャープ/ワイヤブラシノイズ、および/または、
アーチファクトを含む、ことを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
特定された前記ノイズイベントを前記分類するステップは、
前記第1のカテゴリのノイズを、スクウィールノイズ、チャープ/ワイヤブラシノイズ、アーチファクトのいずれかサブカテゴリに属するものとして認識し分類するステップ、を含む請求項3に記載の方法。
【請求項5】
特定された前記ノイズイベントを前記分類するステップがさらに、
前記第2のカテゴリのノイズを、テストベンチの不完全性に起因する異常ノイズ、またはブレーキシステムのコンポーネント間の衝突に起因するノイズのいずれかのサブカテゴリに属するものとして認識し分類するステップ、を含む請求項1-4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ノイズを生じる前記ブレーキシステムの前記動的動作条件が試験条件であり、
予め定義されたパラメータによって特徴付けられる予め定義された試験ブレーキイベントのシーケンスが前記ブレーキシステムに適用され、前記予め定義されたパラメータが、少なくとも予め定義された回転速度および/または予め定義された制動圧を含む、請求項1-5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記訓練されるアルゴリズムが、既知の条件に対応し、分析の結果として望まれる、前記カテゴリおよび/または前記サブカテゴリへのノイズの前記分類に従って特徴付けられるスペクトログラムを含む訓練データセットに基づき、予備訓練ステップによって訓練されるアルゴリズムであって、
前記訓練データセットの前記スペクトログラムと、前記ノイズイベントの既知の分類に関する情報が、前記訓練されるアルゴリズムへの入力として提供される、請求項1-6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記予備訓練ステップが、
前記スペクトログラムの各々に存在する既知のノイズイベントのタグ付けを行うまたはラベル付けを行うステップと、
前記タグ付けまたは前記ラベル付けによって処理された前記スペクトログラムに基づいて、前記訓練されるアルゴリズムのパラメータを較正するステップを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記タグ付けを行うまたは前記ラベル付けを行うステップは、ノイズイベントとして特定された前記スペクトログラムのパターン上に矩形を描画し、前記分類に参照される前記ノイズイベントの前記カテゴリおよび/または前記サブカテゴリを示すラベルを前記矩形に関連付けることによって、手動で実行される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記タグ付けを行うまたは前記ラベル付けを行うステップは、イネーブルソフトウェアのサポートにより実行される、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記タグ付けを行うまたはラベル付けを行う前記ステップは、前記検出されたノイズを代表するオーディオファイルを聴くことによってサポートされる、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記タグ付けされた検証用スペクトログラムの追加データセット上で学習されるアルゴリズムの予測能力を検証するステップを含む、請求項7-11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記訓練されるアルゴリズムが、ニューラルネットワークをベースとする機械学習アルゴリズムである、請求項7-12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記ニューラルネットワークが、ディープニューラルネットワーク、または畳み込みニューラルネットワーク、またはゾーン型畳み込みニューラルネットワーク、または領域ベース畳み込みニューラルネットワークを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記学習されるアルゴリズムが、ディープオブジェクト検出器または二段階ディープオブジェクト検出器に基づく機械学習アルゴリズムである、請求項7-12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記スペクトログラムを生成するステップに加えて、
セグメント化されたスペクトログラムを生成するステップをさらに含み、
前記セグメント化されたスペクトログラムにおいて、点は、それぞれの所定の閾値によって区切られた複数の強度帯域内で、それらが属する強度帯域に依存してグラフィカルに強調表示され、
前記セグメント化されたスペクトログラムは、セグメント化されていないスペクトログラムおよび推定されるスクウィール周波数の情報に加えて、追加入力として前記学習されるアルゴリズムに提供される、請求項7-13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記点が強調表示される前記強度帯域は、第1の閾値によって下方に区切られた高強度帯域と、前記第1の閾値と前記第1の閾値の下方の第2の閾値との間の中強度帯域と、前記第2の閾値の下方の低強度帯域を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記検出されたノイズを代表する前記デジタルオーディオデータを生成するステップが、前記ブレーキシステムでテストを実行する間に取得されたファイルおよび/またはオーディオトラックを生成することを含む、請求項1-17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記オーディオデジタルデータを分析することが、
強度または振幅に関連する基準に基づいて、および/またはフーリエ変換のようなスペクトル法によって周波数に関連する基準に基づいて、前記ノイズイベント、中でもスクウィールイベントを特定するステップと、
前記ノイズアナライザによって、前記ノイズアナライザによって特定されたすべての潜在的なスクウィールイベントと、各スクウィールイベントについて、それが発生した時間瞬間、継続時間、それぞれのスクウィール周波数、時間瞬間における最大および/または平均音圧および/または振幅および/または音響強度が記録された表形式の第1のデータファイルを生成するステップと、
前記スクウィール周波数情報は、前記第1のデータファイルから表形式で取得される、
請求項1-18のいずれか1項に記載の方法であって、
【請求項20】
前記デジタルオーディオデータをハイパスフィルタリングによってフィルタリングするステップにおいて、前記フィルタリング周波数は、500Hzである、請求項1-19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
特定されたスクウィールイベントに関する情報を提供するステップが、前記訓練されるアルゴリズムによる処理結果に基づいて、前記訓練されるアルゴリズムによって特定されたすべてのスクウィールイベントと、各スクウィールイベントについて、それが発生した時間瞬間、持続時間、それぞれのスクウィール周波数、時間瞬間における最大および/または平均音圧および/または振幅および/または音響強度とが記録された表形式の第2のデータファイルを生成することを含む、請求項1-20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
表形式の前記第2のデータファイルは、表形式の前記第1のデータファイルを改良したものであり、
前記高次高調波を含む第3のカテゴリに属すると認識されたイベントに由来するすべての偽検出、および/または前記異常から派生するノイズを含む前記第2のカテゴリに属すると認識されたすべてのイベントが除去される、請求項19および21に記載の方法。
【請求項23】
前記第2のカテゴリに属するノイズイベントが特定されたとき、前記方法は、前記特定された前記第2のカテゴリの前記ノイズイベントに関連する警告および/またはアラーム信号を生成するステップをさらに含む、請求項1-22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記特定された前記ノイズイベントが、前記テストベンチの不完全性に起因するサブカテゴリ異常ノイズに属する場合、現在の試験を停止し、前記テキストベンチを検証するステップをさらに備える、請求項23に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工知能(AI)を用いて車両ブレーキシステムによって発生するノイズを特定し特徴付けるための方法に関する。
【0002】
また、本発明は、人工知能(AI)に基づいて、自動車ブレーキシステムの動力学試験中に発生する騒音を分析する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
今日、乗り心地は、車両を評価する上で重要な項目の1つである。
【0004】
特に、自動車業界では、ブレーキシステムに関連するいわゆるNVH(ノイズ、バイブレーション、ハーシュネス)の項目に関する顧客からの苦情が深刻な問題となっている。
【0005】
このため、ブレーキシステムの設計段階から、望ましくない振動や騒音の発生に関連する現象を理解し、それらを未然に防ぐことが不可欠である。
【0006】
摩擦誘起振動(FIV)の物理現象は非常に複雑で、非線形かつマルチスケールな現象を特徴としているため、上記に関するシステムの挙動を包括的に予測できる解析的な数学理論は存在しない。
【0007】
そのため、この分野の研究や解析の多くは、産業界と非産業界の両方の環境において、実験的に行われている。制御された条件下でブレーキシステムをテストし、入力パラメータが変化したときの応答を記録することで、大量のデータが収集される。
【0008】
開発段階で騒音発生を測定するために、ブレーキシステムはダイナモメトリック(またはローラスタンド)テストベンチで試験され、そこではあらかじめ決められたブレーキシーケンスが適用される。
【0009】
試験中、ノイズは通常、テストベンチに設置されたノイズアナライザで測定される。標準的なノイズアナライザは、振幅基準と既知のフーリエ変換ベースのスペクトル処理方法に基づいてノイズイベントを特定する。このことは、ノイズアナライザが「トーンノイズ」、すなわち非常に狭い周波数帯域を特徴とするイベントを認識するように設計されていることを意味する。トーンノイズの例としては、「スクウィール」、すなわち、周波数帯域が狭く、バックグラウンドに対して非常に高い振幅を持つ(典型的にはバックグラウンドよりも50dB以上高い強度を持つ)スペクトルを特徴とするタイプのノイズである。
【0010】
ノイズアナライザは通常、特定したスクウィールに関する情報(ブレーキイベント番号、スクウィールの有無、タイムマーカ、周波数、音圧、継続時間など)を含むファイルを結果として生成する。
【0011】
しかし、複数の異なるFIV現象が同時に存在する可能性があるため、試験中に他のタイプのノイズも発生する可能性がある。例えば、
【0012】
コリジョンノイズ(「クランノイズ」とも呼ばれる)、すなわち、部品間の衝突現象によって生じる、広い周波数範囲をカバーする瞬間的なパルス;
【0013】
チャープ/ワイヤブラシ、すなわち、異なる周波数で多数の短いパルスのノイズ;
【0014】
アーチファクト、すなわち、波数帯域が広く、強度が高いノイズイベント、である。
【0015】
既知のノイズアナライザは、これらのタイプのノイズ(そのスペクトル特性はスクウィールとは大きく異なる)を認識することが困難である、すなわち、信頼性をもって認識することができないし、その他のタイプのノイズをスクウィールとして誤って認識することがある。
【0016】
さらに、ノイズアナライザが達成できる検出と分類の有効性は、テスト環境に内在するノイズによって大きく制限される。このような状況は、実際にはスクウィールがないのに検出される偽陽性(FP)と、スクウィールが発生しているのに検出されない偽陰性(FN)の両方を検出することにつながる。
【0017】
ノイズアナライザの出力が部分的にしか信頼できないことはよく知られているが、一方で、騒音や振動に精通したエンジニアであれば、音響測定から生成されたスペクトログラムに基づいて、さまざまなタイプの騒音を分類できることも知られている。
【0018】
スペクトログラムとは、騒音データ(測定された周波数、発生時間、音の強さ)を画像に変換したものである。
【0019】
そのため、音声トラックを同等の情報量を持つスペクトログラムに変換できる可能性が知られている。
【0020】
これに基づいて、機械学習(ML)アルゴリズムを使用してスペクトログラムの情報を解釈する方法が提案されている。
【0021】
これらの技術は、スペクトログラムの形で利用可能な既知のデータから開始する学習技術を採用しており、既知のノイズイベントがハイライトされ、既知のタイプのノイズに関する情報がそれぞれ関連付けられている。
【0022】
この問題の技術的な複雑さ、特に多くの異なる原因によって実際に発生する可能性のある膨大な数のノイズを検出、認識、区別することの難しさを考えると、当該分野での進歩にもかかわらず、スペクトログラムの解釈のためのMLアルゴリズムの適用など、多くの未解決の問題や満たされていないニーズが残っている。
【0023】
まず、異なるノイズクラスの区別は、その分野の専門家であっても必ずしも明確ではないことに注意しなければならない。例えば、非常に短い小さなスクウィールからチャープを特定するのは、スペクトログラムにMLアルゴリズムを適用しても難しい場合がある。ある周波数のスクウィールであっても、必ずしも強度が一定であるとは限らず、その結果、スペクトログラム上の色が変化する。スクウィールの強度が一定に変化する場合、それが1つのイベントなのか、それとも、互いに異なる複数のイベントが急激に続いているのかを視覚的に理解することは困難となる。
【0024】
前述の既知の解決策では、単一周波数のスクウィールは、強度の変調に関係なく、常に単一イベントとして分類されるため、誤った評価につながる可能性がある。
【0025】
さらに、スペクトログラム上では、スクウィールの基本周波数が、高次の高調波(すなわち、スペクトログラム上の形状が元のスクウィールに似ているノイズ)を伴い、複数の基本周波数で、強度が減少しながら現れることがある。既知のノイズアナライザでは、このような高次倍音は区別して分析から除外されるべきで、できれば別のカテゴリとして認識し分類されることが望ましいにも拘わらず、あたかも独立したスクウィールであるかのように誤って分類されることが多い。
【0026】
さらに、既知の手法では扱われていない、しかしテスト時には重要なもう1つの問題は、低周波(<500Hz)のノイズイベントの扱いである。実際、スペクトログラムが試験環境に起因する低周波ノイズ(しばしば非常に大きい)を示すのは、当たり前のことである。
【0027】
スペクトログラムのカラースケールは、分析された時間間隔で検出された強度の最大値と最小値に対して正規化されるため、つまり相対的なスケールであるため、低周波ノイズイベントはカラースケールを歪ませ、高周波数で関心のあるイベントの視覚化を阻み、ノイズ認識および分類アルゴリズムの有効性を低下させる。
【0028】
最後に、既知の解決策(MLアルゴリズムを採用したものでさえ)では対処されていないもう一つの重要な側面は、異常を示すノイズカテゴリの認識に関するものである。特に、異常は、不適切な実験構成(例えば、ダイナモベンチ上のある要素の不正確な設置)やブレーキシステムの設計不良(例えば、ブレーキ動作中にパッドがブレーキキャリパーに当たる)に関連する可能性がある。その一方で、例えば試験中に適切な異常警告信号を生成するために、異常に関連するノイズを認識して分類できることが非常に望ましい。
【0029】
このように、ブレーキシステムによって発生するノイズの認識および分類の分野では、現在までに知られている解決策では十分に満足できる解決策を提供することができず、多くの満たされていないニーズが残されている。
【発明の概要】
【0030】
したがって、本発明は、人工知能(AI)を用いて自動車ブレーキシステムの動力学試験中に発生する解析ノイズの品質を改善する方法に関する。
【0031】
特に、本発明の目的は、人工知能を用いることにより、自動車のブレーキシステムによって発生するノイズを特定し特徴付けるための方法を提供することであり、これにより、従来技術を参照して上述した欠点を少なくとも部分的に解決し、考慮される技術分野において特に感じられる前述のニーズに応えることが可能になる。前記目的は、請求項1に記載の方法によって達成される。
【0032】
そのような方法のさらなる実施形態は、請求項2-24に定義される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
本発明による方法のさらなる特徴および利点は、添付の図面を参照して非限定的に示される、好ましい例示的実施形態の以下の説明から明らかになる。
【0034】
【
図1】
図1は、本発明による方法によって認識可能なノイズの異なるタイプまたはカテゴリを特定したスペクトログラムの6つの例を示す。
【0035】
【
図2】
図2は、本発明による方法で認識可能な追加のノイズカテゴリを特定したスペクトログラムのさらなる例を示す。
【0036】
【
図3】
図3は、本方法の一実施形態で構成されるいくつかのステップを示す簡略化されたブロック図である。
【0037】
【
図4】
図4は、本方法の一実施形態で構成されるいくつかのステップを示す簡略化されたブロック図である。
【0038】
【
図5】
図5は、本方法の実施形態で使用されるスペクトログラムの例を示す。
【0039】
【
図6】
図6は、本方法の実施形態で使用されるスペクトログラムの例を示す。
【0040】
【
図7】
図7は、本方法の実施形態で使用されるスペクトログラムの例を示す。
【0041】
【
図8】
図8は、タグ付け操作が実行されたスペクトログラムを示す。
【0042】
【
図9】
図9は、本発明による方法の一実施形態を示すブロックチャートである。
【0043】
【
図10】
図10は、本方法で認識可能な4つの異なるタイプのノイズに関連する4つの精度復元図を示す。
【0044】
【
図11】
図11は、本発明による方法を実行できるシステムの簡略化されたブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
車両のブレーキシステムによって発生するノイズを特定し特徴付けるための方法について説明する。
【0046】
本方法は、まず、動的動作条件下で車両ブレーキシステムによって発生するノイズを検出するステップと、検出されたノイズを代表するデジタルオーディオデータを生成するステップとを備える。
【0047】
次に、本方法は、ノイズアナライザによって前記デジタルオーディオデータを分析し、潜在的なスクウィールイベントおよびそれぞれの可能性の高いスクウィール周波数を特定するステップと、特定された潜在的なスクウィールイベントのスクウィール周波数を示すスクウィール周波数情報を生成するステップとを備える。
【0048】
次に、本方法は、ハイパスフィルタリングによって前述のデジタルオーディオデータをフィルタリングして、フィルタリング周波数より低い周波数のスペクトル成分を除去し、フィルタリングされたデジタルオーディオデータを生成するステップと、フィルタリングされたデジタルオーディオデータに基づいて、それぞれのスペクトログラムを生成するステップとを含む。スペクトログラムは、音信号強度を有する、フィルタリングされたデジタルオーディオデータに存在する情報を、時間と周波数の関数としてグラフ形式で表す。
【0049】
次に、本方法は、前記のスペクトログラムと前記スクウィール周波数情報を、訓練されるアルゴリズムに提供することを含む。アルゴリズムは、人工知能および/または機械学習技術を使用して訓練されたものである。
【0050】
本方法はまた、訓練されるアルゴリズムによって、上記スペクトログラムおよびスクウィール周波数情報に基づいて、ノイズイベントを特定するステップと、特定されたノイズイベントを分類するステップと、最終的に、特定されたノイズイベントに関する情報(各々がそれぞれのカテゴリによって特徴付けられる)を提供するステップとを含む。
【0051】
前述の分類ステップは、少なくとも以下のカテゴリに従った分類を含む。ブレーキシステムの特徴的な動的動作によって発生する、検出されるべきノイズからなる第1のカテゴリ、および動作異常または試験異常によって発生する異常ノイズからなる第2のカテゴリ。
【0052】
本方法の一実施形態によれば、ノイズが分類される前述のカテゴリは、物理的に発生したノイズに由来しない高次高調波を含む第3のカテゴリをさらに含む。
【0053】
実施形態によれば、ノイズの前述の第1のカテゴリは、スクウィールノイズおよび/またはチャープ/ワイヤブラシノイズおよび/またはアーチファクト、すなわち、周波数が広帯域幅で強度が高いノイズを含む。
【0054】
前述の実施形態の実装オプションによれば、特定されたノイズイベントを分類するステップは、第1のカテゴリのノイズを、いくつかのサブカテゴリ(スクウィールノイズ、チャープ/ワイヤブラシノイズ、アーチファクト)のうちの1つに属するものとして認識し、さらに分類することをさらに含む。
【0055】
本方法の一実施形態によれば、特定されたノイズイベントを分類する前述のステップは、さらに、第2のカテゴリのノイズを、いくつかのサブカテゴリ(実験台の不完全性に起因する異常ノイズ(「ベンチノイズ」)、またはブレーキシステム構成部品間の衝突に起因するノイズ(「クランノイズ」)のうちの1つに属するものとして認識し、さらに分類することを含む。
【0056】
本方法の一実施形態によれば、ノイズの元となるブレーキシステムの動的動作条件は試験条件であり、予め定義されたパラメータによって特徴付けられる予め定義された試験ブレーキイベントのシーケンスがブレーキシステムに適用される。前記予め定義されたパラメータは、少なくとも予め定義された回転速度および/または予め定義されたブレーキ圧を含む。
【0057】
この場合、上に示した方法のステップは、各試験制動イベントで実行される。
【0058】
本方法の一実施形態によれば、前述の訓練されるアルゴリズムは、既知の条件に対応し、分析の結果として望まれる、複数のカテゴリおよび/または複数のサブカテゴリへのノイズの前述の分類に従って特徴付けられたスペクトログラムを有する訓練データセットに基づいて、訓練の予備ステップによって訓練されるアルゴリズムである。この場合、訓練データセットの前述のスペクトログラムと、各ノイズイベントの既知の分類に関する更なる情報が、訓練されるアルゴリズムへの入力として提供される。
【0059】
実施オプションによれば、予備訓練の前記ステップは、訓練用スペクトログラムの各々に存在する既知のノイズイベントをタグ付けまたはラベル付けするステップと、タグ付けまたはラベル付けによって処理された訓練用スペクトログラムに基づいて、訓練するアルゴリズムのパラメータを較正するステップと、を備える。
【0060】
実装例によると、「タグ付け」プロセスではスペクトログラムは変更されず、代わりに追加の「付随」データが生成される。
【0061】
実装オプションによると、前述のタグ付けまたはラベル付けのステップは、ノイズイベントとして特定されたトレーニングスペクトログラムのパターン上に矩形を描き、前述の分類を参照して、その矩形をノイズイベントのカテゴリおよび/またはサブカテゴリを示すラベルを関連付けることによって手動で実行される。
【0062】
別の実装オプションによれば、タグ付けまたはラベル付けの前述のステップは、有効化ソフトウェア(「labellmg」など)のサポートにより実行される。
【0063】
別の実装オプションによれば、タグ付けまたはラベル付けの前述のステップは、検出されたノイズを代表するオーディオファイルを聴くことによってサポートされる。
【0064】
ある実施態様によれば、本方法は、タグ付けされた検証用スペクトログラムの追加データセット上で、訓練されるアルゴリズムの予測能力を検証するさらなるステップを含む。
【0065】
本方法の一実施形態によれば、前述の訓練されるアルゴリズムは、ニューラルネットワークに基づく機械学習アルゴリズムである。
【0066】
可能な実装オプションによれば、前述のニューラルネットワークは、ディープニューラルネットワーク、または畳み込みニューラルネットワーク、またはゾーン型畳み込みニューラルネットワーク、またはリージョンベース畳み込みニューラルネットワークを含む。
【0067】
本方法の別の実施形態によれば、前記学習されるアルゴリズムは、ディープオブジェクト検出器または2段階ディープオブジェクト検出器に基づく機械学習アルゴリズムである。
【0068】
一実施形態によれば、本方法は、スペクトログラムを生成するステップに加えて、セグメント化されたスペクトログラムを生成するステップをさらに含む。セグメント化されたスペクトログラムにおいて、点(ポイント)は、それぞれの所定の閾値によって区切られた複数の強度帯域内で、それらが属する強度帯域に応じて、グラフィカルに強調表示される。
【0069】
この場合、スペクトログラムは、セグメント化されていないスペクトログラムと、推定されるスクウィール周波数に関する情報に加えて、追加入力として学習されるアルゴリズムに提供される。
【0070】
実装オプションによれば、ポイントがそれぞれの方法で強調表示される前述の強度帯域は、第1の閾値によって下限が区切られた高強度帯域と、第1の閾値と第2の閾値との間の、第1の閾値より下の中強度帯域と、第2の閾値より下の低強度帯域とからなる。
【0071】
特定の実施例によれば、第1の閾値は50dBに設定され、第2の閾値は30dBに設定される。
【0072】
本方法の実施形態によれば、検出されたノイズを代表するデジタルオーディオデータを生成する前述のステップは、ブレーキシステムでテストを実行する間に取得されたファイルおよび/またはオーディオトラックを生成することを含む。
【0073】
特定の実施例によれば、オーディオトラックは「.wav」または「.mpeg」形式である。
【0074】
本方法の一実施形態によれば、デジタルオーディオデータを分析する前記ステップは、強度または振幅に関連する基準に基づいて、および/またはフーリエ変換のようなスペクトル法によって周波数に関連する基準に基づいて、ノイズイベント、およびその中のスクウィールイベントを特定するステップと、ノイズアナライザによって表形式の第1のデータファイルを生成するステップを含む。第1のデータファイルには、ノイズアナライザによって特定されたすべての潜在的なスクウィールイベント、およびスクウィールイベントについて、それが発生した時間瞬間、持続時間、それぞれのスクウィール周波数、時間瞬間の最大および/または平均音圧および/または振幅および/または音響強度が記録される。
【0075】
この場合、前述のスクウィール周波数情報は、前述の第1のデータファイルによって表形式で取得される。
【0076】
実施オプションによれば、ハイパスフィルタリングによってデジタルオーディオデータをフィルタリングするステップにおける前記フィルタリング周波数は、500Hzである。
【0077】
本方法の一実施態様によれば、特定されたスクウィールイベントに関する情報を提供する前述のステップは、訓練されるアルゴリズムによる処理結果に基づいて、表形式の第2のデータファイルを生成することを含む。第2のデータファイルには、訓練されるアルゴリズムによって特定されたすべてのスクウィールイベントと、各スクウィールイベントについて、それが発生した時間瞬間、持続時間、それぞれのスクウィール周波数、時間瞬間の最大および/または平均音圧および/または振幅および/または音響強度が記録される。
【0078】
本方法の実施態様の一選択肢によれば、表形式の前記第2のデータファイルは、表形式の前記第1のデータファイルを改良したものであり、高次高調波からなる第3のカテゴリに属すると認識されたイベントに由来する全ての誤検出、および/または、異常に由来するノイズからなる第2のカテゴリに属すると認識された全てのイベントが除去される。
【0079】
本方法の実施形態によれば、第3のカテゴリに属するノイズイベントが特定された場合、本方法は、特定された第3のカテゴリのノイズイベントに関連する警告及び/又は警報信号を生成するステップをさらに備える。
【0080】
実施オプションによれば、特定されたノイズイベントがテストベンチの不完全性による異常ノイズサブカテゴリに属する場合、現在の試験を停止し、テキストベンチを検証するさらなるステップが行われる。
【0081】
以下に、本発明の特定の実施形態による、例示的かつ非限定的な目的のみの
図1-11を参照しながら、方法のさらなる詳細を説明する。
【0082】
この例では、騒音発生は、ダイナモメトリックテストベンチでの試験により、ブレーキシステムの開発ステップ中に測定される。ダイナモメトリック試験中、回転速度やブレーキ圧などの動作パラメータに関して、予め定義されたブレーキシーケンスが適用される。
【0083】
試験中の騒音は、ベンチ自体に設置された公知の騒音分析器によって測定される。
【0084】
この目的のためには、振幅基準および/またはフーリエ変換を含むスペクトル法に基づいてノイズイベントを特定するように構成された標準的なノイズアナライザを採用することができる。ノイズアナライザによって提供される出力は、表形式のデータファイルである。このデータファイルには、テストされる各ブレーキイベントごとに、検出されたスクウィールイベントに固有の関連データ、すなわち、時間的瞬間、周波数、最大および平均音圧、継続時間などがリストアップされている。
【0085】
データファイルには偽陽性という形でエラーが含まれている可能性がある。
【0086】
測定および/または検出の品質を向上させるためには、偽陽性に関連する周波数値を除去する必要がある。
【0087】
この点に関して、本発明では、特に本明細書で説明する実施形態の例では、人工知能(AI)技術を採用して、試験中にノイズアナライザによって記録されたすべてのノイズイベントをチェック/検証し、(例えば、偽陽性を除去することによって)元のファイルを修正することで、より信頼性が高く、再現性があり、客観的な試験結果を得ることができる。
【0088】
例えば、機械学習アルゴリズムML、すなわち例えば別のデータセットで事前に訓練されるアルゴリズムを構築するために、「転移学習」訓練技術が採用される。
【0089】
さらなる例示として、既に上述したアルゴリズムに関して、それ自体既知のMLアルゴリズムを使用することができ、例えば、オープンソースのCOCOデータセットを訓練データセットとして使用して訓練されるニューラルネットワーク(NN)に基づく「Mask-RCNN」モデルを含むことは注目に値する。
【0090】
MLアルゴリズムの典型的なフローチャートは、
図3に示す入力準備、タグ付け、モデル学習のステップを含む。
【0091】
本発明では、これらのステップを、特に入力準備とタグ付けに関する特別な特徴を持って実施され、先行技術に対する改善を達成し、AIベースのノイズ検出の充実した/改善されたモデルに生み出す。
【0092】
入力準備のステップは、MLアルゴリズム、例えば「ディープラーニング」モデルへの入力としてより効果的に提供されるのに適したデジタル情報を得るために、(ノイズアナライザによって提供される)出力表ファイルに含まれる数値情報を処理することを目的とした全ての操作を含む。
【0093】
これは、ここで説明する実施形態では、例えば
図4に示すような一連のステップによって達成され、特に、音データをMLアルゴリズムへの入力として使用するのに適したデジタル画像に適切に変換することによって達成される。
【0094】
まず、検出された各オーディオトラックにハイパスフィルタが適用され、低周波数(例えば、<500Hz)のバックグラウンドノイズが除去される。このノイズは、得られるデジタル画像(「スペクトログラム」とも呼ばれる)のカラースケールに偏りやシフトをもたらす可能性があり、その後の処理ステップで悪影響を及ぼす可能性がある。
【0095】
上記のように操作されたオーディオデータから、スペクトログラム、すなわち、時間の関数としての周波数のグラフが、音信号の局所的な強度に応じて色付けされ、グラフ上の各時間周波数ポイントについて、各制動イベントごとに生成される。
【0096】
【0097】
実装オプションによれば、画像をより読みやすくするために、スペクトログラム上で高強度および中強度ポイントを強調し、背景から目立つようにする追加操作が実行される。
【0098】
強度が50dB(高強度)を超えるすべての点は、鮮やかな最初の色(例えばピンク)で着色される。
【0099】
30dBから50dBの間(中程度の強度)の強度を持つすべての点は、2番目の鮮やかな色(例えば濃い赤)で着色される。
【0100】
これは、セグメンテーション前(左)とセグメンテーション後(右)のスペクトログラムを描いた
図6に示されている。
図6では、ピンクと濃い赤が、背景と比較して、それぞれ明るいグレートーンでレンダリングされている。
【0101】
上記の2つの閾値を設定することで、強度の2つの範囲が定義され、表示される。これは、(MLアルゴリズムにとって)ユーザが重要だと考えるかどうかについての追加的な情報レベルを表す。
【0102】
他の実装オプションによれば、複数の閾値を定義した上で、複数の(したがって2より大きい任意の数の)強度分割間隔が、複数の閾値を設定することによって定義される。
【0103】
「タグ付け」またはラベル付けのステップに関して、実施オプションによれば、スペクトログラムの手動タグ付けが含まれる。この「タグ付け」のステップでは、画像(スペクトログラム)内の音の事前に定義されたカテゴリを特定する。学習画像の正確なタグ付けは、学習されるアルゴリズム(例えば「ディープラーニング」)の効果的な動作を実現するための重要な前提条件である。
【0104】
この例では、検討されたノイズカテゴリは以下の通りである(すでに言及され、上に図示されている)。
【0105】
スクウィール、チャープ/ワイヤーブラシ、アーチファクト;
高次高調波;
ベンチノイズ(すなわち、実験配置の悪さを示す異常なノイズ);
ブレーキシステムの設計に問題があることを示すクランノイズ。
【0106】
これらのカテゴリがどのようにスペクトログラムに現れるかを
図1に示す。左上のスペクトログラムはスクウィール、中央上のスペクトログラムはワイヤーブラシ、右上のスペクトログラムは高次高調波を伴うスクウィール、左下のスペクトログラムはノイズアーチファクト、中央下のスペクトログラムはクランノイズ、右下のスペクトログラムはテストベンチノイズである。
【0107】
図2には、強度にばらつきのある単一周波数のスクウィールを示す。
【0108】
図5は、スペクトログラム中のスクウィールを、有利なハイライト付きで示したものである。
【0109】
「タグ付け」の操作は、例えば、画像に矩形を描き、各矩形に前述のノイズカテゴリの1つを示すラベルを関連付けることによって行われる。
【0110】
特定の実装オプションによれば、「タグ付け」のステップは、前述のオープンソースツール「labellmg」のような、いくつかの機能を追加するソフトウェアによってサポートされる。
【0111】
(i)まず、ユーザは、画像上の所与のパターンを認識しやすくする着色スキームのタイプに応じて、通常のカラースペクトログラムとセグメント化されたスペクトログラムを切り替えることができる。さらに、カラーセグメンテーションにより、画像内のノイズイベントにタグ付けするための共有ルールの定義が容易になるため、プロセスの客観性と再現性が高まる。たとえば、強度にばらつきのある単一周波数のスクウィールの場合、スペクトログラムのセグメンテーションのために定義された2つの閾値によって、分析対象のイベントが単一のスクウィールから構成されているのか、または互いに近いが異なる複数のスクウィールから構成されているのかを判断するための、共有された明確なルールを確立することが可能になる(たとえば、同じ単一周波数のスクウィールの状況を、セグメンテーションなしのスペクトログラム上(左)とセグメンテーションありのスペクトログラム上(右)で示した
図7を参照)。
【0112】
(ii)さらに、この方法の実装のさらなるオプションとして、ノイズアナライザが各スクウィールを記録した周波数をスペクトログラム上に表示する可能性がある。スペクトログラム座標において、これらの周波数値は、異なる高さで描かれた水平線に対応する。
【0113】
(iii)さらに、本方法のさらなる実施オプションは、表示されたスペクトログラムに対応するオーディオトラックを聴く機能を提供する。したがって、オーディオは、視覚的なパターン認識を支持する。
【0114】
前述した3つのオプションは、特にそれらのすべてが採用された場合、タグ付けの品質を向上させるのに役立ち、したがって、アルゴリズムの訓練と完全な性能の両方を向上させる。
【0115】
次に、
図8を参照する。
図8は、上記の機能(i)(ii)(iii)によって強化された「labellmg」タグ付けツールのグラフィカルユーザインターフェース(GUI)を示している。
【0116】
タグ付けのステップに続いて学習プロセスが行われ、ここで検討される例では、以下の方法で実施される。「タグ付け」が行われたデータセットのサブセット(1017個の音声ファイルで構成)は、AIアルゴリズムへの入力として提供され、モデルパラメータを較正し、予測を行うのに適した状態にする。各ブレーキイベントに対して、アルゴリズムに提供されるタグ付けされたデータは、相互に関連する3つのエンティティ(
図4に示す)、スペクトログラム、セグメント化されたスペクトログラム、およびノイズアナライザがスクウィールを特定した周波数のセット(後者の情報は、ノイズアナライザから直接抽出し、その表形式の出力ファイルに含めることができる。)を含む。
【0117】
ここで説明する実施形態では、アルゴリズムが訓練された後、その予測能力が同じ性質の別のデータセットでテストされる。アルゴリズムが、スクウィール以外のノイズ(またはノイズなし)を、事前に設定されたある閾値を超える信頼度で特定した場合、偽陽性、すなわちノイズアナライザによってスクウィールとして認識されたが、実際にはそうではないイベントが現れる。
【0118】
この時点で、アルゴリズムは特定されたスペクトログラム情報を時間、周波数、強度の各ドメインに移し、初期ファイルから分析対象のイベントを削除する。
【0119】
この処理が完了すると、出力ファイルは元の表ファイルと同じヘッダーと構造を持つが、人工知能(AI)によって偽陽性と認識されたスクウィールに関連するメトリクスは削除される。
【0120】
前述の実施形態の全体的なフローチャートを
図9に示す。
【0121】
試験中にノイズイベントがクランノイズまたはテストベンチノイズとして認識された場合、実施オプションによれば、本方法は対応する周波数値を表形式ファイルから削除するだけでなく、試験全体に悪影響を及ぼす可能性のある異常に関連する可能性のあるノイズが存在する旨の警告を発する。
【0122】
実験台のノイズが特定され、そのノイズが特定された試験がまだ進行中である場合、オペレータは、実験台が適切に設置されていることを検証できるように、試験を停止するか一時停止することを決定することができる。
【0123】
少なくとも1つの実験台ノイズまたは衝突ノイズが報告された試験の終了後にMLアルゴリズムが実行された場合、この情報は、解析された試験セッション中に得られた予期せぬ結果または非典型的な結果をオペレータに警告するため、特に有用であることが判明する可能性がある。
【0124】
ここで説明する実施例では、トレーニング中に採用したサブセットと相補的なタグ付けを行ったデータセットのサブセットに対してテストを行った。
【0125】
データセットのテストは、合計683個のスクウィールイベント、29個のチャープ/ワイヤブラシイベント、20個のクランノイズイベント、42個のノイズアーチファクトイベントを含む 270個の音声ファイルで構成される。
【0126】
物体検出タスクの精度-再現曲線図を、対応する平均精度(mAP)と再現曲線の全値にわたる精度(AP)とともに
図10に示す。
図10の4つの図は、左上がスクウィール、右上がチャープ/ワイヤーブラシ、左下がノイズアーチファクト、右下がクランノイズである。現実と予測の一致を判定するために使用されるIoU(Intersection on Union)は0.5に設定された。
【0127】
これらの性能レベルと、特定の後処理ロジックの追加(例えば、同じ時間間隔で検出された最も低い周波数の整数値に従って、複数の周波数におけるスクウィール高調波の除去)により、提案された除去の総数から4%の誤除去を導入する(すなわち、偽陰性率を0%から2%に増加させる)ことで、偽スクウィールの発生を30%(35%から5%)減少させることができることが示された。
【0128】
スクウィール以外のノイズの除去は、動力学試験中に並行して行われる。
【0129】
試験中、1つ以上のスクウィールの発生がベースシステムによって記録されると、音声ファイルが記録・保存される。
【0130】
実装オプションによれば、音声ファイルとスクウィール検出レポートの一部は、分析のために集中サーバーに送信される。AIシステムによって特定されたスクウィールの誤った発生がフィルタリングされたスクウィール検出レポートが作成される。このレポートは、異常(すなわち、ベンチノイズやクランノイズの存在)に関するアラートとともに、集中レポジトリで利用可能にされる。
【0131】
本発明による上記方法を実施可能なシステムの一実施形態を
図11に示す。
【0132】
図11に示すシステムの構成要素は、N台のダイナモ(またはローラスタンド)テストベンチ(それぞれに音声ファイル、スクウィールレポート、基本検出器、ファイル送信ブロックが示されている)であり、これらはすべて、機械学習アルゴリズムが動作する「騒音検出器」ブロックからなる集中型人工知能(AI)サーバーに接続されており、そこには、オーディオファイル、ワーニング/アラート、及びスクウィールの発生に関する訂正された報告が保存される。
【0133】
このように、先に示した本発明の目的は、上記で詳細に開示した特徴により、上述の方法により完全に達成される。本発明による方法によって解決される利点および技術的問題は、方法の様々な特徴および態様を参照して上述した。
【0134】
偶発的なニーズを満たすために、当業者は、以下の特許請求の範囲から逸脱することなく、上述した方法の実施形態に変更および適合を加えることができ、または機能的に同等である他の要素と置き換えることができる。可能な実施形態に属するものとして上述した全ての特徴は、上述した他の実施形態に関係なく実施することができる。
【国際調査報告】