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特表2024-537831脂質メディエータシャペロンおよびその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-16
(54)【発明の名称】脂質メディエータシャペロンおよびその使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 19/00 20060101AFI20241008BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20241008BHJP
   A61K 47/55 20170101ALI20241008BHJP
   A61K 9/00 20060101ALI20241008BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20241008BHJP
   A61P 7/02 20060101ALI20241008BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20241008BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20241008BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20241008BHJP
   A61K 38/18 20060101ALI20241008BHJP
   A61K 38/36 20060101ALI20241008BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20241008BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20241008BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20241008BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20241008BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20241008BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20241008BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20241008BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
C07K19/00
A61K38/16 ZNA
A61K47/55
A61K9/00
A61P9/00
A61P7/02
A61P9/10 101
A61P29/00
A61K45/00
A61K38/18
A61K38/36
C07K16/18
C12N15/12
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024519841
(86)(22)【出願日】2022-09-30
(85)【翻訳文提出日】2024-05-27
(86)【国際出願番号】 US2022077391
(87)【国際公開番号】W WO2023056448
(87)【国際公開日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】63/251,457
(32)【優先日】2021-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】596115687
【氏名又は名称】ザ チルドレンズ メディカル センター コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110003971
【氏名又は名称】弁理士法人葛和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フラ,ティモシー,ティー.
(72)【発明者】
【氏名】スウェンデマン,スティーブン,エル.
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C076AA99
4C076CC04
4C076CC11
4C076CC14
4C076CC41
4C076FF70
4C084AA02
4C084AA07
4C084AA19
4C084BA02
4C084BA36
4C084BA41
4C084DB52
4C084MA02
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA36
4C084ZA44
4C084ZA45
4C084ZA54
4C084ZB11
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045BA55
4H045CA40
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本明細書には、ApoA1およびApoM(A1M)融合タンパク質、脂質付加A1M融合タンパク質、AM1融合タンパク質を含むナノ粒子、ならびに血管障害および炎症性障害を処置するためのそれらの使用方法が記載される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ApoA1とApoMとを含む、融合タンパク質。
【請求項2】
ApoA1が、配列番号1~2または配列番号27のいずれか1つと90%同一であるアミノ酸配列を含み、
任意にApoA1が、配列番号1~2または配列番号27のいずれか1つのアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項3】
ApoMが、配列番号3~4または配列番号28のいずれか1つと90%同一であるアミノ酸配列を含み、
任意にApoA1が、配列番号3~4または配列番号28のいずれか1つのアミノ酸配列を含む、請求項1または請求項2に記載の融合タンパク質。
【請求項4】
ApoA1が、ApoMのN末端に融合されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項5】
ApoA1が、ApoMのC末端に融合されている、請求項1~4のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項6】
ApoA1およびApoMが、リンカーを介して融合されており、
任意にここでリンカーが、ペプチドリンカーである、請求項1~5のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項7】
リンカーが、配列番号22のアミノ酸配列を含む、請求項6に記載の融合タンパク質。
【請求項8】
配列番号23~24のいずれか1つと90%同一であるアミノ酸配列を含み、
任意に融合タンパク質が、配列番号23~24のいずれか1つのアミノ酸配列を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を含む、核酸分子。
【請求項10】
ポリヌクレオチド配列が、配列番号25または配列番号26と少なくとも90%同一のヌクレオチド配列を含み、
任意にポリヌクレオチド配列が、配列番号25または配列番号26のヌクレオチド配列を含む、請求項9に記載の核酸分子。
【請求項11】
ポリヌクレオチド配列が、プロモータへと作動可能に連結されている、請求項9または請求項10に記載の核酸分子。
【請求項12】
請求項9~11のいずれか一項に記載の核酸分子を含む、構築物。
【請求項13】
構築物が、プラスミドまたはベクターであり、任意にウイルスベクターである、請求項12に記載の構築物。
【請求項14】
請求項1~8のいずれか一項に記載の融合タンパク質、請求項9~11のいずれか一項に記載の核酸配列、または請求項12~13のいずれか一項に記載の構築物を含む、細胞。
【請求項15】
細胞が、原核細胞である、請求項14に記載の細胞。
【請求項16】
細胞が、真核細胞であり、任意にヒト細胞である、請求項14に記載の細胞。
【請求項17】
請求項1~8のいずれか一項に記載の融合タンパク質と脂質とを含む、リポタンパク質。
【請求項18】
リポタンパク質が、S1P受容体のアゴニストもしくはアンタゴニスト、またはプロスタグランジンのアゴニストもしくはアンタゴニストである、請求項17に記載のリポタンパク質。
【請求項19】
脂質が、プロスタグランジン、スフィンゴシン1-リン酸(S1P)、ロイコトリエン、ホスファチジルコリンからなる群から選択される、請求項17または請求項18に記載のリポタンパク質。
【請求項20】
脂質が、イロプロストである、請求項19に記載のリポタンパク質。
【請求項21】
脂質が、スフィンゴシン-1-リン酸である、請求項19に記載のリポタンパク質。
【請求項22】
リポタンパク質が、脂質へ非共有結合している、請求項17~21のいずれか一項に記載のリポタンパク質。
【請求項23】
リポタンパク質が、脂質へ共有結合している、請求項17~21のいずれか一項に記載のリポタンパク質。
【請求項24】
リポタンパク質が、ナノ粒子中へ組み込まれている、請求項17~23のいずれか一項に記載のリポタンパク質。
【請求項25】
ナノ粒子が、ナノディスクである、請求項24に記載のナノ粒子。
【請求項26】
ナノ粒子が、70%の非脂質付加融合タンパク質および30%のリポタンパク質である、請求項24または請求項25に記載のナノ粒子。
【請求項27】
血管内皮機能障害に関連する疾患を有する対象を処置する方法であって、請求項1~8のいずれか一項に記載の融合タンパク質または請求項17~26のいずれか一項に記載のリポタンパク質を投与することを含む、前記方法。
【請求項28】
疾患が、血栓症または血栓性炎症からなる群から選択される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
血栓性炎症が、心血管疾患、脳血管疾患、糖尿病、アテローム性動脈硬化症、自己免疫症候群、または慢性炎症性疾患に関連する、請求項27および28に記載の方法。
【請求項30】
対象における炎症を低下させる方法であって、請求項1~8のいずれか一項に記載の融合タンパク質または請求項17~26のいずれか一項に記載のリポタンパク質からなる群から選択される薬物を投与することを含む、前記方法。
【請求項31】
薬物が、治療有効量で投与される、請求項27~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
炎症が、TNFアルファ誘導性NF-カッパB活性化に関連する、請求項30または請求項31に記載の方法。
【請求項33】
炎症が、心血管疾患、脳血管疾患、糖尿病、アテローム性動脈硬化症、自己免疫症候群、または慢性炎症性疾患に関連する、請求項30~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
疾患が、糖尿病性腎症、ループス、およびCOVID-19症候群誘発性血栓からなる群から選択される、請求項27~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
抗トロンビン剤を投与することを更に含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
抗トロンビン剤が、アンジオポエチン1または活性化プロテインC(APC)である、請求項35のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2021年10月1日に出願され、「LIPID MEDIATOR CHAPERONE FOR TREATMENT OF VASCULAR AND INFLAMMATORY DISORDERS」と題された米国仮出願第63/251,457号に対する35 U.S.C.§ 119(E)の下における利益を主張するものであり、その全内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
電子配列表の参照
電子配列表(C123370227WO00-SEQ-RE.xml;サイズ:38,889バイト;および作成日2022年9月30日)の内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0003】
連邦政府による資金提供を受けた研究
本発明は、国立衛生研究所によって授与された認可番号Hl135821の下において政府の支援を受けてなされた。政府は、本発明に一定の権利を有する。
【背景技術】
【0004】
背景
脂質メディエータは、特定の細胞表面受容体に作用して生物学的効果を誘導する細胞脂肪分子の誘導体である。周知の例は、プロスタグランジン、スフィンゴシン1-リン酸(sphingosine 1-phosphate:S1P)、ロイコトリエン等を包含する。それらの親油性に起因し、それらはタンパク質分子と会合して、それらが細胞外環境に拡散し、受容体に結合するのを助ける。したがって、脂質メディエータシャペロン(lipid mediator chaperones:LMC)は、脂質メディエータに結合し、それらの安定性を制御し、かつ受容体の活性化を助けて細胞応答を誘導するタンパク質分子として定義される。
【発明の概要】
【0005】
概要
内皮細胞機能は、正常な心血管恒常性にとって不可欠である。心血管疾患および脳血管疾患に対する多くの環境的および内在的なリスク因子は、内皮機能不全を引き起こす。実際、機能不全の内皮は、血管疾患の発症に関与している(例として、参照により本明細書に組み込まれるGirouard et al.,Journal of Applied Physiology 100,328-335,2006に記載されているとおり)。一方で、様々な内因性因子が最適な内皮機能を促進し、かつリスク因子を打ち消す(例として、参照により本明細書に組み込まれるLibby et al.,Journal of the American College of Cardiology 54,2129-2138,2009に記載されるとおり)。そのような因子の中には、高密度リポタンパク質(high-density lipoprotein:HDL)、多機能循環ナノ粒子がある。血漿HDL濃度は、心血管疾患および脳血管疾患からのリスクの低下(例として、参照により本明細書に組み込まれるLibby et al.,Journal of the American College of Cardiology 54,2129-2138,2009に記載されるとおり)、および虚血事象後の転帰の改善(例として、参照により本明細書に組み込まれる、Makihara et al.,Cerebrovascular Diseases 33,240-247,2012;およびOlsson et al.,European Heart Journal 26,890-896,2005に記載されているとおり)と相関することが示されている。HDL粒子は、不均一であり、多数の生理活性因子を含有し、かつ血管、代謝および免疫機能を調節し、これは、特定のHDL粒子サブタイプが心血管系における固有の機能を調節することを示唆している。
【0006】
本開示は、いくつかの側面において、ApoA1-ApoM(ApoA1-ApoM:A1M)と呼ばれる多機能性脂質メディエータシャペロン、およびその使用方法に関する。A1Mは、HDL関連タンパク質アポリポタンパク質A1(Apolipoprotein A1:ApoA1)およびアポリポタンパク質M(Apolipoprotein M:ApoM)からなり、かつ複数の生物学的に活性な脂質のシャペロンとして作用することができる、組換え融合タンパク質である。加えて、A1Mは、S1Pおよびプロスタサイクリン(PGI2)などの脂質メディエータを担持するHDL様リポタンパク質粒子を形成する。S1PおよびPGI2に結合したA1Mナノディスクは、血管内皮細胞を保護し、かつ血栓炎症性(thromboinflammatory)応答を阻害する。
【0007】
多くの急性および慢性のヒトの病状は、血管床の内皮の機能不全から開始する。機械的、代謝的、または病原体によって駆動される内皮機能不全は、炎症性メディエータおよび細胞受容体の誘導をもたらし、これは、血小板によって駆動される血栓症および自然免疫系の活性化を促進して、その後の炎症応答の増幅、血管床の破壊、および主要な臓器系の病理をもたらす。このように、ApoA1-ApoM-S1P/イロプロストの潜在的な適用は、広範な血栓症が適応症であるウイルス感染症または細菌感染症、および外傷性損傷または外科的損傷、ならびに心血管疾患、脳血管疾患、糖尿病、自己免疫症候群、および慢性炎症性疾患における血管関連血栓性炎症を伴う臨床エピソードを包含して広範囲にわたる。このように、A1Mは、(A)内皮の炎症および炎症の自然免疫細胞増幅の両方を低下させるため;(B)病原性血小板駆動性血栓症をA1M-イロプロストとして阻害するため;および(C)内皮バリア機能の保護を提供し、かつA1M-S1Pとして血管恒常性を維持するための、三つ又の治療薬を提供するように設計されている。
【0008】
いくつかの側面において、本開示は、ApoA1およびApoMを含む融合タンパク質に関する。いくつかの態様において、ApoA1は、配列番号1~2のいずれか1つと90%同一であるアミノ酸配列を含み、任意に、ApoA1は、配列番号1~2のいずれか1つのアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、ApoMは、配列番号3~4のいずれか1つと90%同一であるアミノ酸配列を含み、任意に、ApoA1は、配列番号3~4のいずれか1つのアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、ApoA1は、ApoMのN末端へ融合される。いくつかの態様において、ApoA1は、ApoMのC末端へ融合される。いくつかの態様において、ApoA1およびApoMは、リンカーを介して融合され、任意に、リンカーは、ペプチドリンカーである。いくつかの態様において、リンカーは、配列番号22のアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、融合タンパク質は、配列番号23~24のいずれか1つと90%同一であるアミノ酸配列を含み、任意に、融合タンパク質は、配列番号23~24のいずれか1つのアミノ酸配列を含む。
【0009】
いくつかの側面において、本開示は、上記の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を含む核酸分子に関する。いくつかの態様において、ポリヌクレオチド配列は、配列番号25または配列番号26と少なくとも90%同一のヌクレオチド配列を含み、任意に、ポリヌクレオチド配列は、配列番号25または配列番号26のヌクレオチド配列を含む。いくつかの態様において、ポリヌクレオチド配列は、プロモータへ作動可能に連結されている。いくつかの態様において、構築物は、上記の核酸分子を含む。いくつかの態様において、構築物は、プラスミドまたはベクターである。いくつかの態様において、構築物は、ウイルスベクターである。
【0010】
いくつかの側面において、本開示は、上記の融合タンパク質、上記の核酸配列、または上記の構築物を含む細胞に関する。いくつかの態様において、細胞は、原核細胞である。いくつかの態様において、細胞は、真核細胞であり、任意にはヒト細胞である。
【0011】
いくつかの態様において、リポタンパク質は、上記の融合タンパク質および脂質を含む。いくつかの態様において、脂質は、S1P受容体のアゴニストもしくはアンタゴニスト、またはプロスタグランジンのアゴニストもしくはアンタゴニストである。いくつかの態様において、脂質は、プロスタグランジン、スフィンゴシン1-リン酸(S1P)、ロイコトリエン、ホスファチジルコリンからなる群から選択される。いくつかの態様において、脂質は、イロプロストである。いくつかの態様において、脂質は、スフィンゴシン-1-リン酸である。いくつかの態様において、リポタンパク質は、脂質へ非共有結合されている。いくつかの態様において、リポタンパク質は、脂質へ共有結合されている。いくつかの態様において、リポタンパク質は、ナノ粒子へと組み込まれる。いくつかの態様において、ナノ粒子は、ナノディスクである。いくつかの態様において、ナノ粒子は、70%の非脂質付加融合タンパク質および30%のリポタンパク質である。
【0012】
いくつかの側面において、本開示は、血管内皮機能障害に関連する疾患を有する対象を処置する方法であって、上記のいずれかの融合タンパク質または上記のいずれかのリポタンパク質を投与することを含む、方法に関する。
【0013】
いくつかの態様において、疾患は、血栓症または血栓性炎症からなる群から選択される。いくつかの態様において、血栓性炎症は、心血管疾患、脳血管疾患、糖尿病、アテローム性動脈硬化症、自己免疫症候群、または慢性炎症性疾患に関連する。
【0014】
いくつかの側面において、本開示は、対象における炎症を低下させる方法であって、上記の融合タンパク質または上記のリポタンパク質からなる群から選択される薬物を投与することを含む、方法に関する。いくつかの態様において、薬物は、治療有効量で投与される。いくつかの態様において、炎症は、TNFアルファ誘導性NF-カッパB活性化に関連する。いくつかの態様において、炎症は、心血管疾患、脳血管疾患、糖尿病、アテローム性動脈硬化症、自己免疫症候群、または慢性炎症性疾患に関連する。
【0015】
いくつかの態様において、疾患は、糖尿病性腎症、ループス、およびCOVID-19症候群誘発性血栓である。いくつかの態様において、方法は、抗トロンビン剤を投与することを更に含む。いくつかの態様において、抗トロンビン剤は、アンジオポエチン1または活性化プロテインC(Activated Protein C:APC)である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図面の簡単な記載
図1A-1B】図1A図1Eは、ApoA1-ApoM融合タンパク質によるS1P結合の産生、精製、および特徴付けを示す。(図1A)脂質付加状態であるApoA1のこれまでに示唆されたモデルおよびApoMの決定された結晶構造に基づく、ApoA1-ApoMに結合したS1Pの潜在的なモデル構造の表現。(図1B)CHO-S細胞由来のニッケルビーズ精製ApoA1-ApoM(4μg)は、10%SDS_PAGEを還元することによって分析され、クーマシーブリリアントブルーにより染色された。
図1C-1D】(図1C)精製ApoA1-ApoM(100μg)は、S1Pと24時間にわたりインキュベーションされるかまたはインキュベーションされず、ゲル濾過クロマトグラフィーによって精製され、かつエレクトロスプレーイオン化-MS/MSによってスフィンゴ脂質について分析された。得られたデータは平均+/-SD;N=5の独立した実験である。(図1D図1E)組換えApoA1-ApoMのFPLC溶出プロファイル。FPLC溶出血漿標準(図8参照):LDLリポタンパク質(22~26mLml)、HDLリポタンパク質(28~32ml)、可溶性タンパク質画分(32~38ml)。(図1D)新生ApoA1-ApoMタンパク質のOD280トレース(100μg):マイナーピーク(31.5ml)、およびメジャーピーク(35.5ml)(図1E)脂質化A1M-S1P(1mg)(ピーク32ml)。
図1E】(図1D図1E)組換えApoA1-ApoMのFPLC溶出プロファイル。FPLC溶出血漿標準(図8参照):LDLリポタンパク質(22~26mLml)、HDLリポタンパク質(28~32ml)、可溶性タンパク質画分(32~38ml)。(図1D)新生ApoA1-ApoMタンパク質のOD280トレース(100μg):マイナーピーク(31.5ml)、およびメジャーピーク(35.5ml)(図1E)脂質化A1M-S1P(1mg)(ピーク32ml)。
【0017】
図2A-2B】図2A図2Fは、A1M-S1PがS1PRを活性化することを示す。ナノビット分析が、GiのS1PR1シグナル依存性活性化(図2A)、およびβ-アレスチンへのS1PR1受容体カップリング(図2B)を分析するために実施された。アルブミン-S1P、ApoM-Fc-S1P、およびApoA1-ApoM-S1Pは、4logのリガンド濃度(0.32nM、1nM、3.2nM、10nM、32nM、100nM、320nM、1μMのS1P)にわたって滴定分析によってアッセイされた。N=3の独立した実験。
図2C-2D】Giα(図2C)およびβ-アレスチン(図2D)の最大リガンド依存性受容体活性化(1μM)の時間分析データは、((相対ルシフェラーゼ活性-ベースライン/最大シグナル-ベースライン)*100)として分析された。(N=3回の別々の実験)。
図2E-2F】ナノビット分析が、β-アレスチン(図2E図2F)へのS1PR2受容体およびS1PR3受容体カップリングを分析するために、(図2B)と同じ滴定を用いて実施された。N=3の独立した実験。
【0018】
図3A-3B】図3A図3Hは、ApoA1-ApoM-S1Pがin vitroで内皮バリア機能を維持し、トロンビン誘導性バリア分解に応答して内皮バリアを共保護することを示す。(図3A)HUVECは、0.8、2.4、8、24μg/ml、もしくは10、30、100、および300nMのS1P、または24μgのA1Mを用いるTEERのリアルタイム測定による用量応答分析において、A1M-S1P依存性のバリア機能の増強について分析された。(図3B)ApoA1-ApoM-S1P(1、2、4、8、または16μg/ml;12.5、25、50、100、または200nMのS1P)、ApoA1-ApoM(1、2、4、8、または16μg/ml)、ApoM-Fc(1、2、4、8、または16μg/ml;12.5、25、50、100、または200nMのS1P)、またはApoM-Fc(1、2、4、8、または16μg/ml)を用いたTEERによるA1M-S1PおよびApoM-Fc-S1Pの比較。全てのデータは、ベースラインビヒクル処置と比較され、かつ曲線下面積(N=3の独立した実験)として提示された;平均±SDとして表される。P<0.0001、二元配置分散分析、続いてシャペロンを含有するS1Pのt検定対S1P陰性対照)。
図3C-3D】(図3C)HUVECは、ApoM-S1P(30nM)およびアンジオポエチン1(300ng/ml)を、個々にまたは組み合わせて用いるTEER分析によって、バリア保護について分析された。(図3D)HUVECは、ApoM-S1P(200nM)、アンジオポエチン1(300ng/ml)、またはこれらの組合せを用いるトロンビン(1U/ml)処置に応答したTEER分析によって、バリア保護について分析された。図3Cおよび図3Dでは、データは、対照または個々の処置対併用処置のノンパラメトリックt検定(マン・ホイットニー)によって分析された(****P<0.0001)。
図3E-3F】(図3E)HUVECは、APC(5μg/ml)と共に、A1M-S1P(30nM)(図3E)またはApoMFc-S1P(30nM)(図3G)のいずれかを用いるTEER分析によって、バリア保護について分析された。阻害剤で1時間にわたり前処置した後、トロンビンは、追加で2時間加えられた。有効性は、両方のアッセイについて、個々のトレースまたは曲線下面積(n=3)の分析と、それに続く対照または個々の処置対併用処置(図3F図3G)のノンパラメトリックt検定(マン・ホイットニー)との両方によって決定された。****(図3E図3G)についてP<0.0001、および(図3F図3G)についてP<0.01。図3Fおよび図3Hは、異なる処置条件の相対的耐性(曲線下面積、「A.U.C.」)のグラフを示す。
図3G-3H】(図3E)HUVECは、APC(5μg/ml)と共に、A1M-S1P(30nM)(図3E)またはApoMFc-S1P(30nM)(図3G)のいずれかを用いるTEER分析によって、バリア保護について分析された。阻害剤で1時間にわたり前処置した後、トロンビンは、追加で2時間加えられた。有効性は、両方のアッセイについて、個々のトレースまたは曲線下面積(n=3)の分析と、それに続く対照または個々の処置対併用処置(図3F図3G)のノンパラメトリックt検定(マン・ホイットニー)との両方によって決定された。****(図3E図3G)についてP<0.0001、および(図3F図3G)についてP<0.01。図3Fおよび図3Hは、異なる処置条件の相対的耐性(曲線下面積、「A.U.C.」)のグラフを示す。
【0019】
図4A-4B】図4A図4Cは、A1MがTNFα依存性炎症を減弱させることを示す。(図4A)HMEC NF-κB-ルシフェラーゼレポータ細胞は、TNFα誘導性NF-κB依存性ルシフェラーゼ活性についてアッセイされた。用量応答は、ApoA1、ApoA1-ApoM、およびApoA1-ApoM-S1P(25、50、100、200、および400μg/ml)を用いて実施された。データは、3回の独立した実験+/-S.D.の平均として提示されている。スチューデントt検定を用いた統計分析により、TNFαと比較して全てのデータについて**P<0.01、およびApoA1-ApomまたはApoA1-ApoM-S1P対ApoA1単独について*P<0.05が得られた。(図4B)用量応答は、ApoM-Fcおよびアルブミン-S1P(25、50、100、200、および400μg/ml)を用いて実施された。データは、3回の独立した実験+/-S.D.の平均として提示されている。
図4C】(図4C)HUVECは、ウェスタンブロット分析によってICAM-1発現のTNFα誘導についてアッセイされた。培養物は、ApomFc-S1P(100nM)、イロプロスト(200nM)、または両方の組合せ、およびA1M、A1M-S1P、A1M-イロプロスト(全て200μg/ml)で10分間にわたり前処置され、TNFα(10ng/ml)で5時間にわたり誘導された。画像J分析は、ICAM1/アクチン発現を比較して実施された。
【0020】
図5A-5B】図5A図5Fは、A1M-イロプロストの産生、ならびにA1M-S1PおよびA1M-イロプロストのTEER分析を示す。(図5A)PCおよびイロプロストで脂質付加され(方法を参照)、かつFPLCによって精製された、1mgのA1MのOD280トレース。画分溶出プロファイルは、マウス血漿の確立された分画と比較される(図1A図1Eおよび図8を参照)。(図5B)イロプロスト機能を検出するための、CREB-ルシフェラーゼレポータアッセイ。レポータ細胞株は、ビヒクルまたはA1M-イロプロスト(1、2、4、8、16、または32μg/ml)で8時間にわたり刺激され、細胞溶解物は、ルシフェラーゼ活性についてアッセイされた。
図5C-5D】(図5C)HUVECは、TEERのリアルタイム測定による用量応答分析において、バリア機能のS1P依存性増強について分析された。時間0において、ビヒクルもしくはApoA1-ApoM-S1P(8μg/ml;100nM S1P)、もしくはApoA1-ApoM-イロプロスト(25μg/ml;200nMイロプロスト)のいずれか、または両方の処置が加えられた。全てのデータがベースラインビヒクル処置と比較され、曲線下面積が決定された(図5D)(N=4の独立した実験;平均±SEMとして表される。****P<0.0001、*P=0.05、二元配置分散分析、続いて対照または個々の処置対併用処置のノンパラメトリックt検定(マン・ホイットニー)に基づく)。
図5E-5F】HDL-S1P(100Nm S1P)(図5E)およびS1PR1アゴニストAUY954(1μM)(図5F)単独、ならびにイロプロスト(200nM)との組合せのTEER分析(N=3以上)。
【0021】
図6A図6A図6Dは、ApoA1-イロプロストが、ヒト血小板凝集を阻害し、ApoM-S1PおよびApoA1-イロプロストが、好中球におけるfMLP依存性ROS活性化を阻害することを示す。単離されたヒト血小板は、トロンビンペプチドSFLLRNに応答した凝集についてアッセイされた。ビヒクル対照、ApoA1-ApoMイロプロスト(10nMの薬物)、ApoA1-ApoM-S1P(S1P 200nM)、またはそれらの組合せについての反復分析に対する結果が提示される(図6A)。狭域用量応答は、遊離イロプロストまたは同等のApoA1-イロプロスト(2、3、4、5、6、10、20nMの薬物)のいずれかを用いて実施された。N=2の独立した実験。
図6B-6C】(図6B)遊離イロプロスト(およそ11nMまで(~11 nM))およびApoA1ナノディスク会合イロプロスト(およそ9nMまで)についてのEC50定量化は、ナノディスクにおけるイロプロスト薬効力の保持を示唆する。(図6C)単離された腹膜マウス好中球は、fMLP刺激後のROS発現についてアッセイされた。細胞は、ビヒクル対照、ApoM-S1P(S1P 100nM)、ApoA1-イロプロスト(160nMの薬物)で、または組み合わせて、10分間にわたりプレインキュベーションされた。データは、刺激前のバックグラウンド減算後の直接蛍光として提示される。
図6D】(図6D)N=4の独立した実験の複合データ。データは、曲線下面積として提示され、続いてfMLP刺激単独へ正規化され、かつ未処置シグナルのパーセントとして表される。データは、ノンパラメトリックt検定(マン・ホイットニー)によって分析され、P値<0.0001は、ApoM-S1P、ApoA1-イロプロストについて、またはFmlp刺激と組み合わせて得られた。
【0022】
図7A図7A図7Bは、融合タンパク質の特徴を同定する、ApoA1-ApoMのヌクレオチド配列(配列番号25)およびアミノ酸配列(配列番号23)を示す。ApoA1-ApoM融合物は、天然のネズミ科ApoA1のシグナルペプチド、およびオープン・リーディング・フレームのアミノ酸1~264、その後に続く1つの(Gly4Ser1)フレキシブルリンカー領域、ネズミ科ApoMのアミノ酸21~190、6倍ヒスチジン精製タグ、ならびに翻訳終止コドンを含有する。
図7B図7A図7Bは、融合タンパク質の特徴を同定する、ApoA1-ApoMのヌクレオチド配列(配列番号25)およびアミノ酸配列(配列番号23)を示す。ApoA1-ApoM融合物は、天然のネズミ科ApoA1のシグナルペプチド、およびオープン・リーディング・フレームのアミノ酸1~264、その後に続く1つの(Gly4Ser1)フレキシブルリンカー領域、ネズミ科ApoMのアミノ酸21~190、6倍ヒスチジン精製タグ、ならびに翻訳終止コドンを含有する。
【0023】
図8図8は、正常マウス血漿のFPLCトレースを示す。20,000×gで20分間にわたる遠心分離によって以前に清澄化された150μLのマウス血漿が、FPLC分析のために注射された(方法を参照)。0.4mlの画分が試料から回収され、画分がクーマシーブルー染色およびウェスタンブロット分析の両方を用いてSDS-PAGEによって分析されて、画分の同一性が確認された。分析のOD280トレースが提示されている。
【0024】
図9A図9A図9Bは、TEER分析によるトロンビン阻害の滴定アッセイを示す。(図9A)HUVECは、トロンビン(1U/ML)と組み合わせてApoM-S1P(1、3、10、30、および100nM S1P)を用いる2時間のTEER分析(n=3)によって、バリア保護について分析された。
図9B】(図9B)HUVECは、トロンビン(1U/ml)と組み合わせて、活性化プロテインC(APC;1、5、20、および50μg/ml)を用いて2時間にわたるTEER分析(n=3)によって、バリア保護について分析された。
【0025】
図10図10は、ApoA1-イロプロストの精製のFPLCトレースを示す。0.5mgのヒトApoA1(Sigma)が、記載されるように脂質付加され(方法を参照)、0.4mlの画分が試料から回収された。
【発明を実施するための形態】
【0026】
詳細な記載
本開示は、ApoA1-ApoM(A1M)と呼ばれる多機能性脂質メディエータシャペロン、およびその使用方法に関する。A1Mは、HDL関連タンパク質アポリポタンパク質A1(ApoA1)およびアポリポタンパク質M(ApoM)からなり、かつ複数の生物学的に活性な脂質のシャペロンとして作用することができる、組換え融合タンパク質である。
【0027】
アポリポタンパク質A1(ApoA1)は、高密度リポタンパク質(HDL)の主要な構造タンパク質である28kDaのタンパク質である。いくつかの態様において、ApoA1は、配列番号1~2または配列番号27のいずれか1つと少なくとも70%同一であるアミノ酸配列を含む。例えば、ApoA1は、配列番号1~2または配列番号27のいずれか1つと、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%同一であるアミノ酸配列を含んでもよい。いくつかの態様において、ApoA1は、配列番号1~2または配列番号27のいずれか1つと、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%同一であるアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、ApoA1は、配列番号1~2または配列番号27のいずれか1つのアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、ApoA1は、配列番号1~2または配列番号27のいずれか1つのアミノ酸配列からなる。いくつかの態様において、ApoA1タンパク質は、シグナルペプチド配列を含まない。
【0028】
「アポリポタンパク質M(ApoM)」は、哺乳動物(例として、ヒト)血漿中の高密度リポタンパク質(HDL)に主に関連する26kDaのタンパク質であり、高トリグリセリドリポタンパク質(triglyceride-rich lipoprotein:TGRLP)および低密度リポタンパク質(low-density lipoprotein:LDL)には小さな割合で存在する。これはリポカリンタンパク質スーパーファミリーに属する。ApoMは肝臓および腎臓においてのみ発現され、少量が胎児の肝臓および腎臓において見出される。天然ApoMの発現が、in vivoおよび/またはin vitroにおいて、血小板活性化因子(platelet activating factor:PAF)、トランスフォーミング増殖因子(transforming growth factor:TGF)、インスリン様増殖因子(insulin-like growth factor:IGF)、およびレプチンによって調節されることができる。ApoMは、あらゆる哺乳動物(例として、ヒト、またはマウスもしくはラットなどのネズミ科)に由来するものであってもよい。野生型のヒトApoMおよびマウスApoMのアミノ酸配列、ならびにそれらをコードするヌクレオチド配列が表1に提供される。提供される配列は例示目的のみのためであり、限定することを意味しないことを理解されたい。ApoM部分は、生物学的に活性なスフィンゴ脂質であるスフィンゴシン-1-リン酸(S1P)のシャペロンとして本質的に作用し、これは、in vitroおよびin vivoでの内皮恒常性および内皮バリア機能の増強(漏出の低下)を包含する、血管保護特性を明確に実証している。
【0029】
いくつかの態様において、ApoMは、配列番号3~6または配列番号28のいずれか1つと少なくとも70%同一であるアミノ酸配列を含む。例えば、ApoMは、配列番号3~6または配列番号28のいずれか1つと、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%同一であるアミノ酸配列を含んでもよい。いくつかの態様において、ApoMは、配列番号3~6または配列番号28のいずれか1つと、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%同一であるアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、ApoMは、配列番号3~6または配列番号28のいずれか1つのアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、ApoMは、配列番号3~6または配列番号28のいずれか1つのアミノ酸配列からなる。いくつかの態様において、ApoMタンパク質は、シグナルペプチド配列を含まない。いくつかの態様において、ApoMタンパク質は、シグナルペプチド配列を含む。
【0030】
ApoA1-ApoM1融合タンパク質
いくつかの側面において、本開示は、ApoA1およびApoMを含む融合タンパク質に関する。
【0031】
「融合タンパク質」とは、本明細書において使用される場合、少なくとも2つの異なるタンパク質(例として、A1M)に由来するタンパク質ドメインを含む、ハイブリッドポリペプチドを指す。あるタンパク質は、融合タンパク質のアミノ末端(N末端)部分に、またはカルボキシ末端(C末端)タンパク質に位置付けられ、よってそれぞれ、「アミノ末端の融合タンパク質」または「カルボキシ末端の融合タンパク質」を形成してもよい。融合タンパク質は、異なるドメイン、例えば、ApoMドメインおよびApoA1ドメインを含んでもよい。いくつかの態様において、ApoMは、ApoA1のN末端へ融合される。いくつかの態様において、ApoMは、ApoA1のC末端へ融合される。
【0032】
いくつかの態様において、A1Mは、配列番号23~24のいずれか1つと少なくとも70%同一であるアミノ酸配列を含む。例えば、A1Mは、配列番号23~24のいずれか1つと、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%同一であるアミノ酸配列を含んでもよい。いくつかの態様において、A1Mは、配列番号23~24のいずれか1つと、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%同一であるアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、A1Mは、配列番号23~24のいずれか1つのアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、A1Mは、配列番号23~24のいずれか1つのアミノ酸配列からなる。
【0033】
リンカー
いくつかの態様において、ApoMおよびApoA1は、リンカーを介して融合される。「リンカー」とは、2つの分子または部分(例として、融合タンパク質の2つのドメイン)を連結する化学基または分子を指す。典型的には、リンカーは、2つの基、分子、ドメイン、または他の部分の間に位置するか、またはそれらによって挟まれ、共有結合を介して各1つに接続され、それゆえに2つを接続する。リンカーは、共有結合ほども単純であってもよいか、またはリンカーは長さが多くの原子であるポリマー性リンカーであってもよい。いくつかの態様において、リンカーは、ポリペプチドであるか、またはアミノ酸に基づく。いくつかの態様において、リンカーは、ペプチド様ではない。いくつかの態様において、リンカーは、共有結合である(例として、炭素-炭素結合、ジスルフィド結合、炭素-ヘテロ原子結合等)。いくつかの態様において、リンカーは、アミド連結部の炭素-窒素結合である。いくつかの態様において、リンカーは、環状または非環状の、置換または非置換の、分岐または非分岐の脂肪族またはヘテロ脂肪族リンカーである。いくつかの態様において、リンカーは、ポリマー性である(例として、ポリエチレン、ポリエチレングリコール、ポリアミド、ポリエステル等)。いくつかの態様において、リンカーは、アミノアルカン酸のモノマー、二量体、またはポリマーを含む。いくつかの態様において、リンカーは、アミノアルカン酸を含む(例として、グリシン、エタン酸、アラニン、ベータアラニン、3-アミノプロパン酸、4-アミノ酪酸、5-ペンタン酸等)。いくつかの態様において、リンカーは、アミノヘキサン酸(aminohexanoic acid:Ahx)のモノマー、二量体、またはポリマーを含む。いくつかの態様において、リンカーは、炭素環部分(例として、シクロペンタン、シクロヘキサン)に基づく。他の態様において、リンカーは、ポリエチレングリコール部分(polyethylene glycol:PEG)を含む。他の態様において、リンカーは、アミノ酸を含む。いくつかの態様において、リンカーは、ペプチドを含む。いくつかの態様において、リンカーは、アリール部分またはヘテロアリール部分を含む。いくつかの態様において、リンカーは、フェニル環に基づく。リンカーは、ペプチドからリンカーへの求核剤(例として、チオール、アミノ)の付着(attachment)を促進するための官能化部分を包含してもよい。いずれかの求電子剤がリンカーの一部として使用されてもよい。例示の求電子剤は、活性化エステル、活性化アミド、マイケルアクセプター、ハロゲン化アルキル、ハロゲン化アリール、ハロゲン化アシル、およびイソチオシアナートを包含するが、これらに限定されない。
【0034】
いくつかの態様において、リンカーは、アミノ酸または複数のアミノ酸(例として、ペプチドまたはタンパク質)である。いくつかの態様において、リンカーは、結合(例として、共有結合)、有機分子、基、ポリマー、または化学部分である。いくつかの態様において、リンカーは、1~100アミノ酸長、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、30~35、35~40、40~45、45~50、50~60、60~70、70~80、80~90、90~100、100~110、110~120、120~130、130~140、140~150、または150~200アミノ酸長である。より長いまたはより短いリンカーもまた企図される。
【0035】
いくつかの態様において、リンカーは、配列番号10~22のいずれか1つのアミノ酸配列またはこれらのいずれかの組合せを含み、ここで、nは、独立して1~30の整数であり、Xは、何らかのアミノ酸である。いくつかの態様において、nは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、または15である。いくつかの態様において、リンカーは、SGSETPGTSESATPES(配列番号17)およびSGGS(配列番号10)を含む。いくつかの態様において、リンカーは、配列番号22を含む。
【0036】
脂質(リポタンパク質)および/または治療薬に結合した融合タンパク質
いくつかの態様において、上記の融合タンパク質は、治療薬を含むように更に修飾されている。いくつかの態様において、治療薬は、脂質である。いくつかの態様において、治療薬は、脂質受容体と相互作用する。いくつかの態様において、治療薬は、S1P受容体アゴニストもしくはアンタゴニスト;またはプロスタグランジン作動薬もしくは拮抗薬;またはそれらの組合せからなる群から選択される。
【0037】
S1P受容体アゴニストおよびアンタゴニストは、当技術分野で周知であり、かつPark SJ et al.Biomolecules&therapeutics 25.1(2017):80に記載されており、これは、その全体が参照により組み込まれる。いくつかの態様において、S1p受容体アンタゴニストは、MT-1303およびJTE-013からなる群から選択される。いくつかの態様において、S1p受容体アゴニストは、SEW2871、KRP-203、シポニモド(BAF312)、AUY954、ポネシモド(ACT-128800)、セラリフィモド(ONO-4641)、GSK2018682、オザニモド(RPC1063)、CS-0777、およびフィンゴリモド(FTY720、Gilenya)からなる群から選択される。
【0038】
いくつかの態様において、治療薬は、プロスタグランジンの産生を阻害する。いくつかの態様において、治療薬は、プロスタグランジン産生を阻害する非ステロイド性抗炎症薬である。
【0039】
プロスタグランジン受容体アゴニストおよびアンタゴニストは、当技術分野で周知であり、かつ参照によりその全体が組み込まれるSharif NA et al.British journal of pharmacology 176.8(2019):1059-1078に記載されており、これは、その全体が参照により組み込まれる。いくつかの態様において、プロスタグランジン受容体アゴニストは、クロプロステノール、フルプロステノール(トラボプロスト酸)、16-フェノキシ-ω-テトラノル-PGF2α、17-フェニル-ω-トリノール-PGF2α(ビマトプロスト酸)、13,14-ジヒドロ-17-フェニル-ω-トリノール-PGF2α(ラタノプロストを含まない酸)(PhXA85)、AFP-172(タフルプロスト酸)、およびAL-12182酸(AL-12180)からなる群から選択される。いくつかの態様において、プロスタグランジン受容体アンタゴニストは、PGF2αジメチルアミド、PGF2αジメチルアミン、フロレチン、グリベンクラミド、トルブタミド、AL-8810、AL-3138、AS604872、THG-113.31、PDC113.824、AL-8810、およびAGN 211377からなる群から選択される。
【0040】
いくつかの態様において、融合タンパク質は、脂質に結合したリポタンパク質である。いくつかの態様において、脂質は、治療薬である。いくつかの態様において、脂質は、プロスタグランジン、スフィンゴシン1-リン酸(S1P)、ロイコトリエンからなる群から選択される。いくつかの態様において、プロスタグランジンは、イロプロストである。いくつかの態様において、プロスタグランジンは、プロスタグランジンE2(PGE2)、プロスタサイクリン(PGI2)、プロスタグランジンD2(PGD2)、およびプロスタグランジンF2α(PGF2α)からなる群から選択される。いくつかの態様において、脂質は、S1Pである。いくつかの態様において、脂質は、融合タンパク質のApoA1に結合する。
【0041】
ナノ粒子
いくつかの態様において、上記のリポタンパク質は、ナノ粒子へと組み込まれる。いくつかの態様において、ナノ粒子は、リポソームである。いくつかの態様において、ナノ粒子は、ナノディスクである。ナノディスクは、脂質二重層および円盤様構造を形成するタンパク質を含む円盤状粒子であり、ここで、タンパク質は、脂質二重層を取り囲むDenisov,Ilia G.,and Stephen G.Sligar.Nature structural&molecular biology 23.6(2016):481-486、これは、参照によりその全体が組み込まれる)。いくつかの態様において、ナノ粒子は、HDL様ナノディスクに類似している。いくつかの態様において、ナノ粒子(例として、ナノディスク)へと組み込まれたリポタンパク質は、リン脂質へ結合している。いくつかの態様において、リン脂質は、ホスファチジルコリンである。
【0042】
いくつかの態様において、ナノ粒子は、脂質付加されていない上記の融合タンパク質(NL融合タンパク質)、および脂質付加されている融合タンパク質(例として、上記のリポタンパク質)を含む。いくつかの態様において、ナノ粒子は、少なくとも10%(例として、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%)のリポタンパク質を含む。いくつかの態様において、ナノ粒子は、NL融合タンパク質と比較して、10%~20%、20%~30%、30%~40%、40%~50%、50%~60%、60%~70%、70%~80%、80%~90%、または90%~100%のリポタンパク質を含む。いくつかの態様において、ナノ粒子は、100%のリポタンパク質を含む。いくつかの態様において、ナノ粒子は、1:10、1:7、1:5、1:3、1:2、1:1、2:1、3:1、5:1、7:1、または10:1のリポタンパク質対NL融合タンパク質の比を含む。いくつかの態様において、ナノ粒子は、7個のNL融合タンパク質ごとに3個のリポタンパク質を含む。いくつかの態様において、ナノ粒子は、30%のリポタンパク質および70%のNL融合タンパク質を含む。いくつかの態様において、ナノ粒子は、上記の治療薬へ結合した融合タンパク質を含む。いくつかの態様において、ナノ粒子は、上記の治療薬を含む。
【0043】
修飾融合タンパク質
いくつかの態様において、本明細書に記載される融合タンパク質は、修飾を含む。融合タンパク質が本明細書において言及される場合、その全ての変異体および誘導体を網羅する。修飾を含むポリペプチドは、アミノ酸含有量以外の追加的な特徴を有する。本明細書において使用される場合、タンパク質またはポリペプチド(例として、本明細書に記載される融合タンパク質)の「修飾」または「誘導体」は、修飾ポリペプチドまたは誘導体化ポリペプチドを産生し、これは、参照ペプチドに対して化学的に修飾された所与のペプチドの形態であり、修飾は、オリゴマー化または重合、アミノ酸残基またはペプチド骨格の修飾、架橋、環化、コンジュゲーション、PEG化、グリコシル化、アセチル化、リン酸化、アシル化、カルボキシル化、脂質化、チオグリコール酸アミド化、アルキル化、メチル化、ポリグリシル化、グリコシル化、ポリシアリル化、アデニル化、PEG化、追加的な異種アミノ酸配列との融合、または本明細書に記載されるポリペプチドの活性を実質的に保持しながらペプチドの安定性、溶解度、または他の特性を実質的に変化させる他の修飾を包含するが、これらに限定されない。そのような修飾を含む融合タンパク質は、架橋、環化、コンジュゲーション、アシル化、カルボキシル化、脂質化、アセチル化、チオグリコール酸アミド化、アルキル化、メチル化、ポリグリシル化、グリコシル化、ポリシアル酸化、リン酸化、アデニル化、PEG化、またはそれらの組合せであると理解されるべきである。いくつかの態様において、本開示の修飾融合タンパク質は、ポリエチレングリコール、脂質、多糖類または単糖類、およびホスファートなどの非アミノ酸要素を含有してもよい。本開示の融合タンパク質は、C末端(例として、C末端アミド化)、N末端(例として、N末端アセチル化)に本明細書に開示の修飾を含んでもよい。末端修飾は、プロテイナーゼ消化に対する感受性を低下させるために有用であり、かつ周知されており、したがって、溶液、特にプロテアーゼが存在するかもしれない生物学的流体中でのポリペプチドの半減期を延長するのに役立つ。いくつかの態様において、本明細書に記載される融合タンパク質は、末端NH2アシル化、例としてアセチル化、またはチオグリコール酸アミド化による修飾、末端カルボキシルアミド化、例としてアンモニア、メチルアミン、および同様のものの末端修飾による修飾など、配列内で更に修飾される。
【0044】
末端修飾は、プロテイナーゼ消化よる感受性を低下させるために有用であり、したがって、溶液、特にプロテアーゼが存在するかもしれない生物学的流体中でのポリペプチドの半減期を延長するのに役立ち得る。アミノ末端修飾は、メチル化(例として、--NHCH3または--N(CH3)2)、アセチル化(例として、酢酸またはa-クロロ酢酸、a-ブロモ酢酸、もしくはa-ヨード酢酸などの酢酸のハロゲン化誘導体)、ベンジルオキシカルボニル(Cbz)基を加えること、またはRCOO--によって定義されるカルボキシラート官能基もしくはR--SO2--によって定義されるスルホニル官能基を含有するいずれかのブロック基でアミノ末端をブロックすることを包含し、ここで、Rは、アルキル、アリール、ヘテロアリール、アルキルアリールなど、および同様の基からなる群から選択される。また、プロテアーゼに対する感受性を減少させるために、またはポリペプチドの立体配座を制限するために、N末端に(N末端アミノ基が存在しないように)デスアミノ酸を組み込むことができる。ある種の態様において、N末端は、酢酸または無水酢酸でアセチル化される。
【0045】
カルボキシ末端修飾は、構造的制約を導入するために、遊離酸をカルボキサミド基で置き換えること、またはカルボキシ末端で環状ラクタムを形成することを包含する。また、プロテアーゼに対する感受性を減少させるために、またはペプチドの立体配座を制限するために、本明細書に記載されるペプチドを環化することも、またはペプチドの末端にデスアミノ残基もしくはデスカルボキシ残基を組み込むこともでき、その結果、末端アミノ基もしくはカルボキシル基が存在しない。環状ペプチド合成の方法は、当技術分野で、例えば、米国特許出願第20090035814号;Muralidharan and Muir,2006,Nat Methods,3:429-38;およびLockless and Muir,2009,Proc Natl Acad Sci U S A.Jun 18,Epubで知られている。本明細書に記載されるペプチドのC末端官能基は、アミド、アミド低級アルキル、アミドジ(低級アルキル)、低級アルコキシ、ヒドロキシおよびカルボキシならびにそれらの低級エステル誘導体、ならびにそれらの薬学的に許容される塩を包含する。
【0046】
いくつかの態様において、本明細書に記載される融合タンパク質は、リン酸化される。また、リン酸化および他の方法(例として、Hruby,et al.(1990)Biochem J.268:249-262に記載されている)によってペプチドを容易に修飾し得る。いくつかの態様において、遺伝的にコードされたアミノ酸(または立体異性体Dアミノ酸)の自然に存在する側鎖を、他の側鎖、例えるならアルキル、低級(C1~6)アルキル、環式4員、5員、6~7員アルキル、アミド、アミド低級アルキルアミドジ(低級アルキル)、低級アルコキシ、ヒドロキシ、カルボキシおよびそれらの低級エステル誘導体などの基、ならびに4員、5員、6~7員複素環で置き換えることができる。例えば、プロリン残基の環のサイズが、5員から4員、6員、または7員に変更されたプロリン類似体が採用されることができる。
【0047】
環式基は、飽和または不飽和であることができ、もし不飽和である場合、芳香族または非芳香族であることができる。複素環基は、好ましくは、1以上の窒素、酸素、および/または硫黄のヘテロ原子を含有する。そのような基の例は、フラザニル、フリル、イミダゾリジニル、イミダゾリル、イミダゾリニル、イソチアゾリル、イソオキサゾリル、モルホリニル(例として、モルホリノ)、オキサゾリル、ピペラジニル(例として、1-ピペラジニル)、ピペリジル(例として、1-ピペリジル、ピペリジノ)、ピラニル、ピラジニル、ピラゾリジニル、ピラゾリニル、ピラゾリル、ピリダジニル、ピリジル、ピリミジニル、ピロリジニル(例として、1-ピロリジニル)、ピロリニル、ピロリル、チアジアゾリル、チアゾリル、チエニル、チオモルホリニル(例として、チオモルホリノ)、およびトリアゾリル基を包含する。これらの複素環基は、置換または非置換であることができる。基が置換される場合、置換基は、アルキル、アルコキシ、ハロゲン、酸素、または置換もしくは非置換のフェニルであることができる。
【0048】
いくつかの態様において、本明細書に記載される融合タンパク質は、1以上のポリマー部分へ付着して(attached)いてもよい。いくつかの態様において、これらのポリマーは、本開示の融合タンパク質へ共有付着して(covalently attached)いる。いくつかの態様において、最終生成調製物の治療的使用のために、ポリマーは、薬学的に許容される。当業者は、ポリマー-ペプチドコンジュゲートが治療的に使用されるかどうか、ならびにそうである場合、所望の投薬量、循環時間、タンパク質分解に対する耐性、および他の考慮事項などの考慮事項に基づいて所望のポリマーを選択することが可能である。
【0049】
好適なポリマーは、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアミノ酸、ジビニルエーテル無水マレイン酸、N-(2-ヒドロキシプロピル)-メタクリルアミド、デキストラン、硫酸デキストランを包含するデキストラン誘導体、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチル化ポリオール、ヘパリン、ヘパリン断片、多糖類、メチルセルロースおよびカルボキシメチルセルロースを包含するセルロースおよびセルロース誘導体、デンプンおよびデンプン誘導体、ポリアルキレングリコールおよびその誘導体、ポリアルキレングリコールおよびその誘導体のコポリマー、ポリビニルエチルエーテル、ならびにα,β-ポリ[(2-ヒドロキシエチル)-DL-アスパルトアミド、ならびに同様のもの、またはそれらの混合物を包含する。そのようなポリマーは、それ自体の生物学的活性を有していてもよく、または有していなくてもよい。ポリマーは、融合タンパク質へ共有結合的または非共有結合的にコンジュゲートされることができる。血清半減期を増加させるための、および放射線療法のためのコンジュゲーションの方法は、当技術分野、例えば、米国特許第5,180,816号、同第6,423,685号、同第6,884,780号、および同第7,022,673号で公知であり、これらは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0050】
いくつかの態様において、本明細書に記載される融合タンパク質は、1以上の水溶性ポリマー部分へ付着していてもよい。水溶性ポリマーは、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、エチレングリコール/プロピレングリコールのコポリマー、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ-1,3-ジオキソラン、ポリ-1,3,6-トリオキサン、エチレン/無水マレイン酸コポリマー、ポリアミノ酸(ホモポリマーまたはランダムコポリマーのいずれか)、ポリ(n-ビニルピロリドン)ポリエチレングリコール、プロプロピレングリコールホモポリマー、ポリプロピレンオキシド/エチレンオキシドコポリマー、およびポリオキシエチル化ポリオールであってもよい。好ましい水溶性ポリマーはPEGである。
【0051】
ポリマーは、あらゆる分子量であってもよく、かつ分岐していてもよく、または分岐していなくてもよい。反応物PEGの平均分子量は、好ましくは約3,000~約50,000ダルトンである(「約」という用語は、PEGの調製物において、いくつかの分子が記載の分子量よりも重く、いくつかの分子が記載の分子量よりも軽くなることを指し示す)。より好ましくは、PEGは、約10kDa~約40kDaの分子量を有し、更により好ましくは、PEGは、15~30kDaの分子量を有する。所望の治療プロファイル(例として、所望の持続放出持続時間;もしあれば、生物学的活性に対する効果;取り扱いやすさ;抗原性の程度または欠如;および当業者に公知の治療用ペプチドに対するPEGの他の効果)に応じて、他のサイズが使用されてもよい。
【0052】
付着したポリマー分子の数は変化してもよい;例えば、1、2、3、またはそれ以上の水溶性ポリマーが本開示のペプチドへ付着していてもよい。複数の付着ポリマーは、同じまたは異なる化学部分(例として、異なる分子量のPEG)であってもよい。
【0053】
ある種の態様において、PEGは、本明細書に記載される融合タンパク質の少なくとも1つの末端(N末端またはC末端)へ付着していてもよい。いくつかの態様において、PEGは、融合タンパク質のリンカー部分へ付着していてもよい。いくつかの態様において、リンカーは、好適に活性化されたPEG種で誘導体化することが可能な2つ以上の反応性アミンを含有する。
【0054】
PEG化は、PEGの反応性誘導体と標的高分子とのインキュベーションによって日常的に達成される。薬物または治療用タンパク質へのPEGの共有付着(covalent attachment)は、宿主の免疫系から薬剤を「マスクする」ことができ(免疫原性および抗原性の低下)、かつ腎クリアランスを低下させることによって循環時間を延長する薬剤の流体力学的サイズ(溶液中のサイズ)を増加させることができる。PEG化はまた、疎水性薬物およびタンパク質へ水溶解度を提供することができる。PEG化は、分子の分子量を増加させることによって、非修飾形態に比べていくつかの有意な薬理学的利点、例えば:薬物溶解度の改善、投薬頻度の低下、潜在的な毒性の低下を伴う有効性の低減なし、循環寿命の延長、薬物安定性の増加、およびタンパク質分解からの保護の増強などを付与することができる。加えて、PEG化薬物は、新しい送達形式および投与レジメンのより広い機会を有する。PEG化分子、タンパク質、およびペプチドの方法は、例として、米国特許第5,766,897号;同第7,610,156号;同第7,256,258号、および国際出願第WO/1998/032466号に記載されているように、当技術分野で周知である。
【0055】
本明細書には、本明細書の融合タンパク質のコンジュゲートが網羅されている。融合タンパク質は、ポリエチレングリコール(PEG)に加えて他のポリマーへとコンジュゲートされることができる。ポリマーは、それ自体の生物学的活性を有していてもよく、または有していなくてもよい。ポリマーコンジュゲーションの更なる例は、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアミノ酸、ジビニルエーテル無水マレイン酸、N-(2-ヒドロキシプロピル)-メタクリルアミド、デキストラン、硫酸デキストランを包含するデキストラン誘導体、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチル化ポリオール、ヘパリン、ヘパリン断片、多糖類、メチルセルロースおよびカルボキシメチルセルロースを包含するセルロースおよびセルロース誘導体、デンプンおよびデンプン誘導体、ポリアルキレングリコールおよびその誘導体、ポリアルキレングリコールおよびその誘導体のコポリマー、ポリビニルエチルエーテル、ならびにα,β-ポリ[(2-ヒドロキシエチル)-DL-アスパルトアミド、ならびに同様のもの、またはそれらの混合物などのポリマーを包含するが、これらに限定されない。ポリマーへのコンジュゲーションは、他の効果の中でも、血清半減期を改善することができる。種々のキレート剤が使用されて、本明細書に記載されるペプチドをコンジュゲートさせることができる。これらのキレート剤は、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミノペンタ酢酸(DTPA)、エチレングリコール-0,0'-ビス(2-アミノエチル)-N,N,N',N'-四酢酸(EGTA)、N,N'-ビス(ヒドロキシベンジル)エチレンジアミン-N,N'-二酢酸(HBED)、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)、1,4,7,10-テトラ-アザシクロドデカン-N,N',N”,N”'-四酢酸(DOTA)、1,4,7,10-テトラアザシクロトリデカン-1,4,7,10-四酢酸(TITRA)、1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン-N,N',N”,N”'-四酢酸(TETA)、および1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン(TETRA)を包含するが、これらに限定されない。コンジュゲーションの方法は、当技術分野、例えば、P.E.Thorpe,et.al,1978,Nature 271,752-755;Harokopakis E.,et.al.,1995,Journal of Immunological Methods,185:31-42;S.F.Atkinson,et.al.,2001,J.Biol.Chem.,276:27930-27935;ならびに、米国特許第5,601,825号、同第5,180,816号、同第6,423,685号、同第6,706,252号、同第6,884,780号、および同第7,022,673号で周知であり、これらは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0056】
当技術分野で公知のペプチドを安定化するための他の方法を、本明細書に記載される方法および組成物と共に使用されてもよい。例えば、D-アミノ酸を用いること、ペプチド骨格に対する還元アミド結合を用いること、および非ペプチド結合を用いて側鎖を連結すること(ピロリノンおよび糖模倣物が包含されるが、これらに限定されない)は、安定化を各々提供することができる。糖足場ペプチド模倣物の設計および合成は、Hirschmann et al.(J.Med.Chem.,1996,36,2441-2448(これは、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)によって記載されている。更に、ピロリノンベースのペプチド模倣物は、改善されたバイオアベイラビリティ特性(例えば、Smith et al.,J.Am.Chem.Soc.2000,122,11037-11038を参照)を有する安定したバックグラウンドでペプチドファーマコフォアを提示し、これは、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0057】
異なる修飾および誘導体化の全ての組合せが、本明細書に記載される融合タンパク質について想定される。ポリペプチドを制限する修飾、誘導体、および方法は、国際公開第2010/014616号に記載されており、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0058】
融合タンパク質を産生する方法
本開示の他の側面は、融合タンパク質を産生する方法を提供する。融合タンパク質は、概して、適切な細胞(例として、細菌細胞または真核細胞)における組換え核酸からの発現形成によって産生され、かつ単離される。融合タンパク質を産生するために、融合タンパク質をコードする核酸は、細胞(例として、酵母細胞または昆虫細胞などの細菌細胞または真核細胞)へと導入されてもよい。細胞は、融合タンパク質をコードする核酸から融合タンパク質が発現することを可能にする条件下において培養されてもよい。シグナルペプチドを含む融合タンパク質は、例として培養培地中に分泌されることができ、その後回収されることができる。融合タンパク質は、当技術分野で知られるタンパク質を精製するあらゆる方法を用いて単離されてもよい。
【0059】
融合タンパク質をコードする核酸
本明細書に記載される融合タンパク質をコードする核酸は、当技術分野で知られるあらゆる方法によって得られるかもしれず、かつ核酸のヌクレオチド配列が決定されてもよい。本明細書に記載される融合タンパク質または変異体をコードする非限定的な例示的ヌクレオチド配列、例として配列番号25または26が、表1に提供される。いくつかの態様において、A1M融合タンパク質をコードする核酸配列は、配列番号25または26と、少なくとも70%(例として、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%)同一である。いくつかの態様において、A1M融合タンパク質をコードする核酸配列は、配列番号25または26を含む。いくつかの態様において、A1M融合タンパク質をコードする核酸配列は、配列番号25または26からなる。
【0060】
当業者は、融合タンパク質のアミノ酸配列から融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を同定することが可能である。本開示の融合タンパク質をコードする核酸は、二本鎖または一本鎖のDNAまたはRNAであってもよい。いくつかの態様において、融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列は、異なる発現系(例として、哺乳動物の発現のために)に適合するようにコドン最適化されてもよい。
【0061】
いくつかの態様において、核酸は、核酸構築物内に含まれる。いくつかの態様において、構築物は、プラスミドであるか、または発現ベクターなどのベクターである。いくつかの態様において、ベクターは、ウイルスベクターである。いくつかの態様において、ウイルスベクターは、ウイルス発現ベクターである。いくつかの態様において、ベクターは、核酸へ作動可能に連結されたプロモータを含む。
【0062】
本明細書に記載される融合タンパク質の発現には、サイトメガロウイルス(CMV)最初期プロモータ、ウイルスLTR(ラウス肉腫ウイルスLTR、HIV-LTR、HTLV-1 LTRなど)、シミアンウイルス40(SV40)初期プロモータ、E.coli lac UV5プロモータ、および単純ヘルペスtkウイルスプロモータを包含するが、これらに限定されない、種々のプロモータが使用されることができる。
【0063】
調節可能なプロモータもまた使用されることができる。そのような調節可能なプロモータは、lacオペレータ保持哺乳動物細胞プロモータからの転写を調節するための転写調節因子としてE.coli由来のlacリプレッサーを用いるもの[Brown,M.et al.,Cell,49:603-612(1987)]、テトラサイクリンリプレッサー(tetR)を使用するもの[Gossen,M.,and Bujard,H.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:5547-5551(1992);Yao,F.et al.,Human Gene Therapy,9:1939-1950(1998);Shockelt,P.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,92:6522-6526(1995)]を包含する。他の系は、アストラジオール、RU486、ジフェノールムリスレロン、またはラパマイシンを用いるFK506二量体、VP16、またはp65を包含する。誘導可能な系は、Invitrogen、Clontech、およびAriadから入手可能である。
【0064】
オペロンを有するリプレッサーを包含する調節可能なプロモータが使用されることができる。一態様において、Escherichia coli由来のlacリプレッサーは、lacオペレータ保持哺乳動物細胞プロモータ[M.Brown et al.,Cell,49:603-612(1987)];Gossen and Bujard(1992);[M.Gossen et al.,Natl.Acad.Sci.USA,89:5547-5551(1992)]からの転写を調節する転写調節因子として機能することができ、テトラサイクリンリプレッサー(tetR)を転写活性化因子(VP 16)と組み合わせて、tetR-哺乳動物細胞転写活性化因子融合タンパク質のtTa(tetR-VP 16)を作製し、ヒトサイトメガロウイルス(hCMV)主要最初期プロモータに由来する、tetO保持最小プロモータを用いて、哺乳動物細胞における遺伝子発現を制御するtetR-tetオペレータ系を作製した。一態様において、テトラサイクリン誘導性スイッチが使用される(Yao et al.,Human Gene Therapy;Gossen et al.,Natl.Acad.Sci.USA,89:5547-5551(1992);Shockett et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,92:6522-6526(1995))。
【0065】
加えて、ベクターは、例えば、以下の一部または全部を含有することができる:選択可能マーカ遺伝子(哺乳動物細胞における安定なトランスフェクタントまたは一過性のトランスフェクタントを選択するためのネオマイシン遺伝子など);高レベルの転写のためのヒトCMVの最初期遺伝子からのエンハンサー/プロモータ配列;mRNA安定性のためのSV40からの転写終結およびRNAプロセシングシグナル;SV40ポリオーマ複製起点および適当なエピソーム複製のためのColE1;内部リボソーム結合部位(IRES)、多用途マルチクローニング部位;ならびに、センスRNAおよびアンチセンスRNAのin vitro転写のためのT7およびSP6 RNAプロモータ。導入遺伝子を含有するベクターを産生するための好適なベクターおよび方法は周知であり、かつ当技術分野で利用可能である。
【0066】
核酸を含む発現ベクターは、従来の技術(例として、エレクトロポレーション、リポソームトランスフェクション、およびリン酸カルシウム沈殿)によって宿主細胞へ輸送されることができ、次いでトランスフェクションされた細胞は、従来の技術によって培養されて、本明細書に記載される融合タンパク質が産生される。いくつかの態様において、本明細書に記載される融合タンパク質の発現は、構成的プロモータ、誘導性プロモータ、または組織特異的プロモータによって調節される。
【0067】
融合タンパク質を含む細胞
本明細書に記載される融合タンパク質を発現するために使用される宿主細胞は、Escherichia coliなどの細菌細胞のような原核細胞、または好ましくは真核細胞のいずれかであってもよい。特に、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)などの哺乳動物細胞は、ヒトサイトメガロウイルス由来の主要中間初期遺伝子プロモータ要素などのベクターと組み合わせて、免疫グロブリン(Foecking et al.(1986)「Powerful And Versatile Enhancer-Promoter Unit For Mammalian Expression Vectors,」Gene 45:101-106;Cockett et al.(1990)「High Level Expression Of Tissue Inhibitor Of Metalloproteinases In Chinese Hamster Ovary Cells Using Glutamine Synthetase Gene Amplification,」Biotechnology 8:662-667)の有効な発現系である。
【0068】
種々の宿主発現ベクター系は、利用されて、本明細書に記載される融合タンパク質を発現させる場合がある。そのような宿主発現系は、本明細書に記載される単離された融合タンパク質のコード配列が産生されてもよく、続いて精製されてもよいビヒクルを表すが、適切なヌクレオチドコード配列で形質転換またはトランスフェクションされた場合、本明細書に記載される融合タンパク質をin situで発現してもよい細胞もまた表す場合がある。これらは、本明細書に記載される融合タンパク質のコード配列を含有する組換えバクテリオファージDNA、プラスミドDNAまたはコスミドDNA発現ベクターで形質転換された細菌(例として、E.coliおよびB.subtilis)などの微生物;本明細書に記載される融合タンパク質をコードする配列を含有する組換え酵母発現ベクターで形質転換された酵母(例として、Saccharomyces pichia);本明細書に記載される融合タンパク質をコードする配列を含有する組換えウイルス発現ベクター(例として、baclovirus)に感染した昆虫細胞系;組換えウイルス発現ベクター(例として、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)およびタバコモザイクウイルス(TMV)に感染した植物細胞系、または本明細書に記載される融合タンパク質をコードする配列を含有する組換えプラスミド発現ベクター(例として、Tiプラスミド)で形質転換した植物細胞系;または哺乳動物細胞(例として、メタロチオネインプロモータ)または哺乳動物ウイルス(例として、アデノウイルス後期プロモータ;ワクシニアウイルス7.5Kプロモータ)のゲノムに由来するプロモータを含有する組換え発現構築物を有する哺乳動物細胞系(例として、COS、CHO、BHK、293、293T、3T3細胞、リンパ系細胞(米国特許第5,807,715号を参照)、Per C.6細胞(Crucellによって開発されたヒト網膜細胞)を包含するが、これらに限定されない。
【0069】
細菌系では、発現される融合タンパク質に意図される用途に応じて、多数の発現ベクターが、有利に選択されてもよい。例えば、大量のそのようなタンパク質が産生される場合、本明細書に記載される融合タンパク質の医薬組成物の生成のために、容易に精製される高レベルの融合タンパク質産物の発現を指示するベクターが望ましい場合がある。そのようなベクターは、E.coli発現ベクターpUR278(Ruther et al.(1983)「Easy Identification Of cDNA Clones,」EMBO J.2:1791-1794)(コード配列は、融合タンパク質が産生されるように、lac Zコード領域とインフレームでベクターへと個別に連結される場合がある);pINベクター(Inouye et al.(1985)「Up-Promoter Mutations In The lpp Gene Of Escherichia Coli,」Nucleic Acids Res.13:3101-3110;Van Heeke et al.(1989)「Expression Of Human Asparagine Synthetase in Escherichia Coli,」J.Biol.Chem.24:5503-5509);および同様のものを包含するが、これらに限定されない。pGEXベクターはまた、使用されて、融合タンパク質として外来ポリペプチドをグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)と共に発現させてもよい。概して、そのような融合タンパク質は可溶性であり、かつマトリックスグルタチオン-アガロースビーズへの吸着および結合、続いて遊離グルタチオンの存在下での溶出によって溶解細胞から容易に精製されることができる。pGEXベクターは、クローン化された標的遺伝子産物がGST部分から放出されることができるように、トロンビンまたは第Xa因子プロテアーゼ切断部位を包含するように設計される。
【0070】
昆虫系では、外来遺伝子を発現させるためのベクターとして、Autographa californica核多角体病ウイルス(AcNPV)が使用されている。このウイルスはSpodoptera frugiperda細胞で増殖する。コード配列は、ウイルスの非必須領域(例として、ポリヘドリン遺伝子)へと個別にクローニングされ、AcNPVプロモータ(例として、ポリヘドリンプロモータ)の制御下に置かれてもよい。
【0071】
哺乳動物宿主細胞では、いくつかのウイルスベースの発現系が利用されてもよい。アデノウイルスが発現ベクターとして使用される場合、目的のコード配列は、アデノウイルス転写/翻訳制御複合体、例として、後期プロモータおよび三要素リーダ配列へと連結されてもよい。次いで、このキメラ遺伝子は、in vitroまたはin vivoの組換えによってアデノウイルスゲノムに挿入されてもよい。ウイルスゲノムの非必須領域(例として、領域E1またはE3)への挿入は、生存可能であり、かつ感染宿主において免疫グロブリン分子を発現することが可能な組換えウイルスをもたらす(例として、Logan et al.(1984)「Adenovirus Tripartite Leader Sequence Enhances Translation Of mRNAs Late After Infection,」Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:3655-3659を参照)。特異的な開始シグナルもまた、挿入された抗体コード配列の効率的な翻訳のために必要とされてもよい。これらのシグナルは、ATG開始コドンおよび隣接配列を包含する。更に、開始コドンは、インサート全体の翻訳を確実にするために所望のコード配列のリーディングフレームと同調しなければならない。これらの外因性翻訳制御シグナルおよび開始コドンは、自然および合成の両方の種々な起源のものであり得る。発現の効率は、適切な転写エンハンサーエレメント、転写ターミネータ等を含めることによって増強されてもよい(Bitter et al.(1987)「Expression And Secretion Vectors For Yeast,」Methods in Enzymol.153:516-544を参照)。
【0072】
加えて、挿入配列の発現を調節するか、または所望の特定の様式で遺伝子産物を修飾およびプロセシングする宿主細胞株を選択されてもよい。タンパク質産物のそのような修飾(例として、グリコシル化)およびプロセシング(例として、切断)は、タンパク質の機能にとって重要であってもよい。組換えタンパク質の精製および修飾は、当技術分野で周知であるため、ポリタンパク質前駆体の設計は、当業者によって容易に理解されるいくつかの態様を包含することができる。当技術分野で公知のあらゆる公知のプロテアーゼまたはペプチダーゼは、前駆体分子の記載された修飾、例としてトロンビンまたは第Xa因子(Nagai et al.(1985)「Oxygen Binding Properties Of Human Mutant Hemoglobins Synthesized In Escherichia Coli,」Proc.Nat.Acad.Sci.USA 82:7252-7255、およびJenny et al.(2003)「A Critical Review Of The Methods For Cleavage Of Fusion Proteins With Thrombin And Factor Xa,」Protein Expr.Purif.31:1-11で概説されており、この各々は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)、エンテロキナーゼ(Collins-Racie et al.(1995)「Production Of Recombinant Bovine Enterokinase Catalytic Subunit In Escherichia Coli Using The Novel Secretory Fusion Partner DsbA,」Biotechnology 13:982-987、これによって、その全体が参照により本明細書に組み込まれる))、フリン、およびAcTEV(Parks et al.(1994)「Release Of Proteins And Peptides From Fusion Proteins Using A Recombinant Plant Virus Proteinase,」Anal.Biochem.216:413-417、これによって、その全体が参照により本明細書に組み込まれる))、および口蹄疫ウイルスプロテアーゼC3に使用することができる。
【0073】
異なる宿主細胞は、タンパク質および遺伝子産物の翻訳後プロセシングおよび修飾のための特徴的かつ特異的な機序を有する。適切な細胞株または宿主系が選択されて、発現された外来タンパク質の正しい修飾およびプロセシングを確実にし得る。この目的のために、遺伝子産物の一次転写物の適当なプロセシング、グリコシル化、およびリン酸化のための細胞機構を保有する真核宿主細胞が使用されてもよい。そのような哺乳動物宿主細胞は、CHO、VERY、BHK、HeLa、COS、MDCK、293、293T、3T3、WI38、BT483、Hs578T、HTB2、BT20およびT47D、CRL7030およびHs578Bstを包含するが、これらに限定されない。
【0074】
組換えタンパク質の長期間の高収率産生のためには、安定な発現が好ましい。例えば、本明細書に記載される融合タンパク質を安定に発現する細胞株が操作されてもよい。ウイルス複製起点を含有する発現ベクターを用いるのではなく、宿主細胞は、適切な発現制御エレメント(例として、プロモータ、エンハンサー、配列、転写ターミネータ、ポリアデニル化部位等)、および選択可能マーカによって制御されるDNAで形質転換され得る。外来DNAの導入後、操作された細胞を強化培地で1~2日間増殖させ、次いで選択培地に切り替えてもよい。組換えプラスミドの選択可能マーカは、選択に対する耐性を付与し、細胞がプラスミドをそれらの染色体へと安定に組み込み、かつ増殖してフォーカスを形成することを可能にし、次いで、これはクローン化され、細胞株に増殖されることができる。この方法は、本明細書に記載される融合タンパク質を発現する細胞株を操作するために有利に使用されてもよい。そのような操作された細胞株は、本明細書に記載される融合タンパク質と直接的または間接的に相互作用する、融合タンパク質のスクリーニングおよび評価において特に有用であってもよい。
【0075】
単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(Wigler et al.(1977)「Transfer Of Purified Herpes Virus Thymidine Kinase Gene To Cultured Mouse Cells,」Cell 11:223-232)、ヒポキサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Szybalska et al.(1992)「Use Of The HPRT Gene And The HAT Selection Technique In DNA-Mediated Transformation Of Mammalian Cells First Steps Toward Developing Hybridoma Techniques And Gene Therapy,」Bioessays 14:495-500)、およびアデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Lowy et al.(1980)「Isolation Of Transforming DNA:Cloning The Hamster aprt Gene,」Cell 22:817-823)遺伝子を包含するが、これらに限定されない、いくつかの選択系が使用されてもよく、それぞれ、tk-細胞、hgprt-細胞、またはaprt-細胞で採用されることができる。また、代謝拮抗薬耐性は、以下の遺伝子に対する選択の基礎として使用されることができる:メトトレキサートに対する耐性を付与するdhfr(Wigler et al.(1980)「Transformation Of Mammalian Cells With An Amplifiable Dominant-Acting Gene,」Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:3567-3570;O'Hare et al.(1981)「Transformation Of Mouse Fibroblasts To Methotrexate Resistance By A Recombinant Plasmid Expressing A Prokaryotic Dihydrofolate Reductase,」Proc.Natl.Acad.Sci.USA 78:1527-1531);ミコフェノール酸に対する耐性を付与するgpt(Mulligan et al.(1981)「Selection For Animal Cells That Express The Escherichia coli Gene Coding For Xanthine-Guanine Phosphoribosyltransferase,」Proc.Natl.Acad.Sci.USA 78:2072-2076);アミノグリコシドG-418に対する耐性を付与するneo(Tolstoshev(1993)「Gene Therapy,Concepts,Current Trials And Future Directions,」Ann.Rev.Pharmacol.Toxicol.32:573-596;Mulligan(1993)「The Basic Science Of Gene Therapy,」Science 260:926-932;and Morgan et al.(1993)「Human Gene Therapy,」Ann.Rev.Biochem.62:191-217)およびハイグロマイシンに対する耐性を付与するhygro(Santerre et al.(1984)「Expression of Prokaryotic Genes For Hygromycin B And G418 Resistance As Dominant-Selection Markers In Mouse L Cells,」Gene 30:147-156。使用されることができる組換えDNA技術の分野で一般的に知られる方法は、Ausubel et al.(eds.),1993,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley&Sons,NY;Kriegler,1990,Gene Transfer and Expression,A Laboratory Manual,Stockton Press,NY;およびChapters 12 and 13,Dracopoli et al.(eds),1994,Current Protocols in Human Genetics,John Wiley&Sons,NY.;Colberre-Garapin et al.(1981)「A New Dominant Hybrid Selective Marker For Higher Eukaryotic Cells,」J.Mol.Biol.150:1-14に記載されている。
【0076】
本明細書に記載される融合物の発現レベルは、ベクター増幅によって増加し得る(総説については、Bebbington and Hentschel,The use of vectors based on gene amplification for the expression of cloned genes in mammalian cells in DNA cloning,Vol.3(Academic Press,New York,1987を参照)。本明細書に記載される融合タンパク質を発現するベクター系のマーカが増幅可能である場合、宿主細胞の培養物に存在する阻害剤のレベルの増加は、マーカ遺伝子のコピー数を増加させる。増幅領域は、本明細書に記載される融合タンパク質または本明細書に記載される融合タンパク質のヌクレオチド配列に関連するので、融合タンパク質の産生もまた増加する(Crouse et al.(1983)「Expression And Amplification Of Engineered Mouse Dihydrofolate Reductase Minigenes,」Mol.Cell.Biol.3:257-266)。
【0077】
本明細書に記載される融合物が組換え発現されると、ポリペプチド、ポリタンパク質、または抗体の精製のための当技術分野で知られるあらゆる方法(例として、抗原選択性に基づく抗体精製スキームに類似)によって、例えば、クロマトグラフィー(例として、イオン交換、アフィニティー、特に特異的抗原に対するアフィニティーによるイオン交換、およびサイジングカラムクロマトグラフィー)、遠心分離、溶解度差、またはポリペプチドもしくは抗体の精製のためのあらゆる他の標準的な技術によって精製されてもよい。
【0078】
いくつかの態様において、例としてアフィニティークロマトグラフィーによる精製を容易にするために、本明細書に記載される融合タンパク質は、融合ドメインを更に含有する。そのような融合ドメインの周知の例は、ポリヒスチジン、Glu-Glu、グルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)、チオレドキシン、プロテインA、プロテインG、免疫グロブリン重鎖定常領域(Fc)、マルトース結合タンパク質(MBP)、またはヒト血清アルブミンを包含する、これらに限定されない。融合ドメインは、所望の特性を付与するように選択されてもよい。例えば、いくつかの融合ドメインは、アフィニティークロマトグラフィーによる融合タンパク質の単離に特に有用である。アフィニティー精製の目的のために、グルタチオン-コンジュゲート樹脂、アミラーゼ-コンジュゲート樹脂、およびニッケル-コンジュゲート樹脂、またはコバルト-コンジュゲート樹脂などのアフィニティークロマトグラフィーに関連するマトリックスが使用される。そのようなマトリックスの多くは、(HIS6)融合パートナーと共に有用なPharmacia GST精製系およびQIAexpressTM system(Qiagen)などの、「キット」形態で入手可能である。
【0079】
処置の方法
融合タンパク質を用いる方法(例として、治療用途における)が、本明細書において更に提供される。例えば、いくつかの態様において、本明細書に記載される融合タンパク質は、医薬組成物に製剤化される。本明細書に記載される融合タンパク質またはそれを含む医薬組成物を用いて疾患または障害を処置する方法もまた提供される。いくつかの態様において、本明細書に記載される融合タンパク質を用いる方法は、融合タンパク質をS1Pと接触させることを含む。本明細書に記載される融合タンパク質をS1Pと接触させることで、融合タンパク質とS1Pとの間に複合体が形成される。いくつかの態様において、そのような接触は、細胞内で行われる。
【0080】
いくつかの態様において、上記の融合タンパク質(例として、融合タンパク質、治療薬、リポタンパク質、またはナノ粒子に結合した融合タンパク質)を含む組成物は、スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)レベルの低下に関連する疾患または障害を処置する方法で使用され、この方法は、それを必要とする対象へ、融合タンパク質を含む組成物の治療有効量を投与することを含む。そのような融合タンパク質は、S1Pへ結合し、かつS1P受容体を活性化し、下流のシグナル伝達経路を引き起こす。いくつかの態様において、S1P受容体は、S1P1である。融合タンパク質-S1P複合体は、他のタイプのS1P受容体、例としてS1P2またはS1P3と比較して、S1P1受容体を特異的に活性化することが本明細書において実証される。いくつかの態様において、S1P受容体(例として、S1P1)は、血管であり、すなわち血管内の内皮細胞の表面に見られる。
【0081】
「S1Pのレベルの低下に関連する」疾患または障害は、健康な対象と比較して、疾患または障害を有する対象において、S1PまたはS1P誘発シグナル伝達経路のレベルまたは活性が低下している異常状態を指す。いくつかの態様において、S1PまたはS1P誘発シグナル伝達経路のレベルまたは活性は、健康な対象と比較して、疾患または障害を有する対象において少なくとも20%低下する。例えば、S1PまたはS1P誘発シグナル伝達経路のレベルまたは活性は、健康な対象と比較して、疾患または障害を有する対象において、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または100%低下されてもよい。いくつかの態様において、S1PまたはS1P誘発シグナル伝達経路のレベルまたは活性は、健康な対象と比較して、疾患または障害を有する対象において、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、または100%低下される。
【0082】
S1Pレベルの低下に関連する疾患または障害を有する対象へ、本明細書に記載される、融合タンパク質またはそのような融合タンパク質を含む組成物を投与するとで、例として、S1P1などのS1P受容体を活性化することによって、S1Pシグナル伝達が増加した。いくつかの態様において、S1Pシグナル伝達は、融合タンパク質の存在下では、融合タンパク質を含まない場合と比較して、少なくとも20%増加される。例えば、S1Pシグナル伝達は、融合タンパク質の存在下では、融合タンパク質を含まない場合と比較して、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも100%、少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも50倍、少なくとも100倍、少なくとも1000倍、またはそれ以上増加されてもよい。いくつかの態様において、S1Pシグナル伝達は、融合タンパク質の存在下において、融合タンパク質なしと比較して、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、2倍、5倍、10倍、50倍、100倍、1000倍、またはそれ以上増加される。
【0083】
いくつかの態様において、S1Pのレベル低下に関連する疾患または障害は、以下を包含するが、これらに限定されない:感染症、敗血症、糖尿病、心血管疾患、網膜血管疾患、末梢血管疾患、メタボリックシンドローム、および呼吸器疾患。
【0084】
いくつかの態様において、S1Pのレベル低下に関連する疾患または障害は、以下を包含するが、これらに限定されない:原発性および/または続発性抵抗性高血圧、神経原性高血圧、妊娠高血圧、糖尿病性高血圧、慢性腎臓疾患の高血圧、心臓および非心臓再灌流傷害、虚血性傷害、脳卒中、肺水腫、心筋梗塞、急性冠動脈症候群、狭心症、アテローム性動脈硬化症、ならびに加齢性黄斑変性。
【0085】
「プロスタグランジンのレベル低下に関連する」疾患または障害は、健康な対象と比較して、疾患または障害を有する対象において、プロスタグランジンまたはプロスタグランジン誘発シグナル伝達経路のレベルまたは活性が低下されている、異常状態を指す。いくつかの態様において、プロスタグランジンまたはプロスタグランジン誘発シグナル伝達経路のレベルまたは活性は、健康な対象と比較して、疾患または障害を有する対象において少なくとも20%低下される。例えば、プロスタグランジンまたはプロスタグランジン誘発シグナル伝達経路のレベルまたは活性は、健康な対象と比較して、疾患または障害を有する対象において、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または100%低下されてもよい。いくつかの態様において、プロスタグランジンまたはプロスタグランジン誘発シグナル伝達経路のレベルまたは活性は、健康な対象と比較して、疾患または障害を有する対象において、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、または100%低下される。
【0086】
本明細書に記載される融合タンパク質またはそのような融合タンパク質を含む組成物を、プロスタグランジンのレベル低下に関連する疾患または障害を有する対象へ投与することで、例として、プロスタグランジン受容体を活性化することによって、プロスタグランジンシグナル伝達が増加した。いくつかの態様において、プロスタグランジンシグナル伝達は、融合タンパク質の存在下では、融合タンパク質を含まない場合と比較して、少なくとも20%増加される。例えば、プロスタグランジンシグナル伝達は、融合タンパク質の存在下では、融合タンパク質を含まない場合と比較して、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも100%、少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも50倍、少なくとも100倍、少なくとも1000倍、またはそれ以上増加されてもよい。いくつかの態様において、プロスタグランジンシグナル伝達は、融合タンパク質の存在下において、融合タンパク質なしと比較して、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、2倍、5倍、10倍、50倍、100倍、1000倍、またはそれ以上増加される。
【0087】
いくつかの態様において、融合タンパク質または融合タンパク質を含む組成物は、血管内皮機能障害に関連する疾患または障害を有する対象を処置する方法で使用される。いくつかの態様において、対象は、血行不良を有する。いくつかの態様において、対象は、肺高血圧症を有する。いくつかの態様において、融合タンパク質または融合タンパク質を含む組成物は、疾患または障害に関連する血栓性炎症を有する対象を処置する方法において使用される。
【0088】
いくつかの態様において、融合タンパク質または融合タンパク質を含む組成物は、TNFアルファ誘導性NF-カッパB活性化を処置するために使用される。いくつかの態様において、融合タンパク質または融合タンパク質を含む組成物は、関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)、炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease:IBD)、多発性硬化症、アテローム性動脈硬化症、全身性エリテマトーデス、I型糖尿病、慢性閉塞性肺疾患、または喘息を包含する、TNF-アルファ誘導性NF-カッパB活性化に関連する疾患を処置するために使用される(Liu,Ting,et al.Signal transduction and targeted therapy 2.1(2017):1-9、これは、参照によりその全体が組み込まれる)。いくつかの態様において、融合タンパク質または融合タンパク質を含む組成物は、TNFアルファ誘導性NF-カッパB活性化を減少させるために使用される。
【0089】
いくつかの態様において、融合タンパク質または融合タンパク質を含む組成物は、抗トロンビン剤と組み合わされて、本明細書に記載される疾患を処置する。いくつかの態様において、抗トロンビン剤は、アンジオポエチン1または活性化プロテインC(APC)である。いくつかの態様において、疾患は、糖尿病性腎症、多臓器障害(腎不全、認知障害、および/または肺炎症)を受けるループスのペイシェント、およびCOVID-19症候群誘発性血栓からなる群から選択される。いくつかの態様において、S1Pおよびイロプロスト結合融合タンパク質ナノ粒子は、ホルミルペプチド刺激酸化的バーストを阻害した。いくつかの態様において、イロプロスト結合A1Mは、血小板凝集を阻害する。
【0090】
医薬組成物
「医薬組成物」は、本明細書において使用される場合、薬学的に許容される担体と組み合わせて、本明細書に記載される融合タンパク質(例として、治療薬、リポタンパク質、またはナノ粒子に結合した融合タンパク質)を含む組成物である、融合タンパク質の製剤を指す。いくつかの態様において、医薬組成物は、上記の追加の治療剤を更に含む。医薬組成物は、追加的な薬剤(例として、特異的送達のために、半減期、または他の治療剤を増加させる)を更に含むことができる。
【0091】
本明細書において使用される場合、「薬学的に許容される担体」という用語は、身体のある部位(例として、送達部位)から別の部位(例として、臓器、組織、または身体の一部)への融合タンパク質の運搬または輸送に関与する、液体または固体の充填剤、希釈剤、賦形剤、製造助剤(例として、潤滑剤、タルクマグネシウム、ステアリン酸カルシウムもしくはステアリン酸亜鉛、またはステアリン酸)、または溶媒封入材料などの、薬学的に許容される材料、組成物、またはビヒクルを意味する。薬学的に許容される担体は、製剤の他の構成要素と相溶性があるが、対象の組織に対しては傷害性がない(例として、生理学的に適合性のある、滅菌された、生理学的なpH等)という意味で「許容される」ものである。薬学的に許容される担体として機能することができる材料のいくつかの例は、以下を包含する:(1)ラクトース、グルコース、およびスクロースなどの糖;(2)コーンスターチおよびジャガイモデンプンなどのデンプン;(3)ナトリウムカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、微結晶性セルロース、および酢酸セルロースなどのセルロースおよびその誘導体;(4)粉末状トラガカント;(5)麦芽;(6)ゼラチン;(7)ステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、およびタルクなどの平滑剤;(8)カカオバターおよび坐薬蝋などの賦形剤;(9)落花生油、綿実油、紅花油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油、および大豆油などの油;(10)プロピレングリコールなどのグリコール;(11)グリセリン、ソルビトール、マンニトール、およびポリエチレングリコール(PEG)などのポリオール;(12)オレイン酸エチルおよびラウリン酸エチなどのエステル;(13)寒天;(14)水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウムなどの緩衝剤;(15)アルギン酸;(16)パイロジェンフリー水;(17)等浸透圧の生理食塩水;(18)リンガー溶液;(19)エチルアルコール;(20)pH緩衝溶液;(21)ポリエステル、ポリカーボナート、および/またはポリ酸無水物;(22)ポリペプチドおよびアミノ酸などの増量剤(23)血清アルブミン、HDL、およびLDLなどの血清構成要素;(22)エタノールなどのC2~C12アルコール;ならびに(23)医薬製剤に採用される、相溶性のある他の非毒性物質。湿潤剤、着色剤、離型剤、コーティング剤、甘味剤、香味剤、芳香剤、防腐剤、および抗酸化剤もまた、製剤中に存在することができる。「賦形剤」、「担体」、「薬学的に許容される担体」、または同種のものなどの用語は、本明細書において、互換的に使用される。
【0092】
いくつかの態様において、組成物中における本開示の融合タンパク質は、注射によって、カテーテルを用いて、坐薬を用いて、あるいは移植片(多孔性材料、非多孔性材料、またはゼラチン材料(シラスティック膜などの膜もしくは繊維を包含する)の移植片)を用いて投与される。典型的には、組成物を投与する場合、本開示の融合タンパク質が吸収しない材料が使用される。
【0093】
他の態様において、本開示の融合タンパク質は、制御放出系で送達される。一態様において、ポンプが使用されてもよい(例として、Langer,1990,Science 249:1527-1533;Sefton,1989,CRC Crit.Ref.Biomed.Eng.14:201;Buchwald et al.,1980,Surgery 88:507;Saudek et al.,1989,N.Engl.J.Med.321:574を参照)。別の態様において、ポリマー材料が使用されることができる。(例として、Medical Applications of Controlled Release(Langer and Wise eds.,CRC Press,Boca Raton,Fla.,1974);Controlled Drug Bioavailability,Drug Product Design and Performance(Smolen and Ball eds.,Wiley,New York,1984);Ranger and Peppas,1983,Macromol.Sci.Rev.Macromol.Chem.23:61.See also Levy et al.,1985,Science 228:190;During et al.,1989,Ann.Neurol.25:351;Howard et al.,1989,J.Neurosurg.71:105を参照。)他の制御放出系は、例えば、上記のLangerで考察されている。
【0094】
本開示の融合タンパク質は、治療有効量の結合剤および1以上の薬学的に適合性の構成要素を含む、医薬組成物として投与されることができる。
【0095】
いくつかの態様において、医薬組成物は、対象(例として、人間)への静脈内投与または皮下投与に適合した医薬組成物として、定型的な手順に従って製剤化される。典型的には、注射による投与のための組成物は、滅菌等張水性緩衝液の溶液である。必要なら、医薬はまた、可溶化剤、および注射部位での疼痛を和らげるリグノカインなどの局所麻酔薬も包含することができる。概して、構成要素は、個別にまたは一緒に混合されるかのいずれかで、例えば、活性剤の分量を指し示したアンプルもしくは小袋(sachette)などの密閉容器中の凍結乾燥された(dry lyophilized)粉末または水がない濃縮物として単位投薬形態で供給される。医薬が注入によって投与されることになっている場合、滅菌医薬グレードの水または生理食塩水を含有する注入瓶で分配されることができる。医薬が注射によって投与される場合、注射用滅菌水または生理食塩水のアンプルは、構成要素が投与に先立ち混合され得るように、提供され得る。
【0096】
全身投与のための医薬組成物は、液体、例として、滅菌された生理食塩水、乳酸リンガー溶液、またはハンクス溶液であってもよい。加えて、医薬組成物は、固体形態であって、使用に先立ち即時に再溶解または懸濁されることができる。凍結乾燥の形態もまた企図される。
【0097】
医薬組成物は、非経口投与にもまた好適である、本明細書に記載されるナノディスクなどの脂質粒子またはベシクル内に含有されることができる。粒子は、組成物がこれに含有される限り、単層(unilamellar)または多層(plurilamellar)などの、いずれの好適な構造でもあることができる。本開示の融合タンパク質を、融合性脂質ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、低レベル(5~10mol%)のカチオン性脂質を含有する「安定化プラスミド脂質粒子」(SPLP)に捕捉し、ポリエチレングリコール(PEG)コーティング(Zhang Y.P.et al.,Gene Ther.1999,6:1438-47)によって安定化することができる。N-[1-(2,3-ジオレオイルオキシ)プロピル]-N,N,N-トリメチル-アンモニウムメチルスルファート、または「DOTAP」などの、正に帯電した脂質は、当該粒子およびベシクルにとって具体的に好ましい。そのような脂質粒子の調製は周知されている。例として、米国特許第4,880,635号;第4,906,477号;第4,911,928号;第4,917,951号;第4,920,016号;および第4,921,757号を参照されたい。
【0098】
本開示の医薬組成物は、例えば、単位用量として投与またはパッケージされてもよい。「単位用量」という用語は、本開示の医薬組成物に関して使用される場合、単位投薬量として対象に好適な、物理的に不連続な単位を指し、所定分量の活性材料を含有する各単位は、要求される希釈剤;すなわち、担体またはビヒクルを伴って所望の治療効果を生じるよう算出される。
【0099】
いくつかの態様において、医薬組成物は、(a)凍結乾燥形態にある本開示の融合タンパク質を含有する容器、および(b)注射のための薬学的に許容される希釈剤(例として、滅菌水)を含有する第2容器を含む、医薬のキットとして提供されることができる。薬学的に許容される希釈剤は、本開示の凍結乾燥された融合タンパク質の再構成または希釈のために使用されることができる。任意には、かかる容器(複数可)に関連する通知は、医薬もしくは生物学的産物の製造、使用、または販売を規制する政府機関によって規定される形態であることができ、この通知は、ヒト投与のための製造、使用、または販売の機関による承認を反映する。
【0100】
別の側面において、上記の疾患の処置に有用な材料を含有する製造物品が、包含される。いくつかの態様において、製造物品は、容器およびラベルを含む。好適な容器は、例えば、瓶、バイアル、シリンジ、および試験管を包含する。容器は、ガラスまたはプラスチックなどの種々の材料から形成されてもよい。いくつかの態様において、容器は、本明細書に記載される疾患を処置するのに有効である組成物を保持し、かつ滅菌アクセスポートを有してもよい。例えば、容器は、皮下注射針によって穿刺可能な栓を有する静脈内溶液バッグまたはバイアルであってもよい。組成物中の活性剤は、本開示の融合タンパク質である。いくつかの態様において、容器上のまたはこれに関連したラベルは、組成物が、選んだ疾患を処置するのに使用されることを指し示す。製造物品は更に、リン酸緩衝生理食塩水、リンガー溶液、またはデキストロース溶液などの薬学的に許容される緩衝液を含む第2容器を含んでもよい。これは更に、他の緩衝液、希釈剤、フィルター、針、シリンジ、および使用のための指示がある添付文書を包含する、商業的観点およびユーザーの観点から所望される他の材料も包含していてもよい。
【0101】
「処置(treatment)」または「処置する(to treat)」という用語は、治療的処置および予防的処置の両方を指す。対象が状態(例として、病原性炎症)の治療を必要とする場合、そこで、「状態を処置すること(treating the condition)」とは、疾患に関連する1以上の症状を寛解、低下、もしくは排除すること、または疾患のあらゆる更なる進行を防止することを指す。処置を必要とする対象が、疾患(例として、病原性炎症)のリスクがある対象である場合、そこで、対象を処置することは、疾患を有する対象のリスクを低下させること、または対象が疾患を発症するのを防止することを指す。
【0102】
対象は、ヒト、または脊椎動物、または哺乳動物(齧歯類、例としてラットまたはマウス、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、シチメンチョウ、ニワトリ、および霊長類、例としてサルを包含するが、これらに限定されない)を意味するものである。本開示の方法は、それを必要とする対象を処置するのに有用である。それを必要とする対象は、S1Pの低下に関連する疾患または障害を発症するリスクを有する対象、またはそのような疾患もしくは障害を有する対象であることができる。
【0103】
本開示に従って使用されてもよい医薬組成物組成物は、対象へ直接投与されてもよく、または治療有効量でそれを必要とする対象へ投与されてもよい。「治療有効量」という用語は、所望の生物学的効果を実現するのに必要または充分な量を指す。例えば、治療有効量の本開示に関連するがん標的リポソームは、疾患または障害の1以上の症状を寛解させるのに充分な量であってもよい。本明細書において提供される教示と組み合わせると、様々な活性化合物の中から選択し、効力、相対バイオアベイラビリティ、ペイシェントの体重、有害な副作用の重症度、および好ましい投与様式などの重要な因子を検討することによって、実質的な毒性を引き起こさず、なおかつ特定の対象を処置するために完全に有効である有効な予防または治療の処置レジメンが計画されることができる。あらゆる特定の用途のための有効量は、処置される疾患または状態、投与される特定の医薬組成物、対象のサイズ、または疾患もしくは状態の重症度などの因子に応じて変動することができる。当業者は、過度の実験を必要とすることなく、本開示に関連する特定の治療化合物の有効量が経験的に決定されることができる。
【0104】
送達のための本明細書に記載される融合タンパク質の対象用量は、典型的には、投与当たり約0.1μg~10mgの範囲にわたり、これは、用途に応じて、毎日、毎週、または毎月、およびそれらの間のあらゆる他の時間量で与えられることができる。いくつかの態様において、単回用量は、重要なコンソリデーション期間またはリコンソリデーション期間中に投与される。これらの目的のための用量は、投与当たり約10μg~5mg、最も典型的には約100μg~1mgの範囲であってもよく、2~4回の投与は、例えば、数日、または数週間、またはそれ以上の間隔を空けて行われる。しかしながら、いくつかの態様において、これらの目的のための非経口用量は、上記の典型的な用量よりも5~10,000倍高い範囲で使用されてもよい。
【0105】
いくつかの態様において、本開示の融合タンパク質は、哺乳動物の体重の約1~10mg/kgの投薬量で投与される。他の態様において、本開示の融合タンパク質は、哺乳動物の体重の約0.001~1mg/kgの投薬量で投与される。更に他の態様において、本開示の融合タンパク質は、哺乳動物の体重の約10~100ng/kg、100~500ng/kg、500ng/kg~1mg/kg、もしくは1~5mg/kgの投薬量、またはそれらの中のあらゆる個々の投薬量で投与される。
【0106】
本開示の製剤は、薬学的に許容される濃度の塩、緩衝剤、防腐剤、適合性担体、および任意に他の治療的な構成要素を日常的に含有してもよい、薬学的に許容される溶液で投与される。
【0107】
治療に使用するために、有効量の本開示の融合タンパク質は、融合タンパク質を所望の位置に送達するあらゆる様式、例として、粘膜、注射、全身等によって対象へ投与されることができる。本開示の医薬組成物の投与は、当業者に知られるあらゆる手段によって達成されてもよい。いくつかの態様において、融合タンパク質は、皮下、皮内、静脈内、筋肉内、関節内、動脈内、滑液嚢内、胸骨内、髄腔内、病巣内、または頭蓋内で投与される。
【0108】
経口投与のために、本開示の融合タンパク質は、活性化合物(複数可)を当技術分野で周知の薬学的に許容される担体と組み合わせることによって容易に製剤化されることができる。そのような担体は、本開示の化合物を、処置される対象により経口摂取するための、錠剤、丸剤、糖衣錠、カプセル、液剤、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁液、および同様のものとして製剤化することを可能にする。経口使用のための医薬調製物は、固体賦形剤として得られ、任意に好適な助剤を加えた後、所望により得られた混合物を粉砕し、顆粒の混合物を加工して錠剤または糖衣錠コアを得ることができる。好適な賦形剤は、特に、ラクトース、スクロース、マンニトール、またはソルビトールを包含する糖などの充填剤;セルロース調製物、例えば、トウモロコシデンプン、コムギデンプン、コメデンプン、ジャガイモデンプン、ゼラチン、トラガカントゴム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、および/またはポリビニルピロリドン(polyvinylpyrrolidone:PVP)などである。所望であれば、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、またはアルギン酸もしくはその塩など、例えばアルギン酸ナトリウムなどの崩壊剤が加えられてもよい。任意に、経口製剤はまた、生理食塩水または緩衝液、すなわち、内部の酸の状態を中和するためのEDTAに製剤化されてもよく、またはいずれの担体もなしで投与されてもよい。
【0109】
上記の1つまたは複数の成分の経口投薬形態もまた特に企図される。1つまたは複数の成分は、誘導体の経口送達が有効であるように化学的に修飾されてもよい。概して、企図される化学修飾は、成分分子自体への少なくとも1つの部分の付着であり、ここで、該部分は、(a)タンパク質分解の阻害;および(b)胃または腸から血流への取り込みを可能にする。1つまたは複数の成分の全体的な安定性の増加、および体内の循環時間の増加もまた望ましい。そのような部分の例は、以下を包含する:ポリエチレングリコール、エチレングリコールとプロピレングリコールとのコポリマー、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、およびポリプロリン(Abuchowski and Davis,1981,「Soluble Polymer-Enzyme Adducts」In:Enzymes as Drugs,Hocenberg and Roberts,eds.,Wiley-Interscience,New York,NY,pp.367-383;Newmark,et al.,1982,J.Appl.Biochem.4:185-189)。使用されることができる他のポリマーは、ポリ-1,3-ジオキソランおよびポリ-1,3,6-チオキソカンである。上に指し示されるように、医薬用途に好ましいのはポリエチレングリコール部分である。
【0110】
放出の位置は、胃、小腸(十二指腸、空腸、または回腸)、または大腸であってもよい。当業者は、胃では溶解しないが、十二指腸または腸の他の場所で材料を放出する、利用可能な製剤を有する。好ましくは、放出は、治療剤の保護によって、または腸内などの胃の環境を越えた生物学的活性材料の放出によってのいずれかで、胃の環境の有害な影響を回避する。
【0111】
完全な胃部耐性を確保するために、少なくともpH5.0に対して不透過性のコーティングが好ましい。腸溶コーティングとして使用されるより一般的な不活性構成要素の例は、セルロースアセタートトリメリタート(cellulose acetate trimellitate:CAT)、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(hydroxypropylmethylcellulose phthalate:HPMCP)、HPMCP 50、HPMCP 55、ポリビニルアセタートフタラート(polyvinyl acetate phthalate:PVAP)、Eudragit L30D、Aquateric、セルロースアセタートフタラート(cellulose acetate phthalate:CAP)、Eudragit L、Eudragit S、およびシェラックである。これらのコーティングは混合フィルムとして使用されてもよい。
【0112】
胃に対する保護を意図していないコーティングまたはコーティングの混合物がまた、錠剤に使用されることができる。これは、糖コーティング、または錠剤を嚥下しやすくするコーティングを包含することができる。カプセルは、乾燥治療薬、すなわち粉末の送達の場合、硬質シェル(ゼラチンなど)からなってもよく;液体形態では、軟質ゼラチンシェルが使用されてもよい。カシェのシェル材料は、厚いデンプンまたは他の食用紙であることができる。丸剤、トローチ剤、成形錠剤、または粉薬錠剤の場合、湿塊化(moist massing)技術が使用されることができる。
【0113】
融合タンパク質は、粒径約1mmの顆粒またはペレットの形態の微細な多粒子として製剤に包含されることができる。カプセル投与のための材料の製剤はまた、粉末として、軽く圧縮されたプラグとして、または錠剤としてでさえあることができる。治療薬は圧縮によって調製することができる。
【0114】
着色剤および香味剤は全て包含されてもよい。例えば、治療剤は、(リポソームまたはミクロスフェアカプセル化などによって)製剤化されてもよく、次いで、着色剤および香味剤を含有する冷蔵飲料などの食用製品内に更に含有されてもよい。
【0115】
不活性材料で治療薬の体積を希釈または増加させてもよい。これらの希釈剤は、炭水化物、特にマンニトール、ラクトース、無水ラクトース、セルロース、スクロース、修飾デキストラン、およびデンプンを包含することができる。ある種の無機塩もまた、三リン酸カルシウム、炭酸マグネシウム、および塩化ナトリウムを包含する充填剤として使用されてもよい。いくつかの市販の希釈剤は、Fast-Flo、Emdex、STA-Rx 1500、Emcompress、およびAvicellである。
【0116】
崩壊剤は、治療薬の固体投薬形態への製剤に包含されてもよい。崩壊剤として使用される材料は、デンプン(デンプンに基づく市販の崩壊剤、Explotabを包含する)を包含するが、これらに限定されない。デンプングリコール酸ナトリウム、Amberlite、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ウルトラミロペクチン(ultramylopectin)、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、オレンジピール、酸性カルボキシメチルセルロース、自然スポンジ、およびベントナイトは、全てが使用されてもよい。崩壊剤の別の形態は、不溶性カチオン交換樹脂である。粉末ガムは、崩壊剤および結合剤として使用されてもよく、これらは、寒天、カラヤまたはトラガカントなどの粉末ガムを包含することができる。アルギン酸およびそのナトリウム塩もまた崩壊剤として有用である。
【0117】
結合剤は、治療剤を一緒に保持して硬質錠剤を形成するために使用されてもよく、アカシア、トラガカント、デンプン、およびゼラチンなどの自然産物からの材料を包含してもよい。他のものは、メチルセルロース(methyl cellulose:MC)、エチルセルロース(ethyl cellulose:EC)、およびカルボキシメチルセルロース(carboxymethyl cellulose:CMC)を包含する。ポリビニルピロリドン(PVP)およびヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)の両方がアルコール溶液中で使用されて、治療薬を顆粒化することができた。
【0118】
製剤化プロセス中の固着を防止するために、摩擦防止剤は、治療薬の製剤中に包含されてもよい。潤滑剤は、治療薬とダイ壁との間の層として使用されてもよく、これらは、ステアリン酸(そのマグネシウム塩およびカルシウム塩を包含する)、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene:PTFE)、流動パラフィン、植物油、およびワックスを包含することができるが、これらに限定されない。ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウム、様々な分子量のポリエチレングリコール、Carbowax 4000、および6000などの可溶性潤滑剤もまた使用されてもよい。
【0119】
製剤化中の薬物の流動特性を改善し、かつ圧縮中の再配列を助ける可能性がある滑剤を加えてもよい。滑剤は、デンプン、タルク、焼成シリカ、および水和シリコアルミナートを包含してもよい。
【0120】
水性環境への治療薬の溶解を助けるために、界面活性剤が湿潤剤として加えられてもよい。界面活性剤は、ラウリル硫酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、およびジオクチルスルホン酸ナトリウムなどのアニオン性洗浄剤を包含してもよい。カチオン性洗浄剤が使用されてもよく、塩化ベンザルコニウムまたは塩化ベンゼトニウムを包含することができる。界面活性剤として製剤中に包含されることができる潜在的な非イオン性洗浄剤のリストは、ラウロマクロゴール400、ステアリン酸ポリオキシル40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油10、50および60、モノステアリン酸グリセロール、ポリソルベート40、60、65および80、スクロース脂肪酸エステル、メチルセルロースおよびカルボキシメチルセルロースである。これらの界面活性剤は、単独で、または異なる比率の混合物としてのいずれかで、治療剤の製剤中に存在することができる。
【0121】
経口的に使用されることができる医薬調製物は、ゼラチン製のプッシュ・フィット・カプセル、ならびにゼラチンおよび可塑剤、グリセロールまたはソルビトール製などの軟密封カプセルを包含する。プッシュ・フィット・カプセルは、ラクトースなどの充填剤、デンプンなどの結合剤、および/またはタルクもしくはステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤、および任意に安定剤と混合して活性構成要素を含有することができる。軟カプセルにおいて、活性化合物は、脂肪油、流動パラフィン、または液体ポリエチレングリコールなどの好適な液体中に溶解または懸濁されてもよい。加えて、安定剤が加えられてもよい。経口投与用に製剤化されたミクロスフェアもまた使用されてもよい。そのようなミクロスフェアは当技術分野において充分に定義されている。経口投与のための全ての製剤は、そのような投与に好適な投薬量であるべきである。
【0122】
頬側投与の場合、組成物は、従来の様式で製剤化された錠剤またはトローチ剤の形態を取ってもよい。
【0123】
吸入による投与の場合、本開示に従って使用するための化合物は、好適な噴射剤、例として、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素、または他の好適なガスを使用して、加圧パックまたはネブライザーからエアロゾルスプレー提示の形態で便宜的に送達されてもよい。加圧エアロゾルの場合、投薬単位は、計量された量を送達するための弁を提供することによって決定されてもよい。吸入器または吹送器で使用するための、例としてゼラチンのカプセルおよびカートリッジは、化合物と、ラクトースまたはデンプンなどの好適な粉末基剤との粉末混合物を含有して製剤化されてもよい。
【0124】
本開示の医薬組成物は、それらを全身に送達することが望ましい場合、注射による、例としてボーラス注射または持続注入による非経口投与のために製剤化されてもよい。注射用製剤は、防腐剤を加えた単位投薬形態、例としてアンプルまたは複数回用量容器で提示されてもよい。組成物は、油性または水性のビヒクル中の懸濁液、溶液、またはエマルジョンなどの形態を取ってもよく、かつ懸濁化剤、安定化剤、および/または分散剤などの配合剤を含有してもよい。
【0125】
非経口投与用の医薬製剤は、水溶性形態の活性化合物の水溶液を包含する。加えて、活性化合物の懸濁液は、適切な油性注射懸濁液として調製されてもよい。好適な親油性溶媒またはビヒクルは、ゴマ油などの脂肪油、またはオレイン酸エチルもしくはトリグリセリドなどの合成脂肪酸エステル、またはリポソームを包含する。水性注射懸濁液は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、またはデキストランなどの懸濁液の粘度を増加させる物質を含有してもよい。任意には、懸濁液はまた、高濃度溶液の調製を可能にするために化合物の溶解度を増加させる好適な安定剤または薬剤を含有してもよい。
【0126】
前述の製剤に加えて、融合タンパク質はまた、デポー調製物として製剤化されてもよい。そのような長時間作用性製剤は、好適なポリマー材料もしくは疎水性材料(例えば、許容可能な油中のエマルジョンとして)もしくはイオン交換樹脂、または難溶性誘導体として、例えば難溶性塩として製剤化されてもよい。
【0127】
医薬組成物はまた、好適な固体またはゲル相担体または賦形剤を含んでもよい。そのような担体または賦形剤の例は、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、様々な糖、デンプン、セルロース誘導体、ゼラチン、およびポリエチレングリコールなどのポリマーを包含するが、これらに限定されない。
【0128】
好適な液体または固体の医薬調製物形態は、例えば、吸入用の水溶液または生理食塩水、マイクロカプセル化、コクリエート化(encochleated)、微細金粒子へのコーティング、リポソームに含有、噴霧、エアロゾル、皮膚への埋め込み用のペレット、または皮膚に引っ掻かれる鋭利な物体上での乾燥である。医薬組成物はまた、顆粒、散剤、錠剤、コーティング錠、(マイクロ)カプセル、坐剤、シロップ、エマルジョン、懸濁液、クリーム、滴剤、または活性化合物の持続放出を伴う調製物も包含し、その調製物賦形剤および添加剤および/または助剤、崩壊剤、結合剤、コーティング剤、膨潤剤、潤滑剤、香味料、甘味料または可溶化剤などが上記のように慣用的に使用される。医薬組成物は、種々の薬物送達系での使用に好適である。薬物送達のための方法の簡単な総説については、Langer,Science 249:1527-1533,1990を参照し、これは参照により本明細書に組み込まれる。
【0129】
本開示の医薬組成物および任意には他の治療薬は、それ自体(ニート)または薬学的に許容される塩の形態で投与されてもよい。医薬品に使用される場合、塩は薬学的に許容されるべきであるが、薬学的に許容されない塩は、その薬学的に許容される塩を調製するために便宜的に使用されてもよい。そのような塩は、以下の酸から調製されるものを包含するが、これらに限定されない:塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、マレイン酸、酢酸、サリチル酸、p-トルエンスルホン酸、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、ギ酸、マロン酸、コハク酸、ナフタレン-2-スルホン酸、およびベンゼンスルホン酸。また、そのような塩は、カルボン酸基のナトリウム塩、カリウム塩、またはカルシウム塩などのアルカリ金属またはアルカリ土類塩として調製されることができる。
【0130】
好適な緩衝剤は、以下を包含する:酢酸および塩(1~2%w/v);クエン酸および塩(1~3%w/v);ホウ酸および塩(0.5~2.5%w/v);ならびにリン酸および塩(0.8~2%w/v)。好適な防腐剤は、塩化ベンザルコニウム(0.003~0.03%w/v);クロロブタノール(0.3~0.9%w/v);パラベン(0.01~0.25%w/v)およびチメロサール(0.004~0.02%w/v)を包含する。
【0131】
本明細書において開示される技術の態様、利点、特徴、および使用のいくつかは、以下の例からより完全に理解されるであろう。例は、本開示の利益のいくつかを例示し、かつ特定の態様を説明することが意図されているが、本開示の全範囲を例証することが意図されるものではなく、したがって、本開示の範囲を限定するものではない。
【0132】

例1
概要
疾患の罹患率および死亡率の推進要因である、制御されない炎症は、炎症促進因子と抗炎症因子との不均衡に起因して起こる。そのような因子の1つは、血管内皮細胞(EC)、血小板、および自然免疫細胞に作用することによって炎症を抑制する、高密度リポタンパク質(HDL)粒子である。HDLの抗炎症活性は、標的細胞のそれぞれのGタンパク質共役型受容体(G protein-coupled receptor:GPCR)に作用するスフィンゴシン1-リン酸(S1P)およびプロスタサイクリン(PGI2)などの生理活性脂質によって部分的に媒介される。EC、血小板、および好中球の血栓炎症性表現型を抑制するために、S1Pおよび安定なPGI2類似体(イロプロスト)に付き添う(chaperones)、定義されたHDL様粒子が産生された。ApoA1-ApoM(A1M)融合タンパク質は、HDL様粒子を形成し、S1Pと安定に会合し、S1P受容体を活性化し、かつ内皮バリア形成を刺激した。A1Mはまた、腫瘍壊死因子(TNF-α)誘導性NF-κB活性化および白血球接着タンパク質ICAM-1の発現を減弱させた。A1MのApoA1部分はまた、単独で、またはS1P結合A1Mと相加的のいずれかで、内皮バリアを増強した安定なPGI2類似体であるイロプロストへ結合した。好中球では、S1Pおよびイロプロスト結合A1M粒子は、ホルミルペプチド刺激酸化的バーストを阻害し、一方で、イロプロスト結合A1Mは、血小板凝集を完全に阻害した。滅菌炎症のマウスモデルにおいて、S1Pおよびイロプロスト結合A1Mは、炎症応答を抑制した。A1M結合メディエータによる内因性抗炎症機序の増強は、病的炎症を制御するか、または消散機序を誘導するための新規な治療アプローチであってもよい。
【0133】
序論
血管内皮機能障害は、多くの急性および慢性疾患の初期の特徴である。感染(ウイルス性、細菌性)、代謝ストレス(糖尿病、高コレステロール血症)、または加齢のいずれかによって誘導される内皮機能不全は、白血球血管外遊出を促進し、これは、実質性炎症および臓器機能不全をもたらす(Cines et al.,1998;Esper et al.,2006;Pober and Sessa,2007;Castro et al.,2021)。急性組織傷害の初期段階における自然免疫応答の阻害はその後の組織/臓器損傷を低減させるが、一方で、内皮細胞機能の増強はまた、過剰な血管漏出、血栓症、および線維性変化を阻害することによって急性炎症の大きさを抑制すると考えられている(Kiseleva et al.,2018)。
【0134】
広範な研究は、血漿高密度リポタンパク質(HDL)粒子の複数の機能について描写している。HDLの主要な構造タンパク質はアポリポタンパク質A1(ApoA1)であり、続いてABCA1およびG1トランスポータによって脂質付加されて、脂質コアを有する円盤様構造を形成する、肝臓によって合成された両親媒性ポリペプチドである(Yvan-Charet et al.,2011に概説されている)。新生HDL粒子は、複数の細胞型からコレステロールを除去する(Ouimet et al.,2019に概説されている)。HDLの更なる修飾は、酵素(コレステロールエステル輸送タンパク質)、抗酸化因子(ペルオキシナーゼ-1)、および他の調節タンパク質(ApoE)との会合を包含する。実際、HDLプロテオームは複雑であり、その不均一性に寄与する(Heineke,2010に概説されている)。HDLの逆コレステロール流出機能が広く研究されているが、抗炎症機能もまた記載されている。ApoA1/HDL処置は、単核球細胞(マクロファージおよび好中球)および内皮における、サイトカインおよびエンドトキシン誘導性NFκB活性化を減少させる(Suzuki et al.,2010)。最近の研究は、細胞膜からのコレステロールのApoA1枯渇がサイトカインおよびtoll様受容体ベースのシグナル伝達を変化させ、したがって、炎症性シグナル伝達経路を弱めることを示唆した(Fotakis et al.,2019)。HDLの重要な機能は、脈管構造を保護することである。HDLは内皮由来一酸化窒素分泌を増強し、これは、血流を増強し、内皮バリア機能が血管漏出を減弱し、かつ血管傷害中の内皮生存を促進する。加えて、HDLは、プロスタサイクリン(PGI2)の活性および組織因子発現の減弱を増強することによって、血栓性および止血機序を抑制する(Mineo et al 2006)。
【0135】
トランスポータタンパク質のリポカリンファミリーの一員であるアポリポタンパク質M(ApoM)は、切断されていないシグナルペプチドによって、HDL粒子の亜集団(およそ5%まで)の脂質コアへ固定されている(Christofferson et al,2006)。ApoMが、血漿中の生理活性脂質メディエータであるスフィンゴシン1-リン酸(S1P)の生理学的担体であることが示された(Christofferson et al,2011)。S1Pは、S1PR1-S1PR5として知られている5つのGタンパク質共役型受容体(GPCR)に対する高アフィニティーリガンドである。S1P/S1PR1軸は、in vitroおよびin vivoでの血管発生および血管バリア機能の維持に重要である(Proia and Hla,2015)。HDLに結合したS1Pは、サイトカイン誘導性NFκB活性化および接着分子発現の減弱などの独特のシグナル伝達特性を媒介し、これは、ApoM含有HDLがS1PR1に対する偏ったアゴニストとして作用することを提案するよう促した(Galvani et al,2015)。このシグナル伝達軸は、骨髄におけるリンパ球新生を抑制し(Blaho et al,2015)、肺における内皮傷害を減弱させ(Ding et al,2020)、傷害後の肝線維症を抑制し、かつ再生を促進する(Ding et al,2016)ことが示された。最近の研究は、S1PR1シグナル伝達が、HDL粒子の組織実質腔への経内皮横断を可能にしてもよいことを示唆した(Velagapudi et al,2021)。
【0136】
最近、内皮バリア機能を増強し、心臓および脳の虚血-再灌流傷害を抑制し、かつ免疫複合体媒介性および酸誘導性肺傷害を抑制する、ApoM-Fc融合タンパク質の開発が示された(Swendeman et al,2017;Burg et al,2018,Ding et al,2020)。しかしながら、HDL-S1Pの内皮保護効果の全てがin vitroおよびin vivoにおいてApoM-Fc-S1Pによって模倣されるわけではない。ナノディスクを形成し、複数の生理活性脂質(PGI2およびS1P)に付き添い、内皮を保護し、好中球媒介性の血管傷害を抑制し、かつ血小板凝集を抑制する、ApoA1-ApoM融合タンパク質の設計および特徴付けが以下に記載される。
【0137】
材料および方法
ApoA1-ApoM融合物の作製
ApoA1-ApoM融合物は以下のように構築された。ネズミ科ApoA1(カタログ番号MR203500)およびネズミ科ApoM(カタログ番号MR201811)のためのプラスミドが、OriGeneから得られた。各配列のcDNAが増幅されて、以下の特性が組み込まれた:
【0138】
ApoA1:ApoA1およびApoA1のORFの内因性コザック配列。終止コドンはグリシンのコドンで置き換えられている。
【0139】
ApoM:以下の5つのアミノ酸配列リンカー(GGGGS(配列番号22)の1コピーをコードするリンカー配列が、ApoMの5'末端へ逐次PCRによって加えられた。ApoMのシグナルペプチド(AA1-20)(配列番号8)が除去され、終止コドンがグリシンによって置き換えられ、その後、コード配列によって置き換えられて、6倍ヒスチジン配列が組み込まれ、タンパク質精製が容易にされ、その後、終止コドンが加えられた。
【0140】
2つのPCR産物がNOT1消化後に連結され、最終融合PCR産物がpCDH-puro(InvitroGen)発現ベクターへとクローニングされた。
【0141】
クローニングに使用したプライマーは以下のとおりであった:
ApoA1
順方向:5'-TTTTCTAGAGAGGAGATCTGCCGCCGCGATCG-3'(配列番号29)
逆方向:5'-TTTGCGGCCGCGTACGTCTGGGCAGTCAGAG-3'(配列番号30)
ApoM
順方向A:5'-GGTGGAGGTGGATCTAATCAGTGCCCTGAGCACAGT-3'(配列番号31)
逆方向A:5'GATGGTGATGTCCCTTGCTGGACAGCGGGCAGG-3'(配列番号32)
順方向B:5'-TTTGCGGCCGCTTGGTGGAGGTGGATCTAATCAGTG-3'(配列番号33)
逆方向B(HISタグ)5'-TTTGGATCCTCAGTGATGGTGATGGTGATGTCCCTTGCTGG-3'(配列番号34)
【0142】
ApoA1-ApoM融合タンパク質の発現および精製
得られたpApoA1-ApoMプラスミドは、PEI(ポリエチレンイミン;水中1mM原液;Sigma)を用いて、接着性CHO-S細胞(InvitroGen)へとトランスフェクションされた。陽性トランスフェクタントは、ピューロマイシン(30μg/ml GIBCO)中で4日間選択することによって得られた。細胞は、ApoA1(Abcam)、ApoM(Abcam)、およびHisタグ(Santa Cruz)の発現についてのウェスタンブロット分析によって、融合タンパク質の発現について試験された。薬物選択組換えCHO-S細胞は、CHO-S培地(CD Forti CHO;ThermoFisher)を用いて無血清懸濁培養へ適合された。大規模培養のために、細胞は、3~5×105細胞/mlで播種され、かつ2~4×106細胞/mlへ培養中で維持された。細胞は、4℃で10分間にわたり800xgで遠心分離することによって、培養物から除去された。細胞培養上清は、100,000xg超で30分間にわたり4℃での超遠心分離によって更に清澄化された。得られた上清は、2mlのビーズ(充填)/500mlの培養物の最終濃度で、Ni-Sepharoseビーズ(HisPur Ni-NTA樹脂、Thermofisher)と共にインキュベーションされた。スラリーは4℃で一晩インキュベーションされ、次いで、ビーズは、10,000xgで5分間にわたり4℃にて遠心分離することによって濃縮された。ビーズは、フロースルーが検出可能なタンパク質を含有しなくなるまで、50体積のHis洗浄緩衝液(20mM Tris ph8、400mM NaCl、10mMイミジゾール)で洗浄された。タンパク質を、300mMのイミジゾールを補充したHis-洗浄緩衝液中のカラムから溶出された。得られたタンパク質画分は、Bio-Radタンパク質試薬を用いてアッセイされ、かつAmicon C15フィルターで濃縮された。最終的な精製タンパク質調製物が、SDS-PAGEによって分析され、クーマシーブルー(Bio-Rad;0.5%を40%メタノール、10%酢酸中に懸濁)で染色された。
【0143】
S1Pの調製、ApoA1-ApoMへのS1Pのローディング、および質量分析:
S1Pの調製:
1mgのS1P(Avanti Polar lipids)は、13.4mlのメタノール中に再懸濁され、37℃で12時間にわたり維持されて、完全な懸濁が達成される。溶液は、134μLアリコートへと分散され、真空下において45分~1時間にわたり37℃で乾燥される。乾燥S1Pは、使用するまで-20℃で維持される。
【0144】
ApoMへのS1Pのローディング:
組換えApoMへとS1Pをローディングするための方法が以前に記載された(Swendeman et al,2017)。本質的に、精製タンパク質は、PBS中に1mg/ml(およそ20μMまで)で懸濁され、穏やかなピペッティングによって160μMのS1Pと混合された。試料は、超音波洗浄槽(bath sonicator)中で30秒間3ラウンドの超音波処理へ供され、章動運動(nutation)によって24時間超インキュベーションさせられた。得られた産物は、FPLCに供されて、ApoA1-ApoM-S1Pタンパク質複合体から遊離S1Pが分離され、得られたタンパク質画分が、Amicon C15フィルターを用いて再濃縮された。
【0145】
アルブミンへのS1Pのローディング
S1Pは、記載されるようにアルブミンへとロードされた(Lepley et al,2005)。本質的に、PBS-アルブミン(無脂肪酸、Sigma)の0.4%溶液は、乾燥S1Pに加えられ、3回のサイクルで1分間/サイクルの槽内超音波洗浄(bath sonication)へ供され、4℃で24時間維持された。
【0146】
S1Pの質量分析法
S1Pの質量分析は、前述のように実施された(Engelbrecht et al,200)。精製されたS1P結合ApoMタンパク質もしくはApoA1-ApoMタンパク質、またはこれらのタンパク質が注射されるマウスからの血漿は、下記のプロトコルを用いてS1P質量分析法へと供された。PBS中のタンパク質-S1P複合体は、メタノール中で抽出された(20:1;メタノール:分析物(体積/体積)。
【0147】
ApoA1-ApoMシャペロンへのイロプロストのローディング
Schwendeman et al.2015によって記載されるような脂質付加ApoA1-ApoM、またはOda et al,2006によって記載されるようなApoA1の超音波処理依存的脂質付加を作製するための、標準的な超音波処理および熱サイクル方法が採用された。ホスホリルコリン2mM(Avanti)、またはDMPCとDMPGとの組合せ(7:3モル比)(Avanti/Sigma)のいずれかは、クロロホルム:メタノール(95:5)中に再懸濁され、エッペンチューブへと分配され、真空下において乾燥された。脂質は、PBS緩衝液中に再懸濁し、37℃で5~10分間にわたり加熱され、かつ超音波処理(20秒間)されて、脂質懸濁液が作製された。精製されたヒトApoA1(Sigma)または精製されたApoA1-ApoMタンパク質は、PBS(10:1mol/mol)中に再懸濁され、脂質スラリーへ加えられ、かつ懸濁物が清澄化を呈する(脂質化を指し示す)まで連続的な槽内超音波洗浄、または37℃での加熱(5分間)の反復サイクル(3~5回)のいずれかに供され、その後、室温での5分間の槽内超音波洗浄に供された。各方法において、イロプロスト(Cayman Chemical)は、1mMの最終濃度で溶液へ加えられた。得られた脂質付加溶液は、FPLC精製(Swendeman et al,2017)(図10)へ供され、組換えHDLナノ粒子に対応する関連画分は、回収され、かつAmicon Filtersで濃縮された。
【0148】
HUVECのS1PおよびイロプロストTEER分析
経内皮電気抵抗(TEER)は、以前記載されたように(Swendeman et al,2017)、HUVECに対して実施された。本質的に、HUVECは、HUVEC増殖培地(HGM;10%FCSを補充したM199培地(Corning)、1:100ペニシリン-ストレプトマイシン(Sigma)、8mMグルタミン(Sigma)、ヘパリン(Sigma、100U、LMW)、および調製したヒツジ脳抽出物(REF)中で維持された。全ての培養物は、Fibrobronectin(2μg/ml)コーティングプレート上で維持された。TEER分析のために、96ウェルECIS系(96W10idf PETアレイ、Applied BioPhysics)が採用された。ウェルは、室温で30分間にわたり生理食塩水中に再懸濁されたFibronectin(2μg/ml)でコーティングされた。HUVECは、収集され、25~30×103細胞/ウェルの細胞密度でHGM中に再懸濁され、一晩接着させられた。分析の前に、培養培地は、除去され、ペニシリン-ストレプトマイシン/グルタミンおよび1%FCSで補充されたM199培地と30分間にわたり置き換えられた。刺激研究のために、イロプロスト(Cayman Biochemicals)またはイロプロストのいずれかは、ApoA1シャペロンもしくはApoA1-ApoMシャペロンへとロードされたか、またはApoA1-ApoMシャペロンまたはApoM-Fcシャペロンに調製したS1Pが、培養物へ加えられ、TEER研究が3時間~24時間実施された。
【0149】
トロンビンへ応答したHUVECのS1P、アンジオポエチン1(Angiopoietin1:Ang1)、および活性化プロテインC(APC)TEER分析
TEER分析は上記のようにして実施された。アンジオポエチン1(R&D sytems)は、全ての研究について300ng/mlの最終濃度で使用された。トロンビン(Millipore Sigma)は、全ての研究について1U/mlの最終濃度で使用された。活性化プロテインCは、Enzyme Research laboratoriesから入手された。最初の研究のために、Ang1は、単独で、かつApoM-Fc-S1Pと組み合わせて評価された。トロンビン分析のために、Ang1、ApoM-Fc-S1P、およびトロンビンは、研究の開始時に共添加された。APC分析のために、APC単独またはA1M-S1Pとの組合せは、培養物へ1時間加えられ、その後トロンビンを加えられ、次いでTEER分析が、追加で2~8時間実施された。TEER研究からの全データは、統計的に分析され、曲線下面積は、GraphPad Prism 7(GraphPad Software,San Diego,CA)を用いて決定された。
【0150】
S1P受容体活性化のナノビット分析
GPCR活性化(Inoue et al,2019;Hisano et al,2019)に応答して、GPCRと、ベータアレスチンまたは特異的Ga/bg複合体とのスプリットルシフェラーゼ相互作用を採用するナノビット系が使用されて、S1Pを含有するApoA1-ApoMナノ粒子が特徴付けられた。簡潔には、10%FCSおよびペニシリン-ストレプトマイシンを補充したDMEM(GIBCO)中に維持したHEK293A細胞は、6ウェルプレートへと分散させ、一晩接着させた。機能研究のために、細胞は、レポータプラスミドの適切な組合せでトランスフェクションされた。S1PR1-小型ビットルシフェラーゼおよびベータ-アレスチン-大型ビットルシフェラーゼ融合タンパク質、またはGβ1およびGγ1-大型ビットルシフェラーゼと組み合わせたGαi-小型ビットルシフェラーゼは、以前に記載されたように採用された(Hisanoet al,2019)。24時間後、細胞は、収集され、ルシフェラーゼ基質セレンテラジン(Caymen Chem;50μM)で再懸濁され、白色不透明底96ウェルプレート(Greiner)へと分散され、室温で2時間にわたり維持されて、バックグラウンドがクエンチされた。S1P含有試料は、マルチチャネルピペッティングによって加えられ、プレートは、直ちにSpectraMax L 96ウェルプレートリーダ(Molecular Devices)で30分間にわたり470nmにて蛍光について分析された。データは、記載のとおりに統合された(Hisano et al,2019)。
【0151】
TNF-α依存性NF-κB活性化の阻害
TNFα依存性NF-κBシグナル伝達は、NFκB-ルシフェラーゼベースのレポータアッセイシステム(pGL4.32[luc2P/NF-κB-RE/Hygro];Promega)を用いることによって決定された。ヒト微小血管内皮細胞(HMEC-1;ATCC)中の安定なNFκBレポータ細胞株が作製された。HMECは、2mMのL-グルタミン(Sigma)、EGF(2ng/ml;R&D systems)、およびヒドロコルチゾン(1ng/ml;Sigma)を補充した、10%FCS/ペニシリン-ストレプトマイシンMCDB培地中で維持された。TNFα(10ng/ml;R&D Systems)を用いて、用量および時間分析の両方が実施されて、ルシフェラーゼ応答の最適な誘導が確立された(データ示さず)。5×105個のレポータ細胞は、12ウェルプレートへ分配され、24時間にわたり接着させられた。培地は、1%FCS、L-グルタミンを補充したMCDB培地と置き換えられた。細胞は、ApoA1(精製ヒトApoA1;Sigma)、ApoA1-ApoM、ApoA1-ApoM-S1P、ApoM-Fc-S1P、またはアルブミン-S1Pのいずれかの培地で、10分間にわたり、かつ2ng/mlのTNFαで前処置された。試料は、細胞溶解緩衝液(Promega)を用いて抽出され、ルシフェリン基質が加えられ、プレートは、SpectraMax L96ウェルプレートリーダ(Molecular Devices)で470nmにて8~15分間にわたり蛍光について測定された。
【0152】
HUVECにおけるTNF-α誘導性ICAM-1発現の阻害
HUVECは上記のようにプレーティングされた。24時間後、細胞は、1%FCS、8mMグルタミン、1倍ペニシリン-ストレプトマイシンを補充したM199培地へ移された。30分後、細胞は、培地、ApoM-Fc-S1P(100nM S1P)、イロプロスト(100nM)、ApoA1-ApoM(200μg/ml)、ApoA1-ApoM-イロプロスト(200ug/ml;100nMイロプロスト)もしくはApoA1-ApoM-S1P(200μg/ml100nMS1P)により、または組み合わせて、10分間にわたり前処置され、その後、TNF-α(10ng/ml)により処理された。5時間後、細胞は、細胞溶解緩衝液(TBS-T;20mM Tris-pH8、160mM NaCl、1%Triton、1倍プロテアーゼ阻害剤カクテル(Sigma))で溶解され、回収され、かつ20,000×gで5分間にわたり4℃で遠心分離され、抽出物は、10%SDS-PAGEにより分析され、ニトロセルロース膜(Bio-Rad)へ輸送され、5%ミルクでブロックされ、かつICAM-1(1:1000、sc-8439、Santa Cruz Biotech)およびアクチン(1:5000、sc-8432、Santa Cruz Biotech)に対する抗体でプローブされた。ブロットは、HRPに連結される適切な二次抗体により発色され、ChemiDocイメージング(Biorad)を用いる化学発光(Immobilon Western、EMD Millipore)によって可視化された。
【0153】
CREB-ルシフェラーゼシグナル伝達のイロプロスト誘導活性化
IP GPCRを活性化するリポタンパク質結合イロプロストの活性を評価するために、下流cAMP依存性CREBルシフェラーゼレポータ系(pGL4.29[luc2P/CRE/Hygro];Promega)が調べられた。HEK293TまたはA細胞は、10%FCSおよびペニシリン-ストレプトマイシン(Corning)を補充したDMEM(InVitrogen)中で維持された。細胞は、収集され、6ウェルプレートに2~3×105細胞/ウェルを分散され、24時間にわたり接着させられた。培地が置き換えられ、細胞は、0.3μg/ウェルのレポータプラスミド単独で、またはIP受容体をコードするpCMV-PIとコランスフェクトしたPEI(ポリエチレンイミン;水中1mM原液;Sigma)を用いてのいずれかでトランスフェクションされた。24時間後、培地は置き換えられ、細胞は、ビヒクル、イロプロスト(5nM~100nM)、またはApoA1-ApoM-イロプロスト(1μg/ml~32μg/ml)のいずれかを含有する培地と共に滴定によって、37℃で8時間にわたりインキュベーションされた。試料は溶解され、ルシフェリンが加えられ、プレートは、SpectraMax L 96ウェルプレートリーダ(Molecular Devices)で30分間にわたり470nmでの蛍光について定量化された。データは、記載のとおりに統合された。トランスフェクションされていないHEK293T細胞またはA細胞は、イロプロスト刺激へ応答せず、IP GPCR発現の際に応答性が獲得された。
【0154】
in vitroでのヒト血小板凝集の阻害
全血試料は、10%クエン酸ナトリウム(Sigma、S577-50ml)の存在下において健康なドナーから取得し、かつBeckman遠心分離機(GS-6K)を用いて20分間にわたり1000rpmで回転された。上部の多血小板血漿(Platelet-rich Plasma:PRP)層は、回収され、37℃の水浴で30分間にわたり静置された。PRPは、1/5体積の酸-クエン酸-デキストロース緩衝液で希釈され、プロスタグランジンE1(PGE1)は、0.15μMの最終濃度へ加えられた。混合物は、2000gで10分間にわたり円錐底チューブ中で回転され、血小板ペレットは、回収され、予め温めたHEPES-タイロード-グルコース緩衝液(HTG)中に懸濁された。血小板濃度は、決定され、Hematology細胞計数システム(Drew Scientific、850FS)でHTGを用いて、およそ2.5×105/μLまで調整された。
【0155】
光透過凝集測定法が使用されて、アゴニストおよびアンタゴニストに対する血小板応答が評価された。4チャンネル血小板凝集計(血小板イオン化カルシウム凝集計、Chronolog Corp Model 660)において、ヒト血小板は、キュベット内で37℃にて撹拌された。ヒト血小板は、トロンビン受容体(PAR-1)アゴニストSFLLRNペプチド(2μM)を加える前に、A1M-イロプロスト、ApoA1-イロプロスト、またはA1M-S1P単独で、または組み合わせて、およそ10分までの間にわたりインキュベーションされた。データは、AGGRO/LINKソフトウェアパッケージVer 5.2.5およびMicrosoft office professional plus 2013を用いて分析された。
【0156】
好中球反応性酸素生成物(Reactive Oxygen species:ROS)放出の阻害
A1M、A1M-イロプロスト、およびA1M-S1Pは、以下のように、単離された好中球におけるf-Met-Leu-Phe(f-MLP)依存性反応性酸素生成物の生成の阻害についてアッセイされた。腹膜好中球は、チオグリコラート誘発後のC57Bl/6マウスから単離された。水中に再懸濁されたチオグリコラート(2mlの2%v/v)は腹腔内注射によって投与された。4時間後、マウスは安楽死させられ、5mlのHBSSが腹腔内注射され、腹部は1分間マッセージされ、腹腔液が除去された。得られた細胞はペレット化され、RBCは、ACK緩衝液で溶解され、再ペレット化され、PBS-グルコース中に再懸濁された。細胞は計数され、5×105個の細胞は、ルミノール100mMおよび10U/mlの西洋ワサビペルオキシダーゼを含有する96ウェル透明底プレートへと分散され、ブランクのバックグラウンドについて読み取られた。F-Met-Leu-Phe(fMLP;10μM)が加えられ、プレートは、前述のように5分間にわたって、SpectraMaxL1(Molecular Devices,San Jose,CA)で読み取られた。曲線下面積は、GraphPad Prism 7(GraphPad Software,San Diego,CA)を用いて算出された。
【0157】
動物
C57Bl/6マウスはJackson Labsから得られた。全てのin vivo実験は、Boston Children's HospitalのIACUCによって承認された実験プロトコルに従って実施された。
【0158】
結果
ApoA1-ApoM-S1P(A1M-S1P)ナノディスクの産物
S1Pシャペロンタンパク質ApoMとのFc融合物(ApoM-Fc)が作製され、それがin vitroでの内皮細胞機能およびin vivoでの血管機能を増強することを実証した(Swendeman et al.,2017;Burg et al.,2018,Ding et al.,2020)。コアHDL構造タンパク質ApoA1はまた、内皮細胞における一酸化窒素放出を調節し、かつ骨髄細胞の炎症応答を抑制することが示されたので(Fotakis et al.,2019,Yuhanna et al,2001,Mineo et al.,2006)、ApoA1とApoMとの融合タンパク質は、各分子の異なる特性を呈するかもしれないと推論された。ApoA1-ApoM(A1M)融合タンパク質の融合物を、柔軟なリンカードメイン(GGGGS(配列番号22))(図7A図7B)により構築された(Trinh et al,2004)。加えて、6倍ヒスチジンタグは、タンパク質精製を容易にするために、カルボキシル末端で加えられた(図7A図7B)。安定にトランスフェクションされたCHO-S細胞から回収された馴化培地からのA1Mタンパク質が、発現され、かつ精製された。図1Bに示すような、得られた精製A1Mタンパク質の均質な調製物。
【0159】
A1Mおよび濃縮S1P溶液の超音波処理および長時間のインキュベーションが行われて、S1PがA1Mへロードされた。続いて、A1M-S1Pは、FPLCゲル濾過クロマトグラフィーによって遊離S1Pから分離された。これらの条件下において、およそ54mol%までか54~68mol%のA1Mタンパク質は、1:1の化学量論(N=5;図1C)を仮定してS1Pをロードされた。対照的に、アンロード精製A1Mは、おそらく内因性供給源(CHO細胞またはFBS含有細胞培養培地)由来のS1Pで、0.5mol%未満ロードされた。
【0160】
HDLのApoA1部分は、in vitroで脂質付加されて、S1Pなどの生理活性脂質メディエータを収容することができる再構成されたHDLのナノディスクを形成することができるので、A1Mは、記載(Schwendeman et al.,2015)のようにホスファチジルコリンとS1Pとの混合物で脂質付加された。試料のFPLC溶出プロファイルは、分画マウス血漿の参照と比較された(図8)。天然A1Mの分析は、脂質付加タンパク質(およそ30%まで)と非脂質付加タンパク質(70%)との混合物を明らかにする(図1D)。脂質付加手順の後、S1PをロードしたA1M(図1E)は、HDLとFPLC中の可溶性タンパク質画分との間で溶出し、ナノディスク立体配置への効率的な変換を示唆した。
【0161】
ApoA1-ApoM-S1Pは、S1P受容体のb-アレスチンおよびGai依存性カップリングの両方を誘導する
Nanobitシステムが使用されて、S1P受容体のA1M-S1Pナノディスク活性化のシグナル伝達特性が決定された(Inoue et al,2019)。加えて、A1M-S1Pのシグナル伝達特性は、アルブミン-S1PおよびApoM-Fc-S1Pと比較された。4logの範囲のリガンド刺激にわたって、Gaiの同様のS1PR1依存的活性化(図2A)およびb-アレスチン受容体-カップリング(図2B)が、S1Pと複合体化された3つ全てのシャペロンについて観察され、これは、ApoMシャペロン機能が、FcドメインまたはApoA1のいずれかとの融合によって損なわれないことを示唆した。しかしながら、飽和リガンド濃度(1μM S1P)での受容体刺激の時間分析により、シャペロンにかかわらず、S1PはS1PR1/GaIを同様の動態で活性化することが明らかになった。
【0162】
S1PR2およびS1PR3を介するS1Pシャペロン依存性β-アレスチン活性化(図2E図2F)がまた分析された。ApoM-Fc-S1PまたはApoA1-ApoM-S1Pのいずれかと比較した場合、アルブミン-S1Pによるこれらの受容体のより大きな最大刺激が観察され、このことは、S1PR2およびS1PR3からのシグナル伝達が、S1Pがアルブミンに結合している場合により大きいことを示唆した。対照的に、ApoMに結合したS1Pは、可溶性シャペロンまたはナノディスクシャペロンとの会合にかかわらず、S1PR1をより良好に活性化する。
【0163】
ApoA1-ApoM-S1Pは内皮バリア機能を特異的に増強し、かつトロンビン誘導性バリア分解に対する保護を提供する
A1M-S1P調節能力である、内皮細胞バリア機能を決定するために、経内皮電気抵抗(TEER)分析はA1M-S1P刺激後のHUVECに対して実施された。用量応答研究は、S1P含有量(S1P 10~300nM;A1M 0.8~24μg/ml)に基づいて実施され、内皮バリア機能の強力な拡張増強が観察された(図3A)。陰性対照として、機能的バリア保護をもたらさない、最大用量の天然A1M(24μg/ml)が使用された。内皮バリア機能の同等の増強は、A1M-S1PおよびApoM-Fc-S1Pによって非常に類似したEC50値(およそ2.5μg/mlまで;30nM S1P)で達成され、これは、可溶性形態またはナノディスク形態であるかどうかにかかわらず、S1PシャペロンとしてのApoMの機能的同等性を示唆した(図3B)。非ロードA1MおよびApoM-Fcは内皮バリア増強を誘導しなかった。
【0164】
トロンビン活性化は炎症プロセスの一般的な開始因子であり、トロンビンはin vitroおよびin vivoで内皮バリア機能を低下させることが知られている。内皮上のS1PR1の活性化がトロンビン誘導性バリア分解を阻害することが以前に確立された(Garcia et al.,2001)。用量応答研究は、トロンビン誘導性バリア分解に対するApoM-Fc-S1Pの効果を評価するために実施され、トロンビンに対するS1P依存性バリア保護の以前の観察が確認され、S1Pが用量依存的様式でバリア機能を増強したことを見出した(図9A)。
【0165】
アンジオポエチン1は、内皮上のトロンビン活性を打ち消すことが示されている追加の薬剤である(Pizurki et al.,2003)。ApoM-Fc-S1Pが、増強された内皮バリアを提供するためにアンジオポエチン1と併せて作用することができることが示され(図3C)、かつトロンビン活性をブロックするための両方の刺激の組合せに対する明らかな付加的利益が観察された(図3D)。活性化プロテインC(APC)は、充分に確立された抗トロンビン剤である(Finigan et al.,2005)。APC単独は、TEER分析(図9B)によるトロンビンアッセイで評価され、次いでA1M-S1P(図3E)およびApom-Fc-S1P(図3G)の両方と併せて、全ての場合においてAPC(5μg/ml)およびS1P(30nM)の両方の最適以下の濃度を用いて評価された。曲線下面積分析により、A1M-S1Pについてのトロンビン活性における51%~56%の低下、およびApoM-Fc-S1Pについてのトロンビン活性における47%~58%の低下が明らかにされた。これらの結果は、APCとのA1M-S1PおよびApoM-Fc-S1Pの両方について強い付加的効果を明らかにし、このことは、この組合せが、トロンビンの炎症効果をブロックすることにおいて有用性を有することを示唆している。
【0166】
ApoA1はTNFα誘導性NF-κB活性およびICAM-1発現を減弱させる
内皮バリア保護に加えて、HDL結合S1Pは、ICAM-1接着タンパク質発現などのTNFα誘導性炎症マーカを減弱させる(Galvani et al.,2015;Cockerill et al.,1995)。アルブミン結合S1Pは、ICAM-1発現を抑制することが不可能であり、S1PR1アゴニズム単独では、サイトカイン炎症応答を抑制するのに充分でないことが示唆された。他の研究では、HDLのApoA1部分が内皮細胞に関与して、骨髄系細胞において、NO放出を誘導し(Yuhanna et al.,2001)、TLR4およびTNFαによって誘導されるNFκB活性化を抑制することができることが示唆されている(Fotakis et al.,2019)。ルシフェラーゼベースのレポータアッセイを使用して、ApoA1処置またはA1M+S1P処置がサイトカイン誘導性NFκB転写を調節するかどうか、およびS1PR1シグナル伝達がこの作用に影響を及ぼすことができるかどうかが評価された。図4A図4Cに示されるように、低用量のApoA1、A1M、およびA1M-S1P(25~50μg/ml)は、TNFα誘導性NF-κB活性をおよそ25%まで阻害した。より高い用量(100~400μg/ml)は阻害性ではなく、用量応答曲線は二相性パターンを呈した。対照的に、ApoM-Fc-S1Pおよびアルブミン-S1Pは、TNFα誘導性NF-κB活性を阻害しなかった(図4B)。以前の研究は、TNFαが内皮細胞において接着分子ICAM1を誘導すること、およびHDLがこの炎症プロセスを阻害することができたことを実証している(Cockerill et al.,1995)。図4Cに示されるように、ApoA1含有分析物のみが、S1Pまたはイロプロスト含有量とは無関係に、ICAM1発現を阻害した。これらのデータは、S1PR1のApoM-S1PエンゲージメントがTNFα誘導性ICAM1発現を減弱させるのに充分ではない一方で、HDL粒子のApoA1部分が抗炎症機能を提供することを示唆する。
【0167】
A1Mは、S1Pと協働してバリア機能を増強する、安定なプロスタサイクリン類似体イロプロストに結合する
内皮細胞由来プロスタサイクリン(PGI2)は、その受容体(IP)を介して作用して、Gαs/アデニル酸シクラーゼ/cAMP経路を活性化し、血小板凝集および骨髄性炎症応答を抑制する(Pluchart et al.,2017において概説)。自己加水分解に起因するPGI2の不安定性は、HDL会合によって阻害される(Morishita et al.,1990)。実際、精製されたA1Mナノディスクは、安定なPGI2類似体であるイロプロストと安定に会合できることが見出された(Skuballa and Vorbruggen,1983)(図5A)。ApoA1に結合したイロプロストは、cAMP応答性CREBルシフェラーゼレポータアッセイによって決定されるように、IP受容体を活性化することが可能であった(図5B)。
【0168】
cAMP/EPAC/Rap1経路は内皮バリア機能を刺激するので、イロプロストに結合したA1Mナノディスクがこのアッセイで活性であるかどうかを査定した。図5Cに示すように、A1M-イロプロストナノディスクは、A1M-S1Pと同程度に内皮バリア機能を刺激した。A1M-イロプロストおよびA1M-S1Pの組合せは、内皮細胞の付加的なバリア促進を提供した(図5D)。実際、イロプロストは、HDL-S1P(図5E)およびS1PR1選択的アゴニストAUY954(図5F)と協働して、付加的様式で内皮バリア機能を増強した。これらのデータは、短命の内因性プロスタノイドPGI2のHDL安定化が、HDL-S1Pと協働的様式で血管内皮のバリア機能を保護するかもしれないことを示唆している。
【0169】
血栓炎症(thromboinflammation)におけるA1M-イロプロストおよびA1M-S1P
IP受容体によるプロスタサイクリンシグナル伝達は、血小板凝集を阻害し、したがって血栓症の阻害を達成する(Moncada et al.,1977)。トロンビン受容体活性化ペプチドによって誘導されたヒト血小板凝集に対するA1M-イロプロストおよびA1M-S1Pの効果が評価された。A1M-イロプロストは血小板凝集を強力に阻害したが、一方でA1M-S1Pは阻害しなかった(図6A)。用量応答研究は、遊離イロプロストについてはおよそ11nMまでのEC50、およびApoA1ナノディスク関連イロプロストについてはおよそ9nMまでのEC50を指し示し(図6B)、これは、イロプロストがHDL様ナノディスクと会合している場合、薬物効力の完全な保持を示唆した。
【0170】
好中球活性化は、細胞および組織に損傷を与えている、スーパーオキシドアニオン(O2-)ならびにヒドロキシルラジカルおよび一重項酸素などの反応性酸素生成物(ROS)を産生する、酸化的バーストをもたらす(Kumar et al.,2019)。チオグリコラート誘発マウス好中球は、マウスから単離され、ホルミルペプチド活性化へ応答したそれらの酸化剤バーストが試験された。図6C図6Dに示されるように、好中球ROS生成は、両方のApoM-S1P(およそ42%まで);ApoA1-イロプロスト(およそ44%まで))の同時処置によって阻害された。併用処置はROS形成を更に減少させなかった。ナノディスクに結合したS1PおよびPGI2が好中球酸化ストレスを抑制する能力は、HDLに結合したS1PおよびPGI2がin vivoで血栓炎症性反応を減弱させるかもしれないことを示唆している。
【0171】
考察
感染性、外傷性、または慢性の代謝性疾患中の血管機能不全の誘導、および老化は、その後の組織および臓器の病態の上昇の主要な事象として同定されている。脈管構造の破壊および炎症は、浮腫性であり、かつ血小板駆動血栓症およびその後の自然免疫応答の活性化の両方を、主に好中球を介して引き起こし、累積的により大きな臓器分解をもたらす。HDLの広範な研究は、これらの病理学的プロセスを寛解させる複数の血管保護特性を明らかにした(Mineo et al.,2005)。新生ApoA1と、HDLの主要な構造タンパク質である脂質付加ApoA1との両方が、逆コレステロール流出を誘導し、これにより、炎症性サイトカインによって駆動されるシグナル伝達を低下させることができる(Robert et al.,2021)。加えて、HDLは、抗炎症性脂質プロスタサイクリンを誘導および付き添うことが見出され、これは、血小板活性化および血栓症を阻害し、内皮への好中球の接着をブロックし、かつ内皮バリア機能を増強するように作用する(Riva et al.,1990;Birukova et al,2013)。最後に、最近の研究により、HDL関連タンパク質であるアポリポタンパク質Mが、内皮恒常性およびバリア機能を増強する生物学的に活性なスフィンゴ脂質S1Pの主要シャペロンとして同定された(Christoffersen et al.,2011)。
【0172】
HDLのこれらの血管保護的側面から利点を得るために、ApoA1の同定された抗炎症特性およびS1Pのバリア保護特性を組み込んだ、組換え融合タンパク質、ApoA1-ApoM(A1M)が作製された。A1M-S1Pは、3つの内皮S1P受容体、S1PR1、S1PR2、およびS1PR3においてGiαおよびβ-アレスチンカップリングの両方を活性化し、かつ他のS1Pシャペロンについて観察されたように、TEER分析によって判断して拡張された内皮バリア機能を再現性よく増強することが実証された(Swendeman et al.,2017)。A1MとA1M-S1Pの両方が、抗炎症性であり、レポータアッセイにおいてTNFα誘導性NF-κB活性化の両方を低下させ、かつ内皮における下流の炎症性ICAM1発現を阻害した。注目すべきことに、他のS1PシャペロンであるApoM-Fcおよびアルブミンは、阻害活性を有しないことが観察され、このことは、ApoA1部分がTNFRシグナル伝達の主要な阻害剤であることを示唆した。
【0173】
A1Mの潜在的な機能を更に増強するために、ApoA1部分は、標準的な手順を用いてin vitroにて脂質付加され、安定なプロスタサイクリン類似体であるイロプロストは、A1Mへと機能的に組み込まれることができ、A1M-イロプロストを作製することが示された。A1M-イロプロストは、PKA依存性CREBシグナル伝達の活性化、および内皮バリア保護の増強を包含する、プロスタサイクリンの確立された特性を保持することが実証された。興味深いことに、更なる研究では、遊離およびA1M結合イロプロストの両方が、A1M-S1Pと併せて内皮バリア機能の付加的な保護を提供することができることが観察され、これは、内皮機能および保護のためのこれら2つの経路の有用な協働を示唆した。
【0174】
内皮の一次炎症は、トロンビン活性化を包含する炎症プロセスの更なる増幅をもたらす複数の経路を活性化し、これは両方とも内皮バリアの破壊、およびその後の血小板活性化を誘導して、血栓症を引き起こす(Mineo et al.,2005)。A1M-S1Pは、トロンビン誘導性バリア破壊をブロックし、かつ抗トロンビン活性化プロテインCのバリア保護活性を増強することができることが実証された。更に、A1M-イロプロストは、in vitroでトロンビン駆動血小板凝集を阻害することが示された。内皮炎症の第2の帰結は、好中球の動員および活性化であり、これは、細菌感染または組織損傷などの外的刺激に対する応答、ならびに炎症性サイトカインおよびケモカインに対する応答の両方において、好中球に関連する炎症の破壊的特徴である、反応性酸素生成物(ROS)の生成をもたらす(Pober and Min,2006,Dimasi et al.,2013)。これに関して、A1M-イロプロスト/S1Pの潜在的有用性が実証され、両方の脂質リガンドが単離した好中球におけるROSの生成を強力に阻害したことが観察された。このアプローチは、組織炎症中の血小板駆動血栓症および好中球依存性組織損傷の両方を抑制する可能性を示す。
【0175】
これらの結果を総合すると、この組換えA1M-S1P/イロプロストは、S1Pで内皮恒常性を増強し、ApoA1で炎症性サイトカインシグナル伝達を阻害し、かつトロンビン活性ならびに血小板および好中球の両方の活性化をブロックすることによって炎症の増幅を阻害することによって、HDLの確立された保護効果を再現する三つ又のアプローチを提供する可能性を有することが主張される。この併用アプローチは、感染性病原体によって駆動される多くの内皮関連炎症状態、外傷後または臓器移植における血管再灌流傷害、ならびにアテローム性動脈硬化症、糖尿病、および自己免疫に関連するより慢性の脈管障害において潜在的な有用性を有する。
【0176】
【表1-1】
【0177】
【表1-2】
【0178】
【表1-3】
【0179】
【表1-4】
【0180】
例1 参考文献:
【表2-1】
【0181】
【表2-2】
【0182】
【表2-3】
【0183】
【表2-4】
【0184】
【表2-5】
【0185】
【表2-6】
図1A-1B】
図1C-1D】
図1E
図2A-2B】
図2C-2D】
図2E-2F】
図3A-3B】
図3C-3D】
図3E-3F】
図3G-3H】
図4A-4B】
図4C
図5A-5B】
図5C-5D】
図5E-5F】
図6A
図6B-6C】
図6D
図7A
図7B
図8
図9A
図9B
図10
【配列表】
2024537831000001.xml
【国際調査報告】