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特表2024-537834早発卵巣不全(POI)の診断のためのエキソソーム由来マイクロRNAバイオマーカーおよびその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-16
(54)【発明の名称】早発卵巣不全(POI)の診断のためのエキソソーム由来マイクロRNAバイオマーカーおよびその使用
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/34 20060101AFI20241008BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALI20241008BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
C12M1/34 Z
C12Q1/6851 Z ZNA
C12M1/00 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024519883
(86)(22)【出願日】2022-09-30
(85)【翻訳文提出日】2024-05-31
(86)【国際出願番号】 KR2022014852
(87)【国際公開番号】W WO2023055214
(87)【国際公開日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】10-2021-0130559
(32)【優先日】2021-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2022-0124256
(32)【優先日】2022-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】523021003
【氏名又は名称】ジーアイエル メディカル センター
(74)【代理人】
【識別番号】110003971
【氏名又は名称】弁理士法人葛和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ユン,ミソプ
(72)【発明者】
【氏名】チョン,スンジュ
(72)【発明者】
【氏名】ウメル,ゾビア
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029BB11
4B029BB20
4B029CC01
4B029FA15
4B029GA08
4B029GB06
4B029GB10
4B063QA07
4B063QA08
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ08
4B063QQ28
4B063QQ52
4B063QQ62
4B063QR08
4B063QR35
4B063QR42
4B063QR62
4B063QR66
4B063QR72
4B063QR77
4B063QS03
4B063QS25
4B063QS34
4B063QS36
4B063QS39
4B063QX02
(57)【要約】
本発明のバイオマーカーを用いることにより、早発卵巣不全の早期診断が可能となり、早発卵巣不全と、ターナー症候群を原因とする早発卵巣不全とを区別する診断が可能であり、および、バイオマーカーの発現の変化を通じて早発卵巣不全に対する治療剤をスクリーニングするための方法を提供することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
miR-4516、miR-29a-3p、およびmiR-30b-5pからなる群から選択される1種以上のmiRNAの発現レベルを測定することができる薬剤を包含する、早発卵巣不全(POI)を診断するための組成物。
【請求項2】
miR-4516、miR-29a-3p、およびmiR-30b-5pからなる群から選択される1種以上のmiRNAの発現レベルを測定することができる薬剤を包含する、ターナー症候群を原因とする早発卵巣不全(POI)を診断するための組成物。
【請求項3】
薬剤が、miRNAの核酸配列と同一または相補的なポリヌクレオチドを含有する核酸である、請求項1または2に記載の診断用組成物。
【請求項4】
核酸が、プライマーまたはプローブである、請求項3に記載の診断用組成物。
【請求項5】
miRNAが、生体試料から単離されたエキソソームから得られるRNAである、請求項1または2に記載の診断用組成物。
【請求項6】
生体試料が、細胞培養上清、全血、血清、血漿、腹水、脳脊髄液、骨髄穿刺液、気管支肺胞洗浄液、尿、膣液、粘液、唾液、喀痰、または、生体試料から精製されたライセートである、請求項1または2に記載の診断用組成物。
【請求項7】
請求項1に記載の診断用組成物を含む、早発卵巣不全を診断するためのキット。
【請求項8】
請求項2に記載の診断用組成物を含む、ターナー症候群を原因とする早発卵巣不全を診断するためのキット。
【請求項9】
以下のステップ:
1)個体から生体試料を採取し、試料からエキソソームを分離し、およびエキソソームからRNAを単離するステップ;ならびに
2)単離されたRNAにおいてmiR-4516、miR-29a-3p、およびmiR-30b-5pからなる群から選択される1種以上のmiRNAの発現レベルを測定し、およびその発現レベルを正常対照群における遺伝子の発現レベルと比較するステップ
を含む、早発卵巣不全を診断するための方法。
【請求項10】
miR-4516の発現レベルが正常対照群と比較して増大しているとき、またはmiR-29a-3pもしくはmiR-30b-5pの発現レベルが正常対照群と比較して減少しているとき、個体は早発卵巣不全のリスクが高いと決定される、請求項9に記載の早発卵巣不全の診断方法。
【請求項11】
miR-29a-3pまたはmiR-30b-5pの発現レベルが正常対照群と比較して増大しているとき、個体はターナー症候群を原因とする早発卵巣不全を有するものであると決定される、請求項9に記載の早発卵巣不全の診断方法。
【請求項12】
以下のステップ:
1)in vitroで、miR-4516、miR-29a-3p、およびmiR-30b-5pからなる群から選択される1種以上のmiRNAをコードする塩基配列を有する細胞に被験物質を処置するステップ;ならびに
2)被験物質で処置された単離された細胞においてmiRNAの発現を分析し、および、miRNAの発現パターンを、被験物質で処置されていない単離された対照細胞におけるmiRNAの発現パターンと比較するステップ
を含む、早発卵巣不全に対する治療剤をスクリーニングするための方法。
【請求項13】
以下のステップ:
1)in vitroで、miR-4516、miR-29a-3p、およびmiR-30b-5pからなる群から選択される1種以上のmiRNAをコードする塩基配列を有する細胞に被験物質を処置するステップ;ならびに
2)被験物質で処置された単離された細胞においてmiRNAの発現を分析し、および、miRNAの発現パターンを、被験物質で処置されていない単離された対照細胞におけるmiRNAの発現パターンと比較するステップ
を含む、ターナー症候群を原因とする早発卵巣不全に対する治療剤をスクリーニングするための方法。
【請求項14】
MiR-4516、MiR-29a-3p、およびMiR-30b-5pからなる群から選択される1種以上のmiRNAの発現レベルを測定するステップを含む、早発卵巣不全(POI)を診断するための方法。
【請求項15】
早発卵巣不全(POI)を診断するための方法における使用のための、MiR-4516、MiR-29a-3p、およびMiR-30b-5pからなる群から選択される1種以上のmiRNAの発現レベルを測定するための薬剤の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
1.発明の分野
本発明は、早発卵巣不全(POI)の診断のためのエキソソーム由来マイクロRNAバイオマーカーおよびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
2.関連技術の記載
卵巣は、卵子を成熟させ、ならびにエストロゲン、プロゲステロン、およびテストステロンなどの性ホルモンを分泌する、女性の生殖器官である。それは、女性の生殖系の健康を維持し、および、女性の生活の質を維持することにおいて重要な役割を果たすホルモン産生系のバランスを維持する。卵巣機能は、卵胞刺激ホルモン(FSH)、エストラジオール、または抗ミュラー管ホルモン(AMH)のレベルの変化を測定することで確認でき、および、低下した卵巣機能は、ホルモンの不均衡、早発卵巣不全、多嚢胞性卵巣症候群、および不妊につながる可能性がある。
【0003】
これらのうち、早発卵巣不全(POI)は、40歳前に卵巣機能が枯渇する病態であり、および、無月経または稀発月経の症状、減少したエストロゲン、および上昇した血清卵胞刺激ホルモン(FSH)濃度を通じて兆候が現れる。より具体的には、40歳前に6ヶ月を超えて月経がなく、かつ、1ヶ月以上の間隔で2回測定した卵胞刺激ホルモン(FSH)の血中レベルが40mIU/mLを超えていることが確認された場合に、早発卵巣不全が診断される。
【0004】
早発卵巣不全の有病率はおよそ1%であり、および、早発卵巣不全の患者は一般に、閉経期の女性に見られる症状を呈する。早発卵巣不全は、顔面紅潮、発汗、睡眠障害、ならびにエストロゲン欠乏症に起因する慢性泌尿生殖器萎縮症、骨粗鬆症、冠動脈疾患およびアルツハイマー病の可能性を増大させる。これらの付随する症状は患者の生活の質を低減させ、また、他の疾患および合併症の発生率の増大に起因して生存率が低下する。
【0005】
早発卵巣不全の原因は、主に外因性要因、核型異常、および遺伝的要因に起因するものであることが知られているが、ほとんどの場合、原因は不明である(Shelling An, 2010)。早発卵巣不全のいくつかの症例は、自己免疫疾患、または、脆弱X症候群およびターナー症候群などの遺伝的障害を原因とするものであり得る。早発卵巣不全の原因を決定するために、卵巣の成熟過程に影響を及ぼす様々な遺伝子における変異について多くの研究が実施されてきたものの、早期卵巣不全の正確なメカニズムは未だ明らかにされていない。そのため、早発卵巣不全の発症は極めて不均一で未知の現象である。実際の臨床試験では、およそ90%の症例において、早発卵巣不全の原因は不明である。
【0006】
早発卵巣不全と診断されてからは、卵巣は、それを過剰に刺激しようとする試みに応答することはめったになく、および、生児出産の可能性は極めて低くなる。したがって、早発卵巣不全と診断されるであろう見込み患者を事前にスクリーニングできる試験方法があることが重要であるが、しかし、早期卵巣機能不全に先行する特徴的な臨床症状は具体的に報告されていない。よって、特定の既往歴(化学療法および放射線療法、卵巣嚢腫摘出、等々)がない限り、早発卵巣不全を発症する可能性を予測することは困難である。
【0007】
それゆえに、早発卵巣不全を早期診断しおよびその病因を見つけるために、染色体試験、グレーズドX症候群キャリア試験、甲状腺疾患、下垂体疾患、自己免疫疾患、先の診断および外科手術などの様々な試験が行われる。しかしながら、原因ごとの患者の処置および予後についての情報は極めて少なく、また、それらはいずれも、早期診断のためのスクリーニング試験として使用されていない。加えて、早発卵巣不全の患者のための現在の処置法のほとんどは、診断後の処置および管理である。早発卵巣不全の患者においては、卵巣全体または卵巣組織/卵胞を採取してin vitro培養後に再移植するin vitro活性化(IVA)を通じて妊娠の試みが行われているが、しかしこの方法は、卵巣がすでに修復不能な損傷を受けている患者においては結果が悪いことが知られている。したがって、現実には、卵巣機能の異常低下を事前に予測しおよび事前の準備を推奨することができる試験は少ない。
【0008】
早発卵巣不全が起こる前に、早発卵巣不全を発症する確率が高いかどうかを決定することおよび卵子を凍結するかまたは妊娠を試みることが勧められる。しかしながら、現状では早発卵巣不全を初期段階で検出するための明確なマーカーまたは試験方法がなく、それが早期診断を極めて困難にしている。
【0009】
一方、ターナー症候群とは、卵巣機能障害を結果としてもたらす、女性の2つのX染色体のうちの1つの喪失もしくは部分的な欠失、またはX染色体における構造的な欠陥を指す。ターナー症候群の50%の核型は45Xであり、2つのX染色体のうちの1つを欠いており、および、残りはモザイクまたは部分欠失の核型を有する。したがって、核型検査は、ターナー症候群を分析するのに使用される。
【0010】
ターナー症候群は、早発卵巣不全の遺伝的原因の1つであることが知られている。したがって、ターナー症候群に起因する早発卵巣不全と他の原因に起因する早期卵巣機能不全とを見分けることができる診断マーカーを発見することが必要である。
【0011】
エキソソームは、細胞のRNAおよびタンパク質を運ぶ物質を含有する微小なベシクルである。エキソソームは、様々なタイプの細胞から分泌される膜構造のベシクルであり、ならびに、他の細胞および組織に結合すること、および膜構成成分、タンパク質、およびRNAを送達することを包含する、様々な役割を果たすことが知られている。元々、エキソソームは、赤血球内にヘモグロビンだけを残して細胞内のタンパク質が放出および除去されているときである、赤血球成熟の最終段階の間に発見された。加えて、電子顕微鏡を使用した研究において、エキソソームは細胞膜から直接切り離されるのではなく、むしろ、多胞体(MVB)と呼ばれる特定の細胞内区画を起源として細胞外へ放出および分泌されることが観察された。多胞体と原形質膜とが融合すると、ベシクルはエキソソームと呼ばれる細胞外環境中へと放出される。
【0012】
近年、エキソソームは疾患診断のためのマーカーとして、および細胞間シグナル伝達キャリアとして多大な注目を受けている。エキソソーム分離および分析法は、2015年にMITにより上位10の有望な未来技術に選ばれた、リキッドバイオプシー法の1つである。リキッドバイオプシーは、単に血液または体液を非侵襲的に検査するだけで、疾患の発生および広がりの詳細な観察を可能にするため、次世代の処置戦略として認識されている。加えて、エキソソームは、様々な細胞から分泌され、および血漿、脳脊髄液、および尿を通じて循環することが知られている。エキソソームは、リン脂質二重層に包まれた小さくて安定した小胞体(30~200nm)構造であり、および、親細胞と同じ遺伝およびタンパク質情報を含有する。とりわけ、エキソソームはマイクロRNA(miRNA)を含有し、これはがんの早期診断などの分子診断に有用なマーカーとして使用することができる。エキソソームは、細胞間のシグナル伝達においてもまた重要な役割を果たす。それゆえに、エキソソームは、早発卵巣不全を引き起こす因子のキャリアとして作用する可能性があり、および、顆粒膜細胞だけでなく、子宮内膜間質細胞などのその他の周りの細胞にもまた侵入することで、周りの細胞の成長および分化のプロセスを調節する可能性がある。
【0013】
生物学において、miRNAの役割は、それらがすでにがんなどの様々な疾患におけるタンパク質機能の変化を決定することにおいて広範に研究されているとおり、強い関心が持たれる領域である。miRNAは、哺乳類の卵巣に存在し、およびそれらの発現パターンは卵巣の発達および卵胞の形成を通じて変化し、および卵巣周期において機能的な役割を果たすことが予想されている。miRNAは、遺伝子発現を抑制する制御因子として、がんおよび神経学的障害などの疾患において役割を果たすことが報告されているが、早発卵巣不全患者から単離された早発卵巣不全関連miRNAのプロファイル、および、早発卵巣不全におけるそれらの機能的役割は、同定されていない。
【0014】
早発卵巣不全の診断方法の既存の発明は、血管新生遺伝子であるVEGF(血管内皮増殖因子)を通じて診断するための方法(韓国特許登録第10-01301968号)、および早発閉経患者に特異的なDNAを用いたマイクロアレイを使用して診断するための方法(韓国特許登録第10-0861493号)を包含する。しかしながら、上記の方法はすべて、標的がDNAまたは血液であり、これが早期診断を困難または不可能にするという欠点を有する。
【発明の概要】
【0015】
それゆえに、本発明者らは、早発卵巣不全患者の尿から単離したエキソソームにおけるmiRNA発現プロファイルを確認し、およびターナー症候群を原因とする早発卵巣不全およびターナー症候群以外の要因を原因とする早発卵巣不全に関連するmiRNAを同定し、および早発卵巣不全に対する診断マーカーとして利用することができるmiRNAをスクリーニングおよび検証した。加えて、本発明者らは、早発卵巣不全のマウスモデルにおけるmiRNAの発現を確認することにより、およびタンパク質発現分析を行うことで早発卵巣不全におけるmiRNAの作用機序を決定することにより、本発明を完成させた。
【0016】
発明の概要
本発明の目的は、早発卵巣不全を診断するための組成物を提供することである。
本発明の別の目的は、早発卵巣不全を診断するためのキットを提供することである。
【0017】
本発明の別の目的は、早発卵巣不全を診断する方法を提供することである。
本発明の別の目的は、早発卵巣不全に対する治療剤をスクリーニングするための方法を提供することである。
【0018】
上記目的を達成するために、本発明は、miR-4516、miR-29a-3p、およびmiR-30b-5pからなる群から選択される1種以上のmiRNAの発現レベルを測定することができる薬剤を包含する、早発卵巣不全を診断するための組成物を提供する。
【0019】
本発明は、該診断用組成物を含む早発卵巣不全を診断するためのキットもまた提供する。
【0020】
本発明は、以下のステップを含む早発卵巣不全を診断するための方法もまた提供する:
1)個体から生体試料を採取し、試料からエキソソームを分離し、およびエキソソームからRNAを単離するステップ;ならびに
2)単離されたRNAにおいてmiR-4516、miR-29a-3p、およびmiR-30b-5pからなる群から選択される1種以上のmiRNAの発現レベルを測定し、およびその発現レベルを正常対照群における遺伝子の発現レベルと比較するステップ。
【0021】
加えて、本発明は、以下のステップを含む、早発卵巣不全に対する治療剤をスクリーニングするための方法を提供する:
1)in vitroで、miR-4516、miR-29a-3p、およびmiR-30b-5pからなる群から選択される1種以上のmiRNAをコードする塩基配列を有する細胞に被験物質を処置するステップ;ならびに
2)被験物質で処置された単離された細胞においてmiRNAの発現を分析し、および、miRNAの発現パターンを、被験物質で処置されていない単離された対照細胞におけるmiRNAの発現パターンと比較するステップ。
【0022】
有利な効果
本発明のバイオマーカーを用いることにより、早発卵巣不全の早期診断が可能となり、早発卵巣不全と、ターナー症候群を原因とする早発卵巣不全とを区別する診断が可能であり、および、バイオマーカーの発現の変化を通じて早発卵巣不全に対する治療剤をスクリーニングするための方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、早発卵巣不全の患者から採取した尿から単離されおよび電子顕微鏡で観察されたエキソソームを示す一連の写真である。
図2図2は、尿から単離されたエキソソーム中のエキソソームマーカーCD9、CD63、およびTSG101を示す一連の写真である。
図3図3は、尿から単離されたエキソソームのサイズを示すグラフである。
【0024】
図4図4は、早発卵巣不全の患者群および正常対照群におけるmiRNA遺伝子の発現の変化を示すヒートマップである。
図5図5は、早発卵巣不全の患者において異なって発現した33種のmiRNAの標的遺伝子の数をそれらの属するカテゴリ別に数えたものを示すグラフである。
図6図6は、miRNAシーケンシングおよびqRT-PCRの結果を使用して、ターナー症候群を伴わない早発卵巣不全患者群と、早発卵巣不全患者群のうち正常対照患者群との間で発現に違いを示した12種の選択されたmiRNAの発現を確認した結果を示すグラフである。
【0025】
図7図7は、miRNAシーケンシングおよびqRT-PCRの結果を使用して、ターナー症候群を伴う早発卵巣不全患者群と、早発卵巣不全患者群のうち正常対照患者群との間で発現に違いを示した12種の選択されたmiRNAの発現を確認した結果を示すグラフである。
図8図8は、各群(対照:正常対照群、ターナー:ターナー症候群を伴う早発卵巣不全患者群、POI:ターナー症候群を伴わない早発卵巣不全患者群)についてのmiR-4516の発現レベルを示すグラフである。
【0026】
図9図9は、各群(対照:正常対照群、ターナー:ターナー症候群を伴う早発卵巣不全患者群、POI:ターナー症候群を伴わない早発卵巣不全患者群)についてのmiR-29a-3pの発現レベルを示すグラフである。
図10図10は、各群(対照:正常対照群、ターナー:ターナー症候群を伴う早発卵巣不全患者群、POI:ターナー症候群を伴わない早発卵巣不全患者群)についてのmiR-30b-5pの発現レベルを示すグラフである。
【0027】
図11A図11aは、シクロホスファミド(CTX)およびブスルファン(BUS)を注射した早発卵巣不全モデルマウス(下)、および対照群マウス(上)の、卵巣を示す一連の写真である。
図11B図11bは、図11aの卵巣のサイズを比較したグラフである。
図12A図12aは、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色した、シクロホスファミド(CTX)およびブスルファン(BUS)を注射した早発卵巣不全モデルマウス、および対照群マウスの、卵巣切片を示す一連の写真である。
図12B図12bは、図12aの卵胞の数を比較したグラフである。
図12C図12cは、図12aのすべての卵胞に対する閉鎖卵胞の比率を比較したグラフである。
【0028】
図13図13は、シリウスレッドで染色した、シクロホスファミド(CTX)およびブスルファン(BUS)を注射した早発卵巣不全モデルマウス、および対照群マウスの、卵巣切片を示す一連の写真である。
図14A図14aは、TUNELで染色した、シクロホスファミド(CTX)およびブスルファン(BUS)を注射した早発卵巣不全モデルマウス、および対照群マウスの、卵巣切片を示す一連の写真である。
図14B図14bは、図14aにおける全細胞に対するTUNEL陽性(+)細胞の割合を比較したグラフである。
【0029】
図15図15は、Ki67で染色した、シクロホスファミド(CTX)およびブスルファン(BUS)を注射した早発卵巣不全モデルマウス、および対照群マウスの、卵巣切片を示す一連の写真である。
図16A図16aは、シクロホスファミド(CTX)およびブスルファン(BUS)を注射した早産卵巣不全モデルマウス、および対照群マウスの、卵巣におけるmiR-4516の発現を比較したグラフである。
図16B図16bは、シクロホスファミド(CTX)およびブスルファン(BUS)を注射した早発卵巣不全モデルマウス、および対照群マウスの、子宮におけるmiR-4516の発現を比較したグラフである。
図17図17は、miR-4516およびmiR-4516の標的遺伝子であるSTAT3の3'-UTRにおける結合部位を示す略図である。
【0030】
図18A図18aは、シクロホスファミド(CTX)およびブスルファン(BUS)を注射した早発卵巣不全モデルマウス、および対照群マウスの、卵巣におけるSTAT3、BAX、およびp53の発現レベルを示す略図である。
図18B図18bは、図18aのSTAT3の発現レベルを比較したグラフである。
図18C図18cは、図18aのBAXの発現レベルを比較したグラフである。
図18D図18dは、図18aのp53の発現レベルを比較したグラフである。
図19図19は、卵巣におけるmiR-4516の作用機序を示す略図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
好ましい実施形態の説明
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、miR-4516、miR-29a-3p、およびmiR-30b-5pからなる群から選択される1種以上のmiRNAの発現レベルを測定することができる薬剤を包含する、早発卵巣不全を診断するための組成物およびターナー症候群に起因する早発卵巣不全を診断するための組成物を提供する。
【0032】
miR-4516の発現が増大していれば、それは早発卵巣不全と診断することができる。miR-29a-3pの発現が減少していれば、それはターナー症候群を原因としない早発卵巣不全と診断することができ、また、miR-30b-5pの発現が減少していれば、それもまたターナー症候群を原因としない早発卵巣不全と診断することができる。一方、miR-29a-3pの発現が増大していれば、それはターナー症候群を原因とする早発卵巣不全と診断することができ、また、miR-30b-5pの発現が増大していれば、それもまたターナー症候群を原因とする早発卵巣不全と診断することができる。
【0033】
miR-4516の発現が増大し、かつmiR-29a-3pの発現が減少していれば、それはターナー症候群を原因としない早発卵巣不全と診断することができ、また、miR-4516の発現が増大し、かつmiR-30b-5pの発現が減少していれば、それもまたターナー症候群を原因としない早発卵巣不全と診断することができる。他方、miR-4516およびmiR-29a-3pの発現が増大していれば、またはmiR-4516およびmiR-30b-5pの発現が増大していれば、それはターナー症候群を原因とする早発卵巣不全と診断することができる。
【0034】
miR-4516の発現が増大し、かつmiR-29a-3pおよびmiR-30b-5pの発現が減少していれば、それはターナー症候群を原因としない早発卵巣不全と診断することができる。一方、miR-4516、miR-29a-3p、およびmiR-30b-5pの発現がすべて増大していれば、それはターナー症候群を原因とする早発卵巣不全と診断することができる。
【0035】
該薬剤は、miRNAの核酸配列と同一または相補的なポリヌクレオチドを含有する核酸であってもよい。
【0036】
相補的ポリヌクレオチドとは、アンチセンスオリゴヌクレオチドが、所定のハイブリダイゼーションまたはアニーリング条件下、好ましくは生理学的条件下で、miRNA標的へ選択的にハイブリダイズするのに十分に相補的であることを意味し、また、実質的に相補的および完全に相補的なポリヌクレオチドの両方を包含する。実質的に相補的とは、完全に相補的ではないが、いかし標的配列へ結合することによって十分な効果を生じさせるのに十分に相補的であることを意味する。
【0037】
核酸は、プライマーまたはプローブであってもよい。具体的には、それはポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、DNA、RNA、およびそれらの類似体およびそれらの誘導体、例えば、ペプチド核酸(PNA)またはそれらの混合物を包含する。加えて、核酸は、一本鎖または二本鎖であってもよく、およびポリペプチド、mRNA、マイクロRNA、またはsiRNAを包含する分子をコードすることができる。
【0038】
プライマーまたはプローブは、その末端またはその内部にて、蛍光物質、化学発光物質、または放射性同位体で標識されてもよい。
miRNAは、生体試料から単離されたエキソソームから得られるRNAであってもよい。
【0039】
生体試料は、細胞培養上清、全血、血清、血漿、腹水、脳脊髄液、骨髄穿刺液、気管支肺胞洗浄液、尿、膣液、粘液、唾液、喀痰、または、生体試料から精製されたライセートであってもよい。好ましくは、生体試料は、尿、または、生体試料から精製されたライセートであってもよい。
【0040】
本発明は、前記診断用組成物を含む早発卵巣不全を診断するためのキットもまた提供する。加えて、本発明は、該診断用組成物を含む、ターナー症候群を原因とする早発卵巣不全を診断するためのキットを提供する。
【0041】
キットは、早発卵巣不全の診断に必要な試料をさらに含んでもよい。キットは、核酸の検出のための、ポリメラーゼ、緩衝液、核酸、補酵素、蛍光物質、またはそれらの組み合わせを包含してもよい。ポリメラーゼは、好ましくはTaqポリメラーゼであってもよい。
【0042】
本発明は、以下のステップを含む早発卵巣不全を診断するための方法もまた提供する:
1)個体から生体試料を採取し、試料からエキソソームを分離し、およびエキソソームからRNAを単離するステップ;ならびに
2)単離されたRNAにおいてmiR-4516、miR-29a-3p、およびmiR-30b-5pからなる群から選択される1種以上のmiRNAの発現レベルを測定し、およびその発現レベルを正常対照群における遺伝子の発現レベルと比較するステップ。
【0043】
miR-4516の発現レベルが正常対照群と比較して増大していれば、またはmiR-29a-3pもしくはmiR-30b-5pの発現レベルが正常対照群と比較して減少していれば、個体は早発卵巣不全のリスクが高いと決定することができる。加えて、miR-29a-3pまたはmiR-30b-5pの発現レベルが正常対照群と比較して増大していれば、対象はターナー症候群を原因とする早発卵巣不全を有するものであると決定することができる。
【0044】
個体は、哺乳動物であってもよく、および、ヒト、イヌ、ネコ、ラット、マウス、ハムスター、ウサギ、ウマ、ヒツジ、ウシ、ヤギまたはブタであってもよい。個体は、好ましくはヒトであってもよい。
【0045】
「診断」という用語は、疾患を決定することを指し、および、疾患の名称、状態、ステージ、病因等の、早発卵巣不全についてのものを包含し得る。
【0046】
エキソソームは、平均直径50~60nmの球形状であってもよく、好ましくは平均直径約57nmの球形状であってもよい。
【0047】
miRNAの発現レベルは、電気泳動、マイクロアレイ、ノーザンブロッティング、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)、逆転写PCR(RT-PCT)、リアルタイムPCR(qRT-PCR)、またはこれらの組み合わせによって測定することができる。
【0048】
加えて、本発明は、以下のステップを含む、早発卵巣不全に対する治療剤をスクリーニングするための方法を提供する:
1)in vitroで、miR-4516、miR-29a-3p、およびmiR-30b-5pからなる群から選択される1種以上のmiRNAをコードする塩基配列を有する細胞に被験物質を処置するステップ;ならびに
2)被験物質で処置された単離された細胞においてmiRNAの発現を分析し、および、miRNAの発現パターンを、被験物質で処置されていない単離された対照細胞におけるmiRNAの発現パターンと比較するステップ。
【0049】
被験物質で処置された細胞におけるmiR-4516の発現レベルが、被験物質で処置されていない対照細胞における発現レベルと比較して減少していれば;または、被験物質で処置された細胞におけるmiR-29a-3pもしくはmiR-30b-5pの発現レベルが、被験物質で処置されていない対照細胞における発現レベルと比較して増大していれば、被験物質は、早発卵巣不全の処置の候補となる可能性がある。
【0050】
加えて、被験物質で処置された細胞におけるmiR-4516の発現レベルが、被験物質で処置されていない対照細胞の発現レベルと比較して減少していれば;または、被験物質で処置された細胞におけるmiR-29a-3pもしくはmiR-30b-5pの発現レベルが、被験物質で処置されていない対照細胞の発現レベルと比較して減少していれば、被験物質は、ターナー症候群を原因とする早発卵巣不全の治療の候補となる可能性がある。
【0051】
明細書全体を通して、「早発卵巣不全」は、ターナー症候群を原因とする早発卵巣不全と、ターナー症候群を原因としない早発卵巣不全との両方を指す。そして、「早発卵巣不全患者群」は、ターナー症候群を原因とする早発卵巣不全患者群と、ターナー症候群を原因としない早発卵巣不全患者群との両方を指す。
【0052】
「ターナー症候群を原因とする早発卵巣不全」は、具体的にはターナー症候群に起因する早発卵巣不全を指し、および「ターナー症候群を原因とする早発卵巣不全患者群」は、具体的にはターナー症候群を原因とする早発卵巣不全の患者の群を指す。
【0053】
早発卵巣不全の患者は、40歳前に6ヶ月を超えて月経がなく、および、1か月よりも長い間隔で2回測定された血清卵胞刺激ホルモン(FSH)が40mIU/mL超である、慢性的な稀発排卵または無排卵を有する者である。
【0054】
具体的には、卵胞刺激ホルモン(FSH)およびエストラジオールレベルの変化を測定することによってそれを確認することができる。
【0055】
ターナー症候群とは、女性の発達に影響を及ぼす染色体の状態を指す。ターナー症候群は、一方の正常なX染色体が存在し、および他方の性染色体が不在であるかまたは構造的に変化している状態であり、ターナー症候群の核型である核型(45,X)を持つ染色体のモザイク現象のケースを包含する。ターナー症候群は、卵巣機能の早期喪失を特徴とし、および、低身長、性発達障害、心臓病、中耳炎、静脈血管、リンパ浮腫、腎臓奇形、甲状腺機能低下症、肥満、糖尿病、高血圧、骨粗鬆症、および慢性大腸炎を呈し得る。
【0056】
早発卵巣不全のいくつかの症例は、ターナー症候群を原因とする。ターナー症候群の女性は必ずしも早発卵巣不全を呈するわけではないものの、早発卵巣不全のリスクは高いものと見られる。したがって、早発卵巣不全の原因がターナー症候群に起因するのかどうかを見分けることが必要である。
【0057】
本発明の「miR」または「マイクロRNA」は、標的RNAの分解を促進するかまたはそれらの翻訳を阻害することにより、遺伝子発現を転写後に調節する21~23個のノンコーディングRNAを指す。本明細書で使用されているmiRNAの成熟配列は、miRNAデータベース(http://www.mirbase.org)から得ることができる。一般に、マイクロRNAは、プレmiRNAと呼ばれるヘアピン構造を持つ長さ約70~80nt(ヌクレオチド)の前駆体へと転写され、および次いで、RNAse III酵素であるDicerによって切断されることで、成熟した形態を生じる。マイクロRNAは、miRNPと呼ばれるリボ核複合体を形成し、これは標的部位への相補的な結合を通じて標的遺伝子を切断するかまたは翻訳を阻害する。ヒトmiRNAの30%超は、クラスター状に存在し、および、単一の前駆体として転写された後、切断プロセスを通じて最終的な成熟miRNAが形成される。
【0058】
本発明の具体的な実験例においては、早発卵巣不全の患者を、3つの群:ターナー症候群を原因としない早発卵巣不全の患者の群、ターナー症候群を原因とする早発卵巣不全の患者の群、および正常対照群へと分けた。実験群および対照群から尿を採取し、およびエキソソームを単離した。単離されたエキソソームは、平均直径57.022nmの球形状を有することが確認され(図1)、および、エキソソームは、エキソソームマーカーCD9、CD63、およびTSG101の発現を確認することによって同定することができた(図2)。加えて、単離されたエキソソームが典型的なエキソソーム分布パターンを呈したということ、およびエキソソームのサイズは約50~300nmであったということが確認された(図3)。
【0059】
正常対照群および早発卵巣不全の患者の群(ターナー症候群を原因とするおよび原因としない早発卵巣不全の患者の両方の群を包含する)からのRNAでライブラリを形成し、および、正常対照および早発卵巣不全患者群(ターナー症候群を原因とするおよび原因としない早発卵巣不全の患者の両方の群を包含する)の発現が増大または減少した遺伝子を確認した(図4)。上記の遺伝子の生物学的機能を確認することによって、発現に違いのあるmiRNAが卵子の成長および成熟と関連しているということが確認された(図5)。
【0060】
上記のmiRNAのうち、12種のmiRNAを選択し、ならびに、正常対照群およびターナー症候群を原因としない早発卵巣不全の患者の群においてそれらの発現を確認した。(図6および図7。)上記のmiRNAのうち、正常対照群とターナー症候群を原因としない早発卵巣不全患者群とのシーケンシングにおけるものと同様の違いを示したmiRNAは、miR-16-5p、miR-20a-5p、miR-29a-3p、miR-30b-5p、miR-99b-3p、miR-151a-5p、miR-200b-3p、miR-423-3p、miR-941、miR-4516、miR-4492、およびmiR-7847-3pであった。加えて、ターナー症候群を原因とする早発卵巣不全の患者の群および正常対照群の検証コホートにおいて、12種のmiRNAの発現が確認された(図6)。上記のmiRNAのうち、正常対照群とターナー症候群を原因とする早発卵巣不全患者群とのシーケンシングにおけるものと同様の違いを示したmiRNAは、miR-20a-5pおよびmiR-200b-3pであった(図7)。
【0061】
各患者群において上記のmiRNAの発現レベルを検査したとき、miR-4516は、早発卵巣不全の患者のすべての群において、正常対照群におけるよりも有意に高く発現していた(図8)。
【0062】
miR-29a-3pおよびmiR-30b-5pの発現レベルは、ターナー症候群を原因とする早発卵巣不全の患者の群においては正常対照群と比較して増大したが、しかし、ターナー症候群を原因としない早発卵巣不全の患者の群においては減少した(図9および10)。
【0063】
CTXおよびBUSを注射された早発卵巣不全のマウスモデルにおいては、卵巣のサイズが減少しており(図11aおよび11b)、卵胞の数が減少しており(図12aおよび12b)、および閉鎖卵胞の割合が増大していた(図12c)。加えて、コラーゲンの蓄積を示すシリウスレッド染色の反応性が増大しており、これは組織線維化が進行していたことを示している(図13)。これに加えて、TUNEL分析の結果として、アポトーシスが増大しており(図14aおよび14b)、ならびにKi67染色の結果として、Ki67で染色された細胞の数が減少していた(図15)。
【0064】
加えて、miR-4516の発現は、早発卵巣不全マウスモデルの卵巣においては増大したが、子宮においてはそうではなかったことが確認された(図16a、16b)。miRTarBase2020の分析を通じて、STAT3をmiR-4516の標的遺伝子として選択し、およびSTAT3 3'-UTRにおいてmiR-4516の2つの結合部位を同定した(図17)。早発卵巣不全マウスモデルの卵巣においては、STAT3の発現が低下していたということが確認された(図18a~18d)。上記の結果に基づいて、miR-4516はSTAT3の発現を調節することを通じて、卵細胞死、卵胞生成、および始原細胞活性を促進することが推測される(図19)。
【0065】
以下、本発明を以下の実験例により詳細に説明する。
しかしながら、以下の実験例は、本発明を例証するためのものにすぎず、および、本発明の内容はこれらに限定されるものではない。
【0066】
その一方で、本発明の態様は、他の様々な形態に改変することが可能であり、および、本発明の範囲は、下に記載の態様に限定されるものではない。この分野に関する平均的な知識を有する当業者には、本発明の態様が本発明をより正確に説明するために与えられていることは十分に理解される。
【0067】
実験例1:miRNAシーケンシングおよびバイオマーカースクリーニング
<1-1> mRNAシーケンシングのためのシーケンシングコホートの選択
早発卵巣不全のない健常者を対照群として選択し、ならびに、早発卵巣不全患者のうち、ターナー症候群を原因としない早発卵巣不全の患者の群およびターナー症候群を原因とする早発卵巣不全の患者の群を実験群として選択した。
【0068】
早発卵巣不全の診断方法に従い、1か月よりも長い間隔で2回測定された血清卵胞刺激ホルモン(FSH)が40mIU/mL超である、慢性的な稀発排卵または無排卵の女性を、早発卵巣不全の患者と見なし、一方、月経周期が規則的で排卵が正常な女性を対照群として選択した。
【0069】
各群について、ターナー症候群を原因としない早発卵巣不全の患者7名、ターナー症候群を原因とする早発卵巣不全の患者7名、および健常者5名を選択し、および年齢、身長、体重、BMI等について分析した(表1および2参照)。
【0070】
【表1】
【0071】
ターナー症候群を原因としない早発卵巣不全の患者の群においては、正常対照群におけるよりも、総コレステロールはわずかに高く、およびトリグリセリドはおよそ1.9倍高かった。加えて、HDLコレステロール(HDL-C)はやや高く、プロラクチンもまたやや上昇しており、卵胞刺激ホルモン(FSH)は極めて高く、および、他方、エストラジオールは正常対照群と比較して約17%しか分泌されなかったことが見出された。ターナー症候群を原因とする早発卵巣不全の患者は、正常対照よりも背が低い傾向があり、体重に有意差はない。それらはまた、太りすぎの範囲にある高いBMIも有している。これは、ターナー症候群の発達特性と一致しており、それは、最終的な身長が140cmの範囲にある遅い成長、および摂取した食物の量と比較してカロリーが十分に燃焼されないために体重が増える傾向によって特徴付けられ、肥満または糖尿病につながる。
【0072】
肝指数であるASTおよびALTもまた、正常対照群におけるものよりも高く測定された。総コレステロール値は高く、およびHDLコレステロール値もまた高かった。トリグリセリドは、正常対照群におけるよりも高かったが、ターナー症候群を原因としない早発卵巣不全の患者におけるよりは低く、また、甲状腺刺激ホルモンは、3つの群の中で最も高い量で分泌された。ターナー症候群のケースにおいては、甲状腺機能低下症が頻繁に起こり、そのため甲状腺刺激ホルモンのレベルは高い。
【0073】
プロラクチンは、ターナー症候群を原因とする早発卵巣不全の患者においては正常対照におけるよりも低かったが、しかしターナー症候群を原因としない早発卵巣不全の患者においてはそうではなかった。ターナー症候群の患者においては、卵胞刺激ホルモンは正常対照におけるよりも多く分泌されたが、しかし早発卵巣不全の患者におけるよりも少なく、およびエストラジオールは早発卵巣不全の患者におけるよりも低く分泌された。これは、女性ホルモンの不十分な分泌が関与してしばしば骨粗鬆症などの症状を引き起こす、ターナー症候群の特徴である。
【0074】
【表2】
【0075】
ターナー症候群を原因としない早発卵巣不全の患者は、13歳頃に初潮を開始し、少なくとも3か月間無月経を呈し、および早発卵巣不全と関連する最も一般的な単一遺伝子変異であるFMR-1(脆弱Xメッセンジャーリボ核タンパク質1)遺伝子変異を有していなかった。このうち、患者2は核型が46,XXおよび47,XXXの核型を有していたが、しかしそれは早発卵巣不全の直接的な原因とは考えられなかったため、その患者はターナー症候群を原因としない早発卵巣不全の患者として分類された。ターナー症候群を原因とする早発卵巣不全の患者は原発性無月経を示し、および、FMR-1遺伝子における変異を有していなかった。これらの患者には、患者3、6および7のように、典型的な染色体数異常が45,Xのターナー症候群核型を有する者もいれば、一方、患者2および4のように、欠失などの染色体構造異常を伴うターナー症候群核型を有する者もいた。患者1および5は、染色体構造異常である46,X,iおよび45,Xのモザイク現象を示した。
【0076】
<1-2> エキソソームの単離
実験例1において選択された実験および対照群の対象から尿を採取した。採取した尿をまず2000gで10分間遠心分離したことで細胞および沈殿物を除去し、および次いで13,500gで20分間遠心分離した。その後、それを0.22μmのフィルターに通して濾過し、および遠心分離(2000g、30分)を使用して再度濃縮した。
【0077】
エキソソーム沈殿溶液(Exoquick-TC)を1:4の比率で混合し、および終夜4℃にてインキュベートした。翌日、インキュベートされた溶液を2000gで30分間遠心分離したことで、エキソソームペレットを単離した。単離されたペレットを再懸濁し、15分間ビーズと合わせ、および次いで8000gで5分間遠心分離したことで、エキソソームを含有する上清を得た。
【0078】
<1-3> エキソソームの確認
エキソソームを含有する上清を、溶解緩衝液(Cat. No. 9303, Cell Signaling Technology)を使用して溶解し、および次いで4℃、13,000gで10分間マイクロ遠心分離させた。遠心分離溶液の上清を収集し、およびドデシル硫酸ナトリウム(SDS)緩衝液中で3分間煮沸し、および次いでSDS-PAGEによってタンパク質を分離した。電気泳動後、ゲルをポリフッ化ビニリデン膜(Millipore, Billerica, MA, USA)へ転写し、および、5%(w/v)脱脂乳を含有するリン酸緩衝生理食塩水Tween(PBST)中で室温にて30分間、膜をブロッキングし、および次いで、5%(w/v)脱脂乳を含有するPBST中の一次抗体と4℃にて終夜インキュベートした。エキソソームは、イモビロンウェスタン化学発光HRP基質(Millipore)を使用して西洋ワサビペルオキシダーゼに結合する二次抗体を使用して検出した。
【0079】
検出されたエキソソームを電子顕微鏡で観察した。
具体的には、薄い炭素箔でコーティングされた銅グリッド(Cat. No. 01340, Ted Pella, Inc., USA)の上にそれを置き、および2%(w/v)酢酸ウラニル(UrAc)で1分間染色した。次いで、バイオ高電圧EMシステム(120kVでのJEM-1400 Plusおよび、1000 kVでのJEM-1000BEF;JEOL Ltd., Japan)を使用して電子顕微鏡写真を撮った。
【0080】
その結果として、平均直径57.022nmの球状エキソソームが観察され(図1)、およびエキソソームマーカーとして知られるCD9、CD63およびTSG101(Tumor Susceptibility 101)の発現が確認された(図2)。
【0081】
粒子分析計(Litesizer 500、Anton Paar)を使用してナノ粒子追跡分析(NTA)を行ったことで、エキソソームサイズを測定した。その結果として、エキソソームは一般的なエキソソームの分布パターンを示したということ、およびほとんどのエキソソームは直径50~300nmのサイズにおいて分布していたということが確認された(図3)。
【0082】
<1-4> エキソソームからのmiRNAの単離
TRIzol試薬(Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA, USA)を使用して、単離されたエキソソームからMiRNAを抽出した。
【0083】
具体的には、0.5mlのTRIzol試薬で処理したことによってエキソソームを溶解し、および室温にて5分間インキュベートし、それに続いて0.1mlのクロロホルムを加え、および15秒間激しく振盪したことで混合した。混合物を2~3分間室温にてインキュベートし、4℃、12,000gで10分間遠心分離し、および次いで上清を新しいチューブに移した。等量のイソプロパノール(約0.25ml)をチューブへ加え、および室温にて10分間インキュベートしたことによって、RNAを沈殿させた。RNAペレットを、4℃、12,000gでの10分間の遠心分離によって確認し、0.5mlの75%エタノール中に再懸濁させ、4℃、7500gで5分間遠心分離し、および次いで上清を除去し、および、RNAペレットを5分間乾燥させた。次いで、DEPC(ジエチルピロカーボネート)を含有する0.05mlの水中にRNAペレットを溶解させ、再懸濁させ、および55℃の水浴中に10分間置いた。
【0084】
<1-5> mRNAシーケンシング
ライブラリ構築は、NEB Next Multiplex Small RNA Library Prep kit(New England BioLabs, Inc., USA)を使用して、正常対照群および早発卵巣不全患者群(ターナー症候群を原因とする早発卵巣不全の患者群とターナー症候群を原因としない早発卵巣不全の患者群の両方を含む)のRNAで行った。
【0085】
具体的には、ライブラリ構築にあたっては、各試料の全RNA1μgを使用したことでアダプターを連結させ、および次いで、アダプター特異的プライマーを用いた逆転写酵素を使用してcDNAを合成した。PCRを行ったことでライブラリを増幅させ、およびQIAquick PCR精製キット(Quaigen, Inc., German)およびAMPure XPビーズ(Beckmancoulter, Inc., USA)を使用してライブラリを整理した。
【0086】
高感度DNA分析のためにAgilent 2100 Bioanalyzer(Agilent Technologies, Inc., USA)で低分子RNAライブラリの収量およびサイズ分布を分析し、および、シングルエンド75シーケンシングを使用してNextSeq500システム(Illumina, SanDiego, CA, USA)でハイスループットシーケンシングを行った。
【0087】
<1-6> miRNA発現レベルの変化の分析
miRNAシーケンシングの結果として、発現レベルが異なる33種のmiRNAが選択された(倍率変化1.3、正規化2、有意性0.05)(表3)。
【0088】
【表3】
【0089】
選択されたmiRNAの分布をヒートマップとして描画することによって、階層的クラスタリング分析を行った。その結果として、早発卵巣不全の患者の群と正常対照群との間で異なるmiRNA遺伝子の発現特性が確認された(図4)。それらのうち、miR-4516の発現レベルは、早発卵巣不全の患者の群において有意に増大したことが確認された。選択された差次的発現遺伝子(DEG)の標的遺伝子の生物学的作用を確認するために、それらの分布を遺伝子カテゴリ別に調査した。結果は、選択されたmiRNAのほとんどが、子宮の胚発生、卵胞の発達、および胞状卵胞の成長に関与していたことを示しており、このすべてのプロセスは、POIの発症と密接に関連する(図5)。その他のカテゴリの場合については、早発卵巣不全との相関性に欠けるため、またはそれが最近発見されたmRNAであるため、それらはカテゴリに包含されないと考えられ、そのため相関性に関するデータは確保されていない。
【0090】
換言すれば、子宮の胚発生、卵胞の発達、および胞状卵胞の成長に関与する遺伝子に、発現レベルの変化が観察されており、これは、子宮内における胚および卵胞の発達および発育が低減することに起因する早発卵巣不全につながる。
【0091】
実験例2:選択されたmiRNAの検証および分析
<2-1> miRNAの検証のための検証コホートの選択
早発卵巣不全のない健常者を対照群として選択し、ならびに、早発卵巣不全患者のうち、ターナー症候群を原因としない早発卵巣不全の患者の群およびターナー症候群を原因とする早発卵巣不全の患者の群を実験群として選択した。
【0092】
早発卵巣不全の診断方法に従い、1か月よりも長い間隔で2回測定された血清卵胞刺激ホルモン(FSH)が40mIU/mL超である、慢性的な稀発排卵または無排卵の女性を、早発卵巣不全の患者と見なし、一方、月経周期が規則的で排卵が正常な女性を対照群として選択した。
【0093】
2020年6月から2021年7月まで、各群において、早発卵巣不全の患者15名、ターナー症候群を原因とする早発卵巣不全の患者11名、および健常者20名を選択し、および年齢、身長、体重、BMI等について分析した。結果は、下表(表1および2)に示される。
【0094】
【表5】
【表6】
【0095】
早発卵巣不全の患者はおよそ13または14歳で初潮を開始し、患者1および14は、ターナー症候群を原因とする早発卵巣不全の患者がそうであったのと同様に初潮がなかった。.これらの患者は少なくとも6か月間無月経症を有しており、および早発卵巣不全の原因の1つとして分析されるFMR-1遺伝子変異を有していなかった。このうち、患者8は核型が46,XXおよび47,XXXの核型を有していたが、しかしそれは早発卵巣不全の直接的な原因とは考えられなかったため、その患者はターナー症候群を原因としない早発卵巣不全の患者として分類された。ターナー症候群を原因とする早発卵巣不全の患者は原発性無月経を示し、および、FMR-1遺伝子における変異を有していなかった。これらの患者には、患者1、4および7のように、典型的な染色体数異常が45,Xのターナー症候群核型を有する者もいれば、一方、患者2、6および10のように、欠失などの染色体構造異常を伴うターナー症候群核型を有する者もいた。患者3、5、8、9および11は、染色体構造異常である46,X,iおよび45,Xのモザイク現象を示した。
【0096】
<2-2> エキソソームの単離
実験例2において選択された実験および対照群の対象から尿を採取した。採取した尿をまず2000gで10分間遠心分離したことで細胞および沈殿物を除去し、および次いで13,500gで20分間遠心分離した。その後、それを0.22μmのフィルターに通して濾過し、および遠心分離(2000g、30分)を使用して再度濃縮した。
【0097】
エキソソーム沈殿溶液(Exoquick-TC)を1:4の比率で混合し、および終夜4℃にてインキュベートした。翌日、インキュベートされた溶液を2000gで30分間遠心分離したことで、エキソソームペレットを単離した。単離されたペレットを再懸濁し、15分間ビーズと合わせ、および次いで8000gで5分間遠心分離したことで、エキソソームを含有する上清を得た。
【0098】
<2-3> エキソソームからのmiRNAの単離
TRIzol試薬(Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA, USA)を使用して、単離されたエキソソームからMiRNAを抽出した。
【0099】
具体的には、0.5mlのTRIzol試薬で処理したことによってエキソソームを溶解し、および室温にて5分間インキュベートし、それに続いて0.1mlのクロロホルムを加え、および15秒間激しく振盪したことで混合した。混合物を2~3分間室温にてインキュベートし、4℃、12,000gで10分間遠心分離し、および次いで上清を新しいチューブに移した。等量のイソプロパノール(約0.25ml)をチューブへ加え、および室温にて10分間インキュベートしたことによって、RNAを沈殿させた。RNAペレットを、4℃、12,000gでの10分間の遠心分離によって確認し、0.5mlの75%エタノール中に再懸濁させ、4℃、7500gで5分間遠心分離し、および次いで上清を除去し、および、RNAペレットを5分間乾燥させた。
【0100】
次いで、DEPCを含有する0.05mlの水中にRNAペレットを溶解させ、再懸濁させ、および55℃の水浴中に10分間置いた。
【0101】
<2-4> miRNA PCR検証および分析
<実験例2-3>において単離されたmiRNAの相対発現を、miRCURY LNA SYBR Green PCRキット(QIAGEN, Hilden, Germany)、および選択されたmiRNAに対するmiRCURY LNA miRNA PCRアッセイプライマー(QIAGEN, Hilden, Germany)を使用して分析した。
【0102】
PCRは、CFX384 C1000サーマルサイクラー(Bio-Rad, Hercules, CA, USA)を使用して、最初の熱活性化を95℃で2分間、それに続いて95℃で10秒間および56℃で60秒間の40サイクルにて、融解曲線分析のPCRサイクル条件で行った。
ここで使用したmiRNAの配列、および、各miRNAのPCRに使用したプライマーの情報は、表7に示される。
【0103】
【表7】
【0104】
このヒートマップおよび有意なプロットから、ターナー症候群を原因としない早発卵巣不全の患者の群においてまたはターナー症候群を原因とする早発卵巣不全の患者の群において大きく異なって発現していたか、あるいは2つの患者群の各々において均等に発現しているとものと見られた12種のmiRNAを選択した(表8)。
【0105】
【表8】
【0106】
シーケンシングコホートと検証コホートとの間の選択されたmiRNAの相対発現レベルの比較は、表9および10、ならびに図6および7に示される。表9は、ターナー症候群を原因としない早発卵巣不全患者の群および正常対照群における、シーケンシングコホートのmiRNAシーケンシング結果および検証コホートのqRT-PCR検証結果における発現変化を示す。検証分析のために選択された12種のmiRNAのうち、9種のmiRNA(miR-16-5p、miR-29a-3p、miR-30b-5p、miR-99b-3p、miR-151a-5p、miR-423-3p、miR-941、miR-4516およびmiR-7847-3p)は、ターナー症候群を原因としない早発卵巣不全の患者の群の検証コホートと、ターナー症候群を原因としない早発卵巣不全の患者の群のmiRNAシーケンシングコホートとで同じ発現パターンを示した(表9および図6)。
【0107】
【表9】
※倍率変化は正常対照群に対する比率で表している。加えて、miR-4516、miR-20a-5p、およびmiR-200b-3pの発現は、ターナー症候群を原因とする早発卵巣不全の患者の群のmiRNAシーケンシングコホートと検証コホートとで同じ発現パターンを示した(表10および図7)。
【0108】
【表10】
※倍率変化は正常対照群に対する比率で表している。
【0109】
その結果として、miR-4516は、ターナー症候群を原因としない早発卵巣不全およびターナー症候群を原因とする早発卵巣不全の両方の群において、正常対照群と比較して有意により高く発現した(図8)。
【0110】
一方、miR-29a-3pおよびmiR-30b-5pの発現は、ターナー症候群を原因としない早発卵巣不全の患者の群において減少し、および、ターナー症候群を原因とする早発卵巣不全の患者の群において増大することが確認された(図9および10)。
【0111】
これらの発現は、早発卵巣不全の患者およびターナー症候群の患者の群の間で異なっていたため、それらは早発卵巣不全の患者とターナー症候群の患者とを見分けるためのバイオマーカーとして使用することができる。
【0112】
したがって、miR-4516が増大し、かつmiR-29a-3pおよびmiR-30b-5pが減少していれば、その患者はターナー症候群を原因としない早発卵巣不全を有すると判断することができ、また、miR-4516が増大し、かつmiR-29a-3pおよびmiR-30b-5pもまた増大していれば、その患者はターナー症候群を原因とする早発卵巣不全を有すると判断することができる。
【0113】
実験例3:早発卵巣不全マウスモデルにおけるmiR-4516の発現の増大の確認
<3-1> miRNA確認のための早発卵巣不全マウスモデルの確立
8週齢の雌の特定病原体を含まない(SPF)グレードのC57B6L/Nマウスを、Orient Bio Inc.(Seongnam, Korea)から得た。マウスを制御された温度(20~22℃)および光(12/12時間の明/暗サイクル)で維持し、水および餌を自由に入手できるようにした。動物を、2つの群:対照(n=7)およびCTX+BUS-POI(n=7)へとランダムに分け、および3回の独立した実験を行った。早発卵巣不全を誘発するため、マウスに120mg/kgのCTX(シクロホスファミド)および12mg/kgのBUS(ブスルファン)を週3回2週間、腹腔内注射し、対照群として生理食塩水を注射した。この研究におけるすべての実験手順および維持および管理は、Gachon University Lee Gil-Yeoがんおよび糖尿病研究所の動物管理および使用センター(Animal Care and Use Center)、および実験動物管理および使用委員会(IACUC)(受託番号:LCDI-2021-0121)に従って実施した。CTX(C0768)およびBUS(B2635)は、Sigma-Aldrich(St. Louis, MO, USA)から購入した。
【0114】
<3-2> 早発卵巣不全マウスモデルの卵巣のヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)染色およびシリウスレッド染色
卵巣組織を4%パラホルムアルデヒド中で終夜固定し、脱水し、パラフィンに包埋し、および厚さ5μmの切片に切った。5番目の切片を脱ワックスし、再水和し、および、顕微鏡観察のためにヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)またはシリウスレッドで染色した。H&E染色は、核をヘマトキシリンで、および細胞質をエオシンで染色する。シリウスレッド染色を行ったことで、卵巣組織中のコラーゲン線維を確認した。H&E染色およびシリウスレッド染色画像は、Motic Easyscan Digital Slide デジタルスライドスキャナ(Motic Hong Kong Limited, Hong Kong, China)を使用してランダムにキャプチャした。
【0115】
<3-3> 早発卵巣不全マウスモデルの卵巣のTUNELアッセイおよびKi67免疫組織化学
卵巣組織におけるアポトーシスを、製造元の指示に従ってDeadEnd(商標) Fluorometric TUNEL System(G3250, Promega, Fitchburg, WI, USA)を使用して確認した。DAPI(4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール、Vector Lab)で蛍光のためのマウント媒体を調製した後、Olympus CKX3-Houn顕微鏡(Olympus, Tokyo, Japan)を使用してスライドを検査した。Ki67免疫組織化学を完了させるため、切片を0.01 Mクエン酸緩衝液(pH 6.0)中でインキュベートし、脱パラフィン処理および再水和し、および次いで強力なマイクロ波照射を30分間適用することによって抗原回復を行った。内因性ペルオキシダーゼ活性を3%H2O2で10分間阻害し、および非特異的結合を10%正常ヤギ血清で1時間ブロックした。切片を、Ki-67一次抗体(1:200;ab16667Abcam, UK)で4℃にて24時間処置した。ジアミノベンジジン(DAB)を使用して抗原を可視化した。最後に、スライドを脱水し、ヘマトキシリンで対比染色し、およびマウントした。Ki67免疫組織化学画像は、Motic Easyscanデジタルスライドスキャナ(Motic Hong Kong Limited, Hong Kong, China)を使用してランダムにキャプチャした。
【0116】
<3-4> マウスの卵巣および子宮からのmiRNAの単離
全RNAを、製造元の指示に従ってTRIzol試薬(15596026、Thermo Fisher Scientific)を使用して卵巣および子宮から抽出した。具体的には、組織を粉砕し、および0.5mlのTRIzol試薬で処理して溶解し、および室温にて5分間インキュベートし、それに続いて0.1mlのクロロホルムを加え、および15秒間激しく振盪したことで混合した。混合物を室温にて2~3分間インキュベートし、4℃、12,000gで10分間遠心分離し、および上清を新しいチューブに移した。等量のイソプロパノール(約0.25ml)を加え、および室温にて10分間インキュベートすることによって、RNAを沈殿させた。混合物を4℃、12,000gで10分間遠心分離したことでRNAペレットを確認し、0.5mlの75%エタノール中に再懸濁させ、および4℃、7500gで5分間遠心分離した。上清を除去し、およびRNAペレットを5分間乾燥させた。次いで、DEPC(ジエチルピロカーボネート)を含有する0.05mlの水中にRNAペレットを溶解させ、再懸濁させ、および55℃の水浴中で10分間インキュベートした。
【0117】
<3-5> miRNA PCR検証および分析
<実験例3-4>において単離されたmiRNAの相対発現を、miRCURY LNA SYBR Green PCRキット(QIAGEN, Hilden, Germany)、および選択されたmiRNAに対するmiRCURY LNA miRNA PCRアッセイプライマー(QIAGEN, Hilden, Germany)を使用して分析した。miRCURY LNA RT キット(339340, QIAGEN, Maryland, Germany)を使用したことで、20μLの反応体積においてUniSp6 RNA spike-in(QIAGEN, Germany)を含有する10x miRCURY RT Enzyme Mix(QIAGEN、ドイツ)を使用して5ngの全RNAからcDNAを合成した。定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(qRT-PCR)は、CFX384 C1000 Thermal Cycler(Bio-Rad, Hercules, CA, USA)を2x miRCURY SYBER Green Master Mix(QIAGEN)とともに使用して行った。発現レベルを、UniSp6に対する相対発現として分析した(Kinoshita et al., 2017)。本研究で使用したmiRCURY LNA miRNA SYBR Green PCRプライマーは、表7に示される。
【0118】
PCRは、CFX384 C1000サーマルサイクラー(Bio-Rad, Hercules, CA, USA)を使用して、最初の熱活性化を95℃で2分間、それに続いて95℃で10秒間および56℃で60秒間の40サイクルにて、融解曲線分析のPCRサイクル条件で行った。
【0119】
<3-6> 早発卵巣不全マウスモデルにおけるタンパク質の発現分析
マウス卵巣中のタンパク質は、プロテアーゼ(Roche, Mannheim, Germany)およびホスファターゼインヒビター(Roche)を添加したT-PER組織タンパク質抽出試薬を使用して抽出した。卵巣組織(30mg)を、TissueLyser II(Qiagen, Hilden, Germany)を使用した抽出バッファー中で1~2分間30Hzにてホモジナイズした。ライセートを13,000xgで4℃にて10分間遠心分離したことで、デブリを除去した。上清をドデシル硫酸ナトリウム試料緩衝液と混合し、および5分間煮沸した。タンパク質をSDS-ポリアクリルアミドゲル上で電気泳動させ、および次いでポリフッ化ビニリデン膜(Millipore, Billerica, MA, USA)へ転写した。膜を、製造元の指示に従って一次抗体とインキュベートした。HRP(西洋ワサビペルオキシダーゼ)共役二次抗体を、イモビロンウェスタン化学発光HRP基質(Millipore)を使用して検出した。ウェスタンブロットのバンド強度は、ImageJソフトウェアを使用したデンシトメトリーによって定量化した。
【0120】
miR-4516を早発卵巣不全バイオマーカーとして評価するため、本発明者らは、マウスにCTXおよびBUSを注射することにより、化学療法誘発性早発卵巣不全のマウスモデルを確立した。早発卵巣不全マウスモデルにおいては、明らかな死亡または毒性は見られなかったが、しかし、卵巣のサイズは、生理食塩水注射対照群マウスにおけるよりも小さかった(図11aおよび11b)。生理食塩水注射対照群マウスと比較して、早発卵巣不全群マウスでは、卵胞数の有意な減少、および閉鎖卵胞/全卵胞の比率の増大があった(図12a~12c)。また、コラーゲンの沈着を示すシリウスレッド染色の増大もあったことから、組織線維化が進行していることが示唆された(図13)。
【0121】
加えて、TUNEL陽性細胞は、早発卵巣不全群において有意に増大しており(図14aおよび14b)、一方、Ki67陽性細胞は減少した(図15)。これらの結果から、早発卵巣不全マウスモデルが化学療法によって成功裏に確立されたことが確認された。次に、本発明者らは、化学療法誘発性早発卵巣不全マウスモデルの卵巣におけるmiR-4516の発現を確認した。図16aおよび図16bに示されるとおり、miR-4516の発現は、早発卵巣不全マウスモデルの卵巣において対照群と比較して有意に増大したが、子宮においてはそうではなかった。これらの結果は、miR-4516の発現の増大が卵巣における病理学的変化と関連していることを示している。
【0122】
miR-4516の過剰発現の病理学的関連性を解釈するために、本発明者らは、実験的に検証されたmiRNA-標的相互作用データベースであるmiRTarBase2020を使用して(Huang et al., 2020)、miR-4516の標的を分析した。この分析方法により、STAT3がmiR-4516の標的であることが実験的証拠とともに確認された(図17)。STAT3の3'-UTR領域は、2つの推定上のmiR-4516結合部位を含有する(Chowdhari and Saini, 2014)(図17)。
【0123】
この相互作用の予測と一致して、化学療法誘発性早発卵巣不全マウスモデルの卵巣においては、アポトーシスマーカーBaxおよびp53の発現が増大したとともに、STAT3タンパク質発現が有意に低減した(図18a~18d)。これらの結果は、miR-4516の増大が、STAT3発現の減少とともにPOI病理と密接に関連していることを示唆している。miR-4516によるSTAT3発現の調節は、細胞死、卵子成熟、および始原細胞の活性化に関与していると考えられている(図19)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図12A
図12B
図12C
図13
図14A
図14B
図15
図16A
図16B
図17
図18A
図18B
図18C
図18D
図19
【配列表】
2024537834000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2024-09-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
miR-4516、miR-29a-3p、およびmiR-30b-5pからなる群から選択される1種以上のmiRNAの発現レベルを測定することができる薬剤を包含する、早発卵巣不全(POI)を診断するための組成物。
【請求項2】
miR-4516、miR-29a-3p、およびmiR-30b-5pからなる群から選択される1種以上のmiRNAの発現レベルを測定することができる薬剤を包含する、ターナー症候群を原因とする早発卵巣不全(POI)を診断するための組成物。
【請求項3】
薬剤が、miRNAの核酸配列と同一または相補的なポリヌクレオチドを含有する核酸である、請求項1または2に記載の診断用組成物。
【請求項4】
核酸が、プライマーまたはプローブである、請求項3に記載の診断用組成物。
【請求項5】
miRNAが、生体試料から単離されたエキソソームから得られるRNAである、請求項1または2に記載の診断用組成物。
【請求項6】
生体試料が、細胞培養上清、全血、血清、血漿、腹水、脳脊髄液、骨髄穿刺液、気管支肺胞洗浄液、尿、膣液、粘液、唾液、喀痰、または、生体試料から精製されたライセートである、請求項5に記載の診断用組成物。
【請求項7】
請求項1に記載の診断用組成物を含む、早発卵巣不全を診断するためのキット。
【請求項8】
請求項2に記載の診断用組成物を含む、ターナー症候群を原因とする早発卵巣不全を診断するためのキット。
【請求項9】
以下のステップ:
1)個体から生体試料を採取し、試料からエキソソームを分離し、およびエキソソームからRNAを単離するステップ;ならびに
2)単離されたRNAにおいてmiR-4516、miR-29a-3p、およびmiR-30b-5pからなる群から選択される1種以上のmiRNAの発現レベルを測定し、およびその発現レベルを正常対照群における遺伝子の発現レベルと比較するステップ
を含む、早発卵巣不全を診断するための情報を提供するための方法。
【請求項10】
miR-4516の発現レベルが正常対照群と比較して増大しているとき、またはmiR-29a-3pもしくはmiR-30b-5pの発現レベルが正常対照群と比較して減少しているとき、個体は早発卵巣不全のリスクが高いと決定される、請求項9に記載の早発卵巣不全を診断するための情報を提供するための方法。
【請求項11】
miR-29a-3pまたはmiR-30b-5pの発現レベルが正常対照群と比較して増大しているとき、個体はターナー症候群を原因とする早発卵巣不全を有するものであると決定される、請求項9に記載の早発卵巣不全を診断するための情報を提供するための方法。
【請求項12】
以下のステップ:
1)in vitroで、miR-4516、miR-29a-3p、およびmiR-30b-5pからなる群から選択される1種以上のmiRNAをコードする塩基配列を有する細胞に被験物質を処置するステップ;ならびに
2)被験物質で処置された単離された細胞においてmiRNAの発現を分析し、および、miRNAの発現パターンを、被験物質で処置されていない単離された対照細胞におけるmiRNAの発現パターンと比較するステップ
を含む、早発卵巣不全に対する治療剤をスクリーニングするための方法。
【請求項13】
以下のステップ:
1)in vitroで、miR-4516、miR-29a-3p、およびmiR-30b-5pからなる群から選択される1種以上のmiRNAをコードする塩基配列を有する細胞に被験物質を処置するステップ;ならびに
2)被験物質で処置された単離された細胞においてmiRNAの発現を分析し、および、miRNAの発現パターンを、被験物質で処置されていない単離された対照細胞におけるmiRNAの発現パターンと比較するステップ
を含む、ターナー症候群を原因とする早発卵巣不全に対する治療剤をスクリーニングするための方法。
【国際調査報告】