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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-16
(54)【発明の名称】アキシチニブのプロドラッグ
(51)【国際特許分類】
   C07D 401/06 20060101AFI20241008BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20241008BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241008BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20241008BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20241008BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20241008BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20241008BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20241008BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241008BHJP
   A61K 31/4439 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
C07D401/06 CSP
A61P13/12
A61P35/00
A61P27/02
A61K9/06
A61K47/10
A61K9/20
A61K9/08
A61P43/00 123
A61K31/4439
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024519989
(86)(22)【出願日】2022-10-14
(85)【翻訳文提出日】2024-04-02
(86)【国際出願番号】 US2022046750
(87)【国際公開番号】W WO2023064578
(87)【国際公開日】2023-04-20
(31)【優先権主張番号】63/255,998
(32)【優先日】2021-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521465348
【氏名又は名称】オキュラ セラピューティクス,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 共永
(72)【発明者】
【氏名】ジャレット,ピーター
(72)【発明者】
【氏名】エル-ハイエク,ラミ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA06
4C076AA09
4C076AA11
4C076AA22
4C076AA36
4C076BB01
4C076BB11
4C076BB24
4C076BB32
4C076CC10
4C076CC16
4C076CC27
4C076CC42
4C076EE23
4C076FF31
4C076FF33
4C076FF67
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086BC37
4C086GA07
4C086GA08
4C086MA01
4C086MA05
4C086MA17
4C086MA23
4C086MA28
4C086MA34
4C086MA35
4C086MA52
4C086MA58
4C086MA66
4C086MA67
4C086NA02
4C086NA06
4C086NA12
4C086NA13
4C086NA15
4C086ZA33
4C086ZA66
4C086ZB26
4C086ZC20
4C086ZC41
(57)【要約】
特定の実施形態では、本発明は、式Iの化合物:
【化1】
(式中、
は、NまたはNから選択され、Xは、NHまたはNYから選択され、Xは、NHまたはNYから選択され、Yは、-CHOCO(OCHCH)nOMまたは-CHOCO(CH)n1aCOOHから選択され、Yは、-CHOCO(OCHCH)nOMまたは-CHOCO(CH)n2aCOOHから選択され、Yは、-CHOCO(OCHCH)nOMまたは-CHOCO(CH)n3aCOOHから選択され、n、n1a2a、n及びn3aは、独立して0または1~8の整数であり、M、M及びMは、独立して、H、置換され得るC1-6アルキル及び置換され得るアリールから選択され、X、X及びXの少なくとも1つは、NまたはNHではない)、及びその薬学的に許容される塩に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Iの化合物:
【化1】
(式中、
は、NまたはNから選択され、
は、NHまたはNYから選択され、
は、NHまたはNYから選択され、
は、-CHOCO(OCHCH)nOMまたは-CHOCO(CH)n1aCOOHから選択され、
は、-CHOCO(OCHCH)nOMまたは-CHOCO(CH)n2aCOOHから選択され、
は、-CHOCO(OCHCH)nOMまたは-CHOCO(CH)n3aCOOHから選択され、
、n1a、n2a、n及びn3aは、独立して0または1~8の整数であり、
、M及びMは、独立して、H、置換され得るC1-6アルキル及び置換され得るアリールから選択され、
、X及びXの少なくとも1つは、NまたはNHではない)、
及びその薬学的に許容される塩。
【請求項2】
は、Nであり、
は、NHであり、
は、NHであり、
は、-CHOCO(OCHCH)nOCHである、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
は、Nであり、
は、NYであり、
は、NHであり、
は、-CHOCO(CH)nCOOHである、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
は、Nであり、
は、NHであり、
は、NYであり、
は、-CHOCO(CH)nCOOHである、請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
は、Nであり、
は、NYであり、
は、NYであり、
及びYはそれぞれ、-CHOCO(CH)nCOOHである、請求項1に記載の化合物。
【請求項6】
は、Nであり、
は、NYであり、
は、NHであり、
は、-CHOCO(OCHCH)nOCHであり、
は、-CHOCO(CH)nCOOHである、請求項1に記載の化合物。
【請求項7】
は、Nであり、
は、NHであり、
は、NYであり、
は、-CHOCO(OCHCH)nOCHであり、
は、-CHOCO(CH)nCOOHである、請求項1に記載の化合物。
【請求項8】
は、Nであり、
は、NYであり、
は、NYであり、
は、-CHOCO(OCHCH)nOCHであり、
及びYはそれぞれ、-CHOCO(CH)nCOOHである、請求項1に記載の化合物。
【請求項9】
が2である、先行請求項のいずれかに記載の化合物。
【請求項10】
が2である、先行請求項のいずれかに記載の化合物。
【請求項11】
が2である、先行請求項のいずれかに記載の化合物。
【請求項12】
1aが2である、先行請求項のいずれかに記載の化合物。
【請求項13】
2aが2である、先行請求項のいずれかに記載の化合物。
【請求項14】
式Iの化合物及び薬学的に許容される賦形剤を含む、先行請求項のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項15】
経口固形剤形の形態である、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
錠剤の形態である、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
眼用製剤の形態である、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項18】
インプラント、注射剤、溶液、懸濁液または軟膏の形態である、請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項19】
先行請求項のいずれかに記載の化合物または医薬組成物を投与することを含む、疾患または症状を治療する方法。
【請求項20】
前記疾患または症状が進行性腎細胞癌である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記疾患または症状が眼の疾患または症状である、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記眼の疾患または症状が、糖尿病性網膜症、AMD、DME、またはRVOである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
式Iの前記化合物がインビボで式IIの化合物
【化2】
に変換される、先行請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
先行請求項のいずれかに記載の化合物または医薬組成物を投与することを含む、アキシチニブ療法により疾患または症状を治療する方法。
【請求項25】
請求項1~13のいずれかに記載の化合物を含むヒドロゲル。
【請求項26】
請求項1~13のいずれかに記載の化合物を含むキセロゲル。
【請求項27】
式IIの前記化合物にインビボで変換可能な、式IIの前記化合物よりも親水性の高い化合物。
【請求項28】
ポリエチレングリコール化合物をさらに含む、請求項25に記載のヒドロゲル。
【請求項29】
ポリエチレングリコール化合物をさらに含む、請求項26に記載のキセロゲル。
【請求項30】
アキシチニブ-N-スクシノイルオキシメチルである、請求項1に記載の化合物。
【請求項31】
アキシチニブ-N-スクシノイルオキシメチルを含む、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項32】
前記化合物がアキシチニブ-N-スクシノイルオキシメチルである、請求項19に記載の方法。
【請求項33】
治療方法において使用するための、先行請求項のいずれかに記載の化合物または医薬組成物。
【請求項34】
治療方法のための薬剤の製造における使用のための先行請求項のいずれかに記載の化合物または医薬組成物の使用。
【請求項35】
進行性腎細胞癌に使用される、請求項33に記載の化合物または医薬組成物。
【請求項36】
眼の疾患または症状に使用される、請求項33に記載の化合物または医薬組成物。
【請求項37】
前記眼の疾患または症状がAMD、DME、またはRVOである、請求項33に記載の化合物または医薬組成物。
【請求項38】
前記治療方法が進行性腎細胞癌に対するものである、請求項34に記載の使用。
【請求項39】
前記治療方法が眼の疾患または症状に対するものである、請求項34に記載の使用。
【請求項40】
前記眼の疾患または症状が、AMD、DME、またはRVOである、請求項34に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、アキシチニブのプロドラッグ、本明細書に開示されるアキシチニブプロドラッグを含む医薬組成物、及び対応する治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チロシンキナーゼ阻害剤は、チロシンプロテインキナーゼのファミリーである受容体チロシンキナーゼ(RTK)のシグナル伝達を阻害する化学療法薬として開発された。RTKは、細胞内(内部)部分と細胞外(外部)部分で細胞膜に広がる。リガンドが細胞外部分に結合すると、受容体チロシンキナーゼは、二量体化し、補酵素メッセンジャーであるアデノシン三リン酸(ATP)を使用した自己リン酸化によって駆動される細胞内シグナル伝達カスケードを開始する。RTKリガンドの多くは、VEGFなどの成長因子である。VEGFは、VEGF受容体(VEGFR)タイプ、すなわちVEGFR1ー3(すべてのRTK)に結合し、それによって血管新生を誘導するタンパク質のファミリーに関連する。VEGFR2に結合するVEGF-Aは、上記の抗VEGF薬のターゲットである。VEGFR1-3に加えて、他のいくつかのRTKは、血管新生を誘導することが知られ、例えば、PDGFによって活性化される血小板由来成長因子受容体(PDGFR)や幹細胞因子によって活性化される幹細胞成長因子受容体/III型受容体チロシンキナーゼ(c-Kit)である。
【0003】
TKIアキシチニブは、他の薬剤で治療が奏功しなかった患者の進行性腎細胞癌(RCC、腎臓の細胞で始まるがんの一種)を治療するために単独で使用される。アキシチニブは、進行性腎細胞癌を治療するためにアベルマブまたはペムブロリズマブと組み合わせて使用される。
【0004】
いくつかのTKIは、加齢黄斑変性症(AMD)の治療薬として、点眼投与のパゾパニブ(GlaxoSmithKline:NCT00463320)、レゴラフェニブ(Bayer:NCT02348359)、及びPAN90806(PanOptica:NCT02022540)、ならびに経口TKIであるX-82(Tyrogenex;NCT01674569、NCT02348359)を含むさまざまな投与経路で評価されている。しかし、局所点眼薬では、水溶性が低い傾向にあるTKIの溶液濃度が低く、眼表面でのTKIの滞留時間が短いため、硝子体への浸透が悪く、網膜への分布も限られる。さらに、局所投与時の薬物濃度は、洗い流しや使用者のミスのため、制御しにくい。さらに、眼内、特に所望の組織において薬物の有効濃度を達成することには高用量が必要であるため、TKIの全身投与は、現実的ではない。これにより、高い全身曝露量による許容できない副作用が生じる。さらに、薬物濃度は、制御しにくい。あるいは、TKI懸濁液の硝子体内注射が行われている。しかし、この投与方法では、薬物のクリアランスが急速に進むため、毎日または少なくとも毎月など、注射を頻繁に繰り返す必要がある。さらに、いくつかのTKIは、難溶性であるため、硝子体内注射時に凝集体が形成され、網膜上に移動または沈着して局所接触毒性、または黄斑孔や網膜孔などの孔を引き起こす可能性がある。
【0005】
したがって、本分野では、TKI療法で、腎細胞癌及び眼疾患(AMD、糖尿病黄斑浮腫(DME)及び網膜静脈閉塞症(RVO)など)などの疾患を治療するための新規化合物、医薬組成物及び治療方法が必要とされる。
【0006】
本明細書に引用されるすべての参考文献は、参照によりその全体がすべての目的のために組み込まれる。
【発明の概要】
【0007】
本発明の特定の実施形態の目的は、疾患または症状の治療のための化合物を提供することである。
【0008】
本発明の特定の実施形態の目的は、本明細書に開示される化合物を含む医薬組成物を提供することである。
【0009】
本発明の特定の実施形態の目的は、本明細書に開示される化合物及び医薬組成物を用いた治療方法を提供することである。
【0010】
本発明の特定の実施形態の目的は、本明細書に開示される化合物及び医薬組成物を調製する方法を提供することである。
【0011】
本発明の特定の実施形態の目的は、アキシチニブよりも可溶性が、例えば、少なくとも2倍、10倍、25倍、50倍、75倍、100倍、150倍、200倍、250倍、500倍もしくは1000倍高いか、または、例えば、2~200倍、10~100倍、もしくは50~約150倍という値のいずれかの範囲で高いアキシチニブプロドラッグを提供することである。
【0012】
本発明の特定の実施形態の目的は、ヒドロゲルまたはオルガノゲル剤形中に本明細書に開示されるプロドラッグを組み込むことを含む、ヒドロゲルまたはオルガノゲルからの活性薬剤の放出を調節する方法を提供することである。
【0013】
本発明の特定の実施形態の目的は、アキシチニブ療法により疾患または症状を治療するためのアキシチニブのプロドラッグを提供することである。
【0014】
本発明の特定の実施形態の目的は、プロドラッグを局所組織に持続送達してそこで酵素的にアキシチニブに変換するインプラントを形成するために、ヒドロゲルまたはキセロゲル(インビボでヒドロゲルに変換される)マトリックス中にアキシチニブのプロドラッグを提供することである。プロドラッグの溶解度の増加は、より疎水性の高い活性薬物形態であるアキシチニブと比較して、ヒドロゲルインプラントからの薬物の放出を速めるように機能する。
【0015】
特定の実施形態では、本発明は、式Iの化合物:

【化1】
(式中、
は、NまたはNから選択され、
は、NHまたはNYから選択され、
は、NHまたはNYから選択され、
は、-CHOCO(OCHCH)nOMまたは-CHOCO(CH)n1aCOOHから選択され、
は、-CHOCO(OCHCH)nOMまたは-CHOCO(CH)n2aCOOHから選択され、
は、-CHOCO(OCHCH)nOMまたは-CHOCO(CH)n3aCOOHから選択され、
、n1a、n2a、n及びn3aは、独立して0または1~8の整数であり、
、M及びMは、独立して、H、置換され得るC1-6アルキル及び置換され得るアリールから選択され、
、X及びXの少なくとも1つは、NまたはNHではない)、
及びその薬学的に許容される塩に関する。
【0016】
他の実施形態では、Y、Y及びYは、独立して、-(CH)zOCO(O(CH)z)nOMまたは-(CH)zOCO(CH)qCOOHから選択され、Z及びZは、独立して、1~4の整数から選択され、qは、独立して、0~4の整数から選択される。
【0017】
本明細書で使用する「徐放性、生分解性薬物送達システム」という用語は、活性薬剤を含み、かつ活性薬剤を周囲環境に放出しながら一定期間そのまま留まる患者の体内に、例えば、インプラントとして投与されるものを指す。薬物送達システムは、挿入または投与前に、任意の所定の形状(例えば、棒状、球状、扁球状、楕円体状、円盤状、管状、半球状、または不規則な形状)であってもよく、システムの寸法(例えば、長さ及び/または直径)が本明細書においてさらに開示されるように水和及び/または生分解により投与後に変化し得るが、この形状は、システムを所望の場所に配置する際にある程度維持され得る。薬物送達システムは、(以下に開示するように)時間の経過とともに生分解性となるように設計することができ、したがって、それによって軟化し、形状が変化し、及び/またはサイズが小さくなり、最終的には溶解または崩壊のいずれかによって排除される可能性がある。
【0018】
「生分解性」という用語は、インビボで、すなわち人体もしくは動物の体内に置かれた場合、またはインビトロで、37℃でpH7.2~7.4のような生理的条件下で水溶液に浸漬された場合に分解される材料または物体(本発明による薬物送達システムなど)を指す。本発明の文脈では、本明細書で以下に詳細に開示するように、活性薬剤が含まれるオルガノゲルを含む薬物送達システムは、ヒトまたは動物の体内に投与または沈着されると、経時的にゆっくりと生分解する。特定の実施形態では、生分解は、少なくとも部分的に、体内の水性環境におけるエステル加水分解によって行われる。生分解は、共有結合架橋及び/またはポリマーユニット内の加水分解または酵素的切断によって行う可能性がある。薬物送達システムは、ゆっくりと軟化して崩壊し、その結果、生理学的経路を介してクリアランスされる。特定の実施形態では、本発明のオルガノゲルは、長期間(例えば、約1ヶ月、3ヶ月または6ヶ月)にわたってその形状を保持する。特定の実施形態では、形状は、オルガノゲルを形成するポリマー成分の共有結合架橋により、例えば、活性薬剤または少なくともその主要量(例えば、少なくとも50%、少なくとも75%または少なくとも90%)が放出されるまで維持される。
【0019】
本発明における「オルガノゲル」は、本明細書に開示される疎水性有機液体を含む、1つ以上の親水性または疎水性の天然または合成ポリマー(本明細書に開示される)の共有結合で架橋された三次元ネットワークを形成する固体または半固体系である。したがって、本発明において、「オルガノゲル」は、オルガノゲル化分子間の分子間相互作用が、架橋を誘導する化学反応によるゲル化中に形成される化学結合(例えば、共有結合)であるいわゆる化学オルガノゲルに限定される。本明細書で使用される「オルガノゲル」とは、疎水性有機液体及び場合により有機溶媒の存在下で互いに共有結合的に架橋され、共有結合で架橋されたポリマーネットワーク内に含まれる疎水性有機液体を含む、少なくとも2つの前駆体/ゲル化剤/前駆体の三次元ポリマーネットワークを指す。
【0020】
「ポリマーネットワーク」という用語は、互いに共有結合で架橋されたポリマー鎖(分子構造が同じまたは異なり、分子量が同じまたは異なる)から形成された構造を表したものである。本発明の目的に適したポリマーのタイプについて本明細書の以下に開示する。「ポリマーネットワーク」という用語は、「マトリックス」という用語と互換的に使用される。
【0021】
本開示の目的のために、それ自体として、または別の基の一部として使用する「アルキル」という用語は、1~12個の炭素原子(すなわち、C1~12アルキル)または指定された数の炭素原子(すなわち、メチルなどのCアルキル、エチルなどのCアルキル、プロピルもしくはイソプロピルなどのCアルキルなど)を含有する直鎖または分岐鎖脂肪族炭化水素を指す。一実施形態において、アルキル基は、直鎖C1~10アルキル基から選択される。別の実施形態において、アルキル基は、分岐鎖C1~10アルキル基から選択される。別の実施形態において、アルキル基は、直鎖C1~6アルキル基から選択される。別の実施形態において、アルキル基は、分岐鎖C1~6アルキル基から選択される。別の実施形態において、アルキル基は、直鎖C1~4アルキル基から選択される。別の実施形態において、アルキル基は、分岐鎖C1~4アルキル基から選択される。別の実施形態において、アルキル基は、直鎖または分岐鎖C2~4アルキル基から選択される。非限定の例示的なC1~10アルキル基は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、イソ-ブチル、3-ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシルなどを含む。非限定の例示的なC1~4アルキル基には、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、及びイソ-ブチルが含まれる。
【0022】
本開示の目的のために、それ自体として、または別の基の一部として使用する「置換され得るアルキル」という用語は、以上に定義されるアルキルが、非置換されないこと、またはニトロ、ハロアルコキシ、アリールオキシ、アラルキルオキシ、アルキルチオ、スルホンアミド、アルキルカルボニル、アリールカルボニル、アルキルスルホニル、アリールスルホニル、ウレイド、グアニジノ、カルボキシ、カルボキシアルキル、シクロアルキルなどから独立して選択される1つ、2つまたは3つの置換基で置換されることのいずれかを意味する。一実施形態において、置換され得るアルキルは、2つの置換基で置換される。別の実施形態において、置換され得るアルキルは、1つの置換基で置換される。非限定の例示的な置換され得るアルキル基は、-CHCHNO、-CHCHCOH、-CHCHSOCH、-CHCHCOPh、-CH11などを含む。
【0023】
本開示の目的のために、それ自体として、または別の基の一部として使用する「アリール」という用語は、6~14個の炭素原子を有する単環式または二環式芳香族環系(すなわち、C6~14アリール)を指す。非限定の例示的なアリール基は、フェニル(「Ph」として略称され)、ナフチル基、フェナントリル基、アントラシル基、インデニル基、アズレニル基、ビフェニル基、ビフェニルエニル基、及びフルオレニル基を含む。一実施形態において、アリール基は、フェニルまたはナフチルから選択される。
【0024】
本開示の目的のために、本明細書で使用するとき、それ自体として、または別の基の一部として使用する「置換され得るアリール」という用語は、、以上に定義されるアリールが、置換されないこと、またはハロ、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、ハロアルキル、ヒドロキシアルキル、アルコキシ、ハロアルコキシ、アリールオキシ、アラルキルオキシ、アルキルチオ、カルボキシアミド、スルホンアミド、アルキルカルボニル、アリールカルボニル、アルキルスルホニル、アリールスルホニル、ウレイド、グアニジノ、カルボキシ、カルボキシアルキル、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロシクロ、アルコキシアルキル、(アミノ)アルキル、ヒドロキシアルキルアミノ、(アルキルアミノ)アルキル、(ジアルキルアミノ)アルキル、(シアノ)アルキル、(カルボキシアミド)アルキル、メルカプトアルキル、(ヘテロシクロ)アルキル、もしくは(ヘテロアリール)アルキルから独立して選択される1~5つの置換基で置換されるかのいずれかであることのいずれかを意味する。一実施形態において、置換され得るアリールは、置換され得るフェニルである。一実施形態において、置換され得るフェニルは、4つの置換基を有する。別の実施形態において、置換され得るフェニルは、3つの置換基を有する。別の実施形態において、置換され得るフェニルは、2つの置換基を有する。別の実施形態において、置換され得るフェニルは、1つの置換基を有する。非限定の例示的な置換アリール基は、2-メチルフェニル、2-メトキシフェニル、2-フルオロフェニル、2-クロロフェニル、2-ブロモフェニル、3-メチルフェニル、3-メトキシフェニル、3-フルオロフェニル、3-クロロフェニル、4-メチルフェニル、4-エチルフェニル、4-メトキシフェニル、4-フルオロフェニル、4-クロロフェニル、2,6-ジ-フルオロフェニル、2,6-ジ-クロロフェニル、2-メチル、3-メトキシフェニル、2-エチル、3-メトキシフェニル、3,4-ジ-メトキシフェニル、3,5-ジ-フルオロフェニル、3,5-ジ-メチルフェニル、3,5-ジメトキシ、4-メチルフェニル、2-フルオロ-3-クロロフェニル、及び3-クロロ-4-フルオロフェニルを含む。置換され得るアリールという用語は、置換され得る縮合シクロアルキル、及び置換され得る縮合ヘテロシクロ環を有する基を含むことを意味する。例としては、以下を含む。
【化2】
【0025】
本明細書で使用される「薬学的に許容される塩」という用語は、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩などの無機酸塩と、ギ酸塩、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩などの有機酸塩と、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩などのスルホン酸塩と、ナトリウム塩、カリウム塩、セシウム塩などの金属塩と、カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属と、トリエチルアミン塩、ピリジン塩、ピコリン塩、エタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、N,N′-ジベンジルエチレンジアミン塩などの有機アミン塩とを含むことができるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、治療有効薬剤は、遊離塩基である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】実施例1のプロドラッグの合成スキームを示す。
図2】実施例1の1H-NMRを示す。
図3】実施例1のLCMSを示す。
図4】実施例1のLCMSを示す。
図5】実施例1のHPLCを示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
特定の実施形態では、本発明は、式IIの化合物にインビボで変換可能な、式IIの化合物よりも親水性の高い化合物に関する。
【0028】
特定の実施形態では、式Iの化合物は、インビボで式IIの化合物(アキシチニブ)に変換される。
【化3】
【0029】
特定の実施形態では、本発明は、式Iの化合物:
【化4】
(式中、
は、NまたはNから選択され、
は、NHまたはNYから選択され、
は、NHまたはNYから選択され、
は、-CHOCO(OCHCH)nOMまたは-CHOCO(CH)n1aCOOHから選択され、
は、-CHOCO(OCHCH)nOMまたは-CHOCO(CH)n2aCOOHから選択され、
は、-CHOCO(OCHCH)nOMまたは-CHOCO(CH)n3aCOOHから選択され、
、n1a、n2a、n及びn3aは、独立して0または1~8の整数であり、
、M及びMは、独立して、H、置換され得るC1-6アルキル及び置換され得るアリールから選択され、
、X及びXの少なくとも1つは、NまたはNHではない)、
及びその薬学的に許容される塩に関する。
【0030】
特定の実施形態では、本発明は、式Iの化合物に関し、式中、
は、Nであり、
は、NHであり、
は、NHであり、
は、-CHOCO(OCHCH)nOCHである。
【0031】
特定の実施形態では、本発明は、式Iの化合物に関し、式中、
は、Nであり、
は、NYであり、
は、NHであり、
は、-CHOCO(CH)nCOOHである
【0032】
特定の実施形態では、本発明は、式Iの化合物に関し、式中、
は、Nであり、
は、NHであり、
は、NYであり、
は、-CHOCO(CH)nCOOHである
【0033】
特定の実施形態では、本発明は、式Iの化合物に関し、式中、
は、Nであり、
は、NYであり、
は、NYであり、
及びYはそれぞれ、-CHOCO(CH)nCOOHである。
【0034】
特定の実施形態では、本発明は、式Iの化合物に関し、式中、
は、Nであり、
は、NYであり、
は、NHであり、
は、-CHOCO(OCHCH)nOCHであり、
は、-CHOCO(CH)nCOOHである
【0035】
特定の実施形態では、本発明は、式Iの化合物に関し、式中、
は、Nであり、
は、NHであり、
は、NYであり、
は、-CHOCO(OCHCH)nOCHであり、
は、-CHOCO(CH)nCOOHである
【0036】
特定の実施形態では、本発明は、式Iの化合物に関し、式中、
は、Nであり、
は、NYであり、
は、NYであり、
は、-CHOCO(OCHCH)nOCHであり、
及びYはそれぞれ、-CHOCO(CH)nCOOHである
【0037】
特定の実施形態では、本発明は、式Iの化合物に関し、式中、nは、0、1、2、3、4、5、6、7もしくは8、または1~3もしくは4~6もしくは7~8である。
【0038】
特定の実施形態では、本発明は、式Iの化合物に関し、式中、nは、0、1、2、3、4、5、6、7もしくは8、または1~3もしくは4~6もしくは7~8である。
【0039】
特定の実施形態では、本発明は、式Iの化合物に関し、式中、nは、0、1、2、3、4、5、6、7もしくは8、または1~3もしくは4~6もしくは7~8である。
【0040】
特定の実施形態では、本発明は、式Iの化合物に関し、式中、n1aは、0、1、2、3、4、5、6、7もしくは8、または1~3もしくは4~6もしくは7~8である。
【0041】
特定の実施形態では、本発明は、式Iの化合物に関し、式中、n2aは、0、1、2、3、4、5、6、7もしくは8、または1~3もしくは4~6もしくは7~8である。
【0042】
特定の実施形態では、本発明は、式Iの化合物に関し、式中、n3aは、0、1、2、3、4、5、6、7もしくは8、または1~3もしくは4~6もしくは7~8である。
【0043】
特定の実施形態では、Mは、メチル、エチル、プロピルまたはフェニルである。
【0044】
特定の実施形態では、Mは、メチル、エチル、プロピルまたはフェニルである。
【0045】
特定の実施形態では、Mは、メチル、エチル、プロピルまたはフェニルである。
【0046】
特定の実施形態では、式1の化合物は、アキシチニブ-N-スクシノイルオキシメチルまたはその薬学的に許容される塩である。他の実施形態では、化合物はアキシチニブ-N-スクシノイルオキシメチルである。
【0047】
特定の実施形態では、本発明は、本明細書に開示される式Iの化合物及び薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物に関する。
【0048】
特定の実施形態では、医薬組成物は、錠剤、カプセルまたは粉末などの経口固形剤形の形態である。
【0049】
特定の実施形態では、医薬組成物は、インプラント、注射剤、溶液、懸濁液、または軟膏などの眼用製剤の形態である。本製剤は、哺乳動物(例えば、ヒト)の硝子体内、局所、または眼の前部もしくは後部に投与することができる。
【0050】
特定の実施形態では、本明細書に開示されるプロドラッグは、例えば眼投与用のヒドロゲル(例えば、本明細書に開示されるポリエチレングリコールベースの系)またはオルガノゲルに含まれる。
【0051】
特定の実施形態では、アキシチニブプロドラッグの溶解度の増加により、ベース薬物(すなわち、アキシチニブ)と比較してヒドロゲルからの活性薬剤の放出を調整することを可能にする。例えば、放出速度は、少なくとも1.1倍、少なくとも1.2倍、少なくとも1.5倍、少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも50倍、少なくとも100倍、少なくとも250倍、少なくとも500倍、または少なくとも1000倍高くすることができ、前の値のいずれか間の範囲をすべて含む。
【0052】
特定の実施形態では、本発明は、本明細書に開示される式Iの化合物または医薬組成物を投与することを含む、疾患または症状を治療する方法に関する。
【0053】
特定の実施形態では、疾患または症状は、進行性腎細胞癌などのがんである。
【0054】
特定の実施形態では、疾患または症状は、AMD、DMEまたはRVOなどの眼の疾患または症状である。
【0055】
特定の実施形態では、患者または対象に投与した後、式Iの化合物は、インビボで式IIの化合物に変換される。
【化5】
【0056】
特定の実施形態では、本発明は、本明細書に開示される化合物または医薬組成物を投与することを含む、アキシチニブ療法で疾患または症状を治療する方法に関する。
【0057】
特定の実施形態では、本発明は、本明細書に開示される化合物を含むヒドロゲルに関する。
【0058】
特定の実施形態では、本発明は、本明細書に開示される化合物を含むキセロゲルに関する。
【0059】
特定の実施形態では、ヒドロゲルまたはキセロゲルは、架橋を形成してポリマーネットワークを形成する官能基を有する前駆体から形成され得る。ポリマーストランド間またはアーム間のこれらの架橋は、事実上化学的(すなわち、共有結合であってもよい)及び/または物理的(例えば、イオン結合、疎水性会合、水素架橋など)であり得る。
【0060】
ポリマーネットワークは、1つのタイプの前駆体から、または反応が可能になる2つ以上のタイプの前駆体のいずれかから調製され得る。前駆体は、得られるヒドロゲルに所望の特性を考慮して選択される。ヒドロゲル及びキセロゲルの調製で使用するためのさまざまな好適な前駆体が存在する。概して、ヒドロゲルを形成する任意の医薬的に許容される架橋可能なポリマーが、本発明の目的のために使用され得る。ヒドロゲル及びそれに組み込まれる構成要素(ポリマーネットワークの作製に使用されるポリマーを含む)は、例えば、免疫応答または他の有害作用を誘発しないように、生理学的に安全であるべきである。ヒドロゲル及びキセロゲルは、天然ポリマー、合成ポリマー、または生合成ポリマーから形成され得る。天然ポリマーは、グリコサミノグリカン、多糖(例えば、デキストラン)、ポリアミノ酸、タンパク質、またはこれらの混合物もしくは組み合わせを含み得る。
【0061】
合成ポリマーは概して、異なるタイプの重合(フリーラジカル重合、アニオンまたはカチオン重合、連鎖成長または付加重合、縮合重合、開環重合などを含む)によって、さまざまな供給原料から合成的に生産される任意のポリマーであり得る。重合は、あるいくつかの開始剤、光及び/または熱によって開始してもよく、触媒で媒介され得る。
【0062】
概して、本発明の目的のために、ポリアルキレングリコールの1つ以上のユニットを含む群の1つ以上の合成ポリマーを使用することができ、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール、ポリ(エチレングリコール)-ブロック-ポリ(プロピレングリコール)コポリマー、またはポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリ(ビニルピロリジノン)、ポリ乳酸、ポリ乳酸-co-グリコール酸、ランダムもしくはブロックコポリマー、またはこれらのいずれかの組み合わせ/混合物が含まれるが、このリストは、限定を意図するものではない。
【0063】
共有結合的に架橋されたポリマーネットワークを形成するために、前駆体を互いに共有結合的に架橋してもよい。特定の実施形態において、(例えば、フリーラジカル重合において)少なくとも2つの反応中心を有する前駆体は、各反応性基が異なる成長ポリマー鎖の形成に関与することができるため、架橋剤として機能することができる。
【0064】
前駆体は、生物学的に不活性かつ親水性の部分、例えば、コアを有し得る。分岐ポリマーの場合において、コアとは、コアから伸長するアームに連結した分子の連続部分を指し、アームは、アームまたは分岐の末端にあることが多い官能基を持つ。マルチアームのPEG前駆体は、このような前駆体の例であり、本明細書で以下にさらに開示される。
【0065】
したがって、本発明で使用するヒドロゲルは、例えば、第1の官能基(複数可)(のセット)を有する1つのマルチアーム前駆体及び第2の官能基(複数可)(のセット)を有する別のマルチアーム前駆体から調製することができる。例として、マルチアーム前駆体は、一級アミンで終端されたポリエチレングリコールユニットなどの親水性アームを有してもよく(求核性)、または活性化されたエステル末端基を有してもよい(求電子性)。本発明にかかるポリマーネットワークは、互いに架橋された同一または異なるポリマーユニットを含み得る。
【0066】
あるいくつかの官能基は、活性化基を使用することにより、高い反応性で調製することができる。このような活性化基は、カルボニルジイミダゾール、スルホニルクロリド、アリールハロゲン化物、スルホスクシンイミジルエステル、N-ヒドロキシスクシンイミジルエステル、スクシンイミジルエステル、エポキシド、アルデヒド、マレイミド、イミドエステル、アクリレートなど(これらに限定されない)を含む。N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(NHS)は、求核ポリマー、例えば、一級アミン終端またはチオール終端のポリエチレングリコールの架橋に有用な基である。NHS-アミン架橋反応は、水溶液中で、緩衝液(例えば、リン酸緩衝液(pH5.0~7.5)、トリエタノールアミン緩衝液(pH7.5~9.0)、ホウ酸緩衝液(pH9.0~12)、または重炭酸ナトリウム緩衝液(pH9.0~10.0)の存在下で行われてもよい。
【0067】
特定の実施形態において、各前駆体は、求核前駆体及び求電子前駆体の両方が架橋反応に使用される限り、求核官能基のみまたは求電子官能基のみを含み得る。したがって、例えば、架橋剤がアミンなどの求核官能基のみを有する場合、前駆体ポリマーは、N-ヒドロキシスクシンイミドなどの求電子官能基を有し得る。一方で、架橋剤がスルホスクシンイミドなどの求電子官能基を有する場合、機能性ポリマーは、アミンやチオールなどの求核官能基を有し得る。したがって、機能性ポリマー(例えば、タンパク質、ポリ(アリルアミン)、またはアミン終端の二官能性または多官能性ポリ(エチレングリコール))を使用して、本発明のポリマーネットワークを調製することもできる。
【0068】
一実施形態では、第1の反応性前駆体は、それぞれ約2~約16個の求核性官能基(官能性と呼ばれる)を有し、第1の反応性前駆体と反応してポリマーネットワークを形成する第2の反応性前駆体は、それぞれ約2~約16個の求電子性官能基を有する。反応性(求核または求電子)基の数が4の倍数、したがって例えば、4、8、及び16個の反応性基を有する反応性前駆体は、本発明に特に好適である。適切な架橋ネットワークの形成に官能性が十分であることを保証しながら前駆体を本発明に従って使用するために、任意の数の官能基(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、または16のいずれかの基を含む)が可能である。
【0069】
本発明の特定の実施形態では、ヒドロゲルを形成するポリマーネットワークは、ポリエチレングリコール(PEG)ユニットを含む。PEGは、架橋されるとヒドロゲルを形成することが当技術分野で知られ、これらのPEGヒドロゲルは、例えば、ヒトまたは動物の身体のあらゆる部分に投与されることが意図される薬物のマトリックスとしての医薬用途に適する。
【0070】
本発明のヒドロゲルインプラントのポリマーネットワークは、2~10個のアーム、または4~8個のアーム、または4、5、6、7もしくは8個のアームを有する1つ以上のマルチアームのPEGユニットを含み得る。PEGユニットは、アームの数が異なっても同じでもよい。特定の実施形態では、本発明のヒドロゲルで使用するPEGユニットは、4及び/または8アームを有する。特定の実施形態では、4アームと8アームのPEGユニットの組み合わせが利用される。
【0071】
使用されるPEGのアームの数は、得られるヒドロゲルの柔軟性または柔らかさの制御に寄与する。例えば、4アームのPEGを架橋することによって形成されたヒドロゲルは、概して、同じ分子量の8アームのPEGから形成されたものよりも軟質で柔軟である。特に、本明細書でインプラントの製造に関する項に後述するように乾燥前または乾燥後にヒドロゲルを伸長させることが望まれる場合、より柔軟なヒドロゲル、例えば、4アームのPEGを、任意に別のマルチアームのPEG、例えば上記に開示したような8アームのPEGと組み合わせて使用し得る
【0072】
本発明の特定の実施形態では、前駆体として使用されるポリエチレングリコールユニットは、約2,000~約100,000ダルトンの範囲、または約10,000~約60,000ダルトンの範囲または約15,000~約50,000ダルトンの範囲の平均分子量を有する。特定の実施形態では、ポリエチレングリコールユニットは、約10,000~約40,000ダルトンの範囲または約20,000ダルトンの範囲内の平均分子量を有する。同じ平均分子量のPEG前駆体を使用してもよく、異なる平均分子量のPEG前駆体を互いに組み合わせてもよい。本発明で使用されるPEG前駆体の平均分子量は、数平均分子量(Mn)として与えられ、特定の実施形態では、MALDIによって決定され得る。
【0073】
4アームのPEGにおいて、アームのそれぞれは、PEGの総分子量を4で割った平均アーム長さ(または分子量)を有し得る。したがって、本発明で使用できる1つの前駆体である4a20kPEG前駆体は、それぞれ平均分子量が約5,000ダルトンのアームを4つ有する。したがって、本発明において4a20kPEG前駆体に加えて使用され得る8a20k PEG前駆体は、それぞれ平均分子量が2,500ダルトンのアームを8つ有する。より長いアームは、より短いアームよりも柔軟性が高くなる可能性がある。より長いアームを有するPEGは、より短いアームを有するPEGよりも膨潤する可能性がある。また、アームの数がより少ないPEGは、アームの数がより多いPEGよりも膨潤する可能性があり、また柔軟性が高い可能性がある。特定の実施形態では、異なる数のアームを有するPEG前駆体の組み合わせ、例えば、4アームのPEG前駆体と8アームの前駆体の組み合わせは、本発明で利用され得る。さらに、より長いPEGアームは、乾燥時の融点がより高く、これが保管中に高い寸法安定性を提供し得る。例えば、トリリシンで架橋された分子量15,000ダルトンの8アームのPEGは、室温で伸長した構造を維持できない可能性があることに対し、20,000ダルトンの8アームのPEGで架橋された20,000ダルトンの4アームのPEGは、室温で伸長した構造でも寸法的に安定する。
【0074】
15kPEGまたは20kPEGの前駆体など、特定の平均分子量を有するPEG前駆体を参照すると、示された平均分子量(すなわち、それぞれ15,000または20,000のMn)は、末端基が付加される前の前駆体のPEG部分を指す(ここでの「20k」は、20,000ダルトンを意味し、「15k」は、15,000ダルトンを意味する。本明細書ではPEG前駆体の他の平均分子量についても同じ略語が使用される)。特定の実施形態では、前駆体のPEG部分のMnは、MALDIによって決定される。本明細書で開示される末端基による置換度は、末端基の官能化後にH-NMRによって決定されてもよい。
【0075】
特定の実施形態では、本発明のヒドロゲルの調製のためにPEG前駆体とともに使用するための求電子末端基は、N-ヒドロキシスクシンイミジル(NHS)エステルであり、「SAZ」(スクシンイミジルアゼライン酸末端基を指す)、「SAP」(スクシンイミジルアジピン酸末端基を指す)、「SG」(スクシンイミジルグルタル酸末端基を指す)、及び「SS」(スクシンイミドコハク酸末端基を指す)を含むが、これらに限定されない。
【0076】
特定の実施形態では、本発明のヒドロゲルの調製のためにPEG前駆体とともに使用するための求核末端基は、アミン(「NH」として示される)末端基である。チオール(-SH)末端基または他の求核末端基も可能である。
【0077】
特定の好ましい実施形態では、平均分子量が約20,000ダルトンで、上記に開示したような求電子末端基を有する4アームのPEG、及び同じく平均分子量が約20,000ダルトンで、上記に開示したような求核末端基を有する8アームのPEGは、ポリマーネットワーク、ひいては本発明にかかるヒドロゲルを形成するために架橋される。
【0078】
求核基含有PEGユニットと、アミン末端基含有PEGユニット及び活性エステル基含有PEGユニットなどの求電子基含有PEGユニットとの反応により、以下の式を有する加水分解性リンカーによって複数のPEGユニットが架橋され
【化6】
式中、mは、0~10の整数であり、具体的には1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10である。特定の一実施形態では、例えば、SAZ末端基含有PEGが使用される場合、mは、6である。SAP末端基の場合、mは、3であり、SG末端基の場合、mは、2であり、SS末端基の場合、mは、1となるであろう。ポリマーネットワーク内のすべての架橋は、同じであってもよく、異なってもよい。
【0079】
特定の好ましい実施形態では、SAZ末端基は、本発明に利用される。この末端基は、眼内での持続時間を延長する可能性があり、PEG-SAZユニットを含むヒドロゲルを含む本発明の特定の実施形態のインプラントは、眼内、例えばヒトの眼の硝子体液で、長期間、例えば以下にさらに開示されるように9~12ヶ月経過してから生分解され、特定の状況ではさらに長く持続する可能性がある。SAZ基は、鎖中の炭素原子数が多いため(mは、6であり、アミド基とエステル基の炭素原子数の合計は、7である)、SAP末端基、SG末端基、SS末端基などよりも疎水性が高い。
【0080】
特定の好ましい実施形態では、20,000ダルトンの4アームのPEG前駆体は、20,000ダルトンの8アームのPEG前駆体と組み合わされ、例えば、SAZ基(上記で定義される)を有する20,000ダルトンの4アームのPEG前駆体は、アミン基(上記で定義される)を有する20,000ダルトンの8アームのPEG前駆体と組み合わされる。これらの前駆体は、本明細書ではそれぞれ4a20kPEG-SAZ及び8a20kPEG-NHとも略称される。4a20kPEG-SAZの化学構造は、以下のとおりである。
【化7】
式中、Rは、ペンタエリスリトールコア構造を表す。8a20kPEG-NH(ヘキサグリセロールコアを有する)の化学構造は、以下のとおりである。
【化8】
【0081】
上記の式において、nは、個別のPEGアームの分子量によって決定される。
【0082】
特定の実施形態では、互いに反応する求核末端基と求電子末端基のモル比は、約1:1であり、すなわち、1つのSAZ基ごとに1つのアミン基が提供される。4a20kPEG-SAZと8a20kPEG-NHの場合、8アームのPEGが4アームのPEGの2倍の量の末端基を含むため、重量比は、約2:1となる。しかしながら、求電子末端基(例えば、SAZなどのNHS末端基)または求核末端基(例えば、アミン)のいずれかを過剰に使用し得る。特に、求核剤、例えば、アミン末端基含有前駆体を過剰に使用してもよく、すなわち、4a20kPEG-SAZと8a20kPEG-NHの重量比は、2:1未満であってもよい。
【0083】
本明細書に開示される求電子基と求核基含有PEG前駆体のそれぞれ及び任意の組み合わせは、本発明にかかるインプラントを調製するために使用され得る。例えば、任意の4アームまたは8アームのPEG-NHS前駆体(例えば、SAZ、SAP、SGまたはSS末端基を有する)を、任意の4アームまたは8アームのPEG-NH前駆体(または求核基を有する任意の他のPEG前駆体)と組み合わせてもよい。さらに、求電子基及び求核基含有前駆体のPEGユニットは、同じ平均分子量を有してもよく、異なる平均分子量を有してもよい。
【0084】
PEG系架橋剤の代わりに、他の求核基含有架橋剤を使用し得る。例えば、トリリシン(または酢酸トリリシンなどのトリリシン塩もしくは誘導体)または他の低分子量マルチアームアミンなどの低分子量アミンリンカーを使用することができる。
【0085】
特定の実施形態では、求核基含有架橋剤は、可視化剤に結合または共役し得る。可視化剤は、発蛍光団またはその他の可視化可能な基を含む薬剤である。例えば、フルオレセイン、ローダミン、クマリン、シアニンなどの蛍光色素は、可視化剤として使用され得る。可視化剤は、例えば、架橋剤の求核基の一部を介して、架橋剤と結合し得る。架橋には十分な量の求核基が必要であるため、概して「コンジュゲートされる」または「コンジュゲート」は、部分コンジュゲートを含み、求核基の一部のみが可視化剤とのコンジュゲートに使用されることを意味し、例えば、架橋剤の求核基の約1%~約20%、または約5%~約10%、または約8%が可視化剤とコンジュゲートされ得る。他の実施形態では、可視化剤は、例えば、ポリマー前駆体の特定の反応性(求電子性など)基を介して、ポリマー前駆体とコンジュゲートされてもよい。
【0086】
ヒドロゲルに関する本明細書の開示は、キセロゲルにも適用することができる。
【0087】
押出剤形
本明細書に開示されるヒドロゲル用の材料は、プロドラッグとともに押出することもできる。特定の実施形態では、ポリマー組成物及びプロドラッグを押出して眼投与に適したインサートを形成することを含む、徐放性生分解性眼用インサートの調製方法に関する。
【0088】
他の実施形態では、本方法は、ポリマー組成物及びプロドラッグを押出機に供給することと、押出機内で成分を混合することと、ストランドを押出することと、ストランドをユニット用量のインサートまたはインプラントに切断することと、を含む。
【0089】
特定の実施形態では、ポリマー組成物及びプロドラッグは、押出機に別々に供給される。他の実施形態では、ポリマー組成物とプロドラッグは、同時に押出機に供給される。特定の実施形態では、ポリマー組成物は、押出機に導入する前に、例えば溶融ブレンドなど、あらかじめ混合される。
【0090】
特定の実施形態では、本方法は、例えばストランドを切断する前に、ストランドを冷却することをさらに含む。
【0091】
特定の実施形態では、本方法は、例えばストランドを切断する前に、ストランドを延伸することをさらに含む。
【0092】
特定の実施形態では、延伸は、湿潤条件、加熱条件、またはそれらの組み合わせで行われる。他の実施形態では、延伸は、乾燥条件、加熱条件、またはそれらの組み合わせで行われる。
【0093】
特定の実施形態では、押出された組成物に対して、例えば湿気にさらされるなどの硬化ステップを行う。特定の実施形態では、硬化によりポリマー組成物が架橋される。
【0094】
特定の実施形態では、本方法は、ストランドを伸長した後にストランドを乾燥させることをさらに含む。
【0095】
他の実施形態では、本明細書に開示された方法のステップのすべては、任意の順序で同時または連続的に実施することができる。
【0096】
特定の実施形態では、本方法は、プロドラッグの融点より低い温度で押出機内でポリマーを溶融することをさらに含む。温度は、例えば、約100°未満、約90°未満、約80°未満、約70°未満、約60°未満、約50°未満であり得る。いくつかの実施形態では、温度は、約50℃~約80℃である。特定の実施形態では、押出は、ポリマー及びプロドラッグの融点よりも高い温度で行われる。
【0097】
特定の実施形態では、押出された組成物は、ストランド形態またはユニット用量の場合に乾燥する。特定の実施形態では、乾燥は、ストランドを延伸した後に行われる。乾燥は、例えば、周囲温度での蒸発乾燥とすることができ、または熱、真空、もしくはそれらの組み合わせを含み得る。
【0098】
特定の実施形態では、ヒドロゲルストランドは、約0.25~約10、0.5~約6、または約1~約4の範囲の延伸係数によって延伸される。
【0099】
特定の実施形態では、ストランドは、約20mm、17mm、15mm、12mm、10mm、8mm、5mm、4mm、3mm、2mm、1mmまたは0.5mm以下の平均長さを有するセグメントに切断される。
【0100】
特定の実施形態では、プロドラッグは、ポリマー組成物中に懸濁される。
【0101】
特定の実施形態では、プロドラッグは、ポリマー組成物中に均一に分散する。
【0102】
特定の実施形態では、押出プロセスは、溶媒(例えば、水)を使用せずに実行される。
【0103】
特定の実施形態では、溶媒は、約10%w/w未満、約5%w/w未満、または約1%w/w未満の量で使用される。
【0104】
特定の実施形態では、ユニット用量インサートの含量均一性は、10%以内、5%以内、または1%以内である。
【0105】
特定の実施形態では、剤形の持続性は、眼内投与後約7日間~約6ヶ月である。
【0106】
特定の実施形態では、プロドラッグの多型形態は変化しないか、または実質的に変化しない。特定の実施形態では、硬化後のプロドラッグの純度は、押出前のプロドラッグと比較して、99%超、99.5%超、または99.9%超である。
【0107】
特定の実施形態では、プロドラッグは、約100μm未満、約50μm未満、約25μm未満、または約10μm未満の平均粒径を有する。
【0108】
特定の実施形態では、プロドラッグは、約10μm未満のD50粒径及び/または約50μm未満のD99粒径、または約5μm以下のD90粒径及び/または約10μm以下のD98粒径を有する。
【0109】
オルガノゲル
特定の実施形態では、本明細書のプロドラッグは、オルガノゲル中で使用することができる。
【0110】
特定の実施形態では、本発明は、オルガノゲル及びプロドラッグを含み、オルガノゲルが疎水性有機液体、及び生分解性で共有結合的に架橋されたポリマーネットワークを含み、疎水性有機液体及びプロドラッグが生分解性で共有結合的に架橋されたポリマーネットワークに含まれる、徐放性生分解性薬物送達システムを提供する。特定の実施形態では、オルガノゲル及びプロドラッグを含み、オルガノゲルが疎水性有機液体、及び生分解性で共有結合的に架橋されたポリマーネットワークを含み、疎水性有機液体及びプロドラッグが生分解性で共有結合的に架橋されたポリマーネットワークに固定化されている、徐放性生分解性薬物送達システムが提供される。
【0111】
特定の実施形態における徐放性生分解性薬物送達システムは、生分解性共有結合架橋ポリマーネットワーク、疎水性有機液体及びプロドラッグという少なくとも3つの構成要素を含む。
【0112】
特定の実施形態におけるオルガノゲルは、本明細書で後述するように、非直鎖状の多官能性モノマーまたはポリマー前駆体成分の重合によって形成され、疎水性有機液体を含む共有結合的に架橋されたポリマーネットワークを形成し、例えば、インビボでネットワークから放出されるまで、ポリマーネットワーク内に固定化する。したがって、本発明のオルガノゲルは、疎水性有機相の代わりに水を含むヒドロゲルの疎水性類似体のようなものである。オルガノゲルは、マトリックスがネットワークを形成するポリマー成分(ゲル化剤)と非反応性成分で構成されるという点でヒドロゲルに類似する。非反応性成分は、ヒドロゲルでは水であることに対し、本発明のオルガノゲルでは油などの、体温より低いガラス転移温度(Tg)及び溶融転移温度(Tm)を有する疎水性有機化合物である。
【0113】
特定の実施形態では、前駆体を形成するポリマーネットワークの共有結合架橋により、疎水性有機液体(例えば、油)成分の移動性が制限される。これは、薬物の送達をオルガノゲルを通る拡散に制限すること、及び/または薬物の発生からの迅速な逃げ道を提供する欠損の発生を排除することによって、薬物放出の継続的な制御を提供し得る。特定の実施形態では、本発明の薬物送達システムは、完全または部分の拡散制御送達システムであり、すなわち、油及び/またはプロドラッグの放出が主に拡散プロセスによって制御される。ポリマーマトリックスの分解は、本発明のオルガノゲルにおいて追加で起こる可能性があるが、主にプロドラッグの放出を制御するものではない。押出された線状ポリマーなどの非架橋ゲルでは、プロドラッグの放出は主に、分解制御された系でプロドラッグを放出するポリマーマトリックスの分解によって制御される。ネットワーク形成前駆体は、疎水性有機液体成分と混和性である必要があり、架橋すると成分を「保持」して固体または半固体を形成し、オルガノゲルを形成する。特定の実施形態では、疎水性有機液体とポリマーネットワークとの適合性は、疎水性有機液体がインビボで周囲の組織液に逃げる速度に影響を及ぼし、徐々に水性液体に置換されてもよく、プロドラッグの溶解性及びネットワーク分解に対する薬物放出動態を制御する追加の方法を提供する。
【0114】
特定の実施形態では、本発明の徐放性生分解性薬物送達システムにおけるオルガノゲルの使用は、したがって、架橋ポリマーネットワークを形成する前駆体成分をその親水性及び/または疎水性の特性に応じて調整または適切に選択することにより、薬物送達システムからのプロドラッグの放出を変更することを可能にする。さらに、特定の実施形態では、疎水性有機液体を、疎水性、粘度、プロドラッグとの適合性、疎水性有機相におけるプロドラッグの溶解性または不溶解性などの特性に応じて適切に選択することにより、薬物送達システムからのプロドラッグの放出を変更または制御することができる。
【0115】
本発明の特定の実施形態にかかるオルガノゲルに基づく薬物送達システムは、ヒドロゲルと比較していくつかの利点を提供する。例えば、特定のオルガノゲルが無水であるため、水に敏感なプロドラッグなどの水分解性(加水分解性)成分を安定化して長期間保存しても安定させることができ、移植時に水和する必要がない。
【0116】
水溶性化合物は溶解度が低いか、またはオルガノゲルに不溶であるため、薬物をオルガノゲルマトリックスに埋め込まれた粒子状固体として取り込むことを可能にする。オルガノゲルマトリックス中の薬物の溶解度が低いため、薬物放出速度を制御するメカニズムが提供される。この特性により、インプラントに含めることができる化合物の範囲が大幅に増加する。
【0117】
オルガノゲルの親油性/親水性を操作すると、薬物放出速度を調整し拡散速度に影響を与えることができる。純粋なヒドロゲルが水ベースであるため、このように調整することができず、したがって、これらのシステムでは、薬物/マトリックスの溶解度を調整するには、薬物自体をプロドラッグの形態に変更する必要がある。オルガノゲルでは、これを回避できる。さらに、オルガノゲルの親油性/親水性を変化させることで、ポリマーマトリックスの分解速度に影響を与え、薬物の放出速度にも追加の影響を与えることができる。
【0118】
オルガノゲルは、インビボで疎水性有機液体(油など)をマトリックスからゆっくりと放出するように設計でき、その後分解されるヒドロゲルへのゆっくりとした変換を可能にする。これにより、薬物放出制御の新しいモードを提供し、生体適合性が向上する。
【0119】
成分の適合性の問題を克服するために製造中にオルガノゲルに溶媒を任意に添加することができ、溶媒を除去して油が固定化されたオルガノゲルを得ることができる。溶媒は、熱処理によって除去できるが、高温で溶融またはガラス転移を起こす材料に対して不可能である。溶媒の除去は、水抽出、真空乾燥、凍結乾燥、蒸発など、非架橋ポリマーに通常使用される方法によっても達成できる。溶媒を注意深く除去する必要がなくなるため、製造プロセスが大幅に簡素化される。
【0120】
特定の実施形態では、オルガノゲルは、低弾性率、寸法安定性、及び良好な薬物放出動態という物性を有する。特定の実施形態では、オルガノゲルは、熱に対して寸法的に安定であり、溶融しない。したがって、ホットメルト押出成形などのインプラント製造プロセスを使用して、本発明の特定のオルガノゲルを形成することができる。
【0121】
オルガノゲルを含む本発明の薬物送達システムは、ステロイド、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDS)、眼圧降下薬、抗生物質、ペプチドなどを含む種類の薬物を送達するために使用され得る。オルガノゲルは、薬物及び治療薬、例えば、抗炎症薬(例えば、ジクロフェナク)、鎮痛薬(例えば、ブピバカイン)、カルシウムチャネル遮断薬(例えば、ニフェジピン)、抗生物質(例えば、シプロフロキサシン)、細胞周期阻害剤(例えば、シンバスタチン)、タンパク質またはペプチド(例えば、インスリン)、酵素、抗腫瘍剤、局所麻酔薬、ホルモン、血管新生剤、抗血管新生剤、成長因子、抗体、神経伝達物質、向精神薬、抗がん剤薬物、化学療法薬、生殖器官、遺伝子、オリゴヌクレオチド、またはその他の構成に影響を与える薬物、及び遺伝子送達用のAAVなどのウイルスを送達するために使用され得る。オルガノゲルからの放出速度は、プロドラッグ、疎水性有機液体、及びポリマーネットワークの1つ以上の特性に依存する可能性があり、その他の考えられる要因としては、薬物のサイズ、相対的な疎水性、オルガノゲルの密度、オルガノゲルの固形分などの1つ以上が挙げられる。
【0122】
本発明の薬物送達システムは、インプラント、医療用インプラントまたは薬学的に許容されるインプラント、インプラントコーティング、または経口剤形などの形態であってもよい。
【0123】
治療方法
特定の実施形態では、本明細書に開示されるプロドラッグは、血管新生に伴う眼疾患の治療に利用される。
【0124】
他の実施形態では、眼疾患は、VEGFR-1、VEGFR-2、VEGFR-3、PDGFR-α/β、及び/またはc-Kitなどの1つ以上の受容体チロシンキナーゼ(RTK)によって媒介され得る。
【0125】
いくつかの実施形態では、眼疾患は、脈絡膜血管新生、糖尿病性網膜症、糖尿病性黄斑浮腫、網膜静脈閉塞症、急性黄斑神経網膜症、中心性漿液性脈絡網膜症、及び嚢胞様黄斑浮腫を含む網膜疾患であり、眼疾患は、急性多巣性黄斑様色素上皮症、ベーチェット病、バードショット性網膜脈絡膜症、感染性(梅毒、ライム、結核、トキソプラズマ症)、中間型ブドウ膜炎(扁平部炎)、多巣性脈絡膜炎、多発性一時的白点症候群(MEWDS)、眼サルコイドーシス、後部強膜炎、蛇状脈絡膜炎、網膜下線維症、ブドウ膜炎症候群、もしくはフォークト・小柳・原田症候群であり、眼疾患は、コーツ病、傍中心窩毛細血管拡張症、乳頭静脈炎、樹氷状血管炎、鎌状赤血球網膜症及び他のヘモグロビン症、血管様線条、及び家族性滲出性硝子体網膜症を含む血管疾患または滲出性疾患であり、または、眼疾患が、交感神経性眼炎、ブドウ膜炎性網膜疾患、網膜剥離、外傷、光線力学的レーザー治療、光凝固、手術中の低灌流、放射線網膜症、または骨髄移植網膜症を含む外傷または手術に起因するものである。
【0126】
別の実施形態では、本明細書で利用されるプロドラッグは、腫瘍に関連する眼疾患の治療に利用され得る。このような症状は、例えば、腫瘍に関連した網膜疾患、固形腫瘍、腫瘍転移、血管腫、神経線維腫、トラコーマ、及び化膿性肉芽腫などの良性腫瘍、先天性RPE肥大、後部ブドウ膜黒色腫、脈絡膜血管腫、脈絡膜骨腫、脈絡膜転移、網膜及び網膜色素上皮の複合過誤腫、網膜芽細胞腫、眼底の血管増殖性腫瘍、網膜星細胞腫、または眼内リンパ腫瘍を含む。
【0127】
他の実施形態では、本発明のプロドラッグは、血管漏出に伴う任意の眼疾患の治療に利用することができる。
【0128】
特定の実施形態では、眼疾患は、血管新生性加齢黄斑変性症(AMD)、糖尿病性黄斑浮腫(DME)及び網膜静脈閉塞症(RVO)から選択される。
【0129】
特定の実施形態では、眼疾患は、血管新生関連加齢黄斑変性症である。他の実施形態では、眼の症状は、ドライアイである。
【0130】
本明細書に開示される化合物及び医薬組成物は、経口、非経口、眼、経皮、鼻、肺または直腸などの任意の経路によって投与することができる。特定の実施形態では、硝子体または他の部位に投与することができる。別の空間として、例えば、涙点(小管、上/下小管)、眼円蓋、上/下眼円蓋、テノン下空間、脈絡膜、脈絡膜上、テノン、角膜、がん組織、臓器、前立腺、乳房、外科的に作られた空間または損傷、空白の空間及び潜在的な空間が挙げられる。特定の実施形態では、剤形は、涙点プラグ、小管内インサート、前房内インサート、または硝子体内インサートである。
【0131】
特定の実施形態では、本明細書のプロドラッグ及び製剤は、硝子体内、脈絡膜上、網膜下、結膜下またはテノン下投与によって(例えば、腫瘍治療のために)使用される。
【0132】
特定の実施形態では、本発明は、ベース薬物の放出または治療効果にラグタイムがある場合に、より迅速に放出するローディング用量を提供するために、同じ製剤(例えば、眼用製剤)または異なる製剤においてベース薬物(例えば、アキシチニブ)と組み合わせて投与されるプロドラッグ(例えば、本明細書に開示されるアキシチニブのプロドラッグ)に関する。プロドラッグがベース薬物よりも遅い放出を有する実施形態では、組み合わせは、ベース薬物を単独で投与するよりも長い効果持続期間を提供することができる。
【0133】
特定の実施形態では、アキシチニブプロドラッグは、米国特許第11,439,592B2号に従って製剤化及び/または投与することができる。
【実施例
【0134】
実施例1:アキシチニブ-N-スクシノイルオキシメチルプロドラッグ
実施例1の化合物は、以下のスキームに従って調製された。
【0135】
【化9】
【0136】
プロセスの各ステップについて、サンプル番号、バッチサイズ、条件、収率及び考察を以下に示す。
【表1-1】
【表1-2】
【0137】
実施例2 溶解度の実験
溶解性試験は、以下の試験物と条件で実施した。
試験物:アキシチニブ(HPLCによる純度99.99%);アキシチニブ-N-スクシノイルオキシメチルプロドラッグ(HPLCによる純度94.3%);
試験媒体:リン酸緩衝生理食塩水pH7.4
インキュベーション条件:22℃で24時間連続振盪
試験濃度:1mg/mL
データ分析:試験物の溶解度は、検量線を使用したHPLC分析によって決定された。
【0138】
HPLCの条件は、以下のとおりであった。
【表2】
【0139】
結果は、以下のとおりである。
【表3】
【0140】
文献的に報告されるアキシチニブの溶解度は、約0.2mcg/mLである。結果によると、N-スクシノイルオキシメチルプロドラッグでは、プロドラッグの溶解度が約1100倍向上した。
【0141】
実施例3(予言的)
アキシチニブ-N-スクシノイルオキシメチルプロドラッグのアキシチニブへの変換を以下に示す。
【0142】
方法
MgCl2(5mM)を含むリン酸緩衝液(100mM、pH7.4)中で、ある濃度(最終インキュベーションでは1μM)のプロドラッグをhrCES(hrCES-1とhrCES-2の組み合わせ、hrCESあたり0.1mgタンパク質/mL)とインキュベートした。インキュベーション混合物を振盪水浴中で37℃で5分間平衡化した。反応は、プロドラッグの添加によって開始され、その後37℃でインキュベートされた。インキュベーション溶液のアリコートを、0、15、30、60及び120分間の時点でサンプリングした。反応は、内部標準物質(IS、質量分析の正イオン化モードまたは負イオン化モードでは、それぞれ0.2μMメトプロロールまたは0.2μMトルブタミド)を含む50%氷冷アセトニトリル(ACN)/0.1%ギ酸の添加によって終了した。1,640g(3,000rpm)で4℃で10分間遠心分離してタンパク質を除去した後、上清をHPLCオートサンプラープレートに移し、分析まで-20℃で保存した。残りのプロドラッグ(ISに対するプロドラッグのピーク面積比として表される)及びプロドラッグあたりの酸生成物の形成(各プロドラッグの最終加水分解生成物)は、LC-MS/MSによって測定された(付録1)。この研究で使用したhrCESのCES活性は、1mMの非特異的エステラーゼプローブ基質PNPBを使用し、410nmの吸光度に基づいてPNPの時間依存的形成(0、3、5、10分間)を測定することにより、並行して検証された。CES反応の表現型解析とサンプル分析の実験条件を以下にまとめる。
【表4】
【0143】
データ分析
プロドラッグの残存率は、次の式を使用して計算される。
プロドラッグの残存率(%)=100×At/A0
式中、Atは、時間tでのピーク面積比(プロドラッグ対IS)であり、A0は、時間ゼロにおけるピーク面積比(ISに対するプロドラッグ)である。
【0144】
プロドラッグの消失速度定数は、一次反応速度論から推定される:Ct=C0・e-kt
式中、C0とCtは、時間ゼロとインキュベーション時間t(分)でのプロドラッグの濃度(プロドラッグ対ISのピーク面積比で表される)であり、kは、消失速度定数(分-1)である。
【0145】
プロドラッグの消失半減期(該当する場合)は、プロットが平坦になり始める前に、次の式を使用して計算される。
t1/2=0.693/k
式中、t1/2は、半減期(分間)、kは、消失速度定数(min-1)である。
【0146】
プロドラッグのインビトロ固有クリアランス(該当する場合)は、次の式を使用して計算される。
CLint=k/P
式中、CLintは、インビトロ固有クリアランスであり、kは、消失速度定数(min-1)であり、Pは、インキュベーション培地中の酵素濃度(mgタンパク質/mL)である。
【0147】
すべての固有クリアランスパラメーターは、GraphPad(登録商標)Prism(GraphPad Software,San Diego,CA,USA)及びMicrosoft Office Excel(Microsoft Corporation,Redmond,WA,USA)を使用して推定される。
【0148】
実施例4(予言的)
試験品は、本発明のプロドラッグのアキシチニブモル当量3mg/mLの濃度で、DMSO(5%)と0.5%-CMC-Na(95%、v/v)の混合物の懸濁液中に調製する。雄性ICRマウス(64匹、体重18~22g)を無作為に4群(群あたり16匹)に群分けする。動物を12時間絶食させた後、試験品を、アキシチニブ30mg/kgに相当するモル当量で強制経口投与により動物に投与する。投与溶液の投与後、0.25、0.5、1、2、4、6及び8時間の時点で、血液サンプルを眼窩からヘパリン添加EPチューブに収集する。血液サンプルを5,000rpm、4℃で10分間遠心分離し、血漿サンプルを採取し、-80℃で保存する。サンプル分析:血漿サンプル(10μL)をアセトニトリル(110μL)とよく混合する。次に、サンプルを12,000rpm、4℃で遠心分離する。上清をLC-MS/MS機器で分析し、標的分析物は、アキシチニブとその対応するプロドラッグ分子である。
【0149】
実施例5(予言的)
雄性ICRマウス(体重:18~22g)を無作為に6群に分け、群あたり6匹とし、各時点で6匹から採血を行い、合計6つの時点の採血を行う。試験品の投与溶液は、化合物を溶媒系に溶解または懸濁させることによって調製される。すべての化合物について、投与溶液の濃度は、アキシチニブモル当量で3mg/mLであり、投与量は、アキシチニブモル当量で30mg/kgである。動物を12時間絶食させた後、上記の情報に従って計算された投与量の試験品を投与媒体に含めて投与する。投与後、あらかじめ設定した0.5、1、2、4、6、8時間の時点で血液サンプルを採取する。血液サンプルを5,000rpm、4℃で10分間遠心分離し、血漿サンプルを採取し、-80℃で保存する。サンプル分析:血漿サンプル(20μL)をアセトニトリル(220μL)とよく混合する。次に、サンプルを12,000rpm、4℃で遠心分離した。上清をLC-MS/MS機器で分析し、標的分析物を得る。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】