(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-16
(54)【発明の名称】ステロイド酸系ヒドロゲル
(51)【国際特許分類】
C07K 1/02 20060101AFI20241008BHJP
C07K 2/00 20060101ALI20241008BHJP
C07K 14/435 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
C07K1/02
C07K2/00 ZNA
C07K14/435
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024520626
(86)(22)【出願日】2022-08-26
(85)【翻訳文提出日】2024-04-03
(86)【国際出願番号】 CA2022051298
(87)【国際公開番号】W WO2023023869
(87)【国際公開日】2023-03-02
(32)【優先日】2021-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520423390
【氏名又は名称】ディフェンス・セラピューティクス・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】ボードワン、シモン
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA10
4H045AA20
4H045BA55
4H045CA51
4H045EA01
4H045EA05
4H045EA15
4H045EA20
(57)【要約】
ステロイド酸系ヒドロゲル及びその生成方法を本明細書に記載する。より具体的には、本説明は、ヒドロゲルの形成のためのステロイド酸-ペプチドコンジュゲートに関する。ペプチドは、ステロイド酸部分のうちの1つ以上と共有コンジュゲート化され、溶媒に溶解又は再懸濁して、ヒドロゲルを形成する。ステロイド酸には、胆汁酸及び胆汁酸類似体が含まれてもよい。ペプチドは、核局在化シグナル(NLS)を含んでもよい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロゲルを形成/生成する方法であって、ヒドロゲルが形成されるまで、1つ以上のステロイド酸部分と共有結合でコンジュゲート化したペプチドを溶媒に再懸濁/溶解させることを含む、方法。
【請求項2】
ヒドロゲルを形成/生成する方法であって、修飾されるペプチドを提供することと、前記ペプチドを1つ以上のステロイド酸部分に共有結合でコンジュゲート化して、ステロイド酸-ペプチドコンジュゲートを生成することと、ヒドロゲルが形成されるまで、前記ステロイド酸-ペプチドコンジュゲートを溶媒に再懸濁/溶解させることと、を含む、方法。
【請求項3】
前記ペプチドが、少なくとも7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、又は50個のアミノ酸を含むアミノ酸配列を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ペプチドが、核局在化シグナル(NLS)を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記ステロイド酸が胆汁酸である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ステロイド酸が一次胆汁酸又は二次胆汁酸である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ステロイド酸が、コール酸(CA)、ケノデオキシコール酸(CDCA)、デオキシコール酸(DCA)、リトコール酸(LCA)、グリココール酸(GCA)、タウロコール酸(TCA)、グリコデオキシコール酸(CDCA)、グリコケノデオキシコール酸(GCDCA)、タウロデオキシコール酸(TDCA)、グリコリトコール酸(GLCA)、タウロリトコール酸(TLCA)、タウロヒオデオキシコール酸(THDCA)、タウロケノデオキシコール酸(TCDCA)、ウルソコール酸(UCA)、タウロウルソデオキシコール酸(TUDCA)、グリコウルソデオキシコール酸(GUDCA)、ウルソデオキシコール酸(UDCA)、又はそれらの任意の組み合わせであるか、又はそれを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記ステロイド酸が、リトコール酸(LCA)、コール酸(CA)、グリコケノデオキシコール酸(GCDCA)、グリコデオキシコール酸(GDCA)、又はグリコウルソデオキシコール酸(GUDCA)であるか、又はそれを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記ステロイド酸-ペプチドコンジュゲートが、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、又は50個のステロイド酸部分を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記ポリペプチドが、前記ペプチドの溶媒露出アミン(例えば、一級アミン)及び/又はスルフヒドリル基で前記ステロイド酸とコンジュゲート化される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記ペプチドが、リンカー(例えば、二官能性、三官能性リンカー、又は多官能性リンカー)を介して前記ステロイド酸とコンジュゲート化される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記ペプチドが、N末端又はC末端システイン残基を介して前記ステロイド酸-ペプチドコンジュゲートとコンジュゲート化される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記ペプチドが、古典的核局在化シグナルNLS、非古典的NLS、疎水性PY-NLS、又は塩基性PY-NLSであるか、又はそれを含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記ペプチドが、核局在化シグナル(NLS)であるか、又はそれを含み、前記核局在化シグナル(NLS)が、サル空胞化ウイルス40(SV40)ラージT抗原由来のNLS、GWG-SV40NLS、リボソームタンパク質S17(RPS17)由来のNLS2、RPS17由来のNLS1、RPS17由来のNLS3、NLS2 RG RSP17、ヌクレオプラスミンNLS、異種核リボ核タンパク質(hnRNP)A1タンパク質中の酸性M9ドメイン、hnRNPA1 M9 NLS、hnRNP D NLS、hnRNP M NLS、HuR NLS、cMyc NLS、TUS NLS、ポリグルタミン結合タンパク質1(PQBP1)NLS、酵母転写抑制因子Matα2中の配列KIPIK、PY-NLS、リボソームNLS、U snRNPの複合シグナル、又はその前記NLSの一部分である、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記ペプチドが、配列番号1~15のうちのいずれか1つと、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%、又は100%同一であるアミノ酸配列を含む核局在化シグナル(NLS)であるか、又はそれを含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記ペプチドが、核局在化シグナル(NLS)、前記異種核リボ核タンパク質(hnRNP)A1タンパク質の一部分又はドメインであるか、又はそれを含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記ペプチドが、配列番号4に示される核局在化シグナル(NLS)であるか、又はそれを含む、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記ペプチドが、メリチン(配列番号16)であるか、又はそれを含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記ステロイド酸-ペプチドコンジュゲートが単量体である、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記ステロイド酸-ペプチドコンジュゲートが二量体又はオリゴマーである、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記溶媒が、水性溶媒(例えば、水)であるか、又はそれを含む、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記溶媒が、緩衝溶液(例えば、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、トリス緩衝生理食塩水(TBS))、DMSO、アルコール(例えば、エタノール又はメタノール)、又は培地であるか、又はそれを含む、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記溶媒が、実質的に中性のpHである、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記溶媒が、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9、7.0、7.1、7.2、7.3、7.4、又は7.5のpHである、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記ヒドロゲルが、前記溶媒中での前記ステロイド酸-ペプチドコンジュゲートの再懸濁/溶解の直後に生成/形成される、請求項1~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記ヒドロゲルが、前記ステロイド酸-ペプチドコンジュゲートを前記溶媒に再懸濁/溶解させた後、少なくとも1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、又は60秒で生成/形成される、請求項1~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記ヒドロゲルが、前記ステロイド酸-ペプチドコンジュゲートを前記溶媒に再懸濁/溶解させた後、少なくとも1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、120、180、240、300、又は360分で生成/形成される、請求項1~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記ヒドロゲルが、前記ステロイド酸-ペプチドコンジュゲートを前記溶媒に再懸濁/溶解させた後、少なくとも6、8、10、12、14、16、18、20、22、又は24時間で生成/形成される、請求項1~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記溶媒に再懸濁/溶解させた又は前記ヒドロゲルに含まれる前記ステロイド酸-ペプチドコンジュゲートの濃度が、少なくとも0.001、0.01、0.1、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、又は100mg/mLである、請求項1~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記ヒドロゲルが液滴を含む、請求項1~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記ステロイド酸-ペプチドコンジュゲートを二量体化することを更に含む、請求項1~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
ヒドロゲルを形成/生成する方法であって、ヒドロゲルが形成されるまで、ペプチドをステロイド酸溶液に再懸濁/溶解させること又は溶媒中でステロイド酸とペプチドとを混合すること、を含む、方法。
【請求項33】
請求項1~32のいずれか一項に記載の方法によって形成/生成された、ヒドロゲル。
【請求項34】
請求項3~20のいずれか一項に記載のステロイド酸-ペプチドコンジュゲートを含む、ヒドロゲル。
【請求項35】
ヒドロゲルの生成/形成に使用するためのステロイド酸-ペプチドコンジュゲート(例えば、単量体、二量体、又はオリゴマー形態のもの)。
【請求項36】
ヒドロゲルの生成/形成のためのステロイド酸ペプチドコンジュゲート(例えば、単量体、二量体、又はオリゴマー形態のもの)の使用。
【請求項37】
前記ステロイド酸ペプチドコンジュゲートが、請求項3~20のいずれか一項に記載のステロイド酸-ペプチドコンジュゲートである、請求項35に記載の使用のためのステロイド酸-ペプチドコンジュゲート又は請求項36に記載の使用。
【請求項38】
ヒドロゲルの生成/形成に使用するための、異種核リボ核タンパク質(hnRNP)A1 M9タンパク質由来の核局在化シグナル(NLS)とコンジュゲート化したリトコール酸(LCA)、コール酸(CA)、グリコケノデオキシコール酸(GCDCA)、グリコデオキシコール酸(GDCA)、又はグリコウルソデオキシコール酸(GUDCA)を含む、ステロイド酸-ペプチドコンジュゲート。
【請求項39】
単量体、二量体、又はオリゴマーである、請求項38に記載のステロイド酸-ペプチドコンジュゲート。
【請求項40】
リトコール酸(LCA)、コール酸(CA)、グリコケノデオキシコール酸(GCDCA)、グリコデオキシコール酸(GDCA)、又はグリコウルソデオキシコール酸(GUDCA)を、異種核リボ核タンパク質(hnRNP)A1 M9タンパク質由来の核局在化シグナル(NLS)とコンジュゲート化することと、前記コンジュゲートを好適な溶媒にインキュベートすることとによって生成/形成される、ヒドロゲル。
【請求項41】
ステロイド酸-ペプチドコンジュゲート(例えば、単量体、二量体、又はオリゴマー形態のもの)を含むヒドロゲルであって、前記ステロイド酸-ペプチドコンジュゲートが、異種核リボ核タンパク質(hnRNP)A1 M9タンパク質由来の核局在化シグナル(NLS)とコンジュゲート化されたリトコール酸(LCA)、コール酸(CA)、グリコケノデオキシコール酸(GCDCA)、グリコデオキシコール酸(GDCA)、又はグリコウルソデオキシコール酸(GUDCA)であるか、又はそれを含む、ヒドロゲル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本説明は、ステロイド酸系ヒドロゲル及びその生成方法に関する。より具体的には、本説明は、ヒドロゲルの形成のためのステロイド酸-ペプチドコンジュゲートに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロゲル又は親水性ゲルは、膨潤してその構造内にかなりの量の水を保持することができるが、水に溶解しない架橋されたポリマーネットワークである。ヒドロゲルは、様々な産業において一般的に使用されており、化粧品(例えば、衛生製品)、農業、医薬品及び治療薬(例えば、薬物送達システム)、生物医学的用途、食品添加物、並びに採鉱(例えば、石炭脱水)などの多種多様な用途を有する。生成が容易で費用効率が高い新規なヒドロゲル、及びヒドロゲルを生成するための低コストで合理化された方法が非常に望ましい。
【発明の概要】
【0003】
第1の態様では、ヒドロゲルを形成/生成する方法であって、ヒドロゲルが形成されるまで、1つ以上のステロイド酸部分と共有結合でコンジュゲート化したペプチドを溶媒に再懸濁/溶解させることを含む、方法、を本明細書に記載する。
【0004】
更なる態様では、ヒドロゲルを形成/生成する方法であって、修飾されるペプチドを提供することと、ペプチドを1つ以上のステロイド酸部分に共有結合でコンジュゲート化して、ステロイド酸-ペプチドコンジュゲートを生成することと、ヒドロゲルが形成されるまで、ステロイド酸-ペプチドコンジュゲートを溶媒に再懸濁/溶解させることと、を含む、方法、を本明細書に記載する。
【0005】
ヒドロゲルを形成/生成する方法であって、方法は、ヒドロゲルが形成されるまで、ペプチドをステロイド酸溶液に再懸濁/溶解させること又は溶媒中でステロイド酸とペプチドとを混合すること、を含む。
【0006】
更なる態様では、本明細書に記載の方法によって形成/生成されるヒドロゲルを本明細書に記載する。
【0007】
更なる態様では、本明細書に定義のステロイド酸-ペプチドコンジュゲートを含むヒドロゲルを本明細書に記載する。
【0008】
更なる態様では、ヒドロゲルの生成/形成に使用するための、本明細書に定義のステロイド酸-コンジュゲートであるステロイド酸-ペプチドコンジュゲートを本明細書に記載する。
【0009】
更なる態様では、ヒドロゲルの生成/形成のための、本明細書に定義のステロイド酸コンジュゲートの使用を本明細書に記載する。
【0010】
更なる態様では、ヒドロゲルの生成/形成に使用するための、異種核リボ核タンパク質(heterogeneous nuclear ribonucleoprotein、hnRNP)A1 M9タンパク質由来の核局在化シグナル(nuclear localisation signal、NLS)とコンジュゲート化したリトコール酸(lithocholic acid、LCA)、コール酸(cholic acid、CA)、グリコケノデオキシコール酸(glycochenodeoxycholic acid、GCDCA)、グリコデオキシコール酸(glycodeoxycholic acid、GDCA)、又はグリコウルソデオキシコール酸(glycoursodeoxycholic acid、GUDCA)を含む、ステロイド酸-ペプチドコンジュゲートを本明細書に記載する。
【0011】
更なる態様では、リトコール酸(LCA)、コール酸(CA)、グリコケノデオキシコール酸(GCDCA)、グリコデオキシコール酸(GDCA)、又はグリコウルソデオキシコール酸(GUDCA)を、異種核リボ核タンパク質(hnRNP)A1 M9タンパク質由来の核局在化シグナル(NLS)とコンジュゲート化することによって生成/形成されるヒドロゲルを、本明細書に記載する。
【0012】
更なる態様では、ステロイド酸-ペプチドコンジュゲートを含むヒドロゲルであって、ステロイド酸-ペプチドコンジュゲートが、異種核リボ核タンパク質(hnRNP)A1 M9タンパク質由来の核局在化シグナル(NLS)とコンジュゲート化されたリトコール酸(LCA)、コール酸(CA)、グリコケノデオキシコール酸(GCDCA)、グリコデオキシコール酸(GDCA)、又はグリコウルソデオキシコール酸(GUDCA)であるか、又はそれを含む、ヒドロゲル、を本明細書に記載する。
【0013】
一般的定義
見出し及び他の識別子、例えば、(a)、(b)、(i)、(ii)などは、明細書及び特許請求の範囲を読みやすくするために提示されるにすぎない。明細書又は特許請求の範囲における見出し又は他の識別子の使用は、工程又は要素がアルファベット順若しくは数字順に、又はそれらが提示される順で実行されることを必ずしも必要とはしない。
【0014】
特許請求の範囲及び/又は明細書において「含む」という用語と併せて使用される場合の単語「a」又は「an」の使用は、「1つ」を意味する場合もあるが、「1つ以上」、「少なくとも1つ」、及び「1つ又は2つ以上」の意味とも一致する。
【0015】
本明細書及び特許請求の範囲において使用される場合、「comprising(含む)」(並びに「comprise」及び「comprises」などの任意の形態の「comprising」)、「having(有する)」(並びに「have」及び「has」などの任意の形態の「having」)、「including(含む)」(並びに「includes」及び「include」などの任意の形態の「including」)、又は「containing(含有する)」(並びに「contains」及び「contain」などの任意の形態の「containing」)という用語は、包括的又は非限定的であり、追加の列挙されていない要素又は方法の工程を除外するものではない。
【0016】
「約」という用語は、値がその値を決定するために用いられている装置又は方法の誤差の標準偏差を含むことを示すために使用される。概して、「約」という用語は、10%までの可能性のある変動を示すことを意味する。したがって、値の1、2、3、4、5、6、7、8、9、及び10%の変動は、「約」という用語に含まれる。別途指示がない限り、範囲の前の「約」という用語の使用は、範囲の両端に適用される。
【0017】
本明細書の他の目的、利点、及び特徴は、添付の図面を参照して単なる例として示される、その特定の実施形態の以下の非限定的な説明を読むことによって、より明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1-1】ヒドロゲル形成及びそれらの配列について試験したステロイド酸-ペプチドコンジュゲート及びペプチド単独(対照)を示す。
【
図1-2】ヒドロゲル形成及びそれらの配列について試験したステロイド酸-ペプチドコンジュゲート及びペプチド単独(対照)を示す。
【
図1-3】ヒドロゲル形成及びそれらの配列について試験したステロイド酸-ペプチドコンジュゲート及びペプチド単独(対照)を示す。
【
図2】25mg/mlのLCA-hnRNPA1 M9 NLSをPBSに室温で溶解させた直後のヒドロゲル形成を示す。
【
図3】20mg/mlのCA-、GCDCA-、LCA-、GDCA-、GUDCA-hnRNPA1 M9 NLSをPBS中室温で3時間インキュベートした後のヒドロゲル形成を示す。
【
図4】10mg/mlのGCDCA-、GDCA-、GUDCA-hnRNPA1 M9 NLSをPBS中室温で1~2日間インキュベートした後のヒドロゲル形成を示す。
【
図5】ステロイド酸-PQBP-1 NLSコンジュゲートを10~20mg/mlで、PBS中室温で1~2日間インキュベートした後にヒドロゲル形成がないことを示す。
【
図6】ステロイド酸-GWG-SV40 NLSコンジュゲートを10~20mg/mlで、PBS中室温で1~2日間インキュベートした後にヒドロゲル形成がないことを示す。
【
図7】GUDCA-hnRNPA1 NLSコンジュゲートを20mg/mlで、純水中室温で1~3時間インキュベートした後のヒドロゲル形成を示す。全てのステロイド酸-hnRNPA1 NLSが、一晩でヒドロゲル形成を誘導した。
【
図8】GCDCA/GDCA/GUDCA-hnRNPA1 NLSコンジュゲート(最終濃度6.67mg/ml)を、ヒト細胞を含む完全DMEM中、室温及び37℃で2時間インキュベートした後のヒドロゲル形成を示す。
【
図9】二量体化CA-NLS1 RPS17を、メタノール:水(40:60)、DMSO、又は水のいずれかにおいて一晩インキュベート(サーモミキサー中37℃;100rpm)した後のヒドロゲル形成を示す(左=インキュベーション前;右=インキュベーション後)。
【
図10】一晩インキュベート(サーモミキサー中37℃;1000rpm)した後に二量体化CDCA-hnRNPA1 M9 NLSによって形成されたヒドロゲルの光学顕微鏡画像を示す。
【
図11】一晩インキュベート(サーモミキサー中37℃;1000rpm)した後のCA-メリチン(DMSO中100mg/ml)中での二量体化のインキュベート後のヒドロゲル形成を示す。
【
図12】一晩インキュベート(サーモミキサー中37℃;1000rpm)した後の二量体化CA-メリチンによって形成されたヒドロゲルの光学顕微鏡画像を示す。
【
図13】溶解させたCDCA-hnRNPA1 M9 NLS単量体又は二量体(DMSOに溶解させ、細胞培地で希釈したもの)のいずれかとともにインキュベートした乳JIMT1がん細胞に対する細胞傷害性アッセイの結果を示す。
【
図14】溶解させたCA-メリチン単量体又は二量体(DMSOに溶解させ、細胞培地で希釈したもの)のいずれかとともにインキュベートした乳JIMT1がん細胞に対する細胞傷害性アッセイの結果を示す。
【
図15】H
2O又はDMSOのいずれかに溶解させたCA-NLS1 RPS17単量体(DMSO中)又は二量体のいずれかとともにインキュベートした細胞に対する細胞傷害性アッセイの結果を示す。
【0019】
配列表
本出願は2022年8月27日に作成されたコンピュータ可読形式の配列表を含む。コンピュータ可読形式は参照により本明細書に組み込まれる。
【0020】
【発明を実施するための形態】
【0021】
ヒドロゲル、及びステロイド酸-ペプチドコンジュゲートを溶媒に溶解又は再懸濁させることによってヒドロゲルを生成又は形成することに関する方法を、本明細書に記載する。いくつかの態様では、本発明は、ペプチド(例えば、核局在化シグナル[NLS]を含むペプチド)をステロイド酸部分とコンジュゲート化することで、ヒドロゲル形成が誘発されるという本明細書における実証に根差している。
【0022】
第1の態様では、ヒドロゲルを生成又は形成するための方法を、本明細書に記載する。本方法は、概して、修飾される好適なペプチド抗原を選択/提供することと、ペプチドを1つ以上のステロイド酸部分と共有結合でコンジュゲート化して、ステロイド酸-ペプチドコンジュゲートを生成することと、を含む。いくつかの実施形態では、ペプチドは、ヒドロゲル形成を改善又は促進するのに十分な数のステロイド酸部分とコンジュゲート化される。
【0023】
いくつかの態様では、本明細書に記載の方法は、ヒドロゲルが形成されるまで、好適なステロイド酸-ペプチドコンジュゲートを溶媒に再懸濁又は溶解させることを含む。いくつかの実施形態では、溶媒に溶解した又はヒドロゲルに含まれるステロイド酸-ペプチドコンジュゲートの濃度は、少なくとも0.001、0.01、0.1、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、又は100mg/mLである。
【0024】
いくつかの態様では、本明細書に記載の方法は、ヒドロゲルが形成されるまで、好適なペプチドをステロイド酸溶液に再懸濁又は溶解させることを含む。いくつかの態様では、ペプチド及びステロイド酸は、架橋ポリマーネットワークをインサイツで自発的に形成する。いくつかの態様では、ペプチド及びステロイド酸は、同時に又は別々に溶媒に加えられる。
【0025】
本明細書で使用される場合、「ヒドロゲル」又は親水性ゲルは、高度に吸収性である親水性架橋ポリマーネットワークである。本明細書に定義するヒドロゲルは、いずれの構造、サイズ、重量、又は形状であってもよい。いくつかの場合には、ヒドロゲルは、1つの完全なヒドロゲル構造であってもよい。いくつかの場合には、ヒドロゲルは、数個のより小さいヒドロゲル構造で構成される。いくつかの場合には、ヒドロゲルは、ゼラチン状沈殿物、又は不透明若しくは半透明である任意の親水性ゲルである。いくつかの場合には、ヒドロゲルは、ヒドロゲル液滴を含むか又はそれらからなる。
【0026】
いくつかの態様では、本明細書に記載のヒドロゲルは、ペプチド及びステロイド酸又はステロイド酸-ペプチドコンジュゲートを溶媒に再懸濁又は溶解させた後で自発的に形成又は生成される。いくつかの態様では、本明細書に記載のヒドロゲルは、ペプチド及びステロイド酸又はステロイド酸-ペプチドコンジュゲートを溶媒に再懸濁又は溶解させた直後に形成又は生成される。いくつかの態様では、ヒドロゲルは、ペプチド及びステロイド酸又はステロイド酸-ペプチドコンジュゲートを溶媒に再懸濁/溶解させた後、少なくとも1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、又は60秒で形成又は生成される。いくつかの態様では、ヒドロゲルは、ペプチド及びステロイド酸又はステロイド酸-ペプチドコンジュゲートを溶媒に再懸濁/溶解させた後、少なくとも1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、120、180、240、300、又は360分で形成又は生成される。いくつかの態様では、ヒドロゲルは、ペプチド及びステロイド酸又はステロイド酸-ペプチドコンジュゲートを溶媒に再懸濁/溶解させた後、少なくとも6、8、10、12、14、16、18、20、22、又は24時間で形成又は生成される。
【0027】
本明細書で使用される場合、「ペプチド」は、いずれの長さであってもよいが、概して7~50アミノ酸長であるアミノ酸の鎖を指す。いくつかの実施形態では、ペプチドは、1つ以上の合成若しくは非天然のアミノ酸、又は修飾アミノ酸を含んでもよい。いくつかの実施形態では、ペプチドは、NLS、又はポリペプチド若しくはNLS由来の部分/ドメインであるか、又はそれを含む。
【0028】
本明細書で使用される場合、「溶媒」は、任意の溶液を指す。いくつかの実施形態では、溶液又は溶媒は、水を含む水溶液又は溶媒であってもよい。いくつかの態様では、溶媒は、任意の一般的に知られている緩衝溶液である。いくつかの場合には、溶媒は100%水である。溶媒はまた、リン酸緩衝生理食塩水(phosphate buffered saline、PBS)又はトリス緩衝生理食塩水(Tris buffered saline、TBS)などであるがこれらに限定されない生理食塩水であってもよい。溶媒は、任意の比率のDMSO-水混合物又はアルコール-水混合物(例えば、水中のメタノール)であってもよい。いくつかの態様では、溶媒は、水性溶媒ではない(例えば、100%DMSO)。溶媒はいずれのpHであってもよい。いくつかの態様では、水性溶媒のpHは、実質的に中性である。いくつかの態様では、溶媒のpHは、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9、7.0、7.1、7.2、7.3、7.4、又は7.5である。
【0029】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のペプチドは、本明細書に記載のステロイド酸とのコンジュゲート化に利用可能な1~50、2~50、5~50、又は10~50個の官能基(例えば、リシン及び/又はシステイン残基;又は任意の他の基)を含んでもよい(又は含むように遺伝子操作されてもよい)。いくつかの実施形態では、ペプチド抗原は、少なくとも7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、又は50アミノ酸長であるアミノ酸配列を含んでもよい。いくつかの実施形態では、ポリペプチドは、ペプチドの溶媒露出アミン(例えば、一級アミン)及び/又はスルフヒドリル基でステロイド酸とコンジュゲート化される。いくつかの実施形態では、ペプチドは、リンカー(例えば、二官能性、三官能性リンカー、又は多官能性リンカー)を介して、又はペプチド上に存在する若しくはペプチド内に遺伝子操作された任意の他の化学基若しくは官能基で、ステロイド酸とコンジュゲート化される。いくつかの実施形態では、ペプチドは、N末端又はC末端システイン残基を介してステロイド酸-ペプチドコンジュゲートとコンジュゲート化される。いくつかの実施形態では、ペプチドは、C末端アミドを含む。
【0030】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のペプチドとのコンジュゲート化に好適なステロイド酸は、胆汁酸(例えば、一次胆汁酸又は二次胆汁酸)を含むか、又はそれからなる。いくつかの実施形態では、ステロイド酸は、コール酸(CA)、ケノデオキシコール酸(CDCA)、デオキシコール酸(DCA)、リトコール酸(LCA)、グリココール酸(GCA)、タウロコール酸(TCA)、グリコデオキシコール酸(CDCA)、グリコケノデオキシコール酸(GCDCA)、タウロデオキシコール酸(TDCA)、グリコリトコール酸(GLCA)、タウロリトコール酸(TLCA)、タウロヒオデオキシコール酸(THDCA)、タウロケノデオキシコール酸(TCDCA)、ウルソコール酸(UCA)、タウロウルソデオキシコール酸(TUDCA)、グリコウルソデオキシコール酸(GUDCA)、ウルソデオキシコール酸(UDCA)、又はそれらの任意の類似体であるか、又はそれを含んでもよい。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のステロイド酸は、
図1から選択される。
【0031】
いくつかの実施形態では、ペプチド当たりのステロイド酸部分の平均数は、例えば、ステロイド酸のタイプ及び/又は選択されたペプチドのタイプ(例えば、アミノ酸長、構造、利用可能な官能基の数)に基づき得る。いくつかの実施形態では、ペプチドをモル過剰のステロイド酸又はステロイド酸-ペプチド部分と反応させて、コンジュゲート化されるステロイド酸部分の数を最大にすることができる。いくつかの実施形態では、ペプチドを制限された量のステロイド酸又はステロイド酸-ペプチド部分と反応させて、コンジュゲート化されるステロイド酸部分の数を制御又は制限することができる。いくつかの実施形態では、各ペプチドは、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、又は50個のステロイド酸部分とコンジュゲート化されてもよい。
【0032】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のステロイド酸は、ステロイド酸-ペプチド部分に含まれてもよい。いくつかの実施形態では、ステロイド酸は、例えば、ペプチドの遊離N末端アミノ基において、又はペプチド内の何らかの他の官能基において、ペプチドと予めコンジュゲート化されていてもよい。いくつかの実施形態では、次いで、ポリペプチド抗原を、ペプチドを介して、例えば、ペプチドのN末端システイン残基において、ステロイド酸-ペプチド部分とコンジュゲート化されていてもよい。
【0033】
いくつかの実施形態では、ペプチドは非免疫原性ペプチドであってもよい。いくつかの実施形態では、ペプチドは水溶性ペプチドであってもよく、ペプチドのステロイド酸とのコンジュゲート化は、ステロイド酸部分単独と比較して、ステロイド酸-ペプチド部分の水溶性を増大させる。いくつかの実施形態では、ペプチドは非水溶性であってもよい。いくつかの実施形態では、ペプチドは、カチオン性、アニオン性、又は非荷電のペプチドであってもよい。
【0034】
いくつかの実施形態では、ペプチドは、修飾ポリペプチド抗原に更なる機能性を付与する1つ以上のドメインを含んでもよい。本明細書で使用される場合、「ドメイン」は、概して、特定の機能性を有するタンパク質の一部を指す。いくつかのドメインは、タンパク質の残りの部分から分離したときにそれらの機能を保存し、したがって、モジュールの様式で使用することができる。多くのタンパク質ドメインのモジュール特性により、本明細書に記載のペプチド内でのそれらの配置に関して柔軟性が提供され得る。しかしながら、いくつかのドメインは、ペプチドの特定の位置(例えば、N又はC末端領域、又はその間)で遺伝子操作された場合に、より良好に機能することができる。その内因性タンパク質内でのドメインの位置は、ドメインがペプチド内のどこに遺伝子操作されるべきかの指標であり得る。
【0035】
いくつかの実施形態では、ペプチドは、エンドサイトーシス、エンドソーム形成、又は細胞内送達を細胞非特異的な様式で刺激するタンパク質形質導入ドメイン(protein transduction domain、PTD)を含んでもよい。いくつかの実施形態では、ペプチドは、特定の細胞内区画に対する修飾ポリペプチド抗原の標的化を促進する細胞内標的化シグナルを含んでもよい。いくつかの実施形態では、ペプチドは、修飾ポリペプチド抗原を核に標的化する核局在化シグナル(NLS)を含んでもよい。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の核局在化シグナルは、SV-40ラージT抗原由来のNLS(例えば、PKKKRKV;配列番号7)由来のNLS又は他の古典的NLSを含んでも、それらから導出されてもよい。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の核局在化シグナルは、非古典的NLS(例えば、hnRNP A1タンパク質中の酸性M9ドメイン;酵母転写抑制因子Matα2中の配列KIPIK;PY-NLS;リボソームNLS;又はU snRNPの複合シグナル)、疎水性PY-NLS、又は塩基性PY-NLSを含んでも、それらから導出されてもよい。
【0036】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の核局在化シグナルは、以下の一般コンセンサス配列:(i)K(K/R)X(K/R)、(ii)(K/R)(K/R)X10~12(K/R)3/5、(式中、(K/R)3/5は5個の連続するアミノ酸のうちの3個のリシン又はアルギニン残基を表す)、(iii)KRX10~12KRRK、(iv)KRX10~12K(K/R)(K/R)、又は(v)KRX10~12K(K/R)X(K/R)、(式中、Xは任意のアミノ酸である)を含んでもよい(Sun et al.,2016)。
【0037】
いくつかの実施形態では、ペプチドは、核局在化シグナルであるか、又はそれを含み、この核局在化シグナルは、サル空胞化ウイルス40(SV40)ラージT抗原由来のNLS、GWG-SV40NLS、リボソームタンパク質S17(RPS17)由来のNLS2、RPS17由来のNLS1、RPS17由来のNLS3、NLS2 RG RSP17、ヌクレオプラスミンNLS、異種核リボ核タンパク質(hnRNP)A1タンパク質中の酸性M9ドメイン、hnRNPA1 M9 NLS、hnRNP D NLS、hnRNP M NLS、HuR NLS、cMyc NLS、TUS NLS、ポリグルタミン結合タンパク質1(PQBP1)NLS、酵母転写抑制因子Matα2中の配列KIPIK、PY-NLS、リボソームNLS、U snRNPの複合シグナル、又はそのNLSの任意の部分である。
【0038】
いくつかの実施形態では、ペプチドは、配列番号1~15のうちのいずれか1つ又は
図1に記載の配列と、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%、又は100%同一のアミノ酸配列を含む核局在化シグナル(NLS)であるか、又はそれを含む。
【0039】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のステロイド酸-ペプチドコンジュゲートは、
図1から選択される。
【0040】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のペプチドは、メリチン(配列番号16)であるか、又はそれを含む。
【0041】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のステロイド酸-ペプチドコンジュゲートは、単量体又は二量体である。
【0042】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のヒドロゲルを生成/形成するための方法は、ステロイド酸-ペプチドコンジュゲートを二量体化することを更に含む。二量体化技法は一般に知られており、ジイソプロピルエチルアミン(Diisopropylethylamine、DIPEA)、又はペプチドの二量体化を誘導することが可能な任意の他の化合物/溶媒を加えることを含んでもよい。
【0043】
いくつかの態様では、ペプチド、ステロイド酸若しくはその塩、又はステロイド酸-ペプチドコンジュゲートは、粉末などの固体形態であるか、又は凍結乾燥されている。いくつかの態様では、溶媒に再懸濁/溶解させた又はステロイド酸/ペプチド混合物又はステロイド酸-ペプチドコンジュゲートの最終濃度は、少なくとも0.001、0.01、0.1、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、又は100mg/mLである。
【0044】
いくつかの態様では、本明細書に記載の方法によって形成又は生成されるヒドロゲルを本明細書に記載する。
【0045】
いくつかの態様では、本明細書に定義のステロイド酸-ペプチドコンジュゲート又はステロイド酸及びペプチド混合物を含むヒドロゲルを本明細書に記載する。
【0046】
いくつかの態様では、リトコール酸(LCA)、コール酸(CA)、グリコケノデオキシコール酸(GCDCA)、グリコデオキシコール酸(GDCA)、又はグリコウルソデオキシコール酸(GUDCA)を、異種核リボ核タンパク質(hnRNP)A1 M9タンパク質由来の核局在化シグナル(NLS)とコンジュゲート化してコンジュゲートを形成することと、当該コンジュゲートを溶媒に溶解/再懸濁させることと、によって生成/形成されるヒドロゲルを、本明細書に記載する。
【0047】
いくつかの態様では、ステロイド酸-ペプチドコンジュゲートを含むヒドロゲルであって、ステロイド酸-ペプチドコンジュゲートが、異種核リボ核タンパク質(hnRNP)A1 M9タンパク質由来の核局在化シグナル(NLS)とコンジュゲート化されたリトコール酸(LCA)、コール酸(CA)、グリコケノデオキシコール酸(GCDCA)、グリコデオキシコール酸(GDCA)、又はグリコウルソデオキシコール酸(GUDCA)であるか、又はそれを含む、ヒドロゲル、を本明細書に記載する。
【0048】
いくつかの態様では、ヒドロゲルの生成/形成に使用するための、異種核リボ核タンパク質(hnRNP)A1 M9タンパク質由来の核局在化シグナル(NLS)とコンジュゲート化したリトコール酸(LCA)、コール酸(CA)、グリコケノデオキシコール酸(GCDCA)、グリコデオキシコール酸(GDCA)、又はグリコウルソデオキシコール酸(GUDCA)を含む、ステロイド酸-ペプチドコンジュゲートを本明細書に記載する。
【0049】
いくつかの態様では、ヒドロゲルの生成/形成に使用するための、本明細書に記載のステロイド酸-コンジュゲートであるステロイド酸-ペプチドコンジュゲートを本明細書に記載する。
【0050】
いくつかの態様では、ヒドロゲルの生成/形成のための、本明細書に記載のステロイド酸コンジュゲートの使用を本明細書に記載する。
【実施例】
【0051】
実施例1:一般的な材料及び方法
ステロイド酸-ペプチドコンジュゲートの生成
ステロイド酸-ペプチドコンジュゲートを、以前にBeaudoin et al.,2016、米国特許第11,291,717号、及び国際出願PCT/CA2022/050714号に記載されているコール酸-NLS(cholic acid-NLS、CA-NLS)の合成と同様にして合成した。例えば、CA-SV40NLSの場合、コール酸を、リンカーアミノ酸が隣接し、C末端アミドを含むSV40ラージT抗原(配列番号2)由来の核局在化シグナルを含む、13merペプチド(CGYGPKKKRKVGG;配列番号1)のN端システイン残基の遊離アミノ基とコンジュゲート化した。ヒドロゲル形成のために試験したペプチド及びステロイド酸-ペプチドコンジュゲートのリストを
図1に示す。
【0052】
ステロイド酸-ペプチドコンジュゲートの二量体化
50mgのステロイド酸-ペプチドコンジュゲートを200~500μLのDMSOに再懸濁させた。10当量のN,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)を混合物に加え、サーモミキサー中37℃で撹拌しながら(1000rpm)一晩インキュベートし、それらの末端システインチオール基を介したペプチドの二量体化を可能にした。次に、試料を写真撮影してヒドロゲル形成を視覚的に記録した後、UPLC-MSによって分析して二量体形成効率を評価した。次に、ヒドロゲル材料を特性評価するために試料を光学顕微鏡によって更に分析し、細胞傷害性アッセイ(PrestoBlue(商標))によって細胞傷害性を評価した。CA-メリチンヒドロゲルは、より半液体固体のヒドロゲル(非常に粘性の溶液)であることが観察された。
【0053】
ヒドロゲル形成
各ステロイド酸-ペプチド単量体又は二量体コンジュゲートの粉末を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)1倍(pH7.4)、純水、完全細胞培地(DMEM)、DMSO、又はアルコール:水の混合物(例えば、メタノール:水(40:60))に、室温又は37℃で、6~30mg/mLの濃度で再懸濁させることによって、特定のヒドロゲルの形成を行った。
【0054】
細胞傷害性アッセイ
ウェル(96ウェルプレート)当たり5000個のJIMT1細胞(乳がん細胞株)をプレーティングした。1日後、細胞を異なるステロイド酸-ペプチドコンジュゲート又はヒドロゲルで3日間処理した。細胞生存を、製造業者のプロトコルに従ってPrestoBlue(商標)によって決定した。
【0055】
実施例2:ステロイド酸-ペプチド単量体コンジュゲートは自発的にヒドロゲルを形成する
ヒドロゲル形成を、
図1に記載する異なるペプチド又はステロイド酸-ペプチドコンジュゲートを異なる溶媒に溶解させて、評価した。ヒドロゲル形成の動態は、ステロイド酸-ペプチドコンジュゲート、ステロイド酸-ペプチドコンジュゲートの濃度、並びに使用する溶媒に左右されることが分かった。ヒドロゲル構造(軟質であるか硬質であるか)及び色/透明度(半透明であるか不透明であるか)は、異なる条件間で様々であった。驚くべきことに、LCA-hnRNPA1 NLS単量体(すなわち、hnRNPA1 M9 NLS;配列番号4)(25mg/mL)を1倍PBS(pH7.4)に室温で再懸濁させた直後、逆さのチューブによって示されるように、ヒドロゲルが数秒以内に自発的に形成された(
図2)。20mg/mLで、CA、GCDCA、LCA、GDCA、又はGUDCAのいずれかとコンジュゲート化されたhnRNPA1 NLS単量体は、PBS中室温で少なくとも3時間インキュベートした後にヒドロゲルを形成した(
図3)。10mg/mLで、試験した全てのステロイド酸-hnRNPA1 NLS単量体コンジュゲートが、PBS中室温で1~2日後にヒドロゲルを形成した(GCDCA-、GDCA-、GUDCA-hnRNPA1 NLSについてのみ示す;
図4)。10mg/mL未満の濃度では、試験した全てのステロイド酸-hnRNPA1 NLSコンジュゲートが、PBS中室温で液滴を形成した。ステロイド酸とコンジュゲート化したGWG-SV40NLSの単量体も、ヒドロゲルを形成することが示された(データ割愛)。
【0056】
図1で試験した他のステロイド酸-ペプチド単量体コンジュゲートは、室温で数日間インキュベートした後、PBS中10~20mg/mLで、ヒドロゲルを形成することができなかった。これは、PQBP-1及びGWG-SV40のステロイド酸コンジュゲートについて、それぞれ、
図5及び
図6に示す。
【0057】
試験した他の溶媒に関しては、GUDCA-hnRNPA1 NLS単量体を純水に20mg/mLで溶解させたとき、室温で1時間後及び3時間まで、ヒドロゲルが形成された(
図7)。しかしながら、一晩インキュベートした後、試験した全てのステロイド酸-hnRNPA1 NLS単量体コンジュゲートが、ヒドロゲルを形成した(データ割愛)。GCDCA-hnRNPA1 NLS単量体(最終濃度6.67mg/mL)により、ヒト細胞を含む完全DMEM中、室温及び37℃で、30分後にヒドロゲル形成が誘導されることを観察した。2時間インキュベートした後、GCDCA/GDCA/GUDCA-hnRNPA1 NLS単量体コンジュゲートは、細胞培地中室温及び37℃でヒドロゲルを形成した(
図8)。同様の結果が一晩のインキュベーション後に見られた。
【0058】
これらのデータは、異なるステロイド酸-hnRNPA1 NLS単量体コンジュゲートを異なる温度及び濃度で様々な溶媒に溶解させると、ヒドロゲルが自発的に形成されるという驚くべき結果を示す。
【0059】
実施例3:二量体化ステロイド酸-ペプチドコンジュゲートは自発的にヒドロゲルを形成する
ヒドロゲル形成を二量体化ステロイド酸-ペプチドコンジュゲートについて観察すると、驚くべきことに、ステロイド酸-ペプチドコンジュゲートにおいてであっても、これは単量体としてヒドロゲルを形成しなかった。二量体化を、実施例1に記載したとおりに行った。
【0060】
二量体化CDCA-hnRNPA1 M9 NLSは、ヒドロゲルを形成するその能力を維持した。CDCA-hnRNPA1 M9 NLS二量体によって形成されたヒドロゲルの光学顕微鏡画像を
図10に示す。
【0061】
興味深いことに、CA-NLS1 RPS17は、その単量体形態でヒドロゲルを形成しないことが観察されたものの、複数の溶媒においてその二量体形態でヒドロゲルを形成することができた(
図9)。
【0062】
全てのステロイド酸-ペプチドコンジュゲートが、それらの二量体化反応(100%DMSO中)後に自発的にヒドロゲルを形成することができた。しかしながら、水又は水性溶媒を加えることで、ヒドロゲル形成が一貫して増強された。更に、二量体系ヒドロゲルは、メタノール、DMSO、及び水などの異なる溶媒の存在下で形成された。
【0063】
ペプチドメリチンは、典型的には、NLSペプチドとはみなされないが、核局在化活性を呈すことが示されている(Ogris et al.,2001)。興味深いことに、CA-メリチンの単量体(配列番号16)は、ヒドロゲルを形成することができなかったが、二量体化CA-メリチンは、他のステロイド酸-ペプチドコンジュゲートによって形成されるものよりも柔らかい質感を有するヒドロゲルを形成することができた。CA-メリチンの二量体化によって形成されたヒドロゲルの光学顕微鏡画像を
図12に示す。
【0064】
実施例4:ステロイド酸-ペプチドコンジュゲートの二量体化がヒドロゲル細胞傷害性に与える影響
ヒドロゲルは、薬物送達及びインビボ用途のために一般的に使用され、したがって、それらの安全性プロファイルを評価することは、非常に妥当なことである。ヒドロゲルの細胞傷害性を、実施例1に記載したように、単量体又はステロイド酸-ペプチドコンジュゲートによって形成されたヒドロゲルとともに細胞をインキュベートすることで、細胞毒性アッセイを介して評価した。
図13に示すように、CDCA-hnRNPA1 M9 NLSの単量体によって形成されたヒドロゲルは、10μg/mLより高い濃度で細胞の生存を低減させた。しかしながら、CDCA-hnRNPA1 M9 NLSの二量体によって形成されたヒドロゲルの存在下では、100μg/mLまでの試験した全ての濃度で、生存が維持された。同様の結果がCA-メリチンで示され、このため、CA-メリチンの二量体によって形成されたヒドロゲルの傷害性は有意に低かった(
図14)。更に、水又はDMSOのいずれかにおいてCA-NLS1 RPS17の二量体によって形成されたヒドロゲル(完全な溶解を確実にするために100℃で2~3分間加熱した)も、CA-NLS1 RPS17単量体によって形成されたヒドロゲルよりも有意に毒性が低いことが観察された(
図15)。
【0065】
これらのデータにより、可能性のあるインビボ用途のための二量体化ステロイド酸-ペプチドコンジュゲートによって形成されたヒドロゲルの低減された毒性が示される。
【0066】
参考文献
Beaudoin et al.,(2016).ChAcNLS,a novel modification to antibody-conjugates permitting target cell-specific endosomal escape,localization to the nucleus and enhanced total intracellular accumulation.Molecular Pharmaceutics,13(6):1915-26.
Ogris et al.,(2001).Melittin enables efficient vesicular escape and enhanced nuclear access of nonviral gene delivery vectors.Jouirnal of Biological Chemistry,276(50):47550-5.
Sun et al.,(2016).Factors influencing the nuclear targeting ability of nuclear localization signals.Journal of Drug Targeting,24(10):927-933.
【配列表】
【国際調査報告】