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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-16
(54)【発明の名称】キトサンベースの膨潤ゲル
(51)【国際特許分類】
   A61L 17/10 20060101AFI20241008BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20241008BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20241008BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20241008BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20241008BHJP
   A61P 39/04 20060101ALI20241008BHJP
   A61K 31/722 20060101ALI20241008BHJP
   A61L 31/04 20060101ALI20241008BHJP
   A61L 31/14 20060101ALI20241008BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20241008BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
A61L17/10
A61K45/00
A61K9/08
A61K9/19
A61K9/06
A61P39/04
A61K31/722
A61L31/04 120
A61L31/14 300
A61K47/36
A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024520753
(86)(22)【出願日】2022-10-03
(85)【翻訳文提出日】2024-06-03
(86)【国際出願番号】 FR2022051864
(87)【国際公開番号】W WO2023057712
(87)【国際公開日】2023-04-13
(31)【優先権主張番号】2110474
(32)【優先日】2021-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】520223974
【氏名又は名称】メクスブレン
(71)【出願人】
【識別番号】503161615
【氏名又は名称】ウニベルシテ クロード ベルナール リヨン 1
(71)【出願人】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(71)【出願人】
【識別番号】520328442
【氏名又は名称】アンスティチュ・ナシオナル・デ・シアンス・サプリケ・リヨン
(71)【出願人】
【識別番号】521372183
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ジャン・モネ・サン・テティエンヌ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】オリヴィエ・ティエメン
(72)【発明者】
【氏名】フランソワ・ルクス
(72)【発明者】
【氏名】トマ・グレ
(72)【発明者】
【氏名】コラリー・グランジュ
(72)【発明者】
【氏名】アクセル・エーグル
(72)【発明者】
【氏名】アヌク・ルーディエ
(72)【発明者】
【氏名】ローラン・ダヴィッド
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンドラ・モンテンボー
(72)【発明者】
【氏名】オギュスタン・ティエメン
(72)【発明者】
【氏名】ルノー・パッシュー
(72)【発明者】
【氏名】ファン・フェリペ・サラサール・アリーサ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C081
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA09
4C076AA12
4C076AA30
4C076BB31
4C076BB32
4C076CC50
4C076EE30
4C076EE37
4C076FF70
4C076GG11
4C081AB11
4C081AB19
4C081AC02
4C081CD09
4C081CE01
4C081CE02
4C081DA04
4C081DA12
4C081DA16
4C081EA02
4C084AA17
4C084MA17
4C084MA28
4C084MA44
4C084MA63
4C084MA67
4C084NA14
4C084ZC37
4C084ZC75
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA20
4C086EA23
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA05
4C086MA17
4C086MA28
4C086MA44
4C086MA63
4C086MA67
4C086NA14
4C086ZC37
4C086ZC75
(57)【要約】
本発明は、1つ又は複数の金属をキレート化することができるキレート基を担持するポリマーを含む組成物の分野、及びその種々の使用に関する。特に、本発明は、キレート基を有するコポリサッカライドを保有する組成物であって、ゲルの形態であってもよい、前記組成物、並びにこのゲルから得られる糸に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.少なくとも1つのキトサンA、及び
b.100kDa~1000kDaの間の質量平均分子量を有する、式Iの少なくとも1つの統計コポリサッカライド(copolysaccharide)B:
【化1】
(式中、
- 各Rcは独立してキレート剤を含む基を表し、
- 各Zは独立してリンカーを表し、これは単結合又は1~12個の間の炭素原子を含む炭化水素ベースの鎖であってもよく、前記鎖は直鎖又は分岐鎖であり、1つ又は複数の不飽和を含み、1つ又は複数のヘテロ原子であって、好ましくは窒素、酸素、硫黄及びハロゲン族の原子から選択される、1つ又は複数のヘテロ原子を含むことが可能であり、
- xは、0.01~0.5の間であり、
- yは、0.05~0.5の間であり、
- y/x比は、0.2より大きく、好ましくは1より大きい
- x+yの合計は、0.1より大きく、かつ
基の10%未満が、ブロックd及びf元素から選択される遷移元素のカチオンによってキレート化されるRc型のキレート剤を含む)、及び
c.任意選択で水、を含む組成物。
【請求項2】
- 組成物の総乾燥質量に対して少なくとも10%のキトサンAに関する結晶化度、及び
- 20nm未満のキトサンAの結晶子サイズ、を有することを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
AとBとの間の質量比(A:B)が、2:1~1:10の間、好ましくは1:1~1:5の間であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記キトサンAが、100kg/mol~1000kg/molの間、好ましくは200kg/mol~700kg/molの間の平均分子量Mwを有することを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記キトサンAが、40%未満、好ましくは10%未満、例えば0%~10%の間のアセチル化度xを有することを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
100kDa~1000kDaの間の質量平均分子量を有する、式Iの前記統計コポリサッカライドBが、式II:
【化2】
のものであることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の組成物。
(式中、
- Rc1及びRc2は異なっており、キレート剤を含む基であり、
- Z1及びZ2は、同一又は異なっており、リンカーであり、これらは単結合又は1~12個の間の炭素原子を含む炭化水素ベースの鎖であってもよく、前記鎖は直鎖又は分岐鎖であり、1つ又は複数の不飽和を含み、1つ又は複数のヘテロ原子であって、好ましくは窒素、酸素、硫黄及びハロゲン族の原子から選択される、1つ又は複数のヘテロ原子を含むことが可能であり、
- xは、0.01~0.5の間、好ましくは0.01~0.1の間、及び優先的には0.05~0.1の間であり、
- yは、0.01~0.5の間、好ましくは0.05~0.2の間であり、
- zは、0~0.2の間であり、
並びに
基の10%未満が、ブロックd及びf元素から選択される遷移元素のカチオンによってキレート化されるRc1及びRc2型のキレート剤を含む)
【請求項7】
好ましくは抗がん剤、抗菌剤、抗真菌剤、抗炎症剤、メッセンジャーRNA、タンパク質及び抗原から選択される少なくとも1つの活性医薬成分を更に含むことを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
水溶液であり、好ましくは少なくとも10g/lのキトサンAとコポリサッカライドBの混合物を含むことを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
凍結乾燥物又はゲルの形態、好ましくはヒドロゲル、キセロゲル又はエアロゲルの形態であることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
キセロゲルの形態であり、前記キセロゲルはヒドロゲルの少なくとも部分的な乾燥から生じることを特徴とする、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
水性媒体又は生体組織と少なくとも1時間接触すると、膨潤してヒドロゲルを形成し、前記ヒドロゲルは、前記水性媒体又は生体組織と接触する前の参照キセロゲルの体積の少なくとも2倍、好ましくは少なくとも5倍の体積を有することを特徴とする、請求項10に記載のキセロゲル形態の組成物。
【請求項12】
請求項9に記載の組成物のゲル又は凍結乾燥物を含むことを特徴とする、糸。
【請求項13】
請求項12に記載の糸を含むことを特徴とする、繊維材料。
【請求項14】
請求項1から11のいずれか一項に記載の組成物を含むことを特徴とする医療デバイスであって、好ましくはドレッシング剤、インプラント、又は皮膚充填製品であることを特徴とする、前記医療デバイス。
【請求項15】
糸の形態の皮膚充填剤製品であり、前記糸は、好ましくは、ヒドロゲルを形成するために水性媒体又は生体組織と接触すると膨潤することができるキセロゲルの形態であることを特徴とする、請求項14に記載の医療デバイス。
【請求項16】
少なくとも1つの金属を捕捉するために使用する、好ましくは子宮内膜症、真菌感染症、細菌感染症、慢性創傷、神経変性傷害、神経系病変、ヘモクロマトーシス、ウィルソン病、若しくは鉛中毒の処置又は予防における少なくとも1つの金属を捕捉するために使用する、請求項1から11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
以下の工程:
1)キトサンAと、100kDa~1000kDaの間の質量平均分子量を有する、式Iの統計多糖Bとを水中に分散させる工程、
2)酸、好ましくは酢酸を加える工程
3)請求項1から7のいずれか一項に記載の組成物を含む溶液を回収するために、得られた溶液を混合し、次に遠心分離する工程、
4)任意選択で、ゲル形態の前記組成物を得るために、工程3で得られた前記溶液を塩基性水浴中で処理する工程、及び
5)任意選択で、工程4で得られた前記ゲルを、洗浄、乾燥及び/又は好ましくはオートクレーブによって滅菌する工程、を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の組成物を調製するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1つ又は複数の金属をキレート化することができるキレート基を有するポリマーを含む組成物の分野、及びその種々の使用に関する。特に、本発明は、キレート基を担持する多糖を含む、ゲルの形態であってもよい組成物、及びこれらのゲルから得られる糸に関する。
【背景技術】
【0002】
多糖は、植物、真菌、動物、又は細菌のバイオマスに由来するポリマーである。これらのポリマーは非常に多様な物理化学的特性を有し、多くの場合再吸収性、生体適合性、更には生物活性であるため、幅広い生物医学用途に使用することができる。多糖の化学修飾により、その物理化学的特性、特に中性付近のpHにおける水性媒体中での溶解度を適合させることが可能になる。高度に特異的なキレート剤による多糖の官能化により、生物医学分野における特定の用途も可能になる。例えば、これらの単位を多糖構造にグラフトした後、ポリマーは、恒常性の維持等の観点から、生体から病原性金属を除去するための解毒生物医学デバイスの組成物に使用することができる。
【0003】
身体の内部環境、すなわち身体のすべての生物学的液体又は体液の恒常性を維持することは、身体が適切に機能するために必要である。金属ホメオスタシスにおける全身的又は局所的な調節不全は、多くの疾患で実証されている。金属イオンの濃度を低下させることを目的としたキレーション療法は、急性中毒の場合にすでに長年使用されている。したがって、一定数のキレート剤がすでにヒトに受け入れられており、それぞれが特定の金属群に関連付けられている(G. Crisponiら、Coordination Chemistry Reviews、2015年)。
【0004】
ますます多くの科学的研究が、金属、特に鉄だけでなく、銅、亜鉛、マンガン、更にはアルミニウム及び鉛が多くの神経疾患において果たす重要な役割を強調している(E. J. McAllumら、J. Mol. Neurosci., 2016年)。
【0005】
したがって、金属を捕捉するために使用することができる医療デバイスはすでに存在している。それにもかかわらず、これまでに得られた結果を改善すること、特にこれらの処置の副作用を軽減することは依然として有益である。
【0006】
更に、医療デバイス用のさまざまな形状、例えば織物の形態で織るか又は編むことができ、ドレッシング又は頭頂インプラントタイプの医療デバイスを得ることができる単糸又は多糸を有することも望ましい。単糸は、移植を低侵襲戦略と組み合わせる必要がある場合にも有利であり得る。したがって、体内に金属が蓄積している場合に、局所的に金属恒常性を回復するために金属カチオンを捕捉することを可能にする糸を提供することは、特に興味深いであろう。
【0007】
したがって、本発明の1つの目的は、1つ又は複数の金属をキレート化することができる組成物を提案することである。本発明の別の目的は、1つ又は複数の金属をキレート化することができる糸を提供することである。本発明の別の目的は、良好な機械的特性を有し、したがって織物の形態で織るか編むことができる糸を提供することである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】G. Crisponiら、Coordination Chemistry Reviews、2015年
【非特許文献2】E. J. McAllumら、J. Mol. Neurosci., 2016年
【非特許文献3】Mike Robitzer、Laurent David、Cyrille Rochas、 Francesco Di Renzo及びFrancoise Quignard、Nanostructure of calcium alginate aerogels obtained from multistep solvent exchange route、Langmuir 2008年、24、12547~12552頁
【非特許文献4】Mike Robitzer、Laurent David、Cyrille Rochas、Francesco Di Renzo及びFrancoise Quignard、Supercritically-dried alginate aerogels retain the fibrillar structure of the hydrogels、Macromol. Symp. 2008年、273, 80~84頁
【非特許文献5】「Physico-chemical studies of the gelation of chitosan in a hydroalcoholic medium」、A. MONTEMBAULT、C. VITON、A. DOMARD、Biomaterials、26(8)、933~943頁、2005年
【非特許文献6】A. HIRAI、HODANI、A. NAKAJIMA、Polymer Bulletin、26(1)、87~94頁、1991年
【非特許文献7】Alexander, L. E.、「X-ray Diffraction Methods in Polymer Science」、 Wiley-Interscience, New York、1969年、137頁
【非特許文献8】Alexander,L.E.、「X-ray Diffraction Methods in Polymer Science」、Wiley-Interscience、New York、1969、137頁
【非特許文献9】Asako Hiraiら、Determination of degree of deacetylation of chitosan by 1H NMR spectroscopy、Polymer Bulletin、1991年、26、87~94頁
【非特許文献10】T. E. Robinsonら、Filling the Gap: A Correlation between Objective and Subjective Measures of Injectability, Adv. Healthc. Mater.、第9巻, no 5、1901521頁、2020年
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1に、本発明は、
a.少なくとも1つのキトサンA、及び
b.100kDa~1000kDaの間の質量平均分子量を有する、式Iの少なくとも1つの統計コポリサッカライド(copolysaccharide)B:
【0010】
【化1】
【0011】
(式中、
- 各Rcは独立してキレート剤を含む基を表し、
- 各Zは独立してリンカーを表し、これは単結合又は1~12個の間の炭素原子を含む炭化水素ベースの鎖であってもよく、前記鎖は直鎖又は分岐鎖であり、1つ又は複数の不飽和を含み、1つ又は複数のヘテロ原子であって、好ましくは窒素、酸素、硫黄及びハロゲン族の原子から選択される、1つ又は複数のヘテロ原子を含むことが可能であり、
- xは、0.01~0.5の間であり、
- yは、0.05~0.5の間であり、
- y/x比は、0.2より大きく、好ましくは1より大きい、
- x+yの合計は、0.1より大きく、かつ
基の10%未満が、ブロックd若しくはf元素から選択される遷移元素のカチオンによってキレート化されるRc型のキレート剤を含む)、及び
c.任意選択で水、を含む組成物に関する。
【0012】
コポリサッカライドB中のRc型のキレート基の存在により、この組成物は1つ又は複数の金属を効率的に捕捉することができ、特に金属カチオンを捕捉することができる。更に、キトサンA及びキトサンから生成される多糖Bの使用により、有益な特性を有する組成物を得ることが可能になる。実際、この組成物は生分解性、生体適合性、及び生体再吸収性であり得る。したがって、金属をキレート化することが可能になるこのような組成物の使用には、数多くの可能な医療用途がある。
【0013】
加えて、この組成物から、特に組成物の押出によって糸を形成することが可能である。この糸は、機械的特性が優れており、成形することができる。例えば、金属を捕捉できる(編んだ又は織った)織物材料を形成するために、糸を編み込むことが可能である。
【0014】
更に、驚くべきことに、本発明者らは、この組成物が生体液と接触するとかなりの程度まで膨潤することができることを実証した。この膨潤により、捕捉されるべき金属種の拡散及び捕捉を促進することが可能になり、したがって材料の有効性が向上する。
【0015】
本発明はまた、本発明による組成物のゲル又は凍結乾燥物を含む糸にも関する。
【0016】
本発明はまた、本発明による糸を含む織物材料にも関する。
【0017】
本発明はまた、本発明による組成物を含む医療デバイスであって、好ましくはドレッシング剤、インプラント、又は皮膚充填製品である、医療デバイスにも関する。
【0018】
本発明は、少なくとも1つの金属を捕捉するために使用するための、好ましくは子宮内膜症、真菌感染症、細菌感染症、慢性創傷、神経変性傷害、神経系病変、ヘモクロマトーシス、ウィルソン病、若しくは鉛中毒の処置又は予防における少なくとも1つの金属を捕捉するために使用するための組成物に関する。
【0019】
本発明はまた、本発明による組成物を調製するための方法であって、以下の工程:
1)キトサンAと、式Iの100kDa~1000kDaの間の質量平均分子量を有する統計多糖Bとを水中に分散させる工程、
2)酸、好ましくは酢酸を加える工程、
3)本発明の組成物を含む溶液を回収するために、得られた溶液を混合し、次に遠心分離する工程、
4)任意選択で、ゲル形態の組成物を得るために、工程3で得られた溶液を塩基性水浴中で処理する工程、及び
5)任意選択で、工程4で得られたゲルを、好ましくはオートクレーブによって洗浄、乾燥及び/又は滅菌する工程、を含む、方法にも関する。
【0020】
他の特徴、詳細及び利点は、以下の詳細な説明を読み、添付の図面を検討すると明らかになるであろう、これらの図面において:
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例4によるディスク状のヒドロゲルの写真を示す;左上:本発明による組成物9(HG-5-5)。左下:本発明による組成物12(HG-8-8);右下:本発明による組成物10(HG-5-10);右上:本発明による組成物11(HG-5-15)。
図2】実施例4により得られた円柱状のヒドロゲルの写真を示す。これは比較組成物2(Ref-HG-8-0)である。
図3】実施例4により得られた円柱状のヒドロゲルの写真を示す。これは、本発明による組成物10(HG-5-10)である。
図4】実施例5による結び目を有する糸の光学顕微鏡写真を示す。
図5】実施例5による2本の編み込み糸の光学顕微鏡写真を示す。
図6】実施例6による乾燥ゲルの写真を示す。
図7】実施例6による膨潤ゲルの写真を示す。
図8】実施例6による、半分を水に浸漬した糸の光学顕微鏡写真を示す。
図9】実施例6による、一部のみに水滴を付着させた糸の光学顕微鏡写真を示す。
図10】10mMのPBS中の本発明による組成物23(IS-1,7-3,3)の注入後の実施例12によるゲルの形成の写真を示す。
図11】実施例14による、注入直後(0日目)、15日後、及び30日後に形成されたゲルのMRI画像(7.1T)を示す。
図12】実施例14による、注入直後に形成されたゲルのMRI画像(7.1T)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
定義
本開示では、特に明記しない限り、すべてのパーセンテージ及びppmは質量で示される。
【0023】
特に指示がない限り、本開示で言及されるすべての粘度は、25℃における「ニュートン」動粘度、すなわち、粘度が速度勾配に依存しないように測定される程度に低い剪断速度勾配を有するレオメーターを用いて、それ自体公知の方法で、測定される動粘度に対応する。
【0024】
本開示の目的上、「キトサン」とは、β(1->4)型のグリコシド結合によって結合されている、D-グルコサミン(GlcN)とN-アセチル-D-グルコサミン(GlcNAc)とのランダム分布(統計コポリマー)又は非ランダム分布(ブロック又は配列コポリマー)からなる天然コポリサッカライド型ポリマーを意味し、又は更にD-グルコサミンのみからなるものを意味する。キトサンは、バイオマス中に天然の状態で特に存在するわけではなく、キトサンがその誘導体であるキチンの化学修飾によって主に得られる。キチンは、構造的役割を有する;それは、キチンが細胞壁を形成するいくつかの菌類(担子菌類、例えば、アガリスクス・カンペストリス(Agariscus campestris)、アガリスクス・ビスポラス(Agariscus bisporus)、子嚢菌類、接合菌類、及び不完全菌類)に主に見られるが、節足動物(甲殻類及び昆虫)、特にエビ及びカニの外骨格、並びにツツイカ又はコウイカ等の頭足類の内骨格も形成する。キチンは、脱アセチル化、すなわちアセチル基のアルカリ加水分解によって第一級アミン基を生成することによってキトサンに変換される。キトサンは、静菌性及び静真菌性を有する生分解性及び生体適合性ポリマーである。
【0025】
「ゲル」は、溶媒によって膨潤した非流体ポリマーネットワークを意味する。ポリマーネットワークは、架橋ポリマー鎖からなるネットワークである。ポリマーの架橋に関与する相互作用は、物理的又は化学的であり得る。有利には、本発明との関係では、ゲルはキトサンA、コポリサッカライドBのみからなり、任意選択で水及び/又は活性医薬成分からなる。
【0026】
「ヒドロゲル」は、少なくとも60質量%、好ましくは少なくとも80質量%の水を含む粘弾性材料を意味する。本発明によるヒドロゲルは、一般に、0.1質量%~40質量%、好ましくは0.5質量%~20質量%のキトサンAとコポリサッカライドBとの混合物を含有する。
【0027】
本発明との関係では、鎖間相互作用が共有結合型である「化学的」ヒドロゲル(架橋ヒドロゲルとも呼ばれる)とは対照的に、ヒドロゲルに凝集力を与える鎖間架橋に関与する相互作用が物理的であり、特に水素結合及び/又は疎水性相互作用であるため、ヒドロゲルは物理的であると言われる。純粋な物理ヒドロゲルには化学架橋剤は存在しない。有利には、本発明との関係では、物理ヒドロゲルは、水、キトサンA、コポリサッカライドB、及び任意選択で医薬活性成分のみからなり、好ましくは80%(w/w)を超える水を含有する。特に、そのようなヒドロゲルは、コラーゲン、ポリカプロラクトン、又は有毒な化学架橋剤(グルタルアルデヒド、ホルムアルデヒド、エピクロロヒドリン型等)を含まない。化学ヒドロゲルは共有結合の安定性により再吸収性が低いが、一方、本発明によるキトサンA及びコポリサッカライドBの物理ヒドロゲルは、生理学的媒体、特に弱酸性条件下で再吸収可能であるため、物理ヒドロゲルには利点がある。
【0028】
「キセロゲル」は、60質量%未満、好ましくは50質量%未満、より好ましくは20質量%未満の水を含む、乾燥、特にヒドロゲルの乾燥によって得られる材料を意味する。本発明によるキセロゲルは、一般に、キトサンAとコポリサッカライドBの混合物の少なくとも40質量%、好ましくは混合物の40~100%の間、優先的には50~99.9%の間、より優先的には混合物の80~99.5%の間を含有する。
【0029】
「エアロゲル」は、構造的にはヒドロゲルに類似しているが、溶媒の毛細管力が材料に及ぼす影響を防ぐプロセスを使用して水がガスに置き換えられた材料を意味する(Mike Robitzer、Laurent David、Cyrille Rochas、 Francesco Di Renzo及びFrancoise Quignard、Nanostructure of calcium alginate aerogels obtained from multistep solvent exchange route、Langmuir 2008年、24、12547~12552頁並びにMike Robitzer、Laurent David、Cyrille Rochas、Francesco Di Renzo及びFrancoise Quignard、Supercritically-dried alginate aerogels retain the fibrillar structure of the hydrogels、Macromol. Symp. 2008年、273, 80~84頁)。
【0030】
本発明との関係では、キトサンA及びコポリサッカライドBの質量平均モル質量Mwは、サイズ排除クロマトグラフィーによって決定され、その実験条件は、出版物「Physico-chemical studies of the gelation of chitosan in a hydroalcoholic medium」、A. MONTEMBAULT、C. VITON、A. DOMARD、Biomaterials、26(8)、933~943頁、2005年に記載されている。
【0031】
キトサンA及びコポリサッカライドBのアセチル化度(DA)は、HIRAIの方法論に従ってプロトンNMR技術を使用して決定される(A. HIRAI、H ODANI、A. NAKAJIMA、Polymer Bulletin、26(1)、87~94頁、1991年)。
【0032】
本発明との関係では、結晶化度は結晶状態にある材料の割合を表す。多糖の場合、多くの多糖は結晶相の融点より低い温度で分解し、このことにより示差走査熱量測定を使用することができなくなるので、結晶化度は、X線回折によって決定されることがよくある(Alexander, L. E.、「X-ray Diffraction Methods in Polymer Science」、 Wiley-Interscience, New York、1969年、137頁)。したがって、本発明との関係で考慮されるのは、この方法である。他の分光法も可能であるが、それぞれの場合に適応させる必要がある(フーリエ変換赤外分光法、ラマン分光法)。原理的には、勾配カラムで密度を測定すると、ポリマーの非晶質相と結晶相の密度がわかれば結晶化度を計算することができるが、多くの多糖は膨潤して密度勾配カラムに使用される溶媒を吸収する場合があり、したがって、この方法の使用は更に制限される。
【0033】
本発明との関係で、微結晶のサイズは、シェラー方程式(Alexander,L.E.、「X-ray Diffraction Methods in Polymer Science」、Wiley-Interscience、New York、1969、137頁)を使用して、粉末法によって得られる回折ピークの幅を調べることによって決定することができる。
【0034】
実施形態の説明
第1に、本発明は、
a.少なくとも1つのキトサンA、及び
b.100kDa~1000kDaの間の質量平均分子量を有する、式Iの少なくとも1つの統計コポリサッカライド(copolysaccharide)B:
【0035】
【化2】
【0036】
(式中、
- 各Rcは独立してキレート剤を含む基を表し、
- 各Zは独立してリンカーを表し、これは単結合又は1~12個の間の炭素原子を含む炭化水素ベースの鎖であってもよく、前記鎖は直鎖又は分岐鎖であり、1つ又は複数の不飽和を含み、1つ又は複数のヘテロ原子であって、好ましくは窒素、酸素、硫黄及びハロゲン族の原子から選択される、1つ又は複数のヘテロ原子を含むことが可能であり、
- xは、0.01~0.5の間であり、
- yは、0.05~0.5の間であり、
- y/x比は、0.2より大きく、好ましくは1より大きい、
- x+yの合計は、0.1より大きく、かつ
基の10%未満が、ブロックd及びf元素から選択される遷移元素のカチオンによってキレート化されるRc型のキレート剤を含む)、及び
c.任意選択で水、含む組成物に関する。
【0037】
一実施形態によれば、AとBとの間の質量比(A:B)は、2:1~1:10の間、好ましくは1:1~1:5の間である。
【0038】
この組成物は、好ましくは抗がん剤、抗菌剤、抗真菌剤、抗炎症剤、メッセンジャーRNA、タンパク質及び抗原から選択される少なくとも1つの活性医薬成分を更に含むことができる。
【0039】
活性医薬成分とは、治療効果又は予防効果を有するあらゆる化合物を意味する。この組成物が良好な膨潤特性を有するという事実により、活性医薬成分を効果的に捕捉し、放出することが可能となる。実際、組成物を医薬活性成分と、例えば医薬活性成分を含む溶液と接触させ、その後、組成物はこの成分を捕捉することが可能となる。この成分は、例えば組成物を別の媒体に浸漬することによってその後放出させることができる。これは、組成物がゲルの形態であるときに有利に行われる。
【0040】
組成物は、水溶液、凍結乾燥物、又はゲルの複数の形態であってもよい。
【0041】
一実施形態によれば、組成物は水溶液であり、好ましくは少なくとも10g/l、好ましくは少なくとも50g/lのキトサンAとコポリサッカライドBの混合物を含む。組成物が水溶液の形態である場合、組成物は注入可能であり得る。キトサンAとコポリサッカライドBの混合物の濃度は、10g/l~500g/lの間、好ましくは40g/l~160g/lの間であってもよい。
【0042】
水溶液は、0.1~50000Pa・sの間、好ましくは50~25000Pa・sの間、及びより好ましくは100~10000Pa・sのニュートン粘度を有し得る。
【0043】
水溶液はゲル化可能な溶液である。この水溶液は、塩基性pHの凝固浴と接触するとゲル化する場合がある。ゲル化は、溶液中に存在する最初にプロトン化された(NH3 +)であるアミン(NH2)の中和後、塩基性pHで起こる。高い初期粘度に起因する鎖の絡み合い状態は、鎖間相互作用部位(結晶子、疎水性相互作用、水素結合相互作用)の形成によって固定され、それにより、取り扱い又は延伸に適した機械的特性を有する安定な物理ヒドロゲルが得られる。得られたヒドロゲルは、酸溶液中での処理によって可逆的であり、不可逆的な共有化学結合の形成によってゲル化がもたらされる化学ヒドロゲルとは異なる。可逆的に乾燥及び再水和することができる。溶液は凍結乾燥することもできる。
【0044】
組成物はまた、凍結乾燥物又はゲルの形態、好ましくはヒドロゲル、キセロゲル又はエアロゲルの形態であり得る。
【0045】
本発明によるヒドロゲルは、0.1質量%~40質量%、好ましくは0.5質量%~20質量%のキトサンAとコポリサッカライドBとの混合物を含有することができる。
【0046】
本発明によるキセロゲルは、キトサンAとコポリサッカライドBの混合物の少なくとも40質量%、好ましくは混合物の40~100%の間、優先的には50~99.9%の間、より優先的には混合物の80~99.5%の間を含有することができる。組成物がキセロゲルの形態である場合、キセロゲルはヒドロゲルの少なくとも部分的な乾燥から生じ得る。
【0047】
キセロゲルは、水性媒体又は生体組織と少なくとも1時間接触すると、膨潤してヒドロゲルを形成し、前記ヒドロゲルは、水性媒体又は生体組織と接触する前の参照キセロゲルの体積の少なくとも2倍、好ましくは少なくとも5倍の体積を有する。膨潤は、最初のキセロゲルの質量及び得られたヒドロゲルの質量を測定することによって定量化することができる。
【0048】
生体組織は、天然高分子又は細胞外マトリックス(ECM)のネットワークと組み合わせて、特徴的な構造で組織化された一組の分化又は未分化細胞であり、すべて同じ機能の実行に寄与する。細胞組織は自然に水和され、キセロゲルが膨潤する。
【0049】
キセロゲルの再水和によって得られたヒドロゲルは、その後、キセロゲルを再形成するために再び乾燥させることができる。この組成物では複数回の乾燥-膨潤サイクルを実行することが可能である。
【0050】
本発明によるゲルは、良好な機械的特性を有する。したがって、例えば、凝固浴中のダイに通して本発明による組成物を押し出すことによって、これらのゲルから糸を製造することが可能である。その後、これらの糸を使用して、繊維材料を製造することができる。糸の直径は50μm~700μmの間、好ましくは80μm~500μmの間であり得る。
【0051】
本発明による組成物、特に糸及び/又は織物材料は、膨潤して、金属を捕捉するという良好な特性により、医療デバイスに使用することができる。有利には、糸及び/又は織物材料は、体内で分解され得るか、又はキレート化金属を除去するために外植することができる。
【0052】
当該医療デバイスは、好ましくは、ドレッシング剤、インプラント、又は皮膚充填製品である。一実施形態によれば、医療デバイスは、本発明による糸及び/又は繊維材料を含む。
【0053】
皮膚充填剤製品の場合、前記製品は糸の形態であってもよく、前記糸は、好ましくは、ヒドロゲルを形成するために水性媒体又は生体組織と接触すると膨潤することができるキセロゲルの形態である。皮膚充填剤製品は、本発明による溶液であってもよく、したがって、これは注入することができる。
【0054】
この組成物の良好な金属捕捉特性により、子宮内膜症、真菌感染症、細菌感染症、慢性創傷(褥瘡、糖尿病性創傷)、神経変性障害(パーキンソン病、アルツハイマー病)、ヘモクロマトーシス、ウィルソン病、又は鉛中毒の処置又は予防における少なくとも1つの金属を捕捉するために、この組成物を使用することができる。金属は、好ましくは金属カチオンである。一実施形態によれば、金属は、銅、鉄、鉛、亜鉛、アルミニウム、ガドリニウム及びマンガンからなる群に属し、より好ましくは銅、鉄及び鉛からなる群に属する。
【0055】
本発明はまた、少なくとも1つの金属を捕捉するための、任意選択で疾患を処置又は予防するための、本発明による組成物の使用にも関する。
【0056】
本発明はまた、子宮内膜症、真菌感染症、細菌感染症、慢性創傷(褥瘡、糖尿病性創傷)、神経変性障害(パーキンソン病、アルツハイマー病)、ヘモクロマトーシス、ウィルソン病、若しくは鉛中毒を処置又は予防するための方法であって、少なくとも1つの金属を捕捉するための、本発明による組成物の使用を含む、前記方法にも関する。
【0057】
組成物を調製するための方法
本発明はまた、本発明による組成物を調製する方法であって、以下の工程:
1)キトサンAと、100kDa~1000kDaの間の質量平均分子量を有する、式Iの統計コポリサッカライドBとを水中に分散させる工程、
2)酸、好ましくは酢酸を加える工程、
3)組成物を含む溶液を回収するために、得られた溶液を混合し、次に遠心分離する工程、
4)任意選択で、ゲル形態の組成物を得るために、工程3で得られた溶液を塩基性水浴中で処理する工程、及び
5)任意選択で、工程4で得られたゲルを、好ましくはオートクレーブによって洗浄、乾燥及び/又は滅菌する工程、を含む、方法にも関する。
【0058】
好ましくは、酸は、キトサンA及びコポリサッカライドBの第一級アミンタイプの非官能基化官能基に対して化学量論的比率で加える。酸は、好ましくは有機酸である。
【0059】
組成物を含む溶液は、好ましくは0.1~50000Pa.sの間の粘度を有する。
【0060】
工程4の塩基性水浴は、溶液のゲル化を可能にする凝固浴である。この凝固浴は、好ましくは、0.5~10Mの間、好ましくは1~5Mの間の濃度のアルカリ性溶液、例えば、水酸化ナトリウム、アンモニア水又は水酸化カリウムである。凝固浴は、アンモニア蒸気等のアルカリ蒸気が使用される凝固チャンバであってもよい。
【0061】
糸を得るために、工程4中に、本発明による組成物をダイ(又は押出コーン)に通して押し出すことが可能である。次に、押出物を凝固浴に導入する。組成物を凝固浴中に直接押し出すことも可能である。
【0062】
工程5は、1つ又は複数の洗浄工程を含むことができ、洗浄は水又は緩衝液を使用して実施することが可能である。
【0063】
工程5はまた、例えば水をエタノールで置換するための、1つ又は複数の溶媒交換工程を含むこともできる。
【0064】
工程5は、1つ又は複数の乾燥工程を含むことができる。工程5における乾燥は、屋外、室温、又は30~250℃の間の温度、例えば100~200℃の間の温度の熱風下で行うことができる。一実施形態によれば、乾燥は、アルコール濃度が徐々に高くなる連続浴を使用して水をエタノールに交換した後、次に、加圧チャンバ内でエタノールを液体CO2に交換した後、次に超臨界CO2媒体内で膨張させた後に実施して、これによりエアロゲルの形成が可能になる。
【0065】
当業者に周知のあらゆる滅菌技術、特にオートクレーブによる蒸気滅菌、又はガンマ線若しくはベータ線を使用することができる。
【0066】
キトサンA
本発明による組成物はキトサンAを含む。
【0067】
組成物は以下のものを有することができる:
- 組成物の総乾燥質量に対して少なくとも10%のキトサンAに関する結晶化度、及び
- 20nm未満のキトサンAの結晶子サイズ。
【0068】
キトサンAに関する結晶化度は、10~25%の間であり得る。キトサンAの微結晶は、ゲルの形成に不可欠な物理的架橋ノードとして機能する。微結晶のサイズは、例えば1~20nmの間であり得る。
【0069】
有利には、キトサンAは、100kg/mol~1000kg/molの間、好ましくは200kg/mol~700kg/molの間の平均分子量Mwを有する。
【0070】
好ましい実施形態によれば、キトサンAは、40%未満、好ましくは10%未満、例えば0%~10%の間のアセチル化度xを有する。
【0071】
コポリサッカライドB
組成物は、100kDa~1000kDaの間の質量平均分子量を有する、式Iの統計コポリサッカライドBを含む。
【0072】
上記式Iにおいて、多糖中に複数のRc基が存在し得ることが理解される。これらのRc基は、互いに同一であっても異なっていてもよい。それらはすべて、キレート剤を担持する基から独立して選択される。リンカーZについても同様であり:リンカーZは複数存在してもよく、複数のリンカーは、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0073】
コポリサッカライドBは、式II:
【0074】
【化3】
【0075】
のものであり得る。
(式中、
- Rc1及びRc2は異なっており、キレート剤を含む基であり、
- Z1及びZ2は、同一又は異なっており、これらは単結合又は1~12個の間の炭素原子を含む炭化水素ベースの鎖であってもよく、前記鎖は直鎖又は分岐鎖であり、1つ又は複数の不飽和を含み、1つ又は複数のヘテロ原子であって、好ましくは窒素、酸素、硫黄及びハロゲン族の原子から選択される、1つ又は複数のヘテロ原子を含むことが可能であり、
- xは、0.01~0.5の間、好ましくは0.01~0.1の間、及び優先的には0.05~0.1の間であり、
- yは、0.01~0.5の間、好ましくは0.05~0.2の間であり、
- zは、0~0.2の間であり、
並びに
基の10%未満が、ブロックd及びf元素から選択される遷移元素のカチオンによってキレート化されるRc1及びRc2型のキレート剤を含む)
【0076】
Rc型の基は、式Iの多糖中のRc基、並びに式IIの多糖の、Rc2基が存在する場合、基Rc1及びRc2を意味する。
【0077】
一実施形態によれば、Rc型の基の10%未満、好ましくは5%未満が、カチオン、特に金属カチオンによってキレート化される。Rc型の基は遊離形態であるため、金属を良好に捕捉できる。コポリサッカライドBは親水性も高く、良好な膨潤特性をもたらす。
【0078】
本発明によれば、基Rc、Rc1及びRc2は、キレート剤である。換言すれば、基Rc、Rc1及びRc2は、錯体を形成することによって1つ又は複数の金属をキレート化することが可能になる。
【0079】
Rc、Rc1及びRc2基のそれぞれは、1つ又は複数の配位部位を含むことができる。配位部位は、好ましくは窒素原子又は酸素原子である。有利には、Rc、Rc1及びRc2基のそれぞれは、4~8個の間の配位部位を含み、より有利には、6~8個間の配位部位を含み、更により有利には、Rc、Rc1及びRc2基のそれぞれは、8個の配位部位を含む。
【0080】
配位部位とは、金属に結合できる単一の官能基を意味する。例えば、アミン官能基は、窒素原子と金属との間の配位結合の形成による配位部位を表し、ヒドロキサム酸官能基も、カルボニル単位の酸素との間の配位結合の形成による配位部位を表し、N-オキシド単位の酸素との共有結合によって、配位部位が五員環を形成する。
【0081】
本発明の一実施形態では、式Iの多糖について、各Rc基は、DOTA(N,N',N'',N'''-(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン)四酢酸)、NOTA(1,4,7-トリアザシクロノナン-1,4,7-三酢酸)、NODAGA(1,4,7-トリアザシクロノナン-1-グルタル酸-4,7-二酢酸)、DOTAGA(2-(4,7,10-トリス(カルボキシメチル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1-イル)ペンタン二酸)、DOTAM(1,4,7,10-テトラキス(カルバモイルメチル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン)、NOTAM(1,4,7-テトラキス(カルバモイルメチル)-1,4,7-トリアザシクロノナン)、DOTP(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-テトラキス(メチレンホスホネート)、NOTP(1,4,7-テトラキス(メチレンホスホネート)-1,4,7-トリアザシクロノナン)、TETA(1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン-N,N',N'',N''''-四酢酸)、TETAM(1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン-N,N',N'',N''''-テトラキス(カルバモイルメチル)、DTPA(ジエチレントリアミン五酢酸)及びDFO(デフェロキサミン)、からなる群から、好ましくは、DOTAGA、DFO、DOTAM、及びDTPAからなる群から、独立して選択される。Rc基は、より好ましくはDOTAGAである。
【0082】
本発明の一実施形態では、式IIの多糖について、Rc1及びRc2は、DOTA、NOTA、NODAGA、DOTAGA、DOTAM、NOTAM、DOTP、NOTP、TETA、TETAM、DTPA及びDFOからなる群から、好ましくはDOTAGA、DFO、DOTAM及びDTPAからなる群から独立して選択される。
【0083】
一実施形態によれば、式IIの多糖について、Rc1基はDOTAGAであり、好ましくはz=0である。
【0084】
一実施形態によれば、式IIの多糖について、Rc1基はDOTAGAであり、Rc2基はDFOである。
【0085】
Z型のリンカーは、式Iの多糖中のリンカーZ、並びに、式IIの多糖中の、リンカーZ2が存在する場合、リンカーZ1及びリンカーZ2を意味する。
【0086】
式I及びIIにおけるリンカーZ、Z1及びZ2の選択は、Rc、Rc1及びRc2基、並びにキレート化される金属に本質的に依存する。これは、特に立体的な理由により、Rc、Rc1及びRc2基が、グルコサミン単位の六員環の窒素に近づいたり、離れたりする場合があるためである。
【0087】
好ましくは、式Iにおいて、各Zは独立して、単結合又は1~12個の間の炭素原子を含む炭化水素ベースの鎖であり、前記鎖は直鎖又は分岐鎖であり、1つ又は複数の不飽和を含み、1つ又は複数のヘテロ原子であって、好ましくは窒素、酸素、硫黄及びハロゲン族の原子から選択される、1つ又は複数のヘテロ原子を含むことが可能である。
【0088】
一実施形態によれば、式Iにおいて、各Zは、結合、1~12個の間の炭素原子を含む直鎖又は分岐鎖アルキル鎖、及び2~12個の間の炭素原子を含む直鎖又は分岐鎖アルケニル鎖からなる群から独立して選択され、
前記アルキル鎖及びアルケニル鎖は、1つ又は複数のC6~C10アリール基及び/又は、-O-、-S-、-C(O)-、-NR'-、-C(O)NR'-、-NR'-C(O)-、-NR'-C(O)-NR'-、-NR'-C(O)-O-、-O-C(O)NR'、-C(S)NR'-、-NR'-C(S)-、-NR'-C(S)-NR'、からなる群から選択される1つ若しくは複数のヘテロ原子若しくは基によって中断されることが可能であり、
前記アルキル鎖及びアルケニル鎖は、ハロゲン、-OR'、-COOR'、-SR'、-NR'2、からなる群から選択される1つ若しくは複数の基によって置換されることが可能であり、
各R'は独立してH又はC1~C6アルキルである。
【0089】
有利には、式Iにおいて、各Zは、結合及び1~12個の炭素原子を含む直鎖又は分岐鎖アルキル鎖からなる群から独立して選択され、
前記アルキル鎖は、1つ又は複数のC6~C10アリール基及び/又は、-O-、-S-、-C(O)-、-NR'-、-C(O)NR'-、-NR'-C(O)-、-C(S)NR'-、-NR'-C(S)-、-NR'-C(S)-NR'、からなる群から選択される1つ若しくは複数のヘテロ原子若しくは基によって中断されることが可能であり、
各R'は独立してH又はC1~C6アルキルである。
【0090】
特定の実施形態では、各Zは、1~12個の炭素原子を含むアルキル鎖である。
【0091】
別の特定の実施形態では、各Zは、ポリエチレングリコール(PEG)セグメントである。
【0092】
好ましくは、式IIにおいて、Z1とZ2は、独立して、単結合又は1~12個の間の炭素原子を含む炭化水素ベースの鎖であり、前記鎖は直鎖又は分岐鎖であり、1つ又は複数の不飽和を含み、1つ又は複数のヘテロ原子であって、好ましくは窒素、酸素、硫黄及びハロゲン族の原子から選択される、1つ又は複数のヘテロ原子を含むことが可能である。
【0093】
一実施形態によれば、式IIにおいて、Z1とZ2は、独立して、結合、1~12個の間の炭素原子を含む直鎖又は分岐鎖アルキル鎖、及び2~12個の間の炭素原子を含む直鎖又は分岐鎖アルケニル鎖、からなる群から独立して選択され、
前記アルキル鎖及びアルケニル鎖は、1つ又は複数のC6~C10アリール基及び/又は、-O-、-S-、-C(O)-、-NR'-、-C(O)NR'-、-NR'-C(O)-、-NR'-C(O)-NR'-、-NR'-C(O)-O-、-O-C(O)NR'、-C(S)NR'-、-NR'-C(S)-、-NR'-C(S)-NR'、からなる群から選択される1つ若しくは複数のヘテロ原子若しくは基によって中断されることが可能であり、
前記アルキル鎖及びアルケニル鎖は、ハロゲン、-OR'、-COOR'、-SR'、-NR'2、からなる群から選択される1つ若しくは複数の基によって置換されることが可能であり、
各R'は独立してH又はC1~C6アルキルである。
【0094】
有利には、式IIにおいて、Z1とZ2は、結合及び1~12個の炭素原子を含む直鎖又は分岐鎖アルキル鎖からなる群から独立して選択され、
前記アルキル鎖は、1つ又は複数のC6~C10アリール基及び/又は、-O-、-S-、-C(O)-、-NR'-、-C(O)NR'-、-NR'-C(O)-、-C(S)NR'-、-NR'-C(S)-、-NR'-C(S)-NR'、からなる群から選択される1つ若しくは複数のヘテロ原子若しくは基によって中断されることが可能であり、
各R'は独立してH又はC1~C6アルキルである。
【0095】
特定の実施形態では、Z1及び/又はZ2は、1~12個の炭素原子を含むアルキル鎖である。
【0096】
別の特定の実施形態では、Z1及び/又はZ2は、ポリエチレングリコール(PEG)である。
【0097】
本発明によれば、zは0~0.2の間である。換言すれば、タイプCの単位は、もっぱら、リンカーとしてのZ1及びキレート剤を担持する基としてのRc1を含む単位であり得る。
【0098】
本発明による多糖は、100kDa~1000kDaの間の質量平均分子量を有し、有利には、本発明による多糖の質量平均分子量は、200kDa~750kDaの間であり、より有利には250kDa~500kDaの間であり、更により有利には300kDa~400kDaの間である。
【0099】
一実施形態によれば、コポリサッカライドBは以下の多糖:
- 式IIのコポリサッカライドであって、式中、y=0.15、Rc1がDOTAGAであり、Z1が結合であるもの;
- 式IIのコポリサッカライドであって、式中、0.05≦z<0.06であり、Rc1がDOTAGAであり、Z1が結合であり、Rc2がDFOであり、Z2が、結合、及び1~12個の間の炭素原子を含む直鎖又は分岐鎖アルキル鎖からなる群から選択されるもの、から選択され、
前記アルキル鎖は、1つ又は複数のC6~C10アリール基及び/又は、-O-、-S-、-C(O)-、-NR'-、-C(O)NR'-、-NR'-C(O)-、-C(S)NR'-、-NR'-C(S)-、-NR'-C(S)-NR'、からなる群から選択される1つ若しくは複数のヘテロ原子若しくは基によって中断されることが可能であり、
各R'は独立してH又はC1~C6アルキルである。
【0100】
コポリサッカライドBは、以下の3つの連続する工程を含む方法に従って得ることができる:
工程1:pH4~5の間の酸性溶液にキトサンを溶解すること;
工程2:工程1で溶解したキトサンのアミン官能基の部分アセチル化(アセチル化単位の形成);
工程3:工程2の終了時にまだ存在するアミン官能基の少なくとも一部の官能基化(Rc基を含む単位の形成)。
【0101】
工程3は、特にリンカーZが上で定義した炭化水素ベースの鎖である場合、複数の工程に細分することができる。
【0102】
リンカーZが上記で定義した炭化水素ベースの鎖である実施形態では、工程3は、前記炭化水素ベースの鎖を、工程2の終わりでまだ存在するアミン官能基の少なくとも一部にグラフトすることで構成されるサブ工程3-1、次に、Rc基を前記炭化水素ベースの鎖にグラフトすることで構成されるサブ工程3-2を含むことができる。或いは、工程3にはサブ工程が含まれない。この代替法では、前記炭化水素ベースの鎖を、工程3の前にRc基と結合させる;したがって、前記工程3は、Rc基及び前記炭化水素ベースの鎖を含む分子を用いて実施される。
【0103】
或いは、コポリサッカライドBは、所望のアセチル化度を有するキトサンから得ることができる;したがって、この実施形態では、アセチル化単位はすでに存在しており、形成する必要はない。この実施形態では、コポリサッカライドBを得る方法は、少なくとも以下の2つの連続する工程を含む:
工程1b:部分的にアセチル化されたキトサンを、pH4~5の酸性溶液に溶解すること;
工程2b:工程1bで溶解した前記部分アセチル化キトサンのアミン官能基の少なくとも一部の官能化(Rc基を含む単位の形成)。
【0104】
前記工程3と同様に、特にリンカーZが上記で定義した炭化水素ベースの鎖である場合、上記工程2bは、複数の工程に細分することができる。
【0105】
リンカーZが上記で定義した炭化水素ベースの鎖である実施形態では、工程2bは、前記炭化水素ベースの鎖を、アミン官能基の少なくとも一部に結合することで構成されるサブ工程2b-1、次に、Rc基を前記炭化水素ベースの鎖にグラフトすることで構成されるサブ工程2b-2を含むことができる。或いは、工程2bにはサブ工程が含まれない。この代替法では、前記炭化水素ベースの鎖を、工程2bの前にRc基と結合させる;したがって、前記工程2bは、Rc基及び前記炭化水素ベースの鎖を含む分子を用いて実施される。
【実施例
【0106】
材料及び方法
複数のキトサンA及びコポリサッカライドBを使用して、本発明による組成物を調製した。Table 1(表1)に、使用した化合物をまとめている。化合物B1及びB2の合成は、それぞれ実施例1及び2に提示されている。
【0107】
【表1】
【0108】
化合物B1及びB2のアセチル化度(DA)は、以下のようにして得られる:分析されるべき生成物の1H NMRスペクトルは、Bruker社製Avance III HD 400MHz NanoBay分光計を使用して得る。位相は、4.7ppmにある水のピークを使用して手動で補正する。ピークは、手動で積分し、4.1~2.9ppmの間のピークのセットを積分し、及び2.02~1.90ppmの間で積分してピークを2.00ppmにする。パーセンテージとしてのDAは、ピークのセットの積分を200に正規化することによって直接得る。
【0109】
DOTAGAによる置換度(DS)は、以下のようにして得られる;分析されるべき生成物のさまざまな試料は、凍結乾燥生成物を酢酸緩衝液(0.1M酢酸及び0.1M酢酸アンモニウム)に再分散させて、最終ポリマー濃度0.1質量%を得ることで得られる。各試料中の銅濃度が0~1mMの範囲になるように、異なる量の硝酸銅溶液を加え、次に、各試料を撹拌する。続いて、Varian Cary(登録商標)50 UV可視分光光度計を使用して、得られた溶液の吸光度を測定する。DSは、銅濃度の関数として295nmでの吸光度(DOTAGAの最大吸収)をプロットすることによって決定し、不連続領域は生成物1gあたりのDOTAGAの量に対応する。
【0110】
化合物B1及びB2の純度を、以下のように検証する:分析されるべき生成物のHPLC-SEC-UVクロマトグラムを、Shimadzu Prominence HPLCシステムを使用してポリマーの1質量%濃度で試料上に記録した。使用したSECカラムは、PolySep-GFC-P4000カラムであり、酢酸緩衝液を溶出液として使用する(0.1M酢酸及び0.1M酢酸アンモニウム)。使用温度は30℃であり、吸収波長は295nmである。溶出液の流量は0.8ml/分である。生成物の純度を、DOTAGAがグラフトされたキトサンのピークの積分に対する遊離DOTAGAのピークの積分によって検証する。
【0111】
(実施例1)
MEX-CD2(B1)の合成
多糖MEX-CD2(B1)のキトサン前駆体は、医療グレードであり、動物由来である。質量平均及び数平均モル質量(それぞれ、Mw=2.583x105g/mol、Mn=1.323x105g/mol)を、屈折率及び多角レーザー光散乱測定と組み合わせたサイズ排除クロマトグラフィーによって決定した。このようなキトサンのアセチル化度(N-アセチル-D-グルコサミン単位の割合)を、Hirai法を使用して1H NMR分光法により測定して(Asako Hiraiら、Determination of degree of deacetylation of chitosan by 1H NMR spectroscopy、Polymer Bulletin、1991年、26、87~94頁)、6±0.5%であると推定する。
【0112】
60gのキトサンを、4lの超純水及び50mlの酢酸とともに10lの反応器に導入し、次に、混合物を500rpmでの機械的撹拌下に置く。キトサンが完全に溶解した後(3時間)、4lの1,2-プロパンジオールを媒体に加え、混合物を、均質化するまで撹拌し続ける(2時間)。続いて、120gのDOTAGA無水物を導入し、混合物を、完全に溶解するまで一晩撹拌し続ける。続いて、合成生成物を、Sartocon(登録商標)Slice PESUカセット(ポリエーテルスルホン膜;カットオフ閾値:100kDa、ろ過表面積:0.1m2)を備えたSartoflow(登録商標)Advancedデバイスを使用し、200lの0.1M酢酸溶液、次に200lの5mM酢酸溶液に対するダイアフィルトレーション濃度モデルに従って、タンジェンシャルフローろ過によって精製する。精製は、5%未満の遊離DOTAGAが得られるまで、UV検出器に結合されたサイズ排除クロマトグラフィーによって監視する。続いて、生成物を凍結乾燥させ、アセチル化度(DA)及び置換度(DS)をそれぞれ1H NMR及び上記の銅キレート化法により決定する。純度を、上記のようにHPLCによって検証する。
【0113】
(実施例2)
MEX-CDDFO1(B2)の合成
多糖MEX-CDDFO1のキトサン前駆体(B2)は、実施例1に記載のものと同一である(Mw=2.583×105g/mol、Mn=1.323×105g/mol、DA=6±0.5%)。
【0114】
60gのキトサン、4lの超純水及び45mlの氷酢酸を10lの反応器に導入し、pH4.5±0.5で16時間撹拌下に置く。1.2lのプロパン-1,2-ジオールを溶液に加え、撹拌を1時間維持する。続いて、600mlのプロパン-1,2-ジオールに溶解した14mlの無水酢酸からなる溶液を30分かけてゆっくりと加え、反応媒体を4時間撹拌し続ける。続いて、120gのDOTAGA無水物を秤量し、反応器に加え、次に2lのプロパン-1,2-ジオールを加え、撹拌を16時間維持する。反応の最後に、100kDa膜を使用したタンジェンシャルろ過によって溶液を精製する。続いて、合成生成物を、実施例1に記載したのと同じ方法で、200lの0.1M酢酸溶液、次に200lの超純水に対してタンジェンシャルフローろ過によって精製する。精製は、5%未満の遊離DOTAGAが得られるまで、UV検出器に結合されたサイズ排除クロマトグラフィーによって監視する。続いて、生成物を7g/lの濃度で凍結乾燥させ、アセチル化度(DA)及び置換度(DS)をそれぞれ1H NMR及び上記の銅キレート化法により決定する。
【0115】
7g/lの濃度の精製キトサン-DOTAGA 720mlを、2lの丸底フラスコに導入する。この溶液(pH6~6.5)に超純水を補充し、総体積を900mlにする。並行して、143.1mgのp-NCS-Bz-DFOを秤量し、100mlのDMSOに溶解する。続いて、この溶液を、キトサン-DOTAGA溶液に滴加する。溶液を撹拌しながら維持し、40℃の温度で一晩加熱する。500mlのこの溶液を、超純水で5lに希釈し、次に、2つのSartocon(登録商標)Slice PESUカセット(ポリエーテルスルホン膜;カットオフ閾値:100kDa、ろ過表面積:0.02m2)を備えたSartoflow(登録商標)Smartデバイスを使用したタンジェンシャルろ過によって1lに再濃縮する。4lの超純水に対して一定の濃度でろ過を続け、次に溶液を500mlまで再濃縮する。
【0116】
生成物のHPLC-SEC-UV分析により、DFOのグラフト化及び残留p-NCS-Bz-DFOの除去を確認することが可能になる。キトサンDOTAGAとキトサンDOTAGA-DFOのHPLC-SEC-UVを比較すると、p-NCS-Bz-DFOがグラフトされるとポリマーピーク(約7分)の吸収が増加することが示されている。
【0117】
MEX-CDDFO1(B2)の場合、銅キレート化法をDFOによる官能化前の生成物に適用し、これにより、8.6%のDOTAGA DSを決定することが可能になった。銅キレート化法と類似の方法により、DFO DSを決定することが可能になった。鉄(III)濃度を増加させながら、pH4.5の酢酸緩衝液(0.1M酢酸アンモニウム及び0.1M酢酸)中のMEX-CDDFO1(B2)の0.1g/l溶液に加える。その後、425nmで測定された吸収([Fe(η6-DFO)]錯体のλmax)を、鉄濃度の関数としてプロットし、勾配の不連続領域に対応する鉄濃度によりDSを得ることが可能になる。この方法により、MEX-CDDFO1(B2)のDSを0.7%と推定することが可能になる。
【0118】
上述の方法による中間生成物(N-DOTAGAキトサン)の1H NMR分析により、26%のDAを決定することが可能となった。MEX-CDDFO1(B2)の1H NMR分析により、置換ベンゼンのプロトンの特徴である7.3ppmのピークの存在が明らかになる。この生成物のNMRスペクトルはまた、1.1~1.7ppmの間にピークを有し、これはメシル酸デフェロキサミン単独のピークと同一であり、精製後のN-DOTAGAキトサンへのDFOの効果的なグラフトが確認される。
【0119】
(実施例3)
MEX-CDFO(B3)の合成
多糖MEX-CDFOのキトサン前駆体(B2)は、実施例1に記載のものと同一である(Mw=2.583×105g/mol、Mn=1.323×105g/mol、DA=6±0.5%)。2.5gのキトサンの場合、170mlの超純水及び2.25mlの氷酢酸を1lの反応器に導入し、キトサンが完全に溶解するまで撹拌下に置く。50mlのプロパン-1,2-ジオールを、溶液に加える。続いて、25mlのプロパン-1,2-ジオールに溶解した785μlの無水酢酸からなる溶液をゆっくりと加え、反応媒体を4時間撹拌し続ける。pH5.5~6.5の間の溶液を得るために、40mlの超純水及び43mlのNaOHの1M溶液を加える。75mlのプロパン-1,2-ジオール及び35mlのDMSOを加える。同時に、576mgのp-NCS-Bz-DFOを秤量し、57.6mlのDMSOに溶解する。この溶液を、150μl/分の速度で加える。DFOの添加中に、3.1mlの1M HClも8μl/分の速度で加える。溶液を撹拌しながら維持し、40℃の温度で一晩加熱する。250mlのこの溶液を、0.1M酢酸で5倍希釈し、次に、2つのSartocon(登録商標)Slice PESUカセット(ポリエーテルスルホン膜;カットオフ閾値:100kDa、ろ過表面積:0.02m2)を備えたSartoflow(登録商標)Smartデバイスを使用したタンジェンシャルろ過によって500mlに再濃縮する。5lの酢酸及び2.5lの超純水に対して一定の濃度でろ過を続け、次に溶液を250mlまで再濃縮する。
【0120】
MEX-CDFO(B3)の場合も、DSを推定する目的で、上で説明した鉄キレート化法を使用する。この方法により、MEX-CDFO(B3)のDSを3%と推定することが可能になる。
【0121】
1H NMR分析により、DFOに特徴的なピークによりDFOとDSのグラフト化を確認することが可能になる。NMRスペクトルによれば、DSは2.9%に等しい。これと同じスペクトルでDAを決定することも可能である。実測DAは、41%である。
【0122】
(実施例4)
本発明による組成物(水溶液)
本発明による異なる組成物を調製した。250kDa又は650kDaであり得る低DAを有する非官能化キトサンAを、α/β%の比率でコポリサッカライドBと混合し、式中、αはキトサンAの質量濃度であり、βは当該配合物(table 2(表2))中のコポリサッカライドBの質量濃度である。異なる量の凍結乾燥形態のキトサンA(α)及びコポリサッカライドB(β)を50mlの反応器に導入し、穏やかに撹拌しながら好適な量の水に再分散させる。酢酸を、媒体中に存在する非官能化第一級アミン官能基に対して化学量論的比率で加える。生成物が完全に溶解するまで、混合物を撹拌しながら放置する。
【0123】
例として、本発明による組成物10(HG-5-10)を以下のように調製する:3.0gのB1(MEX-CD2)及び1.5gのキトサンA1を28.93mlの超純水に分散させ、1.07mlの超純酢酸を100rpmで機械的に撹拌しながら50mlの反応器に加える。混合物が完全に溶解し媒体が均質化するまで、混合物を24時間撹拌しながら放置する。
【0124】
異なる組成物及びその調製物をtable 2(表2)に示す。
【0125】
【表2A】
【0126】
【表2B】
【0127】
得られた溶液を回収し、好適な流体計測デバイスに導入し、次に、気泡を含まず組成物を含む溶液を得るために、4000rpmで10分間遠心分離する。各溶液のニュートン粘度を、TA InstrumentsのAR200レオメーターを使用して測定した。得られた各溶液はまた、ゲル及び/又は糸を製造することが可能かどうかを確認するために試験した。結果を以下に示す(table 3(表3))。
【0128】
【表3】
【0129】
これらの結果は、本発明による組成物とは異なり、組成物がコポリサッカライドBのみを含む場合、溶液をゲル化することも糸を製造することも不可能であることを示している。しかし、キトサンAにコポリサッカライドBを加えると、ゲル化可能な溶液を得ることが可能になり、場合によっては得られる溶液の粘度を低下させることが可能になり(比較組成物2及び3及び組成物9、並びに比較組成物4及び組成物13を参照のこと)、このことはより、溶液の管理性の向上に寄与し、これにより良好な糸形成が可能になる。
【0130】
(実施例5)
本発明による組成物(ゲル)
実施例3で得られた溶液をゲル化することにより、複数のヒドロゲルを得た。溶液のゲル化は、3mol/l水酸化ナトリウム浴に浸した後に起こる。本発明に従って得られるヒドロゲルは、溶液中に存在する最初にプロトン化された(NH3 +)であるアミン(NH2)の中和後、塩基性pHでゲル化が起こる物理ヒドロゲルとして特徴付けられる。高い初期粘度に起因する鎖の絡み合い状態は、鎖間物理的相互作用ノードの形成によって固定され、それにより、取り扱い又は延伸に適した機械的特性を有する安定な物理ヒドロゲルが得られる。得られたヒドロゲルは、酸溶液中での処理によって可逆的であり、不可逆的な共有化学結合の形成によってゲル化がもたらされる化学ヒドロゲルとは異なる。可逆的に乾燥及び再水和することができる。
【0131】
ディスク状のヒドロゲルの取得
遠心分離後、本発明による組成物9~12をPVC金型に導入し、その寸法はΦ=1cm及びh=2mm、又はΦ=3cm及びh=2.5mmのいずれかである。溶液が均一に広がった後、溶液の入った金型を、3mol/l水酸化ナトリウム(NaOH)浴に1時間30分間導入する。このようにして形成されたヒドロゲルディスクを金型から取り出し、水浴中に30分間導入する。続いて、ディスクを、別の超純水浴で30分間の2回目のすすぎを行う。続いて、ヒドロゲルを、pH=7.4のリン酸緩衝液中で24時間すすぐ。続いて、このヒドロゲルを、リン酸緩衝液とともにガラスバイアルに入れ、オートクレーブ内で121℃で20分間滅菌する。ディスク状で得られたヒドロゲルを、図1に提示する。
【0132】
円筒状のヒドロゲルの取得
遠心分離後、比較組成物2及び本発明による組成物10を圧縮空気システム(Nordson Ultimus(商標))に接続し、溶液を押し出すことができるようにする。直径5mmの押出チューブを、ディスペンサーのシリンジに取り付け、溶液を3mol/l水酸化ナトリウム浴に直接押し出す。押出圧力は前駆体溶液の初期粘度に適合させて、1~3barの間になる。このようにして形成されたヒドロゲルを水酸化ナトリウム浴に1時間30分浸漬したままにする。ディスクを取り外し、超純水の浴配合物に30分間導入した。続いて、チューブを、別の超純水浴で30分間の2回目のすすぎを行う。続いて、ヒドロゲルを、pH=7.4のリン酸緩衝液中で24時間すすぐ。最後に、このヒドロゲルを、リン酸緩衝液とともにガラスバイアルに入れ、オートクレーブ内で121℃にて20分間滅菌する。円筒状で得られたヒドロゲルを、図2及び3に示す。
【0133】
キトサンA単独から得られるヒドロゲルは、不透明な白色の外観を有し、取り扱うと比較的硬い。ヒドロゲルにコポリサッカライドBが多く含まれるほど、ヒドロゲルはより透明に見え、顕微鏡レベルでの構造の均質性の向上を反映して、チンダル効果はあまり目立たなくなる。
【0134】
(実施例6)
本発明による組成物(糸)
本発明による組成物を含む糸は以下のように得られる:実施例3で得られた溶液の一部を、好適な流体ディスペンサー(又は計測デバイス)に導入し、次に遠心分離する。溶液を含有する流体ディスペンサーを、その後、圧縮空気システムに接続する。ディスペンサーには、254μm、406μm、又は584μmの押出コーンが装備されており、溶液は150kPa~400kPaの範囲の一定圧力下で押し出され、3mol/lの濃縮水酸化ナトリウム浴に入る。得られたヒドロゲルを、2つの水浴中で中和し、次に、温度調節された送風機を使用して、100℃~200℃の範囲の温度で乾燥させる。乾燥糸を回収し、リールに巻き取る。
【0135】
例として、本発明による組成物10の糸を、以下のように調製する:3.0gのコポリサッカライドB1及び1.5gのキトサンA1を、50mlの反応器中で28.93mlの超純水及び1.07mlの超純酢酸に、100rpmで穏やかに機械的に撹拌しながらに分散させる。混合物が完全に溶解し媒体が均質化するまで、混合物を24時間撹拌しながら放置する。得られた溶液を回収し、好適な流体ディスペンサーに導入し、次に、4000rpmで10分間遠心分離する。溶液を含有する流体ディスペンサーを、その後、圧縮空気システムに接続し、システムには406μmの押出コーンが装備されている。開始溶液が完全に押し出されるまで、200kPaの一定圧力を送達する。溶液を3mol/l水酸化ナトリウム浴に直接押し出し、直接ゲル化してヒドロゲルを形成する。薄い円筒の形態で得られたヒドロゲルを、巻き取り回路に送り、それぞれに5lの水を含有する2つの超純水浴中で徐々に中和する。続いて、温度制御された送風機を使用して、ヒドロゲルを150℃の熱風下で乾燥させる。乾燥後に得られた糸を、糸形成回路の終端に位置するリールに巻き取る。得られた糸を図4及び5に示す。これらの図は、結び目を作り、複数の糸を一緒に編み込むことが可能であることを示している。
【0136】
糸の平均直径は、光学顕微鏡を使用して糸の異なる部分を測定することによって決定した。全体の構造をできるだけ代表する平均直径を確立するために、平均して糸の5つの部分を研究した。さまざまな糸の線密度も、精密天びんでさまざまな長さの糸を秤量することによって決定した。得られた糸の機械的特性は、Shimadzu Autograph AG-X plusシステムを使用した引張試験によって測定した。各測定の再現性を検証するために、各糸に対して平均で5回の引張試験を実行する。結果をtable 4(表4)に示す。
【0137】
【表4A】
【0138】
【表4B】
【0139】
これらの結果は、本発明による糸が、キトサンA単独の糸の機械的特性に相当する満足のいく機械的特性を有することを示している。特に、本発明による糸は、複数の糸を編み込むことによって、又は織るか若しくは編むことによって糸を成形するのに適した機械的特性を有する。
【0140】
(実施例7)
本発明による糸及びゲルの膨潤の研究
前節で説明した本発明によるゲル及び糸はすべて、水性流体の存在下で固有の膨潤能力を有する。第1に、ゲルの乾燥及び膨潤の能力及び反応速度論を、初期配合に基づいて決定した。連続すすぎによってヒドロゲルのpHを中和した後、ゲルが完全に乾燥させてキセロゲルになるまで、ゲルを屋外に1週間放置する。ヒドロゲルの質量を、乾燥前と乾燥中一定の時間間隔で精密天びんを使用して測定した。ヒドロゲルの乾燥速度論を、table 6(表6)に示す。キトサンAは、コポリサッカライドBよりも疎水性が高いため、ゲルに含まれるコポリサッカライドBの量が多いと乾燥速度が遅くなる。したがって、キトサンA単独の参照ゲル(比較組成物2)は30時間後に、本発明による組成物9(HG-5-5)は52時間後に、本発明による組成物12(HG-8-8)は72時間後に、並びに本発明による組成物10及び11(HG-5-10及びHG-5-15)は144時間後に、安定な質量に達する。
【0141】
【表5】
【0142】
その後、ゲルが完全に水和するまで、キセロゲルを超純水中に48時間浸漬した。各ゲルの質量を、水和前及び膨潤試験中一定の時間間隔で正確に測定した。ゲルの膨潤速度論を、table 6(表6)に示す。乾燥工程と同様に、キトサンAのみをベースにした参照ゲルの疎水性により、ゲルの再水和が制限される。したがって、比較組成物2(Ref HG-8-0)から得られたゲルの最大膨潤は低く、その初期体積のおよそ2倍が6時間後に観察される。他方では、本発明によるゲルの膨潤能力の大幅な増大は、配合物中に存在するコポリサッカライドBの量に基づいて観察され、30時間後の本発明による組成物11(HG-5-15)に関し、初期体積の22倍を超える範囲に及ぶ。
【0143】
水和前及び後のゲルを、図6及び7に示す(本発明による組成物11)。
【0144】
【表6】
【0145】
本発明による糸の膨潤能力もまた、超純水の浴に浸漬することによる再水和中に評価した。固体ヒドロゲルの場合と同じ方法で、本発明による糸を切断し、次に超純水中に15分間浸漬した。各糸の初期質量及び一定時間ごとの糸の質量を、精密天びんを使用して測定した。糸の膨張速度論を、table 7(表7)に示す。糸の初期直径に基づいて、所定の配合物について膨潤のわずかな差異が認められる。同一の配合の場合、糸から得られる膨潤値は、ヒドロゲルにより得られる膨潤値と比較的類似である。ヒドロゲルの場合と同様に、キトサンAをベースにした参照糸(比較組成物2、Ref HG-8-0)は、15分後に初期体積のおよそ2倍という低い最大膨潤を示す。本発明による組成物11で得られた糸(HG-5-15)は、コポリサッカライドBを最も多く含有し、同じ配合のヒドロゲルと同等の膨潤能力を示し、15分浸漬した後、その初期体積の最大21倍の範囲に及ぶ。ヒドロゲルとは異なり、糸で観察される再水和は非常に速く、これは、固体ヒドロゲルよりも糸の表面積対体積比がはるかに高いことに起因する。糸の膨潤現象は、本発明による組成物11(HG-5-15)を用いて得られた糸の一部を超純水中に5分間浸漬することによっても、顕微鏡的に観察された。同様に、糸の部分に水滴が付着した場合の影響を観察した。糸を図8及び9に示す。
【0146】
これらの結果は、本発明による組成物がキトサンAのみを含む糸よりもはるかに高い膨潤能力を有することを示している。
【0147】
【表7】
【0148】
ヒドロゲルの水和及び脱水能力に対する複数の乾燥-膨潤サイクルの影響を評価するために、本発明によるヒドロゲルのディスクに対して実験を実行した。本発明による組成物11(HG-5-15)の溶液を配合し、次に、Φ=3cm及びh=2.5mmの寸法を有する金型内でゲル化させて、ディスク状のヒドロゲルを得て、その質量は、精密天びんを使用して正確に測定した。その後、ヒドロゲルを上述のようにすすぎ、次に、1週間放置して乾燥させ、秤量する。次に、キセロゲルを再度水和し、完全に水和した後に秤量し、再度1週間乾燥させる。1週間後、ゲルを秤量し、再度水に5日間浸漬させる。複数のサイクルにわたって得られた値をtable 8(表8)に列挙する。
【0149】
【表8】
【0150】
ゲルの膨潤及び乾燥能力の低下に伴うわずかな質量損失は、水和及び脱水サイクルにわたって徐々に生じるようであるが、依然として非常に限定的である。同様に、合計2週間にわたる水和と脱水の2つの完全なサイクルの後でも、膨潤能力の14%の限定的な損失が観察される。
【0151】
(実施例8)
本発明による糸の金属抽出能力の研究
本発明によるある特定の糸の、鉛、銅、カドミウム及び鉄を抽出する能力を、金属の希釈溶液中に糸を浸漬した後、ICP-MS分析によって正確に評価した。第1に、3つの金属カチオン(Cu2+、Pb2+、Cd2+)を含有する金属溶液で実験を実行した。3つの金属Cu、Pb及びCdそれぞれ、0ppb、10ppb及び100ppbで構成されている10mlの金属溶液を、各金属の500ppbの参照溶液から超純水中で調製した。並行して、1mgの糸を精密天びんで正確に秤量し、次にこの部分を同じ長さ及び質量(質量=0.25mg)の4つの部分に切断する。続いて、4つの糸片をそれぞれの金属溶液に浸漬する。それぞれ4時間、1日、2日、及び1週間の期間後、糸片を収集し、オーブンで40°Cにて24時間乾燥させる。続いて、4時間、1日、及び2日後の乾燥試料を、事前の鉱化を行わずに、乾燥糸を1mlの10質量%硝酸(HNO3)溶液に単純に溶解した後、Perkin-Elmer社製ICP-MS Nexion2000分光光度計を使用して分析する。1週間後に試料を回収し、次に2mlの69質量%HNO3及び1mlの超純水とともにテフロン容器に導入し、Anton Paar社製Multiwave5000マイクロ波で200℃にて30分間消化させる。続いて、鉱化生成物をICP-MSによって分析する。本発明による組成物12で得られた糸(HG-8-8)について得られた結果を、table 9(表9)に示す。
【0152】
【表9】
【0153】
この実験に使用した糸は、本発明による組成物12(HG-8-8)により得られ、したがって、50質量%のキトサンA及び50質量%のコポリサッカライドBから構成される。糸はそれ自身の体積の10,000倍に相当する金属溶液に浸漬されており、銅、鉛、及びカドミウムを効果的に抽出することができ、周囲の溶液と比較して体積で金属を1000倍超に濃縮させた。この糸は、約10ppbの希釈金属溶液に対して3つの金属を効果的に抽出することもできる。
【0154】
糸の鉄抽出能力を評価するために、再構成され高度に溶血したブタの血液について生物学的媒体中で金属抽出研究も実行した。10g/lの乾燥粉末血液を超純水に再分散することにより、10mlの溶血ブタ血液の溶液を調製する。並行して、1mgの糸を精密天びんで正確に秤量し、次にこの部分を同じ長さ及び質量(質量=0.25mg)の4つの部分に切断する。続いて、4つの糸片を、再構成されたブタ血液の溶液に浸漬する。それぞれ1時間、2時間、4時間、及び24時間の期間後、糸片を収集し、60mlの超純水で1分間すすぎ、その後40°Cのオーブンで24時間乾燥させる。その後、乾燥糸を回収し、2mlの69質量%HNO3及び1mlの超純水とともにテフロン容器に導入し、Anton Paar社製Multiwave5000マイクロ波で200℃にて30分間消化させる。続いて、鉱化生成物をICP-MSによって分析する。3つ糸で得られた結果を、table 10(表10)に示す。
【0155】
【表10】
【0156】
1時間浸漬した後、3本の糸は、媒体から鉄を抽出することができる。しかし、コポリサッカライドBを組成物に加えると、1時間後に糸の鉄キレート化能力を増大させることが可能になり、2時間後には著しく増大する。この増大は、本発明による組成物がRc型の2つの異なるキレート剤を含む場合に、特に顕著である。
【0157】
異なる鉄(III)キレート剤(シトレート、NTA、デフェリプロン)に直面した場合の本発明による鉄抽出能力を、キセロゲルのドットを、複合体あたり1つの鉄カチオンを有する割合(シトレート11/鉄1;NTA1.1/鉄1;デフェリプロン4/鉄1)で鉄キレート剤を含有する鉄溶液(鉄2ppm)中に浸漬した後、ICP-MS分析によって正確に評価した。シトレート又はデフェリプロンを含有する溶液の場合、溶液は0.1M PBSによりpH7.4に緩衝され;NTAを含有する溶液の場合、使用される緩衝液は0.05M Tris HClである。既知の質量のキセロゲルのドットを、デフェリプロンを用いた実験の場合は24時間、NTA及びシトレートを用いた実験の場合は90時間、20mlの体積の金属溶液に浸漬した。対照ドットを、当該実験に対応する時間、緩衝液(PBS又はTris HCl)に浸漬した。試料を、t:0及びt:最終で溶液から収集した。これらの試料を、Perkin-Elmer社製ICP-MS Nexion2000分光光度計を使用して分析する。ゲルドットを回収し、上記の方法に従って、Anton Paar社製Multiwave5000マイクロ波でも鉱化する。したがって、得られた溶液を、ICP-MSによって分析する。組成物HG-5-10;HG-5-9,5-0,5;HG-5-9,2-0,8;HG-5-9-1;HG-5-8-2を有する発明10、16、17、15、18について得られた結果を、それぞれtable 11(表11)に示す。
【0158】
【表11】
【0159】
異なる組成物は、シトレート又はNTA等の比較的低い錯体形成定数を有する鉄キレートを含む溶液から、鉄を抽出することができる。デフェリプロンの場合のように、ドットが強力な鉄錯化剤に直面する場合、発明16、17、15、18に対応するDFOを含むゲルのみが、鉄を抽出することができる。組成中に最も多くのポリマーMEX-CDFO(B3)を有する発明18(HG-5-8-2)は、デフェリプロンに直面する場合、最良の鉄抽出能力を有する。
【0160】
現実に近い条件下でのドットの鉄抽出能力を評価するために、別の金属抽出研究を、ウシ血漿の生物学的媒体中で実行した。発明10、16、17、15及び18では、ドットを秤量し、20mlのウシ血漿中に24時間導入した。t:0での血漿を、ICP-MSにより分析する。ドットを鉱化し、上で説明した方法に従ってICP-MSによって分析する。組成物HG-5-10;HG-5-9,5-0,5;HG-5-9,2-0,8;HG-5-9-1;HG-5-8-2を有する発明10、16、17、15、18について得られた結果を、それぞれtable 12(表12)に示す。
【0161】
【表12】
【0162】
24時間後、3つのゲルは、血漿から鉄の一部を抽出することができる。
【0163】
(実施例9)
本発明による糸及びヒドロゲルの放出能力の研究
糸に目的の物質を負荷し、別の溶液又は別の媒体中でその物質を制御して放出する能力を実証した。第1に、蛍光分子を使用して糸への物質の負荷及び糸からの物質放出の可能性を評価した。フルオレセインを超純水に溶解することにより、25mg/lフルオレセイン溶液10mlを調製する。次に、4mgの糸を切断し、精密天びんを使用して秤量した後、フルオレセイン溶液に10分間浸漬する。その後、糸を溶液から取り出し、40℃のオーブン内で2時間、次に室温で3日間乾燥させる。その後、糸を20mlの超純水に浸漬させ、0、1、2、5、10、15、30、45分後、及び15時間後にこの溶液の2mlの試料を収集し、Agilent社製Cary Eclipse蛍光分光計を使用して分析する(table 11(表11))。
【0164】
【表13】
【0165】
目的の物質の負荷及び放出における3つの糸配合物の能力を、フルオレセインを使用して、放出後の溶液の蛍光を分析することによって研究した。負荷された乾燥糸を超純水に浸漬してから1分後に、3つの糸がフルオレセインを放出する。キトサンAのみから構成される比較配合物2(HG-8-0)は、フルオレセインをほとんど放出しない。糸組成物にコポリサッカライドBを加えると、糸の放出能力を増大させることができる;これは、組成物にコポリサッカライドBが多く負荷されるほど特に当てはまる。
【0166】
同一の実験を実行し、今度は糸にミコナゾールを負荷し、ミコナゾールは、真菌感染症に対抗するために種々の医療デバイス(局所スプレー、クリーム、ローション等)で一般的に使用されるイミダゾールベースの抗真菌分子である。ミコナゾールを超純水に溶解することにより、0.1g/lミコナゾール溶液100mlを調製する。次に、本発明による組成物10(HG-5-10)から得られる0.9mg(10cm)の糸を切断し、精密天びんを使用して秤量した後、ミコナゾール溶液に10分間浸漬する。次に、糸を溶液から取り出し、ガラス棒から吊り下げて、室温で3時間乾燥させる。その後、糸をプラスチック分光光度計キュベットに入った3mlの超純水に直接浸漬し、Agilent社製Cary Eclipse分光光度計を使用した蛍光分析によって媒体を一定の時間間隔で分析する(table 12(表12))。
【0167】
【表14】
【0168】
糸に抗生物質であるペニシリンを負荷して、同じ実験を実行した。ペニシリンを超純水に溶解することにより、0.1g/ペニシリン溶液100mlを調製する。次に、本発明による組成物10(HG-5-10)から得られる0.9mg(10cm)の糸を切断し、精密天びんを使用して秤量した後、ペニシリン溶液に5分間浸漬する。次に、糸を溶液から取り出し、ガラス棒から吊り下げて、室温で3時間乾燥させる。その後、糸を10mlの超純水に浸漬し、1時間、2時間、及び22時間後に試料を収集する。続いて、試料を、Agilent社製Varian Cary50 UV-vis分光光度計を使用してUV可視吸光度によって分析する(table 13(表13))。
【0169】
【表15】
【0170】
これらの結果は、本発明による組成物には活性医薬成分を負荷することができ、また前記成分を放出することもできることを示している。
【0171】
(実施例10)
ゲル化注入用溶液の組成の予備研究
複数の溶液を実施例4に記載したのと同じ方法で調製したが、今回は、非官能化アミン官能基に対して酸が不足している均質な混合物が得られる量の酢酸を加える。簡単に説明すると、異なる量のキトサンA1及び化合物B1を、ミリQ水及び酢酸とともに反応器に加える。混合物を100rpmで少なくとも1時間撹拌しながら放置する。その後、溶液を回収し、流体ディスペンサーに導入し、その後、残っている気泡を除去するために、4000rpmで10分間遠心分離する。各配合物のpH及び浸透圧濃度は、それぞれMettler Toledo SevenCompact S210 pH計器及びCamlab Loser Micro MOD200 Plus浸透圧計を使用して測定した。異なる組成物及びその調製物をtable 16(表16)に示す。
【0172】
【表16】
【0173】
酸を加えない場合のMEX-CD2の水溶液について得られるpH値は、比較的低い。このことは、精製工程中の溶解度を確保するために、MEX-CD2凍結乾燥物中に酢酸が事前に存在していることによって説明される。MEX-CD2凍結乾燥物に含まれる酢酸も浸透圧活性があり、浸透圧の増加に寄与ずる。
【0174】
各溶液の粘度を、C35/2°TiLプレートコーン形状を備えたHAAKE RheoStress 600レオメーターを使用して測定した。ニュートン粘度の値を、table 15(表15)に示す。粘度は総ポリマー濃度に直接依存することに注意する;濃度が低いほど粘度は低くなる。同様に、同じ総ポリマー濃度の場合、MEX-CD2の質量分率が大きいほど粘度の低下に寄与する。
【0175】
各組成物の注入性を、Shimadzu AG-X plus力試験機を使用して正確に測定した。各溶液を、Sterican27G針(0.4x12mm)を備えた1ml BDHylok(商標)プレフィル可能ガラスシリンジに導入した。注入性は、1mm/sの一定のプランジャー速度で溶液を排出するのに必要な力(ニュートン)として決定した。システムの注入性は、主に溶液の粘度に依存し、したがって総ポリマー濃度に依存し、程度は低いが当該組成物中のMEX-CD2の質量分率に依存する。したがって、溶液は3%(質量/質量)では容易に注入可能であり、5%(質量/質量)では中程度に注入可能であり、7%(質量/質量)では注入が困難であり、10%(質量/質量)では注入できない(T. E. Robinsonら、Filling the Gap: A Correlation between Objective and Subjective Measures of Injectability, Adv. Healthc. Mater.、第9巻, no 5、1901521頁、2020年)。
【0176】
【表17】
【0177】
(実施例11)
ゲル化注入液に好適なMEX-CD2の質量分率の決定
この実施例により、MEX-CD2の質量分率が最終配合物に及ぼす影響を実証することが可能になる。したがって、MEX-CD2の0%~100%の範囲の異なる質量分率のMEX-CD2を含む5%(質量/体積)溶液を生成した。システムのレオロジー特性に対するこの方法の影響を評価するために、これらの各配合物をオートクレーブ内で121°Cで20分間滅菌した。これらの各配合物のpH、浸透圧、粘度、及び注入性を測定し、table 18(表18)に示す。
【0178】
【表18A】
【0179】
【表18B】
【0180】
これらの配合物は、2つのポリマーの遊離アミンに化学量論的割合で酢酸を加えることによって生成した;MEX-CD2凍結乾燥物中に存在する酢酸の残留量は考慮しなかった。このことは、pHが、組成物に加えられるMEX-CD2の量に応じて、したがって当該配合物のMEX-CD2の質量分率に応じて、事実上直線的に低下する理由を説明する。滅菌前後にこれらの溶液で測定したニュートン粘度は、MEX-CD2の質量分率の関数として直線的に低下する。注入性も同じ傾向に従い、したがって、当該配合物中のMEX-CD2の量が多いほど、前記配合物の注入が容易になることが実証される。5%(質量/体積)で配合された試料はすべて、100%MEX-CD2を含有する配合物の19Nから100%標準キトサンを含有する配合物の38Nの範囲の射出力で27Gにて中程度に注入可能である。配合物の粘度に対する滅菌の影響は、MEX-CD2の質量分率に大きく依存する。したがって、67%以上の質量分率のMEX-CD2を含む配合物は、混合物の滅菌中に悪影響を受けないか、又は悪影響をごくわずかしか受けない粘度を有する。
【0181】
(実施例12)
ゲル化注入用溶液MEX-CD2-Iの注入性及びゲル化
この実施例は、前の実施例の結果から選択されたMEX-CD2-I(ゲル化注入用溶液)の2つの配合物の物理化学的特性及びレオロジー特性を正確に決定することを目的とする。したがって、それぞれ67%及び100%に等しいMEX-CD2の質量分率を有する5%(質量/質量)の配合物を、より詳しく研究した。67%MEX-CD2を含有する配合物を、2つのわずかに異なるpHで合成し、配合物のレオロジー特性に対するpHの影響を評価した。これらのより濃縮された前駆体溶液を、目的の分子と1:1の比率で混合することを想定するために、これら2つの配合物のそれぞれはまた、10%(質量/質量)で調製した。滅菌がその特性に及ぼす影響を研究するために、これらの各配合物をオートクレーブ内で121°Cで20分間滅菌した。これらの各配合物のpH、浸透圧及び粘度を測定し、table 19(表19)に示す。5%(質量/質量)配合物については、異なる針を使用して注入性も測定した。
【0182】
【表19】
【0183】
配合物の注入性は、溶液のニュートン粘度、針の内半径、及び程度は低いが、使用される針の長さに、主に依存する。MEX-CD2の質量分率が67%である5%(質量/質量)の配合物の場合、pHの低下により、混合物の滅菌後の注入性が大幅に増加することが観察されている。これは、系の粘度に関して行われた観察と一致している。100%MEX-CD2を含む5%(質量/質量)の配合物は、使用する針に関係なく、67%MEX-CD2/CTSを含有する配合物よりも注入が容易である。最後に、想定される配合物に関係なく、このシステムは30G針による手動注入が可能ではないようである。2つの配合物は、医師が27G以下の針を使用して手動で注入することができる。
【0184】
組成物IS-1,7-3,3及びIS-0-5は、6.2を超えるpH及び285mOsm/lを超える浸透圧を有する生理学的媒体に浸漬することによって、自発的にゲル化することができる[図10]。形成されたゲルのレオロジー特性を評価するために、2mlの組成物IS-1,7-3,3を、直径25mmのディスク状金型に導入する。型を、20mlの10mM PBSに浸漬し、2時間放置する。形成されたヒドロゲルの貯蔵弾性率(G')及び損失弾性率(G'')は、TA Instruments社製ARESレオメーターで、25mmのプレート/プレート形状を使用して記録した。測定の前に、装置により、空の金型について風袋引きされる。ヒドロゲルを含有する金型を形状上に配置した後、形成されたヒドロゲルに対して、1%の一定の変形及び10Hzの周波数でのスイープを実行した。ヒドロゲルはPBSに浸漬した後に自発的に形成され始め、進行性のゲル化フロント(gelling front)を観察することができる。得られたゲルは、高い振動周波数で102Paを超えるG'及びG''値を有し、これは、非常に柔軟なゲルに相当する。更に、G'の値はG''の値よりも大きく、得られる材料は実際に溶液ではなくゲルに近いことを意味する。G'及びG''は周波数とともに減少し、これは、弱く架橋されたゲルによる顕著な緩和現象(鎖の流れ/緩和/可動性、粘弾性効果)を示していると思われる。
【0185】
(実施例13)
腹腔内へのキセロゲルHG-5-10の移植のインビボ耐性の研究
実施例4に記載したように調製した組成物HG-5-10を含むゲルを部分的に乾燥させることによって、ドット状のキセロゲル(h=1.5mm及びΦ=10mm)を得た。このキセロゲルを、インプラントの生体適合性及び耐性を評価するために、10匹の雄型C57Bl/6マウスの腹膜に移植した。この研究で評価されるパラメータには、生涯にわたる観察及び測定(罹患率/死亡率、臨床徴候、体重、摂食量を含む)、処置前及び後の血液学、並びに処置及び解剖後の血液化学及び臓器の質量、が含まれる。マウスの半分を、7日目に犠死させ、残りの半分を56日目に犠死させた。
【0186】
採用した実験条件下では、腹膜に移植することができる医療デバイスとして投与されたキセロゲルHG-5-10は、雄型C57Bl/6マウスに毒性の兆候をまったく誘発しなかった。この研究中、7日目及び56日目には、インプラントによってマウスに死亡、体重の重大な変化、血液の変化は誘発されなかった。キセロゲルHG-5-10の腹腔内移植は肝臓に顕微鏡的変化を引き起こさず、肝臓の質量にも変化を引き起こさなかった。
【0187】
(実施例14)
皮下投与によるゲル化注入液IS-1,7-3,3の分解性のインビボMRI研究
305ppmのGd(MEX-CD2と予め複合体化)を負荷した約300μlの配合物IS-1,7-3,3を、22Gシリンジを使用して健常BALB/cマウスの背中に皮下注入した。マウスに移植されたゲルの図11のMRI画像を、移植後1か月間、室温(RT=21°C)にて、micro2.5マイクロイメージングプローブを備えた300MHz Bruker Avance Neo分光光度計で、7.1Tにて取得した。肝臓、腎臓、及び脾臓のシグナル強度も監視した。
【0188】
図12では、T2W画像は、以下のパラメータを用いた標準RARE(リフォーカスエコーによる高速収集(Rapid Acquisition with Refocused Echoes))シーケンスを使用して取得した:TR=4000ミリ秒、TE=24ミリ秒、RARE係数=16、平均数=4、FOV=30mm、切片厚さ=1mm、マトリックスサイズ 128x128。T1W画像は、以下のパラメータを用いた標準MSME (マルチスピンマルチエコー(multi spins multi echoes))シーケンスを使用して取得した:TR=400ミリ秒、TE=3.3ミリ秒、平均数=6、FOV=30mm、切片厚さ=1mm、マトリックスサイズ 128x128。T1値は、飽和回復スピンエコー(Saturation Recovery Spin Echo)シーケンス(TE=3.8ミリ秒、10 TR変数、50~5000msの範囲、FOV=30mm、スライス厚さ=1mm、マトリックスサイズ128x128)を使用して測定し、T1飽和回復式を使用して分析した。形成されたゲルのサイズは、MRI画像上に手動でROIを描画することによって測定した。
【0189】
Table 20(表20)に列挙するように、形成されたゲルが占める体積は30日にわたるモニタリングで初期体積のおよそ50%まで減少したが、同じ領域で測定されたT1は、およそ6倍増加した。移植後15日目から、細胞浸潤によりインプラントの不均質性が増加し始めた。この浸潤は、15日目から30日目までに測定されたT1標準偏差の増加によって実証される。3匹のマウスにおけるインプラントの開始体積は、それぞれ304、348、及び216mm3であった。肝臓、腎臓、脾臓のT1Wシグナル強度は、調査期間中増加しなかった。
【0190】
【表20】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【国際調査報告】