(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-16
(54)【発明の名称】単一の空間の少なくとも2つの別個のゾーンのための音波を生成するためのシステムおよび関連する方法
(51)【国際特許分類】
G10K 11/178 20060101AFI20241008BHJP
H04R 3/12 20060101ALI20241008BHJP
H04S 7/00 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
G10K11/178
H04R3/12 Z
H04S7/00 300
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024521753
(86)(22)【出願日】2022-10-04
(85)【翻訳文提出日】2024-05-30
(86)【国際出願番号】 EP2022077546
(87)【国際公開番号】W WO2023057436
(87)【国際公開日】2023-04-13
(32)【優先日】2021-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524140145
【氏名又は名称】フォーカル・ジエムラボ
(71)【出願人】
【識別番号】591003552
【氏名又は名称】ザ、トラスティーズ オブ プリンストン ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】エドガー・チョウエイリ
(72)【発明者】
【氏名】ラフルラン・シュリダール
(72)【発明者】
【氏名】ジョセフ・ジョージ・ティルカー
(72)【発明者】
【氏名】レオ・グアダニン
【テーマコード(参考)】
5D061
5D162
5D220
【Fターム(参考)】
5D061FF02
5D162AA04
5D162CA11
5D162CA21
5D162DA22
5D162DA32
5D162EG02
5D220AA16
5D220AB06
(57)【要約】
本発明は、単一の空間(3000)の少なくとも2つの別個のゾーン(Z31、Z32)のための音波を生成するためのシステムに関する。システムは、前記空間(3000)のゾーン(Z31、Z32)ごとに、指向性音波を形成する高周波ラウドスピーカー(HPA21、HPA22)の少なくとも1つのアレイ(R21、R22)と、少なくとも1つの低周波ラウドスピーカー(HPG21、HPG22)とを含む。システムはまた、ラウドスピーカー(HPG21、HPG22、HPA21、HPA22)へ送信される信号の、オーディオ処理するための手段を備え、その手段は、前記空間(3000)の少なくとも1つのゾーン(Z31、Z32)の中で弱め合う音波(Od35~Od38)を生成するように、かつ前記空間(3000)の前記少なくとも2つの別個のゾーン(Z31、Z32)の中で別個のサウンドコンテンツを取得するように、少なくとも1つのラウドスピーカー(HPG21、HPG22、HPA21、HPA22)を制御する。このことを行うために、オーディオ処理手段は、弱め合う音波(Od35~Od38)を生成するために、各低周波ラウドスピーカー(HPG21、HPG22)を個別に、かつ高周波ラウドスピーカー(HPA21、HPA22)の各アレイ(R21、R22)を相互に制御する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同じ空間(3000、4000、5000)の少なくとも2つの別個のゾーン(Z31、Z32、Z41、Z42、Z51、Z52、Z61、Z62)のための音波を生成するためのシステムであって、前記システムが、前記空間(3000、4000、5000)のゾーン(Z31、Z32、Z41、Z42、Z51、Z52、Z61、Z62)ごとに、
- 少なくとも1つの指向性音波を形成するように少なくとも3つの高周波ラウドスピーカー(HPA21、HPA22、HPA31、HPA32、HPA41~HPA48、HPA51)を含む、高周波ラウドスピーカー(HPA21、HPA22、HPA31、HPA32、HPA41~HPA48、HPA51)の少なくとも1つのアレイ(R21、R22、R31、R32、R41、R42)と、
- 少なくとも1つの低周波ラウドスピーカー(HPG21、HPG22、HPG41~HPG48)と
を含み、
前記システムがまた、前記ラウドスピーカーへ送信される信号をオーディオ処理するための手段を含み、前記オーディオ処理手段が、前記空間(3000、4000、5000)の少なくとも1つのゾーン(Z31、Z32、Z41、Z42、Z51、Z52、Z61、Z62)の中で弱め合う音波(Od35~Od38、Od45~Od48)を生成するように、かつ前記空間(3000、4000、5000)の前記少なくとも2つの別個のゾーン(Z31、Z32、Z41、Z42、Z51、Z52、Z61、Z62)の中で別個のサウンドコンテンツを取得するように、少なくとも1つのラウドスピーカーを制御し、各ゾーン(Z31、Z32、Z41、Z42、Z51、Z52、Z61、Z62)の各サウンドコンテンツが、前記ゾーン(Z31、Z32、Z41、Z42、Z51、Z52、Z61、Z62)の中で伝搬される前記音波の総和から得られ、前記オーディオ処理手段が、前記弱め合う音波(Od35~Od38、Od45~Od48)を生成するように、各低周波ラウドスピーカー(HPG21、HPG22、HPG41~HPG48)を個別に、かつ高周波ラウドスピーカー(HPA21、HPA22、HPA31、HPA32、HPA41~HPA48、HPA51)の各アレイ(R21、R22、R31、R32、R41、R42)を相互に制御することを特徴とする、
システム。
【請求項2】
前記空間(3000、4000、5000)のいくつかのゾーン(Z31、Z32、Z41、Z42、Z51、Z52、Z61、Z62)が、少なくとも2つの指向性音波を形成する高周波ラウドスピーカー(HPA21、HPA22、HPA31、HPA32、HPA41~HPA48、HPA51)の同じアレイ(R21、R22、R31、R32、R41、R42)によって音が鳴らされることを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記空間(3000、4000、5000)が、少なくとも4つのゾーン(Z31、Z32、Z41、Z42、Z51、Z52、Z61、Z62)を含み、前記システムが、少なくとも4つの指向性音波および少なくとも4つの低周波ラウドスピーカー(HPG21、HPG22、HPG41~HPG48)を含み、前記オーディオ処理手段が、
- ターゲットゾーン(Z31、Z32、Z41、Z42、Z51、Z52、Z61、Z62)に関連付けられた各低周波ラウドスピーカー(HPG21、HPG22、HPG41~HPG48)を、他のゾーン(Z31、Z32、Z41、Z42、Z51、Z52、Z61、Z62)に関連付けられた前記低周波ラウドスピーカー(HPG21、HPG22、HPG41~HPG48)によって前記ターゲットゾーン(Z31、Z32、Z41、Z42、Z51、Z52、Z61、Z62)の中で、生成された音波(Od35~Od38、Od45~Od48)を抑制することを目的として、弱め合う音波(Od35~Od38、Od45~Od48)を生成するように、かつ
- ターゲットゾーン(Z31、Z32、Z41、Z42、Z51、Z52、Z61、Z62)に関連付けられた高周波ラウドスピーカー(HPA21、HPA22、HPA31、HPA32、HPA41~HPA48、HPA51)の各アレイ(R21、R22、R31、R32、R41、R42)を、他のゾーン(Z31、Z32、Z41、Z42、Z51、Z52、Z61、Z62)に関連付けられた高周波ラウドスピーカー(HPA21、HPA22、HPA31、HPA32、HPA41~HPA48、HPA51)の前記アレイ(R21、R22、R31、R32、R41、R42)によって前記ターゲットゾーン(Z31、Z32、Z41、Z42、Z51、Z52、Z61、Z62)の中で、生成された音波(Od35~Od38、Od45~Od48)を抑制することを目的として、弱め合う音波(Od35~Od38、Od45~Od48)を生成するように、制御することを特徴とする、
請求項1または2に記載のシステム。
【請求項4】
前記オーディオ処理手段が、前記ラウドスピーカーへ送信される前記信号を分割して、高周波ラウドスピーカー(HPA21、HPA22、HPA31、HPA32、HPA41~HPA48、HPA51)の前記アレイ(R21、R22、R31、R32、R41、R42)へ送信される少なくとも1つの高周波信号、および前記低周波ラウドスピーカー(HPG21、HPG22、HPG41~HPG48)へ送信される少なくとも1つの低周波信号にすることを可能にする、少なくとも1つの低域フィルタ(Pb)および少なくとも1つの高域フィルタ(Ph)を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載のシステム。
【請求項5】
低周波ラウドスピーカー(HPG21、HPG22、HPG41~HPG48)とアレイ(R21、R22、R31、R32、R41、R42)の高周波ラウドスピーカー(HPA21、HPA22、HPA31、HPA32、HPA41~HPA48、HPA51)の両方を構成する、少なくとも1つの広帯域ラウドスピーカー(HPLB、HPLB1、HPLB2)を備え、前記広帯域ラウドスピーカー(HPLB、HPLB1、HPLB2)が、少なくとも1つの高周波信号および少なくとも1つの低周波信号を受信することを特徴とする、請求項3に記載のシステム。
【請求項6】
前記システムが、前記空間(3000、4000、5000)のゾーン(Z31、Z32、Z41、Z42、Z51、Z52、Z61、Z62)ごとに、2個から6個の低周波ラウドスピーカー(HPG21、HPG22、HPG41~HPG48)と、10個から20個の高周波ラウドスピーカー(HPA21、HPA22、HPA31、HPA32、HPA41~HPA48、HPA51)を含むアレイ(R21、R22、R31、R32、R41、R42)とを含むことを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項7】
前記システムが、ユーザの頭部の位置を検出するための手段をさらに含み、前記オーディオ処理手段が、前記ユーザの前記頭部の前記位置に従って前記弱め合う音波(Od35~Od38、Od45~Od48)を生成するように、前記少なくとも1つの低周波ラウドスピーカー(HPG21、HPG22、HPG41~HPG48)、および高周波ラウドスピーカー(HPA21、HPA22、HPA31、HPA32、HPA41~HPA48、HPA51)の前記少なくとも1つのアレイ(R21、R22、R31、R32、R41、R42)を制御することを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項8】
請求項1から5のいずれか一項に記載のシステムの、少なくとも1つの低周波ラウドスピーカー(HPG21、HPG22、HPG41~HPG48)、および高周波ラウドスピーカー(HPA21、HPA22、HPA31、HPA32、HPA41~HPA48、HPA51)の少なくとも1つのアレイ(R21、R22、R31、R32、R41、R42)に関連付けられた、少なくとも1つのフィルタ処理行列を決定するための方法であって、
- 前記異なる低周波ラウドスピーカー(HPG21、HPG22、HPG41~HPG48)と前記異なるゾーン(Z31、Z32、Z41、Z42、Z51、Z52、Z61、Z62)との間の第1の伝搬行列(H1)を測定および/またはシミュレートするステップ(101)と、
- 高周波ラウドスピーカー(HPA21、HPA22、HPA31、HPA32、HPA41~HPA48、HPA51)の前記アレイ(R21、R22、R31、R32、R41、R42)と前記異なるゾーン(Z31、Z32、Z41、Z42、Z51、Z52、Z61、Z62)との間の第2の伝搬行列(H2)を測定および/またはシミュレートするステップ(102)であって、各伝搬行列(H1~H2)が、各低周波ラウドスピーカー(HPG21、HPG22、HPG41~HPG48)、または高周波ラウドスピーカー(HPA21、HPA22、HPA31、HPA32、HPA41~HPA48、HPA51)のアレイ(R21、R22、R31、R32、R41、R42)と、各ゾーン(Z31、Z32、Z41、Z42、Z51、Z52、Z61、Z62)との間の伝達関数を含む、ステップと、
- 前記弱め合う音波(Od35~Od38、Od45~Od48)を受信することを目的として、前記ゾーン(Z31、Z32、Z41、Z42、Z51、Z52、Z61、Z62)の中の前記伝達関数をキャンセルすることによって前記第1の伝搬行列(H1)から第1の目的行列(M1)を決定するステップ(103)と、
- 前記弱め合う音波(Od35~Od38、Od45~Od48)を受信することを目的として、前記ゾーン(Z31、Z32、Z41、Z42、Z51、Z52、Z61、Z62)の中の前記伝達関数をキャンセルすることによって前記第2の伝搬行列(H2)から第2の目的行列(M2)を決定するステップ(104)と、
- 前記第1の伝搬行列(H1)の逆行列と前記第1の目的行列(M1)との積に対応する第1のフィルタ処理行列(C1)を計算するステップ(105)と、
- 前記第2の伝搬行列(H2)の逆行列と前記第2の目的行列(M2)との積に対応する第2のフィルタ処理行列(C2)を計算するステップ(106)と
を含む、方法。
【請求項9】
前記第1および第2のフィルタ処理行列(C1、C2)から共通のフィルタ処理行列(C)を計算するステップ(107)をさらに含むことを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記第1および/または第2の伝搬行列(H1、H2)の前記測定および/またはシミュレーション(101)が、少なくとも2つの制御点の中で実行され、各低周波ラウドスピーカー(HPG21、HPG22、HPG41~HPG48)、または高周波ラウドスピーカー(HPA21、HPA22、HPA31、HPA32、HPA41~HPA48、HPA51)のアレイ(R21、R22、R31、R32、R41、R42)と、各ゾーン(Z31、Z32、Z41、Z42、Z51、Z52、Z61、Z62)との間の前記伝達関数が、前記異なるゾーン(Z31、Z32、Z41、Z42、Z51、Z52、Z61、Z62)に位置する制御点(PC1~PC4)ごとにいくつかのフィルタ(F31~F34、F41~F44)を計算することによって取得されることを特徴とする、請求項7または8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも1つのフィルタ処理行列(C1、C2、C)が、ユーザの前記頭部の位置に従って、異なる制御点または制御点のセットに対して計算されたフィルタ処理行列(C1、C2、C)のセットから選択されることを特徴とする、請求項7または8のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同じ空間の複数の別個のゾーンにサウンドを提供することを可能にする音波生成システムの分野に関する。本発明はまた、関連するフィルタを決定するための方法に関する。
【0002】
本発明は、いくつかの言語で同時に映画を放映する映画館、異なるサウンドコンテンツを中にいる数人の乗客が聞く車両、周囲の地元の居住者が騒音公害から保護される野外コンサートゾーンなどの、同じ空間のいくつかの別個のゾーンにサウンドを提供することが望まれる、多数の技術分野に適用され得る。
【背景技術】
【0003】
異なるサウンドコンテンツを同じ空間内で受信するゾーンの作成は、近年において多くの関心を引き起こしている問題である。本発明の趣旨内では、「空間」は、車内または都市の地区などの、現実の境界または仮想的な境界によって画定された空間に相当してよい。同様に、「ゾーン」は、一般に、たとえば、建物の周囲または聞き手の頭部の周囲のサウンドバブル(sound bubble)のような、仮想的な境界によって分画される。
【0004】
一般に、空間の異なるゾーン内での音響伝搬を制御するために、異なるゾーン間に物理的な音響障壁を配置すること、および/または各ゾーンのできる限り近くに、かつそれらが生成する音波の伝搬を抑制しながら、ラウドスピーカーを設置することが知られている。
【0005】
たとえば、異なるゾーンがあまりに近く、かつ/または1つのゾーンの中で予想される音響出力があまりに大きいので、これらの2つの方法が実施され得ないとき、異なるサウンドレベルを伴って他のゾーンの中で誘導される騒音公害を制限しながら、ターゲットゾーンへの音波の伝搬を制御することを可能にするサウンド処理手段を使用することが可能である。
【0006】
このことを行うために、
図1に示すように、1つの解決策は、所与の空間1000の中で配置されるラウドスピーカーHP1の位置合わせによって少なくとも1つの指向性サウンドビームOs1、Os2を形成することである。これらは、物理的に、または時間的な遅延の付加によって、サウンド強化されるべきターゲットゾーンZ1、Z2の方向に向けられる。
【0007】
指向性ラウドスピーカーのアレイを作成するために、アレイR1を構成するラウドスピーカーHP1は、強め合う干渉を取得するとともに実質的に円筒形の音波を形成するように、ラウドスピーカーHP1によって生成される波長の最大値の半分よりも短い距離だけ離間される。アングロサクソン文献では「ビームフォーミング」とも呼ばれる、指向性サウンドビームの形成は、アングロサクソン文献では「ラインアレイ」とも呼ばれる、位置合わせされたラウドスピーカーのアレイから、取得されてよい。
【0008】
いくつかの信号U1、U2が同じアレイR1へ送信されるとき、アレイの構成要素である各ラウドスピーカーの入力部における時間的な遅延を適合させながら、空間の中で、別個のビームOs1、Os2内に各サウンドコンテンツを導くことが可能である。この技法は、アングロサクソン文献では「ビームステアリング」と呼ばれる。しかしながら、低い周波数において満足な音響品質を取得するために、ウーファーは一般にかさばり、そのことがアレイの形態でのそれらの統合を複雑にする。さらに、アレイの中でのラウドスピーカー間の距離は、それらのラウドスピーカーによって生成される周波数範囲に従って適合されるべきである。より明瞭には、指向性ラウドスピーカーのアレイを形成するために、高周波ラウドスピーカー間の距離は、ウーファー間の距離よりも短い。したがって、自動車の乗員室の中にウーファーのアレイを設置することは、結局はほとんど不可能ということになる。
【0009】
別の解決策は、弱め合う干渉を引き起こすように、ラウドスピーカーへ送信される信号をフィルタ処理することによって、同じ空間のいくつかのゾーンのサウンド強化を制御することである。これらの弱め合う干渉は、ターゲットゾーンの外側での音波の伝搬を抑制する。この方法は、アングロサクソン文献では「クロストークキャンセル」と呼ばれ、「クロストークの打ち消し」を意味する。
【0010】
このことを行うために、従来技術の
図2に示すように、ラウドスピーカーHP3、HP4が、空間2000の各サウンド強化ゾーンZ3、Z4に関連付けられてよい。第1のラウドスピーカーHP3は、第1のターゲットゾーンZ3をサウンド強化することを担当するが、第2のラウドスピーカーHP4は、第2のターゲットゾーンZ4をサウンド強化することを担当する。
【0011】
しかしながら、いかなる事前処理も伴わないと、ラウドスピーカーHP3およびHP4は、すべてのゾーンZ3、Z4の方向において音波を放出する。
【0012】
したがって、第1のラウドスピーカーHP3は、その伝達関数がOs5と示されるゾーンZ3と、同時にその伝達関数がOs6と示されるゾーンZ4の両方において知覚される、音響波を放出する。同様に、第2のラウドスピーカーHP4は、その伝達関数がOs3と示されるゾーンZ3と、同時にその伝達関数がOs4と示されるゾーンZ4とにおいて、音響波を放出する。
【0013】
ゾーンZ3およびZ4の中で異なる波によって誘導される音圧と、各ラウドスピーカーHP3、HP4へ送られる信号U3およびU4とを関連付ける音響伝搬行列は、このとき、次の形式で書くことができる。
【0014】
【0015】
異なるサウンドが提供される他のゾーンZ3、Z4の中で誘導される騒音公害を制限するために、各ラウドスピーカーHP3、HP4は、望ましくない音波Os6、Os3をキャンセルするための「弱め合う」音波の生成を制御するフィルタ処理F1、F2に関連付けられる。本発明の趣旨内では、各ラウドスピーカーHP3、HP4は、従来、仮想的に再分割されて、ゾーンZ3、Z4の中の予想される音波、および場合によっては望ましくないかつ/または弱め合う音波Os6、Os3になり得る、音波を形成する。「望ましくない」音波Os6、Os3は、ゾーンZ3、Z4に到達してほしくない音波に相当する。「弱め合う」音波は、望ましくない音波Os6、Os3および弱め合う音波が少なくともほとんどの部分に対して互いをキャンセルするような、ターゲットゾーンにおいて弱め合う干渉を引き起こすように構成された音波に相当する。
【0016】
このことを行うために、フィルタF1、F2は、それぞれ、2つのゾーンZ3、Z4の中で予想されるサウンドコンテンツを表す2つの信号U3、U4を入力として受信する。経時的なこれらの信号U3、U4の発展に応じて、各フィルタF1、F2は、そのラウドスピーカーHP3、HP4へ送信されるべき信号S1、S2を決定し、その結果、このラウドスピーカーHP3、HP4は、そのターゲットゾーンZ3、Z4をサウンド強化することを可能にする音波、ならびに少なくとも部分的には、他のラウドスピーカーHP3、HP4によって生成され正しくないゾーンZ3、Z4の方向においてブロードキャストされる音波Os6、Os3を抑制することを可能にする弱め合う音波を生成する。
【0017】
より詳細には、フィルタF1、F2は、異なる構成要素から形成され、各構成要素は、対応する入力信号U3、U4をフィルタ処理することを目的とする。
【0018】
たとえば、フィルタF1、F2は、以下で例示するように行の行列の形式で書かれてよい。
[式2]
F1=(F11 F12)かつF2=(F21 F22)
【0019】
したがって、ラウドスピーカーHP3、HP4の入力部における信号S1およびS2は、信号U3、U4を受信する。信号S1およびS2は、このとき、以下の形式で書くことができる。
【0020】
【0021】
ゾーンZ3およびZ4の中で知覚されるサウンド信号は、次のような、システムの伝搬行列および入力信号から表現される。
【0022】
【0023】
ゾーンZ3とZ4とを互いから分離するために、ラウドスピーカーHP3は、伝達関数Os3に対応する、ゾーンZ3の中のオーディオコンテンツF22.U4が、ゾーンZ3の中のラウドスピーカーHP3によって伝搬されるオーディオコンテンツF12.U4と弱め合うように干渉するように、構成されてよい。同様に、伝達関数Os6に対応する、ゾーンZ4の中でラウドスピーカーHP3によって放出されたオーディオコンテンツF11.U3は、伝達関数Os4に対応する、ゾーンZ4の中でラウドスピーカーHP4によって放出されたオーディオコンテンツF21.U3と、弱め合うように干渉する。フィルタ処理の後、以下の行列が取得される。
【0024】
【0025】
以下の行列の反転から解が取得されてよい。
【0026】
【0027】
結果として、第1のターゲットゾーンZ3の中で知覚される音波が主に信号U3の音波に相当すること、および第2のターゲットゾーンZ4の中で知覚される音波が主に信号U4の音波に相当することになる。
【0028】
この解決策は、特に高い周波数に達することが望まれるとき、実施することが特に複雑である。実際、特に高い周波数において存在する空間重複現象に起因して、より多数のラウドスピーカーを使用して満足な音響品質を有する高い周波数を生成することが適切である。しかし、各ラウドスピーカーがフィルタ処理に接続され、フィルタの数はラウドスピーカーの数に依存するので、ラウドスピーカーの数が大きく増大すればするほど、フィルタ構成要素の数が多くなる。
【0029】
したがって、この解決策は、複雑でかさばる電子装置を必要とし、ラウドスピーカーおよびフィルタ構成要素の数が増大するとき、かつ/またはフィルタによって制御されるラウドスピーカーが、通常は1kHzよりも高い、高い周波数を使用するとき、なおさらそうである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0030】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0031】
したがって、本発明が解決することを目指す技術的問題とは、システムの大きさ、すなわち、ラウドスピーカーの数および制御電子装置の複雑度を制限しながら、満足な音響品質および移動に対するロバストネスを伴う、同じ空間の少なくとも2つの別個のゾーンのための音波を生成できることである。
【課題を解決するための手段】
【0032】
この技術的問題に対処するために、本発明は、所与の空間に対して、弱め合う干渉を引き起こすように、ウーファーへ送信される信号をフィルタ処理することによって低い周波数を生成すること、および弱め合う干渉を引き起こすように、高周波ラウドスピーカーのアレイへ送信される信号をフィルタ処理するためにフィルタが共有される、高周波ラウドスピーカーの少なくとも1つの指向性アレイにより高い周波数を生成することを提案する。
【0033】
実際、本発明は、アレイを固有の指向性ラウドスピーカーとしてモデリングさせ得る発見から生じる。したがって、指向性を失うことなく指向性アレイ全体に対して1つの単一フィルタを関連付けることが可能である。したがって、弱め合う波の生成に関連付けられた指向性アレイの使用は、フィルタ構成要素の数、したがって、制御電子装置の複雑度およびシステムのエネルギー消費を減らすことを可能にする。
【0034】
結果として、制御電子装置が一般に簡略化され、したがって、たとえば、自動車の乗員室のように設置制約が強い、狭い空間の中に、システムが組み込まれることがより簡単になる。
【0035】
言い換えれば、本発明は、同じ空間の少なくとも2つの別個のゾーンのための音波を生成するためのシステムに関し、前記システムは、前記空間のゾーンごとに、
- 少なくとも1つの指向性音波を形成するように少なくとも3つの高周波ラウドスピーカーを含む、高周波ラウドスピーカーの少なくとも1つのアレイと、
- 少なくとも1つの低周波ラウドスピーカーとを含む。
【0036】
システムはまた、ラウドスピーカーへ送信される信号をオーディオ処理するための手段を含み、前記オーディオ処理手段は、前記空間の少なくとも1つのゾーンの中で弱め合う音波を生成するように、かつ前記空間の前記少なくとも2つの別個のゾーンの中で別個のサウンドコンテンツを取得するように、少なくとも1つのラウドスピーカーを制御し、各ゾーンの各サウンドコンテンツは、前記ゾーンの中で伝搬される音波の総和から得られる。
【0037】
本発明は、オーディオ処理手段が、弱め合う音波を生成するように、各低周波ラウドスピーカーを個別に、かつ高周波ラウドスピーカーの各アレイを相互に制御することを特徴とする。
【0038】
好ましい実施形態では、前記空間のいくつかのゾーンは、少なくとも2つの指向性音波を形成する高周波ラウドスピーカーの同じアレイによってサウンド強化される。
【0039】
言い換えれば、アレイの中の高周波ラウドスピーカーのすべては、少なくとも2つの別個の指向性ビームを形成することによって、少なくとも2つのゾーンを同時にサウンド強化するために使用され得る。正しいサウンド信号を正しいゾーンへ送るために、アレイを構成する各高周波ラウドスピーカーに時間遅延が適用される。
【0040】
驚いたことに、本発明はまた、空間のゾーン内での移動に対して、もっと良好なロバストネスを取得することを可能にする。
【0041】
実際には、ターゲットゾーンの中で弱め合う干渉を引き起こすようにラウドスピーカーを制御するフィルタの係数を計算するために、このゾーンの中で生成される信号のすべてを最初に推定することが必要である。このことを行うために、異なる周波数に対して、異なるラウドスピーカーと異なるゾーンとの間の伝達関数を推定することが必要である。この推定は、ターゲットゾーンの中にマイクロフォンを置くことによって、またはこのゾーンの1つもしくは複数の制御点からデジタルシミュレーションを実行することによって、実行されてよい。
【0042】
本発明の趣旨内では、制御点とは、ゾーンの中に位置し、ラウドスピーカーとこの制御点との間の伝達関数ならびにこの点における音圧が知られている、基準点である。
【0043】
このステップの完了時に、伝搬行列と呼ばれる行列の中に、異なる伝達関数が統合され得る。
【0044】
ターゲットゾーンの中で音波を送信することを目的とした、ラウドスピーカーに関連付けられたフィルタが、次いで、ターゲットゾーンの中の望ましくない音波の伝達関数をキャンセルするために計算される。
【0045】
多数のラウドスピーカーのためのこの方法を使用することによって、伝達関数のキャンセルの計算は空間的に極めて局所化されるようになり、そのことは特に高い周波数に対してそうである。言い換えれば、ターゲットゾーンの中で、音響波の強め合う干渉および弱め合う干渉は制御点の周囲で極めて局所化される。
【0046】
このとき、聞き手がターゲットゾーンの制御点に正確に置かれるときにのみ、この方法が効果的であることに気づくであろう。
【0047】
フィルタを計算するためのこの方法は、ターゲットゾーンの少なくとも1つの制御点における最適なレンダリング、およびこの中心点に対する空間位置のわずかな変動に対する音響遮断のレベルのかなりの変動を誘導する。通常、聞き手が自分の頭部をゾーンの制御点から数センチメートル動かすと、他の聞き手のプログラムから発生する望ましくない信号のサウンドレベルの著しい変動を知覚することになる。この欠点は、聞き手にとって、聞くことを困難かつ不快にさせることがある。
【0048】
本発明は、従来技術におけるよりも広いゾーンにわたってサウンドレンダリングが最適となることを可能にするので、この問題に対処することを可能にする。したがって、本発明は、ターゲットゾーンの中でのより均一なレンダリングを取得することを可能にする。言い換えれば、聞き手が自分の頭部をゾーンの制御点から数センチメートル動かしても、自分が知覚するサウンドの品質の、いかなる変化も感じないことになる。したがって、その人にとって聞く体験は、概して改善される。
【0049】
好ましい実施形態では、空間は、少なくとも4つのゾーンを含み、システムは、少なくとも4つの指向性音波および少なくとも4つの低周波ラウドスピーカーを備え、前記オーディオ処理手段は、
- ターゲットゾーンに関連付けられた各低周波ラウドスピーカーを、他のゾーンに関連付けられた低周波ラウドスピーカーによってターゲットゾーンの中で、生成された音波を抑制することを目的として、弱め合う音波を生成するように、かつ
- ターゲットゾーンに関連付けられた高周波ラウドスピーカーの各アレイを、他のゾーンに関連付けられた高周波ラウドスピーカーのアレイによってターゲットゾーンの中で、生成された音波を抑制することを目的として、弱め合う音波を生成するように、制御する。
【0050】
当然、高周波ラウドスピーカーのアレイは、第1のゾーンを対象とする第1の音波および第2のゾーンを対象とする第2の音波を生成するために使用され得る。
【0051】
この実施形態は、音源の空間分布の効果を複製することを可能にする。
【0052】
本発明の趣旨内では、ゾーンは、実質的に2次元(2D)空間の中で画定され得る。この実施形態は、このとき、聞き手のためのステレオサウンドレンダリングを取得することを可能にし、すなわち、聞き手は2D空間の中で自分が知覚するサウンドの位置を特定することができる。このことを行うために、耳ごとに別個のオーディオコンテンツがラウドスピーカーを通じて送られ、そのことは聞き手にとって没入体験を改善する助けとなる。
【0053】
本発明の趣旨内では、また、ゾーンは、実質的に3次元(3D)空間の中で画定されてもよい。この実施形態は、このとき、聞き手のための3Dサウンドレンダリングを取得することを可能にし、すなわち、聞き手は3D空間の中で自分が知覚するサウンドの位置を特定することができる。
【0054】
このことを行うために、耳ごとに別個のオーディオコンテンツが、バイノーラルサウンドレンダリングを取得するためにラウドスピーカーを通じて送られる。そのようなサウンドレンダリングは現実に最も近いものであり、聞き手に空間の中に完全に没入していると感じさせる。
【0055】
低周波ラウドスピーカーと高周波ラウドスピーカーの指向性アレイとの間で信号を分配するために、オーディオ処理手段は、好ましくは、ラウドスピーカーへ送信される信号を分割して、高周波ラウドスピーカーのアレイへ送信される少なくとも1つの高周波信号、および低周波ラウドスピーカーへ送信される少なくとも1つの低周波信号にすることを可能にする、少なくとも1つの低域フィルタおよび少なくとも1つの高域フィルタを含む。
【0056】
特定の実施形態では、システムは、高周波ラウドスピーカーの高周波サウンドと低周波ラウドスピーカーの低周波サウンドの両方を再生することが可能な広帯域ラウドスピーカーを含んでよい。
【0057】
このとき、2つの信号間で干渉を引き起こすことなく、指向性アレイを構成する高周波ラウドスピーカーのように挙動することを広帯域ラウドスピーカーに示す信号、および低周波ラウドスピーカーのように挙動することを広帯域ラウドスピーカーに示す信号を、広帯域ラウドスピーカーへ同時に送ることが可能である。
【0058】
言い換えれば、システムは、低周波ラウドスピーカーとアレイの高周波ラウドスピーカーの両方を構成する、少なくとも1つの広帯域ラウドスピーカーを備え、前記広帯域ラウドスピーカーは、少なくとも1つの高周波信号および少なくとも1つの低周波信号を受信する。
【0059】
したがって、広帯域ラウドスピーカーを組み込むことは、システム中のラウドスピーカーの総数を抑制することを可能にし、狭い空間の中で設置することをもっと簡単にする。
【0060】
実際には、システムは、前記空間のゾーンごとに、2個から6個の低周波ラウドスピーカーと、10個から20個の高周波ラウドスピーカーを含むアレイとを含む。
【0061】
有利な実施形態では、システムは、ユーザの頭部の位置を検出するための手段をさらに含み、オーディオ処理手段は、ユーザの頭部の位置に従って弱め合う音波を生成するように、少なくとも1つの低周波ラウドスピーカー、および高周波ラウドスピーカーの少なくとも1つのアレイを制御する。
【0062】
アングロサクソン文献では「ヘッドトラッキング」とも呼ばれる、ユーザの頭部のこの追跡は、以前に計算されたフィルタをリアルタイムで適用することを可能にし、そうしたフィルタは、ユーザの頭部の位置に従ってそのユーザのための最良のサウンドレンダリングを生成する。したがって、ユーザの頭部を追跡することは、システムのロバストネスをさらに高めることを可能にする。
【0063】
別の態様によれば、本発明は、前に説明したシステムの、少なくとも1つの低周波ラウドスピーカーと高周波ラウドスピーカーの少なくとも1つのアレイとに関連付けられた、少なくとも1つのフィルタ処理行列を決定するための方法に関する。プロセスは、
- 異なる低周波ラウドスピーカーと異なるゾーンとの間の第1の伝搬行列を測定および/またはシミュレートするステップと、
- 高周波ラウドスピーカーのアレイと異なるゾーンとの間の第2の伝搬行列を測定および/またはシミュレートするステップであって、各伝搬行列が、各低周波ラウドスピーカー、または高周波ラウドスピーカーのアレイと、各ゾーンとの間の伝達関数を含む、ステップと、
- 弱め合う音波を受信することを目的として、ゾーンの中の伝達関数をキャンセルすることによって第1の伝搬行列から第1の目的行列を決定するステップと、
- 弱め合う音波を受信することを目的として、ゾーンの中の伝達関数をキャンセルすることによって第2の伝搬行列から第2の目的行列を決定するステップと、
- 第1の伝搬行列の逆行列と第1の目的行列との積に対応する第1のフィルタ処理行列を計算するステップと、
- 第2の伝搬行列の逆行列と第2の目的行列との積に対応する第2のフィルタ処理行列を計算するステップと
を含む。
【0064】
システムのために必要な計算電力を制限するために、第1および第2のフィルタ処理行列から共通のフィルタ処理行列を計算することによってフィルタの数を減らすことが可能である。したがって、共通の行列は、指向性アレイと低周波ラウドスピーカーの両方に関係する情報を含む。この計算ステップは、指向性アレイを対象とするフィルタ処理済みの信号と低周波ラウドスピーカーを対象とするフィルタ処理済みの信号の両方を受信すべき広帯域ラウドスピーカーをシステムが含むときに特に有用である。
【0065】
実際には、第1および/または第2の伝搬行列の測定またはシミュレーションは、ゾーン当り少なくとも1つの制御点において実行されてよい。
【0066】
それを使用するための1つの方法は、ゾーン内の制御点の数を増やすことである。目的行列は、このとき、各制御点における所望の信号を取得することを必要とする。このシステムはフィルタの数を増やすが、複数の制御点の使用は、ターゲットゾーンの中のサウンド遮断を均質化することを可能にする。したがって、ユーザの頭部の移動に関してより良好なロバストネスが取得される。遮断レベルは、ゾーンの中でより均一である場合、制御点の数とともに低下し、制御点によってカバーされるゾーンが大きい場合にはさらにそうである。言い換えれば、第1および/または第2の伝搬行列の測定またはシミュレーションは、少なくとも2つの制御点において実行されてよく、各低周波ラウドスピーカー、または高周波ラウドスピーカーのアレイと、各ゾーンとの間の伝達関数は、異なるゾーンの中に位置する制御点ごとにいくつかのフィルタを計算することによって取得される。
【0067】
実際には、少なくとも1つのフィルタ処理行列は、ユーザの頭部の位置に従って、異なる制御点または制御点のセットに対して計算されたフィルタ処理行列のセットから選択される。
【0068】
本発明を実行するための方式、ならびにそれらから得られる利点は、添付の図をサポートする、後続する本実施形態の説明から明瞭にされる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【
図1】ラウドスピーカーのアレイを使用して空間の2つの別個のゾーンをサウンド強化するように構成された従来技術のシステムの概略図である。
【
図2】弱め合う波を生成することによって空間の2つの別個のゾーンをサウンド強化するように構成された従来技術のシステムの概略図である。
【
図3】第1の実施形態による本発明のシステムの概略図である。
【
図4】第2の実施形態による本発明のシステムの概略図である。
【
図5】一実施形態による本発明の方法のステップを表すフローチャートである。
【
図6】モノラル実施形態による
図5の方法の、異なる低周波ラウドスピーカーと異なるゾーンとの間の第1の伝搬行列を測定および/またはシミュレートするステップの概略図である。
【
図7】第1の伝搬およびフィルタ処理行列の関数として
図6の実施形態による第1の目的行列を取得することの概略図である。
【
図8】第1の伝搬およびフィルタ処理行列の関数としてステレオサウンドレンダリングに対する第1の目的行列を取得することの概略図である。
【
図9】第1の伝搬およびフィルタ処理行列の関数として3Dサウンドレンダリングに対する第1の目的行列を取得することの概略図である。
【
図10】モノラル実施形態による
図5の方法の、高周波ラウドスピーカーの異なるアレイと異なるゾーンとの間の第2の伝搬行列を測定および/またはシミュレートするステップの概略図である。
【
図11】第2の伝搬およびフィルタ処理行列の関数としての、
図8の実施形態による第2の目的行列の概略図である。
【
図12】第2の伝搬行列および第2のフィルタ処理行列の関数としてステレオサウンド再生に対する第2の目的行列を取得することの概略図である。
【
図13】第2の伝搬行列および第2のフィルタ処理行列の関数として3Dサウンドレンダリングに対する第2の目的行列を取得することの概略図である。
【
図14】
図7の実施形態による第1のフィルタ処理行列の概略図である。
【
図15】
図7の実施形態による、パラメータβの最適化の後の第2のフィルタ処理行列の概略図である。
【
図16】2つの別個の実施形態によるフィルタ処理行列の融合の概略図である。
【
図17】100Hzという周波数にとっての、1つの単一ソース、各ソースにおけるフィルタ事前処理を伴うアレイ、指向性アレイ、および各ビームにおけるフィルタ事前処理を伴うラウドスピーカーのアレイに対する、サウンド強度の空間分布の比較グラフである。
【
図18】1,000Hzという周波数にとっての、1つの単一ソース、各ソースにおけるフィルタ事前処理を伴うアレイ、指向性アレイ、および各ビームにおけるフィルタ事前処理を伴うラウドスピーカーのアレイに対する、サウンド強度の空間分布の比較グラフである。
【
図19】2,000Hzという周波数にとっての、1つの単一ソース、各ソースにおけるフィルタ事前処理を伴うアレイ、指向性アレイ、および各ビームにおけるフィルタ事前処理を伴うラウドスピーカーのアレイに対する、サウンド強度の空間分布の比較グラフである。
【
図20】ラウドスピーカーのアレイ単体、各ソースにおけるフィルタ事前処理を伴うアレイ、および共有されたフィルタ処理を伴うアレイに対する、周波数の関数としての2人のユーザ間の音響減衰の比較グラフである。
【
図21】カットオフ周波数よりも低い周波数に対してゾーン当り16個の広帯域ラウドスピーカーのアレイの各ソースにフィルタ事前処理が適用されるときの、またカットオフ周波数よりも高い周波数に対して本発明が適用されるときの、周波数の関数として取得される音響減衰のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0070】
図3に示すように、本発明のシステム100は、サウンド強化されるべき空間3000の中に組み込まれ得るか、またはそれに近接することができる。空間3000は可変の寸法を有してよく、物理的な境界によって画定されてもされなくてもよい。たとえば、空間3000は、自動車の乗員室、シネマルーム、コンサートホール、または野外コンサートスペースであってよい。
【0071】
空間3000内で、特定のサウンド強化を取得することが望まれる、ゾーンZ31、Z32を画定することが可能である。
【0072】
たとえば、ゾーンZ31は、サウンド強度を最大化することが望まれるゾーンであってよいが、ゾーンZ32では、サウンド強度を最小化することが望まれる。たとえば、空間3000は、野外コンサートゾーン、およびそのすぐ隣の近傍を含んでよい。ゾーンZ31は、野外コンサートゾーンの内部に相当してよく、このゾーンZ31は、コンサートの音楽によってサウンド強化されることが意図される。次に、ゾーンZ32は野外コンサートゾーンの外部に相当してよい。次いで、近隣を邪魔しないように、ゾーンZ32の中ではサウンド強度を可能な限り制限することが求められる。
【0073】
別の例によれば、ゾーンZ31は、第1のタイプのサウンドコンテンツを生成することが望まれるゾーンであってよいが、ゾーンZ32では、第2のタイプのサウンドコンテンツを生成することが望まれる。たとえば、空間3000はシネマルームに相当してよく、ゾーンZ31は、第1の言語で映画を放映することが望まれる座席の第1の横列に相当してよく、ゾーンZ32は、第2の言語で映画を放映することを我々が望む座席の第2の横列に相当してよい。代替として、空間3000は、3個以上のゾーン、通常、3個から20個の別個のゾーンを含んでよい。詳細には、空間3000は、ユーザが別個のゾーンの中で自分の両耳の各々を配置することを可能にするために、「ゾーンのペア」、すなわち、15cmから25cmだけ離間されたゾーンを含んでよい。ユーザは、このとき、各耳において、異なるサウンドコンテンツを受けることができ、そのことは、ステレオまたは3Dのサウンド効果を再現することを可能にする。
【0074】
これらのゾーンZ31、Z32をサウンド強化するために、システム100は、空間3000内で配置されたラウドスピーカーHPG21、HPG22、HPA21、HPA22を含む。たとえば、ラウドスピーカーHPG21、HPG22、HPA21、HPA22は、サウンド強化されるべきゾーンに近接して配置されてよい。通常、ラウドスピーカーHPG21、HPG22、HPA21、HPA22は、ユーザの座席の中に、または座席の横列の場合には自分に対向する座席の背面の中に組み込まれてよい。ラウドスピーカーHPG21、HPG22、HPA21、HPA22はまた、一般に0.5mから100mの範囲にわたる距離を、サウンド強化されるべきゾーンから離れるように移動されることがある。たとえば、ラウドスピーカーHPG21、HPG22、HPA21、HPA22は、空間3000の壁および/もしくはパーティションの中に組み込まれてよく、またはサウンドバー(sound bar)上に取り付けられてもよい。
【0075】
図3に示すように、空間3000のゾーンZ31、Z32ごとに、低周波ラウドスピーカーHPG21、HPG22、および3つの高周波ラウドスピーカーHPA21、HPA22のアレイR21、R22を関連付けることが可能である。代替として、低周波ラウドスピーカーHPG21、HPG22の数は、2個から10個の範囲にされてよい。
【0076】
同様に、高周波ラウドスピーカーHPA21、HPA22の数は、2個から30個の範囲にされてよい。一般に、高周波ラウドスピーカーHPA21、HPA22のアレイR21、R22は、強め合う干渉を取得するとともに実質的に円筒形の音波を形成するように、位置合わせされ、かつラウドスピーカーによって生成される波長の最大値の半分よりも短い距離だけ分離される、高周波ラウドスピーカーHPA21、HPA22のセットから形成される。しかしながら、高周波ラウドスピーカーHPA21、HPA22のアレイR21、R22は、必ずしも物理的に分離されるとは限らない。サブアレイを形成するとともに異なる機能をそこに割り当てることが可能である。
【0077】
たとえば、高周波ラウドスピーカーHPA21、HPA22のアレイR21、R22は、10個の高周波ラウドスピーカーHPA21、HPA22からなってよい。このアレイR21、R22内で、5個の高周波ラウドスピーカーHPA21、HPA22がゾーンZ31に割り当てられてよいが、他の5個の高周波ラウドスピーカーHPA21、HPA22がゾーンZ32に割り当てられる。代替として、10個の高周波ラウドスピーカーHPA21、HPA22が、ゾーンZ31とゾーンZ32の両方に割り当てられてもよい。2つの指向性音波が、このとき、各ゾーンZ31、Z32を対象として生成される。正しいサウンド信号を正しいゾーンZ31、Z32へ送るために、アレイR21、R22を構成する各高周波ラウドスピーカーHPA21、HPA22に時間的な遅延が適用されてよい。
【0078】
低周波ラウドスピーカーHPG21、HPG22は、通常、20Hzから2,000Hzの周波数範囲の中で放出し、高周波ラウドスピーカーHPA21、HPA22は、通常、2,000Hzから40kHzの周波数範囲の中で放出する。
【0079】
代替として、
図4に示すように、システム200は、低周波数範囲の中と高周波数範囲の中の両方で、すなわち、通常は人間の耳の帯域幅全体、すなわち、20Hzから20kHzにわたって空間4000の中で放出する、広帯域ラウドスピーカーHPLBを含んでよい。広帯域ラウドスピーカーHPLBは、アレイR31、R32の一体部分であってよく、または独立して動作してもよい。
【0080】
図3に示すように、いかなる事前処理も伴わないと、高周波ラウドスピーカーHPA11、HPA12、および低周波ラウドスピーカーHPG21、HPG22は、完全に指向性であるとは限らず、サウンド強化することをそれらが担当する音波以外の、ゾーンZ31、Z32の方向に音波を放出する場合がある。したがって、第1の低周波ラウドスピーカーHPG21は、そのゾーンZ31の方向に音波Os32と第2のゾーンZ32の方向に音波Os36の両方を放出し、同様に、第2の低周波ラウドスピーカーHPG22は、そのゾーンZ32の方向に音波Os33と他のゾーンZ31の方向に音波Os37の両方を放出する。さらに、高周波ラウドスピーカーのアレイR21、R22も完全に指向性であるとは限らず、同じく2つのゾーンZ31、Z32の方向に音波を同時に放出する。たとえば、高周波ラウドスピーカーのアレイR21は、そのゾーンZ31の方向に音波Os31および第2のゾーンZ32の方向にOs35音波の両方を放出する。同様に、高周波ラウドスピーカーのアレイR22は、そのゾーンZ32の方向に音波Os34とゾーンZ31の方向に音波Os38の両方を放出する。
【0081】
騒音公害を制限するために、各低周波ラウドスピーカーHPG21、HPG22、および高周波ラウドスピーカーHPA21、HPA22の各アレイR21、R22は、望ましくない音波Os35~Os38をキャンセルするための弱め合う音波Od35~Od38の生成を制御するフィルタ処理F31~F34に関連付けられている。
【0082】
したがって、各低周波ラウドスピーカーHPG21、HPG22は、フィルタF32、F33に関連付けられており、フィルタF32、F33は、それぞれ、信号S32およびS33を低周波ラウドスピーカーHPG21、HPG22に供給する。一方、フィルタF31、F34は、高周波ラウドスピーカーHPA11、HPA12のすべてに対して共有される。したがって、フィルタF31、F34は、それぞれ、ラウドスピーカーHPA21、HPA22のアレイに信号S31およびS34を提供する。
【0083】
ラウドスピーカーHPG21、HPG22、HPA21、HPA22は、2つの電気信号U7、U8によって電力供給される。好ましくは、信号U7、U8は、高い周波数と低い周波数とを区別するために、カットオフ周波数が400Hzから4kHzの範囲にわたる低域フィルタPbによって、またカットオフ周波数が400Hzから4kHzの範囲にわたる高域フィルタPhによって、フィルタ処理される。したがって、低周波信号U52、U62が、低周波ラウドスピーカーHPG21、HPG22のフィルタF32、F33へ送信され、高周波信号U51、U61が、高周波ラウドスピーカーHPA21、HPA22のアレイR21、R22のフィルタF31、F34へ送信される。
【0084】
結果として、第1のターゲットゾーンZ31の中で取得されるサウンドコンテンツが、
- 第1の低周波ラウドスピーカーHPG21によって形成される低周波音波Os32であって、その信号S32が、第2の低周波ラウドスピーカーHPG22によって形成される音波Os37を抑制するように弱め合う干渉Od37を同じく生成するように構成される、低周波音波Os32の、また
- アレイR21から取得される指向性を有し、かつ高周波ラウドスピーカーHPA22の第2のアレイR22によって形成される音波Os38を抑制するように弱め合う干渉Od38を生成する、高周波ラウドスピーカーHPA21によって形成される高周波音波Os31の、
関連付けによって、信号U7によって予想されるものに大部分は相当することになる。
【0085】
同様の方法で、第2のターゲットゾーンZ32の中で取得されるサウンドコンテンツは、信号U8によって予想されるものに大部分は相当する。
【0086】
図4に示すように、システムは、ゾーンZ41をサウンド強化することを担当する少なくとも1つの広帯域ラウドスピーカーHPLB1、およびゾーンZ42をサウンド強化するための少なくとも1つの広帯域ラウドスピーカーHPLB2を備えてよい。同様に、システムは、それぞれ、ゾーンZ41およびZ42をサウンド強化するための、高周波ラウドスピーカーの少なくとも1つのアレイR21、R22を備えてよい。広帯域ラウドスピーカーHPLB1も、完全に指向性であるとは限らず、それらがサウンド強化を担当する音波以外の、ゾーンZ41、Z42の方向に音波を放出する場合がある。したがって、広帯域ラウドスピーカーHPLB1は、そのゾーンZ41の方向に音波Os42と第2のゾーンZ42の方向に音波Os46の両方を放出する。騒音公害を制限するために、各広帯域ラウドスピーカーHPLB1、HPLB2、および高周波ラウドスピーカーHPA21、HPA22の各アレイR21、R22は、望ましくない音波Os45~Os48をキャンセルするための弱め合う音波Od45~Od48の生成を制御する少なくとも1つのフィルタ処理F41~F44に関連付けられている。たとえば、広帯域ラウドスピーカーHPLB1は、望ましくない音波Os45~Os48をキャンセルするための弱め合う音波Od47の生成を制御する2つのフィルタF41およびF42に関連付けられてよい。第1のフィルタF41は、電気信号U9の高周波部分U71によって給電され、広帯域ラウドスピーカーHPLB1およびアレイR31を対象とする信号S41を発生させる。第2のフィルタF42は、電気信号U9の低周波部分U72によって給電され、広帯域ラウドスピーカーHPLB1を対象とする信号S42を発生させる。同様に、広帯域ラウドスピーカーHPLB2は、望ましくない音波Os45~Os48をキャンセルするための弱め合う音波Od46の生成を制御する2つのフィルタF43およびF44に関連付けられてよい。第1のフィルタF44は、電気信号U10の高周波部分U81によって給電され、広帯域ラウドスピーカーHPLB2およびアレイR32を対象とする信号S44を発生させ、第2のフィルタF43は、電気信号U10の低周波部分U82によって給電され、広帯域ラウドスピーカーHPLB2を対象とする信号S43を発生させる。
【0087】
図4の例では、広帯域ラウドスピーカーHPLB1は、低い周波数においてゾーンZ41をサウンド強化するために、かつ広帯域ラウドスピーカーHPLB2から発生する望ましくない音波Os47をキャンセルするために、使用される。
【0088】
代替として、広帯域ラウドスピーカーHPLB1は、たとえば、アレイR31の一体部分を形成することによって、高い周波数においてゾーンZ41をサウンド強化するために、かつ/または高周波ラウドスピーカーHPA32のアレイから発生する望ましくない音波Os48をキャンセルするために、使用されてよい。さらに別の変形形態では、広帯域ラウドスピーカーHPLB1は、一度に両方の役割を、またはこれらの役割の組合せを果たしてよい。同様に、広帯域ラウドスピーカーHPLB2は、低い周波数においてゾーンZ42をサウンド強化するために、かつ広帯域ラウドスピーカーHPLB1から発生する望ましくない音波Os47をキャンセルするために、使用される。この広帯域ラウドスピーカーHPLB2は、電気信号U10の低周波部分U82によって給電される第2のフィルタF43に接続される。
【0089】
さらに、高周波ラウドスピーカーのアレイR31は、そのゾーンZ41の方向に音波Os41と第2のゾーンZ42の方向に音波Os45の両方を放出する。同様に、高周波ラウドスピーカーのアレイR32は、そのゾーンZ42の方向に音波Os44とゾーンZ41の方向に音波Os48の両方を放出する。
【0090】
異なるフィルタを構成するために、フィルタ処理行列C1、C2、Cが測定またはシミュレートされてよい。少なくとも1つのフィルタ処理行列C1、C2、Cを決定するこの方法は、システム100の少なくとも1つの低周波ラウドスピーカーHPG21、HPG22、および高周波ラウドスピーカーHPA21、HPA22、HPA31、HPA32の少なくとも1つのアレイに関連付けられる。
【0091】
図5および
図6に示すように、方法の第1のステップは、異なる低周波ラウドスピーカーHPG41~HPG48と異なるゾーンZ41、Z42との間の第1の伝搬行列H1を測定および/またはシミュレートすること(101)である。
【0092】
このことを行うために、制御点PC1、PC2と各低周波ラウドスピーカーHPG21、HPG22との間の周波数応答を測定またはシミュレートする。
【0093】
図6に示すように、測定値は、各ゾーンZ51、Z52の中にマイクロフォンを配置することによって取得されてよい。マイクロフォンの位置の座標が制御点PC1、PC2に相当する。制御点PC1、PC2が規定されると、低周波ラウドスピーカーHPG21、HPG22は、低周波ラウドスピーカーHPG21、HPG22が発生させ得るような周波数範囲のすべてまたは一部にわたってその周波数が変化する音波をブロードキャストするように制御される。通常、低周波ラウドスピーカーHPG21、HPG22は、20Hzから40,000Hzの周波数範囲にわたって、スライドする正弦波信号をブロードキャストするように制御されてよい。
【0094】
代替として、低周波ラウドスピーカーHPG21、HPG22の周波数応答をシミュレートするために、ラウドスピーカーの特性を複製するモデルが使用されてよい。このことを行うために、ラウドスピーカーによって生成される圧力が、アコースティックモノポールまたはピストンによって放射される圧力に吸収される。代替として、ラウドスピーカーによって放射される圧力はまた、有限要素法または境界要素法に基づく数値モデルを使用して計算されてよい。
【0095】
各制御点PC1、PC2と各低周波ラウドスピーカーHPG21、HPG22との間の各伝達関数H1M,Nは、Mが制御点の数でありNがラウドスピーカーの数であるようにインデックスが付けられる。
【0096】
したがって、
図7に示す伝搬行列H1が取得される。2個の制御点PC1、PC2が空間の中に存在し、8個の低周波ラウドスピーカーHPG41~HPG48が考慮されるので、この伝搬行列H1は2行および8列を有する。
【0097】
図5および
図10に示すような、方法の第2のステップは、高周波ラウドスピーカーHPA41~HPG48の異なるアレイと異なるゾーンZ51、Z52との間の第2の伝搬行列H2を測定および/またはシミュレートすること(103)である。
図6に示す方法と類似の方法が使用されてよい。
【0098】
高周波ラウドスピーカーHPA41~HPA48のアレイR41、R42が、次いで、高周波ラウドスピーカーHPA41~HPA48が発生させ得る周波数範囲のすべてまたは一部にわたってその周波数が変化する音波をブロードキャストするように制御される。通常、高周波ラウドスピーカーHPA41~HPA48のアレイR41、R42は、可聴周波数の範囲全体にわたって、すなわち、20Hzから40kHzの範囲で、スライドする正弦波信号をブロードキャストするように制御されてよい。
【0099】
各制御点PC1、PC2と高周波ラウドスピーカーHPA41~HPA48の各アレイR41、R42との間の各伝達関数H2
M,Nは、Mが制御点の数でありNがアレイR41、R42の数であるようにインデックスが付けられる。
図10の例に続いて、
図11に示す伝搬行列H2を取得する。2個の制御点PC1、PC2が空間の中に存在し、2つの制御点PC1およびPC2の方向にサウンドビームを各々が放出する高周波ラウドスピーカーHPA41~HPA48の2個のアレイR41、R42が考慮されるので、この伝搬行列H2は2行および2列を有する。
【0100】
2つのステップ101、103は独立しており、次々に実行される。
【0101】
ステップ102および104は、弱め合う音波を受信することを目的としてゾーンの中の伝達関数をキャンセルすることによって、第1および第2の伝搬行列H1、H2から第1および第2の目的行列M1、M2を決定することからなる。
【0102】
したがって、ステップ102において、低周波ラウドスピーカーHPG41~HPG44とゾーンZ52との間の伝達関数H11,N、ならびに低周波ラウドスピーカーHPG45~HPG48とゾーンZ51との間の伝達関数H12,Nをキャンセルすることが求められる。
【0103】
ゾーンZ51およびZ52の中でモノラルサウンドを取得することが望まれる場合には、取得される行列M1は
図7に示す通りである。したがって、取得される行列M1は、行列H1とフィルタ処理行列C1との積であり、後者は8行および2列を含む。したがって、取得される行列M1は2行および2列を有し、係数M1
1,1およびM1
2,2だけが保持される。
【0104】
ステレオサウンドレンダリングを取得することが望まれる場合には、8個のラウドスピーカーHPG41~HPG48と4個の制御点PC1~PC4との間で伝搬行列H1が確立される。したがって、行列H1は4行および8列を有するが、フィルタ処理行列C1は8行および4列を有する。行列M1を取得するために、行当りおよび列当り2個の応答を保持することが必要である。いくつかの解決策が可能であり、保持の一例が
図8に示される。
【0105】
3Dサウンドレンダリングを取得することが望まれる場合には、8個のラウドスピーカーHPG41~HPG48と4個の制御点PC1~PC4との間で伝搬行列H1が確立される。したがって、行列H1は4行および8列を有するが、フィルタ処理行列C1は8行および4列を有する。行列M1を取得するために、行当りおよび列当り1個の応答が保持されるべきである。いくつかの解決策が可能であり、保持の一例が
図9に示される。
【0106】
同様の方法で、ステップ104において、高周波ラウドスピーカーHPA41~HPA44のアレイとゾーンZ52との間の伝達関数H2
1,N、ならびに高周波ラウドスピーカーHPA45~HPA48のアレイとゾーンZ51との間の伝達関数H2
2,Nをキャンセルすることが求められる。モノラルサウンドを取得することが望まれる場合には、取得される行列M2が
図11に示される。行列M2は、2つの正方行列H2、C2の積であり、そのためそれも正方形である。
【0107】
ステレオサウンドレンダリングを取得することが望まれる場合には、ライン当りおよび列当り2個の応答が保持されるべきである。いくつかの解決策が可能であり、保持の一例が
図12に示される。行列M2は、2つの正方行列H2、C2の積であり、そのためそれも正方形である。
【0108】
3Dサウンドレンダリングを取得することが望まれる場合には、行列M2は、
図13に示すように対角行列である。行列M2は、2つの正方行列H2、C2の積であり、そのためそれも正方形である。
【0109】
ステップ105および106は、伝搬行列H1、H2の逆行列と目的行列M1、M2との積に対応する第1および第2のフィルタ処理行列C1、C2を計算することからなり、すなわち、C1=H2-1.M2かつC2=H1-1.M2となる。
【0110】
フィルタ処理の後に取得される行列と目的行列M1、M2との間の誤差を最小化するように、フィルタ処理行列C1、C2が計算される。さらに、
図7の例では、行列H1は正方形でない。行列H1の擬似反転のみが次に実行されることが可能であり、誤差パラメータβの導入が必要である。パラメータβの値を最小化することを求めることによって、このとき、反転解に向かって収束することが可能である。パラメータβの値は一定であってよく、または周波数に依存してもよい。しかしながら、これらの解は、得られる音波の周波数応答を修正するという影響を有する場合があり、このとき、目的行列M1およびM2における所望のサウンドと比較してサウンドカラーリング(sound coloring)をもたらす。これらの解はまた、システムのダイナミックレンジ、すなわち、システムによってカバーされるサウンドレベル範囲を小さくする場合がある。
【0111】
一例として、
図14は、
図9の例に対して取得されるフィルタ処理行列C1を示す。この行列は8行および2列を有する。加えて、低い周波数において、一般に10Hzから500Hzの間で、各フィルタC1
N,Mに対して最高8dBという高利得が観測された。
図15は、利得に対するパラメータβの導入の影響を示す。このパラメータは、目的行列M1、M2に関して誤差を持ち込むが、労力を抑制する。βの値は周波数ごとに最適化される。したがって、
図14では、点線の曲線は、正則化の前の、すなわち、β=0を伴うフィルタ処理行列C1を示し、実線の曲線は、正則化の後のフィルタ処理行列C1を示す。したがって、フィルタの利得が、特に低い周波数においてより小さく、すなわち、0dBに近いことが観測された。
【0112】
フィルタ処理行列C2を計算するために使用される方法は、前に説明した方法と同一である。
【0113】
有利なことに、ステップ107において、第1および第2のフィルタ処理行列C1、C2から共通のフィルタ処理行列Cを計算することが可能である。
【0114】
このことを行うために、
図16に示す一例によれば、9個の高周波ラウドスピーカーHPA51および4個の広帯域ラウドスピーカーHPLBを含む、13個のラウドスピーカーのアレイR51が使用されてよい。代替として、アレイR51は広帯域ラウドスピーカーHPLBしか含まなくてもよい。
図16に示すアレイR51は、サウンドの低音域部分を広帯域ラウドスピーカーHPLBへ送信するように、かつサウンドの高音域部分を高周波ラウドスピーカーHPA51へ送信するように構成された、いくつかのフィルタによって制御される。
【0115】
このアレイR51内では、高周波ラウドスピーカーHPA51および広帯域ラウドスピーカーHPLBは、対応するフィルタ行列を計算するためにサブアレイにグループ化される。言い換えれば、高周波ラウドスピーカーHPA51のサブアレイに対して、第1のフィルタ処理行列が計算され、広帯域ラウドスピーカーHPLB1のサブアレイに対して、第2のフィルタ処理行列が計算される。
【0116】
これらのフィルタ処理行列をマージするために、2つの可能性がある。
【0117】
第1の解決モード1は、しきい値処理を使用することである。たとえば、しきい値処理はカットオフ周波数に対して実行されてよい。たとえば、しきい値処理周波数の値は、低い周波数から高い周波数を区別することを可能にする低域フィルタおよび/または高域フィルタに対して選択されるカットオフ周波数と同一であってよい。
【0118】
したがって、アレイR51に命じられた周波数がしきい値処理周波数よりも低い場合、それは選択されている第1のフィルタ処理行列の係数である。反対に、アレイR51に命じられた周波数がしきい値処理周波数よりも高い場合、それは選択されている第2のフィルタ処理行列の係数である。
【0119】
代替として、第2の解決モード2は、第1のフィルタ処理行列における低域フィルタLPFと第2のフィルタ処理行列における高域フィルタHPFとを加算することによって2つのフィルタ処理行列を乗算することである。
【0120】
前に説明した方法のうちのいずれか1つを用いて、フィルタのフィルタ処理行列C、C1、C2は、システムの設置中に決定され得る。さらに、1つもしくは複数の行列が経時的に再計算され得るか、またはフィルタ処理行列C、C1、C2のいくつかのセットが、必要に応じて事前決定および使用され得る。
【0121】
たとえば、ユーザのヘッドトラッキング機能をシステムに追加することが可能である。文書US6243476の中に一実施形態が記載されている。頭部の位置から、特定のフィルタ処理行列C、C1、C2を計算または使用することが可能である。
【0122】
本発明は、システムの大きさ、すなわち、ラウドスピーカーの数および制御電子装置の複雑度を制限しながら、満足な音響品質および移動に対するロバストネスを伴う、同じ空間の少なくとも2つの別個のゾーンのための音波を生成することを可能にする。
【0123】
本発明のシステムの性能を既存のシステムと比較するために、いくつかのシミュレーションが実行されている。
【0124】
このことを行うために、空間5000の2つのゾーンZ61およびZ62を規定する。各ゾーンZ61、Z62内に、2つの制御点PC1~PC4が配置される。その後、
図17に示すように、100Hzという周波数において音波をブロードキャストするように、1つの単一ソースSS、ラウドスピーカーのアレイAR、各ラウドスピーカーの個々のフィルタ処理を伴うラウドスピーカーのアレイAR+F、および本発明のシステムAR+Iを制御する。
【0125】
低い周波数における1つの単一ソースSSの場合には、ゾーンZ61、Z62が-5dBから5dBの範囲にわたる実質的に均一なサウンド強度を受信することが観測された。指向性は極めて弱く、ゾーンZ61、Z62は弁別されない。
【0126】
ラウドスピーカーのアレイARの場合には、ゾーンZ61、Z62は、-5dBから5dBの間の、単一ソースSSと類似のサウンド強度を受信する。指向性は極めて弱く、ゾーンZ61、Z62は弁別されない。
【0127】
各ラウドスピーカーの個々のフィルタ処理を伴うラウドスピーカーのアレイAR+Fの場合には、ゾーンZ61が-30dBに近いサウンドレベルを有するが、ゾーンZ62が0dBから5dBの範囲にわたるサウンドレベルを有することが観測された。したがって、ゾーンZ61、Z62の間にサウンドレベルの弁別がある。
【0128】
本発明のシステムAR+Iの場合には、ゾーンZ61がまた、-20dBから-30dBの間のサウンドレベルを有するが、ゾーンZ62が0dBから5dBの範囲にわたるサウンドレベルを有することが観測された。したがって、ゾーンZ61、Z62の間にサウンドレベルの弁別がある。100Hzにおいて、本発明AR+Iと各ラウドスピーカーの個々のフィルタ処理を伴うラウドスピーカーのアレイAR+Fとの間の結果は同等である。
【0129】
図18は、1,000Hzという周波数において音波をブロードキャストするように制御される同じ要素を示す。
【0130】
1つの単一ソースSSの場合には、ゾーンZ61、Z62が-5dBから5dBの範囲にわたる実質的に均一なサウンド強度を受信することが観測された。指向性は極めて弱く、ゾーンZ61、Z62は弁別されない。
【0131】
ラウドスピーカーのアレイARの場合には、ゾーンZ61が-10dBから-20dBの範囲にわたるサウンドレベルを有するが、ゾーンZ62が0dBから5dBの範囲にわたるサウンドレベルを有することが観測された。したがって、ゾーンZ61、Z62の間にサウンドレベルの弁別がある。
【0132】
各ラウドスピーカーの個々のフィルタ処理を伴うラウドスピーカーのアレイAR+Fの場合には、ゾーンZ61が-30dBから-15dBの範囲にわたるサウンドレベルを有するが、ゾーンZ62が-5dBから5dBの範囲にわたるサウンドレベルを有することが観測された。したがって、ゾーンZ61、Z62の間にサウンドレベルの弁別がある。しかしながら、ゾーンZ61およびZ62が強度ラインを含むことが観測された。言い換えれば、サウンド強度は、あるラインから別のラインへ通過するとき、ゾーンZ62内で通常は-5dBから5dBに急激に変化する場合がある。したがって、制御点PC1~PC4の各々が異なるラインの中に配置されるので、このシステムは極めて良好なサウンド遮断を可能にするが、制御点PC1~PC4に対してゾーンZ61、Z62内でユーザが移動する場合、このシステムは十分にはロバストでない。
【0133】
本発明のシステムAR+Iの場合には、ゾーンZ61が-30dBに近いサウンドレベルを有するが、ゾーンZ62が0dBから5dBの範囲にわたるサウンドレベルを有することが観測された。したがって、ゾーンZ61、Z62の間にサウンドレベルの弁別がある。さらに、サウンド強度はゾーンZ61、Z62の面全体にわたって実質的に均一であり、そのことは、制御の制御点PC1~PC4に対するゾーンZ61、Z62内でのユーザの移動に関して良好なロバストネスを取得することを可能にする。
【0134】
図19に示すように、同じ要素が、5,000Hzという周波数において音波をブロードキャストするように制御される。
【0135】
高い周波数における1つの単一ソースSSの場合には、ゾーンZ61、Z62が-5dBから0dBの範囲にわたる実質的に均一なサウンド強度を受信することが観測された。指向性は極めて弱く、ゾーンZ61、Z62は弁別されない。
【0136】
ラウドスピーカーのアレイARの場合には、ゾーンZ61が-30dBという均一なサウンドレベルを有するが、ゾーンZ62が0dBから5dBの範囲にわたるサウンドレベルを有することが観測された。したがって、ゾーンZ61、Z62の間にサウンドレベルの弁別がある。
【0137】
各ラウドスピーカーの個々のフィルタ処理を伴うラウドスピーカーのアレイAR+Fの場合には、ゾーンZ61が-30dBから-20dBの範囲にわたるサウンドレベルを有するが、ゾーンZ62が-30dBから5dBの範囲にわたるサウンドレベルを有することが観測された。したがって、ゾーンZ61、Z62の間にサウンドレベルの弁別がある。しかしながら、ゾーンZ61およびZ62がまた、強度ラインを含むことが観測された。したがって、サウンド強度は、あるラインから別のラインへ通過するとき、ゾーンZ61およびZ62内で急激に変化する場合がある。たとえば、ゾーンZ62内で、制御点PC1~PC4に対してゾーンZ61、Z62内でユーザが移動する場合、ユーザが受信するサウンド強度は、急激に0dBから-30dBに移る場合がある。したがって、制御点PC1~PC4の各々が異なるラインの上に配置されるので、このシステムは極めて良好なサウンド遮断を可能にするが、制御点PC1~PC4に対してゾーンZ61、Z62内でユーザが移動する場合、このシステムは十分にはロバストでない。
【0138】
本発明のシステムAR+Iの場合には、ゾーンZ61が-30dBという均一なサウンドレベルを有するが、ゾーンZ62が0dBから5dBの範囲にわたるサウンドレベルを有することが観測された。したがって、ゾーンZ61、Z62の間にサウンドレベルの弁別がある。さらに、サウンド強度は、各ゾーンZ61、Z62の面全体にわたって実質的に均一であり、そのことは、ユーザの移動に関してより良好なロバストネスを取得することを可能にする。
【0139】
図20に示す別の例によれば、本発明は、十分なサウンド強度を維持しながら、ゾーンの中で良好な遮音を取得することを可能にする。したがって、
図20では、曲線170は、ラウドスピーカーの1つの単一アレイARに対して、第1のゾーンの中に位置する2つの制御点PC1およびPC2と、第2のゾーンの中に位置する制御点PC3およびPC4との間でシミュレートされた、音響遮断のレベルを表す。音響遮断レベルNIAは、次のような、2つのゾーンの間の音響エネルギーの差分から計算され得る。
【0140】
【0141】
音響遮断NIAは、アレイが指向性でないので低い周波数においてほとんど0である。音響遮断NIAは、6kHzにおいて60dBという最大レベルを伴って、1kHzから9kHzの間で最大である。遮断レベルNIAは、アレイの指向性の中の2次ローブの存在に起因して、9kHzの後で降下する。これらの2次ローブはゾーンZ61、Z62に向けられており、ここで、ゾーンZ61、Z62の遮音を低減する傾向があるサウンド強度を可能な限り制限することが求められる。
【0142】
曲線150は、個別に処理されるラウドスピーカーのアレイに対する周波数の関数として、音響遮断NIAの発展を表す。音響遮断NIAは、0Hzから100Hzの間では約30dBで一定であり、次いで、1,000Hzから20kHzの間で強度プラトーが観測される。このプラトーに対して、サウンド強度は、フィルタが最適化されている位置において80dBから110dBの範囲にわたる。したがって、各ラウドスピーカーに対する個々の処理によって、著しい音響遮断を達成することが可能であるが、頻度が高い頭部の移動に対してロバストネスが小さい。
【0143】
曲線160は、本発明によるシステムに対する周波数の関数として、音響遮断NIAの発展を表す。音響遮断NIAは、0Hzから100Hzの範囲にわたる周波数に対して20dBから30dBの間で実質的に一定である。強度ピークは1kHzから10kHzの間に位置する。このピークに対して、サウンド遮断は120dBという理論的な最大値に達する。主に、サウンド強度がそこで最小化されることが望まれるゾーンに向けられた2次ローブの出現のために、高い周波数、すなわち、約8,000Hzにおいて遮断レベルが降下することも観測する。しかしながら、本発明を用いると、フィルタの数が未変更のままであるので、システムへの最小の構造的変更によりアレイの全長をそのままにしながら、アレイを構成するラウドスピーカーの数を増やすことが可能である。したがって、本発明の解決策は、良好なサウンド強度と良好な遮音とを組み合わせることを可能にしながら、より多くのフレキシビリティおよびロバストネスを可能にする。
【0144】
図21に示す一実施形態では、周波数に応じてサウンド強化方法のうちのいずれか1つを選好すること、またはいくつかの方法を組み合わせることが可能である。したがって、たとえば、広帯域ラウドスピーカーのアレイの場合、最良のサウンド結果を生み出すフィルタ処理として、周波数がシステムのカットオフ周波数Fcよりも低いとき、アレイを構成する各ラウドスピーカーの個々のフィルタ処理AR+Fを実行すること、またはアレイを構成するいくつかのラウドスピーカーのみに対して個々のフィルタ処理を実行することが可能である。周波数がカットオフ周波数Fcよりも高いとき、高い頻度の場合の頭部移動に対してロバストネスの観点から良好な結果をもたらすので、本発明のシステムAR+Iが使用される。この例では、カットオフ周波数Fcは1,000Hzから10,000Hzの範囲にわたり、たとえば、3,000Hzに等しい。
【符号の説明】
【0145】
100 システム
200 システム
1000 空間
2000 空間
3000 空間
4000 空間
5000 空間
C フィルタ処理行列
F フィルタ
H 伝搬行列
HP ラウドスピーカー
HPA 高周波ラウドスピーカー
HPG 低周波ラウドスピーカー
HPLB 広帯域ラウドスピーカー
M 目的行列
Od 音波
Os 音波
Pb 低域フィルタ
Ph 高域フィルタ
PC 制御点
R アレイ
S 信号
U 信号
Z ゾーン
【手続補正書】
【提出日】2024-03-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同じ空間(3000、
4000)の少なくとも2つの別個のゾーン(Z31、Z32、Z41、
Z42)のための音波を生成するためのシステムであって、
第1のゾーン(Z31、Z41)と第2のゾーン(Z32、Z42)とを含み、前記第1のゾーン(Z31、Z41)に対して第1の信号(U7、U9)に対応するサウンドコンテンツが予想され、かつ前記第2のゾーン(Z32、Z42)に対して第2の信号(U8、U10)に対応するサウンドコンテンツが予想され、前記システムが
、
- 少なくとも3つの高周波ラウドスピーカー(HPA21、HPA22、HPA31、HPA32、HPA41~HPA48、HPA51)を
各々が含む、高周波ラウドスピーカー(HPA21、HPA22、HPA31、HPA32、HPA41~HPA48、HPA51)の少なくとも
2つのアレイ(R21、R22、R31、R32、R41、R42)と、
- 少なくとも
2つの低周波ラウドスピーカー(HPG21、HPG22、HPG41~HPG48)とを含み、
前記システムがまた、
前記第1の信号(U7、U9)および前記第2の信号(U8、U10)のための、オーディオ処理するための手段
(Ph、Pb、F31~F34、F41~F44)を含み、前記オーディオ処理手段が、
- それぞれ、前記第1の信号(U7、U9)の低周波部分(U52、U72)および前記第2の信号(U8、U10)の低周波部分(U62、U82)を供給するように構成された、2つの低域フィルタ(Pb)と、
- それぞれ、前記第1の信号(U7、U9)の高周波部分(U51、U71)および前記第2の信号(U8、U10)の高周波部分(U52、U81)を供給するように構成された、2つの高域フィルタ(Ph)と、
- それぞれ、前記第1の信号の前記低周波部分(U52、U72)および前記第2の信号の前記低周波部分(U62、U82)をフィルタ処理するように構成され、第1の低周波ラウドスピーカー(HPG21、HPLB1)によって放出される信号(S32、S42)を出力する、フィルタ(F32、F42)の第1の行列であって、前記信号が、2つの成分、すなわち、前記第1の信号(U7、U9)に対応する前記第1の低周波ラウドスピーカー(HPG21、HPLB1)によって放出される前記信号の第1の成分、および前記第2の信号(U8、U10)に対応する前記第1の低周波ラウドスピーカー(HPG21、HPLB1)によって放出される前記信号の第2の成分を含む、第1の行列と、
- それぞれ、前記第1の信号の前記低周波部分(U52、U72)および前記第2の信号の前記低周波部分(U62、U82)をフィルタ処理するように構成され、第2の低周波ラウドスピーカー(HPG22)によって放出される信号(S33、S43)を出力する、フィルタ(F33、F43)の第2の行列であって、前記信号が、2つの成分、すなわち、前記第1の信号(U7、U9)に対応する前記第2の低周波ラウドスピーカー(HPG22、HPLB2)によって放出される前記信号の第1の成分、および前記第2の信号(U8、U10)に対応する前記第2の低周波ラウドスピーカー(HPG22、HPLB2)によって放出される前記信号の第2の成分を含む、第2の行列と、
- それぞれ、前記第1の信号の前記高周波部分(U51、U71)および前記第2の信号の前記高周波部分(U61、U81)をフィルタ処理するように構成され、第1の高周波ラウドスピーカーアレイ(HPA21、HPA31)によって放出される信号(S31、S41)を出力する、フィルタ(F31、F41)の第3の行列であって、前記信号が、2つの成分、すなわち、前記第1の信号(U7、U9)に対応する前記第1の高周波ラウドスピーカーアレイ(HPA21、HPA31)によって放出される前記信号の第1の成分、および前記第2の信号(U8、U10)に対応する前記第1の高周波ラウドスピーカーアレイ(HPA21、HPA31)によって放出される前記信号の第2の成分を含む、第3の行列と、
- それぞれ、前記第1の信号の前記高周波部分(U51、U71)および前記第2の信号の前記高周波部分(U61、U81)をフィルタ処理するように構成され、第2の高周波ラウドスピーカーアレイ(HPA22、HPA32)によって放出される信号(S34、S44)を出力する、フィルタ(F34、F44)の第4の行列であって、前記信号が、2つの成分、すなわち、前記第1の信号(U7、U9)に対応する前記第2の高周波ラウドスピーカーアレイ(HPA22、HPA32)によって放出される前記信号の第1の成分、および前記第2の信号(U8、U10)に対応する前記第2の高周波ラウドスピーカーアレイ(HPA22、HPA32)によって放出される前記信号の第2の成分を含む、第4の行列とを含み、
前記フィルタ行列(F31~F34、F41~F44)が、
前記第1の低周波ラウドスピーカー(HPG21、HPLB1)によって放出され前記第1のゾーン(Z31、Z41)の中で前記第1の低周波ラウドスピーカー(HPG21、HPLB1)によって伝搬される前記第2の信号成分に対応するオーディオコンテンツが、前記第2の低周波ラウドスピーカー(HPG22、HPLB2)によって放出され前記第1のゾーン(Z31、Z41)の中で前記第2の低周波ラウドスピーカー(HPG22、HPLB2)によって伝搬される前記第2の信号成分に対応するオーディオコンテンツと、弱め合うように干渉し、
前記第2のゾーン(Z32、Z42)の中で前記第2の低周波ラウドスピーカー(HPG22、HPLB2)によって伝搬される、前記第2の低周波ラウドスピーカー(HPG22、HPLB2)によって放出された前記第1の信号成分に対応するオーディオコンテンツが、前記第2のゾーン(Z32、Z42)の中で前記第1の低周波ラウドスピーカー(HPG21、HPLB1)によって伝搬される、前記第1の低周波ラウドスピーカー(HPG21、HPLB1)によって放出された前記第1の信号成分に対応するオーディオコンテンツと、弱め合うように干渉し、
前記第1のゾーン(Z31、Z41)の中で前記第1の高周波ラウドスピーカーアレイ(HPA21、HPA31)によって伝搬される、前記第1の高周波ラウドスピーカーアレイ(HPA21、HPA31)によって放出された前記第2の信号成分に対応するオーディオコンテンツが、前記第1のゾーン(Z31、Z41)の中で前記第2の高周波ラウドスピーカーアレイ(HPA22、HPA32)によって伝搬される、前記第2の高周波ラウドスピーカーアレイ(HPA22、HPA32)によって放出された前記第2の信号成分に対応するオーディオコンテンツと、弱め合うように干渉し、
前記第2のゾーン(Z32、Z42)の中で前記第2の高周波ラウドスピーカーアレイ(HPA22、HPA32)によって伝搬される、前記第2の高周波ラウドスピーカーアレイ(HPA22、HPA32)によって放出された前記第1の信号成分に対応するオーディオコンテンツが、前記第2のゾーン(Z32、Z42)の中で前記第1の高周波ラウドスピーカーアレイ(HPA21、HPA31)によって伝搬される、前記第1の高周波ラウドスピーカーアレイ(HPA21、HPA31)によって放出された前記第1の信号成分に対応するオーディオコンテンツと、弱め合うように干渉するように構成され、
各ゾーン(Z31、Z32、Z41、
Z42)の各サウンドコンテンツが、前記ゾーン(Z31、Z32、Z41、
Z42)の中で伝搬される前記音波の総和から得られ、
各サウンドコンテンツが、一方では様々な低音域ラウドスピーカー(HPG21~HPG22、HPLB1~HPLB2)および様々な高周波ラウドスピーカーアレイ(R21~R22、R31~R32)と、他方では2つのゾーン(Z31、Z32、Z41、Z42)との間の、伝達関数を推定することによって取得される、
システム。
【請求項2】
前記空間(3000、
4000)のいくつかのゾーン(Z31、Z32、Z41、
Z42)が、少なくとも2つの指向性音波を形成する高周波ラウドスピーカー(HPA21、HPA22、HPA31、
HPA32)の同じアレイ(R21、R22、R31、
R32)によって音が鳴らされることを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記空間(3000、
4000)が、少なくとも4つのゾーン(Z31、Z32、Z41、
Z42)を含み、前記システムが、少なくとも4つの指向性音波および少なくとも4つの
低音域ラウドスピーカー(HPG21、
HPG22)を
備えることを特徴とする、請求項1または2に記載のシステム。
【請求項4】
低周波ラウドスピーカー(HPG21、HPG22、HPG41~HPG48)とアレイ(R21、R22、R31、R32、R41、R42)の高周波ラウドスピーカー(HPA21、HPA22、HPA31、HPA32、HPA41~HPA48、HPA51)の両方を構成する、少なくとも1つの広帯域ラウドスピーカー(HPLB、HPLB1、HPLB2)を備え、前記広帯域ラウドスピーカー(HPLB、HPLB1、HPLB2)が、少なくとも1つの高周波信号および少なくとも1つの低周波信号を受信することを特徴とする、請求項
1から3
のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項5】
前記システムが、前記空間(3000、
4000)のゾーン(Z31、Z32、Z41、
Z42)ごとに、2個から6個の
低音域ラウドスピーカー(HPG21、HPG22、HPG41~HPG48)と、10個から20個の高周波ラウドスピーカー(HPA21、HPA22、HPA31、HPA32、HPA41~HPA48、HPA51)を含むアレイ(R21、R22、R31、R32、R41、R42)とを
備えることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項6】
前記システムが、ユーザの頭部の位置を検出するための手段をさらに
備え、前記オーディオ処理手段が、前記ユーザの
頭部の前記位置に従って
前記フィルタ(F31~F34、F41~F44)を制御することを特徴とする、請求項1から
5のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項7】
請求項1から
6のいずれか一項に記載のシステムの
前記フィルタ(F31~F34、F41~F44)を決定するための方法であって、
以下のステップ、すなわち、
- 個々の低周波ラウドスピーカー(HPG21、
HPG22)と
個々のゾーン(Z31、Z32、Z41、
Z42)との間の第1の伝搬行列(H1)
の測定および/またはシミュレーション(101)と、
- 高周波ラウドスピーカー(HPA21、HPA22、HPA31、
HPA32)の前記アレイ(R21、R22、R31、
R32)と前記
様々なゾーン(Z31、Z32、Z41、
Z42)との間の第2の伝搬行列(H2)
の測定および/またはシミュレーション(102)であって、各伝搬行列(H1~H2)が、各低周波ラウドスピーカー(HPG21、
HPG22)、または
前記高周波ラウドスピーカー(HPA21、HPA22、HPA31、
HPA32)のアレイ(R21、R22、R31、
R32)と、各ゾーン(Z31、Z32、Z41、
Z42)との間の
前記伝達関数を含む、
測定および/またはシミュレーション(102)と、
-
前記ゾーン(Z31、Z32、Z41、
Z42)の中の前記伝達関数をキャンセルすることによ
る前記第1の伝搬行列(H1)から
の第1の目的行列(M1)
の決定(103)
であって、そのことに対して、
- 前記第1のゾーン(Z31、Z41)の中で前記第1の低周波ラウドスピーカー(HPG21、HPLB1)によって伝搬される、前記第1の低周波ラウドスピーカー(HPG21、HPLB1)によって放出された前記信号の前記第2の成分に対応する前記オーディオコンテンツが、前記第2の低周波ラウドスピーカー(HPG22、HPLB2)によって伝搬される、前記第2の低周波ラウドスピーカー(HPG22、HPLB2)によって放出された前記信号の前記第2の成分に対応する前記オーディオコンテンツと、弱め合うように干渉し、
- 前記第2のゾーン(Z32、Z42)の中で前記第2の低周波ラウドスピーカー(HPG22、HPLB2)によって伝搬される、前記第2の低周波ラウドスピーカー(HPG22、HPLB2)によって放出された前記信号の前記第1の成分に対応する前記オーディオコンテンツが、前記第1の低周波ラウドスピーカー(HPG21、HPLB1)によって伝搬される、前記第1の低周波ラウドスピーカー(HPG21、HPLB1)によって放出された前記信号の前記第1の成分に対応する前記オーディオコンテンツと、弱め合うように干渉し、
- 前記第1のゾーン(Z31、Z41)の中で前記第1の高周波ラウドスピーカーアレイ(HPA21、HPA31)によって伝搬される、前記第1の高周波ラウドスピーカーアレイ(HPA21、HPA31)によって放出された前記第2の信号成分に対応する前記オーディオコンテンツが、前記第2の高周波ラウドスピーカーアレイ(HPA22、HPA32)によって伝搬される、前記第2の高周波ラウドスピーカーアレイ(HPA22、HPA32)によって放出された前記第2の信号成分に対応する前記オーディオコンテンツと、弱め合うように干渉し、
- 前記第2のゾーン(Z32、Z42)の中で前記第2の高周波ラウドスピーカーアレイ(HPA22、HPA32)によって伝搬される、前記第2の高周波ラウドスピーカーアレイ(HPA22、HPA32)によって放出された前記第1の信号成分に対応する前記オーディオコンテンツが、前記第1の高周波ラウドスピーカーアレイ(HPA21、HPA31)によって伝搬される、前記第1の高周波ラウドスピーカーアレイ(HPA21、HPA31)によって放出された前記第1の信号成分に対応する前記オーディオコンテンツと、弱め合うように干渉する、決定(103)と、
-
前記ゾーン(Z31、Z32、Z41、
Z42)の中の前記伝達関数をキャンセルすることによ
る前記第2の伝搬行列(H2)から
の第2の目的行列(M2)
の決定(104)
であって、そのことに対して、
- 前記第1のゾーン(Z31、Z41)の中で前記第1の低周波ラウドスピーカー(HPG21、HPLB1)によって伝搬される、前記第1の低周波ラウドスピーカー(HPG21、HPLB1)によって放出された前記信号の前記第2の成分に対応する前記オーディオコンテンツが、前記第2の低周波ラウドスピーカー(HPG22、HPLB2)によって伝搬される、前記第2の低周波ラウドスピーカー(HPG22、HPLB2)によって放出された前記信号の前記第2の成分に対応する前記オーディオコンテンツと、弱め合うように干渉し、
- 前記第2のゾーン(Z32、Z42)の中で前記第2の低周波ラウドスピーカー(HPG22、HPLB2)によって伝搬される、前記第2の低周波ラウドスピーカー(HPG22、HPLB2)によって放出された前記信号の前記第1の成分に対応する前記オーディオコンテンツが、前記第1の低周波ラウドスピーカー(HPG21、HPLB1)によって伝搬される、前記第1の低周波ラウドスピーカー(HPG21、HPLB1)によって放出された前記信号の前記第1の成分に対応する前記オーディオコンテンツと、弱め合うように干渉し、
- 前記第1のゾーン(Z31、Z41)の中で前記第1の高周波ラウドスピーカーアレイ(HPA21、HPA31)によって伝搬される、前記第1の高周波ラウドスピーカーアレイ(HPA21、HPA31)によって放出された前記第2の信号成分に対応する前記オーディオコンテンツが、前記第2の高周波ラウドスピーカーアレイ(HPA22、HPA32)によって伝搬される、前記第2の高周波ラウドスピーカーアレイ(HPA22、HPA32)によって放出された前記第2の信号成分に対応する前記オーディオコンテンツと、弱め合うように干渉し、
- 前記第2のゾーン(Z32、Z42)の中で前記第2の高周波ラウドスピーカーアレイ(HPA22、HPA32)によって伝搬される、前記第2の高周波ラウドスピーカーアレイ(HPA22、HPA32)によって放出された前記第1の信号成分に対応する前記オーディオコンテンツが、前記第1の高周波ラウドスピーカーアレイ(HPA21、HPA31)によって伝搬される、前記第1の高周波ラウドスピーカーアレイ(HPA21、HPA31)によって放出された前記第1の信号成分に対応する前記オーディオコンテンツと、弱め合うように干渉する、決定(104)と、
- 前記第1の伝搬行列(H1)の逆行列と前記第1の目的行列(M1)との積に対応する第1のフィル
タ行列(C1)
の計算(105)と、
- 前記第2の伝搬行列(H2)の逆行列と前記第2の目的行列(M2)との積に対応する第2のフィル
タ行列(C2)
の計算(106)と
を含む、方法。
【請求項8】
前記第1および第2のフィル
タ行列(C1、C2)から共通のフィル
タ行列(C)を計算するステップ(107)をさらに
備えることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1つのフィル
タ行列(C1、C2、C)が、ユーザの
頭部の位置
の関数として、異なる制御点または制御点のセットに対して計算されたフィル
タ行列(C1、C2、C)のセットから選択されることを特徴とする、請求項7または8のいずれか一項に記載の方法。
【国際調査報告】