(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-16
(54)【発明の名称】粘膜炎を処置するための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/231 20060101AFI20241008BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20241008BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20241008BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20241008BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20241008BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241008BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20241008BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241008BHJP
A61K 41/10 20200101ALI20241008BHJP
A61K 33/243 20190101ALI20241008BHJP
【FI】
A61K31/231
A61K45/00
A61P1/02
A61P1/04
A61P29/00
A61P43/00 121
A61P31/00
A61P35/00
A61K41/10
A61K33/243
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024523414
(86)(22)【出願日】2022-10-18
(85)【翻訳文提出日】2024-06-14
(86)【国際出願番号】 IB2022060007
(87)【国際公開番号】W WO2023067501
(87)【国際公開日】2023-04-27
(32)【優先日】2021-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】516343099
【氏名又は名称】エンジーケム ライフサイエンシーズ コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】ENZYCHEM LIFESCIENCES CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100189131
【氏名又は名称】佐伯 拓郎
(74)【代理人】
【識別番号】100182486
【氏名又は名称】中村 正展
(74)【代理人】
【識別番号】100147289
【氏名又は名称】佐伯 裕子
(72)【発明者】
【氏名】ソン, キ ヨン
(72)【発明者】
【氏名】ユン, ソン ヨン
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C084AA11
4C084AA19
4C084AA23
4C084MA02
4C084MA37
4C084MA52
4C084MA57
4C084NA05
4C084NA06
4C084NA14
4C084ZA672
4C084ZB112
4C084ZB262
4C084ZC752
4C086AA01
4C086AA02
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4C086MA57
4C086NA05
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4C086NA14
4C086ZA67
4C086ZB11
4C086ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206DB07
4C206DB47
4C206HA31
4C206JB17
4C206MA01
4C206MA02
4C206MA03
4C206MA04
4C206MA72
4C206MA77
4C206NA05
4C206NA06
4C206NA14
4C206ZA67
4C206ZB11
4C206ZB26
4C206ZC75
(57)【要約】
一態様では、粘膜炎を有するか、又は粘膜炎に罹患しやすいヒト対象を処置するための方法であって、有効量のEC-18をヒト対象に投与し、それにより粘膜炎を処置又は予防することを含む、方法が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘膜炎を有するか、又は粘膜炎に罹患しやすいヒト対象を処置するための方法であり、
有効量のEC-18を前記ヒト対象に投与し、それにより前記粘膜炎を処置又は予防することを含む、方法。
【請求項2】
口腔粘膜炎を有するか、又は口腔粘膜炎に罹患しやすいヒト対象を処置するための方法であり、
有効量のEC-18を前記ヒト対象に投与し、それにより前記口腔粘膜炎を処置又は予防することを含む、方法。
【請求項3】
化学療法に関連する粘膜炎を有するか、又は粘膜炎に罹患しやすいヒト対象を処置するための方法であり、
有効量のEC-18を前記ヒト対象に投与し、それにより前記粘膜炎を処置又は予防することを含む、方法。
【請求項4】
化学療法に関連する口腔粘膜炎を有するか、又は口腔粘膜炎に罹患しやすいヒト対象を処置するための方法であり、
有効量のEC-18を前記ヒト対象に投与し、それにより前記口腔粘膜炎を処置又は予防することを含む、方法。
【請求項5】
放射線療法に関連する粘膜炎を有するか、又は粘膜炎に罹患しやすいヒト対象を処置するための方法であり、
有効量のEC-18を前記ヒト対象に投与し、それにより前記粘膜炎を処置又は予防することを含む、方法。
【請求項6】
放射線療法に関連する口腔粘膜炎を有するか、又は口腔粘膜炎に罹患しやすいヒト対象を処置するための方法であり、
有効量のEC-18を前記ヒト対象に投与し、それにより前記口腔粘膜炎を処置又は予防することを含む、方法。
【請求項7】
前記ヒト対象が、頭頸部癌と診断されている、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記ヒト患者が、癌の処置を受けている、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記ヒト対象が、シスプラチン療法を受けている、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ヒト対象が、癌のための放射線療法を受けている、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記ヒト対象が、EC-18を経口剤形として受ける、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記ヒト対象が、EC-18を複数回の1日投与量として受ける、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記ヒト対象が、EC-18を毎日、1週間又は2週間以上にわたり受ける、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記ヒト対象が、EC-18を毎日、2週間以上にわたり受ける、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記ヒト対象が、1日当たり最大500mgのEC-18を受けた、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記ヒト対象が、1日当たり最大1000mgのEC-18を受けた、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記ヒト対象が、1日当たり最大1500mgのEC-18を受けた、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記ヒト対象が、1日当たり最大2000mg又は4000mgのEC-18を受けた、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記ヒト対象が、頭頸部癌に罹患していると診断されている、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記ヒト対象が、粘膜炎の1つまたは複数の症状を患っていると診断されている、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記ヒト対象が、口腔潰瘍に罹患していると診断されている、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
EC-18が、粘膜炎の処置のための1つ又は複数の異なる薬剤と同時投与される、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
EC-18が、パリフェルミン;ビタミンEを伴うペントキシフィリン;グルコン酸クロルヘキシジン(経口すすぎ液を含む);ヒアルロン酸ナトリウムを含むヒアルロン酸;スーパーオキシドジスムターゼ模倣物、例えば、スーパーオキシドジスムターゼ模倣物M40403;デュスケチド又は他の先天性防御調節因子のうち1つ又は複数と同時投与される、請求項11~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
(a)EC-18と、
(b)EC-18を使用してヒト対象の粘膜炎を処置するための説明書と、
を含む、キット。
【請求項25】
前記キットが、治療有効量のEC-18の化合物を含む、請求項24に記載のキット。
【請求項26】
前記キットが、EC-18とは異なる1つ又は複数の治療薬を更に含む、請求項24又は25に記載のキット。
【請求項27】
前記キットが、EC-18とは異なる1つ又は複数の抗粘膜炎剤を更に含む、請求項24~26のいずれか一項に記載のキット。
【請求項28】
前記キットが、パリフェルミン;ビタミンEを伴うペントキシフィリン;グルコン酸クロルヘキシジン(経口すすぎ液を含む);ヒアルロン酸ナトリウムを含むヒアルロン酸;スーパーオキシドジスムターゼ模倣物、例えば、スーパーオキシドジスムターゼ模倣物M40403;デュスケチド又は他の先天性防御調節因子のうちの1つ又は複数を更に含む、請求項24~27のいずれか一項に記載のキット。
【請求項29】
前記キットが、ヒト対象者における粘膜炎を処置するためのEC-18の使用のための書面による説明書を含む、請求項24~28のいずれか一項に記載のキット。
【請求項30】
前記説明書が、製品ラベルである、請求項24~29のいずれか一項に記載のキット。
【請求項31】
HPVに関連する頭頸部癌における粘膜炎のような頭頸部癌による粘膜炎を有するか又は罹患しやすいヒト対象を処置するための方法であり、
有効量のEC-18を前記ヒト対象に投与し、それにより前記粘膜炎を処置又は予防することを含む、方法。
【請求項32】
1)粘膜炎及び2)HPV陽性を有するか、又はそれらに罹患しやすいヒト対象を処置する方法であり、
有効量のEC-18を前記ヒト対象に投与し、それにより前記粘膜炎を処置又は予防することを含む、方法。
【請求項33】
前記対象が、1)粘膜炎に罹患している、及び/又は2)HPV感染症について陽性反応を示すこととして同定される、請求項31又は32に記載の方法。
【請求項34】
有効量のEC-18が、前記同定された対象に投与される、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記ヒト対象が、EC-18を経口剤形として受ける、請求項31~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記ヒト対象が、EC-18を複数回の1日投与量として受ける、請求項31~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記ヒト対象が、EC-18を毎日、1週間又は2週間以上にわたり受ける、請求項31~36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記ヒト対象が、EC-18を毎日、2週間以上にわたり受ける、請求項31~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記ヒト対象が、1日当たり最大500mg、1000mg、1500mg、2,000mg又は4000mgのEC-18を受けた、請求項31~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記対象が、口腔粘膜炎に罹患している、請求項31~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記対象が、放射線療法に関連する口腔粘膜炎に罹患している、請求項31~40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記ヒト対象が、頭頸部癌と診断されている、請求項31~41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
前記ヒト対象が、癌の処置を受けている、請求項31~42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記ヒト対象が、シスプラチン療法を受けている、請求項46に記載の方法。
【請求項45】
前記ヒト対象が、免疫療法を受けている、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記ヒト対象が、癌のための放射線療法を受けている、請求項31~45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
EC-18が、粘膜炎の処置のための1つ又は複数の異なる薬剤と同時投与される、請求項31~46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
EC-18が、パリフェルミン;ビタミンEを伴うペントキシフィリン;グルコン酸クロルヘキシジン(経口すすぎ液を含む);ヒアルロン酸ナトリウムを含むヒアルロン酸;スーパーオキシドジスムターゼ模倣物、例えば、スーパーオキシドジスムターゼ模倣物M40403;デュスケチド又は他の先天性防御調節因子のうちの1つ又は複数と同時投与される、請求項31~47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
前記ヒト対象が、女性である、請求項1~21又は31~48のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
前記ヒト対象が男性である、請求項1~21又は31~48のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年10月18日に出願された米国仮出願第63/257,099号の利益を主張し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
一態様では、ヒト対象における粘膜炎の発症又は重症度を処置、予防又は低減するための方法、組成物及びキットが提供される。更なる態様では、ヒト対象における口腔粘膜炎の炎発症又は重症度を処置、予防又は低減するための方法、組成物及びキットが提供される。なお更なる態様では、ヒト対象における化学放射線誘発性口腔粘膜炎(CRIOM)の発症又は重症度を処置、予防又は軽減するための方法、組成物及びキットが提供される。なお更なる態様では、放射線誘発性口腔粘膜炎(RIOM)の発症又は重症度を処置、予防又は低減するための方法、組成物及びキットが提供される。
【背景技術】
【0003】
口腔粘膜炎は、頭頸部癌を含む化学放射線療法を受けている患者における頻繁かつ重度の有害事象である。発症により処置がドロップアウトし、これにより患者の生存率を低下させ得る。
【0004】
口腔粘膜炎は、化学療法及び/又は放射線療法で処置された癌患者に観察される口腔粘膜の有痛性潰瘍性病変を特徴としている。Lalla et al.,MASCC/ISOO clinical practice guidelines for the management of mucositis secondary to cancer therapy.Cancer.2014;120:1453-1461.doi:10.1002/cncr.28592;Kashiwazaki et al.Professional oral health care reduces oral mucositis and febrile neutropenia in patients treated with allogeneic bone marrow transplantation.Support.Care Cancer.2012;20:367-373.doi:10.1007/s00520-011-1116-x.
【0005】
国立癌研究所(NCI)は、有害事象共通用語規準(Common Terminology Criteria for Adverse Events)(CTCAE)を発表した。粘膜炎についての別個の主観的及び客観的尺度:グレード1-粘膜の紅斑;グレード2-斑状潰瘍又は偽膜;グレード3-コンフルエントな潰瘍又は偽膜;軽度の外傷を伴う出血、グレード4-組織壊死;著しい自然出血;生命を脅かす結果、グレード5-死亡を含む。
【0006】
化学放射線誘発性口腔粘膜炎(CRIOM)及び放射線誘発性口腔粘膜炎(RIOM)に対処する努力がなされてきた。例えば、Liu et al.Status of Treatment and Prophylaxis for Radiation-Induced Oral Mucositis in Patients With Head and Neck Cancer.Front.Oncol.11:642575.doi:10.3389/fonc.2021.642575を参照されたい。現在の臨床アプローチは、満足のいくものではないことが多い。
【0007】
粘膜炎の発症又は重症度を処置、予防又は低減するための新しい治療法が望まれる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Lalla et al.,MASCC/ISOO clinical practice guidelines for the management of mucositis secondary to cancer therapy.Cancer.2014;120:1453-1461.doi:10.1002/cncr.28592
【非特許文献2】Kashiwazaki et al.Professional oral health care reduces oral mucositis and febrile neutropenia in patients treated with allogeneic bone marrow transplantation.Support.Care Cancer.2012;20:367-373.doi:10.1007/s00520-011-1116-x
【非特許文献3】Liu et al.Status of Treatment and Prophylaxis for Radiation-Induced Oral Mucositis in Patients With Head and Neck Cancer.Front.Oncol.11:642575.doi:10.3389/fonc.2021.642575
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは今般、化合物EC-18が、口腔粘膜炎に罹患しているか又は口腔粘膜炎に罹患しやすいヒト対象の処置に有効であることを見出した。
【0010】
特に、本発明者らは、EC-18が、頭頸部癌の処置のための化学放射線療法の経過中に発症する口腔粘膜炎に罹患しているか又は口腔粘膜炎に罹患しやすいヒト対象の処置に有効であることを見出した。
【0011】
本適応症に対するEC-18処置は、用量依存的な様式で有効であることが示されている。
【0012】
一実施形態では、粘膜炎は、口腔粘膜炎、胃腸管粘膜炎、又は消化管粘膜炎であり得る。別の実施形態では、粘膜炎は、癌、化学療法、放射線療法、又は化学療法と放射線療法の組み合わせに関連し得る。
【0013】
一態様では、広範囲の口腔潰瘍の症状を含み得る、重度の口腔粘膜炎(SOM)を含む重度の粘膜炎を処置する方法が提供される。
【0014】
EC-18は、以下の式1の構造によって表され得る。
【化1】
【0015】
式1の化合物は、本開示では「PLAG」又は「EC-18」と呼ばれることもある。
【0016】
上述のとおり、EC-18は、癌、化学療法、放射線療法、化学療法及び放射線療法の組み合わせに関連し得る口腔粘膜炎などの粘膜炎に罹患しているか又は粘膜炎に罹患しやすいヒト対象を処置するために使用され得る。また、EC-18は、頭頸部癌において粘膜炎を有するか粘膜炎に罹患しやすいヒト対象における粘膜炎(例えば、口腔粘膜炎)に罹患しているか粘膜炎に罹患しやすいヒト対象を処置するために使用し得る。また、EC-18は、ヒトパピローマウイルス(HPV)又はその感染に関連する頭頸部癌における粘膜炎を有するか又はそれに罹患しやすいヒト対象における粘膜炎(例えば、口腔粘膜炎)に罹患しているか又はそれに罹患しやすいヒト対象を処置するために使用し得る。
【0017】
ある好ましい態様では、ヒト患者は、1日当たりEC-18の複数回用量を受け得る。
【0018】
ある好ましい態様では、ヒト患者は、カプセル剤又は錠剤などの経口形態でEC-18を受け得る。
【0019】
ある好ましい態様では、ヒト患者は、EC-18を、1日当たり最大500mg、又は最大600、700、800、900若しくは1000mgのEC-18、又は1日当たり最大1100、1200、1300、1400、1500mgのEC-18、又は1日当たり最大1600、1700、180、199若しくは2000mgのEC-18、又は1日当たり最大2100、2200、2300、2400、2500mgのEC-18、又は1日当たり最大2500、300、3500若しくは4,000mg若しくはそれ以上などの高用量のEC-18を、1日投与量で受け得る。
【0020】
ヒト対象は、化学的又は放射線癌療法を受けることによる処置を受けているか、又はその処置に感受性があるかを決定され得る。そのような対象は、例えば、口腔潰瘍を示し得る。
【0021】
特定の態様では、本明細書に開示されるような処置のためにヒト対象が同定及び選択され、次いでEC-18が同定及び選択された対象に投与される。特に、ヒト患者は、口腔粘膜炎に罹患している又は罹患しやすいと同定され得、同定された患者は処置のために選択され、有効量のEC-18が同定され選択された患者に投与される。ヒト患者はまた、口腔粘膜炎に罹患しているか又は口腔粘膜炎に罹患しやすく並びにHPV陽性であると同定され得、同定された患者は処置のために選択され、有効量のEC-18が同定され選択された患者に投与される。
【0022】
ある態様では、EC-18は、EC-18とは異なる1つ又は複数の治療薬と組み合わせて、又はそれと協調して対象に投与され得る。例えば、EC-18は、パリフェルミン;ビタミンEを伴うペントキシフィリン;グルコン酸クロルヘキシジン(経口すすぎ液を含む);ヒアルロン酸ナトリウムを含むヒアルロン酸;スーパーオキシドジスムターゼ模倣物、例えば、スーパーオキシドジスムターゼ模倣物M40403;及び/若しくはデュスケチド又は他の先天性防御調節因子(innate defense regulator)と組み合わせて投与され得る。
【0023】
更なる態様では、EC-18を含む医薬組成物が提供される。組成物は、適切には、1つ又は複数の薬学的に許容され得る担体を含み得る。好ましい実施形態では、組成物は、本明細書に開示されるような粘膜炎の処置のために製剤化又は他の方法で適合され得る。好ましい態様では、組成物は、錠剤又はカプセル剤などの経口投与に適合させることができる。
【0024】
なお更なる態様では、本明細書に開示されるような粘膜炎を処置又は予防するために使用するためのキットが提供される。本発明のキットは、適切には、1)治療有効量のEC-18;及び2)粘膜炎を処置又は予防するためのEC-18の使用説明書を含み得る。説明書は、適切には、製品ラベルを含む、書面形式であってもよい。
【0025】
処置のためのヒト対象は、男性又は女性であり得る。ある態様では、ヒトは、成人(少なくとも16、18又は21歳)である。ある態様では、ヒトは、小児患者(18、16、14、12、10、8又は6歳未満)である。
【0026】
一実施形態では、化学療法及び/又は放射線療法に関連する口腔粘膜炎を処置又は予防する方法は、有効量のEC-18を含む組成物のヒト対象への投与を含み得る。別の実施形態では、化学療法及び/又は放射線療法に関連し得るような消化管粘膜炎を処置又は予防する方法は、有効量のEC-18を含むことのヒト対象への投与を含み得る。別の実施形態では、化学療法及び/又は放射線療法に関連する胃腸管粘膜炎を処置又は予防する方法は、有効量のEC-18を含む組成物のヒト対象への投与を含み得る。
【0027】
一実施形態では、癌に関連する粘膜炎を処置又は予防する方法は、有効量のEC-18を含む組成物のヒト対象への投与を含み得る。別の実施形態では、癌に関連する口腔粘膜炎を処置又は予防する方法は、有効量のEC-18を含む組成物のヒト対象への投与を含み得る。別の実施形態では、癌に関連する消化管粘膜炎を処置又は予防する方法は、有効量のEC-18を含む組成物のヒト対象への投与を含み得る。別の実施形態では、癌に関連する胃腸管粘膜炎を処置又は予防する方法は、有効量のEC-18を含む組成物のヒト対象への投与を含み得る。
【0028】
一実施形態では、造血幹細胞移植(HSCT)に関連する粘膜炎を処置又は予防する方法は、有効量のEC-18を含む組成物のヒト対象への投与を含み得る。別の実施形態では、造血幹細胞移植(HSCT)に関連する口腔粘膜炎を処置又は予防する方法は、有効量のEC-18を含む組成物のヒト対象への投与を含み得る。別の実施形態では、造血幹細胞移植(HSCT)に関連する消化管粘膜炎を処置又は予防する方法は、有効量のEC-18を含む組成物のヒト対象への投与を含み得る。別の実施形態では、造血幹細胞移植(HSCT)に関連する胃腸管粘膜炎を処置又は予防する方法は、有効量のEC-18を含む組成物のヒト対象への投与を含み得る。
【0029】
対象は、粘膜炎(例えば、口腔粘膜炎又は口腔口内炎)を有し得るか、又は粘膜炎(例えば、化学療法及び/又は放射線療法を受けているか、又はこれから受ける患者)を発症するリスクがあり得る。更なる例として、必要としている対象は、AV(萎縮性膣炎)又は膣粘膜炎を有するか、又は膣粘膜炎又はAVを発症するリスクがある対象(例えば、AVの臨床症状を発症するリスクがある女性に先行し得る症状、例えば、膣乾燥を呈する女性)であり得る。
【0030】
一実施形態では、造血幹細胞移植(HSCT)に関連する粘膜炎を処置又は予防する方法は、有効量のEC-18を含む組成物のヒト対象への投与を含み得る。
【0031】
一態様では、対象は、ヒトパピローマウイルス(HPV)感染を有し得る。1つの態様では、対象は、ヒトパピローマウイルス(HPV)について陽性反応、例えば、子宮頸部検査によるHPV検査で陽性反応を示し得る。本発明者らは、驚くべきことに、本明細書中に開示されるような粘膜炎について処置されているヒト対象であって、HPV陽性でもあるヒト対象が、EC-18処置から特に好ましい治療的利益を示すことを見出した。
【0032】
更なる態様では、EC-18の使用が提供され、それには、本明細書に開示されるような状態、特に頭頸部癌を処置するための化学放射線療法の経過中に生じる口腔粘膜炎に罹患しているか又は罹患しやすいヒト対象を処置することが含まれる。更なる態様では、EC-18の使用は、本明細書に開示されるような状態、特に頭頸部癌を処置するための化学放射線療法の経過中に生じる口腔粘膜炎に罹患しているか又は罹患しやすいヒト対象を治療することを含む医薬品を調製するために提供される。
【0033】
本発明の他の態様を以下に開示する。
【0034】
特許又は出願ファイルは、カラーで作成された少なくとも1つの図面を含む。カラー図面を伴うこの特許又は特許出願公開の写しは、請求及び必要な料金の支払いに応じて特許庁によって提供される。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】
図1は、各患者集団の定義とともにステージ1及び2の両方の患者フローチャートを示す。EC-18の有効性分析をプラセボとの比較で忠実に観察及び分析するために、STFU(短期追跡調査)期間(7週間の実薬投与(active treatment)期間後約4~6週間)までのPP(per protocol)を分析した。その内容で扱われる有効性の結果は、プラセボ(ステージ1 n=2、ステージ2 n=18:合計:20)及びEC-18群(ステージ1 n=5、ステージ2 n=17:合計:22)に基づく。
【
図2】
図2A~2Bは、主要評価項目での重度の口腔粘膜炎(SOM)の持続期間を示す。PP集団(支持的有効性分析に使用された集団)では、ベースラインからSTFU期間までのSOM持続期間の中央値は、EC-18 2000mg群でプラセボと比較して短かった(0.0日間対13.5日間)。
【
図3】
図3A~3Bは、副次的有効性評価項目におけるSOMの発症率を示す。PP集団では、ベースラインから実薬投与期間及びSTFUまでのSOMの発症率は、EC-18 2000mg群ではプラセボ群と比較して報告が少なかった(10[45.5%]対14[70.0%]
【
図4】
図4は、処置の7週間にわたる各週間隔での累積SOM発症率を示す。PP集団では、ベースラインから実薬投与期間までのSOMの発症率は、EC-18 2,000mg群ではプラセボ群と比較して報告が少なかった[(36.4%)対(65.0%)対象]。
【
図5】
図5A~5Bは、副次的評価項目におけるSOMの徴候までの時間を示す。
【
図7】
図7は、シスプラチンレジメン及びHPV状態に基づく共変量解析を示す。
【
図8】
図8は、EC-18群及びプラセボ群のTGFβレベルの比較を合計で示す。
【
図9】
図9A~9Bは、SOMあり(
図9A)及びSOMなし(
図9B)のEC-18群及びプラセボ群のTGFβの比較を示す。
【
図11】
図11A~11Bは、週1回のシスプラチン(
図11A)及び3週毎に1回のシスプラチン(
図11B)で処置したEC-18群及びプラセボ群のTGFβレベルの比較を示す。
【
図12】
図12は、EC-18群及びプラセボ群のIL-1βレベルの比較を合計で示す。
【
図15】
図15A~15Bは、週1回のシスプラチン(
図15A)及び3週毎に1回(tri-weekly)のシスプラチン(
図15B)を用いたEC-18群及びプラセボ群のIL-1βレベルの比較を示す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明者らは現在、ヒト臨床試験において、EC-18が、癌の処置のために化学療法及び/又は放射線療法を受けたことがある患者において、粘膜炎を処置し、重症度を低下させ、そうでなければ改善するのに非常に有効であることを実証している。
【0037】
一態様では、本方法による処置を受けているヒト対象は、頭頸部癌に関連し得るような固形腫瘍を含む1つ又は複数の種類の癌に罹患している可能性がある。ヒト対象は、シクロホスファミド、ドキソルビシン、エトポシド、イホスファミド、メスナ、シスプラチン、ゲムシタビン及び/又はタモキシフェン、又は1種類若しくは複数の他の化学療法剤などによる癌の化学療法を受けていてもよい。
【0038】
併用療法
上述のように、EC-18は、例えば粘膜炎に罹患している若しくは粘膜炎に罹患しやすい、又は粘膜炎の症状を患っているヒトを含む対象を処置するために、組み合わせて投与され得る。組み合わせて投与され得る1つ又は複数の異なる治療薬としては、例えば、パリフェルミン;ビタミンEを伴うペントキシフィリン;グルコン酸クロルヘキシジン(経口すすぎ液を含む);ヒアルロン酸ナトリウムを含むヒアルロン酸;スーパーオキシドジスムターゼ模倣物、例えば、スーパーオキシドジスムターゼ模倣物M40403;デュスケチド又は他の先天性防御調節因子が挙げられる。
【0039】
本明細書で使用される場合、対象への治療の投与の文脈における「組み合わせて(in combination)」という用語は、治療上の利益のための2つ以上の治療の使用を指す。投与の文脈における「組み合わせて」という用語はまた、少なくとも1つの追加の治療と共に使用される場合の対象への治療の予防的使用を指すことができる。用語「組み合わせて」の使用は、治療(例えば、第1及び第2の治療)が対象に投与される順序を制限しない。治療は、本明細書に開示されるような処置を必要とする対象への第2の治療の投与の前に(例えば、1分、5分、15分、30分、45分、1時間、2時間、4時間、6時間、12時間、24時間、48時間、72時間、96時間、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、8週間、又は12週間前に)、それと同時に、又はそれに続いて(例えば、1分後、5分後、15分後、30分後、45分後、1時間後、2時間後、4時間後、6時間後、12時間後、24時間後、48時間後、72時間後、96時間後、1週間後、2週間後、3週間後、4週間後、5週間後、6週間後、8週間後、又は12週間後に)投与することができる。治療は、治療が一緒に作用することができるように、一連の時間間隔内で対象に投与される。特定の実施形態では、治療は、他の方法で投与された場合よりも高い利益を提供するように、一連の時間間隔内で対象に投与される。任意の更なる治療は、他の更なる治療と任意の順序で投与することができる。
【0040】
EC-18及び1つ又は複数の異なる治療薬の投与は、他の成分と組み合わせて、粘膜炎の症状の発症を含む粘膜炎の症状の改善、低減又は安定化に有効な治療薬の濃度をもたらす適切な手段によるものであり得る。
【0041】
EC-18及び1つ又は複数の異なる治療薬は、同時に又は連続的に投与され得る。いくつかの実施形態では、1つ又は複数の異なる治療薬が、粘膜炎を処置するための使用について報告されている。
【0042】
上述のように、1)EC-18及び2)1つ又は複数の異なる治療薬は、別個の医薬組成物として、又は単一の医薬組成物に混合して、「同時投与」、すなわち、対象に協調して一緒に投与され得る。「同時投与される」ことによって、1つ又は複数の追加の異なる治療薬はまた、EC-18と同時に投与され得るか、又は異なる時間及び異なる頻度を含むEC-18と連続的又は別個に投与され得る(例えば、各薬剤は、少なくとも5、10、30、60、120、180、240、300、360、420又は500分離れて投与される)。1つ又は複数の異なる治療薬は、経口、静脈内、皮下、筋肉内、経鼻など、薬剤の任意の適切な経路によって投与することができる。治療薬はまた、任意の従来の経路によって投与され得る。少なくとも特定の実施形態では、1つ以上の異なる治療薬は、経口投与され得る。
【0043】
いくつかの実施形態では、EC-18及び/又は1つ又は複数の異なる治療薬は、毎日、例えば、24時間ごとに、又は1日当たり連続的若しくは数回、例えば、1時間ごと、2時間ごと、3時間ごと、4時間ごと、5時間ごと、6時間ごと、7時間ごと、8時間ごと、9時間ごと、10時間ごと、11時間ごと、又は12時間ごとに投与され得る。
【0044】
異なる治療薬の例示的な1日有効用量は、0.1μg/kg~100μg/kg体重、例えば0.1、0.3、0.5、1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95又は99μg/kg体重を含む。
【0045】
あるいは、異なる治療薬は、1週間に約1回、例えば、7日ごとに約1回投与される。又は、異なる治療薬は、1週間に2回、1週間に3回、1週間に4回、1週間に5回、1週間に6回、又は1週間に7回投与される。異なる治療薬の例示的な有効な毎週の用量は、0.0001mg/kg~4mg/kg体重、例えば、0.001、0.003、0.005、0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、又は4mg/kg体重を含む。例えば、異なる治療薬の有効な毎週の用量は、0.1μg/kg体重~400μg/kg体重である。
【0046】
組成物及び処置
EC-18を含む医薬組成物は、従来の薬学的に許容され得る担体、賦形剤又は希釈剤を含み得る。EC-18の量は、特に限定されることなく広く変動させることができ、具体的には、組成物の全量に対して0.0001~100重量%、好ましくは0.001~90重量%であり、例えば、EC-18を70~80重量%含有してもよい。
【0047】
EC-18の適切な投与量は、適切に変動し得る。好ましくは、ヒト対象において粘膜炎を緩和するか、又は粘膜炎の発症の可能性を低下させる投与量が提供される。EC-18の処置を必要とするヒト患者のための例示的な1日投与量は、0.0001mg/kg~4mg/kg体重、又は0.01mg/kg~4mg/kg体重、例えば、ヒト対象の最大で又は約0.001、0.003、0.005、0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、10、20、30、40、50、60、70、80、90若しくは100mg/kg体重を含む。例えば、いくつかの実施形態では、EC-18の有効な毎週の用量は、それを必要とするヒト患者の0.1μg/kg体重~400μg/kg体重であり得る。好ましい態様では、250~1000mg、例えば500mgのEC-18を含有する錠剤又はカプセル剤(例えば、軟ゼラチンカプセル剤)などの経口製剤が利用される。最適な投与量はまた、特定の患者又は同定された患者群(例えば、他の1つ以上の他の既存の状態、例えば、高血圧の病歴を有する患者;癌患者;HPV又はその感染症の患者)について経験的に決定することができる。
【0048】
本発明の医薬組成物は、治療効果を有する他の有効成分を更に含んでいてもよい。医薬組成物は、経口又は非経口投与のための固体、液体、ゲル又は懸濁形態、例えば、錠剤、ボーラス、粉末、顆粒、カプセル剤、例えば、硬質又は軟質ゼラチンカプセル剤、エマルジョン、懸濁液、シロップ、乳剤、滅菌水溶液、非水溶液、凍結乾燥製剤などに製剤化され得る。組成物の製剤化において、従来の賦形剤又は希釈剤、例えば、充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤及び界面活性剤を使用することができる。経口投与用の固形製剤としては、錠剤、ボーラス、散剤、顆粒剤、カプセル剤などが挙げられ、1つ以上の有効成分と、デンプン、炭酸カルシウム、スクロース、ラクトース、ゼラチンなどの少なくとも1種の賦形剤とを混合することにより調製することができる。賦形剤以外にも、ステアリン酸マグネシウム、タルク等の潤滑剤を用いることもできる。経口投与のための液体製剤は、エマルジョン、懸濁液、シロップなどを含み、水及び流動パラフィンなどの従来の希釈剤を含んでもよく、又は湿潤剤、発汗剤、香味剤及び保存剤などの様々な賦形剤を含んでもよい。非経口投与のための製剤としては、滅菌水溶液、非水溶液、凍結乾燥製剤、坐剤等が挙げられ、このような溶液の溶媒としては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油等の植物油、オレイン酸エチル等のシリンジ注射のためのエステルが挙げられる。坐剤の基剤としては、Witepsol(登録商標)、Macrogol、Tween61、カカオバター、ラウリン及びグリセロゼラチンが挙げられ得る。
【0049】
EC-18は、薬学的有効量で投与され得る。「薬学的有効量」という用語は、医学的処置において所望の結果を達成するのに十分な量を指すために使用される。「薬学的有効量」は、対象のカテゴリー、年齢、性別、重症度及び疾患の種類、薬物の活性、薬物に対する感受性、投与時間、投与経路、排出率などに従って決定することができる。本発明の組成物は、単独で、又は他の治療薬と共に、順次又は同時に投与され得る。本発明の組成物は、1回又は複数回投与され得る。本発明の組成物の好ましい量は、患者の状態及び体重、疾患の重症度、薬物の製剤型、投与経路及び処置の期間に応じて変更し得る。1日当たりの適切な投与の総量は、医師によって決定することができ、一般に約0.001~約5,000mg/kg、好ましくは約0.05~1,000mg/kgであり、1日2回であるか、又は分割した用量で1日に複数回投与することができる。
【0050】
「投与」という用語は、本発明の医薬組成物を、任意の適切な方法によって必要とする患者に導入することを意味する。投与の経路は、標的組織に到達できる限り、経口であってもよいし、非経口であってもよく、例えば、経口投与、腹腔内投与、経皮投与(局所適用など)、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、鼻腔内投与、直腸投与、鼻腔内投与、腹腔内投与などを用いることができるが、これらに限定されるものではない。経口投与が好ましい。
【0051】
上述のように、本治療法では、EC-18は、癌、化学療法、放射線療法、化学療法及び放射線療法の組み合わせに関連し得る口腔粘膜炎などの粘膜炎に罹患しているか又は粘膜炎に罹患しやすいヒト対象に投与される。特定の治療では、EC-18は、頭頸部癌を有する口腔粘膜炎に罹患しているか又は罹患しやすいヒト対象に投与される。
【0052】
また、EC-18は、ヒトパピローマウイルス(HPV)又はその感染に関連する頭頸部癌における粘膜炎を有するか又はそれに罹患しやすいヒト対象における粘膜炎(例えば、口腔粘膜炎)に罹患しているか又はそれに罹患しやすいヒト対象を処置するために使用し得る。
【0053】
上述のように、処置を受けているヒト対象は、ヒトパピローマウイルス(HPV)感染を有し得る。1つの態様では、対象は、ヒトパピローマウイルス(HPV)に陽性反応を示し得、例えば、子宮頸部検査によるHPV検査で陽性反応を示し得る。HPV陽性ヒト対象の有効なEC-18処置を実証する以下の実施例に記載される結果を参照のこと。
【0054】
ヒト対象は、化学的又は放射線癌療法を受けることによる処置を受けているか又はその処置に感受性をあるかどうかを判定され得る。そのような対象は、例えば、口腔潰瘍を示し得る。
【0055】
上述のように、ヒト対象は、本明細書中に開示されるような処置のために同定及び選択されてよく、その後同定及び選択された対象に、EC-18が投与される。例えば、ヒト患者は、口腔粘膜炎に罹患している又は罹患しやすいとして同定され得、同定された患者は処置のために選択され、有効量のEC-18が同定され選択された患者に投与される。ヒト患者はまた、口腔粘膜炎に罹患しているか又は口腔粘膜炎に罹患しやすくかつHPV陽性であると同定され得、同定された患者が処置のために選択され、有効量のEC-18は同定され選択された患者に投与される。
【0056】
対象は、粘膜炎(例えば、口腔粘膜炎又は口腔口内炎)を有し得るか、又は粘膜炎を発症するリスク(例えば、化学療法及び/又は放射線療法を受けているか、又はこれから受ける患者)を有し得る。
【0057】
一実施形態では、造血幹細胞移植(HSCT)に関連する粘膜炎を処置又は予防する方法は、有効量のEC-18を含む組成物のヒト対象への投与を含み得る。
【0058】
なお更なる態様では、本明細書に開示されるような粘膜炎を処置又は予防するために使用するためのキットが提供される。本発明のキットは、適切には、1)治療有効量のEC-18;及び、2)粘膜炎を処置又は予防するためのEC-18の使用説明書を含み得る。説明書は、適切には、製品ラベルを含む、書面形式であってもよい。
【実施例】
【0059】
以下の実施例は、例示である。
【0060】
実施例1:患者群及び臨床試験
以下の特徴のヒト患者を登録した:
・18歳以上
・口腔、中咽頭、下咽頭又は鼻咽頭の扁平上皮癌の診断
・60Gy~72Gyの蓄積線量まで2.0Gy~2.2Gyの1日分割照射(daily fraction)でIMRTを受けることを計画
・リスクのある少なくとも2つの粘膜炎部位(頬側粘膜、口底、腹側及び外側舌、軟口蓋)を含む放射線場。両部位は55Gyの最小蓄積線量を受ける。
・シスプラチンによる併用単剤化学療法を受けることを計画
【0061】
EC-18を処置群の様々な患者に最大2000mg/日投与した。推奨される治療は、1日当たり2000mgのEC-18の総1日投与量とするために、500mgのEC-18カプセル剤を1日を通して4回投与すること(例えば、朝食及び夕食後30分以内に500mgのEC-18の2カプセル剤を投与)であった。処置プロトコルは、7週間継続し、放射線療法及びシスプラチン療法は同時に継続した。
【0062】
EC-18処置群は、粘膜炎症状の軽減を含む、対照群を上回る明確な治療上の利益を示した。
【0063】
試験のために、頭頸部癌処置を経験した25の大規模施設及び病院を選択した。
ステージ1:ステージ2に使用可能な安全性及びMTDを評価する
iDSMB:データ安全性監視委員会が2週間ごとに安全性データを審査し、MTD 2000mgを使用してステージ2について承認
ステージ2:安全性及び有効性を評価する
OMが消散するまで、7週間の実薬投与(Active)及びSTFUの4~6週間
2.0~2.2Gyの1日分割照射(週に5日で7週間)、及び1週間(40mg/m2)又は3週間ごと(100mg/m2)のシスプラチン
最小蓄積放射線量55Gy
【0064】
有効性については、重度の口腔粘膜炎(SOM)の持続期間、実薬投与中のSOMの発症率を測定した。
【0065】
図1(フロー図)は、試験開始時の患者プール及び有効性解析対象集団に至った要因を示す。
【0066】
ステージ1では、本発明者らは、有効性分析のためにステージ1のプラセボ及び2000mgの患者をステージ2に含めた:
プラセボ群:ステージ1 n=2、ステージ2 n=18:合計:20
EC-18 2000mg群:ステージ1 n=5、ステージ2 n=17:合計:22
【0067】
図2A~2Bは、有効性の結果をまとめたものである。SOMが発症してから治癒するまでの期間と発症率の中央値を測定した場合;非常に効果的な結果が見られる。プラセボ群では、SOMを発症しなかったEC-18群と比較して、ほぼ14日間のSOM持続期間の中央値が算出された。
【0068】
このプラセボ群のSOMの期間が14日間であることは、本発明者らが正しい集団を分析している他の薬剤で報告したものに少し似ている。
【0069】
同様に、プラセボ集団に対するSOMの発症率について、多くの雑誌及び論文では、SOMが65%~70%のどこかで発症することが既に報告されている。SOMのプラセボの発症率と比較して、EC-18群のSOMの発症率は45%であり、これはプラセボ集団と比較した場合に35%を超える減少である。
【0070】
図3A~3Bのグラフは、各週間隔でのSOM発症率を示す。SOMは、3週目まで始まらず、7週目(その後、蓄積放射線量は70Gyである)及び最後の放射線処置の1週間後である8週目にピークに達する。
図3A~3Bから分かるように、EC-18群のSOM発症率はプラセボ群(PP集団又はPP)よりも低い。
図4に示すように、1回の放射線照射後に口腔粘膜炎(OM)が発症することはまれであり、SOMは蓄積線量の増加(3週又は4週目以降)につれて見られ、一部は7週間を超えて延びる。
図4では、EC-18処置群を各期間(4、5、6及び7週目のそれぞれ)の右側に示し、プラセボを各期間について左側に又は3週目では単独で示す。
【0071】
図5A~5Bはまた、副次的評価項目におけるSOMの兆候までの時間を示す。PP集団では、EC-18、2,000mg群ではプラセボ群と比較してSOMの兆候が8日遅延した(51日間対43日間)。
【0072】
図6(
図6A及び
図6Bを含む。)は、副次的評価項目におけるオピオイド使用の時間を示す。PP集団では、EC-18 2000mg群(n=8)対プラセボ群(n=6)の間で、オピオイド鎮痛薬の最初の使用までの時間が評価可能な対象(研究開始の直前又はベースラインでオピオイド鎮痛薬を服用していなかった対象及びデータが利用可能な対象)について遅延した。EC-18 2,000mg群ではプラセボ群と比較して平均値の6.3日間が遅延した(EC-18群で32.3日間対プラセボで26日間)。EC-18 2,000mg群ではプラセボ群と比較して中央値の11.5日間が遅延した(EC-18群で37日間対プラセボで25.5日間)。
図6Bでは、各期間(6.3日間又は11.5日間)において、プラセボを左側に示し(6.3日間で26及び11.5日間で25.5)、EC-18 2000mgを右側に示す(6.3日間で32.3及び11.5日間で37)。
【0073】
図7は、シスプラチンレジメン及びHPV状態に基づく共分散解析を示す。対象におけるSOMの発症率について観察された結果は、EC-18 2000mg群において、週1回のシスプラチン(37.5%対70.0%)及び3週毎に1回のシスプラチン(66.7%及び70.0%)のそれぞれに関し、プラセボ群と比較して少なかった。HPV+を有する対象におけるSOMの発症率について観察された結果は、EC-18 2000mg群ではプラセボ群と比較して少なかった(35.3%対66.7%)。一方、EC-18 2000mg群のHPV-である対象では、プラセボ群と比較して差は観察されなかった(75%対71.4%)。
【0074】
安全性の結果(例えば、重篤な有害事象(SAE))は、試験群全体でSAEの顕著な差が観察されなかったことを示す。更に、全ての報告されたSAEは、化学放射線治療に起因し、EC-18に起因しなかった。ステージ1は、合計24名の患者からの合計17のSAEを有し、ステージ2は、合計81名の患者からの合計31のSAEを有していた。020-018患者は、治験薬と関連しないと試験者によって判断された。化学的治療の通常の症状である悪心及び嘔吐のために多くのSAEが発症した。
【0075】
実施例2:CRIOMフェーズ2での患者血漿試料由来のサイトカインプロファイル
アッセイ情報:Luminexアッセイ
(下記の表1)に記載の患者の血液から採取した血漿試料を解凍し、10,000rpm、4℃で2分間遠心分離し、上清を分析に用いた。上清を連続希釈し、50ulの試料を96ウェルプレートの各ウェルに分注した。表2に示す50ulの希釈微小粒子カクテル(R&Dシステム)を、試料を含む各ウェルに添加し、800rpmのシェーカー上、室温で2時間インキュベートした。試料混合物を除去し、100ulの洗浄緩衝液で3回洗浄した。次いで、50μLの希釈Biotin-Antibody Cocktail(R&D systems)を各ウェルに入れ、800rpmのシェーカー上で室温で1時間インキュベートし、引き続いて洗浄緩衝液で3回洗浄した。50μLの希釈Biotin-Antibody Cocktail(R&D systems)を各ウェルに添加し、800rpmのシェーカーでRTで30分間インキュベートした。洗浄緩衝液で3回洗浄した後、100ulの洗浄緩衝液を各ウェルに添加し、Luminex分析装置(Luminex)を使用して90分以内に試料の蛍光強度を得た。
【0076】
標準、対照及び試料を、二重試験によって得られた結果の平均値を用いて定量的に分析した。
【0077】
各試料の平均蛍光強度(MFI)の絶対値を、それを標準曲線と比較することによって得た。標準未満として導出された値は、アッセイキットの検出範囲外の微量値であるので、0としてマークした。
【0078】
「MasterPlex QT 2010(MiraiBio、日立、カリフォルニア州、米国)」のベストフィット法により標準曲線を求め、各算出方法(最高値=1.0)の中で最もR2乗値が大きい標準濃度毎の応答測定値(MFI)を算出した。この標準曲線に基づいて試料の濃度値を算出した。
【表1】
【表2】
【0079】
EC-18群とプラセボ群との全TGFβレベルの比較。
EC-18処置群におけるTGF-β濃度は、化学放射線療法処置の7週目においてプラセボ群よりも有意に高かった。
図8に示されるように、EC-18処置群におけるTGF-β濃度は、化学放射線療法処置の7週目においてプラセボ群よりも有意に高かった。
図8では、左側のグラフにおいて、EC-18処置群(実薬)が各期間において右側に示され、プラセボが各期間の左側に示されている。
【0080】
SOMを伴う又は伴わないEC-18群とプラセボ群とのTGFβの比較
EC-18処置群におけるTGF-β濃度は、SOMの発症率にかかわらずプラセボ群と比較して高かった。
図9A~9Bに示されるように、EC-18処置群におけるTGF-β濃度は、SOMの発症率にかかわらずプラセボ群と比較して高かった。
図9A及び9Bでは、左側のグラフにおいて、EC-18処置群(実薬)が各期間の右側に示され、プラセボが各期間の左側に示されている。
【0081】
HPV+/HPV-を伴うEC-18群とプラセボ群のTGFβレベルの比較
HPV陽性集団において、EC-18群でのTGF-β濃度はプラセボと比較して有意に高かった。HPV陰性患者は、TGFβの差の統計学的有意性を結論付けるには小さすぎたが、EC-18群のTGFβレベルはプラセボと同様であった。
図10A~10Bに示されるように、HPV陽性の集団において、EC-18群でのTGF-β濃度はプラセボと比較して有意に高かった。
図10A及び10Bでは、左側のグラフにおいて、EC-18処置群(実薬)が各期間において右側に示され、プラセボが各期間の左側に示されている。
【0082】
週1回のシスプラチン又は3週毎に1回のシスプラチンで処置したEC-18群とプラセボ群とのTGFβレベルの比較
シスプラチンで週1回処置した亜集団では、EC-18群でのTGF-β濃度はプラセボと比較して有意に高かった。しかしながら、TGFβ濃度は、3週毎に1回シスプラチンで処置したEC-18群とプラセボ群とでは有意な差はなかった。
図11A~11Bに示すように、週に1回シスプラチンで処置した亜集団では、EC-18群でのTGF-β濃度はプラセボと比較して有意に高かったが、3週毎に1回のシスプラチンを用いたEC-18群ではそうではなかった。
図11A及び11Bでは、左側のグラフにおいて、EC-18処置群(実薬)が各期間において右側に示され、プラセボが各期間の左側に示されている。
【0083】
EC-18群とプラセボ群の全IL-1βレベルの比較
EC-18処置群におけるIL-1β濃度は、7週間の処置期間を通してプラセボ群よりも有意に低かった。IL-1βの濃度は、処置の4週目及び7週目で検出限界未満であっても減少した。
図12に示すように、EC-18処置群におけるIL-1β濃度は、7週間の処置期間を通してプラセボ群よりも有意に低かった。
図12では、左側のグラフにおいて、EC-18処置群(実薬)を各期間の右側に示し、プラセボを各期間の左側に示す。
【0084】
SOMを伴う又は伴わないEC-18群とプラセボ群とのIL-1βの比較
EC-18処置群におけるIL-1β濃度は、SOMの発症率にかかわらずプラセボ群と比較して有意に低かった。
図13A~13Bに示すように、EC-18処置群におけるIL-1β濃度は、SOMの発症率にかかわらずプラセボ群と比較して有意に低かった。
図13A及び13Bでは、左側のグラフにおいて、EC-18処置群(実薬)が各期間の右側に示され、プラセボが各期間の左側に示されている。
【0085】
HPV+/HPV-を伴うEC-18群とプラセボ群とのIL-1βレベルの比較
EC-18処置群におけるIL-1β濃度は、HPV感染状態にかかわらずプラセボ群と比較して有意に低かった。
図14A~14Bに示すように、EC-18処置群におけるIL-1β濃度は、HPV感染状態にかかわらずプラセボ群と比較して有意に低かった。
図14A及び14Bでは、左側のグラフにおいて、EC-18処置群(実薬)が各期間の右側に示され、プラセボが各期間の左側に示されている。
【0086】
4.週1回のシスプラチン又は3週毎に1回のシスプラチンで処置したEC-18群とプラセボ群とのIL-1βレベルの比較
EC-18処置群におけるIL-1β濃度は、週1回又は3週毎に1回のシスプラチン処置にかかわらず、プラセボ群より有意に低かった。
図15A~15Bに示されるように、EC-18処置群におけるIL-1β濃度は、週1回又は3週毎に1回のシスプラチン処置にかかわらず、プラセボ群よりも有意に低かった。
図15A及び15Bでは、左側のグラフにおいて、EC-18処置群(実薬)を各期間の右側に示し、プラセボを各期間の左側に示す。
【0087】
本明細書で言及される全ての文書は、参照により本明細書に組み込まれる。
【国際調査報告】