(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-16
(54)【発明の名称】クラッド板材加工性に優れたフェライト系ステンレス鋼材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20241008BHJP
C22C 38/28 20060101ALI20241008BHJP
C21D 9/48 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/28
C21D9/48 R
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024523511
(86)(22)【出願日】2022-10-19
(85)【翻訳文提出日】2024-04-18
(86)【国際出願番号】 KR2022015951
(87)【国際公開番号】W WO2023075283
(87)【国際公開日】2023-05-04
(31)【優先権主張番号】10-2021-0143016
(32)【優先日】2021-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パク, ジオン
(72)【発明者】
【氏名】パク, ミナム
【テーマコード(参考)】
4K037
【Fターム(参考)】
4K037EA04
4K037EA05
4K037EA12
4K037EA15
4K037EA18
4K037EA19
4K037EA23
4K037EA27
4K037EA31
4K037EB02
4K037EB03
4K037EB06
4K037EB08
4K037EB09
4K037EB15
4K037FC03
4K037FC04
4K037FC05
4K037FF03
4K037FG00
4K037FJ05
4K037FJ06
(57)【要約】
【課題】フェライト系ステンレス鋼材の成分の最適化を通して材質及びクラッド板材加工性を改善する。
【解決手段】本発明のクラッド板材加工性に優れたフェライト系ステンレス鋼材は、重量%で、C:0.0005~0.02%、N:0.005~0.02%、Si:0.01~1.0%、Mn:0.01~1.0%、P:0.001~0.05%、Cr:10.0~25.0%、Nb:0.01~0.5%、Ti:0.01~0.5%を含み、残部がFe及び不可避不純物からなり、方向別R値の平均R-bar値が1.5以上であり、クラッド板材加工後の屈曲高さが25μm以下であることを特徴とする。また、本発明のクラッド板材加工性に優れたフェライト系ステンレス鋼材の製造方法は、重量%で、C:0.0005~0.02%、N:0.005~0.02%、Si:0.01~1.0%、Mn:0.01~1.0%、P:0.001~0.05%、Cr:10.0~25.0%、Nb:0.01~0.5%、Ti:0.01~0.5%を含み、残部がFe及び不可避不純物からなるスラブを連続鋳造工程で製造する段階、製造されたスラブを800~1250℃の区間で熱間圧延する段階、900~1050℃の温度範囲で熱延焼鈍を行った後、70%以上の圧下率で冷延を行う段階、及び800~950℃の温度範囲で1時間未満で最終冷延焼鈍を行う段階を含むことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.0005~0.02%、N:0.005~0.02%、Si:0.01~1.0%、Mn:0.01~1.0%、P:0.001~0.05%、Cr:10.0~25.0%、Nb:0.01~0.5%、Ti:0.01~0.5%を含み、残部がFe及び不可避不純物からなり、方向別R値の平均R-bar値が1.5以上であり(ここで、平均R-bar値は、(R
0+2R
45+R
90)/4を意味する)、クラッド板材加工後の屈曲高さが25μm以下であることを特徴とするクラッド板材加工性に優れたフェライト系ステンレス鋼材。
【請求項2】
前記クラッド板材加工後、Alと硬度差が50~150Hvであることを特徴とする請求項1に記載のクラッド板材加工性に優れたフェライト系ステンレス鋼材。
【請求項3】
重量%で、C:0.0005~0.02%、N:0.005~0.02%、Si:0.01~1.0%、Mn:0.01~1.0%、P:0.001~0.05%、Cr:10.0~25.0%、Nb:0.01~0.5%、Ti:0.01~0.5%を含み、残部がFe及び不可避不純物からなるスラブを連続鋳造工程で製造する段階、
製造されたスラブを800~1250℃の区間で熱間圧延する段階、
900~1050℃の温度範囲で熱延焼鈍を行った後、70%以上の圧下率で冷延を行う段階及び
800~950℃の温度範囲で1時間未満最終冷延焼鈍を行う段階を含むことを特徴とするクラッド板材加工性に優れたフェライト系ステンレス鋼材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッド板材加工性に優れたフェライト系ステンレス鋼材及びその製造方法に係り、より詳しくは、鋼の合金成分の制御により材質及び加工性を改善するクラッド板材加工性に優れたフェライト系ステンレス鋼材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フェライト系ステンレス鋼材は、オーステナイト系ステンレス鋼に比べて低コストと美麗な表面品質によって洗濯機、冷蔵庫などの家電製品及び鍋、炊飯器などのキッチン用品に多く適用されている。特に、鍋、炊飯器などは、従来Alの有害性、高級な表面とインダクションヒーターなどの高機能の要求によってフェライト系ステンレス鋼材が多く適用されている。しかしながら、フェライト系ステンレス鋼材だけを使用する場合、従来Alに比べて重さが重く、熱伝導率が低いので、食品の調理に不利な点が多い。したがって、このような点を改善するために、ステンレス鋼とAlあるいはCuとクラッドして鍋や炊飯器を制作する場合が増加している。
クラッド板材の加工時には、物性が異なる素材によって加工クラック及び屈曲が発生する問題がある。したがって、クラッド板材加工性に優れたフェライト系ステンレス鋼材の開発が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、前述のような問題点を解決するためのものであって、フェライト系ステンレス鋼材の成分の最適化を通して材質及びクラッド板材加工性を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明のフェライト系ステンレス鋼材は、重量%でC:0.0005~0.02%、N:0.005~0.02%、Si:0.01~1.0%、Mn:0.01~1.0%、P:0.001~0.05%、Cr:10.0~25.0%、Nb:0.01~0.5%、Ti:0.01~0.5%を含み、残部がFe及び不可避不純物からなり、方向別R値の平均R-bar値が1.5以上(ここで、平均R-bar値は、(R0+2R45+R90)/4を意味する)であり、クラッド板材加工後の屈曲高さが25μm以下であることを特徴とする。
【0005】
本発明のフェライト系ステンレス鋼材の製造方法は、重量%で、C:0.0005~0.02%、N:0.005~0.02%、Si:0.01~1.0%、Mn:0.01~1.0%、P:0.001~0.05%、Cr:10.0~25.0%、Nb:0.01~0.5%、Ti:0.01~0.5%を含み、残部がFe及び不可避不純物からなるスラブを連続鋳造工程で製造する段階、製造されたスラブを800~1250℃の区間で熱間圧延する段階、900~1050℃の温度範囲で熱延焼鈍を行った後、70%以上の圧下率で冷延を行う段階及び800~950℃の温度範囲で1時間未満で最終冷延焼鈍を行う段階を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、クラッド板材加工性に優れたフェライト系ステンレス鋼材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】クラッド板材の鍋成形後の屈曲の発生及び断面組織の写真である。
【
図2】フェライト系ステンレスとAlの硬度差による屈曲高さを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のフェライト系ステンレス鋼材は、重量%でC:0.0005~0.02%、N:0.005~0.02%、Si:0.01~1.0%、Mn:0.01~1.0%、P:0.001~0.05%、Cr:10.0~25.0%、Nb:0.01~0.5%、Ti:0.01~0.5%を含み、残部がFe及び不可避不純物からなり、方向別R値の平均R-bar値が1.5以上(ここで、平均R-bar値は、(R0+2R45+R90)/4を意味する)であり、クラッド板材加工後の屈曲高さが25μm以下であることを特徴とする。
【0009】
以下、特段の定めがない限り、単位は、重量%である。また、任意の部分が或る構成要素を「含む」というとき、これは、特に反対になる記載がない限り、他の構成要素を除くものではなく、他の構成要素をさらに含んでもよいことを意味する。
以下、各合金元素の成分範囲を限定した理由を説明する。
【0010】
炭素(C):0.0005~0.02%
炭素(C)の量は、0.0005%以上、0.02%以下である。炭素(C)の量が0.0005%未満であれば、高純度の製品を製作するための精錬費が高くなり、0.02%を超えると、素材の不純物が増加し、伸び率と耐食性が低下する問題がある。
【0011】
窒素(N):0.005~0.02%
窒素(N)の量は、0.005%以上0.02%以下である。窒素(N)の量が0.005%未満であれば、TiN晶出が低くなり、スラブの等軸晶率が低くなり、0.02%を超えると、素材の不純物が増加し、伸び率と耐食性が低下する問題がある。
【0012】
シリコン(Si):0.01~1.0%
シリコン(Si)の量は、0.01%以上1.0%以下である。シリコン(Si)の量が0.01%未満であれば、高純度製品を作るための精錬費が高くなり、1.0%を超えると、素材の硬度が過度に増加して加工性が下落し、屈曲が発生する問題がある。
【0013】
クロム(Cr):10.0~25.0%
クロム(Cr)の量は、10.0%以上25.0%以下である。クロム(Cr)の量が10.0%未満であれば、耐食性と強度が低下する問題があり、25.0%を超えると、コストアップの負担が大きくなる問題がある。
【0014】
マンガン(Mn):0.01~1.0%
マンガン(Mn)の量は、0.01%以上1.0%以下である。マンガン(Mn)の量が0.01%未満であれば、精錬費が増加する問題があり、1.0%を超えると、素材の不純物が増加し、伸び率が低くなる。
【0015】
リン(P):0.001~0.05%
リン(P)の量は、0.001%以上0.05%以下である。リン(P)は、フェライト系ステンレス鋼材中に不可避に含有される不純物であり、酸洗時に粒界腐食を起こしたり熱間加工性を阻害する主要原因となる元素であるから、当該含有量をできるだけ低く制御することが好ましい。しかしながら、0.001%未満に制御する場合、精錬費が増加し、0.05%を超えると、不純物の増加によって伸び率及び加工硬化指数が低くなる。
【0016】
ニオブ(Nb):0.01~0.5%
ニオブ(Nb)の量は、0.01%以上0.5%以下である。ニオブ(Nb)の量が0.01%未満であれば、下記比較例1~4のように、結晶粒が非常に大きくなり、R値が下落する問題があり、0.5%を超えると、加工性が低下し、多くの費用がかかる問題がある。
【0017】
チタン(Ti):0.01~0.5%
チタン(Ti)の量は、0.01%以上0.5%以下である。チタン(Ti)の量が0.01%未満であれば、下記比較例1~4のように、結晶粒が非常に大きくなり、R値が下落する問題があり、0.5%を超えると、Ti系介在物による欠陥が増加する問題がある。
【0018】
(特性)
方向別R値の平均値は、R-bar=(R0+2R45+R90)/4)値で計算され、1.5以上であることが好ましい。R-bar値が1.5未満であれば、クラッド板材の加工クラックが多発し、クラッド板材成形後の屈曲高さが高くなる。
また、本発明は、Alと接合後、2つの素材の断面硬度差が50~150Hvでありうる。硬度差が50Hv未満であれば、クラッド板材加工クラックが多発する問題があり、硬度差が150Hvを超えると、R-bar値が1.5以上であっても、クラッド板材加工時にAlの不均一な変形に起因してフェライト系ステンレス鋼材に局部的なネッキングを周期的に発生させて、表面に屈曲を形成する。
【0019】
[ステンレス鋼材の製造方法]
本発明のステンレス鋼材の製造方法は、重量%で、C:0.0005~0.02%、N:0.005~0.02%、Si:0.01~1.0%、Mn:0.01~1.0%、P:0.001~0.05%、Cr:10.0~25.0%、Nb:0.01~0.5%、Ti:0.01~0.5%を含み、残部がFe及び不可避不純物からなるスラブを連続鋳造工程で製造する段階、
製造されたスラブを800~1250℃の区間で熱間圧延する段階、
900~1050℃の温度範囲で熱延焼鈍を行った後、70%以上の圧下率で冷延を行う段階及び
800~950℃の温度範囲で最終冷延焼鈍を1時間未満で実施する段階を含む。
【0020】
以下、本発明を実施例に基づいてより具体的に説明する。
下記実施例は、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者に本発明の思想を十分に伝達するために提示するものであり、本発明は、ここで提示した実施例にのみ限定されず、他の形態で具体化されることもできる。
(実施例)
下記表1の成分の鋼を連続鋳造を通じてスラブに製造した後、800~1250℃の区間で熱間圧延した後、熱延焼鈍を900~1050℃の温度範囲で行い、その後、70%以上の圧下率で冷延を行った後、800~950℃の温度範囲で1時間未満で最終冷延焼鈍を行い、下記表2の実施例1~3及び比較例1~7のステンレス鋼を製造して、R-bar、硬度差及び屈曲高さを測定し、下記表2に示した。
R-bar値は、圧延方向に対して0°、45°、90°方向の引張試験片を加工して、15%引張試験後のR値(Lankford value)を測定した。方向別に測定したR値から測定する平均値(R-bar値=(R0+2R45+R90)/4)を計算した。
硬度差は、Alと接合後、2つの素材の断面のビッカース硬度の差を求め、ビッカース硬度の測定は、Mitutoyo社製HV-114ビッカース硬度計を用いた。
屈曲高さに対しては、Mitutoyo社製表面粗さ計を用いてλc=8、n=2の条件で屈曲高さを測定した。
【0021】
【0022】
【0023】
実施例1~3は、本発明の合金組成の範囲、製造条件を満たすことによって、R-bar値を1.5以上確保し、硬度差を50~150Hvに制御して、屈曲の発生を25μm以下にする加工性に優れたクラッド板材を製造することができた。
他方で、比較例1~4は、R-bar値が1.5未満になり、クラッド板材の加工クラックが多発し、クラッド板材成形後の屈曲高さが25μm以上に高くなることを確認することができた。
また、硬度差が150Hvを超える比較例5~7は、R-bar値が1.5以上であっても、クラッド板材加工時にAlの不均一な変形に起因してフェライト系ステンレス鋼材に局部的なネッキングを周期的に発生させて、表面に屈曲を形成することを確認することができた(
図1)。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明によれば、加工クラック発生及び屈曲を低減することができるクラッド板材加工性に優れたフェライト系ステンレス鋼材を製造でき、産業上の利用可能性が認められる。
【国際調査報告】