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特表2024-537917組織特異的プロモーター及びその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-16
(54)【発明の名称】組織特異的プロモーター及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/85 20060101AFI20241008BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20241008BHJP
   C12N 15/86 20060101ALI20241008BHJP
   C12N 15/867 20060101ALI20241008BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20241008BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20241008BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20241008BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20241008BHJP
   C12N 5/0789 20100101ALI20241008BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20241008BHJP
   A61P 7/04 20060101ALI20241008BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20241008BHJP
   A61K 38/37 20060101ALN20241008BHJP
【FI】
C12N15/85
C12N15/63 Z ZNA
C12N15/86 Z
C12N15/867 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N5/0789
A61K48/00
A61P7/04
A61K35/76
A61K38/37
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024525316
(86)(22)【出願日】2022-10-20
(85)【翻訳文提出日】2024-06-24
(86)【国際出願番号】 CN2022126404
(87)【国際公開番号】W WO2023071905
(87)【国際公開日】2023-05-04
(31)【優先権主張番号】202111261085.5
(32)【優先日】2021-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520319705
【氏名又は名称】ベイジン・メイカン・ジーノ-イミューン・バイオテクノロジー・カンパニー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】BEIJING MEIKANG GENO-IMMUNE BIOTECHNOLOGY CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Room B104, 1st Floor, No. 5,Kaituo Road, Haidian District, Beijing 100085, China
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ルン-ジー
(72)【発明者】
【氏名】ゴン,ジエ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA13
4C084BA44
4C084DC15
4C084NA14
4C084ZA531
4C084ZA532
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087NA14
4C087ZA53
(57)【要約】
組織特異的プロモーター及びその使用が提供される。組織特異的プロモーターは、配列番号1、配列番号2、配列番号3又は配列番号4に示される配列の80%超を含む核酸配列を有する。組織特異的プロモーターは、内皮細胞(EC)又は巨核球-血小板細胞におけるコード遺伝子の特異的発現を促進することができ、遺伝子がEC又は巨核球-血小板細胞において特異的に発現されることが要求される遺伝子治療に適用することができ、治療効果を確保し、免疫拒絶のリスクを低減し、治療コストを節約する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1、配列番号2、配列番号3又は配列番号4に示される配列の80%超を含む核酸配列を有する、組織特異的プロモーター。
【請求項2】
請求項1に記載の組織特異的プロモーター及びコード遺伝子を含む、遺伝子発現カセットであって、
好ましくは、前記コード遺伝子が、組換え凝固因子第VIII因子のコード遺伝子を含む、前記遺伝子発現カセット。
【請求項3】
前記組換え凝固因子第VIII因子のコード遺伝子が、配列番号5に示される配列を含む核酸配列を有する、請求項2に記載の遺伝子発現カセット。
【請求項4】
請求項1に記載の組織特異的プロモーターを含む、組換え発現ベクターであって、
好ましくは、前記組換え発現ベクターが、請求項1に記載の組織特異的プロモーターを含有するウイルスベクター又はプラスミドベクターを含み、
好ましくは、前記ウイルスベクターが、レンチウイルスベクターpEGWIを含み、
好ましくは、前記組換え発現ベクターが、コード遺伝子をさらに含み、
好ましくは、前記コード遺伝子が、組換え凝固因子第VIII因子のコード遺伝子を含む、前記組換え発現ベクター。
【請求項5】
請求項4に記載の組換え発現ベクターを含有する組換えレンチウイルス。
【請求項6】
請求項1に記載の組織特異的プロモーターを含有する組換え細胞。
【請求項7】
請求項2に記載の遺伝子発現カセットが、組換え細胞のゲノムに組み込まれ、
好ましくは、前記組換え細胞が、請求項4に記載の組換え発現ベクターを含有する、請求項6に記載の組換え細胞。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の組換え細胞を調製する方法であって、
請求項1に記載の組織特異的プロモーター、請求項2に記載の遺伝子発現カセット、請求項4に記載の組換え発現ベクター又は請求項5に記載の組換えレンチウイルスを宿主細胞に導入し、前記組換え細胞を得ることを含み、
好ましくは、前記導入が、電気的導入、ウイルスベクター系、非ウイルスベクター系又は直接遺伝子注入のいずれか1つを含む方法によって行われ、
好ましくは、前記宿主細胞が、造血幹細胞を含む、前記方法。
【請求項9】
請求項1に記載の組織特異的プロモーター、請求項2に記載の遺伝子発現カセット、請求項4に記載の組換え発現ベクター、請求項5に記載の組換えレンチウイルス又は請求項6若しくは7に記載の組換え細胞のいずれか1つ又は少なくとも2つの組合せを含む、医薬組成物であって、
好ましくは、薬学的に許容される担体、賦形剤又は希釈剤のいずれか1つ又は少なくとも2つの組合せをさらに含む、前記医薬組成物。
【請求項10】
組織特異的遺伝子治療のための薬剤の調製における、請求項1に記載の組織特異的プロモーター、請求項2に記載の遺伝子発現カセット、請求項4に記載の組換え発現ベクター、請求項5に記載の組換えレンチウイルス、請求項6若しくは7に記載の組換え細胞又は請求項9に記載の医薬組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願はバイオテクノロジーの分野に属し、組織特異的プロモーター及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子治療とは、欠陥遺伝子又は異常遺伝子に起因する疾患を治療する目的で、欠陥遺伝子又は異常遺伝子を修正又は補うために、外来遺伝子を標的細胞に導入することを指す。しかしながら、非特異的発現が起こることが多く、すなわち、外来遺伝子が人体内で広く発現し、人体内で免疫拒絶を引き起こし、これは、臨床において解決困難な問題の1つである。
【0003】
例えば、血友病A(HA)は、遺伝性抗血友病グロブリン欠損症又はFVIII(F8)欠損症としても知られ、凝固因子第VIII因子遺伝子(FVIII遺伝子又はF8遺伝子)の遺伝的欠損によって引き起こされる血液凝固異常である。現在のHAの治療には、主に血漿由来の凝固因子又は外因的に産生された組換えタンパク質によるタンパク質補充療法、及び遺伝子治療などの方法がある。ヒトF8遺伝子の解析から、A1-A2-B-A3-C1-C2で表されるタンパク質のドメイン構造が明らかになった。Bドメインは、アスパラギン(N)結合オリゴ糖からなる高度に保存された領域を有する大きなエクソンによってコードされている。Miaoらは、6つの完全なアスパラギン結合グリコシル化部位を含有するN末端の226個のアミノ酸を残して、Bドメインを部分的に欠失させると、インビトロでのF8分泌を10倍増加させることができることを示した(Miao,H.Z.、Sirachainan,N.、Palmer,L.、Kucab,P.、Cunningham,M.A.ら、Bioengineering of coagulation factor VIII for improved secretion.Blood、2004年、103(9)、3412-3419頁を参照されたい)。しかしながら、現在、Bドメイン欠失F8遺伝子(F8-BDD)を使用した遺伝子治療法には、タンパク質の分泌及び機能が低い、F8ウイルスベクターの導入効率が低い、阻害反応(免疫拒絶)に伴う抗体形成などの問題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Miao,H.Z.、Sirachainan,N.、Palmer,L.、Kucab,P.、Cunningham,M.A.ら、Bioengineering of coagulation factor VIII for improved secretion.Blood、2004年、103(9)、3412-3419頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、免疫拒絶を回避するために、治療用遺伝子の組織特異的なインビボ発現をどのようにして達成するかは、遺伝子治療の分野において解決すべき緊急の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(要旨)
既存技術の欠陥及び実際の要求を考慮して、本出願は、組織特異的プロモーター及びその使用を提供する。組織特異的プロモーターは、内皮細胞(EC)、巨核球又は血小板におけるコード遺伝子の特異的発現を促進し、無関係な組織細胞における異所的発現を低減することができる。組織特異的プロモーターは、遺伝子をECで特異的に発現させる必要がある遺伝子治療に適用することができ、抗体応答及び阻害剤反応を効果的に低減することができる。
【0007】
上記の目的を達成するために、本出願は、以下の技術的解決策を使用する。
【0008】
第1の態様において、本出願は、配列番号1、配列番号2、配列番号3又は配列番号4に示される配列の80%超を含む核酸配列を有する組織特異的プロモーターを提供する。
【0009】
【化1】
【0010】
本出願は、組織特異的プロモーターを創造的に設計しており、これには、ECにおいて遺伝子の特異的発現を促進するプロモーターVEC(配列番号1又は配列番号1と少なくとも80%の相同性を有する)及びKDR(配列番号2又は配列番号2と少なくとも80%の相同性を有する)、並びに巨核球-血小板細胞において遺伝子の特異的発現を促進するプロモーターITGA(配列番号3又は配列番号3と少なくとも80%の相同性を有する)及びGp(配列番号4又は配列番号4と少なくとも80%の相同性を有する)が含まれる。本出願の組織特異的プロモーターを用いることによって、EC又は巨核球-血小板細胞においてコード遺伝子を特異的に発現させることができる。したがって、本出願の組織特異的プロモーターは、標的コード遺伝子をEC又は巨核球-血小板細胞で特異的に発現させる必要がある遺伝子治療に効果的に適用することができ、HAの遺伝子治療などの免疫拒絶のリスクを低減し、治療コストを節約する。
【0011】
好ましくは、組織特異的プロモーターは、配列番号1、配列番号2、配列番号3又は配列番号4に示される核酸配列を有する。
【0012】
第2の態様において、本出願は、遺伝子発現カセットを提供する。遺伝子発現カセットは、第1の態様に記載の組織特異的プロモーター及びコード遺伝子を含む。
【0013】
好ましくは、コード遺伝子は、組換え凝固因子第VIII因子のコード遺伝子を含む。
【0014】
好ましくは、組換え凝固因子第VIII因子のコード遺伝子は、配列番号5に示される核酸配列を含む。
【0015】
【化2】
【0016】
本出願の具体例において、本出願の組織特異的プロモーターは、組換え凝固因子第VIII因子のコード遺伝子の発現を開始するために使用される。FVIII遺伝子をEC(肝類洞ECなど)又は巨核球において発現させることにより、インビボでのFVIIIタンパク質の異所的発現を低減し、又は抗体応答及び阻害剤反応を低減し、HAの遺伝子治療を効果的に行う。
【0017】
第3の態様において、本出願は、組換え発現ベクターを提供する。組換え発現ベクターは、第1の態様に記載の組織特異的プロモーターを含む。
【0018】
好ましくは、組換え発現ベクターは、第1の態様に記載の組織特異的プロモーターを含有するウイルスベクター又はプラスミドベクターを含む。
【0019】
好ましくは、ウイルスベクターは、レンチウイルスベクターpEGWIを含む。
【0020】
好ましくは、組換え発現ベクターは、コード遺伝子をさらに含む。
【0021】
好ましくは、コード遺伝子は、組換え凝固因子第VIII因子のコード遺伝子を含む。
【0022】
好ましくは、レンチウイルスベクターpEGWIの5’スプライス供与部位は変異している。
【0023】
好ましくは、レンチウイルスベクターpEGWIのU3領域におけるエンハンサーは欠失している。
【0024】
好ましくは、レンチウイルスベクターpEGWIのU3領域は、インスレーターを含有する。
【0025】
本出願において、レンチウイルスベクターpEGWIは、改変されている。野生型5’スプライス供与部位は変異しており、U3領域のエンハンサーは欠失しており、U3領域にインスレーター(cHS4インスレーター)を付加することにより、pEGWIの導入効率及び発現効率を効果的に向上させ、ベクターの使用コストを低減させるだけでなく、安全性も向上させることができる。
【0026】
本出願の具体例において、組織特異的プロモーター及び組換え凝固因子第VIII因子のコード遺伝子をレンチウイルスベクターpEGWIに共挿入する。次いで、レンチウイルスベクターは直接静脈注射によって体内に導入され、凝固因子第VIII因子の遺伝子が効率的に送達され、特異的に発現されるようにすることで、治療効果を効果的に確保し、免疫拒絶のリスクを低減し、治療コストを節約し、高効率のHA遺伝子治療を実現する。
【0027】
第4の態様において、本出願は、組換えレンチウイルスを提供する。組換えレンチウイルスは、第3の態様に記載の組換え発現ベクターを含有する。
【0028】
第5の態様において、本出願は、組換え細胞を提供する。組換え細胞は、第1の態様に記載の組織特異的プロモーターを含有する。
【0029】
好ましくは、第2の態様に記載の遺伝子発現カセットは、組換え細胞のゲノムに組み込まれる。
【0030】
好ましくは、組換え細胞は、第3の態様に記載の組換え発現ベクターを含有する。
【0031】
第6の態様において、本出願は、第5の態様に記載の組換え細胞を調製する方法を提供する。本方法は、以下のステップ:
第1の態様に記載の組織特異的プロモーター、第2の態様に記載の遺伝子発現カセット、第3の態様に記載の組換え発現ベクター、又は第4の態様に記載の組換えレンチウイルスを宿主細胞に導入し、組換え細胞を得ることを含む。
【0032】
好ましくは、導入は、電気的導入、ウイルスベクター系、非ウイルスベクター系又は直接遺伝子注入のいずれか1つを含む方法によって行われる。
【0033】
好ましくは、宿主細胞は、造血幹細胞を含む。
【0034】
第7の態様において、本出願は、医薬組成物を提供する。医薬組成物は、第1の態様に記載の組織特異的プロモーター、第2の態様に記載の遺伝子発現カセット、第3の態様に記載の組換え発現ベクター、第4の態様に記載の組換えレンチウイルス又は第5の態様に記載の組換え細胞のいずれか1つ又は少なくとも2つの組合せを含む。
【0035】
好ましくは、医薬組成物は、薬学的に許容される担体、賦形剤又は希釈剤のいずれか1つ又は少なくとも2つの組合せをさらに含む。
【0036】
第8の態様において、本出願は、組織特異的遺伝子治療のための薬剤の調製における、第1の態様に記載の組織特異的プロモーター、第2の態様に記載の遺伝子発現カセット、第3の態様に記載の組換え発現ベクター、第4の態様に記載の組換えレンチウイルス、第5の態様に記載の組換え細胞又は第7の態様に記載の医薬組成物の使用を提供する。
【発明の効果】
【0037】
既存技術と比較して、本出願は、以下の有益な効果を有する:
(1)本出願の組織特異的プロモーターは、EC又は巨核球-血小板細胞におけるコード遺伝子の特異的発現を促進することができ、遺伝子がEC又は巨核球-血小板細胞において特異的に発現されることが要求される遺伝子治療に適用することができ、治療効果を確保し、免疫拒絶のリスクを低減し、治療コストを節約する。
【0038】
(2)本出願において、組織特異的プロモーター、凝固因子第VIII因子のコード遺伝子及びレンチウイルスベクターを使用して発現ベクターを構築する。発現ベクターは、HAマウスにおいて正常に発現させることができ、HAマウスの出血表現型をある程度修正することができ、低い抗体応答を有し、このことは、遺伝子治療の有効性を確保する上で非常に重要であり、HAの症状をより早く緩和し、より包括的で耐久性のある遺伝子治療を達成するための基礎を築くものである。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】レンチウイルスベクターpEGWIの構造図である。
図2】レンチウイルスベクター中の異なる組織特異的プロモーター及びF8-BDD遺伝子の構造図である。
図3】EC及び巨核球における組換えレンチウイルスのベクターコピー数(VCN)を示す図である。
図4】組換えレンチウイルスLV-wasabiを形質導入した細胞において発現した蛍光の量を分析した結果を示す図である。
図5】組換えレンチウイルスLV-F8-BDDを形質導入した細胞において発現したタンパク質の量の結果を示す図である。
図6】インビトロ血漿基質発光法の検出結果を示す図である。
図7】HAマウスの治療方法を示す図である。
図8】マウスの血液細胞における陽性凝固因子第VIII因子の検出結果を示す図である。
図9】マウスにおける凝固因子第VIII因子の活性を示す図である。
図10】マウスの血漿における酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)の検出結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本出願において採用された技術的手段及び達成された効果をさらに詳しく説明するために、本出願を実施例及び図面と共に以下にさらに説明する。以下に示す具体例は、本出願を説明するためのものであり、本出願を限定するものではないことを理解されたい。
【実施例
【0041】
実施例に特定の技術又は条件が記載されていない実験は、当該技術分野の文献又は製品仕様書に記載されている技術又は条件に従って実施される。製造元が明記されていない本明細書で使用される試薬又は器具は、正規のルートから市販されている従来品である。
【0042】
本出願の実施例においてHAが例として使用されるが、本出願の組織特異的プロモーターは遺伝子治療に効果的に適用することができ、凝固因子に対する抗体応答及び阻害剤反応を効果的に低減することができることが証明された。
【0043】
[実施例1]
本出願の特異的プロモーター及びF8遺伝子を保有するレンチウイルスベクターが構築された。具体的には、本実施例は以下のステップを含む。
【0044】
(1)レンチウイルスベクターpEGWIの構造図は図1に示される。野生型5’スプライス供与部位を変異させ、U3におけるエンハンサーを欠失させ、インスレーター(cHS4インスレーター)をU3に追加した。具体的な改変方法については、「Contributions of Viral Splice Sites and cis-Regulatory Elements to Lentivirus Vector Function、Cuiら、Journal of Virology、1999年7月、6171~6176頁」を参照されたい。
【0045】
(2)異なる組織特異的プロモーター及びF8-BDD遺伝子の挿入
Wasabi遺伝子配列(蛍光タンパク質を発現)、B-ドメイン欠失F8遺伝子(F8-BDD)配列(配列番号5)、並びに組織特異的プロモーターEF1α(配列番号6)、VEC(配列番号1)、KDR(配列番号2)、ITGA(配列番号3)、Gp(配列番号4)の核酸配列は、全ゲノム合成により合成された。上記の各プロモーター及びF8-BDDは、制限酵素部位を通してレンチウイルスベクターpEGWIに共ライゲーションされた。得られた産物は、New England Biolabs(NEB)の独自の推奨する最適な反応条件を参考に、配列決定及び二重酵素消化によって同定された。BamHIクローニング部位(ggatccacc)-AUGは5’末端で使用され、SpeIクローニング部位(actagt)は3’末端で使用された。F8-BDD遺伝子がそれぞれEF1α、VEC、KDR、ITGA又はGpを含むプロモーター下で駆動される、正しくライゲーションされたレンチウイルスベクターpEGWI-EF1α-F8-BDD、pEGWI-VEC-F8-BDD、pEGWI-KDR-F8-BDD、pEGWI-ITGA-F8-BDD又はpEGWI-Gp-F8-BDDが得られた。レンチウイルスベクターの具体的なライゲーション位置及び組成は図2に示される。各プロモーター及びWasabi遺伝子はpEGWIに共挿入され、レンチウイルスベクターpEGWI-EF1α-Wasabi、pEGWI-VEC-Wasabi、pEGWI-KDR-Wasabi、pEGWI-ITGA-Wasabi又はpEGWI-Gp-Wasabiが得られ、以後の実験で対照として使用された。
【0046】
【化3】
【0047】
[実施例2]
本実施例において、実施例1で構築したレンチウイルスベクターはさらにパッケージングされ、精製され、濃縮され、組換えレンチウイルスが得られた。実験方法については、「[1]Chang L-J、Urlacher V、Iwakuma Tら、Efficacy and safety analyses of a recombinant human immunodeficiency virus type 1 derived vector system[J].Gene Therapy、1999年、6(5):715~728頁」及び「[2]Chang L-J、Zaiss AK.Chang,L-J及びZaiss,AK.Lentiviral vectors.Preparation and use.Methods Mol Med 69:303~318頁[J].Methods in Molecular Medicine、2002年、69:303~318頁」を参照されたい。
【0048】
具体的なステップについては、上記の文献を参照されたい。具体的なステップを以下に簡単に説明する。
【0049】
(1)実施例1で構築したレンチウイルスベクター並びにパッケージングしたヘルパープラスミドpNHP及びpHEF-VSV-Gは、哺乳動物細胞HEK293Tに共導入され、48時間培養された後、上清が回収された。
【0050】
(2)回収したレンチウイルスは精製され、濃縮され、それぞれLV-EF1α-F8-BDD、LV-VEC-F8-BDD、LV-KDR-F8-BDD、LV-ITGA-F8-BDD、LV-Gp-F8-BDD、LV-EF1α-Wasabi、LV-VEC-Wasabi、LV-KDR-Wasabi、LV-ITGA-Wasabi及びLV-Gp-Wasabiと命名した組換えレンチウイルスが得られた。
【0051】
(3)レンチウイルスのVCNが検出され、検出結果は図3に示される。レンチウイルスLV-EF1α-F8-BDD、LV-VEC-F8-BDD、LV-KDR-F8-BDD、LV-ITGA-F8-BDD及びLV-Gp-F8-BDDは、同じ感染多重度(MOI)で基本的に同様のVCNを示した。
【0052】
[実施例3]
本実施例において、実施例2で調製した異なるプロモーター及びWasabi遺伝子を含有する組換えレンチウイルスをインビトロで試験した。異なる細胞におけるプロモーターの特異性は、Wasabi遺伝子によって発現される蛍光タンパク質量を検出することによって検出された。
【0053】
実施例2で調製した正常なWasabi遺伝子を保有する5つのレンチウイルス(LV-EF1α-Wasabi、LV-VEC-Wasabi、LV-KDR-Wasabi、LV-ITGA-Wasabi及びLV-Gp-Wasabi)は、内皮細胞(EC)及び巨核球の2つの細胞株に別々に形質導入された。レンチウイルスの導入方法を以下で説明する。
【0054】
10%ウシ胎児血清及び1%ペニシリン-ストレプトマイシン溶液を含有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)は、6ウェルプレート(Corning Incorporated、米国)に添加された。3×10個のEC又は1×10個の巨核球は、各ウェルに接種され、5%CO下、37℃で18時間培養された後、200のMOIでレンチウイルスが導入され、ポリブレン(8μg/mL、Sigma-Aldrich)が最終容量600μLまで添加され、24時間形質導入された。次いで、培地は、毎日新しい培地に交換された。細胞のコンフルエントが90%に達した時点で、細胞はT75cm培養フラスコ(Corning Incorporated、米国)に移された。
【0055】
発現した蛍光タンパク質の量を検出し、細胞内でWasabi遺伝子の発現を決定した。結果は図4に示される。LV-EF1α-Wasabiで形質導入されたEC及びLV-EF1α-Wasabiで形質導入された巨核球はいずれも高い蛍光強度を示し、EF1αプロモーターはこの2種類の細胞でWasabi遺伝子の発現を効率的に促進し、組織特異性はないことを示している。LV-VEC-Wasabi及びLV-KDR-Wasabiでそれぞれ形質導入されたECは、LV-ITGA-Wasabi及びLV-Gp-Wasabiでそれぞれ形質導入されたECよりも高い蛍光強度を示した。LV-VEC-Wasabi及びLV-KDR-Wasabiでそれぞれ形質導入された巨核球は、LV-ITGA-Wasabi及びLV-Gp-Wasabiでそれぞれ形質導入された巨核球よりも低い蛍光強度を示した。結論として、VEC及びKDRプロモーターは、EC特異性を有し、ITGA及びGpプロモーターは、巨核球特異性を有する。
【0056】
[実施例4]
本実施例において、実施例2で調製したF8-BDD遺伝子を含有する組換えレンチウイルスは、インビトロで試験された。
【0057】
実施例2で調製したF8-BDD遺伝子を保有する5つのレンチウイルス(LV-EF1α-F8-BDD、LV-VEC-F8-BDD、LV-KDR-F8-BDD、LV-ITGA-F8-BDD及びLV-Gp-F8-BDD)は、内皮細胞(EA-hy926)及び巨核球(DAMI)の2つの細胞株に別々に形質導入された。レンチウイルスの導入方法は実施例3と同じであった。
【0058】
形質導入したEA-hy926及びDAMI細胞から分泌された上清は、回収され、濃縮された。同時に細胞内抽出物が回収された。タンパク質の発現量はELISAで検出された。レンチウイルスを形質導入していない細胞は、陰性対照(NC)として使用された。結果は図5に示される。ユニバーサルEF1αプロモーターは、2つのいずれの細胞においてもF8の発現を効率的に促進した。巨核球において、ITGAプロモーターは、F8の発現を効率的に促進した。ECにおいて、VECプロモーターは、他の組織特異的プロモーターよりもF8の発現を促進する能力が高かったが、F8は、EF1αプロモーターと比較して極めて低いレベル(10倍低い)でしか発現しなかった。
【0059】
凝固機能を評価する方法は、ヒトF8発色アッセイキット(Hyphen BioMed、フランス)を使用することによって活性を測定する方法である基質発光アッセイ法に基づく。基質発光アッセイ法は、以下の通りである:試験する血漿及びブランク対照群がTris-BSA緩衝液(R4+)で40倍に希釈され、50μLの各系がマイクロプレートに添加され、50μLのX因子(R1)、50μLの活性化IX因子の混合物(R2)及び50μLのSXa-11基質(R3)が系に添加され、系が37℃で5分間インキュベートされ、50μLの20%酢酸が添加されて反応が停止され、405nmの吸光度での吸光度値が読み取られた。
【0060】
ウイルスを形質導入したEA-hy926及びDAMIの回収した上清が-80℃で取り出され、氷上で融解され、各上清がF8欠損個体の血漿と混合され、F8欠損個体の血漿のみがNCとして使用され、健常ボランティアの血漿が陽性対照(PC)として使用され、基質発光法が検出に使用された。
【0061】
図6は、基質発光アッセイ法によるヒトF8の検出結果を示す。EF1αによってF8の発現が促進されたEA-hy926細胞の上清及びVECによってF8の発現が促進されたEA-hy926の上清において、治療域内のヒトF8の活性が検出され、正常レベルのそれぞれ約6倍及び約2.5倍であり、一方、他のプロモーターを含有する細胞の上清においてヒトF8の活性は検出されなかった。EF1αによってF8の発現が促進されたDAMI細胞の上清及びITGAによってF8の発現が促進されたDAMI細胞の上清において、正常レベルより5倍高いヒトF8の活性が検出された。
【0062】
結論として、本出願において、F8遺伝子の発現は、レンチウイルスベクターの組織特異的プロモーターにより、正常なヒトF8タンパク質が細胞内で発現するように、首尾よく促進され、VECプロモーター及びITGAプロモーターは、比較的良好な特異性を有し、高い活性及び凝固機能を有する可能性のあるヒトF8タンパク質の発現を促進する。
【0063】
[実施例5]
実施例2で調製したF8-BDDを保有するレンチウイルスは、HAマウスに尾静脈から別々に直接注入され、治療実験が行われた。
【0064】
HAマウスの治療過程の模式図は図7に示される。使用したHAマウスは、F8遺伝子をノックアウトしたC57BL/6雌マウス(6週齢、Beijing Biosubstrate Technologiesより購入)であった。全てのマウスが病原体のない環境に配置され、X線照射装置(Faxitron、米国アリゾナ州トゥーソン)を使用して照射された(600cGy/マウス)。レンチウイルスLV-EF1α-F8-BDD、LV-VEC-F8-BDD、LV-ITGA-F8-BDD及びLV-Gp-F8-BDDは、別々にHAマウスに直接静脈注射され、疾患が治療され、ウイルスの注射量は1x10TUであった。リン酸緩衝食塩水(PBS)(各マウス200μL)は、対照(Mock)として使用された。
【0065】
治療後7日目、15日目、30日目、45日目、60日目及び120日目に、末梢血中のヒトF8遺伝子の発現がフローサイトメトリーにより検出された。結果は図8に示される。ヒトF8は、LV-VEC-F8-BDD治療群のマウスの血液中で安定に発現された(正常血漿レベルの10%~30%)。ヒトF8は、LV-Gp-F8-BDD治療群のマウスの血液中にも約15%で安定に発現された。一方、LV-EF1α-F8-BDD治療群及びLV-ITGA-F8-BDD治療群のマウスの血液中でのヒトF8発現は徐々に減少した(30%から5%に減少)。
【0066】
治療後7日目、15日目、30日目、45日目、60日目及び120日目に、血液がマウスから採取され、血漿が血液から分離された。未治療の血友病マウス(Mock)及び野生型マウス(WT)は対照として別々に使用され、F8の活性は基質発光法により測定された。結果は図9に示される。結果は、フローサイトメトリーにより測定された結果と一致していた。LV-VEC-F8-BDD治療群及びLV-Gp-F8-BDD治療群において、マウス血漿中のヒトF8活性は安定的に上昇し、60日目に25%の陽性率に達し、120日目にはさらに80%(LV-VEC-F8-BDD治療群)及び25%(LV-Gp-F8-BDD治療群)に上昇した。LV-EF1α-F8-BDD治療群及びLV-ITGA-F8-BDD治療群において、マウス血漿中のヒトF8活性は30日後に徐々に低下した(3%未満)。
【0067】
結論として、フローサイトメトリーの検出結果及び基質発光法の検出結果はいずれも、LV-Gp-F8-BDD又はLV-VEC-F8-BDDの尾静脈注射により、F8が有意に改善され、HAマウスの血漿中で安定したレベルを維持できることを証明している。すなわち、LV-Gp-F8-BDD又はLV-VEC-F8-BDDは、マウスのHAを効果的に治療できる。
【0068】
加えて、抗体応答については、上記の治療マウスの眼窩末梢血は採取され、3000rpmで15分間遠心分離されて血漿が得られた。血漿は、Tris-BSA緩衝液で1:200の割合で希釈され、ポリ塩化ビニル(PVC)マイクロプレートに入れられた。ペルオキシダーゼ標識ヤギ抗マウストータルIgGが添加された。次いで、発光基質3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)がELISA用に添加され、凝固因子第VIII因子(F8)に対する抗体応答が評価された。抗凝固因子第VIII因子モノクローナル抗体を注射したHAマウスが陽性対照(Ctrl+)として使用された。結果は図10に示される。LV-VEC-F8-BDD群、LV-Gp-F8-BDD群及びLV-ITGA-F8-BDD群のマウスのIgG抗体応答はいずれも比較的低く、LV-EF1α-F8-BDD群のマウスの抗体応答が最も高く、本出願の組織特異的プロモーターVEC、Gp及びITGAを用いた遺伝子治療が免疫拒絶を効果的に低減することができることを示している。
【0069】
結論として、組織特異的プロモーターは本出願において創造的に設計されている。組織特異的プロモーターは、EC又は巨核球-血小板細胞におけるコード遺伝子の特異的発現を促進し、異所的発現を効果的に減少させることができ、EC又は巨核球-血小板細胞における遺伝子の特異的発現が必要とされる遺伝子治療、例えばHAの遺伝子治療に適用することができる。組織特異的プロモーター及びF8-BDDを保有するレンチウイルスは、本出願において調製される。HAマウスは、直接静脈注射によって、F8-BDD遺伝子の導入効率及びマウスにおけるF8-BDD遺伝子の発現量が効果的に改善され、HAマウスの出血表現型がある程度修正される。VECプロモーターは、F8-BDD遺伝子の発現を促進し、抗体応答も少ないことで最も優れた治療効果を有し、このことは、遺伝子治療の有効性を確保する上で非常に重要であり、HAの症状をより早く緩和し、より包括的で耐久性のある遺伝子治療を達成するための基礎を築くものである。
【0070】
本出願人は、上述の実施例を通じて本出願の詳細な方法を説明したが、本出願は上述の詳細な方法に限定されるものではなく、本出願の実施は必ずしも上述の詳細な方法に依存しないことを意味すると述べている。本出願に対してなされた改良、本出願の製品の原材料の等価的な置き換え、本出願の製品へのアジュバント成分の添加、及び特定の手法の選択などは、全て本出願の保護範囲及び開示範囲に含まれることは、当業者には明らかであろう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
2024537917000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2024-06-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
織特異的プロモーターを含む、遺伝子発現カセットであって、
前記組織特異的プロモーターが、配列番号1に示される配列を有し、
前記コード遺伝子が、組換え凝固因子第VIII因子のコード遺伝子を含み、前記コード遺伝子が、配列番号5に示される配列を有する、前記組換え発現ベクター。
【請求項2】
前記ウイルスベクターまたはプラスミドベクターを含む、請求項1に記載の組換え発現ベクター。
【請求項3】
前記ウイルスベクターが、レンチウイルスベクターpEGWIを含む、請求項2に記載の組換え発現ベクター。
【請求項4】
請求項に記載の組換え発現ベクターを含有する組換えレンチウイルス。
【請求項5】
請求項1に記載の組換え発現ベクターを含有する組換え細胞。
【請求項6】
請求項5に記載の組換え細胞を調製する方法であって、前記組換え発現ベクターを宿主細胞に導入し、前記組換え細胞を得ることを含む、前記方法
【請求項7】
前記導入が、電気的導入、ウイルスベクター系、非ウイルスベクター系又は直接遺伝子注入のいずれか1つを含む方法によって行われる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記宿主細胞が、造血幹細胞を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
求項1~3のいずれか一項に記載の組換え発現ベクター、請求項に記載の組換えレンチウイルス又は請求項に記載の組換え細胞を含む、医薬組成物であって、
好ましくは、薬学的に許容される担体、賦形剤又は希釈剤のいずれか1つ又は少なくとも2つの組合せをさらに含む、前記医薬組成物。
【請求項10】
血友病Aの治療に使用するための、請求項1~3のいずれか一項に記載の組換え発現ベクター、請求項に記載の組換えレンチウイルス、請求項に記載の組換え細
【請求項11】
血友病Aの治療に使用するための、請求項9に記載の医薬組成物。
【国際調査報告】