(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-16
(54)【発明の名称】潜水艇のためのベクトル制御アセンブリ
(51)【国際特許分類】
B63G 8/16 20060101AFI20241008BHJP
B63C 11/00 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
B63G8/16
B63C11/00 B
B63C11/00 C
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024541766
(86)(22)【出願日】2022-09-19
(85)【翻訳文提出日】2024-04-20
(86)【国際出願番号】 US2022044020
(87)【国際公開番号】W WO2023049078
(87)【国際公開日】2023-03-30
(32)【優先日】2021-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524106059
【氏名又は名称】ティブロン サブシー インク.
(74)【代理人】
【識別番号】100104411
【氏名又は名称】矢口 太郎
(72)【発明者】
【氏名】テイラー、ティモシー
(72)【発明者】
【氏名】ヘブンズ、ロバート
(57)【要約】
【要約】
【解決手段】 潜水艇(10)が提供され、この潜水艇は、外部制御面を使用せずに、2つのスラスタのみを組み合わせることで6自由度を実現することができる。2つのスラスタの各々は、様々な度合いで選択的に開閉自在な複数の流管(28)を含み、これにより、制御および推進力の双方において6自由度を実現することが可能となる。
【選択図】
図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
潜水艇であって、
本体部と、
前記本体部の一端部に配置された少なくとも1つのスラスタアセンブリであって、
入口と、
流体流スラスタと、
ベクトル制御アセンブリであって、
前記流体流スラスタからの流体流を方向付ける複数の流管と、
前記複数の流管の各々の内部に配置された独立的に調整自在なダンパーと
を含む、前記ベクトル制御アセンブリと
を含む、前記少なくとも1つのスラスタアセンブリと
を有し、
前記調整自在なダンパーの各々を独立的に調整することにより、前記複数の流管を通る流体流の流量および方向が独立的に制御されるものである、
潜水艇。
【請求項2】
請求項1記載の潜水艇において、前記調整自在なダンパーは円筒形状である、潜水艇。
【請求項3】
請求項1記載の潜水艇において、前記調整自在なダンパーは羽根形状である、潜水艇。
【請求項4】
請求項1記載の潜水艇において、前記流体流スラスタはリム駆動型スラスタである、潜水艇。
【請求項5】
請求項1記載の潜水艇において、前記流体流スラスタはシャフト駆動型プロペラである、潜水艇。
【請求項6】
請求項1記載の潜水艇において、さらに、
複数のサーボモータを有し、
前記複数のサーボモータの各々は、独立的に制御可能であり、かつリンク機構を介して前記調整自在なダンパーの1つと相互接続され、前記調整自在なダンパーの各々の回転位置を制御するものである、潜水艇。
【請求項7】
請求項1記載の潜水艇において、外部制御面を備えないものである、潜水艇。
【請求項8】
請求項1記載の潜水艇において、前記少なくとも1つのスラスタアセンブリは、前記本体部の第1の端部に配置された前方スラスタアセンブリ、および前記本体部の反対側の第2の端部に配置された後方スラスタアセンブリからなる2つのスラスタアセンブリである、潜水艇。
【請求項9】
請求項8記載の潜水艇において、6自由度の位置制御は、前記前方スラスタアセンブリおよび前記後方スラスタアセンブリを互いに関連させて動作させることによってのみ実現するものである、潜水艇。
【請求項10】
潜水艇であって、
前方端部と当該前方端部とは反対側の後方端部とを有する本体部と、
前記本体部の前記前方端部に配置された前方スラスタアセンブリであって、
入口と、
流体流スラスタと、
ベクトル制御アセンブリであって、
前記流体流スラスタからの流体流を方向付ける複数の流管と、
前記複数の流管の各々の内部に配置された独立的に調整自在なダンパーと
を含む、前記ベクトル制御アセンブリと
を含む、前記前方スラスタアセンブリと、
前記本体部の前記後方端部に配置された後方スラスタアセンブリであって、
入口と、
流体流スラスタと、
ベクトル制御アセンブリであって、
前記流体流スラスタからの流体流を方向付ける複数の流管と、
前記複数の流管の各々の内部に配置された独立的に調整自在なダンパーと
を含む、前記ベクトル制御アセンブリと
を含む、前記後方スラスタアセンブリと
を有し、
前記調整自在なダンパーの各々を独立的に調整することにより、前記複数の流管を通る流体流の流量および方向が独立的に制御されるものである、
潜水艇。
【請求項11】
請求項10記載の潜水艇において、前記調整自在なダンパーは円筒形状である、潜水艇。
【請求項12】
請求項10記載の潜水艇において、前記調整自在なダンパーは羽根形状である、潜水艇。
【請求項13】
請求項10記載の潜水艇において、前記流体流スラスタはリム駆動型スラスタである、潜水艇。
【請求項14】
請求項10記載の潜水艇において、前記流体流スラスタはシャフト駆動型プロペラである、潜水艇。
【請求項15】
請求項10記載の潜水艇において、さらに、
複数のサーボモータを有し、
前記複数のサーボモータの各々は、独立的に制御可能であり、かつリンク機構を介して前記調整自在なダンパーの1つと相互接続され、前記調整自在なダンパーの各々の回転位置を制御するものである、潜水艇。
【請求項16】
請求項10記載の潜水艇において、外部制御面を備えないものである、潜水艇。
【請求項17】
請求項10記載の潜水艇において、6自由度の位置制御は、前記前方スラスタアセンブリおよび前記後方スラスタアセンブリを互いに関連させて動作させることによってのみ実現するものである、潜水艇。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、先に2021年9月21日付で出願した米国特許仮出願第63/246,325号に関連し、かつ当該特許仮出願に対して優先権を主張するものであり、その内容全体がこの参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、アンビリカルテザー(umbilical tether)、無線制御、光学制御または音響制御によって操作される遠隔操作無人探査機(ROV:Remotely Operated Vehicles)または自律型無人潜水機(AUV:Autonomous Underwater Vehicles)などの潜水艇の方向制御システムに関する。より具体的には、本開示は、2つのスラスタを使用することで、外部制御面を使用せずに、位置制御および運動制御において6自由度を実現することができる、潜水艇のための制御システムに関する。本開示は、潜水艇の固有安定性およびその他所望の潜水制御能力を向上させるとともに、上記機能を実現することができる。
【背景技術】
【0003】
自律型無人潜水機(AUV)および遠隔操作無人探査機(ROV)などの潜水艇は、単一のスラスタアセンブリによって水柱内を推進する。スラスタアセンブリは通常、駆動軸に動力を供給する様々なタイプの電動モータまたは燃料使用モータのうちの1つを有し、駆動軸は当該モータに取り付けられたプロペラを回転させる。プロペラによって生成される推進力を固定地球座標系のX軸に沿って方向付けて前進または後退運動を提供する、様々なタイプのシュラウド(shroud)、導管、または露出したプロペラアセンブリがある。上記潜水艇の方向制御は通常、3若しくはそれ以上の露出した外部制御面により達成される。これらの露出した外部制御面または「制御面」は、独立して、または互いに協調して動作する。制御面の移動により、水柱内での潜水艇本体部の移動に対して水抵抗が生じ、
図1に示すように、船首揺れ(yaw)(潜水艇がX軸上で左右に移動)、縦揺れ(pitch)(潜水艇がY軸上で上下に移動)、および横揺れ(roll)(X軸上の中心線から離れる方向の潜水艇の回転角度)を介した3自由度の方向転換を潜水艇は強いられる。
【0004】
現在使用されている潜水艇の制御システムには、設計上の欠陥や欠点が多くある。例えば、水中での移動および方向制御のためにこの基本的な設計方法が様々な自律型無人潜水機(AUV)によって使用されているが、このような設計では、海洋測量中に発生する可能性のある様々な環境に起因、および所望の位置制御に関連する問題に対処することができない。
【0005】
一般的に、船体後部から推進力を発生、および/または位置制御を行う潜水艇は、本質的に不安定であり、所望の航路を維持するために位置制御システムによる絶え間ない調整が必要である。さらに、球体以外の船体形状である場合、潜水艇が非粘性流体中で傾くとモーメントが発生する。ダランベールのパラドックスでは、正味の力がゼロになることが予測されるが、モーメントがゼロになるとは限らない。このいわゆるムンクモーメントは、よどみ点の位置が非対称であるために発生するものであり、この場合圧力は本体部の前方(減速流)で最も高く、後方(加速流)で最も低くなる。ムンクモーメントは、潜水艇を水流れに対して垂直に回転させるという意味で、常に不安定要素となる。このような影響に対しては、前方(船首)部制御面、ムンクモーメントに対抗する推進力を加えることが可能な前方スラスタ、またはそのような設計要素の組み合わせを利用する潜水艇設計によって対抗することができる。潜水艇の長さおよび断面積が大きくなるのに応じて、潜水艇に対するムンクモーメントの力が顕著になるため、所望の位置を維持するために制御システムは労力をさらに必要とする。一部の潜水艇では、ムンクモーメントの力を考慮して、5若しくはそれ以上のスラスタと2組の制御面を組み合わせることにより、6自由度制御を実現している。前方(船首)部に制御面を追加することで、船体のモンクモーメントを最小化し、X軸に沿った前進運動を安定化させることができる。
【0006】
このような設計タイプの潜水艇における地理的位置の制御では、制御面上に流体流動を生じさせて潜水艇が3つの制御軸すべてに沿って所望の地理的位置を維持するために、潜水艇のX軸に沿った最低限の前進または後退運動(速度)が必要となる。制御面のサイズおよびタイプ、水抵抗、海流、または表面波、地上風などの潜水艇の位置に影響を与える可能性のあるその他の動的な力に対する個々の潜水艇の質量と形状などの複数の要因に応じて、潜水艇は、地理的位置の制御を維持するために一定の最低前進運動を維持する必要がある。潜水艇の前進運動がこの最低値を下回ると、潜水艇は位置制御不能となり、所望の航路および位置から逸脱、若しくは縦揺れ、横揺れ、船首揺れ不能など、その他の望ましくない運動が生じる。このような制御不能状態を回避することは、潜水艇の位置を正確に制御するために重要であるとともに、潜水艇の安定性を維持して測量中に使用されるデータ収集センサーおよび観測機器のための安定したプラットフォームを確保する上で重要である。
【0007】
さらに、この設計タイプの潜水艇がX軸(前後揺れ(surge))、Y軸(左右揺れ(sway))、Z軸(上下揺れ(heave))に沿った海流に遭遇した場合、例えば、潜水艇がX軸に沿って下流に移動する際に、この海流が当該潜水艇の方向制御を維持するために必要な最低限の前進運動を超える場合、この潜水艇の設計は、そのような力に対向して地理的位置の制御を維持するのには適していない。所定の潜水艇のプログラムされた最適前進測量速度が時速4kmで、この潜水艇が位置制御を維持するために時速3kmの最低前進速度を必要とする場合であって、海流が時速2kmである場合、地上での潜水艇の速度は時速6kmとなる。プログラムされた地上での測量速度である時速4kmを維持するために潜水艇は前進速度の減速を試みる。その前進運動の減速の結果、潜水艇は、地上では時速4kmで下流に移動するが、水柱内では時速2kmしか移動しないため、位置制御を維持するために必要な、水柱内における最低時速3kmを達成するのに十分な前進運動を得ることができない。
【0008】
別の例では、潜水艇がX軸に沿って海流を上流に向かって移動する場合が考えられる。海流が潜水艇の最大前進運動能力を超える場合、潜水艇は方向制御を維持できなくなる。潜水艇の最大前進測量速度が時速4km、最低位置制御速度が時速3km、海流が時速2kmの場合、潜水艇は測量速度を満たすためには、時速3kmの最低前進運動を実現することができず、方向制御を維持する能力を失う可能性がある。
【0009】
さらに、潜水艇がX軸に沿って測量速度で移動しているが、Y軸に沿った海流に遭遇し、その海流が、潜水艇のX軸に沿った機首方位の位置制御を維持する能力を超える場合、潜水艇は、X軸に沿った地理的位置の維持不能となるか、または、X軸の位置を維持するために海流に対して過度の船首揺れが起こり、その結果、測量データの劣化、移動効率の低下、若しくは場合によっては位置制御不能が生じる可能性がある。
【0010】
さらに、現在の潜水艇の設計では、一部の所望の位置制御操縦を行うことができない。そのような所望の位置制御操縦は、以下のものを含むことができる。
(1)時速0kmから最高速度まで、X軸の両方向に沿った位置制御の維持。
(2)時速0kmから最高速度まで、Y軸の両方向に沿った位置制御の維持。
(3)時速0kmから最高速度まで、Z軸の両方向に沿った位置制御の維持。
(4)時速0kmから最高速度まで、任意の縦揺れ度でZ軸の両方向に沿った位置制御の維持。
【0011】
自律型無人潜水機(AUV)などの海中海洋船が、3軸すべてにおいて時速0kmを維持し、動的環境で3つの位置制御軸に沿って6自由度の任意所望の位置を維持する能力を通常、「位置保持(station keeping)」、または「駐車(Parking)」という。位置保持のために5つ以下のスラスタを使用する設計を有する現在の潜水艇では、6自由度で潜水艇の位置制御を行いながら、3軸すべてに沿って位置保持の制御を行うことはできない。5若しくはそれ以上のスラスタを使用する、現在の潜水艇の設計は以下のものを含むことができる。
(1)12のスラスタを使用して6自由度の位置制御を実現する自律型無人潜水機(AUV)。
(2)8つのスラスタおよび多関節型体節を使用して6自由度の位置制御を実現する自律型無人潜水機(AUV)。
(3)5つのスラスタを使用して6自由度の位置制御を実現するホバリング型自律型無人潜水機(HAUV:hovering autonomous underwater vehicle)。
(4)5つのスラスタと2組の制御面の組み合わせを利用して6自由度の位置制御を実現する自律型無人潜水機(AUV)。前方(船首)部制御面を使用して船体におけるムンクモーメントを最小化することで、X軸に沿った前進運動の安定化が促進される。
【0012】
上述した先行技術の試みによっては、当業界のニーズを満たすことはできない。電力効率を改善し、制御を簡素化するために、できるだけ少ないスラスタの組み合わせを利用するとともに、外部制御面を使用せずに6自由度を実現可能な潜水艇推進力およびシステムに対する当業界の著しい需要がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示は、従来技術の利点を維持する一方、外部制御面を使用せずに、2つのスラスタおよび2つの推進力ベクトル制御アセンブリの組み合わせのみで、6自由度の位置制御を実現可能な、改良型潜水艇推進力・位置制御システムを提供する。
【0014】
本開示の1つの目的は、潜水艇の船首(前方部)および船尾(後方部)の双方において推進力および位置制御を同時に提供することにより、ムンクモーメントに直接対抗し、潜水艇の固有安定性を向上させることにある。
【0015】
本開示の別の目的は、潜水艇が、あらゆる海面状態の海面上を移動する間、その船首部の位置制御を改善することにより、その他の所望の潜水艇制御能力を改善することを含み、これにより、海面上でより安定した潜水艇制御が提供される。また、これにより、海面上における潜水艇の視覚的位置および潜水艇との通信が最適化される。
【0016】
本開示のさらなる目的は、船首または船尾のスラスタ、および位置制御アセンブリの互いに独立した潜水艇の制御により、スラスタのうちの1つ、または位置制御アセンブリ故障した場合、潜水艇を自己救助するための冗長位置制御を提供することを含む。
【0017】
本開示のさらに別の目的は、外部制御面、および露出または部分的に露出したスラスタアセンブリまたはプロペラなどの、他の潜水艇の設計において典型的な突出部を減少、または場合によっては排除することを含み、それにより、抗力が低減し、推進効率が向上するとともに、潜水艇が破片、構造物、海洋有機物、またはそれらの表面に絡まる可能性が低減する。
【0018】
本開示のさらなる目的は、測量作業中、支援船、固定プラットフォーム、または海岸からの進水および回収中、または日常的な潜水艇の操作中に潜水艇が損傷する可能性を低減するために、外部制御面、および露出または部分的に露出したスラスタプロペラを排除することを含む。
【0019】
本開示の別の目的については、本開示、図面、および特許請求の範囲の全体を通して詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
添付の特許請求の範囲において本開示の特徴である新規な構成要素を記載する。しかしながら、本開示の好ましい実施形態は、そのさらなる目的およびそれに付随する利点とともに、添付の図面に関連して以下の詳細な説明を参照することにより、最もよく理解される。
【
図1】
図1は、本体部固定枠座標系および地球固定枠座標系を示す。
【
図3A】
図3Aは、本開示のベクトル制御アセンブリを使用する潜水艇の斜視図であり、アンテナが伸長位置にあることを示す。
【
図3B】
図3Bは、本開示のベクトル制御アセンブリを使用する潜水艇の斜視図であり、アンテナが折り畳まれた収容位置にあることを示す。
【
図4】
図4は、本開示の船首ベクトル制御アセンブリの分解組立図である(船尾ベクトル制御アセンブリも同一である)。
【
図5】
図5は、本開示の船首ベクトル制御アセンブリの分解拡大図である(船尾ベクトル制御アセンブリも同一である)。
【
図7】
図7は、本開示による流管ハウジングの正面斜視図である。
【
図8】
図8は、本開示による流管ハウジングの背面斜視図である
【
図9】
図9は、本開示の流管ハウジングを取り外した状態の制御弁アセンブリの側面斜視図である。
【
図10】
図10は、本開示の流管ハウジングを取り外した状態の制御弁アセンブリの側面図である。
【
図11】
図11は、本開示の制御弁アセンブリの斜視図である。
【
図12】
図12は、本開示の制御弁アセンブリの側面図である。
【
図13】
図13は、
図10の線13-13に沿った本開示のスラスタアセンブリの断面図である。
【
図14】
図14は、制御弁が中立位置にある流管流路の図である。
【
図15】
図15は、制御弁が縦方向推進位置にある流管流路の図である。
【
図16】
図16は、制御弁が横方向推進位置にある流管流路の図である。
【
図17】
図17は、本開示のスラスタを通る水流の詳細を示す斜視図である。
【
図18】
図18は、本開示のスラスタを通る水流の詳細を示す端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本明細書に開示する装置および方法の構造、機能、製造、および使用の原理が全体的に理解されるように、特定の例示的な実施形態について説明する。これらの実施形態の1つ若しくはそれ以上の例を添付の図面に図示する。当業者であれば、本明細書に具体的に記載、および添付の図面に図示する装置および方法は、非限定的な例示的実施形態であり、本開示の範囲は特許請求の範囲によってのみ定義されることを理解すると考えられる。1つの例示的な実施形態に関連して図示または説明する特徴は、別の実施形態の特徴と組み合わせることができる。そのような変更および変形は、本開示の範囲内に含まれることが意図される。さらに、本開示では、実施形態において同様の番号を有する構成要素は通常同様の特徴を有するため、特定の実施形態内において、同様の番号を有する各構成要素の各特徴については、必ずしも完全に詳述しない。また、開示するシステム、装置、および方法の説明において線形または円形寸法が使用される限りにおいて、そのような寸法は、当該システム、装置、および方法とともに使用可能な形状の種類を限定することを意図するものではない。当業者であれば、そのような線形および円形寸法に均等物は、任意の幾何学的形状に関して容易に決定できることを認識すると考えられる。さらに、上部、底部、上、または下などの方向に関する用語が使用される限りにおいて、これらの用語は、本明細書に開示するシステム、装置、および方法を限定することを意図するものではない。当業者であれば、これらの用語は単に記載されたシステムおよび装置に関連しているものであり、普遍的なものではないことを認識する。本開示は、自律型潜水艇に関して言及しているが、当業者であれば、その他の潜水艇または水中航走体一般に使用可能であることを理解すると考えられる。さらに、水に関して言及しているが、当業者であれば、本明細書に記載された潜水艇をその他の流体中で使用可能であることを理解すると考えられる。
【0022】
本開示を概して
図3~
図12に示すとともに図示する。また、動作形態については
図13~
図18に開示する。本開示は、自律型無人潜水機(AUV)または遠隔操作無人探査機(ROV)などの潜水艇のための推進力および方向制御システムを提供するが、所定の流体媒体中で動作する任意の潜水艇にも同様に適用可能である。
図1および
図2を参照すると、座標基準枠が説明のために提供されている。本開示によれば、本潜水艇は、
図2に示すように、6自由度、すなわち、x、yおよびz軸に沿った直線的な制御された運動、ならびに縦揺れ、船首揺れおよび横揺れとして定義される回転を、外部に取り付けられた制御面を使用せずに、2つのスラスタの組み合わせのみを利用して実現することができる。
【0023】
図3Aおよび
図3Bに示すように、潜水艇10は、管状またはカプセル状の形状を有することができる本体部12を有する。
図3Aは、アンテナマスト46が伸長位置にある状態を示し、
図3Bは、アンテナマスト46が座部49に入れ子になるように枢動された状態を示す。潜水艇10は、1つの船首スラスタ14aと、1つの船尾スラスタ14bとを含み、この船首スラスタおよび船尾スラスタは、互いに同様に構成され、かつ同様に動作するものであり、潜水艇本体部の端部に取り付けるために単に逆向きになっている。したがって、本開示の以下の記載では、船首スラスタ14aまたは船尾スラスタ14bのいずれにも等しく適用されるスラスタアセンブリ14について詳細に説明する。いくつかの実施形態では、潜水艇の各部分は、3D印刷または積層造形することができる。別の実施形態では、各部分は、機械加工、鋳造、成形、または任意のその他の既知の製造技術、またはそれらの組み合わせを使用して製造することができる。船首スラスタおよび船尾スラスタの各々は、以下でさらに説明するように、入口部分および出口部分を有することができる。潜水艇10の本体部12は、電池部および電子機器部を収容することができる。電池部は、船首スラスタ14a、船尾スラスタ14b、および潜水艇10に使用される任意の電子機器に電力を供給することができる複数の電池を収容することができる。電子機器部は、任意数のセンサー、カメラ、通信モジュール、計算機器、および潜水艇上の様々なシステムを制御するために必要なその他の電子機器を収容することができる。
【0024】
次に
図4を参照すると、潜水艇10は、本体12およびスラスタ14の分解組立図を含むように図示されており、流体流スラスタ(flow thruster)16およびベクトル制御アセンブリ18が示されている。この推進力ベクトル制御アセンブリは通常、潜水艇のX軸の軸方向の中心に配置された単一の軸方向流体流スラスタ16から構成することができる。図示する実施形態では、1つの例示的な流体流スラスタ16は、リム駆動型スラスタのタイプの設計として示されているが、従来のシャフト駆動型プロペラスラスタのタイプも使用可能である。スラスタ14は、シュラウド22内の入口20を通して、船首または船尾から水を取り込むことができる。次に水は、以下で詳細に説明するように、ベクトル制御シュラウド24内に配置されたベクトル制御アセンブリ18内に導かれる。ガスケット付締め付けリング26は、本体部12、ベクトル制御アセンブリ18の包囲部として機能するベクトル制御シュラウド24、および軸方向流体流スラスタ16の包囲部として機能するシュラウド22の間に剛性かつ耐水性の相互接続を提供する。
【0025】
図5はスラスタ14の拡大図である。軸方向流体流スラスタ16はシュラウド22内に配置され、入口20を通して水を引き込み、引き込んだ水をベクトル制御シュラウド24内に外向きに導く。ここで水は4つの独立した流管28に流入し、当該流管28は、x軸を中心に45゜、135゜、225゜、および315゜で周方向に配向される態様で、ベクトル制御シュラウド24内部で軸方向に離間して配置されている。各流管28は、その他の各流管とは独立的に、当該流管28を通る水流を制限および調整することができるダンパーアセンブリ30を含む。ダンパーアセンブリ30は、ベクトル制御シュラウド24から排出される水流を調整するが、この水流排出の相対角度は、ダンパーアセンブリ30によって、潜水艇の本体部12に沿った長手方向の流動角度から、潜水艇の本体に対して外側かつ垂直な流動角度まで任意の角度の間で連続的に変更することができる。サーボモータ32が使用され、当該サーボモータは、各ダンパー30の回転角度を互いに独立して制御可能なリンク機構を介して各ダンパー30に接続される。いくつかの実施形態では、円筒型ダンパーを使用することができる。さらなる実施形態では、ダンパーサーボ制御を備えた羽根式ダンパ、またはそれらの組み合わせを使用することができる。いくつかの代替実施形態では、排出管の角度および径方向の向きは、流体モデル、実物大の模型試験、またはタスク固有の所望の性能から導出される最適効率に応じて変化する。船首および船尾における各排出管は、各管を通る流体流動を減速または停止させることができる、独立的に制御されたダンパーアセンブリを含むことが重要である。
【0026】
図6では、1つの例示的な流体流スラスタ16がリム駆動型スラスタのタイプの設計として示されているが、従来のシャフト駆動型プロペラスラスタのタイプも使用可能である。
【0027】
図7および
図8にベクトル制御シュラウド24の詳細図を示す。ベクトル制御シュラウド24は、流体流スラスタ16の後方に配置され、このスラスタから水流を受け取って方向付ける入口ポート34を含むことが分かる。入口ポート34における水流は、流管28の複数の入口端部28a内に流入し、当該入口端部を通って対応する出口端部28bに流動する。弁座36が流管28内に設けられ、そこにダンパー30を受け入れて保持する。凹部38は、ダンパ30の回転方向を制御するサーボモータ32のリンク機構の受け入れ位置にあることが分かる。
【0028】
図9~12は、完全に組み立てられた位置にあるベクトル制御アセンブリ18の詳細図を提供し、ここでは明確化のため、ベクトル制御シュラウド24は取り除かれている。推進力制御ダンパー30は、各流管28を通る水流の体積、速度、および横方向を部分的に制限、方向転換、および調整する水流制限/方向付け装置である。制御ダンパー30は、ベクトル制御シュラウド24内のそれぞれの対応する流管28内に回転自在に配置されている。制御ダンパ30の回転は、電子制御モジュール42に取り付けられた高トルクサーボモータ32の出力軸に係合および制御される機械的リンク機構40によって実行される。ダンパー30は、バルブの一種として動作し、異なる推進力/流量を適用するために、円筒型、羽根、またはその他のタイプであってもよい。各サーボモータ32は、潜水艇の自律航行コンピュータからのコマンドをによって独立的に制御されるか、および/または潜水艇の操作者によって直接遠隔制御される。図示する実施形態では、
図3~
図12で上述したように(
図13~
図18を特に参照)、潜水艇は、船首ベクトル制御アセンブリ、船尾ベクトル制御アセンブリのいずれか、または双方を含むことができる。船首ベクトルアセンブリは、軸方向流体流スラスタ16と流体連通する、前方に面した船首スラスタ入口22を含むことができる。軸方向流体流スラスタ16の下流には、上述のように、4つの出口管28を周方向に配置することができる。出口管28は通常、軸方向下流および径方向外側に向けられ、流体流を方向付ける。4つの出口管28の各々は、独立的に作動可能なダンパー30を含み、当該ダンパー30は、対応する出口管28を通る水流44を制限して方向転換させることができる。流体または水は、軸方向流体流スラスタによって船首入口内に引き込まれ、次に、出口管の開閉に応じて選択的に出口管から排出される。各ダンパーを独立的に調整することにより、縦方向の流動と横方向の流動との間で流体流の相対的な体積および方向を連続的に変化させることが可能となり、それによって4つの出口管28から排出される流体流間の不均衡性が調整されて、潜水艇の直線運動、横運動、および横揺れが生成される。船首ベクトル制御アセンブリを、潜水艇の後部にある船尾ベクトル制御アセンブリと関連させて使用することで、8つの利用可能なダンパーを調整して縦揺れおよび船首揺れを誘導することができる。さらに、ダンパーを調整することで、潜水艇を静止中立浮力位置(stationary neutral buoyant position)の定点で静止またはホバリングさせることができる。
【0029】
マスト46は、潜水艇との遠隔通信用に提供される。マスト46は、無線アンテナまたはアンビリカルテザーの接続点として機能し、潜水艇と遠隔制御センターとの間の制御およびデータ転送のための電子的相互接続を可能にする。マスト46は、潜水艇が水面下で動作中に乱流を低減できるように、固定式または格納式とすることができる。例えば、マスト/アンテナ46は、上述した
図3Aおよび
図3Bに示すように、枢動点47を中心として本体部12に枢動自在に連結されることが好ましい。
図3Aは、アンテナマスト46が伸長位置にある状態を示し、
図3Bは、アンテナマスト46が座部49に入れ子になるように枢動された状態を示す。
【0030】
ダンパーアセンブリを介して水流または推進力を調整することにより、潜水艇の位置を3つの固定枠座標すべてにおいて一方向に制御できることが重要である。排出管がそれぞれ対応するダンパーアセンブリを含むことに注目されたい。例えば、アセンブリの上側にある2つのダンパー(45°および315°のスラスタ出口)を部分的に閉鎖して流量および推進力を減少させた場合、前進中に船首部の位置方向および速度が制御されて、潜水艇は船首上げ状態となる。さらなる例では、アセンブリの下側にある2つの船首ダンパー(135°と225°のスラスタ出口)を部分的に閉鎖して流量と推進力を減少させた場合、潜水艇は船首下げ状態となる。排出管対する各ダンパーの位置が変化すると、各排出管から排出される水量および速度の双方が変化し、その結果、排出管から発生する測定可能な推進力の量が変化する。各ダンパーの相対配向、例えば開閉の程度により、潜水艇の推進力が増減し、これにより水柱を通過する位置方向および/または速度が影響される。
【0031】
別の使用例では、アセンブリの左舷側にある2つのダンパー(45°および135°のスラスタ出口を部分的に閉鎖して流量および推進力を減少させた場合、潜水艇は左舷側に船首揺れ状態となる。同様に、アセンブリの右舷側にある2つのダンパー(225°および315°のスラスタ出口)を部分的に閉鎖して流量および推進力を減少させた場合、潜水艇は右舷側に船首揺れ状態となる。この例では、船尾スラスタが船首と同じ方向に推進力を提供している場合は、船首ダンパーを部分的に閉鎖し、船尾ダンパーを全開にすることができる。代替的に、この特定の制御操作では、船首ダンパーを完全に閉鎖して使用しないようにすることもできる。
【0032】
潜水艇はいくつかの態様で機能することができる。1.船首部のみによる前進:この態様では、X軸に沿った前進推進力および位置制御は3軸の方向制御のみで、船尾部は利用されない。2.船首部および船尾部による前進:この態様では、X軸に沿った移動推進力は、船首部および船尾部の双方によって生成され(船尾部は、開位置で制御ダンパーに水を取り込み、アセンブリの「取り込み部(intake)」から水を排出して、船首アセンブリと同じX軸に沿った方向に推進力を提供することができる)、船首部は3軸の方向制御を提供する。3.船首部および船尾部による6軸制御:この態様では、船首アセンブリおよび船尾アセンブリの双方が、スラスタの入口から水を取り込み、ダンパーを介して水を排出することで、推進力を使用して潜水艇を「駐車」位置に維持、または6つの制御軸のうちのいずれかに潜水艇を移動させることが可能となる。船首アセンブリおよび船尾アセンブリは、所望の位置を維持するために互いに推進力を与えることができる。例えば、船首部が、船首ダンパーの位置を変更せずにスラスタモータからの水量を減少させる(モータの毎分回転数(rpm)を減少させる)ことで推進力を減少させた場合、船尾部が船首部と比べより大きな推進力を生成するため、潜水艇はX軸に沿って船尾の方向に移動する。4.船尾部による後退運動:この態様では、船尾部はX軸に沿って潜水艇の進行方向と逆方向に推進力および3軸の方向制御を提供することができる。この態様は、例えば、船首部が故障した場合、潜水艇が人工物や岩盤にはまり、X軸に沿って後退する必要がある場合、潜水艇の回収中に水面でX軸に沿って後退操作する場合、衝突を回避する場合などの自己救助のために使用できる。
【0033】
潜水艇のX軸に沿った前進運動は、船首部の4つのダンパーの開閉を同期させながら、各ダンパーの開閉割合を一致させることで制御可能である。さらに、スラスタモータの毎分回転数(rpm)を変化させることで、水量/流速を変化させ、前進運動を制御することができる。
【0034】
図3Aおよび
図3Bに示すように、反対方向に配置された船首および船尾に2つのベクトル制御アセンブリを実装することにより、船尾アセンブリは、3つの制御軸および1つの移動方向において潜水艇の位置および動きを制御することができる。船首および船尾に1つずつ配置された2つのベクトル制御アセンブリは、協働して潜水艇に6自由度の位置制御を提供することができる。ベクトル制御アセンブリはモジュール式であってもよく、船尾アセンブリの代わりに船首アセンブリを使用する場合、船首アセンブリのスラスタプロペラを反対のピッチのものに変更する必要があるという理解を前提として、別のベクトル制御アセンブリと交換可能である。
【0035】
さらに、スラスタ出口を水流の入口とし、水流の入口をスラスタ出口とすることで、船尾ベクトル制御アセンブリを通る水流の方向を逆方向にすることが可能であり、これにより、
図3Aおよび
図3Bに示すように、船尾ベクトル制御アセンブリを潜水艇に一方向の3軸制御を提供する前進推進力のみを使用しながら、潜水艇のすべての位置制御を船首ベクトル制御アセンブリに実行させることができる。同一の動作を船尾から船首に置き換えることが可能であり、これにより、同じ効率および位置制御で、潜水艇はいずれのの方向においても位置制御および運動(前進速度)制御を行うことができる。船首および船尾スラスタの毎分回転数(RPM)を一致させることにより、互いに逆回転するリム駆動型スラスタによってX軸に沿った潜水艇の回転トルクが相殺される。リム駆動型スラスタは、プロペラがモータアセンブリの回転部分に直接取り付けられているモータ/スラスタの組み合わせからなるアセンブリと定義することができ、当該モータアセンブリでは、従来の電動モータの電機子は使用されず、プロペラ羽根が固着された「リム」電機子が利用される。リム駆動型スラスタの設計は、例えば、シャフト用水密性シールが不要、耐圧壊性、任意の水深で動作可能であるとともに、従来のシャフト駆動型モータよりも低い回転数でより大きなトルク(水上力)を発生させるなどの理由から、海上利用においていくつかの利点がある。また、リム駆動型スラスタは、電機子軸/駆動軸アセンブリを使用しないため、釣り糸や海藻などの破片が付着しにくい。上述および図示したように、リム駆動型スラスタは、ベクトル制御アセンブリに水推進力を提供するために使用される。その他の従来型モーター/プロペラをダンパーアセンブリと組み合わせて使用することも可能だが、図示した実施形態では、上述した利点からリム駆動型スラスタが使用されている。
【0036】
当業者であれば、本開示の要旨から逸脱することなく、図示した実施形態に様々な修正および変更を加えることができることを理解する。そのような修正および変更はすべて、添付の特許請求の範囲によって包含されることを意図する。
【手続補正書】
【提出日】2024-04-20
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0012
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0012】
上述した先行技術の試みによっては、当業界のニーズを満たすことはできない。電力効率を改善し、制御を簡素化するために、できるだけ少ないスラスタの組み合わせを利用するとともに、外部制御面を使用せずに6自由度を実現可能な潜水艇推進力およびシステムに対する当業界の著しい需要がある。
この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、以下のものがある(国際出願日以降国際段階で引用された文献及び他国に国内移行した際に引用された文献を含む)。
(先行技術文献)
(特許文献)
(特許文献1) 国際公開第2017/109148号
(特許文献2) 米国特許出願公開第2015/0027125号明細書
(特許文献3) 米国特許出願公開第2003/0167998号明細書
【国際調査報告】