IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アイシン精機株式会社の特許一覧

特表2024-537923新規な結晶形態を有するMXene化合物及び該MXene化合物を合成するMAX相型化合物を製造するプロセス
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-16
(54)【発明の名称】新規な結晶形態を有するMXene化合物及び該MXene化合物を合成するMAX相型化合物を製造するプロセス
(51)【国際特許分類】
   C01G 23/00 20060101AFI20241008BHJP
【FI】
C01G23/00 C
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024543594
(86)(22)【出願日】2022-10-04
(85)【翻訳文提出日】2024-05-30
(86)【国際出願番号】 IB2022059475
(87)【国際公開番号】W WO2023057906
(87)【国際公開日】2023-04-13
(31)【優先権主張番号】2110459
(32)【優先日】2021-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チミエロフスキ、ラドスロウ
(72)【発明者】
【氏名】ララモナ、ジェラルド
(72)【発明者】
【氏名】ドゥラトゥシュ、ブルノ
(72)【発明者】
【氏名】ペレ、ダニエル
【テーマコード(参考)】
4G047
【Fターム(参考)】
4G047CA05
4G047CB01
4G047CD03
4G047CD07
(57)【要約】
新規な結晶形態を有するMXene化合物及び該MXene化合物を合成するMAX相型化合物を製造するプロセスを提供する。本発明は、第1に、大部分が平板形態の結晶形態を有するという利点があるMXene化合物であって、粉末混合物を絶縁する放電プラズマ焼結プロセスによって得られるMAX相前駆体から得られ得る、MXene化合物、及び該MXene化合物を製造するプロセスに関する。また、本発明は、粉末混合物を絶縁する放電プラズマ焼結プロセスによって得られるMAX相型化合物に関する。また、本発明は、該前駆体からMXene化合物を合成するプロセス、及びこのプロセスにより得られる、大部分が平板形態の結晶形態を有するという利点があるMXene化合物に関する。
【選択図】図4C
【特許請求の範囲】
【請求項1】
n+1の一般式(式中、nは1、2又は3であり、MはTi、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Sc、Mn、Y及びTaから選択され、XはC又はNであり、TはO基、OH基、F基又は任意の他のハロゲン基、及びS基又は任意の他のカルコゲン基から選択される末端基に対応する)を有する化合物であって、大部分が一般的な平板形状を有する結晶の形態であり、該平板が、規定の高さ(H)だけ離間した規定の長さ(L)を有する2つの対向する平行な表面を有することを特徴とし、かつ、
平板形態の前記結晶の長さが1μm~15μmであり、
平板形態の前記結晶の高さ(H)が0.2μm~1μmであり、かつ、
前記長さ(L)と前記高さ(H)との比によって規定される平板形態の前記結晶の扁平アスペクト比が5~50であることを特徴とする、化合物。
【請求項2】
Tiの式を有する、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
n+1AXの一般式(式中、nは1、2又は3であり、MはTi、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Sc、Mn、Y及びTaから選択され、AはAl、Si、P、S、Ga、Ge、As、Cd、In、Sn、Tl及びPbから選択され、XはC又はNである)を有し、
30%超、好ましくは40%超の空隙率を有するペレットの形態であり、かつ、
±0.5%未満の相対誤差の範囲内で化学量論的な元素比M/Xを有する、
MAX相型前駆化合物から得られることを特徴とする、請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項4】
前記MAX相型前駆化合物がTiAlCの式を有する、請求項3に記載の化合物。
【請求項5】
前記MAX相型前駆化合物の大部分が以下の2つのタイプの粒子断面を示す形態を有する、請求項3又は4に記載の化合物:
1μm~20μmの長さ及び0.5μm~2μmの高さを有する矩形平坦断面、及び/又は、
1μm~20μmの対角線長さを有する丸角平坦断面。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の化合物を製造するプロセスであって、酸水溶液によるMAX相型前駆化合物の化学攻撃工程を2つ含む、プロセス。
【請求項7】
中空チャンバー(4)を規定する黒鉛製金型(2)及び2つの黒鉛製パンチ(3a、3b)を備えた放電プラズマ焼結装置(1)における放電プラズマ焼結プロセスによって前記MAX相型前駆化合物を得る、請求項3~5のいずれか一項に記載の化合物を製造するプロセスであって、前記放電プラズマ焼結プロセスが、
前駆粉末を混合する工程と、
前記工程で混合した粉末を、前記中空チャンバー(4)に収容された絶縁セラミック材料製閉鎖容器(5)に入れる工程と、
放電プラズマ焼結操作を行う工程と、
前記MAX相型化合物のペレットを得る工程と、
を少なくとも含むことを特徴とする、プロセス。
【請求項8】
前記容器(5)がアルミナ系である、請求項7に記載のプロセス。
【請求項9】
前記粉末が、前記2つのパンチ(3a、3b)と接触せず、印加電流に直接曝されず、かつ、印加圧力から絶縁されており、ここで、前記電流及び前記圧力は前記放電プラズマ焼結操作中に印加されるものである、請求項7又は8に記載のプロセス。
【請求項10】
前記放電プラズマ焼結操作が、60℃/分超の昇温速度を少なくとも1回適用する熱サイクルを含む、請求項7~9のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項11】
前記熱サイクルが、
60℃/分超の昇温速度で550℃~700℃の温度まで昇温し、2分間~15分間保持する第1の昇温と、それに続く、
60℃/分超の昇温速度で1400℃~1500℃の温度まで昇温し、5分間~15分間保持する第2の昇温と、
を含む、請求項7~10のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項12】
酸水溶液による前記MAX相型前駆化合物の化学攻撃工程を2つ含む、請求項7~10のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項13】
中空チャンバー(4)を規定する黒鉛製金型(2)及び2つの黒鉛製パンチ(3a、3b)を備えた、請求項7~12のいずれか一項に記載のプロセスにおいて使用する前記MAX前駆化合物を製造するプロセスを行う放電プラズマ焼結装置であって、前記中空チャンバー(4)内に位置し、前記放電プラズマ焼結プロセスの適用時に粉末混合物を受け入れ、かつ、前記粉末混合物を、印加電流に直接曝さず、かつ、印加圧力から絶縁するように維持することができる絶縁セラミック材料製、例えばアルミナ製閉鎖容器(5)も備えることを特徴とし、ここで、前記電流及び前記圧力は前記放電プラズマ焼結操作中に印加されるものである、放電プラズマ焼結装置。
【請求項14】
中空チャンバー(4)を規定する黒鉛製金型(2)及び2つの黒鉛製パンチ(3a、3b)を備えた放電プラズマ焼結装置(1)にて、Mn+1AXの一般式(式中、nは1、2又は3であり、MはTi、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Sc、Mn、Y及びTaから選択され、AはAl、Si、P、S、Ga、Ge、As、Cd、In、Sn、Tl及びPbから選択され、XはC又はNである)を有するMAX相型化合物を製造する放電プラズマ焼結プロセスであって、
粉末を混合する工程と、
前記工程で混合した粉末を、前記中空チャンバー(4)に収容された絶縁セラミック材料製閉鎖容器(5)に入れる工程と、
放電プラズマ焼結操作を行う工程と、
前記MAX相型化合物のペレットを得る工程と、
を少なくとも含むことを特徴とする、プロセス。
【請求項15】
前記容器(5)がアルミナ系である、請求項14に記載のプロセス。
【請求項16】
前記粉末が、前記2つのパンチ(3a、3b)と接触せず、印加電流に直接曝されず、かつ、印加圧力から絶縁されており、ここで、前記電流及び前記圧力は前記放電プラズマ焼結操作中に印加されるものである、請求項14又は15に記載のプロセス。
【請求項17】
前記放電プラズマ焼結操作が、60℃/分超の昇温速度を少なくとも1回適用する熱サイクルを含む、請求項14~16のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項18】
前記熱サイクルが、
60℃/分超の昇温速度で550℃~700℃の温度まで昇温し、2分間~15分間保持する第1の昇温と、それに続く、
60℃/分超の昇温速度で1400℃~1500℃の温度まで昇温し、5分間~15分間保持する第2の昇温と、
を含む、請求項17に記載のプロセス。
【請求項19】
n+1AXの一般式(式中、nは1、2又は3であり、MはTi、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Sc、Mn、Y及びTaから選択され、AはAl、Si、P、S、Ga、Ge、As、Cd、In、Sn、Tl及びPbから選択され、XはC又はNである)を有するMAX相型化合物であって、請求項14~18のいずれか一項に記載のプロセスによって得られ、30%超、好ましくは40%超の空隙率を有するペレットの形態であり、かつ、±0.5%未満の相対誤差の範囲内で化学量論的な元素比M/Xを有する、MAX相型化合物。
【請求項20】
TiAlCの式を有する、請求項19に記載のMAX相型化合物。
【請求項21】
大部分が以下の2つのタイプの粒子断面を示す形態を有する、請求項19又は20に記載のMAX相型化合物:
1μm~20μmの長さ及び0.5μm~2μmの高さを有する矩形平坦断面、及び/又は、
1μm~20μmの対角線長さを有する丸角平坦断面。
【請求項22】
中空チャンバー(4)を規定する黒鉛製金型(2)及び2つの黒鉛製パンチ(3a、3b)を備えた、請求項14~18のいずれか一項に記載のプロセスを行う放電プラズマ焼結装置であって、前記中空チャンバー(4)内に位置し、前記放電プラズマ焼結プロセスの適用時に前記粉末混合物を受け入れ、かつ、前記粉末混合物を、印加電流に直接曝さず、かつ、印加圧力から絶縁するように維持することができる絶縁セラミック材料製、例えばアルミナ製閉鎖容器(5)も備え、ここで、前記電流及び前記圧力は前記放電プラズマ焼結操作中に印加されるものである、放電プラズマ焼結装置。
【請求項23】
n+1の一般式(式中、nは1、2又は3であり、MはTi、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Sc、Mn、Y及びTaから選択され、XはC又はNである)を有する化合物であって、請求項19~21のいずれか一項に記載のMAX相型化合物から製造される、及び/又は、請求項14~18のいずれか一項に記載のプロセスによって得られることを特徴とする、化合物。
【請求項24】
n+1の一般式(式中、nは1、2又は3であり、MはTi、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Sc、Mn、Y及びTaから選択され、XはC又はNであり、TはO基、OH基、F基又は任意の他のハロゲン基、及びS基又は任意の他のカルコゲン基から選択される末端基に対応する)を有する化合物であって、大部分が一般的な平板形状を有する結晶の形態であり、該平板が、規定の高さ(H)だけ離間した規定の長さ(L)を有する2つの対向する平行な表面を有することを特徴とし、かつ、
前記平板形態の結晶の長さが1μm~15μmであり、
前記平板形態の結晶の高さ(H)が0.2μm~1μmであり、かつ、
前記長さ(L)と前記高さ(H)との比によって規定される前記平板形態の結晶の扁平アスペクト比が5~50であることを特徴とする、請求項23に記載の化合物。
【請求項25】
Tiの式を有する、請求項24に記載の化合物。
【請求項26】
請求項24又は25に記載の化合物を製造するプロセスであって、酸水溶液による前記MAX相型前駆化合物の化学攻撃工程を2つ含む、プロセス。
【請求項27】
前記MAX相型前駆化合物が請求項18~20のいずれか一項に記載のものである、及び/又は、請求項13~17のいずれか一項に記載のプロセスによって得られる、請求項26に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MAX相と呼ばれる前駆体から合成されるラメラMXene化合物に関する。
【0002】
本発明は、MAX相型化合物を製造するプロセス、該プロセスにより得られるMAX相型化合物、該プロセスを行う装置、並びに新規な型のMXene化合物及びそれに関連する製造プロセスに関する。
【背景技術】
【0003】
MXene化合物は2011年に発見された(非特許文献1)。この化合物は、Mn+1の一般式(式中、nは1、2又は3であり、MはTi、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Sc、Mn、Y及びTaから選択され、XはC又はNである)を有し、代替的には、Mn+1(式中、TはO基、OH基、F基又は任意の他のハロゲン基、及びS基又は任意の他のカルコゲン基から選択される末端基に対応する)と呼ばれることもある。この化合物は、特許文献1において記載され、特徴付けられている。
【0004】
MXeneは、ラメラ化合物、すなわち、2次元材料(2D)であり、層間剥離して、厚さ約1nmの繰り返し単位を有する単一シートを形成することができる。これらの繰り返し単位は、nが1、2又は3の場合、それぞれ、M-X-M、M-X-M-X-M又はM-X-M-X-M-Xの構造を有する。
【0005】
これらの材料は、特に、そのラメラ構造、導電性及び/又は層間空間において種を挿入及び脱離する性質のために、多くの用途を有する。この目的のために最も研究されているMXeneは、Tiの式を有する。
【0006】
ほとんどの文献は、層間剥離後のMXeneに注目しているが、非特許文献2を含む幾つかの論文は、走査型電子顕微鏡画像(SEM)を使用して、層間剥離前のMXene粒子の形状を明らかにしている。これらの粒子は、明確な幾何学的形状を有さないバルク粒子である。また、これらの粒子は、サイズ及び形状の両方において広い分散を示す。これらの粒子の構造は、導電特性の制限を招く可能性があり、結晶内の他の種の挿入速度に関しても制限する可能性がある。例えば、様々な用途に有用な薄層を作製するために組み立てる時の結晶間の相互接続性が低いと想定することもできる。また、粒子のサイズ及び形状が大きく分散しているため、層間剥離後に均一なサイズ分布を有する薄いシートを簡単に得ることができず(一部の用途には有用である)、そのため、追加的なサイズ選択操作が必要となる。
【0007】
既知の方法においては、これらのMXene化合物は、一般的に「MAX相型化合物」又は「MAX相化合物」と呼ばれる前駆体から合成される。これらのMAX相化合物は、Mn+1AXの一般式(式中、nは1、2又は3であり、M及びXはMXeneの場合と同じであり、AはAl、Si、P、S、Ga、Ge、As、Cd、In、Sn、Tl及びPbから選択される)を有する。MAX相化合物は、MXeneと類似の構造を有するが、Mn+1繰り返し単位間に層の形態で存在する元素Aを更に含む。MXeneを製造するために、MAX相型前駆体から元素Aを化学的に除去する。ほとんどの場合、AがアルミニウムであるMAX相前駆体が好ましく、関連する方法は、フッ酸を含む酸水溶液によるMAX前駆体の化学攻撃からなる。これにより、Mn+1繰り返し単位間の空間からアルミニウムが除去され、末端基Tが残る。ほとんどの場合、Tは-F、-OH又は=Oであり、繰り返し単位の外側に位置する元素Mに結合している。化学攻撃の良好な収率を確保するために、MAX前駆体を事前に微粉砕する。化学攻撃後、生成物を数回洗浄及び遠心分離して、攻撃に使用された過剰な試薬及びAlF等の可溶性副生成物を除去する。MXeneの3次元粒子ではなく、単一シート(2D)を得ることが目的である場合には、追加的な層間剥離手順を行ってもよい。フッ酸溶液による攻撃プロセスの1つの変形形態は、上述の非特許文献2に記載されているように、フッ化物塩、典型的にはLiと、強酸、典型的にはHClとの混合溶液を使用することである。
【0008】
MAX相前駆体の合成に関して、特にTiAlCの式のMXeneを製造する最も広く普及しているプロセスは、不活性ガス流下で管状炉に、金属Mの炭化物又は窒化物粉末(MC又はMN等)と、金属A(Al等)と、金属Mとの混合物を、Mn+1AX化学量論量に到達するために必要な量で供給することである。TiAlCの特定の場合では、反応混合物はTiC、Al及びTiの粉末で構成されている。出発混合物中のアルミニウムは、わずかに化学量論過剰であってもよい。反応は高発熱性であり、爆発の危険性があるため、通常、この3つの元素(例えば、Ti、Al及びC)の混合は回避する。不活性ガス流下での管状炉の使用には、1300℃~1500℃のオーダーの温度まで数時間の昇温が必要であり、最高温度で数時間の温度保持も必要である。他の合成プロセスもあり、高圧及び/又はより制御が困難な条件に頼るもの及び/又は他の反応混合物を使用するものもある。
【0009】
MXeneの最初の合成より前であるにもかかわらず、非特許文献3において著者は、TiCと、Tiと、Alと、Alに対して約20%のSiとの混合物を使用して、放電プラズマ焼結(SPS)によってMAX相前駆体を合成した。混合物は、SPS装置の典型である黒鉛サンプルホルダーに供給され、多孔性ではない非常にコンパクトなペレット形態の生成物が得られた。この多孔性の欠如のため、上述のMAX相前駆体からMXeneを合成するのは困難となり、長期間を要する。というのは、従来技術においては、MXene化合物の妥当な合成速度のために、MAX前駆体がサブミリメートルサイズの粉末形態を有する必要があり、この粉末をコンパクトなペレットから得るのは困難であるためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2021/177712号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Naguib et al. Adv. Master. 23, 4248, 2011
【非特許文献2】Alhabeb et al. Chem. Mater. 29, 7633, 2017
【非特許文献3】Zhou et al., J. Mater. Scie. 40, 2099, 2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明は、従来技術よりも粒子の形状及びサイズの分散が少ないMXene化合物を製造することを目的とする。その結果、特に、各結晶内での種の挿入速度の増加、及び結晶層組立時のこれらの結晶間のより良好な相互接続性を確保することが可能となるだけでなく、層間剥離を介して、従来技術において報告されているものよりも、より均一な粒度分布を有するシートを得ることが可能となる。
【0013】
また、本発明は、特に上述のMXene化合物を得ることを確実にするMAX相前駆体の製造及び関連する製造プロセスに関する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的のため、本発明は、Mn+1の一般式(式中、nは1、2又は3であり、MはTi、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Sc、Mn、Y及びTaから選択され、XはC又はNであり、TはO基、OH基、F基又は任意の他のハロゲン基、及びS基又は任意の他のカルコゲン基から選択される末端基に対応する)を有する化合物であって、大部分が一般的な平板形状を有する結晶の形態であり、該平板が、規定の高さHだけ離間した規定の長さLを有する2つの対向する平行な表面を有することを特徴とし、かつ、
平板形態の上記結晶の長さが1μm~15μmであり、
平板形態の上記結晶の高さHが0.2μm~1μmであり、かつ、
上記長さLと上記高さHとの比によって規定される平板形態の上記結晶の扁平アスペクト比が5~50であることを特徴とする、化合物に関する。
【0015】
本発明の化合物は、個別に又は全ての可能な技術の組合せに従って考慮される、以下の任意の特徴も含むことができる。
Tiの式を有する。
n+1AXの一般式(式中、nは1、2又は3であり、MはTi、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Sc、Mn、Y及びTaから選択され、AはAl、Si、P、S、Ga、Ge、As、Cd、In、Sn、Tl及びPbから選択され、XはC又はNである)を有し、かつ、
30%超、好ましくは40%超の空隙率を有するペレットの形態であり、かつ、
±0.5%未満の相対誤差の範囲内で化学量論的な元素比M/Xを有する、
MAX相型前駆化合物から得られる。
上記MAX相型前駆化合物がTiAlCの式を有する。
上記MAX相型前駆化合物の大部分が以下の2つのタイプの粒子断面を示す形態を有する。
1μm~20μmの長さ及び0.5μm~2μmの高さを有する矩形平坦断面、及び/又は、
1μm~20μmの対角線長さを有する丸角平坦断面。
【0016】
また、本発明は、上述のMn+1の一般式を有する化合物を製造するプロセスであって、酸水溶液によるMAX相型前駆化合物の化学攻撃工程を2つ含む、プロセスに関する。
【0017】
さらに、本発明は、MAX相型前駆化合物から得られる上述のMn+1の一般式の化合物を製造するプロセスであって、中空チャンバーを規定する黒鉛製金型及び2つの黒鉛製パンチを備えた放電プラズマ焼結装置における放電プラズマ焼結プロセスによって上記MAX相型前駆化合物が得られ、上記放電プラズマ焼結プロセスが、
前駆粉末を混合する工程と、
上記工程で混合した粉末を、上記中空チャンバーに収容された絶縁セラミック材料製閉鎖容器に入れる工程と、
放電プラズマ焼結操作を行う工程と、
上記MAX相型化合物のペレットを得る工程と、
を少なくとも含むことを特徴とする、プロセスに関する。
【0018】
本発明のプロセスは、個別に又は全ての可能な技術の組合せに従って考慮される、以下の任意の特徴も含むことができる。
上記容器がアルミナ系である。
上記粉末が、上記2つのパンチと接触せず、印加電流に直接曝されず、かつ、印加圧力から絶縁されており、ここで、上記電流及び上記圧力は上記放電プラズマ焼結操作中に印加されるものである。
上記放電プラズマ焼結操作が、60℃/分超の昇温速度を少なくとも1回適用する熱サイクルを含む。
上記熱サイクルが、
60℃/分超の昇温速度で550℃~700℃の温度まで昇温し、2分間~15分間保持する第1の昇温と、それに続く、
60℃/分超の昇温速度で1400℃~1500℃の温度まで昇温し、5分間~15分間保持する第2の昇温と、
を含む。
上記プロセスが、酸水溶液による上記MAX相型前駆化合物の化学攻撃工程を2つ含む。
【0019】
また、本発明は、上述のMn+1の一般式の化合物を製造するプロセスにおいて使用するMAX前駆化合物の製造プロセスを実施するための、中空チャンバーを規定する黒鉛製金型及び2つの黒鉛製パンチを備えた放電プラズマ焼結装置であって、上記中空チャンバー内に位置し、上記放電プラズマ焼結プロセスの適用時に粉末混合物を受け入れ、かつ、上記粉末混合物を、印加電流に直接曝さず、かつ、印加圧力から絶縁するように維持することができる絶縁セラミック材料製、例えばアルミナ製閉鎖容器も備え、ここで、上記電流及び上記圧力は上記放電プラズマ焼結操作中に印加されるものである、放電プラズマ焼結装置に関する。
【0020】
さらに、本発明は、中空チャンバーを規定する黒鉛製金型及び2つの黒鉛製パンチを備えた放電プラズマ焼結装置にて、Mn+1AXの一般式(式中、nは1、2又は3であり、MはTi、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Sc、Mn、Y及びTaから選択され、AはAl、Si、P、S、Ga、Ge、As、Cd、In、Sn、Tl及びPbから選択され、XはC又はNである)を有するMAX相型化合物を製造する放電プラズマ焼結プロセスであって、、
粉末を混合する工程と、
上記工程で混合した粉末を、上記中空チャンバーに収容された絶縁セラミック材料製閉鎖容器に入れる工程と、
放電プラズマ焼結操作を行う工程と、
上記MAX相型化合物のペレットを得る工程と、
を少なくとも含むことを特徴とする、プロセスに関する。
【0021】
本発明の放電プラズマ焼結プロセスは、個別に又は全ての可能な技術の組合せに従って考慮される、以下の任意の特徴も含むことができる。
上記容器がアルミナ系である。
上記粉末が、上記2つのパンチと接触せず、印加電流に直接曝されず、かつ、印加圧力から絶縁されており、ここで、上記電流及び上記圧力は上記放電プラズマ焼結操作中に印加されるものである。
上記放電プラズマ焼結操作が、60℃/分超の昇温速度を少なくとも1回適用する熱サイクルを含む。
上記熱サイクルが、
60℃/分超の昇温速度で550℃~700℃の温度まで昇温し、2分間~15分間保持する第1の昇温と、それに続く、
60℃/分超の昇温速度で1400℃~1500℃の温度まで昇温し、5分間~15分間保持する第2の昇温と、
を含む。
【0022】
また、本発明は、Mn+1AXの一般式(式中、nは1、2又は3であり、MはTi、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Sc、Mn、Y及びTaから選択され、AはAl、Si、P、S、Ga、Ge、As、Cd、In、Sn、Tl及びPbから選択され、XはC又はNである)を有するMAX相型化合物であって、上述の放電プラズマ焼結プロセスによって得られ、30%超、好ましくは40%超の空隙率を有するペレットの形態であり、かつ、±0.5%未満の相対誤差の範囲内で化学量論的な元素比M/Xを有する、MAX相型化合物に関する。
【0023】
本発明のMAX相型化合物は、個別に又は全ての可能な技術の組合せに従って考慮される、以下の任意の特徴も含むことができる。
TiAlCの式を有する。
大部分が以下の2つのタイプの粒子断面を示す形態を有する。
1μm~20μmの長さ及び0.5μm~2μmの高さを有する矩形平坦断面、及び/又は、
1μm~20μmの対角線長さを有する丸角平坦断面。
【0024】
さらに、本発明は、中空チャンバーを規定する黒鉛製金型及び2つの黒鉛製パンチを備えた、上述の本発明の放電プラズマ焼結プロセスを行う放電プラズマ焼結装置であって、上記中空チャンバー内に位置し、上記放電プラズマ焼結プロセスの適用時に粉末混合物を受け入れ、かつ、上記粉末混合物を、印加電流に直接曝さず、かつ、印加圧力から絶縁するように維持することができる絶縁セラミック材料製、例えばアルミナ製閉鎖容器も備え、ここで、上記電流及び上記圧力は上記放電プラズマ焼結操作中に印加されるものである、放電プラズマ焼結装置に関する。
【0025】
さらに、本発明は、Mn+1の一般式(式中、nは1、2又は3であり、MはTi、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Sc、Mn、Y及びTaから選択され、XはC又はNである)を有する化合物であって、上述の本発明のMAX相型化合物から製造される、及び/又は、上述の本発明の放電プラズマ焼結プロセスによって得られることを特徴とする、化合物に関する。
【0026】
有利には、Mn+1の一般式(式中、nは1、2又は3であり、MはTi、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Sc、Mn、Y及びTaから選択され、XはC又はNであり、TはO基、OH基、F基又は任意の他のハロゲン基、及びS基又は任意の他のカルコゲン基から選択される末端基に対応する)を有する化合物において、大部分が一般的な平板形状を有する結晶の形態であり、該平板が、規定の高さHだけ離間した規定の長さLを有する2つの対向する平行な表面を有し、かつ、
平板形態の上記結晶の長さが1μm~15μmであり、
平板形態の上記結晶の高さHが0.2μm~1μmであり、かつ、
上記長さLと上記高さHとの比によって規定される平板形態の上記結晶の扁平アスペクト比が5~50である。
【0027】
より有利には、上記化合物はTiの式を有する。
【0028】
最後に、本発明は、Mn+1の一般式を有するかかる化合物を製造するプロセスであって、酸水溶液による上記MAX相型前駆化合物の化学攻撃工程を2つ含む、プロセスに関する。
【0029】
有利には、本発明のMAX相型前駆化合物は、上述したものである、及び/又は、上述の本発明の放電プラズマ焼結プロセスによって得られる。
【0030】
本発明の他の特徴点及び利点は、添付の図面を参照して、例示的な目的で与えられた、非限定的な以下の説明から明らかになるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の放電プラズマ焼結プロセス(SPS)を行って、本発明のMAX相型の前駆体を製造するために使用する本発明の装置の概略図である。
図2A】本発明の放電プラズマ焼結プロセスによって得られた本発明のMax相型前駆体のペレットの断面を、600倍の倍率で撮影した走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。ペレットは粗粉砕されている。
図2B】本発明の放電プラズマ焼結プロセスによって得られた本発明のMax相型前駆体のペレットの断面を、2500倍の倍率で撮影した走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。ペレットは粗粉砕されている。
図3A】従来技術のMAX相型前駆体を、600倍の倍率で撮影した走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
図3B】従来技術のMAX相型前駆体を、2500倍の倍率で撮影した走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
図4A】本発明の化学攻撃プロセスによって、本発明のMAX相型前駆体から得られた本発明のMXene化合物を、600倍の倍率で撮影した走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。ペレット形態の前駆体は粗粉砕した。
図4B】本発明の化学攻撃プロセスによって、本発明のMAX相型前駆体から得られた本発明のMXene化合物を、2500倍の倍率で撮影した走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。ペレット形態の前駆体は粗粉砕した。
図4C】本発明の化学攻撃プロセスによって、本発明のMAX相型前駆体から得られた本発明のMXene化合物を、4500倍の倍率で撮影した走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。ペレット形態の前駆体は粗粉砕した。
図5A】本発明の化学攻撃プロセスによって、本発明のMAX相型前駆体から得られたTiの式を有する本発明のMXene化合物を、600倍の倍率で撮影した走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。ペレット形態の前駆体は微粉砕した。
図5B】本発明の化学攻撃プロセスによって、本発明のMAX相型前駆体から得られたTiの式を有する本発明のMXene化合物を、2500倍の倍率で撮影した走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。ペレット形態の前駆体は微粉砕した。
図5C】本発明の化学攻撃プロセスによって、本発明のMAX相型前駆体から得られたTiの式を有する本発明のMXene化合物を、4500倍の倍率で撮影した走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。ペレット形態の前駆体は微粉砕した。
図6】Tiの式を有する本発明のMXene化合物のX線回折図であり、四角で囲まれた部分は、低強度のピークの拡大に対応している。
図7A図3A及び図3Bの従来技術のMAX相前駆体に対して、本発明に従う2回の化学攻撃を適用することによって得られたMXene型化合物を、600倍の倍率で撮影した走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
図7B図3A及び図3Bの従来技術のMAX相前駆体に対して、本発明に従う2回の化学攻撃を適用することによって得られたMXene型化合物を、2500倍の倍率で撮影した走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
図7C図3A及び図3Bの従来技術のMAX相前駆体に対して、本発明に従う2回の化学攻撃を適用することによって得られたMXene型化合物を、4500倍の倍率で撮影した走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
図8】Tiの式を有する本発明のMXene化合物のエネルギー分散型X線(EDX)スペクトルである。
図9】従来技術のMAX相前駆体から得られたMXene化合物のエネルギー分散型X線(EDX)スペクトルである。
図10図2A及び図2Bに示す本発明のMAX相化合物のX線回折図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明は、第1に、本発明のMAX相前駆体から得られ得るMXene化合物、並びにMAX相前駆体を製造する本発明のプロセス及び関連する装置を含む、MXene化合物を製造するプロセスに関する。
【0033】
また、本発明は、MAX相前駆体を製造する第1の革新的プロセス及び関連する装置に関する。この前駆体は、続いて、第2の革新的製造プロセスに従って、本発明のMXene化合物を製造するために使用される。
【0034】
MAX相前駆体、特に、しかし非限定的にTiAlCの式を有するMAX相前駆体を製造するプロセスは、既知の放電プラズマ焼結SPS技術に基づいている。
【0035】
図1を参照すると、また既知の方法においても、このプロセスは、中空チャンバー4を画定する黒鉛金型2並びに下側3a及び上側3bの各パンチを備えた装置1の使用を含む。この単独の構成が、この焼結技術を行うために広く販売され、使用されているSPS装置に対応している。
【0036】
本発明において、装置1は、中空チャンバー4内に収容され、高温耐熱性があり化学的に中性の絶縁材料製中空シリンダー6と、同じ材料から形成され、中空シリンダー6の両端に取り付けられた円板状の下側7a及び上側7bのカバーとから構成される閉鎖中空容器5を更に備える。例えば、中空シリンダー6及びカバー7a、7bは、アルミナ製又は別の絶縁セラミック材料製とすることができる。MAX相前駆体の合成に使用する粉末混合物を、アルミナ製中空容器5に入れ、次いで、真空の適用及び昇温という既知の操作を適用する。冷却後、円筒形のペレットが得られる。
【0037】
TiAlCの組成を有するMAX相前駆体を合成するために、市販のチタン、アルミニウム及び炭化チタンの粉末を使用して、瑪瑙乳鉢で混合する。3つの成分をより微細に混合するために、混合物をボールミルに通過させる。Ti:Al:TiC混合物の組成は化学量論的(±0.5%未満の相対誤差の範囲内で、それぞれ1:1:2の元素比)とすることができるが、アルミニウムをわずかに過剰にする、特に、それぞれ1:1.1:2の元素比とすることが好ましい。すなわち、元素比Ti/Cが、±0.5%未満の相対誤差の範囲内で化学量論的である。
【0038】
中空シリンダー6及びその下側カバー7aが既に所定の位置にある状態で、粉末混合物を図1の装置の中空アルミナ容器5に装填する。粉末は中空容器5内で圧縮され、その後、容器5の上側カバー7b及び黒鉛製上側パンチ3bを所定の位置に配置する。真空を適用した後、約1400℃~1600℃、より具体的には1450℃の温度まで5分~15分間の急速な昇温(約15分~30分)を含む熱サイクルを行う。より一般的には、昇温速度は60℃/分超である。より具体的には、熱サイクルは、60℃/分超の昇温速度で550℃~700℃の温度まで昇温し、2分間~15分間保持する第1の昇温と、それに続く、60℃/分超の昇温速度で1400℃~1500℃の温度まで昇温し、5分間~15分間保持する第2の昇温とを含む。
【0039】
円筒形の多孔質ペレットが得られる。以下に示すように、この多孔性はMXene化合物の合成に不可欠である。
【0040】
比較例1において詳述されるように、従来技術のSPS技術(アルミナ製中空容器なし)を使用して、MAX相前駆体の合成試験を行った。これらの試験では、粉末混合物を、黒鉛製の金型及びパンチによって形成された組立体に装填した。XRD分析によると、これらの試験により、未確認の結晶相の他のピークを有するMAX相の混合物が得られた。炭化チタンTiCの強い存在も確認された。また、ペレットは非常に緻密で、コンパクトで、多孔性ではなかった。粉砕するのが困難であり、化学攻撃を行うのが困難であった。
【0041】
既知のSPS技術によって得られたMAX相前駆体と、本発明のプロセス及び装置によって得られたMAX相前駆体との間のこれらの違いは、幾つかの要因に起因する可能性がある。従来のSPS技術を使用すると、粉末混合物と黒鉛製部品の組立体の炭素との追加の反応が起こる可能性がある。追加的又は付随的に、粉末混合物には、黒鉛パンチに加わるものと同じ大きさの高圧がかかる。また付随的に、電流が粉末反応混合物に流れ、これが成分の1つのエレクロトマイグレーション現象を引き起こす可能性がある。
【0042】
したがって、SPS装置の通常の使用とは対照的に、本発明においては、粉末混合物は、黒鉛と接触させず、印加電流に直接曝さず、かつ、印加圧力から絶縁する。これにより、革新的なMAX相前駆体を多孔質ペレットの形態で得ることができ、以下に示すように、特定の結晶構成を有するMXene化合物の合成が可能となる。
【0043】
本発明の第2のプロセスは、上述の本発明のプロセスによって得られたMAX相前駆体を化学攻撃することにより、MXene化合物を合成するプロセスである。化学攻撃は、フッ酸水溶液を使用して行う。より具体的には、in situで形成されたフッ酸水溶液、更に具体的には、フッ化リチウム等のフッ化物塩と、塩酸等の強酸との混合物が使用され、フッ素種の濃度は5M未満である。
【0044】
本発明においては、少なくとも2回の化学攻撃が行われ、各追加の攻撃工程は、生成物の回収及びフッ酸溶液による攻撃を新たに行うことからなる。
【0045】
ほとんどが平板形態の結晶から構成される形態を有し、特にTiの式を有するMXene化合物が得られる。これらの平板は、2つの平行な平面を有し、平板の長さLと高さHとの比で規定される扁平アスペクト比は、5~50、平均で約10である。結晶のサイズ分布は比較的均一で、1ミクロン~15ミクロンの長さ及び0.2ミクロン~1ミクロンの高さHを有する結晶が大部分を占める。この分布及び扁平アスペクト比は、それぞれ、走査型電子顕微鏡(SEM)画像において測定された距離のカウント及びSEM画像上での測定によって評価する。
【0046】
この2回の化学攻撃によるMXene化合物の製造プロセスを、微粉砕した本発明のMAX相前駆体だけでなく、粗粉砕した本発明のMAX相前駆体にも適用した。以下で詳細に示すように、MAX相前駆体を化学攻撃前に微粉砕すると、両方の場合において、結晶の大部分の形態が上記で規定したような平板形態で同じまま、粒子のサイズ分散の向上が観察される。
【0047】
2回の化学攻撃によるMXene化合物の同じ製造プロセスを、比較の目的で、市販のMAX相前駆体にも適用した。得られたMXene化合物の形態は、本発明の形態とは全く異なる(比較例2並びに図7A図7B及び図7C)。これらの結果から、平板形態の本発明のMXene化合物の取得が、本発明のMAX相前駆体の特異性と関係していることが分かる。この特異性が、本発明のMXene化合物のこの特別な結晶形態を誘導すると考えられ、後続の2回の化学攻撃はこの結晶形態を劣化させない。
【0048】
形態的な特徴は、走査型電子顕微鏡(SEM)画像で、幾つかの試料中の複数の結晶の目視観察及び測定によって明らかとなる。この観察及び測定は、各試料において幾つかの点で行う。現在まで本発明者らの知る限り、粒子が球状粒子に近似できない場合、及びサイズが大きいため粒子を懸濁液に入れることが困難である場合に、扁平アスペクト比及び粒度分布を測定する画像化に代わる信頼できる定量技術は存在しない。
【0049】
本発明のMXene化合物の結晶形態の例を、図4A図4B及び図4Cに示す。これらは、上述の結晶形態を有する本発明のTi化合物のSEM画像を幾つかの倍率で示す。
【0050】
本発明のプロセスによって得られた化合物が、「MXene」型、特にTiの組成を有する化合物に対応することは、以下の2つの技術:Cu Kα放射線源を用いたX線粉末回折(XRD)による結晶相の分析(図6)、及びSEM装置に組み込まれたEDX検出器によるエネルギー分散型X線分光分析(EDX)(図8)によって確認された。
【0051】
図6に示されるように、上述のプロセスによって得られた本発明のMXene化合物のX線回折図は、角度2θが6.5°~6.9°に位置する、符号9で示される大きなピークによって特徴付けられる。これは、(hkl)=(002)面に対応し、Ti単位で構成されるラメラ面の面間距離に対応する。より低密度で、より大角度のピークも観察することができる。これらのピークは、主に、(002)面のレプリカに対応するため、主要ピークの角度の倍数に対応する。
【0052】
Tiの式を有する本発明のMXene化合物の元素分析を、エネルギー分散型X線(EDX)分光分析によって行った。図8を参照すると、EDXから、TiとCとの組成であり、Alが存在しない(図9に示す従来技術のMAX相前駆体から得られたMXene化合物のEDXとは対照的に、約1.5keVにピークが存在しない)ことが分かる。これは、Tiの組成を有するMXene化合物の主要構造単位と、-OH基又は=O基、-F基及び-Cl基に対応するT末端基の混合物に対応するO元素、F元素及びCl元素とに対応している。後述の実施例2の手順に従って得られた試料の定量的EDX分析から、末端基を形成する元素のTiに対する原子比、すなわち、Cl/Ti、F/Ti及びO/Tiが、それぞれ平均で、0.05、0.5及び0.4であることが分かる。
【0053】
合成又は後処理条件の変更により、末端基Tの組成が異なるものとなる場合があり、又は末端基の1つのタイプが存在しない場合があるが、そのような場合であっても、得られる化合物は、依然として、MXene型、特にTiの化合物である。MXene化合物においては、アルミニウムが存在しないことに留意されたい。これは、化学攻撃が長時間(48時間超)続いても、強酸性媒体及びMAX相前駆体に対して過剰なFが攻撃工程の終了時にまだ存在していても、化学攻撃が1つの工程のみを含む場合とは対照的である。この場合、1回の化学攻撃では、Al/Ti比が約0.01であることが確認され、これは、上述の非特許文献2における0.003~0.01のAl/Ti比に対応する。
【実施例
【0054】
実施例1:TiAlCの組成を有するMAX相前駆体の合成
富士電波工機株式会社によりドクターシンターラボ.Jr(型番:SPS-211Lx)の名称で市販されている放電プラズマ焼結装置を使用した。この装置を、図1を参照して説明したように、本発明に従って変更し、黒鉛金型2並びに2つの黒鉛パンチ3a及び3bを維持したが、中空アルミナ容器5を形成する中空アルミナシリンダー6並びに上側7a及び下側7aのアルミナディスクを中空チャンバー4に追加した。後述の粉末混合物を容器5に入れ、圧縮し、黒鉛製のパンチ及び金型を流れる電流から電気的に絶縁した状態に保持した。混合物を、パンチによって加わる圧力からも絶縁した状態に保持し、操作時間全体を通して黒鉛と接触することなく維持した。
【0055】
市販のチタン、アルミニウム及び炭化チタンの粉末を、粉末混合物の総重量を約5gとして、それぞれ1:1.1:2の元素比で瑪瑙乳鉢において混合した。混合物を、炭化タングステン製の鉢及び球を備えたボールミルに1時間15分間入れ、300rpmの速度で粉砕した。下側カバー7aが既に装置内の所定の位置にある状態で、中空シリンダー6内に粉砕粉末1gを入れた。出力を圧縮し、上側カバー7bを中空シリンダー6の上端に配置し、それにより中空容器5を形成した。黒鉛製上側パンチ3bが所定の位置にある状態で、組立体1全体をSPS装置に入れ、真空を適用した。以下の熱サイクル:580℃まで6分間の昇温、580℃で5分間の温度保持、1450℃まで12分間の昇温、及び1450℃で8分間の温度保持を適用した。熱サイクルが完了すると、温度は約5分~10分間で580℃未満まで急速に低下する。円筒形の多孔質ペレットが得られる。ペレットの空隙率は30%超であり、ほとんどの場合、40%超であり、更にほとんどの場合、約50%又は50%超である。この空隙率は、ペレットの測定体積と、ペレットの理論密度及び重量から計算された圧縮材料の体積との差によって評価する。
【0056】
図2A及び図2Bに、本発明によって得られたMAX相前駆体の多孔質ペレットの粗粉砕後の形態を示す。これらの画像を、図3A及び図3BにおけるMAX相化合物の市販粉末の画像と比較する。2つの化合物の間には明確な違いが確認される。本発明の前駆体の場合、粒子は共に結合しているが、それとは対照的に、従来技術のMAX相化合物は、粒子サイズ(数十ナノメートル~数十マイクロメートル)の分散が大きな粒子のクラスターによって特徴付けられる。図3A及び図3Bの画像は、上述の文献で得られ、公開されているようなMAX相化合物と類似している。
【0057】
さらに、図2Bに示すように、本発明によるMAX相は、化学攻撃後に得られるMXeneの粒子形状のような断面を示す接合粒子を示す。特に、数多くの粒子断面が、粉砕部分における断面の配向によって、1μm~20μmの長さ及び0.5μm~2μmの高さを有する矩形平坦断面、又は1μm~20μmの対角線長さを有する丸みを帯びた外形を有する丸角平坦断面のいずれかを有するように見える。このMAX相の粒子は単離されておらず、接合しているため、これらの寸法は大まかな推定である。
【0058】
図10を参照すると、この例で得られた本発明のMAX相化合物のCu Kα放射線源を用いたX線回折図は、最初の粉末に含まれる炭化チタン相に起因する角度2θが36.0°における低強度のピークが加わったTiAlC化合物の結晶相に対応する。この炭化チタン相は、MAX相化合物の結晶相の5体積%未満であると推定される。
【0059】
本発明のMAX相化合物のEDXスペクトルから、このMAX相の組成に含まれる3つの元素、すなわちチタン、アルミニウム及び炭素の存在、並びに不純物、例えば、酸素又は任意の他の元素等の不存在が分かる。
【0060】
比較例1:従来技術のSPS装置におけるTiAlCの組成を有するMAX相前駆体の試作
実施例1で記載及び調製した粉末混合物を、実施例1のように市販の放電プラズマ焼結装置に装填した。実施例1で使用した装置とは対照的に、この装置は変更しなかった。すなわち粉末は、電流及び圧力に曝される中空黒鉛チャンバーに投入された。最高保持温度(1150℃~1450℃)、温度保持時間(8分~24分)、及び650℃での中間保持の追加等の幾つかの加熱パラメーターを試験した。これら全ての試験で、多孔性ではない非常にコンパクトなペレットが得られた。このペレットは、その広範なコンパクトさのために、1回以上の化学攻撃を与えて、MXene化合物を製造するには不適当であった。
【0061】
また、X線回折法による分析により得られたペレットの組成は、その取得が望まれるTiAlCを損なうほど、炭化チタンを多く含んでいた。
【0062】
粉末混合物中、Alに対して20原子%のSiを添加することにより、他の試験を行った(非特許文献3の例に従う)。ここで得られたペレットも、多孔性がなく非常にコンパクトであった。また、X線回折法による分析から、生成物は明らかに、追加の未確認相が存在するTi(Al1-xSi)Cの式を有するものであることが分かる。
【0063】
したがって、放電プラズマ焼結による従来技術の焼結技術では、後にMXene化合物の合成を可能とするMAX相化合物を得ることができない。
【0064】
実施例2:実施例1の粗粉砕MAX相前駆体からのTiの式を有するMXene化合物の製造
実施例1で得られたTiAlCの多孔質ペレットを、瑪瑙乳鉢で粗粉砕し、大部分が約1mm~2mmのクラスターとした。1回目の化学攻撃を、in situで形成したフッ酸溶液を使用して行った。そのために、実施例1で得られたTiAlCの式を有するMAX相化合物0.5gを、約50mL容のテフロン遠心管に入れ、これに、2Mフッ化リチウム及び6M塩酸を含む予め調製された水溶液10mLを加えた。マグネチックスターラーを用いてこの混合物を周囲温度で5分間撹拌したままにした。管を35℃の温度制御浴に約72時間入れて撹拌を続けた。
【0065】
この1回目の攻撃の後、脱酸素水を約35mLのレベルまで加え、9000rpmで10分~15分間遠心分離し、その後、上澄みを排出して沈殿物を維持した。次いで、2Mフッ化リチウム及び6M塩酸を含む同じ水溶液10mL~20mLを沈殿物上に注ぎ、35℃の温度制御浴中で約72時間撹拌することにより、2回目の化学攻撃を行った。
【0066】
この2回目の化学攻撃の完了時に、5分間撹拌しながら脱酸素水(典型的には200mL)を添加してすすぎ工程を行い、続いて、9000rpmで10分~15分間遠心分離を行い、上澄みを排出して沈殿物を維持した。上澄みのpHが4.5以上になるまでこの操作を約5回繰り返した。次いで、沈殿物を、エタノールによるすすぎ及び遠心分離の2つの工程においてエタノールで洗浄し、次いで、エタノールで覆って保管した。代替的には、沈殿物を、40℃~120℃の温度で真空加熱することによって乾燥させることができる。
【0067】
このようにして、Ti、又はより一般的にはTiの式を有するMXene化合物が得られる。図4A図4B及び図4Cに、この化合物の結晶形態を示す。この化合物が、2つの平行な平面を有する平板の形態で互いに分離された結晶で構成されていることが確認される。扁平アスペクト比(結晶の長さLと高さHとの比)は5~50であり、平均で約10である。結晶のサイズ分布は比較的均一であり、結晶の長さLは1ミクロン~15ミクロンであり、高さは0.2ミクロン~1ミクロンである。
【0068】
上述のように、図6のX線回折図は、角度2θが6.5°~6.9°に位置する、符号9で示される大きなピークによって特徴付けられる。これは、(hkl)=(002)面に対応し、Ti単位で構成されるラメラ面の面間距離に対応する。
【0069】
この同じ化合物のEDXスペクトル(図8)から、このMXene型化合物の組成中に2つの主要な元素、すなわちチタン及び炭素が存在することに加えて、末端基T、特に-F基、-Cl基、=O基又は-OH基に対応し得るフッ素、酸素及び塩素が存在することが分かる。上述のように、EDXスペクトルからは、Al元素が存在しないことも分かる。これは、MAX相前駆体全体が攻撃され、酸化物Al等のアルミニウムを含む副生成物が残っていないことを意味する。
【0070】
実施例3:実施例1の微粉砕MAX相前駆体からのTiの式を有するMXene化合物の製造
実施例1で得られたTiAlCの多孔質ペレットを瑪瑙乳鉢で粉砕し、次いで微粉砕した。この粉末をメッシュサイズ50μmの篩に通した。これにより、0.50μm未満の粒子サイズを有する粉末が得られた。実施例2に記載されたものと同じ2回の化学攻撃及びすすぎの手順を適用した。
【0071】
図5A図5B及び図5Cに、この化合物の結晶形態を示す。この化合物も、2つの平行な平面を有する平板の形態で互いに分離された結晶で構成されていることが確認される。扁平アスペクト比(結晶の長さLと高さHとの比)も5~50であり、平均で約10である。結晶のサイズ分布は比較的均一であり、結晶の長さLは1ミクロン~15ミクロンであり、高さHは0.2ミクロン~1ミクロンである。それにもかかわらず、約1ミクロン以下のサイズを有する結晶の強い存在が確認される。これらの結晶は、平板形態ではなく、バルク形状(長さLと同じオーダーの高さH)であることが多いが、ほとんどの結晶は平板形態である。
【0072】
X線回折図及びEDXスペクトルは、実施例2で説明したものと同じである。
【0073】
比較例2:従来技術のMAX相前駆体TiAlCからのTiの式を有するMXene化合物の製造
TiAlCの名称で販売されている市販のMAX相前駆体の2つのバッチを使用した。これらは両方とも、約50ミクロン未満の粒子サイズを有する微粉末の外観を有していた。これらの化合物のSEM画像(図3A及び図3B)から、数十ミクロンから数十ナノメートルの粒子サイズの不均一な分散を有することが分かる。
【0074】
実施例2に記載されたものと同じ2回の化学攻撃及びすすぎの手順を各バッチに適用した。
【0075】
図7A図7B及び図7Cに、得られたMXene化合物の結晶形態を示す。化合物は主にバルク形状(高さと同じオーダーの長さ)の粒子及び粒子クラスターで構成されている。これらの粒子のごく少数が平板形態を有している。粒子サイズの分散は、数十ミクロンから数十ナノメートルで非常に不均一である。この形態は、使用したMAX相前駆体の両方のバッチにおいて同じであった。この形態は、文献で報告された形態とも一致している。
【0076】
得られた2つのMXene化合物のX線回折図は、実施例2で得られた本発明の化合物の回折図と類似している。EDXスペクトル(図9)から、実施例2で得られた化合物の場合と同様に、このMXene型化合物の組成中に2つの主要な元素、すなわちチタン及び炭素が存在することに加えて、末端基T、特に-F基、-Cl基、=O基又は-OH基に対応し得るフッ素、酸素及び塩素が存在することが分かる。
【0077】
その一方で、これらのスペクトルからは、実施例2及び実施例3(図8)の本発明のMXene化合物とは対照的に、不純物としてアルミニウムが存在することも分かる。原子比Al/Tiは、多くの粒子を含む画像で取得されたEDXスペクトル(図9のスペクトル等)から、0.03~0.04であると評価される。個々の粒子のEDX分析から、アルミニウムが主に酸化アルミニウムのサブマイクロメートル粒子として存在することが分かり、これは、間違いなく化合物Alである。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図6
図7A
図7B
図7C
図8
図9
図10
【手続補正書】
【提出日】2024-06-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
n+1の一般式(式中、nは1、2又は3であり、MはTi、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Sc、Mn、Y及びTaから選択され、XはC又はNであり、TはO基、OH基、F基又は任意の他のハロゲン基、及びS基又は任意の他のカルコゲン基から選択される末端基に対応する)を有する化合物であって、大部分が一般的な平板形状を有する結晶の形態であり、該平板が、規定の高さ(H)だけ離間した規定の長さ(L)を有する2つの対向する平行な表面を有することを特徴とし、かつ、
平板形態の前記結晶の長さが1μm~15μmであり、
平板形態の前記結晶の高さ(H)が0.2μm~1μmであり、かつ、
前記長さ(L)と前記高さ(H)との比によって規定される平板形態の前記結晶の扁平アスペクト比が5~50であることを特徴とする、化合物。
【請求項2】
Tiの式を有する、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
n+1AXの一般式(式中、nは1、2又は3であり、MはTi、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Sc、Mn、Y及びTaから選択され、AはAl、Si、P、S、Ga、Ge、As、Cd、In、Sn、Tl及びPbから選択され、XはC又はNである)を有し、
30%超、好ましくは40%超の空隙率を有するペレットの形態であり、かつ、
±0.5%未満の相対誤差の範囲内で化学量論的な元素比M/Xを有する、
MAX相型前駆化合物から得られることを特徴とする、請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項4】
前記MAX相型前駆化合物がTiAlCの式を有する、請求項3に記載の化合物。
【請求項5】
前記MAX相型前駆化合物の大部分が以下の2つのタイプの粒子断面を示す形態を有する、請求項3に記載の化合物:
1μm~20μmの長さ及び0.5μm~2μmの高さを有する矩形平坦断面、及び/又は、
1μm~20μmの対角線長さを有する丸角平坦断面。
【請求項6】
請求項1に記載の化合物を製造するプロセスであって、酸水溶液によるMAX相型前駆化合物の化学攻撃工程を2つ含む、プロセス。
【請求項7】
中空チャンバー(4)を規定する黒鉛製金型(2)及び2つの黒鉛製パンチ(3a、3b)を備えた放電プラズマ焼結装置(1)における放電プラズマ焼結プロセスによって前記MAX相型前駆化合物を得る、請求項3に記載の化合物を製造するプロセスであって、前記放電プラズマ焼結プロセスが、
前駆粉末を混合する工程と、
前記工程で混合した粉末を、前記中空チャンバー(4)に収容された絶縁セラミック材料製閉鎖容器(5)に入れる工程と、
放電プラズマ焼結操作を行う工程と、
前記MAX相型化合物のペレットを得る工程と、
を少なくとも含むことを特徴とする、プロセス。
【請求項8】
前記容器(5)がアルミナ系である、請求項7に記載のプロセス。
【請求項9】
前記粉末が、前記2つのパンチ(3a、3b)と接触せず、印加電流に直接曝されず、かつ、印加圧力から絶縁されており、ここで、前記電流及び前記圧力は前記放電プラズマ焼結操作中に印加されるものである、請求項7に記載のプロセス。
【請求項10】
前記放電プラズマ焼結操作が、60℃/分超の昇温速度を少なくとも1回適用する熱サイクルを含む、請求項7に記載のプロセス。
【請求項11】
前記熱サイクルが、
60℃/分超の昇温速度で550℃~700℃の温度まで昇温し、2分間~15分間保持する第1の昇温と、それに続く、
60℃/分超の昇温速度で1400℃~1500℃の温度まで昇温し、5分間~15分間保持する第2の昇温と、
を含む、請求項10に記載のプロセス。
【請求項12】
酸水溶液による前記MAX相型前駆化合物の化学攻撃工程を2つ含む、請求項7に記載のプロセス。
【請求項13】
中空チャンバー(4)を規定する黒鉛製金型(2)及び2つの黒鉛製パンチ(3a、3b)を備えた、請求項7に記載のプロセスにおいて使用する前記MAX相型前駆化合物を製造するプロセスを行う放電プラズマ焼結装置であって、前記中空チャンバー(4)内に位置し、前記放電プラズマ焼結プロセスの適用時に粉末混合物を受け入れ、かつ、前記粉末混合物を、印加電流に直接曝さず、かつ、印加圧力から絶縁するように維持することができる絶縁セラミック材料製、例えばアルミナ製閉鎖容器(5)も備えることを特徴とし、ここで、前記電流及び前記圧力は前記放電プラズマ焼結操作中に印加されるものである、放電プラズマ焼結装置。
【請求項14】
中空チャンバー(4)を規定する黒鉛製金型(2)及び2つの黒鉛製パンチ(3a、3b)を備えた放電プラズマ焼結装置(1)にて、Mn+1AXの一般式(式中、nは1、2又は3であり、MはTi、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Sc、Mn、Y及びTaから選択され、AはAl、Si、P、S、Ga、Ge、As、Cd、In、Sn、Tl及びPbから選択され、XはC又はNである)を有するMAX相型化合物を製造する放電プラズマ焼結プロセスであって、
粉末を混合する工程と、
前記工程で混合した粉末を、前記中空チャンバー(4)に収容された絶縁セラミック材料製閉鎖容器(5)に入れる工程と、
放電プラズマ焼結操作を行う工程と、
前記MAX相型化合物のペレットを得る工程と、
を少なくとも含むことを特徴とする、プロセス。
【請求項15】
前記容器(5)がアルミナ系である、請求項14に記載のプロセス。
【請求項16】
前記粉末が、前記2つのパンチ(3a、3b)と接触せず、印加電流に直接曝されず、かつ、印加圧力から絶縁されており、ここで、前記電流及び前記圧力は前記放電プラズマ焼結操作中に印加されるものである、請求項14又は15に記載のプロセス。
【請求項17】
前記放電プラズマ焼結操作が、60℃/分超の昇温速度を少なくとも1回適用する熱サイクルを含む、請求項14に記載のプロセス。
【請求項18】
前記熱サイクルが、
60℃/分超の昇温速度で550℃~700℃の温度まで昇温し、2分間~15分間保持する第1の昇温と、それに続く、
60℃/分超の昇温速度で1400℃~1500℃の温度まで昇温し、5分間~15分間保持する第2の昇温と、
を含む、請求項17に記載のプロセス。
【請求項19】
n+1AXの一般式(式中、nは1、2又は3であり、MはTi、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Sc、Mn、Y及びTaから選択され、AはAl、Si、P、S、Ga、Ge、As、Cd、In、Sn、Tl及びPbから選択され、XはC又はNである)を有するMAX相型化合物であって、請求項14に記載のプロセスによって得られ、30%超、好ましくは40%超の空隙率を有するペレットの形態であり、かつ、±0.5%未満の相対誤差の範囲内で化学量論的な元素比M/Xを有する、MAX相型化合物。
【請求項20】
TiAlCの式を有する、請求項19に記載のMAX相型化合物。
【請求項21】
大部分が以下の2つのタイプの粒子断面を示す形態を有する、請求項19又は20に記載のMAX相型化合物:
1μm~20μmの長さ及び0.5μm~2μmの高さを有する矩形平坦断面、及び/又は、
1μm~20μmの対角線長さを有する丸角平坦断面。
【請求項22】
中空チャンバー(4)を規定する黒鉛製金型(2)及び2つの黒鉛製パンチ(3a、3b)を備えた、請求項14に記載のプロセスを行う放電プラズマ焼結装置であって、前記中空チャンバー(4)内に位置し、前記放電プラズマ焼結プロセスの適用時に前記粉末混合物を受け入れ、かつ、前記粉末混合物を、印加電流に直接曝さず、かつ、印加圧力から絶縁するように維持することができる絶縁セラミック材料製、例えばアルミナ製閉鎖容器(5)も備え、ここで、前記電流及び前記圧力は前記放電プラズマ焼結操作中に印加されるものである、放電プラズマ焼結装置。
【請求項23】
n+1の一般式(式中、nは1、2又は3であり、MはTi、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Sc、Mn、Y及びTaから選択され、XはC又はNである)を有する化合物であって、請求項19に記載のMAX相型化合物から製造される、及び/又は、請求項14に記載のプロセスによって得られることを特徴とする、化合物。
【請求項24】
n+1の一般式(式中、nは1、2又は3であり、MはTi、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Sc、Mn、Y及びTaから選択され、XはC又はNであり、TはO基、OH基、F基又は任意の他のハロゲン基、及びS基又は任意の他のカルコゲン基から選択される末端基に対応する)を有する化合物であって、大部分が一般的な平板形状を有する結晶の形態であり、該平板が、規定の高さ(H)だけ離間した規定の長さ(L)を有する2つの対向する平行な表面を有することを特徴とし、かつ、
前記平板形態の結晶の長さが1μm~15μmであり、
前記平板形態の結晶の高さ(H)が0.2μm~1μmであり、かつ、
前記長さ(L)と前記高さ(H)との比によって規定される前記平板形態の結晶の扁平アスペクト比が5~50であることを特徴とする、請求項23に記載の化合物。
【請求項25】
Tiの式を有する、請求項24に記載の化合物。
【請求項26】
請求項24に記載の化合物を製造するプロセスであって、酸水溶液による前記MAX相型前駆化合物の化学攻撃工程を2つ含む、プロセス。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0004
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0004】
MXeneは、ラメラ化合物、すなわち、2次元材料(2D)であり、層間剥離して、厚さ約1nmの繰り返し単位を有する単一シートを形成することができる。これらの繰り返し単位は、nが1、2又は3の場合、それぞれ、M-X-M、M-X-M-X-M又はM-X-M-X-M-X-Mの構造を有する。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
既知の方法においては、これらのMXene化合物は、一般的に「MAX相型化合物」又は「MAX相化合物」と呼ばれる前駆体から合成される。これらのMAX相化合物は、Mn+1AXの一般式(式中、nは1、2又は3であり、M及びXはMXeneの場合と同じであり、AはAl、Si、P、S、Ga、Ge、As、Cd、In、Sn、Tl及びPbから選択される)を有する。MAX相化合物は、MXeneと類似の構造を有するが、Mn+1繰り返し単位間に層の形態で存在する元素Aを更に含む。MXeneを製造するために、MAX相型前駆体から元素Aを化学的に除去する。ほとんどの場合、AがアルミニウムであるMAX相前駆体が好ましく、関連する方法は、フッ酸を含む酸水溶液によるMAX前駆体の化学攻撃からなる。これにより、Mn+1繰り返し単位間の空間からアルミニウムが除去され、末端基Tが残る。ほとんどの場合、Tは-F、-OH又は=Oであり、繰り返し単位の外側に位置する元素Mに結合している。化学攻撃の良好な収率を確保するために、MAX前駆体を事前に微粉砕する。化学攻撃後、生成物を数回洗浄及び遠心分離して、攻撃に使用された過剰な試薬及びAlF等の可溶性副生成物を除去する。MXeneの3次元粒子ではなく、単一シート(2D)を得ることが目的である場合には、追加的な層間剥離手順を行ってもよい。フッ酸溶液による攻撃プロセスの1つの変形形態は、上述の非特許文献2に記載されているように、フッ化物塩、典型的にはLiと、強酸、典型的にはHClとの混合溶液を使用することである。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0026
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0026】
有利には、Mn+1 の一般式(式中、nは1、2又は3であり、MはTi、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Sc、Mn、Y及びTaから選択され、XはC又はNであり、TはO基、OH基、F基又は任意の他のハロゲン基、及びS基又は任意の他のカルコゲン基から選択される末端基に対応する)を有する化合物において、大部分が一般的な平板形状を有する結晶の形態であり、該平板が、規定の高さHだけ離間した規定の長さLを有する2つの対向する平行な表面を有し、かつ、
平板形態の上記結晶の長さが1μm~15μmであり、
平板形態の上記結晶の高さHが0.2μm~1μmであり、かつ、
上記長さLと上記高さHとの比によって規定される平板形態の上記結晶の扁平アスペクト比が5~50である。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0031
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0031】
図1】本発明の放電プラズマ焼結プロセス(SPS)を行って、本発明のMAX相型の前駆体を製造するために使用する本発明の装置の概略図である。
図2A】本発明の放電プラズマ焼結プロセスによって得られた本発明のMAX相型前駆体のペレットの断面を、600倍の倍率で撮影した走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。ペレットは粗粉砕されている。
図2B】本発明の放電プラズマ焼結プロセスによって得られた本発明のMAX相型前駆体のペレットの断面を、2500倍の倍率で撮影した走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。ペレットは粗粉砕されている。
図3A】従来技術のMAX相型前駆体を、600倍の倍率で撮影した走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
図3B】従来技術のMAX相型前駆体を、2500倍の倍率で撮影した走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
図4A】本発明の化学攻撃プロセスによって、本発明のMAX相型前駆体から得られた本発明のMXene化合物を、600倍の倍率で撮影した走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。ペレット形態の前駆体は粗粉砕した。
図4B】本発明の化学攻撃プロセスによって、本発明のMAX相型前駆体から得られた本発明のMXene化合物を、2500倍の倍率で撮影した走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。ペレット形態の前駆体は粗粉砕した。
図4C】本発明の化学攻撃プロセスによって、本発明のMAX相型前駆体から得られた本発明のMXene化合物を、4500倍の倍率で撮影した走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。ペレット形態の前駆体は粗粉砕した。
図5A】本発明の化学攻撃プロセスによって、本発明のMAX相型前駆体から得られたTiの式を有する本発明のMXene化合物を、600倍の倍率で撮影した走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。ペレット形態の前駆体は微粉砕した。
図5B】本発明の化学攻撃プロセスによって、本発明のMAX相型前駆体から得られたTiの式を有する本発明のMXene化合物を、2500倍の倍率で撮影した走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。ペレット形態の前駆体は微粉砕した。
図5C】本発明の化学攻撃プロセスによって、本発明のMAX相型前駆体から得られたTiの式を有する本発明のMXene化合物を、4500倍の倍率で撮影した走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。ペレット形態の前駆体は微粉砕した。
図6】Tiの式を有する本発明のMXene化合物のX線回折図であり、四角で囲まれた部分は、低強度のピークの拡大に対応している。
図7A図3A及び図3Bの従来技術のMAX相前駆体に対して、本発明に従う2回の化学攻撃を適用することによって得られたMXene型化合物を、600倍の倍率で撮影した走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
図7B図3A及び図3Bの従来技術のMAX相前駆体に対して、本発明に従う2回の化学攻撃を適用することによって得られたMXene型化合物を、2500倍の倍率で撮影した走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
図7C図3A及び図3Bの従来技術のMAX相前駆体に対して、本発明に従う2回の化学攻撃を適用することによって得られたMXene型化合物を、4500倍の倍率で撮影した走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
図8】Tiの式を有する本発明のMXene化合物のエネルギー分散型X線(EDX)スペクトルである。
図9】従来技術のMAX相前駆体から得られたMXene化合物のエネルギー分散型X線(EDX)スペクトルである。
図10図2A及び図2Bに示す本発明のMAX相化合物のX線回折図である。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0054
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0054】
実施例1:TiAlCの組成を有するMAX相前駆体の合成
富士電波工機株式会社によりドクターシンターラボ.Jr(型番:SPS-211Lx)の名称で市販されている放電プラズマ焼結装置を使用した。この装置を、図1を参照して説明したように、本発明に従って変更し、黒鉛金型2並びに2つの黒鉛パンチ3a及び3bを維持したが、中空アルミナ容器5を形成する中空アルミナシリンダー6並びに上側7及び下側7aのアルミナディスクを中空チャンバー4に追加した。後述の粉末混合物を容器5に入れ、圧縮し、黒鉛製のパンチ及び金型を流れる電流から電気的に絶縁した状態に保持した。混合物を、パンチによって加わる圧力からも絶縁した状態に保持し、操作時間全体を通して黒鉛と接触することなく維持した。
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0055
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0055】
市販のチタン、アルミニウム及び炭化チタンの粉末を、粉末混合物の総重量を約5gとして、それぞれ1:1.1:2の元素比で瑪瑙乳鉢において混合した。混合物を、炭化タングステン製の鉢及び球を備えたボールミルに1時間15分間入れ、300rpmの速度で粉砕した。下側カバー7aが既に装置内の所定の位置にある状態で、中空シリンダー6内に粉砕粉末1gを入れた。粉末を圧縮し、上側カバー7bを中空シリンダー6の上端に配置し、それにより中空容器5を形成した。黒鉛製上側パンチ3bが所定の位置にある状態で、組立体1全体をSPS装置に入れ、真空を適用した。以下の熱サイクル:580℃まで6分間の昇温、580℃で5分間の温度保持、1450℃まで12分間の昇温、及び1450℃で8分間の温度保持を適用した。熱サイクルが完了すると、温度は約5分~10分間で580℃未満まで急速に低下する。円筒形の多孔質ペレットが得られる。ペレットの空隙率は30%超であり、ほとんどの場合、40%超であり、更にほとんどの場合、約50%又は50%超である。この空隙率は、ペレットの測定体積と、ペレットの理論密度及び重量から計算された圧縮材料の体積との差によって評価する。
【国際調査報告】