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特表2024-537924サバリア・サバグリアの炭水化物結合ポリペプチド
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-16
(54)【発明の名称】サバリア・サバグリアの炭水化物結合ポリペプチド
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/435 20060101AFI20241008BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20241008BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20241008BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20241008BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20241008BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20241008BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20241008BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20241008BHJP
   A61P 31/10 20060101ALI20241008BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20241008BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241008BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
C07K14/435 ZNA
C12N15/12
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C07K19/00
C12N1/21
C12N5/10
A61P31/12
A61P31/10
A61P31/04
A61P35/00
A61K38/17
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024544356
(86)(22)【出願日】2021-10-01
(85)【翻訳文提出日】2024-05-27
(86)【国際出願番号】 RS2021000013
(87)【国際公開番号】W WO2023055250
(87)【国際公開日】2023-04-06
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.NONIDET
2.TRITON
3.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】324008777
【氏名又は名称】インスティテュート オブ ケミストリー、テクノロジー アンド メタラジー
【氏名又は名称原語表記】INSTITUTE OF CHEMISTRY,TECHNOLOGY AND METALLURGY
【住所又は居所原語表記】Njegoseva street No.12,11000 Belgrade,Republic of Serbia
(71)【出願人】
【識別番号】324008788
【氏名又は名称】ファカルティ オブ ケミストリー
【氏名又は名称原語表記】FACULTY OF CHEMISTRY
【住所又は居所原語表記】Studentski trg No.12-16,11000 Belgrade,Republic of Serbia
(71)【出願人】
【識別番号】324008799
【氏名又は名称】サヴァンティヴィル リミテッド ベオグラード
【氏名又は名称原語表記】SAVANTIVIR LTD.BELGRADE
【住所又は居所原語表記】Dzordza Vasingtona street No.15,11000 Belgrade,Republic of Serbia
(71)【出願人】
【識別番号】524126068
【氏名又は名称】ユニヴァーシティー オブ リュブリャナ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF LJUBLJANA
【住所又は居所原語表記】Kongresni trg 12,1000 Ljubljana,Republic of Slovenia
(71)【出願人】
【識別番号】506196465
【氏名又は名称】ヨゼフ・シュテファン・インスティトゥート
【氏名又は名称原語表記】JOZEF STEFAN INSTITUTE
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【弁理士】
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(72)【発明者】
【氏名】アンジェルコヴィッチ、ウロシュ
(72)【発明者】
【氏名】ヴカシノヴィッチ、イヴァナ
(72)【発明者】
【氏名】スラディック、ドゥシャン
(72)【発明者】
【氏名】ラー、ユリィ
(72)【発明者】
【氏名】フォノヴィッチ、マルコ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA11X
4B065AA30X
4B065AA88X
4C084AA01
4C084AA02
4C084DA31
4C084NA14
4C084ZB261
4C084ZB321
4C084ZB331
4C084ZB351
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA50
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA10
4H045GA15
4H045GA22
4H045GA26
4H045GA31
(57)【要約】
本発明は、特にマンノースを含有するグリカンに対して特異的な炭水化物結合活性を示す新規ポリペプチド、並びにインビボ及びエクスビボにおけるその使用方法に関する。使用方法は、ポリペプチドが炭水化物に結合するのに適した条件下で、例えば炭水化物が存在するサンプル又は対象に本発明のポリペプチドを投与することを含む。炭水化物は、病原体によって発現され得る。本発明は、抗ウイルス活性、抗細菌活性、抗真菌活性、又は抗腫瘍活性等の抗病原体活性を有するポリペプチド及びその組成物に関する。また、例えば糖タンパク質として炭水化物を発現する病原体によって媒介される疾患及び病態を予防又は治療する方法も提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
特異的炭水化物結合活性を有するポリペプチド、任意で遺伝子操作されたポリペプチドであって、
(a)配列番号1、2、3、又は4のいずれか1つのアミノ酸配列;
(b)配列番号1、2、3、又は4のいずれか1つの配列の断片であって、前記配列のうちの少なくとも30個の連続するアミノ酸を含む断片であるアミノ酸配列;
(c)(a)、(b)、又は(c)のいずれか1つのアミノ酸配列と少なくとも50%同一であるアミノ酸配列;
を含むか、本質的にからなるか、又はからなるポリペプチド。
【請求項2】
N末端における追加のメチオニン、並びに/又はC末端におけるタンパク質精製若しくは他のタグを含むように遺伝子操作され、タグはリンカーによってC末端に接合され得る、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
配列番号6、7、8、又は9のアミノ酸配列を含む又はからなる、請求項1又は2に記載のポリペプチド。
【請求項4】
マンノースを含有するグリカンに特異的な結合活性を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項5】
追加の部分にコンジュゲートされている、請求項1~4のいずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項6】
ポリペプチドが特異的に結合する炭水化物を発現する病原体に対して抗病原体活性を有し、任意で、前記病原体が、ウイルス、細菌細胞、真菌細胞、又はがん細胞である、請求項1~5のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のポリペプチドをコードしている核酸配列を含む、ポリヌクレオチド又は発現ベクター。
【請求項8】
請求項6のポリヌクレオチド又は発現ベクターを含む宿主細胞であって、好ましくは細菌細胞又は植物細胞であり、任意で、細菌細胞が大腸菌(E.coli)、ラクトバチルス(Lactobacillus)、若しくは好ましくはアグロバクテリウム・ツメファシエンス(A.tumefaciens)の細胞である、及び/又は植物細胞がベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)の細胞である、宿主細胞。
【請求項9】
ポリペプチドが、任意で有効量の少なくとも1つの保存剤と共に、溶液中で提供されるか、凍結乾燥されているか、又は固定化されている、請求項1~6のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項10】
請求項1~6のいずれか一項に記載のポリペプチドを、少なくとも1つの保存剤及び任意で1つ以上の担体、賦形剤、希釈剤、又はビヒクルと共に含む組成物であって;任意で、薬学的に許容し得るか又は表面殺微生物剤として使用するのに好適な組成物。
【請求項11】
請求項1~6のいずれか一項に記載のポリペプチドを、炭水化物が存在するサンプル又は対象に投与することを含む方法。
【請求項12】
サンプル中の炭水化物をエクスビボで結合させるためのものであり、前記ポリペプチドをサンプルに投与することと、結合が起こるのに適した条件下でインキュベートすることとを含む、請求項11の方法。
【請求項13】
得られた結合生成物の分離、検出、又は分析を更に含む請求項12の方法。
【請求項14】
対象における疾患又は病態を予防又は治療するためのものであり、予防的又は治療的に有効な量の前記ポリペプチドを対象に投与することを含む、請求項11の方法。
【請求項15】
前記疾患又は病態が、ポリペプチドが特異的に結合する炭水化物を発現する病原体によって全体的又は部分的に媒介される疾患又は病態であり、任意で、前記炭水化物が、病原体表面に存在する糖タンパク質又は他の構造のグリカン成分として存在する、請求項14の方法。
【請求項16】
病原体が、ウイルス、細菌細胞、真菌細胞、又はがん細胞である、請求項14又は15の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にマンノースを含有するグリカンに対して特異的な炭水化物結合活性を示す新規ポリペプチド、並びにインビボ及びエクスビボにおけるその使用方法に関する。使用方法は、ポリペプチドが炭水化物に結合するのに適した条件下で、例えば炭水化物が存在するサンプル又は対象に本発明のポリペプチドを投与することを含む。炭水化物は、病原体によって発現され得る。本発明は、抗ウイルス活性、抗細菌活性、抗真菌活性、又は抗腫瘍活性等の抗病原体活性を有するポリペプチド及びその組成物に関する。また、例えば糖タンパク質として炭水化物を発現する病原体によって媒介される疾患及び病態を予防又は治療する方法も提供される。
【背景技術】
【0002】
免疫グロブリン及び輸送又は走化性のための遊離の単糖又は二糖の受容体以外の、認識された糖(炭水化物/グリカン)に対して酵素活性を示さない炭水化物結合タンパク質はレクチンとして知られている。レクチンは、事実上全ての生物、原核生物、海サンゴ、藻類、真菌、高等植物、無脊椎動物、脊椎動物にみられる。炭水化物の認識は、多数の異なる生物学的状況で起こる。従って、レクチンは、多くの関連性のないタンパク質ファミリーからなる非常に多様なタンパク質のグループである。異なるレクチンファミリーは、一般に構造的に無関係である(BBA 1572 198)。レクチンの炭水化物特異性は異なる。例えば、マンノース結合レクチンのグループに分類することができるレクチンであっても、グリカンアレイによって解析したときに完全に同一の炭水化物特異性を示すわけではない(Consortium for Functional Glycomics)。タンパク質とグリカンとの間の認識は、グリカンにコードされている生物学的情報(いわゆる「糖コード」)を伝達するための主な機序である。この情報は、細胞内及び細胞間の輸送プロセス、自然免疫のセンサーブランチ、細胞-細胞(マトリックス)の接着又は遊走の調節、並びに分化及び悪性腫瘍に関連する正/負の成長制御を含む多くの生物学的プロセスにおいて不可欠である(BBA 1572 165)。
【0003】
レクチンは、医学、バイオテクノロジー、及び生命科学において数多くの有用な用途を有する。様々なレクチンが、抗細菌、抗真菌、抗ウイルス、又は抗腫瘍の活性を示す。様々な植物及び動物のレクチンについて、特に強力な抗ウイルス活性が観察されている。ウイルス侵入阻害剤として作用する抗HIV剤の明確に定義されているクラスは、マンノース結合レクチンである。多くのマンノース特異的レクチン(アマリリス(Hippeastrum hybrid)凝集素、スノードロップ(Galanthus nivalis)凝集素、アクチノヒビン、ミクロシスチス・ビリジス(Microcystis viridis)レクチン、バナナレクチン、オスシラトリア・アガルディイ(Oscillatoria agardhii)凝集素、シンビジウム(Cymbidium hybrid)レクチン、アオスズラン(Epipactis helleborine)レクチン、リステラ・オバテ(Listera ovate)レクチン等)が強力な抗HIV剤であると考えられた(AR 18 191、AR 71 237、JBC 280 41005、COV 0 95)。しかし、細胞毒性、ヒト赤血球の凝集、分裂促進性(末梢血単核細胞の分裂促進刺激)、炎症活性、又はHIV変異株に対する遺伝的バリアの低さが、天然レクチンの大部分の医学的応用の障害となっている(AR 71 237、JV 80 8411)。
【0004】
それにもかかわらず、シアノビリン-N(AMB 86 805)及びスキトビリンという2つのレクチンは、既に商業化されている薬物の有効成分であり、一方、グリフィスシンは第3相臨床試験中である。これらレクチンは細胞へのウイルス侵入を阻害するだけでなく、細胞間ウイルス移動も阻害し、HIV感染CD4+Tリンパ球と非感染CD4+Tリンパ球との間のシンシチウム形成も阻害する(JAC 69 582)。作用機序は、HIVエンベロープ糖タンパク質(GP120)と細胞受容体タンパク質(CD4)と共受容体(主にCXCR4又はCCR5)との相互作用の阻止を含む(JBC 280 41005)。マンノース特異的レクチン間の炭水化物特異性の違いが抗HIV活性の改善に利用されてきたが、その理由は、異なるレクチンを組み合わせると、HIVに対する相乗的活性、すなわち、EC50値の改善を示すことができるためである(ARHR 28 1513)。更に、HIV-1を2つの炭水化物結合剤の組み合わせに曝露すると、薬物耐性の発現が顕著に遅延し、適応度が低下したウイルス株が選択される(JAC 69 582)。更に、高度に保存されているN-グリコシル化部位の欠失等のレクチン薬から逃避するためのウイルス変異の結果、ウイルスグリカンシールドの少なくとも一部が失われ、その結果、GP120上の以前は隠れていた免疫原性エピトープが露出する。これにより、ウイルスの複製を効率的に免疫学的に抑制し、全身循環からウイルスを排除することができるようになる。言い換えれば、HIVが変異してレクチンの効果を回避するようになると、宿主の免疫系に対する感受性が高くなる可能性がある。
【0005】
HIVは、レクチンの標的となり得る糖タンパク質を発現する唯一の病原体ではなく、更には唯一のウイルスでもない。様々なマンノース特異的レクチンで中和可能なヒト及び動物のエンベロープウイルスとしては、C型肝炎ウイルス(HCV)及びB型肝炎ウイルス(HBV)、インフルエンザA型及びB型のウイルス、SARS-コロナウイルス(SARS-CoV-1及びSARS-Cov-2)、エボラウイルス、デングウイルス、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)及び2型(HSV-2)、西ナイルウイルス、黄熱ウイルス、ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)、日本脳炎ウイルス、豚流行性下痢ウイルス、サル免疫不全ウイルス(SIV)が挙げられる(MP 74 330)。
【0006】
上に概説したレクチンの複数の用途及びCOVID-19のパンデミックに鑑みてより多くのより優れた抗ウイルス薬が特に必要とされていることを考えると、幾つかの既知のレクチンに関連する問題なしに抗ウイルス活性を示すこの種の更なる剤が明らかに必要とされている。ウイルス感染又はウイルス感染に関連する疾患若しくは合併症を治療又は予防することができる抗ウイルス剤が一般に必要とされている。
【発明の概要】
【0007】
本発明者らは、サバリア(Savalia)(ジェラーディア(Gerardia))サバグリア(savaglia)由来の新規レクチンを同定、精製、及び特性評価した。本発明者らは、このレクチンの非常に密接に関連する4つのアイソフォームを同定した(表1参照)。アイソフォームの配列を配列番号1、2、3、及び4として提供する。配列番号1は、(質量分析によって求めたときに)サバリア(ジェラーディア)サバグリアで発現する最も優勢な(主要な)型の配列である。レクチンの4つのアイソフォームは全て同等の特性を有し、互換的に又は混合物として使用することができる。本明細書では、このレクチンをサバレクチン又はサバリスシンと称する場合もある。この用語は、任意で本明細書に定義する他のアイソフォーム又はバリアントを含んでいてもよい、4つのアイソフォームを含む混合物を指すために使用されることもある。組換えにより産生されたサバリスシンに対する言及は、典型的には、主要な型を指す。
【0008】
配列番号1、2、3、及び4はそれぞれ、他の既知のレクチンとの配列同一性が40%未満である。サバレクチンは、既知のレクチンと比較して異なるグリカン構造に対する特異的結合を示す。サバレクチンは、HIV、HSV2、Sars-COV-2、及びインフルエンザA型を含む例示的なヒトウイルス、典型的にはエンベロープを有するヒトウイルスの実験室株及び分離株に結合することができる。抗ウイルス活性(感染の阻害並びに/又は伝播及び/若しくは増殖の阻害)が実証されている。サバレクチンは、幾つかの細菌及び酵母の種の増殖を阻害し、幾つかの酵母の細胞壁に結合する能力を示す。サバレクチンは、pH10以下のアルカリ性環境で高い安定性を有し、75℃までの熱安定性を有するので、広範な条件下での保存が可能になる。殆どの既知の植物及び動物のレクチンと異なり、サバレクチンは、ヒト末梢血単核細胞に対してそれほど分裂促進作用を示さない。高用量のサバレクチンであっても、健康なヒト細胞に対しては致死的ではない。まとめると、これは、サバレクチンが治療剤若しくは予防剤として患者に投与すること及び/又は局所殺微生物剤として使用することを含む複数の用途に特に有用であり得ることを示唆している。
【0009】
本明細書では、
特異的炭水化物結合活性を有するポリペプチド、任意で遺伝子操作されたポリペプチドであって、
(a)配列番号1、2、3、又は4のいずれか1つのアミノ酸配列;
(b)配列番号1、2、3、又は4のいずれか1つの配列の断片であって、該配列のうちの少なくとも8個の連続するアミノ酸を含む断片であるアミノ酸配列;
(c)(a)、(b)、又は(c)のいずれか1つのアミノ酸配列と少なくとも50%同一であるアミノ酸配列;
を含むか、本質的にからなるか、又はからなり、
任意で、N末端における追加のメチオニン、並びに/又はN末端及び/若しくはC末端におけるタンパク質精製若しくは他のタグであって、リンカーによって該末端に接合され得るタグを含むように遺伝子操作されるポリペプチド
が提供される。
【0010】
ポリペプチドは、典型的には有効量の保存剤を含む組成物中で提供され得る。組成物は、表面殺微生物剤として使用するのに好適であり得る。組成物は、対象に投与するのに好適であり得る。ポリペプチドは、固定化されてもよい。
【0011】
本発明のポリペプチドは、炭水化物を結合させる様々な方法において有用である。従って、例えば炭水化物が存在するサンプル又は対象に本発明のポリペプチドを投与することを含む方法が、本明細書に提供される。炭水化物は、病原体の表面で発現するグリカン成分として存在する場合がある。病原体は、ウイルス、細菌、真菌、又はがん細胞であり得る。従って、ポリペプチドは、抗細菌活性、抗真菌活性、抗ウイルス活性、又は抗腫瘍活性を有し得る。方法は、該病原体の感染又は該感染に関連する疾患若しくは合併症を治療又は予防する方法であって、対象に本発明のポリペプチドを投与することを含む方法であり得る。
【0012】
本発明は、本発明のポリペプチドをコードしている核酸を提供する。また、本発明は、このような核酸又はベクターを含む、細菌又は植物の細胞等の宿主細胞も提供する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】左:単離及び精製手順のフロー図;右:サバレクチン単離物のSDS-PAGE(ライン1-MWメーカー、ライン2及びライン3-それぞれサバレクチン0.1μg/μL及び1μg/μL)
図2】サバレクチンの分子量決定。上:MLADI-TOF質量スペクトル;下:Superdex 75クロマトグラフィカラムでのサイズ排除クロマトグラフィは、サバレクチンについて12.7mLのVeを示し、これは分子量約16.9kDaに相当する。(差し込み図は、分子量の較正に使用したタンパク質の溶出体積(Ve)を示す)。
図3】一次構造解明のフロー図
図4】マンノース及びメチルマンノシドのサバレクチンへの結合の熱力学的パラメータ
図5】サバレクチン単独及び炭水化物の存在下における示差走査熱量測定サーモグラム。
図6】GdmClによるサバレクチン変性の分光蛍光分析。上:異なる温度における変性曲線;中:異なる濃度のGdmClにおけるサバレクチンとの混合物中の1-アニリノ-8-ナフタレンスルホン酸(ANS)の蛍光;下:異なるGdmCl溶液中のサバレクチン単独及びマンノースの存在下における蛍光強度。
図7】サバレクチン(0.6mg/mL)単独及び炭水化物の存在下における円偏光二色性(CD)スペクトル。上:遠紫外CDスペクトル;下:近紫外CDスペクトル。
図8】X線結晶構造解析によって決定されたサバレクチンの三次構造。左上:サバレクチンの結晶及びX線回折パターン;中上:サバレクチン構造のリボン図;右上:コンピューターに提案されたサバレクチン二量体のリボン図;下:様々な視野からのサバレクチンの空間充填モデル。
図9】サバレクチン構造の計算科学的研究。上:結合炭水化物部位及び炭水化物結合に関与するアミノ酸を備えるリボン構造;下:サバレクチンの多量体化モデル。
図10】サバレクチンのオリゴマー化。上:サバレクチンのMLADI-TOF質量スペクトル;下:架橋剤グルタルアルデヒドに短時間曝露したサバレクチンサンプルのSDS-PAGE(ライン1-MWマーカー、ライン2-サバレクチン10μg/μL、ライン3-サバレクチン5μg/μL、及びライン4-サバレクチン1μg/μL)
図11】PBMC(末梢血単核細胞)の代謝活性に対するサバレクチンの影響。上:実験のフロー図。
図12】TZM-bl細胞株の代謝活性に対するサバレクチンの影響。上:実験のフロー図。
図13】CaCo-2細胞株(ヒト結腸直腸腺がん細胞の不死化細胞株)の生存率に対するサバレクチンの影響。上:1ウェル当たり25,000細胞、中央:1ウェルあたり10,000細胞。各チャートの左及び右のマークのセットは、サバレクチンの2つの異なるバッチを表す。各バッチをトリプリケートでアッセイした。下:実験のフロー図。
図14】A549細胞株(腺がんヒト肺胞基底上皮細胞)の生存率に対するサバレクチンの影響。チャートの左及び右のマークのセットは、サバレクチンの2つの異なるバッチを表す。各バッチをトリプリケートでアッセイした。上:実験のフロー図。
図15】ELVIS細胞株の生存率に対するサバレクチンの影響。左及び右のパネルは、2つの異なるサバレクチンのバッチを表す。各バッチをトリプリケートでアッセイした。上:実験のフロー図。
図16】VeroE6細胞株の生存率に対するサバレクチンの影響。チャートの左及び右のマークのセットは、サバレクチンの2つの異なるバッチを表す。各バッチをトリプリケートでアッセイした。上:実験のフロー図。
図17】異なるHIV-1株によるTZM-bl細胞感染のサバレクチンによる阻害 上:実験のフロー図。モル濃度はサバレクチン単量体の分子量を考慮して計算した。
図18】2つの異なるHIV-1株によるPBMC感染のサバレクチンによる阻害、左:NL4-3;右:NL4-3 92TH14。上:実験のフロー図。モル濃度はサバレクチン単量体の分子量を考慮して計算した。
図19】単純ヘルペスウイルスによるELVIS細胞感染のサバレクチンによる阻害。上:実験のフロー図。左:HSV-1;右:HSV-2。各チャートの左及び右のマークのセットは、サバレクチンの2つの異なるバッチを表す。
図20】HSV-2によるVero細胞感染のサバレクチンによる阻害。上:実験のフロー図。モル濃度はサバレクチン単量体の分子量を考慮して計算した。
図21】SARS-CoV-2によるCaCo-2細胞感染のサバレクチンによる阻害。上:実験のフロー図。左:偽型;右:野生型。各チャートの左及び右のマークのセットは、サバレクチンの2つの異なるバッチを表す。
図22】出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)細胞壁グリカンと相互作用しているフルオレセインイソチオシアネート(FITC)標識サバレクチンの共焦点顕微鏡写真。
図23】サバレクチンによる糖タンパク質のウェスタンブロット検出。ビオチン標識サバレクチンをストレプトアビジン-HRP(セイヨウワサビペルオキシダーゼ)及びDAB(3,3’-ジアミノベンジジン)によって可視化した。ライン1及びライン2:それぞれ1μg及び0.1μgのインベルターゼ(マンノース型N-グリカンを含有する出芽酵母の外部糖タンパク質);ライン3:HeLa細胞由来の原形質膜タンパク質の抽出物、全タンパク質10μg。
図24】サバレクチンの発現。上:ベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)における発現の成功を、緑色蛍光タンパク質の共発現によって確認した-葉に明るい斑点が見える;下:異なる時点の大腸菌(E.coli)発現のSDS-PAGE、黒枠はサバレクチンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
配列の簡単な説明
配列番号1は、サバレクチンの16,803Daバリアントの完全長アミノ酸配列である。149個のアミノ酸が含まれている。主要な型である。
配列番号2は、サバレクチンの16,769Daバリアントの完全長アミノ酸配列である。149個のアミノ酸が含まれている。配列番号1に対して1つの置換、すなわちPhe61Leuが存在する。
配列番号3は、サバレクチンの16,617Daバリアントの完全長アミノ酸配列である。148個のアミノ酸が含まれている。C末端Trpが欠失していることを除いて配列番号1と同一である。
配列番号4は、サバレクチンの16,583Daバリアントの完全長アミノ酸配列である。148個のアミノ酸が含まれている。C末端Trpが欠失していることを除いて配列番号2と同一である(すなわち、配列番号1に対してPhe61Leuを含む)。
配列番号5は、配列番号1の配列を有するポリペプチドをコードしている例示的なヌクレオチド配列である。細菌細胞、例えば大腸菌で発現させるために、追加のN末端メチオニンのためのコドンを5’に更に含むように配列を改変してよい。この配列は、典型的には、細菌細胞で発現させるためにベクターに挿入され得る。例えば、この配列は、NcoI/XhoI制限部位を用いてベクターpET28a+に挿入することができる。
配列番号6、7、8、及び9は、それぞれ配列番号1~4に対応し、それぞれN末端メチオニンが追加されている。
【0015】
発明を実施するための形態
開示される生成物及び方法の様々な用途は、当技術分野における具体的なニーズに応じて調整できることを理解されたい。また、本明細書で使用される用語は、本発明の特定の実施形態を説明することのみを目的とし、限定を意図するものではないことも理解されたい。上記であろうと下記であろうと、本明細書に引用される全ての刊行物、特許、及び特許出願は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0016】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用するとき、単数形「a」、「an」、及び「the」は、特に明確に指示しない限り、複数の指示対象を含む。従って、例えば、「ポリペプチド(a polypeptide)」に対する言及は、「複数のポリペプチド(polypeptides)」等を含む。
【0017】
特異的炭水化物結合活性を有するポリペプチド
特異的炭水化物結合活性を有するポリペプチドの機能的特徴
この章は、炭水化物結合活性を有するポリペプチドの機能的特徴について記載し、これは、直後の章に概説される構造的特徴に加えて適用される。
【0018】
ポリペプチドは、好ましくは、以下の特徴のうちの1つ以上を示す:
- 好ましくはマンノースを含有するグリカン(例えばマンノース及び/又はメチルマンノシド)に対する特異的炭水化物結合活性;並びに/又は
- ポリペプチドが特異的に結合する炭水化物を発現する病原体に対する結合及び/若しくは抗病原体活性。
【0019】
炭水化物に特異的に結合するポリペプチドの能力は、任意の好適な方法によって評価してよい。1つのこのような方法は、例えばスピンカラムにおけるセファロースに試験ポリペプチドを固定化し、続いて、炭水化物を含有するサンプルと共にインキュベートすることを含む。試験ポリペプチドが炭水化物結合能を有する場合、炭水化物は、カラムに結合した状態で又はその後の溶出物中で検出可能である。代替技術としては、等温滴定熱量測定(ITC)、比濁活性アッセイ、マイクロスケール熱泳動(MST)実験、示差走査熱量測定、表面プラズモン共鳴、グリカンマイクロアレイ、又はELISA(例えば、競合ELISA)が挙げられる。例示的なアッセイについては実施例に記載する。異なる標的に対する結合特異性の尺度が必要な場合、同じアッセイを用いて異なる標的に対する結合を評価しなければならない。
【0020】
本開示の目的上、別の標的よりも高頻度で、より迅速に、より長時間、及び/又はより高い親和性で特定の標的と反応又は会合する場合、ポリペプチドは「特異的結合」を示すといわれる。また、例えば、第1の炭水化物標的に特異的に結合するポリペプチドが、第2の炭水化物標的に特異的又は優先的に結合する場合もあり、しない場合もあることが理解される。従って、「特異的結合」又は「優先的結合」は、必ずしも独占的な結合を必要とするものではない(が、独占的な結合を含んでいてもよい)。一般的に、結合に対する言及は選択的結合を意味するが、必ずしもそうではない。
【0021】
本発明のポリペプチドは、マンノースを含有するグリカン(例えば、マンノース及び/又はメチルマンノシド)に対して特異的な結合を示し得る。該ポリペプチドは、同じアッセイを用いて評価した場合、ガラクトース、N-アセチルガラクトサミン、グルコース、N-アセチルグルコサミン、フコース、マンニトール、ラムノース、ラクトース、ラフィノース、及びアラビノースと比較してマンノース及び/又はメチルマンノシドに対して優先的な結合を示し得る。同じアッセイを用いて評価した場合、ポリペプチドは、マンノース及び/又はメチルマンノシドに対して高親和性結合を示し得、ガラクトース、N-アセチルガラクトサミン、グルコース、N-アセチルグルコサミン、フコース、マンニトール、ラムノース、ラクトース、ラフィノース、及びアラビノースに対しては、検出可能な結合を非常に少ししか又は全く示さないことがある。典型的には等温滴定熱量測定(ITC)によって求めた場合、ポリペプチドは、約2500M-1以上、例えば約2514M-1の結合定数(Kb)でのD-マンノースへの結合;及び/又は約1200M-1以上、例えば約1270M-1のKbでのメチルアルファ-D-マンノシドへの結合を示し得る。ITCを用いて評価した場合、好ましくは、ガラクトース、N-アセチルガラクトサミン、グルコース、N-アセチルグルコサミン、フコース、マンニトール、ラムノース、ラクトース、ラフィノース、及びアラビノースに対する検出可能な結合は存在しない。
【0022】
ポリペプチドが特異的に結合する炭水化物は、例えば糖タンパク質の成分として組み込まれる等、病原体の表面で発現するグリカンとして存在することがある。ポリペプチドは、該病原体に結合し得る。ポリペプチドは、好ましくは、病原体に対して強い結合を示す。ポリペプチドは、エクスビボで抗病原体活性を示すこともできる。抗病原体活性は、所与の種類の病原体について任意の好適な方法によってエクスビボで評価することができる。様々な種類の病原体についての例示的な方法は、実施例に記載されている。病原体は、ウイルス、細菌細胞、真菌細胞、又はがん細胞であり得る。抗病原体活性は、典型的には病原体の増殖の阻害を指し得る。病原体が細胞である場合、抗病原体活性は、典型的には細胞複製の阻害を指す。病原体がウイルスである場合、抗病原体活性は、典型的にはウイルスによって誘導される細胞生存率の低下の阻害を指す。
【0023】
ウイルスは、典型的には、ポリペプチドが特異的に結合するグリカンが組み込まれた少なくとも1つの糖タンパク質又は他の構造をその表面で発現する。ウイルスは、その表面で高マンノースグリカン構造を発現し得る。ウイルスは、エンベロープウイルスであってもよく、その場合、グリカンは通常エンベロープに存在する。ウイルスは、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2)、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)、Sars-CoV-2、Sars-CoV-1、インフルエンザA型、インフルエンザB型、C型肝炎ウイルス(HCV)及びB型肝炎ウイルス(HBV)、エボラウイルス、デングウイルス、西ナイルウイルス、黄熱ウイルス、ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)、日本脳炎ウイルス、豚流行性下痢ウイルス、サル免疫不全ウイルス(SIV)であり得る。ウイルスは、好ましくは、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2)、インフルエンザA型、又はSars-CoV-2等のSars-コロナウイルスである。
【0024】
細菌細胞は、典型的には、ポリペプチドが特異的に結合するグリカンが組み込まれた少なくとも1つの糖タンパク質又は他の構造を細胞表面で発現する。細菌は、その表面で高マンノースグリカン構造を発現し得る。細菌は、以下の種:黄色ブドウ球菌(S.aureus)、緑膿菌(P.aeruginosa)、大腸菌、セレウス菌(B.cereus)、フェカリス菌(E.faecalis))、又はネズミチフス菌(S.typhimurium)のものであってよく、好ましく好ましくは、黄色ブドウ球菌又は大腸菌である。
【0025】
真菌細胞は、典型的には、ポリペプチドが特異的に結合するグリカンが組み込まれた少なくとも1つの糖タンパク質又は他の構造を細胞表面で発現する酵母細胞であってよい。真菌は、その表面で高マンノースグリカン構造を発現し得る。真菌は、以下の種:出芽酵母又はカンジダ・アルビカンス(C.albicans)の酵母であってよい;
【0026】
がん細胞は、典型的には、ポリペプチドが特異的に結合するグリカンが組み込まれた少なくとも1つの糖タンパク質又は他の構造を細胞表面で発現する。好ましくは、がんは、健常細胞よりも高いレベルで該グリカンを発現する。がん細胞は、その表面で高マンノースグリカン構造を発現し得る。がん細胞は、ヒトであってよい。肺がん細胞(例えば、肺胞基底上皮細胞)であっても、結腸直腸がん細胞(例えば、腸上皮細胞)であってもよい。好ましくは、腺がん細胞である。あるいは、がん細胞は、骨髄性又はリンパ性の白血病由来であってもよい。
【0027】
ポリペプチドは、好ましくは、末梢血単核細胞(PBMC)等の健常ヒト細胞に対する分裂促進作用が低いか、全くない。分裂促進作用は、任意の好適な方法によって評価してよい。例示的な方法については、実施例に列挙する。
【0028】
ポリペプチドは、好ましくは、末梢血単核細胞(PBMC)等の健常ヒト細胞に対する細胞毒性が低いか、全くない。細胞毒性は、任意の好適な方法によって評価してよい。例示的な方法については、実施例に列挙する。
【0029】
ポリペプチドの炭水化物結合活性は、好ましくは、pH4.0~10.0、pH5.0~9.0、又はpH6.5~pH9.0等の広いpH範囲にわたって維持され、任意で、pH6.5~7.5の範囲で最大活性を有し、好ましくは約pH7.0で最大活性を有する。異なるpHにおける炭水化物結合活性の安定性は、任意の好適な方法で評価してよい。例示的な方法については、実施例に列挙する。
【0030】
ポリペプチドの炭水化物結合活性は、好ましくは、約0℃~約75℃等の広い温度範囲にわたって維持される。活性に好ましい範囲は、約4℃~約45℃である。活性は、典型的には37℃で最適である。異なる温度における炭水化物結合活性の安定性は、任意の好適な方法で評価してよい。例示的な方法については、実施例に列挙する。
【0031】
特異的炭水化物結合活性を有するポリペプチドの構造的特徴
この章は、特異的炭水化物結合活性を有するポリペプチドの構造的特徴について記載し、これは、直前の章に概説した機能的特徴に加えて適用される。
【0032】
ポリペプチドは、典型的には、約200アミノ酸長以下である。ポリペプチドは、配列番号1、2、3、又は4のうちの148個又は149個のアミノ酸を含んでいてよく、更に、全長200アミノ酸に至るまで1つ以上の追加のアミノ酸を含むように遺伝子操作されていてもよく、該追加のアミノ酸は、典型的には、産生、単離、又は精製を支援するためのものである。従って、ポリペプチドは、配列番号1、2、3、又は4のいずれか1つの配列を含んでいてもよく、含んでいてもよく、から本質的になっていてもよく、からなっていてもよい。
【0033】
ポリペプチドは、最大190、180、170、160、又は150アミノ酸長を有し得る。
【0034】
ポリペプチドは、好ましくは、配列番号1、2、3、又は4からの連続するアミノ酸の任意のより短い断片を含むか、から本質的になるか、又はからなるが、ただし、特異的炭水化物結合を有する。ポリペプチドは、配列番号1、2、3、又は4のいずれか1つのうちの8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、30個、40個、50個、60個、70個、80個、90個、100個、110個、120個、130個、140個、141個、142個、143個、144個、145個、146個、147個、又は148個の連続するアミノ酸を含んでいてもよく、から本質的になっていてもよく、からなっていてもよいが、ただし、該ポリペプチドは特異的炭水化物結合を有する。同じアッセイで測定した場合、断片は、好ましくは、サバレクチンの4つのバリアントの混合物(すなわち、配列番号1、2、3、及び4のポリペプチドの混合物)又は配列番号6の配列からなるポリペプチドのマンノースに対する親和性の少なくとも50%の親和性でマンノースに結合する。同じアッセイで測定した場合、断片は、より好ましくは、サバレクチンの4つのバリアントの混合物(すなわち、配列番号1、2、3、及び4のポリペプチドの混合物)又は配列番号6の配列からなるポリペプチドのマンノースに対する親和性と同等以上の親和性でマンノースに結合する。
【0035】
配列番号1、2、3、若しくは4の配列又は配列番号1、2、3、若しくは4の任意の断片は、1つ以上の追加のアミノ酸を含むように遺伝子操作されてもよく、該追加のアミノ酸は、典型的には、産生、単離、又は精製を支援するためのものである。例えば、追加のN末端メチオニンを含むように配列を遺伝子操作してもよい。配列番号6、7、8、及び9は、それぞれ配列番号1~4に対応し、それぞれN末端メチオニンが追加されている。
【0036】
あるいは、本発明のポリペプチドは、配列番号1、2、3、若しくは4のいずれか1つのアミノ酸配列のバリアント又は上で定義したその任意の断片を含んでいてもよく、から本質的になっていてもよく、からなっていてもよいが、ただし、該バリアントは特異的炭水化物結合活性を有する。該バリアントは、配列番号1、2、3、若しくは4のいずれか1つのアミノ酸配列又は上で定義したその任意の断片と少なくとも50%同一であってよい。バリアント配列は、配列番号1、2、3、若しくは4のいずれか1つの配列又は上で定義したその任意の断片と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、又は少なくとも99%同一であってよい。同一性レベルは、好ましくは、少なくとも85%又はそれ以上である。配列番号1、2、3、若しくは4のいずれか1つの配列又は上で定義したその任意の断片に対する同一性は、配列番号1、2、3、若しくは4のいずれか1つに示される配列又は上で定義したその任意の断片のうちの少なくとも30個、40個、50個、60個、70個、80個、90個、100個、110個、120個、130個、140個、141個、142個、143個、144個、145個、146個、147個、又は148個以上の連続するアミノ酸の領域にわたって測定してよい。より好ましくは、同一性は、配列番号1、2、3、若しくは4のいずれか1つの完全長又は上で定義したその任意の断片にわたって測定される。配列番号1、2、3、若しくは4又はその任意の断片に対する同一性は、バリアントの長さにわたって測定してよいが、ただし、該バリアントは、参照配列よりも50アミノ酸以下長いか又は短い長さであり、好ましくは、参照配列とほぼ(又は正確に)同じ長さである。配列番号1、2、3、又は4が、最も好ましい参照配列である。バリアントの同一性は、最も好ましくは、配列番号1、2、3、又は4のいずれか1つの完全長にわたって測定される。
【0037】
アミノ酸の同一性は、任意の好適なアルゴリズムを使用して計算することができる。例えば、Altschul S.F.(1993)J Mol Evol 36:290-300;Altschul,S,F et al(1990)J Mol Biol 215:403-10に記載の通り、PILEUP及びBLASTのアルゴリズムを使用して、同一性を計算したり、配列を並べたりすることができる(典型的には、そのデフォルト設定で)等価な又は対応する配列を同定する等)。BLAST解析を実施するためのソフトウェアは、National Center for Biotechnology Information(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を通して公的に入手可能である。このアルゴリズムは、まず、データベース配列における同じ長さのワードとアラインメントしたときに幾つかの正の値の閾値スコアTに一致するか又は満たす、クエリー配列における長さWの短いワードを同定することによって、高スコア配列対(HSP)を同定することを含む。Tは、近傍ワードスコア閾値(neighbourhood word score threshold)と称される(Altschul et al、上掲)。これら初期近傍ワードヒットは、それを含有するHSPを見つけるための検索を開始するためのシードとして作用する。累積アラインメントスコアが増加し得る限り、ワードヒットを各配列に沿って両方向に拡張する。各方向におけるワードヒットの拡張は、累積アラインメントスコアがその最大達成値から量Xだけ減少したとき;1つ以上の負のスコアの残基アラインメントの累積に起因して累積スコアがゼロ以下になったとき;又はいずれかの配列の末端に達したときに停止する。BLASTアルゴリズムパラメータW、T、及びXによって、アラインメントの感度及び速度が決定される。BLASTプログラムは、デフォルトとして、ワード長(W)11、BLOSUM62スコアリングマトリクス(Henikoff and Henikoff(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:10915-10919を参照)アラインメント(B)50、期待値(E)10、M=5、N=4、及び両鎖の比較を使用する。
【0038】
BLASTアルゴリズムは、2つの配列間の類似性の統計的解析を実施する;例えば、Karlin and Altschul(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873-5787を参照。BLASTアルゴリズムによって提供される類似性の1つの尺度は最小和確率(the smallest sum probability)(P(N))であり、これは、2つのポリヌクレオチド又はアミノ酸の配列間の一致が偶然生じる確率の指標を提供する。例えば、第1の配列の第2の配列に対する比較における最小和確率が約1未満、好ましくは約0.1未満、より好ましくは約0.01未満、最も好ましくは約0.001未満である場合、ある配列が別の配列と類似しているとみなされる。あるいは、UWGCGパッケージは、同一性を計算するために使用することができる(例えば、そのデフォルト設定で使用される)BESTFITプログラムを提供する(Devereux et al(1984)Nucleic Acids Research 12,387-395)。
【0039】
本発明のポリペプチドの配列は、配列番号1、2、3、若しくは4のいずれか1つのアミノ酸配列又は上で定義したその任意の断片と比べて改変、例えばアミノ酸の付加、欠失、又は置換が行われている、特異的炭水化物結合活性を有する配列番号1、2、3、若しくは4の配列又は該断片のバリアントを含んでいてよい。例えば、産生、単離、又は精製を支援するために追加のアミノ酸を含めてもよい。例えば、追加のN末端メチオニンを含むようにバリアントの配列を遺伝子操作してよい。アミノ酸置換はまた、温度安定性、pH安定性、一般的な安定性等のタンパク質の特徴を改善するため、炭水化物結合を改善するため、又は望ましくない結合パートナー(細胞毒性を誘導するもの等)への結合を減少させるために導入されてもよい。
【0040】
特に指定しない限り、改変は、好ましくは、保存的アミノ酸置換である。保存的置換は、アミノ酸を類似の化学的構造、類似の化学的特性、又は類似の側鎖体積の他のアミノ酸で置換する。導入されるアミノ酸は、置き換えられるアミノ酸と類似の極性、親水性、疎水性、塩基性、酸性、中性、又は電荷を有していてよい。あるいは、保存的置換は、既存の芳香族又は脂肪族のアミノ酸の代わりに、芳香族又は脂肪族の別のアミノ酸を導入してもよい。保存的アミノ酸変化は当技術分野において周知であり、以下の表A1に定義する20種の主なアミノ酸の特性に従って選択してよい。アミノ酸が類似の極性を有する場合、これは、表A2中のアミノ酸側鎖のヒドロパシースケールを参照することによって決定することができる。本発明のポリペプチドの配列は、5個、10個、15個、20個、25個、30個、35個、40個、45個、50個、55個、60個、65個、又は70個以下の保存的置換が行われている、配列番号1、2、3、又は4のいずれか1つのアミノ酸配列のバリアントを含んでいてよい。
【0041】
【表A1】
【0042】
【表A2】
【0043】
好適な改変は、出発配列中の少なくとも1つのアミノ酸を、同等の特徴を有するが、天然の真核生物タンパク質にみられる20種のL型アミノ酸のうちの1つではないアミノ酸で置き換えてよい。例えば、少なくとも1つのL型アミノ酸は、D型アミノ酸等の直接対応する非L型アミノ酸で置換されてもよく、又はそうでなければ上で定義した保存的置換である非L型アミノ酸で置換されてもよい。
【0044】
本発明のポリペプチドのアミノ酸配列は、上記の通りアミノ酸配列のバリアントを含んでいてよい。しかし、特定の残基は、該バリアント配列内に保持されることが好ましい。例えば、実施例における「炭水化物特異性」及び「炭水化物結合の熱力学」についての考察は、維持されることが好ましい特定の結合部位の特徴を示唆している。
【0045】
従って、上で定義した特異的炭水化物結合活性を有する配列番号1、2、3、若しくは4のいずれか1つ又は任意の断片を含む本発明の任意のポリペプチド、あるいはこれら配列のいずれか1つの任意のバリアントは、任意で、N末端に追加のメチオニン、並びに/又はC末端及び/若しくはN末端にタンパク質精製若しくは他のタグを含むように遺伝子操作されてもよい。タグは、配列番号1、2、3、又は4のいずれか1つのサバレクチンタンパク質の連続ドメインとして、サバリア(ジェラーディア)サバグリアにおいて天然には発現しない配列である。好ましいタンパク質精製タグは、ヒスチジンタグである。ヒスチジンタグは、好ましくは、6個のヒスチジン残基からなる。ヒスチジンタグは、典型的にはアミノ酸の短い配列、例えば3~5個のアミノ酸であるリンカーによってC末端に連結され得る。リンカーは、典型的には、主にグリシン及びセリンの残基からなり、好ましくは、配列GSGを含んでいてよい。例えば、GSG及びGSGLEが好適なリンカーである。配列番号3は、遺伝子操作された配列の例である。
【0046】
従って、まとめると、本明細書では、
特異的炭水化物結合活性を有するポリペプチド、任意で遺伝子操作されたポリペプチドであって、
(a)配列番号1、2、3、又は4のいずれか1つのアミノ酸配列;
(b)配列番号1、2、3、又は4のいずれか1つの配列の断片であって、該配列のうちの少なくとも8個の連続するアミノ酸を含む断片であるアミノ酸配列;
(c)(a)、(b)、又は(c)のいずれか1つのアミノ酸配列と少なくとも50%同一であるアミノ酸配列;
を含むか、本質的にからなるか、又はからなり、
任意で、N末端における追加のメチオニン、並びに/又はC末端及び/若しくはN末端におけるタンパク質精製若しくは他のタグであって、リンカーによって該末端に接合され得るタグを含むように遺伝子操作されるポリペプチド
が提供される。
【0047】
一般的なポリペプチドの特徴
「ポリペプチド」は、本明細書では、2つ以上のサブユニットアミノ酸、アミノ酸アナログ、又は他のペプチドミメティックの化合物を指すために、その最も広い意味で使用される。従って、用語「ポリペプチド」は、短いペプチド配列を含み、より長いポリペプチド及びタンパク質も含む。用語「タンパク質」、「ペプチド」、及び「ポリペプチド」は、互換的に使用することができる。用語「アミノ酸」とは、D型又はL型の光学異性体の両方を含む天然及び/又は非天然、すなわち合成のアミノ酸、並びにアミノ酸アナログ及びペプチドミメティックを指し得る。
【0048】
ポリペプチドは、組み換え法又は合成法を含む好適な方法によって生成され得る。例えば、ポリペプチドは、Fmoc固相化学、Boc固相化学、又は液相ペプチド合成等の当技術分野において公知の標準的な方法を使用して直接合成することができる。あるいは、ポリペプチドは、細胞、典型的には細菌細胞又は植物細胞を、該ポリペプチドをコードしている核酸分子又はベクターで形質転換することによって生成することもできる。細菌宿主細胞において発現させることによるポリペプチドの生成については、以下で説明し、実施例に例示する。本発明は、本発明のポリペプチドをコードしている核酸分子及びベクターを提供する。また、本発明は、このような核酸又はベクターを含む宿主細胞を提供する。本明細書に開示されるポリペプチドをコードしている例示的なポリヌクレオチド分子を配列番号5として提供する。任意のこのような配列を、5’末端にN末端メチオニン(ATG)のコドンを含むように改変することができる。任意のこのような配列は、3’末端の停止コドン(TAA)の前にタンパク質精製又は他のタグのコドンを含むように改変することもできる。追加のメチオニン及びタグを任意で含めることについては、この文書のどこかでより詳細に論じる。
【0049】
用語「核酸分子」及び「ポリヌクレオチド」は、本明細書では互換的に使用され、デオキシリボヌクレオチド若しくはリボヌクレオチド又はこれらのアナログのいずれかである、任意の長さのヌクレオチドのポリマー形態を指す。ポリヌクレオチドの非限定的な例としては、遺伝子、遺伝子断片、メッセンジャーRNA(mRNA)、cDNA、組み換えポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、任意の配列の単離されたDNA、任意の配列の単離されたRNA、核酸プローブ、及びプライマーが挙げられる。本発明のポリヌクレオチドは、本発明のポリペプチドをコードしており、単離又は実質的に単離された形態で提供され得る。実質的に単離されたとは、任意の周囲媒体からポリペプチドが完全にではないがかなりの割合単離され得ることを意味する。ポリヌクレオチドは、その意図する用途に干渉しない担体又は希釈剤と混合されてもよく、それでもなお実質的に単離されたとみなされ得る。選択されたポリヌクレオチドを「コードしている」核酸配列は、例えば発現ベクターにおいて適切な調節配列の制御下におかれたときにインビボでポリペプチドに転写(DNAの場合)及び翻訳(mRNAの場合)される核酸分子である。コード配列の境界は、5’(アミノ)末端における開始コドン及び3’(カルボキシ)末端における翻訳終止コドンによって決定される。本発明の目的のために、このような核酸配列は、ウイルス由来のcDNA、原核生物又は真核生物のmRNA、ウイルス又は原核生物のDNA又はRNA由来のゲノム配列、及び更には合成DNA配列を含んでいてよいが、これらに限定されない。転写終結配列は、コード配列の3’側に位置し得る。
【0050】
ポリヌクレオチドは、一例としてSambrook et al(1989,Molecular Cloning-a laboratory manual;Cold Spring Harbor Press)に記載されている通り、当技術分野において周知の方法に従って合成することができる。本発明の核酸分子は、挿入された配列に動作可能に連結され、それによって、インビボ(例えば、原核生物又は真核生物の発現系)で本発明のポリペプチドを発現することができる制御配列を含む発現カセットの形態で提供され得る。次に、これら発現カセットは、典型的には、ベクター(例えば、プラスミド又は組み換えウイルスベクター)内に提供される。このような発現カセットを宿主対象に直接投与してもよい。あるいは、本発明のポリヌクレオチドを含むベクターを宿主対象に投与してもよい。好ましくは、遺伝子ベクターを使用してポリヌクレオチドを調製及び/又は投与する。好適なベクターは、十分な量の遺伝情報を保有し、本発明のポリペプチドを発現することができる任意のベクターであってよい。
【0051】
従って、本発明は、このようなポリヌクレオチド配列を含む発現ベクターを含む。このような発現ベクターは、分子生物学の技術分野においてルーチン的に構築され、例えば、本発明のペプチドを発現させるためにプラスミドDNA、並びに適切なイニシエータ、プロモータ、エンハンサ、及び他のエレメント、例えば必要になる場合がありかつ正確な配向で配置されたポリアデニル化シグナルの使用を伴っていてよい。他の好適なベクターは、当業者には明らかであろう。これに関する更なる例として、Sambrookらを参照する。
【0052】
また、本発明は、上記の発現ベクターを組み込むように改変された細胞を含む。このような細胞は、本発明のポリペプチドを生成するための常法を使用して培養又は増殖させ得る。このような細胞としては、典型的には、細菌細胞、例えば大腸菌、ラクトバチルス(Lactobacillus)、若しくはアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)等の原核細胞、又は例えばベンサミアナタバコの細胞等の植物細胞が挙げられる。植物細胞は、例えばアグロバクテリウム・ツメファシエンスの予め形質転換された細菌細胞を用いて、ポリペプチドを発現するように改変することができる。好適な方法については、実施例に開示する。
【0053】
生成、単離、又は精製を支援するために、ポリペプチドを遺伝子操作又は改変してもよい。例えば、本発明のポリペプチドが細菌宿主細胞における組み換え発現によって生成される場合、ポリペプチドの配列は、発現を改善するためにN末端に追加のメチオニン(M)残基を含んでいてよい。別の例として、本発明のポリペプチドは、N末端又はC末端、好ましくはC末端にタンパク質精製タグを付加することによって遺伝子操作又は改変されてもよい。タンパク質精製タグは、好ましくは、サバリア(ジェラーディア)サバグリアにおいて天然には発現しない部分である。タンパク質精製タグは、好ましくは、サバリア種で発現する野生型ポリペプチド鎖には存在しない部分である。タンパク質精製タグは、分離手段に直接かつ特異的に結合することができるリガンドであってよい。あるいは、タンパク質精製タグは、結合対の一方のメンバーであってもよく、分離手段は、結合対の他方のメンバーを含む試薬を含む。任意の好適な結合対を使用してよい。
【0054】
ポリペプチドが結合対の一方のメンバーの付加によって遺伝子操作又は改変される場合、ポリペプチドは、好ましくは、ヒスチジンタグ付き又はビオチンタグ付きである。典型的には、ヒスチジンタグのアミノ酸コード配列は遺伝子レベルで含まれ、ポリペプチドは細菌又は植物の細胞において組み換え的に発現する。ヒスチジン又はビオチンのタグは、典型的には、ポリペプチドのいずれかの末端、好ましくはC末端に存在する。該タグは、ポリペプチドに直接連結されてもよく、任意の好適なリンカー配列、例えば、3個、4個、若しくは5個のグリシン残基又はグリシン残基とセリン残基との混合物によって間接的に連結されてもよい。ヒスチジンタグは、典型的には6個のヒスチジン残基からなるが、典型的にはこれよりも最大7アミノ酸、8アミノ酸、9アミノ酸、10アミノ酸、若しくは20アミノ酸長くてもよく、又は例えば5アミノ酸、4アミノ酸、3アミノ酸、2アミノ酸、若しくは1アミノ酸短くてもよい。
【0055】
タンパク質の精製に有用な別のタグとしては、マルトース結合タンパク質(MBP)、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)、チオレドキシン(TRX)、ユビキチン(Ub)、低分子ユビキチン関連修飾因子(SUMO)、溶解度増強ペプチド配列(SET)、及びN-利用物質(NusA)が挙げられる。好適なタグについては、参照により組み込まれるCosta et al;Front Microbiol.2014;5:63でも論じられており、特にCostaらの表1に開示されている各タグを含む。
【0056】
ポリペプチドのアミノ酸配列は、例えば安定性を高めるために、少なくとも1つの天然には存在しないアミノ酸を含むように遺伝子操作又は改変されてもよい。ポリペプチドが合成手段によって生成される場合、そのようなアミノ酸が生成中に導入されてもよい。また、ポリペプチドは、合成又は組換えによる生成のいずれかの後に修飾されてもよい。また、D-アミノ酸を使用してポリペプチドを生成してもよい。そのような場合、アミノ酸は、C→Nの配向で逆順に連結されるであろう。これは、そのようなポリペプチドを生成するために当技術分野では従来から行われている。本発明の好ましいポリペプチドは、少なくとも1つのそのような非天然若しくは合成のアミノ酸又は少なくとも1つの非L型アミノ酸を含むように遺伝子操作されてもよい。
【0057】
多数の側鎖修飾が当技術分野において公知であり、本明細書で指定する場合がある通り、任意の更なる必要な活性又は特徴をポリペプチドが保持していることを条件として、ポリペプチドの側鎖に対してなされ得る。また、ポリペプチドは化学的に修飾されてもよい、例えば翻訳後修飾されてもよいことが理解されるであろう。例えば、グリコシル化されてもよく、リン酸化されてもよく、又は修飾されたアミノ酸残基を含んでいてもよい。ポリペプチドは、PEG化されてもよい。
【0058】
ポリペプチドは、実質的に単離又は精製された形態で提供されてもよい。すなわち、ポリペプチドが発現した細胞からの細胞抽出物中に存在する他の成分の大部分から単離されている。ポリペプチドは、意図する用途に干渉しない(以下で論じる通りの)担体又は希釈剤と混合されてもよく、それでもなお実質的に単離されたとみなされ得る。また、実質的に精製された形態であってもよく、その場合、一般に、調製物中に少なくとも90%、例えば、少なくとも95%、98%、又は99%のタンパク質が含まれる。ポリペプチドが追加の活性成分、例えば別のポリペプチドと共に組成物で提供される場合、該ポリペプチドはそれぞれ、それぞれの意図する目的に適切な比で混合される前に、高度に均質になるまで個々に精製される。例えば、2つのポリペプチドは、1:1比で組み合わせられる前に、少なくとも90%均質になるまでそれぞれ精製され得る。
【0059】
特定の実施形態では、本発明のポリペプチドは、別の部分に(直接又は間接的に)連結されていてもよい。従って、ポリペプチドの炭水化物結合能力は、上述の病原体のインビボでの位置等の特定の位置を該別の部分に標的とさせるために使用することができる。別の部分は、薬物等の治療剤であってよい。レクチンを用いた薬物の標的送達については、Bies et al 2004 Advanced Drug Delivery Reviews 56;425-435に詳細に論じられており、これは参照することにより本明細書に組み込まれる。別の部分は、検出可能な標識であってもよい。別の部分は、代替的又は付加的な機能を有する追加のタンパク質ドメインを含んでいてもよく、又はからなっていてもよい。別の部分は、標的に特異的な抗体又はポリペプチドの結合ドメイン等の結合部分であってもよく、従って、コンジュゲートされた分子は、二重特異性結合活性を有し得る。
【0060】
治療剤又は検出可能な標識は、例えば化学的コンジュゲーションによってペプチドに直接結合し得る。ポリペプチドに剤又は標識をコンジュゲートする方法は、当技術分野において公知である。例えば、カルボジイミドコンジュゲーション(Bauminger S and Wilchek M,1980,Methods Enzymol.,70,151-159)は、ドキソルビシンを含む様々な剤をポリペプチドにコンジュゲートするために使用することができる。水溶性カルボジイミドである1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)は、機能性部分を結合部分にコンジュゲートするのに特に有用である。
【0061】
部分をポリペプチドにコンジュゲートするために他の方法を使用することもできる。例えば、グルタルアルデヒドの架橋と同様に、適切な反応物質の過ヨウ素酸ナトリウム酸化とそれに続く還元的アルキル化を使用してもよい。しかし、本発明のコンジュゲートを生成する方法のいずれを選択するかにかかわらず、ポリペプチドがその炭水化物結合能力を維持し、機能性部分がその関連機能を維持していることが確認されなければならないことが認識される。
【0062】
ポリペプチドに連結される治療剤は、治療上有益なポリペプチド又はポリペプチドをコードしているポリヌクレオチドを含んでいてよい。このようなポリペプチドの例としては、抗増殖性又は抗炎症性のサイトカインが挙げられる。治療剤は、抗ウイルス剤、抗細菌剤、抗真菌剤、又は抗がん剤であってよい。治療剤は、細胞毒性剤であってもよい。
【0063】
抗体を検出可能な標識に連結させてもよい。「検出可能な標識」とは、ポリペプチドを患者に投与した後に標的部分に位置しているときに、典型的には体外及び標的が位置している部位から非侵襲的に検出することができる部分にポリペプチドが連結されていることを意味する。従って、ポリペプチドは、イメージング及び診断において有用であり得る。
【0064】
典型的には、標識は、イメージングにおいて有用な放射性原子であるか又はそれを含む。好適な放射性原子としては、シンチグラフィー研究のための99mTc及び123Iが挙げられる。他の標識としては、例えば、同様に123I、131I、111In、19F、13C、15N、17O、ガドリニウム、マンガン、又は鉄等の磁気共鳴イメージング(MRI)用のスピン標識が挙げられる。明らかなことではあるが、分子を容易に検出できるようにするためには、十分な量の適切な原子同位体がポリペプチドに連結されていなければならない。
【0065】
放射標識又は他の標識は、公知の方法で組み込むことができる。例えば、ポリペプチドは、生合成されてもよく、又は例えばフッ素19を含む好適なアミノ酸前駆体を水素の代わりに用いて化学的アミノ酸合成によって合成されてもよい。99mTc、123I、186Rh、188Rh、及び111In等の標識は、例えば、ポリペプチドにおけるシステイン残基を介して結合することができる。イットリウム-90は、リジン残基を介して結合することができる。好ましくは、検出可能な標識は、例えばテクネチウム-99m又はヨウ素-123等の放射性原子を含む。あるいは、検出可能な標識は、ヨウ素-123;ヨウ素-131;インジウム-111;フッ素-19;炭素-13;窒素-15;酸素-17;ガドリニウム;マンガン;鉄を含む群から選択され得る。
【0066】
ポリペプチドは、直接又は間接的に治療剤又は検出可能な標識に選択的に結合することができる。例えば、ポリペプチドを、治療剤であるか又は容易に検出可能である更なる化合物又は成分に選択的に結合する部分に連結してよい。
【0067】
更なる例として、レクチン媒介性炭水化物結合事象に応答して、ADCC(抗体依存性細胞媒介性細胞傷害)、インビボでの半減期の増加、補体依存性細胞傷害(CDC)、及び抗体依存性細胞媒介性貪食(ADCP)を含むFc媒介性エフェクター機能を駆動するために、本発明のポリペプチドを抗体(好ましくはヒトIgG)のFc領域にコンジュゲートしてもよい。
【0068】
ポリペプチドは、使用前に水溶液で再構成するのに好適な凍結乾燥形態で提供されてもよい。凍結乾燥組成物は改善された安定性を有するので、ポリペプチドをより長期間にわたって保管することが可能になる。ポリペプチドは、典型的には、フリーズドライ前に実質的に精製される。凍結乾燥形態のポリペプチドを調製する方法であって、好適な緩衝液、例えばリン酸緩衝食塩水(PBS)、Tris緩衝生理食塩水(TBS)、又は別のTris緩衝液中の該ポリペプチドをフリーズドライすることを含む方法が、本明細書に提供される。得られる凍結乾燥形態のポリペプチドも提供される。ポリペプチドの溶液を調製する方法であって、凍結乾燥形態の該ポリペプチドを提供することと、好適な担体又は希釈剤、例えば水で再構成することとを含む方法も提供される。
【0069】
ポリペプチドは、当技術分野において公知の方法を使用して、例えば、Datta S et al.,Enzyme immobilization:an overview on techniques and support materials,3 Biotech,3(1):1-9(2013)に記載の通り固定化することができる。例えば、ポリペプチドは、吸着、共有結合、アフィニティ固定化、又は封入によって固定化してよい。支持体として使用することができる材料としては、例えば、アガロース、セファロース、コラーゲン、ゼラチン、セルロース、ペクチン、セファロース等の天然支持体、セラミック、シリカ、ガラス、活性炭、若しくは炭等の無機材料、又はポリ(スチレン-ジビニルベンゼン)等の合成ポリマー、又はラテックスが挙げられるが、これらに限定されない。これらのいずれかを樹脂として又は任意の他の好適なフォーマットで提供することができる。ポリペプチドを磁気ビーズに固定化してもよい。ポリペプチドをモノリス支持体に固定化してもよく、その例は、Andjelkovic et al,(2017)Electrophoresis 38,2851-2869(doi:10.1002/elps.201700260)及びKubota et al.(2017).New platform for simple and rapid protein-based affinity reactions.Scientific Reports,7(doi:10.1038/s41598-017-00264-y)に開示されている。
【0070】
ポリペプチドは、いかなる目的で支持体に固定化してもよく、例えば、
- 空気中に浮遊する病原体を検出又は環境から除去するため
- 対象由来の体液サンプル等のサンプル中の病原体を検出又は該サンプルから除去するため
にポリペプチドを装置の表面又は装置の構成部品に固定化してもよい。
【0071】
ポリペプチドを含む組成物及び製剤
別の態様では、本発明は、本発明のポリペプチドを含む組成物を提供する。例えば、本発明は、1つ以上の本発明のポリペプチドと、保存剤と、任意で1つ以上の担体、賦形剤、希釈剤、又はビヒクルとを含む組成物を提供する。典型的には、最終組成物は、無菌かつパイロジェンフリーである。保存剤、担体、賦形剤、希釈剤、又はビヒクルは、好ましくは、組成物の他の成分と適合しかつ組成物が投与される対象にとって有害ではないという意味で薬学的に許容可能であり得る。この場合、組成物は医薬組成物と称されることもある。組成物は、無生物物体、例えば医薬品又は医療機器、実験機器及び実験用品、器具、装置等の殺微生物性滅菌に好適であり得る。組成物は、局所用殺微生物剤として使用するために製剤化し、典型的には病原体と最初に接触する場所に適用してよく、例えば、膣、直腸、経口、陰茎用の錠剤、クリーム、膣坐剤、タンポン、クリーム、ゲル、ペースト、フォーム、又はスプレー処方、コンドーム用の抗ウイルス潤滑剤、ペッサリー、子宮頸管キャップ、膣リング、及びスポンジ等である。
【0072】
好適な組成物の製剤化は、標準的な医薬製剤化の化学及び方法論を用いて実施することができ、それらは全て、適当な技能を有する当業者が容易に利用可能なものである。例えば、剤を保存剤及び1つ以上の担体、賦形剤、又はビヒクルと合わせてよい。湿潤又は乳化剤、pH緩衝物質、還元剤等の補助物質が、賦形剤又はビヒクル中に存在していてもよい。好適な還元剤としては、システイン、チオグリセロール、チオレドキシン、グルタチオン等が挙げられる。賦形剤、ビヒクル、及び補助物質は、一般に、組成物を投与された個体において免疫応答を誘導せず、過度の毒性なしに投与することができる医薬品である。薬学的に許容し得る賦形剤としては、ポリエチレングリコール、ヒアルロン酸、グリセロール、チオグリセロール、及びエタノール等の液体が挙げられるが、これらに限定されない。薬学的に許容し得る塩、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩等の鉱酸塩;並びに酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩、安息香酸塩等の有機酸の塩をその中に含めてもよい。薬学的に許容し得る賦形剤、ビヒクル、及び補助物質に関する綿密な考察は、Remington’s Pharmaceutical Sciences(Mack Pub.Co.,N.J.1991)において入手可能である。
【0073】
このような組成物は、ボーラス投与又は連続投与に好適な形態で調製、包装、又は販売され得る。注射可能な組成物は、アンプル又は保存剤を含む多回投与用容器等の単位剤形で調製、包装、又は販売され得る。組成物は、懸濁剤、液剤、油性又は水性のビヒクル中の乳剤、ペースト剤、及び移植可能な持続放出性又は生分解性の製剤を含むが、これらに限定されない。このような組成物は、懸濁化剤、安定剤、又は分散剤を含むがこれらに限定されない1つ以上の追加成分を更に含んでいてもよい。非経口投与用の組成物の一実施態様では、好適なビヒクル(例えば、無菌パイロジェンフリー水)で再構成するための(例えば、散剤又は顆粒剤の場合)乾燥形態で活性成分が提供された後、再構成された組成物が非経口投与される。組成物は、無菌の注射可能な水性又は油性の懸濁剤又は液剤の形態で調製、包装、又は販売され得る。この懸濁剤又は液剤は、公知の技術に従って製剤化され得、そして、活性成分に加えて本明細書に記載される分散剤、湿潤剤、又は懸濁化剤等の追加成分を含んでいてもよい。このような無菌の注射可能な製剤は、非毒性の非経口的に許容し得る希釈剤又は溶媒、例えば水又は1,3-ブタンジオールを使用して調製され得る。他の許容し得る希釈剤及び溶媒としては、リンゲル液、等張塩化ナトリウム溶液、及び固定油、例えば合成のモノグリセリド又はジグリセリドが挙げられるが、これらに限定されない。
【0074】
有用である他の非経口的に投与可能な組成物は、微結晶性形態で、リポソーム調製品中に、又は生分解性ポリマー系の成分として活性成分を含むものを含む。持続放出又は移植用の組成物は、薬学的に許容し得る高分子又は疎水性の材料、例えば、エマルション、イオン交換樹脂、難溶性ポリマー、又は難溶性塩を含んでいてよい。組成物は、例えば、皮内、皮下、経皮、筋肉内、動脈内、腹腔内、関節内、骨内、又は他の適切な投与経路を含む任意の好適な経路による投与に好適であり得る。好ましい組成物は、静脈内注入による投与に好適である。
【0075】
ポリペプチドの使用方法
本発明のポリペプチドは、様々な方法において有用である。従って、本発明のポリペプチドを、例えばサンプル又は対象に投与することを含む方法が、本明細書に提供される。方法は、炭水化物を特異的に結合させる方法であってもよく、任意で結合生成物の検出又は分析を更に含んでいてもよい。方法は、疾患を治療又は予防する方法であって、対象に本発明のポリペプチドを投与することを含む方法であってもよい。
【0076】
例えば、本発明のポリペプチドは、バイオテクノロジーに有用なツールを提供することができる。ポリペプチドは、炭水化物を特異的に結合させる方法において使用することができる。炭水化物は、マンノースを含有するグリカン(例えば、マンノース及び/又はメチルマンノシド)であってよい。ポリペプチドは、炭水化物を含有するサンプルに投与され、結合が生じる条件下でインキュベートされ得る。サンプルは、血液、血漿、又は精子等の対象から採取した任意の体液であってよい。方法は、任意で、炭水化物が結合しているかどうかを判定すること及び/又は得られた混合物から炭水化物及び任意の連結している糖タンパク質を分離することを更に含む。
【0077】
本発明はまた、サンプル中の炭水化物を検出する方法であって、該サンプルを本発明のポリペプチドと接触させ、それによってポリペプチド-炭水化物複合体を形成させることを含む方法を含み得る。該複合体も本明細書で提供される。方法は、任意で、接触させたサンプルから該ポリペプチドを分離することと、分離されたポリペプチドが炭水化物に結合しているかどうかを判定して、該サンプル中の炭水化物の有無を判定することと、を含んでいてもよい。方法は、サンプルから炭水化物結合糖タンパク質を単離するために使用することもできる。
【0078】
このような方法では、ポリペプチドがサンプル中の任意の炭水化物と相互作用するのに、そして、結合が生じるのに好適な条件下でサンプルを本発明のポリペプチドと接触させる。好適な条件は、少なくとも1分間、2分間、3分間、4分間、5分間、6分間、7分間、8分間、9分間、10分間、又はそれ以上、本発明のポリペプチドと共にインキュベートすることを含む。インキュベーションは5~10分間であってよく、抗ウイルス活性を評価するには通常これで十分である。インキュベーションは、好ましくは室温で、より好ましくは約20℃、約25℃、約30℃、約35℃、約40℃、又は約45℃で、最も好ましくは約37℃で行われる。
【0079】
上記方法は、任意の好適なpH下で実施してよい。好適なpH値としては、例えばpH4.0~10.0程度が挙げられる。本発明のポリペプチドの活性に好ましいpHは、6.5~7.5の範囲内である。方法は、トリス緩衝生理食塩水(TBS)又はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)等の任意の好適な緩衝液中で実施してよい。本発明のポリペプチドのサンプルのタンパク質含量に対する近似比は、1:1、2:1、4:1、6:1、10:1、15:1、20:1、1:2、1:4、又は1:6、1:10、1:15、1:20、1:40、1:100、1:200、又は1:400(重量:重量)であってよい。好ましい比は1:1(重量:重量)である。
【0080】
炭水化物が結合しているかどうかを判定するためのサンプルの検出又は分析は、例えば、質量分析、HPLC、アフィニティクロマトグラフィ、ゲル電気泳動、SDS-PAGE、ELISA、レクチンブロッティング、分光分析、キャピラリー電気泳動、及び分析のための他の標準的な検査技術等であるがこれらに限定されない任意の好適な分析方法によって評価してよい。例えば、炭水化物及び任意の連結している糖タンパク質の分子量を分析してよい。
【0081】
結合している炭水化物及び任意の連結している糖タンパク質及び本発明のポリペプチドの分離は、任意の好適な分離手段によって実施してよい。例えば、分離手段は、磁性ナノ粒子の集団を含んでいてよい。これらは、磁場分離、好ましくは高勾配磁場分離を使用してサンプルから分離され得る。試薬又は分離手段の例は、本発明のポリペプチドに結合することができる磁性粒子の集団である。例えば、ポリペプチドがヒスチジンタグで誘導体化されている場合、磁性粒子は、ニッケル、銅、又は亜鉛のイオンを保有しているキレート化基をその表面上に含有する。あるいは、ポリペプチドがビオチンタグで誘導体化されている場合、磁性粒子は、その表面上にストレプトアビジンを含有する。
【0082】
また、分離手段は、本発明のポリペプチドが固定化されている固体支持体を含んでいてもよい。固体支持体の例としては前の章に記載したものが挙げられ、アガロース又はセファロースの樹脂、架橋アガロースビーズ、又は類似のものを含んでいてよい。支持体を、アフィニティクロマトグラフィカラムにおいてマトリクスとして使用してもよい。あるいは、固体支持体は、本発明のポリペプチドが直接吸着することができる、好適なシリカベースの材料若しくはポリスチレン又はマイクロタイタープレート若しくは等価物等のプラスチック容器を含んでいてよい。
【0083】
別の分離手段は、本発明のポリペプチドに特異的な抗体を含む試薬を含み、これは、当技術分野において標準的な方法によって生成され得る。この意味の抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、単鎖抗体、キメラ抗体、CDR移植抗体、又はヒト化抗体を含む。抗体は、インタクトな免疫グロブリン分子又はその断片、例えば、Fab、F(ab’)2、若しくはFvの断片であってよい。1つを超える抗体が存在する場合、抗体は、好ましくは、本発明のポリペプチドに同時に結合することができるように異なる重複していない決定基を有する。抗体は、固体支持体に結合させてもよく、あるいはその分離又は単離を支援するために標識又は別の化学基若しくは分子にコンジュゲートしてもよい。例えば、典型的な化学基としては、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)若しくはフィコエリトリン(PE)等の蛍光標識、又はビオチン等のタグが挙げられる。
【0084】
他の好適な分離手段は、接触させたサンプルからのポリペプチドを好適な溶出バッファと接触させることによって(典型的には固定化されている)ポリペプチドから炭水化物及び任意の連結している糖タンパク質を溶出することを含む。溶出緩衝液の選択は、タンパク質の酸感受性に依存し得る。溶出緩衝液は、高モル濃度の尿素(典型的には、少なくとも5M、6M、7M、又は最も好ましくは、少なくとも8M)又は高濃度の洗浄剤(典型的には、少なくとも約1%、5%、又は10%)を含み得る。好適な洗浄剤は、Nonidet P40、Triton X-100、Tween 20、CHAPS、デオキシコール酸ナトリウム、及びRapiGest SF界面活性剤を含むが、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)が好ましい。高モル濃度の尿素が洗浄剤よりも好ましいが、その理由は、下流の手順が洗浄剤の存在に対して感受性である可能性がより高いためである。特に好ましい溶出緩衝液は、単糖等のグリカンである。本発明のポリペプチドに捕捉されたグリカン又は糖タンパク質の溶出は、好ましくは単糖を用いて行ってよい。例えば、マンノースを使用して、固定化されているサバレクチンに捕捉された糖タンパク質を溶出することができる。
【0085】
上記方法のいずれかにおけるサンプルは、患者、好ましくはヒト患者から採取されたサンプルであってよい。得られた結果は、例えば、表面で糖タンパク質を発現する病原体の存在を検出するため又は存在量の少ない腫瘍マーカーを検出するため等の診断目的に使用することができる。このような使用は、患者サンプルから得られた結果を、健常対照から得られたサンプルを使用して得られた結果と比較することを含んでいてよい。
【0086】
また、ポリペプチドは、治療又は予防に用いることもできる。治療用途では、既に障害又は病態に罹患している対象に、病態又はその症状のうちの1つ以上を治癒、緩和、又は部分的に抑止するのに十分な量のポリペプチド又は組成物を投与する。このような治療的処置の結果、疾患の症状の重症度が低下し得る又は無症状期間の頻度若しくは期間が増加し得る。これを達成するのに適切な量を「治療的に有効な量」と定義する。予防用途では、未だ障害又は病態の症状を呈していない対象に、症状の発現を防止又は遅延させるのに十分な量のポリペプチド又は組成物を投与する。このような量を「予防的に有効な量」と定義する。対象は、任意の好適な手段により疾患又は病態を発症するリスクがあると同定されたことがあってもよい。従って、本発明はまた、ヒト又は動物の身体の治療において使用するための本発明のポリペプチドを提供する。また、対象における疾患又は病態を予防又は治療する方法であって、予防又は治療的に有効な量の本発明のポリペプチドを対象に投与することを含む方法が、本明細書に提供される。ポリペプチドは、好ましくは静脈内注入により投与されるが、例えば、皮内、皮下、経皮、筋肉内、動脈内、腹腔内、関節内、骨内、又は他の適切な投与経路を含む任意の好適な経路によって投与されてもよい。投与される該ポリペプチドの量は、0.01mg/kg BW~2mg/kg BW、0.04~2mg/kg BW、0.12mg/kg BW~2mg/kg BW、好ましくは、0.24mg/kg~2mg/kg BW、最も好ましくは1mg/kg~2mg/kg BWであってよい。
【0087】
本発明のポリペプチドは、ポリペプチドが特異的に結合するグリカンが組み込まれた少なくとも1つの糖タンパク質又は他の構造をその表面で発現する病原体によって媒介される疾患又は病態を治療又は予防する方法において特に有用であり得る。本発明はまた、該病原体によって媒介される疾患又は病態を治療又は予防する方法において使用するための医薬の製造において使用するための本発明のポリペプチドを提供する。病原体は、ウイルス、細菌、真菌、又はがん細胞であり得る。方法は、該病原体の感染又は該感染に関連する疾患若しくは合併症を治療又は予防する方法であって、対象、典型的にはヒト対象に本発明のポリペプチドを投与することを含む方法であり得る。
【0088】
方法は、任意のウイルス感染又はウイルス感染に関連する疾患若しくは合併症を治療又は予防するためのものであってよい。ウイルスは、典型的には、ポリペプチドが特異的に結合するグリカンが組み込まれた少なくとも1つの糖タンパク質又は他の構造をその表面で発現する。ウイルスは、好ましくは、その表面で高マンノースグリカン構造を発現する。ウイルスは、エンベロープウイルスであってもよく、その場合、グリカンは通常エンベロープに存在する。ウイルスは、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2)、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)、Sars-COV-2、Sars-COV-1、インフルエンザA型、インフルエンザB型、C型肝炎ウイルス(HCV)及びB型肝炎ウイルス(HBV)、エボラウイルス、デングウイルス、西ナイルウイルス、黄熱ウイルス、ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)、日本脳炎ウイルス、豚流行性下痢ウイルス、サル免疫不全ウイルス(SIV)であり得る。ウイルスは、好ましくは、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2)、又はSars-COV-2等のSars-コロナウイルスである。
【0089】
方法は、上で定義した任意のウイルスによって引き起こされる疾患又は病態を治療又は予防するためのものであり得る。方法は、AIDs、COVID-19、又はヘルペスを治療又は予防するためのものであってもよい。
【0090】
方法は、細菌感染又は細菌感染に関連する疾患若しくは合併症を治療又は予防するためのものであってもよい。細菌細胞は、典型的には、ポリペプチドが特異的に結合するグリカンが組み込まれた少なくとも1つの糖タンパク質又は他の構造を細胞表面で発現する。細菌は、好ましくは、その表面で高マンノースグリカン構造を発現する。細菌は、以下の種:黄色ブドウ球菌(S.aureus)、緑膿菌(P.aeruginosa)、大腸菌、セレウス菌(B.cereus)、フェカリス菌(E.faecalis)、又はネズミチフス菌(S.typhimurium)のものであってよく、好ましく好ましくは、黄色ブドウ球菌又は大腸菌である。方法は、上で定義した任意の細菌によって引き起こされる疾患又は病態を治療又は予防するためのものであり得る。
【0091】
方法は、真菌感染又は真菌感染に関連する疾患若しくは合併症を治療又は予防するためのものであってもよい。真菌細胞は、典型的には、ポリペプチドが特異的に結合するグリカンが組み込まれた少なくとも1つの糖タンパク質又は他の構造を細胞表面で発現する酵母細胞であってよい。真菌は、好ましくは、その表面で高マンノースグリカン構造を発現する。真菌は、以下の種:出芽酵母又はカンジダ・アルビカンスの酵母であってよい。方法は、上で定義した任意の真菌によって引き起こされる疾患又は病態を治療又は予防するためのものであり得る。
【0092】
方法は、がんを治療又は予防するためのものであってもよい。がんを引き起こすがん細胞は、典型的には、ポリペプチドが特異的に結合するグリカンが組み込まれた少なくとも1つの糖タンパク質又は他の構造を細胞表面で発現する。好ましくは、がんは、健常細胞よりも高いレベルで該グリカンを発現する。がん細胞は、好ましくは、その表面で高マンノースグリカン構造。がん細胞は、ヒトであってよい。肺がん細胞(例えば、肺胞基底上皮細胞)であっても、結腸直腸がん細胞(例えば、腸上皮細胞)であってもよい。好ましくは、腺がん細胞である。あるいは、がん細胞は、骨髄性又はリンパ性の白血病由来であってもよい。方法は、上で定義した任意のがん細胞によって引き起こされるがんを治療又は予防するためのものであり得る。
【0093】
以下の実施例は、本発明を説明する
【実施例
【0094】
実施例1
結果
序論、基本特性
本研究は、サンゴサバリア(ジェラーディア)サバグリア由来の新規抗ウイルスタンパク質サバレクチンの単離について発表する。これまでに、サンゴジェラーディア・サバグリア由来の1つの抗ウイルスタンパク質(マンノース結合レクチン)が報告されている(JAIDS 1 453)。このタンパク質は、分子量14,800Da、pI(等電点)4.8、モル吸光係数1.27×105M-1cm-1を有し、完全な活性にはCa2+を必要とし、121アミノ酸長である。一次アミノ酸配列は決定されていない(EJB 169 97)。
【0095】
この研究で報告する抗ウイルスタンパク質もマンノース結合レクチンであるが、明らかに異なるタンパク質である。異なる分子量、異なるpI、異なるモル吸光係数を有し、活性にCa2+を必要とせず、アミノ酸組成も異なる。新規の抗ウイルスタンパク質の配列は、タンパク質データバンク(Uniprot又はNCBI)には見当たらない。既知の配列との類似度は最大でも40%である。平均分子量は16,583Da~16,803Daである。一次構造については表1を参照。サバレクチンのpIは8.9である。
【0096】
精製
サバレクチンの精製は、図1に提示するフロー図に従って行った。サバレクチン単離物の純度は、ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)によって確認した。デンシトメトリーによれば、17kDa付近の単一タンパク質バンドが95%を超える高純度で得られた、図1を参照。
【0097】
MALDI-TOF質量分析によって分析したサバレクチンの単離及び精製された超製品は、少なくとも4つの異なる分子イオン[M+H]ピークを示す、図2。これは、このタンパク質に4種の天然バリアントがあることを示唆している。配列の他の天然バリアントの存在を排除することはできない。主要なピークの平均分子量は16,803Daである。次の3つは、強度に従って16,769Da、16,617Da、及び16,583Daである。いずれも低分解能技術であるサイズ排除クロマトグラフィ(図1)及びSDS-PAGE(図1)による分子量の決定は、約17kDaの分子量を示した。
【0098】
完全なアミノ酸配列を、図3に示したフロー図に従って決定した。タンパク質サンプルのアリコートを、様々なプロテアーゼ及び臭化シアノゲンで体系的に消化した。得られたペプチド混合物を、液体クロマトグラフィ-エレクトロスプレーイオン化タンデム質量分析(LC-ESI-MS/MS)及び/又はマトリックス支援レーザー脱離イオン化タンデム飛行時間型質量分析(MALDI-TOF/TOF MS)によって分析した。配列は、異なるプロテアーゼ及び臭化シアノゲンによって得られた重複ペプチドを解析することによって得られた。グリコシル化も他の翻訳後修飾も観察されなかった。
【0099】
これら4つの主なピークのアミノ酸配列を表1に示す。主要な16,803Daのピークの配列は149個のアミノ酸を含有する。16,769Daのピークに対応する配列は、1つのアミノ酸置換Phe61Leuを除いて同じである。16,617Daの配列は、C末端のTrpが欠失していることを除いて16,803Daのピークの配列と同じである。16,583Daの配列は、C末端のTrpが欠失していることを除いて16,769Daのピークの配列と同じである。各バリアントの61位に下線を引いてある。また、主要なバリアントをコードしている例示的な核酸配列も示す。この配列は、組換えサバレクチンが大腸菌等の細菌細胞から発現される場合に使用される。この状況では、発現を最適化するために、追加のN末端メチオニンのためのコドンを5’に更に含むように配列が改変される。最適化された配列は、通常、NcoI/XhoI制限部位を用いてベクターpET28a+に組み込まれる。任意でタンパク質精製用タグを含めてもよいが、レクチン自体のレクチン結合活性を利用して(例えば、炭水化物標的を備えるアフィニティーカラムを用いて)、組換えサバレクチンを精製することもできる。
【0100】
【表1-1】
【0101】
【表1-2】
【0102】
炭水化物の特異性
様々な技術を用いてサバレクチンの炭水化物特異性について調べた。
【0103】
等温滴定熱量測定(ITC)実験は、25℃で異なるD-炭水化物(単糖及び二糖)の存在下において、50mMリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中、pH7.4のサバレクチンを用いて行った。
【0104】
ITCを用いたところ、ガラクトース、N-アセチルガラクトサミン、グルコース、N-アセチルグルコサミン、フコース、マンニトール、ラムノース、ラクトース、ラフィノース、及びアラビノースの結合は観察されなかった。マンノース及びメチルマンノシドの結合はITCで観察された。ITCによって求められた結合定数(Kb)は、D-マンノースではKb=2514M-1、メチルアルファ-D-マンノシドではKb=1270M-1であった。
【0105】
サバレクチンの炭水化物結合活性に及ぼすカチオンの影響を調べるために、1)ITC実験の前にサバレクチン及び炭水化物を三倍蒸留水に対して集中的に透析する、2)ITC実験においてEDTA(エチレンジアミン四酢酸)を用いて遊離カチオンを結合させ、溶液から除去する、及び3)ITC実験において無機塩を添加する、という3つの異なるアプローチを用いて炭水化物の結合を行った。カルシウムイオンを含むカチオンの存在下でも非存在下でも、サバレクチンの炭水化物結合にいかなる変化もみられなかった。少なくとも1つの既知のクラスのレクチンの炭水化物結合活性は、カルシウムイオンの存在に厳密に依存している。
【0106】
ITCの結果を確認するために、比濁活性アッセイを行った。結果は、1つの例外を除いて確認され、D-グルコースでは、D-マンノースよりも2桁低い結合定数での弱い結合が観察された。このように結合定数が低いことにより、ITCでは観察することができない小さな熱作用が生じる。
【0107】
マイクロスケール熱泳動(MST)実験により、マンノース及びメチルマンノシドの結合が確認された。メチルアルファ-D-マンノシドの解離定数(Kd)は13.2±1.74mMであると求められた。D-マンノースの場合、2つの結合事象が観察され、第1の事象はKd26.5±1.47μM、第2の事象はKd 11.2±1.12mMであった。2つのKm値は、アロステリックに結合する可能性のある、異なる2つの結合部位の存在を示す。
【0108】
示差走査熱量測定による実験で、マンノース及びメチルマンノシドの結合が確認された。以下の熱安定性についての考察を参照。
【0109】
炭水化物結合の熱力学
マンノース及びメチルマンノシド結合の熱力学的パラメータは、反復非線形レーベンバーグ・マルカートχ2回帰手順に基づいてモデル関数を実験的ITCサーモグラムにグローバスフィッティングさせるためのアルゴリズムによって得られた。タンパク質1分子あたりの結合部位が2つであると仮定した場合に、モデルと実験データとが最もよく一致した。
【0110】
いずれの炭水化物についても、結合は好ましくないエントロピー寄与と共に大きなエンタルピー寄与によって駆動される。図4を参照。ΔH対-TΔSのプロットから1.2の傾きを有する直線が得られ、これはエンタルピー-エントロピー補償が低いことを示す。
【0111】
pH安定性
サバレクチン活性の安定性は、25℃、異なるpHで比濁アッセイを用いて判定した。異なる緩衝液を使用し、pH3.5~6の範囲では酢酸緩衝液、pH7~8.9の範囲ではトリス緩衝液であった。
【0112】
【表2】
【0113】
最大の炭水化物結合活性はpH7で観察された(表2)。塩基性pHでは強い活性がみられたが、酸性pH領域では活性がわずかに低下した。実験により、異なるpH値において活性の安定性が良好であることが確認される。サバレクチンの局所殺微生物剤としての使用の可能性に関しては、皮膚表面及び粘膜表面(鼻腔、膣、直腸、及び口腔)で使用することができる。
【0114】
熱安定性
熱安定性は、示差走査熱量測定(DSC)によって判定した。実験はpH7.4のPBS中で行った。DSCサーモグラム(図5)は、79.17℃の融点(Tm)を有するサバレクチンの高い熱安定性を示す。サバレクチンと結合している炭水化物の存在下では、Tm値はメチルマンノシドで79.55℃まで、マンノースで79.63℃まで上昇した。Tmの上昇は、結合している炭水化物の存在下ではタンパク質の構造が安定化することを示している。結合していない炭水化物であるガラクトースの存在下では、サバレクチンのTmはサバレクチンのみを用いた実験と同様であった。
【0115】
サバレクチンの熱変性は速度論的に制御されているプロセスであり、可逆性は低い(約50%)。熱的アンフォールディングのプロセスは沈殿相を伴う。サバレクチンの高い熱安定性は、薬理学的用途を含む幅広い用途にとって必要な非常に有用な特徴である。
【0116】
安定性に対する炭水化物結合の影響
炭水化物が結合した際のサバレクチンの安定性の増大は、DSCによって確認された、図5参照。炭水化物が結合した際の安定化は、塩化グアニジウム(GdmCl)によるサバレクチンの変性を分光蛍光法で調べることによって確認された。GdmClによる変性は完全に可逆的であり、二状態モデルに従う(図6上)。このGdmClによる変性の二状態モデルにおいて中間体の存在は観察されなかった(図6中)。マンノースが結合した際に、二状態間の移行を誘導するのに必要なGdmCl濃度の上昇が観察された(図6下)。
【0117】
二次及び三次構造
二次構造要素は、遠紫外領域の円偏光二色性(CD)スペクトルによって評価した(図7上)。このサバレクチンのCDスペクトルは、β構造タンパク質に特徴的である。炭水化物(マンノース及びメチルマンノシド)が結合した際の遠紫外線CDスペクトルのわずかな変化も観察することができる。
【0118】
近紫外線CDスペクトル(図7下)は、炭水化物(マンノース及びメチルマンノシド)が結合した際の特定の立体構造変化の存在を示している。Trp、Tyr、及びPheの吸収領域における260~285nmの近紫外線CDスペクトルにおける負の楕円率の減少は、これらアミノ酸がリガンド結合に関与していること及び/又はリガンド結合の際に何らかの構造変化があったことを示している。
【0119】
三次構造は、X線結晶構造解析によって決定した。結晶は、pH7.4で得られた(図8左上)。結晶構造の分解能は、2.5□~1.6□である。サバレクチンの三次構造の模式図を示す。結晶構造に基づいて、コンピューターモデリングにより提案されたサバレクチン二量体の構造を示す(図8右上)。
【0120】
X線構造とは別に、一次構造に基づく計算科学的研究を行った。コンピューターモデリングにより、2つの炭水化物結合部位の存在及びそれに関与するアミノ酸が提案された(図9上)。また、コンピューターモデリングにより、サバレクチン多量体化のメカニズムが提案された(図9下)。
【0121】
四次構造
サバレクチンの四次構造を調べるために様々な技術を用いた。
【0122】
サバレクチンサンプルをMALDI-TOF質量分析計で質量分析したところ、単量体サバレクチンの質量の倍数に相当するm/z値を有するピークが示された(図10上)。この結果は、二量体、三量体、四量体、五量体、六量体、七量体、八量体、九量体の構造の存在を示す。
【0123】
別のアプローチは、サバレクチン溶液を架橋剤分子グルタルアルデヒドに短時間曝露することを含む。曝露時に、溶液中でオリゴマー構造の形成に関与する単量体は共有結合的に架橋され、変性電気泳動によって観察することができる。SDS-PAGE分析は、単量体サバレクチンの質量の倍数に相当するバンドを示す(図10下)。
【0124】
コンピューターによる分子モデリングアプローチでも、サバレクチンの多量体化の可能性が示された(図9下)。
【0125】
細胞毒性
生存細胞の定量のためのMTT(3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド)アッセイを用いて、様々な細胞株に対するサバレクチンの細胞毒性を分析した。結果を表3に提示する。
【0126】
細胞毒性試験は、ヒト血液から新鮮単離した末梢血単核細胞(PBMC)に対して、低い細胞毒性作用を示した。図11及び表3。細胞毒性濃度は、治療用抗ウイルス用途に必要なサバレクチンの濃度をはるかに上回っている。表5。実験は、3人の異なるドナーのPBMCを用いて別々に行い、各実験をトリプリケートで行った。
【0127】
TZM-bl細胞株(HIV-1のウイルス診断用に遺伝的に改変されたHeLa)に対するサバレクチンの細胞毒性作用は、抗HIV-1活性に必要な濃度よりもはるかに高い濃度で観察することができる、図12及び表5。
【0128】
ELVIS細胞株(HSV-1及びHSV-2の診断用に遺伝的に改変されたベビーハムスター腎臓細胞)及びVero E6細胞株(細胞の起源はアフリカミドリザルの腎臓である)に対するサバレクチンの細胞毒性作用、図15及び16は、抗HSV-1及び抗HSV-2の活性に必要な濃度よりもはるかに高い濃度で観察することができる、表5。
【0129】
ヒトがん細胞株に対するサバレクチンの細胞毒性作用については、次の章-抗がん活性で説明する。
【0130】
【表3】
【0131】
抗がん活性
MTT試験を用いて異なるヒトがん細胞株に対するサバレクチンの細胞毒性活性を評価した。結果を表3及び図4に提示する。A549等の特定のがん細胞株は、サバレクチンに対して高い感受性を示し、EC50値は数μg/mLの範囲である。この結果から、サバレクチンは有望な抗がん候補剤の候補となるが、それは、特にこの濃度範囲ではサバレクチンのPBMCに対する毒性が観察されなかったためである。
【0132】
CaCo-2、Jurkat、及びU937等のがん細胞株はサバレクチンに対して中等度の感受性を示し、EC50値は数十から数百μg/mLの範囲である。HeLa及びMDA等のがん細胞株は高濃度のサバレクチンに耐えられると考えられ、EC50値は数百μg/mLからmg/mLの範囲である。比較のため、コンカナバリンAレクチン(JBS 16 10,Glycobiology 22 1245)でも抗がん活性試験を行った。ConAは特定のがん細胞株に対してやや強い抗がん活性を有することが分かる、表4。
【0133】
nM単位で表示されている最高非毒性濃度は、ConAの活性型が四量体であるという知見を考慮しなければならないが、サバレクチンについては、単量体の分子量を考慮してモル濃度を計算した。
【0134】
【表4】
【0135】
分裂促進活性
レクチンが細胞の増殖を誘導できることはよく知られている。この特性は、レクチンを殺微生物剤として医薬に応用する際の主な障害の一つである。特定の化合物の分裂促進作用(有糸分裂の誘導)は、DNA合成の増加を特徴とする。DNA合成を検出するために、ブロモデオキシウリジン(BrdU)取り込みアッセイを適用した。BrdUアッセイ及び末梢血単核細胞(PBMC)を用いてサバレクチンの分裂促進作用を調べた。PBMCに対する分裂促進作用は観察されなかった。
【0136】
抗ウイルス活性
様々な細胞において様々なエンベロープウイルス及びウイルス株によりサバレクチンの潜在的抗ウイルス活性について調べた、表5。サバレクチンは濃度依存的なウイルスの阻害を示し、細胞生存率の低下を誘導した。この阻害は、全てのエンベロープウイルス及びその株について同じではない。最も強力な阻害はHIV-1のCH058株で観察され、阻害濃度はピコモル範囲であった。この研究で使用したHIV-1株のEC50阻害濃度の範囲は0.05~60nMである、図17及び表5。この結果は、公開されている最も強力なレクチンであるグリフィスシンの抗HIV-1活性と同じ範囲(0.03~56nM)である(JBC 280 9345)。VSV-G(水疱性口内炎ウイルス糖タンパク質)偽型HIV-1Δenvは、真のHIV-1粒子と同一ではなく、融合し、細胞に侵入するためにCD4及びCCR5又はCXCR4の受容体と会合することはない(PLoS Pathog 5 1000633)。従って、サバレクチンがこの偽型に対して抗ウイルス活性を示さないことは、サバレクチンの抗ウイルス活性がHIV-1 gp120の受容体への結合阻害を介していることを裏付ける。
【0137】
単純ヘルペスウイルスについては、低ナノモル濃度範囲で強力な抗ウイルス活性が確認された、図19及び20並びに表5参照。重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2については、マイクロモル濃度範囲で抗ウイルス活性が観察された、図21及び表5。
【0138】
インフルエンザA型ウイルス野生型(ワシントン)、H1N1(広東-マオナン)、及びH3N2(香港)に対するサバレクチンの強い結合が確認されたので(データは示さない)、抗ウイルス活性が期待できる。ヒトHCMV、ジカウイルス、麻疹ウイルスへの結合は観察されたが、抗ウイルス活性には非常に高濃度のサバレクチンが必要であった、すなわち、弱い抗ウイルス活性が観察された。結合性の比較では、サバレクチンはインフルエンザA型に対してバナナレクチンよりも強い結合を示し(データは示さない)、これは、サバレクチンがインフルエンザA型に対して優れた抗ウイルス性を有することを示唆している。バナナレクチン(バージョンH84T)は強力な抗インフルエンザウイルス剤である。
【0139】
融合及び細胞内への侵入においてウイルスエンベロープの糖タンパク質と会合する、そして、これら結果及びウイルスの既知の性質に基づいてサバレクチンによって阻害されると予測することができるウイルスは他にも数多くある。従って、サバレクチンは、上記の直接的な実証に加え、少なくともC型肝炎ウイルス(HCV)及びB型肝炎ウイルス(HBV)、インフルエンザA型及びB型のウイルス株、SARS-CoV-1、エボラウイルス、デングウイルス、西ナイルウイルス、黄熱ウイルス、日本脳炎ウイルス、豚流行性下痢ウイルス、サル免疫不全ウイルスに対する抗ウイルス効果を有すると予測される。
【0140】
抗細菌及び抗酵母活性
様々な細菌種に対するサバレクチンの潜在的な抗細菌活性を調べた:黄色ブドウ球菌(ATCC 25923)、緑膿菌(ATCC 27853)、大腸菌(ATCC 25922)、セレウス菌(ATCC 11778)、フェカリス菌(ATCC 29212)、及びネズミチフス菌(ATCC 14028)。最小発育阻止濃度(MIC)を求めるための標準試験では、0.0625~1mg/mLの濃度範囲で阻害が示されなかった。大腸菌ではわずかな増殖の阻害が観察された。しかし、この試験は、サバレクチンと強く結合し、その結果その活性を阻害する高マンノースグリカンリッチな出芽酵母の抽出物を含有するルリア-ベルターニ培地で行われる。5×10個の黄色ブドウ球菌(ATCC25923)細胞を0.18mg/mLのサバレクチンに20分間曝露することを含む接触阻害試験をPBS中で行ったところ、25%を超える増殖阻害を示した。この結果は、細菌の増殖を阻害するためにサバレクチンと細菌との間の相互作用を使用できる可能性があることを裏付けている。このことは、より安全かつより有効な微生物制御剤を開発する今後の取り組みにおいて役立つ可能性がある。
【0141】
サバレクチンの細菌属ラクトバチルスの数種の異なる種への結合について調べた。有意な結合は観察されなかった。
【0142】
酵母に対するサバレクチンの潜在的活性を以下の3種:カンジダ・グラブラタ(C.glabrata)(h65b C.g)、カンジダ・アルビカンス(C.albicans)(ATCC 10231)、及び出芽酵母(ATCC 9763)について調べた。最小発育阻止濃度(MIC)を求めるための標準試験では、0.03125~1mg/mLの濃度範囲で阻害が示されなかった。細菌についてのMIC試験の場合と同様に、酵母の増殖に使用した培地(トリプティックソイブロス及びPepton 10)の成分には、サバレクチンの活性を阻害するグリカン構造が含まれている。2×10個の出芽酵母(ATCC25923)細胞を0.18mg/mLのサバレクチンに20分間曝露する接触阻害試験をPBS中で行ったところ、約35%の増殖阻害を示した。サバレクチンの出芽酵母及びカンジダ・アルビカンスの細胞壁マンナンへの結合は、FITCで標識したサバレクチンによって確認された、図22参照。
【0143】
生命科学及びバイオテクノロジーへの応用
通常、レクチンはグリカン特異性に従って分類される。しかし、例えばマンノース結合レクチン等の各クラスのレクチンは炭水化物結合特異性に微細な違いがある。これらの違いは、炭水化物マイクロアレイによって観察される。そのような炭水化物(グリカン)マイクロアレイの1つがConsortium for Functional glycomisによって開発された。この情報を念頭に置くと、新たなレクチンは全て、特定の製品開発の可能性を開く。
【0144】
例えば、a型肝炎ウイルスを検出するためのレクチン結合免疫磁気分離法の開発は、Sung-Mu(Viruses 6 1037)によって報告されている。
【0145】
本発明者らは、FITCで標識したサバレクチンを用いて、共焦点顕微鏡及びELISAアッセイによって出芽酵母及びカンジダ・アルビカンスへの結合について調べた。両アッセイの結果、サバレクチンがこれら2種の酵母の細胞壁に結合することが確認された。共焦点顕微鏡観察により、サバレクチンは酵母細胞内に侵入することができず、細胞表面に結合したままであることが確認され、これは細胞の周囲に明るい(緑色の)リングとして観察された、図22参照。
【0146】
サバレクチンは糖タンパク質を検出するために使用することができる。この用途のために、本発明者らはサバレクチンをビオチンで標識した。アビジン-ビオチンは、多くの生物学的アッセイで使用されているタンパク質のカップリングのための通常の生化学的系である。ビオチン化サバレクチン及びその後のDABによる可視化のためのストレプトアビジン-HRPのカップリングを用いた糖タンパク質のウェスタンブロット検出の結果を図23に提示する。この結果は、サバレクチンがアフィニティ標識、結合、捕捉のためのあらゆる異なる系で使用できることを裏付けている。
【0147】
組み換え産生
サバレクチンの組換え産生は、大腸菌及びベンサミアナタバコの2つの標準的な発現系で達成された。アミノ酸配列に従って遺伝子を合成し、大腸菌で発現させるためにhisタグを付加した。合成遺伝子を、発現系に適した発現プラスミドに組み込んだ。
【0148】
大腸菌の場合、精製した発現プラスミド(pET28及びpMSCG7)をコンピテントBL21大腸菌細胞に別々に導入した。いずれの発酵も37℃で10時間行い、発現したタンパク質を収集した細胞から精製した。サバレクチンの収量は良好であった、図24下参照。しかし、炭水化物結合活性を有する適切に折り畳まれたタンパク質の量は少なかった。
【0149】
ベンサミアナタバコの場合は、エレクトロポレーションによって発現ベクター(pJL-TRBO)をコンピテントな実験室株アグロバクテリウム・ツメファシエンスGV3101に導入した。形質転換に成功したA.ツメファシエンス細胞を選択し、コロニーPCRで確認した。これらA.ツメファシエンス細胞を、アグロインフィルトレーションによってベンサミアナタバコの5週齢の葉に導入した。発現の成功は、緑色蛍光タンパク質の共発現によって確認された、図24参照。葉を5日後に採取し、発現したタンパク質を葉から精製した。適切に折り畳まれたタンパク質の収率は、大腸菌の場合よりもはるかに優れていた。
【0150】
【0151】
【0152】
図1
図2
図3
図4
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図9
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図11
図12
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図15
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図19
図20
図21
図22
図23
図24
【配列表】
2024537924000001.app
【国際調査報告】