(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-16
(54)【発明の名称】肝細胞のin vitro増殖及び/または成熟のための培養培地及び条件
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0775 20100101AFI20241008BHJP
【FI】
C12N5/0775
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024548678
(86)(22)【出願日】2022-10-25
(85)【翻訳文提出日】2024-06-06
(86)【国際出願番号】 US2022047753
(87)【国際公開番号】W WO2023076292
(87)【国際公開日】2023-05-04
(32)【優先日】2021-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】524157888
【氏名又は名称】サテライト バイオサイエンシズ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】SATELLITE BIOSCIENCES,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】マランナ、スニル クマール
(72)【発明者】
【氏名】ヴァン バスカーク、マックスウェル ピー.
(72)【発明者】
【氏名】カラント、ソウジャンヤ エス.
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065BB04
4B065BB19
4B065BB31
4B065BB32
4B065BC06
4B065CA44
(57)【要約】
初代ヒト肝細胞の増殖及び長期間の維持を促進する、細胞外マトリックス用の培養サプリメント及び要件、加えて、肝細胞の成熟用の培養条件及び培地を含む、完全に規定された2次元培養条件を本明細書で提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
初代ヒト肝細胞の培養方法であって、前記方法は、
1つ以上のWntシグナル伝達活性化因子、1つ以上の受容体型チロシンキナーゼリガンド、及び、1つ以上の上皮表現型安定化剤が添加された、ヒト細胞用の基礎培地を含む増殖培地の存在下で、細胞外マトリックス(ECM)と接触させて1つ以上の肝細胞を培養するステップを含む、前記方法。
【請求項2】
前記増殖培地は、1つ以上の細胞生残剤をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記増殖培地は、1種以上の細胞増殖剤をさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記1つ以上のWntシグナル伝達活性化因子は、R-スポンジン1、R-スポンジン2、R-スポンジン3、R-スポンジン4、Wnt3a、または、前述のいずれかの組み合わせを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記1つ以上のWntシグナル伝達活性化因子は、R-スポンジン1及びWnt3aを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記受容体型チロシンキナーゼは、上皮増殖因子(EGF)受容体型チロシンキナーゼ、または線維芽細胞増殖因子(FGF)受容体型チロシンキナーゼである、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記1つ以上の受容体型チロシンキナーゼリガンドは、EGF、FGF、肝細胞増殖因子(HGF)、トランスフォーミング増殖因子α(TGFα)、または、前述のいずれかの組み合わせを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記1つ以上の受容体型チロシンキナーゼリガンドは、ヒトEGF、FGF-7、FGF-10、HGF、TGFα、または、前述のいずれかの組み合わせを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記1つ以上の受容体型チロシンキナーゼリガンドは、ヒトEGF、FGF-7、FGF-10、HGF、及びTGFαを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記上皮表現型安定化剤はTGFβ阻害剤である、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記TGFβ阻害剤は、アクチビン受容体様キナーゼ(ALK)5阻害剤である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ALK5阻害剤はA83-01である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記上皮表現型安定化剤はコルチコステロイドをさらに含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記コルチコステロイドはヒドロコルチゾンである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記増殖培地は、N-アセチルシステイン、ニコチンアミド、Rhoキナーゼ阻害剤、または前述の任意の組み合わせを含む、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記増殖培地はRhoキナーゼ阻害剤を含まない、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記Rhoキナーゼ阻害剤はY-27632である、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
前記ECMは、コラーゲン、ラミニン、または、コラーゲンとラミニンの両方を含む、請求項1~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記コラーゲンはコラーゲンIまたはコラーゲンIVである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記ラミニンは、ラミニン111、ラミニン211、ラミニン221、ラミニン332、ラミニン411、ラミニン421、ラミニン511、またはラミニン521である、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記培養ステップは表面で実施される、請求項1~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記表面は2次元表面である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記2次元表面は、9.5cm
2~10,000cm
2の表面積を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記2次元表面はECMでコーティングされている、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記肝細胞は、前記培養ステップ中に、前記表面に接着により付着している、請求項21~24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記増殖培地は、B27サプリメント、N2サプリメント、またはこれらの組み合わせをさらに含む、請求項1~25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記B27サプリメントは、ビタミンAを含有しない、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記増殖培地は、Notch阻害剤またはNotchアゴニストを含有しない、請求項1~27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記増殖培地は、ガストリンを含有しない、請求項1~28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記増殖培地は、アミノ酸サプリメントをさらに含む、請求項1~29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記アミノ酸サプリメントは、非必須アミノ酸(NEAA)サプリメントを含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記増殖培地は、血清代替成分をさらに含む、請求項1~31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
前記血清代替成分は、KNOCKOUT(商標)血清代替物(KOSR)、ヒト血小板溶解物、ヒト血清、またはウシ血清を含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記培養することは、低酸素条件下で、または、低酸素模倣物の存在下で、前記細胞を培養することを含む、請求項1~33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
前記培養することは、低酸素条件下で実施される、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記低酸素条件下で培養することは、前記細胞を、1%~19%の酸素濃度で培養することを含む、請求項34または35に記載の方法。
【請求項37】
前記酸素濃度は、1%~10%である、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記酸素濃度は5%である、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記培養ステップは、プレーティングした細胞を増殖させること(ステップP0)と、増殖した細胞の初回継代(ステップP1)とを含む、請求項1~38のいずれか1項に記載の方法。
【請求項40】
前記P0ステップは、7~16日の継続期間を有する、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記P0ステップは、11日の継続期間を有する、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記P0ステップは、13日の継続期間を有する、請求項40に記載の方法。
【請求項43】
前記P1ステップは、7~20日の継続期間を有する、請求項39~42のいずれか1項に記載の方法。
【請求項44】
前記P1ステップは、11日の継続期間を有する、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記P1ステップは、13日の継続期間を有する、請求項43に記載の方法。
【請求項46】
前記P0ステップは、200~13,333細胞/cm
2の密度で前記肝細胞を播種することを含む、請求項39~45のいずれか1項に記載の方法。
【請求項47】
前記P0ステップは、667細胞/cm
2の密度で前記肝細胞を播種することを含む、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記P1ステップは、333~13,333細胞/cm
2の密度で前記肝細胞を播種することを含む、請求項39~47のいずれか1項に記載の方法。
【請求項49】
前記P1ステップは、1,333細胞/cm
2の密度で前記肝細胞を播種することを含む、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記増殖培地は血清代替成分を含み、前記血清代替成分の濃度は、前記培養ステップの前記継続期間にわたって変化する、請求項39~49のいずれか1項に記載の方法。
【請求項51】
前記血清代替成分の濃度は、前記P0ステップの0日目において1%(v/v)であり、前記血清代替成分の濃度が増加されるまで、1%(v/v)のままである、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
(i)前記細胞密度が、15%~30%コンフルエンシーに達するときに、または、(ii)前記P0ステップの3日目~7日目の間に、前記血清代替物の濃度は、5%(v/v)まで増加される、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記血清代替物の濃度は、前記P0ステップの5日目に5%(v/v)まで増加される、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記血清代替成分の濃度は、前記P0ステップの0日目において5%(v/v)である、請求項50に記載の方法。
【請求項55】
(i)前記細胞密度が、40%~60%コンフルエンシーに達するときに、または、(ii)前記P0ステップの7日目~13日目の間に、前記血清代替物の濃度は、10%(v/v)まで増加される、請求項51~54のいずれか1項に記載の方法。
【請求項56】
前記血清代替物の濃度は、前記P0ステップの9日目に10%(v/v)まで増加される、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
前記血清代替成分の濃度は、前記P1ステップの0日目において1%(v/v)である、請求項51~56のいずれか1項に記載の方法。
【請求項58】
(i)前記細胞密度が、15%~30%コンフルエンシーに達するときに、または、(ii)前記P1ステップの3日目~7日目の間に、前記血清代替物の濃度は、5%(v/v)まで増加される、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
前記血清代替物の濃度は、前記P1ステップの5日目に5%(v/v)まで増加される、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
前記血清代替成分の濃度は、前記P1ステップの0日目において5%(v/v)であり、前記血清代替成分の濃度が増加されるまで、5%(v/v)のままである、請求項51~56のいずれか1項に記載の方法。
【請求項61】
(i)前記細胞密度が、40%~60%コンフルエンシーに達するときに、または、(ii)前記P1ステップの5日目~13日目の間に、前記血清代替物の濃度は、10%(v/v)まで増加される、請求項51~60のいずれか1項に記載の方法。
【請求項62】
前記血清代替物の濃度は、前記P1ステップの7日目に10%(v/v)まで増加される、請求項61に記載の方法。
【請求項63】
前記血清代替物の濃度は、前記P1ステップの9日目に10%(v/v)まで増加される、請求項61に記載の方法。
【請求項64】
前記方法は、前記培養ステップの後に、前記肝細胞の発現プロファイルを測定することをさらに含む、請求項1~63のいずれか1項に記載の方法。
【請求項65】
前記培養ステップの継続期間は、少なくとも3日である、請求項64に記載の方法。
【請求項66】
前記培養ステップの後に、前記肝細胞の発現プロファイルは、前記肝細胞の少なくとも80%による、肝細胞核因子4α(HNF4α)、ロイシンリッチリピート含有Gタンパク質共役受容体5(LGR5)、ケラチン18(CK18)、及びアルブミンから選択される1種以上のタンパク質の発現を含む、請求項65に記載の方法。
【請求項67】
前記培養ステップの後に、前記肝細胞の発現プロファイルは、前記肝細胞の最大15%による、Ki67の発現を含む、請求項65に記載の方法。
【請求項68】
前記培養ステップの後に、前記肝細胞の発現プロファイルは、前記肝細胞の少なくとも15%による、Ki67の発現を含む、請求項65に記載の方法。
【請求項69】
前記前記培養ステップの後に、前記肝細胞の発現プロファイルは、一晩プレーティングした対照肝細胞と比較して、少なくとも10%の、成熟細胞状態に特徴的な1つ以上のタンパク質の下方制御、及び、1つ以上の胎児/肝臓前駆細胞/胆管細胞マーカーの上方制御を含む、請求項65に記載の方法。
【請求項70】
前記成熟肝細胞状態タンパク質は、NR1I2、尿素回路酵素、Cyp3a4、Cyp1a2、ABCG2、ABCC2、ABCB11、SR-B1、またはSLC10A1である、請求項69に記載の方法。
【請求項71】
前記胎児/肝臓前駆細胞/胆管細胞マーカーは、AFP、Cyp3a7、EPCAM、LGR5、KRT7、KRT19、またはAQP1である、請求項69に記載の方法。
【請求項72】
前記培養ステップの後に、前記肝細胞の発現プロファイルは、前記肝細胞の少なくとも80%による、HNF4α、LGR5、CK18、及びALBから選択される1種以上の遺伝子の発現を含む、請求項65に記載の方法。
【請求項73】
前記培養ステップの後に、前記肝細胞の発現プロファイルは、前記肝細胞の最大15%による、Ki67の発現を含む、請求項65に記載の方法。
【請求項74】
前記培養ステップの後に、前記肝細胞の発現プロファイルは、前記肝細胞の少なくとも15%による、Ki67の発現を含む、請求項65に記載の方法。
【請求項75】
前記培養ステップの後に、前記肝細胞の発現プロファイルは、尿素回路酵素の発現の低下を含む、請求項1~74のいずれか1項に記載の方法。
【請求項76】
前記培養ステップの後に、前記肝細胞の収率は、1cm
2当たり、少なくとも5×10
3個の肝細胞である、請求項1~75のいずれか1項に記載の方法。
【請求項77】
前記培養ステップの後に、前記肝細胞の収率は、14日以内の培養で、少なくとも2倍増大する、請求項1~76のいずれか1項に記載の方法。
【請求項78】
前記培養ステップの後に、前記肝細胞の収率は、30日以内の培養で、少なくとも500倍増大する、請求項1~77のいずれか1項に記載の方法。
【請求項79】
前記培養ステップの後に、前記肝細胞の収率は、24日以内の培養で、少なくとも500倍増大する、請求項78に記載の方法。
【請求項80】
前記肝細胞の収率は、30日以内の培養で、500倍~2000倍の間で増大する、請求項78に記載の方法。
【請求項81】
前記肝細胞の収率は、24日以内の培養で、500倍~2000倍の間で増大する、請求項78に記載の方法。
【請求項82】
前記方法は、1種以上の肝細胞成熟サプリメントが添加される、ヒト細胞用の基礎培地を含む成熟培地で、前記肝細胞を成熟させることをさらに含む、請求項1~81のいずれか1項に記載の方法。
【請求項83】
肝細胞の集団を成熟させる方法であって、前記方法は、1種以上の肝細胞成熟サプリメントが添加される、ヒト細胞用の基礎培地を含む成熟培地の存在下で、増殖した肝細胞集団を成熟させるステップを含む、前記方法。
【請求項84】
前記成熟ステップは、肝細胞増殖の直後に開始する、請求項82または83に記載の方法。
【請求項85】
前記成熟ステップは、肝細胞増殖の直後に開始しない、請求項82または83に記載の方法。
【請求項86】
前記成熟ステップは、3~12日の継続期間を有する、請求項82~85のいずれか1項に記載の方法。
【請求項87】
前記成熟ステップは、7日の継続期間を有する、請求項82~86のいずれか1項に記載の方法。
【請求項88】
前記成熟基礎培地は、LONZA(商標)HCM(商標)、ウィリアムE、またはHepatoZYME-SFMである、請求項82~87のいずれか1項に記載の方法。
【請求項89】
前記1つ以上の成熟サプリメントは、抗生物質、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)、GLUTAMAX(商標)、ITS、Notch阻害剤、EGFR阻害剤、オンコスタチンM、抗酸化剤、糖質コルチコイド、プレグナンX受容体(PXR)活性化因子、胆汁酸、cAMPもしくはcAMP類似体、コレステロール、甲状腺ホルモン、血清代替成分、または、前述の任意の組み合わせを含む、請求項82~99のいずれか1項に記載の方法。
【請求項90】
前記Notch阻害剤は、Compound E、γセクレターゼ阻害剤XX、またはこれらの組み合わせである、請求項89に記載の方法。
【請求項91】
前記抗生物質はペニシリン、ストレプトマイシン、またはこれらの組み合わせである、請求項89に記載の方法。
【請求項92】
前記EGFR阻害剤はエルロチニブ塩酸塩である、請求項89に記載の方法。
【請求項93】
前記抗酸化剤はビタミンCである、請求項89に記載の方法。
【請求項94】
前記糖質コルチコイドは、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、またはこれらの組み合わせである、請求項89に記載の方法。
【請求項95】
前記PXR活性化因子はビタミンK2である、請求項89に記載の方法。
【請求項96】
前記胆汁酸は、リトコール酸、ウルソデオキシコール酸、またはこれらの組み合わせである、請求項89に記載の方法。
【請求項97】
前記cAMP類似体は、8ブロモcAMP、フォルスコリン、またはこれらの組み合わせである、請求項89に記載の方法。
【請求項98】
前記甲状腺ホルモンはT3である、請求項89に記載の方法。
【請求項99】
前記血清代替成分は、ITS、KOSR、Trace Elements A、Trace Elements B、またはこれらの組み合わせである、請求項89に記載の方法。
【請求項100】
前記成熟培地は、R-スポンジン1/Wnt3a、上皮増殖因子(EGF)、トランスフォーミング増殖因子α(TGFα)、N-アセチルシステイン、ニコチンアミド、B27サプリメント、N2サプリメント、線維芽細胞増殖因子7(FGF7)、及び線維芽細胞増殖因子10(FGF10)のうちの1つ以上を欠く、請求項82~99のいずれか1項に記載の方法。
【請求項101】
1つ以上のWntシグナル伝達活性化因子、1つ以上の受容体型チロシンキナーゼリガンド、及び、1つ以上の上皮表現型安定化剤が添加されるヒト細胞用基礎培地を含む増殖培地を含むキットであって、前記キットは、前記キットのユーザに、請求項1~81のいずれか1項に記載の方法に従い、1つ以上の肝細胞を培養させるように指示する、添付文書をさらに含む、前記キット。
【請求項102】
1つ以上のWntシグナル伝達活性化因子、1つ以上の受容体型チロシンキナーゼリガンド、及び、1つ以上の上皮表現型安定化剤が添加されるヒト細胞用基礎培地を含む増殖培地。
【請求項103】
前記増殖培地は、1つ以上の細胞生残剤をさらに含む、請求項102に記載の増殖培地。
【請求項104】
前記増殖培地は、1つ以上の細胞増殖剤をさらに含む、請求項102または103に記載の増殖培地。
【請求項105】
前記1つ以上のWntシグナル伝達活性化因子は、R-スポンジン1、R-スポンジン2、R-スポンジン3、R-スポンジン4、Wnt3a、または、前述のいずれかの組み合わせを含む、請求項102~104のいずれか1項に記載の増殖培地。
【請求項106】
前記1つ以上のWntシグナル伝達活性化因子は、R-スポンジン1及びWnt3aを含む、請求項105に記載の増殖培地。
【請求項107】
前記受容体型チロシンキナーゼリガンドは、EGFまたはFGFである、請求項102~106のいずれか1項に記載の増殖培地。
【請求項108】
前記受容体型チロシンキナーゼリガンドは、EGF、FGF、HGF、TGFα、または、前述のいずれかの組み合わせを含む、請求項107に記載の増殖培地。
【請求項109】
前記受容体型チロシンキナーゼリガンドは、ヒトEGF、FGF-7、FGF-10、HGF、またはTGFαを含む、請求項107に記載の増殖培地。
【請求項110】
前記上皮表現型安定化剤はTGFβ阻害剤である、請求項102~109のいずれか1項に記載の増殖培地。
【請求項111】
前記TGFβ阻害剤はALK5阻害剤である、請求項110に記載の増殖培地。
【請求項112】
前記ALK5阻害剤はA83-01である、請求項111に記載の増殖培地。
【請求項113】
前記上皮表現型安定化剤はコルチコステロイドをさらに含む、請求項102~112のいずれか1項に記載の増殖培地。
【請求項114】
前記コルチコステロイドはヒドロコルチゾンである、請求項113に記載の増殖培地。
【請求項115】
前記増殖培地は、N-アセチルシステイン、ニコチンアミド、またはRhoキナーゼ阻害剤を含む、請求項102~114のいずれか1項に記載の増殖培地。
【請求項116】
前記増殖培地はRhoキナーゼ阻害剤を含まない、請求項102~115のいずれか1項に記載の増殖培地。
【請求項117】
前記Rhoキナーゼ阻害剤はY-27632である、請求項115または116に記載の増殖培地。
【請求項118】
前記増殖培地は、B27サプリメント、N2サプリメント、またはこれらの組み合わせをさらに含む、請求項102~117のいずれか1項に記載の増殖培地。
【請求項119】
前記B27サプリメントは、ビタミンAを含有しない、請求項118に記載の増殖培地。
【請求項120】
前記増殖培地は、Notch阻害剤またはNotchアゴニストを含有しない、請求項102~119のいずれか1項に記載の増殖培地。
【請求項121】
前記増殖培地は、ガストリンを含有しない、請求項102~120のいずれか1項に記載の増殖培地。
【請求項122】
前記増殖培地は、アミノ酸サプリメントをさらに含む、請求項102~121のいずれか1項に記載の増殖培地。
【請求項123】
前記アミノ酸サプリメントは、NEAAサプリメントを含む、請求項122に記載の増殖培地。
【請求項124】
前記増殖培地は、血清代替成分をさらに含む、請求項102~123のいずれか1項に記載の増殖培地。
【請求項125】
前記血清代替成分は、KOSR、ヒト血小板溶解物、ヒト血清、またはウシ血清を含む、請求項124に記載の増殖培地。
【請求項126】
請求項102~125のいずれか1項に記載の増殖培地を含む、組織培養容器。
【請求項127】
請求項126に記載の組織培養容器を含むインキュベーターであって、前記インキュベーターは、低酸素条件下で前記組織培養容器を維持する、前記インキュベーター。
【請求項128】
1つ以上の成熟サプリメントが添加されるヒト細胞用の基礎培地を含む成熟培地を含むキットであって、前記キットは、前記キットのユーザに、請求項82~100のいずれか1項に記載の方法に従い、1つ以上の肝細胞を成熟させるように指示する、添付文書をさらに含む、前記キット。
【請求項129】
1つ以上の肝細胞成熟サプリメントが添加されるヒト細胞用の基礎培地を含む成熟培地。
【請求項130】
前記成熟基礎培地は、LONZA(商標)HCM(商標)、ウィリアムE、またはHepatoZYME-SFMである、請求項129に記載の成熟培地。
【請求項131】
前記1つ以上の成熟サプリメントは、抗生物質、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)、GLUTAMAX(商標)、ITS、Notch阻害剤、EGFR阻害剤、オンコスタチンM、抗酸化剤、糖質コルチコイド、プレグナンX受容体(PXR)活性化因子、胆汁酸、cAMPもしくはcAMP類似体、コレステロール、甲状腺ホルモン、血清代替成分、または、前述の任意の組み合わせを含む、請求項129に記載の成熟培地。
【請求項132】
前記Notch阻害剤は、Compound E、γセクレターゼ阻害剤XX、またはこれらの組み合わせである、請求項131に記載の成熟培地。
【請求項133】
前記抗生物質はペニシリン、ストレプトマイシン、またはこれらの組み合わせである、請求項131に記載の成熟培地。
【請求項134】
前記EGFR阻害剤はエルロチニブ塩酸塩である、請求項131に記載の成熟培地。
【請求項135】
前記抗酸化剤はビタミンCである、請求項131に記載の成熟培地。
【請求項136】
前記糖質コルチコイドは、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、またはこれらの組み合わせである、請求項131に記載の成熟培地。
【請求項137】
前記PXR活性化因子はビタミンK2である、請求項131に記載の成熟培地。
【請求項138】
前記胆汁酸は、リトコール酸、ウルソデオキシコール酸、またはこれらの組み合わせである、請求項131に記載の成熟培地。
【請求項139】
前記cAMP類似体は、8ブロモcAMP、フォルスコリン、またはこれらの組み合わせである、請求項131に記載の成熟培地。
【請求項140】
前記甲状腺ホルモンはT3である、請求項131に記載の成熟培地。
【請求項141】
前記血清代替成分は、ITS、KOSR、Trace Elements A、Trace Elements B、またはこれらの組み合わせである、請求項131に記載の成熟培地。
【請求項142】
前記成熟培地は、R-スポンジン1/Wnt3a、上皮増殖因子(EGF)、トランスフォーミング増殖因子α(TGFα)、N-アセチルシステイン、ニコチンアミド、B27サプリメント、N2サプリメント、線維芽細胞増殖因子7(FGF7)、及び線維芽細胞増殖因子10(FGF10)のうちの1つ以上を欠く、請求項129~141のいずれか1項に記載の成熟培地。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は概して、肝細胞の培養、増殖、及び成熟方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肝疾患(例えば、肝臓疾患)は、肝臓の、正常で健常な性能に負の影響を及ぼす任意の疾患である。肝機能に障害がもたらされることで、病気が引き起こされる。例えば、肝機能不全は、血中での、毒素(例えば、窒素含有廃棄化合物)の蓄積をもたらす可能性がある。これらの毒素は脳まで移動し、神経系に影響を及ぼし得る。450万人のアメリカ人において、肝疾患が診断されていることが、CDCは報告している。臓器補充療法は、不全に陥った本来の肝機能を回復することができるものの、その需要は、利用可能性をはるかに超えている。実行可能な代替案は、初代ヒト肝細胞(PHH)の集団を移植することであるが、これは供給が不足している。
【0003】
したがって、PHHの改善された培養及び増殖方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、ヒトレシピエントにおいて移植するために移植片を生成し、本来の肝機能を補充または回復するのに有用であり得る、初代ヒト肝細胞(PHH)を、長期にわたり維持する、増殖させる、及び成熟させる方法を提供する。
【0005】
一態様では、本開示は、PHHの培養方法であって、上記方法は、1つ以上の肝細胞を、1つ以上の(例えば、2、3、4、または5つの)Wntシグナル伝達活性化因子、1つ以上の(例えば、2、3、4、または5つの)受容体型チロシンキナーゼリガンド、及び、1つ以上の(例えば、2、3、4、または5つの)上皮表現型安定化剤が添加されるヒト細胞用の基礎培地を含む増殖培地の存在下において、細胞外マトリックス(ECM)と接触させて培養するステップを含む、上記方法を提供する。
【0006】
前述の態様のいくつかの実施形態では、Wntシグナル伝達活性化因子の1つ以上(例えば、2、3、4、または5つ)は、R-スポンジン1、R-スポンジン2、R-スポンジン3、R-スポンジン4、Wnt3a、または、前述のいずれかの組み合わせである。いくつかの実施形態では、1つ以上のWntシグナル伝達活性化因子としては、R-スポンジン1及びWnt3aが挙げられる。
【0007】
前述の態様のいくつかの実施形態では、受容体型チロシンキナーゼリガンドの1つ以上(例えば、2、3、4、または5つ)は、上皮増殖因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、トランスフォーミング増殖因子(TGF)、または、前述のいずれかの組み合わせである。いくつかの実施形態では、EGFはヒトEGFであり、FGFは、ヒト線維芽細胞増殖因子7(FGF-7)またはヒト線維芽細胞増殖因子10(FGF-10)であり、HGFはヒトHGFであり、または、TGFは、トランスフォーミング増殖因子α(TGFα)(例えば、ヒトTGFα)である。いくつかの実施形態では、1つ以上の受容体型チロシンキナーゼリガンドとしては、ヒトEGF、FGF-7、FGF-10、HGF、及びTGFαが挙げられる。
【0008】
前述の態様のいくつかの実施形態では、上皮表現型安定化剤の1つ以上(例えば、2、3、4、または5つ)は、トランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)阻害剤である。いくつかの実施形態では、TGFβ阻害剤は、アクチビン受容体様キナーゼ5(ALK5)阻害剤(例えば、A83-01)である。いくつかの実施形態では、上皮表現型安定化剤のうちの1つは、コルチコステロイド(例えば、ヒドロコルチゾン)である。
【0009】
前述の態様のいくつかの実施形態では、増殖培地は、1種以上の細胞生残剤、及び/または、1種以上の細胞増殖剤をさらに含む。いくつかの実施形態では、増殖培地は血清(例えば、ウシ胎児血清)を含む。いくつかの実施形態では、増殖培地は血清(例えば、ウシ胎児血清)を含まない。
【0010】
前述の態様のいくつかの実施形態では、増殖培地は、血清代替成分を含む。いくつかの実施形態では、血清代替成分は、KNOCKOUT(商標)血清代替物(KOSR)、ヒト血小板溶解物、ヒト血清、またはウシ血清である。いくつかの実施形態では、血清代替成分のv/vは、培養中で1%である。いくつかの実施形態では、血清代替成分のv/vは、培養中に1~5~10%の勾配で増加する。いくつかの実施形態では、血清代替成分のv/vは、培養中に5~10%の勾配で増加する。いくつかの実施形態では、増殖培地は血清代替成分を含まない。
【0011】
前述の態様のいくつかの実施形態では、増殖培地はRhoキナーゼ阻害剤を含む。いくつかの実施形態では、Rhoキナーゼ阻害剤はY-27632である。
いくつかの実施形態では、増殖培地はRhoキナーゼ阻害剤を含まない。
【0012】
前述の態様のいくつかの実施形態では、ECMは、コラーゲン(例えば、コラーゲンIもしくはコラーゲンIV)、または、ラミニン(例えば、ラミニン111、ラミニン211、ラミニン221、ラミニン332、ラミニン411、ラミニン421、ラミニン511、もしくはラミニン521)を含む。いくつかの実施形態では、ECMは、コラーゲンとラミニンの両方を含む。いくつかの実施形態では、ECMはコラーゲンIを含む。いくつかの実施形態では、ECMはコラーゲンIVを含む。いくつかの実施形態では、ECMはラミニン111を含む。いくつかの実施形態では、ECMはラミニン511を含む。いくつかの実施形態では、ECMはラミニン521を含む。いくつかの実施形態では、ECMは、コラーゲンI、コラーゲンIV、ラミニン111、ラミニン511、及びラミニン521の組み合わせを含む。いくつかの実施形態では、ECMは、ヒドロゲル(例えば、MATRIGEL(商標))を含まない。いくつかの実施形態では、ECMは、ヒドロゲル(例えば、MATRIGEL(商標))を含む。
【0013】
前述の態様のいくつかの実施形態では、培養ステップは表面(例えば、2次元表面)で実施される。いくつかの実施形態では、表面はECMでコーティングされている。いくつかの実施形態では、PHHは、培養ステップ中に、表面に接着により付着している。いくつかの実施形態では、増殖したPHHは、培養液中で解離、凝集、及び維持され、さらなる増殖及び/または成熟を促進する。
【0014】
前述の態様のいくつかの実施形態では、増殖培地は、B27サプリメント、及び/またはN2サプリメントをさらに含む。いくつかの実施形態では、B27サプリメントは、ビタミンAを含有しない。
【0015】
前述の態様のいくつかの実施形態では、増殖培地は、アミノ酸サプリメントをさらに含む。いくつかの実施形態では、アミノ酸サプリメントは、非必須アミノ酸(NEAA)サプリメントである。いくつかの実施形態では、NEAAサプリメントは、グリシン、L-アラニン、L-アスパラギン、L-アスパラギン酸、L-グルタミン酸、L-プロリン、及びL-セリンを含む。いくつかの実施形態では、増殖培地は、アミノ酸サプリメントを含まない。
【0016】
前述の態様のいくつかの実施形態では、増殖培地は、Notch阻害剤またはNotchアゴニストを含有しない。いくつかの実施形態では、増殖培地は、ガストリンを含有しない。
【0017】
いくつかの実施形態では、増殖培地は、血清代替成分をさらに含む。いくつかの実施形態では、血清代替成分は、KNOCKOUT(商標)血清代替物(KOSR)、ヒト血小板溶解物、ヒト血清、またはウシ血清を含む。
【0018】
いくつかの実施形態では、培養することは、低酸素条件下で、または、低酸素模倣物の存在下で、細胞を培養することを含む。
いくつかの実施形態では、培養することは、低酸素条件下で実施される。低酸素条件としては、例えば、20%未満の酸素濃度を挙げることができる。いくつかの実施形態では、低酸素条件下で培養することは、細胞を、1%~19%(例えば、1%~10%、例えば、1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、または20%)の酸素濃度で培養することを含む。いくつかの実施形態では、酸素濃度は、1%~10%である。いくつかの実施形態では、酸素濃度は5%である。
【0019】
いくつかの実施形態では、培養ステップは、プレーティングした細胞を増殖させること(ステップP0)と、増殖した細胞を初回継代すること(ステップP1)と、を含む。いくつかの実施形態では、P0ステップは、7~16日(例えば、7、8、9、10、11、12、13、14、15、または16日)の継続期間を有する。いくつかの実施形態では、P0ステップは、11日の継続期間を有する。前述の態様のいくつかの実施形態では、P0ステップは、13日の継続期間を有する。
【0020】
いくつかの実施形態では、P1ステップは、7~20日(例えば、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20日)の継続期間を有する。前述の態様のいくつかの実施形態では、P1ステップは、11日の継続期間を有する。いくつかの実施形態では、P1ステップは、13日の継続期間を有する。
【0021】
いくつかの実施形態では、P0ステップは、肝細胞を、200~13,333細胞/cm2、例えば、200細胞/cm2~1,000細胞/cm2(例えば、200細胞/cm2、300細胞/cm2、400細胞/cm2、500細胞/cm2、600細胞/cm2、700細胞/cm2、800細胞/cm2、900細胞/cm2、もしくは1,000細胞/cm2)、1,000細胞/cm2~10,000細胞/cm2(例えば、1,000細胞/cm2、2,000細胞/cm2、3,000細胞/cm2、4,000細胞/cm2、5,000細胞/cm2、6,000細胞/cm2、7,000細胞/cm2、8,000細胞/cm2、9,000細胞/cm2、もしくは10,000細胞/cm2)、または、10,000細胞/cm2~13,333細胞/cm2(例えば、10,000細胞/cm2、11,000細胞/cm2、12,000細胞/cm2、13,000細胞/cm2、もしくは13,333細胞/cm2)の密度で播種することを含む。いくつかの実施形態では、P0ステップは、667細胞/cm2の密度で肝細胞を播種することを含む。いくつかの実施形態では、P1ステップは、333~13,333細胞/cm2の密度で肝細胞を播種することを含む。いくつかの実施形態では、P1ステップは、1,333細胞/cm2の密度で肝細胞を播種することを含む。
【0022】
いくつかの実施形態では、増殖培地は血清代替成分を含み、血清代替成分の濃度は、培養ステップの継続期間にわたって変化する。
いくつかの実施形態では、血清代替成分の濃度は、P0ステップの0日目において1%(v/v)である。
【0023】
いくつかの実施形態では、(i)細胞密度が、15%~30%(例えば、15%、20%、25%、もしくは30%)コンフルエンシーに達するときに、または、(ii)P0ステップの3日目~7日目の間(例えば、3日目、4日目、5日目、6日目、もしくは7日目)に、血清代替物の濃度は、5%(v/v)まで増加される。いくつかの実施形態では、血清代替物の濃度は、P0ステップの5日目に5%(v/v)まで増加される。いくつかの実施形態では、血清代替成分の濃度は、P0ステップの0日目において5%(v/v)である。いくつかの実施形態では、血清代替成分の濃度は、P0の0日目において5%(v/v)であり、血清代替成分の濃度が増加されるまで、5%(v/v)のままである。いくつかの実施形態では、血清代替物の濃度は、(i)細胞密度が、40%~60%(例えば、40%、45%、50%、55%、もしくは60%)コンフルエンシーに達するときに、または、(ii)P0ステップの7日目~13日目の間(例えば、7日目、8日目、9日目、10日目、11日目、12日目、もしくは13日目)に、10%(v/v)まで増加される。いくつかの実施形態では、血清代替物の濃度は、P0ステップの9日目に10%(v/v)まで増加される。
【0024】
いくつかの実施形態では、血清代替成分の濃度は、P1ステップの0日目において1%(v/v)である。いくつかの実施形態では、(i)細胞密度が、15%~30%%(例えば、15%、20%、25%、もしくは30%)コンフルエンシーに達するときに、または、(ii)P1ステップの3日目~7日目の間(例えば、3日目、4日目、5日目、6日目、もしくは7日目)に、血清代替物の濃度は、5%(v/v)まで増加される。いくつかの実施形態では、血清代替物の濃度は、P1ステップの5日目に5%(v/v)まで増加される。
【0025】
いくつかの実施形態では、血清代替成分の濃度は、P1ステップの0日目において5%(v/v)である。いくつかの実施形態では、血清代替成分の濃度は、P1ステップの0日目において5%(v/v)であり、血清代替成分の濃度が増加されるまで、5%(v/v)のままである。
【0026】
いくつかの実施形態では、血清代替物の濃度は、(i)細胞密度が、40%~60%(例えば、40%、45%、50%、55%、もしくは60%)コンフルエンシーに達するときに、または、(ii)P1ステップの5日目~13日目の間(例えば、5日目、6日目、7日目、8日目、9日目、10日目、11日目、12日目、もしくは13日目)に、10%(v/v)まで増加される。前述の態様のいくつかの実施形態では、血清代替物の濃度は、P1ステップの7日目に10%(v/v)まで増加される。いくつかの実施形態では、血清代替物の濃度は、P1ステップの9日目に10%(v/v)まで増加される。
【0027】
前述の態様のいくつかの実施形態では、方法は、培養ステップの後に、PHHの発現プロファイルを測定することをさらに含む。
前述の態様のいくつかの実施形態では、培養ステップの継続期間は、3日~120日(例えば、約15日~約120日、約16日~119日、約17日~約118日、約18日~約117日、約19日~約116日、約20日~約115日、約25日~約110日、約30日~約100日、約40日~約90日、約50日~約80日、約60日~約70日、約65日~)である。
【0028】
前述の態様のいくつかの実施形態では、培養ステップは、9.5cm2~10,000cm2の表面積のマルチウェルプレートまたはフラスコまたは容器を用いて実施される。前述の態様のいくつかの実施形態では、培養ステップは、500cm2~10,000cm2の表面積のマルチウェルプレートまたはフラスコまたは容器を用いて実施される。例えば、いくつかの実施形態では、表面積は、9.5cm2~500cm2(例えば、9.5cm2、100cm2、200cm2、300cm2、400cm2、もしくは500cm2)、500cm2~1,000cm2(例えば、500cm2、600cm2、700cm2、800cm2、900cm2、もしくは1,000cm2)、または、1,000cm2~10,000cm2(例えば、1,000cm2、2,000cm2、3,000cm2、4,000cm2、5,000cm2、6,000cm2、7,000cm2、8,000cm2、9,000cm2、もしくは10,000cm2)である。いくつかの実施形態では、培養ステップは、636cm2~6360cm2の表面積のフラスコまたは容器を用いて実施される。
【0029】
前述の態様のいくつかの実施形態では、培養ステップの後に、PHHの発現プロファイルは、PHHの少なくとも80%(例えば、少なくとも85%、90%、または95%)による、肝細胞核因子4α(HNF4α)、ロイシンリッチリピート含有Gタンパク質共役受容体5(LGR5)、ケラチン18(CK18)、及びアルブミンから選択される1種以上(例えば、2、3、4、または5種類)のタンパク質の発現を含む。
【0030】
前述の態様のいくつかの実施形態では、培養ステップの後に、PHHの発現プロファイルは、PHHの最大15%(例えば、最大10%、5%、4%、3%、2%、または1%)による、Ki67の発現を含む。
【0031】
前述の態様のいくつかの実施形態では、培養ステップの後に、PHHの発現プロファイルは、PHHの少なくとも15%(例えば、少なくとも15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、またはそれ以上)による、Ki67の発現を含む。
【0032】
前述の態様のいくつかの実施形態では、培養ステップの後に、PHHの発現プロファイルは、一晩プレーティングした対照PHHの少なくとも10%(例えば、少なくとも11%、12%、13%、14%、15%、または20%)の、成熟肝細胞マーカー(例えば、Cyp3a4、Cyp1a2、NR1I2、尿素回路酵素ABCG2、ABCC2、ABCB11、SR-B1、またはSLC10A1)から選択される1種以上(例えば、2、3、4、または5種類)のタンパク質の下方制御を含む。
【0033】
前述の態様のいくつかの実施形態では、培養ステップの後に、PHHの発現プロファイルは、一晩プレーティングした対照PHHの少なくとも10%(例えば、少なくとも11%、12%、13%、14%、15%、または20%)の、胎児/肝臓前駆細胞/胆管細胞マーカー(例えば、AFP、Cyp3a7、EPCAM、LGR5、KRT7、KRT19、またはAQP1)から選択される1種以上(例えば、2、3、4、または5種類)のタンパク質の上方制御を含む。
【0034】
いくつかの実施形態では、増殖したPHHは、尿素回路酵素、成熟細胞状態に特徴的なタンパク質を上方制御するための、及び、胎児/肝臓前駆細胞/胆管細胞マーカーを下方制御するための、追加の成熟ステップを必要とする。
【0035】
前述の態様のいくつかの実施形態では、培養ステップの後に、PHHの発現プロファイルは、PHHの少なくとも80%(例えば、少なくとも85%、90%、または95%)による、HNF4α、LGR5、CK18、及びALBから選択される1種以上(例えば、2、3、4、または5種類)のタンパク質の発現を含む。
【0036】
前述の態様のいくつかの実施形態では、培養ステップの後に、増殖したPHHの発現プロファイルは、PHHの最大15%(例えば、最大10%、5%、4%、3%、2%、または1%)による、Ki67の発現を含む。
【0037】
前述の態様のいくつかの実施形態では、培養ステップの後に、増殖したPHHの発現プロファイルは、PHHの少なくとも15%(例えば、少なくとも15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、またはそれ以上)による、Ki67の発現を含む。
【0038】
前述の態様のいくつかの実施形態では、培養ステップの後に、PHHは継続して、増殖していないPHHよりも低いレベルで、アルブミンを発現及び分泌する。
前述の態様のいくつかの実施形態では、培養ステップの後に、PHHの発現プロファイルは、PHHの成熟時の、尿素の発現の増加を含む。
【0039】
前述の態様のいくつかの実施形態では、培養ステップの後に、肝細胞収率は、1cm2当たり、少なくとも5×103(例えば、少なくとも5×103、5×104、5×105、5×106、または5x107)である。
【0040】
前述の態様のいくつかの実施形態では、培養ステップの後に、肝細胞収率は、14~28日以内(例えば、15~27日以内、16~26日以内、17~25日以内、18~24日以内、19~23日以内、20~21日以内、または、22日以内)の培養で、少なくとも2倍(例えば、少なくとも3倍、4倍、5倍、10倍、20倍、または30倍)増大する。
【0041】
前述の態様のいくつかの実施形態では、培養ステップの後に、肝細胞収率は、30日以内(例えば、30、29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、18、17、16、15、または14日以内)の培養で、少なくとも500倍(例えば、少なくとも1000倍)増大する。前述の態様のいくつかの実施形態では、培養ステップの後に、肝細胞収率は、24日以内の培養で、少なくとも500倍増大する。
【0042】
前述の態様のいくつかの実施形態では、培養ステップの後に、肝細胞収率は、30日以内(例えば、30、29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、18、17、16、15、または14日以内)の培養で、500倍~2000倍、例えば、1000倍~2000倍(例えば、500倍、600倍、700倍、800倍、900倍、1,000倍、1,100倍、1,200倍、1,300倍、1,400倍、1,500倍、1,600倍、1,700倍、1,800倍、1,900倍、または2,000倍)増大する。前述の態様のいくつかの実施形態では、培養ステップの後に、肝細胞収率は、24日以内の培養で、500倍~2000倍、例えば、1000倍~2000倍(例えば、500倍、600倍、700倍、800倍、900倍、1,000倍、1,100倍、1,200倍、1,300倍、1,400倍、1,500倍、1,600倍、1,700倍、1,800倍、1,900倍、または2,000倍)増大する。
【0043】
前述の態様のいずれかのいくつかの実施形態では、方法は、1種以上の肝細胞成熟サプリメントが添加されるヒト細胞用の基礎培地を含む成熟培地で、肝細胞を成熟させることをさらに含む。
【0044】
別の態様では、本開示は、肝細胞の集団を成熟させる方法を提供し、当該方法は、1種以上の肝細胞成熟サプリメントが添加されるヒト細胞用の基礎培地を含む成熟培地の存在下で、増殖した肝細胞集団を成熟させるステップを含む。前述の態様のいくつかの実施形態では、成熟前に、基礎培地、Wntシグナル伝達活性化因子、1つ以上の受容体型チロシンキナーゼリガンド、及び、1つ以上の上皮表現型安定化剤を含む、増殖培地の存在下で、ECMと接触させて、肝細胞を培養することにより、肝細胞を増殖させた。前述の態様のいくつかの実施形態では、増殖した肝細胞は、未成熟の表現型を有する。
【0045】
前述の態様のいずれかのいくつかの実施形態では、成熟ステップは、肝細胞増殖の直後に開始する。前述の態様のいずれかのいくつかの実施形態では、成熟ステップは、肝細胞増殖の直後に開始しない。前述の態様のいずれかのいくつかの実施形態では、成熟ステップは、3~12日(例えば、3、4、5、6、7、8、9、10、11、または12日)の継続期間を有する。前述の態様のいずれかのいくつかの実施形態では、成熟ステップは7日である。
【0046】
前述の態様のいずれかのいくつかの実施形態では、成熟基礎培地は、LONZA(商標)HCM(商標)、ウィリアムE、またはHepatoZYME-SFMである。前述の態様のいずれかのいくつかの実施形態では、1種以上の成熟サプリメントとしては、抗生物質、HEPES、GLUTAMAX(商標)、ITS、Notch阻害剤、EGFR阻害剤、オンコスタチンM、抗酸化剤、糖質コルチコイド、プレグナンX受容体(PXR)活性化因子、胆汁酸、cAMPもしくはcAMP類似体、コレステロール、甲状腺ホルモン、血清代替成分、または、前述の任意の組み合わせが挙げられる。
【0047】
前述の態様のいくつかの実施形態では、Notch阻害剤は、Compound E、γセクレターゼ阻害剤XX、またはこれらの組み合わせである。前述の態様のいくつかの実施形態では、抗生物質はペニシリン、ストレプトマイシン、またはこれらの組み合わせである。前述の態様のいくつかの実施形態では、EGFR阻害剤は、エルロチニブ塩酸塩である。前述の態様のいくつかの実施形態では、抗酸化剤はビタミンCである。前述の態様のいくつかの実施形態では、糖質コルチコイドは、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、またはこれらの組み合わせである。前述の態様のいくつかの実施形態では、PXR活性化因子はビタミンK2である。前述の態様のいくつかの実施形態では、胆汁酸は、リトコール酸、ウルソデオキシコール酸、またはこれらの組み合わせである。前述の態様のいくつかの実施形態では、cAMP類似体は、8ブロモcAMP、フォルスコリン、またはこれらの組み合わせである。前述の態様のいくつかの実施形態では、甲状腺ホルモンはT3である。前述の態様のいくつかの実施形態では、血清代替成分は、インスリントランスフェリンセレン(ITS)、KOSR、Trace Elements A、Trace Elements B、またはこれらの組み合わせである。
【0048】
前述の態様のいずれかのいくつかの実施形態では、成熟培地は、R-スポンジン1/Wnt3a、上皮増殖因子(EGF)、トランスフォーミング増殖因子α(TGFα)、N-アセチルシステイン、ニコチンアミド、B27サプリメント、N2サプリメント、線維芽細胞増殖因子7(FGF7)、及び線維芽細胞増殖因子10(FGF10)のうちの1つ以上を欠く。
【0049】
別の態様では、本開示は、1つ以上のWntシグナル伝達活性化因子、1つ以上の受容体型チロシンキナーゼリガンド、及び、1つ以上の上皮表現型安定化剤が添加されるヒト細胞用基礎培地を含む増殖培地を含むキットを提供し、キットは、キットのユーザに、前述の実施形態のいずれか1つに記載の方法に従い、1つ以上の肝細胞を培養させるように指示する、添付文書をさらに含む。
【0050】
別の態様では、本開示は、1つ以上の(例えば、2、3、4、または5つの)Wntシグナル伝達活性化因子、1つ以上の(例えば、2、3、4、または5つの)受容体型チロシンキナーゼリガンド、及び、1つ以上の(例えば、2、3、4、または5つの)上皮表現型安定化剤が添加されるヒト細胞用の基礎培地を含む増殖培地を提供する。
【0051】
前述の態様のいずれかのいくつかの実施形態では、Wntシグナル伝達活性化因子の1つ以上(例えば、2、3、4、または5つ)は、R-スポンジン1、R-スポンジン2、R-スポンジン3、R-スポンジン4、Wnt3a、または、前述のいずれかの組み合わせである。いくつかの実施形態では、1つ以上のWntシグナル伝達活性化因子としては、R-スポンジン1及びWnt3aが挙げられる。
【0052】
前述の態様のいずれかのいくつかの実施形態では、受容体型チロシンキナーゼリガンドの1つ以上(例えば、2、3、4、または5つ)は、上皮増殖因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、トランスフォーミング増殖因子(TGF)、または、前述のいずれかの組み合わせである。いくつかの実施形態では、EGFはヒトEGFであり、FGFは、ヒト線維芽細胞増殖因子7(FGF-7)またはヒト線維芽細胞増殖因子10(FGF-10)であり、HGFはヒトHGFであり、または、TGFは、トランスフォーミング増殖因子α(TGFα)(例えば、ヒトTGFα)である。いくつかの実施形態では、1つ以上の受容体型チロシンキナーゼリガンドとしては、ヒトEGF、FGF-7、FGF-10、HGF、及びTGFαが挙げられる。
【0053】
前述の態様のいくつかの実施形態では、増殖培地はRhoキナーゼ阻害剤を含む。いくつかの実施形態では、Rhoキナーゼ阻害剤はY-27632である。
いくつかの実施形態では、増殖培地はRhoキナーゼ阻害剤を含まない。
【0054】
前述の態様のいずれかのいくつかの実施形態では、上皮表現型安定化剤の1つ以上(例えば、2、3、4、または5つ)は、トランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)阻害剤である。いくつかの実施形態では、TGFβ阻害剤は、アクチビン受容体様キナーゼ5(ALK5)阻害剤(例えば、A83-01)である。いくつかの実施形態では、上皮表現型安定化剤のうちの1つは、コルチコステロイド(例えば、ヒドロコルチゾン)である。
【0055】
前述の態様のいずれかのいくつかの実施形態では、増殖培地は、1種以上の細胞生残剤、及び/または、1種以上の細胞増殖剤をさらに含む。
前述の態様のいずれかのいくつかの実施形態では、ECMは、コラーゲン(例えば、コラーゲンIもしくはコラーゲンIV)、または、ラミニン(例えば、ラミニン111、ラミニン211、ラミニン221、ラミニン332、ラミニン411、ラミニン421、ラミニン511、もしくはラミニン521)を含む。いくつかの実施形態では、ECMはコラーゲンIを含む。いくつかの実施形態では、ECMはコラーゲンIVを含む。いくつかの実施形態では、ECMはラミニン111を含む。いくつかの実施形態では、ECMはラミニン511を含む。いくつかの実施形態では、ECMはラミニン521を含む。いくつかの実施形態では、ECMは、コラーゲンI、コラーゲンIV、ラミニン111、ラミニン511、及びラミニン521の組み合わせを含む。
【0056】
前述の態様のいずれかのいくつかの実施形態では、培養ステップは表面(例えば、2次元表面)で実施される。いくつかの実施形態では、表面はECMでコーティングされている。いくつかの実施形態では、PHHは、培養ステップ中に、表面に接着により付着している。いくつかの実施形態では、増殖したPHHは、培養液中で解離、凝集、及び維持され、さらなる増殖及び/または成熟を促進する。
【0057】
前述の態様のいずれかのいくつかの実施形態では、増殖培地は、B27サプリメント、及び/またはN2サプリメントをさらに含む。いくつかの実施形態では、B27サプリメントは、ビタミンAを含有しない。
【0058】
前述の態様のいずれかのいくつかの実施形態では、増殖培地は、Notch阻害剤またはNotchアゴニストを含有しない。いくつかの実施形態では、増殖培地は、ガストリンを含有しない。
【0059】
前述の態様のいくつかの実施形態では、増殖培地は、アミノ酸サプリメントをさらに含む。いくつかの実施形態では、アミノ酸サプリメントは、非必須アミノ酸(NEAA)サプリメントである。いくつかの実施形態では、NEAAサプリメントは、グリシン、L-アラニン、L-アスパラギン、L-アスパラギン酸、L-グルタミン酸、L-プロリン、及びL-セリンを含む。いくつかの実施形態では、増殖培地は、アミノ酸サプリメントを含まない。
【0060】
別の態様では、本開示は、本明細書に記載する(例えば、上記実施形態のいずれかの)増殖培地を含む、組織培養容器を提供する。
別の態様では、本開示は、低酸素条件下で組織細胞容器を維持するインキュベーターを提供する。低酸素条件としては、例えば、20%未満の酸素濃度を挙げることができる。いくつかの実施形態では、インキュベーターは、1%~19%(例えば、1%~10%、例えば、1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、または20%)の酸素濃度を維持する。いくつかの実施形態では、酸素濃度は、1%~10%である。いくつかの実施形態では、酸素濃度は5%である。
【0061】
別の態様では、本開示は、1つ以上の成熟サプリメントが添加されるヒト細胞用基礎培地を含む成熟培地を含むキットを提供し、キットは、キットのユーザに、前述の実施形態のいずれか1つに記載の方法に従い、1つ以上の肝細胞を成熟させるように指示する、添付文書をさらに含む。
【0062】
別の態様では、本開示は、1種以上の肝細胞成熟サプリメントが添加されるヒト細胞用基礎培地を含む成熟培地を提供する。
前述の態様のいくつかの実施形態では、成熟基礎培地は、LONZA(商標)HCM(商標)、ウィリアムE、またはHepatoZYME-SFMである。前述の態様のいくつかの実施形態では、1種以上の成熟培地としては、抗生物質、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)、GLUTAMAX(商標)、ITS、Notch阻害剤、EGFR阻害剤、オンコスタチンM、抗酸化剤、糖質コルチコイド、プレグナンX受容体(PXR)活性化因子、胆汁酸、cAMPもしくはcAMP類似体、コレステロール、甲状腺ホルモン、血清代替成分、または、前述の任意の組み合わせが挙げられる。
【0063】
前述の態様のいくつかの実施形態では、Notch阻害剤は、Compound E、γセクレターゼ阻害剤XX、またはこれらの組み合わせである。前述の態様のいくつかの実施形態では、抗生物質はペニシリン、ストレプトマイシン、またはこれらの組み合わせである。前述の態様のいくつかの実施形態では、EGFR阻害剤は、エルロチニブ塩酸塩である。前述の態様のいくつかの実施形態では、抗酸化剤はビタミンCである。前述の態様のいくつかの実施形態では、糖質コルチコイドは、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、またはこれらの組み合わせである。前述の態様のいくつかの実施形態では、PXR活性化因子はビタミンK2である。前述の態様のいくつかの実施形態では、胆汁酸は、リトコール酸、ウルソデオキシコール酸、またはこれらの組み合わせである。前述の態様のいくつかの実施形態では、cAMP類似体は、8ブロモcAMP、フォルスコリン、またはこれらの組み合わせである。前述の態様のいくつかの実施形態では、甲状腺ホルモンはT3である。前述の態様のいくつかの実施形態では、血清代替成分は、ITS、KOSR、Trace Elements A、Trace Elements B、またはこれらの組み合わせである。
【0064】
前述の態様のいずれかのいくつかの実施形態では、成熟培地は、R-スポンジン1/Wnt3a、上皮増殖因子(EGF)、トランスフォーミング増殖因子α(TGFα)、N-アセチルシステイン、ニコチンアミド、B27サプリメント、N2サプリメント、線維芽細胞増殖因子7(FGF7)、及び線維芽細胞増殖因子10(FGF10)のうちの1つ以上を欠く。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【
図1】Expand 1.0製剤として参照される増殖培地を用いて培養した、初代ヒト肝細胞(PHH)細胞の明視野画像であり、当該製剤は、Wntシグナル伝達活性化因子R-スポンジン1及びWnt3aが添加された、改良型ダルベッコ改変イーグル培地/Ham’s栄養素混合物F-12;受容体型チロシンキナーゼリガンドの組換え上皮増殖因子、組換えトランスフォーミング増殖因子、組換えヒト線維芽細胞増殖因子7、組換えヒト線維芽細胞増殖因子10、及び、組換えヒト肝細胞成長因子;上皮表現型安定化剤A83-01;N-アセチルシステイン、ニコチンアミド、Rhoキナーゼ阻害剤Y-27632;ビタミンAを含有しないB27サプリメント、及びN2サプリメント;-2-ヒドロキシエチルピペラジン-N’-2-エタンスルホン酸(HEPES)、GLUTAMAX(商標)、ペニシリン、及びストレプトマイシンを含んだ。T-75培養フラスコで6日間プレーティング及び培養した後のPHH細胞(継代「P」0)を示す。
【
図2】肝臓系統細胞の均質な培養物として増殖する肝細胞ロット(表3のロットD)を用いて、増殖培地で培養したPHHにおける肝臓表現型に対する、増殖の2日目、9日目、及び14日目における、細胞の明視野画像、ならびに、増殖の13日目における、マーカーの免疫染色を示す、一連の顕微鏡写真である。増殖培地の存在下で、PHHを、コラーゲンI細胞外マトリックス(ECM)上で培養した。増殖培地は、
図1に記載するとおりであった。培養13日目に、PHHは、HNF4α、アルブミン、及びLGR5を発現する。
【
図3】
図2に記載する肝細胞ロットを用いる、
図1に記載する増殖培地を用いて、ラミニン521 ECMで増殖したPHHにおける肝臓表現型に対する、増殖中の2日目、10日目、及び13日目における細胞の明視野画像、ならびに、増殖の13日目におけるマーカーの免疫染色を示す、一連の顕微鏡写真である。P0培養の13日目に、PHHは、HNF4α、アルブミン、及びLGR5を発現する。
【
図4】それぞれ、20日目(継代(「P」)0)、76日目(P3)、89日目(P4)、及び113日目(P5)における、間葉様細胞のバックグラウンドにおいて肝臓島で構成される、異種培養物として増殖する肝細胞ロット(表3のロットA)を用い、
図1に記載する増殖培地の存在下で培養した、増殖したPHHの明視野画像を示す、一連の顕微鏡写真である。
【
図5】
図1に記載する増殖培地の存在下で培養した、PHHでの、肝臓表現型及び増殖表現型のマーカーの免疫染色を示す、一連の顕微鏡写真である。画像は、
図4に記載するPHHロットの、長時間培養中に、選択されたマーカーに対して陽性に染色するコロニーの先端を描写する。68日目に、PHHはHNF4α、アルブミン、LGR5、及びKi67を発現する。
【
図6】
図2に記載するPHHロットの、
図1に記載する増殖培地の存在下で培養した増殖PHHのステージを示す、一連の顕微鏡写真である。細胞は、培養液中で漸進的に増殖して、P0の9日目にコンフルエンスに達し、さらに進行して、P0の17日目までに、十分画定された細胞縁で密集した状態になる。
【
図7】
図2に記載するPHHロットの、
図1に記載する増殖培地の存在下で播種し、培養したPHH細胞の数に基づく、P0における、17日の培養後の倍数増殖の定量化を示すグラフである。
【
図8】
図2に記載する肝細胞ロットの増殖したPHHを含有する移植片を移植したNSGマウスにおける、分泌されたヒトアルブミンを示すグラフである。未増殖のPHHは、参照対照群としての役割を果たした。未増殖PHH、及び、10日間、
図1に記載する増殖培地の存在下で培養したPHHを解離させ、線維芽細胞で凝集させ、フィブリンヒドロゲルに封入することで移植片を調製した後、NSGマウスに移植した。2週間毎に採血をし、分泌されたヒトアルブミンをELISAにより定量した。ヒトアルブミンは、4、8、13、18、22、27、32、36、41、46、50、55、及び61日目に示される。
【
図9】未増殖の対照PHH、及び、
図1に記載する増殖培地の存在下で10日間増殖したPHHを含有する、61日目に体外移植された移植片の免疫組織化学を示す、一連の顕微鏡写真である。H&E、hOTC、及びCk18染色を示す。
【
図10】P0及びP1において、コラーゲンI及びラミニン521 ECMで、低酸素培養条件(5%O
2)にて、Expand 3.0製剤として参照される改変増殖培地の存在下で培養したPHHの、異なる日における増殖細胞の明視野画像を示す、一連の顕微鏡写真である。改変増殖培地は、Wntシグナル伝達活性化因子R-スポンジン1及びWnt3aが添加された、改良型ダルベッコ改変イーグル培地/Ham’s栄養素混合物F-12;受容体型チロシンキナーゼリガンドの組換え上皮増殖因子、組換えトランスフォーミング増殖因子、組換えヒト線維芽細胞増殖因子7、組換えヒト線維芽細胞増殖因子10、及び、組換えヒト肝細胞成長因子;上皮表現型安定化剤A83-01;N-アセチルシステイン、ニコチンアミド;5~10% KNOCKOUT(商標)血清代替物(KOSR);非必須アミノ酸(NEAA);ビタミンAを含有しないB27サプリメント、及びN2サプリメント;-2-ヒドロキシエチルピペラジン-N’-2-エタンスルホン酸(HEPES)、GLUTAMAX(商標)、ペニシリン、及びストレプトマイシンを含んだ。
【
図11】低酸素培養条件(5%O
2)下で、コラーゲンI及びラミニン521 ECMにて、
図10に記載する改変増殖培地で培養したPHHの、累積倍数増殖(P0+P1)を比較するグラフである。
【
図12】増殖培地の不存在下での、一晩プレーティングした対照PHH細胞、ならびに、P0及びP1において、コラーゲンI及びラミニン521 ECMで、低酸素培養条件(5%O
2)にて、Expand 3.0製剤の存在下で培養したPHHにおける、肝細胞及び上皮及び間葉マーカーの成熟及び前駆細胞の状態を伴う異なるカテゴリーをカバーするTaqManプローブを用いるRT-qPCR分析のヒートマップである。コラーゲンIマトリックスにおいて一晩プレーティングした、対照肝細胞の試料#1に対して値を正規化した。LGR5は、一晩プレーティングした対照肝細胞で検出されないため、LGR5データを、増殖細胞のみに対する別個の棒グラフとして表す。
【
図13】P0及びP1において、コラーゲンI及びラミニン521 ECMで、低酸素培養条件(5%O2)にて、Expand 3.0製剤の存在下で培養したPHHと比較して、増殖培地の不存在下で、一晩プレーティングした対照PHH細胞による、分泌されたアルブミンのレベルを示すグラフである。
【
図14】24日間(P0で13日+P1で11日)、ラミニン521 ECMにて、低酸素培養条件でExpand 3.0製剤の存在下において培養したPHHにおける、肝臓表現型に対するマーカーの免疫染色を示す、一連の顕微鏡写真である。P1培養の11日目に、PHHは、HNF4a及びアルブミンを発現する。
【
図15】Imarisソフトウェアにより測定した、6ウェルプレートの、独立した2つのウェルから、HNF4a及びアルブミンを発現する、P1培養の11日目における細胞の割合(%)を示す表及びグラフである。
【
図16】様々な日にち(d)における、継代(p)中のKOSR割合(%)に沿った、PHHの増殖及び成熟のタイムラインを表す図である。細胞成熟の読出しのために、位相差顕微鏡、分泌された尿素、分泌されたアルブミン、及び成熟マーカーのRT-qPCRを用いた。
【
図17】初代肝細胞(初代肝細胞)、増殖した肝細胞(増殖肝細胞対照)、及び、Lonza HCM培地(Lonza HCMに成熟サプリメント)またはウィリアムE培地(ウィリアムEに成熟サプリメント)のいずれかにおける、増殖した成熟肝細胞に対する、分泌された尿素(μg/細胞100万個/日)を示すグラフである。プレーティングした細胞に対して正規化した、及び、播種した全細胞に対して正規化した、初代肝細胞を示す。エラーバー=SEM、成熟条件に対してはn=2、ならびに、初代肝細胞及び増殖肝細胞対照に対してはn=3。
【
図18】初代肝細胞(初代肝細胞)、増殖した肝細胞(増殖肝細胞対照)、及び、Lonza HCM培地(Lonza HCMに成熟サプリメント)またはウィリアムE培地(ウィリアムEに成熟サプリメント)のいずれかにおける増殖した成熟肝細胞に対する、分泌されたアルブミン(ng/細胞100万個/日)を示すグラフである。プレーティングした細胞に対して正規化した、及び、播種した全細胞に対して正規化した、初代肝細胞を示す。エラーバー=SEM、成熟条件に対してはn=2、ならびに、初代肝細胞及び増殖肝細胞対照に対してはn=3。
【
図19】初代肝細胞(初代肝細胞対照)、増殖した肝細胞(増殖肝細胞対照)、及び、Lonza HCM培地(Lonza HCMに成熟サプリメント)またはウィリアムE培地(ウィリアムEに成熟サプリメント)のいずれかにおける増殖した成熟肝細胞に対する、成熟肝細胞マーカー及び前駆細胞/胆管細胞マーカーのRT-PCRを用いて測定した、転写レベルの倍率変化を示すヒートマップである。
【
図20】成熟前、成熟中、及び、成熟完了後の肝細胞を示す、位相差顕微鏡画像のまとまりである。成熟開始前の、24日目における10xの倍率で、増殖した肝細胞を示す。増殖した成熟肝細胞(Lonza HCMに成熟サプリメント)を、成熟の1日目、3日目、及び7日目において、4x及び10xの倍率で示す。スケールバー=100マイクロメートル。
【発明を実施するための形態】
【0066】
定義
本明細書で使用する場合、文脈上明らかに別段に示されている場合を除き、「a」、「an」及び「the」という用語には、複数の言及物が含まれる。したがって、例えば、「リガンド(a ligand)」への言及は、任意に、2つ以上のそのようなリガンドの組み合わせを含むといった具合である。
【0067】
本明細書で使用する場合、「基礎培地」という用語は、限定されるものではないが、ダルベッコ改変イーグル培地/Ham’s栄養素混合物F-12(DMEM/F-12)、LONZA(商標)HCM(商標)、ウィリアムE、HepatoZYME-SFM、及び、これらの任意の改変物を含む、ヒト細胞を培養するのに適した、任意の細胞培養培地を意味する。細胞培養培地に対する改変は、限定されるものではないが、安定化形態のL-グルタミン、-2-ヒドロキシエチルピペラジン-N’-2-エタンスルホン酸(HEPES)などの緩衝剤、ならびに、ペニシリン及びストレプトマイシンなどの抗生物質溶液を含む、様々な試薬の添加物を含む。
【0068】
本明細書で使用する場合、「含む(comprise)」、「含む(comprising)」、「含む(comprises)」、及び「で構成される(comprised of)」は、「含む(include)」、「含む(including)」、「含む(includes)」、または、「含有する(contain)」、「含有する(containing)」、「含有する(contains)」と同義であり、その後に続く、例えば構成成分の存在を明記する、包含的、またはオープンエンドの用語であり、当該技術分野において周知の、または、そこで開示される、追加の、列挙されていない構成要素、特徴、要素、メンバー、ステップの存在を除外しない、または排除しない。
【0069】
本明細書で使用する場合、「対照細胞」という用語は、哺乳動物の血清(例えば、ウシ胎児血清)、及び、肝細胞に適した、任意の他の、供給元から提供される培地サプリメントを補充した、ヒト細胞用の、任意の適切な基礎培地(例えば、ダルベッコ改変イーグル培地/栄養素混合物F-12)を含む、対照培地で培養される肝細胞の集団を意味する。
【0070】
本明細書で使用する場合、「培養ステップ」という用語は、細胞を増殖させ、継代するプロセスを意味する。本プロセスは、細胞分裂により細胞数が増加する、細胞培養期を包含する。細胞が、例えば、80~90%コンフルエンスに達したら、これらを、追加の細胞培養表面に継代し、播種することができる。例えば、初代ヒト肝細胞(PHH)の1回の継代には、コンフルエンスに達するために、少なくとも3日が必要であり得る。細胞は、120日間連続して、継代及び培養することができる。あるいは、細胞は、形質転換されるまで、または、肝臓表現型を喪失するまで、継代することができる。
【0071】
「減少する(decrease)」、「低下した(reduced)」、「低下(reduction)」、または「阻害する(inhibit)」という用語は全て、本明細書では、統計的に有意な量減少することを意味するために用いられる。いくつかの実施形態では、「低下する「(reduce)」、「低下(reduce)」、「減少する(decrease)」、または「阻害する(inhibit)」は、典型的には、参照レベル(例えば、所与の処置が存在しない場合)と比較して、少なくとも10%の減少を意味し、例えば、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、またはそれ以上の減少を含むことができる。本明細書で使用する場合、「低下(reduction)」または「阻害(inhibition)」は、参照レベルと比較して、完全な阻害または低下を包含し得る。
【0072】
本明細書で使用する場合、「上皮表現型安定化剤」という用語は、上皮表現型の維持を促進することができる、自然または合成の、任意の化合物を意味する。上皮表現型安定化剤は、間葉表現型の成長もまた予防することができる。このような化合物としては、TGFβシグナル伝達経路の阻害剤、及びコルチコステロイドが挙げられるが、これらに限定されない。
【0073】
本明細書で使用する場合、「増殖する(expand)」、「増殖する(expands)」、「増殖すること(expanding)」、及び「増殖(expansion)」とは、その後に続く、例えば、PHHの集団の数の、増加を意味する。「増殖ステップ」とは、細胞分裂によりPHHの数が増加する、細胞培養の期を意味する。一緒に、またはまとめて、PHHの集団を「増殖させる」複数の剤の文脈において、本明細書で使用する場合、これは、各剤が個別では、示した機能を達成し得る、または達成し得ないが、剤が組み合わされると、示した増殖が達成される例について記載する。
【0074】
本明細書で使用される場合、「発現する」という用語は、(1)DNA配列からのRNA鋳型の産生(例えば、転写による)、(2)RNA転写物のプロセシング(例えば、スプライシング、編集、5’キャップ形成、及び/または3’末端プロセシングによる)、(3)RNAからポリペプチドまたはタンパク質への翻訳、及び(4)ポリペプチドまたはタンパク質の翻訳後修飾という事象のうちの1つ以上を指す。タンパク質生成物をコードする遺伝子の文脈において、用語「遺伝子発現」などは、用語「タンパク質発現」などと同じ意味で用いられる。患者における、目的の遺伝子またはタンパク質の発現は、例えば、患者から入手した試料での、対応するタンパク質をコードするmRNAの量もしくは濃度の増加(例えば、逆転写定量的ポリメラーゼ連鎖反応(RT-qPCR)及びRNA seq技術などの、本明細書に記載する、もしくは当該技術分野において公知のRNA検出手順を用いて評価される)、対応するタンパク質の量もしくは濃度の増加(例えば、とりわけ、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)などの、本明細書に記載する、もしくは当該技術分野において公知のタンパク質検出方法を用いて評価される)、及び/または、対応するタンパク質の活性の増加(例えば、酵素の場合、本明細書に記載する、もしくは当該技術分野において公知の酵素活性アッセイを用いて評価される)を検出することにより、明らかにすることができる。本明細書で使用する場合、上記事象の1つ以上、または全てが、細胞内、または、細胞が存在する培地内で検出可能であれば、細胞は、目的の遺伝子またはタンパク質を「発現する」と考えられる。例えば、目的の遺伝子またはタンパク質は、(i)(例えば、本明細書に記載するRNA検出手順を用いる)細胞、もしくは細胞の集団による、mRNA鋳型などの対応するRNA転写産物の産生、(ii)RNA転写産物のプロセシング(例えば、本明細書に記載するRNA検出手順を用いる、スプライシング、編集、5’キャップ形成、及び/または3’末端プロセシング)、(iii)(例えば、本明細書に記載するタンパク質検出手順を用いる)RNA鋳型の、タンパク質生成物への翻訳、及び/または、(iv)(例えば、本明細書に記載するタンパク質検出手順を用いる)タンパク質生成物の翻訳後修飾、を検出可能である場合に、細胞、または細胞の集団により「発現される」と考えられる。
【0075】
「発現レベル」または「発現のレベル」という用語は、一般に、互換的に使用され、一般に、生体試料中のマーカーの量を指す。「発現」とは、一般に、情報(例えば、遺伝子コード情報及び/またはエピジェネティック情報)が、細胞中に存在しかつそこで機能する構造に変換されるプロセスを指す。したがって、本明細書で使用される場合、「発現」とは、ポリヌクレオチドへの転写、ポリペプチドへの翻訳、またはさらにはポリヌクレオチド及び/またはポリペプチド修飾(例えば、ポリペプチドの翻訳後修飾)を指し得る。転写ポリヌクレオチド、翻訳ポリペプチド、またはポリヌクレオチド及び/またはポリペプチド修飾(例えば、ポリペプチドの翻訳後修飾)のフラグメントはまた、それらが代替的スプライシングによって生成される転写物もしくは分解転写物に由来しようが、または例えば、タンパク質分解による、ポリペプチドの翻訳後プロセシングに由来しようが、発現したとみなされる。「発現遺伝子」は、mRNAとしてポリヌクレオチドに転写され、その後、ポリペプチドに翻訳される遺伝子を含み、RNAに転写されるが、ポリペプチドに翻訳されない遺伝子(例えば、トランスファーRNA及びリボソームRNA)も含む。
【0076】
本明細書で使用する場合、「低酸素状態」という用語は、雰囲気中の酸素濃度が20.9%を下回る状態を意味する。
「増加した(increased)」、「増加する(increase)」、「向上する(enhance)」、または「活性化する(activate)」という用語は全て、本明細書では、統計的に有意な量の増加を意味するように用いられる。いくつかの実施形態では、「増加した(increased)」、「増加する(increase)」、「向上する(enhance)」、または「活性化する(activate)」という用語は、参照レベルと比較して少なくとも10%の増加、または、参照レベルと比較して、少なくとも約2倍、もしくは少なくとも約3倍、もしくは少なくとも約4倍、もしくは少なくとも約5倍、もしくは少なくとも約10倍、もしくは、2倍~10倍、もしくはそれ以上の間の任意の増加を意味することができる。マーカー(例えば、アルブミン)の文脈において、「増加する(increase)」とは、このようなレベルでの、統計的に有意な増加である。
【0077】
本明細書で使用する場合、用語「阻害剤」とは、標的タンパク質またはシグナル伝達経路の活性を低下させることができる、自然または合成の、任意の化合物を意味する。阻害剤は、標的タンパク質の活性を、直接的または間接的のいずれかで、弱める、または防止することができる。直接阻害は、例えば、タンパク質に結合し、タンパク質が、内因性分子、例えば、酵素、基質、または他の結合パートナーと相互作用することを防ぐことによって、タンパク質の活性を低下させることにより、得ることができる。例えば、阻害剤は、酵素活性部位に結合し、この位置において、内因性基質の結合を立体的に排除することができ、それによって、タンパク質の酵素活性を低下させる。あるいは、例えば、標的タンパク質の構造変化を誘発する、または、標的タンパク質の化学修飾を触媒することで、標的タンパク質の活性を促進するタンパク質に結合させることにより、間接阻害を得ることができる。例えば、標的タンパク質のリン酸化を触媒し、それ故、標的タンパク質を活性化するキナーゼに結合し、これを不活性化することにより、標的タンパク質の間接阻害を達成することができる。
【0078】
本明細書で使用する場合、「レベル」という用語は、参照と比較したタンパク質のレベルを指す。参照は、本明細書で定義する、任意の有用な参照であり得る。タンパク質の「レベルの減少」及び「レベルの増加」とは、参照と比較したタンパク質レベルの減少または増加(例えば、約5%、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約100%、約150%、約200%、約300%、約400%、約500%もしくはそれ以上の減少もしくは増加;参照と比較した約10%、約15%、約20%、約50%、約75%、約100%、もしくは約200%を超える減少もしくは増加;約0.01倍、約0.02倍、約0.1倍、約0.3倍、約0.5倍、約0.8倍未満もしくはそれ以下の減少もしくは15増加;または約1.2倍、約1.4倍、約1.5倍、約1.8倍、約2.0倍、約3.0倍、約3.5倍、約4.5倍、約5.0倍、約10倍、約15倍、約20倍、約30倍、約40倍、約50倍、約100倍、約1000倍超もしくはそれ以上の増加)を意味する。タンパク質のレベルは、質量/体積(例えば、g/dL、mg/mL、μg/mL、またはng/mL)または試料中の総タンパク質に対するパーセンテージで表され得る。
【0079】
本明細書で使用する場合、「マーカー」という用語は、本明細書において、DNA、RNA、タンパク質、炭水化物、または糖脂質系分子マーカーを指すために互換的に使用され、細胞試料中でのその発現または存在は、標準的な方法(または本明細書に開示される方法)によって検出することができる。このようなマーカーの発現は、上記組成物または方法で処理されていない、未増殖及び/または未成熟のPHHの集団と比較して、開示した組成物を用いて、及び/または、開示した方法に従い、増殖した及び/または成熟したPHHの集団において、高いまたは低いことを測定することができる。
【0080】
本明細書で使用する場合、「成熟すること」という用語は、細胞を、前駆細胞集団とは異なる集団に成長させるプロセスを意味する。例えば、場合によっては、本明細書で開示する成熟ステップを受けた肝細胞の集団は、成熟した肝細胞表現型(例えば、遺伝子発現分析(例えば、成熟肝細胞と関連する転写物の上方制御、及び、前駆細胞/胆管細胞と関連する転写物の下方制御)、肝細胞機能アッセイ(例えば、尿素分泌、CYP3A4活性)により評価される)を有する。
【0081】
本明細書で使用する場合、「1つ以上の」、または「少なくとも1つの」という用語、例えば、メンバーの群の、1つ以上の、または、少なくとも1つのメンバーは、さらなる例示によって、それ自体明確であり、この用語はとりわけ、上記メンバーのいずれか1つ、または、上記メンバーのいずれか2つ以上、例えば、上記メンバーの3つ以上、4つ以上、5つ以上、6つ以上、もしくは7つ以上など、及び、上記メンバーの全て以下への言及を包含する。
【0082】
本明細書で使用する場合、「薬学的製剤」という用語は、本明細書に記載の方法に従い増殖及び/または成熟した、薬学的に許容される賦形剤と共に製剤化された、ならびに、対象における疾患の処置のために、治療レジメンの一部として、政府監督機関の認可を受けて製造または販売された、初代ヒト肝細胞(PHH)の集団を含有する組成物を表す。
【0083】
「初代細胞」及び「初代培養物」は、本明細書では同じ意味で用いられ、ヒトの肝臓から回収され、いかなる時間もin vitro培養されずに、速やかに凍結保存された、細胞及び細胞培養物を意味する。細胞は、生検、または、提供された肝臓全体からの単離などの、任意の便利な方法により、個体から回収することができる。適切な溶液を、回収した細胞を分散または懸濁するために用いることができる。細胞を速やかに用いることができるか、または、これらを、長期間にわたって保管、凍結し、解凍して再利用することができる。このような場合、細胞は通常、10%のDMSO、50%の血清、40%の緩衝培地、または、このような凍結温度において細胞を保存するために当該技術分野において一般的に用いられる、いくつかの他の溶液において凍結され、凍結した培養細胞を解凍するために、当該技術分野において一般的に周知の方法で解凍される。
【0084】
本明細書で使用する場合、「初代ヒト肝細胞」(または、「PHH」)という用語は、肝臓内の、主要な実質細胞を意味する。具体的には、これらの細胞はヒト由来であり、肝臓の損傷に応じて複製し、細胞数を増加させる能力を有する。このような細胞は、HNF4α、アルブミン、及び、CYP遺伝子ファミリーのメンバーから選択される、1つ以上の遺伝子を発現することが、当該技術分野において周知である。このような細胞は、AFP遺伝子を発現しないこともまた、知られている。このような細胞は、限定されるものではないが、HNF4α、アルブミン、A1AT、トランスフェリン、及び尿素を含むタンパク質を発現することもまた、当該技術分野においてさらに知られている。
【0085】
本明細書で使用する場合、「受容体型チロシンキナーゼリガンド」という用語は、受容体型チロシンキナーゼに結合可能な、自然または組換えの、任意の化合物を意味する。このようなリガンドとしては、自然及び組換えの上皮増殖因子(EGF)、自然及び組換えの線維芽細胞増殖因子(FGF)、自然及び組換えの肝細胞増殖因子(HGF)、ならびに、自然及び組換えのトランスフォーミング増殖因子(TGF)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0086】
本明細書で使用する場合、「レシピエント」という用語は、例えば、実験、診断、予防、及び/または治療の目的で、本発明による組成物が投与され得る任意の生物を指す。典型的な対象として、任意の動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、非ヒト霊長類、及びヒトなどの哺乳類)が挙げられる。対象は、処置を求めているかもしくは必要としている対象、処置が必要である対象、処置を受けている対象、将来治療を受けることになっている対象、あるいは特定の疾患もしくは病気について訓練を受けた専門家に管理されているヒトもしくは動物であり得る。好ましい実施形態では、対象はヒトである。
【0087】
本明細書で使用する場合、「血清代替成分」という用語は、無血清培地に存在する成分を意味する。
本明細書で使用する場合、トランスフォーミング増殖因子β「(TGFβ)阻害剤」とは、SMAD転写同時活性化タンパク質の活性によって転写される1つ以上の遺伝子の転写を弱める、または防ぐことができる物質(例えば、低分子、タンパク質、干渉RNA、または、他の自然もしくは合成の化合物)を意味する。TGFβ阻害剤は、経路内の1つ以上の箇所において、SMADにより誘発された遺伝子転写をもたらすシグナル形質導入カスケードを破壊することができる。例えば、TGFβ阻害剤は、TGFβまたはTGFβスーパーファミリーリガンド、例えば、アクチビン、インヒビン、ノーダル、レフティ、骨形成タンパク質(BMP)、増殖及び分化因子(GDF)、または、ミュラー管阻害因子(MIF)が、その内因性受容体に結合することを妨げ、または防止し、それによって、受容体関連SMADタンパク質のリン酸化及び活性化を阻害することができる。TGFβ経路阻害剤は、例えば、SMADタンパク質に結合し、SMADタンパク質とヌクレオポリンの相互作用を防止する、または妨げることにより、1つ以上のSMADタンパク質の、核への転座を防止することによって、機能することができる。TGFβシグナル伝達経路阻害剤は、1つ以上のSMADタンパク質と、受容体活性化のためのSMADアンカー(SARA)との相互作用を安定化することができ、これによって、細胞質でSMADタンパク質を隔離し、SMADタンパク質が核に転座することを防止する。TGFβシグナル伝達経路阻害剤の他の例としては、SMADタンパク質に結合し、SMADタンパク質を、DNA結合転写因子から隔離することで、標的遺伝子の転写を防止する、ニューロジェニンなどの物質が挙げられる。TGFβシグナル伝達経路の代替阻害剤としては、1つ以上のSMADタンパク質のユビキチン化を促進することで、プロテアソームによって分解用タンパク質をマーキングし、標的遺伝子の転写を防止する物質が挙げられる。TGFβシグナル伝達経路阻害剤の阻害活性を測定するために使用可能な、例示的なアッセイとしては、限定されるものではないが、とりわけ、電気泳動移動度シフトアッセイ、抗体スーパーシフトアッセイ、加えてTGFβ誘発性遺伝子レポーターアッセイが挙げられる。
【0088】
本明細書で使用する場合、「Wntシグナル伝達活性化因子」とは、標準的なWntシグナル伝達経路のアゴニストを意味する。この経路のアゴニストは、哺乳動物細胞の核内のβ-カテニンの濃度増加を促進する方法で、Frizzled及びLRP56共受容体タンパク質に直接結合する、Wntタンパク質または他の化合物をさらに含む。Wntシグナル伝達活性化因子としては、Wnt-3a(R&D systems)が挙げられるが、これに限定されない。あるいは、Wnt経路アゴニストは、Wntタンパク質に結合し、これを内因性Wnt共受容体から隔離する、1種以上の分泌されたFrizzled関連タンパク質(SFRP)またはWnt阻害タンパク質(WIF)を阻害することにより機能することができる。これらのWntシグナル伝達活性化因子は、Frizzledとは独立してWntシグナル伝達を刺激することにより、標準的でないWntシグナル伝達経路を活性化する分子を含むことができる。標準的でないWntシグナル伝達活性化因子は、好ましくは、LGR5細胞表面受容体を介して、Wnt経路を刺激する。周知のLGR5アゴニストとしては、ルーフプレート特異的スポンジン(R-スポンジン)タンパク質が挙げられるが、これらに限定されない。
【0089】
詳細な説明
本開示は、初代ヒト肝細胞(PHH)の、2次元増殖及び3次元凝集に使用可能な組成物及び方法を提供する。本明細書に記載する組成物及び方法に従うと、レシピエント(例えば、ヒト)に、増殖したPHHの集団を移植することができる。PHHを増殖するための、開示された方法は、ロバストで広範に適用可能な培養増殖をもたらす。さらに、これらの方法は、ドナーPHHにおける拘束性の年齢制限により限定されず、それによって、適格なPHHドナーのプールを拡張し、ドナーPHHの不足を上手く軽減する。
【0090】
本発明は、少なくとも部分的には、既存の細胞培養培地配合物と比較して、PHHを、より多くの継代数にわたって培養することができるようになる、ヒト細胞用の基礎培地、1つ以上のWntシグナル伝達活性化因子、1つ以上の受容体型チロシンキナーゼリガンド、1つ以上の上皮表現型安定化剤、及び、任意選択的に、1種以上の細胞生残剤、または1種以上の細胞増殖剤を含む、完全に規定された培養条件の発見に基づく。規定された培養条件は、血清代替成分(例えば、KNOCKOUT(商標)血清代替物(KOSR))の存在、及び/または、低酸素条件下での培養を含むことができる。完全に規定された、ゼノフリー培養条件は、以前の方法を用いてはできなかった、より多くの細胞を有利に、単一の開始細胞から、または、開始細胞のまとまりから入手することを可能にする、PHHの、大規模でロバストな、2次元増殖もまたもたらす。これらの利点によって、治療目的のための(例えば、自然の肝機能を補充または回復するための)、ドナー細胞の利用可能性を増加させることが可能となる。
【0091】
本開示はまた、PHHの成熟に使用可能な組成物及び方法を提供する。本明細書に記載する組成物及び方法に従うと、レシピエント(例えば、ヒト)に、成熟した肝細胞の集団を移植することができる。PHHを成熟させる、開示された方法は、ロバストで広範に適用可能な細胞成熟をもたらす。
【0092】
本発明は、少なくとも部分的には、肝細胞を個別の集団に成熟させる、1種以上の肝細胞成熟サプリメントを含む、ヒト細胞用の基礎培地、ならびに、任意選択的に、1種以上のサプリメントを取り除き、細胞増殖及び/または前駆細胞表現型を防ぐことを含む、PHHを成熟させるための、完全に規定された培養条件の発見に基づく。
【0093】
いくつかの実施形態では、方法は、1つ以上のWntシグナル伝達活性化因子、1つ以上の受容体型チロシンキナーゼリガンド、及び、1つ以上の上皮安定化剤が添加されるヒト細胞用基礎培地を含む増殖培地の存在下で、細胞外マトリックス(ECM)と接触させて、1つ以上のPHHを培養することを含む。
【0094】
いくつかの実施形態では、増殖培地は、1つ以上のWntシグナル伝達活性化因子、1つ以上の受容体型チロシンキナーゼリガンド、1つ以上の上皮安定化剤、及び、1種以上の細胞生残剤が添加されるヒト細胞用基礎培地を含む。
【0095】
いくつかの実施形態では、増殖培地は、1つ以上のWntシグナル伝達活性化因子、1つ以上の受容体型チロシンキナーゼリガンド、1つ以上の上皮安定化剤、及び、1種以上の細胞増殖剤が添加されるヒト細胞用基礎培地を含む。
【0096】
いくつかの実施形態では、増殖培地は、1つ以上のWntシグナル伝達活性化因子、1つ以上の受容体型チロシンキナーゼリガンド、1つ以上の上皮安定化剤、1種以上の細胞生残剤、及び、1種以上の細胞生残剤が添加されるヒト細胞用基礎培地を含む。
【0097】
いくつかの実施形態では、成熟培地は、1つ以上の成熟サプリメントが添加されるヒト細胞用基礎培地を含む。
いくつかの実施形態では、成熟培地は、細胞増殖を促進する1つ以上のサプリメントを含まない。例えば、増殖培地と比較して、本明細書で開示する成熟培地は、細胞増殖を促進する1つ以上のサプリメントを欠く場合がある。
【0098】
いくつかの実施形態では、成熟培地は、前駆細胞表現型を促進する1つ以上のサプリメントを含まない。例えば、増殖培地と比較して、本明細書で開示する成熟培地は、前駆細胞表現型を促進する1つ以上のサプリメントを欠く場合がある。
【0099】
肝細胞
本明細書に記載する組成物及び方法のいくつかの態様では、肝細胞はPHHである。いくつかの実施形態では、本明細書で開示する増殖方法でPHHを培養することによって、肝臓表現型を維持しながら、細胞の増殖が可能となる。いくつかの実施形態では、増殖法を用いて形成した、増殖したPHHの集団は、肝臓幹細胞、または、前駆細胞様の細胞を含む。いくつかの態様では、方法は、増殖したPHHの集団を成熟させることをさらに含む。
【0100】
いくつかの実施形態では、PHHは、成熟組織から入手される。いくつかの実施形態では、PHHは、例えば、in vitroで分化されている肝細胞株に由来しない。いくつかの実施形態では、PHHは、初代肝細胞である、または、これに由来する。
【0101】
PHHは、任意の好適な方法によって入手することができる。いくつかの実施形態では、細胞は、例えば、実施例、及びDorell et al.,2008(Hepatology.2008 48:1282-91)に記載されているように、コラゲナーゼ消化により単離される。いくつかの実施形態では、コラゲナーゼ消化は、組織生検で行われる。いくつかの実施形態では、コラゲナーゼ及びアクターゼ消化を用いて、PHHを入手する。
【0102】
PHHは肝臓に存在する。いくつかの実施形態では、方法は、肝臓上皮を含む組織のフラグメントを培養することを含む。いくつかの実施形態では、PHHは、組織フラグメントから単離される。例えば、肝臓の文脈において、組織フラグメントは、肝臓胆管、または、胆管組織を含むことができる。肝臓PHHは、FACS系ソーティングを用いて、EpCAM+前駆細胞を除外することで、正常な肝組織から単離される。いくつかの実施形態では、正常な肝組織から単離したPHHは、EpCAM+前駆細胞を含有することができる。
【0103】
別の一実施形態では、本発明の細胞は、当該技術分野において周知の分離法である、イムノアフィニティ精製により単離することができる。単に例示として、本発明の細胞は、c-キットに対して向けられるイムノアフィニティ精製により単離することができる。当業者には明らかなように、本方法は、精製カラムでの抗体の不動化に依存する。次に、細胞試料をカラムにロードし、適切な細胞が抗体により結合され、それ故に、カラムに結合されることが可能となる。洗浄ステップの後、不動化された抗c-キット抗体に優先的に結合し、細胞の、カラムからの放出を可能にする競合剤を用いて、細胞をカラムから溶出する。
【0104】
いくつかの実施形態では、細胞は、単離後に、少なくとも約5、少なくとも約10、少なくとも約15、少なくとも約20日、少なくとも約25日、または、少なくとも約30日の間、培養することができる。いくつかの実施形態では、細胞は、単離後に、少なくとも約5日間培養することができる。いくつかの実施形態では、細胞は、単離後に、少なくとも約10日間培養することができる。いくつかの実施形態では、細胞は、単離後に、少なくとも約15日間培養することができる。いくつかの実施形態では、細胞は、単離後に、少なくとも約20日間培養することができる。いくつかの実施形態では、細胞は、単離後に、少なくとも約25日間培養することができる。いくつかの実施形態では、細胞は、単離後に、少なくとも約25日間培養することができる。
【0105】
ある特定の態様では、細胞を培養液で、より長い時間増殖させ、細胞集団での細胞表現型の均質性を改善する、または、増殖した細胞の細胞状態を安定化させる。
いくつかの実施形態では、細胞集団は、出発点、例えば、上述した肝臓フラグメントに含有される細胞の集団として、用いることができる。したがって、本発明の方法は、出発点として単一細胞を用いることに限定されない。
【0106】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載する方法を用いて、増殖培地でPHHを培養することを含む、増殖したPHHの集団を入手する方法が提供される。
いくつかの実施形態では、方法は、PHHを培養すること、または、単一細胞から、増殖したPHHの集団を入手することを含む。有利には、これによって、細胞の均質な集団が形成可能となる。いくつかの実施形態では、方法は、3~120日(例えば、4~119日、5~118日、10~117日、15~116日、20~115日、30~100日、40~90日、50~80日、60~70日、または65日)間、本発明の増殖培地でPHHを培養し、その後、細胞を単一細胞密度に解離させ、容器当たり(例えば、ウェルあたり)1個の細胞の比率で、1つ以上の細胞を播種し、本発明の増殖培地を用いて細胞を増殖させることを含む。
【0107】
例えば、いくつかの実施形態では、方法は、3~120日間、本発明の増殖培地でPHHを培養することを含む。いくつかの実施形態では、方法は、4~119日間、本発明の増殖培地でPHHを培養することを含む。いくつかの実施形態では、方法は、5~118日間、本発明の増殖方法でPHHを培養することを含む。いくつかの実施形態では、方法は、10~117日間、本発明の増殖方法でPHHを培養することを含む。いくつかの実施形態では、方法は、15~116日間、本発明の増殖方法でPHHを培養することを含む。いくつかの実施形態では、方法は、20~115日間、本発明の増殖方法でPHHを培養することを含む。いくつかの実施形態では、方法は、30~100日間、本発明の増殖方法でPHHを培養することを含む。いくつかの実施形態では、方法は、40~90日間、本発明の増殖方法でPHHを培養することを含む。いくつかの実施形態では、方法は、50~80日間、本発明の増殖方法でPHHを培養することを含む。いくつかの実施形態では、方法は、60~70日間、本発明の増殖方法でPHHを培養することを含む。いくつかの実施形態では、方法は、65日間、本発明の増殖方法でPHHを培養することを含む。
【0108】
いくつかの実施形態では、培養ステップは、プレーティングした細胞を増殖させること(ステップP0)と、増殖した細胞を初回継代すること(ステップP1)と、を含む。
いくつかの実施形態では、P0ステップは、7~16日(例えば、7、8、9、10、11、12、13、14、15、または16日)の継続期間を有する。いくつかの実施形態では、P0ステップは、11日の継続期間を有する。いくつかの実施形態では、P0ステップは、13日の継続期間を有する。
【0109】
いくつかの実施形態では、P1ステップは、7~20日(例えば、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20日)の継続期間を有する。いくつかの実施形態では、P1ステップは、11日の継続期間を有する。いくつかの実施形態では、P1ステップは、13日の継続期間を有する。
【0110】
いくつかの実施形態では、P0ステップは、肝細胞を、200~13,333細胞/cm2、例えば、200細胞/cm2~1,000細胞/cm2(例えば、200細胞/cm2、300細胞/cm2、400細胞/cm2、500細胞/cm2、600細胞/cm2、700細胞/cm2、800細胞/cm2、900細胞/cm2、もしくは1,000細胞/cm2)、1,000細胞/cm2~10,000細胞/cm2(例えば、1,000細胞/cm2、2,000細胞/cm2、3,000細胞/cm2、4,000細胞/cm2、5,000細胞/cm2、6,000細胞/cm2、7,000細胞/cm2、8,000細胞/cm2、9,000細胞/cm2、もしくは10,000細胞/cm2)、または、10,000細胞/cm2~13,333細胞/cm2(例えば、10,000細胞/cm2、11,000細胞/cm2、12,000細胞/cm2、13,000細胞/cm2、もしくは13,333細胞/cm2)の密度で播種することを含む。いくつかの実施形態では、P0ステップは、667細胞/cm2の密度で肝細胞を播種することを含む。いくつかの実施形態では、P1ステップは、333~13,333細胞/cm2の密度で肝細胞を播種することを含む。いくつかの実施形態では、P1ステップは、1,333細胞/cm2の密度で肝細胞を播種することを含む。
【0111】
いくつかの実施形態では、PHHを、約5%二酸化炭素の存在下で培養する。いくつかの実施形態では、PHHを、約37℃の温度で培養する。いくつかの実施形態では、PHHを低酸素条件で培養する。
【0112】
有利には、本発明により提供される培養法を用いることで、増殖した細胞の分子特性決定により測定されるように、細胞を長期間培養したときに、肝細胞が非腫瘍形成性のままで形成される細胞集団がもたらされる。したがって、いくつかの実施形態では、本発明のPHHの集団は、本発明の増殖培地で、4ヶ月以上(例えば、5、6、7、または8ヶ月)培養した後に、増殖した細胞の分子特性決定により測定されるように、非腫瘍形成性のままである。例えば、いくつかの実施形態では、本発明のPHHの集団は、本発明の増殖培地で、5ヶ月培養した後に、増殖した細胞の分子特性決定により測定されるように、非腫瘍形成性のままである。いくつかの実施形態では、本発明のPHHの集団は、本発明の増殖培地で、6ヶ月培養した後に、増殖した細胞の分子特性決定により測定されるように、非腫瘍形成性のままである。いくつかの実施形態では、本発明のPHHの集団は、本発明の増殖培地で、7ヶ月培養した後に、増殖した細胞の分子特性決定により測定されるように、非腫瘍形成性のままである。いくつかの実施形態では、本発明のPHHの集団は、本発明の増殖培地で、8ヶ月培養した後に、増殖した細胞の分子特性決定により測定されるように、非腫瘍形成性のままである。
【0113】
培養後に、方法は、1つ以上のPHHを入手すること、及び/または単離することをさらに含むことができる。例えば、PHHの培養後に、その後の用途で用いるために、増殖培地で培養した1つ以上のPHHを培養培地から取り除くことが有用であり得る。例えば、本発明の増殖培地を用いて培養するために、単一細胞を単離することが有用であり得る。あるいは、本発明の増殖培地を用いて培養するために、細胞の集団を入手することが有用であり得る。
【0114】
本発明の増殖したPHHの集団は、好ましくは、少なくとも50%(例えば、少なくとも60%、70%、80%、または90%)の生存細胞を含む。例えば、いくつかの実施形態では、本発明の増殖したPHHの集団は、好ましくは、少なくとも60%の生存細胞を含む。いくつかの実施形態では、本発明の増殖したPHHの集団は、好ましくは、少なくとも70%の生存細胞を含む。いくつかの実施形態では、本発明の増殖したPHHの集団は、好ましくは、少なくとも80%の生存細胞を含む。いくつかの実施形態では、本発明の増殖したPHHの集団は、好ましくは、少なくとも90%の生存細胞を含む。細胞の生存能は、FACSでのHoechst染色またはヨウ化プロピジウム染色を用いて評価することができる。
【0115】
いくつかの実施形態では、本発明のPHHの、1つ以上の凍結集団が提供される。PHH培養物の増殖した集団を解離させ、これらを、回収細胞培養物凍結培地(Gibco)またはCryoStor(Biolife Solutions)などの凍結培地と混合し、標準的な手順に従い凍結させることを含む、凍結のために、増殖したPHHの集団を調製する方法もまた提供する。凍結したPHHを解凍し、解凍したPHHをECM(例えば、コラーゲンI、またはラミニン521)に埋め込み、本発明の増殖培地でPHHを培養することを含む、凍結したPHHを解凍する方法もまた提供する。
【0116】
いくつかの実施例では、まず、培地を解凍した後に、Y-27632、例えば、約10μMのY-27632を補充することができる。いくつかの実施形態では、培養培地に、解凍後、最初の1、2、3、4、5日間、またはそれ以下の日数の間、好ましくは、最初の3または4日間、Y-27632を補充する。いくつかの実施形態では、Y-27632は、最初の3、4、5、6日、またはそれ以上の日数後、好ましくは、最初の3または4日後には、培養培地に存在しない。この解凍法は、本発明のPHHを増殖させるために用いることができる。その他の実施例では、Y-27632などのROCK阻害剤が存在しない場合がある。
【0117】
本明細書に記載の方法により産生された細胞を、速やかに用いることができる。あるいは、細胞を、液体窒素温度で凍結し、長期間保管し、解凍し、再利用することができる。例えば、細胞は、10%のジメチルスルホキシド(DMSO)、50%の血清、40%の緩衝培地、または、このような凍結温度において細胞を保存するために当該技術分野において一般的に用いられるいくつかの他のこのような溶液において、凍結され、凍結した培養細胞を解凍するために当該技術分野において一般的に周知の方法で解凍することができる。
【0118】
いくつかの実施形態では、細胞は、1週間で、2より大きい(例えば、3、4、5、10、20、30)の集団倍化速度で増殖する。例えば、いくつかの実施形態では、細胞は、1週間に3より大きい集団倍化速度で増殖する。いくつかの実施形態では、細胞は、1週間に4より大きい集団倍化速度で増殖する。いくつかの実施形態では、細胞は、1週間に5より大きい集団倍化速度で増殖する。いくつかの実施形態では、細胞は、1週間に10より大きい集団倍化速度で増殖する。いくつかの実施形態では、細胞は、1週間に20より大きい集団倍化速度で増殖する。いくつかの実施形態では、細胞は、1週間に30より大きい集団倍化速度で増殖する。
【0119】
いくつかの実施形態では、方法は、培地の構成成分が、培養中に使い切られるため、培養過程中に、培地を、新しい培地に交換することを含むことができる。培地を、新しい培地に交換する必要がある頻度は、当業者には明らかであろう。いくつかの実施形態では、培地は2日に1回交換するが、毎日、または、3日に1回、または必要に応じて交換可能であることもまた、想到される。
【0120】
増殖培地は、好ましくは、少なくとも5(例えば、少なくとも5、10、25、50、または100)日の培養中に、細胞の生残及び/または増殖を誘発する、または促進する。例えば、いくつかの実施形態では、増殖培地は、少なくとも10日(例えば、少なくとも25日)間、細胞の生残及び/または増殖を誘発する、または促進する。いくつかの実施形態では、増殖培地は、少なくとも25日間、細胞の生残及び/または増殖を誘発する、または促進する。いくつかの実施形態では、増殖培地は、少なくとも50日間、細胞の生残及び/または増殖を誘発する、または促進する。いくつかの実施形態では、増殖培地は、少なくとも100日間、細胞の生残及び/または増殖を誘発する、または促進する。
【0121】
増殖は、BrdU染色、Edu染色、Ki67染色などの、当該技術分野において周知の技術を使用して評価することができ、増殖曲線アッセイを使用することができる。例えば、2次元細胞培養に適した細胞培養容器で、凍結したPHHのcm2当たり、200~1000細胞で解凍してプレーティングした後に、継代0(P0)において、少なくとも10倍(例えば、少なくとも15倍、20倍、または30倍)の、細胞増殖が達成され、増殖後の細胞収率が、cm2当たり2×103~10×103細胞となる。コンフルエンスに達したら、その後、増殖したPHHを継代し、およそ、少なくとも500倍(例えば、少なくとも1000倍)のPHH増殖が達成されるまで、cm2当たり200~1000細胞、またはこれより高い密度で播種することが可能である。いくつかの実施形態では、コンフルエンスに達したら、その後、およそ100倍のPHH増殖が達成されるまで、1:3の比で、増殖したPHHを継代することが可能である。移植用PHHの入手可能性は深刻な問題を引き起こすため、これは、業界にとって重要である。マウス移植のためには、例えば、最低105細胞が必要である。場合によっては、移植を成功させるために、ヒト移植には、1×107細胞が必要となり得る。
【0122】
言い換えれば、本発明に従って用いた増殖培地は、PHHの集団を増殖させて、PHHの増殖した集団を形成し、適切な条件下で少なくとも6回の継代に対して肝臓表現型を維持する、または、少なくとも500倍の増殖(例えば、少なくとも1000倍の増殖)を達成することが可能である。
【0123】
いくつかの実施形態では、培養ステップの後に、PHHの発現プロファイルは、PHHの少なくとも15%(例えば、少なくとも15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、またはそれ以上)による、Ki67(即ち、タンパク質)の発現を含む。いくつかの実施形態では、培養ステップの後に、PHHの発現プロファイルは、PHHの最大15%(例えば、最大10%、5%、4%、3%、2%、または1%)による、Ki67の発現を含む。
【0124】
いくつかの実施形態では、培養ステップの後に、PHHの発現プロファイルは、PHHの少なくとも15%(例えば、少なくとも15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、またはそれ以上)による、Ki67(即ち、遺伝子)の発現を含む。いくつかの実施形態では、培養ステップの後に、PHHの発現プロファイルは、PHHの最大15%(例えば、最大10%、5%、4%、3%、2%、または1%)による、Ki67の発現を含む。
【0125】
いくつかの実施形態では、培養ステップの後に、肝細胞収率は、14~28日以内(例えば、15~27日以内、16~26日以内、17~25日以内、18~24日以内、19~23日以内、20~21日以内、または、22日以内)の培養で、少なくとも2倍(例えば、少なくとも3倍、4倍、5倍、10倍、20倍、または30倍)増大する。
【0126】
いくつかの実施形態では、培養ステップの後に、肝細胞収率は、30日以内(例えば、30、29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、18、17、16、15、または14日以内)の培養で、少なくとも500倍増大する。いくつかの実施形態では、培養ステップの後に、肝細胞収率は、24日以内の培養で、少なくとも500倍増大する。
【0127】
いくつかの実施形態では、培養ステップの後に、肝細胞収率は、30日以内(例えば、30、29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、18、17、16、15、または14日以内)の培養で、500倍~2000倍(例えば、1000倍~2000倍、例えば、500倍、600倍、700倍、800倍、900倍、1,000倍、1,100倍、1,200倍、1,300倍、1,400倍、1,500倍、1,600倍、1,700倍、1,800倍、1,900倍、または2,000倍)増大する。いくつかの実施形態では、培養ステップの後に、肝細胞収率は、24日以内の培養で、500倍~2000倍(例えば、1000倍~2000倍、例えば、500倍、600倍、700倍、800倍、900倍、1,000倍、1,100倍、1,200倍、1,300倍、1,400倍、1,500倍、1,600倍、1,700倍、1,800倍、1,900倍、または2,000倍)増大する。
【0128】
いくつかの実施形態では、肝細胞増殖の後に、増殖した肝細胞集団は、1種以上の肝細胞成熟サプリメントが添加されるヒト細胞用の基礎培地を含む成熟培地の存在下で、成熟を受けることができる。いくつかの実施形態では、成熟ステップは、肝細胞増殖の直後に行われる。いくつかの実施形態では、成熟ステップは、肝細胞増殖の直後に続かない。いくつかの実施形態では、成熟ステップは、3~12日(例えば、3、4、5、6、7、8、9、10、11、または12日)の継続期間を有する。いくつかの実施形態では、成熟ステップは7日である。
【0129】
細胞の形態を可視化するための位相差顕微鏡、分泌された尿素及びアルブミンの検出、ならびに、肝細胞成熟マーカーのRT-qPCRなどの、当該技術分野において周知の技術を使用して、成熟を評価することができる。
【0130】
Wntシグナル伝達活性化因子
本発明の増殖培地は、1つ以上のWntアゴニストを含む。Wntシグナル伝達経路は、通常は、Wntファミリーのメンバーなどの、細胞外シグナル伝達分子である、Frizzled受容体、LRP、及びLGRを含む細胞表面Wnt受容体複合体が活性化される際に生じる一連の事象により規定される。これは、アキシン、GSK-3、及びタンパク質APCを含むタンパク質の複合体が、細胞内β-カテニンを分解するのを阻害する、Disheveledファミリータンパク質の活性化をもたらす。もたらされた、濃縮された核β-カテニンは、TCF/LEFファミリー転写因子による転写を向上させる。Wntアゴニストは、細胞内での、TCF/LEFが媒介する転写を活性化する剤である。それ故、Wntアゴニストは、細胞内β-カテニン分解の阻害剤、GSK阻害剤(CHIR9901など)、及び、TCF/LEFの活性剤などの、Wntファミリータンパク質の全てを含む、Wnt受容体複合体に結合し、これを活性化する、Wntアゴニストから選択される。
【0131】
いくつかの実施形態では、Wntアゴニストは、以下のリストから選択される、分泌された糖タンパク質である:Wnt-I/Int-1、Wnt-2/Irp(InM関連タンパク質)、Wnt-2b/13、Wnt-3/Int-4、Wnt-3a(R&D systems)、Wnt-4、Wnt-5a、Wnt-5b、Wnt-6(Kirikoshi H et al.,2001 Biochem Biophys Res Com 283 798-805)、Wnt-7a(R&D systems)、Wnt-7b、Wnt-8a/8d、Wnt-8b、Wnt-9a/14、Wnt-9b/14b/15、Wnt-10a、Wnt-10b/12、WnMI、及びWnt-16。ヒトWntタンパク質の概要は、“THE WNT FAMILY OF SECRETED PROTEINS,”R&D Systems Catalog,2004で提供される。
【0132】
増殖培地中のWntアゴニストは、好ましくは、LGR5細胞表面受容体によりWnt経路を刺激することができる、任意のアゴニストであり、例えば、一実施形態では、増殖培地中のWntアゴニストは、LGR5アゴニストである。周知のLGR5アゴニストとしては、R-スポンジン、そのフラグメント及び誘導体、ならびに、抗LGR5抗体が挙げられる(例えば、WO2012/140274、及びDe Lau,W.et al.Nature,2011 Jul.4;476(7360):293-7を参照されたい)。好ましいLGR5アゴニストは、R-スポンジンである。任意の好適なR-スポンジン、例えば、R-スポンジン1、R-スポンジン2、R-スポンジン3、R-スポンジン4、またはこれらの誘導体を含む一覧から選択されるいずれかを、使用することができる。例えば、R-スポンジン1(NU206,Nuvelo,San Carlos,Calif.)、R-スポンジン2(R&D systems)、R-スポンジン3、及び、R-スポンジン4のいずれかを使用することができる。
【0133】
Wntアゴニストは、好ましくは、細胞内でWnt活性を刺激するのに効果的な量で、培地に添加される。当業者には周知であるように、Wnt活性は、例えば、pTOPFLASH及びpFOPFLASH Tcfルシフェラーゼレポーター構築物により、Wntの転写活性を測定することにより決定することができる(Korinek et al.,1997.Science 275:1784-1787)。
【0134】
いくつかの実施形態では、分泌された糖タンパク質Wntアゴニストは、Wnt3aである。本発明の増殖培地は、少なくとも10ng/mLのWnt3a(例えば、少なくとも50ng/mL、100ng/mL、1μg/mL、または10μg/mL)を含むことができる。例えば、いくつかの実施形態では、培地は、少なくとも50ng/mLのWnt3aを含む。いくつかの実施形態では、培地は、少なくとも100ng/mLのWnt3aを含む。いくつかの実施形態では、培地は、少なくとも1μg/mLのWnt3aを含む。いくつかの実施形態では、培地は、少なくとも10μg/mLのWnt3aを含む。
【0135】
いくつかの実施形態では、LGR5アゴニストは、R-スポンジン1、R-スポンジン2、R-スポンジン3、またはR-スポンジン4から選択される。いくつかの実施形態では、増殖培地は、少なくとも10ng/mL(例えば、少なくとも50ng/mL、100ng/mL、1μg/mL、または5μg/mL)のR-スポンジンを含む。例えば、いくつかの実施形態では、増殖培地は、少なくとも50ng/mLのR-スポンジンを含む。いくつかの実施形態では、増殖培地は、少なくとも100ng/mLのR-スポンジンを含む。いくつかの実施形態では、増殖培地は、少なくとも1μg/mLのR-スポンジンを含む。いくつかの実施形態では、増殖培地は、少なくとも5μg/mLのR-スポンジンを含む。
【0136】
いくつかの実施形態では、PHHの培養中に、1つ以上のWntアゴニストを、必要なときに、例えば、毎日、または2日に1回、培養培地に添加することができる。Wntアゴニストは、好ましくは、2日に1回、培養培地に添加される。いくつかの実施形態では、Wntアゴニストは、培地を細胞に添加する前に、培養培地と混合することができる。
【0137】
受容体型チロシンキナーゼリガンド
本明細書に記載する受容体型チロシンキナーゼリガンドは、上皮増殖因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、及びトランスフォーミング増殖因子(TGF)を含み、好ましくは、全て増殖培地に存在する。多くの受容体型チロシンキナーゼリガンドは、分裂促進性増殖因子である。
【0138】
EGFは、その受容体である上皮増殖因子受容体(EGFR)に結合することで、細胞増殖及び分化を刺激するタンパク質である。
FGFファミリーメンバーは、広範な分裂促進性及び細胞生残活性を有し、胚発生、細胞増殖、形態形成、組織修復、腫瘍増殖、及び浸潤を含む、様々な生物学的プロセスに関与する。FGFは、細胞表面線維芽細胞増殖因子(FGFR)と相互作用することで、細胞を刺激する。4つの、密接に関連した受容体(FGFR1~FGFR4)が、同定されている。大部分のFGFは、2つ以上の受容体に結合する(Ornitz J.Biol.Chem.1998 Feb.27;273(9):5349-57)に結合する。しかし、線維芽細胞増殖因子10(FGF-10)及び線維芽細胞増殖因子7(FGF-7)は、上皮細胞により排他的に発現される、FGFR2の特異的なアイソフォーム(FGFR2bと指定される)とだけ相互作用するという点で、FGFの中でも特有である(Igarashi,J.Biol.Chem.1998 273(21):13230-5)。
【0139】
肝細胞増殖因子/散乱因子(HGF/SF)は、がん原遺伝子c-Met受容体に結合した後に、チロシンキナーゼシグナル伝達カスケードを活性化することにより、細胞増殖、細胞運動性、及び形態形成を制御する、形態形成因子である。
【0140】
トランスフォーミング増殖因子(TGF)は、ポリペプチド増殖因子である。TGFの1種である、トランスフォーミング増殖因子α(TGFα)は、EGFRに結合し、上皮表現型の発達を誘発する。
【0141】
いくつかの実施形態では、増殖培地中の1つ以上の受容体型チロシンキナーゼリガンドは、EGF、FGF、HGF、及びTGFからなる群から選択され、FGFは、好ましくはFGF-7、またはFGF10である。
【0142】
いくつかの実施形態では、増殖培地は、1つ以上の受容体型チロシンキナーゼリガンドを含む。いくつかの実施形態では、1個のみの受容体型チロシンキナーゼリガンドが増殖培地に含まれ、これは、FGF、HGF、EGF、及びTGFから選択することができる。いくつかの実施形態では、増殖培地は、2種類の受容体型チロシンキナーゼリガンドを含む。いくつかの実施形態では、増殖培地中の2種類の受容体型チロシンキナーゼリガンドは、EGF及びFGFである。いくつかの実施形態では、増殖培地中の2種類の受容体型チロシンキナーゼリガンドは、EGF及びHGFである。いくつかの実施形態では、増殖培地中の2種類の受容体型チロシンキナーゼリガンドは、HGF及びFGFである。いくつかの実施形態では、増殖培地中の2種類の受容体型チロシンキナーゼリガンドは、TGF及びFGFである。いくつかの実施形態では、増殖培地中の2種類の受容体型チロシンキナーゼリガンドは、TGF及びHGFである。いくつかの実施形態では、増殖培地中の2種類の受容体型チロシンキナーゼリガンドは、EGF及びTGFである。いくつかの実施形態では、増殖培地は、3種類の受容体型チロシンキナーゼリガンドを含む。いくつかの実施形態では、増殖培地中の3種類の受容体型チロシンキナーゼリガンドは、EGF、FGF、及びTGFである。いくつかの実施形態では、増殖培地中の3種類の受容体型チロシンキナーゼリガンドは、EGF、FGF、及びHGFである。いくつかの実施形態では、増殖培地中の3種類の受容体型チロシンキナーゼリガンドは、TGF、HGF、及びEGFである。いくつかの実施形態では、増殖培地中の3種類の受容体型チロシンキナーゼリガンドは、TGF、HGF、及びFGFである。いくつかの実施形態では、増殖培地は、4種類の受容体型チロシンキナーゼリガンドを含む。いくつかの実施形態では、4種類の受容体型チロシンキナーゼリガンドは、EGF、FGF、HGF、及びTGFである。
【0143】
いくつかの実施形態では、任意の好適なEGFを用いることができる。いくつかの実施形態では、EGFは、ヒトEGFを含む。いくつかの実施形態では、EGFは、組換えヒトEGFを含む。
【0144】
いくつかの実施形態では、EGFは、5~500ng/mLの濃度で、増殖培地に添加される。例えば、いくつかの実施形態では、増殖培地は、10ng/mLのEGFを含む。いくつかの実施形態では、増殖培地は、50ng/mLのEGFを含む。いくつかの実施形態では、増殖培地は、100ng/mLのEGFを含む。いくつかの実施形態では、増殖培地は、1μg/mLのEGFを含む。いくつかの実施形態では、増殖培地は、5μg/mLのEGFを含む。いくつかの実施形態では、増殖培地は、10μg/mLのEGFを含む。いくつかの実施形態では、EGFRを活性化する代替の化合物で、EGFを置き換える。例えば、インスリン様増殖因子(IGF)でEGFを置き換える可能性があることが、想到される。
【0145】
増殖培地で用いるFGFは、好ましくは、線維芽細胞増殖因子2(FGFR2)に結合可能なFGFであり、好ましくは、FGF-7またはFGF-10である。いくつかの実施形態では、1つを超えないFGFが用いられる。いくつかの実施形態では、FGFは、FGF-7である。いくつかの実施形態では、FGFは、FGF-10である。他の実施形態では、2種類以上、例えば、2種類、3種類、またはそれ以上のFGFが用いられる。いくつかの実施形態では、2種類のFGFが用いられる。いくつかの実施形態では、2種類のFGFは、FGF-7及びFGF-10である。いくつかの実施形態では、FGFは、FGFR2経路を活性化する化合物(「FGF経路活性化因子」)で置き換えられる。いくつかの実施形態では、増殖培地は、20~500ng/mLのFGFを含む。例えば、いくつかの実施形態では、増殖培地は、50ng/mLのFGFを含む。いくつかの実施形態では、増殖培地は、100ng/mLのFGFを含む。いくつかの実施形態では、増殖培地は、250ng/mLのFGFを含む。
【0146】
いくつかの実施形態では、HGFは、ヒトHGFである。いくつかの実施形態では、HGFは、組換えヒトHGFである。いくつかの実施形態では、増殖培地は、1~50ng/mLのHGFを含む。例えば、いくつかの実施形態では、増殖培地は、1ng/mLのHGFを含む。いくつかの実施形態では、増殖培地は、5ng/mLのHGFを含む。いくつかの実施形態では、増殖培地は、10ng/mLのHGFを含む。いくつかの実施形態では、増殖培地は、25ng/mLのHGFを含む。いくつかの実施形態では、増殖培地は、50ng/mLのHGFを含む。いくつかの実施形態では、HGFは、Dihexaなどの、HGF受容体を活性化する化合物で置き換えられる。
【0147】
いくつかの実施形態では、FGFは、ヒトFGFである。いくつかの実施形態では、FGFは、組換えヒトFGF-7、及び、組換えヒトFGF-10である。いくつかの実施形態では、増殖培地は、少なくとも5ng/mLのFGFを含む。例えば、いくつかの実施形態では、増殖培地は、10ng/mLのFGFを含む。いくつかの実施形態では、増殖培地は、50ng/mLのFGFを含む。いくつかの実施形態では、増殖培地は、100ng/mLのFGFを含む。いくつかの実施形態では、増殖培地は、250ng/mLのFGFを含む。
【0148】
いくつかの実施形態では、TGFは、ヒトTGFαである。いくつかの実施形態では、TGFは、組換えヒトTGFαである。いくつかの実施形態では、増殖培地は、少なくとも2ng/mLのTGFを含む。例えば、いくつかの実施形態では、増殖培地は、2.5ng/mLのTGFを含む。いくつかの実施形態では、増殖培地は、5ng/mLのTGFを含む。いくつかの実施形態では、増殖培地は、10ng/mLのTGFを含む。いくつかの実施形態では、増殖培地は、50ng/mLのTGFを含む。いくつかの実施形態では、増殖培地は、100ng/mLのTGFを含む。いくつかの実施形態では、増殖培地は、250ng/mLのTGFを含む。
【0149】
いくつかの実施形態では、PHHの培養中に、1つ以上の受容体型チロシンキナーゼリガンド(例えば、EGF、FGF-7、FGF-10、HGF、及びTGFα)を、必要なときに、例えば、毎日、または2日に1回、培養培地に添加する。これらは単独で、または、組み合わせて添加することができる。これらは、2日に1回添加されるのが好ましい。いくつかの実施形態では、1つ以上の受容体型チロシンキナーゼリガンドは、細胞培養培地に、細胞への添加前に直接添加することができる。
【0150】
上皮表現型安定化剤
本明細書に記載する増殖培地は、1つ以上の上皮表現型安定化剤を含むことができる。いくつかの実施形態では、1つ以上の上皮表現型安定化剤は、トランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)阻害剤である。増殖培地にTGFβ阻害剤が存在することで、PHHが分化しなくなるため、有利である。換言すれば、TGFβ阻害剤は、TGFβシグナル伝達経路の活性を低減し、または阻害し、これにより、間葉表現型の発達が妨げられる。TGFβシグナル伝達は、細胞増殖、細胞運命、及びアポトーシスを含む、多くの細胞機能に関与する。シグナル伝達は、典型的には、TGFβスーパーファミリーリガンドの、II型受容体への結合と共に開始し、II型受容体はI型受容体を動員してリン酸化する。次に、I型受容体は、核内で転写因子として作用し、標的遺伝子発現を制御する、SMADをリン酸化する。
【0151】
TGFβスーパーファミリーリガンドは、骨形成タンパク質(BMP)、増殖及び分化因子(GDF)、抗ミュラー管ホルモン(AMH)、アクチビン、ノーダル、及びTGFβを含む。一般に、Smad2及びSmad3は、TGFβ/アクチビン経路で、ALK4、5、及び7受容体によりリン酸化される。対照的に、Smad1、Smad5、及びSmad8は、骨形成タンパク質(BMP)経路の一部として、リン酸化される。経路間で多少の重複はあるものの、本発明の文脈においては、「TGFβ阻害剤」、または、「TGFβシグナル伝達の阻害剤」とは、好ましくは、Smad2及びSmad3を介して作用する、TGFβ経路の阻害剤である。したがって、いくつかの実施形態では、TGFβ阻害剤はBMP阻害剤ではなく、例えば、TGFβ阻害剤はノギンではない。いくつかの実施形態では、TGFβ阻害剤に加えて、BMP阻害剤が培養培地に添加される(以下を参照されたい)。
【0152】
したがって、TGFβ阻害剤は、TGFβシグナル伝達経路の活性を低減する任意の剤であることができる。当該技術分野において周知であり、本発明と共に使用可能な、TGFβのシグナル伝達経路を破壊する多くの方法が存在する。例えば、TGFβシグナル伝達は、低分子干渉RNA法によるTGFβ発現の阻害;フーリン(TGFβ活性化プロテアーゼ)の阻害;生理学的阻害剤による経路の阻害;モノクローナル抗体によるTGFβの中和;TGFβ受容体キナーゼ1(ALK5としても知られている)、または他のTGFβ関連受容体キナーゼの低分子阻害剤による阻害;例えば、その生理学的阻害剤であるSmad7の過剰発現による、または、Smadの活性化を不可能にするSmadアンカーとして、チオレドキシンを用いることによる、Smad2及びSmad3シグナル伝達の阻害により破壊することができる(Fuchs,O.Inhibition of TGF-Signaling for the Treatment of Tumor Metastasis and Fibrotic Diseases.Current Signal Transduction Therapy,Volume 6,Number 1,January 2011,pp.29-43(15))。
【0153】
物質がTGFβ阻害剤であるか否かを測定する様々な方法が周知であり、本発明と共に使用することができる。例えば、細胞に、ヒトPAI-1プロモーター、または、Smad結合部位を含むレポーター構築物が安定してトランスフェクトされ、ルシフェラーゼレポーター遺伝子を駆動する、細胞アッセイを使用することができる。対照群と比較したルシフェラーゼ活性の阻害を、化合物の活性の指標として用いることができる(De Gouville et al.,Br J Pharmacol.2005 May;145(2):166-177)。
【0154】
本発明に従ったTGFβ阻害剤は、タンパク質、ペプチド、低分子、低分子干渉RNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、アプタマー、または抗体であることができる。阻害剤は、自然に存在するものであってよいか、または、合成であってよい。一実施形態では、TGFβ阻害剤は、ALK5の阻害剤である。例えば、TGFβ阻害剤は、ALK5に結合し、これを直接阻害することができる。本発明の文脈で使用可能な、好ましい低分子TGFβ阻害剤としては、A83-01が挙げられる。いくつかの実施形態では、TGFβ阻害剤は、低分子阻害剤である。いくつかの実施形態では、TGFβ阻害剤は、A83-01である。
【0155】
いくつかの実施形態では、1つを超えないTGFβ阻害剤が、増殖培地に存在する。他の実施形態では、2つ以上(例えば、2、3、または4つ以上)のTGFβ阻害剤が、増殖培地に存在する。主に、他のキナーゼを標的とするように設計されているが、高濃度で、TGFβシグナル伝達経路もまた阻害することができる、多数の他の低分子阻害剤もまた、本発明の文脈で使用することができることを、当業者は理解するであろう。
【0156】
いくつかの実施形態では、TGFβ阻害剤はALK5阻害剤である。いくつかの実施形態では、ALK5阻害剤はA83-01である。いくつかの実施形態では、増殖培地は、少なくとも10nM(例えば、少なくとも50nM、100nM、1μM、5μM、または10μM)を含む。例えば、いくつかの実施形態では、増殖培地は、少なくとも50nMのA83-01を含む。いくつかの実施形態では、増殖培地は、少なくとも100nMのA83-01を含む。いくつかの実施形態では、増殖培地は、少なくとも1μMのA83-01を含む。いくつかの実施形態では、増殖培地は、少なくとも5μMのA83-01を含む。いくつかの実施形態では、増殖培地は、少なくとも10μMのA83-01を含む。
【0157】
いくつかの実施形態では、上皮表現型安定化剤は、コルチコステロイドをさらに含むことができる。いくつかの実施形態では、コルチコステロイドとしては、ヒドロコルチゾンが挙げられる。いくつかの実施形態では、増殖培地は、少なくとも10ng/mL(例えば、少なくとも25ng/mL、50ng/mL、100ng/mL、500ng/mL、1μg/mL、5μg/mL、または10μg/mL)のヒドロコルチゾンを含む。例えば、いくつかの実施形態では、増殖培地は、少なくとも25ng/mLのヒドロコルチゾンを含む。いくつかの実施形態では、増殖培地は、少なくとも50ng/mLのヒドロコルチゾンを含む。いくつかの実施形態では、増殖培地は、少なくとも100ng/mLのヒドロコルチゾンを含む。いくつかの実施形態では、増殖培地は、少なくとも250ng/mLのヒドロコルチゾンを含む。いくつかの実施形態では、増殖培地は、少なくとも500ng/mLのヒドロコルチゾンを含む。いくつかの実施形態では、増殖培地は、少なくとも1μg/mLのヒドロコルチゾンを含む。いくつかの実施形態では、増殖培地は、少なくとも5μg/mLのヒドロコルチゾンを含む。いくつかの実施形態では、増殖培地は、少なくとも10ng/mLを含む。
【0158】
いくつかの実施形態では、PHHの培養中に、1つ以上の上皮表現型安定化剤を、必要なときに、例えば、毎日、または2日に1回、培養培地に添加する。2日に1回添加されるのが好ましい。いくつかの実施形態では、1つ以上の上皮表現型安定化剤は、細胞培養培地に、PHHに添加する前に直接添加することができる。
【0159】
細胞生残及び増殖の促進
本明細書に記載する増殖培地は、任意選択的に、N-アセチルシステイン、B27、N2、ニコチンアミド、及びRhoキナーゼ阻害剤からなる群から選択される、細胞生残及び/または増殖を促進する1種以上の剤を含む。N-アセチルシステイン、B27、N2、ニコチンアミド、及びRhoキナーゼ阻害剤は、細胞生残、細胞増殖を制御し、DNA安定性を補助すると考えられている。
【0160】
いくつかの実施形態では、増殖培地に、少なくとも0.25mM(例えば、少なくとも0.5mM、1mM、または5mM)のN-アセチルシステインを補充する。例えば、いくつかの実施形態では、増殖培地に、少なくとも0.5mMのN-アセチルシステインを補充する。いくつかの実施形態では、増殖培地に、少なくとも1mMのN-アセチルシステインを補充する。いくつかの実施形態では、増殖培地に、少なくとも5mMのN-アセチルシステインを補充する。
【0161】
いくつかの実施形態では、B27は任意選択的に、ビタミンAを含有しない。B27サプリメントを使用して、ビオチン、コレステロール、リノール酸、リノレン酸、プロゲステロン、プトレシン、酢酸レチニル、亜セレン酸ナトリウム、トリヨードチロニン(T3)、DL-α-トコフェロール(ビタミンE)、アルブミン、インスリン、及びトランスフェリンを含む培地を配合することができる。ビタミンAを除くB27サプリメントが、肝臓用増殖培地で、特に良好に作用することが示された。他の成分の中でもとりわけ、ビオチン、コレステロール、リノール酸、リノレン酸、プロゲステロン、プトレシン、レチノール、酢酸レチニル、亜セレン酸ナトリウム、トリヨードチロニン(T3)、DL-α-トコフェロール(ビタミンE)、アルブミン、インスリン、及びトランスフェリンを含有するB27サプリメントは、50X濃縮液として提供される。これらの成分の中でも、少なくともリノレン酸、レチノール、酢酸レチニル、及びトリヨードチロニン(T3)が、核ホルモン受容体アゴニストである。B27サプリメントを、濃縮物として培養培地に添加することができるか、または、濃縮物として培養培地に添加する前に希釈することができるか、または、培養培地に添加する前に希釈することができる。1Xの終濃度、または他の終濃度で、B27サプリメントを用いることができる。B27サプリメントを用いるのは、ビオチン、コレステロール、リノール酸、リノレン酸、プロゲステロン、プトレシン、レチノール、酢酸レチニル、亜セレン酸ナトリウム、トリヨードチロニン(T3)、DL-α-トコフェロール(ビタミンE)、アルブミン、インスリン、及びトランスフェリンを、本発明の培養培地に組み込む便利な方法である。B27サプリメントを用いる代わりに、これらの構成成分のいくつか、または全てを、増殖培地に別個に添加することもまた、想到される。したがって、増殖培地は、これらの構成成分のいくつか、または全てを含むことができる。
【0162】
いくつかの実施形態では、増殖培地中でのB27の量は、約0.1X~約100X(例えば、約0.1X~約90X、約0.5X~約80X、約1X~約70X、約5X~約60X、及び、約10X~約50X)であることができる。
【0163】
例えば、いくつかの実施形態では、増殖培地中でのB27の濃度は、約0.1Xである。いくつかの実施形態では、増殖培地中でのB27の濃度は、約0.5Xである。いくつかの実施形態では、増殖培地中でのB27の濃度は、約1Xである。いくつかの実施形態では、増殖培地中でのB27の濃度は、約5Xである。いくつかの実施形態では、増殖培地中でのB27の濃度は、約10Xである。いくつかの実施形態では、増殖培地中でのB27の濃度は、約50Xである。いくつかの実施形態では、増殖培地中でのB27の濃度は、約70Xである。いくつかの実施形態では、増殖培地中でのB27の濃度は、約80Xである。いくつかの実施形態では、増殖培地中でのB27の濃度は、約90Xである。いくつかの実施形態では、増殖培地中でのB27の濃度は、約100Xである。
【0164】
N2サプリメントは、ヒトトランスフェリン、ウシインスリン、プロゲステロン、プトレシン、及び亜セレン酸ナトリウムを含有する、100Xの液体濃縮物として提供される。N2サプリメントは、濃縮物として培養培地に添加することができるか、または、培養培地に添加する前に希釈することができる。1Xの終濃度、または他の終濃度で、N2サプリメントを用いることができる。N2サプリメントを用いるのは、トランスフェリン、インスリン、プロゲステロン、プトレシン、及び亜セレン酸ナトリウムを、本発明の培養培地に組み込む便利な方法である。もちろん、N2サプリメントを用いる代わりに、これらの構成成分のいくつか、または全てを、増殖培地に別個に添加することもまた、想到される。したがって、いくつかの実施形態では、増殖培地は、これらの構成成分のいくつか、または全てを含むことができる。
【0165】
いくつかの実施形態では、増殖培地中でのN2の量は、約0.1X~約100X(例えば、約0.1X~約90X、約0.5X~約80X、約1X~約70X、約5X~約60X、及び、約10X~約50X)であることができる。
【0166】
例えば、いくつかの実施形態では、増殖培地中でのN2の濃度は、約0.1Xである。いくつかの実施形態では、増殖培地中でのN2の濃度は、約0.5Xである。いくつかの実施形態では、増殖培地中でのN2の濃度は、約1Xである。いくつかの実施形態では、増殖培地中でのN2の濃度は、約5Xである。いくつかの実施形態では、増殖培地中でのN2の濃度は、約10Xである。いくつかの実施形態では、増殖培地中でのN2の濃度は、約50Xである。いくつかの実施形態では、増殖培地中でのN2の濃度は、約70Xである。いくつかの実施形態では、増殖培地中でのN2の濃度は、約80Xである。いくつかの実施形態では、増殖培地中でのN2の濃度は、約90Xである。いくつかの実施形態では、増殖培地中でのN2の濃度は、約100Xである。
【0167】
培地がB27を含むいくつかの実施形態では、培地はN2を含まない。本発明の実施形態はそれ故、B27が存在する場合に、所望するのであれば、N2を除外するように適合させることができる。
【0168】
いくつかの実施形態では、N2は、増殖培地に存在しない。
培地がN2を含むいくつかの実施形態では、培地はB27を含まない。本発明の実施形態はそれ故、N27が存在する場合に、所望するのであれば、B27を除外するように適合させることができる。
【0169】
いくつかの実施形態では、B27は、増殖培地に存在しない。
いくつかの実施形態では、増殖培地には、B27及び/またはN2が補充される。
いくつかの実施形態では、増殖培地は、少なくとも1mM(例えば、少なくとも5mM、10mM、または50mM)のニコチンアミドを含む。例えば、いくつかの実施形態では、増殖培地は、少なくとも5mMのニコチンアミドを含む。いくつかの実施形態では、増殖培地は、少なくとも10mMのニコチンアミドを含む。いくつかの実施形態では、増殖培地は、少なくとも50mMのニコチンアミドを含む。
【0170】
いくつかの実施形態では、Rhoキナーゼ阻害剤はY-27632である。いくつかの実施形態では、増殖培地は、少なくとも1μM(例えば、少なくとも5μM、10μM、または50μM)のY-27632を含む。例えば、いくつかの実施形態では、増殖培地は、少なくとも5μMのY-27632を含む。いくつかの実施形態では、増殖培地は、少なくとも10μMのY-27632を含む。いくつかの実施形態では、増殖培地は、少なくとも50μMのY-27632を含む。いくつかの実施形態では、Rhoキナーゼ阻害剤は、増殖培地に含まれない。
【0171】
いくつかの実施形態では、PHHの培養中に、N-アセチルシステイン、B27、N2、ニコチンアミド、及びRhoキナーゼ阻害剤からなる群から選択される、細胞生残及び/または増殖を促進する1種以上の剤を、必要なときに、例えば、毎日、または2日に1回、培養培地に添加する。2日に1回添加されるのが好ましい。いくつかの実施形態では、細胞生残及び/または増殖を促進する1種以上の剤は、細胞培養培地に、PHHに添加する前に直接添加することができる。
【0172】
いくつかの実施形態では、本明細書で開示する成熟培地は、細胞生残及び/または増殖を促進する、1種以上の剤、例えば、本明細書で開示する細胞生残及び/または増殖を促進する剤のいずれかを含まない。
【0173】
成熟の促進
本明細書に記載する肝細胞を、本明細書に記載する方法に従い成熟させることができる。いくつかの実施形態では、肝細胞を事前に、本明細書に記載する方法により増殖させた。いくつかの実施形態では、肝細胞を、本明細書に記載する方法により増殖させ、その後、成熟させる。本明細書に記載する成熟培地は、ヒト細胞用の基礎培地を含むことができる。いくつかの実施形態では、成熟基礎培地は、LONZA(商標)HCM(商標)、ウィリアムE、またはHepatoZYME-SFMである。LONZA(商標)HCM(商標)は、HBM(商標)基礎培地を含む、または、HBM(商標)基礎培地を、トランスフェリン、アスコルビン酸、ヒト上皮増殖因子(HEGF)、インスリン、ヒドロコルチゾン、脂肪酸非含有ウシ血清アルブミン、及び、ゲンタマイシンサルフェート-アムホテリシン(GA-1000)と組み合わせることにより得られる、肝細胞培養培地である。ウィリアウムE培地は、初代肝細胞を増殖させるための、血清補充量が少なくなった培地である。HepatoZYME-SFMは、肝細胞の長期維持のための、無血清培地である。
【0174】
本明細書に記載する成熟培地は、任意選択的に、抗生物質、HEPES、GLUTAMAX(商標)、ITS、Notch阻害剤、EGFR阻害剤、オンコスタチンM、抗酸化剤、糖質コルチコイド、プレグナンX受容体(PXR)活性化因子、胆汁酸、cAMPもしくはcAMP類似体、コレステロール、甲状腺ホルモン、血清代替成分、または、前述の任意の組み合わせからなる群から選択される、肝細胞成熟を促進する1種以上の剤を含む。
【0175】
前述の態様のいくつかの実施形態では、Notch阻害剤は、Compound E、γセクレターゼ阻害剤XX、またはこれらの組み合わせである。前述の態様のいくつかの実施形態では、抗生物質はペニシリン、ストレプトマイシン、またはこれらの組み合わせである。前述の態様のいくつかの実施形態では、EGFR阻害剤は、エルロチニブ塩酸塩である。前述の態様のいくつかの実施形態では、抗酸化剤はビタミンCである。前述の態様のいくつかの実施形態では、糖質コルチコイドは、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、またはこれらの組み合わせである。前述の態様のいくつかの実施形態では、PXR活性化因子はビタミンK2である。前述の態様のいくつかの実施形態では、胆汁酸は、リトコール酸、ウルソデオキシコール酸、またはこれらの組み合わせである。前述の態様のいくつかの実施形態では、cAMP類似体は、8ブロモcAMP、フォルスコリン、またはこれらの組み合わせである。前述の態様のいくつかの実施形態では、甲状腺ホルモンはT3である。前述の態様のいくつかの実施形態では、血清代替成分は、ITS、KOSR、Trace Elements A、Trace Elements B、またはこれらの組み合わせである。
【0176】
本明細書に記載する成熟培地は、例えば、本明細書で開示する増殖培地と比較して、サプリメントの除去を受け、細胞増殖または前駆細胞表現型を防止する。前述の態様のいずれかのいくつかの実施形態では、成熟培地は、R-スポンジン1/Wnt3a、上皮増殖因子(EGF)、トランスフォーミング増殖因子α(TGFα)、N-アセチルシステイン、ニコチンアミド、B27サプリメント、N2サプリメント、線維芽細胞増殖因子7(FGF7)、及び線維芽細胞増殖因子10(FGF10)のうちの1つ以上を欠く。
【0177】
血清代替成分
本明細書に記載する基礎培地または成熟培地は、血清代替成分をさらに含むことができる。
【0178】
任意の好適な血清代替成分を用いることができる。いくつかの実施形態では、血清代替成分は、KNOCKOUT(商標)血清代替物(KOSR)、ヒト血小板溶解物、ヒト血清、ITS、Trace Elements A、またはTrace Elements Bである。KOSRは、アルブミンもしくはアルブミンサプリメントを含む、または、アルブミンもしくはアルブミンサプリメントを、グリシン、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-プロリン、L-ヒドロキシプロリン、L-セリン、L-トレオニン、L-トリプトファン、L-チロシン、L-バリン、チアミン、還元グルタチオン、L-アスコルビン酸-2-ホスフェート、鉄飽和トランスフェリン、インスリン、ならびに、微量元素部分のAg+、Al3+、Ba2+、Cd2+、Co2+、Cr3+、Ge4+、Se4+、Br-、I-、Mn2+、F-、Si4+、V5+、Mo6+、Ni2+、Rb+、Sn2+、及びZr4+を含有する化合物からなる群から選択される1つ以上の成分と組み合わせることにより得られる、無血清真核細胞培養培地サプリメントである(例えば、その開示全体が参照として本明細書に組み込まれる、米国公開番号第US20020076747号を参照されたい)。
【0179】
いくつかの実施形態では、培養ステップは、プレーティングした細胞を増殖させること(ステップP0)と、増殖した細胞を初回継代すること(ステップP1)と、を含む。いくつかの実施形態では、P0ステップは、7~16日(例えば、7、8、9、10、11、12、13、14、15、または16日)の継続期間を有する。いくつかの実施形態では、P0ステップは、11日の継続期間を有する。いくつかの実施形態では、P0ステップは、13日の継続期間を有する。
【0180】
いくつかの実施形態では、P1ステップは、7~20日(例えば、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20日)の継続期間を有する。いくつかの実施形態では、P1ステップは、11日の継続期間を有する。いくつかの実施形態では、P1ステップは、13日の継続期間を有する。
【0181】
いくつかの実施形態では、P0ステップは、肝細胞を、200~13,333細胞/cm2、例えば、200細胞/cm2~1,000細胞/cm2(例えば、200細胞/cm2、300細胞/cm2、400細胞/cm2、500細胞/cm2、600細胞/cm2、700細胞/cm2、800細胞/cm2、900細胞/cm2、もしくは1,000細胞/cm2)、1,000細胞/cm2~10,000細胞/cm2(例えば、1,000細胞/cm2、2,000細胞/cm2、3,000細胞/cm2、4,000細胞/cm2、5,000細胞/cm2、6,000細胞/cm2、7,000細胞/cm2、8,000細胞/cm2、9,000細胞/cm2、もしくは10,000細胞/cm2)、または、10,000細胞/cm2~13,333細胞/cm2(例えば、10,000細胞/cm2、11,000細胞/cm2、12,000細胞/cm2、13,000細胞/cm2、もしくは13,333細胞/cm2)の密度で播種することを含む。いくつかの実施形態では、P0ステップは、667細胞/cm2の密度で肝細胞を播種することを含む。いくつかの実施形態では、P1ステップは、333~13,333細胞/cm2の密度で肝細胞を播種することを含む。いくつかの実施形態では、P1ステップは、1,333細胞/cm2の密度で肝細胞を播種することを含む。
【0182】
いくつかの実施形態では、増殖培地は血清代替成分を含み、血清代替成分の濃度は、培養ステップの継続期間にわたって変化する。
いくつかの実施形態では、血清代替成分の濃度は、P0ステップの0日目において1%(v/v)である。
【0183】
いくつかの実施形態では、(i)細胞密度が、15%~30%(例えば、15%、20%、25%、もしくは30%)コンフルエンシーに達するときに、または、(ii)P0ステップの3日目~7日目の間(例えば、3日目、4日目、5日目、6日目、もしくは7日目)に、血清代替物の濃度は、5%(v/v)まで増加される。いくつかの実施形態では、血清代替物の濃度は、P0ステップの5日目に5%(v/v)まで増加される。いくつかの実施形態では、血清代替成分の濃度は、P0ステップの0日目において5%(v/v)である。いくつかの実施形態では、血清代替成分の濃度は、P0の0日目において5%(v/v)であり、血清代替成分の濃度が増加されるまで、5%(v/v)のままである。いくつかの実施形態では、血清代替物の濃度は、(i)細胞密度が、40%~60%(例えば、40%、45%、50%、55%、もしくは60%)コンフルエンシーに達するときに、または、(ii)P0ステップの7日目~13日目の間(例えば、7日目、8日目、9日目、10日目、11日目、12日目、もしくは13日目)に、10%(v/v)まで増加される。いくつかの実施形態では、血清代替物の濃度は、P0ステップの9日目に10%(v/v)まで増加される。
【0184】
いくつかの実施形態では、血清代替成分の濃度は、P1ステップの0日目において1%(v/v)である。いくつかの実施形態では、(i)細胞密度が、15%~30%%(例えば、15%、20%、25%、もしくは30%)コンフルエンシーに達するときに、または、(ii)P1ステップの3日目~7日目の間(例えば、3日目、4日目、5日目、6日目、もしくは7日目)に、血清代替物の濃度は、5%(v/v)まで増加される。いくつかの実施形態では、血清代替物の濃度は、P1ステップの5日目に5%(v/v)まで増加される。
【0185】
いくつかの実施形態では、血清代替成分の濃度は、P1ステップの0日目において5%(v/v)である。いくつかの実施形態では、血清代替成分の濃度は、P1ステップの0日目において5%(v/v)であり、血清代替成分の濃度が増加されるまで、5%(v/v)のままである。
【0186】
いくつかの実施形態では、血清代替物の濃度は、(i)細胞密度が、40%~60%(例えば、40%、45%、50%、55%、もしくは60%)コンフルエンシーに達するときに、または、(ii)P1ステップの5日目~13日目の間(例えば、5日目、6日目、7日目、8日目、9日目、10日目、11日目、12日目、もしくは13日目)に、10%(v/v)まで増加される。いくつかの実施形態では、血清代替物の濃度は、P1ステップの9日目に10%(v/v)まで増加される。いくつかの実施形態では、血清代替物の濃度は、P1ステップの7日目に10%(v/v)まで増加される。
【0187】
追加の構成成分
いくつかの例では、本明細書に記載する基礎培地は、追加で緩衝剤を含むことができる。
【0188】
いくつかの実施形態では、緩衝剤は、-2-ヒドロキシエチルピペラジン-N’-2-エタンスルホン酸(HEPES)である。いくつかの実施形態では、増殖培地は、少なくとも1mM(例えば、5mM、10mM、または50mM)のHEPESを含む。例えば、いくつかの実施形態では、増殖培地は、5mMのHEPESを含む。いくつかの実施形態では、増殖培地は10mMのHEPESを含む。いくつかの実施形態では、増殖培地は50mMのHEPESを含む。
【0189】
いくつかの実施形態では、基礎培地は、L-グルタミンまたはその誘導体を含む。
いくつかの実施形態では、L-グルタミンは、L-グルタミンサプリメント、例えば、L-アラニル-L-グルタミンジペプチド、例えば、0.85% NaCl中の.200mMのL-アラニル-L-グルタミンジペプチド(例えば、GLUTAMAX(商標))である。いくつかの実施形態では、増殖培地は、少なくとも0.1%(例えば、少なくとも0.5%、1%、または5%)のGLUTAMAX(商標)を含む。例えば、いくつかの実施形態では、増殖培地は、少なくとも0.5%のGLUTAMAX(商標)を含む。いくつかの実施形態では、増殖培地は、少なくとも1%のGLUTAMAX(商標)を含む。いくつかの実施形態では、増殖培地は、少なくとも5%のGLUTAMAX(商標)を含む。いくつかの実施形態では、増殖培地は、0.1%~10%、例えば、0.1%~1%(例えば、0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、もしくは1%)、または1%~10%(例えば、1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、もしくは10%)のGLUTAMAX(商標)を含む。
【0190】
いくつかの実施形態では、基礎培地はさらに、抗生物質を含む。
いくつかの実施形態では、抗生物質としては、ペニシリン及びストレプトマイシンの溶液が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、増殖培地または成熟培地は、少なくとも0.1%(例えば、少なくとも0.5%、1%、または5%)の、ペニシリン及びストレプトマイシンの溶液を含む。例えば、いくつかの実施形態では、増殖培地または成熟培地は、少なくとも0.5%の、ペニシリン及びストレプトマイシンの溶液を含む。いくつかの実施形態では、増殖培地または成熟培地は、少なくとも1%の、ペニシリン及びストレプトマイシンの溶液を含む。いくつかの実施形態では、増殖培地または成熟培地は、少なくとも5%の、ペニシリン及びストレプトマイシンの溶液を含む。いくつかの実施形態では、増殖培地または成熟培地は、0.1%~10%、例えば、0.1%~1%(例えば、0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、もしくは1%)、または1%~10%(例えば、1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、もしくは10%)の、ペニシリン及びストレプトマイシンの溶液を含む。
【0191】
いくつかの実施形態では、増殖培地は、アミノ酸サプリメントをさらに含む。いくつかの実施形態では、アミノ酸サプリメントは、非必須アミノ酸(NEAA)サプリメントである。いくつかの実施形態では、NEAAサプリメントは、グリシン、L-アラニン、L-アスパラギン、L-アスパラギン酸、L-グルタミン酸、L-プロリン、及びL-セリンを含む。いくつかの実施形態では、増殖培地は、例えば、1μM~100mM、例えば、1μM~10μM(例えば、1μM、2μM、3μM、4μM、5μM、6μM、7μM、8μM、9μM、もしくは10μM)、10μM~100μM(例えば、10μM、20μM、30μM、40μM、50μM、60μM、70μM、80μM、90μM、もしくは100μM)、100μM~1mm(例えば、100μM、200μM、300μM、400μM、500μM、600μM、700μM、800μM、900μM、もしくは1mm)、1mM~10mM(例えば、1mM、2mM、3mM、4mM、5mM、6mM、7mM、8mM、9mM、もしくは10mM)、または、10mM~100mM(例えば、10mM、20mM、30mM、40mM、50mM、60mM、70mM、80mM、90mM、もしくは100mM)の、グリシン、L-アラニン、L-アスパラギン、L-アスパラギン酸、L-グルタミン酸、L-プロリン、及びL-セリンのそれぞれを含有する、非必須アミノ酸サプリメントを含む。いくつかの実施形態では、増殖培地は、100μMの、グリシン、L-アラニン、L-アスパラギン、L-アスパラギン酸、L-グルタミン酸、L-プロリン、及びL-セリンのそれぞれを含む。
【0192】
いくつかの実施形態では、増殖培地は、NEAAサプリメントを含まない。
いくつかの実施形態では、血清を、増殖培地に添加する。いくつかの実施形態では、血清としては、ウシ胎児血清が挙げられるが、これに限定されない。いくつかの実施形態では、増殖培地は、少なくとも1%(例えば、少なくとも5%、10%、または15%)のウシ胎児血清を含む。例えば、いくつかの実施形態では、増殖培地は、少なくとも5%のウシ胎児血清を含む。いくつかの実施形態では、増殖培地は、少なくとも10%のウシ胎児血清を含む。いくつかの実施形態では、増殖培地は、少なくとも15%のウシ胎児血清を含む。いくつかの実施形態では、血清は、増殖培地に存在しない。
【0193】
いくつかの実施形態では、PHHの培養中に、上述の剤を、任意選択的に、必要なときに、例えば、毎日、または2日に1回、培養培地に添加する。これらは、2日に1回添加されるのが好ましい。いくつかの実施形態では、上述の剤は、細胞培養培地に、PHHに添加する前に直接添加することができる。
【0194】
いくつかの実施形態では、Notch阻害剤は、増殖培地に存在しない。いくつかの実施形態では、Notchアゴニストは、増殖培地に存在しない。いくつかの実施形態では、Notch阻害剤も、Notchアゴニストも、増殖培地に存在しない。
【0195】
低酸素条件
本明細書に記載する培養方法は、低酸素条件下、または、低酸素模倣物の存在下で、PHHを培養することを含むことができる。本明細書に記載する低酸素条件としては、酸素が、通常の酸素濃度(正常酸素条件)を下回る濃度で存在する、任意の条件が挙げられる。低酸素模倣物は、有効酸素の減少に応答する転写因子のタンパク質サブユニットである、低酸素誘発性因子1α(HiF1α)の蓄積を誘発することにより、低酸素を模倣する。
【0196】
いくつかの実施形態では、培養することは、低酸素条件下で細胞を培養することを含む。低酸素条件としては、例えば、20%未満の酸素濃度を挙げることができる。いくつかの実施形態では、低酸素条件下で培養することは、細胞を、1%~19%(例えば、1%~10%、例えば、1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、または20%)の酸素濃度で培養することを含む。いくつかの実施形態では、低酸素条件下で培養することは、細胞を、1%~19%の酸素濃度で培養することを含む。いくつかの実施形態では、培養することは、細胞を、1%~10%の酸素濃度で培養することを含む。いくつかの実施形態では、培養することは、細胞を、5%の酸素濃度で培養することを含む。いくつかの実施形態では、培養することは、正常酸素条件下で細胞を培養することを含む。
【0197】
いくつかの実施形態では、培養することは、低酸素模倣物(例えば、HIF-1α安定剤、またはPHD阻害剤)の存在下で、細胞を培養することを含む。例示的な低酸素模倣物としては、鉄キレート剤(例えば、デフェロキサミンメシラート(DFO)、Compound A、デフェラシロクス、及び2,2’-ジピリジル(DP))、鉄競合剤(例えば、塩化コバルト(CoCl2)、もしくは、Ni2+、Mn2+、Co2+、もしくはZn2+などの二価の金属イオン)、ならびに、2オキソグルタレート(20G)類似体(例えば、ジヒドロキシ安息香酸(DHB)、N-オキサリルグリシン、ジメチルオキサリルグリシン(DMOG))、PHD阻害剤(例えば、FG-4497、GSK360A、TM6008、もしくは葉酸)、または、HIF-1α安定剤(例えば、miR-335、イソフルラン、N-アセチルシステイン、MG-132、BSc2118、及びチロロン)が挙げられるが、これらに限定されない。低酸素模倣物は、例えば、Davis et al.Front. Cell Dev.Biol.6:175,2018でも記載されている。いくつかの実施形態では、低酸素模倣物の存在下で培養することは、塩化コバルトの存在下で細胞を培養することを含む。いくつかの実施形態では、低酸素模倣物の存在下で培養することは、デスフェリオキサミン(例えば、DFO)の存在下で細胞を培養することを含む。いくつかの実施形態では、低酸素模倣物の存在下で培養することは、DMOGの存在下で細胞を培養することを含む。いくつかの実施形態では、培養することは、低酸素模倣物の不存在下で細胞を培養することを含む。
【0198】
培養物の表面
本明細書に記載の方法のいくつかの例では、PHHは、2次元表面で培養される。細胞培養表面は、哺乳動物細胞を培養するのに好適な任意の材料製であることができる。例えば、表面は、材料が生体適合性である限り、プラスチックまたは他の人工ポリマー材料などの、容易に滅菌可能な材料であることができる。いくつかの実施形態では、細胞培養表面は、プラスチックまたはガラスを含有することができる。いくつかの実施形態では、表面は、細胞の接着を可能にする、任意の材料を含む。いくつかの実施形態では、細胞は、1つのプレートで増殖する。
【0199】
限定されるものではないが、ポリアミド;ポリエステル;ポリスチレン;ポリプロピレン;ポリアクリレート;ポリビニル化合物(例えば、ポリ塩化ビニル);ポリカーボネート;ポリテトラフルオロエチレン(PTFE);ニトロセルロース;綿;ポリグリコール酸(PGA);セルロース;デキストラン;ゼラチン;ガラス;フルオロポリマー;フッ素化エチレンプロピレン;ポリビニリデン;ポリジメチルシロキサン;及び、ケイ素基材(石英ガラス、ポリケイ素、または、単独のケイ素結晶)などを含む、任意の数の材料を使用して、表面を形成することができる。また、金属(例えば、金、銀、チタンフィルム)もまた、使用することができる。
【0200】
いくつかの実施形態では、表面を修飾して、細胞接着を促進することができる(例えば、接着材料でコーティングすることができる)。例えば、ガラス表面を、コラーゲンまたはフィブロネクチンなどのタンパク質(即ち、少なくとも2種類のアミノ酸のペプチド)で処理し、組織の細胞が基材に接着するのを支えることができる。いくつかの実施形態では、単一のタンパク質が表面に接着する。いくつかの実施形態では、2種類以上のタンパク質が表面に接着する。基材を修飾して接着を促進するために用いるのに適したタンパク質としては、特定の細胞型が細胞培養条件下で接着するタンパク質が挙げられる。いくつかの実施形態では、表面は、細胞接着を促進するために、ECMでコーティングされる。
【0201】
いくつかの実施形態では、PHHは2次元表面で培養され、2次元表面は、9.5cm2~10,000cm2の表面積を含む。いくつかの実施形態では、PHHは2次元表面で培養され、2次元表面は、500cm2~10,000cm2の表面積を含む。例えば、いくつかの実施形態では、表面積は、9.5cm2~500cm2(例えば、9.5cm2、100cm2、200cm2、300cm2、400cm2、もしくは500cm2)、500cm2~1,000cm2(例えば、500cm2、600cm2、700cm2、800cm2、900cm2、もしくは1,000cm2)、または、1,000cm2~10,000cm2(例えば、1,000cm2、2,000cm2、3,000cm2、4,000cm2、5,000cm2、6,000cm2、7,000cm2、8,000cm2、9,000cm2、もしくは10,000cm2)である。いくつかの実施形態では、PHHは2次元表面で培養され、2次元表面は、636cm2~6360cm2の表面積を含む。
【0202】
ECM
本明細書に記載するとおり、PHHの培養方法は、ECMと接触させて、1つ以上のPHHを培養することを含むことができる。いくつかの実施形態では、PHHはECMと、物理的、機構的、もしくは化学的手段、またはこれらの任意の組み合わせによって接触する。任意の好適なECMを使用することができる。単離されたPHHは、好ましくは、少なくとも部分的には、上記PHHが自然に存在する細胞ニッチを模倣した微小環境で培養される。細胞ニッチは、部分的には、PHH及び周囲の細胞、ならびに、上記ニッチ内の細胞によって産生されるECMにより決定される。この細胞ニッチは、肝細胞の運命を制御する、鍵となる制御性シグナルを提供するECMなどの、生体材料の存在下で、上記PHHを培養することにより模倣することができる。
【0203】
いくつかの実施形態では、PHHは、ECMに接着する。いくつかの実施形態では、細胞培養物の表面は、ECMでコーティングされる。
ECMは、様々な多糖類、水、エラスチン、及び糖タンパク質を含み、糖タンパク質としては、コラーゲン、エンタクチン(ニドゲン)、フィブロネクチン、及びラミニンが挙げられる。ECMは、結合組織細胞により分泌される。様々な種類の糖タンパク質、及び/または、様々な組み合わせの糖タンパク質を含む、様々な組成物などの、様々な種類のECMが周知である。上記ECMは、これらの細胞を除去し、単離された組織フラグメントまたは単離されたPHHを添加する前に、容器の中で、例えば線維芽細胞などのECM産生細胞を培養することにより提供することができる。ECM産生細胞の例は、主にコラーゲン及びプロテオグリカンを産生する軟骨細胞、主にIV型コラーゲンを産生する線維芽細胞、ラミニン、間質性プロコラーゲン、及びフィブロネクチン、ならびに、主にコラーゲン(I、III、及びV型)、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン、ヒアルロン酸、フィブロネクチン、及びテネイシンCを産生する結腸筋線維芽細胞である。
【0204】
あるいは、ECMは市販されている。市販されているECMの例は、ECMタンパク質(Invitrogen)である。合成ECM材料を使用することができる。所望する場合、ECM材料の混合物を使用することができる。いくつかの実施形態では、ECMは、ヒドロゲル(例えば、MATRIGEL(商標))を含まない。いくつかの実施形態では、ECMは、ヒドロゲル(例えば、MATRIGEL(商標))を含む。いくつかの実施形態では、ヒドロゲルはMATRIGEL(商標)である。
【0205】
いくつかの実施形態では、ECMはコラーゲンを含む。いくつかの実施形態では、コラーゲンはコラーゲンIまたはコラーゲンIVである。いくつかの実施形態では、コラーゲンはコラーゲンIである。いくつかの実施形態では、コラーゲンはコラーゲンIVである。
【0206】
いくつかの実施形態では、ECMはラミニンを含む。いくつかの実施形態では、ラミニンは、ラミニン111、ラミニン211、ラミニン221、ラミニン332、ラミニン411、ラミニン421、ラミニン511、またはラミニン521である。いくつかの実施形態では、ラミニンはラミニン111である。いくつかの実施形態では、ラミニンはラミニン511である。いくつかの実施形態では、ラミニンはラミニン521である。
【0207】
いくつかの実施形態では、培養培地は、ECMの上に配置される。
次に、培養培地を取り除き、必要に応じて、及び、必要な際に補充することができる。いくつかの実施形態では、培養培地は毎日補充される。いくつかの実施形態では、培養培地は2日に1回補充される。いくつかの実施形態では、培養培地は3日に1回補充される。
【0208】
いくつかの実施形態では、構成成分を培地に「添加」する、または、培地から「除去される」場合、このことは、培地自体がECMから除去された後、「添加される」構成成分を含有する、または、「除去された」構成成分が除外された、新しい培地がECMの上に配置されることを意味することができる。
【0209】
いくつかの実施形態では、本発明の培養培地は、インテグリンなどの細胞膜タンパク質と相互作用することにより、ECM、または、ECMを模倣する3Dマトリックスと接触する。
【0210】
細胞シグネチャー
アルブミンは、肝臓内で産生されるタンパク質であり、流体が血流から漏れるのを防ぐ。これは肝芽細胞及び終末分化した肝細胞のマーカーである。いくつかの実施形態では、培養後に、PHHはアルブミンを分泌する。増殖したPHHは、一晩プレーティングした対照PHHと比較して、低レベルのアルブミンを分泌する。いくつかの実施形態では、成熟後に、成熟肝細胞はアルブミンを分泌する。
【0211】
いくつかの実施形態では、増殖したPHHは、少なくとも1ug/100万個の細胞/日(例えば、少なくとも2μg/100万個の細胞/日、5μg/100万個の細胞/日、10μg/100万個の細胞/日、25μg/100万個の細胞/日、または50μg/100万個の細胞/日)のアルブミンを分泌する。例えば、いくつかの実施形態では、増殖したPHHは、少なくとも2μg/100万個の細胞/日のアルブミンを分泌する。いくつかの実施形態では、増殖したPHHは、少なくとも5μg/100万個の細胞/日のアルブミンを分泌する。いくつかの実施形態では、増殖したPHHは、少なくとも10μg/100万個の細胞/日のアルブミンを分泌する。いくつかの実施形態では、増殖したPHHは、少なくとも25μg/100万個の細胞/日のアルブミンを分泌する。いくつかの実施形態では、増殖したPHHは、少なくとも50μg/100万個の細胞/日のアルブミンを分泌する。
【0212】
自己再生する細胞集団は、その表面にLGR5を発現可能な細胞集団であることが発見されている。LGR5陽性細胞は分裂することで増殖してクローンを形成し、これはさらに分裂してクローンになり、それ故、外部の介在を必要とすることなく、より限定的な分化能を持つ細胞に進化させることなく、細胞集団のサイズを拡大させる。
【0213】
いくつかの実施形態では、本発明の増殖培地で培養されたPHHの集団は、LGR5細胞表面マーカーを発現する。
いくつかの実施形態では、LGR5発現は、増殖したPHH集団で誘発されるが、LGR5発現は、一晩プレーティングした対照PHHでは見られない。
【0214】
肝臓はタンパク質を破壊し、窒素含有アンモニアを産生する。次に、窒素は、炭素、水素、及び酸素などの他の元素と組み合わさり、尿素を形成する。いくつかの実施形態では、PHHを培養、及び/または増殖した後、細胞は、尿素回路酵素の転写レベルを下方制御し、分泌された尿素は検出されず、このことは、増殖したPHHが尿素を分泌可能とする、追加の成熟ステップが必要であることを示唆している。いくつかの実施形態では、成熟後に、成熟肝細胞は尿素を分泌する。
【0215】
成人成熟PHHは、Cyp3a4、Cyp1a2を含むシトクロムp450(CYP)タンパク質ファミリー;核内受容体NR1I2;ABCG2、ABCC2、ABCB11、SR-B1、SLC10A1などの頂端及び外側基底極性膜タンパク質から選択される1つ以上のタンパク質を発現することもまた、知られている。いくつかの実施形態では、増殖したPHHは、未増殖の一晩プレーティングした対照PHHと比較して、成熟細胞状態に特徴的なこれらのタンパク質の1つ以上を下方制御する。いくつかの実施形態では、増殖したPHHは、未増殖の一晩プレーティングした対照PHHと比較して、AFP、Cyp3a7、EPCAM、LGR5、KRT7、KRT19、AQP1などの、胎児/肝臓前駆細胞/胆管細胞マーカーの1つ以上を上方制御する。いくつかの実施形態では、増殖したPHHは、成熟細胞状態に特徴的なタンパク質である尿素回路酵素を上方制御するための、及び、胎児/肝臓前駆細胞/胆管細胞マーカーを下方制御するための追加の成熟ステップを必要とする。
【0216】
試料における本明細書に記載の様々なマーカーの存在及び/または発現レベル/量は、いくつかの方法論によって分析され得、これらの多くは、当該技術分野で知られ、当業者に理解されており、免疫組織化学(「IHC」)、ウエスタンブロット分析、免疫沈降、分子結合アッセイ、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、酵素結合免疫濾過アッセイ(ELIFA)、蛍光活性化細胞選別(「FACS」)、MassARRAY、プロテオミクス、定量的血液ベースアッセイ(例えば、血清ELISA)、生化学的酵素活性アッセイ、インサイチュハイブリダイゼーション、蛍光インサイチュハイブリダイゼーション(FISH)、サザン分析、ノーザン分析、全ゲノム配列決定、大規模並列DNA配列決定(例えば、次世代配列決定)、NANOSTRING(登録商標)、例えば、分岐状DNA、SISBA、TMAなどの、定量的リアルタイムPCR(qRT-PCR)及び他の増幅型検出方法を含むポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、RNA-Seq(バルク及びシングルセル)、マイクロアレイ分析、遺伝子発現プロファイリング、及び/または遺伝子発現連続分析(「SAGE」)、ならびにタンパク質、遺伝子、及び/または組織アレイ分析によって行われ得る多種多様なアッセイのうちのいずれか1つを含むが、これらに限定されない。遺伝子及び遺伝子産物の状態を評価するための典型的なプロトコルは、例えば、Ausubel et al.,eds.,1995,Current Protocols In Molecular Biology,Units 2(ノーザンブロッティング)、4(サザンブロッティング)、15(イムノブロッティング)、及び18(PCR分析)において見出される。Rules Based MedicineまたはMeso Scale Discovery(「MSD」)から入手可能なアッセイなどの多重化免疫アッセイも使用され得る。
【0217】
本明細書に記載される方法のいずれかのいくつかの実施形態では、PHH由来のDNAは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、Frampton et al.(Nature Biotechnology.31:1023-1033,2013)に記載される、標的化遺伝子プルダウン及び配列決定方法などの、次世代配列決定方法を用いて単離し、その後、配列決定することができる。
【0218】
先行する方法のいずれかにおいて、マーカー(例えば、LGR5)の存在及び/または発現レベル/量は、マーカーのタンパク質発現レベルを判定することで測定される。いくつかの実施形態では、方法は、マーカーの結合を許容する条件下で、生体試料を、マーカーに特異的に結合する抗体(例えば、抗LGR5抗体)と接触させることと、抗体とマーカーとの間で複合体が形成されるかどうかを検出することとを含む。そのような方法は、in vitro方法であっても、in vivo方法であってもよい。タンパク質発現レベルを測定する、当該技術分野で既知であるか、または本明細書に記載される任意の方法を使用してもよい。例えば、いくつかの実施形態では、マーカーのタンパク質発現レベルは、フローサイトメトリー(例えば、蛍光活性化細胞選別(FACS(商標)))、ウエスタンブロット、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、免疫沈降、免疫組織化学(IHC)、免疫蛍光、放射免疫測定、ドットブロッティング、免疫検出方法、HPLC、表面プラズモン共鳴、光学分光、質量分析法、及びHPLCからなる群から選択される方法を使用して決定される。
【0219】
いくつかの実施形態では、マーカー(例えば、LGR5)の存在及び/または発現レベル/量は、マーカーのmRNA発現レベルを判定することで測定される。いくつかの実施形態では、遺伝子の発現レベルは、(a)試料(対象の肝疾患試料など)について遺伝子発現プロファイリング、PCR(RT-PCRなど)、RNA-seq、マイクロアレイ分析、SAGE、MassARRAY技法、またはFISHを行うことと、b)試料におけるマーカーの存在及び/または発現レベル/量を決定することと、を含む方法を使用して決定される。一実施形態では、PCR方法は、qRT-PCRである。一実施形態では、PCR方法は、多重PCRである。いくつかの実施形態では、遺伝子発現は、マイクロアレイによって測定される。いくつかの実施形態では、遺伝子発現は、qRT-PCRによって測定される。いくつかの実施形態では、発現は、多重PCRによって測定される。
【0220】
細胞中のmRNAの評価方法は周知であり、該方法として、例えば、相補的DNAプローブを使用したハイブリダイゼーションアッセイ(1つ以上の遺伝子に特異的な標識リボプローブを使用したインサイチュハイブリダイゼーション、ノーザンブロット、及び関連技法など)、ならびに様々な核酸増幅アッセイ(遺伝子のうちの1つ以上に特異的な相補的プライマーを使用したRT-PCR、及び他の増幅型検出方法、例えば、分岐状DNA、SISBA、TMA等)が挙げられる。哺乳動物由来の試料は、ノーザン、ドットブロット、またはPCR分析を使用してmRNAについて好都合にアッセイされ得る。加えて、そのような方法は、生物学的試料中の標的mRNAのレベルを判定する(例えば、アクチンファミリーメンバーなどの「ハウスキーピング」遺伝子の比較対照mRNA配列のレベルを同時に試験することによって)ことを可能にする1つ以上のステップを含み得る。
【0221】
mRNA発現分析に対して追加的または代替的に、タンパク質発現などの他のマーカーは、上述の方法に従って定量化され得る。例えば、本発明の方法は、ゲノムマーカーについて試料を試験すること(例えば、AFPの存在)、及び、さらに、タンパク質マーカーについて試料を試験すること(例えば、AFPのタンパク質転写物)を含む。
【0222】
方法のいずれかのいくつかの実施形態では、DNA配列は、マーカーとしての役割を果たし得る。DNAは、これらに限定されないが、PCR、エクソーム-seq(例えば、全エクソーム配列決定)、DNAマイクロアレイ分析、NANOSTRING(登録商標)、または全ゲノム配列決定を含む、当該技術分野で知られる任意の方法に従って定量化することができる。
【0223】
いくつかの事例では、試料における遺伝子の発現レベルは、遺伝子の平均(例えば、平均発現または中央発現)であり、遺伝子の参照発現レベルは、参照の遺伝子の平均(例えば、平均発現または中央発現)であり、試料の遺伝子の平均は、参照の遺伝子の平均と比較される。
【0224】
いくつかの実施形態では、第1の試料中のマーカーの存在及び/または発現レベル/量が、第2の試料中の存在/不在及び/または発現レベル/量と比較して増加または上昇する。いくつかの実施形態では、第1の試料中のマーカーの存在/不存在及び/または発現レベル/量が、第2の試料中の存在及び/または発現レベル/量と比較して低下または減少する。いくつかの実施形態では、第2の試料は、参照試料(例えば、開示され、定義された培養培地の不存在で培養されたPHH)、参照細胞、参照組織、対照試料、対照細胞、または対照組織である。
【0225】
容器及びインキュベーター
本開示はまた、本明細書に記載する培地及び方法と共に使用可能な組織培養物及びインキュベーターにも関する。例えば、本明細書に記載する培養方法は、容器またはインキュベーター内でPHHを培養することを含むことができる。
【0226】
いくつかの実施形態では、組織培養容器は、本明細書に記載する増殖培地を含むことができる。いくつかの実施形態では、インキュベーターは、組織培養容器を含むことができる。いくつかの実施形態では、インキュベーターは、組織培養容器を含み、低酸素条件下で組織培養容器を維持することができる。低酸素条件としては、例えば、20%未満の酸素濃度を挙げることができる。いくつかの実施形態では、インキュベーターは、1%~19%(例えば、1%~10%、例えば、1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、または20%)の酸素濃度を維持する。いくつかの実施形態では、酸素濃度は、1%~10%である。いくつかの実施形態では、酸素レベルは5%である。いくつかの実施形態では、インキュベーターは、組織培養容器を含み、正常酸素条件下で組織培養容器を維持することができる。
【0227】
肝細胞アグリゲート
本発明の増殖した、及び/または成熟したPHHは、凝集することができる。本明細書に記載するアグリゲートは、PHHの集団を含む。いくつかの実施形態では、PHHは、細胞集団にアグリゲートを形成させる条件下にて混合される。いくつかの実施形態では、PHHは、組織製造技術を用いて混合される。いくつかの実施形態では、PHHは、ハンギングドロップ;マイクロウェル成形;非接着性表面;スピナーフラスコ、垂直ホイールバイオリアクター、水平ホイールバイオリアクター、またはマイクロ流体スフェロイドシステムを用いるスフェロイド懸濁培養により培養される。さらなる方法としては、音波を用いる、及び、プレート上で正に帯電した表面を用いるものが挙げられる。いくつかの実施形態では、PHHは、ストローマ細胞(例えば、正常なヒト皮膚線維芽細胞(NHDF))の存在下で混合される。いくつかの実施形態では、PHHは、NHDFの存在下で混合される。いくつかの実施形態では、PHHは、ストローマ細胞(例えば、NHDF)の不存在下で混合される。いくつかの実施形態では、PHHは、NHDFの不存在下で混合される。
【0228】
他の態様では、本明細書で提供する組成物は、限定されるものではないが、増殖因子、リガンド、サイトカイン、薬剤などを含む、追加の構成成分を含有することができる。いくつかの実施形態では、細胞混合物は、細胞集団の増殖及び拡大を刺激または増強させる、低分子または増殖因子などの、追加の微小環境の手がかりを誘発する分子を含むことができる。
【0229】
ある特定の実施形態では、本明細書で開示するアグリゲートは、in vivoで移植された細胞の所望の表現型の維持を促進する、1つ以上の接着材料を含む。材料としては、抗体、タンパク質、ペプチド、核酸、ペプチドアプタマー、核酸アプタマー、糖類、プロテオグリカン、または細胞受容体を挙げることができるが、これに限定されない。接着材料(例えば、ECM材料、糖類、プロテオグリカンなど)の種類は、部分的には、培養される細胞型(例えば、PHH)により決定される。
【0230】
いくつかの実施形態では、細胞及び材料を組織化して、アグリゲートなどの空間配置にすることは、ウェルもしくは溝を用いて、細胞/材料の配置を物理的に制限すること、または、細胞をマイクロ流体流路、もしくは配向された空隙/細孔に注入することにより達成することができる。ある特定の実施形態では、細胞は、細胞を、電界、磁気ピンセット、光ピンセット、超音波、圧波、またはマイクロマニピュレーターで、物理的に位置決めすることにより組織化することができる。
【0231】
本明細書に記載の方法により産生された細胞を、アグリゲートの作製において速やかに用いることができる。あるいは、細胞を、液体窒素温度で凍結し、長期間保管し、解凍し、再利用することができる。例えば、細胞は、10%のDMSO、50%の血清、40%の緩衝培地、または、このような凍結温度において細胞を保存するために当該技術分野において一般的に用いられる、いくつかの他のこのような溶液において凍結され、凍結した培養細胞を解凍するために、当該技術分野において一般的に周知の方法で解凍することができる。
【0232】
細胞移植
本明細書に記載するとおり、本明細書で開示する方法は、増殖した、及び/または成熟したPHHの集団、またはその後代を、レシピエントに導入することを含むことができる。いくつかの実施形態では、増殖した、及び/または成熟したPHHの集団、またはその後代は、肝細胞アグリゲートの形態でレシピエントに導入される。いくつかの実施形態では、レシピエントはヒトである。いくつかの実施形態では、レシピエントは、肝疾患を患うヒト患者である。増殖した、及び/または成熟したPHHの集団、またはその後代は、例えば、対象への移植のために、組換え組織構築物に組み込むことができる。組換え組織構築物は、生体適合性のヒドロゲル足場(例えば、フィブリンを含有する)を含むことができる。生体適合性の足場は、凝集したPHHの封入された集団を含有することができる。
【0233】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のとおりに培養した、増殖した、及び/または成熟したPHHを用いることも、同様に提供する。例えば、いくつかの実施形態では、本発明は、本発明の増殖した、及び/または成熟したPHHの集団、または、上記増殖したPHHの集団に由来する、多数の凍結したPHHを、発見スクリーニング;毒性アッセイ;組換え遺伝子発現を含む遺伝子発現研究;組織損傷及び修復に関与する機構の研究;炎症性及び感染性疾患の研究;病原体メカニズムの研究;または、肝疾患の細胞形質転換及び病因のメカニズムの研究において使用することもまた提供する。
【0234】
いくつかの実施形態では、本発明は、薬剤で使用するための、本発明の増殖した、及び/または成熟したPHHの集団に由来する細胞もまた提供する。いくつかの実施形態では、本発明は、障害、病状、または疾患の処置で使用するための、本発明の増殖した、及び/または成熟したPHHの集団に由来する細胞もまた提供する。いくつかの実施形態では、本発明は、例えば、再生医療で使用するための、本発明の増殖したPHH集団、または、増殖したPHHの集団に由来する細胞もまた提供し、使用には、増殖した細胞の集団、または、増殖したPHHの集団に由来する細胞を、患者に移植することが伴う。いくつかの実施形態では、本発明は、例えば、再生医療で使用するための、本発明の成熟したPHH集団、または、成熟したPHHの集団に由来する細胞もまた提供し、使用には、成熟した細胞の集団、または、成熟したPHHの集団に由来する細胞を、患者に移植することが伴う。
【0235】
薬学的製剤
本発明は、増殖した、及び/または成熟したPHHの1つ以上の集団、ならびに、薬学的に許容される希釈剤及び/または賦形剤を含む薬学的製剤もまた提供する。いくつかの実施形態では、薬学的製剤は、PHHの集団と、1種以上の賦形剤と、を含む。いくつかの実施形態では、賦形剤は、水、食塩水、アルコール、ポリエチレングリコール、ゼラチン、ラクトース、アミラーゼ、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ケイ酸、粘性パラフィン、ヒドロキシメチルセルロース、及びポリビニルピロリドンから選択される。
【0236】
いくつかの実施形態では、増殖培地または成熟培地は、医薬組成物または製剤を調製するために、薬学的に許容される活性な、及び/または、不活性な物質と混合することができる。薬学的製剤用の組成物及び方法は、投与経路、疾患の程度、または投与される用量を含むがこれらに限定されないいくつかの基準に依存する。
【0237】
いくつかの実施形態では、PHHの集団を含む医薬組成物は、阻害剤の任意の薬学的に許容される塩、阻害剤のエステル、または、このようなエステルの塩を包含する。いくつかの実施形態では、PHHの集団を含む医薬組成物は、対象(例えば、ヒト)への投与時、生物学的に活性な代謝産物またはその残分を(直接的または間接的に)もたらすことができる。したがって、例えば、本開示は、阻害剤の薬剤的に許容される塩、プロドラッグ、そのようなプロドラッグの薬剤的に許容される塩、及び他の生物学的等価物を対象とする。適した薬学的に許容される塩としては、ナトリウム及びカリウム塩が挙げられるが、これらに限定されるものではない。いくつかの実施形態では、プロドラッグは、増殖培地に付着した1つ以上のコンジュゲート基を含み、この場合、コンジュゲート基は、体内の内在酵素によって切断される。
【0238】
いくつかの実施形態では、薬学的製剤は、共溶媒系を含む。ある特定のそのような共溶媒系は、例えば、ベンジルアルコール、非極性界面活性剤、水混和性有機ポリマー、及び水相を含む。いくつかの実施形態では、そのような共溶媒系は、疎水性化合物に用いられる。このような共溶媒系の非限定例は、3%w/vのベンジルアルコール、8%w/vの非極性界面活性剤Polysorbate 80(商標)及び65%w/vのポリエチレングリコール300を含む無水エタノールの溶液であるVPD共溶媒系である。そのような共溶媒系の割合は、その溶解性及び毒性特性を著しく変えることなく大幅に変化する場合もある。さらに、共溶媒構成成分の同一性は、変化する場合もあり、例えば、Polysorbate 80(商標)の代わりにその他の界面活性剤が使用されてもよく、ポリエチレングリコールの分割量は変化することもあり、他の生体適合性ポリマー、例えば、ポリビニルピロリドンが、ポリエチレングリコールに取って代わってもよく、デキストロースを他の糖または多糖類で置換してもよい。
【0239】
いくつかの実施形態では、薬学的製剤は、注射(例えば、眼内(例えば、硝子体内)、静脈内、皮下、筋肉内、髄腔内、脳室内など)による投与のために調製される。いくつかの実施形態では、薬学的製剤は、担体を含み、水溶液、例えば、水または生理学的に相溶性の緩衝液、例えば、ハンクス溶液、リンガー溶液、または生理食塩水緩衝液等の中で製剤化される。いくつかの実施形態では、他の成分(例えば、溶解に役立つか、または防腐剤の役目を果たす成分)が含まれる。いくつかの実施形態では、注入可能な懸濁液は、適切な液体担体、懸濁化剤等を用いて調製される。特定の注射用薬学的製剤は、単位剤形として、例えば、アンプルに入れてまたは複数用量容器に入れて提供される。注入用のある特定の薬学的製剤は、油性または水性ビヒクル中の懸濁液、溶液、またはエマルションであり、懸濁化剤、安定化剤、及び/または分散剤などの製剤化剤を含有し得る。注入用の薬学的製剤における使用に好適なある特定の溶媒には、親油性溶媒及び脂肪油、例えば、ゴマ油、合成脂肪酸エステル、例えば、オレイン酸エチルまたはトリグリセリド、及びリポソームが含まれるが、これらに限定されない。
【0240】
キット
本明細書に記載する組成物は、新たに抽出した、もしくは以前に凍結したPHHの増殖で、または、PHHの成熟で使用するためのキットで提供されることができる。いくつかの実施形態では、キットは、本明細書に記載する、1種以上の細胞培養培地の構成成分を含むことができる。いくつかの実施形態では、キットは、キットのユーザ、例えば、実験室の科学者に、本明細書に記載の方法のいずれか1つを実施するように指示する添付文書を含むことができる。いくつかの実施形態では、キットは、本明細書に記載の方法に従い以前に増殖した、凍結したPHHを含むことができる。いくつかの実施形態では、キットは、本明細書に記載の方法に従い以前に成熟した、凍結したPHHを含むことができる。いくつかの実施形態では、キットは、任意選択的に、薬学的製剤を投与するための装置を含むことができる。
【0241】
実施例
以下の実施例は、本明細書に記載される組成物及び方法をどのように使用し、評価し得るかについての説明を当業者に提供するために提示され、本発明の純粋な例示であることが意図されるものであり、本発明者らが発明とみなすものの範囲を限定することを意図するものではない。
【0242】
実施例1.増殖培地を用いる細胞培養法の評価
供給元が提供する取扱説明書に従い、初代ヒト肝細胞(PHH)の凍結したバイアルを解凍した。供給元が提供する培地の存在下で、cm
2当たり5×10
3~6×10
3の密度で、PHHを、ラットの尾部コラーゲンIまたは組換えヒトラミニン521でコーティングした組織培養容器にプレーティングした(表1、表2)。4時間後に、プレーティング培地を、開示した増殖培地に交換し、これを48時間毎に交換した。
図1は、T-75培養フラスコで6日後(P0)において、増殖培地を用いて培養したPHH細胞の明視野画像を示す。異なる時点でPHHを収集し、4%のホルムアルデヒドにPHHを固定し、0.4%のTriton X-100にPHHを透過処理し、ウシ血清アルブミンでブロックし、アルブミン、HNF4α、及びLGR5から選択される一次抗体と一晩インキュベートし、適切な二次抗体と1時間インキュベートすることにより免疫蛍光法を実施した。画像を、蛍光顕微鏡で撮影した。コラーゲンIでコーティングした、2次元プラスチック表面で13日間増殖させた後、PHHはアルブミン、HNF4α、及びLGR5を発現した(
図2)。ラミニン521でコーティングした、2次元プラスチック表面で13日間増殖させた後、PHHはアルブミン、HNF4α、及びLGR5を発現した(
図3)。コラーゲンI及びラミニン521は、類似の染色結果を得たことを、免疫染色した細胞パネル間での定性比較は示す。PHHを培養するためにECMを用いることで、PHHの長期生存が向上し、増殖性肝臓表現型の継続的存在が向上した。
【0243】
【0244】
【0245】
実施例2.PHHの増殖の評価
増殖培地の存在下で、ラミニン521でコーティングした2次元表面上で、PHHを継代し、120日間増殖させた。培地を、48時間毎に交換した。この期間の間に、細胞は、(
図4)に見られるように、モルホロジー及び上皮表現型を維持した。68日目に、細胞の免疫染色によって、コロニーの先端にある細胞が、増殖性の肝細胞表現型細胞であり、HNF4α、LGR5、及びKi67を発現したことが明らかとなった(
図5)。
【0246】
図6のパネルは、それぞれ、表2に記載する増殖培地で培養した2日目、7日目、9日目、及び17日目のPHHを表す。2日目までに、播種した細胞のおよそ20~25%が、細胞培養表面に接着したようである。7日目までに、細胞は積極的に分裂し、サイズが増加した。9日目に、細胞は完全にコンフルエントとなり、上皮表現型の特徴である、玉石模様を示す。17日目に、細胞は、十分規定された肝細胞モルホロジーを示し、密集している。早期の時点と比較して、サイズは小さくなったようである。
【0247】
PHH(ウェル当たり、50×10
3細胞)を、6ウェル組織培養プレートの表面に播種し、増殖培地の存在下で培養した(
図7、1日目)。17日目までに、細胞は3.1倍まで増殖し、6ウェルプレートのウェル1個は、ウェル当たり15.5×10
4細胞を含有した(
図7、17日目)(
図8)。
【0248】
実施例3.マウスに移植した増殖細胞
PHH(4.5×10
5細胞)を、7mg/mLのウシフィブリノゲン中で、9×10
5個の正常なヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)と凝集させ、1個の細胞移植片を調製した。表3に列挙するPHHのロットDを、本実験で使用した。未増殖のPHH、及び、
図1に示す増殖培地を用いてコラーゲンIマトリックスにて10日間増殖させたPHHを使用して、移植用の移植片を調製した。3匹の、NOD-scid IL2Rγ
null(NSG(商標))マウス(到着時に5~8週齢)が、それぞれ10日目の増殖したPHHアグリゲートの移植片1つを受け、6匹のNSG(商標)マウスは、それぞれ対照群の未増殖PHHアグリゲートの移植片1つを受けた。NSG(商標)マウスは、免疫不全マウスである。2ヶ月間、主に、2週間毎に3回採血を行うことで、長期臨床観察を行い、ELISAにより、分泌されたヒトアルブミンレベルを検出し、定量した(
図8)。これらのアグリゲートを移植したマウスにおいて、ヒトアルブミンが検出されることは、アグリゲート中のPHHが生存していることを示した。さらに、増殖したPHHは、移植の2ヶ月後にも継続してヒトアルブミンを合成及び分泌することが可能であったために、健常であることが確認された。増殖した移植片の末端分析もまた、免疫組織化学法により実施し、移植片に肝細胞が存在することを確認した。免疫組織化学法は、H&E、hOTC、及びCK18染色により、健常な肝臓アグリゲートの存在を確認した(
図9)。
【0249】
【0250】
実施例4.PHHの増殖限界の評価
増殖培地の存在下で、コラーゲンI及びラミニン511を含むECMでコーティングした2次元表面上で、PHHを継代し、増殖させた。増殖培地は、Wntシグナル伝達活性化因子Wnt3a及びルーフプレート特異的スポンジンタンパク質4、受容体型チロシンキナーゼリガンド上皮増殖因子及びトランスフォーミング増殖因子α、上皮表現型安定化剤A83-01、ならびに、細胞生残剤のニコチンアミド及びB27を含んだ。培地を2日に1回交換し、コンフルエンスに達するまでPHHを継代した。PHHを、10倍希釈で新たな表面に播種した。6ヶ月の培養後に、PHHの試料を収集した。免疫蛍光法を実施し、PHH発現プロファイルを評価した。免疫蛍光法による定量化により、PHHの最大15%(例えば、最大10%、5%、または1%)がKi67を発現し、細胞の少なくとも10%(例えば、少なくとも11%、12%、13%、14%、または15%)がCyp3a4を発現し、細胞の少なくとも80%(例えば、少なくとも85%、90%、または95%)が、肝細胞核因子4α、ロイシンリッチリピート含有Gタンパク質共役受容体5、ケラチン18、及びアルブミンから選択される1つ以上のタンパク質を発現したことが示された。
【0251】
実施例5.改変増殖培地-EXPAND 3.0カクテルを用いる、PHHの増殖
改変増殖培地であるEXPAND 3.0カクテルを用い、実施例1に記載するのと同様の方法で、PHHを増殖させた。改変増殖培地はROCK阻害剤を欠き、KNOCKOUT(商標)血清代替物(KOSR)及び非必須アミノ酸(NEAA)を含んだ(表4)。EXPAND 3.0カクテルに対して、5~10%の勾配増加で、KOSRを添加した。増殖するPHHを、EXPAND 3.0カクテルに対して、5%酸素の低酸素雰囲気のインキュベーターに配置した。培養条件にこれらの変化をもたらすことで、コラーゲンI及びラミニン521マトリックスの両方において、PHHのロバストな増殖が得られた(
図10)。継代及びP1増殖をさらに最適化することで、Expand 3.0は、P0+P1において、1000倍を超える累積の増殖を裏付けた(
図11)。P0及びP1における、増殖した肝細胞をRT-qPCR分析すると、コラーゲンIまたはラミニン521で一晩プレーティングされる対照の未増殖肝細胞と比較して、増殖した肝細胞の肝臓前駆細胞状態が示された(
図12)。分泌されたアルブミンの量が少ないことで、対照の未増殖肝細胞と比較して、増殖した肝細胞の細胞状態は、さほど成熟してないことが示される(
図13)。HNF4a及びアルブミンに対して免疫染色を行い(
図14)、陽性細胞の割合(%)を定量すること(
図15)によって、p1増殖の終了時における、増殖した肝細胞の肝臓表現型が確認される。
【0252】
【0253】
実施例6.増殖した肝細胞の成熟
実施例1及び5に記載するのと同様の方法でPHHを増殖させた後、成熟させた(
図16)。PHHの凍結したバイアルを解凍し、5%のKOSRを含有する増殖培地を含むt75フラスコにプレーティングした(ステップP0)。9日後に、KOSRを10%まで上昇させた。13日目に、細胞を、5%のKOSRを含有する新鮮な培地を含む6ウェルプレートに移し(ステップP1)、7日間置いた後、KOSRを10%まで上昇させ、さらに4日間、細胞を増殖させた。細胞増殖の総時間は、24日間であった。増殖後、様々な肝細胞成熟サプリメント(表5)を含む、LONZA(商標)HCM(商標)、ウィリアムE、またはHepatozyme-SFMの、成熟基礎培地を含有する6ウェルプレートに細胞を移した。
【0254】
【0255】
7日間の成熟後に、試料を収集して尿素、アルブミン、及び成熟マーカーを測定した。増殖した肝細胞の成熟によって、尿素の誘導及び分泌がもたらされ(
図17)、一方で、分泌されたアルブミンのレベルは維持された(
図18)。成熟な肝細胞表現型に対応する転写物は、増殖した肝細胞の成熟時に上方制御される一方で、前駆細胞/胆管細胞転写物は下方制御されることが判明した(
図19)。位相差顕微鏡画像は、増殖した肝細胞と、成熟の完了後の肝細胞との形態的な違いを示した(
図20)。
【0256】
他の実施形態
本明細書において言及される全ての刊行物、特許、及び特許出願は、それぞれ個々の刊行物または特許出願が参照により本明細書に援用されることが具体的かつ個別に示される場合と同様に、参照により本明細書に援用される。
【0257】
特定の実施形態に関連して本発明を説明してきたが、本発明は、更なる変更が可能であり、本出願は、一般に、本発明の原理に従った本発明のあらゆる変形、使用、または適合を含むことが意図され、本発明が属する技術分野における既知のまたは慣習的な実施の範囲内であり、かつ本明細書に前述される本質的な特徴に適用され得る本発明からの発展を含み、特許請求の範囲の範囲に従うものであることが理解される。
【0258】
他の実施形態は、特許請求の範囲内である。
【国際調査報告】