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特表2024-537951バッチ反応器を用いた廃プラスチックの熱分解方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-18
(54)【発明の名称】バッチ反応器を用いた廃プラスチックの熱分解方法
(51)【国際特許分類】
   C10G 1/10 20060101AFI20241010BHJP
   C08J 11/12 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
C10G1/10
C08J11/12 ZAB
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023567075
(86)(22)【出願日】2022-10-27
(85)【翻訳文提出日】2023-10-31
(86)【国際出願番号】 KR2022016526
(87)【国際公開番号】W WO2023075432
(87)【国際公開日】2023-05-04
(31)【優先権主張番号】10-2021-0144394
(32)【優先日】2021-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】308007044
【氏名又は名称】エスケー イノベーション カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SK INNOVATION CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】26, Jong-ro, Jongno-gu, Seoul 110-728 Republic of Korea
(71)【出願人】
【識別番号】515215276
【氏名又は名称】エスケー ジオ セントリック カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】ジョ サンファン
(72)【発明者】
【氏名】カン スキル
(72)【発明者】
【氏名】ジュン ジェフム
(72)【発明者】
【氏名】イ ホウォン
【テーマコード(参考)】
4F401
4H129
【Fターム(参考)】
4F401AA09
4F401AA10
4F401AA11
4F401AA13
4F401AA22
4F401AA27
4F401BA02
4F401BA03
4F401BB09
4F401CA58
4F401CA70
4F401CA90
4F401CB01
4F401CB14
4F401CB16
4F401FA01Z
4F401FA06Z
4F401FA07Z
4H129AA01
4H129BA04
4H129BB03
4H129BC07
4H129BC12
4H129NA11
4H129NA21
(57)【要約】
本発明は、a)バッチ反応器に廃プラスチックを投入して加熱し、第1温度で廃プラスチック溶融物を生成する工程と、b)前記廃プラスチック溶融物を加熱し、第2温度で前記溶融物中の塩素を除去する工程と、c)前記塩素が除去された廃プラスチック溶融物を加熱し、第3温度で熱分解物を生成する工程と、を含み、前記バッチ反応器は、原料物質投入口から反応生成物排出口の方向に、温度が前記第1温度から前記第3温度まで上昇するように順次加熱される、廃プラスチックの熱分解方法に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)バッチ反応器に廃プラスチックを投入して加熱し、第1温度で廃プラスチック溶融物を生成する工程と、
b)前記廃プラスチック溶融物を加熱し、第2温度で前記廃プラスチック溶融物中の塩素を除去する工程と、
c)前記塩素が除去された廃プラスチック溶融物を加熱し、第3温度で熱分解物を生成する工程と、
を含み、
前記バッチ反応器は、原料物質投入口から反応生成物排出口の方向に、温度が前記第1温度から前記第3温度まで上昇するように順次加熱される、廃プラスチックの熱分解方法。
【請求項2】
前記廃プラスチックは、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル(PVC)、およびポリスチレン(PS)からなる群から選択された少なくとも1つを含む、請求項1に記載の廃プラスチックの熱分解方法。
【請求項3】
前記廃プラスチックは、総重量に対して塩素を7000ppm以上含む、請求項1に記載の廃プラスチックの熱分解方法。
【請求項4】
前記a)ステップは、無酸素雰囲気下で、50~150℃で20~300分間行われることを特徴とする、請求項1に記載の廃プラスチックの熱分解方法。
【請求項5】
前記バッチ反応器は、原料物質投入口から反応生成物排出口の方向に第3領域、第2領域、および第1領域を順次含み、
前記a)ステップは、前記第3領域のうち少なくとも一部、第2領域のうち少なくとも一部、および/または第1領域のうち少なくとも一部を加熱して50~150℃に昇温する工程を含む、請求項1に記載の廃プラスチックの熱分解方法。
【請求項6】
前記バッチ反応器は、原料物質投入口から反応生成物排出口の方向に第3領域、第2領域、および第1領域を順次含み、
前記a)ステップは、a1)前記第3領域のうち少なくとも一部を加熱して110~150℃に昇温する工程と、
a2)前記第2領域のうち少なくとも一部をさらに加熱して110~150℃に昇温する工程と、
a3)前記第1領域のうち少なくとも一部をさらに加熱して110~150℃に昇温する工程と、を含む、請求項1に記載の廃プラスチックの熱分解方法。
【請求項7】
前記b)工程は、無酸素雰囲気下で、220~300℃で120~360分間行われることを特徴とする、請求項1に記載の廃プラスチックの熱分解方法。
【請求項8】
前記b)ステップで排出されるガス生成物中の塩素含量は1000~3500ppmである、請求項1に記載の廃プラスチックの熱分解方法。
【請求項9】
前記c)工程は、無酸素雰囲気下で、300~600℃で行われる、請求項1に記載の廃プラスチックの熱分解方法。
【請求項10】
前記c)ステップの熱分解物は、総重量に対して50~800ppmの総塩素(Cl)および10~550ppmの有機塩素を含む、請求項1に記載の廃プラスチックの熱分解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッチ反応器を用いた廃プラスチックの熱分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
廃プラスチック熱分解油などの廃物質のクラッキング(Cracking)、熱分解(Pyrolysis)反応により生成された油分(廃油分)中には廃物質に起因する多量の不純物が含まれているため、それを燃料として活用する場合、SO、NOなどの大気汚染物質を排出する恐れがあり、特にCl成分は、高温処理過程で装置の腐食を引き起こす恐れがあるHClに転換されて排出されるという問題がある。
【0003】
従来、精製(Refinery)技術を活用した水素化処理(Hydrotreating:HDT)工程によりClをHClに転換して除去していたが、廃プラスチック熱分解油などの廃油分が高含量のClを含むため、HDT工程で形成される過剰なHClの発生により装置の腐食や反応異常、製品の性状悪化の問題が報告されており、前処理していない廃油分をHDT工程に導入することは現実的に難しい。従来の精製(Refinery)工程を活用してCl油分を除去するためには、精製(Refinery)工程に導入可能なレベルでCl含量を低減する廃油分のCl低減処理技術が必要である。
【0004】
従来技術の場合、バッチ反応器に廃プラスチック原料物質を投入して加熱すると、反応器内部の温度上昇によりガスが発生し、発生したガスが反応器内部の圧力を増加させる。圧力の増加により固体廃プラスチックがガスとともにガス排出口(反応生成物排出口)を閉鎖させるという問題が生じていた。このようなガス排出口の詰まり現象を改善し、反応器内部の圧力上昇を抑制するために、反応生成物排出口側に位置するバーナを稼動し、反応生成物排出口から原料物質投入口の方向に順次加熱する運転方法を適用するようになった。従来の運転方法は、熱分解反応器の昇温時に廃プラスチックが反応器の原料投入口側に移動し、未溶融の固体廃プラスチックが偏重する問題が新たに生じ、その結果、廃プラスチックを均一に溶融(melting)させることが実質的に不可能であった(図2参照)。廃プラスチックの不均一な溶融時、脱塩素反応と熱分解反応が同時に行われるため、解離した塩素が熱分解油と反応し、有機Clの再結合(Recombination)により最終製品の塩素含量が高くなるという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、熱分解反応器内で廃プラスチックの脱塩素反応と熱分解反応を別個に行う多段昇温制御(step-wise)運転を適用することで、廃プラスチック中の不純物の除去および反応器の反応生成物排出口の詰まり問題などの安全性の問題を解決することができる。
【0006】
また、本発明の他の目的は、反応器の位置別の温度制御運転を適用することで、反応器内の廃プラスチックを全体的に均一に溶解させ、反応器内の圧力変動(fluctuation)の問題を改善することにある。
【0007】
また、本発明のまた他の目的は、バッチ反応器(Rotary kiln)に添加剤/中和剤を投入することなく、温度制御だけで塩素除去効率を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る廃プラスチックの熱分解方法は、a)バッチ反応器に廃プラスチックを投入して加熱し、第1温度で廃プラスチック溶融物を生成する工程と、b)前記廃プラスチック溶融物を加熱し、第2温度で前記溶融物中の塩素を除去する工程と、c)前記塩素が除去された廃プラスチック溶融物を加熱し、第3温度で熱分解物を生成する工程と、を含み、前記バッチ反応器は、原料物質投入口から反応生成物排出口の方向に、温度が前記第1温度から前記第3温度まで上昇するように順次加熱される。
【0009】
本発明の一実施形態において、前記廃プラスチックは、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル(PVC)、およびポリスチレン(PS)からなる群から選択された少なくとも1つを含んでもよい。
【0010】
本発明の一実施形態において、前記廃プラスチックは、総重量に対して塩素を7000ppm以上含んでもよい。
本発明の一実施形態において、前記a)ステップは、無酸素雰囲気下で、50~150℃で20~300分間行われてもよい。
【0011】
本発明の一実施形態において、前記バッチ反応器は、原料物質投入口から反応生成物排出口の方向に第3領域、第2領域、および第1領域を順次含み、前記a)ステップは、前記第3領域のうち少なくとも一部、第2領域のうち少なくとも一部、および/または第1領域のうち少なくとも一部を加熱して50~150℃に昇温する工程を含んでもよい。
【0012】
本発明の一実施形態において、前記バッチ反応器は、原料物質投入口から反応生成物排出口の方向に第3領域、第2領域、および第1領域を順次含み、前記a)ステップは、a1)前記第3領域のうち少なくとも一部を加熱して110~150℃に昇温する工程と、a2)前記第2領域のうち少なくとも一部をさらに加熱して110~150℃に昇温する工程と、a3)前記第1領域のうち少なくとも一部をさらに加熱して110~150℃に昇温する工程と、を含んでもよい。
【0013】
本発明の一実施形態において、前記b)工程は、無酸素雰囲気下で、220~300℃で120~360分間行われてもよい。
本発明の一実施形態において、前記b)ステップで排出されるガス生成物中の塩素含量は1000~3500ppmであってもよい。
【0014】
本発明の一実施形態において、前記c)工程は、無酸素雰囲気下で、300~600℃で行われてもよい。
本発明の一実施形態において、前記c)ステップの熱分解物は、総重量に対して50~800ppmの総塩素(Cl)および10~550ppmの有機塩素を含んでもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、従来のバッチ反応器の熱分解運転法に比べて改善された運転方法で反応器内に均一な温度勾配を形成し、廃プラスチックの脱塩素(Dechlorination)反応と熱分解(Pyrolysis)反応を効果的に制御し、除去された塩素が生成されたオレフィン(Olefin)と出会う再結合(Recombination)を最小化することで、塩素除去効率を増加させることができる。また、特定の温度を所望の時間維持(Holding)させ、反応器全体で均一な廃プラスチックの溶解(melting)を実現するとともに、反応生成物排出口の詰まりなどの安全性の問題を解決し、塩素除去効率を高めることができる。また、反応生成物排出口の詰まり現象を改善し、反応器内の圧力変動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係る多段昇温制御(step-wise)熱分解運転を示した模式図である。
図2】従来技術の熱分解運転を示した模式図である。
図3】実施例1および比較例1の熱分解運転によるロータリーキルン(Rotary kiln)の内部温度プロファイルのグラフである。
図4】実施例1および比較例1の反応生成物中の塩素の低減傾向を示したグラフである。
図5】実施例1および比較例1の最終生成物(熱分解油)の塩素含量を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
他の定義がない限り、本明細書で用いられる全ての用語(技術的および科学的用語を含む)は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者に共通に理解できる意味として用いられてもよい。明細書の全体にわたって、ある部分がある構成要素を「含む」とする際、これは、特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除くのではなく、他の構成要素をさらに含んでもよいことを意味する。また、単数形は、文言で特に言及しない限り、複数形も含む。
【0018】
本明細書において、「A~B」とは、特に他の定義がない限り、「A以上B以下」を意味する。
また、「Aおよび/またはB」とは、特に他の定義がない限り、AおよびBからなる群から選択される少なくとも1つを意味する。
【0019】
本発明の一実施形態は、廃プラスチックの熱分解方法を提供する。前記方法は、a)バッチ反応器に廃プラスチックを投入して加熱し、第1温度で廃プラスチック溶融物を生成する工程と、b)前記廃プラスチック溶融物を加熱し、第2温度で前記廃プラスチック溶融物中の塩素を除去する工程と、c)前記塩素が除去された廃プラスチック溶融物を加熱し、第3温度で熱分解物を生成する工程と、を含み、前記バッチ反応器は、原料物質投入口から反応生成物排出口の方向に、温度が前記第1温度から前記第3温度まで上昇するように順次加熱されることを特徴とする。前記温度は、第1温度<第2温度<第3温度の順に高くてもよい。また、後述するように、第1温度は50~150℃、第2温度は220~300℃、および第3温度は300~600℃であってもよく、具体的な温度は、前記a)、b)、およびc)の各工程に関する説明の部分に記載する。
【0020】
特に、本発明は、反応器内部を第1温度、第2温度、および第3温度に昇温させる多段昇温制御(step-wise)運転を適用することで、廃プラスチック中の不純物の除去および反応器の反応生成物排出口の詰まり問題などの安全性の問題を改善することができる。特に、本発明は、前記第1温度で廃プラスチックを均一に溶解させ、次いで、第2温度で廃プラスチック溶融物の塩素を除去し、第3温度で塩素が除去された廃プラスチックを熱分解することで、a)廃プラスチック溶融ステップ、b)塩素除去ステップ、およびc)熱分解ステップをそれぞれ別個のステップで行うことを特徴とする。従来の熱分解技術は、常温から熱分解終了温度まで制御なしに昇温することにより、反応器内の廃プラスチックが不均一に溶融し、塩素除去ステップとオレフィン生成ステップ(熱分解ステップ)が同時に行われ得る。この場合、廃プラスチックから解離した塩素がオレフィンの再合成反応により有機塩素の形態で熱分解油中に存在し得るため、従来の熱分解工程では塩素除去効果を得ることが難しい。また、本発明は、多段昇温制御とともに、バッチ反応器を原料物質投入口から反応生成物排出口の方向に順次加熱することで、反応器内に均一な温度勾配を形成して全体的な廃プラスチックの溶解反応を行い、熱分解反応器の反応生成物排出口側の空間余裕を確保することができるため、反応器のネック(neck)の詰まり現象による圧力上昇および安全性の問題を解決することができる。従来の熱分解技術は、反応器のネックの詰まりによる圧力上昇を回避するために、反応生成物排出口側の領域からバーナを稼動して反応器を昇温させているが、廃プラスチックが不均一に溶解するという問題が生じている。
【0021】
前記廃プラスチックは、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル(PVC)、およびポリスチレン(PS)からなる群から選択された少なくとも1つを含んでもよい。前記廃プラスチックは、有機塩素(organic Cl)および無機塩素(Inorganic Cl)を含んでもよい。廃プラスチック熱分解油などの廃プラスチックのクラッキング(Cracking)、熱分解(Pyrolysis)反応により生成された廃油分中には、廃プラスチックに起因する多量の不純物が含まれる。特に廃油分を処理して有機/無機塩素などの塩素成分を除去する必要がある。前記廃プラスチックは、生活系廃プラスチック廃棄物としてPE、PP以外のPVC、PS、PET、PBTなどが混合されたプラスチックであり、本発明では、PE、PPとともに、PVCを3重量%以上含む混合廃プラスチック廃棄物を意味し得る。
【0022】
前記廃プラスチックは、総重量に対して塩素を7000ppm以上含んでもよく、特に7000ppm以上13000ppm以下含んでもよいが、本発明はこれに限定されない。前記廃プラスチック中の塩素成分は、高温処理過程で装置の腐食を引き起こす恐れがあるHClに転換されて排出されるという問題がある。
【0023】
前記a)廃プラスチック溶融工程は、反応器内の固体廃プラスチックを全体的に均一に溶解するためのものであり、バッチ反応器に廃プラスチックを投入して加熱し、第1温度で廃プラスチック溶融物を生成することを特徴とする。
【0024】
前記a)工程は、無酸素雰囲気下で、50~150℃で20~300分間行われてもよい。特に、無酸素雰囲気は、水蒸気雰囲気もしくは酸素が流入しない非酸化雰囲気であってもよく、前記a)工程は、70~130℃または90~110℃で、30~280分または40~250分間行われてもよい。これにより、反応器内の廃プラスチックを均一に溶解させることができる。また、廃プラスチックの溶解時に発生する水分により非酸化雰囲気を作ることができるため、反応器内部を非酸化雰囲気に作るための別の不活性ガスパージ工程を行わなくてもよい。特に、上記温度範囲で50℃以上である場合、水蒸気雰囲気による非酸化雰囲気を実現することができ、150℃以下である場合、脱塩素反応と区分される溶解工程を段階的に実現するため好ましく、上記維持時間で20分以上である場合、無酸素雰囲気の造成を活性化することができ、300分以下である場合、消費エネルギーおよび工程運転時間を減らすことができるためより好ましい。
【0025】
図1は、本発明の一実施形態に係る多段昇温制御(step-wise)熱分解運転を示した模式図である。図1を参照すると、バッチ反応器は、原料物質投入口から反応生成物排出口の方向にバーナ3が位置する第3領域、バーナ2が位置する第2領域、およびバーナ1が位置する第1領域を順次含む。前記a)工程は、前記第3領域のうち少なくとも一部、第2領域のうち少なくとも一部、および/または第1領域のうち少なくとも一部を加熱して50~150℃に昇温する工程を含む。前記a)工程は、先ず、前記第3領域のうち少なくとも一部を加熱した後、次いで、前記第2領域のうち少なくとも一部を加熱してもよく、または前記第3領域のうち少なくとも一部と第2領域のうち少なくとも一部を同時に加熱してもよい。
【0026】
特に、前記a)工程は、a1)前記第3領域のうち少なくとも一部を加熱して110~150℃に昇温する工程と、a2)前記第2領域のうち少なくとも一部をさらに加熱して110~150℃に昇温する工程と、a3)前記第1領域のうち少なくとも一部をさらに加熱して110~150℃に昇温する工程と、を含んでもよい。これにより、熱分解反応器の反応生成物排出口側の空間余裕を確保することができるため、ネックの詰まり現象による圧力上昇および安全性の問題を解決することができる。それとともに、反応器内の廃プラスチックを均一に溶解させることができるため、その後のb)塩素除去工程とc)熱分解工程を別のステップで順次行うことができることになる。
【0027】
一方、前記a)工程の温度とは、反応器内部の反応物(溶融プラスチック)の温度を意味し、ガス分離器内部(熱分解ガス)の温度を意味し得るが、本発明は前記測定方法に限定されるものではない。また、前記反応器の第3領域、第2領域、および第1領域は、反応器を原料物質投入口から反応生成物排出口の方向に3個の同一長さを有する領域に区分する際に第3領域、第2領域、および第1領域に順次該当するものであってもよい。
【0028】
前記b)塩素除去工程は、廃プラスチックの熱分解反応が行われる前に廃プラスチック溶融物中の塩素を除去するためのものであり、前記a)廃プラスチック溶融工程の産物である溶融物を加熱することで、第2温度で前記溶融物中の塩素を除去することを特徴とする。
【0029】
前記b)工程は、無酸素雰囲気下で、220~300℃で120~360分間行われてもよい。特に、無酸素雰囲気は、酸素が存在しない非酸化雰囲気であってもよく、前記b)工程は、230~290℃、240~280℃、または240~260℃で、140~340分、または150~300分間行われてもよい。従来のバッチ反応器の熱分解運転は、上記温度範囲で維持(holding)制御をせず、熱分解温度である400~500℃まで一度に昇温していたが、複数のバーナを一度に運転することにより、廃プラスチックの不均一な溶融が発生し、一部の区間では塩素が解離し、他の区間では熱分解が行われ、不純物の除去観点やエネルギー効率観点で好ましくない。これに対し、本発明は、熱分解反応が行われる前に均一に溶解した廃プラスチックを上記温度範囲で特定の時間維持(holding)運転し、その後、熱分解の進行時に廃プラスチックから解離した塩素と熱分解されたオレフィンの再合成反応を抑制することができ、最終的に熱分解物中の塩素含量を低減することができる。特に、上記温度範囲で220℃以上である場合、PVCなどにおいて脱塩素反応を行うことができ、300℃以下である場合、発生する解離塩素とオレフィンの再結合を最小化するため好ましく、上記維持時間で120分以上である場合、十分な脱塩素反応を行うことができ、360分以下である場合、エネルギー消費および運転時間の最小化観点でより好ましい。
【0030】
前記b)ステップで排出されるガス生成物中の塩素含量は1000~3500ppmであってもよい。特に、前記b)ステップの前記廃プラスチック溶融物を加熱し、第2温度で前記溶融物中の塩素を除去する工程を250℃、120分の条件で行った場合、ガス生成物中の塩素含量が1000~3500ppmであってもよい。より特に、1300~3200ppm、または1500~3000ppmであってもよい。
【0031】
前記b)ステップの後、300℃以上の熱分解ステップで排出されるガス生成物中の塩素含量は200ppm以下であってもよい。これに対し、従来の熱分解運転時、300℃以上の熱分解ステップで排出されるガス生成物中の塩素含量は3000~6000ppmであり、前記塩素がガス生成物に約200分以上留まることになり、有機Clが再結合しやすい環境を提供することになる。本発明のb)塩素除去ステップでは、廃プラスチック溶融物中の1,000~3,500ppmの塩素が除去され、塩素が低減された状態で反応を行うことができる。
【0032】
前記c)熱分解工程は、廃プラスチックを熱分解して精製(Refinery)工程に導入可能な油分に製造するためのものであり、前記b)塩素除去工程の産物を加熱することで、第3温度で廃プラスチック溶融物を熱分解(pyrolysis)してオレフィンを含む熱分解油を製造することを特徴とする。
【0033】
前記c)熱分解工程は、無酸素雰囲気下で、300~600℃で行われてもよい。特に、無酸素雰囲気は、酸素が存在しない非酸化雰囲気であってもよく、前記c)工程は、300~550℃、350~500℃、または350~450℃で、140~340分、または150~300分間行われてもよい。本発明は、従来に比べて塩素が著しく低減された廃プラスチックの溶融物条件において、熱分解物に含まれたオレフィンと塩素の再合成反応なしに熱分解工程を行うことができる。これにより、バッチ反応器に添加剤/中和剤などを投入するか、または別の前/後処理工程を行わなくても、オレフィンの収率が高く、塩素含量が低い熱分解油を製造することができる。特に、上記温度範囲で300℃以上である場合、熱分解を開始することができ、600℃以下である場合、熱分解油の収率を最大化することができるため好ましく、上記維持時間が140分以上である場合、十分な熱分解を行うことができ、340分以下である場合、エネルギー消費および運転時間を最小化することができるためより好ましい。
【0034】
前記c)熱分解工程は、熱分解ガスを回収するガス回収工程、および熱分解固形分を微粒物と粗粒物に分離する分離工程をさらに含んでもよい。
前記ガス回収工程では、熱分解工程で生成された気相のうち、メタン(CH)、エタン(C)、プロパン(C)のような低沸点炭化水素化合物を含む熱分解ガスを回収する。前記熱分解ガスは、一般的に、水素、一酸化炭素、低分子量の炭化水素化合物などの可燃性物質を含む。炭化水素化合物の例としては、メタン、エタン、エチレン、プロパン、プロペン、ブタン、ブテンなどが挙げられる。このような熱分解ガスは、可燃性物質を含むため、燃料として用いることができる。
【0035】
前記分離工程では、熱分解工程で生成された固相のうち、固形分、例えば、炭化物を微粒物と粗粒物に分離する。特に、廃プラスチックの平均粒径よりも小さい篩を用いて分級するかまたは密度差による遠心分離などにより、熱分解反応で生成された固形分を微粒物と粗粒物に分離することができる。前記微粒物と粗粒物は、必要に応じて再処理されてもよく、熱分解工程で再使用、燃料として使用または廃棄されてもよく、本発明はこれに限定されない。
【0036】
本発明の一実施形態に係る廃プラスチックの熱分解方法において、前記c)ステップの熱分解物は、総重量に対して50~800ppmの総塩素(Cl)および10~550ppmの有機塩素を含んでもよい。特に、50~600ppmまたは50~500ppmの総塩素(Cl)および50~450ppmまたは50~400ppmの有機塩素を含んでもよい。本発明は、従来のバッチ反応器(Rotary kiln)に添加剤/中和剤を投入することなく、温度制御だけで塩素除去効率を高めることができる。
【0037】
以下、本発明の好ましい実施例および比較例を記載する。ただし、下記の実施例は本発明の好ましい一実施例にすぎず、本発明が下記の実施例に限定されるものではない。
【0038】
〔実施例〕
(実施例1)
生活系廃プラスチック原料(feed)4.5tonをロータリーキルン(Rotary kiln)熱分解反応器に投入した。
【0039】
(工程1)バーナ3(図1参照)を稼動し、1.5℃/分の速度で常温から100℃まで昇温した後、50分間維持して廃プラスチックを溶融させ、水分を除去した。
【0040】
(工程2)バーナ3とバーナ2を順次さらに稼動し、1.5℃/分の速度で150℃まで昇温した後、バーナ1を最後に稼動してその温度を200分間維持した。
【0041】
(工程3)投入した全ての廃プラスチックが均一に溶融すると、1℃/分の速度で150℃から250℃に昇温した後に120分間維持した。これにより、廃プラスチック中のClを脱離して除去した。その後、温度を250℃から400℃まで上昇させ、200分間維持し、Cl含量が減少した廃プラスチック溶融物の熱分解を行った。
その後、熱分解ガスを凝縮器により捕集した後、回収部により熱分解油を得た。
【0042】
(比較例1)
生活系廃プラスチック原料(feed)4.5tonをロータリーキルン(Rotary kiln)熱分解反応器に投入した。
【0043】
バーナ3およびバーナ2を同時に稼動し、次いで、バーナ1をさらに稼動し、1℃/分の速度で常温から350℃まで昇温した後に、その温度を300分間維持した。その後、熱分解ガスを凝縮器により捕集した後、回収部により熱分解油を得た。
【0044】
〔評価例〕
[評価例1]:ロータリーキルンの内部温度プロファイルの分析
実施例1および比較例1の熱分解反応生成物をリアルタイムでモニターした。反応生成物の温度を測定してロータリーキルン(Rotary kiln)の内部温度プロファイルを分析し、その結果を図3に示した。
【0045】
図3を参照すると、比較例1(図3のConventional run)のロータリーキルン(Rotary kiln)運転は、250~300℃で維持(Holding)制御をせず、熱分解温度である350℃まで昇温が行われたことを確認することができた。これに対し、実施例1(図3のstepwise 255C、4hr)は、本発明の運転条件により、100℃、250~300℃の区間で維持制御(Holding control)運転を行うことができた。これにより、100℃の区間で廃プラスチック中の水を除去し、250~300℃の区間で溶融した廃プラスチック中のClを除去し、300℃以上の区間で相対的にCl含量が低減された条件で廃プラスチックの熱分解が行われると分析される。255℃、4hrの温度維持制御により同じ条件で再現テストを行い、所望の運転条件を制御できることを確認した。
【0046】
[評価例2]:反応生成物中のCl含量の分析
(評価方法)
実施例1および比較例1の熱分解反応生成物をリアルタイムでモニターして塩素含量を測定し、その結果を図4および図5に示した。
【0047】
1.油及び溶出物中のリアルタイムの塩素低減傾向の分析
従来の熱分解方法は、350℃以上の熱分解ステップで300~6500ppmのClが排ガス(Effluent gas)中に存在し、熱分解により生成されたオレフィンと再合成可能な環境を提供することになる。
【0048】
本発明の廃プラスチックの熱分解方法は、250℃ Holdingステップでは、Clが1000~3500ppm除去され、350℃以上の熱分解ステップでは、30ppmレベルのClしか存在しなくなる。
【0049】
2.最終的な熱分解油のCl含量
最終的な熱分解油中の総塩素(Cl)は、1000ppm(Conventional)から489ppm(255℃、4hr)に低減されることを確認した。有機Clは、610ppmから356ppmに低減されることを確認した。
【0050】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、互いに異なる様々な形態で実施されてもよく、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者であれば、本発明の技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施可能であることを理解することができる。したがって、以上に記述された実施形態は、全ての面で例示的なものであって、限定的なものではないことを理解しなければならない。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】