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特表2024-537967生体活性ガラス組成物、及び治療方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-18
(54)【発明の名称】生体活性ガラス組成物、及び治療方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/19 20060101AFI20241010BHJP
   A61K 33/08 20060101ALI20241010BHJP
   A61K 33/24 20190101ALI20241010BHJP
   A61K 33/30 20060101ALI20241010BHJP
   A61K 33/34 20060101ALI20241010BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20241010BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20241010BHJP
   A61K 33/42 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
C03C3/19
A61K33/08
A61K33/24
A61K33/30
A61K33/34
A61P21/00
A61P25/00
A61K33/42
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024514080
(86)(22)【出願日】2022-09-01
(85)【翻訳文提出日】2024-04-30
(86)【国際出願番号】 US2022042374
(87)【国際公開番号】W WO2023034523
(87)【国際公開日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】63/260,858
(32)【優先日】2021-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.サランラップ
(71)【出願人】
【識別番号】501305844
【氏名又は名称】ザ・キュレーターズ・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・ミズーリ
【氏名又は名称原語表記】THE CURATORS OF THE UNIVERSITY OF MISSOURI
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】モートン,アーロン ビー
(72)【発明者】
【氏名】ブラウ,リチャード ケイ
(72)【発明者】
【氏名】シーガル,スティーブン エス
(72)【発明者】
【氏名】シーモン,ジュリー エイ
【テーマコード(参考)】
4C086
4G062
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086HA01
4C086HA02
4C086HA03
4C086HA04
4C086HA05
4C086HA07
4C086HA10
4C086HA19
4C086HA21
4C086MA01
4C086NA14
4C086ZA01
4C086ZA94
4G062AA01
4G062BB08
4G062BB09
4G062DA01
4G062DB01
4G062DC04
4G062DC05
4G062DD04
4G062DD05
4G062DE01
4G062DE02
4G062DE03
4G062DF01
4G062EA01
4G062EB03
4G062EB04
4G062EC01
4G062ED01
4G062EE04
4G062EF01
4G062EG01
4G062FA01
4G062FA10
4G062FB01
4G062FC01
4G062FD01
4G062FE01
4G062FF01
4G062FG01
4G062FH01
4G062FJ01
4G062FK01
4G062FL01
4G062GA01
4G062GA10
4G062GB01
4G062GC01
4G062GD01
4G062GE01
4G062HH01
4G062HH03
4G062HH04
4G062HH05
4G062HH07
4G062HH09
4G062HH11
4G062HH12
4G062HH13
4G062HH15
4G062HH17
4G062HH20
4G062JJ01
4G062JJ03
4G062JJ05
4G062JJ07
4G062JJ10
4G062KK01
4G062KK03
4G062KK05
4G062KK07
4G062KK10
4G062MM18
4G062MM19
4G062NN33
4G062NN34
(57)【要約】
負傷又は疾患の結果としての軟組織の再生を改善するための組成物及び方法を提供する。反応体組成物をか焼することでもたらされる生体活性ガラス組成物を含む、様々な組成物を開示する。負傷した、又は疾患を持った骨格筋の治療方法であって、当該負傷した、又は疾患を持った骨格筋を、生体活性ガラス組成物と接触させることを含む、上記方法もまた開示される。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む反応体組成物をか焼することでもたらされる生体活性ガラス組成物:
約10重量%~約40重量%のB
約15重量%~約40重量%のP
約10重量%~約25重量%のCaO、
約5重量%~約20重量%のNaO、及び
任意選択で、約2重量%~約10%のCoO、約0.5重量%~約2重量%のZnO、
約0.1重量%~約1重量%のCuO、又はこれらの組み合わせ。
【請求項2】
前記反応体組成物は、
約10重量%~約40重量%のB
約15重量%~約40重量%のP
約10重量%~約25重量%のCaO、
約5重量%~約20重量%のNaO、及び
約2重量%~約10重量%のCoO
を含む、請求項1に記載の生体活性ガラス組成物。
【請求項3】
前記反応体組成物は、
約33重量%~約37重量%のB
約33重量%~約37重量%のP
約13重量%~約18重量%のCaO、
約11重量%~約14重量%のNaO、及び
約3重量%~約5重量%のCoO
を含む、請求項1又は2に記載の生体活性ガラス組成物。
【請求項4】
前記反応体組成物は、
約30重量%~約40重量%のB
約20重量%~約40重量%のP
約10重量%~約20重量%のCaO、
約11重量%~約18重量%のNaO、及び
約3重量%~約10重量%のCoO
を含む、請求項1又は2に記載の生体活性ガラス組成物。
【請求項5】
前記反応体組成物は、
約30重量%~約40重量%のB
約30重量%~約40重量%のP
約10重量%~約20重量%のCaO、
約10重量%~約15重量%のNaO、
約0.5重量%~約2重量%のZnO、及び
約0.1重量%~約1重量%のCuO
を含む、請求項1に記載の生体活性ガラス組成物。
【請求項6】
前記反応体組成物は、
約33重量%~約37重量%のB
約33重量%~約37重量%のP
約13重量%~約18重量%のCaO、
約11重量%~約14重量%のNaO、
約0.8重量%~約1.2重量%のZnO、及び
約0.3重量%~約0.5重量%のCuO
を含む、請求項1又は5に記載の生体活性ガラス組成物。
【請求項7】
前記反応体組成物は、
約33重量%~約37重量%のB
約33重量%~約37重量%のP
約13重量%~約18重量%のCaO、及び
約11重量%~約14重量%のNa
を含む、請求項1に記載の生体活性ガラス組成物。
【請求項8】
前記か焼することは、前記反応体組成物を、前記反応体組成物の融解温度を下回る温度で加熱することにより行われた、請求項1~7のいずれか一項に記載の生体活性ガラス組成物。
【請求項9】
前記か焼のための温度は、約900℃~約1150℃であった、請求項8に記載の生体活性ガラス組成物。
【請求項10】
前記か焼のための温度は、約1000℃~約1150℃であった、請求項8に記載の生体活性ガラス組成物。
【請求項11】
前記反応体組成物は、リン酸を更に含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の生体活性ガラス組成物。
【請求項12】
前記組成物を使用して、リン酸カルシウムを形成する、請求項1~10のいずれか一項に記載の生体活性ガラス組成物。
【請求項13】
前記生体活性ガラス組成物は、分解時に中性pHを維持する、請求項1~12のいずれか一項に記載の生体活性ガラス組成物。
【請求項14】
負傷した、又は疾患を持った骨格筋の治療方法であって、前記負傷した、又は疾患を持った骨格筋を、有効量の、請求項1~13のいずれか一項に記載の生体活性ガラス組成物と接触させることを含む、前記方法。
【請求項15】
前記負傷した、又は疾患を持った骨格筋は、生理食塩水による、他は同様の処置を受ける、負傷した、又は疾患を持った骨格筋と比較して、前記生体活性ガラス組成物による処置の、少なくとも8日後に、平均筋原線維面積の増加を有する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記負傷した、又は疾患を持った骨格筋は、生理食塩水による、他は同様の処置を受ける、負傷した、又は疾患を持った骨格筋と比較して、前記生体活性ガラス組成物による処置の、少なくとも5日後に、低い胚ミオシン重鎖(eMyHC)濃度を有する、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
前記負傷した、又は疾患を持った骨格筋は、生理食塩水による、他は同様の処置を受ける、負傷した、又は疾患を持った骨格筋と比較して、前記生体活性ガラス組成物による処置の、少なくとも10日後に、筋量の増加を有する、請求項14~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記負傷した、又は疾患を持った骨格筋は、生理食塩水による、他は同様の処置を受ける、負傷した、又は疾患を持った骨格筋と比較して、前記生体活性ガラス組成物による処置の、少なくとも10日後に、筋肉ピーク力の増加を有する、請求項14~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記負傷した、又は疾患を持った骨格筋は、生理食塩水による、他は同様の処置を受ける、負傷した、又は疾患を持った骨格筋と比較して、前記生体活性ガラス組成物による処置の、少なくとも5日後に、血管新生の増加を有する、請求項14~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記負傷した、又は疾患を持った骨格筋は、負傷した骨格筋である、請求項14~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記負傷した骨格筋は、肉離れした筋肉、外傷により負傷した筋肉、断裂した筋肉、筋肉の使いすぎ若しくは誤使用から生じる負傷した筋肉、又はこれらの組み合わせである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記筋肉の使いすぎ若しくは誤使用から生じる負傷した筋肉は、スポーツでの負傷の結果である、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記負傷した、又は疾患を持った骨格筋は、疾患を持った骨格筋である、請求項14~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記疾患を持った骨格筋は、異栄養性骨格筋、悪液質骨格筋、サルコペニア骨格筋、又はこれらの組み合わせである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
負傷した、又は疾患を持った脳又は神経組織の治療方法であって、前記負傷した、又は疾患を持った脳又は神経組織を、有効量の、請求項1~13のいずれか一項に記載の生体活性ガラス組成物と接触させることを含む、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年9月2日に出願された米国仮出願第63/260,858号の優先権を主張し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
負傷又は疾患の結果としての軟組織の再生を改善するための組成物及び方法を提供する。具体的には、組織と接触させ、組織を治療するための、生体活性ガラス組成物について記載する。
【背景技術】
【0003】
急性外傷は、アメリカ合衆国における、死亡及び身体障害の主要な原因である。市民は、衰弱を引き起こす転倒、乗り物事故、及び機械での負傷を被る一方で、軍人は、戦闘で負傷する可能性がある。複数の組織構成成分への損傷を包含する負傷は、虚血、除神経、及び壊死を含む合併症を起こす可能性がある。手術手技の進歩は、組織再生の普及を増加させたものの、罹患患者の半数は依然として、術後7年間は深刻な障害を持ったままである。また、筋ジストロフィーといった軟組織疾患は、脆い筋組織の結果として、反復性の損傷を受ける可能性がある。
【0004】
ヒトにおいて、骨格筋は、体重の約40%を占め、温度調節を促進し、呼吸及び歩行運動を維持するための力を生成する。体全体に位置しているため、骨格筋は、自動車事故での外傷、穿通性の傷、外科的修復、及び、使いすぎによる損傷を受けやすい。骨格筋は、筋線維鞘と基底膜との間にある、成熟骨格筋線維と関連する、静止した筋幹細胞(衛星細胞)の集団による、強力な再生応答を有する。損傷後、衛星細胞は活性化し、増殖して筋芽細胞に分化し、その後、新しい筋管に、又は、損傷した筋線維の末端に融合する。骨格筋は再生可能であるものの、限界がある。具体的には、筋容積損失(VML、20%を超える筋量喪失として定義)におけるもののように、負傷があまりにも深刻である場合、筋肉は再生せず、代わりに、不可逆性の瘢痕、線維症、及び機能喪失がもたらされる。臨床実践の進歩により、自己移植、同種異系移植、及び異種移植を含む組織移植による、患者の転帰が改善された。そうなっても、再生戦略には制限が生じる(免疫学的拒絶、及び炎症)。VMLに加えて、不可逆的な瘢痕、線維症、及び機能喪失が、筋ジストロフィーを患う患者において観察されている。
【0005】
例えば、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は、x染色体上の、遺伝子ジストロフィンの潜性染色体変異であり、男性において、5,000人に1人が罹患する。健常な筋肉では、ジストロフィン-糖タンパク質複合体により、細胞内F-アクチン細胞骨格を細胞外マトリックスにアンカリングすることによって、ジストロフィンは、筋線維膜(筋線維鞘)の一体性、柔軟性、及び安定性の維持を担う。DMDでは、ジストロフィンの欠損が、例えば、収縮力、特に、遠心性(伸長性)収縮(例えば、階段を降りること)により、筋線維鞘損傷をもたらし、結果として、筋原線維のイオン及び低分子に対する浸透性が増加する。治療アプローチは、2つの方法、すなわち1)遺伝子ジストロフィン(若しくは、ジストロフィン代理分子)の回復、又は、2)ジストロフィン欠損により引き起こされる二次的な結果の緩和に焦点を当ててきた。FDAが認可した治療法、及び、開発中の治療法は治療上の可能性を有するものの、これらはまた、筋機能の改善を伴わない、ジストロフィンタンパク質における残念な増加(FDAが認可した遺伝子編集薬剤である、Vyondys及びExondysは、1%未満)、並びに、全身性の最前線投薬の付随的な結果を含む欠点を多く抱えている。変異治療法は、患者の15%で認可されているのみである。コルチコステロイドは、DMDの進行を遅らせるのに役立つことができるだけである。DMDを有する子供は、2歳という若さでで、筋肉の反復性断裂による四肢筋の機能障害を示し、これは、筋肉が、筋原線維構造の衰えから生じる絶え間ない負傷に対応することができなくなることで、約15歳までに不動性まで進行する。この、可動性の低下は、DMDを有する子どもの家族により挙げられている、主な重荷である。このような、衰弱性の筋負傷及び疾患が、骨格筋の再生に導く生体模倣スキャフォールドの必要性を加速させている。
【0006】
したがって、軟組織の再生を改善する新規のアプローチが喫緊に必要とされている。
【発明の概要】
【0007】
約10重量%~約40重量%のB、約15重量%~約40重量%のP、約10重量%~約25重量%のCaO、約5重量%~約20重量%のNaO、及び任意選択で、約2重量%~約10重量%のCoO、約0.5重量%~約2重量%のZnO、約0.1重量%~約1重量%のCuO、又はこれらの組み合わせを含む反応体組成物をか焼することでもたらされる生体活性ガラス組成物を含む、様々な組成物を本明細書で開示する。
【0008】
負傷した、又は疾患を持った骨格筋の治療方法であって、上記負傷した、又は疾患を持った骨格筋を、有効量の、本明細書に記載する生体活性ガラス組成物のいずれかと接触させることを含む、上記方法を含む、様々な方法もまた、本明細書で開示する。
【0009】
本開示は更に、負傷した、又は疾患を持った脳又は神経組織の治療方法であって、上記負傷した、又は疾患を持った脳又は神経組織を、有効量の、本明細書に記載する生体活性ガラス組成物のいずれかと接触させることを含む、上記方法に関する。
【0010】
他の目的物及び特徴は、部分的には明らかであり、部分的には以下で指摘されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1A】生体内画像収集後に分析した微小血管を示す。2mmのパンチ負傷の領域を、黒色の円で示す。スケールバー=1mm。CON(生理食塩水ビヒクル処置/対照)で処置した微小血管を示す。
図1B】生体内画像収集後に分析した微小血管を示す。2mmのパンチ負傷の領域を、黒色の円で示す。スケールバー=1mm。TRIM(徐放性イオンマトリックス)(CoO)で処置した微小血管を示す。
図1C】生理食塩水ビヒクル処置/対照(CON)、及び、徐放性イオンマトリックス(TRIM)(CoO)に対する、血管が占める負傷の割合(%)を示し、負傷部位内での再生は、より大きな平均バーにより示される、CONとTRIM(CoO)と間で差があるようには見えないことを示している。
図1D】21dpiでの、大臀筋(GM)中の蛍光血管を示す、共焦点画像の重なりを示す。画像は、負傷の中心部から取得した。スケールバー=400μM。CONでの処置を示す。
図1E】21dpiでの、大臀筋(GM)中の蛍光血管を示す、共焦点画像の重なりを示す。画像は、負傷の中心部から取得した。スケールバー=400μM。TRIM(CoO)での処置を示す。
図1F】CON及びTRIM(CoO)に対する、負傷における血管の割合(%)の定量化を示し、CONの負傷部位における、平均微小循環密度(負傷における血管の割合(%))が、TRIMよりも高いことが明らかである。
図2A】負傷中心部から取得した、21dpiでの、GM筋(図1A~Fを参照)中での筋原線維を示す共焦点画像の重なりを表す。生理食塩水(CON)を受けたGM中の筋原線維は低密度であり、組織化されていなかった。大きな隙間(黒色)には、負傷部位内の筋線維が存在しなかった。バー=400μM。CONでの処置を示す。
図2B】負傷中心部から取得した、21dpiでの、GM筋(図1A~Fを参照)中での筋原線維を示す共焦点画像の重なりを表す。バー=400μM。TRIM(CoO)での処置を示す。
図2C】CON及びTRIM(CoO)処置で再生した筋原線維の割合(%)を示し、TRIM(CoO)処置マウスは、CONよりも、筋原線維密度平均が増加したことが明らかである。
図2D】GMの断面を示すラミニンの境界と筋原線維核を示す。断面は、中央に負傷(点線の円)がある、上部及び下部の健常な筋肉を含有する。スケールバー=200μM。CONでの処置を示す。
図2E】GMの断面を示すラミニンの境界と筋原線維核を示す。断面は、中央に負傷(点線の円)がある、上部及び下部の健常な筋肉を含有する。スケールバー=200μM。TRIM(CoO)での処置を示す。
図2F】CON及びTRIM処置後の、断面での筋肉回復を示し、TRIMの平均筋厚さは1に近づいた一方で、CONの平均筋厚さは、平均およそ0.75であったことが明らかである。
図3A】マウスGM断面の例示的な画像を示す。負傷後、筋肉を、負傷の3日後(dpi)に、偽生理食塩水(S)、又はTRIMCuZn(BPCuZn)で処置し、8dpiに調べた。DAPI染色は、再生した筋原線維の中心核を示し、ラミニンは、細胞の境界を標識する(上)。ラミニン及びeMyHCの共染色もまた示す(下)。スケールバー=100pmであり、全ての画像に適用される。
図3B】8dpiでの、偽生理食塩水処置(S)に対する、並びに、0及び8dpiでの、TRIMCuZn(BPCuZn)に対する、eMyHC陽性線維の割合(%)を示す。胚ミオシン重鎖(eMyHC)の喪失は、TRIMCuZnが筋原線維成熟を加速させ、血管新生を改善することを示す。n=2~3/群、データを、平均とSEMとして報告する。
図3C】8dpiでの、偽生理食塩水処置(S)に対する、並びに、0及び8dpiでの、TRIMCuZn(BPCuZn)に対する、再生線維の割合(%)を示す。
図4A】未処置、又は、ジストロフィックス(CoO)注射の14日後の、月齢7ヶ月のマウスにおけるTAの、例示的な画像及び湿重量を示す。ジストロフィックスで処置したTAは、3つの未処置TAよりも大きな質量を有した。
図4B】未処置、又は、ジストロフィックス(CoO)注射の14日後の、月齢7ヶ月のDBAマウスにおける湿EDLの、例示的な画像及び重量を示す。ジストロフィックスで処置したEDLは、未処置の3つよりも大きな質量を有した。
図4C】未処置、及び、ジストロフィックスで処置したDBAマウスからのTA断面の、例示的な画像を示す。胚ミオシン重鎖(eMyHC)は、ジストロフィックス処置筋肉において量が少なく、これは、未処置と比較して、より多くの中心核もまた有する。筋原線維の境界をラミニンで標識した。スケールバー=250μm。
図5】生理食塩水、BP、又はジストロフィックス(CoO)で処置した後の負傷後の、ピーク力の割合(%)を示す。最大の強縮は、生理食塩水、BP、又はジストロフィックス(CoO)のいずれかにより、mdxマウスの左TAを処置した14日後に記録した。小休憩の後、TAは、伸長性収縮を3回受け、これらの間に休憩を挟んだ。最大強縮を再び記録して、遠心性負傷の後に、初期最大強縮力の何パーセントが誘発可能であるかを測定した。
図6A】未処置0dpi、BPCuZn 0dpi、8dpi、及び、BPCuZn 8dpi試料に対する、CD31で染色した線維の例示的な画像を示す。スケールバー=200μm。
図6B】未処置0dpi、BPCuZn 0dpi、8dpi、及び、BPCuZn 8dpi試料に対する、対照の割合(%)として微小血管領域/線維を示す。n=2~3/群。
図7A】生理食塩水、並びに、ラミニン、MyHC、及びDAPIで染色したジストロフィックスで処置した線維の例示的な試料を示す。
図7B】生理食塩水及びジストロフィックス処置マウスに対する、筋原線維断面領域の相対頻度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
対応する参照符合は、図面を通じて対応する部分を示している。
【0013】
局部組織のスキャフォールディング及び修復応答を向上させるために、負傷部位に注射を行う前に、不活性溶液(例えば、滅菌した0.9%生理食塩水)に懸濁した粉末の形態の、無機生体適合性セラミックス(生体適合性ガラス)を用いるインビボ再生のための方法が開発された。生体適合性ガラスの組成物候補は、穿刺生検で負傷した健常なマウス、加えて、疾患を持った異栄養性マウスにおいて、骨格筋の構造及び機能にて、同様の有益な効果を示している。筋再生、並びに、異栄養性筋構造及び機能の、このような向上は、主に、ホウ素リン酸塩粒子に依存し得るが、他の添加剤[例えば、CoO(低酸素誘導因子1aを向上させ得る)、CuO(血管新生性であり得る)、ZnO(抗炎症性であり得る)]にもまた依存し得る。ホウ酸塩系、及びリン酸塩系ガラスの両方が、ガラス表面での、リン酸カルシウム層の形成によって、骨及び歯のエナメル質の接着及び構造支持を行うことを、以前の実験は示している。本発明の生体適合性ガラスは、ホウ酸塩とリン酸塩を、局部pHに影響を及ぼすことなく、中性pHでの溶解速度を遅くする比率で組み合わせることにより作製される。これは、損傷した、及び疾患を持った筋原線維に対する「生体模倣性マイクロスキャフォールド」として機能する、リン酸カルシウム層を形成すると考えられている。この効果は、ジストロフィン-糖タンパク質複合体の細胞外糖タンパク質部分に局在化でき、ジストロフィンの代わりに、筋原線維構造を安定化させることができる。筋膜区画に局部的に注射されると、区画内の筋肉全てに影響を及ぼすようであり、それによって、筋負傷又は筋ジストロフィーを有する患者において、筋原線維の一体性及び物理的な可動性を維持するための治療法として機能することができる。
【0014】
徐放性イオンマトリックス(TRIM)は、コバルトイオンを含有する、ホウ酸リン酸塩系の非晶質非結晶性固体(生体活性ガラス)である。粉砕して粉末にし、溶液に懸濁させ、(外傷又は疾患によって)損傷した軟組織に注射すると、材料は、軟組織再生率を顕著に増加させるようである。他の生体活性ガラス組成物が、筋容積損失を治療するために使用されている(例えば、ホウ酸アルミン酸塩ガラス粉末)。しかし、他の組成物は、負傷した骨格筋、異栄養性筋肉、血管、又は末梢神経の再生を刺激することが示されていない。負傷した、正常な(疾患を有しない)骨格筋、加えて、異栄養性骨格筋が、TRIマトリックス処置後に、サイズ及び質の両方を改善することができることが、本明細書で報告される。追加の用途としては、脳、及び、低酸素症模倣経路による軟組織を再生するための末梢神経を挙げることができる。
【0015】
約10重量%~約40重量%のB、約15重量%~約40重量%のP、約10重量%~約25重量%のCaO、約5重量%~約20重量%のNaO、及び任意選択で、約2重量%~約10重量%のCoO、約0.5重量%~約2重量%のZnO、約0.1重量%~約1重量%のCuO、又はこれらの組み合わせを含む反応体組成物をか焼することでもたらされる生体活性ガラス組成物を含む、様々な組成物を本明細書で開示する。
【0016】
反応体組成物は、約10重量%~約40重量%のB、約15重量%~約40重量%のP、約10重量%~約25重量%のCaO、約5重量%~約20重量%のNaO、及び約2重量%~約10重量%のCoOを含むことができる。
【0017】
反応体組成物は、約33重量%~約37重量%のB、約33重量%~約37重量%のP、約13重量%~約18重量%のCaO、約11重量%~約14重量%のNaO、及び約3重量%~約5重量%のCoOを含むことができる。
【0018】
反応体組成物は、約30重量%~約40重量%のB、約20重量%~約40重量%のP、約10重量%~約20重量%のCaO、約11重量%~約18重量%のNaO、及び約3重量%~約10重量%のCoOを含むことができる。
【0019】
反応体組成物は、約30重量%~約40重量%のB、約30重量%~約40重量%のP、約10重量%~約20重量%のCaO、約10重量%~約15重量%のNaO、約0.5重量%~約2重量%のZnO、及び約0.1重量%~約1重量%のCuOを含むことができる。
【0020】
反応体組成物は、約33重量%~約37重量%のB、約33重量%~約37重量%のP、約13重量%~約18重量%のCaO、約11重量%~約14重量%のNaO、約0.8重量%~約1.2重量%のZnO、及び約0.3重量%~約0.5重量%のCuOを含むことができる。
【0021】
反応体組成物は、約33重量%~約37重量%のB、約33重量%~約37重量%のP、約13重量%~約18重量%のCaO、約11重量%~約14重量%のNaOを含むことができる。
【0022】
か焼は、反応体組成物を、反応体組成物の融解温度を下回る温度で加熱することにより行うことができる。か焼温度は、約800℃~約1300℃、又は、約1000℃~約1150℃であることができる。反応体組成物は、リン酸を更に含むことができる。
【0023】
生体活性ガラス組成物を使用して、リン酸カルシウムを形成することができる。生体活性ガラス組成物は、分解時に中性pHを維持することができ、これにより、トリリン酸カルシウムの形成が促進される。これは、ヒドロキシアパタイトの形成を促進する、アルカリ性pH環境を生み出す他の生体活性ガラスと対照的である。
【0024】
本開示は更に、負傷した、又は疾患を持った骨格筋の治療方法であって、上記負傷した、又は疾患を持った骨格筋を、有効量の、本明細書に開示する生体活性ガラス組成物のいずれかと接触させることを含む、上記方法に関する。負傷した、又は疾患を持った骨格筋は、生理食塩水による、他は同様の処置を受ける、負傷した、又は疾患を持った骨格筋と比較して、生体活性ガラス組成物による処置の、少なくとも8日後に、平均筋原線維面積の増加を有することができる。負傷した、又は疾患を持った骨格筋は、生理食塩水による、他は同様の処置を受ける、負傷した、又は疾患を持った骨格筋と比較して、生体活性ガラス組成物による処置の、少なくとも5日後に、低い胚ミオシン重鎖(eMyHC)濃度を有することができる。負傷した、又は疾患を持った骨格筋は、生理食塩水による、他は同様の処置を受ける、負傷した、又は疾患を持った骨格筋と比較して、生体活性ガラス組成物による処置の、少なくとも10日後に、筋量の増加を有することができる。負傷した、又は疾患を持った骨格筋は、生理食塩水による、他は同様の処置を受ける、負傷した、又は疾患を持った骨格筋と比較して、生体活性ガラス組成物による処置の、少なくとも10日後に、筋肉ピーク力の増加を有することができる。負傷した、又は疾患を持った骨格筋は、生理食塩水による、他は同様の処置を受ける、負傷した、又は疾患を持った骨格筋と比較して、生体活性ガラス組成物による処置の、少なくとも5日後に、血管新生の増加を有することができる。
【0025】
負傷した、又は疾患を持った骨格筋は、負傷した骨格筋であることができる。負傷した骨格筋は、肉離れした筋肉、外傷により負傷した筋肉、断裂した筋肉、筋肉の使いすぎ若しくは誤使用から生じる負傷した筋肉、又はこれらの組み合わせであることができる。筋肉の使いすぎ若しくは誤使用から生じる負傷した筋肉は、スポーツでの負傷の結果である場合がある。
【0026】
負傷した、又は疾患を持った骨格筋は、疾患を持った骨格筋であることができる。疾患を持った骨格筋は、異栄養性骨格筋、悪液質骨格筋、サルコペニア骨格筋、又はこれらの組み合わせであることができる。
【0027】
本開示は更に、負傷した、又は疾患を持った脳又は神経組織の治療方法であって、上記負傷した、又は疾患を持った脳又は神経組織を、有効量の、本明細書に開示する生体活性ガラス組成物のいずれかと接触させることを含む、上記方法に関する。
【0028】
本明細書で開示する方法のいずれに関しても、生体活性ガラス組成物は、分解時に中性pHを維持することができる。
【0029】
本発明を詳細に説明したが、添付の特許請求の範囲に定義される本発明の範囲から逸脱することなく、修飾及び変形が可能であることが明らかであろう。
【実施例
【0030】
本発明を更に例示するために、以下の非限定的な実施例を提供する。
【0031】
概要
骨格筋は、自動車事故での外傷、穿通性の傷、外科的修復、及び、使いすぎによる損傷を受けやすい。骨格筋は再生可能であるものの、限界がある。具体的には、筋容積損失(VML、20%を超える筋量喪失として定義)におけるもののように、負傷があまりにも深刻である場合、筋肉は再生せず、代わりに、不可逆性の瘢痕、線維症、及び機能喪失がもたらされる。更に、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は、繰り返される筋原線維断裂による、筋肉の再生能力の喪失をもたらす。生体材料は、VML後に、有望な筋肉再生促進を示している。
【0032】
実験を行い、生体物質の徐放性イオンマトリックス(TRIM)が、化学的負傷、VMLの後、及び、DMDの状態において、骨格筋の微小血管及び筋原線維再生を向上させることを試験した。化学的負傷を誘発するために、生検パンチ(2mm直径)を用いてVMLを誘発すると共にBaClを用い、両方を、メスのC57BI/6及びCdh5-mTmGマウス(4~5月齢)の左大臀筋(GM)において用いた。異栄養性マウス[n=2、mdx+/+(3~5月齢)を、TRIM又はビヒクルを左前脛骨筋(TA)に単回注射した後に、遠心性負傷実験のために用い、一方、DBAmdxマウス[n=1、(7月齢)]を、深刻なジストロフィーのモデルとして用いて、TRIMがTA筋量を回復することができるのか否かを判定した。マウスを2つの群、すなわち生理食塩水ビヒクル処置(CON)、又はTRIM処置に分けた。処置したマウスに関しては、250μgのTRIM粉末を、0.9%滅菌生理食塩水(5μg/pL)に懸濁させ、70μLのTRIM溶液を、BaCl負傷に対しては、負傷の3日後(dpi)に、VML負傷に対しては7dpiに、GMの下から注射し、並びに、データ収集の10日前に、異栄養性マウスのTAに50μLを注射した。CONマウスに関しては、70μLの0.9%食塩水(TRIM非含有)を、陰性対照としてGMに、7dpiに注射し、一方、50μLを、異栄養性マウスのTAに注射した。生体顕微鏡検査、共焦点顕微鏡検査、及び組織切片により、筋肉を評価した。生体顕微鏡検査は、血管が占める負傷の領域に関しては、TRIM又はCONの間の差を明らかにしなかったが、共焦点zスタックは、負傷領域内で、TRIMが血管密度を低下させたことを示唆している。対照的に、TRIMが、処置されたマウス全てにおいて筋原線維再生を向上させ、加えて、負傷に対する異栄養性筋の耐性も向上させたことを、共焦点zスタックと筋断面の両方が示唆している。TRIM処置が、骨格筋の化学的負傷、VML負傷後の、及び、筋ジストロフィーの状態における、筋線維再生に対して有益であり得ることを、この所見は示唆している。
【0033】
実施例1:材料及び方法
以下の材料及び使用を、実施例の残り全てにおいて使用した。
【0034】
動物
骨格筋構造及び機能が、種にまたがって保存されており、これらの実験の侵襲的性質によってヒトでの実験が妨げられているため、マウスを選択した。実験は全て、ミズーリ大学の動物実験委員会により認可された。化学的負傷及びTRIM処置には、オスのC57BI/6マウス(n=3、約4月齢)を選択した。メスのCdh5-mTmG(内皮細胞緑色蛍光タンパク質(GFP)レポーター、約4月齢)を使用して、筋容積損失負傷(VML)後の、微小血管再生を可視化した。内皮特異的creリコンビナーゼCdh5 Cre-ERT2(Wang,Y.,et al.(2010).Nature,465(7297))を選択し、mTmGレポーターと交差させ、有効な内皮細胞(EC)レポーターマウスを作製した(Muzumdar,D.,et al.(2007).genesis,45(9),593-605.)。マウスを2つの群、すなわち生理食塩水ビヒクル処置(CON)(n=3)、又は、生体適合性セラミック[徐放性イオンマトリックス(TRIM)]処置(n=2)に分けた。マウスを、12:12時間の明暗サイクル下で維持し、ベッドキューブで収容し、食料と水には自由にアクセスできるようにした。
【0035】
異栄養性マウスの2つの株を用いて、異栄養性筋肉でのTRIMの効果を評価した。C57BI/6 mdx+/+マウス(n=2、約4月齢)を使用して、負傷に対する異栄養性筋肉の耐性に対する、TRIMの効果を評価し、一方、より深刻な筋肉表現型を呈するD2.B10 Dmdmdxマウス(n=1、7月齢)を使用して、TRIMが、異栄養性筋肉の質及び量を回復する能力を判定した。
【0036】
タモキシフェン注射
内皮での、Cre-ERT2組み換え及びeGFP発現を誘発するために、訓練を受けた職員によりマウスを拘束し、報告されているとおりに、3日連続で、27ゲージで、100μLのタモキシフェン溶液(1mgのタモキシフェン+トウモロコシ油中の5%エタノール)を、腹腔内注射した(Biomimetic Bioactive Biomaterials:The Next Generation of Implantable Devices.(2017).ACS Biomaterials Science & Engineering,3(7),1172-1174.)。マウスは全て、最初のタモキシフェン注射の7日後に試験した。
【0037】
徐放性イオンマトリックス(TRIM)の生成
乾燥して粉末化させた構成成分を混合し、これらを白金るつぼに投入することにより、TRIMを生成する。
【0038】
これらの実験に関して、3つの異なる組成のTRIMを使用した。
【0039】
生体適合性ガラス粒子の、候補となる材料の組成は以下のとおりである(値は重量%である)。
【0040】
CoO:34.6% B、35.3% P、14.0% CaO、12.3% NaO、3.8% CoO
【0041】
BPCuZn:35% B、35.6% P、16.2% CaO、11.8% NaO、1% ZnO、0.4% CuO
【0042】
BP:34.9% B、35.8% P、16.9% CaO、12.4% Na
【0043】
リン酸が必要な場合、その後、これを乾燥構成成分に、ゆっくりと撹拌投入した。バッチを一晩か焼して水を蒸発させた後、60分間溶融(1000~1150℃)させ、その後、白金棒で30分間撹拌した。Spexミルを用いて、溶融したTRIM混合物を粉砕して、20μm未満の粒子を形成した。TRIM粒子の溶液を作製し(0.9%滅菌生理食塩水中に5mg/mL)、後述のとおりに注射した。
【0044】
筋肉負傷及びTRIM処置のためのBaCl
化学誘発された筋肉負傷をインビボで誘発させるために、マウスにケタミン及びキシラジン(それぞれ、100mg/kg及び10mg/kg、腹腔内注射)を麻酔し、対象となる筋肉を覆う皮膚をそり、その後、1.2%のBaClを、記載のとおりにTA[50μL、(Hench,L.L.,& Thompson,I.(2010).Journal of The Royal Society Interface,7(suppl_4),S379-S391.)]の中に、又は、GM[75μL、(Hench,L.L.,& Polak,J.M.(2002).Science,295(5557),1014)]の下で、片側に注射した。回収中はマウスを暖かくしたままにし、その後、ケージに戻した。
【0045】
VML及びTRIM処置のためのパンチ生検負傷
マウスに、ケタミン/キシラジン(それぞれ、100mg/kg及び10mg/kg)をIPで麻酔し、アルミニウム保温プレートに載せたままにし、体温を37℃に維持した。必要な場合、追加の注射(最初の約20%)をし、15分毎に、尾又は足指のピンチへの引っ込みがないことによって確認される、麻酔の安定状態を維持した。左GMを覆う皮膚をそり、Betadine(10%ポビドン-ヨウ素局所溶液)を、続いて、アルコールワイプを3回、綿棒で付けて滅菌した。実体顕微鏡により確認をしながら、マウスを腹部に配置させ、覆っている皮膚に約5mmの切り込みをつけ、GMにアクセスした。露出した組織を、生理学的食塩水(PSS)で連続して灌注した。GMの血管を負傷させないように注意した。滅菌した2mm直径のパンチ生検(Anderson,S.,et al.(2019).Tissue Engineering Part C:Methods,25(2),59-70)を用いて、GMに局部負傷させた。再生されない筋肉喪失の臨界閾値を下回るVMLのモデルを表すために、2mmを選択した(Anderson,S.,et al.(2019).Tissue Engineering Part C:Methods,25(2),59-70)。パンチ損傷の場所を一定に保つため、長さ1cm、幅0.5cmの、特製の測定装置を、腰椎に沿って配置させ、GMに基準点を付与した。TRIMで処置したVMLマウスに関しては、250μgの粉末を0.9%滅菌生理食塩水に懸濁させた後、GMの下に注射した。CONマウスに関しては、負傷の7日後(dpi)に、筋肉の下に70μLの0.9%食塩水(溶液)を注射して、処置を模倣した。滅菌した6-0ナイロン縫合糸を用いて、皮膚全体に4~5個の不連続な縫合により、皮膚の切り込みを閉じた。異栄養性マウスに関しては、250μgの粉末を、0.9%滅菌生理食塩水に懸濁させた後、左前脛骨(TA)筋に注射し、その間に、マウスに麻酔をし、移動しないようにした。マウスを暖かくしたままにし、歩行が回復するまで(2~3時間)監視し、その後、ケージに戻して毎日観察した。VMLに関しては21dpi、そして、異栄養性マウスに関しては14日目に、データ収集した後、麻酔の下で頚椎脱臼させてマウスを殺した。
【0046】
GMの生体顕微鏡検査
記載されるように、血管供給の一体性を維持しながら、生体顕微鏡検査(微小循環のインビボイメージング)のためにGMを準備するために、マウスに麻酔をかけた(Fernando,C.A.,et al.(2019).The Journal of Physiology,597(5),1401-1417.)。ケタミン/キシラジンをIP注射して、GMと重なる皮膚をそり、毛を取り除いた。マウスを、37℃の温度の保温プレートに移して体温を維持させた。実体顕微鏡により、脊髄に沿った切り込みを、覆っている皮膚に設けた。過剰の結合組織及び脂肪を、顕微解剖を用いて、主要な血管を避けながら取り除いた。露出したGMには、PSSを連続して灌注した。次に、GMを、腰部筋膜、仙骨、及び腸骨稜に沿って、その起源から切り離し、体から反転させて、血管供給を露出させた。次に、GMを、透明なゴム台座の表面にひろげ、本来の寸法に近似させながら、縁でピン留めした。台座の上に組織を広げ、固定することにより、微小血管系の高解像度イメージングに適した、薄くて平坦な調製物が生み出された。サランラップで、露出した他のあらゆる組織を覆い、生体内イメージング中に脱水しないようにした。
【0047】
手術の完了後、マウス調製物を、Nikon 600fn生体内顕微鏡のステージに移し、5% CO2/95% N2で平衡させたPSSを、連続して灌注した。低照度CMOS FP-Lucyカメラ(Stanford Photonics)及びLong Working Distance(LWD)4x及び10x対物レンズ(Nikon)を用いて、Piperソフトウェアで、パンチ負傷全体をイメージングして、デジタル画像を取得した。生体顕微鏡検査の後、GMを解剖し、トリミングして、共焦点イメージングのためにパンチ負傷を含有する領域を含め、その後、凍結させて、組織学のためのために切断した。
【0048】
TA筋力測定、並びに、TA及びEDLの筋量
記載のとおりのin situ測定のための、TAを準備した(Wang,Y.,et al.(2010).Nature,465(7297),483-486)。簡潔に述べると、麻酔をかけたマウスにおいて、2-0縫合糸を、左膝蓋腱の周りに配置した。坐骨神経を分離させ、Grass(商標)刺激装置により、電極を介して筋力を刺激するために、TAの近くで切断した。TAの遠位腱を分離させ、2-0縫合糸で固定した後、挿入部から切断した。マウスをプレキシガラス板の上にうつ伏せに配置し、膝蓋腱を、板に固定化された垂直金属ペグに固定した。遠位TA腱を、Transbridge増幅器(TBM-4、World Precision Instruments,Sarasota,FL,USA)に連結させた負荷ビーム(LCL-113G、Omega,Stamford,CT,USA)にくくった。負荷ビームを、1Hzでの単収縮の間に測定される最適長さ(Lo)を調整するために、マイクロメーターに取り付けた(Hench,L.L.,& Polak,J.M.(2002).Science,295(5557),1014)。TAの周りにKimWipe(登録商標)1枚を巻き、生理学的食塩水をTAに灌注させ(3mL分-1)、遠心収縮性負傷の前及び後に、Power Lab収集ソフトウェア(ADlnstruments,Colorado Springs,CO,USA)により、120Hzで最大力を評価した。最適の筋肉長を確立し、3回のウォームアップ収縮を行った後で、最大強縮を評価し、その後、記載のとおり、3回の最大収縮条件の間に、筋肉を約40%伸ばした(Muzumdar,D.,et al.(2007).genesis,45(9),593-605)。2分間の休憩の後、最大強縮をもう一度得て、遠心負傷後の力の喪失割合(%)を測定した。データ収集後に、筋肉の長さを測定し、TA及びEDL筋の両方を取り除き、筋量を評価した。
【0049】
組織化学(イメージング及び分析)
GM検体を、レーザー走査共焦点顕微鏡のステージに移し、微小血管及び筋原線維をイメージングした。共焦点画像収集の後、最適切断温度(OCT)化合物を、浅いクリオモルドに注ぎ、切り取ったGMを、平坦に寝かせて中央に向きを合わせた。2mm長の絹縫合糸を、クリオモルド内でGMの隣に配置し、VML負傷の場所を示し、液体窒素で冷却したイソペンタン中で凍結させた。凍結したGMをホイルに包み、参照のために標識し、切断のために処置するまで-80℃で保管した。
【0050】
凍結切片の染色
凍結したGM及びTA切片を、クライオスタット(HM 550 Cryostat,Thermo Scientific,Waltham,MA)で10μmの厚さで切断し、ラミニン(Thermo Scientific #RB-9024-R7)、ミオシン重鎖及び胚ミオシン(Hybridoma Bank A4.840 s IgM 1:15)に対して、記載のとおり(Morton,A.B.,et al.(2019).Redox Biology,20,402-413)に染色し、Prolong Gold含有DAPI(Thermo Fisher)で固定した。
【0051】
ImageJ分析
生体内画像のために、血管を分析し、微小血管再生の量を評価した。共焦点画像に関して、血管と筋原線維の両方を別個に分析して、各構成成分を定量化した。筋断面の画像を取得して、後述のように筋肉の厚さを評価した。
【0052】
Nikon 600fn生体内顕微鏡により取得した画像を、オープンアクセスソフトウェアのlmageJ及びMicrosoft PowerPointで分析した。パンチ生検負傷の参照画像を用いて、CON及びTRIM処置GMの両方を分析する際に、元のサイズを確認した。PowerPointを用いて、検体の画像を参照画像の上に重ね、負傷領域を画定した。これらの画像を合わせ、負傷領域の輪郭を表すPowerPointツールからの円を含めて1つのTIFFファイルとして保存した(図1A及び図1B)。ImageJにインポートした後、合わせた画像を32ビットグレースケールに変換した。負傷領域(A01)内の血管を特定するために、バックグラウンド閾値を確立し、画像をバイナリ変換させ、ここでは、バックグラウンド(非脈管構造)を白色、対象となる組織構成成分(血管)を黒色とした。これらの画像を用いて、微小血管により占められる全A01の割合(%)として定義される、筋原線維再生及び血管再生の程度を測定した。
【0053】
Leica LAXソフトウェアを用いて、反転レーザー走査共焦点顕微鏡(TCS SP8,Leica Microsystems Buffalo Grove,IL,USA)にて、x0.75デジタルズームの10x対物レンズにより共焦点画像を取得した。画像スタック(厚さ約70pm)を用いて、ImageJソフトウェア(NIH、オープンアクセス)を用いてVMLモルホロジーを解像した(Morton,A.B.,et al.(2019).Skeletal Muscle,9(1),27)。ImageJにインポートした後、2色チャネルで入手した共焦点Zスタックを、GFP(EC)及びTD(トマト)(筋原線維)に分離した。各色のチャネル画像を、上述した閾値ガイドラインを用いて、32ビットグレースケールに変換した。黒で占められている領域(血管又は筋原線維)は、全A01の割合(%)として表した。血管及び筋肉の画像を別個に分析した。
【0054】
共焦点画像分析に関して、血管領域の割合(%)、及び筋肉領域の割合(%)を、処置間と、複数の時点とにまたがって比較した。両方の分析のために、実験者は実験群に対して盲検とした。収集したデータに対する変動係数は5%未満であった。
【0055】
筋肉の厚さを評価するために、筋肉の断面を、5つの異なる場所、すなわち切片の端(最も厚く、負傷していない)、切片の中心、及び、切片の中心と切片の端との間の中間の負傷領域で分析した。負傷していない切片の端の厚さを平均し(UT)、続いて、負傷した切片の厚さを平均した(IT)。最終の値を、以下の式を用いて計算した:IT/UT=筋肉回復。比率1は、負傷した領域全体での筋肉の厚さの回復を示した一方で、1未満の比率は、再生が少ないことを示した。
【0056】
実施例2:TRIMは、VML後のGMで、血管密度を向上させないようである
2mmの生検パンチで、大臀筋(GM)に筋負傷を与えた後、負傷部位内の微小循環及び筋肉を取り除いた。筋原線維に栄養を与えて維持するために、微小循環は、負傷後に再生する必要がある。生体内イメージングは、負傷の21日後(dpi)に、内皮細胞緑色蛍光タンパク質(GFP)(図1A及びB)を示す。7dpiにTRIMを添加しても、蛍光画像解析により評価されるように、21日目まで、負傷領域において血管密度は変化しないようであった(CON=A01の19.5%、TRIM処置=19%、図1C)。
【0057】
21dpiにおける血管密度をさらに詳しく、VML負傷部位の中心から取得した共焦点顕微鏡画像で解像した(図1D及び図1E)。TRIM処置したGMにおける血管密度(A01の15%)は、CON(30.2%)を下回るようであった(図1F)。
【0058】
実施例3:TRIMは、VML後の筋原線維再生を向上させる
共焦点画像が、21dpiでの、負傷後の筋原線維再生(図2A及び2B)を示す。TRIMを添加することにより、負傷領域での筋原線維再生が向上するようであった。TRIMで処置したGM中の筋原線維(図2B)は、平行して組織化され、生理食塩水処置対象(CON)と比較して、負傷全体に一層均一に分布していた。筋原線維の密度は、A01のTRIM(87%)では、CON(CON=78%)と比較して増加するようであった(図2C)。
【0059】
凍結したGM切片をスライスし、ラミニン及びミオシン重鎖に対して染色した。TRIMは、筋肉の厚さにより測定される筋原線維再生を向上させ得ることが、筋肉断面画像の分析で明らかとなった(図2D及び図2E)。生理食塩水処置GM(図2D)では、負傷の中心での厚さが低下した。対照的に、TRIM処置GM(図2E)は、未負傷の筋肉及び負傷した筋肉の両方にわたって、同様の厚さを有した。したがって、回復の21日目において、平均の筋肉厚さは、CONよりもTRIMで大きかった。IT/UTの比率として表すと、CON GMの平均は0.75であった一方で、TRIMの平均は1.0であった(図2F)。
【0060】
実施例4:TRIMは、化学的負傷後の筋原線維再生を向上させる
未負傷のBPCuZn処置線維、生理食塩水処置線維(8dpi)、及び、BPCuZn処置線維(8dpi)を、eMyHC、ラミニン、及びDAPIに対して染色した(図3A)。生理食塩水処置した8dpi線維と比較して、BPCuZn処置した8dpiの線維は、eMyHC陽性線維の割合が低かった(図3B)。生理食塩水処置した8dpiの線維、及び、未負傷のBPCuZn処置線維と比較して、BPCuZn処置した8dpi線維でもまた、再生線維の割合(%)が高かった(図3C)。
【0061】
実施例5:TRIMは、深刻な異栄養性筋肉の量を向上させる
ジストロフィックスの単回注射の後、未処置のTA及びEDLと比較して、筋量は、約20~30%増加した。このことは、下腿における前方筋膜区画の筋肉が、単回注射の14日後に応答することを示している(図4A~4C)。また、左足のみを処置したため、反対の右足からのTA及びEDLもまた回収すると、ジストロフィックスは全身効果を示さないことを示した(図4A~4C、ジストロフィックスで処置したTA及びEDLを、反対の未処置足と共に示す)。筋量の増加が筋原線維再生に起因するものであるか否かを測定するため、筋肉の断面を、10μm圧の切片で得、筋原線維の境界を特定するためにラミニンで、 再生筋原線維のマーカーとして胚ミオシン重鎖(eMyHC)で、及び、核を可視化するためにDAPIで標識した。未処置試料と比較して、ジストロフィックス処置試料は、線維症及びeMyHCが少ない、より中心に位置する核(再生した筋原線維のマーカー)を呈し(図4)、このことは、より成熟した筋原線維による効果的な筋肉再生が増大していることを示す。
【0062】
実施例6:TRIMは、異栄養性筋肉の構造を向上させる
単回ジストロフィックス注射を受ける異栄養性マウスのTAは、生理食塩水対象よりも大きな力を示した(即ち、遠心性筋肉負傷に対してより大きい耐性を有した)(図5)。遠心収縮誘発性負傷の後に生み出された筋力を、負傷前に生み出された筋力と比較すると、負傷前の値の約65%を維持した生理食塩水対照と比較して、ジストロフィックス処置した異栄養性筋肉は、負傷前の値の約90%を維持した。
【0063】
実施例7:TRIMは、血管成長を向上させる
0dpi(負傷後日数)のマウスは、処置を受けなかった。8dpiのマウスは、BaClを注射し、化学的負傷を誘発して、8dpiにて分析した。BPCuZn 0dpiマウスに、10μg/体重gのBpCuZnを注射し、3dpiにて分析した。BPCuZn 8dpiマウスにBaClを注射し、化学的負傷を誘発させた。次に、これらに、10μg/体重gのBpCuZnを3dpiにて注射し、8dpiにて分析した。
【0064】
CD31染色は、血管の分化を示す(図6A)。8dpiのマウスと比較して、微小血管領域/線維の相対量は、8dpiのBPCuZnマウスでわずかに高い(図6B)。BPCuZnは血管成長を向上させることを、これらの結果は示唆する。
【0065】
実施例8:TRIMは線維サイズを増加させる
生理食塩水処置及びジストロフィックス処置マウス由来の線維を、ラミニン、MyHC、及びDAPIに対して染色した(図7A)。筋原線維断面積の頻度の定量において、ジストロフィックスによる処置は、生理食塩水対照と比較して右向きのシフトを引き起こし(図7B)、このことは、ジストロフィックス処置が線維サイズを増加させることを示している。
【0066】
本発明の要素又はその好ましい実施形態を導入する場合、冠詞「a」、「an」、「the」、及び「said」は、要素のうちの1つ以上が存在することを意図する。「含む(comprising)」、「含む(including)」、及び「有する(having)」という用語は、包括的であることが意図され、列挙された要素以外の追加の要素が存在し得ることを意味する。
【0067】
上記を考慮すると、本発明のいくつかの目的が達成され、他の有利な結果が達成されることが分かるであろう。
【0068】
本発明の範囲から逸脱することなく、上記の組成物及びプロセスにおいて様々な変更を行うことができるため、上記の説明に含まれ、添付の図面に示されるすべての事項は、限定的な意味ではなく、例示的なものとして解釈されるべきであることが意図される。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
【国際調査報告】