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特表2024-538009A.二酸化ジルコニウムナノ粒子又はナノ多孔性二酸化ジルコニウムナノ粒子マクロ構造、及びB.ナノ多孔性酸化セリウムナノ粒子マクロ構造、を利用した血液保存用組成物、デバイス、及びそれらの使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-18
(54)【発明の名称】A.二酸化ジルコニウムナノ粒子又はナノ多孔性二酸化ジルコニウムナノ粒子マクロ構造、及びB.ナノ多孔性酸化セリウムナノ粒子マクロ構造、を利用した血液保存用組成物、デバイス、及びそれらの使用
(51)【国際特許分類】
   A61J 1/10 20060101AFI20241010BHJP
   B65D 81/24 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
A61J1/10 331Z
B65D81/24 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024520668
(86)(22)【出願日】2022-10-07
(85)【翻訳文提出日】2024-05-27
(86)【国際出願番号】 US2022077776
(87)【国際公開番号】W WO2023060246
(87)【国際公開日】2023-04-13
(31)【優先権主張番号】63/253,629
(32)【優先日】2021-10-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524124879
【氏名又は名称】シーム インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】チャラ,シヴァ サイ ラマナ クマール
(72)【発明者】
【氏名】カニアス,タミール
【テーマコード(参考)】
3E067
4C047
【Fターム(参考)】
3E067AA03
3E067AB81
3E067AB99
3E067AC01
3E067BA12A
3E067BB14A
3E067FA01
3E067FC01
3E067GD10
4C047AA11
4C047BB03
4C047CC01
4C047GG40
(57)【要約】
【課題】血液、血液製剤、及び/又はその成分を貯蔵するための改善された及び/又は追加される組成物及び技術の提供。
【解決手段】二酸化ジルコニウム(ZrO)ナノ粒子及び/又はナノ多孔性二酸化ジルコニウムナノ粒子(NZrONP)マクロ構造並びにナノ多孔性二酸化セリウムナノ粒子(NCeONP)マクロ構造を利用した、血液及び血液製剤のための血液保存用組成物、デバイス、及びそれらの使用。血液保存用組成物は、血液及び血液製剤のシェルフライフを増加させるのにとくに好適であり、それは酸化的及び貯蔵時溶血の低減を含む。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液、血液製剤、及びその成分を血液貯蔵用容器表面に接触して貯蔵したときにかかる血液、血液製剤、その成分、及びそれらの組合せの有用貯蔵寿命を増加させるのに効果的な量で存在する二酸化ジルコニウム(ZrO)ナノ粒子及び/又はナノ多孔性二酸化ジルコニウムナノ粒子マクロ構造を含む血液貯蔵用表面を含む血液貯蔵用容器。
【請求項2】
前記ZrOナノ粒子及び/又はナノ多孔性二酸化ジルコニウムナノ粒子マクロ構造が、前記血液貯蔵用容器内に存在する、且つ前記血液貯蔵用容器内に貯蔵された血液、血液製剤、又はその成分と混合する能力のある、液状組成物中に含有される、請求項1に記載の血液貯蔵用容器。
【請求項3】
前記ZrOナノ粒子及び/又はナノ多孔性二酸化ジルコニウムナノ粒子マクロ構造が、前記血液貯蔵用容器中のポリメリックフィルム上又はポリメリックフィルム中に含有され、前記血液、血液製剤、及びその成分が、前記ZrOナノ粒子及び/又は酸化ジルコニウムマクロ構造に接触する能力がある、請求項1に記載の血液貯蔵用容器。
【請求項4】
前記容器がポリメリック材料を含み、且つ前記二酸化ジルコニウム(ZrO)ナノ粒子及び/又はナノ多孔性二酸化ジルコニウムナノ粒子マクロ構造が前記ポリメリック材料中に固定され、且つ前記血液、血液製剤、及びその成分が前記ZrOナノ粒子及び/又は二酸化ジルコニウムナノ粒子マクロ構造に接触する能力がある、請求項1に記載の血液貯蔵用容器。
【請求項5】
前記血液貯蔵用容器表面がコーティングを含み、前記ZrOナノ粒子及び/又は二酸化ジルコニウムナノ粒子マクロ構造が、前記血液貯蔵用容器貯蔵表面上に前記コーティングを形成する組成物を形成する又はその一部である、請求項1に記載の血液貯蔵用容器。
【請求項6】
前記コーティングが多孔性コーティングを含み、前記ZrOナノ粒子及び/又は二酸化ジルコニウムナノ粒子マクロ構造が前記コーティング中に固定され、且つ前記血液、血液製剤、及びその成分が前記ZrOナノ粒子及び/又は二酸化ジルコニウムナノ粒子マクロ構造に接触する能力がある、請求項5に記載の血液貯蔵用容器。
【請求項7】
前記ZrOナノ粒子が1.0nm~1000nmの直径を有する、請求項1に記載の血液貯蔵用容器。
【請求項8】
前記二酸化ジルコニウムナノ粒子マクロ構造が、50nm~30,000nmの範囲内のマクロ構造直径及び1nm~1000nmの範囲内のマクロ構造細孔直径を有する、請求項1に記載の血液貯蔵用容器。
【請求項9】
前記容器が、非フタレート可塑剤を用いて作製される、請求項1に記載の血液貯蔵用容器。
【請求項10】
a.血液、血液製剤、及びその成分を血液貯蔵用容器表面に接触して貯蔵したときにかかる血液、血液製剤、その成分、及びそれらの組合せの有用貯蔵寿命を増加させるのに効果的な量で存在する二酸化ジルコニウム(ZrO)ナノ粒子及び/又はナノ多孔性二酸化ジルコニウムナノ粒子マクロ構造を含む血液貯蔵用表面を含む血液貯蔵用容器を提供すること、
b.前記血液貯蔵用容器に血液、血液製剤、その成分、又はそれらの組合せを貯蔵すること、
を含む、全血、血液製剤、その成分、又はそれらの組合せの貯蔵方法。
【請求項11】
a.血液、血液製剤、又はその成分を供給すること、
b.前記血液、血液製剤、又はその成分と、酸化ジルコニウムナノ粒子及び/又はナノ多孔性酸化ジルコニウムナノ粒子マクロ構造と、を組み合わせることであって、前記酸化ジルコニウムナノ粒子及び/又はナノ多孔性酸化ジルコニウムナノ粒子マクロ構造の濃度は1pM~1Mの範囲内である、こと、
を含む、血液、血液製剤、その成分、又はそれらの組合せの貯蔵方法。
【請求項12】
コーティングを含む表面を有し、血液、血液製剤、及びその成分を血液貯蔵用容器の内側のインサートに接触して貯蔵したときにかかる血液、血液製剤、その成分、又はそれらの組合せの有用貯蔵寿命を増加させるのに効果的な量で前記コーティングが二酸化ジルコニウム(ZrO)ナノ粒子及び/又はナノ多孔性二酸化ジルコニウムナノ粒子マクロ構造を含む、血液用容器インサート。
【請求項13】
血液、血液製剤、及びその成分を血液貯蔵用容器表面に接触して貯蔵したときにかかる血液、血液製剤、その成分、及びそれらの組合せの有用貯蔵寿命を増加させるのに効果的な量で存在するナノ多孔性酸化セリウムナノ粒子(NCeONP)マクロ構造を含む血液貯蔵用表面を含む血液貯蔵用容器。
【請求項14】
前記ナノ多孔性酸化セリウムナノ粒子(NCeONP)マクロ構造が、前記血液貯蔵用容器内に存在する、且つ前記血液貯蔵用容器内に貯蔵された血液、血液製剤、又はその成分と混合する能力のある、液状組成物中に含有される、請求項13に記載の血液貯蔵用容器。
【請求項15】
前記ナノ多孔性酸化セリウムナノ粒子(NCeONP)マクロ構造が、前記血液貯蔵用容器中のポリメリックフィルム上又はポリメリックフィルム中に含有され、前記血液、血液製剤、及びその成分が、前記ナノ多孔性酸化セリウムナノ粒子(NCeONP)マクロ構造に接触する能力がある、請求項13に記載の血液貯蔵用容器。
【請求項16】
前記血液貯蔵用容器表面がコーティングを含み、前記ナノ多孔性酸化セリウムナノ粒子マクロ構造が、前記血液貯蔵用容器貯蔵表面上に前記コーティングを形成する組成物を形成する又はその一部である、請求項13に記載の血液貯蔵用容器。
【請求項17】
前記コーティングが多孔性コーティングを含み、前記ナノ多孔性酸化セリウムナノ粒子マクロ構造が前記コーティング中に固定され、且つ前記血液、血液製剤、及びその成分が前記ナノ多孔性酸化セリウムナノ粒子マクロ構造に接触する能力がある、請求項16に記載の血液貯蔵用容器。
【請求項18】
前記ナノ多孔性酸化セリウムマクロ構造が、50nm~30,000nmの範囲内のマクロ構造直径及び10nm~1000nmの範囲内のマクロ構造細孔直径を有する、請求項13に記載の血液貯蔵用容器。
【請求項19】
前記容器が、非フタレート可塑剤を用いて作製される、請求項13に記載の血液貯蔵用容器。
【請求項20】
a.血液、血液製剤、及びその成分を血液貯蔵用容器表面に接触して貯蔵したときにかかる血液、血液製剤、その成分、及びそれらの組合せの有用貯蔵寿命を増加させるのに効果的な量で存在するナノ多孔性酸化セリウムナノ粒子マクロ構造を含む血液貯蔵用表面を含む血液貯蔵用容器を提供すること、
b.前記血液貯蔵用容器に血液、血液製剤、その成分、又はそれらの組合せを貯蔵すること、
を含む、全血、血液製剤、その成分、又はそれらの組合せの貯蔵方法。
【請求項21】
a.血液、血液製剤、又はその成分を供給すること、
b.前記血液、血液製剤、又はその成分と、ナノ多孔性酸化セリウムナノ粒子マクロ構造と、を組み合わせることであって、前記ナノ多孔性酸化セリウムナノ粒子マクロ構造の濃度は1pM~1Mの範囲内である、こと、
を含む、血液、血液製剤、その成分、又はそれらの組合せの貯蔵方法。
【請求項22】
コーティングを含む表面を有し、血液、血液製剤、及びその成分を血液貯蔵用容器の内側のインサートに接触して貯蔵したときにかかる血液、血液製剤、その成分、又はそれらの組合せの有用貯蔵寿命を増加させるのに効果的な量で前記コーティングがナノ多孔性酸化セリウムナノ粒子マクロ構造を含む、血液用容器インサート。
【請求項23】
血液、血液製剤、及びその成分を血液貯蔵用容器表面に接触して貯蔵したときにかかる血液、血液製剤、その成分、及びそれらの組合せの有用貯蔵寿命を増加させるのに効果的な量で存在する二酸化ジルコニウム(ZrO)ナノ粒子及び酸化セリウムナノ粒子マクロ構造を含む血液貯蔵用表面を含む血液貯蔵用容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2021年10月8日出願の米国特許仮出願第63/253,629号(参照により完全に組み込まれる)に基づく利益を主張する。
【0002】
分野
本発明は、二酸化ジルコニウム(ZrO)ナノ粒子及び/又はナノ多孔性二酸化ジルコニウムナノ粒子(NZrONP)マクロ構造並びにナノ多孔性二酸化セリウムナノ粒子(NCeONP)マクロ構造を利用した、血液及び血液製剤のための血液保存用組成物、デバイス、及びそれらの使用に関する。血液保存用組成物は、血液及び血液製剤のシェルフライフを増加させるのに、並びにジ(2-エチルヘキシルフタレート)などのフタレート型可塑剤の使用を回避した適正貯蔵能力のある血液バッグを提供するのに、とくに好適である。
【背景技術】
【0003】
背景
血液、血液製剤、たとえば、RBC、血小板など、及びその成分の貯蔵は、多くの臨床目的に重要である。現在の血液貯蔵方法は、期間が限定される可能性があるので、とくに比較的長期及び/又は非冷蔵の貯蔵を要する場合、使用不能な血液、血液製剤、及びその成分をもたらす可能性がある。
【0004】
ジ(2-エチルヘキシルフタレート)やDEHPなどのフタレート可塑剤を利用した血液バッグは、DEHPが有用な可塑剤であるので、成功を収めてきた。しかしながら、DEHPは、血液貯蔵時溶血及び酸化的溶血に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0005】
国際出願PCT/US2019/043785号には、酸化セリウムナノ粒子(CeONP)組成物及び/又はコーティングを含有する血液貯蔵用容器が報告されている。物体表面上のCeONP組成物及び/又はコーティングは、血液貯蔵用容器に貯蔵された血液、血液製剤、及び/又はその成分の有用貯蔵寿命を増加させるのに効果的でありうる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
それゆえ、血液、血液製剤、及び/又はその成分を貯蔵するための改善された及び/又は追加される組成物及び技術に対する継続的ニーズが依然として存在する。特定的には、血液バッグ中のDEHPなどのフタレート可塑剤の置換えが可能で適正貯蔵能力を提供する組成物。
【課題を解決するための手段】
【0007】
概要
血液、血液製剤、及びその成分を血液貯蔵用容器表面に接触して貯蔵したときにかかる血液、血液製剤、その成分、及びそれらの組合せの有用貯蔵寿命を増加させるのに効果的な量で存在する二酸化ジルコニウム(ZrO)ナノ粒子及び/又はナノ多孔性二酸化ジルコニウムナノ粒子(NZrONP)マクロ構造を含む血液貯蔵用表面を含む血液貯蔵用容器。
【0008】
血液、血液製剤、及びその成分を血液貯蔵用容器表面に接触して貯蔵したときにかかる血液、血液製剤、その成分、又はそれらの組合せの有用貯蔵寿命を増加させるのに効果的な量で存在する二酸化ジルコニウム(ZrO)ナノ粒子及び/又はナノ多孔性二酸化ジルコニウムナノ粒子(NZrONP)マクロ構造を含む血液貯蔵用表面を含む血液貯蔵用容器を供給することを含む、全血、血液製剤、その成分、又はそれらの組合せの貯蔵方法。この後、血液、血液製剤、その成分、又はそれらの組合せを血液貯蔵用容器に貯蔵することが行われる。
【0009】
血液、血液製剤、又はその成分を供給すること、血液、血液製剤、又はその成分と、酸化ジルコニウムナノ粒子及び/又はナノ多孔性酸化ジルコニウムナノ粒子マクロ構造と、を組み合わせることを含み、酸化ジルコニウムナノ粒子及び/又はナノ多孔性酸化ジルコニウムナノ粒子マクロ構造の濃度が1pM~1Mの範囲内である、血液、血液製剤、その成分、又はそれらの組合せの貯蔵方法。
【0010】
コーティングを含む表面を有し、血液、血液製剤、及びその成分を血液貯蔵用容器の内側のインサートに接触して貯蔵したときにかかる血液、血液製剤、その成分、又はそれらの組合せの有用貯蔵寿命を増加させるのに効果的な量でコーティングが二酸化ジルコニウム(ZrO)ナノ粒子及び/又はナノ多孔性二酸化ジルコニウムナノ粒子マクロ構造を含む、血液用容器インサート。
【0011】
血液、血液製剤、及びその成分を血液貯蔵用容器表面に接触して貯蔵したときにかかる血液、血液製剤、その成分、及びそれらの組合せの有用貯蔵寿命を増加させるのに効果的な量で存在するナノ多孔性酸化セリウムナノ粒子(NCeONP)マクロ構造を含む血液貯蔵用表面を含む血液貯蔵用容器。
【0012】
(a)血液、血液製剤、及びその成分を血液貯蔵用容器表面に接触して貯蔵したときにかかる血液、血液製剤、その成分、又はそれらの組合せの有用貯蔵寿命を増加させるのに効果的な量で存在するナノ多孔性酸化セリウムナノ粒子マクロ構造を含む血液貯蔵用表面を含む血液貯蔵用容器を供給すること、(b)前記血液貯蔵用容器に血液、血液製剤、その成分、又はそれらの組合せを貯蔵すること、を含む、全血、血液製剤、その成分、又はそれらの組合せの貯蔵方法。
【0013】
コーティングを含む表面を有し、血液、血液製剤、及びその成分を血液貯蔵用容器の内側のインサートに接触して貯蔵したときにかかる血液、血液製剤、その成分、又はそれらの組合せの有用貯蔵寿命を増加させるのに効果的な量でコーティングがナノ多孔性酸化セリウムナノ粒子マクロ構造を含む、血液用容器インサート。
【0014】
血液、血液製剤、又はその成分を供給すること、血液、血液製剤、又はその成分と、ナノ多孔性酸化セリウムナノ粒子マクロ構造と、を組み合わせることを含み、ナノ多孔性酸化セリウムナノ粒子マクロ構造の濃度が1pM~1Mの範囲内である、血液、血液製剤、その成分、又はそれらの組合せの貯蔵方法。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図面
図1】指示期間(0~14日間)にわたり指示濃度(0~1000nM)のZrOナノ粒子の存在下で貯蔵された全血におけるAAPH誘発酸化的溶血に対する直径20nm~30nmのZrOナノ粒子の保護効果を実証する。
図2】指示期間(0~14日間)にわたり指示濃度(0~1000nM)のZrOナノ粒子の存在下で貯蔵された全血におけるAAPH誘発酸化的溶血に対する直径<5.0nmのZrOナノ粒子の保護効果を実証する。
図3】指示期間(0~14日間)にわたり指示濃度(0~1000nM)のZrOナノ粒子の存在下で貯蔵されたRBC濃縮物におけるAAPH誘発酸化的溶血に対する直径20.0nm~30.0nmのZrOナノ粒子の保護効果を実証する。
図4】指示濃度(0~1000nM)で指示期間(0~14日間)にわたり直径20.0nm~30.0nmのZrOナノ粒子についてパーセント貯蔵時溶血を例示し、RBC濃縮物における貯蔵時溶血に対するその保護効果を示す。
図5】全血中の指示濃度(0~1000nM)で指示期間(0~14日間)にわたり20.0nm~30.0nmの範囲内の直径を有するZrOナノ粒子についてパーセント浸透圧性溶血を例示し、浸透圧性溶血に対するその保護効果を示す。
図6】酸化ジルコニウムナノ粒子から得られたナノ多孔性酸化ジルコニウムナノ粒子(NZrONP)マクロ構造を例示する。
図7】指示期間(0~28日間)にわたり指示濃度(0~100μM)で20nm~30nmの範囲内の直径を有するZrOナノ粒子について全血のAAPH誘発酸化的溶血のパーセンテージを例示し、全血における酸化的溶血に対するその保護効果を示す。
図8】指示期間(0~28日間)にわたり指示濃度(0~100μM)で5nm未満の直径を有するZrOナノ粒子について全血におけるパーセンテージ酸化的溶血を例示し、全血における酸化的溶血に対するその保護効果を示す。
図9】、酸化セリウムから得られたナノ多孔性酸化セリウムナノ粒子(NCeONP)マクロ構造を例示する。
図10】指示期間(0~28日間)にわたり指示濃度(0~100μM)でNCeONPマクロ構造について全血における%AAPH誘発酸化的溶血を例示し、酸化的溶血に対するその保護効果を実証する。
図11】指示期間(0~14日間)にわたり指示濃度(0~1000nM)でNCeONPマクロ構造について全血の%AAPH誘発酸化的溶血を例示し、全血の酸化的溶血に対するその保護効果を実証する。
図12】指示期間(0~14日間)にわたり指示濃度(0~1000nM)でNCeONPマクロ構造についてRBC濃縮物における%溶血を例示し、RBC濃縮物の酸化的溶血に対するその保護効果を実証する。
図13A】全血(WB)において酸化的溶血を防止する際の酸化ジルコニウムナノ粒子とナノ多孔性酸化セリウムマクロ構造との50重量%混合物の効能を例示する。
図13B】RBCにおいて酸化的溶血を防止する際の酸化ジルコニウムナノ粒子とナノ多孔性酸化セリウムマクロ構造との50重量%混合物の効能を例示する。
図14】DEHP可塑剤を用いて作製されたX線照射PVC血液用バッグに挿入したときのPVCフィルムインサート中のNCeONPマクロ構造又はZrOナノ粒子の貯蔵週数に対する酸化的溶血を例示する。
図15】DEHP可塑剤を用いて作製された市販のPVC血液用バッグ(X線照射)に挿入したときのDEHTを含有するPVCフィルムインサート中のNCeONPマクロ構造又はZrOナノ粒子の貯蔵週数に対するパーセントメトヘモグロビン(酸化ヘモグロビン)を例示する。
図16】DEHP可塑剤を用いて作製された市販のPVC血液用バッグ(X線照射)に挿入したときのDEHTを含有するPVCフィルムインサート中のNCeONPマクロ構造又はZrOナノ粒子の貯蔵週数に対する赤血球分布幅(RDW-CV)を例示する。
図17】DEHP可塑剤を用いて作製された市販のPVC血液用バッグ(X線照射)に挿入したときのDEHTを含有するPVCフィルムインサート中のNCeONPマクロ構造又はZrOナノ粒子の貯蔵週数に対するグルコース(mmol/L)を例示する。
図18】DEHP可塑剤を用いて作製された市販のPVC血液用バッグ(X線照射)に挿入したときのDEHTを含有するPVCフィルムインサート中のNCeONPマクロ構造又はZrOナノ粒子の貯蔵週数に対するラクテート(mmol/L)を例示する。
図19】DEHP可塑剤を用いて作製された市販のPVC血液用バッグ(X線照射)に挿入したときのDEHTを含有するPVCフィルムインサート中のNCeONPマクロ構造又はZrOナノ粒子の貯蔵週数に対するパーセント酸素飽和度を例示する。
図20】2.0%(wt.)ローディングのNCeONPマクロ構造及びDEHT可塑剤を含有するPVCフィルムインサートを用いて、貯蔵週数に対して、DEHP可塑剤を用いて作製された市販の血液用バッグ中のRBCのパーセント貯蔵時溶血を例示する。
図21】DEHTで可塑化され5.0%(wt.)のNCeONPマクロ構造を含有するPVCで作製された血液用バッグ(非照射)について貯蔵週数に対するRBCの貯蔵時溶血を示す。また、欧州連合(European Union)限界も示される。
図22】DEHTで可塑化され5.0%(wt.)のNCeONPマクロ構造を含有するPVCで作製された血液用バッグ(非照射)について貯蔵週数に対するRBCのパーセント酸化的溶血を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
好ましい実施形態の詳細な説明
本発明は、二酸化ジルコニウム(ZrO)ナノ粒子及び/又は複数のマクロ構造細孔を規定する複数の酸化ジルコニウムナノ粒子を含有するナノ多孔性酸化ジルコニウムナノ粒子(NZrONP)マクロ構造を含む血液保存用組成物に関する。ZrOナノ粒子及び/又はNZrONPマクロ構造は、血液、血液製剤、及びその成分がZrOナノ粒子及び/又はNZrONPマクロ構造に接触した状態にあるときにかかる血液、血液製剤、その成分の有用貯蔵寿命を増加させるのに効果的な量で存在する。
【0017】
以上で言及された二酸化ジルコニウムナノ粒子は、30分間又は60分間の好ましい時間にわたり好ましくは窒素で脱気される。次いで、この後、1.0時間~3.0時間、より好ましくは1.0時間~2.0時間の好ましい時間にわたり、昇温で、好ましくは50℃~900℃の範囲内で加熱を行うことが可能であることが企図される。それゆえ、酸化ジルコニウムナノ粒子のかかる加熱は、マクロ構造細孔14を有する図6に例示される複数のナノ多孔性酸化ジルコニウムナノ粒子マクロ構造12を形成することが企図される。
【0018】
酸化ジルコニウムナノ粒子マクロ構造12により形成されるマクロ構造細孔14は、好ましくは1.0nm~1000nm、より好ましくは1nm~750nm若しくは1nm~500nm、1nm~250nm若しくは1nm~100nm、又は1nm~50nm若しくは1nm~25nmの範囲内の矢印15により示される直径(最大線形寸法)を有する。そのほか、ナノ多孔性酸化セリウムナノ粒子マクロ構造12自体は、50nm~30,000nmの範囲内の矢印16により示される好ましい直径(最大線形寸法)を有することが企図される。
【0019】
したがって、ZrOナノ粒子及び/又はNZrONPマクロ構造は、好ましくは、血液貯蔵用容器中に溶液として含まれる貯蔵血液に含まれうるか、血液貯蔵用容器の1つ以上の内側表面上にコーティングを形成しうるか、或いは別々のコンパウンディングステップを介する又は押出しコンパウンディングを介するZrOナノ粒子及び/又はNZrONPマクロ構造とポリマーとのコンパウンディングにより得られるフィルムの形態に作製されうる。次いで、かかるフィルムは、血液貯蔵用容器中へのインサート又は血液貯蔵用容器の製造用フィルムの働きをしうる。ZrOナノ粒子及び/又はNZrONPマクロ構造はまた、血液貯蔵用容器中に含まれうるインサートの表面上に被覆されうる。コーティングは、好ましくはバイオ分解性であり、このことは、コーティングが、被験者により代謝、排除、又は排泄されうるより小さな単位又は化学種に生理学的条件下で分解する材料であるという特徴を意味する。コーティングはまた、好ましくは0.1nm~100μmの厚さで存在する。
【0020】
本明細書では、ZrOナノ粒子及び/又はZrOマクロ構造を含有するフィルム或いは血液貯蔵用容器は、好ましくはポリメリック樹脂から形成されうるとともにフィルム形態でありうるうえに、そのフィルムは、好ましくは0.10mm~1.00mmの厚さを有しうる。好ましくは、次のポリマー:ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ(1-オクテン)、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリウレア、ポリカーボネート、ポリエーテル、ポリケトン、ポリ(ビニルクロリド)、フルオロポリマー、又はそれらのブレンド若しくはコポリマー、或いはポリ(エチレン-co-プロピレン)、ポリ(エチレン-co-メチルアクリレート)、ポリ(エチレン-co-エチルアクリレート)、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、又は高密度ポリエチレン、或いはポリエチレン又はポリプロピレンを含む修飾ポリオレフィンの1つ以上であり、酸無水物はマレイン酸無水物である。これらはまた、バイオ分解性ポリマー、バイオポリマー、天然ポリマー、及び植物源を用いて作製されたものを含みうる。他のポリマーとしては、エチレン-ビニルアセテート樹脂、ポリシロキサン、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリスルホン、及びポリウレタン樹脂が挙げられる。
【0021】
したがって、ZrOナノ粒子及び/又はNZrONPマクロ構造は、好ましくは、血液貯蔵用容器内の液状組成物としてディスパージョン状態であり、血液貯蔵用容器内に貯蔵された血液、血液製剤、又はその成分と混合する能力がある。ZrOナノ粒子及び/又はNZrONPマクロ構造はまた、血液貯蔵用容器の壁内又は容器用のインサート内に存在する固形組成物(たとえばポリマー樹脂)に含有されうる。それに関連して、容器若しくはインサートの表面又は容器若しくはインサートを作製するために使用されるフィルムの表面は、ポリメリック樹脂で作製されており、ZrOナノ粒子及び/又はNZrONPマクロ構造が血液に接触した状態になりうること、ただし、それ以外ではポリマー樹脂中に固定された状態を維持し及び含まれる血液と直接混合しないことを確保するために、多孔性に作製可能であることが企図される。同様に、ZrOナノ粒子及び/又はNZrONPマクロ構造を血液貯蔵用容器の内側貯蔵表面上又はインサート上のコーティングに含有させた場合、コーティングは、ZrOナノ粒子及び/又はNZrONPマクロ構造が血液に接触した状態になりうるように、ただし、この場合もコーティングに固定された状態を維持するように、多孔性であることが企図される。
【0022】
たとえば、ZrOナノ粒子及び/又はNZrONPマクロ構造は、好ましくは、血液用バッグで利用されるフィルムに変換可能なPVC又は他のポリマーと混合(ブレンド及び分散)されうる。PVC又は他のポリメリックフィルム材料は、液状媒体中に分散されたZrOナノ粒子及び/又はNZrONPマクロ構造でスプレー被覆されうるとともに、次いで、被覆フィルムは、血液を含有するためにバッグで利用されうることもまた、企図される。PVC以外のポリマーは、フィルムインサートの形成用として本明細書では企図される。
【0023】
ZrOナノ粒子及び/又はNZrONPマクロ構造は、好ましくは1~10wt.%の濃度でポリマー材料中に存在する。より好ましくは、ZrOナノ粒子及び/又はNZrONPマクロ構造がコーティング中に存在するとき、それらは1~5wt.%の好ましい濃度で存在する。ZrOナノ粒子及び/又はNZrONPマクロ構造が血液貯蔵用のポリメリック容器の壁中に含有されるとき、それらは好ましくは1~5wt.%の濃度で存在する。
【0024】
ZrOナノ粒子は、好ましくは1.0nm~1000.0nmの範囲内の直径(最大寸法)を有する。より好ましくは、ZrOナノ粒子は1.0nm~40.0nm又は1.0nm~30nm又は1.0nm~20nm又は1.0nm~10nm又は1.0nm~5.0nmの範囲内の直径を有する。
【0025】
したがって、NZrONPマクロ構造は、好ましくは、50nm~30,000nmの範囲内のマクロ構造直径及び4nm~1000nmの範囲内のマクロ構造細孔直径を有するマクロ構造として存在する1.0nm~1000.0nmの範囲内の直径を有する複数の酸化ジルコニウムナノ粒子を含む。
【0026】
血液中のZrOナノ粒子及び/又はNZrONPマクロ構造の濃度は、好ましくは1pM~1Mの範囲内で確立される。より好ましくは、血液中のZrOナノ粒子の濃度は、1.0nM~2000nM又は1.0nM~1000nM又は1.0nM~500nM又は1.0nM~250nM又は1.0nM~100nM又は1.0nM~10.0nMの範囲内である。
【0027】
ZrOナノ粒子及び/又はNZrONPマクロ構造は、血液貯蔵用容器内に含有される血液、血液製剤、及び/又はその成分の使用可能貯蔵期間を1、2、3、4、5、6、7、8、9、10日間、又はそれ以上増加させるのに効果的でありうることが企図される。
【0028】
ZrOナノ粒子及び/又はNZrONPマクロ構造は、酸化セリウムナノ粒子との組合せで、或いはAl、Ta、Mg、Zn、Sr、若しくはいずれかの他の金属又は金属酸化物の合金として、血液貯蔵用容器内に含有される血液、血液製剤、及び/又はその成分の使用可能貯蔵期間を1、2、3、4、5、6、7、8、9、10日間、又はそれ以上増加させるのに効果的でありうることもまた、企図される。そのほか、本明細書では、ZrOナノ粒子及び/又はNZrONPマクロ構造は、好ましくは、血液、血液製剤、その成分の有用貯蔵寿命の増加を提供する主要な及び/又は唯一の成分である。すなわち、本明細書では、ポリメリックフィルム内側表面の血液貯蔵用容器は、好ましくは、血液、血液製剤、及びその成分を血液貯蔵用容器内側表面に接触して貯蔵したときにかかる血液、血液製剤、及びその成分の有用貯蔵寿命を増加させるのに効果的な量のZrOナノ粒子及び/又はNZrONPマクロ構造から本質的になる及び/又はそれらからなるものである。本明細書では、血液への言及は、全血への言及として理解されうる。血液製剤という用語は、その成分として血液から又は血液を用いて生産されたいずれかの治療用製剤を意味する。血液製剤の例としては、赤血球濃縮物を、全血から生産された血小板、血漿、及び寒冷沈殿物(血漿から調製されたフリーズ血液製剤)が挙げられる。血液成分という用語は、血液のいずれかの部分、画分、細胞、又は分子を意味する。
【0029】
ZrOナノ粒子の性能は、1、14、及び28日間の全血の冷貯蔵(4℃)後に酸化的溶血、浸透圧性溶血、及び自然溶血(冷貯蔵)を含む選択された溶血ストレス検査に対する赤血球感受性の変化を検査することにより評価された。パーセント酸化的溶血は、2,2’-アゾビス-2-メチルプロパンイミドアミド二塩酸塩(AAPH、150mmol/L)と共にナノ粒子処置赤血球(RBC)及びコントロール(ナノ粒子なし)RBCをインキュベートすることにより誘発された。AAPHの熱(37℃)分解は、ペルオキシルラジカルを発生して脂質過酸化媒介溶血をもたらす。リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を用いて洗浄RBCを3.5%±0.5%の最終濃度で懸濁させた。0.09mLのAAPH(0.5M)又はPBSが添加されたマイクロプレート中にアリコート(0.21mL)を移した。静的条件下でプレートを1.5時間インキュベート(37℃)し、その後、プレートを遠心分離(1500g、10分間、18℃)し、そして下記式:
【数1】

を用いることによりAAPH誘発酸化的溶血を決定した。
【0030】
HbAAPHは、AAPH処置RBCの上清細胞フリーヘモグロビン(Hb)に対応し、Hbコントロールは、未処置RBCからの上清細胞フリーヘモグロビンに対応し、及びHb合計は、各サンプル中のヘモグロビンの合計量を意味することに留意されたい。
【0031】
次に、指示濃度で指示期間にわたり直径20.0nm~30.0nmのZrOナノ粒子に暴露した際の全血の酸化的溶血のパーセントを例示する図1を参照する。図2は、指示期間にわたり指示濃度で直径<5.0nmのZrOナノ粒子に暴露した際の全血の酸化的溶血のパーセントを例示する。観測可能な通り、ZrOナノ粒子は、少なくとも14日間までの期間でコントロールと比べて%溶血を低減することが観測される。
【0032】
本明細書では、ZrOナノ粒子の評価をRBC濃縮物における酸化的溶血との関連でも検討した。結果は図3に示され、これは指示濃度で指示期間にわたり直径20.0nm~30.0nmのZrOナノ粒子について酸化的溶血のパーセントを同定する。この場合も、ZrOナノ粒子は、少なくとも14日間までの期間でコントロールと比べて%酸化的溶血を低減することが観測される。
【0033】
その次に、赤血球濃縮物において貯蔵時溶血を評価した。より具体的には、パーセント貯蔵時溶血は、全血用バッグ又はRBC濃縮物の冷貯蔵(1~6℃)時に起こる自然溶血である。パーセント貯蔵時溶血は、下記式:
【数2】

に従って、選ばれた時点(1、14、30日間)で決定された。
【0034】
サンプルヘマトクリット(HCT)は、血液サンプルをマイクロHCT遠心分離機で遠心分離してキャピラリーチューブ中に捕集することにより決定された。Hb上清は、遠心分離(1500g、10分間、18℃)後に得られた上清で測定された遊離ヘモグロビンのレベルを意味する。Hb合計は、遠心分離前のサンプルヘモグロビンの合計量を意味する。
【0035】
したがって、指示濃度で指示期間にわたり直径20.0nm~30.0nmのZrOナノ粒子についてパーセント貯蔵時溶血を例示する図4に注目する。ZrOナノ粒子は、少なくとも14日間までの期間でコントロールと比べて%貯蔵時溶血を低減することが観測される。
【0036】
そのほか、赤血球濃縮物において浸透圧性溶血の評価を行った。より具体的には、修正ピンク検査緩衝液(25mmol/L塩化ナトリウム、70mmol/L 2,2ビス(ヒドロキシメチル)-2,2’,2’ニトリロトリエタノール(Bis-Tris)緩衝剤、及び135mmol/Lグリセロールを含有する低張性Bis-Tris緩衝液、pH6.6)中で1.6%±0.2%の最終濃度でナノ粒子処置RBC及びコントロール(ナノ粒子なし)RBCをインキュベート(22℃で4時間)し、その後、血液サンプルを遠心分離(1500g、10分間、18℃)することにより、パーセント浸透圧性溶血(浸透圧的脆弱性としても知られる)を決定し、パーセント浸透圧性溶血は、以下:
【数3】

により決定された。
【0037】
Hb浸透圧は、ピンク検査処置RBCの上清細胞フリーヘモグロビンに対応し、及びHb合計は、各サンプル中のヘモグロビンの合計量を意味することに留意されたい。
【0038】
指示濃度で指示期間にわたり20.0nm~30.0nmの範囲内の直径を有するZrOナノ粒子について%浸透圧性溶血を例示する図5に注目する。見ての通り、ZrOナノ粒子は、少なくとも14日間までの期間でコントロールと比べて%浸透圧性溶血を低減する。
【0039】
その次に、指示期間にわたり指示濃度で20nm~30nmの範囲内の直径を有するZrOナノ粒子について全血のパーセンテージ酸化的溶血を例示する図7に注目する。また、指示期間にわたり指示濃度で5nm未満の直径を有するZrOナノ粒子について全血におけるパーセント酸化的溶血を例示する図8に注目する。観測可能な通り、20nm~30nmの範囲内の直径を有するZrOナノ粒子について効果はより顕在化した。
【0040】
以上にも記した通り、本発明はまた、血液保存用のナノ多孔性酸化セリウムナノ粒子(NCeONP)マクロ構造に関するものである。すなわち、ZrOナノ粒子及び/又はNZrONPマクロ構造の以上の説明では、ナノ多孔性酸化セリウムナノ粒子マクロ構造に置き換えて利用しうる。NCeONPマクロ構造は、50nm~30,000nmの範囲内のマクロ構造直径及び10nm~1100nmの範囲内のマクロ構造細孔直径を有するマクロ構造として存在する10nm~100nmの範囲内の直径を有する複数の酸化セリウムナノ粒子を意味するものである。
【0041】
したがって、NCeONPマクロ構造は、好ましくは、血液貯蔵用容器中に溶液として含まれる貯蔵血液に含まれるうるか、血液貯蔵用容器の1つ以上の内側表面上にコーティングを形成しうるか、或いは別々のコンパウンディングステップを介する又は押出しコンパウンディングを介するNCeONPマクロ構造とポリマーとのコンパウンディングにより得られるフィルムの形態に作製されうる。次いで、かかるフィルムは、血液貯蔵用容器中へのインサート又は血液貯蔵用容器の製造用フィルムの働きをしうる。NCeONPマクロ構造はまた、血液貯蔵用容器に含まれうるインサートの表面上に被覆されうる。コーティングは、好ましくはバイオ分解性であり、このことは、コーティングが、被験者により代謝、排除、又は排泄されうるより小さな単位又は化学種に生理学的条件下で分解する材料であるという特徴を意味する。コーティングはまた、好ましくは0.1nm~100μmの厚さで存在する。
【0042】
ナノ多孔性酸化セリウムマクロ構造は、好ましくは1~10wt.%の濃度でポリマー材料中に存在する。より好ましくは、ナノ多孔性酸化セリウムマクロ構造がコーティング中に存在するとき、それは1~5wt.%の好ましい濃度で存在する。ナノ多孔性酸化セリウムマクロ構造が血液貯蔵用のポリメリック容器の壁中又はポリメリックフィルムインサート中に含有されるとき、それは好ましくは1~5wt.%の濃度で存在する。
【0043】
それに関連して、容器若しくはインサートの表面又は容器若しくはインサートを作製するために使用されるフィルムの表面は、ポリメリック樹脂で作製されており、NCeONPマクロ構造が血液に接触した状態になりうること、ただし、それ以外ではポリマー樹脂中に固定された状態を維持し及び含まれる血液と直接混合しないことを確保するために、多孔性に作製可能であることが企図される。同様に、NCeONPマクロ構造を血液貯蔵用容器の内側貯蔵表面上又はインサート上のコーティングに含有させた場合、コーティングは、NCeONPマクロ構造が血液に接触した状態になりうるように、ただし、この場合もコーティングに固定された状態を維持するように、多孔性であることが企図される。
【0044】
血液貯蔵用容器中へのフィルムインサートに使用可能な又は血液貯蔵用容器を形成するために直接使用可能な、NCeONPマクロ構造を含有する本明細書のフィルムは、好ましくは0.10mm~1.00mmの厚さを有しうる。好ましいポリマーは、この場合も、下記:ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ(1-オクテン)、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリウレア、ポリカーボネート、ポリエーテル、ポリケトン、ポリ(ビニルクロリド)、フルオロポリマー、又はそれらのブレンド若しくはコポリマー、或いはポリ(エチレン-co-プロピレン)、ポリ(エチレン-co-メチルアクリレート)、ポリ(エチレン-co-エチルアクリレート)、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、又は高密度ポリエチレン、或いはポリエチレン又はポリプロピレンを含む修飾ポリオレフィンの1つ以上を含み、酸無水物はマレイン酸無水物である。これらはまた、バイオ分解性ポリマー、バイオポリマー、天然ポリマー、及び植物源を用いて作製されたものを含みうる。他のポリマーとしては、エチレン-ビニルアセテート樹脂、ポリシロキサン、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリスルホン、及びポリウレタン樹脂が挙げられる。
【0045】
血液中のナノ多孔性酸化セリウムマクロ構造の濃度は、好ましくは1pM~1M(1モル)の範囲内で確立される。より好ましくは、血液中のナノ多孔性酸化セリウムマクロ構造の濃度は、1.0マイクロモル(nM)~1000マイクロモル(mM)又は1.0nM~2000nM又は1.0nM~1000nM又は1.0nM~500nM又は1.0nM~250nM又は1.0nM~100nM又は1.0nM~10.0nMの範囲内である。
【0046】
NCeONPマクロ構造は、10nm~100nmの範囲内の直径を好ましくは有する酸化セリウムナノ粒子から出発することにより好ましくは調製される。より好ましくは、本明細書で採用される酸化セリウム酸化物ナノ粒子は、10nm~50nm又は10nm~30nm又は20nm~30nmの範囲内の直径を有する。
【0047】
以上で言及された酸化セリウムナノ粒子は、30分間又は60分間の好ましい時間にわたり好ましくは窒素で脱気される。次いで、この後、1.0時間~3.0時間、より好ましくは1.0時間~2.0時間の好ましい時間にわたり、昇温で、好ましくは50℃~900℃の温度範囲で加熱される。それゆえ、酸化セリウムナノ粒子のかかる加熱は、マクロ構造細孔20を有する図9に例示される複数のナノ多孔性酸化セリウムナノ粒子マクロ構造18を形成することが観測された。
【0048】
酸化セリウムナノ粒子マクロ構造18により形成されるマクロ構造細孔20は、好ましくは10nm~1100nm、より好ましくは10nm~750nm又は10nm~500nm又は10nm~250nm又は10nm~100nm又は10nm~50nm又は10nm~25nmの範囲内の矢印22により示される直径(最大線形寸法)を有する。そのほか、ナノ多孔性酸化セリウムナノ粒子マクロ構造18自体は、50nm~30,000nmの範囲内の矢印24により示される好ましい直径(最大線形寸法)を有することが企図される。
【0049】
図10は、指示期間(0~28日間)にわたり指示濃度(0~100mM)でNCeONPマクロ構造について全血における%酸化的溶血を例示し、酸化的溶血に対するその保護効果を実証する。図11は、指示期間(0~14日間)にわたり指示濃度(0~1000nM)でNCeONPマクロ構造について全血の%酸化的溶血を例示し、全血の酸化的溶血に対するその保護効果を実証する。図12は、指示期間(0~14日間)にわたり指示濃度(0~1000nM)でNCeONPマクロ構造についてRBC濃縮物における%溶血を例示する。
【0050】
図13Aは、全血(WB)において酸化的溶血を防止する際の酸化ジルコニウムナノ粒子とナノ多孔性酸化セリウムマクロ構造との50%(wt.)混合物の効能を例示する。酸化ジルコニウム粒子の粒子サイズは、20nm~30nmであり、及びナノ粒子マクロ構造は、50nm~30,000nmの範囲内のマクロ構造直径及び10nm~1100nmの範囲内のマクロ構造細孔サイズを有するマクロ構造として存在する10nm~100nmの範囲内の直径を有する複数の酸化セリウムナノ粒子を含んでいた。
【0051】
図13Bは、RBCにおいて酸化的溶血を防止する際の酸化ジルコニウムナノ粒子とナノ多孔性酸化セリウムマクロ構造との50%(wt.)混合物の効能を例示する。酸化ジルコニウム粒子の粒子サイズは、20nm~30nmであり、及びナノ粒子マクロ構造は、50nm~30,000nmの範囲内のマクロ構造直径及び10nm~1100nmの範囲内のマクロ構造細孔サイズを有するマクロ構造として存在する10nm~100nmの範囲内の直径を有する複数の酸化セリウムナノ粒子を含んでいた。したがって、血液、血液製剤、又はその成分の貯蔵を改善するために0.1重量%~99.9重量%の酸化ジルコニウムナノ粒子及び99.9重量%~0.1重量%のナノ多孔性酸化セリウムマクロ構造を利用しうることが企図される。
【0052】
直接血液中、又は血液用バッグを形成するポリメリック材料中、又はポリメリックフィルムインサート上のコーティングとしてのどれかでの本明細書でのZrOナノ粒子及び/又はナノ多孔性酸化ジルコニウムマクロ構造及び/又は酸化セリウムナノ多孔性マクロ構造の使用は、DEHPなどのフタレート可塑剤の使用を回避する血液用バッグにとくに適用可能であることが企図される点が特筆に値する。それゆえ、かかる血液用バッグは、フタレート可塑剤たとえばDEHPの代替品を利用し、代わりにジ(2-エチルヘキシル)テレフタレート(DEHT)を利用するものである。フタレート可塑剤の使用を回避する他の血液用バッグとしては、(1,2-シクロヘキサンジカルボン酸ジイソノニルエステル)(DINCH)、(ビス(2-エチルヘキシル)アジペート)(DEHA)、及びアセチルトリブチルシトレート(ATBC)を用いて作製された血液用バッグが挙げられる。それゆえ、本発明の広義の文脈では、直接血液中、血液用バッグを形成するポリメリック材料中、又はポリメリックフィルムインサート上のコーティングとしてのどれかで、ZrOナノ粒子及び/又はナノ多孔性酸化ジルコニウムマクロ構造及び/又は酸化セリウムナノ多孔性マクロ構造を本明細書で利用しうるとともに、この場合、かかる血液用バッグは、DEHT、DINCH、DEHA、及び/又はATBCの1つ以上を用いて作製される。
【0053】
また、ZrOナノ粒子及び/又はナノ多孔性酸化ジルコニウムマクロ構造及び/又は酸化セリウムナノ多孔性マクロ構造は、抗微生物効果を提供することも企図される点が本明細書で特筆できる。たとえば、抗微生物効果は、2つの細菌S.エピデルミディス(S.epdermidis)及びE.コリ(E.coli)に対してナノ多孔性酸化セリウムマクロ構造について観測されている。最小阻止濃度は、両方の細菌に対して256mg/Lであると観測された。
【実施例
【0054】
実施例
本明細書では押出しを介してフィルムを生成した。一般的には、可塑化PVCペレットを選択された添加剤(ZrOナノ粒子又はNCeONP)と共に添加剤の目標ローディングレベルに合わせて混合した。次いで、かかる混合物をフィルムとして押し出した。たとえば、2.0%(wt.)ローディングのZrOナノ粒子は、かかる選択されたローディングレベルのZrOとPVCフィルム(DEHTで可塑化された)とを混合することにより調製され、次いで、かかる混合物をフィルムとして押し出した。そのほか、選択されたローディングレベル(たとえば5.0%(wt.))のNCeONPマクロ構造と、DEHT可塑剤を含有するPVCペレットと、を組み合わせ、次いで、同様にフィルムとして押し出した。
【0055】
検査:2.0%(wt.)NCeONPマクロ構造又はZrOナノ粒子を含有する以上で言及されたフィルムを、DEHP可塑剤を用いて作製された既存の市販の血液用バッグ中に挿入した。図14に例示されるように、DEHP可塑剤を用いて作製されたPVC血液用バッグ中に挿入したときの2.0%(wt.)NCeONPマクロ構造を含有するPVCフィルムは、とくに6週間でRBC濃縮物において酸化的溶血の低減を実証した。そのほか、血液用バッグ中に位置決めされたフィルムインサートの形態の2.0%(wt.)ローディングのNCeONPマクロ構造又はZrOナノ粒子の存在は、ヘモグロビン酸化(%metHB)(図15)、貯蔵週数に対する赤血球分布幅(RDW-CV)(図16)、貯蔵週数に対するグルコース(mmol/L)(図17)、貯蔵週数に対するラクテート(mmol/L)(図18)、パーセント酸素飽和度(RBC酸素結合能の尺度)(図19)に悪影響を及ぼさないことが観測された。図14~19では、エラーバーは、3人の個体(N=3)から採取されたRBCの平均の標準誤差(平均±SEM)を表す。図20は、DEHT PVCフィルムインサート中に2.0%(wt.)ローディングのNCeONPマクロ構造を含有するDEHP可塑化PVCフィルムを用いて作製された市販の血液用バッグ中のRBCのパーセント貯蔵時溶血を貯蔵週数に対して例示する。
【0056】
その次に、赤血球の酸化的及び貯蔵時溶血低減に関して血液用バッグ自体を評価した。具体的には、5.0%(wt.)ローディングのNCeONPマクロ構造を用いて、DEHT可塑剤を用いたPVCフィルムを作製した。RF技術を用いてフィルムをシールし、プロトタイプ血液用バッグを生成した。次いで、バッグ中のRBCを検査した。図21は、DEHTで可塑化され5.0%(wt.)のNCeONPマクロ構造を含有するPVCで作製された血液用バッグについて貯蔵週数に対するRBCの貯蔵時溶血を示す。また、欧州連合(European Union)限界も示される。図22は、DEHTで可塑化され5.0%(wt.)のNCeONPマクロ構造を含有するPVCで作製された血液用バッグについて貯蔵週数に対するRBCのパーセント酸化的溶血を示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13A
図13B
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
【国際調査報告】