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特表2024-538018最適化されたCO2隔離と強化地熱システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-18
(54)【発明の名称】最適化されたCO2隔離と強化地熱システム
(51)【国際特許分類】
   E21B 43/00 20060101AFI20241010BHJP
【FI】
E21B43/00 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024520842
(86)(22)【出願日】2022-10-10
(85)【翻訳文提出日】2024-04-02
(86)【国際出願番号】 US2022046178
(87)【国際公開番号】W WO2023064214
(87)【国際公開日】2023-04-20
(31)【優先権主張番号】63/255,325
(32)【優先日】2021-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524127331
【氏名又は名称】ヒューズ、ウィリアム
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】ヒューズ、ウィリアム
(57)【要約】
【解決手段】本明細書で開示されるのは、二重利用が可能な井戸を掘削および操業するためのシステムの様々な実施の形態である。井戸は、熱伝導流体が高温の岩石層に注入されるが除去されず、クローズドループ法を用いて熱が抽出されるハイブリッド法を用いて、地熱発電井戸として掘削され、運転される。地熱発電井戸は、その後、二酸化炭素隔離井戸として使えるかが評価される。別の実施の形態では、井戸は二酸化炭素隔離井戸として掘削され、その後、超臨界二酸化炭素が高温の岩石層に注入されるが除去せず、クローズドループ法で熱を抽出するというハイブリッドアプローチを用いて、地熱発電の可能性が評価される。水平井戸と垂直井戸の両方が開示されており、堆積岩と地下の花崗岩にある。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地球の地下にある井戸から地熱エネルギーを抽出する方法であって、
ドリルビットおよびドリルストリングを用いて、高温の岩石層まで掘り下げ井戸を掘削するステップと、
前記ドリルストリングと前記井戸との間に外側環状体を形成するステップと、
前記ドリルストリングの内側に同心チューブを設置することにより内側環状体およびクローズドループ流体流路を形成するステップと、
前記高温の岩石層内に第1の熱伝導流体の雲を形成するために、前記第1の熱伝導流体を前記外側環状体から前記高温の岩石層内に注入するステップと、
第2の熱伝導流体を前記内側環状体から前記クローズドループ流体流路に送り込み、前記第2の熱伝導流体を前記同心チューブを通して地表に戻すステップと、
前記第2の熱伝導流体によって抽出された熱を利用可能なエネルギーに変換するステップと
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記高温の岩石層から前記第1の熱伝導流体が回収されないことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
注入される前記第1の熱伝導流体は、水、ブライン、超臨界二酸化炭素、捕捉された排ガス、捕捉され水に溶解した排ガス、または捕捉され超臨界二酸化炭素に溶解した排ガスであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第2の熱伝導流体は、水、超臨界二酸化炭素、またはグリコールであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第2の熱伝導流体を用いて地熱抽出を開始する前の一定期間、前記井戸を前記第1の熱伝導流体で呼び水処理し、前記高温の岩石層内に前記第1の熱伝導流体の雲を形成するステップを含む請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記高温の岩石層の井戸は、地層の損傷を防ぐために、地層を損傷しない掘削技術で掘削されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記高温の岩石層内の井戸は、開孔掘削技術で掘削されるか、および/またはケーシング掘削されないことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
ドリル・イン・ライナーおよび前記ドリルビットを用いて前記高温の岩石層内に井戸を掘削するステップをさらに含み、
前記ドリル・イン・ライナーおよび前記ドリルビットは、前記井戸の掘削が完了した時点で所定の場所に残され、後で前記高温の岩石層内で井戸を延長するために使用可能であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記第2の熱伝導流体が前記ドリルビットを通って流れるのを防ぐために、前記ドリルビットの後方にプラグを設置するステップを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記ドリルビットの前方に低圧を発生させるために、前記ドリルビットの後方にジェットポンプを用いて前記高温の岩石層内に井戸を掘削するステップを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記第2の熱伝導流体が前記ジェットポンプを通って流れるのを防ぐために、前記ジェットポンプの後方にプラグを設置するステップを含むことを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記同心チューブは真空断熱チューブであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項13】
地熱発電井戸と二酸化炭素隔離井戸とを組み合わせる方法であって、
ドリルビットおよびドリルストリングを用いて、高温の岩石層まで掘り下げ地熱発電井戸を掘削するステップと、
前記ドリルストリングと地熱発電井戸との間に外側環状体を形成するステップと、
前記ドリルストリングの内側に同心チューブを設置することにより内側環状体およびクローズドループ流体流路を形成するステップと、
前記高温の岩石層内に超臨界二酸化炭素の雲を形成するために、前記超臨界二酸化炭素を前記外側環状体から前記高温の岩石層内に注入するステップと、
熱伝導流体を前記内側環状体から前記クローズドループ流体流路に送り込み、前記熱伝導流体を前記同心チューブを通して地表に戻すステップと、
前記熱伝導流体によって抽出された熱を利用可能なエネルギーに変換するステップと、
前記地熱発電井戸内に配置された少なくとも1つの機器を用いてデータを収集し、前記高温の岩石層内で捕捉されている二酸化炭素の量を評価し、捕捉されている二酸化炭素の量が所定のレベルを超えている場合は前記外側環状体に注入される超臨界二酸化炭素の量を増加させるステップと
を含むことを特徴とする方法。
【請求項14】
前記地熱発電井戸は、地熱発電と二酸化炭素隔離とを同時に行うために使われることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記地熱発電井戸は、地熱発電量が所定のレベルを下回るまでは地熱発電と二酸化炭素隔離とを同時に行うのに使われ、その後は二酸化炭素隔離のみに使われることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記地熱発電井戸は、二酸化炭素隔離のための耐用年数に達するまでは地熱発電と二酸化炭素隔離とを同時に行うのに使われ、その後は地熱発電のみに使われることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記地熱発電井戸は、所定の期間地熱発電のみに使われ、その後は地熱発電と二酸化炭素隔離とを同時に行うのに使われることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記地熱発電井戸は、地熱発電量が所定のレベルを下回るまでは地熱発電のみに使われ、その後は二酸化炭素隔離のみに使われることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項19】
注入された超臨界二酸化炭素はすべて永久的に地中に隔離され、地中から二酸化炭素が回収されないことを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項20】
地熱抽出を開始する前の所定の期間、前記地熱発電井戸を前記超臨界二酸化炭素で呼び水処理し、前記高温の岩石層内に前記超臨界二酸化炭素の雲を形成するステップを含む請求項13に記載の方法
【請求項21】
前記地熱発電井戸は、地層の損傷を防ぐために、地層を損傷しない掘削技術で掘削されることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項22】
前記地熱発電井戸は、開孔掘削技術で掘削されるか、および/またはケーシング掘削されないことを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項23】
ドリル・イン・ライナーおよび前記ドリルビットを用いて前記地熱発電井戸を掘削するステップをさらに含み、
前記ドリル・イン・ライナーおよび前記ドリルビットは、前記地熱発電井戸の掘削が完了した時点で所定の場所に残され、後で前記高温の岩石層内で井戸を延長するために使用可能であることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項24】
前記熱伝導流体が前記ドリルビットを通って流れるのを防ぐために、前記ドリルビットの後方にプラグを設置するステップを含むことを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項25】
前記ドリルビットの前方に低圧を発生させるために、前記ドリルビットの後方にジェットポンプを用いて前記地熱発電井戸を掘削するステップを含むことを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項26】
前記熱伝導流体が前記ジェットポンプを通って流れるのを防ぐために、前記ジェットポンプの後方にプラグを設置するステップを含むことを特徴とする請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記同心チューブは真空断熱チューブであることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項28】
二酸化炭素隔離井戸と地熱発電井戸とを組み合わせる方法であって、
ドリルビットおよびドリルストリングを用いて、高温の岩石層まで掘り下げ二酸化炭素隔離井戸を掘削するステップと、
前記ドリルストリングと前記二酸化炭素隔離井戸との間に外側環状体を形成するステップと、
前記高温の岩石層内で前記二酸化炭素隔離井戸の方向性セクションを取り囲む領域に超臨界二酸化炭素の雲を形成するために、前記超臨界二酸化炭素を前記外側環状体から前記高温の岩石層内に注入するステップと、
前記二酸化炭素隔離井戸内に配置された少なくとも1つの機器を用いてデータを収集するステップと、
熱流量が所定の値を超える場合前記ドリルストリングの内側に同心チューブを設置することにより内側環状体およびクローズドループ流体流路を形成するステップと、
熱伝導流体を前記内側環状体から前記クローズドループ流体流路に送り込み、前記熱伝導流体を前記同心チューブを通して地表に戻すステップと、
前記熱伝導流体によって抽出された熱を利用可能なエネルギーに変換するステップと
を含むことを特徴とする方法。
【請求項29】
前記二酸化炭素隔離井戸は、二酸化炭素隔離と地熱発電とを同時に行うのに使われることを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記二酸化炭素隔離井戸は、二酸化炭素隔離のための耐用年数に達するまでは二酸化炭素隔離と地熱発電とを同時に行うのに使われ、その後は地熱発電のみに使われることを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記二酸化炭素隔離井戸は、地熱発電のための耐用年数に達するまでは二酸化炭素隔離と地熱発電とを同時に行うのに使われ、その後は二酸化炭素隔離のみに使われることを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項32】
前記二酸化炭素隔離井戸は、所定の期間二酸化炭素隔離のみに使われ、その後は二酸化炭素隔離と地熱発電とを同時に行うのに使われることを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項33】
前記二酸化炭素隔離井戸は、二酸化炭素隔離のための耐用年数に達するまでは二酸化炭素隔離のみに使われ、その後は地熱発電のみに使われることを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項34】
注入された超臨界二酸化炭素はすべて永久的に地中に隔離され、地中から二酸化炭素が回収されないことを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項35】
前記二酸化炭素隔離井戸は、地層の損傷を防ぐために、地層を損傷しない掘削技術で掘削されることを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項36】
前記二酸化炭素隔離井戸は、開孔掘削技術で掘削されるか、および/またはケーシング掘削されないことを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項37】
ドリル・イン・ライナーおよび前記ドリルビットを用いて前記二酸化炭素隔離井戸を掘削するステップをさらに含み、
前記ドリル・イン・ライナーおよび前記ドリルビットは、前記二酸化炭素隔離井戸の掘削が完了した時点で所定の場所に残され、後で前記高温の岩石層内で井戸を延長するために使用可能であることを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項38】
地熱発電のために、井戸内の所定の位置に残されたドリル・イン・ライナーおよびドリルビットを用いて、前記高温の岩石層内の二酸化炭素隔離井戸の井戸断面を延長するステップを含むことを特徴とする請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記ドリルビットの前方に低圧を発生させるために、前記ドリルビットの後方にジェットポンプを用いて前記二酸化炭素隔離井戸を掘削するステップを含むことを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項40】
前記ドリルビットの前方に低圧を発生させるために、前記ドリルビットの後方にジェットポンプを用いて前記二酸化炭素隔離井戸を掘削するステップを含むことを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項41】
前記熱伝導流体が前記ジェットポンプを通って流れるのを防ぐために、前記ジェットポンプの後方にプラグを設置するステップを含むことを特徴とする請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記同心チューブは真空断熱チューブであることを特徴とする請求項28に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願への相互参照]
本出願は、2021年10月13日に出願された「Optimized CO2 Sequestration and Enhanced Geothermal System」と題する発明者William James Hughesによる米国仮特許出願第63/255、325号(弁護士ドケット番号HTC-P-107)の利益を主張するものであり、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本出願は、「Optimized CO2 Sequestration and Enhanced Geothermal System」と題する、発明者William James Hughes、弁護士ドケット番号HTC-107、2022年1月29日に出願された米国実用新案出願第17/588、267号に関連するものであり、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0003】
本出願は、「Annular Pressure Cap Drilling Method」と題する米国実用特許第11、255、144号(発明者William James Hughes、弁護士ドケット番号HTC-101、2022年2月22日発行)に関連するものであり、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0004】
本出願は、「Annular Pressure Cap Drilling Method」と題する米国実用特許第11、377、919号(発明者William James Hughes、弁護士ドケット番号HTC-101 C、2022年7月5日発行)に関連し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0005】
本明細書に記載される様々な実施の形態は、二酸化炭素隔離および地熱エネルギーを生成するための掘削井戸、それに関連する装置、システムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0006】
地熱エネルギー
地熱エネルギー、すなわち地球内の熱の形で生成されるエネルギーは、何世紀にもわたって知られ、利用されてきた。世界中の多くの場所で、このエネルギーは間欠泉、温泉、自然の蒸気噴出孔の形で地表に到達している。水は地中を浸透し、高温の岩石に達すると過熱されて蒸気に変わる。過熱された水と蒸気は、自然の断層や亀裂を通って地表に到達する。最もよく知られている例は、アイスランドやナパ・バレーなど、地表近くに高温の岩石がある地域や、地表深くにホットスポットと呼ばれる高温の岩石が広く分布している地域で発生している。少なくとも米国では、イエローストーンのホットスポットが最もよく知られている。
【0007】
近年、地熱エネルギーは、個々の家庭を暖房するような小規模な事業や、住宅地全体や工業用建物を暖房するような商業的規模の事業に利用されている。これらの事業では、比較的浅い熱源が使われ、地表から数フィート下の地球が比較的一定の温度を保っているという事実に基づく。より大規模なプロジェクトでは、数千フィートの深さにある、より深い層の地球の熱を利用することができる。深層部の熱は、注入された水を加熱して地表に伝えられ、その水を蒸気の形でタービンや発電機を動かして発電に利用する。このような深さでは、岩石の温度は数百度である。
【0008】
地熱エネルギーは、化石燃料の価格が上昇し、化石燃料の埋蔵量が急速に枯渇し、間もなく枯渇するという予測とともに、より注目されるようになった。石油やガスの生産における最近の発展、特に水圧破砕によって稠密な地層に埋蔵されている資源を回収できるようになったことで、危機感は薄れてきている。しかしこれらの新技術は、実際には避けられない事態を先送りしているにすぎない。将来のある時点で、炭化水素の回収可能埋蔵量は消費されてしまう。それゆえ、炭化水素の埋蔵量が減少するのを待つよりも、この時点で地熱エネルギーへの転換を始める方が理にかなっている。
【0009】
化石燃料が大きな原因となっている地球温暖化の問題も、地熱エネルギーに目を向けるきっかけとなっている。水圧破砕(fracing)その他の技術による回収の強化は、短期的には問題の軽減に役立ち、石炭火力発電所をガス燃焼発電所に置き換える。しかし、この石炭がどこかで燃やされる可能性は十分にある。実際、中国やインドでは石炭火力発電所の拡大が続いているため、数年以内に石炭が石油に代わって世界一の化石燃料になるかもしれないと予測する人もいる。それに伴う排出量の増加を相殺するためにできることがあれば、何でも役に立つだろう。地熱発電は、大気中に大量の温室効果ガスを排出しない。地熱エネルギーで発電された電力は、石炭火力発電所で発電されたエネルギーに取って代われるため、排出量を減らし、地球温暖化を遅らせることができる。
【0010】
破砕によって、以前は採掘できなかった炭化水素を採掘できるようになったが、現在使われている破砕技術は、大量の水を必要とする。多くの地域、特に水が長い間論争の的となってきた米国西部では、水の権利の取得が問題となることがある。また、破砕の手順が完了し、井戸から水が汲み上げられた後、その水をどうするかという問題もある。水圧破砕が水源に与える影響については、環境への懸念もある。地熱エネルギー生産は、本書で説明されるものを含むいくつかの実施の形態では、大量の水を使うことなく達成することができる。
【0011】
米国実用特許第11、377、919号「Annular Pressure Cap Drilling Method」(発明者William James Hughes、出願人Hughes Tool Company LLC、以下「’919特許」ともいう)を含む、本明細書に記載の技術の発明者による他の特許および特許出願は、水圧破砕を行わず、大量の水や化学添加物を必要とすることもなく、石油およびガスを生産することがいかに可能であるかを示している。これらの技術には、より良い生産量とより良い枯渇カーブが含まれ、全体的なコストが大幅に削減されるという利点もある。また、これらの技術は、世界が再生可能エネルギー源にシフトしていく中で、近い将来の解決策の一部でもある。しかし、これらの特許や特許出願に開示されている掘削技術、具体的には、バランスに近い掘削方法を採用することによって、井戸に損傷を与えないという哲学は、地熱エネルギープロジェクトのための井戸掘削にも適用可能である。
【0012】
地熱源によって発電された電力は、太陽エネルギーや風力エネルギーのような他の再生可能エネルギー源と比較した場合、天候に左右されずに、昼夜を問わず高信頼のエネルギー供給を提供できるという利点がある。地熱発電は、生産されるエネルギー量を制御し、変化させることができるため、他のエネルギー形態が安定しない場合や、季節や時間帯によって需要が変化する場合のバックアップとして利用することができる。米国西部のように、比較的浅い深さに高温の岩石が広がっている地域では、地熱エネルギー開発の可能性は非常に大きい。世界的に見ても、適切な方法と専門知識があれば、地熱エネルギーが開発できない地域はほとんどない。
【0013】
地熱エネルギー生産によって高温の岩石から抽出された熱は、地殻中の放射性元素の崩壊によって生成された熱や、地球の深層から流れ出る原始熱によって代替される。このように地熱技術によって生産されるエネルギーは、直接熱としてであれ、間接的な電気としてであれ、再生可能な資源である。これは、地熱エネルギー事業が、補助金や減税の対象となりうることを意味し、再生可能エネルギーを全消費エネルギーの一定割合にするという目標を持つ州や他の組織にアピールすることになる。
【0014】
地熱エネルギー生産のもう一つの利点は、エネルギー生産に必要な土地が、他のエネルギー生産方法よりもかなり少ない点にある。発電設備やポンプなどは、比較的場所をとらない。ハードウェアのほとんどは地下にあり、広大な農地や森林の下と同様、都市や郊外の地下にも簡単に設置できる。これは、太陽光発電所や風力発電所が広大な土地を必要とするのとは対照的である。さらに、地熱発電の視覚的な影響は最小限である。太陽光発電所には反対意見もある。すなわち、巨大なタービンが連なる風力発電所は景観を損ない、鳥類にとっても脅威であると多くの人が考えている。そのため、風力発電所や太陽光発電所は、電気の使用場所から遠く離れた遠隔地に設置されることが多い。このため、発電と送電にかかる費用がかさみ、何キロメートルにもおよぶ送電線が必要になる。
【0015】
地熱地帯の一部では、水蒸気や過熱水の形をした水が割れ目から自然に湧き出し、間欠泉や温泉を形成している。そのような熱源は、しばしば断続的で、信頼性が低く、一貫性がない。初期の地熱発電事業は、帯水層まで掘削してエネルギーを取り出していた。これらのプロジェクトの多くは、現在のピーク時のエネルギー生産量よりはるかに少ない。熱流量が不十分で、取り出した熱を補充できないか、帯水層の熱水が枯渇している場合もある。いずれにしても、帯水層からの揚水が長期的に持続可能でないことは明らかである。
【0016】
自然の水流によって地表にもたらされた熱を利用するという意味で、このような自然の温水源の利用は「受動的」地熱と表現するのが適切かもしれない。あまり恵まれていない土地環境で地熱エネルギーを探すために、地中深くから熱を取り出し、地表に持ってくるさまざまな方法が考案されてきた。これらの技術は通常、熱伝達流体を高温の岩石層に送り込み、地下の熱を吸収した後にその流体を送り出すというものである。したがって、エネルギーを生み出すにはエネルギーが必要となる。このような技術は、「能動的」地熱エネルギーと呼ぶことができる。
【0017】
現代の能動的な地熱エネルギー事業は、2つのグループに分けられる。第1のグループは、流体(通常は水)を注入井戸から高温の岩盤に送り込み、高温の岩盤中を移動させながら熱を集めるものである。その後、注入井戸から垂直に少し離れた位置にある抽出井戸で流体を回収し、地表にポンプで戻して熱を直接利用するか、電気に変換する。井戸は通常、水平方向に掘削される。これは、流体にさらされる高温の岩石の量を最大にするためであり、また、一般に垂直方向が多い地球の自然亀裂を利用するためでもある。加熱された流体は、熱を上方に伝える対流に頼って上方に移動できると期待される。しかし実際には、流体は自然の亀裂系全体に分散し、そのごく一部だけが採掘井に到達することもある。
【0018】
これは「プルーム」アプローチと呼ばれることもある。大量の流体を必要とし、流体は岩石マトリックス全体に分散するため、注入された流体の多くは回収されない。ちょうど暑い日に立ち上る煙のように、プルームは上昇するにつれて広くなる。そのため、論理的には、注入井戸と抽出井戸の間の垂直距離を長くすることによって、捕捉可能な熱の量を増やせるとも考えられる。しかし実際には、垂直距離が長くなればなるほど、プルームの分散が大きくなる。したがって、抽出井戸に到達する流体の量は少なくなる。
【0019】
注入流体として二酸化炭素(CO2)を使うことが提案されており、これにはいくつかの利点がある。例えばCO2の熱特性は水の熱特性よりも優れており、流体が岩盤に留まることは実際に有益である。これは炭素隔離の一形態である。
【0020】
注入井戸から採収井戸への流体の流れを改良するために、いくつかの地熱事業では、井戸と井戸の間の岩盤に水圧破砕を施す。これにより自然の破砕システムを強化し、注入井戸と採収井戸の間の流量を増加させる。この技術は、「強化された」地熱発電と呼ばれている。石油やガス生産のための水圧破砕と同様、従来のオーバーバランス掘削技術で井戸を掘削する際に、天然の亀裂系に損傷を与えた後に使われることが多い。また、水圧破砕法は自然の亀裂系を強化するのか、それとも単に重い掘削泥水を亀裂にさらに押し込んで全体的な浸透性を実際に低下させるだけなのかについては疑問もある。
【0021】
地熱井戸の水圧破砕は、炭化水素の掘削のようにメタンを放出することはない。しかし水圧破砕の結果を改善するためには、しばしば化学薬品を混ぜた大量の水が必要となる。これは、特に米国南西部のような高温の岩石層にはアクセスできる。しかし水が希少で争奪戦が絶えない資源である地域では、深刻な欠点である
【0022】
地熱発電は、土地の安定性に悪影響を及ぼすことが指摘されている。例えばニュージーランドのワイラケイ油田では地盤沈下が起きている。地震活動が活発な地域では、大量の水を注入することで地震を引き起こすことがある。これは、注入された水が既存の断層を潤滑にし、断層面が滑るようになるからである。スイスのバーゼルで行われた地熱発電プロジェクトでは、掘削開始から6日間に1万回以上の地震現象が観測された。中にはマグニチュード3.4のものもあったため、このプロジェクトは中断された。
【0023】
加熱された水の流れを促進するために水圧破砕が使われる場合、この影響がさらに悪化する可能性がある。こうした理由から、多くの自治体では地熱井の水圧破砕を「水圧破砕の禁止」に含めている。水圧破砕に反対している地域では、地域社会に対して、ある種の「水圧破砕」が他のタイプの水圧破砕ほど悪くはないと説得するのは事実上不可能である。このような禁止措置は、地熱資源の開発を問題にし、クリーンなエネルギー資源を最も必要としている人口密度の高い地域に課せられることが多い。
【0024】
深い岩石層から汲み上げられた水には、二酸化炭素、硫化水素、メタン、アンモニアなどさまざまな溶存ガスが含まれている可能性がある。二酸化炭素とメタンは、よく知られた温室効果ガスである。地熱エネルギーは、化石燃料を使うよりもはるかに少ない二酸化炭素しか発生させないが、この問題を無視することはできない。硫化水素とアンモニアは、微量でなければ危険である。これらのガスは酸性雨の形成にも寄与する。従って、注入・回収方式を採用する地熱発電所は、排出制御システムを備えなければならず、場合によっては、大気中に導入される二酸化炭素の量を減らすために、炭素隔離システムを設置しなければならない。
【0025】
地中深くから汲み上げられる加熱水は、タービンや発電設備に損傷を与える可能性のある溶存鉱物を大量に含んでいる場合がある。これらの物質には、水銀、ヒ素、ホウ素、アンチモン、塩(塩化ナトリウム)などがある。水が冷えると、これらの物質は溶液から脱落する。環境への被害を防ぐため、これらの物質は責任ある方法で処理されなければならない。これはしばしば、地熱プロセスのために注入される水とともにこれらの物質を地中に再注入することで実現される。
【0026】
能動的な地熱エネルギー生産への2番目のアプローチは、高温の岩石層内のパイプを通して汲み上げられる水その他の流体を使うものである。これらはクローズドループ方式と呼ばれる。この方式では、井戸に送り込まれた流体はすべて地下のパイプの中に収められ、回収され再利用される。この方法には独自の問題がある。その一つはエアポケットの形成、つまりパイプシステム内の最適な位置よりも早い時点で水が蒸気に変わることである。このようなエアポケットは、水の流れを妨げ、地熱の熱伝達プロセスの効率を大きく低下させる。
【0027】
クローズドループ方式には2つのバリエーションがある。第1のバリエーションは、単一の井戸と同心円状のパイプを使って熱伝達流体を垂直井戸に送り込み、次に方向性井戸に沿って送る方法である。井戸の終点で熱伝達流体はUターンし、同心チューブ内で井戸に沿って逆流する。この方法の利点は、1つの表面サイトと1つの井戸しか必要としないことである。
【0028】
クローズドループ方式の第2のバリエーションもまた、パイプを使って熱伝達流体を垂直井戸に送り込み、次に方向性井戸に沿って送るが、熱伝達流体は第2の垂直井戸を上って地表に戻される。流体は地表に到達すると、地表または浅いパイプラインを通って注入井戸に送り返される。熱の抽出は、通常流体が地表に到達するときに行われる。もちろんこの方法は、2箇所の地表を必要とし、戻りパイプラインの許認可の問題が生じる。
【0029】
クローズドループ方式は、誘導地震や抽出された流体の汚染に関する問題を排除する。しかし、2つの大きな弱点がある。高温の岩石と接触するパイプの表面積が比較的小さく、パイプを取り囲む岩石からの熱は急速に奪われる点にある。言い換えれば、熱はパイプを取り囲む岩石から取り除かれ、周囲の岩石から流れ込む熱によって補充されるよりも早く地表に伝わる。オペレーターは、より長い井戸を掘削し、より長いパイプを設置することで、この問題に対処してきた。第2の問題は、依然として難題である。1つの解決策は、同じ地表の位置から放射状に一連の井戸を掘削し、それぞれの井戸を一定期間順番に使うことである。これは、1本の井戸を使う方法ではうまくいくが、2本の井戸を使う方法ではより多くの問題が生じる。もちろん、これは設置のコストと複雑さを増し、プロジェクトの経済性を変えてしまう。他の提案されている解決策はさらに複雑で、例えば、熱交換設備を両方の地表に設置し、流れの方向を反対にした2つの井戸を並列に設置する方法などがある。
【0030】
背景-炭素隔離
本発明の第2の構成要素は、炭素隔離、すなわち、二酸化炭素が大気から除去され、地球温暖化に寄与しないように、地層に二酸化炭素を恒久的に貯蔵するプロセスに関する。エネルギー利用を自然エネルギーに転換するだけでは不十分であることは、科学者の間で一般的に合意されており、一般の人々もそれを受け入れつつある。大惨事を避けるためには、地球は、温暖化プロセスを逆転させ、大気から二酸化炭素を大量に除去しなければならないところまで来ている。
【0031】
本明細書では、二酸化炭素を回収するための技術については触れていない。このトピックについては、豊富な情報が容易に入手可能であり、現在進行形で新しいアプローチが開発されている。本明細書では、隔離のための二酸化炭素の供給源には主に2つあることに留意すれば十分である。
【0032】
第1の供給源は、二酸化炭素の発生時点での回収である。これには、化石燃料を燃焼する発電所、セメント工場、製鉄所など、明らかなものが含まれる。また、醸造所や大麻栽培など、小規模な二酸化炭素発生源も含まれる。理想的には、二酸化炭素は発電の時点で隔離されることが望ましい。しかし現状では、回収されたガスの多くは専用のパイプラインを経由して隔離施設に送られる。現場での隔離能力の欠如とパイプラインの利用可能性の制限により、現時点では、捕捉・隔離される二酸化炭素の量には重大な制限が課せられている。
【0033】
これは、大気から二酸化炭素を抽出することを含む。多くの場合、これは大型エアコンに似た機械に大量の空気を通すことで達成される。もちろんこれらの機械を動かすには何らかのエネルギーが必要であり、天然ガスや天然ガスから発電された電気を使う場合もある。当然のことながら、最初のステップは、エネルギーを作り出す際に排出される二酸化炭素を回収することである。
【0034】
一旦二酸化炭素が回収されると、それを地下の岩盤に汲み上げ、永久貯蔵することができる。このプロセスは「炭素隔離」として知られている。ここで注意しなければならないのは、隔離の目的が二酸化炭素の永久処分にある点である。これは、炭化水素の二次・三次回収のために、二酸化炭素を油井やガス井に注入することとはまったく違う。炭化水素の回収に必要な量以上の二酸化炭素を地中に圧入している事業者もあり、これは隔離の一形態とみなすことができる。
【0035】
隔離の初期の試みにおいて生産寿命が尽きた利用可能な油井やガス井を使うことが多かったため、これが最良の、あるいは唯一のアプローチであると考えられがちである。しかし、参照した特許出願に記載されている掘削技術を使えば、炭素隔離のためだけに効率的かつコスト対効果のよい方法で井戸を掘削することができる。そのため、二酸化炭素を発生地点から処分場所まで輸送するパイプラインは不要である。例えば、セメント工場や、油田やガス田の近くにない発電所が専用の炭素隔離井戸を持つことができる。
【0036】
逆に、パイプラインやターミナルのような便利な輸送手段から何キロメートルも離れた所にある油田やガス田を、炭素回収機械を動かすためのエネルギーを生成する目的で開発し、二酸化炭素をオンサイトで処分し、その一部を二次回収や三次回収に利用することもできる。炭素回収税額控除や炭素取引制度の増加により、遠隔地での炭化水素発見の経済性は大きく変化する。
【0037】
しかし、古い油井やガス井の利用が理想的であるとは限らないことを念頭に置かなければならない。確かに古井戸の利用は、古井戸から利益を得る人々によって盛んに推進されてきた。しかしこれらの井戸は、重い掘削泥水で掘削され、岩石層を塞いでしまったことはほぼ間違いない。また、水圧破砕が行われた可能性も高い。井戸の大部分はケーシング掘削されており、二酸化炭素が地層に接触できるのは、穿孔された井戸の限られた部分だけである。穿孔はまた、穿孔領域周辺の岩盤の圧縮を含む地層損傷を引き起こす。長年の生産期間中にファインが移動し、井戸周辺の透水性の大部分が封鎖された可能性もある。また、これらの井戸は石油やガスを輸送するパイプラインの近くに位置しているが、二酸化炭素を井戸まで運ぶパイプラインのインフラが整備されていない可能性もある。このようなインフラを整備するコストに起因して、パーミア盆地のようにインフラが密集している地域を除き、枯渇した井戸を利用するメリットがない場合もある。
【0038】
背景-掘削
地熱井戸の掘削および二酸化炭素隔離井戸の掘削は、従来の掘削技術よりもコストが低く、掘削速度が速いという点で、参照した特許出願に記載されているニアバランス掘削技術から大きな恩恵を受ける。しかし最大の利点は、これらの掘削技術によって掘削中の地層損傷を回避できる点にある。天然亀裂系は重い掘削泥水で塞がれず、岩石層内の天然亀裂系の浸透性は維持される。これにより、地熱利用における流体の流れが改善され、熱伝達が促進される。また、井戸が二酸化炭素を地層中に分散させる能力を向上させ、井戸の隔離能力を高め、井戸の耐用年数を延ばすことができる。
【0039】
天然亀裂系の浸透性および隔離能力に損傷を与えない掘削技術を使うことは、従来の掘削技術によって引き起こされた損傷を元に戻すために水圧破砕に頼る必要がないという付加的な利点をもたらす。このアプローチは、全体的なコストを削減するだけでなく、水圧破砕に必要な大量の水、砂、化学薬品も必要としない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0040】
炭素隔離と地熱エネルギーの創出の両方を組み合わせ、最適化する方法が必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0041】
一実施の形態では、地球の地下にある井戸から地熱エネルギーを抽出する方法が提供される。この方法は、以下のステップを含む。ドリルビットおよびドリルストリングを用いて、高温の岩石層まで掘り下げ井戸を掘削するステップ。前記ドリルストリングと前記井戸との間に外側環状体を形成するステップ。前記ドリルストリングの内側に同心チューブを設置することにより内側環状体およびクローズドループ流体流路を形成するステップ。前記高温の岩石層内に第1の熱伝導流体の雲を形成するために、前記第1の熱伝導流体を前記外側環状体から前記高温の岩石層内に注入するステップ。第2の熱伝導流体を前記内側環状体から前記クローズドループ流体流路に送り込み、前記第2の熱伝導流体を前記同心チューブを通して地表に戻すステップ。前記第2の熱伝導流体によって抽出された熱を利用可能なエネルギーに変換するステップ。
【0042】
別の実施の形態では、地熱発電と二酸化炭素隔離とを同じ井戸内で組み合わせる方法が提供される。この方法は、以下のステップを含む。ドリルビットおよびドリルストリングを用いて、高温の岩石層まで掘り下げ商業的に実行可能な井戸を掘削するステップ。前記ドリルストリングと前記井戸との間に外側環状体を形成するステップ。前記高温の岩石層内で前記井戸の方向性セクションを取り囲む領域に超臨界二酸化炭素の雲を形成するために、前記超臨界二酸化炭素を前記外側環状体から前記高温の岩石層内に注入するステップ。前記井戸内に配置された少なくとも1つの機器を用いてデータを収集するステップ。熱流量が所定の値を超える場合、前記ドリルストリングの内側に同心チューブを設置することにより内側環状体およびクローズドループ流体流路を形成するステップ。熱流量が所定の値を下回る場合、前記井戸を二酸化炭素隔離にのみ使い続けるステップ。熱伝導流体を前記内側環状体から前記クローズドループ流体流路に送り込み、前記熱伝導流体を前記同心チューブを通して地表に戻すステップ。前記熱伝導流体によって抽出された熱を利用可能なエネルギーに変換するステップ。
【0043】
別の実施の形態では、二酸化炭素隔離井戸と地熱エネルギー生成井戸とを組み合わせる方法が提供される。
【0044】
この方法は、以下のステップを含む。ドリルビットおよびドリルストリングを用いて、高温の岩石層まで掘り下げ二酸化炭素隔離井戸を掘削するステップ。前記ドリルストリングと前記二酸化炭素隔離井戸との間に外側環状体を形成するステップ。前記高温の岩石層内で前記二酸化炭素隔離井戸の方向性セクションを取り囲む領域に超臨界二酸化炭素の雲を形成するために、前記超臨界二酸化炭素を前記外側環状体から前記高温の岩石層内に注入するステップ。前記二酸化炭素隔離井戸内に配置された少なくとも1つの機器を用いてデータを収集し、熱流量が所定の値を超える場合前記ドリルストリングの内側に同心チューブを設置することにより内側環状体およびクローズドループ流体流路を形成するステップ。熱伝導流体を前記内側環状体から前記クローズドループ流体流路に送り込み、前記熱伝導流体を前記同心チューブを通して地表に戻すステップ。前記熱伝導流体によって抽出された熱を利用可能なエネルギーに変換するステップ。
【0045】
さらなる実施の形態が本明細書に開示されているか、または本明細書および図面を読んで理解した後に当業者に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0046】
本発明の様々な実施の形態の異なる態様は、以下の明細書、図面および特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【0047】
図1A】能動的な地熱抽出の基本的なアプローチを示す図である。
【0048】
図1B】ケーシングの有孔部分を使った熱抽出を示す図である。
【0049】
図2】方向性井戸を使った地熱抽出のプルーム法を示す図である。
【0050】
図3】1本の垂直井戸から方向性井戸を使って地熱を抽出するプルーム法を示す図である。
【0051】
図4】1本の井戸から地熱を採取するクローズドループ法を示す図である。
【0052】
図5】地熱を抽出するための、複数の方向性井戸からなる放射状のシステムを示す図である。
【0053】
図6】2つの井戸を持つクローズドループの地熱汲み上げ方法を示す図である。
【0054】
図7】地熱井戸または隔離井戸を掘削する第一段階を示す図である。
【0055】
図8】地熱井戸または隔離井戸を掘削する最終段階を示す図である。
【0056】
図9】地熱エネルギー生産と炭素隔離のために構成された井戸を示す図である。
【0057】
図10】花崗岩石層に掘削された、地熱エネルギー生産と炭素隔離のための垂直井戸を示す図である。
【0058】
図面は必ずしも縮尺通りではない。同様の符号は、図面全体を通じて同様の部品またはステップを指す。
【発明を実施するための形態】
【0059】
いくつかの実施の形態の詳細な説明
【0060】
以下の説明では、本発明の様々な実施の形態について十分な理解を与えるために、具体的な詳細を提供する。しかしながら当業者であれば、本明細書、特許請求の範囲および図面を読めば、本発明のいくつかの実施の形態は、本明細書に記載されたいくつかの具体的な詳細にこだわることなく実施され得ることを理解するであろう。さらに、本発明が曖昧となることを避けるため、本明細書に記載される様々な実施の形態において適用を見出すいくつかの周知の方法、プロセス、および装置およびシステムは、詳細に開示されない。
【0061】
次に図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。本発明は、多数の方法で実施できる。以下、本発明のいくつかの実施の形態について説明する。添付の図面は、本発明の典型的な実施の形態のみを示すものであり、したがって、その範囲および幅を限定するものとはみなされない。図面では、すべてではないがいくつかの可能な実施の形態が図示されており、縮尺通りに示されていない場合がある。
【0062】
本明細書で提供される発明の実施の形態または応用は例示を意図しており、限定を意図しない。
【0063】
本明細書を通じて、「方向性井戸」または「方向性のある井戸」という用語は、方向性を持ち、水平、実質的に水平、偏位、傾斜、斜め、または特定の地下岩石層に沿った井戸または井戸を意味するものと定義される。この用語は、このような井戸を、実質的に垂直な井戸と区別するために使われる。
【0064】
次に図面を参照して、まずプルームアプローチを使った、地熱発電のために掘削された井戸を考察する。図1Aは、地熱を積極的に取り出す最も単純な方法を示している。これは、熱伝導流体100(通常は水)を、注入ポンプ104を使って垂直の注入井戸102に注入し、熱伝導流体100が熱を拾う高温の岩石層106に注入することに他ならない。次に、熱伝導流体100は、抽出ポンプ110を使って、通常は高温の岩石層106のやや高い位置にある垂直抽出井戸108から、できればはるかに高い温度で汲み出される。加熱された流体は、蒸気タービンを作動させて発電するために直接使うことができる。他の実施の形態では、加熱された流体は熱交換器に通され、その熱はタービン発電機を駆動するための蒸気を生成するのに使われる。理論的には、注入された熱伝導流体100の多くは、流れ矢印112で示されるように、抽出井戸108に向かって流れ、抽出井戸108によって捕捉される。しかし実際には、注入された熱伝導流体100が垂直注入井戸102から放出されると、流れ矢印114で示すように天然亀裂系を通って急速に拡散し、抽出井戸108にはほとんど到達しない。これは当業者には明らかであろう。したがって、この方法はあまり効果的ではない。
【0065】
注入井戸を抽出井戸のリングで囲む、あるいはその逆など、効果を高める方法がある。この場合、熱伝導流体を中央の熱抽出ユニットに送ったり、抽出されたエネルギーを蓄積するために他のステップを踏んだりする必要があるため、表面に複雑さが加わる。また、熱伝導流体が熱抽出井戸の真下に注入されるように、注入井を逸脱させることも考えられる。この場合も、天然亀裂系を通る分散によって、捕捉される熱の量が制限される。
【0066】
この場合、必要な井戸120は1本だけである。従って熱抽出は、流体注入チューブ124と同心の外側ケーシング122の穿孔部を使って実現される。熱伝導流体16は、流れ矢印126で示すように、流体注入チューブ124を下降して高温の岩石層106に圧送され、流れ矢印128で示すように、穿孔された外側ケーシング122の周囲を上昇するにつれて、流れ矢印130で示すように、抽出ポンプによって穿孔を通って外側ケーシング132と流体注入チューブ124との間の環状体に引き込まれる。
【0067】
現代の掘削技術では、水平または水平に近い井戸を掘削して、熱伝導流体を高温の岩石層に最大限露出させることが理にかなう。この方法の1つの可能な実施の形態を図2に示す。熱伝導流体200は、垂直セクション204と方向セクション206を有する注入井戸202をポンプで圧送される。熱伝導流体は、注入井戸202の方向セクション206から高温岩石層106に放出される。熱伝導流体200は、周囲の高温岩石層106から熱を集め、流れ矢印214で示すように、抽出井戸212の方向セクション210に向かって上昇する。その後、熱伝導流体は、抽出井戸212の垂直セクション216から送り返され、発電するためにタービンまたは熱交換器に送られる。
【0068】
図3は、この方法の変形例を示しており、1本の垂直井戸300を使い、そこから方向性注入井戸302と方向性抽出井戸304の両方が掘削される。同心ケーシング306により、熱伝導流体308を注入井戸302から下へ、そして抽出井戸304から上へ送り出すことができる。
【0069】
上述のように、水圧破砕の使用によって、より高い熱抽出率を得ようとするのが一般的な方法である。岩石がより破砕されれば、より多くの水が注入井戸から抽出井戸に流れるという考え方である。しかしこの場合、水圧破砕によって天然の亀裂系が開き、熱伝導流体が所望の垂直経路から外れてしまう危険性がある。
【0070】
図4は、クローズドループ方式のアプローチを示している。図4では、1つの垂直井戸400が掘削され、方向性井戸402が垂直井戸400から高温岩石層106に掘削される。同心チューブ404は、熱伝導流体が垂直井戸400を下降し、方向性井戸402に沿って、流れ矢印408で示すように井戸406の終端まで圧送できるように設置される。その後、流体はUターンし、流れ矢印412で示すように、同心チューブ404と井戸400の間の環状体410に沿って、上方に戻される。熱伝導流体は周囲の高温の岩石層106には放出されない。このアプローチの背後にある考え方は、周囲の岩石からの熱流が、抽出され地表に伝達された熱を補充するのに十分であるというものである。
【0071】
実際には周囲の高温岩石層の熱が急速に枯渇するため、これは期待したほどうまくいかないことから、熱伝達を強化するための様々なアプローチが試みられてきた。例えば方向性井戸の長さを長くすることで、熱伝導流体が地表に戻る前に深部で熱を回収する時間を長くすることができる。井戸内の熱伝導流体が多ければ多いほど、熱伝導流体を循環させ続けるためのポンプはより強力でなければならない。
【0072】
図5に示すように、一部のプロジェクトでは、複数の方向性井戸502~526が、1つの垂直井戸から、または1つのパッド上の複数の垂直井戸からでさえ、中央ポンプおよび発電機設備500を使って、多方向に掘削される。これにより、熱が抽出される地下の体積が大幅に増加するだけでなく、他の井戸がまだ生産している間に、いくつかの方向性井戸が熱枯渇から回復することが可能になる。井戸の半径方向の間隔と長さは、井戸間で同じではなく、地質と利用可能な高温岩体ゾーンによって決まることに注意されたい。図5は平面図であるが、当業者であれば、複数の注入井と抽出井を異なる深さで掘削できることを理解するであろう。
【0073】
図6は、注入井戸602と抽出井戸604がかなり離れており、井戸への長い方向成分606を可能にし、高温岩石層を通過する間に熱伝導流体608によって集められる熱を多くする、異なるクローズドループ方式のアプローチを示している。このように井戸を掘削するには、高度な掘削技術が必要であり、これは高コストを意味する。それぞれの場所で垂直井戸を掘削し、水平に掘削するためにドリルビットを610、612のように変位させ、地熱井戸に必要な深さで達成するのが非常に困難な精度で2つの井戸614を合流させなければならない。熱伝導流体608は、ポンプ620によって注入井戸602から送り出され、ポンプ622によって抽出井戸604から送り出される。地表にもたらされた熱が発電に利用された後、624で、冷却された熱伝導流体608は、パイプ626に沿って送り返され、タンク628に貯蔵される。
【0074】
他のループが局所的な熱枯渇から回復する間、いくつかのループを使うことによって連続的な発電能力を提供するべく、再び2ウェルクローズドループアプローチを放射状システム、またはグリッドシステムに適合させることができる。
【0075】
クローズドループ方式アプローチは、熱伝導流体として水を使う場合、問題に遭遇することがある。すなわち過熱された水が地表に近づくにつれて圧力が低下し、水が水蒸気となり、流れを妨げる蒸気ポケットが形成され、ポンプの運転に悪影響を及ぼす可能性がある。キャビテーションに起因する同様の問題は、流体が急速な方向転換を余儀なくされるため、方向性井戸の端部でも発生する可能性がある。
【0076】
これらすべてのアプローチは、有望であると思われるが、地熱発電は、全体的なエネルギーミックスに対して、本当の意味でインパクトを与えるには至っていない。プルームアプローチでは、注入された流体の分散は、しばしば無視されるか過小評価される。クローズドループ方式アプローチの問題は、井戸に近い岩石や、流体が注入・抽出される領域で、熱が急速に奪われることが最も大きな原因である可能性が高い。結局、岩石は断熱材である。熱が急速に奪われれば、岩石は冷え、熱応力を受ける。これはより多くの亀裂を促進し、したがってプルーム法より多くの流体の流れを促進するが、その影響は比較的軽微である。
【0077】
ここで本発明を考えると、これまでの地熱技術に関連する、先に述べた問題やその他の問題が解決される。さらに地熱井戸を二酸化炭素隔離井戸と組み合わせることで、投資に対する最大限のリターンを得るとともに、井戸の耐用年数を延ばすといった効果を奏する様々な実施の形態が実現される。
【0078】
先に述べたように、いくつかの地熱井戸は、水や流体を岩盤に送り込み、加熱された流体のプルームの一部を別の井戸から回収することを目指す。他の地熱技術では、クローズドループ方式を使い、熱伝導流体をパイプに送り込み、同じ井戸または別の接続された井戸を通して地表に戻すが、流体は岩盤に放出されない。これらのアプローチには、上記のような欠点がある。これらの欠点を克服するために、本発明はハイブリッドアプローチを採用する。
【0079】
本明細書で開示される実施の形態は、プルームアプローチで行われるように、熱伝導流体を周囲の岩石層に注入する。このハイブリッドアプローチの特徴は、注入された流体がプロセスのどの時点でも回収されない点にある。注入された流体は自然の亀裂系を満たし、井戸を取り囲む雲を形成し、そこで伝導性熱伝達メカニズムとして作用する。この方法では、注入された流体も自然に発生した流体も地下から回収されない。従って、プルーム法のように、捕捉された流体中の溶存ガスや鉱物を処理する装置は不要である。
【0080】
注入された流体の膨張するプルームからこの流体内の熱を捕捉する代わりに、本発明は、井戸を取り囲む自然亀裂系を満たしている、または満たしてきた(すなわち地層水)注入流体および/または自然発生流体を通して井戸に向かって伝わる熱を抽出することに基づく。熱抽出は、クローズドループ方式の同心円状のパイプを使い、熱伝導流体を一方のパイプで井戸の端まで運び、そこから同心円状のパイプの他方のパイプに沿って戻す。
【0081】
このプルームとクローズドループ技術の組み合わせは、クローズドループシステムの通常の問題、すなわち近傍の周囲の岩石からの熱がクローズドループ内の流体に伝達され、従って地表に伝達されるにつれて熱回収率が低下するという問題を克服している。本システムでは、注入された流体が効果的な熱伝達メカニズムとして機能する。注入された流体の雲で満たされた岩石の体積は常に膨張し、利用可能な地熱エネルギーを増加させる。注入された流体が井戸から外側に流れる速度は、熱が岩石の体積から井戸に向かって内側に伝わる速度よりも遅い。岩石を通しての熱伝導もあるが、井戸に到達する熱の多くは、注入された流体が自然の亀裂系を満たしている間に伝達される。
【0082】
図7は、地熱エネルギー井戸700の掘削の初期段階を示している。方向性井戸の掘削の進歩によって可能になった技術を採用し、井戸は、ケーシング704を備えた垂直セクション702で掘削され、カーブ706を通って方向性井戸708へと変化し、適切な岩盤層で掘削される。本発明の好ましい実施の形態では、深さは異なるものの、どこにでも見られる花崗岩710の岩盤を掘削する。花崗岩は硬く、脆く、天然に高度に破砕されている。重要なことは、花崗岩はウランやその他の放射性重元素を含んでおり、それらが崩壊することによって、地熱エネルギー事業のための熱を発生することである。もちろん堆積岩石層でも、ここに開示したすべての技術を使うことができる。
【0083】
井戸700の垂直セクション702は、従来の掘削方法で掘削することができる。この時点では、まだ地層の損傷を回避しなくてもよいので、掘削泥水を使う従来の技術に不利な点はない。井戸700の垂直セクション702は、通常、米国では直径9 5/8インチの業界標準のケーシング704を使う。図7では花崗岩710である目標地層に到達すると、井戸は方向性井戸として掘削される。いくつかの実施の形態では、垂直セクション702とカーブ706は、電気掘削モーターを使って掘削される。
【0084】
図8に示すように、井戸700の方向性セクション802は、重い掘削泥水を使うことで通常与えられる地層損傷を避けるために、常にアンダーバランスまたはバランスに近い状態で掘削される。環状圧力制御ダイバータおよびニアバランスド・リザーバ掘削(NBRD)を使ってこれを安全に行う方法の詳細な説明については、’919特許を参照のこと。’919特許に開示された技術は、水、ラドンガス、あるいは炭化水素を含め、掘削中に井戸から流体が漏れないようにするために使われる。NBRD法では高温岩石層の天然亀裂系が損傷されないため、水圧破砕やその他の修復処理が不要である。
【0085】
図8に示す実施の形態では、井戸700の方向性セクション802は、例えば米国では直径5 1/2インチのドリル・イン・ライナー804を使って掘削される。ドリルビット806の直径はかなり大きく、約10インチである。オープンホール掘削として知られる技術では、方向性セクション802にケーシングはセットされない。井戸808はドリルビットと同じ直径を有するので、ドリル・イン・ライナー804の水平セクションと井戸808の表面との間に環状体810が形成される。また、ケーシング704とドリル・イン・ライナー804の垂直部との間にも環状体818が存在する。
【0086】
いくつかの実施の形態では、ジェットポンプ820がドリルビット806の後方に設置される。ジェットポンプは、ドリルビットの前の領域から切削屑を除去し、高い貫入速度を可能にする強力な吸引を作り出す。ジェットポンプを使ってドリルビットの前方に真空を作り出し、それによってドリルビットの前方に真のアンバランス状態を作り出して地層の損傷を回避する方法については、発明者William James Hughes、出願人Hughes Tool Company LLCの米国特許第11、168、526号明細書「ジェットポンプ掘削アセンブリ(Jet Pump Drilling Assembly)」を参照されたい。
【0087】
図9は、掘削が完了した後の地熱井を示す。ドリル・イン・ライナー804を使う実施の形態では、ドリル・イン・ライナー804はクローズドループシステムの重要な構成要素であり、掘削が完了するとそのまま放置される。従って、ドリルビット806とジェットポンプ820も井戸808に残される。これは、ドリルビット806およびジェットポンプ820の回収に関するコストを排除するためでもある。また、地熱エネルギーの生産を延長したり、炭素隔離のために井戸を準備したりするために、後日井戸を延長する可能性もある。小口径の同心チューブ902は、ドリル・イン・ライナー804の内側に設置され、ドリル・イン・ライナー804と同心チューブ902との間に内側環状体904を作る。いくつかの実施の形態では、同心チューブ902は真空断熱チューブである。
【0088】
井戸が掘削され、同心チューブが設置されると、次のステップは、井戸を操業可能にすることである。いくつかの実施の形態では、第1の熱伝導流体920が、外側垂直環状体818を下降して方向性環状体810に圧送される。それは、ケーシング掘削されていない井戸808と接触する。従って、第1の熱伝導流体920は、流れ矢印921で示されるように、地下の自然亀裂系に移動し始める。第1の熱伝導流体920があらゆる方向に膨張するにつれて、第1の熱伝導流体920の雲922を形成し、岩石層から井戸に熱を戻す効率的な伝導手段で亀裂系を満たす。先行するクローズドループシステムでは、同心チューブシステムの外面は、絶縁体である岩石層と接触している。本発明において、開孔掘削を使うことは、同心チューブの外面が、岩石層に含まれる第1の熱伝導流体920と直接接触する方向性環状体810において、第1の熱伝導流体920によって取り囲まれることを意味する。
【0089】
次いで、ドリル・イン・ライナー804と同心チューブ902との間の内側環状体904に第2の熱伝導流体940を送り込むことによって、クローズドループシステムが開始される。第2の熱伝導流体940はドリル・イン・ライナー804の端部まで圧送され、そこでUターンして、流れ矢印924で示すように同心チューブ902に沿って逆流する。これは、図4のクローズドループで示されたものの逆であるが、その例では流れが逆であった可能性もある。同心チューブ902が真空断熱チューブである場合、上向きに流れる加熱流体を封じ込め、第2の熱伝導流体940が表面に戻る際にできるだけ多くの熱を保持するために、これを使うことが好ましい。
【0090】
第2の熱伝導流体940が地表に到達すると、それが運ぶ熱は、加熱のために直接使われるか、熱交換器とタービン駆動発電機の従来のシステムによって電気エネルギーに変換される。周囲の高温の岩石層から熱が抽出されると、注入された第1の熱伝導流体920によって亀裂ネットワークに沿って伝導される熱によって補充される。このようにして、これらのハイブリッド実施の形態は、プルームアプローチとクローズドループ方式アプローチの両方の欠点を克服する。
【0091】
井戸の耐用年数を延ばし、地熱エネルギーの生産量を増やすために、以前にテストされた技術を改良して使うことができる。これらには、複数の方向性井戸を掘削し、それぞれの井戸で一定期間地下の熱エネルギーを抽出し、その後注入された第1の熱伝導流体920が自然の割れ目系を通って拡散するように回復期間を置き、さらに第1の熱伝導流体920を注入する、といった方法が含まれる。
【0092】
雲922を形成する注入された第1の熱伝導流体920は、水、ブライン、超臨界二酸化炭素、または捕捉された排ガス、またはこれらの流体のいずれかの混合物であってもよい。超臨界二酸化炭素を使うと、熱伝達が強化される。二酸化炭素は、比較的低い温度と圧力(90°Fと1070psiで十分)で超臨界状態にすることができる。そのため、超臨界二酸化炭素には加圧装置が必要となるが、水と同様に流出しても無害であり、無毒で、不燃性である。後述するように、地熱井戸が、エネルギー生産と同時に、あるいはライフサイクルの後半に、炭素隔離の可能性を持つ場合、超臨界二酸化炭素の利用は商業的に理にかなっている。
【0093】
クローズドループの第2の熱伝導流体940は、注入された第1の熱伝導流体920と同じ流体であってもよいし、異なる流体であってもよい。注入された流体920と第2の熱伝導流体940とが同じ流体である必要はない。いくつかの実施の形態では、超臨界二酸化炭素は、その優れた熱伝達特性のため、両方の熱伝導流体として使われる。他の様々な実施の形態では、異なる流体が使われてもよい。例えば水または食塩水、あるいは様々なタイプの熱伝導油が使われてもよい。
【0094】
いくつかの実施の形態では、井戸は、地熱エネルギーを発生させる処理を開始する前に、熱伝達を可能にするために、注入された第1の熱伝導流体920で一定期間呼び水処理される。呼び水プロセスの最初のステップは、超臨界二酸化炭素を井戸に送り込むことである。超臨界状態の炭酸ガスは、自然の割れ目を通って井戸の外側に拡散する。井戸を取り囲む岩石の温度および圧力によっては、二酸化炭素が超臨界状態から脱落することもあるが、より多くの二酸化炭素が井戸に送り込まれると、再び超臨界状態になるところまで圧力が高まる。二酸化炭素を汲み上げる過程で、井戸を取り囲む地下の容積が超臨界状態の二酸化炭素で満たされ始めると、その井戸を地熱井戸として構成される準備が整う。
【0095】
ここで、二酸化炭素を浸透性のある地下の岩石層に送り込む炭素隔離のために掘削された井戸に目を向けると、同様のアプローチが使われる。
【0096】
ここで、最初に炭素隔離井戸として掘削された井戸を考える。上述したように、多くの人々は、炭素隔離には既存の枯渇した、あるいは放棄された油井やガス井が必要であると仮定する。この仮定は、技術的な考慮ではなく、経済的な考慮に基づく。既存の井戸を利用すれば、井戸を掘削するコストがかからないのは明らかである。しかしこの方法はいくつかの重要な要素を考慮していない。多くの場合二酸化炭素は、利用可能な油井やガス井からかなり離れた場所で生成または回収されるため、二酸化炭素を輸送するためのパイプラインが必要となる。このようなパイプラインの建設には、複数の土地所有者からの許可取得を含め、莫大な費用がかかる。様々な理由によるパイプラインへの反対も予想され、建設プロセス全体が実現するとしても何年もかかる可能性がある。
【0097】
枯渇した井戸を利用することの第2の問題は、それらはほぼ確実に炭素隔離を念頭に置いては掘削されていないということである。それらはおそらく、重い掘削泥水の使用を含む従来の掘削技術で掘削され、天然の亀裂システムを塞いで岩石層を損傷したと考えられる。この損傷は、泥水を亀裂や孔にさらに押し込むフラッシングによってさらに悪化しただろう。典型的なトレース井戸の生産寿命は比較的短く、隔離井戸としての再利用には適していない。
【0098】
枯渇した油井を利用する際の第3の潜在的問題は、少なくとも米国においては、所有権の問題である。米国の法律では、地上権の所有権は地下鉱区権の所有権とは別であることが多い。しかし、一般に地下の間隙の所有権は地上権の所有者に属するとされている。間隙は法的には鉱業権の一部ではなく、「鉱物の欠如」からなるものと考えられてきた。つまり鉱業権の所有者や賃借人は、石油やガスを採掘する権利は持っていても、その結果生じる間隙を二酸化炭素などで満たす権利は持っていない可能性が高い。隔離を行うには、地上権所有者とのまったく新しい協定が必要となる。
【0099】
これらの問題はすべて、炭素隔離を目的として特別に井戸を掘削することによって克服することができる。最新の掘削技術およびテクノロジーを使うことにより、井戸をコスト対効果のよい方法で隔離される二酸化炭素の発生源の近くで、井戸の全体的な隔離可能性を低下させる地層の損傷を伴わずに掘削することができる。本明細書に記載された発明は、’005特許出願に記載された先進的なNBRD掘削技術を利用したものである。これらの発明は、地層損傷を回避し、天然亀裂系をそのまま残すことに重点を置く。
【0100】
目的が二酸化炭素隔離井戸の掘削である場合、上述し、図7および図8に示したのと同じプロセスが踏まれる。ドリル・イン・ライナー804の使用により、方向性井戸808全体が、環状体810に圧送される超臨界二酸化炭素の分散機構として機能する。その結果、超臨界二酸化炭素は、流体の流れを厳しく制限する穿孔間隔を有するケース付き井戸を使う方法よりもはるかに多く岩石層に流入する。ケーシングを穿孔するために必要なコストと時間が不要になる点は、さらなる利点である。
【0101】
炭素隔離の概念は新しいものではない。また、地熱を利用した発電も新しいものではない。この2つを1つの井戸で組み合わせることは目新しいことではないが、最適な設計がなされていないという問題がある。本発明は、これら2つの目的を組み合わせ、1つの井戸を両方の目的に使うという点で新しく、段階的、統合的、最適化されたアプローチを用いてほとんど追加コストをかけずに2つの利益を提供できる可能性がある。
【0102】
二酸化炭素隔離と地熱エネルギー生産とを同じ井戸で行うことを提案する研究者もいる。しかしそのようなアプローチは、通常、上記のような非効率的なプルーム法を採用し、地熱井戸を二酸化炭素隔離井戸として利用することを試みている。このような強制的な組み合わせの欠点の1つは、隔離井戸を最適化するための要件が、地熱井を最適化するための要件と同じとは限らない点にある。以下に詳述するように、本発明は、井戸を両方の用途に最適化することを可能にする。
【0103】
もう1つの欠点は、プロジェクトの他の側面が期待された結果を全く出さなかった場合、プロジェクトが経済的に成功しない可能性がある点にある。この種のプロジェクトのほとんどは、二酸化炭素を利用した地熱プロジェクトとして始まったと考えられる。その結果、隔離井戸として生まれ変わった。実際、プルーム法のアキレス腱である注入流体の分散は、二酸化炭素を地下に送り込む手段として考えれば、肯定的な特徴としかいえない。地熱の性能は二酸化炭素が分散すればするほど悪化する反面、多かれ少なかれ偶然とはいえ、地熱の隔離能力は向上する。
【0104】
超臨界二酸化炭素の使用に関する初期の文献の1つは「Geothermal Energy Production with Supercritical Fluids」と題されたBrownに対する米国特許第6、668、554号である。この特許文献に記載されている技術は、プルームアプローチを開示している。そこでは、二酸化炭素が地下の容積を満たし、その後捕獲され、熱エネルギーが抽出される地表に戻される。これは、プルームアプローチの通常の問題点である、プルームが膨張し、注入された流体のごく一部しか実際に抽出井戸に流れ込まないという問題を抱える。
【0105】
プルームアプローチのより最近の例は、「Carbon Dioxide-Based Geothermal Energy Generation Systems and Methods Related Thereto」と題された、Saarらへの米国特許第8、316、995号に見られる。この技術は、特許請求の範囲の中で明らかにされているように、プルームを閉じ込めるために不透水性のキャップロックの存在に基づく。この特許文献は、岩石層に流体を注入し、地下のある距離で膨張するプルームから流体を回収しようとする問題を少なくとも認めている。
【0106】
1つの井戸を両方の目的に利用できる可能性があることから、本発明のある実施の形態では、地熱エネルギー発電と二酸化炭素隔離とを組み合わせるための、段階的、統合的、最適化されたアプローチが提案される。さらにこれらの段階は、いくつかの要因、特にプロジェクトの経済性に応じて、異なる順序で実施できる。
【0107】
本発明のいくつかの実施の形態では、井戸はまず地熱井戸として作られ、長期的には炭素隔離の可能性が評価される。別の実施の形態では、プロセスは炭素隔離を目的とした井戸の掘削から始まる。一旦二酸化炭素が井戸に送り込まれ、自然の亀裂系を満たし始めると、その井戸は地熱井戸としての可能性が評価される。
【0108】
いずれの実施の形態でも、理想的なプロジェクトは、井戸が両方の目的に適していることを示す既知の特性を持つ地域で実施される。このような事業では、「適切な」という定義には複数の要素がある。地層は、二酸化炭素が隔離された状態を維持し、地表に逆戻りしないことを保証するのに十分な深さでなければならない。炭化水素(破砕液も含む)とは異なり、二酸化炭素は地表に移動しても環境に大きな害はないが、隔離の意味がなくなる。地層は、大量の二酸化炭素を吸収するのに十分な多孔性と、注入井から地層内に二酸化炭素が拡散するのに十分な浸透性を持っていなければならない。長期的な目標は、二酸化炭素が岩石と反応して地層の一部となることなので、地層の化学組成は重要である。しかし岩石が二酸化炭素と急速に反応しすぎると、井戸を取り囲む地層の浸透性が悪化し、流れが妨げられて井戸が使えなくなる可能性がある。
【0109】
本発明において「適切な」とは、通常、隔離井戸にとって重要とは考えられていない要素を含む。これらには、地層の温度や岩石の熱流動特性が含まれる。これらの要素は、井戸を地熱井戸として、二酸化炭素隔離と同時に、またはその後で利用するのに重要である。
【0110】
既存の地熱井戸を二酸化炭素隔離のために評価し、既存の地熱貯留井戸を地熱の可能性のために評価することも可能である。
【0111】
いくつかの実施の形態では、地熱井戸が掘削され、温度、圧力、流量などのセンサが装備される。測定は、超臨界二酸化炭素を注入する前、注入している間、さらに超臨界二酸化炭素が周囲の地層に分散することによって引き起こされる圧力の低下を決定するために注入を一時停止している間に行われる。これらの測定は、地熱井戸や周辺の他の井戸からの井戸記録を含む他のデータと組み合わされることもある。能動的または受動的な地震探査は、注入された流体の雲の範囲と方向性に関して、貴重な洞察を与えることができる。このようにして、井戸のコストをまかなうためのエネルギーを生成しつつ、二酸化炭素隔離井戸として井戸を利用する可能性を評価できる。
【0112】
超臨界二酸化炭素が井戸に圧入され、分散するにつれて、分散速度、熱伝達速度その他の要因を示すデータを収集できる。井戸内のセンサから得られるデータもある。その他のデータ、特に自然亀裂系と超臨界二酸化炭素の分散速度と分散範囲に関するデータは、受動的または能動的な微小地震法を用いて得られる。このような調査には、地表センサアレイ、または井戸内のDASケーブルの使用が含まれる。例えば、DASケーブルは、熱伝導流体の流れに使われるパイプの外側に取り付けることができる。超臨界二酸化炭素の汲み上げが開始され、進行するにつれて得られる地震データを分析することで、流体が自然の割れ目を通してどのように分散するかを示すことができる。また、流体が隔離されているはずの地層から漏れていないことも確認できるだろう。これは、技術的な理由よりも、社会的な認知の観点から重要である。
【0113】
いくつかの実施の形態では、地熱エネルギーを発生させると同時に、二酸化炭素を隔離するためのオプションが存在する。別の実施の形態では、井戸が地熱井戸としての寿命を終えた後も、二酸化炭素は隔離され続ける。さらに別の実施の形態では、地質条件や経済性から、井戸が地熱井戸としての生産性を失った後にのみ、二酸化炭素の隔離を始めることが考えられる。これらは、隔離される二酸化炭素の利用可能性、税控除やその他の優遇措置、二酸化炭素を現場まで運ぶ必要があるか、もし必要ならどのように運ぶべきか当の要因に大きく左右される。
【0114】
測定の分析結果から地中熱伝達のために超臨界二酸化炭素で満たされた地下容積を作ることはできると判断されても、地質学的な条件から完全な炭素隔離を行うことはできない井戸もある。地熱事業の経済性を考える際には、この可能性も考慮しなければならない。
【0115】
別のいくつかの実施の形態は、上述のアプローチとは逆である。すなわち、井戸を炭素隔離に使う目的で掘削し、その用途だけで事業費を回収するのである。超臨界二酸化炭素が井戸に注入されると、井戸内の計器は、地熱井戸としての井戸の可能性を詳細に評価するための基礎を提供する。地層が高度に破砕されている場合、超臨界二酸化炭素は急速に拡散し、地熱伝導にとって望ましい雲を井戸の周囲に形成しない可能性がある。地層が地熱エネルギーの生成に適していると証明されれば、クローズドループシステムの同心円状のチューブが井戸に設置される。
【0116】
ここでも、技術的な問題と、市場の状況やその他の経済的な要因との両方により、井戸を隔離と地熱エネルギー生成のために同時に使うか、あるいは地熱の段階は井戸が隔離井戸としての耐用年数の終わりに近づいた時に行うかが決定される。
【0117】
二酸化炭素は、隔離井戸の場合、最終的に二酸化炭素が井戸に圧送するのに望ましいとされる圧力よりも、かなり高い圧力が必要とされる程度まで亀裂系を満たすことになる。また二酸化炭素は岩石と反応し、長い年月をかけて炭酸塩の沈殿物を形成し、これが天然の亀裂系をふさぐことになる。その時点で、井戸は隔離井戸としての耐用年数は終わる。しかし、地熱井戸としてはまだ使える可能性もある。
【0118】
複合利用井戸の隔離能力が限界に達した場合、超臨界二酸化炭素を定期的に注入し、井戸から離れた流体が外部に拡散する際に熱伝導流体の雲を井戸の近くに維持することによって、地熱のみの井戸に転換することができる。
【0119】
前述したように、理想的な井戸の条件は、地熱発電と二酸化炭素隔離とでは異なる。そのため、本明細書で説明する段階的アプローチは、方向性井戸の長さ、井戸の直径、ケーシングの有無などの要因を注意深く分析する必要がある。
【0120】
ドリル・イン・ライナーを使い、ドリルビットを井戸内に残すことの付加的な利点の1つは、地表でさらにドリル・イン・ライナーを追加し、必要なだけ掘削を再開するだけで、井戸を延長できることである。この方法を使えば、井戸の耐用年数を延ばすことができる。地熱井戸が掘削され、操業された後、隔離井戸として使うために井戸を延長する必要がある場合、あるいは隔離井戸を地熱利用のために延長する必要がある場合も、同じ手法が適用される。このように、本明細書で説明する実施の形態は、従来の掘削技術にはない柔軟性を提供する。
【0121】
最初に二酸化炭素隔離用の井戸を掘削し、その後で地熱用のクローズドループ同心チューブを、二酸化炭素隔離用の井戸よりも短く設計すれば、何ら問題もないことは容易に分かる。クローズドループの端で井戸を閉塞し、それ後注入される超臨界二酸化炭素が、クローズドループの周りの地下にのみ流れ続けるようにすることもできる。
【0122】
地熱産業は、プルームアプローチで熱利得を最大化するために、そのようなアプローチを取る。また、適切な高温の堆積岩石層があり、実質的に水平方向に向いている場合には、クローズドループシステムのためのボーリング孔の掘削が容易になる。しかし本発明は、堆積高温岩石層にも、堆積岩の下にある花崗岩にも同様に適用できる。前述したように、花崗岩は崩壊した放射性物質を含んでおり、地熱源の一部である。従って花崗岩を掘削すれば、その熱を利用できる。地球のコアから上昇する熱は、地熱のもうひとつの供給源であり、当然井戸が深ければ深いほどその熱に近づくことになる。一旦井戸が花崗岩に到達すれば、花崗岩の中に留まりながら、垂直方向に何千フィートも掘削を続けることも可能である。
【0123】
従って本発明のいくつかの実施の形態では、先述の掘削技術を使って、花崗岩の中に数千フィートにわたって、ほとんどの地熱井戸よりも深く掘削された垂直井戸のみを使う。花崗岩は非常に割れやすいので、この深い井戸は複数の自然の割れ目系を横切ることになる。これは、厚さがフィート単位で測定され、主要な割れ目系が1つしかない堆積高温岩石層とは対照的である。
【0124】
別の実施の形態では、オフセット位置から花崗岩石層まで掘削するために傾斜井戸を採用する。垂直井戸または傾斜井戸を掘削することにより、カーブを掘削する場合と比較して、大幅なコスト削減ができる。水平井戸の掘削と比較すると、方向指示掘削作業員が不要となり、ビットのトリッピングを少なくとも2回節約できる。
【0125】
いくつかの実施の形態では、図10に示すように、井戸1000は花崗岩1002の上端まで掘削され、ケーシング1004された後、開孔技術およびドリル・イン・ライナー1008を使って花崗岩1010を貫通する井戸1006が掘削され、外側環状体1012が形成される。ジェットポンプ1020およびドリルビット1022は、高い貫入速度を与え、比較的低コストであるため、いくつかの実施の形態で使われる。ジェットポンプ1020およびドリルビット1022は、それらを回収するコストがユニット自体のコストを上回るため、井戸に残される。
【0126】
前述の実施の形態と同様に、同心チューブ1024は、内側環状体1028を有するクローズドループシステムを形成するように設置される。いくつかの実施の形態では、第1の熱伝導流体1030が、流れ矢印1032で示されるように、外側環状体1012をポンプで送られる。それは、ケーシング掘削されていない井戸1006と接触する。従って、第1の熱伝導流体1030は、花崗岩1010内の天然亀裂系に移動し始める。それがあらゆる方向に膨張するにつれて、第1の熱伝導流体1030の雲1034を形成し、岩石層から井戸に熱を戻す効率的な手段で亀裂系を満たす。
【0127】
次いで、クローズドループシステムは、流れ矢印1042で示されるように、ドリル・イン・ライナー1008と同心チューブ1024との間の内側環状体1028を第2の熱伝導流体1040を圧送することによって開始される。第2の熱伝導流体1040は、ドリル・イン・ライナー1008の閉鎖端1010まで圧送され、そこでUターンして、流れ矢印1044で示すように同心チューブ1024を逆流する。第2の熱伝導流体1040が地表に到達すると、熱伝導流体が運ぶ熱は、加熱のために直接使用されるか、熱交換器とタービン駆動発電機の従来システムによって電気エネルギーに変換される。
【0128】
井戸が垂直、傾斜、方向性のいずれであっても、第2の熱伝導流体1040がドリルビット1022から流出するのを防止し、従って、第2の熱伝導流体1040が同心チューブ1024を遡って流れるようにすることが必要である。いくつかの実施の形態では、ジェットポンプ1020がドリルビット1022のすぐ後ろに設置されている場合、プラグ1046がジェットポンプ1020の後に設置され、第2の熱伝導流体1040が同心チューブ1024を遡って戻るように強制する。ジェットポンプ1020が使用されないか、または存在しないいくつかの他の実施の形態では、ゴムまたは同様の材料のプラグ1046が、場合によってはドリルビット1022の後方またはジェットポンプ1020の後方で井戸1006に設置され、ドリルビット1022を封鎖し、流体の損失を防ぐ。
【0129】
これらの垂直または垂直に近い実施の形態は、水平井戸と比較して、技術的というようりは法的な利点を有する。前述したように、米国その他のいくつかの国の法律では、間隙は地表の権利者に属するとされている。プルームアプローチであれ、ここに開示されたハイブリッドアプローチであれ、熱伝導流体は間隙空間に注入される。水平井戸は、流体を注入することにより、複数の地権者の権利の対象となる間隙空間を占有する可能性がある。垂直井戸では、井戸周辺の比較的小さな距離の地表および間隙空間に対する権利しか必要としないことは明らかである。
【0130】
間隙の権利という複雑な問題と、その権利の確保に関連する潜在的な高額な法的コストが除去されることで、地熱発電に対する垂直井戸のアプローチは、小規模な事業にとって、より安価で現実的なものとなる。地熱発電所を地表の土地の所有権が著しく分断されている都市部や郊外に近づけることが望ましい場合には、そのメリットはさらに大きくなる。
【0131】
例えば、天然ガスを燃料とする発電所を考える。発電所から発生する二酸化炭素の封じ込めには、ある試算では発電所から発生するエネルギーの10-15%が必要とされる。それでも二酸化炭素を隔離施設まで運ぶパイプラインがないため、このようなプロジェクトは現実的でないことが多い。しかし、発電所がすでに建っている土地に垂直井戸を掘れば、発電所から排出される二酸化炭素を隔離できるだけでなく、地熱を利用して発電することもできる。こうして、発電所は以前と同じだけの電力を生み出すが、その電力はカーボンニュートラルとなる。隣接する土地に広がる水平井戸に二酸化炭素を隔離した場合、このような運転は停止するか、法外なコストを要する可能性がある。
【0132】
利用可能な井戸パッドサイトが敷地の境界に向かっている場合、傾斜井戸を利用することで、熱伝導流体を敷地の中心部の下に注入することができ、それによって流体が敷地の境界を越えて間隙空間に漏出するのを防ぐことができる。
【0133】
垂直井戸の実施の形態は、前述した方向性井戸の実施の形態と同様に、間隙に流体を注入するが回収はしないというハイブリッド法を用いた地熱のみの井戸に適用できる。また、隔離井戸や、段階的アプローチを用いた地熱と隔離の複合井戸にも適用できる。
【0134】
様々な研究者が、花崗岩は複数の割れ目を含むだけでなく、これらの割れ目は相互に連結しており、地下を流体が流れるようになっていることを示している。例えば、Lihu Liuらによる「CO2 injection to granite and sandstone in experimental rock/hot water systems」、Pergamon、Energy Conversion and Management 44 (2003) 1399-1410を参照されたい。この文献は、1ページで「花崗岩および/または砂岩が熱水条件でCO2を「捕捉」することが可能であり、地下投棄がCO2の大気排出を削減するための実行可能な解決策である可能性がある」ことを示唆している。この文献は、CO2を地熱廃液と一緒に注入するプルームアプローチを地熱エネルギー生成に用いており、本明細書で開示している実施の形態よりもはるかに効率が悪い。
【0135】
また、野原剛らによる「Enhancement of Permeability Activated by Supercritical Fluid Flow through Granite」、Wiley、Geofluids、Volume 2019、Article ID 6053815、https://d0i.0rg/l 0.1155/2019/6053815を参照されたい。これは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0136】
前述のいずれの実施の形態においても、地熱井戸が先か隔離井戸が先かにかかわらず、井戸の表面、または表面付近と深部の温度差を利用することから、熱電発電を追加することが可能である。ゼーベック効果とは、2つの異なる導電性物質の接触点に温度差があるときに生じる電圧のことである。この効果の議論と、地熱環境での発電にどのように使用されるかについては「A Novel Approach for Downhole Power Generation in Geothermal Wells Using Thermoelectric Generator」by Jainish Shingala、 Manan Shah、PROCEEDINGS、45th Workshop on Geothermal Reservoir Engineering、Stanford University、Stanford、California、February 10-12、2020 SGP-TR-216を参照されたい。
【0137】
熱電発電において、ポンプ、直接炭素捕捉機その他の装置を作動させる電気を生成するために、本発明の様々な実施の形態と組み合わせて使うことができる。この追加電力を使う可能性は、遠隔環境での操作、または電力網の電力が完全に信頼できない場所での操作を考慮する場合に明らかである。
【0138】
以上の開示は、添付図面に関して詳細に説明された本発明の多数の実施の形態を規定する。当業者であれば、以下の特許請求の範囲に規定される本発明の範囲を逸脱することなく、本発明の教示の下で様々な変更、修正、別の構造配置その他の実施の形態が可能なことを理解するであろう。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【手続補正書】
【提出日】2024-04-23
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地球の地下にある井戸から地熱エネルギーを抽出する方法であって、
ドリルビットおよびドリルストリングを用いて、高温の岩石層まで掘り下げ井戸を掘削するステップと、
前記ドリルストリングと前記井戸との間に外側環状体を形成するステップと、
前記ドリルストリングの内側に同心チューブを設置することにより内側環状体およびクローズドループ流体流路を形成するステップと、
前記高温の岩石層内に第1の熱伝導流体の雲を形成するために、前記第1の熱伝導流体を前記外側環状体から前記高温の岩石層内に注入するステップと、
第2の熱伝導流体を前記内側環状体から前記クローズドループ流体流路に送り込み、前記第2の熱伝導流体を前記同心チューブを通して地表に戻すステップと、
前記第2の熱伝導流体によって抽出された熱を利用可能なエネルギーに変換するステップと
を含み、
前記高温の岩石層から前記第1の熱伝導流体が回収されないことを特徴とする方法。
【請求項2】
注入される前記第1の熱伝導流体は、水、ブライン、超臨界二酸化炭素、捕捉された排ガス、捕捉され水に溶解した排ガス、または捕捉され超臨界二酸化炭素に溶解した排ガスであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の熱伝導流体および前記第2の熱伝導流体は、いずれも超臨界二酸化炭素であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第2の熱伝導流体を用いて地熱抽出を開始する前の所定の期間、前記井戸を前記第1の熱伝導流体で呼び水処理し、前記高温の岩石層内に前記第1の熱伝導流体の雲を形成するステップを含む請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記高温の岩石層の井戸は、地層の損傷を防ぐために、地層を損傷しない掘削技術で掘削され、軽量の掘削液の使用を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
地熱発電と二酸化炭素隔離とを同じ井戸内で組み合わせる方法であって、
ドリルビットおよびドリルストリングを用いて、高温の岩石層まで掘り下げ商業的に実行可能な井戸を掘削するステップと、
前記ドリルストリングと前記井戸との間に外側環状体を形成するステップと、
前記ドリルストリングの内側に同心チューブを設置することにより内側環状体およびクローズドループ流体流路を形成するステップと、
前記高温の岩石層内に超臨界二酸化炭素の雲を形成するために、前記超臨界二酸化炭素を前記外側環状体から前記高温の岩石層内に注入するステップと、
熱伝導流体を前記内側環状体から前記クローズドループ流体流路に送り込み、前記熱伝導流体を前記同心チューブを通して地表に戻すステップと、
前記熱伝導流体によって抽出された熱を利用可能なエネルギーに変換するステップと、
前記井戸内に配置された少なくとも1つの機器を用いてデータを収集し、前記高温の岩石層内で捕捉されている二酸化炭素の量を評価し、捕捉されている二酸化炭素の量が所定のレベルを超えている場合は前記外側環状体に注入される超臨界二酸化炭素の量を増加させることにより商業的に重要な量の二酸化炭素を隔離するステップと
を含むことを特徴とする方法。
【請求項7】
前記井戸は、地熱発電量が所定のレベルを下回るまでは地熱発電と二酸化炭素隔離とを同時に行うのに使われ、その後は二酸化炭素隔離のみに使われることを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記井戸は、二酸化炭素隔離のための耐用年数に達するまでは地熱発電と二酸化炭素隔離とを同時に行うのに使われ、その後は地熱発電のみに使われることを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記井戸は、所定の期間地熱発電のみに使われ、その後は地熱発電と二酸化炭素隔離とを同時に行うのに使われることを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記井戸は、地熱発電量が所定のレベルを下回るまでは地熱発電のみに使われ、その後は二酸化炭素隔離のみに使われることを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項11】
地熱抽出を開始する前の所定の期間、前記井戸を前記超臨界二酸化炭素で呼び水処理し、前記高温の岩石層内に前記超臨界二酸化炭素の雲を形成するステップを含む請求項に記載の方法
【請求項12】
前記井戸は、地層の損傷を防ぐために、地層を損傷しない掘削技術で掘削され、軽量の掘削液の使用を含むことを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項13】
二酸化炭素隔離と地熱発電とを同じ井戸内で組み合わせる方法であって、
ドリルビットおよびドリルストリングを用いて、高温の岩石層まで掘り下げ商業的に実行可能な井戸を掘削するステップと、
前記ドリルストリングと前記井戸との間に外側環状体を形成するステップと、
前記高温の岩石層内で前記井戸の方向性セクションを取り囲む領域に超臨界二酸化炭素の雲を形成するために、前記超臨界二酸化炭素を前記外側環状体から前記高温の岩石層内に注入するステップと、
前記井戸内に配置された少なくとも1つの機器を用いてデータを収集するステップと、 熱流量が所定の値を超える場合、前記ドリルストリングの内側に同心チューブを設置することにより内側環状体およびクローズドループ流体流路を形成するステップと、
熱流量が所定の値を下回る場合、前記井戸を二酸化炭素隔離にのみ使い続けるステップと、
熱伝導流体を前記内側環状体から前記クローズドループ流体流路に送り込み、前記熱伝導流体を前記同心チューブを通して地表に戻すステップと、
前記熱伝導流体によって抽出された熱を利用可能なエネルギーに変換するステップと
を含むことを特徴とする方法。
【請求項14】
前記井戸は、二酸化炭素隔離のための耐用年数に達するまでは二酸化炭素隔離と地熱発電とを同時に行うのに使われ、その後は地熱発電のみに使われることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記井戸は、地熱発電のための耐用年数に達するまでは二酸化炭素隔離と地熱発電とを同時に行うのに使われ、その後は二酸化炭素隔離のみに使われることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記井戸は、所定の期間二酸化炭素隔離のみに使われ、その後は二酸化炭素隔離と地熱発電とを同時に行うのに使われることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記井戸は、二酸化炭素隔離のための耐用年数に達するまでは二酸化炭素隔離のみに使われ、その後は地熱発電のみに使われることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記井戸は、地層の損傷を防ぐために、地層を損傷しない掘削技術で掘削され、軽量の掘削液の使用を含むことを特徴とする請求項13に記載の方法。
【国際調査報告】