(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-18
(54)【発明の名称】空気ろ過用途向けのエレクトロスピニングされたナノファイバー高分子膜
(51)【国際特許分類】
A41D 13/11 20060101AFI20241010BHJP
D04H 1/4318 20120101ALI20241010BHJP
D04H 1/4358 20120101ALI20241010BHJP
D04H 1/728 20120101ALI20241010BHJP
D06M 11/74 20060101ALI20241010BHJP
D06M 11/44 20060101ALI20241010BHJP
D06M 13/46 20060101ALI20241010BHJP
D06M 13/262 20060101ALI20241010BHJP
D06M 13/08 20060101ALI20241010BHJP
B01D 39/16 20060101ALI20241010BHJP
B01D 39/14 20060101ALI20241010BHJP
B01D 53/04 20060101ALI20241010BHJP
B03C 3/28 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
A41D13/11 M
D04H1/4318
D04H1/4358
D04H1/728
D06M11/74
D06M11/44
D06M13/46
D06M13/262
D06M13/08
B01D39/16 A
B01D39/16 E
B01D39/14 E
B01D53/04
B03C3/28
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024521197
(86)(22)【出願日】2022-09-30
(85)【翻訳文提出日】2024-05-31
(86)【国際出願番号】 US2022077443
(87)【国際公開番号】W WO2023060027
(87)【国際公開日】2023-04-13
(32)【優先日】2021-10-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-02-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522388741
【氏名又は名称】マトリジェニックス,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】MATREGENIX, INC.
(71)【出願人】
【識別番号】522388752
【氏名又は名称】ソリマン,シェリフ
【氏名又は名称原語表記】SOLIMAN, Sherif
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【氏名又は名称】金子 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100179648
【氏名又は名称】田中 咲江
(74)【代理人】
【識別番号】100222885
【氏名又は名称】早川 康
(74)【代理人】
【識別番号】100140338
【氏名又は名称】竹内 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100227695
【氏名又は名称】有川 智章
(74)【代理人】
【識別番号】100170896
【氏名又は名称】寺薗 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100219313
【氏名又は名称】米口 麻子
(74)【代理人】
【識別番号】100161610
【氏名又は名称】藤野 香子
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】ソリマン,シェリフ
(72)【発明者】
【氏名】グオ,フェン
【テーマコード(参考)】
3B211
4D012
4D019
4D054
4L031
4L033
4L047
【Fターム(参考)】
3B211CE01
3B211CE03
4D012BA03
4D012CA03
4D012CA10
4D012CB03
4D012CG01
4D012CH01
4D012CH05
4D019AA01
4D019BA03
4D019BA06
4D019BA12
4D019BA13
4D019BA17
4D019BA18
4D019BB03
4D019BB08
4D019BB09
4D019BB10
4D019BC01
4D019BC05
4D019BC06
4D019BC07
4D019BD01
4D019CB04
4D019CB06
4D019DA01
4D019DA03
4D054AA11
4D054BC16
4L031AA14
4L031AA22
4L031AB34
4L031BA02
4L031BA05
4L031BA13
4L031DA12
4L033AB07
4L033AC10
4L033BA05
4L033BA29
4L033BA85
4L047AA14
4L047AA25
4L047AB09
4L047CA07
4L047CB00
4L047CC12
4L047EA22
(57)【要約】
本発明は、高いろ過効率と優れた多孔性を提供するエレクトロスピニングされた高分子ナノファイバー膜に関し、膜じゃ1つ以上の抗菌剤または抗ウイルス剤で処理されてもよく、処理は、好ましくは、膜の表面上の1つ以上の抗ウイルス剤のコーティングであってもよく、あるいは、1つ以上の抗ウイルス剤を膜に含浸させてもよく、追加または代替として、1つ以上の金属有機構造体(MOF)を膜に含浸させることができる。膜は高いろ過効率と十分な多孔性、通気性を備え、感染性病原体および/または他の小さな粒子に対して高い耐性を有するフェイスマスクおよびレスピレーターを製造する際の使用、HVAC用途での使用、カーボンナノファイバー膜と組み合わせてVOCおよびCO
2の除去での使用に適する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高いろ過効率を有し、ポリフッ化ビニリデン、1つ以上のTecophilic(商標)熱可塑性ポリウレタン、またはポリフッ化ビニリデンと1つ以上のTecophilic(商標)熱可塑性ポリウレタンとのブレンドを含む、エレクトロスピニングされた高分子ナノファイバー膜であって、
1つ以上の抗病原体剤で処理されている、膜。
【請求項2】
1つ以上の前記抗病原体剤は、抗ウイルス剤を含む、
請求項1に記載の膜。
【請求項3】
前記抗ウイルス剤は、グラフェン、ナノ粒子、ナノ複合材料、多価金属イオン、および天然物からの抽出物からなる群から選択される、
請求項2に記載の膜。
【請求項4】
前記抗ウイルス剤は銀ドープ二酸化チタンナノ材料を含む、
請求項3に記載の膜。
【請求項5】
前記抗ウイルス剤は多価のCu
2+カチオンまたはZn
2+カチオンを含む、
請求項3に記載の膜。
【請求項6】
前記抗ウイルス剤は甘草抽出物を含む、
請求項3に記載の膜。
【請求項7】
前記膜は、臭化セトリモニウム(CTAB)、ラウラミドプロピルベタイン(LAPB)およびアルファオレフィンスルホン酸塩(AOS)からなる群から選択される界面活性剤を含むポリマー溶液からエレクトロスピニングされる、
請求項1に記載の膜。
【請求項8】
前記膜は、区別可能な微細構造特性を有する複数の一体化された層を備える、
請求項2に記載の膜。
【請求項9】
前記膜は、等しい細孔径を有する第1層および第3層が、異なる細孔径を有する第2層で分離された3つの層から構成される、
請求項8に記載の膜。
【請求項10】
前記膜は3つの異なる細孔径を持つ3つの層から構成される、
請求項8に記載の膜。
【請求項11】
第1層と第3層はより大きな細孔径を有し、第2層はより小さな細孔径を有し、
前記膜の層間の機械的完全性および結合力は、前記膜の次の層をエレクトロスピニングする前に短繊維をエレクトロスプレーすることによって、または前記膜の次の層をエレクトロスピニングする前に「粘着性の表面」を生成するようにスクリーン距離を減少させることで湿った繊維をエレクトロスピニングすることによって強化される、
請求項9に記載の膜。
【請求項12】
前記膜は、布地材料を含む布地材料ロールを第1の面から第2の面に巻き付け、次いで、
a.第1の巻き取り速度で前記布地材料の前記第1の面上に1つ以上の第1のナノファイバー層をエレクトロスピニングするステップと、
b.前記布地材料ロールを裏返すステップと、
c.第2の巻き取り速度で前記布地材料の前記第2の面上に1つ以上の第2のナノファイバー層をエレクトロスピニングするステップと、
を順に実行することによって形成され、
前記第1の巻き取り速度は前記第2の巻き取り速度と異なる、
請求項8に記載の膜。
【請求項13】
前記膜は、布地材料を含む布地材料ロールを第1の面から第2の面に巻き付け、次いで、
a.第1の巻き取り速度で布地材料の第1の面上に1つ以上の第1のナノファイバー層をエレクトロスピニングするステップと、
b.第2の巻き取り速度で布地材料の第1の面上に1つ以上の第2のナノファイバー層をエレクトロスピニングするステップと、
を順に実行することによって形成され、
第1の巻き取り速度は第2の巻き取り速度と異なる、
請求項8に記載の膜。
【請求項14】
前記膜は、布地材料を含む布地材料ロールを第1の面から第2の面に巻き付け、次いで、
a.第1の巻き取り速度で前記布地材料の前記第1の面上に1つ以上の第1のナノファイバー層をエレクトロスピニングするステップと、
b.第2の巻き取り速度で前記布地材料の前記第1の面上に1つ以上の第2のナノファイバー層をエレクトロスピニングするステップと、
c.前記布地材料ロールを裏返すステップと、
d.第3の巻き取り速度で前記布地材料の前記第2の面上に1つ以上の第3のナノファイバー層をエレクトロスピニングするステップと、
を順に実行することによって形成され、
前記第1の巻き取り速度は前記第2の巻き取り速度と異なる、
請求項8に記載の膜。
【請求項15】
前記膜は摩擦電気ナノ発電機(TENG)を使用して摩擦電気的に帯電される、
請求項1に記載の膜。
【請求項16】
前記膜は、ポリアミド(PA66)ナノファイバーの摩擦正帯電層と、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)ナノファイバーの摩擦負帯電層と、ポリピロール、銀ナノワイヤーまたは導電性布地を含む導電性電極層とを含む3つの層を備える、
請求項15に記載の膜。
【請求項17】
前記膜はフェイスマスクまたはレスピレーターでの使用に適する、
請求項1に記載の膜。
【請求項18】
前記膜は、HVACシステムで使用するように構成されたエアフィルタでの使用、またはカーボンナノファイバー膜と組み合わせてVOCおよびCO
2の除去に使用するように構成されたエアフィルタでの使用に適する、
請求項1に記載の膜。
【請求項19】
高いろ過効率を有し、ポリフッ化ビニリデン、1つ以上のTecophilic(商標)熱可塑性ポリウレタン、またはポリフッ化ビニリデンと1つ以上のTecophilic(商標)熱可塑性ポリウレタンとのブレンドを含む、エレクトロスピニングされた高分子ナノファイバー膜であって、
1つ以上の抗病原体剤が膜に含浸されており、
前記膜は区別可能な微細構造特性を有する複数の一体化された層を備える、膜。
【請求項20】
前記膜は、異なる細孔径を有する第2層によって分離された等しい細孔径を有する第1層と第3層とを含む3つの層から構成され、
前記第1層および前記第3層はより大きな細孔径を有し、第2層はより小さな細孔径を有し、
前記膜の層間の機械的完全性および結合力は、前記膜の次の層をエレクトロスピニングする前に短繊維をエレクトロスプレーすることによって、または前記膜の次の層をエレクトロスピニングする前に「粘着性の表面」を生成するようにスクリーン距離を減少させることで湿った繊維をエレクトロスピニングすることによって強化される、
請求項19に記載の膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、空気ろ過用途に使用するための材料に関する。
【背景技術】
【0002】
清浄な空気は、一般に、人間の健康と福祉を増進するための基本的な要件であると考えられている。粒子状物質(PM)並びに化学的および生物学的汚染物質を含む大気汚染は、世界中の健康に重大な脅威をもたらす。世界保健機関は、2016年に大気汚染が世界中で420万人の早期死亡を引き起こしたと報告した。世界保健機関による2021年の「環境(屋外)大気汚染」(https://www.who.int/en/news-room/fact-sheets/detail/ambient-(outdoor)-air-quality-and-health)を参照されたい。有害な汚染物質および病原体を含む悪質な空気により、呼吸器感染症、心血管疾患、慢性閉塞性肺疾患、さまざまな種類のがんなど、多くの病気のリスクが高まる。
【0003】
有害な汚染物質および病原体への人間の曝露を減らすためにエアフィルタを使用することが非常に望ましい。しかし、現在入手可能な市販のエアフィルタは、高いろ過効率を達成するために厚い繊維材料の複数の層から構成されていることが多く、その結果、大きな通気抵抗が生じる。例えば、Wang, C., et al.“Silk Nanofibers as High Efficient and Lightweight Air Filter,” Nano Res. 2016, 9, 2590-97を参照されたい。ナノファイバーを空気ろ過に使用して、高効率、低通気抵抗、軽量のエアフィルターを生成することに関心が集まっている。例えば、Wang, C.-s., et al. “Removal of Nanoparticles from Gas Streams by Fibrous Filters: A Review,” Ind. Eng. Chem. Res. 2013, 52, 5-17; Peng, L., et al. “Air Filtration in the Free Molecular Flow Regime: A Review of High-Efficiency Particulate Air Filters Based on Carbon Nanotubes,” Small, 2014, 10, 4543-61を参照されたい。さらに、ナノファイバーの表面積が大きいため、ナノファイバー表面を改質することで多機能性を実現することが可能である。
【0004】
空気ろ過は、室内空気の質を向上させるための重要なツールである。したがって、ナノファイバーを組み込んだエアフィルタは、HVAC用途で非常に役立ち得る。
【0005】
また、さまざまな揮発性有機化合物(VOC)が健康に多くの悪影響を与えることが十分に確認されているので、空気ろ過用途においてVOCを除去することも望ましい。室内空気からVOCを除去する従来の方法にはさまざまな欠点があるため、最近の多くの取り組みはVOCの光触媒分解の使用に焦点を当てている。例えば、Singh, P., et al. “A Review on Biodegradation and Photocatalytic Degradation of Organic Pollutants: A Bibliometric and Comparative Analysis,” J. Clean. Prod. 2018, 196, 1669-80;Malayeri, M., et al. “Modeling of Volatile Organic Compounds Degradation by Photocatalytic Oxidation Reactor in Indoor Air: A Review,” Build. Environ. 2019, 154, 309-23を参照されたい。
【0006】
VOCの光分解により、二酸化炭素(CO2)が発生することがある。二酸化炭素(CO2)を含む大量の温室効果ガスの排出によって引き起こされる地球規模の気候変動は、環境と公衆衛生に憂慮すべき脅威を引き起こしている。このように、CO2回収技術は大きな注目を集めている。例えば、Qi, G., et al. “High Efficiency Nanocomposite Sorbents for CO2 Capture Based on Amine-Functionalized Mesoporous Capsules,” Energy Environ. Sci. 2011, 4, 444-52;Zainab, G., et al. “Electrospun Carbon Nanofibers with Multi-Aperture/Opening Porous Hierarchical Structure for Efficient CO2 Adsorption,” J. Colloid Interface Sci. 2020, 561, 659-67;Wang, X., et al. “Polyetheramine Improves the CO2 Adsorption Behavior of Tetraethylenepentamine-Functionalized Sorbents,” Chem. Eng. J. 2019, 364, 475-84を参照されたい。このように、光分解プロセスとCO2除去を組み合わせることで、光触媒によるVOC除去プロセスが地球規模の気候変動に与える影響が軽減される。
【0007】
さらに、様々な用途において、病原体の除去を促進するためにエアフィルタを機能的に改変することが望ましい場合がある。伝染感染性呼吸器病原体は通常、感染者の咳またはくしゃみ、場合によっては単純な呼気によって気道から排出される粒子の飛沫、エアロゾル若しくは空気感染によって伝染する。この形態の感染を防ぐために、エアフィルタを使用して、周囲の空気から病原体を除去すること、および周囲の空気中に存在する病原体を吸入することから個人を保護することの両方を行うことができる。
【0008】
周囲空気中に存在する病原体から個人を保護することに重点を置いた用途のために、感染性粒子を機械的に遮断するか、またはさまざまな機構を使用して感染性粒子を安全化するフェイスマスクおよびレスピレーターが開発されている。したがって、フェイスマスクおよびレスピレーターのろ過効率を高めるために多くの研究開発が行われてきた。
【0009】
COVID-19パンデミックは、様々な用途のための機能的保護繊維の必要性を浮き彫りにした。機能性保護繊維は、医療専門家、現場作業員、兵士の防護服に使用する場合に特に重要である。例えばZhu, Q., et al. “AQC Functionalized CNCs/PVA-co-PE Composite Nanofibrous Membrane with Flower-Like Microstructures for Photo-Induced Multi-Functional Protective Clothing,” Cellulose, 2018, 25, 4819-30, doi: 10.1007/s10570-018-1881-5;Liu, Y., et al. “UV-Crosslinked Solution Blown PVDF Nanofiber Mats for Protective Applications,” Fibers Polym. 2020, 21, 489-97, doi: 10.1007/s12221-020-9666-5を参照されたい。
【0010】
浮遊固体粒子への皮膚曝露を制限するために、健康安全規制当局は優良実践ガイドラインを発行しており、様々な危険への曝露を最小限に抑えるために個人用保護具(PPE)の着用が推奨されている。化学生物学的防護服(CBPC)は広く使用されており、PPEオプションの中で最も経済的であると考えられている。タイプ5CBPCはISO13982-1およびISO13982-2規格に従って浮遊固体微粒子から全身を保護するので、浮遊ナノマテリアルの場合、タイプ5CBPCはそのような危険に対する最後の防御線と考えられている。国際標準化機構(ISO)13982-1:2004;国際標準化機構(ISO)13982-2:2004を参照されたい。
【0011】
タイプ5のCBPCの基材として一般的に使用される不織布および織布材料には、透過性およびろ過性が低いなどのいくつかの欠点がある。例えば、Liu, Y., et al., supra; Wingert, L., et al. “Filtering Performances of 20 Protective Fabrics Against Solid Aerosols,” J. Occup. Environ. Hyg. 2019, 16, 592-606を参照されたい。
【0012】
現在市販されているフェイスマスクおよびレスピレーターは、感染性粒子を遮断するのにろ過効率が十分でないか、または頻繁かつ便利に使用するには通気性が十分でない。Lee, S., et al. “Reusable Polybenzimidazole Nanofiber Membrane Filter for Highly Breathable PM2.5 Dust Proof Mask,” ACS Appl. Mater. Interfaces, 2019, 11, 2750-57, doi:10.1021/acsami.8b19741を参照のこと。さらに、最近の新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、フェイスマスクまたはマスクに接触する病原体を駆除するフェイスマスクおよびレスピレーター用の抗ウイルス膜の開発への関心が高まっている。これにより、マスクが不用意に他の表面に接触したり、着用者がマスクの外面を手で触ったりすることによって、感染性粒子が別の表面に移るのを防ぐことができる。
【0013】
コーティングでの使用に適しているであろう、または個人用保護具に組み込むことができであろう数多くの抗ウイルス剤が知られている。例えば、Tran, D.N., et al. “Silver Nanoparticles as Potential Antiviral Agents against African Swine Fever Virus,” Mater. Res. Express, 2020, 6(12), doi: 10.1088/2053-1591/ab6ad8;Moreno, M.A., et al. “Active Properties of Edible Marine Polysaccharide-Based Coatings Containing Larrea nitida Polyphenols Enriched Extract,” Food Hydrocoll. 2020, 102, 105595, doi: 10.1016/j.foodhyd.2019.105595;Husen, A. “Natural Product-Based Fabrication of Zinc-Oxide Nanoparticles and Their Applications,” In Nanomaterials and Plant Potential, 2019, 193-219, Springer;Cheng, C., et al. “Functional Graphene Nanomaterials Based Architectures: Biointeractions, Fabrications, and Emerging Biological Applications,” Chem. Rev. 2017, 117, 1826-1914;Zhang, D.-h., et al. “In Silico Screening of Chinese Herbal Medicines with the Potential to Directly Inhibit 2019 Novel Coronavirus,” J. Integr. Med. 2020, 18, 152-8, doi: 10.1016/j.joim.2020.02.005;米国特許第9,963,611号および第8,678,002号を参照されたい。
【0014】
COVID-19パンデミック中などのフェイスマスクの広範な使用は、フェイスマスクおよび他の個人用保護具を製造するための透明な材料の必要性も浮き彫りにした。例えば、自閉症スペクトラムの子供、聴覚に障害のある高齢者、聾唖者は、表情を観察することができないコミュニケーションおよび社会的交流が困難である可能性があるため、透明なフェイスマスクの使用の普及により大きな利益が得られるであろう。透明なフェイスマスクは、身元認証に使用される技術などの顔認識技術とも互換性がある。ナノファイバー膜の使用も、このニーズに対処する上で有望である。例えば、Wang, C., et al. “Highly Transparent Nanofibrous Membranes Used as Transparent Masks for Efficient PM0.3 Removal,” ACS Nano, 2022, 16(1), 119-28;Xiao, Y., et al. “Preparation and Applications of Electrospun Optically Transparent Fibrous Membrane,” Polymers, 2021, 13(4), 506を参照されたい。
【0015】
エレクトロスピニング、転相、界面重合、延伸、およびトラックエッチングを含む、ナノファイバー膜を製造するための様々な技術が知られている。エレクトロスピニングは、効率および細孔径の均一性を提供する非常に有用な技術である。例えば、Ray, S.S., et al. “A Comprehensive Review: Electrospinning Technique for Fabrication and Surface Modification of Membranes for Water Treatment Application,” RSC Adv. 2016, 6(88), 85495-85514, doi: 10.1039/C6RA14952Aを参照されたい。エレクトロスピニングは、電場を使用してマイクロメートルまたはナノメートルスケールの連続繊維を生成するプロセスである。エレクトロスピニングにより、繊維の直径、配向、細孔径、空隙率などの特性を含む足場の微細構造を直接制御することができる。
【0016】
エレクトロスピニングされたナノファイバーは広範囲の用途を有する。これらには、抗菌食品包装、生物医学用途、環境用途が含まれる。例えば、Lin, L., et al. “Cold Plasma Treated Thyme Essential Oil/Silk Fibroin Nanofibers against SalmonellaTyphimurium in Poultry Meat,” Food Packag. Shelf Life, 2019, 21, 100337;Zhu, Y., et al. “A Novel Polyethylene Oxide/Dendrobium officinale Nanofiber: Preparation, Characterization and Application in Pork Packaging,” Food Packag. Shelf Life, 2019, 21, 100329;Surendhiran, D., et al. “Encapsulation of Phlorotannin in Alginate/PEO Blended Nanofibers to Preserve Chicken Meat from Salmonella Contaminations,” Food Packag. Shelf Life, 2019, 21, 100346;Khan, M.Q., et al. “The Development of Nanofiber Tubes Based on Nanocomposites of Polyvinylpyrrolidone Incorporated Gold Nanoparticles as Scaffolds for Neuroscience Application in Axons,” Text. Res. J. 2019, 89, 2713-20, doi: 10.1177/0040517518801185;Ullah, S., et al.“Antibacterial Properties of In Situ and Surface Functionalized Impregnation of Silver Sulfadiazine in Polyacrylonitrile Nanofiber Mats,” Int. J. Nanomedicine, 2019, 14, 2693-2703, doi: 10.2147/IJN.S197665;Khan, M.Q., et al.“Fabrication of Antibacterial Electrospun Cellulose Acetate/Silver-Sulfadiazine Nanofibers Composites for Wound Dressings Applications,” Polym. Test. 2019, 74, 39-44. Doi: 10.1016/j.polymertesting.2018.12.015;上記のRay, S.S., et al.を参照されたい。
【0017】
エレクトロスピニングされたナノファイバー布地は、CBPCの有望な候補と考えられている。例えば、Lee, S., et al. “Transport Properties of Layered Fabric Systems Based on Electrospun Nanofibers,” Fibers Polym.2007, 8, 501-06;Bagherzadeh, R., et al.“Transport Properties of Multi-Layer Fabric Based on Electrospun Nanofiber Mats as a Breathable Barrier Textile Material,” Text. Res. J. 2012, 82, 70-76を参照されたい。
【0018】
エレクトロスピニングされた高分子ナノファイバーは、非常に高い外表面積、優れた水蒸気輸送特性、および良好な機械的強度を示し得る。例えば、Huang, Z., et al. “A Review on Polymer Nanofibers by Electrospinning and Their Applications in Nanocomposites,” Compos. Sci. Technol. 2003, 63, 2223-53を参照されたい。
【0019】
エレクトロスピニングされた高分子ナノファイバーからの織物の製造は、極薄、軽量、および高引張強度の織物を生成する。例えば、Lee, S., et al., supra;Dhineshbabu, N. R., et al.“Electrospun MgO/Nylon 6 Hybrid Nanofibers for Protective Clothing,” Nano-Micro Lett. 2014, 6, 46-54;Han, Y., et al. “Reactivity and Reusability of Immobilized Zinc Oxide Nanoparticles in Fibers on Methyl Parathion Decontamination,” Text. Res. J. 2013, 86, 339-49を参照されたい。
【0020】
静電気引力により、小さな粒子がナノファイバーに引き寄せられる。ただし、このような静電引力は比較的早く消える傾向がある。静電相互作用の原理を摩擦電気ナノ発電機(triboelectric nanogenerator :TENG)と統合することにより、日常的な活動(呼吸、会話、表情作りなど)から機械エネルギーを収集し、それによってナノファイバーフィルター媒体上に電荷を生成し、静電引力の持続時間を延長することができる。これにより、ろ過の少なくとも一部を静電引力に依存するフィルターの耐用年数が延長される。
【0021】
Pengらは、ポリ乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)摩擦電気層とポリビニルアルコール(PVA)基材との間に銀ナノワイヤー電極を挟むことによる、通気性、生分解性、抗菌性、自己給電型の電子皮膚を開示している。Peng, X., et al. “A Breathable, Biodegradable, Antibacterial, and Self-Powered Electronic Skin Based on All-Nanofiber Triboelectric Nanogenerators,” Sci. Adv. 2020, 6(26), eaba9624を参照のこと。
【0022】
Sunらは、PA66/カーボンナノチューブナノファイバー層、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)層、および導電性布地層からなる多層構造を有する全繊維の通気性および防水性のウェアラブルデバイスを開示している。Sun, N., et al. “Waterproof, Breathable and Washable Triboelectric Nanogenerator Based on Electrospun Nanofiber Films for Wearable Electronics,” Nano Energy, 2021, 90, 106639を参照のこと。
【0023】
Jiangらは、UV保護性、撥水性、抗菌性、自己洗浄性、および自己発電特性を備えた多機能オールナノファイバーベースのTENGを開発するためのエレクトロスピニングナノファイバーを開示している。Jiang, Y., et al. “UV-Protective, Self-Cleaning, and Antibacterial Nanofiber-Based Triboelectric Nanogenerators for Self-Powered Human Motion Monitoring,” ACS Appl. Mater. Interfaces, 2021, 13(9), 11205-14を参照のこと。
【0024】
Chenらは、ポリアクリルアミドキシム(PAAO)およびPANのエレクトロスピニングを通じて求核性オキシム部分を統合することによって生成される官能化された(functionalized)ナノファイバーマットを開示している。これらの官能化された(functionalized)ナノファイバー塊は、化学神経剤を加水分解する実質的な能力を示した。Chen, L., et al. “Multifunctional Electrospun Fabrics via Layer-by-Layer Electrostatic Assembly for Chemical and Biological Protection,” Chem. Mater. 2010, 22, 1429-36を参照のこと。
【0025】
Choiらは、N-クロロヒダントイン(NCH-PU)によって官能化され(functionalized)、製造されたポリウレタンナノファイバーを開示している。これらのナノファイバーは、V型神経ガスの模擬物質(デメトン-S-メチル)の除染に成功した。Choi, J., et al. “N-Chloro Hydantoin Functionalized Polyurethane Fibers Toward Protective Cloth Against Chemical Warfare Agents,” Polymer, 2018, 138, 146-55を参照のこと。
【0026】
有害な化学物質および生物学的因子からシールドするための防護服およびフェイスマスクでの使用が提案されている、ナノファイバーを統合した様々な金属ナノ粒子が開示されている。例えば、Ramaseshan, R., et al. “Zinc Titanate Nanofibers for the Detoxification of Chemical Warfare Simulants, J. Am. Ceram. Soc.2007, 90, 1836-42を参照されたい。
【0027】
Leeらは、化学兵器(CWA)の模倣物質からユーザーを保護するための機能的なPANナノファイバーウェブを開示している。Lee, J., et al. “Preparation of Non-Woven Nanofiber Webs for Detoxification of Nerve Gases,” Polymer, 2019, 179, 121664を参照のこと。
【0028】
Zhaoらは、ポリアミド-6ナノファイバーに組み込まれた金属有機構造体(MOF)を開示している。MOFナノファイバー複合材料は、CWAを解毒するために並外れた反応性を示す。Zhao, J., et al.“Ultra‐Fast Degradation of Chemical Warfare Agents Using MOF-Nanofiber Kebabs,” Angew. Chem. Int. Ed. 2016, 55, 13224-28を参照のこと。
【0029】
Zhaoらは、非フッ素で効率的で生分解性の防水性と通気性を備えた膜を製造する段階的な浸漬コーティングおよび熱硬化方法を開示している。Zhao, J., et al. “Fluorine-Free Waterborne Coating for Environmentally Friendly, Robustly Water-Resistant, and Highly Breathable Fibrous Textiles,” ACS Nano, 2020, 14(1), 1045-54を参照のこと。
【0030】
Zhangらは、太陽光駆動の連続屋内除湿用の、エレクトロスピニングされたナノファイバー膜に基づく多層木材状セルラーネットワークと相互接続されたオープンチャネルを備えた水分ポンプを開示している。Zhang, Y., et al., “Super Hygroscopic Nanofibrous Membrane-Based Moisture Pump for Solar-Driven Indoor Dehumidification,” Nat. Commun. 2020, 11(1), 3302を参照のこと。
【0031】
ナノファイバー製造プロセスのスケールアップに関連する課題のため、ナノファイバーベースのエアフィルタは現在でも希少である。したがって、空気ろ過用途で使用するナノファイバー膜を製造するための拡張可能なナノファイバープラットフォームを開発する必要性が依然として残っている。
【発明の概要】
【0032】
高いろ過効率および優れた空隙率を提供するエレクトロスピニングされた高分子ナノファイバー膜が本明細書に開示される。
【0033】
膜は、1つ以上の抗菌剤または抗ウイルス剤で処理されてもよい。いくつかの実施形態では、膜は、グラフェン、ナノ粒子、ナノ複合材料、多価金属イオンおよび天然物からの薬用または他の抽出物からなる群から選択される抗ウイルス剤で処理されてもよい。処理は、好ましくは、膜の表面を1つ以上の抗ウイルス剤でコーティングすることであってもよい。あるいは、1つ以上の抗ウイルス剤をナノファイバー膜に含浸させてもよい。
【0034】
膜には、追加的にまたは代替的に、1つ以上の金属有機構造体(MOF)を含浸させてもよい。1つ以上のMOFは、例えば、1つ以上のジルコニウムMOFであってもよい。MOFは、化学兵器(CWA)および他の有毒化学物質のろ過を提供することができ、いくつかの実施形態では、小さな粒子および病原体の追加または代替のろ過も提供することができる。
【0035】
膜には、揮発性有機化合物(VOC)を除去するために、追加的または代替的に、1つ以上の光触媒剤が組み込まれていてもよい。
【0036】
開示された膜は、高いろ過効率を有することが好ましい。
【0037】
いくつかの実施形態では、開示された膜の空隙率は、フェイスマスクまたはレスピレーターとしての使用に適した通気性特性を提供するのに十分であり得る。開示された膜は、感染性病原体および/または他の小さな粒子に対して高い耐性を有するフェイスマスクおよびレスピレーターの製造に使用するのに適している。
【0038】
いくつかの実施形態では、開示された膜は、HVACシステム用のエアフィルタでの使用など、室内空気ろ過用途で使用するエアフィルタの製造に使用するのに適し得る。
【0039】
いくつかの実施形態では、開示された膜は、カーボンナノファイバー膜などの、二酸化炭素の除去を促進する別個の膜と組み合わせて使用され得る。
【0040】
いくつかの実施形態では、開示された膜は実質的に透明であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】
図1は、開示されたナノファイバー高分子膜の実施形態の代表的な走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
【
図2】
図2は、開示されたナノファイバー高分子膜の実施形態の代表的なサンプルの繊維直径の測定値および分布を示す。
【
図3】
図3は、水銀ポロシメータ分析によって決定された、開示されたナノファイバー高分子膜の実施形態の代表的なサンプルの細孔径分布を示す。
【
図4】
図4は、開示されたナノファイバー高分子膜の実施形態の代表的なサンプルの平均空隙率および平均空隙率の分布を示す。
【
図5】
図5は、開示されたナノファイバー高分子膜の実施形態の代表的なサンプルの機械的引張強度試験の結果を示す。
【
図6】
図6は、開示されたナノファイバー高分子膜の実施形態の代表的なサンプルのろ過効率試験結果を示す。
【
図7】
図7は、開示されたナノファイバー高分子膜の実施形態の代表的なサンプルのラテックスろ過試験の結果を示す。
【
図8】
図8は、開示されたナノファイバー高分子膜の実施形態の代表的なサンプルのウイルスろ過効率試験結果を示す。
【
図9】
図9は、開示されたナノファイバー高分子膜の実施形態の代表的なサンプルの細菌ろ過効率試験結果を示す。
【
図10】
図10は、開示されたナノファイバー高分子膜の実施形態の代表的なサンプルの可燃性試験の結果を示す。
【
図11】
図11は、開示されたナノファイバー高分子膜の実施形態の代表的なサンプルの抗ウイルス特性試験結果を示す。
【
図12】
図12は、開示されたナノファイバー高分子膜の実施形態の代表的なサンプルの抗菌特性試験結果を示す。
【
図13】
図13は、膜を通過するエアロゾルの流量がろ過効率にどのような影響を与えるかを示す。
【
図14】
図14は、膜を通過するエアロゾルの流量が膜全体の圧力降下にどのような影響を与えるかを示す。
【
図15】
図15は、揮発性有機化合物および二酸化炭素を除去するためのシステムの実施形態を示す。
【
図16】
図16は、メッシュ基材の矩形、六角形、およびトリヘキサゴンの(trihexagonal)開口パターンの基本的な繰り返し単位を示す。
【
図17】
図17は、全ナノファイバーTENG(NF-TENG)プラットフォームに基づく、柔軟で通気性があり抗菌性のフェイスマスクの概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0042】
高いろ過効率および優れた空隙率を提供するエレクトロスピニングされた高分子ナノファイバー膜が本明細書に開示される。
【0043】
膜は、1つ以上の抗菌剤または抗ウイルス剤で処理されてもよい。いくつかの実施形態では、膜は、グラフェン、ナノ粒子、ナノ複合材料、多価金属イオン、および天然物からの薬用または他の抽出物からなる群から選択される抗ウイルス剤で処理され得る。処理は、好ましくは、膜の表面を1つ以上の抗ウイルス剤でコーティングすることであり得る。あるいは、1つ以上の抗ウイルス剤をナノファイバー膜に含浸させてもよい。
【0044】
膜には、追加的にまたは代替的に、1つ以上の金属有機構造体(MOF)を含浸させることができる。1つ以上のMOFは、例えば、1つ以上のジルコニウムMOFであってもよい。MOFは、化学兵器(CWA)および他の有毒化学物質のろ過を提供することができ、いくつかの実施形態では、小さな粒子および病原体の追加または代替のろ過も提供することができる。
【0045】
膜には、揮発性有機化合物(VOC)を除去するために、追加的または代替的に、1つ以上の光触媒剤が組み込まれていてもよい。
【0046】
開示された膜は、高いろ過効率を有することが好ましい。
【0047】
いくつかの実施形態では、開示された膜の空隙率は、フェイスマスクまたはレスピレーターとしての使用に適した通気性特性を提供するのに十分であり得る。開示された膜は、感染性病原体および/または他の小さな粒子に対して高い耐性を有するフェイスマスクおよびレスピレーターの製造に使用するのに適している。
【0048】
いくつかの実施形態では、開示された膜は、HVACシステム用のエアフィルタでの使用など、室内空気ろ過用途で使用するエアフィルタの製造に使用するのに適し得る。
【0049】
いくつかの実施形態では、開示された膜は、カーボンナノファイバー膜などの、二酸化炭素の除去を促進する別個の膜と組み合わせて使用され得る。
【0050】
開示された膜は、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも98%、さらにより好ましくは少なくとも99%、最も好ましくは少なくとも99.5%のろ過効率を有し得る。
【0051】
いくつかの実施形態では、開示された膜は実質的に透明であり得る。透明度は80%以上であることが好ましい。
【0052】
開示された膜は、好ましくは、その表面上の感染性病原体を遮断し、駆除することができる。
【0053】
いくつかの好ましい実施形態では、開示された膜は不燃性である。
【0054】
開示された膜は、不燃性の高性能繊維の製造に適している可能性がある。
【0055】
いくつかの好ましい実施形態では、開示された膜は極薄で軽量である。
【0056】
いくつかの好ましい実施形態では、開示された膜は、水またはエタノール若しくはアセトンなどの選択された有機溶媒に曝露されても分解しない。したがって、膜を使用して製造された製品は洗浄して再利用できる。
【0057】
いくつかの実施形態では、ナノファイバー高分子膜はポリフッ化ビニリデン(PVDF)から作製され得る。いくつかの代替実施形態では、ナノファイバー高分子膜は、1つ以上のTecophilic(商標)熱可塑性ポリウレタン(TPU)から作製され得る。他の代替実施形態では、ナノファイバー高分子膜は、1つ以上のポリカプロラクタムから作製され得る。いくつかの追加の代替実施形態では、ナノファイバー高分子膜はポリビニルピロリドン(PVP)から作製され得る。いくつかの追加の代替実施形態では、ナノファイバー高分子膜は、ポリ(フッ化ビニリデン-コ-ヘキサフルオロプロピレン)(PVDF-HFP)から作製され得る。いくつかの追加の代替実施形態では、ナノファイバー高分子膜はポリ乳酸(PLA)から作製され得る。いくつかの他の代替実施形態では、ナノファイバー高分子膜は、2つ以上のポリフッ化ビニリデン、1つ以上のTecophilic(商標)熱可塑性ポリウレタン、1つ以上のポリカプロラクタム、ポリビニルピロリドン、ポリ(フッ化ビニリデン-co-ヘキサフルオロプロピレン)およびポリ乳酸のブレンドから作製され得る。
【0058】
ナノファイバー高分子膜は、エレクトロスピニング技術を使用して作製され得る。ポリマーはエレクトロスピニングの前に溶媒に溶解される。いくつかの実施形態では、溶媒は、好ましくは、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMA)、エタノール、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)、アセトン、酢酸エチル、ジクロロメタン(DCM)、ギ酸、水、またはそれらの組み合わせからなる群から選択され得る。いくつかの好ましい実施形態では、溶媒はヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)であり得る。
【0059】
いくつかの実施形態では、界面活性剤をポリマー溶液に添加することができる。ポリマー溶液に界面活性剤を添加すると、繊維径が小さくなり、その結果、細孔径が小さく、ろ過効率が高い膜が得られる。いくつかの好ましい実施形態では、界面活性剤は、臭化セトリモニウム(CTAB)、ラウラミドプロピルベタイン(LAPB)、およびアルファオレフィンスルホン酸塩(AOS)からなる群から選択される1つ以上の界面活性剤であり得る。
【0060】
いくつかの実施形態では、塩または塩溶液をポリマー溶液に添加することができる。塩または塩溶液をポリマー溶液に添加すると、より薄くより均一な繊維の形成が促進され、玉の形成が減少し、および/または繊維内の分岐が増加する可能性がある。高分子溶液中の塩の存在により、電荷密度と導電率が増加し、スピニングジェットの伸びが促進され、より細い繊維が生成される。いくつかの好ましい実施形態では、塩または塩溶液は、アルカリ金属ハロゲン化物、置換または非置換ハロゲン化アンモニウム、およびリン酸緩衝食塩水(PBS)からなる群から選択される1つ以上の塩または塩溶液であってもよい。いくつかのより好ましい実施形態では、塩または塩溶液は、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化リチウム(LiCl)、および塩化カリウム(KCl)からなる群から選択される1つ以上の塩であってもよい。
【0061】
ナノファイバー高分子膜は、単層膜であってもよく、あるいは一体化された多層膜であってもよい。いくつかの実施形態では、膜は、区別可能な微細構造特性を有する複数の一体化された層から構成され得る。複数の一体化された層で構成される膜は、ろ過効率を高め、空気流抵抗を低くすることができる。低い通気抵抗は、これが関連する用途では高い通気性に相当する。一体型多層膜のろ過効率の向上は、小さな病原体粒子や小さな直径の粒子状物質に対する優れたバリア保護の結果である可能性がある。
【0062】
いくつかの実施形態では、一体型多層膜は、異なる細孔径を有する2つの層から構成される。いくつかの代替実施形態では、一体型多層膜は、異なる細孔径を有する層によって分離された等しい細孔径を有する2つの層を有する3つの層から構成される。細孔径は、より小さい細孔径を有する層については1μmと20μmとの間であり、より大きな細孔径を有する層については20μmと200μmとの間であることが好ましい。
【0063】
等しい細孔径の2つの層とそれを分離し異なる細孔径を有する層を有する3つの層を持つ実施形態で、等しい径の層はより大きな細孔径を有することが好ましく、これらの2つの層の間の層はより小さな細孔径を有することが好ましい。この構成により、層間剥離の可能性が減少し、ガスが多層膜を通過するときに発生する圧力降下も減少し、膜のろ過効率を大幅に低下させることなく通気性が向上する。
【0064】
いくつかの他の代替実施形態では、一体型多層膜は、3つの異なる孔径を有する3つの層から構成される。
【0065】
一体型多層膜における層の細孔径は、ポリマー溶液の粘度およびエレクトロスピニングプロセス条件を調整することによって調整することができる。エレクトロスピニングプロセス条件は、エレクトロスピニングセットアップで使用されるスピニングジェットをさらに安定させるために調整できる。粘度が低い溶液は通常、細孔径の小さな層を生成し、粘度が高い溶液は通常、細孔径がより大きな層を生成する。
【0066】
いくつかの実施形態では、膜の層間の機械的完全性および結合力は、次の層をエレクトロスピニングする前に短繊維をエレクトロスプレーすることによって強化され得る。いくつかの他の実施形態では、膜の層間の機械的完全性および結合力は、次の層をエレクトロスピニングする前に、「粘着性表面」を生成するようにスクリーン距離を減少させることによって、湿った繊維をエレクトロスピニングすることによって強化され得る。
【0067】
いくつかの実施形態では、開示されたナノファイバー高分子膜は布地材料上に積層され得る。あるいは、ナノファイバーは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、PA6などのポリアミド、PETコポリマー、およびスパンボンドBico材料などの不織布上に直接エレクトロスピニングされてもよい。透明な不織布は、エレクトロスピニングされたナノファイバー高分子膜の透明性が望ましい用途に使用され得る。PETコポリマーまたはスパンボンドBico素材を使用すると、ナノファイバーと繊維と間の接着が強化され、剥離が減少する。
【0068】
いくつかの実施形態では、開示されたナノファイバー高分子膜は、メッシュ基材上に直接エレクトロスピニングされる。メッシュ基材は、その上でナノファイバーをエレクトロスピニングするのに適するように特別に設計された開口パターンを有してもよい。メッシュ基材の開口パターンとしては、例えば、
図16に示すように、矩形、六角形、またはトリヘキサゴンの(trihexagonal)開口パターンが挙げられる。メッシュ基材上でのエレクトロスピニングにより、透明または実質的に透明なナノファイバー高分子膜の製造が可能になる可能性がある。
【0069】
いくつかの実施形態では、開示されたナノファイバー高分子膜は、摩擦電気ナノ発電機(TENG)を使用して摩擦電気的に帯電される。これにより、自己帯電する膜が得られる。いくつかの実施形態では、ナノファイバーの摩擦負帯電層(tribo-negative layer)は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)から構成され得る。いくつかの実施形態では、ナノファイバーの摩擦正帯電層(tribo-positive layer)は、ポリアミド(PA66)ナノファイバーから構成され得る。
【0070】
いくつかの実施形態では、導電性電極層は、ポリピロールでコーティングされたナノファイバー膜から構成され得る。いくつかの代替実施形態では、導電性電極層は銀ナノファイバーから構成され得る。いくつかの他の代替実施形態では、導電性電極層は導電性布地で構成され得る。
【0071】
いくつかの実施形態では、高空気流条件下でナノファイバー膜層の機械的完全性を高めるために、エレクトロスピニングの前にセルロースベースの接着剤がエレクトロスピニング基材に塗布される。
【0072】
いくつかの実施形態では、ポリ酢酸ビニル(PVAc)層は、標的ポリマーのエレクトロスピニングと同時にエレクトロスピニング基材上にエレクトロスピニングされる。
【0073】
開示されたナノファイバー高分子膜は、グラフェン、ナノ粒子、ナノ複合材料、多価金属イオン、および天然物からの薬用または他の抽出物からなる群から選択される抗ウイルス剤などの抗病原体剤で処理されてもよい。グラフェンは官能化(functionalized)されていても、官能化されていなくてもよい。ナノ粒子としては、銀ナノ粒子や亜鉛ナノ粒子などの金属ナノ粒子が好ましい。ナノ複合材料は、銀ドープ二酸化チタンナノ材料であることが好ましい。多価金属イオンは、好ましくは、Cu2+カチオンまたはZn2+カチオンなどの金属イオンであってもよい。天然物抽出物としては、甘草抽出物が好ましい。
【0074】
抗病原体剤は、膜の表面に物理的にコーティングされてもよい。コーティングは、原子層堆積などの化学的もしくは電気化学的方法、物理蒸着(PVD)もしくは化学蒸着(CVD)などの蒸着方法、プラズマ溶射もしくはスプレー塗装などのスプレーコーティング方法、またはディップコーティングもしくはスピンコーティングなどの物理的コーティング方法を使用して塗布することができる。
【0075】
あるいは、抗病原体剤は、エレクトロスピニングの前に抗病原体剤をポリマー溶液に混合することによって膜に組み込むことができ、それによって抗病原体剤が含浸された膜を生成することができる。
【0076】
いくつかの実施形態では、開示されたナノファイバー高分子膜は、ジルコニウムMOFなどの1つ以上の金属有機構造体(MOF)で含浸され得る。MOFは、エレクトロスピニングの前にMOFをポリマー溶液にブレンドすることによって膜に組み込むことができ、それによってMOFが含浸された膜が生成される。
【0077】
いくつかの実施形態では、膜へのMOFの含浸は、抗病原体剤によるコーティングまたは抗病原体剤の含浸に加えて行われてもよい。他の実施形態では、膜へのMOFの含浸は、抗病原体剤によるコーティングまたは抗病原体剤の含浸の代替となり得る。MOFを含浸させた膜は、化学兵器(CWA)およびその他の有毒化学物質のろ過を提供する可能性がある。いくつかの実施形態では、MOFを含浸させた膜は、抗ウイルス性、抗菌性、または他の抗病原性特性も示し得る。
【0078】
したがって、本明細書に記載のMOFが、本明細書に記載の抗ウイルス剤または抗菌剤などの抗病原体剤と必ずしも異なることを意図するものではない。むしろ、抗病原体剤はMOFであってもよく、あるいは本明細書に記載の他の抗病原体剤の1つであってもよい。また、本明細書に記載のMOFが必ずしも抗ウイルス性、抗菌性、または他の抗病原性の特性を示すことも意図されていない。開示された膜に含浸されたMOFは、化学兵器(CWA)および他の有毒化学物質のろ過を提供し得るが、いくつかの実施形態では、抗ウイルス、抗菌、または他の抗病原性特性を示さないか、または小さな粒子のろ過を提供しない可能性がある。
【0079】
いくつかの実施形態では、開示されたナノファイバー高分子膜には、TiO2、NドープTiO2、AgドープTiO2、またはAl2O3-TiO2などの1つ以上の光触媒が含浸され得る。光触媒は、エレクトロスピニングの前に光触媒をポリマー溶液に混合することによって膜に組み込むことができ、それによって光触媒が含浸された膜が生成される。
【0080】
いくつかの実施形態では、膜への光触媒の含浸は、抗病原体剤のコーティングまたは含浸に加えて行われてもよい。他の実施形態では、膜への光触媒の含浸は、抗病原体剤のコーティングまたは含浸の代替となり得る。光触媒を含浸させた膜は、VOCの分解を促進し得る。いくつかの実施形態では、光触媒を含浸させた膜は、抗ウイルス、抗菌、または他の抗病原性特性も示し得る。
【0081】
したがって、本明細書に記載の光触媒が、本明細書に記載の抗ウイルス剤または抗菌剤などの抗病原体剤と必ずしも異なることを意図するものではない。むしろ、抗病原体剤は光触媒であってもよく、あるいは本明細書に記載される他の抗病原体剤の1つであってもよい。また、本明細書に記載の光触媒が必ずしも抗ウイルス性、抗菌性、または他の抗病原性特性を示すことも意図されていない。開示された膜に含浸された光触媒は、VOCの分解を促進し得るが、いくつかの実施形態では、抗ウイルス、抗菌、または他の抗病原性特性を示さない可能性がある。
【0082】
いくつかの実施形態では、光触媒含浸ナノファイバー高分子膜は、CO2を除去するためにカーボンナノファイバー(CNF)膜と組み合わせて使用され得る。いくつかの代替実施形態では、膜は、1つ以上の光触媒含浸層および1つ以上のCNF層を有してもよい。
【0083】
光触媒含浸膜は、高いろ過効率、断熱性、光分解能を示し、効率的なVOC分解と小粒子のろ過を可能にすることが好ましい。システムに追加のCNF膜を使用すると、光触媒分解中にその場で効果的にCO2を捕捉できる。VOC分解率は95%より大きいことが好ましく、CO2吸着速度は20mmol/m2sより大きいことが好ましい。
【0084】
いくつかの実施形態では、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)/シリカナノファイバー膜は、本明細書に記載される用途、特にVOCの光触媒による除去を含む用途において追加的にまたは代替的に使用され得る。
【0085】
開示されたナノファイバー高分子膜でコーティングされた布地材料の通気性を高めるために、異なる厚さの複数のナノファイバー層を布地材料の同じ側または反対側に電界紡糸することができる。布地材料ロールの形態にある布地材料は、エレクトロスピニングによって1つ以上のナノファイバー層でコーティングされていてもよい。いくつかの実施形態では、1つ以上の第1のナノファイバー層が第1の巻き取り速度で布地材料の第1の面上にエレクトロスピニングされ、布地材料ロールが裏返され、1つ以上の第2のナノファイバー層が第2の巻き取り速度で布地材料の第2の面上にエレクトロスピニングされ、第1の巻き取り速度は第2の巻き取り速度と異なる。他の実施形態では、1つ以上の第1のナノファイバー層が第1の巻き取り速度で布地材料の第1の面上にエレクトロスピニングされ、次いで、1つ以上の第2のナノファイバー層が第2の巻き取り速度で布地材料の第1の面上にエレクトロスピニングされ、第1の巻き取り速度は第2の巻き取り速度と異なる。さらに他の実施形態では、1つ以上の第1のナノファイバー層が第1の巻き取り速度で布地材料の第1の面上にエレクトロスピニングされ、次いで、1つ以上の第2のナノファイバー層が第2の巻き取り速度で布地材料の第1の面上にエレクトロスピニングされ、次いで、布地材料ロールが裏返され、1つ以上の第3のナノファイバー層が第3の巻き取り速度で布地材料の第2の面上にエレクトロスピニングされ、ここで、第1の巻き取り速度は第2の巻き取り速度と異なる。さらに他の実施形態では、布地材料の片面または両面に異なる厚さの追加のナノファイバー層を含めるように、追加のエレクトロスピニングステップが追加されてもよい。
【0086】
開示されたナノファイバー高分子膜から作られたフェイスマスクまたはレスピレーターも本明細書に開示される。フェイスマスクまたはマスクは、着用者が快適に使用できるように、高いろ過能力と適切な通気性特性を有することが好ましい。開示されたフェイスマスクまたはレスピレーターは、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも98%、さらにより好ましくは少なくとも99%、最も好ましくは少なくとも99.9%のろ過効率を有していてもよい。
【0087】
いくつかの実施形態では、開示されたナノファイバー高分子膜から作られたフェイスマスクは、全ナノファイバーTENG(NF-TENG)プラットフォームに基づく、柔軟で通気性があり抗菌性のフェイスマスクである。いくつかの実施形態では、フェイスマスクは複数の層を含む。いくつかの実施形態では、多層フェイスマスクは、ポリアミド(PA66)ナノファイバーの摩擦正帯電層(tribo-positive layer)、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)ナノファイバーの摩擦負帯電層(tribo-negative layer)の、およびポリピロール、銀ナノワイヤーまたは導電性布地を有する導電性電極層を含む。
【0088】
開示されたナノファイバー高分子膜からフェイスマスクまたはレスピレーターを製造する方法も本明細書に開示される。この方法は、特定の用途の要求に従って、抗病原体性、物理的、化学的、および機械的特性を微調整できることが好ましい。
【0089】
開示されたナノファイバー高分子膜からHVACシステムで使用するエアフィルタを製造する方法も本明細書に開示される。
【0090】
開示されたナノファイバー高分子膜およびカーボンナノファイバー膜からVOCおよびCO2を除去するのに使用されるエアフィルタを製造する方法も本明細書に開示される。
【0091】
[サンプル調製]
以下のサンプル調製材料および方法は例示である。他の適切な材料および方法が本発明の範囲内で使用されてもよい。
【0092】
<材料> 複数のTecophilic(商標)熱可塑性ポリウレタン(TPU)をLubrizolから購入した。Knyar2801 ポリフッ化ビニリデン(PVDF)をArkemaから購入した。Zytel7301 ポリカプロラクタムはDuPontから提供された。ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)をOakwood Products Inc.から購入した。ジメチルアセトアミド(DMAc)、アセトン、ギ酸、臭化セトリモニウム(CTAB)、塩化リチウム(LiCl)、および塩化テトラブチルアンモニウム(TBAC)をFisher Scientificから購入した。銀ナノ粒子(15nm)をSkyspring Nanomaterialsから購入した。ZnOおよびCuO(Zn-Cu)をSigma Aldrichから購入した。AgドープTiO2(Ag-TiO2)ナノ粒子はJM Materials Technology Inc.から提供された甘草抽出物はXSL USA Inc.から提供された。
【0093】
<溶液の調製> TPUポリマーをHFIPに添加して、7および15w/vの溶液を作成した。16.5重量%のPVDFを、0.85%のCTABおよび0.04%のLiCl、NaClまたはTBACを含有する3:1のDMAc/アセトンに溶解した。ポリマーペレット/粉末が完全に溶解するまで、すべての溶液を撹拌プレート上で混合した。
【0094】
<抗ウイルス治療> 2つの抗ウイルス処理方法が使用された:(1)抗ウイルス粒子を含む水性分散液に膜を浸漬するか、または(2)抗ウイルス剤をポリマー溶液に添加して抗ウイルスナノファイバー膜を直接製造した。使用した抗ウイルス剤は、2%クエン酸および銀、Ag-TiO2およびZn-Cuナノ粒子、並びに甘草抽出物であった。
【0095】
<膜の製造> 膜の製造プロセスはロールtoロールシステムであり、布地材料が一方の側から他方の側に巻き付けられ、巻き取りプロセス中にナノファイバー層が繊維上に積層される。巻き取り速度を制御することでナノファイバー層の厚さを制御した。
【0096】
エレクトロスピニングプロセスは、単一のステップで、あるいは少なくとも3つの別個のステップで実行した。
【0097】
1段階プロセスでは、1つのシリンジにポリ酢酸ビニル(PVAc)溶液を充填し、1つ以上の追加のシリンジに標的ポリマー溶液を充填した。PVAc溶液とターゲットポリマー溶液を同時にエレクトロスピニングした。基材と接触する層はPVAcで形成され、それにより基材とナノファイバー膜層との間の接着力が増大した。
【0098】
3段階プロセスでは、まず、スポンジコーティングプロセスを使用して、基材をセルロースベースの接着剤でコーティングした。次に、エレクトロスピニングされたナノファイバーを基材上にコーティングした。最後に、コーティングされた基材を加熱により乾燥させた。
【0099】
<官能化(Functionalization)> エレクトロスピニング溶液に所望の官能化剤(functionalizing agent)を添加するか、または2%ジルコニウムMOF、2%クエン酸および銀、Ag-TiO2、ZnOもしくはCuOナノ粒子、または甘草抽出物などの溶媒中の所望の官能化剤(functionalizing agent)の分散液中にエレクトロスピニングされた膜を吊り下げることによって、膜を官能化(functionalized)した。
【0100】
<光触媒含浸膜の調製> 光触媒前駆体は、チタンテトライソプロポキシド、Al(acac)3およびAgNO3からなる群から選択される光触媒材料または光触媒材料前駆体の1~100mg/mL溶液2.5mL、ポリビニルピロリドン(PVP)、ラウラミドプロピルベタイン(LAPB)、アルファオレフィンスルホン酸塩(AOS)、臭化セトリモニウム(CTAB)からなるグループから選択される界面活性剤0.3g、エタノール4.5mL、並びに酢酸3.0mLを用いて調製される。続いて、溶液を撹拌プレート上で12時間以上撹拌する。
【0101】
光触媒用のナノファイバー担体は、エレクトロスピニング装置を使用して作製される。エレクトロスピニングに使用されるプロセスパラメータは、流量が0.5mL/h、針から接地されたアルミニウム箔までの垂直距離が10~15cm、および印加電圧が15~20kVである。エレクトロスピニングされたナノファイバーは、空気中、1~3℃/分の昇温速度で、600℃で2時間焼成される。
【0102】
ナノファイバー担体を、調製した光触媒前駆体中に真空下で5分間浸漬し、その後、2-プロパノールで3回洗浄する。光触媒を含浸させたナノファイバーを周囲条件下で一晩乾燥させた後、空気中、5℃/分の昇温速度で、500℃で1時間焼成する。
【0103】
<カーボンナノファイバー膜の調製> エレトロスピニングされたナノファイバーマットを処理することによってカーボンナノファイバー膜を調製する。調製されたエレトロスピニングされたナノファイバーマットを、12.5mM臭化テトラブチルアンモニウム(TBAB)を含む4M NaOH水溶液中、70℃で1時間化学的に脱フッ化水素化する。化学的脱フッ化水素処理が完了した後、マットを水とエタノールで数回洗浄し、減圧下60℃で乾燥させる。最後に、マットを炭化プロセスによって処理する:マットをアルゴン雰囲気下で3℃/分の速度で1000℃まで加熱し、この温度で1時間保持する。
【0104】
[代表的なサンプルの特性評価]
開示されたナノファイバー高分子膜をフェイスマスクおよびレスピレーターにおいて、またはHVACもしくは他の空気ろ過用途において使用する実現可能性を調査するために、開示されたナノファイバー高分子膜の実施形態の代表的なサンプルの形態、繊維直径、ろ過効率、空隙率、湿潤性、機械的強度、および場合により抗ウイルス活性および粒子状物質保持能力の特徴を確認した。
【0105】
ナノファイバー高分子膜の特徴を、走査型電子顕微鏡(SEM)画像化を使用して確認した。
図1は、開示されたナノファイバー高分子膜の一実施形態の代表的なSEM画像を示す。大きな画像は2000倍の倍率を示し、各挿入画像はそれぞれ5000倍の倍率の画像を示す。
図1に示すように、各ナノファイバー膜の内部表面および外部表面は、サンプル間で一貫した形態を示す。さらに、ナノファイバー膜は良好な配向性を示し、ざらつき(breading)、裂け、およびその他の望ましくない形態学的特徴が見られない。
【0106】
図2は、開示されたナノファイバー高分子膜の実施形態の代表的なサンプルの繊維直径の測定値および分布を示す。代表的なサンプルの平均繊維直径は0.224μm、繊維直径の中央値は0.210μm、標準偏差は0.106であった。平均配向は79°、遮蔽面積は16%であった。
【0107】
図3は、水銀ポロシメータ分析によって決定された、開示されたナノファイバー高分子膜の実施形態の代表的なサンプルの細孔径分布を示す。平均細孔径は0.0025μmであることがわかった。
【0108】
図4は、開示されたナノファイバー高分子膜の実施形態の代表的なサンプルの平均空隙率および平均空隙率の分布を示す。重量測定によって決定された平均空隙率は、78.5%の中心点の周りに分布していることが示された。
図4に示すように、すべてのサンプルは、75%から83%の範囲で一貫した空隙率を示した。膜の空隙率が高いことは、膜から作られたフェイスマスクやフィルターの通気性を高めるための重要な要件である。
【0109】
図5は、開示されたナノファイバー高分子膜の実施形態の代表的なサンプルの機械的引張強度試験の結果を示す。
【0110】
開示されたナノファイバー高分子膜の実施形態の代表的なサンプルのろ過効率についても試験した。観察された効率は、30L/分で99.61%(圧力損失1.265mbar)、95L/分で99.85%(圧力損失4.3mbar)であった。
【0111】
表1は、膜の一実施形態の代表的なサンプルの試験結果の概要を示す。
【0112】
【0113】
膜の一実施形態の代表的なサンプルは、水またはエタノールで洗浄した後も分解しなかった。対照的に、メルトブローン膜のサンプルは、エタノールで洗浄した後、ろ過効率の大幅な低下を示した。
【0114】
開示されたナノファイバー高分子膜の実施形態の代表的なサンプルと典型的なメルトブローン膜との間の比較を表2に示す。
【0115】
【0116】
個人用保護具用途で使用するための様々な膜サンプルについてのろ過効率および観察された圧力降下を表3に示す。
【0117】
【0118】
HVAC用途で使用するためのさまざまな膜サンプルのろ過効率および観察された圧力降下を表4に示す。
【0119】
【0120】
図6~12は、個人用保護具用途での使用を意図した開示されたナノファイバー高分子膜の実施形態の代表的なサンプルのろ過効率、可燃性、抗ウイルス性および抗菌性についての試験結果を示す。
【0121】
図13は、膜を通過するエアロゾルの流量によってろ過効率がどのように影響されるかを示している。
【0122】
図14は、膜を通過するエアロゾルの流量によって、膜の通気性の尺度である膜を横切る圧力降下がどのように影響を受けるかを示している。
【0123】
図15は、光触媒含浸ナノファイバー高分子膜とカーボンナノファイバー膜から構成される、揮発性有機化合物および二酸化炭素除去システムの一実施形態を示す。
【0124】
図16は、メッシュ基材の矩形、六角形、およびトリヘキサゴンの(trihexagonal)開口パターンの基本的な繰り返し単位を示す。
【0125】
図17は、全ナノファイバーTENG(NF-TENG)プラットフォームに基づく、柔軟で通気性があり抗菌性を持つフェイスマスクの概略図を示す。
【0126】
開示された実施形態の前述の説明は、当業者が本明細書に開示された発明を製造または使用できるようにするために提供されるものである。様々な発明の態様が、1つ以上の図示された実施形態、実装、および実施例に関連して開示されているが、本発明が、具体的に開示された実施形態を超えて、他の代替実施形態並びに/または本発明、その自明な変更および均等物の使用に拡張されることが当業者によって理解されるべきである。また、本開示の範囲には、本明細書に開示される実施形態の特定の特徴および態様のさまざまな組み合わせまたはサブコンビネーションが含まれ、開示される主題のさまざまな特徴、実施形態、および態様は、互いに組み合わせたり、置き換えたりできる。本明細書で定義される一般原理は、本開示の精神または範囲から逸脱することなく他の実施形態に適用することができる。したがって、本開示は、本明細書に示される実施形態に限定されることを意図するものではなく、本明細書に開示される原理および新規な特徴と一致する最も広い範囲が与えられるべきである。
【0127】
引用されたすべての参考文献は、参照により本明細書に明示的に組み込まれる。
【0128】
[関連出願の相互参照] 本出願は、2021年10月7日に出願された米国仮特許出願第63/262,246号および2022年2月11日に出願された米国仮特許出願第63/267,877号の利益を主張し、これらの開示内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【国際調査報告】