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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-18
(54)【発明の名称】組換えリフレクチンナノ粒子
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/435 20060101AFI20241010BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20241010BHJP
   C12N 15/64 20060101ALI20241010BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20241010BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20241010BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20241010BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20241010BHJP
   C07K 17/00 20060101ALI20241010BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20241010BHJP
   A61K 8/64 20060101ALI20241010BHJP
   A61K 8/02 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
C07K14/435 ZNA
C12N15/12
C12N15/64 Z
C12N1/21
C12N1/19
C12N1/15
C12N5/10
C07K17/00
A61Q19/00
A61K8/64
A61K8/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024522211
(86)(22)【出願日】2022-10-13
(85)【翻訳文提出日】2024-06-07
(86)【国際出願番号】 SG2022050732
(87)【国際公開番号】W WO2023063890
(87)【国際公開日】2023-04-20
(31)【優先権主張番号】10202111370U
(32)【優先日】2021-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506076891
【氏名又は名称】ナンヤン テクノロジカル ユニヴァーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】ローク、ジュン ジエ
(72)【発明者】
【氏名】ミゼレ、アリ ジル チェンギーズ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C083
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA26X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA87X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA50
4C083AD411
4C083AD412
4C083CC02
4C083DD16
4C083EE11
4C083FF01
4H045AA10
4H045BA10
4H045BA51
4H045CA50
4H045EA61
4H045EA65
4H045FA74
(57)【要約】
配列番号1に記載のアミノ酸配列と少なくとも70%の配列同一性又は少なくとも80%の配列相同性を共有するアミノ酸配列を含むリフレクチンポリペプチド、リフレクチンポリペプチドをコードする核酸分子、核酸分子を含む宿主細胞;前記リフレクチンポリペプチドを含む組換えリフレクチンナノ粒子、組換えリフレクチンナノ粒子を合成する方法、組換えリフレクチンナノ粒子で表面官能化された基板、及び組換えリフレクチンナノ粒子を含むスキンケア製品が提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1に記載のアミノ酸配列と少なくとも70%の配列同一性又は少なくとも80%の配列相同性を共有するアミノ酸配列を含むリフレクチンポリペプチドであって、リフレクチンB1(配列番号1)の活性を実質的に保持する、リフレクチンポリペプチド。
【請求項2】
前記アミノ酸配列が、配列番号1に記載のアミノ酸配列と少なくとも75%、少なくとも80、少なくとも85、少なくとも90、少なくとも91、92、93、94、95、96、97、98、99又は100%の配列同一性を共有する、請求項1に記載のリフレクチンポリペプチド。
【請求項3】
前記アミノ酸配列が、配列番号1と同一である、請求項1又は2に記載のリフレクチンポリペプチド。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のリフレクチンポリペプチドをコードする核酸分子。
【請求項5】
前記核酸分子がベクターに含まれる、請求項4に記載の核酸分子。
【請求項6】
前記ベクターが、前記核酸分子の発現を制御するための調節エレメントを更に含む、請求項5に記載の核酸分子。
【請求項7】
請求項4~6のいずれか一項に記載の核酸分子を含む宿主細胞であって、好ましくは細菌細胞である、宿主細胞。
【請求項8】
請求項1~3のいずれか一項に記載のリフレクチンポリペプチドを含む、組換えリフレクチンナノ粒子。
【請求項9】
前記リフレクチンポリペプチドが、リガンドにコンジュゲートされている、請求項8に記載の組換えリフレクチンナノ粒子。
【請求項10】
前記リガンドが、前記リフレクチンポリペプチドにペプチド結合で共有結合している、請求項9に記載の組換えリフレクチンナノ粒子。
【請求項11】
前記リガンドが、以下の式(I):
【化1】

(式中、
CGは連結基であり、
nは、1~5から選択される整数であり、
【化2】

は、ペプチド結合を形成するための、前記リフレクチンポリペプチドの窒素原子への結合点を示す)を有する、請求項10に記載の組換えリフレクチンナノ粒子。
【請求項12】
CGが、以下の式(II):
【化3】

(式中、
【化4】

は、式(I)の前記リガンドの-(CH部分への結合点を示す)の部分である、請求項11に記載の組換えリフレクチンナノ粒子。
【請求項13】
nが4である、請求項11又は12に記載の組換えリフレクチンナノ粒子。
【請求項14】
CGが-Nである、請求項11に記載の組換えリフレクチンナノ粒子。
【請求項15】
前記リフレクチンポリペプチドが、7超の等電点を含む、請求項8~14のいずれか一項に記載の組換えリフレクチンナノ粒子。
【請求項16】
前記ナノ粒子が、0.5未満の多分散(polydiversity)指数を有する、請求項8~15のいずれか一項に記載の組換えリフレクチンナノ粒子。
【請求項17】
前記組換えリフレクチンナノ粒子が、約-30~約-100mVの範囲のゼータ電位を有する、請求項8~16のいずれか一項に記載の組換えリフレクチンナノ粒子。
【請求項18】
前記組換えリフレクチンナノ粒子がアモルファスである、請求項8~17のいずれか一項に記載の組換えリフレクチンナノ粒子。
【請求項19】
請求項8~18のいずれか一項に記載の組換えリフレクチンナノ粒子を合成する方法であって、前記方法は:
リフレクチンポリペプチドを組換え発現させること;
クロマトグラフィによって前記リフレクチンポリペプチドを精製すること;及び
前記精製リフレクチンポリペプチドを、ナノ粒子へと自己組織化させること、
を含む、方法。
【請求項20】
前記精製リフレクチンポリペプチドを、リガンドにコンジュゲートすることを更に含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記クロマトグラフィが、pH5.0より高いpH範囲で実施される、請求項19又は20に記載の方法。
【請求項22】
前記自己組織化が、有機溶媒を含む緩衝液中で実施される、請求項19~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記有機溶媒の濃度により、前記組換えリフレクチンナノ粒子のサイズが決定する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記有機溶媒がアセトニトリルである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記組換えリフレクチンナノ粒子のサイズが、前記アセトニトリルの濃度と実質的に直線関係にある、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
請求項8~18のいずれか一項に記載の組換えリフレクチンナノ粒子で表面官能化された基板。
【請求項27】
前記組換えリフレクチンナノ粒子が、前記基板の表面に共有結合で固定化されている、請求項26に記載の基板。
【請求項28】
前記組換えリフレクチンナノ粒子が、実質的に単分子層として前記表面に集合している、請求項27に記載の基板。
【請求項29】
1つの組換えリフレクチンナノ粒子から別の組換えリフレクチンナノ粒子までの距離が1マイクロメートル未満である、請求項26~28のいずれか一項に記載の基板。
【請求項30】
請求項8~18のいずれか一項に記載の組換えリフレクチンナノ粒子を基板に固定化する方法であって、前記方法は:
ヒドロキシ基を含む基板を準備すること;
前記ヒドロキシ基を表面結合スペーサー鎖と反応させること;
請求項8~18のいずれか一項に記載の組換えリフレクチンナノ粒子を準備すること、及び前記組換えリフレクチンナノ粒子を前記表面結合スペーサー鎖と反応させること、
を含む、方法。
【請求項31】
前記表面結合スペーサー鎖がオルガノシランを含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記組換えリフレクチンナノ粒子が三重結合官能基を含み、前記表面結合スペーサー鎖がアジド官能基を含み、前記方法が、前記三重結合官能基を前記アジド官能基と反応させて共有結合を形成することを更に含む、請求項30又は31に記載の方法。
【請求項33】
請求項8~18のいずれか一項に記載の組換えリフレクチンナノ粒子を含むスキンケア製品。
【請求項34】
前記組換えリフレクチンナノ粒子が、約350~約450ナノメートルのサイズを有する、請求項33に記載のスキンケア製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の一態様は、リフレクチンポリペプチドに関する。本開示の別の態様は、組換えリフレクチンナノ粒子に関する。本開示の別の態様は、表面に固定化された組換えリフレクチンナノ粒子、及び組換えリフレクチンナノ粒子を生成し、表面に固定化する方法に関する。本開示の別の態様は、組換えリフレクチンナノ粒子を含むスキンケア製品に関する。
【背景技術】
【0002】
頭足類(タコ、ツツイカ及びコウイカ)は、動物界のカモフラージュの達人である。彼らは体色変化を用いて、真皮細胞(色素胞及び虹色素胞)の形態を動的に制御し、体の色や模様を調節している。実際、Sepioteuthis lessioniana(アオリイカ)のパラ幼生は、孵化した瞬間から非常に複雑でありながら幻惑的な体の模様を作り出すことができる。反射組織を用いたシグナル伝達は自然界でよく見られ、典型的には、捕食者を抑止したり、獲物を捕獲したり、合図を送るという重要な生存機能を果たす。これらの虹色光反射-屈折構造は、多くの場合、フォトニック結晶の周期的な間隔と薄膜の構成的干渉を利用したブレッグ(Bragg)反射体に依存している。このような組織は、典型的には、蝶の羽、孔雀の羽、又はある種の脊椎動物の眼に見られる特殊な輝板(tapetum lucidum)反射組織において見ることができる。
【0003】
Loliginidae科のツツイカ(Sepioteuthis lessioniaを含む)は、虹色素胞内にある、全体がリフレクチンと呼ばれるタンパク質でできているブレッグ様反射板の内部集合及び周期性を調整・制御することによって、皮膚の虹彩特性を動的に調節するユニークな能力を有する。これは、プリン結晶で構成されている他の動物の反射板とは対照的である。これまでの研究において、このような動的フォトニック特性は、反射板中の凝縮したリフレクチンナノ粒子のリン酸化/脱リン酸化によって調節されていることが実証されている。神経伝達物質であるアセチルコリン(ACh)によって制御される複数のチロシン(Tyr)、セリン(Ser)、スレオニン(Thr)残基のリン酸化は、正電荷を帯びたリフレクチンに素早く負の電荷を付与し、電荷の中和とナノ粒子サイズの減少をもたらし、最終的に発光波長のブルーシフトをもたらす。これは、動的なイリデッセンス、すなわち、角度及び波長に依存した反射をもたらし、様々な鮮やかな色が生じる。
【0004】
頭足類の顕著な動的カモフラージュ能力は、色素胞と虹色素胞の光細胞内の精密に組織化された構造変化から生じる。この幻惑的な色の表示は、依然として合成被覆では他に類を見ないものであり、虹色素胞の反射板の寸法を変化させ、ブレッグの法則に従って光パターンを制御する、リフレクチンナノ粒子の膨脹/脱膨脹によって調節されている。
【0005】
リフレクチンA1に関する初期の研究では、リフレクチンナノ粒子の形成及び自己組織化が、反復モチーフの存在によって起こることが示唆された。しかしながら、この研究では完全な配列のリフレクチンタンパク質を使用せず、代わりに、変異した配列及び切断された配列に対してのみ研究を行った。
【0006】
リフレクチンには様々な応用分野があると思われるため、前記リフレクチンの供給に対するニーズがある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の態様において、配列番号1に記載のアミノ酸配列と少なくとも70%の配列同一性又は少なくとも80%の配列相同性を共有するアミノ酸配列を含むリフレクチンポリペプチドであって、リフレクチンB1(配列番号1)の活性を実質的に保持する、リフレクチンポリペプチドが提供される。
【0008】
第2の態様において、上記のリフレクチンポリペプチドをコードする核酸分子が提供される。
第3の態様において、上記の核酸分子を含む宿主細胞であって、細菌細胞である宿主細胞が提供される。
【0009】
第4の態様において、上記のリフレクチンポリペプチドを含む組換えリフレクチンナノ粒子が提供される。
第5の態様において、本明細書に記載される組換えリフレクチンナノ粒子を合成する方法が提供される。
【0010】
第6の態様において、本明細書に記載される組換えリフレクチンナノ粒子で表面官能化された基板が提供される。
第7の態様において、上記の組換えリフレクチンナノ粒子を基板に固定化する方法が提供される。
【0011】
第8の態様において、上記の組換えリフレクチンナノ粒子を含むスキンケア製品が提供される。
本発明は、非限定的な実施例及び添付の図面と併せて考慮されるとき、詳細な説明を参照して、よりよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1A】強カチオン交換クロマトグラフィを用いた非コンジュゲートS.lessoniana B1リフレクチン(SlRF-B1)のワンステップ精製を示す図である。図1Aは、pH6.0でのSlRF-B1粗抽出物精製のクロマトグラムを示し、タンパク質ピークは21~27分の間である。
図1B】強カチオン交換クロマトグラフィを用いた非コンジュゲートS.lessoniana B1リフレクチン(SlRF-B1)のワンステップ精製を示す図である。図1Bは、プールされたタンパク質ピークのドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)を示し、モノマー及びそのダイマーの純度が高いことを示している。
図1C】強カチオン交換クロマトグラフィを用いた非コンジュゲートS.lessoniana B1リフレクチン(SlRF-B1)のワンステップ精製を示す図である。図1Cは、収集された画分の分子量及び純度が確認される、マトリックス支援レーザー脱離イオン化-飛行時間型(MALDI-ToF)質量スペクトルを示す。
図1D】強カチオン交換クロマトグラフィを用いた非コンジュゲートS.lessoniana B1リフレクチン(SlRF-B1)のワンステップ精製を示す図である。図1Dは、ジベンゾシクロオクチン(DBCO)コンジュゲートの前後に、異なる濃度のアセトニトリル(ACN)に対して集まったSlRF-B1ナノ粒子の、動的光散乱(DLS)によって測定された平均粒子サイズを示す。エラーバーは、個々のサンプルのサイズ分散度ではなく、製造されたサンプルの異なるバッチにわたって平均した最終ナノ粒子サイズ(n=50)を表す;380~780nmの可視波長のカラースキームを、同等のナノ粒子サイズを比較するための基準として使用した。
図2A】DBCO-SlRF-B1ナノ粒子の成長における異なる段階のDLSモニタリング及び概略図を示す図である。図2Aは、時間の関数としての360nm及び660nmのDBCO-SlRF-B1ナノ粒子のDLS散乱プロット及び曲線フィッティングを示し、成長が急速であり、数分以内に飽和し、粒子サイズが30分で完全に発達することが示されている。
図2B】DBCO-SlRF-B1ナノ粒子の成長における異なる段階のDLSモニタリング及び概略図を示す図である。図2Bは、660nmのナノ粒子の成長、及びそれぞれの多分散指数(PDI)を示し、4つのステップに分けられている。
図2C】DBCO-SlRF-B1ナノ粒子の成長における異なる段階のDLSモニタリング及び概略図を示す図である。図2Cは、ステップ1~4で示されるナノ粒子成長の概略図である。ステップ1:DBCO-スルホ-NHSエステルの添加により成長が開始する。ステップ1:ナノ粒子は最初に合体し、PDIが増加した、大きい異方性ナノ粒子を形成する。ステップ2:内向きのラプラス力と外向きの弾性エネルギーとの間の平衡により、PDIが著しく低く、達成可能な最大のナノ粒子サイズとなる。ステップ3:大きい不安定なナノ粒子は、消化熟成又は合体破壊を受け、粒子が小さくなるため、PDIが増加する。ステップ4:ACN濃度によって制御される安定化された準単分散DBCO-SlRF-B1ナノ粒子のサイズ集中領域。
図3A】完全合体状態(図3A)及び二元停止合体(binary arrested coalescence)状態(図3B)におけるDBCO-SlRF-B1ナノ粒子の表面プロファイルの違いを示す原子間力顕微鏡(AFM)及び透過型電子顕微鏡(TEM)観察結果である。
図3B】完全合体状態(図3A)及び二元停止合体(binary arrested coalescence)状態(図3B)におけるDBCO-SlRF-B1ナノ粒子の表面プロファイルの違いを示す原子間力顕微鏡(AFM)及び透過型電子顕微鏡(TEM)観察結果である。
図3C】完全合体粒子の表面プロファイルのグラフであり、2つの独立した粒子間の界面が黒矢印で描かれているように鋭利であるのに対し、停止合体は2つの結合粒子間の滑らかな遷移を示している。
図3D】停止合体の、2つ組から4つ組までの様々な状態を描写する一連のAFM及びTEM画像である。
図3E】複数の自己組織化した小球のAFM位相コントラスト像である。
図3F】単一の200nmナノ粒子の拡大図であり、各小球が直径約20nmであることが示されている。
図3G】150nmのナノ粒子のTEM画像であり、異なる小球のコントラスト領域が示されている。
図3H図3Gのデジタル強調画像である。表面ぼかし、ノイズ除去、HDRトーニングを施し、内部の小球体要素のコントラスト及び明瞭度を向上させた。
図4】Langmuir-Schaefer堆積法を用いたDBCO-SlRF-B1ナノ粒子単分子層膜の構造色及び反射率を示す図である。A)170nm、B)240nm、C)270nm、D)310nmの平均サイズを有するナノ粒子の構造色を、AFM画像(中央)及び反射率測定(下)と共に、光学顕微鏡下で観察した。
図5】ドロップキャスト堆積法を用いたDBCO-SlRF-B1ナノ粒子単分子層膜の構造色及び反射率を示す図である。アジド官能化ウェハにドロップキャストされたA)400nm、B)460nm、C)520nm及びD)660nmの平均ナノ粒子サイズを、単分子層の対応するAFMトポロジー画像(上から2番目)及び反射率測定(上から3番目)と共に示す。白い斑点及び線は、繰り返しの取り扱いによって生じた、柔らかいナノ粒子被覆上のスクラッチマークである。E)~F)は、460nmのDBCO-SlRFB1ナノ粒子単分子層膜の水和によるスペクトルシフトを示す。脱水状態E)では、単分子層膜の反射色が青色であるのに対し、状態F)では、反射色が橙赤色である。図5Gは、700nmにピーク反射率を有する、水和によるスペクトルレッドシフトを示す反射率測定値を示す。このシフトは可逆的であり、反射スペクトルに変化を与えることなく複数回得ることができる。
図6】660nmナノ粒子被覆に対する、430~500nmで吸光度を有するクマリン343Xアジド及び5-FAMアジドの効果を示す図である。図6Aは、429nmで青色の構造色を有し、約700nmの波長で減衰した赤色ピークを有する660nmナノ粒子被覆を示す。図6Bは、クマリン343Xアジドと1時間コンジュゲートされた660nmナノ粒子被覆を示し、該被覆は赤色及び青色波長の混合により紫色を示している。図6Cは、コンジュゲート時間を24時間に延長すると、429nmの二次共振ピークが大幅に抑制され、赤色波長が支配的になることを示している。
図7】カオトロピック剤存在下でのSlRF-B1タンパク質の液-液相分離を示す図である。濃度は、SlRF-B1を完全に可溶化するのに必要な臨界濃度未満である。SlRF-B1のコアセルベート微小液滴は、透過光顕微鏡で直径1~3μmのものが観察できる。挿入図は、2日後の遠心チューブの底にある高密度の粘性タンパク質相(オレンジ色)を示しており、該タンパク質は80℃以上に加熱することによってのみ再可溶化できる。
図8】20~35%v/vアセトニトリル及び5mM DBCO-スルホ-NHSエステルを用いてpH7.0に緩衝化した10mM(3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸)(MOPS)から自己組織化したDBCO-SlRF-B1ナノ粒子のDLS強度粒度分布を示す図である。
図9】360nmナノ粒子の成長、及びそれぞれのPDIを示す図である。このパターンは確率的ではなく、最大平均サイズがPDIの減少に対応する660nm粒子の成長と類似性を示している。データを800秒後に外挿した。
図10】合体プロセスを10分後に早期停止させた場合に観察される、複数の粒子間における長鎖合体ネッキングのTEM画像である。この特定のサンプルの最終平均粒子サイズは280nmであった。
図11】キャリア媒体としてポリタングステン酸ナトリウムを使用するLangmuir-Blodgett及びLangmuir-Schaefer堆積法の概略図である。Langmuir-Blodgett堆積では、サンプルとウェハ表面との間にポリタングステン酸ナトリウムの薄い層があるため、単分子層を形成することができなかった。カスタム設計されたLangmuir-Blodgett/Schaeferミニデバイスを使用して、ウェハにLangmuir膜を調製した。Langmuir-Schaefer堆積法は、DBCOSlRF-B1単分子層PASの製造により適していることが明らかになった。
図12】接触角測定及び偏光解析法で検証されたウェハの表面官能化を示す図である。各分子層の厚さは、全厚さから前の層の厚さを引くことによって得られた。A)ピラニアエッチウェハを陰性対照として使用した。B)N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン(AEAPTMS)を使用。C)アジド-dPEG(登録商標)4-TFPを使用。D)表面上のアジドの存在を検証するために陽性対照として使用された蛍光6-FAM DBCO。E)非官能化ウェハは、488nmの励起波長で蛍光を発しなかった。F)6-FAM-DBCOで官能化したウェハでは、緑色の蛍光が観察された。
図13】DBCO-SlRF-B1ナノ粒子のAFMである。A)215nm、B)270nm、及びC)320nm、及びD)375nmの平均粒子サイズを、それぞれの高速フーリエ変換(FFT)画像(下の列)と共に示す。これにより、全ての単分子層がフォトニックアモルファス構造として配置されていることが示される。
図14】異なる温度のアジド官能化100mmウェハにおける215nm DBCO-SlRF-B1ナノ粒子の熱アシストコロイド自己組織化を示す図である。A)室温において、ナノ粒子はウェハの中心付近に集中し、青いハローリングがサンプルを取り囲んでいる。B)40℃におけるナノ粒子のコーヒーリング効果は、バッファーの蒸発中に形成される同心リングとして見られる。構造色が見られた。C)50℃でのナノ粒子の自己組織化は、サンプルの下半分に淡青色の色相を有する減衰した(attenuated)構造色を示す。D)60℃に加熱したサンプルでは、構造色は観察されなかった。この被覆は、構造欠陥を伴う表面凹凸を有していた。
図15】40℃及び23℃のアジド官能化225mmウェハにドロップキャストした、様々な直径のDBCOコンジュゲートSlRF-B1ナノ粒子のAFM画像を示す図である。高温では、大きな空のパッチは、アセトニトリルの急速な蒸発が対流ポケットを形成し、ナノ粒子の均一な分布を妨げることによりできている可能性が高い。室温で調製したサンプルは、分散が改善され、粒子間間隔が小さくなっている。粒子が高濃度で不規則に配置されているため、いずれのサンプルにおいても直接照明下では構造色は観察されなかった。
図16】シリコンウェハに構造色を生じさせるためにドロップキャスト堆積法を用いた、A)400nm及びB)460nmのDBCO-SlRF-B1単分子層PASの光学顕微鏡像である。構造色が観察された領域α)のそれぞれのAFM画像は、1μm未満の小さい粒子間間隔を有する単分子層膜のトポロジーを示し、構造色のない領域β)は大きい粒子間間隔を示す。
図17】溶液中の400nm及び600nmのDBCOコンジュゲート及び非コンジュゲートSlRF-B1ナノ粒子のUV-Visスペクトルを示す図である。310nmのピークは、DBCOの存在に対応する。非コンジュゲートSlRF-B1ナノ粒子の200nm及び280nmのピークは、ペプチド結合及び芳香族アミノ酸シグネチャー(signature)に対応する。DBCOコンジュゲートナノ粒子は、可視波長で観察される吸光度の減少を示している。
図18】大量の脱塩にトラックエッチドメンブレンを利用するためのカスタムメイドセットアップを示す図である。100~800nmの孔径により、小さいナノ粒子を濾過することによって多分散指数を改善することができた。
図19】複数の100mm又は225mmウェハを同時に官能化するためのカスタムメイドウェハ支持プラットフォームを示す図である。
図20】二酸化ケイ素表面の官能化及び銅を用いないクリックケミストリーによるSlRFB1-DBCOナノ粒子のコンジュゲートのための反応スキームである。A)ピラニアエッチド二酸化ケイ素表面は、生成されたヒドロキシル基を有し、130℃で16時間、[3-(2-アミノエチルアミノ)プロピル]トリメトキシシランで官能化される。B)アジド-dPEG(登録商標)4-TFPエステルは、遊離アミン基に対して特異性を有し、少なくとも4時間反応させる。C)遊離アミン基をアジド-dPEG(登録商標)4-TFPエステルと更に反応させて、クリックケミストリー対応アジド基を生成する。D)SlRF-B1-DBCOナノ粒子を表面に導入し、銅を用いないクリックケミストリー反応を24時間進行させる。E)「クリックされた」DBCO-SlRF-B1ナノ粒子は、アジド官能化二酸化ケイ素表面と共有結合1,4-二置換トリアゾールを形成する。
図21】官能化が成功したことを確認するための、APTES、4-エチニル安息香酸又はプロピオール酸、及びUV光で励起される蛍光プローブとして1-アジドメチルピレンを用いた、非官能化カバースリップ(左)と官能化カバースリップ(右)の比較である。
図22】ピラニアエッチング及び1-アジドメチルピレンによる蛍光プローブ反応後の、ヒドロキシル化ガラス表面に対するトリエトキシ(エチニル)シランの反応スキームを示す図である。
図23】EDC/NHS又はDIC/HOBt化学の使用により、アジドプロピルアミン(azidoproylamine)又はアジド酢酸とコンジュゲートされ得るカルボン酸又はアミンのいずれかで占められた表面を有するタンパク質ナノ粒子の例示的な反応スキームである。
図24】小さいガラスシャーレ又は6ウェルポリスチレンプレートを用いた、単純な自己完結型Langmuir-Blodgett及びLangmuir-Schaeferセットアップ。ポリタングステン酸ナトリウムの密度は、サンプルの密度及び使用されるOリングのタイプに基づいて適宜調整される。左の画像は、縁に沿ってマスクされた基板を有するセットアップの概略図である。右の画像は、6ウェルポリスチレンプレートを使用した実際のセットアップである。SlRF-B1ナノ粒子は、FKM Oリング内に含有され、粒子が単分子層として適度に圧縮された後、かすかな紫色の色相(本実施例のみ)を呈している。
図25】UV-A、-B及び-Cの波長を示す図である。
図26】室温におけるバルクの二酸化チタン及び酸化亜鉛の吸光度を示す図である。
図27】UV-A及びUV-B特性におけるTiOの粒子サイズ依存性を示す図である。
図28】TiO対照及び市販の日焼け止めについてのUV-Vis吸収スペクトルを示す図である。
図29】溶液中のDBCOコンジュゲートリフレクチンナノ粒子(400nm)のUV吸光度を示す図である。濃度0.3mg mL-1を250倍希釈した(1.2μg mL-1)。DBCO-スルホ-NHSエステル及び未加工(native)SlRF-B1のUVプロファイルを対照として使用した。
図30】2、20及び200μLの濃度のDBCO-SlRF-B1(400nm)及びZnO(250nm)ナノ粒子の1日細胞適合性試験である。DBCO-SlRF-B1は、より高濃度でより良好なケラチノサイト耐性を示す。
図31】細胞対照、並びに異なる濃度のリフレクチン及びZnOナノ粒子とのインキュベーションのアラマーブルー染色である。
図32】5-FAMアジド染色で確認された400nmのDBCO-SlRF-B1ナノ粒子のケラチノサイト細胞取り込みを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下の詳細な説明は、例示として、本開示が実施され得る特定の詳細及び実施形態を示す添付の図面を参照する。これらの実施形態は、当業者が本開示を実施できるように十分詳細に記載されている。他の実施形態が利用されてもよく、本開示の範囲から逸脱することなく、構造的・論理的変更が行われてもよい。いくつかの実施形態は、1つ以上の他の実施形態と組み合わせて新たな実施形態を形成することができるため、様々な実施形態は必ずしも相互に排他的ではない。
【0014】
一態様において、本開示は、組換えリフレクチンナノ粒子を提供する。有利なことに、リフレクチンナノ粒子の平均サイズを制御することによって、組換えリフレクチンナノ粒子から作製された膜/被覆の色を調節することができる。したがって、組換えリフレクチンナノ粒子を提供することにより、色変調に対する生体模倣的アプローチが実現する。更に、組換えリフレクチンナノ粒子が実質的に単分散であること、及び/又は制御可能なサイズを有することにより、虹色素胞の光子応答を模倣することができる。例えば、約100~約1000nmの範囲の調整可能なサイズを有する組換えリフレクチンナノ粒子を提供することが可能である。組換えリフレクチンナノ粒子を表面に固定化することによって、調整可能な構造色を有する単分子層(monolayer)フォトニック構造を提供することが可能であり、それによって頭足類の動的カモフラージュを模倣する、環境に優しい、バイオインスパイアード色変化被覆の製造が可能となる。
【0015】
組換えリフレクチンナノ粒子は、頭足類に由来する天然に存在するポリペプチドに類似したポリペプチドを含み得る。前記天然に存在するポリペプチドは、自己組織化の前に、完全に配列決定され、その後、細菌、例えば大腸菌によって組換え発現されたものであってもよい。頭足類に由来する天然に存在するポリペプチドは、典型的には保存アミノ酸配列から構成される、「リフレクチン」と呼ばれるポリペプチドを含み得る。各配列は、標準アミノ酸と硫黄含有アミノ酸との組み合わせを含むことがある。リフレクチンポリペプチドの光相互作用特性は、その規則正しい階層構造及び水素結合に起因し得る。
【0016】
一実施例では、リフレクチンポリペプチドは完全に配列決定され、組換え発現される。完全に配列決定されたリフレクチンポリペプチドは、頭足類の任意のファミリーメンバーから得ることができる。一実施例において、リフレクチンポリペプチドは、Sepioteuthis lessionianaから得られ、該リフレクチンポリペプチドは、リフレクチンB1と呼ばれることがある。Sepioteuthis lessonianaリフレクチンB1の配列は、表1において、配列番号1として特定されている。
【0017】
本開示において使用するためのリフレクチンB1(配列番号1)のリフレクチンポリペプチドは、リフレクチンB1(配列番号1)の活性を実質的に保持する任意のリフレクチンファミリー又はそのホモログであり得る。
【0018】
したがって、別の態様によれば、
(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列;
(b)配列番号1に記載のアミノ酸配列と少なくとも65%、好ましくは少なくとも70%、若しくは75%、更に好ましくは少なくとも85%、最も好ましくは少なくとも95%の配列同一性、又は少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%の配列相同性を共有するアミノ酸配列;
(c)(a)若しくは(b)の機能的フラグメント;又は
(d)必須成分として(a)、(b)若しくは(c)のいずれかを含有するアミノ酸配列、を含むか、又はそれらからなるリフレクチンポリペプチドであって、
リフレクチンB1(配列番号1)の活性を実質的に保持する、リフレクチンポリペプチドが提供される。いくつかの実施形態において、リフレクチンA1の反復モチーフに関連するアミノ酸配列は、特に除外される。
【0019】
様々な実施形態によれば、表面の組換えリフレクチンナノ粒子の単分子層構造が、40℃以下の温度で、本明細書に示される構造色活性の80%を示す場合、リフレクチンポリペプチドは、リフレクチンB1(配列番号1)の活性を「実質的に保持する」と称されることがある。
【0020】
様々な実施形態によれば、リフレクチンポリペプチドは、その全長にわたって、配列番号1に記載のアミノ酸配列と少なくとも60%、65%、70%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、90.5%、91%、91.5%、92%、92.5%、93%、93.5%、94%、94.5%、95%、95.5%、96%、96.5%、97%、97.5%、98%、98.5%、99%、99.25%、又は99.5%同一であるか、又は相同であるアミノ酸配列を含むか、又はそれらからなる。いくつかの実施形態において、リフレクチンポリペプチドは、その全長にわたって、配列番号1に記載のアミノ酸配列と少なくとも60、少なくとも65、好ましくは少なくとも70、少なくとも75、より好ましくは少なくとも80、最も好ましくは少なくとも90%の配列同一性を共有するアミノ酸配列を有するか、又はその全長にわたって配列番号1に記載のアミノ酸配列と少なくとも80、好ましくは少なくとも90、より好ましくは少なくとも95%の配列相同性を共有するアミノ酸配列を有する。
【0021】
核酸配列又はアミノ酸配列の同一性は、一般に配列比較によって決定される。配列比較は、既存の技術で確立され、一般的に使用されているBLASTアルゴリズムに基づいており、原理上、核酸配列及びアミノ酸配列のそれぞれにおいて、類似のヌクレオチド又はアミノ酸の連続配列(succession)を相互に関連付けることによって行われる。関連する部位の表形式の関連付け(tabular association)は、「アラインメント」と呼ばれる。配列比較(アラインメント)、特に多重配列比較は、一般的に、当業者において利用可能で公知のコンピュータプログラムを用いて準備される。
【0022】
この種の比較はまた、比較されている配列の互いに対する類似性に関する記述を可能にする。これは通常、同一性パーセンテージとして示され、該パーセンテージは参照配列及びその全長に対して計算される。「配列同一性」という用語は、配列が、比較のウィンドウにわたってヌクレオチドごと又はアミノ酸ごとに同一である程度を指す。したがって、「配列同一性のパーセンテージ」は、最適に整列された2つの配列を比較のウィンドウにわたって比較し、同一の核酸塩基又はアミノ酸残基が両方の配列において出現する部位の数を決定して一致した部位の数を得、一致した部位の数を比較のウィンドウにおける部位の総数(すなわち、ウィンドウサイズ)で割り、その結果に100を掛けて、配列同一性のパーセンテージを得ることによって計算される。また、アミノ酸配列の文脈において、より広く解釈される用語「相同性」は、保存的アミノ酸置換(すなわち、類似の化学活性を有するアミノ酸)も考慮に組み込む。これらのアミノ酸は通常、タンパク質内で類似の化学活性を有するためである。したがって、比較される配列の類似性は、「相同性パーセント」又は「類似性パーセント」として示すこともできる。同一性及び/又は相同性の表示は、ポリペプチド若しくは遺伝子全体にわたって、又は個々の領域のみにわたって発生し得る。したがって、様々な核酸配列又はアミノ酸配列の相同領域及び同一領域は、配列の一致によって定義される。このような領域は、多くの場合、同一の機能を示す。このような領域は小さいこともあり、数個のヌクレオチド又はアミノ酸のみを包含することもある。この種の小さい領域は、多くの場合、タンパク質の全体的な活性に不可欠な機能を果たす。したがって、配列の一致は、個々の、そして任意に小さい領域のみ参照することが有用であり得る。しかしながら、特に断らない限り、本明細書における同一性及び相同性の表示では、それぞれ示された核酸配列又はアミノ酸配列の全長を参照する。
【0023】
全てのアミノ酸残基は、一般に、その1文字コード、及び場合によっては3文字コードを参照して本明細書で言及される。この命名法は当業者に周知であり、当該分野で理解されるように本明細書で使用される。
【0024】
本出願に従うリフレクチンB1(配列番号1)の活性を実質的に保持するリフレクチンポリペプチドは、アミノ酸修飾、特にアミノ酸置換、挿入又は欠失を含み得る。このようなリフレクチンポリペプチドは、例えば、標的化遺伝子改変、すなわち突然変異誘発法によって更に発展させることができ、特定の目的のために、又は特別な特性に関して(例えば、ナノ粒子を形成する能力に関して、及び/又は調整可能な構造色をもたらすことなどに関して)最適化することができる。目的は、例えば、ナノ粒子を形成し、単分子層の形態で構造色を示す能力を向上させるために、既知の分子に置換、挿入、又は欠失などの標的化突然変異を導入することであり得る。この目的のために、特に、分子の表面電荷及び/又は等電点、ひいては基板との相互作用を改変することができる。個々の突然変異、例えば個々の置換の有利な特性は、互いに補い合うことができる。
【0025】
様々な実施形態において、リフレクチンポリペプチドは、単一又は複数の保存的アミノ酸置換によって、初期分子としての上記のようなリフレクチンから得られることを特徴とすることができる。「保存的アミノ酸置換」という用語は、あるアミノ酸残基と別のアミノ酸残基との交換(置換)を意味し、このような交換は、交換されたアミノ酸の部位における極性又は電荷の変化をもたらさない、例えば、非極性アミノ酸残基と別の非極性アミノ酸残基との交換である。本開示の文脈における保存的アミノ酸置換は、例えば、G=A=S、I=V=L=M、D=E、N=Q、K=R、Y=F、及びS=Tを包含する。
【0026】
リフレクチンポリペプチドは、組換えリフレクチンポリペプチド、すなわち、前記リフレクチンポリペプチドを天然に産生しない、遺伝子操作生物において産生されたリフレクチンであってもよい。本明細書で使用される「組換え発現」という用語は、核酸分子を使用した組換えDNA技術による前記リフレクチンポリペプチドの発現を指す。本明細書に記載されるリフレクチンポリペプチドをコードする核酸分子、及びそのような核酸を含有するベクター、特にコピーベクター又は発現ベクターもまた、本開示の一部を形成する。
【0027】
したがって、本明細書に記載されるリフレクチンポリペプチドをコードする核酸分子も提供される。いくつかの実施形態において、核酸分子はベクターに含まれてもよい。ベクターは、前記核酸分子の発現を制御するための調節エレメントを更に含んでもよい。
【0028】
「ベクター」は、本明細書の目的上、特性決定核酸領域として本明細書中で企図される核酸を含有する、核酸から構成されるエレメントとして理解される。ベクターにより、複数世代又は細胞分裂にわたって、ある種又は細胞株において安定な遺伝因子として前記核酸を確立することが可能となる。特に細菌中で使用される場合、ベクターは特別なプラスミド、すなわち環状遺伝因子である。本明細書の文脈において、本明細書で企図される核酸は、ベクターにクローニングされる。ベクターには、例えば、起源が細菌プラスミドであるもの、又は主に合成ベクター、又は広く異なる由来のエレメントを有するプラスミドが含まれる。それぞれの場合に存在する更なる遺伝因子を使用して、ベクターは、関連する宿主細胞において、複数世代にわたって安定なユニットとして確立することができる。ベクターは独立した単位として染色体外に存在してもよく、染色体又は染色体DNAに組み込まれてもよい。
【0029】
発現ベクターは、発現ベクターを含有する宿主細胞、好ましくは細菌中で複製することができる核酸配列であって、該宿主細胞において、含有された核酸を発現することができる、核酸配列を包含し得る。したがって、様々な実施形態において、本明細書に記載されるベクターはまた、本明細書に記載されるリフレクチンポリペプチドをコードする核酸の発現を制御する調節エレメントも含有する。このようなベクターの一例は、pETベクターであり得る。発現は、特に、転写を調節する1つまたは複数のプロモーターによる影響を受ける。発現は、原則として、発現されるべき核酸の前に元々存在する天然プロモーターによって起こり得るが、それだけでなく、発現ベクターに配置された宿主細胞プロモーターによっても、又は別の生物若しくは別の宿主細胞の修飾されたプロモーター、若しくは全く異なるプロモーターによっても起こり得る。発現ベクターは更に、例えば培養条件の変更、該ベクターを含有する宿主細胞が特定の細胞密度に達したとき、又は特定の物質、特に遺伝子発現の活性化物質の添加によって調節することができる。このような物質の一例は、ガラクトース誘導体イソプロピル-β-D-1-チオガラクトピラノシド(IPTG)、例えば、T7プロモーターである。
【0030】
いくつかの実施形態において、リフレクチンポリペプチドの等電点は、7超、又は8超、又は約8~10であり得る。有利なことに、このような高い等電点では、精製(例えば、透析)プロセス中にバッファーの種類及び添加剤をスクリーニングすることによって、ゼータ電位、したがってコロイド特性を調節する機会がもたらされる。例えば、透析ステップ中に、(i)凝集の緩和、(ii)ナノ粒子サイズの制御、(iii)狭い粒度分布、及び(iv)粒子の安定性、の基準を同時に達成することができる。
【0031】
発現により得られたリフレクチンポリペプチドをナノ粒子へと自己組織化させ、それによって組換えリフレクチンナノ粒子を形成してもよい。「ナノ粒子」は、1000nm未満の範囲の特徴的な長さ、例えば直径を有する粒子を指す。組換えリフレクチンナノ粒子は、規則的な形状であってもよく、不規則な形状であってもよい。例えば、組換えリフレクチンナノ粒子は、球、ロッド、立方体、又は不規則な形状であってもよい。組換えリフレクチンナノ粒子のサイズは、平均直径によって特徴付けることができる。本明細書で使用する「直径」という用語は、図形の中心を通り、外周で終端する線分の最大長さを指す。「平均直径」という用語は、ナノ粒子の平均直径を指し、各ナノ粒子の直径の合計をナノ粒子の総数で割ることによって計算することができる。「直径」という用語は、通常、ナノスフェアの中心を通り、外周上の2点を結ぶ線分の最大長さを指すために使用されるが、本明細書では、ナノキューブやナノ四面体、又は不規則な形状などの他の形状を有するナノ粒子の中心を通り、外周上の2点を結ぶ線分の最大長さを指すためにも使用される。
【0032】
ナノ粒子への自己組織化(self-assembly)は、非コンジュゲートリフレクチンポリペプチド、又はリガンドにコンジュゲート(例えば、ライゲーション)されているリフレクチンポリペプチドのいずれでも実施され得る。例えば、本願に従ってライゲーションされるリフレクチンポリペプチドは、リフレクチンポリペプチドがナノ粒子へと自己組織化する前又は後に、リガンドへのコンジュゲートによって修飾することができる。非コンジュゲートリガンド(すなわち、コンジュゲート前のリガンドの化学構造)は、リフレクチンポリペプチドと反応するための官能基を含んでもよい。より詳細には、様々な実施形態において、非コンジュゲートリガンドの官能基は、ペプチド結合を作るために一般的に使用される脱離基を含んでもよい。官能基は、スクシンイミドエステル、又はフッ素化フェニルエステルであってもよい。スクシンイミドエステルのスクシンイミド又はフッ素化フェニルエステルのフッ素化フェニルは、リフレクチンポリペプチドの遊離アミンとの反応において、脱離基として機能し得る。したがって、いくつかの実施形態において、リガンドへのリフレクチンポリペプチドのコンジュゲートは、リガンドとリフレクチンポリペプチドとの間の共有結合をもたらし得る。リフレクチンポリペプチドとリガンドとの間の共有結合は、ペプチド結合、すなわちアミド結合であってもよい。
【0033】
リフレクチンポリペプチドとの反応のための、非コンジュゲートリガンドの官能基がスクシンイミドエステルである実施形態において、スクシンイミドは電子求引性基で修飾されていてもよい。電子求引性基は、SO 基を含んでもよい。
【0034】
リガンドは、組換えリフレクチンナノ粒子を基板に固定化するための連結基を更に含んでもよい。前記連結基は、三重結合を含んでもよく、又は三重結合であってもよい。三重結合は、基板とリガンドとの間に共有結合を形成するために、基板に結合され得るアジドと反応し得る。あるいは、連結基はアジドであってもよく、三重結合は、リガンドを表面に共有結合させるために官能化される表面に結合されてもよい。したがって、いくつかの実施形態において、リガンドを介して組換えリフレクチンナノ粒子をアジドに固定化すると、リガンドを介して組換えリフレクチンナノ粒子と表面との間に共有結合架橋が生じる可能性がある。
【0035】
いくつかの実施形態において、リガンド(コンジュゲート後)は、以下の式(I):
【0036】
【化1】
【0037】
(式中、CGは連結基であり、nは1~5から選択される整数であり、例えば、nは1、2、3、4、又は5であってもよく、
【0038】
【化2】
【0039】
は、ペプチド結合を形成するための、リフレクチンポリペプチドの窒素原子への結合点を示す)を有し得る。
連結基CGは、以下の式(II):
【0040】
【化3】
【0041】
(式中、
【0042】
【化4】
【0043】
は、式(I)のリガンドの-(CH部分への結合点を示す)の部分であってもよい。あるいは、連結基CGはアジド(-N)であってもよい。
一実施例において、非コンジュゲートリガンドは、ジベンゾシクロオクチン-スルホ-NHSエステル(DBCO-スルホ-NHSエステル)、又はそのナトリウム塩であってもよい。
【0044】
様々な実施形態において、組換えリフレクチンナノ粒子は、本質的に同じサイズになるように制御される。すなわち、実質的に単分散であり得る。サイズに基づいてサンプルの不均一性を測定するために、多分散(polydiversity)指数(PDI)が使用されることが多い。多分散性は、サンプル中の粒度分布、又は単離若しくは分析中のサンプルの弱凝集(agglomeration)若しくは凝集(aggregation)によって生じ得る。PDIは、動的光散乱(DLS)を使用する機器から得ることができ、電子顕微鏡写真から決定することもできる。組換えリフレクチンナノ粒子のPDIは、0.5未満であり得る。有利には、組換えリフレクチンナノ粒子がリガンドにコンジュゲートされている実施形態において、PDIは0.1未満、又は0.09未満であり得る。
【0045】
様々な実施形態において、組換えリフレクチンナノ粒子は、高い負のゼータ電位を有し得る。ゼータ電位は、コロイド分散液の安定性の測定可能な指標として理解することができ、ゼータ電位の大きさは、分散液中の隣接する同様に帯電した粒子間の静電反発の程度を示し得る。言い換えれば、ゼータ電位が高いほど安定性が高い可能性があり、溶液又は分散液で凝集が起こりにくい。対照的に、ゼータ電位が小さいと、引力はこの斥力を上回る可能性があり、分散液は破壊されたり凝集したりする可能性がある。したがって、高いゼータ電位(負又は正)を有するコロイドは電気的に安定化され、一方、低いゼータ電位を有するコロイドは凝固又は軟凝集する(flocculate)傾向がある。様々な実施形態によれば、組換えリフレクチンナノ粒子のゼータ電位は、約-30~-100mVの範囲、又は-35~-45mVの範囲であり得、これは安定なコロイド懸濁液を示す。
【0046】
様々な実施形態において、組換えリフレクチンナノ粒子は結晶性であってもよい。フォトニック結晶構造は、イリデッセンス(iridescence)をもたらす長距離秩序(long-range order)を提供することができる。代替的な実施形態において、組換えリフレクチンナノ粒子はアモルファスであってもよい。アモルファスフォトニック構造は、構造色をもたらす短距離秩序を提供することができる。一実施例において、組換えリフレクチンナノ粒子は、アモルファスフォトニック構造を有し得る。
【0047】
更なる態様において、本開示はまた、本明細書で企図される核酸分子又は本明細書で企図されるベクターを含有する宿主細胞、好ましくは非ヒト宿主細胞に関する。本明細書で企図される核酸、又は前記核酸を含有するベクターは、好ましくは微生物へと変換され、これは次いで、一実施形態に従う宿主細胞を表す。細胞の形質転換方法は、既存技術において確立されており、当業者に十分に知られている。宿主細胞としては、原則的に全ての細胞、すなわち原核細胞又は真核細胞が適している。遺伝学的に有利な方法で操作できる宿主細胞である。
【0048】
好ましい宿主細胞は、原核細胞又は細菌細胞、例えば大腸菌細胞である。細菌は、世代時間が短く、培養条件に関する要求が少ないことが注目に値する。結果として、経済的な培養方法又は製造方法を確立することができる。加えて、当業者は、発酵技術における細菌に関して十分な経験を有する。グラム陰性又はグラム陽性細菌は、個々のケースで実験に基づいて確認される多種多様な理由、例えば栄養源、生成物形成速度、必要時間などにより、特定の製造例に適している可能性がある。様々な実施形態において、宿主細胞は大腸菌細胞であってもよい。
【0049】
本明細書で企図される宿主細胞は、培養条件に対するそれらの要件に関して改変されてもよく、他の若しくは追加の選択マーカーを含んでもよく、又は他の若しくは追加のタンパク質を発現してもよい。
【0050】
本明細書で企図される宿主細胞は、通常の方法、例えば不連続系又は連続系で培養及び発酵される。前者の場合、適切な栄養培地に宿主細胞を播種し、実験的に確認される期間後に産物を培地からハーベストする。連続発酵は、比較的長い期間にわたって、細胞が部分的に死滅するが、部分的に入れ替えられ、形成されたタンパク質が同時に培地から除去され得る流動平衡が達成される点で注目に値する。本明細書で企図される宿主細胞は、好ましくは、本明細書中に記載のリフレクチンを製造するために使用される。
【0051】
したがって、本開示の更なる態様は、本明細書に記載されるリフレクチンポリペプチドを合成する方法であって、本明細書で企図される宿主細胞を培養すること;及び培養培地又は宿主細胞からリフレクチンポリペプチドを単離することを含む、方法である。培養条件及び培地は、使用する宿主生物に基づき、当技術分野で公知の一般的な知識及び技術を用いて、当業者が選択することができる。
【0052】
更なる態様において、組換えリフレクチンナノ粒子を合成する方法が提供され得る。本方法は、本明細書に記載されるリフレクチンポリペプチドを組換え発現させる第1のステップを含み得る。この発現は、大腸菌から実施することができる。言い換えれば、本方法は、大腸菌宿主細胞培養物を準備すること、大腸菌宿主細胞の増殖速度を変化させること、組換えリフレクチンポリペプチドの発現を、封入体として誘導すること、のステップを含んでもよい。次いで、組換え発現した封入体を、大腸菌宿主細胞培養物から抽出することができる。次のステップにおいて、これらの封入体を可溶化することができる。可溶化は、強い変性条件下で、例えば、モル濃度が約5~10の尿素溶液又はジメチル尿素溶液を使用して実施することができる。この範囲のモル濃度を有することは、組換えリフレクチン溶液の透明性のために有利であり得る。付随的あるいは代替的に、溶液は、約80℃以上、又は80℃~約100℃の温度に加熱されてもよい。
【0053】
組換えリフレクチンポリペプチドを可溶化した後、次のステップはクロマトグラフィによる精製であってもよい。有利には、クロマトグラフィによる精製は、pH5.0より高いpH範囲で実施することができ、該pH範囲は、有利には、組換えリフレクチンポリペプチドの安定性にとって有益であり得る。様々な実施形態において、クロマトグラフィは、イオン交換クロマトグラフィ、例えば、陽イオン交換クロマトグラフィを使用して実施することができる。精製後、95%より高い、又は98%より高い組換えリフレクチンポリペプチドの純度を得ることができる。
【0054】
いくつかの実施形態において、組換えリフレクチンポリペプチドは、本明細書で前述したリガンドにコンジュゲートされてもよく、これは自己組織化の前に実施されてもよい。リガンドのコンジュゲートは、非コンジュゲートリガンドを溶液中に添加することを含んでもよい。非コンジュゲートリガンドは、溶液中で約5mM~10mMのモル濃度を有し得る。このモル濃度範囲未満では、溶液は安定化されない可能性があり、一方、この範囲を超えるモル濃度は、その後の組換えリフレクチンナノ粒子のサイズ又は安定性に、更に影響を及ぼさない可能性がある。
【0055】
組換えリフレクチンポリペプチドのクロマトグラフィ、及びリガンドへの任意のコンジュゲート後、尿素又はジメチル尿素を除去するために透析ステップが続いて行われてもよい。透析ステップは、有利には、自己組織化ステップを含み得る。
【0056】
したがって、次のステップにおいて、精製組換えリフレクチンポリペプチドは、ナノ粒子へと自己組織化するように誘発され得る。本ステップは、純水中で行われてもよい。あるいは、いくつかの実施形態において、緩衝液を添加してもよい。緩衝液は、約5~約20mMのモル濃度を有し得る。バッファーの種類は、グッド緩衝剤であってもよく、又はMOPS、MES、HEPES、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されてもよい。緩衝液のpHは、4~10、又は6~8、いくつかの実施形態において、約7.0~7.4に調節されてもよい。
【0057】
緩衝液は、有機溶媒を含んでもよい。有機溶媒は、極性溶媒であってもよい。より詳細には、有機溶媒は、極性非プロトン性溶媒又はアルコールからなる群から選択されてもよい。極性プロトン性溶媒は、アセトン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルプロピレン尿素、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、ピリジン、スルホラン、テトラヒドロフラン、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されてもよい。アルコールは、メタノール、エタノール、イソ-プロパノール、tert-ブタノール及びこれらの組み合わせからなる群から選択されてもよい。
【0058】
緩衝液中の有機溶媒の濃度は、約5~50%、又は約20~35%、又は約5~15%であってもよい。有利なことに、組換えリフレクチンナノ粒子のサイズは、有機溶媒の濃度で制御することができる。例えば、有機溶媒としてアセトニトリルを使用する場合、10~20%、20~30%のアセトニトリル濃度の増加に対して、ナノ粒子のサイズの実質的に直線関係を得ることが可能であり得る。
【0059】
自己組織化のために有機溶媒が添加されない場合、例えば、グッド緩衝剤を使用することによって、又は5~50mMのホウ酸ナトリウム若しくは50~200mMのイミダゾールを使用することによって、水性バッファーのpHは約8~10であり得る。任意で、塩化ナトリウムを添加してもよい。
【0060】
いくつかの実施形態において、自己組織化が実施される溶液に界面活性剤が添加されてもよい。界面活性剤は、双性イオン性(zwitterionic)又は中性のいずれであってもよい。
【0061】
いくつかの実施形態において、自己組織化が実施される溶液に抗酸化剤が添加されてもよい。抗酸化剤は、アスコルビン酸及び/又はアスコルビン酸ナトリウムであってもよい。
【0062】
いくつかの実施形態において、自己組織化が実施される溶液にメチル-β-シクロデキストリンが添加されてもよい。有利なことに、メチル-β-シクロデキストリンを添加することにより、得られる組換えリフレクチンナノ粒子のサイズを200nm未満に制御することができる。
【0063】
別の態様において、組換えリフレクチンナノ粒子で表面官能化された基板が提供される。有利なことに、特定のナノ粒子サイズを有する組換えリフレクチンナノ粒子を使用することにより、紫色(400nm)から近赤外(800nm)までの調整可能な応答を示す反射率を引き起こすことが可能である。また、基板上に固定化された組換えリフレクチンナノ粒子は、組換えリフレクチンナノ粒子の水和による膨潤によって引き起こされる動的色変化を可能にする。
【0064】
いくつかの実施形態において、組換えリフレクチンナノ粒子は、実質的に単分子層として表面上に集合させてもよい。いくつかの実施形態において、組換えリフレクチンナノ粒子は、任意でドロップキャスト堆積法を使用して、表面に共有結合で固定化されてもよい。いくつかの実施形態において、1つの組換えリフレクチンナノ粒子と別の組換えリフレクチンナノ粒子との距離は、1マイクロメートル未満である。
【0065】
別の態様において、組換えリフレクチンナノ粒子を基板に固定化する方法であって、ヒドロキシ基を含む基板を準備すること;ヒドロキシ基を表面結合スペーサー鎖と反応させること;組換えリフレクチンナノ粒子を準備すること、及び組換えリフレクチンナノ粒子を表面結合スペーサー鎖と反応させることを含む、方法が提供される。
【0066】
基板は、表面処理のために、表面上にヒドロキシ基を備える限り、任意の材料、例えばガラスを含んでもよい。これらのヒドロキシ基は、表面結合スペーサー鎖の一例であり得るオルガノシランで表面処理されてもよい。有利には、基板をオルガノシランで表面処理することにより、基板と組換えリフレクチンナノ粒子との間の水素結合及び/又は共有結合が促進され得る。オルガノシランによる表面処理を使用して、表面処理された基板を組換えリフレクチンナノ粒子と共有結合させることができる。オルガノシランが存在し、組換えリフレクチンナノ粒子と結合している場合、基板から表面結合スペーサー鎖を介して組換えリフレクチンナノ粒子まで伸びる「共有結合架橋」が形成され得る。
【0067】
オルガノシランは、オクチル、アミン、ビニル、エチニル、ヒドロキシル、チオール、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される活性官能基を含んでもよい。オルガノシランは、アミノアルキルシラン、例えばAPTES、又はトリエトキシ(エチニル)シランであってもよい。いくつかの実施形態において、オルガノシランは、更なるリンカーで更に官能化されていてもよい。例えば、クリックケミストリー官能基(すなわち、アジド又は三重結合)が末端部位にあり、例えば、リガンドの連結基を介して、組換えリフレクチンナノ粒子との、クリックケミストリーを介した共有結合形成を可能にしてもよい。したがって、表面官能化基板と組換えリフレクチンナノ粒子の両方は、互いに反応する前に、相補的クリックケミストリー官能基を有し得る。言い換えれば、成分の一方が三重結合官能基を有し、他方がアジド官能基を有してもよい。
【0068】
別の態様において、組換えリフレクチンナノ粒子を含むスキンケア製品が提供される。有利なことに、組換えリフレクチンナノ粒子の吸収能力は、日焼け止めなどのスキンケア製品に利用することができる。更に有利なことに、組換えリフレクチンナノ粒子は、酸化チタンのような、日焼け止めに従来使用されている成分よりも毒性が低いことが判明した。したがって、別の態様において、治療に使用するためのスキンケア製品が更に提供される。特に、皮膚癌及び/又は皮膚の最外層への紫外線(UV)照射ダメージに対する炎症反応(例えば、日焼け)の予防に使用するためのスキンケア製品が提供される。また、スキンケア及び/又は皮膚の最外層への紫外線(UV)照射ダメージに対する炎症反応を予防するための医薬の製造におけるスキンケア製品の使用も提供される。
【0069】
スキンケア製品としての使用に有益であり得るナノ粒子のサイズは、約350nm~約450nm、又は約400nmであり得る。
「含む(comprising)」という用語は、「含む(including)」という用語と同様の広い意味を有すると理解されるべきであり、述べられた整数若しくは操作、又は整数若しくは操作の群を含むことを意味するが、任意の他の整数若しくは操作、又は整数若しくは操作の群を排除することを意味しないと理解される。この定義は、「含む(comprising)」という用語の変形、例えば「含む(comprise)」及び「含む(comprises)」にも適用される。
【0070】
濃度及び組成などの所与の数値に関する「約」とは、指定された値の10%以内の数値を含むことを意味する。
一実施形態の文脈において記載される特徴は、他の実施形態における同じ又は類似の特徴に対応して適用可能であり得る。一実施形態の文脈において記載される特徴は、他の実施形態において明示的に説明されていなくても、他の実施形態に対応して適用可能であり得る。更に、一実施形態の文脈における特徴について記載されるような追加及び/又は組み合わせ及び/又は代替は、他の実施形態における同じ又は類似の特徴に対応して適用可能であり得る。
【0071】
様々な実施形態の文脈において、特徴又は要素に関して使用される冠詞「a」、「an」、及び「the」は、特徴又は要素のうちの1つ以上への言及を含む。
本明細書で使用される場合、「及び/又は」という用語は、該用語に伴う列挙された項目のうちの1つ以上の、任意の及び全ての組み合わせを含む。
【実施例
【0072】
Sepioteuthis lessionianaツツイカ由来のリフレクチンを配列決定し、配列決定されたリフレクチンB1を使用して、調整可能な構造色を有する被覆を調製した。リフレクチンB1をクリックケミストリーリガンドにコンジュゲートし、100~1000ナノメートル(nm)の範囲で調整可能なサイズを有する準単分散(quasi-monodispersed)ナノ粒子へと自己組織化させた。Langmuir-Schaefer及びドロップキャスト堆積法を使用して、リガンドコンジュゲートリフレクチンB1ナノ粒子を、クリックケミストリーによりアジド官能化基板に固定化し、調節可能な構造色を有する単分子層アモルファスフォトニック構造を作製することで、頭足類の動的カモフラージュを模倣する、環境に優しい、バイオインスパイアード色変化被覆の製造のための道が開かれた。本開示の一実施形態において、再充電可能なエネルギー貯蔵システムは、安全で、環境に優しく、持続可能な雨水の電解質としての利用及び官能化に基づく。
【0073】
リフレクチンナノ粒子のサイズがイリデッセンス特性を支配するため、組換えリフレクチンナノ粒子から作製された膜/被覆の色は、ナノ粒子の平均サイズを制御し、続いてナノ粒子を生体内の1D Braggラメラフォトニック格子を模倣したフォトニック構造に固定化することによって調節することができる。この目的のため、最初に、真皮組織の次世代RNA配列決定(RNA-seq)によって、S.lessoniana由来のリフレクチンを配列決定した(明確にするために、非コンジュゲートS.lessoniana B1リフレクチンをSlRF-B1と呼ぶ)。次いで、全長SlRF-B1を大腸菌で組換え発現させ、ワンステップ強カチオン交換クロマトグラフィで精製した。SlRF-B1を別個のナノ粒子サイズへと自己組織化する系統的アプローチが続いた。該ナノ粒子は、クリックケミストリーリガンドであるジベンゾシクロオクチン-スルホ-NHSエステル(DBCO-スルホ-NHSエステル)とコンジュゲートさせた場合、0.1未満の多分散指数(PDI)を示したが、これは自己組織化プロセス中に溶媒条件を変化させることにより達成された。
【0074】
これらの準単分散DBCO-SlRF-B1ナノ粒子は、クリックケミストリーとLangmuir-Schaefer及びドロップキャスト堆積法を組み合わせることによって、アジド官能化ウェハ基板に固定化された。その結果、フォトニックアモルファス構造(ランダムな密集粒子)として挙動する単分子層集合体が得られ、反射率はナノ粒子サイズによって制御され、紫(400nm)から近赤外(800nm)まで調整可能な応答を示した。また、固定化されたDBCO-SlRF-B1ナノ粒子の水和による膨潤によって引き起こされる、単分子層膜の動的色変化も実証された。低い多分散指数及び高度に制御された調整可能な直径を有するリフレクチンB1ナノ粒子の形成と自己組織化は、室温(23℃、湿度60%)、大気圧の透析バッファーのみによって、いかなる装置も使用せずに行われた。使用する化学物質は全て毒性が低く、生体適合性である。
【0075】
既存の方法、デバイス又は材料に対する利点及び改善点
タンパク質ナノ粒子の自己組織化は、超臨界流体技術、乳化、脱溶媒、複合コアセルベーション、エレクトロスプレー及びゾルゲルによって達成され得るが、タンパク質の構造及び機能に有害であり得る応力(熱、圧力、有機溶媒)を伴う処理中に化学的及び物理的劣化を受けやすいため、困難である。タンパク質ナノ粒子を製造する化学的方法は、メチル-β-シクロデキストリンと共に凍結乾燥し、酢酸エチル中に再懸濁することを伴う。ナノ粒子サイズの制御には限界があり、有機溶媒中でのタンパク質の凝集が著しい。本発明は、タンパク質の完全性を損なわないタンパク質ナノ粒子の自己組織化のために、穏やかで、複雑でない手順のみを含む。
【0076】
発明の技術的説明
実施例1:発現、精製、自己組織化(self-assembly)及びコンジュゲート(conjugation)
組換え発現SlRF-B1(表1)は、以下の配列で特徴付けることができる。
【0077】
【表1】
【0078】
大腸菌から抽出された組換え発現SlRF-B1封入体は、強い変性条件下(8M尿素又は6Mジメチル尿素、T=85℃)でのみ完全に可溶化することができた。このカオトロピック濃度未満では、最初は透明であったタンパク質溶液は濁り、その後、液-液相分離(LLPS)プロセスによって相分離し、数日で凝縮したコロイド相が生じた。濁った溶液を透過光顕微鏡でイメージングしたところ、直径1~3マイクロメートル(μm)範囲の球状コアセルベートSlRF-B1微小液滴が観察された(図7)。沈降したタンパク質相は高粘度で粘着性があり(図7、挿入図)、溶液を80℃以上で加熱することによってのみ可溶化することができた。本プロセスは、その後の冷却/加熱サイクルにおいて可逆的であり、SlRF-B1が上限溶液温度(UPST)相挙動を示すことを示している。可溶化された封入体をワンステップ強カチオン交換クロマトグラフィによって精製し、SDS-PAGE及びMALDI-ToF分析に基づいて推定される純度は98%超であった(図1A図1C)。リフレクチンタンパク質が≦pH5.0で分解することが判明したため、精製のための逆相高圧液体クロマトグラフィ(RP-HPLC)の使用は除外した。
【0079】
SlRF-B1をナノ粒子へと自己組織化させるために、透析プロトコールを使用して、イオン交換精製サンプルから尿素をゆっくりと除去した。SlRF-B1の固有の特性の1つは、高電荷タンパク質(等電点8.8)であることであり、透析プロセス中にバッファーの種類及び添加剤をスクリーニングすることによって、ゼータ電位、したがってコロイド特性を調節する機会がもたらされる。したがって、透析中、(i)凝集の緩和、(ii)ナノ粒子サイズの制御、(iii)狭い粒度分布、及び(iv)粒子安定性、の4つの基準が同時に達成された。続いて、選択された表面にSlRF-B1ナノ粒子を固定化するために、クリックケミストリーを使用した。SlRF-B1ナノ粒子の表面の遊離アミンを、まず、異なるNHSエステル含有クリックケミストリー分子(表2参照)で官能化した。銅を用いないクリックケミストリーDBCO-スルホ-NHSエステルが、粒度分布に関して最良の結果を与えた。
【0080】
【表2】
【0081】
粒子サイズを制御するために、SlRF-B1と溶媒との間の疎水性相互作用を調節する方法として、透析時にアセトニトリル(ACN)濃度を変化させた(図8)。動的光散乱(DLS)によって測定された多分散指数(PDI)は、ほとんどのサンプルで0.40±0.20(非コンジュゲート)から0.08±0.02未満(コンジュゲート)に改善した。
【0082】
図1Dに示されるように、コンジュゲートDBCO-SlRF-B1ナノ粒子の最終平均サイズは、ACN濃度を20~35%v/vから増加させることにより、200nm~1000nmの間で正確に調整することができ、粒子サイズとACN含量との間にはほぼ線形の相関関係があった。全てのサンプルのζ電位は一貫してζ=-39.4±1.95mVであり、安定なコロイド懸濁液であることを示した。コンジュゲート反応は、300nm以下の粒子の場合はわずか30分で完了し、より大きいナノ粒子の場合は2時間で完了した。
【0083】
実施例2:DBCO-SlRF-B1ナノ粒子の成長機構
どの成長機構(LaMerバースト核形成、オストワルド/消化熟成、又は合体)がDBCO-SlRF-B1ナノ粒子の形成を最もよく説明するかを決定するために、DLSを使用して360nm及び660nmのナノ粒子の成長をモニターした。時間の関数としての粒子サイズの散布図を図2Aに示す。360nmのナノ粒子の成長は数分以内に完了し、1000秒後に得られた最終サイズは経時的にそれ以上変化しなかった。オストワルド熟成機構と一致する小さい粒子サイズの追加ピークは検出されなかった。660nmのナノ粒子では、500秒後に約900nmの最大平均粒子サイズが得られる初期急成長が観察された。次いで、粒子サイズは徐々に減少し、最終平均粒子サイズ660nmで飽和プラトーに達した。データは、DBCOによる成長開始は急速であるが、単分散粒子の形成は、粒子サイズが大きくなるほど時間を要することを示唆する。DBCO-SlRF-B1 660nmナノ粒子の成長曲線を、それぞれの時点におけるPDIで更に補足した(図2B)。興味深いことに、PDIは最初に上昇し、次いで下降することが観察された。このパターンは確率的ではなく、360nmのナノ粒子でも観察された(図9)。
【0084】
DBCO-SlRF-B1ナノ粒子の成長は、図2Cに概略的に記載されているように、主に単純化された4ステップ合体(coalescence)機構によって起こり、後の段階では消化熟成がわずかに寄与する可能性が示唆される。概略モデルを明確にするために、二元合体(2つの粒子の融合)のみを図示している。自己組織化したSlRF-B1懸濁液は、最初は透明であり、DBCO-スルホ-NHSエステルを添加すると成長が始まった。ステップ1において、成長は急速かつ指数関数的であり、濁っているが乳白色の黄橙色溶液を形成した。大きく揺れ動くPDIは、合体中の異方性粒子形状によって説明することができる。ステップ2において、内向きのラプラス力と外向きの弾性エネルギーが平衡に達したときに最大粒子サイズに達した。したがって、この領域の粒子は低いPDIを有する。ステップ3では、大きい不安定粒子は消化熟成、合体破壊、衝突破壊を受け、それによって大きい粒子から余分なタンパク質物質が取り除かれた。小さい粒子は合体によって再び成長し、PDIは減少した。最後に、ステップ4は、最終プラトー領域であり、DBCO-SlRF-B1は、ACN濃度によって調節された狭い粒度分布を有する最終ナノ粒子サイズへと安定化した。
【0085】
合体の更なる証拠は、不完全な融合を生じさせる停止合体(arrested coalescence)の存在によって観察された。AFMを用いて、停止合体の異なる状態を特定した。合体した粒子は、互いの間にはっきりした境界を示す表面プロファイルを有していた(図3A)。対照的に、ほぼ完全な合体では、はっきりした境界は観察されず、隣接する粒子間の滑らかな移行からなっていた(図3B)。両者のプロファイルを図3Cで比較した。矢印は粒子間の境界を示す。成長システムの複雑さが、600nm以上のナノ粒子の自己組織化でより頻繁に見られる、3つ組、4つ組、又はそれ以上の構成の停止合体をもたらす可能性がある。停止合体のAFM及びTEM画像を図3Dに示す。10mM TRISバッファー(pH7.0)を添加することによって、合体プロセスを10分以内に早期停止させた場合、複数の粒子間における長鎖合体ネッキングもTEMによって観察された(図10)。
【0086】
AFM及びTEM観察を用いて、200nmナノ粒子の内部構造を更に調査したところ、AFM位相画像(図3E図3F)に示されるように、約20nmの小さい球状単位からなることが判明した。TEMイメージングにより、類似の特徴が明らかになり(図3G)、ポストイメージング処理により、構造細部の明瞭度が更に向上した(図3H)。
【0087】
実施例3:フォトニック構造の製造
低い角度依存性を有する構造色は、自然界でよく見られ、構造色は誘電屈折率、コロイド直径、構造層の厚さ、及び格子距離に依存する。制御可能なDBCO-SlRF-B1ナノ粒子サイズにより、物理的閉じ込め及び重力沈降などのボトムアップ自己組織化技術を使用してフォトニック構造を製造する機会がもたらされた。自己組織化フォトニック構造は、長距離秩序(long-range order)を示すフォトニック結晶構造(PCS)又は短距離秩序(short-range order)のみを有するフォトニックアモルファス構造(PAS)のいずれかの形態であり、それぞれイリデッセンス及び構造色をもたらす。
【0088】
実施例4:Langmuir-Schaefer表面単分子層固定化法
DBCO-SlRF-B1ナノ粒子を使用してPCS又はPASのいずれかを製造するために、Langmuir-Blodgett/Schaefer堆積法の使用を調査した。濃縮され、濁ったDBCO-SlRF-B1ナノ粒子懸濁液を、堆積に必要な空気-水界面に注意深く添加したが、その高い質量密度のため、経時的に沈降した。ナノ粒子が空気-キャリア界面に確実に留まるようにするため、水の代わりに、不活性で毒性が低く、固体/水比に依存した密度(1.0~3.1g/cm)が調整可能な重液体であるポリタングステン酸ナトリウムをキャリア媒体として使用した。カスタマイズしたLangmuir-Blodgett/Schaeferミニデバイスを精密CNC加工で製造し(図10)、Langmuir-Blodgett法又はLangmuir-Schaefer法のいずれかをDBCO-SlRF-B1単分子層堆積に使用できるようにした。クリックケミストリーの特異性を利用して、シリコンウェハ表面にDBCO-SlRF-B1ナノ粒子を共有結合で固定化した。アミノアルキルシラン[3-(2-アミノエチルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン(AEAPTMS)をウェハに官能化し、続いて遊離アミンをアジド-dPEG(登録商標)4-TFPエステルとコンジュゲートした。官能化は、偏光解析法、接触角及び蛍光標識によって確認した(図12)。
【0089】
Langmuir-Blodgett法では、ウェハ表面とナノ粒子との間に、吸湿性の高いポリタングステン酸ナトリウムの非常に薄い層が形成され、部分的な単分子層(monolayer)が形成された。DBCO-SlRF-B1ナノ粒子の単分子層をウェハ表面に形成するには、Langmuir-Schaefer堆積法が優れていることが証明された。許容可能な単分子層Langmuir被覆は、170nm、240nm、270m、及び310nmのナノ粒子サイズからも生成され、青色(λ=442nm)、橙色(λ=624nm)、赤色(λ=702nm)、及び近赤外線(λ=806nm)の理論反射率が、ランダム最密充填体積分率f=0.64を使用して計算された。全ての被覆は、図4A図4D(上パネル)に示されるような構造色を示し、被覆の対応するAFM画像、測定された反射率値が併せて示される。アモルファス構造の反射率ピーク波長は、以下の式によって近似することができる。
【0090】
【数1】
【0091】
ここで、λmaxは、粒子アレイの最大反射波長であり、dはDBCO-SlRF-B1ナノ粒子の直径でありneffは、DBCO-SlRF-B1ナノ粒子の平均屈折率であり、これは、誘電体-空気複合体も考慮している。平均屈折指数neffは、以下の式を用いて導出することができる。
【0092】
【数2】
【0093】
ここで、リフレクチンnSlRF-B1の反射率=1.44、nair=1、及びfはナノ粒子によって占められる体積分率である。ナノ粒子の分布、体積分率、及び高速フーリエ変換(FFT)を、ImageJを用いて解析したところ(図13)、粒子は準単分散であり、単分子層集合体には長距離秩序がないことが確認された。表面に対して垂直な入射光において、0~35°の可視化角度で全ての被覆において構造色が観察された。
【0094】
実施例5:ドロップキャスト固定化法
温度は、懸濁液中のナノ粒子拡散に影響を及ぼすため、イリデッセンスを有する長距離PCSの熱アシストコロイド自己組織化において重要な因子である。単にドロップキャスト法を用いて高温で多層虹色PCSを製造することによって、熱アシストコロイド自己組織化(TACSA)をDBCO-SlRF-B1ナノ粒子に適用することができるかどうかを調査した。タンパク質は高温で変性しやすいため、温度を最高60℃に制限し、平均ナノ粒子サイズ215nmに対するTACSAの影響を調査した。23℃及び40℃で調製したサンプルは、構造色を生じ、高温では被覆の欠陥が明らかであった(図14)。いずれの温度でもイリデッセンスは観察されず、これは長距離PCSが存在しないことを示している。調査は、図1Dから得られた他の異なるサイズのDBCO-SlRF-B1ナノ粒子に拡張された。AFMイメージング(図15)により、40℃以上で調製したサンプルは、制御されていない厚さの、2.5μm以上の空隙のパッチを有するランダムに積層した粒子を示すことが示された。40℃以下の温度で調製されたサンプルは、表面にわたってより良好なナノ粒子分散を示した。30~35%v/vのACNバッファーから自己組織化された、より大きいナノ粒子サイズは、温度に大きく影響されなかった。
【0095】
ドロップキャスト量は、ウェハ表面積225mm当たり300μLに減らし、400nmのDBCO-SlRF-B1ナノ粒子に対して最高温度35℃を使用することによって最適化された。Bragg-Snell式に基づいて、λ=850nmで予想された近赤外反射率シグネチャーの代わりに、垂直入射光下で紫色の色相が観察された。最適化された条件を使用して、400nm、460nm、520nm及び660nmの粒子サイズで実験を繰り返し、それぞれ紫色、青色、緑色及び赤色の呈色が示されたが(図5A図5D)、ドロップキャストフィルムの周辺部では呈色が観察されなかった。これは、該領域における粒子間間隔が2.5μm超と広いことに起因する(図16)。被覆のそれぞれのAFM画像及び測定された反射率値を図5A図5Dに、AFM Z高さを図17に示す。構造色が観察された場合、AFMイメージングは、最適化された条件では、良好なナノ粒子表面分散性、著しく低減された粒子積層(ほぼ単分子層)、及び1μm未満の粒子間間隔を有することを示した。ランダム最密充填被覆の構造色は、300μL未満のドロップキャスト量から調製されたランダム疎充填サンプルよりも強い反射強度を有していた。
【0096】
最後に、反射率の動的シフトを引き起こすことが着目され、これは、ナノ粒子の膨潤を誘導することによって達成され得ると仮定された。青色反射フィルム(λmax=453nm)を使用し、凝縮水蒸気を脱水単分子層上に当てた(図5E)。分光計でモニターすると(図5G)、色は自然に700nmへレッドシフトした(図5F)。表面の水分が徐々に蒸発すると、スペクトルはブルーシフトして元のスペクトルに戻った。このプロセスは、サンプルの表面やスペクトルのピークに任意の変化を与えることなく、素早く連続して複数回繰り返すことができた。表面に対して垂直な入射光において、0~45°の間の可視化角度で全ての被覆において構造色が観察された。
【0097】
ナノ粒子が可視波長と同等の直径を有する場合に観察可能な構造色は、等方性フォトニック擬バンドギャップ(pseudoband gap)を介した非干渉性散乱効果によるものである。興味深いことに、この効果は、サイズ(約500nm)が可視波長と同じ大きさである色素胞において見られる頭足類の色素顆粒に類似している。リフレクチンナノ粒子には波長吸収がないため、ランダムな最密充填単分子層配置と相まって、個々のナノ粒子サイズ、形状、屈折率、散乱体の体積分率に依存する単一粒子(共振器)散乱特性が得られる。
【0098】
二次共振ピークの吸光度による赤色呈色被覆の生成
水和単分子層での測定波長は700nmであったにもかかわらず、赤色構造色の形態は観察されなかった。文献で提案されているモデルは、アモルファスフォトニック構造において飽和赤色構造色を得るための課題を説明しており、これは、粒子サイズが増加するにつれて、高次共振モード(二次共振ピーク)が青色波長にシフトし、強まることに起因している。青色波長は共振器内での光閉じ込めが強いため、所見の漏れ共振(leaky resonance)は、水和フィルムの飽和赤色呈色がないことを示す観察結果(図5F図5G)と一致するが、二次共振ピークがUV領域にあるため、青色及び緑色は影響を受けなかった。頭足類の皮膚における色素胞は、キサントマチン及び脱炭酸キサントマチンを含むオモクロム色素を含有するため、濃い赤色を呈することができる。キサントマチン色素の吸光度は430nmでピークを示すため、青色スペクトルから二次高次共振ピークを効果的に除去し、赤色を支配的にする。660nmのナノ粒子被覆からこの二次共振青色ピークを除去し、サンプルが赤色波長(600~700nm)で散乱するように模倣することを目標とした。図5Dに示すように、429nmでの二次共振ピークが存在した。ヒドロゲル又は金属コア-シェル被覆は、ナノ粒子の境界の屈折率を周囲の屈折率に合わせることによって、この二次高次共振ピークを弱めるか除去するように設計されてきたが、タンパク質ナノ粒子は柔らかい生体材料であり、コア-シェル製造のための処理条件が限られているため、目標は頭足類による吸収分子の使用を模倣することであった。
【0099】
この目的のために、430nm付近の青色波長で効果的に吸収する蛍光分子クマリン343Xアジドが研究された。リフレクチンナノ粒子をウェハ基板にコンジュゲートさせるのと同じクリックケミストリー原理を使用して、クマリン343Xアジド(ジメチルスルホキシド中1mM、50μLドロップキャスト)を660nmナノ粒子被覆(図4Dに示す)に少なくとも4時間コンジュゲートさせて、赤色構造色を得ることができるかどうかを調べた。クマリン343Xアジドでは、ナノ粒子表面が1分子分厚くなるだけなので、粒子サイズを大きくする効果は無視できるはずである。コンジュゲート前(図6A)とコンジュゲート後(図6B及び図6C)の構造色及び反射率測定から、430nmの二次共振ピークが24時間後に著しく抑制され、その結果、赤色が支配的になることが確認された。コンジュゲート時間が1時間未満の場合、サンプルは紫色に見えたが、これは部分的なコンジュゲートによる青と赤の波長の混合によるものであった。これは、反射率測定によって検証された(図6B)。クマリン343Xアジドを用いたため、蛍光発光波長によって反射率スペクトルに不要なピークが生じる可能性がある。しかしながら、477から520nmの間に特徴的な発光ピークは検出されなかった。
【0100】
【表3】
【0101】
400~660nmのリフレクチンナノ粒子被覆の反射率FWHM値は、表3にまとめられているように、約180~200nmで比較的一貫していた。更に、これらの値は、170~310nmのナノ粒子で作製された被覆のFWHM反射率値の増加とは異なり、ナノ粒子サイズに依存しなかった。ナノ粒子サイズが大きくなるにつれてFWHMが広くなることは、共振器からの束縛光子(bound photons)の漏れに起因する。高次共振モードの光子は、共振ナノ粒子により強く束縛され、青色共振では更に強く束縛されるので、結果的に、より鋭いスペクトル応答(より小さいFWHM値)をもたらす。図4及び図5のデータから、400~660nmナノ粒子被覆の反射スペクトルは二次共振であり、強度の増加と共に170~310nmナノ粒子からレッドシフトし、より狭いFWHMが説明されると推測することができる。これは、400nmのナノ粒子サイズに対するλ=1000nmでの近赤外線反射率が著しく減衰し、λ=404nmでの紫色がスペクトルを支配したという事実から更に裏付けられる。170~310nmのナノ粒子被覆の反射率が一次共振であると仮定すると、400~660nmのナノ粒子被覆の反射率は二次共振である。図5Dの共振ピークは、130nmのFWHMを有する三次モードである。最後に、複数の散乱ピークを犠牲にしても、依然として多分散ナノ粒子から構造色を生成できることも示されている。したがって、構造色は、粒子の粒度分布の加重平均に基づく。これを考慮して、15%以内の標準偏差を有する準単分散400~660nmナノ粒子被覆は、完全な単分散サイズを有さないにもかかわらず、良好なFWHMを有する構造色を生成することができた。
【0102】
頭足類による、天然に存在するキサントマンチンの使用は、約430nmの二次高次共振モードを特異的に吸収する有機分子の注意深い選択によって起こる。リフレクチンナノ粒子は、最初は虹色素胞において特定され、イリデッセンスの原因であったが、最近、S-クリスタリン及びr-オプシンを含む他の構造タンパク質と共に、色素胞においても発見された。高屈折率で凝集を抑制するS-クリスタリンタンパク質は、キサントマチンとの親和性が高く、光散乱体として機能することが示唆されている。このデータは、自己組織化リフレクチンナノ粒子も光散乱体として機能することができることを示している。
【0103】
考察
精製後の透析条件を変えるだけで、準単分散性リフレクチンベースのナノ粒子の成長を調節することが初めて可能になった。自己組織化及びコンジュゲート方法は、単純なコロイド化学に基づいており、室温(23℃、60%RH)、圧力、生理学的条件(pH7.0)で実施されるプロセスを使用する。更に、これらのDBCO-SlRF-B1ナノ粒子はクリックケミストリーに対応しており、表面修飾ストラテジーを実施し、多種多様なアジド官能化分子を用いて特性を変えることができる。このデータは、DBCOとコンジュゲートしたSlRF-B1が、制御された粒度分布を有する様々なサイズのナノ粒子へと自己組織化され得ることを実証しており、このプロセスは、リフレクチンA1に見られる反復モチーフの存在に依存しない。また、大きい粒子の形成により、タンパク質の合体挙動が明らかになり、リフレクチンの自己組織化機構が解明された。本方法を、組換え発現させ精製したDoryteuthis pealeiiリフレクチンA1(GenBank:FJ824804、6x His-tag付き)に適用し、ナノ粒子の自己組織化が達成されたが、完全な系統的研究は実施しなかった。
【0104】
コロイド自己組織化実験条件では、長距離周期性PCSは得られなかった。代わりに、準単分散ナノ粒子は、フォトニックアモルファス構造に自己組織化した。Langmuir Schaeferは、小さいナノ粒子サイズの単分子層製造に有用であるが、TACSAドロップキャストは、400nmより大きいナノ粒子のための長距離周期格子又はランダム最密充填単分子層のいずれかを製造するためのより単純な方法である。どちらの方法でも、DBCO-SlRF-B1被覆は、ナノ粒子が1μm未満の粒子間距離で配置されている場合、シリコンウェハに鮮やかな構造色をもたらした。興味深いことに、400nmより大きい粒子サイズで観察された構造色は、これらのナノ粒子が、有色色素胞の挙動に類似していることを示唆している。約500nmの顆粒が光吸収及び散乱を通してバンドパスフィルタとして機能し、この効果は高屈折率タンパク質及びキサントマチンの存在によって増強される。したがって、可視波長と同じスケールの平均サイズを有するDBCO-SlRF-B1ナノ粒子は、色素胞顆粒の構造及び機能を部分的に模倣している可能性がある。
【0105】
クリックケミストリー固定化により調製された被覆は、特別な保存をしなくても室温で1年以上安定であった。単一分子リガンドDBCO-スルホNHSエステルは、制御可能なナノ粒子成長を開始することができ、リフレクチンナノ粒子の時間分解自己組織化を明らかにすることができたことは好ましい。全体として、この研究は、タンパク質ベースのフォトニック構造のためのより広いプラットフォームを提供し、制御された薬物送達用途のためのナノキャリアなどの、他の分野に拡大することができる。
【0106】
本開示の商業的応用
防衛-カモフラージュのための熱検知の緩和
商業-NIR波長を反射する建物の窓(熱の蓄積を減らし、エネルギーコストを節約する)
工業-塗料及び被覆
フォトニクス-オプトエレクトロニクスディスプレイに使用するナノ粒子被覆の構造色
化粧品-カラーマニキュア、NIRを反射する(日焼け止め)、又はUVを吸収する(DBCOリガンド)スキンローション
医療-薬物送達用薬物カプセル化ナノキャリア、及び治療分子の他のバイオコンジュゲート
実験方法
実施例6:サンプル採取
生きたSepioteuthis lessionianaツツイカをシンガポールのケッペル湾沖で捕獲し、0.15 Mの塩化マグネシウムを添加した海水で満たした20Lバケツ中で少なくとも30分間鎮静させた。体をMilli-Q(登録商標)水で2回洗浄し、その場で直ちに解剖を行った。外套膜の異なる部位から各3×3cmの皮膚標本を3枚滅菌メスで切り出し、Milli-Q(登録商標)水で2回洗浄して余分な色素を除去し、直ちにRNAlater溶液中で保存した。その後、-80℃の冷凍庫で保存した。
【0107】
実施例7:Sepioteuthis lessoniana虹色素胞のRNA配列決定
S.lessonianaの皮膚(湿重量100mg)を迅速に切断して小片にし、滅菌2mLチューブに移した。皮膚組織100mgごとに、Trizol溶液1mLを添加した。混合物を5分間十分にボルテックスし、室温で更に5分間インキュベートした。皮膚組織を細断するために2つの方法を用いることができる。A)組織を氷上において20%の出力で3~5サイクル、50%デューティサイクルで1秒パルスにより超音波処理した。不溶性物質を15,000rpmで10分間遠心分離し、上清を新しい滅菌2mLチューブに移した。B)Trizol中でインキュベートした皮膚組織を滅菌ビーズビーターチューブに移し、0.5mmジルコニアビーズをチューブ容量の半分まで、又は溶液がチューブの縁にほぼ達するまで充填した。バイアルをビーズビーターに入れ、最高速度で30秒間作動させた後、バイアルを氷上で1分間冷却した。このステップを2~3回繰り返した。
【0108】
方法A又はBのいずれかによるライセートをQiaShredderに移し、15,000rpmで2分間回転させ、フロースルーを新しい滅菌2mLチューブに移した。Trizol 1mLごとにクロロホルム200μLを添加し、30秒間ボルテックスした。混合物を室温で5分間インキュベートし、15,000rpmで15分間遠心分離した。上部画分水相を新しい2mLに移し、新たに調製した70%エタノールを1容量添加し、ピペットで穏やかに混合した。
【0109】
溶液をRNeasy(登録商標)ミニキットカラムに移し、15,000rpmで1分間遠心分離し、フロースルーを廃棄した。溶液RW1 700μLをカラムに添加し、1分間遠心分離し、フロースルーを廃棄した。溶液RPE 500μLをカラムに添加し、2分間遠心分離し、フロースルーを廃棄した。このRPEステップを1回繰り返した。カラムを新しい滅菌コレクションチューブに移し、更に1分間スピン乾燥した。DEPC処理水又はRNaseフリー水40μLをカラムに注意深く添加し、1分間インキュベートし、15,000rpmで遠心分離した。抽出したRNAを-80℃で保存した。
【0110】
mRNAのポリA選択をDynaBeads(登録商標)Oligo dTによって行い、続いてIllumina適合NEXTflex(商標)Rapid Directional RNA-Seqキットを製造業者のプロトコールに従って使用して、配列決定した。
【0111】
トランスクリプトームアセンブリ
プールされたライブラリーは、2×151リード長を有するHiSeq 2000の配列であった。生のfastqリードをFastQC(http://www.bioinformatics.babraham.ac.uk/projects/fastqc/)でチェックし、Trimomaticでクオリティトリミングした。次いで、ペアエンドリードをプールし、denovo転写物アセンブリをTrinityで実施した。次いで、各転写物の発現レベルを推定するために、RSEMを使用して、各ライブラリーをこの参照に対して個々に分析した。
【0112】
タンパク質発現
Sepioteuthis lessonianaリフレクチンB1の遺伝子(SlRF-B1)をコードするプラスミドを、Genscript(New Jersey,U.S.A)から購入した。pET-28a(+)プラスミドにはカナマイシン耐性が付与されているが、6x His-tagはコードされていなかった。制限部位はNcoIとXhoIを選択した。このプラスミドをBL21(DE3)大腸菌に形質転換し、T7プロモーター(イソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシド、IPTG)でタンパク質発現を誘導した。大腸菌の持続増殖にはTartoff Hobbs Terrific brothを用いたが、グリセロールを1L当たり10mLに増やし、リン酸カリウムバッファーをpH7.4に調整するという若干の変更を加えた。前培養液25mLに50μg/mLのカナマイシンを添加し、37℃で一晩、16時間培養した。
【0113】
前培養液25mLを5000xgで5分間遠心分離し、上清を廃棄した。細菌ペレットを新しいTerrific Broth 10mLに再懸濁し、50μg/mLのカナマイシン及び100μLのAntifoam 204を添加したTerrific Broth培地1Lに添加した。細菌を37℃で更に6時間培養した。次の16時間、1mM IPTGで組換えタンパク質発現を誘導した。細菌培養液1Lを、4℃で5分間、20,700xgで遠心分離することによってハーベストした(Hitachi Koki Himac CR22N,Tokyo,Japan)。細胞ペレットを氷冷50mM HEPES pH7.4溶解バッファー50mLに再懸濁し、細胞溶解の直前に1mM PMSF及び10mM DTTを添加した。細胞溶解は、マイクロフルイダイザー(M110P,Microfluidics International Corporation,Massachusetts,U.S.A)を用いて、20,000psi(137.46MPa)で3回通過させて行った。
【0114】
溶解した細胞を20,700xgで5分間、4℃で遠心分離し、封入体を1mM DTTを添加した氷冷溶解バッファー20mLに再懸濁した。この洗浄ステップを3回繰り返し、続いて1%w/v CHAPS双性イオン界面活性剤及び10mM DTTで1回洗浄した。懸濁液を短時間ボルテックスし、氷上で10分間インキュベートした。過剰の界面活性剤を除去するため、溶解バッファーのみで更に3回洗浄ステップを繰り返し、封入体を6M N,N’-ジメチル尿素15mLのみで、超音波浴中、50℃で1時間、時々短時間ボルテックスしながら可溶化した。溶液を20,700xg、4℃で30分間遠心分離し、清澄化した上清を10kDaの再生セルロース透析膜に移した。透析膜の余分な長さは、少なくとも2倍の体積増加に必要である。Milli-Q(登録商標)水のみを外液として、3時間ごとに水を交換しながら上清を24時間透析した。可溶性SlRF-B1タンパク質を少なくとも48時間凍結乾燥し、アルゴンガスでパージし、-20℃で保存した。
【0115】
光学顕微鏡法
光学顕微鏡法をZeiss A1直立顕微鏡で行った。コアセルベートを光透過モードでイメージングした。コアセルベート懸濁液を、一片のカバースリップを有する清浄なスライドグラス上にピペットで移し、EC「Epiplan-Neofluar(商標)」50x/0.8 HD対物レンズを使用して、倍率を50倍に設定した。シリコンウェハに固定化されたDBCO-SlRF-B1ナノ粒子の構造色を、Epi Brightfieldを用いて反射光モードでイメージングし、EC「Epiplan-Neofluar(商標)」2.5x/0.06 HD対物レンズを使用して、倍率を2.5倍に設定した。全ての画像は、60N-C 2/3インチ0.63x C-マウントカメラアダプターに取り付けたZeiss AxioCam MRc5 5 MPカラー顕微鏡カメラを用いて、フル解像度(2584×1936ピクセル)で撮影した。
【0116】
動的光散乱(DLS)
サイズ
Malvern Panalytical Zetasizer(商標)Nano ZSでナノ粒子サイズを決定し、Zetasizerソフトウェアv8.01を使用してデータを分析した。取得設定は後方散乱角173°に設定され、3回の測定を繰り返し、各測定は、25℃で5秒間続く10回の取得を有した。各セットの取得データは、各バッチから3回、更に3つの異なる透析バッチから繰り返した。これは、バッチ間再現性、及びバッファー中のナノ粒子の安定性を確保するためであった。サンプルを、使い捨てUVマイクロキュベット(カタログ番号759200)にピペットで移した。
【0117】
DBCOを添加したSlRF-B1のサイズ成長
DBCO-スルホ-NHSエステルを添加したSlRF-B1ナノ粒子の成長を合計800秒間モニターした。合計80回の測定が記録され、各取得は2秒間続き、各測定間に5秒の遅延があった。遠心分離後のSlRF-B1ナノ粒子を用いて、時間t=0秒における粒子サイズを測定し、500μLをキュベットにピペットで移した。最小量の透析バッファーを使用して5mM(1.33mg)のDBCO-スルホ-NHSエステルを溶解し、続いてキュベットに添加した。溶液を迅速に2回ピペッティングすることにより均一混合を行い、続いて分析を行った。粒子数平均をデータプロッティングのために使用し、データを外挿するために1800秒(30分)、3600秒(1時間)、7200秒(2時間)の3つのデータポイントを追加した。曲線フィッティングは、OriginPro 2016で散布図に対して行われた。
【0118】
ゼータ電位
ナノ粒子のゼータ電位測定は、分散液中のコロイド安定性の重要かつ測定可能な指標である。高い正又は負(≧±30mV)のゼータ電位は、凝集に抵抗する電荷の反発により、粒子に安定性を与える。サンプルはDTS1070キュベットを用い、電気泳動移動度を測定し、Smoluchowskiの式を用いてゼータ電位に変換した。測定回数は50回に固定され、3セットの測定間に遅延はなかった。
【0119】
強カチオン交換HPLC(SCX-HPLC)
強カチオン交換バッファーを表4に列挙する。超高純度尿素をMilli-Q(登録商標)水に溶解し、室温に平衡化する。8M尿素溶液の脱イオン化は、ナイロン製ティーバッグに入れたAG 501-X8又はBio-Rex(登録商標)MSZ 501(D)混床樹脂(Bio-Rad Laboratories,California,U.S.A.)を用い、製造業者のプロトコールに従って少なくとも1時間行った。樹脂バッグを取り出し、ピペリジンを用いてMESでpH6.0に緩衝化した。表4の溶液を、Corning(登録商標)0.22μm PESボトルトップ真空フィルタ(φ45mmネック、部品番号431118)を通して真空脱気し、真空安全アンバーガラスボトル中に入れた。この溶液は室温で1週間安定である。凍結乾燥したSlRF-B1タンパク質を秤量し、SCXバッファーAに溶解して30mg/mLのストック濃度とし、β-メルカプトエタノール(1%v/v)10μLを添加し、タンパク質が完全に可溶化するまで85℃で加熱した。溶液を室温で10分間、21,500xgで遠心分離し(Hitachi Koki Himac CT15E,Tokyo,Japan)、4mm 0.45μm再生セルロース膜でシリンジ濾過した。5μm、1000ÅポリスルホエチルATMセミ分取カラム(PolyLC Inc.,Maryland,U.S.A.)で精製を行った。流量を2mL/minに設定し、UV検出器を254nm及び280nm波長でクロマトグラムを取得するように設定した。バッファー勾配を30分で0%Aから20%Bに設定した。最大サンプル注入は、500μL当たり15mgであった。回収した画分を一緒にプールし、4℃で保存した。
【0120】
【表4】
【0121】
脱イオン尿素
**ピペリジンで調整したpH
ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動及びマトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間
電気泳動は、製造業者のプロトコールに従って、中性PAGEシステムを用いて実施した。MALDI-ToFは、先に記載されたように、シナピン酸によるサンドイッチ法を用いて実施した。
【0122】
Sepioteuthis lessonianaリフレクチンB1タンパク質の自己組織化
pH7.0の10mM MOPS及び様々な量のアセトニトリル(HPLCグレード)を含有するバッファーを、所望のナノ粒子サイズに基づいて適宜調製した。最初に10mM MOPS遊離酸粉末をMilli-Q(登録商標)水に添加し、続いて必要量のアセトニトリルを添加した。室温に平衡化するため、200rpmで少なくとも1時間、磁気撹拌プレート上でバッファーを均一に混合した。水酸化ナトリウムをpH7.0になるまでバッファーに添加し、最後にMilli-Q(登録商標)水で1800mLの最終体積にした。3ミリリットルのHPLC精製SlRF-B1を3.5kDa再生セルロース透析膜にピペットで移し、200rpmで連続的に撹拌しながら室温で16時間、7つのバッファーのいずれかを外液として透析した。透析したタンパク質を滅菌マイクロ遠心チューブに移し、2,500x gで5分間、室温で遠心分離した。新しい滅菌微量遠心チューブに、清澄化した上清を注意深く移した。全てのバッファー量をメスシリンダーで測定した。
【0123】
自己組織化SlRF-B1とクリックケミストリーリガンドジベンゾシクロオクチン-スルホ-NHSエステルとのコンジュゲート
ジベンゾシクロオクチン-スルホ-NHSエステル(DBCO-スルホ-NHSエステル)を5mMの濃度でSlRF-B1の自己組織化のためのライゲーション分子として使用した。より低い濃度では粒子が安定化されなかったが(粒子は数時間後に凝集した)、過剰なリガンド(10~20mM)は、ナノ粒子のサイズ及び安定性に、更に影響を及ぼさなかった。反応物を2時間反応させ、ナノ粒子の存在を示す、濁っているが乳白色の黄橙色溶液が形成された。過剰の未反応DBCO-スルホ-NHSエステルは、特定のSlRF-B1サイズを自己組織化させるために使用したのと同じ透析バッファーを外液として透析することによって脱塩した。サンプル量が5mL~30mLの場合、直径25mm、GVS又はOxyphen(Unique-Mem/Rotrack)トラックエッチドポリエステルメンブレン(孔径200~1000nm)を使用する自作のセットアップを製造した(図18)。透析及びタンパク質濃縮は、バイアルを反転させることによる重力濾過によって行い、完了時間は1時間以内であった(表5)。大きい孔径の膜を使用することで、迅速な透析が可能になると同時に小さいサイズのナノ粒子が濾過され、全体的な単分散性が改善された。
【0124】
1~3mLの少量のサンプルの脱塩には、透析の代わりにMerck Millipore Ultrafree(登録商標)-MC Durapore(登録商標)PVDF遠心式フィルタを使用することができる。Whatman(登録商標)Anotop(登録商標)0.02μmシリンジフィルタで濾過した同じ体積の新しいバッファー(所望のSlRF-B1サイズの自己組織化に使用したものと同じ透析バッファー)を添加することによって、脱塩を3回行った。あるいは、10kDaの再生セルロース透析バッグを用いて16時間、サンプルを脱塩してもよい。埃の微粒子や弱い凝集物がある場合、5.0μmフィルタを用いてサンプルをクリーンアップ(10×gで30秒間遠心分離;再懸濁し、繰り返す)した。
【0125】
【表5】
【0126】
[3-(2-アミノエチルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン及びアジド-dPEG(登録商標)4-TFPエステルによるSiO基板の表面官能化
約3nmの固有自然酸化膜を有するシリコンP型ウェハを100mm又は225mmに劈開し、最初に5%v/v Decon90(商標)洗剤中で5分間超音波処理して洗浄し、続いて無水トルエン、2-プロパノール及びMilli-Q(登録商標)水でそれぞれ2回ずつ洗浄した。次いで、洗浄したウェハを、PFA容器に入れたピラニア溶液(硫酸-30%過酸化水素比3:1)40mLに1時間浸漬した。ウェハをMilli-Q(登録商標)水で十分にすすぎ、80℃のホットプレート上で1分間乾燥させた。ウェハは、各実験のために新たに作製し、直ちに使用する。
【0127】
洗浄したシリコンウェハを、ウェハを支持する8mm又は12mm平方の穴を有する高さ5cmの自作プラットフォームに、下向きに配置した(図19)。[3-(2-アミノエチルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン(AEAPTMS)500μLが入った直径20mmのPFAスクリューキャップを、180mLのPFA容器の底に置いた。手で締めた容器を、130℃に予熱したオーブンに16時間入れた。AEAPTMS被覆基板を、無水トルエン、2-プロパノール及びMilli-Q(登録商標)水中でそれぞれ2回ずつ超音波処理した。すぐに使用するために、ウェハを80℃のホットプレート上で1分間乾燥させた。
【0128】
AEAPTMSで官能化されたウェハを、10mM HEPES及び150mM NaClからなるインキュベーションバッファー(pH8.0、DMSO対バッファー比9:1)中で10mMアジド-dPEG(登録商標)4-TFPエステルと反応させた。ウェハは密閉したPFA容器中、室温で少なくとも4時間反応させた。基板を無水DMSO及びMilli-Q(登録商標)水でそれぞれ5分間2回ずつ超音波処理し、80℃のホットプレート上で1分間乾燥させ、直ちに使用した。
【0129】
標識蛍光プローブとして6-FAM-DBCOを用いて、アジド官能化ウェハを確認した。10mL中500μMの蛍光プローブをまず無水DMSO 1mLに溶解し、その後9mLの10mM HEPES、150mM NaCl pH8.0バッファーに添加した。この溶液中で基板を室温、暗所で一晩16時間インキュベートした。基板を50%DMSO-水中で、1分間ずつ3回超音波処理し、風乾した。模式的な反応スキームを図20に示す。
【0130】
Nikon顕微鏡を用いて蛍光顕微鏡検査を行い、Plan Fluor(商標)4x/0.13 WD 16.5対物レンズを通してNikon DS-Ri2 CMOSカメラでイメージングした。使用したイメージングソフトウェアは、NIS Elements D v4.5(Build 1117)であった。6-FAM-DBCO蛍光プローブの励起のために、FITC 488nmのレーザー波長を選択した。露光はアナログゲイン64倍で5秒に設定した。
【0131】
透過型電子顕微鏡法
ナノ粒子分散溶液4μLを、Lacey Carbon支持膜上にUltrathin C Filmを備えるTEM銅グリッド(Ted Pella製品番号01824)にピペットで移し、5分間静置した後、余分なサンプル溶液を濾紙1枚で吸収して除去した。イメージングは、Gatan 794 MSC CCDを装備し、加速電圧200kVで動作する超高分解能(UHR)ポールピースを備えたJEOL 2010 TEMを用いて行った。
【0132】
DBCO-SlRF-B1ナノ粒子のLangmuir-Schaefer堆積法
カスタムコンピュータ数値制御(CNC)加工されたLangmuir-Schaefer堆積トラフを、225mmまでの小さいウェハ用のアルミニウムグレードAA 5083を使用して製造した。トラフリザーバーの内縁はPTFEテープでライニングした。キャリア媒体としてポリタングステン酸ナトリウムを使用し、溶液の密度は2.8gcm-3に固定した。ポリタングステン酸ナトリウム重量22.97gを水5.04gに添加し(総体積10mL)、マグネチックスターラーで均一に混合した。次いで、pHを6M NaOHでpH7.0まで調整した。各実験において、ポリタングステン酸ナトリウム1.2mLをトラフリザーバーに添加し、続いてナノ粒子懸濁液(10倍濃度)60μLを添加した。トラフを圧縮する前に、ACNを少なくとも30分間蒸発させた。Kibron Force Sensor KBN320(Kibron Inc.,Helsinki,Finland)を使用し、DyneProbe(周囲1.59mm)を使用してLangmuir膜の界面張力(表面圧)をモニターした。これらの値を用いて圧縮面積等温線をプロットした。アジド官能化ウェハを、四角く切り取った縁に沿ってポリエステルシール又はアルミテープでマスキングした。真空支持ウェハ(12V KnFマイクロガスダイヤフラムポンプ(NMP830KPDC-B-HP)に接続されたPisco φ 8mm真空パッド(VPB8PFS-4B))を、Edmund Optics XYZ手動ステージ(ストック番号36-034)を使用して、ナノ粒子表面に接触するまで下げた。クリック反応を16時間行い、その後、ウェハをMilli-Q(登録商標)水に少なくとも1時間浸漬し、Milli-Q(登録商標)水ですすぎ、風乾した。
【0133】
DBCO-SlRF-B1ナノ粒子のドロップキャスト法
調製したままのDBCO-SlRF-B1ナノ粒子を、300μLの体積で225mmアジド官能化ウェハにドロップキャストした。ウェハを35℃に温め、サンプル溶液を1時間ごとに、非常に穏やかにピペッティングして均一に混合した。このステップは、沈降したナノ粒子がウェハ表面で十字形を形成し、適切な単分子層自己組織化を妨げている場合に実施した。全プロセスは約6時間かかり、十字形が観察できなくなった時点で混合を停止すべきである。これは、サンプルメニスカス角度がほぼゼロになる時間でもある。サンプル溶液を24時間乾燥させ、その後、Milli-Q(登録商標)水に少なくとも1時間浸漬し、Milli-Q(登録商標)水ですすぎ、風乾した。
【0134】
原子間力顕微鏡法
ナノ粒子被覆は、NanoWorld Pointprobe NCSTRプローブを備えたParks NX10 AFM(Parks System,Suwon,Republic of Korea)を使用してイメージングした。イメージングは、非接触モードで、1~30μmの所望の走査エリア、画像サイズ512×512ピクセル、走査速度0.25Hzで、周囲条件下で行った。画像解析及び処理をXEI 4.3.4.Build22で行った。X軸及びY軸上の正確な測定のために、ソフトウェアにおいてチップデコンボリューション推定を行った。簡単に説明すると、300nmの高度に規定されたピッチを有するAFMキャリブレーション標準を使用した。製造業者の推奨に基づくと、プローブチップがキャリブレーション標準の底部に到達しない場合があるため、Z高さは正確ではない。キャリブレーション画像をAFMソフトウェアで処理し、該データを使用してチップ推定を行った。このデータは保存され、同じプローブで走査された画像に適用される。
【0135】
偏光解析法
ウェハに連続して堆積された分子層の厚さを、WVASE32 v3.77ソフトウェアで制御されるJ.A.Woollam VASE(登録商標)エリプソメーターを使用して測定した。材料の屈折率は、公開された文献から得られるか、又は分子の既知の特性を用いて見積もった。AEAPTMS、アジド-dPEG(登録商標)4-TFP及び6-FAM-DBCOの屈折率は、それぞれn=1.444、1.454及び1.816であると見積もられた。基板におけるナノ粒子被覆の未知の層厚さにはCauchy.mat層をロードした。Cauchy層の厚さ及び屈折率をフィッティングし、1~20の間で最も低い平均二乗誤差(MSE)値を使用した。
【0136】
反射率測定
Zeiss A1正立顕微鏡に取り付けられた200nm~1100nmのグレーティングを備えるAvantes Avaspec ULS2048分光計を使用して、反射率データを測定した。光ファイバー端は、60N-C 2/3インチ0.63x Cマウントカメラアダプターに取り付けられている。Zeiss HAL 100顕微鏡ランプを光源として使用した。900nmまでの近赤外波長での測定のために、ランプハウジングの赤外フィルタを取り外した。使用した分光計ソフトウェアバージョンはAvasoft(登録商標)8.12.0.0である。キャリブレーションタイルWS-2を用いてキャリブレーションを行った。
【0137】
方法の変形
以下の要約は、ナノ粒子形成をもたらした実験パラメータにおけるその他の変更について記載している。これらのパラメータの変更は、特に明記しない限り、実験方法スクリーニング中にクリックケミストリーリガンドジベンゾシクロオクチン-スルホ-NHS-エステルを用いて行った。表面官能化及びLangmuir-Schaefer設定に関する他の方法パラメータがここに含まれる。本明細書に記載されるパラメータは最適化されたものではなく、信頼性が高く使用可能なものとしてデータを与える完全な系統的研究はない。ここに記載されるパラメータは、最適化された後に将来使用される可能性のある代替案を提供するものである。
【0138】
ナノ粒子形成
1.有機溶媒の変化
有機溶媒は、アルコール(HPLCグレード)に置き換えることができ、エタノール及び2-プロパノールは、pH7.0~pH7.4の5~20mM(通常は10mM)のMOPS、MES又はHEPESバッファー中5~15%の濃度で試験され、有機溶媒濃度は15~50%まで増量することができる。ナノ粒子の形成が誘導されたが、アルコール濃度を変化させることの効果についての調査は、アセトニトリルで見られるように完全には実施されなかった。
【0139】
2.様々な有機溶媒濃度によるバッファーpHの変化
SlRF-B1自己組織化バッファーは、10mMグッド緩衝剤を用いてpH4.0~pH10.0の間で変化させ、アセトニトリル濃度は5~50%の間で変化させた。ナノ粒子サイズは変えることができたが、サイズ制御は予測不可能であり、ナノ粒子安定性は保証されない。
【0140】
3.完全水性バッファー
SlRF-B1の自己組織化は、純水中で、又は10mMの任意のグッド緩衝剤、又は5~50mMホウ酸ナトリウム(通常10mM)若しくはイミダゾール(50~200mM)を使用してpH8.0~pH10.0の間で変化させた水性バッファー中で、イオン電荷スクリーニングのために塩化ナトリウム(0~150mM)を添加して、更に「セクション3.1 界面活性剤を含むバッファー」に挙げた2種類の界面活性剤のいずれか1つを使用して達成することができる。
【0141】
3.1 界面活性剤を含むバッファー
SlRF-B1の自己組織化は、双性イオン界面活性剤である3-[(3-コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパンスルホネート(CHAPS)、又は中性界面活性剤であるn-オクチル-β-D-グルコピラノシドの2種類の界面活性剤のいずれかを0.5~10mMの濃度で用いて実施した。界面活性剤は、有機溶媒を含有するバッファーではうまく作用しない場合がある。
【0142】
3.2 抗酸化剤を含むバッファー
水性バッファーに、抗酸化剤及び緩衝剤としての1~10mMアスコルビン酸をpH6.0で添加し、水酸化ナトリウム(アスコルビン酸ナトリウムとして)又はピペリジンでpH6.0に滴定し、更に、「セクション3.1 界面活性剤を含むバッファー」に挙げた2種類の界面活性剤のいずれか1つを使用した。本方法では、ジベンゾシクロオクチン-スルホ-NHS-エステルを使用しなかったが、pH6.0がNHSエステル反応の下限であるため、その使用を包含することができる。
【0143】
3.3 他の有機酸及び無機酸を含むバッファー
pH4.0で1mM酢酸又は0.61mMリン酸を添加した水性バッファーを試験し、更に「セクション3.1 界面活性剤を含むバッファー」に挙げた2種類の界面活性剤のいずれか1つを使用した。本方法では、ジベンゾシクロオクチン-スルホ-NHS-エステルを使用しておらず、NHSエステル反応ではうまく作用しない場合がある。
【0144】
4.有機溶媒中でのナノ粒子形成
ジベンゾシクロオクチン-スルホ-NHS-エステルを使用せずに、メチル-βシクロデキストリン(MβCD)を使用して、200nm未満のサイズのSlRF-B1ナノ粒子形成を合成した。1mg mL-1の濃度の精製SlRF-B1タンパク質を、3.5kDa再生セルロース透析膜にピペットで移し、水のみを外液として透析した。1:1、1:2、1:4(w/w)のタンパク質とMβCDとの比を調査した。1:6、1:8及び1:10の比ではナノ粒子が検出されなかった。MβCDが溶解するまでサンプルを数回反転させ、次いで24時間凍結乾燥した。
【0145】
無水酢酸エチル1mLを凍結乾燥サンプルに添加し、1分間超音波処理してタンパク質ナノ粒子を再懸濁した。凝集体を4℃で20分間、5000xgで遠心分離した。新しいエッペンドルフチューブに上清を注意深く移し、同じパラメータでもう一度遠心分離を繰り返した。
【0146】
【表6】
【0147】
5.SlRF-B1ナノ粒子と他のクリックケミストリーリガンドとのコンジュゲート
ナノ粒子の自己組織化は、ジベンゾシクロオクチン(Dibenzocycloocytne)スルホ-NHSエステル以外の、表2から引用した以下の表6に挙げられるクリックケミストリーリガンドを用いて試験された。リガンドは、セクション1、2及び3に記載された全ての実験条件でジベンゾシクロオクチンスルホ-NHSに代えて試験された。アジド-dPEG4-TFP(製品番号10567)における「dPEG」という用語は、Quanta BioDesignの「別個の(discrete)ポリエチレングリコール」又は「別個のPEG」の頭字語であり、単一分子量PEG技術を示す。
【0148】
【表7】
【0149】
表面官能化
表面官能化は、固体基板上のアジド-dPEG4-TFP及びナノ粒子上のジベンゾシクロオクチンスルホ-NHSエステルを使用してうまく達成されており、銅を用いない歪み促進アジド-アルキン付加環化を介して両者の間の共有結合固定化が起こる。これより前に、銅支援クリックケミストリー(CuAAC)、及び以下に詳述する他の官能化スキームが最初に調査された。以下の官能化方法は、ヒドロキシル化され得る任意の材料表面に適用することができる。APTESを用いたアミンによる表面官能化が本明細書に記載されているが、同じ手順を官能化カルボン酸表面にも適用することができる。カルボキシル化又はアミノ化されたリガンド及びその誘導体の選択は、単純に逆である。
【0150】
リフレクチンB1ナノ粒子の安定化
精製リフレクチンB1(SlRF-B1)は、pH7.0のアセトニトリルバッファー中で自己組織化し、その後、クリックケミストリーリガンドDBCO-スルホ-NHSエステルの添加により、制御された準単分散ナノ粒子へと自己組織化する。
【0151】
ナノ粒子は一定期間後に沈降する。500nmより大きいナノ粒子は1日以内に沈降し、500nmより小さいナノ粒子は2~5日以内に沈降する。沈降し、圧縮されたリフレクチンナノ粒子は、超音波処理をしても、同じバッファー中に均一に再懸濁することができない。これは、ゼータ電位が-38mV(境界安定性)であるにもかかわらず、ナノ粒子上のDBCOリガンドが疎水性凝集することが一因である。
【0152】
ナノ粒子はまた、アセトニトリルが除去されなければならないケラチノサイト細胞取り込み研究において使用されるDMEMバッファーなどの完全水性バッファーを外液とした透析後に、溶液中で凝集する。凝集を緩和するために、リフレクチンB1に結合したDBCOをアジド親水性リガンドでエンドキャッピングすることができる。
【0153】
DBCO-SlRF-B1ナノ粒子へのコンジュゲートには、以下に挙げる3つのリガンドが選択された。
アジド-PEG-OH
アジド-PEG-ホスホン酸
アジド-PEG-スルホン酸
SlRF-B1ナノ粒子上のDBCOを上述のリガンドでエンドキャッピングすると、表面の化学的性質への更なるコンジュゲート又は修飾が効果的に阻害されることに留意されたい。
【0154】
360nm及び500nmの2つのナノ粒子サイズを試験し、各リガンド(1μL又は1mg)をナノ粒子懸濁液500μLに添加した。クリックケミストリー反応を40℃で4時間進行させた。ナノ粒子懸濁液が冷却したら、該懸濁液を3.5kDa再生セルロース膜に移し、DMEMバッファーpH7.4を外液として16~24時間透析した。
【0155】
上記のいずれのリガンドもコンジュゲートせずにDMEMを外液として透析したナノ粒子懸濁液(1)は沈殿した。沈降したナノ粒子の大部分は、穏やかな撹拌又は超音波処理では再懸濁させることができなかった。
【0156】
リガンドを有するナノ粒子(2)は、わずかな凝集を示している。沈降したナノ粒子の大部分は、穏やかな撹拌によって再懸濁させることができた。
(1)凝集体を2500xgで10分間遠心分離し、水を外液として上清を16~24時間透析し、凍結乾燥した。非凝集タンパク質はわずか30%以下であった。
【0157】
(2)凝集体を2500xgで10分間遠心分離し、水を外液として上清を16~24時間透析し、凍結乾燥した。非凝集タンパク質は90%以上であった(最小限の損失)。
以下の表7におけるスクリーニング結果は予備的なものであり、参照としてのみ解釈されるべきである。除去の最適化が依然として必要な残留凝集体が存在することにより、結果は上記した表の数値を越えて変動することさえあり得る。負に荷電したホスホン酸及びスルホン酸は、電荷反発を誘導し、PEGアームから親水性を付与し、完全水性バッファー中での凝集を緩和し、全体的なナノ粒子サイズが減少したことが分析された。透析及びアセトニトリル除去の後、ナノ粒子は水分の取り込みが増加して膨潤する(アセトニトリルはナノ粒子を脱水する)。
【0158】
リガンドは上記の分子に限定されない。PEG~PEG36-OHの、より長いPEGアームリンカーを更に試験してもよい。ホスホン酸及びスルホン酸は、より長いPEGアームを有さないが、様々なPEGアーム長を有するカルボキシル末端基での試験もまた、スクリーニングされ得る。
【0159】
【表8】
【0160】
1.(3-アミノプロピル)トリエトキシシラン(APTES)による表面官能化
透明なスライドグラス及びカバースリップを、まずピラニア溶液(硫酸-30%過酸化水素比3:1)で処理し、アミノアルキルシラン(3-アミノプロピル)トリエトキシシラン(APTES)で官能化した。
【0161】
1.1 溶液法によるAPTES官能化
無水アセトン中のAPTES濃度は3mMであり、清浄なカバースリップをこの溶液に3時間浸漬した。カバースリップをアセトン及びメタノールでそれぞれ2回ずつ洗浄し、150℃のオーブンで16時間アニールした。無水エタノール中のAPTES濃度は10%v/vであり、清浄なカバースリップをこの溶液に15分間浸漬した。カバースリップをエタノール中で5回洗浄し、150℃のオーブンで16時間アニールした。無水トルエン中のAPTES濃度は2%v/vであり、清浄なカバースリップをこの溶液に3時間浸漬した。カバースリップをトルエン及びメタノールでそれぞれ2回ずつ洗浄し、150℃のオーブンで16時間アニールした。
【0162】
1.2 蒸着法によるAPTES官能化
1.2.1.希釈蒸着法
無水トルエン中のAPTES濃度は1%v/vであり、カプトン(登録商標)テープを用いて清浄なカバースリップを180mLのPFAボトル中に吊り下げた。希釈したAPTES溶液を小さい金属キャップに加え、PFAボトルに入れた。ボトルをアルゴンガスでパージし、150℃のオーブンに16時間入れた。
【0163】
1.2.2.濃縮蒸着法
カプトン(登録商標)テープを用いて、清浄なカバースリップを180mLのPFAボトル中に吊り下げた。APTES 50μLを小さい金属キャップに加え、PFAボトルに入れた。ボトルをアルゴンガスでパージし、150℃のオーブンに16時間入れた。
【0164】
蒸着APTES被覆スライドグラスの接触角は約80~90°であるのに対し、溶液ベースAPTES被覆では40~60°の間で変化することが観察された。アミン自体は親水性であるため、接触角が小さいということは、より多くのアミンが表面に存在することを示唆している。ほとんどの文献では蒸着で一貫した結果が得られているが、接触角が大きいということは、APTES分子が横向きに配向し、アルキル鎖がより多く露出しているか、アミンが親水性シラノール基と結合する傾向が高いため、表面の下に埋もれていることを意味し得る。
【0165】
2.アミノアルキルシランとエチニル官能基又はプロパルギル官能基とのカルボキシル-アミンカップリングによるアミド形成
カルボキシル基を有するエチニル官能基又はプロパルギル官能基は、標準的なDIC/HOBt又はEDC/NHS化学を用いてアミンとカップリングさせることができる。以下は、試験された2つの分子である:4-エチニル安息香酸(疎水性分子);プロピオール酸(親水性分子)。濃度2mMの4-エチニル安息香酸を無水N,N-ジメチルホルムアミド10mLに溶解し、その後、2.5mMのN,N’-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)及び3mMのヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)を添加した。反応はアルゴン下で30分間行った。APTES被覆ガラスをこの溶液に浸漬し、アルゴン下、室温で少なくとも6時間反応させた。
【0166】
濃度20mMのプロピオール酸を5mM MES、0.5M NaCl、pH6.0のバッファー1mLに溶解し、続いて30mMの1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)及び40mMのN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)を添加した。反応はアルゴン下で15分間行った。このカップリング溶液を、APTES被覆ガラスを浸漬した5mM HEPESバッファー、0.15M NaCl(pH7.2)29mLに添加し、アルゴン下、室温で少なくとも6時間反応させた。
【0167】
3.アジド官能基へのエチニル又はプロパルギルの銅(I)触媒アルキン-アジド付加環化
ここでは、例として1-アジドメチルピレンが方法において使用されており、任意のアジドコンジュゲートサンプル又は分子で置き換えることができる。付加環化は、触媒として銅リガンドトリスヒドロキシプロピルトリアゾリルメチルアミン(THPTA)を利用した。カルボン酸及び/又はアミンを含有する生体サンプルは、EDC/NHS(水性)又はDIC/HOBt(非水性)化学を使用して、アジドプロピルアミン(カルボン酸の場合)若しくはアジド酢酸(アミンの場合)、又はその等価物とコンジュゲートさせることができる。しかしながら、本方法は、あるナノ粒子上の活性化カルボン酸が別のナノ粒子上のアミンと反応するのを防ぐように最適化されなければならない。該反応は凝集を引き起こす可能性がある。
【0168】
濃度0.4mMの1-アジドメチルピレン10mLを、まず無水N,N-ジメチルホルムアミド2部及びMilli-Q(登録商標)水1部(1mL)に溶解した。無水硫酸銅0.5mM、銅リガンドトリスヒドロキシプロピルトリアゾリルメチルアミン(THPTA)0.5mM、アスコルビン酸ナトリウム5mMを秤量し、PFA容器に加えた。無水N,N-ジメチルホルムアミド2部及びMilli-Q(登録商標)水1部(9ミリリットル)を容器に添加し、ピペッティングを繰り返して十分に混合し、固体を溶解した。エチニル又はプロパルギル官能化APTESガラスをこの溶液に浸漬し、続いて1-アジドメチルピレン溶液を添加した。容器をアルゴンでパージし、密栓した。反応は、室温において200rpmで撹拌しながら少なくとも2時間行った。無水N,N-ジメチルホルムアミドは、無水DMSOで置換してもよい。
【0169】
3.トリエトキシ(エチニル)シランとのカップリングの簡略化
アミノアルキルシランAPTESをトリエトキシ(エチニル)シランに置き換えて、中間分子として4-エチニル安息香酸及びプロピオン酸を用いて概説した方法を省略してもよい。1-アジドメチルピレンを例として用いて、反応スキームを以下に示す。ヒドロキシル化表面へのトリエトキシ(エチニル)シランの官能化は、溶液及び蒸着法におけるAPTESの官能化と類似している。
【0170】
官能化ウェハ上のSlRF-B1ナノ粒子の単分子層被覆
最小限の材料のみを使用する単分子層被覆の別の簡単な方法は、以下の刊行物からのアイデア及び参照により以前に考案された:Ryan van Dommelen,Paola Fanzio,Luigi Sasso,Surface self-assembly of colloidal crystals for micro-and nano-patterning,Advances in Colloid and Interface Science,Volume 251,2018,Pages 97-114,https://doi.org/10.1016/j.cis.2017.10.007。ポリタングステン酸ナトリウム溶液の密度は、ρ=1.0~3.1g/cmの間で調整することができた。Langmuir-Blodgett法を可能にするために、基板の密度は、調製されたポリタングステン酸ナトリウム溶液の密度よりも高いことが必要である。Langmuir-Schaeferの場合、基板の密度は、調製されたポリタングステン酸ナトリウム溶液の密度よりも低い必要がある。これは、任意の基板に適用することができる。任意のタンパク質の密度は、分子量に関係なく、1.22~1.43g/cmであることが以前に決定されており、したがって、ポリタングステン酸ナトリウム溶液の密度は、少なくとも1.5g/cmである必要がある。FKM Oリング(1.85g/cm)又は一般的なニトリルOリング(1.00g/cm)をポリタングステン酸ナトリウム溶液に浮かべた。ナノ粒子溶液にアセトニトリルが含有されるため、FKM Oリングが好ましい。ナノ粒子溶液をゆっくりとOリングに加え、その中に入れた。アセトニトリルを少なくとも30分間蒸発させた。添加するナノ粒子の量は、本方法を用いて実験的に決定する必要がある。アジド官能化ウェハを、縁に沿ってポリエステルステッカーフレームでマスキングし、Oリング内に非常に穏やかに配置した。マスキングは、クリックケミストリー反応中にナノ粒子が振動により移動するのを制限し、充填された粒子を基板領域内に閉じ込める。クリック反応を24~72時間行い、その後、ウェハをMilli-Q(登録商標)水中に少なくとも1時間浸漬し、取り出し、風乾した。
【0171】
リフレクチンナノ粒子のケラチノサイトにおける毒性効果及びUV吸収特性
導入:紫外線(UV)は、UV-A、-B及び-Cで構成され(図25)、自然の太陽光に豊富に含まれている。UV-A及びUV-Bは大気を迂回して、皮膚の老化を加速し得る。前者が真皮層に深く浸透し得るのに対して、後者は日焼けを引き起こす。UV-Cはオゾン雰囲気によってほとんど遮断されるが、殺菌灯に使用されるその殺菌特性は、潜在的な健康リスクをもたらす。これらのUV波長は、眼外傷(例えば、角膜の刺激及び炎症)並びに皮膚損傷(例えば、紅班)を引き起こす。UV線への慢性的な曝露はまた、皮膚の老化プロセスを加速し、皮膚癌のリスクを増加させる可能性がある。
【0172】
自然及び人工的供給源からのUVの有害な影響を緩和するために、高いSPF数を有する日焼け止めのようなパーソナルケア製品は、UV線の吸収に効果的である(図26)。これらの日焼け止めの活性化合物は、ナノサイズの酸化亜鉛、二酸化チタン、又はその両方の組み合わせのいずれかである。しかしながら、過去10年間、これらの金属酸化物ナノ粒子の広範な使用は、表皮に外部から塗布した場合でさえ、いくらかの毒性を有することが判明したが、市販製品に見られる濃度、一般に1~3%での使用において、これらの化合物は安全であると反証されている。ケラチノサイト細胞におけるこれらの金属酸化物ナノ粒子の取り込みは、健康な角質層が損なわれた場合に起こることが示唆されている。それにもかかわらず、工場におけるこれらのナノ粒子の製造では、不注意にも労働者をナノ粒子粉末にさらすことになり、これは肺へのダメージが大きく、標的臓器への生物蓄積や生体内での長期循環が懸念される。日焼け止めに使用された場合の酸化亜鉛と二酸化チタンの毒性については相反する研究がなされているが、これらの化合物の直接的な代替物を特定することは依然として価値がある。代替物は、おそらく製造中の微粉末への曝露を更に減らし、再生可能で持続可能なUV吸収材料を供給し、金属チタンへの依存を減らすのに役立つであろう。
【0173】
酸化亜鉛及び酸化チタンの市販の製剤は、0.1~10μm、特に100nm未満のナノ粒子サイズを有するが、これは、サイズが小さいほどUV波長の吸収効率が高まるためである(図27)。
【0174】
本報告書では、現在、対照としてZnOを使用して、インビトロでケラチノサイトに対するDBCO-SlRF-B1の毒性効果のみを試験している。ZnOナノ粉末は130nm以下のものが市販されており、したがってこの予備研究はZnOナノ粒子サイズの狭い範囲に限定される。
【0175】
以下のセクションでは、TiOナノ粒子対照を用いてUV吸光度及びDLSを実施した。更に、ケラチノサイト細胞におけるDBCO-SlRF-B1の毒性試験をZnO対照と比較した。
【0176】
結果
TiOナノ粒子対照のサイズは、まず動的光散乱(DLS)を使用して分析し、流体力学的半径を決定した。二酸化チタンナノ粒子(10μL)を市販の日焼け止め(Biore,Japan,SPF 50+)から抽出し、Milli-Q(登録商標)水1mLに再懸濁した。結果を表8に示す。
【0177】
【表9】
【0178】
続いて、図28に示すように、UV-Vis分光計(Nanodrop(商標)2000c)を使用して、TiO対照及び日焼け止めのUV吸光度を分析した。
ナノ粒子サイズが大きくなるにつれて、吸光度が可視波長にレッドシフトすることが観察された。200nmを超えるTiOナノ粒子サイズでは、もはやUV吸収特性を有さない。したがって、効果的なUV吸収のためには、ナノ粒子サイズは少なくとも200nm以下である必要がある。また、ナノ粒子のサイズが大きくなると、同じ濃度で比較した場合、吸光度強度が低下する(表面積が減少するため)ことも注目された。
【0179】
ジベンゾシクロオクチンとコンジュゲートしたリフレクチンナノ粒子(DBCO-SlRF-B1)は、170~1000nmの間の制御可能なサイズを有する準単分散ナノ粒子を形成することが、以前に報告されている。400nmのDBCO-SlRF-B1を合成し、そのUV吸光度を記録した(図29)。このスペクトルは、100~200nmのTiOと類似したUV吸光度プロファイルを示している。
【0180】
非コンジュゲートリフレクチンナノ粒子DBCO-SlRF-B1と、400nm及び660nmの大きいDBCO-SlRF-B1ナノ粒子サイズとの比較を図17に示す。UV吸光度は、UV-B及びUV-C領域において顕著である。
【0181】
ケラチノサイトにおける毒性効果の結果
以下の予備研究では、400nmのDBCO-SlRF-B1と比較して、酸化亜鉛のみを対照として使用した。細胞生存率は、1日間の細胞適合性試験後に集計され、図30にプロットされた。400nmのDBCO-SlRF-B1は、同じ濃度のZnOナノ粒子(流体力学的半径250~350nm)と比較して、ケラチノサイトのより良好な耐性を示す。細胞がナノ粒子を適切に取り込むことを可能にするために、血清を含まないDMEM溶液を使用した。その結果、細胞死により実験は2日を超えて進めることができなかった。
【0182】
live/deadアラマーブルー染色及び5-FAMアジド染色を細胞に対して実施し、図31及び図32に示すようにイメージングした。
結論
DBCOコンジュゲートリフレクチンナノ粒子は、化粧品及びパーソナルケア製品におけるTiO及びZnOナノ粒子配合物の代替物として使用するために、更に調査され得る有望な結果を示す。第1に、DBCO-SlRF-B1は、TiOとZnOの組み合わせと比較して、類似したUV吸光度プロファイルをもたらす。第2に、400nmのDBCO-SlRF-B1ナノ粒子は、250nmのZnOと比較して、ケラチノサイトにおいてより良好な耐性及び低い細胞毒性を示す。
【0183】
現在のデータは、DBCO-SlRF-B1のUV吸収特性がDBCO自体に由来し、リフレクチンナノ粒子サイズに依存しないことを示唆している。したがって、ケラチノサイト細胞におけるリフレクチンナノ粒子の毒性効果を決定するために、DBCO-SlRF-B1のサイズと濃度に基づいて、異なるTiO対照と比較した、更なる研究が実施されるであろう。
【0184】
材料及び方法
リフレクチンナノ粒子
濃度0.2μg mL-1で流体力学的半径250nmの酸化亜鉛ナノ粒子を対照として使用した。17.5%v/vアセトニトリル(285±18nm)を用いてリフレクチンナノ粒子を合成し、DMEM水溶液(385±26nm)を外液として透析した。最終濃度約0.2μgmL-1
【0185】
二酸化チタンナノ粒子のUV吸光度
二酸化チタン対照の紫外線吸光度を、Nanodrop(Nanodrop(商標)2000c)を用いて波長200~800nmで分析した。試験した二酸化チタンナノ粒子のサイズは、21nm(アナターゼ、Sigma Aldrich)、200nm(ルチル、Nanografi)及び490nm(ルチル、Nanografi)であった。重量1mgの粉末をガラスバイアルに秤量し、超音波浴中でMilli-Q(登録商標)水1mLに10分間再懸濁した。
【0186】
DBCO-SlRF-B1ナノ粒子のUV吸光度
400nm及び660nmのDBCO-SlRF-B1ナノ粒子(0.3mgmL-1)の紫外線吸光度を、Nanodrop(Nanodrop(商標)2000c)を用いて波長200~800nmで分析した。UV吸光度プロファイルの改善(シグナル不飽和化)のために、400nmのナノ粒子懸濁液を水で250倍に希釈した。
【0187】
ケラチノサイトの播種
ケラチノサイト(HaCaT継代20)を、10%FBS DMEM培地を用いて、75000細胞cm-2の細胞密度になるように48ウェルプレート上に播種した。細胞を5%COと共に37℃で16時間一晩インキュベートした。種培地を吸引し、無血清培地(DMEM)で洗浄した。洗浄及びDMEM除去後、対照及びナノ粒子溶液を添加した。酸化亜鉛ナノ粒子を秤量し、DI水を使用して新たに調製し、UVで10分間滅菌し、所望の濃度に希釈し、10分間超音波処理し、DMEMバッファーに交換し、再び超音波処理した。
【0188】
DMEM中のリフレクチン:2、20、200μg mL-1
DMEM中のZnO:2、20、200μg mL-1
対照DMEM溶液
アセトニトリル17.5%v/vをこの実験に使用した。アセトニトリルは、この濃度で細胞毒性がある。3mLの17.5%ACN、82.5%HO、10mM MOPS、pH7.0を、DMEM溶液500mLを外液として、10kDa再生セルロース膜を用いて200 rpmで24時間透析した。透析後のDMEM溶液中の最終アセトニトリル濃度は、0.35μLmL-1となる。
【0189】
ウェルプレートへのサンプル割り当て:陰性対照及び陽性対照を、リフレクチン及び酸化亜鉛ナノ粒子と共に、表9に示す48ウェルプレートに割り当てた。
【0190】
【表10】
【0191】
凡例:
A1~C1、ブランク培地
A2~C2、対照DMEM溶液を添加した細胞
A3~C3、2μg mL-1リフレクチン
A4~C4、20μg mL-1リフレクチン
A5~C5、200μg mL-1リフレクチン
D3~F3、2μg mL-1ZnO
D4~F4、20μg mL-1ZnO
D5~F5、200μg mL-1ZnO
DMEM中の対照溶液及びナノ粒子を、5%COを用いて37℃で24時間、細胞と共にインキュベートした。細胞を、明視野顕微鏡を使用して4倍の倍率でイメージングした。ナノ粒子溶液を除去し、200μLのDMEM中1倍アラマーブルーを添加して、製造業者のプロトコール(Thermofisher製品DAL1025)に従って細胞生存能力をチェックした。これを1時間インキュベートし、アッセイ溶液100μLを、プレートリーダーを用いて励起560nm及び発光590nmで分析した。平均結果を以下の式によって計算した。
【0192】
平均{(Xμg/mL値-ブランク細胞なし値)/[平均(0μg/mL値-ブランク細胞なし値)]}×100%。
アッセイ溶液を廃棄し、ナノ粒子溶液を細胞に添加し、24時間インキュベートした。その後、ナノ粒子溶液を除去し、live dead 200μLを用いて1つのウェルを染色し、別のウェルは5-FAMアジド蛍光プローブを用いてDBCO-SlRF-B1ナノ粒子について染色した。Live dead染色は、製造業者のプロトコール(https://ibidi.com/img/cms/support/AN/AN33_Live_Dead_staining_with_FDA_and_PI.pdf)に従って行った。Hoeschtは、製造業者のプロトコール(https://www.thermofisher.com/sg/en/home/references/protocols/cell-and-tissueanalysis/protocols/hoechst-33342-imaging-protocol.html)に従って、Live deadと同時に行った。
【0193】
細胞固定及びフルオレセイン染色
細胞を4%パラホルムアルデヒドで1時間固定し、PBSバッファーで3回洗浄した。細胞透過処理のために0.1%Triton(登録商標)X-100を添加し、PBSバッファーで3回洗浄した。5-フルオレセインアジド異性体(5-FAMアジド)0.1mMを、10mM HEPES(pH8.0)に溶解した。5-FAMアジドを細胞と共に4℃で一晩、16時間インキュベートし、PBSで3回洗浄し、イメージングした。
【0194】
本開示は、特定の実施形態を参照して詳細に示され説明されてきたが、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態及び詳細における様々な変更がなされ得ることが、当業者によって理解されよう。したがって、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって示され、したがって、特許請求の範囲の均等物の意味及び範囲内に入る全ての変更が包含されることが意図される。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図3G
図3H
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
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図29
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図31
図32
【配列表】
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【国際調査報告】