(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-18
(54)【発明の名称】プラスチック廃棄物の熱分解から生じる粗製熱分解油を精製するためのプロセスおよびその使用
(51)【国際特許分類】
C10G 17/02 20060101AFI20241010BHJP
C10G 19/00 20060101ALI20241010BHJP
C10G 21/00 20060101ALI20241010BHJP
C10G 31/09 20060101ALI20241010BHJP
C10G 31/10 20060101ALI20241010BHJP
C08J 11/12 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
C10G17/02
C10G19/00
C10G21/00
C10G31/09
C10G31/10
C08J11/12 ZAB
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024522390
(86)(22)【出願日】2022-10-06
(85)【翻訳文提出日】2024-04-12
(86)【国際出願番号】 EP2022077754
(87)【国際公開番号】W WO2023061834
(87)【国際公開日】2023-04-20
(32)【優先日】2021-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521037411
【氏名又は名称】ベーアーエスエフ・エスエー
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100133086
【氏名又は名称】堀江 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100163522
【氏名又は名称】黒田 晋平
(72)【発明者】
【氏名】オリヴァー・ピラルスキー
(72)【発明者】
【氏名】リーザ・レーブニッツ
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル・ケプケ
(72)【発明者】
【氏名】アルミン・ランゲ・デ・オリヴェイラ
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン・ミューラー
(72)【発明者】
【氏名】モニカ・ハーグ
(72)【発明者】
【氏名】ギーゼラ・ヒーバー
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル・シュライバー
(72)【発明者】
【氏名】ユリアン・マイヤー-キルシュナー
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル・ローマン
(72)【発明者】
【氏名】ティモ・ヘン
【テーマコード(参考)】
4F401
4H129
【Fターム(参考)】
4F401AA09
4F401AA10
4F401AA11
4F401AA13
4F401AB10
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4F401BA02
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4F401FA07Z
4H129AA02
4H129CA22
4H129DA05
4H129DA06
4H129DA07
4H129NA02
4H129NA04
4H129NA05
(57)【要約】
プラスチック廃棄物の熱分解から生じる粗製熱分解油の品質を改善するためのプロセスが提供され、このプロセスは、プラスチック廃棄物の熱分解から生じる粗製熱分解油を供給するステップ、粗製熱分解油のpH値を調整し、前処理された粗製熱分解油を得るステップ、前処理された粗製熱分解油の固体成分および液体成分の固液分離を行うステップ、ならびに/または前処理された粗製熱分解油を液液分離に供するステップを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック廃棄物の熱分解によって生じる粗製熱分解油の品質を改善するための方法であって、以下のステップ:
- プラスチック廃棄物の前記熱分解によって生じる粗製熱分解油(100)を準備するステップ;
- 前記粗製熱分解油(100)のpH値を調整して、前処理された粗製熱分解油(110)を得るステップ;
- 前記前処理された粗製熱分解油(110)の固体成分および液体成分の固液分離(112)を行うステップ;
ならびに/または
- 前記前処理された粗製熱分解油(110)を液液分離(114)に供するステップを含む、方法。
【請求項2】
前記粗製熱分解油(100)のpH値が、約6.5以下、特に約3以下、例えば約2以下に調整される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記粗製熱分解油(100)のpH値が、約8以上、特に約9以上、例えば約11以上に調整される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記固液分離(112)を行うステップが、前記前処理された粗製熱分解油(110)の濾過を含むか、または前記前処理された粗製熱分解油(110)の濾過のみからなり、前記前処理された粗製熱分解油(110)を濾過する前に、任意選択により場合によって1つ以上の濾過助剤(126)が、前記前処理された粗製熱分解油(110)に添加される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記前処理された粗製熱分解油(110)の前記濾過中の平均濾過速度が、約0.04kg/(h・cm
2)以上、特に約0.05kg/(h・cm
2)以上である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記1つ以上の濾過助剤(126)のうちの1つが、珪藻土、セルロース、パーライトもしくはそれらの混合物を含むか、もしくは珪藻土、セルロース、パーライトもしくはそれらの混合物のみからなり、かつ/または前記1つ以上の濾過用助剤(126)が、固体1gあたり約0.5g以上の濾過助剤(126)および/もしくは固体1gあたり約90g以下の濾過助剤(126)の量で使用される、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
前記固液分離(112)が、重力もしくは遠心力を使用することによって、または特に真空もしくは増大した気体圧力を適用することで圧力差を作り出すことによって、行われ、例えば、前記圧力差が、空気圧および/または液圧を使用することによって作り出される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記液液分離(114)が、抽出である、かつ/または前記液液分離(114)が、前記前処理された粗製熱分解油(110)を抽出溶液(116)と混合することによって行われ、好ましくは前記抽出溶液(116)が水溶液、特に塩基性水溶液(106)または酸性水溶液(108)である、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記液液分離(114)が、約25℃以上、特に約30℃以上、および/または約150℃以下、特に約90℃以下の温度で行われる、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記粗製熱分解油(100)および/または前記前処理された粗製熱分解油(110)が、低剪断速度で処理され、好ましくは、撹拌デバイスおよび/もしくは搬送デバイスの体積あたりの電力入力が、約200W/m
3以上および/もしくは約16500W/m
3以下であり、かつ/または前記撹拌デバイスおよび/もしくは前記搬送デバイスのニュートン数が、約2以上である、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記固液分離(112)および/または前記液液分離(114)の後に、さらなる液液分離(120)が行われ、好ましくは、前記さらなる液液分離(120)が、重力および/または遠心力を使用することによって行われる、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記さらなる液液分離(120)のために、1つ以上の内部構造要素が使用され、好ましくは前記1つ以上の内部構造要素が、メッシュ、例えば編メッシュおよび/または織メッシュ、ランダムパッキング、プレートおよび構造化パッキングからなる群から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
さらなる液液分離(120)から得られた残渣および/または有機相(102)および/または水相(104)が、再循環され、かつ/または前記前処理された粗製熱分解油(110)に戻され、この操作が、好ましくは、前記前処理された粗製熱分解油(110)が前記固液分離(112)に供される前および/または前記固液分離(112)の後のプロセスの段階で行われる、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記前処理された粗製熱分解油(110)が、好ましくはさらなる液液分離(120)の後に、少なくとも1つのさらなる固液分離(128)に供される、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
クラッカー、好ましくはスチームクラッカーのための供給原料としての、または合成ガスを生成するための部分酸化ユニットのための供給原料としての、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法によって得ることができる精製熱分解油の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック廃棄物の熱分解から生じる粗製熱分解油を精製するためのプロセス(方法)に関し、特に、最初に提供された粗製熱分解油と比較して汚染元素の含有量が低減された熱分解油を得るためのプロセス(方法)に関する。汚染元素(混入元素)は、例えば、窒素、硫黄、酸、水、固体、ハロゲンおよび金属である。
【0002】
本発明はさらに、本発明によるプロセス(方法)で処理された粗製熱分解油の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
現在、プラスチック廃棄物の大部分は、依然として、埋め立てられるか、または熱を発生させるために焼却されている。化学的リサイクルは、廃プラスチック材料を有用な化学物質に変換する魅力的な方法である。プラスチック廃棄物を化学的にリサイクルするための重要な技術は、熱分解である。熱分解は、典型的には不活性雰囲気中でのプラスチック廃棄物の熱的な劣化であり、熱分解ガス、液体熱分解油およびチャー(残渣)などの付加価値生成物を生成し、熱分解油が主な生成物である。熱分解ガスおよびチャーは、熱を発生させるための、例えば、反応器の加熱目的のための燃料として使用することができる。熱分解油は、合成ガス製造の原料として使用することができ、かつ/または、例えばクラッカーで、好ましくはスチームクラッカーで、化学原料、例えばエチレン、プロピレン、C4カットなどに、加工することができる。
【0004】
典型的には、プラスチック廃棄物は、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)および/またはポリ塩化ビニル(PVC)などのさまざまな種類のポリマーからなる混合プラスチック廃棄物である。ポリマーは、多くの場合、塩素、フッ素、硫黄および窒素などの他の元素と組み合わせて炭素および水素から構成されており、リサイクル努力を複雑にすることが多い。炭素および水素以外の元素は、熱分解油のさらなる処理で使用される触媒を失活させるかまたはその作用を損なわせる可能性があるため、粗製熱分解油のさらなる処理の際、有害となる可能性がある。
【0005】
(スチーム)クラッキング中、ハロゲン含有化合物は、ハロゲン化水素を放出するという点で、腐食によってクラッカーを損傷させるおそれがある。硫黄含有化合物はクラッカーで使用される触媒を失活させるかもしくはその作用を損なわせるおそれがあり、またはクラッカー生成物を汚染するおそれがある。窒素含有不純物は、下流の触媒の作用を損なわせるおそれもある。さらに、これらは、加熱されると爆発性NOxを形成することによって安全上の問題を引き起こす可能性がある。
【0006】
ポリ塩化ビニル(PVC)を含む混合プラスチックが熱的に劣化すると、炭素二重結合を有する化合物と塩化水素が形成される。PVCから遊離した塩化水素は、炭素-炭素二重結合を有する化合物を攻撃し、塩化有機化合物の形成をもたらす。プラスチック廃棄物は、典型的には、ポリマーの性能を改善するために組み込まれた安定剤および可塑剤などのヘテロ原子含有添加剤を含む。このような添加剤はまた、窒素、ハロゲンおよび硫黄含有化合物ならびに重金属を含むことが多い。特に、重金属は有毒であることが多く、重金属不純物の存在によって熱分解油の品質は低下する。
【0007】
さらに、プラスチック廃棄物は、多くの場合、炭素および水素以外の元素も含有し得る残渣を有する未洗浄のプラスチックであり得るか、またはそれを含み得る。したがって、熱分解油中の窒素、硫黄、ハロゲン含有量ならびに重金属含有量の低減は、熱分解油の任意の利益生成処理にとって不可欠である。特に、炭素および水素に富み、炭素および水素以外の元素は少ない高品質の熱分解油は、下流の精製プロセスにおける触媒の失活および腐食の問題を防ぐための原料として望ましい。
【0008】
上記のような粗製熱分解油の取扱いに関連する課題に加えて、一般に、プラスチックの起源が都市廃棄物であるため、粗製熱分解油中にはより大量の水が存在している。水はまた、触媒を失活させるかもしくは作用を損なわせるかつ/またはプロセス機器中のファウリング(不要物質の堆積)をもたらすおそれがあるため、合成ガスプロセスまたは(スチーム)クラッカーユニットのいずれかに供給するための準備ステップとしての粗製熱分解油のさらなる処理に有害であり得る。
【0009】
さらに、水は通常、窒素、硫黄、ハロゲンおよび金属などの望ましくない物質を含んでいる。実際、水(および粗製熱分解油の固相)に含まれる望ましくない物質の量は、有機相よりも大幅に多い。これは、水相および固相における代表的な粗製熱分解油中の例示的な望ましくない物質の含有量(相対含有量)が、有機相中の物質の含有量と比較してどれだけ高いかを示す以下の表に見ることができる:
有機相 水相 固相
Cl 1 140 150
N 1 1.2 5
S 1 2.5 30
Br 1 70 85
金属 1 15 70
【0010】
高い水分含有量を有する粗製熱分解油は、通常、しばらく貯蔵するとファウリングを示す。
【0011】
さらに、粗製熱分解油中の固体沈殿物の形成は、粗製熱分解油の処理における主要な問題である。熱分解中ならびに輸送後および貯蔵中に、粗製熱分解油中に固体沈殿物が形成されることが多い。固体沈殿物は、スターおよび/または粘着性として特徴付けることができる。この特定の化合物は、貯蔵タンクおよびプロセス機器のファウリングにつながる可能性がある。さらに、固体がその表面に付着するため、固体沈殿物は、典型的には、熱分解油のさらなる処理に使用される触媒の利用可能性を低下させる。
【0012】
一般的な研究では、熱分解油は、典型的にはリファイナー(精製装置)で製造されたナフサよりも酸化および重合を受けやすいことが示されている。したがって、粗製熱分解油は、ラジカル開始剤の存在下で、共役ジオレフィン、共役芳香族オレフィンまたは共役オレフィン性アルデヒド/カルボン酸(ジエン価によってまとめられる共役オレフィン)またはオレフィン(臭素価によってまとめられる)の存在に起因して、ガム形成傾向を有する。したがって、結果として生じる反応性は、粗製熱分解油の貯蔵および処理中、対処されなければならない。モノおよびジオレフィンの含有のため、粗製熱分解油は、重合および堆積物(すなわち、ガム)の形成により不安定になりやすくなる。
【0013】
粗製熱分解油中に元々存在するオレフィン含有量に加えて、粗製熱分解油の貯蔵安定性は、ヘテロ原子のレベル(例えば、酸素および窒素がオレフィン重合触媒として作用している)によってさらに影響を受ける。溶存酸素は、炭化水素と反応して、カルボン酸または過酸化物およびヒドロペルオキシドを形成し得る。その結果、ラジカル誘発オリゴマー化/重合反応も開始するフリーラジカル反応が起こり得る。
【0014】
粗製熱分解油中のファウリングプロセスは、凝集によってさらに影響を受ける可能性がある。現在、粗製熱分解油は、高分子量パラフィンが分散状態にある準安定状態にあると想定されている。粗製熱分解油が、制御されていないpH変動、熱衝撃または機械的衝突に曝されると、分散した材料が凝集し、分散した固相が生じる。さらに、アスファルテンまたはビチューメン中のパラフィンが、同様の凝集効果をもたらし得る。
【0015】
既に述べたように、粗製熱分解油中には水が存在することが多い。粗製熱分解油に含まれる水は、さらなる下流プロセスのステップにとって有害であり得るので、分離されなければならない。水はまた、貯蔵またはプロセス容器内の腐食のリスクを増加させる。さらに、基本的に水を含まない熱分解油は、一般的にはより安定しており、ファウリングの傾向が低い。ファウリングは、典型的には、有機相と水相との間の界面で生じる。したがって、基本的に水相が存在しないために、界面が存在しないかまたは最小化されて存在する場合、ファウリングの傾向は減少する。
【0016】
欧州特許第2981593号明細書は、合成原油を調整するためのプロセスを開示しており、このプロセスは、ポリマー、プラスチック、およびゴム材料から選択される1つ以上の材料を熱分解することによって合成原油を得るステップと、合成原油内に同伴される固体粒状材料を捕捉することができる濾過材を合成原油が通過することによって合成原油を濾過するステップと、水性プロセス溶液を提供するステップとを含み、水性プロセス溶液は、8から10のpHを有する苛性プロセス溶液である。本プロセスは、合成原油とプロセス溶液とを混合するのに適した混合機を準備するステップと、混合機に送達されるべき合成原油の第1の体積を決定するステップと、合成原油およびプロセス溶液のpHを維持するのに必要な合成原油の第1の体積に基づいて、混合機に送達されるべき水性プロセス溶液の第2の体積を計算するステップと、いったん混合された後、8から10の間のpHで、合成原油の第1の体積とプロセス溶液の第2の体積とを混合するステップとをさらに含み、プロセス溶液と混合された合成原油の体積は、プロセス溶液の体積よりも小さい。本プロセスは、混合物をセパレータに送達するステップであって、調整された合成原油がプロセス溶液から分離される、ステップと、調整された合成原油をセパレータから回収するステップとをさらに含む。
【0017】
しかしながら、水相、有機相および固相の間の相互作用は、依然として制御が困難である。固体は、有機相中で乳化される水を媒介し、これは、液液分離ステップならびに固液分離ステップにおいて大きな問題をもたらす可能性がある。
【0018】
したがって、熱分解油中の窒素、硫黄、ハロゲン含有量、好ましくは重金属含有量も減少させることによってプラスチック廃棄物熱分解油を品質向上させるプロセスが非常に望ましい。さらに、経済的プロセスにおいて高価値の最終製品に変換することができる高品質のプラスチック廃棄物熱分解油を提供することが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
上記の観点から、プラスチック廃棄物の熱分解から生じる熱分解油の品質を、その窒素、硫黄およびハロゲン含有量、および存在する場合には好ましくは重金属含有量も低減することによって改善するプロセスを提供することが目的である。
【0021】
特に、窒素含有、硫黄含有およびハロゲン含有プラスチック廃棄物の熱分解から生じる熱分解油の品質を改善するプロセスを提供することが目的であり、これは未処理の熱分解油と比較して窒素、硫黄およびハロゲン含有量が低減されており、特に重金属含有量が低減されているため、例えば、(スチーム)クラッカーのための供給原料または部分酸化のための供給原料として、さらに容易に処理することができる。
【0022】
さらなる目的は、改善された貯蔵安定性および/または改善された加工性を有する熱分解油を提供することである。
【0023】
驚くべきことに、これらの目的は、以下に説明するような単純かつ経済的なプロセスによって達成されることが分かった。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上述の目的は、請求項1に記載のプラスチック廃棄物の熱分解から生じる粗製熱分解油を精製するプロセスによって達成される。
【0025】
このプロセスによれば、プラスチック廃棄物の熱分解から生じる粗製熱分解油が提供されるか、または熱分解によって得られる。
【0026】
本発明との関連において、「熱分解油」という用語は、プラスチック廃棄物の熱分解から生じる任意の油を意味すると理解される。
【0027】
本発明との関連において、「熱分解」という用語は、不活性条件下での使用済みプラスチックの熱的な分解または劣化に関するものであり、気体、液体および固体チャー画分をもたらす。熱分解中、プラスチックは、ガス、例えばH2、C1-C4-アルカン、C2-C4-アルケン、エチン、プロピン、1-ブチン、25℃から500℃の沸点を有する熱分解油およびチャーを含む多種多様な化学物質に変換される。「熱分解」という用語は、低速熱分解、高速熱分解、フラッシュ触媒作用および触媒熱分解を含む。これらのタイプの熱分解は、プロセス温度、加熱速度、滞留時間、供給物粒径などにおいて異なり、その結果、製品品質が異なる。
【0028】
熱分解される「プラスチック廃棄物」は、典型的には混合プラスチック廃棄物である。しかしながら、タイヤから生じるプラスチック廃棄物、純粋な高分子プラスチック廃棄物であるプラスチック廃棄物、または汚れ、接着材料、充填剤、残渣などを含むフィルム廃棄物を使用することも可能である。
【0029】
粗製熱分解油は、典型的には固相および液相を含み、液相は有機相および水相を含む。
【0030】
例えば、粗製熱分解油の液相中の水相と有機相との重量比は、約0.01以上、好ましくは約0.05以上、特に約0.2以上である。
【0031】
例えば、粗製熱分解油の液相中の水相と有機相との重量比は、約3.2以下、好ましくは約3.0以下、特に約2.0以下である。
【0032】
好ましい実施形態によれば、粗製熱分解油の液相中の水相と有機相との重量比は、約0.2から0.4、例えば約0.3である。
【0033】
別の好ましい実施形態によれば、粗製熱分解油の液相中の水相と有機相との重量比が約0.1から約3.1、例えば約0.15から約3.0である粗製熱分解油が使用される。
【0034】
さらに好ましい実施形態によれば、粗製熱分解油は、液相中で水相と有機相との重量比が約0.02から約0.08、例えば約0.05である。
【0035】
このプロセスによれば、粗製熱分解油のpH値が、例えば指定された値に調整され、前処理された粗製熱分解油が得られる。
【0036】
粗製熱分解油のpH値の調整は、前処理された粗製熱分解油のファウリングの傾向を低減し、かつ/または加工性を高める。
【0037】
固液分離の前のpH値の調整は、改善された特性を有する、最終的な前処理された粗製熱分解油をもたらし得る。
【0038】
本明細書および添付の特許請求の範囲との関連において、「ファウリング」は、好ましくは、望ましくない物質(ファウリング物質)の蓄積を意味する。ファウリング物質は、生物(バイオファウリング)または非生物物質(無機または有機)のいずれかを含み得る。
【0039】
pH値の調整により、前処理された粗製熱分解油の技術的管理性および/または加工性は、pH値を制御しない熱分解油と比較して最適化される。
【0040】
特に、pH値の調整により、
- 濾過性に影響を及ぼすことができる;かつ/または
- 特定の成分を残りの成分から分離することができる;かつ/または
- 分離速度を増加させることができる;かつ/または
- 保存安定性を改善させることができる。
【0041】
未処理の粗製熱分解油と比較して前処理された粗製熱分解油の最適化された特性(より良好な加工性など)の結果として、より小型の装置および/またはより複雑でない装置をさらなる処理に使用することができる。
【0042】
前処理された粗製熱分解油(すなわち、pH調整後)の固液分離により、固体成分の低減を達成することができる。
【0043】
例えば、pH値の調整は、(望ましくない)固体のさらなる沈殿を引き起こす可能性がある。これらの(望ましくない)固体は、固液分離によって残りの前処理された粗製熱分解油から分離することができる。
【0044】
後続の相分離中の前処理された粗製熱分解油の分離速度は、pH調整なしの粗製熱分解油と比較して、2倍以上、例えば5倍以上増加させることができる。
【0045】
特に、pH値が(最初の6.4から)9.5に調整された前処理された粗製熱分解油の分離速度は、pH値調整および固液分離が行われていない粗製熱分解油の分離速度の5倍である。
【0046】
例えば、pH値が12.5に調整された前処理された粗製熱分解油の分離速度は、pH値調整および固液分離が行われていない粗製熱分解油の分離速度の2.5倍である。
【0047】
さらなる例によれば、粗製熱分解油のpH値は、最初の6.4から1.5に調整されている。このpH値1.5の前処理された粗製熱分解油の分離速度は、pH値調整および固液分離が行われていない粗製熱分解油の分離速度の5倍である。
【0048】
本明細書および添付の特許請求の範囲との関連において、「約」という用語は、好ましくは、このように記載された値の±15%の偏差を意味する。
【0049】
上述のように、粗製熱分解油のpH値が調整され、前処理された粗製熱分解油が得られる。pH値が調整された粗製熱分解油は、前処理された粗製熱分解油と呼ばれる。
【0050】
既に述べたように、好ましくは、前処理された粗製熱分解油の固体成分および液体成分の固液分離は、pH値が調整された後に行われる。
【0051】
本明細書および添付の特許請求の範囲との関連では、特に明記しない限り、液体成分/液相および/または固体成分/固相は、通常、25℃でのそれぞれの成分/相の物理的状態を指定する。全ての試験は、典型的には、約50℃から約90℃、例えば約70℃で行った(特に明記しない場合)。したがって、それぞれの状態の説明は、言及された温度における物理的状態を指す。
【0052】
前処理された粗製熱分解油の固体成分および液体成分の固液分離の実施に加えて、または固液分離の代替として、前処理された粗製熱分解油は、(第1の)液液分離、好ましくは抽出に供される。
【0053】
液液分離は、固液分離の前に行うことが好ましく、第1の液液分離と考えることができる。この第1の液液分離は、水溶性の望ましくない物質を除去する役割を果たす。
【0054】
第1の液液分離は、第1の分離および/または精製が行われる前分離と見なすこともできる。この第1の液液分離では、遊離水を分離して廃棄または再循環させることができる。さらに、遊離した有機相を第1の液液分離内で分離することができる。第1の前分離は、前分離なしのプロセスと比較して、後続のプロセスステップでより小型の装置を使用することを可能にする。
【0055】
例えば、有機相のさらなる精製のために、有機相を再循環させ、抽出溶液および/または塩基性水溶液または酸性水溶液で洗浄することができる。このワークアップステップは、1つ以上のサイクルで繰り返すことができる。これに加えて、またはこれに代えて、有機相を水で洗浄して、酸残渣および/または塩基残渣を除去することができる。
【0056】
「第1(first)」、「後(after)」、「後(later)」などの用語は、プロセスの時間および/またはプロセスシステムに沿った粗製熱分解油またはその成分の流れ方向を指す。
【0057】
好ましくは、粗製熱分解油のpH値は、塩基性または酸性の範囲に調整される。
【0058】
pH値を塩基性または酸性の範囲に調整することは、前処理された粗製熱分解油が固体沈殿物を形成する傾向を増加させることができ、かつ/または固相の体積の増加および/もしくは重量の増加をもたらし得る。特に、pH値を塩基性範囲または酸性範囲に調整することによっておよび/または調整した後に形成される固体沈殿物は、有機溶媒、好ましくは極性非プロトン性溶媒、例えばアセトン、テトラヒドロフランまたはそれらの混合物に不溶性である。
【0059】
典型的には、塩基性pH値は、約7.5以上のpH値である。酸性pH値は、典型的には、約6.5以下のpH値である。
【0060】
pH値は、典型的には、市販のpHセンサを使用して測定される。例えば、0℃から80℃において0から14のpH値を測定するための塩化カリウム充填を有するpHセンサを使用することができる。このようなpHセンサは、例えば、Deutsche METROHM GmbH&Co.KG,70794 Filderstadt,Germanyから製品番号6.0234.100で市販されている。
【0061】
本発明によるプロセスは、連続プロセスとして実施することができる。あるいは、このプロセスはバッチプロセスとして実施することができる。
【0062】
粗製熱分解油のpH値は、好ましくは、塩基性pH値を有する水溶液または酸性pH値を有する水溶液の添加によって調整される。水溶液が1つ以上の解乳化剤を含有する場合有益であり得る。
【0063】
例えば、水溶液の総重量に基づいて、約25重量%のアルカリ金属水酸化物、例えば、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、アルカリ土類金属水酸化物、例えば水酸化カルシウム(Ca(OH)2)、NH3、またはそれらの混合物を含有する水溶液が、粗製熱分解油のpH値を塩基性の範囲に調整するために使用される。
【0064】
あるいは、水溶液の総重量に基づいて、約25重量%に硫酸(H2SO4)、硝酸(HNO3)またはリン酸(H3PO4)を含有する水溶液が、粗製熱分解油のpH値を酸性の範囲に調整するために使用される。
【0065】
本発明者らは、粗製熱分解油から遊離水、すなわち別個の濾過なしに分離することができる水、および/または遊離有機相を分離することが有益であることを観察している。特に、遊離水および/または遊離有機物の分離は、体積の減少をもたらす。したがって、体積が減少するので、より小さな装置を使用することができる。
【0066】
好ましい実施形態によれば、粗製熱分解油のpHが調整される水溶液の体積は、粗製熱分解油の全体の体積よりも小さい。
【0067】
好ましくは、粗製熱分解油の体積は、粗製熱分解油に添加される水溶液の体積よりも少なくとも約1.5倍、例えば少なくとも約2.0倍大きい。
【0068】
好ましい実施形態によれば、粗製熱分解油は、容器、例えば撹拌機などの混合デバイス内に供給されるかまたは容器へ移送される。この容器内で、粗製熱分解油は、例えば、塩基性pH値または酸性pH値を有する水溶液と混合される。
【0069】
成分の混合のために、好ましくは1つ以上の混合デバイス、例えば2つ以上の静的撹拌機(スタティックミキサー)が使用される。
【0070】
好ましい実施形態によれば、粗製熱分解油のpH値は、約6.5以下、特に約3以下、例えば約2以下に調整される。
【0071】
別の好ましい実施形態によれば、粗製熱分解油のpH値は、約8以上、特に約9以上、例えば約11以上に調整される。
【0072】
好ましい実施形態によれば、液液分離、例えば抽出は、前処理された粗製熱分解油を抽出溶液と混合することによって行われ、好ましくは、抽出溶液は水溶液、特に塩基性水溶液または酸性水溶液である。
【0073】
好ましくは、液液分離は、約25℃以上、特に約30℃以上、および/または約150℃以下、特に約90℃以下の温度で行われる。例えば、液液分離は約70℃で行われる。
【0074】
約100℃から約150℃の温度が使用される実施形態では、好ましくは、それぞれの成分は、約100℃以上の温度が優勢である限り、圧力容器内に保持される。
【0075】
上述したように、固液分離が行われる。固液分離に使用される好ましい技術は、濾過、遠心分離および/またはデカンテーションである。
【0076】
本発明によれば、好ましくは、固液分離の前および/または固液分離中に粗製熱分解油の広範囲の加熱は行われない。例えば、粗製熱分解油は、上述の温度範囲において処理される。
【0077】
好ましくは、固液分離を行うステップは、前処理された粗製熱分解油の濾過を含むか、または前処理された粗製熱分解油の濾過のみからなる。任意選択で、前処理された粗製熱分解油を濾過する前に、1つ以上の濾過助剤を前処理された粗製熱分解油に添加してもよい。
【0078】
好ましくは濾過の形態による、前処理された粗製熱分解油の固液分離により、固体および液相の相分離が、特に後の相分離に関して、最適化される。
【0079】
固体粒子は、典型的には、水-油-分散体を安定化させるため、しばしば粗製熱分解油からの水除去を複雑にする。固液分離、例えば濾過によって、水相と有機相との間の相分離の速度が劇的に増加する。
【0080】
例えば後続の液液分離中の分離速度を大幅に増加させることができる。
【0081】
例えば、前処理された粗製熱分解油が濾過されている実施形態では、前処理された粗製熱分解油の分離速度は、同じpH値を有する濾過されていない前処理された粗製熱分解油と比較して、15倍以上、好ましくは25倍以上増加する。
【0082】
好ましい一実施形態によれば、前処理された粗製熱分解油中で相分離を達成するためには、1つの固液分離のみ、例えば1つの濾過ステップのみが行われる必要がある。2つ以上のステップは通常不要である。分離ステップが1つしかないことは、プロセスの実施に必要な時間に関して、したがって経済効率に関しても有利であり得る。
【0083】
しかしながら、さらなる好ましい実施形態によれば、2つ以上の固液分離ステップがプロセスに組み込まれる。
【0084】
固液分離が濾過である実施形態では、好ましくは、例えば約50℃における平均濾過速度は、約0.04kg/(h・cm2)以上、特に約0.05kg/(h・cm2)以上である。
【0085】
濾過速度は、典型的には、濾液の重量を総濾過時間および濾過面積で割ったものとして定義される。
【0086】
濾液の重量は、従来使用されている天秤、例えば、Sartorius Lab Instruments GmbH&Co.KG、37079 Goettingen、Germanyから入手可能な天秤によって測定することができる。
【0087】
総濾過時間は、例えば、濾過プロセスの開始(例えば、前処理された粗製熱分解油を濾過材と接触させ、例えば窒素ガスによって圧力差を作り出すことで開始する)から濾過の終了(例えば、基本的に濾過材を通過する濾液がなくなり、窒素ガスがそれぞれの濾布を通過するとき)までの時間を決定することによって測定される。
【0088】
固液分離から分離された粗製熱分解油の他に、固体部分、濾過の場合には固体濾過ケーキが得られる。固体部分は、典型的には、窒素、硫黄、ハロゲンおよび/または金属などの望ましくない物質/汚染物質を含む。したがって、固体部分の除去により、望ましくない物質/汚染物質の量は既に減少している。
【0089】
最適化された濾過結果のために、1つ以上の濾過助剤を使用することができる。
【0090】
1つ以上の濾過助剤のうちの1つ、いくつか、または全ては、好ましくは、珪藻土、セルロース、パーライトもしくはそれらの混合物を含むか、または珪藻土、セルロース、パーライトもしくはそれらの混合物のみからなる。
【0091】
好ましくは、1つ以上の濾過助剤は、固体1gあたり約0.5g以上の濾過助剤および/または固体1gあたり約90g以下の濾過助剤の量で使用される。
【0092】
例えば、1つ以上の濾過助剤は、前処理された粗製熱分解油の総重量に基づいて、約0.05重量%以上および/または約5.0重量%以下の量で使用される。特に、1つ以上の濾過助剤は、前処理された粗製熱分解油が、前処理された粗製熱分解油の総重量に基づいて、約1重量%以上および/または約3.0重量%以下の濾過助剤を含むような量で使用される。
【0093】
例えば、前処理された粗製熱分解油の総重量に基づいて、約2.5重量%の珪藻土が濾過助剤として使用される。
【0094】
好ましくは、固液分離は、重力もしくは遠心力を使用することによって、または圧力差を作りだすことによって行われる。
【0095】
圧力差は、真空または増大した気体圧力を適用することによって作り出すことができ、例えば、圧力差は、空気圧および/または液圧を使用することによって作り出される。
【0096】
例えば、圧力差は、スラリーポンプなどのポンプ要素および/またはピストン要素を使用することによって作り出すことができる。
【0097】
固液分離が濾過である実施形態では、圧力差により、前処理された粗製熱分解油の液体成分は、フィルタ要素、例えば、濾布を通して押し出され、固体成分はフィルタ要素を通過することができない。このようにして、前処理された粗製熱分解油の液体成分および固体成分の分離を達成することができる。
【0098】
粗製熱分解油および/または前処理された粗製熱分解油を低剪断速度で処理することが有益であることが分かっている。そのため、好ましくは、低剪断速度を有する、撹拌デバイスおよびポンプ要素などの搬送デバイスなどの要素が使用される。低剪断速度を有するポンプ要素は、例えば、膜ポンプおよび/またはギヤポンプである。
【0099】
好ましくは、撹拌デバイスおよび/または搬送デバイスの体積あたりの電力入力は、約200W/m3以上、より好ましくは約450W/m3以上である。
【0100】
撹拌デバイスおよび/または搬送デバイスの体積あたりの電力入力は、好ましくは約16500W/m3以下、特に約1000W/m3以下である。
【0101】
観察された粗製熱分解油の剪断感度によれば、特にd/D(撹拌機直径/容器直径)の低い1段軸流ポンプ式撹拌機は避けるべきである。
【0102】
高いニュートン数、例えば約2以上のニュートン数を有する撹拌デバイスおよび/または搬送デバイスを使用することが有益である。例えば、以下の撹拌デバイスのうちの1つが使用される:
- 約6のニュートン数を有する2段3湾曲ブレード撹拌機;または
- 約5から約7のニュートン数を有するブレード撹拌機;または
- 約4.5のニュートン数を有するディスク撹拌機。
【0103】
固液分離および/または液液分離、例えば抽出の後で、好ましくはさらなる液液分離が行われ、好ましくは、さらなる液液分離は、重力および/または遠心力を使用して行われる。
【0104】
さらなる液液分離は、好ましくは、前処理された粗製熱分解油の水相および有機相を分離する相分離ステップである。
【0105】
例えば、水相および液相は、さらなる液液分離において分離され、ここで、前処理された粗製熱分解油は、好ましくは濾過後に、重力式沈降機中に配置される。
【0106】
好ましくは、相が安定した後、より高い密度を有する相は、より低い密度を有する相から分離される。
【0107】
加えて(後続のまたは先行するステップとして)、または重力式沈降機の代わりに、遠心分離機またはサイクロン分離デバイス、例えばハイドロサイクロンを使用して、水相を有機相から分離することができる。
【0108】
さらなる液液分離は、約25℃以上、特に約30℃以上、および/または約150℃以下、特に約90℃以下の温度で行われることが好ましい。例えば、さらなる液液分離は約70℃で行われる。
【0109】
さらなる液液分離のために、1つ以上の内部構造要素を使用することができる。好ましくは、1つ以上の内部構造要素は、メッシュ、例えば編メッシュおよび/または織メッシュ、ランダムパッキング、プレートおよび構造化パッキングからなる群から選択される。
【0110】
さらなる液液分離の最適化は、例えば、水相と有機相の質量比を変えることで可能である。好ましい実施形態によれば、水相と有機相との質量比は、0.01:1以上および/または約2:1以下に調整される。例えば、水相と有機相との質量比は、最適化された分離のために約0.2:1に調整される。
【0111】
水相が有機相から分離される前、分離される間、または分離された後に、1つ以上のさらなるフィルタ要素を使用して、相分離の質をさらに改善することができる。好ましくは、1つ以上のさらなるフィルタ要素は、コアレッセンスフィルタ要素を含むか、またはコアレッセンスフィルタ要素のみからなる。
【0112】
したがって、さらなる液液分離は、例えば液体の同伴物(例えば、水)を除去することによって、さらに改善することができる。例えば、分散した液滴などの液体同伴物をコアレッセンスフィルタで除去することができる。固液分離に用いることができるフィルタとは異なり、コアレッセンスフィルタを流れる方向は、内側から外側に向かう方向が好ましい。
【0113】
さらなる液液分離によって得られた有機相は、好ましくは前処理された粗製熱分解油が固液分離に供された後および/またはさらなる液液分離の前のプロセスの段階で、前処理された粗製熱分解油に再循環および/または戻されることが可能である。
【0114】
好ましくは、さらなる液液分離から得られた水相は、好ましくは前処理された粗製熱分解油が固液分離に供された後および/またはさらなる液液分離の前のプロセスの段階で、前処理された粗製熱分解油に再循環および/または戻される。
【0115】
例えば、水相と有機相との間の相比は、さらなる(最終の)液液分離から得られた水相の一部を再循環させることによって調整することができる。
【0116】
加えて、または代替的に、前処理された粗製熱分解油から分離された残渣、特にクラッド(crud)および/またはデトリタス(detritus)は、再循環され、かつ/または固液分離の前の段階へ、前処理された粗製熱分解油に戻される。
【0117】
クラッドは、特に、有機相と水相との間の相間で形成および/または蓄積される。したがって、好ましくは、残渣および/またはクラッドは、水相と有機相との間の相間から除去される。
【0118】
水相と有機相との間の相間からの残渣および/またはクラッドの除去および/または再循環により、固体成分の分離が可能になる。こうして、残渣および/またはクラッドの成長または蓄積を回避することができる。
【0119】
前処理された粗製熱分解油から分離された残渣は、再循環され、かつ/または前処理された粗製熱分解油が固液分離に供される前のプロセスの段階で、前処理された粗製熱分解油に戻されることが有益であることが分かった。
【0120】
好ましい実施形態によれば、再循環される、および/または戻される任意の物質が、混合デバイスに供給される。
【0121】
いくつかの実施形態では、2つ以上の混合デバイスおよび2つ以上の液液分離が並行して操作/実施される。さらに、2つ以上のさらなる混合デバイスを操作することができる。
【0122】
任意選択により、プロセスシステムは全ての要素を2回含むことができる。したがって、不必要なダウンタイムなしにファウリングの場合の迅速な対応が可能である。
【0123】
例えば、2つのプロセスラインが互いに平行に配置されてもよい。各プロセスラインは、好ましくは、1つの混合デバイスと、液液分離のためのデバイスとを備える。
【0124】
特に、2つのプロセスラインは、一方のプロセスラインのみを操作し、他方のプロセスラインを洗浄することができるように順次操作することができる。したがって、1つのプロセスラインの洗浄の場合および/またはメンテナンス対策のためにシステムを停止する必要はない。
【0125】
しかしながら、2つのプロセスラインを同時に操作することも可能である。
【0126】
したがって、粗製熱分解油を2つの部分に分離し、塩基性pH値を有する水溶液または酸性pH値を有する水溶液(いずれも任意選択で解乳化剤を含有してもよい)を粗製熱分解油の両方の部分に添加して、2つの混合物を形成することが可能である。混合物は、好ましくは2つの混合デバイスで別々に混合される。2つの部分は、好ましくは本質的に同じ体積を有する。
【0127】
各混合デバイスは、液液分離を行うことができるデバイスと流体接続されていることが好ましい。好ましくは、液液分離が行われる2つのデバイスは、互いに流体接続される。
【0128】
既に述べたように、好ましくは、各々が混合デバイスおよび液液分離のためのデバイスを含む2つのプロセスラインが並列に接続および/または操作される。
【0129】
両方の混合デバイスは、好ましくは、それぞれ水相供給部および有機相供給部を含み、それを通して水相および有機相をプロセスに再循環させることができる。
【0130】
さらなる精製のために、好ましくは、分離されていない前処理された粗製熱分解油の主要部分は、好ましくはさらなる(最終の)液液分離の前に、少なくとも1回の追加の固液分離に供される。
【0131】
プロセスラインの数とは無関係に、水相および有機相が分離されたさらなる液液分離の後に、水相を濾過の形態でさらなる固液分離に供することが特に好ましい。さらに、有機相は、例えば有機相を追加の水で洗浄することによって、さらなる精製に供することもできる。
【0132】
有機相および/または水相は、好ましくは、追加の混合デバイスに、プロセスに戻され、かつ/または再循環される。
【0133】
適応可能なプロセスを提供するために、有機相は、プロセスの以下の状態/段階で、前処理された粗製熱分解油に送ることができることが好ましい:
- 粗製熱分解油とpH値を調整するための水溶液との第1の混合と、(第1の)液液分離との間;
- さらなる液液分離の前。
【0134】
適応可能なプロセスを提供するために、水相は、プロセスの以下の状態/段階で、前処理された粗製熱分解油に送ることができることが好ましい:
- 粗製熱分解油とpH値を調整するための水溶液との第1の混合と、(第1の)液液分離との間;
- さらなる液液分離の前。
【0135】
混合デバイス(1又は複数)は、好ましくは、プロセスの以下の段階に配置される:
- 粗製熱分解油とpH値を調整するための水溶液との第1の混合と、(第1の)液液分離との間;および/または
- (第1の)液液分離と固液分離との間;および/または
- 固液分離とさらなる液液分離との間。
【0136】
水相および/または有機相が全体的または部分的に再循環され、かつ/またはプロセスに戻される実施形態では、均質性を確保するためにさらなる混合デバイスを使用することが好ましい。
【0137】
適応可能なプロセスを提供するために、有機相は、プロセスの以下の状態/段階で、再循環され、かつ/または前処理された粗製熱分解油に戻すことができることが好ましい:
- 液液分離の前;
- さらなる液液分離の前。
【0138】
適応可能なプロセスを提供するために、水相は、プロセスの以下の状態/段階で、再循環され、かつ/または前処理された粗製熱分解油に戻すことができることが好ましい:
- 液液分離の前;
- さらなる液液分離の前。
【0139】
あるいは、有機相は、プロセスの以下の状態/段階で部分的に除去することもできる:
- 液液分離の後;
- さらなる液液分離の後。
【0140】
あるいは、水相は、プロセスの以下の状態/段階で部分的に除去することもできる:
- 液液分離の後;
- さらなる液液分離の後。
【0141】
さらに、本発明は、クラッカー、好ましくはスチームクラッカーの供給原料としての、または合成ガスを生成するための部分酸化ユニットの供給原料としての、本発明によるプロセスによって得ることができるまたは得られた精製熱分解油の使用に関する。
【0142】
本発明の有利な実施形態を作り出す目的で、本明細書および添付の特許請求の範囲に記載された特徴の特定のものまたはいくつかは、さらなる特徴と組み合わせて、またはさらなる特徴とは独立して、自由に利用または省略することができる。
【0143】
本発明のさらに好ましい特徴および/または利点は、以下の説明の主題および例示的な実施形態の図解を形成する。
【図面の簡単な説明】
【0144】
【
図1】プラスチック廃棄物の熱分解から生じる粗製熱分解油を精製および/またはその品質を改善するためのプロセスの第1の実施形態を概略的に示す図である。
【
図2】プラスチック廃棄物の熱分解から生じる粗製熱分解油を精製および/またはその品質を改善するためのプロセスのさらなる実施形態を概略的に示す図であり、プロセスシステム(プロセスが実施されるシステム)の異なる部分間の流体接続が示されている。
【
図3】プラスチック廃棄物の熱分解から生じる粗製熱分解油を精製および/またはその品質を改善するためのプロセスのさらなる実施形態を概略的に示す図であり、この実施形態は、2つ以上の混合デバイスおよび2つ以上の液液分離デバイスを設けることを含み、2つ以上の液液分離デバイスは、熱分解油の流れの方向に関して、第1の混合デバイスとさらなる混合デバイスとの間に位置する。
【発明を実施するための形態】
【0145】
図1には、プラスチック廃棄物の熱分解から生じる粗製熱分解油100を精製するためのプロセスの第1の実施形態が概略的に示されている。
【0146】
図1から
図3に示す実施形態では、未処理の粗製熱分解油100と比較して改善された品質を有する前処理された熱分解油110が得られる。
【0147】
図では、それぞれの構成要素の流れの方向が矢印で示されている。
【0148】
図2および
図3では、有機相102に関する流れおよび/または流体接続が点線で示されている。水相104に関する流れおよび/または流体接続は、鎖線(2つの点および1つの線(二点鎖線))で示されている。残渣(クラッド)の再循環を破線で示す。
【0149】
図2および
図3に示す再循環経路は、
図1の実施形態に対して同様に有効である。
【0150】
好ましくは、
図1の第1の実施形態によれば、プロセス中に入った粗製熱分解油100は、有機相102および水相104が生じるように処理される。固体成分は、有機相102および水相104から分離することができる。
【0151】
そうして処理された粗製熱分解油100、特に有機相102は、クラッカー、特にスチームクラッカーの供給原料として、または合成ガスを生成するための部分酸化ユニットの供給原料として(図示せず)、その後の使用に特に適している(例えば水素化処理後)。
【0152】
このプロセスによれば、プラスチック廃棄物の熱分解から生じる粗製熱分解油100が熱分解によって提供されるかまたは得られる。
【0153】
粗製熱分解油100は、典型的には固相および液相を含み、液相は有機相および水相を含む。
【0154】
固相は、粗製熱分解油100(三つの相を含む)が貯蔵される際、例えば、固体粒子の沈降によって、体積が増加し得る。
【0155】
粗製熱分解油100において、粗製熱分解油の液相中の水相と有機相との重量比は、例えば、約0.01以上、好ましくは約0.05以上、特に約0.2以上である。
【0156】
例えば、液相中の水相と有機相との重量比は、約3.2以下、好ましくは約3.0以下、特に約2.0以下である。
【0157】
好ましい実施形態によれば、粗製熱分解油100の液相中の水相と有機相との重量比は、約0.2から0.4、例えば約0.3である。
【0158】
あるいは、粗製熱分解油100の液相中の水相と有機相との重量比が約0.1から約3.1、例えば約0.15から約3.0である粗製熱分解油100を使用してもよい。
【0159】
さらなる代替形態によれば、液相中の水相と有機相との間の重量比が約0.02から約0.08、例えば約0.05である粗製熱分解油100を使用してもよい。
【0160】
好ましくは、粗製熱分解油100のpH値は所望の値に調整される。したがって、前処理された粗製熱分解油100のファウリングの傾向は低下し、かつ/またはその加工性が増大しうる。
【0161】
好ましくは、粗製熱分解油100のpH値は、塩基性または酸性の範囲に調整される。
【0162】
pH値を塩基性または酸性の範囲に調整することは、前処理された粗製熱分解油100が固体沈殿物を形成する傾向を増大させることができ、かつ/または固相の体積の増加および/もしくは重量の増加をもたらし得る。これにより、(固液分離で)固形成分を除去し、その後の液液相分離を最適化することができる。
【0163】
pH値は、通常、市販のpHセンサ、例えば、Deutsche METROHM GmbH&Co.KG、70794 Filderstadt、Germanyから製品番号6.0234.100で入手可能なpHセンサ(0℃から80℃で0から14のpH値を測定するための塩化カリウム充填のpHセンサ)を使用して測定される。
【0164】
本発明によるプロセスは、連続プロセスとして実施することができる。あるいは、このプロセスはバッチプロセスとして実施することができる。
【0165】
粗製熱分解油100のpH値は、好ましくは塩基性pH値を有する水溶液106の添加または酸性pH値を有する水溶液108の添加によって調整される。
【0166】
水溶液106、108は、1つ以上の解乳化剤を含んでいてもよい。
【0167】
例えば、水溶液106の総重量に基づいて、約25重量%のアルカリ金属水酸化物、例えば水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、アルカリ土類金属水酸化物、例えば水酸化カルシウム(Ca(OH)2)、NH3、またはそれらの混合物を含む水溶液106が、粗製熱分解油100のpH値を塩基性の範囲に調整するために使用される。
【0168】
あるいは、水溶液108の総重量に基づいて、約25重量%に硫酸(H2SO4)、硝酸(HNO3)またはリン酸(H3PO4)を含む水溶液108が、粗製熱分解油100のpH値を酸性の範囲に調整するために使用される。
【0169】
本発明者らは、粗製熱分解油から遊離水、すなわち濾過なしに分離することができる水、および/または遊離有機相を除去することが有益であることを観察した。このようにして、熱分解油の品質を最適化することができる。さらに、それに続くプロセスステップには、より小型の装置を使用することができる。
【0170】
好ましい実施形態によれば、粗製熱分解油100のpHを調整する水溶液106、108の体積は、粗製熱分解油100の体積よりも小さい。
【0171】
好ましくは、粗製熱分解油100の体積は、水溶液106/108の体積よりも約1.5倍以上、例えば2.0倍以上大きい。
【0172】
粗製熱分解油100から分離することができる遊離水が、粗製熱分解油100から分離される。さらに、遊離有機相を分離することができる。
【0173】
好ましい実施形態では、粗製熱分解油100は、容器、例えば抽出デバイスに供給または移送される。この容器内で、粗製熱分解油100は、塩基性pH値または酸性pH値を有する水溶液と混合される。
【0174】
好ましい実施形態によれば、粗製熱分解油100のpH値は、約6.5以下、特に約3以下、例えば約2以下に調整される。
【0175】
別の好ましい実施形態によれば、粗製熱分解油100のpH値は、約8以上、特に約9以上、例えば約11以上に調整される。
【0176】
粗製熱分解油のpH値が調整され、前処理された粗製熱分解油110が得られる。言い換えれば、pH値が調整された粗製熱分解油は、以下では前処理された粗製熱分解油110と呼ばれる。
【0177】
好ましくは、前処理された粗熱分解110油に含まれる固体成分と液体成分との間の固液分離112は、特に液液分離114の後に行われる。
【0178】
pH値の調整とそれに続く固液分離112により、さらなる液液分離120(相分離)における分離速度を大幅に高めることができる。
【0179】
後続の相分離中の前処理された粗製熱分解油110の分離速度は、pH調整に供されていない粗製熱分解油100の分離速度と比較して、約2倍以上、好ましくは約5倍以上増大させることができる。
【0180】
例えば、pH値が(当初の6.4のから)9.5に調整された前処理後の粗製熱分解油110の分離速度は、pH値調整および固液分離112が行われていない粗製熱分解油100の分離速度の約5倍である。
【0181】
例えば、pH値が(当初の6.4のから)12.5に調整された前処理後の粗製熱分解油110の分離速度は、pH値調整および固液分離112が行われていない粗製熱分解油100の分離速度の約2.5倍である。
【0182】
さらなる例によれば、粗製熱分解油100のpH値は、最初の6.4から1.5に調整されている。このpH値1.5を有する前処理された粗製熱分解油110の分離速度は、pH値調整および固液分離112が行われていない粗製熱分解油100の分離速度の5倍である。
【0183】
前処理された粗製熱分解油110の固液分離112の実施に加えて、または固液分離112の代替として、前処理された粗製熱分解油110は、液液分離114、好ましくは抽出に供されてもよい。
【0184】
液液分離114(固液分離112と組み合わせて使用される場合)は、固液分離112の前に行うことが好ましい。
【0185】
上述の液液分離114は、ここでは前分離であり、水相と有機相の最初の分離が行われ、汚染物質および/または望ましくない物質を抽出溶液116に溶解または分散させ、有機相102から除去することができる。
【0186】
好ましい実施形態によれば、液液分離114、例えば抽出は、前処理された粗製熱分解油110を抽出溶液116と混合することによって行われ、好ましくは、抽出溶液116は水溶液106/108、特に塩基性水溶液または酸性水溶液である。
【0187】
特に経済的目的のために、またプロセスを可能な限り単純に保つために、水溶液106または水溶液108と同じ物理的および/または化学的特性を有する抽出溶液116を使用することが有益であり得る。水溶液106/108を再利用することも可能である。
【0188】
好ましくは、液液分離114は、約25℃以上、特に約30℃以上、および/または約150℃以下、特に約90℃以下の温度で行われる。液液分離114を行うのに特に好ましい温度は、約70℃である。
【0189】
約100℃から約150℃の温度が使用される実施形態では、好ましくは、それぞれの成分は、約100℃以上の温度が優勢である限り、圧力容器内に保持される。
【0190】
固液分離112が行われることは既に述べた。固液分離112に使用される好ましい技術は、濾過、遠心分離、および/またはデカンテーションである。
【0191】
ここで、固液分離112を行うステップは、前処理された粗製熱分解油110の濾過を含むか、または前処理された粗製熱分解油110の濾過のみからなる。任意選択により、前処理された粗製熱分解油110を濾過する前に、1つ以上の濾過助剤を、前処理された粗製熱分解油110に添加してもよい。
【0192】
前処理された粗製熱分解油110の濾過によって、固相と液相の相分離が最適化される。
【0193】
例えば、前処理された粗製熱分解油110の濾過により、水相と有機相との間の相分離の分離速度は、濾過なしの分離速度と比較して劇的に増大する。
【0194】
例えば、濾過された前処理された粗製熱分解油110の分離速度は、濾過されていない同じpH値を有する粗製熱分解油100の分離速度と比較して、15倍以上、好ましくは25倍以上増大する。
【0195】
特に、前処理された粗製熱分解油110中で相分離を達成するためには、1つの固液分離ステップのみ、原下では1つの濾過ステップが行われる必要がある。2つ以上のステップは通常不要である。
【0196】
しかしながら、さらなる好ましい実施形態によれば、2つ以上の固液分離112ステップがプロセスに組み込まれ得る。好ましくは、前処理された粗製熱分解油110の濾過時の平均濾過速度は、約0.04kg/(h・cm2)以上、特に約0.05kg/(h・cm2)以上である。
【0197】
濾過速度は、典型的には、濾液の重量を総濾過時間および濾過面積で割ったものとして定義される。
【0198】
濾液の重量は、従来使用されている天秤、例えば、Sartorius Lab Instruments GmbH&Co.KG、37079 Goettingen、Germanyから入手可能な天秤によって測定することができる。
【0199】
総濾過時間は、例えば、濾過プロセスの開始(例えば、前処理された粗製熱分解油110を濾過材と接触させ、窒素圧力を加える)から濾過の終了(例えば、基本的に濾過材を通過する濾液がなくなり、窒素が通過するとき)までの時間をとることによって測定される。
【0200】
1つ以上の濾過助剤126のうちの1つ、いくつか、または全ては、好ましくは、珪藻土、セルロース、パーライトもしくはそれらの混合物を含むか、または珪藻土、セルロース、パーライトもしくはそれらの混合物のみからなる。1つ以上の濾過助剤126の添加が、
図2および
図3に概略的に示されている。しかしながら、図示されていないが、
図1に示す実施形態に従って、1つ以上の濾過助剤126を添加することもできる。
【0201】
好ましくは、1つ以上の濾過助剤126は、固体1gあたり約0.5g以上の濾過助剤および/または固体1gあたり約90g以下の濾過助剤の量で使用される。
【0202】
例えば、1つ以上の濾過助剤126は、前処理された粗製熱分解油110の総重量に基づいて、約0.05重量%以上、特に約1.0重量%以上の量で使用される。
【0203】
特に、1つ以上の濾過助剤126は、前処理された粗製熱分解油110の総重量に対して約5.0重量%以下、例えば約3.0重量%以下の量で使用される。
【0204】
例えば、前処理された粗製熱分解油110の総重量に基づいて、2.5重量%の珪藻土の形態の濾過助剤126が使用される。
【0205】
好ましくは、前処理された粗製熱分解油110の固体成分および液体成分は、重力もしくは遠心力を使用することによって、または圧力差を作り出すことによって分離される。
【0206】
圧力差は、真空または増大させた気体圧力を適用することによって作り出すことができ、例えば、圧力差は、空気圧および/または液圧を使用することによって作り出される。
【0207】
例えば、圧力差は、スラリーポンプなどのポンプ要素および/またはピストン要素を使用することによって作り出すことができる。
【0208】
固液分離112が濾過である実施形態では、圧力差により、前処理された粗製熱分解油の液体成分は、フィルタ要素、例えば、濾布を通して押し出され、固体成分はフィルタ要素を通過することができない。このようにして、前処理された粗製熱分解油110の液体成分および固体成分の分離を達成することができる。
【0209】
濾過中、典型的には、固体濾過ケーキ118が濾液から分離される。
【0210】
粗製熱分解油100および/または前処理された粗製熱分解油110を低剪断速度で処理することが有益であることが分かっている。そのため、低剪断速度を有する、撹拌デバイスおよび搬送デバイス、例えばポンプ要素などの要素が使用されることが好ましい。低剪断速度を有するポンプ要素は、例えば、膜ポンプ(メンブレンポンプ)および/またはギヤポンプである。
【0211】
好ましくは、撹拌デバイスおよび/または搬送デバイスの体積あたりの電力入力は、約200W/m3以上、より好ましくは約450W/m3以上である。撹拌デバイスおよび/または搬送デバイスの体積あたりの電力入力は、好ましくは約16500W/m3以下、特に約1000W/m3以下である。
【0212】
高いニュートン数、例えば約2以上のニュートン数を有する撹拌デバイスおよび/または搬送デバイスを使用することが有益である。特に、多段撹拌デバイスが使用される。
【0213】
例えば、以下の撹拌デバイスのうちの1つが使用される:
- 約6のニュートン数を有する2段3湾曲ブレード撹拌機;または
- 約5から約7のニュートン数を有するブレード撹拌機;または
- 約4.5のニュートン数を有するディスク撹拌機。
【0214】
液液分離114、例えば抽出、および/または固液分離112の後、好ましくはさらなる液液分離120が行われ、好ましくは、さらなる液液分離120は、重力および/または遠心力を使用して行われる。
【0215】
さらなる液液分離120は、好ましくは、前処理された粗製熱分解油110の水相104および有機相102を分離する相分離ステップである。
【0216】
例えば、水相104および有機相102は、液液分離120で分離され、前処理された粗製熱分解油110は、好ましくは濾過112後に、重力式沈降機中に配置される。
【0217】
相が安定した後、より高い密度を有する相は、より低い密度を有する相から分離される。
【0218】
加えて(後続のまたは先行するステップとして)、または重力式沈降機の代わりに、遠心分離機またはサイクロン分離デバイス、例えばハイドロサイクロンを使用して、有機相102を水相104から分離することができる。
【0219】
さらなる液液分離120は、約25℃以上、特に約30℃以上、および/または約150℃以下、特に約90℃以下の温度で行われることが好ましい。例えば、さらなる液液分離120は約70℃で行われる。さらなる液液分離120のために、1つ以上の内部構造要素を使用することができる。好ましくは、1つ以上の内部構造要素は、メッシュ、例えば編メッシュおよび/または織メッシュ、ランダムパッキング、プレートおよび構造化パッキングからなる群から選択される。
【0220】
さらなる液液分離120の最適化は、例えば、水相104と有機相102の質量比を変えることによって可能である。好ましい実施形態によれば、水相104と有機相102との質量比は、0.01:1以上および/または約2:1以下に調整される。例えば、水相104と有機相102との質量比は、最適化された分離のために約0.2:1に調整される。
【0221】
有機相102が水相104から分離される前、分離される間、または分離された後に、1つ以上のさらなるフィルタ要素を使用して、相分離の質をさらに改善することができる。好ましくは、1つ以上のさらなるフィルタ要素は、コアレッセンスフィルタ要素を含むか、またはコアレッセンスフィルタ要素のみからなる。
【0222】
したがって、例えば液体の同伴物を除去することによって、液液分離120をさらに改善することができる。
【0223】
図2に示すプラスチック廃棄物の熱分解から生じる粗製熱分解油100の品質を改善するためのプロセスのさらなる実施形態は、前処理された粗製熱分解油110から分離された残渣が、前処理された粗製熱分解油110が固液分離112に供される前に再循環され、および/または前処理された粗製熱分解油110に戻される点で、
図1に示す実施形態とは実質的に異なる。
【0224】
ここで、残渣は、有機相102と水相104との間の相間に蓄積するクラッド(crud)および/またはデトリタス(detritus)である。したがって、クラッドは水相104と有機相102との間の相間から除去される。
【0225】
ここで、前処理された粗製熱分解油110が固液分離112に供される前のプロセスの段階で、クラッドは再循環および/または前処理された粗製熱分解油110に戻される。好ましくは、クラッドは、液液分離114と固液分離112との間に位置するさらなる混合デバイス124に再循環および/または供給される。
【0226】
図2に示す実施形態では、さらなる液液分離120から得られた水相104の再循環も示されている。水相104の一部を再循環させることにより、水相104と有機相102との相比を調整することができる。水相104は、液液分離114の前および/またはさらなる液液分離120の前に再循環させることができる。
【0227】
液液分離114の後、水相104の一部をプロセスから除去することもできる。
【0228】
代替的または追加的に、さらなる液液分離120から得られた有機相102は、好ましくは前処理された粗製熱分解油が液液分離114および/またはさらなる液液分離120に供される前のプロセスの段階で、前処理された粗製熱分解油110に再循環および/または戻されることができる。
【0229】
再循環され、かつ/または戻される有機相102および/または水相104は、好ましくは、プロセスラインに供給されて混合デバイス124(第1の混合デバイスまたは追加の混合デバイスのいずれか)の中に入る。
【0230】
水相104と同様に、有機相102の一部も、例えば、水相104と有機相102との相比を調整するために、液液分離114後のプロセスから除去することができる。
【0231】
図2に示す実施形態によれば、塩基性pH値を有し、任意選択で解乳化剤を含有していてもよい水溶液106、または酸性pH値を有し、任意選択で解乳化剤を含有していてもよい水溶液108を粗製熱分解油100に添加して得られた混合物は、混合デバイス124に送られる。混合デバイス124においては、pH値が制御された前処理された粗製熱分解油110が形成されるように、成分が互いに混合される。
【0232】
任意選択により、塩基性pH値を有し、任意選択により解乳化剤を含有していてもよいさらなる水溶液106、または酸性pH値を有し、任意選択で解乳化剤を含有していてもよい水溶液108を、pH調整のために前処理された粗製熱分解油110に添加することができる。
【0233】
さらに、好ましくは、1つ以上の濾過助剤126が添加される。
【0234】
その後、前処理された粗製熱分解油110は、ここで再びさらなる混合のためにさらなる混合デバイス124へ送られる。
【0235】
さらに混合した後、前処理された粗製熱分解油110は、
図2の実施形態によれば、固液分離112、ここでは濾過に供される。
【0236】
固体成分が分離され、典型的には廃棄された後、残る液体成分は、水相104と有機相102との間のさらなる液液分離120に供される。
【0237】
ここで、固液分離112とさらなる液液分離120との間に、再循環した相を濾液と混合するための追加の混合デバイス124が配置されている。
【0238】
図2に示す実施形態では、水相104は、さらなる(最終の)液液分離120の後にさらなる固液分離128に供される。その後、水相104を廃水処理に導くことができる。
【0239】
さらに、現在、有機相102は、最終の液液分離120の後にさらなる固液分離128に供される。その後、有機相102をさらなる処理に導くことができる。
【0240】
例えば、追加の水で洗浄することによって、有機相102をさらに精製することが可能である。
【0241】
既に述べたように、適応可能なプロセスを提供するために、有機相102は、プロセスの下記の状態/段階において、再循環され、かつ/または前処理された粗製熱分解油110に戻されることができることが好ましい:
- 液液分離114の前;
- さらなる液液分離120の前。
【0242】
適応可能なプロセスを提供するために、水相104は、プロセスの下記の状態/段階において再循環され、かつ/または前処理された粗製熱分解油110に戻されることができることが好ましい:
- 液液分離114の前;
- さらなる液液分離120の前。
【0243】
水相104および/または有機相102は、上述した段階においてプロセスから部分的に除去することもできる。
【0244】
図3に示すプラスチック廃棄物の熱分解から生じる粗製熱分解油100の品質を改善するためのプロセスのさらなる実施形態は、プロセスシステムがさらなる混合デバイス124および液液分離114のためのさらなるデバイスを含むという点で、
図2に示す実施形態とは実質的に異なる。
【0245】
各々が混合デバイス124および液液分離114のためのデバイスを備える2つのプロセスラインが、互いに平行に配置されて形成されている。
【0246】
したがって、塩基性pH値を有する水溶液106または酸性pH値を有する水溶液108(いずれも任意選択により解乳化剤を含有していてもよい)を粗製熱分解油100に添加して、混合物を形成する。
【0247】
上記混合物は、各々が混合デバイス124および液液分離114のためのデバイスを含む2つのプロセスラインのうちの1つにおいて移送される。
【0248】
あるいは、両方のプロセスラインを同時に操作する場合、混合物は分離され、好ましくは等しい体積で2つの混合デバイス124に供給される。各混合デバイス124は、液液分離114を行うことができるデバイスと流体接続される。好ましくは、液液分離114が行われる2つのデバイスは、互いに流体接続される。
【0249】
上述したように、各々が混合デバイス124、液液分離114のためのデバイス、および追加の/さらなる混合デバイス124を含む2つのユニット/プロセスラインが、並列に接続および/または操作される。また、2つの固液分離112デバイスを、(上述のように)システムの一部とすることができる。
【0250】
2つのプロセスラインは、順次操作または同時操作が可能である。
【0251】
液液分離114が行われた後、液液分離114によって得られた水相104および有機相102は、既に回収され、さらなる処理に送られ、かつ/または再循環され、第1の液液分離114の前の状態の前処理された粗製熱分解油110に戻されることができる。
【0252】
第1の液液分離114の後、前処理された粗製熱分解油110は、両方のプロセスラインにおいて、それぞれさらなる混合デバイス124へ送られる。
【0253】
その後、前処理された粗製熱分解油110は、ここで、さらなる処理のために再び一緒にされる。
【0254】
さらなる混合デバイス124において混合した後、固液分離112、特に濾過が行われる。
【0255】
固液分離の後、好ましくは、前処理された粗製熱分解油110の水相104と有機相102との間の液液分離120が行われる。
【0256】
図3から分かるように、(熱分解油の流れ方向で見て)固液分離112とさらなる液液分離120との間に使用されることが好ましい追加の混合デバイス124をさらに備えていると有益である。
【0257】
適応可能なプロセスを提供するために、有機相102は、特にプロセスの下記の状態において、混合デバイス124内へ、前処理された粗製熱分解油110へ供給されうることが好ましい:
- 粗製熱分解油100とpH値を調整するための水溶液106、108との第1の混合と、液液分離114との間;
- さらなる液液分離120の前。
【0258】
有機相102は、液液分離114、120の前および/または後に除去することができる。
【0259】
適応可能なプロセスを提供するために、水相104は、特にプロセスの下記の状態において、混合デバイス124中、前処理された粗製熱分解油110の中に供給されうることが好ましい:
- 粗製熱分解油110とpH値を調整するための水溶液106、108との第1の混合と、液液分離114との間;
- さらなる液液分離120の前。
【0260】
水相104は、液液分離114、120の前および/または後に除去することができる。
【0261】
他の全ての点で、特に言及されたプロセスステップの特徴および/または特性に関して、
図3に示された実施形態は、
図2に示された実施形態に対応するので、これに関する説明を参照されたい。
【0262】
以下では、本発明のプロセスに従って調製された実施例を参考例と比較する。
【0263】
ここでは、約0.5重量%から約70重量%の量の未溶解水および約2重量%から約8重量%の固体を含有する粗製熱分解油100を、試験に使用した。粗製熱分解油100は、混合プラスチック廃棄物を熱分解することによって得られた。
【0264】
実施例において、固液分離112(ここでは濾過)を行う前にpH値を調整した。
【0265】
参考例においては、濾過による固液分離を行った後にpH値を調整した。
【0266】
試験で使用された粗製熱分解油100は、固相、有機相および水相を含む三相混合物である。粗製熱分解油100を約70℃まで加熱した。混合物を約400W/m3の電力入力で約10から約30分間撹拌した。
【0267】
pH値は、塩基性水溶液106または酸性水溶液108を用いて調整した。塩基性水溶液106として、25重量%NaOH溶液(水溶液の総重量に基づく)を使用した。酸性水溶液108として、25重量%H2SO4溶液(水溶液の総重量に基づく)を使用した。
【0268】
pH値は、Deutsche METROHM GmbH&Co.KG、70794 Filderstadt、Germanyから製品番号6.0234.100で入手可能なpHセンサ(KCl(塩化カリウム)充填を有する0℃から80℃の温度範囲で0から14の範囲のpH値を測定する)を用いて撹拌分散液中で測定した。
【0269】
最適化された濾過速度のために、濾過助剤(例えば、前処理された粗製熱分解油110の総重量に基づいて約0.05重量%から約5重量%の珪藻土)を、前処理された粗製熱分解油110に添加した。その混合物を50℃まで30分間で加熱する。その後、混合物を、濾過面積20cm2かつ容量1lの加熱した(50℃)ダブルジャケットヌッチェフィルタに入れた。
【0270】
実施例では、メッシュサイズ20μmのポリプロピレン製濾布を用いて濾過した。前処理された粗製熱分解油110を0.5barの圧力差で、窒素で加圧した。濾液流量は、濾液質量を天秤で連続的に記録することによって計算した。
【0271】
濾液の重量(濾液質量)は、Sartorius Lab Instruments GmbH&Co.KG、37079 Goettingen、Germanyから入手可能な、従来使用されている天秤によって測定した。
【0272】
その後、濾液の相分離を評価して、濾過後にpH値を調整した参考例と比較した。
【0273】
参考例に従って、粗製熱分解油を、本発明のプロセスによる実施例に関連して記載したように濾過した。
【0274】
実施例、参考例ともに、濾過後に液液分離を行った(これは前に、さらなる液液分離120として記載している)。
【0275】
液液分離120のためには、重力を使用した。
【0276】
他の試験の中でも、いわゆるスポット試験をそれぞれ行った。分散液の形態で濾液3滴(1mlシリンジを使用して)を、濾紙(MN 640d 2μmから4μm、Macherey-Nagel GmbH&Co.KG、52355 Dueren、Germanyから入手)上に置く。紙をオーブン中で1時間乾燥させた。
【0277】
スポット試験の結果に基づいて、固液分離112後に含まれる濾液(液相)の固体の量に基づいて、液液分離120(すなわち、相分離)を評価した。
【0278】
スポット試験は、実施例に対してpH値を1.5から12.2の値に調整すると、参考例(濾過後にpH値が適宜調整されている)の固体含有量と比較して、固体含有量が有意に減少したことを示している。
【0279】
そのため、固液分離112、例えば濾過の前にpH値を調整した場合、液相からの固形成分の除去が促進される。
【0280】
濾過112の前の抽出の形態での液液分離114は、得られる有機相102の品質をさらに高め得る。
【0281】
有機相102のさらなる精製のために、抽出溶液116および/または水溶液106/108を用いた有機相102の洗浄を、1つ以上のサイクルで繰り返すことができる。これに加えて、またはこれに代えて、有機相102を水で洗浄して、酸残渣および/または塩基残渣を除去することができる(図示せず)。
【0282】
全体として、本発明のプロセスに従って処理された精製粗製熱分解油は、未処理の粗製熱分解油と比較して、窒素、硫黄、酸、水、ハロゲンおよび金属の含有量が減少している。
【符号の説明】
【0283】
100 粗製熱分解油
102 有機相
104 水相
106 塩基性水溶液
108 酸性水溶液
110 前処理された粗製熱分解油
112 固液分離
114 液液分離
116 抽出溶液
118 固体濾過ケーキ
120 液液分離
124 混合デバイス
126 濾過助剤
128 固液分離
【国際調査報告】