(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-18
(54)【発明の名称】全固体薄膜電池のための高容量カソード
(51)【国際特許分類】
H01M 4/485 20100101AFI20241010BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20241010BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20241010BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20241010BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20241010BHJP
H01M 10/058 20100101ALI20241010BHJP
H01M 4/1391 20100101ALI20241010BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20241010BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20241010BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20241010BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
H01M4/485
H01M4/36 E
H01M4/525
H01M4/505
H01M10/052
H01M10/058
H01M4/1391
H01M4/131
H01M4/66 A
H01M10/0562
H01M4/38 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024522436
(86)(22)【出願日】2022-10-12
(85)【翻訳文提出日】2024-06-06
(86)【国際出願番号】 US2022046442
(87)【国際公開番号】W WO2023101761
(87)【国際公開日】2023-06-08
(32)【優先日】2021-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521140102
【氏名又は名称】ナノイヤー コーポレーション, インク.
(71)【出願人】
【識別番号】508144129
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ ロチェスター
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】フー, フェイ
(72)【発明者】
【氏名】テンハエフ, ワイアット イー.
(72)【発明者】
【氏名】ウェスト, ウィリアム クラーク
【テーマコード(参考)】
5H017
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H017AA03
5H017EE01
5H029AJ03
5H029AJ14
5H029AK03
5H029AL12
5H029AM12
5H029HJ02
5H029HJ04
5H029HJ14
5H050AA08
5H050AA19
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA29
5H050CB12
5H050DA02
5H050DA04
5H050GA24
5H050HA02
5H050HA04
5H050HA14
(57)【要約】
高容量薄膜電池を形成するための方法を、本明細書に記載する。薄膜電池は、リチウム、ルテニウム、コバルトおよび酸素の各々を含有するカソードを利用する。カソード組成物は、LiRu
2O
3およびLiCoO
2の溶液として合成し、物理的気相成長スパッタリング技法を使用して、基材上に堆積させる。次いで、カソードを電解質およびアノードによって覆って、薄膜電池を形成する。得られた薄膜電池内のカソードは、非晶質組成を有するように、堆積したままでありかつアニーリングしなくてもよく、またはカソードを堆積させた後、カソードをアニーリングしてもよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エネルギー貯蔵装置であって、
アニオンレドックス活物質を含むカソードであり、アニオンレドックス活物質は、リチウム化酸化ルテニウムおよびリチウム化酸化イリジウムのうちの1つまたは複数と、1つまたは複数のリチウム金属酸化物とを含み、リチウム金属酸化物は、鉄、コバルト、ニッケル、マンガン、スズ、チタン、パラジウム、銀、亜鉛、ガリウム、インジウムおよびバナジウムのうちの1つまたは複数を含む、カソード;
カソードに隣接して配置されているアノード;ならびに
カソードとアノードとの間に配置されている電解質
を含む、エネルギー貯蔵装置。
【請求項2】
リチウム金属酸化物が、鉄、コバルト、ニッケル、マンガン、スズ、チタンおよびバナジウムのうちの1つまたは複数を含む、請求項1に記載のエネルギー貯蔵装置。
【請求項3】
アニオンレドックス活物質がリチウム化酸化ルテニウムを含み、リチウム金属酸化物がリチウムコバルト酸化物である、請求項2に記載のエネルギー貯蔵装置。
【請求項4】
電解質が、約0.05μm~約3μmの電解質厚さを有する、請求項1に記載のエネルギー貯蔵装置。
【請求項5】
集電体をさらに含み、カソードが、集電体と電解質との間に配置されている、請求項4に記載のエネルギー貯蔵装置。
【請求項6】
カソードが非晶質またはナノ結晶性である、請求項1に記載のエネルギー貯蔵装置。
【請求項7】
カソードが、PVDを使用して堆積されている、請求項1に記載のエネルギー貯蔵装置。
【請求項8】
リチウム対ルテニウムの原子比率が約5:1~約2:1である、請求項3に記載のエネルギー貯蔵装置。
【請求項9】
リチウム対コバルトの原子比率が約21:1~約5:1である、請求項3に記載のエネルギー貯蔵装置。
【請求項10】
ルテニウム対コバルトとの原子比率が約10:1~約1:1である、請求項3に記載のエネルギー貯蔵装置。
【請求項11】
エネルギー貯蔵装置であって、
支持基材;
支持基材の一部の上に配置された白金被膜;
白金被膜上に配置されており、リチウム、ルテニウム、コバルトおよび酸素を含むカソード;
カソードに隣接して配置されており、リチウムを含むアノード;ならびに
カソードとアノードとの間に配置されている電解質
を含む、エネルギー貯蔵装置。
【請求項12】
電解質が固体リチウムイオン導体である、請求項11に記載のエネルギー貯蔵装置。
【請求項13】
カソード内のルテニウム対コバルトの原子比率が約10:1~約1:1である、請求項11に記載のエネルギー貯蔵装置。
【請求項14】
エネルギー貯蔵装置を形成する方法であって、
処理チャンバの処理領域内で、カソード被膜を支持基材上に堆積させることであって、カソード被膜は、リチウム、ルテニウム、コバルトおよび酸素を含む、カソード被膜を支持基材上に堆積させること;
カソード被膜の上に電解質を堆積させること;ならびに
電解質の上にアノードを堆積させること
を含む、方法。
【請求項15】
カソード被膜の堆積中、処理チャンバ内で支持基材がスパッタリングターゲットから、約5cm~約20cmのスパッタリング距離だけ離されている、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
カソード被膜の堆積中、処理チャンバ内の処理温度が約700℃未満である、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
物理的気相成長法を使用してカソード被膜が堆積され、スパッタリングターゲットが、支持基材の反対側に配置され、スパッタリングターゲットが、リチウム、ルテニウム、コバルトおよび酸素を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
カソード被膜内のルテニウム対コバルトの原子比率が約10:1~約1:1である、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
カソード被膜が、約50nm~約40,000nmの範囲内のカソード厚さを有する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
アノードがリチウムアノードであり、電解質が固体リチウムイオン導体である、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に記載する実施形態は、一般に、エネルギー貯蔵装置およびエネルギー貯蔵装置を形成する方法に関する。より詳細には、エネルギー貯蔵装置は、固体リチウム薄膜電池(solid-state lithium thin-film battery)である。
【背景技術】
【0002】
固体リチウム薄膜電池は、エネルギー貯蔵性能の増強、サイクル寿命の改善、安全性の増強および高い比エネルギーを可能にするために利用される。薄膜電池(TFB)を製造するための現在の手法では、一連の減圧蒸着操作を利用して、巨視的に厚い基材上にセル成分を堆積させる。これらの技法の例としては、熱エバポレーション、スパッタリング、化学的気相成長、パルスレーザー堆積および関連手法が挙げられる。TFBは、スマートセンサ、マイクロコンピュータ、生物医学的健康管理装置、小型ロボット等の中での用途のために利用される。
【0003】
TFBは、現在は、全体としてのエネルギー密度において限定的である。そのため、より高い比エネルギーを有する薄膜カソード材料が必要である。薄膜カソードの比エネルギーは、セルの全体としてのエネルギー密度の大部分を決定する。カソード側について、多くの多結晶性の無機カソード化合物が開発されてきたが、比エネルギーが限定的であるか、充電可逆性が不良である。さらに、多結晶性薄膜カソードは、典型的には、好ましい結晶相および最適なエネルギー貯蔵性能を達成するために、高温でアニーリングすることを要する。高温アニーリングは、かなりの処理時間と追加のコストとを上乗せする一方で、基材の材料適合性を限定する。
【0004】
そのため、必要とされるものは、高い比容量を有し、処理要件が低減したカソード材料である。
【発明の概要】
【0005】
本発明者らは、多様なリチウム薄膜電池用途に用いることができる、新規カソード材料を開発した。新規カソード材料は、リチウム、ルテニウム、コバルトおよびこれらの酸化物をベースとし、現在のカソード材料以上のエネルギー密度を提供する。加えて、新規カソード材料は、熱アニーリング工程なしで調製することができる。熱アニーリングのために要する高温条件がないことによって、本明細書に開示するカソード材料は、低溶融温度の可撓性熱可塑性樹脂材料を含む多種多様な基材上に組み立てることができる。
【0006】
本開示は、一般に、エネルギー貯蔵装置およびエネルギー貯蔵装置を形成する方法を対象とする。一実施形態では、エネルギー貯蔵装置を記載する。エネルギー貯蔵装置は、カソード、アノードおよび電解質を含む。カソードは、リチウム、ルテニウム、コバルトおよび酸素を含む。アノードは、カソードに隣接して配置される。電解質は、カソードとアノードとの間に配置される。
【0007】
別の実施形態では、支持基材、支持基材の一部の上に配置された白金被膜、白金被膜上に配置されたカソード、カソードに隣接して配置されたアノード、およびカソードとアノードとの間に配置された電解質を含む、エネルギー貯蔵装置を記載する。カソードは、リチウム、ルテニウム、コバルトおよび酸素を含む。アノードは、リチウムを含む。一部の実施形態では、カソードは、式Li2+xRu1-xCoxO3[式中、xは、0.1、0.2または0.3である]に基づく量のリチウム、ルテニウム、コバルトおよび酸素を有するカソード材料を含む。一部の態様では、式Li2+xRu1-xCoxO3において、xは、0.1、0.11、0.12、0.13、0.14、0.15、0.16、0.17、0.18、0.19、0.20、0.21、0.22、0.23、0.24、0.25、0.26、0.27、0.28、0.29および0.30のいずれか1つ、これら未満、これら超、これらの間、またはこれらの任意の範囲内である。一部の実施形態では、カソードは、式(1-x)Li2RuO3+xLiCoO2+yLi2O)[式中、yは、0.05~0.6の範囲内であり、xは、0.05~0.5の範囲内である]に基づく量のリチウム、ルテニウム、コバルトおよび酸素を有するカソード材料を含む。一部の実施形態では、式(1-x)Li2RuO3+xLiCoO2+yLi2O)において、yは、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.10、0.11、0.12、0.13、0.14、0.15、0.16、0.17、0.18、0.19、0.20、0.21、0.22、0.23、0.24、0.25、0.26、0.27、0.28、0.29、0.30、0.31、0.32、0.33、0.34、0.35、0.36、0.37、0.38、0.39、0.40、0.41、0.42、0.43、0.44、0.45、0.46、0.47、0.48、0.49、0.50、0.51、0.52、0.53、0.54、0.55、0.56、0.57、0.58、0.59および0.60のいずれか1つ、これら未満、これら超、これらの間、またはこれらの任意の範囲内である。一部の実施形態では、式(1-x)Li2RuO3+xLiCoO2+yLi2O)において、xは、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.10、0.11、0.12、0.13、0.14、0.15、0.16、0.17、0.18、0.19、0.20、0.21、0.22、0.23、0.24、0.25、0.26、0.27、0.28、0.29、0.30、0.31、0.32、0.33、0.34、0.35、0.36、0.37、0.38、0.39、0.40、0.41、0.42、0.43、0.44、0.45、0.46、0.47、0.48、0.49および0.50のいずれか1つ、これら未満、これら超、これらの間、またはこれらの任意の範囲内である。
【0008】
なおも別の実施形態では、エネルギー貯蔵装置を形成する方法を記載する。この方法は、処理チャンバの処理領域内で、カソード被膜を支持基材上に堆積させること、カソード層の上に電解質を堆積させること、および電解質の上にアノードを堆積させることを含む。堆積させたカソード層は、リチウム、ルテニウム、コバルトおよび酸素を含む。
【0009】
なおも別の実施形態では、エネルギー貯蔵装置を記載する。エネルギー貯蔵装置は、リチウム、酸素および2つ以上の金属を含むカソードを含む。2つ以上の金属は、ルテニウム、コバルト、スズ、イリジウムおよびマンガンの群から選択される。エネルギー貯蔵装置は、カソードに隣接して配置されたアノード、およびカソードとアノードとの間に配置された電解質をさらに含む。
【0010】
なおも別の実施形態では、エネルギー貯蔵装置を形成する方法を記載する。この方法は、処理チャンバの処理領域内で、カソード被膜を支持基材上に堆積させること、カソード被膜の上に電解質を堆積させること、および電解質の上にアノードを堆積させることを含む。カソード被膜は、リチウム、酸素、ならびにルテニウム、コバルト、スズ、イリジウムおよびマンガンのうちの少なくとも2つを含む。
【0011】
上に述べた本開示の特徴における方法を詳細に理解することができるように、上に簡潔にまとめた本開示のより特定的な記載が、実施形態を参照することによってなされることがあり、そのうちのいくつかを添付図面に示す。しかしながら、添付図面は、この開示の典型的な実施形態を示しているに過ぎず、したがって、本開示が他の等しく有効な実施形態を認めうるように、開示の範囲を限定するものと解釈するべきではないことに留意するべきである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本明細書に記載する実施形態による薄膜電池の模式断面図である。
【
図2】本明細書に記載する実施形態による、1つまたは複数の被膜を堆積させるための処理チャンバの模式断面図である。
【
図3】本明細書に記載する実施形態による、
図1の薄膜電池を形成する方法を示す図である。
【
図4A-4B】異なる温度で合成したカソードのX線回折パターンを示すグラフである。
【
図5A-5B】カソード材料粉末の走査電子顕微鏡画像を示す図である。
【
図6A-6C】様々な焼成温度でLRCOカソード材料を合成した後、LRCOカソード材料を用いて組み立てたリチウムイオンハーフセルの充放電曲線を示すグラフである。
【
図7A-7C】様々な焼成温度でLRCOカソード材料を合成した後、LRCOカソード材料を用いて組み立てたリチウムイオンハーフセルのサイクル動作安定性曲線を示すグラフである。
【
図8A-8B】コバルト含有量を変動させて合成したカソードのX線回折パターンを示すグラフである。
【
図9A-9B】コバルト含有量を変動させてLRCOカソード材料を合成した後、LRCOカソード材料を用いて組み立てたリチウムイオンハーフセルの充放電曲線を示すグラフである。
【
図10A-10B】コバルト含有量を変動させてLRCOカソード材料を合成した後、LRCOカソード材料を用いて組み立てたリチウムイオンハーフセルのサイクル動作安定性曲線を示すグラフである。
【
図11A-11D】LRCO材料から形成したスパッタリングターゲットから堆積させた被膜のX線光電子分光測定を示すグラフである。
【
図12A-12F】様々なアニーリング操作後のLRCO材料から形成したスパッタリングターゲットから堆積させた薄膜の平面走査電子顕微鏡写真を示す図である。
【
図13】様々なアニーリング温度でアニーリングしたカソードのX線回折パターンを示す図である。
【
図14A-14D】LRCO材料から形成したスパッタリングターゲットから堆積させ、アニーリングした薄膜の走査電子顕微鏡写真を示す図である。
【
図15】第1の充電パターンを使用してサイクル動作させた後の、LRCOカソード材料を用いて組み立てたリチウムイオンハーフセルの充放電曲線を示すグラフである。
【
図16】第1の充電パターンを使用してサイクル動作させた後の、LRCOカソード材料を用いて組み立てたリチウムイオンハーフセルのサイクル動作安定性曲線を示すグラフである。
【
図17A-17C】1回目、50回目および100回目のサイクルについて、0.3Cにおける、2.0Vからそれぞれ3.8、3.9および4.0VまでのLRCO薄膜電池の充電/放電電圧プロファイルを示すグラフである。
【
図18A-18C】所与のサイクル数にわたる、2.0Vからそれぞれ3.8、3.9および4.0VまでのLRCO薄膜電池の放電容量/クーロン効率を示すグラフである。
【
図19】3、10、15、27、33μA/cm
2における、次いで3μA/cm
2に戻した、300nm厚カソードを有するLRCO/LCO薄膜電池のレート性能グラフである。サイクル動作性能:25℃において、Li/Li
+に対して2.0~3.9V(LRCO)および3.0~4.2V(LCO)。
【
図20A-20B】様々な温度で第1のカソード材料をアニーリングした後、LRCOカソード材料を用いて組み立てたリチウム薄膜セルの充放電曲線を示すグラフである。
【
図21A-21B】様々な温度で第1のカソード材料をアニーリングした後、LRCOカソード材料を用いて組み立てたリチウム薄膜セルのサイクル動作安定性曲線を示すグラフである。
【
図23A-23B】スパッタリングターゲット-基材間距離について堆積被膜モルフォロジーを比較した、Siウエハ上のLRCO薄膜の模式図および平面走査電子顕微鏡(SEM)画像を示す図である。
【
図24A-24B】5cmのスパッタリング距離における、熱酸化物を有するSiウエハ上の堆積したままの(as-deposited)LRCO薄膜の平面および断面SEM画像を示す図である。
【
図25】LRCOスパッタリングターゲット、堆積したままのLRCO薄膜および熱酸化Siウエハ基材を比較した、XRDパターンを示すグラフである。
【
図26】Siウエハ上の堆積したままのLRCO薄膜の断面SEM画像を示すグラフである(堆積距離は10cmであった)。
【
図27】10cmのスパッタリング距離における、熱酸化物を有するSiウエハ上の堆積したままのLRCO薄膜のEDSスペクトル、および対応する元素組成を示すグラフである。
【
図28】LRCO薄膜電池の3D模式構造を示す図である。
【
図29A-29D】それぞれ対応するP、RuおよびSiの元素EDSマップとともに提示した、300nm厚のLRCOカソードを有する完成薄膜電池の断面SEM画像を示す図である。
【
図30】石英スライド上の2つの完成薄膜電池のデジタル画像を示す図である。
【
図31】10μA/cm
2(0.3C)における、2回目のサイクルにおける2.0~4.0Vの充電工程について、300nm厚の堆積したままのLRCO薄膜の電池の微分容量対電圧を示すグラフである。
【
図32A-32B】300サイクルにわたる、10μA/cm
2(0.3C)において2.0~3.9Vの、300nm厚の堆積したままのカソードを有するLRCO薄膜電池のサイクル動作性能のグラフ、および10μA/cm
2(0.3C)において2.0~4.0Vでサイクル動作させた、3つのLRCO薄膜電池の間のサイクル動作性能比較を示すグラフである。
【
図33A-33B】0.1mV/sの走査速度において3.0~4.2Vの、300nm厚の堆積したままのカソードを有するLCO薄膜電池のサイクリックボルタモグラムグラフ、および10μA/cm
2において3.0~4.2Vの、2回目のサイクルの充電工程の間の堆積したままのLCO薄膜の電池の微分容量対電圧グラフである。
【
図34】0.1mV/sの走査速度かつLi/Li
+に対して2.0~3.9Vの電圧範囲における、300nm厚の堆積したままのカソードを有するLRCO/LCO薄膜電池のサイクリックボルタモグラムグラフである。
【
図35】10μA/cm
2において3.0~4.2Vでサイクル動作させた、300nm厚の堆積したままのカソードを有するLCO薄膜電池のサイクル動作性能グラフである。
【
図36】カソードについての比容量、特定のサイクル数後の容量保持、およびアニーリング温度を含む、典型的な無機薄膜カソード候補を比較するグラフである(RT=室温)。
【
図37】最初の5分間の曲げ状態下および残りの5分間の休止(平ら)下の間の、Kapton(登録商標)系LRCO薄膜電池の開回路電圧を示すグラフである。
【
図38A-38B】120サイクルにわたって曲げたPET基材上、および60サイクルの間平らなままとし、次いで残りの60サイクルの間曲げたKapton基材上の、300nm厚の堆積したままのカソードを有するLRCO薄膜電池のサイクル動作性能を示すグラフである。
【
図39A-39B】それぞれ曲げの前および後にLEDを動作させている、PET基材上の可撓性LRCO TFBの画像を示す図である。
【
図40】カソードについての比容量、100回のサイクル数後の容量保持、およびアニーリング温度を含む、可撓性基材上の典型的な無機薄膜カソード候補を比較するグラフである。LiMnO
4(700℃)、LiNi
0.5Mn
1.5O
4(RT)およびLi
4Ti
5O
12(230℃)の容量保持を、それぞれ80回目、20回目および90回目のサイクルにおいて報告する。
【
図41】様々な薄膜カソード材料の特性を比較する表である。
【
図42】可撓性基材上の様々な薄膜カソードを比較する表である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示の実施形態は、固体リチウム薄膜電池のための高容量薄膜カソードを対象とする。一部の実施形態では、固体リチウム薄膜電池は、サブミリメートル寸法で、例えば100μm×100μmのオーダーにおいて製造される。一部の実施形態では、固体リチウム薄膜電池は、数マイクロメートルから数十マイクロメートル厚、例えば、約5μm~約30μm厚、例えば約5μm~約20μm厚、例えば約5μm~約15μm厚である。カソード組成物は、LiRu2O3およびLiCoO2の固溶体として合成され、リチウム、ルテニウム、コバルトおよび酸素を含有する。薄膜カソードは、高周波マグネトロンスパッタリング技法によって基材上に製造され、堆積したままの薄膜カソードは、LiCoO2などの現在の薄膜カソードのおおよそ2倍の放電容量を有する。カソードは、堆積したままの非アニーリング状態において十分に機能し、可逆的であることも示されている。
【0014】
カソード組成物は、おおよそ(1-x)Li2RuO3+xLiCoO2+yLi2Oという公称組成を有しうる。yがxと同じである実施形態では、この式はLi2+xRu1-xCoxO3として示される。本明細書に記載する通り、yは、約0.05~約0.6、例えば約0.1~約0.4の間で変動しうる。例えば、ある特定の実施形態では、yは、実質的に0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6等に等しい。Xは、同様に、約0.05~約0.5、例えば約0.1~約0.3の間で変動しうる。例えば、ある特定の実施形態では、xは、実質的に0.1、0.2、0.3、0.4、0.5等に等しい。本明細書に記載するリチウム、ルテニウム、コバルトおよび酸素を含有する材料は、LRCO材料と記載することもあり、LRCO材料から形成される被膜は、LRCO薄膜と記載することもある。LRCO材料内の元素の各々の原子比率は、本明細書に記載する通り変動しうるが、一部の実施形態では、リチウム、ルテニウム、コバルトおよび酸素の各々を含む。
【0015】
一部の実施形態では、LRCO材料以外の他の材料が利用され、カソードは、アニオンレドックス活物質から形成される。アニオンレドックス活物質は、LRCO材料、および本明細書に記載する他の材料を含む。アニオンレドックス活物質は、アニオンレドックス活性な過リチウム化遷移金属酸化物であってもよい。アニオンレドックス活物質は、少なくとも1つのリチウム金属酸化物と、リチウム化酸化ルテニウム(Li2RuO3)およびリチウム化酸化イリジウム(Li2IrO3)の一方または組み合わせとの固溶体である。リチウム金属酸化物としては、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、スズ(Sn)、チタン(Ti)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、インジウム(in)およびバナジウム(V)のリチウム酸化物が挙げられる。一部の実施形態では、リチウム金属酸化物は、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、スズ(Sn)、チタン(Ti)およびバナジウム(V)のうちの1つまたは組み合わせを含む。リチウム金属酸化物としては、リチウム鉄酸化物、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物(LNO)、リチウムマンガン酸化物(LMO)、リチウムスズ酸化物、リチウムチタン酸化物(LTO)およびリチウムバナジウム酸化物のうちの1つまたは組み合わせが挙げられる。そのため、リチウム金属酸化物としては、LiFeO2、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiMn2O4、Li2MnO3、LiSnO、Li2TiO3およびLiV3O8のうちの1つまたは組み合わせが挙げられる。
【0016】
コバルトがスズで置換された一部の実施形態では、LiRu2O3とLiCoO2との固溶体は、LiRu2O3とLiSnO2とを含む固溶体によって置き換えられる。コバルトがイリジウムで置換された一部の実施形態では、LiRu2O3とLiCoO2との固溶体は、LiRu2O3とLiIrO3とを含む固溶体によって置き換えられる。同様に、代わりの遷移金属、例えばマンガン(Mn)を、組成物内のルテニウム(Ru)で置換(substituted with ruthenium (RU))してもよい。マンガンがルテニウムで置換(substituted with ruthenium)された一部の実施形態では、LiRu2O3とLiCoO2との固溶体は、LiMn2O4とLiCoO2とを含む固溶体、またはLiMnO2とLiCoO2とを含む固溶体によって置き換えられる。一部の実施形態では、LiRu2O3とLiMn2O4との一方または組み合わせは、LiCoO2、LiSnO2およびLi2IrO3のうちのいずれか1つまたは組み合わせと組み合わせてもよい。過リチウム化遷移金属酸化物の他の組み合わせは、企図されるが、本明細書に明示的には開示されない。組成物内の化合物の置換は、少なくとも部分的には、化合物内の酸素原子がレドックス反応に関与する能力によって可能になる。少なくとも、Li2RuO3およびLi2IrO3は、他のリチウム金属酸化物と比較して改善された電気伝導性を有する。そのため、Li2RuO3およびLi2IrO3化合物の少なくとも一方が利用される。改善された電気伝導性によって、薄膜電池の性能が改善する。アニオンレドックス活物質の少なくとも1つは、本明細書に記載するLRCO材料である。
【0017】
一部の実施形態では、カソード材料は、剛性基材上に堆積させる。さらなる実施形態では、カソード材料は、可撓性基材上に堆積させる。本明細書で使用する場合、「可撓性」とは、亀裂、破壊、小亀裂等を生じることなく、曲げること、伸ばすことおよび/または圧縮することの少なくとも1つをできることとして定義される。一部の実施形態では、可撓性基材は、金属で作製すること、または金属を含むことができる。可撓性金属基材の非限定例は、白金箔およびアルミニウム箔である。一部の実施形態では、可撓性基材は熱可塑性樹脂基材である。熱可塑性樹脂基材としては、非晶質熱可塑性樹脂、半結晶性熱可塑性樹脂、結晶性熱可塑性樹脂およびエラストマー性物質が挙げられ、限定するものではないが、ポリイミド、ポリ(アリールエーテルケトン)(PAEK)、ポリ(ブチレンテレフタレート)(PBT)、ポリ(ブチレート)、ポリ(エーテルエーテルケトン)(PEEK)、ポリ(エーテルイミド)(PEI)、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)(pHEMA)、ポリ(イソシアヌレート)(PIR)、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、ポリ(オキシメチレン)(POM);ポリ(フェニルスルホン)(PPSF)、ポリ(スチレン)(PS)、ポリ(トリメチレンテレフタレート)(PTT)、ポリ(尿素)(PU);ポリ(アミド)系熱可塑性樹脂、例えば、脂肪族ポリ(アミド)、ポリ(フタルアミド)(PPA)およびアラミド(芳香族ポリ(アミド));ポリ(カーボネート)系熱可塑性樹脂;ポリ(エステル)系熱可塑性樹脂、例えば、ポリ(エチレン)ナフタレート(PEN)およびポリ(エチレンテレフタレート)(PET);ポリ(オレフィン)系熱可塑性樹脂、例えば、ポリ(エチレン)(PE)、ポリ(プロピレン)(PP)、ポリ(プロピレンカーボネート)(PPC)、ポリ(メチルペンテン)(PMP)およびポリ(ブテン-1)(PB-1);ポリ(スタンナン)系熱可塑性樹脂;ポリ(スルホン)系熱可塑性樹脂;ポリ(ビニル)系熱可塑性樹脂、例えば、ポリ(塩化ビニル)(PVC)、ポリ(ビニリデンフルオリド)(PVDF)、ポリ(フッ化ビニル)(PVF)、ポリ(硝酸ビニル)(PVN)およびポリ-(4-ビニルフェノール)(PVP);ならびにセルロース系熱可塑性樹脂、例えば、セルロースエステル系熱可塑性樹脂およびセルロースエーテル系熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0018】
一部の実施形態では、電解質はリン酸リチウムオキシナイトライド(LiPON)を含む。さらなる実施形態では、電解質は、LiAlSiO4、リチウムランタンチタネート(LLTO)、リン酸リチウムサルファリックオキシナイトライド(LiPSON)、ホウ酸リチウムオキシナイトライド(LiBON)、LiPONおよびこれらの組み合わせを含むことができる。
【0019】
本明細書に記載する場合、LRCOカソードは、薄膜フォーマットで堆積させる。本明細書に記載する薄膜フォーマットおよびLRCOカソードは、以前のカソード材料に対してほぼ2倍の電荷貯蔵容量を提供するように理論化される。本明細書に記載する場合、LRCO薄膜電池(LRCO thin film batteries)は、RFマグネトロンスパッタリングによって調製し、次いで、薄膜電池に組み込んだ。LRCO薄膜は、LRCO含有スパッタリングターゲットを使用して形成されうる。LRCO含有スパッタリングターゲットは、RFマグネトロンスパッタリング技法を使用して基材上にスパッタリングしてもよく、RF電力が処理チャンバのマグネトロンアセンブリに適用され、LRCO材料が、スパッタリングターゲットから処理チャンバ内に配置された基材上にスパッタリングされる。
【0020】
例示的なLRCOカソードおよび薄膜電池を形成するために利用する実験方法を、本明細書にさらに記載する。次いで、得られたLRCOカソードおよび薄膜電池を、本明細書に記載する通りに試験した。
【0021】
図1は、本明細書に記載する実施形態による薄膜電池100の模式断面図である。薄膜電池100は、基材102、集電体104、カソード106、電解質108およびアノード110を含む。基材102は、集電体104、カソード106、電解質108およびアノード110を支持するために使用されうる。一部の実施形態では、カソード106は、集電体104と電解質108との間に配置される。一部の実施形態では、電解質108は、カソード106とアノード110との間に配置される。本明細書に記載する場合、カソード106はLRCO電極であり、リチウム、ルテニウム、コバルトおよび酸素の各々を含有する。
【0022】
基材102は、無機材料、有機材料またはこれらの組み合わせであってもよい。無機材料としては、ケイ素、酸化アルミニウム(AL2O3)、石英およびいくつかのポリマーが挙げられる。他の実施形態では、本明細書に記載する方法によって、基材102のための有機材料、例えば1つまたは複数のポリマーの使用が可能となる。本明細書に記載する通り、カソード106を形成するために使用する方法によって、より低コストな可撓性基材、例えばポリマー基材の使用が可能となる。本明細書に記載する通り、基材102は支持基材であり、一般に、薄膜電池100の他の要素を支持するために使用される。薄膜電池100の他の要素は基材の上に形成され、基材は後にダイシング、または複数の薄膜電池100の形態に裁断してもよい。
【0023】
集電体104は、基材102の上に形成される。集電体104は、基材102上に配置された薄膜集電体でありうる。集電体104は、電子伝導性材料で形成されうる。一部の実施形態では、集電体104は、金、銀、白金、アルミニウム、炭素系集電体またはこれらの組み合わせで形成される。他の電子伝導性材料も想定されるが、簡潔にするために本明細書には列挙しない。一部の実施形態では、集電体104は白金金属集電体である。集電体104は、約50nm超、例えば約200nm超、例えば約200nm~約1000nm、例えば約200nm~約500nmの集電体厚さT1を有しうる。一部の実施形態では、集電体厚さT1は約50nm~約200nmである。
【0024】
カソード106は集電体104の上に形成され、その結果、集電体104は、カソード106への低電子抵抗接続を提供する。本明細書に記載するカソード106はLRCO電極である。LRCO電極は、リチウム、ルテニウム、コバルトおよび酸素のいずれかを含有する。LRCO電極層の一般的組成は、式(1-x)Li2RuO3+xLiCoO2+yLi2O)によって提供される原子比率に従いうる。Yは、約0.05から0.6の間、例えば約0.1~約0.4、例えば約0.2~約0.3で変動する。Xは、約0.05から0.5の間、例えば約0.1~約0.3、例えば約0.2~約0.3で変動する。本明細書に記載する場合、xおよびyは、0.1、0.2または0.3に等しくてもよい。上に記載した通り、LRCO組成物は、Li2RuO3とLiCoO2との組み合わせを使用して形成してもよい。Li2RuO3対LiCoO2の比率を変化させて、組成物内のコバルト濃度を変動させてもよい。xが約0.3超である実施形態では、放電容量が一般により低いことが示されている。xおよびyが同じであると推定される実施形態では、式はLi2+xRu1-xCoxO3である。式Li2+xRu1-xCoxO3によって提供される原子比率は概算であり、組成比率は、本明細書に記載する原子比率内に含まれるようにわずかに変化させてもよい。
【0025】
一部の実施形態では、カソードは集電体104の上に形成されるが、集電体104は自立型集電体である。自立型集電体は、基材、例えば基材102上に配置されない。この実施形態では、集電体104は、薄箔、例えば電気伝導性箔であってもよい。一部の実施形態では、カソードは集電体104の上に形成され、基材102を取り外しできるように、集電体104は後に基材102から除去される。
【0026】
本明細書に記載する場合、カソード106内のリチウム対ルテニウムの原子比率は、約6:1~約2:1、例えば約5:1~約2.2:1、例えば約4:1~約2.5:1でありうる。一部の実施形態では、リチウム対コバルトの原子比率は、約23:1~約4:1、例えば約21:1~約5:1、例えば約15:1~約6:1、例えば約12:1~約6:1となるように制御される。コバルトの比率は、薄膜電池100の電気化学的性能に直接影響することが示されており、約x=0.1~約x=0.3のコバルト濃度は、改善された電気化学的性能を有する。一部の実施形態では、約x=0.2~約x=0.3のコバルト濃度は、x=0.1のコバルト濃度と比べて、改善された電気化学的性能を有する。ルテニウム対コバルトの原子比率は、約10:1~約1:1、例えば約8:1~約2:1、例えば約7:1~約2:1でありうる。
【0027】
カソード106は、カソード厚さT2をさらに有する。カソード厚さT2は、薄膜電池100のための薄膜カソードを形成しながら、集電体104を覆うのに十分に大きい。本明細書に記載する場合、カソード106は、約50nm超、例えば約50nm~約40,000nm、例えば約50nm~約4,000nm、例えば約50nm~約750nm、例えば約100nm~約500nm、例えば約100nm~約350nm、例えば約250nmまたは約300nmのカソード厚さT2を有することができる。本明細書に記載するカソード組成物によって、薄膜カソードを、カソード全体にわたって比較的一様に形成することができる。本明細書に記載する場合、カソードは、物理的気相成長法(PVD)を使用して非晶質層として堆積させた場合、かつアニーリングする前は、より大きな一様性を有する。
【0028】
本明細書に記載する実施形態では、薄膜電池100内のカソード106は、アニーリングした被膜またはアニーリングしていない被膜のいずれであってもよい。PVD操作を使用してカソード106を堆積させる場合、バインダは利用されず、カソード106は全面的に非晶質および非結晶質でありうる。本明細書での実施形態では、薄膜電池100内での短絡の可能性を低減するため、結晶粒サイズは300nm未満である。結晶粒サイズの低減は、より高いクーロン効率および容量減衰の低減をさらに提供する。一部の実施形態では、結晶粒サイズは、250nm未満、例えば200nm未満、例えば150nm未満、例えば100nmである。結晶粒サイズが増大すると、短絡の可能性を低減するために電解質108の厚さを増加させることになり、そのため、薄膜電池100のクーロン効率、コストおよびサイズが限定される。
【0029】
カソード106は、約1000nm未満、例えば約700nm未満、例えば約500nm未満、例えば約300nmの表面粗さ(Ra)を有する。表面粗さの低減によって、その上の電解質の形成を改善することができ、薄膜電池100の短絡について、潜在性が低減する。表面粗さは、結晶粒サイズと直接的な相関があり、結晶粒サイズが低減するにつれて低減する。
【0030】
電解質108は、カソード106および基材102の上に形成され、電解質108がカソード106の表面を全面的に覆う。電解質108は固体電解質(solid-state electrolyte)であり、カソード106と同じ方法で、例えば、溶液キャスティング、またはCVDもしくはPVD法によって、基材102上に堆積させてもよい。本明細書に記載する場合、電解質108は固体リチウムイオン導体であってもよい。固体リチウムイオン導体は、カソード106とアノード110との間で、リチウムイオンを伝導するために利用される。電解質108は、本明細書に記載してもよく、リン酸リチウムオキシナイトライド(LiPON)材料である。LiPON材料は、LixPOyNz[式中、yおよびzの様々な組み合わせについて、x-2y+3z-5である]の一般式を有する。1つの例示的な原子比率はLi3.3PO3.9N0.17である。可能な電解質の追加の例は、次のうちのいずれか1つに見出されうる。BATES,J.B.(1992).Electrical properties of amorphous lithium electrolyte thin films.Solid State Ionics,53-56,647-654.https://doi.org/10.1016/0167-2738(92)90442-r、Bates,J.B.,Dudney,N.J.,Gruzalski,G.R.,Zuhr,R.A.,Choudhury,A.,Luck,C.F., & Robertson,J.D.(1993).Fabrication and characterization of amorphous lithium electrolyte thin films and rechargeable thin-film batteries.Journal of Power Sources,43(1-3),103-110.https://doi.org/10.1016/0378-7753(93)80106-y、およびYu,X.,Bates,J.B.,Jellison,G.E.,Hart,F.X.(1997).A stable thin‐film lithium electrolyte:Lithium phosphorus oxynitride.Journal of The Electrochemical Society,144(2),524-532.https://doi.org/10.1149/1.1837443.
【0031】
電解質厚さT3は、カソード106の上に形成された電解質108の厚さである。電解質厚さT3は、カソード106とアノード110とを隔てる距離でありうる。電解質厚さは、約0.05μm~約3μm、例えば約0.5μm~約2μm、例えば約1μm~約1.5μmでありうる。
【0032】
アノード110は、電解質108の上に配置される。アノード110は、スラリーコーティングまたはPVD法を使用して堆積させてもよい。他の堆積法、例えば、化学的気相成長(CVD)または原子層堆積(ALD)を利用してもよい。アノード110、例えばリチウム金属箔は、事前に製造することができる。アノード110は、グラファイト、リチウム金属、ケイ素合金、酸化チタンまたは他の金属材料であってもよい。他の金属材料としては、ゲルマニウム、インジウム、アルミニウム、スズ、マグネシウム、亜鉛、銀または金を挙げることができる。一部の実施形態では、アノード110は、Li4Ti5O12、TiO2またはSnO2を含む。本明細書に記載する実施形態では、アノード110はリチウム金属アノードである。一例では、アノード110はリチウム金属薄膜である。アノード110は、アノード厚さT4を有する。アノード厚さT4は、約0.05μm~約10μm、例えば約1μm~約10μm、例えば約1μm~約5μm、例えば約1μm~約3μm、例えば約2μmとすることができる。
【0033】
一部の実施形態では、アノード110は金属薄膜によって置き換えられる。金属薄膜は、金属または合金で形成されうる。一部の実施形態では、金属薄膜は、ニッケルまたは銅の一方または組み合わせである。金属薄膜は、同様に、電解質108上に堆積させる。金属薄膜を使用する場合、薄膜電池100の充電中にリチウム金属が金属被膜上にめっきされ、薄膜電池100の放電中に金属薄膜から剥がれる。一部の実施形態では、電解質108がリチウムイオン導体を含み、充電中および放電中に、リチウム金属がめっきされ、金属薄膜から剥がれる。この実施形態では、金属薄膜が集電体としての役割を果たし、薄膜電池100はアノード不含薄膜電池である。
【0034】
基材102を除いた薄膜電池100の全厚T0は、約150μm未満、例えば約100μm未満、例えば約50μm未満、例えば約30μm未満、例えば約25μm未満、例えば20μm未満、例えば10μm未満である。薄膜電池100の全厚T0が小さいことによって、多量の用途に、例えば、医学装置、マイクロコンピュータ、小型ロボット等に薄膜電池100を利用することができる。追加の層および材料も、薄膜電池100内に使用してもよい。
【0035】
一部の実施形態では、基材102を省略してもよく、集電体104を、薄膜電池100の基体として利用する。これらの実施形態では、集電体104が、薄膜電池100の底面全体を形成してもよい。
【0036】
なおも他の実施形態では、アノード110が基材102上の集電体上に配置され、電解質108が、アノード110および基材102の上に配置され、カソード106が電解質108の上に形成されるように、薄膜電池100の構造を反転させてもよい。この実施形態では、
図1のアノード110とカソード106とが切り替えられ、カソード集電体がカソード106の上に配置されてもよい。
【0037】
一部の実施形態では、複数の薄膜電池100を互いの上に積み重ね、その結果、各個々の薄膜電池100がセルを形成し、2つ以上のセルが互いの上に積み重ねられる。これらの実施形態では、第2の集電体および/または第2のカソードが、アノード100、金属薄膜および/または電解質108の上に配置される。第2の電解質は、第2のカソード/第2の集電体の上に形成され、第2のアノードは第2の電解質の上に形成される。第3および/または第4の電池セルが、第2のセルの上に配置されてもよい。薄膜電池100を積み重ねることは、アニーリング操作がなく、薄膜電池100が約700℃未満、例えば約500℃未満、例えば約300℃未満に保たれることによって可能となる。低温維持形成法によって、高温、例えば約300℃超の温度になった場合のように、電解質108の材料が損傷を受けないため、または破壊されないため、積み重ねることが可能となる。
【0038】
一部の実施形態では、薄膜電池100は、アニオンレドックス活物質を含むカソード106を含む。アニオンレドックス活物質は、少なくとも1つのリチウム金属酸化物と、リチウム化酸化ルテニウム(Li2RuO3)およびリチウム化酸化イリジウム(Li2IrO3)の一方または組み合わせとの固溶体である。リチウム金属酸化物としては、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、スズ(Sn)、チタン(Ti)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、アルミニウム(Al)およびバナジウム(V)のリチウム酸化物が挙げられる。一部の実施形態では、リチウム金属酸化物は、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、スズ(Sn)、チタン(Ti)アルミニウム(Al)およびバナジウム(V)のうちの1つまたは組み合わせを含む。リチウム金属酸化物としては、リチウム鉄酸化物、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物(LNO)、リチウムマンガン酸化物(LMO)、リチウムスズ酸化物、リチウムチタン酸化物(LTO)、リチウム化ニッケル-マンガン酸化物(NMC)、リチウム化ニッケル-コバルト-アルミニウム酸化物(NCA)およびリチウムバナジウム酸化物のうちの1つまたは組み合わせが挙げられる。そのため、リチウム金属酸化物としては、LiFeO2、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiMn2O4、Li2MnO3、LiSnO、Li2TiO3、LiNi1-x-yMnxCoyO2、LiNi0.8Co0.15Al0.05O2およびLiV3O8のうちの1つまたは組み合わせが挙げられる。
【0039】
薄膜電池100は、カソード106に隣接して配置されたアノード110、およびカソード106とアノード110との間に配置された電解質108をさらに含む。アノード110、電解質108、集電体および基材102は、以前に記載したものと同様である。薄膜電池100を形成する方法は、2つ以上の金属の種々の組み合わせの場合も同じであってもよい。一実施形態では、薄膜電池100を形成する方法は、処理チャンバの処理領域内で、カソード106を支持基材102上に堆積させること、カソード106の上に電解質108を堆積させること、および電解質108の上にアノード110を堆積させることを含む。カソード106は、リチウム、酸素、ならびにルテニウム、コバルト、スズ、イリジウムおよびマンガンのうちの少なくとも2つを含む。
【0040】
図2は、本明細書に記載する実施形態による、1つまたは複数の被膜を堆積させるための処理チャンバ200の模式断面図である。処理チャンバは、チャンバ本体202、チャンバ本体202内に配置された基材支持アセンブリ204、チャンバ本体202の上に配置されたスパッタリングアセンブリ206、ガス供給源210、排気ポンプ214および制御装置230を含む。本明細書に記載する処理チャンバ200は、基材250上に1つまたは複数の薄膜を形成するために使用される。薄膜は、
図1および薄膜電池100に示した被膜と同様であってもよい。
【0041】
チャンバ本体202は、その中に配置された処理領域208を含む。処理領域208は、処理領域208が隔離された減圧となるように、チャンバ本体202の周りの雰囲気から隔離されていてもよい。チャンバ本体202は、それを通じて、他の成分をチャンバ本体202および処理領域208に挿入できるように配置された、複数の開口を含んでもよい。
【0042】
基材支持アセンブリ204は、処理領域208内に配置され、支持架台224、および支持架台224に連結されたアクチュエータ226を含む。支持架台224は、基材250を支持するように構成され、基材支持表面205を含む。支持架台224は、その中に配置された、1つまたは複数のヒーター、1つまたは複数の冷却チャネル、および1つまたは複数の背面ガスライン(図示せず)を有して構成されてもよい。アクチュエータ226は、支持架台224を動かすように構成され、その結果、アクチュエータ226は、支持架台224を垂直方向に動かすことができ、または支持架台224の軸の周りで基材を回転させることができる。本明細書に記載する実施形態では、支持架台224は、基材の処理中、上昇および下降させて、スパッタリングターゲット218の付近を移動するように構成される。
【0043】
スパッタリングアセンブリ206は、基材支持アセンブリ204の上に配置される。スパッタリングアセンブリ206は、1つまたは複数の材料を基材150上にスパッタするように構成される。スパッタリングアセンブリ206は、スパッタリングターゲット218、マグネトロンアセンブリ220および電源222を含む。電源222は、電力をマグネトロンアセンブリ220に供給するように構成される。電源222はさらに、スパッタリングターゲット218にバイアスをかけることによって、スパッタリングアセンブリ206にバイアスをかけてもよい。電源222は、AC電源であってもRF電源であってもよい。マグネトロンアセンブリ220は、その中に配置された複数の磁石を含み、マグネトロンアセンブリ220の体積内で動かすように構成される。スパッタリングターゲット218の少なくとも1つの面は、処理領域208に露出しており、基材250に向いたスパッタリングターゲット218の面が、処理領域208内に配置される。他の実施形態では、スパッタリングアセンブリ206と基材支持アセンブリ204との位置が反対であり、スパッタリングアセンブリ206が、基材支持アセンブリ204および基材102の下に配置される。
【0044】
ガス供給源210は、処理領域208と流体連通されており、チャンバ本体202内に配置された1つまたは複数の開口212を通じて、1つまたは複数の処理ガスを処理領域208に供給するように構成される。ガス供給源210は、単一のガス、ガス混合物または複数のガスを処理領域208に流すように構成されうる。一部の実施形態では、ガス供給源210は、複数のガス供給源を含む。本明細書に記載する実施形態では、ガス供給源210は、1つまたは複数の不活性ガス、例えば、ヘリウム、ネオンまたはアルゴンを供給するように構成される。ガス供給源210はまた、処理ガス、例えば窒素または酸素を、処理領域208に供給するように構成されてもよい。
【0045】
排気ポンプ214も、処理領域208と流体連通しており、1つまたは複数の処理ガスを処理領域208から除去するように構成される。排気ポンプ214は、チャンバ本体202を通して配置された1つまたは複数の排気開口216を通じて、処理ガスを除去する。排気ポンプ214は、処理領域208に減圧を適用しうる。本明細書に記載する実施形態では、ガス供給源210および排気ポンプ214は、処理操作と処理操作の間に、または基材、例えば基材250を処理領域208に出し入れする際に、処理領域208をパージしうる。
【0046】
制御装置230は、処理チャンバ200内での基材250の処理を制御するように構成される。本明細書に記載する制御装置230は、アクチュエータ226、スパッタリングアセンブリ206、ガス供給源210および排気ポンプ214を制御するように構成されうる。制御装置230は、1つの制御装置であっても、複数の個々の制御装置であってもよい。制御装置230は、処理チャンバ200内に見られる1つまたは複数の部品を制御するために使用される、汎用コンピュータである。システム制御装置230は、一般に、本明細書に開示する処理シーケンスの1つまたは複数の制御および自動化を円滑化するように設計され、典型的には、中央処理ユニット(CPU)232、メモリ234および補助回路(またはI/O)236を含む。ソフトウェアの指示およびデータをコード化し、CPU232に指示するために、メモリ234(例えば非一時的コンピュータ可読媒体)内に格納することができる。システム制御装置内の処理ユニットによって可読なプログラム(またはコンピュータ指示)は、処理チャンバ200においてどのタスクが実行可能であるかを判定する。例えば、非一時的コンピュータ可読媒体は、CPU232によって実行される場合、本明細書に記載する方法の1つまたは複数を行うように構成されたプログラムを含む。好ましくは、プログラムは、基材の移動、支持および/または位置合わせのモニタリング、実行および制御に関するタスクを行うためのコードを含み、様々な処理レシピタスクおよび様々な処理モジュールの処理レシピ工程が行われる。
【0047】
図3は、
図1の薄膜電池100を形成する方法300を示している。方法300によって、厚さが低減し、容量が増大した薄膜電池を形成することができる。方法300は、
図2の処理チャンバ200と同様の1つまたは複数の処理チャンバにおいて行われうる。方法300は、基材、例えば基材102上にカソード被膜、例えばカソード106を堆積させる操作302を含む。本明細書に記載する実施形態では、集電体、例えば集電体104は、基材上にすでに配置されている。本明細書に記載する集電体は、金、銀、白金、カーボンナノチューブ、他の導電性材料のいずれか1つ、またはこれらの組み合わせから形成されうる。
【0048】
カソード被膜の形成は、好適な堆積技法を使用して行われうる。本明細書に記載する場合、カソード被膜は、スラリーコーティングを使用するか、またはCVDもしくはPVD操作を使用するかのいずれかで堆積させてもよい。PVD操作を使用して基材上にカソード被膜を形成することで、より小さな結晶粒サイズでより一様に堆積することが示されている。PVD操作を使用してカソード被膜を堆積させる場合、カソード被膜は非晶質被膜でありうる。PVD操作は、スパッタリングターゲット、例えばスパッタリングターゲット218から、基材上にLRCO材料をスパッタリングすることを含む。スパッタリングターゲットは、LRCO材料、例えば、本明細書に記載するLRCO-1、LRCO-2またはLRCO-3材料から形成される。スパッタリングターゲットを形成するLRCO材料は、リチウム、ルテニウム、コバルトおよび酸素の各々を含む。
【0049】
LRCO材料の堆積中、処理チャンバは、約1×10-8Torr~約1×10-5Torr、例えば約1×10-7Torr~約1×10-6Torr、例えば約5×10-7Torrのベース圧力まで排気する。ベース圧力まで排気した後、処理チャンバを作用圧力にする。作用圧力は、約1mTorr~約5Torr、例えば10mTorr~約1Torr、例えば約15mTorrである。作用圧力とは、PVD法を使用してカソード被膜が形成される圧力である。
【0050】
電力が、マグネトロンアセンブリ、例えば
図2のマグネトロンアセンブリ206に適用される。スパッタリングアセンブリに適用される電力密度は、約1W/cm
2~約8W/cm
2、例えば約1.2W/cm
2~約7.5W/cm
2、例えば約2W/cm
2~約6W/cm
2、例えば2.5W/cm
2~約5W/cm
2、例えば約3W/cm
2~約4W/cm
2である。
【0051】
基材は、スパッタリングターゲット、例えばスパッタリングターゲット218の表面からのスパッタリング距離に配置される。スパッタリング距離とは、基材に向いたスパッタリングターゲットの表面と、基材の上面との間の距離である。PVD法中のスパッタリング距離は、約3cm~約25cm、例えば約5cm~約20cm、例えば約5cm~約15cm、例えば約5cm~10cmである。本明細書に記載する例示的な実施形態では、スパッタリング距離は5cmまたは10cmの一方である。
【0052】
PVD法中、1つまたは複数の処理ガスが、処理領域に流れ込んでもよい。処理ガスは、1つまたは複数の不活性ガス、および1つまたは複数の処理ガスを含む。1つまたは複数の不活性ガスは、ヘリウム、ネオンまたはアルゴンのうちの1つでありうる。本明細書に記載する場合、不活性ガスはアルゴンである。不活性ガスは、約1sccm~約20sccm、例えば約2sccm~約10sccm、例えば約3sccm~約5sccmの流量で流れる。第2のガス、例えば処理ガスも、PVD法中に処理領域へ供給してもよい。第2のガスは、窒素(N2)、酸素(O2)のうちの1つ、またはこれらの組み合わせでありうる。本明細書に記載する例示的実施形態では、第2のガスは酸素であり、約0.5sccm~約5sccm、例えば約1sccm~約3sccm、例えば約1sccmの流量で処理領域へ流れ込む。
【0053】
カソード層を基材上に堆積させている間、処理領域内の温度は約100℃未満である。温度の低減によって、酸化アルミニウム、ケイ素または石英基材以外の追加の基材材料を使用することができる。一部の実施形態では、ポリマー含有基材を利用してもよい。ポリマー含有基材は、有機基材であっても無機基材であってもよい。
【0054】
LRCOカソードのPVD堆積の上記処理条件は、例示的なものである。処理条件は、様々なチャンバ構成、堆積速度および基材サイズについて補償するために調節してもよい。
【0055】
カソードを基材上に堆積させた後、カソードは、任意選択で、操作304中にアニーリングしてもよい。任意選択のカソードのアニーリングは、少なくとも約1時間、例えば約1時間~約20時間、例えば約1時間~約10時間、例えば約1時間~約6時間、例えば約1時間の継続期間で行う。アニーリング温度は、約100℃~約800℃、例えば約100℃~約700℃、例えば約400℃~約650℃である。操作304中のカソードの長さおよび温度は、カソード内に生成した結晶粒サイズに直接相関する。本明細書に記載する実施形態では、任意選択のアニーリング後の結晶粒サイズは、250nm未満、例えば200nm未満、例えば150nm未満、例えば100nmである。アニーリングのない実施形態では、カソードは非晶質のままである。
【0056】
任意選択のアニーリング操作304ありまたはなしのいずれの実施形態でも、電解質は、操作306中にカソード層の上に形成される。電解質の形成は、カソード層の堆積と同様の堆積条件を使用して行われうる。一部の実施形態では、電解質はまた、PVD法を使用して形成される。他の実施形態では、電解質は、CVD法またはALD法を使用して堆積させる。電解質を形成するために、他の方法も利用されうる。電解質は固体リチウムイオン導体である。一部の実施形態では、電解質はLiPON材料から形成される。電解質は、LiPONスパッタリングターゲットを使用して基材上にスパッタリングしてもよく、その結果、カソードが電解質によって覆われる。
【0057】
カソード層を電解質によって覆った後、操作308中に、アノードが電解質の上に形成される。アノードは、
図1のアノード110と同様であってもよい。アノードは、カソードおよび電解質を堆積させるために使用したものと同様の方法を使用して形成される。アノードは、PVD法、CVD法、ALD法等のうちの1つを使用して堆積させてもよい。アノード、例えばリチウム金属箔は、事前に製造することができる。グラファイト、リチウム金属または別の金属材料のうちの1つまたは組み合わせで形成されたアノード。本明細書に記載する実施形態では、アノードはリチウム金属アノードである。アノードは、カソードまたは電解質とは異なる処理チャンバで堆積させ、アノード、電解質およびカソードの各々は、別々の処理チャンバで形成される。
【0058】
一部の実施形態では、基材102は省略され、または置き換えられる。基材102が省略される実施形態では、集電体104がより大きな厚さを有し、カソード104、電解質108およびアノード110は、集電体104の下に配置された基材102なしで、集電体上に形成される。
【0059】
一部の実施形態では、薄膜電池100の構造が反転しており、アノード集電体が基材100の上に配置される。次いで、アノード110をアノード集電体の上に堆積させた後、アノード110の上に電解質108を形成してもよい。電解質108が形成されたら、続いてカソード106を電解質108の上に形成してもよい。この実施形態では、集電体104は、カソード106の上かつ基材100から遠くに配置されうる。この実施形態では、操作308は、操作302、304または306のいずれよりも前に行われる。操作308は、アノードを基材上に堆積させるように修正される。アノードを堆積させた後、操作306中に電解質を堆積させる。次に、カソードを続いて電解質上に堆積させ、操作302および304中にアニーリングしてもよい。
【0060】
実験
以下の非限定例は、本明細書に記載する実施形態をさらに説明するために提供する。しかしながら、実施例は、本明細書に記載する実施形態の範囲をすべて包括することを意図しておらず、その範囲を限定することを意図していない。
【実施例】
【0061】
実施例1
上に記載した材料および方法を、以下に記載する通り、実験によって試験した。最初に、LRCO粉末を合成した。LRCO材料は、固相法(solid state method)を使用して調製した。Li2CO3(Alfa Aesar、99.9%純度、10重量%過剰)、RuO2(Alfa Aesar、99.9%純度)およびCoCO3(Alfa Aesar、99.9%純度)前駆体を、所望の化学量論量に従って秤量し、無水アセトン(Fisher Chemical)と混合し、遊星ボールミル(DECO、PBM-V-0.4L)において粉砕した。過剰なLi2CO3は、高温アニーリング中および/または後の工程におけるスパッタリング処理中に起こりうるLi損失を補償するために含ませた。粉砕/混合粉末を、マッフル炉(空気雰囲気)において2℃/分で900~1100℃の温度に加熱し、次いで、最終温度で12時間にわたって均熱処理をした後、冷却した。構造および電気化学的特性における、最後のアニーリング温度の効果を検討した。
【0062】
LRCO粉末から、LRCOターゲットを形成する。LRCO粉末は、上に記載した通り、Li2.2Ru0.8Co0.2O3の一般化学組成を有する。薄膜堆積のための2インチスパッタリングターゲットを、Li2.2Ru0.8Co0.2O3粉末の高温焼結によって調製した。まず、LRCO粉末における塊状物を、乳鉢と乳棒とを使用して手作業で破壊した。次いで、微細粉末をN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)バインダ溶液中5重量%のポリエチレンオキシドの溶液と混合し、次いで、混合物を70℃に加熱して、DMF溶媒を除去した。LRCOおよびポリ(エチレンオキシド)(PEO)バインダ混合物を、2インチ直径のダイに、11メトリックトンで5分にわたって冷間プレスした。次いで、ペレットを清浄なアルミナ皿に載置し、室内空気マッフル炉において焼結させた。次の加熱プロファイルを使用して、ターゲットを焼結させた。温度を5℃/分で300℃に上昇させた。次に、温度を続いて1℃/分で550℃に上昇させ、550℃で0.5時間にわたって滞留させた。バインダの焼尽は、550℃の間に起こると理論化されている。次に、温度を続いて20℃/分で900℃に上昇させ、900℃で約5時間にわたって滞留させた。900℃で滞留させた後、炉を2℃/分で冷却した。焼結したターゲットを十分に冷却した後、銀充填減圧グレードエポキシ(Dynaloy、KL-325K)を使用して、ターゲットを銅バッキングプレート(OHFC)に取り付けた。ターゲットを減圧下、70℃で硬化させた後、スパッタリングチャンバに設置した。
【0063】
ターゲットをチャンバに設置したら、スパッタリングチャンバ内で複数の薄膜を基材上に堆積させた。減圧蒸着チャンバにおいてRFマグネトロンスパッタリングを使用して、LRCO薄膜を製造した。典型的には、RFマグネトロンスパッタリングについて最適化されていない処理パラメータとしては、5×10-7Torrのベース圧力、15mTorrの作用圧力、70Wの電力、5~10cmの基材とターゲットとの距離、堆積チャンバへの3sccmのアルゴンガス流量、および堆積チャンバへの1sccmの酸素(O2)ガス流量が挙げられた。ターゲットによって堆積させるすべての薄膜についての基材として、光学グレード溶融石英スライド(AdValue Technology、FQ-S-001、1インチ(長さ)×1インチ(幅)×0.04インチ(厚さ))を使用した。石英スライド上のLRCO薄膜は、典型的には300nm厚であり、走査電子顕微鏡(SEM)によって特性評価される。
【0064】
超高純度N2雰囲気における、2インチLi3PO4粉末ターゲット(99.95%、Kurt J.Lesker)の高周波(RF)マグネトロンスパッタリングによって、リン酸リチウムオキシナイトライド(LiPON)の薄膜(公称1μm)を、カソード層の上に直接堆積させた。機械式ポンプおよび拡散ポンプの組み合わせを使用して、注文製作のスパッタリングチャンバを約1×10-7Torrまでポンピングした。主要な堆積パラメータは、80Wの進行波電力、5sccmの窒素ガス流量、20mTorrの操作窒素圧力および5cmのターゲット-基材距離であった。約1×10-6Torrのベース圧力を有する減圧チャンバにおいて、およそ2μm厚のLi金属をアノード材料として熱エバポレートした。石英結晶モニタ(QCM)を使用して、Li堆積速度をin-situでモニタリングした。
【0065】
カソードアニーリング過程については、堆積したままのLRCO(Li2.2Ru0.8Co0.2O3の化学組成)の300nm厚被膜を調製し、次いで、O2雰囲気下でアニーリングするための管状炉に移動させた。本明細書に記載する場合、LRCOは、分子式Li2+xRu1-xCoxO3を使用する場合、x=0.2のモル比率を有する。しかしながら、材料内のコバルト濃度は変動しうる。x=0.1の場合、LRCOをLRCO-1と呼ぶ。x=0.2の場合、LRCOをLRCO-2と呼ぶ。x=0.3の場合、LRCOをLRCO-3と呼ぶ。本明細書で別段の特定がない限り、x=2であり、LRCO材料はLRCO-2と同様の組成を有する。炉の温度をまず、2℃/分のランプ速度で設定値まで上昇させ、次いで、所望の時間にわたって保持し、最後に、室温まで自然に冷却させる。
【0066】
材料の特性評価
LRCO粉末および薄膜の構造を決定するために、CuKαマイクロフォーカスX線源を用いたRigaku Synergy-S回折システムを使用して、X線粉末回折(XRD)を実施した。XRD粉末パターンを、MDI Jade 9ソフトウェアによって精緻化した。誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)(Perkin Elmer NexION 2000)を使用して、LRCOの元素組成(Li、RuおよびCo)を特性評価し、LRCO粉末の正確な化学量論を決定した。ポストモーテム分析のために、Ar充填グローブボックスにおいて、セルを注意して分解した。すべての試料を減圧下で乾燥させ、機密封止したプラスチックボトルに入れ、次いで、様々な分析システムに移送した。ZEISS Crossbeam 340 FIB-SEMシステムにおいて、7.5kVの加速電圧を使用して、走査電子顕微鏡(SEM)およびエネルギー分散型X線分光法(EDS)を行った。試料の断面を分析するため、試料基材を手で割った。
【0067】
電気化学的特性評価
液体コインセルのために、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)溶媒中10重量%のポリビニリデンフルオリド(PVDF)を含有するバインダ溶液を、80重量%の活物質と10重量%のSuper P導電性カーボンとを含有するLRCO粉末混合物に加えることによって、スラリーを調製した。スラリーをアルミニウム箔集電体上にキャストし、減圧下、100℃で一晩乾燥させた後、セルを組み立てた。金属Li箔(1.9mm×0.75mm、99.9%、Alfa Aesar)の表面を削り、圧延し、1.43cmの直径を有するディスク状に切断し、電極の分離を画定するためのスペーサとしての役割を果たす、わずかに大きな直径の微孔質ガラス繊維セパレータに載せた。使用した電解質は、100μlの1.0M 1:1:1 EC:EMC:DMC中LiPF6(Gotion)であった。電池サイクラー(BT-2043、Arbin Instruments)を使用して、コインセルを2.0V~4.5Vでサイクル動作させた。最初の2サイクルは、形成期間として0.02Cレートに設定した。セル温度は25℃に制御した。電極面積は、カソード側の幾何学的面積によって定義した。10mV AC振幅で、室温において、3MHz~0.1Hzの周波数範囲にわたって、定電位電気化学インピーダンス(PEIS)測定を実施した。
【0068】
Ar充填グローブボックス内で、2.0Vから様々な充電電位まで、電池サイクラー(BT-2043、Arbin Instruments)を使用して薄膜電池をサイクル動作させた。電極面積は、カソード側の幾何学的面積によって定義した。10mV AC振幅で、室温において、3MHz~0.1Hzの周波数範囲にわたって、定電位電気化学インピーダンス(PEIS)測定を実施した。
【0069】
結果
LRCO粉末合成における最適なアニーリング温度を決定するため、Li
2.2Ru
0.8Co
0.2O
3のマイクロ構造におけるアニーリング温度(900℃、1000℃および1100℃)の効果を検討した。
図4A~
図4Bは、3つの異なる温度において合成したカソードのX線回折パターンを示すグラフである。
図4Bは、
図4Aの選択領域を示している。単斜Li
2RuO
3(本明細書ではLROと称する)構造はPDF# 01-072-4645で割り出され、六方晶LiCoO
2(本明細書ではLCOと称する)構造はPDF# 01-073-0964で割り出される(回折データは、International Center for Diffraction Data database、icdd.comで公的に入手可能)。LRCOは結晶化して、それぞれ空間群C2/c対称およびR3m対称の構成要素LRO相およびLCO相となると予想される。すべてのLRCO粉末が、空間群C2/cを有する単斜LROに割りつけられ、ここで、各LiO
6八面体間隙は6つのRuO
6八面体によって包囲され、したがって、遷移金属層における六方晶LiRu
6隣接単位が可能となる。LROの単斜c軸に沿った遷移金属層の小さな積層秩序は、とりわけ900℃および1000℃において、20~25°の範囲角度で観測することができた。(002)平面および(020)平面に関連する特徴ピークの強度比率によって、遷移金属層のカチオン秩序をさらに検討することができる。より高い(002)/(020)比率は、遷移金属層のより大きな積層秩序をもたらす、より高いカチオン秩序を示す。
図4Bに示される通り、1000℃でアニーリングしたLRCOが最も高い(002)/(020)比率を有し、これは、遷移金属層の積層秩序が最も高く、構造完全性が増強されていることを示している。(002)、(010)、(202)および(222)平面は2つのピークに分かれている。(002)、(010)、(202)および(222)平面が2つのピークを有する1つの理由は、回折ピーク強度がセンサの線形範囲を上回る場合、主要なピークは目に見えて分裂することになるからである。あるいは、2つのピークは、高温による、ドーピングされた金属材料を格子内でより均一に分散させた秩序の程度の増大、これに続く、超秩序(over ordered)構造による対称性の低減に対応づけることができる。
【0070】
アニーリング温度を上昇させた場合、新たな回折ピークは観測されず、すべての観測された反射がLRO PDFカードに割りつけられ、相が純粋であることを示唆している。低いCo含有量(x=0.2)では、LCO相からの回折ピークを観測することは困難である。しかしながら、より高い焼成温度(1100℃)における試料は、より弱いピーク強度および特徴ピークが不明瞭となるため、より結晶質でない傾向がある。
【0071】
図5A~
図5Bは、LRCOカソード材料粉末の走査電子顕微鏡画像である。
図5A~
図5Bの画像に見られるように、1100℃で加熱した試料の場合、無秩序モルフォロジーが優勢であり、粒子が一緒に焼結されている。900℃および1100℃で加熱した粉末と比較して、1000℃未満の試料はより鋭いピークを示し、より高い結晶化度を表している。そのため、固溶体反応について、1000℃が最適なアニーリング温度であると暫定的に結論づけた。
【0072】
3つのアニーリング温度で得たLRCO構造を電気化学的性能と関連づけるために、LRCO粉末を典型的な電極スラリーに組み込み、スラリーをAl集電体にキャストすることによって、リチウムイオン電池カソードを調製した。LRCOカソードを、Li金属アノードおよび標準的な液体電解質とともに、コインセルに組み込んだ。電池セルを、およそ0.1C(30mAg
-1の電流密度)において、Li
+/Liに対して2.0Vから4.5Vまで、定電流でサイクル動作させた。カソードスラリーは、長期サイクル動作研究に最適化しなかった。したがって、電気化学的特性評価は、電気化学的特性(例えば、初期充電容量、リチウム化電位および充電の可逆性)に対するアニーリング温度の効果を理解するための比較研究を提供する。対応する電圧プロファイルおよび積分容量を、
図6A~
図6Cおよび
図7A~
図7Cに提供する。
図6A~
図6Cは、様々な焼成温度でLRCOカソード材料を合成した後、LRCOカソード材料を用いて組み立てたリチウムイオンセルの充放電曲線を示すグラフである。
図7A~
図7Cは、様々な焼成温度でLRCOカソード材料を合成した後、LRCOカソード材料を用いて組み立てたリチウムイオンセルのサイクル動作安定性曲線を示すグラフである。
図6A~6Cに示される通り、最初に4.5Vまで充電したとき、様々な充電プラトーにおいて、Li
2.2Ru
0.8Co
0.2O
3カソードからのリチウム脱離(delithiation)が起こる。1100℃において焼成したLRCO-2カソードは、2つの明らかな充電プラトーを示す。第1のプラトーは約3.6Vに位置し、Ru
4+/Ru
5+の酸化に対応する。第2のプラトーは約3.8Vに位置し、Co
3+/Co
4+の酸化に対応する。4.2Vよりも上の垂直テールは、酸素を失うことによるカソード側からのリチウム脱離、およびアニオンレドックス反応、すなわち、ペルオキソ/スーパーオキソール様種(
)に起因する。
【0073】
900℃の温度でカソードを焼成した後、LRCO-2ハーフコインセルをサイクル動作させた場合、初回放電容量は255mAhg-1であり、初期クーロン効率は70.5%であり、70回目のサイクルにおける容量保持は53.6%であった。1000℃の温度でカソードを焼成した後、LRCO-2ハーフコインセルをサイクル動作させた場合、初回放電容量は238mAhg-1であり、初期クーロン効率は94.3%であり、70回目のサイクルにおける容量保持は73.3%であった。1100℃の温度でカソードを焼成した後、LRCO-2ハーフコインセルをサイクル動作させた場合、初回放電容量は211mAhg-1であり、初期クーロン効率は83.9%であり、70回目のサイクルにおける容量保持は70.3%であった。
【0074】
900℃の焼成温度において、
図7Aにおけるサイクル動作安定性を観測した。初回放電容量は255mAhg
-1であり、70.5%は初期クーロン効率であり、他の2つの焼成温度と比較して、最も高い初回放電容量を示している。サイクル動作において比容量は徐々に減少し、70サイクル後には136mAhg
-1に低下し、53.6%の容量保持であった。
図7Bに示される通り、焼成温度を1000℃に上昇させた場合、LRCO-2カソードは、改善された初回放電容量(238mAhg
-1)、94.3%の初期クーロン効率、および最も高い70サイクル後の容量保持(73.3%)を示した。1100℃では、
図7Cに示される通り、このバリアントは、211mAhg
-1の初回放電容量、83.9%の初期クーロン効率、および70サイクル後に70.3%の容量保持を表す。
図4Aに示される通り、1000℃で焼成した試料はまた、最も高い結晶化度および遷移金属のカチオン秩序(LiM
2)を示し、これによって、Liイオンの輸送が改善する。3つの焼成温度におけるXRD粉末パターンおよび電気化学的性能の比較に基づいて、1000℃が、LRCO-2カソードの好ましい焼成温度であると暫定的に考えられる。
【0075】
LRCOにおける最適なCo置換を決定するため、Li2+xRu1-xCoxO3においてx=0.1、0.2および0.3として、一連の化合物を調製した。LRCO粉末の固相合成(solid state synthesis)に含まれるCoCO3の比率を通じて、組成を変動させた。合成粉末の組成は、ICP-MSを使用して確認した。
【0076】
LRCOにおける最適なCo置換量を決定するために、同様のマイクロ構造および電気化学的特性評価を実施した。Li
2+xRu
1-xCo
xO
3系列粉末(x=0.1、0.2および0.3)のマイクロ構造の特徴を、XRDによって特使評価した(
図8Aおよび
図8Bに示す)。LRCO-1、LRCO-2およびLRCO-3は、LRO単斜構造に結晶化する。LRCOは、Co含有量が0.4を上回るまでは、LCO型菱面体構造には結晶化しないことに留意するべきである。
図8A~
図8Bは、コバルト含有量を変動させて合成したカソードのX線回折パターンを示すグラフである。
【0077】
図8Aおよび
図8Bに示される通り、Co置換が増加した場合、新たな回折ピークを観測することはできず、すべての電流ピークをLRO PDFカードで割り出すことができ、相が純粋であることを示唆している。Co含有量が増加するにつれて、より鋭いピークが観測され、より高い結晶化度であることを示している。CoによるRuの置換は、結晶構造の変化をもたらし、超格子ピーク強度の減少を通じて確認される(20°~30°)。x=0.3である場合、ピーク強度は無視できるレベルまで低下する。小さな超格子ピークの存在は、遷移金属層中のLiおよびRu/Coの平面内カチオン秩序化を表すために使用することができる。
【0078】
図8Bに示される通り、コバルト含有量が増加した試料(x=0.2および0.3)は、コバルト含有量がより少ない試料(x=0.1)よりも高い(002)/(020)比率を有していた。これは、遷移金属層の積層秩序がより大きく、増強した構造完全性を示す。これは、x=0.2およびx=0.3におけるコバルトは、70サイクル後に、x=0.1におけるコバルトとほぼ同等であるがより高い容量保持を有するという、本発明者らの電気化学的性能の予想と一致する(
図7A~
図7Cおよび
図10A~
図10B)。Co含有量がx=0.3に達した場合、(010)平面のみが消失した。これは、Ru比率の減少に起因する。大部分の他の結晶平面の強度は、x=0.3の場合、増強した。そのため、x=0.1と比較して、x=0.2およびx=0.3のCo比率は有益である。
【0079】
電気化学的性能におけるコバルト置換の効果を評価するため、LRCO-1およびLRCO-3をリチウムイオンハーフセルに組み込み、以前のサイクル動作プロトコールを使用して、定電流でサイクル動作させた。
図9A~
図9Bおよび
図10A~
図10Bは、LRCO-1およびLRCO-3が、それぞれ238mAhg
-1および210mAhg
-1の初期放電容量を出力することを明らかにしている。
【0080】
図9A~
図9Bは、コバルト含有量を変動させてLRCOカソード材料を合成した後、LRCOカソード材料を用いて組み立てたリチウムイオンセルの充放電曲線を示している。
図9Aは、LRCOカソード材料がx=0.1のコバルト含有量を有する場合の充電/放電曲線を示している。
図9Bは、LRCOカソード材料がx=0.3のコバルト含有量を有する場合の充電/放電曲線を示している。
【0081】
図10A~
図10Bは、コバルト含有量を変動させてLRCOカソード材料を合成した後、LRCOカソード材料を用いて組み立てたリチウムイオンセルのサイクル動作安定性曲線を示している。
図10Aは、LRCOカソード材料がx=0.1のコバルト含有量を有する場合のサイクル動作安定性曲線を示している。
図10Bは、LRCOカソード材料がx=0.3のコバルト含有量を有する場合のサイクル動作安定性曲線を示している。
【0082】
図10Aおよび
図10Bに見られるように、Co置換がx=0.3に増加すると、容量保持は72.8%(x=0.1において得た)から64.9%に減少した。これは、より低いコバルトの濃度では、可逆的なアニオンのレドックス化学、超格子構造内のカチオン秩序化、および容易な電荷移動過程を提供することによって、より良好な電気化学的性能が提供されることを示唆している。
【0083】
LRCO-2(Li2.2Ru0.8Co0.2O3)カソード粉末の合成を、所望の焼成温度およびコバルト含有量に基づいて実施した後、スパッタリングターゲットを調製した。高温焼結によってLRCO-2組成物を固めて、2インチ直径のスパッタリングターゲット(LRCOスパッタリングターゲット)にした。LRCOスパッタリングターゲットのRFスパッタリングによって、薄膜カソードを調製した。得られたカソードは、「薄い」支持被膜フォーマットに製造され、固体電気化学セルにおいて陽極として機能する、緻密なリチウム挿入化合物(例えばリチウム金属酸化物)であった。これらの電気化学セルは、支持基材、薄膜カソード、固体リチウムイオン導体(すなわち固体電解質)およびアノード(例えばリチウム金属)を含む。
【0084】
図11A~
図11Bは、LRCO材料から形成したスパッタリングターゲットから堆積させた被膜のX線光電子分光(XPS)測定を示すグラフである。XPS分析を行って、堆積したままのLRCO薄膜(一切のアニーリングの前の薄膜)内の遷移金属の酸化状態を検討した。
図11Aは、基材上のLRCO被膜の全体的な元素調査を示す。
図11Bは、
図11Aの調査のCo 2p領域を示している。Co 2pスペクトルは、
図11Bに示す通り別々に、約780.9eV(Co 2p
3/2)および約796.3eV(Co 2p
1/2)の結合エネルギーを表す2つのピークを示しており、これはLCOとよく整合し、+3荷電状態におけるCoの存在に帰属させることができる。
図11Bは、
図11Aの調査のO 1s領域の高解像度走査を示している。
図11Dは、
図11Aの調査のRu 3p領域の高解像度走査を示している。486.7eV(3p
1/2)および464.0eV(3p
3/2)の結合エネルギーによって、
図12Dに現れている2つのRu 3pコアピークは、Ruの酸化状態が4+であることを示している。
【0085】
アニーリング温度の関数として、5cmのターゲット-試料距離において、LRCO-2ターゲットから堆積させたLRCO薄膜のモルフォロジーの差をさらに検討するため、
図12A~12Fにおいて、トップダウンおよび断面SEM画像を比較した。
図12Aは、堆積したままの、アニーリングをしていないLRCO薄膜のモルフォロジーを示している。
図12Bは、300℃における1時間のアニーリング後のLRCO薄膜のモルフォロジーを示している。
図12Cは、400℃における1時間のアニーリング後のLRCO薄膜のモルフォロジーを示している。
図12Dは、500℃における1時間のアニーリング後のLRCO薄膜のモルフォロジーを示している。
図12Eは、600℃における1時間のアニーリング後のLRCO薄膜のモルフォロジーを示している。
図12Fは、700℃における1時間のアニーリング後のLRCO薄膜のモルフォロジーを示している。
【0086】
300℃および400℃のアニーリング温度では(
図12Bおよび
図12C)、小数の結晶粒が表面に現れたが、残りの大部分は、堆積したままの被膜(
図12A)と同様の球状粒子であった。500~600℃(
図12Dおよび
図12E)を起点に、これらの残りの柱状表面が結晶化し始めた。700℃(
図12F)では、薄膜表面がすべて全面的に結晶化しており、粒子が、約50nm~約100nmの平均サイズを有する多面体モルフォロジーを呈する。
【0087】
異なるアニーリング温度の間の比較を行うため、薄膜のXRDパターンを
図13に提示した。基材は金コーティング熱酸化ケイ素ウエハであるため、金および酸化ケイ素(SiO
2)の回折ピーク(適合するPDFカードデータベースから割り出される)も、回折図に現れていた。温度が上昇するにつれて、
図12A~
図12FにおけるSEMによって実証することができる結晶化度の増強の結果、大部分の回折ピークが強まった。アニーリング温度が上昇するにつれて、約60°~約65°において、(312)および(006)ブラッグピークがより解離した。いくつかの不明ピーク(「?」によって標識した)は、LRO、LCO、金または酸化ケイ素の相に割り当てることができないことは留意に値する。これらのピークは、高温アニーリングに起因して、不純物相、例えば、Co
3O
4またはRuO
2によって生じることがある。別の可能性は、高温でリチウムが金と反応して、不純物の存在を生じることである。さらに、本明細書に記載するモルフォロジーは、5cmのスパッタリング距離において堆積させた被膜に対応するが、10cmのスパッタリング距離では異なるモルフォロジーを生じることがある。
【0088】
アニーリングしたLRCO-2薄膜(450℃で3時間)のSEMを、
図14A~
図14Dに示す。
図14Aおよび
図14Bは、アニーリングしたLRCO-2薄膜のSEMの平面図である。
図14Cおよび
図14Dは、アニーリングしたLRCO-2薄膜の断面SEMである。多くのナノスケール粒子がアニーリング後に現れ、その平均サイズは約50nm~約650nmにわたりうる(
図14C)が、電解質としてLiPON層を堆積させる場合、短絡の可能性が大きく上昇する。驚くべきことに、
図14Dに示される通り、LRCO-2薄膜の全厚は約300nmから約200nmに減少した。いくつかの高度に結晶化した領域はよりいっそう薄く、例えば約120nmであった(
図14C)。不均一な結晶粒サイズ分布は好ましくなく、サイクル動作の間に一様でないLiイオン輸送を生じ、低いクーロン効率および急速な容量減衰を生じることになる。1つの可能性のある説明は、このような大きな距離で堆積させた場合、スパッタリング処理の間に低原子質量リチウムが失われることに起因して、ターゲットと堆積した被膜との間で大きく化学組成が相違することである。これによって、被膜においてリチウム欠乏が生じ、後続のアニーリング工程の間に、不純物相、例えばRuO
2またはCo
3O
4が生じうる。
【0089】
本明細書で論じるLRCO薄膜は、十分に機能する可逆的カソードであり、堆積したままの、非アニーリング状態においてかなりの容量を有する。そのため、本明細書で論じる電気化学的特性評価およびエネルギー貯蔵性能試験は、主としてLRCOの非晶質薄膜に焦点を合わせる。堆積したままの/非アニーリング薄膜の利用についても、実用上の動機が存在する。堆積したままの薄膜の利用によって、アニーリング工程が排除され、生産コストを低減しながら、基材の適合性が大幅に広がる。本明細書に記載する電気化学的特性評価のために、石英基材上に支持される白金集電体上にLRCO-2ターゲットをスパッタリングすることによって、250nm厚薄膜カソードを堆積させた。1マイクロメートルのLiPONおよび公称2マイクロメートルのLiを、LRCO被膜の上に順次堆積させた。20μA/cm2のレートにおいて、薄膜セルを2.0Vと4.5Vとの間でサイクル動作させ、カソード面積を使用して電流密度を計算した。20μA/cm2のレートにおける2.0Vと4.5Vとの間のサイクル動作を、第1の充電パターンとして本明細書に記載する。105μAh/cm2-μmの安定容量を、20充電/放電サイクルにわたって可逆的に評価することができた。これは、67.5μAh/cm2-μmの容量を提供するLiCoO2カソードと比べて、有意な改善である。さらに、LCO被膜を、数百セルシウス度を超える温度で熱アニーリングして、LCOマイクロ構造を全面的に結晶化させ、最適なエネルギー貯蔵性能を得る。
【0090】
堆積したままのLRCO-2の電圧プロファイルおよびサイクル容量を、それぞれ
図15および
図16に提供する。
図15は、第1の充電パターンを使用してサイクル動作させた後の、LRCOカソード材料を用いて組み立てたリチウムイオンセルの充放電曲線を示すグラフである。
図15の充放電曲線は、1回目、10回目および20回目のサイクルについて提供されている。
図16は、第1の充電パターンを使用した20サイクルにわたる、LRCOカソード材料を用いて組み立てたリチウムイオンセルのサイクル動作安定性曲線を示すグラフである。
図16に示される通り、20サイクルにわたる平均クーロン効率は97.6%であり(1回目のサイクルを除く)、放電容量は105.5μAh/cm
2-μmであった。試験中、温度は約25℃に維持した。
【0091】
セルのクーロン効率は、ときとして可逆性とも呼ばれるが、LRCOをより低い電流密度でより低電位まで充電することによって、さらに改善することができる。
図17および18は、充電/放電電圧プロファイルおよびサイクル動作性能を、充電電位の関数として表す。3.8Vまでの初回充電では、LRCOは57.5μAh/cm
2-μmの容量を有する。3.8Vから2.0Vまで、10μA/cm2の電流密度で放電すると、薄膜電池は、101.3μAh/cm
2-μmの初回放電容量を出力する(
図17A)。低い初回充電容量は、スパッタリングターゲット-基材距離が大きいこと(10cm)によって、最も軽いLi原子がスパッタリング中に失われることで、Li欠乏LRCO薄膜組成物をもたらすことから生じるようである。初回放電におけるリチウム化の後、充電容量が回復し、放電容量と整合する。すべての充電電位について、抑圧された初回充電容量が観測される(
図17Bおよび
図17C)。3.8Vの充電電圧における175サイクルにわたって、平均クーロン効率は99.5%であり、86.8%の容量保持であった(
図18A)。充電電位を3.9Vに上昇させると、より多くのLiイオンがインターカレートおよびデインターカレートする結果、104.2μAh/cm
2-μmの初回放電容量を得る(
図18B)。容量保持は、175サイクルにわたって91.8%にさらに上昇し(100回目のサイクルでは94.4%)、99.8%というより高い平均クーロン効率であった(
図18B)。4.0Vの充電カットオフ電圧を用いると、放電容量は111.7μAh/cm
2-μmにさらに上昇するが、100サイクルにわたる容量保持は同じに留まる(
図18Bおよび
図18C)。
【0092】
図19に示される通り、LRCO薄膜カソードはまた、並外れたレート性能を実証している。
図19は、300nm厚の堆積したままのカソードを用いたLRCO薄膜電池のレート性能を示している。電流密度を3から10、15、27および33μA/cm
2へ増加させ、続いて3μA/cm
2に戻しながら放電容量を段階的に測定して、可逆性をさらに評価した。各レートは、2.0から3.9V(LRCO)および3.0から4.2V(LCO)の電圧範囲における5サイクルを含む。1C(33μA/cm
2)の電流レートにおいてさえ、LRCOにおいて88.8μAh/cm
2-μmの比容量と評価することができ、0.1Cにおける108.5μAh/cm
2-μmと比較すると、81.8%の容量の利用を表す。予想通り、放電容量は電流密度に強く依存するが、レート試験後に0.1C(3μA/cm
2)においてLRCO容量が回復したことは、LRCOカソードの安定性のさらなる表れである。その一方で、堆積したままのLCOは、堆積したままのLRCO薄膜の比容量のおよそ1/3を提供する(3μA/cm
2において、37.1対108.4μAh/cm
2-μm)。さらに、電流密度を33μA/cm
2に上昇させた場合、LCOの放電容量はわずか8.6μAh/cm
2に低下したが、これは、25.6%という相対的に低い容量利用を表している(LRCOにおける80%超と比較して)。優れた比容量およびレート性能を考えれば、LRCOは、容易なリチウム化およびリチウム脱離、低い抵抗および高い体積容量を提供する、優れた候補である。従来のLi
2RuO
3カソードに関連する課題、例えば、酸素ガスの発生および電圧減衰は、薄膜フォーマットにおいて、LiCoO
2と混合することおよび充電電位を限定することによって、対処することができる。
【0093】
堆積したままのLRCOにおける大幅な容量を得る能力によって、熱アニーリングせずに薄膜電池を形成することができる。熱アニーリングによって、LCO薄膜カソードの調製に、大幅な処理コストおよび時間が加算される。典型的には、LCO被膜は、500℃を超える温度でアニーリングされる。熱アニーリングには、基材が熱的に安定であることも要する。典型的な基材は、無機材料、例えば、酸化アルミニウム(Al2O3)または石英である。このLRCO薄膜の最初の実証では石英基材を使用したが、本明細書に開示する方法は、可撓性で低溶融温度の基材、例えばポリマー基材における、アニーリングをしない薄膜調製も含む。
【0094】
一部の実施形態では、熱アニーリングを使用して堆積したままのLRCOを結晶化させ、これによって、比エネルギー、Li
+拡散率およびリチウム化(リチウム脱離)電位が増大することが予想される。一部の実施形態では、LRCO薄膜を、450℃および650℃において、3時間にわたってアニーリングした。アニーリングしたLRCO薄膜は、
図20A~
図20Bおよび
図21A~
図21Bに示される通り、可逆的であり、安定な充電容量を実証している。
【0095】
図20A~
図20Bは、様々な温度でLRCOカソード材料をアニーリングした後、LRCOカソード材料を用いて組み立てたリチウムイオンセルの充放電曲線を示している。
図20A~
図20Bでは、LRCO薄膜を、3μA/cm
2において、Li/Li
+に対して2.0Vから3.8Vの間、および3μA/cm
2において、Li/Li
+に対して2.0Vから4.0Vの間で充電した。
図20Aでは、LRCO薄膜カソードを、450℃において3時間にわたってアニーリングした。
図20Bでは、LRCO薄膜カソードを、650℃において3時間にわたってアニーリングした。LRCOカソード薄膜電池のサイクル動作の間、温度を25℃に維持した。
【0096】
図21A~
図21Bは、様々な温度でLRCOカソード材料をアニーリングした後、LRCOカソード材料を用いて組み立てたリチウムイオンセルのサイクル動作安定性曲線を示している。
図21Aでは、LRCO薄膜カソードを、450℃において3時間にわたってアニーリングした。
図21Bでは、LRCO薄膜カソードを、650℃において3時間にわたってアニーリングした。LRCO薄膜電池は、最初の10サイクルについては3.8Vまで充電し、次の5サイクルについては4.0Vまで充電した。充電上限を変化させる間、放電電位は2.0Vに固定したままであった。LRCOカソード薄膜電池のサイクル動作の間、温度を25℃に維持した。
【0097】
図20A~
図20Bおよび
図21A~
図21Bに示される通り、アニーリング薄膜は、以前に記載した堆積したままの非アニーリング被膜よりも低い容量を有する。より低い容量は、結晶状態ではリチウム化電位がより高い電位にシフトすることに帰属する。両方のアニーリング温度(450℃および650℃)について、充電電位を4.0Vに上昇させると、有意に比容量/比エネルギーが増加する。
図14A~
図14Dについて論じた通り、アニーリング後に、不均一な結晶粒子が成長した。アニーリング後の不均一な結晶粒子は、サイズが約50nm~約600nmまで変動し、効果的なLiイオン輸送を妨げ、クーロン効率が低減する。大きな粒子は、サイクル動作の間に大きな体積変化が起こり、続いて構造が崩壊し、短絡する可能性がある。大きな粒子サイズは、アニーリングしたカソードが低いクーロン効率、容量減衰の増大および最終的には短絡回路を示す理由でありうる。
【0098】
実施例2
(1-x)Li2RuO3+xLiCoO2+yLi2O[式中、Yは約0.05と0.6との間であり、Xは約0.05と0.5との間である]の化学式を有するリチウムルテニウムコバルト酸化物(LRCO)カソード材料を使用して、低温においてエネルギーが緻密なカソード薄膜を調製した。LRCO薄膜は、RFマグネトロンスパッタリングによって調製し、さらなる熱アニーリングをせずに、平滑、一様かつ電気化学的に活性であることが示され、可撓性熱可塑性樹脂基材上の薄膜電池を首尾よく製造し、動作させることができた。39μAh cm-2 μm-1の比容量を有するリチウムコバルト酸化物(LCO)被膜と比較して、LRCOは、0.3Cレートにおいて110μAh cm-2 μm-1という高い放電容量、および150サイクルにわたって92%超の容量保持を提供する。この放電容量は、アニーリングした多結晶LCOの、最適化された理論値に近い容量(67μAh cm-2 μm-1)さえ超過する。
【0099】
LRCOを従来の固相合成によって調製した。Li2CO3(Alfa Aesar、99.9%純度、35重量%過剰)、RuO2(Alfa Aesar、99.9%純度)およびCoCO3(Alfa Aesar、99.9%純度)前駆体を、所望の化学量論((1-x)Li2RuO3-xLiCoO2-yLi2O)に従って秤量し、無水アセトン(Alfa Aesar)と混合し、遊星ボールミル(DECO、PBM-V-0.4L)において粉砕した。過剰なLi2CO3は、高温アニーリングおよび/または後続のスパッタリング中のLi損失を補償するために含ませた。粉末混合物を、マッフル炉(空気雰囲気)において2℃/分の速度で1000℃の温度に加熱し、12時間にわたって保持し、次いで、周囲条件下で冷却した。
【0100】
薄膜堆積のための2インチスパッタリングターゲットを、合成LRCO粉末の高温焼結によって調製した。まず、LRCO粉末塊状物を、乳鉢と乳棒とを使用して粉砕した。次いで、微細粉末をN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)バインダ溶液中5重量%のポリエチレンオキシド(PEO)の溶液と混合し、次いで、混合物を70℃に加熱して、DMF溶媒を除去した。LRCOおよびPEOバインダ混合物を、2インチ(5.08cm)直径のダイに、48MPaで5分にわたって冷間プレスした。次いで、ペレットをダイから取り出し、清浄なアルミナ皿に載置し、マッフル炉において900℃で5時間にわたって焼結させた。焼結したターゲットを十分に冷却した後、銀充填減圧グレードエポキシ(Dynaloy、KL-325K)を使用して、銅バッキングプレート(OHFC)に取り付けた。ターゲットを減圧下、70℃で硬化させた後、スパッタリングチャンバに設置した。
【0101】
注文製作の減圧蒸着チャンバにおいてRFマグネトロンスパッタリングによって、LRCOおよびLCO薄膜を製造した。(2.00インチ(5.08cm)直径×0.125インチ(0.3175cm)厚)のサイズを有するLCOスパッタリングターゲット(99.9%純度)を、Kurt J.Leskerから購入した。RFマグネトロンスパッタリングについての処理パラメータを、表1に提供する。すべての薄膜電池アセンブリについての基材として、光学グレード溶融石英スライド(AdValue Technology、FQ-S-001、2.54×2.54×0.1cm)を使用した。薄膜カソードの堆積前に、カソード集電体として100nm厚Ptを、直流(DC)スパッタリングによって堆積させた(Denton Vacuum DESK-II DC Sputtering System)。0.6cm
2の面積を有する薄膜カソードは、典型的には、300nmの厚さまで堆積させ、走査電子顕微鏡(SEM)によって確認した。
【0102】
超高純度N
2雰囲気における、2インチ(5.08cm)Li
3PO
4粉末ターゲット(99.95%、Kurt J.Lesker)の高周波(RF)マグネトロンスパッタリングによって、リン酸リチウムオキシナイトライド(LiPON)の薄膜(1μmかつ5cm
2)を、カソード層の上に直接堆積させた。堆積前に、機械式拡散ポンプによって、注文製作のスパッタリングチャンバを約5×10
-7Torrまでポンピングした。主要な堆積パラメータは、90Wの進行波電力、5sccmの窒素ガス流量、20mTorrの操作圧力および5cmのターゲット-基材距離であった。アノードおよび集電体として、2μm厚Li金属を、約6×10
-7Torrのベース圧力を用いて、特注の減圧チャンバにおいて熱エバポレートした。石英結晶モニタ(QCM)を使用して、Li堆積速度をin-situでモニタリングした。薄膜電池製造方法の模式図を、
図28に示す。
【0103】
材料の特性評価
Perkin Elmer NexION 200を使用して誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)を行い、LRCOターゲットの化学組成を同定した。LRCO粉末および薄膜の構造を決定するために、CuKαマイクロフォーカスX線源を用いた、Rigaku Synergy-S回折システムおよびBruker D8 Advanceシステムをそれぞれ使用して、粉末X線回折(XRD)および薄膜XRDを実施した。XRDパターンを、MDI Jade 9ソフトウェアによって精緻化した。15kVかつ10mAにおいて単色化Al Kα供給源を用いて、Krato Axis Ultra DLD XPSシステムを使用して、X線光電子分光分析(XRS)を行った。1200から5eVまで1eV刻みで、160eVのパスエネルギーでサーベイスキャンを実施した。較正のため、脂肪族C 1sピークを284.6eVに対応づけた。O 1s、Ru 3dおよびCo 2pについて、20eVのパスエネルギーで、10回の高解像度走査を用いた。詳細なピークデコンボリューションは、CasaXPSソフトウェアによって分析した。ポストモーテム分析のために、Ar充填グローブボックスにおいて、セルを注意して分解した。すべての試料を機密封止したプラスチックボトルに入れ、次いで、様々な分析システムに移送した。ZEISS Crossbeam 340 FIB-SEMシステムにおいて、7.5kVの加速電圧を使用して、走査電子顕微鏡(SEM)およびエネルギー分散型X線分光法(EDS)を行った。試料の断面を分析するため、試料基材を手で割った。
【0104】
電気化学的特性評価
Ar充填グローブボックス内で、様々な充電電位下、電池サイクラー(BT-2043、Arbin Instruments)を使用して薄膜電池をサイクル動作させた。電極面積は、カソード側の幾何学的面積によって定義した。2.0Vから3.9Vまで、可逆的に、0.1mV/sの走査速度でサイクリックボルタンメトリーを実施した。3、10、15、27、33、戻って3μA/cm2において、Li/Li+に対して2.0~3.9V(LRCO)および3.0~4.2V(LCO)で、25℃において、レート性能試験(1つの上昇期間として5サイクル)を用いた。
【0105】
構造およびモルフォロジーの特性評価
構造およびモルフォロジーの特性評価のために、まず、平らなモデルSiウエハ基材上にLRCO薄膜を調製した。スパッタリング中に起こり得るLiのSiへの相互拡散を防止するため、Siウエハを300nm厚熱酸化物層でコーティングした。
図23Aおよび23Bは、対応するSEM特性評価に基づいて、LRCO被膜のモルフォロジーの概念図を提供する。被膜のモルフォロジーは、スパッタリングターゲット-基材距離に強く依存する。LRCO薄膜にスパッタリングする場合、まずは5cmという典型的な距離を使用し、
図23Aに示すモルフォロジーを得た。驚くべきことに、LRCOは空隙によって隔てられた柱となって堆積し、これによって、薄膜電解質による被覆が不完全であることに起因して、完成した薄膜電池における短絡回路の可能性が上昇しうる。しかも、柱状モルフォロジーによって、電解質とカソードとの間の接触面積および接触面の非一様性が増加し、カソードを通じたLiイオン輸送が一様ではなくなる。堆積中の試料距離を5cmから10cmを増加させると、
図23Bに示される等方性で平滑な、特色のない被膜が得られ;柱状モルフォロジーが消失する(
図24A~B)。より長いスパッタリング堆積距離では、原子-原子衝突を介してスパッタリング原子の運動エネルギーが低減し、適度な表面温度となり、堆積中の結晶化が防止される。堆積速度は20nm/分(5cmの距離において)から5nm/分(10cmにおいて)に低減したが、特色のないカソード表面は有益であり、より一様なLiイオン束輸送が可能となる(
図26)。
【0106】
ここで
図24A~24Bに戻ると、LRCO材料から形成したスパッタリングターゲットから堆積させた薄膜の、2つの視野の走査電子顕微鏡写真が描画されている。第1の視野の
図24Aは、5cmのスパッタリングターゲットと基材との距離において、LRCO-2スパッタリングターゲットを使用して堆積させた薄膜の平面図である。第2の視野の
図24Bは、5cmのスパッタリングターゲットと基材との距離において、LRCO-2スパッタリングターゲットから堆積させた薄膜の断面図である。上に述べた通り、予想外の発見は、堆積した薄膜のモルフォロジーが、スパッタリング中の基材とターゲットとの間の距離に依存することである。
図24A~24Bに示される通り、5cmのスパッタリング距離では、薄膜は柱状/微粒子状のモルフォロジーで発達し、有意な被膜粗さを生じる。しかしながら、10cmでは、被膜は一様で、平滑で、明らかな表面トポグラフィーはない。機能するカソード薄膜は、両方の距離において調製することができる。本明細書に含まれる薄膜電池の電気化学的データについて、スパッタリング距離として10cmを使用した。
【0107】
LRCOターゲットは、((1-x)Li
2RuO
3-xLiCoO
2-yLi
2O)[式中、xはターゲット中のCoについての含有量であり、yはターゲット中の過剰Liについての比率である]のLiリッチ固溶体に基づいて調製した。0.79Li
2RuO
3-0.18LiCoO
2-0.66Li
2OというLRCOターゲットの化学組成は、ICP-MSによって確認した(表2参照)。液体コインセルのために、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)溶媒中10重量%のPVDFを含有するバインダ溶液を、80重量%の活物質と10重量%のSuper Pカーボンとを含有するLRCO粉末混合物に加えることによって、スラリーを調製した。スラリーをAl箔集電体上にキャストし、減圧下、100℃で一晩乾燥させた後、セルを組み立てた。金属Li箔(1.9mm×0.75mm、99.9%、Alfa Aesar)の表面を削り、圧延し、1.43cmの直径を有するディスク状に切断し、電極の分離を画定するためのスペーサとしての役割を果たす、わずかに大きな直径の微孔質セパレータ(ガラス繊維)に載せた。使用した電解質は、100μlの1.0M 1:1:1 EC:EMC:DMC中LiPF
6(Gotion)であった。電池サイクラー(BT-2043、Arbin Instruments)を使用して、コインセルを2.0V~4.5Vでサイクル動作させた。最初の2サイクルは、形成期間として0.02Cレートに設定した。セル温度は25℃に制御した。スパッタリングターゲットの高温焼成および長距離スパッタリング堆積中のLi損失を補償するために、過剰なLiをターゲットに加えた。リチウムは最も軽い金属元素であるため、基材-ターゲット距離が増加することで、リチウム対遷移金属の比率が低減し、最終被膜組成物におけるスパッタ収率が低下することが予想される。4:1のRu:Co原子比率は、EDSによって確認され(
図27に提供される)、ターゲットとスパッタリングした試料との間で一致することを示している。そのため、(0.8Li
2RuO
3-0.2LiCoO
2-xLi
2O)の一般的組成は、この研究において調製したLRCO薄膜カソードにすべて割り当てられた。
【0108】
LRCO薄膜の結晶化度およびマイクロ構造を検討するため、平滑な特色のない被膜(10cmの距離において堆積させた)に対してXRDを実施した。スパッタリングターゲット用の前駆体LRCO粉末、LRCO薄膜および基材(Siウエハ上の熱酸化物)のX線回折図を、
図25に提供する。LRCOターゲットのXRDスペクトルは、単斜Li
2RuO
3構造(PDF# 01-072-4645)および六方晶LiCoO
2構造(PDF# 01-073-0964、回折データは、International Center for Diffraction Data database、icdd.comで公的に入手可能)で割り出された。空間群
を有するLi
2RuO
3と空間群
を有するLiCoO
2との固溶体に起因して、合成LRCOターゲットは六方晶α-NaFeO
2型構造を有し、ここで、6つのRuO
6八面体間隙が1つのLiO
6八面体を包囲し、これによって、TM層内にLiRu
6単位が形成される。超格子ピークと考えられる、結晶平面(020)および(111)は、単斜Li
2RuO
3構造のc軸に沿ったTM層の積層レベルが高いことを示している。LRCO薄膜について、3つの回折ピーク(星)は基材上のSiO
2層に割り当てられ、残りのピークはすべて、対応するLRCOの特徴反射に割りつけることができる。幅広い非晶質回折ピークは、回折図に顕著には現れず、(113)、(202)および(312)を含む3つのLRCO結晶平面は、ターゲットに割り当てることができる。SEMは被膜が非晶質であることを示唆しているが、LRCO被膜に見出される鋭い(113)反射は、堆積したままの薄膜が少なくとも部分的には結晶性であることを示す(堆積後アニーリングは行わなかった)。この結晶性は、おそらく、スパッタリング処理中に基材上に蓄積した熱から生じる。この熱エネルギーによって、吸収されたLi、Ru、CoおよびO原子の再配置が促進される。全面的に結晶性のLRCOスパッタリングターゲットと比較して、(202)および(312)平面の半値全幅が広いことは、被膜におけるナノ結晶性LRCO相の存在を示唆し、調製時LRCO薄膜が、非晶質構造とナノ結晶性構造との混合組成物であることを実証している。
【0109】
TFBにおける堆積したままのLRCOの電気化学的特性評価
Pt、LRCO、LiPONおよびLi金属の被膜を、石英基材上に順次堆積させることによって、
図28における3D模式図および
図29A~
図29DにおけるSEM顕微鏡写真によって示される通り、LRCO TFBを首尾よく製造した。薄膜セルのデジタル写真を
図30に提供する。およそ2マイクロメートル厚の熱エバポレートLi金属アノードが、TFBに堆積させた最後の層であり、保護層でコーティングしなかった。試料移送中の避けられない大気曝露の結果、Li表面が酸化され、非導電性となり、SEM写真に観測されるLi層の中央が帯電する。このLi金属層の下に、SEMおよび対応するリンマッピングが、1μmの厚さを有する緻密で完全な状態のLiPON層を明瞭に示している。ルテニウムのEDSマッピング(
図29A~
図29D)は、SEM顕微鏡写真と組み合わせて、300nm厚のLRCO薄膜カソードの特色のない層を実証した。LRCO被膜は最も薄いため、RuのEDSマッピング強度は、PまたはSiの強度ほど強くはなかったが、被膜境界を識別することができる。直流(DC)スパッタリングによって堆積させたPt層(100nm厚)は、カソード集電体としての役割を果たした。SiのEDSマップは、石英基材の位置を明瞭に示している。
【0110】
各充電電位について、セルは、傾斜した電圧プロファイルを呈する(
図17A~17C)。LRCO被膜の非晶質/ナノ結晶性の性質を考えれば、2相反応に特徴的な平坦な電圧プラトーがないことが予想される。微分容量分析(
図31)を使用すると、約3.6Vにピークを有するRu
4+/
5+酸化対の寄与が解像され;これはカソード容量の大部分を担う。Co
3+/
4+の酸化ピークも、3.7Vに示される。このデータは、RuとCoとの両方のレドックスが、カソードの容量に寄与することを実証している。
【0111】
すべてのセルは、最初の100サイクルにわたって優れた性能を実証したが、長期間にわたるサイクル動作では、3.9Vおよび4.0Vまで充電されたLRCOカソードの故障モードにおける、重要な相違が明らかとなる(
図31)。Li/Li
+に対して3.9Vまで充電したセルは、300サイクルにわたって71.9%の容量保持を示し(
図32A)、この電位におけるLRCOの安定性をさらに実証している。グローブボックス内での長期試験にわたる(3ヶ月にわたる)Li金属被膜の劣化は、部分的には、容量減衰の原因である。長期間の時間枠および/または数千サイクルにわたって安定なサイクル動作を達成するために重要である保護層でLi金属をコーティングせず、Li金属の化学反応は、グローブボックスの不完全な雰囲気において、視覚的に明らかであった。4.0Vの充電電位では、300サイクルまでの長期間のサイクル動作を試みた。いくつかのセルを製造し、4.0Vまで充電すると、ゆっくりとした容量減衰ではなく、突然の故障が各セルに観測された。3つのセルの代表的なサイクル動作を
図32Bに提示するが、これは、
図18Bからのチャンピオンセルデータを含む。これらのセルの各々は、短絡回路を通じて突然故障し、LiPON層の完全性が損なわれたことを示唆している。1つの可能性は、高電位では、カソードの構造が不安定であることで、潜在的な分子状酸素放出と組み合わせて、被膜の構造崩壊を生じ、LiPONが破損することである。これらの材料では、高電位で充電すると、2つの酸化過程:
のアニオン性レドックス反応、続いて分子状酸素の不可逆的形成が確保されうる。アニオンレドックス活性カソード材料の高い容量は、累積的なカチオン性およびアニオン性のレドックス過程に由来する。しかしながら、アニオン性レドックス反応中のペルオキソ/スーパーオキソール様種の出現は、無秩序相の核形成をもたらし、無秩序相は、次の放電工程において発生する酸素結晶ネットワークをさらに不可逆的に改質し、カソード構造に永久的な損傷をもたらす。ことによると被膜のナノ結晶的性質に起因して、プロファイルに明瞭な酸素放出の証拠は観測されないが、サイクル動作からの重要な結論は、3.9Vでは、最新水準の容量とともに安定なサイクル動作が提供され、これは最新の薄膜材料よりも優れていることである(
図36参照)。4V以上まで充電することは、安定性を犠牲にして、より多くの容量を抽出しうる。
【0112】
カソードのサイクル動作におけるCoとRuとの両方のレドックスの寄与をさらに理解するために、堆積したままのLRCOの追加の電気化学的特性評価を実施した。比較のため、非アニーリングLiCoO
2(LCO)薄膜も調製し、特性評価した。0.1mV/sの走査速度におけるLRCOとLCOとの両方のサイクリックボルタンメトリー(CV)を、
図34に提供する。約3.5Vにおける小ピークは、Ru
4+/Ru
5+のレドックス対に割り当てることができ、約3.7Vにおける別の鋭いピークは、3+から4+へのCoの酸化に対応する。RuおよびCoの酸化は、充電中にカソードからLiが抽出される際に、電荷の中立性を補償する。カソードの走査中、Co
4+/Co
3+およびRu
5+/Ru
4+に関するこれら2つの還元ピークは同化して、約3.8から3.5Vの幅広いピーク範囲となった。重要なことに、酸素の酸化の表れがボルタモグラムにはない。酸素の酸化は、アノードの走査が4.0V超に及ぶ場合に現れると予想されるが、これは潜在的にO
2ガスの形成を伴い、カソード構造を不可逆的に破壊する、または薄膜電池の完全性を損なうことになる。そのため、Li/Li
+に対して3.9Vの上限が、これらの電池についての安全限度であると考えられ、この上限は、4.0Vの充電とほぼ同じ容量を提供するだけでなく、遷移金属のレドックス反応のみが起こることを確保する。参考として、LCO薄膜は、約3.5Vから開始する同様のレドックス傾向を呈し、幅広いアノードのピークは、Liイオンのデインターカレーションに帰属する。
図33Bにおける微分充電容量データは、堆積したままのLiCoO
2のリチウム脱離によって、8.6μAhの充電容量を提供できることを示す。約3.6Vにおける還元ピークは、Liイオンのインターカレーションに帰属させることができる(
図34)。さらに、0.1mV/sの走査速度において3.0~4.2Vの電圧範囲を示す、堆積したままのLCOのCV曲線を
図33Aに見出すことができるが、LRCOと比較して緩慢な電気化学的活性および低い電流密度を呈している。
【0113】
CVに加えて、300nm厚の堆積したままのLCO被膜を用いたTFBのサイクル動作もさせ;結果を
図35に報告する。LRCOと同じ電流密度のもとで、LCOは90.6%という比肩する容量保持を示すが、175サイクルの後、38.6μAh/cm
2という相対的に低い比容量を示す。これらの堆積したままのLCO薄膜カソードのこの性能は、以前に報告したものと同様である。低容量は、無秩序な結晶性マイクロ構造および緩慢なLiイオン拡散性に起因する。
【0114】
図36における比較グラフは、アニーリング温度とともに、典型的な無機薄膜カソード間の電気化学的性能比較をまとめている。大部分の無機薄膜カソードは多結晶性であり、電気化学的に最適な結晶構造および被膜テクスチャを得るために、堆積中または堆積後に高温アニーリングを受ける。LCO被膜では、例えば、600℃超のアニーリングによって、(101)/(104)平面が基材に対して垂直な、好ましいマイクロ構造が生じ、効率的なイオン輸送および高い放電容量が提供される。Oak Ridge National Laboratoryグループによって報告された最適な製造処理(fabrication processing)のもと、高温でアニーリングされたLCOは、100μA/cm
2の電流密度において60μAh/cm
2-μmの初回放電容量を呈し、1000サイクルにわたって99.0%超の容量保持が達成される(
図36)。500℃未満でアニーリングされたLCO薄膜カソードは、10μA/cm
2の電流密度において、わずか54μAh/cm
2-μmの比容量、および140サイクルにわたって92.6%の容量保持を提供する。アニーリングは性能を最適化するために重要であるが、アニーリングはまた、基材材料を制約し、薄膜電池製造における処理工程の数を増加させる。その一方で、堆積したままのLRCO薄膜カソードは、熱アニーリングを要せず、3.9Vまで充電する場合、104.2μAh/cm
2-μmの並外れた比容量、および100サイクルにわたって94.4%の容量保持を与え、
図36に提示した他の一般的な無機薄膜カソードを凌駕している。その一方で、堆積したままのLiV
3O
8は、10μA/cm
2のレートにおいて133μAh/cm
2-μmの初回放電容量を提供できるが、100サイクルにわたって78.8%というより低い容量保持を提供しうる。典型的な堆積したままの薄膜カソードとしてのV
2O
5は、5μA/cm
2の電流密度で109μAh/cm
2-μmを呈するが、100サイクルにわたって90.5%という、LRCOに対して低い容量保持が達成される。さらに、V
2O
5カソードは自然にはリチウム化されず、それ自体では、アノード不含のセル設計に非適合性である。そのため、堆積したままのLRCOカソードは、比容量と可逆性(容量保持)との有無を言わせぬ組み合わせを提供する。
【0115】
可撓性TFBの実証
堆積したままの、ナノ結晶性モルフォロジーにおいて高い比容量を有することによって、LRCOは、薄膜電池に適合性の基材の範囲を拡大する。典型的な剛性の無機基材、例えば、ケイ素、石英およびアルミナ以外に、低コストな可撓性の熱可塑性樹脂基材を、基材として使用することができる。これは、ポリエチレンテレフタレート(PET)およびポリイミド(Kapton(登録商標))被膜を基材として使用して、実証されている。
図38Aは、PET基材上に製造した薄膜電池のサイクル動作性能を示す。サイクル動作過程全体を通じてPETに湾曲を課すと、LRCOは、101.5μAh/cm
2-μmの放電容量および120サイクルにわたる97.5%の容量保持を提供する。これらの可撓性基材上の電池の安定性および可撓性をさらに実証するため、同じ電池(120サイクル後)を使用して、マイクロLEDに給電した。TFBは、平らな(
図39A)または曲がった立体構造(
図39B)において、LEDに首尾よく給電し、多くの用途についてのLRCO材料の融通性を実証している。様々な曲げ角度の関数としてのLEDの連続動作、ならびに曲げおよび休止下での開回路電圧の発生を、
図37に示す。
【0116】
別の魅力的な代替選択肢として、Kapton(登録商標)被膜は、遥かに幅広い温度範囲(-250~400℃)にわたって用いることができる。堆積したままのLRCO TFBの並外れた可撓性および機械的安定性をさらに実証するため、Kapton(登録商標)被膜も基材層として用いた。セルの動作に対する曲げの効果を加えて比較するため、Kapton(登録商標)系TFBを、最初の60サイクルの間は平らな立体構造のままにし、次いでその後のサイクルの間は曲げた(
図38B)。最初の60サイクルの後、容量または容量保持における明らかな変化は観測されず、さらに電池の可撓性を提供した。120サイクルにわたる93.0%の容量保持を得たが、これは、PETを使用した97.5%よりもわずかに低い。特に、伝統的な無機基材に対して、両基材における互角の性能、および競争力のある性能によって、LRCOの低温調製の重要性が強化される。
【0117】
図40における容量保持対容量ダイアグラムは、可撓性基材上の無機薄膜カソード間の電気化学的性能比較を表す。いくつかの例では、高温アニーリングが依然として用いられており、これらのアニーリング温度はプロットに含まれる。高温アニーリングは、無機基材、例えば、LiMn
2O
4の場合のステンレス鋼箔(700℃でアニーリング)、またはLi
4Ti
5O
12の場合のジルコニアシート(800℃でアニーリング)を使用すれば可能である。別の戦略では、被膜の剥離および移動法を用いる。マイカ上に堆積させ、700℃でアニーリングしたLCOを、可撓性ポリジメチルシロキサン(PMDS)基材に移し、妥当ではあるが低減したカソード容量(LCOの場合、67μAh/cm
2-μmの理論容量に対して25)を得る、新たな製造手法を提供した。とはいえ、高温アニーリングは、様々な可撓性で低コストな熱可塑性樹脂シートについての代替選択肢を限定する。ポリイミド基材上に室温で製造すると、LiNi
0.5Mn
1.5O
4は、20サイクル後に87.5%という妥当な容量保持ではあるが、20μAh/cm
2-μmという限定的な比容量を提供する。MoO
3は、比容量(1回目のサイクルにおいて155μAh/cm
2-μm)がLRCOよりも優れている、室温で調製した唯一のカソードであるが、100サイクル後に51%という限定的な容量保持によって損なわれる。比較において、堆積したままのLRCOでは、可撓性熱可塑性樹脂基材(PETおよびKapton(登録商標))上に単純に直接製造することができ、初期容量(104.1μAh/cm
2-μm)と、100サイクルにわたって95.3%という高い容量保持との望ましい組み合わせを提供する。
【0118】
高温堆積後処理を要しない、高比容量で長いサイクル寿命のカソードを開発することで、マルチセル縦型積層電池構成が可能となる。LiPONのイオン伝導度は、約350℃超で有意に劣化することが知られている。カソードの堆積後アニーリングを要する場合、この高温処理によって、複数セルを連続堆積させて高電圧直列電池にすることは妨げられる。セル設計に非アニーリングLRCOカソードを用いることによって、単一基材上に複数セルを連続堆積させて、マルチセルTFBを製造することができる。このような設計では、基材と活物質との質量比を劇的に低減し、全体としてより高い電池の比エネルギーを生じることができる。
【0119】
結果
LRCO薄膜カソードを首尾よく製造し、薄膜電池において実証した。スパッタリングターゲットと基材との間の距離が増大すると、イオン輸送の一様性に重要な、平滑な等方性被膜が堆積する。XRDは、特徴的なLRCO反射の存在のため、LRCO被膜がナノ結晶性であることを示唆している。コバルトおよびルテニウムについて、3+および4+の酸化状態は、それぞれXPSによって確認した。溶融石英基材上にLRCO TFBを製造した後、最適なサイクル寿命のための最も高い充電電位も試験した。3.8Vから開始して、充電カットオフ電位が上昇するにつれて、比容量および容量保持が増加し、Li/Li+に対して4Vの充電電位において、10μA/cm2の電流密度で、最大111.7μAh/cm2-μmおよび100サイクルにわたって94.4%に達する。高電位におけるLRCOの構造不安定性を回避するため、Li/Li+に対して3.9Vの充電電位によって、比容量と可逆性との間の安定な折り合いを提供する。堆積したままのLRCOの低温調製を考えて、完成した薄膜電池も、さらなるex situアニーリングをせずに、可撓性プラスチック基材上に直接製造した。PET基材を用いて、それぞれ101.5μAh/cm2-μmおよび97.5%もの高さの、優れた比容量および容量保持を、120サイクルにわたって達成した。堆積したままのLRCOの優れた性能、基材の融通性、および非アニーリングマルチセル電池構成のための潜在性によって、将来の可撓性用途におけるTFBの利用が可能になりうる。
【0120】
結論
本明細書で論じた通り、LRCO薄膜カソードは、固体薄膜電池に組み込む場合、改善された性能を有することが示される。堆積したままの非晶質LRCO被膜は、良好な充電容量および電気化学的可逆性を提供することが示されている。非アニーリングLRCOは、110μAh/cm2-μmを超える放電容量を提供することが示されており、これは、LCO薄膜カソードの比エネルギーのほぼ2倍である。非アニーリングLRCO被膜もまた、可撓性/ポリマー性基材上に薄膜電池を開発する可能性を提供する。LRCOエネルギー貯蔵特性における改善は、結晶化を通じて達成可能である。しかしながら、アニーリング被膜は、急速な結晶粒成長および粗い微粒子状被膜モルフォロジーを呈することが示されている。
【0121】
従来のリチウム電池カソード生産に関係する高温アニーリングがないことによって、可撓性熱可塑性樹脂材料から作製された基材を含む、多種多様な基材材料を用いることができる。可撓性基材カソードを含むリチウム電池は、従来の電池用途に使用することができる。可撓性基材カソードを含むリチウム電池は、装置の可撓性を要する新たな用途、例えば、ウェアラブル、可撓性消費者用電子機器にも使用することができる。本明細書に開示する新規な可撓性カソード材料では、電池部品に可撓性を要する、可撓性電子装置の開発が可能となる。
【0122】
既存の可撓性電池のエネルギー密度は、材料の厚さおよび合計電解質装填量に関する限度があるため、低いままである。高性能可撓性薄膜電池の出現によって、既存の可撓性部品、例えば、ディスプレイ、メモリ、双方向使用者インターフェースおよびLEDと組み合わせて、次世代全可撓性電子システムの開発が加速するであろう。本明細書に開示する可撓性電池は、可撓性の低溶融温度基材上に提供されていることによって、高い電気化学的性能および優れた機械的変形能を呈する。
【0123】
上に開示したもののバリアント、ならびに他の特性および機能、またはこれらの代替を組み合わせて、多くの他の異なるシステムまたは用途にしてもよいことが理解されよう。様々な現在予見または予期されていない代替形態、変形形態、変化形またはこれらの改善が、当業者によって続いてなされうるが、これらも次の特許請求の範囲に包含されることが意図される。
【0124】
上記は、本開示の実施形態を対象とするが、その基本的な範囲から逸脱することなく、本開示の他のさらなる実施形態を考案することもでき、その範囲は、次の特許請求の範囲によって決定される。
表3および表4 参考文献
【国際調査報告】