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特表2024-538127製造のために高められた熱的物性を有する低弾性率のイオン交換可能ガラス
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  • 特表-製造のために高められた熱的物性を有する低弾性率のイオン交換可能ガラス 図1
  • 特表-製造のために高められた熱的物性を有する低弾性率のイオン交換可能ガラス 図2
  • 特表-製造のために高められた熱的物性を有する低弾性率のイオン交換可能ガラス 図3A
  • 特表-製造のために高められた熱的物性を有する低弾性率のイオン交換可能ガラス 図3B
  • 特表-製造のために高められた熱的物性を有する低弾性率のイオン交換可能ガラス 図4
  • 特表-製造のために高められた熱的物性を有する低弾性率のイオン交換可能ガラス 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-18
(54)【発明の名称】製造のために高められた熱的物性を有する低弾性率のイオン交換可能ガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/087 20060101AFI20241010BHJP
   C03C 21/00 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
C03C3/087
C03C21/00 101
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024522492
(86)(22)【出願日】2022-09-21
(85)【翻訳文提出日】2024-06-14
(86)【国際出願番号】 US2022044181
(87)【国際公開番号】W WO2023064070
(87)【国際公開日】2023-04-20
(31)【優先権主張番号】63/255,625
(32)【優先日】2021-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100224775
【弁理士】
【氏名又は名称】南 毅
(72)【発明者】
【氏名】レッツィ,ピーター ジョゼフ
【テーマコード(参考)】
4G059
4G062
【Fターム(参考)】
4G059AA01
4G059AA08
4G059AC16
4G059HB03
4G059HB13
4G059HB14
4G059HB23
4G062AA01
4G062BB01
4G062CC10
4G062DA06
4G062DA07
4G062DB04
4G062DC01
4G062DD01
4G062DE01
4G062DF01
4G062EA01
4G062EB02
4G062EB03
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4G062HH20
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4G062JJ10
4G062KK01
4G062KK03
4G062KK05
4G062KK07
4G062KK10
4G062MM27
4G062NN33
(57)【要約】
イオン交換されたアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品であり、15以上のピーク圧縮応力値のヤング率値に対する比を有する。ガラス物品は、Alのモル%+ROのモル%≧17モル%の条件を有し、ROのモル%=MgOのモル%+CaOのモル%であり、ZnO、SrO、BaO、B、P、LiO、および、KOを実質的に含まないものでありうる。ガラス物品は、500MPaから1300MPaの範囲のピーク圧縮応力値を有しうる。ガラス物品は、使用中に大きい曲げ応力を生じるカバーガラス利用を含む様々な高い強度の利用例、例えば、フレキシブルディスプレイ用カバーガラスに適する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン交換されたアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品において、
55モル%以上のSiOと、
12.5モル%以上から16.0モル%以下のAlと、
1モル%以上から3.88モル%以下のMgOと、
0.78モル%以上から3モル%以下のCaOと、
NaOと
を含み、
Alのモル%+ROのモル%≧17モル%であり、
ROのモル%=MgOのモル%+CaOのモル%であり、
前記ガラス物品は、ZnO、SrO、BaO、B、P、LiO、および、KOを実質的に含まないものであるガラス物品。
【請求項2】
前記ガラス物品は、
イオン交換される前にGPaで測定したヤング率値と、
前記ガラス物品の表面から圧縮深さまで延伸し、MPaで測定したピーク圧縮応力値を有する圧縮応力層と
を含み、
前記ピーク圧縮応力値の前記ヤング率値に対する比は、15以上である、請求項1に記載のイオン交換されたアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品。
【請求項3】
前記ピーク圧縮応力値の前記ヤング率値に対する比は、15以上から18以下である、請求項2に記載のイオン交換されたアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品。
【請求項4】
前記ヤング率値は、70MPa以上から80MPa以下の範囲である、請求項2に記載のイオン交換されたアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品。
【請求項5】
前記ピーク圧縮応力値は、500MPa以上から1300MPa以下の範囲である、請求項2に記載のイオン交換されたアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品。
【請求項6】
前記圧縮深さは、5マイクロメートル以上から30マイクロメートル以下の範囲である、請求項2に記載のイオン交換されたアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品。
【請求項7】
前記圧縮深さは、前記ガラス物品の厚さの5%以上から20%以下の範囲である、請求項2に記載のイオン交換されたアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品。
【請求項8】
NaOのモル%+ROのモル%≧20モル%である、請求項1から7のいずれか1項に記載のイオン交換されたアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品。
【請求項9】
(NaOのモル%+ROのモル%-Alのモル%)≧4モル%である、請求項1から7のいずれか1項に記載のイオン交換されたアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品。
【請求項10】
21モル%≧Alのモル%+ROのモル%≧17モル%である、請求項1から7のいずれか1項に記載のイオン交換されたアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品。
【請求項11】
37モル%≧Alのモル%+NaOのモル%≧28モル%である、請求項1から7のいずれか1項に記載のイオン交換されたアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品。
【請求項12】
(MgOのモル%/(MgOのモル%+CaOのモル%))≧0.5である、請求項1から7のいずれか1項に記載のイオン交換されたアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品。
【請求項13】
15マイクロメートル以上から300マイクロメートル以下の範囲の厚さを有する、請求項1から7のいずれか1項に記載のイオン交換されたアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品。
【請求項14】
イオン交換される前に測定した500kP以上から2300kP以下の範囲の液相粘度を有する、請求項1から7のいずれか1項に記載のイオン交換されたアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品。
【請求項15】
前記ガラス物品の表面から圧縮深さまで延伸し、500MPa以上から1300MPa以下の範囲のピーク圧縮応力値を有する圧縮応力層を、
含む、請求項1から7のいずれか1項に記載のイオン交換されたアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本願は、米国特許法第119条の下、2021年10月14日出願の米国仮特許出願第63/255,625号の優先権の利益を主張し、その内容は依拠され、全体として参照により本明細書に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本開示は、イオン交換可能なガラス組成物に関する。特に、本明細書に記載の態様は、様々な産業、例えば、消費者用電子機器、輸送、建築、防衛、医薬品、および、包装で用いるためのイオン交換可能なガラス組成物に関する。更に、本開示は、カバーガラス利用、例えば、フレキシブルディスプレイ用カバーガラスのためのガラス組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
多数の消費者用製品、例えば、スマートフォン、タブレット、ポータブルメディアプレーヤー、パーソナルコンピュータ、および、カメラには、ディスプレイのカバーとして機能しうるカバーガラスが組み込まれ、それに、タッチ機能を組み込みうる。これらの装置は、ユーザによって硬い表面に落とされることが多く、カバーガラスを破損させて、装置の使用に悪影響を与え、例えば、タッチ機能が損なわれうる。
【0004】
消費者用電子機器利用のための折り曲げ自在またはフレキシブルディスプレイは、薄く可撓性のイオン交換されたガラスの恩恵を受けうる。ガラスは、ガラス表面での圧縮応力生成を伴うイオン交換処理を通して、曲げ破損に対して強くなりうる。イオン交換処理を用いて導入された圧縮応力は、特に、ガラスの破損を生じうる傷を止める働きをする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、カバーガラス利用を含む様々な利用例で用いるために望ましい機械的物性を有するイオン交換可能なガラス組成物が常に必要されている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、様々な利用例、例えば、電子装置のカバーガラスに適した強度および可撓性を有するイオン交換可能なガラス組成物に関する。ガラス組成物は、ピーク圧縮応力値のヤング率値に対する比を最大にするように設計される。例えば、15以上などの高い比は、ガラス組成物が曲げられた際に、破損を防ぐことを可能にする。更に、イオン交換処理によってガラス組成物に与えられた強度は、ガラス組成物に、使用中の破壊を防ぐ望ましい機械的物性も提供する。ガラス組成物は、組成物をガラス物品へと形成するのに用いられるいくつかの製造技術を最適化するのに望ましい熱的物性(例えば、液相温度、および/または、液相粘度)も示しうる。更に、ガラス組成物は、イオン交換速度が望ましくないまで速くなりすぎるのも防いで、それにより、いくつかのイオン交換処理中にガラス組成物内のイオン交換の制御を助けうる。
【0007】
本出願の第1の態様(1)は、イオン交換されたアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品に関し、ガラス物品は、55モル%以上のSiOと、12.5モル%以上から16.0モル%以下のAlと、1モル%以上から3.88モル%以下のMgOと、0.78モル%以上から3モル%以下のCaOと、NaOとを含み、Alのモル%+ROのモル%≧17モル%であり、ROのモル%=MgOのモル%+CaOのモル%であり、ガラス物品は、ZnO、SrO、BaO、B、P、LiO、および、KOを実質的に含まないものである。
【0008】
第2の態様(2)において、第1の態様(1)によるアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品は、イオン交換される前にGPaで測定したヤング率値と、ガラス物品の表面から圧縮深さまで延伸し、MPaで測定したピーク圧縮応力値を有する圧縮応力層とを含み、ピーク圧縮応力値のヤング率値に対する比は、15以上である。
【0009】
第3の態様(3)において、第2の態様(2)によるピーク圧縮応力値のヤング率値に対する比は、15以上から18以下である。
【0010】
第4の態様(4)において、第2の態様(2)または第3の態様(3)によるヤング率値は、70MPa以上から80MPa以下の範囲である。
【0011】
第5の態様(5)において、態様(2)から(4)のいずれか1つによるピーク圧縮応力値は、500MPa以上から1300MPa以下の範囲である。
【0012】
第6の態様(6)において、態様(2)から(5)のいずれか1つによる圧縮深さは、5マイクロメートル以上から30マイクロメートル以下の範囲である。
【0013】
第7の態様(7)において、態様(2)から(6)のいずれか1つによる圧縮深さは、ガラス物品の厚さの5%以上から20%以下の範囲である。
【0014】
第8の態様(8)において、態様(1)から(7)のいずれか1つによるアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品を提供し、NaOのモル%+ROのモル%≧20モル%である。
【0015】
第9の態様(9)において、態様(1)から(8)のいずれか1つによるアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品を提供し、(NaOのモル%+ROのモル%-Alのモル%)≧4モル%である。
【0016】
第10の態様(10)において、態様(1)から(8)のいずれか1つによるアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品を提供し、11モル%≧(NaOのモル%+ROのモル%-Alのモル%)≧4モル%である。
【0017】
第11の態様(11)において、態様(1)から(10)のいずれか1つによるアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品を提供し、21モル%≧Alのモル%+ROのモル%≧17モル%である。
【0018】
第12の態様(12)において、態様(1)から(11)のいずれか1つによるアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品を提供し、37モル%≧Alのモル%+NaOのモル%≧28モル%である。
【0019】
第13の態様(13)において、態様(1)から(12)のいずれか1つによるアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品を提供し、(MgOのモル%/(MgOのモル%+CaOのモル%))≧0.5である。
【0020】
第14の態様(14)において、態様(1)から(12)のいずれか1つによるアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品を提供し、0.8≧(MgOのモル%/(MgOのモル%+CaOのモル%))≧0.5である。
【0021】
第15の態様(15)において、態様(1)から(14)のいずれか1つによるアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品は、1.92モル%以上から3.88モル%以下のMgOを含む。
【0022】
第16の態様(16)において、態様(1)から(15)のいずれか1つによるアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品は、0.78モル%以上から2.52モル%以下のCaOを含む。
【0023】
第17の態様(17)において、態様(1)から(16)のいずれか1つによるアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品は、59モル%以上から66モル%以下のSiOと、16モル%以上から21モル%以下のNaOとを含む。
【0024】
第18の態様(18)において、態様(1)から(14)のいずれか1つによるアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品は、64モル%以上から66モル%以下のSiOと、13モル%以上から15モル%以下のAlと、2モル%以上から3.88モル%以下のMgOと、0.78モル%以上から2モル%以下のCaOと、15.5モル%以上から17.5モル%以下のNaOとを含む。
【0025】
第19の態様(19)において、態様(1)から(14)のいずれか1つによるアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品は、59.6モル%以上から65.5モル%以下のSiOと、12.78モル%以上から15.96モル%以下のAlと、1.92モル%以上から3.88モル%以下のMgOと、0.78モル%以上から2.52モル%以下のCaOと、16.09モル%以上から20.2モル%以下のNaOとを含む。
【0026】
第20の態様(20)において、態様(1)から(19)のいずれか1つによるアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品は、4ミリメートル以下の厚さを有する。
【0027】
第21の態様(21)において、態様(1)から(19)のいずれか1つによるアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品は、15マイクロメートル以上から300マイクロメートル以下の範囲の厚さを有する。
【0028】
第22の態様(22)において、態様(1)から(21)のいずれか1つによるアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品は、イオン交換される前に測定した500kP以上から2300kP以下の範囲の液相粘度を有する。
【0029】
第23の態様(23)において、態様(1)または(8)から(22)のいずれか1つによるアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品は、ガラス物品の表面から圧縮深さまで延伸し、500MPa以上から1300MPa以下の範囲のピーク圧縮応力値を有する圧縮応力層を含む。
【0030】
本出願の第24の態様(24)は、イオン交換されたアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品に関し、電子ディスプレイと、電子ディスプレイの上に配置された態様(1)から(23)のいずれか1つによるガラス物品とを含む。
【0031】
第25の態様(25)において、第24の態様(24)による電子装置は、前面、後面、および、側面を有する筐体と、少なくとも部分的に筐体にあり、制御部、メモリ、および、筐体の前面に、若しくは、筐体に隣接した電子ディスプレイを含む電気的構成要素とを更に含み、ガラス物品は、筐体の少なくとも一部を形成するものである。
【0032】
本出願の第26の態様(26)は、イオン交換されたアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品に関し、59モル%以上から66モル%以下のSiOと、12.5モル%以上から16.0モル%以下のAlと、1モル%以上から3.88モル%以下のMgOと、0.78モル%以上から3モル%以下のCaOと、16モル%以上から21モル%以下のNaOと、ガラス物品をイオン交換する前にGPaで測定したヤング率値と、イオン交換されたガラス物品の表面から延伸し、MPaで測定したピーク圧縮応力値を有する圧縮応力層とを含み、Alのモル%+ROのモル%≧17モル%、ROのモル%=MgOのモル%+CaOのモル%であり、ZnO、SrO、BaO、B、P、LiO、および、KOを実質的に含まないものであり、ピーク圧縮応力値のヤング率値に対する比は、15以上から18以下である。
【0033】
本出願の第27の態様(27)は、イオン交換されたアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品に関し、55モル%以上のSiOと、12.5モル%以上から16モル%以下のAlと、1モル%以上から4モル%以下のMgOと、0.5モル%以上から3モル%以下のCaOと、NaOとを含み、Alのモル%+ROのモル%≧17モル%であり、ROのモル%=MgOのモル%+CaOのモル%であり、ZnO、SrO、BaO、B、P、LiO、および、KOを、実質的に含まないものである。
【0034】
第28の態様(28)において、第27の態様(27)によるイオン交換されたアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品は、イオン交換される前にGPaで測定したヤング率値と、ガラス物品の表面から圧縮深さまで延伸し、MPaで測定したピーク圧縮応力値を有する圧縮応力層とを含み、ピーク圧縮応力値のヤング率値に対する比は、15以上である。
【0035】
本出願の第29の態様(29)は、アルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品を強化する方法に関し、方法は、アルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品を、50質量%以上のカリウム塩を含むイオン交換溶液に浸漬させる工程を含み、ガラス物品は、55モル%以上のSiOと、12.5モル%以上から16.0モル%以下のAlと、1モル%以上から3.88モル%以下のMgOと、0.78モル%以上から3モル%以下のCaOと、NaOとを含むものであり、Alのモル%+ROのモル%≧17モル%で、ROのモル%=MgOのモル%+CaOのモル%であり、ガラス物品は、ZnO、SrO、BaO、B、P、LiO、および、KOを実質的に含まない。方法は、ガラス物品をイオン交換溶液で、5分以上から24時間以下の範囲の時間、350℃以上から480℃以下の範囲の温度でイオン交換して、ガラス物品の表面から圧縮深さまで延伸し、500MPa以上から1300MPa以下の範囲のピーク圧縮応力値を含む圧縮応力層を実現する工程を含む。
【0036】
第30の態様(30)において、第29の態様(29)によるアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品を強化する方法は、イオン交換される前にGPaで測定したヤング率値、および、15以上のピーク圧縮応力値のヤング率値に対する比を含む。
【0037】
第31の態様(31)において、第29の態様(29)によるアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品を強化する方法は、イオン交換される前にGPaで測定したヤング率値、および、15以上から18以下のピーク圧縮応力値のヤング率値に対する比を含む。
【0038】
第32の態様(32)において、第30の態様(30)または第31の態様(31)によるヤング率値は、70MPa以上から80MPa以下の範囲である。
【0039】
第33の態様(33)において、態様(29)から(32)のいずれか1つによる圧縮深さは、5マイクロメートル以上から30マイクロメートル以下の範囲である。
【0040】
第34の態様(34)において、態様(29)から(33)のいずれか1つによる圧縮深さは、ガラス物品の厚さの5%以上から20%以下の範囲である。
【0041】
第35の態様(35)において、態様(29)から(34)のいずれか1つによる方法を提供し、ガラス物品は、NaOのモル%+ROのモル%≧20モル%の条件を含む。
【0042】
第36の態様(36)において、態様(29)から(35)のいずれか1つによる方法を提供し、ガラス物品は、(NaOのモル%+ROのモル%-Alのモル%)≧4モル%の条件を含む。
【0043】
第37の態様(37)において、態様(29)から(35)のいずれか1つによる方法を提供し、ガラス物品は、11モル%≧(NaOのモル%+ROのモル%-Alのモル%)≧4モル%の条件を含む。
【0044】
第38の態様(38)において、態様(29)から(37)のいずれか1つによる方法を提供し、ガラス物品は、21モル%≧Alのモル%+ROのモル%≧17モル%の条件を含む。
【0045】
第39の態様(39)において、態様(29)から(38)のいずれか1つによる方法を提供し、ガラス物品は、37モル%≧Alのモル%+NaOのモル%≧28モル%の条件を含む。
【0046】
第40の態様(40)において、態様(29)から(39)のいずれか1つによる方法を提供し、(MgOのモル%/(MgOのモル%+CaOのモル%))≧0.5である。
【0047】
第41の態様(41)において、態様(29)から(39)のいずれか1つによる方法を提供し、ガラス物品は、0.8≧(MgOのモル%/(MgOのモル%+CaOのモル%))≧0.5の条件を含む。
【0048】
第42の態様(42)において、態様(29)から(41)のいずれか1つによるアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品を強化する方法であり、ガラス物品は、1.92モル%以上から3.88モル%以下のMgOを含む。
【0049】
第43の態様(43)において、態様(29)から(42)のいずれか1つによるアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品を強化する方法であり、ガラス物品は、0.78モル%以上から2.52モル%以下のCaOを含む。
【0050】
第44の態様(44)において、態様(29)から(43)のいずれか1つによるアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品を強化する方法であり、ガラス物品は、59モル%以上から66モル%以下のSiOと、16モル%以上から21モル%以下のNaOとを含む。
【0051】
第45の態様(45)において、態様(29)から(41)のいずれか1つによるアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品を強化する方法であり、ガラス物品は、64モル%以上から66モル%以下のSiOと、13モル%以上から15モル%以下のAlと、2モル%以上から3.88モル%以下のMgOと、0.78モル%以上から2モル%以下のCaOと、15.5モル%以上から17.5モル%以下のNaOとを含む。
【0052】
第46の態様(46)において、態様(29)から(41)のいずれか1つによるアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品を強化する方法であり、ガラス物品は、59.6モル%以上から65.5モル%以下のSiOと、12.78モル%以上から15.96モル%以下のAlと、1.92モル%以上から3.88モル%以下のMgOと、0.78モル%以上から2.52モル%以下のCaOと、16.09モル%以上から20.2モル%以下のNaOとを含む。
【0053】
第47の態様(47)において、態様(29)から(46)のいずれか1つによるアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品を強化する方法であり、ガラス物品は、4ミリメートル以下の厚さを有する。
【0054】
第48の態様(48)において、態様(29)から(46)のいずれか1つによるアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品を強化する方法であり、ガラス物品は、15マイクロメートル以上から300マイクロメートル以下の範囲の厚さを有する。
【0055】
第49の態様(49)において、態様(29)から(48)のいずれか1つによるアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品を強化する方法であり、ガラス物品は、イオン交換される前に測定した500kP以上から2300kP以下の範囲の液相粘度を有する。
【0056】
添付の図面は、本明細書に組み込まれて、その一部を形成し、本開示の態様を示すものである。図面は、明細書の記載と共に、更に原理を説明し、開示した態様を当業者が製作および使用できるようにする役割を果たす。これらの図面は、例示することを意図したもので、限定するものではない。概して、本開示を、これらの態様のコンテキストで記載するが、本開示の範囲をこれらの特定の態様に限定することを意図しないと理解すべきである。図面において、類似の参照番号は、同一、または、機能的に同様の要素を示している。
【図面の簡単な説明】
【0057】
図1】本態様による圧縮応力領域を有するガラス物品の断面を示す。
図2】ガラス物品を曲げた際の本態様によるガラス物品の断面図を示す。
図3A】本明細書に開示の任意のガラス物品によるガラス物品を組み込んだ例示的な電子装置の平面図である。
図3B図3Aの例示的な電子装置の斜視図である。
図4】様々な例示的なイオン交換されたガラス組成物について、計算したガラス強度のCS/E比に対するグラフである。
図5】様々な例示的なイオン交換されたガラス組成物について、CS/E比の液相粘度に対するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0058】
次に記載する例は、例示にすぎず、本開示を限定するものではない。当分野で通常生じる様々な条件およびパラメータの他の適した変更例および適応例も、当業者に明らかであり、本開示の精神および範囲に含まれる。
【0059】
本明細書に記載のガラスは、イオン交換されて高いピーク圧縮応力を実現しうるイオン交換可能なアルカリアルミノケイ酸塩ガラス群である。本明細書で用いるように、「イオン交換可能」は、基板の表面または近くに位置する第1の陽イオンを、同じ原子価を有する第2の陽イオンと可能なガラス組成物、または、その組成物を含むガラス物品を意味する。第1のイオンは、ナトリウムイオンでありうる。第2のイオンは、第1のイオンより大きいイオン半径を有するという条件で、カリウム、ルビジウム、および、セシウムのうち1つのイオンでありうる。第1のイオンは、ガラス系基板に、その酸化物(例えば、NaO)として存在する。本明細書で用いるように、「イオン交換されたガラス」または「化学強化されたガラス」は、ガラスの表面または近くに位置する陽イオンを同じ原子価を有する陽イオンと交換する少なくとも1つのイオン交換処理に曝されたガラスを意味する。
【0060】
本明細書に記載のガラス組成物はイオン交換されて、高いピーク圧縮応力を実現しうる。態様において、本明細書に記載のガラスはイオン交換されて、約500MPa以上から約1400MPaまでのピーク圧縮応力を実現しうる。イオン交換処理中に与えられる高いピーク圧縮応力は、浅い傷サイズ分布のガラスに高い強度を与えて、それにより、曲げの間の破損を防ぎうる。高いピーク圧縮応力は、ガラスがネットで圧縮状態を保持するのを可能にし、したがって、ガラスが厳しい曲げ半径で曲げられる時に表面の傷を保持可能にしうる。本明細書に記載の態様のガラスは、低いヤング率を有し、その結果、曲げの間の曲げ応力値を低下させて、曲げを生じる間の破損を防ぎうる。
【0061】
更に、本明細書に記載のガラス組成物は、イオン交換処理によって生成された圧縮領域について、広い圧縮深さ範囲に亘り、15以上のピーク圧縮応力値のヤング率値に対する比(ピーク圧縮応力値/ヤング率値、CS/E、但し、CSは、MPaで、Eは、GPaで表す)を有する。イオン交換処理中に与えられる表面圧縮応力は、ヤング率から強い影響を受けうるので、この比を高めるのは難しく、ヤング率を高めることが、圧縮応力を改良する通常の方法である。つまり、ヤング率は、ネットワークの剛性の測定値である。例えば、K+イオンをNa+サイトへと置換することで、圧縮応力を与えるが、ネットワークはより堅くなるので(ヤング率の上昇によって)、次に、膨張応力が高くなる。したがって、より高いCSを得るための1つの一般的な方法は、単にヤング率を高めることだが、本開示では、ヤング率を有意に高めることなくCSを増加させている。CS/E比が高いと、ガラス組成物は、イオン交換の後でも可撓性のままでありうる。本明細書に記載のガラス組成物は、イオン交換される前に十分低いヤング率を有し、イオン交換処理中に与えられうる圧縮応力の値は、広い圧縮深さ範囲に亘って高いCS/E比を実現するのに十分高い。これにより、可撓性であると共に、高い表面圧縮応力値を受け付けたガラス組成物を生じる。ガラス組成物は、イオン交換処理中に生じうる応力緩和を阻止するので、ガラス組成物は、大きい圧縮深さ、例えば、50マイクロメートル(ミクロン、および/または、μm)もの深さで、高い表面圧縮応力を受け付けることが可能である。高温および時間の経過でより顕著になりうる応力緩和は、大きい圧縮深さを与えるように設計されたイオン交換処理の際に生じ易い。本明細書に記載のガラス組成物のこれらの特徴は、ガラス組成物を、使用中に大きな曲げ応力を受ける高い強度のカバーガラス利用を含む様々な産業利用に、例えば、可撓性で折り曲げ自在ディスプレイのカバーガラスとして適するようにする。
【0062】
本明細書で用いるように、「ピーク圧縮応力」は、圧縮応力領域内で測定した最も高い圧縮応力(CS)値を称する。態様において、ピーク圧縮応力は、ガラスの表面に位置する。他の態様において、ピーク圧縮応力は、表面より下の深さで生じうるもので、「埋まったピーク」として現れる圧縮応力プロファイルを与えうる。別段の記載がない限りは、圧縮応力(表面CSを含む)は、市販の計器、例えば、有限会社折原製作所(日本)製造のFSM-6000を用いて、表面応力計(FSM)によって測定される。表面応力測定は、応力光学係数(SOC)の正確な測定に依存し、それは、ガラスの複屈折に関係する。SOCは、次に、「Standard Test Method for Measurement of Glass Stress‐Optical Coefficient」という名称でASTM規格C770-16に記載の手順C(ガラスディスク法)により測定される。
【0063】
本明細書で用いるように、「圧縮深さ」(DOC)は、ガラス物品内の応力が圧縮応力から引張応力に変化する深さを称する。DOCにおいて、応力は、圧縮応力から引張応力に移り変わり、したがって、ゼロの応力値を示す。圧縮深さ、および、層深さは、表面応力計、例えば、FSM-6000表面応力計によって測定しうる。本明細書で用いるように、「層深さ」(DOL)は、金属酸化物のイオンがガラス物品内に拡散するガラス物品内の深さを称し、そこで、イオン濃度が最小になる。例えば、カリウムのみが、ガラス物品内にイオン交換された状態で、DOCは、DOLに等しくなりうる。別段の記載がない限りは、本明細書において、DOCとDOLを置換え可能に用いる。
【0064】
本明細書に記載のガラス組成物を、妥当なコストで生産することも可能でありうる。ガラス組成物は、ある製造技術、例えば、スロットドローについて、適切に高い液相温度、および、適切に低い液相粘度を示す。これらの熱的物性は、組成物から製作されるガラス物品の製造容易性を高め、それにより、コストを削減しうる。本開示のガラス組成物は、特に、製造中の溶融を促進する酸化アルミニウム含有量、酸化マグネシウム含有量、酸化カルシウム含有量、および、酸化ナトリウム含有量を有する。態様において、ガラス組成物は、500kP(キロポアズ)以上から2300kP以下の範囲の液相粘度を有しうる。態様において、ガラス組成物は、500℃以上の液相温度を有しうる。
【0065】
本明細書に記載のガラス組成物は、次に記載する利点の1つ以上を提供しうる。(1)組成物は、リチウムを含まないが、イオン交換中に、(例えば、1400MPaまでもの)高い圧縮応力値を、小さい圧縮深さ(DOC)で実現し、約1100MPaまでの圧縮応力値を、20ミクロン(マイクロメートル、μm)のDOCで、更に、より大きい約40マイクロメートルのDOCで実現可能である。(2)組成物は、低弾性率を有し、それにより、高いCS/E比を可能にし、薄い折り曲げ自在の利用例について曲げ自在性を改良する。(3)これらのガラスを製作するための材料は安価で、入手が容易である。(4)組成物は、より高い過剰改質剤含有量を有し、溶融を容易にしうる。ガラス組成物について、「過剰改質剤」含有量は、(ROのモル%+ROのモル%-Alのモル%)の値が0モル%より大きいことを意味し、但し、ROのモル%は、組成物中の全アルカリ金属酸化物の合計モル%であり、ROのモル%は、組成物中の全アルカリ土類金属酸化物の合計モル%である。(5)組成物は、低い液相温度、高い液相粘度、および、成長が遅い液相を有し、それらの全てが、シート形成に有利である。(6)組成物は、溶融塩浴に曝された時に、速いイオン交換速度を防ぎうるもので、それにより、改良された製造処理制御を可能にしうる。換言すれば、組成物は、比較的遅くイオン交換されて、それは、組成物中のイオン交換の制御に有利でありうる。例えば、組成物中の比較的遅いイオン交換速度のために、イオン交換されたガラス物品のDOCを、より精密に制御しうる。特に、薄いガラス物品(例えば、500マイクロメートル以下の厚さを有するガラス物品)について、DOCはガラス物品中の望ましい深さに急速に近づきうるので、精密に制御されたDOCは、有利でありうる。
【0066】
合計応力(δnet)の観点から表したガラス強度、傷サイズ(a)、および、材料の破壊靭性(KIC)の関係を支配する基本的な破壊靭性の式から始めて、本明細書に記載のCS/E比の利点を示しうる。破壊靭性を、次式で表しうる。
【0067】
【数1】
【0068】
式1において、「Y」は、幾何学的因子であり、δnet=δbend-δIOXであり、但し、δbendは、ガラス物品に加えられる曲げ応力であり、δIOXは、ガラス物品にイオン交換によって加えられる圧縮応力である。小さい傷サイズについて、δIOXは、ピーク圧縮応力(SC)に等しくなりうる。曲げ試験中にミリメートルで測定したプレート間隔距離(D)について、δbendを、次式を用いて表しうるもので、但し、E=パスカルで測定したガラス組成物のヤング率であり、vは、ガラス組成物のポアソン比であり、hは、マイクロメートルで測定したガラス物品の厚さである。
【0069】
【数2】
【0070】
一連の代入によって、次式を用いて、ガラス強度(δnet)を表しうる。アルカリアルミノケイ酸塩ガラスのポアソン比は、約0.21なので、Zh,Dは、実質的に一定と考えうる。
【0071】
【数3】
【0072】
図4のグラフ400は、80の例示的なガラス組成物について、
【0073】
のCS/E比に対するプロットを示している。グラフ400のCS/E比は、20マイクロメートルのDOCを有する30マイクロメートルの厚さのガラス物品について測定したものである。図4のガラス強度値は、30マイクロメートルの厚さのガラス物品、および、3ミリメートルのプレート間隔距離(D)に基づいて計算したものである。グラフ400が示すように、
【0074】
は、CS/E比に正比例し、次に記載の関係を導出しうる。
【0075】
【数4】
【0076】
したがって、次に記載の関係により、(δnet)は、CS/Eに正比例であると言える。
【0077】
【数5】
【0078】
したがって、CS/E比を増加させることによって、ガラス強度(δnet)を高めうる。CS/E比の増加は、特に、同じ厚さのガラスについて、より厳しい曲げ半径を可能にし、より厚いガラスを、ガラスの破損をせずに、同じプレート間隔距離(D)まで曲げるのを可能にし、傷許容度を高めることで、製造歩留まりを改良しうる。これらの利点を、式1~5を用いて、更に、表1にまとめたヤング率およびピーク圧縮応力値を有する2つのガラス組成物の次のような比較を検討することによって定量化しうる。表1の組成物A(CA)は、68.95モル%のSiO、10.27モル%のAl、5.36モル%のMgO、0.06モル%のCaO、15.20のNaO、および、0.17モル%のSnOを含む組成物である。表1の組成物44(C44)は、表2Gに記載の組成物C44である。
【0079】
【表1】
【0080】
CAから構成され、0.264マイクロメートルの30%K1C傷サイズを有する30マイクロメートルの厚さのガラス物品を、約3mmのプレート間隔距離(D)まで、約901MPaの曲げ応力で安全に曲げることができ、結果的に、201MPaのδnetを得た。これと比べて、C44から構成され、同じ傷サイズを有する30マイクロメートルの厚さのガラス物品は、201MPaのδnetを維持しながら、より厳しい2.66mmのプレート間隔距離(D)まで安全に曲げることができる。これに関連して、C44から構成され、同じ傷サイズを有する34マイクロメートルの厚さのガラス物品は、201MPaのδnetを維持しながら、3mmのプレート間隔距離(D)まで安全に曲げることができる。
【0081】
更に、CAから構成された30マイクロメートルの厚さのガラス物品は、3mmのプレート間隔(D)まで安全に曲げることができ、結果的に、201MPaのδnetを得て、0.264マイクロメートルの30%K1C傷サイズに対応する。これと比べて、C44から構成された30マイクロメートルの厚さのガラス物品は、3mmのプレート間隔距離(D)まで安全に曲げることができ、結果的に、僅か81MPaのδnetを得た。僅か81MPaのδnetで、C44から構成されたガラス物品は、1.626マイクロメートルまでの30%K1C傷サイズに耐えうる。
【0082】
本明細書で用いるように、「ガラス」という用語は、少なくとも部分的にガラスから製作された任意の材料を含むことを意味し、ガラス、および、ガラスセラミックスを含む。「ガラスセラミックス」は、制御されたガラスの結晶化を通して製造された材料を含む。1つ以上の核剤、例えば、酸化チタン(TiO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化ナトリウム(NaO)、および、酸化リン酸化物(P)をガラスセラミック組成物に加えて、均一な結晶化を容易にしうる。
【0083】
別段の記載がない限り、本明細書に記載のガラス組成物について、成分(例えば、SiO、Al、NaOなど)の濃度は、酸化物基準のモルパーセント(モル%)で示している。次に、本態様によるガラス組成物の成分を個々に記載する。1つの成分の任意の様々な記載した範囲を、任意の他の成分の任意の様々な記載した範囲と個々に組み合わせうると理解すべきである。本明細書で用いるように、数値の最後尾の0は、その数値について有効数字を表すこと意図する。例えば、数値「1.0」は、2つの有効数字を含み、数値「1.00」は、3つの有効数字を含む。本明細書で用いるように、下限値としての0モル%によって画定された範囲内の酸化物を含むとして記載された組成物は、その組成物が、0モル%より大きく(例えば、0.01モル%、または、0.1モル%)、かつ、その範囲の上限までの任意の量の酸化物を含むことを意味する。
【0084】
SiOは、ガラス組成物における最大の成分でありうるので、ガラス組成物から形成されたガラスネットワークの主成分である。純粋なSiOは、比較的低い熱膨張率(CTE‐本明細書で用いるように、この物性は、0℃から300℃の温度で測定される)を有し、アルカリを含まない。しかしながら、純粋なSiOは、高い融点を有する。したがって、ガラス組成物のSiOの濃度が高すぎると、より高い濃度のSiOは、ガラスの溶融を難しくして、ガラスの形成自在性に悪影響を与えるので、ガラス組成物の形成自在性が低下しうる。
【0085】
態様において、ガラス組成物は、55モル%以上のSiO、56モル%以上のSiO、57モル%以上のSiO、58モル%以上のSiO、59モル%以上のSiO、60モル%以上のSiO、61モル%以上のSiO、62モル%以上のSiO、63モル%以上のSiO、64モル%以上のSiO、65モル%以上のSiO、または、66モル%以上のSiOを含みうる。態様において、ガラス組成物は、70モル%以下のSiO、69モル%以下のSiO、68モル%以下のSiO、67モル%以下のSiO、66モル%以下のSiO、65モル%以下のSiO、64モル%以下のSiO、63モル%以下のSiO、62モル%以下のSiO、61モル%以下のSiO、または、60モル%以下のSiOを含みうる。
【0086】
任意の上記SiOの範囲を、他の範囲と組み合わせうる。例えば、態様において、ガラス組成物は、55モル%以上から70モル%以下のSiO、55モル%以上から69モル%以下のSiO、55モル%以上から68モル%以下のSiO、55モル%以上から67モル%以下のSiO、55モル%以上から66モル%以下のSiO、55モル%以上から65モル%以下のSiO、55モル%以上から64モル%以下のSiO、55モル%以上から63モル%以下のSiO、55モル%以上から62モル%以下のSiO、55モル%以上から61モル%以下のSiO、55モル%以上から60モル%以下のSiO、56モル%以上から70モル%以下のSiO、57モル%以上から70モル%以下のSiO、58モル%以上から70モル%以下のSiO、59モル%以上から70モル%以下のSiO、60モル%以上から70モル%以下のSiO、61モル%以上から70モル%以下のSiO、62モル%以上から70モル%以下のSiO、63モル%以上から70モル%以下のSiO、64モル%以上から70モル%以下のSiO、または、65モル%以上から70モル%以下のSiOを含みうる。
【0087】
態様において、ガラス組成物は、59モル%以上から66モル%以下のSiOを含み、部分範囲を含みうる。例えば、態様において、ガラス組成物は、60モル%以上から66モル%以下のSiO、61モル%以上から66モル%以下のSiO、62モル%以上から66モル%以下のSiO、63モル%以上から66モル%以下のSiO、64モル%以上から66モル%以下のSiO、65以上から66モル%以下のSiO、59以上から65モル%以下のSiO、59以上から64モル%以下のSiO、59モル%以上から63モル%以下のSiO、59以上から62モル%以下のSiO、59モル%以上から61モル%以下のSiO、または、59モル%以上から60モル%以下のSiOを含みうる。
【0088】
態様において、ガラス組成物は、59.6モル%以上から65.5モル%以下のSiOを含み、部分範囲を含みうる。例えば、態様において、ガラス組成物は、60.0モル%以上から65.5モル%以下のSiO、60.5モル%以上から65.5モル%以下のSiO、61.0モル%以上から65.5モル%以下のSiO、61.5モル%以上から65.5モル%以下のSiO、62.0モル%以上から65.5モル%以下のSiO、62.5モル%以上から65.5モル%以下のSiO、63.0モル%以上から65.5モル%以下のSiO、59.6モル%以上から65.0モル%以下のSiO、59.6モル%以上から64.5モル%以下のSiO、59.6モル%以上から64.0モル%以下のSiO、59.6モル%以上から63.5モル%以下のSiO、59.6モル%以上から63.0モル%以下のSiO、または、59.6モル%以上から62.5モル%以下のSiOを含みうる。
【0089】
本明細書に記載のガラス組成物は、Alを含む。追加されるAlは、ガラスネットワークフォーマーとして働きうる。更に、組成物中でAlの濃度をSiOの濃度およびアルカリ酸化物の濃度とバランスさせた場合、溶融ガラスの液相温度を低下させて、それにより、液相粘度を高めうる。
【0090】
態様において、組成物中のAlのモル%とROのモル%の合計(Alのモル%+ROのモル%)は、17モル%以上でありうる。態様において、Alのモル%+ROのモル%は、17モル%以上から21モル%以下(例えば、21モル%≧Alのモル%+ROのモル%≧17モル%)であり、部分範囲を含みうる。態様において、Alのモル%+ROのモル%は、18モル%以上、19モル%以上、または、20モル%以上でありうる。態様において、Alのモル%+ROのモル%は、20モル%以下、19モル%以下、または、18モル%以下でありうる。上記式において、ROのモル%は、MgOのモル%とCaOのモル%の合計に等しい。
【0091】
任意の上記範囲を、任意の他の範囲と組み合わせうる。例えば、態様において、Alのモル%+ROのモル%は、17モル%以上から21モル%以下、18モル%以上から21モル%以下、19モル%以上から21モル%以下、17モル%以上から20モル%以下、または、17モル%以上から19モル%以下でありうる。
【0092】
上記(Alのモル%+ROのモル%)の値は、本明細書に記載のガラス組成物に有益である。上記(Alのモル%+ROのモル%)の値を用いて、ガラス組成物は、本明細書に記載のように、広い圧縮深さに亘って、高いピーク圧縮応力を実現可能である。(Alのモル%+ROのモル%)が17モル%より低い場合には、次に、望ましいような高いイオン交換応力が形成されなくなりうる。(Alのモル%+ROのモル%)が21モル%より高い場合、次に、イオン交換処理が遅すぎるか、および/または、ヤング率が望ましくないまで高くなりうる。更に、21モル%より高い値では、ガラス組成物の製造性が低下しうる。
【0093】
態様において、ガラス組成物は、12.5モル%以上から16.0モル%以下のAlを含み、部分範囲を含みうる。例えば、態様において、ガラス組成物は、13.0モル%以上から16.0モル%以下のAl、13.5モル%以上から16.0モル%以下のAl、14.0モル%以上から16.0モル%以下のAl、14.5モル%以上から16.0モル%以下のAl、15.0モル%以上から16.0モル%以下のAl、12.5モル%以上から15.5モル%以下のAl、12.5モル%以上から15.0モル%以下のAl、12.5モル%以上から14.5モル%以下のAl、12.5モル%以上から14.0モル%以下のAl、または、12.5モル%以上から13.5モル%以下のAlを含みうる。
【0094】
態様において、ガラス組成物は、13モル%以上から15モル%以下のAlを含み、部分範囲を含みうる。例えば、態様において、ガラス組成物は、13.5モル%以上から15モル%以下のAl、14モル%以上から15モル%以下のAl、14.5モル%以上から15モル%以下のAl、13モル%以上から14.5モル%以下のAl、13モル%以上から14.0モル%以下のAl、または、13モル%以上から13.5モル%以下のAlを含みうる。
【0095】
態様において、ガラス組成物は、12.78モル%以上から15.96モル%以下のAlを含み、部分範囲を含みうる。例えば、態様において、ガラス組成物は、13.0モル%以上から15.96モル%以下のAl、13.25モル%以上から15.96モル%以下のAl、13.5モル%以上から15.96モル%以下のAl、13.75モル%以上から15.96モル%以下のAl、14.0モル%以上から15.96モル%以下のAl、14.25モル%以上から15.96モル%以下のAl、14.5モル%以上から15.96モル%以下のAl、14.75モル%以上から15.96モル%以下のAl、15.0モル%以上から15.96モル%以下のAl、12.78モル%以上から15.75モル%以下のAl、12.78モル%以上から15.5モル%以下のAl、12.78モル%以上から15.25モル%以下のAl、12.78モル%以上から15.0モル%以下のAl、12.78モル%以上から14.75モル%以下のAl、12.78モル%以上から14.5モル%以下のAl、12.78モル%以上から14.25モル%以下のAl、12.78モル%以上から14.0モル%以下のAl、または、12.78モル%以上から13.75モル%以下のAlを含みうる。
【0096】
態様において、ガラス組成物は、12.5モル%以上から16モル%以下のAlを含み、部分範囲を含みうる。例えば、態様において、ガラス組成物は、13モル%以上から16モル%以下のAl、14モル%以上から16モル%以下のAl、12.5モル%以上から15モル%以下のAl、または、12.5モル%以上から14モル%以下のAlを含みうる。
【0097】
本明細書に記載のガラス組成物は、NaOを含む。NaOは、ガラス組成物のイオン交換性を促進し、形成自在性を改良して、それにより、ガラス組成物の製造性を改良しうる。しかしながら、ガラス組成物に加えられるNaOが多すぎると、CTEが低くなりすぎて、融点が高くなりすぎうる。更に、ガラス組成物に加えられるNaOが多すぎると、いくつかの場合に、組成物中のイオン交換を精密に制御するにはガラスのイオン交換速度が速くなりすぎうる。
【0098】
態様において、ガラス組成物は、16モル%以上から21モル%以下のNaOを含み、部分範囲を含みうる。例えば、態様において、ガラス組成物は、16.5モル%以上から21モル%以下のNaO、17モル%以上から21モル%以下のNaO、17.5モル%以上から21モル%以下のNaO、18モル%以上から21モル%以下のNaO、18.5モル%以上から21モル%以下のNaO、19モル%以上から21モル%以下のNaO、19.5モル%以上から21モル%以下のNaO、20モル%以上から21モル%以下のNaO、16モル%以上から20.5モル%以下のNaO、16モル%以上から20モル%以下のNaO、16モル%以上から19.5モル%以下のNaO、16モル%以上から19モル%以下のNaO、16モル%以上から18.5モル%以下のNaO、16モル%以上から18モル%以下のNaO、または、16モル%以上から17.5モル%以下のNaOを含みうる。
【0099】
態様において、ガラス組成物は、15.5モル%以上から17.5モル%以下のNaOを含み、部分範囲を含みうる。例えば、態様において、ガラス組成物は、15.75モル%以上から17.5モル%以下のNaO、16.0モル%以上から17.5モル%以下のNaO、16.25モル%以上から17.5モル%以下のNaO、16.5モル%以上から17.5モル%以下のNaO、16.75モル%以上から17.5モル%以下のNaO、17.0モル%以上から17.5モル%以下のNaO、15.5モル%以上から17.25モル%以下のNaO、15.5モル%以上から17.0モル%以下のNaO、15.5モル%以上から16.75モル%以下のNaO、15.5モル%以上から16.5モル%以下のNaO、15.5モル%以上から16.25モル%以下のNaO、または、15.5モル%以上から16.0モル%以下のNaOを含みうる。
【0100】
態様において、ガラス組成物は、16.09モル%以上から20.2モル%以下のNaOを含み、部分範囲を含みうる。例えば、態様において、ガラス組成物は、16.5モル%以上から20.2モル%以下のNaO、17.0モル%以上から20.2モル%以下のNaO、17.5モル%以上から20.2モル%以下のNaO、18.0モル%以上から20.2モル%以下のNaO、18.5モル%以上から20.2モル%以下のNaO、19.0モル%以上から20.2モル%以下のNaO、16.09モル%以上から20.0モル%以下のNaO、16.09モル%以上から19.5モル%以下のNaO、16.09モル%以上から19.0モル%以下のNaO、16.09モル%以上から18.5モル%以下のNaO、16.09モル%以上から18.0モル%以下のNaO、16.09モル%以上から17.5モル%以下のNaO、または、16.09モル%以上から17.0モル%以下のNaOを含みうる。
【0101】
態様において、ガラス組成物についてのNaOのモル%+ROのモル%-Alのモル%(NaOのモル%+ROのモル%-Alのモル%)は、4モル%以上でありうる。態様において、NaOのモル%+ROのモル%-Alのモル%は、4モル%以上から11モル%以下(例えば、11モル%≧(NaOのモル%+ROのモル%-Alのモル%)≧4モル%)であり、部分範囲を含みうる。態様において、NaOのモル%+ROのモル%-Alのモル%は、5モル%以上、6モル%以上、7モル%以上、8モル%以上、9モル%以上、または、10モル%以上でありうる。態様において、NaOのモル%+ROのモル%-Alのモル%は、11モル%以下、10モル%以下、9モル%以下、8モル%以下、7モル%以下、6モル%以下、または、5モル%以下でありうる。上記式において、ROのモル%は、MgOのモル%とCaOのモル%の合計に等しい。
【0102】
任意の上記範囲を、任意の他の範囲と組み合わせうる。例えば、態様において、NaOのモル%+ROのモル%-Alは、4モル%以上から10モル%以下、4モル%以上から9モル%以下、4モル%以上から8モル%以下、または、4モル%以上から7モル%以下でありうる。
【0103】
上記(NaOのモル%+ROのモル%-Alのモル%)の値は、本明細書に記載のガラス組成物に有益である。上記(NaOのモル%+ROのモル%-Alのモル%)の値を用いて、ガラス組成物は、次に記載の有利な物性を示す。第1に、(NaOのモル%+ROのモル%-Alのモル%)の値を上記のように調整することで、ガラス組成物の溶融性を改良する。本明細書に記載のように、その(NaOのモル%+ROのモル%-Alのモル%)の値は、有利な熱的物性、例えば、液相温度および液相粘度を生じさせて、それは、組成物からのガラス物品の製造を容易にする。(NaOのモル%+ROのモル%-Alのモル%)の値が4モル%より小さいと、ガラス組成物の溶融性が損なわれうる。第2に、(NaOのモル%+ROのモル%-Alのモル%)の値を上記のように調整することで、イオン交換処理によって与えられる圧縮応力を相殺する大きな応力緩和をガラス物品で防ぎながら、望ましい組成勾配を生じうるイオン交換範囲を確実にしうる。(NaOのモル%+ROのモル%-Alのモル%)の値が11モル%より大きいと、イオン交換処理中に、ガラス物品内で大きな量の応力緩和を生じうる。このような応力緩和は、イオン交換中に与えられる圧縮応力、特に、ピーク圧縮応力を低下させうる。
【0104】
態様において、ガラス組成物について、NaOのモル%+ROのモル%(NaOのモル%+ROのモル%)は、20モル%以上でありうる。態様において、NaOのモル%+ROのモル%は、20モル%以上から25モル%以下(例えば、25モル%≧(NaOのモル%+ROのモル%)≧20モル%)でありうる。上記(NaOのモル%+ROのモル%)の値は、本明細書に記載のガラス組成物に有益でありうる。上記(NaOのモル%+ROのモル%)の値を用いて、スロットドローなど、組成物をガラス物品へと形成するいくつかの製造技術について、ガラス組成物は、望ましい液相温度、望ましい液相粘度、または、それらの両方を示しうる。更に、上記(NaOのモル%+ROのモル%)の値は、イオン交換中に高いピーク圧縮応力の形成を容易にしうる。
【0105】
態様において、ガラス組成物について、Alのモル%+NaOのモル%(Alのモル%+NaOのモル%)は、28モル%以上でありうる。態様において、Alのモル%+NaOのモル%は、28モル%以上から37モル%以下(例えば、37モル%≧(NaOのモル%+ROのモル%)≧28モル%)であり、部分範囲を含みうる。例えば、態様において、Alのモル%+NaOのモル%は、30モル%以上から37モル%以下、32モル%以上から37モル%以下、28モル%以上から35モル%以下、または、28モル%以上から33モル%以下でありうる。上記(Alのモル%+NaOのモル%)の値は、本明細書に記載のガラス組成物に有益でありうる。上記(Alのモル%+NaOのモル%)の値を用いて、スロットドローなど、組成物をガラス物品へと形成するいくつかの製造技術について、ガラス組成物は、望ましい液相温度、望ましい液相粘度、または、それらの両方を示しうる。
【0106】
本明細書に記載のガラス組成物は、MgOを含む。MgOは、ガラスの粘度を低下させ、それにより、ガラスの形成自在性および製造性を高めうる。MgOをガラス組成物に含むことで、ガラスのイオン交換性に加えて、ガラス組成物の歪点およびヤング率も改良しうる。しかしながら、ガラス組成物に加えられるMgOが多すぎると、ガラス組成物の密度およびCTEが、望ましくないレベルまで上昇しうる。更に、加えられるMgOが多すぎると、いくつかの製造処理について、液相温度が高くなりすぎ、液相粘度が低くなりすぎうる。
【0107】
態様において、ガラス組成物は、1モル%以上から3.88モル%以下のMgOを含み、部分範囲を含みうる。例えば、態様において、ガラス組成物は、1.25モル%以上から3.88モル%以下のMgO、1.5モル%以上から3.88モル%以下のMgO、1.75モル%以上から3.88モル%以下のMgO、2.0モル%以上から3.88モル%以下のMgO、2.25モル%以上から3.88モル%以下のMgO、2.5モル%以上から3.88モル%以下のMgO、2.75モル%以上から3.88モル%以下のMgO、3.0モル%以上から3.88モル%以下のMgO、3.25モル%以上から3.88モル%以下のMgO、1モル%以上から3.5モル%以下のMgO、1モル%以上から3.25モル%以下のMgO、1モル%以上から3.0モル%以下のMgO、1モル%以上から2.75モル%以下のMgO、1モル%以上から2.5モル%以下のMgO、1モル%以上から2.25モル%以下のMgO、1モル%以上から2.0モル%以下のMgO、1モル%以上から1.75モル%以下のMgO、または、1モル%以上から1.5モル%以下のMgOを含みうる。
【0108】
態様において、ガラス組成物は、1.92モル%以上から3.88モル%以下のMgOを含み、部分範囲を含みうる。例えば、態様において、ガラス組成物は、2.0モル%以上から3.88モル%以下のMgO、2.2モル%以上から3.88モル%以下のMgO、2.4モル%以上から3.88モル%以下のMgO、2.6モル%以上から3.88モル%以下のMgO、2.8モル%以上から3.88モル%以下のMgO、3.0モル%以上から3.88モル%以下のMgO、3.2モル%以上から3.88モル%以下のMgO、1.92モル%以上から3.6モル%以下のMgO、1.92モル%以上から3.4モル%以下のMgO、1.92モル%以上から3.2モル%以下のMgO、1.92モル%以上から3.0モル%以下のMgO、1.92モル%以上から2.8モル%以下のMgO、1.92モル%以上から2.6モル%以下のMgO、または、1.92モル%以上から2.4モル%以下のMgOを含みうる。
【0109】
態様において、ガラス組成物は、1モル%以上から4モル%以下のMgOを含み、部分範囲を含みうる。例えば、態様において、ガラス組成物は、1.5モル%以上から4モル%以下のMgO、2モル%以上から4モル%以下のMgO、2.5モル%以上から4モル%以下のMgO、1モル%以上から3.5モル%以下のMgO、1モル%以上から3モル%以下のMgO、または、1モル%以上から2.5モル%以下のMgOを含みうる。
【0110】
本明細書に記載のガラス組成物は、CaOを含む。CaOは、ガラスの粘度を低下させ、それは、形成自在性、歪点、および、ヤング率を高め、ガラスのイオン交換性を改良しうる。しかしながら、ガラス組成物に加えられるCaOが多すぎると、ガラス組成物の密度およびCTEが、望ましくないレベルまで上昇しうる。更に、本明細書に記載のCaOの量は、組成物中のイオン交換処理を遅くするのを助け、それは、イオン交換処理のより精密な制御を可能にしうる。例えば、そのCaOの量は、DOCのより精密な制御を可能にしうる。
【0111】
態様において、ガラス組成物は、0.78モル%以上から3モル%以下のCaOを含み、部分範囲を含みうる。例えば、態様において、ガラス組成物は、1.0モル%以上から3モル%以下のCaO、1.25モル%以上から3モル%以下のCaO、1.5モル%以上から3モル%以下のCaO、1.75モル%以上から3モル%以下のCaO、2.0モル%以上から3モル%以下のCaO、2.25モル%以上から3モル%以下のCaO、2.5モル%以上から3モル%以下のCaO、0.78モル%以上から2.75モル%以下のCaO、0.78モル%以上から2.5モル%以下のCaO、0.78モル%以上から2.25モル%以下のCaO、0.78モル%以上から2.0モル%以下のCaO、0.78モル%以上から1.75モル%以下のCaO、0.78モル%以上から1.5モル%以下のCaO、または、0.78モル%以上から1.25モル%以下のCaOを含みうる。
【0112】
態様において、ガラス組成物は、0.78モル%以上から2モル%以下のCaOを含み、部分範囲を含みうる。例えば、態様において、ガラス組成物は、0.9モル%以上から2モル%以下のCaO、1.0モル%以上から2モル%以下のCaO、1.1モル%以上から2モル%以下のCaO、1.2モル%以上から2モル%以下のCaO、1.3モル%以上から2モル%以下のCaO、1.4モル%以上から2モル%以下のCaO、1.5モル%以上から2モル%以下のCaO、0.78モル%以上から1.9モル%以下のCaO、0.78モル%以上から1.8モル%以下のCaO、0.78モル%以上から1.7モル%以下のCaO、0.78モル%以上から1.6モル%以下のCaO、0.78モル%以上から1.5モル%以下のCaO、0.78モル%以上から1.4モル%以下のCaO、0.78モル%以上から1.3モル%以下のCaO、または、0.78モル%以上から1.2モル%以下のCaOを含みうる。
【0113】
態様において、ガラス組成物は、0.78モル%以上から2.52モル%以下のCaOを含み、部分範囲を含みうる。例えば、態様において、ガラス組成物は、1.0モル%以上から2.52モル%以下のCaO、1.2モル%以上から2.52モル%以下のCaO、1.4モル%以上から2.52モル%以下のCaO、1.6モル%以上から2.52モル%以下のCaO、1.8モル%以上から2.52モル%以下のCaO、2.0モル%以上から2.52モル%以下のCaO、0.78モル%以上から2.4モル%以下のCaO、0.78モル%以上から2.2モル%以下のCaO、0.78モル%以上から2.0モル%以下のCaO、0.78モル%以上から1.8モル%以下のCaO、0.78モル%以上から1.6モル%以下のCaO、0.78モル%以上から1.4モル%以下のCaO、または、0.78モル%以上から1.2モル%以下のCaOを含みうる。
【0114】
態様において、ガラス組成物は、0.5モル%以上から3モル%以下のCaOを含み、部分範囲を含みうる。例えば、態様において、ガラス組成物は、1モル%以上から3モル%以下のCaO、2モル%以上から3モル%以下のCaO、または、0.5モル%以上から2モル%以下のCaOを含みうる。
【0115】
態様において、ガラス組成物について、MgOのモル%のMgOのモル%とCaOのモル%の合計に対する比(MgOのモル%/(MgOのモル%+CaOのモル%))は、0.5以上でありうる。態様において、MgOのモル%/(MgOのモル%+CaOのモル%)は、0.55以上、0.6以上、0.65以上、0.7以上、0.75以上、または、0.8以上でありうる。態様において、MgOのモル%/(MgOのモル%+CaOのモル%)は、0.8以下、0.75以下、0.7以下、0.65以下、0.6以下、0.55以下、または、0.5以下でありうる。
【0116】
態様において、MgOのモル%/(MgOのモル%+CaOのモル%)は、0.5以上から0.8以下(例えば、0.8≧(MgOのモル%/(MgOのモル%+CaOのモル%))≧0.5)であり、全ての範囲、および、それらの値の間の部分範囲を含みうる。例えば、態様において、MgOのモル%/(MgOのモル%+CaOのモル%)は、0.55以上から0.8以下、0.6以上から0.8以下、0.65以上から0.8以下、0.7以上から0.8以下、0.5以上から0.75以下、0.5以上から0.7以下、0.5以上から0.65以下、または、0.5以上から0.6以下でありうる。
【0117】
本明細書に記載のガラス組成物は、ZnO、SrO、BaO、B、P、LiO、および、KOの1つ以上を含まないか、または、実質的に含まないものでありうる。態様において、ガラス組成物は、ZnO、SrO、BaO、B、P、LiO、および、KOの全てを実質的に含まないか、または、実質的に含まないものでありうる。これらの酸化物のいくつかは、高価であるか、および/または、供給が限られたものでありうる。アルカリ土類金属酸化物は、ヤング率を望ましくないまで高めて、イオン交換処理を遅くしうる。B、P、および、KOは、イオン交換処理中に与えられる圧縮応力の量を削減しうる。本明細書に記載のガラス物品は、これらの酸化物を必要とせずに、有利な物性を実現可能である。したがって、これらの酸化物は、組成物から排除されうる。本明細書で用いるように、「実質的に含まない」という用語は、その成分が、最終的なガラスに非常に少量で不純物として存在しうるが、バッチ材料の成分として加えられたものではないことを意味する。本開示のガラス組成物を製造するのに用いた原料、および/または、器具に起因して、何らかの不純物、または、意図的に加えられたのではない成分が、最終的なガラス組成物に存在しうる。そのような材料は、ガラス組成物に少量で存在し、「混入材料」と称される。成分を「実質的に含まない」組成物は、その成分が組成物に故意に加えられたのではないが、それでも、組成物が、その成分を混入または僅かな量で含みうることを意味する。酸化物を「実質的に含まない」組成物は、酸化物が、0.1モル%以下、例えば、0モル%から0.1モル%の量で存在することを意味する。本明細書で用いるように、成分を「全く含まない」ガラス組成物は、成分(例えば、酸化物)が組成物に、混入でも僅かな量でも存在しないことを意味すると定義される。
【0118】
態様において、ガラス組成物は、任意で、1つ以上の清澄剤を含みうる。態様において、清澄剤は、例えば、SnOを含みうる。そのような態様において、SnOは、ガラス組成物に、2モル%以下、例えば、0モル%から2モル%の量で存在し、部分範囲を含みうる。例えば、態様において、SnOは、ガラス組成物に、0.1モル%以上から2モル%以下、0.1モル%以上から1.5モル%以下、0.1モル%以上から1モル%以下、0.1モル%以上から0.5モル%以下、または、0.1モル%以上から0.25モル%以下の量で存在しうる。
【0119】
次に、本明細書に記載のガラス組成物、および、そのガラス組成物から製作されたガラス物品の物理的物性を記載する。実施例について、より詳細に記載するように、これらの物理的物性は、ガラス組成物の成分の量を調整することによって実現されうる。
【0120】
態様において、ガラス組成物のヤング率(E)は、70ギガパスカル(GPa)以上から80GPa以下であり、全ての範囲、および、それらの値の間の部分範囲を含みうる。例えば、態様において、ガラス組成物のヤング率(E)は、70ギガパスカル(GPa)以上から79GPa以下、70ギガパスカル(GPa)以上から78GPa以下、70ギガパスカル(GPa)以上から77GPa以下、70ギガパスカル(GPa)以上から76GPa以下、70ギガパスカル(GPa)以上から75GPa以下、70ギガパスカル(GPa)以上から74GPa以下、または、70ギガパスカル(GPa)以上から73GPa以下でありうる。
【0121】
別段の記載がない限りは、本明細書に開示のヤング率値およびポアソン比値は、「Standard Guide for Resonant Ultrasound Spectroscopy for Defect Detection in Both Metallic and Non-Metallic Parts」という名称でASTM規格E2001-13に示された一般的な共振超音波スペクトルスコピー技術によって測定した値を称する。更に、別段の記載がない限りは、ガラス組成物または物品のヤング率およびポアソン比を、組成物または物品に任意のイオン交換処理または任意の他の強化処理を行う前に測定する。特に、ガラス組成物または物品のヤング率およびポアソン比を、組成物または物品をイオン交換溶液に曝す前、例えば、イオン交換溶液に浸漬させる前に測定する。ポアソン比値(v)を、ASTM E2001-13試験から取得したヤング率値(E)および剛性率(G)を元に、E=2G(1+v)の式を用いて計算する。
【0122】
態様において、ガラス組成物の液相粘度は、500kP(キロポアズ)以上の範囲でありうる。態様において、ガラス組成物の液相粘度は、500kP以上から2300kP以下の範囲であり、部分範囲を含みうる。例えば、態様において、ガラス組成物の液相粘度は、750kP以上から2300kP以下、1000kP以上から2300kP以下、1500kP以上から2300kP以下、500kP以上から2000kP以下、500kP以上から1750kP以下、500kP以上から1500kP以下、500kP以上から1250kP以下、または、500kP以上から1000kP以下の範囲でありうる。態様において、ガラス組成物の液相粘度は、1000kP以上から1500kP以下の範囲でありうる。
【0123】
態様において、ガラス組成物は、500℃以上の液相温度を有しうる。態様において、ガラス組成物は、500℃以上から1200℃以下の液相温度を有しうる。
【0124】
本明細書で用いるように、「液相粘度」という用語は、溶融ガラスの液相温度での粘度を称し、液相温度は、溶融ガラスが融点から冷却される時に、結晶が初めて現れる温度、または、温度が室温から上昇する時に、最後の結晶が溶融する温度を称する。別段の記載がない限りは、本明細書に開示の液相粘度値を、次に記載の方法で特定する。第1に、ガラスの液相温度を、「Standard Practice for Measurement of Liquidus Temperature of Glass by the Gradient Furnace Method」という名称のASTM規格C829-81(2015)により測定する。次に、ガラスの液相温度での粘度を、「Standard Practice for Measuring Viscosity of Glass above the Softening Point」という名称のASTM C965-96(2012)により測定する。別段の記載がない限りは、ガラス組成物または物品の液相粘度および温度を、組成物又は物品に、任意のイオン交換処理または任意の他の強化処理を行う前に測定する。特に、ガラス組成物または物品の液相粘度および温度を、組成物または物品をイオン交換溶液に曝す前、例えば、イオン交換溶液に浸漬させる前に測定する。
【0125】
本態様によるガラス物品を、上記組成物から、任意の適切な方法、例えば、スロット成形、フロート成形、ロール処理、フュージョン成形処理などによって形成しうる。ガラス組成物、および、それから製造された物品は、それが成形されうる方法によって特徴付けられうる。例えば、ガラス組成物は、フロート成形自在(つまり、フロート処理によって成形される)、ダウンドロー自在、および、特に、フュージョン成形自在またはスロットドロー自在(例えば、ダウンドロー処理、例えば、フュージョンドロー処理またはスロットドロー処理によって形成される)として特徴付けられうる。
【0126】
態様において、本明細書に記載のガラス物品は、例えば、ダウンドロー処理によって成形されうる。ダウンドロー処理は、比較的無傷の表面を備えた均一な厚さを有するガラス物品を製造する。ガラス物品の平均曲げ強さは、表面の傷の量およびサイズによって制御されるので、最小の接触を生じた無傷の表面は、より高い初期強度を有する。更に、ダウンドローされたガラス物品は、非常に平坦で平滑な表面を有し、それを最終的に利用する際に、費用が高い研削および研磨をせずに用いうる。
【0127】
態様において、ガラス物品を、フュージョン成形自在(つまり、フュージョンドロー処理を用いて成形自在)と記載しうる。フュージョン処理は、溶融ガラス原料を受け付けるためのチャネルを有するドロー槽を用いる。チャネルは、チャネルの両側に、上部で開口してチャネルの長さに沿った堰部を有する。チャネルが溶融材料で満たされると、溶融ガラスは、堰部から溢れる。重力により、溶融ガラスは、ドロー槽の外面を2つの流れるガラス薄膜として流れ落ちる。ドロー槽のこれらの外面は、ドロー槽の下方の縁部で合流するように、下方に、内側に向かって延伸する。2つの流れるガラス薄膜は、この縁部で合流して融合し、単一の流れるガラス物品を形成する。フュージョンドロー法は、チャネルを越えて流れる2つのガラス薄膜が融合するので、結果的に得られるガラス物品の外面が装置のいずれの部分にも接触しないという利点を提供する。したがって、フュージョンドローされたガラス物品の表面の特性は、そのような接触の影響を受けない。
【0128】
態様において、本明細書に記載のガラス物品を、スロットドロー処理によって成形しうる。スロットドロー処理は、フュージョンドロー法と明らかに異なる。スロットドロー処理において、溶融原料ガラスを、ドロー槽に供給する。ドロー槽の底部は、開いたスロットを有し、ノズルがスロットの長さに延伸する。溶融ガラスは、スロット、および/または、ノズルを通って流れ、連続したガラス物品として、アニーリング領域の中まで下方に引き出される。
【0129】
ガラス物品、例えば、ガラスシートを形成するためのドロー処理は、薄いガラス物品を、欠陥を殆ど有さずに形成可能にするので望ましい。以前は、ガラス組成物は、ドロー処理、例えば、フュージョンドロー、または、スロットドローによって成形するには、比較的高い液相粘度、例えば、1000kPより高いか、1100kPより高いか、または、1200kPより高い液相粘度を有する必要があると考えられてきた。しかしながら、ドロー処理における開発により、より低い液相粘度(例えば、500kPまでも低い液相粘度)を有するガラスをドロー処理で用いることが可能でありうる。
【0130】
態様において、本明細書に記載のガラス物品は、非晶質の微細構造を示し、結晶も晶子も実質的に含まないものでありうる。換言すれば、これらの態様におけるガラス物品は、ガラスセラミック材料を排除する。他の態様において、本明細書に記載のガラス物品は、ガラスセラミック材料を含みうる。
【0131】
上記のように、ガラス組成物、および、ガラス組成物から形成された物品を、イオン交換処理によって強化しうる。図1を参照すると、ガラス物品100は、圧縮応力の加わった1つ以上の領域を有しうる。例えば、ガラス物品100は、ガラス物品100の外面(例えば、表面110、112)から圧縮深さ(DOC、d、d)まで延伸する第1の圧縮応力領域120、および/または、第2の圧縮応力領域122と、DOCからガラス物品100の中心または内部領域まで延伸する引張応力またはCTの加わった第2の領域(例えば、中心領域130)を有しうる。イオン交換された圧縮応力領域120、122は、ガラス物品100の厚さ(t)を通る2つ以上の位置で異なる金属酸化物の濃度を有する。
【0132】
当分野で通常用いられる慣例では、圧縮、または、圧縮応力(CS)は、負の(<0)応力として表され、張力、または、引張応力は、正の(>0)応力として表される。しかしながら、本明細書を通して、CSを、正の、または、絶対値で表し、つまり、本明細書において、CS=|CS|として記載する。CSは、ガラスの表面で最大値を有し、表面からの距離dの関数で変化しうる。再び、図1を参照して、第1の圧縮応力領域120は、第1の表面110から深さdまで延伸し、第2の圧縮応力領域122は、第2の表面112から深さdに延伸する。共に、これらの圧縮応力領域120、122は、ガラス物品100の圧縮領域またはCS領域を画定する。
【0133】
態様において、ガラス物品の1つ以上の圧縮応力領域のピーク圧縮応力は、500MPa以上から1300メガパスカル(MPa)以下であり、部分範囲を含みうる。例えば、態様において、ガラス物品の1つ以上の圧縮応力領域のピーク圧縮応力は、600MPa以上から1300MPa以下、700MPa以上から1300MPa以下、800MPa以上から1300MPa以下、900MPa以上から1300MPa以下、1000MPa以上から1300MPa以下、500MPa以上から1200MPa以下、500MPa以上から1100MPa以下、500MPa以上から1000MPa以下、500MPa以上から900MPa以下、または、500MPa以上から800MPa以下でありうる。
【0134】
態様において、ガラス組成物から製作されたガラス物品は、15以上のピーク圧縮応力値のヤング率値に対する比(ピーク圧縮応力値/ヤング率値、CS/E)を有しうる。態様において、ガラス物品は、15以上から18以下の範囲のCS/E比を有し、部分範囲を含みうる。例えば、態様において、ガラス物品は、15.5以上から18以下、16以上から18以下、16.5以上から18以下、17以上から18以下、15以上から17.5以下、15以上から17以下、15以上から16.5以下、または、15以上から16以下のCS/E比を有しうる。
【0135】
これらのCS/E比、および、CS/E比の範囲は、本明細書に記載のピーク圧縮応力および圧縮深さで実現されうる。例えば、態様において、ガラス物品は、500MPa以上から1300MPa以下の範囲のピーク圧縮応力について記載したようなCS/E比、または、CS/E比の範囲を有しうる。他の例として、ガラス物品は、5マイクロメートル以上から30マイクロメートル以下の範囲の圧縮深さについて記載したようなCS/E比、または、CS/E比の範囲を有しうる。他の例として、ガラス物品は、5マイクロメートル以上から20マイクロメートル以下の範囲の圧縮深さについて記載したようなCS/E比、または、CS/E比の範囲を有しうる。他の例として、ガラス物品は、ガラス物品の厚さの5%以上から20%以下の範囲の圧縮深さについて記載したようなCS/E比、または、CS/E比の範囲を有しうる。
【0136】
イオン交換によって実現されうる高いピーク圧縮応力は、所定のガラス厚さについて、より厳しい(つまり、より小さい)曲げ半径に曲げるのを可能にする。高いピーク圧縮応力は、ガラスが、ネットで圧縮状態を保持するのを可能にし、したがって、ガラスが厳しい半径に曲げられた時に表面の傷を含む。表面近くの傷は、このようにネットで圧縮状態で含められるか、または、有効な表面圧縮層の中に位置すれば、破損するまで延伸しないものでありうる。
【0137】
図2は、2つの平行なプレート200の間で曲げ力202を用いたガラス物品100の2点曲げを示している。曲げ力202は、2点曲げ試験装置を用いて加えられ、曲げ試験中、2つの平行なプレート200は、一定の力、曲げ力202で、ガラス物品100を押圧する。必要であれば、試験装置に関連する固定部は、曲げ力202がガラス物品100にプレート200を介して加えられる時に、ガラス物品100が折り曲げ線210に対して対称に曲がるのを確実にする。プレート200は、特定のプレート距離(D)が実現するまで、同時に共に移動しうる。本明細書で用いるように、曲げ力が加わった「破損」という用語は、破断、破壊、剥離、亀裂伝播、永久的変形、または、物品を意図した用途に適さなくする他のメカニズムを称する。
【0138】
図2において、ガラス物品100の表面110に曲げにより引張応力を与え、一方、表面112に曲げによる更なる圧縮応力を与えながら、表面110からの有効DOCを、物品が曲げられない時の表面110からのDOCより減少させる。表面110からの有効DOCは、プレート距離が増加するにつれて増加し、プレート距離が減少するにつれて(図2に示すように物品の表面112同士が近付くように曲げられた場合に)減少する。換言すれば、有効DOCは、曲げられない状態におけるDOCから、曲げにより生じた引張応力からの有効深さを引いたものである。
【0139】
態様において、ガラス物品100は、2つの平行なプレート200の間に、10ミリメートル(mm)以下のプレート距離(D)で240時間、60℃で93%の相対湿度で保持された場合に、静止2点曲げ試験中の破損を回避する。例えば、態様において、ガラス物品100は、2つのプレートの間に、240時間、60℃で93%の相対湿度で、10mmから1mmのプレート距離(D)で保持された場合に、静止2点曲げ試験中の破損を回避する。プレート距離(D)は、例えば、10mm、9mm、8mm、7mm、6mm、5mm、4mm、3mm、2mm、または、1mmでありうる。
【0140】
両方の領域120、122の圧縮応力は、ガラス物品100の中心領域130に保存された張力によってバランスされる。別段の記載がない限りは、CT値は、最大CT値として報告されたものである。DOCを、イオン交換処理および測定される物品の厚さに応じて、表面応力計、または、散乱光偏光器(SCALP)によって測定しうる。基板の応力が、カリウムイオンを基板内へと交換することによって生じた場合には、表面応力計、例えば、FSM-6000(有限会社折原製作所、日本)を用いて、圧縮深さを測定する。基板の応力が、ナトリウムイオンを基板内へと交換することによって生じたものであり、測定される物品が約400マイクロメートルより厚い場合には、SCALPを用いて、圧縮深さ、および、最大中心張力(CT)を測定する。基板の応力が、カリウムイオンとナトリウムイオンの両方をガラス内へと交換することによって生じたものであり、測定される物品が約400マイクロメートルより厚い場合には、SCALPを用いて、圧縮深さ、および、CTを測定する。理論に縛られることを望まないが、ナトリウムの交換深さは、圧縮深さを示し、カリウムイオンの交換深さは、圧縮応力の大きさの変化を示しうる(但し、応力の変化は、必ずしも圧縮応力から引張応力へではない)。本明細書で用いるように、「層深さ」は、イオンが基板内に交換された(例えば、ナトリウム、カリウム)深さを意味する。本開示を通して、最大中心張力を、(測定される物品が約400マイクロメートルより薄い場合のように)SCALPによって直接測定できない場合、最大中心張力を、最大圧縮応力と圧縮深さを掛けて、更に、基板の厚さと圧縮深さの2倍との差で割ることによって近似し、圧縮応力、および、圧縮深さは、FSMによって測定する。
【0141】
基板の厚さが約400マイクロメートルより厚い場合、屈折近視野(RNF)法も用いて、応力プロファイルのグラフを表しうる。RNF法を用いて、応力プロファイルのグラフを表示する場合、RNF法では、SCALPによって提供された最大CT値を用いる。特に、RNFによって測定した応力プロファイルは、力平衡され、SCALP測定によって提供された最大CT値に、較正される。RNF法は、「Systems and Methods for Measuring a Profile Characteristic of a Glass Sample」という名称の米国特許第8,854,623号明細書に記載され、それは、参照により全体として、本明細書に組み込まれる。特に、RNF法は、ガラス物品を基準ブロックに隣接して配置する工程と、直交する偏光間で1Hzから50Hzの速度で切り替えて偏光切替え光ビームを生成する工程と、偏光切替え光ビームにおけるパワー量を測定する工程と、偏光切替え基準信号を生成する工程とを含み、各直交する偏光において測定したパワー量は、互いに50%以内である。方法は、更に、偏光切替え光ビームを、ガラス試料を通って、および、異なる深さについて、基準ブロックを通って、ガラス試料の中に透過させる工程と、次に、透過された偏光切替え光ビームを、中継光学系を用いて、信号光検出器へ中継する工程とを含み、信号光検出器は、偏光切替え検出器信号を生成する。方法は、更に、検出器信号を基準信号で割って、正規化検出器信号を特定する工程と、正規化検出器信号から、ガラス試料のプロファイル特性を特定する工程とを含む。
【0142】
SCALP測定を行う時に、GlassStress Ltd.、Talinn、Estoniaから入手可能なSCALP偏光器(例えば、SCALP-04、または、SCALP-05)を用いて行われる。試料を測定して、少なくとも1つの応力に関係する特性を特徴付ける時に、偏光器における測定ノイズを容認可能なレベルまで削減する精密な試料速度SS、および、露光時間tは、多数の要因に応じたものである。これらの要因は、非応力関連(NSR)散乱特性、入射光ビームの強度、使用される偏光状態の数などに加えて、画像センシング装置の特性(例えば、ゲイン、撮像速度(フレーム/秒)、画素サイズ、内部画素平均技術など)を含む。他の要因は、レーザ源からの光ビームの測定波長、および、散乱した光ビームの強度を含む。例示的な測定波長は、640ナノメートル(nm)、518nm、および、405nmを含む。例示的な露光時間は、0.05ミリ秒から100ミリ秒の範囲でありうる。例示的なフレーム速度は、毎秒10から200フレームの範囲でありうる。例示的な光学的遅延の計算は、0.1秒から10秒の測定時間tに亘り2から200フレームを用いうる。
【0143】
態様において、ガラス物品は、20MPa以上から400メガパスカル(MPa)以下、例えば、50MPa以上から350MPa以下、75MPa以上から300MPa以下、100MPa以上から250MPa以下、または、150MPa以上から200MPa以下の最大CTを有し、全ての範囲、および、上記値の任意の2つを端点として有し、その端点も含む、それらの値の間の部分範囲を含みうる。例えば、態様において、最大CTは、20MPa以上から400MPa以下、50MPa以上から350MPa以下、75MPa以上から300MPa以下、100MPa以上から250MPa以下、または、150MPa以上から200MPa以下の範囲、または、これらの値の任意の2つを端点として有し、その端点も含む範囲内でありうる。
【0144】
態様において、領域120、および/または、領域122のDOCは、5マイクロメートル以上から50マイクロメートル以下の範囲であり、部分範囲を含みうる。例えば、DOCは、10マイクロメートル以上から50マイクロメートル以下、15マイクロメートル以上から50マイクロメートル以下、20マイクロメートル以上から50マイクロメートル以下、25マイクロメートル以上から50マイクロメートル以下、30マイクロメートル以上から50マイクロメートル以下、35マイクロメートル以上から50マイクロメートル以下、40マイクロメートル以上から50マイクロメートル以下、5マイクロメートル以上から45マイクロメートル以下、5マイクロメートル以上から40マイクロメートル以下、5マイクロメートル以上から35マイクロメートル以下、5マイクロメートル以上から30マイクロメートル以下、5マイクロメートル以上から25マイクロメートル以下、5マイクロメートル以上から20マイクロメートル以下、または、5マイクロメートル以上から15マイクロメートル以下の範囲でありうる。態様において、DOCは、5マイクロメートル以上から30マイクロメートル以下の範囲でありうる。態様において、DOCは、5マイクロメートル以上から20マイクロメートル以下の範囲でありうる。
【0145】
態様において、DOCは、ガラス物品100の厚さ(t)の一部として報告されうる。例えば、ガラス物品は、ガラス物品の厚さの5%(0.05t)以上20%(0.20t)以下の圧縮深さ(DOC)を有し、部分範囲を含みうる。例えば、態様において、DOCは、ガラス物品の厚さの10%以上から20%以下、ガラス物品の厚さの15%以上から20%以下、ガラス物品の厚さの5%以上から15%以下、または、ガラス物品の厚さの5%以上から10%以下でありうる。
【0146】
ガラス物品100の厚さ(t)は、表面110と表面112の間で測定される。態様において、ガラス物品100の厚さは、4ミリメートル以下(mm)でありうる。態様において、ガラス物品100の厚さは、15マイクロメートル以上から4mm以下の範囲であり、部分範囲を含みうる。例えば、態様において、ガラス物品100の厚さは、20マイクロメートル以上から4mm以下、30マイクロメートル以上から4mm以下、40マイクロメートル以上から4mm以下、50マイクロメートル以上から4mm以下、60マイクロメートル以上から4mm以下、70マイクロメートル以上から4mm以下、80マイクロメートル以上から4mm以下、90マイクロメートル以上から4mm以下、1mm以上から4mm以下、15マイクロメートル以上から3mm以下、15マイクロメートル以上から2mm以下、15マイクロメートル以上から1mm以下、15マイクロメートル以上から500マイクロメートル以下、15マイクロメートル以上から400マイクロメートル以下、15マイクロメートル以上から300マイクロメートル以下、15マイクロメートル以上から200マイクロメートル以下、または、15マイクロメートル以上から100マイクロメートル以下の範囲でありうる。
【0147】
圧縮応力層を、ガラス物品に、ガラス物品をイオン交換溶液に曝すことよって形成しうる。態様において、イオン交換溶液は、溶融カリウム塩を含みうる。態様において、イオン交換溶液は、50質量%以上のカリウム塩、60質量%以上のカリウム塩、70質量%以上のカリウム塩、80質量%以上のカリウム塩、90質量%以上のカリウム塩、または、100質量%のカリウム塩を含みうる。例えば、態様において、イオン交換溶液は、50質量%以上から100質量%以下のカリウム塩、60質量%以上から100質量%以下のカリウム塩、70質量%以上から100質量%以下のカリウム塩、80質量%以上から100質量%以下のカリウム塩、または、90質量%以上から100質量%以下のカリウム塩を含みうる。態様において、カリウム塩は、硝酸カリウム(KNO)でありうる。態様において、イオン交換溶液の残りの質量パーセントの全部または一部は、溶融硝酸塩、例えば、硝酸ナトリウム塩(NaNO)でありうる。
【0148】
ガラス物品は、ガラス組成物から製作されたガラス物品をイオン交換溶液浴に浸漬させること、イオン交換溶液を、ガラス組成物から製作されたガラス物品に噴霧すること、または、他の態様でイオン交換溶液をガラス物品に物理的に塗布することによって、イオン交換溶液に曝されうる。本態様によりガラス物品に曝される時のイオン交換溶液は、350℃以上から480℃以下の温度であり、部分範囲を含みうる。例えば、態様において、温度は、360℃以上から470℃以下、370℃以上から460℃以下、380℃以上から450℃以下、390℃以上から440℃以下、400℃以上から430℃以下、または、410℃以上から420℃以下でありうる。
【0149】
態様において、ガラス物品は、イオン交換溶液に5分以上から24時間以下の持続時間、曝され、部分範囲を含みうる。例えば、態様において、持続時間は、5分以上から20時間以下、5分以上から16時間以下、5分以上から12時間以下、5分以上から6時間以下、5分以上から2時間以下、5分以上から1時間以下、または、5分以上から30分以下でありうる。
【0150】
イオン交換処理を行った後に、ガラス物品の表面の組成物は、ガラス物品(例えば、イオン交換処理前のガラス物品)を形成した時の組成物とは異なりうると理解すべきである。これは、形成した時のガラス内の1つの種類のアルカリ金属イオン、例えば、Na+が、より大きいアルカリ金属イオン、例えば、K+と置き換えられた結果である。しかしながら、態様において、ガラス物品の深さ中心、または、その近くのガラス組成部は、形成された時のガラス物品の組成物を有するままとなりうる。別段の記載がない限りは、本願で開示したガラス組成物は、ガラス物品の深さ中心の近くのガラス物品の組成物であり、組成物はイオン交換処理の影響を受けない(または、最小の影響を受ける)もので、つまり、形成された時のガラス物品の組成物である。
【0151】
本明細書に開示のガラス物品は、他の物品、例えば、ディスプレイを有する物品(または、ディスプレイ物品)(例えば、携帯電話、ウオッチ、タブレット、コンピュータ、ナビゲーションシステムなどを含む消費者用電子機器)、建築用物品、輸送用物品(例えば、自動車、電車、航空機、船舶など)、家庭用電気物品、または、いくらかの透明性、耐引っ掻き性、耐摩耗性、若しくは、それらの組み合わせの恩恵を受けうる任意の物品に組み込みうる。本明細書に開示の任意のガラス物品を組み込んだ例示的な物品を図3A、3Bに示す。特に、図3A、3Bは、前面304、後面306、および、側面308を有する筐体302を含む消費者用電子製品300を示している。少なくとも部分的に筐体の内側、または、完全に筐体の中にある電気的構成要素は、少なくとも、制御部320、メモリ322、および、筐体302の前面306に、または、それに隣接したディスプレイ310を含みうる。ディスプレイ310は、例えば、発光ダイオード(LED)ディスプレイ、または、有機発光ダイオード(OLED)ディスプレイでありうる。
【0152】
カバー基板312は、ディスプレイ310の上に位置するように、筐体302の前面304に、または、その上に配置されうる。カバー基板312は、本明細書に開示の任意のガラス物品を含み、「カバーガラス」と称しうる。カバー基板312は、ディスプレイ310、および、消費者用電子製品300の他の構成要素(例えば、制御部320およびメモリ322)が破損しないように保護する働きをしうる。態様において、カバー基板312は、接着剤で、ディスプレイ310に接合されうる。態様において、カバー基板312は、筐体302の前面304の全部または一部を画定しうる。態様において、カバー基板312は、筐体302の前面304、および、筐体302の側面308の全部、若しくは、一部を画定しうる。態様において、消費者用電子製品300は、筐体302の後面306の全部または一部を画定するカバー基板を含みうる。
【実施例
【0153】
次の実施例によって、態様を更に明らかにする。これらの実施例は、上記態様を限定しないと理解すべきである。
【0154】
次の表2A~2Hに挙げた酸化物から製造されたガラス組成物を、従来のガラス形成方法によって調製した。表2A~2Hの組成物1~50(C1~C50)は、本出願の態様によるガラス組成物である。表2A~2Hにおいて、全ての酸化物成分を、モル%で示している。
【0155】
表3A~3Jは、表2A~2Hの組成物1~50(C1~C50)の材料物性を列挙している。表3A~3Jに報告したヤング率(E)値は、本明細書に開示した方法により測定したものである。剛性率値を、「Standard Guide for Resonant Ultrasound Spectroscopy for Defect Detection in Both Metallic and Non-Metallic Parts」という名称のASTM E2001-13に示された一般的な種類の共鳴超音波スペクトロスコピー技術によって測定した。
【0156】
表3A~3Jに列挙した更なる材料物性は、密度を含み、密度値は、ASTM C693-93(2013)の浮力法を用いて特定され、更に、摂氏1度当たりの百万分率(ppm)(ppm/℃)で測定した(0℃から300℃の範囲の)低温CTEを含み、更に、歪点、アニール点、および、軟化点を含み、歪点は、ASTM C598-93(2013)のビーム曲げ粘度法を用いて特定され、アニール点は、ASTM C336-71(2015)のファイバ延伸法を用いて特定され、軟化点は、ASTM C338-93(2013)のファイバ延伸法を用いて特定され、更に、1011ポアズ、液相粘度を含み、液相粘度は、本明細書に記載のように特定され、更に、ガラスの複屈折に関係する応力光学係数(SOC)を含む。別段の記載がない限りは、SOCは、「Standard Test Method for Measurement of Glass Stress-Optical Coefficient」という名称のASTM規格C770-16に記載の手順C(ガラスディスク法)により測定し、それらの内容は、参照により全体として、本明細書に組み込まれる。別段の記載がない限りは、表3A~3Jに挙げた物性を、組成物または物品を任意のイオン交換処理、または、任意の他の強化処理に曝す前に測定した。表3A~3Jに報告したCTE値は、ファイバ延伸法を用いて測定したものである。膨張計を、ASTM E228(「Standard Test Method for Linear Thermal Expansion of Solid Materials With a Push-Rod Dilatometer」)により設置した。ファイバ延伸試験について、膨張計に載置された特定の組成物のファイバ試料を、0℃の氷浴に入れ、次に、300℃の等温炉に入れて、その温度範囲での平均線熱膨張率を特定した。ファイバ試料は、火炎作業で用意した。
【0157】
表4A~4Gは、表2A~2Gの組成物1~48(C1~C48)についてのイオン交換条件および物性を含む。表4A~4Gに報告したイオン交換処理について、各組成物の試料を、100質量%のKNOから構成された溶融塩浴に浸漬させた。各試料は、1インチ(約2.54cm)の長さ、1インチ(約2.54cm)の幅、および、0.8mmの厚さを有した。表4A~4Gの組成物A(CA)は、68.95モル%のSiO、10.27モル%のAl、5.36モル%のMgO、0.06モル%のCaO、15.20のNaO、および、0.17モル%のSnOを含む比較用組成物である。
【0158】
表4A~4Gに示すように、組成物1~48(C1~C48)の全てが、様々なDOCで少なくとも15のCS/E比を実現した。30分より長くイオン交換されなかったC30~C36を除いて、各組成物は、約15マイクロメートル以上のDOCで、少なくとも15のCS/E比を実現した。図5のグラフ500は、様々なイオン交換されたガラス組成物について、液相粘度に対する約20マイクロメートルのDOCのCS/E比のプロットである。グラフ500中のグレイの菱形は、表4A~4Fに報告したDOC値から取得した20±5マイクロメートルの範囲のDOC値を有する表2A~2Hの様々な組成物を表す。グラフ500は、大多数の組成物が少なくとも15のCS/E比、および、500℃より高い液相粘度を有したことを示している。
【0159】
【表2A】
【0160】
【表2B】
【0161】
【表2C】
【0162】
【表2D】
【0163】
【表2E】
【0164】
【表2F】
【0165】
【表2G】
【0166】
【表2H】
【0167】
【表3A】
【0168】
【表3B】
【0169】
【表3C】
【0170】
【表3D】
【0171】
【表3E】
【0172】
【表3F】
【0173】
【表3G】
【0174】
【表3H】
【0175】
【表3I】
【0176】
【表3J】
【0177】
【表4A】
【0178】
【表4B】
【0179】
【表4C】
【0180】
【表4D】
【0181】
【表4E】
【0182】
【表4F】
【0183】
【表4G】
【0184】
本明細書に様々な態様を記載したが、例示であって、限定するものではない。開示した態様の適応例および変更例も、本明細書に示した教示およびガイダンスに基づいて、それらの態様の等価物の意味および範囲に含まれることを意図することが明らかだろう。したがって、当業者には、本開示の精神および範囲を逸脱することなく、本明細書に開示の態様に、形状および詳細に様々な変形を行いうることが明らかだろう。本明細書に示した態様の要素は、必ずしも互いに排他的ではなく、当業者に分かるように、様々な状況に対処するように交換しうる。
【0185】
本開示の態様を、添付の図面に示した態様について詳細に記載し、図面では、同一の、または、機能的に同様の要素を示すのに同様の参照番号を用いている。「複数の態様」または「態様」に言及する場合、その記載した態様が、特定の特徴物、構造、または、特徴を含みうることを示すが、必ずしも全ての態様が、その特定の特徴物、構造、または、特徴を含まなくてもよい。更に、そのような用語は、必ずしも同じ態様に言及するものではない。更に、ある態様との関係で、特定の特徴物、構造、または、特徴について記載した場合、明示したかに関わらず、他の態様との関係でそのような特徴物、構造、または、特徴に影響することは、当業者の知識の範囲であると提示している。
【0186】
実施例は、例示にすぎず、本開示を限定するものではない。当分野で通常生じる当業者には明らかな様々な条件およびパラメータの他の適した変更例および適応例も、本開示の精神および範囲に含まれる。
【0187】
要素または構成要素の記載で、原文の英語で用いた不定冠詞は、これらの要素または構成要素が1つ以上存在することを意味する。一般に、これらの冠詞は修飾した名詞が単数であることを意味するのに用いられるが、特定の例で別段の記載をしない限りは、本明細書で用いるように複数も含む。同様に、原文の英語で用いた定冠詞も、特定の例で別段の記載をしない限りは、本明細書で用いるように修飾した名詞が単数または複数でありうること示す。
【0188】
本明細書で用いるような方向を表す用語、例えば、上に、下に、右、左、前、後、最上部、底部、内側に向かって、外側に向かっては、示した図面についての記載であり、絶対的向きを意味することを意図しない。
【0189】
請求項で用いる「含む」という用語は、オープンエンドの移行句である。移行句「含む」の後に挙げられた要素は、非排他的な列挙であり、具体的に挙げた要素に追加の要素も存在しうる。請求項で用いるように、「から実質的になる」または「から実質的に構成される」という用語は、材料の組成物を特定した材料、および、材料の基本的および新規な特徴に実質的に影響を与えない材料に限定する。請求項で用いるように、「からなる」または「から完全になる」という用語は、材料の組成物を特定した材料に限定し、いずれの特定していない材料を排除する。
【0190】
本明細書において、上限および下限を含む数値の範囲を記載した場合、特定の状況で別段の記載がない限りは、その範囲の端点、および、範囲内の全ての整数および端数を含むことを意図する。本請求項の範囲が、範囲を画定する際に記載した特定の値に限定されることを意図しない。更に、量、濃度、または、他の値若しくはパラメータを、範囲、1つ以上の好ましい範囲、または、好ましい上限値および好ましい下限値のリストとして記載する場合、任意の上限範囲または好適な値と、任意の下限範囲または好適な値の任意の対から形成される全ての範囲を、そのような対を別々に開示したかに関わらず、具体的に記載したものと理解すべきである。最後に、値または範囲の端点を記載するのに、「約」という用語を用いた場合、その開示は、その具体的な値または端点を含むと理解されるべきである。数値または範囲の端点が「約」と記載されたかに関わらず、数値または範囲の端点は、2つの態様、つまり、「約」で修飾された態様と、「約」で修飾されない態様の両方を含むことを意図する。
【0191】
本明細書で用いるように、「約」という用語は、量、サイズ、調合、パラメータ、並びに、他の量および特徴が正確でないか、正確である必要はなく、近似するか、および/または、許容度、換算係数、四捨五入、測定誤差など、および、当業者に知られた他の要因を反映して、望ましいように大きいか、または、小さくてもよいことを意味する。
【0192】
本明細書で用いた語句および用語は、記載のために使用したものであり、限定するものではないと理解すべきである。本開示の幅および範囲は、いずれの上記例示的な態様によっても限定されるべきではなく、次の請求項および等価物によって画定されるべきである。
【0193】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0194】
実施形態1
イオン交換されたアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品において、
55モル%以上のSiOと、
12.5モル%以上から16.0モル%以下のAlと、
1モル%以上から3.88モル%以下のMgOと、
0.78モル%以上から3モル%以下のCaOと、
NaOと
を含み、
Alのモル%+ROのモル%≧17モル%であり、
ROのモル%=MgOのモル%+CaOのモル%であり、
前記ガラス物品は、ZnO、SrO、BaO、B、P、LiO、および、KOを実質的に含まないものであるガラス物品。
【0195】
実施形態2
前記ガラス物品は、
イオン交換される前にGPaで測定したヤング率値と、
前記ガラス物品の表面から圧縮深さまで延伸し、MPaで測定したピーク圧縮応力値を有する圧縮応力層と
を含み、
前記ピーク圧縮応力値の前記ヤング率値に対する比は、15以上である、実施形態1に記載のイオン交換されたアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品。
【0196】
実施形態3
前記ピーク圧縮応力値の前記ヤング率値に対する比は、15以上から18以下である、実施形態2に記載のイオン交換されたアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品。
【0197】
実施形態4
前記ヤング率値は、70MPa以上から80MPa以下の範囲である、実施形態2または3に記載のイオン交換されたアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品。
【0198】
実施形態5
前記ピーク圧縮応力値は、500MPa以上から1300MPa以下の範囲である、実施形態2から4のいずれか1つに記載のイオン交換されたアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品。
【0199】
実施形態6
前記圧縮深さは、5マイクロメートル以上から30マイクロメートル以下の範囲である、実施形態2から5のいずれか1つに記載のイオン交換されたアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品。
【0200】
実施形態7
前記圧縮深さは、前記ガラス物品の厚さの5%以上から20%以下の範囲である、実施形態2から6のいずれか1つに記載のイオン交換されたアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品。
【0201】
実施形態8
NaOのモル%+ROのモル%≧20モル%である、実施形態1から7のいずれか1つに記載のイオン交換されたアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品。
【0202】
実施形態9
(NaOのモル%+ROのモル%-Alのモル%)≧4モル%である、実施形態1から8のいずれか1つに記載のイオン交換されたアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品。
【0203】
実施形態10
11モル%≧(NaOのモル%+ROのモル%-Alのモル%)≧4モル%である、実施形態1から8のいずれか1つに記載のイオン交換されたアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品。
【0204】
実施形態11
21モル%≧Alのモル%+ROのモル%≧17モル%である、実施形態1から10のいずれか1つに記載のイオン交換されたアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品。
【0205】
実施形態12
37モル%≧Alのモル%+NaOのモル%≧28モル%である、実施形態1から11のいずれか1つに記載のイオン交換されたアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品。
【0206】
実施形態13
(MgOのモル%/(MgOのモル%+CaOのモル%))≧0.5である、実施形態1から12のいずれか1つに記載のイオン交換されたアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品。
【0207】
実施形態14
0.8≧(MgOのモル%/(MgOのモル%+CaOのモル%))≧0.5である、実施形態1から12のいずれか1つに記載のイオン交換されたアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品。
【0208】
実施形態15
1.92モル%以上から3.88モル%以下のMgOを、
含む、実施形態1から14のいずれか1つに記載のイオン交換されたアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品。
【0209】
実施形態16
0.78モル%以上から2.52モル%以下のCaOを、
含む、実施形態1から15のいずれか1つに記載のイオン交換されたアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品。
【0210】
実施形態17
59モル%以上から66モル%以下のSiOと、
16モル%以上から21モル%以下のNaOと
を含む、実施形態1から16のいずれか1つに記載のイオン交換されたアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品。
【0211】
実施形態18
64モル%以上から66モル%以下のSiOと、
13モル%以上から15モル%以下のAlと、
2モル%以上から3.88モル%以下のMgOと、
0.78モル%以上から2モル%以下のCaOと、
15.5モル%以上から17.5モル%以下のNaOと
を含む、実施形態1から14のいずれか1つに記載のイオン交換されたアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品。
【0212】
実施形態19
59.6モル%以上から65.5モル%以下のSiOと、
12.78モル%以上から15.96モル%以下のAlと、
1.92モル%以上から3.88モル%以下のMgOと、
0.78モル%以上から2.52モル%以下のCaOと、
16.09モル%以上から20.2モル%以下のNaOと
を含む、実施形態1から14のいずれか1つに記載のイオン交換されたアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品。
【0213】
実施形態20
4ミリメートル以下の厚さを有する、実施形態1から19のいずれか1つに記載のイオン交換されたアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品。
【0214】
実施形態21
15マイクロメートル以上から300マイクロメートル以下の範囲の厚さを有する、実施形態1から19のいずれか1つに記載のイオン交換されたアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品。
【0215】
実施形態22
イオン交換される前に測定した500kP以上から2300kP以下の範囲の液相粘度を有する、実施形態1から21のいずれか1つに記載のイオン交換されたアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品。
【0216】
実施形態23
前記ガラス物品の表面から圧縮深さまで延伸し、500MPa以上から1300MPa以下の範囲のピーク圧縮応力値を有する圧縮応力層を、
含む、実施形態1または8から22のいずれか1つに記載のイオン交換されたアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品。
【0217】
実施形態24
電子装置において、
電子ディスプレイと、
前記電子ディスプレイの上に配置された実施形態1から23のいずれか1つに記載の前記ガラス物品と、
を含む電子装置。
【0218】
実施形態25
前面、後面、および、側面を有する筐体と、
少なくとも部分的に前記筐体にあり、制御部、メモリ、および、該筐体の前記前面に、若しくは、該筐体に隣接した電子ディスプレイを含む電気的構成要素と
を更に含み、
前記ガラス物品は、前記筐体の少なくとも一部を形成するものである、実施形態24に記載の電子装置。
【0219】
実施形態26
イオン交換されたアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品において、
59モル%以上から66モル%以下のSiOと、
12.5モル%以上から16.0モル%以下のAlと、
1モル%以上から3.88モル%以下のMgOと、
0.78モル%以上から3モル%以下のCaOと、
16モル%以上から21モル%以下のNaOと、
前記ガラス物品をイオン交換する前にGPaで測定したヤング率値と、
前記イオン交換されたガラス物品の表面から延伸し、MPaで測定したピーク圧縮応力値を有する圧縮応力層と
を含み、
Alのモル%+ROのモル%≧17モル%、
ROのモル%=MgOのモル%+CaOのモル%であり、
ZnO、SrO、BaO、B、P、LiO、および、KOを実質的に含まないものであり、
前記ピーク圧縮応力値のヤング率値に対する比は、15以上から18以下であるガラス物品。
【0220】
実施形態27
イオン交換されたアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品において、
55モル%以上のSiOと、
12.5モル%以上から16モル%以下のAlと、
1モル%以上から4モル%以下のMgOと、
0.5モル%以上から3モル%以下のCaOと、
NaOと
を含み、
Alのモル%+ROのモル%≧17モル%であり、
ROのモル%=MgOのモル%+CaOのモル%であり、
ZnO、SrO、BaO、B、P、LiO、および、KOを、実質的に含まないものであるガラス物品。
【0221】
実施形態28
イオン交換される前にGPaで測定したヤング率値と、
前記ガラス物品の表面から圧縮深さまで延伸し、MPaで測定したピーク圧縮応力値を有する圧縮応力層と
を含み、
前記ピーク圧縮応力値の前記ヤング率値に対する比は、15以上である、実施形態27に記載のイオン交換されたアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品。
【符号の説明】
【0222】
100 ガラス物品
110、112 表面
120、122 圧縮応力領域
130 中心領域
DOC、d、d 圧縮深さ
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
【国際調査報告】