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特表2024-538151Mg(OH)2の生産及びCO2の鉱物固定化を可能にする海水の電気分解
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  • 特表-Mg(OH)2の生産及びCO2の鉱物固定化を可能にする海水の電気分解 図1A
  • 特表-Mg(OH)2の生産及びCO2の鉱物固定化を可能にする海水の電気分解 図1B
  • 特表-Mg(OH)2の生産及びCO2の鉱物固定化を可能にする海水の電気分解 図2
  • 特表-Mg(OH)2の生産及びCO2の鉱物固定化を可能にする海水の電気分解 図3A
  • 特表-Mg(OH)2の生産及びCO2の鉱物固定化を可能にする海水の電気分解 図3B
  • 特表-Mg(OH)2の生産及びCO2の鉱物固定化を可能にする海水の電気分解 図3C
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-18
(54)【発明の名称】Mg(OH)2の生産及びCO2の鉱物固定化を可能にする海水の電気分解
(51)【国際特許分類】
   C01F 5/14 20060101AFI20241010BHJP
【FI】
C01F5/14
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024522672
(86)(22)【出願日】2022-10-18
(85)【翻訳文提出日】2024-04-16
(86)【国際出願番号】 US2022078300
(87)【国際公開番号】W WO2023069947
(87)【国際公開日】2023-04-27
(31)【優先権主張番号】63/256,888
(32)【優先日】2021-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506115514
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
【氏名又は名称原語表記】The Regents of the University of California
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】チェン, シン
(72)【発明者】
【氏名】ラ プラント, エリカ キャラゴン
(72)【発明者】
【氏名】サント, ガウラブ
(72)【発明者】
【氏名】ジャスビー, デイビッド
(72)【発明者】
【氏名】シモネッティ, ダンテ アダム
(72)【発明者】
【氏名】トレイナー, トーマス
【テーマコード(参考)】
4G076
【Fターム(参考)】
4G076AA10
4G076AB24
4G076BA13
4G076BC02
(57)【要約】
1種以上の水酸化物固体を製造する方法は、電解質溶液を含む陰極液を提供すること、陰極液を電気活性のある網目状の陰極と接触させて電気分解的に水酸化物イオンを発生させ、それによって1種以上の水酸化物固体(複数可)を析出させること、及び1種以上の水酸化物固体を、それらが堆積する場合がある網の表面から除去することを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種以上の水酸化物固体を製造するための方法であって、
電解質溶液を含む陰極液を提供すること、
前記陰極液を電気活性のある網目状の陰極と接触させて、水酸化物イオンを電解生成させ、それによって前記1種以上の水酸化物固体を沈殿させること、
を含む前記方法。
【請求項2】
前記電解質溶液が2価の金属陽イオンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記2価陽イオンがMg2+、Ca2+、またはMg2+及びCa2+の両方のイオンを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記2価陽イオンがMg2+イオンを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記電解質溶液が塩水または海水を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記電解質溶液が海水を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記塩水または海水中のNaCl濃度が、約1,000ppm以上、約2,000ppm以上、約3,000ppm以上、約4,000ppm以上、約5,000ppm以上、約6,000ppm以上、約7,000ppm以上、約8,000ppm以上、約9、000ppm以上、約10,000ppm以上、約15,000ppm以上、約20,000ppm以上、約25,000ppm以上、または約30,000ppm以上、約35,000ppm以上、約40,000ppm以上、約45,000ppm以上、約50,000ppm以上、約55,000ppm以上、または約60,000ppm以上である、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
前記電解質溶液が、約2ppm以上、約10ppm以上、約50ppm以上、約100ppm以上、約200ppm以上、約300ppm以上、約400ppm以上、約500ppm以上、約600ppm以上、約700ppm以上、約800ppm以上、約900ppm以上、約1000ppm以上、約1100ppm以上、約1200ppm以上、約1300ppm以上、約1400ppm以上、または約1500ppm以上のCa当量濃度またはMg当量濃度を有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記電解質溶液が約1000ppm以上のMg換算濃度を有する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記1種以上の水酸化物固体が、Mg(OH)、Ca(OH)、またはMg(OH)及びCa(OH)の両方を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記1種以上の水酸化物固体がMg(OH)を含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記電気活性のある網目状の陰極が、その上に配置された電気活性のある網を有する回転盤型の陰極を含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記網の表面から前記1種以上の水酸化物固体を除去することをさらに含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記網の表面から前記1種以上の水酸化物固体を除去することが、前記網の表面を削ることを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記網の表面から前記1種以上の水酸化物固体を除去することが、スクレーパーを越えて前記回転盤型の陰極を回転させることを含む、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
前記電気活性のある網が、金属組成物、非金属組成物、または金属及び非金属組成物のハイブリッドから構成される網目状の陰極を含む、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記網目状の陰極が、ステンレス鋼、酸化チタン、カーボンナノチューブ、1種以上のポリマー、グラファイト、またはそれらの組合せを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記網目状の陰極がステンレス鋼を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記電気活性のある網が、約0.1μm~約10000μmの範囲の直径を有する細孔から構成される、請求項1~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
pHが9より大きいアルカリ化廃液を形成することをさらに含む、請求項1~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
10を超えるpHを有するアルカリ化廃液を形成することをさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
陽極液が酸を含む、請求項1~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記陽極液が約6未満のpHを有する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記陰極液と前記陽極液とを分離する隔壁を設けることをさらに含む、請求項1~24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記隔壁がポリマーを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記隔壁がセルロース、ポリ塩化ビニル、有機ゴム、ポリオレフィン、ポリエチレン、ポリプロピレン、またはそれらの任意の組合せを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記陽極液を中和プールに循環させることをさらに含む、請求項1~26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記中和プールが苦鉄質物質、超苦鉄質物質、カルシウムに富む飛散灰、鉱滓、またはそれらの任意の組合せを含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
電気分解的に水酸化物イオンを発生させることが、50μA/cm超の電流密度で行われる、請求項1~28のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年10月18日に出願された米国仮出願第63/256,888号の優先権の利益を主張するものであり、その内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
政府支援に関する記述
本発明は、米国エネルギー省から授与された契約番号DE-FE0031705に基づく政府の支援により行われた。政府は本発明について一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
海洋炭素貯留は、大気中の炭素濃度を低減するための経路である。海洋は、HCO、HCO 、及びCO 2-種として溶解した形で貯蔵されている、約38,000ギガトンの炭素の広大な貯蔵庫である。海洋水から2価の金属炭酸塩固体を形成することによる海洋からの炭素回収は、このプロセスによるpHの低下により、炭素貯蔵容量を低下させる可能性がある。しかし、海洋水のpHが上昇すると、ヘンリーの法則に従ってこの貯蔵容量が増加する場合がある(例えば、pHに対する海水のCO吸収量のプロットを示した図1Aを参照)。したがって、金属水酸化物のようなアルカリ性物質を海水に添加すると、pHが上昇し、炭素貯蔵容量が回復する可能性がある。
【0004】
工業用途のブルース石(Mg(OH))は、炭酸マグネシウムを焼成して生成したMgOの水和によって自然に得られるもの、またはアルカリ性を供給することによって海水から沈殿させて得られるものがある。海水は、特に塩化物塩と硫酸塩の形で、多量のMg2+イオンを含んでいる。したがって、海水はブルース石生成の源となり得る。海洋水からブルース石を生成する効率的な方法が必要とされている。さらに、海洋水のpHを上昇させる方法、特に炭素回収方法の一部として海洋水のpHを上昇させる方法が必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、水酸化物固体、特にMg(OH)固体を製造する方法に関する。いくつかの実施形態において、本開示は、1種以上の水酸化物固体を製造する方法であって、
電解質溶液を含む陰極液を提供すること、
該陰極液を電気活性のある網目状の陰極と接触させて、水酸化物イオンを電解生成させ、それによって1種以上の水酸化物固体を沈殿させること、
を含む、方法を提供する。
【0006】
いくつかの実施形態において、電解質溶液は二価の金属陽イオンを含む。特定の実施形態において、電解質溶液は、Mg2+イオン、Ca2+イオン、またはMg2+イオン及びCa2+イオンの両方を含む。特に好ましい実施形態において、二価陽イオンはMg2+イオンを含む。
【0007】
特定の実施形態において、電解質溶液は塩水または海水を含む。好ましくは、電解質溶液は海水を含む。
【0008】
特定の実施形態において、塩水または海水は、NaClを塩水または海水中に約1,000ppm以上、約2,000ppm以上、約3,000ppm以上、約4,000ppm以上、約5,000ppm以上、約6,000ppm以上、約7,000ppm以上、約8,000ppm以上、約9,000ppm以上、約10,000ppm以上、約15,000ppm以上、約20,000ppm以上、約25,000ppm以上、または約30,000ppm以上、約35,000ppm以上、約40,000ppm以上、約45,000ppm以上、約50,000ppm以上、約55,000ppm以上、または約60,000ppm以上の濃度で含む。好ましくは、NaCl濃度は約35,000ppm以上である。
【0009】
特定の実施形態において、電解質溶液は、約2ppm以上、約10ppm以上、約50ppm以上、約100ppm以上、約200ppm以上、約300ppm以上、約400ppm以上、約500ppm以上、約600ppm以上、約700ppm以上、約800ppm以上、約900ppm以上、約1000ppm以上、約1100ppm以上、約1200ppm以上、約1300ppm以上、約1400ppm以上、または約1500ppm以上のCa当量濃度またはMg当量濃度を有する。好ましくは、電解質溶液は、約1000ppm以上のMg当量濃度を有する。
【0010】
いくつかの実施形態において、1種以上の水酸化物固体は、Mg(OH)2、Ca(OH)、またはMg(OH)2及びCa(OH)の両方を含む。好ましくは、1種以上の水酸化物固体は、Mg(OH)を含む。
【0011】
いくつかの実施形態において、電気活性のある網目状の陰極は、回転盤型の陰極を備える。特定の実施形態において、回転盤型の陰極は、その上に配置された電気活性のある網を有する。
【0012】
いくつかの実施形態において、本方法は、網の表面から1種以上の水酸化物固体を除去することをさらに含む。特定の実施形態において、網の表面から1種以上の水酸化物固体を除去することは、網の表面を削ることを含む。
【0013】
陰極が回転盤型の陰極であるいくつかの実施形態において、網の表面から1種以上の水酸化物固体を除去することは、スクレーパーを越えて回転盤型の陰極を回転させることを含む。
【0014】
特定の実施形態において、電気活性のある網目状の陰極は、金属組成物、非金属組成物、または金属組成物及び非金属組成物のハイブリッドを含む。
【0015】
いくつかの実施形態において、電気活性のある網目状の陰極は、ステンレス鋼、酸化チタン、カーボンナノチューブ、1種以上のポリマー、グラファイト、またはそれらの組合せを含む。好ましくは、網目状の陰極はステンレス鋼を含む。
【0016】
いくつかの実施形態において、電気活性のある網は、約0.1μm~約10000μmの範囲の直径を有する細孔を備える。
【0017】
いくつかの実施形態において、本方法は、9より大きいpH、他の実施形態においては、10より大きいpHを有するアルカリ化された廃液を形成することを含む。
【0018】
いくつかの実施形態において、陽極液は酸を含む。特定の実施形態において、酸は約6未満のpHを有する。
【0019】
いくつかの実施形態において、本方法は、陰極液と陽極液とを分離する隔壁を提供することをさらに含む。いくつかの実施形態において、隔壁は、セルロース、ポリ塩化ビニル、有機ゴム、ポリオレフィン、ポリエチレン、ポリプロピレン、またはそれらの任意の組合せなどのポリマーを含む。
【0020】
他の実施形態において、本方法は、中和プールに陽極液を循環させることをさらに含む。中和プールは、苦鉄質材料、超苦鉄質材料、カルシウムに富む飛散灰、鉱滓、またはそれらの任意の組合せを含む場合がある。
【0021】
いくつかの実施形態において、水酸化物イオンの電解生成は、50μA/cmより大きい電流密度で実施される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1A】海水のCO取り込み容量のpHに対するプロットを示す。
図1B】Mg(OH)溶解による海水のCO取り込み容量向上のプロットを示す。
図2】様々な実施形態による、ブルース石鉱物固定化(mineralization)反応器の概略図を示す。
図3A】電流密度の関数としての、海水1Lあたりのブルース石生成及び除去速度のプロットを示す。
図3B】陰極上に形成されたブルース石沈殿物の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
図3C】陰極上に形成されたブルース石沈殿物のX線回折(XRD)パターンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本開示によるプロセスは、海洋アルカリ度を高め、大気中の二酸化炭素の溶解を促進するためにブルース石(Mg(OH))沈殿物を形成する、電気化学的に強化された電気分解反応に基づく。そのようなプロセスには、2022年6月28日に出願された国際出願PCT/US22/35289号、2020年6月12日に出願された国際出願PCT/US20/37629号、及び2022年4月15日に出願された米国出願第17/722036号に開示されたものが含まれるが、これらに限定されず、これらの全体は参照により本明細書に組み込まれる。
【0024】
図1Aに示すように、海水のpHを上昇させると、HCO、HCO 及びCO 2-イオンの種分化を記述する平衡定数、及びヘンリーの法則に従って、海水の炭素貯蔵容量は増加する。特に、アルカリ性(例えば、カルシウム及びマグネシウムに富む)固体の海洋表面への溶解は、pHを有利に上昇させ、COの追加的な取り込みを可能にする。CO取り込み量(最初の固体または液体材料の質量あたりの、固体生成物に取り込まれたCOの質量、または溶解イオンとして定量化される)は、気体COを安定した固体または溶解イオンに隔離する材料の効率を表す。COの取り込みを促進することで、人為起源のガス状COを影響力のある形で除去することができる。
【0025】
図1Bに示すように、ブルース石(Mg(OH))を海水中に、平衡になるまで添加する場合があり、その結果、pHは9.1になるが、これは、海水の典型的なpHであるpH8.2の場合と比較して、溶存COの総量が約3倍増加することに相当する。工業用途のブルース石は、例えば炭酸マグネシウムを焼成して生成したMgOの水和によって自然に得られるか、またはアルカリ性の供給によって海水から沈殿して得ることができる。図1Bは、ブルース石の溶解によって強化されたCO吸収容量を示している。溶解したブルース石1モルあたり、約1.6モルの大気中のCO吸収を促進することができる。
【0026】
本開示では、ブルース石のような金属水酸化物固体は、1Lあたり約55mmolのMgを含む海水を使用するか、または他のMgに富む塩水を供給材として使用する電気化学プロセスによって製造される場合がある。いくつかの実施形態において、ブルース石沈殿物を製造するために、膜なし反応器が使用される場合がある。このような膜なし反応器の利点には、エネルギー要件が低いこと、維持費及び運転費が低減されること、ならびに規模が大きくなるにつれて製造費が低減されることが含まれる場合がある。
【0027】
いくつかの実施形態において、本開示による方法は、電解質溶液を含む陰極液を提供すること、及び該陰極液を電気活性のある網目状の陰極と接触させて電気分解的に水酸化物イオンを生成し、それによって1種以上の水酸化物固体を沈殿させることを含む。
【0028】
いくつかの実施形態において、本方法は、1種以上の水酸化物固体が堆積する場合がある網の表面から、1種以上の水酸化物固体を除去することをさらに含む。
【0029】
CO鉱物固定化プロセスは、中性付近のCa及びMgを含有する溶液(例えば、海水、アルカリ金属に富む地下水、工業廃水、または脱塩塩水)をアルカリ化することによって達成することができる。いくつかの実施形態において、本方法は単室型連続攪拌槽反応器(CSTR)を使用する。電圧、電流密度、及び水力学的滞留時間(「HRT」)のような操作パラメータは、設計の水酸化エネルギー強度を最小化するように選択される。
【0030】
図2に目を向けると、本発明の特定の実施形態を実施するのに有用な膜なし反応器が示されている。膜なし電気分解反応器200は、陰極液から水酸化物固体を電気化学的に沈殿させるために概念化された。いくつかの実施形態において、水酸化物形成プロセスは、海水、アルカリ金属に富む地下水、工業廃水、または脱塩塩水のような、中性付近のCa及びMgを含有する溶液をアルカリ化することによって有利に達成することができる。本発明者らは、単室型連続攪拌槽反応器(CSTR)を用いて、概念化された複数室型反応器の実現可能性を評価した。操作パラメータ(例えば、電圧、電流密度、及び水力学的滞留時間(「HRT」))も、設計の炭酸化エネルギー強度を実証するために選択される場合がある。
【0031】
さらに図2を参照すると、反応器200は、海水、アルカリ金属に富む地下水、工業廃水、脱塩塩水などの陰極液を含む貯留槽405を含む。反応器はさらに、陽極液入口203及び出口211を含む。電極組立体206は、水性隔離液貯留槽205と流体接触しており、隔壁層208によって分離された回転盤型陰極207及び陽極209を含む。回転盤型陰極207(例えば、316Lステンレス鋼製の網)は、生成物の除去及び収集のためにスクレーパー210を通過させるために、軸202の周りを回転する場合がある。反応器は、中和プール212をさらに含む場合がある。Oは陽極209で生成される場合があり、O出口213で放出される場合がある。Hは、回転盤型の陰極207で生成される場合があり、H出口214で放出される場合がある。
【0032】
回転盤型陰極を含む実施形態において、炭酸塩固体の沈殿を誘導することは、溶液を網の外面上に吸引しながら、溶液中の電気活性のある網を備える円筒を回転させることを含む。
【0033】
以下の理由により、電解質を多孔質隔壁で仕切る場合がある:(1)最小限度にされた陽極液及び陰極液間の中和反応は、効果的な鉱物固定化のための安定した陰極pHを可能にする、(2)分離された電解質は、反応器のより高いエネルギー効率を促進する、(3)ガス流(H及びO)は、別々に分割して回収する必要がある場合がある。
【0034】
さらに図2を参照すると、オンラインpH監視システムが、例えば、陰極液pHが一定または9超になるように印加電流を制御するために、使用される場合がある。陽極液は、いくつかの実施形態において、を提供し得る。
【0035】
いくつかの実施形態において、反応器は、陰極液及び陽極液を含む。陰極液は、陰極の周囲を流れるように、または陰極を通って流れるように構成された電解質溶液である場合がある。陽極液は、陽極の周りを流れるように、または陽極を通って流れるように構成された電解質である場合がある。陰極液は電解質溶液を含む場合がある。
【0036】
いくつかの実施形態において、電解質溶液は、Mg2+、Ca2+、またはMg2+及びCa2+両方のイオンなどの二価金属陽イオンを含む。特に好ましい実施形態において、電解質溶液はMg2+イオンを含む。
【0037】
いくつかの実施形態において、電解質溶液は、海水または塩水を含む。好ましくは、電解質は海水である。いくつかの実施形態において、電解質溶液は、約1,000ppm以上、約2,000ppm以上、約3,000ppm以上、約4,000ppm以上、約5,000ppm以上、約6,000ppm以上、約7,000ppm以上、約8,000ppm以上、約9,000ppm以上、約10,000ppm以上、約15,000ppm以上、約20,000ppm以上、約25,000ppm以上、もしくは約30,000ppm以上、約35,000ppm以上、約40,000ppm以上、約45,000ppm以上、約50,000ppm以上、約55,000ppm以上、もしくは約60,000ppm以上、またはそれ以上、またはそれらの間の任意の範囲もしくは値のNaCl濃度を有する。好ましい実施形態において、電解質溶液は、約35,000ppm以上のNaCl濃度を有する。
【0038】
いくつかの実施形態において、陰極液は、約2ppm以上、約10ppm以上、約50ppm以上、約100ppm以上、約200ppm以上、約300ppm以上、約400ppm以上、約500ppm以上、約600ppm以上、約700ppm以上、約800ppm以上、約900ppm以上、約1000ppm以上、約1100ppm以上、約1200ppm以上、約1300ppm以上、約1400ppm以上、または約1500ppm以上のCa当量またはMg当量濃度を有する。好ましくは、陰極液溶液は、約1000ppm以上のMg当量濃度を有する。Ca当量及びMg当量とは、電解質溶液中のCa及びMgの塩を指す。好ましくは、塩は塩化物塩または硫酸塩である。
【0039】
いくつかの実施形態において、陽極液は酸を含む。いくつかの実施形態において、陽極液は、約7未満、約6未満、約4未満、約3未満、約2未満、約1未満までのpHを有する。特定の実施形態において、陽極液は、約1~約6、約1~約5、約1~約4、約1~約3、または約1~約2のpHを有する。
【0040】
いくつかの実施形態において、1種以上の水酸化物固体は、Mg(OH)、Ca(OH)、またはMg(OH)及びCa(OH)の両方を含む。特に好ましい実施形態において、1種以上の水酸化物固体は、Mg(OH)(本明細書ではブルース石とも呼ばれる)を含む。
【0041】
いくつかの実施形態において、陰極207は、電気活性のある網を備える。いくつかの実施形態において、電気活性のある網は、金属組成物もしくは非金属組成物、または金属組成物及び非金属組成物の組合せを含む。いくつかの実施形態において、電気活性のある網は、金属網または炭素系網を含むか、本質的にそれから構成されるか、またはそれから構成される。いくつかの実施形態において、電気活性のある網は、ステンレス鋼、酸化チタン、カーボンナノチューブ、ポリマー、及び/またはグラファイト、またはこれらの材料の他のハイブリッド組成物を含む。好ましくは、電気活性のある網はステンレスを含む。
【0042】
いくつかの実施形態において、電気活性のある網は、約0.01μm~約10000μmの範囲の直径を有する細孔を備える(例えば、約0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、200、300、400、500、1000、1500、2000、3000、4000、5000、6000、7000、8000、9000、もしくは10000μm、またはその間の任意の範囲)。
【0043】
いくつかの実施形態において、陰極207(例えば、316Lステンレス鋼網)は、OER-(酸素発生反応)選択的陽極(例えば、MnO被覆Pt)と一体となって、アルカリ性及び酸性を生成する。
【0044】
いくつかの実施形態において、本方法は、網の表面から1種以上の水酸化物固体を除去することをさらに含む。好ましい実施形態において、1種以上の水酸化物固体は、掻き取り工程によって除去される。掻き取り工程は、金属ブラシ、ブレード、または高圧ノズルを使用する場合がある。陰極が回転盤型の陰極である特定の実施形態において、網の表面からの1種以上の水酸化物固形物は、スクレーパーを越えて回転盤型の陰極を回転させることによって、網の表面から除去される場合がある。
【0045】
いくつかの実施形態において、反応器は、陽極液を陰極液から分離する隔壁208をさらに含む。いくつかの実施形態において、隔壁は、セルロース、ポリ塩化ビニル、有機ゴム、ポリオレフィン、ポリエチレン、ポリプロピレン、任意の他の適切な材料、またはそれらの組合せを含む。隔壁は、以下の目的で陰極液と陽極液とを分離する:(1)陽極液と陰極液間の中和反応を最小限に抑え、ブルース石生成に必要な安定した陰極pHをもたらす、(2)反応器のエネルギー効率を高める、及び(3)ガス流(H及びO)の回収を容易にする。
【0046】
pH監視システムは、例えば、一定の陰極pHを達成するために印加される電流を制御するために使用される場合がある。例えば、いくつかの実施形態において、陰極液pHは9超、例えば約9.5~9.6に維持される。ステンレス鋼陰極は、水酸化物触媒として疎水性の網(例えば、ポリプロピレン(PP)の網)で覆われている場合があり、それによって陰極で水酸化物イオンを電解生成する。陰極液は、Mg2+イオンが電解生成されたOHイオンと反応してMg(OH)を生成するように、海水で洗浄される場合がある。電流密度や水力学的滞留時間(HRT)を含む運転パラメータが最適化される場合がある。妥当なHRT内(例えば、数秒から数分)で、Mg(OH)の生成は、高い電流密度で促進される。いくつかの実施形態において、電流密度は、50μA/cm超、100μA/cm超、200μA/cm超、300μA/cm超、400μA/cm超、もしくは5000μA/cm超、またはその間の任意の範囲である。さらに、高い電流密度はまた、アルカリ化された廃液(例えば、pHが約9超、または約10超)をもたらす場合があり、海水などの陽極液源のCO回収容量を向上させるために有利に使用することができる。
【0047】
いくつかの実施形態において、PPで覆われたステンレス鋼陰極は、水酸化物を除去するために、回転されてスクレーパー(例えば、金属ブラシ、ブレード、または高圧ノズル)を通過する場合があり、それにより、回転盤が液体中に回転して戻る際に、その後の水酸化物生成のために陰極を再生する。いくつかの実施形態において、ノズル噴霧器を使用して、析出した水酸化物を強制的に剥離させる場合がある。
【0048】
いくつかの実施形態において、陽極液は、カルシウムに富む飛散灰、鉱滓、またはそれらの任意の組合せを含む中和プール212に循環され、こうして生成された酸性は、アルカリ性を回復するために消費され得る。Caに富む飛散灰及び鉱物は、有利には、陽極液中のCa2+を濃縮するためにも使用される場合がある。
【0049】
図3A~Cに示されるように、本方法の特定の実施形態によるMg(OH)は、陰極表面にスケールを形成し、簡単な掻き取りプロセスによる容易な除去を可能にする。図3Aは、海水1Lあたりのブルース石生成率と除去率を電流密度の関数としてプロットしたものである。電流密度が高いほど、生成されるブルース石の濃度が低くなり、除去率が高くなる。図3Bは、陰極網上に形成されたブルース石沈殿物の走査型電子顕微鏡(SEM)像である。形成されたブルース石は厚く、脆く、明確な割れ目があり、それが除去の容易さを促進するのに役立っている。図3Cは、形成された析出物のX線回折(XRD)プロットを示す。XRDプロットは、沈殿物とブルース石の間に同じピークが見られることから、ブルース石が形成されていることを示している。
【0050】
本明細書において、単数形の用語「a」、「an」及び「the」は、文脈から明らかに指示がない限り、複数の参照語を含む。従って、例えば、対象への言及は、文脈上明らかにそうでないと指示されない限り、複数の対象を含み得る。
【0051】
本明細書で使用される場合、「一組」という用語は、1つまたは複数の対象の集合を指す。したがって、例えば、対象の一組は、単一の対象または複数の対象を含み得る。
【0052】
本明細書で使用される場合、「実質的に」及び「約」という用語は、わずかなばらつきを説明し、考慮するために使用される。事象または状況とともに使用される場合、この用語は、事象または状況が正確に発生する例だけでなく、事象または状況が近似的に発生する例も指し得る。例えば、数値とともに使用される場合、この用語は、その数値の±10%以下、例えば±5%以下、±4%以下、±3%以下、±2%以下、±1%以下、±0.5%以下、±0.1%以下、±0.05%以下の変動範囲を包含し得る。
【0053】
本明細書において、「大きさ」という用語は、対象の特徴的な寸法を指す。したがって、例えば、円形の対象の大きさは、対象の直径を指すことができる。非円形の対象の場合、非円形の対象の大きさは、対応する円形の対象の直径を指すことができ、対応する円形の対象は、非円形の対象のものと実質的に同じである、導出可能または測定可能な特性の特定の一組を示すか、または有する。代替的に、または関連して、非円形対象の大きさは、対象の様々な直交寸法の平均を指すことができる。したがって、例えば、楕円である対象の大きさは、対象の長軸と短軸の平均を指すことができる。対象の集合が特定の大きさを有すると言及する場合、対象は特定の大きさの周りに大きさの分布を有し得ることが企図される。したがって、本明細書で使用する場合、対象の集合の大きさは、大きさの平均値、大きさの中央値、または大きさのピークなどの、大きさの分布の典型的な大きさを指し得る。
【0054】
さらに、量、比率、及び他の数値は、本明細書では範囲の形式で示されることがある。このような範囲形式は、便宜的かつ簡潔に使用されるものであり、範囲の限界として明示的に指定された数値を含むだけでなく、各数値及び部分範囲が明示的に指定されているかのように、その範囲内に包含されるすべての個々の数値または部分範囲を含むように柔軟に理解されるべきであることを理解されたい。例えば、約1~約200の範囲の比率は、約1及び約200の明示的に規定された限界を含むだけでなく、約2、約3、及び約4のような個々の比率、ならびに約10~約50、約20~約100のような部分範囲をも含むと理解されるべきである。
【0055】
本開示をその特定の実施形態を参照して説明してきたが、当業者には、添付の特許請求の範囲によって定義される本開示の真の精神及び範囲から逸脱することなく、様々な変更がなされ、等価物が代用される場合があることが理解されるべきである。さらに、特定の状況、材料、組成物、方法、操作(複数可)を、本開示の目的、精神及び範囲に適合させるために、多くの修正がなされる場合がある。このような修正はすべて、添付の特許請求の範囲に含まれることを意図している。特に、特定の方法が、特定の順序で実行される特定の操作を参照して記載された場合があるが、これらの操作は、本開示の教示から逸脱することなく、等価な方法を形成するために、組み合わされ、小分けされ、または再順序付けされ得ることが理解されるであろう。従って、本明細書において特に示されない限り、操作の順序及びグループ化は、本開示の限定ではない。
【0056】
本明細書において例示的に記載される実施形態は、本明細書において具体的に開示されていない要素(複数可)、限定(複数可)がない場合に好適に実施される場合がある。したがって、例えば「含む(comprising)」、「含む(including)」、「含む(containing)」などの用語は、限定することなく拡大解釈されるものとする。さらに、本明細書で採用された用語及び表現は、限定ではなく説明の用語として使用されており、このような用語及び表現の使用には、示され説明された特徴またはその一部の等価物を排除する意図はないが、特許請求された技術の範囲内で様々な変更が可能であることが認識される。さらに、「本質的に構成される」という表現は、具体的に記載された要素、及び特許請求される技術の基本的かつ新規な特性に実質的に影響を与えない追加的な要素を含むものと理解される。「から構成される」という表現は、特定されていない任意の要素を除外するものである。
【0057】
参考文献
1.Renforth,P.;Henderson,G.Assessing Ocean Alkalinity for Carbon Sequestration. Rev.Geophys.2017,55(3),636-674.https://doi.org/10.1002/2016RG000533.
2.Kheshgi,H.S.Sequestering Atmospheric Carbon Dioxide by increasing Ocean Alkalinity.Energy 1995,20(9),915-922.https://doi.org/10.1016/0360-5442(95)00035-F.
【0058】
参照による取り込み
本明細書に記載されたすべての刊行物及び特許は、個々の刊行物または特許が参照により組み込まれることが具体的かつ個別に示されているかのように、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。矛盾が生じた場合は、本明細書における定義を含め、本出願が優先する。
【0059】
等価物
主題発明の具体的な実施形態について説明してきたが、上記明細書は例示であり、制限的なものではない。本発明の多くの変形例は、本明細書及び以下の特許請求の範囲を検討すれば、当業者には明らかになるであろう。本発明の全範囲は、特許請求の範囲をそれらの等価物の全範囲と併せて、及び明細書をそのような変形と併せて参照することにより決定されるべきである。
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図3C
【国際調査報告】