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特表2024-538162モジュール式電解セル配置のための方法と制御システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-18
(54)【発明の名称】モジュール式電解セル配置のための方法と制御システム
(51)【国際特許分類】
   C25B 15/00 20060101AFI20241010BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20241010BHJP
   C25B 15/023 20210101ALI20241010BHJP
【FI】
C25B15/00 302Z
C25B1/04
C25B15/023
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024523110
(86)(22)【出願日】2022-10-13
(85)【翻訳文提出日】2024-06-07
(86)【国際出願番号】 US2022046540
(87)【国際公開番号】W WO2023064449
(87)【国際公開日】2023-04-20
(31)【優先権主張番号】63/262,454
(32)【優先日】2021-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524142493
【氏名又は名称】ディーユージー・テクノロジー・(オーストラリア)・ピーティーワイ・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】弁理士法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ロマーズ,マーク
(72)【発明者】
【氏名】シャローネ,ロス
【テーマコード(参考)】
4K021
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021BA02
4K021BC06
4K021BC09
4K021CA05
4K021DC03
(57)【要約】
【課題】出力が常に変動する出力調整不可能なエネルギー源でも安定した電圧供給を行う。
【解決手段】再生可能エネルギー源のような可変入力電圧条件下で、電解セルのモジュール配置を操作して、セルの電位が下回る及び上回るのを低減して動作を最適化するための制御システムが提供される。セル又はセルグループへのエネルギー供給と電解質溶液の流れは、利用可能な電位と、アクティブなセルが必要とする最適な電位に応じて、中断又は再開される。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電解セルを含む電気分解槽システムを運転する方法であって:
電源によって生成された電圧を測定することと;
前記測定された電圧を、最適な電気分解槽電圧と比較することであって、前記最適な電気分解槽電圧は、前記複数の電解セルのうちの1つの電解セルの動作電圧と、前記電源に電気的に接続された前記複数の電解セルの数との積を含む比較することと;
前記測定された電圧が、前記最適な電気分解槽電圧を上回る場合、少なくとも1つの追加の電解セルを、前記電源に電気的に接続することと;
前記測定された電圧が、前記最適な電気分解槽電圧を下回る場合、少なくとも1つの電解セルを、前記電源から電気的に切り離すことと、
を含む方法。
【請求項2】
前記測定された電圧が、前記最適な電気分解槽電圧を上回る場合、少なくとも1つの追加の電解セルを、電解質溶液供給源及び生成ガスヘッダーに液圧的に接続することと;
前記測定された電圧が、前記最適な電気分解槽電圧を下回る場合、少なくとも1つの電解セルを、前記電解質溶液供給源及び前記生成ガスヘッダーから液圧的に隔離することと、
を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記測定された電圧が、前記最適な電気分解槽電圧を上回る場合、前記少なくとも1つの追加の電解セルを、前記生成ガスヘッダに接続する前に、所定の期間にわたって、廃棄ガスライン又は補助ガス生成物ラインのいずれかに、液圧的に接続することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記測定された電圧が、前記最適な電気分解槽電圧を、前記少なくとも1つの追加の電解セルが電源に接続される量未満だけ上回る場合には、電気エネルギー貯蔵装置を充電することを更に含み、前記測定された電圧が、前記最適な電気分解槽電圧を、少なくとも1つの電解セルが電源から切り離される量未満だけ下回る場合には、前記電気エネルギー貯蔵装置を放電することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記電源が、可変出力電源である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
電源が、光電発電機、太陽熱発電機、及び風力発電機のうちの少なくとも1つを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
可変出力電源と共に使用するエネルギー貯蔵システムであって:
複数の電解セルであって、各々の電解セルが、電解質溶液入口と、各電解セルの水素ガス出口を生成物ガスラインに接続するように動作可能な弁と、前記各々の電解セルを可変出力電源に電気的に接続するように動作可能なスイッチとを含む、複数の電解セル;
前記可変出力電源に接続された電圧測定回路;及び
前記電圧測定回路、前記弁、及び前記スイッチと、信号通信するコントローラであって、測定電圧と最適電圧との間の差に応答して作動させるか又は停止させる複数の電解セルの数を計算するように動作可能なコントローラと、前記測定電圧に応答して、前記複数の電解セルの前記数に対するだけスイッチ及び弁を作動させるように配置されたコントローラと、
を備える、エネルギー貯蔵システム。
【請求項8】
前記コントローラは、前記多数の電解セルの各々の水素出口を生成物ガスラインに接続するために前記弁を動作させる前に、所定の期間にわたり、動作している前記多数の電解セルの各々の水素ガス出口を廃棄ガスライン又は補助ガス生成物ラインに接続するために、前記弁を操作するように配置されている、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記可変出力電源と電気負荷とに電気的に接続され、前記複数の電解セルに電気的に接続された電気エネルギー貯蔵装置を更に備え、前記電気エネルギー貯蔵装置は、前記測定された電圧が、前記最適な電気分解槽電圧を、コントローラが前記少なくとも1つの追加の電解セルを接続するように動作する所定の差未満だけ上回る場合に、充電され、前記電気エネルギー貯蔵装置は、前記測定された電圧が、前記最適な電気分解槽電圧を、前記コントローラが前記少なくとも1つの電解セルを切り離すように動作する量未満だけ下回る場合に、放電されることを特徴とする、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記電気エネルギー貯蔵装置は、バッテリ又はキャパシタを備える、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記バッテリは、電気化学バッテリを含む、請求項10に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電気的構成部品及び機械的構成部品の両方を有する複雑なシステム用に設計された、プロセス制御の分野に関する。より具体的には、本開示は、再生可能エネルギー源のような可変電源に連結された電気分解装置の管理のための制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
現代の発電は、さまざまな技術が複雑に絡み合っている。石炭やガスによる火力発電や水力発電などの出力調整可能電力の発電が、ソーラー発電(光電発電や太陽熱発電)や風力発電などの出力調整不可能な発電源によって補完されることがある。これらの出力調整不可能なエネルギー源は、定義上断続的であり、その地域の瞬間的な気象条件、1日の中の時間帯、及び年間の中の時期によって出力が変化する。
【0003】
環境への潜在的な影響を軽減し続けるために、発電事業者は再生可能エネルギーによる発電のレベルを高め、従来の化石燃料によるエネルギー源の使用を削減又は段階的に廃止する方向に進んでいる。太陽光発電のような出力調整不可能な発電源は、環境からエネルギーを利用するというその方法の性質上、出力調整可能な発電源に比べて、電力供給の間欠性が大きい。このような理由から、発電機と消費者の間にバッファーを設けて供給を調整し、安定した電力供給を保証する「負荷を安定させる」貯蔵システムなしに、ベース負荷電力を再生可能エネルギーに依存することは非現実的である。
【0004】
更に、「オフグリッド」カーボンフリーの電力システムを提供しようとする努力は、再生可能エネルギー供給を実現するために、地域密着型の太陽光発電システムへの依存度を高めている。
【0005】
電気化学電池は従来、変動電源の負荷の安定化のために使用されてきた。電気化学電池の欠点には、資本コストが高いこと、新しい電池の原料を調達することによる環境への影響、可燃性物質の燃焼や触媒作用とは対照的なエネルギー密度の低さ、大型電池バンクの運転に伴う安全性についての実質的な問題などがある。こうした理由から、水素ガス貯蔵のような代替的なエネルギー貯蔵技術が広く使われるようになってきている。水素ガス貯蔵技術は、従来の電気化学電池に代わる、環境に優しい技術である。
【0006】
さまざまな原料から水素ガスを発生させる方法は複数ある。本開示に関連する方法は、水の電気分解である。水の電気分解による水素ガスの製造方法は確立されている。工業規模での水の電気分解装置は広く入手可能であり、技術も成熟している。
【0007】
出力調整不可能なエネルギー発電機の変動する性質を安定化させる1つの解決策は、そのような発電機を、上記の電気分解装置のような水素ガス生成/貯蔵システムに、簡単で信頼性が高く効率的な方法で連結させることである。水素ガス生成システムは、供給が需要を上回ったときに余剰エネルギーを吸収し、余剰エネルギーを水素ガスに変換する、出力調整不可能なエネルギー源へのバッファーの役割を果たす。逆に、電気エネルギーの需要が供給を上回った場合、水素ガスを処理して(例えば燃料電池を介して)発電し、それによって負荷を賄うことができる。このような水素ベースのバッファーシステムは、環境に優しい方法で、エンドユーザーに、安定した信頼性の高い電力供給を行うことができる。
【0008】
水素ガスを発生させるために使用される(上に企図されているような)電気分解システムは、各電解セルへの入力電圧に敏感であり、発生したガスの純度と生産効率との両方に影響を与える。電圧不足の状態(電解セルに印加される電圧が、わずかに不足している状態)での運転は、望ましくない酸素ガスが発生し、水素ガス生成物流の純度に影響を与え得る、「汚染された」水素が生成する結果となる。過電圧状態(電解セルに印加される電圧が、必要な活性化電圧を実質的に超える場合)では、セルの内部加熱によりセル効率が低下する結果となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
太陽光発電のような出力調整不可能なエネルギー源は、出力が常に変動するため、介入なしでは、電気分解システムを効率的に稼働させるのに必要な、安定した電圧供給を行うことができない。このように、出力調整不可能な発電源に関連して使用されるバッファーが、引き続き必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示は、電気分解槽のモジュールシステムの段階的運転のための制御システムを提示し、このようなシステム内のセルによって必要とされる最適な総電圧を、太陽光発電システムや風力発電システムなどの出力調整不可能な発電システムによって提供されるもののような可変入力電圧と一貫してマッチさせることによって、信頼性が高く効率的な運転を可能にするものである。
【0011】
本開示の一態様は、複数の電解セルを含む電気分解槽システムを動作させる方法である。本開示のこの態様による方法は、電源によって生成された電圧を測定することと、測定された電圧を最適な電気分解槽電圧と比較することとを含む。最適な電気分解槽電圧は、複数の電解セルのうちの1つの電解セルの動作電圧と、電源に電気的に接続された複数の電解セルの数との積で構成される。測定された電圧が最適な電気分解槽電圧を超えると、少なくとも1つの追加の電解セルが、電源に接続される。測定された電圧が最適な電気分解槽電圧を下回ると、少なくとも1つの電解セルが、電源から切り離される。
【0012】
いくつかの実施形態は更に、測定された電圧が、最適な電気分解槽電圧を超えると、少なくとも1つの追加の電解セルを、電解質溶液の供給源及び生成ガスヘッダに液圧的に接続することを含む。測定電圧が最適な電気分解槽電圧を下回ると、少なくとも1つの電解セルが、電解質溶液の供給源及び生成ガスヘッダから隔離される。
【0013】
いくつかの実施形態は更に、測定された電圧が、最適な電気分解槽電圧を超えると、少なくとも1つの追加の電解セルを、生成物ガスヘッダに接続する前に、所定の期間にわたって、少なくとも1つの追加の電解セルを、廃棄ガスライン又は補助ガス生成物ラインのいずれかに液圧式に接続することを含む。
【0014】
いくつかの実施形態は更に、測定された電圧が、少なくとも1つの追加の電解セルが接続される量未満だけ、最適な電気分解槽電圧を上回る場合には、電気エネルギー貯蔵装置を充電することと、測定された電圧が、少なくとも1つの電解セルが切断される量未満だけ最適な電気分解槽電圧を下回る場合には、電気エネルギー貯蔵装置を放電することとを含む。
【0015】
いくつかの実施形態では、電源は、可変出力電源である。
【0016】
いくつかの実施形態では、電源は、光電発電機、太陽熱発電機、及び風力発電機のうちの少なくとも1つを含む。
【0017】
本開示の別の一態様による、可変出力電源と共に使用するためのエネルギー貯蔵システムは、複数の電解セルを含み、各電解セルは、電解質溶液入口と、各電解セルの水素ガス出口を、生成物ガスラインに接続するように動作可能な弁と、セルを可変出力電源に電気的に接続するように動作可能なスイッチとを含む。可変出力電源には、電圧測定回路が接続されている。コントローラが、電圧測定回路、弁、スイッチと、信号通信を行う。コントローラは、測定電圧と最適電圧との間の差に応答して、作動させる又は停止させる複数の電解セルの数を計算するように配置される。コントローラは、測定された電圧に応答して、複数の数の電解セルを作動させる又は停止させるための、スイッチ及び弁を操作するように配置される。
【0018】
いくつかの実施形態では、コントローラは、動作している複数の電解セルの各々の水素ガス出口を、生成物ガスラインに接続するように弁を操作する前に、所定の期間にわたって、廃棄ガスライン又は補助ガス生成物ラインに接続するように弁を操作するように配置される。
【0019】
いくつかの実施形態は更に、可変出力電源と電気負荷とに電気的に接続された、電気エネルギー貯蔵装置を備える。電気エネルギー貯蔵装置は、複数の電解セルに電気的に接続され、測定された電圧が、最適な電気分解槽電圧を、コントローラが少なくとも1つの追加の電解セルを接続するように動作する所定の差未満だけ超える場合には、電気エネルギー貯蔵装置が充電される。測定された電圧が、最適な電気分解槽電圧を、コントローラが少なくとも1つの電解セルを切り離す量未満だけ下回る場合には、電気エネルギー貯蔵装置は放電される。
【0020】
いくつかの実施形態では、電気エネルギー貯蔵装置は、バッテリ又はキャパシタを備える。
【0021】
いくつかの実施形態では、バッテリは電気化学バッテリからなる。
【0022】
その他の態様及び可能な利点は、以下の説明及び特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】セル全体に印加される電圧に対する、電解セルの効率を示すグラフである。
図2】可変出力電源の出力に応じて、ある数の電気分解槽セルを動作させる方法のフローチャートである。
図3】本開示による制御システムの動作を示すフローチャートである。
図4】スタートアップ時にセルのパージを実施するために、電解セルを液圧で接続及び切り離しを行うために使用される弁の、例示的な一実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本開示は、出力特性が変化する電源が与えられた場合に最適な運転を可能にするように、水素を生成する複数の電解セルを制御する方法及びシステムを提供する。
【0025】
適用される基準は、システム内の各電解セルに印加される電圧が、電解セルの最適な動作を維持するために理想的な範囲内にとどまることを保証するための、水素製造システムの制御と、その可変出力電源とのインターフェースである。本開示における電源に適用される「可変」とは、例えば、風力発電機及びソーラー発電機(光電発電機又は太陽熱発電機)のように、電源の出力が、人間の制御を受けないエネルギー入力の結果であることを意味する。
【0026】
図1は、電解セルに印加される電圧に対する、電解セルの「効率曲線」の一例を示したものである。効率は、電解セルに入力される単位電力あたりの水素ガスの生成率として測定される。最適な電圧より低い電圧を印加すると、酸素などの望ましくないガスが発生し、生成物ガス(水素)の流れが汚染されるため、電解セルの効率が低下する結果となる。最適な電圧より高い電圧を印加すると、セル内部の過剰な加熱により生産効率を低下させ、エネルギーが浪費される結果となる。
【0027】
本開示は、制御システムを提供するが、その制御システムは、好適なマイクロコンピュータ、プロセッサ、プログラマブルゲートアレイ、プログラマブルロジックコントローラ、又は任意の他の好適なデジタルプロセッサに常駐するコンピュータプログラムとして、実装され得る。コンピュータプログラムは、上に概説された基準を満たすように設計され得る。制御システム、例えば、前述のプロセッサー又はコントローラ(以下、便宜上「コントローラ」という)のいずれかに実装されるコンピューターアルゴリズムは、少なくとも1つの電解セルの電気分解システムを動作させるように設計され得るが、ここに提示される原理は、電気分解システムの任意の特定の実施形態における任意の数のセルに適用され得る。
【0028】
少なくとも1つの電解セルは、コントローラによって操作される好適なスイッチによって、電源に、制御可能かつ電気的に接続され得る。少なくとも1つの電解セルは、コントローラによって操作され得る電気ソレノイド作動弁などの好適な弁によって、生成物ガスライン又は生成物ガス流に、制御可能かつ液圧的に連結される。特定の基準が満たされたときに少なくとも1つの電解セルを接続する及び切り離すようにスイッチ及び弁を好適に動作させることによって、電気分解システムの有効な接続電解セル容量を、可変電源からの変動する入力電圧に応答して動的に制御することができ、それによって電気分解システムの動作を最適化することができる。
【0029】
本明細書で開示される電気分解システムは、電解セルのシャットダウンとスタートアップのための応答時間に関する考慮事項や水素ガスの純度に関する考慮事項など、電気分解システム内の個々の電解セルの性能に影響を与える様々な動作上の考慮事項を考慮するように設計されている。
【0030】
コントローラの機能と、電解セル(複数可)と可変電源とのインターフェースは、以下のように説明することができる。コントローラへの主要な入力は、可変電源からの利用可能な電源電圧の測定値である。コントローラは、測定された電圧、稼働中及び非稼働中の電解セルの数を評価し、測定された利用可能な電気供給電圧に基づいて、1つ以上の電解セルを、電気分解システムの稼働部分に又はそこから、液圧的及び電気的の両方で接続するか又は切り離す命令を実行する。
【0031】
複数のセルを含む電気分解システムの電解セルは、電気グループに配置してもよく、それにより各グループに印加される供給電圧が、セル間で均等に分割されるようになる。各電解セルは、図1を参照して部分的に説明したように、既知の好ましい動作電圧範囲を有する。このような動作電圧範囲は、コントローラにプログラムされている。各セルは、1つ以上の電気スイッチと好適な弁によって、コントローラに連結されている。コントローラは、これらのスイッチや弁に作用して、必要に応じて各電気分解槽セルを、電気分解システムに接続する/そこから切り離すことができる。
【0032】
例示的な一実施形態では、図2に示すように、可変電源からの電源電圧が、少なくとも1つの電解セルに印加される。本実施形態例では、それぞれが同じセル抵抗とガス出力速度を有するように設計された2つ以上の電解セルが、電気分解システムに接続されて稼働状態になる場合、電源電圧は、接続されたセルどうしの間で、均等に分割され得る(なぜなら、それらはすべて同じ電気抵抗を持つため)。接続されたセルは、1つ以上の稼働中のグループに配置される。コントローラは、個々のセル電圧が指定された範囲内に収まるように、接続されて稼働中のセルの数を制御し、接続されたセルの最適なパフォーマンスを促進するように設計されている。
【0033】
電源電圧は、ステップ20で測定され、ステップ22で、稼働中のグループ内のすべての稼働中のセルのうちの各セルに必要な電圧と比較される。電源電圧が上昇すると、個々のセルの電圧も上昇する。ひとたび測定された電圧、ひいては個々のセル電圧が、ステップ26で許容範囲を超えると、コントローラは、上述の弁とスイッチに作用して、ステップ28で、少なくとも1つのアイドル状態のセルを接続させ、そのセルを稼働状態にする。少なくとも1つのセルがすでに稼働している場合、作動されたアイドル状態のセルは、稼働中のセルグループの一員となり、それに応じて可変電源から電流を引き込む。稼働中のグループに別のセルを追加すると、利用可能な電圧をより大きなセルグループで共有することとなり、個々のセルの電圧が、効果的に低減される。同様に、測定された電圧が低下すると、コントローラは逆の動作をする、つまり、アクティブに動作中のセルのセット又は稼働中のグループから、1つ以上のセルを切り離す。ステップ24で、測定された電圧が、アクティブに動作中のセルの数に対する許容範囲を下回ると、ステップ32で、コントローラは、弁とスイッチに作用して、少なくとも1つの稼働中のセルを稼働中のグループから切り離す。稼働中のグループから少なくとも1つのセルを取り除くと、利用可能な電圧をより小さな、アクティブに稼働中のセルグループで共有することとなり、個々のセル電圧を、効果的に上昇させる。ステップ30に示されるように、測定された電圧が、稼働中のセルの数に対して正しい場合、コントローラは稼働中のグループ内の稼働中のセルの数に関して何もしない。
【0034】
制御システムの基本動作を、図3にフローチャート形式で示す。可変電源からの電解セルシステム全体の電圧は、ステップ40で測定される。可変電源の電圧を測定し、測定値をコントローラに伝達する実施形態の一例を図4に示す。更に図3を参照すると、測定された電圧は、デバイス電圧Vと呼ばれ得る。ステップ42で、測定された電圧が、許容されるシステム電圧(VAL)の値又は範囲より低い場合、ステップ44で、システムから切り離すセルの数が計算される。ステップ46で、シャットダウンのために選択された一つ以上のセルの各々に、電力を接続する電気スイッチが開かれ、そのようなセル(複数可)を通る電流の流れを停止させる。このようなスイッチ(複数可)は、リレー、ソレノイド作動スイッチのような電気機械スイッチ、ソリッドステートスイッチ、又は他の任意の好適な、制御可能で電流を遮断するデバイスであってもよい。このようなスイッチと、コントローラによるそれらの動作との実施形態の一例が、図4に見られ得る。更に図4を参照すると、ステップ48で、各々のセルへの電解質水溶液の供給を制御する、一つ以上の各々の弁が閉じられて、電気的に切り離されたセル(複数可)への電解質溶液の流れを停止してもよい。またステップ48で、1つ以上の切り離されたセルからの生成ガスの移動を制御する、1つ以上のそれぞれの弁が閉じられてもよい。
【0035】
電圧は、再びステップ40で、任意の好適な所定の時間間隔で、又は連続的に、測定されてもよい。
【0036】
ステップ50で、許容されるシステム電圧(VA,U)の値又は範囲よりも、測定された電圧が大きい場合、ステップ52で、システム内で作動させるセルの数が、計算される。ステップ54で、作動される各々のセルごとに、一つ以上の弁が作動され、作動されるセル(複数可)からの生成されたガスを、廃棄ガスラインに導く。ステップ56で、1つ以上のセルを電解質溶液の流れに接続するための弁(複数可)が操作され、1つ以上のセルへのそのような流れを可能にする。ステップ58で、1つ以上のセルへの好適なスイッチが閉じられて、そのような1つ以上のセルからのガスの生成を開始してもよい。ステップ60で、1つ以上のセルは、所定の時間間隔にわたって「パージ」モードで操作されて、そのような1つ以上のセルの生成ガス流から汚染されたガスの除去を可能にしてもよい。ステップ62では、パージモード時間間隔が終了したとき、1つ以上の弁が、生成物ガスを、生成物ガスの流れ又は生成物の流れに導くように、ステップ62で操作され得る。
【0037】
本開示によるシステム及び方法の任意の特定の実施形態は、稼働中のグループ内の個々のセルの切り替えとは逆に、又は切り替えと連動して、測定されたシステム電源電圧に応答して、電気分解槽セルの複数のセルのグループを接続すること及び切り離すことを含んでよい。本例の実施形態における電気的及び機械的隔離のためのプロセスは、図3を参照して説明した実施形態と同じ原理に従うが、スイッチング及び弁動作の機能をどのように得るかの詳細は、異なる具体的な実装形態ごとに、異なる可能性がある。これらの詳細は、制御システムの概念的な動作にとって、重要ではない。
【0038】
図3を参照して説明したように、少なくとも1つの電解セルを開始する際には、生成ガス特に水素ガスの純度が、考慮され得る。生成物ガスが燃焼や触媒発電(燃料電池)などの下流の処理で有用であるためには、非常に高い純度レベル(99%超)が要求される。ガス純度は、セルのスタートアップ時に汚染ガスが発生するため、スタートアップ中には、不安定に最もなりやすい。
【0039】
セルのスタートアップ時に生成されるガスの汚染の問題に対処するために、制御システムは、少なくとも1つのセルが始動されるときに動作する一連の動作と時間遅延、すなわち図3を参照して説明したパージモードを含むことができる。動作と時間遅延は、汚染物質をシステムからパージするのに役立つ。パージモードは、以下のようにかつ図4に示すように機能する。
【0040】
各電解セル1は、少なくとも1つの生成物(H)ガス流2と、廃棄ガス流又は補助的生成物(O)ガス流3とを有する。廃棄ガス流3は、弁4、例えば2方向弁を介して、廃棄ガス流ヘッダー5に接続されてもよい。弁4は、モータ作動弁、ソレノイド作動弁であってもよく、あるいは、制御システム、例えばコントローラ30に実装された制御システムは、各セル又はセルのグループに対して弁4及び他の弁を作動させるための好適な制御信号を生成することができるような、任意の他の好適な形態の動力作動アクチュエータMを使用してもよい。生成物ガス流2は、弁6、例えば3方向弁を介して、廃棄ガス流ヘッダー5又は生成物流ヘッダー7のいずれかに、選択可能に接続され得る。3方向弁はまた、電動モータ作動又はソレノイド作動アクチュエータのような、動力作動アクチュエータMを有することができる。3方向弁が示されているが、図示された3方向弁と対応する接続を行う、2つの2方向弁によって同じ機能が提供されてもよいことが理解されよう。電解質溶液入口弁9は、セルが作動されるときに、戻り電解質溶液流ヘッダー8からセル1内への、電解質溶液の移動を可能にするために開くことができる。入口弁9は、それ以外は閉じていてもよい。
【0041】
コントローラ30は、任意の好適な電子制御デバイス、例えば、マイクロコンピュータ、マイクロプロセッサ、フィールドプログラマブルゲートアレイ、特定用途向け集積回路、又は本明細書に記載された機能及び動作を実行することができるアナログ制御の任意の組み合わせを使用して実装することができる。
【0042】
セル1又はセル群が、稼働中のグループに追加されると、3方向弁6は、生成物流ヘッダー7に対しては閉じられ、廃棄ガス流ヘッダー5に対しては、開かれることがある。従って、セル1によって生成され、汚染物質を含んでも含まなくてもよい生成物ガス流2に排出される「生成物ガス」は、廃棄ガス流ヘッダー5に迂回される。これにより、スタートアップ時に生成された低品質のガスが、生成物流ヘッダ7に送られないことが保証される。
【0043】
コンピュータに実装されたバージョンの制御システムの制御システムソフトウェアで定義され得る所定の時間経過後、パージサイクルが完了する。その後、3方向弁6は、廃棄ガス流ヘッダー5に対しては閉じられ、生成物流ヘッダー7に対しては開かれ、それにより生成物ガス流2を、生成物流ヘッダー7に導くことができる。
電気分解槽システムの運転中、電解質溶液は、戻り電解質溶液流ヘッダー8を介してセル(複数可)に戻される。
1つ以上の追加のセル11などは、それぞれ、対応する動作を可能にするための同様の制御機能を備えていてもよい。
【0044】
図4はまた、本開示による電解セル切り替えの、可能な実施態様の概略図を示す。上記で説明したような可変電源70は、図示のように直接、又は1つ以上のスイッチ74を介して、1つ以上の電解セル(例えば、符号11)に、電気的に接続されてもよい。1つ以上のスイッチ74は、コントローラ30、又は本明細書の他の箇所で説明するように実装された別のコントローラ(図示しないが、弁4、6、9が電気スイッチの制御と同じ物理的装置によって操作される必要はないという理解を提供するために説明される)によって操作されてもよい。電圧測定回路72は、可変電源70の出力と電気的に通信し、電圧の測定値をコントローラ30に伝達することができる。コントローラ30は、図2及び図3を参照して説明したように、少なくとも1つの電解セル1を、電気的に接続及び切り離すようにスイッチ74を操作する上述の手順を実施してもよい。
【0045】
本開示による制御システムは、個々の電気分解槽セル、又はセル群全体に対して実装することができ、必要に応じてセルの効率的な自動スタートアップ及び自動シャットダウンを可能にする。
【0046】
制御システムが、コンピュータ又は類似のプログラマブルデ バイスに実装されている場合、制御システムは、システムへの入力電圧に基づいて、任意の稼働中のグループに含まれるセルの数を評価するように設計されたロジックを含む。コントローラは入力電圧を測定し、測定された電圧と稼働中のセルグループの最適電圧(アクティブなセルの数と所定の最適セル電圧との積)との差を、計算し得る。この差を標準的セル電圧で割ることで、平均セル電圧を最適値に戻すために稼働中のセル群に追加又はそこから除去しなければならないセルの数を評価する:
例:
入力電圧=24V
標準的セル電圧=2V
稼働中のグループ内のセルの数=10
最適電圧=標準的セル電圧×稼働中のセル数=2×10=20V
電圧差=入力電圧-最適電圧=24-20=4V
アクティブにするセル数=(電圧差)÷(標準的セル電圧)=4÷2=2セル
【0047】
正の電圧差(測定電圧が最適電圧を上回る場合)は、1つ以上のセルがシステムに接続される(オンになる)結果となることを意味し、負の電圧差は、1つ以上のセルがシステムから切り離される(オフになる)結果となることを意味する。
【0048】
電気分解システム全体の最適な性能は、電気分解システムの稼働中グループが、電源からのリアルタイムの入力電圧とうまく整合するように動的にサイズ調整されるときに得られ得る。このようにして、電気分解システム内の供給電圧と稼働中セルの数が、利用可能な印加動作電圧と必要な印加動作電圧に対してバランスがとれているときが、最適な動作点である。この結果、システムが最適な動作点で機能しているときは制御システムはアイドル状態という結果になり、最適でない動作状態(すなわち、入力電圧の低下又は上昇)が検出されたときにのみ介入することになる。
【0049】
なおも図4を参照すると、本開示による電気分解槽システムの別の一実施形態は、動的エネルギー貯蔵システム(DESS)を含み、このDESSは、少なくとも1つの電解セルをシステムに接続する及びそれから切り離すのに必要なスイッチング時間を緩衝することを可能にする制御システム(例えば、図4のコントローラ30)の円滑な動作を保証するための、例えばバッテリ(例えば、鉛酸又は他の充電可能なタイプのような電気化学電池)又はキャパシタなどの、電気エネルギー貯蔵装置76を備える。DESSは、少なくとも1つのセルを追加するのに必要なサイクル時間、又はグループ内で切り替えられたセルについてはセル群を運転グループに追加するのに必要なサイクル時間に適合するようなサイズにすることができ、システムのより大きな最適動作範囲を可能にする。DESSは、電解セルの合計の電力出力に接続することができる。DESSの充電は、利用可能な供給電圧が、稼働中のセル群(その時点で稼働中の電解セルを組み合わせて)の最適電圧要件を超えるが、少なくとも1つのセルを稼働中のセルグループに追加するのに必要な電圧よりも低い場合に行われる。DESSの放電は、稼働中のセルグループの最適電圧要件が、少なくとも1つのセルを運転セルグループから切り離す前の供給電圧を超える場合に起こる。図4のシステムの接続は、任意の好適な電気的負荷78への接続であってよく、DESSを含む本開示による電解セル及び制御システムは、可変電源と負荷78との間に、好適なバッファを提供することができる。
【0050】
本開示による電解セル制御システム及び方法は、電解セルが、風力発電機又は太陽光発電機のような可変出力発電源に接続される場合、電解セルの動作効率及び生成ガスの純度を改善し得る。
【0051】
本明細書に記載され、図示された原理及び例示的な実施形態に照らして、例示的な実施形態は、そのような原理から逸脱することなく、配置及び詳細において変更され得るということが認識されるであろう。前述の議論では、特定の実施形態に焦点を当てたが、他の構成も考えられる。特に、本明細書において「一実施形態」等の表現が使用されているとしても、これらの表現は、一般的に実施形態の可能性を参照することを意図しており、本開示を特定の実施形態構成に限定することを意図していない。本明細書で使用される場合、これらの用語は、他の実施形態に組み合わせ可能な同一又は異なる実施形態に言及することができる。原則として、本明細書で言及される任意の実施形態は、本明細書で言及される任意の1つ以上の他の実施形態と自由に組み合わせることが可能であり、異なる実施形態の任意の数の特徴は、別段の指示がない限り、互いに組み合わせることが可能である。以上、いくつかの実施例のみを詳細に説明したが、当業者であれば、説明した実施例の範囲内で多くの変更が可能であることを容易に理解するであろう。従って、このような改変は全て、以下の特許請求の範囲において定義される本開示の範囲内に含まれることが意図される。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】