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特表2024-538174肝線維症を処置するための組成物およびその使用方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-18
(54)【発明の名称】肝線維症を処置するための組成物およびその使用方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20241010BHJP
   A61K 35/407 20150101ALI20241010BHJP
   A61K 38/19 20060101ALI20241010BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20241010BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20241010BHJP
   A61P 31/20 20060101ALI20241010BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20241010BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241010BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20241010BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
C12N5/071 ZNA
A61K35/407
A61K38/19
A61P1/16
A61P31/14
A61P31/20
A61P37/02
A61P35/00
A61P3/00
A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024523159
(86)(22)【出願日】2022-10-18
(85)【翻訳文提出日】2024-06-14
(86)【国際出願番号】 US2022078303
(87)【国際公開番号】W WO2023069949
(87)【国際公開日】2023-04-27
(31)【優先権主張番号】63/256,840
(32)【優先日】2021-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521323037
【氏名又は名称】エヴィア ライフ サイエンシズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】落谷 孝広
(72)【発明者】
【氏名】木村 公則
(72)【発明者】
【氏名】松崎 潤太郎
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AC20
4B065CA44
4B065CA60
4C084AA02
4C084BA44
4C084DA25
4C084MA02
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA751
4C084ZA752
4C084ZB071
4C084ZB072
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZB331
4C084ZC191
4C084ZC211
4C084ZC75
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB52
4C087BB64
4C087CA04
4C087MA02
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZA75
4C087ZB07
4C087ZB26
4C087ZB33
4C087ZC19
4C087ZC21
4C087ZC75
(57)【要約】
肝臓疾患、障害、および損傷の処置のための組成物、組成物を作製する方法、および組成物を使用する方法が提供される。上記組成物は、化学的に誘導される肝前駆細胞(CLiPs)、および/または細胞外小胞(EVs)(例えば、エクソソーム)のようなCLiPsから形成される無細胞材料を含み得る。いくつかの実施形態において、上記組成物および/または方法は、既存の肝臓コラーゲンまたは新たな肝臓コラーゲンの形成を低減する;および/または既存の線維症の量または新たな線維症の形成を低減することを必要とする被験体において、上記のことをするために有効である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞外小胞(EVs)を作製する方法であって、前記方法は、化学的に誘導される肝前駆細胞(CLiPs)を培養すること、および前記CLiPsによって分泌されるEVsを採取することを包含する方法。
【請求項2】
前記CLiPsは、肝細胞をTGFβシグナル伝達の阻害剤とともに培養することを包含する方法によって形成される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記TGFβシグナル伝達の阻害剤は、A83-01である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記A83-01は、約1μM~約10μM、または約0.1μM~約10μM、または約0.5μMの濃度にある、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記CLiPsは、肝細胞をGSK3阻害剤とともに培養することを包含する方法によって形成される、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記GSK3阻害剤は、CHIR99021である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記CHIR99021は、約0.1μM~約20μM、約1μM~約10μM、または約3μMの濃度にある、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記CLiPsは、肝細胞を血清とともに培養することを包含する方法によって形成される、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記血清は、ウシ胎仔血清(FBS)である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記血清は、培養培地の約5~20%、または培養培地の約10%である、請求項8および9に記載の方法。
【請求項11】
前記CLiPsは、肝細胞をROCK阻害剤とともに培養することを包含する方法によって形成される、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記ROCK阻害剤は、Y-27632である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記Y-27632は、約1μM~約100μM、または約5μM~約25μM、または約10μMの濃度にある、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記細胞は、哺乳動物の肝臓から単離/精製された肝細胞として始まった、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記細胞は、前記阻害剤および/または血清とともに、少なくとも5日間、6日間、7日間、8日間、9日間、10日間、11日間、12日間、13日間、14日間、15日間、16日間、17日間、18日間、19日間、もしくは20日間または約5日間~約25日間、あるいはその間の任意の部分範囲もしくは整数の日数、必要に応じて、約7日間~約22日間、約5日間~約25日間もしくは約10日間~約20日間、または約12日間~約17日間;あるいは約13日間、14日間、もしくは15日間にわたって培養される、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記EVsは、エクソソームを含むかまたはそれからなる、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記細胞は、ヒト細胞であり、前記培養することは、TGBβ阻害剤、GSK3阻害剤、および血清を含み、必要に応じて、ROCK阻害剤を排除する、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記細胞は、マウスまたはラット細胞であり、前記培養することは、TGBβ阻害剤、GSK3阻害剤、およびROCK阻害剤を含み、必要に応じて、血清を排除する、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
請求項1~18のいずれか1項に記載の方法に従って作製される、細胞外小胞(EVs)。
【請求項20】
請求項19に記載の、有効量のEVsを含む医薬組成物。
【請求項21】
被験体を処置する治療的または非治療的方法であって、前記方法は、前記被験体に、請求項20に記載の医薬組成物を投与することを包含する方法。
【請求項22】
肝線維症に関して被験体を処置する方法であって、前記方法は、有効量のCLiPsを含む医薬組成物または請求項20に記載の医薬組成物を前記被験体に投与することを包含する方法。
【請求項23】
前記CLiPsは、ヒト細胞から形成される、請求項21または22に記載の方法。
【請求項24】
前記医薬組成物は、CLiPsを含む、請求項22~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記CLiPsは、hsa-miR-103a-3p、hsa-miR-122-5p、hsa-miR-125a-5p、hsa-miR-125b-5p、hsa-miR-126-3p、hsa-miR-1324、hsa-miR-142-3p、hsa-miR-151a-3p、hsa-miR-155-5p、hsa-miR-16-5p、hsa-miR-182-5p、hsa-miR-183-5p、hsa-miR-191-5p、hsa-miR-192-5p、hsa-miR-21-5p、hsa-miR-221-3p、hsa-miR-224-5p、hsa-miR-23a-3p、hsa-miR-24-3p、hsa-miR-24-3p、hsa-miR-26a-3p、hsa-miR-28-3p、hsa-miR-29a-3p、hsa-miR-29b-3p、hsa-miR-30a-5p、hsa-miR-30d-5p、hsa-miR-30e-5p、hsa-miR-31-5p、hsa-miR-34a-5p、hsa-miR-3663-3p、hsa-miR-4435、hsa-miR-4440、hsa-miR-5096、hsa-miR-510-3p、hsa-miR-92a-3p、hsa-miR-93-5p、およびhsa-miR-99b-5pのうちの1種またはこれより多くのもの、ならびに/または1種もしくはこれより多くのサイトカインであって、必要に応じてここで前記サイトカインは、TNFαであるかまたはこれを含むサイトカイン、あるいはこれらの任意の組み合わせを含むEVsを分泌する、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記医薬組成物は、無細胞である、請求項21~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記医薬組成物は、hsa-miR-103a-3p、hsa-miR-122-5p、hsa-miR-125a-5p、hsa-miR-125b-5p、hsa-miR-126-3p、hsa-miR-1324、hsa-miR-142-3p、hsa-miR-151a-3p、hsa-miR-155-5p、hsa-miR-16-5p、hsa-miR-182-5p、hsa-miR-183-5p、hsa-miR-191-5p、hsa-miR-192-5p、hsa-miR-21-5p、hsa-miR-221-3p、hsa-miR-224-5p、hsa-miR-23a-3p、hsa-miR-24-3p、hsa-miR-24-3p、hsa-miR-26a-3p、hsa-miR-28-3p、hsa-miR-29a-3p、hsa-miR-29b-3p、hsa-miR-30a-5p、hsa-miR-30d-5p、hsa-miR-30e-5p、hsa-miR-31-5p、hsa-miR-34a-5p、hsa-miR-3663-3p、hsa-miR-4435、hsa-miR-4440、hsa-miR-5096、hsa-miR-510-3p、hsa-miR-92a-3p、hsa-miR-93-5p、およびhsa-miR-99b-5pのうちの1種またはこれより多くのもの、ならびに/または1種もしくはこれより多くのサイトカインであって、必要に応じてここで前記サイトカインは、TNFαであるかまたはこれを含むサイトカイン、あるいはこれらの任意の組み合わせを含むEVsを含む、請求項21~26のいずれか1つに記載の方法。
【請求項28】
前記被験体にTNFαを投与することをさらに包含する、請求項20~27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記被験体は、肝臓疾患または障害を有する、請求項20~28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記肝臓疾患または障害は、感染、必要に応じてA型肝炎、B型肝炎、もしくはC型肝炎;または免疫系の問題、必要に応じて、自己免疫性肝炎、原発性胆汁性胆管炎、もしくは原発性硬化性胆管炎;がん、必要に応じて、肝臓がん、胆管がん、もしくは肝細胞腺腫;遺伝性肝障害、必要に応じて、ヘモクロマトーシス、高シュウ酸尿症、ウイルソン病、もしくはα1アンチトリプシン欠乏症;アルコール乱用および/もしくは薬物過剰摂取からの損傷;または非アルコール性脂肪肝疾患から選択される、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記CLiPsまたはEVsは、既存の肝臓コラーゲンの量もしくは新たな肝臓コラーゲンの形成を低減する;既存の線維症の量もしくは新たな線維症の形成を低減する;1もしくはこれより多くの肝線維症関連遺伝子の発現の変化、必要に応じて、Mmp2 mRNAの発現の増加、Timp1、αSMA、および/もしくはCol1aのmRNAおよび/もしくはタンパク質の発現の低減、あるいはこれらの任意の組み合わせを誘導する;肝サテライト細胞において好ましい、肝サテライト細胞活性化の1もしくはこれより多くのマーカー(例えば、αSMA)の発現の低減を誘導する;細胞周期、オートファジー、細胞膜融合、および/またはジンクフィンガータンパク質と関連する1もしくはこれより多くの遺伝子(ここで必要に応じて前記遺伝子は、Dmtf1、Zfp612、Itga6、Trim24、Eaf2、Zfp119a、Dido1、Masp2、Sgk1、Sm11567、Eml5、Srsf5、Rab35、Fam206a、Zfp131、Zkscan14、Insc、Ntn3、またはこれらの組み合わせである)の発現の変化を誘導する;肝サテライト細胞においてMMP1および/もしくはMMP13のmRNAおよび/もしくはタンパク質の増加を誘導する;ならびに/あるいは肝サテライト細胞においてTNFαのmRNAおよび/もしくはタンパク質の低減を誘導することができる、請求項1~30のいずれか1項に記載の組成物または方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年10月18日出願の米国特許出願第63/256,840号(これは、その全体において具体的に本明細書に参考として援用される)の利益および優先権を主張する。
【0002】
配列表の参照
「EVIA102PCT.xml」という名称のxmlファイルとして提出された配列表(作成日:2022年10月18日、サイズ:18,496バイト)は、米国特許法施行規則1.834条(c)(1)に従って本明細書により参考として援用される。
【0003】
発明の分野
本発明の分野は、一般に、化学的に誘導される肝前駆細胞、その細胞でおよびその細胞から作製された組成物、ならびに肝線維症を処置するためのこれを使用する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
肝細胞は、肝臓疾患を処置する細胞移植のための唯一の有効な細胞供給源と見做されている;しかし、それらの入手は、ドナー不足に起因して制限されている。従って、改善された細胞供給源および代替の処置が、開発されなければならない。結果は、再増殖能力を有する肝前駆細胞が、成熟齧歯類肝細胞およびヒト乳児肝細胞から、低分子阻害剤の適切な組み合わせを使用して得ることができることを示す(Katsudaら, Cell Stem Cell 20, 41-55, (2017), dx.doi.org/10.1016/j.stem.2016.10.007, Katsudaら, eLife 8:e47313, 31 pages, (2019) doi.org/10.7554/eLife.47313)。しかし、これらの細胞が肝機能を改善する能力の根底にある機序および従って、肝疾患および障害を処置するためのそれらの使用の範囲は、不明のままであった。
従って、本発明の目的は、化学的に誘導される肝前駆細胞が肝機能を改善する能力の根底にある機序、ならびにこれらに基づいて開発された改善された組成物およびその使用方法への見通しを提供することである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Katsudaら, Cell Stem Cell 20, 41-55, (2017), dx.doi.org/10.1016/j.stem.2016.10.007
【非特許文献2】Katsudaら, eLife 8:e47313, 31 pages, (2019) doi.org/10.7554/eLife.47313
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の要旨
肝臓疾患、障害、および損傷の処置のための組成物、組成物を作製する方法、および組成物を使用する方法が,提供される。上記組成物は、化学的に誘導される肝前駆細胞(CLiPs)、および/または上記CLiPsから形成される無細胞材料(例えば、エクソソームのような細胞外小胞(EVs))を含む。いくつかの実施形態において、上記組成物および/または方法は、下記のことを必要とする被験体において、既存の肝臓コラーゲンまたは新たな肝臓コラーゲンの形成を低減する;既存の線維症の量または新たな線維症の形成を低減する;1もしくはこれより多くの肝線維症関連遺伝子の発現の変化を誘導する、必要に応じて、Mmp2 mRNAの発現を増加させる、Timp1、αSMA、および/もしくはCol1aのmRNAおよび/もしくはタンパク質の発現を低減する、あるいはこれらの任意の組み合わせである;肝サテライト細胞において好ましい、肝サテライト細胞活性化の1種もしくはこれより多くのマーカー(例えば、αSMA)の発現の低減を誘導する;細胞周期、オートファジー、細胞膜融合、および/もしくはジンクフィンガータンパク質と関連する1もしくはこれより多くの遺伝子(必要に応じてここで上記遺伝子は、Dmtf1、Zfp612、Itga6、Trim24、Eaf2、Zfp119a、Dido1、Masp2、Sgk1、Sm11567、Eml5、Srsf5、Rab35、Fam206a、Zfp131、Zkscan14、Insc、Ntn3、もしくはこれらの組み合わせである)の発現の変化を誘導する;肝サテライト細胞においてMMP1および/もしくはMMP13のmRNAおよび/もしくはタンパク質の増加を誘導する;ならびに/あるいは肝サテライト細胞においてTNFαのmRNAおよび/もしくはタンパク質の低減を誘導するために有効である。
【0007】
CLiPsから形成されるEVsを作製する方法がまた、提供される。上記方法は、代表的には、CLiPsを培養することおよび上記CLiPsによって分泌されるEVsを採取することを包含する。代表的には、上記細胞は、例えば、約1μM~約10μM、もしくは約0.1μM~約10μM、または約0.5μMの濃度のTGFβシグナル伝達の阻害剤(例えば、A83-01)とともに培養される。代表的には、上記細胞はまた、例えば、約0.1μM~約20μM、約1μM~約10μM、または約3μMの濃度のGSK3阻害剤(例えば、CHIR99021)とともに培養される。
【0008】
代表的には、上記細胞は、哺乳動物の肝臓から単離/精製された肝細胞として始まる。
【0009】
いくつかの実施形態において、特に上記出発細胞がヒト肝細胞である場合、上記細胞は、例えば、上記培養培地の5~20%、または上記培養培地の約10%の濃度の血清(例えば、ウシ胎仔血清(FBS))とともに培養される。
【0010】
いくつかの実施形態において、特に、上記出発細胞が齧歯類細胞(例えば、マウスまたはラットに由来する)である場合、上記細胞は、例えば、約1μM~約100μM、もしくは約5μM~約25μM、または約10μMの濃度のROCK阻害剤(例えば、Y-27632)とともに培養される。いくつかの実施形態において、特に、上記細胞がヒトである場合、ROCK阻害剤は、上記培養することから排除され得る。
【0011】
上記細胞は、上記阻害剤および/もしくは血清とともに、少なくとも5日間、6日間、7日間、8日間、9日間、10日間、11日間、12日間、13日間、14日間、15日間、16日間、17日間、18日間、19日間、もしくは20日間;または約5日間~約25日間、あるいはその間の任意の部分範囲もしくは整数の日数、必要に応じて、約7日間~約22日間、約5日間~約25日間もしくは約10日間~約20日間、または約12日間~約17日間;あるいは約13日間、14日間、もしくは15日間にわたって培養され得る。
【0012】
有効量のCLiPsおよび/またはこれから形成されるEVsを含む医薬組成物がまた、提供される。
【0013】
上記組成物は、代表的には、有効量のCLiPsおよび/またはこれから形成されるEVsを含む医薬組成物を上記被験体に投与することを包含する、処置することを必要とする被験体を処置する治療的および非治療的方法において使用され得る。いくつかの実施形態において、上記方法は、肝線維症に関して被験体を処置するために有効である。
【0014】
いくつかの実施形態において、上記組成物は、EVsまたはEVsを分泌するCLiPsを含み、上記EVsは、1またはこれより多くのマイクロRNAs(例えば、hsa-miR-103a-3p、hsa-miR-hsa-miR-122-5p、hsa-miR-125a-5p、hsa-miR-125b-5p、hsa-miR-126-3p、hsa-miR-1324、hsa-miR-142-3p、hsa-miR-151a-3p、hsa-miR-155-5p、hsa-miR-16-5p、hsa-miR-182-5p、hsa-miR-183-5p、hsa-miR-191-5p、hsa-miR-192-5p、hsa-miR-21-5p、hsa-miR-221-3p、hsa-miR-224-5p、hsa-miR-23a-3p、hsa-miR-24-3p、hsa-miR-24-3p、hsa-miR-26a-3p、hsa-miR-28-3p、hsa-miR-29a-3p、hsa-miR-29b-3p、hsa-miR-30a-5p、hsa-miR-30d-5p、hsa-miR-30e-5p、hsa-miR-31-5p、hsa-miR-34a-5p、hsa-miR-3663-3p、hsa-miR-4435、hsa-miR-4440、hsa-miR-5096、hsa-miR-510-3p、hsa-miR-92a-3p、hsa-miR-93-5p、およびhsa-miR-99b-5pのうちの1またはこれより多くのもの)、ならびに/または1もしくはこれより多くのサイトカイン(必要に応じてここで上記サイトカインは、TNFαであるかまたはこれを含む)、あるいはこれらの任意の組み合わせを有する。
【0015】
いくつかの実施形態において、上記方法は、上記被験体に、第2の活性薬剤を投与することをさらに包含する。いくつかの実施形態において、上記方法は、上記被験体にTNFαを投与することを包含する。
【0016】
上記方法は、肝臓疾患または障害(例えば、感染、必要に応じて、A型肝炎、B型肝炎、もしくはC型肝炎;免疫系の問題、必要に応じて、自己免疫性肝炎、原発性胆汁性胆管炎、もしくは原発性硬化性胆管炎;がん、必要に応じて、肝臓がん、胆管がん、もしくは肝臓細胞腺腫;遺伝性肝障害、必要に応じて、ヘモクロマトーシス、高シュウ酸尿症、ウイルソン病、もしくはΑ1アンチトリプシン欠乏症;アルコール乱用および/もしくは薬物過剰摂取からの損傷;または非アルコール性脂肪肝疾患)を有する被験体を処置するために使用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図面の簡単な説明
図1図1Aおよび1Bは、肝線維症のマウスモデルにおいて血液生化学検査結果を示す線グラフである。移植の時点で、総ビリルビン値は正常値を示し、血小板数は、基準値より高かった(表2)。AST(図1A)およびALT(図1B)を移植後に経時的に確認したところ、移植群と非移植群との間で有意差は見出されなかった。
【0018】
図2図2は、hCLiP移植ありおよびなしの肝組織におけるコラーゲン量を示すプロットである。
【0019】
図3図3Aは、hCLiP移植ありおよびなしの肝組織におけるCol1a陽性面積を示すプロットである。図3Bは、hCLiP移植を通して、病的肝線維症の変化を示すプロットである。
【0020】
図4図4A~4Dは、hCLiP移植に起因して、肝線維症関連遺伝子: Mmp1 mRNA(図4A)、Timp1 mRNA(図4B)、Col1a mRNA(図4C)、αSMA mRNA(図4D)の発現の変化を示す棒グラフである。
【0021】
図5図5は、肝臓組織におけるhCLiPsの存在を示すプロットである。全DNAを凍結肝臓組織から収集し、マウスTfrcおよびヒトRNase Pを使用して、それらの各々のコピー数を測定した。0~1%のヒト細胞を、移植群において検出した。
【0022】
図6図6は、hCLiP移植に起因する遺伝子プロフィールにおける変化を示すヒートマップである。hCLiP移植は、遺伝子のうちの18タイプの発現において有意な減少を生じた。
【0023】
図7図7は、肝サテライト細胞およびhCLiPsの共培養による肝サテライト細胞活性化レベルの変化を示す棒グラフである。
【0024】
図8図8A~8Dは、図8A~8Dにおいて、それぞれ、不死化hCLiPs「A」~「D」の肝分化の誘導によるCYP3A4酵素活性を示す棒グラフである。
【0025】
図9図9は、肝サテライト細胞および不死化hCLiPsの共培養による肝サテライト細胞活性化レベルの変化を示す棒グラフである。
【0026】
図10図10A~10Dは、肝サテライト細胞およびhCLiPsの共培養に起因する、肝サテライト細胞における遺伝子発現の変化: TNFα mRNA(図10A)、TIMP3 mRNA(図10B)、MMP13 mRNA(図10C)、およびMMP1 mRNA(図10D)を示す棒グラフである。
【0027】
図11図11A~11Cは、TGFの存在下での肝サテライト細胞およびhCLiPsの共培養に起因するhCLiPs遺伝子発現の変化: MMP13 mRNA(図11A)、TIMP3 mRNA(図11B)、およびTNFα mRNA(図11C)を示す棒グラフである。
【0028】
図12図12は、10ng/ml、20ng/ml、または50ng/mlのTNFαを肝サテライト細胞に添加する際の遺伝子発現の変化: αSMA mRNAを示す棒グラフである。
【0029】
図13図13Aおよび13Bは、hCLiP由来のエクソソームを肝サテライト細胞に添加することに起因する肝サテライト細胞活性化の変化を示す棒グラフである。図13Aは、エクソソームありおよびなし、ならびにTGFβありおよびなしでの肝サテライト細胞におけるタンパク質レベルにおいて、αSMA(これは、肝サテライト細胞活性化マーカーである)の変化を示す。図13Bは、添加したエクソソームにおけるmRNA(MMP13, TIMP3、IL-13、およびTNFα)のレベルを示す。
【0030】
図14-1】図14A~14Cは、TGFβの存在下または非存在下でのhCLiP由来のエクソソームにおけるmRNA: MMP13(図14A)、TIMP3(図14B)、およびTNFα(図14C)を示す棒グラフである。n=1。
図14-2】図14A~14Cは、TGFβの存在下または非存在下でのhCLiP由来のエクソソームにおけるmRNA: MMP13(図14A)、TIMP3(図14B)、およびTNFα(図14C)を示す棒グラフである。n=1。
【0031】
図15図15は、肝線維症におけるhCLiPs誘導性の改善を説明する、提唱される作用機序を例証するモデルである。TNFα(これは、hCLiP由来のサイトカインである)およびhCLiP由来のエクソソームについての提唱される役割が示される。
【0032】
図16図16は、hCLiP EVsにおいて検出される種々のマイクロRNAsの相対的レベルを示す棒グラフである。環状miRNAsは、肝線維症を阻害するにあたって特に大きな影響力があり得るものを示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
発明の詳細な説明
I. 定義
本明細書で使用される場合、用語「キャリア」または「賦形剤」とは、1種もしくはこれより多くの活性成分が組み合わされる、製剤中の有機成分もしくは無機成分、天然のもしくは合成の不活性成分に言及する。
【0034】
本明細書で使用される場合、用語「薬学的に受容可能な」とは、上記活性成分の生物学的活性の有効性に干渉しない非毒性材料を意味する。
【0035】
本明細書で使用される場合、用語「薬学的に受容可能なキャリア」とは、標準的な医薬キャリア、例えば、リン酸緩衝塩類溶液、水およびエマルジョン(例えば、油/水型または水/油型エマルジョン)、ならびに種々のタイプの湿潤剤のうちのいずれかを包含する。
【0036】
本明細書で使用される場合、用語「有効量」または「治療上有効な量」とは、処置されている障害、疾患、もしくは状態の1もしくはこれより多くの症状を緩和する、または所望の薬理学的および/もしくは生理学的効果を別の方法で提供するために十分な投与量を意味する。正確な投与量は、被験体に依存する変数(例えば、年齢、免疫系の健康状態など)、処置されている疾患もしくは障害、ならびに投与されている薬剤の投与経路および薬物動態のような種々の要因に応じて変動する。
【0037】
本明細書で使用される場合、用語「防止」または「防止すること(preventing)」とは、疾患もしくは障害によって引き起こされる1もしくはこれより多くの症状に関するリスクにあるかまたはその素因を有する被験体または系に組成物を投与して、上記疾患もしくは障害の特定の症状の停止、上記疾患もしくは障害の1もしくはこれより多くの症状の低減もしくは防止、上記疾患もしくは障害の重篤度の低減、上記疾患もしくは障害の完全な除去、上記疾患もしくは障害の発生もしくは進行の安定化もしくは遅延を引き起こすことを意味する。
【0038】
本明細書で使用される場合、用語「被験体」、「個体」および「患者」とは、本開示の組成物を使用する処置の標的である任意の個体に言及する。上記被験体は、脊椎動物、例えば、哺乳動物であり得る。従って、上記被験体は、ヒトであり得る。上記被験体は、症候性または無症候性であり得る。上記用語は、特定の年齢または性別を意味しない。従って、成体および新生の被験体(雄性であろうと雌性であろうと)は、網羅されることが意図される。被験体は、コントロール被験体または試験被験体を含み得る。
【0039】
本明細書で使用される場合、「実質的に変化した」とは、コントロールと比較して、少なくとも、例えば、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、75%、100%、またはこれより大きい変化を意味する。
【0040】
本明細書で使用される場合、用語「精製される」、「単離される」などの用語は、天然の環境にある分子または化合物と通常会合している他の構成成分を実質的に含まない(少なくとも60%含まない、好ましくは75%含まない、および最も好ましくは90%含まない)形態にある分子または化合物の単離に関する。
【0041】
本明細書で使用される場合、「処置」とは、疾患、病的状態、または障害を治癒、改善、安定化、または防止する意図での患者の医療的管理に言及する。この用語は、積極的処置、すなわち、具体的には、疾患、病的状態、または障害の改善に向けた処置を含み、原因処置、すなわち、その関連する疾患、病的状態、または障害の原因の除去に向けた処置をも含む。さらに、この用語は、緩和的処置、すなわち、上記疾患、病的状態、または障害を治癒するよりむしろ、症状の軽減のために設計された処置;防止的処置、すなわち、上記関連する疾患、病的状態、または障害の発生を最小化するかまたは部分的にもしくは完全に阻害することに向けた処置;および支持的処置、すなわち、上記関連する疾患、病的状態、または障害の改善に向けた別の特定の治療を補うために使用される処置を含む。
【0042】
本明細書中での値の範囲の記載は、本明細書で別段示されなければ、その範囲内に入る各別個の値に個々に言及する簡略法として働くことが意図されるに過ぎず、各別個の値は、それが本明細書に個々に記載されているかのように、本明細書に組み込まれる。
【0043】
用語「約」の使用は、述べられた値をおよそ±10%の範囲において上回るかまたは下回るかのいずれかである値を記載することが意図される;他の形態では、値は、述べられた値をおよそ±5%の範囲において上回るかまたは下回るかのいずれかである値の範囲に及び得る;他の形態では、値は、述べられた値をおよそ±2%の範囲において上回るかまたは下回るかのいずれかである値の範囲に及び得る;他の形態では、値は、述べられた値をおよそ±1%の範囲において上回るかまたは下回るかのいずれかである値の範囲に及び得る。上述の範囲は、文脈によって明らかになることが意図され、さらなる限定は意味されない。
【0044】
範囲は、「約」1つの特定の値から、および/または「約」別の特定の値までとして本明細書で表され得る。このような範囲が表される場合、文脈が別段具体的に示さなければ、その1つの特定の値からおよび/または他の特定の値までの範囲がまた、具体的に企図されかつ開示されていると見做される。同様に、先行詞「約」の使用によって値が近似値として表される場合、文脈が別段具体的に示さなければ、その特定の値が、開示されたと見做されるべき別の具体的に企図される実施形態を形成することは、理解される。上記範囲の各々の端点が、文脈が別段具体的に示さなければ、他の端点との関係性においても、他の端点とは独立していても有意であることは、さらに理解される。個々の値の全ておよび明示的に開示される範囲内に含まれる値の部分範囲がまた、文脈が別段具体的に示さなければ、具体的に企図され、開示されると見做されるべきであることは、理解されるべきである。最後に、全ての範囲が、範囲として、および第1の端点から(第1の端点を含む)から第2の端点まで(第2の端点を含む)の個々の数字の集合として、その記載される範囲の両方に言及することは、理解されるべきである。後者の場合、個々の数字のうちのいずれかが、その範囲が言及する量、値、または特徴の1つの形態として選択され得ることは、理解されるべきである。このようにして、範囲は、第1の端点から(第1の端点を含む)から第2の端点まで(第2の端点を含む)の数字または値のセットを記載し、そこから、そのセットのうちの単一のメンバー(すなわち、単一の数値)が、その範囲が言及する量、値、または特徴として選択され得る。上記のことは、特定の場合に、これらの実施形態のうちのいくつかまたは全てが明示的に開示されるかどうかにかかわらず、あてはまる。
【0045】
本明細書で開示されるあらゆる化合物は、本明細書で具体的に開示されることが意図され、かつ本明細書で具体的に開示されると見做されるべきである。さらに、本開示内で特定され得るあらゆる部分範囲は、本明細書で具体的に開示されることが意図され、かつ本明細書で具体的に開示されると見做されるべきである。結果として、任意の化合物、または化合物の下位群は、使用のために具体的に含まれるかもしくは使用から排除されるか、または化合物のリストの中に含まれるかもしくはリストから排除されるかのいずれかであり得ることが、具体的に企図される。
【0046】
本開示の組成物を調製するために使用されるべき構成成分、および本明細書で開示される方法内で使用されるべき上記組成物自体が、開示される。これらおよび他の材料が本明細書で開示され、これらの材料の組み合わせ、部分セット、相互作用、群などが開示される場合、これらの化合物の各種々の個々のおよび集合的な組み合わせならびに並べ替え(permutation)の具体的な言及が明示的に開示されない場合もあるが、各々が具体的に企図され、本明細書に記載されることが理解される。例えば、特定のポリペプチドが開示され、考察され、多くのポリペプチドに対して行われ得る多くの改変が考察される場合、具体的に反対に示されなければ、ポリペプチドの各々およびあらゆる組み合わせおよび並べ替え、ならびに可能な改変が、具体的に企図される。従って、分子A、B、およびCのクラスが、分子D、E、およびFのクラスと同様に開示され、組み合わせの一例、A~Dが開示される場合、各々が個々に記載されていないとしても、各々は、個々にかつ具体的に企図される。つまり、組み合わせ、A-E、A-F、B-D、B-E、B-F、C-D、C-E、およびC-Fは、開示されていると見做される。同様に、これらの任意の部分セットまたは組み合わせがまた、開示される。従って、例えば、A-E、B-F、およびC-Eの下位群は、開示されていると見做される。この概念は、本開示の組成物を作製および使用する方法におけるステップが挙げられるが、これらに限定されない、本出願の全ての局面にあてはまる。従って、行われるべき種々のさらなるステップが存在する場合、これらのさらなるステップの各々が、本開示の方法の任意の具体的な実施形態または実施形態の組み合わせで行われ得ることは、理解される。
【0047】
II. 組成物
肝疾患、障害、および傷害を処置するための組成物および方法が、本明細書で開示される。上記組成物は、化学的に誘導される肝前駆細胞(CLiPs)を含み得る、および/またはこれによって形成され得る。上記組成物は、細胞ベースの組成物、または無細胞組成物であり得る。CLiPsを作製する方法がまた、提供される。
【0048】
A. 化学的に誘導される肝前駆細胞(CLiPs)
本開示の組成物および方法は、代表的には、化学的に誘導される肝前駆細胞(CLiPs)、好ましくはヒトの化学的に誘導される肝前駆細胞(hCLiPs)から構成または形成される。上記細胞は、好ましくは、意図的に遺伝子改変されず、例えば、組換え遺伝子技術、指向性遺伝子編集などによって改変されない。しかし、遺伝子改変された細胞も、企図される。例としては、不死化CLiPs(例えば、CDK4、CCND1(サイクリンD1)、および/またはTERTを、代表的には、条件付きまたは構成的に活性なプロモーターの制御下で有するもの)が挙げられるが、これらに限定されない(例えば、以下の実施例を参照のこと)。
【0049】
1. 出発肝細胞の供給源
化学的誘導の出発材料として使用される肝臓細胞(肝細胞ともいわれる)は、代表的には、肝細胞マーカー遺伝子(例えば、アルブミン(ALB)、トランスサイレチン(TTR),グルコース-6-ホスファターゼ(G6PC)、チロシンアミノトランスフェラーゼ(TAT)、トリプトファン-2,3-ジオキシゲナーゼ(TDO2)、シトクロムP450(CYP)、miR-122など)のうちの少なくとも1タイプ、好ましくは2もしくはこれより多くのタイプ、より好ましくは3もしくはこれより多くのタイプ、さらにより好ましくは4もしくはこれより多くのタイプ、特に好ましくは5もしくはこれより多くのタイプ、および最も好ましくはALB、TTR、G6PC、TAT、TDO2およびCYPから選択される6タイプ全てを含む。好ましくは、上記肝細胞は、機能的である。機能的肝細胞とは、以下から選択される機能のうちの1またはこれより多くのもの、好ましくは2またはこれより多くのもの、より好ましくは3またはこれより多くのもの、さらにより好ましくは4またはこれより多くのもの、および最も好ましくは全てを保持する肝細胞に言及する:(i)毛細胆管構造を有し、その細管の中に薬物代謝産物を蓄積する;(ii)細胞膜においてABCトランスポーター(例えば、MDR1、MRPなど)を発現する;(iii)ALBを分泌して発現する;(iv)グリコーゲンを蓄積する;および(v)薬物代謝酵素(例えば、CYP1A1、CYP1A2など)として活性を有する。
【0050】
上記肝細胞は、これらが肝細胞である限りにおいて、例えば、上記の肝細胞マーカー遺伝子の発現によって特徴づけられる場合、任意の供給源から提供され得る。例えば、上記肝細胞は、哺乳動物、例えば、ヒト、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ヒツジ、ウマ、ブタ、ウシ、サルなど、好ましくはヒト、ラットまたはマウスから得られ得る。上記肝細胞は、胚性幹細胞(ES細胞)もしくは多能性幹細胞(例えば、分化誘導法によるiPS細胞)から、または直接的再プログラミングによって線維芽細胞から得られ得る。いくつかの実施形態において、上記肝細胞は、遺伝子改変されていない。
【0051】
例示的な供給源は、哺乳動物の肝臓から単離/精製された肝細胞である。例えば、非ヒト哺乳動物の場合には、肝臓が除去され得る。ヒトに関しては、成人肝組織小片が、外科手術によって、または最近病気になったドナー(成人または若年者であり得る)から、切除され得る。妊娠中絶の胎児から切除される肝臓がまた、使用され得る。細胞は、新鮮に単離され得るか、または以前に肝臓から除去され、単離/精製された肝細胞である低温貯蔵された細胞であり得る。上記肝臓は、健常な肝臓であり得る。いくつかの実施形態において、上記肝臓細胞は、上記処置されるべき被験体に対して自己である。
【0052】
肝細胞は、哺乳動物肝臓またはその組織小片から、灌流法によって精製され得る(「Handbook of Cultured Cell Experiments」(Yodosha, 2004)など)。具体的には、門脈を介してEGTA溶液での予備灌流の後に、肝臓は、コラゲナーゼまたはディスパーゼのような酵素溶液(ハンクス溶液など)での灌流によって消化され得、上記肝細胞は、濾過、低速遠心分離などによって細胞小片および非実質細胞を除去することによって精製され得る。
【0053】
2. 阻害剤、血清、および他の因子
CLiPsを形成するために、上記肝細胞を、代表的には、TGF-βレセプターの1種またはこれより多くの阻害剤およびGSK3の1種またはこれより多くの阻害剤と接触させる。いくつかの実施形態において、上記細胞をまた、1種もしくはこれより多くのROCK阻害剤および/または血清と接触させる。上記接触することは、代表的には、インビトロ/エキソビボで起こる。
【0054】
上記阻害剤の各々(以下でより詳細に考察される)は、標的分子もしくはシグナル伝達経路(例えば、TGF-β、GSK3、ROCKなど)の発現を低減または防止するタンパク質、核酸、低分子、抗体または他の薬剤であり得る。
【0055】
阻害剤は、上記標的分子の発現または活性を、直接または間接的に阻害し得るかまたは別の方法で低減し得る。例えば、ROCK活性化の負の調節因子は、小さなGTP結合タンパク質(例えば、Gem、RhoE、およびRad)を含み、これらは、ROCK活性を減弱し得る。ROCKの自己阻害活性はまた、そのカルボキシ末端とそのキナーゼドメインとの相互作用でキナーゼ活性を低減することによって実証されている。
【0056】
阻害剤は、低分子、抗体、アンチセンス化合物および負の調節因子であり得るが、これらに限定されない。好ましくは、上記阻害剤のうちの1もしくはこれより多くのものまたは全てが、低分子量化合物(例えば、低分子)である。
【0057】
他の例では、上記阻害剤は、アンチセンス化合物である.一般に、アンチセンス技術の背後にある原理は、アンチセンス化合物が標的核酸にハイブリダイズし、遺伝子発現活性、または機能(例えば、転写、翻訳またはスプライシング)のモジュレーションをもたらすことである。遺伝子発現のモジュレーションは、例えば、標的RNA分解または占有ベースの阻害によって達成され得る。分解による標的RNA機能のモジュレーションの例は、DNA様アンチセンス化合物(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)とのハイブリダイゼーションの際の、標的RNAのRNase Hベースの分解である。アンチセンスオリゴヌクレオチドはまた、占有ベースの阻害によって(例えば、スプライス部位へのアクセスを遮断することによって)、スプライシングのような遺伝子発現をモジュレートするために使用され得る。
【0058】
アンチセンス化合物としては、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、miRNA、shRNAおよびリボザイムが挙げられるが、これらに限定されない。アンチセンス化合物は、阻害のための標的をコードする核酸を特異的に標的化し得る。上記のアンチセンス化合物の各々は、配列特異的標的遺伝子調節を提供する。この配列特異性は、アンチセンス化合物を、目的の標的核酸の選択的モジュレーションのための有効なツールにする。核酸を特異的に標的とするアンチセンス化合物を設計、調製および使用する方法は、当業者の能力の範囲内である。
【0059】
別の実施形態において、上記阻害剤は、機能遮断抗体であり得る。
【0060】
a. TGF-βレセプター阻害剤
肝細胞を、代表的には、インビトロで、TGF-βレセプター阻害剤を含む1またはこれより多くの低分子量シグナル伝達経路阻害剤と接触させる。本発明のために使用されるTGF-βレセプター阻害剤は、これがトランスフォーミング成長因子(TGF)-βレセプターの機能を阻害する限りにおいて、任意の阻害剤であり得、TGF-β/Smadシグナル伝達阻害剤、例えば、低分子、抗体、アンチセンス化合物およびTGF-β/Smadシグナル伝達分子の負の調節因子が挙げられる。抗体、アンチセンス化合物および負の調節因子は、TGF-βシグナル伝達分子(例えば、ALK4、5、および/または7)を標的とするために設計され得る。
【0061】
TGF-β/Smadシグナル伝達の例示的な低分子阻害剤としては、A83-01、SB431542、LDN-193189、ガルニセルチブ(LY2157299)、LY2109761、SB525334、SB505124、GW788388、LY364947、RepSox(E-616452)、LDN-193189 2HCl、K02288、BIBF-0775、TP0427736 HCl、LDN-214117、SD-208、バクトセルチブ(TEW-7197)、ML347、LDN-212854、DMH1、ドルソモルフィン(化合物C),2HCl、ピルフェニドン(S-7701)、スルファサラジン(NSC 667219)、AUDA、PD 169316、TA-02、ITD-1、LY 3200882、アラントラクトン、ハロフジノン、SIS3 HCl、ドルソモルフィン(化合物C)、およびヘスペレチンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0062】
他の例としては、2-(5-ベンゾ[1,3]ジオキソール-4-イル-2-tert-ブチル-1H-イミダゾール-4-イル)-6-メチルピリジン、3-(6-メチルピリジン-2-イル)-4-(4-キノリル)-1-フェニルチオカルバモイル-1H-ピラゾール(A-83-01)、2-(5-クロロ-2-フルオロフェニル)プテリジン-4-イル)ピリジン-4-イルアミン(SD-208)、3-(ピリジン-2-イル)-4-(4-キノニル)]-1H-ピラゾール、2-(3-(6-メチルピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル)-1,5-ナフチリジン(全てMerckから)およびSB431542(Sigma Aldrich)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0063】
好ましい例は、A-83-01(本明細書では「A」ともいわれる)である。代表的には、例えば、上記阻害剤、A83-01は、約0.1μM~約10μM、または約0.5μMの濃度で使用される。
【0064】
b. GSK3阻害剤
肝細胞をまた、代表的には、インビトロでGSK3阻害剤の1またはこれより多くの阻害剤と接触させる。上記GSK3阻害剤は、これがグリコーゲンシンターゼキナーゼ(GSK)3の機能を阻害する限りにおいて、任意のGSK3阻害剤であり得る。例としては、SB216763(Selleck)、CHIR98014、CHIR99021(全てAxon medchemから)、SB415286(Tocris Bioscience)、およびケンパウロン(Cosmo Bio)が挙げられる。好ましい例は、CHIR99021(本明細書中、「C」ともいわれる)である。代表的には、例えば、上記阻害剤CHIR99021は、約0.1μM~約20μM、約1μM~約10μM、または約3μMの濃度で使用される。
【0065】
c. ROCK阻害剤
いくつかの実施形態において、肝細胞をまた、ROCKの1またはこれより多くの阻害剤と接触させる。いくつかの実施形態において、例えば、肝細胞がヒト細胞である場合、上記ROCK阻害剤は、除外され得る。
【0066】
Rho関連キナーゼ(本明細書中、ROCK、Rock、Rho関連コイルドコイルキナーゼ、およびRhoキナーゼとしても公知でありかつ/またはそのようにいわれる)としては、ROCK1(ROKβまたはp160ROCKとも称される)およびROCK2(ROKαとも称される)が挙げられる。ROCKタンパク質は、Rho GTPasesと相互作用するセリン-スレオニンキナーゼである。 好ましくは、上記ROCK阻害剤は、低分子である。例示的な低分子ROCK阻害剤としては、Y-27632(米国特許第4,997,834号)およびファスジル(HA 1077としても公知; Asanoら, J. Pharmacol. Exp. Ther. 241:1033-1040, 1987)が挙げられる。これらの阻害剤は、キナーゼドメインに結合して、ROCK酵素活性を阻害する。ROCKを特異的に阻害することが報告された他の低分子としては、H-1152((S)-(+)-2-メチル-1-[(4-メチル-5-イソキノリニル)スルホニル]ホモピペラジン、 Ikenoyaら, J. Neurochem. 81:9, 2002; Sasakiら, Pharmacol. Ther. 93:225, 2002); N-(4-ピリジル)-N’-(2,4,6-トリクロロフェニル)ウレア(Takamiら, Bioorg. Med. Chem. 12:2115, 2004);および3-(4-ピリジル)-1H-インドール(Yarrowら, Chem. Biol. 12:385, 2005)、GSK269962A(Axon medchem)、およびファスジル塩酸塩(Tocris Bioscience)が挙げられる。
【0067】
さらなる低分子Rhoキナーゼ阻害剤としては、PCT公開番号WO 03/059913、WO 03/064397、WO 05/003101、WO 04/112719、WO 03/062225およびWO 03/062227;米国特許第7,217,722号および同第7,199,147号;ならびに米国特許出願公開番号2003/0220357号、同第2006/0241127号、同第2005/0182040号および同第2005/0197328号に記載されるものが挙げられる。
【0068】
特に好ましい実施形態において、上記ROCK阻害剤は、Y-27632(本明細書中、「Y」ともいわれる)である。(+/-)-trans-N-(4-ピリジル)-4-(1-アミノエチル)-シクロヘキサンカルボキサミドとしても公知のY-27632は、Rho関連キナーゼの活性を特異的に阻害する低分子阻害剤である。Y-27632は、米国特許第4,997,834号およびPCT公開番号WO 98/06433に開示される。いくつかの実施形態において、ROCK阻害剤がY-27632である場合、ROCK阻害剤の有効量は、約1~約100μM、または約5~約25μM、または約10μMである。
【0069】
上記GSK3阻害剤および上記ROCK阻害剤を、個々に肝細胞と接触させる場合にほとんど肝幹細胞/前駆細胞を誘導しないのに対して、肝幹細胞/前駆細胞を誘導する効率(「再プログラミング効率」ともいわれる)は、TGF-βレセプター阻害剤のみを肝細胞と接触させる場合と比較して、上記GSK3阻害剤をTGF-βレセプター阻害剤と一緒に肝細胞と接触させる場合に有意に増加する。さらに、ラットおよびマウス細胞の再プログラミング効率はまた、TGF-βレセプター阻害剤のみを肝細胞と接触させる場合と比較して、ROCK阻害剤をTGF-βレセプター阻害剤と一緒に肝細胞と接触させる場合に増加する(Katsudaら, Cell Stem Cell 20, 41-55, (2017), dx.doi.org/10.1016/j.stem.2016.10.007(これはその全体において本明細書に参考として援用される))。従って、いくつかの実施形態において、GSK3阻害剤および/またはROCK阻害剤を、TGF-βレセプター阻害剤に加えて、肝細胞と接触させる。
【0070】
d. 血清および他の因子
結果はまた、いくつかのヒト肝細胞(例えば、初代乳児ヒト肝細胞(IPHHs))を使用した場合に、上記細胞を好ましくは、ROCK阻害剤と接触させず、さらにまたは代わりに、血清(例えば、ウシ胎仔血清)と接触させることを示す(Katsudaら, eLife 8:e47313, 31 pages, (2019) doi.org/10.7554/eLife.47313(これはその全体において本明細書に参考として具体的に援用される))。従って、いくつかの実施形態において、GSK3阻害剤および/または血清を、TGF-βレセプター阻害剤に加えて、肝細胞と接触させる。
【0071】
血清の例としては、哺乳動物(ウシ、ヒト、ウマ、ヤギ、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ラット、およびマウスが挙げられるが、これらに限定されない)に由来するものが挙げられる。特定の実施形態において、上記血清は、ウシ胎仔血清(FBS)、胎仔もしくは新生仔仔ウシ血清(Fetal or neonatal Calf Serum)(FCS)、ウシ成体血清(ABS)、およびヒト血清である。存在する場合、血清は、代表的には、培養培地の5~20%程度存在する。特定の実施形態において、上記血清は、10% FBSである。
【0072】
無血清培地の場合、血清代用物(BSA、HAS、KSRなど)が添加され得る。
【0073】
一般に、成長因子、サイトカイン、またはホルモンのような因子がさらに添加される。このような因子の例としては、上皮成長因子(EGF)、インスリン、トランスフェリン、肝細胞成長因子(HGF)、オンコスタチンM(OsM)、ヒドロコルチゾン21-ヘミスクシネートまたはその塩およびデキサメタゾン(Dex)のうちの1より多くのものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0074】
e. MEK阻害剤
GSK3阻害剤およびROCK阻害剤以外の低分子量シグナル伝達経路阻害剤はまた、TGF-βレセプター阻害剤と組み合わされ得る。このような阻害剤の例としては、MEK阻害剤が挙げられるが、これに限定されない。上記MEK阻害剤は、特に限定されず、これがMEKの機能(MAPキナーゼ-ERKキナーゼ)を阻害する限りにおいて任意の阻害剤が使用され得る。ここで例としては、AZD6244、CI-1040(PD184352)、PD0325901、RDEA119(BAY869766)、SL327、U0126(全てSelleckから)、PD98059、U0124およびU0125(全てCosmo Bioから)が挙げられる。
【0075】
f. 例示的な好ましい実施形態
特に、上記細胞と少なくとも以下とを接触させることは好ましい:
TGF-βレセプター阻害剤としてのA-83-01(A)を、GSK3阻害剤としてのCHIR99021(C)と組み合わせて(AC)、必要に応じて血清(例えば、FBS)とさらに組み合わせて(FAC);
TGF-βレセプター阻害剤としてのA-83-01(A)を、ROCK阻害剤としてのY-27632(Y)と組み合わせて(YA)、必要に応じて血清(例えば、FBS)とさらに組み合わせて(FYA);
TGF-βレセプター阻害剤としてのA-83-01(A)を、GSK3阻害剤としてのCHIR99021(C)およびROCK阻害剤としてのY-27632(Y)と組み合わせて(YAC)、必要に応じて血清(例えば、FBS)とさらに組み合わせて(FYAC)。
【0076】
マウスおよびラット肝細胞を培養するための好ましい製剤は、YACである。
【0077】
IPHHsを培養するための好ましい製剤は、FACである。
【0078】
特定の実施形態において、培地に添加されるTGF-βレセプター阻害剤の濃度は、例えば、0.01~10μM、および好ましくは0.1~1μMの範囲において適切に選択され得る;培地に添加されるGSK3阻害剤の濃度は、例えば、0.01~100μM、および好ましくは1~10μMの範囲において適切に選択され得る;培地に添加されるROCK阻害剤の濃度は、例えば、0.0001~500μM、および好ましくは1~50μMの範囲において適切に選択され得る;そして培地に添加される血清の濃度は、例えば、5%~20%、好ましくは8%~12%、例えば、10%の範囲において適切に選択され得る。
【0079】
阻害剤および/またはCLiPsを作製する方法はまた、WO 2020/080550、WO 2017/119512、米国特許第10,961,507号、米国特許出願第17/285,038号、Katsudaら, Cell Stem Cell 20, 41-55, (2017), dx.doi.org/10.1016/j.stem.2016.10.007、およびKatsudaら, eLife 8:e47313, 31 pages, (2019) doi.org/10.7554/eLife.47313(これらの各々は、その全体において本明細書に参考として具体的に援用される)のうちの1またはこれより多くのものに記載される。
【0080】
3. 培養することおよび選択ガイドライン
肝細胞と上記阻害剤および選択肢的な血清との間の接触は、肝細胞を、これらの物質の存在下で培養することによって行われ得る。具体的には、これらの阻害剤および必要に応じて血清は、培養を行うために有効な濃度において培地に添加される。適切な培地の例としては、基礎培地が挙げられるが、これに限定されない。市販の基礎培地がまた、使用され得る。ここで例としては、最小必須培地(MEM)、ダルベッコ改変最少必須培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地、Ham’s F12培地およびWilliam’s E培地が挙げられるが、これらに特に限定されず、これらを、単独で使用してもよいし、これらのうちの2種またはこれより多くのものを組み合わせて使用してもよい。培地への添加剤の例としては、種々のアミノ酸(例えば、L-グルタミン、L-プロリンなど)、種々の無機塩(亜セレン酸の塩、NaHCOなど)、種々のビタミン(ニコチンアミド、アスコルビン酸誘導体など)、種々の抗生物質(例えば、ペニシリン、ストレプトマイシンなど)、抗真菌剤(例えば、アンホテリシンなど)、およびバッファー(HEPESなど)が挙げられる。
【0081】
これらの阻害剤が水に不溶性のまたは水溶性が不十分な化合物である場合、それらは、少量の低毒性有機溶媒(例えば、DMSOなど)の中で溶解されてもよく、次いで、その得られたものが、上記の最終濃度を与えるために培地に添加され得る。
【0082】
この培養のために使用される培養容器は、これが接着培養のために適している限りにおいて特に限定されず、ここで例としては、ディッシュ、ペトリ皿、組織培養ディッシュ、マルチディッシュ、マイクロプレート、マイクロウェルプレート、マルチプレート、マルチウェルプレート、チャンバースライド、シャーレ、チューブ、トレイ、および培養バッグが挙げられる。使用される培養容器は、上記細胞との接着性を増強する目的で、その内表面が細胞支持基材でコーティングされていてもよい。このような細胞支持基材の例としては、コラーゲン、ゼラチン、マトリゲル、ポリ-L-リジン、ラミニンおよびフィブロネクチンが挙げられ、好ましくは、コラーゲンおよび/またはマトリゲルである。
【0083】
肝細胞は、10~10 細胞/cm、および好ましくは10~10 細胞/cmの細胞密度で培養用基上に播種され得る。培養は、CO インキュベーターの中で、1~10%、好ましくは2~5%およびより好ましくは約5%のCO濃度の雰囲気中、30~40℃、好ましくは35~37.5℃、およびより好ましくは約37℃で行い得る。培養期間は、例えば、1~4週間、好ましくは1~3週間、およびより好ましくは約2週間であり得る。培地は、1~3日間ごとに新鮮なものと交換され得る。
【0084】
このようにして、肝細胞を肝臓幹細胞/前駆細胞へと再プログラミングするように、肝細胞を上記TGF-βレセプター阻害剤、および必要に応じて上記GSK3阻害剤および/または上記ROCK阻害剤および/または血清と接触させる。成熟肝細胞は、一般に、インビトロで増殖しないと考えられているが、Katsudaら, Cell Stem Cell 20, 41-55, (2017), dx.doi.org/10.1016/j.stem.2016.10.007に記載されるように、YACで2週間の培養によって約15倍程度増殖することが見出された。同様に、IPHHsは、効率的に増殖し、FACで2週間にわたって培養すると、優勢な集団になった(Katsudaら, eLife 8:e47313, 31 pages, (2019) doi.org/10.7554/eLife.47313)。
【0085】
好ましい実施形態において、上記CLiPsは、以下を有する:
(a)自己再生能力;および
(b)肝細胞および胆管上皮細胞の両方に分化する両能性の能力。本明細書中、用語「胆管上皮細胞」(「BEC」ともいわれる)は、BECマーカーとしてサイトケラチン19(CK19)およびGRHL2を発現する細胞をいう。
上記CLiPsはまた、胎児肝芽細胞および肝損傷の際に出現するオーバル細胞を含み得る。
【0086】
好ましい実施形態において、上記の特徴(a)および(b)、ならびに従来から公知の肝臓幹細胞(LSC)に類似して、本開示の再プログラミング方法によって得られるCLiPsは:
(c)表面抗原マーカーとして上皮細胞接着分子(EpCAM)を発現するが、他の公知のLSCによって発現されるデルタホモログ1(Dlk1)を発現しない。さらに、いくつかの実施形態によれば、CLiPsは、ロイシンリッチ反復含有Gタンパク質共役レセプター5(LGRS)およびFoxL1(これらは公知のLSCマーカーである)を発現しない。
CLiPsはまた、以下の特徴のうちの1またはこれより多くのものを有し得る:
(d)見かけの成長速度は、少なくとも10継代、好ましくは20継代またはより多くの継代にわたって遅くならない;
(e)肝細胞およびBECへの分化能力は、少なくとも10継代、好ましくは20継代、またはより多くの継代にわたって保持される;
(f)核細胞質(N/C)比は、肝細胞のものより高い;
(g)α-フェトプロテイン(AFP)、SRY-box(Sox)9、EpCAM、Thy-1/CD90、肝細胞核因子1ホメオボックスB(HNF1-β)、フォークヘッドボックスJ1(FoxJ1)、HNF6/one cut-1(OC1)、CD44、インテグリンα6(A6)およびCK19遺伝子からなる群より選択される1またはこれより多くのLSCマーカー遺伝子の発現は、肝細胞と比較して増加する。
(h)AFP、CD44、EpCAM、CK19、Sox9、A6およびCD90からなる群より選択される1またはこれより多くのタンパク質の発現は、肝細胞と比較して増加する。
【0087】
いくつかの実施形態において、CLiPsは、上記の特徴(d)~(h)全てを有する。
【0088】
よって、CLiPsは、最も代表的には、インビトロまたはエキソビボで、有効量において、および上記で考察した特徴のうちの1もしくはこれより多くのもの、好ましくは大部分または全てを有する細胞を誘導するために適した条件下で、TGF-βレセプター阻害剤と、および好ましくは、さらにはGSK3阻害剤および/またはROCK阻害剤および/または血清と肝細胞を接触させることによって、肝細胞から誘導され得る。
【0089】
4. CLiPsの維持/増殖
上記CLiPsは、例えば、
(i)第1~第4継代にわたってコラーゲンまたはマトリゲルでコーティングした培養容器上で;および
(ii)第5継代などにわたってマトリゲルでコーティングした培養容器上で、
阻害剤(複数可)および必要に応じて血清の存在下でそれらを継代することによって効率的に維持/増殖され得る。
【0090】
培養容器として、CLiPsを肝細胞から誘導するために使用されるものに類似の培養容器が使用され得る。第1~第4継代にわたって使用される培養容器は、コラーゲンまたはマトリゲルでコーティングされる。
【0091】
いったん上記のように得られた初代CLiPsが70~100% コンフルエンシーに達したら、それらをこのコラーゲンまたはマトリゲルでコーティングした培養容器上に10~10 細胞/cmの密度で播種し得る。培地として、CLiPsの誘導培養に関して記載された培地が、同様に使用され得る。添加される上記阻害剤および必要に応じて血清の濃度はまた、CLiPsの誘導培養に関して上で記載された濃度範囲から適切に選択され得る。培養温度およびCO濃度はまた、CLiPsの誘導培養のための条件に従う。いったん70~100% コンフルエンシーに達したら、上記細胞は、トリプシンで処理して解離させ、継代させ得る。
【0092】
第5継代などのために、マトリゲルでコーティングした培養容器が、好ましくは使用される。安定なCLiPsは、約5~8継代後に得られ得る。10継代またはさらに後には、クローニングは、慣用的な手順によって行われ得る。
【0093】
上記のように、上記阻害剤および必要に応じて血清は、CLiPs誘導のためのみならず、維持/増殖培養のためにも、培地に添加され得る。
【0094】
5. CLiPsから肝細胞への再分化
いくつかの実施形態において、上記CLiPsは、CLiPsとして利用される。他の実施形態において、上記CLiPsは、肝細胞へと再分化される。CLiPsを肝細胞へと再分化させる誘導は、任意の公知の方法によって行われ得る。このような方法は、例えば、オンコスタチンM(OsM)、デキサメタゾン(Dex)、肝細胞成長因子(HGF)などを添加した培養容器中で培養する方法(Journal of Cellular Physiology, Vol. 227(5), p. 2051-2058 (2012); Hepatology, Vol. 45(5), p. 1229-1239 (2007))、またはマトリゲル重層法と組み合わせた方法(Hepatology 35, 1351-1359 (2002))であり得る。肝細胞への分化を誘導するための培地は、阻害剤(複数可)および必要に応じて血清を添加してもよいし、添加しなくてもよいが、好ましくは添加するのがよい。
【0095】
CLiPsの分化を誘導することによって得られる肝細胞は、成熟肝細胞に代表的な毛細胆管様構造を有し得るので、その細管中に薬物代謝産物を蓄積し得る。さらに、それらは、細胞膜においてABCトランスポーター(例えば、MRP2タンパク質)を発現し得る。さらに、それらは、一連の肝機能(例えば、アルブミンの分泌発現、グリコーゲン蓄積、およびシトクロムp450(CYP)薬物代謝酵素活性)を発揮し得る。具体的には、CLiPsは、機能的肝細胞へと再分化され得る。
【0096】
6. BECへのCLiPsの分化の誘導
BECへのCLiPsの分化の誘導は、任意の公知の方法によって行われ得る。このような方法は、例えば、コラーゲンゲルがEGFおよびインスリン様成長因子2(IGF2)を含む培地中で培養するために使用される方法であり得る。
【0097】
いくつかの実施形態において、分化したCLiPsは、胆管様構造を形成し得る。特定の実施形態において、上記BEC誘導法は、以下のステップを包含する:
(i)阻害剤(複数可)および必要に応じて血清の存在下で、低密度において、フィーダー細胞上でCLiPsを培養すること;ならびに
(ii)ステップ(i)で得られた上記細胞を、マトリゲルを含む培地中でさらに培養すること。
【0098】
ステップ(i)において使用されるフィーダー細胞は、特に限定されず、維持および培養を支持する目的で概して使用される任意の細胞が、使用され得る。例えば、それらは、マウス胎仔由来の線維芽細胞(MEF)およびSTO細胞(ATCC, CRL-1503)、好ましくは MEFであり得る。
【0099】
低密度とは、維持および培養を支持する目的で概して使用される細胞密度より低い密度に言及し、これは、例えば、1×10~5×10 細胞/cm、および好ましくは5×10~3×10 細胞/cmの範囲にある細胞密度である。フィーダー細胞を播種するための培養容器は、コラーゲンおよびゼラチンのような細胞支持基材でコーティングされたものであり得る。初代または継代されたCLiPsは、阻害剤(複数可)および必要に応じて血清を含む培地中で解離、再懸濁されるようにトリプシンで処理され得、10~10 細胞/cmの細胞密度でフィーダー細胞上に播種され得る。必要であれば、上記培地は、血清が添加され得る。
【0100】
翌日に、上記培地は、多能性幹細胞(例えば、mTeSRTM(Stemcell Technologies))のための維持培地で置き換えられ得、阻害剤(複数可)および必要に応じて血清の存在下で、3~10日間、好ましくは4~8日間、培養に供され得る。上記培地は、1~3日間ごとに新鮮なものと交換され得る。引き続いて、上記培地は、マトリゲルを含む培地と交換され得、3~10日間、好ましくは4~8日間、さらに培養に供され得る。上記培地は、1~3日間ごとに新鮮なものと交換され得る。上記培地に添加されるマトリゲルの濃度は、1~5%、好ましくは1~3%の範囲で適切に選択され得る。合計で約1~3週間培養すると、胆管様構造が形成され、ここで上記細胞は、BECマーカーとして高レベルでCK19およびGRHL2を発現している。さらに、アクアポリン(例えば、AQP1およびAQP9)およびイオンチャネル(例えば、CFTRおよびAE2)の遺伝子およびタンパク質発現が増加している。さらに、密着結合マーカーとしてのZO-1の強い発現は、管構造の内腔において観察される。さらに、これらの細胞は、水を輸送する能力および内腔中の薬物代謝産物を輸送および蓄積する能力を有することから、本発明のLSCは、機能的BECへと分化し得る。
【0101】
B. 無細胞材料
一般に、細胞ベースの治療は、制御されない分化、副作用、腫瘍形成、および同種異系使用の不適合のような制限を有し得る。反対に、CLiPsに由来する細胞外小胞(EVs)の治療的および非治療的使用は、このような欠点を克服する可能性を有する。従って、CLiPsに由来する無細胞組成物もまた、提供される。
【0102】
EVsを含む無細胞組成物およびその使用方法が提供される。上記EVsは、因子の不均一な混合物(例えば、馴化培地)の一部またはこれらから単離される画分であり得る。他の実施形態において、EVs、またはその1もしくはこれより多くのサブタイプは、CLiPsの馴化培地から単離されるかまたは別の方法で収集される。上記EVs、またはその1もしくはこれより多くのサブタイプは、上記被験体への投与の前に、薬学的に受容可能な組成物(例えば、キャリアもしくはマトリクスもしくはデポー)中に懸濁され得る。
【0103】
1. 細胞外小胞
本開示の組成物は、CLiPsに由来する細胞外小胞、またはその単離もしくは分画されたサブタイプ(単数または複数)であり得るかまたはこれらを含み得る。細胞外小胞は、細胞から天然に放出される脂質二重層に範囲が定められた粒子であり、細胞とは異なり、複製できない。EVsは、直径が、最小の物理的に可能なユニラメラリポソーム(およそ20~30ナノメートル)に近いサイズから10ミクロンもしくはこれより大きい程度までの範囲に及ぶが、EVsの大多数は、200nmより小さい。
【0104】
多様なEVサブタイプが提唱されており、これらとしては、エクトソーム、マイクロ小胞(MV)、マイクロ粒子、エクソソーム、オンコソーム、アポトーシス小体(AB)、トンネルナノチューブ(TNT)などが挙げられる(Yanez-Mo,ら, J Extracell Vesicles. 4: 27066 (2015) doi:10.3402/jev.v4.27066. PMC 4433489)。これらのEVサブタイプは、大部分はバイオジェネシス(細胞経路、細胞または組織の実体、起源の状態)に基づいて、種々の、しばしば重複する定義によって定義されている(Thery,ら, J Extracell Vesicles. 7 (1): 1535750 (2018). doi:10.1080/20013078.2018.1535750)。しかし、EVサブタイプは、サイズ、構成する分子、機能、または分離方法によっても定義され得る。Theryらにおいて考察されるように、EVsのサブタイプは、以下によって定義され得る:
a)EVsの物理的特性(例えば、サイズ(「小さなEVs」(sEVs)および「中程度の/大きなEVs」(m/lEVs)、範囲が定義される(例えば、それぞれ、<100nmもしくは<200nm[小]、もしくは>200nm[大および/もしくは中])または密度(低い、中程度の、高い(各範囲が定義される));
b)生化学的組成(CD9+/CD63+/CD81+- EVs、アネキシンA5染色されるEVsなど);あるいは
c)状態または起源細胞の記載(ポドサイトEVs、低酸素EVs、大きなオンコソーム、アポトーシス小体)。
【0105】
従って、いくつかの実施形態において、上記組成物は、上記で考察されるとおりの(a)、(b)、または(c)に従って定義される1またはこれより多くのEVサブタイプであるか、またはこれを含む。
【0106】
いくつかの実施形態において、上記小胞は、エクソソームであるか、またはこれを含む。エクソソームは、エンドサイトーシスを促進する表面タンパク質を有し、それらは、高分子を送達する能力を有する。また、エクソソームが、これらが送達される個体と同じ個体から得られる場合、上記エクソソームは、免疫寛容性である。
【0107】
エクソソームは、30~150nm、しばしば40~100nmのサイズを有する小胞であり、大部分の細胞タイプにおいて観察される。エクソソームはしばしば、MVsに類似であるが、重要な差異を有する: 形質膜から直接発生するのではなく、それらは、多胞体(MVBs)へと内向き出芽によって生成される。エクソソームの形成は、3つの異なる段階を含む:(1)形質膜からのエンドサイトーシス小胞の形成、(2)管腔内小胞(ILVs)からなるMVBsをもたらすエンドソーム小胞膜の内向き出芽。および(3)これらのMVBsと形質膜との融合(これは、小胞内容物を放出する)(エクソソームとして公知)。
【0108】
エクソソームは、約5nmの平均厚を有する脂質二重層を有する(例えば、Li, Theranostics, 7(3):789-804 (2017) doi: 10.7150/thno.18133を参照のこと)。エクソソームの脂質構成成分としては、セラミド(ときおり、エクソソームをライソソームから区別するために使用される)、コレステロール、スフィンゴ脂質、および長くかつ飽和脂肪-アシル鎖を有するホスホグリセリドが挙げられる。エクソソームの外側表面は、代表的には、サッカリド鎖(例えば、マンノース、ポリラクトサミン、α-2,6シアル酸、およびN結合型グリカン)が豊富である。
【0109】
多くのエクソソームは、血小板由来成長因子レセプター、ラクトアドヘリン、膜貫通型タンパク質およびライソソーム関連膜タンパク質-2B、膜輸送および融合タンパク質(アネキシン、フロチリン、GTPase、ヒートショックタンパク質、テトラスパニンなど)、多胞体バイオジェネシスに関与するタンパク質、ならびに脂質関連タンパク質およびホスホリパーゼなどのタンパク質を含む。従って、これらの特徴的なタンパク質は、エクソソームの単離および定量のための良好な生体マーカーとして働く。エクソソームが運ぶ別の重要なカーゴは、デオキシ核酸(DNA)、メッセンジャーRNA(mRNA)およびマイクロRNA(miRNA)のようなコードおよび非コードリボ核酸(RNA)を含む核酸である。
【0110】
いくつかの実施形態において、上記小胞は、1またはこれより多くの代替の細胞外小胞(例えば、ABs、MVs、TNTs、または本明細書中もしくは他の箇所で考察される他のもの)を含むか、またはそれらである。
【0111】
ABsは、サイズが不均一であり、形質膜から起こる。それらは、全ての細胞タイプから放出され得、サイズが約1~5μmである。
【0112】
20nm~1μmのサイズを有するMVsは、サイトゾルタンパク質の組み込みに伴うブレビングに起因して形成される。ABsとは対照的に、MVsの形状は均一である。それらは、形質膜から起こり、大部分の細胞タイプにおいて観察される。
【0113】
TNTsは、形質膜から形成される薄く(例えば、50~700nm)かつ100μmまでの長さのアクチンを含むチューブである。
【0114】
いくつかの実施形態において、上記EVsは、約20nm~約500nmの間である。いくつかの実施形態において、上記EVsは、約20nm~約250nmまたは200nmまたは150nmまたは100nmの間である。
【0115】
以下の例は、CLiPsから単離されたEVsが、多くのmiRNAsおよびサイトカインを含むことを示す。以下の例は、CLiPsから単離されたEVsが、以下を含むことを示す: hsa-miR-103a-3p、hsa-miR-122-5p、hsa-miR-125a-5p、hsa-miR-125b-5p、hsa-miR-126-3p、hsa-miR-1324、hsa-miR-142-3p、hsa-miR-151a-3p、hsa-miR-155-5p、hsa-miR-16-5p、hsa-miR-182-5p、hsa-miR-183-5p、hsa-miR-191-5p、hsa-miR-192-5p、hsa-miR-21-5p、hsa-miR-221-3p、hsa-miR-224-5p、hsa-miR-23a-3p、hsa-miR-24-3p、hsa-miR-24-3p、hsa-miR-26a-3p、hsa-miR-28-3p、hsa-miR-29a-3p、hsa-miR-29b-3p、hsa-miR-30a-5p、hsa-miR-30d-5p、hsa-miR-30e-5p、hsa-miR-31-5p、hsa-miR-34a-5p、hsa-miR-3663-3p、hsa-miR-4435、hsa-miR-4440、hsa-miR-5096、hsa-miR-510-3p、hsa-miR-92a-3p、hsa-miR-93-5p、およびhsa-miR-99b-5p(例えば、図16を参照のこと)、ならびにTNFα。
【0116】
従って、いくつかの実施形態において、上記EVsは、以下のうちの1またはこれより多くのものを含む: hsa-miR-103a-3p、hsa-miR-122-5p、hsa-miR-125a-5p、hsa-miR-125b-5p、hsa-miR-126-3p、hsa-miR-1324、hsa-miR-142-3p、hsa-miR-151a-3p、hsa-miR-155-5p、hsa-miR-16-5p、hsa-miR-182-5p、hsa-miR-183-5p、hsa-miR-191-5p、hsa-miR-192-5p、hsa-miR-21-5p、hsa-miR-221-3p、hsa-miR-224-5p、hsa-miR-23a-3p、hsa-miR-24-3p、hsa-miR-24-3p、hsa-miR-26a-3p、hsa-miR-28-3p、hsa-miR-29a-3p、hsa-miR-29b-3p、hsa-miR-30a-5p、hsa-miR-30d-5p、hsa-miR-30e-5p、hsa-miR-31-5p、hsa-miR-34a-5p、hsa-miR-3663-3p、hsa-miR-4435、hsa-miR-4440、hsa-miR-5096、hsa-miR-510-3p、hsa-miR-92a-3p、hsa-miR-93-5p、hsa-miR-99b-5p、および/もしくは1またはこれより多くのサイトカイン(例えば、TNFα)、またはこれらの任意の組み合わせ。
【0117】
2. 細胞外小胞を作製する方法
a. 作製するための細胞供給源
細胞外小胞
本明細書で使用される場合、EVs(AB、MV、エクソソーム、およびTNTが挙げられる)とは、代表的には、細胞または組織によって形成される脂質小胞に言及する。それらは、培養されたおよび培養されていない組織、細胞、または流体、ならびに培養細胞に由来するかもしくは培養細胞によって調整された流体(例えば、馴化培地)を含め、被験体から直接、組織、細胞、および/または流体から、単離され得る。例えば、エクソソームは、生理学的流体(例えば、血漿、リンパ液、悪性胸水、羊水、乳汁、精液、唾液、および尿)中に存在し、培養細胞の培地へと分泌される。
【0118】
本開示の組成物のEVsは、代表的には、CLiPsから形成される。上記CLiPsは、本明細書中上記でおよび下記で、または他の箇所(例えば、Katsudaら, Cell Stem Cell 20, 41-55, (2017), dx.doi.org/10.1016/j.stem.2016.10.007, Katsudaら, eLife 8:e47313, 31 pages, (2019) doi.org/10.7554/eLife.47313、および米国特許第10,961,507号(これらの各々は、その全体において本明細書に参考として具体的に援用される))で考察されるように調製および維持され得る。
【0119】
培養されたおよび培養されていない組織、細胞、または流体、ならびに培養細胞に由来するかもしくは培養細胞によって調整された流体(例えば、馴化培地)を含め、細胞外小胞を、被験体から直接、組織、細胞、および流体から単離する方法は、当該分野で公知である。
【0120】
例えば、Li, Thernaostics, 7(3):789-804 (2017) doi: 10.7150/thno.18133, Ha,ら, Acta Pharmaceutica Sinica B, 6(4):287-296 (2016) doi: 10.1016/j.apsb.2016.02.001, Skotland,ら, Progress in Lipid Research, 66:30-41 (2017) doi: 10.1016/j.plipres.2017.03.001, Phinney and Pittenger, Stem Cells, 35:851-858 (2017) doi: 10.1002/stem.2575(これらの各々は、参考として具体的に援用され、細胞外小胞、特に、エクソソームを単離することを記載する)を参照のこと。
【0121】
上記EVsは、初代細胞または組織または流体から収集され得る。いくつかの実施形態において、上記小胞は、処置されるべき被験体の細胞、組織、または流体から単離される。天然の供給源から単離されたEVsを利用することの利点としては、人工的に生成された脂質小胞と関連し得る免疫原性の回避が挙げられる。
【0122】
上記EVsはまた、細胞株または組織から収集され得る。例示的な細胞株は、市販されており、ヒト骨髄、ヒト臍帯、ヒト胚性組織、およびヒト脂肪(脂肪吸引物に由来するものまたは成熟脂肪細胞から脱分化したものを含む)を含むそれらの種々の供給源を含む。
【0123】
b. 細胞外小胞を収集する方法
細胞外小胞(エクソソームを含む)は、分画遠心分離、浮遊密度勾配遠心分離、濾過、高速液体クラマトグラフィー、および免疫アフィニティー捕捉を使用して単離され得る。
【0124】
例えば、エクソソームを細胞培養物から単離するための最も一般的な単離技術のうちの1つは、分画遠心分離であり、それによって、培養培地中の大きな粒子および細胞デブリは、200~100,000×gの間の遠心力を使用して分離され、上記エクソソームは、エクソソームを約100,000×gで沈殿させることによって、上清から分離される。しかし、純度は、スクロースまたはOptiprepでの浮遊密度勾配遠心分離を使用してサンプルを遠心分離することによって改善され得る。重水素/スクロースベースの密度勾配超遠心分離と組み合わせたタンジェンシャルフロー濾過を使用して、臨床試験のための治療用エクソソームを単離した。
【0125】
以下の実施例では、hCLiPsを、SHM + FAC中で懸濁し、播種し、4日間培養した。最後の培地交換は、無血清であった。培養上清を収集し、20000gで遠心分離した。その上清を濾過し、35000rpmで超遠心分離した。超遠心分離後、その上清を廃棄し、エクソソームをペレットへと形成した(超遠心分離は、培養上清の量に応じて反復され得る)。PBSをそのペレットに添加し、その混合物を再度超遠心分離し、その上清を廃棄し、その得られた生成物を洗浄した。そのペレットを、チューブ中に残った非常に少量のPBS(約100μL)で溶解して、エクソソーム溶液を調製した。
【0126】
限外濾過および高速液体クラマトグラフィー(HPLC)は、それらのサイズ差に基づいてEVsを単離するさらなる方法である。HPLCによって調製されるEVsは、高度に精製される。
【0127】
流体静力学的濾過透析は、細胞外小胞を尿から単離するために使用されている。
【0128】
EV収集のための他の一般的な技術は、アフィニティーベースの方法論を使用する正の選択および/または負の選択を伴う。抗体は、異なる媒体条件において固定され得、分離のために、磁性ビーズ、クロマトグラフィーマトリクス、プレート、およびマイクロ流体デバイスと組み合わされ得る。例えば、エクソソーム関連抗原(例えば、分化抗原群(CD)分子、CD63、CD81、CD82、CD9、上皮細胞接着分子(EpCAM)、およびRas関連タンパク質(Rab5))に対する抗体は、エクソソームのアフィニティーベースの分離のために使用され得る。これらのまたは異なる抗原を運ぶ非エクソソーム小胞はまた、類似の方法において単離され得る。
【0129】
マイクロ流体ベースのデバイスはまた、EVs(例えば、エクソソーム)を迅速にかつ効率的に単離するために使用されており、マイクロスケールにおいてエクソソームの物理的および生化学的特性の両方を利用している。サイズ、密度、および免疫アフィニティーに加えて、ソーティング技術(例えば、音響、電気泳動および電磁的操作)が実行され得る。
【0130】
エクソソームを含むEVsを特徴づける方法はまた、当該分野で公知である。エクソソームは、それらのサイズ、タンパク質含有量、および脂質含有量に基づいて特徴づけられ得る。エクソソームは、40~100nmの間のサイズを有する球形の構造であり、他の系(例えば、100~500nmのサイズ範囲を有するマイクロ小胞)と比較して遙かに小さい。いくつかの方法が、EVsを特徴づけるために使用され得る(フローサイトメトリー、ナノ粒子トラッキング分析、動的光散乱、ウェスタンブロット法、質量分析法、および顕微鏡検査技術が挙げられる)。EVsはまた、それらのタンパク質組成に基づいて特徴づけおよび記録され得る。例えば、インテグリンおよびテトラスパニンは、エクソソーム中で見出される最も存在量が多いタンパク質のうちの2つである。他のタンパク質マーカーとしては、TSG101、ALG-2相互作用タンパク質X(ALIX)、フロチリン1、および細胞接着分子が挙げられる。タンパク質と同様に、脂質は、EVsの主要な構成成分であり、それらを特徴づけるために利用され得る。
【0131】
C. 医薬組成物
CLiPs、EVs、および肝機能をモジュレートするために本明細書で記載される他の分子(例えば、miRNAsもしくはサイトカイン、またはこれらをコードする核酸など)のうちの1つまたはこれより多くのもの)を含む医薬組成物がまた,提供される。医薬組成物は、非経口的に(例えば、筋肉内(IM)、腹腔内(IP)、静脈内(IV)、皮下(SubQ)、または真皮下(subdermal)注射もしくは注入)、経皮的に(受動的にもしくはイオントフォレシスもしくはエレクトロポレーションを使用して)、または任意の他の適切な手段によって投与され得、各投与経路に適した投与形態において製剤化され得る。
【0132】
いくつかの実施形態において、上記組成物は、全身に、例えば、静脈内もしくは腹腔内投与によって、標的化した細胞への上記組成物の送達に有効な量で投与される。
【0133】
いくつかの実施形態において、上記組成物は、局所に、例えば、処置されるべき部位へ直接またはその近傍に注射することによって投与される。例えば、肝臓の処置のためのようないくつかの実施形態において、上記組成物は、肝臓またはそこに近接した領域に直接注射されるかまたは別の方法で投与されるが、他の部位も企図される。例えば、同所性肝移植は、いくつかの肝疾患、例えば、肝硬変、劇症肝炎、およびいくつかの致命的な遺伝性酵素欠乏症の処置のための治療応答である(Sharma,ら, Toxicologic Pathology, 40(1):83-92 (2012). doi:10.1177/0192623311425061)。手順はいまや慣用的であるが、移植後合併症およびドナー不足を含め、その欠点がないわけではない。よって、肝機能を支援するために代替の手順が調査されている。これらの手順の中には、種々の全身の部位への単離した肝細胞の移植がある。脂肪パッド、筋、皮下組織、腹膜、肺、腎臓、肝臓、および脾臓を含め、多くの部位が試験されている。従って、いくつかの実施形態において、本開示の組成物は、細胞および/または無細胞材料を含み、上記の部位のうちの1またはこれより多くの部位へと局所投与される。
【0134】
いくつかの実施形態において、局所注射は、全身投与によって達成され得るものより大きな上記組成物の局所濃度の増加を引き起こす。
【0135】
いくつかの実施形態において、上記組成物は、カテーテルまたはシリンジを使用することによって、適切な位置へと局所に送達される。このような組成物を局所に送達する他の手段としては、注入ポンプ(例えば、Alza Corporation, Palo Alto, Calif.)を使用することまたは上記組成物をポリマー埋込物(例えば、P. Johnson and J. G. Lloyd-Jones, eds., Drug Delivery Systems: Fundamentals and Techniques (Chichester, England: Ellis Horwood Ltd., 1988 ISBN-10: 0895735806を参照のこと)へと組み込むことが挙げられ、これらは、埋込物の直ぐ近くの領域に材料の徐放をもたらし得る。
【0136】
上記組成物は、直接(例えば、それを上記細胞と接触させることによって)、または間接的に(例えば、任意の生物学的プロセスの作用を通じて)、いずれかで上記細胞に提供し得る。例えば、上記小胞は、生理学的に受容可能なキャリア中に製剤化され得、上記細胞の周りの組織または流体へと注射され得る。
【0137】
インビボでの方法のための例示的な投与量は、以下の実験において考察される。さらなる試験が行われるにつれて、種々の患者における種々の状態の処置に適した投与量レベルに関する情報が明らかになり、当業者は、レシピエントの治療状況、年齢、および全身の健康状態を考慮して、適切な投与を確認することができる。選択される投与量は、所望の治療効果、投与経路、および所望の処置の継続期間に依存する。
【0138】
一般に、局所注射または注入に関しては、投与量は低くてもよい。一般に、本開示の小胞を使用して個体に投与される活性薬剤の総量は、その同じ所望のもしくは意図した効果のために投与されなければならない活性薬剤の量より小さくすることができる、かつ/または低減した毒性を示し得る。
【0139】
好ましい実施形態において、上記組成物は、非経口注射(例えば、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、真皮下など)によって、水性溶液で投与される。
【0140】
上記製剤は、懸濁剤または乳剤の形態にあり得る。一般に、有効量の、1またはこれより多くの活性薬剤を含む医薬組成物が提供され、必要に応じて、薬学的に受容可能な希釈剤、保存剤、可溶化剤、乳化剤、アジュバントおよび/またはキャリアを含む。このような組成物は、希釈剤、滅菌水、種々のpHおよびイオン強度にある種々のバッファーの内容の緩衝化塩類溶液(例えば、Tris-HCl、アセテート、ホスフェート);ならびに必要に応じて、添加剤(例えば、洗浄剤および可溶化剤(例えば、TWEEN(登録商標)20、TWEEN(登録商標)80(ポリソルベート20または80ともいわれる))、抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸、メタ重亜硫酸ナトリウム)、ならびに保存剤(例えば、チメロサール、ベンジルアルコール)および増量物質(例えば、ラクトース、マンニトール)を含み得る。非水性溶媒またはビヒクルの例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物性油(例えば、オリーブ油およびコーン油)、ゼラチン、および注射用有機エステル(例えば、オレイン酸エチル)である。上記製剤は、凍結乾燥されてもよく、使用直前に再溶解/再懸濁されてもよい。上記製剤は、例えば、細菌保持フィルターを通過させる濾過によって、滅菌剤を上記組成物に組み込むことによって、上記組成物に照射することによって、または上記組成物を加熱することによって、滅菌され得る。
【0141】
経皮製剤がまた、調製され得る。これらは、代表的には、軟膏剤、ローション剤、スプレー剤、またはパッチ剤であり、これらは全て、標準的技術を使用して調製され得る。経皮製剤は、浸透増強剤を含み得る。化学的増強剤ならびにエレクトロポレーションおよびマイクロニードルを含む物理的方法は、この方法とともに機能し得る。
【0142】
III. 方法
本開示の組成物は、肝疾患および障害ならびに傷害の処置のために使用され得る。上記方法は、代表的には、投与することを必要性とする被験体に、本開示の組成物のうちの1またはこれより多くのものを、肝臓疾患もしくは障害、または肝損傷の1またはこれより多くの症状を低減または逆転させるために有効な量で投与することを包含する。
【0143】
肝疾患および障害としては、感染症(例えば、A型肝炎、B型肝炎、およびC型肝炎);免疫系の問題(例えば、自己免疫性肝炎、原発性胆汁性胆管炎、および原発性硬化性胆管炎);がん(例えば、肝臓がん、胆管がん、および肝細胞腺腫);遺伝性肝障害(例えば、ヘモクロマトーシス、高シュウ酸尿症、ウイルソン病、およびアルファー1アンチトリプシン欠乏症);アルコール乱用および/または薬物過剰摂取からの損傷;非アルコール性脂肪肝疾患が挙げられるが、これらに限定されない。肝臓疾患の悲惨な合併症としては、急性肝不全および肝硬変が挙げられる。いくつかの実施形態において、上記肝臓疾患または障害は、肝線維症であるかまたは肝線維症を含む。
【0144】
いくつかの実施形態において、上記組成物は、既存の肝線維症および/または新たな線維症の形成を低減する。いくつかの実施形態において、上記組成物は、例えば、ヒドロキシプロリンの量によって測定されるように、既存の肝臓コラーゲンの量または新たな肝臓コラーゲンの形成を低減する。いくつかの実施形態において、上記組成物は、抗Col1a抗体での染色、1もしくはこれより多くの肝線維症関連遺伝子の発現の変化(例えば、Mmp2 mRNAの発現の増加、Timp1、αSMA、および/もしくはCol1a mRNAならびに/またはタンパク質の発現の低減、あるいはこれらの任意の組み合わせ)によって検出されるように、既存の線維症の量または新たな線維症の形成を低減する。
【0145】
好ましい実施形態において、上記組成物は、肝サテライト細胞活性化の1またはこれより多くのマーカー、例えば、αSMAの発現の低減を、好ましくは肝サテライト細胞において誘導する。
【0146】
いくつかの実施形態において、上記組成物は、細胞周期、オートファジー、細胞膜融合、および/またはジンクフィンガータンパク質(例えば、Dmtf1、Zfp612、Itga6、Trim24、Eaf2、Zfp119a、Dido1、Masp2、Sgk1、Sm11567、Eml5、Srsf5、Rab35、Fam206a、Zfp131、Zkscan14、Insc、およびNtn3)と関連する1またはこれより多くの遺伝子の発現の変化を誘導する(例えば、図6を参照のこと)。
【0147】
いくつかの実施形態において、上記組成物は、肝サテライト細胞におけるMMP1および/またはMMP13 mRNAおよび/もしくはタンパク質の増加、ならびに/あるいはTNFα mRNAおよび/もしくはタンパク質の低減を誘導する。
【0148】
以下の実験結果は、TNFαが肝サテライト細胞におけるαSMA mRNA発現を低減し得ることを示す。従って、いくつかの実施形態において、TNFαは、上記組成物中に含まれるか、またはそうでなければ本開示の組成物とともに共投与される。
【0149】
組成物は、CliPs、これから形成される物質(例えば、エクソソーム)、およびその活性な要素(マイクロRNA(例えば、hsa-miR-103a-3p、hsa-miR-122-5p、hsa-miR-125a-5p、hsa-miR-125b-5p、hsa-miR-126-3p、hsa-miR-1324、hsa-miR-142-3p、hsa-miR-151a-3p、hsa-miR-155-5p、hsa-miR-16-5p、hsa-miR-182-5p、hsa-miR-183-5p、hsa-miR-191-5p、hsa-miR-192-5p、hsa-miR-21-5p、hsa-miR-221-3p、hsa-miR-224-5p、hsa-miR-23a-3p、hsa-miR-24-3p、hsa-miR-24-3p、hsa-miR-26a-3p、hsa-miR-28-3p、hsa-miR-29a-3p、hsa-miR-29b-3p、hsa-miR-30a-5p、hsa-miR-30d-5p、hsa-miR-30e-5p、hsa-miR-31-5p、hsa-miR-34a-5p、hsa-miR-3663-3p、hsa-miR-4435、hsa-miR-4440、hsa-miR-5096、hsa-miR-510-3p、hsa-miR-92a-3p、hsa-miR-93-5p、および/もしくはhsa-miR-99b-5p)、および/またはTNFαのような1もしくはこれより多くのサイトカインが挙げられるが、これらに限定されない)を含むが、これらに限定されない。
【0150】
以下の実施例において、hCLiPsによって生成されるエクソソームに存在するとして特定されたマイクロRNAのうちのいくつかは、潜在的な機能/活性によって分類される。従って、いくつかの実施形態において、特定の使用のために選択されたエクソソームは、概説されるように上記標的疾患または機能障害の処置のために所望される機能/活性のうちの1またはこれより多くのものを有し得る:
【0151】
検出されるmiRNAsをまた、エクソソーム機能/活性の潜在的な寄与によって分類した:
1)線維症の抑制のために作用するマイクロRNA
・miR-29b-3p: miR-29b-3p/HMGB1/TLR4/NF-κBシグナル伝達、aSMA↓
・miR-24,miR-27b: TGFbetaシグナル伝達↓
・miR-192-5p: TGFbetaシグナル伝達に関連するZeb1およびZeb2;
EMTの阻害
2)肝再生のために作用するマイクロRNA:
・miR-24: 細胞成長および移動阻害ならびに分化の促進;
TGFβシグナル伝達の阻害;
3)抗炎症作用を有するマイクロRNAs:
・miR-16: TNF↑; 抗アポトーシス
4)NASHに対して治療効果を有するマイクロRNAs:
・miR-182-5p; miR-183-5p
5)肝細胞癌を抑制する効果を有するマイクロRNAs:
・miR-23a; miR-27b、miR-31-5p; miR-182-5p; miR-183-5p
【0152】
上記組成物は、例えば、適切な等張性緩衝液(例えば、PBS)中に懸濁され得る。いくつかの実施形態は、薬学的に受容可能な添加剤をさらに含む。
【0153】
例えば、細胞またはEVsの懸濁物は、肝疾患のタイプ、肝損傷などの重篤度に応じて異なり得るが、成体の場合には、例えば、10~1011 細胞が、門脈内投与、脾臓内投与などによって移植され得る。
【0154】
組み合わせ治療がまた、企図される。従って、いくつかの実施形態において、CLiPsおよび/またはCLiPsから形成されるEVsは、第2の活性薬剤とともに、共投与することを必要とする被験体に共投与される。上記第2の活性薬剤は、上記CLiPsおよび/またはEVsと同じまたは異なる混合物中にあり得、同時にまたは異なる時に投与され得る。いくつかの実施形態において、上記さらなる活性薬剤は、上記被験体が罹患する疾患もしくは障害(例えば、肝臓疾患または障害)のための従来の処置である。
【実施例
【0155】
実施例
実施例1: 肝線維症は、hCLiP移植によって改善される
材料および方法
使用した細胞
初代ヒト肝細胞(ロット: FCL)を、Veritas Corporation(Tokyo, Japan)から購入した。ヒト肝サテライト細胞(Science cell research laboratories)を、肝サテライト細胞として購入した。
【0156】
培地の組成
SHMを、初代ヒト肝細胞のための基礎培地として使用した。SHMを、DMEM/F12(Life Technologies, MA)中に2.4g/l NaHCOおよびL-グルタミンを含め、そこに、5mM HEPES(Sigma, MO)、30mg/lのL-プロリン(Sigma)、0.05% ウシ血清アルブミン(Sigma)、10ng/mlの表皮成長因子(Sigma)、インスリン-トランスフェリン-セリン-X(Life Technologies)、10-7 M デキサメタゾン(Sigma)、10mM ニコチンアミド(Sigma)、1mM アスコルビン酸-2ホスフェート(Wako, Osaka, Japan)、および抗生物質/抗真菌剤溶液(Life Technologies)を添加することによって調製した。10% FBS(Life Technologies)、0.5μM A-83-01(Wako)、および3μM CHIR99021(Axon Medchem, Reston, VA)をこの基礎培地SHMに添加することによって調製したSHM+AC+10% FBS(SHM+FAC)を、hCLiPsを培養するために使用した。Stellate Cell Growth Supplement、2% FBS、およびP/Sを各々、Stellate Cell Medium(Science cell research laboratories)に添加し、実験に応じて、肝サテライト細胞の基礎培地として使用した。
【0157】
初代ヒト肝細胞からのhCLiPsの生成
低温貯蔵した初代ヒト肝細胞の約半分を、37℃のウォーターバスで融解し、Glutamax(Life Technologies)および抗生物質/抗真菌剤溶液を添加した10ml Leibovitz’s L-15 Medium(Life Technologies)へと溶解した。その混合物のうちの50gを5分間遠心分離した後、細胞ペレットを、10% FBS、GlutaMAX、抗生物質/抗真菌剤溶液、および10-7M インスリン(Sigma)を添加したWilliam’s E培地中で再懸濁した。トリパンブルー(Life Technologies)を使用して、生細胞数を測定した。小児初代ヒト肝細胞(ロット: FCL)を、コラーゲンIをコーティングしたプレート(IWAKI, Shizuoka, Japan)上に、2×10 生細胞/cmで播種した。3~6時間後、その培地を、SHM+FACと交換した。引き続き、その培地を、2~3日ごとに交換し、上記細胞を14日間培養した。
【0158】
hCLiPsの継代培養
70~100% コンフルエントhCLiPsを、TrypLE Express(Life Technologies, MA)を使用して培養ディッシュから剥離し、10cm コラーゲンでコーティングしたプレート上に1×10 細胞/ディッシュで再度播種した。
【0159】
肝線維症を有するモデルマウスの生成
四塩化炭素(0.5ml/kg)を、1:4の比でオリーブ油の中に溶解し、8週齢のNOD-SCIDマウス(これは、免疫不全マウスである)に1週間に2回、8週間にわたって腹腔内投与し、それによって肝線維症を引き起こした。
【0160】
肝線維症を有するモデルマウスへのhCLiPsの移植
調製したhCLiPsを、TrypLE Express(Life Technologies, MA)を使用することによって細胞ペレットへと形成し、次いで、これを、DMEM中に懸濁した。イソフルランで麻酔している肝線維症を有するモデルマウスを、開腹術に供し、そのマウスの脾臓を露出させ、細胞溶液を、5×10または1×10 細胞/マウスで注射し、それによって、上記細胞を脾臓内に移植した。移植から2週間後に、マウスを解剖し、肝線維症の程度を評価した。
【0161】
RNA抽出
全RNAを、miRNeasy Mini Kit(QIAGEN, Venlo, The Netherlands)を使用することによって抽出した。
【0162】
逆転写
逆転写のために、High-Capacity cDNA Reverse Transcription Kit(Life Technologies)を、使用した。
【0163】
リアルタイムPCR
cDNAに関しては、リアルタイムPCRを、Platinum SYBR Green qPCR SuperMix UDG(Lifetechnologies)またはTaqManTM Universal PCR Master Mix, no AmpEraseTM UNG(Applied Biosystems)を使用して行った。遺伝子発現の変化を、内部標準としてACTBを使用することによって試験した。使用したプライマーは、以下の表1に示される。
【表1】
MMP1:Gene Exp Mmp1 Hs00899658 M1(Thermo Fisher)
β-アクチン:Gene Exp Actb Hs03023880 G1(Thermo Fisher)
【0164】
組織免疫染色
組織免疫染色のために使用した抗体は、以下のとおりである。パラフィンブロックサンプルを、ホルマリンでの固定後に作製した。それをエタノールおよびキシレンで脱脂後、ImmunoSaver(Nissin EM, Tokyo, Japan)を200倍希釈することによって調製した溶液を、98℃において45分間使用して、抗原検索を行った。0.3% Hを含むメタノール中での浸漬を、室温で30分間行って、内因性ペルオキシダーゼを不活性化した。0.1% Triton(登録商標)X-100を含むPBSを浸潤させた後、Blocking One溶液を使用して、4℃で30分間ブロッキングを行った。次いで、一次抗体を、室温で1時間または4℃で一晩インキュベートした。上記サンプルを、ImmPRESS IgG-ペルオキシダーゼキット(Vector Labs, Burlingame, CA)および金属増強DAB基質キット(Life Technologies)を使用して染色した。最後に、上記サンプルを、ヘマトキシリン溶液中に浸漬し、カバーグラスをその上に置いて、サンプルを観察した。
【表3】
【0165】
デジタルPCR
全DNAを、DNeasy Blood & Tissue Kit(QIAGEN)を使用することによって凍結肝臓組織から収集した。全DNAを使用して、Taqman Copy Number Reference Assayのプローブ、Mousae Tfrc(VIC)、およびTaqman RNase P Detection Reagents Kit(FAM)を使用することによって、QuantStudioTM 3D Digital PCR Master Mix v2およびQuant Studio 3D Digital PCR System(Thermo Fisher Scientific)によって、hCLiPsを移植した後のマウスの肝臓に含まれるヒト細胞を検出した。
【0166】
ヒドロキシプロリン定量
肝臓組織を使用して、Hydroxyproline Assay Kit(Bio Vsion)によってヒドロキシプロリンを定量した。
【0167】
結果
四塩化炭素の腹腔内投与による肝線維症を有するモデルマウスの生成
尾を切ることによって採血し、線維症の程度を、ASTおよびALTを使用してモニターし、四塩化炭素の投与後の時間経過に対して状態を調べた。投与量に関しては、基準として100~400mg/kgを1週間に2回投与することで、状態を適切に調べた。以前の試験を参考にしながら、200mg/kgの四塩化炭素を6週齢のマウスに腹腔内投与したところ、10日で1/3のマウスが死亡した。死亡したマウスは全て、元々低体重であったか、または投与後に体重が有意に低下した。これらの事実に鑑みて、6週齢のマウスで投与を開始することは、早すぎると考えられた。その結果、マウスに投与し始めることを、8週齢のマウスへと変更して、再び試験した。8週齢のマウスで投与を開始すると、1匹のマウスのみが死亡し、線維症を有するマウスの安定した生産に成功した。線維症の程度を、シリウスレッド染色またはCol1a抗体を使用する免疫染色によって病理学的に観察した。
【0168】
肝線維症を有するモデルマウスの血液生化学検査
移植の時点で、尾を切ることによって採血し、血清を分離し、AST、ALT、総ビリルビン、および血小板数を測定した。
【表2】
【0169】
総ビリルビンは、正常値を示した(表2)。ASTおよびALTを、1週間に2回経時的に測定したところ、最初の投与時で有意に上昇した後、それらは安定し、基準値より高かった。これらの事実は、軽度のレベルの肝線維症を有するモデルが作製されたことを示す。移植後に、上記モデルをAST/ALTに関して非移植群と比較したところ、有意差は見出されなかった(図1A~1B)。
【0170】
hCLiP移植に起因する肝臓組織におけるコラーゲン量の減少
ヒドロキシプロリンは、コラーゲンを構成するアミノ酸のうちの1タイプである。hCLiP移植から2週間で解剖を行い、肝臓組織中のヒドロキシプロリンの量を定量した。hCLiPsを移植した群では、ヒドロキシプロリンの量は有意に減少した(図2)。これは、hCLiP移植がコラーゲン生成を抑制するかまたはコラーゲンを分解する可能性を示す。
【0171】
hCLiP移植による病的肝線維症の改善
線維症の程度を、シリウスレッド染色または1a型コラーゲン(Col1a)抗体を使用する免疫染色によって、病理学的に評価した。hCLiPsを移植した群では、Col1a陽性面積は、有意に低減した(図3A)。シリウスレッド染色では、hCLiP移植によって改善される傾向が観察された。さらに、シリウスレッド染色およびヒドロキシプロリンの量は、正の相関を示すことが明らかにされた(図3B)。
【0172】
hCLiP移植に起因する肝線維症関連遺伝子の発現の変化
肝線維症と関連する遺伝子(Mmp2、Timp1、αSMA、およびCol1a)の発現の変化を、リアルタイムPCRで観察した。HCLiPsを移植した群では、Mmp2 mRNAの発現レベルが有意に増加した一方で、Timp1、αSMA、およびCol1a mRNAの発現レベルは有意に減少した(図4A~4D)。hCLiP移植の結果として、コラーゲンを分解する遺伝子の発現の増加およびコラーゲンを生成する遺伝子の発現の減少が、線維症を有する肝臓において観察された。
【0173】
肝臓組織におけるhCLiPsの存在
脾臓から移植されたhCLiPsがどこに存在するかを試験するために、肝臓組織スライスを使用して、ヒトミトコンドリア抗体での免疫染色を行った。しかし、検出は失敗した。従って、全DNAを、凍結肝臓組織から収集し、マウスTfrcおよびヒトRNase Pを使用して、それらの各々のコピー数を測定した。0~1%のヒト細胞を移植群において検出した(図5)。マウス肝臓中に5×10個の移植細胞が存在し、約1×10個の細胞が存在することから、マウス肝臓中の移植したhCLiPsの数/細胞数は、0.5%である。移植後2週間目には、マウス肝臓中に存在するヒト細胞のパーセンテージは、最大で1%であった。これは、hCLiPsがおそらく、移植後にマウス肝臓中で増殖したことを示す。
【0174】
hCLiP移植に起因する遺伝子プロフィールの変化
非移植群および移植群のRNAを使用して、マイクロアレイ分析を行った。hCLiP移植は、18タイプの遺伝子(Dmtf1、Zfp612、Itga6、Trim24、Eaf2、Zfp119a、Dido1、Masp2、Sgk1、Sm11567、Eml5、Srsf5、Rab35、Fam206a、Zfp131、Zkscan14、Insc、およびNtn3)の発現の有意な減少を生じた(図6)。これらは、細胞周期、オートファジー、細胞膜融合、またはジンクフィンガータンパク質と関連する遺伝子であり、それらの遺伝子プロフィールは、hCLiP移植によって大きく変化した。
【0175】
実施例2: 肝サテライト細胞との共培養は、hCLiPsの治療機序を明らかにする
材料および方法
肝サテライト細胞およびhCLiPsを使用する共培養
肝サテライト細胞を、Stellate Cell Growth Supplement、2% FBS、およびP/SをStellate Cell Medium(Science cell research laboratories)に添加することによって調製した培地中に懸濁し、1×10 生細胞/cmで播種した。一晩の後、その培地を、TGFβおよびP/SをStellate Cell Mediumに添加することによって調製した培地と交換した。24時間のインキュベーション後、hCLiPsを、SHM培地中に懸濁し、共培養を、Transwell-COL挿入物(Corning)を使用して、1×10 生細胞/ウェルで48時間行った。
【0176】
肝サテライト細胞へのTNFαの添加
肝サテライト細胞を、Stellate Cell Growth Supplement、2% FBS、およびP/SをStellate Cell Medium(Science cell research laboratories)に添加することによって調製した培地中で懸濁し、1×10 生細胞/cmで播種した。一晩の後、その培地を、TGFβおよびP/SをStellate Cell Mediumに添加することによって調製した培地と交換した。24時間のインキュベーション後、5ng/ml、10ng/ml、20ng/ml、50ng/mlのTNFαを添加し、24時間曝露した。
【0177】
エクソソームの収集
hCLiPsを、SHM + FAC中に懸濁し、2×10 生細胞/cmで播種した。その培地を2日ごとに交換し、その培地を、培養の4日目にSHM + ACと交換した。24時間の培養後、その培養上清を収集した。その収集した培養上清を、20000 g、4℃において10分間遠心分離した。その上清をStericup Quick Release-GP Sterile Vacuum Filtration System(Millipore)で濾過した。上記の処理した培養上清を、35000rpm、4℃で1時間10分超遠心分離した。超遠心分離の直後に、その上清を廃棄し、エクソソームをペレットへと形成した(培養上清の量に応じて、超遠心分離を2~5回反復した)。PBSをそのペレットに添加し、その混合物を再度超遠心分離し、その上清を廃棄し、その得られた生成物を洗浄した。そのペレットを、チューブに残ったごく少量のPBS(約100μL)に溶解して、エクソソーム溶液を調製した。
【0178】
hCLiP由来のエクソソームにおけるmiRNAの分析
収集したエクソソームを、miRNAの存在に関して分析した。MiRNAsを、Qiagen マイクロRNAeasyキットを使用することによって、CLiP EVsから精製した。精製したマイクロRNAsを、包括的miRNA発現分析に投入し、3D‐Gene(登録商標) miRNA LabelingキットおよびmiRBase release 21データベース(http://www.mirbase.org/)に登録された2,588のmiRNA配列を検出するように設計された3D‐Gene(登録商標) Human miRNA Oligo Chip(ともにToray Industries, Inc.)を使用して行った。マイクロアレイ実験を、Kamakura Techno‐Science Inc.によって行った。シグナル強度>2を有するmiRNAを、検出されたmiRNAsと見做した。
【0179】
肝サテライト細胞へのhCLiP由来のエクソソームの添加
肝サテライト細胞を、Stellate Cell Growth Supplement、2% FBS、およびP/SをStellate Cell Medium(Science cell research laboratories)に添加することによって調製した培地中に懸濁し、1×10 生細胞/cmで播種した。一晩の後、その培地を、TGFβおよびP/SをStellate Cell Mediumに添加することによって調製した培地と交換した。24時間のインキュベーション後、10μg/mLのhCLiP由来のエクソソーム溶液を添加し、その混合物を48時間培養した。
【0180】
不死化hCLiPsの生成
3つの遺伝子、CDK4、CCND1(サイクリンD1)、およびTERTを導入し、4タイプ(A~D)の細胞を、プロモーターの差異に応じて作製した。
【表4】
【0181】
肝分化の誘導
hCLiPsを、コラーゲンIでコーティングした24ウェルプレート上に、5×10 細胞/ウェル(2.5×10 細胞/cm)の播種密度で播種した。50~80% コンフルエントになったときに、その培地を、2% FBS、0.5mM A-83-01、および3mM CHIR99021を含むSHMと交換した。分化誘導群(Hep-i(+))に関しては、5ng/mlのヒトOSM(R&D)および10-6M デキサメタゾンを添加した。上記細胞を6日間培養し、ここでその培地を、2日ごとに交換した。6日目に、マトリゲル(Corning, Corning, NY)および上記培地の1:7の比での混合物を、培地の代わりに、分化誘導群(Hep-i(+))の上に注いだ。8日目に、そのゲルを吸引し、Ca2+およびMg2+を補充したハンクス平衡化塩類溶液(Life Technologies)で洗浄した。
【0182】
CYP活性の測定
CYP活性の測定のために、2% FBSを含むSHMを、基礎培地として使用した。CYP3A4を、10μM リファンピシンまたは1mM フェノバルビタールで誘導した。CYP1A2を、50μM オメプラゾールで誘導した。CYP誘導因子を含む培地を、毎日交換した。3日後に、P450-GloTM CYP3A4 Assay System(Promega)を使用して、CYP活性を測定した。
【0183】
タンパク質の抽出
細胞を、M-PERTM Mammalian Protein Extraction Reagentで十分にピペッティングし、溶解させた。その溶解物を、15000gにおいて、4℃で10分間遠心分離し、その上清をタンパク質溶液として使用した。そのタンパク質濃度を、Qubit(登録商標)2.0 Fluorometerを使用して測定した。
【0184】
ウェスタンブロッティング
上記タンパク質溶液を、4×SDS サンプル緩衝液(Merck)と混合し、その混合物を、95℃で5分間インキュベートして、移動サンプルを調製した。Precision Plus ProteinTM Dual Color Standards(BIORAD)を、分子量マーカーとして使用した。4~20% Mini-PROTEAN(登録商標) TGXTM Precast Protein Gels(BIORAD)を、移動タンクの中に入れ、その標本および分子量マーカーを載せた。100ml 10×Tris/グリシン/SDSを900ml miliQで希釈して、泳動緩衝液として使用し、移動を100Vで1時間10分行った。転写に関しては、80ml 10×Tris/グリシンを720ml miliQで希釈し、200ml メタノールを添加して、転写緩衝液として使用し、immobilon-P膜(Merck)への転写を、100Vで1時間行った。Blocking One溶液を使用して、室温で1時間ブロッキングを行い、一次抗体を、10% Blocking One溶液を添加したTBS-Tで希釈し、それらを4℃で一晩放置した。得られた生成物をTBS-Tで3回洗浄した後、二次抗体をTBS-Tで希釈し、室温で1時間インキュベートした。その得られた生成物を、TBS-Tで再度3回洗浄し、ImmunoStar LD(Wako, Japan)で染色し、検出をMolecular Imager ChemiDoc XRS System(BIORAD)で行った。
【表5】
【0185】
統計分析
統計分析を、SPSSを使用して行った。スチューデントのt検定およびダネットの検定を行った。p<0.05の註釈: , p<0,01: **, p<0.001: は、本明細書中以降使用される。
【0186】
結果
肝サテライト細胞およびhCLiPsの共培養による肝サテライト細胞活性化レベルの減少
肝サテライト細胞は、肝線維症の進行病態生理において中心的な役割を果たす。肝サテライト細胞の活性化によって、肝サテライト細胞は細胞外マトリクス物質を生成し、肝線維症において中心的役割を果たす。従って、肝サテライト細胞活性化に対するhCLiPsとのその共培養の影響を調査するために実験を設計した。肝サテライト細胞を播種し、一晩の後に、その培地を、TGFβおよびP/SをStellate Cell Mediumに添加することによって調製した培地と交換した。24時間のインキュベーション後、hCLiPsを、Transwell-COL挿入物を使用して48時間共培養した。肝サテライト細胞およびhCLiPsの共培養の結果として、αSMA(これは、肝サテライト細胞活性化マーカーである)の発現は、肝サテライト細胞におけるmRNAおよびタンパク質レベルで有意に減少した(図7)。
【0187】
肝サテライト細胞および不死化hCLiPsの共培養による肝サテライト細胞活性化レベルの減少
hCLiPsは、有意により高い増殖能力を有するが、非実質細胞の集団は、非実質細胞の混入に起因して、継代を繰り返した後に増加する。従って、複数回の継代後にhCLiPsの機能および治療効果を正確に評価することは困難である。従って、不死化hCLiPsを生成して、これらがhCLiPsのものと同じ機能を有するかどうかを評価した。第1に、4タイプ(A~D)の不死化hCLiPsを、プロモーターなどにおける差異に応じて生成した。不死化hCLiPsがhCLiPsのものと同じ機能を有するかどうかを試験するために、不死化hCLiPsを、分化の誘導に供し、CYP酵素活性を測定した。AおよびDでは、CYP酵素活性は、分化の誘導に起因して増加した(図8A~8D)のに対して、BおよびCでは、分化の誘導は変化を引き起こさず、酵素活性は低かった。これらの結果に鑑みて、不死化において肝前駆細胞の代わりに、胆管上皮細胞のような混合した細胞の他のタイプが不死化した可能性がある。従って、AおよびDは、不死化hCLiPsとして使用した。次に、肝サテライト細胞および不死化hCLiPsを共培養した。肝サテライト細胞および不死化hCLiPsの共培養の結果として、αSMA mRNA(これは、肝サテライト細胞活性化マーカーである)の発現は、肝サテライト細胞において有意に減少した(図9)。
【0188】
肝サテライト細胞およびhCLiPsの共培養に起因する肝サテライト細胞における遺伝子発現の変化
肝サテライト細胞およびhCLiPsを共培養して、肝サテライト細胞活性化およびコラーゲン線維症の分解に関与するシグナル遺伝子発現の変化を確認した。肝サテライト細胞およびhCLiPsの共培養の結果として、MMP1およびMMP13 mRNAの発現は、肝サテライト細胞において増加した。TGFβの添加の結果として、TNFα mRNAの発現は減少した(図10A~10D)。
【0189】
肝サテライト細胞およびhCLiPsの共培養に起因するhCLiPs遺伝子発現の変化
肝サテライト細胞およびhCLiPsを共培養して、TGFβの存在下および非存在下で、肝サテライト細胞活性化およびコラーゲン線維症の分解に関与するシグナル遺伝子発現の変化を確認した。TGFβの存在下での肝サテライト細胞およびhCLiPsの共培養の結果として、hCLiPsにおけるMMP13 mRNAの発現は、有意に増加した。TNFα mRNAの発現は増加したが、TIMP3 mRNAの発現は減少した(図11A~11C)。
【0190】
肝サテライト細胞へのTNFαの添加の際の遺伝子発現の変化
TGFβの存在下での肝サテライト細胞およびhCLiPsの共培養が、hCLiPsにおいてTNFα mRNAの発現の増加を生じたことから、TNFαの分泌はサイトカインとしてhCLiPsから増加したと考えられる。従って、TNFα(これは、サイトカインの1タイプである)を、活性化肝サテライト細胞に添加した。TNFαの添加は、10ng/ml、20ng/ml、および50ng/mlの群においてαSMA mRNA発現の有意な減少を生じた(図12)。
【0191】
hCLiP由来のエクソソームを肝サテライト細胞に添加する場合の肝サテライト細胞活性化レベルの減少
肝サテライト細胞およびhCLiPsの共培養は、hCLiP由来の分泌物に起因して、αSMAの発現の減少を示す。種々の細胞由来の分泌物(例えば、サイトカインまたはエクソソーム)が存在する。エクソソームは安定であり、無細胞治療に使用しやすい。従って、hCLiP由来のエクソソームを収集し、エクソソーム溶液を肝サテライト細胞に添加し、発現の変化を観察した。肝サテライト細胞を播種し、一晩の後、その培地を、TGFβおよびP/SをStellate Cell Mediumに添加することによって調製した培地と交換した。24時間のインキュベーション後、10μg/mLのhCLiP由来のエクソソーム溶液を添加し、その混合物を48時間培養した。hCLiP由来のエクソソームを肝サテライト細胞に添加すると、肝サテライト細胞においてタンパク質レベルで、αSMA(これは、肝サテライト細胞活性化マーカーである)の発現の減少が生じた。さらに、添加したエクソソーム中のmRNAの遺伝子発現が確認され、多くのTNFα mRNAが含まれることが見出された(図13A~13B)。
【0192】
TGFβの存在下でのhCLiP由来のエクソソーム中のmRNA
エクソソームを、TGFβの存在下および非存在下で収集し、エクソソームにおける遺伝子発現の変化を観察した。TGFβの存在下では、エクソソームにおけるMMP13およびTIMP3 mRNAの発現レベルは減少した。さらに、エクソソームにおけるTNFαの発現レベルは増加した(図14A~14C)。
【0193】
hCLiP由来のエクソソームにおけるmiRNA
収集したエクソソームをまた、miRNAの存在に関して分析した。結果を図16に示す。環状miRNAは、線維症の阻害に寄与すると考えられるものである。
【0194】
検出したmiRNAsを、エクソソーム機能/活性の潜在的寄与によっても分類した:
1)線維症の抑制のために作用するマイクロRNA
・miR-29b-3p: miR-29b-3p/HMGB1/TLR4/NF-κBシグナル伝達、aSMA↓
・miR-24、miR-27b: TGFbetaシグナル伝達↓
・miR-192-5p: TGFbetaシグナル伝達に関連するZeb1およびZeb2;
EMTの阻害
2)肝再生のために作用するマイクロRNA:
・miR-24: 細胞成長&移動阻害、および分化を促進する;
TGFβシグナル伝達の阻害;
3)抗炎症作用を有するマイクロRNAs:
・miR-16: TNF↑; 抗アポトーシス
4)NASHに対して治療効果を有するマイクロRNAs:
・miR-182-5p; miR-183-5p
5)肝細胞癌を抑制する効果を有するマイクロRNAs:
・miR-23a; miR-27b、miR-31-5p; miR-182-5p; miR-183-5p
【0195】
別段定義されなければ、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本開示の発明が属する分野の当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書で引用される刊行物およびそれらが引用する資料は、参照により具体的に援用される。
【0196】
当業者は、慣用的な実験法のみを使用して、本明細書に記載される発明の具体的実施形態に対する多くの均等物を認識するかまたは確認し得る。このような均等物は、以下の特許請求の範囲によって包含されることが意図される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14-1】
図14-2】
図15
図16
【配列表】
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【国際調査報告】