(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-18
(54)【発明の名称】地球外培養条件下での動物/植物細胞に対する微小重力効果を調査するための方法及びキット、ならびに有人宇宙任務を支援するためのその培養方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/34 20060101AFI20241010BHJP
C12N 1/13 20060101ALI20241010BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20241010BHJP
C12M 3/00 20060101ALI20241010BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20241010BHJP
C12P 1/00 20060101ALI20241010BHJP
C12P 3/00 20060101ALI20241010BHJP
A23L 35/00 20160101ALI20241010BHJP
【FI】
C12M1/34 D
C12N1/13
C12M1/00 E
C12M3/00 A
C12M1/00 D
C12N5/071
C12P1/00 Z
C12P3/00
A23L35/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024523229
(86)(22)【出願日】2021-10-13
(85)【翻訳文提出日】2024-06-10
(86)【国際出願番号】 EP2021078376
(87)【国際公開番号】W WO2023061587
(87)【国際公開日】2023-04-20
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524143881
【氏名又は名称】ウニヴェルスィタ デッリ ストゥディ ディ カリャリ
(71)【出願人】
【識別番号】515016835
【氏名又は名称】ウニヴェルスィタ デッリ ストゥディ ディ サッサリ
(71)【出願人】
【識別番号】524143892
【氏名又は名称】トロ グリーン ソシエタ ア レスポンサビリタ リミタータ
(71)【出願人】
【識別番号】524143906
【氏名又は名称】ディストレット アエロスパツィアーレ サルデーニャ ソシエタ コンソルティーレ ア エッレ.エッレ.
(71)【出願人】
【識別番号】524143917
【氏名又は名称】セントロ ディ リセルカ、ズヴィルッポ エ ストゥディ スペリオーリ イン サルデーニャ - チエッレエッセ4 ソシエタ ア レスポンサビリタ リミタータ
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カオ、ジャコモ
(72)【発明者】
【氏名】パンタレオ、アントネラ
(72)【発明者】
【氏名】コンカス、アレッサンドロ
(72)【発明者】
【氏名】ファイス、ジャコモ
(72)【発明者】
【氏名】ミケーリ、フェデリコ
(72)【発明者】
【氏名】マンカ、アレシア
(72)【発明者】
【氏名】ガブリエッリ、ジルベルト
【テーマコード(参考)】
4B029
4B036
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029BB02
4B029BB04
4B029BB05
4B029BB11
4B029FA09
4B036LF19
4B036LH29
4B036LH46
4B036LH50
4B036LP16
4B036LP24
4B036LT29
4B064AA02
4B064AA03
4B065AA83
4B065AA83X
4B065AA83Y
4B065AA84X
4B065AA84Y
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AA93X
4B065AA93Y
4B065BA30
4B065BC01
4B065CA41
(57)【要約】
本発明は、有人宇宙任務の持続のために食用バイオマスを生産するための地球外資源を利用した動物及び植物細胞の培養に対する微小重力及びCO2に富む大気の影響を調査するための地球外条件をシミュレーションする技術及びその方法、ならびにそれを実施するための材料キット及び装置を記載する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を備える、地球上で、地球外条件下での細胞株の成長をシミュレーションするための装置:
3Dクリノスタット又はランダム位置決め機(RPM)に取り付けられた断熱ジャー、ただし該断熱ジャーは、最適なものに可能な限り近い培養培地と共に培養される細胞株を含む少なくとも1つの実験室規模バイオリアクタ(LSB)を収容することができ、可能な場合には現場資源利用(ISRU)をシミュレーションすることができ、前記ジャー内の圧力を測定することができる圧力計、ガス入口及びガス出口を備える;
前記ジャーの前記入口と流体接続可能な出口を有する、地球外大気をシミュレーションするガスを貯蔵するためのボンベ。
【請求項2】
3Dクリノスタット又はRPMが、ジャーに、結果として生じる加速度ベクトルによって特徴付けられる動きを与えるようにプログラムされ、該モジュールは経時的な平均値として、0に近いか又はシミュレーションの対象である地球外の場所の重力条件に可能な限り近い場合の値を有する、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
ジャーが透明であり、LSBが透明な実験室規模光バイオリアクタ(LSP)である、請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
少なくとも1つのLPSが、グロエオカプサ(Gloeocapsa)株OU_20、レプトリンビア(Leptolyngbya)株OU_13、フォルミジウム(Phormidium)株OU_10、クロオコッキディオプシス(Chroococcidiopsis)029;アルスロスピラ・プラテンシス(Arthrospira platensis);シネココッカス・エロンガトゥス(Synechococcus elongatus);アナバエナ・シリンドリカ(Anabaena cilindrica);クロレラ・ブルガリス(Chlorella vulgaris);ナンノクロリス・ユーカリオツム(Nannochloris Eucaryotum)又はそれらの遺伝子操作された株からなる群から選択される少なくとも1種の藻類株を含む、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
少なくとも1つのLSBが、クロレラ・ソロキニアナ(Chlorella sorokiniana)、クロレラ・ゾフィゲンシス(Chlorella zofigensis)、コッコミクサ種(Coccomyxa sp.)、シネココッカス種(Synechococcus sp.)、シュードクロリス・ウィルヘルミイ(Pseudochloris wilhelmii)、クロレラ・プロトテコイデス(Chlorella protothecoides)、ユーグレナ・グラシリス(Euglena gracilis)、クラミドモナス・ラインハルディ(Chlamydomonas reinhardtii)、イソクリシス・ガルバナ(Isochrysis galbana)、ネオクロリス・オレオアブンダンス(Neochloris oleoabundans)、セネデスムス・オブリクース(Scenedesmus obliquus)、ドナリエラ・サリナ(Dunaliella salina)、ナンノクロロプシス・オキュレート(Nannochloropsis oculate)、クロレラ・ピレノイドサ(Chlorella pyrenoidosa)、ボツリオコッカス・ブラウニー(Botryococcus braunii)、フェオダクチラム・トリコルナタム(Phaeodactylum tricornutum)、テトラセルミス種(Tetraselmis sp.)、タラッシオシラ・シュードナナ(Thalassiosira pseudonana)、ヘマトコッカス・プルビアリス(Haematococcus pluvialis)、ナンノクロロプシス・オセアニカ(Nannochloropsis oceanica)、スピルリナ・マキシマ(Spirulina maxima)、パブロバ・サリナ(Pavlova salina)、ポルフィリディウム・マリヌム(Porphyridium marinum)、テトラセルミス・インコンスピキュア(Tetraselmis inconspicua)、シアノフォラ・パラドキサ(Cyanophora paradoxa)、タラシオシラ・ロチュラ(Thalassiosira rotula)、アンフォラ種(Amphora sp.)、オドンテラ・アウリタ(Odontella aurita)、アッテヤ腫(Attheya sp.)、クロムリナ・オクロモノイデス(Chromulina ochromonoides)、ダイアクロネマ・ブルキアナム(Diacronema vlkianum)、カエトセロス種(Chaetoceros sp.)、ナビキュラ・ペリキュロサ(Navicula pelliculosa)、オドンテラ・モビリエンシス(Odontella mobiliensis)、ポロシラ・シュードデンチキュラタ(Porosira pseudodenticulata)からなる群から選択される細胞株を含む;又はH1、H9、胚性幹細胞、ヒト;HEK-293、アデノウイルスで形質転換された胚性腎臓、ヒト;HeLa、上皮細胞、ヒト;HL60、ヒト、前骨髄球性白血病細胞、ヒト;MCF-7乳がん、ヒト;A549、肺がん、ヒト;A1~A5-E、羊膜、ヒト;ND-E、食道、ヒト;CHO、卵巣、チャイニーズハムスター;3T3、線維芽細胞、マウス;BHK21、線維芽細胞、シリアンハムスター;MDCK、上皮細胞、イヌ;E14.1、胚性幹細胞(マウス)、マウス;COS、腎臓、サル;DT40、リンパ腫細胞、鶏;S2、マクロファージ様細胞、ショウジョウバエ;GH3、下垂体腫瘍、ラット;L6、筋芽細胞、ラット;Sf9及びSf21、卵巣、イエシロアリ;(スポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda))ZF4及びAB9細胞、胚性線維芽細胞、ゼブラフィッシュ;1184、皮膚線維芽細胞、ヒト;E6.1クローン、Jurkat細胞、ヒト;THP1細胞、ヒト;SH-SY5Y、神経芽腫細胞、ヒト;iPSC、幹細胞、ヒト;赤血球細胞培養物、ヒト;C20A4、軟骨細胞、ヒト;1301、T細胞白血病、ヒト;1306、161BR、皮膚線維芽細胞、ヒト;F-36P骨髄障害症候群、白血病、ヒト;H9、T細胞、ヒト;HeLa、上皮細胞、ヒト;E6.1クローン、Jurkat細胞、ヒト;SH-SY5Y、神経芽腫細胞、ヒト;iPSC、幹細胞、ヒト;1184、皮膚線維芽細胞、ヒト;hMSC、間葉系幹細胞、ヒト;mBMSC、骨髄由来間葉系幹細胞、ラット;ADSC、脂肪由来幹細胞、ヒト;mESC、胚性幹細胞、マウス;MG-63、骨肉腫細胞株、ヒト;HUVEC、ヒト臍帯静脈内皮細胞、ヒトからなる群内で選択される細胞株を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のシミュレーション装置を使用することを含む、地球上で、所定の地球外の場所での地球外条件下での細胞の成長をシミュレーションする方法。
【請求項7】
以下を含む、請求項6に記載の方法:
成長させる細胞株に最適な培地に可能な限り近い培養ブロスを、可能な場合には地球外ISRUをシミュレーションすることによって、調製するステップ;
本発明の装置のLSPに前記培養ブロスを投入し、続いて培養される微細藻類又はシアノバクテリア株の接種材料を投入するステップ;
前記LSPをジャー内に配置するステップ;
本発明の装置のクリノスタット又はRPMに前記ジャーを取り付けるステップ;
本発明の装置のボンベの出口を前記ジャーのガス入口に接続するステップ;
ジャー内大気を洗浄するのに十分な時間、前記ジャーのガス出口を開いた状態で、前記ジャー内に地球外大気のシミュラントを通気するステップ;
少なくとも0.8バールの内圧が前記ジャー内で達成されるまで、前記地球外大気のシミュラントを通気し続けながら前記ジャー出口を閉鎖するステップ;
微小重力をシミュレーションするために前記クリノスタット又はRPMをオンにするステップ。
【請求項8】
食用微生物の培養のための請求項6又は7に記載の方法であって、酸性水で浸出することによって得られた液体表土浸出液と地球外表土のシミュラントとを、希釈された宇宙飛行士の尿のシミュラント及び微量栄養素と混合することによって培養培地を調製するステップをさらに含み、前記微量栄養素は、地球外の場所でISRUによって利用不可能であり、培養される株の成長に必須であることが知られている微量栄養素である、方法。
【請求項9】
以下を含む、請求項8に記載の方法:
a)地球外表土のシミュラントを調製するステップ;
b)前記地球外表土のシミュラントを浸出溶液と接触させて表土スラリーを得るステップであって、前記浸出溶液は、HNO
3で酸性化された水である、ステップ;
c)前記表土スラリーを濾過して、固体排出表土及び液体表土浸出液を得るステップ;
d)宇宙飛行士の尿のシミュラントを調製するステップ;
e)ほとんどのECLSSにおける洗浄水によって決定された希釈をシミュレーションするために、前記尿のシミュラントを水で希釈し、このようにしてECLSS廃水のシミュラントを得るステップ;
e’)最終的に、前記廃水のシミュラントの塩分濃度が高すぎて微細藻類の成長に適合しない場合、それをさらに希釈するステップ;
f)培養される株の成長に最適な微量栄養素を含む培養培地を調製するステップ;
g)前記ECLSS廃水のシミュラントを前記表土浸出液及び前記培養培地と混合して、培養ブロスを得るステップ;
h)本発明の装置のLSPに前記培養ブロスを投入し、続いて培養される微細藻類又はシアノバクテリア株の接種材料を投入するステップ;
i)前記LSPを、地球外ドームをシミュレーションする前記装置のジャー内に配置するステップ;
j)本発明の装置のクリノスタット又はRPMに前記ジャーを取り付けるステップ;
k)本発明の装置のボンベの出口を前記ジャーのガス入口に接続するステップ;
l)ジャー内大気を洗浄するのに十分な時間、前記ジャーのガス出口を開いた状態で、前記ジャー内に地球外大気のシミュラントを通気するステップ;
m)少なくとも0.8バールの内圧が前記ジャー内で達成されるまで前記地球外大気のシミュラントを通気し続けながら前記ジャー出口を閉鎖するステップ;
n)微小重力をシミュレーションするために前記クリノスタット又はRPMをオンにし、同時に光合成を促進するためにドームのシミュラントに自然光又は人工光を照射するステップ。
【請求項10】
長期有人地球外任務を維持するための光合成食用バイオマス及び酸素を生産するためのbio-ISRU方法であって、
表土浸出液を、ECLSSからの希釈された宇宙飛行士尿、及び食用バイオマスの成長に必須である地球から持ち込まれた現場で利用不可能な他の微量栄養素と混合することによって、地球外成長培地を調製するステップ;
光バイオリアクタに、前記地球外成長培地及び地球から持ち込まれた食用バイオマスの接種材料を投入するステップと
を含む方法。
【請求項11】
以下を含む、請求項10に記載の方法:
a’.少なくとも1つの測地ドームを地球外土壌上に組み立て、前記ドーム内に少なくとも1つの光バイオリアクタを配置するステップ;
b’.光起電力パネル、少なくとも1つのWAVARユニット、少なくとも1つのTSAユニット、及び少なくとも1つのMPOユニットとを含む物理化学セクションを組み立てて、地球外の土壌及び大気から水、脱水及び加圧されたCO
2、N
2及びArを抽出し、NH
3、O
2、H
2、HNO
3、NH
4NO
3を生成するステップ;
c’.前記ドーム内で少なくとも0.8バールの圧力及び少なくとも10℃、好ましくは10~15℃の温度に達するまで、前記ステップ(b’)で生成された加熱、加圧及び脱水されたCO
2を前記ドーム内に吹き込むステップ;
d’.前記物理化学セクションで生成されたHNO3及び水を混合することによって浸出溶液を調製するステップ;
e’.好ましくは少なくとも1つの火星日(ソル)について1:5の固体/液体重量比で、前記物理化学セクションから脱水表土を前記浸出溶液で浸出させるステップ;
f’.表土スラリーを濾過して、表土浸出液及び浸出表土を得るステップ;
g’.表土浸出液を、少なくとも1つのECLSSセクションから来た希釈された宇宙飛行士尿、前記物理化学セクションで生成されたHNO
3、及び食用バイオマスの成長に必須である地球から持ち込まれた現場で利用不可能な他の微量栄養素と混合することによって、地球外成長培地を調製するステップ;
h’.地球から持ち込まれた食用微細藻類又はシアノバクテリアの接種材料を調製するステップ;
i’.前記光バイオリアクタに前記地球外成長培地を供給し、続いて前記接種材料を供給して、生物学的スラリーを得るステップ;
j’.前記生物学的スラリーを前記ドーム内のCO
2及び光合成を促進することができる光源に曝露し、それによって新たなバイオマス藻類及び光合成酸素の形成をもたらすステップ;
k’.遠心分離によって使用済み「培養ブロス」から藻類バイオマスを分離し、脱気によって光合成酸素を抽出するステップ;
l’.前記ECLSSセクションで生成された食品と共に食品又は栄養補助食品として使用するために、前記酸素を前記ECLSSセクションに送り、前記藻類バイオマスをさらに脱水するステップ;
m’.前記使用済み「培養ブロス」をα
1及びα
2と呼ばれる2つのストリームに分割するステップ;
n’.前記使用済み培養ブロスのストリームα
1を前記少なくとも1つの光バイオリアクタに再循環させるステップ;
o’.任意選択で、前記ストリームα
2を、前記物理化学セクションで生成された硝酸アンモニウム(NH
4NO
3)と一緒に、新鮮な表土と一緒に、適切な量の地球から持ち込まれたフミン酸及びフルボ酸と一緒に、ECLSSからのヒト代謝廃棄物と一緒に、野菜が栽培されている前記ドーム内に運搬するステップ。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の方法によって得られた食用バイオマスを含む、宇宙飛行士用食品。
【請求項13】
長期有人宇宙任務中に請求項10又は11に記載の方法を実施するようにとくに適合された材料キットであって、
ECLSSから来る希釈された宇宙飛行士尿を、地球外成長培地を調製するための容器に運搬するためのシステム;
食用バイオマスの成長に必須であり、地球外の場所では利用不可能な微量栄養素;
を備える、材料キット。
【請求項14】
以下をさらに備える、請求項13に記載のキット:
上記手順の物理化学グループで使用される異なる植物ユニットを収容するための少なくとも1つの測地ドーム;
前記少なくとも1つのドームの内部大気を加熱するために必要なエネルギー、及び植物ユニット動作に電力供給するために必要なエネルギーを生成するための少なくとも1つの光起電力システム;
火星大気からの水の抽出のための、吸着プロセス、それに続くマイクロ波加熱による脱着がそれを通して行われる、ゼオライトの使用に基づく少なくとも1つのWAVARユニット;
ゼオライトの少なくとも1つの吸着剤床;少なくとも1つのラジエータとからなる少なくとも1つのTSAユニットであって、少なくとも1つのラジエータは、火星環境との熱交換及び可変温度での吸着-脱着サイクルの実施を確実にし、これにより、火星大気を構成する他のガス(主にN
2及びAr)からのCO
2の分離ならびにその加圧を可能にし、TSAユニットによって生成された加圧された純粋なCO
2は、ドームの内側で適切な圧力が達成されるまで、少なくとも1つのドーム内に吹き込まれ得る、少なくとも1つのTSAユニット;
火星表土を掘削して次の処理ユニットに運搬するための、少なくとも1つの掘削機及び少なくとも1つのコンベヤベルト;
マイクロ波加熱によって、吸着された水及び水和水を火星表土から抽出するための、少なくとも1つのマグネトロンを包含する少なくとも1つのMPOユニット;
前記表土から抽出された水を、物理化学セクションで生成された適切な量の硝酸と混合するための少なくとも1つのユニット;
水及び硝酸の混合物を介して表土を浸出させるための、連続モードで動作する少なくとも1つの浸出反応器;
前記浸出反応器から流出するスラリーストリームの固液分離のための「フィルタプレート」からなる少なくとも1つのユニットであって、「表土浸出液」と呼ばれる液体ストリーム及び「浸出表土」の固体ストリームを生成する、ユニット;
前記「表土浸出液」を、ECLSS内の宇宙飛行士によって生成された洗浄水で希釈された尿と混合して、いわゆる「培養ブロス」を得るための少なくとも1つのユニット;
CO
2分離の結果として前記TSAユニット内で生成された、主にN
2 e Arからなるガスを貯蔵するための少なくとも1つのタンク;
グロエオカプサ(Gloeocapsa)株OU_20、レプトリンビア(Leptolyngbya)株OU_13、フォルミジウム(Phormidium)株OU_10、クロオコッキディオプシス(Chroococcidiopsis)029;アルスロスピラ・プラテンシス(Arthrospira platensis);シネココッカス・エロンガトゥス(Synechococcus elongatus);アナバエナ・シリンドリカ(Anabaena cilindrica);クロレラ・ブルガリス(Chlorella vulgaris);ナンノクロリス・ユーカリオツム(Nannochloris Eucaryotum)又はそれらの遺伝子操作された株からなる群から選択される少なくとも1種の藻類株;
藻類株の接種材料を調製するための少なくとも1つのユニット;
藻類バイオマスを生成するための少なくとも1つの光バイオリアクタ;
IRSUによって利用不可能であるが、少なくとも1種の藻類株の成長に必須である、地球からの栄養素;
使用済み「培養ブロス」からの前記藻類バイオマス及び前記光バイオリアクタ内で生成された酸素の分離のための少なくとも1つのユニット;
藻類バイオマスを脱水するための少なくとも1つのユニット;
任意選択で、食用植物を栽培するための温室として使用される少なくとも1つの測地ドーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長期間の有人宇宙任務を持続するためのタンパク質に富む食用バイオマスを得るための、微小重力条件下での植物細胞及びその成長培地の培養に関し、とくに、地球外の供給源から材料を得るための装置又は方法及び地球上でのそのシミュレーションに関する。本発明はまた、前記装置を用いた微小重力条件下での動物細胞の培養に関する。
【0002】
いくつかの企業や機関が、次の40年間、有人宇宙飛行、月、及び、宇宙飛行を行うことに関心を持っていることは周知である。具体的には、現在の宇宙探査プログラムの枠組み内では、ISRU(In Situ Resource Utilization)の頭字語により多くの場合特定される。この頭字語は、長期有人任務期間及びコスト削減を可能にする、月、宇宙、及び/又は火星上で既に利用可能な地球外資源の使用に関連する。
【0003】
ほとんどのISRU技術は、火星の表土及び大気からの酸素及び推進剤の生成のための物理化学的方法からなるが、それ自体は乗務員に供給するのに必要な食品の生産に寄与することができない。
【0004】
そのような枠組みにおいて、国際宇宙ステーション(ISS)に搭乗して行われる研究活動に関与する宇宙飛行士によって生成された液体及び固体廃棄物のリサイクルによる食品及び水の生産のために、頭字語ECLSS-Environmental Control and Life Support System(環境制御・生命維持システム)-と呼ばれる新規な技術が開発されている。
【0005】
1988年以降、ECLSSパラダイムを実規模で実施することを目的として、ESA(欧州宇宙機関)は、MELISSA(Micro Ecological Life Support System Alternative(マイクロエコロジカル生命維持システム代替))というプロジェクトに取り組んでおり、これは、乗組員船室内に、そのメンバーが月及び惑星上での長期の恒久的任務中に生存し働くことを可能にする適切な条件を作り出す閉ループプロセス(すなわち、廃棄物及びエネルギーのリサイクルによってのみ、乗務員が必要とするすべての材料を生産する)を開発するために、藻類、細菌及び真菌などの微生物を使用することを含む。
【0006】
MELISSAプロジェクトの最終目標は自立システムを達成することであるが、モデリングシミュレーションは、廃棄物リサイクルによって乗組員が必要とする食品の20%を得るという最小限の目標さえも、現在の技術では達成できないことを示している。
【0007】
同様の結果が他のECLSSシステムによって得られており、したがって、最新技術では、これらのシステムは完全には自立しておらず、宇宙飛行士のニーズを満たすために酸素、食物及び水の外部入力の統合を必要とすることを実証している。深宇宙有人ミッションを考慮すると、そのような統合的な資源は、関連する高額なミッションコストのために地球から継続的に供給することができず、したがって現場で利用可能な資源を利用することによって生産されなければならない。しかしながら、食品の生産は、微生物及び生物工学技術の利用を回避することができない。
【0008】
これに関連して、bio-ISRUの頭字語で知られている最近の研究分野は、火星の表土及び大気の使用を含む生物工学技術によって現場で食品を生産する可能性を研究するために開発されている。bio-ISRU技術は、2つの主要なカテゴリー、すなわち、それぞれメチロトローフ性細菌に依存するもの及び独立栄養微生物を使用するものに分けることができる。
【0009】
第1の技術グループは、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)及びメチロフィラス・メチロプロファス(Methylophilus methyloprophus)又は操作された大腸菌(Escherichia coli)及びバチルス・スブチリス(Bacillus subtilis)などの微生物によってタンパク質が豊富な食用バイオマスを得るために、物理化学ISRUを介して現場で生成され得るメタノールの使用に基づいている。
【0010】
bio-ISRUプロセスの第2のカテゴリーは、現場で利用可能な水及び光に依存することによって、S、P、Fe、Zn、Na及び表土中の他の微量栄養素と共に、火星大気中で利用可能なN2及びCO2を適切な食用バイオマスに光合成的に変換することができる岩石風化性微細藻類又はシアノバクテリアに基づく。シアノバクテリア及び微細藻類の使用は、乗組員にとって重要である光合成酸素を生産するさらなるプラスの効果をもたらし、物理化学的ISRUプロセスを介して生産される量を統合することができる。
【0011】
国際公開第2013014606号パンフレットは、藻類及びシアノバクテリアを含むbio-ISRUプロセスを記載している。このプロセスは、以下の2つの主要セクションを含む:
-CO2、H2O、N2及びArが、WAVAR、TSA及びMPOユニットによって地球外大気及び表土から抽出され、次いで、物理化学的ISRUプロセスを介してO2、H2、CO、HNO3、NH3及びNH4NO3を生成するために使用される「物理化学セクション」;ならびに、
-地球からの食用微細藻類及び/又はシアノバクテリアが、ドームの屋内に置かれた光バイオリアクタ内で培養され、ドームが、少なくとも10℃に加熱され、物理化学セクションで生成された少なくとも0.8barのCO2の内圧を有し、光バイオリアクタが、人工光又は自然光に曝露され、培養ブロス、HNO3及びバブリングCO2が供給され、培養ブロスが、脱水された地球外表土及びHNO3で酸性化されたH2Oからなるスラリーの水性液相であり、脱水された地球外表土、H2O、CO2及びHNO3が、「物理化学セクション」で生成されたものである、「生物学的セクション」。
【0012】
本発明の1つの目的は、国際公開第2013014606号パンフレットに記載されているものに対して改善され、より効率的なバイオSRUプロセスを提供することである。
【0013】
本発明の別の目的は、長期有人宇宙任務中の提案されたbio-ISRUプロセスの実現可能性を研究するために、地球外条件下での細胞の地球上での成長をシミュレーションするための材料キット及びその方法を提供することである。
【0014】
定義及び略語
bio-ISRU:現場資源利用による食品生産のためのバイオエンジニアリング技術
ECLSS:環境制御・生命維持システム
ESA:欧州宇宙機関
ISS:国際宇宙ステーション
ISRU:現場資源利用
LSB:実験室規模バイオリアクタ
LSP:実験室規模光バイオリアクタ
MELISSA:マイクロエコロジカル生命維持システム代替
MPO:ピザ用電子レンジ
RPM:ランダム位置決め機
TSA:温度スイング吸着材
WAVAR:水蒸気吸着反応器
【0015】
本発明の主題は、地球上で、所定の地球外の場所での地球外条件下での細胞の成長をシミュレーションするための装置であり、前記装置は、
-3Dクリノスタット又はランダム位置決め機(RPM)に取り付けられた断熱ジャーであって、少なくとも1つの実験室規模バイオリアクタ(LSB)を収容することができ、圧力計、ガス入口及びガス出口を備える、断熱ジャーと、
-地球外大気をシミュレーションするガスを貯蔵するためのボンベであって、前記ジャーの前記入口と流体接続可能な出口を有する、ボンベと
を備える。
【0016】
本発明のさらなる主題は、地球上において、地球外条件下で細胞の成長をシミュレーションする方法であり、前記方法は、上記のシミュレーション装置を使用することを含む。とくに、食用微生物の培養のための本発明の方法は、
-酸性水で浸出することによって得られた液体表土浸出液と地球外表土のシミュラントとを、希釈された宇宙飛行士の尿のシミュラント及び微量栄養素と混合することによって培養培地を調製するステップを含み、微量栄養素は、地球外の場所でISRUによって利用不可能であり、培養される株の成長に必須であることが知られている微量栄養素である。
【0017】
本発明のシミュレーション装置及びその方法は、シミュレートされた地球外条件下での様々な植物及び動物細胞株の細胞の成長をシミュレーションするため及び調査するために首尾よく使用された。
【0018】
本発明の方法に従って本発明の装置を使用して行われたシミュレーション実験は、本発明の方法の動作条件を使用すると、地球上の従来の動作条件と比較して、バイオマス生産性が非常に高いという証拠を提供した。
【0019】
本発明のさらなる主題は、長期有人地球外任務を維持するための光合成食用バイオマス及び酸素を生産するためのbio-ISRU方法であり、前記方法は、
-表土浸出液を、ECLSSからの希釈された宇宙飛行士尿、及び食用バイオマスの成長に必須である地球から持ち込まれた現場で利用不可能な他の微量栄養素と混合することによって、地球外成長培地を調製するステップと、
-光バイオリアクタに、地球外成長培地及び地球から持ち込まれた食用バイオマスの接種材料を投入するステップと
を含む。
【0020】
本発明の方法に従って本発明の装置を使用して行われたアルスロスピラ・プラテンシス(Arthrospira platensis)培養のシミュレーション実験は、本発明の方法の動作条件を使用すると、国際公開第2013014606号パンフレットに記載の動作条件と比較して、バイオマス生産性が非常に高いという証拠を提供した。この証拠は、最新技術に対する、本発明によって提供される関連する改善を明確に実証する。シミュレーション実験は、本発明の方法が有利に実現可能であり、火星上での食物及び酸素の生産を可能にするという証拠を提供した。
【0021】
本発明のさらなる主題は、本発明の方法によって得られる食用バイオマスを含む宇宙飛行士用食品である。
【0022】
本発明のさらなる主題は、長期有人宇宙任務中に本発明の方法を実施するようにとくに適合された材料キットであり、前記材料キットは、
-ECLSSから来る希釈された宇宙飛行士尿を、地球外成長培地を調製するための容器に運搬するためのシステムと;
-食用バイオマスの成長に必須であり、地球外の場所では利用不可能な微量栄養素と
を備える。
【0023】
発明の詳細な説明
本発明によれば、地球外条件という用語は、微小重力及びCO2が豊富な大気を暗に意味する、火星、月又は惑星に見られる条件を意味する。
【0024】
本発明の装置によれば、ジャーは、好ましくは透明なジャーであり、少なくとも1つのLSBは、好ましくは透明な実験室規模光バイオリアクタ(LSP)であり、好ましくは、光合成を行うために藻類が必要とする光の透過を確実にすることができる、透明で、細胞毒性がなく、生物学的に不活性で、分解不可能な材料で作製されたフラスコで構成される。好ましくは、この目的のために未処理ポリスチレンが使用されるべきである。LSPには、好ましくは高密度ポリエチレンで作製されたベントキャップを設けるべきである。汚染のリスクを最小限に抑えながら、一貫した滅菌ガス交換を提供する機能を備えた0.2μmの非湿潤性膜をキャップにシールすべきである。したがって、これらのキャップは、藻類がブロス培養物中に必要とするCO2、ならびに液体中に高濃度で蓄積された場合に微細藻類の成長を阻害し、光酸化現象を促進し得る光合成酸素の逆拡散及び除去を確実にするために有用である。LSPのサイズは、地球外ドームのシミュラントのサイズ及びクリノスタット又はRPMのサイズと適合するべきである。このユニットの形状は、ピペッティングのためのフラスコへのより容易な注入及びアクセスを可能にする限り、円筒形又は角柱形であり得る。
【0025】
本発明の装置によれば、少なくとも1つのクリノスタット又はRPMは、ジャー(及びその中の試料)に、結果として生じる加速度ベクトルによって特徴付けられる動きを与えなければならず、そのモジュールは、0に近い経時的な平均値を有する。クリノスタットとRPMは、異なる原理に基づいている。クリノスタットは、沈降を減少させるためにシステムを連続的に回転させることによって細胞を均一に懸濁させ続けることに依存する。これは、円形軌道に沿って平面上の試料を回転させることによって得られる。逆に、ランダム位置決め機は、2つの回転軸の周りで試料をランダムに回転させることによって微小重力をシミュレーションする。したがって、試料は絶えず再配向され、結果として生じる時間平均重力加速度は0に近いか、又は地球外の場所の既知の重力条件(例えば、火星の重力は地球の重力の約1/3であることが知られている)を可能な限り厳密にシミュレーションするようにプログラムすることができる。藻類培養には、古典的なクリノスタットではなく、ランダム位置決め機が好ましいはずである。
【0026】
本発明の装置によれば、地球外ドームのシミュラントとして機能するジャーは、好ましくは、少なくとも1つの投入LSPを収容するのに十分なサイズを有し、クリノスタット又はRPMに取り付けることができるような円筒形ジャーからなる。これは、培養ブロスへの光の伝達を可能にし、光合成が生じることを可能にするように、好ましくは透明材料で作製される。材料はまた、好ましくは、非細胞傷害性、生物学的に不活性、及び非分解性である。ジャーには、適切なパイプを介して地球外大気のシミュラント(好ましくはCO2)を含むボンベに接続される少なくとも1つの入口が設けられるべきである。ジャーには、実験の最後にLSPの容易な挿入及び排出を可能にする開放システムが設けられるべきである。さらに、ドームには、好ましくは、ジャー内の圧力を測定することができる圧力計が設けられる。
【0027】
本発明の装置を使用した本発明の方法は、好ましくは、
成長させる細胞株に最適な培地に可能な限り近い培養ブロスを調製するステップと、可能な場合には、地球外ISRUをシミュレーションすることによって;
本発明の装置のLSPに培養ブロスを投入し、続いて培養される微細藻類又はシアノバクテリア株の接種材料を投入するステップと;
LSPを、地球外ドームをシミュレーションする装置のジャー内に配置するステップと;
本発明の装置のクリノスタット又はRPMにジャーを取り付けるステップと;
本発明の装置のボンベの出口をジャーのガス入口に接続するステップと;
ジャー内大気を洗浄するのに十分な時間、ジャーのガス出口を開いた状態で、ジャー内に地球外大気のシミュラントを通気するステップと;
少なくとも0.8バールの内圧がジャー内で達成されるまで、地球外大気のシミュラントを通気し続けながらジャー出口を閉鎖するステップと;
微小重力をシミュレーションするためにクリノスタット又はRPMをオンにするステップと
を含む。
【0028】
食用バイオマスの培養のための本発明の装置を使用した本発明の方法は、好ましくは、酸性水で浸出することによって得られた液体表土浸出液と地球外表土のシミュラントとを、希釈された宇宙飛行士の尿のシミュラント、及びISRUによって利用不可能であり、培養される株の成長に必須である微量栄養素と混合することによって培養培地を調製するステップをさらに含む。
【0029】
食用バイオマスの栽培のための本発明の装置を使用した本発明の方法は、好ましくは以下のステップを含む:
a)地球外表土のシミュラントを調製するステップ;
b)地球外表土のシミュラントを浸出溶液と接触させて表土スラリーを得るステップであって、浸出溶液は、HNO3で酸性化された水である、ステップ;
c)表土スラリーを濾過して、固体排出表土及び液体表土浸出液を得るステップ;
d)宇宙飛行士の尿のシミュラントを調製するステップ;
e)ほとんどのECLSSにおける洗浄水によって決定された希釈をシミュレーションするために、尿のシミュラントを水で希釈するステップ。このようにしてECLSS廃水のシミュラントを得る。
e’)最終的に、廃水のシミュラントの塩分濃度が高すぎて微細藻類の成長に適合しない場合、それをさらに希釈するステップ;
f)培養される株の成長に最適な微量栄養素を含む培養培地を調製するステップ;
g)ECLSS廃水のシミュラントを表土浸出液及び培養培地と混合して、培養ブロスを得るステップ;
h)本発明の装置のLSPに培養ブロスを投入し、続いて培養される微細藻類又はシアノバクテリア株の接種材料を投入するステップ;
i)LSPを、地球外ドームをシミュレーションする前記装置のジャー内に配置するステップ;
j)本発明の装置のクリノスタット又はRPMにジャーを取り付けるステップ;
k)本発明の装置のボンベの出口をジャーのガス入口に接続するステップ;
l)ジャー内大気を洗浄するのに十分な時間、ジャーのガス出口を開いた状態で、ジャー内に地球外大気のシミュラントを通気するステップ;
m)少なくとも0.8バールの内圧がジャー内で達成されるまで地球外大気のシミュラントを通気し続けながらジャー出口を閉鎖するステップ;
n)微小重力をシミュレーションするためにクリノスタット又はRPMをオンにし、同時に光合成を促進するためにドームのシミュラントに自然光又は人工光を照射するステップ。
【0030】
地球外表土のシミュラントは、コロラド鉱山大学のPlanetary Simulant Database(https://simulantdb.com/)に従って調製することができる。火星表土のシミュラントの場合、それは、好ましくは、化学組成が供給業者によって又は科学文献(Peters,et al.Icarus.197(2008)470-479.https://doi.org/10.1016/j.icarus.2008.05.004)に記載のJSC火星表土又はMojave火星のシミュラントであるべきである。典型的には、これらのシミュラント中の主な元素は、ケイ素、アルミニウム、鉄、マグネシウム、カルシウムなどであるが、主な結晶相は、マグネタイト、アノーサイト、ヘマタイト、フォステライト、エンスタナイト、ウォラストナイトなどに起因し得る(Corrias,et al.;Acta Astronaut.(2012).https://doi.org/10.1016/j.actaastro.2011.07.022)。
【0031】
浸出溶液は、好ましくは最大8.0の溶液pHを達成するようにHNO3を添加することによって酸性化された水であるべきである。次いで、表土のシミュラント及び得られた液体は、撹拌システムを備えた実験室規模反応器内に浸出溶液と共に挿入されるべきである。固体-液体重量比は、好ましくは、少なくとも1/10g/gである。撹拌レベルは、好ましくは100rpm以上であるべきである。次のステップに進む前に、少なくとも24時間の接触時間が確保されるべきである。このステップ(b)の間に、藻類が成長するのに必要ないくつかの微量栄養素、例えばFe、Zn、Ca、Na、Mgが、固体から液相に移される。次のステップc)は、排出された表土のシミュラントから液体上清を分離することからなる。約0.05の最大光学密度に対応する低い濁度レベルが達成されるまで、上清を濾過すべきであることに留意されたい。
【0032】
ステップd)は、Sarigulら(Sci.Rep.9(2019)1-11.https://doi.org/10.1038/s41598-019-56693-4)による手順に従って、宇宙飛行士の尿のシミュラントを調製することを含む。火星又は他の地球外の場所での有人飛行任務中に宇宙飛行士によって産生される尿は、微細藻類の成長に不可欠な窒素及びリン系多量栄養素の主な供給源の1つであるため、このステップは重要である。実際に、Sarigulら(Sci.Rep.9(2019)1-11.https://doi.org/10.1038/s41598-019-56693-4)によれば、ヒト尿は、本文書の以下の部分に示される組成によって特徴付けられる。したがって、ある量の尿をECLSSから取り出し、それを使用して「培養ブロス」を生成することが重要であろう。衛生のために、尿は通常、適切な量の洗浄水と共に客室乗務員から排出される。これに関して、ステップ(e)は、ECLSSで使用される洗浄水をシミュレーションする量の水で尿のシミュラントを希釈することからなる。考えられる特定のECLSSに応じて、異なる体積の洗浄水を使用することができる。尿の高い塩分濃度によって引き起こされる微細藻類の浸透圧ショックを回避するために、ステップe)の水希釈が低すぎる場合、任意選択でステップe’)でさらなる希釈ステップが予見される。希釈率は、水10部に対して尿のシミュラント1部が好ましい。
【0033】
ステップ(f)の培養培地は、好ましくは、培養される株がアルスロスピラ・プラテンシス(Arthrospira platensis)である場合、Zarrouk培地である。
【0034】
ステップ(g)において、ECLSS廃水のシミュラント、表土浸出液及び培養培地は、好ましくは1:1:1v/vの割合で混合される。
【0035】
接種材料は、好ましくは、少量の以下の藻類株:グロエオカプサ(Gloeocapsa)株OU_20、レプトリンビア(Leptolyngbya)株OU_13、フォルミジウム(Phormidium)株OU_10、クロオコッキディオプシス(Chroococcidiopsis)029;アルスロスピラ・プラテンシス(Arthrospira platensis);シネココッカス・エロンガトゥス(Synechococcus elongatus);アナバエナ・シリンドリカ(Anabaena cilindrica);クロレラ・ブルガリス(Chlorella vulgaris);ナンノクロリス・ユーカリオツム(Nannochloris Eucaryotum)又はそれらの遺伝子操作された株のうちの1つからなる。しかしながら、宇宙飛行士のためのより高い栄養特性に起因して(Soni et al.,(2021).Food Supplements Formulated with Spirulina.In Algae(pp.201-226).Springer,Singapore,doi:10.1007/978-981-15-7518-1_9)、接種材料は、好ましくはアルスロスピラ・プラテンシス(Arthrospira platensis)株又はスピルリナ・プラテンシス(Spirulina platensis)株からなるべきである。
【0036】
接種する場合、株は好ましくは指数成長期にあるべきであり、純培養、すなわち細菌、ワムシ又は異なる株の非存在が保証されるべきである。
【0037】
ステップ(h)は、ポイント(g)に示されるように生成された「培養ブロス」が予め供給されている実験室規模光バイオリアクタ(LSP)に接種材料を供給することを含む。培養ブロスの単位体積に添加される接種材料の量は、得られる溶液の光学密度(波長650nm)が0.05~0.15の範囲内になるような量であるべきである。
【0038】
ステップ(i)は、生物学的プロセスをホストする地球外ドームをシミュレーションする透明な断熱ジャー内にLSPを配置することからなり、地球に近い熱圧力条件が再生される。微細藻類の効果的な光合成を促進するために、屈折光放射は少なくとも30μmol m-2s-1、好ましくは100μmol m-2s-1に近い強度を有するべきであるため、ジャーは透明でなければならない。微細藻類の光合成は、食物として使用される藻類の成長及び複製ならびに乗務員が必要とする酸素の生成の根底にある現象である。しかしながら、藻類は、カルビンサイクル反応(いわゆる暗反応)を行うために暗期間も必要とする。このため、光源は、1日当たり少なくとも8時間オフにされるべきである。
【0039】
好ましくは、ドームのシミュラントは、少なくとも20μE m-2s-1に等しいが、好ましくは100μmol m-2s-1に近い強度の光合成活性放射をLSPに提供することができる電球で照射される。好ましくは、電球は、クリノスタット又はRPMの近くに配置される。好ましくは、電球は、12時間/日の光周期で光源をオンにすることができるタイマーに接続される。
【0040】
ステップ(j)は、「投入されたLSP」を含む「地球外ドームのシミュラント」を、クリノスタット又はランダム位置決め機(RPM)に取り付けることからなる。RPMは、キットのセクションでよりよく説明されるが、時間平均がゼロに近い(約0.05g)か、又は可能な限り地球外の場所の重力に近い加速度を特徴とする3D運動によってLSP内微小重力を再現することができるツールである。
【0041】
ステップ(k)において、地球外ドームのシミュラントは、適切なポート及びパイプを介してガスボンベに接続される。好ましくは、ガスボンベは、地球外大気をシミュレーションするガスを含み、火星大気をシミュレーションする場合、好ましくはガスボンベは純CO2を含む。CO2は、微細藻類が成長するために必要であり、火星又は他の地球外の場所で利用可能な天然資源である。実際には、例えば、国際公開第2013014606号パンフレットに報告されているように、火星大気は主に、他のガスから分離され、加圧されて火星ドームに供給され得るCO2(約95%v/v)からなる。好ましくは、ドーム内のCO2の圧力に対して少なくとも0.8バールの値が規定される。このため、本発明の方法のステップ(l)では、好ましくは、そのような圧力レベルが達成されるまで、断熱ジャー内のCO2の通気が予見される。最近の論文(Verseux et al.2021,Front.Microbiol.doi:10.3389/fmicb.2021.611798.)は、より低いCO2圧力下でも微細藻類が成長できることを実証しており、したがって、より低いCO2圧力も使用され得る。そのような圧力値の達成後、ジャーはシールされるべきである(ステップm)。
【0042】
ステップ(n)は、クリノスタット又はランダム位置決め機をオンにすることにより実験を開始し、照明をオンにし、次いで照明下少なくとも12時間経過するまで待つことからなる。
【0043】
好ましくは、ドームのシミュラントは、照明がオフにされたときに毎日空にされ、暗所で12時間にわたり空に保たれるべきである。次いで、照明が再びオンに切り替えられると、ステップ(l)で説明したように、火星ドームのシミュラントにCO2が再投入され、シールされるべきである(ステップm)。このシーケンスは、すべての実験期間にわたって反復されるべきである。
【0044】
この操作を行わなければならないのは、光合成が行われていないとき(すなわち暗期中)にはCO2が藻類に吸収されず、したがって気相中のCO2の濃度が高すぎて培養ブロスが許容できないほど顕著に酸性化され、ひいては藻類の成長阻害をもたらすためである。次いで、12時間の暗期の後、ステップ(l)で報告したようにジャーにCO2が充填され、シールされるべきである。好ましくは、藻類の成長及び他のパラメータを監視するために必要なすべての分析は、照明がオフであり且つジャーが空である(CO2がない)暗期間中に行われるべきである。監視すべきパラメータの最小セットは、培養物の光学密度、バイオマス濃度及びpH濃度を含む。
【0045】
本発明の装置及び方法は、食用微生物培養について上述したものと同様に、任意の細胞株の地球外条件下での細胞の成長をシミュレーションするために使用することができる。本発明の装置及び方法を用いて成長をシミュレーションすることができる細胞株はすべて、ECACC(https://www.phe-culturecollections.org.uk/products/celllines/generalcell/search.jsp?searchtext=human%20cell%20lines&dosearch=true)からのもの、ならびにATCC(https://www.atcc.org/cell-products/animal-cells)からのものである。
【0046】
さらなる植物細胞株は、本発明の装置及び方法を用いて培養され、好ましくは、細胞株は、クロレラ・ソロキニアナ(Chlorella sorokiniana)、クロレラ・ゾフィゲンシス(Chlorella zofigensis)、コッコミクサ種(Coccomyxa sp.)、シネココッカス種(Synechococcus sp.)、シュードクロリス・ウィルヘルミイ(Pseudochloris wilhelmii)、クロレラ・プロトテコイデス(Chlorella protothecoides)、ユーグレナ・グラシリス(Euglena gracilis)、クラミドモナス・ラインハルディ(Chlamydomonas reinhardtii)、イソクリシス・ガルバナ(Isochrysis galbana)、ネオクロリス・オレオアブンダンス(Neochloris oleoabundans)、
セネデスムス・オブリクース(Scenedesmus obliquus)、ドナリエラ・サリナ(Dunaliella salina)、ナンノクロロプシス・オキュレート(Nannochloropsis oculate)、クロレラ・ピレノイドサ(Chlorella pyrenoidosa)、ボツリオコッカス・ブラウニー(Botryococcus braunii)、フェオダクチラム・トリコルナタム(Phaeodactylum tricornutum)、テトラセルミス種(Tetraselmis sp.)、タラッシオシラ・シュードナナ(Thalassiosira pseudonana)、ヘマトコッカス・プルビアリス(Haematococcus pluvialis)、ナンノクロロプシス・オセアニカ(Nannochloropsis oceanica)、スピルリナ・マキシマ(Spirulina maxima)、パブロバ・サリナ(Pavlova salina)、ポルフィリディウム・マリヌム(Porphyridium marinum)、テトラセルミス・インコンスピキュア(Tetraselmis inconspicua)、シアノフォラ・パラドキサ(Cyanophora paradoxa)、タラシオシラ・ロチュラ(Thalassiosira rotula)、アンフォラ種(Amphora sp.)、オドンテラ・アウリタ(Odontella aurita)、アッテヤ腫(Attheya sp.)、クロムリナ・オクロモノイデス(Chromulina ochromonoides)、ダイアクロネマ・ブルキアナム(Diacronema vlkianum)、カエトセロス種(Chaetoceros sp.)、ナビキュラ・ペリキュロサ(Navicula pelliculosa)、オドンテラ・モビリエンシス(Odontella mobiliensis)、ポロシラ・シュードデンチキュラタ(Porosira pseudodenticulata)からなる群から選択される。
【0047】
本発明の装置及び方法を使用して地球外条件下での成長をシミュレーションすることができるさらなる細胞株は、
H1、H9、胚性幹細胞、ヒト;HEK-293、アデノウイルスで形質転換された胚性腎臓、ヒト;HeLa、上皮細胞、ヒト;HL60、ヒト、前骨髄球性白血病細胞、ヒト;MCF-7乳がん、ヒト;A549、肺がん、ヒト;A1~A5-E、羊膜、ヒト;ND-E、食道、ヒト;CHO、卵巣、チャイニーズハムスター;3T3、線維芽細胞、マウス;BHK21、線維芽細胞、シリアンハムスター;MDCK、上皮細胞、イヌ;E14.1、胚性幹細胞(マウス)、マウス;COS、腎臓、サル;DT40、リンパ腫細胞、鶏;S2、マクロファージ様細胞、ショウジョウバエ;GH3、下垂体腫瘍、ラット;L6、筋芽細胞、ラット;Sf9及びSf21、卵巣、イエシロアリ;(スポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda))ZF4及びAB9細胞、胚性線維芽細胞、ゼブラフィッシュ;1184、皮膚線維芽細胞、ヒト;E6.1クローン、Jurkat細胞、ヒト;THP1細胞、ヒト;SH-SY5Y、神経芽腫細胞、ヒト;iPSC、幹細胞、ヒト;BRISTOL8、Bリンパ球、ヒトからなる群内で選択されるヒト及び動物細胞株である。
【0048】
本発明の装置及び方法によれば、培養される最も好ましい細胞株は、赤血球細胞培養物、ヒト;C20A4、軟骨細胞、ヒト;1301、T細胞白血病、ヒト;1306、161BR、皮膚線維芽細胞、ヒト;F-36P骨髄障害症候群、白血病、ヒト;H9、T細胞、ヒト;HeLa、上皮細胞、ヒト;E6.1クローン、Jurkat細胞、ヒト;SH-SY5Y、神経芽腫細胞、ヒト;iPSC、幹細胞、ヒト;1184、皮膚線維芽細胞、ヒト;hMSC、間葉系幹細胞、ヒト;mBMSC、骨髄由来間葉系幹細胞、ラット;ADSC、脂肪由来幹細胞、ヒト;mESC、胚性幹細胞、マウス;MG-63、骨肉腫細胞株、ヒト;HUVEC、ヒト臍帯静脈内皮細胞、ヒトからなる群内で選択される。
【0049】
本発明の方法によれば、各細胞株は、その最適培地に可能な限り近い培養培地中で、可能な場合には地球外ISRUをシミュレーションすることによって培養される。
【0050】
地球外条件下でのヒト及び動物細胞の成長をシミュレーションするために、上記のような方法を行うことが好ましく、ステップa~gは、成長させる細胞株の最適培地に可能な限り近い培養ブロスを調製するステップと、可能な場合には地球外ISRUをシミュレーションするステップによって置き換えることができ、ステップn)における照射を省略することができる。
【0051】
本発明に関連する方法及びキットは、長期有人宇宙任務中に地球外の場所に必然的に存在するECLSSセクションに関連して動作し、したがって自立した統合システムを達成することを目的とした理想的な完成を表す。したがって、この方法は、大気、土壌及び日射などの地球外資源の利用に基づいており、これらの主な特徴は文献、例えばNanagle [Nat.Biotechnol.(2020).https://doi.org/10.1038/s41587-020-0485-4] and Rapp [https://doi.org/10.1007/978-3-319-72694-6]において報告されている。とくに、比較的大量(約9%wt/wt)の水和水が、火星土壌で検出されている(Rieder,R.,et al.Science 306,1746-1749(2004))。
【0052】
本発明の方法は、好ましくは、
a’.少なくとも1つの測地ドームを地球外土壌上に組み立て、ドーム内に少なくとも1つの光バイオリアクタを配置するステップと;
b’.光起電力パネル、少なくとも1つのWAVARユニット、少なくとも1つのTSAユニット、及び少なくとも1つのMPOユニットとを含む物理化学セクションを組み立てて、地球外の土壌及び大気から水を抽出し、脱水及び加圧されたCO2、N2及びArを抽出し、NH3、O2、H2、HNO3、NH4NO3を生成するステップと;
c’.少なくとも0.8バールの圧力及び少なくとも10℃、好ましくは10~15℃の温度に達するまで、ステップ(b’)で生成された加熱、加圧及び脱水されたCO2を前記ドーム内に吹き込むステップと;
d’.物理化学セクションで生成されたHNO3及び水を混合することによって浸出溶液を調製するステップと;
e’.好ましくは少なくとも1つの火星日(ソル)について1:5の固体/液体重量比で、物理化学セクションから脱水表土を浸出溶液で浸出させるステップと;
f’.表土スラリーを濾過して、表土浸出液及び浸出表土を得るステップと;
g’.表土浸出液を、少なくとも1つのECLSSセクションから来た希釈された宇宙飛行士尿、物理化学セクションで生成されたHNO3、及び食用バイオマスの成長に必須である地球から持ち込まれた現場で利用不可能な他の微量栄養素と混合することによって、地球外成長培地を調製するステップと;
h’.地球から持ち込まれた食用微細藻類又はシアノバクテリアの接種材料を調製するステップと;
i’.光バイオリアクタに地球外成長培地を供給し、続いて接種材料を供給して、生物学的スラリーを得るステップと;
j’.生物学的スラリーをドーム内のCO2及び光合成を促進することができる光源に曝露し、それによって新たなバイオマス藻類及び光合成酸素の形成をもたらすステップと;
k’.遠心分離によって使用済み「培養ブロス」から藻類バイオマスを分離し、脱気によって光合成酸素を抽出するステップと;
l’.ECLSSセクションで生成された食品と共に食品又は栄養補助食品として使用するために、酸素をECLSSセクションに送り、藻類バイオマスをさらに脱水するステップと;
m’.使用済み「培養ブロス」をα1及びα2と呼ばれる2つのストリームに分割するステップと;
n’.使用済み培養ブロスのストリームα1を少なくとも1つの光バイオリアクタに再循環させるステップと;
o’.任意選択で、ストリームα2を、物理化学セクションで生成された硝酸アンモニウム(NH4NO3)と一緒に、新鮮な表土と一緒に、適切な量の地球から持ち込まれたフミン酸及びフルボ酸と一緒に、ECLSSからのヒト代謝廃棄物と一緒に、野菜が栽培されているドーム内に運搬するステップと
を含む。
【0053】
物理化学セクションを用いた抽出プロセスは、好ましくは以下のステップを含む。
b’-i.ドームの内側を加熱し、前記植物ユニットに電力供給するのに必要なエネルギーを生成する屋外光起電力パネルを組み立てるステップ;
b’-ii.屋外での温度スイング吸着材ユニット(TSA)を組み立てるステップ;
b’-iii.火星大気脱水用のWAVARユニットを屋外で組み立てるステップと;
b’-iv.少なくとも1つのピザ用電子レンジを屋外で組み立てるステップ;
b’-v.大気から水を抽出するために屋外で動作するWAVARユニットに火星大気を吹き込むステップ;
b’-vi.様々な温度でゼオライト材料への吸着-脱着サイクルを介してCO2の分離及び加圧が実行されるTSAユニットに、火星大気を運搬するステップ。TSAユニットでは、主にN2及びArからなる二次ガス流も生成される;
b’-vii.ステップ(g’)に示されるように生成されたN2及びArの前記二次ガス流を、任務中に科学目的で行われるサンプリングキャンペーン中に使用される分析機器用の緩衝ガスとして利用するために引き出すことができる適切なタンクに貯蔵するステップ;
b’-viii.10℃以上の温度がドーム内で達成されるまで、前記光起電性パネルによって電力供給される加熱システムを介して、少なくとも1つのドーム内に吹き込まれたCO2を加熱するステップ;
b’-ix.火星表土を掘削し、それを、屋内で動作し、マイクロ波によって表土から吸着水及び水和水を抽出するMPOシステムに運搬するステップ。
【0054】
とくに、WAVAR及びTSAユニットは屋外で動作する。これらのユニットは、地球外の熱圧力条件下で動作している間、地球外環境を特徴付ける通常の砂嵐中に輸送された隕石及び/又は固体によって引き起こされる潜在的損傷から、適切な構造によって機械的に保護されることが好ましい。そのような構造は、例えば国際公開第2012/014174号パンフレットに記載されている技術等の特定の技術によって現場で得ることができる。
【0055】
MPOユニットは、屋内で動作する。
【0056】
本発明の方法は、好ましくは、第1のステップ(a’)において、方法を実施するために必要な屋内で動作する植物ユニットがその中に設置され組み立てられるドームを含む。ドームの内部では、以下でよりよく特定される技術によって、反応物質及び生成物の凝集状態が、同じ化合物について地球上で観察されるものと完全に類似する、熱圧力条件(温度及び圧力)が設定される。
【0057】
ステップ(e’)は、好ましくは、連続的に撹拌されるスラリーを形成するために液体と固体とが接触し、したがって液相と固相との間の効果的な接触を可能にする反応器内に、硝酸のストリームと共に表土ストリーム流を水ストリームと共に供給することを含む。そのようなステップの目標は、表土に含まれるすべての多量栄養素(P、S、C)及び微量栄養素(Fe、Mg、Si等)を液相に移すことである。このようにして、他の栄養素と統合されると、独立栄養藻類成長現象を持続することができる「表土浸出液」が生成される。好ましくは、液相への栄養素の効果的な物質移動を確実にするための接触時間は、約24時間である。
【0058】
本方法のステップ(f’)は、適切な濾過システム(すなわちフィルタプレート又はフィルタバッグ)によって実行され得る固液分離を含む。
【0059】
したがって、動作ステップ(f’)は、2つの分離されたストリームを生成し、第1のストリームは浸出表土であり、第2のストリームは「表土浸出液」と呼ばれる液体である。第2のストリームは、ECLSSから来る洗浄水で希釈された宇宙飛行士の尿と混合され、バイオマスに適した栄養素を含有する溶液が得られる。実際に、ヒト尿は、典型的には、一般にバイオマス成長の制限因子であるアンモニウム、硝酸塩、リン酸塩、及びオルトリン酸塩等の重要な多量栄養素を含有する。したがって、この代謝廃棄物の使用は、得られる培地が微細藻類の成長を維持する能力を大幅に改善することができる。バランスのとれた成長培地を得るために必要な、現場で利用不可能な最小量の他の栄養素は、地球から持ち込まれ得る。
【0060】
好ましくは、接種材料は、以下の藻類株:グロエオカプサ(Gloeocapsa)株OU_20、レプトリンビア(Leptolyngbya)株OU_13、フォルミジウム(Phormidium)株OU_10、クロオコッキディオプシス(Chroococcidiopsis)029;アルスロスピラ・プラテンシス(Arthrospira platensis);シネココッカス・エロンガトゥス(Synechococcus elongatus);アナバエナ・シリンドリカ(Anabaena cilindrica);クロレラ・ブルガリス(Chlorella vulgaris);ナンノクロリス・ユーカリオツム(Nannochloris Eucaryotum)又はそれらの遺伝子操作された株からなる。しかしながら、そのより高い栄養特性のために、アルスロスピラ・プラテンシス(Arthrospira platensis)株が好ましいはずである。
【0061】
ステップ(i’)は、「火星成長培地」が同時に供給される光バイオリアクタ内への接種材料の供給を含む。光バイオリアクタ内で得られた混合物は、以下「生物学的スラリー」と呼ばれる。ステップ(j’)に従って、光合成を実行するためにバイオマスによって必要とされるCO2は、ドーム内の純粋なCO2からなる大気から、生物学的スラリーに向かうCO2の拡散、及び光合成によって生成された酸素の逆拡散を可能にする半透膜によって好ましくは覆われた光バイオリアクタの適切な開口部を通して取り出される。光合成は、方法のステップ(j’)に従って光源によって提供される光束のおかげで藻類によって実行される。光束は、培養物を火星表面に入射する太陽放射に直接曝露することによって、又は好ましくは、集光体及び光ファイバなどの適切なシステムによって供給され得る。したがって、光合成プロセスは、培養物中の藻類バイオマス濃度の増加をもたらす新しい微細藻類の産生をもたらす。
【0062】
好ましい実施形態によれば、光バイオリアクタは、流加モードで動作する。したがって、バイオマス濃度がバイオマスの成長速度論の定常期に対応する適切な値に達するまで、バイオマス培養が光バイオリアクタ内で行われる。固定相に達すると、適切な量の「生物学的スラリー」が取り出され、使用済みの「培養ブロス」からバイオマスを分離するための脱水プロセスにかけられる。次いで、光バイオリアクタから取り出された生物学的スラリーの量は、バイオマス成長中に消費された栄養素を再供給する等量の新鮮な「培養ブロス」に置き換えられる。取り出された量の生物学的スラリーを置き換えるのに必要な培地のアリコートは、ステップ(n’)に従って溶液を再循環させることによっても得ることができる。新鮮な「培養ブロス」の回収及び再統合の操作ステップが実行されると、微細藻類の成長はバッチモードで再び開始される。除去及び再統合の動作は、例えばバッチモードで少なくとも25時間(火星日の期間)の成長を確実にするために、定期的に、好ましくは1日に1回、同じ時間に繰り返されるべきである。
【0063】
本方法のステップ(k’)は、毎日抽出される「生物学的スラリー」を、適切な遠心分離システムによって実行される固液分離のステップに移すことを含む。このステップで行われる固液分離は、使用済み「培養ブロス」から藻類バイオマスを分離することを可能にする。
【0064】
使用済み培養ブロスは、必要な水の入口量を低減するために、光バイオリアクタのヘッドに再循環させることができる。好ましい実施形態によれば、関連する栄養素の残留含有量を含む使用済み培養ブロスの別のアリコートは、国際公開第2013014606号パンフレットに記載されているプロセスの温室での灌漑目的に使用することができる。
【0065】
遠心分離機によって分離された固体藻類バイオマスは、電子レンジによってさらに脱水され、次いで宇宙飛行士によって食品として使用され得る。
【0066】
ステップ(l’)において、光合成によりバイオマスによって生成された酸素は、適切な脱気システムを介して生物学的スラリーから分離され、次いでECLSSユニットに移送され、そこで乗務員客室空気再生に使用され得る。同時に、微細藻類バイオマスはさらに脱水され、次いでECLSSに移送され、宇宙飛行士用食品として使用され得る。したがって、本発明のさらなる主題は、本発明の方法によって得られる微細藻類バイオマスを含む宇宙飛行士用食品である。
【0067】
ステップ(o’)は、植物及び野菜を栽培することができる温室として動作するドーム内で、これまで説明された方法の異なる生成物の移送することを含む。
【0068】
本発明の材料キットは、好ましくは、
-上記手順の物理化学グループで使用される異なる植物ユニットを収容するための少なくとも1つの測地ドームと、
-少なくとも1つのドームの内部大気を加熱するために必要なエネルギー、及び植物ユニット動作に電力供給するために必要なエネルギーを生成するための少なくとも1つの光起電力システムと、
-吸着プロセス、それに続くマイクロ波加熱による脱着が火星大気からの水の抽出のために行われる、ゼオライトの使用に基づく少なくとも1つのWAVARユニットと、
-ゼオライトの少なくとも1つの吸着剤床と、少なくとも1つのラジエータとからなる少なくとも1つのTSAユニットであって、少なくとも1つのラジエータは、火星環境との熱交換及び可変温度での吸着-脱着サイクルの実施を確実にし、これにより、火星大気を構成する他のガス(主にN2及びAr)からのCO2の分離ならびにその加圧を可能にし、TSAユニットによって生成された加圧された純粋なCO2は、ドームの内側で適切な圧力が達成されるまで、少なくとも1つのドーム内に吹き込まれ得る、少なくとも1つのTSAユニットと;
-火星表土を掘削して次の処理ユニットに運搬するための、少なくとも1つの掘削機及び少なくとも1つのコンベヤベルトと、
-マイクロ波加熱によって、吸着された水及び水和水を火星表土から抽出するための、少なくとも1つのマグネトロンを包含する少なくとも1つのMPOユニットと、
-表土から抽出された水を、物理化学セクションで生成された適切な量の硝酸と混合するための少なくとも1つのユニットと、
-水及び硝酸の混合物を介して表土を浸出させるための、連続モードで動作する少なくとも1つの浸出反応器と、
-浸出反応器から流出するスラリーストリームの固液分離のための「フィルタプレート」からなる少なくとも1つのユニットであって、「表土浸出液」と呼ばれる液体ストリーム及び「浸出表土」の固体ストリームを生成する、ユニットと、
-「表土浸出液」を、ECLSS内の宇宙飛行士によって生成された洗浄水で希釈された尿と混合して、いわゆる「培養ブロス」を得るための少なくとも1つのユニットと、
-以下の藻類株:CO2分離の結果としてTSAユニット内で生成された、主にN2 e Arからなるガスを貯蔵するための少なくとも1つのタンクと、
-グロエオカプサ(Gloeocapsa)株OU_20、レプトリンビア(Leptolyngbya)株OU_13、フォルミジウム(Phormidium)株OU_10、クロオコッキディオプシス(Chroococcidiopsis)029;アルスロスピラ・プラテンシス(Arthrospira platensis);シネココッカス・エロンガトゥス(Synechococcus elongatus);アナバエナ・シリンドリカ(Anabaena cilindrica);クロレラ・ブルガリス(Chlorella vulgaris);ナンノクロリス・ユーカリオツム(Nannochloris Eucaryotum)又はそれらの遺伝子操作された株のうちの少なくとも1種と、
-藻類株の接種材料を調製するための少なくとも1つのユニットと、
-藻類バイオマスを生成するための少なくとも1つの光バイオリアクタと、
-ISRUによって利用不可能であるが、少なくとも1種の藻類株の成長に必須である、地球からの栄養素と、
-使用済み「培養ブロス」からの藻類バイオマス及び光バイオリアクタ内で生成された酸素の分離のための少なくとも1つのユニットと、
-藻類バイオマスを脱水するための少なくとも1つのユニットと、
-(任意選択で)食用植物を栽培するための温室として使用される少なくとも1つの測地ドームと
を備える。
【0069】
好ましくは、ドームは、円形断面を有するアルミニウム梁のフレームワークによって作製される。好ましくは、測地ドームの被覆は、0.2kg/m2の表面密度ならびに高い機械的及び熱的抵抗を有するETFE(エチレンテトラフルオロエチレン)のシートによって作製される。
【0070】
好ましくは、少なくとも1つの光起電力システムは、ドームの内部大気を加熱するステップを包含する、本発明の方法のすべての動作ステップに電力供給するのに必要なエネルギーを生成する。電気的観点の下では、前記光起電力システムは、好ましくは別個のセクション(アレイ)に分割され、それらの各々は、約40m2の表面、及び約11%の太陽放射を電気に変換する収率を有する。
【0071】
ゼオライト上の可変温度での吸着/脱着サイクルを利用するTSAの使用は、TSAユニットについて前述した原理に従うドーム内のCO2の分離、吹き込み、及び圧縮のために提案される。火星大気からの水の抽出に適したユニットは、Williams,J.D.ら(Journal of British Interplanetary Society,1995,48,347-354)によって説明されたものであり得る。
【0072】
少なくとも1つの掘削機及び少なくとも1つのベルトコンベヤは、地球外表土を掘削してMPOユニットに輸送しなければならない。掘削機は、光起電充電式バッテリによって、又は同じ車両に収容された小型光起電力システムによって独立して動力供給される車両からなる。
【0073】
少なくとも1つのスラリー反応器は、撹拌され、抗酸塗料でコーティングされるべきである。好ましくは、反応器のサイズは、少なくとも24時間の滞留時間を提供するようなものでなければならない。反応器から出てくるスラリーは、固液分離が行われるステップに移送される。この目的のために、本発明の方法は、スラリーの固相を液体から分離するための少なくとも1つのフィルタの使用を含む。
【0074】
異なる種類の光バイオリアクタを使用することができるが、管状のものが好ましいはずである。管は、光合成活性放射線に対して透明でなければならないため、PET(ポリエチレンテレフタレート)で作製されるべきである。好ましくは、管は直径0.2m未満でなければならない。光バイオリアクタは、主に流加モードで動作すべきである。光合成を促進するために必要な光束は、光バイオリアクタを地球外表面に入射する太陽放射に直接曝露することによって、又は好ましくは、光バイオリアクタが収容されているドームに光を伝達する光集光器及び光ファイバなどの適切な集光システムによって供給することができる。
【0075】
キットがアルスロスピラ・プラテンシス(Arthrospira platensis)藻類株を包含する場合、地球からの栄養素は、好ましくはホウ酸及び錯化剤、より好ましくはH3BO3及びEDTAである。
【0076】
次いで、光バイオリアクタから定期的に取り出される「生物学的スラリー」の量は、固液分離を受けるべきである。好ましくは、使用済み「培養ブロス」から藻類バイオマスを分離するためのユニットは、少なくとも1つの遠心分離機によって実行される。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【
図2】クリノスタットによって達成される重力加速度のグラフである。
【
図3】ベースケース実験Zm_空気_1gに対する方法の各動作条件の効果を分離することを目的とした特定の実験試験中の時間変化藻類バイオマス濃度を示す図である。(A)火星培地の使用の効果;(B)シミュレーションされた火星大気の使用の効果;(C)微小重力の効果。図(D)には、ベースケース条件に対する本発明の方法の3つの動作条件のうちの2つの相乗的組み合わせの効果が示されている。
【
図4】(A)経時的なバイオマス濃度の変化及び(B)22日間の培養後の最終バイオマス生産性に関して、本発明の方法(Mm40_CO
2_μg)に従って火星で実施するための動作条件をシミュレーションする効果を示す図である。
【
図5】(A)経時的なバイオマス濃度の変化及び(B)22日間の培養後の最終バイオマス生産性に関して、本発明の方法をシミュレーションする動作条件下(Mm40_CO
2_μg)で得られた結果と、既存の最新技術の国際公開第2013014606号パンフレットの方法をシミュレーションする動作条件下(RL_CO
2_μg)で得られた結果との比較を示す図である。
【
図6】本発明の例による方法のフローシートを示す図である。
【0078】
実験セクション
1.材料及び方法
1.1.微生物維持条件
シアノバクテリウム・スピルリナ(cyanobacterium Spirulina)の単藻類培養物は、イタリア、サルデーニャ、アルボレーアの藻類培養TOLOグリーンファームから得た。株を、イタリアのサルデーニャにあるカリアリ大学環境科学技術部門間センター(CINSA)の実験室において無菌条件下で維持した。培養物を、脱脂綿を覆ったアルミニウム箔でシールした150mlのZarrouk培地(Table 1)を含む250mLの三角フラスコ内に保った。
【表1】
【0079】
培養培地を含むフラスコを、接種前に121℃で15分間オートクレーブ処理した。培養物を光独立栄養条件下で維持し、サーモスタット制御されたチャンバ内で20±1℃でインキュベートした。光周期を、25μmol/m2/s(ライトメータDelta OHM HD 2302.0)の白色光照明で12:12時間の明期及び暗期に固定した。撹拌を100rpmに設定した。
【0080】
1.2.火星培地(MM)の調製及び組成
MMは、文献(Sarigul,et al.Sci.Rep.(2019)https://doi.org/10.1038/s41598-019-56693-4)に従って、火星表土のシミュラント(JSC MARS-1)の浸出液及び合成ヒト尿(MP-AU)を混合することによって調製した。本研究で使用したJSC MARS-1の主成分を酸化物重量%でTable 2に報告する。XRD分析によって同定されたJSC MARS-1の鉱物相は、主にテクトケイ酸塩斜長石フェルドスパー、輝石、酸化鉄(マグネタイト及びヘマタイト)、イルメナイトならびにカンラン石からなる(Peters,et al.Icarus.197(2008)470-479.https://doi.org/10.1016/j.icarus.2008.05.004)。
【表2】
【0081】
浸出液は、15gの表土のシミュラント(直径<1mmのサイズ)を、キャップ付き250ml三角フラスコ内でpH6.80を有する150mlの超純水と接触させることによって調製した。固液混合物を、オービタルシェーカー(Stuart SSM1、Bio sigma)によって200rpmで24時間、25℃で撹拌した。得られた溶液を、吸収紙を用いて重力により濾過した。上清の分析は、Al、Ca、Fe、K、Mg、Mn、Na、P、Si及びTiを決定するために誘導結合プラズマ発光分光法(Varian 710-ES ICP OES)を使用して行った。得られた結果をTable 3に示す。
【表3】
【0082】
動作条件は、高周波発生器電力1.2kW、周波数40MHzとし、Ar(純度99.996%)をプラズマ(15L/分)、ネブライザ(200Kpa)及び光学供給(1.5L/分)の両方に使用した。スプレーチャンバは、ダブルパスガラスサイクロンであった。印加された電力及び圧力は、13分間600W及び100PSIであった。検量線を5点で計算し、R2≧0.999について許容できるとみなした。合成ヒト尿(MP-AU)は、文献(Sarigul,et al.Sci.Rep.(2019)https://doi.org/10.1038/s41598-019-56693-4)に従って生成し、次いで微細藻類の窒素要求量を満たすために1:10の比で超純水で希釈した。希釈したヒト尿のシミュラントの化学組成をTable 4に示す。
【0083】
最後に、1部の火星表土の浸出液と1部の希釈尿とを混合して(1:1v:v)、いわゆる火星培地(MM)を生成した。導電率は850μS/cmあり、25℃でpH7.4であった。実験対照培地でもあるZarrouk培地で、MM(20、40、60及び80%)の希釈を行った。MM及びその希釈物を、使用前に121℃で15分間滅菌した。Table 5は、多量栄養素に関する得られた火星培地の組成を示し、Table 6は、金属に関するその組成を示す。Zn、Fe、Mg、Si、Mn及びKなどの金属の一部は、藻類の微量栄養素として機能し得る。
【表4】
【表5】
【表6】
【0084】
1.3.培養培地中のMMの最適含有量を特定するため、及びシミュレーションされた火星条件の効果を特定するための成長実験。
MMの体積百分率がそれぞれ0、20、40、60及び80%v/vに等しいMMとZarrouk培地(ZM)との混合物からなる成長培地を使用して、予備試験を行った。これらの実験(データは示さず)から、MMの使用を含む最良の成長培地は、40%v/vのMM及び60%v/vのZMを含有するものであると特定された(Mm40)。その後、異なる実験を行って、火星で実施される方法のうちの1つをシミュレーションする動作条件の効果を評価した。火星で実現される方法におけるすべての動作条件の単離及び相乗効果の両方を評価した。Table 7は、この場合に行われた実験をまとめたものである。これらの実験により、本発明の方法の実現可能性を特定することができた。
【0085】
これらすべての実験に共通する特徴は以下の通りであった。バッチ培養実験を、40mlに充填した透明通気キャップフラスコ内で行った。実験は、培養フラスコの照射面上で100μmol m
-2s
-1の照明を用いて三連で設定した。実験開始時の光学密度は、波長650nmで約0.2であった。
【表7】
【0086】
Leica EC3デジタルカメラ(Leica Microsystems、ヴェッツラー、ドイツ)と結合された40倍及び100倍(Leica DM750)光学顕微鏡を使用し、Leica Application Suite(バージョン3.4.0、Leica Microsystems)を使用して、細胞形態を検査した。すべての操作は、環境汚染を避け、微生物学的安全キャビネットの下で行った。大気は空気からなり、重力は1gに等しかった。実験中、シアノバクテリアの成長を、650nmの波長での培養物のクロロフィル-光学密度(OD)の吸光度マイクロプレートリーダELISA(TECAN、Sunrise(商標)、Tecan Trading AG、スイス)によって監視した。バイオマス濃度Cx(gL-1)は、事前に4000rpmで15分間遠心分離し、105℃で24時間乾燥させた既知の培養体積のバイオマス濃度の重量分析によって得られた検量線Cx対ODを使用して、OD測定から計算した。pHメータ(Basic 20、Crison)により、pHを毎日測定した。pHメータ(XS機器、カルピ、MO、イタリア)により、pHを毎日測定した。
【0087】
1.4.火星ドーム内の大気のシミュレーション(Whitleyジャーガス化システム)
火星大気のCO2を使用する可能性を調査するために、純粋なCO2からなる大気中で微細藻類を成長させるさらなる実験を行った。この目的のために、大気酸素に曝露することなく試料の処理、インキュベーション及び検査のための優れた条件を提供することができる、Don Whitleyワークステーションを使用した。ワークステーションは、パラメータを変更して、わずか2分で約100%CO2の存在下でジャーの中に培養物を成長させるのに必要な条件を作り出すことができる持続可能な環境で試料を操作することを可能にする。得られたフルカラーのタッチスクリーン制御パネルにより、オペレータは、培養物の成長に必要な基準が満たされたことをリアルタイムで監視することができる。ワークステーションは、CO2ボンベ及びポリカーボネートジャーの両方に接続されている。ジャーの容量は2.5Lであり(高さ24cm、直径17cm)、75cm2のベース部を有する8つのフラスコを収容することができる。ジャーは、漏れている場合に警報を生成する内蔵型故障検出器を有する。
【0088】
1.5.微小重力条件のシミュレーション
微細藻類の成長及び代謝が宇宙条件及び火星条件で達成される微小重力条件によって影響され得るかどうかを検証するために、イタリア、サルデーニャのサッサリ大学生物医学研究所において、微小重力条件下でさらなる実験を行った。微小重力(μg)をシミュレーションするために、3Dランダム位置決め機(RPM、Fokker Space、オランダ)が使用される。3Dランダム位置決め機(RPM)は、オランダのライデンにあるDutch Space(旧Fokker Space)によって構築された「重力ベクトル平均」の原理に基づく微小重量(「微小重力」)シミュレータであった。3D RPMは、独立して回転する2つの垂直フレームから構成される。重力ベクトルの方向は、重力ベクトルの平均が微小重力環境をシミュレーションするように常に変更される。3D RPMは、10-3g未満のシミュレーションされた微小重力を提供する。3D RPMの寸法は、1000×800×1000mm(長さ×幅×高さ)に制限されている。機械式ステージは最大12個のフラスコを同時に収容することができ、試料は、3D RPMに配置される前に、回転中心から10cm以下に配置されるものとする。
【0089】
1.6.火星で実施される方法のすべての動作条件の同時効果のシミュレーション。
火星における本発明の方法のすべての動作条件の影響をシミュレーションするために、以下の手順を採用した。流体の剪断を回避するために、40%v/vのMM(Mm40)を含む培地aを、気泡を含ませずにフラスコに注意深く充填した(約80ml)。続いて、フラスコをジャーの内部に固定し、CO
2を充填し、次いで3D RPMに取り付けた。3D RPMを、25℃の専用室で少なくとも23日間運転した。同じ培養物を1gで並行して成長させ、対照培養物を含み、μg条件で試料の同じ振動を受けるために静止バーに入れた。3D RPMをコンピュータに接続し、特定のソフトウェアを介して回転モード及び回転速度を選択した。60度/秒(rpm)のランダムウォークモードを選択した。培養物を150μmol m
-2s
-1の白色照明で12時間照明し、明時間の間にCO
2を微細藻類に投与した。実験のステップの簡略化されたスキームを
図1に示すが、
図2は、RPMによって達成された加速度のベクトル成分のグラフ、及びそのような成分(その値は常に0に近い)のベクトル和(G-res)が報告される表を示す。
【0090】
2.実験結果
2.1.火星培地の使用の単独効果
この実験は、ある体積のZarrouk培地を同じ体積の火星培地で置き換えることがスピルリナ(Spirulina)の成長に影響を及ぼし得るかどうかを検証することを目的とした。この目的のために、Mmの体積百分率がそれぞれ0、20、40、60、80%v/v及び100%に等しい混合物からなる成長培地を使用して、予備試験を行った。これらの実験は、大気及び地球重力を用いて行った。これらの実験(データは示さず)から、Mmの使用を含む最良の成長培地は、40%v/vのMm及び60%v/vのZmを含有するものであると特定された(Mm40)。より高い割合は、培養物の成長速度の低減をもたらした。
図3Aでは、Zm及びMm40のみを使用した場合に得られたバイオマス濃度の変化の比較が示されている。
【0091】
両方の培養物が0.45gL-1に近い濃度を達成した場合、最大14日間、対応する体積のMmを有する40%v/vのZmの再配置から関連する効果は生じなかった。むしろ、成長のわずかな改善が、13日間の培養まで観察することができた。培養15日後、両培養物は、おそらく炭素飢餓又はシステムによって達成された高pH(11に近い)により決定される阻害に起因して減少し始める(データは示さず)。したがって、バッチモードで動作した場合に生産的であるためには、これらの培養は15日間の培養後に停止されるべきである。
【0092】
2.2.シミュレーションされた火星大気の使用の単独効果。
この実験の目的は、火星で本発明の方法をホストするドームにおいて実現されることになる大気をシミュレーションする大気を使用することの効果を分離することであった。本発明の方法によれば、この大気は、火星大気から得られ、少なくとも0.8バールに等しい圧力で加圧されたほぼ純粋なCO
2からなる。このため、これらの実験は、微細藻類培養物を含む実験室規模光バイオリアクタ(フラスコ)をジャー内に挿入し、次いで、ジャー内の分圧が1バールに等しくなるまで純粋なCO
2をフラックスすることによって行った。得られた結果を
図3Bに示す。この場合、培地は常にZarrouk培地であった。
【0093】
火星ドームのシミュラント内の火星大気をシミュレーションするCO2による空気の置き換えから生じる関連効果は、培養14日目まで観察することができなかった。しかしながら、その瞬間から、シミュレーションされた火星大気、すなわちCO2を使用した培養物は成長し続けたが、空気中で成長した培養物のバイオマス濃度は減少し始めた。これは、14日目から、炭素がスピルリナ(Spirulina)の成長の主な制限因子であることを実証している。したがって、提案された方法で予測されたものをシミュレーションする大気の使用は、実現可能であるだけでなく、CO2ボンベをマーズに運ぶために必要なペイロードの結果的な低減により有利でさえある。
【0094】
2.3.シミュレーションされた微小重力の単独効果。
この実験は、シミュレーションされた微小重力がスピルリナ・プラテンシス(Spirulina Platensis)の成長にどのように影響を及ぼし得るかを評価することを目的とした。したがって、これは、Zarrouk培地中のスピルリナ(Spirulina)の培養物を含むフラスコをランダム位置決め機に取り付け、成長を定期的に監視することによって行った。対応する結果を
図3Cに示す。微小重力条件下で試料を培養した場合、成長速度のわずかな改善が観察された。これは、重力によって決定される沈降及び凝集の影響の低減に起因し得る。後者の現象は、実際には藻類への栄養素の拡散を妨げる可能性がある。最終的に、火星上の重量は、この実験で採用されたものよりわずかに高いが、後者は、火星上で生じる低減された重力の条件がスピルリナ(Spirulina)の成長に影響を及ぼさないだけでなく、その成長をわずかに改善することさえできることを実証している。
【0095】
2.4.火星で実施される本発明の方法の動作条件の3つのうちの2つの組み合わせの相乗効果。
これらの実験の目的は、3つの動作条件のうちの2つを同時に適用することの効果を探索することであり、この動作条件は、例えば、火星大気+微小重力、火星培地+微小重力、又は火星培地+火星大気など、火星上で実現される方法において行われるものをシミュレーションする。
図3Dは、基本ケース実験(Zm_空気_1g)と比較した場合、動作条件のすべての可能な組み合わせが相乗効果をもたらし、微細藻類のより良好な成長を提供したことを示している。とくに、成長15日目までは、微小重力下での火星培地(Mm40_空気_μg)を使用した培養物がより良好なものであったが、16日目からおそらくは炭素不足に起因して減少し始めた。対照的に、CO
2、すなわち方法で使用されたシミュレーションされた火星大気を使用した2つの培養物は、すべての実験期間にわたって成長し続け、したがって、液体中の高い炭素濃度の恩恵を受けるこの株の能力を実証した。次いで、CO
2及び微小重力を使用した場合に最良の性能が得られた(Zm_CO
2_μg)。実際に、後者の実験では、22日間の培養後に約1.2gL
-1のバイオマス濃度が達成された。
【0096】
2.5.本発明の方法に従って火星で行われるすべての動作条件のシミュレーション。
この実験では、本発明の方法のすべての動作条件、すなわち、微小重力、CO
2大気及びMm40が、その実現可能性を検証するために同時に適用される。得られた結果を
図4Aに示す。
【0097】
本発明の方法のすべての動作条件の同時使用は、微細藻類の培養に影響を及ぼさなかっただけでなく、相乗効果を示すそれらの成長の関連する改善ももたらしたことが観察され得る。これはおそらく、バイオマス濃度が高くなると(実験の終わりに)、培養物が光合成を行うためにより多くのCO
2を必要とする一方で、微小重力条件が凝集及び沈降を回避するという事実に起因する。さらに、スピルリナ(Spirulina)株は、その光合成が培養pHを有意に上昇させ、成長を潜在的に阻害するCO
2の酸性化効果を打ち消すことができるため、高いCO
2濃度に十分に耐える。そのような改善の根底にある理由は、さらなる研究においてよりよく調査されるべきであるが、実験的証拠は一義的であり、22日後の2つの曲線によって達成された生産性の比較によってさらに確認される(
図4Bを参照されたい)。
【0098】
最終的に、これらの結果に基づいて、火星上の重力はこの実験で採用された重力よりもわずかに高いが、本発明の方法は有利に実現可能であり、食料及び酸素の生産を可能にすると合理的に述べることができる。表土及び大気等の現場で利用可能な資源を使用する可能性はまた、現場で方法を実施するために地球から火星に移送されるキットのペイロードの関連する減少をもたらす。
【0099】
2.6.国際公開第2013014606号パンフレットに記載のものに対する本発明の方法の性能の比較
bio-ISRUパラダイムを利用することによる地球外状況での微細藻類培養に関連する最先端技術に関して本発明の方法の改善を評価するために、国際公開第2013014606号パンフレットに記載の動作条件下でさらなる実験を行った。後者では、微細藻類の成長培地は、微細藻類が成長するのに必要な硝酸塩を提供するためにHNO
3(RL)が濃縮された表土浸出液からなった。したがって、この実験では、Z培地のものと等しい最終硝酸塩濃度を得るために浸出液にHNO
3を添加することによって成長培地を得た。残りについては、動作条件を本発明のもの、すなわち純粋なCO
2及び微小重力からなる大気に等しく保った。本発明の方法の構成(Mm40_CO
2_μg)で得られた結果と、RL_CO2_μgと呼ばれる国際公開第2013014606号パンフレットのものとの比較を、バイオマス濃度の経時的変化に関して
図5Aに示し、培養13日後に達成されるバイオマス生産性に関して
図5Bに示す。国際公開第2013014606号パンフレット(実験RL_CO
2_μg)に報告されている動作条件を使用する場合、バイオマス濃度の増加を培養の14日目まで検出することができなかったことが分かる。反対に、わずかな減少が観察され得た。したがって、藻類は国際公開第2013014606号パンフレットで報告されている条件下で生存することができたが(減少は関連性がなかったため)、有意に成長及び複製することはできなかった。したがって、14日後の対応する生産性はわずかにマイナスであったが、ゼロに近かった(
図6Bを参照されたい)。このため、この実験は14日後に中止した。したがって、本発明の方法(Mm40_CO
2_μg)で得られた結果との比較を最大14日間報告する。
【0100】
明らかなとおり、バイオマス生産性は、本発明の方法の動作条件を使用することにより顕著に高められる。本発明により、最新技術に対して改良がなされることが、かかる証拠により明確に実証されている。
【国際調査報告】