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  • 特表-CVD単結晶ダイヤモンド 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-18
(54)【発明の名称】CVD単結晶ダイヤモンド
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/04 20060101AFI20241010BHJP
   C23C 16/27 20060101ALI20241010BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
C30B29/04 A
C23C16/27
H01L21/205
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024523807
(86)(22)【出願日】2022-10-19
(85)【翻訳文提出日】2024-06-19
(86)【国際出願番号】 EP2022079140
(87)【国際公開番号】W WO2023067029
(87)【国際公開日】2023-04-27
(31)【優先権主張番号】2114934.9
(32)【優先日】2021-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514233369
【氏名又は名称】エレメント シックス テクノロジーズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100228005
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 英之
(72)【発明者】
【氏名】トラスコット ベンジャミン サイモン
(72)【発明者】
【氏名】リギンズ ステファニー
(72)【発明者】
【氏名】エドモンズ アンドリュー マーク
(72)【発明者】
【氏名】ギーキー ダグラス ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ヒルマン ウィリアム ジョセフ
【テーマコード(参考)】
4G077
4K030
5F045
【Fターム(参考)】
4G077AA03
4G077AB01
4G077AB04
4G077AB08
4G077BA03
4G077DB07
4G077EA02
4G077EA10
4G077EB10
4G077ED06
4G077FE11
4G077FG12
4G077FG13
4G077FH07
4G077GA01
4G077GA06
4G077HA01
4G077HA13
4G077HA20
4G077TC02
4G077TC06
4K030AA10
4K030AA17
4K030AA18
4K030BA28
4K030BB02
4K030CA01
4K030CA17
4K030DA08
4K030DA09
4K030FA01
4K030JA01
4K030JA06
4K030JA10
4K030LA22
5F045AA01
5F045AA08
5F045AB07
5F045AC07
5F045AC19
5F045AD11
5F045AD12
5F045AD13
5F045AD14
5F045AE01
5F045AF02
5F045BB12
5F045HA16
(57)【要約】
EPRで測定されるように、中性の電荷状態における単一置換窒素原子Ns 0濃度が0.25から3ppmであるCVD単結晶ダイヤモンドであって、中性及び負電荷状態における窒素空孔センタ(NV0及びNV-)の総濃度がNs 0濃度の0.1から0.8倍である、CVD単結晶ダイヤモンド。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の、
EPRにより測定されるように、中性の電荷状態における単一置換窒素原子Ns 0濃度が0.25から3ppmである;
特性を有するCVD単結晶ダイヤモンドであって、
中性及び負電荷状態における窒素空孔センタ(NV0及びNV-)の総濃度が、前記Ns 0濃度の0.1から0.8倍である、CVD単結晶ダイヤモンド。
【請求項2】
3.5mm以上の少なくとも1つの長さ寸法を有する、請求項1に記載のCVD単結晶ダイヤモンド。
【請求項3】
-45から45°、-10から40°及び10から40°のいずれかから選択される色相角habを有する、請求項1又は2に記載のCVD単結晶ダイヤモンド。
【請求項4】
励起波長660nmを使用し、温度77Kで実施するフォトルミネセンス測定における、ダイヤモンドの一次ラマン信号のピーク面積に対するSiV-ゼロフォノン線の総ピーク面積の比により定量され、0.5未満;0.1未満;0.05未満;及び0.01未満のいずれかから選択されるSiV-発光を示す、請求項1から3のいずれか一項に記載のCVD単結晶ダイヤモンド。
【請求項5】
温度20℃で低ひずみを示す低光学複屈折を有し、少なくとも3mm×3mmの面積を測定する場合、遅相及び進相軸と平行して偏光した光の屈折率差の第3四分位数値が、サンプルの厚みで平均され、1×10-4及び5×10-5のいずれかから選択される値を越えない、請求項1から4のいずれか一項に記載のCVD単結晶ダイヤモンド。
【請求項6】
前記単結晶CVDダイヤモンド材料の総体積が、少なくとも0.1mm2、少なくとも1mm2、少なくとも10mm2、少なくとも20mm2、少なくとも40mm3、少なくとも60mm3、少なくとも80mm3及び少なくとも100mm3のいずれかから選択される、請求項1から5のいずれか一項に記載のCVD単結晶ダイヤモンド。
【請求項7】
宝石状で、5から40、10から35及び15から30のいずれかから選択される彩度C* abを有する、請求項1から6のいずれか一項に記載のCVD単結晶ダイヤモンド。
【請求項8】
ラムゼイパルスシーケンスにより測定されるように、測定されたアンサンブルNVの不均一位相緩和時間T2 *が5μ秒超である、請求項1から5のいずれか一項に記載のCVD単結晶ダイヤモンド。
【請求項9】
宝石状で、ジェモロジカル・インスティテュート・オブ・アメリカ(GIA)スケール及び方法に従い、ピンキッシュオレンジ、オレンジーピンク、ピンク、パープリッシュピンク、パープルピンク及びピンクパープルのいずれかと共に、ファンシーライト、ファンシー、ファンシーインテンス、ファンシーヴィヴィッド及びファンシーディープのいずれかから選択されるカラーグレードを有する、請求項1から7のいずれか一項に記載のCVD単結晶ダイヤモンド。
【請求項10】
宝石状で、ジェモロジカル・インスティテュート・オブ・アメリカ(GIA)スケール及び方法に従い、VS2、VS1、VVS2、VVS1、IF及びFLのいずれかから選択されるクラリティグレードを有する、請求項1から8のいずれか一項に記載のCVD単結晶ダイヤモンド。
【請求項11】
H3(NVN0)センタを更に含む、請求項1から9のいずれか一項に記載のCVD単結晶ダイヤモンド。
【請求項12】
励起波長455から459nmを使用し、温度77Kで実施するフォトルミネセンス測定において、少なくとも50の(NV0+NV-)/H3比を示す請求項10に記載のCVD単結晶ダイヤモンドであって、前記NV0、NV-及びH3欠陥のそれぞれが、前記ダイヤモンドの一次ラマン信号に対するゼロフォノン線の前記ピーク面積比により定量される、CVD単結晶ダイヤモンド。
【請求項13】
少なくとも100、少なくとも150、少なくとも200、少なくとも300及び少なくとも400のいずれかから選択される(NV0+NV-)/H3比を示す、請求項1に記載のCVD単結晶ダイヤモンド。
【請求項14】
請求項1から12のいずれか一項に記載の複数の単結晶CVDダイヤモンドを作製する方法であって、
化学気相堆積反応器内の基板キャリア上に複数の単結晶ダイヤモンド基板を配置することと;
水素含有ガス、炭素含有ガス及び窒素含有ガスを含むプロセスガスを前記反応器に供給することであって、前記プロセスガスの相対量が1%から4%のC22/H2比、及び30ppmから300ppmのN2/C22比と化学量論的に等しいものである、供給することと;
前記複数の単結晶ダイヤモンド基板の少なくとも一部の表面で、前記複数の単結晶CVDダイヤモンドを温度750℃から1000℃で成長させることと;
生じる複数の単結晶CVDダイヤモンドの少なくとも一部を温度1500℃から1800℃で第1アニーリングすることと;
前記複数の単結晶CVDダイヤモンドを照射してダイヤモンド結晶格子に空孔を形成することと;
生じる複数の単結晶CVDダイヤモンドを温度700℃から1100℃で第2アニーリングすることと、
を含む、方法。
【請求項15】
前記プロセスガスの前記相対量が50から200ppm、60から180ppm及び70から150ppmのいずれかから選択されるN2/C22比と化学量論的に等しいものである、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記プロセスガスの前記相対量が1から3%、1.5から2.5%及び1.5から2%のいずれかから選択されるC22/H2比と化学量論的に等しいものである、請求項13又は14 16に記載の方法。
【請求項17】
前記第1アニーリングが温度1550℃から1750℃で実施される、請求項13から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記第1アニーリングがダイヤモンド安定化圧力下で実施される、請求項13から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記照射が1から10MeVの電子照射を使用して実施される、請求項13から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記第2アニーリングが700から1000℃、800から1000℃及び850から950℃のいずれかから選択される温度範囲のアニーリングを含む、請求項13から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記複数の単結晶ダイヤモンドの少なくとも1つをカット及び研磨して宝石を形成することを更に含む、請求項13から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記基板上の成長が、単一のCVD合成サイクルとして中断することなく実施される、請求項13から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記複数の単結晶CVDダイヤモンドを成長させる工程が、少なくとも10mm3/h、少なくとも20mm3/h、少なくとも30mm3/h、少なくとも40mm3/h及び少なくとも50mm3/hのいずれかから選択される単結晶ダイヤモンド材料の体積成長率を提供する、請求項13から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記複数のCVD単結晶ダイヤモンドが、800℃から1000℃;800℃から950℃;及び800℃から900℃のいずれかから選択される温度で成長する、請求項13から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
請求項1から12のいずれか一項に記載のCVD単結晶ダイヤモンドを含む装置であって、撮像装置、感知装置、磁気センサ;スピン共鳴装置、量子情報処理装置及びジャイロスコープ装置のいずれかから選択される、装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CVD単結晶ダイヤモンド、及びCVD単結晶ダイヤモンドの作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1980年代及び90年代、単結晶CVDダイヤモンド材料の合成を対象とした多くの実験が世界中の様々なグループにより実施された。この研究の多くが、ホモエピタキシャル成長による単結晶ダイヤモンド基板上の単結晶CVDダイヤモンド材料の薄層成長を開示していた。高品質の単結晶CVD合成ダイヤモンド材料の相対的に厚い層を製造する要望はあったが、これを実際に達成するのは困難であることが明らかであった。単結晶CVDダイヤモンド材料の合成は極端な条件を必要とする。高品質の単結晶CVD合成ダイヤモンド材料の厚層をうまく成長させるために、長期間にわたって安定してこの条件を発生させ、その後維持する必要がある。更に、合成するダイヤモンド材料の性質は、複合多次元合成パラメータ空間を形成する数多くの合成パラメータに影響を受ける。この多次元合成パラメータ空間の小さな範囲のみが、高品質の単結晶CVDダイヤモンド材料の厚層を達成することができる。これらの合成領域を見出すこと、及びこれらの合成領域の1つの内で安定した成長をもたらし、維持するのに必要なパラメータの正しい組合せを生成する方法を開発することは、決して些細なことではない。
単結晶CVDダイヤモンド成長に重要な合成パラメータは、基板タイプ(例えば、CVDにより製造されるかどうか、高圧/高温、又は天然の地質合成)、元の母体結晶から基板を調製する方法、基板外形(面及び/又はエッジの結晶方位を含む)、成長中の基板温度及び成長する結晶の熱管理、並びに気相合成環境それ自体を含む。最後のものは、プロセスチャンバのサイズ、プロセスガス注入/排出外形、及びプロセスガス流量などの様々な機械設備に左右される因子に加えて、プロセスガス組成(不純物を含む)、プロセスチャンバ内のガス圧力、及び合成プロセスに供給されるマイクロ波電力量に影響される。適当な成長領域であるように、これらのパラメータの多くは、1つのパラメータが変われば、他のパラメータも正しく変わるように相互に関係する。合成プロセスの全期間で全堆積領域に好適なプロセス条件を選択及び維持できない場合、高レベルの制御されないプロセス変動性、不適当な材料性質を有する使用できない製品、さらには壊滅的なクラッキング、双晶化又は黒鉛化による結晶の完全な破壊をもたらし得る。
【0003】
欠陥をドーパント状で意図的に添加することが知られている。CVDプロセスガスに窒素を提供することで、材料の成長率を上昇させ、転位などの結晶欠陥の形成にも影響し得ることが見出されているため、窒素はCVDダイヤモンド材料の合成における最も重要なドーパントの1つである。従って、単結晶CVD合成ダイヤモンド材料の窒素ドーピングは、広範囲に検討され、文献で報告されている。電子用途などの一部の用途では、CVDプロセスガスから窒素を意図的に排除する技術の開発が有利であると判明している。しかしながら、他の用途では、相当なレベルの窒素ドーピングにより、有利な性質をもたらすことができる、及び/又はCVD合成ダイヤモンド材料の厚層の成長を達成するのに有用であり得る。このような窒素ドーピングを行った単結晶CVD合成ダイヤモンド材料に関する特許文献としては、国際公開第2003/052177号が挙げられる。
固有のダイヤモンド材料は5.5eVの間接バンドギャップを有し、スペクトルの可視部分で透明である。バンドギャップ内に関連するエネルギレベルを有する欠陥、つまりカラーセンタを導入することで、ダイヤモンドはカラーセンタの種類及び濃度による特有のカラーを呈する。このカラーは吸収又はフォトルミネセンスのどちらか、或いはこれら2つのいくつかの組合せに起因し得る。一般的に、吸収は主な因子である。合成ダイヤモンド材料に存在する一般的なカラーセンタの一例は窒素である。窒素は、中性の電荷状態における置換格子位置にあるとき、可視スペクトルの青色端で吸収を引き起こす伝導帯より低い1.7eVの関連するエネルギレベルを有し、単独でダイヤモンドは特有のイエローカラーを有する。該窒素原子は、中性の電荷状態における置換格子位置にあるとき、Ns 0欠陥として知られ、その濃度は[Ns 0]で示される。
【0004】
例えば国際公開第2010/149775号により、単一置換窒素Ns 0を含有するCVDダイヤモンド材料の照射及びアニーリングは、ピンクカラーのダイヤモンドを生じることができると知られている。「ファンシーカラーダイヤモンド」という用語は、確立された宝石貿易分類であり、珍しく色付いたダイヤモンドを指すのに用いられる。
カラーセンタをダイヤモンドに導入することにより作製されるファンシーカラーの合成及び天然ダイヤモンドの例は、当技術分野で公知である。例えば、欧州特許出願公開第0615954号明細書及び欧州特許出願公開第0316856号明細書は、電子ビーム又は中性子ビームで合成ダイヤモンド材料を照射して、結晶中に格子欠陥(格子間原子及び空孔)を形成することを記載している。その後、ダイヤモンド結晶を所定の温度範囲でアニーリングしてカラーセンタを形成する。記載される1つのカラーセンタは「NVセンタ」と呼ばれる空孔に隣接する置換窒素原子であり、パープル(欧州特許出願公開第0316856号明細書に記載の通り)又はレッド/ピンク(欧州特許出願公開第0615954号明細書に記載の通り)などの所望のファンシーカラーをダイヤモンド材料に与えることができる。
NVセンタはダイヤモンドにピンクカラーを与えるのに有用なだけでなく、他の分野で多くの重要な用途を有する。NVセンタは、例えば発光タグ;磁気センサ;核磁気共鳴(NMR)及び電子スピン共鳴(ESR)装置などのスピン共鳴装置;核磁気共鳴画像法(MRI)用のスピン共鳴画像装置;量子通信及びコンピューティング用などの量子情報処理装置;磁気通信装置;並びにジャイロスコープを含む、様々な撮像、感知及び処理用途における使用のために研究されている。NVセンタは、以下のいくつかの所望の特徴を有するため、有用な量子スピン欠陥として関心を引いている。
(i)その電子スピン状態は、高い忠実度でコヒーレントに操作することができ、極端に長いコヒーレンス時間を有する(横緩和時間T2及び/又はT2*を使用して定量化及び比較できる);
(ii)その電子構造は、欠陥を光学的にその電子基底状態に注入し、非極低温でさえこのような欠陥を特異的な電子スピン状態に配置する。これにより、小型化が望まれる特定の用途のために、高価で大きな極低温冷却装置は必要ない。更に、欠陥はすべてが同じスピン状態を有する光子のソースとして機能することができる;並びに
(iii)その電子構造は発光及び非発光電子スピン状態を含み、欠陥の電子スピン状態を光子により読み出すことができる。これは、磁気測定、スピン共鳴分光法及び撮像などの感知用途に使用される合成ダイヤモンド材料から、情報を読み出すのに便利である。更に、長距離量子通信及び拡張性を有する量子計算の量子ビットとしてNV-欠陥を使用するための重要な要素である。このような結果により、NV-欠陥は固体量子情報処理(QIP)の競合候補となる。
【0005】
複数の単結晶CVD合成ダイヤモンドは、複数の単結晶ダイヤモンド基板を基板キャリア上に提供し、プロセスガスを導入し、基板上に炭素を堆積させてダイヤモンドを成長させるようにプラズマを形成することにより、単一のCVD成長サイクル又はラン(CVD反応器で単一の中断しない成長操作を意味する)で製造することができる。複数の単結晶CVDダイヤモンドを合成するこの手法に関する問題は、均一性及び収率の問題である。不均一性は結晶形態、成長率、クラッキング、並びに不純物含有量及び分散の観点から存在し得る。例えば、国際公開第2013/087697号に記載の通り、CVDダイヤモンド成長化学反応を注意深く制御したとしても、不純物取り込み率に影響する成長表面の温度変動により、不純物の不均一な取り込みが起こり得る。温度変動は結晶形態、成長率及びクラッキングの問題の変動も引き起こす。これらの温度変動は、成長ランの特定の点で成長方向に対し横方向(空間的に分布)又は成長ランの継続時間にわたる温度変動により成長方向に平行(時間的に分布)であり得る。変動は単一のCVDダイヤモンド結晶内、及び複数の結晶が合成プロセスに提供される場合に結晶間でも起こり得る。従って、多数の結晶合成プロセスでは、単一の成長ランによる製品ダイヤモンド結晶の一部のみが、目的の仕様を満たす場合がある。
【0006】
複数のCVD単結晶ダイヤモンドを成長させること、及び該ダイヤモンド間に生じる性質の分布(堅さほか)のどちらも述べる先行技術はほとんど存在しない。特異的な用途に望ましい性質を有する複数の単結晶ダイヤモンドを高収率で成長させるのに必要な条件は、ほとんどまだ知られていない。ある領域の均一性に関する検討は、多結晶ダイヤモンドウェハ又は薄膜の観点から公知であるが、この点について開示されてきたものと、相対的に大きく、実質的に分離した多数の単結晶ダイヤモンドを成長させる要件は何ら関係しない。
【発明の概要】
【0007】
量子用途又はピンク宝石などの所望の用途のため、均一濃度のNVセンタを有するCVD単結晶ダイヤモンドを大量に製造するCVD単結晶ダイヤモンドの合成方法を提供することを目的とする。
【0008】
第1の態様によれば、EPRにより測定されるように、中性の電荷状態における単一置換窒素原子Ns 0濃度が0.25から3ppmであるCVD単結晶ダイヤモンドを提供する。CVD単結晶ダイヤモンドは、中性及び負電荷状態における窒素空孔センタ(NV0及びNV-)の総濃度がNs 0濃度の0.1から0.8倍である。
任意に、CVD単結晶ダイヤモンドは、少なくとも1つの長さ寸法が3.5mm以上である。
選択肢として、CVD単結晶ダイヤモンドは-45から45°、-10から40°及び10から40°のいずれかから選択される色相角habを有する。
CVD単結晶ダイヤモンドは、任意に励起波長660nmを使用し、温度77Kで実施するフォトルミネセンス測定における、ダイヤモンドの一次ラマン信号のピーク面積に対するSiV-ゼロフォノン線の総ピーク面積の比により定量され、0.5未満;0.1未満;0.05未満;及び0.01未満のいずれかから選択されるSiV-発光を示す。このような値は、シリコン不純物が非常に少ないダイヤモンド材料を示す。
CVD単結晶ダイヤモンドは、任意に温度20℃で低ひずみを示す低光学複屈折を有し、少なくとも3mm×3mmの面積を測定した場合、遅相及び進相軸に平行に偏光した光の屈折率差の第3四分位数値が、サンプルの厚みで平均され、1×10-4及び5×10-5のいずれかから選択される値を越えない。これらの低複屈折値は、「グレイン」を有さない単結晶CVDダイヤモンドを作製するのに好適なサンプルを示し、そうでなければその認識されるクラリティに影響し得る。
【0009】
選択肢として、単結晶CVDダイヤモンド材料の総体積は少なくとも0.1mm2、少なくとも1mm2、少なくとも10mm2、少なくとも20mm2、少なくとも40mm3、少なくとも60mm3、少なくとも80mm3及び少なくとも100mm3のいずれかから選択される。
CVD単結晶ダイヤモンドは任意に宝石状で、5から40、10から35及び15から30のいずれかから選択される彩度C* abを有する。
生じるダイヤモンドは、NVセンタのスピン性を活用する用途で使用されるが、ラムゼイパルスシーケンスにより測定されるように、任意にCVD単結晶ダイヤモンドでは、測定されたアンサンブルNVの不均一位相緩和時間T2 *が5μ秒超である。
CVD単結晶ダイヤモンドは任意に宝石状で、ジェモロジカル・インスティテュート・オブ・アメリカ(GIA)スケール及び方法に従い、ピンキッシュオレンジ、オレンジーピンク、ピンク、パープリッシュピンク、パープルピンク及びピンクパープルのいずれかと共に、ファンシーライト、ファンシー、ファンシーインテンス、ファンシーヴィヴィッド及びファンシーディープのいずれかから選択されるカラーグレードを有する。
CVD単結晶ダイヤモンドは任意に宝石状で、ジェモロジカル・インスティテュート・オブ・アメリカ(GIA)スケール及び方法に従い、VS2、VS1、VVS2、VVS1、IF及びFLのいずれかから選択されるクラリティグレードを有する。これらのクラリティグレードは、クラリティ欠陥を有さない、又は該欠陥を有するサンプルに相当する。しかしながら、これらは拡大下で観察できるのみで、肉眼では観察できない。本発明のいくつかの実施形態は、通常これらのグレードの1つに適するであろう単結晶ダイヤモンドを提供し、それから形成した宝石を限定されないが市販品又は高品質商品として販売することができる。
【0010】
CVD単結晶ダイヤモンドは、任意にH3、NVN0、センタを更に含む。加熱処理すると、開示した材料内にH3センタが形成され得る。
選択肢として、CVD単結晶ダイヤモンドは励起波長455から459nmを使用し、温度77Kで実施するフォトルミネセンス測定において、少なくとも50の(NV0+NV-)/H3比を示す。NV0、NV-及びH3欠陥のそれぞれは、ダイヤモンドの一次ラマン信号に対するゼロフォノン線のピーク面積比により定量される。
CVD単結晶ダイヤモンドは、任意に少なくとも100、少なくとも150、少なくとも200、少なくとも300及び少なくとも400のいずれかから選択される(NV0+NV-)/H3比を示す。
【0011】
第2の態様によれば、第1の態様で上記した複数の単結晶CVDダイヤモンドを作製する方法を提供する。本方法は、
化学気相堆積反応器内の基板キャリア上に複数の単結晶ダイヤモンド基板を配置することと;
水素含有ガス、炭素含有ガス及び窒素含有ガスを含むプロセスガスを反応器に供給することであって、プロセスガスの相対量が1%から4%のC22/H2比、及び30ppmから300ppmのN2/C22比と化学量論的に等しいものである供給することと;
複数の単結晶ダイヤモンド基板の少なくとも一部の表面で、複数の単結晶CVDダイヤモンドを温度750℃から1000℃で成長させることと;
生じる複数の単結晶CVDダイヤモンドの少なくとも一部を温度1500℃から1800℃で第1アニーリングすることと;
複数の単結晶CVDダイヤモンドを照射してダイヤモンド結晶格子に空孔を形成することと;
生じる複数の単結晶CVDダイヤモンドを温度700℃から1100℃で第2アニーリングすることと、を含む。
【0012】
プロセスガスの相対量は、任意に50から200ppm、60から180ppm及び70から150ppmのいずれかから選択されるN2/C22比と化学量論的に等しいように選択される。
プロセスガスの相対量は、任意に1から3%、1.5から2.5%及び1.5から2%のいずれかから選択されるC22/H2比と化学量論的に等しいように選択される。
選択肢として、第1アニーリングは温度1550℃から1750℃で実施される。
選択肢として、第1アニーリングはダイヤモンド安定化圧力下で実施される。これにより、黒鉛化によるCVD単結晶材料の任意の損失又は損傷を起こすことなく、高い温度及び/又は長いアニーリング時間を使用できる。
照射は、任意に1MeVから10MeVの電子エネルギを用いて実施する電子照射である。
第2アニーリングは、任意に700から1000℃、800から1000℃及び850から950℃のいずれかから選択される温度範囲のアニーリングを含む。
選択肢として、本方法は複数の単結晶ダイヤモンドの少なくとも1つをカット及び研磨して宝石を形成することを更に含む。
任意に、基板上の成長は単一のCVD合成サイクルとして中断することなく実施される。
選択肢として、複数の単結晶CVDダイヤモンドを成長させる工程は、少なくとも10mm3/h、少なくとも20mm3/h、少なくとも30mm3/h、少なくとも40mm3/h及び少なくとも50mm3/hのいずれかから選択される単結晶ダイヤモンド材料の体積成長率を提供する。
複数のCVD単結晶ダイヤモンドは、任意に800℃から1000℃;800℃から950℃;及び800℃から900℃のいずれかから選択される温度で成長する。
【0013】
第3の態様によれば、第1の態様で上記したCVD単結晶ダイヤモンドを含む装置を提供し、本装置は撮像装置、感知装置、磁気センサ;スピン共鳴装置、量子情報処理装置及びジャイロスコープ装置のいずれかから選択される。
【0014】
以下、添付図を参照して、本発明を実施例に基づきより詳細に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1はCVD単結晶ダイヤモンドを作製する例示的な工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者は大量製造可能なラボグロウンダイヤモンド宝石製品を開発してきた。本発明は、NVセンタの濃度など、予測可能な性質を有する数十片の単結晶ダイヤモンド材料を単一のランで製造する。例えば、これらの性質は、ラウンドブリリアントのラボグロウン宝石にカット及び研磨されると、ダイヤモンドが高い収率を示し、ピンク又は関連するGIAカラーグレードを有するようなものである。
本発明者により開発された条件は、相対的に高い成長率及び低内部ひずみを有するダイヤモンド材料を提供し、その結果クラッキングが少ない高い収率のダイヤモンドを実現する。これは一つには、エッチプット(etch puts)などの表面欠陥がほとんどない基板を使用することによるものである。表面欠陥は、そうでなければ一群の拡大欠陥の核生成点として生じ、国際公開第2004/046427号に記載の通り、ひずみを増加させる。これを達成するための好適な方法は、その内容が参照により本明細書に組み入れられたものとする国際公開第2004/027123号に記載の通り、垂直にカットした基板を使用することである。この開示では、単結晶ダイヤモンドプレートを製造する方法が記載されており、実質的に表面欠陥を有さない表面を有するダイヤモンド基板を提供する工程と、化学気相堆積(CVD)により表面上でダイヤモンドをホモエピタキシャルに成長させる工程と、ホモエピタキシャルCVD成長ダイヤモンド及び基板をダイヤモンド成長が起こる基板の表面に対して横断方向、通常垂直(つまり90°又はほぼ90°)に切断して単結晶CVDダイヤモンドプレートを製造する工程とを含む。その後、この単結晶ダイヤモンドプレートを更なる成長のための基板として使用する。拡張欠陥は成長方向に進む傾向があるため、ダイヤモンドを成長方向に対して直角に薄く切ることで、新しい薄く切られた面では、表面欠陥濃度が確実に非常に低くなる。
【0017】
ラボグロウン宝石ストーンを大量に成長させようとする場合、更なる問題はダイヤモンドの認識されたカラーの不均一性である。所与の宝石内、及び名目上一般的な仕様に製造された別々の宝石の間で、知覚できるほど均一であるカラーを提供するプロセス条件が望ましい。
上記の通り、窒素の存在はイエローカラーとなり得る。更に、相当量の窒素添加で成長するCVD単結晶材料は、通常迅速に成長し、結果としてブラウン色相を付与する空孔複合体(例えばクラスタ及びチェーン)を包含する。その内容が参照により本明細書に組み入れられたものとする国際公開第2004/022821号に記載の通り、ダイヤモンドを熱処理することにより、このブラウンカラーを低減又は除去することができる。この文書には、ダイヤモンド安定化圧力、温度1400℃超でダイヤモンドを加熱することが記載されている。これは、高圧/高温(HPHT)アニーリングとして公知である。
ピンク配色を生じることができる十分な数のNVセンタを形成するために、通常照射工程をアニーリング前に実施して、成長中に通常取り込まれる相対的に少数の空孔よりも多くをダイヤモンド格子に取り込む。その後のアニーリングで、空孔はダイヤモンド結晶格子内の窒素に移動し、NVセンタを形成することができる。
多くの異なる方法で窒素をダイヤモンド結晶格子に取り込むことができる。いくつかの重要な方法は以下の通りである。
単一置換窒素(Ns 0)は単一の窒素原子がダイヤモンド格子中の炭素原子と置換したものである。1130cm-1(0.140eV)の赤外吸収帯を示し、典型的にブラウンカラーを呈する。
負の電荷を持つ窒素空孔センタ(NV-)は欠陥であり、空孔及び置換窒素が全体的に負電荷状態である結晶格子中で対を形成する。NV-は637nm(1.945eV)に吸収線、及び関係するバンドを示し、通常ピンク又はパープルカラーを呈する。
H3センタは、全体的に中性の電荷状態(N-V-N)0において空孔により分離された2つの置換窒素原子からなる。H3は503.2nm(2.463eV)の吸収線、及び関係するバンドを示し、イエローカラーを呈する。
【実施例
【0018】
国際公開第2004/027123号に記載の通り、横にカットされたCVD単結晶ダイヤモンドのプレートを使用して、複数の単結晶ダイヤモンド基板を得た。これらをキャリアに取り付け、CVD反応器に配置した。プロセスガスをCVD反応器に供給した。プロセスガスは水素、炭素含有ガス(本実施例ではメタン)及び窒素含有ガス(本明細書では分子窒素)を含んでいた。プロセスガスのプラズマを反応器内で形成し、単結晶CVDダイヤモンド材料を複数の単結晶ダイヤモンド基板のそれぞれの表面上で厚さ4から6mmまで成長させた。
その後、生じる単結晶ダイヤモンドは、確実にダイヤモンド安定領域にあるように圧力6GPa超、温度1550℃から1750℃でアニーリングした。アニーリング前に、表面クラック及び欠陥と共に、任意の多結晶材料を除去した。そうでなければ、アニーリング中に失敗のリスクが上昇する。
NV保持を最大限にしH3生成を回避するために、選択される時間、1550℃から1750℃にアニーリング温度を維持した。これはNVセンタから得られたピンクカラーを最大化し、H3センタからのわずかなイエローを生じるためである。温度1750℃未満では、NVセンタはほとんど動かないが空孔が動き、その結果H3センタを形成する傾向が低い。
第1(HPHT)アニーリング後、1MeVから10MeVの電子エネルギを使用して、単結晶ダイヤモンドを電子照射し、次に再度アニーリングした。この時、温度は700から1000℃でNVセンタを形成した。第2アニーリングに必要な温度は低いため、ダイヤモンド安定化圧力下で実施する必要はない。本実施例では、真空炉で実施した。
生じる単結晶ダイヤモンドをカット及び研磨してラウンドブリリアント宝石を形成し、正確な合成及び処理条件に応じて「ファンシーインテンスオレンジーピンク」又は「ファンシーヴィヴィッドピンク」のどちらかのGIAファンシーカラーグレードを有していた。なお、基板を含有するように宝石をカットすることができ、これによりダイヤモンドの成長に必要な時間を低減する。最終ダイヤモンドと同じプロセスを使用して基板を作製する場合は特に好適であり、切れ目が見えない。
【0019】
完成させた宝石カラーの定量測定は、鏡面性、多数の内部反射、及び研磨物内の分散により困難である。主に照明条件次第で局在する明部及び見掛けのカラーの閃光を生じ、これらを宝石の真のボディカラーを評価するのに考慮に入れない必要がある。該測定を行うために、国際公開第2016/203210号に記載される写真的アプローチを使用した。この手法は速いが、分光光度計及び積分球の使用の更に信頼できる代替であり、従って多くの研磨した宝石を測定するときに特に有用である。完成した宝石を測定すると、色相角は25°<hab<35°の範囲内にあり、宝石の大部分がhab=30°のあたりで強固にクラスター化している。彩度値は典型的に20<C* ab<30であり、測定した宝石の大部分はC* ab=25付近の範囲の中央に非常に近かった。これらの値は一例として選択した。なお、合成及び/又は照射条件を好適に変化させることにより、色相角及び彩度のどちらも本発明の範囲内に調整して、完成したサンプルに存在するNs及びNVの相対及び/又は絶対濃度を変更することができる。この方法で、様々な美的な好みを満たすことができる。
660nmのダイオードレーザーを使用して励起し、77KでSiV-のフォトルミネセンス(PL)測定を実施した。低温PLの感受性が最高度であるため、吸収で検出可能であるよりもSiVが桁違いに少ないサンプルでさえ、定量化可能なSiV-信号は、CVD合成ダイヤモンド材料の測定でほぼ常に観察される。他のPL測定と同様に、低温でSiV-が2つのZPLをそれぞれ736.5及び736.8nmに示すこと以外、記録した値はダイヤモンドの一次ラマン線に対するSiV-のPL特徴の面積比であり、従ってSiV- 660=I(736.5nm)/I(R1660)+I(736.8nm)/I(R1660)である。これらのサンプルにおいて、SiV- 660は通常0.001から0.01の値であり、市販のCVD合成宝石の基準に基づいて例外的に小さい。
【0020】
複屈折測定はCVD単結晶ダイヤモンド材料に行った。成長したダイヤモンド材料を立方体に形成した。立方体は基板の対角線と等しいエッジ長さの{110}配向側面を有し、結果として元の基板の面積、並びに{100}配向上面及び底面を限定した。立方体を上記のようにアニーリングした後、0.7mmの厚みのプレートに水平にカットし、主な面をどちらも研磨した。市販の機器(ソーラボLCC7201)を使用し、波長590nmでプレートの複屈折(遅相及び進相軸に平行して偏光した光の屈折率差として定義され、サンプルの厚みで平均される)を測定し、その面積の大部分について、エタロンなどの光学用途に好適な材料を記載している国際公開第2004/046427号の十分に範囲内である10-5オーダーの値であった。例外は、基板エッジの真上の領域であった。転位は横及び縦の成長領域間の境界に集中する傾向があり、局所的な最大複屈折は10-4オーダーであった。結晶のこれらのより複屈折部分のインクルージョンは、すべての技術的用途で好ましくないかもしれないが、総体積のほんのわずかのみを占めることを考慮して、CVD単結晶ダイヤモンドの目視クラリティに害はないことが分かっており、任意の例では、最大複屈折が合成モアッサナイト(“Synthetic moissanite:a new diamond substitute”,Gems and Gemology volume33,issue4,winter1997に挙げられるように4.3×10-2)の1%未満である。
ダイヤモンドにおけるNVセンタのスピン状態を利用する用途について、デコヒーレンス時間T2 *を測定することができる。T2 *の値をラムゼイパルスシーケンスにより決定し、5μ秒超であることが見出された。
【0021】
図1は、CVD単結晶ダイヤモンドを作製する例示的な工程を説明するフローチャートである。以下の番号付けは図1に相当する。
S1.複数の単結晶ダイヤモンド基板をCVD反応器内の基板キャリア上に配置する。
S2.プロセスガスを反応器に供給する。プロセスガスは水素含有ガス、炭素含有ガス及び窒素含有ガスを含む。これらのガスの相対量は1%から4%のC22/H2比、及び30ppmから300ppmのN2/C22比と化学量論的に等しいものである。マイクロ波を使用してガスからプラズマを発生させる。プロセスガスの相対量は、50から200ppm、60から180ppm及び70から150ppmのいずれかから選択されるN2/C22比と化学量論的に同等であるように選択してよい。更に、プロセスガスの相対量は1から3%、1.5%から2.5%及び1.5から2%のいずれかから選択されるC22/H2比と化学量論的に同等であるように選択してよい。
S3.単結晶CVDダイヤモンドを複数の単結晶ダイヤモンド基板の表面上で、温度750℃から1000℃で成長させる。成長は好ましくは単一の連続する中断しないCVD合成サイクル又は「ラン」として実施される。このサイクルの体積成長率は、少なくとも10mm3/h、少なくとも20mm3/h、少なくとも30mm3/h、少なくとも40mm3/h及び少なくとも50mm3/hのいずれかから選択してよい。成長温度は典型的に800℃から1000℃、800℃から950℃又は800℃から900℃である。
S4.生じる複数の単結晶CVDダイヤモンドを温度1500℃から1800℃で第1アニーリングを行う。1800℃よりかなり高い温度では、結晶中の任意の窒素はH3センタを形成する場合があり、これはNVセンタを形成するための次の処理に単一置換窒素を利用できないことを意味する。当業者は1750℃未満でアニーリングを行うことを選択してよく、H3センタの形成をさらに低減する。アニーリングは好ましくはダイヤモンド安定化圧力下で実施され、黒鉛化のリスクを低減する。
S5.複数の単結晶CVDダイヤモンドを照射して、ダイヤモンド結晶格子中に空孔を形成する。これは例えば1から10MeVの電子照射を使用して実施してよい。
S6.照射した単結晶CVDダイヤモンドに温度700℃から1100℃で第2アニーリングを実施してNVセンタを形成する。第2アニーリングを700から1000℃、800から1000℃及び850から950℃のいずれかから選択される温度で実施してよい。
【0022】
宝石の製造が望まれる場合、この方法は複数の単結晶ダイヤモンドの少なくとも1つをカット及び研磨して宝石を形成することを更に含む。この例では、1ct超の宝石を製造するために、CVD単結晶ダイヤモンドの少なくとも1つの長さ寸法は、3.5mm以上である。しかしながら、多くの技術的用途について、はるかに小さな結晶、例えば少なくとも1つの長さ寸法が0.5mm以上であるダイヤモンドで十分なことも多い。
上記の高収率合成及び成長後アニーリングプロセスは、複数の再現可能な宝石を単一ランで作り、エネルギコストを大きく低減する。これにより、どのサイズ及び形状が必要とされるのかを事前に知り、最低限の処理後にアニーリングでの損傷を免れることを確信しつつ、必要な性質を有するダイヤモンドを製造することができる。このような中断しないプロセスは、例えば装置利用効率を改善する、複数回成長用結晶を調製する必要性を回避する、及び連続する成長サイクルにより、製造される材料において成長した層間に形成される界面の任意の有害効果を防止する際、「起動停止(stop-start)」又はレイヤーバイレイヤープロセスより有利である。本出願人らの好ましい実施形態において、実施例により詳述される通り、全厚みまでの成長は実質的に常に中断することなく実施される。
【0023】
実施形態を参照して本発明を具体的に示し、記載してきたが、添付の特許請求の範囲に定められる本発明の範囲を逸脱することなく、形態及び詳細において様々な変更がなされ得ることが当業者に理解されるであろう。
図1
【手続補正書】
【提出日】2024-06-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の、
EPRにより測定される中性の電荷状態における単一置換窒素原子Ns 0濃度が0.25から3ppmである;
特性を有するCVD単結晶ダイヤモンドであって、
中性及び負電荷状態における窒素空孔センタ(NV0及びNV-)の総濃度が、前記Ns 0濃度の0.1から0.8倍である、CVD単結晶ダイヤモンド。
【請求項2】
3.5mm以上の少なくとも1つの長さ寸法を有する、請求項1に記載のCVD単結晶ダイヤモンド。
【請求項3】
-45から45°、-10から40°及び10から40°のいずれかから選択される色相角habを有する、請求項1記載のCVD単結晶ダイヤモンド。
【請求項4】
励起波長660nmを使用し、温度77Kで実施するフォトルミネセンス測定における、ダイヤモンドの一次ラマン信号のピーク面積に対するSiV-ゼロフォノン線の総ピーク面積の比により定量され、0.5未満;0.1未満;0.05未満;及び0.01未満のいずれかから選択されるSiV-発光を示す、請求項1記載のCVD単結晶ダイヤモンド。
【請求項5】
前記単結晶CVDダイヤモンド材料の総体積が、少なくとも0.1mm2、少なくとも1mm2、少なくとも10mm2、少なくとも20mm2、少なくとも40mm3、少なくとも60mm3、少なくとも80mm3及び少なくとも100mm3のいずれかから選択される、請求項1記載のCVD単結晶ダイヤモンド。
【請求項6】
宝石状で、5から40、10から35及び15から30のいずれかから選択される彩度C* abを有する、請求項1記載のCVD単結晶ダイヤモンド。
【請求項7】
ラムゼイパルスシーケンスにより測定される測定されたアンサンブルNVの不均一位相緩和時間T2 *が5μ秒超である、請求項1記載のCVD単結晶ダイヤモンド。
【請求項8】
宝石状で、ジェモロジカル・インスティテュート・オブ・アメリカ(GIA)スケール及び方法に従い、ピンキッシュオレンジ、オレンジーピンク、ピンク、パープリッシュピンク、パープルピンク及びピンクパープルのいずれかと共に、ファンシーライト、ファンシー、ファンシーインテンス、ファンシーヴィヴィッド及びファンシーディープのいずれかから選択されるカラーグレードを有する、請求項1記載のCVD単結晶ダイヤモンド。
【請求項9】
宝石状で、ジェモロジカル・インスティテュート・オブ・アメリカ(GIA)スケール及び方法に従い、VS2、VS1、VVS2、VVS1、IF及びFLのいずれかから選択されるクラリティグレードを有する、請求項1記載のCVD単結晶ダイヤモンド。
【請求項10】
H3(NVN0)センタを更に含む、請求項1記載のCVD単結晶ダイヤモンド。
【請求項11】
励起波長455から459nmを使用し、温度77Kで実施するフォトルミネセンス測定において、少なくとも50の(NV0+NV-)/H3比あって、前記NV0、NV-及びH3欠陥のそれぞれが、前記ダイヤモンドの一次ラマン信号に対するゼロフォノン線の前記ピーク面積比により定量される、(NV 0 +NV - )/H3比、及び
少なくとも100、少なくとも150、少なくとも200、少なくとも300及び少なくとも400のいずれかから選択される(NV 0 +NV - )/H3比、
のいずれかを示す、請求項10に記載のCVD単結晶ダイヤモンド。
【請求項12】
請求項1記載の複数の単結晶CVDダイヤモンドを作製する方法であって、
化学気相堆積反応器内の基板キャリア上に複数の単結晶ダイヤモンド基板を配置することと;
水素含有ガス、炭素含有ガス及び窒素含有ガスを含むプロセスガスを前記反応器に供給することであって、前記プロセスガスの相対量が1%から4%のC22/H2比、及び30ppmから300ppmのN2/C22比と化学量論的に等しいものである、供給することと;
前記複数の単結晶ダイヤモンド基板の少なくとも一部の表面で、前記複数の単結晶CVDダイヤモンドを温度750℃から1000℃で成長させることと;
生じる複数の単結晶CVDダイヤモンドの少なくとも一部を温度1500℃から1800℃で第1アニーリングすることと;
前記複数の単結晶CVDダイヤモンドを照射してダイヤモンド結晶格子に空孔を形成することと;
生じる複数の単結晶CVDダイヤモンドを温度700℃から1100℃で第2アニーリングすることと、
を含む、方法。
【請求項13】
前記プロセスガスの前記相対量が50から200ppm、60から180ppm及び70から150ppmのいずれかから選択されるN2/C22比と化学量論的に等しいものである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記プロセスガスの前記相対量が1から3%、1.5から2.5%及び1.5から2%のいずれかから選択されるC22/H2比と化学量論的に等しいものである、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記第1アニーリングが温度1550℃から1750℃で実施される、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記第1アニーリングがダイヤモンド安定化圧力下で実施される、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記照射が1から10MeVの電子照射を使用して実施される、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
前記第2アニーリングが700から1000℃、800から1000℃及び850から950℃のいずれかから選択される温度範囲のアニーリングを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
前記複数の単結晶CVDダイヤモンドを成長させる工程が、少なくとも10mm3/h、少なくとも20mm3/h、少なくとも30mm3/h、少なくとも40mm3/h及び少なくとも50mm3/hのいずれかから選択される単結晶ダイヤモンド材料の体積成長率を提供する、請求項12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
請求項1記載のCVD単結晶ダイヤモンドを含む装置であって、撮像装置、感知装置、磁気センサ;スピン共鳴装置、量子情報処理装置及びジャイロスコープ装置のいずれかから選択される、装置。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0023
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0023】
実施形態を参照して本発明を具体的に示し、記載してきたが、添付の特許請求の範囲に定められる本発明の範囲を逸脱することなく、形態及び詳細において様々な変更がなされ得ることが当業者に理解されるであろう。
本発明のまた別の態様は、以下の通りであってもよい。
〔1〕以下の、
EPRにより測定されるように、中性の電荷状態における単一置換窒素原子N s 0 濃度が0.25から3ppmである;
特性を有するCVD単結晶ダイヤモンドであって、
中性及び負電荷状態における窒素空孔センタ(NV 0 及びNV - )の総濃度が、前記N s 0 濃度の0.1から0.8倍である、CVD単結晶ダイヤモンド。
〔2〕3.5mm以上の少なくとも1つの長さ寸法を有する、前記〔1〕に記載のCVD単結晶ダイヤモンド。
〔3〕-45から45°、-10から40°及び10から40°のいずれかから選択される色相角h ab を有する、前記〔1〕又は〔2〕に記載のCVD単結晶ダイヤモンド。
〔4〕励起波長660nmを使用し、温度77Kで実施するフォトルミネセンス測定における、ダイヤモンドの一次ラマン信号のピーク面積に対するSiV - ゼロフォノン線の総ピーク面積の比により定量され、0.5未満;0.1未満;0.05未満;及び0.01未満のいずれかから選択されるSiV - 発光を示す、前記〔1〕から〔3〕のいずれかに記載のCVD単結晶ダイヤモンド。
〔5〕温度20℃で低ひずみを示す低光学複屈折を有し、少なくとも3mm×3mmの面積を測定する場合、遅相及び進相軸と平行して偏光した光の屈折率差の第3四分位数値が、サンプルの厚みで平均され、1×10 -4 及び5×10 -5 のいずれかから選択される値を越えない、前記〔1〕から〔4〕のいずれかに記載のCVD単結晶ダイヤモンド。
〔6〕前記単結晶CVDダイヤモンド材料の総体積が、少なくとも0.1mm 2 、少なくとも1mm 2 、少なくとも10mm 2 、少なくとも20mm 2 、少なくとも40mm 3 、少なくとも60mm 3 、少なくとも80mm 3 及び少なくとも100mm 3 のいずれかから選択される、前記〔1〕から〔5〕のいずれかに記載のCVD単結晶ダイヤモンド。
〔7〕宝石状で、5から40、10から35及び15から30のいずれかから選択される彩度C * ab を有する、前記〔1〕から〔6〕のいずれかに記載のCVD単結晶ダイヤモンド。
〔8〕ラムゼイパルスシーケンスにより測定されるように、測定されたアンサンブルNVの不均一位相緩和時間T 2 * が5μ秒超である、前記〔1〕から〔5〕のいずれかに記載のCVD単結晶ダイヤモンド。
〔9〕宝石状で、ジェモロジカル・インスティテュート・オブ・アメリカ(GIA)スケール及び方法に従い、ピンキッシュオレンジ、オレンジーピンク、ピンク、パープリッシュピンク、パープルピンク及びピンクパープルのいずれかと共に、ファンシーライト、ファンシー、ファンシーインテンス、ファンシーヴィヴィッド及びファンシーディープのいずれかから選択されるカラーグレードを有する、前記〔1〕から〔7〕のいずれかに記載のCVD単結晶ダイヤモンド。
〔10〕宝石状で、ジェモロジカル・インスティテュート・オブ・アメリカ(GIA)スケール及び方法に従い、VS 2 、VS 1 、VVS 2 、VVS 1 、IF及びFLのいずれかから選択されるクラリティグレードを有する、前記〔1〕から〔8〕のいずれかに記載のCVD単結晶ダイヤモンド。
〔11〕H3(NVN 0 )センタを更に含む、前記〔1〕から〔9〕のいずれかに記載のCVD単結晶ダイヤモンド。
〔12〕
励起波長455から459nmを使用し、温度77Kで実施するフォトルミネセンス測定において、少なくとも50の(NV 0 +NV - )/H3比を示す前記〔10〕に記載のCVD単結晶ダイヤモンドであって、前記NV 0 、NV - 及びH3欠陥のそれぞれが、前記ダイヤモンドの一次ラマン信号に対するゼロフォノン線の前記ピーク面積比により定量される、CVD単結晶ダイヤモンド。
〔13〕少なくとも100、少なくとも150、少なくとも200、少なくとも300及び少なくとも400のいずれかから選択される(NV 0 +NV - )/H3比を示す、前記〔1〕に記載のCVD単結晶ダイヤモンド。
〔14〕前記〔1〕から〔12〕のいずれかに記載の複数の単結晶CVDダイヤモンドを作製する方法であって、
化学気相堆積反応器内の基板キャリア上に複数の単結晶ダイヤモンド基板を配置することと;
水素含有ガス、炭素含有ガス及び窒素含有ガスを含むプロセスガスを前記反応器に供給することであって、前記プロセスガスの相対量が1%から4%のC 2 2 /H 2 比、及び30ppmから300ppmのN 2 /C 2 2 比と化学量論的に等しいものである、供給することと;
前記複数の単結晶ダイヤモンド基板の少なくとも一部の表面で、前記複数の単結晶CVDダイヤモンドを温度750℃から1000℃で成長させることと;
生じる複数の単結晶CVDダイヤモンドの少なくとも一部を温度1500℃から1800℃で第1アニーリングすることと;
前記複数の単結晶CVDダイヤモンドを照射してダイヤモンド結晶格子に空孔を形成することと;
生じる複数の単結晶CVDダイヤモンドを温度700℃から1100℃で第2アニーリングすることと、
を含む、方法。
〔15〕前記プロセスガスの前記相対量が50から200ppm、60から180ppm及び70から150ppmのいずれかから選択されるN 2 /C 2 2 比と化学量論的に等しいものである、前記〔13〕に記載の方法。
〔16〕前記プロセスガスの前記相対量が1から3%、1.5から2.5%及び1.5から2%のいずれかから選択されるC 2 2 /H 2 比と化学量論的に等しいものである、前記〔13〕又は〔14〕に記載の方法。
〔17〕前記第1アニーリングが温度1550℃から1750℃で実施される、前記〔13〕から〔15〕のいずれかに記載の方法。
〔18〕前記第1アニーリングがダイヤモンド安定化圧力下で実施される、前記〔13〕から〔16〕のいずれかに記載の方法。
〔19〕前記照射が1から10MeVの電子照射を使用して実施される、前記〔13〕から〔17〕のいずれかに記載の方法。
〔20〕前記第2アニーリングが700から1000℃、800から1000℃及び850から950℃のいずれかから選択される温度範囲のアニーリングを含む、前記〔13〕から〔16〕のいずれかに記載の方法。
〔21〕前記複数の単結晶ダイヤモンドの少なくとも1つをカット及び研磨して宝石を形成することを更に含む、前記〔13〕から〔19〕のいずれかに記載の方法。
〔22〕前記基板上の成長が、単一のCVD合成サイクルとして中断することなく実施される、前記〔13〕から〔20〕のいずれかに記載の方法。
〔23〕前記複数の単結晶CVDダイヤモンドを成長させる工程が、少なくとも10mm 3 /h、少なくとも20mm 3 /h、少なくとも30mm 3 /h、少なくとも40mm 3 /h及び少なくとも50mm 3 /hのいずれかから選択される単結晶ダイヤモンド材料の体積成長率を提供する、前記〔13〕から〔21〕のいずれかに記載の方法。
〔24〕前記複数のCVD単結晶ダイヤモンドが、800℃から1000℃;800℃から950℃;及び800℃から900℃のいずれかから選択される温度で成長する、前記〔13〕から〔22〕のいずれかに記載の方法。
〔25〕前記〔1〕から〔12〕のいずれかに記載のCVD単結晶ダイヤモンドを含む装置であって、撮像装置、感知装置、磁気センサ;スピン共鳴装置、量子情報処理装置及びジャイロスコープ装置のいずれかから選択される、装置。
【国際調査報告】