(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-18
(54)【発明の名称】被覆切削工具
(51)【国際特許分類】
B23B 27/14 20060101AFI20241010BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20241010BHJP
B23C 5/16 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
B23B27/14 A
C23C14/06 A
C23C14/06 P
B23C5/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024523842
(86)(22)【出願日】2022-10-17
(85)【翻訳文提出日】2024-05-31
(86)【国際出願番号】 EP2022078779
(87)【国際公開番号】W WO2023066840
(87)【国際公開日】2023-04-27
(32)【優先日】2021-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520333435
【氏名又は名称】エービー サンドビック コロマント
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ジョンソン, ラース
(72)【発明者】
【氏名】サライヴァ, マルタ
【テーマコード(参考)】
3C046
4K029
【Fターム(参考)】
3C046FF02
3C046FF03
3C046FF04
3C046FF05
3C046FF10
3C046FF11
3C046FF13
3C046FF16
3C046FF19
3C046FF25
4K029AA02
4K029AA21
4K029BA03
4K029BA07
4K029BA11
4K029BA16
4K029BA17
4K029BA35
4K029BA58
4K029BB02
4K029BC02
4K029BD05
4K029CA03
4K029DD06
4K029EA01
(57)【要約】
本発明は、交互の第1および第2の層スタックを含むナノ層コーティングに関し、第1および第2の層スタックにおける平均層周期厚さは、互いに異なる。ナノ層コーティングは、改善されたエッジライン靭性ならびに逃げ面摩耗および櫛状クラックに対する改善された耐性を示す。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材およびナノ多層コーティングを含む被覆切削工具であって、コーティングが、
第1の層スタックと、スタックが少なくとも2回交互になっている第2の層とを含み、
第1の層スタックが、交互のナノ層AおよびBを含み、A+Bの平均層周期厚さが15~50nmであり、
第2の層スタックが、交互のナノ層AおよびBを含み、層A+Bの平均厚さが2~10nmであり、
ナノ層Aの組成が、(Ti
1-a-bAl
aM
b)Nであり、式中、0.5≦a≦0.75、0≦b≦0.10であり、Mは、Cr、Zr、Nb、Mo、TaおよびVから選択される1つ以上の元素であり、
ナノ層Bの組成が、(Ti
1-c-dSi
cM
d)Nであり、式中、0.10≦c≦0.25、0≦d≦0.10であり、Mは、Cr、Zr、Nb、Mo、TaおよびVから選択される1つ以上の元素である、被覆切削工具。
【請求項2】
第1の層スタックにおいて、A+Bの平均層周期厚さが18~35nmである、請求項1に記載の被覆切削工具。
【請求項3】
第2の層スタックにおいて、A+Bの平均層周期厚さが3~8nmである、請求項1から2のいずれか一項に記載の被覆切削工具。
【請求項4】
第1のナノ層A(Ti
1-a-bAl
aM
b)Nについて、0.55≦a≦0.7、0≦b≦0.10であり、MがCrである、請求項1から3のいずれか一項に記載の被覆切削工具。
【請求項5】
第1のナノ層B(Ti
1-c-dSi
cM
d)Nについて、0.15≦c≦0.22、0≦d≦0.10であり、MがCrである、請求項1から4のいずれか一項に記載の被覆切削工具。
【請求項6】
第1のナノ層A(Ti
1-a-bAl
aM
b)Nについて、0.55≦a≦0.7であり、b=0である、請求項1から5のいずれか一項に記載の被覆切削工具。
【請求項7】
第1のナノ層B(Ti
1-c-dSi
cM
d)Nについて、0.15≦c≦0.22であり、d=0である、請求項1から6のいずれか一項に記載の被覆切削工具。
【請求項8】
交互のスタックの数、すなわち第1および第2の層スタックの両方の総計が、少なくとも4、好ましくは6~50である、請求項1から7のいずれか一項に記載の被覆切削工具。
【請求項9】
コーティングが、前記基材と交互の第1および第2の層スタックとの間に、0.2~2μmの厚さを有する出発層を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の被覆切削工具。
【請求項10】
コーティングの総厚さが1~10μmである、請求項1から9のいずれか一項に記載の被覆切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(Ti,Si,M)Nおよび(Ti,Al,M)Nのナノ多層を含む被覆切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノ多層コーティングは、金属機械加工用の切削工具の分野で一般的に使用されている。これらのコーティングでは、ある点で異なる少なくとも2つの層が交互になってナノ層のコーティングを形成する。
【0003】
金属機械加工作業には、例えば、旋削加工、フライス加工、およびドリル加工が含まれる。
【0004】
長い工具寿命を提供するために、インサートなどの被覆切削工具は、異なる種類の摩耗に対する高い耐性、例えば、耐逃げ面摩耗性、耐すくい面摩耗性、耐チッピング性および耐剥離性を有するべきである。
【0005】
異なる金属機械加工作業は、異なる様式で被覆切削工具に影響を及ぼす。例えば、旋削加工は連続的な金属機械加工作業であるが、フライス加工は本質的により断続的である。フライス加工では、熱的および機械的負荷が経時的に変化する。
【0006】
現在市販されている切削工具よりも優れた特性を有する切削工具を提供するために、耐逃げ面摩耗性、耐すくい面摩耗性、エッジライン靭性、耐櫛状クラック性、耐剥離性などの点でコーティングが優れた特性を有する被覆切削工具が引き続き求められている。上述の特性の1つ以上が改善される場合、より長い工具寿命が提供される。
【0007】
欧州特許第2883637号明細書は、交互の層スタックを有するナノ層コーティングを開示しており、60~500nmの平均層周期厚さを有する第1の層スタックが、2~60nmの平均層周期厚さを有する第2の層スタックと交互になっている。
【0008】
本発明の目的は、少なくとも、逃げ面摩耗および櫛状クラックに対する高い耐性を示し、かつ高いエッジライン靭性も示す被覆切削工具を提供することである。
【0009】
定義
「平均層周期厚さ」という用語は、ナノ多層A-B-A-B-A...における第1のナノ層Aおよび第2のナノ層Bのナノ多層コーティングにおける組合せA-Bの平均厚さを意味する。平均層周期厚さを決定するために、少なくとも200nmの長さにわたる連続するA-Bナノ層の組合せの数をカウントし、平均値を計算するナノ多層の断面のTEM分析から計算を行うことができる。場合によっては、堆積方法が既知である場合、計算は、ナノ多層の総厚さをA-B堆積の数で割ることによって行われ得る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、ナノ多層コーティングの概略図であり、1および2は交互の第1の層および第2の層スタックを示し、3は出発層であり、4はナノ層コーティングであり、5は基材である。
【
図2】
図2は、本発明によるコーティングの走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示し、1および2は交互の第1の層および第2の層スタックを示し、3は出発層であり、4はナノ層コーティングであり、5は基材である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、改善された耐逃げ面摩耗性、優れたエッジライン靭性、およびまた高い耐櫛状クラック性を有する交互の(Ti,Si,M)N層および(Ti,Al,M)N層のナノ多層コーティングを提供してきた。
【0012】
本発明は、基材およびナノ多層コーティングを含む被覆切削工具であって、コーティングが、
第1の層スタックと、少なくとも2回交互になっている第2の層スタックとを含み、
第1の層スタックが、交互のナノ層AおよびBを含み、A+Bの平均層周期厚さが15~50nmであり、
第2の層スタックが、交互のナノ層AおよびBを含み、A+Bの平均層周期厚さが2~10nmであり、
ナノ層Aの組成が、(Ti1-a-bAlaMb)Nであり、式中、0.5≦a≦0.75、0≦b≦0.10であり、Mは、Cr、Zr、Nb、Mo、TaおよびVから選択される1つ以上の元素であり、
ナノ層Bの組成が、(Ti1-c-dSicMd)Nであり、式中、0.10≦c≦0.25、0≦d≦0.10であり、Mは、Cr、Zr、Nb、Mo、TaおよびVから選択される1つ以上の元素である、被覆切削工具に関する。
【0013】
交互のナノ層AおよびBを含む第1の層スタックでは、A+Bの平均層周期厚さは15~50nm、好ましくは18~35nmである。
【0014】
交互のナノ層AおよびBを含む第2の層スタックでは、A+Bの平均層周期厚さは2~10nm、好ましくは3~8nmである。
【0015】
第1および第2の層スタックの厚さは、同じであり得るか、または互いに異なり得る。ナノ多層コーティング中の異なる第1の層スタックの厚さは、すべての第1の層スタックについて同じであり得るか、または異なり得る。同じことが、これも同じであり得るか、または異なり得る異なる第2の層スタックの厚さに当てはまる。好適には、厚さは50~1000nm、好ましくは100~500nmである。交互のスタックの総数、すなわち第1および第2の層スタックの両方の総計は、少なくとも4、好ましくは6~50、より好ましくは8~30である。
【0016】
本発明の一実施形態では、ナノ層Aの組成(Ti1-a-bAlaMb)Nは、好ましくは0.55≦a≦0.7、0≦b≦0.10である。
【0017】
本発明の一実施形態では、第1のナノ層Aの組成(Ti1-a-bAlaMb)Nは、好ましくは0.55≦a≦0.7、0≦b≦0.05である。
【0018】
本発明の一実施形態では、ナノ層A中の元素Mは、Crである。
【0019】
本発明の一実施形態では、第1のナノ層Aの組成(Ti1-a-bAlaMb)Nは、好ましくは0.55≦a≦0.7およびb=0である。
【0020】
本発明の一実施形態では、ナノ層Bの組成(Ti1-c-dSicMd)Nは、好ましくは0.15≦c≦0.22および0≦d≦0.10である。
【0021】
本発明の一実施形態では、ナノ層Bの組成(Ti1-c-dSicMd)Nは、好ましくは0.15≦c≦0.22および0≦d≦0.05である。
【0022】
本発明の一実施形態では、ナノ層B中の元素Mは、Crである。
【0023】
本発明の一実施形態では、ナノ層Bの組成(Ti1-c-dSicMd)Nは、好ましくは0.15≦c≦0.22およびd=0である。
【0024】
本発明の一実施形態では、ナノ多層コーティングは、前記基材と交互の第1および第2の層スタックとの間に出発層を含む。出発層は、0.2~2μm、好ましくは0.5~1.5μmの厚さを有する。組成は(Ti1-a-bAlaMb)Nであり、式中、0.5≦a≦0.75、0≦b≦0.10であり、Mは、Cr、Zr、Nb、Mo、TaおよびVから選択される1つ以上の元素である。好ましくは0.55≦a≦0.7、0≦b≦0.10であり、より好ましくは0.55≦a≦0.7およびb=0である。
【0025】
本発明の一実施形態では、出発層の組成は、ナノ層Aの組成と同じである。
【0026】
コーティングの総厚さは、1~10μm、好ましくは1~7μm、より好ましくは2~4μmである。
【0027】
ナノ多層コーティングは、PVD方法、好ましくは陰極アークエバポレーション、マグネトロンスパッタリングまたはHIPIMS、より好ましくは陰極アークエバポレーションのいずれかを使用して好適に堆積される。
【0028】
被覆切削工具の基材は、超硬合金、サーメット、セラミック、立方晶窒化ホウ素および高速度鋼の群から選択され得る。一実施形態では、基材は、5~18重量%のCoと、元素の周期表における第4族~第5族の1つ以上の元素の0~10重量%の炭化物、窒化物または炭窒化物とを含む超硬合金である。
【0029】
超硬合金基材にはCrのようなさらなる成分が可能である。
【0030】
被覆切削工具は、好適には、金属機械加工用の切削工具インサート、ドリル、またはソリッドエンドミルである。切削工具インサートは、例えば、旋削加工用インサートまたはフライス加工用インサートである。
【実施例】
【0031】
実施例1(本発明例)
形状CNMG120408MMおよびR390-11の焼結超硬合金切削工具インサートブランク上に、(Ti,Si)Nおよび(Ti,Al)Nの異なるナノ多層を堆積させた。超硬合金の組成は、10重量%のCo、0.4重量%のCr、残部WCとした。超硬合金ブランクを、4つのアークフランジを備える真空チャンバ内で陰極アークエバポレーションによって被覆した。Ti-Siのターゲットを、互いに対向する2つのフランジに取り付けた。Ti-Alのターゲットを、互いに対向する2つの残りのフランジに取り付けた。ターゲットは円形で平面であり、直径は100mmであり、公開市場で入手可能であった。アークエバポレーションに好適なターゲット技術パッケージは、IHI Hauzer Techno Coating B.V.、Kobelco(株式会社神戸製鋼所)およびOerlikon Balzersなどの市場の供給業者から入手可能である。
【0032】
被覆されていないブランクを、PVDチャンバ内で3倍の回転を受けるピンに取り付けた。
【0033】
チャンバを高真空(10-2Pa未満)にポンプダウンし、チャンバ内に配置されたヒータによって450~550℃に加熱した。次いで、ブランクをArプラズマ中で60分間エッチングした。
【0034】
すべてのマルチナノ層について同じである、厚さ1μmのTi0.33Al0.67N出発層を、10Paおよび300Vで堆積させた。
【0035】
次いで、出発層の上に、約2μmの厚さを有するナノ多層コーティングを堆積させた。
【0036】
チャンバ圧(反応圧)を4PaのN2ガスに設定し、-50V(チャンバ壁に対して)のDCバイアス電圧をブランクアセンブリに印加した。カソードを、150A(それぞれ)の電流で75分間(4つのフランジ)、アーク放電モードで作動させた。
【0037】
Ti0.80Si0.20であるTi-Siターゲットを用いて堆積を行い、Ti0.33Al0.67であるTi-Alターゲットを本発明例1ならびに比較例1および2に使用した。比較例3については、Ti0.33Al0.67およびTi0.50Al0.50を使用した。回転速度は、一定の周期厚さに相関する。ナノ多層における異なる周期厚さを有する交互の第1および第2の層スタックの効果を検討するために、異なるテーブル回転速度を使用してブランクの一連の堆積を行った。
【0038】
回転速度、推定平均ナノ層周期厚さおよび層スタック厚さを表1に示す。
【0039】
すくい面および逃げ面上のナノ多層コーティングの総厚さを、光学顕微鏡(LOM)を使用して、刃先から約200μmのインサートの研磨断面で測定した。結果を表2に示す。
表1
表2
【0040】
実施例2(データの裏付けのある実施例)
エッジライン靭性に対する耐性に関して異なるコーティングを検討するための切削試験を、以下の設定で行った:
【0041】
作業:肩削りフライス加工
ワークピース材質:Dievar未硬化、P3.0.Z.AN
刃数:z=1
切削速度:Vc=215m/min
送り量:fz=0.15mm
半径方向エンゲージメント:ae=12mm
切削深さ:ap=3.0
切削長さ=12mm
切削油なし
【0042】
カットオフ基準は、エッジラインの少なくとも0.5mmのチッピング、または逃げ相もしくはすくい相のいずれかで0.2mmの測定深さである。工具寿命は、これらの基準を達成するための切削入口の数として提示される。
【0043】
結果を表3に示し、各結果は8回の試験の平均である。
表3
【0044】
実施例3(データの裏付けのある実施例)
逃げ面摩耗に対する耐性に関して異なるコーティングを検討するための切削試験を、以下の設定で行った:
【0045】
作業:縦旋削加工
ワークピース材質:Sverker 21(工具鋼)、硬度約210HB、D=180、L=700mm
切削速度:Vc=125m/min
送り量:fn=0.072mm/rev
切削深さ:ap=2mm
切削油なし
【0046】
工具寿命のカットオフ基準は、0.15mmの逃げ面摩耗VBである。
【0047】
結果を表4に示し、各結果は2回の試験の平均である。
表4
【0048】
実施例4(データの裏付けのある実施例)
櫛状クラックに対する耐性に関して異なるコーティングを検討するための切削試験を、以下の設定で行った:
【0049】
作業:肩削りフライス加工
工具ホルダ:R390-11、25mm
ワークピース材質:Toolox 33(工具鋼)、L=600mm、I=200mm、h=100mm
インサートの種類:R390-11
切削速度:Vc=275m/min
送り量:fz=0.2mm/rev
1刃当たりの送り量z=1
切削深さ:ap=3mm
半径方向エンゲージメント:ae=12.5mm
切削油あり
【0050】
工具寿命終了の基準は、最大チッピング高さVB>0.3mmである。
【0051】
結果を表5に示し、各結果は4回の試験の平均である。
表5
【国際調査報告】