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特表2024-538246高純度アクリル酸ブチルの改良された製造方法
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  • 特表-高純度アクリル酸ブチルの改良された製造方法 図1
  • 特表-高純度アクリル酸ブチルの改良された製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-18
(54)【発明の名称】高純度アクリル酸ブチルの改良された製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/08 20060101AFI20241010BHJP
   C07C 69/54 20060101ALI20241010BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20241010BHJP
【FI】
C07C67/08
C07C69/54 Z
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024524661
(86)(22)【出願日】2022-10-18
(85)【翻訳文提出日】2024-06-11
(86)【国際出願番号】 FR2022051965
(87)【国際公開番号】W WO2023073303
(87)【国際公開日】2023-05-04
(31)【優先権主張番号】2111319
(32)【優先日】2021-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】トレチャク, サージ
(72)【発明者】
【氏名】ヒルペルト, カミユ
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC48
4H006AD11
4H006AD16
4H006BA53
4H006BA94
4H006BC51
4H006BC52
4H006BD33
4H006BD34
4H006BD40
4H006BD52
4H006BD53
4H006BD60
4H006KA06
4H006KC14
4H039CA66
4H039CG10
(57)【要約】
本発明は、アクリル酸をブタノールで直接エステル化することによるアクリル酸ブチルの製造に関するものであり、この反応は硫酸によって触媒される。より詳細には、本発明は、この製造中に生成される重質副生成物をアップグレーディングするステップを含み、最適化されたエネルギー条件下で純度及び酸性度の点で基準を満たす、高収率の生成物をもたらす、アクリル酸ブチルを製造するための改良された方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒としての硫酸及び少なくとも1つの重合禁止剤の存在下でアクリル酸をブタノールで直接エステル化することによる、アクリル酸ブチルを製造する方法であって、その結果、アクリル酸ブチル、残留アクリル酸及び残留ブタノール、硫酸水素ブチル、微量の硫酸、並びに副反応から生じる不純物を含む粗反応混合物が生成され、前記方法が、酸性不純物を含まない反応混合物の生成をもたらす中和工程と水による洗浄工程とを含み、酸性不純物を洗浄した前記反応混合物が、少なくとも、
i)蒸留塔にトッピングし、
- 上部における、本質的に未反応の反応物で構成される流れと、
- 底部における、所望のエステルと重質副生成物とを含む流れと
を得ること、
ii)トッピング塔からの底部流を精留塔に供し、
- 上部における、精製されたアクリル酸ブチルと、
- 底部における、重質副生成物を含む流れと
を分離することであって、重質副生成物を含む流れが、薄膜エバポレータで濃縮されて、
○ 精留塔へと再循環されるアクリル酸ブチル流、
○ 分解装置に供給するためのマイケル付加物流、
○ 重合禁止剤を含む残留物を含む流れ
の3つの流れを生成する、分離すること、
iii)マイケル付加物を含む流れを熱的分解装置及び接触分解装置に送り、
- 上部における、分解から生じ、反応に再利用される貴重な生成物と、
- 底部における、廃棄物処理工場に送られる最終残留物と
を得ること、
の各工程に供されることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記酸性不純物が、硫酸、硫酸水素ブチル、アクリル酸二量体、及び残留アクリル酸である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
重合禁止剤が、フェノチアジン(PTZ)、ヒドロキノン(HQ)、ヒドロキノンモノメチルエーテル(HQME)、ジ-tert-ブチル-p-クレゾール(BHT)、p-フェニレンジアミン、TEMPO(2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシ)、ジ-tert-ブチルカテコール、OH-TEMPO、又はそれらのあらゆる割合の混合物から選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
重合禁止剤が、反応媒体中又は精製工程において、50ppmから5000ppmの間、好ましくは150ppmから1000ppmの間の含有量で用いられる、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
重合禁止剤が、反応物とともにさまざまな位置で、又は蒸留塔の上部において添加される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
エバポレーションが、80℃から100℃、好ましくは90℃から100℃の間の温度範囲、及び800Paから2000Paの間の圧力で行われる、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
エバポレータからの上部流が、次の連続する2つの工程:
a.エバポレータの圧力と同じ圧力で50から80℃、とりわけ60℃~70℃の温度範囲で部分凝縮して、一方では、1000ppm未満の禁止剤含有量を有するマイケル付加物の液体流を得て分解装置に供給し、他方では蒸気流を得ること、及び
b.この蒸気流を20℃から40℃、とりわけ20℃~30℃の温度範囲で凝縮させた後、この液体流をポンプで吸い上げ、精留塔に供給すること
によって冷却される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
分解が、大気圧下、160℃から180℃の温度で行われる、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
得られるアクリル酸ブチルが99.5%を超える純度を有する、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
マイケル付加物流を含む精留塔の底部流における重合禁止剤含有量が、3%未満である、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル酸をブタノールで直接エステル化することによるアクリル酸ブチルの製造に関し、この反応は硫酸によって触媒される。より詳細には、本発明は、この製造中に生成される重質副生成物をアップグレーディングするステップを含む、アクリル酸ブチルを製造するための改良されたプロセスであって、最適化されたエネルギー条件下で純度及び酸性度の点で基準を満たす、高収率の生成物をもたらす、プロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル酸のエステル化は水の生成を伴う平衡反応であり、この水は、平衡をアクリル酸エステルの生成の方向にシフトさせるために反応中に除去する必要がある。
【0003】
概して触媒としての硫酸の存在下でアクリル酸を直接エステル化してアクリル酸ブチルを製造する際に生じる問題は、ほとんどの場合、高純度の生成物を得るために反応工程後に必要な精製工程の複雑さ、及びプロセスの収率の低下に関連している。
【0004】
本出願人による欧州特許第0609127号明細書に記載されている工業プロセスは、硫酸の存在下でアクリル酸(AA)を過剰のブタノールでエステル化することからなる。反応終了時の反応混合物には、アクリル酸ブチル、残留アクリル酸、硫酸水素ブチル、微量の硫酸、及びさまざまな副反応から生じる不純物が含まれる。次いで、この反応混合物は、いわゆる酸性不純物、すなわち残留硫酸、ブタノール硫酸水素、及びアクリル酸を除去することを目的として、中和工程及び水洗工程に供される。酸性不純物を含まないこの混合物は、さまざまな精製工程を経て、精製されたアクリル酸ブチルのアップグレーディングをもたらす。トッピングと呼ばれる、工程の1つは、特にブタノールと軽質副生成物とを蒸留することからなる。したがって、ブタノールはエステル化反応へと再循環させことができる。
【0005】
アクリル酸ブチルの精製の最終工程は、軽質生成物が除去されたエステルを含む混合物を最後の蒸留塔に送り、上部において排出し、蒸留塔の底部に見られる重質副生成物を精製し、その後、エバポレータで濃縮することからなる。このエバポレータの上部生成物である、いわゆるアクリル酸ブチル(BuA)は、精留塔の底部に戻され、一方では最終生成物としてアップグレードすることも可能になると同時に、このモノマーの熱に敏感な性質に関連する汚れの問題を回避するために塔底部の温度を十分に低く保つことも可能となる。
【0006】
エバポレータ残留物には、マイケル誘導体と数パーセントの遊離モノマーに加えて、すべての精製工程中に蓄積された数パーセントの重合禁止剤(主に遊離形のフェノチアジン、又はAA若しくはBuAの付加物として、また媒体に多かれ少なかれ溶解するポリマー性の重質化合物など)も含まれる。概して、この残留物は焼却によって除去されるため、大幅な収量の低下につながる。
【0007】
副反応に応じて生成する副生成物のうちでもとりわけ、酢酸ブチル、プロピオン酸ブチル、ジブチルエーテル、アクリル酸イソブチルなどの軽質生成物、又はマレイン酸ジブチルなどの重質生成物を挙げることができる。
【0008】
アクリル酸ブチル製造ユニットでは、マイケル付加反応から生じる「重質」化合物が自発的に生成する。これらの寄生反応は、特にこれらのユニットの蒸留塔底部で遭遇する高温によって促進される。したがって、アクリル酸、未反応のブタノール、又は反応水がアクリル酸ブチルの二重結合に付加されて、主に次のものを形成する:
- アクリル酸ブチル(BuA)へのアクリル酸(AA)の添加による、アクリルオキシプロピオン酸ブチル(AA/BuA);
- アクリル酸ブチルへの水の添加による、ヒドロキシプロピオン酸ブチル(BHP);
- アクリル酸ブチルへのブタノールの添加による、ブトキシプロピオン酸ブチル(BBP)。
【0009】
混合化合物の重付加又は形成も可能である。
【0010】
重質副生成物の特徴の1つは、その沸点がアクリル酸、ブタノール、及びアクリル酸ブチルの沸点よりも高いことである。それらは、揮発性が低いため、最後の蒸留塔の底部、すなわちこの残留物を濃縮するために用いられるエバポレータの底部に蓄積する。
【0011】
重合禁止剤を依然として含むこれらの重質副生成物をアップグレーディングするためのさまざまな解決策が提案されている。
【0012】
中国特許出願公開第1063678号明細書には、硫酸又はp-トルエンスルホン酸などのプロトン酸触媒を使用して、アクリル酸ブチルの合成中に形成されるオキシエステルを処理する方法が提案されている。米国特許第4293347号明細書に記載されているように、フタレートなどの化合物を添加することもできる。
【0013】
これらの分解方法の欠点は、残留生成物が粘稠であり、固体が含まれていることである。米国特許第6617470号明細書には、底部残留物中の固体の形成を抑制するドデシルスルホン酸などのアリールスルホン酸を触媒として使用することが提案されている。
【0014】
米国特許出願公開第2011/0230675号明細書には、固体の沈着の形成を避けるために、酸触媒作用によって分解が行われるときに水を連続的に加えることが提案されている。
【0015】
最後に、中国特許出願公開第102173990号明細書には、最終的な分解残留物のその後の処理を容易にするために、銅塩を分解装置供給物に添加することが提案されている。
【0016】
米国特許第5767306号明細書には、触媒としての硫酸及び少なくとも1つの重合禁止剤の存在下でAAをブタノールで直接エステル化することによってアクリル酸ブチルを製造するプロセスが記載されており、このプロセスは、下降流エバポレータで濃縮されて、2つの流れ、すなわち、分解装置に供給するための流れと、重合禁止剤を含む残留物を含む流れとを生成する、重質副生成物を含む流れを分離する蒸留工程を含む。
【0017】
本出願人である会社は、仏国特許第2101402号明細書において、アクリル酸2-エチルヘキシルなどのアクリル酸エステルの合成のために、サイドドロー塔、熱分解装置、又は熱及び接触分解装置、並びに分解装置から得られた生成物を処理するためのデカンタ及び洗浄システムを組み合わせたプロセス図を記載している。酸性樹脂によって触媒されるこれらのプロセスでは、いわゆる酸性不純物が、一方では精製セクション前の中和動作中に除去されず、他方では分解中にも生成されるため、この組合せが必要となる。サイドドロー塔とデカンタの組合せ(実施例2参照)がなければ、仕様を満たす、精製されたアクリル酸2-エチルヘキシルを得ることは不可能である。
【0018】
本出願人は、いかなる説明にも拘束されるものではないが、接触分解及び熱分解中のフェノチアジンと酸触媒との相互作用は、分解装置の最終残留物中の固体の形成に大きく関与していると考えている。
【0019】
仏国特許第2108885号明細書では、触媒を使用しない熱分解装置を使用しており、したがって、この相互作用を首尾よく除去することが可能である。しかしながら、分解収率は、熱及び接触分解中に得られる収率よりも低いままである。
【0020】
装置の詰まりの問題を解決するために、仏国特許第2901272号明細書は、大気圧で熱及び接触分解を行う前に、蒸留生成物中のフェノチアジン含有量を100ppm未満の値に制限するために、不活性雰囲気下、任意選択的に分散剤の存在下で、比較的低温で減圧蒸留操作を実施する。
【0021】
このプロセスでは、フェノチアジン除去動作には、ボイラー、減圧で動作させる蒸留塔、コンデンサー、還流装置、及びミストエリミネータ、並びに不活性ガスの注入が必要である。フェノチアジンを除去するためのこの蒸留と、不活性ガスの存在下、大気圧での接触分解とを組み合わせると、残留物中の固体の形成が回避され、非常に満足のいく分解速度が得られる。したがって、想定されるプロセスには、精留塔、この塔の底部のエバポレータ、不活性ガス下での減圧蒸留、最後に不活性ガス下での熱及び接触分解も含まれる。
【0022】
このプロセススキームを簡素化することが依然として必要とされており、実装には依然として労力がかかる。
【0023】
精留塔の底部のエバポレータと減圧下及び不活性雰囲気下での蒸留を、単一のエバポレータとその段階的凝縮システムに置き換えることにより、高純度のアクリル酸ブチルの製造を可能にするプロセスで使用する装置を簡素化しつつ、分解装置の残留物中の固体の生成を大幅に減少させることが今回判明した。
【発明の概要】
【0024】
本発明は、アクリル酸ブチルを再循環させることによって、アクリル酸ブチルの熱に敏感な性質に適合する精留塔底部温度を維持し、かつマイケル付加物を熱及び接触分解装置に送ることを可能にする一方で、反応部分について欧州特許第0609127号明細書に記載されているように、高純度のアクリル酸ブチルの製造を可能にするプロセスのために、このエバポレータの底部にある非常に重質な化合物と重合禁止剤とをパージする、エバポレーションシステムについて説明する。
【0025】
本発明はまた、アクリル酸ブチル精製塔の底部に設置されたエバポレータとその段階的凝縮システムを組み合わせることにより、この特許に記載されている精製スキームを促進し、分解からの上部生成物のプロセスへの再循環についても説明する。
【0026】
本発明は、触媒としての硫酸及び少なくとも1つの重合禁止剤の存在下でアクリル酸を過剰のブタノールで直接エステル化することによってアクリル酸ブチルを製造するプロセスに関し、その結果、アクリル酸ブチル、残留アクリル酸及び残留ブタノール、硫酸水素ブチル、微量の硫酸、並びに副反応から生じる不純物を含む、粗反応混合物が生成され、前記プロセスは、いわゆる酸性不純物を含まない反応混合物を生成させる、中和工程と水による洗浄工程とを含み、酸性不純物を洗浄した前記反応混合物が、少なくとも次の工程i)、ii)、及びiii):
i)蒸留塔にトッピングし、
- 上部における、本質的に未反応の反応物で構成される流れと、
- 底部における、所望のエステルと重質副生成物とを含む流れと
を得ること、
ii)トッピング塔からの底部流を精留塔に供し、
- 上部における、精製された所望のエステルと、
- 底部における、重質副生成物を含む流れと
を分離することであって、この重質副生成物を含む流れが、存在する軽質化合物を精留塔へと再循環させるため、(一又は複数の)重合禁止剤を含む最終残留物を除去するため、及び(一又は複数の)禁止剤、特にフェノチアジンの含有量が1000ppm未満、好ましくは300ppm未満に低減されたマイケル付加物を分解装置へと送るために、冷却された上部流とともに薄膜エバポレータで、2段階で濃縮される、
分離すること、
iii)マイケル付加物を含む流れを熱的分解装置及び接触分解装置に送り、
- 上部における、分解から生じ、反応に再利用される貴重な生成物と、
- 底部における、廃棄物処理工場に送られる最終残留物と
を得ること、
の各工程に供されることを特徴とする。
【0027】
本発明は、最先端の技術の不利益を克服可能にする。より具体的には、仕様として99.5%を超えるエステル純度を有する高純度のアクリル酸ブチルを得るプロセスを提供し、重合禁止剤を除去するための最適化されたプロセスを統合して、マイケル付加物を反応物(アクリル酸及びアルコール)と最終製品とに分解可能にし、したがって、除去される残留物の量を制限することによってプロセスの収率を向上させる。
【0028】
本発明の他の特徴及び利点は、添付の図1及び2を参照して以下の詳細な説明を読むことにより、より明確に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】アクリル酸ブチル精製塔の底部に交換器を備えた、本発明によるアクリル酸ブチルの合成プロセスの全体図
図2】段階的凝縮システムを備えた本発明によるエバポレーションプロセス
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、触媒としての硫酸及び少なくとも1つの重合禁止剤の存在下、アクリル酸を過剰のブタノールで直接エステル化することによってアクリル酸ブチルを製造するプロセスに関し、その結果、アクリル酸ブチル、残留アクリル酸及び残留ブタノール、硫酸水素ブチル、微量の硫酸、並びに副反応から生じる不純物を含む、粗反応混合物が生成される。
【0031】
さまざまな実装形態によれば、前記プロセスは、次の特徴を、該当する場合には組み合わせて含む。
【0032】
エステル化工程の後、本発明によるプロセスは、いわゆる酸性不純物、すなわち、硫酸、硫酸水素ブチル、アクリル酸二量体、及び残留アクリル酸を除去した反応混合物の生成をもたらす、中和工程と水による洗浄工程とを含む。
【0033】
典型的には、上記のように酸性不純物が洗浄された反応混合物は、少なくとも次の工程i)、ii)及びiii):
i)蒸留塔にトッピングし、
- 上部における、本質的に未反応の反応物で構成される流れと、
- 底部における、所望のエステルと重質副生成物とを含む流れと
を得ること、
ii)トッピング塔からの底部流を精留塔に供し、
- 上部における、精製された所望のエステルと、
- 底部における、重質副生成物と前の精製工程で1%から3%程度の含有量で存在する禁止剤とを含む流れと
を分離することであって、この流れが、薄膜エバポレータで濃縮されて、次の3つの流れ:
- 精留塔へと再循環されるアクリル酸ブチル流と、
- 分解装置に供給するためのマイケル付加物流と、
- 重合禁止剤を含む残留物を含む流れ
を生成する、分離すること、
iii)マイケル付加物を含む流れを分解装置内で熱処理及び触媒処理に供し、
- 上部における、反応に再利用されるアップグレード可能な生成物の流れと、
- 底部における、廃棄物処理工場に送られる残留物と
を分離すること、
の各工程に供される。
【0034】
アクリル酸ブチルとマイケル付加物が蒸発除去されるように、反応温度及びエバポレータの圧力は連動している。
【0035】
一実施形態によれば、エバポレーションは、80℃から100℃、とりわけ90℃から100℃の間の温度範囲で行われる。
【0036】
一実施形態によれば、エバポレータ内で維持される圧力は800Paから2000Paの間である。
【0037】
一実施形態によれば、このエバポレータの上部の流れは、次の2つの連続した工程:
- エバポレータの圧力と同じ圧力で50から80℃、とりわけ60℃~70℃の温度範囲で部分凝縮して、一方では、禁止剤含有量が1000ppm未満に低減されたマイケル付加物の液体流を得て分解装置に供給し、他方では蒸気流を得ること、及び
- この蒸気流を20℃から40℃、とりわけ20℃~30℃の温度範囲で凝縮させた後、この液体流をポンプで吸い上げ、精留塔に供給すること
によって冷却される。
【0038】
主に用いられる禁止剤としてフェノチアジンの存在下でアクリル酸ブチルを製造する場合、精留塔の底部のエバポレータに供給される生成物の質量組成は次のとおりである:
- アクリル酸ブチル(40~50%)
- ヒドロキシプロピオン酸ブチル(BHP):0.5~1.5%
- ブトキシプロピオン酸ブチル(BBP):50~70%
- アクリルオキシプロピオン酸ブチル(AA/BuA):2~3%
- マレイン酸ジブチル:1~3%
- フェノチアジン:1~3%。
【0039】
エバポレータ内の滞留時間は約1分である。
【0040】
本発明の好ましい態様を示す図1を参照すると、トッピングセクションは、10及び30の理論段数、好ましくは10から15の理論段数に相当する蒸留塔を含む。塔に用いられるインサートは、バルブトレイ又は穿孔堰トレイ、例えばDual Flow Tray、Ripple Tray、Turbo Grid Shellなどのクロスフロートレイ、又は規則充填(たとえば、Sulzer社のMellapack 250Xなどの構造化充填)でありうる。
【0041】
トッピング塔は、この塔の上部3分の1に、好ましくはカラムの上部から数えて3から10の理論プレート間に供給される。塔の上部流は本質的に、未反応の反応物を含む。このアップグレード可能な流れは反応へと再循環される。
【0042】
塔は、還流比(塔に戻される凝縮液の流量/反応に再循環される流量)が4/1から1/1の間、好ましくは3/1で動作する。有利には、50から5000ppmの重合禁止剤が、本発明のプロセスによる精製システムに導入される。
【0043】
使用可能な重合禁止剤としては、例えば、フェノチアジン(PTZ)、ヒドロキノン(HQ)、ヒドロキノンモノメチルエーテル(HQME)、ジ-tert-ブチル-p-クレゾール(BHT)、p-フェニレンジアミン、TEMPO(2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシ)、ジ-tert-ブチルカテコール、又はOH-TEMPOなどのTEMPO誘導体が、単独で又はあらゆる割合のそれらの混合物として挙げられ、反応媒体中の含有量は50ppmから5000ppmの間であってよく、任意選択的に減損空気の存在下であるが、概して150ppmから1000ppmの間の含有量である。重合禁止剤は、反応物の導入とともにさまざまな位置で、又は蒸留塔の上部において、添加することができる。
【0044】
禁止剤の効果を高めるには、塔の底部に酸素、空気、又は7%のOを含むいわゆる減損空気を注入することが適切である。好ましくは、注入される酸素の量は、塔内の有機蒸気の量に対して0.2%から0.5%の含有量に相当する。
【0045】
塔は減圧下で動作し、塔内の熱に敏感な化合物の熱曝露を最小限に抑えることができる。有利には、トッピング塔は、1000Paから30,000Paの範囲の減圧下で動作する。
【0046】
底部流は、好ましくは塔に供給され、理論段数6から9の間の塔底部において、精製されたエステルを得ることを可能にする。
【0047】
純粋製品蒸留塔は、2及び15の理論段数、好ましくは6から12の理論段数に相当する数を含む。塔に用いられるインサートは、バルブトレイ又は穿孔堰トレイ、例えばDual Flow Tray、Ripple Tray、Turbo Grid Shellなどのクロスフロートレイ、又は規則充填(たとえば、Sulzer社のMellapack 250Xなどの構造化充填)でありうる。
【0048】
塔上部流は、エステル純度仕様が99.5%を超える、高純度のアクリル酸ブチルで構成される。
【0049】
塔は、還流比(塔に戻される凝縮液の流量/純粋な生成物の流量)が 1/8から1/1の間、好ましくは1/4で動作する。それは、トッピング塔と同様に安定化されており、塔の底部に空気又は減損空気(7%O)が注入される。塔は減圧下で動作し、塔内の熱に敏感な化合物の熱曝露を最小限に抑えることができる。有利には、純粋製品塔は、1000パスカルから20,000パスカルの範囲の減圧下で動作する。
【0050】
有利には、動作温度は50℃から160℃の間である。
【0051】
底部流は、粘性のある汚染製品及び汚れた液体に適している、薄膜エバポレータで濃縮される。格子状熱交換器などの他の技術では、滞留時間が長すぎるため、このニーズを満たすことができない。
【0052】
エバポレーションは、800Paから2000Paの間の圧力範囲で、80℃から100℃、とりわけ90℃から100℃の間の温度範囲で行われる。
【0053】
一実施形態によれば、マイケル付加物流を含む精留塔の底部流における重合禁止剤含有量は、この底部流中、3%未満である。
【0054】
次に、上部の付加物流は、仏国特許第2901272号明細書に記載されているような分解装置に供給することができる。この分解装置は、外部交換器を備えた強制再循環反応器である。反応媒体の温度は160℃から180℃の間である。この反応器内の圧力は大気圧に維持される。塔底生成物は最終残留物を構成し、適切なチャネルへと送られる。20℃から30℃の温度で凝縮された上部生成物は、反応器へと送られる。付加物流中の安定剤の残留含有量は固体形成の問題を回避するのに十分であるため、この反応器に空気又は減損空気を注入する必要はない。
【0055】
以下の実施例は本発明を説明するものであるが、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例
【0056】
実験セクション
実施例では、特に断りのない限り、パーセンテージは重量で示され、次の略語を使用した:
PTZ:フェノチアジン
BuA:アクリル酸ブチル
BuOH:ブタノール
BBP:ブトキシプロピオン酸ブチル
DBE:ジブチルエーテル
BAP:アクリルオキシプロピオン酸ブチル
【0057】
実施例1:薄膜エバポレータによる試験
市販の400kPaの蒸気加熱式DV210/1mの薄膜エバポレータ(130Paの圧力で動作する)に、次の混合物を50kg/時の速度で供給する:BuA:9%;BuOH:3.5%;BBP:67%;BAP:5.7%;PTZ:1.8%;100%までの残り:重質残渣。
【0058】
上部生成物(40kg/時)は、4mの管状熱交換器内において20℃で凝縮される。2%フェノチアジンを含むアクリル酸ブチルの溶液を、250g/時で添加することによって安定化させる。この上部生成物は、12.5%BuA;75%BBP;3%ブタノール、及び900ppmフェノチアジンを含む。PTZ(6%)を含むエバポレータ塔底生成物は粒子を有しない。1週間の動作後、交換器及び回路はきれいになる。
【0059】
実施例2:プレート及びシェルエバポレータによる試験
130Paの圧力で動作する、Kapp社が販売する400kPaの蒸気加熱式Vahterusプレート及びシェルエバポレータ タイプ1 PSHE4/2HA-40/1/1 1.2mには、次を含む混合物が50kg/時の速度で供給される:BuA:9%;BuOH:3.5%;BBP:67%;BAP:5.7%;PTZ:1.8%;100%までの残り:重質残渣。交換器内の液相の滞留時間は20分である。
【0060】
PTZ(6%)を含むエバポレータ塔底生成物は粒子を有しない。しかしながら、動作の2日後、交換器が詰まる。
【0061】
実施例3:本発明によるプロセス
Aspen V10でのエバポレーションプロセスのシミュレーションが、添付の図2に示されている。以下の表1は、使用した作業条件及びさまざまな相の組成を示している。
【0062】
このシミュレーションは、一方では、これらの条件下でのエバポレータが、禁止剤が存在しない気相を生成し、他方では、分解装置及び塔フィードに送ることができる液体付加物流及びアクリル酸ブチル流を得ることができることを示している。
図1
図2
【国際調査報告】