(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-18
(54)【発明の名称】高機能性自己幹由来のT細胞免疫療法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0783 20100101AFI20241010BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20241010BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20241010BHJP
A61P 31/20 20060101ALI20241010BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
C12N5/0783
A61K35/17
A61K35/12
A61P31/20
A61P35/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024525118
(86)(22)【出願日】2022-10-26
(85)【翻訳文提出日】2024-06-24
(86)【国際出願番号】 EP2022080008
(87)【国際公開番号】W WO2023073062
(87)【国際公開日】2023-05-04
(32)【優先日】2021-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520179305
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ パリ-サクレー
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS-SACLAY
(71)【出願人】
【識別番号】507139834
【氏名又は名称】アシスタンス ピュブリック-オピト ドゥ パリ
(71)【出願人】
【識別番号】507002516
【氏名又は名称】アンスティチュート、ナシオナル、ドゥ、ラ、サンテ、エ、ドゥ、ラ、ルシェルシュ、メディカル
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL DELA SANTE ET DE LA RECHERCHE MEDICALE
(71)【出願人】
【識別番号】516365507
【氏名又は名称】アンスティテュ・ギュスターヴ・ルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ヤシーヌ・タウフィク
(72)【発明者】
【氏名】マリ-ギレンヌ・マドレンヌ・ド・ゴアー・ド・エルヴェ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA94X
4B065BA24
4B065BB19
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB37
4C087BB63
4C087BB64
4C087CA04
4C087NA14
4C087ZB26
4C087ZB33
(57)【要約】
本発明は、メモリー幹T細胞(Tscm)、特に阻害性受容体発現に基づいて陰性選択された高機能性メモリー幹T細胞(Tscm)の使用に基づく、新規且つ特異的なT細胞療法策に関する。この新規細胞免疫療法は、PML患者に適用され得るが、特異的メモリーT細胞応答が機能上損なわれている他の感染又はがんにもまた適用され得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗原特異的T細胞を含む細胞の集団を得るためのin vitro方法であって、
a) がん又は病原体により引き起こされる疾患に罹患している対象からの細胞試料から、CD4+又はCD8+、CD45RA+、CCR7+及び/又はCD62L+、並びにCD95+を含む細胞表面表現型を有するTscm細胞の集団をソーティングする工程、
b) 少なくとも1つの目的の抗原又は少なくとも1つの目的の抗原に由来する少なくとも1つのペプチドをロードした抗原提示細胞の存在下において、並びに場合によりIL-7及びIL-15又は他の刺激性サイトカインの存在下において、Tscm細胞の前記集団を培養する工程、並びに場合により
c) 工程b)において得られる細胞、特にCD8+及び/又はCD4+細胞、好ましくはCD8+及びCD4+細胞を回収する工程
を含む方法。
【請求項2】
工程a)においてソーティングされるTscm細胞の前記集団が、PD1-、TIGIT-、LAG3-、TIM3-、CTLA4-及び/又はCD160-、好ましくはPD1-、TIGIT-、LAG3-及び/又はTIM3-を更に含む細胞表面表現型を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程a)においてソーティングされるTscm細胞の前記集団が、PD1-及びTIGIT-、並びに場合によりLAG3-、TIM3-、CTLA4-及び/又はCD160-、好ましくはLAG3-及び/又はTIM3-、より好ましくはLAG3-及びTIM3-を更に含む細胞表面表現型を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
工程a)においてソーティングされるTscm細胞の前記集団が、CD3+、CD45RO-、CXCR3+及び/又はCD122+、好ましくはCD3+及びCD45RO-を更に含む細胞表面表現型を有する、請求項1又は3に記載の方法。
【請求項5】
工程a)においてソーティングされるTscm細胞の前記集団が、CD4+、CD8-、CD45RA+、CD95+、CCR7+、PD1-及びTIGIT-を含む細胞表面表現型を有する細胞、並びにCD4-、CD8+、CD45RA+、CD95+、CCR7+、PD1-及びTIGIT-を含む細胞表面表現型を有する細胞を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程a)においてソーティングされるTscm細胞の前記集団が、CD4+、CD8-、CD45RA+、CD95+、CCR7+、PD1-、TIGIT-、LAG3及びTIM3-、好ましくはCD3+、CD45RO-、CD4+、CD8-、CD45RA+、CD95+、CCR7+、PD1-、TIGIT-、LAG3及びTIM3-を含む細胞表面表現型を有する細胞、並びにCD4-、CD8+、CD45RA+、CD95+、CCR7+、PD1-、TIGIT-、LAG3-及びTIM3-、好ましくはCD3+、CD45RO-、CD4-、CD8+、CD45RA+、CD95+、CCR7+、PD1-、TIGIT-、LAG3-及びTIM3-を含む細胞表面表現型を有する細胞を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記抗原提示細胞が、樹状細胞、単球、末梢血単核球(PBMC)、エプスタイン・バーウイルス形質転換Bリンパ芽球腫細胞株細胞(EBV-BLCL細胞)又は人工抗原提示細胞(AAPC)である、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記抗原提示細胞が、前記対象について自家性である、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記抗原提示細胞が、単球又は樹状細胞、好ましくは、前記対象について自家性の単球又は樹状細胞である、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
少なくとも1つの目的の前記抗原が、病原体抗原、好ましくはウイルス、細菌若しくは真菌抗原、又は腫瘍細胞によって発現される抗原、例えば腫瘍特異的抗原(TSA)若しくは腫瘍関連抗原(TAA)である、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記対象が、がんに罹患している、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
少なくとも1つの目的の前記抗原が、腫瘍細胞によって発現される抗原、例えば腫瘍特異的抗原(TSA)又は腫瘍関連抗原(TAA)である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記対象が、ヒトポリオーマウイルスにより引き起こされる疾患に罹患している、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
少なくとも1つの目的の前記抗原が、ヒトポリオーマウイルスの抗原である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記対象が、進行性多巣性白質脳炎、メルケル細胞癌又はBKウイルス関連腎症に罹患している、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
少なくとも1つの目的の前記抗原が、ポリオーマウイルスJC、ポリオーマウイルスMPCyV及びポリオーマウイルスBKからなる群から選択される、請求項13から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記対象が、メルケル細胞癌に罹患している、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
少なくとも1つの目的の前記抗原が、ポリオーマウイルスMPCyVの抗原である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記対象が、進行性多巣性白質脳炎に罹患している、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
少なくとも1つの目的の前記抗原が、ポリオーマウイルスJCの抗原である、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
工程b)において、Tscm細胞の前記集団が、IL-7及びIL-15の存在下において培養される、請求項1から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
工程b)において、Tscm細胞の前記集団が、8~20日、好ましくは10~18日、より好ましくは12~16日間培養される、請求項1から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記細胞試料が、骨髄細胞試料、血液細胞試料、分画化若しくは非分画化全血試料、分画化若しくは非分画化アフェレーシス収集物、腫瘍浸潤リンパ球、PBMC、又は血液試料若しくはPBMCからのT細胞で富化された集団である、請求項1から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
請求項1から23のいずれか一項に記載の方法によって得られるか又は得ることが可能な、抗原特異的CD8+T細胞、及び場合により抗原特異的CD4+T細胞を含む単離された細胞の集団。
【請求項25】
Tscm細胞、Tエフェクター(Teff)細胞、T中枢メモリー(Tcm)細胞、及びTエフェクターメモリー(Tem)細胞を含むか又はからなる、請求項24に記載の単離された細胞の集団。
【請求項26】
単離された細胞の前記集団において、Tscm、Tcm及びTem細胞が、全細胞の最大90%、好ましくは50%~90%を構成し、Teff細胞が、全細胞の10%~50%、好ましくは10%~20%を構成する、請求項24又は25に記載の単離された細胞の集団。
【請求項27】
細胞療法医薬としての、請求項24から26のいずれか一項に記載の単離された細胞の集団。
【請求項28】
請求項24から26のいずれか一項に記載の単離された細胞の集団、並びに薬学的に許容される担体及び/又は賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項29】
がん又は病原体により引き起こされる疾患の治療における使用のための、請求項24から26のいずれか一項に記載の単離された細胞の集団、又は請求項28に記載の医薬組成物。
【請求項30】
ヒトポリオーマウイルスにより引き起こされる疾患の治療における使用のための、請求項29に記載の使用のための単離された細胞の集団又は医薬組成物。
【請求項31】
前記疾患が、進行性多巣性白質脳炎、メルケル細胞癌又はBKウイルス関連腎症である、請求項30に記載の使用のための単離された細胞の集団又は医薬組成物。
【請求項32】
前記病原体が、ポリオーマウイルスJCであり、前記疾患が、進行性多巣性白質脳炎である、請求項30又は31に記載の使用のための単離された細胞の集団又は医薬組成物。
【請求項33】
前記病原体が、ポリオーマウイルスMCPyVであり、前記疾患が、メルケル細胞癌である、請求項30又は31に記載の使用のための単離された細胞の集団又は医薬組成物。
【請求項34】
前記集団が、治療される前記対象について自家性である、請求項29から33のいずれか一項に記載の使用のための単離された細胞の集団又は医薬組成物。
【請求項35】
投与される単離された細胞の集団又は医薬組成物の用量が、前記対象の体重1kg当たり1000~10,000,000個の抗原特異的CD8+T細胞を含む、請求項29から34のいずれか一項に記載の使用のための単離された細胞の集団又は医薬組成物。
【請求項36】
投与される単離された細胞の集団又は医薬組成物の前記用量が、前記対象の体重1kg当たり1000~10,000,000個の抗原特異的CD4+T細胞を更に含む、請求項35に記載の使用のための単離された細胞の集団又は医薬組成物。
【請求項37】
がん又は病原体により引き起こされる疾患を治療するための医薬を調製するための、請求項24から26のいずれか一項に記載の単離された細胞の集団又は請求項28に記載の医薬組成物の使用。
【請求項38】
がん又は病原体により引き起こされる疾患に罹患している対象を治療するための方法であって、前記対象に、治療有効量の請求項24から26のいずれか一項に記載の単離された細胞の集団又は請求項28に記載の医薬組成物を投与する工程を含む方法。
【請求項39】
メモリー幹T細胞(Tscm細胞)の集団を得るためのin vitro方法であって、対象からの細胞試料から、CD4+又はCD8+、CD45RA+、CD95+、CCR7+及び/又はCD62L+、PD1-及びTIGIT-、並びに場合によりLAG3-、TIM3-、CTLA4-及び/又はCD160-、好ましくはLAG3-及び/又はTIM3-を含む細胞表面表現型を有するTscm細胞の集団をソーティングする工程を含む方法。
【請求項40】
前記対象が、がん又は病原体により引き起こされる疾患に罹患している、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記対象が、ヒトポリオーマウイルスにより引き起こされる疾患に罹患している、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記対象が、進行性多巣性白質脳炎、メルケル細胞癌又はBKウイルス関連腎症に罹患している、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記対象が、進行性多巣性白質脳炎に罹患している、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記対象が、メルケル細胞癌に罹患している、請求項42に記載の方法。
【請求項45】
(i)CD4+、CD45RA+、CD95+、CCR7+及び/若しくはCD62L+、PD1-、TIGIT-、並びに場合によりLAG3-、TIM3-、CTLA4-及び/若しくはCD160-、好ましくはLAG3-及び/若しくはTIM3-、並びに/又は(ii)CD8+、CD45RA+、CD95+、CCR7+及び/若しくはCD62L+、PD1-、TIGIT-、並びに場合によりLAG3-、TIM3-、CTLA4-及び/若しくはCD160-、好ましくはLAG3-及び/若しくはTIM3-を含む細胞表面表現型を有する単離されたTscm細胞の集団。
【請求項46】
(i)CD4+、CD45RA+、CD95+、CCR7+及び/若しくはCD62L+、PD1-、TIGIT-、LAG3-及びTIM3-、並びに/又は(ii)CD8+、CD45RA+、CD95+、CCR7+及び/若しくはCD62L+、PD1-、TIGIT-、LAG3-及びTIM3-を含む細胞表面表現型を有する、請求項45に記載の単離されたTscm細胞の集団。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬の分野、特に、T細胞免疫療法を使用する、がん又は病原体により引き起こされる疾患、好ましくはヒトポリオーマウイルスにより引き起こされる疾患、例えば進行性多巣性白質脳炎の治療に関する。
【背景技術】
【0002】
進行性多巣性白質脳炎(PML)は、予後不良を伴う脱髄性の日和見性疾患であり、中枢神経系におけるポリオーマウイルスJC(JCV)の複製と関連付けられている。PMLは、長期且つ重度の細胞免疫抑制中に、主にAIDS患者若しくは悪性血液疾患を有する患者において、又は新規の強力な免疫抑制生物療法を含む免疫抑制療法後に、排他的に観察される。この破壊的な疾患は、高い死亡率及び生存者における主要な神経性後遺症と関連付けられている。
【0003】
PMLは、最適機能性に機能性メモリーCD4 T細胞を必要とする細胞傷害性メモリーCD8 Tリンパ球による、ウイルス複製の脳内免疫制御の機能障害と関連する。抗JCウイルスCD8 T細胞応答の機能障害は、アネルギー、及びPD1、LAG3、TIGIT、TIM3、CTLA4、CD160等の阻害性受容体の過剰発現による機能的消耗を含むいくつかの機構を含む。
【0004】
PMLのための特定の抗ウイルス治療はない。いくらかの有効性を示した唯一の治療的手法は、可能である場合抗JCV T細胞応答の機能的回復であり、例えばHIV感染患者において有効な抗レトロウイルス治療を開始することによるか、又は免疫抑制療法を停止することによる。しかしながら、そのような免疫回復は長期間を必要とする場合があり、その間にJCVはその複製を継続し、神経病変を拡張し、生存及び神経学的予後を危うくする。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Szabolcsら(1995) J. Immunol. 154:5851~5861
【非特許文献2】Remington:The Science and Practice of Pharmacy(第20版)、編A. R. Gennaro、Lippincott Williams & Wilkins、2000
【非特許文献3】Encyclopedia of Pharmaceutical Technology、編J. Swarbrick及びJ. C. Boylan、1988-1999、Marcel Dekker、New York
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
それゆえ、PML患者においてJCVに対して有効且つ維持された免疫応答を効率的に生成し得る新規治療選択肢について強い要求がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、メモリー幹T細胞(Tscm)、特に阻害性受容体発現に基づいて陰性選択された高機能性Tscmの使用に基づく、新規特異的T細胞療法策を開発した。この手法は、PML患者等の重度且つ長期の免疫抑制を有する患者において、この稀なメモリーT細胞サブセットが、拡張及び分化の点において高機能性を維持する場合があり、ウイルス又は腫瘍抗原に対する、ex vivoで有効な特異的細胞傷害性エフェクターを生成することができ;一方で、エフェクターメモリー(Tem)若しくは中枢メモリー(Tcm)又はエフェクター(Teff)等のより分化したメモリーT細胞サブセットは、ウイルス又は腫瘍抗原に対する機能性が乏しいという重要な観察に基づく。この新規細胞免疫療法は、PML患者に適用され得るが、特異的メモリーT細胞応答が機能上損なわれている他の感染又はがんにもまた適用され得る。
【0008】
したがって、第1の態様において、本発明は、抗原特異的T細胞を含む細胞の集団を得るためのin vitro方法であって、
a) がん又は病原体により引き起こされる疾患、特に特異的メモリーT細胞応答が機能上損なわれているがん又は病原体により引き起こされる疾患に罹患している対象からの細胞試料から、CD4+又はCD8+、CD45RA+、CCR7+及び/又はCD62L+、並びにCD95+を含む細胞表面表現型を有するTscm細胞の集団をソーティングする工程、
b) 少なくとも1つの目的の抗原又は少なくとも1つの目的の抗原に由来する少なくとも1つのペプチドをロードした抗原提示細胞の存在下において、並びに場合によりIL-7及びIL-15又は他の刺激性サイトカインの存在下において、Tscm細胞の前記集団を培養する工程、並びに場合により
c) 工程b)において得られる細胞、特にCD8+及び/又はCD4+細胞、好ましくはCD8+及びCD4+細胞を回収する工程
を含む方法に関する。
【0009】
工程a)においてソーティングされるTscm細胞の集団は、PD1-、TIGIT-、LAG3-、TIM3-、CTLA4-及び/又はCD160-、好ましくはPD1-、TIGIT-、LAG3-及び/又はTIM3-を更に含む細胞表面表現型を有し得る。特に、工程a)においてソーティングされるTscm細胞の集団は、PD1-及びTIGIT-、並びに場合によりLAG3-、TIM3-、CTLA4-及び/又はCD160-、好ましくはLAG3-及び/又はTIM3-、より好ましくはLAG3-及びTIM3-を更に含む細胞表面表現型を有し得る。
【0010】
或いは、方法は、
a) 対象からの細胞試料から、CD4+又はCD8+、CD45RA+、CD95+、CCR7+及び/又はCD62L+、PD1-並びにTIGIT-を含む細胞表面表現型を有するTscm細胞の集団をソーティングする工程、
b) 少なくとも1つの目的の抗原に由来する少なくとも1つの免疫原性ペプチドをロードした抗原提示細胞の存在下において、並びに場合によりIL-7及びIL-15又は他の刺激性サイトカインの存在下において、Tscm細胞の前記集団を培養する工程、並びに
c) 工程b)において得られる細胞の集団からCD8+細胞及び場合によりCD4+細胞を、好ましくは工程b)において得られる細胞の集団からCD8+細胞及びCD4+細胞をソーティングする工程
を含み得る。
【0011】
場合により、工程a)においてソーティングされるTscm細胞の集団は、LAG3-、TIM3-、CTLA4-及び/又はCD160-、好ましくはLAG3-及び/又はTIM3-を更に含む細胞表面表現型を有する。
【0012】
工程a)においてソーティングされるTscm細胞の集団は、CD3+、CD45RO-、CXCR3+及び/又はCD122+、好ましくはCD3+及びCD45RO-を更に含む細胞表面表現型を有し得る。
【0013】
特に、工程a)においてソーティングされるTscm細胞の集団は、CD4+、CD8-、CD45RA+、CD95+、CCR7+、PD1-及びTIGIT-を含む細胞表面表現型を有する細胞、並びにCD4-、CD8+、CD45RA+、CD95+、CCR7+、PD1-及びTIGIT-を含む細胞表面表現型を有する細胞を含み得る。
【0014】
より特に、工程a)においてソーティングされるTscm細胞の集団は、CD4+、CD8-、CD45RA+、CD95+、CCR7+、PD1-、TIGIT-、LAG3及びTIM3-、好ましくはCD3+、CD45RO-、CD4+、CD8-、CD45RA+、CD95+、CCR7+、PD1-、TIGIT-、LAG3及びTIM3-を含む細胞表面表現型を有する細胞、並びにCD4-、CD8+、CD45RA+、CD95+、CCR7+、PD1-、TIGIT-、LAG3-及びTIM3-、好ましくはCD3+、CD45RO-、CD4-、CD8+、CD45RA+、CD95+、CCR7+、PD1-、TIGIT-、LAG3-及びTIM3-を含む細胞表面表現型を有する細胞を含み得る。
【0015】
抗原提示細胞は、樹状細胞、単球、末梢血単核球(PBMC)、エプスタイン・バーウイルス形質転換Bリンパ芽球腫細胞株細胞(EBV-BLCL細胞)又は人工抗原提示細胞(AAPC)であり得る。
【0016】
好ましくは、抗原提示細胞は、対象について自家性である。
【0017】
好ましくは、抗原提示細胞は、単球又は樹状細胞、より好ましくは、対象について自家性の単球又は樹状細胞である。
【0018】
少なくとも1つの目的の前記抗原は、病原体抗原、好ましくはウイルス、細菌若しくは真菌抗原、又は腫瘍細胞によって発現される抗原、例えば腫瘍特異的抗原(TSA)若しくは腫瘍関連抗原(TAA)であり得る。
【0019】
対象は、がんに罹患している場合がある。
【0020】
少なくとも1つの目的の前記抗原は、腫瘍細胞によって発現される抗原、例えば腫瘍特異的抗原(TSA)又は腫瘍関連抗原(TAA)であり得る。
【0021】
対象は、ヒトポリオーマウイルスにより引き起こされる疾患、好ましくは進行性多巣性白質脳炎、メルケル細胞癌又はBKウイルス関連腎症に罹患している場合がある。
【0022】
好ましくは、少なくとも1つの目的の前記抗原は、ヒトポリオーマウイルスの抗原、特にポリオーマウイルスJC、ポリオーマウイルスMPCyV又はポリオーマウイルスBKからなる群から選択される抗原である。より好ましくは、少なくとも1つの目的の前記抗原は、ポリオーマウイルスJC又はMPCyVの抗原、特にポリオーマウイルスJCの抗原である。
【0023】
工程b)において、Tscm細胞の集団は、IL-7及びIL-15の存在下において培養されてもよく、且つ/又は8~20日、好ましくは10~18日、より好ましくは12~16日間培養されてもよい。
【0024】
細胞試料は、骨髄細胞試料、血液細胞試料、分画化若しくは非分画化全血試料、分画化若しくは非分画化アフェレーシス収集物、腫瘍浸潤リンパ球、PBMC、又は血液試料若しくはPBMCからのT細胞で富化された集団であり得る。
【0025】
また、本発明は、抗原特異的T細胞を含む細胞の集団を得るための本発明の方法によって得られるか又は得ることが可能な、抗原特異的CD8+T細胞、及び場合により抗原特異的CD4+T細胞を含む単離された細胞の集団に関する。単離された集団は、Tscm細胞、Tエフェクター(Teff)細胞、T中枢メモリー(Tcm)細胞、及びTエフェクターメモリー(Tem)細胞を含むか又はからなり得る。
【0026】
単離された本発明の細胞の集団において、Tscm、Tcm及びTem細胞は、全細胞の最大90%、好ましくは50%~90%を構成する場合があり、Teff細胞は、全細胞の10%~50%、好ましくは10%~20%を構成し得る。
【0027】
また、本発明は、メモリー幹T細胞(Tscm細胞)の集団を得るためのin vitro方法であって、対象からの細胞試料から、CD4+又はCD8+、CD45RA+、CD95+、CCR7+及び/又はCD62L+、PD1-及びTIGIT-、並びに場合によりLAG3-、TIM3-、CTLA4-及び/又はCD160-、好ましくはLAG3-及び/又はTIM3-を含む細胞表面表現型を有するTscm細胞の集団をソーティングする工程を含む方法に関する。
【0028】
対象は、がん又は病原体により引き起こされる疾患、特に特異的メモリーT細胞応答が機能上損なわれているがん又は病原体により引き起こされる疾患を有し得る。
【0029】
好ましくは、対象は、ヒトポリオーマウイルスにより引き起こされる疾患に罹患している。
【0030】
より好ましくは、対象は、進行性多巣性白質脳炎、メルケル細胞癌又はBKウイルス関連腎症に罹患している。
【0031】
本発明は、(i)CD4+、CD45RA+、CD95+、CCR7+及び/若しくはCD62L+、PD1-、TIGIT-、並びに場合によりLAG3-及び/若しくはTIM3-、並びに/又は(ii)CD8+、CD45RA+、CD95+、CCR7+及び/若しくはCD62L+、PD1-、TIGIT-、並びに場合によりLAG3-、TIM3-、CTLA4-及び/若しくはCD160-、好ましくはLAG3-及び/若しくはTIM3-、より好ましくはLAG3-及びTIM3-を含む細胞表面表現型を有する単離されたTscm細胞の集団に更に関する。
【0032】
また、本発明は、細胞療法医薬としての、本発明の抗原特異的CD8+T細胞、及び場合により抗原特異的CD4+T細胞を含む単離された細胞の集団、又は単離された本発明のTscm細胞の集団に関する。また、それは、本発明の抗原特異的CD8+T細胞を含む単離された細胞の前記集団、又は単離された本発明のTscm細胞の前記集団、並びに薬学的に許容される担体及び/又は賦形剤を含む医薬組成物に関する。
【0033】
本発明は、がん又は病原体により引き起こされる疾患、特に特異的メモリーT細胞応答が機能上損なわれているがん又は病原体により引き起こされる疾患の治療における使用のための、本発明の抗原特異的CD8+T細胞、及び場合により抗原特異的CD4+T細胞を含む単離された細胞の前記集団、単離された本発明のTscm細胞の前記集団又は前記医薬組成物に更に関する。
【0034】
好ましくは、治療される疾患は、ポリオーマウイルスにより引き起こされる、より好ましくはヒトポリオーマウイルスにより引き起こされる疾患である。特に、治療される疾患は、進行性多巣性白質脳炎、メルケル細胞癌又はBKウイルス関連腎症であり得る。
【0035】
好ましくは、治療される疾患は、病原体がポリオーマウイルスJCであり、疾患が進行性多巣性白質脳炎(PML)である、病原体により引き起こされる疾患である。或いは、治療される疾患は、病原体がポリオーマウイルスMCPyVであり、疾患がメルケル細胞癌である、病原体により引き起こされる疾患であるか、又は治療される疾患は、病原体がポリオーマウイルスBKVであり、疾患がBKウイルス関連腎症である、病原体により引き起こされる疾患である。
【0036】
好ましくは、治療に使用される細胞は、治療される対象について自家性である。
【0037】
投与される単離された細胞の集団又は医薬組成物の用量は、対象の体重1kg当たり1000~10,000,000個の抗原特異的CD8+T細胞を含み得る。用量は、対象の体重1kg当たり1000~10,000,000個の抗原特異的CD4+T細胞を更に含み得る。
【0038】
本発明は、がん又は病原体により引き起こされる疾患、特に特異的メモリーT細胞応答が機能上損なわれているがん又は病原体により引き起こされる疾患を治療するための医薬を調製するための、単離された本発明の細胞の集団、又は本発明の医薬組成物の使用に更に関する。
【0039】
本発明は、がん又は病原体により引き起こされる疾患、特に特異的メモリーT細胞応答が機能上損なわれているがん又は病原体により引き起こされる疾患に罹患している対象を治療するための方法であって、前記対象に治療有効量の単離された本発明の細胞の集団又は本発明の医薬組成物を投与する工程を含む方法に更に関する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】Tscm、Tcm、Tem CD4又はCD8 T細胞上の阻害性受容体(PD1、TIGIT、LAG3、TIM3)の任意の組合せの発現を示す図である。各行は、1人の患者を表す。
【
図2】阻害性受容体が、主にPD1及び/又はTIGITを含むことを示す図である。円グラフの黒色部分は、単独又は他の阻害性受容体との組合せの、PD1及び/又はTIGITについて陽性の細胞を表す。灰色部分は、PD1及び/又はTIGITよりも他の阻害性受容体について陽性の細胞を表す。白色部分は、阻害性受容体について陰性の細胞を表す。各行は、1人の患者を表す。
【
図3】高機能性Tscmの単離についてのゲーティング策を示す図である。同じゲーティング策をCD4及びCD8 T細胞に適用した。
【
図4】ソーティングされた様々なT細胞サブセットの増殖能を示す図である。左:より分化したCD45RO+メモリー細胞(プールしたCD4及びCD8 Tcm及びTem)に対する全Tscm(プールしたCD4及びCD8 Tscm)。右:PD1及び/又はTIGIT及び/又はTIM3及び/又はLAG3について陽性のTscmに対する、PD1、TIGIT、TIM3及びLAG3について陰性のTscm。拡張速度は、以下のように計算した:[14日目の培養物中の細胞数]/[0日目の細胞数]。統計的有意性:*p<0.05、ウィルコクソン検定。
【
図5】ソーティングした様々なT細胞サブセットから14日間の培養後に得られた細胞の特異的細胞傷害性潜在性を示す図である。統計的有意性:*p<0.05、ウィルコクソン検定。細胞傷害性潜在性は、JCVペプチドをロードした自家性細胞(CD14及びCD3枯渇PBMC)による再刺激後のグランザイムb及びパーフォリンの発現によって評価された。
【
図6】14日間のin vitro培養後のPD1-TIGIT-Tscm CD8 T細胞の分化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明者らは、PML患者において抗JCV T細胞機能阻害を回避するために、新規自家性特異的T細胞療法策を開発した。この手法は、メモリー幹T細胞(Tscm)、好ましくは阻害性受容体発現に基づいて陰性選択された高機能性Tscmの使用に基づく。実際に、彼らは、PML患者等の重度且つ長期の免疫抑制を有する患者において、この稀なメモリーT細胞サブセットが、拡張及び分化の点において高機能性を維持する場合があり、ウイルス又は腫瘍抗原に対する、ex vivoで有効な特異的細胞傷害性エフェクターを生成し得ることを観察した。また、彼らは、HIV感染、血液系腫瘍、及び免疫抑制生物療法による治療を含む様々な免疫学的バックグラウンドからのPML患者において、Tscm細胞は、より分化したメモリー細胞よりも低い量の阻害性受容体を発現することを実証した。彼らは、PD1及びTIGIT排除に基づく選択は、阻害性受容体発現Tscmの大部分を枯渇させることを可能にすることを更に実証した。また、彼らは、これらのPD1-TIGIT-Tscm細胞は、PD1+及び/又はTIGIT+Tscm並びにより分化したメモリー細胞と比較して、より優れた増殖能及びより優れた細胞傷害能を示すことを示した。これらの細胞は、in vitroで、エフェクター細胞を含むより分化したメモリー細胞に効率的に分化するが、大部分は、Tscm表現型を保持し、投与後にin vivoでの更なる分化の周期及びそれゆえ長期治療効果を可能にする。したがって、in vitro活性化、分化及び拡張後、これらの細胞は、抗原特異的T細胞を含み且つPML患者においてJCVに対する有効且つ維持された免疫応答を生成することができる細胞の集団を提供することができる。また、この新規細胞療法に基づくオーダーメイド医療は、特異的抗ウイルス性又は抗腫瘍性メモリーT細胞応答が機能上損なわれている他の慢性ウイルス感染又はがんに適用することができる。
【0042】
第1の態様において、本発明は、抗原特異的T細胞を含む細胞の集団を得るためのin vitro方法であって、
a) 対象からの細胞試料から、Tscm細胞の集団、すなわち、(i)CD4+又はCD8+、(ii)CD45RA+、(iii)CD95+、並びに(iv)CCR7+及び/又はCD62L+を含む細胞表面表現型を有するTscm細胞の集団をソーティングする工程、
b) 少なくとも1つの目的の抗原又は少なくとも1つの目的の前記抗原に由来する1つ若しくはそれ以上のペプチドをロードした抗原提示細胞の存在下において、並びに場合によりIL-7及びIL-15又は他の刺激性サイトカインの存在下において、Tscm細胞の前記集団を培養する工程、並びに場合により
c) 工程b)において得られる細胞、特にCD8+及び/又はCD4+細胞、好ましくはCD8+及びCD4+細胞を回収する工程
を含む方法に関する。
【0043】
好ましくは、工程a)において、Tscm細胞の集団は、PD1-、TIGIT-、LAG3-、TIM3-、CTLA4-及び/又はCD160-、より好ましくはPD1-、TIGIT-、LAG3-及び/又はTIM3-を更に含む細胞表面表現型を有する。
【0044】
好ましい実施形態において、方法は、
a) 対象からの細胞試料から、高機能性Tscm細胞の集団、すなわち、(i)CD4+又はCD8+、(ii)CD45RA+、(iii)CD95+、(iv)CCR7+及び/又はCD62L+、(v)PD1-並びに(vi)TIGIT-を含む細胞表面表現型を有するTscm細胞の集団をソーティングする工程、
b) 少なくとも1つの目的の抗原又は少なくとも1つの目的の前記抗原に由来する1つ若しくはそれ以上のペプチドをロードした抗原提示細胞の存在下において、並びに場合によりIL-7及びIL-15又は他の刺激性サイトカインの存在下において、Tscm細胞の前記集団を培養する工程、並びに場合により
c) 工程b)において得られる細胞、特にCD8+及び/又はCD4+細胞、好ましくはCD8+及びCD4+細胞を回収する工程
を含む。
【0045】
特に、工程c)において、CD8+細胞、及び場合によりCD4+細胞は、工程b)において得られる細胞の集団からソーティングされ得る。
【0046】
場合により、工程a)は、1つ又はいくつかの他の阻害性受容体、例えばLAG3、TIM3、CTLA4又はCD160を発現する細胞を枯渇させることを更に含み得る。特に、工程a)は、LAG3、TIM3、CTLA4及び/又はCD160を発現する細胞を枯渇させることを更に含み得る。この場合、ソーティングされる細胞の集団は、(i)CD4+又はCD8+、CD45RA+、CD95+、CCR7+及び/又はCD62L+、PD1-及びTIGIT-、並びに(ii)LAG3-、TIM3-、CTLA4-及び/又はCD160-を含む細胞表面表現型を有し得る。
【0047】
好ましくは、工程a)は、LAG3及び/又はTIM3を発現する細胞を枯渇させることを更に含む。この場合、ソーティングされる細胞の集団は、(i)CD4+又はCD8+、CD45RA+、CD95+、CCR7+及び/又はCD62L+、PD1-及びTIGIT-、並びに(ii)LAG3-及び/又はTIM3-を含む細胞表面表現型、好ましくはCD4+又はCD8+、CD45RA+、CD95+、CCR7+及び/又はCD62L+、PD1-、TIGIT-、LAG3-及びTIM3-を含む細胞表面表現型を有し得る。
【0048】
場合により、工程a)は、CD45ROを発現する細胞を枯渇させること、及び/又はCD3を発現する細胞を選択することを更に含み得る。この場合、ソーティングされる細胞の集団は、(i)CD4+又はCD8+、CD3+、CD45RA+、CD45RO-、CD95+、CCR7+及び/又はCD62L+、好ましくはCD4+又はCD8+、CD3+、CD45RA+、CD45RO-、CD95+、CCR7+及び/又はCD62L+、PD1-及び/又はTIGIT-、より好ましくはCD4+又はCD8+、CD3+、CD45RA+、CD45RO-、CD95+、CCR7+及び/又はCD62L+、PD1-及びTIGIT-、並びに場合により(ii)LAG3-、TIM3-、CTLA4-及び/又はCD160-を含む細胞表面表現型を有し得る。好ましくは、工程a)は、LAG3及び/又はTIM3を発現する細胞を枯渇させること、好ましくは、LAG3及びTIM3を発現する細胞を枯渇させることを更に含む。この場合、ソーティングされる細胞の集団は、(i)CD4+又はCD8+、CD3+、CD45RA+、CD45RO-、CD95+、CCR7+及び/又はCD62L+、好ましくはCD4+又はCD8+、CD3+、CD45RA+、CD45RO-、CD95+、CCR7+及び/又はCD62L+、PD1-及び/又はTIGIT-、より好ましくはCD4+又はCD8+、CD3+、CD45RA+、CD45RO-、CD95+、CCR7+及び/又はCD62L+、PD1-及びTIGIT-、並びに(ii)LAG3-及び/又はTIM3-、好ましくはLAG3-及びTIM3-を含む細胞表面表現型を有し得る。
【0049】
本明細書で使用される場合、「CD4」という用語は、T細胞受容体(TCR)についての共受容体として働く糖タンパク質であるT細胞表面糖タンパク質CD4を指す。ヒトにおいては、CD4タンパク質は、CD4遺伝子によってコードされる。
【0050】
本明細書で使用される場合、「CD8」という用語は、T細胞受容体(TCR)についての共受容体として働く膜貫通糖タンパク質を指す。タンパク質の2つのアイソフォームである、アルファ及びベータがあり、各々は、異なる遺伝子によってコードされる。CD8は、1対のCD8鎖からなる二量体を形成する。本明細書で使用される場合、「CD8」という用語は、ヒトにおいてはCD8A遺伝子によってコードされるCD8-α鎖を指す。
【0051】
本明細書で使用される場合、「CD3」という用語は、タンパク質複合体及びT細胞共受容体を指す。哺乳動物において、この複合体は、CD3γ鎖、CD3δ鎖、及び2つのCD3ε鎖を含有する。CD3は、T細胞受容体(TCR)を含むより大きな複合体の部分である。TCRと会合したCD3複合体は、免疫応答中の主要組織適合抗原複合体クラスI及びIIに結合されたペプチドの認識に関与する。本明細書で使用される場合、「CD3」という用語は、ヒトにおいてはCD3G遺伝子によってコードされるCD3γ鎖、ヒトにおいてはCD3D遺伝子によってコードされるCD3δ鎖、又はヒトにおいてはCD3E遺伝子によってコードされるCD3ε鎖を指す。
【0052】
本明細書で使用される場合、「CD45RA」という用語は、CD45とも命名された受容体型チロシン-タンパク質ホスファターゼCの200~220kDaアイソフォームを指す。ヒトにおいて、CD45タンパク質は、PTPRC遺伝子によってコードされる。このチロシンホスファターゼは、抗原受容体を通したT細胞活性化に必要とされる。CD45RAアイソフォームは、Aタンパク質領域のみを含む。
【0053】
本明細書で使用される場合、「CD45RO」という用語は、CD45とも命名された受容体型チロシン-タンパク質ホスファターゼCの180kDaアイソフォームを指す。このアイソフォームは、最も短いCD45アイソフォームであり、A、B及びC領域の3つすべてを欠く。
【0054】
本明細書で使用される場合、「CD95」という用語は、Fas、FasR、アポトーシス抗原1又は腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーメンバー6(TNFRSF6)としても公知のFas受容体を指す。ヒトにおいて、CD95タンパク質は、FAS遺伝子によってコードされる。
【0055】
本明細書で使用される場合、「CCR7」という用語は、CD197としても公知のC-Cケモカイン受容体7型を指し、Gタンパク質連結型受容体ファミリーの一員である。ヒトにおいて、CCR7タンパク質は、CCR7遺伝子によってコードされる。
【0056】
本明細書で使用される場合、「CD62L」という用語は、近隣の細胞上の糖タンパク質に結合することによって細胞接着を媒介するカルシウム依存性レクチンであるL-セレクチンを指す。特に、CD62Lは、リンパ球の、末梢リンパ節における高内皮細静脈の内皮細胞への接着を媒介する。ヒトにおいて、CD62Lは、SELL遺伝子によってコードされる。
【0057】
本明細書で使用される場合、「PD1」という用語は、CD279としても公知のプログラム化された細胞Dタンパク質1を指す。PD1は、免疫グロブリンスーパーファミリーに属し、T及びB細胞の表面上で発現する細胞表面受容体である。ヒトにおいて、PD-1タンパク質は、PDCD1遺伝子によってコードされる。
【0058】
本明細書で使用される場合、「TIGIT」という用語は、Ig及びITIMドメイン、WUCAM又はVstm3を伴うT細胞免疫受容体としても公知の免疫受容体を指す。ヒトにおいて、TIGITタンパク質は、TIGIT遺伝子によってコードされる。
【0059】
本明細書で使用される場合、「LAG3」という用語は、CD223としても公知のリンパ球活性化遺伝子3を指す。LAG3は、T細胞機能に対する多様な生物効果を有する細胞表面分子である。ヒトにおいて、LAG3タンパク質は、LAG3遺伝子によってコードされる。
【0060】
本明細書で使用される場合、「TIM3」という用語は、A型肝炎ウイルス細胞受容体2(HAVCR2)としても公知のT細胞免疫グロブリン及びムチンドメイン含有タンパク質3を指す。TIM3は、先天免疫及び適応免疫応答をモジュレートすることにおいて関連が示唆される表面受容体である。ヒトにおいて、TIM3タンパク質は、HAVCR2遺伝子によってコードされる。
【0061】
本明細書で使用される場合、「CTLA4」という用語は、CD152としても公知の細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4を指す。CTLA4は、免疫チェックポイントとして機能し、免疫応答をダウンレギュレートするタンパク質受容体である。ヒトにおいて、CTLA4タンパク質は、CTLA4遺伝子によってコードされる。
【0062】
本明細書で使用される場合、「CD160」という用語は、細胞活性化及び分化を調節する刺激性又は阻害性シグナルをデリバリーすることが可能な、免疫細胞上の糖タンパク質受容体を指す。ヒトにおいて、CD160タンパク質は、CD160遺伝子によってコードされる。
【0063】
加えて、また、工程a)においてソーティングされるTscm細胞の集団は、CXCR3及び/又はCD122を発現し、これらの追加のマーカーに基づいて選択されてもよい。この場合、ソーティングされる細胞の集団は、(i)CD4+若しくはCD8+、CD45RA+、CD95+、CCR7+及び/若しくはCD62L+、CXCR3+及び/若しくはCD122+、好ましくはCD4+若しくはCD8+、CD45RA+、CD95+、CCR7+及び/若しくはCD62L+、CXCR3+及び/若しくはCD122+、PD1-及び/若しくはTIGIT-、より好ましくはCD4+若しくはCD8+、CD45RA+、CD95+、CCR7+及び/若しくはCD62L+、CXCR3+及び/若しくはCD122+、PD1-及びTIGIT-、又は(ii)CD4+若しくはCD8+、CD3+、CD45RA+、CD45RO-、CD95+、CCR7+及び/若しくはCD62L+、CXCR3+及び/若しくはCD122+、好ましくはCD4+若しくはCD8+、CD3+、CD45RA+、CD45RO-、CD95+、CCR7+及び/若しくはCD62L+、CXCR3+及び/若しくはCD122+、PD1-及び/若しくはTIGIT-、より好ましくはCD4+若しくはCD8+、CD3+、CD45RA+、CD45RO-、CD95+、CCR7+及び/若しくはCD62L+、CXCR3+及び/若しくはCD122+、PD1-及びTIGIT-を含む細胞表面表現型を有し得る。場合により、これらのソーティングされる細胞の集団は、LAG3-、TIM3-、CTLA4-及び/又はCD160-、好ましくはLAG3-及び/又はTIM3-、より好ましくはLAG3-及びTIM3-を更に含む細胞表面表現型を有し得る。
【0064】
本明細書で使用される場合、「CXCR3」という用語は、Gタンパク質連結型受容体9(GPR9)及びCD183としても公知のケモカイン受容体CXCR3を指す。ヒトにおいて、CXCR3は、CXCR3遺伝子によってコードされる。本明細書で使用される場合、「CD122」という用語は、IL15RBとしても公知のインターロイキン-2受容体サブユニットベータを指す。CD122は、インターロイキン-2の受容体である。このベータサブユニットは、受容体媒介性エンドサイトーシスに関与し、IL2の分裂促進シグナルを伝達する。ヒトにおいて、CD122は、IL2RB遺伝子によってコードされる。
【0065】
本明細書で使用される場合、「細胞表面表現型」という用語は、細胞の表面における特定の細胞表面マーカーの組合せの存在又は非存在を指す。「細胞表面マーカー」によって、例えば標識化抗体又は当該技術分野において公知の他の手段を使用して、検出され得る細胞の表面上に発現される分子が意図される。細胞表面マーカーは、タンパク質、糖タンパク質、又はタンパク質及び/若しくは糖タンパク質の群を含み得る。この場合、工程a)においてソーティングされる/選択されるTscm細胞の集団は、CD4又はCD8、CD45RA、CD95、CCR7及び/又はCD62L、並びに好ましくはCD3を含むマーカーの特定の組合せの発現、並びにPD1及び/又はTIGIT、好ましくはPD1及びTIGIT、並びに場合によりLAG3、TIM3、CTLA4及び/又はCD160、好ましくはLAG3及び/又はTIM3、より好ましくはLAG3及びTIM3を含むマーカーの特定の組合せの発現の欠損によって特定され得る。場合により、工程a)においてソーティングされる/選択されるTscm細胞の集団は、CD45ROの発現の欠損によって更に特定され得る。
【0066】
工程a)において得られるTscm細胞の集団は、特定の細胞表面表現型を有するTscm細胞で富化される。
【0067】
特定の実施形態において、工程a)において得られるTscm細胞の集団は、CD4+又はCD8+、CD45RA+、CD95+、CCR7+及び/又はCD62L+、並びに場合によりCD3+、CD45RO-、CXCR3+及び/又はCD122+を含む細胞表面表現型を有するTscm細胞、好ましくはCD4+又はCD8+、CD45RA+、CD95+、CCR7+及び/又はCD62L+、CD3+及びCD45RO-を含む細胞表面表現型を有するTscm細胞で富化される。好ましくは、細胞表面表現型は、PD1-、TIGIT-、LAG3-、TIM3-、CTLA4-及び/又はCD160-、好ましくはPD1-及び/又はTIGIT-、並びに場合によりLAG3-及び/又はTIM3-、より好ましくはPD1-及びTIGIT-、並びに場合によりLAG3-及び/又はTIM3-、並びに更により好ましくはPD1-、TIGIT-、LAG3-及びTIM3-を更に含む。
【0068】
好ましい実施形態において、工程a)において得られるTscm細胞の集団は、CD4+又はCD8+、CD45RA+、CD95+、CCR7+及び/又はCD62L+、PD1-及びTIGIT-、並びに場合によりLAG3-、TIM3-、CTLA4-及び/又はCD160-、好ましくはLAG3-及び/又はTIM3-、より好ましくはLAG3-及びTIM3-を含む細胞表面表現型を有するTscm細胞で富化される。好ましくは、Tscm細胞は、CD3+及びCD45RO-を更に含む細胞表面表現型を有する。
【0069】
「富化される」によって、別の組成物において見出されるよりも大きな、全細胞に占める割合において存在する細胞を含む組成物を意味する。特に、工程a)において得られる集団において、上記に定義される特定の細胞表面表現型、例えば、CD4+又はCD8+、CD45RA+、CD95+、CCR7+及び/又はCD62L+、PD1-及びTIGIT-、並びに場合によりLAG3-、TIM3-、CTLA4-及び/又はCD160-、好ましくはLAG3-及び/又はTIM3-を含む細胞表面表現型を有するTscm細胞は、細胞試料中のそれらの割合と比較してより高い、全細胞に占める割合において存在する。工程a)において得られる集団において、特定の前記細胞表面表現型、例えば、CD4+又はCD8+、CD45RA+、CD95+、CCR7+及び/又はCD62L+、PD1-及びTIGIT-、並びに場合によりLAG3-、TIM3-、CTLA4-及び/又はCD160-、好ましくはLAG3-及び/又はTIM3-を含む細胞表面表現型を有するTscm細胞は、前記集団中の全細胞の70%超を構成し、好ましくは80%、90%、95%又は99%超を構成し、更により好ましくは前記集団中の全細胞の95%又は99%超を構成する。
【0070】
逆に、工程a)において得られるTscm細胞の集団は、阻害性受容体PD1、TIGIT、LAG3、TIM3、CTLA4及び/又はCD160を発現する細胞、好ましくは阻害性受容体PD1及びTIGIT、並びに場合によりLAG3-、TIM3-、CTLA4-及び/又はCD160-、好ましくはLAG3及び/又はTIM3を発現する細胞について枯渇され得る。好ましくは、工程a)において得られるTscm細胞の集団は、CD45ROを発現する細胞について更に枯渇される。「枯渇される」によって、別の組成物において見出されるよりも、特に細胞試料において見出されるよりも低い、全細胞に占める割合において存在する細胞を含む組成物を意味する。好ましい実施形態において、工程a)において得られる集団において、PD1+及びTIGIT+、並びに場合によりLAG3+、TIM3+、CTLA4+及び/又はCD160+、好ましくはLAG3+及び/又はTIM3+を含む細胞表面表現型を有するTscm細胞は、細胞試料中のそれらの割合と比較して、より低い、全細胞に占める割合において存在する。特に、工程a)において得られる集団において、阻害性受容体PD1及びTIGIT、並びに場合によりLAG3、TIM3、CTLA4及び/又はCD160、好ましくはLAG3及び/又はTIM3を発現するTscm細胞は、前記集団中の全細胞の5%、2%又は1%未満を構成し得る。
【0071】
好ましくは、工程a)において得られる集団において、CD4+又はCD8+、CD45RA+、CD95+、CCR7+及び/又はCD62L+を含む、好ましくはCD4+又はCD8+、CD45RA+、CD95+、CCR7+及び/又はCD62L+並びにCD3+を含む、より好ましくはCD4+又はCD8+、CD45RA+、CD95+、CCR7+及び/又はCD62L+、CD3+並びにCD45RO-を含む細胞表面表現型を有するTscm細胞は、前記集団中の全細胞の95%、96%、97%、98%又は99%超を構成する。
【0072】
より好ましくは、工程a)において得られる集団において、(i)CD4+又はCD8+、CD45RA+、CD95+、CCR7+及び/又はCD62L+、PD1-及びTIGIT-、好ましくはCD4+又はCD8+、CD45RA+、CD95+、CCR7+及び/又はCD62L+、CD3+、PD1-及びTIGIT-、より好ましくはCD4+又はCD8+、CD45RA+、CD95+、CCR7+及び/又はCD62L+、CD3+、CD45RO-、PD1-及びTIGIT-、並びに(ii)場合により、LAG3-、TIM3-、CTLA4-及び/又はCD160-、好ましくはLAG3-及び/又はTIM3-を含む細胞表面表現型を有するTscm細胞は、前記集団中の全細胞の95%、96%、97%、98%又は99%超を構成する。この場合、CD4+又はCD8+、CD45RA+、CD95+、CCR7+及び/又はCD62L+、PD1+及び/又はTIGIT+、好ましくはCD4+又はCD8+、CD45RA+、CD95+、CCR7+及び/又はCD62L+、CD3+、PD1+及び/又はTIGIT+、より好ましくはCD4+又はCD8+、CD45RA+、CD95+、CCR7+及び/又はCD62L+、CD3+、CD45RO-、PD1+及びTIGIT+、並びに場合によりLAG3+、TIM3+、CTLA4+及び/又はCD160+、好ましくはLAG3+及び/又はTIM3+を含む細胞表面表現型を有するTscm細胞は、集団中の全細胞の5%未満、より好ましくは集団中の全細胞の2%又は1%未満を構成し得る。
【0073】
特定の実施形態において、工程a)において得られる集団は、上記に定義される細胞表面表現型、好ましくはCD4+又はCD8+、CD45RA+、CD95+、CCR7+及び/又はCD62L+を含む、好ましくはCD4+又はCD8+、CD45RA+、CD95+、CCR7+及び/又はCD62L+並びにCD3+を含む、より好ましくはCD4+又はCD8+、CD45RA+、CD95+、CCR7+及び/又はCD62L+、CD3+並びにCD45RO-を含む細胞表面表現型を有するTscm細胞からなる。
【0074】
別の特定の実施形態において、工程a)において得られる集団は、上記に定義される細胞表面表現型、好ましくは(i)CD4+又はCD8+、CD45RA+、CD95+、CCR7+及び/又はCD62L+、PD1-及びTIGIT-を含む、好ましくはCD4+又はCD8+、CD45RA+、CD95+、CCR7+及び/又はCD62L+、CD3+、PD1-及びTIGIT-を含む、より好ましくはCD4+又はCD8+、CD45RA+、CD95+、CCR7+及び/又はCD62L+、CD3+、CD45RO-、PD1-及びTIGIT-、並びに(ii)場合によりLAG3-、TIM3-、CTLA4-及び/又はCD160-、好ましくはLAG3-及び/又はTIM3-を含む細胞表面表現型を有するTscm細胞からなる。
【0075】
好ましくは、工程a)において得られる集団は、少なくとも0.2のCD4+/CD8+比を呈する。工程a)において得られる集団が0.2よりも低いCD4+/CD8+比を呈する実施形態において、シグナルを補助するCD4 T細胞の欠損を補償するために、抗CD40抗体が集団に添加され得る。
【0076】
工程a)において、特定の細胞表面表現型を有する細胞は、ソーティングされ、細胞試料から回復される。特定の細胞表面表現型を有する細胞のソーティングは、当該技術分野において公知の任意の方法を使用して行われ得る。陽性及び/又は陰性選択は、当該技術分野において公知の材料及び技術を使用して容易に達成され得る。例えば、特定の細胞表面マーカーを発現する細胞は、マーカーに結合し、カラム又は磁気ビーズにカップリングされるモノクローナル抗体を使用して他の細胞から分離され得る;分離は、標準技術及び/又は製造業者若しくは販売業者の指示に従って容易に行われる。特に、工程a)において、細胞は、蛍光活性化細胞ソーティング(FACS)によって又は磁気分離によってソーティングされ得る。
【0077】
細胞試料は、T細胞及び特にTscm細胞、又はTscm細胞になるように培養物中において誘導され得る細胞を含有する任意の試料であり得る。好ましくは、試料は、Tscm細胞を含有する試料である。好適な試料の例として、骨髄細胞試料、血液細胞試料、分画化若しくは非分画化全血試料、分画化若しくは非分画化アフェレーシス収集物(例えば白血球アフェレーシス収集物)、腫瘍浸潤リンパ球、PBMC、又はT細胞集団(例えば、血液試料若しくはPBMCからのT細胞で富化された集団)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0078】
特定の実施形態において、細胞試料は、PBMCである。PBMCは、当該技術分野において公知の任意の方法によって、例えばフィコール密度勾配遠心分離によって、血液試料から単離され得る。
【0079】
本明細書で使用される場合、「単離された」という用語は、細胞が通常天然において会合している構成成分から分離されていることを意味する。
【0080】
別の特定の実施形態において、細胞試料は、PBMCから又は血液試料からの、T細胞で富化された集団、好ましくはPBMCからの、T細胞で富化された集団である。T細胞は、当該技術分野において公知の任意の方法によってPBMCから又は血液試料から富化され得る。例えば、T細胞は、CD14+細胞の枯渇によって及び/又は抗CD3抗体を使用してソーティングし、CD3+細胞を保持することによってPBMCから又は血液試料から富化され得る。好ましくは、T細胞は、CD14+細胞の枯渇及びCD3+細胞の選択によってPBMCから又は血液試料から富化される。
【0081】
方法は、対象からの前記細胞試料を準備する工程を更に含み得る。
【0082】
本明細書で使用される場合、「対象」又は「患者」という用語は、動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトに関する。
【0083】
以下に説明される通り、本発明の方法によって得られる細胞の集団は、養子細胞療法、特に自家療法(前記Tscm細胞に由来する細胞を同じ患者に注入し戻すことによる)又は同種療法(前記Tscm細胞に由来する細胞を別の患者に注入することによる)を提供するために使用され得る。細胞試料は、したがって、特に同種療法については健康な対象から、又は前記養子細胞療法で治療される疾患を有する対象から得られ得る。
【0084】
特に、対象は、特異的メモリーT細胞応答が機能上損なわれている感染又はがんを有し得る。好ましくは、この損なわれている機能性は、T細胞アネルギー、特に目的の抗原、すなわち、腫瘍抗原若しくは病原体抗原に対するT細胞応答のアネルギー、並びに/又は特にPD-1若しくはTIGIT等の阻害性受容体の高レベルの発現によって特徴付けられるT細胞消耗、並びに/又はT細胞機能の負の調節の任意の他の機構を含む。したがって、好ましい実施形態において、対象は、感染又はがんを有し、T細胞アネルギー、特に目的の抗原に対するT細胞応答のアネルギー、及び/又はT細胞消耗、及び/又はT細胞機能の負の調節の任意の他の機構を呈する。一部の特定の実施形態において、対象は、感染又はがんを有し、T細胞アネルギー、特に目的の抗原に対するT細胞応答のアネルギー、及び/又はT細胞消耗を呈する。
【0085】
好ましくは、対象は、以下に説明されるがん又は病原体により引き起こされる疾患、より好ましくはポリオーマウイルスにより引き起こされる疾患、更により好ましくはヒトポリオーマウイルスにより引き起こされる疾患を有する。
【0086】
好ましい実施形態において、対象は、進行性多巣性白質脳炎(PML)、メルケル細胞癌又はBKウイルス関連腎症を有し、好ましくは進行性多巣性白質脳炎(PML)又はメルケル細胞癌を有し、より好ましくは進行性多巣性白質脳炎を有する。
【0087】
本発明の方法の工程b)において、工程a)において得られるTscm細胞の集団は、少なくとも1つの目的の抗原又は少なくとも1つの目的の抗原に由来する少なくとも1つの免疫原性ペプチド、好ましくは少なくとも1つの目的の抗原に由来する少なくとも1つの免疫原性ペプチドをロードした抗原提示細胞の存在下において培養される。
【0088】
本明細書において、「ペプチド」及び「タンパク質」という用語は、互換的に用いられ、鎖を形成するアミノ酸の数にかかわらず、ペプチド結合によって連結されたアミノ酸の鎖を指す。
【0089】
この工程において使用される抗原提示細胞(APC)は、少なくとも1つの目的の前記抗原又は少なくとも1つの前記免疫原性ペプチドを提示し、ペプチドと複合体形成したAPCの表面上の主要組織適合抗原複合体(MHC)受容体がT細胞の表面上のTCRと相互作用する場合T細胞を活性化するのに好適な任意の抗原提示細胞であり得る。APCの例として、樹状細胞、単球、末梢血単核球(PBMC)、エプスタイン・バーウイルス形質転換Bリンパ芽球腫細胞株細胞(EBV-BLCL細胞)又は人工抗原提示細胞(AAPC)が挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、工程b)において使用されるAPCは、樹状細胞、単球及びPBMC、並びにそれらの組合せからなる群から選択される。より好ましくは、工程b)において使用されるAPCは、単球又は樹状細胞であり、好ましくは単球である。
【0090】
工程b)において使用されるAPCは、自家性(すなわち、細胞試料を提供する同じ患者から、好ましくは治療される対象から得られる)であってもよく、又は同種性(すなわち、細胞試料を提供する対象とは別の対象から、好ましくは治療される対象とは別の対象から得られる)であってもよい。
【0091】
好ましい実施形態において、工程b)において使用されるAPCは、自家性である。当業者は、別個の供給源、例えば末梢血単球、天然に存在するDC、又は骨髄から動員されたCD34+造血前駆細胞を使用して自家性APCを生成するための広範囲の公知の手技を使用し得る。好ましくは、自家性APCは、末梢血単球又は天然に存在するDCから、より好ましくは末梢血単球から得られる。
【0092】
CD34+幹細胞は、当該技術分野において公知の通り、細胞を適切なサイトカインとインキュベートすることによって樹状細胞に分化され得る。例えば、ヒトCD34+造血幹細胞は、細胞をヒトGM-CSF及びTNF-αと培養することによってin vitroで分化され得る(例えば、Szabolcsら(1995) J. Immunol. 154:5851~5861を参照されたい)。樹状細胞は、その後、細胞表面マーカーの発現に基づいて蛍光活性化細胞ソーティング(FACS)によって、又は任意の他の標準法によって単離され得る。
【0093】
特に、方法は、工程b)の前に、対象からの細胞試料から前記自家性APCを得、前記自家性APCに少なくとも1つの目的の抗原又は少なくとも1つの目的の抗原に由来する少なくとも1つの免疫原性ペプチドを、好ましくは少なくとも1つの目的の抗原に由来する少なくとも1つの免疫原性ペプチドをロードする工程を更に含み得る。自家性APCを得るために使用される細胞試料は、工程a)において使用される細胞試料と同一であっても、異なっていてもよいが、両方とも、同じ対象から得られる。
【0094】
好ましくは、方法は、工程b)の前に、対象からの細胞試料から、CD14+陽性選択を使用して単球細胞の集団をソーティングし、前記単球に少なくとも1つの目的の抗原又は少なくとも1つの目的の抗原に由来する少なくとも1つの免疫原性ペプチドを、好ましくは少なくとも1つの目的の抗原に由来する少なくとも1つの免疫原性ペプチドをロードする工程を更に含む。好ましくは、単球は、対象からのPBMC試料から得られる。
【0095】
或いは、樹状細胞への分化を誘導するために、抗原ロード前又は後に、例えばCD14+陽性選択を使用して、試料から得られた単球は、GM-CSF及びIL-4の存在下において培養され得る。場合により、樹状細胞の最適成熟を誘導するために、培養5日目~10日目の間に、好ましくは6日目に、IL-6、IL-1β及びTNF-αは、約24時間の間培養培地に添加される。
【0096】
APCは、当業者に公知の任意の抗原ロード方法によってロードされ得る。例えば、APC、特に樹状細胞、単球又はPBMCは、APCに、1つ若しくはそれ以上の目的の抗原、及び/又は1つ若しくはそれ以上の目的の前記抗原に由来する1つ若しくはそれ以上のペプチド、特に1つ若しくはそれ以上の免疫原性ペプチドをパルス適用するか、又はAPCをこれとインキュベートすること、又はウイルスベクター若しくはmRNAトランスフェクションを使用して1つ若しくはそれ以上の抗原、及び/又は1つ若しくはそれ以上の目的の前記抗原に由来する1つ若しくはそれ以上のペプチド、特に1つ若しくはそれ以上の免疫原性ペプチドをAPCにデリバリーすることによってロードされ得る。
【0097】
好ましい実施形態において、APCは、1つ又はそれ以上の目的の前記抗原に由来する1つ又はそれ以上のペプチド、特に1つ又はそれ以上の免疫原性ペプチド、好ましくは1つ又はそれ以上の目的の前記抗原に由来する重複するペプチドのプール、特に重複する免疫原性ペプチドのプールをロードされる。
【0098】
目的の抗原は、治療効果を提供するために免疫系によって標的化され得る任意の抗原であり得る。目的の抗原は、治療される疾患に依存して当業者によって容易に選択される。好ましい実施形態において、目的の抗原は、細胞試料を提供する対象において治療される疾患、すなわち、がん又は感染に依存して選択される。
【0099】
特に、目的の抗原は、病原体抗原、又は腫瘍細胞によって発現される抗原、例えば腫瘍特異的抗原(TSA)(すなわち、腫瘍細胞上においてのみ見出され、健康な細胞上において見出されない抗原)若しくは腫瘍関連抗原(TAA)(すなわち、腫瘍細胞上で高レベルを有するが、健康な細胞上においてもより低レベルで発現される抗原)から選択され得る。
【0100】
一実施形態において、目的の抗原は、1つ又はそれ以上の、がんの抗原から選択される。「がん」又は「腫瘍」という用語は、本明細書で使用される場合、がんを引き起こす細胞の典型的な特性、例えば無制御の増殖、不死性、転移潜在性、迅速な増殖及び増殖速度、並びにある特定の特徴的な形態的特性を所有する細胞の存在を指す。この用語は、任意の種類の悪性腫瘍(原発性又は転移)を指し、固形がん又は造血系がんを指す。
【0101】
別の実施形態において、目的の抗原は、1つ又はそれ以上の、病原体、特にウイルス、細菌又は真菌の抗原から選択される。
【0102】
好ましい実施形態において、目的の抗原は、1つ又はそれ以上のウイルス抗原、好ましくはヒトウイルスからの1つ又はそれ以上の抗原から選択される。好ましくは、ウイルスは、ポリオーマウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ヒトTリンパ球向性ウイルス(HTLV)、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、ヘルペスウイルス及びパピローマウイルスからなる群から選択される。より好ましくは、ウイルスは、ヒトポリオーマウイルスからなる群から、特にポリオーマウイルスJohn Cunningham(JC)、BKウイルス(BKV)及びメルケル細胞ポリオーマウイルス(MCPyV又はMCV)から選択される。
【0103】
特定の実施形態において、目的の抗原は、ポリオーマウイルスの抗原から選択される。例えば、APCによって提示されるペプチドは、VP1、VP2、VP3、ラージT、スモールTタンパク質からの及び/又は前記ポリオーマウイルスの任意の他のタンパク質からの1つ又はそれ以上のポリオーマウイルスのペプチド、特に1つ又はそれ以上の免疫原性ペプチドを含み得る。特に、APCによって提示されるペプチドは、これらのタンパク質のうちの1つ又はいくつかを包含する重複するペプチドであり得る。より特に、APCによって提示されるペプチド、好ましくは免疫原性ペプチドは、前記ポリオーマウイルスのVP1、VP2及びVP3領域を包含する重複するペプチドプールを含み得る。
【0104】
より特定の実施形態において、目的の抗原は、ポリオーマウイルスMCPyVの抗原から選択される。例えば、APCによって提示されるペプチドは、VP1、VP2、VP3、ラージT、スモールTタンパク質からの及び/又はMCPyVの任意の他のタンパク質からの1つ又はそれ以上のMCPyVペプチド、特に1つ又はそれ以上のMCPyV免疫原性ペプチドを含み得る。特に、APCによって提示されるペプチドは、これらのタンパク質のうちの1つ又はいくつかを包含する重複するペプチドであり得る。より特に、APCによって提示されるペプチド、好ましくは免疫原性ペプチドは、MCPyVのVP1、VP2及びVP3領域を包含する重複するペプチドプールを含み得る。
【0105】
別のより特定の実施形態において、目的の抗原は、ポリオーマウイルスBKVの抗原から選択される。例えば、APCによって提示されるペプチドは、VP1、VP2、VP3、ラージT、スモールTタンパク質からの及び/又はBKVの任意の他のタンパク質からの1つ又はそれ以上のBKVペプチド、特に1つ又はそれ以上のBKV免疫原性ペプチドを含み得る。特に、APCによって提示されるペプチドは、これらのタンパク質のうちの1つ又はいくつかを包含する重複するペプチドであり得る。より特に、APCによって提示されるペプチド、好ましくは免疫原性ペプチドは、BKVのVP1、VP2及びVP3領域を包含する重複するペプチドプールを含み得る。
【0106】
別のより特定の実施形態において、目的の抗原は、ポリオーマウイルスJCの抗原から選択される。例えば、APCによって提示されるペプチドは、VP1、VP2、VP3、ラージT、スモールTタンパク質からの及び/又はJCVの任意の他のタンパク質からの1つ又はそれ以上のJCVペプチド、特に1つ又はそれ以上のJCV免疫原性ペプチドを含み得る。特に、APCによって提示されるペプチドは、これらのタンパク質のうちの1つ又はいくつかを包含する重複するペプチドであり得る。より特に、APCによって提示されるペプチド、好ましくは免疫原性ペプチドは、JCVのVP1、VP2及びVP3領域を包含する重複するペプチドプールを含み得る。
【0107】
APCにロードするために使用される抗原は、前記抗原の性質に依存して当業者に公知の任意の方法によって調製され得る。例えば、前記抗原は、化学合成、組換え発現によって、対象からの試料から、特に対象自身のがん細胞から、例えば全腫瘍溶解物を使用して、又はがん細胞系溶解物から、調製され得る。
【0108】
本発明の方法の工程b)において、Tscm細胞は、上記に説明されるAPCの存在下において培養され、これによって、拡張し、特定の抗原又は抗原の組に反応性であるT細胞を含む集団に分化する。
【0109】
APCを使用してTscm細胞の集団から抗原特異的T細胞を得る方法は、当該技術分野において周知であり、当業者は、これらの公知の方法のいずれかを使用し得る。
【0110】
典型的に、培養は、IL-15、IL-7及び/又は他の刺激性サイトカイン、好ましくは組換えサイトカイン、例えばIL-21の存在下において行われる。好ましくは、培養工程は、IL-15及びIL-7、並びに場合によりIL-21による培養補充を含む。前記補充は、好ましくは培養の最初の7日以内に、より好ましくは培養2日目から4日目の間に開始される。IL-15及びIL-7は、Tscm細胞の幹細胞様表現型を維持することを補助し得る。
【0111】
培養の始めに、Tscm細胞の、APCに対する比は、1/1(Tscmの数/APCの数)~1/20、好ましくは1/5~1/15、より好ましくは1/9~1/11に設定されるように調節され得る。
【0112】
APCの存在下におけるTscm細胞の培養は、8~20日、好ましくは10~18日、より好ましくは12~16日間続き得る。特定の実施形態において、APCの存在下におけるTscm細胞の培養は、14日間続く。
【0113】
場合により、細胞は、好ましくは抗原をロードしたAPCの非存在下において、より長期間培養され得る。特に、細胞は、工程a)後且つ工程b)前に抗原をロードしたAPCの非存在下において、且つ/又は工程b)後且つ工程c)前に好ましくは抗原をロードしたAPCの非存在下において、培養され得る。
【0114】
対象がレトロウイルス、例えばHIVによる影響を受けている一部の特定の実施形態において、培養は、1つ又はいくつかの抗レトロウイルス化合物の存在下において行われ得る。
【0115】
場合により、本発明の方法は、工程b)において得られる細胞、特にCD8+及び/又はCD4+細胞、好ましくはCD8+及びCD4+細胞を回収する工程c)を更に含み得る。
【0116】
特に、工程c)において、工程b)において得られる細胞の集団は、CD8+細胞及び場合によりCD4+細胞を選択するためにソーティングされ得る。
【0117】
特定の実施形態において、本発明の方法の工程c)において、工程b)において得られる細胞の集団は、CD8+細胞及びCD4+細胞を選択/回復するためにソーティングされる。CD8+細胞及びCD4+細胞は、別々に又は共に回復され得る。一部の実施形態において、CD8+細胞及びCD4+細胞は、別々に回復され、好ましくはその後続いて混合される。この分離は、得られる細胞の集団においてCD8+/CD4+比を調節することを可能にする。
【0118】
好ましい実施形態において、工程c)において、工程b)において得られる細胞の集団、すなわち、培養物のすべての細胞は、回復され、CD8+細胞及びCD4+細胞を含む。回復された細胞は、他の細胞種、特にAPC、例えば単球又は樹状細胞も含み得る。
【0119】
細胞は、濾過法又は上記に説明される細胞ソーティング法を含む当業者に公知の任意の方法によって回復され得る。
【0120】
特に、工程c)において選択/回復される集団は、Tscm細胞(CD45RA+ CCR7+を含む細胞表面表現型を有する)、Tエフェクター(Teff)細胞(CD45RA+ CCR7-を含む細胞表面表現型を有する)、T中枢メモリー(Tcm)細胞(CD45RA- CCR7+を含む細胞表面表現型を有する)、及びTエフェクターメモリー(Tem)細胞(CD45RA- CCR7を含む細胞表面表現型を有する)を含み得る。
【0121】
好ましい実施形態において、Tscm、Tcm及びTem細胞は、選択/回復された集団中の全細胞の最大90%、好ましくは50%~90%を構成し、in vivoでの更なる分化の周期、及びそれゆえ長期治療効果を可能にする。典型的に、Teff細胞は、選択/回復された集団中の全細胞の10%~50%、好ましくは10%~20%を構成し得る。
【0122】
別の態様において、本発明は、抗原特異的T細胞を含む細胞の集団を得るための本発明の方法によって得られるか又は得ることが可能な、抗原特異的CD8+T細胞、及び場合により抗原特異的CD4+T細胞を含む単離された細胞の集団に関する。好ましくは、集団は、抗原特異的CD8+T細胞及び抗原特異的CD4+T細胞を含む。
【0123】
上記に開示され、且つ抗原特異的T細胞を含む細胞の集団を得るための方法に関するすべての実施形態もまた、この態様に包含される。
【0124】
特に、前記集団は、Tscm細胞(CD45RA+ CCR7+を含む細胞表面表現型を有する)、Tエフェクター(Teff)細胞(CD45RA+ CCR7-を含む細胞表面表現型を有する)、T中枢メモリー(Tcm)細胞(CD45RA- CCR7+を含む細胞表面表現型を有する)、及びTエフェクターメモリー(Tem)細胞(CD45RA- CCR7を含む細胞表面表現型を有する)を含み得る。
【0125】
好ましくは、Tscm、Tcm及びTem細胞は、単離された本発明の集団中の全細胞の最大90%、好ましくは50%~90%を構成する。典型的に、Teff細胞は、単離された本発明の集団中の全細胞の10%~50%、好ましくは10%~20%を構成し得る。
【0126】
好ましくは、抗原特異的CD8+T細胞は、単離された本発明の集団中の全細胞の10%~90%を構成し、抗原特異的CD4+T細胞は、全細胞の1%~90%を構成する。特に、抗原特異的CD8+T細胞は、単離された本発明の集団中の全細胞の50%~90%を構成してもよく、抗原特異的CD4+T細胞は、単離された本発明の集団中の全細胞の1%~50%を構成する。
【0127】
特定の実施形態において、抗原特異的CD8+T細胞、及び場合により抗原特異的CD4+T細胞を含む、好ましくは抗原特異的CD8+T細胞及び抗原特異的CD4+T細胞を含む単離された細胞の集団は、
a) がん又は病原体により引き起こされる疾患、特に特異的メモリーT細胞応答が機能上損なわれているがん又は病原体により引き起こされる疾患に罹患している対象からの細胞試料から、CD4+又はCD8+、CD45RA+、CD95+、CCR7+及び/又はCD62L+を含む細胞表面表現型を有するTscm細胞の集団をソーティングする工程、
b) 少なくとも1つの目的の抗原又は少なくとも1つの目的の前記抗原に由来する少なくとも1つのペプチド、特に少なくとも1つの免疫原性ペプチドをロードした、好ましくは対象について自家性の、抗原提示細胞の存在下において、並びに場合によりIL-7及びIL-15又は他の刺激性サイトカインの存在下において、Tscm細胞の前記集団を培養する工程、並びに場合により
c) 工程b)において得られる細胞、特にCD8+及び/又はCD4+細胞、好ましくはCD8+及びCD4+細胞を回収する工程
を含む方法によって得られるか又は得ることが可能である。
【0128】
工程c)において、CD8+細胞、及び場合によりCD4+細胞は、工程b)において得られる細胞の集団からソーティングされ得る。
【0129】
対象は、がんに罹患している場合がある。この場合、少なくとも1つの目的の前記抗原は、腫瘍細胞によって発現される抗原、例えば腫瘍特異的抗原(TSA)又は腫瘍関連抗原(TAA)から選択され得る。
【0130】
対象は、病原体により引き起こされる疾患に罹患している場合がある。この場合、少なくとも1つの目的の前記抗原は、前記病原体の抗原から選択され得る。
【0131】
好ましくは、対象は、進行性多巣性白質脳炎(PML)、メルケル細胞癌又はBKウイルス関連腎症に罹患している。メルケル細胞癌に罹患している対象について、少なくとも1つの目的の前記抗原は、メルケル細胞ポリオーマウイルス(MCPyV又はMCV)の抗原から、特にVP1、VP2、VP3、ラージT、スモールTタンパク質から及び/又はMCPyVの任意の他のタンパク質から選択され得る。BKウイルス関連腎症に罹患している対象について、少なくとも1つの目的の前記抗原は、BKウイルス(BKV)の抗原から、特にVP1、VP2、VP3、ラージT、スモールTタンパク質から及び/又はBKVの任意の他のタンパク質から選択され得る。
【0132】
より好ましくは、対象は、進行性多巣性白質脳炎(PML)に罹患しており、少なくとも1つの目的の前記抗原は、ポリオーマウイルスJCの抗原から、好ましくはVP1、VP2、VP3、ラージT、スモールTタンパク質から及び/又はBKVの任意の他のタンパク質から選択される。例えば、APCによって提示されるペプチド、好ましくは免疫原性ペプチドは、JCVのVP1、VP2及びVP3領域を包含するJCVの重複するペプチドプールを含み得る。
【0133】
好ましくは、工程a)においてソーティングされるTscm細胞の集団は、PD1-、TIGIT-、LAG3-、TIM3-、CTLA4-及び/又はCD160-、好ましくはPD1-、TIGIT-、LAG3-及び/又はTIM3-を更に含む、より好ましくはPD1-及びTIGIT-、並びに場合によりLAG3-及び/又はTIM3-、更により好ましくはPD1-、TIGIT-、LAG3-及びTIM3-を含む、細胞表面表現型を有する。
【0134】
好ましくは、工程a)においてソーティングされるTscm細胞の集団は、CD3+、CD45RO-、CXCR3+及び/又はCD122+、好ましくはCD3+及びCD45RO-を更に含む細胞表面表現型を有する。
【0135】
別の態様において、本発明は、メモリー幹T細胞(Tscm細胞)の集団、すなわち、高機能性Tscm細胞の集団を得るためのin vitro方法であって、対象からの細胞試料から、CD4+又はCD8+、CD45RA+、CD95+、CCR7+及び/又はCD62L+、PD1-及びTIGIT-を含む細胞表面表現型を有するTscm細胞の集団をソーティングする工程を含む方法に関する。
【0136】
好ましくは、Tscm細胞の集団は、CD3+、CD45RO-、CXCR3+及び/又はCD122+、好ましくはCD3+及びCD45RO-を更に含む細胞表面表現型を有する。
【0137】
場合により、方法は、1つ又はいくつかの他の阻害性受容体、例えばLAG3、TIM3、CTLA4又はCD160を発現する細胞を枯渇させる工程を更に含み得る。特に、方法は、LAG3、TIM3、CTLA4及び/又はCD160、好ましくはLAG3及び/又はTIM3、より好ましくはLAG3及びTIM3を発現する細胞を枯渇させる工程を更に含み得る。この場合、ソーティングされる細胞の集団は、(i)CD4+又はCD8+、CD45RA+、CD95+、CCR7+及び/又はCD62L+、PD1-及びTIGIT-、並びに(ii)LAG3-、TIM3-、CTLA4及び/又はCD160、好ましくはLAG3-及び/又はTIM3-、より好ましくはLAG3-及びTIM3-を含む細胞表面表現型を有し得る。好ましくは、ソーティングされる細胞の集団は、(i)CD4+又はCD8+、CD45RA+、CD95+、CCR7+及び/又はCD62L+、CD3+、CD45RO-、PD1-及びTIGIT-、並びに(ii)LAG3-、TIM3-、CTLA4及び/又はCD160、好ましくはLAG3-及び/又はTIM3-、より好ましくはLAG3-及びTIM3-を含む細胞表面表現型を有する。
【0138】
場合により、方法は、選択されたTscmの集団を増幅する工程を更に含む。この工程は、当業者に周知の任意の方法、例えば、単球(ロードされていない単球)等のフィーダー及び好適なサイトカインの存在下における前記Tscm細胞の培養によって行われ得る。
【0139】
上記に開示され、抗原特異的T細胞を含む細胞の集団を得るための本発明の方法の工程a)に関連するすべての実施形態もまた、この態様に包含される。
【0140】
別の態様において、本発明は、メモリー幹T細胞(Tscm細胞)の集団、すなわち、Tscm細胞の集団を得るためのin vitro方法であって、対象からの細胞試料から、CD4+又はCD8+、CD45RA+、CD95+、CCR7+及び/又はCD62L+を含む細胞表面表現型を有するTscm細胞の集団をソーティングする工程を含み、対象が、がん又は病原体により引き起こされる疾患、特に特異的メモリーT細胞応答が機能上損なわれているがん又は病原体により引き起こされる疾患に罹患している、方法に関する。
【0141】
好ましくは、Tscm細胞の集団は、CD3+、CD45RO-、CXCR3+及び/又はCD122+、好ましくはCD3+及びCD45RO-を更に含む細胞表面表現型を有する。
【0142】
好ましくは、対象は、ヒトポリオーマウイルスにより引き起こされる疾患を有する。
【0143】
より好ましくは、対象は、進行性多巣性白質脳炎(PML)、メルケル細胞癌又はBKウイルス関連腎症を有する。
【0144】
好ましい実施形態において、対象は、進行性多巣性白質脳炎(PML)を有する。
【0145】
場合により、方法は、1つ又はいくつかの阻害性受容体、例えばPD1、TIGIT、LAG3、TIM3、CTLA4又はCD160を発現する細胞を枯渇させる工程を更に含み得る。
【0146】
特に、方法は、PD1及び/又はTIGITを発現する細胞、並びに場合によりLAG3、TIM3、CTLA4及び/又はCD160を発現する細胞、好ましくはPD1及びTIGITを発現する細胞、並びに場合によりLAG3及び/又はTIM3を発現する細胞を枯渇させる工程を更に含み得る。この場合、ソーティングされる細胞の集団は、(i)CD4+又はCD8+、CD45RA+、CD95+、CCR7+及び/又はCD62L+、並びに(ii)PD1-、TIGIT-、LAG3-、TIM3-、CTLA4及び/又はCD160、好ましくはPD1-、TIGIT-、LAG3-及び/又はTIM3-、より好ましくはPD1-及びTIGIT-、並びに場合によりLAG3-及び/又はTIM3-を含む細胞表面表現型を有し得る。好ましくは、ソーティングされる細胞の集団は、(i)CD4+又はCD8+、CD45RA+、CD95+、CCR7+及び/又はCD62L+、CD3+及びCD45RO-、並びに(ii)PD1-、TIGIT-、LAG3-、TIM3-、CTLA4及び/又はCD160、好ましくはPD1-、TIGIT-、LAG3-及び/又はTIM3-、より好ましくはPD1-及びTIGIT-、並びに場合によりLAG3-及び/又はTIM3-を含む細胞表面表現型を有する。
【0147】
より好ましくは、方法は、PD1、TIGIT LAG3及びTIM3を発現する細胞を枯渇させる工程を更に含み得る。この場合、ソーティングされる細胞の集団は、(i)CD4+又はCD8+、CD45RA+、CD95+、CCR7+及び/又はCD62L+、並びに(ii)PD1-、TIGIT-、LAG3-及びTIM3-を含む細胞表面表現型を有し得る。好ましくは、ソーティングされる細胞の集団は、(i)CD4+又はCD8+、CD45RA+、CD95+、CCR7+及び/又はCD62L+、CD3+及びCD45RO-、並びに(ii)PD1-、TIGIT-、LAG3-及びTIM3-を含む細胞表面表現型を有する。
【0148】
場合により、方法は、選択されたTscmの集団を増幅する工程を更に含む。この工程は、当業者に周知の任意の方法、例えば、単球(ロードされていない単球)等のフィーダー及び好適なサイトカインの存在下における前記Tscm細胞の培養によって行われ得る。
【0149】
上記に開示され、抗原特異的T細胞を含む細胞の集団を得るための本発明の方法の工程a)に関連するすべての実施形態もまた、この態様に包含される。
【0150】
更なる態様において、本発明は、Tscm細胞の集団を得るための本発明の方法によって得られるか又は得ることが可能な、単離されたTscm細胞の集団に関する。
【0151】
この集団は、
(i)CD4+、CD45RA+、CD95+、CCR7+、PD1-及びTIGIT-;並びに/又は
(ii)CD8+、CD45RA+、CD95+、CCR7+、PD1-及びTIGIT-;並びに/又は
(iii)CD4+、CD45RA+、CD95+、CD62L+、PD1-及びTIGIT-;並びに/又は
(iv)CD8+、CD45RA+、CD95+、CD62L+、PD1-及びTIGIT-;並びに/又は
(v)CD4+、CD45RA+、CD95+、CCR7+、CD62L+、PD1-及びTIGIT-;並びに/又は
(vi)CD8+、CD45RA+、CD95+、CCR7+、CD62L+、PD1-及びTIGIT-
を含む細胞表面表現型を有するTscm細胞を含み得る。
【0152】
好ましくは、これらのTscm細胞は、CD3+及び/又はCD45RO-、好ましくはCD3+及びCD45RO-を更に含む細胞表面表現型を有する。
【0153】
場合により、これらのTscm細胞は、LAG3-、TIM3-、CTLA4及び/又はCD160、好ましくはLAG3-及び/又はTIM3-、より好ましくはLAG3-及びTIM3-を更に含む細胞表面表現型を有し得る。
【0154】
好ましくは、Tscm細胞の集団は、CD4+又はCD8+、CD45RA+、CD95+、CCR7+及び/又はCD62L+、PD1-及びTIGIT-、好ましくはCD4+又はCD8+、CD45RA+、CD95+、CCR7+及び/又はCD62L+、CD3+、CD45RO-、PD1-及びTIGIT-、並びに場合によりLAG3-、TIM3-、CTLA4及び/又はCD160、好ましくはLAG3-及び/又はTIM3-、より好ましくはLAG3-及びTIM3-を含む細胞表面表現型を有する、少なくとも95%、96%、97%、98%又は99%(全細胞の)のTscm細胞を含む。
【0155】
より好ましくは、Tscm細胞の集団は、CD4+又はCD8+、CD45RA+、CD95+、CCR7+及び/又はCD62L+、PD1-及びTIGIT-、好ましくはCD4+又はCD8+、CD45RA+、CD95+、CCR7+及び/又はCD62L+、CD3+、CD45RO-、PD1-及びTIGIT-、並びに場合によりLAG3-、TIM3-、CTLA4及び/又はCD160、好ましくはLAG3-及び/又はTIM3-、より好ましくはLAG3-及びTIM3-を含む細胞表面表現型を有する、少なくとも95%又は少なくとも99%(全細胞の)のTscm細胞を含む。
【0156】
好ましい実施形態において、CD4+又はCD8+、CD45RA+、CD95+、CCR7+及び/又はCD62L+、PD1+及び/又はTIGIT+、並びに場合によりLAG3+、TIM3+、CTLA4+及び/又はCD160+、好ましくはLAG3+及び/又はTIM3+-を含む細胞表面表現型を有するTscm細胞は、集団中の全細胞の5%未満、好ましくは集団中の全細胞の2%又は1%未満を構成する。
【0157】
特定の実施形態において、Tscm細胞の集団は、CD4+又はCD8+、CD45RA+、CD95+、CCR7+及び/又はCD62L+、PD1-及びTIGIT-、好ましくはCD4+又はCD8+、CD45RA+、CD95+、CCR7+及び/又はCD62L+、CD3+、CD45RO-、PD1-及びTIGIT-、並びに場合によりLAG3-、TIM3-、CTLA4-及び/又はCD160-、好ましくはLAG3-及び/又はTIM3-、より好ましくはLAG3-及びTIM3-を含む細胞表面表現型を有するTscm細胞からなる。
【0158】
上記に開示され、抗原特異的T細胞を含む細胞の集団を得るための本発明の方法の工程a)に関連するか、又はTscm細胞の集団を得るための本発明の方法に関連するすべての実施形態もまた、この態様に包含される。
【0159】
更なる態様において、また、本発明は、細胞療法医薬としての、
- 本発明の抗原特異的CD8+T細胞及び場合により抗原特異的CD4+T細胞を含む単離された細胞の集団(すなわち、抗原特異的T細胞を含む細胞の集団を得るための本発明の方法によって得られるか又は得ることが可能な)、好ましくは本発明の抗原特異的CD8+T細胞及び抗原特異的CD4+T細胞を含む単離された細胞の集団、又は
- 単離された本発明のTscm細胞の集団(すなわち、Tscm細胞の集団を得るための本発明の方法によって得られるか又は得ることが可能な)
に関する。
【0160】
また、本発明は、細胞ベースの療法における使用のための前記集団に関する。
【0161】
上記に開示され、抗原特異的T細胞を含む細胞の集団、本発明の抗原特異的CD8+T細胞及び場合により抗原特異的CD4+T細胞を含む単離された細胞の集団を得るための本発明の方法、Tscm細胞の集団及び単離された本発明のTscm細胞の集団を得るための本発明の方法に関するすべての実施形態もまた、この態様に包含される。
【0162】
更なる態様において、本発明は、
- 本発明の抗原特異的CD8+T細胞及び場合により抗原特異的CD4+T細胞を含む単離された細胞の集団(すなわち、抗原特異的T細胞を含む細胞の集団を得るための本発明の方法によって得られるか又は得ることが可能な)、好ましくは本発明の抗原特異的CD8+T細胞及び抗原特異的CD4+T細胞を含む単離された細胞の集団、又は
- 単離された本発明のTscm細胞の集団(すなわち、Tscm細胞の集団を得るための本発明の方法によって得られるか又は得ることが可能な)
を含む医薬組成物に関する。
【0163】
好ましい実施形態において、医薬組成物は、本発明の抗原特異的CD8+T細胞及び場合により抗原特異的CD4+T細胞を含む単離された細胞の集団(すなわち、抗原特異的T細胞を含む細胞の集団を得るための本発明の方法によって得られるか又は得ることが可能な)を含む。好ましくは、医薬組成物は、本発明の抗原特異的CD8+T細胞及び抗原特異的CD4+T細胞を含む単離された細胞の集団を含む。
【0164】
医薬組成物は、投与経路によって薬学的に許容される担体及び/又は賦形剤中に製剤化される。
【0165】
好ましくは、医薬組成物は、それを必要とする対象における細胞ベースの療法での使用に好適であるように製剤化される。
【0166】
医薬組成物は、当業者に公知の標準の医薬品の実施に従って製剤化され得る(例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy(第20版)、編A. R. Gennaro、Lippincott Williams & Wilkins、2000及びEncyclopedia of Pharmaceutical Technology、編J. Swarbrick及びJ. C. Boylan、1988-1999、Marcel Dekker、New Yorkを参照されたい)。
【0167】
好ましくは、医薬組成物は、非経口投与、好ましくは静脈内注入に好適である。
【0168】
そのような投与に好適な医薬組成物は、抗酸化物質、緩衝液、静菌薬、溶質又は懸濁剤若しくは増粘剤を含有し得る1つ又はそれ以上の薬学的に許容される滅菌等張水性若しくは非水性溶液(例えば、平衡塩類溶液(BSS))、分散物、懸濁液又はエマルション、又は使用直前に滅菌注射用溶液若しくは分散物中に再構成され得る滅菌粉末と組み合わせて、本発明の細胞の集団を含み得る。
【0169】
場合により、細胞を含む組成物は、細胞の保存に適切な任意の温度において保存のために凍結され得る。例えば、細胞は、約-150℃又は-196℃において凍結され得る。低温凍結細胞は、細胞損傷のリスクを低減し、細胞が融解を乗り越えて生存する可能性を最大限にする保存のために、適切な容器において保存され、調製され得る。
【0170】
投与される細胞の量は、当業者に周知の標準手技によって決定され得る。患者の生理学的データ(例えば、年齢、サイズ及び体重)並びに治療される疾患の種類及び重症度は、適切な投与量を決定するために考慮に入れなければならない。
【0171】
本発明の医薬組成物は、単一の用量として又は多数の用量で投与され得る。各単位投与量は、例えば、105~7.108個の細胞、好ましくは7.106~7.108個の細胞を含有し得る。
【0172】
本発明の医薬組成物は、追加の活性化合物、例えばリンパ球サブセットを枯渇させるための、又は抗PD-1若しくは抗TIGIT等の、免疫機能に関与する受容体をブロックするための治療用モノクローナル抗体を更に含み得る。
【0173】
また、本発明は、それを必要とする対象における細胞ベースの療法での使用のための本発明の医薬組成物に関する。また、本発明は、がん又は病原体により引き起こされる疾患の治療における使用のための本発明の医薬組成物に関する。また、本発明は、がん又は病原体により引き起こされる疾患に罹患している対象を治療するための方法であって、前記対象に治療有効量の本発明の医薬組成物を投与する工程を含む方法に関する。また、本発明は、がん又は病原体により引き起こされる疾患を治療するための医薬を調製するための本発明の医薬組成物の使用に関する。
【0174】
上記に開示され、抗原特異的T細胞を含む細胞の集団、本発明の抗原特異的CD8+T細胞及び場合により抗原特異的CD4+T細胞を含む単離された細胞の集団を得るための本発明の方法、Tscm細胞の集団、単離された本発明のTscm細胞の集団及び本発明の医薬組成物を得るための本発明の方法に関するすべての実施形態もまた、この態様に包含される。
【0175】
本明細書で使用される場合、「治療」、「治療する」又は「治療すること」という用語は、患者の健康状態を改善することを意図される任意の行為、例えば疾患の治療、防止、予防及び遅延を指す。ある特定の実施形態において、そのような用語は、疾患又は疾患と関連付けられる症状の改善又は根絶を指す。他の実施形態において、この用語は、疾患を有する対象への1つ又はそれ以上の治療剤の投与から得られる、そのような疾患の広がり又は悪化を最小限にすることを指す。
【0176】
有効量は、治療有効量又は予防有効量であり得る。「治療有効量」とは、必要な投与量で且つ必要な期間の間、所望の治療結果又は予防結果を達成するのに有効な量を指す。特に、この用語は、標的化された病原体又は腫瘍細胞に対する免疫応答を提供するのに十分な、患者へ投与される本発明の医薬組成物の量を指す。治療有効量は、治療される疾患、治療される対象の生理的状態、苦痛の重症度及び投与経路等の様々な因子によって変動し得る。治療有効量は、任意の毒性又は有害効果よりも、治療有益効果がまさる量を包含する。「予防有効量」とは、必要な投与量で且つ必要な期間の間、所望の予防結果を達成するのに有効な量を指す。典型的であるが必ずではなく、予防用量は疾患の初期段階より前に又は初期段階において対象に使用されるので、予防有効量は治療有効量より少ない場合がある。治療有効量又は予防有効量を決定するために好適な手段及び方法は、当業者が使用可能である。
【0177】
好ましくは、医薬組成物は、非経口経路、より好ましくは静脈内注入を介して投与される。一部の実施形態において、特に限局性疾患の治療のために、投与は、細胞を前記疾患によって影響を受けている臓器又は組織にデリバリーするために標的化され得る。
【0178】
特定の実施形態において、本発明の方法は、前記対象に、細胞103~108個/体重kg、好ましくは細胞104~108個/体重kg、より好ましくは細胞105~107個/体重kgの単離された本発明の細胞の集団、好ましくは本発明の抗原特異的CD8+T細胞及び場合により抗原特異的CD4+T細胞を含む単離された細胞の集団を投与する工程を含む。
【0179】
より特に、本発明の方法は、本発明の抗原特異的CD8+T細胞及び場合により抗原特異的CD4+T細胞、特に抗原特異的CD8+T細胞1000~10,000,000個/体重kg、好ましくは抗原特異的CD8+T細胞5000~1,000,000個/体重kg、より好ましくは抗原特異的CD8+T細胞5000~100,000個/体重kgを含む単離された細胞の集団を投与する工程を含み得る。この場合、投与される用量は、本発明の集団又は医薬組成物中に存在するCD8+T細胞を定量することによって得ることができる。
【0180】
一部の実施形態において、本発明の方法は、本発明の抗原特異的CD8+T細胞及び抗原特異的CD4+T細胞を含む単離された細胞の集団を投与する工程を含み得る。好ましくは、抗原特異的CD8+T細胞1000~10,000,000個/体重kg、好ましくは抗原特異的CD8+T細胞5000~1,000,000個/体重kg、より好ましくは抗原特異的CD8+T細胞5000~100,000個/体重kgが投与され、抗原特異的CD4+T細胞1000~10,000,000個/対象の体重kg、好ましくは抗原特異的CD4+T細胞5000~1,000,000個/対象の体重kg、より好ましくは抗原特異的CD4+T細胞5000~100,000個/対象の体重kgが投与される。この場合、投与される用量は、本発明の集団又は医薬組成物中に存在するCD8+T細胞を定量すること及び場合によりCD4+T細胞を定量することによって得ることができる。
【0181】
医薬組成物は、ボーラスとして又は反復して投与され得る。投与頻度は、例えば、2週間毎、毎月、3ヶ月毎又は6ヶ月毎であり得る。
【0182】
治療は、自家療法(対象に由来する細胞を同じ対象に投与し戻すことによる)又は同種療法(対象に由来する細胞を別の対象に投与することによる)であり得る。好ましくは、治療は、自家療法である。
【0183】
上記に言及される通り、治療される対象、好ましくはヒトは、がん又は病原体により引き起こされる疾患に罹患している。
【0184】
治療されるがん又は病原体により引き起こされる疾患は、任意の感染又はがん、特に特異的メモリーT細胞応答が機能上損なわれている任意の感染又はがんであり得る。
【0185】
病原体により引き起こされる疾患は、ウイルス、細菌又は真菌による感染であり得る。
【0186】
病原体により引き起こされる疾患を治療するために、医薬組成物は、単離された本発明のTscm細胞の集団(すなわち、Tscm細胞の集団を得るための本発明の方法によって得られるか又は得ることが可能な)を含み得る。これらのTscm細胞は、Tscm細胞のプールを増加させ、in vivoでAPCと接触させることによる前記細胞のin vivoでの活性化を可能にするために投与される。
【0187】
好ましくは、病原体により引き起こされる疾患を治療するために、医薬組成物は、本発明の抗原特異的CD8+T細胞及び場合により抗原特異的CD4+T細胞を含む単離された細胞の集団、好ましくは本発明の抗原特異的CD8+T細胞及び抗原特異的CD4+T細胞を含む単離された細胞の集団を含む。このカテゴリーの疾患を治療するために、本発明の抗原特異的CD8+T細胞及び場合により抗原特異的CD4+T細胞を含む細胞の集団は、標的化される病原体の少なくとも1つの抗原、又は少なくとも1つの前記抗原に由来する少なくとも1つのペプチド、特に免疫原性ペプチドをロードされたAPCの存在下においてTscm細胞を培養することによって得られ、このため、少なくとも1つの前記抗原を保有する標的細胞を認識するように活性化されるT細胞の集団が得られる。
【0188】
好ましくは、病原体により引き起こされる疾患は、ウイルス感染、特に慢性ウイルス感染である。一実施形態において、病原体により引き起こされる疾患は、ポリオーマウイルス、好ましくはヒトポリオーマウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ヒトTリンパ球向性ウイルス(HTLV)、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、ヘルペスウイルス及びパピローマウイルスからなる群から選択されるウイルスにより引き起こされるウイルス感染である。好ましくは、ウイルスは、ヒトポリオーマウイルスからなる群から、特にポリオーマウイルスJohn Cunningham(JC)、BKウイルス(BKV)及びメルケル細胞ポリオーマウイルス(MCPyV又はMCV)から選択される。
【0189】
特定の実施形態において、病原体は、ポリオーマウイルスJCであり、病原体により引き起こされる疾患は、進行性多巣性白質脳炎(PML)である。
【0190】
別の特定の実施形態において、病原体は、BKウイルスであり、病原体により引き起こされる疾患は、BKウイルス関連腎症である。
【0191】
別の特定の実施形態において、病原体は、メルケル細胞ポリオーマウイルスであり、病原体により引き起こされる疾患は、メルケル細胞癌である。
【0192】
別の特定の実施形態において、病原体は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ヒトTリンパ球向性ウイルス(HTLV)、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、ヘルペスウイルス及びパピローマウイルスからなる群から選択され、病原体により引き起こされる疾患は、慢性又は急性ウイルス感染である。
【0193】
病原体により引き起こされる疾患を治療するために、本発明の細胞ベースの療法は、単独で、又は抗生物質治療、抗ウイルス治療若しくは抗レトロウイルス治療等の他の治療と組み合わせて、使用してもよい。
【0194】
また、治療される疾患は、発癌性ウイルスと関連付けられるか又は関連付けられない固形がん又は造血系がんであり得る。
【0195】
「がん」又は「腫瘍」という用語は、本明細書で使用される場合、がんを引き起こす細胞の典型的な特徴、例えば無制御の増殖、不死性、転移潜在性、迅速な増殖及び増殖速度、並びにある特定の特徴的な形態的特性を所有する細胞の存在を指す。この用語は、任意の種類の悪性腫瘍(原発性又は転移)を指す。
【0196】
固形がんの例として、乳がん、胃がん、食道がん、肉腫、卵巣がん、子宮内膜がん、膀胱がん、子宮頸がん、直腸がん、結腸がん、肺がん又はORLがん及び小児腫瘍(神経芽細胞腫、多形性膠芽腫)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0197】
造血系がんの例として、リンパ腫、白血病、骨髄腫、精上皮腫、ホジキン及び悪性血液疾患が挙げられるが、これらに限定されない。
【0198】
このカテゴリーの疾患を治療するために、医薬組成物は、腫瘍細胞によって発現される少なくとも1つの抗原、例えば腫瘍特異的抗原(TSA)若しくは腫瘍関連抗原(TAA)、又は少なくとも1つの前記抗原に由来する少なくとも1つのペプチド、特に免疫原性ペプチドをロードされたAPCの存在下においてTscm細胞を培養することによって得られた、本発明の抗原特異的CD8+T細胞及び場合により抗原特異的CD4+T細胞を含む単離された細胞の集団を含んでもよく、このため、少なくとも1つの前記抗原を保有する標的細胞を認識するように活性化されるT細胞の集団が得られる。
【0199】
或いは、及び特に、特定された特異的抗原がない疾患について、医薬組成物は、単離された本発明のTscm細胞の集団(すなわち、Tscm細胞の集団を得るための本発明の方法によって得られるか又は得ることが可能な)を含み得る。これらのTscm細胞は、Tscm細胞のプールを増加させ、in vivoでAPCと接触させることによる前記細胞のin vivoでの活性化を可能にするために投与される。
【0200】
がんを治療するために、本発明の細胞ベースの療法は、単独で、又は化学療法治療、外科治療及び/又は放射線療法治療等の他の治療と組み合わせて、使用され得る。
【0201】
特定の実施形態において、治療される疾患は、病原体がポリオーマウイルスJCであり、疾患が進行性多巣性白質脳炎(PML)である、病原体により引き起こされる疾患である。この実施形態において、投与される抗原特異的T細胞を含む細胞の集団は、
a) PMLに罹患している対象からの細胞試料から、CD4+又はCD8+、CD45RA+、CD95+、CCR7+及び/又はCD62L+、PD1-及びTIGIT-、場合によりLAG3-、TIM3-、CTLA4-及び/又はCD160-、好ましくはLAG3-及び/又はTIM3-、より好ましくはLAG3-及びTIM3-を含む細胞表面表現型を有するTscm細胞の集団をソーティングする工程、
b) 少なくとも1つのポリオーマウイルスJCの抗原又は少なくとも1つの前記抗原に由来する少なくとも1つのペプチド、特に免疫原性ペプチドをロードした抗原提示細胞の存在下において、並びに場合によりIL-7及びIL-15又は他の刺激性サイトカインの存在下において、Tscm細胞の前記集団を培養する工程、並びに場合により
c) 工程b)において得られる細胞、特にCD8+及び/又はCD4+細胞、好ましくはCD8+及びCD4+細胞を回収する工程
を含む方法によって得ることができる。
【0202】
或いは、投与される抗原特異的T細胞を含む細胞の集団は、
a) PMLに罹患している対象からの細胞試料から、CD4+又はCD8+、CD45RA+、CD95+、CCR7+及び/又はCD62L+を含む細胞表面表現型を有するTscm細胞の集団をソーティングする工程、
b) 少なくとも1つのポリオーマウイルスJCの抗原又は少なくとも1つの前記抗原に由来する少なくとも1つのペプチド、特に免疫原性ペプチドをロードした抗原提示細胞の存在下において、並びに場合によりIL-7及びIL-15又は他の刺激性サイトカインの存在下において、Tscm細胞の前記集団を培養する工程、並びに場合により
c) 工程b)において得られる細胞、特にCD8+及び/又はCD4+細胞、好ましくはCD8+及びCD4+細胞を回収する工程
を含む方法によって得ることができる。
【0203】
好ましくは、工程a)において、Tscm細胞の集団は、PD1-、TIGIT-、LAG3-、TIM3-、CTLA4-及び/又はCD160-、より好ましくはPD1-、TIGIT-、LAG3-及び/又はTIM3-を更に含む細胞表面表現型を有する。
【0204】
好ましくは、工程a)において、Tscm細胞の集団は、CD3+及び/又はCD45RO-、好ましくはCD3+及びCD45RO-を更に含む細胞表面表現型を有する。
【0205】
工程c)において、CD8+細胞及び場合によりCD4+細胞は、工程b)において得られる細胞の集団からソーティングされ得る。
【0206】
好ましくは、APCによって提示されるペプチドは、VP1、VP2、VP3、ラージT、スモールTタンパク質からの及び/又はJCVの任意の他のタンパク質からの1つ又はそれ以上のJCVペプチド、特に1つ又はそれ以上のJCV免疫原性ペプチドを含み得る。特に、APCによって提示されるペプチドは、これらのタンパク質のうちの1つ又はいくつかを包含する重複するペプチドであり得る。より特に、APCによって提示されるペプチド、好ましくは免疫原性ペプチドは、JCVのVP1、VP2及びVP3領域を包含する重複するペプチドプールを含み得る。
【0207】
対象が、HIV等のレトロウイルスにより更に影響を受けている場合、工程b)の培養は、抗レトロウイルス化合物の存在下において行ってもよい。
【0208】
発明の態様
また、本発明の様々な態様及び実施形態は、以下に列挙される条項1~15号において説明される:
【0209】
条項1. 抗原特異的T細胞を含む細胞の集団を得るためのin vitro方法であって、
a) 対象からの細胞試料から、CD4+又はCD8+、CD45RA+、CD95+、CCR7+及び/又はCD62L+、PD1-及びTIGIT-を含む細胞表面表現型を有するTscm細胞の集団をソーティングする工程、
b) 少なくとも1つの目的の抗原に由来する少なくとも1つの免疫原性ペプチドをロードした抗原提示細胞の存在下において、並びに場合によりIL-7及びIL-15又は他の刺激性サイトカインの存在下において、Tscm細胞の前記集団を培養する工程、並びに
c) 工程b)において得られる細胞の集団からCD8+細胞及び場合によりCD4+細胞をソーティングする工程
を含む方法。
【0210】
条項2. 工程a)においてソーティングされるTscm細胞の集団が、LAG3-、TIM3-、CTLA4-及び/又はCD160-、好ましくはLAG3-及び/又はTIM3-を更に含む細胞表面表現型を有する、条項1に記載の方法。
【0211】
条項3. 抗原提示細胞が、樹状細胞、単球、末梢血単核球(PBMC)、エプスタイン・バーウイルス形質転換Bリンパ芽球腫細胞株細胞(EBV-BLCL細胞)又は人工抗原提示細胞(AAPC)である、条項1又は2に記載の方法。
【0212】
条項4. 少なくとも1つの目的の前記抗原が、病原体抗原、好ましくはウイルス、細菌若しくは真菌抗原、又は腫瘍細胞によって発現される抗原、例えば腫瘍特異的抗原(TSA)若しくは腫瘍関連抗原(TAA)である、条項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【0213】
条項5. 少なくとも1つの目的の前記抗原が、ヒトポリオーマウイルスの抗原、好ましくはポリオーマウイルスJC、ポリオーマウイルスMPCyV又はポリオーマウイルスBKからなる群から選択される抗原である、条項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【0214】
条項6. 少なくとも1つの目的の前記抗原が、ポリオーマウイルスJCの抗原である、条項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【0215】
条項7. 条項1から6のいずれか一項に記載の方法によって得られるか又は得ることが可能な、抗原特異的CD8+T細胞及び場合により抗原特異的CD4+T細胞を含む単離された細胞の集団。
【0216】
条項8. Tscm細胞、Tエフェクター(Teff)細胞、T中枢メモリー(Tcm)細胞、及びTエフェクターメモリー(Tem)細胞を含むか又はからなる、条項7に記載の単離された細胞の集団。
【0217】
条項9. 細胞療法医薬としての条項7又は8に記載の単離された細胞の集団。
【0218】
条項10. 条項9の単離された細胞の集団、並びに薬学的に許容される担体及び/又は賦形剤を含む医薬組成物。
【0219】
条項11. がん又は病原体により引き起こされる疾患、好ましくはヒトポリオーマウイルスにより引き起こされる疾患の治療における使用のための、条項7から9のいずれか一項に記載の単離された細胞の集団又は条項10に記載の医薬組成物。
【0220】
条項12. 病原体が、ポリオーマウイルスJCであり、疾患が、進行性多巣性白質脳炎(PML)である、条項11に記載の使用のための単離された細胞の集団又は医薬組成物。
【0221】
条項13. 前記集団が、治療される対象について自家性である、条項11又は12に記載の使用のための単離された細胞の集団又は医薬組成物。
【0222】
条項14. メモリー幹T細胞(Tscm細胞)の集団を得るためのin vitro方法であって、対象からの細胞試料から、CD4+又はCD8+、CD45RA+、CD95+、CCR7+及び/又はCD62L+、PD1-及びTIGIT-、並びに場合によりLAG3-、TIM3-、CTLA4-及び/又はCD160-、好ましくはLAG3-及び/又はTIM3-を含む細胞表面表現型を有するTscm細胞の集団をソーティングする工程を含む方法。
【0223】
条項15. (i)CD4+、CD45RA+、CD95+、CCR7+及び/若しくはCD62L+、PD1-、TIGIT-、並びに場合によりLAG3-及び/若しくはTIM3-、並びに/又は(ii)CD8+、CD45RA+、CD95+、CCR7+及び/若しくはCD62L+、PD1-、TIGIT-、並びに場合によりLAG3-、TIM3-、CTLA4-及び/若しくはCD160-、好ましくはLAG3-及び/若しくはTIM3-を含む細胞表面表現型を有する単離されたTscm細胞の集団。
【0224】
この説明において引用されるすべての参考文献は、本出願において参照により組み込まれる。本発明の他の特性及び利点は、限定のためではなく例示の目的のために示される以下の実施例においてより明らかになる。
【実施例】
【0225】
材料及び方法
PBMC単離
ヘパリン化血液100mLを使用した。血液は、HIV感染、血液系腫瘍、及び免疫抑制生物療法による治療を含む様々な免疫学的バックグラウンドを有するPML患者から得た。血液を、Nacl 0.9%(v/v)で希釈し、PBMCを、フィコール密度勾配遠心分離によって単離した。
【0226】
阻害性受容体表現型決定
PBMC100万個を、以下の組合せ:抗CD3、抗CD4、抗CD8、抗CD45RA、抗CD45RO、抗CCR7、抗CD95、抗PD1、抗TIGIT、抗LAG-3、抗TIM-3で染色した。CD62Lは、必要に応じて、CCR7の代わりに使用してもよい。細胞を、1% PFAを含有するPBS 1X中において固定し、フローサイトメトリー(BD LSR Fortessa)により解析した。データを、FlowJoソフトウェアの手段によって解析した。
【0227】
細胞サブセットは、CD3+ CD4+ T細胞及びCD3+ CD8+ T細胞の両方において、以下の通りに定義した:
- ナイーブT細胞:CD45RA+ CD45RO- CCR7+ CD95-
- 幹細胞メモリー(Tscm):CD45RA+ CD45RO- CCR7+ CD95+
- 中枢メモリー(Tcm):CD45RA- CD45RO+ CCR7+ CD95+
- エフェクターメモリー(Tem):CD45RA- CD45RO+ CCR7- CD95+
【0228】
PD1、TIGIT、LAG3、TIM3発現を、各CD4+及びCD8+T細胞サブセットにおいて解析した。
【0229】
細胞ソーティング
T細胞サブセット単離
PBMCを、緩衝液(PBS 1X、EDTA 2mM SVF 0.5%)中で洗浄した。単球を、抗CD14コーティングした磁気ビーズの手段によって単離した。続いて、T細胞を、陰性選択分画について、非CD3+細胞の枯渇を可能にする、抗体でコーティングした磁気ビーズの手段によって単離した。
【0230】
その後、T細胞を、0.5% SVFを含有するPBS中で洗浄した。細胞濃度を、1mL当たり細胞2千万個に調節し、その後、細胞を以下の抗体:抗CD3、抗CD4、抗CD8、抗CD45RA、抗CD62L、抗CD95、抗PD1、抗TIGITにより4℃において15分間染色した。細胞を洗浄し、0.22μmフィルターでろ過して、細胞集塊を除去し、細胞ソーティングのためにプロセスした。
【0231】
ゲーティング策
細胞を最初に、前方及び側方錯乱で、その後、FSC-A及びFSC-Hでゲーティングして、ダブレットを排除し、その後、以下の通りゲーティングした:
阻害性受容体について陰性のCD4 Tscm:CD3+ CD4+ CD8- CD45RA+ CD45RO- CCR7+ CD95+ PD1- TIGIT-
阻害性受容体について陽性のCD4 Tscm:CD3+ CD4+ CD8- CD45RA+ CD45RO- CCR7+ CD95+及びNOT(PD1- TIGIT-)
阻害性受容体について陰性のCD8 Tscm:CD3+ CD4- CD8+ CD45RA+ CD45RO- CCR7+ CD95+ PD1- TIGIT-
阻害性受容体について陽性のCD8 Tscm:CD3+ CD4- CD8+ CD45RA+ CD45RO- CCR7+ CD95+及びNOT(PD1- TIGIT-)
【0232】
細胞を、SVFコーティングした管上でソーティングした。その後、細胞を培養培地中に再懸濁した。
【0233】
細胞培養
1ウェル当たり培養培地2mL中に単球5百万個を播種した。VP1、VP2及びVP3タンパク質の全配列に及ぶ、11個のアミノ酸の重複を有する、重複する15マーのJCVペプチド(各プールについて最終濃度10μg/mL)を37℃において2時間添加した。その後、単球を培養培地中において2回洗浄した。精製したTscmを遠心分離し、培養培地中に再懸濁した。24ウェル培養プレートにおいて、全体積6mLにて、Tscmを、ペプチドをロードした単球5百万個と共に培養した。これを0日目と考えた。2日目にrIL-7及びrIL-15を培養物に添加した(各々最終濃度10ng/ml)。培地4mLを3日毎に除去し、Il-7及びIL-15 10ng/mLを含有する新鮮な培地と交換した。14日目に、細胞を計数した。
【0234】
CD4及びCD8細胞カウント
細胞を、抗CD3、抗CD4及び抗CD8で染色した。ライブゲート中のCD4及びCD8 T細胞の割合を解析した。本発明者らは、CD4又はCD8 T細胞の割合に、各ウェル中に含有される全細胞数を掛けることによって各ウェル中のCD4及びCD8 T細胞の数を計算した。14日目における細胞カウントを、0日目における細胞カウントで割ることによって拡張倍数を計算した。
【0235】
細胞傷害性アッセイ
CD14枯渇細胞及びCD3枯渇細胞を融解し、洗浄し、VP1、VP2及びVP3タンパク質に及ぶJCVペプチドプールと共に2時間インキュベートした(各プールについて最終濃度:10μg/mL)。洗浄後、細胞を、培養したTscmを再刺激するための標的細胞として、標的細胞1/培養したT細胞10の比において使用した。細胞を一晩培養した。
【0236】
その後、細胞を洗浄し、抗CD3、抗CD4、抗CD8、抗CD45RA、抗CD45RO、抗CCR7、抗CD27、抗CD95で染色した。その後、細胞を洗浄し、+4℃において20分間固定した。細胞を洗浄し、透過処理した。抗グランザイムB及び抗パーフォリン抗体を+4℃において30分間添加し、その後、最終洗浄し、フローサイトメトリーによるデータを取得した。
【0237】
解析
結果をFlowJoソフトウェアにより解析した。GraphPad Prismソフトウェアによって、統計解析を行い、グラフを作成した。
【0238】
結果
1- CD4及びCD8 Tscmは、Tcm又はTemより顕著に少ない阻害性受容体を発現する
本発明者らは、PML患者からのCD4及びCD8 T細胞のうち、Tscm、Tcm及びTemサブセットによる阻害性受容体PD1、TIGIT、LAG3及びTIM3の発現を解析した。本発明者らは、9人の患者において、CD4及びCD8 Tscmが、Tcm又はTem細胞よりも少ない阻害性受容体を発現することを示した(
図1を参照されたい:白色部分は、阻害性受容体を発現しない細胞に対応する)。
【0239】
これらの4種の阻害性受容体のうち、PD1及びTIGITは、最も多く発現された(
図2、黒色)。結果は、PD1及びTIGITベースの陰性選択は、阻害性受容体発現細胞の大部分を枯渇させることが可能であり得ることを示唆する。したがって、本発明者らは、PD1及びTIGITの両方について陰性のTscmを単離し、in vitro培養後に増殖するそれらの能力を解析した。
【0240】
2- PD1及びTIGIT阻害性受容体について陰性のTscmは、より優れた細胞増殖を有する
本発明者らは、PD1- TIGIT- Tscm細胞を精製するためのゲーティング策を確立した(
図3を参照されたい)。
【0241】
ソーティングされた細胞を、JCVペプチドをロードした自家性単球の存在下において14日間、IL-7及びIL-15の存在下において培養して、JCV特異的細胞を拡張した。本発明者らは、14日目の培養の終わりに細胞数の拡張倍数を比較した(
図4を参照されたい)。本発明者らは、i)他のメモリー細胞(阻害性受容体発現状態にかかわらず、Tcm及びTemを含むCD45RO陽性細胞)に対するTscm(
図4aを参照されたい)、並びにii)PD1及び/又はTIGITについて陽性のTscmに対する、PD1及びTIGITについて陰性のTscm(
図4bを参照されたい)の増殖能力を比較した。
【0242】
これらのデータは、Tscmは、他の(より分化した)メモリー細胞よりも効率的に拡張すること(
図4A)、及びPD1- TIGIT- Tscmは、PD1及び/又はTIGITを発現するTscmよりも効率的に拡張すること(
図4B)を示す。
【0243】
3- PD1及びTIGIT阻害性受容体について陰性のTscmは、より優れた細胞傷害潜在性を示す
その後、阻害性受容体について陰性のTscmを、再刺激後に細胞傷害特性について試験した。拡張相の終わりに(14日目)、JCVペプチドをロードした自家性細胞を、培養物に一晩添加した。細胞内パーフォリン及びグランザイムBを染色した。全CD8 T細胞のうちのグランザイムB及びパーフォリンを発現するCD8 T細胞の割合を決定した(
図5を参照されたい)。これらのデータは、阻害性受容体について陰性のTscmに由来するエフェクターCD8 T細胞は、阻害性受容体を発現するTscmよりも又は他の(より分化した)メモリーCD8 T細胞よりも高い細胞傷害潜在性を示すことを示す。
【0244】
4- 高機能性Tscmからin vitro培養後に得られるCD8 T細胞は、in vivoで使用され得る高い分化能を保持する
本発明者らは、培養の終わり(14日目)の、PD1及びTIGITについて陰性の高機能性幹細胞メモリー(TSCM)、又はより分化したメモリーT細胞(TMEM)のいずれかから分化したCD8 T細胞の表現型を、以下の組合せに基づいて解析した:
幹細胞メモリー(Tscm):CD45RA+ CCR7+
エフェクター細胞(Teff):CD45RA+ CCR7-
中枢メモリー(Tcm):CD45RA- CCR7+
エフェクターメモリー(Tem):CD45RA- CCR7-
【0245】
本発明者らは、TscmがTcm、Tem及びTeffに分化するが、大部分はTscm表現型を保持することを見出した(
図6を参照されたい)。
【0246】
結論
合わせると、これらの結果は、以下のことを実証した:
i) 様々な免疫学的バックグラウンドからのPML患者において、Tscm細胞は、より分化したメモリー細胞よりも低量の阻害性受容体を発現する。それらの阻害性受容体はほとんど、PD-1及びTIGITを含む;
ii) 全Tscmは、従来型メモリーT細胞(Tcm及びTemを含む)よりもよく拡張する;
iii) PD1及びTIGIT除外に基づく選択により、阻害性受容体を発現するTscmの大部分を枯渇することが可能になる;
iv) それらのPD1- TIGIT- Tscmは、PD1+及び/又はTIGIT+ Tscmと比較して、及びより分化したメモリー細胞と比較してより優れた増殖能を示す;
v) PD1- TIGIT- Tscmは、PD1+及び/又はTIGIT+ Tscmと比較して、及びより分化したメモリー細胞と比較してより優れた細胞傷害能を示す;並びに
vi) PD1- TIGIT- Tscmは、in vitroで、エフェクター細胞を含むより分化したメモリー細胞に効率的に分化するが、大部分は、Tscm表現型を保持する。このことは、in vivoでの更なる分化の周期及びそれゆえ長期治療効果を可能にし得る。
【0247】
合わせると、これらのデータは、PD1- TIGIT- Tscmは、PML患者においてJCVに対する有効且つ維持された免疫応答を生成することが可能であることを示す。
【国際調査報告】