(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-18
(54)【発明の名称】眼科用レンズ
(51)【国際特許分類】
G02C 7/04 20060101AFI20241010BHJP
A61F 9/013 20060101ALN20241010BHJP
【FI】
G02C7/04
A61F9/013
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024525150
(86)(22)【出願日】2022-09-30
(85)【翻訳文提出日】2024-04-25
(86)【国際出願番号】 GB2022052493
(87)【国際公開番号】W WO2023073339
(87)【国際公開日】2023-05-04
(32)【優先日】2021-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521013611
【氏名又は名称】クーパーヴィジョン インターナショナル リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【氏名又は名称】鈴木 博子
(74)【代理人】
【識別番号】100224672
【氏名又は名称】深田 孝徳
(72)【発明者】
【氏名】ブラッドリー アーサー
(72)【発明者】
【氏名】ウェーバー マーティン
(72)【発明者】
【氏名】ハモンド デヴィッド エス
(72)【発明者】
【氏名】アルムガム バスカール
(72)【発明者】
【氏名】チェンバレン ポール
【テーマコード(参考)】
2H006
【Fターム(参考)】
2H006BC03
(57)【要約】
【課題】本発明は、近視の発症又は進行を予防し又は遅らせる上で使用される眼科用レンズ、又はこのような眼科用レンズを製造する方法を提供することを目的としている。
【解決手段】本発明は、レンズは第1の光軸を有する。レンズの第1の表面は、第1の表面度数マップを形成するように成形される。レンズの第2の表面は、第2の表面度数マップを形成するように成形される。第1及び第2の表面度数マップは、共にレンズ度数マップを形成する。第1の表面度数マップ、第2の表面度数マップ及びレンズ度数マップのうちの1つは、ベース領域及び近視抑制領域を含む。ベース領域は、第1の光軸上の焦点に光を集束させるベース度数を有する。近視抑制領域は渦巻き形を含み、第1の光軸からオフセットされた複数の焦点に光を集束させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
近視の発症又は進行を予防し又は遅らせる上で使用される眼科用レンズであって、
前記レンズは第1の光軸を有し、
前記レンズの第1の表面は、第1の表面度数マップを形成するように成形され、
前記レンズの第2の表面は、第2の表面度数マップを形成するように成形され、
前記第1及び第2の表面度数マップは、共にレンズ度数マップを形成し、
前記第1の表面度数マップ、前記第2の表面度数マップ及び前記レンズ度数マップのうちの1つは、
前記第1の光軸上の焦点に光を集束させるベース度数を有するベース領域と、
渦巻き形を有し、前記第1の光軸からオフセットされた複数の焦点に光を集束させる近視抑制領域と、
を含む、
ことを特徴とする眼科用レンズ。
【請求項2】
前記第1の表面度数マップ、前記第2の表面度数マップ及び前記レンズ度数マップのうちの前記1つは曲率度数マップを含み、
前記渦巻きは、経線の角度が増すにつれて、前記経線に沿った度数マップが前記光軸に向かって又は前記光軸から離れて半径方向に漸進的シフトを受けるように形成される、
請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項3】
前記第1の表面度数マップ、前記第2の表面度数マップ及び前記レンズ度数マップのうちの前記1つは、前記光軸から外向きに延びる複数の概念的な半径方向帯を含み、
前記複数のうちの各概念的な半径方向帯の前記曲率度数マップは、前記光軸に向かって又は前記光軸から離れて半径方向にシフトしている点を除き、前記複数のうちの隣接する半径方向帯と実質的に同一である、
請求項2に記載の眼科用レンズ。
【請求項4】
前記第1の表面度数マップ、前記第2の表面度数マップ及び前記レンズ度数マップのうちの前記1つの、経線に沿った前記度数マップの半径方向シフトは、滑らかな連続シフトを含む、
請求項2に記載の眼科用レンズ。
【請求項5】
前記近視抑制領域の前記焦点の前記光軸からの前記オフセットは、前記レンズ全体にわたって実質的に一定である、
請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項6】
前記近視抑制領域の前記焦点の前記光軸からの前記オフセットは、前記レンズ全体にわたって変化する、
請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項7】
前記近視抑制領域の前記焦点の前記光軸からの前記オフセットは、前記光軸からの半径方向距離に従って変化する、
請求項6に記載の眼科用レンズ。
【請求項8】
前記近視抑制領域によって形成される前記渦巻きは1又は2以上のアームを含み、
前記近視抑制領域の前記焦点の前記オフセットは、前記1又は2以上のアームの各々の中心線に入射する光が前記ベース領域の前記焦点に向けられるように変化する、
請求項7に記載の眼科用レンズ。
【請求項9】
前記第1の表面度数マップ、前記第2の表面度数マップ及び前記レンズ度数マップのうちの前記1つは混合領域をさらに含み、
前記混合領域は、前記ベース領域を前記近視抑制領域から分離し、
前記混合領域は、前記ベース領域と前記近視抑制領域との間に滑らかな遷移をもたらすように変化する、
請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項10】
前記ベース領域は、
前記近視抑制領域が及ばない中心部分と、
前記中心部分を取り囲んで前記近視抑制領域を含む外側部分と、
を前記レンズが含むように前記光軸を直接取り囲む、
請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項11】
前記レンズは遷移部分を含み、
前記遷移部分は前記中心部分を取り囲み、前記外側部分は前記遷移部分を取り囲み、
前記遷移部分は、前記中心部分と前記外側部分との間に滑らかな遷移をもたらすように変化する、
請求項10に記載の眼科用レンズ。
【請求項12】
前記近視抑制領域は、前記第1の表面度数マップによって提供され、
前記第2の表面度数マップは、渦巻き形を有し、前記第1の光軸からオフセットされたさらなる複数の焦点に光を集束させる、さらなる近視抑制領域を含み、
前記さらなる近視抑制領域によって形成される前記渦巻きは、前記近視抑制領域によって形成される渦巻きと反対方向に巻く、
請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項13】
前記近視抑制領域は、前記ベース度数よりも大きな曲率加入度数を提供する、
請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項14】
眼科用レンズの製造方法であって、
旋盤を操作して、レンズ、レンズ用金型、又はレンズ用金型を製造するためのインサートのうちの少なくとも1つの第1の表面を成形するステップと、
旋盤を操作して、前記レンズ、金型又はインサートの第2の表面を成形して第2の表面度数マップを形成するステップと、
を含み、
前記第1及び第2の表面度数マップの組み合わせは、第1の光軸を有するレンズ度数マップを形成し、
前記第1の表面度数マップ、前記第2の表面度数マップ及び前記レンズ度数マップのうちの1つは、
前記第1の光軸上の焦点に光を集束させるベース度数を有するベース領域と、
渦巻き形を有し、前記第1の光軸からオフセットされた複数の焦点に光を集束させる近視抑制領域と、
を含む、
ことを特徴とする方法。
【請求項15】
前記第1の表面、前記第2の表面及び前記レンズのうちの1つの第1の経線について、前記経線に沿った曲率度数分布を定め、
前記第1の表面、前記第2の表面及び前記レンズのうちの前記1つの、前記第1の経線に隣接する第2の経線について、前記経線に沿った第2の曲率度数分布を定める、
ことによって前記眼科用レンズを設計するステップをさらに含み、
前記第2の曲率度数分布は、前記光軸に向かって又は前記光軸から離れて半径方向にシフトしていることを除き、前記複数のうちの前記隣接する半径方向帯と実質的に同一である、
請求項14に記載の方法。
【請求項16】
ある人物の近視の発症又は進行を予防し又は遅らせる方法であって、請求項1~13のうちのいずれか1項に記載の眼科用レンズを前記人物に提供するステップを含む、
ことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼科用レンズに関する。具体的には、限定するわけではないが、本発明は、近視の発症又は進行を予防し又は遅らせる上で使用される眼科用レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
近視抑制レンズ(myopia control lens)は、装着者の近視の進行を抑制しようと試みる眼科用レンズである。通常、この抑制は、眼科用レンズを複数の領域に細分化することによって達成される。複数の領域の第1のサブセット内の領域は、(例えば、順応できない眼の遠方視力(distance vision)を矯正するために)第1の焦点距離に対応する第1のレンズ度数(lens power)を有する。複数の領域の第2のサブセット内の領域は、(加入度数(add power)とも呼ばれる)近視的焦点ずれ(myopic defocus)をもたらすように選択される第2のレンズ度数を有する。
【0003】
近視抑制用コンタクトレンズの場合には、通常、これらの複数の領域が、矯正視力をもたらす第1のレンズ度数と、近視的焦点ずれをもたらす第2のレンズ度数とが交互になった、コンタクトレンズの光軸を中心とする同心円として形成される。従って、典型的な多焦点コンタクトレンズの度数マップ(power map)は、少なくとも2つの交互になった第1及び第2のレンズ度数の同心円を含む。しかしながら、低光条件では、入射光に対して開口を広げるために装着者の眼の瞳孔が拡大し、眼に入り込む光量が増えることによって低光視力が向上する。条件が明るくなると、瞳孔が収縮して開口が小さくなることにより、眼に入り込む光の量が制限される。装着者の瞳孔の拡大及び収縮が生じると、装着者の入射瞳を横切って配置されるコンタクトレンズ上の同心リングの数も変動する。瞳孔が拡大すると、装着者の入射瞳を横切ってより多くの同心リングが配置されるようになる。同様に、瞳孔が収縮すると、装着者の入射瞳を横切って配置される同心リングが減少する。同心リングは、第1のレンズ度数(視力矯正)と第2のレンズ度数(近視的焦点ずれ)とが交互になっているので、装着者の瞳孔の収縮及び拡大が生じると、装着者の入射瞳を横切って配置された、近視的焦点ずれをもたらす第2のレンズ度数の量が変動する。これらの変動は、効果的に近視を抑制するレンズの能力を損なう恐れがある。いくつかの事例では、近視的焦点ずれをもたらす第2のレンズ度数が1つも装着者の入射瞳を横切って配置されない程度まで瞳孔が収縮し、結果としてレンズが近視の進行を効果的に抑制できなくなる恐れもある。
【0004】
さらに、このようなレンズは、近視の発症又は進行を予防し又は遅らせる上で有益であることが分かっているが、環状の近視的焦点ずれ領域が望ましくない視覚的副作用を引き起こすこともある。環状の近視的焦点ずれ領域に入射した光は網膜の前方に焦点を結び、従って焦点から外れて焦点ぼけした環帯を網膜に形成する。従って、これらのレンズの装着者には、特に街灯及び車のヘッドライトなどの小さく明るい物体の場合に、網膜上に形成された像の周囲にリング又は「ハロー(halo)」が見えることがある。また、装着者は、自然な眼の順応(焦点距離を変化させる眼の自然な能力)を使用して近くの物体に焦点を合わせるのではなく、環状の近視的焦点ずれ領域によって生じる網膜の前方のさらなる焦点を利用して近くの物体に焦点を合わせることもあり、換言すれば、装着者は、これらのレンズを意図せず遠視矯正レンズの使用と同じ方法で使用してしまう場合があり(すなわち、眼を順応させる必要性を抑えるために)、このことは(特に子供では)望ましくない。
【0005】
近視の進行を抑えるためのレンズ設計については複数の記載がある。MISIGHT(CooperVision社)は、米国で規制認可を受けた最初のこのようなコンタクトレンズである。MiSightコンタクトレンズは、近くの視距離及び遠くの視距離の両方で近視的に焦点ずれした像をもたらす二重焦点コンタクトレンズである。二重焦点設計は、交互になった異なる屈折力のリングによって取り囲まれた中心距離補正ゾーン(central distance correction zone)を含む。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した問題点を緩和することを目的とする。これに代えて又は加えて、本発明は、近視の発症又は進行を予防し又は遅らせる上で使用される改善された眼科用レンズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、第1の態様によれば、近視の発症又は進行を予防し又は遅らせる上で使用される眼科用レンズを提供する。レンズは第1の光軸を有する。レンズの第1の表面は、第1の表面度数マップを形成するように成形される。レンズの第2の表面は、第2の表面度数マップを形成するように成形される。第1及び第2の表面度数マップは、共にレンズ度数マップを形成する。第1の表面度数マップ、第2の表面度数マップ及びレンズ度数マップのうちの1つは、ベース領域及び近視抑制領域を含む。ベース領域は、第1の光軸上の焦点に光を集束させる。近視抑制領域は渦巻き形を有し、第1の光軸からオフセットされた複数の焦点に光を集束させる。
【0008】
第1の光軸からオフセットされた焦点に光を集束させる近視抑制領域を設けることは、近視抑制領域が装着者の網膜に軸上像(on-axis image)を形成しないことを意味する。このような像は、装着者が眼の焦点を近くの物体に合わせるように順応する必要性を回避するために意図せず使用する可能性がある。従って、第1の光軸からオフセットされた焦点に光を集束させる近視抑制領域は、レンズの装着者が近視抑制レンズの長期装着による順応能力の低下に苦しむリスクを低下させることができる。
【0009】
さらに、渦巻き形の近視抑制領域を有するコンタクトレンズは、渦巻きを含む直径の全範囲にわたり、遠方焦点(distance focus)をもたらすレンズ度数対近視的焦点ずれをもたらすレンズ度数の一定の比率を提供することができる。従って、渦巻き形の近視抑制領域を有するコンタクトレンズは、瞳孔が収縮又は拡大する際に、遠方焦点対近視的焦点ずれの実質的に一定の比率(渦巻きがレンズ全体を覆う場合)、又は単調に変化する比率(渦巻きがレンズの半径方向部分の一部のみを覆う場合)のいずれかを維持することができる。従って、渦巻き形の近視抑制領域を有するコンタクトレンズは、可変照明条件の存在下でも近視的焦点ずれ対遠方焦点の比率の変動を抑える。従って、本発明の実施形態によるコンタクトレンズは、変化する瞳孔拡大の存在下でも効果的な近視抑制を行うことができる。
【0010】
当業者であれば、度数マップが滑らかに変化する場合、度数マップは、単に遠方視力の焦点調節に関連する第1のレンズ度数及び近視的焦点ずれに関連する第2のレンズ度数以外のレンズ度数を含むこともできると理解するであろう。このような場合、度数マップは、第1及び第2の度数以外のレンズ度数を有する遷移領域を含むこともできる。なお、これによって装着者の入射瞳にわたって遠方焦点対近視的焦点ずれの比率に一貫した安定的な変化をもたらすという上述した利点が影響を受けたり又は弱まったりすることはないと理解されるであろう。当業者であれば、実施形態では、所与の半径におけるレンズ度数がレンズの光軸からの半径方向距離に従って変化しない組成を有する渦巻き形の近視抑制領域を有するレンズによってこの利点が得られると理解するであろう。
【0011】
本発明の第2の態様によれば、眼科用レンズの製造方法も提供される。方法は、旋盤を操作して、レンズ、レンズ用金型、又はレンズ用金型を製造するためのインサートのうちの少なくとも1つの第1の表面を成形することを含む。方法は、旋盤を操作して、レンズ、金型又はインサートの第2の表面を成形して第2の表面度数マップを形成することをさらに含む。第1及び第2の表面度数マップの組み合わせは、第1の光軸を有するレンズ度数マップを形成する。第1の表面度数マップ、第2の表面度数マップ及びレンズ度数マップのうちの1つは、ベース領域及び近視抑制領域を含む。ベース領域は、第1の光軸上の焦点に光を集束させる。近視抑制領域は渦巻き形を有し、第1の光軸からオフセットされた複数の焦点に光を集束させる。
【0012】
本発明の第3の態様によれば、ある人物の近視の発症又は進行を予防し又は遅らせる方法も提供される。方法は、その人物に第1の態様による眼科用レンズを提供することを含む。
【0013】
当然ながら、本発明の1つの態様に関連して説明する特徴を本発明の他の態様に組み込むこともできると理解されるであろう。例えば、本発明の方法は、本発明の装置に関して説明する特徴のいずれかを組み込むことができ、その逆もまた同様である。
【0014】
以下、添付の概略的図面を参照しながら本発明の実施形態をほんの一例として説明する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態例によるコンタクトレンズの概略的平面図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態によるコンタクトレンズの一画の概略的断面図である。
【
図3】本発明の第2の実施形態によるコンタクトレンズの一画の概略的断面図である。
【
図4】本発明の第3の実施形態によるコンタクトレンズの一画の概略的断面図である。
【
図5】本発明の第5の実施形態によるコンタクトレンズの製造方法のステップを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の第1の態様によれば、近視の発症又は進行を予防し又は遅らせる上で使用される眼科用レンズ(例えば、コンタクトレンズ)が提供される。レンズは第1の光軸を有する。レンズの第1の表面は、第1の表面度数マップを形成するように成形される。レンズの第2の表面は、第2の表面度数マップを形成するように成形される。第1及び第2の表面度数マップは、共にレンズ度数マップを形成する。第1の表面度数マップ、第2の表面度数マップ及びレンズ度数マップのうちの1つは、ベース領域及び近視抑制領域を含む。ベース領域は、第1の光軸上の焦点に光を集束させる。近視抑制領域は渦巻き形を含み、第1の光軸からオフセットされた複数の焦点に光を集束させる。
【0017】
従来の近視矯正用レンズ(例えば、眼鏡レンズ及びコンタクトレンズ)は、遠方の物体からの入射光を眼に到達する前に収束(コンタクトレンズの場合)又は発散(眼鏡レンズの場合)させて、焦点の位置を網膜上にシフトさせる。ベース度数(base power)は、正の度数である(すなわち、ベース度数は、第1の光軸上の無限遠点光源からレンズに入射する光を焦点に収束させる)ことができる。近視抑制領域の曲率度数(curvature power)は、ベース度数よりも大きいことができる。ベース度数は、負の度数である(すなわち、ベース度数が、第1の光軸上の無限遠点光源からレンズに入射する光を発散させる)こともできる。このような場合、近視抑制領域の曲率度数は、ベース度数よりも負ではないことができる。ベース領域は、使用時(すなわち、ユーザによるレンズ装着時)に第1の光軸上の焦点に光を集束させるように構成することができる。従って、ベース領域は、ユーザの眼の光学系によって行われる焦点調節と協働して、第1の光軸上の焦点に光を集束させるように構成することができる。同様に、近視抑制領域は、使用時(すなわち、ユーザによるレンズ装着時)に第1の光軸からオフセットされた複数の焦点に光を集束させることができる。近視抑制領域は、ユーザの眼の光学系によって行われる焦点調節と協働して、第1の光軸からオフセットされた複数の焦点に光を集束させするように構成することができる。
【0018】
眼科用レンズはコンタクトレンズを含むことができる。眼科用レンズは眼鏡レンズを含むことができる。眼科用レンズは眼内レンズを含むことができる。本明細書で使用する「コンタクトレンズ」という用語は、眼の前面に配置できる眼科用レンズを意味する。このようなコンタクトレンズは、臨床的に容認可能な眼球の動きをもたらし、人物の片目又は両目に結合しないと理解されるであろう。コンタクトレンズは、角膜レンズ(例えば、目の角膜上に載るレンズ)の形態をとることができる。コンタクトレンズは、ハイドロゲルコンタクトレンズ又はシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズなどのソフトコンタクトレンズであることができる。レンズは、近視の発症又は進行を予防し又は遅らせる上で使用することができる。レンズは、近視の眼の焦点深度を広げるために使用することができる。
【0019】
本発明の実施形態によるコンタクトレンズは、光学ゾーン(optic zone)を含むことができる。このような実施形態では、光学ゾーンが、光学機能を有するレンズの部分を取り囲むことができる。光学ゾーンは、使用時に眼の瞳孔を覆って配置されるように構成することができる。本開示によるコンタクトレンズでは、光学ゾーンがベース領域及び近視抑制領域を含む。光学ゾーンは、周辺ゾーンによって取り囲むことができる。このような実施形態では、周辺ゾーンが光学ゾーンの一部ではなく、レンズの装着時に光学ゾーンの外側かつ虹彩の上方に位置することができる。周辺ゾーンは機械的機能をもたらす(例えば、レンズのサイズを増やしてレンズを扱いやすくし、バラスト(ballasting)を提供してレンズの回転を防ぎ、及び/又はレンズ装着者の快適性を高める成形領域を提供する)ことができる。周辺ゾーンは、コンタクトレンズのエッジに広がることができる。
【0020】
本開示の実施形態によるコンタクトレンズは、装着者の眼に配置された時にレンズの向きを定めるバラストを含むことができる。コンタクトレンズにバラストを組み込んだ本開示の実施形態は、装着者の眼に配置されると、装着者の眼瞼の作用下で所定の安息角(angle of repose)に回転し、例えばバラストはくさび形であり、このくさび形に対する眼瞼の作用によって回転を生じることができる。当業では、バラストによってコンタクトレンズの向きを定めることが周知であり、例えばトーリックコンタクトレンズ(toric contact lenses)は、レンズによってもたらされる直交円柱矯正(orthogonal cylindrical corrections)が装着者の眼の乱視を正しく調整するようにバラストによってレンズの向きを定める。本開示のコンタクトレンズは、所与の向きにおいて装着者に特定の利点をもたらすことができる。例えば、コンタクトレンズは、最大加入度数経線(maximum add power meridian)が特定の向きにある時に装着者に特定の利点をもたらすことができる。
【0021】
本発明の実施形態によるコンタクトレンズは実質的に円形であり、約4mm~約20mmの直径を有することができる。光学ゾーンは実質的に円形であり、約2mm~約10mmの直径を有することができる。いくつかの実施形態では、コンタクトレンズが13mm~15mmの直径を有し、光学ゾーンが7mm~9mmの直径を有する。
【0022】
第1の光軸は、レンズの中心線に沿って位置することができる。中心領域は、第1の光軸上の遠点物体(distant point object)からの光を第1の光軸上の遠位焦点面(distal focal surface)におけるスポットに集束させることができる。本明細書で使用する「面(surface)」という用語は、物理的な面ではなく、遠方の物体からの光が集束する点を通じて描くことができる面を意味する。このような面は、(たとえ曲面であっても)像面又は像シェル(image shell)とも呼ばれる。眼は、湾曲した網膜上に光を集束させる。完全に焦点が合った眼では、像シェルの曲率が網膜の曲率に一致し、従って眼が平坦な数学的平面上に光を集束させることはない。しかしながら、当業では一般に網膜の曲面が平面と呼ばれる。
【0023】
ベース領域は、第1の光軸上の曲率中心を中心とする曲率を有することができる。近視抑制領域は、光軸からオフセットされた曲率中心を有することができる。
【0024】
第1の表面度数マップ、第2の表面度数マップ及びレンズ度数マップのうちの1つは、曲率度数マップを含むことができる。
【0025】
上述したように、近視抑制領域は渦巻き形を有する。近視領域は渦巻き形を形成することができる。近視抑制領域は、複数(例えば、2つ)の渦巻き形を有することができる。このような場合、2つの渦巻き形は反対方向に巻くことができ、すなわち一方の渦巻きは時計回り方向に巻き、他方は反時計回り方向に巻く。近視抑制領域が複数の渦巻き形を含む場合、これらの渦巻き形は、組み合わさって別の形状(例えば、構成元の渦巻きとは異なる形状)を形成するように重なり合うことができる。このような渦巻きは二重反転型(counter-rotating)であると言える。渦巻きの巻き方向は、眼科用レンズの装着者の視点から評価すべきであると理解されるであろう。従って、眼科用レンズの単一の表面度数マップは、2つの二重反転渦巻きを含むことができる。
【0026】
渦巻きは、経線に沿った曲率度数マップが経線の角度の増加と共に光軸に向かって又は光軸から離れて漸進的シフトを受けるように形成することができる。従って、第1の経線は、第1の経線に沿った表面/レンズの曲率度数を定める曲率度数マップを有していると考えることができる。第1の経線に角度的に隣接する第2の経線は、第2の経線に沿った表面/レンズの曲率度数を定める曲率度数マップを有していると考えることができる。第2の経線に沿った曲率度数マップは、(光軸に向かって又は光軸から離れて)第1の方向に半径方向移動している点を除き、第1の経線に沿った曲率度数マップと実質的に同一であることができる。同様に、第2の経線に隣接する第3の経線に沿った曲率度数マップは、やはり第1の方向(すなわち、第1及び第2の経線間の移動と同じ方向)に半径方向移動している点を除き、第2の経線に沿った曲率度数マップと実質的に同一であることができる。従って、観察される経線の角度が増すと、曲率度数マップの半径方向シフトが着実に進むようになる。従って、当業者であれば、この文脈での「漸進的シフト」は、一定方向への連続移動を意味するものであると理解するであろう。
【0027】
第1の表面度数マップ、第2の表面度数マップ及びレンズ度数マップのうちの1つは、光軸から外向きに広がる概念的な複数の半径方向帯(radial bands)を含んでいると考えることができる。このような場合、複数のうちの各概念的な半径方向帯の曲率度数マップは、光軸に向かって又は光軸から離れて半径方向にシフトしている点を除き、複数のうちの隣接する半径方向帯と実質的に同一であることができる。従って、近視抑制領域によって形成される渦巻きは、異なるセグメントによって渦巻きが近似される画素化された外観(pixelated appearance)を有することができる。他の実施形態では、経線に沿った度数マップの漸進的半径方向シフトが滑らかな連続シフトを含む。このような場合には、滑らかな渦巻きを形成することができる。
【0028】
渦巻きは、光軸からの半径方向距離が増加すると、その半径方向距離において第1の表面度数マップ、第2の表面度数マップ及びレンズ度数マップのうちの1つのマップの円が光軸の周囲で漸進的に回転するように形成することができる。従って、レンズの第1の円は、第1の円に沿った曲率度数を定める曲率度数マップを有していると考えることができる。第1の円に半径方向に隣接するレンズの第2の円は、第2の円に沿った曲率度数を定める曲率度数マップを有していると考えることができる。第2の円に沿った曲率度数マップは、光軸の周囲で第1の方向に(すなわち、時計回り又は反時計回りに)角度的に回転している点を除き、第1の円に沿った曲率度数マップと実質的に同一であることができる。同様に、第2の円に半径方向に隣接する第3の円に沿った曲率度数マップは、光軸の周囲で第1の方向に(すなわち、第1及び第2の経線間の回転と同じ方向に)角度的に回転している点を除き、第2の円に沿った曲率度数マップと実質的に同一であることができる。従って、観察される円の光軸からの半径方向距離が増すと、曲率度数マップの角度的シフトが着実に進む。
【0029】
第1の表面度数マップ、第2の表面度数マップ及びレンズ度数マップのうちの1つは、概念的な複数の環状リングを含んでいると考えることができる。このような場合、複数のうちの各概念的な環状リングの度数マップは、光軸の周囲で回転している点を除き、複数のうちの隣接する環状リングと実質的に同一であることができる。或いは、第1の表面度数マップ、第2の表面度数マップ及びレンズ度数マップのうちの1つのマップの円の漸進的回転は、滑らかな連続回転を含む。
【0030】
渦巻きは、2つよりも多くのアーム、好ましくは4つよりも多くのアーム、より好ましくは8つよりも多くのアーム、さらに好ましくは16個よりも多くのアームを含むことができる。渦巻きの各アームは、少なくとも半回転、好ましくは少なくとも1回転、より好ましくは少なくとも1回転半、さらに好ましくは少なくとも2回転にわたって巻くことができる。
【0031】
渦巻きの各アームは、その部分の光軸から度数マップの周辺部に延びることができる。本発明の実施形態による、渦巻きのアームがレンズの光軸から度数マップの周辺部に延びるコンタクトレンズは、変化する瞳孔拡大の存在下でも、実質的に一定の(遠方焦点に対応する)ベース度数対近視的焦点ずれの比率を提供することができる。このような実施形態は、同心リングレンズ設計と比べて様々な照明条件において一貫性の高い近視的に焦点ずれした像を提供することができ、同心リングコンタクトレンズ設計と比べてレンズ偏位(lens decentration)時に一貫性の高い近視的に焦点ずれした像を提供することができる。
【0032】
近視抑制領域は、ベース領域に当接することができる。ベース領域と近視抑制領域との間には混合領域を設けることができる。混合領域は、ベース領域又は近視抑制領域によって提供される光学系に実質的に影響しないことができる。従って、第1の表面度数マップ、第2の表面度数マップ及びレンズ度数マップのうちの1つは、混合領域をさらに含むことができる。このような場合、混合領域は、ベース領域を近視抑制領域から分離することができる。混合領域は、ベース領域と近視抑制領域との間に滑らかな遷移をもたらすように変化することができる。
【0033】
上述したように、ベース領域は、第1の光軸上の焦点に光を集束させるのに対し、近視抑制領域は、第1の光軸からオフセットされた複数の焦点に光を集束させる。従って、ベース領域を通過した遠点光源からの光線は、第1の光軸上の点に向かって収束する。近視抑制領域を通過した遠点光源からの光線は、第1の光軸から離れた1又は2以上の点に向かって収束する。
【0034】
近視抑制領域は、第1の光軸からオフセットされた複数の焦点に光を集束させることに加えて、第1の光軸上の1又は2以上の点に光(例えば、近視抑制領域の特定の部分を通過した光)を集束させることもできる。従って、近視抑制領域によって形成される焦点のサブセットのみを第1の光軸からオフセットさせることができる。近視抑制領域によって形成される渦巻きは、複数のアームを含むことができる。このような場合、複数のうちの1又は2以上のアームが、第1の光軸上の1又は2以上の焦点に光を集束させ、複数のうちの他の1又は2以上のアームが、第1の光軸からオフセットされた1又は2以上の焦点に光を集束させることができる。
【0035】
近視抑制領域によって形成される複数の焦点は、レンズ/表面度数マップの各経線につき少なくとも1つの焦点を含むことができる。従って、レンズ/表面度数マップの各経線は複数の焦点のうちの1つを形成することができる。レンズ/表面度数マップの所与の経線が渦巻きの複数のアームを含む場合、その経線における近視抑制領域は2つの焦点を形成することができる。従って、レンズ/表面度数マップの各経線における渦巻きの各アームは、複数の焦点のうちの1つを形成することができる。従って、レンズ/表面度数マップの各経線の各アームは、近視抑制領域の複数の焦点のうちの1つを含む独自の局所的焦点を含むことができる。
【0036】
近視抑制領域の焦点の光軸からのオフセットは、レンズ全体にわたって実質的に一定であることができる。例えば、近視抑制領域の曲率中心がレンズ全体にわたって実質的に一定である場合、近視抑制領域の焦点は、光軸の周囲に光軸を中心とするリングを形成することができる。
【0037】
近視抑制領域の焦点の光軸からのオフセットは、レンズ全体にわたって変化することができる。このような場合、近視抑制領域の焦点の光軸からのオフセットは、光軸からの半径方向距離に従って変化することができる。近視抑制領域によって形成される渦巻きは、1又は2以上のアームを含むことができる。このような場合、近視抑制領域の焦点のオフセットは、1又は2以上のアームの各々の半径方向エッジ(例えば、半径方向最外エッジ又は最内エッジ又は中心線)に入射する光がベース領域の焦点に向けられるように変化することができる。近視抑制領域の焦点のオフセットは、1又は2以上のアームの各々の中心線に入射する光がベース領域の焦点に向けられるように変化することができる。他の実施形態では、焦点のオフセットが、渦巻きの他の部分が入射光をベース領域の焦点に向けるように変化することができると理解されるであろう。当業者であれば、この文脈での入射光は、第1の光軸上に位置する無限遠点光源からのものであると理解するであろう。
【0038】
ベース度数は、表面/レンズ度数マップにわたって変化することができる。ベース度数は、光軸からの半径方向距離に従って(例えば、線形的に、指数関数的に、又は単調に)変化することができる。例えば、ベース度数は、その部分の中心から半径方向外向きに(例えば、線形的に)低下することができる。
【0039】
渦巻きは、表面/レンズ度数マップにわたって変化することができる。渦巻きの1又は2以上のアームのピーク度数は、光軸からの半径方向距離及び光軸の周囲の方位角位置の一方又は両方に従って変化することができる。渦巻きの少なくとも1つのアームのピーク度数は、他のアームのピーク度数とは異なることができる。従って、渦巻きの各アームは異なる度数を有していると言える。渦巻きの各アームのピーク度数は、他のアームのピーク度数とは異なることができる。渦巻きの巻き率は、その部分の中心からの半径方向距離に従って変化することができる。渦巻きの巻き率は、渦巻きのアームが渦巻き中心の周囲で回転する割合(すなわち、所与の半径方向距離にわたる渦巻きの中心の周囲でのアームの回転数)を意味するものであると理解されるであろう。渦巻きの1又は2以上のアームの幅は、渦巻きの他のアームの対応する幅とは異なることができる。
【0040】
ベース領域は、近視抑制領域が及ばない中心部分と、中心部分を取り囲んで近視抑制領域を含む外側部分とをレンズが含むように光軸を直接取り囲むことができる。表面/レンズ度数マップの度数は実質的に一定であることができる。外側部分は渦巻きを含むことができる。表面/レンズ度数マップにベース度数の中心部分を提供することで、表面/レンズ度数マップによって提供されるベース度数の量が増すことにより、結果として得られる焦点像の卓越性(prominence)を高めることができる。
【0041】
中心部分の直径は、度数マップの直径の50%未満、好ましくは40%未満、さらに好ましくは30%未満であることができる。中心部分は、装着者の最小瞳孔サイズよりも小さいことができる。装着者の最小瞳孔サイズよりも小さな中心部分を有する本発明の実施形態は、変化する照明条件の存在下でも近視抑制を維持することができる。
【0042】
表面/レンズ度数マップは、遷移部分をさらに含むことができる。遷移部分は中心部分を取り囲むことができる。外側部分は遷移部分を取り囲むことができる。遷移部分内では、表面/レンズ度数マップの度数が変化して、中心部分と外側部分の間に滑らかな遷移をもたらすことができる。遷移部分も渦巻き(例えば、近視抑制領域の渦巻きから継続する渦巻き)を含むことができる。このような実施形態では、遷移部分における渦巻きの大きさが、遷移部分の最外半径と遷移部分の最内半径との間で(例えば、線形的に)減少することができる。この遷移渦巻きは、外側部分(例えば、最外半径)の渦巻きに等しい大きさからゼロ(例えば、最内半径)まで減少することができる。
【0043】
近視抑制領域は、第1の表面度数マップによって提供することができる。このような実施形態では、第2の表面度数マップがさらなる近視抑制領域を含むことができる。さらなる近視抑制領域も渦巻きを含み(例えば、渦巻き形を形成し)、第1の光軸からオフセットされた複数の焦点に光を集束させることができる。さらなる近視抑制領域の渦巻きは、近視抑制領域の渦巻きとは反対方向に巻くことができる。当業者であれば、渦巻きの巻き方向はレンズの装着者の視点から決定されるべきであると理解するであろう。第1及び第2の表面度数マップの各々は、それぞれ単一の渦巻きを含むことができる。従って、第1及び第2の表面度数マップの各々は複数の渦巻きを含まないことができる。従って、第1及び第2の表面度数マップの各々は、渦巻き形を形成する近視抑制領域を含むことができる。このような場合、第1及び第2の表面度数マップの各々において形成される渦巻きは、巻き方向が逆であることを除いて同じであることができる。
【0044】
当業者であれば、レンズの全体的度数マップは、第1の表面度数マップと第2の表面度数マップとの重なり合いによって決定されると理解するであろう。実施形態では、第1及び第2の表面度数マップによって提供される渦巻きが反対方向に巻くことができる。従って、第1及び第2の表面度数マップは二重反転渦巻きを含んでいると言える。第1の表面度数マップ上に形成された渦巻きは反時計回り方向に巻き、第2の表面度数マップ上に形成された渦巻きは時計回り方向に巻くことができる。或いは、第1の表面度数マップ上に形成された渦巻きは時計回り方向に巻き、第2の表面度数マップ上に形成された渦巻きは反時計回り方向に巻くことができる。
【0045】
第1の表面度数マップ及び第2の表面度数マップによって形成される2つの二重反転渦巻きが重なり合う結果、交互になった環状リング又は複数の焦点ずれのセグメントの擬似ダーツボードパターンに近いレンズ度数マップが得られる。従って、このような場合、全体的レンズ度数マップは、遠方視力をもたらす(ベース領域によって提供される)第1のレンズ度数と、近視的焦点ずれをもたらす(近視抑制領域によって提供される)第2のレンズ度数との間で変化する。このような場合、レンズ度数マップは複数の区画を含むことができる。複数の区画は、遠方焦点に対応する第1の度数、又は近視的焦点ずれに対応する第2の度数のいずれかを提供することができる。これらの区画は、レンズ度数マップ上に、遠方焦点と近視的焦点ずれとが半径方向に及び/又は角度的に交互になるように配置することができる。
【0046】
上述したように、渦巻き形の近視抑制領域を有するコンタクトレンズは、瞳孔が収縮又は拡大する際に、遠方焦点対近視的焦点ずれの実質的に一定の比率(渦巻きがレンズ全体を覆う場合)、又は単調に変化する比率(渦巻きがレンズの半径方向部分の一部のみを覆う場合)のいずれかを維持することができる。2つの二重反転渦巻きの重なり合いによって得られる疑似ダーツボードパターンもこの同じ利益をもたらす。従って、擬似ダーツボードパターンに近い度数マップを有するコンタクトレンズは、近視を抑制する上で有効であることができる。擬似ダーツボード型度数マップを有するコンタクトレンズは、可変照明条件の存在下でも近視的焦点ずれ対遠方焦点の比率の変動を抑える。このようなレンズ度数マップは、装着者の瞳孔サイズ変化の存在下でも安定性の高いレンズ度数比率(すなわち、近視的焦点ずれをもたらすレンズ度数と遠方視力焦点調節をもたらすレンズ度数との比率)を提供する。
【0047】
眼科用レンズは近視抑制レンズとして意図されているため、一般に眼科用レンズの装着者は約5歳~18歳になり、従って装着者の眼は順応できる可能性が非常に高い。従って、ベースレンズ度数は遠方視力に合わせて選択されるが、装着者は順応能力があるためベース領域を通して近距離を見ることもできると理解されるであろう。
【0048】
本発明の実施形態によるコンタクトレンズは、エラストマ材料、シリコーンエラストマ材料、ハイドロゲル材料、又はシリコーンハイドロゲル材料、或いはこれらの組み合わせを含むことができる。コンタクトレンズの分野では理解されているように、ハイドロゲルは、平衡状態で水分を保持する、シリコーン含有化学物質を含まない材料である。シリコーンハイドロゲルは、シリコーン含有化学物質を含むハイドロゲルである。本開示の文脈で説明するようなハイドロゲル材料及びシリコーンハイドロゲル材料は、少なくとも10%~約90%(wt/wt)の平衡含水率(EWC)を有する。いくつかの実施形態では、ハイドロゲル材料又はシリコーンハイドロゲル材料が約30%~約70%(wt/wt)のEWCを有する。比較すると、本開示の文脈で説明するようなシリコーンエラストマ材料は、約0%~10%未満(wt/wt)の含水率を有する。通常、本発明の方法又は装置と共に使用されるシリコーンエラストマ材料は、0.1%~3%(wt/wt)の含水率を有する。好適なレンズ配合物の例としては、メタフィルコンA,オキュフィルコンA,オキュフィルコンB,オキュフィルコンC,オキュフィルコンD,オマフィルコンA,オマフィルコンB,コンフィルコンA,エンフィルコンA,ステンフィルコンA,ファンフィルコンA,エタフィルコンA,セノフィルコンA,セノフィルコンB,セノフィルコンC,ナラフィルコンA,ナラフィルコンB,バラフィルコンA,サムフィルコンA,ロトラフィルコンA,ロトラフィルコンB,ソモフィルコンA,リオフィルコンA,デレフィルコンA,ベロフィルコンA,カリフィルコンAなどの米国一般名(USAN)を有するものが挙げられる。
【0049】
或いは、レンズは、シリコーンエラストマ材料を含み、実質的にシリコーンエラストマ材料から成り、又はシリコーンエラストマ材料から成ることができる。例えば、レンズは、3~50のショアA硬度を有するシリコーンエラストマ材料を含み、実質的にこのようなシリコーンエラストマ材料から成り、又はこのようなシリコーンエラストマ材料から成ることができる。ショアA硬度は、当業者が理解する従来の方法を使用して(例えば、方法DIN 53505を使用して)決定することができる。他のシリコ-ンエラストマ材料は、例えばNuSil Technology社又はDow Chemical Company社から入手することができる。
【0050】
本発明の第2の態様によれば、眼科用レンズの製造方法も提供される。方法は、旋盤を操作して、レンズ、レンズ用金型、又はレンズ用金型を製造するためのインサートのうちの少なくとも1つの第1の表面を成形することを含む。方法は、旋盤を操作して、レンズ、金型又はインサートの第2の表面を成形して第2の表面度数マップを形成することをさらに含む。第1及び第2の表面度数マップの組み合わせは、第1の光軸を有するレンズ度数マップを形成する。第1の表面度数マップ、第2の表面度数マップ及びレンズ度数マップのうちの1つは、ベース領域及び近視抑制領域を含む。ベース領域は、第1の光軸上の焦点に光を集束させる。近視抑制領域は渦巻き形を有し、第1の光軸からオフセットされた複数の焦点に光を集束させる。
【0051】
レンズは、上述した特徴のうちのいずれかを含むことができる。
【0052】
製造方法は、凹レンズ形成面を有する雌型部材、及び凸レンズ形成面を有する雄型部材を形成することを含むことができる。方法は、雌型部材と雄型部材との隙間をバルクレンズ材料で満たすことを含むことができる。方法は、バルクレンズ材料を硬化させてレンズを形成することをさらに含むことができる。
【0053】
レンズは、旋盤加工を使用して形成することができる。レンズは、注型成形加工、回転注型成形加工、又は旋盤加工、或いはこれらの組み合わせによって形成することができる。当業者であれば理解するように、注型成形は、凹レンズ部材形成面を有する雌型部材と凸レンズ部材形成面を有する雄型部材との間にレンズ形成材料を配置することによるレンズの成形を意味する。
【0054】
レンズの製造方法はレンズを設計することを含み、設計されるレンズは本開示の実施形態によるレンズであり、上述した特徴のうちのいずれかを含む。レンズはモデリングを使用して設計することができ、モデリングはコンピュータ実装モデリングであることができる。
【0055】
方法は、第1のレンズ(例えば、コンタクトレンズ)をモデル化することを含むことができる。第1のレンズはベース領域を有することができ、ベース領域は、第1の光軸上の焦点に光を集束させるベース度数を有する。第1のレンズは近視抑制領域を含むことができ、近視抑制領域は渦巻き形を形成し、第1の光軸上の焦点に光を集束させる。近視抑制領域は、ベース度数よりも高い加入度数(例えば、曲率加入度数)を提供することができる。方法は、第2のレンズ(例えば、コンタクトレンズ)をモデル化することを含むことができる。第2のレンズは、第1のレンズと同じベース領域を有することができる。第2のレンズのベース領域は第1のレンズと同じベース度数を有することができ、第1の光軸上の焦点に光を集束させることができる。第2のレンズは、渦巻き形を形成する近視抑制領域を有することができる。近視抑制領域は、ベース度数よりも高い加入度数(例えば、曲率加入度数)を提供することができる。第2のレンズの正味度数は、第2のレンズのベース度数と加入度数との和になる。第2のレンズの正味度数は、第1のレンズの正味度数よりも高いことができる。レンズの設計方法は、モデル内で第2のレンズの近視抑制領域の内側エッジを固定したまま近視抑制領域を傾転させることを含むことができる。方法は、近視抑制領域の外側エッジが第1のレンズのベース領域の対応するエッジと一致するように、ベース領域の少なくとも一部を並進させることを含むことができる。方法は、近視抑制領域によって形成される渦巻きのアームの内側エッジをモデル内で固定したまま渦巻きの各アームを傾転させることを含むことができる。方法は、渦巻きのアームの外側エッジが第1のレンズのベース領域の対応するエッジと一致するように、ベース領域の少なくとも一部を並進させることを含むことができる。方法は、ベース領域と近視抑制領域との間に混合領域を設けることを含むことができる。混合領域は、ベース領域と近視抑制領域との間に滑らかな遷移をもたらすことができる。方法は、レンズの各経線について別々に傾転(及び該当する場合には並進)を実行することを含むことができる。第2のレンズの近視抑制領域を傾転させることで焦点を複数の焦点に分割し、これらの焦点を第1の光軸から離して移動させることができる。第2のレンズの環状領域を傾転させることで、第3のモデル化されたレンズ(例えば、第3のコンタクトレンズ)、すなわち傾転した第2のレンズが得られる。第3のレンズ、又は傾転した第2のレンズは、傾転されていない第2のレンズと同じ正味度数をもたらすが複数の軸外焦点を有する近視抑制領域を有するようになる。
【0056】
レンズの製造方法は、モデル化された第3のレンズ(すなわち、傾転した第2のレンズ)に基づいてレンズを製造することを含むことができる。第3のモデル化されたレンズに基づくレンズは、第1のモデル化されたレンズに基づくレンズよりも高い曲率を有するので、このレンズはより高い正の球面収差を有することができる。第3のコンタクトレンズ設計に基づいて製造されたレンズは、第1又は第2のモデル化されたレンズに基づくレンズと比べて拡大された焦点深度を有することもできる。
【0057】
方法は、レンズを設計するステップをさらに含むことができる。この設計は、第1の表面、第2の表面及びレンズのうちの1つの第1の経線について、この経線に沿った曲率度数分布を定めることを含むことができる。この設計は、第1の表面、第2の表面及びレンズのうちの1つの第1の経線に隣接する第2の経線について、この経線に沿った第2の曲率度数分布を定めることをさらに含むことができる。第2の曲率度数分布は、光軸に向かって又は光軸から離れて半径方向にシフトしている点を除き、複数のうちの隣接する半径方向帯と実質的に同一であることができる。
【0058】
本発明の第3の態様によれば、ある人物の近視の発症又は進行を予防し又は遅らせる方法も提供される。方法は、第1の態様によるレンズ(例えば、コンタクトレンズ)をこの人物に提供することを含む。
【0059】
図1は、本発明の実施形態例によるコンタクトレンズ100の概略的平面図である。コンタクトレンズ100は、ほぼ瞳孔を覆う光学ゾーン101と、虹彩の上方に位置する周辺ゾーン103とを含む。周辺ゾーン103は、レンズのサイズを拡大することによってレンズ100を扱いやすくし、バラストを提供してレンズ100の回転を防ぎ、レンズ100の装着者の快適性を高める成形領域をもたらすことを含む機械的機能を提供することができる。光学ゾーン101は、レンズ100の光学機能を提供する。光学ゾーン101は、ベース領域105及び近視抑制領域107を含む。近視抑制領域107は渦巻き形を形成する。
【0060】
図1に示す特定の実施形態では、近視抑制領域107によって形成される渦巻きが3つのアームを含む。しかしながら、他の実施形態では、渦巻きがさらに多くの又は少ないアームを有することもできると理解されるであろう。同様に、
図1に示す実施形態例では渦巻きが反時計回り方向に巻いているが、他の実施形態では時計回り方向に巻くこともできる。
【0061】
図1に示す実施形態では、レンズ100が、近視抑制領域107が及ばない中心部分を含む。レンズは、近視抑制領域107を含む外側部分をさらに含む。中心部分は、(ベース領域内に存在するため)ベース度数に等しい実質的に一定のレンズ度数を有する。他の実施形態では、レンズが中心部分又は外側部分を含まず、代わりに近視抑制領域によって形成される渦巻きが光学ゾーン101の周辺部からレンズ100の光軸まで延びる。
【0062】
図2は、本発明の第1の実施形態によるコンタクトレンズ200の一画の概略的断面図である。コンタクトレンズ200は光軸201を有する。コンタクトレンズ200は、光軸201上の焦点209に光を集束させるベース領域205を含む第1の表面度数マップを有する。第1の表面度数マップは、渦巻き形を形成する近視抑制領域207をさらに含む。この例では、コンタクトレンズ200の第2の表面度数マップがさらなる焦点調節をもたらさない。従って、コンタクトレンズ200のレンズ度数マップは第1の表面度数マップと同一である。
図2にはコンタクトレンズ200の断面図を示しているので、渦巻きのアームを通じた断面のみが見えていると理解されるであろう。近視抑制領域207は、光軸201からオフセットされた複数の焦点211に光を集束させる。この特定の実施形態では、焦点211の光軸201からのオフセットがレンズ200全体にわたって実質的に一定である。従って、焦点211は、光軸201の周囲に光軸201を中心とするリングを形成する。近視抑制領域207がレンズの1又は2以上の経線と交差しない渦巻きを形成する実施形態では、焦点211が断続リング(an interrupted ring)を形成し、リング内の断続位置が、渦巻きと交差しない経線に対応すると理解されるであろう。
【0063】
図3は、本発明の第2の実施形態によるコンタクトレンズ300の一画の概略的断面図である。コンタクトレンズ300は光軸301を有する。コンタクトレンズ300は、光軸301上の焦点309に光を集束させるベース領域305を含む第1の表面度数マップを有する。第1の表面度数マップは、渦巻き形を形成する近視抑制領域307をさらに含む。この例でもやはり、コンタクトレンズ300の第2の表面度数マップはさらなる焦点調節をもたらさず、従ってコンタクトレンズ300のレンズ度数マップは第1の表面度数マップと同一である。
図3にはコンタクトレンズ300の断面図を示しているので、渦巻きのアームを通じた断面のみが見えていると理解されるであろう。近視抑制領域307は、光軸301からオフセットされた複数の焦点311に光を集束させる。この特定の実施形態では、近視抑制領域307の曲率が、近視抑制領域307の焦点311の光軸301からのオフセットが光軸301からの半径方向距離に従って変化するようなものである。この例では、焦点311の光軸301からのオフセットが、1又は2以上のアームの各々の半径方向最外エッジに入射する光がベース領域305の焦点309の方に向けられるように変化する。従って、焦点211は光軸301の周囲に渦巻きを形成する。当業者であれば、この文脈での入射光は、第1の光軸上に位置する無限遠点光源からのものであると理解するであろう。
【0064】
図4は、本発明の第3の実施形態によるコンタクトレンズ400の一画の概略的断面図である。コンタクトレンズ400は、焦点411の光軸401からのオフセットが、1又は2以上のアームの各々の中心線に入射する光がベース領域405の焦点409に向けられるように変化する点を除き、(近視抑制領域407を有する)第3の実施形態のコンタクトレンズ300と同一である。当業者であれば、渦巻きのアームの中心線はアームの垂直な中点に沿って延びていると理解するであろう。
【0065】
本発明の第4の実施形態例は、以下の特徴を除き、第1の実施形態に関して説明したコンタクトレンズを含む。第1の実施形態とは異なり、第3の実施形態のコンタクトレンズの第2の表面度数マップは、渦巻き形を形成して、第1の光軸からオフセットされた複数の焦点に光を集束させるさらなる近視抑制領域を含む。さらなる近視抑制領域によって形成される渦巻きは、反対方向に巻いている点を除き、第1の表面度数マップ上の近視抑制領域によって形成される渦巻きと実質的に同一である。従って、第3の実施形態のコンタクトレンズは、二重反転渦巻きを形成する2つの近視抑制領域を有していると言える。従って、第3の実施形態のコンタクトレンズのレンズ度数マップは、遠方焦点及び近視的焦点ずれの複数セグメントの環状リングが交互になった擬似ダーツボードパターンを形成する。全体的なレンズ度数マップは、遠方視力をもたらす(ベース領域によって提供される)第1のレンズ度数と、近視的焦点ずれをもたらす(近視抑制領域によって提供される)第2のレンズ度数との間で変化する。
【0066】
図5に、本発明の第5実施形態によるレンズ(例えば、コンタクトレンズ)の製造方法500を示す。
【0067】
項目510によって表す方法の任意の第1のステップは、レンズを設計することを含む。レンズは、第1の表面度数マップ及び第2の表面度数マップを含むことができる。このような場合、第1の表面度数マップと第2の表面度数マップとの組み合わせはレンズ度数マップを含むことができる。レンズを設計することは、第1の表面度数マップ、第2の表面度数マップ及びレンズ度数マップのうちの1つのマップの第1の経線について第1の経線に沿った曲率度数分布を定めるという、項目511によって表す第1のサブステップを含むことができる。レンズを設計することは、第1の表面度数マップ、第2の表面度数マップ及びレンズ度数マップのうちの1つのマップの第1の経線に隣接する第2の経線について第2の経線に沿った第2の曲率度数分布を定めるという、項目513によって表す第2のサブステップを含むことができる。第2の曲率度数分布は、光軸に向かって又は光軸から離れて半径方向にシフトしている点を除き、複数のうちの隣接する半径方向帯と実質的に同一であることができる。レンズを設計することは、第1の、第2の及びさらなる曲率度数マップが光軸に向かって又は光軸から離れて半径方向にシフトしている点を除いて実質的に同一であるようにさらなる経線についてさらなる曲率度数分布を定めるという、項目515によって表す第3のサブステップを含むことができる。曲率度数マップの半径方向シフトは、観察される経線の角度が増すにつれて曲率度数マップが漸進的に同じ方向にシフトするようなものであることができる。
【0068】
項目530によって表す方法500の第2のステップは、旋盤を操作して、レンズ、レンズ用金型、又はレンズ用金型を製造するためのインサートのうちの少なくとも1つの第1の表面を成形することを含む。
【0069】
項目550によって表す方法500の第3のステップは、旋盤を操作して、レンズ、金型又はインサートの第2の表面を成形して第2の表面度数マップを形成することを含む。
【0070】
第1の表面及び第2の表面の成形は、第1の表面度数マップ、第2の表面度数マップ及びレンズ度数マップのうちの1つがベース領域及び近視抑制領域を含むようなものである。ベース領域は、第1の光軸上の焦点に光を集束させるベース度数を有する。近視抑制領域は渦巻き形を形成し、第1の光軸からオフセットされた複数の焦点に光を集束させる。
【0071】
当業者であれば、方法は、本発明のコンタクトレンズに関して上述した特徴のいずれかをレンズが含むように第1及び第2の表面を形成することを含むことができると理解するであろう。
【0072】
特定の実施形態を参照しながら本発明を図示し説明したが、当業者であれば、本発明は、本明細書に具体的に示していない多くの異なる変形形態にも役立つものであると理解するであろう。以下、いくつかの考えられる変形形態についてほんの一例として説明する。
【0073】
説明した実施形態では、レンズの表面度数マップが、実質的に一定の度数を有する中心部分と、近視抑制領域を組み込んだ外側部分と、中心部分と外側部分との間の滑らかな遷移をもたらす遷移領域とを含む。しかしながら、いくつかの別の実施形態は遷移部分を組み込んでいない。さらに別の実施形態は明確な中心部分及び外側部分を組み込んでいない。代わりに、このような実施形態では、近視抑制領域によって形成される渦巻きが度数マップの中心から度数マップの半径方向周辺部まで完全に延びる。
【0074】
本発明のいくつかの実施形態では、近視抑制領域によって形成される渦巻きが、レンズの光軸から所定の半径方向距離においてその回転方向を変化させる。例えば、渦巻きは、レンズの光軸と所定の半径方向距離との間では時計回り方向に回転し、所定の半径方向距離を超えると反時計回り方向に回転する。レンズは、渦巻きの回転方向の変化を複数組み込むことができる。従って、渦巻きは、例えば時計回り回転から反時計回り回転に変化した後に再び時計回り回転に戻ることができる。当業者であれば、レンズは、渦巻きの回転方向のあらゆる数の変化を組み込むことができると理解するであろう。また、これらの方向の変化の各々は、レンズの光軸からのいずれかの選択された半径方向距離で発生することができると理解するであろう。従って、本発明の実施形態による表面又はレンズ度数マップは、時計回り回転の渦巻きと反時計回り回転の渦巻きとが交互になった環状リングを含むことができる。このような実施形態では、各二重反転渦巻きがレンズの光軸からの同じ半径方向距離で回転方向を変化させることができる。
【0075】
いくつかの実施形態では、異なる回転方向を有する度数マップの部分間に、度数マップが渦巻きのように変化しない領域が存在することができる。例えば、この領域は実質的に一定の度数を有することができる。例えば、レンズの中心から第1の半径方向距離までは近視抑制領域が時計回り回転の渦巻きを形成し、次に実質的に一定度数の領域が続き、その後に反時計回り回転の渦巻きを形成することができる。従って、度数マップは、例えば渦巻きと実質的に一定の度数とが交互になった複数の環状リングを含み、渦巻きを含むリングでも時計回り回転と反時計回り回転とが交互になっているように見える。
【0076】
同様に、いくつかの実施形態では、近視抑制領域によって形成される渦巻きを、度数マップが渦巻きのように変化しない、例えばリングなどの1又は2以上の領域によって遮断することができる。このような領域は、実質的に一定の度数(例えば、ベース度数)を有することができる。従って、例えば、度数マップは、近視抑制領域によって形成される渦巻きとベース度数とが交互になった環状リングを含むことができる。このような実施形態では、渦巻きが各遮断間でその回転方向を変化させることも、又はそれまでの回転方向を継続することもできる。従って、渦巻きは、レンズ全体にわたって一定の回転方向を維持しながら、実質的に一定のレンズ度数の領域によって遮断することができる。
【0077】
上述したレンズは、実質的に一定のベース度数を有するベース領域と、規則的な渦巻き形を形成する近視抑制領域とを有しているが、当業者であれば、本発明の他の実施形態は必ずしもその必要がないと理解するであろう。例えば、他の実施形態では、表面/レンズ度数マップ全体にわたってベース度数が変化する。ベース度数は、光軸からの半径方向距離に従って(例えば、線形的に、指数関数的に、又は単調に)変化することができる。例えば、ベース度数は、その部分の中心から半径方向外向きに(例えば、線形的に)低下することができる。
【0078】
近視抑制領域によって形成される渦巻きは、表面/レンズ度数マップ全体にわたって変化することができる。近視抑制領域によって形成される渦巻きの1又は2以上のアームのピーク度数は、光軸からの半径方向距離及び光軸の周囲の方位角位置の一方又は両方に従って変化することができる。渦巻きの少なくとも1つのアームのピーク度数は、他のアームのピーク度数とは異なることができる。従って、渦巻きの各アームは異なる度数を有していると言える。渦巻きの各アームのピーク度数は、他のアームのピーク度数とは異なることができる。渦巻きの巻き率は、その部分の中心からの半径方向距離に従って変化することができる。渦巻きの巻き率は、渦巻きのアームが渦巻きの中心の周囲で回転する割合(すなわち、所与の半径方向距離にわたる渦巻きの中心の周囲でのアームの回転数)を意味するものであると理解されるであろう。渦巻きの1又は2以上のアームの幅は、渦巻きの他のアームの対応する幅とは異なることができる。
【0079】
以上、旋盤を使用してレンズ、レンズ用金型、又はレンズ用金型用のインサートを製造する方法に関連して本発明の実施形態を説明したが、他の製造方法も可能であると理解されるであろう。例えば、金型又はインサートは、例えば3D印刷などの付加製造技術を使用して製造することもできる。
【0080】
本発明の実施形態は、近視の発症又は進行を予防し又は遅らせる上で使用されるレンズ(例えば、コンタクトレンズ)であって、
レンズが第1の光軸を有し、
レンズの第1の表面が、第1の表面度数マップを形成するように成形され、
レンズの第2の表面が、第2の表面度数マップを形成するように成形され、
第1及び第2の表面度数マップが共にレンズ度数マップを形成し、
第1の表面度数マップ、第2の表面度数マップ及びレンズ度数マップのうちの1つが、
ベース度数を提供するとともに第1の光軸上の曲率中心を中心とする曲率を有するベース領域と、
渦巻き形を有し、光軸からオフセットされた曲率中心を有する近視抑制領域と、
を含むレンズも提供する。
【0081】
上述した説明では、既知の、自明の又は予見可能な同等物を有する整数又は要素について言及している場合、このような同等物は、個別に記載されているかのように本明細書に組み込まれる。本発明の真の範囲を決定するには、このような同等物を含むように解釈すべき特許請求の範囲を参照されたい。また、読者は、好ましいもの、有利なもの、又は好都合なものとして説明した本発明の整数又は特徴は任意であり、独立請求項の範囲を限定するものではないと理解するであろう。さらに、このような任意の整数又は特徴は、本発明のいくつかの実施形態では有益な場合もあるが他の実施形態では望ましくない場合もあり、従って含めていないこともあると理解されたい。
【符号の説明】
【0082】
100 コンタクトレンズ
101 光学ゾーン
103 周辺ゾーン
105 ベース領域
107 近視抑制領域
【手続補正書】
【提出日】2024-04-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
近視の発症又は進行を予防し又は遅らせる上で使用される眼科用レンズであって、
前記レンズは第1の光軸を有し、
前記レンズの第1の表面は、第1の表面度数マップを形成するように成形され、
前記レンズの第2の表面は、第2の表面度数マップを形成するように成形され、
前記第1及び第2の表面度数マップは、共にレンズ度数マップを形成し、
前記第1の表面度数マップ、前記第2の表面度数マップ及び前記レンズ度数マップのうちの1つは、
前記第1の光軸上の焦点に光を集束させるベース度数を有するベース領域と、
渦巻き形を有し、前記第1の光軸からオフセットされ
リング又は断続リングを形成する複数の焦点に光を集束させる近視抑制領域と、
を含む、
ことを特徴とする眼科用レンズ。
【請求項2】
前記第1の表面度数マップ、前記第2の表面度数マップ及び前記レンズ度数マップのうちの前記1つは曲率度数マップを含み、
前記渦巻きは、経線の角度が増すにつれて、前記経線に沿った度数マップが前記光軸に向かって又は前記光軸から離れて半径方向に漸進的シフトを受けるように形成される、
請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項3】
前記第1の表面度数マップ、前記第2の表面度数マップ及び前記レンズ度数マップのうちの前記1つは、前記光軸から外向きに延びる複数の概念的な半径方向帯を含み、
前記複数のうちの各概念的な半径方向帯の前記曲率度数マップは、前記光軸に向かって又は前記光軸から離れて半径方向にシフトしている点を除き、前記複数のうちの隣接する半径方向帯と実質的に同一である、
請求項2に記載の眼科用レンズ。
【請求項4】
前記第1の表面度数マップ、前記第2の表面度数マップ及び前記レンズ度数マップのうちの前記1つの、経線に沿った前記度数マップの半径方向シフトは、滑らかな連続シフトを含む、
請求項2に記載の眼科用レンズ。
【請求項5】
前記近視抑制領域の前記焦点の前記光軸からの前記オフセットは、前記レンズ全体にわたって実質的に一定である、
請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項6】
前記第1の表面度数マップ、前記第2の表面度数マップ及び前記レンズ度数マップのうちの前記1つは混合領域をさらに含み、
前記混合領域は、前記ベース領域を前記近視抑制領域から分離し、
前記混合領域は、前記ベース領域と前記近視抑制領域との間に滑らかな遷移をもたらすように変化する、
請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項7】
前記ベース領域は、
前記近視抑制領域が及ばない中心部分と、
前記中心部分を取り囲んで前記近視抑制領域を含む外側部分と、
を前記レンズが含むように前記光軸を直接取り囲む、
請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項8】
前記レンズは遷移部分を含み、
前記遷移部分は前記中心部分を取り囲み、前記外側部分は前記遷移部分を取り囲み、
前記遷移部分は、前記中心部分と前記外側部分との間に滑らかな遷移をもたらすように変化する、
請求項
7に記載の眼科用レンズ。
【請求項9】
前記近視抑制領域は、前記第1の表面度数マップによって提供され、
前記第2の表面度数マップは、渦巻き形を有し、前記第1の光軸からオフセットされたさらなる複数の焦点に光を集束させる、さらなる近視抑制領域を含み、
前記さらなる近視抑制領域によって形成される前記渦巻きは、前記近視抑制領域によって形成される渦巻きと反対方向に巻く、
請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項10】
前記近視抑制領域は、前記ベース度数よりも大きな曲率加入度数を提供する、
請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項11】
眼科用レンズの製造方法であって、
旋盤を操作して、レンズ、レンズ用金型、又はレンズ用金型を製造するためのインサートのうちの少なくとも1つの第1の表面を成形するステップと、
旋盤を操作して、前記レンズ、金型又はインサートの第2の表面を成形して第2の表面度数マップを形成するステップと、
を含み、
前記第1及び第2の表面度数マップの組み合わせは、第1の光軸を有するレンズ度数マップを形成し、
前記第1の表面度数マップ、前記第2の表面度数マップ及び前記レンズ度数マップのうちの1つは、
前記第1の光軸上の焦点に光を集束させるベース度数を有するベース領域と、
渦巻き形を有し、前記第1の光軸からオフセットされ
リング又は断続リングを形成する複数の焦点に光を集束させる近視抑制領域と、
を含む、
ことを特徴とする方法。
【請求項12】
前記第1の表面、前記第2の表面及び前記レンズのうちの1つの第1の経線について、前記経線に沿った曲率度数分布を定め、
前記第1の表面、前記第2の表面及び前記レンズのうちの前記1つの、前記第1の経線に隣接する第2の経線について、前記経線に沿った第2の曲率度数分布を定める、
ことによって前記眼科用レンズを設計するステップをさらに含み、
前記第2の曲率度数分布は、前記光軸に向かって又は前記光軸から離れて半径方向にシフトしていることを除き、前記複数のうちの前記隣接する半径方向帯と実質的に同一である、
請求項
11に記載の方法。
【請求項13】
ある人物の近視の発症又は進行を予防し又は遅らせる方法であって、請求項1~
10のうちのいずれか1項に記載の眼科用レンズを前記人物に提供するステップを含む、
ことを特徴とする方法。
【国際調査報告】