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特表2024-538306高い寸法安定性を有するポリイミドフィルムおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-18
(54)【発明の名称】高い寸法安定性を有するポリイミドフィルムおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20241010BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
C08J5/18 CFG
C08G73/10
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024525721
(86)(22)【出願日】2022-10-31
(85)【翻訳文提出日】2024-04-30
(86)【国際出願番号】 KR2022016808
(87)【国際公開番号】W WO2023075542
(87)【国際公開日】2023-05-04
(31)【優先権主張番号】10-2021-0147897
(32)【優先日】2021-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520160738
【氏名又は名称】ピーアイ・アドバンスド・マテリアルズ・カンパニー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム,ドン ヨン
(72)【発明者】
【氏名】ユ,デ ゴン
(72)【発明者】
【氏名】ウォン,ドン ヨン
【テーマコード(参考)】
4F071
4J043
【Fターム(参考)】
4F071AA60
4F071AA88
4F071AF62Y
4F071AH13
4F071BA02
4F071BB02
4F071BC01
4J043PA08
4J043PA19
4J043QB15
4J043QB26
4J043RA35
4J043SA06
4J043SA47
4J043SB03
4J043TA22
4J043TA71
4J043TB03
4J043UA121
4J043UA131
4J043UA672
4J043UB121
4J043UB402
4J043VA011
4J043XA16
4J043YA07
4J043YA08
4J043ZA35
4J043ZB50
(57)【要約】
下記式1で表した膨張係数の比の値が0超過2.5以下である、寸法安定性に優れたポリイミドフィルムおよびその製造方法を提供する。2種以上の二無水物酸成分と、2種以上のジアミン成分と、を含むポリアミック酸溶液をイミド化反応させてポリアミドフィルムを製造することにより、前記膨張係数の比の値を満足させる。
<式1>
膨張係数の比=吸湿膨張係数(ppm/RH%)/熱膨張係数(ppm/℃)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式1で表した膨張係数の比の値が0超過2.5以下である、
ポリイミドフィルム。
<式1>
膨張係数の比=吸湿膨張係数(ppm/RH%)/熱膨張係数(ppm/℃)
【請求項2】
前記熱膨張係数が1ppm/℃以上7ppm/℃以下であり、
前記吸湿膨張係数が3ppm/RH%以上10ppm/RH%以下である、
請求項1に記載のポリイミドフィルム。
【請求項3】
ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライド(BPDA)、ピロメリティックジアンハイドライド(PMDA)、オキシジフタリックアンハイドライド(ODPA)およびベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライド(BTDA)からなるグループより選択された2種以上を含む二無水物酸成分と、パラフェニレンジアミン(PPD)、m-トリジン(m-tolidine)、オキシジアニリン(ODA)および1,3-ビスアミノフェノキシベンゼン(TPE-R)からなるグループより選択された2種以上を含むジアミン成分と、を含むポリアミック酸溶液をイミド化反応させて得られる、請求項1に記載のポリイミドフィルム。
【請求項4】
ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライド、ピロメリティックジアンハイドライドおよびベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライドからなるグループより選択された2種以上からなる二無水物酸成分と、パラフェニレンジアミン、m-トリジンおよびオキシジアニリンからなるグループより選択された2種以上を含むジアミン成分と、を含むポリアミック酸溶液をイミド化反応させて得られる、
請求項3に記載のポリイミドフィルム。
【請求項5】
前記二無水物酸成分の総含有量100モル%を基準として、前記ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含有量が60モル%以下であり、前記ピロメリティックジアンハイドライドの含有量が40モル%以上60モル%以下であり、前記ベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含有量が60モル%以下である、
請求項4に記載のポリイミドフィルム。
【請求項6】
前記ジアミン成分の総含有量100モル%を基準として、前記パラフェニレンジアミンの含有量が50モル%以上95モル%以下であり、前記m-トリジンの含有量が55モル%以下であり、前記オキシジアニリンの含有量が25モル%以下である、
請求項4に記載のポリイミドフィルム。
【請求項7】
前記ピロメリティックジアンハイドライドのモル%と前記パラフェニレンジアミンのモル%との比(ピロメリティックジアンハイドライドのモル%/パラフェニレンジアミンのモル%)が0.5以上0.8以下である、
請求項3に記載のポリイミドフィルム。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のポリイミドフィルムと、電気伝導性の金属箔とを含む、
フレキシブル金属箔積層板。
【請求項9】
請求項8に記載のフレキシブル金属箔積層板を含む、
電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い寸法安定性を有するポリイミドフィルムに関し、より詳しくは、熱的寸法安定性と水分に対する寸法安定性がすべて高いポリイミドフィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド(polyimide、PI)は、剛直な芳香族主鎖と共に化学的に安定性が非常に優れたイミド環をベースとして、有機材料の中でも最高水準の耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性、耐化学性、耐候性を有する高分子材料である。
ポリイミドフィルムは、前述した特性が要求される多様な電子デバイスの素材として注目されている。
ポリイミドフィルムが適用される微小電子部品の例としては、電子製品の軽量化と小型化に対応可能に回路集積度が高く柔軟な薄型回路基板が挙げられ、ポリイミドフィルムは、特に、薄型回路基板の絶縁フィルムとして広く用いられている。
【0003】
前記薄型回路基板は、絶縁フィルム上に金属箔を含む回路が形成されている構造が一般的であり、このような薄型回路基板を広い意味としてフレキシブル金属箔積層板(Flexible Metal Foil Clad Laminate)と称し、金属箔として薄い銅板を用いる時には、より狭い意味でフレキシブル銅箔積層板(Flexible Copper Clad Laminate;FCCL)と称したりする。
フレキシブル金属箔積層板の製造方法としては、例えば、(i)金属箔上にポリイミドの前駆体であるポリアミック酸を流延(casting)、または塗布した後、イミド化するキャスティング法、(ii)スパッタリング(Sputtering)によってポリイミドフィルム上に直接金属層を設けるメタライジング法、および(iii)熱可塑性ポリイミドを介してポリイミドフィルムと金属箔とを熱と圧力で接合させるラミネート法が挙げられる。
特に、メタライジング法は、例えば、20~38μmの厚さのポリイミドフィルム上に銅などの金属をスパッタリングして、タイ(Tie)層、シード(Seed)層を順次に蒸着することにより、フレキシブル金属箔積層板を生産する方法であり、回路パターンのピッチ(pitch)が35μm以下の超微細回路を形成させるのに有利な点があり、COF(chip on film)用フレキシブル金属箔積層板を製造するのに広く使用されている。
【0004】
メタライジング法によるフレキシブル金属箔積層板に使用されるポリイミドフィルムは、高い寸法安定性を有しなければならない。通常、熱膨張係数で表す熱的寸法安定性で寸法安定性が測定されているが、熱的寸法安定性に劣らず、吸湿膨張係数で表す水分に対する寸法安定性の重要性も次第に大きくなっている。
すなわち、熱的寸法安定性と水分に対する寸法安定性がすべて優れたポリイミドフィルムに対する要求が増加しているが、実際に熱膨張係数が低い熱的寸法安定性が高い構造のポリイミドフィルムを設計する場合、水分に対する寸法安定性が低くなる問題点が浮上している。
したがって、高い熱的寸法安定性と水分に対する高い寸法安定性が両立できるポリイミドフィルムが切実に要求されている。
以上の背景技術に記載された事項は発明の背景に対する理解のためのものであって、この技術の属する分野における通常の知識を有する者にすでに知られた従来技術でない事項を含むことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】大韓民国公開特許公報第2021-0057936号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、高い熱的寸法安定性と水分に対する高い寸法安定性を同時に有するポリイミドフィルムを提供することを目的とする。
しかし、本発明が解決しようとする課題は以上に言及した課題に制限されず、言及されていない他の課題は以下の記載から当業者に明確に理解されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するための、本発明の一態様は、下記式1で表した膨張係数の比の値が0超過2.5以下である、
ポリイミドフィルムを提供する。
<式1>
膨張係数の比=吸湿膨張係数(ppm/RH%)/熱膨張係数(ppm/℃)
本発明の他の態様は、ポリイミドフィルムと、電気伝導性の金属箔とを含む、
フレキシブル金属箔積層板を提供する。
本発明のさらに他の態様は、フレキシブル金属箔積層板を含む、
電子部品を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、二無水物酸およびジアミン成分の組成比、反応比などが調節されたポリイミドフィルムを提供することにより、熱的寸法安定性と水分に対する寸法安定性がすべて優れたポリイミドフィルムを提供する。
このようなポリイミドフィルムは、優れた寸法安定性特性のポリイミドフィルムが要求される多様な分野、例えば、メタライジング法により製造されるフレキシブル金属箔積層板またはこのようなフレキシブル金属箔積層板を含む電子部品に適用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書および特許請求の範囲に使用された用語や単語は通常または辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者は自らの発明を最も最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義できるという原則に則り、本発明の技術的思想に符合する意味と概念で解釈されなければならない。
したがって、本明細書に記載された実施例の構成は本発明の最も好ましい一つの実施例に過ぎず、本発明の技術的思想をすべて代弁するものではないので、本出願時点においてこれらを代替可能な多様な均等物と変形例が存在できることを理解しなければならない。
本明細書において、単数の表現は、文脈上明らかに異なって意味しない限り、複数の表現を含む。本明細書において、「含む」、「備える」または「有する」などの用語は、実施された特徴、数字、段階、構成要素、またはこれらを組み合わせたものが存在することを指定しようとするものであって、1つまたはそれ以上の他の特徴や、数字、段階、構成要素、またはこれらを組み合わせたものの存在または付加の可能性を予め排除しないことが理解されなければならない。
【0010】
本明細書において、「二無水物酸」は、その前駆体または誘導体を含むことが意図されるが、これらは技術的には二無水物酸でないかも知れないが、それにもかかわらず、ジアミンと反応してポリアミック酸を形成するはずであり、このポリアミック酸は再度ポリイミドに変換される。
本明細書において、「ジアミン」は、その前駆体または誘導体を含むことが意図されるが
、これらは技術的にはジアミンでないかも知れないが、それにもかかわらず、ジアンハイドライドと反応してポリアミック酸を形成するはずであり、このポリアミック酸は再度ポリイミドに変換される。
本明細書において、量、濃度、または異なる値またはパラメータが範囲、好ましい範囲または好ましい上限値および好ましい下限値の列挙として与えられる場合、範囲が別途に開示されるかに関係なく、任意の一対の任意の上方範囲の限界値または好ましい値、および任意の下方範囲の限界値または好ましい値で形成されたすべての範囲を具体的に開示すると理解されなければならない。
【0011】
数値の範囲が本明細書で言及される場合、他に記述されなければ、その範囲はその終点およびその範囲内のすべての整数と分数を含むことが意図される。本発明の範疇は、範囲を定義する時に言及される特定の値に限定されないことが意図される。
本発明の一実施形態によるポリイミドフィルムは、下記式1で表した膨張係数の比の値が0超過2.5以下であってもよい。
<式1>
膨張係数の比=吸湿膨張係数(ppm/RH%)/熱膨張係数(ppm/℃)
好ましくは、前記式1で表した膨張係数の比の値が1.0以上2.5以下であってもよい。
前記式1の値が2.5超過のポリイミドフィルムは、水分による寸法変化が大きく、熱によって寸法変化は少なくて、ポリイミドフィルムの寸法変化を予測しにくいことがある。すなわち、周囲環境の変化によって湿度が変化すれば、ポリイミドフィルムの寸法の変化の幅が大きくなり、熱による寸法調節が困難になりうる。
【0012】
一実施形態において、前記ポリイミドフィルムの前記熱膨張係数が1ppm/℃以上7ppm/℃以下であり、前記吸湿膨張係数が3ppm/RH%以上10ppm/RH%以下であってもよい。
好ましくは、前記熱膨張係数が5.5ppm/℃以下であり、前記吸湿膨張係数が9ppm/RH%以下であり、さらに好ましくは、前記熱膨張係数が5.0ppm/℃以下であり、前記吸湿膨張係数が8ppm/RH%以下であってもよい。
【0013】
一実施形態において、前記ポリイミドフィルムは、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライド(BPDA)、ピロメリティックジアンハイドライド(PMDA)、オキシジフタリックアンハイドライド(ODPA)およびベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライド(BTDA)からなるグループより選択された2種以上を含む二無水物酸成分と、パラフェニレンジアミン(PPD)、m-トリジン(m-tolidine)、オキシジアニリン(ODA)および1,3-ビスアミノフェノキシベンゼン(TPE-R)からなるグループより選択された2種以上を含むジアミン成分と、を含むポリアミック酸溶液をイミド化反応させて得られる。
また、前記ポリイミドフィルムは、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライド、ピロメリティックジアンハイドライドおよびベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライドからなるグループより選択された2種以上からなる二無水物酸成分と、パラフェニレンジアミン、m-トリジンおよびオキシジアニリンからなるグループより選択された2種以上を含むジアミン成分と、を含むポリアミック酸溶液をイミド化反応させて得られる。
【0014】
一方、前記二無水物酸成分の総含有量100モル%を基準として、前記ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含有量が60モル%以下であり、前記ピロメリティックジアンハイドライドの含有量が40モル%以上60モル%以下であり、前記ベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含有量が60モル%以下であってもよい。
好ましくは、前記二無水物酸成分の総含有量100モル%を基準として、前記ピロメリティックジアンハイドライドの含有量が53モル%未満であり、前記ベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含有量が50モル%以下であってもよい。
【0015】
また、前記ジアミン成分の総含有量100モル%を基準として、前記パラフェニレンジアミンの含有量が50モル%以上95モル%以下であり、前記m-トリジンの含有量が55モル%以下であり、前記オキシジアニリンの含有量が25モル%以下であってもよい。
好ましくは、前記ジアミン成分の総含有量100モル%を基準として、前記パラフェニレンジアミンの含有量が55モル%以上90モル%以下であり、前記m-トリジンの含有量が50モル%以下であり、前記オキシジアニリンの含有量が20モル%以下であってもよい。
また、前記ジアミン成分としてパラフェニレンジアミンとm-トリジンを使用する場合、前記ジアミン成分の総含有量100モル%を基準として、前記パラフェニレンジアミンの含有量が50モル%以上70モル%以下であり、前記m-トリジンの含有量が30モル%以上45モル%以下であってもよい。
【0016】
本発明のパラフェニレンジアミンは、剛直なモノマーでパラフェニレンジアミンの含有量が増加することにより、合成されるポリイミドはさらなる線状の構造を有し、ポリイミドの機械的特性の向上に寄与する。
また、m-トリジンは、特に疎水性を呈するメチル基を有していて、ポリイミドフィルムの水分に対する寸法安定性に関連する低吸湿特性に寄与する。
本発明のビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドに由来するポリイミド鎖は、電荷移動錯体(CTC:Charge transfer complex)と名付けられた構造、すなわち、電子供与体(electron donnor)と電子受容体(electron acceptor)とが互いに近接して位置する規則的な直線構造を有し、分子間相互作用(intermolecular interaction)が強化される。
【0017】
このような構造は、水分との水素結合を防止する効果があるので、吸湿率を低下させるのに影響を与えて水分に対する寸法安定性に影響を及ぼすポリイミドフィルムの吸湿性を低下させる効果を極大化することができる。
また、ピロメリティックジアンハイドライドは、相対的に剛直な構造を有する二無水物酸成分でポリイミドフィルムに適切な弾性を付与できるという点で好ましい。
ポリイミドフィルムが優れた寸法安定性を有するためには、二無水物酸の含有量比が重要である。例えば、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含有量比が減少するほど、前記CTC構造による低い吸湿率を期待しにくくなり、水分に対する寸法安定性も低下する。
【0018】
また、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドとベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライドは、芳香族部分に相当するベンゼン環を2個含むのに対し、ピロメリティックジアンハイドライドは、芳香族部分に相当するベンゼン環を1個含む。
二無水物酸成分においてピロメリティックジアンハイドライドの含有量の増加は、同一の分子量を基準とした時、分子内のイミド基が増加すると理解することができ、これは、ポリイミド高分子鎖に、前記ピロメリティックジアンハイドライドに由来するイミド基の比率が、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドおよびベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライドに由来するイミド基に比べて相対的に増加すると理解することができる。
すなわち、ピロメリティックジアンハイドライドの含有量の増加は、ポリイミドフィルム全体に対しても、イミド基の相対的増加と見られ、これによって低い吸湿率による水分に
対する高い寸法安定性は期待しにくくなる。
【0019】
逆に、ピロメリティックジアンハイドライドの含有量比が減少すれば、相対的に剛直な構造の成分が減少して、ポリイミドフィルムの弾性が所望の水準以下に低下しうる。
この理由により、前記ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドおよびベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含有量が前記範囲を上回ったり、ピロメリティックジアンハイドライドの含有量が前記範囲を下回る場合、ポリイミドフィルムの寸法安定性が低下しうる。
逆に、前記ピロメリティックジアンハイドライドの含有量が前記範囲を上回る場合にも、ポリイミドフィルムの寸法安定性に悪影響を及ぼすことがある。
一実施形態において、前記ピロメリティックジアンハイドライドのモル%と前記パラフェニレンジアミンのモル%との比(ピロメリティックジアンハイドライドのモル%/パラフェニレンジアミンのモル%)が0.5以上0.8以下であってもよい。
【0020】
本発明において、ポリアミック酸の製造は、例えば、
(1)ジアミン成分の全量を溶媒中に入れて、その後、二無水物酸成分をジアミン成分と実質的に等モルとなるように添加して重合する方法;
(2)二無水物酸成分の全量を溶媒中に入れて、その後、ジアミン成分を二無水物酸成分と実質的に等モルとなるように添加して重合する方法;
(3)ジアミン成分中の一部の成分を溶媒中に入れた後、反応成分に対して二無水物酸成分中の一部の成分を約95~105モル%の比率で混合した後、残りのジアミン成分を添加し、これに連続して残りの二無水物酸成分を添加して、ジアミン成分および二無水物酸成分が実質的に等モルとなるようにして重合する方法;
(4)二無水物酸成分を溶媒中に入れた後、反応成分に対してジアミン化合物中の一部の成分を95~105モル%の比率で混合した後、他の二無水物酸成分を添加し、続いて残りのジアミン成分を添加して、ジアミン成分および二無水物酸成分が実質的に等モルとなるようにして重合する方法;
(5)溶媒中において一部のジアミン成分と一部の二無水物酸成分とをいずれか1つが過剰となるように反応させて、第1組成物を形成し、他の溶媒中において一部のジアミン成分と一部の二無水物酸成分とをいずれか1つが過剰となるように反応させて第2組成物を形成した後、第1、第2組成物を混合し、重合を完了する方法であって、この時、第1組成物を形成する時、ジアミン成分が過剰の場合、第2組成物では二無水物酸成分を過剰にし、第1組成物で二無水物酸成分が過剰の場合、第2組成物ではジアミン成分を過剰にして、第1、第2組成物を混合してこれらの反応に使用される全体のジアミン成分と二無水物酸成分とが実質的に等モルとなるようにして重合する方法、などが挙げられる。
【0021】
一つの具体例において、本発明によるポリイミドフィルムの製造方法は、
(a)ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライド(BPDA)、ピロメリティックジアンハイドライド(PMDA)、オキシジフタリックアンハイドライド(ODPA)およびベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライド(BTDA)からなるグループより選択された2種以上を含む二無水物酸成分と、パラフェニレンジアミン(PPD)、m-トリジン(m-tolidine)、オキシジアニリン(ODA)および1,3-ビスアミノフェノキシベンゼン(TPE-R)からなるグループより選択された2種以上を含むジアミン成分と、を有機溶媒中で重合してポリアミック酸を製造するステップと、
(b)前記ポリアミック酸をイミド化するステップと、を含むことができる。
本発明では、前記のようなポリアミック酸の重合方法をランダム(random)重合方式で定義することができ、前記のような過程で製造された本発明のポリアミック酸から製造されたポリイミドフィルムは、寸法安定性を高める本発明の効果を極大化させるという面で好ましく適用可能である。
ただし、前記重合方法は、先に説明した高分子鎖内の繰り返し単位の長さが相対的に短く製造されるので、二無水物酸成分に由来するポリイミド鎖が有するそれぞれの優れた特性を発揮するには限界がありうる。したがって、本発明において特に好ましく利用可能なポリアミック酸の重合方法は、ブロック重合方式である。
【0022】
一方、ポリアミック酸を合成するための溶媒は特に限定されるものではなく、ポリアミック酸を溶解させる溶媒であればいかなる溶媒でも使用可能であるが、アミド系溶媒であることが好ましい。
具体的には、前記有機溶媒は、有機極性溶媒であってもよく、詳しくは、非プロトン性極性溶媒(aprotic polar solvent)であってもよいし、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-ピロリドン(NMP)、ガンマブチロラクトン(GBL)、ジグリム(Diglyme)からなる群より選択された1つ以上であってもよいが、これに限定されるものではなく、必要に応じて、単独でまたは2種以上組み合わせて使用可能である。
一つの例において、前記有機溶媒は、N,N-ジメチルホルムアミドおよびN,N-ジメチルアセトアミドが特に好ましく使用可能である。
また、ポリアミック酸の製造工程では、摺動性、熱伝導性、コロナ耐性、ループ硬さなどのフィルムの様々な特性を改善する目的で、充填材を添加してもよい。添加される充填材は特に限定されるものではないが、好ましい例としては、シリカ、酸化チタン、アルミナ、窒化ケイ素、窒化ホウ素、リン酸水素カルシウム、リン酸カルシウム、雲母などが挙げられる。
【0023】
充填材の粒径は特に限定されるものではなく、改質すべきフィルム特性と添加する充填材の種類によって決定すれば良い。一般的には、平均粒径が0.05~100μm、好ましくは0.1~75μm、さらに好ましくは0.1~50μm、特に好ましくは0.1~25μmである。
粒径がこの範囲を下回ると、改質効果が現れにくくなり、この範囲を上回ると、表面性を大きく損傷させたり、機械的特性が大きく低下する場合がある。
また、充填材の添加量に対しても特に限定されるものではなく、改質すべきフィルム特性や充填材の粒径などによって決定すれば良い。一般的に、充填材の添加量は、ポリイミド100重量部に対して、0.01~100重量部、好ましくは0.01~90重量部、さらに好ましくは0.02~80重量部である。
【0024】
充填材の添加量がこの範囲を下回ると、充填材による改質効果が現れにくく、この範囲を上回ると、フィルムの機械的特性が大きく損傷する可能性がある。充填材の添加方法は特に限定されるものではなく、公知のいかなる方法を用いてもよい。
本発明の製造方法において、ポリイミドフィルムは、熱イミド化法および化学的イミド化法により製造される。
また、熱イミド化法および化学的イミド化法が並行される複合イミド化法により製造されてもよい。
前記熱イミド化法とは、化学的触媒を排除し、熱風や赤外線乾燥機などの熱源でイミド化反応を誘導する方法である。
前記熱イミド化法は、前記ゲルフィルムを100~600℃の範囲の可変的な温度で熱処理して、ゲルフィルムに存在するアミック酸基をイミド化することができ、詳しくは、200~500℃、さらに詳しくは、300~500℃で熱処理して、ゲルフィルムに存在するアミック酸基をイミド化することができる。
【0025】
ただし、ゲルフィルムを形成する過程でもアミック酸中の一部(約0.1モル%~10モル%)がイミド化され、このために、50℃~200℃の範囲の可変的な温度でポリアミック酸組成物を乾燥することができ、これも前記熱イミド化法の範疇に含まれる。
化学的イミド化法の場合、当業界における公知の方法により、脱水剤およびイミド化剤を用いて、ポリイミドフィルムを製造することができる。
複合イミド化法の一例として、ポリアミック酸溶液に脱水剤およびイミド化剤を投入した後、80~200℃、好ましくは100~180℃で加熱して、部分的に硬化および乾燥した後に、200~400℃で5~400秒間加熱することにより、ポリイミドフィルムを製造することができる。
本発明は、上述したポリイミドフィルムと、電気伝導性の金属箔とを含むフレキシブル金属箔積層板を提供する。
使用する金属箔としては特に限定されるものではないが、電子機器または電気機器の用途に本発明のフレキシブル金属箔積層板を用いる場合には、例えば、銅または銅合金、ステンレス鋼またはその合金、ニッケルまたはニッケル合金(42合金も含む)、アルミニウムまたはアルミニウム合金を含む金属箔であってもよい。
【0026】
一般的なフレキシブル金属箔積層板では、圧延銅箔、電解銅箔という銅箔が多く使用され、本発明でも好ましく使用可能である。また、これら金属箔の表面には、防錆層、耐熱層または接着層が塗布されていてもよい。
本発明において、前記金属箔の厚さに対しては特に限定されるものではなく、その用途に応じて十分な機能を発揮できる厚さであれば良い。
本発明によるフレキシブル金属箔積層板は、前記ポリイミドフィルムの少なくとも一面に金属箔がラミネートされた構造であってもよい。
【実施例
【0027】
以下、発明の具体的な製造例および実施例を通じて、発明の作用および効果をより詳述する。ただし、このような製造例および実施例は発明の例として提示されたものに過ぎず、これによって発明の権利範囲が限定されるのではない。
【0028】
製造例:ポリイミドフィルムの製造
本発明のポリイミドフィルムは、次のような当業界で公知の通常の方法で製造できる。まず、有機溶媒に、前述した二無水物酸と、ジアミン成分と、を反応させてポリアミック酸溶液を得る。
この時、溶媒は、一般的に、アミド系溶媒として非プロトン性極性溶媒(Aprotic
solvent)、例えば、N,N’-ジメチルホルムアミド、N,N’-ジメチルアセトアミド、N-メチル-ピロリドン、またはこれらの組み合わせを使用することができる。
前記二無水物酸とジアミン成分の投入形態は、粉末、塊および溶液形態で投入することができ、反応初期には粉末形態で投入して反応を進行させた後、以後には、重合粘度調節のために溶液形態で投入することが好ましい。
【0029】
得られたポリアミック酸溶液は、イミド化触媒および脱水剤と混合されて支持体に塗布される。
使用される触媒の例としては3級アミン類(例えば、イソキノリン、β-ピコリン、ピリジンなど)があり、脱水剤の例としては無水酸があるが、これに限定されない。また、前記使用される支持体としては、ガラス板、アルミニウム箔、循環ステンレスベルトまたはステンレスドラムなどが挙げられるが、これに限定されない。
前記支持体上に塗布されたフィルムは、乾燥空気および熱処理によって支持体上でゲル化される。
前記ゲル化されたフィルムは、支持体から分離されて熱処理して乾燥およびイミド化が完了する。
前記熱処理を終えたフィルムは、一定の張力下で熱処理されて、製膜過程で発生したフィルム内部の残留応力が除去できる。
【0030】
具体的には、撹拌機および窒素注入・排出管を備えた反応器に窒素を注入させながらDMFを500ml投入し、反応器の温度を30℃に設定した後、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライド(BPDA)、ピロメリティックジアンハイドライド(PMDA)、ベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライド(BTDA)、パラフェニレンジアミン(PPD)、m-トリジン(m-tolidine)およびオキシジアニリン(ODA)を、調節された組成比および定められた順に投入して完全に溶解させる。以後、窒素雰囲気下、40℃に反応器の温度を上げて加熱しながら120分間撹拌を継続して、一次反応粘度が1,500cPのポリアミック酸を製造した。
このように製造したポリアミック酸を、最終粘度100,000~120,000cPとなるように撹拌させた。
準備された最終ポリアミック酸に、触媒および脱水剤の含有量を調節して添加させた後、アプリケータを用いてポリイミドフィルムを製造した。
【0031】
実施例および比較例
下記表1に示しているように、実施例1~5および比較例1~7における二無水物酸成分および前記ジアミン成分の含有量を調節して、製造例によりポリイミドフィルムを製造した。
【表1】
製造されたポリイミドフィルムの熱膨張係数(coefficient of thermal expansion、CTE)、吸湿膨張係数(coefficient of hydroscopic expansion、CHE)および膨張係数の比(CHE/CTE)を測定して、下記表2に示した。
【表2】
【0032】
(1)熱膨張係数の測定
熱膨張係数(CTE)は、TA社の熱機械分析機(thermomechanical analyzer)Q400モデルを用い、ポリイミドフィルムを幅4mm、長さ20mmに切断した後、窒素雰囲気下、0.05Nの張力を加えながら、10℃/minの速度で常温から400℃まで昇温後、再度10℃/minの速度で冷却しながら50℃から200℃の区間の傾きを測定した。
測定された熱膨張係数は、ポリイミドフィルムのMD方向およびTD方向の熱膨張係数の平均値である。
【0033】
(2)吸湿膨張係数の測定
吸湿膨張係数(CHE)は、ポリイミドフィルムが緩くならないように最低限の加重をかけた状態(25mm×150mmのサンプルに対して、約1g)で、湿度を3%RHに調節し、完全に飽和するまで吸湿させて寸法を計測し、その後、90%RHに湿度を調整して、同じく飽和吸湿させた後、寸法を計測し、両者の結果から相対湿度差87%あたり湿度90%RHで寸法変化率を測定した。
測定された吸湿膨張係数は、ポリイミドフィルムのMD方向およびTD方向の吸湿膨張係数の平均値である。
測定の結果、実施例1~5のポリイミドフィルムは、膨張係数の比の値が0以上2.5以下であり、熱膨張係数が1ppm/℃以上7ppm/℃以下であり、吸湿膨張係数が3ppm/RH%以上10ppm/RH%以下である特性を示した。
これに対し、ジアミン成分としてパラフェニレンジアミン1種のみを含む比較例1は、吸湿膨張係数に比べて、熱膨張係数が非常に低くなって膨張係数の比が非常に大きくなった。
また、二無水物酸成分とジアミン成分としてそれぞれビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドおよびパラフェニレンジアミン1種のみを使用する比較例2は、熱膨張係数の値が大きくなった。
【0034】
一方、二無水物酸成分としてピロメリティックジアンハイドライド1種のみを含む比較例3は、吸湿膨張係数と熱膨張係数の値がすべて大きくなった。
また、ジアミン成分としてオキシジアニリン1種のみを含む比較例4および5も、吸湿膨張係数と熱膨張係数の値がすべて非常に大きくなった。
一方、二無水物酸成分および含有量比とジアミン成分が同一の実施例2および3に比べて、m-トリジンとパラフェニレンジアミンの含有量を調節した比較例6および7はそれぞれ、熱膨張係数の値が大きく減少して膨張係数の比が大きくなった。
したがって、本願の適切な範囲内で製造された実施例1~5のポリイミドフィルムは、熱的寸法安定性、水分に対する寸法安定性がすべて優れていたが、本願の適切な範囲を超える場合、熱的寸法安定性および水分に対する寸法安定性を両立させにくいことを確認することができた。
【0035】
すなわち、熱的寸法安定性および水分に対する寸法安定性が両立して優れた寸法安定性を有しながらも、応用分野に適用可能な多様な条件をすべて満足させるポリイミドフィルムは、本願の適切な範囲内で製造されたポリイミドフィルムであることを確認することができた。
本発明であるポリイミドフィルムおよびポリイミドフィルムの製造方法の実施例は、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する当業者が本発明を容易に実施できるようにする好ましい実施例に過ぎず、上述した実施例に限定されるものではないので、これによって本発明の権利範囲が限定されるのではない。したがって、本発明の真の技術的保護範囲は、添付した特許請求の範囲の技術的思想によって定められなければならない。また、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で様々な置換、変形および変更が可能であることが当業者にとって明らかであり、当業者によって容易に変更可能な部分も本発明の権利範囲に含まれることは自明である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、二無水物酸およびジアミン成分の組成比、反応比などが調節されたポリイミドフィルムを提供することにより、熱的寸法安定性と水分に対する寸法安定性がすべて優れたポリイミドフィルムを提供する。
このようなポリイミドフィルムは、優れた寸法安定性特性のポリイミドフィルムが要求される多様な分野、例えば、メタライジング法により製造されるフレキシブル金属箔積層板またはこのようなフレキシブル金属箔積層板を含む電子部品に適用可能である。
【国際調査報告】