(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-18
(54)【発明の名称】低温でのフッ素重合体の製造
(51)【国際特許分類】
C08F 14/22 20060101AFI20241010BHJP
C08F 20/10 20060101ALI20241010BHJP
C08F 20/06 20060101ALI20241010BHJP
C08F 20/28 20060101ALI20241010BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
C08F14/22
C08F20/10
C08F20/06
C08F20/28
H01M4/62 Z
H01M4/62 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024525749
(86)(22)【出願日】2022-10-25
(85)【翻訳文提出日】2024-07-01
(86)【国際出願番号】 US2022047640
(87)【国際公開番号】W WO2023076203
(87)【国際公開日】2023-05-04
(32)【優先日】2021-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500307340
【氏名又は名称】アーケマ・インコーポレイテッド
【住所又は居所原語表記】900 First Avenue,King of Prussia,Pennsylvania 19406 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】カイピン・リン
(72)【発明者】
【氏名】デーン・フォックス
(72)【発明者】
【氏名】チン・リー
【テーマコード(参考)】
4J100
5H050
【Fターム(参考)】
4J100AC24P
4J100AJ02Q
4J100AL09Q
4J100DA22
4J100DA24
4J100DA41
4J100FA02
4J100FA03
4J100FA20
4J100HC69
4J100HD04
4J100JA43
5H050AA19
5H050DA11
5H050EA24
5H050HA13
5H050HA14
(57)【要約】
還元剤、特にBruggolite(登録商標)型のスルフィン酸塩、スルホン酸塩、亜硫酸塩還元剤の存在下で、無機開始剤と組み合わせて、低い反応温度でフッ化ビニリデンを重合し、主としてβ相のフッ素重合体を得る方法を開示する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも97モル%のフッ化ビニリデン、任意に0~3モル%のアクリル共単量体から誘導される反復単位を含む、水性エマルション中のポリフッ化ビニリデン重合体であって、前記重合体が、10を超える、好ましくは15を超えるβ相結晶ピーク強度比、及びDSCにおける1回目の加熱プロセス時に65J/gを超える融解熱、及び170℃~180℃の溶融温度を有する、ポリフッ化ビニリデン重合体。
【請求項2】
フッ化ビニリデンから誘導される反復単位を含むフッ素化重合体の合成方法であって、フッ化ビニリデン単量体を、任意に少なくとも1種のアクリル共単量体の存在下、1℃~65℃の温度範囲の水性エマルション中において、少なくとも1種の無機開始剤及びスルフィン基を有する少なくとも1種の還元剤を含むレドックス開始系の存在下で重合させることを含み、得られた重合体が10を超えるβ相結晶ピーク強度比を有する、フッ素化重合体の合成方法。
【請求項3】
前記少なくとも1種の還元剤が、次式(I):
【化1】
(式中、Mは、水素原子、アンモニウムイオン、元素周期表のIa、IIa、IIb、IVa若しくはVIIIb族の一価の金属イオン又は二価の金属イオンの等価物であり;R
1はOHであり、R
2は、H又はアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基若しくはアリール基であり、これらの基は、C
1~C
6アルキル、OH、O-(C
1~C
6アルキル)から互いに独立して選択される1、2又は3個の置換基を有していてよく、R
3は、COOM、SO
3M又はCOOR
2であり、ここで、M及びR
2は、上で定義されるとおりである。)
を有する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記無機開始剤が、過酸化水素、無機過硫酸塩及びそれらの組み合わせよりなる群より選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記無機開始剤が、反応に添加される全VDFを基準にして0.01~4重量%の範囲の濃度で使用される、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記無機開始剤が、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム及びそれらの組み合わせよりなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記温度範囲が5℃~60℃、好ましくは5℃~55℃である、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記温度範囲が20~60℃である、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記フッ素化重合体が、前記フッ素化重合体の全反復単位に対して、少なくとも97モル%、より好ましくは少なくとも98モル%、さらにより好ましくは少なくとも99モル%の、フッ化ビニリデンから誘導される反復単位を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項10】
前記フッ素化重合体が単独重合体である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記フッ素化重合体が、フッ化ビニリデンから誘導される反復単位及び少なくとも1種のアクリル共単量体から誘導される反復単位を含む共重合体である、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記共単量体が次式:
【化2】
(式中、R1、R2、R3は互いに同一であり又は異なり、それぞれ独立して、水素原子又はC
1~C
3炭化水素基であり、ROHは、水素又はC
1~C
5炭化水素部分である。)
で表すことができる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記少なくとも1種の共単量体が、アクリル酸、メタクリル酸、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル;及び(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルヘキシルよりなる群から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記重合体のβ相結晶ピーク強度比が15よりも大きく、好ましくは20よりも大きい、請求項2~13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記フッ素化重合体が170~180℃の融点を有する、請求項2~13のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記フッ素化重合体が、DSCにおける1回目の加熱プロセス時に65J/gよりも大きい、好ましくは70J/gよりも大きい融解熱を有する、請求項2~15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記フッ素化重合体が、
19F-NMRによって測定されたときに、3.2~4.2%の逆単位率を有する、請求項2~16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記還元剤が次式(II):
【化3】
(式中、Mは、水素原子、アンモニウムイオン、一価の金属イオンであり;R
1は、-OHであり、R
2は、水素原子、1~6個の炭素原子を有する直鎖若しくは分岐アルキル基、5員若しくは6員のシクロアルキル基、又は5員若しくは6員のアリール基であり;R
3は、-COOM、-SO
3M、又は-COOR
2であり、ここで、M及びR
2は、上で定義した通りである。)及びその少なくとも1種の一価の金属イオンとの塩をさらに含み、好ましくは、Mは、水素原子又は一価の金属イオンであり、好ましくは、前記一価の金属イオンは、ナトリウム及びカリウムから選択され、好ましくは、R
2は、水素原子、1~3個の炭素原子を有する直鎖アルキル基、1~3個の炭素原子を有する分岐アルキル基、又は5員若しくは6員のアリール基から選択される、請求項2~17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
前記重合体が30を超えるβ相結晶ピーク強度比を有する、請求項1に記載のポリフッ化ビニリデン重合体。
【請求項20】
請求項2~18のいずれかに記載の方法により製造された重合体。
【請求項21】
請求項2に記載の方法により製造された重合体の、電池での使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、β相結晶を有するポリフッ化ビニリデン系重合体及びその製造法に関する。より詳細には、特定の特性を有する重合体を製造するための特定の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
典型的には、VDF系重合体は、フッ素化単量体と少なくとも1種の界面活性剤(乳化剤とも呼ばれる)との存在下で重合開始剤を反応させる水系重合(典型的な乳化重合)プロセスによって製造される。乳化重合では、無機過硫酸開始剤と有機過酸化物開始剤の両方に熱分解が要求されるため、高い反応温度が必要である。t-ブチル過酸化水素のような過酸化物と金属酸化剤とを含むレドックス開始剤系を乳化重合に使用すると、反応温度を中温域にすることができるが、レドックス開始剤は、通常、酸化剤と還元剤との間にカップリング剤/促進剤を含み、フッ素系界面活性剤などの界面活性剤を必要とする。
【0003】
米国特許出願公開第2002/042353号には、還元剤として使用できるスルフィン酸化合物が記載されている。
【0004】
国際公開第2019/002180号には、フッ素系界面活性剤をベースとするマイクロエマルション重合を使用してフッ素重合体を合成するにあたり、有機過酸化物の存在下で還元剤としてスルフィン酸化合物を使用することが記載されている。
【0005】
ポリフッ化ビニリデンは、α相、β相、γ相及びε相として知られている、様々な鎖コンフォメーションを有する複数の相に結晶化できる重合体である。β相は、その平面的なコンフォメーション及び高い双極子密度のため、強い強誘電特性及び圧電特性を有する。
【0006】
PVDFは、その結晶構造の極性β結晶コンフォメーションに由来する圧電特性により、可撓性のある圧電材料として多くの関心を集めている。PVDF中における高い割合のβ相は、重合体鎖構造を調整し、第2の処理工程を経て製造できる。重合体鎖構造の調整は、フッ化ビニリデンと、フッ化ビニル(VF)、トリフルオロエチレン(TrFE)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)などの所定の共単量体との共重合によって達成できる。第2の処理工程には、温度、圧力、冷却速度、せん断力の適用などの後処理技術、又はカーボンナノチューブ、フェライト粒子及び粘土などの添加剤の添加が含まれる。
【0007】
強誘電体β相PVDFを製造する従来技術/方法は、アニールと、制御された溶媒蒸発と、試料の一軸延伸との組み合わせに依拠している。これらの方法は、材料が合成された後に、高価で厳しい2回目の処理を必要とする。
【0008】
さらに低い反応温度で重合を行う要望がある。過硫酸塩重合開始剤は50℃以下では効果的に作用しない。低温反応は、逆単位を減らし、溶融温度及び結晶化度を高めるので望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許出願公開第2002/042353号明細書
【特許文献2】国際公開第2019/002180号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
驚くべきことに、本出願人は、少なくとも1種の無機過酸化物とスルフィン酸基を有する還元剤とを含むレドックス開始系の存在下で、少なくとも1種の不飽和フッ素化単量体を反応させることを含む、70℃未満、好ましくは65℃未満の温度での乳化重合プロセスを実施することにより、β相結晶構造を含む重合体が得られることを見出した。
【0011】
本発明は、低温で機能し、カップリング剤/促進剤及び界面活性剤を使用せず、しかも高融点、高融解熱(DSCにおける第1の加熱)を有し、かつ、結晶相の大部分をβ相として有するフッ化ビニリデン系フッ素樹脂を提供するレドックス系を開示する。
【0012】
本発明によれば、高い溶融温度、3.2~4.2%の逆単位率、高い融解熱、重合プロセス形成されるβ相結晶の存在が得られる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明の概要
本発明は、VDF系フッ素重合体の製造方法を提供する。フッ化ビニリデンから誘導される反復単位を含むフッ素化重合体の合成方法であって、フッ化ビニリデンを、任意に少なくとも1種の追加のアクリル共単量体の存在下で、水性エマルション中において70℃未満の温度、好ましくは1~65℃の温度範囲で、少なくとも1種の無機開始剤及び少なくとも1種の還元剤を含むレドックス開始系の存在下で重合させることを含み、前記還元剤は、スルフィン酸基を有する少なくとも1種の化合物を含む方法を提供する。
【0014】
本出願人は、驚くべきことに、本発明に係る方法によって、高い溶融温度、第1サイクルにおける高い融解熱、及びX線回折を用いた強度比(Iβ(200/110)/[Iα(020)+Iγ(020)])によって測定されるβ相が主として10を超えることを特徴とする重合プロセスからVDF系重合体を直接製造できることを見出した。
【0015】
一実施形態において、本発明は、予想外の特性を有するPVDF単独重合体又はPVDF/アクリル共重合体を提供する。これらの特性は、(A)170℃以上、好ましくは172℃~180℃の非常に高い溶融温度;(B)DSCにおける1回目の加熱工程で65J/gを超える高い融解熱;(C)β相結晶ピーク強度比:Iβ(200/110)/[Iα(020)+Iγ(020)]が10以上であることを含む。β相結晶ピーク強度比は、Iβ(200/110)/[Iα(020)+Iγ(020)]に等しい。
【0016】
別の実施形態では、本発明の方法は、本明細書で定義される還元剤、及び任意に追加成分の存在下に、水性エマルション中でフッ化ビニリデンを、本明細書で定義される少なくとも1種のさらなる単量体と重合させることを含む。
【0017】
また、本発明は、フッ化ビニリデンから誘導される反復単位と、任意に少なくとも1種の追加の共単量体から誘導される反復単位とを含むフッ素化重合体に関し、前記重合体は有利には上記の方法を経て得られる。
【0018】
本発明は、還元剤、特にBruggolite(登録商標)型のスルフィン酸塩、スルホン酸塩及び亜硫酸塩還元剤を過酸化水素、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム又は過硫酸ナトリウムなどの無機開始剤と併用して、低温でフッ化ビニリデン系重合体を製造するプロセス/方法について記載する。
【0019】
発明の態様
態様1:
少なくとも97モル%のフッ化ビニリデン、任意に0~3モル%のアクリル共単量体から誘導される反復単位を含む、水性エマルション中のポリフッ化ビニリデン重合体であって、前記重合体が、10を超える、好ましくは15を超える、より好ましくは20を超えるβ相結晶ピーク強度比、及び65J/gを超える融解熱(1回目の加熱)、及び170℃~180℃の溶融温度を有する、ポリフッ化ビニリデン重合体。
【0020】
態様2:
フッ化ビニリデンから誘導される反復単位を含むフッ素化重合体の合成方法であって、フッ化ビニリデン単量体を、任意に少なくとも1種のアクリル共単量体の存在下、1℃~65℃の温度範囲の水性エマルション中において、少なくとも1種の無機開始剤及びスルフィン基を有する少なくとも1種の還元剤を含むレドックス開始系の存在下で重合させることを含み、得られた重合体が10を超えるβ相結晶ピーク強度比を有する、フッ素化重合体の合成方法。
【0021】
態様3:
前記少なくとも1種の還元剤が、次式(I):
【化1】
(式中、Mは、水素原子、アンモニウムイオン、元素周期表のIa、IIa、IIb、IVa若しくはVIIIb族の一価の金属イオン又は二価の金属イオンの等価物であり;R
1はOHであり、R
2は、H又はアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基若しくはアリール基であり、これらの基は、C
1~C
6アルキル、OH、O-(C
1~C
6アルキル)から互いに独立して選択される1、2又は3個の置換基を有していてよく、R
3は、COOM、SO
3M又はCOOR
2であり、ここで、M及びR
2は、上で定義されるとおりである。)
を有する、態様2に記載の方法。
【0022】
態様4:
前記無機開始剤が、過酸化水素及び無機過硫酸塩(過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム及び過硫酸ナトリウムなど);ならびにそれらの組み合わせよりなる群より選択される、態様2又は3に記載の方法。
【0023】
態様5:
前記無機開始剤が、反応に添加される全VDFを基準にして0.01~4重量%の範囲の濃度で使用される、態様2~4のいずれかに記載の方法。
【0024】
態様6:
前記無機開始剤が、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム及びそれらの組み合わせよりなる群から選択される、態様2~5のいずれかに記載の方法。
【0025】
態様7:
前記温度範囲が5℃~65℃、好ましくは5℃~55℃である、態様2~6のいずれかに記載の方法。
【0026】
態様8:
前記温度範囲が20~63℃、好ましくは20~60℃である、態様2~6のいずれかに記載の方法。
【0027】
態様9:
前記フッ素化重合体が、前記フッ素化重合体の全反復単位に対して、少なくとも97モル%、より好ましくは少なくとも98モル%、さらにより好ましくは少なくとも99モル%の、フッ化ビニリデンから誘導される反復単位を含む、態様2~8のいずれかに記載の方法。
【0028】
態様10:
前記フッ素化重合体が単独重合体である、態様2~9のいずれかに記載の方法。
【0029】
態様11:
前記フッ素化重合体が、フッ化ビニリデンから誘導される反復単位及び少なくとも1種のアクリル共単量体から誘導される反復単位を含む共重合体である、態様2~9のいずれかに記載の方法。
【0030】
態様12:
前記共単量体が次式:
【化2】
(式中、R1、R2、R3は互いに同一であり又は異なり、それぞれ独立して、水素原子又はC
1~C
3炭化水素基であり、ROHは、水素又はC
1~C
5炭化水素部分である。)
で表すことができる、態様2~9又は11のいずれかに記載の方法。
【0031】
態様13:
前記少なくとも1種の共単量体が、アクリル酸、メタクリル酸、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル;及び(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルヘキシルよりなる群から選択される、態様2~9又は11~12のいずれかに記載の方法。
【0032】
態様14:
前記重合体のβ相結晶ピーク強度比が15よりも大きく、好ましくは20よりも大きい、態様2~13のいずれかに記載の方法。
【0033】
態様15:
前記フッ素化重合体が170~180℃の融点を有する、態様2~14のいずれかに記載の方法。
【0034】
態様16:
前記フッ素化重合体が、65J/gよりも大きい、好ましくは70J/gよりも大きい融解熱(1回目の加熱)を有する、態様2~15のいずれかに記載の方法。
【0035】
態様17:
前記フッ素化重合体が、19F-NMRによって測定されたときに、3.2~4.2%の逆単位率を有する、態様2~16のいずれかに記載の方法。
【0036】
態様18:
前記還元剤が次式(II):
【化3】
(式中、Mは、水素原子、アンモニウムイオン、一価の金属イオンであり;R
1は、-OHであり、R
2は、水素原子、1~6個の炭素原子を有する直鎖若しくは分岐アルキル基、5員若しくは6員のシクロアルキル基、又は5員若しくは6員のアリール基であり;R
3は、-COOM、-SO
3M、又は-COOR
2であり、ここで、M及びR
2は、上で定義した通りである。)及びその少なくとも1種の一価の金属イオンとの塩をさらに含み、好ましくは、Mは、水素原子又は一価の金属イオンであり、好ましくは、前記一価の金属イオンは、ナトリウム及びカリウムから選択され、好ましくは、R
2は、水素原子、1~3個の炭素原子を有する直鎖アルキル基、1~3個の炭素原子を有する分岐アルキル基、又は5員若しくは6員のアリール基から選択される、態様3~17のいずれかに記載の方法。
【0037】
態様19:
前記重合体が30を超えるβ相結晶ピーク強度比を有する、態様1に記載のポリフッ化ビニリデン重合体。
【0038】
態様20:
態様2~18のいずれかに記載の方法により製造された重合体。
【0039】
態様21:
態様2~18のいずれかに記載の方法により製造された重合体の、電池での使用。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】
図1は、本発明で製造されたPVDFの広角X線回折である(β相について)(β相は、(110)面及び(200)面からの回折の和に対して、2θ=20.26°に明確なピークを示す)。
【発明を実施するための形態】
【0041】
発明の詳細な説明
特に断りのない限り、パーセンテージ、部、比率などは全て重量基準である。
【0042】
本発明は、フッ素単量体からフッ素重合体を製造するのに好適な方法を提供する。フッ素重合体は、無機開始剤、好ましくは過硫酸塩、及び1種以上のスルフィン酸誘導体還元剤を含む水性重合反応混合物中で製造される。任意に、フッ素重合体を製造するための重合は、規則的な分子量を得るための連鎖移動剤、重合中に所望のpH範囲を維持するための緩衝剤、及び重合容器の内表面に対する重合体の付着を低減又は排除するための防汚剤の存在下で実施できる。また、本発明は、ユニークな特性を有するフッ素重合体の製造方法も提供する。ユニークな特性としては、高融点、高融解熱(1回目の加熱サイクル)、優勢なβ相結晶構造などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0043】
フッ素重合体とは、単独重合体、及び重合体中の全単量体単位に基づいて3モル%未満、好ましくは2モル%未満、より好ましくは1モル%未満のアクリル共単量体単位を含む官能性アクリル共単量体を有する共重合体をいう。一般に、アクリル共単量体の量は0.01重量%以上である。形成される共重合体は、均一であっても不均一であってもよく、星形共重合体、分岐ランダム共重合体又はブロック共重合体などの制御された構造を有していてもよい。
【0044】
本発明のフッ化ビニリデン系重合体は、レドックス開始系を使用した水性重合、好ましくは乳化重合によって都合よく製造される。重合プロセスは、バッチ、半バッチ又は連続重合プロセスとすることができる。
【0045】
重合プロセスでは、単量体及び得られる重合生成物以外には、フッ素を含む化合物や分子を含まないことが好ましい。フッ素系界面活性剤は使用しない。
【0046】
次の一般的な手順に従うことができる:反応器に、まず、分散剤、任意に連鎖移動剤、防汚剤及び緩衝剤を含まない脱イオン水を添加し、次に脱酸素(酸素の除去)を行う。反応器が所望の温度に到達した後、フッ化ビニリデン及び任意にアクリル共単量体を反応器に添加して所定の圧力に到達させる。所望の反応圧力に到達したら、酸化剤及び還元剤を添加して反応を開始し維持する。所望の固体レベルに達した後、単量体の供給を停止することができる。ただし、開始剤の供給を停止又は継続して未反応の単量体を消費することができる。開始剤の装入を停止した後、反応器を冷却し、撹拌を停止してもよい。未反応単量体をベントすることができ、製造された共重合体を、ドレンポート又は他の回収手段によって回収することができる。
【0047】
重合に使用される反応器は、加圧重合反応器である。反応器には、通常、攪拌機及び熱制御手段が装備されている。攪拌は一定であってもよく、又は重合の過程でプロセス条件を最適化するために変化させてもよい。本発明に係る方法は、好ましくは連続的に、又は半バッチ式若しくはバッチ式で実施できる。
【0048】
重合温度は、典型的には1℃~65℃、好ましくは5℃~65℃、又は20℃~60℃、又は5℃~55℃である。温度は反応中に変更でき、好ましくは、温度は±0.5℃で一定に保たれる。重合の温度は、典型的には1℃よりも高く、5℃よりも高く、又は20℃よりも高く、典型的には65℃よりも低く、60℃よりも低く、又は55℃よりも低い。
【0049】
重合の圧力は、反応装置の容量、選択された開始剤系、及び単量体の選択に応じて、1380~12500kPaの範囲で変動可能である。重合圧力は、好ましくは2000~9000kPaであり、最も好ましくは3500~5500kPaである。
【0050】
一般に、反応時間は、好ましくは150分以下、好ましくは120分以下、より好ましくは100分以下である。一般に、反応時間は好ましくは少なくとも30分である。
【0051】
有利には、本発明の方法は、少なくとも1種の無機開始剤(酸化剤)と、少なくとも1個のスルフィン酸基を有する少なくとも1種の化合物(還元剤)及び任意に追加成分を含む少なくとも1種の組成物とを含むレドックス開始系の存在下で、フッ化ビニリデンを重合させることを含む。
【0052】
酸化剤
反応は、無機ラジカル開始剤、特に無機過酸化物の添加によって開始され、維持される。本発明では、好ましくは無機過硫酸塩を開始剤として使用する。
【0053】
有機過酸化物は本発明では使用しない。有機過酸化物は、良好な反応速度を得るために界面活性剤、好ましくはフッ素系界面活性剤及び触媒の存在を必要とする。
【0054】
好ましくは、前記無機ラジカル開始剤は、過酸化水素、過硫酸塩(過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム及び過硫酸アンモニウムなど)、好ましくは酢酸ナトリウム又は酢酸ナトリウム三水和物と組み合わせた過硫酸カリウムよりなる群から選択される。
【0055】
典型的な無機過硫酸塩(過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム又は過硫酸アンモニウム)は、65℃~105℃の温度範囲内で有用な活性を有する。しかし、「レドックス」系はさらに低温で機能することができ、例えば、過酸化水素や無機過硫酸塩などの酸化剤と、スルフィン酸塩、スルホン酸塩及び/又は亜硫酸塩還元剤などの還元剤(Bruggolite(登録商標)型の還元剤など)との組み合わせが挙げられる。
【0056】
使用される無機開始剤の総量は、使用される単量体の総重量に基づいて、0.01重量%~4.0重量%、より好ましくは0.1重量%~3重量%である。上で定義したような1種以上の無機開始剤の混合物を使用して、所望の速度で重合を行うことができる。典型的には、反応を開始するのに十分な開始剤を最初に添加し、その後、重合を好都合な速度又は所望の速度で維持するために、追加の開始剤を任意に添加することができる。
【0057】
還元剤
還元剤は、少なくとも1個のスルフィン酸基を有する少なくとも1種の化合物を含む(「スルフィン酸化合物」)。このような還元剤の説明は、参照により本明細書において援用される米国特許出願公開第2002/0042353号に見出すことができる。
【0058】
還元剤は、少なくとも式Iと、任意に式IIと、任意に式IIIとを含む組成物である。還元剤組成物は、式Iを少なくとも30重量%含む。
【0059】
還元剤はフッ素化されていない。
【0060】
【0061】
式Iにおいて、Mは、水素原子、アンモニウムイオン、元素周期表のIa、IIa、IIb、IVa若しくはVIIIb族の一価の金属イオン又は二価の金属イオンの等価物であり、R1は、H、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基又はアリール基であり、これらの基は、C1~C6-アルキル、OH、O-C1~C6-アルキルから互いに独立して選択される1、2又は3個の置換基を有することが可能であり、R2は、COOM、SO3M又はCOOR5であり、ここで、Mは上で定義した通りであり、R5は、H又は1~6個の炭素を有する直鎖若しくは分岐アルキル鎖である。
【0062】
式II:
【化5】
式IIにおいて、Mは、水素原子、アンモニウムイオン、一価の金属イオンであり、R
1は、水素原子、1~6個の炭素原子を有する直鎖アルキル基、1~6個の炭素原子を有する分岐アルキル基、5員若しくは6員のシクロアルキル基、又は5員若しくは6員のアリール基であり、R
2は、-COOM、-SO
3M、又は-COOR5であり、ここで、R5は、H、又は1~6個の炭素を有する直鎖若しくは分岐アルキル鎖であり、Mは、上で定義した通りであり、及びその少なくとも1種の一価の金属イオンとの塩である。好ましくは、Mは水素原子又は一価の金属イオンである。好ましくは、前記一価の金属イオンは、ナトリウム及びカリウムから選択される。好ましくは、R
2は、水素原子、1~3個の炭素原子を有する直鎖アルキル基、1~3個の炭素原子を有する分岐アルキル基、及び5員又は6員のアリール基から選択される。好ましくは、R3は、-COOM、-SO
3M、及びCOOR5から選択される。
【0063】
式III:
【化6】
式IIIにおいて、Mは水素原子、アンモニウムイオン、一価の金属イオン、好ましくはNa
2SO
3である。
【0064】
前記還元剤の好適な例は、BRUGGEMANN-GROUP社からBruggolite(登録商標)の商品名で市販されている。
【0065】
還元剤は、使用される単量体の総重量に基づいて、0.01重量%~4.0重量%、より好ましくは0.1重量%~3重量%の量で使用される。
【0066】
界面活性剤
本発明の方法は、界面活性剤の非存在下で実施される。
【0067】
連鎖移動剤
連鎖移動剤は、生成物の分子量を調節するために重合に添加できる。連鎖移動剤は、重合開始時に一度に添加してもよいし、反応にわたって段階的あるいは連続的に添加してもよい。連鎖移動剤の添加量と添加態様は、採用する特定の連鎖移動剤の活性と、重合体生成物の所望の分子量とに依存する。重合反応に添加される連鎖移動剤の量は、反応混合物に添加される単量体の総重量に基づいて、約0~5重量%、好ましくは0.05~約5重量%、より好ましくは約0.1~約2重量%である。本発明で有用な連鎖移動剤の例としては、アルコール(好ましくは3~10個の炭素を有するもの)、カーボネート、ケトン、エステル及びエーテルなどの酸素化化合物が挙げられ、アセトン、エチルアセテート、ジエチルエーテル、メチル-t-ブチルエーテル、イソプロピルアルコールなども連鎖移動剤として機能することができ、ビス(エチル)カーボネート、ビス(イソブチル)カーボネートなどの、アルキルが1~5個の炭素原子を有するビス(アルキル)カーボネート;エタン、プロパンなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0068】
好ましいわけではないが、所望によりパラフィン系防汚剤を使用することもでき、長鎖飽和炭化水素ワックス又はオイルを使用することもできる。パラフィンの反応器負荷量は、使用する単量体の総重量に対して0.01重量%~0.3重量%とすることができる。
【0069】
単量体
本発明で使用される主要単量体(重合体の97重量%超を意味する)はフッ化ビニリデンである。他のエチレン性不飽和単量体が存在してもよい。用語「フッ素重合体」とは、フッ化ビニリデン及び任意に(メタ)アクリル共単量体の重合によって形成される重合体を意味し、単独重合体、共重合体、三元共重合体、及びその性質が熱可塑性である高次重合体を包含するものであり、成形や押出プロセスで行われるような、熱を加えて流動させることによって有用な部分に形成することができるものを意味する。フッ素樹脂は、少なくとも97重量%のフッ化ビニリデンを含む。熱可塑性重合体は結晶融点を示す。
【0070】
任意の(メタ)アクリル共単量体は、次式で表すことができる:
【化7】
式中、R1、R2、R3は、互いに同一であり又は異なり、それぞれ独立して水素原子又はC
1~C
3炭化水素基であり、ROHは水素又はC
1~C
5炭化水素部分である。(メタ)アクリル単量体の非限定的な例は、アクリル酸、メタクリル酸、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル;(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルヘキシル;(メタ)アクリル酸アルキルなどのアクリル酸エステル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニルなどのビニルエステルである。好ましくは、R1、R2、R3は水素である。
【0071】
緩衝剤
重合反応混合物は、重合反応を通して制御されたpHを維持するために、任意に緩衝剤を含むことができる。pHを、好ましくは約4~約8の範囲内に制御して、生成物における望ましくない発色を最小限に抑える。
【0072】
緩衝剤は、約4~約10、好ましくは約4.5~約9.5の範囲の少なくとも1つのpKa値及び/又はpKb値を有する、有機酸若しくは無機酸又はそれらのアルカリ金属塩、あるいはそのような有機酸若しくは無機酸の塩基又は塩を含むことができる。本発明の実施において好ましい緩衝剤としては、例えば、リン酸緩衝剤及び酢酸緩衝剤が挙げられる。「リン酸緩衝剤」は、リン酸の1以上の塩である。「酢酸緩衝剤」は酢酸の塩である。
【0073】
本発明の重合から得られる分散液は、10~50重量%、好ましくは15~40重量%の固形分レベルを有する。分散液中のフッ素重合体粒子は、50~600nm、好ましくは100~500nmの範囲の一次粒径を有する。
【0074】
重合体又は共重合体は、オーブン乾燥、噴霧乾燥、せん断凝固又は酸凝固、その後の乾燥などの標準的な方法を使用して分離できる。
【0075】
さらなる態様において、本発明は、上で定義した重合体を少なくとも含む組成物から製造された物品に関する。
【0076】
さらなる態様において、本発明は、成形物品の製造方法に関し、前記方法は、上で定義された重合体を少なくとも含む組成物を処理加工することを含む。
【0077】
前記重合体は、例えば、成形(射出成形、押出成形)、カレンダー成形又は押出によって、所望の形状の成形物品に加工できる。必要に応じて、物品は、処理加工中及び/又はその後の工程(後処理又は後硬化)で加硫(又は硬化)に供される。
【0078】
重合体の特性
得られる重合体は熱可塑性である。
【0079】
新規な重合方法は、新規な重合体組成物を与える。この組成物はPVDF共重合体を含む。PVDF重合体は溶融加工可能である。
【0080】
重合体は好ましくは架橋されていない。
【0081】
PVDF重合体は、少なくとも97重量%のVDF、好ましくは少なくとも98重量%のVDFを含む。PVDF重合体は最大100重量%のVDFを含む。
【0082】
本発明のPVDF単独重合体及びPVDF共重合体は、DSCで測定したときに、170℃~180℃、好ましくは171℃~178℃(ASTM D3418)の溶融温度を有することを特徴とする。
【0083】
本発明の重合体は、19F-NMRによって測定したときに、3.2~4.2%の逆単位率を有する。
【0084】
本発明の重合体は、加熱プロセス時に、DSCで測定した融解熱(ASTM D3418)が65J/g超、好ましくは70J/g超である。
【0085】
本発明に従って製造された重合体は、示差走査熱量測定(DSC)実験における結晶融点の存在によって示すことができるような、測定可能なレベルの結晶性ポリフッ化ビニリデンを含む。溶融温度は、第2サイクルの吸熱ピークに割り当てられる。融解熱は第1サイクルで決定される。結晶含有量を測定するDSCスキャンは、ASTM規格D3418に準拠して実施される。DSCは3段階のサイクルで行われる。サイクルは-20℃で開始され、その後210℃まで10℃/分で昇温し、10分間保持した後、試料を-20℃まで10℃/分で冷却し、その後210℃まで10℃/分で再加熱する。
【0086】
本発明は、主としてβ相結晶性を有する重合体を提供する。この重合体は、Iβ(200/110)/[Iα(020)+Iγ(020)]として定義されるβ相結晶ピーク強度比が10よりも大きい。本発明の重合体のβ相結晶ピーク強度比は、実施例に記載のX線回折を使用して測定したときに、好ましくは15よりも大きく、又は20よりも大きく、又は30よりも大きく、又は40よりも大きく、又は45よりも大きい。
【0087】
本発明は、共重合方法や第2処理加工方法などの従来技術を凌駕するβ相に富んだポリフッ化ビニリデンを提供する。
【0088】
本発明の重合体の溶融粘度は、一般に5~75、好ましくは35~75キロポアズ、より好ましくは35キロポアズ~65キロポアズの範囲である(ASTM D3835、232℃、100秒-1)。
【0089】
本発明の重合体は、高性能で低コストのアクチュエーター用途の製造に応用できる。
【実施例】
【0090】
例1~4
実験を、1.7Lのステンレス製反応器に1000gの水を添加して行った。反応器を窒素ガスでパージした。反応器を密閉し、72RPMで撹拌を開始した。72RPMの撹拌を、反応全体を通して維持した。反応器を所望の温度に加熱した。反応器にフッ化ビニリデンを所望の圧力4500kPaに到達するように装入した。加圧後、反応器に開始剤溶液及び還元剤溶液を装入した。開始剤溶液は、1%過硫酸カリウムの開始剤水溶液(EMD Chemicals社製、ACS等級)であった。還元剤溶液は、1%FF6M(Bruggolite)溶液である。適切な重合速度が得られるように、開始剤水溶液及び還元剤水溶液を連続的に反応に添加した。反応温度を保持し、必要に応じてフッ化ビニリデンを添加して反応圧力を4500kPaに維持した。VDFの消費量が所望のレベルに達したときに、VDFの供給を停止した。30分間にわたって撹拌を続行し、温度を維持した。その後、撹拌及び加熱を中止した。室温まで冷却した後、余剰ガスを排出し、反応により生成したラテックスを適当な受け容器に排出した。ラテックスの重量固形分測定を行った。ラテックスを、凍結を含めた従来の方法で凝固させ、又は110℃の対流式オーブンで直接乾燥させた。
【0091】
分散液の粒子径を、波長639nmのシングルモード35mWレーザーダイオードを含むNicomp型式380Sub-Micron Particle Sizerを使用して測定した。
【0092】
樹脂の溶融粘度測定は、ASTM D3835に準拠して、DYNISCO LCR-7000を使用して232℃、100秒’の条件でキャピラリーレオメトリーにより行った。
【0093】
熱特性は、ASTM規格D3418に準拠して、TA Instruments DSC Q2000をLNCSと共に使用し、-20℃から210℃まで10℃/分サイクルで測定した。
【0094】
固形分は重量測定によって測定した。
【0095】
逆単位はNMRを使用して測定した。重合体粉末の19F-NMRスペクトルを、DMSO-d6を溶媒として使用したBruker AVIII HD500分光器で記録した。91~92ppmの範囲のピーク(積分値)の強度を、アイソレジック(isoregic)単位に存在するフッ素原子に割り当てると共に、112~116ppmの範囲のピークの強度を、逆単位に存在するフッ素原子に割り当てた。
【0096】
X線回折実験を、リガクSmartLab回折プラットフォーム(Cu Kα1.5418Å、40kV、40mA)で行った。試料を低バックグラウンドホルダーにセットし、反射モードでWAXS分析を行った。WAXS分析に使用した回折計は、銅X線管(Cu Kα1.5418Å)を備え、40kV、40mAに設定された、ラインフォーカス(X線ビームは長さ12mm、幅1mmのラインフォーカスで使用される)を備えるリガクSmartLabである。実験を、平行ビーム光学系(湾曲放物面多層膜ミラー、自然に発散するX線ビームを非常に発散の少ない平行X線ビームに変える)を用いたθ-θ(反射)ジオメトリーで行う。入射スリットを1mm開口、長さ制限スリットを10mm開口、2つの受光スリットを3mm開口に設定する。検出器は、1次元モードで使用されるリガク社製ハイピックス3000である。データを、連続モードで5.0°から80.0°2θまで、ステップ0.02°及びスキャン速度0.5°/分で収集した。α-PVDF及び/又はγ-PVDFに対するβ-PVDFの比を強度比として計算した。β-PVDF(200)とβ-PVDF(110)との和を、α-PVDF(020)とγ-PVDF(020)との和で割る。
【0097】
対照は、過硫酸塩を開始剤として使用し、75℃よりも高い温度で一般的な乳化重合によって製造されたPVDF単独重合体である。
【0098】
【0099】
【0100】
(1)20.6°2θ付近にCu Kα放射線で観察されたβ(200)とβ(110)との和、18.3°2θ付近にCu Kα放射線で観察されたα(020)のピーク強度、又は18.3°2θ付近にCu Kα放射線で観察されたγ(020)のピーク強度、又は両方の多形が存在した場合にはα(020)とγ(020)とのピーク強度の和に対する比を使用して算出されたピーク強度比。
【0101】
実験1~4は、本発明の重合法を用いると、強度比及び高いΔHから明らかなようにβ相が得られることを示している。典型的なエマルション(対照)ではβ相は存在しない。新規な重合方法では、対照と比較して高い溶融温度を得つつ、少ない逆単位が得られる。
【0102】
実験5~6:実験を、2ガロンのステンレス製反応器に6000gの水を添加して行った。反応器を窒素ガスでパージした。反応器を密閉し、72RPMで撹拌を開始した。72RPMの撹拌を、反応全体を通して維持した。反応器を所望の温度に加熱した。反応器にフッ化ビニリデンを装入し、所望の圧力4481kPa(650psi)に到達させた。加圧後、反応器に開始剤溶液及び還元剤溶液を装入した。開始剤溶液は、1%過硫酸カリウムの開始剤水溶液(EMD Chemicals社製、ACS等級)であった。還元剤溶液は、1%FF6M(Bruggolite)溶液である。適切な重合速度を得るために、開始剤水溶液及び還元剤溶液をスラグ又は連続供給として反応に添加した。共単量体溶液を、開始剤溶液の直後に反応器に供給し、反応全体を通して反応器に供給し続けた。反応温度を保持し、反応圧力を必要に応じてフッ化ビニリデンを添加することにより4481kPa(650psi)に維持した。VDFの消費量が所望のレベルに達したときに、VDFの供給を停止した。30分間にわたって撹拌を続け、温度を維持した。その後、撹拌及び加熱を中止した。室温まで冷却した後、余剰ガスを排出し、反応により生成したラテックスを適当な受け容器に排出した。ラテックスの重量固形分測定を行った。ラテックスを、凍結を含めた従来の方法で凝固させ、又は110℃の対流式オーブンで直接乾燥させた。
【0103】
【0104】
【0105】
実験5及び6は、実験1~4と同様の結果を示した。すなわち、対照と比較してβ相、高融点、高ΔHが得られた。
【0106】
実施例7~8(VDF系フッ素化共重合体-比較例)
実験を、1.7Lのステンレス製反応器に1000gの水を添加して行った。反応器を窒素ガスでパージした。反応器を密閉し、72RPMで撹拌を開始した。72RPMの撹拌を、反応全体を通して維持した。反応器を所望の温度に加熱した。反応器にフッ化ビニリデン及び共単量体を所望の圧力4481kPa(650psi)に到達するように装入した。加圧後、反応器に開始剤溶液及び還元剤溶液を装入した。開始剤溶液は、1%過硫酸カリウムの開始剤水溶液(EMD Chemicals社製、ACS等級)であった。還元剤水溶液は1%FF6M(Bruggolite)水溶液である。適切な重合速度が得られるように、開始剤水溶液及び還元剤水溶液を連続的に供給して反応に添加した。反応温度を保持し、必要に応じてフッ化ビニリデン及び共単量体を添加することによって、反応圧力を4481kPa(650psi)に維持した。VDFの消費量が所望のレベルに達したときに、VDFの供給を停止した。30分間にわたって撹拌を続行し、温度を維持した。その後、撹拌及び加熱を中止した。室温まで冷却した後、余剰ガスを排出し、反応により生成したラテックスを適当な受け容器に排出した。ラテックスの重量固形分測定を行った。ラテックスを、凍結を含めた従来の方法で凝固させ、又は110℃の対流式オーブンで直接乾燥させた。
【0107】
【0108】
【0109】
比較例7の溶融温度は163℃であった。β相結晶は見られなかった。
比較例8の溶融温度は125℃であった。β相結晶は見られなかった。
【国際調査報告】