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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-18
(54)【発明の名称】ファブリックおよび方法
(51)【国際特許分類】
   D21F 7/08 20060101AFI20241010BHJP
【FI】
D21F7/08 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024526959
(86)(22)【出願日】2022-09-23
(85)【翻訳文提出日】2024-07-03
(86)【国際出願番号】 EP2022076520
(87)【国際公開番号】W WO2023078613
(87)【国際公開日】2023-05-11
(31)【優先権主張番号】102021128660.3
(32)【優先日】2021-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506408818
【氏名又は名称】フォイト パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】VOITH PATENT GmbH
【住所又は居所原語表記】St. Poeltener Str. 43, D-89522 Heidenheim, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ローベアト エーバーハート
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055AG72
4L055CE36
4L055EA15
4L055EA32
4L055EA34
4L055FA13
4L055FA30
(57)【要約】
ファブリック、特に繊維ウェブを製造する機械のプレス部分において使用するためのシームフェルト、ならびにその製造方法であって、ファブリックは、少なくとも1つの基礎構造と、基礎構造に配置された少なくとも1つの積層繊維層とを有し、少なくとも1つの積層繊維層は、繊維ウェブに面した側に配置されており、ファブリックは、少なくとも1つのシームゾーンを有し、シームゾーンにおいては、シームループが、少なくとも1つの差込みワイヤによって、ファブリックをシームレスにするように互いに結合されており、少なくとも1つの積層繊維層は、シームゾーンの領域において、少なくとも1つの切込みにより分割されて、これによりシームフラップおよびシームウェッジが形成されている。この場合、積層繊維層は、シームゾーンの領域で、シームフラップおよびシームウェッジの両方において、所定の量の結合繊維を含んでおり、この結合繊維は、1つ以上の別の積層繊維に溶着により結合されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ファブリック(1)、特に繊維ウェブを製造する機械のプレス部分において使用するためのシームフェルトであって、
前記ファブリック(1)は、少なくとも1つの基礎構造(3)と、前記基礎構造(3)に配置された少なくとも1つの積層繊維層(8)とを有し、前記少なくとも1つの積層繊維層(8)は、前記繊維ウェブに面した側に配置されており、
前記ファブリック(1)は、少なくとも1つのシームゾーン(2)を有し、前記シームゾーンにおいて、シームループ(4)が、少なくとも1つの差込みワイヤ(5)によって、前記ファブリック(1)をシームレスにするように互いに結合されており、
前記少なくとも1つの積層繊維層(8)は、前記シームゾーン(2)の領域において、少なくとも1つの切込み(9)により分割されて、これによりシームフラップ(10)およびシームウェッジ(11)が形成されている、ファブリック(1)において、
前記積層繊維層(8)は、前記シームゾーン(2)の領域で、前記シームフラップ(10)および前記シームウェッジ(11)の両方において、所定の量の結合繊維を含んでおり、前記結合繊維は、1つ以上の別の積層繊維に溶着により結合されており、前記シームフラップ(10)の前記結合繊維は、前記シームフラップ(10)の積層繊維にのみ結合されているのに対し、前記シームウェッジ(11)の前記結合繊維は、前記シームウェッジ(11)の積層繊維にのみ結合されており、前記シームフラップ(10)の前記積層繊維と前記シームウェッジ(11)の前記積層繊維との間では、結合が、特に溶着が行われないことを特徴とする、ファブリック(1)。
【請求項2】
前記結合繊維は、780[nm]~3[μm]のNIR範囲の波長を有する光を少なくとも部分的に吸収する、請求項1記載のファブリック(1)。
【請求項3】
前記積層繊維が溶着により結合されている前記シームゾーン(2)の領域は、前記ファブリック(1)の長手方向で、100mm未満にわたって、特に50mm未満、好適には30mmにわたって延在している、請求項1または2記載のファブリック(1)。
【請求項4】
前記シームゾーン(2)の外側では、前記積層繊維層(8)における前記結合繊維の割合は、前記シームゾーン(2)における割合よりも僅かである、請求項1から3までのいずれか1項記載のファブリック(1)。
【請求項5】
前記シームゾーン(2)の外側では、前記積層繊維層(8)には結合繊維は存在していない、請求項4記載のファブリック(1)。
【請求項6】
前記少なくとも1つの積層繊維層(8)において、前記シームゾーン(2)における、780[nm]~3[μm]のNIR波長範囲の光を少なくとも部分的に吸収する前記結合繊維の割合は、5重量%~40重量%、特に15重量%~30重量%である、請求項1から5までのいずれか1項記載のファブリック(1)。
【請求項7】
前記結合繊維は、その他の積層繊維と同じポリマー、特にポリアミドから成っていて、かつ/または前記結合繊維は、所定の添加剤により、780[nm]~3[μm]のNIR範囲の波長の範囲にある波長の光に対して少なくとも部分的に吸収性にされている、請求項1から6までの少なくとも1項記載のファブリック(1)。
【請求項8】
前記積層繊維層(8)上に配置して、前記ファブリック(1)の、紙に接触する上面を提供する少なくとも1つの別の積層繊維層(8b)が設けられており、前記別の積層繊維層(8b)は、結合繊維を含んでいない、請求項1から7までのいずれか1項記載のファブリック(1)。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれか1項記載のファブリック(1)を製造するための方法であって、
a.基礎構造を準備し、互いに交差されたシームループ(4)に差込みワイヤ(5)を導入することにより、前記基礎構造をシームレスにするステップと、
b.前記基礎構造の、繊維ウェブに面した側に、積層繊維層(8)を配置するステップであって、前記積層繊維層(8)は、前記シームループ(4)の領域で所定の量の結合繊維を含んでおり、前記結合繊維は、好ましくは、780[nm]~3[μm]のNIR範囲の波長の光を少なくとも部分的に吸収する、ステップと、
c.前記積層繊維層(8)を前記基礎構造(3)に針打ち加工するステップと、
d.結合繊維を、残りの積層繊維に溶着させて、シームゾーン(2)を形成するステップと、
e.前記シームゾーン(2)を切開して、これによりシームフラップ(10)とシームウェッジ(11)とを形成するステップと、
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念に記載の、ファブリック、特に繊維ウェブを製造する機械のプレス部分において使用するためのシームフェルト、ならびに請求項9に記載の製造するための方法に関する。
【0002】
抄紙機のためのファブリック、特にプレスフェルトに関しては、既に以前から、シームレスのファブリックからシームファブリックへと開発が移行している。ユーザにとっての利点は、このシームファブリックが簡単に機械に装着することができることにある。さらに、新設備においてシームレスのファブリックの嵌め込みのための措置を講じることが不要であると、大きな構造的な手間を省略することができる。
【0003】
特別なシームフェルトは、フェルト端部を基布の領域において結合する差込みワイヤシームにより製造される。これによりシームレスにされたこの基布上で、少なくとも紙側において、多くの場合走行側においても、不織布層が被着させられて、針打ち加工される。このことは生産技術的に有利であるので、この場合、不織布層は差込みワイヤシーム上でも針打ち加工される。
【0004】
抄紙機内にフェルトを引き込むために、フェルトのシームは再び開かれなければならない。これは、基布では差込みワイヤの除去により問題なく可能である。しかし、シームにわたってニードリングされた不織布層は、解かれなければならない。
【0005】
このためには、一方のフェルト端部の紙側の不織布層が、差込みワイヤの領域において、他方のフェルト端部の紙側の不織布層から切込みにより分離される。切込みは、シームにわたる針打ち加工後に、この時点ではまだ閉じている不織布内に加工される。この切込みは、垂直に実施されていてもよいが、好適には僅かに傾斜して実施され、つまり好適には垂線から5~30°のずれで実施され、これによりシームフラップおよびシームウェッジが形成される。
【0006】
フェルトの引込み後、差込みワイヤシームは、例えば繊維束の形態の差込みワイヤにより再び閉じられる。しかしながら、不織布支持部の分離された両端部は、同じ寸法では再び閉じられない。この個所で、フェルトもしくは不織布支持部は、フェルトの残りの部分とは異なる特性を有している。さらにこの個所は、フェルトが、主に摩耗によって損傷されるおそれがあるという脆弱個所でもある。
【0007】
耐摩耗性を向上させるために、例えば、独国特許出願公開第102019134837号明細書の文献等の従来技術により、シームフラップとシームウェッジとを再び互いに結合することが公知である。このために、独国特許出願公開第102019134837号明細書では、付加的な結合エレメントが使用される。
【0008】
しかしながら、シームウェッジ、および特にシームフラップはそれ自体極めて摩耗しやすくなっているという難点が残っている。
【0009】
そこで、本発明の課題は、シーム領域の透過性に対して悪影響を与えることなく、従来技術よりも耐摩耗性であるファブリックのためのシーム領域を提案することである。
【0010】
本発明のさらなる課題は、簡単に製造することができ、機械に簡単に装着することができるファブリックを提供することである。
【0011】
この課題は、本発明によれば、請求項1記載の特徴に相当する構成、ならびに請求項9記載の方法により解決される。
【0012】
本発明の別の有利な実施形態は、従属請求項に記載されている。
【0013】
ファブリックに関しては、この課題は、ファブリック、特に繊維ウェブを製造する機械のプレス部分において使用するためのシームフェルトであって、このファブリックは、少なくとも1つの基礎構造と、基礎構造に配置された少なくとも1つの積層繊維層とを有しており、少なくとも1つの積層繊維層は、基礎構造の、繊維ウェブに面した側に配置されている、ファブリックによって解決される。基礎構造は、特に基布であってもよい。
【0014】
ファブリックは、少なくとも1つのシームゾーンを有しており、シームゾーンにおいては、シームループが、少なくとも1つの差込みワイヤによって、ファブリックをシームレスにするように互いに結合されており、少なくとも1つの積層繊維層は、シームゾーンの領域において、少なくとも1つの切込みにより分割されて、これによりシームフラップおよびシームウェッジが形成されている。
【0015】
本発明によれば、少なくとも1つの積層繊維層は、シームゾーンの領域で、シームフラップおよびシームウェッジの両方において、所定の量の結合繊維を含んでおり、この結合繊維は、1つ以上の別の積層繊維に溶着により結合されていることが想定されている。
【0016】
この場合、シームフラップの積層繊維とシームウェッジの積層繊維との間では溶着が行われないことが想定されている。したがって、シームフラップの結合繊維は、シームフラップの積層繊維にしか結合されていないのに対し、シームウェッジの結合繊維は、シームウェッジの積層繊維にしか結合されていない。
【0017】
好適な実施形態では、結合繊維は、780[nm]~3[μm]のNIR範囲の波長を有する光を少なくとも部分的に吸収することが想定されている。結合繊維が、780[nm]~3[μm]のNIR範囲の波長を有する光を少なくとも部分的に吸収することにより、透過溶着、例えばレーザ透過溶着による積層繊維の溶着を行うことができる。
【0018】
代替的にこれは、シーム領域における積層繊維層における同時溶着法によっても行われてもよい。この場合、溶着すべき領域に、同時にまたは短い間隔で複数のレーザビームを種々様々な方向から向けて、これらのレーザビームは、その交点でのみ、繊維を溶着するのに十分なエネルギを有していて、ひいてはこの個所で材料溶融、および材料接続的な結合を生じさせる。このためには、特定の波長範囲内で吸収性の特殊な繊維材料は必ずしも必要ではない。レーザの波長は、繊維材料の吸収に合わせて調節することができる。したがって、繊維材料は、レーザの光を部分的にのみ吸収し、つまり50%未満、好ましくは30%未満しか吸収しないことが望ましい。
【0019】
この方法は、極めて穏やかに構成することができるので、例えば透過性のようなシームゾーンの特性は、溶着によって変化しないか、または極僅かしか変化しない。これは、例えば、原則的には同様に可能な超音波溶着に対する利点である。
【0020】
結合繊維と別の積層繊維との溶着は、2成分を、例えばより低い融点を有するコポリアミドからなる鞘を含むポリアミドを含むいわゆるBiCo繊維または溶融接着繊維の使用とも区別することができる。この場合、確かに、フェルトの加熱および相応のBiCo繊維の溶融によっても、積層繊維間の結合が生成され得る。このような結合は、むしろ接着もしくはろう接に相当する。この場合、このような結合は、溶着よりも強度が低く、フェルトの作動時に比較的早期に破損する。したがって、このような繊維もしくはこのような接着結合によっては、高い摩耗耐性という目的は、上述した溶着による結合と同程度には達成されない。
【0021】
積層繊維層の部分としての結合繊維は、この場合、積層繊維としても構成されている。したがって、これらの結合繊維は、相応の波長範囲で吸収性ではない残りの積層繊維と共に問題なく加工することもできる。
【0022】
シームゾーンとは、本出願の範囲では、すなわち、差込みワイヤシームの周囲の領域であると理解され、この領域では、結合繊維が、少なくとも1つの積層繊維層の別の積層繊維と溶着により結合されている。
【0023】
シームゾーンは、通常、機械横方向でファブリックの全幅にわたって延在している。
【0024】
本発明者らは、少なくとも1つの積層繊維層内の積層繊維の溶着により、シームの周りで積層繊維層のこの区分の内部強度が明らかに高まることを認識した。これにより複数の利点が得られる。1つには、シームゾーンが強化されている場合、シームフラップおよびシームウェッジを形成するための切込みをより簡単かつ精密に実施することができる。
【0025】
さらに、生じた両部分(フラップおよびウェッジ)は、摩耗に対して著しく抵抗力がある。すなわち、切開により、通常、積層繊維のより小さな断片が生じ、このような断片は、不織布複合体から、比較的容易に剥がれるおそれがある。積層繊維を互いに溶着することにより、これらの繊維断片は、今や、もはや機械的に(すなわち、絡まりによって)だけではなく、材料接続的にも、積層繊維層の複合体に保持されているので、このようなリスクは少なくとも著しく減じられる。
【0026】
さらに、シームフラップは全体として著しく形状安定的になっている。シームフラップは、-切込み角度に応じて多かれ少ない鋭角の-三角形の形状を有している。この場合、前方の三角形の先端は、一般に脆弱点であり、抄紙機における種々異なる荷重により、ファブリック表面から離れる方向に曲げられるおそれがある。シームゾーンにおける不織布繊維の溶着により、この先端は補強され、屈曲のリスクは減じられる。
【0027】
このように補強されたシームゾーンは、機械におけるファブリックの装着も容易にする。
【0028】
シームフラップとシームウェッジとの間で溶着が行われないことにより、シームは必要に応じて再び開放することができる。
【0029】
特に、結合繊維は、その他の積層繊維と同じ繊維番手を有していてもよく、もしくは積層繊維層のその他の積層繊維の一部と同じ繊維番手を有していてもよい。結合繊維ではない積層繊維は、有利にはポリアミド、例えばPA6またはPA6.6から成っていてもよい。このようなポリアミドは、まさに780[nm]~3[μm]のNIR範囲の波長を有する光に対して完全にまたは十分に透過性であるので有利である。したがって、NIR透過溶着の使用が問題なく可能である。
【0030】
結合繊維が、その他の積層繊維と同じポリマー、特にポリアミドから成っているならば特に有利である。NIR透過溶着により溶着が実施される場合には、結合繊維を、所定の添加剤により、780[nm]~3[μm]のNIR範囲の波長の光に対して少なくとも部分的に吸収性にすることができる。
【0031】
このために適切な添加剤は、例えば、煤(工業煤、「カーボンブラック」)である。これにより黒色に着色された結合繊維はさらに、シームゾーンが、ファブリックの、黒色または比較的暗い横方向ストリップとして容易に認識することができ、ひいてはシームを開放するためにも見付け易いという有利な副次的効果を満たす。
【0032】
代替的に、結合繊維とその他の積層繊維とは、同じポリマーから成るのではなく、それぞれ溶着適合性のポリマーから成っていてもよい。
【0033】
有利には、このようなシームゾーンは、長手方向で、すなわちファブリックの走行方向または機械方向で見て、比較的短い。
【0034】
好適な構成では、シームゾーンがファブリック長手方向で、100mm未満にわたって、特に50mm未満、好適には30mmにわたって延在していることが想定されていてもよい。10mm以下の長さを有するシームゾーンも想定されていてもよい。
【0035】
100mm未満のこのように短いシームゾーンにより、シームフラップおよびシームウェッジの領域における積層繊維層の安定化という所望の目的が満たされる。さらに、短いシームゾーンは簡単に製造可能である。
【0036】
結合繊維の溶着が、例えば、レーザ透過溶着によって行われる場合には、レーザヘッドの1回以下の通過によってシームゾーンを形成することができると有利である。
【0037】
通常のレーザ光学系は、例えば30mmの幅を有する。したがって、30mmの長さのシームゾーンは、ファブリックの幅にわるただ1回のレーザヘッド走行によって形成することができる。
【0038】
本発明の範囲内では、10cmを超える、特に50cm、100cmまたはそれ以上の特に長いシームゾーンが可能ではある。しかしながら、追加的な長さは、シームゾーンの耐久性にとってそれ以上大きな利点を提供しないので、溶着のための付加的な手間をかける必要はない。
【0039】
また、シームゾーンの外側でも、結合繊維が積層繊維層内に存在している可能性があるが、これらの結合繊維は溶着されていない。これは、製造技術的な理由から生じていると思われる。しかしながら、有利には、シームゾーンの外側では、積層繊維層における結合繊維の割合は、シームゾーンにおける割合よりも僅かである。好適には、シームゾーンの外側では、積層繊維層に結合繊維は存在しない。
【0040】
少なくとも1つの積層繊維層において、シームゾーンにおける、780[nm]~3[μm]のNIR範囲の波長を有する光を少なくとも部分的に吸収する結合繊維の割合が、5重量%~40重量%、特に15重量%~30重量%であるならば有利であると実証することができる。
【0041】
本発明の様々な態様によるファブリックでは、特にフェルトでは、積層繊維層の上に配置されている少なくとも1つの別の積層繊維が設けられていてもよい。このような別の積層繊維層は、特に、ファブリックの、紙に接触する上面を提供することができ、結合繊維を含んでいない。
【0042】
これにより、シームゾーンの上面は、ファブリックのその他の部分とほぼ同一の表面特性を有している。
【0043】
方法に関しては、上記課題は、本発明の態様によるファブリックを製造するための方法により解決され、この方法は、以下のステップ、すなわち、
a.基礎構造を準備し、互いに交差されたシームループに差込みワイヤを導入することにより、基礎構造をシームレスにするステップ、
b.基礎構造の、繊維ウェブに面した側に、積層繊維層を配置するステップであって、積層繊維層は、シームループの領域で所定の量の結合繊維を含んでおり、結合繊維は、好ましくは、780[nm]~3[μm]のNIR範囲の波長の光を少なくとも部分的に吸収する、ステップ、
c.少なくとも1つの積層繊維層を基礎構造に針打ち加工するステップ、
d.結合繊維を、別の積層繊維に溶着させて、シームゾーンを形成するステップ、
e.シームゾーンを切開して、これによりシームフラップとシームウェッジとを形成するステップ、
を含んでいる。
【0044】
ここに記載された方法では、特に、シームフラップの積層繊維とシームウェッジの積層繊維との間で溶着を行う方法ステップは設けられていない。
【0045】
ステップd.)の後にステップe.)が行われるならば、切込みの形成をより簡単かつ精密に実施することができるという利点がある。したがって、後から行われる溶着により、シームフラップとシームウェッジとの間に誤って望ましくない溶着が生じることも回避される。
【0046】
それにもかかわらず、ステップd.)の前にステップe.)を実施する用途があってもよい。
【0047】
レーザ放射の強度は、材料構造と所望の溶着および構造物維持の強度とに適合させることができる。有利にはさらに、溶着中、シーム領域に圧力を加えることができる。例えば、これは、840nmの波長でLeister社のローラ光学系を有するNIRレーザ溶着機Novolasを用いたNIR透過溶着により実施することができる。この場合、30mmのローラ幅を使用することができる。シーム領域は、この実施例では、5m/分かつ450Wのレーザ出力ならびに15Nのローラの押圧力で処理される。
【0048】
製造法においても特に、従来技術に対する本発明の利点が示されている。つまり、独国特許出願公開第102019134837号明細書に記載のファブリックでは、ファブリックが機械に装着されている間に既に、溶着工程が実施されなければならないということが必須である。このような溶着工程のために、レーザ溶着の使用時にもまさに、広範な安全対策が施されなければならない。
【0049】
ここに記載した方法では、ステップd.)は問題なく、製造業者によって実施することができ、製造業者では、ファブリックは、特別に調整された安全な溶着ステーションにおいて処理することができる。シームゾーンの切開も、問題なく製造業者で実施することができる。
【0050】
ファブリックは、差込みワイヤシームの開放後に機械に張られ、次いで、新たに差込みワイヤシームの閉鎖によりシームレスにすることができる。シームフラップとシームウェッジとの間では溶着が行われていないので、製造機械において溶着工程は必要ない。
【0051】
本発明の態様によるシームゾーンは、原則として、従来技術により公知の様々な手段と組み合わせて、摩耗耐性をさらに改善することができる。
【0052】
したがって、例えば、-目下特許請求されていない態様では-シームフラップとシームウェッジとの間に少なくとも1つの結合エレメントが挿入されており、少なくとも1つの結合エレメントは、シームフラップおよび/またはシームウェッジの積層繊維に材料接続的に結合されている、特に溶着されていることが想定されていてもよい。
【0053】
このような結合エレメントは、例えば独国特許出願公開第102019134837号明細書に記載されている。
【0054】
この場合も、少なくとも1つの結合エレメントは、780[nm]~3[μm]のNIR範囲の波長を有する光を少なくとも部分的に吸収するポリマー材料を含むことが想定されていてもよい。
【0055】
この場合、このような結合エレメントは、少なくとも1つの積層繊維層の結合繊維と同じ波長範囲の光を吸収することができる。
【0056】
しかしながら、このような結合エレメントが、NIR範囲の他の部分を吸収する場合も有利であり得る。これは、例えば、同じポリマー(例えばポリアミド)が使用される場合であっても、異なる添加剤を添加することによって達成することができる。有利には、結合エレメントの(例えば透過溶着による)溶着は、異なる波長で行われるので、積層繊維層に不都合な影響を全く与えないかまたは僅かにしか与えない。
【0057】
少なくとも1つの結合エレメントは、好適には、糸状のまたは帯状の結合エレメントとして形成されている。
【0058】
このような結合エレメントを設けることにより、確かに、シームフラップとシームウェッジとの間の溶着をなくす-特に製造技術的な-利点は失われる。しかしながら、特別な用途においては、シーム領域の耐摩耗性がさらに拡大されることによりこの欠点は相殺される。
【0059】
例:
以下の例は、本発明の態様による典型的なフェルト、ならびにその製造のためのステップを説明すべきものである。本発明は、この場合、この例に限定されるものではない。当業者にはさらに、例の個々の態様(積層繊維、吸収体、方法ステップ等)は、これらの例の組み合わせとは独立して、本発明の範囲で有利に使用することもできることが明らかである。
【0060】
44dtexであり、940nmで80%超の吸収性を有するPA6積層繊維を、結合繊維として、44dtexのPA6積層繊維層と30:70の比で混合する。混合物を、カーディング処理し、150g/mの積層繊維層を製造する(不織布X)。
【0061】
吸収剤として、例えば、ポリアミドと共押出成形される微分散吸収剤粉末、例えば煤粉末(原則として0.25~2重量%)または公知の無機吸収剤粉末、例えばLaB6(原則として0.15~0.75重量%)を使用することができる。
【0062】
例示的なフェルトは、織られた基本構造を有して構成されている。紙側には、この場合、さらに一列の別の積層繊維層が設けられている。
・150g/mである44dtexのPA6.6繊維を含む第1の別の積層繊維層
・この第1の別の積層繊維層の上に、次いで「不織布X」積層繊維層が配置されている
・この積層繊維層の上に、150g/mである22dtexのPA6繊維を含む第2の別の積層繊維層が配置されている
・そしてその上に、6.7dtexのPA6繊維を含む第3の別の積層繊維層が配置されている。
【0063】
基礎構造の走行側には、150g/mである22dtexのPA6繊維を含む第4の別の積層繊維層を設けることができる。
【0064】
この例は、このような本発明の態様によれば重要な、結合繊維を含む積層繊維層は、フェルトの紙側の不織布支持部の一部のみ、ここではそれどころかフェルトの紙側の不織布支持部の半分未満とすることができる。
【0065】
製造は、当業者には公知の通常の手法により行うことができ、この場合、様々な積層繊維層が相前後して被着され、それぞれ相前後して針打ちにより基礎構造に固定される。すべての積層繊維層の針打ちによる固定後には、複数回の集中的な針打ちサイクルが続いて行われる。次いで、シーム(それぞれシームの前後15mm、合わせて30mm)にわたるシームゾーンは、NIRレーザ(ローラ光学系を備えた、940nmの波長のLeister Novolas Basic AT)を用いて、15Nの押圧力、5m/分の通過速度、および450ワットのレーザ出力で処理される。これによりシームゾーンには、溶着された繊維・繊維結合が生成され、いくつかの結合繊維は部分的にまたは完全に溶融して、ろう付け部として複数の繊維間に結合個所が生成される。
【0066】
次いで、好適には、シームフェルト全体の熱固定プロセスがさらに行われる。その後、熱固定プロセスのために挿入されたピン/差込みワイヤが除去されて、溶着された繊維上層はシームに沿って切開される。個々のステップに関する詳細な手順は、プレスフェルト製造の分野の当業者に公知である。
【0067】
以下に、本発明を、図面につきさらに説明する。本発明は、この場合、この実施形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0068】
図1】従来技術によるファブリックの一部を示す図である。
図2】本発明の態様によるファブリックの一部を示す図である。
【0069】
図1は、従来技術により公知のファブリック1の一部を示している。この場合、ファブリックは、基布3として構成されている基礎構造3を含んでいる。基礎構造のそれぞれの端部は、それぞれ1つのシームループ4を有している。このようなシームループ4は、例えば、基礎構造3の折畳みおよび重ね合わせによって形成されていてもよい。この場合、シームループ4は、基布3の縦糸(MD糸)6により形成される。さらにシームループ4を形成するために、基布の個々の横糸(CD糸)が取り除かれていてもよい。ファブリック1は、両シームループ4が互いに交差され、差込みワイヤ5の導入により結合されていることにより、シームレスにされている。差込みワイヤ5はこの場合、単一のフィラメントであってもよい。図1のファブリック1は、代替的なものとして、複数のフィラメントから形成されている差込みワイヤ5を示している。適切な差込みワイヤ5の選択に際して、当業者はその他の点ではほぼ自由である。本発明の利点は、差込みワイヤ5の選択に関係なく達成することができる。
【0070】
ファブリック1は、さらに積層繊維層8と、別の積層繊維層8bとを含んでいる。この場合、走行側の積層繊維層8bは場合によっては省略することもできる。紙側の積層繊維層8は、特に針打ち加工によって、基礎構造3上に一貫して被着させられている。機械内への引込みのためにファブリック1を開放することができるようにするために、積層繊維層8は、シームにわたって切込み9によって開かれている。この切込み9は、原則的には垂直に形成されてもよい。しかしながら、通常、切込み9は、図1に示されたように、斜めに、すなわち、垂線に対して所定の角度をなして形成されている。この角度は、有利には5°~30°である。これにより、シームフラップ10とシームウェッジ11とが形成される。この場合、シームフラップ10は、閉じられたファブリック1においてシームウェッジ11に重なり合う。
【0071】
断面図では、図1に示した構成では、例示的に3つの結合エレメント20が挿入されている。これらの結合エレメント20は、それぞれ、ファブリック1もしくは切込み9の横方向全体にわたって延びている糸として構成されている。糸20として、例えば、モノフィラメント、マルチフィラメント束、または撚糸を使用することができる。また、図示した3本の糸20よりも多い、または少ない糸を使用することもできる。
【0072】
結合エレメント20は、切込み9の高さにわたって均等に分配されていてもよい。代替的には、たとえば、紙側の方向よりも基礎構造3の近傍により多くの結合エレメント20が配置されるか、またはその逆であるような不均一な分配も有利な場合がある。
【0073】
図2は、本発明の態様によるファブリック1を示している。図1に示されたファブリック1とは異なり、この場合、積層繊維層8のシームゾーン2には、780[nm]~3[μm]のNIR波長範囲の光を少なくとも部分的に吸収する結合繊維が設けられていて、これらの結合繊維は、1つ以上の別の積層繊維に溶着により結合されている。
【0074】
シームゾーン2は、この場合、シームループ4の前後の所定の区間で延在していて、シームフラップ10およびシームウェッジ11の両方を含む。
【0075】
好適な構成では、シームゾーン2がファブリック1の長手方向で、100mm未満にわたって、特に50mm未満、好適には30mmにわたって延在していることが想定されていてもよい。このように短いシームゾーン2により、シームフラップ10およびシームウェッジ11の領域における積層繊維層8の安定化という所望の目的が満たされる。さらに、短いシームゾーンは簡単に製造可能である。図1に示された結合エレメント20は、図2による構成では設けられていない。しかしながら、本発明の別の態様による代替的な構成では、このような結合エレメント20が設けられていてもよい。
【0076】
ファブリック1の走行側における別の積層繊維層8bは、本発明の別の構成では省略することもできる。
【0077】
代替的にまたは付加的に、別の積層繊維層8bを、積層繊維層8上に配置して、ファブリック1の、紙に接触する上面を提供することもできる。このような別の積層繊維層8bは、通常、結合繊維を有していない、または少なくとも、溶着により1つ以上の別の積層繊維に結合されている結合繊維を有していない。しかしながら、針打ち加工のプロセスにより、積層繊維層8の個々の結合繊維が完全にまたは部分的に別の積層繊維層8b内に進入し、そこで別の積層繊維との個別の溶着が生成されることも可能である。
【0078】
例示的な例の範囲で示したように、結合繊維を含む積層繊維層8は、フェルト1の紙側の不織布支持部の一部のみ、それどころかフェルト1の紙側の不織布支持部の半分未満とすることができる。
【符号の説明】
【0079】
1 ファブリック
2 シームゾーン
3 基礎構造
4 シームループ
5 差込みワイヤ
6 縦方向(MD)における糸
7 横方向(CD)における糸
8 積層繊維層
8b 別の積層繊維層
9 切込み
10 シームフラップ
11 シームウェッジ
15 紙に接触する上面
20 結合エレメント
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2024-07-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ファブリック(1)、特に繊維ウェブを製造する機械のプレス部分において使用するためのシームフェルトであって、
前記ファブリック(1)は、少なくとも1つの基礎構造(3)と、前記基礎構造(3)に配置された少なくとも1つの積層繊維層(8)とを有し、前記少なくとも1つの積層繊維層(8)は、前記繊維ウェブに面した側に配置されており、
前記ファブリック(1)は、少なくとも1つのシームゾーン(2)を有し、前記シームゾーンにおいて、シームループ(4)が、少なくとも1つの差込みワイヤ(5)によって、前記ファブリック(1)をシームレスにするために互いに結合されており、
前記少なくとも1つの積層繊維層(8)は、前記シームゾーン(2)の領域において、少なくとも1つの切込み(9)により分割されて、これによりシームフラップ(10)およびシームウェッジ(11)が形成されおり、前記積層繊維層(8)は、前記シームゾーン(2)の領域で、前記シームフラップ(10)および前記シームウェッジ(11)の両方において、所定の量の結合繊維を含んでおり、前記結合繊維は、1つ以上の別の積層繊維に溶着により結合されており、前記シームフラップ(10)の前記結合繊維は、前記シームフラップ(10)の積層繊維にのみ結合されているのに対し、前記シームウェッジ(11)の前記結合繊維は、前記シームウェッジ(11)の積層繊維にのみ結合されており、前記シームフラップ(10)の前記積層繊維と前記シームウェッジ(11)の前記積層繊維との間では、結合が、特に溶着が行われないファブリックにおいて、
前記積層繊維が溶着により結合されている前記シームゾーン(2)の領域は、前記ファブリック(1)の長手方向で、100mm未満にわたって、特に50mm未満、好適には30mmにわたって延在していることを特徴とする、ファブリック(1)。
【請求項2】
前記結合繊維は、780[nm]~3[μm]のNIR範囲の波長を有する光を少なくとも部分的に吸収する、請求項1記載のファブリック(1)。
【請求項3】
前記シームゾーン(2)の外側では、前記積層繊維層(8)における前記結合繊維の割合は、前記シームゾーン(2)における割合よりも僅かである、請求項1または2記載のファブリック(1)。
【請求項4】
前記シームゾーン(2)の外側では、前記積層繊維層(8)には結合繊維は存在していない、請求項記載のファブリック(1)。
【請求項5】
前記少なくとも1つの積層繊維層(8)において、前記シームゾーン(2)における、780[nm]~3[μm]のNIR波長範囲の光を少なくとも部分的に吸収する前記結合繊維の割合は、5重量%~40重量%、特に15重量%~30重量%である、請求項1からまでのいずれか1項記載のファブリック(1)。
【請求項6】
前記結合繊維は、その他の積層繊維と同じポリマー、特にポリアミドから成っていて、かつ/または前記結合繊維は、所定の添加剤により、780[nm]~3[μm]のNIR範囲の波長の範囲にある波長の光に対して少なくとも部分的に吸収性にされている、請求項1からまでの少なくとも1項記載のファブリック(1)。
【請求項7】
前記積層繊維層(8)上に配置して、前記ファブリック(1)の、紙に接触する上面を提供する少なくとも1つの別の積層繊維層(8b)が設けられており、前記別の積層繊維層(8b)は、結合繊維を含んでいない、請求項1からまでのいずれか1項記載のファブリック(1)。
【請求項8】
請求項1からまでのいずれか1項記載のファブリック(1)を製造するための方法であって、
a.基礎構造を準備し、互いに交差されたシームループ(4)に差込みワイヤ(5)を導入することにより、前記基礎構造をシームレスにするステップと、
b.前記基礎構造の、繊維ウェブに面した側に、積層繊維層(8)を配置するステップであって、前記積層繊維層(8)は、前記シームループ(4)の領域で所定の量の結合繊維を含んでおり、前記結合繊維は、好ましくは、780[nm]~3[μm]のNIR範囲の波長の光を少なくとも部分的に吸収する、ステップと、
c.前記積層繊維層(8)を前記基礎構造(3)に針打ち加工するステップと、
d.結合繊維を、残りの積層繊維に溶着させて、シームゾーン(2)を形成するステップと、
e.前記シームゾーン(2)を切開して、これによりシームフラップ(10)とシームウェッジ(11)とを形成するステップであって、前記積層繊維が溶着により結合されている前記シームゾーン(2)の領域は、前記ファブリック(1)の長手方向で、100mm未満にわたって、特に50mm未満、好適には30mmにわたって延在しているステップと、
を含む方法。
【国際調査報告】