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特表2024-538393燃料電池システム、および燃料電池システムを作動させる方法
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  • 特表-燃料電池システム、および燃料電池システムを作動させる方法 図1
  • 特表-燃料電池システム、および燃料電池システムを作動させる方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-18
(54)【発明の名称】燃料電池システム、および燃料電池システムを作動させる方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04828 20160101AFI20241010BHJP
   H01M 8/04298 20160101ALI20241010BHJP
   H01M 8/04492 20160101ALI20241010BHJP
   H01M 8/0432 20160101ALI20241010BHJP
【FI】
H01M8/04828
H01M8/04298
H01M8/04492
H01M8/0432
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024529397
(86)(22)【出願日】2022-11-21
(85)【翻訳文提出日】2024-05-16
(86)【国際出願番号】 EP2022082608
(87)【国際公開番号】W WO2023094316
(87)【国際公開日】2023-06-01
(31)【優先権主張番号】102021213328.2
(32)【優先日】2021-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【弁理士】
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】レヴァース,グレゴリー
【テーマコード(参考)】
5H127
【Fターム(参考)】
5H127AB04
5H127AC10
5H127BA02
5H127BB02
5H127BB07
5H127BB12
5H127BB22
5H127BB34
5H127BB37
5H127BB39
5H127BB40
5H127DB24
5H127DB26
5H127DB34
5H127DB36
5H127DB45
5H127DB48
5H127DC27
5H127DC28
5H127DC38
5H127DC68
5H127FF09
(57)【要約】
燃料電池システムを作動させる方法は、燃料電池システムの燃料電池のカソードのカソード入口に酸化ガス流が供給されることと、給湿器の排ガス入口にカソードのカソード出口からカソード排ガス流が供給されることと、給湿器の排ガス出口を介して給湿器からカソード排ガス流が排出されることと、カソード排ガス流から抽出された水によって給湿器で酸化ガス流が給湿されることと、カソード排ガスの水分含有率についての次の指標のうちの少なくとも1つが判定されることとを含み:カソード入口とカソード出口の間の圧力損失、給湿器の排ガス入口と排ガス出口の間の圧力損失、給湿器の排ガス入口と排ガス出口の間のカソード排ガス流の第1の温度差、給湿器の酸化ガス入口と酸化ガス出口の間の酸化ガス流の第2の温度差、かつ、少なくとも1つの判定された指標をベースとして燃料電池システムの少なくとも1つの動作パラメータが調整されることで、カソード入口での水分供給および/またはカソードからの水分排出が変更されることを含む。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池システム(200)を作動させる方法(M)において、
前記燃料電池システム(200)の燃料電池(210)のカソード(210B)のカソード入口(213)に酸化ガス流が供給(M1)されることと、
給湿器(230)の排ガス入口(233)に前記カソード(210B)のカソード出口(214)からカソード排ガス流が供給(M2)されることと、
前記給湿器(230)の排ガス出口(234)を介して前記給湿器(230)からカソード排ガス流が排出(M4)されることと、
カソード排ガス流から抽出された水によって前記給湿器(230)で酸化ガス流が給湿(M5)されることと、
カソード排ガスの水分含有率についての次の指標のうちの少なくとも1つが判定(M6)されることとを含み、
前記カソード入口(213)と前記カソード出口(214)の間の圧力損失、前記給湿器(230)の前記排ガス入口(233)と前記排ガス出口(234)の間の圧力損失、前記給湿器(230)の前記排ガス入口(233)と前記排ガス出口(234)の間のカソード排ガス流の第1の温度差、前記給湿器(230)の酸化ガス入口(231)と酸化ガス出口(232)の間の酸化ガス流の第2の温度差、かつ、
少なくとも1つの判定された指標をベースとして前記燃料電池システム(200)の少なくとも1つの動作パラメータが調整されることで、前記カソード入口(213)での水分供給および/または前記カソード(210B)からの水分排出が変更(M7)されることを含む、方法。
【請求項2】
前記カソード入口(213)と前記カソード出口(214)の間の圧力損失の判定(M6)は、前記給湿器(230)と前記カソード入口(213)の間の圧力の検出、前記カソード出口(214)と前記給湿器の前記排ガス入口(233)の間の圧力の検出、および検出された圧力間の圧力差の計算を含み、または、前記カソード入口(213)と前記カソード出口(214)の間の圧力差の検出を含む、請求項1に記載の方法(M)。
【請求項3】
前記給湿器(230)の前記排ガス入口(233)と前記排ガス出口(234)の間の圧力損失の判定(M6)は、前記カソード出口(214)と前記給湿器(230)の前記排ガス入口(233)の間の圧力の検出、前記給湿器(230)の前記排ガス出口(234)の下流側の圧力の検出、および、検出された圧力間の圧力差の計算を含み、または、前記給湿器(230)の前記排ガス入口(233)と前記排ガス出口(234)の間の圧力差の検出を含む、請求項1または2に記載の方法(M)。
【請求項4】
前記給湿器(230)の前記排ガス入口(233)と前記排ガス出口(234)の間のカソード排ガス流の第1の温度差の判定(M6)は、前記カソード出口(214)と前記給湿器(230)の前記排ガス入口(233)の間の温度の検出、前記給湿器(230)の前記排ガス出口(234)の下流側の温度の検出、および、検出された温度間の差異の計算を含む、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法(M)。
【請求項5】
前記給湿器(230)の前記酸化ガス入口(231)と前記酸化ガス出口(232)の間の酸化ガス流の第2の温度差の判定(M6)は、前記給湿器(230)の前記酸化ガス出口(232)と前記カソード入口(213)の間の温度の検出、前記給湿器(230)の前記酸化ガス入口(231)の上流側の温度の検出、および、検出された温度間の差異の計算を含む、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法(M)。
【請求項6】
前記燃料電池システム(200)の少なくとも1つの動作パラメータは、判定された第1および/または第2の温度差が5℃から15℃、特に8℃から12℃の範囲内で保たれるように変更される、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法(M)。
【請求項7】
前記カソード入口(213)への水分供給の変更(M7)は、前記給湿器(230)を迂回する第1のバイパス配管(241)を介しての前記カソード入口(213)への酸化ガス流の少なくとも部分的な供給を含み、および/または、前記給湿器(230)を迂回する第2のバイパス配管(242)を介しての前記カソード出口(214)からのカソード排ガス流の少なくとも部分的な排出を含む、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法(M)。
【請求項8】
前記第1のバイパス配管(241)を介して前記カソード入口(213)に酸化ガス流を少なくとも部分的に供給するために、少なくとも1つの判定された指標をベースとして、第1のバイパス弁(243)の開度の調整が行われ、および/または、前記第2のバイパス配管(242)を介して前記カソード出口(214)からカソード排ガス流を少なくとも部分的に排出するために、少なくとも1つの判定された指標をベースとして、第2のバイパス弁(244)の開度の調整が行われる、請求項7に記載の方法(M)。
【請求項9】
前記カソード入口(213)への水分供給および/または前記カソード(210B)からの水分排出の変更(M7)は、前記燃料電池システム(200)の次の動作パラメータ、
特に酸化ガスを送出する圧縮機(220)の回転数の変更による、または前記カソード出口(214)と接続された圧力制御弁(226)の開放位置の変更による、酸化ガス質量流量の変更、
特に前記燃料電池(210)を冷却する冷却剤質量流量の変更による、前記カソード(210B)での気化出力を変更するための前記カソード(210B)の温度の変更、
ドレーン弁(225)を介しての前記カソード(210B)からの液体の水の排出、
のうちの1つまたは複数の調整を含む、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法(M)。
【請求項10】
燃料電池システム(200)において、
アノード(210A)、カソード(210B)、前記アノード(210A)と前記カソード(210B)の間に配置された電解膜(210C)、前記アノード(210A)に燃料を供給するためのアノード入口(211)、前記アノード(210B)から排ガスを排出するためのアノード出口(212)、前記カソード(210B)に酸化ガスを供給するためのカソード入口(213)、および前記カソード(210B)からカソード排ガスを排出するためのカソード出口(214)を有する少なくとも1つの燃料電池(210)と、
酸化ガス入口(231)、前記カソード入口(213)と接続された酸化ガス出口(232)、前記カソード出口(214)と接続された排ガス入口(233)、および排ガス出口(234)を有する給湿器(230)とを含み、前記給湿器(230)は、前記カソード出口(214)から来るカソード排ガスから水を抽出し、前記酸化ガス入口(231)から前記酸化ガス出口(232)へと流れる酸化ガスを分離された水で給湿するためにセットアップされ、
前記酸化ガス出口(232)と前記カソード入口(232)の間の圧力および前記カソード出口(232)と前記排ガス入口(233)の間の圧力、ならびに/または前記カソード出口(232)と前記排ガス入口(233)の間および前記排ガス出口(234)の下流側の圧力、ならびに/または前記カソード出口(232)と前記排ガス入口(233)の間および前記排ガス出口(234)の下流側の温度、ならびに/または前記カソード入口(213)と前記給湿器の前記酸化ガス出口(232)の間および前記給湿器(230)の前記酸化ガス入口(231)の上流側の温度を検出するためにセットアップされたセンサシステム(260)を含み、かつ、
前記センサシステム(260)と信号伝送式に接続され、請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法(M)を実施するように前記燃料電池システム(200)へ指示するために前記燃料電池システム(200)の少なくとも1つの動作パラメータを変更するための制御信号を出力するためにセットアップされた制御装置(270)を含む、燃料電池システム。
【請求項11】
前記給湿器(230)の前記酸化ガス入口(231)の上流側に位置する、酸化ガス流の流動経路の個所を、前記給湿器(230)の前記酸化ガス出口(232)と前記カソード入口との間に位置する前記流動経路の個所と、前記給湿器(230)を迂回したうえで接続する第1のバイパス配管(241)を追加的に含み、前記第1のバイパス配管(241)には、好ましくは前記制御装置(270)と接続されて前記制御装置(270)により操作可能である第1のバイパス弁(243)が配置され、および/または、
前記給湿器(230)の前記排ガス入口(233)と前記カソード出口(214)の間に位置する、カソード排ガス流の流動経路の個所を、前記給湿器(230)の前記排ガス出口(234)の下流側に位置する、カソード排ガス流の前記流動経路の個所と、前記給湿器(230)を迂回したうえで接続する第2のバイパス配管(242)を追加的に含み、前記第2のバイパス配管(242)には、好ましくは前記制御装置(270)と接続されて前記制御装置(270)により操作可能である第2のバイパス弁(244)が配置される、請求項9に記載の燃料電池システム(200)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システム、および燃料電池システムを作動させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、たとえば水素などの燃料に蓄えられた化学エネルギーを酸素とともに電気エネルギーへ直接変換するためのエネルギー変換器として、特に車両で利用されることが増えている。燃料電池は、典型的には、アノードと、カソードと、アノードとカソードの間に配置された電解膜とを有している。アノードでは燃料の酸化が行われ、カソードでは酸素の還元が行われる。
【0003】
カソード側では、酸素含有の酸化ガス流が、通常は周囲空気が、酸化ガス入口で供給される。このとき酸化ガスは通常は圧縮されて、給湿器によって所定の水分含有率まで給湿される。カソード側で酸素が還元されるときに水が発生し、この水は、カソードで反応しなかった酸化ガス流の成分とともに、カソード排ガス流として酸化ガス出口で少なくとも部分的に排出される。カソード排ガス流は給湿器に供給され、この給湿器で、カソード排ガスに含まれる水/水蒸気が、カソードへと流れる酸化ガスへ給湿のために部分的に供給される。
【0004】
燃料電池の電解膜が乾燥しすぎると、燃料電池のパフォーマンスが悪くなる。膜を通してのプロトンの輸送が難しくなるからである。さらに膜の乾燥は、その損傷にもつながりかねない。それに対して、多すぎる水が燃料電池に送出されると溢水の危険があり、このことは反応場所での酸素原子の供給を難しくし、同じく燃料電池のパフォーマンスを低下させる。したがって燃料電池の動作状態に依存して、酸化ガス入口に入る最善の水分質量流量を調整し、ないしは酸化ガス流の水分含有率を調整するのが望ましい。
【0005】
特許文献1には、燃料電池システムの乾燥に対処する方法が開示されており、カソード入口に流入する酸化ガスと、燃料電池のカソード出口から流出するカソード排ガスとの間の第1の温度差が検出されて、第1の温度限界値と比較される。この温度差が第1の温度限界値を上回っているとき、燃料電池システムの乾燥状態が検知されて、たとえば燃料電池により生成される電流の制限などの相応の対応策が開始される。さらに、燃料電池を冷却する冷却剤の第2の温度差が冷却剤入口と冷却剤出口との間で判定され、判定された第2の温度差が第2の温度限界値を上回っているときに、燃料電池乾燥状態の発生が検知される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第8993186B2号明細書
【発明の概要】
【0007】
本発明によると、請求項1の構成要件を有する、燃料電池システムを作動させる方法、ならびに請求項10の構成要件を有する燃料電池システムが意図される。
【0008】
本発明の第1の態様によると、燃料電池システムを作動させる方法は、燃料電池システムの燃料電池のカソードのカソード入口に酸化ガス流が供給されることと、給湿器の排ガス入口にカソードのカソード出口からカソード排ガス流が供給されることと、給湿器の排ガス出口を介して給湿器からカソード排ガス流が排出されることと、カソード排ガス流から抽出された水によって給湿器で酸化ガス流が給湿されることと、カソード排ガスの水分含有率についての次の指標のうちの少なくとも1つが判定されることとを含む:カソード入口とカソード出口の間の圧力損失、給湿器の排ガス入口と排ガス出口の間の圧力損失、給湿器の排ガス入口と排ガス出口の間のカソード排ガス流の第1の温度差、給湿器の酸化ガス入口と酸化ガス出口の間の酸化ガス流の第2の温度差。さらにこの方法は、少なくとも1つの判定された指標をベースとして燃料電池システムの少なくとも1つの動作パラメータが調整されることで、カソード入口での水分供給および/またはカソードからの水分排出が変更されることを含む。
【0009】
本発明の第2の態様によると、たとえば車両で使用するために意図されていてよい燃料電池システムは、アノード、カソード、アノードとカソードの間に配置された電解膜、アノードに燃料を供給するためのアノード入口、アノードから排ガスを排出するためのアノード出口、カソードに酸化ガスを供給するためのカソード入口、およびカソードからカソード排ガスを排出するためのカソード出口を有する少なくとも1つの燃料電池と、酸化ガス入口、カソード入口と接続された酸化ガス出口、カソード出口と接続された排ガス入口、および排ガス出口を有する給湿器とを含み、給湿器は、カソード出口から来るカソード排ガスから水および水蒸気を抽出し、酸化ガス入口から酸化ガス出口へと流れる酸化ガスを分離されて抽出された水で給湿するためにセットアップされ、酸化ガス出口とカソード入口の間の圧力およびカソード出口と排ガス入口の間の圧力、ならびに/またはカソード出口と排ガス入口の間および排ガス出口の下流側の圧力、ならびに/またはカソード出口と排ガス入口の間および排ガス出口の下流側の温度、ならびに/またはカソード入口と給湿器の酸化ガス出口の間および給湿器の酸化ガス入口の上流側の温度を検出するためにセットアップされたセンサシステムを含み、かつ、センサシステムと信号伝送式に接続され、本発明の第1の態様に基づく方法を実施するように燃料電池システムへ指示するために燃料電池システムの少なくとも1つの動作パラメータを変更するための制御信号を出力するためにセットアップされた制御装置を含む。
【0010】
本発明の根底にある思想は、カソード入口からカソード出口へと流れるガスの、カソードで生じている圧力損失を参照して、および/または給湿器を貫流するときにカソード排ガス流で生じる圧力損失を参照して、および/または給湿器を貫流するときに生じるカソード排ガス流の温度変化を参照して、および/または給湿器を貫流するときに生じる酸化ガス流の温度変化を参照して、たとえば酸化ガスを通じてカソードに供給される水分質量流量が事前決定された範囲外にあるかどうかについて、カソードでの給湿状況の推定を引き出すことにある。判定された圧力損失および/または温度差は、カソード排ガス流の中の水分含有率を表す指標となる。カソードで発生する生成水に追加して行われるカソードへの水分注入は、実質的に酸化ガスを通じてのみ行われるので、カソード排ガスの水分含有率を通じて酸化ガスの水分含有率を推定することができる。一般に、カソードを通じての、ないし給湿器の排ガス入口から排ガス出口への圧力損失は、ガス中の水分含有率の上昇に伴って増大する。乾燥したガスの所与の質量流量のもとで、水分含有率の上昇に伴って質量流量が増えるからである。給湿器の中では、排ガス入口と排ガス出口との間で、カソード排ガスからたとえば膜で水が奪われて、たとえば膜を通る水の拡散を通じて酸化ガス流に供給される。このときカソード排ガス流の冷却が起こる。発生する温度差は、カソード排ガス流の水分含有率の増加に伴って大きくなることが確認されている。そのつどの圧力損失および/または温度差の実際値を、事前決定された目標範囲内に保つために、本発明によると、酸化ガスを通じてカソードに供給される水分質量流量が、および/またはカソードからたとえばカソード排ガスを通じて、もしくはその他の経路で、排出される水分質量流量が、判定された指標をベースとしたうえで変更され、それは、燃料電池システムの少なくとも1つの動作パラメータが変更されることによる。
【0011】
本発明の1つの利点は、たとえば湿度センサを通じて湿度が直接的に検出されるのではなく、圧力測定および/または温度測定を通じて間接的に検出されることにある。このことは、動作パラメータのいっそう迅速な適合化を可能にする。さらに別の利点は、カソードでの水分含有率の比較的正確な制御が簡易化されることにある。
【0012】
好ましい実施形態と発展例は、その他の従属請求項から、ならびに図面の図を参照する説明から、明らかとなる。
【0013】
いくつかの実施形態では、カソード入口とカソード出口の間の圧力損失の判定は、給湿器とカソード入口の間の圧力の検出、カソード出口と給湿器の排ガス入口の間の圧力の検出、および検出された圧力間の圧力差の計算を含み、または、カソード入口とカソード出口の間の圧力差の検出を含むことが意図されていてよい。それに応じて、カソード入口とカソード出口の間の圧力差として圧力損失を直接的に測定するために差圧センサを利用できるだけでなく、異なる圧力センサで圧力を測定して、圧力損失を表す圧力間の差異を、引き続いてたとえば制御装置によって測定することもできる。
【0014】
いくつかの実施形態では、給湿器の排ガス入口と排ガス出口の間の圧力損失の判定は、カソード出口と給湿器の排ガス入口の間の圧力の検出、給湿器の排ガス出口の下流側の圧力の検出、および、検出された圧力間の圧力差の計算を含み、または、給湿器の排ガス入口と排ガス出口の間の圧力差の検出を含むことが意図されていてよい。それに応じて、排ガス出口と排ガス入口の間の圧力差として圧力損失を直接的に測定するために差圧センサを利用できるだけでなく、異なる圧力センサで圧力を測定し、圧力損失を表す圧力間の差異を、引き続いてたとえば制御装置によって測定することもできる。
【0015】
いくつかの実施形態では、給湿器の排ガス入口と排ガス出口の間のカソード排ガス流の第1の温度差の判定は、カソード出口と給湿器の排ガス入口の間の温度の検出、給湿器の排ガス出口の下流側の温度の検出、および、検出された温度間の差異の計算を含むことが意図されていてよい。温度はそれぞれ温度センサによって検出することができ、差異は制御装置によって計算することができる。温度の測定の1つの利点は、きわめて低コストなセンサで正確かつ迅速に測定できることにあり、このことにより、測定された実際温度差が事前決定された温度目標範囲内で保たれるように、水分注入の制御を容易に具体化可能となる。
【0016】
いくつかの実施形態では、給湿器の酸化ガス入口と酸化ガス出口の間の酸化ガス流の第2の温度差の判定は、給湿器の酸化ガス出口とカソード入口の間の温度の検出、給湿器の酸化ガス入口の上流側の温度の検出、および、検出された温度間の差異の計算を含むことが意図されていてよい。
【0017】
いくつかの実施形態では、燃料電池システムの少なくとも1つの動作パラメータは、判定された第1および/または第2の温度差が5℃から15℃、特に8℃から12℃の範囲内で保たれるように変更されることが意図されていてよい。
【0018】
いくつかの実施形態では、カソード入口への水分供給の変更は、給湿器を迂回する第1のバイパス配管を介してのカソード入口への酸化ガス流の少なくとも部分的な供給を含むことが意図されていてよい。すなわち、このとき酸化ガス流は少なくとも部分的に給湿器の脇を通るように案内され、それに伴って追加的に給湿されることがない。このようにしてカソードに比較的乾燥した酸化ガス流が供給され、これが追加の水をカソードで受け取って運び出すことができる。したがって、酸化ガス流全体に占める、バイパス配管を通るように案内される酸化ガス流の割合と、給湿器を通るように案内される酸化ガス流の割合とが、燃料電池システムの動作パラメータとなり、これを変更することで、カソード入口での水分供給のきわめて効率的な変更ができるという利点がある。
【0019】
任意選択の第1のバイパス配管は、給湿器の酸化ガス入口の上流側に位置する、酸化ガス流の流動経路の個所を、給湿器の酸化ガス出口とカソード入口との間に位置するこの流動経路の個所と、給湿器を迂回したうえで接続する。
【0020】
いくつかの実施形態では、第1のバイパス配管を介してカソード入口に酸化ガス流を少なくとも部分的に供給するために、少なくとも1つの判定された指標をベースとして、第1のバイパス弁の開度の調整が行われることが意図されていてよい。第1のバイパス配管に配置される任意選択の第1のバイパス弁は、たとえば制御装置と接続されて制御装置により操作可能であってよい。すなわち、流動断面によって定義されるバイパス弁の開度を、このようにして制御装置から出力される操作信号または制御信号により、たとえば流動断面が完全に遮蔽される閉止された状態と、流動断面が完全に解放される開放された状態との間で調整することができる。任意選択として流動断面を無段階に、または離散した段階で、閉止された状態と開放された状態との間で変更することができる。制御装置は、カソード排ガス流の水分含有率について判定された指標をベースとして、制御信号を出力する。たとえば、そのつど判定された圧力差および/または温度差が上昇している場合には、そのつどいっそう高い割合の酸化ガス流を給湿器の脇を通るように案内して、上で説明したようにカソードへの水分注入が減るようにするために、バイパス弁の開度ないし流動断面が拡大されることが意図されていてよい。
【0021】
いくつかの実施形態では、カソード入口での水分供給の変更は、給湿器を迂回する第2のバイパス配管を介してのカソード出口からのカソード排ガス流の少なくとも部分的な排出を含むことが意図されていてよい。それに応じてカソード排ガス流は少なくとも部分的に給湿器の脇を通るように案内され、それにより、カソード排ガス流の中にある水が、酸化ガスへの給湿のために提供されることがない。したがって、給湿器内での酸化ガスへの水分注入が低減され、このことはカソード入口への水分供給を効果的に引き下げる。このように、カソード排ガス流全体に占める、第2のバイパス配管を通って案内されるカソード排ガス流の割合と、給湿器を通って案内されるカソード排ガス流の割合とが燃料電池システムの動作パラメータとなり、これを変更することで、カソード入口への水分供給のきわめて効果的な変更を実現できるという利点がある。
【0022】
任意選択の第2のバイパス配管は、給湿器の排ガス入口とカソード出口との間に位置する、カソード排ガス流の流動経路の個所を、給湿器の排ガス出口の下流側に位置する、カソード排ガス流の流動経路の個所と、給湿器を迂回したうえで接続する。
【0023】
いくつかの実施形態では、第2のバイパス配管を介してカソード出口からカソード排ガス流を少なくとも部分的に排出するために、少なくとも1つの判定された指標をベースとして、第2のバイパス弁の開度の調整が行われることが意図されていてよい。第2のバイパス配管に配置される任意選択の第2のバイパス弁は、たとえば制御装置と接続されて制御装置により操作可能であってよい。すなわち、流動断面によって定義されるバイパス弁の開度を、このようにして制御装置から出力される操作信号または制御信号により、たとえば流動断面が完全に遮蔽される閉止された状態と、流動断面が完全に解放される開放された状態との間で調整することができる。任意選択として流動断面を無段階に、または離散した段階で、閉止された状態と開放された状態との間で変更することができる。制御装置は、カソード排ガス流の水分含有率について判定された指標をベースとして、制御信号を出力する。たとえば、そのつど判定された圧力差および/または温度差が上昇している場合には、そのつどいっそう高い割合のカソード排ガス流を給湿器の脇を通るように案内して、上で説明したようにカソードへの水分注入が減るようにするために、バイパス弁の開度ないし流動断面が拡大されることが意図されていてよい。
【0024】
いくつかの実施形態では、カソード入口への水分供給および/またはカソードからの水分排出の変更は、特に酸化ガスを送出する圧縮機の回転数の変更による、またはカソード出口と接続された圧力制御弁の開放位置の変更による、酸化ガス質量流量の調整と変更を、動作パラメータの変更として含むことが意図されていてよい。このようにして、水分注入を変更するために、カソードでのガス質量流量が増減される。
【0025】
いくつかの実施形態では、カソード入口への水分供給および/またはカソードからの水分排出の変更は、特に燃料電池を冷却する冷却剤質量流量の変更による、カソードでの気化出力を変更するためのカソードの温度の変更を、動作パラメータの変更として含むことが意図されていてよい。温度が変更されることで、気化出力を効果的に変更することができ、そのようにして、さらに多い、またはさらに少ない、気体状の水をカソード排ガス流を介して運び出すことができる。
【0026】
いくつかの実施形態では、カソードからの水分排出の変更は、ドレーン弁を介してのカソードからの液体の水の排出を含むことが意図されていてよい。この場合、少なくとも1つの判定された指標をベースとしたうえで、そのつど検出された圧力差または温度差がそれぞれの目標範囲外にある場合に、カソード入口とカソード出口との間で流動経路と流体導通式に接続されたドレーン弁が開放されて、液体の水をカソードから導出する。
【0027】
次に、図面の図を参照しながら本発明について説明する。図面は次のものを示す。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の実施例に基づく燃料電池システムの液圧回路図を示す模式図である。
図2】本発明の実施例に基づく燃料電池システムを作動させる方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図において、別段の記載がない限り、同一の符号は同一または機能が同一のコンポーネントを表す。
【0030】
図1は、たとえば車両で、特に乗用車、トラック、バスなどの道路交通車両で、使用することができる、例示としての燃料電池システム200の液圧回路図を模式的に示している。
【0031】
図1に例示として示すように、燃料電池システム200は少なくとも1つの燃料電池210と、給湿器230と、センサシステム260と、制御装置270とを含んでいる。さらに任意選択として、図1に例示として示すように、第1のバイパス弁243が配置された第1のバイパス配管241および/または第2のバイパス弁244が配置された第2のバイパス配管242が設けられていてよい。さらに燃料電池システムは、ガス質量流を輸送するために圧縮機222を有することができる。さらに別の任意選択のコンポーネントとして、図1に示す次のコンポーネントのうちの1つまたは複数が設けられていてよい:フィルタ220、中間冷却器224、ドレーン弁225、圧力制御弁226、サイレンサ228。
【0032】
図1には、アノード210Aと、カソード210Bと、アノード210Aとカソード210Bの間に配置された電解膜210Cとを有する燃料電池210が模式的に示されている。さらに燃料電池は、たとえば水素などの気体燃料をアノード210Aへ供給するためのアノード入口211と、アノード210Bから排ガスを排出するためのアノード出口212と、酸化ガスをカソード210Bへ供給するためのカソード入口213と、カソード210Bからカソード排ガスを排出するためのカソード出口214とを含んでいる。図1では、純粋に例示として1つの燃料電池210だけが示されている。当然ながら、このような多数の燃料電池210が電気的に直列にスタックをなすようにつなぎ合わされることが意図されていてよい。そのようなケースでは、スタックのすべての燃料電池210について共通の燃料電池入口211、共通の燃料電池出口212、共通のカソード入口213、および共通のカソード出口214が設けられるのが好ましい。
【0033】
給湿器230は、図1ではブロックとして模式的にのみ示されており、酸化ガス入口231と、酸化ガス出口232と、排ガス入口233と、排ガス出口234とを含んでいる。図1に示すように、酸化ガス出口232はカソード入口213と流体導通式に接続され、排ガス入口233はカソード出口214と接続されている。酸化ガス入口231は圧縮機222の圧力出力部と流体導通式に接続され、圧縮機222と酸化ガス入口231の間には、図1に例示として示すように、任意選択の中間冷却器224が配置されていてよい。排ガス出口234は、たとえば任意選択の圧力制御弁226を介して、および好ましくは周囲への出口を形成する任意選択のサイレンサ228を介して、周囲と接続される。
【0034】
このように圧縮機222は、たとえば周囲空気などの酸化ガスを給湿器230の酸化ガス入口231へ送出し、圧縮された周囲空気が場合により中間冷却器224により冷却されてから、給湿器230へと到達する。給湿器230の酸化ガス出口232から酸化ガスがカソード入口213に供給され、そこで酸化ガスに含まれる酸素の還元が、水を形成しながら行われる。カソードで生じる反応生成物は、カソード排ガスとしてカソード出口214を通して排出されて、給湿器230の排ガス入口233に供給される。給湿器230は、カソード出口214から来るカソード排ガスから水を抽出し、ないしはたとえば膜(図示せず)でカソード排ガスから水を奪い、抽出されたまたは奪われた水により、酸化ガス入口231から酸化ガス出口232へと流れる酸化ガスへ給湿をするために構成され、それは、たとえば酸化ガスが給湿器230の膜を通るように案内されることによる。
【0035】
圧力制御弁226および/または圧縮機222の回転数により、カソード210Bを通るガスの質量流量を変えることができる。
【0036】
さらに図1に示すように、任意選択の第1のバイパス配管241が、給湿器230の酸化ガス入口231の上流側でたとえば中間冷却器224と酸化ガス入口231の間に位置する酸化ガス流の流動経路の個所を、給湿器230の酸化ガス出口232とカソード入口の間に位置する流動経路の個所と、給湿器230を迂回しながら接続する。第1のバイパス配管241に配置される第1のバイパス弁243は、バイパス弁243の開度が変わることによって第1のバイパス配管241を通る酸化ガスの貫流を変えるために操作可能である。バイパス弁243は、たとえば可変の流動断面を有する電磁弁として製作されていてよい。第1のバイパス弁243により、給湿器230を通るように案内される酸化ガス流の割合と、第1のバイパス配管241を通るように案内される酸化ガス流の割合とを自由に分けることができる。
【0037】
第1のバイパス配管241の代替または追加として設けられる第2のバイパス配管242は、給湿器230の排ガス入口233とカソード出口214との間に位置する、カソード排ガス流の流動経路の個所を、給湿器230の排ガス出口234の下流側でたとえば排ガス出口234と圧力制御弁226の間に位置する、カソード排ガス流の流動経路の個所と、給湿器230を回避しながら接続し、その様子が図1に模式的に示されている。第2のバイパス配管242に配置される第2のバイパス弁244は、バイパス弁244の開度を変えることによって第2のバイパス配管242を通るカソード排ガスの貫流を変えるために操作可能である。バイパス弁244はたとえば可変の流動断面を有する電磁弁として製作されていてよい。第2のバイパス弁244により、給湿器230を通るように案内されるカソード排ガス流の割合と、第2のバイパス配管242を通るように案内されるカソード排ガス流の割合とを自由に分けることができる。
【0038】
図1に例示として示すセンサシステム260は、第1および第2の圧力センサ261,262を含んでおり、ならびに、第1および第2の温度センサ264,265を含んでいる。第1の圧力センサ261は、酸化ガス出口232とカソード入口213の間で、特にカソード入口213で直接的に、圧力を検出するために配置されてセットアップされる。第2の圧力センサ262は、カソード出口214と排ガス入口233の間で、特にカソード出口214で直接的に、圧力を検出するために配置されてセットアップされる。圧力センサ261,262の代替または追加として、カソード入口213とカソード出口214の間の圧力差を直接的に検出する差圧センサ263が設けられていてもよく、その様子が図1に模式的に示されている。第1の温度センサ264は、例示として図1に示すように、たとえばカソード出口214と排ガス入口233の間に配置されていてよく、カソード排ガスの温度を給湿器230に供給される前に検出するためにセットアップされる。第2の温度センサ265は、図1に例示として示すように、たとえば排ガス出口234と任意選択の圧力制御弁226の間に配置され、または一般には給湿器230の下流側でカソード排ガス経路に配置され、カソード排ガスの温度を給湿器230の下流側で検出するためにセットアップされる。温度センサ264,265は、圧力センサ261~263の代替または追加として設けられていてよい。排ガス入口233と排ガス出口234の間の圧力差を検出するためにセットアップされた圧力センサまたは差圧センサによって温度センサ264,265が置き換えられ、または、これらのセンサが温度センサ264,265に追加して設けられることも同様に考えられる。さらにセンサ261は、給湿器230の酸化ガス出口232とカソード入口213の間の温度を検出するためにセットアップされることも考えられ、そのようなケースでは、給湿器230の酸化ガス入口231の上流側に別の温度センサ(図示せず)が追加的に設けられることになる。
【0039】
このように、一般にセンサシステム260は、酸化ガス出口232とカソード入口232の間の圧力およびカソード出口232と排ガス入口233の間の圧力、ならびに/またはカソード出口232と排ガス入口233の間の圧力および排ガス出口234の下流側の圧力、ならびに/またはカソード出口232と排ガス入口233の間および排ガス出口234の下流側の温度、ならびに/またはカソード入口213と給湿器230の酸化ガス出口232の間および給湿器230の酸化ガス入口231の上流側の温度を検出するためにセットアップされる。
【0040】
制御装置270は、図1ではブロックとして記号でのみ図示されており、電子制御装置として具体化される。たとえば制御装置270は、たとえばCPUなどの形態のプロセスユニットと、データ記憶装置、特にたとえばハードディスク、SDメモリ、フラッシュメモリなどの形態の不揮発性のデータ記憶装置とを有することができる。データ記憶装置はプロセスユニットによって可読であり、プロセスユニットによって実行可能なソフトウェアを保存することができ、そのようにして、入力信号をベースとして制御信号または操作信号を出力するように制御装置270に指図する。
【0041】
図1に二重矢印271によって記号で図示するように、制御装置270は電気信号および/または電磁信号を出力および受信するためにセットアップされ、センサシステム260とたとえばバスシステム(図示せず)を介して有線式に、またはたとえばWiFi、ブルートゥース(登録商標)などを通じて無線式に、信号伝送をするように接続される。同様に制御装置270は、場合により設けられる1つまたは複数のバイパス弁243,244および/または圧縮機222および/または圧力制御弁226と、信号伝送をするように接続される。
【0042】
制御装置70は、方法Mを実行するよう燃料電池システム200に指図するために、燃料電池システム200の少なくとも1つの動作パラメータを変更するための制御信号を出力するためにセットアップされる。
【0043】
図2は、以下において例示として図1の燃料電池システム200を取り上げて説明する、燃料電池システム200を作動させる方法Mの手順を模式的に示している。
【0044】
ステップM1で、カソード210Bのカソード入口213への酸化ガス流の供給が行われる。そのために制御装置270は、たとえば圧縮機222に制御信号を出力して、酸化ガス流を送出するようこれに指図する。
ステップM2で、カソード排ガス流がカソード210Bのカソード出口214から給湿器230の排ガス入口233に供給される。
【0045】
ステップM3で、給湿器230のカソード排ガス流から、たとえば膜で水が奪われる。ステップM4で、カソード排ガス流が給湿器230から排ガス出口234を介して排出され、存在する場合には圧力制御弁226および下流側に位置するサイレンサ228を通って、周囲に放出される。
【0046】
ステップM5で、たとえば上で説明した方式により給湿器の膜でカソード排ガス流から奪われた水によって、給湿器230で酸化ガス流への給湿が行われる。
【0047】
ステップM6で、カソード排ガスの水分含有率についての次の指標のうちの少なくとも1つの判定が行われる:カソード入口213とカソード出口214の間の圧力損失、給湿器230の排ガス入口233と排ガス出口234の間の圧力損失、給湿器230の排ガス入口233と排ガス出口234の間のカソード排ガス流の第1の温度差、給湿器230の酸化ガス入口231と酸化ガス出口232の間の酸化ガス流の第2の温度差。
【0048】
指標としてのカソード入口213とカソード出口214の間の圧力損失は、ステップM6で、たとえば給湿器230とカソード入口213の間の圧力が第1の圧力センサ261によって検出され、カソード出口214と給湿器の排ガス入口233の間の圧力が第2の圧力センサ262によって検出され、検出された圧力間の圧力差が制御装置270により計算されることによって判定することができる。その代替として、カソード入口213とカソード出口214の間の圧力差を差圧センサ263によって直接的に検出し、入力信号として制御装置270に伝送することができる。
【0049】
ステップM6での指標としての給湿器230の排ガス入口233と排ガス出口234の間の圧力損失の判定は、たとえば、圧力センサ(図示せず)によるカソード出口214と給湿器230の排ガス入口233の間の圧力の検出、センサシステム260の別の圧力センサ(図示せず)による給湿器230の排ガス出口234の下流側の圧力の検出、および、制御装置270による検出された圧力間の圧力差の計算を含むことができる。その代替として、給湿器230の排ガス入口233と排ガス出口234の間の圧力差を差圧センサによって直接的に検出することも考えられる。
【0050】
ステップM6で、給湿器230の排ガス入口233と排ガス出口234の間のカソード排ガス流の第1の温度差が判定される場合、このことは、カソード出口214と給湿器230の排ガス入口233の間の温度が第1の温度センサ264によって検出され、給湿器230の排ガス出口234の下流側の温度が第2の温度センサ265によって検出され、検出された温度間の差異の計算が制御装置270によって行われることによって行うことができる。これと同様にして、給湿器230の酸化ガス入口231と酸化ガス出口232の間の酸化ガス流の第2の温度差の判定は、給湿器230の酸化ガス出口232とカソード入口213の間の温度の検出と、給湿器230の酸化ガス入口231の上流側の温度の検出と、制御装置270による検出された温度間の差異の計算とを含むことができる。
【0051】
ステップM7で、少なくとも1つの判定された指標をベースとする燃料電池システム200の少なくとも1つの動作パラメータの調整により、カソード入口213への水分供給の変更および/またはカソード210Bからの水分排出の変更が行われる。すなわちステップM7で、制御装置270が制御信号を燃料電池システム200の各コンポーネントに、たとえばバイパス弁243,244のうちの一方もしくは両方、圧縮機222、圧力制御弁226、ドレーン弁225、および/または燃料電池210を冷却する冷却剤が送出される冷却剤送出デバイス(図示せず)に、出力する。制御信号は、少なくとも1つの判定された指標をベースとして判定され、燃料電池システムの動作パラメータの調整を惹起して、カソード排ガス流の水分含有率についての実際値が、または判定された指標が、目標範囲内に保たれるようにし、または目標範囲内に戻るようにする。
【0052】
たとえばステップM7で、燃料電池システム200の少なくとも1つの動作パラメータを変更して、判定される圧力差がそのつど事前決定されるインターバルに保たれるようにすることができる。場合により、燃料電池システム200の少なくとも1つの動作パラメータを変更して、判定される第1または第2の温度差が事前決定された範囲内に、たとえば5℃から15℃、特に8℃から12℃の範囲内に、保たれるようにすることもできる。
【0053】
すでに述べたとおり、特に膜210Cへの給湿のために作用する、カソード210Bにおける水分含有率を変更または適合化することができ、それは、カソード入口213での水分供給が、すなわちカソード210Bへの水分質量流量が、変更されることによる。このことはステップM7で、たとえば酸化ガス流が少なくとも部分的に第1のバイパス配管241を介してカソード入口213へ供給されることによって行うことができる。そのために制御装置270は、たとえば少なくとも1つの判定された指標をベースとして、第1のバイパス弁243の開度を調整するために、第1のバイパス弁243に制御信号を出力することができる。それにより、燃料電池210への水分注入を減らすために、給湿器230で給湿された酸化ガス流の割合を減らすことができ、または燃料電池210への水分注入を増やすために、割合を増やすことができる。
【0054】
その代替または追加としてステップM7で、カソード出口214からのカソード排ガス流を少なくとも部分的に第2のバイパス配管242を介して給湿器230の脇を通すことができる。そのために制御装置270は、たとえば少なくとも1つの判定された指標をベースとして、第2のバイパス弁244の開度を調整するために、第2のバイパス弁244に制御信号を出力することができる。バイパス配管242を通って流れるカソード排ガス流の割合からは、給湿器230で水を奪うことができない。そのため、酸化ガス流への給湿のために利用できる水分量が減少する。したがって、燃料電池210への水分注入を減らすために、給湿器230で水が奪われるカソード排ガス流の割合を、第2のバイパス弁244の開放によって減らすことができ、または、燃料電池210への水分注入を増やすために、第2のバイパス弁244の閉止によって割合を増やすことができる。
【0055】
このように、ステップM7での少なくとも1つの動作パラメータの調整は、バイパス弁243,244のうちの一方または両方の開度の調整を含むことができる。
【0056】
ステップM7でのカソード入口213への水分供給の変更、および/またはカソード210Bからの水分排出の変更は、さらに、燃料電池システム200の次の動作パラメータのうちの1つまたは複数の調整を含むことができる:
【0057】
-酸化ガス質量流量の変更。そのために制御装置270は、たとえば制御信号を圧縮機222に出力して、その回転数を変更することができ、および/または制御信号を圧力制御弁226に出力して、その開度を変更することができる。
-カソード210Bでの気化出力を変更するための、カソード210Bの温度の変更。たとえば制御装置270は、燃料電池210を冷却する冷却剤が送出される冷却剤送出デバイス(図示せず)に制御信号を出力することができる。それにより、燃料電池210を冷却する冷却剤の質量流量が変更され、このことがカソード210Bの温度の変化につながる。
-ドレーン弁225を介してのカソード210Bからの液体の水の排出。制御装置270は、たとえば制御信号をドレーン弁225に出力して、判定された指標に依存する時間帯のあいだドレーン弁225を開くことができ、それにより液体の水がカソードから導出される。ドレーン弁225はたとえば切換可能な電磁弁として製作されていてよく、カソードと流体導通式に接続される。
【0058】
以上において実施例を参照しながら本発明を例示として説明してきたが、本発明はこれに限定されるものではなく、さまざまな仕方で改変可能である。特に、上記の各実施例の組み合わせも考えられる。
【符号の説明】
【0059】
200 燃料電池システム
210 燃料電池
210A アノード
210B カソード
210C 電解膜
213 カソード入口
214 カソード出口
222 圧縮機
225 ドレーン弁
226 圧力制御弁
230 給湿器
231 酸化ガス入口
232 酸化ガス出口
233 排ガス入口
234 排ガス出口
241 第1のバイパス配管
242 第2のバイパス配管
243 第1のバイパス弁
244 第2のバイパス弁
260 センサシステム
270 制御装置
M 方法
M1 供給
M2 供給
M4 排出
M5 給湿
M6 判定
M7 変更
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2024-05-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池システム(200)を作動させる方法(M)において、
前記燃料電池システム(200)の燃料電池(210)のカソード(210B)のカソード入口(213)に酸化ガス流が供給(M1)されることと、
給湿器(230)の排ガス入口(233)に前記カソード(210B)のカソード出口(214)からカソード排ガス流が供給(M2)されることと、
前記給湿器(230)の排ガス出口(234)を介して前記給湿器(230)からカソード排ガス流が排出(M4)されることと、
カソード排ガス流から抽出された水によって前記給湿器(230)で酸化ガス流が給湿(M5)されることと、
カソード排ガスの水分含有率についての次の指標のうちの少なくとも1つが判定(M6)されることとを含み、
前記カソード入口(213)と前記カソード出口(214)の間の圧力損失、前記給湿器(230)の前記排ガス入口(233)と前記排ガス出口(234)の間の圧力損失、前記給湿器(230)の前記排ガス入口(233)と前記排ガス出口(234)の間のカソード排ガス流の第1の温度差、前記給湿器(230)の酸化ガス入口(231)と酸化ガス出口(232)の間の酸化ガス流の第2の温度差、かつ、
少なくとも1つの判定された指標をベースとして前記燃料電池システム(200)の少なくとも1つの動作パラメータが調整されることで、前記カソード入口(213)での水分供給および/または前記カソード(210B)からの水分排出が変更(M7)されることを含む、方法。
【請求項2】
前記カソード入口(213)と前記カソード出口(214)の間の圧力損失の判定(M6)は、前記給湿器(230)と前記カソード入口(213)の間の圧力の検出、前記カソード出口(214)と前記給湿器の前記排ガス入口(233)の間の圧力の検出、および検出された圧力間の圧力差の計算を含み、または、前記カソード入口(213)と前記カソード出口(214)の間の圧力差の検出を含む、請求項1に記載の方法(M)。
【請求項3】
前記給湿器(230)の前記排ガス入口(233)と前記排ガス出口(234)の間の圧力損失の判定(M6)は、前記カソード出口(214)と前記給湿器(230)の前記排ガス入口(233)の間の圧力の検出、前記給湿器(230)の前記排ガス出口(234)の下流側の圧力の検出、および、検出された圧力間の圧力差の計算を含み、または、前記給湿器(230)の前記排ガス入口(233)と前記排ガス出口(234)の間の圧力差の検出を含む、請求項1または2に記載の方法(M)。
【請求項4】
前記給湿器(230)の前記排ガス入口(233)と前記排ガス出口(234)の間のカソード排ガス流の第1の温度差の判定(M6)は、前記カソード出口(214)と前記給湿器(230)の前記排ガス入口(233)の間の温度の検出、前記給湿器(230)の前記排ガス出口(234)の下流側の温度の検出、および、検出された温度間の差異の計算を含む、請求項1または2に記載の方法(M)。
【請求項5】
前記給湿器(230)の前記酸化ガス入口(231)と前記酸化ガス出口(232)の間の酸化ガス流の第2の温度差の判定(M6)は、前記給湿器(230)の前記酸化ガス出口(232)と前記カソード入口(213)の間の温度の検出、前記給湿器(230)の前記酸化ガス入口(231)の上流側の温度の検出、および、検出された温度間の差異の計算を含む、請求項1または2に記載の方法(M)。
【請求項6】
前記燃料電池システム(200)の少なくとも1つの動作パラメータは、判定された第1および/または第2の温度差が5℃から15℃、特に8℃から12℃の範囲内で保たれるように変更される、請求項1または2に記載の方法(M)。
【請求項7】
前記カソード入口(213)への水分供給の変更(M7)は、前記給湿器(230)を迂回する第1のバイパス配管(241)を介しての前記カソード入口(213)への酸化ガス流の少なくとも部分的な供給を含み、および/または、前記給湿器(230)を迂回する第2のバイパス配管(242)を介しての前記カソード出口(214)からのカソード排ガス流の少なくとも部分的な排出を含む、請求項1または2に記載の方法(M)。
【請求項8】
前記第1のバイパス配管(241)を介して前記カソード入口(213)に酸化ガス流を少なくとも部分的に供給するために、少なくとも1つの判定された指標をベースとして、第1のバイパス弁(243)の開度の調整が行われ、および/または、前記第2のバイパス配管(242)を介して前記カソード出口(214)からカソード排ガス流を少なくとも部分的に排出するために、少なくとも1つの判定された指標をベースとして、第2のバイパス弁(244)の開度の調整が行われる、請求項7に記載の方法(M)。
【請求項9】
前記カソード入口(213)への水分供給および/または前記カソード(210B)からの水分排出の変更(M7)は、前記燃料電池システム(200)の次の動作パラメータ、
特に酸化ガスを送出する圧縮機(222)の回転数の変更による、または前記カソード出口(214)と接続された圧力制御弁(226)の開放位置の変更による、酸化ガス質量流量の変更、
特に前記燃料電池(210)を冷却する冷却剤質量流量の変更による、前記カソード(210B)での気化出力を変更するための前記カソード(210B)の温度の変更、
ドレーン弁(225)を介しての前記カソード(210B)からの液体の水の排出、
のうちの1つまたは複数の調整を含む、請求項1または2に記載の方法(M)。
【請求項10】
燃料電池システム(200)において、
アノード(210A)、カソード(210B)、前記アノード(210A)と前記カソード(210B)の間に配置された電解膜(210C)、前記アノード(210A)に燃料を供給するためのアノード入口(211)、前記アノード(210A)から排ガスを排出するためのアノード出口(212)、前記カソード(210B)に酸化ガスを供給するためのカソード入口(213)、および前記カソード(210B)からカソード排ガスを排出するためのカソード出口(214)を有する少なくとも1つの燃料電池(210)と、
酸化ガス入口(231)、前記カソード入口(213)と接続された酸化ガス出口(232)、前記カソード出口(214)と接続された排ガス入口(233)、および排ガス出口(234)を有する給湿器(230)とを含み、前記給湿器(230)は、前記カソード出口(214)から来るカソード排ガスから水を抽出し、前記酸化ガス入口(231)から前記酸化ガス出口(232)へと流れる酸化ガスを分離された水で給湿するためにセットアップされ、
前記酸化ガス出口(232)と前記カソード入口(213)の間の圧力および前記カソード出口(214)と前記排ガス入口(233)の間の圧力、ならびに/または前記カソード出口(214)と前記排ガス入口(233)の間および前記排ガス出口(234)の下流側の圧力、ならびに/または前記カソード出口(214)と前記排ガス入口(233)の間および前記排ガス出口(234)の下流側の温度、ならびに/または前記カソード入口(213)と前記給湿器の前記酸化ガス出口(232)の間および前記給湿器(230)の前記酸化ガス入口(231)の上流側の温度を検出するためにセットアップされたセンサシステム(260)を含み、かつ、
前記センサシステム(260)と信号伝送式に接続され、請求項1または2に記載の方法(M)を実施するように前記燃料電池システム(200)へ指示するために前記燃料電池システム(200)の少なくとも1つの動作パラメータを変更するための制御信号を出力するためにセットアップされた制御装置(270)を含む、燃料電池システム。
【請求項11】
前記給湿器(230)の前記酸化ガス入口(231)の上流側に位置する、酸化ガス流の流動経路の個所を、前記給湿器(230)の前記酸化ガス出口(232)と前記カソード入口との間に位置する前記流動経路の個所と、前記給湿器(230)を迂回したうえで接続する第1のバイパス配管(241)を追加的に含み、前記第1のバイパス配管(241)には、好ましくは前記制御装置(270)と接続されて前記制御装置(270)により操作可能である第1のバイパス弁(243)が配置され、および/または、
前記給湿器(230)の前記排ガス入口(233)と前記カソード出口(214)の間に位置する、カソード排ガス流の流動経路の個所を、前記給湿器(230)の前記排ガス出口(234)の下流側に位置する、カソード排ガス流の前記流動経路の個所と、前記給湿器(230)を迂回したうえで接続する第2のバイパス配管(242)を追加的に含み、前記第2のバイパス配管(242)には、好ましくは前記制御装置(270)と接続されて前記制御装置(270)により操作可能である第2のバイパス弁(244)が配置される、請求項10に記載の燃料電池システム(200)。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0032
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0032】
図1には、アノード210Aと、カソード210Bと、アノード210Aとカソード210Bの間に配置された電解膜210Cとを有する燃料電池210が模式的に示されている。さらに燃料電池は、たとえば水素などの気体燃料をアノード210Aへ供給するためのアノード入口211と、アノード210Aから排ガスを排出するためのアノード出口212と、酸化ガスをカソード210Bへ供給するためのカソード入口213と、カソード210Bからカソード排ガスを排出するためのカソード出口214とを含んでいる。図1では、純粋に例示として1つの燃料電池210だけが示されている。当然ながら、このような多数の燃料電池210が電気的に直列にスタックをなすようにつなぎ合わされることが意図されていてよい。そのようなケースでは、スタックのすべての燃料電池210について共通の燃料電池入口211、共通の燃料電池出口212、共通のカソード入口213、および共通のカソード出口214が設けられるのが好ましい。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0039
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0039】
このように、一般にセンサシステム260は、酸化ガス出口232とカソード入口213の間の圧力およびカソード出口214と排ガス入口233の間の圧力、ならびに/またはカソード出口214と排ガス入口233の間の圧力および排ガス出口234の下流側の圧力、ならびに/またはカソード出口214と排ガス入口233の間および排ガス出口234の下流側の温度、ならびに/またはカソード入口213と給湿器230の酸化ガス出口232の間および給湿器230の酸化ガス入口231の上流側の温度を検出するためにセットアップされる。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0042
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0042】
制御装置270は、方法Mを実行するよう燃料電池システム200に指図するために、燃料電池システム200の少なくとも1つの動作パラメータを変更するための制御信号を出力するためにセットアップされる。
【国際調査報告】