(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-18
(54)【発明の名称】炭素除去砂並びにその設計、製造および利用のための方法およびプロセス
(51)【国際特許分類】
E02B 3/00 20060101AFI20241010BHJP
【FI】
E02B3/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024547406
(86)(22)【出願日】2022-10-18
(85)【翻訳文提出日】2024-06-17
(86)【国際出願番号】 US2022078323
(87)【国際公開番号】W WO2023069964
(87)【国際公開日】2023-04-27
(32)【優先日】2021-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-01-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2022-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524149148
【氏名又は名称】プロジェクト ベスタ,ピービーシー
(74)【代理人】
【識別番号】110003797
【氏名又は名称】弁理士法人清原国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ロマニエロ,スティーブン ジェー.
(72)【発明者】
【氏名】レイ,ブライアン ディー.
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュース,マーガレット ジー.
(72)【発明者】
【氏名】ウォルワース,ネイサン ジー.
(72)【発明者】
【氏名】イショーイー,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】グリーン,トム シー.
(72)【発明者】
【氏名】モンツェラット,フランセスク
(72)【発明者】
【氏名】リーチ,クロエ エス.
(72)【発明者】
【氏名】クリーベル,デイビッド エル.
(72)【発明者】
【氏名】コール,デボン
(72)【発明者】
【氏名】キャルキンズ,ジェフリー ダブリュー.
(72)【発明者】
【氏名】エドワーズ,ダグラス オー.
(57)【要約】
本発明は、沿岸工学用途において天然砂に完全にまたは部分的に取って代わることができる、二酸化炭素を隔離する基質を設計、製造、および利用するためのシステム、方法、組成物、およびプロセスを含む。これらの人工基質は、希少な天然砂資源の需要を相殺すると同時に、気体状二酸化炭素の溶存または固相状態の生成物への変換にも影響を及ぼし、それにより、人為的気候変動の影響を相殺することができる。
【選択図】
図49
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素除去砂の溶解に由来する炭素隔離を定量化する方法であって、
a.(i)少なくとも1つのセンサから1つ以上の測定値を取得する、または(ii)少なくとも1つの計器から1つ以上の読取値を取得する工程と、
b.前記1つ以上の測定値または前記読取値に基づいて、対象環境における前記炭素除去砂の移動、前記炭素除去砂の溶解、前記炭素除去砂に起因する炭素隔離、または前記炭素除去砂の溶解に関連する1つ以上の化学フラックスを決定または予測するための1つ以上のモデルを検証または更新する工程と、
c.二酸化炭素除去量を決定または予測するために、前記1つ以上のモデルを使用する工程であって、前記1つ以上のモデルは、少なくともプロジェクト全体の空間的-時間的な大気中の二酸化炭素除去量を生成し、前記1つ以上のモデルは、砂の移動、砂の溶解、炭素隔離または化学フラックスのモデルを備える、工程と
d.大気中の二酸化炭素削減量の全体量から、プロジェクト固有のライフサイクル分析によって特定されたプロジェクト排出量を差し引き、正味の大気二酸化炭素削減量を算出する工程と、
を含む、方法。
【請求項2】
前記炭素隔離の定量化は、大気中の炭素除去のクレジット化のための1つ以上の第三者基準を満たすのに十分な程度まで測定、報告、および検証される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記1つ以上のモデルの第1のモデルは、土砂移動モデルであり、前記1つ以上のモデルの第2のモデルは、炭素除去砂に起因する炭素隔離モデルであり、前記第2のモデルは、前記第1のモデルの出力に少なくとも部分的に基づく、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記対象環境は、水生環境、または前記対象環境を表すマイクロコズムもしくはメソコスムを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記aの前に、アルカリ性物質を含む砂の混合物を前記対象環境に供給する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記アルカリ性物質を含む前記砂の混合物は、前記対象環境における天然の砂または異地の砂の少なくとも一部をさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
大気中の二酸化炭素を除去する方法であって、
a.炭素除去砂を含む組成物を対象場所に配置する工程と、
b.炭素除去砂を介して回収された大気中の二酸化炭素の量を直接的または間接的に定量化する1つ以上のパラメータを測定、モデル化、または導出する工程と、
を含む、方法。
【請求項8】
前記組成物は、(i)非炭素除去砂と(ii)炭素除去砂とを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記組成物は、均一であり、
(a)砂の配置前または配置中に機械的に混合された炭素除去砂と非炭素除去砂、および
(b)砂の配置後に自然に混合された炭素除去砂と非炭素除去砂
をさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記組成物は、不均一であり、
(a)前記炭素除去砂を含む第1の層であって、二酸化炭素除去砂は、アルカリ性物質を含む、第1の層と、
(b)前記非炭素除去砂を含む第2の層であって、前記第1の層は、前記アルカリ性物質の風化速度を高めるために前記第2の層の上方に配置される、第2の層と、
をさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記組成物は、大気中の炭素を除去し、1つ以上の既存または将来の沿岸保護プロジェクトに物理的利益をもたらすように設計されている、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記aの前に、少なくとも1つ以上の地理的、環境的、地質学的または他の物理的もしくは化学的パラメータに基づいて、前記対象場所を選択する工程をさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
1つ以上のパラメータは、前記対象場所の特性を含み、前記特性は、二酸化炭素の分圧(pCO
2)、溶存無機炭素(DIC)、アルカリ度、pH、または栄養素を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
1つ以上のパラメータは、前記対象場所の物理的状態を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記物理的状態は、流体力学的特徴または他の自然状態を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記aにおいて、前記組成物は、車両を用いて配置される、請求項7に記載の方法。
【請求項17】
前記車両は、水上ビークルを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記aの前に、前記非炭素除去砂と前記炭素除去砂とを混合することによって前記組成物を調製する工程をさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項19】
前記aの前に、前記アルカリ性物質を前処理して、目標特性を有する処理済アルカリ性物質を生成する工程をさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項20】
前記アルカリ性物質の前記前処理は、前記アルカリ性物質を粉砕して、目標の粒径または所望の範囲の粒径を達成することを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記aにおいて、前記組成物は、1つ以上の空間的要因または1つ以上の時間的要因に従って前記対象場所に配置される、請求項7に記載の方法。
【請求項22】
前記1つ以上の空間的要因は、前記対象場所にわたる配置パターンまたは配置密度を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記1つ以上の時間的要因は、配置の時間または配置の頻度を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記1つ以上の空間的要因または1つ以上の時間的要因は、前記対象場所について得られる1つ以上の測定値またはモデル結果に基づいて決定される、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
前記1つ以上の測定値は、pCO
2、DIC、アルカリ度、pH、栄養素もしくは微量金属などの1つ以上の溶解生成物の存在もしくは濃度、または1つ以上の物理的パラメータを示すか、またはそれらに対応する、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記aにおいて、前記組成物は、低炭素プロセスを介して配置される、請求項7に記載の方法。
【請求項27】
前記低炭素プロセスは、浚渫を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
炭素回収の測定、報告、または検証を可能にする前記対象場所内の1つ以上の場所に前記組成物を配置する工程をさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項29】
混合物を配置することは、1つ以上のモデルを用いて1つ以上の場所を決定することである、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
1つ以上の前記モデルは、水化学データ、温度データ、水の動きデータ、波データ、潮汐データ、潮流データ、天然の土砂の特性、または前記対象場所内の1つ以上の場所の水深に基づいて、混合物の配置のための1つ以上の候補場所を特定するように構成される、請求項24に記載の方法。
【請求項31】
前記1つ以上の場所への混合物の配置は、(i)前記混合物中の超苦鉄質物質の溶解を増加または促進させる、または(ii)沿岸建設を容易にする、請求項28に記載の方法。
【請求項32】
方法であって、
a.混合物を対象場所に配置する工程であって、前記混合物は、非二酸化炭素反応性砂、超苦鉄質物質、および石灰岩のうちの少なくとも1つを含む、工程と、
b.二酸化炭素の隔離または回収を測定、報告、または検証する工程であって、前記二酸化炭素の前記隔離または前記回収は、前記非二酸化炭素反応性砂、前記超苦鉄質物質、または前記石灰岩が関与する1つ以上の物理的反応または化学的反応によって推進される、工程と、
を含む、方法。
【請求項33】
前記bの後に、前記bで検証されたように回収または隔離された二酸化炭素の量に基づく炭素クレジットを取得する工程をさらに含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記二酸化炭素の前記隔離または前記回収は、前記対象場所の領域におけるアルカリ度の変化に基づいて定量化される、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
前記bは、前記混合物の1つ以上の粒子、または前記混合物の前記1つ以上の粒子の形状または大きさの経時変化をモデル化することを含む、請求項32に記載の方法。
【請求項36】
前記bは、前記混合物の動きを予測するために、前記混合物の動きをモデル化することを含む、請求項32に記載の方法。
【請求項37】
前記bは、1つ以上のセンサを使用して、前記対象場所にわたる前記超苦鉄質物質の散布を追跡することを含む、請求項32に記載の方法。
【請求項38】
前記1つ以上のセンサは、遠隔センサ、撮像センサ、または航空ベースのセンサを含む、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記1つ以上のセンサは、前記混合物の1つ以上の粒子または粒のハイパースペクトル特性またはマルチスペクトル特性を検出するように構成されている、請求項37に記載の方法。
【請求項40】
前記ハイパースペクトル特性またはマルチスペクトル特性は、前記1つ以上のセンサによって撮影された画像のピクセル内に存在する前記超苦鉄質物質の量または濃度を定量化または決定するために使用可能である、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記bは、土砂と水の界面にわたる化学的拡散フラックスを測定することを含む、請求項32に記載の方法。
【請求項42】
前記bは、前記対象場所またはその一部の間隙水化学を測定し、前記間隙水化学の経時変化を測定することを含む、請求項32に記載の方法。
【請求項43】
前記bは、(i)再循環流を有する水柱、または(ii)前記対象場所と同一または類似の一連の特性を含む参照領域における前記混合物のスケーリングされた配置に対応するメソコスム、を用いて導出可能な基準溶解速度に基づいて、前記超苦鉄質物質の溶解速度を推定することを含む、請求項32に記載の方法。
【請求項44】
前記bは、前記対象場所の1つ以上の化学的パラメータを測定することを含み、1つ以上の特性は、pCO
2、DIC、アルカリ度、およびpHのうちの少なくとも2つを含み、前記1つ以上の特性は、任意選択で、微量金属、栄養素、または他の溶解生成物の測定を含む、請求項32に記載の方法。
【請求項45】
前記1つ以上の特性は、固定周波数または調整可能な周波数で経時的に連続的に測定される、請求項32に記載の方法。
【請求項46】
前記1つ以上の特性は、前記混合物の少なくとも一部を測定装置に供給することによって測定される、請求項32に記載の方法。
【請求項47】
前記測定装置は、前記対象場所から遠隔に配置される、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記測定装置は、前記測定装置への水の出入りを可能にし、それによって前記1つ以上の特性の前記測定を容易にするように、現場に設置され、前記対象場所に配置可能である、請求項46に記載の方法。
【請求項49】
前記1つ以上の特性のうちの1つの特性は、前記対象場所またはその一部の間隙水化学プロファイルに対応する、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記間隙水化学プロファイルに基づいてアルカリ度フラックスを計算またはモデル化する工程をさらに含む、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記間隙水化学プロファイルは、前記対象場所の土砂部分内に配置された1つ以上のセンサを用いて測定可能である、請求項49に記載の方法。
【請求項52】
前記間隙水化学プロファイルは、前記対象場所の土砂部分の上方に位置するセンサに水の試料を運ぶように構成されたマイクロ流体デバイスを用いて測定可能である、請求項49に記載の方法。
【請求項53】
前記bは、海洋の濁度に基づいて、外洋循環中の前記超苦鉄質物質の1つ以上の符号付き粒を追跡する工程をさらに含む、請求項32に記載の方法。
【請求項54】
前記超苦鉄質物質の前記1つ以上の符号付き粒は、リモートセンシングにより追跡される、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
超苦鉄質物質を含む大気中の二酸化炭素を回収するための組成物であって、前記超苦鉄質物質は、カンラン石凝集体のペレットを含む、組成物。
【請求項56】
前記カンラン石凝集体のペレットは、(i)結合剤、(ii)カプセル化材料、または(iii)熱溶融または物理的圧縮によって凝集したより小さいカンラン石粒を含む、請求項55に記載の組成物。
【請求項57】
前記カンラン石凝集体のペレットは、1つ以上の機械的プロセスを用いて混合される、請求項55に記載の組成物。
【請求項58】
前記1つ以上の機械的プロセスは、物理的圧縮を含む、請求項57に記載の組成物。
【請求項59】
前記ペレットは、構造的完全性を生み出すために有機物を含み、[i]内部多孔性および浸透性により向上した表面積を維持しつつ実質的に無傷のままであるか、または[ii]制御された方法で分解して、前記超苦鉄質物質を長時間制御された方法で環境に放出するように設計されている、請求項57に記載の組成物。
【請求項60】
前記有機物は、セルロースを含む、請求項59に記載の組成物。
【請求項61】
前記ペレットの調製により、前記超苦鉄質物質の溶解が、前記超苦鉄質物質の同等の大きさの固体の純粋な粒の場合に起こるよりも実質的に速く起こることが可能になる、請求項56に記載の組成物。
【請求項62】
前記ペレットの調製により、微生物が前記超苦鉄質物質の溶解よりも速く前記結合剤を分解させる結果として、前記超苦鉄質物質の溶解が可能になる、請求項61に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2021年10月18日出願の米国仮出願第63/256,986号、2021年11月19日出願の米国仮出願第63/281,575号、2022年1月11日出願の米国仮出願第63/298,412号、2022年9月2日出願の米国仮出願第63/403,446号、2022年9月26日出願の米国仮出願第63/377,171号、および2022年2月17日出願の欧州特許出願第22157366.0号の利益を主張し、これらの出願は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素は強力な温室効果ガスであり、現在地球大気の0.0415%(415ppm)を占めている。現在の人為起源の二酸化炭素の排出量は、利用可能な全ての自然および人工の吸収源を大幅に上回っており、二酸化炭素の大気中濃度の持続的かつ長期的な上昇を引き起こしている。大気中の二酸化炭素濃度の増加は、地球の平均気温の上昇、海面水位の上昇、海水の酸性化、毎年の気象パターンの変化など、自然環境にさまざまな悪影響を及ぼし、これらは総称して気候変動として知られている。大気中の二酸化炭素の回収および隔離を達成するためのシステム、方法、組成物、およびプロセスが必要とされている。
【0003】
多くの沿岸地域において、気候変動は、沿岸浸食速度の増大、海面上昇、暴風雨や洪水事象の頻度や規模の増大、および厄介な洪水によって顕在化している。このような影響により、水域(例えば、棚、海岸線、沼地およびその他の湿地、湖、河川、河口、湾など)の環境管理に対する要求が高まっている。水域の環境管理には、養浜、侵食制御、暴風雨防御、沿岸保護、気候緩和(炭素除去を含む)、およびその他の沿岸工学または沿岸地質学製品、あるいは砂などの沿岸装置の配置(本明細書では、これら全てを総称して一般に「沿岸建設プロジェクト」と呼ぶ)を含むが、これらのほとんどは、典型的には、大量の砂、砂利、およびその他の天然材料の組成物を周辺地域から採掘または浚渫して、バリアとして機能させるか、システム内の土砂量を増加させるために、沿岸環境に配置する必要がある。
【0004】
沿岸建設プロジェクトに使用される材料や基質は、他の特性の中でも、粒径、色、密度、および流体輸送特性に関する厳しい要件を満たさなければならない。浸食と海面上昇が沿岸システムに新たな材料を供給する能力を上回る恐れがある多くの沿岸地域では、適切な材料の天然に存在する堆積物が不足している。従来の試みでは、例えば再生ガラスおよび砕いたガラスを含む非天然材料を使用することで、海岸建設における天然の砂の需要を緩和しようとしてきたが、これらの材料は一般に、天然の海岸砂の代替には適さない質感や特性を持つことが判明している。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、一般に、大気中の二酸化炭素の回収および隔離を達成しながら、本明細書に記載される沿岸建設用途において天然砂に完全にまたは部分的に取って代わることができる、二酸化炭素を隔離する基質を設計し、製造し、利用するためのシステム、方法、組成物、およびプロセスに関する。
図49は、これらのシステム、方法、およびプロセスを図式化したものである。本明細書で提供されるようなシステム、方法、組成物、およびプロセスは、本明細書に記載されるような1つ以上のニーズを満たすことができる。例えば、沿岸建設プロジェクトで使用される大量の土砂、ますます枯渇する適切な材料の現地備蓄、および適切な代替物の不足を考慮すると、沿岸建設の厳密な仕様に適合するように調整することができる容易に入手可能な人工材料を有することが望ましく、特に、そのような人工材料が大気および海洋から過剰な二酸化炭素を除去することも可能であり、それによって、沿岸浸食レベルの増加、海面上昇、ならびに暴風雨および洪水事象の頻度や規模の増加の根本原因にも対処することができる場合に当てはまる。さらに、適切に設計された材料の適切な特性(粒径、色、密度、水力輸送など)を特定し、実際の沿岸建設用途における人工材料の設計、製造、利用、または監視のための方法およびプロセスを開発する必要性がある。
【0006】
天然に存在する地質鉱物(カンラン石など)や人工の工業副産物(スラグなど)は、二酸化炭素と化学的に相互作用して、プロトンを消費し、気体の二酸化炭素を水溶性の溶存重炭酸イオンおよび炭酸イオン(HCO3
-およびCO3
2-)または固相の炭酸塩鉱物種(CaCO3(s)およびMgCO3(s))に変換する場合があり、どちらも大気から二酸化炭素を除去する働きをする(「二酸化炭素隔離」として知られるプロセス)。これらの鉱物をより小さな粒径に粉砕すると、そのような鉱物粒子の利用可能な表面積が増加し、それによって大気から二酸化炭素を隔離することができる速度が向上する可能性がある(「風化促進」として知られるプロセス)。
【0007】
上記のニーズに対処するために、本開示は、新規な人工材料(「炭素除去砂」)を、(1)二酸化炭素除去能、色、密度、および水力輸送などの工学的特性を制御するために炭素除去砂の組成を最適化するため、(2)沿岸建設プロジェクトにおける炭素除去砂混合物の製造および配置のため、および(3)人口材料の物理的および化学的性能を検証するために炭素除去砂の物理的輸送および化学的性質を監視するための一般的な方法およびプロセスとともに提供する。ある文脈における「砂」という用語は、63ミクロンから2000ミクロンの粒径(すなわち、ウェントワース分類において)の材料を指すために使用されるが、本明細書において「炭素除去砂」および「非炭素除去砂」の一部として使用される「砂」という用語は、砂利、シルトおよび泥(すなわち、同じくウェントワース分類において)として定義される他の土砂または粒径も包含する。
【0008】
一態様において、本開示は、人工材料「炭素除去砂」、ならびに、沿岸浸食、気候変動、および/または海洋酸性化の緩和を目的とするがこれらに限定されない、沿岸建設プロジェクトにおける使用のためにこの材料を選択、調製、混合、輸送、分配、および監視する新規な方法を対象とする。炭素除去砂は、特別に選択され、調製され、混合された鉱物粒子を含む場合があり、鉱物粒子は、[1]沿岸建設プロジェクト(例えば、沿岸の浸食を緩和するため)での使用に適しており、かつ二酸化炭素(CO2)および/または溶存炭酸[H2CO3]と相互作用して重炭酸[HCO3
-]、[CO3
2-]イオン、および/または固相炭酸塩鉱物[Ca、Mg]CO3を生成し、それ故に[3]気候変動、海洋酸性化、および沿岸浸食の影響を同時に緩和する。
【0009】
沿岸建設プロジェクトでの使用に適するためには、炭素除去砂は、粒径分布、微粒子と粗粒子の含有量、元素組成、色、密度、および流体力学的輸送特性に関する様々な基準を満たさなければならない。これらの要件は、(1)適用される法的要件を遵守し、(2)土砂基質の安定性、浸食性、および輸送に関し適用される沿岸建設プロジェクトの目的を満たし、(3)砂の色および質感に関する美的基準および環境保護基準を満たすために必要である。
【0010】
別の態様において、本開示は、沿岸建設プロジェクトで使用するために要求される仕様を達成するために、炭素除去砂の粒径分布、微粒子と粗粒子の含有量、元素組成、色、密度、および流体力学的特性を制御する方法を提供する。いくつかの実施形態では、これらの特性は、異なる材料、鉱物学、粒径分布、色、密度などで任意に構成され得る1つ以上の土砂成分を混合基質として組み込むことによって制御され得る。
【0011】
大気から二酸化炭素を効率的に除去するために、炭素除去砂の少なくとも1つの成分は、アルカリ性材料から製造することができる。限定するものではないが、天然に存在するカンラン石、ダナイト、玄武岩、蛇紋岩、ブルース石、ウォラストナイト、またはスラグや鉱山尾鉱などの工業的に生産された鉱物等価物を例示することができる。これらの鉱物は、水、二酸化炭素および/または炭酸と相互作用して、生成物として重炭酸イオンを生成し、それによって周囲の流体の酸性度を低下させ、有害な二酸化炭素または炭酸を、副産物として環境に有益な重炭酸イオンまたは炭酸イオンあるいは固体炭酸塩沈殿物に変換する。この反応は通常、10年単位から100年単位の時間スケールで起こるため、気候緩和には十分であり、瞬間的な環境に対しては実質的に不活性である。苦土カンラン石(Mg2SiO4)と海水中に溶解した二酸化炭素(CO2)との相互作用を説明する例を以下に示すが、本開示に記載する他の鉱物および岩石は、溶存二酸化炭素と水(炭酸)を重炭酸イオンに変換する同等の反応をもたらす場合がある
(a)Mg2SiO4+4CO2+4H2O→2Mg2++4HCO3
-+H4SiO4
(b)二酸化炭素を溶存重炭酸イオンと炭酸イオンに変換することで、この反応は、海水中の二酸化炭素分圧を下げる働きをする。沿岸建設プロジェクトでは、この海水が、海洋表面および大気と密接に接触することで、大気と海洋の境界を越えて二酸化炭素が正味移動し、それによって大気中の二酸化炭素が海水中の重炭酸イオンおよび炭酸イオンとして正味隔離される。
【0012】
いくつかの実施形態において、炭素除去砂の炭素除去成分を含む組成物は、1つ以上の非炭素除去成分をさらに含むことができる。これらの成分としては、天然の砂および土砂
、浚渫土、高地砂、珪砂(例えば、石英および/または長石砂)、炭酸塩砂などが挙げられるが、これらに限定されない。材料の役割は、プロジェクトの仕様を満たすように、最終配合製品の全体的な粒径分布、微粒子と粗粒子の含有量、元素組成、色、密度、および流体力学的特性を制御することかもしれない。
【0013】
上述したように、二酸化炭素を隔離する当該材料の能力を維持しながら、沿岸建設プロジェクト用の砂および土砂の要件を同時に達成するためには、本発明のいくつかの実施形態において、炭素除去鉱物成分を特別に調製し、次いで、所望の化学的、工学的、および美的特性を達成するために、これらの成分を、天然の砂または異地の砂および土砂などの非炭素除去砂と、特別に決定された比率で混合することが必要な場合がある。
【0014】
さらに別の態様では、炭素除去砂を調製するためのプロセスは、炭素除去砂およびその混合物が、地域的または局所的な要件に特有の、特定の事前決定された特性を達成するように調整されなければならない。
【0015】
別の態様では、炭素除去材料は、非炭素除去土砂を混合することにより、質感、色、および密度と、沿岸建設プロジェクトでの使用に適した工学的特性との組み合わせを達成するために、さらに改質される場合がある。
【0016】
別の態様において、炭素除去材料、および場合によっては非炭素除去材料の原料材料は、風化可能な表面積を増加させ、風化を増加させるための微小亀裂を生じさせ、または所望の粒径要件を達成するために、破砕および/または粉砕(高圧粉砕ロールを介してを含む)される場合がある。
【0017】
別の態様では、破砕および/または粉砕された材料は、特に、適用される沿岸建設プロジェクトの仕様を満たす平均粒径および全体的な粒径分布を有する最終製品を提供するために、ふるい、重力分離、または空気分級機を含むがこれらに限定されない方法を用いて粒径選別される場合がある。このプロセスは、細粒材料および/または粗粒粒子を拘束して、炭素除去砂を受け入れる場所の天然の土砂の粒径分布に適合する、または沿岸建設プロジェクトと二酸化炭素除去の二重条件に適した粒径材料を生成するように設計されている。
【0018】
別の態様において、炭素除去材料および/または非炭素除去材料は、様々な所定のサイズ範囲に予め分類され得る。特定の沿岸建設プロジェクトで使用するのに適した全体的な混合を達成するために、これらの予め分類された分離物から好ましいサイズを選択および/または混合することができる。
【0019】
本発明の別の態様では、炭素除去砂混合物の設計を最適化するために、土砂移動モデルおよび地球化学反応-移動モデルを併用または分離して使用することができる。これには、材料組成、粒径、質感、多孔性、浸透性、結晶構造、密度、移動可能性、環境への影響、および二酸化炭素除去能を考慮することが含まれ得るが、これらに限定されない。本明細書における土砂移動モデルのいかなる記述も、流体力学モデルにも適用することができる。本明細書で説明するモデルは、流体(例えば、水)の運動、および/または、カンラン石および/または砂などの炭素除去材料および/または非炭素除去物質が流体内でどのように移動するかを組み込むことができる。
【0020】
一実施形態において、反応-移動モデルおよび土砂移動モデルは、最適な二酸化炭素除去能、環境影響、および沿岸建設または他の工学的成果のための炭素除去砂混合物の配置設計を最適化するために、併用または分離して使用することができる。これには、砂混合成分の相対的な均一配置または不均一配置を考慮することが含まれ得るが、これらに限定されない。
【0021】
本発明の別の態様では、最適な配置と位置を達成するために、反応-移動モデルと土砂移動モデルを併用または分離して使用することができる。これには、河川、河口、湖沼、沼地、湿地、浜辺、海岸面、海岸付近、または棚の場所を考慮することが含まれるが、これらに限定されない。
【0022】
その結果、このプロセスは、沿岸建設プロジェクトにおける土砂移動および/または流体力学的トレーサーとしての役割を果たすという潜在的な副利益を有する。例えば、炭素除去砂成分の色、アルベド、化学的性質、密度、粒径などを、プロジェクト全体の土砂移動、プロジェクトの成功、または他の基準の独自の指標として利用することができる。
【0023】
別の態様では、組成物の炭素除去成分と非炭素除去成分との混合を実現するために、個々の成分を予め一緒にしておくか、別の実施形態では、プロジェクトの期間にわたって適切な混合を実現するような方法でプロジェクト現場に別々に搬送または配置することができる(すなわち、成分の混合は、コンベア、重機、生物撹乱、および/または波、潮流および潮汐によって運ばれる土砂の物理的運動を介して生じる)。
【0024】
別の態様では、土砂成分を混合する方法を決定するために、土砂移動モデルを使用することができる。これには、沿岸横断面または沿岸縦断面に沿った配置位置、土砂の特性、および土砂の分布方法を考慮することが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0025】
別の態様では、炭素除去砂は、陸路および海路で配置場所まで輸送することができる。そこでは、配置設計を達成するために必要な、トラック、デッキバージ、浚渫船、ホッパー浚渫船、スプリットハルバージ、浚渫手順の修正によるレインボウ、ドライバルク船からの直接積み下ろしなどによる配置などの技術を含む、本質的に油圧式または機械式のいずれかの散布装置を使用して分配することができる。
【0026】
別の態様において、配置は、単一のモノリシックな配置場所において、またはプロジェクト場所を構成する不連続なセグメントにおいて実施することができる。
【0027】
別の態様では、土砂移動モデルは、配置分配ロジスティクスを導くために使用することができる。
【0028】
本発明の別の態様は、炭素除去砂が二酸化炭素を隔離する速度および程度を定量化するためのプロセスおよび方法に関する。これらの方法は、炭素除去砂の溶解によって生じるスペシエーションの濃度、フラックス、または同位体組成の決定を含むことができる。また、これらの方法は、炭素除去砂が、炭素除去砂を取り囲む地域で見つかる気体のまたは溶存の二酸化炭素種の周囲の濃度、フラックス、または同位体組成、およびアルカリ度に与える影響を決定することを含む場合がある。
【0029】
別の態様では、これらの方法は、炭素除去砂が化学的溶解または変換を受ける速度または程度の決定を容易にするのに役立つ化学的または同位体トレーサーの導入を任意に含む場合がある。
【0030】
別の態様では、これらの方法は、単一の時点でまたは時系列の一部として実施することができる。
【0031】
一実施形態では、これらの決定は、炭素除去砂と接触している間隙流体およびその上の水において行われる。他の実施形態では、これらの決定は、土砂と水の界面にわたる反応生成物の蓄積および/または化学反応物の枯渇を統合するように作用する土砂表面に設置されたチャンバの設置を介して行うことができる。
【0032】
さらに他の実施形態では、これらの方法は、渦共分散技術によって、上層の空気または水中における溶存のまたは気体の二酸化炭素のフラックスを決定することを含むことができる。
【0033】
さらに別の実施形態では、これらの方法は、土砂の中に存在する初期鉱物相およびその後の鉱物相の存在量の定量化を通じて、炭素除去砂材料の溶解速度または化学的変質の速度を決定することを含むことができる。
【0034】
上記の方法は全て現場で実施することができるが、さらに他の実施形態では、環境中の炭素除去砂の挙動をエミュレートする役割を果たす反応装置の構築を介して、上記の方法のいずれかまたは全てを現場外で実施することができる。このような反応器は、実験室の「ベンチスケール」反応器、バッチスケール反応器、より大きな屋外のメソコスムスケール反応器、または特定の実施形態において所望の実世界の条件を再現するように設計された他の反応器を含むが、これらに限定されない様々なサイズおよびスケールで実施することができる。このような反応器は、任意に、場所間の輸送を容易にするために、持ち運びができるように構築することができる。
【0035】
本発明のいくつかの実施形態では、炭素除去砂が反応を受ける速度の決定は、数学的コンピュータモデルの構築を介して容易になり、予測され、または集約され得る。このようなモデルは、炭素除去砂の特定の環境的、生物学的パラメータおよび/または物理的特性、および/または前述の化学的または物理的決定の結果を受け入れて、炭素除去砂の溶解速度および/または炭素除去砂が周辺環境に与える物理的および化学的影響のいずれかを出力することができる。
【0036】
本発明のいくつかの実施形態では、炭素除去砂が時空間スケールにわたって大気から二酸化炭素を除去する速度の決定は、数学的コンピュータモデルの構築を介して容易になり、予測され、または集約され得る。このようなモデルは、炭素除去砂の特定の環境パラメータおよび/もしくは物理的特性、前述の数学的コンピュータモデルの結果、ならびに/または前述の化学的または物理的決定の結果を受け入れて、炭素除去砂に由来する大気中の炭素回収量、ならびに/または炭素除去砂が周辺環境に与える物理的および化学的影響のいずれかを、いずれの場合も空間および時間にわたって出力することができる。
【0037】
参照による援用
本明細書で言及される全ての刊行物、特許、および特許出願は、個々の刊行物、特許、または特許出願が参照により組み込まれることが具体的かつ個別に示されている場合と同じ程度に、参照により本明細書に組み込まれる。参照により組み込まれる刊行物および特許または特許出願が、本明細書に含まれる開示と矛盾する範囲において、本明細書は、そのような矛盾する資料に取って代わり、および/または優先されることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
本発明の新規な特徴は、添付の特許請求の範囲に詳細に記載されている。本発明の特徴および利点のより良い理解は、本発明の原理が利用される例示的な実施形態を示す以下の詳細な説明、および添付の図面(本明細書では「図面(Figure)」および「図(FIG.)」でもある)を参照することによって得られるであろう。
【0039】
【
図1】いくつかの実施形態に従う、長期的な炭酸塩-ケイ酸塩サイクルを概略的に示す。
【
図2】いくつかの実施形態に従う、カンラン石を二酸化炭素の回収および隔離に使用することができる化学プロセスを概略的に示す。
【
図3】いくつかの実施形態に従う、カンラン石を用いた二酸化炭素の回収および隔離を可能にする化学反応を概略的に示す。
【
図4】いくつかの実施形態に従う、カンラン石、および砂とカンラン石の混合物を概略的に示す。
【
図5】いくつかの実施形態に従う、大気中の二酸化炭素を除去し、海洋アルカリ度を増加させるために炭素除去砂を使用するための1つの例示的な方法を概略的に示す。
【
図6】いくつかの実施形態に従う、砂粒および/または炭素除去砂粒を衝突させて小片に破砕させ、それによってカンラン石の溶解を促進するための波エネルギーの使用を概略的に示す。
【
図7】いくつかの実施形態に従う、海洋を天然の炭素貯蔵に利用する方法の一例を概略的に示す。
【
図8】いくつかの実施形態に従う、生体反応器の一例を概略的に示す。
【
図9】いくつかの実施形態に従う、沿岸養浜のためにカンラン石を配置するためのシステムの一例を概略的に示す。
【
図10】本明細書で提供される方法を実施するようにプログラムされるか、または構成されるコンピュータシステムを概略的に示す。
【
図11】アルカリ性を生成するためにカンラン石と微生物バイオマスとが混合され得る海水を取り込むように構成された例示的な反応器を概略的に示す。
【
図12】いくつかの実施形態に従う、炭素除去を測定、記録、および検証(MRV)するための例示的なプロトコルを概略的に示す。
【
図13】いくつかの実施形態に従う、カンラン石が対象場所に導入されたときに沿岸炭素回収が起こる化学反応を概略的に示す。
【
図14】いくつかの実施形態に従う、カンラン石が対象場所に導入されたときに沿岸炭素回収が起こる化学反応を概略的に示す。
【
図15】いくつかの実施形態に従う、カンラン石が沿岸炭素回収のために導入され得る環境を概略的に示す。
【
図16】いくつかの実施形態に従う、カンラン石が沿岸炭素回収のために導入され得る環境を概略的に示す。
【
図17】いくつかの実施形態に従う、カンラン石が沿岸炭素回収のために導入され得る環境を概略的に示す。
【
図18】いくつかの実施形態に従う、カンラン石が沿岸炭素回収のために導入され得る環境を概略的に示す。
【
図19】いくつかの実施形態に従う、カンラン石が沿岸炭素回収のために導入され得る環境を概略的に示す。
【
図20】いくつかの実施形態に従う、カンラン石が沿岸炭素回収のために導入され得る環境を概略的に示す。
【
図21】いくつかの実施形態に従う、時間の関数として、制御場所と比較したフラックスチャンバ内のアルカリ性物質の濃度のプロットを概略的に示す。
【
図22】いくつかの実施形態に従う、間隙水法の概要を概略的に示す。
【
図23】いくつかの実施形態に従う、収縮コアモデルを概略的に示す。
【
図24】いくつかの実施形態に従う、様々な粒径を有するカンラン石の溶解速度を概略的に示す。
【
図25】いくつかの実施形態に従う、粒子分布の例示的なモデリングアプローチを概略的に示す。
【
図26】いくつかの実施形態に従う、異なる平均粒径を有するカンラン石の異なる混合物に対する溶解速度を概略的に示す。
【
図27】いくつかの実施形態に従う、カンラン石の半減期に対する温度およびpHの影響を概略的に示す。
【
図28】いくつかの実施形態に従う、沿岸生態系について変化し得る時間的要因および空間的要因の例を概略的に示す。
【
図29】いくつかの実施形態に従う、対象場所に関する様々な特性の時間的不均一性のプロットを概略的に示す。
【
図30】いくつかの実施形態に従う、アルカリ度フラックスを計算する際に考慮すべき要因の例を概略的に示す。
【
図31】いくつかの実施形態に従う、アルカリ度フラックスを計算する際に考慮すべき要因の例を概略的に示す。
【
図32】いくつかの実施形態に従う、アルカリ度フラックスを計算する際に考慮すべき要因の例を概略的に示す。
【
図33】いくつかの実施形態に従う、コストと複雑さの異なるスケールで炭素回収とカンラン石溶解を測定、記録、および検証するための様々なアプローチの概要を示す。
【
図34】いくつかの実施形態に従う、土砂間隙水プロファイル、固相化学、および底生フラックスをシミュレートするために使用され得る、様々な反応-移動モデリング研究を概略的に示す。
【
図35】いくつかの実施形態に従う、炭素回収および/またはカンラン石の溶解を測定、記録、および検証するために使用することができるセンサの様々な例を概略的に示す。
【
図36】いくつかの実施形態に従う、炭素回収および/またはカンラン石の溶解を測定、記録、および検証するために使用することができるセンサの様々な例を概略的に示す。
【
図37】いくつかの実施形態に従う、カンラン石砂が海浜に導入されたときに起こり得る反応を概略的に示す。
【
図38】いくつかの実施形態に従う、カンラン石砂が海浜に導入されたときに起こり得る反応を概略的に示す。
【
図39】いくつかの実施形態に従う、水のDIC貯蔵量がアルカリ度の増加の関数としてどのように変化するかの表現に基づいて、アルカリ度フラックスからCO
2隔離を計算するアプローチを概略的に示す。
【
図40】いくつかの実施形態に従う、緯度(北緯)の関数として、大西洋の海水年齢および海水面下の深さを示すプロットを概略的に示す。
【
図41】いくつかの実施形態に従う、例示的な沿岸炭素回収ライフサイクル分析を概略的に示す図である。
【
図42】いくつかの実施形態に従う、本明細書に開示される方法およびシステムを使用して実現することができる炭素回収時間の例を概略的に示す。
【
図43】いくつかの実施形態に従う、異なる粒径を有するカンラン石粒の例示的なカンラン石溶解速度論を示す様々なプロットを概略的に示す。
【
図44】いくつかの実施形態に従う、CO
2回収効率に対する二次炭酸塩沈殿の効果を概略的に示す図である。
【
図45】いくつかの実施形態に従う、二酸化炭素回収効率に対する二次粘土形成の効果を概略的に示す。
【
図46】いくつかの実施形態に従う、砂浜の養浜、岸壁の養浜、および炭素回収砂の近海配置を概略的に示す。
【
図47】いくつかの実施形態に従う、炭素回収砂の棚配置および湿地配置を概略的に示す。
【
図48】いくつかの実施形態に従う、炭素除去砂活動に関連する炭素クレジットの測定、記録、および検証のためのフローチャートを概略的に示す。
【
図49】いくつかの実施形態に従う、炭素除去砂を配置するプロセスに統合された1つ以上のモデルのフローチャートを概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本明細書において、本発明の様々な実施形態が示され、説明されてきたが、そのような実施形態が例示としてのみ提供されていることは、当業者には明らかであろう。本発明から逸脱することなく、多数の変形、変更、および置換を当業者は思い付き得る。本明細書に記載された本発明の実施形態に対する様々な代替が採用され得ることが理解されるべきである。
【0041】
「少なくとも」、「より大きい」、または「以上」という用語が、連続する2つ以上の数値の最初の数値の前にあるときは常に、「少なくとも」、「より大きい」、または「以上」という用語は、その連続する数値の各数値に適用される。例えば、1、2、または3以上は、1以上、2以上、または3以上と等価である。
【0042】
「より大きくない」、「より小さい」、または「以下」という用語が、連続する2つ以上の数値の最初の数値の前にあるときは常に、「より大きくない」、「より小さい」、または「以下」という用語は、その連続する数値の各数値に適用される。例えば、3、2、1以下は、3以下、2以下、1以下と等価である。
【0043】
本明細書で区別せずに使用される「リアルタイム」または「リアル-タイム」という用語は、一般に、最近得られた(例えば、収集または受信された)データを使用して実行されるイベント(例えば、操作、プロセス、方法、技法、計算、演算、分析、視覚化、最適化など)を指す。場合によっては、リアルタイムイベントは、少なくとも0.0001ミリ秒(ms)以内、0.0005ms以内、0.001ms以内、0.005ms以内、0.01ms以内、0.05ms以内、0.1ms以内、0.5ms以内、1ms以内、5ms以内、0.01秒以内、0.05秒以内、0.1秒以内、0.5秒以内、1秒以内、またはそれ以上など、ほぼ即座に、または十分に短い時間スパン内で実行される場合がある。場合によっては、リアルタイムイベントは、最大1秒以内、0.5秒以内、0.1秒以内、0.05秒以内、0.01秒以内、5ms以内、1ms以内、0.5ms以内、0.1ms以内、0.05ms以内、0.01ms以内、0.005ms以内、0.001ms以内、0.0005ms以内、0.0001ms以内、またはそれ以下など、ほぼ即座に、または十分短い時間スパン内に実行される場合がある。
【0044】
概要
気候変動による最悪の影響を避けるためには、何十億トンもの二酸化炭素を速やかに大気から除去しなければならない。恒久的で、測定可能で、経済的な炭素除去方法を特定することが急務である。気候変動と闘い、沿岸環境におけるその有害な影響を緩和するためには、地域を物理的に保護および修復し、二酸化炭素濃度の上昇と闘い、海洋酸性化の影響を低減するために使用できる材料に対する差し迫った必要性がある。さらに、これらの方法は永続的で、測定可能で、経済的でなければならない。
【0045】
地球の長期的な炭酸塩-ケイ酸塩サイクルは、地球が大気から二酸化炭素を自然に取り込む方法である。数千年にわたり、露出した火成岩に降り注ぐ雨によって、そのような岩石は「風化」として知られるプロセスでゆっくりと溶解する。雨水に溶け込んだ炭酸は、そのような岩石の珪酸塩と反応してアルカリ性を生成し、平衡状態が炭酸から重炭酸に移行する。この水はやがて海洋に流れ、最終的に海洋は、海水に溶け込んだ重炭酸塩として大気から二酸化炭素を吸収する。重炭酸塩は、海洋での滞留時間が長く、人間のタイムスケールよりもかなり長く、重炭酸塩の増加によるその後の生物的または非生物的な炭酸塩鉱物の沈殿によって、炭酸塩岩が形成される。
【0046】
「海洋アルカリ性強化」とは、この自然風化プロセスを促進することによって、大気中の二酸化炭素を除去して、長いタイムスケール(数万年から数十万年)で二酸化炭素を貯蔵しようとする、負の二酸化炭素排出技術(NET)群を指す。
【0047】
理論的な「沿岸風化促進」の1つの現実的な実施例である「沿岸炭素回収」(沿岸炭素回収(商標)という商標で呼ばれる場合もある)は、海洋アルカリ性向上の分野におけるネガティブエミッション技術(NET)として分類することができ、この技術は、沿岸系に人工の炭素除去砂を撒くことによって、大気中の二酸化炭素を除去し、長い時間スケール(数万年から数十万年)で二酸化炭素を貯蔵するものであり、そのような人工物質は、自然条件下よりも迅速に海水に溶解することができ、それによって海洋による二酸化炭素の吸収速度を高めることができる。
【0048】
図1は、長期的な炭酸塩-ケイ酸塩サイクルを示す。岩石の風化による自然な二酸化炭素除去は、以下のステップを経て達成され得る。
【0049】
1. 雨が火成岩に降り注ぎ、ゆっくりと火成岩を溶解する。
【0050】
2. 雨水中に溶解した炭酸は、火成岩の珪酸塩と反応してアルカリ性を生成し、平衡状態が炭酸から重炭酸に移行する。
【0051】
3. この重炭酸塩は、海に流れる。
【0052】
4.重炭酸塩は、カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンと結合して炭酸塩を形成する。
【0053】
5. 炭酸塩は海底に堆積し、それにより、大気中の二酸化炭素が岩石に取り込まれる。
【0054】
図2は、二酸化炭素の回収および隔離をもたらす、苦鉄質物質または超苦鉄質物質を含む長期の炭酸塩-ケイ酸塩サイクルの一部として起こる化学プロセス、すなわち、カンラン石を介した溶存二酸化炭素と水の重炭酸塩への変換を示し、それによって大気中の二酸化炭素の海洋表面への取り込みと海水pHの上昇が可能になる。
【0055】
図3は、カンラン石を用いた二酸化炭素の回収と隔離を可能にする化学的プロセスを示す。カンラン石が溶解すると、マグネシウムイオン(海洋でナトリウムに次いで2番目に豊富なイオン)、ケイ酸塩(珪藻が骨格を作るのに使用)、および溶解炭素が生成される。
図2および
図3を参照すると、カンラン石が水に溶解すると、図示した反応が起こり、それにより、二酸化炭素の取り込みが増加し、pHが上昇し、アルカリ性が生成される。
【0056】
その結果、このプロセスには、海洋酸性化に対抗するという潜在的な副利益がある。海洋酸性化とは、増加する大気中の二酸化炭素が海水に溶解し、pHを低下させる(酸性度を増加させる)プロセスである(以下の図の上側の反応)。これにより、サンゴのような石灰化生物が成長して外骨格や殻を作る能力が低下する。
図2および
図3に示すように、アルカリ性物質(例えば、カンラン石)を水に溶かすと、水素イオンが溶存ケイ酸塩(H
4SiO
4)に隔離され、この分子は、二酸化炭素を固定し、海洋食物網の基盤を形成する重要な光合成を行う藻類である珪藻によって利用され得る。
【0057】
残念なことに、自然の化学的風化は遅過ぎるため、人間が排出した二酸化炭素を人間に関連する時間スケールで補正することはできない。また、この自然プロセスは、地球の現在の炭素収支においてすでに考慮されている。本明細書に開示されるシステムおよび方法は、この自然プロセスを促進し、地球規模で年間少なくとも1ギガトンの大気中の二酸化炭素をさらに除去するために展開および実施することができる。
【0058】
大気中の炭素を除去する方法
炭素除去砂を使う沿岸炭素回収は、地球の自然な二酸化炭素除去プロセスを加速するために利用することができる。現在の速度では、人間の活動によって排出された二酸化炭素を吸収するためには、降雨による岩石の風化という自然のプロセスを少なくとも100倍早める必要がある。波のエネルギーは、沿岸炭素回収を促進することができる。カンラン石を含む岩石は、波のエネルギーが岩石を機械的に風化させる、エネルギーの高い沿岸環境に配置してもよい。土砂粒子が衝突すると、この機械的プロセスによって物質の化学的溶解が加速される。この速度は、材料が元々堆積していた場所で自然風化に任せた場合よりも桁違いに速い。
【0059】
一側面において、本開示は、散布用の炭素除去砂混合物の設計方法および製造方法を提供する。炭素除去砂の選択は、苦鉄質、超苦鉄質、または実際には工業副産物であるかもしれない(表1参照)。本明細書で使用される場合、そのような物質は、「アルカリ性物質」と呼ばれ、表1の1つ以上の項目を指す場合がある。この物質は、石英、炭酸塩、浚渫土、天然の土砂などの非炭素除去砂物質(表2参照)と混合して混合物を生成することができる。物質の最適な粒径が選択される。場合によっては、選択には、土砂移動モデルや計算式、地球化学モデル、地域海洋モデルシステム(ROMS)、および/または地球システムモデルの利用が含まれる場合がある。場合によっては、選択には、ライフサイクル解析の利用が含まれる場合がある。そのようなモデルは、これらに限定されるものではないが、以下のパラメータの1つ以上を利用することができる:グリッド分解能、地形、土砂密度、土砂サイズ分布、土砂組成、サイズと組成を含む土砂特性の空間的変動性、分布、垂直方向(層数、厚さ)と水平方向、波の状態、潮汐、潮流、風の状態、粘性、拡散率、粗さ、鉱物学、化学組成、pH、温度、塩分、アルカリ度、二酸化炭素分圧(pCO2)、溶存無機炭素(DIC)含有量、溶存有機炭素含有量、粒子状有機炭素含有量、粒子状無機炭素含有量、微量金属含有量、主要陽イオンおよび陰イオン含有量、栄養素含有量、溶存酸素、酸化還元、メタン濃度、亜酸化窒素濃度、灌漑、生物撹乱、移流、拡散、微生物群集組成、二酸化炭素排出量、二酸化炭素換算排出量、エネルギー、電力、距離、コストなど。場合によっては、カンラン石が選択される物質である場合がある。カンラン石は、超苦鉄質岩や苦鉄質岩に見られるケイ酸塩鉱物である。カンラン石は非常に豊富で、世界中の地表付近で発見されている。カンラン石岩石は、シルト、砂、および砂利の粒径まで効率的に粉砕することができる。
【0060】
一側面において、本開示は、炭素除去砂と混合物成分の抽出と粉砕に関する詳細を提供する。一旦、炭素除去砂が特定の場所への散布用に選択されると、そのような炭素除去砂の構成鉱物は(一般に、そのような鉱物を含む岩石を採石することによって)採取され、適用される沿岸工学プロジェクトの対象場所で使用される適切な粒径に粉砕または摩砕される。場合によっては、非炭素除去砂の成分が必要とされ、(一般に、そのような鉱物を含む岩石を採石することによって)採取され、該当する海岸建設プロジェクトの対象場所で使用される適切な粒径に粉砕または摩砕される場合がある。さらに他の例では、非炭素除去砂の成分は、浚渫土で構成され、海底または他の沿岸、河川または類似環境から採取する必要がある場合がある。さらに他の例では、非炭素除去砂の構成要素は、天然の土砂で構成され、採取または処理を必要としない場合もある。
【0061】
炭素除去成分と非炭素除去成分との混合物を実現するために、個々の成分は、プロジェクトの期間にわたって適切な混合を実現するような方法で、事前に一緒に運ばれるか、あるいは別の実施形態では、別々にプロジェクト場所に運ばれるか、または配置される(すなわち、成分の混合は、コンベア、重機、生物撹乱、および/または波、潮汐、潮流によって駆動される土砂の物理的な運動により起こる)。
(c)
【0062】
炭素除去砂を用いた沿岸炭素回収は、以下の工程を含む場合がある。
【0063】
1. 配置場所の特定。これには、気候、波浪条件、潮汐、潮流、有力な土砂移動メカニズム、陸路と海路のアクセス性、天然の土砂のサイズ分布と組成、地域の生態系、および社会的許可などの要素を考慮するが、これらに限定されるものではない。場合によっては、このプロセスは、上記のパラメータの一部または全てと、波浪活動、潮汐、潮流、風、沿岸の堆積学と組成、および天候のパラメータの一部または全てを組み込んだ土砂移動モデルを活用する。さらに他の例では、このプロセスは、鉱物学、密度、海水化学、生物攪乱、灌漑、土砂組成物のパラメータの一部または全部(ただしこれらに限定されない)を組み込んだ地球化学モデルを活用する。さらに他の例では、このプロセスは、海水循環、海水滞留時間、海洋生物地球化学、海水炭酸塩飽和状態、風速、吹送距離、および、大気組成のパラメータの一部または全部(ただしこれらに限定されない)を組み込んだ地域海洋モデルシステムおよび/または地球システムモデルを活用する。
【0064】
2.炭素除去砂の配置設計。炭素除去砂は、マウンド、土塁、海岸面養生、または類似の特徴の形で水中に、散布された薄層で水中に、浜辺の養浜で一般的に使用されるような形で浜辺に、または薄層配置のような形で湾、河口、または沼地に配置するように設計することができる。
図46と
図47は、炭素除去砂の配置の選択肢の可能性を示す。設計は、連続した領域をカバーするモノリシック配置、または同じプロジェクト設計の一部とみなされるいくつかの分割された配置領域で構成される。配置場所や連続的または非連続的な配置に関連する要因には、土砂移動への影響、波浪条件への影響、隣接する海岸線の浸食および堆積パターンへの影響、炭素の取り込み効率への影響などがあるが、これらに限定されるものではない。土砂移動モデルは、このタスクを完了するために使用することができる。
【0065】
3. 選択された物質を散布場所に輸送する。炭素除去砂は、(例えば、鉄道、船、トラックによって)対象場所に輸送することができる。この場所は、沿岸環境または外洋環境であり得る。この場所は、海洋、湖沼、または、河川である。場合によっては、輸送メカニズムおよび輸送ルートの選択には、ライフサイクル分析の使用が含まれる場合があり、この分析では、特に、炭素除去砂の輸送に関連する二酸化炭素排出量を計算するために、輸送距離、電力、エネルギー効率、およびコストのパラメータの全てまたは一部(ただし、これらに限定されない)を利用することができる。
【0066】
4.選択された炭素除去砂または炭素除去砂混合物の散布。炭素除去砂または炭素除去砂混合物は、陸上または水上から(例えばトラック、船、またははしけによって)選択された場所に散布することができる。いくつかの実施形態では、砂は、スプリットハルバージ(split-Hull barge)から、トラックを介して海岸から、または浚渫中に、配置することができる。いくつかの実施形態では、散布は、完全に機械的手段によって達成することができる。さらに他の実施形態では、散布を達成するために、散布は、自然の土砂移動または他の自然の力を活用することができる。場合によっては、散布メカニズムの選択には、土砂移動モデルおよび/またはライフサイクル分析の使用が含まれる場合があり、この分析では、輸送距離、エネルギー効率、電力、コスト、粒径、密度、トン数、波エネルギー、気候パターンのパラメータの全てまたは一部を利用し得るが、これらに限定されない。
【0067】
5. 環境条件は、二酸化炭素の除去を促進する。これには、炭素除去砂の溶解速度を機械的に加速するように作用する波、潮汐、海流からのエネルギーが含まれる場合がある。粒と粒の衝突によって微細粒子(10ミクロン未満)が形成され、海水にさらされるカンラン石粒の表面積が増加することによって、非常に急速に風化する。粒と粒の衝突は、炭素除去砂の表面コーティングの形成を妨げる場合もある。また、生物撹乱、波、潮汐、潮流によって、炭素除去砂の周囲への水の涵養が促進され、それによって流体と鉱物の相互作用が促進され、二次的な鉱物コーティングや二次的な風化生成物(例えば、二次的な粘土や炭酸塩相の沈殿)の形成が減少または排除される場合もある。どのような場合でも、炭素除去砂は、結果として急速に水に溶解し、海洋/大気から二酸化炭素を除去する反応を促進する可能性がある。
【0068】
6. 二酸化炭素除去に関する測定、報告、検証(MRV)。場合によっては、カンラン石の溶解速度および二酸化炭素除去を評価するための測定が行われる場合がある。場合によっては、これらの測定は、炭酸塩の化学的性質、微量金属、栄養素、酸素、有機炭素、塩分、および、散布場所および/またはその周辺の水中および/または間隙水の温度を含むが、これらに限定されない化学的測定である場合がある。場合によっては、MRVの目的、および/または工程1~6を精緻化する目的で、データを解釈するために地球化学モデルを使用する場合がある。場合によっては、MRVの目的、および/または工程1~6を精緻化する目的で、データを解釈するために土砂移動モデルを使用する場合がある。場合によっては、地域海洋システムモデルおよび/または地球システムモデルがMRVの目的で使用される場合がある。場合によっては、複数のモデルが結合される場合がある。
図48は、MRVを実施するために採用することができるモデル構成を示す。
【0069】
図5は、カンラン石を使用して大気中の二酸化炭素を除去し、海洋のアルカリ度を高めるための例示的な方法の一例を示す。
図6に示すように、波のエネルギーによって土砂の粒が衝突して細かく砕け、カンラン石の溶解を促進する可能性がある。
【0070】
本明細書で説明する方法の副利益には、例えば、海水の酸性度の低減が含まれる。海洋酸性化は、海洋生態系にダメージを与えることが示されている。炭素除去砂は、局所的なpHレベルを上昇させ、海洋生態系の海洋酸性化の悪影響を緩和する可能性があり、水産養殖および漁業の収穫量を改善する可能性があり、海洋生態系へのダメージを回復させるだけでなく、対象配置場所の地域経済を強化する可能性がある。
【0071】
図7は、海洋を自然の炭素貯蔵に利用することができる方法の一例を示す。過剰な二酸化炭素の排出は、海洋の酸性度を高める可能性がある。本開示のシステムおよび方法は、海水の酸性度を低減し、海洋が重炭酸塩としてより多くの二酸化炭素を安全に貯蔵するのに役立つために実施することができる。
【0072】
本明細書に記載された方法の副利益には、例えば、珪藻の成長の支援も含まれる場合がある。海洋光合成微細藻類である珪藻は、海洋食物網の要であり、光合成によって二酸化炭素を回収し、地球上の酸素の40%を作り出す。珪藻の生息数は、二酸化炭素の増加に伴って減少している。これは、河川の堰き止めによって海中のケイ酸塩濃度が低下し、土砂の移動が制限されたことが一因である。炭素除去砂(例えば、カンラン石)の中には、ケイ酸マグネシウムを主成分とするものがあるため、そのような炭素除去砂の溶解によるケイ酸塩濃度の増加が珪藻の成長につながる可能性がある。珪藻の増加は、海洋生態系の健全性を高め、光合成炭素の回収を支援するであろう。
【0073】
他の副利益には、例えば、低コストの土砂供給源(場合によっては、炭素クレジットを使用して支払われ得る)を供給することによって、沿岸浸食の促進および海面上昇に直面している沿岸地域社会を支援することが含まれ得る。
【0074】
風化と溶解の仕組みと相互関係
波の作用を含むがこれに限定されない自然環境のエネルギーを利用して炭素除去砂を破砕することは、二酸化炭素除去の効率にとって極めて重要である。過去の分析によって、炭素除去砂を100μmより小さいサイズに粉砕することは、非常にエネルギー集約的であることが示されている。しかし、炭素除去砂を300μmより大きい砂に粉砕すると、はるかに少ないエネルギーで済む。場合によっては、炭素除去砂は、約10mm、5mm、2mm、1mm、900μm、750μm、600μm、500μm、450μm、400μm、350μm、300μm、250μm、200μm、150μm、100μm、50μm、25μm以下、またはそれ以下の粒径を有する。場合によっては、炭素除去砂は、約25μm、50μm、100μm、150μm、200μm、250μm、300μm、350μm、400μm、450μm、500μm、600μm、750μm、900μm、1mm、5mm、10mm以上、またはそれ以上の粒径を有する。場合によっては、炭素除去砂は、上記の2つの値の間、例えば約250μmと約500μmの間の粒径を有する。炭素除去砂を破砕するために、水の移動という自然の自由エネルギーを利用することで、粉砕および摩砕エネルギーはさらに小さくなり、全体のわずかな割合になる。
【0075】
場合によっては、粒と粒の衝突によって、炭素除去砂が急速に破砕される場合がある。炭素除去砂の粒は、機械的活性化によりサイズが小さくなる場合がある。場合によっては、炭素除去砂が供給される水の動きにより、表面に摩耗が生じる場合がある。場合によっては、炭素除去砂の粒の表面が機械的に活性化されて、二酸化炭素の取り込みと脱酸が可能になる、および/または増進される場合がある。
【0076】
溶解速度論
図42は、異なる粒径を有するカンラン石粒についての例示的なカンラン石溶解速度を示す様々なプロットを示す。溶解時間は、炭素除去砂の粒径が小さくなるにつれて減少する可能性がある。粒子の溶解特性は、収縮コアモデルと炭素除去砂の溶解速度を支配する1つ以上の法則、方程式、または原理を用いて予測またはシミュレートすることができる。場合によっては、炭素除去砂の現実的で商用可能な粒径分布に対する溶解のシミュレーションを可能にするために、収縮コアモデルを修正してもよい。本明細書で説明するモデルは、収縮コアモデルに対応する炭素除去砂の溶解速度論を組み込むために、初期ダイアジェネシスモデルを修正することによって生成することができる。モデルは、生物地球化学的プロセス(好気性および嫌気性呼吸、Fe/Mn酸化物の形成、黄鉄鉱、硫化物の酸化などを含む)と同様に、完全な炭酸塩化学(例えば、DIC、ALK、pCO
2、pH、炭酸塩の沈殿/溶解)を含み、および/または考慮することができる。
【0077】
二次鉱物
場合によっては、
図43に示すような二次的な炭酸塩沈殿が二酸化炭素の回収効率に影響を与えることがある。二次的な炭酸塩沈殿は、対象環境に導入されたカンラン石1モルに対して、2モルの二酸化炭素が消費され、0モルのアルカリ性が生成されるように、本明細書に記載の反応を変化させる可能性がある。この結果、二酸化炭素の回収効率が50%低下する可能性がある。本明細書で開示されるシステムおよび方法は、二次的な炭酸塩の沈殿を最小化または低減するために実施することができる。炭酸塩の沈殿速度は、地球化学および生物源石灰化における局所的な変動によって強く制御され得る。場合によっては、アルカリ性の移動が土砂中で起こる支配的なプロセスであることがあり、いったん水柱に混合されると、海水中のDICおよびALKの滞留時間が長いことから、アルカリ性の消費は低くなることがある。
【0078】
場合によっては、
図45に示すような二次粘土形成が二酸化炭素の回収効率に影響を与えることがある。二次粘土の形成は、カンラン石1モルごとに8/3モルの二酸化炭素が消費され、8/3モルのアルカリ性が生成されるように、本明細書で説明する反応を変化させる可能性がある。この結果、二酸化炭素の回収効率が33%低下し得る。本明細書で開示するシステムおよび方法は、このような二次粘土形成を最小化または低減するために実施することができる。
【0079】
場合によっては、ケイ酸塩の風化を促進することが実施される場合もあるが、先行研究はいずれも、沿岸建設プロジェクトのための特定の規制、環境、文化、美観、および工学的要件を満たすために必要な、特定の適切な色、粒径、密度、および反応性を有する人工的な炭素除去砂の製造方法を認識しておらず、かつ、提供していない。さらに、先行研究では、沿岸建設プロジェクトのための安全で成功する材料を作るために、これらの特定の属性の工学的設計は完全に無視されてきた。現在の沿岸建設プロジェクトで使用されている材料で、二酸化炭素の回収、アルカリ性の生成、および海水の酸性化の緩和によって、付加的な公共的および生態学的利益をもたらすものは存在しない。同様に、先行のアプローチでは、沿岸建設プロジェクトに適した炭素除去砂の製造から得られる利点、つまり沿岸浸食の緩和、海水の酸性化対策、および大気中の二酸化炭素の減少という利点を同時に実現することはできなかった。
【0080】
配置材料の設計
炭素除去砂
本開示は、炭素除去砂、砂混合物、およびそれらを製造するためのプロセスを提供する。炭素除去砂は、[1]海岸沿いの海岸浸食を緩和するのに適しており、[2]二酸化炭素(CO2)および/または溶存炭酸[H2CO3]と相互作用して、重炭酸塩[HCO3
-]、[CO3
2-]イオン、および/または固相炭酸塩鉱物[Ca、Mg]CO3を生成し、それ故、[3]気候変動、海水の酸性度、および海岸浸食の影響を同時に緩和する、特別に選択、調製、および混合された粒子を含むことができる。
【0081】
沿岸建設、浜辺の養浜、および湿地の復元プロジェクトでの使用に適するように、[4]製造された炭素除去砂およびその混合物は、適用される法的要件または基準を遵守し、環境への影響を最小化または防止し、より一般的には、美観上の理由から、天然の土砂の質感、粒径分布、および色に密接に一致または近似すべきである。したがって、炭素除去砂および砂混合物を調製するための工程は、炭素除去砂およびその混合物がこれらの特定の事前決定された特性を生成し、達成するように調整することができる。
【0082】
本発明の1つの態様では、大気から二酸化炭素を効率的に除去するために、[5]炭素除去砂は、アルカリ性物質(典型的には、天然に存在するカンラン石、ダナイト、玄武岩、蛇紋岩、ブルース石、ウォラストナイト、またはスラグのような工業的に生産された鉱物等価物)から製造することができる。これらの鉱物は、[6]水、二酸化炭素および/または炭酸と相互作用して、生成物として重炭酸イオンを生成し、それによって周囲の流体の酸性度を低下させ、有害な二酸化炭素または炭酸を環境に有益な重炭酸イオンまたは炭酸塩イオンに変換することができる。苦土かんらん石(Mg2SiO4)の反応を説明する例を以下に示すが、本開示で説明する他の鉱物や岩石も、炭酸を重炭酸イオンに変換する同等の反応をもたらす。
1. CO2+H2O → H2CO3
2. Mg2SiO4+4H2CO3 → 2Mg2++4HCO3
-+H4SiO4
【0083】
炭素除去砂の溶解は、ガス状で溶解した二酸化炭素の溶解重炭酸イオンおよび溶解炭酸イオンへの変換に影響を及ぼし、それにより、淡水および海水が溶解状態で炭素をさらに貯蔵する能力を増大させる可能性がある。二酸化炭素ではなく、溶存重炭酸イオンおよび溶存炭酸イオンとして存在する場合、これらの化合物は、もはや気候変動に寄与せず、海水の酸性化の影響に対抗する働きをすることができる。
【0084】
上述の二酸化炭素を除去するこのような材料の能力を維持しつつ、沿岸建設プロジェクトのための砂および土砂の要件を同時に達成するためには、[7]反応性鉱物成分を特別に調製し、次に、所望の化学的、工学的、および美的特性を達成するために、これらの成分を天然または異地の砂および土砂(すなわち、二酸化炭素を除去しない砂)と、特別に決定された比率で混合することが必要な場合がある。この工程を以下に詳述する。
【0085】
炭素除去砂の二酸化炭素除去成分を調製するためのプロセスは、アルカリ性物質の原料から始まる。潜在的な原料のリストを表1に示す。
【0086】
【0087】
炭素除去砂の二酸化炭素除去成分の調製は、2つの重要な段階を経て進めることができる。
【0088】
(1)原料の表面積を増大させるため、および二酸化炭素との相互作用のための新たな表面を提供するため、原料は、破砕および/または粉砕することができる。風化プロセスは、粒の表面および破砕/粉砕プロセスによって生じた微小クラック内でのみ発生するため、原料の風化を最大化するためには、利用可能な反応表面積を可能な限り最大限に増やすことが不可欠である。
【0089】
(2)破砕および粉砕された材料は、その後、ふるい、重力分離、空気分級機を用いて粒径選別され、海岸建設プロジェクトの工学的仕様に適合する平均粒径と全体的な粒径分布を有する最終製品を提供することができる。場合によっては、この工程は、過剰な細粒物質および/または粗粒粒子を除外するように設計され、炭素除去砂を受け入れる地理的地域の天然の土砂の粒径分布と厳密に一致する中間粒径物質を生成することができる。二酸化炭素除去成分群を個々に調製する代わりに、材料を様々な所定のサイズ範囲に事前に分類し、特定のプロジェクトでの使用に適した全体的な混合を達成するために、これらの事前に分類された分離物から選択および/または混合することも可能である。
【0090】
ほとんどの場合または全ての場合において、二酸化炭素除去成分は、質感、色、密度、および沿岸建設プロジェクトでの使用に適した工学的特性の組み合わせを達成するために、非炭素除去砂または土砂を混合することによって、さらに改良される可能性がある。これを達成するために、第3の工程が必要となる場合がある。
【0091】
(3)二酸化炭素を除去する鉱物成分は、特定の特性を提供する所定の比率を達成するために、1つ以上の非炭素除去砂材料または非炭素除去土砂材料と混合することができる。一般的な非炭素除去原料のリストを表2に示す。炭素除去成分1~50%からなる混合が最も一般的であろうが、本発明の他の変形例として、より高いまたはより低い割合の炭素除去成分を用いてもよい。
【0092】
【0093】
炭素除去砂の炭素除去成分と非炭素除去成分とを混合する目的は、色、質感、粒径、密度、凝集力、硬度などを含む様々な規制、美観、および工学的要件を満たす最終バルク製品を達成することである。炭素除去砂の炭素除去成分と非炭素除去成分との混合物を実現するために、個々の成分は、プロジェクトの期間にわたって適切な混合物を実現するような方法で、あらかじめ一緒に運ばれるか、別の実施形態では、別々にプロジェクトの場所に運ばれるか、配置されるかのいずれかであろう(すなわち、成分の混合は、コンベア、重機、生物攪乱、および/または波、潮汐、および/または潮流によって駆動される土砂の物理的運動を介して生じる)。最終的なバルク製品を得るための適切な方法を決定するために、土砂移動モデルを使用することができる。
【0094】
炭素除去砂の性能向上
別の態様において、本開示は、炭素除去砂として現場で使用するためのカンラン石を最適化するためのシステムおよび方法を提供する。このような最適化は、例えば、沿岸工学プロジェクトに適した1つ以上の炭素除去砂群を調製するために、炭素回収に使用するためのカンラン石の砂の最適な粒径分布を決定すること(粒径、色、混合物の組み合わせを網羅し、土砂移動モデルを使用することができる特定の場所に対する粒径分布および配置設計をモデル化することを含む)およびカンラン石を物理的および/または化学的に処理すること(例えば、機械を使用して)を含む場合がある。
【0095】
図4は、カンラン石と、非炭素除去砂とカンラン石との混合物とを示している。場合によっては、カンラン石を対象場所に配置する前に、カンラン石を天然の海岸砂と混合する場合がある。カンラン石を含む混合物は、重量または体積で少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、または30%のカンラン石を含む場合がある。場合によっては、混合物は、重量または体積で30%より多いカンラン石を含む場合がある。場合によっては、混合物は、重量または体積で5%未満のカンラン石を含む場合がある。場合によっては、混合物は、重量または体積で約5%から約30%までのカンラン石を含む場合がある。
【0096】
カンラン石(または任意の他の種類のアルカリ物質)を処理して、表面積の露出および/または微小破壊が増加した微粒子を生成することができ、それにより、溶解および二酸化炭素回収プロセスを加速することができる。カンラン石の溶解および二酸化炭素回収プロセスは、(i)風化しやすく可溶性の鉱物を使用すること、(ii)溶媒(例えば、水または海水)に曝されるカンラン石粒子の表面積の量を増やすこと、(iii)流体と鉱物との相互作用を高めること、および/または(iv)二次的な鉱物のコーティングまたは二次的な風化生成物の形成(例えば、二次的な粘土および炭酸塩相の沈殿)を低減または除去すること、によっても加速することができる。カンラン石の溶解および二酸化炭素回収プロセスは、生物攪乱、波、潮汐および/または潮流により、(1)カンラン石を配置場所から散布すること、(2)粒と粒の衝突を引き起こすこと、(3)上層の水をリフレッシュさせ、飽和度を低下させること、によってさらに加速され得る。
【0097】
カンラン石は、一般的な天然火山性鉱物で、石英に似た物理的性質を有する。カンラン石は、純粋な石英砂(1.43トン/cy)よりも23%密度が高いかもしれない。カンラン石砂は、一般的な珪酸塩の砂よりも約25%程度密度が高く、人工的に粉砕して自然な粒径と適合させることができるきれいな高地の砂である。より色の濃いカンラン石源とより明るいカンラン石源は、本来の砂の色と色を一致させる。カンラン石の1つの種類は、白カンラン石、または苦土カンラン石(Mg2SiO4)であり得る。これは、マグネシウムが豊富なカンラン石で、苦土カンラン石(Mg2SiO4)として知られている。1トンのカンラン石を風化させると、大気から最大1.25トンの二酸化炭素を除去することができる。
【0098】
配置材料の製造
別の態様において、本開示は、最適な溶解のために炭素除去砂を調製するためのシステムおよび方法を提供する。炭素除去砂粒は、カンラン石砂、またはカンラン石砂と天然もしくは異地の砂および土砂とを含む混合物を含む原料材料の一部であってもよい。
【0099】
場合によっては、この方法は、炭素除去砂の原料を粉砕して最適な粒径を得ることと、生のカンラン石または粉砕したカンラン石をペレットに凝集させることとを含んでもよい。カンラン石のこのような処理により、カンラン石の溶解が促進され、それにより、炭素回収プロセスを加速させる可能性がある。場合によっては、本方法はさらに、沿岸建設、浜辺の養浜および炭素回収を目的として、適合するカンラン石砂および天然の土砂を選択、粉砕、および/または製造することを含んでもよい。
【0100】
ペレット
いくつかの実施形態において、カンラン石微粒子から形成されるペレット化したカンラン石凝集体は、[1]結合剤(粘土、多糖類、タンパク質性化合物、樹脂、プラスチック、ガラスなどであるが、これらに限定されない)の使用、[2]結合剤または他の類似材料による小さいカンラン石粒子のカプセル化を介して、または[3]より大きい凝集体へのより小さいカンラン石粒子の熱融合または物理的圧縮を介して、を含む本明細書に開示される多くのプロセスを通じて調製することができる。
【0101】
いくつかの実施形態では、ペレットは、[4]内部多孔性および透過性によって改善された表面積を維持しながら実質的にそのままの状態を維持するか、または[5]制御された方法で分解して、長期間制御された方法でカンラン石微粒子を環境に放出する、ように設計することができる。場合によっては、[6]このようなペレットを調製することで、カンラン石の溶解が、同等の大きさの固体の純粋なカンラン石粒子の場合よりも実質的に速く起こり、それによって、カンラン石鉱物微粒子の使用や利用によってもたらされる美的、健康上、および生態的な害や課題を最小限に抑えながら、炭素回収プロセスを改善することができる。
【0102】
配置場所の選択
CCCを実施する場所の選択は、その方法の有効性にとって極めて重要かもしれない。重要な要素には、気候、天候、波の状態、潮汐、潮流、海水の循環パターン、土砂の組成、土砂の粒径、生態系、アクセスのしやすさ、およびソーシャルライセンスが含まれる場合がある。場合によっては、環境アセスメントは、営巣地のためなど、絶滅危惧種(threatened)、絶滅危惧種(endangered)、保護種、または文化的に重要な種の有無、および土砂に対するそれぞれの感度の特定に使用される場合がある。場合によっては、土砂移動モデルは、場所の選択を通知し、地理的地域における物理的な土砂の挙動を予測するために使用される場合がある。さらに他の場合には、反応性移動地球化学モデルは、1つ以上の既知の生物学的、化学的、または生態学的特性または特徴を有する対象環境における炭素除去砂の分布シミュレーションのために使用される場合がある。さらに他のケースでは、地域海洋モデルシステムまたは地球システムモデルは、大気-海水-二酸化炭素ガスフラックスを追跡し、大気-海水の二酸化炭素交換と炭素除去のための十分な時間を確保するために使用される場合がある。場合によっては、土砂移動、反応移動、および地域モデルまたは地球システムモデルを結合、統合、または反復的に使用して、配置場所の選定に情報を提供する場合がある。
【0103】
場合によっては、炭素除去砂が導入される場所を調整するために、センサ(遠隔、現場、現場外)を使用して得られた測定値が使用される場合がある。
【0104】
場合によっては、炭素除去砂が導入される場所を最適化するために、地球化学モデル(例えば、反応-移動)が使用される場合がある。モデルは、土砂の間隙水プロファイル、水柱および間隙水の化学的性質(例えば、pCO2、DIC、pH、DO、TA、栄養素、金属、DOC)、固相化学的性質および底生フラックス、二次粘土鉱物学、および微量金属のスペシエーションと循環をシミュレートするように構成することができる。
【0105】
配置場所の設計
配置の工学的設計は、沿岸建設の目標を達成し、炭素を回収し、環境的または文化的影響を最小化または排除することに成功するために極めて重要である。
【0106】
場合によっては、土砂移動モデルは、配置の量、配置の物理的分布、土砂の分別、対象地域内の配置の位置、および配置形状を含む配置設計に情報を提供するために使用される場合がある。
【0107】
場合によっては、センサ(遠隔、現場、現場外)を使用して得られた測定値を使用して、炭素除去砂または混合物が配置される構成/形態を調整する場合がある。
【0108】
場合によっては、地球化学モデル(例えば、反応-移動)は、炭素除去砂または混合砂が分散配置される構成/形態を最適化するために使用される場合がある。モデルは、土砂の間隙水プロファイル、水柱および間隙水の化学的性質(例えば、pCO2、DIC、pH、DO、TA、栄養素、金属、DOC)、固相化学的性質および底生フラックス、二次粘土鉱物学、微量金属のスペシエーションと循環をシミュレートするように構成することができる。場合によっては、モデルは、1つ以上の既知の生物学的、化学的、または生態学的特性または特徴を有する対象環境における炭素除去砂の分布のシミュレーションに使用することができる。
【0109】
土砂移動データおよびモデルは、異なる設計シナリオの下で、炭素除去砂の溶解、アルカリ性生成、微量金属溶解、および栄養素の利用可能性を含むがこれらに限定されない地球化学的パラメータを予測および/または制約するために、地球化学反応-移動データおよびモデルとリンクさせる場合がある。土砂移動モデルと反応-移動モデルは、設計シナリオおよび環境条件が異なる場合、生態学的または文化的に重要な地域における炭素除去砂の有無など、潜在的な環境への影響を知らせるために、一緒に、または別々に使用することができる。
【0110】
出荷および分配
[7]別の態様において、本開示は、カンラン石の出荷および配置のためのシステムおよび方法を提供する。場合によっては、カンラン石の出荷および配置は、浅い海洋環境において炭素除去砂を分配するための装置を用いて行うことができる。この装置は、例えば、カンラン石を対象場所(例えば、関心のある海岸)において所望または最適な方法で散布するための散布装置であってもよい。
【0111】
場合によっては、本開示の方法は、炭素除去砂を最適に分配するために、1つ以上の浚渫活動または他の局所的な修正が必要かどうかを決定することを含む場合がある。このような決定は、1つ以上のセンサの読み取り値、および/または炭素除去砂が分配される対象場所に関する情報に基づいて行う場合がある。
【0112】
場合によっては、炭素除去砂の出荷および分配を容易にするために、出荷前に炭素除去砂を処理してもよい。例えば、カンラン石は、(例えば、液状化または転覆リスクの低減のために)超微細材料の移動を可能にするように改質されてもよい。
【0113】
場合によっては、センサ(例えば遠隔、現場、現場外)を用いて得られた測定値を用いて、炭素除去砂が導入される速度および炭素除去砂が分配される方法を調整することができる。
【0114】
いくつかの実施形態では、様々な種類および形態の海洋排出削減技術(例えば、バラスト水を使用して船舶エンジンによって駆動される船上オリビン反応器)を実施する場合がある。場合によっては、ばら積み貨物船の直接配置技術および関連する改良(例えば、現場での風化のための外洋分配)を利用する場合がある。場合によっては、配置前の濁度低減のために、穀物洗浄および液体アルカリ性システムを使用することができる。
【0115】
場合によっては、グローバルロジスティクスソフトウェアを使用して、炭素除去砂を含む炭素除去プロジェクトのために、遊休海上資産を動員する場合がある。
【0116】
図9は、沿岸工学プロジェクトにおいて炭素除去砂を配置するために使用され得るシステムの一例を概略的に示している。このシステムは、例えば、スプリットハルホッパーバージ(split hulled hopper barge)を備える。場合によっては、炭素除去鉱物を含む岩石を採掘し、粉砕して炭素除去砂成分とし、ドライバルク船に積み込んで指定港に輸送する場合がある。炭素除去砂成分は、その後、1隻以上のスプリットハルホッパーバージに積み込むことができる。いくつかの実施形態では、バージは連結され、指定の配置場所まで曳航される。バージが指定の配置場所またはその近くに配置されると、炭素除去砂成分を指定の速度で配置して炭素除去砂の現場での生産をもたらすために、バージの底は開くように構成することができる。場合によっては、土砂移動モデリングを使用して、炭素除去砂が配置された後、どこでどのように移動するのか、また、異なる環境条件下で炭素除去砂がどの方向に拡散しそうなのかを予測することができる。
【0117】
従来の浚渫作業中、化石燃料の燃焼中に発生する二酸化炭素の排出を削減、回避、またはなくすべく、[1]特定量の二酸化炭素を正味で回収し、[2]浚渫土砂または他の土砂が処分または有益な再利用のための工学的要件および規制要件を満たすようにするために、所定の比率の炭素除去砂を浚渫土砂と混合することができる。炭素除去砂成分1~50%からなる混合物が最も一般的であるが、他の変形例では、より高いまたはより低い量の炭素除去砂成分を用いてもよい。
【0118】
炭素除去砂を浚渫土砂と混合するため、浚渫作業の種類と浚渫土砂の意図した割合に応じて、いくつかの異なる手法を用いることができる。カッターヘッド浚渫作業、ポンプアウトホッパー浚渫、および浚渫材料が水文スラリーを介して運搬される他の方法の最中に、炭素除去砂をスラリーパイプラインに注入することによって、炭素除去砂を浚渫土砂と直接混合することができる。後方吸引ホッパー浚渫船を使用する場合、炭素除去砂は、排出前に土砂ホッパーまたはバージ内で混合することができる。別の方法として、炭素除去砂は、指定の量だけ土砂の目的地に直接置かれ、生物撹乱、風、波、潮汐、および潮流の作用によって浚渫土砂と混合するようにしてもよい。
【0119】
炭素除去海洋埋立地キャップ
別の態様において、本開示は、炭素除去海洋埋立地キャップ、その製造プロセス、および炭素除去海洋埋立地キャップからの炭素回収を定量化するプロセスを提供する。海洋埋立地は、不要な建設残土、浚渫土砂、および有毒汚染物質の長期的な海底置き場として機能する場合がある。現在、海洋埋立地は多くの場合、無害な粘土や砂、あるいはその他の類似物質で「キャップ」され、その上の海水の汚染を防ぎ、以前は環境が損なわれていた場所でも海洋生物が生息できるようにしている。炭素除去砂を海洋埋立地キャップの全体または構成要素として使用することで、これらの埋立地は、気候変動を緩和する場所として機能し、海洋酸性化を相殺するとともに海洋生物に有益である重炭酸塩(アルカリ性)の生成を通じて、環境が損なわれていた場所の再生をさらに促進することができる。
【0120】
炭素除去海洋埋立地キャップを製造および配置するプロセスは、従来の海洋埋立地キャップとは異なるが、それは、1)炭素除去キャップ砂の深さ(厚さ)、2)炭素除去キャップ砂の粒径分布、3)炭素除去キャップと標準的なキャップの可能な混合が、1)有毒汚染物質などの放出を防ぐ一方で、炭素除去キャップ砂が長期にわたって炭素を回収し、特に炭素除去反応が遅くなったり止まったりするような間隙水の飽和を起こさないように十分な浸透性を確保するために最適化されなければならないからである。これらの目的を達成するために、炭素除去海洋埋立地キャップは、全体がキャップとして配置されるか、炭素除去キャップと非二酸化炭素反応性キャップ砂の単一混合物として適用されるか、あるいは炭素除去キャップ砂と非二酸化炭素除去キャップ砂の割合が深さによって変化する層、または炭素除去キャップおよび/または非二酸化炭素除去キャップの粒径分布が深さによって変化する層に適用される場合がある。どのような状況においても、炭素回収率は、深さによって変化し得る。場合によっては、炭素回収率は、グローバルモデルに適合させた特定の場所からの分析測定値およびセンサ測定値に基づいて決定される場合がある。いくつかの実施形態では、キャップが実際に炭素を除去していることを保証するため、炭素除去キャップを配置するために放出される二酸化炭素を考慮しなければいけないので、上述の適切な配置技術は、現地の波浪気候、生態学(生物攪乱)、海水温、埋立材料、およびLCA(ライフサイクル分析)の関数であり得る。
【0121】
測定、報告、および検証(MRV)
[5]別の態様において、本開示は、広い沿岸地域にわたる炭素除去における炭素除去砂の生態学的効果だけでなく、炭素除去の測定、報告、および検証(MRV)のためのシステムおよび方法を提供する。このような炭素除去の測定、報告、および検証は、1つ以上の遠隔センサ、現場センサ、そのようなセンサの使用のためのプロトコル(例えば、底生フラックスチャンバを使用したセンサの配置)、現場外(例えば、「ベンチトップ」センサおよび機器)、およびセンサの読み取り値から得られ、導出されたデータを解釈するためのアルゴリズムを使用して実行することができる。場合によっては、センサの読み取り値は、アルカリ度、DIC、pCO2、pH、塩分、導電率、溶存酸素、栄養素、微量金属、有機炭素、水温、波浪活動、ならびに/または追加の化学的および物理的特性の測定値を含む場合がある。MRVのためのシステムおよび方法は、センサデータと、反応-移動モデル、土砂移動モデル、地域海洋システムモデル、地球システムモデル、または前述のモデルの一部または全ての組み合わせ(coupling)との統合を組み込む場合もある。現在開示されているシステムは、炭素除去砂の溶解と、それに続く炭素除去砂の溶解に基づく二酸化炭素の回収を証明するために使用される場合がある。場合によっては、本明細書に開示されるシステムおよび方法は、移動および溶解を予測するために(例えば、対象場所における炭素除去砂の溶解をシミュレーションまたは予測するための1つ以上のモデルを利用することによって)実施される場合がある。
【0122】
関連する態様において、本開示は、対象場所または環境をシミュレートするためのシステムおよび方法を提供し、このシステムおよび方法は、実験室条件と現場条件との中間の制御された環境における炭素除去砂溶解速度の研究を可能にすることができる。そのようなシステムおよび方法は、炭素除去砂の溶解速度、間隙水もしくは水柱の地球化学、または底生フラックスの測定を決定かつ/または監視し、炭素除去砂の溶解および呼吸に対する温度の影響を研究し、海水pHおよび他の水化学への影響を追跡し、生態学的反応および大気-海水ガス二酸化炭素フラックスを監視し、微量金属の行方、移動、および生物蓄積を追跡し、二次風化物(例えば、クリソタイル、炭酸塩、粘土)の形成を追跡し、ならびに底生無脊椎動物/生物相への炭素除去砂からの二酸化炭素隔離プロセスの影響を監視するために実施される場合がある。
【0123】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるMRV方法およびプロトコルは、異なる種類の炭素除去砂、または炭素除去砂分布の異なる対象場所に対して適合または調整される場合がある。そのような場合、炭素除去砂の溶解、反応フラックス、および/または炭素隔離を予測または決定するために使用されるモデルは、使用される特定の炭素除去砂と非炭素除去砂との混合物の特性、対象場所、および/または現場で得られる1つ以上のセンサの読み取り値または測定値に基づいて調整される場合がある。
【0124】
モデルは、土砂間隙水プロファイル、水柱および間隙水化学(例えば、pCO2、DIC、pH、DO、TA、栄養素、金属、DOC)、固相化学および底生フラックス、二次粘土鉱物学、ならびに微量金属種分化および循環をシミュレートするように構成される場合がある。
【0125】
場合によっては、1つ以上のセンサを使用して、炭素除去砂の溶解速度(間隙水地球化学、底生フラックス測定)、二酸化炭素の取り込み、海水の脱酸、水化学への影響、生態学的反応、微量金属の行方、移動、および生物蓄積、ならびに/または二次風化物(例えば、クリソタイル、炭酸塩、粘土)の形成を監視かつ追跡する場合がある。場合によっては、同位体トレーサーを使用して、炭素除去砂の溶解、ならびに二次的な粘土および炭酸塩相の同時沈殿を追跡する場合がある。センサはまた、経時的な炭素除去砂粒子の追跡(すなわち、染料/トレーサーを用いたカンラン石の物理的追跡など)にも用いられる場合がある。
【0126】
場合によっては、1つ以上のセンサは、土砂移動モデルおよび反応移動モデルの開発、較正、および/または検証に用いられる場合がある。
【0127】
場合によっては、反応-移動モデル、土砂移動モデル、地域海洋モデルシステム、および地球システムモデルを使用して、炭素除去砂の溶解速度のシミュレーションまたは予測、カンラン石の溶解および呼吸の温度の影響の研究、海水pHへの影響の追跡、大気-海水ガス二酸化炭素フラックスの追跡、微量金属の行方および移動の監視ならびに評価、底生無脊椎動物/生物相への影響の評価、土砂の特性(例えば、鉱物の変化、二次炭酸塩/粘土の形成)の追跡、気象学および水文学(例えば、温度、風速/方向、降水量、塩分濃度、濁度、潮流)の影響のモニタリング、あるいは物理的な土砂移動および/または炭素除去砂の再分布のシミュレーションを行う場合がある。
【0128】
場合によっては、土砂移動モデルを使用して、沿岸環境における配置後の炭素除去砂の再分布、沿岸建設への利益、配置前の沿岸プロセスへの影響、物理的風化、垂直方向および水平方向の土砂の分別、濁度、および波の状態を含むがこれらに限定されない物理的挙動を予測かつ定量化する場合がある。
【0129】
場合によっては、土砂移動モデル、反応-移動モデル、地域海洋システムモデル、および地球システムモデルは、配置場所の選択、理想的な炭素除去砂および砂混合物の特性、配置設計、環境への影響、海洋酸性化への影響、アルカリ度の変化、栄養素の利用可能性、微量金属の行方、および大気中の二酸化炭素除去に関する情報を提供するために、結合されるか、統合されるか、または反復的に使用される場合がある。場合によっては、風化に関連する追加的な特性および影響についての情報を提供するためにモデルを使用する場合がある。
【0130】
本開示はまた、二酸化炭素消費量を計算し、炭素除去を測定、記録、および検証するように構成されたソフトウェアを提供する。このソフトウェアは、1つ以上のセンサ読み取り値、モデル出力、および/または1つ以上の入力パラメータに基づいて、二酸化炭素消費量および/または炭素除去量を決定するように構成される場合がある。1つ以上の入力パラメータは、例えば、使用される炭素除去砂の物理的または化学的特性、非炭素除去砂に対する炭素除去の割合、炭素除去砂が分配される場所、対象場所に分配される炭素除去砂の量、または炭素除去砂が分配される方法/構成(例えば、分配の方法、分配の形態、または分配の空間的特性)に関連する場合がある。場合によっては、センサの読み取り値は、アルカリ度、DIC、pCO2、pH、塩分、導電率、溶存酸素、栄養素、微量金属、有機炭素、水温、波浪活動、潮流、および/または追加の化学的および物理的特性の測定値を含む場合がある。
【0131】
1つの態様において、本開示は、炭素除去(例えば、炭素除去砂を使用する沿岸炭素回収の方法による)を測定、報告、および検証(MRV)するための方法およびプロトコルを提供する。
図12を参照すると、プロトコルは、検証のために独立した第三者機関(例えば、学者、機関など)に提出される場合がある。検証後、プロトコルは、個人または機関によって実施される場合がある。追加の第三者機関がコンプライアンスを保証および確認することもある。MRVプロトコルを実施する個人または機関は、その後、第三者によって検証される準拠した方法論を炭素クレジットの検証者に提出することができ、国内市場および/または国際市場で販売するために、オフセットまたはクレジットが登記簿上で発行される場合がある。
【0132】
さらなる態様において、本開示は、大気中の温室効果ガスの排出に関して、低排出、カーボンニュートラル、またはカーボンネガティブの沿岸建設プロジェクトを実施するための方法およびプロセスを提供する。これを達成するために、沿岸回復プロジェクトで使用される土砂は、本明細書の他の箇所に記載されているように、1種類以上の炭素除去砂と混合されてもよく、プロジェクトの方法およびプロセスについてライフサイクル分析が実施されなければならない。
【0133】
さらに、本開示は、低排出、カーボンニュートラル、またはカーボンネガティブの浚渫作業を実施する方法およびプロセスを提供する。浚渫作業を実施する方法およびプロセスは、大気中の温室効果ガス排出に関して、正味中立または正味負のいずれであってもよい。これを達成するために、浚渫土砂は、本明細書の他の箇所に記載されているように、1種類以上の炭素除去砂と混合されてもよく、プロジェクトの方法と工程についてライフサイクル分析が実施されなければならない。
【0134】
本明細書で説明される方法とプロセスは、陸上建設活動を含むあらゆる種類の建設活動に適用することができ、そのような活動の全てを低排出、カーボンニュートラル、 またはカーボンマイナスにする可能性がある。
【0135】
従来の浚渫作業は大量の燃料を消費し、それに対応して大量の温室効果ガスを排出するのに対して、ここで説明される方法およびプロセスは、浚渫作業を、プロジェクトの存続期間にわたってカーボンニュートラルまたはカーボンネガティブな方法で実施することを可能にするができる。この方法とプロセスには大きな利点があり、浚渫事業者は、(i)自らまたはそのクライアントに代わって二酸化炭素の排出量を軽減し、(ii)排出量の上限と税金を回避し、(iii)温室効果ガスの排出に自発的または非自発的な制限を課す管轄区域で操業することができる。
【0136】
図13~
図14および
図36は、カンラン石を炭素除去砂として対象場所に導入した場合に(例えば、カンラン石の砂を砂浜に加え、カンラン石の砂を天然の砂浜の砂と混合することによって)、沿岸炭素回収が生じる化学的メカニズムを表す反応を示す。他の炭素除去砂では計算が異なる可能性があるが、カンラン石1モル(このカンラン石は、本明細書に記載される物理的もしくは化学的な特性または組成のいずれかを備えるか、または示す場合がある)ごとに、4モルの二酸化炭素が消費または回収され、4モルのアルカリ物質(重炭酸塩またはHCO
3
-)が生成される場合がある。
【0137】
図15~
図20は、海水を含む第1の層と、土砂および間隙水を含む第2の層とを含む環境を示す。土砂と間隙水は、約10センチメートル(cm)または約4インチ(in)の寸法に及ぶ場合がある。
図13~
図14および
図36に関連して示され、説明される反応は、二酸化炭素(例えば、大気中または海水中の二酸化炭素)の回収、およびマグネシウム、重炭酸塩、ならびにケイ酸の放出を促進する場合がある。全体の反応速度は、二酸化炭素の回収およびアルカリ性物質の溶解に関連するスペシエーションのフラックスに基づいて決定される場合がある。
【0138】
図21は、生成されるアルカリ性物質のフラックスを決定するための間隙水法の概要を示す。間隙水法は、フィックの拡散の第一法則に基づき得る。アルカリ性物質のフラックスは、拡散係数(単位時間あたりの面積を表す)とdC/dZ値(位置または寸法長さの関数として、単位体積あたりの物質の濃度または量の変化を表す)に基づいて決定することができる。間隙水中にカンラン石が存在する場合、より大きなフラックスが観察される(勾配が急でフラックスが大きい)可能性があり、一方、カンラン石が存在しない場合、より小さなフラックスが観察される(勾配が浅くフラックスが小さい)可能性がある。
【0139】
図22は、例示的なカンラン石粒子の変形体積と未変形体積を含む収縮コアモデルを示す。収縮コアモデルは、X=1-[1-R/(ρ×d)×t]
3で表すことができ、ここで、Xは、反応したカンラン石の割合であり、Rは、pHと温度の関数であり、ρは、モル密度であり、dは、開始直径であり、tは、時間を表す。このモデルの1つの仮定は、粒子が完全な球体であることである。
【0140】
図23は、様々な粒径を有するカンラン石の溶解速度を示す。経時的に風化したカンラン石の割合は、より小さい粒径を有するカンラン石粒子ほど急速に増加する可能性がある。例えば、30ミクロンの粒径のカンラン石の場合、3年以内に10%のカンラン石が風化し、18年以内に50%のカンラン石が風化し、47年以内に90%のカンラン石が風化する可能性がある。一方、64ミクロンの粒径を有するカンラン石の場合、6年以内に10%のカンラン石が風化し、39年以内に50%のカンラン石が風化し、101年以内に90%のカンラン石が風化する可能性がある。ここで示した速度は、一般に無機化学プロセスに基づく静的溶解速度であり、波のエネルギーおよび生物学的プロセスによる風化の加速を含まない場合がある。
【0141】
図24は、粒子分布の例示的なモデル化アプローチを示す。1つのステップにおいて、モデル化アプローチは、所望の粒径分布に適合するように粒子をシミュレートすることを含む場合がある。モデル化アプローチは、時間の関数として残存する質量の割合を決定するために、(例えば、各粒子の1つ以上の部分または層の溶解または浸食をシミュレートするために)ある期間にわたって各粒子を収縮させ、その後、粒子の総質量および/または様々な時点で溶解または浸食された総量を合計することをさらに含む場合がある。
【0142】
図25は、異なる平均粒径を有するカンラン石の異なる混合物の溶解速度を示す。一般に、平均粒径が小さいカンラン石の混合物は、半減期が短い(すなわち、特定の条件下でカンラン石の組成物の半分が溶解するまでの時間が短い)可能性がある。
【0143】
図26は、半減期に対する温度とpHの影響を示す。場合によっては、カンラン石溶解の半減期は、温度が上昇するにつれて短くなる場合がある。場合によっては、カンラン石溶解の半減期は、pHが増加するにつれて増加する場合がある。いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるシステムおよび方法は、カンラン石溶解の半減期を短縮するために、カンラン石の溶解環境の温度およびpHを最適化するように実施され得る。他の実施形態では、本明細書に開示されるシステムおよび方法は、カンラン石溶解の半減期を短縮するために、カンラン石溶解環境に最適な温度およびpHを有する候補場所を特定するために実施される場合がある。
【0144】
本明細書で開示するシステムおよび方法は、空間的および時間的不均一性、カンラン石の溶解が遅いことによるMRVの主要パラメータの低い信号/ノイズ比、および二次鉱物生成物の生成のばらつきに関する課題を克服するように構成または実施される場合があるる。本明細書で開示されるシステムおよび方法は、例えば、炭素クレジット販売の受け入れおよび検証のための客観的基準、ならびに沿岸の風化プロセスに適応させるためにそのような基準に影響を与える方法などの検証の課題を克服するのにも役立つ場合がある。
【0145】
本開示は、炭素回収および/またはカンラン石溶解のMRV(すなわち、測定、報告、および検証)を実施するための方法を提供する。場合によっては、方法は、処理場所および参照場所または基準場所を確立することを含む場合がある。本方法はさらに、離散的な場所のネットワークにおいてアルカリ度フラックスおよび/または他のパラメータを測定することを含む場合がある。場合によっては、カンラン石の溶解に伴い、これが経時的に繰り返される場合がある。本方法はさらに、時間および空間にわたって補間し、場所の面積または体積にわたる全体的な炭素除去速度および/または溶解速度を決定することを含む場合がある。場合によっては、場所全体にわたる全体的な炭素除去速度および/または溶解速度は、測定データに適合する数値反応-移動モデルを部分的に使用して決定される場合がある。場合によっては、時間および空間を通じて炭素除去砂の位置および濃度を示す土砂移動モデルを使用して、場所全体の炭素除去速度および/または溶解速度が部分的に決定される場合がある。
【0146】
図27は、沿岸生態系で変動し得る時間的要因および空間的要因の例を示しており、その多くは極めて動的である。時間的要因には、例えば、日周要因(すなわち、昼夜の変動)、潮汐、季節性、気温、天候、および/または波が含まれる場合がある。空間的要因には、例えば、位置および流体力学、水深、潮汐、土砂の種類、粒径、土砂の有機炭素含有量、および/または海底のカバー(例えば、海草、岩、サンゴ等)が含まれる場合がある。
【0147】
場合によっては、本明細書に開示する方法は、例えば、水深、温度、塩分、pH、濁度、クロロフィル濃度、および/または溶存酸素濃度を経時的に測定することによって、時間的不均一性を評価または査定することを含む場合がある。
図28は、水深、塩分、濁度、温度、溶存酸素、およびpHを含む、対象場所の様々な特性の時間的不均一性のプロットを示す。場合によっては、カンラン石の分布と溶解の対象場所は、他の候補場所または基準場所/参照場所と比較した時間的不均一性に基づいて選択される場合がある。
【0148】
図29~
図31に示すように、場合によっては、本明細書に開示する方法は、炭素クレジットを確保するために、アルカリ度フラックスを計算し、カンラン石の溶解速度を測定することを含む場合がある。カンラン石によってもたらされるアルカリ度フラックスは、カンラン石によるアルカリ度フラックスの変化を他の自然のバックグラウンドフラックスと識別することによって決定される場合がある。場合によっては、溶存無機炭素(DIC)フラックスおよびpCO
2フラックスなど、カンラン石に起因する他のフラックスは、測定されたフラックスと自然のバックグラウンドフラックスとの比較に基づいて決定される場合がある。カンラン石の溶解に起因するフラックスおよび/または自然のバックグラウンドフラックスは、空間および時間に依存する場合がある。そのような空間的および時間的変動は、自然のバックグラウンドフラックスとは対照的に、カンラン石に起因するフラックスの正確な計算を保証するため、シミュレーション、モデル化、追跡、および/または測定される場合がある。
【0149】
別の態様では、本開示は、MRVの不均一性を考慮するための様々な方法を提供する。
図32は、コストと複雑さの異なるスケールで、以下に説明するMRV方法の要約を示す。これらの方法は、独立して使用することも、組み合わせて使用することも、全てを使用することもできる。
【0150】
方法1-場合によっては、本方法は、本明細書の他の箇所に記載されている収縮核モデルを用いて、おおよその溶解速度を求める方法を含む場合がある。溶解速度および二酸化炭素/炭素除去砂の割合は、推定または概算することができる。
【0151】
方法2-あるいは、地域的なカンラン石の溶解速度を決定するために、メソコスム実験を利用する場合がある。さらに、この方法は、時空間的不均一性を維持および制御し、さらに温度および/または照明の制御が可能なように構成された、密閉された再循環設計を用いて最初に試験することができる。
【0152】
カンラン石が対象場所(例えば、メソコスムまたは自然環境)に配置される場合、カンラン石トレーサーは、現場での風化速度をモデル化して精緻化するために、カンラン石の溶解を追跡するために使用される場合がある。
【0153】
本開示は、対象場所におけるカンラン石粒子の移動を追跡するシステムおよび方法を提供する。本開示のシステムおよび方法は、例えば、微量金属含有量、蛍光色素、および/またはカンラン石固有のスペクトル特性に基づいて、またはこれらを使用して、対象場所におけるカンラン石の移動を追跡するために実施される場合がある。これは、規制上の許可を得る前に設定できる比較的安価なプロセスであるかもしれない。
【0154】
方法3-場合によっては、本明細書に記載されるメソコスムをベースとする方法は、現場データ(例えば、1つ以上のセンサを使用して現場で手動または自動で得られるもの、または代表的な現場サンプルの抽出によって現場外で取得されるもの)で補強される場合がある。1つ以上のセンサ(この1つ以上のセンサは、本明細書に記載されるセンサのいずれか、または本明細書で言及される測定値のいずれかを得るための他のセンサのいずれかを含む場合がある)を使用して得られるデータは、カンラン石の溶解および沿岸炭素回収に関連する環境条件またはパラメータの空間的および/または時間的変動をより適切に定量化および追跡するための追加情報を提供する場合がある。
【0155】
方法4-場合によっては、現場ベースの方法は、現場データ(例えば、1つ以上のセンサを使用して現場で手動または自動で得られる現場データ、または代表的な現場サンプルの抽出によって現場外で得られるデータ)を得るためにのみ使用される場合がある。1つ以上のセンサ(この1つ以上のセンサは、本明細書に記載されるセンサのいずれか、または本明細書で言及される測定値のいずれかを得るための他のセンサのいずれかを含む場合がある)を使用して得られるデータは、カンラン石の溶解、炭素除去、土砂移動を定量化し、カンラン石の溶解および沿岸炭素回収に関連する環境条件またはパラメータの空間的および/または時間的変動を追跡するのに十分な情報を提供する場合がある。
【0156】
方法5-場合によっては、バックグラウンドフラックスとカンラン石の溶解速度の空間的および時間的変動を正確にシミュレーションできる数値モデルが構築される場合がある。これにより、時間および空間に依存する変動を補正することができ、モデルを較正、検証、および立証するために、離散点(例えば、時間内の点および/または空間内の点)におけるスパース観測または他の情報もしくはデータを使用することができる。モデルは、1つ以上の事前シミュレーションのために構築され、実施される場合がある。
【0157】
カンラン石が自然環境に配置されている場合、現場での風化速度を推定、予測、モデル化、および精緻化するために、カンラン石トレーサーを使用してカンラン石の溶解を追跡する場合がある。
【0158】
本開示は、自然環境(例えば、カンラン石が提供または導入される対象場所)におけるカンラン石粒子の動きまたは移動を追跡するためのシステムおよび方法を提供する。本開示のシステムおよび方法は、例えば、微量金属含有量、蛍光色素、および/またはカンラン石固有のスペクトル特性に基づいて、またはこれらを使用して、カンラン石の移動を追跡するために実施される場合がある。微量金属含有量、蛍光色素の移動または分散、および/またはカンラン石固有のスペクトル特性は、本明細書に記載されるセンサのいずれかを使用して検出および追跡される場合がある。
【0159】
図33は、土砂の間隙水プロファイル、固相化学、および底生フラックスをシミュレーションするために使用できる、反応-移動モデル化研究の様々な例を示す。シミュレーションおよび研究は、プロジェクトの要件に合わせて調整することができ、二次鉱物の形成、および微量金属のスペシエーションと循環を考慮に入れることができる。
図33に示すプロットは、アルカリ性プロフィールの例示的な数値シミュレーションと、厚さ2センチ(cm)のカンラン石砂の層を海岸土砂に散布した場合の影響を示す。場合によっては、(1)土砂中のカンラン石溶解の生物地球化学モデルを構築し、(2)土砂-水のアルカリ度フラックス(および他の炭酸塩パラメータ)の現場測定値を用いてモデル性能を検証し、(3)大気-海洋二酸化炭素交換の熱力学および海洋炭酸塩システムの既知の挙動に基づいて、二酸化炭素の回収、貯蔵、または隔離を(重量または体積で)計算することによって、土砂と水の界面にわたるアルカリ度フラックスを監視することができる。
【0160】
本明細書に開示されるシステムおよび方法は、最適な空間分解能および時間分解能で測定可能な1つ以上のセンサを用いて実施される場合がある。本明細書で使用される場合、センサは、リモートセンシングが可能なセンサ(ブイを介し、ドローン調査などで使用する場合を含む)、ベンチトップセンサ(すなわち、従来の分析装置)、および他のセンサを指す場合がある。センサは、労働集約的な現場サンプリングと分析のためのラボへのサンプルの返送を必要とし、多大なコストを伴う可能性のある、従来の手作業による地球化学的方法を使用する必要性を排除することができる。
図34は、温度、塩分、pH、pCO
2、DIC、アルカリ度、酸化還元、および/または砂への波の影響を測定するように構成されたセンサを含む、MRVに使用できるセンサの様々な例を示す。場合によっては、海水(カンラン石を含む海水または含まない海水を含む)の全アルカリ度とpHを同時に測定するためのソリッドステートセンサを使用することができる。いくつかの実施形態では、MRV用の複数のセンサが単一のシステムに配置される場合がある。他の実施形態では、MRVのための複数のセンサは、複数の別個のシステムに配置される場合がある。
図35には、ケイ酸塩センサ、アルカリセンサ、CTDOセンサ、Cytochips、溶存無機炭素センサ、および硝酸塩センサを含む、センサの追加の例が示されている。場合によっては、
29Si同位体トレーサーを用いて、カンラン石の溶解と同時に二次粘土や炭酸塩相の沈殿を追跡することができる。これにより、全ケイ酸塩溶解と正味のケイ酸塩溶解を分離して追跡することができる。
【0161】
場合によっては、物理的な波による風化が海岸の砂に及ぼす影響とカンラン石の溶解を測定またはシミュレートする場合がある。場合によっては、これには、砕波の海底境界層における2相(すなわち、砂-水)の流れを測定および解析することが含まれる場合がある。これは、数値的または物理的に(例えば、ウェーブタンクを使用して)モデル化される場合がある。場合によっては、物理的な波による風化の影響を測定するために、乱流エネルギー散逸を測定するための特殊なセンサ(例えば、研究室内、または海岸で直接)が利用される場合がある。
【0162】
図37は、
図36に示す反応によって可能になる、二酸化炭素除去を測定する方法を示す。場合によっては、大気から海への二酸化炭素フラックスをモニターすることが不可能な場合がある。カンラン石の溶解シグナルは、外洋の海水で希釈されると非常に弱くなるため、大気から海への二酸化炭素フラックスの測定は困難であり得る。正味の二酸化炭素フラックスの測定は、局所的な光合成および呼吸の変化によるΔpCO
2空気-海の極端な季節変動および日内変動によって複雑になり得る。したがって、いくつかの実施形態では、本明細書に開示するシステムおよび方法は、土砂と水の界面にわたるアルカリ度フラックスを監視するために実施される場合がある。
【0163】
場合によっては、本明細書に記載のモデル(特定の場所に対して生成される可能性のあるモデル)は、検証を含む試験の段階を経る場合がある。このような検証には、空間的および/または時間的な1つ以上の基準点における、地形学的または地質学的特徴およびその特性、流体力学的条件、土砂の移動、天候、カンラン石の存在量、空間的分布、すなわちカンラン石、非カンラン石物質および天然の土砂、および/または溶解速度などのデータセットを評価することが含まれる場合がある。場合によっては、基準点は、格子状に配置される場合がある。検証はさらに、基準点において測定され、モデル化されたアルカリ度フラックスとカンラン石溶解を検証すること、および(i)配置された既知のカンラン石の質量または体積、および(ii)検証された場所固有のモデル化に基づいて、地域またはプロジェクトのアルカリ度フラックスを計算することを含む場合がある。モデルは、本明細書の他の箇所に記載されているように、1つ以上のセンサ測定値を用いて検証される場合がある。場合によっては、マイクロコズム、メソコスム、およびカンラン石が配置される現場条件で配置される、または現場条件を模擬した底生フラックスチャンバのデータを用いて、モデルを検証する場合がある。いったん検証されると、カンラン石の移動、カンラン石の溶解、反応フラックス、および/または炭素隔離を決定または予測するために、モデルを使用する場合がある。場合によっては、一定期間にわたって取得された追加のセンサ測定値、または現場や実験室での実験から得られた追加データに基づいて、モデルを更新または改良する場合がある。
【0164】
図38は、増加するアルカリ度の関数として、水のDIC貯蔵量がどのように変化するかの式に基づき、アルカリ度フラックスから二酸化炭素隔離を計算する方法を示す。海水の炭酸塩化学は、pCO
2、pH、DIC、およびアルカリ度によって制御することができる。pCO
2、水温、塩分濃度を一定にした条件下で、DICの変化に対するアルカリ度の変化に基づいて等塩分係数(isocapnic quotient)を算出することができる。場合によっては、アルカリ度が1マイクロモル増加すると、DICが0.78~0.93マイクロモル増加する場合があり、これは、対象場所に提供される1トンの苦土カンラン石ごとに、0.97~1.16トンの二酸化炭素を海洋DICとして貯蔵できることを意味する。
【0165】
図39は、大西洋の海水年齢と海水面下の深さを緯度(北緯)の関数として示すプロットを示す。海洋アルカリ化による二酸化炭素の回収には、アルカリ性を高めた水塊が大気中のpCO
2と平衡になることが必要である。pCO
2平衡(~4ヶ月)とDIC調整(~4年)の正確なタイムスケールは、ルベール係数に依存する。大気と海洋の平衡の時間スケールは、カンラン石の溶解の時間スケール(~10から100年)よりもかなり短く、混合層と亜熱帯モード水の通過時間分布(~10から40年)とほぼ同じである。これは、赤道域や亜熱帯域において、地表のDIC貯留層が準定常的な平衡を達成できることを意味し、沿岸域の強力な風化作用に最も適している。
【0166】
ライフサイクル分析
一旦浜辺に配置されると、炭素除去砂は、採掘、粉砕、輸送、および基礎的な沿岸プロジェクトで排出される炭素の20倍を回収することができる。1トンの炭素除去砂は、理想的な状況では、最大1.25トンの炭素を回収することができる。炭素除去砂は、風化するのに数十年かかるため、長期的な養浜サイクルの間、効果的な海岸保護を提供することができる。
【0167】
LCAは、炭素除去プロジェクトの正味の炭素除去量を評価し、炭素除去砂の配置による炭素除去量の定量化と、配置によって発生する二酸化炭素または二酸化炭素換算排出量の両方を包含する。プロジェクトの総二酸化炭素除去量は、主に、炭素除去砂の正確な鉱物学(カンラン石中のMg:Fe比など)、炭素除去砂の供給源の純度(カンラン石と輝石の比など)、現地の海水の化学的条件、炭素除去砂の粒径、現地の海水の循環パターン、および炭素除去砂の配置後の二次的な鉱物の沈殿の程度などの関数である。総二酸化炭素排出量は、カンラン石の採掘および/または抽出、カンラン石の必要な粒径への粉砕、カンラン石の1つ以上の対象場所への輸送、および対象場所でのカンラン石の散布、ならびにMRV目的の監視の実施に関連する排出量を含む場合がある。
【0168】
図40は、例示的な沿岸炭素回収のライフサイクル分析を示す。ライフサイクルは、カンラン石の採掘および/または抽出、カンラン石の必要な粒径への粉砕、1つ以上の対象場所へのカンラン石の輸送、および対象場所でのカンラン石の散布を含む場合がある。場合によっては、このライフサイクルは少なくとも約89%の能率があり、カンラン石の採掘、粉砕、輸送、および/または散布の間に排出される二酸化炭素の量よりも少なくとも約5倍から20倍多い二酸化炭素の隔離を可能にすることができる。
【0169】
図41は、本明細書に開示される方法およびシステムを使用して実現できる炭素回収期間の例を示す。場合によっては、損益分岐点回収期間は、粒径:LE45(d50:365μm)、温度:25℃、pH:8、埋め込まれる排出量:二酸化炭素110トン/カンラン石1000トン;吸収効率:ALK3モル/カンラン石1モル;溶解定数:Log(r)=-8.75(pH/温度により変化し得る)を仮定して、約4年になる可能性がある。
【0170】
炭素除去予測
別の態様において、本開示は、特定の場所における炭素除去率を予測するためのシステムおよび方法を提供する。このような予測は、例えば、アルカリ度、pCO2、pH、および/または水温の変化の測定に対応するデータに基づく場合がある。予測は、このようなデータを解釈するアルゴリズムおよびソフトウェアを用いて行われる場合がある。アルゴリズムおよびソフトウェアは、本明細書の他の箇所に記載されているように、様々なセンサを使用して得られるMRVデータに基づいて生成され得る1つ以上のモデルによって実装される場合がある。
【0171】
いくつかの実施形態では、予測された炭素除去率は、カンラン石砂の特性、および/またはカンラン石砂の調製、ならびに配置設計が、改善/増加/より効率的な炭素除去のためにどのように最適化され得るかの情報を提供するために使用される場合がある。
【0172】
コンピュータシステム
一態様において、本開示は、本開示の方法、例えば、カンラン石を処理および散布するための主題の方法のいずれかを実施するようにプログラムされるか、もしくは他の方法で構成されるコンピュータシステムを提供する。
図10は、カンラン石の処理および散布のための方法を実施するようにプログラムされるか、または他の方法で構成されるコンピュータシステム1001を示す。コンピュータシステム1001は、例えば、(i)対象場所を特定し、(ii)特定された対象場所に基づいて、カンラン石の有利な特性または特徴をもたらすようにカンラン石を処理するための1つ以上の手順を最適化し、(iii)対象場所へのカンラン石の輸送を調整するように構成される場合がある。コンピュータシステム1001は、ユーザの電子デバイス、または電子デバイスに対して遠隔に位置するコンピュータシステムとすることができる。電子デバイスは、モバイル電子デバイスとすることができる。
【0173】
コンピュータシステム1001は、中央演算装置(CPU、本明細書では「プロセッサ」および「コンピュータプロセッサ」でもある)1005を含む場合があり、これは、シングルコアプロセッサまたはマルチコアプロセッサ、あるいは並列処理のための複数のプロセッサであり得る。コンピュータシステム1001はまた、メモリまたはメモリロケーション1010(例えば、ランダムアクセスメモリ、読み取り専用メモリ、フラッシュメモリ)、電子記憶装置1015(例えば、ハードディスク)、1つ以上の他のシステムと通信するための通信インタフェース1020(例えば、ネットワークアダプタ)、およびキャッシュ、他のメモリ、データ記憶アダプタおよび/または電子ディスプレイアダプタなどの周辺装置1025をも含む場合がある。メモリ1010、記憶装置1015、インタフェース1020および周辺装置1025は、マザーボードなどの通信バス(実線)を介してCPU1005と通信する。記憶装置1015は、データを記憶するためのデータ記憶装置(またはデータリポジトリ)とすることができる。コンピュータシステム1001は、通信インタフェース1020の助けを借りて、コンピュータネットワーク(「ネットワーク」)1030に動作可能に結合され得る。ネットワーク1030は、インターネット、インターネットおよび/またはエクストラネット、あるいはインターネットと通信するイントラネットおよび/またはエクストラネットであり得る。ネットワーク1030は、場合によっては、遠隔通信ネットワークおよび/またはデータネットワークである。ネットワーク1030は、クラウドコンピューティングなどの分散コンピューティングを可能にし得る、1つ以上のコンピュータサーバを含み得る。ネットワーク1030は、場合によっては、コンピュータシステム1001の助けを借りて、ピアツーピアネットワークを実行することができ、これにより、コンピュータシステム1001に結合されたデバイスがクライアントまたはサーバとして動作することを可能にする場合がある。
【0174】
CPU1005は、プログラムまたはソフトウェアに具現化され得る機械可読命令のシーケンスを実行することができる。命令は、メモリ1010などのメモリロケーションに格納される場合がある。命令は、CPU1005に指示することができ、CPU1005は、その後、本開示の方法を実施するように、CPU1005をプログラムまたは他の方法で構成することができる。CPU1005によって実行される動作の例は、フェッチ、デコード、実行、およびライトバックを含み得る。
【0175】
CPU1005は、集積回路などの回路の一部とすることができる。システム1001の1つ以上の他の構成要素を回路に含めることができる。場合によっては、回路は、特定用途向け集積回路(ASIC)である。
【0176】
記憶装置1015は、ドライバ、ライブラリ、および保存されたプログラムなどのファイルを記憶することができる。記憶装置1015は、ユーザデータ、例えば、ユーザプリファレンスおよびユーザプログラムを記憶することができる。コンピュータシステム1001は、場合によっては、コンピュータシステム1001の外部(例えば、イントラネットまたはインターネットを介してコンピュータシステム1001と通信するリモートサーバ上)に配置されている1つ以上の追加のデータ記憶装置を含むことができる。
【0177】
コンピュータシステム1001は、ネットワーク1030を介して1つ以上のリモートコンピュータシステムと通信することができる。例えば、コンピュータシステム1001は、ユーザ(例えば、カンラン石の処理および/または輸送もしくは散布を実行または監視するエンドユーザ)のリモートコンピュータシステムと通信することができる。リモートコンピュータシステムの例には、パーソナルコンピュータ(例えば、ポータブルPC)、スレートまたはタブレットPC(例えば、アップル社のiPad(登録商標)、サムソン社のTab)、電話、スマートフォン(例えば、アップル社のiPhone(登録商標)、アンドロイド(登録商標)対応デバイス、ブラックベリー)、またはパーソナルデジタルアシスタントが含まれる。ユーザは、ネットワーク1030を介してコンピュータシステム1001にアクセスすることができる。
【0178】
本明細書に記載の方法は、例えばメモリ1010または電子記憶装置1015などのコンピュータシステム1001の電子記憶場所に記憶された機械(例えば、コンピュータプロセッサ)実行可能コードによって実施することができる。機械実行可能コードまたは機械可読コードは、ソフトウェアの形態で提供することができる。使用中、コードは、プロセッサ1005によって実行され得る。場合によっては、コードは、記憶装置1015から取り出され、プロセッサ1005がすぐにアクセスできるようにメモリ1010に格納される。場合によっては、電子記憶装置1015を使用せず、機械実行可能命令をメモリ1010に格納することができる。
【0179】
コードは、コードを実行するように適合されたプロセッサを有するマシンと共に使用するために、事前にコンパイルされ、構成されるか、またはランタイム中にコンパイルされることができる。コードは、コードがプリコンパイルされたまたはコンパイルされた様式で実行できるように選択され得るプログラミング言語で供給することができる。
【0180】
コンピュータシステム1001など、本明細書で提供されるシステムおよび方法の態様は、プログラミングで具現化することができる。本技術の様々な態様は、典型的には、一種の機械可読媒体上に担持されるか、または機械可読媒体に具現化される機械(またはプロセッサ)実行可能コードおよび/または関連データの形態の「製品」または「製造品」と考えられる場合がある。機械実行可能コードは、メモリ(例えば、読み取り専用メモリ、ランダムアクセスメモリ、フラッシュメモリ)またはハードディスクなどの電子記憶装置に格納することができる。「記憶」タイプの媒体は、コンピュータ、プロセッサなどの有形メモリ、またはその関連モジュールのいずれかまたは全てを含むことができ、例えば、様々な半導体メモリ、テープドライブ、ディスクドライブなどであり、ソフトウェアプログラミングのための非一過性の記憶をいつでも提供することができる。ソフトウェアの全部または一部は、インターネットまたは他の様々な遠隔通信ネットワークを通じて通信される場合がある。そのような通信は、例えば、管理サーバまたはホストコンピュータからアプリケーションサーバのコンピュータプラットフォームへのように、あるコンピュータまたはプロセッサから別のコンピュータまたはプロセッサへのソフトウェアのロードを可能にする場合がある。したがって、ソフトウェア要素を搭載することができる別の種類の媒体には、光、電気、電磁波が含まれ、例えば、ローカルデバイス間の物理的インタフェースを介して、有線および光固定回線ネットワークを介して、および様々なエアリンクを介して使用される。有線リンクまたは無線リンク、光リンクなど、そのような波を伝送する物理的要素も、ソフトウェアを搭載する媒体とみなすことができる。本明細書で使用される場合、非一過性の有形の「記憶」媒体に限定されない限り、コンピュータまたは機械「可読媒体」などの用語は、実行のためにプロセッサに命令を提供することに関与するあらゆる媒体を指す。
【0181】
したがって、コンピュータ実行可能コードなどの機械可読媒体は、有形記憶媒体、搬送波媒体または物理的伝送媒体を含むが、これらに限定されない多くの形態をとることができる。図面に示すデータベース等を実施するために、例えば光ディスクまたは磁気ディスクを含む不揮発性記憶媒体、または任意のコンピュータ(複数可)内の任意の記憶装置等を使用してもよい。揮発性記憶媒体には、そのようなコンピュータプラットフォームのメインメモリなどの動的メモリが含まれる。有形伝送媒体には、コンピュータシステム内のバスを構成するワイヤを含む、同軸ケーブル、銅線および光ファイバが含まれる。搬送波伝送媒体は、電気信号または電磁信号、あるいは無線周波数(RF)および赤外線(IR)データ通信中に発生するような音響波または光波の形態をとることができる。したがって、コンピュータ可読媒体の一般的な形態には、例えば、フロッピーディスク、フレキシブルディスク、ハードディスク、磁気テープ、その他の磁気媒体、CD-ROM、DVDまたはDVD-ROM、その他の光学媒体、パンチカード紙テープ、穴のパターンを有するその他の物理的記憶媒体、RAM、ROM、PROMおよびEPROM、FLASH-EPROM、その他のメモリチップまたはカートリッジ、データまたは命令を搬送する搬送波、そのような搬送波を搬送するケーブルまたはリンク、またはコンピュータがプログラミングコードおよび/またはデータを読み取ることができるその他の媒体が含まれる。これらの形態のコンピュータ可読媒体の多くは、実行するために1つ以上の命令の1つ以上のシーケンスをプロセッサに伝達することに関与し得る。
【0182】
コンピュータシステム1001は、例えば、カンラン石の処理および/または輸送もしくは散布を監視するためのポータルをユーザに提供するためのユーザインタフェース(UI)1040を備える電子ディスプレイ1035を含むか、またはそれと通信することができる。ポータルは、アプリケーションプログラミングインタフェース(API)を介して提供されてもよい。ユーザまたはエンティティは、UIを介してポータル内の様々な要素と対話することもできる。UIの例には、これらに限定されないが、グラフィカルユーザインタフェース(GUI)およびウェブベースのユーザインタフェースが含まれる。
【0183】
本開示の方法およびシステムは、1つ以上のアルゴリズムによって実施することができる。アルゴリズムは、中央演算装置1005による実行時に、ソフトウェアによって実施することができる。例えば、アルゴリズムは、対象場所を特定し、対象場所の特性または特徴に基づいてカンラン石を処理するための手順を最適化するように構成される場合がある。
【0184】
本明細書において、本発明の好ましい実施形態が示され、説明されてきたが、そのような実施形態が例示としてのみ提供されることは、当業者には明らかであろう。本明細書内で提供される特定の例によって本発明が限定されることは意図されていない。本発明を前述の明細書を参照して説明したが、本明細書における実施形態の説明および図示は、限定的な意味で解釈されることを意図するものではない。本発明から逸脱することなく、多数の変形、変更、および置換が当業者に生じるであろう。さらに、本発明の全ての態様は、様々な条件および変形に依存する、本明細書に記載された特定の描写、構成または相対的な割合に限定されないことを理解されたい。本明細書に記載された本発明の実施形態に対する様々な代替が、本発明の実施において採用され得ることが理解されるべきである。従って、本発明は、そのような代替物、修正物、変形物、または等価物も網羅するものと考えられる。以下の特許請求の範囲が本発明の範囲を規定し、これらの特許請求の範囲およびその均等物の範囲内の方法および構造がそれによってカバーされることが意図されている。
【国際調査報告】