(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-22
(54)【発明の名称】二次電池及びその使用
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20241015BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20241015BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20241015BHJP
H01M 10/0567 20100101ALI20241015BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20241015BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20241015BHJP
H01M 4/136 20100101ALI20241015BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0569
H01M4/13
H01M10/0567
H01M10/0568
H01M4/58
H01M4/136
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024523526
(86)(22)【出願日】2022-12-16
(85)【翻訳文提出日】2024-04-15
(86)【国際出願番号】 CN2022139579
(87)【国際公開番号】W WO2024077765
(87)【国際公開日】2024-04-18
(31)【優先権主張番号】202211260215.8
(32)【優先日】2022-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524145841
【氏名又は名称】サンオーダ、モビリティー、エナジー、テクノロジー、カンパニー、リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Sunwoda Mobility Energy Technology Co., Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【氏名又は名称】小島 一真
(72)【発明者】
【氏名】チョン、ショウチアン
(72)【発明者】
【氏名】ワン、チョンシアン
(72)【発明者】
【氏名】ホー、シュアン
(72)【発明者】
【氏名】チャン、チエンウェイ
(72)【発明者】
【氏名】チュー、チュンポー
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ02
5H029AJ03
5H029AJ05
5H029AJ06
5H029AK01
5H029AL07
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ08
5H029HJ10
5H029HJ20
5H050AA02
5H050AA06
5H050AA07
5H050AA08
5H050AA12
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CB08
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA08
5H050HA10
5H050HA17
(57)【要約】
本願は、電池の技術分野に属し、具体的には、二次電池に関する。本願による二次電池は、正極板と、負極板と、電解液と、を含み、前記電解液は有機溶媒を含み、前記有機溶媒は環状エステル溶媒と鎖状エステル溶媒を含み、前記二次電池のパラメータは関係式(1)を満たす。該二次電池は、電解液と負極板を調整して、両方を相乗的に作用させることによって、良好な低温での動的特性を有し、低温の条件下で良好な容量維持率及び低いインピーダンスを有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極板と、負極板と、電解液と、を含む二次電池であって、
前記負極板は、負極集電体と、前記負極集電体上に設けられた負極活物質層と、を含み、前記電解液は有機溶媒を含み、前記有機溶媒は環状エステル溶媒と鎖状エステル溶媒を含み、
下記の関係式(1)を満たすことを特徴とする、二次電池。
【数1】
(ここで、Mel.は、二次電池中の電解液の重量の値であり、重量の単位がgであり、
σは、電解液の導電率の値であり、導電率の単位がmS/cmであり、
Cap.は、二次電池について設計された理論容量の値であり、設計された理論容量の単位がAhであり、
PDは、負極活物質層の圧縮密度の値であり、圧縮密度の単位がg/cm
3であり、
ηは、電解液の粘度の値であり、粘度の単位がmPa・sであり、
βは、電解液中の環状エステル溶媒と鎖状エステル溶媒との質量比である。)
【請求項2】
(1)前記環状エステル溶媒と鎖状エステル溶媒との質量比βが0.25~0.85であること、
(2)前記電解液の導電率σの値が9~13であること、
(3)前記電解液の粘度ηの値が2~5であること、
(4)前記電解液の重量の値Mel.が11~16であることのうちの少なくとも1つを満たすことを特徴とする、請求項1に記載の二次電池。
【請求項3】
前記環状エステル溶媒と鎖状エステル溶媒との質量比βが0.33~0.82であることを特徴とする、請求項1に記載の二次電池。
【請求項4】
前記電解液の導電率σの値が9.5~12.5であることを特徴とする、請求項1に記載の二次電池。
【請求項5】
前記電解液の粘度ηの値が2.5~4.5であることを特徴とする、請求項1に記載の二次電池。
【請求項6】
前記電解液の重量の値Mel.が13~15であることを特徴とする、請求項1に記載の二次電池。
【請求項7】
前記PDの値が1.1~1.65であることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項8】
前記鎖状エステル溶媒は、鎖状カーボネート及び鎖状カルボキシレートのうちの少なくとも1種を含み、
前記鎖状カーボネートは、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネートのうちの少なくとも1種を含み、
前記鎖状カルボキシレートは、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、酪酸メチル、酪酸エチルのうちの少なくとも1種を含むことを特徴とする、請求項1に記載の二次電池。
【請求項9】
前記環状エステル溶媒は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートのうちの少なくとも1種を含むことを特徴とする、請求項1に記載の二次電池。
【請求項10】
前記電解液は添加剤をさらに含み、前記添加剤は、ケイ素含有添加剤、環状カーボネート添加剤、又は硫黄含有添加剤のうちの少なくとも1種を含むことを特徴とする、請求項1に記載の二次電池。
【請求項11】
前記添加剤は、
(a)前記ケイ素含有添加剤は、亜りん酸トリス(トリメチルシリル)、リン酸トリス(トリメチルシリル)、ホウ酸トリス(トリメチルシリル)、トリメチルフルオロシラン、又はヘプタメチルジシラザンのうちの少なくとも1種を含み、前記電解液の質量に対して、ケイ素含有添加剤は0.1~4質量%である特徴と、
(b)前記環状カーボネート添加剤は、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、又はジフルオロエチレンカーボネートのうちの少なくとも1種を含み、前記電解液の質量に対して、前記環状カーボネート添加剤は0.05~3質量%である特徴と、
(c)前記硫黄含有添加剤は、1,3-プロパンスルトン又は硫酸ビニルのうちの少なくとも1種を含み、前記電解液の質量に対して、前記硫黄含有添加剤は0.05~3質量%である特徴とのうちの少なくとも1つを満たすことを特徴とする、請求項10に記載の二次電池。
【請求項12】
前記電解液添加剤は、ケイ素含有添加剤と硫黄含有添加剤を含み、前記電解液の質量に対して、前記ケイ素含有添加剤の含有量はW
si%であり、前記硫黄含有添加剤の含有量はW
s%であり、0.3≦W
si+W
s≦4、0.1≦W
si/W
s≦5を満たすことを特徴とする、請求項10に記載の二次電池。
【請求項13】
前記電解液はリチウム塩添加剤をさらに含み、前記リチウム塩添加剤は、リチウムビスフルオロスルホニルイミド、リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、ジフルオロシュウ酸ホウ酸リチウム、ジフルオロリン酸リチウム、及びジフルオロシュウ酸リン酸リチウムのうちの少なくとも1種を含み、
前記電解液中のリチウム塩添加剤は0.1~5質量%であることを特徴とする、請求項1に記載の二次電池。
【請求項14】
前記正極板は、正極集電体と、正極集電体上に設けられた正極活物質層と、を含み、前記正極活物質層は正極活物質を含み、
前記正極活物質は、Li
aFe
1-yMn
yPO
4(0.9≦a≦1.1、0≦y≦1)を含む、ことを特徴とする請求項1に記載の二次電池。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか1項に記載の二次電池を含む電気装置。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本願は、2022年10月14日に中国国家知識産権局に提出された、出願番号が202211260215.8、発明の名称が「二次電池」の中国特許出願の優先権を主張しており、そのすべての内容は引用により本願に組み込まれている。
【技術分野】
【0002】
本願は、電池の技術分野に属し、具体的には、二次電池に関する。
【背景技術】
【0003】
二次電池、例えばリチウムイオン電池は、高比エネルギー、長寿命、環境にやさしいという特徴から、最も人気のあるエネルギー貯蔵システムとなっており、現在、家電、電気自動車、エネルギー貯蔵などの分野に広く応用されている。新エネルギー自動車の普及、及びエネルギー貯蔵市場の急速な発展に伴い、リチウムイオン電池の性能に対する要求が絶えず向上しており、低コストで安全性が高く、適用性の広いリチウムイオン電池の開発は、現在、リチウム電池業界の発展の急務となっている。
【0004】
二次電池は、低温環境下での容量維持率が低く、インピーダンスが大きい等の欠点があり、大規模な使用には限界がある。そのため、二次電池の低温での動的特性を向上させる必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本願が解決しようとする技術的課題は、従来技術においてリチウムイオン電池の低温での動的特性が悪いなどの欠点を解決し、リチウムイオン電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このため、本願は以下の技術的解決手段を提供する。
【0007】
本願は、正極板と、負極板と、電解液と、を含む二次電池であって、前記負極板は、負極集電体と、前記負極集電体上に設けられた負極活物質層と、を含み、前記電解液は有機溶媒を含み、前記有機溶媒は環状エステル溶媒と鎖状エステル溶媒を含み、
下記の関係式(1)を満たす、二次電池を提供する。
【数1】
(ここで、Mel.は、二次電池中の電解液の重量の値であり、重量の単位がgであり、
σは、電解液の導電率の値であり、導電率の単位がmS/cmであり、
Cap.は、二次電池について設計された理論容量の値であり、設計された理論容量の単位がAhであり、
PDは、負極活物質層の圧縮密度の値であり、圧縮密度の単位がg/cm
3であり、
ηは、電解液の粘度の値であり、粘度の単位がmPa・sであり、
βは、電解液中の環状エステル溶媒と鎖状エステル溶媒との質量比である。)
【0008】
好ましくは、前記二次電池は、
(1)前記環状エステル溶媒と鎖状エステル溶媒との質量比βが0.25~0.85、好ましくは0.33~0.82であること、
(2)前記電解液の導電率σの値が9~13、好ましくは9.5~12.5であること、
(3)前記電解液の粘度ηの値が2~5、好ましくは2.5~4.5であること、
(4)前記電解液の重量の値Mel.が11~16、好ましくは13~15であることのうちの少なくとも1つを満たす。
【0009】
好ましくは、前記PDの値が1.1~1.65、好ましくは1.2~1.6である。
【0010】
好ましくは、前記鎖状エステル溶媒は、鎖状カーボネート及び鎖状カルボキシレートのうちの少なくとも1種を含み、
前記鎖状カーボネートは、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネートのうちの少なくとも1種を含み、
前記鎖状カルボキシレートは、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、酪酸メチル、酪酸エチルのうちの少なくとも1種を含む。
【0011】
好ましくは、前記環状エステル溶媒は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートのうちの少なくとも1種を含む。
【0012】
好ましくは、前記電解液は添加剤をさらに含み、前記添加剤は、ケイ素含有添加剤、環状カーボネート添加剤、又は硫黄含有添加剤のうちの少なくとも1種を含む。
【0013】
好ましくは、前記添加剤は、
(a)前記ケイ素含有添加剤は、亜りん酸トリス(トリメチルシリル)、リン酸トリス(トリメチルシリル)、ホウ酸トリス(トリメチルシリル)、トリメチルフルオロシラン、又はヘプタメチルジシラザンのうちの少なくとも1種を含み、前記電解液の質量に対して、ケイ素含有添加剤は0.1~4質量%である特徴と、
(b)前記環状カーボネート添加剤は、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、又はジフルオロエチレンカーボネートのうちの少なくとも1種を含み、前記電解液の質量に対して、前記環状カーボネート添加剤は0.05~3質量%である特徴と、
(c)前記硫黄含有添加剤は、1,3-プロパンスルトン又は硫酸ビニルのうちの少なくとも1種を含み、前記電解液の質量に対して、前記硫黄含有添加剤は0.05~3質量%である特徴とのうちの少なくとも1つを満たす。
【0014】
好ましくは、前記電解液添加剤は、ケイ素含有添加剤と硫黄含有添加剤を含み、前記電解液の質量に対して、前記ケイ素含有添加剤の含有量はWsi%であり、前記硫黄含有添加剤の含有量はWs%であり、0.3≦Wsi+Ws≦4、0.1≦Wsi/Ws≦5を満たす。
【0015】
好ましくは、前記電解液はリチウム塩添加剤をさらに含み、前記リチウム塩添加剤は、リチウムビスフルオロスルホニルイミド、リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、ジフルオロシュウ酸ホウ酸リチウム、ジフルオロリン酸リチウム、及びジフルオロシュウ酸リン酸リチウムのうちの少なくとも1種を含み、
前記電解液中のリチウム塩添加剤は0.1~5質量%である。
【0016】
好ましくは、前記正極板は、正極集電体と、正極集電体上に設けられた正極活物質層と、を含み、前記正極活物質層は正極活物質を含み、
前記正極活物質は、LiaFe1-yMnyPO4(0.9≦a≦1.1、0≦y≦1)を含む。
【0017】
負極板中の活物質層はグラファイト、シリコン系材料のうちの少なくとも1種を含む。
【0018】
本願は、また、上記の二次電池を含む電気装置を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本願の技術的解決手段は下記利点を有する。
本願による二次電池は、正極板と、負極板と、電解液と、を含み、前記電解液は有機溶媒を含み、前記有機溶媒は環状エステル溶媒と鎖状エステル溶媒を含み、前記二次電池は関係式(1)を満たす。該二次電池は、電解液の組成や含有量を最適化し、負極板の活物質層を調整することによって、良好な低温での動的特性を有し、低温の条件下で良好な容量維持率及び低インピーダンスを有し、また、一般にはリチウム溶出の現象が生じない。電解液は、リチウムイオン電池の主な部材の1つで、二次電池の性能の発揮に影響する要因の1つである。溶媒は電解液の重要な成分であり、二次電池のサイクル、インピーダンスや動的特性などの性能に大きく影響し、本願は、電解液、負極板及び電池容量を最適化し、電解液の溶媒の組成、電解液の粘度、電気伝導率、電池容量などのパラメータを総合的に設計することによって、二次電池の低温での動的特性を大幅に向上させ、二次電池のインピーダンスを低下させ、低温容量維持率を高めることができる。
その中で、環状エステル溶媒は、誘電率が高く、粘度が大きく、鎖状エステル溶媒は、誘電率が低く、粘度が小さく、環状エステル溶媒と鎖状エステル溶媒との比を適切な範囲に制御することにより、二次電池の動的特性の向上に寄与する。
本願による二次電池では、電解液の粘度が、電解液中でのリチウムイオンの移動速度に影響し、電解液の粘度が本願の範囲内であれば、リチウムイオンの輸送が更に改善され、二次電池のインピーダンスが低下し、電池のサイクル特性が向上する。下記関係式(1)を満たす上に、電解液の粘度が小さいことにより、電解液中でのリチウムイオンの輸送が促進され、動的特性がさらに向上する。
電解液の導電率を限定することにより、大電流運転時にリチウム溶出などの現象が発生しないことをより確実にすることができる。
二次電池における電解液の注入量は電池の設計容量の影響を受け、注入量が少なすぎると、正極板と負極極に完全に含浸することが難しく、充放電過程におけるリチウムイオンのデインターカレーションの度合に影響し、二次電池のインピーダンス、容量、サイクル、リチウム溶出などの問題に影響を与え、注入量が多すぎると、副反応が増加し、ガスの発生や膨らみの現象を引き起こす。
負極板中の負極活物質層の圧縮密度PDが小さすぎると、電池のエネルギー密度が影響を受け、負極スラリーの塗布プロセスの制御が困難になり、圧縮密度PDが高すぎると、電解液が負極活物質層に含浸しにくく、電池の動的特性に影響を与える。適切な圧縮密度PDを設定することにより、電池の動的特性及びエネルギー密度をさらに向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下の実施例は、本願をより良く理解するために提供されるものであり、前記最良な実施形態に限定されず、本願の内容及び保護範囲を制限するものではなく、誰かが本願に基づいて又は本願と他の先行技術の特徴とを組み合わせた結果として得る本願と同一又は類似する製品はすべて本願の保護範囲内に含まれるものである。
【0021】
本願は、正極板と、負極板と、電解液と、を含み、前記負極板は、負極集電体と、前記負極集電体上に設けられた負極活物質層と、を含み、前記電解液は有機溶媒を含み、前記有機溶媒は環状エステル溶媒と鎖状エステル溶媒を含み、
下記の関係式(1)を満たす、二次電池を提供する。
【数2】
(ここで、Mel.は、二次電池中の電解液の重量の値であり、重量の単位がgであり、
σは、電解液の導電率の値であり、導電率の単位がmS/cmであり、
Cap.は、二次電池について設計された理論容量の値であり、設計された理論容量の単位がAhであり、
PDは、負極活物質層の圧縮密度の値であり、圧縮密度の単位がg/cm
3であり、
ηは、電解液の粘度の値であり、粘度の単位がmPa・sであり、
βは、電解液中の環状エステル溶媒と鎖状エステル溶媒との質量比である。)。例えば、式(1)の値は、18.1、18.3、18.5、18.7、19.0、19.3、19.5、19.7、20.0、20.2、20.4、20.6、20.8、21.0、21.3、21.5、21.7、22.0、22.3、22.5、22.7、23.0、23.5、24.0、24.3、24.7、25.0、25.5、25.7、26.0、26.3、26.5、26.9、又はそれらの任意の2つの数値からなる範囲であってもよい。式(1)が上記の範囲にある場合、電解液は、良好な動的挙動を有し、導電率が高く、粘度が低く、リチウムイオンの拡散速度が良く、圧縮密度が適切な範囲にあるため、リチウムイオンが負極板内で迅速に移動することができ、また、適量の電解液はSEIによって消費されたリチウムイオンを適時に補充して再修復することができ、電解液は良好なサイクル特性も有するようになる。
【0022】
本願のいくつかの実施例では、
【数3】
である。上記の範囲を満たす場合、低温性能がさらに向上したのは、主にリチウムイオンが電池内で迅速に移動し、負極電位が急激に低下してリチウムのデンドライトが形成されるのを効果的に防止するためである。
【0023】
本願のいくつかの実施例では、前記環状エステル溶媒と鎖状エステル溶媒との質量比βは、0.25~0.85である。例えば、0.25、0.30、0.33、0.35、0.38、0.40、0.43、0.45、0.47、0.50、0.53、0.55、0.57、0.60、0.63、0.65、0.67、0.70、0.72、0.74、0.78、0.80、0.82、0.85、又はそれらの任意の2つの数値からなる範囲であってもよい。環状エステル溶媒と鎖状エステル溶媒との質量比Pが上記の範囲にある場合、電解液の粘度及び電解液の導電率が比較的に安定し、低温でのリチウムイオンの拡散が容易となり、リチウムイオンの動的挙動が維持され、リチウム溶出のリスクが低減される。
【0024】
本願のいくつかの実施例では、前記環状エステル溶媒と鎖状エステル溶媒との質量比βは0.33~0.82である。
【0025】
本願のいくつかの実施例では、前記電解液の導電率σの値は9~13である。例えば、9、9.3、9.5、9.7、10.0、10.4、10.7、11.0、11.3、11.5、11.7、12.0、12.2、12.4、12.5、12.7、13.0、又はそれらの任意の2つの数値からなる範囲であってもよい。電解液の導電率が上記の範囲にある場合、電解液中のリチウムイオンは迅速に拡散し、正極から脱離したリチウムイオンはより速く負極に到達し、負極の電位を高め、リチウムイオンの動的特性を効果的に向上させることができ、低温でのリチウム溶出をさらに改善することができる。
【0026】
本願のいくつかの実施例では、前記電解液の導電率σの値は9.5~12.5である。
【0027】
前記電解液の導電率は、DDSJ-308A型導電率計により測定され得る。
【0028】
本願のいくつかの実施例では、前記電解液の粘度ηの値は2~5である。例えば、2、2.2、2.4、2.6、2.8、3.0、3.3、3.5、3.7、3.9、4.0、4.2、4.4、4.6、4.8、5.0、又はそれらの任意の2つの数値からなる範囲であってもよい。電解液の粘度ηの値が上記の範囲にある場合、ηが大きいほど、電解液の粘度が高く、低温でのリチウムイオンの拡散に悪影響を与え、リチウムイオンの動的挙動を低下させ、リチウム溶出のリスクをもたらすことを示している。
【0029】
本願のいくつかの実施例では、前記電解液の粘度ηの値は2.5~4.5である。
【0030】
本願では、電解液の粘度は、1835ウベローデ粘度計を用いて測定され得る。
【0031】
本願のいくつかの実施例では、前記電解液の重量の値Mel.は11~16である。例えば、11、11.2、11.5、11.7、12、12.2、12.4、12.8、13、13.3、13.5、13.7、14、14.3、14.5、14.7、15、15.5、16、又はそれらの任意の2つの数値からなる範囲であってもよい。電解液の重量が上記の範囲にある場合、電池の循環ガス発生量が適切な範囲内で、電池内圧が過度に増加して、防爆弁が破裂して、電池が故障することを防止し、また、負極板の界面に発生する気泡の黒点を減少でき、かつ電解液によりリチウムイオンをよく移動させ、電池のサイクル特性及び動的特性を向上させる。
【0032】
本願のいくつかの実施例では、前記電解液の重量の値Mel.は13~15である。Mel.がこの範囲にある場合、電解液がリチウムイオンをよりよく移動させると同時に、電池のガス発生量が少なく、電池全体の性能がより優れている。
【0033】
本願のいくつかの実施例では、Mel./Cap.の値は3~6である。
【0034】
本願のいくつかの実施例では、前記PDの値は1.1~1.65である。PDが上記の範囲にある場合、圧縮密度は負極でのリチウムイオンの移動に影響を与え、圧縮密度が高すぎると、リチウムイオンの拡散速度が低下し、特に低温の場合、低温性能が影響を受けて、リチウム溶出が起こり、また、圧縮密度が高すぎると、電解液の含浸性に影響を与える。
【0035】
本願のいくつかの実施例では、前記PDの値は1.2~1.6である。
【0036】
本願のいくつかの実施例では、前記鎖状エステル溶媒は、鎖状カーボネート及び鎖状カルボキシレートのうちの少なくとも1種を含む。
【0037】
本願のいくつかの実施例では、前記鎖状カーボネートは、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネートのうちの少なくとも1種を含む。
【0038】
本願のいくつかの実施例では、前記鎖状カルボキシレートは、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、酪酸メチル、酪酸エチルのうちの少なくとも1種を含む。
【0039】
本願のいくつかの実施例では、前記環状エステル溶媒は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートのうちの少なくとも1種を含む。
【0040】
本願のいくつかの実施例では、前記電解液は添加剤をさらに含み、前記添加剤は、ケイ素含有添加剤、環状カーボネート添加剤、又は硫黄含有添加剤のうちの少なくとも1種を含む。
【0041】
本願のいくつかの実施例では、前記ケイ素含有添加剤は、亜りん酸トリス(トリメチルシリル)、リン酸トリス(トリメチルシリル)、ホウ酸トリス(トリメチルシリル)、トリメチルフルオロシラン、又はヘプタメチルジシラザンのうちの少なくとも1種を含む。
【0042】
本願のいくつかの実施例では、前記電解液の質量に対して、ケイ素含有添加剤は0.1~4質量%である。
【0043】
本願のいくつかの実施例では、前記環状カーボネート添加剤は、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、又はジフルオロエチレンカーボネートのうちの少なくとも1種を含む。
【0044】
本願のいくつかの実施例では、前記電解液の質量に対して、前記環状カーボネート添加剤は0.05~3質量%である。
【0045】
本願のいくつかの実施例では、前記硫黄含有添加剤は、1,3-プロパンスルトン又は硫酸ビニルのうちの少なくとも1種を含む。
【0046】
本願のいくつかの実施例では、前記電解液の質量に対して、前記硫黄含有添加剤は0.05~3質量%である。
【0047】
本願のいくつかの実施例では、前記電解液添加剤は、ケイ素含有添加剤と硫黄含有添加剤を含み、前記電解液の質量に対して、前記ケイ素含有添加剤の含有量はWsi%であり、前記硫黄含有添加剤の含有量はWs%であり、0.3≦Wsi+Ws≦4を満たす。電解液中にケイ素含有添加剤と硫黄含有添加剤とを同時に含有する場合、両者はインピーダンスの比較的低いSEI膜を形成することができ、リチウムイオンをSEI膜中に速やかに通過させることができ、両者の含有量の合計が上記の範囲内にある場合、成膜状態がより良好であり、形成される保護膜の品質と膜厚が共に良好な状態となり、リチウムイオンの拡散性が向上する。
【0048】
本願のいくつかの実施例では、前記電解液添加剤は、ケイ素含有添加剤と硫黄含有添加剤を含み、前記電解液の質量に対して、前記ケイ素含有添加剤の含有量はWsi%であり、前記硫黄含有添加剤の含有量はWs%であり、0.1≦Wsi/Ws≦5を満たす。Wsi/Wsが上記の範囲にある場合、形成される保護膜の組成や厚さをより最適化することができ、電池の総合的な特性をより良好なものとすることができる。
【0049】
本願のいくつかの実施例では、前記電解液はリチウム塩添加剤をさらに含み、前記リチウム塩添加剤は、リチウムビスフルオロスルホニルイミド、リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、ジフルオロシュウ酸ホウ酸リチウム、ジフルオロリン酸リチウム、及びジフルオロシュウ酸リン酸リチウムのうちの少なくとも1種を含む。電解液に上記のリチウム塩添加剤が含まれる場合、膜のインピーダンスをさらに低下させ、成膜の安定性を向上させ、リチウムイオンの拡散性を向上させ、サイクル特性も考慮することができる。
【0050】
本願のいくつかの実施例では、電解液中のリチウム塩添加剤は、0.1~5質量%である。
【0051】
本願のいくつかの実施例では、前記正極板は、正極集電体と、正極集電体上に設けられた正極活物質層と、を含み、
前記正極活物質は、LiaFe1-yMnyPO4(0.9≦a≦1.1、0≦y≦1)を含む。
【0052】
本願のいくつかの実施例では、前記正極活物質はドープ元素をさらに含んでもよく、前記ドープ元素の種類は限定されず、正極活物質の性能を向上できればよい。
【0053】
本願のいくつかの実施例では、前記正極活物質の表面に被覆層を有する。
【0054】
本願のいくつかの実施例では、前記被覆層は被覆元素を含み、前記被覆元素は限定されず、正極活物質の安定性を向上できればよい。
【0055】
本願のいくつかの実施例では、前記正極活物質の表面に炭素材料層を含む。前記炭素材料層は非晶質炭素を含む。
【0056】
リン酸塩系正極活物質は、低コストで安全性が高いなどの利点があるため、リチウム電池に広く応用されている。しかし、リン酸塩系正極活物質には、低温力学的特性が劣るため、リン酸塩系正極活物質と本願の電解液及び負極板とを組み合わせて使用することにより、電池の低温性能を大幅に向上させることができ、本願の電解液とリン酸塩系正極活物質及び負極板は、いずれも良好な互換性を有し、形成される膜のインピーダンスを低くし、安定性を良好にし、サイクル特性にも考慮し、低温でのリチウム溶出を効果的に改善することができる。
【0057】
具体的な実験ステップ又は条件が実施例に記載されていない場合は、当該分野の文献に記載されている従来の実験ステップの操作又は条件に従って実施することができる。使用した試薬又は器具は、製造メーカーが明記されていない場合、いずれも市場で購入することができる通常の試薬製品である。
実施例1
【0058】
本実施例は、リチウムイオン二次電池を提供し、リチウムイオン二次電池は、設計された理論容量Cap.が3.5Ahであり、正極板と、負極板と、電解液と、を含む。
正極板:正極活物質LiFePO4、導電剤SP、バインダPVDF(アルケマ社製HSV900、下同)を96:2:2の質量比で混合し、NMPを加えて、系が均一になるまで真空状態で撹拌し、正極スラリーを得て、正極スラリーを正極集電体のアルミ箔上に塗布し、ベークし、コールドプレスして、圧縮密度2.45g/cm3の正極活物質層が設けられた正極板を得た。
負極板:グラファイト、導電剤SP、増粘剤CMC、バインダSBR(日本ゼオン社451B、下同)を96.2:1.2:1.2:1.4の質量比で混合し、脱イオン水を加えて、系が均一になるまで真空状態で撹拌し、負極スラリーを得て、負極スラリーを負極集電体の銅箔上に塗布し、乾燥し、コールドプレスして、圧縮密度1.55g/cm3の負極活物質層が設けられた負極板を得た。
電解液:エチレンカーボネート(EC、環状エステル溶媒)、メチルエチルカーボネート(EMC、鎖状カーボネート溶媒)、ジメチルカーボネート(DMC、鎖状カーボネート溶媒)を30:40:30の割合で混合して有機溶媒を得て、有機溶媒にLiPF6を加え、均一に混合した後、ビニレンカーボネート、硫酸ビニル、ジフルオロリン酸リチウム、及びリン酸トリス(トリメチルシリル)を加え、電解液を得た。ここで、LiPF6の含有量は12質量%、ビニレンカーボネートの含有量は1質量%、硫酸ビニルの含有量は1.5質量%、ジフルオロリン酸リチウムの含有量は0.5質量%、リン酸トリス(トリメチルシリル)の含有量は1質量%であり、環状エステル溶媒と鎖状エステル溶媒との質量比βは0.43であり、電解液の導電率は11.28mS/cmであり、電解液の粘度は3.46mPa・sである。
正極板、セパレータ(星源材質社製14PP)及び負極板をこの順に積層し、セパレータを正極板と負極板との間に介在させ、捲回して電極組立体を得た。電極組立体をアルミニウムプラスチックフィルムにパッケージし、乾燥し、14gの電解液を注入し、パッケージ、静置、フォメーション、ホットプレスをして、二次電池を得た。
実施例2
【0059】
負極活物質層の圧縮密度が1.6g/cm3である以外、実施例1と同様であった。
実施例3
【0060】
負極活物質層の圧縮密度が1.45g/cm3である以外、実施例1と同様であった。
実施例4
【0061】
製造方法では、電解液は、具体的には、エチレンカーボネート(EC、環状エステル溶媒)、メチルエチルカーボネート(EMC、鎖状カーボネート溶媒)、ジメチルカーボネート(DMC、鎖状カーボネート溶媒)、及び酢酸エチル(EA、鎖状カルボキシレート溶媒)を30:30:30:10の割合で混合したものであり、得た電解液には、環状エステル溶媒と鎖状エステル溶媒との質量比βは0.43であり、電解液の導電率は11.44mS/cmであり、電解液の粘度は3.32mPa・sである以外、実施例1と同様であった。
実施例5
【0062】
製造方法では、電解液は、具体的には、エチレンカーボネート(EC、環状エステル溶媒)、メチルエチルカーボネート(EMC、鎖状カーボネート溶媒)、ジメチルカーボネート(DMC、鎖状カーボネート溶媒)を27:40:33の割合で混合したものであり、得た電解液には、環状エステル溶媒と鎖状エステル溶媒との質量比βは0.37であり、電解液の導電率は11.09mS/cmであり、電解液の粘度は3.37mPa・sである以外、実施例1と同様であった。
実施例6
【0063】
製造方法では、電解液は、具体的には、エチレンカーボネート(EC、環状エステル溶媒)、メチルエチルカーボネート(EMC、鎖状カーボネート溶媒)、ジメチルカーボネート(DMC、鎖状カーボネート溶媒)を25:45:30の割合で混合したものであり、得た電解液には、環状エステル溶媒と鎖状エステル溶媒との質量比βは0.33であり、電解液の導電率は10.75mS/cmであり、電解液の粘度は3.3mPa・sである以外、実施例1と同様であった。
実施例7
【0064】
製造方法では、電解液は、具体的には、エチレンカーボネート(EC、環状エステル溶媒)、メチルエチルカーボネート(EMC、鎖状カーボネート溶媒)、ジメチルカーボネート(DMC、鎖状カーボネート溶媒)を32:40:28の割合で混合したものであり、得た電解液には、環状エステル溶媒と鎖状エステル溶媒との質量比βは0.47であり、電解液の導電率は11.52mS/cmであり、電解液の粘度は3.48mPa・sである以外、実施例1と同様であった。
実施例8
【0065】
製造方法では、電解液は硫酸ビニルを含まず、得た電解液には、環状エステル溶媒と鎖状エステル溶媒との質量比βは0.43であり、電解液の導電率は11.18mS/cmであり、電解液の粘度は3.34mPa・sである以外、実施例1と同様であった。
実施例9
【0066】
製造方法では、電解液は硫酸ビニルとリン酸トリス(トリメチルシリル)を含まず、得た電解液には、環状エステル溶媒と鎖状エステル溶媒との質量比βは0.43であり、電解液の導電率は11.02mS/cmであり、電解液の粘度は3.4mPa・sである以外、実施例1と同様であった。
実施例10
【0067】
製造方法では、電解液は硫酸ビニル、ジフルオロリン酸リチウム、及びリン酸トリス(トリメチルシリル)を含まず、得た電解液には、環状エステル溶媒と鎖状エステル溶媒との質量比βは0.43であり、電解液の導電率は10.85mS/cmであり、電解液の粘度は3.42mPa・sである以外、実施例1と同様であった。
実施例11
【0068】
製造方法では、電解液は、具体的には、0.5%のジフルオロリン酸リチウム、1%のリン酸トリス(トリメチルシリル)、1.5%の硫酸ビニルが添加されており、得た電解液には、環状エステル溶媒と鎖状エステル溶媒との質量比βは0.43であり、電解液の導電率は11.12mS/cmであり、電解液の粘度は3.39mPa・sである以外、実施例1と同様であった。
実施例12
【0069】
製造方法では、電解液は、具体的には、1.0%のビニレンカーボネート、0.5%のジフルオロリン酸リチウム、0.2%の硫酸ビニル、1%のリン酸トリス(トリメチルシリル)が添加されており、得た電解液には、環状エステル溶媒と鎖状エステル溶媒との質量比βは0.43であり、電解液の導電率は11.14mS/cmであり、電解液の粘度は3.41mPa・sである以外、実施例1と同様であった。
実施例13
【0070】
製造方法では、電解液は、具体的には、1.0%のビニレンカーボネート、0.5%のジフルオロリン酸リチウム、0.7%の硫酸ビニル、1.6%のリン酸トリス(トリメチルシリル)が添加されており、得た電解液には、環状エステル溶媒と鎖状エステル溶媒との質量比βは0.43であり、電解液の導電率は11.25mS/cmであり、電解液の粘度は3.38mPa・sである、実施例1と同様であった。
実施例14
【0071】
製造方法では、電解液は、具体的には、1.0%のビニレンカーボネート、0.5%のジフルオロリン酸リチウム、2%の硫酸ビニル、0.15%のリン酸トリス(トリメチルシリル)が添加されており、得た電解液には、環状エステル溶媒と鎖状エステル溶媒との質量比βは0.43であり、電解液の導電率は11.21mS/cmであり、電解液の粘度は3.36mPa・sである以外、実施例1と同様であった。
実施例15
【0072】
製造方法では、電解液は、具体的には、1.0%のビニレンカーボネート、0.5%のジフルオロリン酸リチウム、1.5%の硫酸ビニル、3%のリン酸トリス(トリメチルシリル)が添加されており、得た電解液には、環状エステル溶媒と鎖状エステル溶媒との質量比βは0.43であり、電解液の導電率は11.33mS/cmであり、電解液の粘度は3.33mPa・sである以外、実施例1と同様であった。
実施例16
【0073】
製造方法では、電解液は、具体的には、1.0%のビニレンカーボネート、0.5%のジフルオロリン酸リチウム、2.5%の硫酸ビニル、3%のリン酸トリス(トリメチルシリル)が添加されており、得た電解液には、環状エステル溶媒と鎖状エステル溶媒との質量比βは0.43であり、電解液の導電率は11.32mS/cmであり、電解液の粘度は3.35mPa・sである以外、実施例1と同様であった。
実施例17
【0074】
製造方法では、電解液の質量が異なり、具体的には、注液量は13gである以外、実施例1と同様であった。
実施例18
【0075】
製造方法では、電解液の注液量が具体的には16gである以外、実施例1と同様であった。
実施例19
【0076】
製造方法では、負極の圧縮密度が異なり、具体的には、負極活物質層の密度が1.68g/cm3である以外、実施例1と同様であった。
比較例1
【0077】
製造方法では、電解液は、具体的には、エチレンカーボネート(EC、環状エステル溶媒)、メチルエチルカーボネート(EMC、鎖状カーボネート溶媒)、ジメチルカーボネート(DMC、鎖状カーボネート溶媒)を40:30:30の割合で混合したものであり、得た電解液には、環状エステル溶媒と鎖状エステル溶媒との質量比βは0.67であり、電解液の導電率は12.01mS/cmであり、電解液の粘度は3.74mPa・sである以外、実施例1と同様であった。
比較例2
【0078】
製造方法では、電解液は、具体的には、エチレンカーボネート(EC、環状エステル溶媒)、メチルエチルカーボネート(EMC、鎖状カーボネート溶媒)、ジメチルカーボネート(DMC、鎖状カーボネート溶媒)を40:40:20の割合で混合したものであり、得た電解液には、環状エステル溶媒と鎖状エステル溶媒との質量比βは0.67であり、電解液の導電率は11.84mS/cmであり、電解液の粘度は4.05mPa・sである以外、実施例1と同様であった。
比較例3
【0079】
製造方法では、電解液は、具体的には、エチレンカーボネート(EC、環状エステル溶媒)、メチルエチルカーボネート(EMC、鎖状カーボネート溶媒)、ジメチルカーボネート(DMC、鎖状カーボネート溶媒)を40:15:45の割合で混合したものであり、得た電解液には、環状エステル溶媒と鎖状エステル溶媒との質量比βは0.67であり、電解液の導電率は12.19mS/cmであり、電解液の粘度は3.66mPa・sである以外、実施例1と同様であった。
比較例4
【0080】
製造方法では、電解液は、具体的には、エチレンカーボネート(EC、環状エステル溶媒)、メチルエチルカーボネート(EMC、鎖状カーボネート溶媒)、ジメチルカーボネート(DMC、鎖状カーボネート溶媒)を48:26:26の割合で混合したものであり、得た電解液には、環状エステル溶媒と鎖状エステル溶媒との質量比βは0.92であり、電解液の導電率は12.13mS/cmであり、電解液の粘度は4.43mPa・sである以外、実施例1と同様であった。
比較例5
【0081】
製造方法では、電解液は、具体的には、3.5%のビニレンカーボネート、0.5%のジフルオロリン酸リチウム、1%のリン酸トリス(トリメチルシリル)、1.5%の硫酸ビニルが添加されており、得た電解液には、環状エステル溶媒と鎖状エステル溶媒との質量比βは0.43であり、電解液の導電率は10.97mS/cmであり、電解液の粘度は3.68mPa・sである、実施例12と同様であった。
比較例6
【0082】
製造方法では、電解液の質量が異なり、具体的には、注液量は10gである以外、実施例1と同様であった。
比較例7
【0083】
製造方法では、電解液は、具体的には、エチレンカーボネート(EC、環状エステル溶媒)、メチルエチルカーボネート(EMC、鎖状カーボネート溶媒)、ジメチルカーボネート(DMC、鎖状カーボネート溶媒)を20:40:40の割合で混合したものであり、得た電解液には、環状エステル溶媒と鎖状エステル溶媒との質量比βは0.25であり、電解液の導電率は10.48mS/cmであり、電解液の粘度は3.11mPa・sである以外、実施例1と同様であった。
各実施例及び比較例では、電解液の導電率は、25℃の条件で、導電率計により測定され、電解液の粘度は、25℃の条件で、粘度計により測定される。
試験例
【0084】
本試験例は、各実施例及び比較例によるリチウムイオン二次電池の性能試験結果を提供し、具体的には、以下のとおりである。
電池容量維持率の試験方法:電池を上限電圧まで満充電し、25℃の温度で、1C放電電流で下限電圧まで放電し、放電容量C
0とした。25℃で再び上限電圧まで満充電し、温度を-20℃に調整して、1Cの放電電流で下限電圧まで放電し、放電容量C
1とした。リチウムイオン二次電池は、-20℃での容量維持率がC
1/C
0である。
電池のDCR(インピーダンス)の試験方法:25℃、1C放電電流で残量を50%SOCに調整し、温度を-25℃に調整し、0.36Cで10s放電し、-25℃での放電DCRを計算し、計算式は、△U/Iであり、ここで、△Uは放電前後の電圧の変化値、Iは放電電流である。
電池のリチウム溶出の試験方法:温度を-10℃に調整し、0.13Cの充電電流で電圧上限に充電し、1Cの放電電流で電圧下限に放電し、充電と放電のサイクルを10回行い、温度を25℃に調整し、1Cの充電電流で電圧上限に充電し、電池を解体し、界面にリチウム溶出の現象が現れるかどうかを観察し、もし負極板表面のリチウム溶出領域の面積が2%未満であれば、リチウム溶出無しと考え、負極板表面のリチウム溶出領域の面積が2%以上5%未満であれば、僅かなリチウム溶出と考え、負極板表面のリチウム溶出領域の面積が5~50%であれば、リチウム溶出と考え、負極板表面のリチウム溶出領域の面積が50%超であれば、深刻なリチウム溶出と考えた。
【表1】
【0085】
表1に記載した実験結果から、二次電池中の有機溶媒、負極板、電極組立体のパラメータは特定の関係式を満たすと、二次電池は、低温の条件下で良好な容量維持率と低インピーダンスを有し、かつリチウム溶出現象がほとんど起こらず、個別にわずかなリチウム溶出が見られた(実施例15)。
【0086】
具体的には、比較例1、実施例4~6、及び比較例4を比較すると、
【数4】
が18を下回ると、リチウム溶出の現象が現れ、主にβ値が高すぎるため、この時の電解液中の環状エステル含有量が高すぎるため、電解液の低温での粘度が高すぎ、動的挙動に影響し、DCRが大きくなり、リチウムが溶出するためである。比較例1~3の比較では、β値は同じであるが、鎖状エステル溶媒の具体的な組成の違いが電解液全体の粘度や導電率に直接影響し、二次電池の性能にも影響することが分かった。
【0087】
実施例1と比べて、
【数5】
の値が27を超えた比較例7では、低温性能は良く、リチウムは溶出しておらず、しかし、この時の容量維持率は明らかに低下して、主に環状炭酸エステルの使用量の減少のため、サイクルの容量維持率に不利であるためである。
【0088】
実施例1~3と実施例19とを比較すると、圧縮密度が高すぎる場合、実施例19の
【数6】
であるものの、わずかにリチウムが溶出する場合があることがわかり、主に、この時の圧縮密度が高すぎ、リチウムイオンのデインターカレーションが難しくなり、二次電池の低温性能に影響を与え、二次電池の低温容量維持率が低下し、界面にわずかなリチウム溶出の現象が発生するためである。
【0089】
実施例17~18、比較例6では、実施例1と比べて、電解液の注入量の変化が相違し、注入量が低すぎる場合、
【数7】
は18を下回り、電解液の注入量の低下により正負極の極板への含浸が困難になり、インピーダンスが増加し、界面にリチウム溶出の現象が現れ、また、低温時における二次電池の容量維持率を低下させることがある。また、電解液の注液量には最適範囲があり、注液量が多すぎる場合にも、二次電池の性能に一定の影響を与える。
【0090】
実施例1と実施例8~16、比較例5のデータから、添加剤の違いが電解液の粘度と導電率に与える影響は大きくなく、ある添加剤が多すぎる場合にも、比較例5のようにリチウムが溶出することを示している。異なる添加剤系で製造された二次電池は、低温で基本的にリチウムが溶出しないが、容量維持率及びインピーダンスが異なり、しかも、環状炭酸エステル添加剤、ケイ素含有添加剤、スルホン酸エステル系添加剤及びリチウム塩型添加剤の共同作用の下で、電解液、負極板の活物質層、二次電池中の電解液の重量などのパラメータを合理的に設計し、それらを合理的に定量化し、
【数8】
を18超にすることによって、二次電池は、-20℃で比較的高い容量維持率を有し、-10℃でリチウム溶出の問題がなく、比較的良い低温性能を持つようになる。
【0091】
実施例1、実施例12~16のデータから明らかに、0.3≦Wsi+Ws≦4、0.1≦Wsi/Ws≦5の場合、二次電池は総合的な性能により優れている。
【0092】
明らかに、上記の実施例は、単に明確に説明するための例示にすぎず、実施形態を限定するものではない。当業者にとっては、上記の説明に基づいて、他の異なる形態の変化又は変更を行うことができる。ここでは、すべての実施形態を網羅する必要はなく、また、網羅することもできない。このようにして生じた明白な変化又は変更も本願による保護範囲に含まれる。
【手続補正書】
【提出日】2024-04-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極板と、負極板と、電解液と、を含む二次電池であって、
前記負極板は、負極集電体と、前記負極集電体上に設けられた負極活物質層と、を含み、前記電解液は有機溶媒を含み、前記有機溶媒は環状エステル溶媒と鎖状エステル溶媒を含み、
下記の関係式(1)を満たすことを特徴とする、二次電池。
【数1】
(ここで、Mel.は、二次電池中の電解液の重量の値であり、重量の単位がgであり、
σは、電解液の導電率の値であり、導電率の単位がmS/cmであり、
Cap.は、二次電池について設計された理論容量の値であり、設計された理論容量の単位がAhであり、
PDは、負極活物質層の圧縮密度の値であり、圧縮密度の単位がg/cm
3であり、
ηは、電解液の粘度の値であり、粘度の単位がmPa・sであり、
βは、電解液中の環状エステル溶媒と鎖状エステル溶媒との質量比である。)
【請求項2】
(1)前記環状エステル溶媒と鎖状エステル溶媒との質量比βが0.25~0.85であること、
(2)前記電解液の導電率σの値が9~13であること、
(3)前記電解液の粘度ηの値が2~5であること、
(4)前記電解液の重量の値Mel.が11~16であることのうちの少なくとも1つを満たすことを特徴とする、請求項1に記載の二次電池。
【請求項3】
前記環状エステル溶媒と鎖状エステル溶媒との質量比βが0.33~0.82であることを特徴とする、請求項1に記載の二次電池。
【請求項4】
前記電解液の導電率σの値が9.5~12.5であることを特徴とする、請求項1に記載の二次電池。
【請求項5】
前記電解液の粘度ηの値が2.5~4.5であることを特徴とする、請求項1に記載の二次電池。
【請求項6】
前記電解液の重量の値Mel.が13~15であることを特徴とする、請求項1に記載の二次電池。
【請求項7】
前記PDの値が1.1~1.65であることを特徴とする、請求項
1に記載の二次電池。
【請求項8】
前記鎖状エステル溶媒は、鎖状カーボネート及び鎖状カルボキシレートのうちの少なくとも1種を含み、
前記鎖状カーボネートは、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネートのうちの少なくとも1種を含み、
前記鎖状カルボキシレートは、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、酪酸メチル、酪酸エチルのうちの少なくとも1種を含むことを特徴とする、請求項1に記載の二次電池。
【請求項9】
前記環状エステル溶媒は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートのうちの少なくとも1種を含むことを特徴とする、請求項1に記載の二次電池。
【請求項10】
前記電解液は添加剤をさらに含み、前記添加剤は、ケイ素含有添加剤、環状カーボネート添加剤、又は硫黄含有添加剤のうちの少なくとも1種を含むことを特徴とする、請求項1に記載の二次電池。
【請求項11】
前記添加剤は、
(a)前記ケイ素含有添加剤は、亜りん酸トリス(トリメチルシリル)、リン酸トリス(トリメチルシリル)、ホウ酸トリス(トリメチルシリル)、トリメチルフルオロシラン、又はヘプタメチルジシラザンのうちの少なくとも1種を含み、前記電解液の質量に対して、ケイ素含有添加剤は0.1~4質量%である特徴と、
(b)前記環状カーボネート添加剤は、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、又はジフルオロエチレンカーボネートのうちの少なくとも1種を含み、前記電解液の質量に対して、前記環状カーボネート添加剤は0.05~3質量%である特徴と、
(c)前記硫黄含有添加剤は、1,3-プロパンスルトン又は硫酸ビニルのうちの少なくとも1種を含み、前記電解液の質量に対して、前記硫黄含有添加剤は0.05~3質量%である特徴とのうちの少なくとも1つを満たすことを特徴とする、請求項10に記載の二次電池。
【請求項12】
前記電解液の前記添加剤は、ケイ素含有添加剤と硫黄含有添加剤を含み、前記電解液の質量に対して、前記ケイ素含有添加剤の含有量はW
si%であり、前記硫黄含有添加剤の含有量はW
s%であり、0.3≦W
si+W
s≦4、0.1≦W
si/W
s≦5を満たすことを特徴とする、請求項10に記載の二次電池。
【請求項13】
前記電解液はリチウム塩添加剤をさらに含み、前記リチウム塩添加剤は、リチウムビスフルオロスルホニルイミド、リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、ジフルオロシュウ酸ホウ酸リチウム、ジフルオロリン酸リチウム、及びジフルオロシュウ酸リン酸リチウムのうちの少なくとも1種を含み、
前記電解液中のリチウム塩添加剤は0.1~5質量%であることを特徴とする、請求項1に記載の二次電池。
【請求項14】
前記正極板は、正極集電体と、正極集電体上に設けられた正極活物質層と、を含み、前記正極活物質層は正極活物質を含み、
前記正極活物質は、Li
aFe
1-yMn
yPO
4(0.9≦a≦1.1、0≦y≦1)を含む、ことを特徴とする請求項1に記載の二次電池。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか1項に記載の二次電池を含む電気装置。
【請求項16】
前記電解液の導電率は、25℃の条件で測定され、電解液の粘度は、25℃の条件で測定される、請求項1に記載の二次電池。
【国際調査報告】